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特表2022-550237タウ病理のためのターゲティングリガンド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-01
(54)【発明の名称】タウ病理のためのターゲティングリガンド
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/18 20060101AFI20221124BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20221124BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20221124BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
A61K49/18 ZNA
C12N15/115 Z
G01N33/48 P
G01N33/48 M
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500781
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(85)【翻訳文提出日】2022-02-18
(86)【国際出願番号】 US2020041045
(87)【国際公開番号】W WO2021007232
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】62/871,380
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】521324735
【氏名又は名称】アルゼカ バイオサイエンシズ、エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】522007587
【氏名又は名称】テキサス チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンナプラガダ、アナンス
(72)【発明者】
【氏名】ムー、キンシャン
(72)【発明者】
【氏名】メディチ、カルロ
【テーマコード(参考)】
2G045
4C085
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045BA13
2G045BB24
2G045CB01
2G045DA36
2G045FA36
4C085HH07
4C085JJ05
4C085KA40
4C085KB12
4C085KB60
4C085KB74
4C085KB92
4C085LL13
(57)【要約】
タウ病理を検出するための方法及び組成物が記載されている。タウ病理を検出するための組成物は、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドを含み、ターゲティングリガンドは、画像化剤を含むリポソームに連結されている。本組成物は、対象に有効な量の本組成物を対象に投与し、対象の少なくとも一部を画像化して、対象のその一部がタウ病理を示すかどうかを判定することを含む、対象のタウ病理を画像化する方法に使用することができる。また、本組成物は、対象から得られた生物学的試料中のタウ病理を検出するために使用することもできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウ病理を識別するための組成物であって、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドを含み、該ターゲティングリガンドが画像化剤を含むリポソームに連結されている、上記組成物。
【請求項2】
ターゲティングリガンドがアプタマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ターゲティングリガンドが、安定化アプタマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ターゲティングリガンドがチオアプタマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
タウ病理の細胞表面マーカーが、タウの過リン酸化の細胞表面マーカーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ターゲティングリガンドが、SELEX(指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化、試験管内選択)法を用いて、タウ病態の細胞表面マーカーに特異的に結合するように決定されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ターゲティングリガンドが、Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)からなる群から選択されるDNAヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ターゲティングリガンドが、DNAヌクレオチド配列Tau_1(配列番号5)を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
ターゲティングリガンドが、DNAヌクレオチド配列Tau_3(配列番号6)を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
タウ病理の細胞表面マーカーが、KRT6A、KRT6B、HSP、及びVIMから選択されるタンパク質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
複数のターゲティングリガンドがリポソームに連結されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
ターゲティングリガンドが、リポソームに結合するリン脂質に結合しているポリエチレングリコールに連結している、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
画像化剤が、磁気共鳴画像(MRI)造影剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記リポソームが膜を含み、該膜が:
第1のリン脂質;
リポソームを安定化させることができる立体的に嵩高い賦形剤;
第1のポリマーで誘導体化された第2のリン脂質;
第2のポリマーで誘導体化された第3のリン脂質であって、該第2のポリマーはターゲティングリガンドに結合しているもの;及び
膜に封入されている、又は膜に結合している画像化剤
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
ターゲティングリガンドがチオアプタマーを含み、画像化剤がMRI造影剤を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
第1のリン脂質は、HSPCを含み;
リポソームを安定化させることができる立体的に嵩高い賦形剤は、コレステロールを含み、
第1のポリマーで誘導体化された第2のリン脂質は、DSPE‐PEGを含み、
第2のポリマーで誘導体化された第3のリン脂質であって、ターゲティングリガンドに結合している第2のポリマーは、Tau_1及びTau_3のうちの少なくとも1つに結合したDSPE‐PEGを含み;及び
膜に封入された、又は膜に結合した画像化剤はDSPE‐DOTA‐Gdを含む、
請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
第1のリン脂質は、HSPCを含み;
リポソームを安定化させることができる立体的に嵩高い賦形剤は、コレステロールを含み;
第1のポリマーで誘導体化された第2のリン脂質は、DSPE‐PEG2000を含み;
第2のポリマーで誘導体化された第3のリン脂質であって、ターゲティングリガンドに結合した第2のポリマーは、Tau_1(配列番号5)及びTau_3(配列番号6)の少なくとも1つに結合したDSPE‐PEG3400を含む、第3のリン脂質;及び
膜に封入された、又は膜に結合した画像化剤はDSPE‐DOTA‐Gdを含む、
請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
HSPC:コレステロール:DSPE‐mPEG2000:DSPE‐PEG3400:DSPE‐DOTA‐Gd=約31.5:約40:約3:約0.5:約25の比率である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
約250~500分子の結合体Tau_1(配列番号5)をさらに含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
約150~400分子の結合体Tau_3(配列番号6)をさらに含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
対象のタウ病理を画像化する方法であって、
(i) 対象に、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドを含む、検出可能な有効量のターゲティングリガンド‐リポソーム結合体を投与し、ここで、ターゲティングリガンドは、画像化剤を含むリポソームに結合している;及び
(ii)対象の少なくとも一部を画像化し、その部分がタウ病理を示すかどうかを判断する
ことを含む、上記方法。
【請求項22】
ターゲティングリガンドがアプタマーを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ターゲティングリガンドが、安定化アプタマーを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
ターゲティングリガンドがチオアプタマーを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
ターゲティングリガンドが、Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)からなる群から選択されるDNAヌクレオチド配列を含む、請求項21に記載の方法
【請求項26】
前記一部は、前記対象の脳の一部を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記画像化が、対象を早期アルツハイマー病と診断するのに十分なレベルのタウ病理を示す、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
画像化剤がMRI造影剤であり、結合のレベルがMRIを用いて決定される、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
タウ病理の細胞表面マーカーが、KRT6A、KRT6B、HSP、及びVIMから選択されるタンパク質を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記リポソームが膜を含み、該膜が
第1のリン脂質;
リポソームを安定化させることができる立体的に嵩高い賦形剤;
第1のポリマーで誘導体化された第2のリン脂質;
第2のポリマーで誘導体化された第3のリン脂質であって、該第2のポリマーはターゲティングリガンドに結合しているもの;及び
膜に封入されている、又は膜に結合している画像化剤
を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
生物学的試料を、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドを含む有効量のターゲティングリガンド‐リポソーム結合体と接触させること、ここで該ターゲティングリガンドが検出可能な標識を含むリポソームに結合している;
結合していないターゲティングリガンドリポソーム結合体を除去するために生物学的試料を洗浄すること;及び
生物学的試料中に残存する検出可能な標識の量を決定することにより、生物学的試料中のタウ病理を検出すること
を含む、タウ病理を検出する方法。
【請求項32】
生物学的試料が神経細胞を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ターゲティングリガンドがアプタマーを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
ターゲティングリガンドが、安定化アプタマーを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
ターゲティングリガンドがチオアプタマーを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記ターゲティングリガンドが、Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)からなる群から選択されるDNAヌクレオチド配列を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
対象から生物学的試料を得るステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドに連結したポリマーに連結したリン脂質を含む、ターゲティング組成物。
【請求項39】
ターゲティングリガンドがアプタマーを含む、請求項38に記載のターゲティング組成物。
【請求項40】
ターゲティングリガンドが安定化アプタマーを含む、請求項38に記載のターゲティング組成物。
【請求項41】
ターゲティングリガンドがチオアプタマーを含む、請求項38に記載のターゲティング組成物。
【請求項42】
前記ターゲティングリガンドが、Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)からなる群から選択される、DNAヌクレオチド配列を含む、請求項38に記載のターゲティング組成物。
【請求項43】
リン脂質が、DPPC、DSPE、DSPC、及びDPPEのうちの1つ又は複数を含む、請求項38に記載のターゲティング組成物。
【請求項44】
ポリマーがポリエチレングリコールを含む、請求項38に記載のターゲティング組成物。
【請求項45】
Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)からなる群から選択されるDNAヌクレオチド配列を含むアプタマー又は安定化アプタマー。
【請求項46】
DNAヌクレオチド配列が配列番号1と配列番号2の間に配置されている、請求項45に記載のアプタマー又は安定化アプタマー。
【請求項47】
前記アプタマー又は安定化アプタマーがチオアプタマーを含む、請求項45に記載のアプタマー又は安定化アプタマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスレファレンス
本出願は、2019年7月8日に出願された米国仮特許出願第62/871,380号の優先権を主張するものであり、その全体の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
配列表がASCII形式で電子的に提出されており、その全体を参照することにより本文書に組み込む。2020年7月7日に作成されたASCIIコピーは、Alzeca‐122_Sequence Listing_PCT_ST25.txtという名前で、サイズは47,652バイトである。
【背景技術】
【0003】
微小管関連タンパク質であるタウは、アルツハイマー病(AD)やその他のタウオパチーの病因に不可欠である。タウは、MAPT遺伝子によってコードされている。交互スプライシングによって6種類のタウアイソフォームが生成され、これらのアイソフォームは、N末端付近の2つのインサート(0N、1N、2N)と、C末端付近の保存された微小管結合ドメインに対応する3つ又は4つのリピート配列(3R、4R)の挿入が制御されている点で異なる。mRNAとタンパク質の4R:3Rの比率は、正常な脳組織では1:1に近いが、病的な状態では増加する。
【0004】
タウ病理は、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化、糖化、ニトロ化、切断といったいくつかの分子変化を経て起こる。しかし、これらの分子変化はすべてリン酸化異常と関連しており、リン酸化異常がタウ病理形成の最初のステップであると結論づけられている。タウの異常リン酸化は、ADの過程で変性するニューロン細胞に見られる神経原線維変化の大部分を構成する一対のらせん状フィラメントの形成につながる。この神経原線維変化は、アミロイド斑と相まって、ADの2つの病理学的特徴を構成している。
【0005】
米国国立老化研究所及びアルツハイマー病協会が支持する最新の基準によるADの確定診断には、病理学的なアミロイド及びタウ(A+、T+)が必要であり、アミロイドは承認されたPET画像化剤のいずれかで測定され、タウは画像化剤又は脳脊髄液(CSF)レベルで測定される。疾患の進行に伴うアミロイドPETやCSFのタウなどの主要なバイオマーカーの時間経過については、長い間研究されてきた。最新の研究では、病的なタウ濃度は、病的なアミロイド濃度よりも数年遅れていることが示唆されている。従来の方法で両マーカーの有意な上昇が検出される頃には、一般的に疾患はすでに進行している。さらに、PETトレーサーによるアミロイド斑の同定は客観的で明確ではあるが、CSFや血液中のタウのマーカーは、患者が受けている他の病状や治療など、他の多くの要因と混同される。最近では、血清バイオマーカーの人工知能を用いたプロテオミクス解析が多くの注目を集めているが、PETのゴールドスタンダードと比較した場合、その精度はほんのわずかである。
【0006】
タウ病理を早期に発見できれば、ADの診断が数年、おそらく、病気の発症前の段階にまで早まる可能性がある。
【発明の概要】
【0007】
