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特表2022-550245間葉系幹細胞のインビトロスクリーニング、活性化、増幅、凍結保存及びその細胞バンクの作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-01
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞のインビトロスクリーニング、活性化、増幅、凍結保存及びその細胞バンクの作成方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20221124BHJP
   C40B 40/02 20060101ALI20221124BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
C12N5/0775
C40B40/02
C12N1/00 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507329
(86)(22)【出願日】2020-06-01
(85)【翻訳文提出日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 CN2020093716
(87)【国際公開番号】W WO2021237762
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】202010448992.X
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520514780
【氏名又は名称】青島瑞思徳生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】張炳強
(72)【発明者】
【氏名】陳夢夢
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BB32
4B065BD09
4B065BD12
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は間葉系幹細胞のインビトロスクリーニング、活性化、増幅、凍結保存及びその細胞バンクの作成方法を開示する。この方法は、間葉系幹細胞専用の初代スクリーニング用培地を用いて第1段階のスクリーニング培養を行い、精製した間葉系幹細胞を得るステップと、間葉系幹細胞専用の活性化増幅用培地を用いて、精製した間葉系幹細胞を第2段階の活性化と大規模増幅培養を行い、機能が活性化された大量の間葉系幹細胞を取得するステップと、間葉系幹細胞専用の凍結保存液を用いて幹細胞を凍結保存し、ABO/RHタイピングとHLAタイピングに応じて保存することにより、検索可能な情報ファイルを作成し、間葉系幹細胞バンクを構築するステップとを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞のインビトロスクリーニング、活性化、増幅、凍結保存及びその細胞バンクの作成方法であって、
間葉系幹細胞専用の初代スクリーニング用培地を用いて第1段階のスクリーニング培養を行い、精製した間葉系幹細胞を得るステップであって、前記間葉系幹細胞専用の初代スクリーニング用培地は、2~8ng/ml SCF、2~4ng/ml BMP-4、10~30IU/ml IL-10と1~4ng/ml LIF、1~4ng/ml TGF-β、2~8ng/mlラパマイシン、2~12ng/mlトリメチニブ、10~20ng/mlアセトアミノフェン、1~3ng/ml 5-HMF、10~20ng/mlリン酸クロロキンを添加した間葉系幹細胞無血清完全培地であるステップと、
間葉系幹細胞専用の活性化増幅用培地を用いて、精製した間葉系幹細胞を第2段階の活性化と大規模増幅培養を行い、機能が活性化された大量の間葉系幹細胞を取得するステップと、
間葉系幹細胞専用の凍結保存液を用いて幹細胞を凍結保存し、ABO/RHタイピングとHLAタイピングに応じて保存することにより、検索可能な情報ファイルを作成し、間葉系幹細胞バンクを構築するステップとを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞専用の活性化増幅用培地は、2~8ng/ml SCF、1~4ng/ml bFGF、10~20ng/mlペオニフロリン、20~30ng/ml塩酸メトホルミン、1~4ng/mlヒドロコルチゾン、2~4ng/ml CXCL10、1~2ng/mlフォルスコリン、1~3ng/ml 5-HMF、10~20ng/mlリン酸クロロキンを添加した間葉系幹細胞無血清完全培地である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記間葉系幹細胞専用の凍結保存液は、DMSO 5~10体積%と、複合電解質注射液5~10体積%と、ヒドロキシエチルデンプン200/0.5塩化ナトリウム注射液5~10体積%と、アルブミン1~2体積%と、ヒドロキシカンプトテシン注射液1~2体積%と、間葉系幹細胞無血清完全培地66~83体積%とを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞専用の初代スクリーニング用培地、間葉系幹細胞専用の活性化増幅用培地、間葉系幹細胞専用の凍結保存液において、前記無血清完全培地は、TheraPEAK(登録商標)MSCGM-CDTMMedium、MesenPRO RSTMMedium、
