(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-01
(54)【発明の名称】濃縮灌流培地
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20221124BHJP
C12N 5/00 20060101ALI20221124BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20221124BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221124BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20221124BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20221124BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20221124BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221124BHJP
C07K 14/52 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/00
C12N1/00 F
C12N5/10
C12P21/02 C
C12P21/08
C12P21/02 K
C07K16/00
C07K19/00
C07K14/52
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518944
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2020076836
(87)【国際公開番号】W WO2021058713
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】コフマン,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】リン,ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】ルーマン,トッド
(72)【発明者】
【氏名】オガワ,デイジー
(72)【発明者】
【氏名】ラヴィクリシュナン,ジャナニ
(72)【発明者】
【氏名】テスマン,ヘイデン
(72)【発明者】
【氏名】ユルドゥルム,サメット
(72)【発明者】
【氏名】ユ,マルセッラ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG02
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4H045AA10
4H045AA11
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4H045CA40
4H045DA01
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む、無血清細胞培養灌流培地に関し、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地は、混合時に中性pHにpH調整される。前記の無血清細胞培養灌流培地の調製法も提供する。本発明はさらに、低い細胞特異的灌流速度で高い生産性を達成する、前記の無血清細胞培養灌流培地を使用して、灌流培養液中で哺乳動物細胞を培養するか又は関心対象のタンパク質を産生する方法に関する。本発明はさらに、灌流細胞培養液中のモル浸透圧濃度を制御するための、新規かつ改善された無血清細胞培養灌流培地の使用に関し、ここで、モル浸透圧濃度を増加させることにより、細胞培養の、例えば灌流細胞培養の生産期の細胞増殖を抑制することによって、全生産性及び/又は細胞特異的生産性は増加する。細胞増殖の抑制は特に、無駄なセルブリードの必要性を低減又は排除する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む、区画化された無血清細胞培養灌流培地であって、第一の濃縮フィードはアルカリ性濃縮フィードであり、第二の濃縮フィードは酸性濃縮フィードであり、第三の濃縮フィードは中性に近い濃縮フィードであり;ここで、前記区画化された無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを混合した時に、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中で中性のpHにpH調整される、前記培地。
【請求項2】
結果として得られる無血清細胞培養灌流培地が、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを混合した時に、6.7~7.5、6.9~7.4、好ましくは6.9~7.2のpHを有する、請求項1の区画化された無血清細胞培養灌流培地。
【請求項3】
前記希釈剤が滅菌水である、請求項1又は2の区画化された無血清細胞培養灌流培地。
【請求項4】
前記の区画化された無血清細胞培養灌流培地が、
(a)アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に添加するための;
(b)アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に、前もって事前に混合することなく、直接添加するための;及び/又は
(c)少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードを、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に直接混合するための
ものである、請求項1~3のいずれか一項の区画化された無血清細胞培養灌流培地。
【請求項5】
前記アルカリ性濃縮フィードが2倍から80倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードが2倍から40倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードが2倍から50倍の濃縮フィードである、請求項1~4のいずれか一項の区画化された無血清細胞培養灌流培地。
【請求項6】
アルカリ性濃縮フィードが9以上のpHを有し、酸性濃縮フィードが5以下のpHを有し、中性に近い濃縮フィードが7~8.5のpHを有する、請求項1~5のいずれか一項の区画化された無血清細胞培養灌流培地。
【請求項7】
酸性水性濃縮フィード、中性に近い水性濃縮フィード、及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するためのアルカリ性水性濃縮フィードであり、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される、該アルカリ性水性濃縮フィード。
【請求項8】
アルカリ性水性濃縮フィード、中性に近い水性濃縮フィード、及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するための酸性水性濃縮フィードであり、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される、該酸性水性濃縮フィード。
【請求項9】
アルカリ性水性濃縮フィード、酸性水性濃縮フィード、及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するための中性に近い水性濃縮フィードであり、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される、前記の中性に近い水性濃縮フィード
【請求項10】
(a)アルカリ性pH、酸性pH、及び中性pHにおける溶解度に基づいて、少なくとも3つの成分のサブグループの、細胞培養培地の成分を準備する工程、
(b)
(i)アルカリ性pHで可溶性である成分のサブグループを、アルカリ性水溶液に溶かして、アルカリ性濃縮フィードを形成する工程;
(ii)酸性pHで可溶性である成分のサブグループを、酸性水溶液に溶かして、酸性濃縮フィードを形成する工程;及び
(iii)中性pHで可溶性である成分のサブグループを、中性水溶液に溶かして、中性に近い濃縮フィードを形成する工程;
(c)場合により、調製されたアルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを別々の容器に保存する工程;及び
(d)調製されたアルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィード及び希釈剤を、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加える工程、
ここで
(i)アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられ;そして
(ii)該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられるか、あるいは該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加えられる直前に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つと予め混合され、
ここで、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤を混合した時に中性pHに自動的にpH調整される、
を含む、無血清細胞培養灌流培地を調製する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法によって得ることのできる、無血清細胞培養灌流培地。
【請求項12】
(a)バイオリアクターに無血清細胞培養培地中で異種タンパク質を発現している哺乳動物細胞を接種する工程;
(b)哺乳動物細胞に無血清細胞培養灌流培地フィードを連続的にフィードし、培養液中に細胞を保持しながら、使用済み培地を除去することによって、灌流培養液中で哺乳動物細胞を培養する工程
を含む、灌流培養液中で異種タンパク質を発現している哺乳動物細胞を培養する方法であって、
前記無血清細胞培養灌流培地フィードは、(i)少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む、区画化された無血清細胞培養灌流培地で、第一の濃縮フィードは、アルカリ性濃縮フィードであり、第二の濃縮フィードは、酸性濃縮フィードであり、第三の濃縮フィードは、中性に近い濃縮フィードであり;ここでの区画化された無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを混合した時に、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中で中性のpHにpH調整される;及び/又は、(ii)請求項11記載の無血清細胞培養灌流培地であり、
区画化された無血清細胞培養灌流培地フィードのアルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられるか、又は、該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加えられる直前に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つと予め混合される、該方法。
【請求項13】
請求項12の方法を使用して治療用タンパク質を産生する方法。
【請求項14】
哺乳動物細胞を培養するための、請求項1~6のいずれか一項の区画化された無血清細胞培養灌流培地、又は請求項11の無血清細胞培養灌流培地の使用。
【請求項15】
灌流培養液中で哺乳動物細胞を培養するための、請求項1~6のいずれか一項の区画化された無血清細胞培養灌流培地、又は請求項11の無血清細胞培養灌流培地の使用。
【請求項16】
灌流細胞培養液のモル浸透圧濃度を制御するための、請求項1~6のいずれか一項の区画化された無血清細胞培養灌流培地、又は請求項11の無血清細胞培養灌流培地の使用。
【請求項17】
少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードを細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に添加するための、請求項1~6のいずれか一項の区画化された無血清細胞培養灌流培地の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む、無血清細胞培養灌流培地に関し、ここでの無血清細胞培養灌流培地は、混合時に中性pHにpH調整される。前記の無血清細胞培養灌流培地の調製法も提供する。本発明はさらに、低い細胞特異的灌流速度で高い生産性を達成する、前記の無血清細胞培養灌流培地を使用して、灌流培養液中で哺乳動物細胞を培養するか又は関心対象のタンパク質を産生する方法に関する。本発明はさらに、灌流細胞培養液中のモル浸透圧濃度を制御するための、新規かつ改善された無血清細胞培養灌流培地の使用に関し、ここで、モル浸透圧濃度の増加により、細胞培養中、例えば灌流細胞培養の生産期中の細胞増殖は抑制されることによって、全生産性及び/又は細胞特異的生産性は増加する。細胞増殖の抑制により特に、無駄なセルブリードの必要性は低減又は排除される。
【0002】
背景
哺乳動物細胞培養による組換えタンパク質の産生のための商業的プロセスでは、3つの方法が典型的には使用される:バッチ培養、フェッドバッチ培養、及び灌流培養。
【0003】
灌流に基づいた方法は、改善された産物の品質及び安定性、改善された規模の拡大可能性、及び増加した細胞特異的生産性を含む、バッチ法及びフェッドバッチ法を上回る改善の可能性を与える。バッチ及びフェッドバッチバイオリアクターとは異なり、灌流システムは、使用済培地の連続的除去を伴う。使用済培地を連続的に除去し、かつそれを新規培地と交換することによって、栄養分のレベルはより良好に維持され、同時に増殖条件は最適化され、そして細胞廃棄物は除去される。廃棄物の減少により、細胞及び発現産物に対する毒性は低減する。よって、灌流バイオリアクターにより典型的には、タンパク質の分解はかなり少なくなり、よってより高い品質の産物が得られる。産物はまた、はるかにより迅速かつ連続的に収集及び精製され得、これは、不安定な産物を産生する場合には特に有効である。
【0004】
灌流バイオリアクターはまた、より容易に規模を拡大することができる。伝統的なバッチシステム又はフェッドバッチシステムと比較して、灌流バイオリアクターは、規模の拡大可能性及び/又は漸増する需要に関して、いくつかの利点を提供する。1つには、灌流バイオリアクターはサイズがより小さく、より少ない容量で同じ生産性(すなわち産物の収量)を生じることができる。灌流バイオリアクターは、フェッドバッチバイオリアクターと比べて、5から20倍の濃度で機能することができることが認められている。例えば、100Lの灌流バイオリアクターは、1,000Lのフェッドバッチバイオリアクターと同じ産物の収量を生じることができる。それ故、1,000Lの灌流バイオリアクターの使用は、全体的な生産性に負の影響を及ぼすことなく、典型的な10,000Lの伝統的なフェッドバッチバイオリアクターをおそらく代用することができるだろう。この有意な利点により結果として、生産を拡大する場合に、より小さな空間が必要とされることになる。これによりまた結果として、より少ない作業設備、より少ない基本的施設、より少ない労働、装置の複雑さの低減、連続収集、及び増加した産物の収量に関して、多くの利点がもたらされる。
【0005】
高い細胞培養液の密度の達成は、灌流システムのより高い生産性の一端を説明する。典型的な大規模の市販のフェッドバッチ細胞培養プロセスでは、10~50×106個の細胞/mLの細胞密度を達成することができる。しかしながら、灌流に基づいたバイオリアクターでは、1×108個の細胞/mLを超える極度の細胞密度が達成された。さらに、灌流モードでは、使用済み培地の連続的な補充を通して、はるかに長い期間にわたり、高い細胞数が維持される。灌流バイオリアクターにおける長い期間にわたるより高い細胞密度が一部には、それらのより効率的な性能を説明する。
【0006】
典型的な灌流培養は、迅速な初期細胞増殖及びバイオマス蓄積を可能とする、1日以上続くバッチ培養の始動から始まり、それに続いて、培養液の増殖期及び生産期の全期間を通して、細胞を保持しながら、培養液に新たな灌流培地を連続的に、段階的に、及び/又は間断的に添加し、使用済み培地を同時に除去する。沈降、遠心分離、又はろ過などの様々な方法を使用して、細胞を維持しながら、使用済培地を除去することができる。1日あたりワーキングボリュームの何分の1から、1日あたりワーキングボリュームの何倍もという、灌流の流速が使用された。
【0007】
連続灌流システムは、伝統的なフェッドバッチシステム及びバッチシステムを上回る多くの利点を有するが、灌流バイオリアクターがより広く受け入れられ、かつ生物製剤製造産業に使用されるまでには、多くの課題が依然として残っている。例えば、灌流バイオリアクターは、連続したサイクルの培地の除去及び補充に因り、伝統的なフェッドバッチシステムよりもかなり多くの容量の培地を消費する。特に、1日あたり1~3の容器容量(vvd)の灌流速度を維持するのに必要とされる培地の容量は、試験規模(約100Lのバイオリアクター)を上回ると、不可能ではなくても、ロジスティックス的に困難となる。
【0008】
国際公開公報第92/22637号は、物理化学的特性に基づいて分離された、濃縮培地のサブグループを製剤化した。しかしながら、濃縮培地のサブグループは、混合時にpH調整されず、したがって、細胞培養液に直接添加するのは適切ではない。また、ワーキング濃度でμM範囲ではなくむしろmMの範囲のアミノ酸濃度を有する現代の細胞培養培地ほど富化していない、最小培地RPMI-1640、DMEM及びHamのF12などの、国際公開公報第92/22637号に開示の培地。
【0009】
連続灌流細胞培養システムの直面する別の問題は、一定した生細胞密度を維持し、その結果により、より健康でより生産的な細胞培養を維持するという課題である。これは典型的には、「セルブリード」を可能とすることによって対処されている。セルブリーディング中に、細胞は、定常状態の灌流細胞培養を可能とするに十分な速度で、除去され、廃棄物として廃棄される。一方、これにより生細胞密度は一定に保たれる。培養培地の大部分、したがって産物の大部分は、バイオリアクター内で一定の持続可能な生細胞密度を維持するために、増殖中の細胞及び培地を取り除く、セルブリーディングの技術に因り、失われる可能性がある。収集可能な物質の3分の1まで、セルブリーディング技術に因り失われる可能性がある。それ故、セルブリーディングの使用により、セルブリーディングによって除去された部分の中にある産物は収集されないので、1回の実行あたりの産物の収量は低減する。それ故、あらゆる量のセルブリーディングがプロセスの効率、産物の回収率に負の影響を及ぼし、最も重要なことには産物の減少に至る。セルブリード速度は、細胞増殖速度によって決定される。より急速な倍加時間も、一定の細胞密度を維持するためにより高いセルブリーディングを必要とし、結果としてより多くの廃棄を必要とする。
【0010】
セルブリーディングの代替選択肢として、その他の研究者は、細胞増殖速度を緩徐化するために化学物質の添加剤を試した。低減した細胞増殖はまた、典型的には、細胞特異的な生産性を増加させる。例えば、Du et al.(Biotechnology and Bioengineering, Vol. 112, No. 1, January 2015)は、増殖を制御しそして細胞培養液の生産性を改善するための、低分子細胞周期阻害剤の使用を報告した。類似の開示が、国際公開公報第2014/109858号に認められ、これはバッチ培養液、フェッドバッチ培養液、及び灌流培養液などの細胞培養液中のCDK4阻害剤の使用を開示している。Du et al.はさらに、CDK4/6阻害剤が、他の細胞内標的に影響を及ぼすことなく、細胞周期を特異的に阻害することを教義する。しかしながら、細胞増殖及び/又は細胞維持に必要とされない阻害剤及び化合物の使用は、回避されるべきである。したがって、灌流状態における細胞増殖を抑制し、かつセルブリーディングの必要性を回避するのに有効である、追加の方法が、技術を有意に前進させるのを助けるだろう。
【0011】
モル浸透圧濃度は、細胞増殖に影響を及ぼすための既知の手段である。細胞増殖に影響を及ぼすためにモル浸透圧濃度を使用する先行技術は、文献(Zhu, et al (2005) Biotechnology Progress 21, 70-77; Han, Koo and Lee (2009) Biotechnology Progress 25, 1440-1447; Hu and Aunins (1997) Current Opinion in Biotechnology, 148-153)において公知である。しかしながら、特に灌流培養液中の、細胞培養プロセスを目標のモル浸透圧濃度へと制御できることは、確立されていない。また、化学物質の添加剤は、培地の組成に影響を及ぼし、及び/又は、それに続く精製工程において除去される必要があるので、プロセスの複雑さは増す。塩を含む、化学物質の添加剤も、産物の品質に影響を及ぼし得る。
【0012】
調製済培地の消費などの灌流細胞培養における課題、及びさらなる生産性の向上の願望の観点から、ロジスティックスな問題を改善する培地、及び灌流状態における細胞増殖を抑制するのに有効であり、かつさらに添加剤を用いることなくセルブリーディングの必要性を回避する方法は、技術を有意に前進させるのを助けるだろう。
【0013】
発明の要約
本発明は一部には、細胞特異的灌流速度及び消費される調製済培地の容量を減少させるために、区画化によって、より濃縮された形態でフィード培地を開発することができるという発見に関する。これらの濃縮フィードは、バイオリアクター容器中で希釈される。それは、ろ過以外には調製を必要としない、希釈剤である滅菌脱イオン水と共に有利には使用される。さらに、本発明において設計された3つの培地の濃縮液(酸性、塩基性、及び中性に近い)の特有の組合せは、より高い倍率の濃縮液の使用を可能とし、それにより、培地の総容量はさらに低減する。調製済培地容量を減少させることによって、ボトルネックとしての培地容量を取り去り、それ故、1000Lの規模まで(及びもしかするとそれを上回るまで)灌流細胞培養プロセスの規模の拡大を根拠づけることができる、灌流プロセスが開発された。
【0014】
別々の濃縮フィード及び希釈剤の使用はまた、培養液のモル浸透圧濃度による細胞増殖の制御を可能とする。質量の平衡の概念を使用して、各濃縮フィードの既知のモル浸透圧濃度、フィード速度、計算された1日あたりの細胞特異的モル浸透圧濃度の消費速度を用いて、浸透圧の平衡を導くことにより、アウトプットとしての培養液の残留モル浸透圧濃度を予測した。この方法を使用して、細胞培養液の増殖は、残留モル浸透圧濃度を細胞障害性レベル(約400ミリオスモル又はそれ以上)より低く維持しつつ、生理学的にストレスなレベル(約350~400ミリオスモル又はそれ以上)まで増加させることによって制御され得る。生理学的にストレスなレベル並びに細胞障害性レベルは、細胞株に特異的であり得る。しかしながら、これは、様々なモル浸透圧濃度レベルで培養中の生細胞の濃度及び生存率を測定することによって容易に決定され得、これは3mlのワーキングボリュームなどの小さな規模で行なわれ得る。本発明において、培養液のモル浸透圧濃度は、一日あたりの一定した容器容量(VVD)でその日毎の培地濃縮液のフィード速度の変化、又は、培地濃縮液の一定したフィード速度でのその日毎のVVDのフィード速度の変化を含む、浸透圧の平衡を介して制御される。浸透圧の平衡は、濃縮液及び希釈剤の速度を調整することによって、より高い又はより低い残留モル浸透圧濃度を目標とすることができ、一方、他の研究者の使用した化学物質の添加剤のアプローチは、増加する方向にしかモル浸透圧濃度を調整することができない。本明細書に記載のような浸透圧の平衡は、細胞増殖を抑制するのに有効であり、そして、この増殖の抑制により、細胞特異的生産性は増加し、細胞培養液中の高い生存率の維持を助けたことが判明した。
【0015】
本明細書に記載の浸透圧の平衡による細胞増殖の抑制は、灌流細胞培養液中の細胞特異的生産性の増加及び持続した高い細胞生存率をもたらすだけでなく、さもなくば他の方法で細胞を定常増殖状態に維持するために、灌流状態の間にセルブリーディング技術を使用する必要性は減少するか又は排除される。これは、無駄かつ望ましくないセルブリーディング技術に起因する、産物の損失を低減又は排除する。
【0016】
本明細書において提供される3つの高度に濃縮されたフィード培地は理論的には、あらゆる種類の細胞培養システムに関連して使用され得るが、連続灌流細胞培養システムにおいて特に有益である。したがって、本発明に記載の無血清細胞培養灌流培地は、連続灌流細胞培養システムにおける使用に特に適している。また、浸透圧の平衡も理論的には、あらゆる種類の細胞培養システムに関連して使用され得る。しかしながら、それは、細胞培養システムが連続灌流細胞培養システムである場合に特に有益である。
【0017】
1つの態様では、本発明は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む、区画化された無血清細胞培養灌流培地に関し、ここで、第一の濃縮フィードはアルカリ性濃縮フィードであり、第二の濃縮フィードは酸性濃縮フィードであり、第三の濃縮フィードは中性に近い濃縮フィードであり;ここで、区画化された無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを混合した時に、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中で中性のpHにpH調整される。好ましい実施態様では、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器への添加前に、事前に混合されない。希釈剤は好ましくは滅菌水である。1つの実施態様では、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤の混合時に、6.7~7.5、6.9~7.4、好ましくは6.9~7.2のpHを有する。本発明に記載の区画化された無血清細胞培養灌流培地は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に、アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを別々に添加するのに;前もって事前に混合することなく、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に、アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを直接添加するのに;並びに/あるいは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードを直接混合するのに、適している。
【0018】
特定の実施態様では、アルカリ性濃縮フィードは2倍から80倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは2倍から40倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは2倍から50倍の濃縮フィードである。中性に近い濃縮フィードは、約6.5~約8.5のpHを有する。好ましくは、アルカリ性濃縮フィードは約9以上のpHを有し、酸性濃縮フィードは約5以下のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは約7~約8.5のpHを有する。また、アルカリ性濃縮フィード対酸性濃縮フィード対中性に近い濃縮フィードの比(v/v/v)は、中性pHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地が結果として得られるような、一定の比であり;そして、中性pHにpH調整されている、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中の、希釈剤、対、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの累積容量の比(v/v)は、無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度を決定する。
【0019】
