(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-01
(54)【発明の名称】累進レンズ軟質フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/06 20060101AFI20221124BHJP
G02B 3/10 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
G02C7/06
G02B3/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509599
(86)(22)【出願日】2020-09-22
(85)【翻訳文提出日】2022-04-13
(86)【国際出願番号】 IB2020058844
(87)【国際公開番号】W WO2021059128
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516340043
【氏名又は名称】アドオン オプティクス リミティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】カッツマン,ダン
(72)【発明者】
【氏名】エングラー,ハイム
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BD03
(57)【要約】
遠方視矯正及び近方視矯正を行うように構成される累進レンズ(20)を含む装置及び方法が記載されている。累進レンズは、遠方視矯正の一部のみを行うように構成される単焦点遠方視矯正レンズ(22)と、単焦点遠方視矯正レンズ(22)に結合されたフィルム(24)とを含む。フィルム(24)は、遠方視矯正の残りを行うように構成される遠方視矯正部(26)と、付加的な近方視矯正を行うように構成される近方視矯正部(28)と、フィルムが遠方視矯正部と近方視矯正部との間を移行する中間部(30)とを画定する。他の適用例も記載されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠方視矯正及び近方視矯正を行うように構成される累進レンズを含む装置であって、前記累進レンズが、
前記遠方視矯正の一部のみを行うように構成される単焦点遠方視矯正レンズと、
前記単焦点遠方視矯正レンズに結合されたフィルムと、を含み、
前記フィルムが
前記遠方視矯正の残りを行うように構成される遠方視矯正部と、
付加的な近方視矯正を行うように構成される近方視矯正部と、
前記フィルムが前記遠方視矯正部と前記近方視矯正部との間を移行する中間部と、を画定するように構成された、装置。
【請求項2】
前記単焦点遠方視矯正レンズが硬質である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記フィルムが軟質フィルムを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記フィルムの前記遠方視矯正部が、前記フィルムの厚さが実質的に均一になるように前記遠方視矯正の一部を行うように構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記フィルムの前記遠方視矯正部が、前記フィルムの直径が70mm以上である場合に、前記フィルムの中心厚の前記フィルムのエッジ厚に対する比が1:2から2:1となるように前記遠方視矯正の一部を行うように構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記フィルムの前記遠方視矯正部が、前記フィルムの直径が40mm以上である場合に、前記フィルムの中心厚の前記フィルムのエッジ厚に対する比が1:1.6から1.6:1となるように前記遠方視矯正の一部を行うように構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記フィルムの前記遠方視矯正部が、前記単焦点遠方視矯正レンズにより行われる遠方視矯正が0.25ジオプターの整数倍となるように遠方視矯正を行うように構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記フィルムが所与の条件下で柔軟性を有するように構成され、典型的な周囲条件下で、硬質レンズの特徴を有するなど硬質であるように構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記フィルムが所与の温度よりも高い温度で柔軟性を有するように構成され、摂氏50度未満の温度で、硬質レンズの特徴を有するなど硬質であるように構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記フィルムの前記遠方視矯正部が、前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.1mmとなるように前記遠方視矯正の一部を行うように構成された、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記フィルムの前記遠方視矯正部が、前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように前記遠方視矯正の一部を行うように構成された、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記フィルムの前記遠方視矯正部が、前記フィルムの中心厚が0.7mm以下である場合でも、前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように前記遠方視矯正の一部を行うように構成された、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記フィルムの前記遠方視矯正部が、前記フィルムの直径が70mm以上である場合でも、前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように前記遠方視矯正の一部を行うように構成された、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記フィルムの前記遠方視矯正部が、前記フィルムの中心厚が0.7mm以下であり、前記フィルムの直径が70mm以上である場合でも、前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように前記遠方視矯正の一部を行うように構成された、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