、又は市販されている他の種類の無血清培地である、ことを特徴とする請求項1、2、3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に関し、具体的には、間葉系幹細胞のインビトロスクリーニング、活性化、増幅、凍結保存及びその細胞バンクの作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は近年生物界の最大のホットスポットとなっており、その発展は医療分野に革命的な技術手段を提供する。幹細胞は自己複製能力と多方向分化潜在能力を持つ原始細胞であり、一定の条件下で、多種の機能細胞に分化することができ、白血病、先天性代謝疾病、一部の固形腫瘍、糖尿病、心臓病や脳性麻痺などの多種の疾病の治療に適用することができ、医療用途が多い。人体には220種類以上の細胞があり、それらは有機的に統合することによって複雑な組織と器官を形成し、それぞれその特定の機能、例えば心筋細胞の収縮機能、神経細胞の情報伝達機能などがある。幹細胞はこれらの細胞の前駆細胞であり、医学界では「万能細胞」とも呼ばれている。
【0003】
間葉系幹細胞(Mesenchymal stromal/stem cell,MSC)は発育初期の中胚葉と外胚葉から由来し、多能性幹細胞に属し、多方向分化の潜在能力を有し、脂肪、骨、軟骨、筋肉、腱、靱帯、神経、肝臓、心筋、内皮などの多種の組織細胞に分化することができる。2006年、国際細胞治療協会(ISCT)はMSCの定義を標準化している。MSCと呼ぶことができるのは、次の3つの基準を同時に満たす細胞だけである:(1)壁に付着して成長する。(2)細胞表面にいくつかの特異的抗原(マーカー)を発現する。(3)脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞に分化する能力がある。MSCは現在治療において最も安全で有効であり、広範に応用されている成体幹細胞であり、主に骨髄、脂肪、臍帯、胎盤、羊膜などから由来する。他の幹細胞と比べて、MSCは取得しやすく、インビトロ培養が容易であり、長期継代安定性、低い免疫原性、強い組織修復能力を有するなどの優位性がある。さらに、MSCは成体の細胞から得られ、胚や胎児の幹細胞ではなく、患者自身の体内からも得ることができるので、道徳的・倫理的な問題はない。MSCは連続継代と凍結保存を経た後にも、多方向分化と自己複製の潜在能力を持っている。研究により、ヒト骨髄MSCはインビトロで40世代以上継代していても、幹細胞の特性を維持することを示した。
【0004】
MSCは機能が多く、応用が広範であり、主要な機能は細胞移植治療を行うことであり、理想的な標的細胞として遺伝子治療に用いることもでき、また、生物組織工学と免疫治療にも一定の応用がある。近年、MSCは大量に実験と臨床研究に応用されており、大量の研究により心血管、神経系、運動系、消化系、自己免疫病、血液系、泌尿器系、眼科、整形外科などの系統疾病の診断と治療における応用価値が明らかにされた。
【0005】
2016年、中国は幹細胞臨床研究機関の第1陣30カ所を発表し、2019年から幹細胞臨床研究機関とプロジェクトのレコードに動的管理を実施し、2019年9月までに、国家が幹細胞臨床治療研究を認可した病院は106カ所に増え、軍系の病院は12カ所認可しており、計118カ所になっており、レコードしたプロジェクトは62個に増え、文献研究の特許出願が増え続けている。2020年3月までに、ClinicalTrial.govに登録された幹細胞関連の臨床研究は5432件に達し、そのうち、中国は469件で、展開が多い都市は広州市、北京市、上海市となっている。
【0006】
しかし、より高品質の細胞を得ることがMSC治療の鍵となる。幹細胞治療の挑戦は幹細胞製品が非常に複雑で、細胞の由来と生産技術の違いが幹細胞の品質と治療効果に与える影響が大きいことであり、これは、これまでの多くの幹細胞治療臨床試験の結果が理想的でない主な原因でもある。そのため、如何に大量の、標準化された、高品質、高活性のMSCを取得することは幹細胞業界の発展を制限する最も重要な要素であり、MSCのインビトロスクリーニング、活性化、増幅、凍結保存、バンク作成方法には改良する余裕がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術に存在する技術的課題を解決することを目的とする。この目的のために、本発明は、間葉系幹細胞(MSC)のインビトロスクリーニング、活性化、増幅、凍結保存、及びその細胞バンクの作成方法を提案し、この方法は、MSCのスクリーニング、活性化、増幅の効率が高く、迅速で、安全性が高く、コストが低く、また、スクリーニング、増幅により得られた機能が活性化された大量のMSCは細胞バンクを作成し、長期保存を行うことができ、蘇生後も良好な細胞活性を維持することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、間葉系幹細胞のインビトロスクリーニング、活性化、増幅、凍結保存、及びその細胞バンクの作成方法を提供する。本発明の実施例によれば、この方法は、
間葉系幹細胞専用の初代スクリーニング用培地を用いて第1段階のスクリーニング培養を行い、精製した間葉系幹細胞を得るステップと、間葉系幹細胞専用の活性化増幅用培地を用いて、精製した間葉系幹細胞を第2段階の活性化と大規模増幅培養を行い、機能が活性化された大量の間葉系幹細胞を取得するステップと、間葉系幹細胞専用の凍結保存液を用いて幹細胞を凍結保存し、ABO/RHタイピングとHLAタイピングに応じて保存することにより、検索可能な情報ファイルを作成し、間葉系幹細胞バンクを構築するステップとを含む。
【0009】
前記間葉系幹細胞専用の初代スクリーニング用培地は、2~8ng/ml SCF、2~4ng/ml BMP-4、10~30IU/ml IL-10と1~4ng/ml LIF、1~4ng/ml TGF-β、2~8ng/mlラパマイシン、2~12ng/mlトリメチニブ、10~20ng/mlアセトアミノフェン、1~3ng/ml 5-HMF、10~20ng/mlリン酸クロロキンを添加した間葉系幹細胞無血清完全培地である。