酸性濃縮フィードは、微量元素、微量金属、無機塩、キレート剤、ポリアミン、及び調節ホルモンを含んでいてもよい。酸性濃縮フィード及び/又は中性に近い濃縮フィードは、界面活性剤、抗酸化剤、及び炭素源を含んでいてもよい。さらに、アルカリ性濃縮フィードは、9以上のアルカリ性pHで最大の溶解度を有するアミノ酸を含み、好ましくは少なくともアスパラギン酸、ヒスチジン、及びチロシン、並びに場合によりシステイン及び/又はシスチン及び/又は葉酸を含む。残りのアミノ酸は、酸性及び/又は中性に近い濃縮フィード、好ましくは酸性濃縮フィードにある。好ましくは、ビタミン及び金属は、別々のフィードにあり、好ましくはビタミンは中性に近い濃縮フィードにあり、金属は酸性フィードにある。水溶液中であまり溶けないビタミン、例えば塩化コリンなどは、中性フィード及び酸性フィードに存在する。
【0020】
本発明はまた、酸性水性濃縮フィード、中性に近い水性濃縮フィード及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するための、アルカリ性水性濃縮フィードに関し、ここでの無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される。別の実施態様では、本発明は、アルカリ性水性濃縮フィード、中性に近い水性濃縮フィード及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するための、酸性水性濃縮フィードに関し、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される。さらに別の態様では、本発明は、アルカリ性水性濃縮フィード、酸性水性濃縮フィード及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するための、中性に近い水性濃縮フィードに関し、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、無血清細胞培養灌流培地の調製法に関し、該方法は、(a)アルカリ性pH、酸性pH、及び中性pHにおける溶解度に基づいて、少なくとも3つの成分のサブグループの、細胞培養培地の成分を準備する工程、(b)(i)アルカリ性水溶液中にアルカリ性pHで可溶性である成分のサブグループを溶解して、アルカリ性濃縮フィードを形成する工程;(ii)酸性水溶液中に酸性pHで可溶性である成分のサブグループを溶解して、酸性濃縮フィードを形成する工程;及び(iii)中性水溶液中に中性pHで可溶性である成分のサブグループを溶解して、中性に近い濃縮フィードを形成する工程;(c)場合により、調製されたアルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを別々の容器に保存する工程;並びに(d)調製されたアルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィード及び希釈剤を、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加える工程を含み、ここで(i)アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられ、そして(ii)該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられるか、あるいは、該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加えられる直前に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つと予め混合され;ここでの、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤を混合した時にほぼ中性のpHに自動的にpH調整される。希釈剤は好ましくは滅菌水である。1つの実施態様では、該方法によって調製された結果として得られる無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤の混合時に、6.7~7.5、6.9~7.4、好ましくは6.9~7.2のpHを有する。
【0022】
特定の実施態様では、少なくとも3つの濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々のポートを通して滴下して添加される。少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの容器内混合及び希釈は、バイオリアクターへの添加前に混合及び希釈された無血清細胞培養灌流培地と比較して、14日間の培養期間にわたり、50~90%、好ましくは60~90%低い、調製済培地の消費を可能とする。典型的には、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器は哺乳動物細胞を含む。また、該方法はさらに、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器への保存及び/又は添加前に、濃縮フィードを滅菌する工程を含む。
【0023】
特定の実施態様では、アルカリ性濃縮フィードは2倍から80倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは2倍から40倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは2倍から50倍の濃縮フィードである。中性に近い濃縮フィードは6.5~8.5のpHを有する。好ましくは、アルカリ性濃縮フィードは9以上のpHを有し、酸性濃縮フィードは5以下のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは7~8.5のpHを有する。また、アルカリ性濃縮フィード対酸性濃縮フィード対中性に近い濃縮フィードの比(v/v/v)は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中で中性pHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地が結果として得られるような、一定の比であり;そして、中性pHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地が結果として得られるような、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に添加された、希釈剤、対、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの累積容量の比(v/v)は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中の無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度を決定する。特定の実施態様では、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器は、少なくとも約100Lの無血清細胞培養灌流培地、好ましくは少なくとも約1000Lの無血清細胞培養灌流培地を含む。好ましくは、細胞培養液は、少なくとも約100Lの容量を有し、及び/又は、バイオリアクターは少なくとも約100Lの容量を有する。より好ましくは、細胞培養液は、少なくとも約1000Lの容量を有し、及び/又は、バイオリアクターは少なくとも約1000Lの容量を有する。
【0024】
本発明に記載の方法によって得ることのできる無血清細胞培養灌流培地も提供される。
【0025】
別の態様では、本発明は、(a)バイオリアクターに、無血清細胞培養培地中で異種タンパク質を発現している哺乳動物細胞を接種する工程;(b)哺乳動物細胞に無血清細胞培養灌流培地フィードを連続的にフィードし、培養液中に細胞を保持しながら、使用済み培地を除去することによって、灌流培養液中で哺乳動物細胞を培養する工程を含む、灌流培養液中で異種タンパク質を発現している哺乳動物細胞を培養する方法に関し、ここでの無血清細胞培養灌流培地フィードは、(i)少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む、区画化された無血清細胞培養灌流培地であり(ここでの第一の濃縮フィードはアルカリ性濃縮フィードであり、第二の濃縮フィードは酸性濃縮フィードであり、第三の濃縮フィードは中性に近い濃縮フィードであり;ここでの区画化された無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを混合した時に、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中で中性pHにpH調整される);並びに/あるいは、(ii)本発明に記載の方法によって得ることのできる無血清細胞培養灌流培地であり、そして、ここでの無血清細胞培養灌流培地フィードのアルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられ、該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられるか、あるいは、該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加えられる直前に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つと予め混合される。該方法は典型的にはさらに、細胞培養液から異種タンパク質を収集する工程を含む。
【0026】
哺乳動物細胞は最初に、灌流培養が開始される前にバッチ培養液として培養されてもよく、及び/又は、灌流培養は培養から0日目から3日目に、すなわち接種後に開始される。典型的には、灌流速度は、灌流開始後、目標の生細胞密度に到達するまで増加させる。特定の実施態様では、灌流速度は、1日あたり0.5容器容量以下から、1日あたり約5容器容量まで、又は1日あたり0.5容器容量以下から1日あたり約2容器容量まで増加させる。
【0027】
特定の実施態様では、無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度は、増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルよりも高く増加し、結果として、目標の生細胞密度において増殖は抑制され、好ましくはここでの無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度レベルは、目標の生細胞密度のほぼ半分から開始して徐々に又は段階的に増加させる。目標の生細胞密度は、約30×106個の細胞/ml以上、約60×106個の細胞/ml以上、約80×106個の細胞/ml、好ましくは約100×106個の細胞/ml以上である。モル浸透圧濃度は、(a)濃縮フィードの一定の灌流速度及び希釈剤の変化する灌流速度(その結果として、全体の灌流速度は変化する);又は(b)一定の全体的な灌流速度及び変化する濃縮フィードの灌流速度を使用して制御され得;ここでの少なくとも3つの濃縮フィードは、それらの濃度倍率に応じて、互いに一定の比(v/v/v)で添加されることにより、1倍の無血清細胞培養灌流培地中における培地成分の相対的比率は維持される。したがって、モル浸透圧濃度は、(a)濃縮フィードの一定の灌流速度及び減少した希釈剤の灌流速度(結果として、全体的な灌流速度は減少する);又は(b)一定の全体的な灌流速度及び濃縮フィードの増加した灌流速度を、希釈剤の減少した灌流速度と共に使用して、増加させてもよく;ここでの少なくとも3つの濃縮フィードは、それらの濃度倍率に応じて、互いに一定の比(v/v/v)で添加されることにより、1倍の無血清細胞培養灌流培地中における培地成分の相対的比率は維持される。好ましくは、モル浸透圧濃度を増加させるために、さらなる添加剤は培養液に添加されない。
【0028】
当業者は、哺乳動物細胞の増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルを決定する方法を知っているだろう。1つの実施態様では、哺乳動物細胞の増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルは、約280から350ミリオスモル未満である。モル浸透圧濃度は、目標の生細胞密度のほぼ半分に到達するまで、増殖に至適なレベルで維持される。好ましくは、モル浸透圧濃度は、目標の生細胞密度のほぼ半分から開始して、好ましくは増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルの約10~50%まで徐々に又は段階的に増加させる。モル浸透圧濃度は、細胞増殖を抑制するモル浸透圧濃度レベルまで、ほぼ目標の生細胞密度まで増加させ、そこで維持され、ここでの哺乳動物細胞の細胞増殖を抑制するモル浸透圧濃度レベルは、1つの実施態様では、約350ミリオスモル以上、好ましくは約380ミリオスモル以上である。モル浸透圧濃度の増加により、生産期中のセルブリーディングの必要性は低減又は排除される。
【0029】
モル浸透圧濃度が増加すると、細胞増殖は抑制されて、セルブリーディングを行なうことなく持続可能な生細胞密度は維持される。細胞培養液中で産生される異種タンパク質の収量は、モル浸透圧濃度が増加していない対照の細胞培養液中の収量に比べて少なくとも5~50%増加している。
【0030】
一般的には、本発明の方法を使用すると、細胞特異的灌流速度(pl/細胞/日)は、1倍の無血清細胞培養培地の細胞特異的灌流速度に比べて少なくとも50%減少している。
【0031】
特定の実施態様では、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器は、少なくとも約100Lの無血清細胞培養灌流培地、好ましくは少なくとも約1000Lの無血清細胞培養灌流培地を含む。好ましくは、細胞培養液は少なくとも約100Lの容量を有し、及び/又はバイオリアクターは少なくとも約100Lの容量を有する。より好ましくは、細胞培養液は少なくとも約1000Lの容量を有し、及び/又はバイオリアクターは少なくとも約1000Lの容量を有する。
【0032】
異種タンパク質は、治療用タンパク質、抗体、又は治療に有効なその断片であり得る。哺乳動物細胞は、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ジャーカット細胞、293細胞、HeLa細胞、CV-1細胞、又は3T3細胞、又はこれらの中のいずれかの細胞の誘導体からなる群より選択された任意の細胞株であり得る。CHO細胞はさらに、CHO-DG44細胞、CHO-K1細胞、CHO DXB11細胞、CHO-S細胞、及びCHO GS欠損細胞又はその突然変異体からなる群より選択され得る。
【0033】
本発明に記載の方法によると、消泡剤、塩基、グルタミン、及びグルコースのリストから選択されたさらなる1つ以上の補助物質が別々に(すなわち追加的に)細胞培養液に添加されてもよい。
【0034】
本発明に記載の方法を使用して治療用タンパク質を産生する方法も提供される。
【0035】
哺乳動物細胞を培養するための、特に灌流培養液中で哺乳動物細胞を培養するための、本発明に記載の区画化された無血清細胞培養灌流培地、又は、本発明に記載の方法によって得ることのできる無血清細胞培養灌流培地の使用も提供される。特定の実施態様では、細胞特異的灌流速度(pl/細胞/日)は、1倍の無血清細胞培養培地の細胞特異的灌流速度と比較して少なくとも30%減少する。細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器への少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの別々の添加のための、本発明に記載の区画化された無血清細胞培養灌流培地の使用も提供される。
【0036】
さらに、本発明は、灌流細胞培養液中のモル浸透圧濃度を制御するための、本発明に記載の区画化された無血清細胞培養灌流培地、又は本発明に記載の方法によって得ることのできる無血清細胞培養灌流培地の使用を提供する。細胞培養液中のモル浸透圧濃度を増加させることにより、細胞増殖は抑制され、異種タンパク質の産生は増加する。細胞培養液中で産生される異種タンパク質の収量は、モル浸透圧濃度が増加していない対照の細胞培養液中の収量と比較して少なくとも5~50%増加している。1つの実施態様では、増殖抑制は、セルブリーディングを行なうことなく、持続可能な生細胞密度を維持するのに十分である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】酸性フィード、塩基性フィード及び中性フィード、及び希釈剤の別々の入口からの添加を示したバイオリアクター及びフィードの設備。
【
図2】例えば、3つの培地濃縮液の組合せを使用したフィーディング戦略を用いた灌流培養についての、バイオリアクター1Lあたり(L
バイオリアクター)及び1日あたりの培地(L
培地)のL数で示された、経時的なリアクター容量の交換率すなわち灌流速度、例えば典型的に動作している灌流速度:(3つの培地濃縮液の組合せ(MC:下の点線)、希釈剤と組み合わせたMC(培地濃縮液)(実線))及び組合せフィードの可能な最大の灌流速度(上の点線;VVDは、「1日あたりの容器容量」を意味する)。
【
図3】濃縮培地フィード+希釈剤のフィーディングスキームを使用した、3つの100Lのバイオリアクターの実行についての生細胞密度(+/-3標準偏差;実線)及び生存率(+/-3SD;点線)。この細胞株についての生細胞密度の本来のピーク値(すなわち高浸透圧による増殖阻害を伴わない)は、200×10
6個の細胞/mLを超える。モル浸透圧濃度のプレピーク値を増加させることによって、培養液の増殖は阻害され、生細胞密度のピーク値は抑制される。
【
図4】目標の生細胞密度に到達した約6日目まで漸増しているモル浸透圧濃度を示した、3つの100Lのバイオリアクターの実行のモル浸透圧濃度(ミリオスモル)。ピーク値の生細胞密度から、細胞増殖を抑制するために、モル浸透圧濃度は380ミリオスモルを超えるように保たれている。
【
図5】希釈剤の容量は変化させつつ、1日あたり0.5容器容量(VVD)に固定された濃縮培地フィードを使用した、3つの100Lのバイオリアクターの実行についてのリアクター容量の交換率(別名、灌流速度)。希釈剤の容量の変化により、培養容器中の残留モル浸透圧濃度は制御された。
【
図6】希釈剤の容量は変化させつつ(全体の灌流速度は変化する)、1日あたり0.5容器容量(VVD)に固定された濃縮培地フィードを使用した、3つの100Lのバイオリアクターについての透過液の生産性(1日あたりバイオリアクター1Lあたりのg数)。透過液の生産性は、セデックス社のバイオアナライザによって測定されるような1日あたりの透過液の瞬間的力価(培地1Lあたりのg数)に、1日あたりの灌流速度(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)を乗じることによって計算される。
【
図7】希釈剤の容量は変化させつつ(全体の灌流速度は変化する)、1日あたり0.5容器容量(VVD)に固定された濃縮培地フィードを使用した、3つの100Lのバイオリアクターについての組換えIgGを発現しているCHO細胞培養液の1日あたりの比生産性(Qp、pg/細胞/日)。1日あたりのQpは、バイオリアクターシステムの全生産性(すなわち、透過液を通して回収される産物及びバイオリアクター内に残留している産物)を合計し、1日あたりの生細胞密度(VCD)で割ることによって近似される。
【
図8】希釈剤の容量は変化させつつ(全体の灌流速度は変化する)、1日あたり0.5容器容量(VVD)に固定された濃縮培地フィードを使用した、3つの100Lのバイオリアクター中のCHO細胞についての細胞特異的灌流速度(nL/細胞/日)。
【
図9】異なる組換えIgG分子を発現している、3つのBI CHO細胞株A(◇)、B(□)及びC(△)についての生細胞密度(VCD、1×10
5個の細胞/mL;実線)及び生存率(%;点線)。データは、1日あたり2容器容量(VVD)の一定の灌流速度で、目標の残留モル浸透圧濃度を維持するために、変化する比率の3つの濃縮培地フィードと滅菌水の希釈剤を使用した、2Lの規模のバイオリアクターに由来する。
【
図10】異なる組換えIgG分子を発現している、3つのBI CHO細胞株A(◇)、B(□)及びC(△)についての培養液の残留モル浸透圧濃度。データは、1日あたり2容器容量(VVD)の一定の灌流速度で、目標の残留モル浸透圧濃度を維持するために、変化する比率の3つの濃縮培地フィードと滅菌水の希釈剤を使用した、2Lの規模のバイオリアクターに由来する。
【
図11】異なる組換えIgG分子を発現している、3つのBI CHO細胞株A(◇)、B(□)及びC(△)についてのリアクター容量交換率(別名、灌流速度;1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)。データは、1日あたり2容器容量(VVD)の一定の灌流速度で、目標の残留モル浸透圧濃度を維持するために、変化する比率の3つの濃縮培地フィードと滅菌水の希釈剤を使用した、2Lの規模のバイオリアクターに由来する。
【
図12】異なる組換えIgG分子を発現している、3つのBI CHO細胞株A(◇)、B(□)及びC(△)についての透過液の生産性(1日あたりバイオリアクター1Lあたりのg数)。透過液の生産性は、セデックス社のバイオアナライザによって測定されるような1日あたりの透過液の瞬間的力価(培地1Lあたりのg数)に、1日あたりの灌流速度(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)を乗じることによって計算される。データは、1日あたり2容器容量(VVD)の一定の灌流速度で、目標の残留モル浸透圧濃度を維持するために、変化する比率の3つの濃縮培地フィードと滅菌水の希釈剤を使用した、2Lの規模のバイオリアクターに由来する。
【
図13】異なる組換えIgG分子を発現している、3つのBI CHO細胞株A(◇)、B(□)及びC(△)についての1日あたりの比生産性(Qp、pg/細胞/日)。1日あたりのQpは、バイオリアクターシステムの全生産性(すなわち、透過液を通して回収される産物及びバイオリアクター内に残留している産物)を合計し、1日あたりの生細胞密度(VCD)で割ることによって近似される。データは、1日あたり2容器容量(VVD)の一定の灌流速度で、目標の残留モル浸透圧濃度を維持するために、変化する比率の3つの濃縮培地フィードと滅菌水の希釈剤を使用した、2Lの規模のバイオリアクターに由来する。
【
図14】異なる組換えIgG分子を発現している、3つのBI CHO細胞株A(◇)、B(□)及びC(△)についての細胞特異的灌流速度(CSPR;nL/細胞/日)。データは、1日あたり約2容器容量(VVD)の一定の灌流速度で、目標の残留モル浸透圧濃度を維持するために、変化する比率の3つの濃縮培地フィードと滅菌水の希釈剤を使用した、2Lの規模のバイオリアクターに由来する。細胞株間の細胞特異的灌流速度のばらつきは、生細胞密度(VCD)の差に起因する(生細胞密度及び生存率については
図9参照)。互いに対するフィードの比率は一定に保たれるが、希釈剤に対するフィードの全体的な比率は、式に従って、モル浸透圧濃度の質量平衡の計算に従って調整される:浸透圧のインプット=浸透圧のアウトプット+浸透圧の消費量、ここでの、浸透圧のインプットは、バイオリアクター内へと灌流している培地濃縮フィード及び希釈剤のモル浸透圧濃度であり、浸透圧のアウトプットは、バイオリアクターの上清の残留モル浸透圧濃度であり、浸透圧の消費量は、インプットとアウトプットとの間のモル浸透圧濃度の差である。浸透圧の消費量を使用して、所与の所望の浸透圧のアウトプットのために必要とされる浸透圧のインプットを計算する。その後、2vvdという全体の灌流速度で必要とされる浸透圧のインプットを達成するための、それぞれの濃縮フィード及び希釈剤の灌流速度が計算される。
【
図15A】ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)選択系において発現されるCHO DG44細胞株(細胞株A、Δ)、及びグルタミン合成酵素(GS)選択系において発現される2つの異なるCHO-K1細胞株の実行(二つ組)(細胞株B□、◇;細胞株C x、x)を、希釈剤の容量を変化させつつ、1日あたり計0.5容器容量(VVD)で固定された3つの濃縮培地フィードを使用して、2Lのバイオリアクター中で培養した。全細胞株が、異なる組換えIgG分子を発現している。(A)生細胞密度(VCD;1×10
5個の細胞/mL);(B)生存率(%);(C)透過液の生産性(g/L/日)(ここで、透過液の生産性は、セデックス社のバイオアナライザによって測定されるような1日あたりの透過液の瞬間的力価(培地1Lあたりのg数)に、1日あたりの灌流速度(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)を乗じることによって計算される);及び(D)リアクター容量交換率で表現される灌流速度(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)が示されている。
【
図15B】ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)選択系において発現されるCHO DG44細胞株(細胞株A、Δ)、及びグルタミン合成酵素(GS)選択系において発現される2つの異なるCHO-K1細胞株の実行(二つ組)(細胞株B□、◇;細胞株C x、x)を、希釈剤の容量を変化させつつ、1日あたり計0.5容器容量(VVD)で固定された3つの濃縮培地フィードを使用して、2Lのバイオリアクター中で培養した。全細胞株が、異なる組換えIgG分子を発現している。(A)生細胞密度(VCD;1×10
5個の細胞/mL);(B)生存率(%);(C)透過液の生産性(g/L/日)(ここで、透過液の生産性は、セデックス社のバイオアナライザによって測定されるような1日あたりの透過液の瞬間的力価(培地1Lあたりのg数)に、1日あたりの灌流速度(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)を乗じることによって計算される);及び(D)リアクター容量交換率で表現される灌流速度(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)が示されている。
【
図15C】ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)選択系において発現されるCHO DG44細胞株(細胞株A、Δ)、及びグルタミン合成酵素(GS)選択系において発現される2つの異なるCHO-K1細胞株の実行(二つ組)(細胞株B□、◇;細胞株C x、x)を、希釈剤の容量を変化させつつ、1日あたり計0.5容器容量(VVD)で固定された3つの濃縮培地フィードを使用して、2Lのバイオリアクター中で培養した。全細胞株が、異なる組換えIgG分子を発現している。(A)生細胞密度(VCD;1×10
5個の細胞/mL);(B)生存率(%);(C)透過液の生産性(g/L/日)(ここで、透過液の生産性は、セデックス社のバイオアナライザによって測定されるような1日あたりの透過液の瞬間的力価(培地1Lあたりのg数)に、1日あたりの灌流速度(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)を乗じることによって計算される);及び(D)リアクター容量交換率で表現される灌流速度(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)が示されている。
【
図15D】ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)選択系において発現されるCHO DG44細胞株(細胞株A、Δ)、及びグルタミン合成酵素(GS)選択系において発現される2つの異なるCHO-K1細胞株の実行(二つ組)(細胞株B□、◇;細胞株C x、x)を、希釈剤の容量を変化させつつ、1日あたり計0.5容器容量(VVD)で固定された3つの濃縮培地フィードを使用して、2Lのバイオリアクター中で培養した。全細胞株が、異なる組換えIgG分子を発現している。(A)生細胞密度(VCD;1×10
5個の細胞/mL);(B)生存率(%);(C)透過液の生産性(g/L/日)(ここで、透過液の生産性は、セデックス社のバイオアナライザによって測定されるような1日あたりの透過液の瞬間的力価(培地1Lあたりのg数)に、1日あたりの灌流速度(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)を乗じることによって計算される);及び(D)リアクター容量交換率で表現される灌流速度(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)が示されている。
【
