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特表2022-550286ハンチントン病(HD)を評価する手段および方法
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  • 特表-ハンチントン病(HD)を評価する手段および方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-01
(54)【発明の名称】ハンチントン病(HD)を評価する手段および方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20221124BHJP
【FI】
A61B10/00 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517832
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(85)【翻訳文提出日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 EP2020077209
(87)【国際公開番号】W WO2021063937
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】19200578.3
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100119781
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】リンデマン,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】リプスマイアー,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】シミリオン,セドリック・アンドレ・マリー・ビンセント・ジェフリー
(57)【要約】
本発明は、疾病追跡および場合によっては診断の分野にも関する。詳細には、本発明は、ハンチントン病(HD)に罹患している被験者の総合運動スコア(TMS)を予測する方法であって、前記被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットから少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを判定するステップと、判定された前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを、前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗(PLS)分析を使用してトレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実装回帰モデルから得られた基準と比較するステップと、前記比較に基づいて被験者のTMSを予測するステップとを含む方法に関する。本発明は、プロセッサと少なくとも1つのセンサとデータベースとを含むモバイルデバイスであって、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると本発明の方法を実施するソフトウェアを含むモバイルデバイスと、少なくとも1つのセンサを含むモバイルデバイスと、プロセッサとデータベースとを含むリモートデバイスであって前記デバイスに有形に組み込まれ前記デバイス上で実行されると本発明の方法を実施するソフトウェアを含むリモートデバイスとを含み、前記モバイルデバイスと前記リモートデバイスとが互いに動作可能にリンクされたシステムとに関する。また、本発明は、被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットから少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを使用して、HDに罹患している前記被験者におけるTMSを予測するための、上記のモバイルデバイスまたはシステムの使用を企図している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンチントン病(HD)に罹患している被験者における総合運動スコア(TMS:totalmotor score)を予測する方法であって、
a)前記被験者からの中枢運動機能(central motor function)能力の測定のデータセットから、少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを判定するステップと、
b)判定された前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを、前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに部分最小二乗(PLS:partial least-squares)分析を使用して、トレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実施回帰モデルから得られた基準と比較するステップと、
c)前記比較に基づいて前記被験者の前記TMSを予測するステップとを含む、方法。
【請求項2】
中枢運動機能能力の前記測定は、モバイルデバイスを使用して実施されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モバイルデバイスは、スマートフォン、スマートウォッチ、ウェアラブルセンサ、ポータブルマルチメディアデバイスまたはタブレットコンピュータ内に含まれる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
中枢運動機能能力の前記測定は、微細(fine)運動機能の測定を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも4つのパフォーマンスパラメータが使用される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
表1の4つのパフォーマンスパラメータの少なくとも1つ、一実施形態では少なくとも2つ、さらなる一実施形態では少なくとも3つ、さらなる一実施形態では4つのパフォーマンスパラメータすべてが判定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)の前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータは、データ処理デバイス上に有形に組み込まれた自動化アルゴリズムによって前記データセットから導出される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップb)における前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを基準値と比較するステップは、データ処理デバイス上で実装された自動化比較アルゴリズムによって行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに部分最小二乗(PLS)分析を使用してトレーニングデータを基に生成されるコンピュータ実装回帰モデルから得られる前記基準は、前記PLS分析に基づく、モデル方程式、スコアリングチャート、少なくとも1つの予測値プロット、少なくとも1つの相関値プロット、および少なくとも1つの残差プロットである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法はコンピュータ実装される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
プロセッサと少なくとも1つのセンサとデータベースとを含むモバイルデバイスであって、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると請求項1から10のいずれか一項に記載の方法のうちの少なくともステップa)を実施し、一実施形態では請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を実施するソフトウェアを含む、モバイルデバイス。
【請求項12】
少なくとも1つのセンサを含むモバイルデバイスと、プロセッサとデータベースと、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を実施するソフトウェアとを含むリモートデバイスとを含むシステムであって、前記モバイルデバイスと前記リモートデバイスとは互いに動作可能にリンクされている、システム。
【請求項13】
