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特表2022-550325抗ミュラー管抑制物質抗体およびその使用
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  • 特表-抗ミュラー管抑制物質抗体およびその使用 図1
  • 特表-抗ミュラー管抑制物質抗体およびその使用 図2A
  • 特表-抗ミュラー管抑制物質抗体およびその使用 図2B
  • 特表-抗ミュラー管抑制物質抗体およびその使用 図3
  • 特表-抗ミュラー管抑制物質抗体およびその使用 図4
  • 特表-抗ミュラー管抑制物質抗体およびその使用 図5A
  • 特表-抗ミュラー管抑制物質抗体およびその使用 図5B
  • 特表-抗ミュラー管抑制物質抗体およびその使用 図6A
  • 特表-抗ミュラー管抑制物質抗体およびその使用 図6B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-01
(54)【発明の名称】抗ミュラー管抑制物質抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20221124BHJP
   C07K 16/22 20060101ALI20221124BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221124BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221124BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221124BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221124BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221124BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221124BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20221124BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/22
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519012
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2020076947
(87)【国際公開番号】W WO2021058763
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】19306213.0
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】516032920
【氏名又は名称】アンスティテュ・レジオナル・デュ・カンセール・ドゥ・モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT REGIONAL DU CANCER DE MONTPELLIER
(71)【出願人】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ペルグラン,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ロベール,ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】マルティノー,ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ショーヴィン,マエバ
(72)【発明者】
【氏名】チェントフ,ミリアム
(72)【発明者】
【氏名】ディ・クレメンテ-ベッセ,ナタリー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE06
4B064CE12
4B064DA05
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AA98X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA21
4B065BD14
4B065BD18
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085CC03
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA10
4H045GA26
(57)【要約】
卵巣悪性腫瘍において、ミュラー管抑制物質(MIS)タイプII受容体(MISRII)およびMIS/MISRIIシグナル伝達経路は、有望な治療ターゲットである。反対に、3つのMISタイプI受容体(MISRI;ALK2、ALK3およびALK6)のこのがんにおける役割は、解明の必要がある。4種の卵巣がん細胞株および患者の腫瘍腹水から単離した卵巣がん細胞を使用して、本発明者らは、ALK2およびALK3が、MISシグナル伝達にそれぞれ低いMIS濃度および高いMIS濃度で関与する2つの主要なMISRIであることを見いだした。さらに、高いMIS濃度は、アポトーシスに関連し、クローン原性生存を減少させたが、低いMIS濃度は、がん細胞生存性を向上させた。最後に、本発明者らは、抗MIS抗体 B10がMIS生存促進効果を阻害したことを示した。これらの最後の結果は、がん細胞アポトーシスを誘導するために高用量のMISを投与することに代わる、MIS増殖効果を抑制する革新的な治療アプローチへの道を切り開く。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、単離された抗ミュラー管抑制物質(MIS)抗体:
(a)重鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:1として示される配列を有するH-CDR1;SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:3として示される配列を有するH-CDR2;SEQ ID NO:4として示される配列を有するH-CDR3を含む、重鎖;および
(b)軽鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:5として示される配列を有するL-CDR1;SEQ ID NO:6として示される配列を有するL-CDR2;SEQ ID NO:7として示される配列を有するL-CDR3を含む、軽鎖。
【請求項2】
以下を含む、請求項1に記載の単離された抗MIS抗体:
(a)SEQ ID NO:8として示される配列と少なくとも70%の同一性を有する可変重鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:1として示される配列を有するH-CDR1;SEQ ID NO:2として示される配列を有するH-CDR2;SEQ ID NO:4として示される配列を有するH-CDR3を含む、可変重鎖;および
(b)SEQ ID NO:10として示される配列と少なくとも70%の同一性を有する可変軽鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:5として示される配列を有するH-CDR1;SEQ ID NO:6として示される配列を有するH-CDR2;SEQ ID NO:7として示される配列を有するH-CDR3を含む、可変軽鎖。
【請求項3】
以下を含む、請求項1に記載の単離された抗MIS抗体:
(c)SEQ ID NO:9として示される配列と少なくとも70%の同一性を有する可変重鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:1として示される配列を有するH-CDR1;SEQ ID NO:3として示される配列を有するH-CDR2;SEQ ID NO:4として示される配列を有するH-CDR3を含む、可変重鎖;および
(d)SEQ ID NO:10として示される配列と少なくとも70%の同一性を有する可変軽鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:5として示される配列を有するH-CDR1;SEQ ID NO:6として示される配列を有するH-CDR2;SEQ ID NO:7として示される配列を有するH-CDR3を含む、可変軽鎖。
【請求項4】
SEQ ID NO:8として示される配列を有する重鎖;およびSEQ ID NO:10として示される配列を有する軽鎖を含む、請求項1に記載の単離された抗MIS抗体。
【請求項5】
SEQ ID NO:9として示される配列を有する重鎖;およびSEQ ID NO:10として示される配列を有する軽鎖を含む、請求項1に記載の単離された抗MIS抗体。
【請求項6】
請求項1に記載の抗MIS抗体をコードする、核酸分子。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項8】
請求項6に記載の核酸および/または請求項7に記載のベクターによってトランスフェクト、感染または形質転換された、宿主細胞。
【請求項9】
請求項1に記載の抗MIS抗体を含む、薬学的組成物。
【請求項10】
それを必要とする対象におけるMISまたはMISRII陽性がんの処置において使用するための、請求項1に記載の抗体。
【請求項11】
MISまたはMISRII陽性がんの従来処置と組み合わせて使用される、請求項10に記載の使用のための請求項1に記載の抗体。
【請求項12】
MISまたはMISRII陽性がんが、婦人科がん、肺がんまたは結腸直腸がんからなる群の中で選択される、請求項10または11に記載の使用のための請求項1に記載の抗体。
【請求項13】
それを必要とする対象における婦人科がん、肺がんまたは結腸直腸がんを処置する方法であって、前記対象に、請求項1に記載の抗MIS抗体の治療有効量を投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、抗ミュラー管抑制物質(MIS)抗体、およびそれを必要とする対象におけるMISまたはMISRII陽性がん、特に婦人科がん、肺がんまたは結腸直腸がんの処置におけるその使用に関する。
【0002】
発明の背景:
ミュラー管抑制物質(MIS)は、TGFβファミリーのメンバーであり、その特異的な受容体(MISタイプII受容体;MISRII)に結合することによって作用して、タイプI受容体(MISRI:ALK2、ALK3およびALK6)を動員する。MISRIリン酸化は、SMAD1/5/8リン酸化およびそれらの核移行を誘導し、SMAD4と共に、標的組織に依存して異なる応答性遺伝子を調節する(di Clemente et al., 2010; Josso and Clemente, 2003)。インビトロおよびインビボ前臨床知見ならびに臨床試料からのデータ(Bakkum-Gamez et al., 2008; Masiakos et al., 1999; Meirelles et al., 2012; Pepin et al., 2015; Renaud et al., 2005; Wei et al., 2010)は、MISRIIおよびMIS/MISRIIシグナル伝達経路が、婦人科腫瘍、特に卵巣悪性腫瘍における有望な治療ターゲットであることを実証した((Kim et al., 2014)に概説)。このシグナル伝達カスケードは、組換えMISまたは抗MISRII抗体を使用して標的化することができた。しかしながら、組換えMISの使用は、十分な量の生物活性MISの産生および腫瘍部位への送達に関する問題によって妨げられてきた(Donahoe et al., 2003)。最近、Pepinらは、独自の産生戦略および遺伝子治療を使用した代替送達アプローチ(まだ臨床段階にない)を記載した(Pepin et al., 2013, 2015)。抗MISRII抗体(Salhi et al., 2004)および抗体断片(Yuan et al., 2006, 2008)の中でも、モノクローナル抗体(MAb)12G4およびそのヒト化バージョンが前臨床研究で広範に評価されており(Bougherara et al., 2017; Estupina et al., 2017; Gill et al., 2017; Kersual et al., 2014)、ヒト化抗体(GM-102またはmurlentamab)が現在臨床試験で試験されている(NCT02978755、NCT03799731)。糖鎖改変型murlentamabの作用機序は、抗体依存性細胞媒介細胞傷害および抗体依存性細胞ファゴサイトーシスを伴うが、ほとんどアポトーシスを伴わず、このことは、その作用がMISシグナル伝達経路に直接関係しないことを示唆している(Bougherara et al., 2017; Estupina et al., 2017)。実際、MISRII陽性がん細胞において、MISは、増殖を阻害し、アポトーシスを誘導する。
【0003】
MISシグナル伝達経路がこの抗MISRII MAbの作用機序に関与しない理由を理解するために、本発明者らは、卵巣悪性腫瘍細胞株および卵巣悪性腫瘍患者の腹水試料から単離した悪性腫瘍細胞において3種のMISRI(ALK2、ALK3およびALK6)の役割を分析した。実際に、数種類の細胞におけるALK2、ALK3およびALK6の役割が、発生段階および他の生理学的状態において研究されているが(Belville et al., 2005; Clarke et al., 2001; Josso et al., 1998; Orvis et al., 2008; Sedes et al., 2013; Visser et al., 2001; Zhan et al., 2006)、がんにおける入手可能なデータはほとんどない。Basalらは、MISRII、ALK2、ALK3およびALK6が上皮性卵巣がんにおいて発現されることを実証したが(262個の試料の免疫組織化学分析)、それらの具体的な役割について評価できなかった(Basal et al., 2016)。
【0004】
本明細書において、本発明者らは、ALK2およびALK3が、4種の卵巣がん細胞株(2種の上皮性卵巣腫瘍由来および1種の顆粒膜細胞腫瘍を含む2種の性索間質性腫瘍由来)におけるMISシグナル伝達に使用される2つの主要なMISRIであること、ならびに、これらが、MIS濃度に従って差異的役割を有することを見いだした。次に、本発明者らは、低濃度(0.5~13nM以下)のMISによるがん細胞の生存促進を、MIS siRNAおよび新たな抗MIS抗体B10を使用して阻害できることを示した。この観察は、アポトーシスを誘導するために高用量のMISを投与することに代わる、MIS増殖効果を抑制する革新的な治療アプローチへの道を切り開く。
【0005】
発明の概要:
卵巣悪性腫瘍において、ミュラー管抑制物質(MIS)タイプII受容体(MISRII)およびMIS/MISRIIシグナル伝達経路は、有望な治療ターゲットである。4種の卵巣がん細胞株および患者の腫瘍腹水から単離した卵巣がん細胞を使用して、本発明者らは、ALK2およびALK3が、MISシグナル伝達にそれぞれ低いMIS濃度および高いMIS濃度で関与する2つの主要なMISRIであることを見いだした。さらに、高いMIS濃度は、アポトーシスに関連し、クローン原性生存を減少させたが、低いMIS濃度は、がん細胞生存性を向上させた。最後に、本発明者らは、MIS siRNAおよび抗MIS抗体B10がMIS生存促進効果を阻害したことを示した。これらの最後の結果は、がん細胞アポトーシスを誘導するために高用量のMISを投与することに代わる、MIS増殖効果を抑制する革新的な治療アプローチへの道を切り開く。
【0006】
したがって、本発明は、抗ミュラー管抑制物質(MIS)抗体、およびそれを必要とする対象におけるMISまたはMISRII陽性がんの処置におけるその使用に関する。特に、本発明は、その特許請求の範囲によって定義される。
【0007】
発明の詳細な説明:
定義
本明細書において使用される場合、「抗ミュラー管ホルモン」または「AMH」としても知られている「ミュラー管抑制物質」または「MIS」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)スーパーファミリー由来のインヒビンおよびアクチビンに構造的に関連する糖タンパク質ホルモンのことを指し、成長分化および卵胞形成において重要な役割を担っている。MISは、ヒト染色体19p13.3上のAMH遺伝子によってコードされる140kDaの二量体糖タンパク質である。そのentrez照会番号は268であり、そのUniprot照会番号はP03971である。MISは、その特異的なMISタイプII受容体(MISRIIまたはAMHR2)に結合することによって作用して、タイプI受容体(MISRIまたはAMHR1)を動員する。
【0008】
本明細書において使用される場合、「AMHR2」としても知られている「ミュラー管抑制物質タイプII受容体」または「MISRII」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有する。MISRIIは、ヒト染色体12q13.13上のAMHR2遺伝子によってコードされる。そのentrez照会番号は269であり、そのUniprot照会番号はQ16671である。
【0009】
本明細書において使用される場合、「AMHR1」としても知られている「ミュラー管抑制物質タイプI受容体」または「MISRI」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有する。ALK2、ALK3およびALK6は、MISRIの3種のバリアントである。MISRIのリン酸化は、SMAD1/5/8リン酸化を誘導し、SMAD4と共に、標的組織に依存して異なる応答性遺伝子を調節する。
【0010】
本明細書において使用される場合、「アクチビンA受容体タイプI」としても知られている「アクチビン受容体様キナーゼ2」を表す「ALK2」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、ヒト染色体2q24.1上のACVR1遺伝子によってコードされるタンパク質のことを指す。そのentrez照会番号は90であり、そのUniprot照会番号はQ04771である。
【0011】
本明細書において使用される場合、「アクチビン受容体様キナーゼ3」としても知られている「ALK3」は、「骨形成タンパク質受容体タイプ1A」(BMPR-1A)としても知られ、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、ヒト染色体10q23.2上のBMPR1A遺伝子によってコードされるタンパク質のことを指す。そのentrez照会番号は657であり、そのUniprot照会番号はP36894である。
【0012】
本明細書において使用される場合、「骨形成タンパク質受容体タイプ1B」としても知られている「アクチビン受容体様キナーゼ6」を表す「ALK6」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、ヒト染色体4q22.3上のBMPR1B遺伝子によってコードされるタンパク質のことを指す。そのentrez照会番号は658であり、そのUniprot照会番号はO00238である。
【0013】
本明細書において使用される場合、「抗体」または「免疫グロブリン」という用語は、同じ意味を有し、本発明において同様に使用される。「抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子のことを指す。それ自体で、抗体という用語は、全抗体分子だけでなく、抗体断片ならびに抗体および抗体断片のバリアント(誘導体を含む)も包含する。天然抗体では、ジスルフィド結合によって2本の重鎖が互いに連結されており、各重鎖は、ジスルフィド結合によって軽鎖に連結されている。軽鎖には、ラムダ(l)およびカッパ(k)の2種類がある。抗体分子の機能的活性を決める5種の主要な重鎖クラス(またはアイソタイプ)がある:IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgE。各鎖は、別個の配列ドメインを含有する。軽鎖は、2つのドメイン、すなわち可変ドメイン(VL)および定常ドメイン(CL)を含む。重鎖は、4つのドメイン、すなわち可変ドメイン(VH)および3つの定常ドメイン(CHI、CH2およびCH3、総称してCHと呼ぶ)を含む。軽鎖の可変領域(VL)および重鎖の可変領域(VH)の両方が、抗原に対する結合認識および特異性を決める。軽鎖の定常領域ドメイン(CL)および重鎖の定常領域ドメイン(CH)は、抗体鎖会合、分泌、経胎盤移動、補体結合およびFc受容体(FcR)への結合などの重要な生物学的特性を付与する。Fv断片は、免疫グロブリンのFab断片のN末端部であり、1本の軽鎖と1本の重鎖の可変部分からなる。抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基との間の構造的相補性に存する。抗体結合部位は、超可変領域または相補性決定領域(CDR)に主に由来する残基から構成される。時折、非超可変領域またはフレームワーク領域(FR)由来の残基が、抗体結合部位に関与することも、ドメイン構造全体に、よって結合部位に影響を及ぼすこともある。相補性決定領域またはCDRは、天然免疫グロブリン結合部位の天然Fv領域の結合親和性および特異性を一緒に規定するアミノ酸配列のことを指す。免疫グロブリンの軽鎖および重鎖は各々、それぞれL-CDR1、L-CDR2、L-CDR3およびH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3と命名される、3つのCDRを有する。それゆえ、抗原結合部位は、典型的には、重鎖および軽鎖の各V領域に由来するCDRセットを含む、6つのCDRを含む。フレームワーク領域(FR)は、CDR間に挿入されたアミノ酸配列のことを指す。