図16A】グルタミン合成酵素(GS)選択系において組換えIgGを発現しているCHO-K1細胞株を、2Lのバイオリアクター中で培養した。実行は、「培地濃縮液は変化させ、計VVDは固定する」(◇)又は「培地濃縮液は固定し、計VVDは変化させる」(□)灌流対照モードのいずれかで実施された。「培地濃縮液は変化させ、計VVDは固定する」は、組み合わせた培地濃縮液(MC)の灌流速度を変化させ、そして同時に希釈剤の割合を変化させて、2VVDを維持することによって達成された、一定した1日あたりの総容器容量(VVD)の灌流速度を指す。「培地濃縮液は固定し、計VVDは変化させる」は、全体的に変動する灌流速度のために、希釈剤の灌流速度は変化させた、0.5VVDにおいて一定した培地濃縮液の灌流速度を指す。(A)生細胞密度(VCD、1×10
5個の細胞/mL;第一の軸)及び生存率(%;第二の軸)、(B)モル浸透圧濃度(ミリオスモル)、(C)調整された生産性(1日あたりのバイオリアクター1Lあたりのg数)、並びに(D)リアクター容量交換率(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)が示されている。
【
図16B】グルタミン合成酵素(GS)選択系において組換えIgGを発現しているCHO-K1細胞株を、2Lのバイオリアクター中で培養した。実行は、「培地濃縮液は変化させ、計VVDは固定する」(◇)又は「培地濃縮液は固定し、計VVDは変化させる」(□)灌流対照モードのいずれかで実施された。「培地濃縮液は変化させ、計VVDは固定する」は、組み合わせた培地濃縮液(MC)の灌流速度を変化させ、そして同時に希釈剤の割合を変化させて、2VVDを維持することによって達成された、一定した1日あたりの総容器容量(VVD)の灌流速度を指す。「培地濃縮液は固定し、計VVDは変化させる」は、全体的に変動する灌流速度のために、希釈剤の灌流速度は変化させた、0.5VVDにおいて一定した培地濃縮液の灌流速度を指す。(A)生細胞密度(VCD、1×10
5個の細胞/mL;第一の軸)及び生存率(%;第二の軸)、(B)モル浸透圧濃度(ミリオスモル)、(C)調整された生産性(1日あたりのバイオリアクター1Lあたりのg数)、並びに(D)リアクター容量交換率(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)が示されている。
【
図16C】グルタミン合成酵素(GS)選択系において組換えIgGを発現しているCHO-K1細胞株を、2Lのバイオリアクター中で培養した。実行は、「培地濃縮液は変化させ、計VVDは固定する」(◇)又は「培地濃縮液は固定し、計VVDは変化させる」(□)灌流対照モードのいずれかで実施された。「培地濃縮液は変化させ、計VVDは固定する」は、組み合わせた培地濃縮液(MC)の灌流速度を変化させ、そして同時に希釈剤の割合を変化させて、2VVDを維持することによって達成された、一定した1日あたりの総容器容量(VVD)の灌流速度を指す。「培地濃縮液は固定し、計VVDは変化させる」は、全体的に変動する灌流速度のために、希釈剤の灌流速度は変化させた、0.5VVDにおいて一定した培地濃縮液の灌流速度を指す。(A)生細胞密度(VCD、1×10
5個の細胞/mL;第一の軸)及び生存率(%;第二の軸)、(B)モル浸透圧濃度(ミリオスモル)、(C)調整された生産性(1日あたりのバイオリアクター1Lあたりのg数)、並びに(D)リアクター容量交換率(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)が示されている。
【
図16D】グルタミン合成酵素(GS)選択系において組換えIgGを発現しているCHO-K1細胞株を、2Lのバイオリアクター中で培養した。実行は、「培地濃縮液は変化させ、計VVDは固定する」(◇)又は「培地濃縮液は固定し、計VVDは変化させる」(□)灌流対照モードのいずれかで実施された。「培地濃縮液は変化させ、計VVDは固定する」は、組み合わせた培地濃縮液(MC)の灌流速度を変化させ、そして同時に希釈剤の割合を変化させて、2VVDを維持することによって達成された、一定した1日あたりの総容器容量(VVD)の灌流速度を指す。「培地濃縮液は固定し、計VVDは変化させる」は、全体的に変動する灌流速度のために、希釈剤の灌流速度は変化させた、0.5VVDにおいて一定した培地濃縮液の灌流速度を指す。(A)生細胞密度(VCD、1×10
5個の細胞/mL;第一の軸)及び生存率(%;第二の軸)、(B)モル浸透圧濃度(ミリオスモル)、(C)調整された生産性(1日あたりのバイオリアクター1Lあたりのg数)、並びに(D)リアクター容量交換率(1日あたりバイオリアクター1Lあたりの培地のL数)が示されている。
【0038】
詳細な説明
特定の用語の定義は、以下に提供されている。一般的に、本開示に提示されているあらゆる用語は、特に記載されるか又は定義されない限り、当技術分野におけるその通常の意味が与えられるべきである。
【0039】
一般的な実施態様「含んでいる」又は「含まれた」は、より具体的な実施態様「からなる」を包含する。さらに、単数形及び複数形は限定的に使用されない。本明細書において使用する単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、単数形のみを示すと明記されていない限り、単数形及び複数形の両方を示す。
【0040】
本明細書において使用する「灌流」という用語は、細胞をリアクター内に留めつつ、等容量の培地が同時に添加及びリアクターから除去される、細胞培養液のバイオリアクターを維持することを指す。灌流培養はまた、連続培養とも称され得る。これは、新たな栄養分の定常的な入手源及び定期的な細胞廃棄物の除去を提供する。灌流は、従来のバイオリアクターバッチ又はフェッドバッチの条件よりも、はるかにより高い細胞密度及びよってより高い容量あたりの生産性を達成するために使用される。タンパク質分泌産物は、リアクター内に細胞を留めつつ、例えばろ過、交互タンジェンシャルフロー(ATF)、細胞沈降、超音波による分離、ハイドロクローン、若しくは当業者には公知の他の方法によって、又はKompala and Ozturk(Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies, (2006), Taylor & Francis Group, LLC, pages 387-416)に記載のように連続的に収集され得る。哺乳動物細胞は、懸濁培養液中で(均一な培養液)、又は、表面に付着させて、若しくは様々な器具に捕捉して増殖させてもよい(不均一な培養液)。バイオリアクター内のワーキングボリュームを一定に保つために、収集速度及びセルブリード(液体の除去)は、所定の灌流速度に等しくするべきである。培養は典型的にはバッチ培養によって開始され、灌流は、細胞が依然として指数関数増殖期にあり、かつ栄養制限が起こる前である、接種後2~3日目に開始される。高い接種密度(5×106個の細胞/ml又はそれ以上)での接種は、より早期の又はさらには即座の灌流の開始を必要とし得る。したがって、灌流は、接種後0日目から4日目に、好ましくは接種後0日目から3日目に開始され得る。
【0041】
灌流に基づいた方法は、新たな培地を添加し、同時に使用済み培地を除去することによって、バッチ法及びフェッドバッチ法を上回る可能性のある改善を与える。大規模な商業的な細胞培養戦略は、60~90×106個の細胞/mLという高い細胞密度に到達し得、この時点でリアクター容量の約3分の1から半分以上がバイオマスであり得る。灌流に基づいた培養では、1×108個の細胞/mLを超えるという極端な細胞密度が達成された。典型的な灌流培養は、迅速な初期の細胞増殖及びバイオマスの蓄積を可能とするための1日以上続くバッチ培養の起動から始まり、それに続いて、培養液の増殖期及び生産期の全期間を通して、細胞を留めながら、培養液に新たなフィード培地を連続的に、段階的に、及び/又は断続的に添加し、同時に使用済み培地を除去する。沈降、遠心分離、又はろ過などの様々な方法を使用して、細胞を維持しながら、使用済み培地を除去することができる。1日あたり容器容量の何分の1から、1日あたり容器容量の何倍もという、灌流の流速が使用された。
【0042】
本明細書において使用する「灌流速度」という用語は、添加及び除去される容量であり、典型的には1日あたりのものが測定される。灌流速度は細胞密度及び培地に依存する。灌流速度は、栄養分の添加及び副産物の除去の適切な速度を確保しつつ、関心対象の産物すなわち収集物の力価の希釈を低減するために最小限とされるべきである。灌流は典型的には、細胞が依然として指数関数増殖期にある時である接種後0~3日目に開始され、したがって、灌流速度は培養中に増加させてもよい。灌流速度の増加は、徐々に又は連続的に、すなわち、細胞密度又は栄養分の消費量に基づき得る。それは典型的には、1日あたり0.5又は1容器容量(VVD)で開始され、約5VVDまで増加させてもよい。好ましくは、灌流速度は0.5~2VVDである。増加は、1日あたり0.5~1VVDであってもよい。灌流の連続的な増加のために、バイオマスプローブを収集ポンプに連動させ得、これにより灌流速度を、所望の細胞特異的灌流速度(CSPR)に基づいて、バイオマスプローブによって決定される細胞密度の線形関数として増加させる。CSPRは、細胞密度あたりの灌流速度に等しく、理想的なCSPRは、細胞株及び細胞培地に依存する。理想的なCSPRは、至適な増殖速度及び生産性をもたらすはずである。1日あたり50~100pL/細胞のCSPRが妥当な開始範囲であり得、これは特定の細胞株の至適な速度を発見するために調整されてもよい。少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードを使用すると、栄養分の供給は、全体のVVD及びCSPRとは脱共役され、非常に低いCSPR、例えば5~2pL/細胞/日、好ましくは5~10pL/細胞/日さえも可能となる。これにより、バイオリアクターに添加する前に混合及び希釈された無血清細胞培養灌流培地と比較して、又は、慣用的な1倍の無血清細胞培養灌流培地と比較して、例えば14日間の培養期間にわたる、培地の消費量及び特に調製済培地の消費量はかなり低減する。
【0043】
本明細書において使用する「定常状態」という用語は、細胞密度及びバイオリアクターの環境が比較的一定に留まる状態を指す。これは、セルブリーディング、栄養制限、及び/又は温度下降によって達成され得る。大半の灌流培養では、栄養分の供給及び廃棄物の除去は、一定した細胞増殖及び生産性を可能とし、そしてセルブリーディングは、一定の生細胞密度を維持するために又は細胞を定常状態に維持するために必要とされる。定常状態における典型的な生細胞密度は、10~50×106個の細胞/mlである。生細胞密度は、灌流速度に応じて変化し得る。より高い細胞密度は、灌流速度を増加させることによって、又は灌流に使用するために培地を最適化することによって達成され得る。非常に高い生細胞密度では、バイオリアクター内の灌流培養液は、制御困難となる。
【0044】
「セルブリード」及び「セルブリーディング」という用語は、本明細書において同義語として使用され、バイオリアクター内に一定した持続可能な生細胞密度を維持するための、バイオリアクターからの細胞及び培地の除去を指す。一定した持続可能な生細胞密度はまた、目標の細胞密度とも称され得る。このセルブリードは、浸漬管及び規定の流速の蠕動ポンプを使用して行なわれ得る。管は正しいサイズを有するべきであり、狭すぎる管は細胞凝集及び塞栓が起こり易く、一方、大きすぎれば細胞が沈殿する可能性がある。セルブリードは、増殖速度に基づいて決定され得、よって生細胞密度は連続的に所望の容量に制限されてもよい。あるいは、細胞は、特定の頻度で、例えば1日1回除去されてもよく、予測可能な範囲内に細胞密度を維持するために培地と交換してもよい。理想的にはセルブリード速度は、定常的な細胞密度を維持するための増速速度に等しい。
【0045】
典型的には、セルブリードと共に除去される関心対象の産物は廃棄され、それ故、収集物の損失となる。透過液とは異なり、セルブリードは細胞を含有し、これにより、精製前の産物の保存はより困難となり、そして産物の品質に対して有害な作用を及ぼし得る。したがって、細胞は、保存及び産物の精製の前に、連続的に除去されなければならず、これは骨が折れかつ費用的に非効率的であろう。緩徐に増殖中の細胞では、セルブリードは、除去される液体の約10%であり得、急速に増殖中の細胞ではセルブリードは、除去される液体の約30%であり得る。したがって、セルブリードを通した産物の損失は、産生された産物の計約30%であり得る。本明細書において使用する「透過液」は、培養容器中に留まる、細胞から分離された収集物を指す。
【0046】
「培養液」又は「細胞培養液」という用語は同義語として使用され、細胞集団の生存及び/又は増殖を可能とするに適した条件下で、培地中に維持される細胞集団を指す。本発明は、哺乳動物細胞培養液のみに、特に哺乳動物灌流細胞培養液に関する。哺乳動物細胞は、懸濁液中で又は固相支持体に付着させて培養され得る。当業者には明らかであろうように、細胞培養液は、細胞集団と、該集団が懸濁されている培地とを含んでいる組合せを指す。細胞培養液の具体的な種類は特に限定されず、そして、灌流性の、連続性の、有限性の、懸濁性の、粘着性の、又は単層の、足場依存性の、及び3次元の培養液を含むがこれらに限定されない、細胞培養液の全ての形態及び技術を包含し得る。本明細書に使用する細胞培養液という用語は、無血清細胞培養液を指す。
【0047】
本明細書において使用する「培養すること」という用語は、制御条件下、及び細胞の増殖及び/又は生存を支持する条件下、哺乳動物細胞を増殖又は維持するプロセスを指す。本明細書において使用する「細胞を維持する工程」という用語は、「細胞を培養する工程」の同義語として使用される。培養する工程はまた、培養培地に細胞を接種する工程も指し得る。
【0048】
本明細書において使用する「バッチ培養」という用語は、細胞を一定容量の培養培地中で短時間増殖させ、それに続いて完全に収集する、非連続的な方法である。バッチ法を使用して増殖させた培養液は、最大細胞密度に到達するまで細胞密度の増加を引き起こし、それに続いて、培地成分が消費され、代謝副産物(乳酸塩及びアンモニアなど)のレベルが蓄積するにつれて、生細胞密度は減少する。収集は典型的には、最大細胞密度に到達する時点で(培地処方、細胞株などに依存して、典型的には5~10×106個の細胞/mL)又はその時点の直後に典型的には約3~7日間後に行なわれる。
【0049】
本明細書において使用する「フェッドバッチ培養」という用語は、ボーラス又は連続的な培地のフィードを与えて、消費された培地成分を補充することによって、バッチプロセスを改良する。フェッドバッチ培養液は、培養プロセスの全期間を通して追加の栄養分を受け取るので、それらは、バッチ法と比較して、より高い細胞密度(培地処方、細胞株などに応じて、10~30×106個の細胞/mLを超える)及び産物の上昇した力価を達成する能力を有する。バッチプロセスとは異なり、フィーディング戦略及び培地処方を操作して、所望の細胞密度に到達する細胞増殖期間(増殖期)と、一時中断した又は緩徐な細胞増殖期間(生産期)とを区別することによって、二相培養液が作り出されそして維持され得る。したがって、フェッドバッチ培養は、バッチ培養と比較して、より高い産物の力価を達成する能力を有する。バッチ法と同様に、代謝副産物の蓄積により、経時的に細胞生存率は減少するだろう。なぜなら、これらは、細胞培養培地内に進行的に蓄積し、これにより生産期の期間は、約1.5から3週間に制限されるからである。フェッドバッチ培養は非連続的であり、代謝副産物のレベル又は培養液の生存率が所定のレベルに達した場合に、収集が典型的には行なわれる。
【0050】
「ポリペプチド」又は「タンパク質」という用語は、本明細書において「アミノ酸残基配列」の同義語として使用され、アミノ酸のポリマーを指す。これらの用語はまた、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、又はタンパク質プロセシングを含むがこれらに限定されない反応を通して翻訳後修飾されている、タンパク質も含む。修飾及び変化、例えば他のタンパク質への融合、アミノ酸配列の置換、欠失又は挿入は、ポリペプチドの構造内において、該分子がその生物学的に機能的な活性を維持しつつ行なわれ得る。例えば、特定のアミノ酸配列の置換が、ポリペプチド又はその基礎にある核酸コード配列内に行なわれ得、そして同じ特性を有するタンパク質を得ることができる。該用語はまた、1つ以上のアミノ酸残基が、対応する天然のアミノ酸の類似体又は模倣体である、アミノ酸ポリマーにも適用される。「ポリペプチド」という用語は典型的には、10を超えるアミノ酸を有する配列を指し、「ペプチド」という用語は、10までのアミノ酸長を有する配列を指す。
【0051】
本明細書において使用する「異種タンパク質」という用語は、宿主細胞とは異なる生物又は異なる種に由来するポリペプチドを指す。異種タンパク質は、そのタンパク質を天然には発現していない宿主細胞内に実験的に配置された、異種ポリヌクレオチドによってコードされている。異種ポリヌクレオチドは、導入遺伝子とも称され得る。したがって、それは異種タンパク質をコードしている遺伝子又はオープンリーディングフレーム(ORF)であってもよい。タンパク質に言及して使用される場合の「異種」という用語はまた、互いに同じ関係では見られないか又は天然には同じ長さでは見られない、アミノ酸配列を含むことを示し得る。したがって、それは組換えタンパク質も包含する。異種はまた、典型的には見られない哺乳動物の細胞のゲノム内の位置に挿入された、遺伝子若しくは導入遺伝子、又はその一部などのポリヌクレオチド配列を指し得る。本発明において、異種タンパク質は好ましくは治療用タンパク質である。
【0052】
「培地」、「細胞培養培地」及び「培養培地」という用語は本明細書において同義語として使用され、細胞に、特に哺乳動物細胞に栄養を与える栄養分の溶液を指す。細胞培養培地製剤は当技術分野において周知である。典型的には、細胞培養培地は、最小限の増殖及び/又は生存のために細胞によって必要とされる、必須及び非必須アミノ酸、ビタミン、エネルギー源、脂質、及び微量元素、並びに、緩衝液、及び塩を提供する。培養培地はまた、本明細書に記載のような、ホルモン及び/又は他の増殖因子(例えばインシュリン又はインシュリン様増殖因子)、特定のイオン(例えば、ナトリウム、クロライド、カルシウム、マグネシウム、及びリン酸)、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシド又はヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、例えば微量金属、アミノ酸(非タンパク原性アミノ酸を含む)、脂質、抗酸化剤、グルコース及び/又は他のエネルギー源、例えば有機酸を含むがこれらに限定されない、最小の割合を上回る増殖及び/又は生存を増強する補助成分を含有していてもよい。培地中に界面活性剤が含まれていてもよい。特定の実施態様では、培地は有利には、細胞の生存及び増殖に至適なpH及び塩濃度に製剤化される。「細胞培養灌流培地」又は「灌流培地」は、連続灌流で使用される培地である。当業者は、細胞培養培地の一部ではないさらに他の成分も、培養中に、細胞培養液に添加されてもよいことを理解しているだろう。例えば、消泡剤を別々に加えてもよい。また、グルコース及び/又はグルタミンも、それのみで、又は細胞培養培地と共に与えられるグルコースに加えてのいずれかで、別々に添加されてもよい。最後に塩基(例えば炭酸ナトリウム又は水酸化ナトリウム)を細胞培養液に加えて、培養中のpHを制御し得る。
【0053】
細胞培養培地中のアミノ酸の例は、以下に限定されないが、タンパク原性アミノ酸、例えばグリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリン、及び塩又はその誘導体、並びに、非タンパク原性アミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、オルニチン、α-アミノ-n-酪酸、並びにその塩及びその誘導体である。その誘導体としては例えば、シスチン、システインの酸化二量体、又はジペプチド、好ましくはグルタミン、チロシン、又はシステインなどのアミノ酸のアラニル-又はグリシル-ジペプチドが挙げられる。無機塩の例は、以下に限定されないが、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、微量金属塩など、及びその水和物である。微量金属の例は、以下に限定されないが、亜鉛、銅、クロム、ニッケル、コバルト、バナジウム、モリブデン、及びマンガン、及びその塩、例えばモリブデン酸アンモニウム、硫酸銅、亜セレン酸ナトリウム、塩化マンガン、硫化マンガン、塩化亜鉛、硫酸亜鉛など、及びその水和物である。鉄源の例は、以下に限定されないが、クエン酸鉄(III)、硝酸第二鉄、硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、リン酸鉄(II)である。ビタミンの例は、以下に限定されないが、ビオチン、塩化コリン、パントテン酸コリン、D-カルシウム、葉酸、ナイアシンアミド、p-アミノ安息香酸、ピリドキサール、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、トコフェロール、ビタミンB12、レチノール(ビタミンA)、アスコルビン酸塩など、及びその塩である。ポリアミンの例は、以下に限定されないが、プトレシン、スペルミジン、及びスペルミンであり、有機酸は、タウリン又は代用の炭素源、例えばコハク酸、ピルビン酸、クエン酸であり得、脂肪酸は、リノール酸、リノレン酸、パルミチン酸、及びオレイン酸であり得、界面活性剤はプルロニック(登録商標)F68であり得、緩衝液は、例えば、リン酸緩衝液(一塩基リン酸塩及び二塩基リン酸塩)であり得、抗酸化剤は、例えば、還元型グルタチオン又はリポ酸であり得、キレート剤の例は、以下に限定されないが、クエン酸塩又はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。エネルギー源はピルビン酸塩又はデキストロースなどであり得る。培地中に存在し得る他の化合物は、エタノールアミン、タウリン、i-イノシトール、及びタンパク質、例えばインシュリン又はインシュリン様増殖因子である。乾燥粉末培地の製剤化のために化合物がまた添加されてもよく、例えばデキストロースが、培地成分としてではなく、粉砕目的のためだけに添加されてもよい。
【0054】
本発明に記載の培地は、接種後0日目から4日目に添加される(すなわち、灌流培養は、細胞培養の0日目から4日目に開始される)、無血清灌流培養培地(又は無血清細胞培養灌流培地)である。それ故、該培地は、典型的には接種後に添加されるので、細胞培養灌流培地フィードとも称され得る。灌流細胞培養は、増殖期及び生産期を含む、異なる培養期を有し得る。増殖期(増殖培地)及び生産期(生産培地)中に使用される特定の培地は、前記の特定の期間における実行のために特別に設計されてもよい。典型的には、細胞は、生産培地を用いた灌流が始まる前に、増殖培地中に接種される。また、灌流は、増殖培地を生産培地で置き換える前に、すでに開始されていてもよい。特定の実施態様では、本発明に記載の細胞培養培地は生産培地である。しかしながら、増速培地及び生産培地のどちらの培地も完全培地であり、細胞培養液の維持及び/又は増殖を可能とする(すなわち、さらに他の培地と混合する必要性がない)。これは、典型的には消費される栄養分を補充する不完全な培地である、フェッドバッチ培養に使用される、フィード培地又はフェッドバッチ培地とは対照的であるが、塩及び緩衝液などの成分は典型的には、培地のモル浸透圧濃度を低減させ、フィード培地のさらなる濃縮を可能とするために低減されている。培地は典型的には、基礎培地又は接種培地と混合することなく、細胞培養の維持を支持するには十分ではないであろう。
【0055】
「灌流培地」という用語は、細胞、特に哺乳動物細胞に栄養を与え、そして灌流培養に使用される、栄養分の溶液を指す。それは、増殖培地及び/又は生産培地であり得る。それは典型的には、生産期中の灌流培養を支持するように設計されている。それは定常的な新たな栄養分の入手源を提供し、バイオリアクターから定期的に除去されるので、灌流培地は、細胞培養液の維持及び/又は増殖を可能とする完全培地である。「完全培地」という用語は、細胞培養液中に存在する予定の培地の全成分を含有している、栄養分の溶液を指す。
【0056】
本発明に記載の無血清細胞培養灌流培地は完全培地であり、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを含む、区画化された形態で(ここでの、第一の濃縮フィードはアルカリ性濃縮フィードであり、第二の濃縮フィードは酸性濃縮フィードであり、第三の濃縮フィードは中性の濃縮フィードである)、又は混合時に結果として得られる無血清細胞培養灌流培地として存在し得る。培地が区画化されているという明白な特徴付けのなされていない「無血清細胞培養灌流培地」という用語は、混合時に形成される結果として得られる無血清細胞培養灌流培地を指す。区画化された培地は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に直接添加するためのものであるので、結果として得られる無血清細胞培養培地は典型的には純粋な形態ですなわち単離された形態では存在せず、むしろ、すでに存在する細胞培養液、すなわち培養培地と細胞の混合物である。それ故、区画化された培地が、混合時にpH調整されていることが重要である。しかしながら、培養液中のpHは、細胞の培養中に変化し得るので、培養中の塩基を使用したpH調整は、一定のpHを維持するために依然として必要であり得る。
【0057】
本明細書において使用する「無血清」という用語は、動物又はヒトの血清、例えば胎児ウシ血清を含有していない、細胞培養培地を指す。好ましくは、無血清培地は、あらゆる動物又はヒトに由来する血清から単離されたタンパク質を含まない。組成の規定された培養培地を含む、様々な組織培養培地は市販されており、例えば、以下の細胞培養培地のいずれか1つ又は組合せを使用することができる:とりわけ、RPMI-1640培地、RPMI-1641培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地イーグル、F-12K培地、Ham F12培地、イスコフ改変ダルベッコ培地、マッコイ5A培地、ライボビッツL-15培地、及び無血清培地、例えばEX-CELL(商標)300シリーズ(JRHバイオサイエンシーズ社、レネックサ、カンザス州)。このような培養培地の無血清版も入手可能である。細胞培養培地に、培養される予定の細胞の必要条件及び/又は所望の細胞培養パラメーターに応じて、追加した又は上昇した濃度の成分、例えばアミノ酸、塩、糖、ビタミン、ホルモン、増殖因子、緩衝液、抗生物質、脂質、微量元素などが補充されていてもよい。
【0058】
本明細書において使用する「タンパク質非含有」という用語は、全くタンパク質を含有していない細胞培養培地を指す。したがって、それは、動物又はヒトから単離された血清に由来するタンパク質、又は組み換えにより産生されたタンパク質、例えば哺乳動物細胞、細菌細胞、昆虫細胞、若しくは酵母細胞において産生された組換えタンパク質が欠けている。タンパク質非含有培地は、1つの組換えタンパク質、例えばインシュリン又はインシュリン様増殖因子を含有していてもよいが、この添加が明記されている場合のみである。
【0059】
本明細書において使用する「化学組成の規定された」という用語は、無血清であり、酵母、植物又は動物に由来するタンパク質加水分解物などの加水分解物を全く含有していない、培養培地を指す。好ましくは、化学組成の規定された培地はまたタンパク質非含有であるか、又は選択された組換え産生された(動物由来ではない)タンパク質のみ、例えば組換えインシュリン及び/又は組換えインシュリン様増殖因子のみを含有している。化学組成の規定された培地は、特徴付けられた物質及び精製された物質の混合物からなる。化学組成の規定された培地の一例は、例えば、インビトロジェン社(カールズバッド、カリフォルニア州、米国)のCD-CHO培地である。
【0060】
本明細書において使用する「懸濁細胞」又は「非接着細胞」という用語は、液体培地中に懸濁して培養される細胞に関する。接着細胞、例えばCHO細胞は、懸濁液中で増殖するように適応させてもよく、このため、容器又は組織培養皿の表面への付着能を失っていてもよい。
【0061】