【0010】
前記間葉系幹細胞専用の活性化増幅用培地は、2~8ng/ml SCF、1~4ng/ml bFGF、10~20ng/mlペオニフロリン、20~30ng/ml塩酸メトホルミン、1~4ng/mlヒドロコルチゾン、2~4ng/ml CXCL10、1~2ng/mlフォルスコリン、1~3ng/ml 5-HMF、10~20ng/mlリン酸クロロキンを添加した間葉系幹細胞無血清完全培地である。
【0011】
前記間葉系幹細胞専用の凍結保存液は、DMSO 5~10体積%と、複合電解質注射液5~10体積%と、ヒドロキシエチルデンプン200/0.5塩化ナトリウム注射液5~10体積%と、アルブミン1~2体積%と、ヒドロキシカンプトテシン注射液1~2体積%と、間葉系幹細胞無血清完全培地66~83体積%とを含む。
【0012】
前記間葉系幹細胞専用の初代スクリーニング用培地、間葉系幹細胞専用の活性化増幅用培地、間葉系幹細胞専用の凍結保存液において、前記無血清完全培地は、TheraPEAK(登録商標)MSCGM-CDTMMedium、MesenPRO RSTMMedium、
、又は市販されている他の種類の無血清培地である。
【0013】
本発明の方法は、間葉系幹細胞培養を、第1段階のスクリーニング培養と、第2段階の活性化及び大規模増幅培養とに分け、両段階で異なる培養条件を利用する。
【0014】
第1段階のスクリーニング培養は、主に初代中の雑細胞を取り除くためである。骨髄、臍帯、胎盤由来のMSCはいずれも、初代製造過程で多かれ少なかれ血液細胞、内皮細胞などの雑細胞が混じっている。特に間葉系幹細胞専用の初代スクリーニング用培地に細胞成長促進因子及びスクリーニング因子が添加されている。SCF(Recombinant Human Stem Cell Factor)はインビトロで細胞増殖、遊走を刺激し得る。BMP-4(Recombinant Human Bone Morphogenetic Protein 4)は、骨形成に有効なタンパク質であり、またトランスフォーミング増殖因子(TGF-β)スーパーファミリーの一部として、間質細胞の形成や複数の臓器の発達過程に関与している。アセトアミノフェンは一般的な解熱鎮痛薬であり、本発明は、アセトアミノフェンを適当な濃度で添加すると、初代培養中に非MSCが明らかに抑制され、雑細胞のアポトーシス速度が速くなり、MSCに影響を及ぼさないことを見出した。ラパマイシンは特異的なmTOR阻害剤であり、IC50が0.1nMであり、オートファジーを誘導することにより抗腫瘍作用を発揮し、腫瘍細胞の活性を用量依存的に抑制する。本発明では、低用量のラパマイシンは、初代における非MSCのオートファジー及びアポトーシスを誘導することができる。本発明は、非常に低用量(20ng/ml以下)のリン酸クロロキン(従来の濃度は約5ug/mlであり、オートファジー阻害剤とリソソーム阻害剤として使用することができる)は、MSCの増殖を著しく促進することができ、ラパマイシン誘導オートファジーに対するオートファジー阻害剤として使用できることを見出した。トラメチニブ(Trametinib)はマイトジェン活性化の細胞外シグナル調節キナーゼ1(MEK1)と、MEK2活性化とMEK1とMEK2キナーゼ活性の可逆性阻害剤である。MEKタンパク質は細胞外シグナル関連キナーゼ(ERK)経路の上流レギュレータであり、細胞増殖を促進する。5-HMF(5-ヒドロキシメチルフルフラール)は抗酸化作用を有し、過酸化水素による酸化損傷に対抗することができ、作用機序は5-HMFが核内因子κB蛋白の発現を低下させ、Bcl-2蛋白の発現を増加させることに関連すると考えられる。
【0015】
第2段階は活性化と大規模増幅培養である。SCF、bFGF(basic fibroblast growth factor)はインビトロで細胞増殖、遊走を刺激し得る。メトホルミンは世に出てから50年間経てきたが、肝グルコース糖の出力を抑制し、インスリンに対する末梢組織の感受性を増加させるなど、複数の薬理作用があるため、2型糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群、肥満などの代謝性疾患の治療に広く応用されている。近年の研究によりメトホルミンの作用がますます多くなっていることがわかった。本発明は、塩酸メトホルミンがMSCを活性化し、幹細胞の増殖、活性化を促進し、MSC因子の分泌能力を著しく高めることを初めて見出した。ペオニフロリン(Paeoniflorin,PF)は常用漢方薬であるシャクヤクの主要な有効成分であり、モノテルペノイド類の配糖体化合物である。近年、国内外の学者はペオニフロリンの薬理作用に対して研究を深く行っており、ペオニフロリンはフリーラジカル損傷を抑制し、細胞内のカルシウム過負荷を抑制し、神経毒性に抵抗するなどの活性を有し、体内実験により、血液粘度の低下、抗血小板凝集、抗血管拡張、微小循環の改善、抗酸化、抗痙攣などの多種の生物学的効果があり、しかも毒副作用が小さいことが証明された。本発明は、ペオニフロリンがMSCを活性化し、幹細胞の増殖、活性化を促進し、幹細胞のアポトーシスを抑制し、MSC因子の分泌能力を顕著に高めることを初めて見出した。CXCL10(CXC chemokine ligand-10、CXCケモカインリガンド10)、すなわち、IP-10(interferon-inducible protein-10)は、造血細胞コロニーが、走化性単球、活性化T細胞及びナチュラルキラー細胞を形成することを抑制し、T細胞の内皮細胞への接着及びナチュラルキラー細胞を介した細胞融解を刺激し、血管新生を抑制するなどができるが、本発明は、CXCL10がMSCを活性化し、幹細胞の増殖、活性化を促進し、幹細胞のアポトーシスを抑制し、MSC因子の分泌能力を著しく高めることを初めて見出した。フォルスコリン(Forskolin)は、一般的に存在する真核細胞のアデニル酸シクラーゼ(AC)活性化剤であり、細胞の生理学的研究において、cAMPレベルを高めるために用いられることが多い。その触媒サブユニットを介してアデニル酸シクラーゼ(AC)を直接活性化して、細胞内の環状アデノシンリン酸(cAMP)のレベルを増加させることができる。文献の研究によると、フォルスコリンはインビトロで培養する嗅鞘細胞の増殖を促進し、幹細胞の分化を誘導することができる。本発明は、適当な濃度のフォルスコリンが、MSCの増殖、活性化を促進し、幹細胞のアポトーシスを抑制し、MSC表面マーカーの発現を促進することを見出した。