【0014】
本発明の文脈において、本発明の抗体のアミノ酸残基は、IMGT番号付け体系に従って番号付けされる。IMGT独自の番号付けは、可変ドメインを比較するために定義されており、抗原受容体、鎖の種類または種が何であってもよい(Lefranc M.-P., “Unique database numbering system for immunogenetic analysis” Immunology Today, 18, 509 (1997) ; Lefranc M.-P., “The IMGT unique numbering for Immunoglobulins, T cell receptors and Ig-like domains” The Immunologist, 7, 132-136 (1999).; Lefranc, M.-P., Pommie, C., Ruiz, M., Giudicelli, V., Foulquier, E., Truong, L., Thouvenin-Contet, V. and Lefranc, G., “IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains” Dev. Comp. Immunol., 27, 55-77 (2003).)。IMGT独自の番号付けでは、保存されたアミノ酸は、常に同じ位置を有する。例えば、システイン23、トリプトファン41、疎水性アミノ酸89、システイン104、フェニルアラニンまたはトリプトファン118。IMGT独自の番号付けは、フレームワーク領域(FR1-IMGT:1位~26位、FR2-IMGT:39位~55位、FR3-IMGT:66位~104位、FR4-IMGT:118位~128位)および相補性決定領域:CDR1-IMGT:27位~38位、CDR2-IMGT:56位~65位、CDR3-IMGT:105位~117位という標準的な境界設定を提供する。CDR3-IMGTの長さが13アミノ酸未満である場合、ループの上端からギャップが以下の順番で作られる(111、112、110、113、109、114など)。CDR3-IMGTの長さが13アミノ酸を超える場合、CDR3-IMGTループの上端の111位と112位との間に追加の位置が以下の順番で作られる(112.1、111.1、112.2、111.2、112.3、111.3など)(http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Nomenclature/IMGT-FRCDRdefinition.html)。
【0015】
本明細書において使用される場合、「アミノ酸配列」という用語は、その一般的な意味を有し、タンパク質にその一次構造を付与するアミノ酸の配列である。本発明によれば、アミノ酸配列は、相互作用的結合能の明らかな喪失を伴うことなく、1つ、2つまたは3つの保存的アミノ酸置換で修飾され得る。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸が、類似の側鎖を有する別のアミノ酸と置き換わることができることを意味する。類似の側鎖を有するアミノ酸のファミリーは、当技術分野において定義されており、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、グリシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられる。
【0016】
本発明によれば、第二のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有する第一のアミノ酸配列は、第一の配列が、第二のアミノ酸配列と70;71;72;73;74;75;76;77;78;79;80;81;82;83;84;85;86;87;88;89;90;91;92;93;94;95;96;97;98;または99%の同一性を有することを意味する。アミノ酸配列同一性は、典型的には、適切な配列アライメントアルゴリズムおよびデフォルトパラメータ、例えばBLAST Pを使用して決定される(Karlin and Altschul, 1990)。
【0017】
本発明の意味によれば、「同一性」は、2つの整列させた配列を比較ウィンドウ内で比較することによって算出される。配列アラインメントは、比較ウィンドウ内の2つの配列に共通している位置数(ヌクレオチドまたはアミノ酸)を決定することを可能にする。それゆえ、共通している位置数を比較ウィンドウ内の位置の総数で割り、100を掛けることで同一性パーセンテージが得られる。配列の同一性パーセンテージの決定は、手動で行うか、または周知のコンピュータープログラムを利用して行うことができる。
【0018】
本明細書において使用される場合、「精製された」および「単離された」という用語は、本発明の抗体またはポリペプチドに関係するもので、抗体またはポリペプチドが同じ種類の他の生物学的巨大分子の実質的な非存在下に存在することを意味する。「精製された」という用語は、ここで使用される場合、好ましくは、存在する巨大分子の総重量と比較して抗体が少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、さらにより好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも98重量%であることを意味する。
【0019】
本明細書において使用される場合、「特異性」という用語は、抗体が、MIS以外のタンパク質と比較的小さい検出可能な反応性を有しながらも、MISなどの抗原上に存在するエピトープに検出可能に結合できることを指す。特異性は、本明細書の他の箇所に記載しているように、結合アッセイまたは競合結合アッセイによって、例えば、Biacore機器を使用して、相対的に決定することができる。特異性は、特異的抗原への結合と他の関連性のない分子への非特異的結合における親和性/アビディティーの比、例えば、約10:1、約20:1、約50:1、約100:1、10.000:1またはそれ以上によって示すことができる(この場合、特異的抗原はMISである)。
【0020】
「親和性」という用語は、本明細書において使用される場合、エピトープへの抗体の結合強度のことを意味する。抗体の親和性は、[Ab]×[Ag]/[Ab-Ag]として定義される解離定数Kdによって与えられ、式中、[Ab-Ag]は抗体-抗原複合体のモル濃度であり、[Ab]は結合していない抗体のモル濃度であり、[Ag]は結合していない抗原のモル濃度である。親和性定数Kaは、1/Kdによって定義される。mAbの親和性を決定するための好ましい方法は、Harlow, et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1988)、Coligan et al., eds., Current Protocols in Immunology, Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience, N.Y., (1992, 1993)、およびMuller, Meth. Enzymol. 92:589-601 (1983)において確認することができ、その文献は、参照により本明細書に全体が組み入れられる。mAbの親和性を決定するための当技術分野において周知である1つの好ましくかつ標準的な方法は、Biacore機器の使用である。
【0021】
本明細書において使用される「モノクローナル抗体」、「モノクローナルAb」、「モノクローナル抗体組成物」、「mAb」などの用語は、本明細書において使用される場合、単一の分子組成の抗体分子の調製物のことを指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して単一の結合特異性および親和性を呈する。
【0022】
本明細書において使用される場合、「核酸分子」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、DNA分子またはRNA分子のことを指す。
【0023】
抗体
本出願における関心対象の配列を以下の表1に表示する:
【0024】
【表1】
【0025】
本発明の第一の局面は、抗ミュラー管抑制物質(MIS)抗体、とりわけ、精製された形態または単離された形態の抗ミュラー管抑制物質(MIS)抗体に関する。
【0026】
それゆえ、本発明は、以下を含む、単離された抗ミュラー管抑制物質(MIS)抗体に関する:
(a)重鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:1として示される配列を有するH-CDR1;SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:3として示される配列を有するH-CDR2;SEQ ID NO:4として示される配列を有するH-CDR3を含む、重鎖;および
(b)軽鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:5として示される配列を有するL-CDR1;SEQ ID NO:6として示される配列を有するL-CDR2;SEQ ID NO:7として示される配列を有するL-CDR3を含む、軽鎖(「B10誘導体」)。
【0027】
したがって、本発明は、B10のVL領域、VH領域または1つもしくは複数のCDRの機能的バリアントを含む、抗体を提供する。本発明のモノクローナル抗体の文脈において使用されるVL、VHまたはCDRの機能的バリアントは、該抗体が、依然として親抗体(すなわちB10抗体)の親和性/アビディティーおよび/または特異性/選択性の少なくともかなりの割合(少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれ以上)を保持することを可能にし、いくつかの場合に、そのような本発明のモノクローナル抗体は、親Abよりも大きな親和性、選択性および/または特異性で会合し得る。そのようなバリアントは、CDRの変異(Yang et al., J. Mol. Biol., 254, 392-403, 1995)、鎖シャッフリング(Marks et al., Bio/Technology, 10, 779-783, 1992)、大腸菌(E.coli)の変異株の使用(Low et al., J. Mol. Biol., 250, 359-368, 1996)、DNAシャッフリング(Patten et al., Curr. Opin. Biotechnol., 8, 724-733, 1997)、ファージディスプレイ(Thompson et al., J. Mol. Biol., 256, 77-88, 1996)およびセクシュアルPCR(Crameri et al., Nature, 391, 288-291, 1998)を含めた多数の親和性成熟プロトコルによって得ることができる。Vaughanら(上記)は、これらの親和性成熟法を考察している。そのような機能的バリアントは、典型的には、親Abに対してかなりの配列同一性を保持している。CDRバリアントの配列は、主に保存的置換を通じて親抗体配列のCDRの配列と異なり得る;例えば、バリアントにおける置換の少なくとも約35%、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、約85%以上、約90%以上(例えば、約65~95%、例えば約92%、93%または94%)が、保存的アミノ酸残基の置換である。CDRバリアントの配列は、主に保存的置換を通じて親抗体配列のCDRの配列と異なり得る;例えば、バリアントにおける置換の少なくとも10個、例えば少なくとも9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個または1個が、保存的アミノ酸残基の置換である。本発明の文脈において、保存的置換は、以下のように反映されているアミノ酸のクラス内の置換によって定義され得る:
脂肪族残基 I、L、V、およびM
シクロアルケニルを伴う残基 F、H、W、およびY
疎水性残基 A、C、F、G、H、I、L、M、R、T、V、W、およびY
負に荷電した残基 DおよびE
極性残基 C、D、E、H、K、N、Q、R、S、およびT
正に荷電した残基 H、K、およびR
小さな残基 A、C、D、G、N、P、S、T、およびV
非常に小さな残基 A、G、およびS
ターンに関与する残基 A、C、D、E、G、H、K、N、Q、R、S、P、および形成に関与する残基 T
可動性残基 Q、T、K、S、G、P、D、E、およびR
【0028】
さらなる保存的置換の分類としては、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、およびアスパラギン-グルタミンが挙げられる。疎水親水性/親水性の性質および残基の重量/サイズに関する保存も、B10のCDRと比較して、バリアントCDRにおいて実質的に保持されている。タンパク質に対して相互作用的な生物学的機能を付与する上での疎水親水性アミノ酸指数の重要性は、当技術分野において一般的に理解されている。アミノ酸の相対的な疎水親水性は、結果として生じるタンパク質の二次構造に寄与し、これが次にタンパク質と他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などとの相互作用を規定することが認められている。各アミノ酸には、それらの疎水性および荷電特性に基づいて疎水親水性指数が割り当てられている。これらは、イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);トレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタミン酸(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);アスパラギン(-3.5);リジン(-3.9);およびアルギニン(-4.5)である。類似の残基の保持は、追加でまたは代替的に、BLASTプログラム(例えば、標準的な設定のBLOSUM62、オープンギャップ=llおよびエクステンドギャップ=lを使用する、NCBIを通じて利用可能なBLAST 2.2.8)の使用によって判定されるような類似性スコアによって測定され得る。適切なバリアントは、典型的には、親ペプチドに対して少なくとも約70%の同一性を示す。
【0029】
したがって、いくつかの態様では、単離された抗MIS抗体は、以下を含む:
(a)SEQ ID NO:8またはSEQ ID NO:9として示される配列と少なくとも70%の同一性を有する可変重鎖;および
(b)SEQ ID NO:10として示される配列と少なくとも70%の同一性を有する可変軽鎖。
【0030】
いくつかの態様では、単離された抗MIS抗体は、以下を含む:
(a)SEQ ID NO:8として示される配列と少なくとも70%の同一性を有する可変重鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:1として示される配列を有するVH-CDR1;SEQ ID NO:2として示される配列を有するVH-CDR2;SEQ ID NO:4として示される配列を有するVH-CDR3を含む、可変重鎖;および
(b)SEQ ID NO:10として示される配列と少なくとも70%の同一性を有する可変軽鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:5として示される配列を有するVL-CDR1;SEQ ID NO:6として示される配列を有するVL-CDR2;SEQ ID NO:7として示される配列を有するVL-CDR3を含む、可変軽鎖(「B10天然」)。
【0031】
いくつかの態様では、単離された抗MIS抗体は、以下を含む:
(c)SEQ ID NO:9として示される配列と少なくとも70%の同一性を有する可変重鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:1として示される配列を有するVH-CDR1;SEQ ID NO:3として示される配列を有するVH-CDR2;SEQ ID NO:4として示される配列を有するVH-CDR3を含む、可変重鎖;および
(d)SEQ ID NO:10として示される配列と少なくとも70%の同一性を有する可変軽鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:5として示される配列を有するVL-CDR1;SEQ ID NO:6として示される配列を有するVL-CDR2;SEQ ID NO:7として示される配列を有するVL-CDR3を含む、可変軽鎖(「B10誘導体」)。
【0032】
いくつかの態様では、単離された抗MIS抗体は、SEQ ID NO:8として示される配列を有する可変重鎖:およびSEQ ID NO:10として示される配列を有する可変軽鎖を含む(「B10天然」)。
【0033】
いくつかの態様では、単離された抗MIS抗体は、SEQ ID NO:9として示される配列を有する可変重鎖:およびSEQ ID NO:10として示される配列を有する可変軽鎖を含む(「B10誘導体」)。
【0034】
いくつかの態様では、単離された抗MIS抗体は、複合体MISRII/MISによるMISタイプI受容体MISRI(すなわち、ALK2、ALK3またはALK6)の動員を遮断する。
【0035】
本発明の抗体は、当技術分野において公知である任意の技術、例えば、限定されないが任意の化学的、生物学的、遺伝学的または酵素的技術の単独か組み合わせかのいずれかによって産生される。典型的には、所望の配列のアミノ酸配列が分かれば、当業者は、標準的なポリペプチド作製技術によって、前記抗体を容易に産生することができる。例えば、これらは、周知の固相法を使用して、好ましくは、市販のペプチド合成装置(例えば、Applied Biosystems(Foster City, California)によって製造されたもの)を使用して、製造業者の説明書に従って合成することができる。あるいは、本発明の抗体は、当技術分野において周知である組換えDNA技術によって合成することができる。例えば、抗体は、該抗体をコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、そのようなベクターを、所望の抗体を発現するであろう適切な真核生物宿主または原核生物宿主に導入した後に、DNA発現産物として得ることができ、それから周知の技術を使用して後に抗体を単離することができる。
【0036】
いくつかの態様では、本発明の抗体は、モノクローナル抗体である。
【0037】
別の態様では、本発明のモノクローナル抗体は、ヒト化抗体である。特に、前記ヒト化抗体では、可変ドメインは、ヒトアクセプターフレームワーク領域、および任意でヒト定常ドメイン(存在する場合)、およびマウスCDRなどの非ヒトドナーCDRを含む。
【0038】
本発明によれば、「ヒト化抗体」という用語は、ヒト抗体由来の可変領域フレームワークおよび定常領域を有しているが以前の非ヒト抗体のCDRを保持している抗体のことを指す。
【0039】
本発明のヒト化抗体は、前に記載したようなCDRドメインをコードする核酸配列を得て、(i)ヒト抗体のものと同一である重鎖定常領域および(ii)ヒト抗体のものと同一である軽鎖定常領域をコードする遺伝子を有する動物細胞用の発現ベクターにそれらを挿入することによってヒト化抗体発現ベクターを構築し、該発現ベクターを動物細胞に導入することによって該遺伝子を発現させることによって産生され得る。ヒト化抗体発現ベクターは、抗体重鎖をコードする遺伝子および抗体軽鎖をコードする遺伝子が別々のベクター上に存在するタイプまたは両方の遺伝子が同じベクター上に存在するタイプ(直列タイプ)のいずれかであり得る。ヒト化抗体発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、および動物細胞中での抗体H鎖の発現レベルとL鎖の発現レベルとの間のバランスの観点から、直列タイプのヒト化抗体発現ベクターが好ましい。直列タイプのヒト化抗体発現ベクターの例としては、pKANTEX93(WO 97/10354)、pEE18などが挙げられる。従来の組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション技術に基づいたヒト化抗体の産生方法は、当技術分野において周知である(例えば、Riechmann L. et al. 1988; Neuberger MS. et al. 1985を参照のこと)。抗体は、例えば、CDR移植(EP 239,400;PCT公開公報WO91/09967;米国特許第5,225,539号;第5,530,101号;および第5,585,089号)、ベニヤリングまたはリサーフェシング(EP 592,106;EP 519,596;Padlan EA (1991);Studnicka GM et al. (1994);Roguska MA. et al. (1994))および鎖シャッフリング(米国特許第5,565,332号)を含めた当技術分野において公知である多様な技術を使用してヒト化することができる。そのような抗体の調製のための一般的な組換えDNA技術もまた公知である(欧州特許出願EP 125023および国際特許出願WO 96/02576を参照のこと)。
【0040】
いくつかの態様では、本発明のモノクローナル抗体は、ヒト抗体である。
【0041】
本明細書において使用される場合、「ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図している。本発明のヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、ランダムまたは部位特異的変異導入によってインビトロでまたは体細胞変異によってインビボで導入される変異)を含み得る。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列上に移植されている抗体を含むことを意図していない。