前記フィルムが熱可塑性材料を含み、前記フィルムの前記エッジ厚を0.1mm超とすることで、前記熱可塑性材料が溶融した形態にある場合に前記熱可塑性材料の射出成形を用いた前記フィルムの製造を促進する、請求項10に記載の装置。
【請求項16】
前記フィルムの前記エッジ厚を0.1mm超とすることで、前記材料にストレスマークを発生させることなく、前記熱可塑性材料が溶融した形態にある場合に前記熱可塑性材料の射出成形を用いた前記フィルムの製造を促進する、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
遠方視矯正及び近方視矯正を行うように構成される累進レンズを製造することを含む方法であって、前記累進レンズを製造することは、
フィルムを、
前記遠方視矯正の一部を行うように構成される遠方視矯正部と、
付加的な近方視矯正を行うように構成される近方視矯正部と、
前記フィルムが前記遠方視矯正部と前記近方視矯正部との間を移行する中間部と、
を画定するように構成すること、及び
前記遠方視矯正の残りを行うように構成される単焦点遠方視矯正レンズに前記フィルムを結合すること、によって前記累進レンズを製造することを含む、方法。
【請求項18】
前記単焦点遠方視矯正レンズが硬質単焦点遠方視矯正レンズを含み、前記フィルムを前記単焦点遠方視矯正レンズに結合することが、前記フィルムを前記硬質単焦点遠方視矯正レンズに結合することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記フィルムが軟質フィルムを含み、前記フィルムを前記単焦点遠方視矯正レンズに結合することが、前記軟質フィルムを前記単焦点遠方視矯正レンズに結合することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記フィルムを前記遠方視矯正部、前記近方視矯正部、及び前記中間部を画定するように構成することが、前記フィルムを実質的に均一である厚さを有するように構成することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記フィルムを前記遠方視矯正部、前記近方視矯正部、及び前記中間部を画定するように構成することが、前記フィルムの直径が70mm以上である場合に、前記フィルムの中心厚の前記フィルムのエッジ厚に対する比が1:2から2:1となるように前記フィルムを構成することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記フィルムを前記遠方視矯正部、前記近方視矯正部、及び前記中間部を画定するように構成することが、前記フィルムの直径が40mm以上である場合でも、前記フィルムの中心厚の前記フィルムのエッジ厚に対する比が1:1.6から1.6:1となるように前記フィルムを構成することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記フィルムを前記遠方視矯正部、前記近方視矯正部、及び前記中間部を画定するように構成することが、前記単焦点遠方視矯正レンズにより行われる遠方視矯正が0.25ジオプターの整数倍となるように前記フィルムを構成することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記フィルムが、所与の条件下で柔軟性を有するように構成され、典型的な周囲条件下で、硬質レンズの特徴を有するなど硬質であるように構成されるフィルムであり、前記フィルムを前記単焦点遠方視矯正レンズに結合することが、前記所与の条件が前記フィルムに適用される間に前記フィルムを前記単焦点遠方視矯正レンズに結合することによって前記フィルムが柔軟性を有することになることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記フィルムが、所与の温度を超える温度で柔軟性を有するように構成され、摂氏50度未満の温度で、硬質レンズの特徴を有するなど硬質であるように構成されるフィルムであり、前記フィルムを前記単焦点遠方視矯正レンズに結合することが、前記フィルムが前記所与の温度を超える温度に加熱される間に前記フィルムを前記単焦点遠方視矯正レンズに結合することによって前記フィルムが柔軟性を有することになることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
前記フィルムを前記遠方視矯正部、前記近方視矯正部、及び前記中間部を画定するように構成することが、前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.1mmとなるように前記フィルムを構成することを含む、請求項17から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記フィルムを前記遠方視矯正部、前記近方視矯正部、及び前記中間部を画定するように構成することが、前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように前記フィルムを構成することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記フィルムを前記遠方視矯正部、前記近方視矯正部、及び前記中間部を画定するように構成することが、前記フィルムの中心厚が0.7mm以下である場合でも、前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように前記フィルムを構成することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記フィルムを前記遠方視矯正部、前記近方視矯正部、及び前記中間部を画定するように構成することが、前記フィルムの直径が70mm以上である場合でも、前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように前記フィルムを構成することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記フィルムを前記遠方視矯正部、前記近方視矯正部、及び前記中間部を画定するように構成することが、前記フィルムの中心厚が0.7mm以下であり、前記フィルムの直径が70mm以上である場合でも、前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように前記フィルムを構成することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記フィルムが熱可塑性材料を含み、前記方法が、前記熱可塑性材料が溶融した形態にある場合に前記熱可塑性材料の射出成形を用いて前記フィルムを製造することを含み、前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.1mmとなるように前記フィルムを構成することが、前記射出成形を促進することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記フィルムのエッジ厚が少なくとも0.1mmとなるように前記フィルムを構成することが、前記材料にストレスマークを発生させることなく、前記熱可塑性材料が溶融した形態にある場合に前記熱可塑性材料の射出成形を促進することを含む、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2019年9月26日に出願された「Apparatus and method for manufacturing a progressive lens」と題するKatzmanによる米国仮特許出願第62/906,157号の優先権を主張し、また2019年12月18日に出願された「A progressive lens and method of manufacture thereof」と題するKatzmanによる米国特許出願第16/718,448号の優先権を主張するとともにその一部継続出願である。
【0002】
本発明の一部の適用例は、概して眼科用レンズに関する。具体的には一部の適用例は、単焦点硬質レンズとレンズに結合されるフィルムとを使用して累進レンズを製造することに関する。
【背景技術】
【0003】
老眼は40歳を超えた人口の大部分に次第に影響を及ぼす症状である。この症状は近くの物体にはっきりと焦点を合わせる能力を次第に悪化させることになる。老眼は通常、レーザ光線による近視手術(すなわちLASIK)やその他の種類の手術がこの症状の治療に向かないことから、多焦点眼鏡、累進眼鏡又はコンタクトレンズで手当てされる。
【0004】
眼鏡には老眼及びその他の調節障害を矯正する矯正レンズが使用される。老眼に苦しむ多くの人々は近視(すなわち近眼)にも苦しむ。このような人々の基本的な解決策は多焦点眼鏡レンズの使用である。多焦点眼鏡レンズは、それぞれがそれぞれの距離にある物体に適した2つ以上のレンズ度数を有する。二焦点レンズは2つのレンズ度数を有し、三焦点レンズは3つのレンズ度数を有する。累進眼鏡レンズは増加するレンズ度数の勾配によって特徴付けられる。勾配は、着用者の距離処方で始まり、レンズ下部において最大加入度数、又は完全読書加入度(full reading addition)に達する。レンズ中央の加入度は通常、コンピュータ画面上の文字を読むことなど、中距離の明確な視覚を可能にする。レンズ表面の累進屈折力勾配の長さはレンズの設計に依存し、最終加入度数は典型的には0.50~3.50ジオプターである。処方される加入度の値は、患者の老眼の度合に依存する。
【0005】
多焦点レンズ及び累進レンズは一般的に比較的高価である。多焦点レンズ及び累進レンズのコストが高い大きな要因は、近方視矯正、遠方視矯正、乱視、及び乱視の角度を考慮する場合に、膨大な数(数百万)の可能な処方の組み合わせが存在するという事実である。可能な組み合わせが多いということは、ほとんどの処方を在庫として保持することができず、むしろ患者のニーズに基づいてオーダーメイドベースで製造しなければならないことを意味する。
【発明の概要】
【0006】
本発明の一部の適用例によれば、遠方視矯正及び近方視矯正を行うように構成される累進レンズが、単焦点遠方視矯正レンズと、単焦点遠方視矯正レンズに結合されたフィルムとを含む。典型的には、単焦点遠方視矯正レンズは遠方視矯正の一部のみを行うように構成され、フィルムは遠方視矯正の残りを行うように構成される。フィルムはまた、フィルムの近方視矯正部内で付加的な近方視矯正を行い、フィルムが近方視矯正部と遠方視矯正部との間を移行する中間部を画定するように構成され、フィルムは遠方視矯正屈折力の一部を提供する。典型的には、フィルムの遠方視矯正部と近方視矯正部との間の移行は、異なる屈折力を有する領域間に実質的に目立った境界のないスムーズな移行である。
【0007】
単焦点レンズは典型的には硬質な在庫レンズである。上記の説明によれば、典型的には「レンズ-フィルム結合体」(すなわち、レンズとフィルムの結合体)の累進機能はフィルムによって提供される。このようにして矯正機能を分離することで、典型的には、例えば参照により本明細書に組み込まれる、Arieliによる米国特許第9,995,948号に記載されるように、比較的少ないレンズ及びフィルムの在庫を使用して多くの処方を提供することができる。フィルムは典型的には(少なくとも所与の条件下で)柔軟性があり、その結果、様々な異なる硬質レンズの形状及び/又はサイズに適合する一方、依然としてその光学特性を維持することができる。典型的には、これにより、フィルムを特定の形状及び/又はサイズを有するレンズとしか組み合わせることができなかった場合と比べて保持することが必要なレンズ及びフィルムの在庫が更に減る。一部の適用例では、フィルムは所与の条件下で(例えば、フィルムが所与の温度を超える温度に加熱される場合に)のみ柔軟性があるが、典型的な周囲条件下で(例えば摂氏50度未満の温度で)フィルムは実質的に硬く、その結果、フィルムは硬質レンズの特徴を有する。典型的には、所与の条件は、レンズ-フィルム結合体の製造中の、具体的にはフィルムが単焦点遠方視矯正レンズに結合されるときにフィルムに適用される。したがって、フィルムの柔軟性はフィルムが単焦点遠方視矯正レンズの形状と一致することを可能にする。例えばフィルムは、レンズ-フィルム結合体の製造中に、具体的にはフィルムが単焦点遠方視矯正レンズに結合されるときに、所与の温度を超える温度に加熱されることがある。典型的には、所与の条件下に置かれたとき(例えば所与の温度を超える温度に加熱されたとき)にも、フィルムはその光学特性を維持するように構成される。その後、レンズ-フィルム結合体が周囲条件(例えば摂氏50度未満の温度)下に置かれたとき、フィルムは硬質状態を取る。