【0016】
本発明の間葉系幹細胞専用の凍結保存液は、特に複合電解質注射液5~10体積%を添加することにより、結晶の浸透圧をより良好に維持することができる。特に、ヒドロキシエチルデンプン200/0.5塩化ナトリウム注射液5~10体積%、アルブミン1~2体積%を添加することにより、コロイド浸透圧をより良好に維持することができる。ヒドロキシカンプトテシン注射液1~2体積%を添加することにより、蘇生後の細胞生存率を大幅に向上させることができる。
【0017】
本発明を用いて、MSCのスクリーニング、活性化、増幅培養を行うことにより、大量の、標準化された、高品質、高活性のMSCを得ることができる。本発明は、スクリーニング効率が高く、増幅速度が速く、安全性が高く、低コストであるという利点を有する。また、本発明は相応する細胞バンクを作成し、大規模な幹細胞の貯蔵をタイピングして行い、有効な保存時間が長く、蘇生後の細胞は依然として良好な細胞の活性を維持し、細胞の回収率が高いため、臨床治療における大量の幹細胞の需要を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の方法のフローチャートである。
図2】本発明の方法で14d培養して得られた脂肪MSC(200×)である。
図3】本発明の方法と従来の培養方法との幹細胞増殖速度を比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、間葉系幹細胞のインビトロスクリーニング、活性化、増幅、凍結保存及びその細胞バンクの作成方法を提供し、間葉系幹細胞専用の初代スクリーニング培地を用いて第1段階のスクリーニング培養を行い、精製したMSCを得るステップと、間葉系幹細胞専用の活性化増幅培地を用いて、精製した間葉系幹細胞を第2段階の活性化と大規模増幅培養を行い、機能が活性化された大量のMSCを取得するステップと、間葉系幹細胞専用の凍結保存液を用いて幹細胞を凍結保存し、ABO/RHタイピングとHLAタイピングに応じて保存することにより、検索可能な情報ファイルを作成し、間葉系幹細胞バンクを構築するステップとを含む。
【0020】
本発明の実施例によれば、間葉系幹細胞専用の初代スクリーニング培地は、2~8ng/ml SCF、2~4ng/ml BMP-4、10~30IU/ml IL-10と1~4ng/ml LIF、1~4ng/ml TGF-β、2~8ng/mlラパマイシン、2~12ng/mlトリメチニブ、10~20ng/mlアセトアミノフェン、1~3ng/ml 5-HMF、10~20ng/mlリン酸クロロキンを添加した間葉系幹細胞無血清完全培地である。
【0021】
本発明の実施例によれば、間葉系幹細胞専用の活性化増幅培地は、2~8ng/ml SCF、1~4ng/ml bFGF、10~20ng/mlペオニフロリン、20-30ng/ml塩酸メトホルミン、1~4ng/mlヒドロコルチゾン、2~4ng/ml CXCL10、1~2ng/mlフォルスコリン、1~3ng/ml 5-HMF、10~20ng/mlリン酸クロロキンを添加した間葉系幹細胞無血清完全培地である。
【0022】
本発明の実施例によれば、間葉系幹細胞専用の初代スクリーニング培地、間葉系幹細胞専用の活性化増幅培地、間葉系幹細胞専用の凍結保存液において、使用される無血清完全培地は、TheraPEAK(登録商標)MSCGM-CDTMMedium、MesenPRO RSTMMedium、
、又は市販されている他の種類の無血清培地である。
【0023】
本発明の実施例によれば、第1段階の間葉系幹細胞の初代スクリーニング培養において、2~3dごとに1回、合計2回継代を行い、第2段階の間葉系幹細胞の活性化と大規模増幅培養の過程において、2~3dごとに1回、複数回継代を行う。従って、MSCは短時間で高純度の大規模増幅を達成し、可能な臨床治療のために十分な機能が活性化されたMSCを得ることができる。
【0024】
本発明の実施例によれば、間葉系幹細胞専用の凍結保存液は、DMSO 5~10体積%と、複合電解質注射液5~10体積%と、ヒドロキシエチルデンプン200/0.5塩化ナトリウム注射液5~10体積%と、アルブミン1~2体積%と、ヒドロキシカンプトテシン注射液1~2体積%と、間葉系幹細胞無血清完全培地66~83体積%とを含む。このうち、間葉系幹細胞の凍結保存濃度は(1×10)-5×10)/mlである。従って、凍結保存される細胞濃度が高く、大規模な幹細胞の凍結保存に適し、凍結保存コストが低く、細胞の凍結保存効果が高く、蘇生後の細胞生存率及び細胞収率が高い。
【0025】
本発明の実施例によれば、ABO/RHタイピングとHLAタイピングに応じて活性化されて増幅された間葉系幹細胞を保存することにより、検索可能な間葉系幹細胞情報ファイルを作成し、間葉系幹細胞バンクを構築する。
【0026】
以下、実施例を参照して本発明の解決手段を説明する。特に断らない限り、下記実施例で用いられる方法はいずれも通常の方法であり、必要な試薬消耗品及び実験器具などはいずれも市販品として購入することができる。