本明細書において使用する「バイオリアクター」という用語は、細胞培養液の増殖に有用な任意の容器を意味する。バイオリアクターは、細胞の培養に有用である限り、どのようなサイズでもよく;典型的には、バイオリアクターは、バイオリアクターの内部で増殖する細胞培養液の容量に適したサイズである。典型的には、バイオリアクターは少なくとも1Lであり、そして2L以上、5L以上、10L以上、50L以上、100L以上、200L以上、250L以上、500L以上、1,000L以上、1,500L以上、2,000L以上、2,500L以上、5,000L以上、8,000L以上、10,000L以上、12,000L以上であり得る。好ましくは、バイオリアクターは、少なくとも100L、より好ましくは少なくとも1,000Lであろう。pH及び温度を含むがこれらに限定されない、バイオリアクターの内部条件は、培養期間中に制御されてもよい。当業者は、妥当な考察に基づいて、本発明の実施に使用するのに適したバイオリアクターを知り、かつ選択することができるだろう。本発明の方法に使用される細胞培養液を、灌流培養に適した任意のバイオリアクター中で増殖させることができる。バイオリアクターの具体的な種類は特に限定されず、灌流細胞培養に適した全種類のバイオリアクターを包含し得る。
【0062】
本明細書において使用する「細胞密度」は、所与の容量の培養培地中の細胞数を指す。「生細胞密度」は、標準的な生存率アッセイ(例えばトリパンブルー色素排除法)によって決定されるような、所与の容量の培養培地中の生細胞数を指す。
【0063】
本明細書において使用する「細胞生存率」という用語は、培養液中の細胞が、所与のセットの培養条件又は実験的バリエーションの下で生き延びる能力を意味する。本明細書において使用する該用語はまた、特定の時点において培養液中で生存している及び死滅している総細胞数と比較した、その時点において生存している細胞の割合も指す。
【0064】
本明細書において使用する「力価」という用語は、所与の量の培地容量中で細胞培養によって産生される、関心対象のポリペプチド又はタンパク質(これは関心対象の天然タンパク質であっても又は組換えタンパク質であってもよい)の総量を意味する。力価は、培地1ml(又は他の容量の尺度)あたりのポリペプチド又はタンパク質のmg又はμgの単位で表現され得る。
【0065】
本明細書において使用する「収量」という用語は、特定の期間にわたり灌流培養液中で産生される異種タンパク質の量を指す。「総収量」は、全実行期間にわたり灌流培養液中で産生される異種タンパク質の量を指す。
【0066】
本明細書において使用する「減少」、「減少した」、「減少する」又は「より低い」という用語は一般的には、参照レベルと比較して少なくとも5%の減少、例えば参照レベルと比較して少なくとも10%の減少、又は同じ無血清細胞培養培地を使用して同じ条件下で(例えばここでのモル浸透圧濃度は、培養中、特に灌流培養中に増加していない)培養される、対照の哺乳動物細胞培養液と比較して、少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約75%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%、又は100%まで(100%を含む)の減少、又は10~100%の間の任意の整数の減少を意味する。
【0067】
本明細書において使用する「増強」、「増強した」、「増加」又は「増加した」という用語は一般的には、対照細胞と比較して少なくとも5%の増加、例えば、同じ無血清細胞培養培地を使用して同じ条件下で(例えばここでのモル浸透圧濃度は、培養中、特に灌流培養中に増加していない)培養される、対照の哺乳動物細胞培養液と比較して、少なくとも約10%、又は少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約75%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%、又は少なくとも約100%、又は少なくとも約200%、又は少なくとも約300%の増加、又は10~300%の間の任意の整数の増加を意味する。
【0068】
本明細書において使用する「対照の細胞培養液」又は「対照の哺乳動物細胞培養液」は、本発明に記載の少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む、同じ無血清細胞培養培地を使用した(ただし、ここでのモル浸透圧濃度は、培養中、特に灌流培養中に増加していない)、それが比較される細胞培養液と同じである細胞培養液である。
【0069】
本明細書において使用する「哺乳動物細胞」という用語は、異種タンパク質、好ましくは治療用タンパク質、より好ましくは組換え治療用分泌タンパク質の産生に適した細胞株である。本発明による好ましい哺乳動物細胞は、げっ歯類の細胞、例えばハムスター細胞である。哺乳動物細胞は、単離された細胞又は細胞株である。哺乳動物細胞は好ましくは、形質転換された及び/又は不死化された細胞株である。それらは、細胞培養液の連続継代に適応し、そして器官構造の一部である、初代の形質転換されていない細胞又は細胞群を含まない。好ましい哺乳動物細胞は、BHK21細胞、BHK TK-細胞、CHO細胞、CHO-K1細胞、CHO-S細胞、CHO-DXB11細胞(CHO-DUKX細胞又はDuxB11細胞とも称される)、及びCHO-DG44細胞、又はこのようないずれかの細胞株の誘導体/子孫である。特に好ましいのは、CHO-DG44細胞、CHO-K1細胞及びBHK21細胞であり、さらにより好ましいのは、CHO-DG44細胞及びCHO-K1細胞である。最も好ましいのはCHO-DG44細胞である。哺乳動物細胞、特にCHO-DG44細胞及びCHO-K1細胞のグルタミン合成酵素(GS)欠損誘導体も包含される。哺乳動物細胞はさらに、異種タンパク質、好ましくは組換え治療用分泌タンパク質をコードしている、1つ以上の発現カセット(群)を含み得る。哺乳動物細胞はまた、マウス細胞、例えばマウス骨髄腫細胞、例えばNS0細胞及びSp2/0細胞、又はこのようないずれかの細胞株の誘導体/子孫であり得る。しかしながら、そうした細胞、ヒト、マウス、ラット、サル、及びげっ歯類の細胞株を含むがこれらに限定されない、他の哺乳動物の細胞の誘導体/子孫も、本発明において、特にバイオ医薬タンパク質の生産のために使用することができる。
【0070】
本明細書において使用する「増殖期」という用語は、細胞が指数関数的に増殖し、バイオリアクター中の生細胞密度が漸増している、細胞培養期間を指す。培養液中の細胞は通常、標準的な増殖パターンに従って増殖する。培養液に接種した後、誘導期が存在し得、これは、細胞が培養環境に適応しつつあり、かつ急速な増殖に準備しつつある、緩徐な増殖期である。増殖期(log期又は対数期とも称される)は、細胞が指数関数的に増殖し、増殖培地の栄養分を消費する期間である。それに生産期が続く。
【0071】
「生産期」という用語は、目標の生細胞密度に達する時又は達する前であり得る収集が、一旦開始されたら始まる、細胞培養期を指す。収集は典型的には、異種タンパク質が、透過液中で1日あたりバイオリアクター1Lあたり約0.2gに達する時に開始される。典型的な目標の細胞密度は、約10×106個の細胞/mlから約120×106個の細胞/mlの範囲内であるが、さらに高くてもよい。したがって、本発明に記載の目標の細胞密度は、少なくとも30×106個の細胞/ml、少なくとも40×106個の細胞/ml、少なくとも50×106個の細胞/ml、少なくとも60×106個の細胞/ml、少なくとも80×106個の細胞/ml、又は少なくとも100×106個の細胞/mlである。目標の細胞密度は、100×106個の細胞/mlから200×106個の細胞/ml、好ましくは約120×106個の細胞/mlから150×106個の細胞/mlまで高くさえあってもよい。
【0072】
本明細書の特定の実施態様では、細胞培養液のモル浸透圧濃度を、生産期の開始時に増殖抑制をもたらすレベルまで増加させる。好ましくは、モル浸透圧濃度は、増殖に至適なレベルから徐々に又は段階的に増加させた。したがって、モル浸透圧濃度は、目標の生細胞密度に達する前に増加させる必要がある。好ましくはモル浸透圧濃度は、目標の生細胞密度の約半分から開始して、増殖に至適なレベルからs、増殖抑制をもたらすレベルまで、徐々に又は段階的に増加させる。このことは、一旦、目標の生細胞密度に達したら、増殖抑制をもたらすモル浸透圧濃度に到達することを可能とする。高いモル浸透圧濃度(すなわち、増殖抑制をもたらすモル浸透圧濃度レベル)が、培養終了時まで維持されることが重要である。当業者は、浸透圧の除去が増殖阻害を取り除くであろうことを理解しているだろう。
【0073】
「増殖停止」、「増殖阻害」及び「増殖抑制」という用語は、本明細書において同義語として使用され、そして、数の増加が停止している、すなわち細胞分裂の停止している細胞を指す。細胞周期は、間期と有糸分裂期を含む。間期は、3つの期間からなる:DNA複製はS期に限定される;G1期はM期とS期の間のギャップ期であり、一方、G2期はS期とM期との間のギャップ期である。M期では、核が分裂し、次いで細胞質が分裂する。増殖するための有糸分裂シグナルの非存在下、又は増殖停止を誘導する化合物の存在下、細胞周期は停止する。細胞は一部、それらの細胞周期制御システムから解離し得、周期から出て、G0期と呼ばれる、特殊な分裂していない状態に入る。増殖抑制は、経時的に生細胞密度を決定することによって容易に評価され得る。好ましくは細胞は、30%以下、より好ましくは20%以下のばらつきを有する生細胞密度で維持される。より好ましくは、細胞は、30%以下、より好ましくは20%以下のばらつきを有する密度で維持されている、目標の生細胞で維持される。
【0074】
細胞培養灌流培地
開示の1つの態様では、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む、区画化された無血清細胞培養灌流培地が提供され、ここでの第一の濃縮フィードはアルカリ性濃縮フィードであり、第二の濃縮フィードは酸性濃縮フィードであり、第三の濃縮フィードは中性に近い濃縮フィードであり;ここで、区画化された無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを混合した時に、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中で中性のpHにpH調整される。好ましい実施態様では、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加えられる前に、予め混合されていない。混合時に沈降が起こる可能性があるので、2つ以上のフィードの事前の混合は理想的ではない。したがって、区画化された無血清細胞培養灌流培地は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に、アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを別々に添加するのに;前もって事前に混合することなく、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中で、アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを直接添加するのに;並びに/あるいは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードを直接混合するのに、適している。好ましい実施態様では、無血清細胞培養灌流培地は、記載のような少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む。これは、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤からなる、無血清細胞培養灌流培地を含む。培地成分は主に、中性pHにおける溶解度及び/又はアルカリ性pH若しくは酸性pHにおける向上した溶解度などの、その固有の特性に従って分配される。好ましい実施態様では、無血清細胞培養灌流培地は、生産培地である。当業者は、灌流培養は典型的には、哺乳動物細胞を使用して行なわれ、よって、灌流培養培地は、哺乳動物細胞用の灌流培養培地であることを理解しているだろう。
【0075】
当業者はまた、細胞培養培地の一部ではないさらに他の成分も、培養中に細胞培養液に添加され得ることを理解しているだろう。例えば、消泡剤を別々に添加してもよい。またグルコース及び/又はグルタミンフィードもそれだけで、又は細胞培養培地と共に与えられたグルコース及び/又はグルタミンに加えてのいずれかで、別々に添加されてもよい。最終的には塩基(例えば、炭酸ナトリウム又は水酸化ナトリウム)を細胞培養液に加えることにより、培養中のpHを制御してもよい。
【0076】
1つの実施態様では、無血清細胞培養灌流培地は、化学組成が規定されていてもよい及び/又は加水分解物非含有であってもよい。加水分解物非含有は、培地が、動物、植物(大豆、ジャガイモ、コメ)、酵母、又は他の入手源に由来するタンパク質加水分解物を含有していないことを意味する。典型的には、化学組成の規定された培地は、加水分解物非含有である。いずれの場合でも、無血清灌流培地は、動物起源に由来する化合物、特に、動物に由来する及び動物から単離されたタンパク質又はペプチド(これは、細胞培養によって産生された組換えタンパク質を含まない)を含むべきではない。好ましくは、無血清細胞培養灌流培地は、タンパク質非含有であるか、あるいは組換えインシュリン及び/又はインシュリン様増殖因子を除いてタンパク質非含有である。したがって、無血清細胞培養培地は、タンパク質非含有培地、あるいは組換えインシュリン及び/又は組換えインシュリン様増殖因子を含んでいるタンパク質非含有培地であり得る。当業者は、タンパク質非含有培地が典型的には、化学組成が規定されている及び/又は加水分解物非含有であることを理解しているだろう。より好ましくは、無血清細胞培養灌流培地は、化学組成が規定され、そしてタンパク質非含有、あるいは組換えインシュリン及び/又はインシュリン様増殖因子を除いてタンパク質非含有である。これはまた、方法に使用されているか又は本発明の方法に従って調製された、無血清培養灌流培地にも適用される。初期増殖培地及び生産培地が使用される場合、これは両方の培地に適用される。
【0077】
区画化された無血清細胞培養灌流培地を所望の「ワーキング」濃度に調整するために、互いに対してそれらの濃度倍率によって決定された比の、そして適切な量の希釈剤で希釈された、適切な容量の少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの各々を混合して、無血清細胞培養灌流培地、すなわちワーキング濃度の無血清細胞培養灌流培地を与える。本発明に記載の無血清細胞培養灌流培地に使用される希釈剤は理論的には、食塩水溶液及び/又は水性緩衝液であってもよいが、それは好ましくは滅菌水である。滅菌水は、調製又は混合される必要がないので有利であり、したがって、予製成分のためのさらなる保存スペースの必要が回避される。中性に近いpHにpH調整している、無血清細胞培養灌流培地が結果として得られるように、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に添加される、希釈剤対少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの累積容量の比(v/v)が、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中の無血清細胞培養灌流培地の濃度倍率を決定する。したがって、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードを使用する利点は、培地の濃縮倍率を、生細胞密度及び栄養分の需要(栄養バランスを維持する)に適応させることができる。モル浸透圧濃度は、システムの内外において栄養分の平衡を推定するための代用として使用され得る。したがって、浸透圧の平衡を使用して、濃縮フィード(互いに対して一定の比で)の累積容量及び希釈剤のフィードの速度の調整を計算して、所望の残留モル浸透圧濃度及び栄養分レベルを達成し得る。
【0078】
結果として得られる無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤の混合時に、中性pHにpH調整されている。このことは、pHが、NaOH又はHClなどの滴定剤を添加する必要なく、混合時に自動的に調整されることを意味する。培養培地のpHは、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤の混合時に、約6.7~約7.5、好ましくは約6.9~約7.4、より好ましくは約6.9~約7.2のpHの中性であるべきである。
【0079】
アルカリ性濃縮フィードは、2倍から80倍の濃縮フィード、好ましくは20倍から40倍の濃縮フィード、より好ましくは20倍から30倍の濃縮フィード、最も好ましくは25倍のフィードであり得る。一般的には、より高い濃縮フィードが好ましい。しかしながら、最適な結果のために、例えば、アルカリ性濃縮フィードは、中性に近いフィード及び/又は酸性フィードにより良好に適合するために、最大源に濃縮されていない、濃縮フィードとして調製され得る。これによりまた、アルカリ性濃縮フィードなどの濃縮フィードにおける滴定剤は安全となる。中性に近い濃縮フィードは、2倍から50倍の濃縮フィード、好ましくは10倍から40倍の濃縮フィード、より好ましくは20倍から30倍の濃縮フィード、最も好ましくは25倍の濃縮フィードであり得る。酸性濃縮フィードは、2倍から40倍の濃縮フィード、4倍から20倍の濃縮フィード、5倍から12倍の濃縮フィード、又は6倍から10倍の濃縮フィードであり得る。一般的には、より高い濃縮フィード(アルカリ性、酸性、及び中性を組み合わせて及び個々に)が好ましい。しかしながら、最適な結果のために、例えば、アルカリ性濃縮フィードは、中性に近いフィード及び/又は酸性フィードにより良好に適合するために、最大源に濃縮されていない(例えば80倍未満)、濃縮フィードとして調製され得る。これによりまた、アルカリ性濃縮フィードなどの濃縮フィードにおける滴定剤は安全となる。
【0080】
1つの実施態様では、アルカリ性濃縮フィードは2倍から80倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは2倍から40倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは2倍から50倍の濃縮フィードであり、好ましくはアルカリ性濃縮フィードは20倍から40倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは4倍から20倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは10倍から40倍の濃縮フィードであり、より好ましくはアルカリ性濃縮フィードは、20倍から30倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは5倍から12倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは20倍から30倍の濃縮フィードであり、最も好ましくはアルカリ性濃縮フィードは25倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは6倍から10倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは25倍の濃縮フィードである。具体的な実施態様では、アルカリ性濃縮フィード及び中性に近い濃縮フィードは、ほぼ同じように濃縮されている。したがって、例えば、アルカリ性濃縮フィードは20倍から30倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは20倍から30倍の濃縮フィードであるか、又はアルカリ性濃縮フィードは25倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは25倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは最大限に濃縮されている。
【0081】
無血清細胞培養灌流培地では、アルカリ性濃縮フィード対酸性濃縮フィード対中性に近い濃縮フィードの比(v/v/v)は、中性pHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地が結果として得られるような、一定の比である。したがって、少なくとも3つの濃縮フィードは、1倍の無血清細胞培養灌流培地(1倍の製剤)中の培地成分の相対比率を維持するために、それらの濃度倍率に応じて、互いに一定の比(v/v/v)で添加される。換言すれば、互いに対するフィードの比は、1倍の製剤の元来の比が維持されるようなものであるべきである。例えば、アルカリ性濃縮フィードが25倍の濃縮フィードである場合、酸性濃縮フィードは6倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは25倍の濃縮フィードであり、濃縮フィードは1:4.2:1の比で添加されるか、又は、アルカリ性濃縮フィードが30倍の濃縮フィードである場合、酸性濃縮フィードは10倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは30倍の濃縮フィードであり、濃縮フィードは1:3:1の比で添加される。さらに、中性pHにpH調整されている、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中の、希釈剤対少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの累積容量の比(v/v)が、無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度を決定する。中性pHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地中の、希釈剤対少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの累積容量の比(v/v)も、無血清細胞培養灌流培地の濃度倍率を決定する。濃度倍率は、0.1倍から最大の濃度倍率までのいずれでもよいが、典型的には0.5倍から2倍、好ましくは1倍から2倍である。3つの別々の水性濃縮フィードの混合時の最大濃度倍率(nmaxX)は、以下のように計算され得る:
nmaxX=(nアルカリ性X*n酸性X*n中性X)/(nアルカリ性X*n酸性X)+(nアルカリ性X*n中性X)+(n酸性X*n中性X)
(ここで、nmaxXは3つの別々の水性濃縮フィードの混合時の最大濃度倍率であり;
nアルカリ性Xは、n倍濃度のアルカリ性濃縮フィードであり;
n酸性Xは、n倍濃度の酸性濃縮フィードであり;
n中性Xは、n倍濃度の中性濃縮フィードであり;そして
*は、掛け算を示す)。
【0082】
例えば、アルカリ性濃縮フィードが25倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードが6倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードが25倍の濃縮フィードである場合、3つの別々の水性濃縮フィードの混合時の最大濃度倍率は4.1倍である。したがって、調製済培地の消費量の減少は約75%である。アルカリ性濃縮フィードが30倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードが10倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードが30倍の濃縮フィードである場合、3つの別々の水性濃縮フィードの混合時の最大濃度倍率は6倍である。したがって、調製済培地の消費量の減少は80%を超える。また、濃縮フィードの使用は、細胞培養液及び/又はバイオリアクター中の無血清細胞培養培地の濃度倍率の調整を可能とし、したがって、同じような又はほんの僅かに増加した灌流速度で、結果として低下した細胞特異的灌流速度で、より高い生細胞密度の維持を可能とする。
【0083】
無血清細胞培養灌流培地は、アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを含む。中性に近い濃縮フィードは、pH7.5±1.0を指す。したがって、中性に近い濃縮フィードは、約6.5から約8.5のpHを有する。中性に近い濃縮フィードは好ましくは、追加の滴定剤を全く含有していない。滴定剤の回避は、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中の浸透圧スペースを節約する。したがって、中性に近い濃縮フィードのpHは、約8.5までのpHで僅かにアルカリ性であり得る。好ましくは、中性に近いpHは、約7から約8.5、より好ましくは約7.5から約8.5のpHを有する。
【0084】
アルカリ性濃縮フィードは、約9以上のpH、例えば約9から約11のpH、好ましくは約9.8から約10.8のpH、より好ましくは約9.8から約10.5のpHを有し得る。酸性濃縮フィードは、約5以下のpH、例えば約2から約5のpH、好ましくは約3.6から約4.8のpH、より好ましくは約3.8から約4.5のpHを有し得る。pHはかなり正確に調整され得るが、典型的なpHの変動は0.5の変動である。
【0085】
1つの実施態様では、アルカリ性濃縮フィードは約9以上のpHを有し、酸性濃縮フィードは約5以下のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは約7から約8.5のpHを有する。好ましくは、アルカリ性濃縮フィードは、約9から約11のpHを有し、酸性濃縮フィードは約2から約5のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは約7から約8.5のpHを有し;より好ましくはアルカリ性濃縮フィードは約9.8から約10.8のpHを有し、酸性濃縮フィードは約3.6から約4.8のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは約7から約8.5のpHを有し;最も好ましくはアルカリ性濃縮フィードは約9.8から約10.5のpHを有し、酸性濃縮フィードは約3.8から約4.5のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは約7.5から約8.5のpHを有する。
【0086】
培地成分は主に、その固有の特性、例えば中性pHにおける溶解度及び/又はアルカリ性若しくは酸性pHにおける向上した溶解度などに従って分配される。さらに、水溶液中で特に不溶性である培地成分は、別々のフィードに分割され得る。例えば、塩化コリンは、中性に近い濃縮フィード及び酸性濃縮フィードに与えられ得、これにより、最終の無血清細胞培地中に必要とされる濃度が達成される。
【0087】
中性に近い濃縮フィードは好ましくは、中性pHにおいて可溶性である全てのビタミンを含む。さらに、中性に近い濃縮フィードは好ましくは、金属を全く含有していない。金属はいくつかのビタミンと相互作用する可能性があるので、ビタミンは好ましくは、金属から離しておく。それ故、ビタミンは好ましくは、中性に近い濃縮フィード及び代替的には酸性濃縮フィードで与えられ得る。1つの例外は葉酸であり、これはアルカリ性フィードと共に与えられてもよい。したがって、1つの実施態様では、ビタミン及び金属は、別々のフィードで与えられ、好ましくはビタミンは中性に近いフィードにあり、金属は酸性フィードにある。しかしながら、中性pHの水溶液にあまり溶けないビタミンは、酸性フィードにあってもよい。例えば、パントテン酸、チアミン、塩化コリン、及び/又はピリドキシンなどのビタミンは、酸性フィードで与えられてもよい。さらに、一般的に水溶液中にあまり溶けないビタミン、例えば塩化コリンは、中性フィード及び酸性フィードに存在していてもよい。中性濃縮フィードは、L-α-アミノ-n-酪酸、i-イノシトール、及び/又は脂肪酸のリノール酸などの化合物も含み得る。さらに、重炭酸は好ましくは、中性濃縮フィードで与えられる。1つの実施態様では、中性濃縮フィードは、pH調整のための追加の滴定剤を全く含有していない。
【0088】
塩及び金属は好ましくは、酸性濃縮フィードで与えられる。例えばであってそれに限定されるわけではないが、酸性濃縮フィードは、微量元素、微量金属、無機塩、鉄源、キレート剤、ポリアミン、及び/又は調節ホルモン、例えばインシュリン若しくはインシュリン様増殖因子を含み得る。アラニン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、及びバリンからなる群から選択されたアミノ酸は好ましくは、酸性濃縮フィードにある。さらに、界面活性剤、抗酸化剤、及び炭素源、並びに場合によりまたエタノールアミン及び/又は脂肪酸は、酸性濃縮フィード及び/又は中性に近い濃縮フィードで与えられてもよい。
【0089】