被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットから少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを使用して、HDに罹患している前記被験者におけるTMSを予測するための、請求項11に記載のモバイルデバイスまたは請求項12に記載のシステムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾病追跡および場合により診断の分野に関する。詳細には、本発明は、ハンチントン病(HD)に罹患している被験者における総合運動スコア(TMS)を予想する方法であって、前記被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットから少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを判定するステップと、判定された少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを、前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗(PLS)分析を使用してトレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実装回帰モデルから取得された基準値と比較するステップと、前記比較に基づいて被験者のTMSを予測するステップとを含む方法に関する。本発明は、プロセッサと少なくとも1つのセンサとデータベースとを含むモバイルデバイスであって、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると本発明の方法を実施するソフトウェアを含むモバイルデバイスと、少なくとも1つのセンサを含むモバイルデバイスと、プロセッサとデータベースとを含むリモートデバイスであって、前記デバイスに有形に組み込まれ前記デバイス上で実行されると本発明の方法を実施するソフトウェアを含むリモートデバイスとを含み、前記モバイルデバイスと前記リモートデバイスとが互いに動作可能にリンクされているシステムとにも関する。また、本発明は、被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットから少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを使用して、HDに罹患している前記被験者におけるTMSを予測するための、上記モバイルデバイスまたはシステムの使用を企図している。
【背景技術】
【0002】
ハンチントン病は、中枢神経系における神経細胞死を伴う遺伝性疾患である。最も顕著なのは、大脳基底核が細胞死によって影響されることである。黒質、大脳皮質、海馬およびプルキンエ細胞など、病変する脳の他の領域もある。典型的にはすべての領域が運動および行動調整において役割を演じる。
【0003】
この疾病は、遺伝子コード化ハンチンチンにおける遺伝子変異によって生じる。ハンチンチンは、様々な細胞機能に関与するタンパク質であり、100を超える他のタンパク質と相互作用する。変異ハンチンチンは、特定の神経細胞の種類にとって細胞障害性であると思われる。
【0004】
この疾病の症状は、最も一般的には、中年期に顕著になるが、幼児期から高齢期までのどの年代でも発症し得る。初期段階では、症状としては、人格、認知、および身体技能のわずかな変化がある。前記初期段階では、認知および行動症状は一般に単独で認められるほど深刻ではないため、通常は身体的症状が最初に認められる。
【0005】
最も特徴的な初期身体症状は、舞踏病と呼ばれる痙攣様のランダムで制御不能な動きである。舞踏病は、最初は全身の静止不能、わずかな、意図せずに始まるかまたは不完了運動、協調運動障害、または緩慢な衝動性眼球運動として現れることがある。これらの軽微な運動異常は、通常、運動障害のより明白な兆候の少なくとも3年前に現れる。疾患が進行するにつれて、硬直、ライジング運動または姿勢異常などの明確な状況が現れる。
【0006】
HDのさらなる症状には、身体的不安定、異常な顔の表情、咀嚼、嚥下および発話困難が含まれる。その結果として、摂食障害および睡眠障害もこの疾病に付随して起こる。認知能力も漸進的に損なわれる。損なわれるのは、実行機能、認識柔軟性、抽象的思考、行動則獲得、および正常な活動/反応機能である。より明白な段階では、短期記憶障害から長期記憶障害までを含む記憶障害が現れる傾向がある。認知問題は時間の経過とともに悪化し、最終的には認知症となる。HDに伴う精神医学的合併症は、不安、抑うつ、感情表現低下(感情鈍麻)、自己中心性、攻撃性および強迫行動であり、後者は、アルコール依存症、ギャンブルおよび性行動亢進を含む依存症を生じさせるかまたは悪化させることがある。
【0007】
HDには治療法がない。対処する症状に応じて、疾病管理における対症療法がある。また、この疾病、その進行またはこの疾病に伴う症状を改善するためにいくつかの薬物が使用される。
【0008】
この疾病は、遺伝子検査によって診断可能である。また、この疾病の重症度は、統一ハンチントン病評価尺度(Unified Huntington’s Disease Rating Scale(UHDRS))に従って病期分類することができる(Huntington Group, 1996)。この尺度システムは、4つの構成要素、すなわち、運動機能と認知と行動と機能的能力とを扱う。運動機能評価は、眼球追跡、サッケード開始、サッケード速度、構音障害、挺舌、最大ジストニア、最大舞踏病、後方突進プルテスト、指タップ、手の回内/回外運動、ルリア、腕硬直、動作緩慢、歩行、および縦列歩行の評価を含み、総合運動スコア(total motor score(TMS)としてまとめることができる。運動機能は、医師研修病院の医師によって精査および審査される必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、適正なケアおよび/または正確な治療を可能にするために、HD患者におけるTMSの信頼性のある診断と特定を可能にする診断手段が必要である。
本発明の基にある技術的問題は、上記の必要に応じる手段および方法の提供において明らかになり得る。この技術的問題は、特許請求の範囲で特徴づけられ、本明細書で以下に記載されている実施形態によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、ハンチントン病(HD)に罹患している被験者の総合運動スコア(TMS)を予測する方法であって、
a)前記被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットから、少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを判定するステップと、
b)判定された上記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを、上記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗(PLS)分析を使用してトレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実装回帰モデルから取得された基準と比較するステップと、
c)上記比較に基づいて被験者のTMSを予測するステップとを含む方法に関する。
【0011】
この方法は、典型的には、コンピュータ実装方法であり、すなわち、ステップa)からc)がデータ処理デバイスを使用して自動化された方式で実施される。詳細は、本明細書の以下の説明および添付の実施例に記載されている。
【0012】
実施形態によっては、この方法は、ステップ(a)の前に、モバイルデバイスを使用して、被験者によって行われる所定の活動中に、または所定の時間窓の期間中に、前記被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットを、前記被験者から取得するステップも含み得る。しかし、典型的には、この方法は、被験者とのいかなる物理的やり取りも必要としない、前記被験者からの測定の既存のデータセットについて実施される生体外方法である。
【0013】
本発明によるものとして言及されるこの方法は、基本的に上記ステップからなる方法、または追加ステップを含み得る方法を含む。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下で使用される「有する」、「備える」もしくは「含む」またはこれらのあらゆる文法的変形は、非排他的に使用されている。したがって、これらの用語は、これらの用語で提示されている特徴の他に、その文脈で説明されている実体にさらなる特徴が存在しない状況と、1つまたは複数のさらなる特徴が存在する状況の両方を指し得る。一例として、「AがBを有する」、「AがBを備える」、および「AがBを含む」という表現は、AにB以外の他の要素が存在しない状況(すなわち、AがもっぱらBのみからなる状況)と、実体AにB以外に要素C、または要素CとD、またはそれ以上の要素など、1つまたは複数のさらなる要素が存在する状況の両方を指し得る。