タウ病理を識別するための組成物が提供され、この組成物は、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドを含み、そのターゲティングリガンドは、画像化剤、例えば、磁気共鳴画像(MRI)造影剤を含むリポソームに連結されている。いくつかの態様では、ターゲティングリガンドは、アプタマー又は安定化アプタマーを含む。いくつかの態様では、ターゲティングリガンドは、チオアプタマーを含む。いくつかの態様では、ターゲティングリガンドは、Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)の1つ又は複数から選択されるDNAヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、タウ病理の細胞表面マーカーは、タウの過リン酸化の細胞表面マーカーを含む。いくつかの態様では、タウ病理の細胞表面マーカーは、ケラチン6A(KRT6A)、ケラチン6B(KRT6B)、熱ショックタンパク質(HSP)、及びビメンチン(VIM)から選択されるタンパク質を含む。いくつかの態様では、ターゲティングリガンドは、指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化(SELEX)法(試験管内選択法)を用いて、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するように決定される。いくつかの態様では、ターゲティングリガンドは、リポソームと会合するリン脂質に結合しているポリエチレングリコールに連結されている。いくつかの態様では、リポソームは膜を含み、その膜は、第1のリン脂質;リポソームを安定化させることができる立体的に嵩高い賦形剤;第1のポリマーで誘導体化された第2のリン脂質;第2のポリマーで誘導体化された第3のリン脂質であって、その第2のポリマーはターゲティングリガンドに結合している第3のリン脂質;及び膜によってカプセル化されるか又は膜に結合している画像化剤を含む。
【0008】
対象のタウ病理を画像化する方法も提供され、この方法は、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドを含む検出可能な有効量のターゲティングリガンド‐リポソーム結合体を対象に投与するステップであって、そのターゲティングリガンドは画像化剤を含むリポソームに結合しているステップ、及び対象の少なくとも一部を画像化して、対象の一部がタウ病理を示すかどうかを判定するステップを含む。いくつかの態様では、対象の一部は、対象の脳の一部を含む。いくつかの態様では、画像化は、対象が初期段階のADであると診断するのに十分なレベルのタウ病理を示す。いくつかの態様では、本方法は、対象にADの予防又は治療を提供することをさらに含む。いくつかの態様では、画像化剤は、MRI造影剤であり、結合のレベルは、MRIを用いて決定される。
【0009】
タウ病理を検出する方法も提供され、この方法は、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドを含む有効量のターゲティングリガンド‐リポソーム結合体を生物学的試料に接触させるステップであって、ターゲティングリガンドが検出可能な標識を含むリポソームに結合している上記ステップと、未結合のターゲティングリガンド‐リポソーム結合体を除去するために生物学的試料を洗浄するステップと、生物学的試料中に残存する検出可能な標識の量を決定することによって生物学的試料中のタウ病理を検出するステップとを含む。いくつかの態様では、生物学的試料は、神経細胞を含む試料である。
【0010】
ターゲティング組成物も提供され、このターゲティング組成物は、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドに連結されたポリマーに連結されたリン脂質を含んでいる。いくつかの態様では、ターゲティングリガンドは、アプタマー又は安定化アプタマーである。いくつかの態様では、ターゲティングリガンドはチオアプタマーである。いくつかの態様では、アプタマー又は安定化アプタマーは、Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)の1つ又は複数から選択されるDNAヌクレオチド配列を含む。
【0011】
アプタマー又は安定化アプタマーも提供され、そのアプタマー又は安定化アプタマーは、Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)の1つ又は複数から選択されるDNAヌクレオチド配列を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明は、以下の図面を参照することにより、より容易に理解することができる。
【0013】
図1図1は、アプタマーで機能化されたリポソームの例を示すものである。
【0014】
図2図2は、タウの6つの代替スプライシングが、選択されたキナーゼとホスファターゼによって順次リン酸化・脱リン酸化されていく様子を模式的に示したものである。キナーゼとホスファターゼの活性が不均衡になると、通常、ホスファターゼのダウンレギュレーションにより、平衡が右にシフトし、対になったらせん状のフィラメントやタウのもつれが形成されることになる。
【0015】
図3図3A~3Hは、SH‐SY5Y細胞を用いた予備的なCell‐SELEXで、過リン酸化細胞に結合するアプタマーを同定した画像である。A:レチノイン酸で処理したSH‐SY5Y細胞は、軸索と樹状突起を有するニューロン様の表現型に分化する。B:オカダイン酸での処理後、細胞は熱心にタウをリン酸化する。上段:AT8で染色したpTau Thr205/Ser202は核になっている。下段:PHF‐1で染色したpTau Ser396は主に細胞質に存在する。C:SELEXの選択されたラウンド(1、5、10、13、17、19、21、23、26、及び‐ve対照)における膜結合アプタマー。13と21のラウンドでは、過リン酸化されていない細胞に対してネガティブセレクションを行い、上澄み液を分離して結合の特異性を確保した。D:IonTorrentによる配列決定後、ラウンド26で最も豊富な10種類のアプタマーと、それらがスクリーンを通じてどのように進化したかを示している。E:最も豊富な20個の配列のデンドログラムで、3つの異なるファミリーを示している。F: Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_17(配列番号13)のM‐フォールド構造で、構造が類似していることを示す。G、H:Cy5標識を有するTau_1(配列番号5)及びTau_3(配列番号6)アプタマーが、過リン酸化SH‐SY5Y細胞の膜及び軸索突起に結合している様子。
【0016】
図4図4は、MAPT遺伝子と、VisANTデータベースに登録されているTau_1(配列番号5)及びTau_3(配列番号6)アプタマーのターゲットとなるタンパク質(HSPD90、KRT6A、KRT6B、VIM)とのインタラクトームを示す模式図である。
【0017】
図5図5A~5Cは、A:チオアプタマーTau_3(配列番号6)(赤)が、AT100抗体がニューロン(緑)を染色する領域のP301Sマウス脳海馬組織に熱心に結合する様子を示す画像であり、B:AT8染色(緑)とTau_3(配列番号6)結合(赤)との間に相関関係がないことを示し、C:正常なマウス脳海馬ではTau_3結合が明らかであることを示している。
【0018】
図6図6は、いずれも造影剤として共有結合したGd‐DOTAを担持した、Tau_1(配列番号5)アプタマー標的、Tau_3(配列番号6)アプタマー標的、又は非標的の対照ナノ粒子を静脈内に注入する前と4日後のGRE/45°FAシーケンスを用いたMRIの例を示すグラフと画像である。上のブロック:生後2ヶ月のトランスジェニックP301Sマウスの脳軸方向の注入前と4日後の画像。下段:野生型同胞種の脳軸方向の注入前と4日後の画像。(すべて同じカラーマップでの画像)また、各治療について試験した20匹の動物のコホート全体で計算した、Tau_1(配列番号5)及びTau_3(配列番号6)標的粒子の受信者操作特性(ROC)曲線及びその95%信頼限界も示している。Tau_1及びTau_3(配列番号6)標的粒子はいずれも、トランスジェニック動物の大脳皮質、海馬、及び視床下部の領域で明らかなシグナル増強を示し(黄色の矢印)、粒子がタウを過リン酸化しているニューロンに結合していることを示している。どちらの標本でも、精度80%、感度~57%、特異性~93%という結果が得られた。
【0019】
図7図7は、Tau_3(配列番号6)アプタマー標的ナノ粒子で処理した2ヶ月齢のP301Sマウスの画像である。軸方向のスピンエコーと45°FAのGRE画像では、視床/視床下部の増強が見られ(赤矢印)、T1マップでは、さらに海馬のT1短縮が顕著に見られる(緑矢印)。T1マップを用いることで、さらなる情報が得られ、定量可能な信号が強調される。
【0020】
図8図8は、ADx‐Tau_1(配列番号5)、ADx‐Tau_3(配列番号6)、及び非標的ADx‐Tau対照(ADx‐Un)アプタマー担持リポソームナノ粒子を投与した2ヶ月齢の野生型(WT)及びP301Sトランスジェニック(Tg)マウスの画像であり、いずれも造影剤注入前と4日後のものである。トランスジェニックマウスは、特にADx‐Tau_1(配列番号5)アプタマーを注入した場合に、皮質及び海馬領域で高い信号増強を示す(金色の矢印)。T1強調スピンエコー(T1w‐SE)及び高速スピンエコー反転回復(FSE‐IR)シーケンスがインビボでの有効性を示している。
【0021】
図9図9は、(a)野生型マウスと(b)トランスジェニックマウスの皮質領域におけるDAPI核染色とAF488標識AT100のpTauへの結合の代表的な蛍光顕微鏡画像により、7ヶ月齢のトランスジェニックP301Sマウスの脳における過リン酸化タウ(pTau)の死後確認を示したものである。倍率は10倍。AT100の画像は同じカラーバースケールで示した。
【0022】
図10図10は、T1強調スピンエコー(T1w‐SE)画像に対する高速スピンエコー反転回復(FSE‐IR)画像の解析の精度が高いことを示す、6ポイントの順序尺度(実験‐緑、適合‐青)で作成されたROC曲線である(42匹の動物を試験し、各遺伝子型及び製剤タイプごとに7匹の動物を試験した)。T1w‐SEシーケンスに対する(a)ADx‐Tau_1(配列番号5)及び(b)ADx‐Tau_3(配列番号6)の製剤、並びにFSE‐IRシーケンスに対する(c)ADx‐Tau_1(配列番号5)及び(d)ADx‐Tau_3(配列番号6)の製剤についてのROC曲線を示す。
【0023】
本発明を説明するために、次に本発明のいくつかの実施形態をより詳細に説明する。上で要約した図面を参照する。当業者は、本明細書で提供される実施形態が、本発明の範囲内に入る多くの有用な代替案を有することを認識するであろう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
本開示は、タウ病理を検出するための方法及び組成物を提供する。タウ病理を検出するための組成物は、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドを含み、そのターゲティングリガンドは、画像化剤を含むリポソームに連結されている。図1を参照のこと。本組成物は、対象に有効な量の本組成物を対象に投与することと、対象の少なくとも一部を画像化して対象のその一部がタウ病理を示すかどうかを判定することとを含む、対象のタウ病理を画像化する方法に使用することができる。また、本組成物は、対象から得られた生物学的試料中のタウ病理を検出するために使用することもできる。
【0025】
定義
特に定義されていない限り、本明細書で使用されているすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。矛盾が生じた場合は、定義を含めて本明細書が優先される。
【0026】
特に指定のない限り、「1つの」(”a”、”an”)、「その」(”the”)、「1つ又は複数の」(「1つ以上の」)(”one or more of”)、「少なくとも1つの」(”at least one”)は、互換的に使用される。単数形の”a”、”an”、及び”the”は、それらの複数形を含む。
【0027】
終点による数値範囲の記述には、その範囲内に含まれるすべての数値が含まれる(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0028】
「約」という用語は、質量、重量、時間、体積、濃度、又はパーセンテージの値又は量に言及する場合、指定された量から±10%の変動を包含することを意味する。
【0029】
「を含む」(”comprising”及び”including”)という用語は、同等かつオープンエンドであることが意図されている。
【0030】
「から本質的になる」(”consisting essentially of”)という表現は、組成物又は方法が追加の成分及び/又はステップを含んでいてもよいが、追加の成分及び/又はステップが特許請求された組成物又は方法の基本的かつ新規な特性を実質的に変更しない場合に限られることを意味する。
【0031】
「からなる群から選択される」という表現は、記載された群の混合物を含むことを意味している。
【0032】
組成物の「有効量」又は「検出可能な有効量」とは、タウ病理に関連する細胞表面マーカーの存在を検出するのに十分な量、又は臨床使用可能な機器を用いて許容可能な画像を得るのに十分な量を意味する。検出可能な有効量の検出剤又は画像化剤は、2回以上の注射で投与してもよい。検出可能な有効量の検出剤又は画像化剤は、個体の感受性の程度、個体の年齢、性別、体重、個体の特異的な反応、及び線量測定などの要因に応じて変化し得る。また、検出剤や画像化剤の検出可能な有効量は、機器やフィルムに関連する要因によっても変化する可能性がある。このような要因を最適化することは、当業者の技術レベルで十分可能である。診断目的で使用される画像化剤の量及び画像検査の時間は、使用される特定の画像化剤、患者の体重、治療される状態の性質及び重症度、患者が受けてきた治療的処置の性質、及び患者の特異な反応に依存する。最終的には、主治医が個々の患者に投与する画像化剤の量と画像検査の時間を決定する。
【0033】
「診断」という用語には、対象の疾患の性質を判断することや、疾患又は疾患の発症の重症度及び蓋然性のある結果、回復の見込み(予後)、又はその両方を判断することが含まれる。また、「診断」には、合理的な治療という観点からの診断も含まれ、診断によって、治療の初期選択、治療の変更(例えば、投与量及び/又は投与レジメンの調整)などの治療が導かれる。
【0034】
抗原という用語は、ターゲティングリガンドと結合することができる分子又は分子の一部を指す。抗原は、通常、その抗原のエピトープに結合することができる抗体を動物に産生させることもできる。抗原は、1つ又は2つ以上のエピトープを有することができる。上記の特異的な反応とは、抗原がその対応する抗体と高度に選択的に反応し、他の抗原によって誘発され得る多数の他の抗体とは反応しないことを意味する。
【0035】
エピトープという用語は、抗体やアプタマーなどのターゲティングリガンドに認識され、結合することができる任意の分子の部分をいう。一般に、エピトープは、アミノ酸や糖の側鎖など、化学的に活性な分子の表面グループを含み、特定の3次元構造と特定の電荷特性を有する。
【0036】
「特異的に結合する」とは、標的構造に結合するターゲティングリガンドであって、そのターゲティングリガンドが標的構造又はそのサブユニットに結合するが、標的構造ではない生物学的分子には結合しないか、又はターゲティングリガンドが少なくとも標的構造に優先的に結合するものをいう。標的構造、又はそのサブユニットに特異的に結合するターゲティングリガンド(例えば、アプタマー又は抗体)は、標的構造ファミリーの外にある生物学的分子と交差反応しないことがある。タウ病理に特異的なターゲティングリガンドは、約10-8Mから約10-11Mの間の特異的な親和性でその特異的なタンパク質に結合することができるターゲティングリガンドであり得る。いくつかの実施形態では、抗体又は抗体フラグメントは、約10-7M、10-8M、10-9M、10-10M又は10-11Mよりも大きい、約10-8M、10-11M、10-9M、及び10-10Mの間、並びに約10-10M~10-11Mの間の特異的親和性で選択された抗原に結合する。いくつかの態様では、特異的活性は、Ausubel FM, (1994).Current Protocol in Molecular Biology. Chichester:John Wiley and Sons(以下、「Ausubel」)(その内容は参照することにより本明細書に組み込まれる)に記載されているような競合結合アッセイを用いて比活性を測定する。
【0037】
「ポリヌクレオチド」という用語は、DNA、RNA、マイクロRNAを含む核酸配列を指し、二本鎖又は一本鎖のマーカーを指すことができる。また、ポリヌクレオチドは、ロックド核酸などの代替糖を有する合成変種を指すこともある。
【0038】
タウ病理の画像化
タウの過リン酸化を画像化することは、タウ病理を特定するための新しいアプローチである。タウ病理を画像化するこれまでの試みは、凝集したタンパク質そのものを対象としていた。タウの過リン酸化は、対になったらせん状のフィラメント、そして最終的にはタウのもつれを形成する鍵となることが認識されているが、タウ病理の代用又は前駆体としての過リン酸化のマーカーは調査されていなかった。本発明者らは、過リン酸化された状態のニューロン細胞とその脳内での解剖学的分布を特定し、これらは将来のタウ病理の新規かつ高感度で特異的なマーカーとしての役割を果たしている。
【0039】
提案されている画像化剤は、タウの過リン酸化の細胞表面マーカーを標的とするため、細胞膜の透過性を必要としない。タウは細胞内タンパク質であり、タウのもつれは主に細胞内に存在するが、ニューロンの死後、タウのもつれは「ゴーストタングル」として残るという例外がある。そのため、これまでタウ病理を示す画像化マーカーは、必然的にニューロン細胞膜を透過してから標的に結合しなければならなかった。もちろん、唯一の例外は、ゴーストタングルに結合することである。このように、すべてのタウ画像化剤は、膜の透過性によって制限されていた。ゴーストタングルとの結合は、病気の進行状態であるニューロンの死の目印にしかならない。特許請求の範囲に記載されている組成物と方法は、細胞膜を透過する必要性を排除し、高いシグナルを有するが細胞に内包されることが困難なナノ粒子読み出しへの扉を開くものである。