【0008】
典型的には、ユーザがXジオプターの遠方視矯正を必要とする場合、完全矯正を行うのではなく、Yジオプターの矯正を行うレンズ-フィルム結合体に単焦点レンズが選択されることになる。フィルムは典型的には遠方視矯正の残り(すなわちXとYの差)を行うように構成される。(フィルムの下部に近い)フィルムの近方視部において、フィルムは近方視に必要な付加的な屈折力を提供し、中間部に沿って、フィルムは遠方視矯正部と近方視矯正部の間を(典型的には、上記のようにスムーズに)移行することによって累進屈折力を提供する。これは、レンズがXジオプターの完全遠方視矯正を行うのに使用される別のタイプのレンズ-フィルム結合体と対照的である。このような場合、フィルムは遠方視部がプラノレンズとして設計されることになる。
【0009】
典型的には、フィルムを使用して遠方視矯正の一部を行うことには、遠方視矯正の全体を単焦点レンズのみで行おうとした場合と比べて多くの利点がある。フィルムを使用して、遠方視矯正を行うことなく結合体の近方視及び累進機能を提供する場合、(フィルムからプリズムを取り除くことによる業界標準のプリズムシニング手順を行った後でも)フィルムは典型的な正の度付きレンズの構造を有することになる。このようなレンズはエッジがより薄くて中心がより厚く、レンズ(すなわち、この場合にはフィルム)の直径が大きくなるほど、レンズの中心が厚くなる。これに対して、(本発明の一部の適用例に従って)フィルムを使用して遠方視矯正の一部を行う場合、フィルムは、典型的には以下でより詳細に説明されるように、より均一な厚さを有するように設計される。更に典型的には、レンズ-フィルム結合体の全体は、遠方視矯正の全部を単焦点レンズによって行おうとした場合よりも薄い全厚を有するように設計される。更により典型的には、レンズ-フィルム結合体の全体は、レンズ-フィルム結合体の領域にわたって比較的均一な厚さを有するように設計され、その結果、レンズ-フィルム結合体の直径が増加しても、結合体の厚さはエッジ又は中心で実質的に増加しない。
【0010】
外見を良くするために、典型的には以上で説明したレンズ-フィルム結合体の特徴の全てが望ましい。また、このような特徴は典型的には、機能的な眉間隔を設け、かつレンズ-フィルム結合体のできる限り極めて多様なフレームスタイル、形状及びサイズとの適合性を提供するために望ましい。
【0011】
また、より均一な厚さを有するフィルムによって、典型的には、別の方法では実施が困難となる、溶融された熱可塑性材料及び射出成形技術を用いてフィルムを製造することが可能である。これは、フィルムを典型的な正の度付きレンズの構造(すなわちエッジがより薄く中心がより厚い)にしたい場合に、金型キャビティが狭いエッジ及びより広い中心を有することになるためである。このようなキャビティを流れる熱可塑性材料の流れプロファイルは、典型的には材料が冷めた後も残るために眼科用に許容できなくなるストレスマークを生成する可能性がある。また、フィルムの中心に合理的な厚さを得るために、キャビティへの入口を非常に狭くする必要があり、典型的には溶融された熱可塑性材料を狭い入口から注入することは難しい。これに対して、(実質的に均一な厚さを有する)本願のフィルムを製造するのに使用される金型キャビティは、実質的に平行なキャビティ壁によって画定される。典型的にはこのようなキャビティを熱可塑性材料がスムーズに流れることになり、その結果、ストレスマークのないフィルムが生成されることになる。一部の適用例では、より均一な厚さを有するフィルムは、(例えば、熱可塑性材料及び/又は熱硬化性材料を用いる)鋳造及び/又はスタンピング法などの他の製造方法を用いる場合にフィルムのより簡単な製造を促進する。
【0012】
本願では、「フィルム」という用語は、少なくとも所与の条件下で少なくとも部分的に柔軟な比較的薄い材料を意味すると解釈すべきである。上記のように、一部の適用例では、フィルムは(典型的にはレンズ-フィルム結合体の製造中にフィルムに適用される)所与の条件下でのみ柔軟である一方、典型的な周囲条件下では、フィルムは実質的に硬く、その結果、フィルムは硬質レンズの特徴を有する。
【0013】
したがって、本発明の一部の適用例によれば、
遠方視矯正及び近方視矯正を行うように構成される累進レンズを含む装置であって、累進レンズが、
遠方視矯正の一部のみを行うように構成される単焦点遠方視矯正レンズと、
単焦点遠方視矯正レンズに結合されたフィルムと、を含み、フィルムが
遠方視矯正の残りを行うように構成される遠方視矯正部と、
付加的な近方視矯正を行うように構成される近方視矯正部と、
フィルムが遠方視矯正部と近方視矯正部との間を移行する中間部と、を画定するように構成された装置が提供される。
【0014】
一部の適用例では、単焦点遠方視矯正レンズは硬質である。一部の適用例では、フィルムは軟性フィルムを含む。一部の適用例では、フィルムは一定条件の下で柔軟性を有するように構成され、典型的な周囲条件下では、硬質レンズの特徴を有するなど、硬質であるように構成される。一部の適用例では、フィルムは一定温度超で柔軟性を有するように構成され、摂氏50度未満の温度で、硬質レンズの特徴を有するなど、硬質であるように構成される。
【0015】
一部の適用例では、フィルムの遠方視矯正部は、フィルムの厚さが実質的に均一となるように遠方視矯正の一部を行うように構成される。一部の適用例では、フィルムの遠方視矯正部は、フィルムの直径が70mm以上である場合に、フィルムの中心厚対フィルムのエッジ厚の比が1:2~2:1となるように遠方視矯正の一部を提供するように構成される。一部の適用例では、フィルムの遠方視矯正部は、フィルムの直径が40mm以上である場合に、フィルムの中心厚対フィルムのエッジ厚の比が1:1.6~1.6:1となるように遠方視矯正の一部を行うように構成される。
【0016】