【0015】
また、「少なくとも1つ」、「1つまたは複数」または、特徴または要素が1回または複数回存在し得ることを示す同様の表現は、典型的にはそれぞれの特徴または要素を最初に提示するときに1回のみ使用することに留意されたい。以下では、ほとんどの場合、それぞれの特徴または要素に言及する場合、それぞれの特徴または要素が1回または複数回存在し得るにもかかわらず、「少なくとも1つ」または「1つまたは複数」という表現は繰り返さない。
【0016】
また、以下で使用する、「具体的には」、「より具体的には」、「詳細には」、「より詳細には」、「典型的には」、および「より典型的には」または同様の用語は、代替の可能性を制限することなく、追加/代替の特徴とともに使用される。したがって、これらの用語によって提示される特徴は、追加の/代替の特徴であり、いかなる点でも特許請求の範囲を制限することが意図されていない。当業者にはわかるように、本発明は、代替の特徴を使用して行われてもよい。同様に、「本明細書の一実施形態では」という表現または同様の表現によって提示される特徴は、本発明の代替の実施形態に関するいかなる制限もなしに、本発明の範囲に関するいかなる制限もなしに、および、そのように提示されている特徴と本発明の他の追加/代替の、または非追加/非代替の特徴との組み合わせの可能性に関するいかなる制限もなしに、追加/代替の特徴であることが意図されている。
【0017】
この方法は、圧力測定値のデータベースが取得された後は、被験者によってモバイルデバイス上で実施されてもよい。したがって、モバイルデバイスとデータセットを取得するデバイスとは物理的に同一、すなわち同じデバイスであってもよい。そのようなモバイルデバイスは、典型的にはデータ取得手段、すなわち、物理的および/または化学的パラメータを定量的または定性的に検出または測定し、それらを、本発明による方法を実施するために使用されるモバイルデバイス内の評価ユニットに送信される電子信号に変換する手段を含むデータ取得ユニットを有するものとする。データ取得ユニットは、データ取得手段、すなわち、物理的および/または化学的パラメータを定量的または定性的に検出または測定し、それらを、モバイルデバイスから遠隔にあるデバイスに送信され、本発明による方法を実施するために使用される電子信号に変換する手段を含む。典型的には、前記データ取得手段は少なくとも1つのセンサを含む。なお、モバイルデバイスにおいて複数のセンサ、すなわち、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つまたは少なくとも10、またはさらに多くの異なるセンサが使用可能であることを理解されたい。データ取得手段として使用される典型的なセンサは、ジャイロスコープ、磁力計、加速度計、近接センサ、体温計、湿度センサ、歩数計、心拍検出器、指紋検出器、触覚センサ、ボイスレコーダ、光センサ、圧力センサ、位置データ検出器、カメラ、汗分析センサなどのセンサである。評価ユニットは、典型的にはプロセッサとデータベースと、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると本発明の方法を実施するソフトウェアとを含む。より典型的には、そのようなモバイルデバイスは、評価ユニットによって実施された分析の結果をユーザに提供することを可能にする、画面などのユーザインターフェースも含み得る。
【0018】
あるいは、本発明の方法は、前記データセットを取得するために使用されたモバイルデバイスに対して遠隔にあるデバイス上で実施されてもよい。この場合、モバイルデバイスは、データ取得手段、すなわち物理的および/または化学的パラメータを定量的または定性的に検出または測定し、それらを前記モバイルデバイスから遠隔にあり、本発明による方法を実施するために使用されるデバイスに送信される電子信号に変換する手段を含むだけでよい。典型的には、前記データ取得手段は、少なくとも1つのセンサを含む。モバイルデバイスにおいて複数のセンサ、すなわち少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、または少なくとも10またはそれ以上の異なるセンサを使用することができることを理解されたい。データ取得手段として使用される典型的なセンサは、ジャイロスコープ、磁力計、加速度計、近接センサ、体温計、湿度センサ、歩数計、心拍検出器、指紋検出器、触覚センサ、ボイスレコーダ、光センサ、圧力センサ、位置データ検出器、カメラ、汗分析センサ、GPS、バリストカルジオグラフィなどのセンサである。したがって、モバイルデバイスと本発明の方法を実施するために使用されるデバイスとは、物理的に異なるデバイスであってもよい。この場合、モバイルデバイスは、任意のデータ送信手段によって、本発明の方法を実施するために使用されるデバイスと通信し得る。このようなデータ送信は、同軸ケーブル、ファイバケーブル、光ファイバケーブル、ツイストペアケーブル、10BASE-Tケーブルなどの永続的または一時的物理接続によって実現されてもよい。あるいは、データ送信は、たとえば、Wi-Fi、LTE、LTE-advancedまたはBluetoothなどの、電波を使用する一時的または永続的無線接続によって実現されてもよい。したがって、本発明の方法を実施するために唯一の要件は、モバイルデバイスを使用して被験者から得られた測定のデータセットの存在である。前記データセットは、取得モバイルデバイスから、後で本発明の方法を実施するために使用されるデバイスにデータを転送するために使用することができる、永続的または一時的メモリデバイスに送信または記憶されてもよい。この設定で本発明の方法を実施するリモートデバイスは、典型的には、プロセッサとデータベースと、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると本発明の方法を実施するソフトウェアとを含む。より典型的には、前記デバイスは、評価ユニットによって実施された分析の結果をユーザに提供することを可能にする、画面などのユーザインターフェースも含み得る。
【0019】
本明細書で使用する「予測する」という用語は、TMSを直接判定するのではなく、測定されたデータセットから判定される少なくとも1つのパフォーマンスパラメータと、このパフォーマンスパラメータとTMSとの既存の相関関係とに基づいてTMSを判定することを指す。当業者にはわかるように、そのような予測は、調査される被験者の100%について正確であることが好ましいが、通常はそうではない場合がある。しかし、この用語は、被験者のうちの統計的に有意な割合においてTMSを正確に予測することができることを必要とする。割合が有意であるか否かは、様々なよく知られている統計的評価手段、たとえば、信頼区画の判定、確率値判定、スチューデントt検定、マンホイットニー検定などを使用して当業者によるさらなる手間なしに判定することができる。詳細は、Downy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & sons, New York 1983で見られる。典型的に想定される信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。確率値は、典型的には、0.2、0.1、0.05である。この用語は、TMSに基づくHDのあらゆる種類の診断、モニタリングまたは病期分類も包含し、特に、HDに関連するあらゆる症状またはあらゆる症状の進行の評価、診断、モニタリングおよび/または病期分類を包含する。
【0020】
本明細書で使用する「ハンチントン病(HD)」という用語は、中枢神経系における神経細胞死を伴う遺伝性疾患を指す。最も顕著なのは、大脳基底核が細胞死によって影響されることである。黒質、大脳皮質、海馬およびプルキンエ細胞など、病変する脳の他の領域もある。典型的にはすべての領域が運動および行動調整において役割を演じる。この疾病は、遺伝子コード化ハンチンチンにおける遺伝子変異によって生じる。ハンチンチンは、様々な細胞機能に関与するタンパク質であり、100を超える他のタンパク質と相互作用する。変異ハンチンチンは、特定の神経細胞の種類にとって細胞障害性であると思われる。変異ハンチンチンは、ハンチンチン遺伝子におけるトリヌクレオチドリピートによって生じるポリグルタミン領域によって特徴づけられる。タンパク質のポリグルタミン領域における36を超えるグルタミン残基のリピートの結果、ハンチンチンタンパク質を生じさせる疾病となる。
【0021】