アルカリ性濃縮フィードは主に、約9以上のアルカリ性pHにおいて最大の溶解度を有するアミノ酸を含む。好ましくは、アルカリ性濃縮フィードは、少なくともアスパラギン酸、ヒスチジン、チロシン、及びシステインを含む。システインは、水溶性であるが、中性pHにおいて低い水溶性を有するシスチンに容易に酸化される。したがって、システイン及び/又はシスチンは好ましくは、アルカリ性濃縮フィードにある。約9以上のアルカリ性pHにおいて可溶性である別の化合物は、葉酸である。したがって、葉酸はまた、アルカリ性フィードで与えられてもよい。アルカリ性濃縮フィードで与えられないアミノ酸は好ましくは、酸性濃縮フィードで与えられる。したがって、1つの実施態様では、残りのアミノ酸(すなわち、約9以上のアルカリ性pHにおいて最大の溶解度を有さないアミノ酸及び/又はアルカリ性フィードで与えられないアミノ酸)は、酸性及び/又は中性に近い濃縮フィードで、好ましくは酸性濃縮フィードで与えられる。
【0090】
当業者は、完全培地が、例えばフェッドバッチ培養用のフィード培地と比較して、濃縮液として提供するのがより困難であることを理解しているだろう。なぜなら、それはより多くの成分、特に、モル浸透圧濃度を増加させ、よって浸透圧スペースを制限する、塩及び緩衝液を含むからである。また現代の栄養の豊富な培地も、先行技術の培地、例えばRPMI1640及びDMEM/F12及びその他の培地と比較して、濃縮液として提供することがより困難である。これらのより現代的な栄養の豊富な培地は、特にアミノ酸が豊富であり、典型的にはμMの範囲ではなくむしろmMの範囲のアミノ酸を含んでいる。それ故、本発明に記載の無血清細胞培養灌流培地は、1倍の無血清細胞培養灌流培地中に、50mMを超える、好ましくは70mMを超える、より好ましくは100mMを超える、さらにより好ましくは120mMを超えるアミノ酸を含んでいる培地である。グルタミンは時に、別々に添加されるので、無血清細胞培養灌流培地は好ましくは、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中に、50mMを超える、好ましくは70mMを超える、より好ましくは100mMを超える、さらにより好ましくは120mMを超える、グルタミンを除く天然アミノ酸を含む。グルタミンを除く天然アミノ酸は、アラニン、グリシン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、ヒスチジン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンを指す。しかしながら、例えばアラニン及びグリシンなどの、全ての天然アミノ酸が、無血清細胞培養灌流培地中に存在する必要はない。天然アミノ酸はまた、ジペプチド又はシスチンなどの、天然アミノ酸の誘導体も含む。
【0091】
当業者は、個々のプロセスを、細胞培養培地組成物に関して、並びに他のプロセスの特徴及び培養の成績について最適化することに慣れている。例えば、特に、非常に高い細胞密度が実質的ではない場合、それらを振盪フラスコにおいて試験することができる。より高い酸素化率を目的とする場合、スピンチューブ(例えば、Strnad et al., Biotechnol. Prog., 2010, Vol. 26, No. 3, pages 653-663に開示されているような)を使用することができ、これは1分あたりより高い回転率(rpm)で撹拌する。スピンチューブバイオリアクターは有利には、培地、様々なプロセスパラメーター、及び高い密度(20×106個の細胞/mLを超える)における増殖の特徴の評価のための、小規模モデルとして使用され得る。それらはまた、大量培地調製及び卓上規模のバイオリアクターの操作の必要性を軽減することによって、プロセスの開発に必要とされる時間及び努力を低減することもできる。複数のスピンチューブを遠心分離して培地を交換する能力は、小規模(ワーキングボリューム15mL)での灌流細胞培養を可能とする。
【0092】
少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードは好ましくは、保存前及び混合前に滅菌される。1つの実施態様では、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードは、ろ過滅菌される。さらに、成分の混合に関して、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に添加する前に、予め混合されない。したがって、好ましくは水性濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に、好ましくは別々の入口を通して直接添加される。入口は、バイオリアクター内の栓又はポートであり得る。好ましくは、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードは、滴下して添加される。少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードは、所定の灌流速度で連続的に、したがって同時に添加されることが有利である。それらは、培養液が連続的に混合される限り、バイオリアクターの下から、上から、又は側面から、互いに隣接して、又は異なる側面において添加され得る。
【0093】
希釈剤(例えば滅菌水)は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に添加されてもよい。したがって、好ましくは、希釈剤は細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に、好ましくは少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの入口とは別の入口を通して直接添加される。入口は、バイオリアクター内の栓又はポートであり得る。希釈剤は、所定の灌流速度で、したがって少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと同時に連続的に添加されることが有利である。それは、培養液が連続的に混合される限り、バイオリアクターの下から、上から、又は側面から、及び少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つ若しくは全てに隣接して、又は異なる側面において添加され得る。あるいは、希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に添加する直前に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つと予め混合されてもよい。したがって、希釈剤は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つと共に、好ましくは少なくとも2つの他の別々の水性濃縮フィードとは別の入口を通して、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に添加され得る。1つの実施態様では、希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器への添加直前に、アルカリ性濃縮フィードと予め混合される。
【0094】
別の態様では、本発明はまた、好ましくは灌流培養液中で、哺乳動物細胞を培養するための、本発明に記載の区画化された無血清細胞培養灌流培地の使用にも関する。1つの実施態様では、本発明に記載の細胞培養培地は、細胞培養液の、好ましくは灌流細胞培養液の、モル浸透圧濃度を制御するために使用される。特に、モル浸透圧濃度は、灌流細胞培養液中において増加している。細胞培養液中のモル浸透圧濃度を増加させることによって、細胞増殖は抑制され、異種タンパク質の産生は増加する。細胞培養液中のモル浸透圧濃度を増加させることによって、細胞増殖を抑制することにより、動的な灌流培養とも称され得る、セルブリーディングを行なうことなく持続可能な生細胞密度は維持され得る。
【0095】
細胞培養液中のモル浸透圧濃度を増加させることによって、細胞培養液中で産生される異種タンパク質の収量は、モル浸透圧濃度は増加していない対照細胞培養液中の収量と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約100%、又は約5~50%、好ましくは約10~100%増加し得る。好ましくは収量は、一部の培養期間又は全培養期間について決定される。
【0096】
本発明に記載の無血清細胞培養培地又は本発明に記載の方法によって得られた無血清細胞培養培地を使用し、場合により細胞培養液中のモル浸透圧濃度をさらに増加させることによって、細胞特異的灌流速度(pl/細胞/日)は、1倍の無血清細胞培養培地の細胞特異的灌流速度と比較して、少なくとも約25%、少なくとも30%、又は少なくとも約50%減少した。本発明に記載の無血清細胞培養灌流培地又は本発明に記載の方法によって得られた無血清細胞培養培地の細胞特異的灌流速度(pl/細胞/日)は好ましくは、一部の培養期間又は全培養期間について一定である。
【0097】
本発明はまた、酸性水性濃縮フィード、中性に近い水性濃縮フィード、及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するためのアルカリ性水性濃縮フィードに関し、ここでの無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される。別の実施態様では、本発明は、アルカリ性水性濃縮フィード、中性に近い水性濃縮フィード、及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するための酸性水性濃縮フィードに関し、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される。さらに別の態様では、本発明は、アルカリ性水性濃縮フィード、酸性水性濃縮フィード、及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するための中性に近い水性濃縮フィードに関し、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される。ここでのアルカリ性水性濃縮フィード、酸性水性濃縮フィード、中性に近い水性濃縮フィード、希釈剤、及び無血清細胞培養灌流培地は、上記に開示されているようにさらに特徴付けられ得る。
【0098】
無血清細胞培養灌流培地の調製法
さらに別の態様では、本発明は、(a)アルカリ性pH、酸性pH、及び中性pHにおける溶解度に基づいて、少なくとも3つの成分のサブグループの、細胞培養培地の成分を準備する工程、(b)(i)アルカリ性濃縮フィードを形成するための、アルカリ性水溶液中のアルカリ性pHで可溶性である成分のサブグループ;(ii)酸性濃縮フィードを形成するための、酸性水溶液中の酸性pHで可溶性である成分のサブグループ;及び(iii)中性に近い濃縮フィードを形成するための、中性水溶液中の中性pHで可溶性である成分のサブグループ、を準備する工程;(c)場合により、調製済アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを別々の容器に保存する工程;並びに(d)調製済アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィード及び希釈剤を、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加える工程を含む、無血清細胞培養灌流培地の調製法に関し、ここで(i)アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられ、そして(ii)該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられるか、あるいは、該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加えられる直前に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つと予め混合され;ここでの、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤を混合した時に中性に近いpHに自動的にpH調整される。したがって、本発明に従って調製された無血清細胞培養灌流培地は、本発明に記載の区画化された無血清細胞培養灌流培地について開示されているような、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む。典型的には、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤の添加時に、哺乳動物細胞を含む。
【0099】
前記方法は、保存前に並びに/あるいは細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器への添加の前に、好ましくはろ過滅菌によって、濃縮フィードを滅菌する工程を含み得る。細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器は、少なくとも約100Lの無血清細胞培養灌流培地、好ましくは約1000Lの無血清細胞培養灌流培地を含む。
【0100】
好ましくは、3つの濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別のポートを通して滴下して添加される。少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの容器内混合及び希釈は、バイオリアクターへの添加前に混合及び希釈された無血清細胞培養灌流培地と比較して、14日間の培養期間にわたり、50~90%、好ましくは60~90%低い、調製済培地の消費量を可能とする。調製済培地の消費量の減少は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの混合時の最大濃度倍率(nmaxX)を計算するために上記に提供された式を使用して、そして、希釈剤をさらに含む1倍の無血清細胞培養灌流培地と比較した、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの累積容量の容量の比率を計算して、計算され得る。
【0101】
少なくとも3つの別々の濃縮フィードを希釈剤とは別に添加することにより、バイオリアクター内の無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度の制御を可能とする。希釈剤が、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器への添加の直前に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つと予め混合される場合には、バイオリアクター内の無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度も制御され得る。
【0102】
細胞培養液中のモル浸透圧濃度は、一定の濃縮フィード灌流速度及び変化する希釈剤の灌流速度を使用して制御され得、その結果、全体的な灌流速度は変化し得る。一定の濃縮フィード灌流速度は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィード、より具体的にはアルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードの累積灌流速度に関する。全体的な灌流速度は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィード及び希釈剤の累積灌流速度である。あるいは、細胞培養液のモル浸透圧濃度は、一定の全体の灌流速度及び変化する濃縮フィードの灌流速度を使用して制御され得る。これにより自動的に、希釈剤の灌流速度は変化する。別の代替例では、細胞培養液中のモル浸透圧濃度は、一定の希釈剤の灌流速度及び変化する濃縮フィードの灌流速度を使用して制御され得、その結果、全体の灌流速度は変化する。
【0103】
少なくとも3つの濃縮フィードは、1倍の無血清細胞培養灌流培地中の培地成分の相対的比率を維持するために、それらの濃度倍率に応じて、互いに対して一定の比(v/v/v)で添加される。1つの実施態様では、アルカリ性濃縮フィード対酸性濃縮フィード対中性に近い濃縮フィードの比(v/v/v)は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中で中性pHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地をもたらすような一定の比であり;そして、中性に近いpHにpH調整されている無血清細胞培養灌流培地をもたらす、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に添加された希釈剤対少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの累積容量の比(v/v)が、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中の無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度及び/又は濃度倍率を決定する。
【0104】
細胞培養液中のモル浸透圧濃度は、一定の濃縮フィード灌流速度及び減少した希釈剤の灌流速度を使用して(その結果、全体の灌流速度は減少する);又は、一定の全体の灌流速度及び増加した濃縮フィードの灌流速度を、減少した希釈剤の灌流速度と共に使用して;又は、一定の希釈剤の灌流速度及び増加した濃縮フィード灌流速度(その結果、全体の灌流速度は増加する)を使用して増加し得、ここで少なくとも3つの濃縮フィードは、1倍の無血清細胞培養灌流培地中の培地成分の相対的比率を維持するために、それらの濃度倍率に応じて、互いに対して一定の比(v/v/v)で添加される。1つの実施態様では、好ましくは、モル浸透圧濃度を増加させるために、さらなる添加剤は培養液に全く添加されない。
【0105】
さらに別の態様では、本発明は、本発明に記載の方法によって得ることができる、無血清細胞培養灌流培地に関する。
【0106】
細胞培養法
理解する目的のために、当業者によって、タンパク質の産生のための細胞培養液及び培養の実行は、少なくとも3つの一般的な種類;すなわち、灌流培養液、バッチ培養液、及びフェッドバッチ培養液を含み得ることが理解されるだろう。灌流培養液では、例えば、新たな培養培地の補助物質が、培養期間中に細胞に与えられ、一方、古い培養培地は日毎に除去され、産物は、例えば1日1回又は連続的に収集される。灌流培養液では、灌流培地が1日1回添加され得、そして連続的に、すなわち点滴として又は輸液として添加され得る。灌流培養のために、細胞が生存したままであり、環境及び培養条件が維持される限り、細胞は望む限り長く培養液中に留まり得る。細胞は連続的に増殖するので、一定の生細胞密度を維持するために、実行中に細胞を除去することが典型的には必要とされ、これはセルブリードと称される。セルブリードは細胞と共に除去された培養培地中に産物を含有し、これは典型的には廃棄され、したがって無駄になる。したがって、セルブリーディングを伴うことなく又は最小限のセルブリーディングしか伴うことなく、生産期中の生細胞密度を維持することは有益であり、1回の実行あたりの全収量を増加させる。
【0107】
バッチ培養液では、細胞は最初に培地中で培養され、この培地は除去されないか、交換されないか、又は補充されず、すなわち、細胞には培養実行中又は終了前に新たな培地が「フィード」されない。所望の産物は、培養実行終了時に収集される。バッチ培養液はまた、フェッドバッチ培養又は灌流培養の初期段階も指し得る。灌流培養では、哺乳動物細胞は、例えば、灌流培養が開始される前に、最初にバッチ培養液として培養されてもよい。
【0108】
フェッドバッチ培養液では、培養実行時間は、培養培地に1日あたり1回以上、(又は連続的に)新たな培地を実行中に補充することによって延長され、すなわち、細胞に新たな培地(「フィーディング培地」)が培養期間中に「フィード」される。フェッドバッチ培養液は、上記のような様々なフィーディング処方計画及びフィーディング時間、例えば、1日1回、隔日、2日に1回など、1日あたり1回を超える、又は1日あたり1回未満などを含み得る。さらに、フェッドバッチ培養液には、フィーディング培地が連続的にフィードされてもよい。次いで、所望の産物は、培養/生産の実行の終了時に収集される。
【0109】
哺乳動物細胞は、灌流培養液中で培養され得る。異種タンパク質産生中に、制御システムを有することが望ましく、ここでの細胞は、所望の生細胞密度まで増殖し、その後、細胞は増殖の停止した高い生産性の状態に切り替えられ、ここでの細胞はエネルギー及び基質を使用して、細胞増殖及び細胞分裂よりもむしろ関心対象の異種タンパク質を産生する。この目標を達成するための方法、例えば温度シフト及びアミノ酸の枯渇は、常に成功するわけではなく、産物の品質に対して望ましくない作用を及ぼし得る。本明細書に記載のような生産期中の生細胞密度は、定期的なセルブリードを実施することによって、所望のレベルに維持され得る。しかしながら、これは、関心対象の異種タンパク質の廃棄につながる。生産期中の細胞増殖停止により、セルブリードの必要性は減少し、より生産性の高い状態に細胞を維持さえし得る。
【0110】
1つの態様では、(a)バイオリアクターに、無血清細胞培養培地中で異種タンパク質を発現している哺乳動物細胞を接種する工程;(b)哺乳動物細胞に無血清細胞培養灌流培地フィードを連続的にフィードし、培養液中に細胞を保ちながら、使用済み培地を除去することによって、灌流培養液中で哺乳動物細胞を培養する工程を含む、灌流培養液中で異種タンパク質を発現している哺乳動物細胞を培養する方法が提供され、ここでの無血清細胞培養培地灌流フィードは、(i)少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む、区画化された無血清細胞培養灌流培地(ここでの第一の濃縮フィードはアルカリ性濃縮フィードであり、第二の濃縮フィードは酸性濃縮フィードであり、第三の濃縮フィードは中性に近い濃縮フィードであり;ここでの区画化された無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを混合した時に、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中で中性のpHにpH調整される);並びに/あるいは(ii)本発明に記載の方法によって得られた無血清細胞培養灌流培地であり、そして、ここでの区画化された無血清細胞培養灌流培地フィードのアルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられ、ここでの該希釈剤は細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に添加されるか、あるいは、該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加えられる直前に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つと予め混合される。
【0111】
1つの実施態様では、哺乳動物細胞は最初に、灌流培養が開始される前に、バッチ培養液として培養される。典型的には、工程(a)の無血清細胞培養培地は増殖培地である。工程(a)は、増殖培地中で哺乳動物細胞を培養する工程、及び該増殖培地を使用して灌流培養を開始する工程をさらに含み得る。工程(b)の灌流培養液中の哺乳動物細胞の培養は、本発明に記載の無血清細胞培養培地又は本発明に記載の方法によって得られた無血清細胞培養培地を用いた灌流によって、目標の細胞密度に到達するまで、生産期中の哺乳動物細胞を培養する工程;及びさらに、本発明に記載の無血清細胞培養培地又は本発明に記載の方法によって得られた無血清細胞培養培地を用いた灌流によって、目標の細胞密度での生産期中の細胞を維持する工程を含む。工程(b)に従って、哺乳動物細胞に連続的にフィードし、培養液中の細胞を維持しながら、使用済み培地を除去することによって、灌流培養液に使用される無血清細胞培養灌流培地は、生産培地であり得る。該方法はさらに、細胞培養液からの異種タンパク質の収集工程を含み得る。
【0112】
生産期は典型的には、目標の細胞密度に達する前に始まる。目標の細胞密度は、細胞株及び細胞株の最大生細胞密度に依存し、それは典型的には最大生細胞密度の約15~45%である。生産期は、10×106個の細胞/mlから約120×106個の細胞/ml又はさらにはより高い細胞密度で開始され得る。好ましくは生産期は、少なくとも10×106個の細胞/ml、少なくとも20×106個の細胞/ml、少なくとも30×106個の細胞/ml、少なくとも40×106個の細胞/ml、又は少なくとも50×106個の細胞/mlの細胞密度で開始される。典型的には、培養液の透過液中の異種タンパク質が、1日あたりのバイオリアクター1Lあたり0.2±0.1g又はそれ以上に達した時に、生産期が開始され、この時に異種タンパク質の精製が開始される。
【0113】
本発明の方法によると、工程(a)における哺乳動物細胞の培養は、無血清培養培地中への異種タンパク質を発現している哺乳動物細胞の接種に限定され得、よって、灌流開始前の培養工程の必要はないがこれを含んでいてもよく、さらに灌流培養の開始の必要はないがこれを含んでいてもよい。典型的には、増殖培地が、工程(a)において使用され、これは、生産培地とも称される、本発明に記載の又は工程(b)の本発明の方法に従って得られた培地によって置き換えられる。さらに本発明の方法によると、灌流による生産期中の哺乳動物細胞を維持する工程は、実質的に一定した生細胞密度で、およそ目標の生細胞密度での灌流によって生産期中の哺乳動物細胞を培養する工程を含み、ここでの実質的に一定した生細胞密度は、30%、好ましくは20%、より好ましくは10%以内の生細胞密度の変動を意味する。
【0114】
本発明は、本発明に記載の灌流培養液中で異種タンパク質を発現している哺乳動物細胞を培養する方法を使用する工程を含む、異種タンパク質を産生する方法にも関する。当業者は、本発明に記載の方法がインビトロでの培養法であることを理解しているだろう。
【0115】
1つの実施態様では、無血清細胞培養灌流培地は、化学組成が規定されていてもよい及び/又は加水分解物非含有であってもよい。好ましくは無血清細胞培養灌流培地は、タンパク質非含有であるか、あるいは組換えインシュリン及び/又はインシュリン様増殖因子を除いてタンパク質非含有である。したがって、無血清細胞培養灌流培地は、タンパク質非含有培地、あるいは組換えインシュリン及び/又は組換えインシュリン様増殖因子を含んでいるタンパク質非含有培地であり得る。より好ましくは、無血清灌流培地は、化学組成が規定され、そしてタンパク質非含有、あるいは組換えインシュリン及び/又はインシュリン様増殖因子を除いてタンパク質非含有である。これはまた、本発明の方法に記載の方法の工程(a)に使用されている、無血清培養培地にも適用される。
【0116】
哺乳動物細胞は最初に、灌流培養が開始される前に、バッチ培養液として培養され得る。典型的には、灌流培養は、培養の0日目から5日目、好ましくは0日目から4日目、より好ましくは0日目から3日目に開始される。灌流速度は、灌流が開始された後、目標の生細胞密度に到達するまで増加する。灌流速度は、例えば、1日あたり0.5容器容量以下から、1日あたり約5容器容量まで、好ましくは1日あたり0.5容器容量以下から1日あたり約2容器容量まで増加させ得る。
【0117】
すでに上記に説明されているように、本発明の方法はさらに、細胞密度が定常状態でのセルブリーディングによって維持される工程を含み得る。本文脈に言及されている細胞密度は生細胞密度であり、これは当技術分野において公知である任意の方法によって決定され得る。例えば、セルブリード速度を支配する計算は、目標の生細胞密度に相当する、INCYTE(商標)生細胞密度プローブ(HAMILTON(登録商標)社)又はFUTURA(商標)バイオマス静電容量プローブ(ABER(登録商標)機器)の数値の維持に基づき得るか、あるいは日毎の細胞数及び生存率の計測は、血球系、VI-CELL XR(商標)(ベックマンコールター(登録商標))、CEDEX HI-RES(商標)(ロシュ(登録商標))、又はVIACOUNT(商標)アッセイ(EMDミリポア(登録商標(GUAVA EASYCYCLE(登録商標))などの任意の細胞計数装置を介してオフラインで行なわれ得る。本発明の方法を使用して、セルブリーディングは、モル浸透圧濃度を増加させることによって、対照の灌流細胞培養液と比較して、排除又は低減させ得、ここでの対照の灌流細胞培養液は、本発明に記載の細胞培養液中でモル浸透圧濃度の増加を伴うことなく、同じ無血清灌流培地を使用して、同じ条件下で培養される灌流細胞培養液である。より具体的には、セルブリーディングは、対照の灌流細胞培養液と比較して低減させ得、ここでの対照の灌流細胞培養液は、モル浸透圧濃度の増加を伴うことなく、同じ無血清灌流培地を使用して、同じ条件下で培養される灌流細胞培養液である。セルブリーディングを伴わない灌流細胞培養液はまた、「動的な灌流培養液」又は「動的な灌流プロセス」とも称され得る。好ましくは動的な灌流培養液はまた、例えば80×106個の細胞/mlを超える、100×106個の細胞/mlを超える、120×106個の細胞/mlを超える、又はさらには140×106個の細胞/mlを超える高い生細胞密度、並びに/あるいは、30日間未満、好ましくは14~16日間の比較的短い培養時間も含む。