【0040】
このような細胞表面マーカーを同定することで、タウの線維化やもつれの形成の生物学に新たな光を当てることができる。本発明者らは、結合標的が何であるかを知らない状態で、「ブラックボックス」モードでチオアプタマーのスクリーニングを行った。その結果、過リン酸化された細胞に特異的に結合するチオアプタマーは、KRT6A、KRT6B、HSP、VIMと結合することがわかった。
【0041】
タウには数多くのリン酸化部位がある。例えば、最も長いアイソフォームであるtau441には、リン酸化される可能性のある80のセリン/スレオニン部位と5つのチロシン部位がある。神経原線維のもつれには、40箇所超のリン酸化されたタウが含まれていることが示されている。タウのリン酸化は、GSK3β、CDK‐5、CaMKII、PKA、MARK p110など、いくつかのキナーゼによって媒介される。タウのリン酸化部位としては、S199‐202/T205、T231、T212/S214、S396などが知られており、AT8、AT180、AT100、PHF‐1抗体でマークされる。リン酸化は連続したプロセスであり、特定の部位で各リン酸化が起こるたびに、重要な結合ポケットが露出してその分子が次のイベントに備えると考えられている。S396/PHF‐1部位は、一般的にはプロセスの後期にリン酸化されると考えられており、主に一対のらせん状フィラメントやもつれと関連しているが、最近の観察では、ある条件下ではS396/PHF‐1部位はS199‐202/T205(AT8染色)部位よりも早くリン酸化される可能性があることが示唆されている。
【0042】
タウの脱リン酸化はプロテインホスファターゼによって介在されるが、その中でもPP2Aは70%超の機能を占めている。AD患者の脳では、PP2Aの活性が通常の50%未満であることが示されており、このキナーゼ活性とホスファターゼ活性の不均衡が、タウの過リン酸化や神経原線維のもつれ形成へのカスケードに大きく関与していることが示唆されている。図2参照。そこで、ニューロンサロゲートでPP2Aを阻害し、ペイロードナノ粒子に結合させたチオアプタマーを用いて、この過リン酸化状態の表面マーカーを同定した。
【0043】
タウ病理を特定するための組成物
一態様では、タウ病理を同定するための組成物が提供され、この組成物は、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドを含み、このターゲティングリガンドは、画像化剤を含むリポソームに連結されている。
【0044】
いくつかの実施形態では、タウ病理の細胞表面マーカーは、タウの過リン酸化の細胞表面マーカーである。タウ病理は、タウオパチーをもたらす異常なタウタンパク質を指す。タウ病理は、タウタンパク質の過リン酸化に起因する。正常なタウはタンパク質1モルに対して2~3モルのリン酸を含んでいるが、過リン酸化タウタンパク質はそれよりもはるかに多くのリン酸を含んでいる。過リン酸化されたタウは、神経原線維のもつれの形成を引き起こす。タウタンパク質は細胞内に存在し、直接検出することは難しい。しかし、本発明者らは、基礎となるタウ病理に関連する細胞表面マーカー(すなわち、エピトープ)を同定した。いくつかの実施形態では、これらの細胞表面マーカーは、タウ病理を示すニューロン又はニューロンの細胞モデルを標的リガンド(例えば、アプタマー)のターゲットとして使用するCell‐SELEX法を用いて同定されたエピトープである。いくつかの実施形態では、タウ病理の細胞表面マーカーは、KRT6A、KRT6B、HSP、及びVIMから選択されるタンパク質を含む。
【0045】
ターゲティングリガンド
本明細書で使用される用語「ターゲティングリガンド」には、特定の標的に関与する目的で、特にタウ病理を認識する目的でリポソームに連結することができる任意の分子が含まれる。適切なターゲティングリガンドの例としては、抗体、抗体フラグメント、アプタマー、及び安定化アプタマーが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、ターゲティングリガンドは、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するアプタマー又は安定化アプタマーであり得る。
【0046】
本発明のターゲティングリガンドは、タウ病理を示す細胞に特異的に結合することができる。特異的な結合とは、選択された標的と他の潜在的な標的とを識別し、選択された標的に実質的な親和性で結合する結合を意味する。実質的な親和性とは、少なくとも約10-8mol/mの結合解離定数を有するターゲティングリガンドを表すが、他の実施形態では、ターゲティングリガンドは、少なくとも約10-9mol/m、約10-10mol/m、約10-11mol/m、又は少なくとも約10-12mol/mの結合解離定数を有することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、ターゲティングリガンドはアプタマーである。アプタマーとは、ワトソン‐クリック塩基対以外の相互作用により、特定の標的分子又は細胞構造に高い特異性と親和性で結合する核酸である。適切なアプタマーは、一本鎖のRNA、DNA、修飾核酸、又はそれらの混合物であってもよい。また、アプタマーは、直鎖状又は環状の形態であってもよい。いくつかの実施形態では、アプタマーは、一本鎖DNAであり、他の実施形態では、一本鎖RNAである。
【0048】
アプタマーの機能は、核酸配列そのものとは無関係で、むしろポリヌクレオチドが形成する二次・三次構造に基づいており、したがってアプタマーは非コード配列と考えるのがよい。核酸リガンドと標的分子との結合は、核酸塩基対ではなく、アプタマーの3次元構造によって決定される。溶液中では、ヌクレオチドの鎖が分子内相互作用を形成して、分子を複雑な3次元形状に折り畳む。この形状により、核酸リガンドは標的分子の表面にしっかりと結合することができる。核酸リガンドは、顕著な特異性を示すことに加え、一般に極めて高い親和性でその標的に結合する。例えば、抗タンパク質核酸リガンドの大半は、平衡解離定数がフェムトモルから低ナノモルの範囲にある。
【0049】
ターゲティングリガンドとしての使用に適したアプタマーの長さは特に限定されず、約10~約200ヌクレオチド、約100ヌクレオチド以下、約50ヌクレオチド以下、約40ヌクレオチド以下、又は約35ヌクレオチド以下を含むアプタマーが含まれる。いくつかの実施形態では、アプタマーは、約15~約40ヌクレオチドのサイズを有する。さらに、ほとんどすべての既知のケースにおいて、アプタマーの結合に関与する非ワトソン・クリック型の相互作用に関与する様々な構造モチーフ、例えば、ヘアピンループ、対称及び非対称バルジ、及びシュードクノットは、30ヌクレオチド以下の核酸配列で形成することができる。
【0050】
いくつかの態様では、アプタマーは、その安定性を高めるための化学修飾を含む安定化アプタマーである。修飾には、核酸リガンド塩基又は核酸リガンド全体に追加の電荷、分極性、疎水性、水素結合、静電的相互作用、及びフラックス性を組み込む他の化学基を提供するものが含まれるが、これらに限定されない。このような修飾には、2位の糖修飾、5位のピリミジン修飾、8位のプリン修飾、外環アミンでの修飾、4‐チオウリジンの置換、5‐ブロモ又は5‐ヨードウラシルの置換、バックボーン修飾、ホスホロチオアート又はアルキルホスファート修飾、メチル化、イソベースであるイソシチジン及びイソグアニジンなどの異常な塩基対の組み合わせなどが含まれるが、これらに限定されない。修飾は、キャッピングなどの3’及び5’修飾も含むことができる。特定の実施形態では、核酸リガンドは、ピリミジン残基の糖部分で2’‐フルオロ(2’‐F)修飾されたRNA分子を含む。
【0051】
適切な安定化アプタマーはさらに、例えばキサンチン又はヒポキサンチン、5‐ブロモウラシル、2‐アミノプリン、デオキシイノシン、又は5‐メチルシトシン、N4‐メトキシデオキシシトシンなどのメチル化シトシンなどの、ヌクレオチド類似体を含むことができる。また、メチル化核酸、例えば2’‐O‐methRNA、ペプチド核酸、ロックド核酸、修飾ペプチド核酸などの、ポリヌクレオチド模倣物の塩基、及びDNAやRNAに生じる1つ以上の塩基と塩基相補性を示すなど、実質的にヌクレオチドや塩基のように作用する任意の他の構造部分も含まれる。
【0052】
いくつかの実施形態では、安定化アプタマーは、チオアプタマーを含む。チオアプタマーとは、非架橋酸素原子の一方又は両方が硫黄で置換されたアプタマーである。酸素から硫黄への置換は、アプタマーの安定性を高めるだけでなく、場合によってはその結合親和性も高める。
【0053】
典型的には、ターゲティングリガンド(例えば、アプタマー)は、画像化剤を含むリポソームに連結される。しかし、本発明のさらなる態様は、アプタマー自体に向けられている。いくつかの実施形態では、アプタマーは、安定化アプタマーを含む。さらなる実施形態では、安定化アプタマーはチオアプタマーである。いくつかの実施形態では、アプタマー又は安定化アプタマーは、タウ病理に特異的に結合する。適切なアプタマーの例には、以下から選択される、いくつかの例では、以下からなる群から選択される、DNAヌクレオチド配列を含むものが挙げられる:Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)。
【0054】
いくつかの実施形態では、アプタマーは、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるアプタマー配列の増幅を容易にする2つのプライマーヌクレオチド配列の間に配置されている。例えば、いくつかの実施形態では、アプタマーのDNAヌクレオチド配列は、配列GATATGTCTAGAGCCTCAGATCA(配列番号1)とCGGAGTTATGTTAGCAGTAGC(配列番号2)の間に配置される。他の実施形態では、アプタマーのDNAヌクレオチド配列は、配列CGC TCG ATA GAT CGA GCT TCG(配列番号3)及びGTC GAT CAC GCT CTA GAG CAC(配列番号4)の間に配置される。
【0055】
アプタマーの選択
いくつかの実施形態では、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するアプタマー又は安定化アプタマーは、SELEX法を用いて同定することができる。適切な核酸リガンドは、Goldら(米国特許第5,270,163号)に記載されているSELEXなど、当技術分野で知られている任意の方法を用いて同定することができ、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。他の核酸リガンドの同定方法は、Gilmanら(米国特許出願番号2011/0104667)に示されており、その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる。適切なアプタマーの同定は、本明細書の実施例で示されている。
【0056】
SELEXは、3次元的なコンフォメーションによって標的分子に高い親和性と特異性をもって結合できる核酸を同定するために開発された戦略である。この技術は、ランダムな核酸のプールから、標的分子に高い親和性を有する希少な核酸分子を同定することを含む。このプロセスは、その後の選択と増幅を繰り返すことで、反復的に完了する。この方法は、核酸結合タンパク質、非核酸結合タンパク質、特定の低分子など、多くの標的分子に対するタイトな結合オリゴヌクレオチドリガンド(アプタマー)の単離に極めて有用であることがわかっている。SELEXは、PCRを用いて選択のサイクルを繰り返し実施できるため、効率的なスクリーニング方法である。
【0057】
SELEXプロセスは、一般的に、タンパク質、低分子、超分子構造などの標的分子を定義することを含む。ランダムなオリゴヌクレオチドのライブラリー(~1x1015オリゴヌクレオチド)を作成する。このランダムなDNAのプールには、一般に各オリゴヌクレオチドの末端にプライマー結合部位があり、標的分子に結合するオリゴヌクレオチドを探し出し、PCRで増幅する効率的な方法を提供することができる。標的分子はオリゴヌクレオチド「ライブラリー」にさらされ、ライブラリー内の少数のオリゴヌクレオチドが標的に結合することで、標的特異的なアプタマーが定義されることになる。結合しないオリゴヌクレオチドは、結合するオリゴヌクレオチドから分離される。
【0058】
アプタマーの同定方法は、標的分子に最大の親和性で結合する核酸と、標的分子により低い親和性で結合する核酸及び標的分子に全く結合しない核酸とをシングルステップで分離し、それによって標的分子の核酸リガンドを同定することを含み得る。選択的分離プロトコルでは、標的分子により低い親和性で結合する核酸と、標的分子に全く結合しない核酸とが、標的分子と複合体を形成できない、又は標的分子と短時間しか複合体を形成できない条件を生成する。これに対し、分離プロトコルの条件は、標的分子に最大の親和性で結合する核酸が、標的分子と複合体を形成すること、及び/又は、標的分子と最も長い時間結合することを可能にし、それにより、標的分子に対する最大の親和性を有する核酸、すなわち、核酸リガンドを、候補混合物中の残りの核酸からシングルステップで分離する。
【0059】
分離は、標的分子に最大の親和性で結合する核酸と、標的分子により低い親和性で結合する核酸及び標的分子に結合しない核酸とを、選択的にシングルステップで分離することができる数多くの方法のいずれかによって達成することができる。適切な分離手順には、HPLC勾配溶出及びゲル電気泳動が含まれる。
【0060】
インキュベーション後、混合物をバッファーで洗浄し、結合していない標的分子を除去する。結合した標的分子を有するビーズは、その後、核酸の候補混合物とインキュベートされる。結合した標的分子を有するビーズは、候補混合物とインキュベートする前に、HPLCカラムにロードすることができる。候補混合物とのインキュベーションの前に、結合した標的分子を有するビーズをHPLCカラムにロードすると、候補混合物と標的分子のインキュベーションがカラム上で起こる。
【0061】
候補混合物をビーズに結合した標的分子と、ビーズ/標的分子/核酸の複合体が形成され得るのに十分な時間インキュベートした後、標的分子の核酸リガンドを得るためにHPLCの溶出勾配をカラムに適用する。溶出過程において、流出液は標的分子に対する親和性のより高い核酸リガンドに富み、最終的には最終画分は標的分子に対する親和性の最も高い核酸リガンドを含む画分ことになる。
【0062】
いくつかの実施形態では、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するアプタマー又は安定化アプタマーは、Cell‐SELEX法を用いて同定することができる。Cell‐SELEXは、複雑な全細胞をターゲットとして使用することでアプタマーを選出する。次に、カウンターセレクション戦略を用いて、標的細胞とのみ相互作用し、対照細胞とは相互作用しないアプタマー配列を単離する。このプロセスにより、どの標的分子が細胞表面に存在するか、またどの膜分子が検出される病態に重要な役割を果たすかがわからない場合でも、比較的短期間で細胞特異的なアプタマーの群を選択することができる。
【0063】
いくつかの実施形態では、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するアプタマー又は安定化アプタマーは、コンジュゲート‐SELEX法を用いて同定することができる。コンジュゲート‐SELEXは、基本的なSELEX手順を改良したもので、アプタマーを単独で評価するのではなく、アプタマーとリポソームの結合体全体の親和性を評価する。
【0064】
配列決定
同定後、アプタマーの配列を決定してもよい。配列決定は、当技術分野で知られている任意の方法でよい。DNAの配列決定技術としては、標識されたターミネーターやプライマーを用いた古典的なジデオキシ配列決定反応(サンガー法)及びスラブやキャピラリーでのゲル分離、可逆的に終端された標識ヌクレオチドを用いた合成による配列決定、パイロシークエンシング、454配列決定法、標識されたオリゴヌクレオチドプローブのライブラリーへのアレル特異的ハイブリダイゼーション、標識されたクローンのライブラリーへのアレル特異的ハイブリダイゼーションとそれに続くライゲーションを用いた合成による配列決定、重合ステップ中の標識されたヌクレオチドの取り込みのリアルタイムモニタリング、ポロニー配列決定、SOLiD配列決定などがある。配列決定は、当技術分野で知られている任意の方法でよい。例えばSangerら(Proc Natl Acad Sci USA,74(12):5463 67,1977)、Maxamら(Proc Natl.Acad.Sci,74:560‐564,1977)、Drmanacら(Nature Biotech.,16:54‐58,1998)を参照のこと。これらの文献には、従来のアンサンブル配列決定技術の例が記載されている。また、Lapidusら(米国特許第7,169,560号)、Quakeら(米国特許第6,818,395号)、Harrisら(米国特許第7,282,337号)、Quakeら(米国特許出願番号2002/0164629)、及びBraslayskyら(PNAS(USA),100:3960‐3964,2003)参照のこと。これらの文献には合成技術による一分子配列決定の例が記載されている。これらの各文献の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0065】
本発明者らは、タウ病理に特異的に結合するアプタマーを同定した。これらのアプタマーの例は、表1に記載されている。したがって、いくつかの実施形態では、アプタマー又は安定化アプタマーは、以下から選択されるDNAヌクレオチド配列を含み、それは以下からなる群から選択されるものを含む。Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)。さらなる実施形態では、アプタマー又は安定化アプタマーは、DNAヌクレオチド配列Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、又はその両方を含む。
【表1-1】