【0042】
ヒト抗体は、当技術分野において公知である様々な技術を使用して産生することができる。ヒト抗体は、van Dijk and van de Winkel, cur. Opin. Pharmacol. 5; 368-74 (2001)およびlonberg, cur. Opin.Immunol. 20; 450-459 (2008)に一般的に記載されている。ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答して無傷のヒト抗体またはヒト可変領域を有する無傷の抗体を産生するように改変されているトランスジェニック動物に、免疫原を投与することによって調製され得る。そのような動物は、典型的には、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含有するか、それらが染色体外に存在するか動物の染色体にランダムに組み込まれている。そのようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般に不活化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法に関する概説については、Lonberg, Nat.Biotech. 23;1117-1125 (2005)を参照されたい。また、例えば、XENOMOUSETM技術を記載している米国特許第6,075,181号および第6,150,584号;HUMAB(登録商標)技術を記載している米国特許第5,770,429号;K-M MOUSE(登録商標)技術を記載している米国特許第7,041,870号、ならびにVELOCIMOUSE(登録商標)技術を記載している米国特許出願公開公報US 2007/0061900も参照されたい。そのような動物によって生成される無傷の抗体由来のヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによってさらに改変され得る。ヒト抗体はまた、ハイブリドーマに基づく方法によって作製することもできる。ヒトモノクローナル抗体を産生させるためのヒト骨髄腫細胞株およびマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株が記載されている(例えば、Kozbor J. Immunol., 13: 3001 (1984);Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);およびBoerner et al., J. Immunol., 147: 86(1991).を参照のこと)。また、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体が、Li et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)に記載されている。さらなる方法としては、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトigM抗体の産生を記載している)およびNi, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載している)に記載されているものが挙げられる。また、ヒトハイブリドーマ技術(Trioma技術)が、Vollmers and Brandlein,, Histology and Histopathology, 20(3):927-937 (2005)およびVollmers and Brandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)に記載されている。また、完全ヒト抗体をファージディスプレイライブラリーから誘導することもできる(Hoogenboom et al., 1991, J. Mol. Biol. 227:381;およびMarks et al., 1991, J. Mol. Biol. 222:581に開示されているとおり)。ファージディスプレイ技術は、糸状バクテリオファージの表面の抗体レパートリーの提示とそれに続く目的の抗原への結合によるファージの選択を通じて、免疫選択を模倣する。そのような技術の1つがPCT公開公報第WO 99/10494号に記載されている。本明細書に記載されるヒト抗体はまた、免疫化するとヒト抗体応答が発生し得るようにヒト免疫細胞が再構築されているSCIDマウスを使用して調製することもできる。そのようなマウスは、例えば、米国特許第5,476,996号および第5,698,767号(Wilsonら)に記載されている。
【0043】
一態様では、本発明の抗体は、以下からなる群より選択される抗原結合断片である:Fab、F(ab)’2、単一ドメイン抗体、ScFv、Sc(Fv)2、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ユニボディ、ミニボディ、マキシボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP)、単離された相補性決定領域(CDR)として抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識ユニット、ならびに、以下を含むかそれらからなる断片:VL鎖ならびにSEQ ID NO:7、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:25およびSEQ ID NO:34からなる群より選択される配列と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列;またはVH鎖ならびにSEQ ID NO:8、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:26およびSEQ ID NO:35からなる群より選択される配列と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列。
【0044】
抗体の「抗原結合断片」という用語は、本明細書において使用される場合、所与の抗原(例えば、MIS)に特異的に結合する能力を保持する、無傷の抗体の1つまたは複数の断片のことを指す。抗体の抗原結合機能は、無傷の抗体の断片によって果たされ得る。抗体の抗原結合断片という用語の範囲内に包含される結合断片の例としては、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片;VL、VH、CL、CH1ドメインおよびヒンジ領域からなる一価断片であるFab’断片;ヒンジ領域でジスルフィド橋によって連結された2つのFab’断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片;抗体の単腕のVHドメインからなるFd断片;VHドメインまたはVLドメインからなる単一ドメイン抗体(sdAb)断片(Ward et al., 1989 Nature 341:544-546);ならびに単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされているが、これらは、組換え法を使用して、VL領域とVH領域が対合して一価分子を形成している単一タンパク質鎖としてそれらが作製されることを可能とする人工ペプチドリンカーによって接続することができる(一本鎖Fv(ScFv)として知られる;例えば、Bird et al., 1989 Science 242:423-426;およびHuston et al., 1988 proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883を参照のこと)。「dsFv」は、ジスルフィド結合によって安定化されたVH::VLヘテロ二量体である。二価および多価抗体断片は、一価scFvの会合によって自然発生的に形成され得るか、または、二価sc(Fv)2など、ペプチドリンカーによって一価scFvをカップリングさせることによって生成され得る。そのような一本鎖抗体は、抗体の1つまたは複数の抗原結合部分または断片を含む。これらの抗体断片は、当業者に公知である従来技術を使用して得られ、断片は、無傷の抗体と同様にして有用性に関してスクリーニングされる。ユニボディは、IgG4抗体のヒンジ領域を欠いた別のタイプの抗体断片である。ヒンジ領域の欠失は、従来のIgG4抗体の本質的に半分のサイズであり、IgG4抗体の二価結合領域ではなく一価結合領域を有する、分子をもたらす。抗原結合断片は、単一ドメイン抗体、SMIP、マキシボディ、ミニボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディおよびテトラボディに組み込むことができる(例えば、Hollinger and Hudson, 2005, Nature Biotechnology, 23, 9, 1126-1136を参照のこと)。「ダイアボディ」、「トリボディ」または「テトラボディ」という用語は、多価抗原結合部位(2つ、3つまたは4つ)を有する小さな抗体断片のことを指し、その断片は、同じポリペプチド鎖内で軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)(VH-VL)を含む。同じ鎖上で2つのドメイン間を対合できないほどに短いリンカーを使用することによって、該ドメインは、強制的に別の鎖の相補的ドメインと対合し、2つの抗原結合部位を生じる。抗原結合断片は、一対の直列Fvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む一本鎖分子に組み込むことができ、これは、相補的軽鎖ポリペプチドと一緒になって、一対の抗原結合領域を形成する(Zapata et al., 1995 Protein Eng. 8(10); 1057-1062および米国特許第5,641,870号)。
【0045】
本発明のFabは、MISと特異的に反応する抗体をプロテアーゼのパパインで処理することによって得ることができる。また、Fabは、抗体のFabをコードするDNAを原核生物発現系または真核生物発現系用のベクターに挿入し、該ベクターを原核生物または真核生物(適宜)に導入してFabを発現させることによって産生することができる。
【0046】
本発明のF(ab’)2は、MISと特異的に反応する抗体をプロテアーゼのペプシンで処理することによって得ることができる。また、F(ab’)2は、下記Fab’をチオエーテル結合またはジスルフィド結合を介して結合させることによって産生することができる。
【0047】
本発明のFab’は、MISと特異的に反応するF(ab’)2を還元剤のジチオトレイトールで処理することによって得ることができる。また、Fab’は、抗体のFab’断片をコードするDNAを原核生物用の発現ベクターまたは真核生物用の発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物または真核生物(適宜)に導入してその発現を遂行することによって産生することができる。