【実施例1】
【0027】
本発明の間葉系幹細胞のインビトロスクリーニング、活性化、増幅方法を用いて脂肪MSCを分離して取得する。
【0028】
1 ドナーのスクリーニング:収集病院はドナーとインフォームドコンセント書に署名しなければならず、1式3通である。ドナー、収集医療機関は各1通、もう1通は検体とともに実験室に送付する。病院は質問とフォームでドナーの個人情報、過去の治療歴、家族遺伝歴、及び伝染病歴や造血或いは免疫系の異常などの情報を聴取する。ドナーの健康診断情報は、エイズウイルス抗体、B型肝炎表面抗原と抗体、C型肝炎抗体、サイトメガロウイルス抗体、梅毒トレポネーマ抗体、トランスアミナーゼなどを含む。インフォームドコンセント、個人情報収集表、検査情報などは番号を付けて密封保存しなければならず、いかなる資料にアクセスする者もドナー本人又はその授権者の同意を得ずに、そのプライバシーを漏洩してはならない。ABO/RHタイピングとHLAタイピングに応じて保存することにより、検索可能な幹細胞ドナーファイルの情報データベースを構築する。
【0029】
2 脂肪幹細胞の製造:実験用脂肪は腹部脂肪吸引術者から採取した。迅速検査と血液型鑑定を行うために末梢血を5ml保留しておく。無菌条件下で、脂肪生理食塩水混合物20mLを取得し、遠心分離を行い、PBS洗浄を2回行い、麻酔薬品と血液細胞を除去し、純度の高い脂肪顆粒を取得した。0.1%コラゲナーゼで37℃恒温シェーカーにて60min消化し、1500r/minで10min遠心分離し、未消化の上層脂肪組織と油脂を除去し、沈殿を再懸濁させて200μmのフィルターでろ過し、再び遠心分離し、赤血球溶解液で赤血球を5min溶解し、リン酸塩緩衝液で2回洗浄し、SVFを取得した。SVF(Stromal Vascμlar Fraction)は血管基質成分であり、患者自身から抽出した脂肪組織から抽出した有効成分であり、修復機能を有する細胞を多種含み、内皮細胞、非特徴的な基質細胞、血液細胞、組織型マクロファージ、造血前駆細胞やMSCなどから形成された細胞群である。従来の血清含有培地(DMEM+10%FBS+8ng/ml bFGF)培養、無血清培地MSCGM-CDTM培地培養、及び本発明の方法による培養の3つの方法をそれぞれ用いて培養を行った。
【0030】
2.1 従来の血清含有培地(DMEM+10%FBS+8ng/ml bFGF)培養:SVF細胞数に応じて、1.0×10/mlの密度で(DMEM+10%FBS+8ng/ml bFGF)20mlに加え、T175培養瓶1本に接種して、二酸化炭素インキュベーターに置き、培養条件:(37±0.5)℃、二酸化炭素の体積分率は(5±0.2)%とした。2~3dごとに液体を1回交換した。6d程度、初代培養細胞の70%~80%が融合した時点で継代を行い、4回連続的に継代した。
【0031】
2.2 無血清培地heraPEAK(登録商標)MSCGM-CDTMMedium(ブランドLONZA、商品番号00190632)培養:
SVF細胞数に応じて、1.0×10/mlの密度でMSCGM-CDTM培地20mlに加え、T175培養瓶1本に接種して、二酸化炭素インキュベーターに置き、培養条件:37±0.5℃、二酸化炭素の体積分率5±0.2%とした。2~3dごとに液体を1回交換した。6d程度、初代培養細胞の80%が融合した時点で継代を行い、4回連続的に継代した。
【0032】
2.3 本発明の方法による培養:
2.3.1 SVF細胞数に応じて、1.0×10/mlの密度でMSC専用初代スクリーニング用培地20ml、すなわち5ng/ml SCF、5ng/ml BMP-4、20IU/ml IL-10と2ng/ml LIF、2ng/ml TGF-β、5ng/ml ラパマイシン、8ng/ml トリメチニブ、10ng/ml アセトアミノフェン、2ng/ml 5-HMF、15ng/ml リン酸クロロキンを添加したMSCGM-CDTMMediumに加え、T175培養瓶1本に接種して、二酸化炭素インキュベーターに置き、培養条件:37±0.5℃、二酸化炭素の体積分率:5±0.2%とした。細胞を毎日観察し、培地の色により2~3dごとに液体を交換した。5d程度、初代培養細胞の70%~80%が融合した時点で継代を1回行った。
【0033】
2.3.2 継代交換培養系は間葉系幹細胞専用の活性化増幅用培地であり、すなわち、5ng/ml SCF、2ng/ml bFGF、10ng/ml ペオニフロリン、20ng/ml メトホルミン、2ng/ml ヒドロコルチゾン、3ng/ml CXCL10、1ng/ml フォルスコリン、1ng/ml 5-HMF、10ng/mlリン酸クロロキンを添加した間葉系幹細胞無血清完全培地であり、培養を継続した。細胞を毎日観察し、培地の色により、2~3dごとに液体を交換して1回継代した。
【0034】
2.4 上記の3つの方法で14d培養して増幅したときに、得られたMSCをすべて回収し、細胞計数を行い、細胞収率を算出した。いずれも培地10ml(72h培養)上清を残してElisa法にてサイトカインTGF-β、GM-CSF、IL-2、IL-10、VEGF、HGF、PDGFの分泌の検出を行った。回収した細胞を生理食塩水200mlで重懸濁させ、ヒト血清アルブミン10mlを加えて均一に混合し、そこから細胞懸濁液10mlを検出用に採取し、残りの細胞は輸液用に輸液バッグに注入した。輸液バッグから細胞懸濁液10mlを抽出し、マイコプラズマ、エンドトキシン、微生物、及びウイルスの5つの項目を検査した。残りの部分の細胞は28dまで培養を続けた。
【0035】