この疾病の症状は、最も一般的には、中年期に顕著になるが、幼児期から高齢期までのどの年代でも発症し得る。初期段階では、症状には、人格、認知、および身体技能のわずかな変化が含まれる。前記初期段階では、認知および行動症状は一般に単独で認められるほど深刻ではないため、身体的症状が通常最初に認められる。HDに罹患しているほとんどの人が最終的に同様の身体的症状を示すが、認知および身体症状の発症と進行と程度は、個人間で有意に異なる。最も特徴的な初期身体症状は、舞踏病と呼ばれる痙攣様のランダムで制御不能な動きである。舞踏病は、最初は全身の静止不能、わずかな、意図せずに始まるかまたは不完了運動、協調運動障害、または緩慢な衝動性眼球運動として現れることがある。これらの軽微な運動異常は、通常、運動障害のより明白な兆候の少なくとも3年前に現れる。疾患が進行するにつれて、硬直、ライジング運動または姿勢異常などの明確な症状が現れる。これらは、運動を司る脳内のシステムが冒されていることを示す兆候である。精神運動機能が次第に損なわれ、その結果、筋肉の制御を要するあらゆる行動が影響を受ける。一般的な結果は、身体的不安定、異常な顔の表情、咀嚼、嚥下および発話困難が含まれる。その結果として、摂食障害および睡眠障害もこの疾病に付随して起こる。認知能力も漸進的に損なわれる。損なわれるのは、実行機能、認識柔軟性、抽象的思考、行動則獲得、および正常な活動/反応機能である。より明白な段階では、短期記憶障害から長期記憶障害までを含む記憶障害が現れる傾向がある。認知問題は時間の経過とともに悪化し、最終的には認知症となる。HDに伴う精神医学的合併症は、不安、抑うつ、感情表現低下(感情鈍麻)、自己中心性、攻撃性および強迫行動であり、後者は、アルコール依存症、ギャンブルおよび性行動亢進を含む依存症を生じさせるかまたは悪化させることがある。
【0022】
HDには治療法がない。対処する症状に応じて、疾病管理における対症療法がある。また、この疾病、その進行またはこの疾病に伴う症状を改善するためにいくつかの薬物が使用される。テトラベナジンがHD治療用として承認されており、神経遮断薬を含み、ベンゾジアゼピンが舞踏病の軽減に有用な薬物として使用され、アマンタジンまたはレマセミドがまだ調査中であるが、肯定的な中間結果を示している。特に未成年者の場合の運動機能低下と硬直は、抗パーキンソン薬によって治療可能であり、ミオクローヌス性運動亢進症は、バルプロ酸によって治療可能である。エチルエイコサペント酸が患者の運動症状を改善することがわかっているが、その長期的効果は明らかにされる必要がある。
【0023】
この疾病は、遺伝子検査によって診断可能である。また、この疾病の重症度は、統一ハンチントン病評価尺度(UHDRS)に従って病期分類することができる。この尺度システムは、4つの構成要素、すなわち、運動機能と認知と行動と機能的能力とを扱う。運動機能評価は、眼球追跡、サッケード開始、サッケード速度、構音障害、挺舌、最大ジストニア、最大舞踏病、後方突進プルテスト、指タップ、手の回内/回外運動、ルリア、腕硬直、動作緩慢、歩行、および縦列歩行の評価を含み、総合運動スコア(TMS)としてまとめることができる。運動機能は、医師によって精査および審査される必要がある。
【0024】
したがって、本明細書で使用する「総合運動スコア(TMS)」という用語は、眼球追跡、サッケード開始、サッケード速度、構音障害、挺舌、最大ジストニア、最大舞踏病、後方突進プルテスト、指タップ、手の回内/回外運動、ルリア、腕硬直、動作緩慢、歩行、および縦列歩行の評価に基づくスコアを指す。
【0025】
本明細書で使用する「被験者」という用語は、動物を指し、典型的には哺乳類を指す。特に、被験者は霊長類であり、最も典型的には人間である。本発明による被験者は、HDに罹患しているかまたは罹患していると疑われるものとし、すなわち、前記疾病に付随する症状の一部または全部をすでに示している場合がある。
【0026】
「少なくとも1つ」という用語は、本発明により1つまたは複数のパフォーマンスパラメータ、すなわち、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、またはさらに多くの異なるパフォーマンスパラメータを判定可能であることを意味する。したがって、本発明の方法により判定可能な異なるパフォーマンスパラメータの数には上限がない。ただし、典型的には、1と4の間の異なるパフォーマンスパラメータが使用されることになる。より典型的には、パラメータは、中枢運動機能能力から選択され、さらにより典型的には、精密運動機能の測定のデータセットから導出されるパフォーマンスパラメータからなるグループから選択される。
【0027】
本明細書で使用する「パフォーマンスパラメータ」という用語は、特定の活動を行う被験者の能力を示すパラメータを指す。より典型的には、パフォーマンスパラメータは、中枢運動機能能力を示すパフォーマンスパラメータから選択される。より典型的には、前記パフォーマンスパラメータは、精密運動機能の測定のデータセットから判定される。本発明により使用される具体的なパフォーマンスパラメータは、本明細書の他の個所でより詳細に記載する。
【0028】
「測定のデータセット」という用語は、パフォーマンスパラメータを導出するのに有用な、モバイルデバイスによって測定時に被験者から取得されるデータの全体、または前記データの任意のサブセットを指す。
【0029】
少なくとも1つのパフォーマンスパラメータは、典型的には、中枢運動機能を必要とする以下の活動の実施中に被験者から収集される測定のデータセットから判定可能である。以下の検査は、典型的には、本明細書の他の個所に記載されているようなモバイルデバイスなどのデータ取得デバイス上でコンピュータ実装される。
【0030】
中枢運動機能の検査:形状描画検査
モバイルデバイスは、指の器用さと遠位筋力低下とを測定するように構成された遠位運動機能のさらなる検査(いわゆる「形状描画検査」)を行うかまたはその検査からデータを取得するようになされてもよい。そのような検査から得られたデータセットは、指の運動の精度、圧力プロファイルおよび速度ファイルの特定を可能にする。
【0031】
「形状描画」検査の目的は、精密な指の制御とストロークシークエンスを評価することである。この検査は、手の運動機能障害の以下の面をカバーすると考えられる。すなわち、震えおよび痙性、および視覚と手の協調性障害である。患者は、検査しない手にモバイルデバイスを持ち、検査する手の第二指でモバイルデバイスのタッチスクリーン上で6つの事前に書かれた次第に複雑さが増していく交互の形状(線状、矩形、円形、正弦曲線、および螺旋、以下参照)を、たとえば30秒の最大時間内に「できるだけ速く、正確に」描くように指示される。形状を成功裏に描くには、患者の指がタッチスクリーン上で連続してスライドし、示されたすべてのチェックポイントを通過し、可能な限り筆記経路の境界内に留まって、示された始点と終点とを接続する必要がある。患者は、6つの形状のそれぞれを成功裏に完成するために最大2回の試行ができる。検査は右手と左手で交互に行われる。ユーザは、1日ごとに交互に指示される。2つの線形形状はそれぞれ、接続すべき特定の数「a」のチェックポイント、すなわち「a-1」個のセグメントを有する。正方形形状は、接続すべき特定の数「b」のチェックポイント、すなわち「b-1」個のセグメントを有する。円形形状は、接続すべき特定の数「c」のチェックポイント、すなわち「c-1」個のセグメントを有する。8の字形状は、接続すべき特定の数「d」のチェックポイント、すなわち「d-1」個のセグメントを有する。螺旋形状は、接続すべき特定の数「e」のチェックポイント、すなわち「e-1」個のセグメントを有する。この場合、6つの形状を完成させることは、合計「(2a+b+c+d+e-6)」個のセグメントを成功裏に描くことを意味する。
【0032】
典型的な形状描画検査の対象パフォーマンスパラメータは以下の通りである。
形状の複雑さに基づいて、線形形状および正方形形状には重み係数(Wf)1を関連付けることができ、円形形状および正弦曲線形状には重み係数2を、螺旋形状には重み係数3を関連付けることができる。2回目の試行で成功裏に完成した形状には重み係数0.5を関連付けることができる。これらの重み係数は、本発明の文脈で変更可能な数値例である。
【0033】
1.形状完成パフォーマンススコア:
a.1検査当たりの成功裏に完成した形状の数(0から6)(ΣSh)
b.最初の試行で成功裏に完成した形状の数(0から6)(ΣSh
c.2回目の試行で成功裏に完成した形状の数(0から6)(ΣSh
d.すべての試行で失敗/未完成だった形状の数(0から12)(ΣF)
e.それぞれの形状について異なる複雑度のために重み係数を使用して調整された、成功裏に完成した形状の数を反映する形状完成スコア(0から10)(Σ[Sh*Wf])