【0048】
本発明のscFvは、前に記載したようなVHドメインおよびVLドメインをコードするcDNAを得て、scFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用の発現ベクターまたは真核生物用の発現ベクターに挿入し、次いで、該発現ベクターを原核生物または真核生物(適宜)に導入してscFvを発現させることによって産生することができる。ヒト化scFv断片を生成するために、CDR移植と呼ばれる周知の技術を使用してもよく、これは、ドナーscFv断片由来の相補性決定領域(CDR)を選択し、それらを既知の三次元構造を有するヒトscFv断片フレームワークに移植することを伴う(例えば、W098/45322;WO 87/02671;US5,859,205;US5,585,089;US4,816,567;EP0173494を参照のこと)。
【0049】
ドメイン抗体(dAb)は、抗体の最小の機能的結合単位(分子量は約13kDa)であり、抗体の重鎖可変領域(VH)または軽鎖可変領域(VL)のいずれかに相当する。ドメイン抗体およびそれらの産生法に関するさらなる詳細は、US 6,291,158;6,582,915;6,593,081;6,172,197;および6,696,245;US 2004/0110941;EP 1433846、0368684および0616640;WO 2005/035572、2004/101790、2004/081026、2004/058821、2004/003019および2003/002609において確認することができ、それらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0050】
ユニボディは、IgG4抗体のヒンジ領域の除去に基づいた別の抗体断片技術である。ヒンジ領域の欠失は、従来のIgG4抗体の本質的に半分のサイズであり、二価結合領域ではなく一価結合領域を有する、分子をもたらす。さらに、ユニボディは、ほぼより小さいので、これらは、より大きな固形腫瘍上でより良好な分布と共に潜在的に有利な有効性を示し得る。ユニボディに関するさらなる詳細は、WO 2007/059782への参照によって得ることができ、これは参照によりその全体が組み入れられる。
【0051】
本発明の抗体は、任意のアイソタイプであり得る。アイソタイプの選択は、典型的には、ADCC誘導などの所望のエフェクター機能によって導かれるだろう。例示的なアイソタイプは、IgGl、IgG2、IgG3およびIgG4である。ヒト軽鎖定常領域のカッパまたはラムダのいずれを使用してもよい。所望であれば、公知の方法によって本発明のモノクローナル抗体のクラスを切り替えてもよい。典型的なクラススイッチ技術を使用して、あるIgGサブクラスを別のサブクラスへ、例えば、IgG1からIgG2へと変換してもよい。したがって、本発明のヒトモノクローナル抗体のエフェクター機能を、様々な治療用途のために、例えば、IgGl、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA、IgEまたはIgM抗体へとアイソタイプを切り替えることによって変化させてもよい。
【0052】
いくつかの態様では、本発明の抗体は、完全長抗体である。
【0053】
いくつかの態様では、完全長抗体は、IgG1抗体である。
【0054】
いくつかの態様では、完全長抗体は、IgG4抗体である。
【0055】
いくつかの態様では、IgG4抗体は、安定化されたIgG4抗体である。適切な安定化されたIgG4抗体の例は、ヒトIgG4の重鎖定常領域内の409位のアルギニン(Kabatら(上記)のようにEUインデックスで表示される)がリジン、トレオニン、メチオニンまたはロイシン、好ましくはリジンで置換されている抗体(WO2006033386に記載されている)、および/または、ヒンジ領域がCys-Pro-Pro-Cys配列を含む抗体である。他の適切な安定化されたIgG4抗体は、WO2008145142に開示されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0056】
いくつかの態様では、本発明のモノクローナル抗体は、ADCCなどのエフェクター機能を媒介する能力が低減されるかまたはさらには排除されるように変異している、IgG4タイプ以外、例えばIgGl、IgG2またはIgG3の抗体である。そのような変異は、例えば、Dall’Acqua WF et al., J Immunol. 177(2): 1129-1138 (2006)およびHezareh M, J Virol. 75(24) : 12161-12168 (2001)に記載されている。
【0057】
本発明のさらなる局面は、MISとの結合について本発明の抗体と交差競合する交差競合抗体について言及する。
【0058】
本明細書において使用される場合、所定の抗原またはエピトープへの抗体の結合の文脈における「結合する」という用語は、典型的には、例えば、可溶性形態の抗原をリガンドとして抗体を分析物として使用して(逆もまた同様)、BIAcore 3000機器で表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって決定した場合に、約10-7M以下、例えば約10-8M以下、例えば約10-9M以下、約10-10M以下、または約10-11Mまたはさらにはそれ以下のKDに相当する親和性で結合することである。放射性抗体もしくはMISを使用したスキャッチャードプロット、またはELISAなどの他の方法を使用して、この親和性を判定することができ、またはそれをEC50によって評価することができる。BIACORE(登録商標)(GE Healthcare, Piscaataway, NJ)は、一連のモノクローナル抗体をエピトープビニングするために慣用的に使用される多様な表面プラズモン共鳴アッセイフォーマットの1つである。典型的には、抗体は、所定の抗原に、所定の抗原と同一でないまたは密接に関連していない非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合のKDよりも少なくとも10倍低い、例えば少なくとも100倍低い、例えば少なくとも1,000倍低い、例えば少なくとも10,000倍低い、例えば少なくとも100,000倍低いKDに相当する親和性で結合する。抗体のKDが非常に低い(すなわち、抗体が高い親和性を有する)場合、抗体が抗原に結合するKDは、典型的には、非特異的抗原に対するKDよりも少なくとも10,000倍低い。結合が検出可能ではない(例えば、可溶性形態の抗原をリガンドとして抗体を分析物として使用し、BIAcore 3000機器でプラズモン共鳴(SPR)技術を使用して)場合、または、その抗体と異なる化学構造またはアミノ酸配列を有する抗原またはエピトープとによって検出される結合よりも100倍、500倍、1000倍もしくは1000倍以上小さい場合、抗体は、抗原またはエピトープに本質的に結合しないと言われる。
【0059】
本発明の抗体は、当技術分野において公知である任意の方法によって特異的結合についてアッセイされ得る。エピトープ結合のために、多くの異なる競合結合アッセイフォーマットを使用することができる。使用できるイムノアッセイとしては、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降素アッセイ、ゲル拡散沈降素アッセイ、免疫放射定量アッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイおよび補体結合アッセイなどの技術を使用した競合アッセイシステムが挙げられるが、それらに限定されない。そのようなアッセイは、慣用的であり、当技術分野において周知である(例えば、Ausubel et al., eds, 1994 Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, John Wiley & sons, Inc., New Yorkを参照のこと)。
【0060】
標準的なMIS結合アッセイにおいて本発明の他の抗体と交差競合する(例えば、統計的に有意な様式で結合を競合的に阻害する)能力があるかに基づき、追加の抗体を特定することができる。本発明の抗体のMISへの結合を阻害する能力が試験抗体にあれば、その試験抗体は、その抗体とMISへの結合について競合することができると実証される;そのような抗体は、非限定的な理論によると、競合する抗体と同じまたは関連する(例えば、構造的に類似したまたは空間的に近接した)MIS上のエピトープに結合し得る。したがって、本発明の別の局面は、本明細書に開示される抗体と同じ抗原に結合してその抗体と競合する抗体を提供する。本明細書において使用される場合の抗体が結合について「競合する」とは、競合抗体が、本発明の抗体または抗原結合断片のMIS結合を、等モル濃度の競合抗体の存在下で50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%超阻害する場合である。
【0061】
他の態様では、本発明の抗体または抗原結合断片は、MISの1つまたは複数のエピトープに結合する。いくつかの態様では、本抗体または抗原結合断片が結合するエピトープは、線状エピトープである。他の態様では、本抗体または抗原結合断片が結合するエピトープは、非線状の立体構造エピトープである。
【0062】
いくつかの態様では、本発明の交差競合抗体は、MISへの結合について、以下を含む抗体と交差競合する:
(a)重鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:1として示される配列を有するVH-CDR1;SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:3として示される配列を有するVH-CDR2;SEQ ID NO:4として示される配列を有するVH-CDR3を含む、重鎖;および
(b)軽鎖であって、可変ドメインが、SEQ ID NO:5として示される配列を有するVL-CDR1;SEQ ID NO:6として示される配列を有するVL-CDR2;SEQ ID NO:7として示される配列を有するVL-CDR3を含む、軽鎖。
【0063】
いくつかの態様では、本発明の交差競合抗体は、MISへの結合について、SEQ ID NO:8またはSEQ ID NO:9として示される配列を有する可変重鎖;およびSEQ ID NO:10として示される配列を有する可変軽鎖を含む抗体と交差競合する。
【0064】
いくつかの態様では、本発明の交差競合抗体は、SEQ ID NO:8またはSEQ ID NO:9として示される配列を有する可変重鎖;およびSEQ ID NO:10として示される配列を有する可変軽鎖を含む抗MIS抗体の能力を保持する。
【0065】