一部の適用例では、フィルムの遠方視矯正部は、単焦点遠方視矯正レンズにより行われる遠方視矯正が0.25ジオプターの整数倍となるように遠方視矯正を行うように構成される。
【0017】
一部の適用例では、フィルムの遠方視矯正部は、フィルムのエッジ厚が少なくとも0.1mmとなるように遠方視矯正の一部を行うように構成される。一部の適用例では、フィルムの遠方視矯正部は、フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように遠方視矯正の一部を行うように構成される。一部の適用例では、フィルムの遠方視矯正部は、フィルムの中心厚が0.7mm以下である場合でも、フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように遠方視矯正の一部を行うように構成される。一部の適用例では、フィルムの遠方視矯正部は、フィルムの直径が70mm以上である場合でも、フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように遠方視矯正の一部を行うように構成される。一部の適用例では、フィルムの遠方視矯正部は、フィルムの中心厚が0.7mm以下であり、フィルムの直径が70mm以上である場合でも、フィルムのエッジ厚が少なくとも0.3mmとなるように遠方視矯正の一部を行うように構成される。
【0018】
一部の適用例では、フィルムは熱可塑性材料を含み、フィルムのエッジ厚が0.1mm超であることは、熱可塑性材料が溶融した形態にある場合に熱可塑性材料の射出成形を用いるフィルムの製造を促進する。一部の適用例では、フィルムのエッジ厚が0.1mm超であることは、材料にストレスマークを発生させることのない、熱可塑性材料が溶融した形態にある場合に熱可塑性材料の射出成形を用いるフィルムの製造を促進する。
【0019】
本発明の一部の適用例によれば、
遠方視矯正及び近方視矯正を行うように構成される累進レンズを、
フィルムを
遠方視矯正の一部を行うように構成される遠方視矯正部と、
付加的な近方視矯正を行うように構成される近方視矯正部と、
フィルムが遠方視矯正部と近方視矯正部との間を移行する中間部とを画定するように構成すること、及び
フィルムを遠方視矯正の残りを行うように構成される単焦点遠方視矯正レンズに結合することによって製造することを含む方法が更に提供される。
【0020】
本発明は、以下の本発明の実施形態の詳細な説明及び添付図面からより十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一部の適用例に係る、レンズ-フィルム結合体から作られる累進レンズの概略図である。
【
図2】単焦点レンズが遠方視矯正屈折力の全てを考慮し、フィルムが遠方視矯正に何の影響も与えずに遠方視矯正部と完全な近方視付加矯正との間の移行のみを行う、本発明の一部の適用例に係るレンズ-フィルム結合体の断面の概略図である。
【
図3】単焦点レンズが遠方視矯正屈折力の全てを考慮し、フィルムが遠方視矯正に何の影響も与えずに遠方視矯正部と完全な近方視付加矯正との間の移行のみを行う、本発明の一部の適用例に係るレンズ-フィルム結合体の断面の概略図である。
【
図4】単焦点レンズ及びフィルムがそれぞれ遠方視矯正屈折力の一部を提供する、本発明の一部の適用例に係るレンズ-フィルム結合体の断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
これより本発明の一部の適用例に係るレンズ-フィルム結合体から作られる累進レンズ20の概略図である
図1を参照する。累進レンズ20は、近視と老眼の両方に苦しむユーザに対し遠方視矯正及び近方視矯正を行うように構成されている。典型的には、累進レンズは眼鏡(図示されている)に組み込まれている。累進レンズ20は、単焦点遠方視矯正レンズ22と、単焦点遠方視矯正レンズに結合されたフィルム24とを含むレンズ-フィルム結合体を含む。典型的には、フィルム24は単焦点レンズ22の内面(すなわち、ユーザが装着する眼鏡にレンズが組み込まれている場合に、レンズのユーザの目により近い表面)に結合される。代替的に、フィルム24は単焦点レンズ22の外面(すなわち、ユーザが装着する眼鏡にレンズが組み込まれている場合に、レンズのユーザの目からより遠い表面)に結合される。典型的には、フィルムは、単焦点レンズに接着層を介して結合される、及び/又は、例えば参照により本明細書に組み込まれるArieliによる米国特許第9,995,948号に記載される代替技術を用いて単焦点レンズに結合される。
【0023】
典型的には、単焦点レンズ22は遠方視矯正の一部のみを行うように構成され、フィルム24は遠方視矯正の残りを行うように構成される。フィルムは更に、フィルムの近方視矯正部28内で近方視付加矯正を行い、近方視矯正部と、フィルムが遠方視矯正屈折力の一部のみを提供する遠方視矯正部26との間をフィルムが(典型的には、上記のようにスムーズに)移行する中間部30を画定するように構成される。
【0024】
単焦点レンズ22は典型的には在庫レンズである。上記の記載によれば、典型的には、レンズ-フィルム結合体の累進機能はフィルムによってもたらされる。このようにして矯正機能を分離することで、典型的には、例えば参照により本明細書に組み込まれる、Arieliによる米国特許第9,995,948号に記載されるように、比較的少ないレンズ及びフィルムの在庫を使用して多くの処方を提供することができる。フィルムは典型的には(少なくとも所与の条件下で)柔軟性があり、その結果、様々な異なる硬質レンズ(球面及び円環レンズを含む)の形状、サイズ、及び/又は角度に適合する一方、依然としてその光学特性を維持することができる。典型的には、これにより、フィルムを特定の形状及び/又はサイズを有するレンズとしか組み合わせることができなかった場合と比べて保持することが必要なレンズ及びフィルムの在庫が更に減る。一部の適用例では、フィルムは所与の条件下で(例えば、フィルムが所与の温度を超える温度に加熱される場合に)のみ柔軟性があるが、典型的な周囲条件下で(例えば摂氏50度未満の温度で)、フィルムは実質的に硬質であり、その結果、フィルムは硬質レンズの特徴を有する。典型的には、所与の条件は、レンズ-フィルム結合体の製造中、具体的にはフィルムが単焦点遠方視矯正レンズに結合されるときにフィルムに適用される。したがって、フィルムの柔軟性はフィルムが単焦点遠方視矯正レンズの形状と一致することを可能にする。例えば、フィルムは、レンズ-フィルム結合体の製造中、具体的にはフィルムが単焦点遠方視矯正レンズに結合されるときに所与の温度を超える温度に加熱されることがある。典型的には、所与の条件下に置かれたとき(例えば所与の温度を超える温度に加熱されたとき)でも、フィルムはその光学特性を維持するように構成される。その後、レンズ-フィルム結合体が周囲条件(例えば摂氏50度未満の温度)下に置かれたとき、フィルムは硬質状態を取る。