f.それぞれの形状について異なる複雑度のために重み係数を使用して調整された成功裏に完成した形状の数を反映し、1回目の試行での成功か2回目の試行での成功かを考慮した形状完成スコア(0から10)(Σ[Sh*Wf]+Σ[Sh*Wf*0.5])
g.1e項と1f項で定義した形状完成スコアは、30/tを乗じた場合の検査完了速度を考慮してもよく、ここでtは検査完了までの秒数で表した時間を表す。
h.特定の期間内の複数検査に基づく6つの個別の形状それぞれの全体と1回目の試行の完成率:(ΣSh)/(ΣSh1+ΣSH+ΣF)および(ΣSh+ΣSh)/(ΣSh+ΣSh+ΣF)。
【0034】
2.セグメント完成および迅速性パフォーマンススコア/尺度:
(該当する場合、各形状について2回の試行のうちの最高値[完成セグメントの最大数]に基づく分析)
a.1回当たりの検査で成功裏に完成したセグメントの数(0から[2a+b+c+d+e-6])(ΣSe)
b.成功裏に完成したセグメントの平均迅速度([C]、セグメント数/秒):C=ΣSe/t、ここで、tは検査を完了するまでの秒数で表した時間を表す(最大30秒)。
c.それぞれの形状について異なる複雑度の重み係数を使用して調整された成功裏に完成したセグメントの数を反映するセグメント完了スコア(Σ[Se*Wf])
d.速度統制された重み付きセグメント完成スコア(Σ[Se*Wf]*30/t)、ここでtは検査を完了するまでの秒数で表した時間を表す。
e.線形および正方形形状の形状固有の成功裏に完成したセグメントの数(ΣSeLS
f.円形および正弦曲線形状の形状固有の成功裏に完成したセグメントの数(ΣSeCS
g.螺旋形状の形状固有の成功裏に完成したセグメントの数(ΣSe
h.線形および正方形形状検査において行われた成功裏に完成したセグメントの形状固有平均線形迅速度:C=ΣSeLS/t、ここでtは、これらの特定の形状内の対応する成功裏に完成したセグメントの始点から終了点までの経過秒数で表した累積エポック時間を表すことになる。
i.円形および正弦曲線形状検査において行われた成功裏の完成セグメントの形状固有平均円形迅速度:C=ΣSeCS/t、ここでtはこれらの特定の形状内の対応する成功裏に完成したセグメントの始点から終了点までの経過秒数で表した累積エポック時間を表すことになる。
j.螺旋形状検査において行われた成功裏に完成したセグメントの形状固有平均螺旋迅速度:C=ΣSe/t、ここでtはこの特定の形状内の対応する成功裏に完成したセグメントの始点から終了点までの経過秒数で表した累積エポック時間を表すことになる。
【0035】
3.描画精度パフォーマンススコア/尺度:
(該当する場合、各形状について2回の試行のうちの最高値[完成セグメントの最大数]に基づく分析)
a.各特定の形状について始点から到達した終点チェックポイントまでの描画軌跡と目標描画経路との積算表面偏差の全曲線下面積(AUC)尺度の和を、これらの形状内の対応する(始点から到達した終点チェックポイントまでの)目標経路の合計累積長で割った値として計算される偏差(Dev)。
b.3a項のDevであるが、特に線形および正方形形状検査結果からのDevとして計算される線形偏差(Dev)。
c.3a項のDevであるが、特に円形および正弦曲線形状検査結果からのDevとして計算される円形偏差(Dev)。
d.3a項のDevであるが、特に螺旋形状検査結果からのDevとして計算される螺旋偏差(Dev)。
e.3a項のDevであるが、最良の試行内で少なくとも3つのセグメントが成功裏に完成した形状についてのみ適用可能な、6つの異なる形状検査結果のそれぞれからのDevとして別々に計算される形状固有偏差(Dev1-6)。
f.目標軌跡からの形状固有または形状に依存しない全体的偏差を計算する任意の他の方法の連続変数分析。
【0036】
4.圧力プロファイル測定
i)平均圧力をかける
ii)圧力の標準偏差として計算される偏差(Dev)。
一実施形態では、表1にリストされているパフォーマンスパラメータから選択された少なくとも1つのパフォーマンスパラメータが判定される。さらに他の実施形態では、表1の少なくとも2つまたは少なくとも3つのパフォーマンスパラメータが判定される。さらに他の実施形態では、表1にリストされている4つのパフォーマンスパラメータすべてが判定される。
【0037】
表1:中枢運動機能能力の典型的なパフォーマンスパラメータ
【0038】
【表1】
【0039】
しかし、本発明の方法によると、さらなる臨床的、生物学的または遺伝的パラメータも考慮されてもよい。典型的には、前記さらなるパラメータは、たとえばハンチンチン遺伝子変異の遺伝子検査から得てもよい。
【0040】
本明細書で使用される「モバイルデバイス」という用語は、上記の測定のデータセットを取得するのに適したセンサとデータ記録装置とを少なくとも含む任意のポータブルデバイスを指す。これは、データプロセッサと記憶ユニットと、モバイルデバイス上で圧力測定検査を電子的にシミュレーションするためのディスプレイも必要とする場合がある。データプロセッサは、中央処理装置(CPU)および/または1つまたは複数のグラフィックスプロセッシングユニット(GPU)および/または1つまたは複数の特定用途向け集積回路(ASIC)および/または1つまたは複数のテンソルプロセッシングユニット(TPU)および/または1つまたは複数のフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などを含み得る。また、被験者の活動から、データを記録し、モバイルデバイス自体上でまたは第2のデバイス上で本発明の方法によって評価されるデータセットにまとめるものとする。想定される特定の設定によっては、モバイルデバイスは、取得されたデータセットをモバイルデバイスからさらなるデバイスに転送するためにデータ送信装置を含む必要がある場合がある。本発明によるモバイルデバイスとして特によく適するのは、スマートフォン、ポータブルマルチメディアデバイスまたはタブレットコンピュータである。あるいは、データ記録および処理装置を備えたポータブルセンサが使用されてもよい。また、行う活動検査の種類によっては、モバイルデバイスは、検査のために実施される活動に関する被験者のための指示を表示するようになされるものとする。被験者によって実施される想定される特定の活動については、本明細書の他の個所で説明しており、本明細書に記載の中枢運動機能能力の検査を包含する。
【0041】
少なくとも1つのパラメータの判定は、データセットから直接、パフォーマンスパラメータとして所望の測定値を導出することによって行うことができる。あるいは、パフォーマンスパラメータは、データセットからの1つまたは複数の測定値を組み込んでもよく、したがって、計算などの数学的手法によってデータセットから導出されてもよい。典型的には、パフォーマンスパラメータは、自動化アルゴリズムによって、たとえば、前記データセットが供給されるデータ処理デバイスに有形に組み込まれると測定のデータセットからパフォーマンスパラメータを自動的に導出するコンピュータプログラムによって、データセットから導出される。
【0042】
本明細書で使用する「基準」という用語は、判定された少なくとも1つのパフォーマンス特性とTMSとの間の相関関係の確立を可能にする識別手段を指す。基準は、典型的には、トレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実装回帰モデルから、少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗法(PLS)分析を使用して得られる。前記トレーニングデータは、典型的には既知のTMSを有するHDに罹患している被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットである。基準は、判定された少なくとも1つのパフォーマンスパラメータから予測するTMSを計算することを可能にするモデル方程式であってもよい。あるいは、基準は、予測するTMSをそこから導出することができる、スコアリングチャート、少なくとも1つの予測値プロット、少なくとも1つの相関値プロット、および少なくとも1つの残差プロットなどの、相関曲線またはその他のグラフ表現であってもよい。モバイルデバイスなどのデータ処理デバイス内の処理ユニットを使用して、PLSによって上記のようにトレーニングデータを分析することによって回帰モデルが作成されてもよい。したがって、基準は、PLS分析の一実施形態では、典型的には、分析に基づく、モデル方程式、スコアリングチャート、少なくとも1つの予測値プロット、少なくとも1つの相関値プロット、および少なくとも1つの残差プロットである。
【0043】