【0118】
1つの実施態様では、無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度は、増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルを超えて増加してもよく、その結果、目標の生細胞密度で哺乳動物細胞の増殖は抑制され、好ましくはここでの無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度レベルは、目標の生細胞密度のほぼ半分から開始して、徐々に又は段階的に増加させる。目標の生細胞密度は、約30×106個の細胞/ml以上、約60×106個の細胞/ml以上、約80×106個の細胞/ml以上、好ましくは約100×106個の細胞/ml以上であり得る。目標の生細胞密度は、約100×106個の細胞/mlから約200×106個の細胞/ml、好ましくは約120×106個の細胞/mlから150×106個の細胞/mlぐらいに高くさえあってもよい。150×106個の細胞/mlを超える本来の最大生細胞密度を有する細胞株では、細胞増殖は典型的には、200×106個の細胞/mlという目標の生細胞密度が達成されていても、適切な酸素の供給、過剰な細胞の集塊の回避(これは細胞保持装置を遮断する可能性がある)、廃棄代謝物の蓄積の作用を最小限にすることなどを確実にするために阻害される必要がある。
【0119】
細胞培養液中のモル浸透圧濃度は、一定の濃縮フィード灌流速度及び変化する希釈剤の灌流速度を使用して制御され得、その結果、全体の灌流速度は変化する。一定の濃縮フィード灌流速度は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィード、より具体的にはアルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードの累積灌流速度又は合計の灌流速度に関する。濃縮フィードは、例えば、0.5VVDの一定の合計の灌流速度(例えば0.33VVDでの6倍の酸性フィード、各々0.08VVDでの25倍のアルカリ性フィード及び中性に近いフィード)でフィードされ得る。全体の灌流速度は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィード及び希釈剤の累積灌流速度である。あるいは、細胞培養液中のモル浸透圧濃度は、一定の全体の灌流速度及び変化する濃縮フィード灌流速度を使用して制御され得る。これにより自動的に、希釈剤の灌流速度は変化する。別の代替法では、細胞培養液中のモル浸透圧濃度は、一定の希釈剤の灌流速度及び変化する濃縮フィードの灌流速度を使用して制御され得、その結果、全体の灌流速度は変化する。少なくとも3つの濃縮フィードは、1倍の無血清細胞培養灌流培地中の培地成分の相対的比率を維持するために、それらの濃度倍率に応じて、互いに対して一定の比(v/v/v)で添加される。換言すれば、アルカリ性濃縮フィード対酸性濃縮フィード対中性に近い濃縮フィードの比(v/v/v)は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中で中性pHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地をもたらすように、一定の比(各々の培地について)である。好ましくは細胞培養液中のモル浸透圧濃度は、一定の濃縮フィードの灌流速度及び変化する希釈剤の灌流速度を使用して制御され、その結果、全体の灌流速度は変化する。
【0120】
細胞培養液中のモル浸透圧濃度(及び無血清細胞培養灌流培地の濃度倍率)は、一定の濃縮フィードの灌流速度及び減少する希釈剤の灌流速度(これにより、全体の灌流速度は減少する)を使用して;又は、一定の全体の灌流速度及び増加した濃縮フィードの灌流速度を、減少した希釈剤の灌流速度と共に使用して;又は一定の希釈剤の灌流速度及び増加した濃縮フィードの灌流速度(これにより、全体の灌流速度は増加する)を使用して、増加し得;ここで、少なくとも3つの濃縮フィードは、1倍の無血清細胞培養灌流培地中の培地成分の相対的比率を維持するために、それらの濃度倍率に応じて、互いに対して一定の比(v/v/v)で添加される。好ましくは、モル浸透圧濃度を増加させるために、さらなる添加剤(例えばNaCl)は培養液に全く添加されない。好ましくは、細胞培養液中のモル浸透圧濃度は、一定の濃縮フィードの灌流速度及び減少した希釈剤の灌流速度を使用して増加し、その結果、全体の灌流速度は減少する。好ましい実施態様では、モル浸透圧濃度を増加させるために、さらなる添加剤は培養液に全く添加されない。
【0121】
中性に近いpHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地をもたらすように、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に添加された、希釈剤、対、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの累積容量の比(v/v)の増加は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中に結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度及びまた濃度倍率も決定する。濃度倍率は、0.1倍から無血清細胞培養培地の最大濃度倍率までのいずれでもよく、これは、上記に説明されているように計算され得る。濃縮フィードの使用は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中の無血清細胞培養培地の濃度倍率の調整を可能とし、よって、モル浸透圧濃度を増加させることによって増殖抑制の調節を可能とすることに加えて、それは、無血清細胞培養培地の濃度倍率を増加させることによって培地中の栄養分の含量の増加を可能とする。これは、同じような又はほんの僅かに増加した灌流速度で、結果として減少した細胞特異的灌流速度で、より高い生細胞密度の維持を可能とする。「何倍かに濃縮された」という用語は、1倍の無血清細胞培養灌流培地の濃縮液(n>1)又は希釈液(n>1)を指し、ここでの1倍の無血清細胞培養灌流培地は、独創的に調製されたか又は設計された無血清細胞培養灌流培地製剤である。
【0122】
中性に近いpHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地を結果としてもたらすように、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に添加された、希釈剤、対、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの累積容量の比(v/v)は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中の無血清細胞培養灌流培地の濃度倍率(全体の栄養分の含量)を決定する。したがって、濃縮フィードを使用する利点は、培地の濃度倍率を、生細胞濃度及び栄養分の需要(栄養の平衡を維持する)に適応させ得ることである。モル浸透圧濃度は、システムの内外において栄養分の平衡を推定するための代用として使用され得る。したがって、浸透圧の平衡を使用して、濃縮フィード(互いに対して一定の比で)の累積容量及び希釈剤のフィード速度の調整を計算して、所望の残留モル浸透圧濃度及び栄養分レベルを達成し得る。
【0123】
あらゆるフィーディング戦略は、グルコース又は塩基性滴定剤などの任意の他のフィードによって付加されるモル浸透圧濃度を考慮に入れなければならない。モル浸透圧濃度の制御スキームの選択は、細胞株に依存し、そしてモル浸透圧濃度及び廃棄物の蓄積に対する各細胞株の感受性に依存する。可能な最も低い灌流速度が好ましい。フィード速度は、日毎に計算される、濃縮フィードの既知のモル浸透圧濃度、及び推定される細胞特異的モル浸透圧濃度の消費速度に基づいて決定され得る。1日あたりのモル浸透圧濃度の消費量についての浸透圧の平衡は、以下の式に従って計算され得る:
浸透圧のインプット-浸透圧のアウトプット=浸透圧の消費量、ここでの浸透圧のインプットは、バイオリアクター内へと灌流している培地濃縮フィード及び希釈剤のモル浸透圧濃度であり、浸透圧アウトプットは、バイオリアクターの上清の残留モル浸透圧濃度であり、そして、浸透圧の消費は、インプットとアウトプットとの間のモル浸透圧濃度の差である。その後、この1日あたりの浸透圧の消費量は、1日あたり細胞1個あたりのモル浸透圧濃度の消費量のために、培養液中の細胞数に正規化される。その後、細胞1個あたりのこの1日あたりの消費速度(又は、細胞特異的な浸透圧消費速度、CSOCR)に、翌日の予測される生細胞密度を乗じて、翌日の浸透圧の消費量を予測する。所望の浸透圧のアウトプットと共にこの消費速度を使用して、翌日に必要とされる浸透圧のインプットを計算することができる。その後、希釈剤及び/又は濃縮フィードの灌流速度を調整して、浸透圧のインプットの目標に一致させる。
【0124】
細胞培養液中の増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルは細胞株依存性であり、それは約280ミリオスモルから約390ミリオスモル、より好ましくは280から約350ミリオスモル未満(水1kgあたりのミリオスモル)であり得る。いくつかの細胞株は、依然として約390ミリオスモルを超えるモル浸透圧濃度で最適に増殖し得る。細胞培養液中の哺乳動物細胞の増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルは、使用される哺乳動物細胞及びおそらくまた培養条件にも依存する。哺乳動物細胞の増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルは、様々なモル浸透圧濃度における生細胞密度及び生存率を決定することによって容易に決定され得る。至適なモル浸透圧濃度レベルは、細胞密度に非依存性であるが、好ましくはほぼ目標の生細胞密度で決定される。モル浸透圧濃度は、少なくとも目標の生細胞密度のほぼ半分に到達するまで、増殖に至適なレベルで維持されるべきである。
【0125】
一旦、目標の生細胞密度に達したら、細胞増殖を抑制するために、モル浸透圧濃度を増加させ得、例えば哺乳動物細胞の増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルの約10~70%、約10~60%、又は約10~50%の増加であり得る。モル浸透圧濃度は、好ましくは目標の生細胞密度のほぼ半分(すなわち、目標の生細胞密度とは約1回の集団倍加だけ離れている)から開始して、より好ましくは増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルの約10~70%、約10~60%、又は約10~50%まで徐々に又は段階的に増加させるべきである。1つの実施態様では、モル浸透圧濃度は、約350ミリオスモル以上まで、好ましくは約380ミリオスモル以上まで、約400ミリオスモル以上まで、約420ミリオスモル以上まで、又は約450ミリオスモル以上まで増加させる。モル浸透圧濃度は、哺乳動物細胞に細胞毒性をもたらすことなく、哺乳動物細胞の細胞増殖を抑制するレベルまで増加させる。モル浸透圧濃度は、哺乳動物細胞の細胞増殖を抑制するモル浸透圧濃度レベルまで、好ましくはほぼ目標の生細胞密度まで増加させかつそこで維持し得、ここでの哺乳動物細胞の細胞増殖を抑制するモル浸透圧濃度レベルは、約350ミリオスモル以上、又は380ミリオスモル以上であり得る。しかしながら、哺乳動物細胞の細胞生存率は、実質的に影響を受けないことが重要である。大半の細胞株では、モル浸透圧濃度レベルは、約400ミリオスモルを超えると細胞毒性となり始めるが、個々の細胞株では、モル浸透圧濃度レベルは、細胞毒性に影響を及ぼすことなく、450ミリオスモルまで増加させ得る。モル浸透圧濃度の生理学的にストレスのかかるレベルまでの増加は、細胞増殖を阻害する。細胞培養液中の哺乳動物細胞の細胞増殖を阻害するモル浸透圧濃度は、使用される哺乳動物細胞に依存する。細胞毒性レベルに達することなく、細胞培養液中の特定の哺乳動物細胞の細胞増殖を阻害するモル浸透圧濃度は、様々なモル浸透圧濃度における生細胞密度及び生存率を測定することによって容易に決定され得る。好ましくはモル浸透圧濃度の増加により、生存率に影響を及ぼすことなく、生産期中の細胞は、ほぼ目標の生細胞密度で維持される。したがって、モル浸透圧濃度の増加により、生産期中のセルブリーディングの必要性は低減又は排除される。細胞培養液中のモル浸透圧濃度を増加させることによって、細胞増殖は抑制され、セルブリーディングを行なうことなく、持続可能な生細胞密度を、特に高い生細胞密度を、例えば100×106個の細胞/ml未満、好ましくは120×106個の細胞/ml未満を維持し得、これは動的灌流培養とも称され得る。
【0126】
細胞培養液中のモル浸透圧濃度を増加させることによって、細胞培養液中で産生される異種タンパク質の収量は、対照の細胞培養液(ここでのモル浸透圧濃度は増加していない)中の収量と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約100%、又は約5~50%、好ましくは約10~100%増加し得る。好ましくは収量は、一部の培養期間又は全培養期間について決定される。
【0127】
本発明に記載の無血清細胞培養培地又は本発明に記載の方法によって得られた無血清細胞培養培地を使用し、そして場合によりさらに細胞培養液中のモル浸透圧濃度を増加させることによって、細胞特異的灌流速度(pl/細胞/日)は、1倍の無血清細胞培養培地の細胞特異的灌流速度と比較して、少なくとも約25%、少なくとも約30%、又は少なくとも約50%減少する。
【0128】
本発明の方法の1つの実施態様では、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器は、少なくとも約100Lの無血清細胞培養灌流培地、好ましくは少なくとも約1000Lの無血清細胞培養灌流培地を含む。好ましくは細胞培養液は、少なくとも約100Lの容量を有し、及び/又はバイオリアクターは少なくとも約100Lの容量を有する。より好ましくは細胞培養液は、少なくとも約1000Lの容量を有し、及び/又はバイオリアクターは少なくとも約1000Lの容量を有する。本発明において使用されるか又は本発明の方法によって調製される無血清細胞培養灌流培地は、完全な無血清細胞培養灌流培地であり、該培養液にはさらに補充されてもよい。細胞培養液に別々に添加され得る適切な補助物質は、消泡剤、塩基、グルコース、及び/又はグルタミンであるがこれらに限定されない。
【0129】
異種タンパク質は任意のタンパク質であり得、好ましくはそれは治療用タンパク質、例えば抗体、又は治療に有効なその断片、融合タンパク質、又はサイトカイン、又は本明細書に記載の異種タンパク質のいずれかである。該抗体は、モノクロ―ナル抗体、二重特異的抗体、多量体抗体、又はその断片であり得る。
【0130】
バイオリアクター
無血清細胞培養灌流培地は、連続灌流に適した、任意の種類の細胞培養システム、タイプ、又はフォーマットで使用され得る。
【0131】
任意の細胞灌流バイオリアクター及び細胞保持装置を、灌流培養に使用し得る。灌流に使用されるバイオリアクターは、それらがよりコンパクトなサイズであり、細胞保持装置に接続されていることを除いて、バッチ培養/フェッドバッチ培養に使用されるものとあまり異ならない。バイオリアクター内に細胞を保持するための方法は、該細胞が表面に付着して増殖しているか、又は単一細胞懸濁液若しくは細胞凝集物のいずれかで増殖しているかによって主に決定される。大半の哺乳動物細胞は歴史的に、表面又はマトリックスに付着させて増殖させたが(不均一な培養液)、多くの工業的な哺乳動物細胞株を、懸濁液中での増殖に適応するように努力が払われ(均一な培養液)、これは主に、懸濁培養液は規模の拡大がより容易であるからである。したがって、本発明の方法に使用される細胞は好ましくは懸濁液中で増殖させる。これに限定するものではないが、懸濁液中で増殖させる細胞の例示的な保持システムは、スピンフィルター、外部ろ過、例えばタンジェンシャルフローろ過(TTF)、交互タンジェンシャルフロー(ATF)システム、細胞沈降(垂直沈降及び傾斜沈降)、遠心分離、超音波による分離、及びハイドロクローンである。灌流システムは、2つのカテゴリーに、すなわちろ過に基づいたシステム、例えばスピンフィルター、外部ろ過及びATF、並びに開放灌流システム、例えば重力沈下機、遠心分離機、超音波分離装置、及びハイドロクローンにカテゴリー化され得る。ろ過に基づいたシステムは、高い細胞保持度を示し、それは流速と共に変化しない。しかしながら、フィルターは詰まる可能性があり、よって、培養の実行時間は制限されるか、又はフィルターの交換が必要である。ATFシステムの一例は、REPLIGEN(商標)のXCELL(商標)ATFシステムであり、TFFシステムの一例は、遠心ポンプを使用したLEVITRONIX(登録商標)のTFFシステムである。クロスフローフィルター、例えば中空糸(HF)又はフラットプレートフィルターは、ATF及びTFFシステムと共に使用され得る。特に、修飾されたポリエーテルスルホン(mPES)、ポリエーテルスルホン(PES)、又はポリスルホン(PE)から作製された中空糸が、ATF及びTFFシステムと共に使用され得る。中空糸の孔径は、数百kDaから15μMの範囲であり得る。開放灌流システムは詰まらないので、少なくとも理論的には永久に作動することができる。しかしながら、細胞保持度は、より高い灌流速度では低減する。現在、工業規模で使用することのできる3つのシステムが存在し、交互タンジェンシャルフィルター(ATF)、重力(特に傾斜沈下機)及び遠心分離機である。不均一又は均一な培養液に適した細胞保持装置は、Kompala and Ozturk (Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies, (2006), Taylor & Francis Group, LLC, pages 387-416によってより詳細に記載され、これは参照により本明細書に組み込まれる。灌流培養は、真に定常状態のプロセスではなく、セルブリード流がバイオリアクターから除去される場合にのみ、合計の細胞濃度及び生細胞濃度は定常状態に達する。
【0132】
灌流バイオリアクター中のpH、溶存酸素及び温度などの物理的パラメーターは、オンラインでモニタリングされ、リアルタイムで制御されるべきである。細胞密度、生存率、代謝物、及び産物の濃度の決定は、オフライン又はオンラインの試料採取を使用して実施され得る。灌流操作が連続的な収集及びフィーディングと共に開始される場合、灌流速度は典型的には、収集流速を指し、これは所望の数値に手作業で設定され得る。例えば、バイオリアクターの重量制御は、フィードポンプを作動させ得、よってバイオリアクター内に一定の容量を維持することができる。あるいは、レベル制御は、所定のレベルよりも高い培養容量を送り出すことによって達成され得る。バイオリアクター内の灌流速度は、十分な栄養分を細胞に送達するように調整されなければならない。
【0133】
灌流速度は、例えば、細胞密度の測定、pH測定、酸素消費量、又は代謝物の測定などを使用して制御され得る。細胞密度は、灌流速度の調整のために使用される最も重要な測定である。細胞密度の測定がどのように実施されるかに応じて、灌流速度は、日毎に又はリアルタイムで調整され得る。いくつかのオンラインプローブが、細胞密度の推定のために開発され、これは当業者には公知であり、例えば静電容量プローブ、例えばINCYTE(商標)生細胞密度プローブ(HAMILTON(登録商標)社)又はFUTURA(商標)バイオマス静電容量プローブ値(ABER(登録商標)機器)である。これらの細胞密度プローブはまた、バイオリアクターから過剰な細胞を除去することによって(すなわちセルブリード)、所望の設定点に細胞密度を制御するために使用され得る。したがって、セルブリードは、培養液中の哺乳動物細胞の具体的な増殖速度によって決定される。セルブリードは典型的には収集されず、それ故、廃棄物と考えられる。
【0134】
本発明の方法はさらに、灌流細胞培養液から異種タンパク質を収集する工程を含む。本発明は、関心対象のタンパク質を収集及び精製するための任意の適切な方法を考える。収集はまた、細胞培養の生活環の全期間を通して断続的に行なわれても、又は細胞培養終了時に行なわれてもよい。収集は好ましくは、細胞保持装置によって細胞が回収された後に産生される上清である、透過液から連続的に行なわれる。フェッドバッチと比較して灌流バイオリアクター内の細胞培養液中のタンパク質産物のより短い産物滞留時間に因り、プロテアーゼ、シアリダーゼ、及び他の分解性タンパク質への曝露は最小限となり、これにより、灌流培養液中で産生される異種タンパク質の産物の品質はより良好となり得る。好ましくは、収集産物は、米国仮特許出願第62827504号、特にその
図6に記載のようなiSKIDを使用して精製される。iSKIDは、高度に自動的に複数のユニットの操作をまとめた統合スキッドであり、完全な連続自動化製造を引き受けることができる。
【0135】
発現産物
本発明の方法及び使用によって産生される異種タンパク質は任意の分泌タンパク質であり得、好ましくはそれは治療用タンパク質である。大半の治療用タンパク質は、組換え治療用タンパク質であるので、それは最も好ましくは組換え治療用タンパク質である。治療用タンパク質の例は、以下に限定されないが、抗体、融合タンパク質、サイトカイン、及び増殖因子である。
【0136】
本発明の方法に記載の哺乳動物細胞において産生される治療用タンパク質としては、抗体又は融合タンパク質、例えばFc融合タンパク質が挙げられるがこれらに限定されない。他の組換え治療用分泌タンパク質は、例えば、酵素、サイトカイン、リンホカイン、接着分子、受容体、及びその誘導体又は断片、並びに、アゴニスト若しくはアンタゴニストとして作用し得る及び/又は治療用途若しくは診断用途を有し得る任意の他のポリペプチド及び骨格であり得る。
【0137】
関心対象の他の組換えタンパク質は、例えばであって以下に制限されない:インシュリン、インシュリン様増殖因子、ヒト成長ホルモン、組織プラスミノーゲン活性化因子、サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、インターフェロン(IFN)α、IFNβ、IFNγ、IFNω、又はIFNτ、腫瘍壊死因子(INF)、例えばTNFα及びTNFβ、TNFγ、TRAIL(腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド);顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、MCP-1(単球走化性タンパク質1)、及び血管内皮増殖因子。エリスロポエチン又は任意の他のホルモン成長因子、並びに、アゴニスト若しくはアンタゴニストとして作用し得る及び/又は治療用途若しくは診断用途を有し得る任意の他のポリペプチドの産生も含まれる。
【0138】
好ましい治療用タンパク質は、抗体又はその断片若しくは誘導体であり、より好ましくはIgG1抗体である。したがって、本発明は有利には、モノクローナル抗体、多重特異的抗体、又はその断片などの抗体の産生、好ましくはモノクローナル抗体、二重特異的抗体、又はその断片の産生のために使用され得る。本発明の範囲内の例示的な抗体としては、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗CD22抗体、抗CD30抗体、抗CD33抗体、抗CD37抗体、抗CD40抗体、抗CD44抗体、抗CD44v6抗体、抗CD49d抗体、抗CD52抗体、抗EGFR1(HER1)抗体、抗EGFR2(HER2)抗体、抗GD3抗体、抗IGF抗体、抗VEGF抗体、抗TNFα抗体、抗IL2抗体、抗IL-5R抗体、又は抗IgE抗体が挙げられるがこれらに限定されず、そして好ましくは、抗CD20抗体、抗CD33抗体、抗CD37抗体、抗CD40抗体、抗CD44抗体、抗CD52抗体、抗HER2/neu(erbB2)抗体、抗EGFR抗体、抗IGF抗体、抗VEGF抗体、抗TNFα抗体、抗IL2抗体、及び抗IgE抗体からなる群より選択される。
【0139】
抗体断片としては、例えば、「Fab断片」(抗原結合断片(Fragment antigen-binding)=Fab)が挙げられる。Fab断片は、隣接する定常領域によってつなぎ合わせられている、両方の鎖の可変領域からなる。これらは、従来の抗体から、例えばパパインなどを用いたプロテアーゼによる消化によって形成され得るが、同様にFab断片もまた、遺伝子工学操作によって産生されてもよい。さらなる抗体断片としては、F(ab’)2断片が挙げられ、これはペプシンを用いたタンパク質分解的開裂によって調製され得る。
【0140】
遺伝子工学操作法を使用して、重鎖(VH)と軽鎖(VL)の可変領域のみからなる、短縮された抗体断片を作製することが可能である。これらは、Fv断片(可変断片(Fragment variable)=可変部分の断片)と称される。これらのFv断片は、定常鎖のシステインによる2本の鎖の共有結合を欠失しているので、Fv断片は安定化されていることが多い。短いペプチド断片、例えば10~30アミノ酸、好ましくは15アミノ酸のペプチド断片によって、重鎖及び軽鎖の可変領域を連結することが有利である。このようにして、ペプチドリンカーによって連結された、VHとVLからなる、一本のペプチド鎖が得られる。この種の抗体タンパク質は、一本鎖Fv(scFv)として知られている。scFv抗体タンパク質の例は、当業者には公知である。
【0141】
本発明に記載の好ましい治療用抗体は二重特異的抗体である。二重特異的抗体は典型的には、目標の細胞(例えば悪性B細胞)及びエフェクター細胞(例えばT細胞、ナチュラルキラー細胞、又はマクロファージ)に対する抗原結合特異性を1つの分子内で組み合わせる。例示的な二重特異的抗体は、以下に限定されないが、ディアボディーズ、BiTE(二重特異性T細胞誘導抗体)フォーマット及びDART(二重親和性再標的化分子)フォーマットである。ディアボディフォーマットは、2本の別々のポリエステル鎖上の(ここでの2本のポリペプチド鎖は非共有結合している)、2本の抗原結合特異性を有する重鎖と軽鎖の同族可変ドメインを分離する。DARTフォーマットは、ディアボディフォーマットに基づくが、それはC末端ジスルフィド橋を通したさらなる安定化をもたらす。
【0142】
別の好ましい治療用タンパク質は、融合タンパク質、例えばFc融合タンパク質である。したがって、本発明は有利には、融合タンパク質、例えばFc融合タンパク質の産生に使用され得る。さらに、本発明に従って産生されたタンパク質を増加させる方法は有利には、Fc融合タンパク質などの融合タンパク質の産生に使用され得る。
【0143】
融合タンパク質のエフェクター部分は、天然又は修飾された異種タンパク質の完全配列又は配列の任意の部分、あるいは、天然又は修飾された異種タンパク質の完全配列又は配列の任意の部分の混成であり得る。免疫グロブリン定常ドメイン配列は、任意の免疫グロブリンサブタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、又はIgA2サブタイプ又はクラス、例えばIgA、IgE、IgD、又はIgAから得ることができる。優先的には、それらはヒト免疫グロブリンから、より好ましくはヒトIgGから、さらにより好ましくはヒトIgG1及びIgG2から誘導される。Fc融合タンパク質の非制限的な例は、N結合グリコシル化部位を含んでいる、重鎖免疫グロブリン定常領域のCH2ドメインに結合した、MCP1-Fc、ICAM-Fc、EPO-Fc、及びscFv断片などである。Fc融合タンパク質は、N結合グリコシル化部位を含んでいる、重鎖免疫グロブリン定常領域のCH2ドメインを、例えば他の免疫グロブリンドメイン、酵素的に活性なタンパク質部分、又はエフェクタードメインを含んでいる別の発現構築物に導入することによる、遺伝子工学操作アプローチによって構築され得る。したがって、本発明に記載のFc融合タンパク質はまた、例えばN結合グリコシル化部位を含んでいる、重鎖免疫グロブリン定常領域のCH2ドメインに連結された、一本鎖Fv断片を含む。
【0144】
発現産物の回収及び製剤化
さらなる態様では、本発明の方法を使用して、そして場合によりさらに、治療用タンパク質を薬学的に許容される製剤へと精製及び製剤化する工程を含む、治療用タンパク質を産生する方法が提供される。
【0145】