2.5 フローサイトメトリーはMSC表面マーカーを検出する。3つの方法で14d培養して得られた間葉系幹細胞1×10(100μl)に、それぞれ20μlのCD29、CD73、CD90、CD105、CD34、CD45、CD14、HLA-DR抗体を加えて均一に混合し、遮光下30minインキュベートし、PBS洗浄を2回行い、米国Backman Clouter FC500フローサイトメーターで検出した。
【0036】
2.6 細胞増殖速度の比較:上述の3種類の方法で培養して収集した14d培養後の脂肪MSCをそれぞれ採取し、消化して単細胞懸濁液を作製し、5×10/cmで96孔培養プレートに接種し、各孔に上記3種類の培養液(ここで、本発明の方法は間葉系幹細胞専用の活性化増幅用培地を添加したものである)を100μl添加した。同時に培養プレートの一列に脂肪MSCを加えず、成長培地を加え、1孔当たりの培養液は100μlであり、空白対照群とした。12hごとに4孔についてMTT比色法により570nm波長の光吸収値(D570値)を測定し、3d連続して測定し、細胞成長曲線をプロットした。方法は以下の通りである:培養を停止したときに、各孔にMTT溶液20μl(濃縮液5mg/ml)を加え、37℃で4hインキュベーションし、上清を吸引して廃棄し、各孔にDMSOを150μl加え、室温で10min振とうさせ、570nmの波長を選択し、空白対照群の一列の平均値をゼロに調整し、酵素結合免疫測定装置で各孔のD570値を検出し、その平均値を求めた。横軸に時間、縦軸にD570値を用いて細胞の成長曲線をプロットした。
【0037】
2.7 ヌードマウス腫瘍誘発試験:4~6週齢、体重18~20gのSPF級雌BALB/cヌードマウスを、空気層流ラック中の蓋付きマウスケージで飼育し、飲用水、標準飼料及びその他の動物との接触品はすべて滅菌処理した。上記28d培養したMSCを3×10個/0.2mlでヌードマウスの肋骨部皮下に接種し、ピクリン酸で標記し、2ケ月間にわたって腫瘍形成を観察した。
【0038】
3 実験結果
3.1 3種類の方法で14d培養して増幅した細胞の収率と生存率の結果:従来の血清含有培地を用いて2×10個のSVFを14d培養した場合、2.17×10個のMSCは得られ、生存率は94.36%であり、無血清培地MSCGM-CDTMを用いて14d培養した場合、2.69×10個のMSCは得られ、生存率は96.71%であり、一方、本発明の培養方法で14d培養した場合、4.35×10個のMSCは得られ、生存率は98.73%であった。本発明の方法でMSCを培養した場合、収率は他の2種類の現在の従来の培養方法よりはるかに優れている。
【0039】
3.2 3種類の方法で14d培養して増幅した場合の培地上清のElisaによる分泌因子の検出結果を以下の表1に示す。本発明の培養方法により得られたMSCサイトカインは、従来の他の2つの培養方法よりも分泌能が高い。
【0040】
【表1】
【0041】
3.3 3種類の方法で14d培養して増幅して得られたMSC懸濁液を検出プラットフォームに依頼して抗体B型肝炎表面抗原、C型肝炎抗原、ヒト免疫不全ウイルス抗体、梅毒トレポネーマ特異性抗体、マクロファージウイルス及びマイコプラズマ、細菌とエンドトキシンを検出し、検出結果はすべて陰性であった。このロットMSCは安全であり、培養中に汚染が発生していないことを示している。
【0042】
3.4 3種類の方法で14d培養して増幅して得られた細胞のフローサイトメトリー結果:3種類の方法で培養して増幅して得られた細胞はすべてMSC表面マーカーの特徴に合致し、陽性指標CD29、CD73、CD90、CD105結果は表2に示され、陰性指標CD34、CD45、CD14、HLA-DRの結果は表3に示された。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
本発明の培養方法では、得られたMSC細胞の表面マーカーの陽性指標率及び陰性指標率の発現は、他の2種類の従来の培養方法より明らかに優れていることがわかった。
【0046】
3.5 3種類の方法で14d培養して増幅し、それぞれ対応する培養系におけるMSCの細胞増殖速度の比較結果を得た。図3に示すように、本発明の方法でMSCを培養する場合、細胞増殖速度は他の2種類の通常の培養方法より明らかに優れていることがわかった。
【0047】
3.6 ヌードマウス腫瘍誘発実験結果:2ケ月の観察期間内に生理食塩水0.2mlと28d培養したMSCを3×10個/0.2ml皮下注射した2群のマウスでは、いずれも腫瘍形成が見られなかった。この結果は、本発明の方法では、28dまで培養されても、MSCは安全で有効であり、腫瘍の形成を引き起こさないことを示している。培養して増幅したMSCはインビボで腫瘍を形成しなかった。
【実施例2】
【0048】
実施例1における本発明の方法で得られたMSCを凍結保存し、凍結保存効果を比較した。群分けは次のとおりである。
凍結保存液1:DMSO 10体積%、MesenPRO RSTMMedium 90体積%;
凍結保存液2:DMSO 5体積%、MesenPRO RSTMMedium 90体積%;
凍結保存液3:DMSO 5体積%、複合電解質注射液10体積%、MesenPRO RSTMMedium75体積%;
凍結保存液4:DMSO 5体積%、複合電解質注射液10体積%、ヒドロキシエチルデンプン200/0.5塩化ナトリウム注射液10体積%、MesenPRO RSTMMedium75体積%;
凍結保存液5:DMSO 5体積%、複合電解質注射液10体積%、ヒドロキシエチルデンプン200/0.5塩化ナトリウム注射液10体積%、アルブミン2体積%、MesenPRO RSTMMedium73体積%;
凍結保存液6(本発明の間葉系幹細胞専用の凍結保存液):DMSO 5体積%、複合電解質注射液10体積%、ヒドロキシエチルデンプン200/0.5塩化ナトリウム注射液10体積%、アルブミン2体積%、ヒドロキシカンプトテシン注射液2体積%、MesenPRO RSTMMedium 71体積%;