判定された少なくとも1つのパフォーマンスパラメータと基準との比較は、コンピュータなどのデータ処理デバイス上で実装された自動比較アルゴリズムによって行うことができる。アルゴリズムは、回帰モデルから予測TMSを導出することを目的とする。これは、たとえば、少なくとも1つのパフォーマンスパラメータをモデル方程式に代入することによって、または少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを相関曲線またはその他のグラフ表現と比較することによって行うことができる。この比較の結果として、被験者におけるTMSを予測することができる。
【0044】
予測TMSは、その後、被験者、または医師などの他の人物に示される。典型的には、これは、モバイルデバイスまたは評価デバイスのディスプレイ上に予測TMSを表示することによって行われる。あるいは、薬物療法などの治療のため、または特定の生活様式のための推奨が被験者またはその他の人物に自動的に提供される。この目的のために、予測TMSはデータベース内の様々なTMSに割り当てられた推奨と比較される。予測TMSが、記憶され、割り当てられたTMSのうちの1つと一致した後は、予測TMSと一致する記憶されている診断への推奨の割り当てにより、適切な推奨を特定することができる。したがって、典型的には、推奨とTMSとがリレーショナルデータベースの形態で存在することが想定される。しかし、適切な推奨の特定を可能にする他の構成も可能であり、当業者には知られている。
【0045】
典型的には、被験者におけるTMSを予測する本発明の方法は、以下のように実施可能である。
第1に、モバイルデバイスを使用して前記被験者から得られた中枢運動機能能力の測定の既存のデータセットから、少なくとも1つのパフォーマンスパラメータが判定される。前記データセットは、モバイルデバイスからコンピュータなどの評価デバイスに送信されていてもよく、またはデータセットから前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを導出するためにモバイルデバイス内で処理されてもよい。
【0046】
第2に、判定された少なくとも1つのパフォーマンスパラメータは、たとえば、モバイルデバイスのデータプロセッサによって、または評価デバイス、たとえばコンピュータによって実行されるコンピュータ実装比較アルゴリズムを使用して基準と比較される。前記基準は、トレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実装回帰モデルから、少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗(PLS)分析を使用して得られる。比較の結果は、比較で使用された基準を基準にして評価され、前記評価に基づいて被験者のTMSが自動的に予測されることになる。
【0047】
第3に、TMSは被験者、または医師などの他の人物に示される。
本発明は、上記に照らして、HDに罹患している被験者におけるTMSを予測する方法も特に企図しており、この方法は、
a)モバイルデバイスを使用して前記被験者から、前記被験者によって行われた所定の活動中に中枢運動機能能力の測定のデータセットを取得するステップと、
b)モバイルデバイスを使用して前記被験者から取得された測定のデータセットから判定される少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを判定するステップと、
c)判定された上記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを、上記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗(PLS)分析を使用してトレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実装回帰モデルから取得された基準と比較するステップと、
d)前記被験者におけるTMSを予測するステップとを含む。
【0048】
有利なことに、本発明の基礎となっている研究において、HD患者における中枢運動機能能力の測定のデータセットから得られたパフォーマンスパラメータを、それらの患者におけるTMSを予測するためのデジタルバイオマーカとして使用することができることがわかった。パフォーマンスパラメータは、少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗(PLS)分析を使用してトレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実装回帰モデルから得られた基準と比較することができる。前記データセットは、UHDRSシステムを使用した複雑で主観的な検査によってではなく、どこにでもあるスマートフォン、ポータブルマルチメディアデバイス、またはタブレットコンピュータなどの被験者が特定の検査を行うモバイルデバイスを使用して、便利な方式でHD患者から取得することができる。取得されたデータセットは、後でデジタルバイオマーカとして適したパフォーマンスパラメータについて本発明の方法によって評価することができる。前記評価は、同じモバイルデバイス上で実施することができるか、または別個のリモートデバイス上で実施することができる。また、このようなモバイルデバイスを使用して、予測TMSに基づいて生活様式または治療に関する推奨を、患者に直接、すなわち診療所または救急車における医師の診察なしに提供することができる。本発明により、本発明の方法によって実際に判定されたパフォーマンスパラメータの使用によってHD患者の生活状況を実際のTMSに正確に合わせて調整することができる。これにより、患者の現状にとってより効率的な薬物療法または呼吸補助などの治療処置を選択することができる。
【0049】
本発明の方法は、
- 病状を評価する、
- 患者を、特に実生活において、日常の状況で広範囲にわたりモニタリングする、
- 生活様式、補助および/または治療に関する推奨により患者を支援する、
- たとえば治験時にも、薬物の有効性を調査する、
- 治療意思決定を容易にし、および/または助ける、
- 病院管理を支援する、
- リハビリテーション処置管理を支援する、
- より高密度な認知、運動、および歩行活動をシミュレーションするリハビリテーション手段として病状を改善する、
- 公衆健康保険評価および管理を支援する、および/または、
- 保健管理における決定を支援する
ために使用することができる。
【0050】
上記の用語の説明および定義は、必要な変更を加えて以下で説明する実施形態に適用される。
以下では、本発明の方法の特定の実施形態について説明する。
【0051】
さらなる一実施形態では、中枢運動機能能力の前記測定がモバイルデバイスを使用して実施された。
一実施形態では、前記モバイルデバイスは、スマートフォン、スマートウォッチ、ウェアラブルセンサ、ポータブルマルチメディアデバイスまたはタブレットコンピュータに含まれる。
【0052】
さらなる一実施形態では、中枢運動機能能力の前記測定は、微細運動機能の測定を含む。
さらなる実施形態では、少なくとも4つのパフォーマンスパラメータが使用される。
【0053】
さらに一実施形態では、トレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実装回帰モデルから、前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗(PLS)分析を使用して得られる前記基準は、PLS分析の一実施形態においては、分析に基づく、モデル方程式、スコアリングチャート、少なくとも1つの予測値プロット、少なくとも1つの相関値プロット、および少なくとも1つの残差プロットである。
【0054】
本発明は、コンピュータプログラム、コンピュータプログラム製品、または前記コンピュータプログラムが有形に組み込まれたコンピュータ可読記憶媒体であって、コンピュータプログラムはデータ処理デバイスまたはコンピュータ上で実行されると上記のような本発明の方法を実施する命令を含む、コンピュータプログラム、コンピュータプログラム製品またはコンピュータ可読記憶媒体も企図する。具体的には、本発明は、
- 少なくとも1つのプロセッサを含むコンピュータまたはコンピュータネットワークであって、プロセッサは本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するようになされた、コンピュータまたはコンピュータネットワークと、
- コンピュータロード可能データ構造がコンピュータ上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を行うようになされたコンピュータロード可能データ構造と、
- コンピュータスクリプトであって、コンピュータプログラムが、コンピュータ上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を行うようになされている、コンピュータスクリプトと、
- コンピュータプログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を行うプログラム手段を含むコンピュータプログラムと、
- 前記実施形態によるプログラム手段を含むコンピュータプログラムであって、プログラム手段はコンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記憶されている、コンピュータプログラムと、
- 記憶媒体であって、記憶媒体上にデータ構造が記憶され、データ構造は、コンピュータの、またはコンピュータネットワークのメインストレージおよび/または作業用ストレージにロードされた後、本明細書に記載の実施形態の1つによる方法を行うようになされた、記憶媒体と、
- プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品であって、プログラムコード手段は、プログラムコード手段がコンピュータ上またはコンピュータネットワーク上で実行される場合に本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を行うために、記憶媒体に記憶可能であるかまたは記憶媒体に記憶されているコンピュータプログラム製品と、
- モバイルを使用して被験者から得られた圧力測定のデータセットを含む典型的には符号化されたデータストリーム信号と、
- モバイルを使用して被験者から得られた圧力測定のデータセットから導出された少なくとも1つの少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを含む、典型的には符号化されたデータストリーム信号とをさらに含む。
【0055】
本発明は、さらに、モバイルデバイスを使用して、HDに罹患している前記被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットから少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを判定する方法であって、
a)モバイルデバイスを使用して前記被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットから少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを導出することと、
b)判定された少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを基準と比較することであって、前記基準は、トレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実装回帰モデルから、前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗(PLS)分析を使用してトレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実装回帰モデルから得られた基準と比較することとを含み、
典型的には前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータは、前記被験者におけるTMSの予測を支援することができる方法に関する。
【0056】
本発明は、本発明の方法(すなわちTMSを予測する方法)のステップと、治療時に被験者にHDおよび/またはTMSの改善が生じた場合に治療反応を判定し、または、治療時に被験者にHDおよび/またはTMSの悪化が生じた場合またはHDおよび/またはTMSが変化しない場合、反応の失敗を判定するステップとをさらに含む、HDの治療の有効性を判定する方法も包含する。
【0057】
本明細書で使用する「HDの治療」という用語は、薬物ベースの治療、呼吸補助などを含むあらゆる種類の医療を指す。この用語は、生活様式に関する推奨およびリハビリテーション処置も包含する。典型的には、この方法は、薬物ベースの治療と、特に、HDの治療に有用であることが知られている薬物による治療の推奨を包含する。そのような薬物は、テトラベナジン、神経遮断薬、ベンゾジアゼピン、アマンタジン、レマセミド、抗パーキンソン薬、バルプロ酸、またはエチルエイコサペント酸であってもよい。また、上記の方法は、さらに一実施形態では、被験者に推奨治療を適用する追加ステップを含んでもよい。
【0058】
また、本発明により、本発明の上記の方法(すなわちTMSを予測する方法)のステップと、治療時に被験者にHDおよび/またはTMSの改善が生じた場合に治療反応を判定し、被験者にHDおよび/またはTMSの悪化が生じた場合またはHDおよび/またはTMSが変化しないままである場合に反応の失敗を判定するさらなるステップを含む、HDの治療の有効性を判定する方法が包含される。
【0059】
本発明により言及される「改善」という用語は、全般的病状または病状の個別の症状、具体的には予測TMSのあらゆる改善に関する。同様に、「悪化」は、全般的病状または病状の個別の症状、具体的には予測TMSの、あらゆる悪化を意味する。進行性疾病としてのHDには、典型的には全般的病状とその症状の悪化が伴うため、上記の方法に関連して言及する悪化は、この疾病の通常の経過を超える、予期しないかまたは典型的ではない悪化である。変化しないHDとは、全般的病状および付随する症状がこの疾病の通常の経過の範囲内であることを意味する。
【0060】
また、本発明は、所定のモニタリング期間中に少なくとも2回、本発明の方法(すなわちTMSを予測する方法)のステップを実施することによって被験者の前記疾病が改善、悪化または変化しないままであるかを判定することを含む、被験者のHDをモニタリングする方法に関する。TMSが改善する場合、この疾病は改善し、TMSが悪化する場合、この疾病は悪化し、TMSが変化しないままである場合、この疾病は同定度である。
【0061】
本発明は、モバイルデバイスであって、プロセッサと、少なくとも1つのセンサと、データベースと、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると、本発明の方法を実施するソフトウェアとを含むモバイルデバイスに関する。
【0062】
したがって、前記モバイルデバイスは、データセットを取得することができ、そのデータセットからパフォーマンスパラメータを判定することができるように構成される。また、モバイルデバイスは、基準との比較を行い、予測、すなわちTMSの予測を立てるように構成される。また、モバイルデバイスは、典型的には、トレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実装回帰モデルから、少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗(PLS)分析を使用して基準を取得および/または生成することも可能である。前記目的のためにモバイルデバイスがどのように設計可能であるかについての詳細は、本明細書の他の個所ですでに詳細に説明している。
【0063】
システムが、少なくとも1つのセンサを含むモバイルデバイスと、プロセッサとデータベースとを含むリモートデバイスであって、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると本発明の方法を実施するソフトウェアも含むリモートデバイスとを含み、前記モバイルデバイスと前記リモートデバイスとが互いに動作可能にリンクされている。
【0064】
「互いに動作可能にリンクされている」とは、これらのデバイスが、一方のデバイスから他方のデバイスへのデータ転送を可能にするように接続されるものと理解すべきである。典型的には、取得されたデータが処理のためにリモートデバイスに送信可能なように、少なくとも被験者からデータを取得するモバイルデバイスが本発明の方法のステップを実行するリモートデバイスに接続される。しかし、リモートデバイスもモバイルデバイスに、その正常な機能を制御または監視する信号などのデータを送信してもよい。モバイルデバイスとリモートデバイスとの間の接続は、同軸ケーブル、ファイバケーブル、光ファイバケーブルまたはツイストペアケーブル、10BASE-Tケーブルなどの永続的または一時的物理接続によって実現され得る。あるいは、接続は、たとえば、Wi-Fi、LTE、LTE-advancedまたはBluetoothなどの電波を使用する一時的または永続的無線接続によって実現され得る。詳細は、本明細書の他の箇所に記載されている場合がある。データ取得のために、モバイルデバイスは、画面などのユーザインターフェースまたはデータ取得のためのその他の装置を備え得る。典型的には、活動測定は、モバイルデバイスが備える画面上で行うことができ、この場合、前記画面はたとえば12.95cm(5.1インチ)画面を含む、異なる大きさを有し得るものと理解されたい。
【0065】