【0025】
本願の以下のセクションでは、遠方視矯正屈折力の全てが単焦点レンズによって提供されるレンズ-フィルム結合体の例が
図2及び
図3を参照して説明される。その後、遠方視矯正屈折力の一部がフィルムによって提供されるレンズ-フィルム結合体の例が
図4を参照して説明される。遠方視矯正屈折力の一部を提供するフィルムを有することのいくつかの利点は、
図4に示される例を
図2及び
図3に示される例と比較することによって説明される。ただし、これらの利点が示されている一方、本願の範囲には、
図2及び
図3を参照して説明される一般的原理に従って、遠方視矯正屈折力の全てが単焦点レンズによって提供されるレンズ-フィルム結合体が含まれる。
【0026】
遠方視矯正屈折力の全てがレンズによって提供されるレンズ-フィルム結合体の例
これより、本発明の一部の適用例に係る、レンズが遠方視矯正屈折力の全てを考慮するレンズ-フィルム結合体(すなわち、単焦点遠方視矯正レンズ22とフィルム24との結合体)の断面の概略図である
図2及び
図3を参照する。例えば、所望の遠方視屈折力が-1.50ジオプターである場合、レンズ22は-1.50ジオプターの全てを提供することになり、フィルムは、フィルムの近方視矯正部内の付加的な近方視矯正と、フィルムが近方視矯正部と遠方視非矯正部との間を移行する中間部とを有するプラノレンズとなる。換言すれば、フィルムはフィルムの遠方視矯正部26に屈折力を有しないことになる。
【0027】
図2及び
図3に示される断面は、
図1に示されたレンズ-フィルム結合体の垂直中心線に沿って(すなわちy軸、すなわち
図1のx=0の場合の線に沿って)切り取られている。
図2及び
図3に示される実施形態では、フィルム24の内(凹)面40はフィルムの光学補正機能を提供するような形状である一方、フィルム24の外(凸)面42は球面(又は場合によっては非球面)であり、単焦点レンズの既存の凹内面と一致する。フィルム24の遠方視矯正処方度数は、この場合はゼロである(フィルムは遠方視領域に付加的な屈折力を有しないプラノフィルムである)各測定点における表面40と表面42の曲率の差によって与えられる。表面43はレンズ22の内(凹)面である。フィルム24は典型的には柔軟性があり、フィルムの表面42は表面43に結合されているため、表面42の凸曲率は典型的には表面43の凹曲率と一致する。表面44はレンズ22の外(凸)面である。レンズ22の遠方視矯正処方度数は、各測定点における表面43と表面44の曲率の差によって与えられる。
【0028】
図2及び
図3に示すように、フィルム24は、エッジがより薄く中心がより厚い正の度付き矯正レンズの構造を有している。
【0029】
図2は、フィルム24の中心の厚さ(すなわち中心厚)が1.1mmであり、単焦点レンズ及びフィルムそれぞれの屈折率が1.53である例を示している。このようなレンズ-フィルム結合体のパラメータの例が、本明細書の付属書に提示される表1~表5に示されている。なお、表1~表5に提示された寸法の一部は負であり、物理的に不可能である。しかしながら、この例は、一定の制約があるレンズ-フィルム結合体を構築することが実際には不可能である点を伝えるために提示されている。
【0030】
(付属書に示された)表1は、フィルム24の外(凸)面42のパラメータ、及びフィルムの中心厚を示している。
【0031】
(付属書に示された)表2は、フィルム径を60mmと仮定したときのフィルム24のエッジ厚を示している。この表は、中心厚1.1mmを適用した場合に、±30mmにおけるエッジ厚は約0.3mmとなり、これは現実の世界の製造において達成することが非常に困難であることを示している。
【0032】
(付属書に示された)表3は、フィルム径を70mmと仮定したときのフィルム24のエッジ厚を示している。表3は、直径が70mmで、中心厚が1.1mmのフィルムの場合に、一方のエッジのエッジ厚が0.3mm未満、他方のエッジのエッジ厚が負になり、このような特徴を有するフィルムを製造することが不可能であることを示している。
【0033】
(付属書に示された)表4は、処方度数が-1.75ジオプターのレンズ22の表面44の凸半径及びレンズの中心厚を示している。なお、単焦点レンズがベース4.00ジオプター凹曲率を有する場合、-1.75ジオプターの処方度数を提供するために、レンズは2.25ジオプターの凸曲率を有する必要がある。屈折率が1.53のレンズに薄レンズの公式を用いて、半径は530mmを凸曲率で割ることによって近似されることがある。したがって、凸側の半径は530/2.25=235.56mmとなる。
【0034】
(付属書に示された)表5は、(a)レンズ-フィルム径が60mm、及び(b)レンズ-フィルム径が70mmの2つの場合のレンズ-フィルム結合体の中心厚並びにエッジ厚を示している。エッジ厚が直径の増加とともに増加することが観察されることがある。なお、場合により総厚が(単焦点レンズの)正の厚さと(フィルムの)負の厚さとから構成され、物理的に不可能であるから、表5は理論上のものである。
【0035】
図3は、フィルム24の中心厚が0.7mmに設定され、レンズ及びフィルムそれぞれの屈折率が1.53である例を示している。このようなレンズ-フィルム結合体のパラメータの例が、本明細書の付属書に提示される表6~表10に示されている。なお、ここでもまた寸法の一部は負であり、物理的に不可能である。しかしながら、この例は、一定の制約があるレンズ-フィルム結合体を構築することが実際には不可能である点を伝えるために提示されている。
【0036】
(付属書に示された)表6は、フィルム24の外(凸)面42のパラメータ、及びフィルムの中心厚を示している。
【0037】
(付属書に示された)表7は、フィルム径を60mmと仮定したときのフィルム24のエッジ厚を示している。この表は、(表6に示された)中心厚0.7mmを適用した場合に、±30mmにおけるエッジ厚も負となり、これはこのような特徴を有するフィルムを製造することが不可能であることを示している。