【表1-2】
【0066】
いくつかの実施形態では、ターゲティングリガンドは、タウ病理に特異的に結合する抗体である。本明細書で使用する「抗体」という用語は、抗原による刺激後に活性化されたB細胞によって産生され、抗原に特異的に結合することができ、それによって生体系における免疫応答を促進することができる種類のタンパク質を意味する。完全な抗体は、通常、2つの重鎖と2つの軽鎖を含む4つのサブユニットを含む。抗体という用語には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、又はそのフラグメントを含むがこれらに限定されない、天然及び合成の抗体が含まれる。好適な抗体としては、IgA、IgD、IgG1、IgG2、IgG3、IgMなどが挙げられる。適切なフラグメントとしては、Fab Fv、Fab’ F(ab’)などが挙げられる。モノクローナル抗体は、エピトープの単一の特定の空間及び極性組織に特異的に結合し、それによって相補的であると定義される抗体である。いくつかの形態では、モノクローナル抗体は同じ構造を有することもできる。ポリクローナル抗体は、異なるモノクローナル抗体の混合物を指す。いくつかの形態では、ポリクローナル抗体は、モノクローナル抗体のうち少なくとも2つが異なる抗原性エピトープに結合するモノクローナル抗体の混合物であり得る。異なる抗原性エピトープは、同じ標的、異なる標的、又はそれらの組み合わせ上にあることができる。抗体は、宿主を免疫して血清を採取する方法(ポリクローナル)や、連続したハイブリドーマ細胞株を調製して分泌タンパク質を採取する方法(モノクローナル)など、当業界でよく知られている技術によって調製することができる。
【0067】
ターゲティングリガンド結合体
いくつかの実施形態では、ターゲティングリガンド(例えば、アプタマー)をリポソーム又は他のビヒクルに連結して、画像化剤又は検出剤を標的に送達する。例えば、画像化剤や検出剤をリポソーム内に封入することができる。このような技術を用いて、リポソームベシクルに結合した本発明のタウ病理特異的アプタマーは、タウ病理を発現している細胞への画像化剤又は検出剤の標的送達を提供することができる。いくつかの実施形態では、単一のターゲティングリガンドがリポソームに連結されている。他の実施形態では、複数のターゲティングリガンドがリポソームに連結されている(例えば、Tau_1及びTau‐3)。
【0068】
ここでいう「リポソーム」とは、脂質で構成された小胞構造を示す。脂質は、典型的には、長い炭化水素鎖を含む尾部基と親水性の頭部基を有する。脂質は、送達されるべき薬剤(例えば、画像化剤)を含むのに適した水性環境を内側に有する脂質二重層(すなわち、膜)を形成するように配置される。このようなリポソームは、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合する適切なターゲティングリガンドを含む外表面を提示する。適切なリポソームプラットフォームは、例えば、Alzeca Biosciences社の「ADx」プラットフォームであってよく、水素化大豆L‐α‐ホスファチジルコリン(HSPC)、コレステロール(Chol)、1,2‐ジステアロイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホエタノールアミン‐N‐(メトキシ(ポリエチレングリコール)‐2000)(DSPE‐mPEG2000)及びGd(III)‐DSPE‐DOTA(大環状ガドリニウム画像化部位であるGd(III)‐DOTAをリン脂質である1,2‐ジステアロイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホリルエタノールアミン(DSPE)に結合したもの)、並びにターゲティングリガンドを結合させるために使用される部分、DSPE‐PEG‐3400(1,2‐ジステアロイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホエタノールアミン‐N‐[マレイミド(ポリエチレングリコール)‐3400])を含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、リポソームの膜は、少なくとも3種類のリン脂質から構成されていてもよい。膜は、修飾されていない第1のリン脂質を含んでいてもよい。適切な第1のリン脂質には、米国特許第7,785,568号及び第10,537,649号に開示されているものが含まれ、これらの文献の各々はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。ある実施形態では、第1のリン脂質はHSPCである。膜は、第1のポリマーで誘導体化されてもよい第2のリン脂質を含んでもよい。適切なポリマー誘導体化された第2のリン脂質には、米国特許第7,785,568号及び第10,537,649号に開示されたものが含まれる。一実施形態では、第1のポリマーで誘導体化された第2のリン脂質は、DSPE‐mPEG2000である。膜は、第2のポリマーで誘導体化された第3のリン脂質を含んでいてもよく、第2のポリマーは最終的にターゲティングリガンドに結合される。適切なポリマーで誘導体化された第3のリン脂質には、米国特許第7,785,568号及び第10,537,649号に開示されているものが含まれる。一実施形態では、第2のポリマーで誘導体化された第3のリン脂質は、DSPE‐PEG‐3400である。
【0070】
いくつかの実施形態では、膜は、リポソームを安定化させることができる立体的に嵩高い賦形剤を含んでいてもよい。適切な賦形剤には、米国特許第7,785,568号及び第10,537,649号に開示されているものが含まれる。一実施形態では、リポソームを安定化させることができる立体的に嵩高い賦形剤は、コレステロールである。
【0071】
いくつかの実施形態では、リン脂質‐ポリマー‐ターゲティングリガンド結合体中のリン脂質部分は、以下の構造式で表すことができる。
【化1】