【0049】
以下の手順に従ってMSC細胞を凍結保存した。凍結保存液と細胞を均一に混合した後、速やかに凍結保存管に移し、そして凍結保存箱に入れ、-80℃で一晩放置し、翌日液体窒素に移した。5×10個あたりのMSC細胞は凍結保存液1mlを用いた。MSC細胞を90d凍結保存した後、蘇生を行った。凍結保存前後の細胞の生存率及び蘇生後の細胞回収率を検出した。具体的には、凍結保存前及び凍結保存蘇生後の細胞生存率は、[生細胞数/(生細胞数+死細胞数)]×100%で計算した。蘇生後の細胞回収率は、(蘇生後生細胞数/凍結保存時生細胞数)×100%で計算した。
【0050】
【表4】
【0051】
表4に示すように、蘇生後の細胞生存率はいずれも凍結保存前より低かった。凍結保存液2は凍結保存液1よりも細胞の生存率と細胞収率が優れており、5%DMSO濃度が最適濃度であり、DMSO濃度の増加はDMSOの細胞毒性作用を増加させ、MSCの細胞の生存率と細胞収率を増加できないことを示している。凍結保存液3は、凍結保存液2よりも保存された細胞の生存率及び細胞の収率が優れており、複合電解質注射液は結晶の浸透圧を安定化、調節する作用があり、凍結保存された細胞の蘇生後の生存率及び収率を高めることができることを示している。凍結保存液4は、凍結保存液3よりも保存された細胞の生存率及び細胞収率が優れており、ヒドロキシエチルデンプン200/0.5塩化ナトリウム注射液は、コロイド浸透圧を安定化、調節する作用があり、凍結保存された細胞の蘇生後の生存率及び収率を向上できることを示している。凍結保存液5は、凍結保存液4よりも保存された細胞の生存率及び細胞収率が優れており、アルブミンはコロイド浸透圧を安定化、調節する作用があり、凍結保存された細胞の蘇生後の生存率及び収率を向上できることを示している。凍結保存液6は、凍結保存液5よりも保存された細胞の生存率及び細胞収率が優れており、ヒドロキシカンプトテシン注射液は、凍結保存された細胞の蘇生後の生存率及び収率を向上できることを示している。凍結保存液6で保存された細胞の生存率及び細胞の収率は、他の5種類の凍結保存液よりも著しく優れており、蘇生後のMSCの生存率は99%以上、収率は97%以上に達しており、本発明の間葉系幹細胞専用の凍結保存液はMSCの凍結保存に適していることを示している。
【実施例3】
【0052】
本発明の実施例の間葉系幹細胞のインビトロスクリーニング、活性化、増幅方法を用いて、臍帯MSCを取得し、ABO/RHタイピングとHLAタイピングに応じて保存することにより、検索可能な臍帯間葉系幹細胞情報ファイルを作成し、臍帯間葉系幹細胞の細胞バンクを構築した。
【0053】
1 ドナーのスクリーニング
病院は質問とフォームでドナーの個人情報、過去の治療歴、家族遺伝歴、及び伝染病歴や造血或いは免疫系の異常などの情報を聴取する。病院は、健康診断資料を調べて、健康診断情報を得るには、ドナーとインフォームドコンセントに署名し、ドナー本人あるいはその授権者の同意を得なければならない。ドナーの健康診断情報は、エイズウイルス抗体、B型肝炎表面抗原と抗体、C型肝炎抗体、サイトメガロウイルス抗体、梅毒トレポネーマ抗体、トランスアミナーゼなどを含む。インフォームドコンセント、個人情報収集表、検査情報などは番号を付けて密封保存しなければならず、検索可能な臍帯ドナーファイルの情報データベースを構築する。
【0054】
2 具体的な製造方法は以下のステップを含み、5cmの臍帯を例として以下の操作を行う(すべての操作ステップはクリーンベンチで行われる)。
【0055】
2.1 臍帯の輸送:上述のドナーのスクリーニングに合格した場合、臍帯を5cm採取し、2~8℃の恒温でワクチンボックスに保存し、48h以内に実験室に送った。
【0056】
2.2 臍帯の分解:臍帯を5cmのシャーレに入れ、洗浄し、それを数段に切って、そして中間の3本の血管を取り除いた。羊膜と血管の間に位置する白い結合組織がウォートンゼリーであり、これを長柄有歯ピンセットで引き剥がし、無菌皿に入れた。無菌長柄手術で切断し、遠心チューブで15~20minかけてウォートンゼリーを1mm左右の組織ホモジネートに切断し、組織ホモジネートと同体積の1mg/ml II型コラゲナーゼ(37℃に予熱)を加え、恒温振とうインキュベーターに置き、37℃、200rpmで60~90min消化し(20minごとに取り出して軽く振った後に戻す)、臍帯組織ホモジネートをみじん切り状にした。酵素消化後の組織ホモジネートを体積比1:6で6倍体積の生理食塩水に加え、200メッシュの無菌ろ過網で残留物を除去し、400gを8min遠心分離し、上清を捨て、下層細胞を取得した。
【0057】
2.3 初代スクリーニング培養:細胞数に応じて、1.0×10個/mlの密度でMSC専用の初代スクリーニング用培地50ml、すなわち8ng/ml SCF、4ng/ml BMP-4、30IU/ml IL-10と4ng/ml LIF、4ng/ml TGF-β、8ng/ml ラパマイシン、12ng/ml トリメチニブ、20ng/ml アセトアミノフェン、3ng/ml 5-HMF、20ng/ml リン酸クロロキンを添加した
に加え、T175培養瓶3本に接種して、二酸化炭素インキュベーターに置き、培養条件:(37±0.5)℃、二酸化炭素の体積分率(5±0.2)%とし、2~3dごとに液体を1回交換した。
【0058】
2.4 継代活性化増幅:5~7d程度、初代培養細胞が80%融合した時点で、古い細胞培養液を吸引して廃棄し、消化して継代し、継代後は培養系をMSC専用の活性化増幅用培地、すなわち8ng/ml SCF、4ng/ml bFGF、20ng/ml ペオニフロリン、30ng/ml 塩酸メトホルミン、4ng/ml ヒドロコルチゾン、4ng/ml CXCL10、2ng/ml フォルスコリン、3ng/ml 5-HMF、20ng/ml リン酸クロロキンを添加した