【0038】
(付属書に示された)表8は、フィルム径を70mmと仮定したときのフィルム24のエッジ厚を示している。表8は、フィルム径が70mmで中心厚が0.7mmの場合に、エッジ厚が再び負であり、このような特徴を有するフィルムを製造することが不可能であることを示している。
【0039】
(付属書に示された)表9は、処方度数が-1.75ジオプターの単焦点レンズ22の表面44の凸半径及びレンズ22の中心厚を示している。上記のように、レンズがベース4.00ジオプター凹曲率を有する場合、-1.75ジオプターの処方度数を提供するために、レンズは2.25ジオプターの凸曲率を有する必要がある。屈折率が1.53のレンズに薄レンズの公式を用いて、半径は530mmを凸曲率で割ることによって近似されることがある。したがって、凸側の半径は530/2.25=235.56mmとなる。
【0040】
(付属書に示された)表10は、(a)レンズ-フィルム径が60mm、及び(b)レンズ-フィルム径が70mmの2つの場合のレンズ-フィルム結合体の中心厚並びにエッジ厚を示している。ここでもまた、エッジ厚が直径の増加とともに増加することが観察されることがある。なお、場合により総厚が(単焦点レンズの)正の厚さと(フィルムの)負の厚さとから構成され、物理的に不可能であるから、表10は理論上のものである。
【0041】
表1~表10に示したデータが示すように、フィルム24がその遠方視矯正部26がプラノレンズとなるように設計される場合、結果として、(a)中心厚とレンズ径の特定の所望の組み合わせが物理的に不可能又は実質的に実行不可能であること、(b)特定のレンズ-フィルム結合体が、(実行不可能なほど小さい又は負のエッジ厚を回避するために)大きい中心厚を、特により大きい直径を有するレンズに必要とすること、及び/又は(c)フィルムが、典型的な正の度付きレンズの構造を有する実質的に不均一な厚さを有することは概して事実である。
【0042】
遠方視矯正屈折力の一部がフィルムによって提供されるレンズ-フィルム結合体の例
これより本発明の一部の適用例に従った
図4を参照すると、フィルム24はフィルムが遠方視の光学補正を行うように設計されている。これを補償するために、単焦点レンズ22により提供される遠方視矯正の屈折力は、所望の全体的処方度数に必要とされる全体的遠方視矯正と異なる(例えば、より小さい)。例えば、レンズ-フィルム結合体の所望の遠方視屈折力が-1.50ジオプターである場合、単焦点レンズ22は、-0.50ジオプターのレンズ-フィルム結合体の遠方視屈折力を提供することがあり、フィルム24は残りの-1.00ジオプターの遠方視屈折力を提供することがある。
【0043】
典型的には、フィルム24に割り当てられる遠方視屈折力の大きさは、実質的に均一な厚さを有するフィルムをもたらすように決定される。例えば、近方視部の付加矯正が+2.00ジオプターである場合、フィルム24の厚さのバランスを取るために、フィルムは、上記の例のように遠方視部に-1.00ジオプターの屈折力を提供するように構成されることがある。
【0044】
なお場合により、追加的な考慮事項によって、フィルムの遠方視部に割り当てられる屈折力がフィルムの厚さを不均一にすることがある。例えば、別の考慮事項は、フィルムが遠方視部にまれな屈折力(例えば、0.25ジオプターの整数倍でない屈折力)を有することは、フィルムを一般的な屈折力である全体的遠方視矯正をもたらすような在庫レンズと組み合わせられないことを意味するため望ましくないことである。例えば、フィルムの近方視部に所与の付加的な屈折力を提供するために、フィルムの厚さは遠方視部の屈折力が-1.34ジオプターに設定された場合に均一になる場合がある。ただし、このような場合、遠方視部の屈折力は、上記の考慮事項によって、典型的には-1.25ジオプターか、-1.5ジオプターに設定されることになる。
【0045】
本発明の一部の適用例に係る、単焦点レンズ22及びフィルム24それぞれが遠方視矯正屈折力の一部を提供するレンズ-フィルム結合体の断面の概略図である
図4を再度参照する。
図4に示す断面は、
図1に示されたレンズ-フィルム結合体の垂直中心線に沿って(すなわち、
図1のx=0の場合の線に沿って)切り取られている。
図4は、フィルム24の中心の厚さ(すなわち中心厚)が0.7mmであり、レンズ及びフィルムそれぞれの屈折率が1.53である例を示している。このようなレンズ-フィルム結合体のパラメータの例が、本明細書の付属書に提示される表11~表15に示されている。
【0046】
(付属書に示された)表11は、フィルム24の外(凸)面42のパラメータ、及びフィルムの中心厚を示している。
【0047】
(付属書に示された)表12は、フィルム径を60mmと仮定したときのフィルム24のエッジ厚を示している。表13は、フィルム径を70mmと仮定したときのフィルム24のエッジ厚を示している。図に示すように、両シナリオのエッジ厚は合理的であり、フィルムを製造の観点から実行可能にする0.3mmの閾値を優に上回っている。
【0048】
(付属書に示された)表14は、処方度数が-1.00ジオプターの単焦点レンズ22の表面44の凸半径及びレンズの中心厚を示している。単焦点レンズがベース4.00ジオプター凹曲率を有する場合、-1.00ジオプターの処方度数を提供するために、レンズは3.00ジオプターの凸曲率を有する必要がある。屈折率が1.53のレンズに薄レンズの公式を用いて、半径は530mmを凸曲率で割ることによって近似されることがある。したがって、凸側の半径は530/3=176.67mmとなる。
【0049】
(付属書に示された)表15は、(a)レンズ-フィルム径が60mm、及び(b)レンズ-フィルム径が70mmの2つの場合のレンズ-フィルム結合体の中心厚並びにエッジ厚を示している。表11~表15及び
図4の両方に示されているように、フィルム24を上記のように設計することで、より均一な厚さを有するフィルム24及びレンズ-フィルム結合体がもたらされ、直径が70mmのレンズ-フィルム結合体の製造が可能になる。
【0050】
遠方視矯正屈折力の一部がフィルムにより提供されることの利点
図2から
図4及びその説明によれば、フィルム24を使用して(