治療用タンパク質、特に抗体、抗体断片、又はFc融合タンパク質は、分泌されたポリペプチドとして、培養培地から好ましくは回収/単離される。他の組換えタンパク質及び宿主細胞タンパク質から治療用タンパク質を精製して、実質的に均一な治療用タンパク質の調製物を得ることが必要である。第一の工程として、細胞及び/又は粒子状細胞片を培養培地から除去する。さらに、治療用タンパク質は、混入した可溶性タンパク質、ポリペプチド及び核酸から、例えばイムノアフィニティカラム又はイオン交換カラムでの分画、エタノールによる沈降、逆相高速液体クロマトグラフィー、セファデックスクロマトグラフィー、及びシリカクロマトグラフィー、又は陽イオン交換樹脂、例えばDEAEでのクロマトグラフィーによって精製される。哺乳動物細胞によって発現される異種タンパク質を精製する方法は当技術分野において公知である。
【0146】
発現ベクター
1つの実施態様では、本発明の方法を使用して発現される異種タンパク質は、異種タンパク質をコードしている異種ポリヌクレオチドを含んでいる1つ以上の発現カセット(群)によってコードされている。異種タンパク質は、増幅可能な遺伝子選択マーカー、例えばジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、グルタミン合成酵素(GS)などの制御下に置かれていてもよい。増幅可能な選択マーカー遺伝子は、異種タンパク質発現カセットと同じ発現ベクター上にあってもよい。あるいは、増幅可能な選択マーカー遺伝子及び異種タンパク質発現カセットは、異なる発現ベクター上にあってもよいが、宿主細胞のゲノムの近くに組み込まれている。同時に共トランスフェクトされる2つ以上のベクターは、例えば、宿主細胞のゲノムの近くに組み込まれることが多い。その後、分泌される治療用タンパク質の発現カセットを含有している遺伝子領域の増幅は、増幅剤(例えばDHFRではメトトレキサート、又はGSではスルホキシミン)を培養培地に添加することによって媒介される。
【0147】
哺乳動物細胞によって発現される異種タンパク質の十分に高い安定したレベルもまた、例えば、異種タンパク質をコードしているポリヌクレオチドの複数のコピーを発現ベクターにクローニングすることによって達成され得る。異種タンパク質をコードしているポリヌクレオチドの複数のコピーの、発現ベクターへのクローニングと、上記のような異種タンパク質発現カセットの増幅とをさらに組み合わせてもよい。
【0148】
哺乳動物細胞株
本明細書において使用する哺乳動物細胞は、組換え治療用分泌タンパク質の産生に適した哺乳動物細胞株であり、したがって、「宿主細胞」とも称され得る。本発明に記載の好ましい哺乳動物細胞は、げっ歯類の細胞、例えばハムスター細胞である。哺乳動物細胞は、単離された細胞又は細胞株である。哺乳動物細胞は好ましくは、形質転換された及び/又は不死化された細胞株である。それらは、細胞培養液中における連続継代に適応し、そして器官構造の一部である、初代の形質転換されていない細胞又は細胞群を含まない。好ましい哺乳動物細胞は、BHK21細胞、BHK TK-細胞、ジャーカット細胞、293細胞、HeLa細胞、CV-1細胞、3T3細胞、CHO細胞、CHO-K1細胞、CHO-DXB11細胞(CHO-DUKX細胞又はDuxB11細胞とも称される)、CHO-S細胞、及びCHO-DG44細胞、又はこのようないずれかの細胞株の誘導体/子孫である。特に好ましいのは、CHO細胞、例えばCHO-DG44細胞、CHO-K1細胞、及びBHK21細胞であり、さらにより好ましいのはCHO-DG44細胞及びCHO-K1細胞である。最も好ましいのは、CHO-DG44細胞である。哺乳動物細胞、特にCHO-DG44細胞及びCHO-K1細胞のグルタミン合成酵素(GS)欠損誘導体も包含される。本発明の1つの実施態様では、哺乳動物細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、好ましくはCHO-DG44細胞、CHO-K1細胞、CHO DXB11細胞、CHO-S細胞、CHO GS欠損細胞又はその誘導体である。
【0149】
哺乳動物細胞はさらに、異種タンパク質、例えば治療用タンパク質、好ましくは組換え分泌治療用タンパク質をコードしている1つ以上の発現カセット(群)を含み得る。宿主細胞はまた、マウス細胞、例えばマウス骨髄腫細胞、例えばNS0細胞及びSp2/0細胞、又はこのようないずれかの細胞株の誘導体/子孫であり得る。本発明の意味において使用され得る哺乳動物細胞の非制限的な例は、表1にも要約されている。しかしながら、そうした細胞の誘導体/子孫、他の哺乳動物細胞(ヒト、マウス、ラット、サル、及びげっ歯類の細胞株を含むがこれらに限定されない)も、本発明において、特にバイオ医薬タンパク質の生産のために使用することができる。
【0150】
【0151】
無血清条件下、及び場合により動物起源のタンパク質/ペプチドを全く含まない培地中で確立され、適応され、及び完全に培養された場合に、哺乳動物細胞が最も好ましい。市販の培地、例えばHamのF12培地(シグマ社、ダイゼンホーフェン、ドイツ)、RPMI-1640培地(シグマ社)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;シグマ社)、最小必須培地(MEM;シグマ社)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM;シグマ社)、CD-CHO培地(インビトロジェン社、カールズバッド、カリフォルニア州)、CHO-S培地(インビトロジェン社)、無血清CHO培地(シグマ社)、及びタンパク質非含有CHO培地(シグマ社)は、例示的な適切な栄養溶液である。いずれの培地にも、必要であれば、様々な化合物を補充してもよく、この非制限的な例は、組換えホルモン及び/又は他の組換え増殖因子(例えばインシュリン、トランスフェリン、上皮増殖因子、インシュリン様増殖因子)、塩(例えば塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩)、緩衝液(例えばHEPES)、ヌクレオシド(例えばアデノシン、チミジン)、グルタミン、グルコース、又は他の等価なエネルギー源、抗生物質及び微小元素である。任意の他の必要な補助物質も、当業者には公知であろう適切な濃度で含まれていてもよい。選択可能な遺伝子を発現している遺伝子に改変された細胞の増殖及び選択のために、適切な選択用薬剤が培養培地に添加される。
【0152】
上記の点から、本発明は、以下の項目も包含することが理解されるだろう。
【0153】
項目1は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む、区画化された無血清細胞培養灌流培地を提供し、ここでの第一の濃縮フィードはアルカリ性濃縮フィードであり、第二の濃縮フィードは酸性濃縮フィードであり、第三の濃縮フィードは中性に近い濃縮フィードであり;ここでの区画化された無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを混合した時に、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中で中性のpHにpH調整される。
【0154】
項目2は、項目1の区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを混合した時に、6.7~7.5、6.9~7.4、好ましくは6.9~7.2のpHを有する。
【0155】
項目3は、項目1又は2の区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでの希釈剤は滅菌水である。
【0156】
項目4は、項目1~3のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでの区画化された無血清細胞培養灌流培地は、
(a)アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に添加するための;
(b)アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に、前もって事前に混合することなく、直接添加するための;並びに/あるいは
(c)少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードを、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中で直接混合するための
ものである。
【0157】
項目5は、項目1~4のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでのアルカリ性濃縮フィードは2倍から80倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは2倍から40倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは2倍から50倍の濃縮フィードである。
【0158】
項目6は、項目5の区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここで、
(a)アルカリ性濃縮フィードは20倍から40倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは4倍から20倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは10倍から40倍の濃縮フィードであり;
(b)アルカリ性濃縮フィードは20倍から30倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは5倍から12倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは20倍から30倍の濃縮フィードであり;並びに/あるいは
(c)アルカリ性濃縮フィードは25倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは6倍から10倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは25倍の濃縮フィードである。
【0159】
項目7は、項目1~6のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでの中性に近い濃縮フィードは6.5~8.5のpHを有する。
【0160】
項目8は、項目1~7のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでのアルカリ性濃縮フィードは9以上のpHを有し、酸性濃縮フィードは5以下のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは7~8.5のpHを有する。
【0161】
項目9は、項目8の区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここで
(a)アルカリ性濃縮フィードは9~11のpHを有し、酸性濃縮フィードは2~5のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは7~8.5のpHを有し;
(b)アルカリ性濃縮フィードは9.8~10.8のpHを有し、酸性濃縮フィードは3.6~4.8のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは7~8.5のpHを有し;あるいは
(c)アルカリ性濃縮フィードは9.8~10.5のpHを有し、酸性濃縮フィードは3.8~4.5のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは7.5~8.5のpHを有する。
【0162】
項目10は、項目1~9のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地は、(a)化学組成の規定された培地、(b)加水分解物非含有培地、並びに/あるいは(c)タンパク質非含有培地、又は組換えインシュリン及び/若しくは組換えインシュリン様増殖因子を含んでいるタンパク質非含有培地である。
【0163】
項目11は、項目1~10のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地は、生産培地である。
【0164】
項目12は、項目1~11のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここで
(a)アルカリ性濃縮フィード対酸性濃縮フィード対中性に近い濃縮フィードの比(v/v/v)は、中性pHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地が結果として得られるような、一定の比であり;そして、
(b)中性pHにpH調整されている、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中の、希釈剤、対、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの累積容量の比(v/v)が、無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度を決定する。
【0165】
項目13は、項目1~12のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでの酸性濃縮フィードは、微量元素、微量金属、無機塩、キレート剤、ポリアミン、及び調節ホルモンを含む。
【0166】
項目14は、項目1~13のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでの酸性濃縮フィード及び/又は中性に近い濃縮フィードは、界面活性剤、抗酸化剤、及び炭素源を含む。
【0167】
項目15は、項目1~14のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでのアルカリ性濃縮フィードは、9以上のアルカリ性pHで最大の溶解度を有するアミノ酸を含み、好ましくは少なくともアスパラギン酸、ヒスチジン、及びチロシン、並びに場合によりシステイン及び/又はシスチン及び/又は葉酸を含む。
【0168】
項目16は、項目15の区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでの残りのアミノ酸は、酸性及び/又は中性に近い濃縮フィード、好ましくは酸性濃縮フィードにある。
【0169】
項目17は、項目1~16のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでのビタミン及び金属は、別々のフィードにあり、好ましくはビタミンは中性に近い濃縮フィードにあり、金属は酸性フィードにある。
【0170】
項目18は、項目17の区画化された無血清細胞培養灌流培地を明記し、ここでの水溶液中であまり溶けないビタミン、例えば塩化コリンなどは、中性フィード及び酸性フィードに存在する。
【0171】
項目19は、酸性水性濃縮フィード、中性に近い水性濃縮フィード、及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するためのアルカリ性水性濃縮フィードを明記し、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される。
【0172】
項目20は、アルカリ性水性濃縮フィード、中性に近い水性濃縮フィード、及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するための酸性水性濃縮フィードを明記し、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される。
【0173】
項目21は、アルカリ性水性濃縮フィード、酸性水性濃縮フィード、及び希釈剤と組み合わせて、無血清細胞培養灌流培地を形成するための中性に近い水性濃縮フィードを明記し、ここでの結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、中性pHに自動的に調整される。
【0174】
項目22は、
(a)アルカリ性pH、酸性pH、及び中性pHにおける溶解度に基づいて、少なくとも3つの成分のサブグループの、細胞培養培地の成分を準備する工程、
(b)(i)アルカリ性pHで可溶性である成分のサブグループを、アルカリ性水溶液に溶かして、アルカリ性濃縮フィードを形成する工程;
(ii)酸性pHで可溶性である成分のサブグループを、酸性水溶液に溶かして、酸性濃縮フィードを形成する工程;並びに
(iii)中性pHで可溶性である成分のサブグループを、中性水溶液に溶かして、中性に近い濃縮フィードを形成する工程;
(c)場合により、調製済アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードを別々の容器に保存する工程;並びに
(d)調製済アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィード及び希釈剤を、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加える工程(ここで
(i)アルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられ;そして
(ii)該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられるか、あるいは該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加えられる直前に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つと予め混合される)
(ここでの、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地のpHは、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤を混合した時に中性pHに自動的にpH調整される)
を含む、無血清細胞培養灌流培地の調製法を明記する。
【0175】
項目23は、項目22の方法を明記し、ここでpH調整された無血清細胞培養灌流培地のpHは、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを混合した時に、6.7~7.5、6.9~7.4、好ましくは6.9~7.2である。
【0176】
項目24は、項目22又は23の方法を明記し、ここでの希釈剤は滅菌水である。
【0177】
項目25は、項目22~24のいずれか1つの方法を明記し、ここでの3つの濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々のポートを通して滴下して添加される。
【0178】
項目26は、項目22~25のいずれか1つの方法を明記し、ここでの少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの容器内混合及び希釈は、バイオリアクターへの添加前に混合及び希釈された無血清細胞培養灌流培地と比較して、14日間の培養期間にわたり、50~90%、好ましくは60~90%低い、調製済培地の消費量を可能とする。
【0179】
項目27は、項目22~26のいずれか1つの方法を明記し、ここでの細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器は哺乳動物細胞を含む。
【0180】
項目28は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器への保存及び/又は添加前に、濃縮フィードを滅菌する工程をさらに含んでいる、項目22~27のいずれか1つの方法を明記する。
【0181】
項目29は、項目22~28のいずれか1つの方法を明記し、ここでのアルカリ性濃縮フィードは2倍から80倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは2倍から40倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは2倍から50倍の濃縮フィードである。
【0182】
項目30は、項目29の方法を明記し、ここでは
(a)アルカリ性濃縮フィードは20倍から40倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは4倍から20倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは10倍から40倍の濃縮フィードであり;
(b)アルカリ性濃縮フィードは20倍から30倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは5倍から12倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは20倍から30倍の濃縮フィードであり;並びに/あるいは
(c)アルカリ性濃縮フィードは25倍の濃縮フィードであり、酸性濃縮フィードは6倍から10倍の濃縮フィードであり、中性に近い濃縮フィードは25倍の濃縮フィードである。
【0183】
項目31は、項目22~30のいずれか1つの方法を明記し、ここでの中性に近い濃縮フィードはpH6.5~8.5を有する。
【0184】
項目32は、項目22~32のいずれか1つの方法を明記し、ここでのアルカリ性濃縮フィードは9以上のpHを有し、酸性濃縮フィードは5以下のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは7~8.5のpHを有する。
【0185】
項目33は、項目32の方法を明記し、ここで
(a)アルカリ性濃縮フィードは9~11のpHを有し、酸性濃縮フィードは2~5のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは7~8.5のpHを有し;
(b)アルカリ性濃縮フィードは9.8~10.8のpHを有し、酸性濃縮フィードは3.6~4.8のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは7~8.5のpHを有し;あるいは
(c)アルカリ性濃縮フィードは9.8~10.5のpHを有し、酸性濃縮フィードは3.8~4.5のpHを有し、中性に近い濃縮フィードは7.5~8.5のpHを有する。
【0186】
項目34は、項目33の方法を明記し、ここでの無血清細胞培養灌流培地は、(a)化学組成の規定された培地、(b)加水分解物非含有培地、並びに/あるいは(c)タンパク質非含有培地、又は組換えインシュリン及び/若しくは組換えインシュリン様増殖因子を含んでいるタンパク質非含有培地である。
【0187】
項目35は、項目22~34のいずれか1つの方法を明記し、ここでの3つの別々の濃縮フィードと希釈剤とを別に添加することにより、バイオリアクター内の無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度の制御を可能とする。
【0188】
項目36は、項目22~35のいずれか1つの方法を明記し、ここで
(a)アルカリ性濃縮フィード対酸性濃縮フィード対中性に近い濃縮フィードの比(v/v/v)は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中で中性pHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地をもたらすような一定の比であり;そして
(b)中性に近いpHにpH調整されている、無血清細胞培養灌流培地をもたらすように、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中に添加された希釈剤対少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの累積容量の比(v/v)が、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器中の無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度を決定する。
【0189】
項目37は、項目22~36のいずれか1つの方法を明記し、ここでの酸性濃縮フィードは、微量元素、微量金属、無機塩、キレート剤、ポリアミン及び調節ホルモンを含む。
【0190】
項目38は、項目22~37のいずれか1つの方法を明記し、ここでの酸性濃縮フィード及び/又は中性に近い濃縮フィードは、界面活性剤、抗酸化剤、及び炭素源を含む。
【0191】
項目39は、項目22~38のいずれか1つの方法を明記し、ここでのアルカリ性濃縮フィードは、9以上のアルカリ性pHで最大の溶解度を有するアミノ酸を含み、好ましくは少なくともアスパラギン酸、ヒスチジン、チロシン、並びに場合によりシステイン及び/又はシスチン及び/又は葉酸を含む。
【0192】
項目40は、項目39の方法を明記し、ここでの残りのアミノ酸は、酸性及び/又は中性に近い濃縮フィード、好ましくは酸性濃縮フィードにある。
【0193】
項目41は、項目22~40のいずれか1つの方法を明記し、ここでのビタミン及び金属は別々のフィードにあり、好ましくはビタミンは、中性に近い濃縮フィードにあり、金属は酸性フィードにある。
【0194】
項目42は、項目41の方法を明記し、ここでの水溶液中であまり溶けないビタミン、例えば塩化コリンなどは、中性フィード及び酸性フィードに存在する。
【0195】
項目43は、項目22~42のいずれか1つの方法を明記し、ここでの細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器は、少なくとも約100Lの無血清細胞培養灌流培地、好ましくは少なくとも約1000Lの無血清細胞培養灌流培地を含む。
【0196】
項目44は、項目22~43に記載の方法によって得ることのできる無血清細胞培養灌流培地を明記する。
【0197】
項目45は、
(a)バイオリアクターに無血清細胞培養培地中で異種タンパク質を発現している哺乳動物細胞を接種する工程;
(b)哺乳動物細胞に無血清細胞培養灌流培地フィードを連続的にフィードし、培養液中に細胞を保ちながら、使用済み培地を除去することによって、灌流培養液中で哺乳動物細胞を培養する工程
を含む、灌流培養液中で異種タンパク質を発現している哺乳動物細胞を培養する方法を明記し、ここでの無血清細胞培養灌流培地フィードは、(i)少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードにサブグループ化される培地成分と希釈剤とを含む、区画化された無血清細胞培養灌流培地(ここでの第一の濃縮フィードはアルカリ性濃縮フィードであり、第二の濃縮フィードは酸性濃縮フィードであり、第三の濃縮フィードは中性に近い濃縮フィードであり;ここでの区画化された無血清細胞培養灌流培地は、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードと希釈剤とを混合した時に、結果として得られる無血清細胞培養灌流培地中で中性のpHにpH調整される);並びに/あるいは、(ii)項目14に記載の無血清細胞培養灌流培地であり、そして、ここでの区画化された無血清細胞培養灌流培地フィードのアルカリ性濃縮フィード、酸性濃縮フィード、及び中性に近い濃縮フィードは、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に加えられ、ここでの該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に別々に添加されるか、あるいは、該希釈剤は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器に加えられる直前に、少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの1つと予め混合される。
【0198】
項目46は、項目45の方法を明記し、ここでの哺乳動物細胞は、灌流培養が開始される前に、バッチ培養液として最初に培養される。
【0199】
項目47は、項目45又は46の方法を明記し、ここでの灌流培養は、培養の0日目から3日目に開始される。
【0200】
項目48は、項目45~47のいずれか1つの方法を明記し、ここでの灌流速度は、灌流が開始された後、目標の生細胞密度に達するまで増加させる。
【0201】
項目49は、項目48の方法を明記し、ここでの灌流速度は、1日あたり0.5容器容量以下から1日あたり約5容器容量まで、又は1日あたり0.5容器容量以下から1日あたり約2容器容量まで増加する。
【0202】
項目50は、項目45~49のいずれか1つの方法を明記し、ここでの無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度は、増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルを超えて増加し、その結果として目標の生細胞密度において増殖は抑制され、好ましくはここでは無血清細胞培養灌流培地のモル浸透圧濃度レベルは、目標の生細胞密度のほぼ半分から開始して徐々に又は段階的に増加する。