変数mは、12、13、14、15、16、17、又は18のいずれかであってもよい。例えば、mは14又は16であってもよい。様々な実施形態において、第1のリン脂質、第2のリン脂質、及びリン脂質‐ポリマー‐ターゲティングリガンド結合体のいずれかにおけるリン脂質部分は、HSPC、DPPC、DSPE、DSPC、又はDPPEのいずれかであってもよい。
【0072】
いくつかの実施形態では、リン脂質‐ポリマー‐ターゲティングリガンド結合体中のポリマー部分はポリオールである。ポリオールを含むポリマーを形成する構造単位は、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、及びグリセリンなどの単量体ポリオールを含む。ポリオールを含むポリマーの例としては、ポリエステル、ポリエーテル、及び多糖類が挙げられる。適切なポリエーテルの例としては、一般式HO‐(CHCHO)‐Hでp≧1のジオール、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールなどのジオールが含まれるが、これらに限定されない。適切な多糖類には、シクロデキストリン、デンプン、グリコーゲン、セルロース、キチン、及びβ‐グルカンが含まれるが、これらに限定されない。適切なポリエステルとしては、ポリカーボナート、ポリブチラート、ポリエチレンテレフタラートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、いずれもヒドロキシル末端基で終端している。ポリオールを含む例示的なポリマーは、約500,000Da以下、例えば約300~約100,000Daの分子量のポリマーを含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、リン脂質‐ポリマー‐ターゲティングリガンド結合体のポリマー部分は、親水性ポリ(アルキレンオキシド)ポリマーを含む。親水性ポリ(アルキレンオキシド)は、約10~約100の繰り返し単位を含み、例えば、約500~10,000Daの範囲の分子量を有していてもよい。親水性ポリ(アルキレンオキシド)は、例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)などを含んでいてもよい。リン脂質‐ポリマー‐ターゲティングリガンド結合体におけるポリマー部分は、アミド基又はカルバマート基を介してリン脂質部分と結合されていてもよい。また、リン脂質‐ポリマー‐ターゲティングリガンド結合体中のポリマー部分は、アミド、カルバマート、ポリ(アルキレンオキシド)、トリアゾール、それらの組み合わせなどを介して結合されていてもよい。例えば、リン脂質‐ポリマー‐ターゲッティングリガンド結合体におけるポリマー部分は、以下の構造式のいずれかで表すことができる。
【化2】