図4に示すように)遠方視矯正の一部を行うことで、遠方視矯正の全部が(
図2及び
図3に示すように)単焦点レンズのみによって行われる場合と比べて多くの利点が提供される。フィルムを使用して、遠方視矯正を行うことなく結合体の近方視及び累進機能を提供する場合、(フィルムからプリズムを取り除くことによる業界標準のプリズムシニング手順を行った後も)フィルムは典型的な正の度付きレンズの構造を有することになる。このようなレンズは、典型的にはエッジがより薄くて中心がより厚く、レンズ(すなわち、この場合にはフィルム)の直径が大きくなるほどレンズの中心が厚くなる。これに対して、(本発明の一部の適用例に従って)フィルムを使用して遠方視矯正の一部を行う場合、フィルムは、典型的には以下でより詳細に説明されるように、より均一な厚さを有するように設計される。更に典型的には、レンズ-フィルム結合体の全体は、遠方視矯正の全部をレンズによって行おうとした場合よりも薄い全厚を有するように設計される。更により典型的には、レンズ-フィルム結合体の全体は、レンズ-フィルム結合体の領域にわたって比較的均一な厚さを有するように設計され、その結果、レンズ-フィルム結合体の直径が増加しても、結合体の厚さはエッジ又は中心で実質的に増加しない。外見を良くするために、典型的には以上で説明したレンズ-フィルム結合体の特徴の全てが望ましい。また、このような特徴は典型的には、機能的な眉間隔を設け、レンズ-フィルム結合体のできる限り極めて多様なフレームスタイル、形状及びサイズとの適合性を提供するために望ましい。
【0051】
なお、累進レンズの全厚及び厚さの均一性の問題は、本明細書に記載のレンズ-フィルム結合体を含む累進レンズにおいて特に重要である。より均一な厚さを有するフィルムによって、典型的には、別の方法では実施が困難な、溶融された熱可塑性材料及び射出成形技術を用いてフィルムを製造することが可能である。これは、フィルムを典型的な正の度付きレンズの構造(すなわちエッジがより薄く中心がより厚い)にしたい場合に、金型キャビティが狭いエッジ及びより広い中心を有することになるためである。そのようなキャビティを流れる熱可塑性材料の流れプロファイルは、材料が冷めた後も残るために眼科用に許容できなくなるストレスマークを生成する可能性がある。また、フィルムの中心に合理的な厚さを得るために、キャビティへの入口を非常に狭くする必要があり、典型的には溶融された熱可塑性材料を狭い入口から注入することは難しい。これに対して、(実質的に均一な厚さを有する)本願のフィルムを製造するのに使用される金型キャビティは、実質的に平行なキャビティ壁によって画定される。典型的にはこのようなキャビティを熱可塑性材料がスムーズに流れることになり、その結果、ストレスマークのないフィルムが生成されることになる。一部の適用例では、より均一な厚さを有するフィルムは、(例えば、熱可塑性材料及び/又は熱硬化性材料を用いる)鋳造及び/又はスタンピング法などの他の製造方法を用いる場合にフィルムのより簡単な製造を促進する。
【0052】
したがって、本発明の一部の適用例によれば、フィルムの遠方視矯正部は、レンズ-フィルム結合体全体の遠方視矯正の一部を行うように構成され、その結果、フィルムの厚さが実質的に均一になる。一部の適用例では、フィルムの直径が70mm以上である場合に、フィルムの中心厚対フィルムのエッジ厚の比が1:2~2:1である。一部の適用例では、フィルムの直径が40mm以上である場合に、フィルムの中心厚対フィルムのエッジ厚の比が1:1.6~1.6:1である。
【0053】
一部の適用例では、フィルムのエッジ厚は少なくとも0.1mm(例えば少なくとも0.3mm)である。一部の適用例では、フィルムのエッジ厚は、フィルムの中心厚が0.7mm以下である場合でも、及び/又はフィルムの直径が70mm以上である場合でも、少なくとも0.3mmである。一部の適用例では、フィルムは熱可塑性材料を含み、フィルムのエッジ厚を0.1mm超(例えば0.3mm超)とすることで、熱可塑性材料が溶融した形態にある場合に熱可塑性材料の射出成形を用いたフィルムの製造が容易になる。例えば、フィルムのエッジ厚を0.1mm超(例えば0.3mm超)とすることで、上記のような射出成形を用いた、材料にストレスマークを発生させることのないフィルムの製造が容易になることがある。
【0054】
なお、上記のように、フィルムの光学設計を修正して遠方視部に屈折力を提供することは、一般的には望ましくない、斜視効果を引き起こし得る水平プリズムを発生させることがある。したがって、典型的には、レンズ22及び/又はフィルム24は補償水平プリズムを提供するように構成される。
【0055】
レンズ-フィルム結合体の遠方視矯正屈折力の一部を提供するフィルムを有することのいくつかの利点を、
図4に示した例を
図2及び
図3に示した例と比較することによって以上で説明した。これらの利点は注目されるが、本願の範囲は、遠方視矯正屈折力の全てが単焦点レンズのみによって提供される、又はフィルムのみによって提供されるレンズ-フィルム結合体を含む。上記のように、
図2及び
図3を参照して説明した例の一部は物理的に不可能である。しかしながら、本願の範囲は、
図2及び
図3を参照して説明された一般的原理に従って、遠方視矯正屈折力の全てが単焦点レンズによって提供されるレンズ-フィルム結合体を含む。
【0056】
以上に具体的に示され説明されたものに本発明が限定されないことは当業者によって理解されるであろう。むしろ本発明の範囲は、上記の明細書で説明された様々な特徴の組み合わせ及びその部分的組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者に想到されるであろう、従来技術にはないそれらの変形例及び修正例を含む。
【0057】
付属書-表1~表15
表1~表5は
図2に示された例に関連する。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0058】
表6~表10は
図3に示された例に関連する。
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【0059】
表11~表15は
図4に示された例に関連する。
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【国際調査報告】