に変更し、培養を継続した。細胞を毎日観察し、培地の色により2~3dごとに液体を交換して1回継代した。
【0059】
3 細胞バンクの作成:DMSO 5体積%、複合電解質注射液5体積%、ヒドロキシエチルデンプン200/0.5塩化ナトリウム注射液5体積%、アルブミン1体積%、ヒドロキシカンプトテシン注射液1体積%、
83体積%で間葉系幹細胞専用の凍結保存液を調製した。上記活性化増幅された臍帯MSCを採取した。MSC細胞懸濁液について、マイコプラズマ、エンドトキシン、微生物及びウイルスの5項目を検出した。検出の結果合格したMSCについて、5×10個のMSC細胞あたり上述の調製したMSC専用の凍結保存液1mlを用いて、凍結保存操作を行い、ABO/RHタイピングとHLAタイピングに応じて保存することにより、検索可能な臍帯間葉系幹細胞情報ファイルを作成し、臍帯間葉系幹細胞バンクを構築した。
【実施例4】
【0060】
本発明の実施例の間葉系幹細胞のインビトロスクリーニング、活性化、増幅の方法を用いて、胎盤MSCを取得し、ABO/RHタイピングとHLAタイピングに応じて保存することにより、検索可能な胎盤間葉系幹細胞情報ファイルを作成し、胎盤間葉系幹細胞細胞バンクを構築した。
【0061】
1 ドナーのスクリーニング
病院は質問とフォームでドナーの個人情報、過去の治療歴、家族遺伝歴、及び伝染病歴や造血或いは免疫系の異常などの情報を聴取する。病院は、健康診断資料を調べて、健康診断情報を得るには、ドナーとインフォームドコンセントに署名し、ドナー本人あるいはその授権者の同意を得なければならない。ドナーの健康診断情報は、エイズウイルス抗体、B型肝炎表面抗原と抗体、C型肝炎抗体、サイトメガロウイルス抗体、梅毒トレポネーマ抗体、トランスアミナーゼなどを含む。インフォームドコンセント、個人情報収集表、検査情報などは番号を付けて密封保存しなければならず、検索可能な胎盤ドナーファイルの情報データベースを構築する。
【0062】
2 胎盤MSCの製造
2.1 ドナーのスクリーニングに合格した者の完全な胎盤を収集し、適量の胎盤保存液(ペニシリン100mg、ストレプトマイシン100mg、アンホテリシン2.5mg、ヘパリンナトリウム注射液0.5g、ヒト血アルブミン2.5gをDMEM培地500mlに溶解したもの)に加え、好ましくは胎盤が没入するようにし、2~8℃の恒温でワクチンボックスに保存し、24h以内に実験室に送った。
【0063】
2.2 胎盤保存液を吸引して廃棄し、二重抗体を含む生理食塩水を適量で加え、胎盤表面の血汚れをきれいに洗浄するまで何回か振とうを繰り返した。胎盤表面の羊膜及び脱落膜を除去し、二重抗体を含む生理食塩水を適量加えて胎盤組織を切断し、組織塊内の血液を洗浄した。
【0064】
2.3 胎盤消化:切断した胎盤組織塊を収集し、胎盤組織塊と同体積の0.2%IV型コラゲナーゼを含むDMEM(コラゲナーゼIV終濃度0.1%)を加え、37℃の水浴シェーカーで20~30min消化した後、胎盤組織塊の1/4体積の0.25%トリプシンを含むDMEMを加え、37℃の水浴シェーカーで10~20min消化した。2回消化後の胎盤組織塊を200メッシュの分析スクリーンで濾過し、濾液を収集し、均一に混合した後、1800rpm、室温で10min遠心分離し、上清を捨て、適量の生理食塩水で細胞沈殿を重懸濁させ、重懸濁液:HESの体積比4:1でHESを加え、300rpmで10min遠心分離し、上層液を収集し、遠心分離して細胞を取得した。
【0065】
2.4 初代スクリーニング培養:細胞数に応じて、1.0×10個/mlの密度でMSC専用の初代スクリーニング用培地50ml、すなわち、2ng/ml SCF、2ng/ml BMP-4、10IU/ml IL-10と1ng/ml LIF、1ng/ml TGF-β、2ng/ml ラパマイシン、2ng/ml トリメチニブ、10ng/ml アセトアミノフェン、1ng/ml 5-HMF、10ng/ml リン酸クロロキンを添加したMesenPRO RSTMMediumに加え、T175培養瓶3本に接種して、二酸化炭素インキュベーターに置き、培養条件:(37±0.5)℃、二酸化炭素の体積分率(5±0.2)%とし、2~3dごとに液体を1回交換した。
【0066】
2.5 継代活性化増幅:5~7d程度、初代培養細胞が80%融合した時点で古い細胞培養液を吸引して廃棄し、消化して継代し、継代後培養系をMSC専用の活性化増幅用培地、即ち2ng/ml SCF、1~4ng/ml bFGF、10ng/ml ペオニフロリン、20ng/ml 塩酸メトホルミン、1ng/ml ヒドロコルチゾン、2ng/ml CXCL10、1ng/ml フォルスコリン、1ng/ml 5-HMF、10ng/ml リン酸クロロキンを添加したMesenPRO RSTMMediumに変更し、培養を続けた。細胞を毎日観察し、培地の色により2~3dごとに液体を交換して1回継代した。
【0067】
3 細胞バンクの作成:DMSO 5体積%、複合電解質注射液10体積%、ヒドロキシエチルデンプン200/0.5塩化ナトリウム注射液10体積%、アルブミン2体積%、ヒドロキシカンプトテシン注射液2体積%、MesenPRO RSTMMedium71体積%で間葉系幹細胞専用の凍結保存液を調製した。上記活性化増幅された胎盤MSCを採取した。MSC細胞懸濁液について、マイコプラズマ、エンドトキシン、微生物及びウイルスの5項目を検出した。検出の結果合格したMSCについて、5×10個のMSC細胞あたり上述調製したMSC専用の凍結保存液1mlを用いて、凍結保存操作を行い、ABO/RHタイピングとHLAタイピングに応じて保存することにより、検索可能な胎盤間葉系幹細胞情報ファイルを作成し、胎盤間葉系幹細胞バンクを構築した。
図1
図2
図3
【国際調査報告】