本発明の操作された抗体としては、VHおよび/またはVL内のフレームワーク残基に対して、例えば抗体の特性が向上するように改変がなされたものが挙げられる。典型的には、そのようなフレームワーク改変は、抗体の免疫原性が減少するようになされる。例えば、1つのアプローチは、1つまたは複数のフレームワーク残基を対応する生殖系列配列に「逆変異させる」ことである。より具体的には、体細胞変異を受けた抗体は、抗体が由来する生殖系列配列とは異なるフレームワーク残基を含有し得る。そのような残基は、抗体フレームワーク配列と抗体が由来する生殖系列配列とを比較することによって特定することができる。フレームワーク領域配列をその生殖系列配置に戻すために、体細胞変異を、例えば、部位特異的変異導入またはPCR媒介変異導入によって、生殖系列配列に「逆変異させる」ことができる。そのような「逆変異された」抗体も、本発明によって包含されることが意図される。別のタイプのフレームワーク改変は、フレームワーク領域内またはさらには1つもしくは複数のCDR領域内の1つまたは複数の残基を、T細胞エピトープが除去されるように変異させ、それにより抗体の潜在的な免疫原性を低減させることを伴う。このアプローチはまた「脱免疫化」とも称され、Carrらによる米国特許公開公報20030153043にさらに詳細に記載されている。
【0066】
いくつかの態様では、抗体のグリコシル化が改変される。例えば、抗原に対する抗体の親和性が増加するように、グリコシル化を変更することができる。そのような糖鎖改変は、例えば、抗体配列内のグリコシル化の1つまたは複数の部位を変更することによって達成することができる。例えば、1つまたは複数の可変領域フレームワークのグリコシル化部位の排除がもたらされ、それによりその部位でグリコシル化が排除される、1つまたは複数のアミノ酸置換を行うことができる。そのような無グリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を増加させ得る。そのようなアプローチは、Coらによる米国特許第5,714,350号および第6,350,861号にさらに詳細に記載されている。
【0067】
いくつかの態様では、凝集に対する抗体の感受性が減少するように、第一のCDR(CDR1)内およびその近くの凝集「ホットスポット」に局在するアミノ酸にいくつかの変異を起こす(Joseph M. Perchiacca et al., Proteins 2011; 79:2637-2647を参照のこと)。
【0068】
別の態様では、抗体は、その生物学的半減期が増大するように改変される。様々なアプローチが可能である。例えば、以下の変異の1つまたは複数を導入することができる:Wardによる米国特許第6,277,375号に記載されているようなT252L、T254S、T256F。あるいは、生物学的半減期を増大させるために、Prestaらによる米国特許第5,869,046号および第6,121,022号に記載されているように、抗体を、CH1またはCL領域内で、IgGのFc領域のCH2ドメインの2つのループから採用されたサルベージ受容体結合エピトープを含有するように改変することができる。半減期が増大され、母体から胎児へのIgGの移行に関与する新生児Fc受容体(FcRn)への結合が改善された抗体(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976)およびKim et al., J. immunol. 24:249 (1994))が、US2005/0014934A1(Hintonら)に記載されている。それらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を向上させる1つまたは複数の置換をその中に有するFc領域を含む。そのようなFcバリアントとしては、Fc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311,312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、または434の1つまたは複数で置換を有するバリアント、例えば、Fc領域残基434の置換を有するバリアント(米国特許第7,371,826号)が挙げられる。
【0069】
本発明によって想定される本明細書における抗体の別の改変はペグ化である。例えば、抗体の生物学的(例えば、血清)半減期が増大するように、抗体をペグ化することができる。抗体をペグ化するために、抗体またはその断片を、典型的には、ポリエチレングリコール(PEG)、例えばPEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体と、1つまたは複数のPEG基が抗体または抗体断片に付着するようになる条件下で反応させる。ペグ化は、反応性PEG分子(または類似の反応性水溶性ポリマー)とのアシル化反応またはアルキル化反応によって行うことができる。本明細書において使用される場合、「ポリエチレングリコール」という用語は、モノ(C1-C10)アルコキシ-またはアリールオキシ-ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール-マレイミドなど、他のタンパク質を誘導体化するために使用されている任意の形態のPEGを包含することを意図している。ある特定の態様では、ペグ化される予定の抗体は、無グリコシル化抗体である。タンパク質をペグ化するための方法は、当技術分野において公知であり、本発明の抗体に適用することができる。例えば、NishimuraらによるEP0154316およびIshikawaらによるEP0401384を参照されたい。
【0070】
本発明によって想定される抗体の別の改変は、結果として生じる分子の半減期を増大させるための、本発明の抗体の少なくとも抗原結合領域と血清タンパク質(ヒト血清アルブミンまたはその断片など)とのコンジュゲートまたはタンパク質融合である。そのようなアプローチは、例えば、BallanceらのEP0322094に記載されている。別の可能性は、結果として生じる分子の半減期を増大させるための、本発明の抗体の少なくとも抗原結合領域と血清タンパク質(ヒト血清アルブミンなど)に結合可能なタンパク質との融合である。そのようなアプローチは、例えば、NygrenらのEP 0 486 525に記載されている。
【0071】
ポリシアル化は、治療用ペプチドおよびタンパク質の活性時間を延長させ、その安定性を向上させるために天然ポリマーポリシアル酸(PSA)を使用する、別の技術である。PSAは、シアル酸のポリマー(糖)である。タンパク質および治療用ペプチドの薬物送達に使用される場合、ポリシアル酸は、コンジュゲーションに対して防御的微小環境を提供する。これは、循環中の治療用タンパク質の活性時間を増大させ、それが免疫系によって認識されるのを防ぐ。PSAポリマーは、ヒト体内で天然に見いだされる。PSAポリマーは、ある特定の細菌が取り入れ、数百万年かけて細菌の壁を覆うよう進化した。これらの天然にポリシアル化された細菌は、その後、分子模倣により、生体防御システムを撃退できるようになった。自然の最高度のステルス技術であるPSAは、そのような細菌から大量にかつ所定の物理的特性を備えて容易に産生され得る。細菌のPSAは、ヒト体内のPSAと化学的に同一であるから、タンパク質にカップリングさせても完全に非免疫原性である。
【0072】
別の技術としては、抗体に連結させたヒドロキシエチルデンプン(「HES」)誘導体の使用が挙げられる。HESは、モチトウモロコシデンプンに由来する改変された天然ポリマーであり、体内の酵素によって代謝され得る。HES溶液は、通常、不足した血液量を代用するためにおよび血液のレオロジー特性を改善するために投与される。抗体のHES化は、分子の安定性を高めることによって、ならびに、腎クリアランスを低下させることによって、循環中の半減期の延長を可能とし、その結果、生物学的活性が高まる。HESの分子量などの様々なパラメーターを変更することによって、多種多様なHES抗体コンジュゲートをカスタマイズすることができる。
【0073】
核酸、ベクター、組換え宿主細胞およびその使用
本発明のさらなる目的は、本発明に係る抗MIS抗体をコードする核酸分子に関する。特に、核酸分子は、本発明の抗MIS抗体の重鎖または軽鎖をコードする。
【0074】
典型的には、前記核酸は、プラスミド、コスミド、エピソーム、人工染色体、ファージまたはウイルスベクターなどの任意の適切なベクターに含まれ得る、DNAまたはRNA分子である。本明細書において使用される場合、「ベクター」、「クローニングベクター」および「発現ベクター」という用語は、宿主を形質転換し、導入された配列の発現(例えば、転写および翻訳)を促進するために、DNAまたはRNA配列(例えば、外来遺伝子)を宿主細胞に導入することができるビヒクルのことを意味する。そのために、本発明のさらなる局面は、本発明の核酸を含むベクターに関する。そのようなベクターは、対象に投与されると前記抗体の発現を引き起こすまたは指令する、調節エレメント、例えばプロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどを含み得る。動物細胞用の発現ベクターにおいて使用されるプロモーターおよびエンハンサーの例としては、SV40の初期プロモーターおよびエンハンサー(Mizukami T. et al. 1987)、モロニーマウス白血病ウイルスのLTRプロモーターおよびエンハンサー(Kuwana Y et al. 1987)、免疫グロブリンH鎖のプロモーター(Mason JO et al. 1985)およびエンハンサー(Gillies SD et al. 1983)などが挙げられる。ヒト抗体C領域をコードする遺伝子を挿入および発現させることができる限りは、あらゆる動物細胞用の発現ベクターを使用することができる。適切なベクターの例としては、pAGE107(Miyaji H et al. 1990)、pAGE103(Mizukami T et al. 1987)、pHSG274(Brady G et al. 1984)、pKCR(O’Hare K et al. 1981)、pSG1ベータd2-4-(Miyaji H et al. 1990)などが挙げられる。プラスミドの他の例としては、複製起点を含む複製プラスミド、または組み込み型プラスミド、例えばpUC、pcDNA、pBRなどが挙げられる。ウイルスベクターの他の例としては、アデノウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルスおよびAAVベクターが挙げられる。そのような組換えウイルスは、当技術分野において公知である技術によって、例えば、ヘルパープラスミドまたはウイルスをパッケージング細胞にトランスフェクトすることによってまたは一過性トランスフェクションによって産生され得る。ウイルスパッケージング細胞の典型例としては、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞などが挙げられる。そのような複製欠損組換えウイルスを産生させるための詳細なプロトコルは、例えば、WO 95/14785、WO 96/22378、US 5,882,877、US 6,013,516、US 4,861,719、US 5,278,056およびWO 94/19478において確認することができる。