変数nは、約10から約100の任意の整数であってもよく、例えば、約60から約100、約70から約90、約75から約85、又は約77である。
【0074】
いくつかの実施形態では、リン脂質‐ポリマー‐ターゲティングリガンド結合体におけるリン脂質‐ポリマー部分は、以下の構造式のいずれかで表すことができる。
【化3】

変数nは、約10から約100までの任意の整数であってよく、例えば、約60から約100、約70から約90、約75から約85、又は約77である。変数mは、12、13、14、15、16、17、又は18のいずれかであってもよい。例えば、nは77で、mは14であってもよい。別の例では、nが77で、mが16であってもよい。
【0075】
ターゲティングリガンド(例えば、アプタマー)は、リン脂質‐ポリマー‐ターゲティングリガンド結合体の1つ以上のポリマー(例えば、PEG)部分に、1つ以上のリンカーを用いて、又は用いずに接続されていてもよい。PEG部分は、任意のタイプのPEG部分(直鎖状、分岐状、多重分岐状、星型、櫛型、又はデンドリマー)であってよく、任意の分子量を有する。また、同じ又は異なるPEG部分をアプタマーに接続するために、同じ又は異なるリンカーを使用してもよいし、リンカーを使用しなくてもよい。一般的に知られているリンカーとしては、アミン、チオール、アジドなどが挙げられるが、これらに限定されず、リン酸基を含んでいてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、ターゲティングリガンドは、リポソームに会合するリン脂質に結合しているポリエチレングリコールに連結されている。
【0076】
いくつかの実施形態では、リポソームは膜を含み、その膜は、HSPC、DPPC、DSPE、DSPC、及びDPPEから選択される第1のリン脂質;コレステロール;PEGで誘導体化されたDPPC、DSPE、DSPC、及び/又はDPPE;PEGで誘導体化されたDPPC、DSPE、DSPC、及び/又はDPPEと、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンド;及び膜によってカプセル化されているか、又は膜に結合している画像化剤を含む。さらなる実施形態では、ターゲティングリガンドはチオアプタマーであり、画像化剤はMRI造影剤である。
【0077】
いくつかの態様では、本発明はターゲティング組成物を提供する。ターゲティング組成物は、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドに結合したポリマーに結合したリン脂質を含む。リン脂質は、本明細書に記載されたリン脂質のいずれかであり得る。いくつかの実施形態では、リン脂質は、DPPC、DSPE、DSPC、及びDPPEのうちの1つ又は複数を含む。同様に、ポリマーは、本明細書に記載のポリマー(例えば、ポリオール)のいずれかであり得る。いくつかの実施形態では、ポリマーはポリエチレングリコールである。
【0078】
画像化剤又は検出剤
本明細書に記載されているタウ病理を検出するための組成物は、画像化剤又は検出剤を含んでもよい。画像化剤又は検出剤は、一般に、組成物のリポソーム部分に結合している。画像化剤又は検出剤は、リポソーム内に保持することができ、又はリポソームに結合することができる。一実施形態では、画像化剤又は検出剤は、リポソームを形成する膜に結合するリン脂質に連結したポリマーに連結している。一実施形態では、画像化剤又は検出剤は、リポソームを形成する膜に結合するリン脂質に連結しているポリマーに連結しており、Gd(III)‐DSPE‐DOTAを含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、タウ病理を検出するための組成物は、検出剤を含む。検出剤の例としては、GFP、ビオチン、コレステロール、蛍光色素などの色素、電気化学的に活性なレポーター分子、及び例えば、PET(ポジトロン放出断層撮影)検出に適した放射性核種、例えば、18F、11C、13N、15O、82Rb又は68Gaのような放射性残基を含む組成物が挙げられる。
【0080】
いくつかの実施形態では、タウ病理を検出するための組成物は、画像化剤を含む。画像化剤は、タウ病理の存在を示すだけでなく、タウ病理を示す組織の領域の画像を作成して表示することができる画像化方法での使用に適している点で、検出剤とは異なる。画像化剤の例としては、近赤外画像化剤、ポジトロン放出断層撮影・画像化剤、シングルフォトン放出断層撮影剤、蛍光組成物、放射性同位元素、MRI造影剤などが挙げられる。
【0081】
いくつかの実施形態では、画像化剤は、MRI造影剤である。MRIを用いた疾患の検出は、疾患の領域が周囲の健康な組織と比較して同様の信号強度を有するため、しばしば困難である。MRIの場合、画像化剤は、造影剤とも呼ばれることがある。MRI造影剤は、非放射性のMRI造影剤であって、膜によってカプセル化されているか、又は膜に結合しているかの少なくとも一方であってもよい。例えば、非放射性MRI造影剤は、例えば、二重造影剤リポソームを提供するために、膜によってカプセル化され、かつ膜に結合していてもよい。リポソーム組成物は、約100,000、125,000、150,000、165,000、180,000、190,000、及び200,000のうちの少なくとも約1つ以上の粒子あたりの緩和度(mM-1-1)を特徴とすることができる。リポソーム製剤を検出することは、例えば、約1Tから約3.5Tの間、又は約1.5から約3Tの間の磁場範囲でMRIを用いて検出することを含むことができる。非放射性MRI造影剤は、ガドリニウムを含んでいてもよい。適切な非放射性MRI造影剤は、Gd(III)‐DSPE‐DOTA及び(ジエチレントリアミンペンタ酢酸)‐ビス(ステアリルアミド)、ガドリニウム塩(Gd‐DTPA‐BSA)を含んでもよい。また、GdDTPA、GdDOTA、GdHPDO3A、GdDTPA‐BMA、GdDTPA‐BSAなどのガドリニウム常磁性キレートも好適な公知のMRI造影剤である。Klavenessらに発行された米国特許第5,676,928号を参照のこと。その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0082】
タウ病理を画像化又は検出する方法
別の態様では、本発明は、対象のタウ病理を画像化する方法を提供する。本方法は、対象に、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドを含む検出可能な有効量のターゲティングリガンド‐リポソーム結合体を投与すること、ここでターゲティングリガンドが、画像化剤を含むリポソームに結合している、及び対象の少なくとも一部を画像化して、対象のその一部がタウ病理を示すかどうかを決定することを含む。
【0083】
用語「対象」は、脊椎動物又は無脊椎動物などの動物を指す。いくつかの実施形態では、対象は哺乳類であり、これには、類人猿及びヒトを含む霊長類、ウマ科(例えば、ウマ)、イヌ科(例えば、イヌ)、ネコ科、様々な飼いならされた家畜(例えば、イノシシ科、ブタ、ヤギ、ヒツジなどの偶蹄類)、並びに飼いならされたペット及び動物園で飼育されている動物が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、対象はヒト対象である。いくつかの実施形態では、対象は、ADを発症するリスクが高まっている対象である。アルツハイマー病の危険因子には、遺伝的素因、喫煙、糖尿病、頭部外傷歴、うつ病、高血圧などがある。Burns A,Iliffe S.,BMJ.,338:b158(2009)を参照のこと。
【0084】
ターゲティングリガンド‐リポソーム結合体は、本明細書に記載された特徴のいずれかを含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、ターゲティングリガンドは、アプタマー又は安定化アプタマーであり、さらなる実施形態では、ターゲティングリガンドはチオアプタマーである。さらにさらなる実施形態では、本方法で使用されるアプタマー又は安定化アプタマーは、Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)から選択され、上記からなる群から選択されるものを含む、DNAヌクレオチド配列を含む。
【0085】
いくつかの実施形態において、本発明は、対象に、タウ病理を検出するための検出可能な有効量の組成物を投与し、画像化剤を含む組成物が分布した対象の一部(すなわち、組織領域)の画像を生成することにより、対象の組織領域の画像を生成する方法を提供することができる。組織領域の画像を生成するためには、検出可能な有効量の画像化剤が対象の組織領域に到達することが必要であるが、画像化剤がこの領域だけに局在することは必要ではない。しかし、いくつかの実施形態では、画像化剤を含む組成物は、関心のある組織領域に主に存在するように、局所的に標的化又は投与される。画像の例には、二次元断面図及び三次元画像が含まれる。いくつかの実施形態では、コンピュータを使用して、視覚的な画像を生成するために画像化剤によって生成されたデータを分析する。対象の組織領域又は部分は、脳心臓、肺、又は血管などの対象の器官であり得る。他の実施形態では、対象の一部は、脳のような神経細胞を含むことが知られている組織領域とすることができる。画像化方法の例には、光学画像化、蛍光画像化、コンピュータ断層撮影、ポジトロン放出断層撮影、単一光子放出コンピュータ断層撮影、及びMRIが含まれる。当業者に知られている任意の他の適切なタイプの画像化方法が企図されている。
【0086】
いくつかの実施形態では、画像化剤はMRI造影剤であり、結合のレベルはMRIを用いて決定される。MRIは、核磁気共鳴の医学的応用であり、強い磁場、磁場勾配、及び電波を用いて身体の解剖学的及び生理学的プロセスの画像を形成し、対象の一部の画像を生成する。MRIは、神経画像化、心臓血管画像化、筋骨格画像化、肝臓画像化、胃腸画像化などによく用いられる。MRIによる解剖学的構造や血流の画像化では、組織や血液の様々な特性が自然なコントラストをもたらすため、造影剤を必要としない。しかし、より特殊な画像を撮影する場合には、外因性の造影剤を投与することがある。神経画像化技術のレビューについては、Mehrabianら(Front Oncol.,9:440(2019))を参照のこと。
【0087】
本発明の別の態様では、タウ病理を検出する方法を提供することができる。この方法は、生物学的試料を、タウ病理の細胞表面マーカーに特異的に結合するターゲティングリガンドを含む有効量のターゲティングリガンド‐リポソーム結合体と接触させること、ここでターゲティングリガンドが検出可能な標識を含むリポソームに結合しており、生物学的試料を洗浄して未結合のターゲティングリガンド‐リポソーム結合体を除去すること、及び生物学的試料中に残存する検出可能な標識の量を決定することによって生物学的試料中のタウ病理を検出することを含む。
【0088】
ターゲティングリガンド‐リポソーム結合体は、本明細書に記載された特徴のいずれかを含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、ターゲティングリガンドはアプタマー又は安定化アプタマーであり、一方、さらなる実施形態では、ターゲティングリガンドはチオアプタマーである。さらにさらなる実施形態では、本方法で使用されるアプタマー又は安定化アプタマーは、Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_9(配列番号7)、Tau_11(配列番号8)、Tau_10(配列番号9)、Tau_13(配列番号10)、Tau_8(配列番号11)、Tau_4(配列番号12)、Tau_17(配列番号13)、Tau_5(配列番号14)、Tau_21(配列番号15)、Tau_25(配列番号16)、Tau_7(配列番号17)、Tau_31(配列番号18)、Tau_42(配列番号19)、Tau_14(配列番号20)、Tau_19(配列番号21)、Tau_15(配列番号22)、Tau_56(配列番号23)、Tau_34(配列番号24)、Tau_23(配列番号25)、Tau_99(配列番号26)、及びTau_102(配列番号27)から選択され、上記からなる群から選択されるものを含む、DNAヌクレオチド配列を含む。
【0089】
標識を検出する手段は、当業者にはよく知られている。例えば、標識が放射性標識である場合、シンチレーションカウンターやオートラジオグラフィーのような写真フィルムなどが検出手段として挙げられる。また、標識が蛍光標識の場合は、蛍光体を適切な波長の光で励起し、その結果生じる蛍光を検出することで検出することができる。蛍光は、写真フィルムにより、電荷結合素子(CCD)や光電子増倍管などの電子検出器を用いて、視覚的に検出することができる。同様に、酵素標識は、酵素に適切な基質を提供し、得られる反応生成物を検出することによって検出することができる。検出された標識のレベルを対照レベルと比較して、生体試料がタウ病理の細胞表面マーカーのレベルの増加を示しているかどうかを決定することができる。
【0090】
生体試料は、哺乳類の体液、血液(全血のほか、その血漿や血清も含む)などの血清、CSF(髄液)、尿、汗、唾液、涙、肺分泌物、乳房吸引液、前立腺液、精液、便、子宮頸部掻き出し液、嚢胞、羊水、眼内液、粘液、呼気中の水分、動物組織、細胞溶解物、腫瘍組織、毛髪、皮膚、頬掻き、爪、骨髄、軟骨、プリオン、骨粉、耳垢など、また、腫瘍試料(すなわち、新鮮な、凍結した、又はパラフィン包埋したもの)などの外部又は保存されたソースからのものでもあり得る。臨床試験の過程で得られた体液や血清などの試料も好適である。いくつかの実施形態では、生体試料は、CSF又は神経(例えば、脳)組織試料などの神経細胞を含む試料を含む。
【0091】
生物学的試料は、新鮮なものであっても、保存されたものであってもよい。試料は、1時間、1日、1週間、1ヶ月、又は1ヶ月超保存されるなど、様々な時間にわたって保存することができる。生物学的試料は、本発明の方法で使用するために明示的に得られたものであってもよいし、本発明のアッセイのためにサブサンプリングすることができる別の目的で得られた試料であってもよい。いくつかの実施形態では、生物学的試料の分析を妨げる可能性のある不純物又は他の望ましくない物質を除去するために、生物学的試料を濾過、遠心分離、又はその他の方法で前処理することが有用である。
【0092】
いくつかの実施形態では、本方法は、対象から生物学的試料を得るステップを含む。生物学的試料を得る方法は、得られる生物学的試料の種類に応じて異なり、そのような方法は当業者に周知である。例えば、脳組織の試料は、定位脳針生検を用いて得ることができ、一方、脳脊髄液の試料は、腰椎穿刺を介して得ることができる。
【0093】
アルツハイマー病
いくつかの実施形態では、画像化は、対象がADを有すると診断するのに十分なレベルのタウ病理を示す。さらなる実施形態では、本方法は、対象が初期段階のAD、ADを発症するリスクの増加、又はその両方を有することを示す。対象がAD又は早期ADを有すると診断するのに十分なレベルのタウ病理は、細胞(例えば、神経細胞)内でのタウリン酸化のレベルの増加(例えば、過リン酸化)を反映する細胞表面マーカーのレベルの増加の存在に起因し得る。タウのリン酸化レベルの上昇を反映する細胞表面マーカーの例としては、KRT6A、KRT6B、HSP、VIMなどがある。
【0094】
ADは慢性の神経変性疾患で、通常はゆっくりと始まり、時間の経過とともに徐々に悪化し、認知症の60~70%の原因となっている。ADは、大脳皮質及び特定の皮質下領域におけるニューロン及びシナプスの消失を特徴とする。この消失により、側頭葉、頭頂葉、並びに前頭葉及び帯状回の一部が変性するなど、患部が著しく萎縮する。ADは、異常に折り畳まれたアミロイドベータタンパク質とタウタンパク質が脳内にプラーク蓄積されることによって引き起こされるタンパクミスフォールド疾患(プロテオパシー)である。
【0095】
ADの診断は、中等度の段階で行われることがほとんどである。一般的に、ADの症状は認知機能障害又は欠損であり、医学的及び心理学的検査で確認された認知症、精神機能の少なくとも2つの分野での問題、記憶やその他の精神機能の進行性の喪失などが含まれ、特にその場合、症状が40歳から90歳の間に始まり、認知症を説明する他の疾患がなく、甲状腺機能低下症、過剰投薬、薬物‐薬物相互作用、ビタミンB12欠乏症、うつ病などの認知症を模倣する他の疾患が存在しない。疾患が進行すると、症状には、言語の問題、見当識障害(簡単に迷子になることを含む)、気分の落ち込み、やる気の喪失、セルフケアを管理しない、行動上の問題などが含まれる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、これらの症状の1つ以上が現れる前に存在し得る初期段階のADの検出を提供する。したがって、いくつかの実施形態では、本方法は、ADの他の症状を示さない対象を診断するために使用される。
【0096】
いくつかの実施形態では、本方法は、対象にADの予防又は治療を提供することをさらに含む。ADの予防は、ADを発症するリスクを減少させるライフスタイル及び食事の変化を含む。例えば、読書、ボードゲーム、パズルを解くこと、楽器を演奏すること、第2言語を学ぶこと、さらには定期的な社会的交流などの知的活動は、ADを発症するリスクの低下につながる。同様に、日本食や地中海食などの健康的な食事は、AD発症のリスクを低下させることに関連している。
【0097】
また、ADに伴う認知機能の問題を治療するために使用し得る薬もいくつか発見されている。これらにはタクリン、リバスチグミン、ガランタミン、ドネペジルなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤や、NMDA受容体拮抗剤のメマンチンなどが挙げられる。フペルジンAはADの有望な治療薬であり、非定型抗精神病薬は、AD患者の攻撃性や精神病を抑えるために使用され得る。
【0098】
医薬組成物
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物は、医薬組成物として送達される。本発明の組成物を含む医薬組成物は、標準的な技術に従って調製され、薬学的に許容される担体をさらに含む。一般に、薬学的に許容される担体としては、通常の生理食塩水が採用される。他の適切な担体としては、例えば、水、緩衝水、等張液(例えば、デキストロース)、0.4%生理食塩水、0.3%グリシンなどが挙げられ、安定性を高めるための糖タンパク質、例えば、アルブミン、リポタンパク質、グロブリンなどが挙げられる。これらの組成物は、従来のよく知られた滅菌技術によって滅菌されてもよい。得られた水溶液は、使用のために包装してもよいし、無菌状態で濾過して凍結乾燥してもよく、凍結乾燥した製剤は、投与前に無菌水溶液と組み合わせられる。本組成物は、生理学的条件を近似させるために必要な薬学的に許容される補助物質、例えば、pH調整剤や緩衝剤、緊張度調整剤などを含んでいてもよく、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどを含んでもよい。さらに、本発明のリポソーム組成物は、保存時のフリーラジカル損傷や脂質過酸化損傷から脂質を保護する脂質保護剤を含む懸濁液に懸濁することができる。親油性のフリーラジカルクエンチャー、例えばα‐トコフェロールや、水溶性の鉄特異的キレート剤、例えばフェリオキサミンなどが好適である。
【0099】
本発明のリポソーム組成物の医薬製剤中の濃度は、約0.05%未満から、通常又は少なくとも約2~5%から、10~30重量%までというように、大きく変化する可能性があり、選択された特定の投与方法に応じて、主に液量、粘度などによって選択されることになる。例えば、治療に伴う体液の負荷を下げるために、濃度を高めてもよい。投与される組成物の量は、使用される特定のアプタマー、治療される疾患の状態、及び臨床医の判断に依存する。一般に、投与される組成物の量は、治療上有効な用量の核酸を送達するのに十分な量である。治療上有効な量を送達するのに必要な組成物の量は、当業者が決定することができる。一般的な投与量は、一般的に体重1kgあたり約0.01~約50mgの核酸、好ましくは約0.1~約10mgの核酸/kg体重、最も好ましくは約2.0~約5.0mgの核酸/kg体重となる。マウスに投与する場合は、典型的には20gのマウスに対して50~100μgの投与量となる。
【0100】
キット
いくつかの実施形態では、本発明は、上述のリポソーム複合体/組成物を調製するためのキットも提供する。そのようなキットは、上述のように、容易に入手可能な材料及び試薬から調製することができる。例えば、そのようなキットは、以下の材料のいずれか1つ以上を含むことができる:リポソーム、核酸(縮合又は非縮合)、親水性ポリマー、アプタマーなどのターゲティングリガンドで誘導体化された親水性ポリマー、及び指示書。キットの意図されるユーザーやユーザーの特定のニーズに応じて、多種多様なキット及びコンポーネントを準備することができる。例えば、キットは、上述のように、複合体を特定の細胞タイプにターゲティングするための多数のターゲティング部分のいずれか一つを含むことができる。
【0101】
リポソーム複合体の調製及び使用のための説明資料を含むことができる。指示資料は、典型的には、書面又は印刷資料を含むが、そのようなものに限定されない。そのような指示を保存し、エンドユーザーにそれらを伝えることができる任意の媒体が企図されている。そのような媒体には、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えば、CD ROM)などが含まれるが、これらに限定されない。そのような媒体には、そのような説明資料を提供するインターネットサイトのアドレスが含まれていてもよい。
【0102】
様々な実施形態において、指示書は、本明細書に記載された方法ステップのいずれかを実行するようにユーザーに指示することができる。例えば、指示書は、本明細書に記載の標的リポソーム組成物を用いてタウ病理の存在を検出することにより、対象がADを発症するリスクを診断することをユーザーに指示してもよい。
【0103】
本発明の特定の実施形態をより明確に説明するために、実施例が含まれている。しかし、本発明の範囲内には、本明細書に記載された特定の実施例に限定されるべきではない、多種多様な他の実施形態が存在する。
【実施例
【0104】
例1‐リガンドとターゲットの同定
細胞表面のマーカーを同定するためのエレガントな方法としては、よく知られているファージディスプレイ技術(Koivunen et al.J Biol Chem 268,20205‐20210(1993))、及びcell‐SELEX:細胞性の標的に対するDNAアプタマーをスクリーニングする方法が挙げられる。Shangguan, et al., Chembiochem 8,603‐606(2007)。本発明者らは、cell‐SELEXを用いて、ニューロンの表現型に分化した過リン酸化SH‐SY5Y細胞(神経芽細胞腫細胞株)に結合するアプタマーを同定した。図3に、スクリーニングとチオアプタマーの同定の概要を示す。SH‐SY5Y細胞をレチノイン酸で処理すると、軸索と神経突起の構造を有するニューロンの表現型が誘導される(図3A)。PP2Aの強力な阻害剤であるオカダイン酸で処理すると、AT8抗体で染色した核のpTau Thr205/Ser202(図3B上段)と、PHF‐1抗体で染色した細胞質のpTau Ser396(図3B下段)から、過リン酸化が誘導されることがわかる。
【0105】
ニューロン細胞に対するCell SELEXは「ブラックボックス」モードで行われ,差動遠心分離により細胞膜に結合するチオアプタマーを分離し,リーダー配列に特異的なプライマーを用いてPCRで増幅した。出発チオアプタマーライブラリーは、2つのプライマー領域(5’‐GATATGTCTAGAGCCTCAGATCA‐(N30)‐CGGAGTTATGTTAGCAGTAGC‐3’配列番号28)で括られた30塩基のランダム配列を組み込んだ1015メンバーライブラリーであった。ラウンド13とラウンド21では、レチノイン酸で処理し、オカダイン酸で処理していない細胞をスクリーニングすることを含む2つのネガティブSELEXステップが含まれており、これにより「正常」又は「非過リン酸化」ニューロンをシミュレートしている。これらのステップでは、上澄み液、すなわち細胞膜に結合しなかった、又は内部に取り込まれなかったチオアプタマーを増幅のために分離し、これにより、スクリーニングを継続するチオアプタマーが過リン酸化ニューロンに選択的に結合するものだけであることを保証した。サイクル26で同定された上位250の配列を、本実施例1の末尾に記載されている表2に示す。次に、Cell SELEX(図3C)のラウンド26及び選択された中間ラウンド(1、5、10、13、17、19、21、23、26)で残ったアプタマーのNextGen配列決定を、IonTorrent(登録商標)法及びIon318(登録商標)チップを用いて実施し、続いてAptalignerコードを用いてシーケンスアライメントを行った。Lu et al.,Biochemistry 53,3523‐3525(2014).上位20の配列は、3つの異なる構造ファミリーに分類された(図3Eのデンドログラム)。ラウンド10ではチオアプタマーTau_2(配列番号218)(オレンジ色の棒)がライブラリーを支配していたが、ラウンド13のネガティブスクリーニング後にはTau_2(配列番号218)は実質的に消滅し、Tau_1(青色の棒)などに追い越されていたことから、ネガティブスクリーニング戦略が成功した証拠が図3Dに示されている。Tau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、及びTau_17(配列番号13)のM‐fold構造は顕著な類似性を示しており、一貫した選択的な標的に結合していることがわかる。Tau_1(配列番号5)とTau_3(配列番号6)は、de novo配列として合成され、過リン酸化されたSH‐SY5Y細胞に曝露されると、膜と軸索プロセスに熱心に結合した(図3G及び3H)。
【0106】
チオアプタマーTau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_4(配列番号12)、及びTau_5(配列番号14)の標的タンパク質は、チオアプタマーを捕獲試薬として用いたアフィニティプルダウン、続いて質量分析によって同定された。対照としては、スクランブルDNA配列であるR4を用いた。90~95%コンフルエントになった過リン酸化ニューロン変換SH‐SY5Y細胞を冷やしたPBSバッファーで洗浄し、ビオチン化したチオアプタマー及びR4(各24mM)と個別に4℃で、PBS(塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを含むダルベッコPBS)中で穏やかに攪拌しながら2時間インキュベートした。インキュベーション後、1%ホルムアルデヒドで10分間、室温で細胞を架橋した。ホルムアルデヒドの架橋はグリシンでクエンチした。細胞をフラスコから掻き出し、洗浄し、溶解バッファーで溶解し、プロテアーゼ阻害剤混合物で処理した。溶解液を氷上で30分間凍結融解し、4℃で10,000g、2分間の遠心分離を行ってクリアにした。
【0107】
架橋されたタンパク質を引き抜くために、同量の細胞溶解液をあらかじめ洗浄したストレプトアビジン磁性ビーズと室温で1時間、連続回転させながらインキュベートした。ビーズ上でタンパク質分解を行い、目的のタンパク質を分離し、試料を質量スペクトル分析用に処理した。各試料は3回に分けて分析した。生データファイルは,Mascot Distillerを用いて処理してMascot Generic Formatを作成し,社内サーバ上で動作するMascot search engine v2.3.02を用いてSwissProt_2012_01(Human)データベースに対して検索した。対照(R4)のプルダウンで存在したタンパク質は、テストチオアプタマーのプルダウンでは無視された。残ったものはユニークヒットとした。その結果、Tau_1はHSPD1(emPAI>6)及びKRT6A/KRT6B(emPAI~0.38ずつ)と熱心に結合することを示した。Tau_3はVIM(emPAI=2.7)とHSPD1(emPAI~0.62)に熱心に結合することを示した。Tau_4はHSPD1(emPAI~1.08)及びKRT6A(emPAI~0.79)に結合することを示した。VisANTデータベースでは、図4に示すように、これらのそれぞれとタウとの間に関連性が得られた。HSPの同定は、細胞モデルが実際にミスフォールドを起こしていることを間接的に確認するものである。細胞骨格や膜におけるVIMの再分布は、タウのアグリソーム形成に付随して記述されている。しかし、そのメカニズムに関する研究は行われていない。KRT6A/KRT6Bではなく、ケラチン9とタウ病理との関連が指摘されている。
【0108】
チオアプタマーTau_1(配列番号5)、Tau_3(配列番号6)、Tau_4(配列番号12)、Tau_5(配列番号14)をそれぞれ個別に3’Cy3タグで合成し、P301Sマウスの脳組織とインキュベートした後、pTau抗体であるAT100(後期リン酸化を示す)又はAT8(初期リン酸化を示す)のいずれかでカウンター染色を行った。Tau_3は最も強い染色性を示し、AT100抗体と高い相関性を持って海馬組織に結合したが(図5A)、AT8とは相関性がなく(図5B)、正常な脳組織を染色しなかった(図5C)。このように、Tau_3はタウのリン酸化のマーカーとして適している。
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】