また、本発明は、被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットから少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを使用して、HDに罹患している被験者におけるTMSを予測するための、本発明によるモバイルデバイスまたはシステムの使用を企図していることを理解されたい。
【0066】
本発明は、患者のモニタリング、具体的には、患者を実生活において日常の状況で広範囲にわたりモニタリングするための、本発明によるモバイルデバイスまたはシステムの使用も企図している。
【0067】
本発明には、さらに、生活様式、および/または治療に関する推奨により患者を支援するための、本発明によるモバイルデバイスまたはシステムの使用も包含される。
さらに、本発明は、たとえば治験中も、薬物の安全性と有効性とを調査するための、本発明によるモバイルデバイスまたはシステムの使用を企図していることを理解されたい。
【0068】
また、本発明は、治療意思決定を容易にし、および/または助けるための、本発明によるモバイルデバイスまたはシステムの使用を企図している。
さらに、本発明は、リハビリテーション手段として病状を改善するためと、病院管理、リハビリテーション手段管理、健康保険評価および管理、および/または公衆保健管理における意思決定の支援のための、本発明によるモバイルデバイスまたはシステムの使用も提供する。
【0069】
以下に、本発明のさらなる特定の実施形態を列挙する。
実施形態1:ハンチントン病(HD)に罹患している被験者における総合運動スコア(TMS)を予測する方法であって、
a)前記被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットから、少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを判定するステップと、
b)判定された前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを、前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗(PLS)分析を使用してトレーニングデータを基に生成されたコンピュータ実施回帰モデルから得られた基準と比較するステップと、
c)前記比較に基づいて前記被験者のTMSを予測するステップとを含む、方法。
【0070】
実施形態2:中枢運動機能能力の前記測定は、モバイルデバイスを使用して実施されている、実施形態1の方法。
【0071】
実施形態3:前記モバイルデバイスは、スマートフォン、スマートウォッチ、ウェアラブルセンサ、ポータブルマルチメディアデバイスまたはタブレットコンピュータ内に含まれる、実施形態2の方法。
【0072】
実施形態4:中枢運動機能能力の前記測定は、微細運動機能の測定を含む、実施形態1から3のいずれか1つの実施形態の方法。
【0073】
実施形態5:少なくとも4つのパフォーマンスパラメータが使用される、実施形態1から4のいずれか1つの実施形態の方法。
【0074】
実施形態6:表1の4つのパフォーマンスパラメータの少なくとも1つ、一実施形態では少なくとも2つ、さらなる一実施形態では少なくとも3つ、さらなる一実施形態では4つのパフォーマンスパラメータすべてが判定される、実施形態1から5のいずれか1つの実施形態の方法。
【0075】
実施形態7:ステップa)の前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータは、データ処理デバイス上に有形に組み込まれた自動化アルゴリズムによって前記データセットから導出される、実施形態1から6のいずれか1つの実施形態の方法。
【0076】
実施形態8:ステップb)における前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを基準値と比較するステップは、データ処理デバイス上で実装された自動化比較アルゴリズムによって行われる、実施形態1から7のいずれか1つの実施形態の方法。
【0077】
実施形態9:前記少なくとも1つのパフォーマンスパラメータとともに一実施形態では部分最小二乗(PLS)分析を使用してトレーニングデータを基に生成されるコンピュータ実装回帰モデルから得られる前記基準は、一実施形態では前記PLS分析における分析により、モデル方程式、スコアリングチャート、少なくとも1つの予測値プロット、少なくとも1つの相関値プロット、および少なくとも1つの残差プロットである、実施形態1から8のいずれか1つの実施形態の方法。
【0078】
実施形態10:前記方法はコンピュータ実装される、実施形態1から9のいずれか1つの実施形態の方法。
【0079】
実施形態11:プロセッサと少なくとも1つのセンサとデータベースとを含むモバイルデバイスであって、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると実施形態1から10のいずれか1つの実施形態の方法のうちの少なくともステップa)を実施し、一実施形態では実施形態1から10のいずれか1つの実施形態の方法を実施するソフトウェアを含む、モバイルデバイス。
【0080】
実施形態12:少なくとも1つのセンサを含むモバイルデバイスと、プロセッサとデータベースと、前記デバイスに有形に組み込まれ、前記デバイス上で実行されると実施形態1から10のいずれか1つの実施形態の方法を実施するソフトウェアとを含むリモートデバイスとを含むシステムであって、前記モバイルデバイスと前記リモートデバイスとは互いに動作可能にリンクされている、システム。
【0081】
実施形態13:被験者からの中枢運動機能能力の測定のデータセットから少なくとも1つのパフォーマンスパラメータを使用して、HDに罹患している前記被験者におけるTMSを予測するための、実施形態11によるモバイルデバイスまたは実施形態12のシステムの使用。
【0082】
本明細書全体を通じて引用されているすべての参照文献は、それらの文献の開示内容全体に関して、および本明細書で言及されている特定の開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1】異なるモデル、すなわち、k近傍法(kNN)、線形回帰、部分最小二乗(PLS)、ランダムフォレスト(RF)、およびエクストラツリー(Extremely Randomized Trees(XT))を使用して得られたTMS予測結果を示す図であり、f:モデルに含まれる特徴数、y-軸:r(予測値と実際の値との相関)、上段:検査データセット、下段:トレーニングデータ、下段において、上のグラフは「平均」予測、すなわち被験者ごとのすべての観察値の平均値の予測に関し、下のグラフは「全」予測、すなわちすべての個別観察値の予測に関し、最良結果はPLSを使用して得られる図である。
【0084】
実施例:
以下の実施例は、本発明を例示するに過ぎない。これらは本発明の範囲を限定するように解釈すべきではない。
【0085】
実施例1:
ISIS443139-CS2調査研究は、Study ISIS 443139-CS1に参加した患者のオープンラベル継続投与試験(OLE)である。調査研究ISIS 443139-CS1は、25歳から65歳までの年齢の初期発現HDに罹患している46人の患者における反復投与漸増(MAD)調査研究であった。46人の被験者を含む調査研究ISIS 443139-CS2(「HD OLE」)は、kNN、線形回帰、PLS、RFおよびXTによって調査された。モデル構築時に10件の検査から合計53の特徴が評価された。関連する検査および判定されたパラメータは、以下の表2に記載されている。最も高い相関を有するモデルを特定するために、異なる技術によって構築されたモデルが機械学習アルゴリズムによって調べられた。図1に、HDを示すTMS値を予測するための分析モデル、具体的には回帰モデルの相関プロットを示す。図1は、具体的には、各リグレッサタイプについて予測変数と真の目標変数とのスピアマン相関係数rsを示しており、具体的には、左から右の順に、kNN、線形回帰、PLS、RFおよびXTをそれぞれの分析モデルに含まれる特徴数fの関数として示している。上段は、検査データセットについて試験したそれぞれの分析モデルのパフォーマンスを示す。下段は、トレーニングデータにおいて試験したそれぞれの分析モデルのパフォーマンスを示す。パフォーマンスが最高の回帰モデルは、円と矢印で示されているr値が0.65の、モデルに4つの特徴が含まれたPLSであることがわかった。以下の表(表2)に、特徴が導出されたPLSアルゴリズム(相関が最も高い)試験からの特徴の概要と、特徴の簡単な説明とランク付けとを示す。
表2
【0086】
【表2】
【0087】
引用文献
The Huntington Group, 1996, Movement Disorders, 11(2):136
図1
【国際調査報告】