【0203】
項目51は、項目45~50のいずれか1つの方法を明記し、ここでの目標の生細胞密度は、約30×106個の細胞/ml以上、約60×106個の細胞/ml以上、約80×106個の細胞/ml、好ましくは約100×106個の細胞/ml以上である。
【0204】
項目52は、項目45~51のいずれか1つの方法を明記し、ここでのモル浸透圧濃度は
(a)一定の濃縮フィード灌流速度及び変化する希釈剤の灌流速度(その結果として、全体の灌流速度は変化する);あるいは
(b)一定の全体的な灌流速度及び変化する濃縮フィード灌流速度を使用して制御され;
ここでの少なくとも3つの濃縮フィードは、1倍の無血清細胞培養灌流培地中の培地成分の相対的比率を維持するために、それらの濃度倍率に応じて、互いに一定の比(v/v/v)で添加される。
【0205】
項目53は、項目45~52のいずれか1つの方法を明記し、ここでのモル浸透圧濃度は、
(a)一定の濃縮フィード灌流速度及び減少した希釈剤の灌流速度(その結果として、全体の灌流速度は減少する);あるいは
(b)一定の全体の灌流速度及び増加した濃縮フィードの灌流速度を、希釈剤の減少した灌流速度と共に使用して増加し;ここでの少なくとも3つの濃縮フィードは、1倍の無血清細胞培養灌流培地中の培地成分の相対的比率を維持するために、それらの濃度倍率に応じて、互いに一定の比(v/v/v)で添加される。
【0206】
項目54は、項目50~53のいずれか1つの方法を明記し、ここで、モル浸透圧濃度を増加させるためにさらなる添加剤は培養液に全く添加されない。
【0207】
項目55は、項目50~54のいずれか1つの方法を明記し、ここでの増殖に至適なモル浸透圧濃度レベルは、約280から350ミリオスモル未満である。
【0208】
項目56は、項目50~55のいずれか1つの方法を明記し、ここで、モル浸透圧濃度は、目標の生細胞密度のほぼ半分に到達するまで、増殖に至適なレベルに維持される。
【0209】
項目57は、項目50~56のいずれか1つの方法を明記し、ここでのモル浸透圧濃度は、目標の生細胞密度のほぼ半分から開始して、好ましくは増殖に至適なモル浸透圧濃度の約10~50%になるまで徐々に又は段階的に増加させる。
【0210】
項目58は、項目50~57のいずれか1つの方法を明記し、ここでのモル浸透圧濃度は、ほぼ目標の生細胞密度で細胞増殖を抑制するモル浸透圧濃度レベルになるまで及びそのレベルで維持され、ここでの細胞増殖を抑制するモル浸透圧濃度レベルは、好ましくは約350ミリオスモル以上、より好ましくは約380ミリオスモル以上である。
【0211】
項目59は、項目50~58のいずれか1つの方法を明記し、ここでモル浸透圧濃度を増加させることにより、生産期中のセルブリーディングの必要性は低減又は排除される。
【0212】
項目60は、項目50~59のいずれか1つの方法を明記し、ここでの細胞培養液中で産生される異種タンパク質の収量は、対照の細胞培養液(ここでのモル浸透圧濃度は増加していない)中の収量と比較して、少なくとも約5~50%増加している。
【0213】
項目61は、項目50~60のいずれか1つの方法を明記し、ここでの細胞増殖は、セルブリーディングを行なうことなく持続可能な生細胞密度を維持するために抑制される。
【0214】
項目62は、項目45~61のいずれか1つの方法を明記し、ここでの細胞特異的灌流速度(pl/細胞/日)は、1倍の無血清細胞培養培地の細胞特異的灌流速度と比較して少なくとも30%減少する。
【0215】
項目63は、細胞培養液から異種タンパク質を収集する工程をさらに含む、項目45~62のいずれか1つの方法を明記する。
【0216】
項目64は、項目45~63のいずれか1つの方法を明記し、ここでの異種タンパク質は、治療用タンパク質、抗体、又はその治療に有効な断片である。
【0217】
項目65は、項目64の方法を明記し、ここでの該抗体は、モノクロ―ナル抗体、二重特異的抗体、多重特異的抗体、又はその断片である。
【0218】
項目66は、項目45~65のいずれか1つの方法を明記し、ここでの哺乳動物細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ジャーカット細胞、293細胞、HeLa細胞、CV-1細胞、又は3T3細胞、又はこれらのいずれかの細胞の誘導体を含み、該CHO細胞はさらに、CHO-DG44細胞、CHO-K1細胞、CHO DXB11細胞、CHO-S細胞、及びCHO GS欠損細胞又はその突然変異体からなる群より選択され得る。
【0219】
項目67は、項目45~66のいずれか1つの方法を明記し、ここでの細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器は、少なくとも約100Lの無血清細胞培養灌流培地、好ましくは少なくとも約1000Lの無血清細胞培養灌流培地を含む。
【0220】
項目68は、項目45~67のいずれか1つの方法を明記し、ここで、消泡剤、塩基及びグルコースのリストから選択されたさらなる補助物質が別々に細胞培養液に添加される。
【0221】
項目69は、項目45~68のいずれか1つの方法を使用して、治療用タンパク質を産生する方法を明記する。
【0222】
項目70は、哺乳動物細胞の培養のための、項目1~18のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地、又は項目44の無血清細胞培養灌流培地の使用を明記する。
【0223】
項目71は、灌流培養液中で哺乳動物細胞を培養するための、項目1~18のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地、又は項目44の無血清細胞培養灌流培地の使用を明記する。
【0224】
項目72は、灌流細胞培養液中のモル浸透圧濃度を制御するための、項目1~18のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地、又は項目44の無血清細胞培養灌流培地の使用を明記する。
【0225】
項目73は、項目72の使用を明記し、ここでは、細胞培養液中のモル浸透圧濃度を増加させると、細胞増殖は抑制され、異種タンパク質の産生は増加する。
【0226】
項目74は、項目73の使用を明記し、ここでは、細胞培養液中で産生された異種タンパク質の収量は、モル浸透圧濃度が増加していない対照の細胞培養液中の収量と比較して少なくとも5~50%増加している。
【0227】
項目75は、項目73又は74の使用を明記し、ここでは、増殖抑制は、セルブリーディングを行なうことなく、持続可能な生細胞密度を維持するのに十分である。
【0228】
項目76は、項目70又は75の使用を明記し、ここでは、細胞特異的灌流速度(pl/細胞/日)は、1倍の無血清細胞培養培地の細胞特異的灌流速度と比較して少なくとも30%減少している。
【0229】
項目77は、細胞培養液及び/又はバイオリアクターの反応容器への少なくとも3つの別々の水性濃縮フィードの別々の添加のための、項目1~18のいずれか1つの区画化された無血清細胞培養灌流培地の使用を明記する。
【0230】
実施例
方法
シードトレイン及び接種材料:
組換えIgGを発現しているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を、専売特許の増殖培地中の3×107個の細胞のバイアルから増幅させた、コーニングライフサイエンス社の振盪フラスコ(オニオンタ、ニューヨーク州)中で懸濁培養した。フラスコに、3日間の継代では0.5×106個の細胞/mLを、2日間の継代では0.8×106個の細胞/mlを接種し、バッチモードで増殖させ、N-3まで3Lの振盪フラスコを120rpmで撹拌し、これを50mmの軌道半径で80rpmで撹拌した。培養インキュベーター(Infors社、アナポリス、メリーランド州)を、湿度を全く制御することなく、36.5℃、5%CO2で維持した。N-2段階で、1.0±0.4×106個の細胞/mLを接種し、バッチモードでGEウェーブ(GEヘルスケア社)中、5Lのワーキングボリュームで3日間増殖させた。N-1段階は、GEウェーブ25システム(GEヘルスケア社)で灌流モードで実行された。接種材料の密度は、25Lのワーキングボリューム中1.0±0.4×106個の細胞/mLであった。灌流は、1日あたり0.5容器容量(vvd)で培養1日目に開始され、4日目に2.0vvdに到達するまで日毎に0.5vvd増加させ、2.0vvdで5日目又は6日目まで維持した。実行期間は、到達している目標の生細胞密度(VCD):40×106個の細胞/mLに基づいて決定された。
【0231】
実験用バイオリアクターの組み立て:
N-1灌流培養液を、米国仮出願第62827504号、特にその
図6に開示されているような、ベーリンガーインゲルハイム社の専売特許のiSKID(統合された連続バイオプロセシングシステム)中、10±2×10
6個の細胞/mLという高い密度で、100Lのシングルユースバイオリアクター(SUB)に接種した。カスタマイズされたサーモフィッシャーハイクローン(ローガン、ユタ州)シングルユースバイオリアクターバッグを、DeltaV分散制御システム(エマソン社、セントルイス、ミズーリ州)と共に使用し、36.5℃、60%の空気飽和度における目標の酸素設定点、7.1のpH設定点で培養液を、単位容量あたり18ワット/m
3の消費電力で作動しているシングルマリーン撹拌羽根を用いて維持した。低剪断力の遠心ポンプ(レビトロニクス社、チューリッヒ、スイス)を使用して、0.2μmの孔径のポリエチレンスルホン(PES)タンジェンシャルフローろ過(TFF)細胞保持装置(レプリゲン社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を通して、13L/分(LPM)で細胞培養液を再循環した。TFFを通過した、収集細胞培養液すなわち透過液を、iSkidの精製ユニット操作の捕捉カラム上に直接載せる。培養中のpH、グルコースフィード(500g/L)、及び1%の医療用アンチフォームCエマルション(ダウコーニング社、ミッドランド、ミズーリ州)を維持するために、増殖培地、3つの濃縮培地フィード(酸性、塩基性、及び中性)、0.1μmの滅菌ろ過逆浸透圧脱イオン化(RODI)水の希釈剤、塩基性の滴定剤(1Mの炭酸ナトリウム)を、シングルユースバイオリアクターに、滅菌チューブ溶接機又は無菌アセプティククイックコネクター(コールダープロダクツカンパニー、セントポール、ミネソタ州)に付着させた。滅菌水の希釈剤を用いて増やされ、それに続いて管内のインラインミキサーにかけられ、その後、シングルチューブ内のバイオリアクターに到達した塩基性濃縮フィードを除き、沈降を回避するために全ての添加のラインは別々であった。
【0232】
使用された灌流培地(3つの濃縮培地フィード)は、以下のように調製された:
【0233】
1倍の酸性フィードは以下を含む:
・塩基性フィードには見られないタンパク原性アミノ酸及び非タンパク原性アミノ酸のヒドロキシプロリン及びオルニチンを計87.8mM;
・緩衝塩を含む無機塩(微量金属塩及び鉄源は、別々に列挙される)を計21.4mM;
・有機酸のタウリン及び代替的な炭素源を計16.3mM;
・複合した鉄源を計0.25mM;
・0.28mMのポリアミン;
・0.28mMのエタノールアミン;
・微量金属(鉄を除外する)を計0.1mM;
・0.02mMの第一の抗酸化剤;
・0.07mMのビタミンのパントテン酸カルシウム、0.04mMのチアミン、及び0.3mMのピリドキシン;
・酸性フィードと中性フィードに分離された塩化コリンは、酸性フィードにおいては1.27mMである;
・50mMの炭素源;
・2.4μMで増殖因子として作用する組換えタンパク質;並びに
・0.2mMの界面活性剤。
【0234】
これらの濃度は、実施例に使用される6倍濃縮酸性フィードにおいては6倍増加していた。6倍濃縮酸性フィードの最終pHは、水酸化ナトリウムを用いて、4.2±0.1に、モル浸透圧濃度は1700±50ミリオスモルに調整される。必要ではないが、培地は、炭素源の添加前に塩基性粉末として調製され、1g/Lのグルコースが、粉砕の目的のためだけに添加された。
【0235】
1倍の中性フィードは、以下を含む:
・25mMの重炭酸塩;
・4.1mMの無機緩衝塩;
・1.69mMのイノシトール;
・酸性フィードにすでに含まれていない全ての他のビタミン(しかし残りの塩化コリンは含む)を計0.57mM;
・0.01mMの第二の抗酸化剤;
・0.043mMのL-α-アミノ-N-酪酸;
・0.2mMの界面活性剤;並びに
・5μMのリノール酸。
【0236】
これらの濃度は、実施例に使用される25倍の濃縮中性フィードにおいては25倍増加していた。25倍濃縮中性フィードの最終pHは、滴定剤を使用することなく、8.0±0.1に自己調整され、モル浸透圧濃度は1500±35ミリオスモルである。
【0237】
1倍の塩基性フィードは、以下を含む:
・アミノ酸のアスパラギン酸、ヒスチジン、チロシン、システイン(シスチンを含む)を計43mMの濃度で。
【0238】
この濃度は、ここでの実施例に使用される25倍濃縮塩基性フィードにおいては25倍増加していた。25倍濃縮塩基性フィードの最終pHは、水酸化ナトリウムを使用して10.2±0.1に調整され、1600±50ミリオスモルのモル浸透圧濃度を有する。
【0239】
灌流培地は、3つの別々の水性濃縮フィードから構成され(ここでの酸性濃縮フィードはpH4.2±0.1で、1700±50ミリオスモルのモル浸透圧濃度を有する6倍の濃縮フィードであり、中性濃縮フィードはpH8.0±0.1で、1500±35ミリオスモルのモル浸透圧濃度を有する25倍の濃縮フィードであり、塩基性又はアルカリ性濃縮フィードはpH10.2±0.1で、1600±50ミリオスモルのモル浸透圧濃度を有する25倍の濃縮フィードである)、pH7.0±0.1にpH調整されている。
【0240】
実施例1
0日目に接種した後、灌流は、1vvdの速度で専売特許の増殖培地を使用して直ちに開始された。灌流速度は、2日目まで日毎に0.5vvdずつ増加させ、2日目には2.0vvdに到達した。バイオリアクターワーキングボリュームは、バイオリアクターの重量を介して、培地の添加を制御することによって維持された。2日目には、濃縮培地フィード及び希釈剤で増殖培地を交換して「生産期」を開始し、すなわちそれは、培養液の透過液中の産物が1日あたりバイオリアクター1Lあたり0.2gに達し、捕捉カラムのローディングが始まった時である。濃縮フィードは、生産期中に一定して計0.5vvd(0.33vvdで酸性フィード、それぞれ0.08vvdで塩基性フィード及び中性フィード)でフィードされた。フィード速度は、それぞれのフィード中の栄養部の比率が、2vvdでインタクトな1倍の製剤と比較して同じに維持されるように、以下の式を使用して計算された:
[1×]*2vvd=[6×]*Xvvd(式1)(ここで、Xは、2vvdの1倍の濃縮製剤と同じ栄養分の負荷を維持するのに必要とされる、酸性フィードの灌流速度(vvd)である)。同じように、[1×]*2vvd=[25×]*Xvvd(式2)(ここで、Xは、2vvdの1倍の濃縮製剤と同じ栄養分の負荷を維持するのに必要とされる、塩基性フィード又は中性フィードの灌流速度(vvd)である)。
【0241】
約140±30×106個の細胞/mLの最大生細胞密度が、これらの実験に使用された細胞株において、持続可能な最大の生細胞密度としてその範囲を示した以前の工学操作の実行に基づいて(結果は示されていない)、目標として定められた。生細胞密度の計測は、ベックマンコールターVi-cell(インディアナポリス、インディアナ州)で実施された。この細胞株のピーク増殖能よりも約15~45%低い、この目標に到達するために(結果は示されていない)、培養液のモル浸透圧濃度を、徐々に増加させ、細胞の複製を阻害した。培養液のモル浸透圧濃度は、バイオプロファイルFLEXアナライザー(ノババイオメディカル社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いて測定され、他の全ての培養代謝物は、ロシュセデックスバイオアナライザー(インディアナポリス、インディアナ州)を用いて測定された。モル浸透圧濃度の増加は、フィード添加速度は一定に留めたままで、日毎に希釈剤の速度を調整して、培養液の目標の残留モル浸透圧濃度に到達することによって達成された。したがって、全体の灌流速度は、日々変化した。日毎のモル浸透圧濃度の消費量のための浸透圧の平衡は、以下の式に従って計算された:
浸透圧のインプット-浸透圧のアウトプット=浸透圧の消費量(式3)
(ここで、浸透圧のインプットは、バイオリアクター内へと灌流している培地濃縮フィードと希釈剤のモル浸透圧濃度であり、浸透圧のアウトプットは、バイオリアクターの上清の残留モル浸透圧濃度であり、浸透圧の消費量は、インプットとアウトプットとの間のモル浸透圧濃度の差である。その後、この1日あたりの浸透圧の消費量は、1日あたりの細胞1個あたりのモル浸透圧濃度の消費量のために、培養液中の細胞数に正規化される。その後、細胞1個あたりのこの1日あたりの消費速度(又は、細胞特異的な浸透圧の消費速度、CSOCR)に、翌日の予測される生細胞密度を乗じて、翌日の浸透圧の消費量を予測した。その後、この消費速度は、所望の浸透圧のアウトプットと共に、式3に使用されて、翌日のために必要とされる浸透圧のインプットが計算された。それ故、希釈剤の灌流速度は、フィードを維持しつつ、浸透圧のインプットの目標に一致するように調整された。各日の所望の浸透圧の目標及びおよその灌流速度は、表1に従って変化した(数値は、実行毎に変化し、その結果、以下の範囲となった):
【0242】
【0243】
日毎のグルコース測定を行ない、別々のグルコースボーラスフィードを必要であれば添加して、2g/L又はそれ以上の残留グルコースを維持した。培養は、ビジネスケースに基づいて、典型的なフェッドバッチ培養液の実行期間に一致させるために14日目で終了した。3つの100Lのバイオリアクターの実行の結果が、
図3(生細胞密度)、
図4(モル浸透圧濃度)、
図5(リアクター容量の交換率)、
図6(透過液の生産性)、
図7(1日あたりの比生産性)、及び
図8(細胞特異的灌流速度)で示されている。
【0244】
実施例2
異なる組換えIgG分子を発現している、3つのCHO細胞株のA(◇)、B(□)、及びC(△)(
図9~14参照)を、2Lのバイオリアクター中で培養した。0日目に接種した後、灌流を、1vvdの速度で専売特許の増殖培地を使用して直ちに開始した。灌流速度は、2日目まで日々0.5vvdずつ増加させ、2日目に2.0vvdに到達した。バイオリアクターワーキングボリュームは、バイオリアクターの重量を介して培地の添加を制御することによって維持された。2日目に、濃縮培地フィード及び希釈剤で増殖培地を交換し、「生産期」を開始して、これはすなわち、培養液の透過液中の産物が1日あたりバイオリアクター1Lあたり0.2gに到達し、捕捉カラムのローディングが開始される時である。細胞に、3つの濃縮培地フォードと滅菌水の希釈剤を、比率を変化させながら、約2vvdの一定の容量でフィードした。フィード速度は、各フィード中の栄養分の比率が、実施例1に説明されているような2vvdのインタクトな1倍の製剤と比較して同じに保たれるように計算された。
【0245】
約180±30×106個の細胞/ml及び140±30×106個の細胞/mlの最大生細胞密度が、これらの細胞株についての持続可能な最大の生細胞密度としてその範囲を示した以前の工学操作の実行に基づいて、それぞれ細胞株A及びBについて、目標として定められた(結果は示されていない)。細胞株Cは、100±20×106個の細胞/mLの最大ピーク生細胞密度を有し、それ故、その細胞株については増殖抑制は全く必要ではなく、そしてモル浸透圧濃度は、330±30ミリオスモルの生理学的に至適な範囲内に維持された。生細胞密度の計測は、ベックマンコールターVi-cell(インディアナポリス、インディアナ州)で実施された。これらの細胞株のピーク増殖能よりも約15~45%低い、細胞株A及びBについての目標に到達するために(結果は示されていない)、培養液のモル浸透圧濃度を徐々に増加させ、細胞の複製を阻害した。培養液のモル浸透圧濃度は、バイオプロファイルFLEXアナライザー(ノババイオメディカル社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いて測定され、他の全ての培養代謝物は、ロシュセデックスバイオアナライザー(インディアナポリス、インディアナ州)を用いて測定された。モル浸透圧濃度の増加は、合計VVDの添加が2vvdで一定のままで、日毎に濃縮フィードの速度及び希釈剤の速度を調整して、培養液の目標の残留モル浸透圧濃度に到達することによって達成された。1日あたりのモル浸透圧濃度の消費量は、以下の式に従って、実施例1に説明されているように計算された:
浸透圧のインプット-浸透圧のアウトプット+浸透圧の消費量。
【0246】
実施例1のように、1日あたりの浸透圧の消費速度が決定され、その後、これを使用して翌日のための新規な望ましい浸透圧のアウトプットを達成するのに必要とされる浸透圧のインプットを計算した。しかしながら、実施例2の浸透圧の制御戦略の場合では、フィード及び希釈剤の両方の速度を調整して(実施例1における希釈剤のみとは逆に)、2vvdの全体の灌流速度において目標の浸透圧のインプットを達成した。
【0247】
1日あたりのグルコースの測定を行ない、別々のグルコースボーラスフィードを必要であれば添加して、2g/L又はそれ以上の残留グルコースを維持した。培養は、ビジネスケースに基づいて、セルブリーディングを必要とすることなく、典型的なフェッドバッチ培養液の実行期間に一致させるために14日目で終了した。3つの2Lのバイオリアクターの実行の結果が、
図9(生細胞密度)、
図10(モル浸透圧濃度)、
図11(リアクター容量の交換率)、
図12(透過液の生産性)、
図13(1日あたりの比生産性)、及び
図14(細胞特異的灌流速度)で示されている。
【0248】
実施例3
ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)選択系において発現されるCHO DG44細胞株(細胞株A、Δ)、及びグルタミン合成酵素(GS)選択系において発現される2つの異なるCHO-K1細胞株の実行(二つ組)(細胞株B□、◇;細胞株C x、x)(
図15参照)を、希釈剤の容量を変化させ、1日あたり合計で0.5容器容量(VVD)で固定された3つの濃縮培地フィードを使用して2Lのバイオリアクター中で培養した。全細胞株が、異なる組換えIgG分子を発現している。バイオリアクターワーキングボリュームは、バイオリアクターの重量を介して培地の添加を制御することによって維持された。2日目に、濃縮培地フィード及び希釈剤で増殖培地を交換し、「生産期」を開始して、これはすなわち、培養液の透過液中の産物が1日あたりバイオリアクター1Lあたり0.2gに到達し、捕捉カラムのローディングが開始される時である。濃縮フィードは、生産期中に、計0.5vvdで一定して(0.33vvdで酸性フィード、各々0.08vvdで塩基性フィード及び中性フィード))フィードされ得る。フィード速度は、各フィード中の栄養分の比率が、実施例1に説明されているように、2vvdでインタクトな1倍の製剤と比較して同じに保たれるように計算された。
【0249】
細胞株Aは、最大の細胞培養増殖(すなわち可能なピークの生細胞密度)を促進するために、全培養期間(12日間)中に生理学的に至適なモル浸透圧濃度(330±30ミリオスモル)で培養された。これは、この細胞株についての「工学操作」又は改良された実行と考えられる。細胞株Bは、この細胞株についての持続可能な最大の生細胞密度としてその範囲を示した以前の工学操作の実行に基づいて、150±30×106個の細胞/mL±20×106個の細胞/mLの最大生細胞密度を目標とした(結果は示されていない)。細胞株Cは、100±20×106個の細胞/mL未満の最大ピーク生細胞密度を有し、それ故、その細胞株について増殖抑制は全く必要とされず、そしてモル浸透圧濃度は、330±30ミリオスモルの生理的に至適な範囲内に維持された。生細胞密度の計測は、ベックマンコールターVi-cell(インディアナポリス、インディアナ州)で実施された。この細胞株のピーク増殖能よりも約15~45%低い、細胞株Bについての目標に到達するために(結果は示されていない)、培養液のモル浸透圧濃度を徐々に増加させ、細胞の複製を阻害した。培養液のモル浸透圧濃度は、バイオプロファイルFLEXアナライザー(ノババイオメディカル社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いて測定され、他の全ての培養代謝物は、ロシュセデックスバイオアナライザー(インディアナポリス、インディアナ州)を用いて測定された。モル浸透圧濃度の増加は、フィード添加速度を一定に留めつつ、日毎の希釈剤の速度を調整して、培養液の目標の残留モル浸透圧濃度に到達することによって達成された。1日あたりのモル浸透圧濃度の消費量は、以下の式に従って、実施例1に説明されているように計算された:
浸透圧のインプット-浸透圧のアウトプット+浸透圧の消費量。
【0250】
実施例1のように、1日あたりの浸透圧の消費速度が決定され、その後、これを使用して、翌日の新たな所望の浸透圧のアウトプットを達成するために必要とされる浸透圧のインプットを計算した。
【0251】
1日あたりのグルコース測定を行ない、別々のグルコースボーラスフィードを必要であれば添加して、2g/L又はそれ以上の残留グルコースを維持した。培養液は、
図15に示されているように、11日目、12日目及び14日目に終了した。2Lのバイオリアクターの実行の結果は、
図15Aの生細胞密度(VCD;1×10
5個の細胞/ml);
図15Bの生存率(%);
図15Cの透過液の生産性(g/L/日)(透過液の生産性は、セデックスバイオアナライザーによって測定されるような、透過液の1日あたりの瞬間的力価(g/L
培地)に、1日あたりの灌流速度(L
培地/L
バイオリアクター/日)を乗じることで計算される);及び、リアクター容量交換率で表現される
図15Dの灌流速度(L
培地/L
バイオリアクター/日)で示される。
【0252】
実施例4
グルタミン合成酵素(GS)選択系において組換えIgGを発現しているCHO-K1細胞株を、2Lのバイオリアクター中で培養した。実行は、実施例2及び3に記載されているように、「培地濃縮液は変化させ、計VVDは固定する」(◇)又は「培地濃縮液は固定し、計VVDは変化させる」(□)の灌流対照モードのいずれかで行なわれた。「培地濃縮液は変化させ、計VVDは固定する」は、組み合わせた培地濃縮液(MC)の灌流速度を変化させ、そして同時に希釈剤の速度を変化させて、2VVDを維持することによって達成された、一定した1日あたりの総容器容量(VVD)の灌流速度を指す。「培地濃縮液は固定し、計VVDは変化させる」は、全体的に変動する灌流速度のために、希釈剤の灌流速度を変化させつつ、0.5VVDにおいて一定した培地濃縮液の灌流速度を指す。どちらの灌流制御モードも、目標に設定するために培地のモル浸透圧濃度を操作することができる(
図16B)。生存率及び生細胞密度は、この細胞株について、2つの灌流制御モードを使用して同等である。希釈剤からの培地濃縮フィード(すなわち栄養分の送達)の分離は、希釈剤に対する培地濃縮液の比率を変化させることによって、高い細胞密度で適切な栄養分を供給できると共に、低い灌流速度(2VVD以下)を可能とする。よって、残留培養液のモル浸透圧濃度は、生理学的に至適な範囲より高い(細胞株に応じて変化する;この細胞株では300~330ミリオスモル)、上昇したレベルまで、灌流速度を2VVD(この会社によると100Lを超えるバイオリアクターで測定可能であると考えられる最高の灌流速度)を超えて増加させることなく制御され得る。ピーク生細胞密度(VCD)に到達する前に、モル浸透圧濃度が増加する場合、ピークVCDは抑制され得る(
図3及び4参照)。
【0253】
調整された生産性(
図16C)は、システムの全生産性として(すなわち、透過液中にあり、そしてバイオリアクター内に保持される産物を含む)毎日決定された。2つの灌流制御モードの生産性は、示された細胞株について類似し、そのためにいずれかの灌流モードが、この細胞株のためのプロセスとして選択され得る。細胞培養液についてのリアクター容量の交換率(L
培地/L
バイオリアクター/日)又は灌流速度が
図16Dに示されている。「培地濃縮液は変化させ、計VVDは固定する」の実行の4日目及び5日目における操作者のエラーのために、目標の2VVDにはそうした日には到達しなかった。生産期の全ての残りの日々(2日目を超える)は、目標の2VVDで維持された。「培地濃縮液は固定し、計VVDは変化させる」の実行は、目標のモル浸透圧濃度を維持するために必要とされた、可変的な灌流速度を示す(
図16b)。
【国際調査報告】