【表2-4】

【表2-5】

【表2-6】

【表2-7】

【表2-8】

【表2-9】

【表2-10】

【表2-11】

【表2-12】

【表2-13】
【0109】
例2:ガドリニウム担持チオアプタマー標的リポソームナノ粒子を用いた、タウ沈着のP301Sマウスモデルにおける、インビボ過リン酸化ニューロンのMRI可視化
上述のようなインビトロ及びエクスビボ(ex vivo)の研究により、Tau_3は、AT100陽性(後期の過リン酸化を示す)の過リン酸化されたニューロンに結合する適切な候補チオアプタマーとして得られた。そこで、本発明者らは、ADタウオパシーのマウスモデル(P301S)において、ペイロードナノ粒子をタウ病理部位にターゲティングする際のTau_3(配列番号6)アプタマーの能力を試験することにした。さらに、Tau_1(配列番号5)を標的としたナノ粒子は、マウスの脳組織へのインビトロでの結合が見られなかったものの、pTau特異的な方法でSELEXスクリーンで最も多く見られたため、それらを試験した。アプタマーは、3’末端に共役可能なアミン末端を有するものを合成し、カルボジイミド化学(EDC+sulfo‐NHS)を用いて、カルボキシル基を有するリポソーム(HSPC:コレステロール:DSPE‐DOTA‐Gd:DSPE‐PEG3400‐COOH:MPEG2000DSPE:PE‐ローダミン、31.3:40:25:0.5:3:0.2のモル比)に結合させた。より具体的には、まず脂質と結合体をt‐ブタノールに溶解し、生理食塩水で水和して総脂質濃度50mMにした後、400nmと200nmのヌクレオポアトラックエッチ膜を介して押し出し、続いてPBSに対して透析し、吸湿性ゲルを用いて濃縮して総脂質濃度100mMにして、リポソームを調製した。このリポソーム(5mL)を2mM EDCと3mM sulfo‐NHS(EDCの10倍過剰に相当)で活性化し、続いてpH7.5で500μLのアプタマー(合計1μmole)を添加し、室温で2時間反応させた。4℃で一晩保存した後、1000kDaのカットオフを用いてpH7.5のPBSに対してリポソームを透析し、遊離のアプタマーを除去した。透析後、3000Daカットオフのスピンカラムを用いてリポソームを1.9mLに濃縮し、ナノドロップでアッセイしてアプタマー濃度を定量した。各リポソームには約400個のチオアプタマー分子が付着していると推定された。これらの手順は、最近の出版物に記載されており、それらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。Mu,Q.ら、Mol Ther Nucleic Acids 5,e382(2016);Mannら、Oncotarget 2,298‐304(2011)。
【0110】
MRIでは、生後2カ月、6カ月、9カ月のP301Sマウスと、年齢を合わせた非トランスジェニックの兄弟を検査した。このモデルは、生後6カ月で細胞内タウ病理が発生し始め、9カ月で本格的な細胞内及び細胞外(ゴースト)の病理が発生する。このようにして、本発明者らは、病気の前病理、病理発症、及び進行した病理の段階を試験した。プレスキャンは、以下のシーケンスに従って、注射の直前に収集された:T2強調FSE(2つの外部平均)‐スキャン時間:12分(解剖学的参照スキャン)TR=6500、TE=80、スライスThk=1.2mm、マトリクス=192x192、NEX=2 FA=90、スライス=16、FOV=30mm.T1強調SE(4つの外部平均)‐スキャン時間:14分.TR=260、TE=8.8、スライスThk=1.2mm、マトリクス=192x192、NEX=4 FA=90、スライス(2D/3D)=8/16、FOV=30mm.T1強調GRE(5フリップアングル)‐スキャン時間:7分.TR=20、TE=3.6、スライスThk=1.2mm、マトリクス=192x192、NEX=1 FA=[8 15 25 35 45 70]°、スライス=16、FOV=30mm.
【0111】
次に、Tau_1(配列番号5)アプタマー標的リポソーム、Tau_3(配列番号6)アプタマー標的リポソーム、又は残りの成分(Gdキレート結合体、ローダミン及びマトリクス脂質)をすべて含む非標的のPEG化された対照リポソーム製剤のいずれかで動物を処理した。リポソームの投与量はマウス1匹あたり250μLで、体重1kgあたり0.2mmolの総Gdになるように調整した。短時間の「スカウトスキャン」で造影剤が搭載されていることを確認した後、麻酔から回復した動物をケージに戻し、4日間かけて造影剤を循環させ、浸出させ、標的に結合させた。96時間後(造影剤が循環から消えた後、残った造影剤は何らかの方法で結合又は隔離されなければならない)に、すべての動物を上記と同じシーケンスで撮影し、その後、動物を犠牲にし、追跡分析のために脳、肝臓、脾臓、及び腎臓を採取した。脾臓及び肝臓組織の組織学的検査では,造影剤の蓄積(ローダミン信号で可視化)が見られたが,明らかな毒性の兆候は見られなかった。
【0112】
Tau_1(配列番号5)及びTau_3(配列番号6)を標的としたリポソームはいずれも、P301sトランスジェニック動物の若齢(2か月齢)において、大脳皮質、海馬、並びに視床及び視床下部の一部に結合するように見えたが、野生型の兄弟では結合しなかった(図5)。同様の結果は、それ以上の年齢でも得られた。Tau_1(配列番号5)及びTau_3(配列番号6)を標的としたリポソーム製剤による予測の精度を定量化するために、Paxinosアトラスのセクション55に近い脳の領域(大脳皮質、海馬、及び視床下部を含む)における1.2mm厚のスライスについて、シグナル増強を計算した。この目的のために45°GREシーケンスが使用されたが,これは信号が最も良好であると思われたからである。別の研究では,同一動物の異なる日のベースライン信号強度のスキャン間変動(95%信頼区間)は約5%であることが示された。そこで,各比較対象の3つの年齢群をすべてカバーする20匹の動物すべてについて、信号強度の変化を6段階で定量化した。
【0113】
1:確実にマイナス(<-10%)、2:おそらくマイナス(-5%~10%)、3:潜在的にマイナス(0~-5%)、4:潜在的にプラス(0~+5%)、5:おそらくプラス(+5%~+10%)、6:確実にプラス(>+10%)。
【0114】
JROCFIT計算機を用いて、遺伝子型をゴールドスタンダードとして、予測の精度、感度、特異性とともにROC曲線を算出した。P301Sマウスでは、生後3か月からシナプスのタウ病理が、6か月頃から細胞内のフィラメントが、9か月頃から神経原線維のもつれが発症し始める。生後2か月の時点では、タウ病理はほとんど見られない。驚くべきことに、生後2カ月のマウスでも、アプタマーを標的としたナノ粒子は、80%の推定精度でMRIによるプラス信号を示した(感度~57%、特異性~92%)。これは、アプタマーを標的としたナノ粒子が、細胞内のもつれが形成される前に、タウ病理の発症を予測できるという点で、前例のない結果である。
【0115】
例3‐T1マップからの信号の定量化
複数のフリップアングル画像を取得したため、コントラスト前とコントラスト後の画像の実際のT1値を計算した。スポイルド・グラディエント・エコー・シーケンスの信号方程式は次のとおりである。
【数1】

ここで、kはスケーリングファクター、[H]はスピン密度の関数である。スピン密度が一定で、T2に対してTEが短く、T1強調シーケンスと一致すると仮定すると、よく知られた手法である複数のフリップアングルにおける信号の非線形フィットによってT1を推定することができる。
【0116】
この方法の利点は、T1強調信号の強度自体は造影剤の濃度に定量的に関連しないが、1/ΔT1値は濃度に直接比例し、その比例定数はT1短縮剤のモル緩和率に等しいことである。そのため、局所的な造影剤濃度を推定することができ、この方法で局所投与を定量化することができる。さらに、T1マップは薬剤の局在性を示すマーカーでもある。T1マップはすべてのフリップアングルで情報を効率的に考慮するので、単一のフリップアングルでは明らかでない変化を強調することができ、図7に示すように、45°フリップアングルの画像では主に視床/視床下部が強調されているが、T1マップではさらに海馬のT1が著しく短縮されている。
【0117】
例4‐ガドリニウム担持チオアプタマー標的リポソームナノ粒子を用いた、タウ沈着のP301Sマウスモデルにおけるインビボ過リン酸化ニューロンのMRI可視化
2種類のリポソーム製剤(「ADx‐Tau1」及び「ADx‐Tau3」)を作製し、インビボ試験を行った。ADx‐Tau1製剤は、アミンで終端されたTau‐1(配列番号5)アプタマー(5’‐/5AmMC6/CGC TCG ATA GAT CGA GCT TCG CCC ACG GTC TCC GCT CCA CAA GTT CAC GTC GAT CAC GCT CTA GAG CAC TG‐3’‐配列番号256)を含んでいた。ADx‐Tau3製剤は、アミンで終端されたTau_3(配列番号6)アプタマー(5’‐/5AmMC6/CGC TCG ATA GAT CGA GCT TCG CCC ACG GTC TCC GCT CCA CAA GTC CAC GTC GAT CAC GCT CTA GAG CAC TG‐3’‐配列番号257)を含んでいた。アプタマーは、3’末端に共役可能なアミン末端を有するように合成し、既知のカルボジイミド化学(EDC+スルホ‐NHS)を用いて、DSPE‐PEG3400‐COOHを含むリポソームに連結した。ADx‐Tau製剤の製造に使用した脂質組成とモル比(%)は、HSPC:コレステロール:DSPE‐mPEG2000:DSPE‐PEG3400‐COOH:DSPE‐DOTA‐Gd=31.5:40:3:0.5:25であった。リポソームには約250~500分子のTau_1アプタマーと約150~400分子のTau_3アプタマーが結合していた。
【0118】
対照として、ターゲティングアプタマーを含まない非標的ADx‐Tau製剤(「ADx‐Un」)も作製し(脂質二重層にDSPE‐PEG3400‐COOHを含まずに作製)、インビボ試験に含めた。
【0119】
ADx‐Tau製剤の有効性は、タウ病理のP301Sマウスモデルで検証された。動物(野生型及びトランスジェニック)は、あらゆる前駆的なタウ病理を検出するために、早期(2~3カ月齢)にADx‐Tau対応のMRIを受けた。脳の切片を組織学的に分析したところ、≧7か月齢のトランスジェニックマウスでは、大脳皮質、海馬、脳幹に線維状のタウが沈着していた。
【0120】
MRIは、1T永久磁石スキャナー(M7システム、Aspect Imaging社、イスラエル・ショハム)を用いて行った。マウスは2.5%のイソフルランで鎮静化し、フェイスコーンを内蔵した特注のベッドに寝かせ、吸入(1~2%のイソフルラン)で連続的に麻酔をかけた。呼吸数は、マウスの腹部の下に置かれた空気圧制御の圧力パッドによってモニターされた。MR画像は,以下のシーケンス及びスキャンプロトコルで取得した。(1)T1強調スピンエコー(T1w‐SE)シーケンス(繰り返し時間(TR)=260ms、エコー時間(TE)=8.5ms、スライス数=16,ボクセルサイズ=0.16×0.16×1.2mm,スキャン時間=8分)、(2)T1w‐流体減衰反転回復(T1w‐FLAIR)シーケンスに近似した高速スピンエコー反転回復(FSE‐IR)(TR=13500ms、TE=86ms、TI=2000ms、スライス=6、Voxel Size:0.16x0.16x2.4mm)。1Tスキャナーを使用した理由は、磁場強度が一般的に使用されている臨床用の1.5Tに近いため、これらの小動物研究の翻訳関連性が高まることと、Gdナノ粒子の弛緩性が低磁場強度で高いことによる。造影剤(ADx‐Tau1、ADx‐Tau3、ADx‐Un)を静脈内投与してから4日後に造影後の遅延スキャンを取得した。T1w‐SE及びFSE‐IRシーケンスの両方を用いて、上記のパラメータで造影前及び造影後のスキャンを行った。その後、マウスを7~9か月に加齢させ、安楽死させて、AT100抗体を用いて死後の脳組織検査を行い、pTau病理の確認を行った。
【0121】
マウス間のばらつきと、ポジショニング又はMR装置の要因による潜在的なアーチファクトを考慮するため、T1w‐SE及びFSE‐IRの両シーケンスにおいて,すべての野生型マウスとトランスジェニックマウスのMR信号強度の平均値と標準偏差を求めた。平均値から2標準偏差上に設定されたカットオフ閾値信号強度は,両シーケンスで推定され,平均信号強度のパーセンテージで表された:5.1%(FSE‐IR)及び5.6%(T1w‐SE)。
【0122】
MRI画像の定性・定量解析は、OsiriX(バージョン5.8.5、64bit)とMATLAB(バージョン2015a)で行った。脳の抽出は、OsiriXで閾値と手動によるセグメンテーションを組み合わせて行った。コントラスト前の画像とコントラスト後の遅延画像の間の信号変化は,画像スタックの中央付近の皮質領域における信号強度の定量化を通じて評価した。大脳皮質及び海馬のコントラスト前とコントラスト後の遅延評価の間の信号増強を評価することで,タウ陽性マウスを同定した。コンラスト前とコントラスト後の画像間の信号の変化は、MRIボリュームの中央スライスの皮質組織を含む関心領域(ROI)の信号を統合することで定量化した。ADx‐Tauにより可能となったタウ陽性マウス(遺伝子型と生後7~9カ月での運動失調及び/又は後肢麻痺の発現表現型で判定)の遅延MR画像において、信号分散閾値以上の信号増強が観察された場合、真の陽性結果としてカウントした。逆に、タウ陰性マウスのコントラスト前とコントラスト後の遅延画像の間で、信号分散閾値以下の信号増強が見られた場合は、真の陰性結果とみなした。ADx‐Tauの感度と特異性を評価するために、6点の順序尺度を用いてROC曲線を作成した。感度は、MRIで同定された真の陽性の数と真の陽性の総数の比で決定した。特異性は、MRIで確認された真の陰性の数と真の陰性の総数の比で求めた。精度は、経験的ROC曲線の曲線下面積(AUC)として求めた。
【0123】
タウの沈着がまだ起こっていない2カ月齢のトランスジェニックマウスでは、ADx‐Tau1又はADx‐Tau3のいずれかを注射した後にMRシグナルの増強が見られるが、野生型マウスではほとんど増強が見られない(図8)。非標的製剤(ADx‐Un)を投与したトランスジェニックマウスでは、MRシグナルの増強は見られなかった。P301Sの皮質脳切片をAT100で染色したところ、野生型マウスに比べてpTauレベルが上昇していた(図9)。ADx‐Tau1及びADx‐Tau3アプタマー標的粒子は、生後7‐9ヶ月での運動失調及び/又は後肢麻痺という発現された表現型をゴールドスタンダードとして、遺伝子型の確認と比較した結果、FSE‐IRシーケンスを用いて約75%の精度で検出された(図10)。
【0124】
ここで引用したすべての特許、特許出願、出版物、及び電子的に利用可能な資料の完全な開示内容は、参照により組み込まれる。前述の詳細な説明及び例は、理解を明確にするためにのみ与えられている。そこから不必要な制限が理解されるべきではない。本発明は、示され、説明された正確な詳細に限定されるものではなく、当業者にとって明らかな変形が、特許請求の範囲によって定義される発明に含まれるからである。
【配列表フリーテキスト】
【0125】
配列番号1~257 <223> 合成
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
【配列表】
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【国際調査報告】