【0075】
本発明のさらなる局面は、本発明に係る核酸および/またはベクターによってトランスフェクトされた、感染されたまたは形質転換された宿主細胞に関する。
【0076】
ペプチドまたはタンパク質をコードする配列を含有および発現させるために種々の発現ベクター/宿主系が利用され得る。これらには、微生物、例えば、組換えバクテリオファージ、プラスミドまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌;酵母発現ベクターで形質転換された酵母(Giga-Hama et al., 1999);ウイルス発現ベクターを感染させた昆虫細胞系(例えば、バキュロウイルス、Ghosh et al., 2002を参照のこと);ウイルス発現ベクターがトランスフェクトされた植物細胞系(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)または細菌発現ベクターで形質転換された植物細胞系(例えば、TiまたはpBR322プラスミド;例えば、Babe et al., 2000を参照のこと);または動物細胞系が挙げられるが、それらに限定されない。当業者は、タンパク質の哺乳動物発現を最適化するための様々な技術を知っている。例えば、Kaufman, 2000; Colosimo et al., 2000を参照されたい。組換えタンパク質産生において有用である哺乳動物細胞としては、VERO細胞、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、COS細胞(COS-7など)、W138、BHK、HepG2、3T3、RIN、MDCK、A549、PC12、K562および293細胞が挙げられるが、それらに限定されない。細菌、酵母および他の無脊椎動物におけるペプチド基質または融合ポリペプチドの組換え発現のための例示的なプロトコルは、当業者に公知であり、本明細書において以下に簡潔に記載される。組換えタンパク質の発現のための哺乳動物宿主系も当業者に周知である。宿主細胞系統は、発現されたタンパク質をプロセッシングする特定の能力、またはタンパク質活性を提供する上で有用である特定の翻訳後修飾を生み出す特定の能力に関して選択され得る。そのようなポリペプチドの修飾としては、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化およびアシル化が挙げられるが、それらに限定されない。タンパク質の「プレプロ」形態を切断する翻訳後プロセッシングも、正しい挿入、フォールディングおよび/または機能に重要であり得る。CHO、HeLa、MDCK、293、WI38などの様々な宿主細胞は、そのような翻訳後活性のための特異的細胞機構および特徴的なメカニズムを有しており、導入された外来タンパク質の正しい修飾およびプロセッシングが確実となるように選択され得る。
【0077】
本発明の抗体およびポリペプチドの組換え産生では、本発明の抗体およびポリペプチドをコードするポリヌクレオチド分子を含むベクターを採用することが必要であろう。そのようなベクターを調製する方法もそのようなベクターで形質転換された宿主細胞を産生する方法も当業者に周知である。
【0078】
本発明の抗体の発現のための適切な発現ベクターの選択は、当然ながら、使用される予定の具体的な宿主細胞に左右され、通常の技術者の技能の範囲内である。発現は、宿主細胞内で関心対象の核酸の発現を駆動するために使用され得るウイルスおよび哺乳動物の両起源のエンハンサー/プロモーターなど、適切なシグナルがベクター内に提供されることが必要である。通常、発現される核酸は、プロモーターの転写制御下にある。「プロモーター」は、遺伝子の特異的転写を開始するために必要とされる、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列のことを指す。ヌクレオチド配列は、調節配列が関心対象のタンパク質(例えば、モノクローナル抗体)をコードするDNAに機能的に関係する場合に、作動可能に連結されている。したがって、プロモーターヌクレオチド配列が所与のDNA配列の転写を指令するなら、プロモーターヌクレオチド配列は、該配列に作動可能に連結されている。
【0079】
「形質転換」という用語は、「外来」(すなわち外来性または細胞外)遺伝子、DNA配列またはRNA配列の宿主細胞への導入であって、宿主細胞が導入された遺伝子または配列を発現して、導入された遺伝子または配列によってコードされる所望の物質、典型的にはタンパク質または酵素を産生するような、導入のことを意味する。導入されたDNAまたはRNAを受け入れ発現する宿主細胞は、「形質転換」されている。
【0080】
本発明の核酸は、本発明の抗体を適切な発現系で産生させるために使用され得る。「発現系」という用語は、適切な条件下の、例えば、ベクターによって保有され宿主細胞に導入された外来DNAによってコードされるタンパク質の発現のための、宿主細胞と適合ベクターのことを意味する。一般的な発現系としては、大腸菌宿主細胞とプラスミドベクター、昆虫宿主細胞とバキュロウイルスベクター、および哺乳動物宿主細胞とベクターが挙げられる。宿主細胞の他の例としては、限定されないが、原核生物細胞(細菌など)および真核生物細胞(例えば、酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞など)が挙げられる。具体例としては、大腸菌、クリベロミセス属またはサッカロミセス属、酵母、哺乳動物細胞株(例えば、Vero細胞、CHO細胞、3T3細胞、COS細胞など)、ならびに初代または確立された哺乳動物細胞培養物(例えば、リンパ芽球細胞、線維芽細胞、胚細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞などから産生される)が挙げられる。例としてはまた、マウスSP2/0-Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63-Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(本明細書において以降「DHFR遺伝子」と称される)が欠損しているCHO細胞(Urlaub G et al; 1980)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL1662、本明細書において以降「YB2/0細胞」と称される)などが挙げられる。本発明はまた、本発明に係る抗体を発現する組換え宿主細胞を産生する方法であって、(i)上記したような組換え核酸またはベクターを適格宿主細胞にインビトロまたはエクスビボで導入する工程、(ii)得られた組換え宿主細胞をインビトロまたはエクスビボで培養する工程、および(iii)任意で、前記抗体を発現および/または分泌する細胞を選択する工程を含む方法に関する。そのような組換え宿主細胞を本発明の抗体の産生に使用することができる。
【0081】
本発明の抗体は、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順よって培養培地から適切に分離される。
【0082】
治療的方法および使用
本発明の抗体は、MISの阻害剤として使用される。本発明の抗体は、MISまたはMISRII陽性がんの処置に特に適する。
【0083】
したがって、本発明は、MISまたはMISRII陽性がんの処置において使用するための本発明の抗体に関する。
【0084】
言い換えれば、本発明は、それを必要とする対象におけるMISまたはMISRII陽性がんを処置する方法に関する。
【0085】
本明細書において使用される場合、「対象」という用語は、齧歯類、ネコ科、イヌ科、霊長類またはヒトなどの任意の哺乳動物のことを指す。本発明のいくつかの態様では、対象は、MISまたはMISRII陽性がんに罹患しているまたは罹患しやすい任意の対象のことを指す。特に、好ましい態様では、対象は、婦人科がん、肺がんまたは結腸直腸がんに罹患しているまたは罹患しやすいヒトである。
【0086】
いくつかの態様では、対象は、卵巣がんに罹患しているまたは罹患しやすいヒトである。
【0087】
本明細書において使用される場合、「処置」または「処置すること」という用語は、疾患に罹患するリスクがあるまたは疾患に罹患していることが疑われる対象、ならびに病気であるまたは疾患もしくは医学的状態を患っていると診断された対象の処置を含む、予防的または防止的処置ならびに治癒的または疾患修飾処置の両方のことを指し、また、臨床的再発の抑制を含む。処置は、医学的障害を有する対象または最終的に該障害を獲得する可能性がある対象に、障害または再発している障害の1つまたは複数の症状を防止、治癒、その発症を遅延、その重症度を低減、または寛解するために、またはそのような処置を行わなかった場合に予想される生存期間を超えて対象の生存期間を延長させるために投与され得る。「治療レジメン」とは、病気の処置のパターン、例えば、治療中に使用される投薬のパターンを意味する。治療レジメンは、誘導レジメンおよび維持レジメンを含み得る。「誘導レジメン」または「誘導期間」という語句は、疾患の初期処置に使用される治療レジメン(または治療レジメンの一部)のことを指す。誘導レジメンの一般的な目標は、処置レジメンの初期期間中に高いレベルの薬物を対象に提供することである。誘導レジメンは、医師が維持レジメン中に採用するであろう用量よりもはるかに高い用量の薬物を投与すること、医師が維持レジメン中に薬物を投与するであろう頻度よりも高い頻度で薬物を投与すること、またはその両方を含み得る「負荷レジメン」を(部分的にまたは全体的に)採用し得る。「維持レジメン」または「維持期間」という語句は、病気の処置中の対象の維持のために、例えば、対象を長期間(数ヶ月または数年)寛解状態に保つために使用される治療レジメン(または治療レジメンの一部)のことを指す。維持レジメンは、連続的療法(例えば、薬物を規則的な間隔で、例えば、週1回、月1回、年1回などで投与)または間欠的療法(例えば、断続的処置、間欠的処置、再発時の処置、または特定の所定の基準[例えば、疼痛、疾患の徴候など]に達した際の処置)を採用し得る。
【0088】
本明細書において使用される場合、「MISまたはMISRII陽性がん」は、MISを発現するがんのことを指す。いくつかの態様では、MISまたはMISRII陽性がんは、乳がん、前立腺がん、肺がん、結腸直腸がんまたは婦人科がんからなる群より選択される(Kim et al, 2014を参照のこと)。
【0089】
いくつかの態様では、MISまたはMISRII陽性がんは、肺がん、結腸直腸がんまたは婦人科がんである。
【0090】
本明細書において使用される場合、「肺悪性腫瘍」としても知られている「肺がん」という用語は、肺の組織における制御不能な細胞成長を特徴とする医学的状態として肺がんを定義する広く認められている医学定義を含む。肺がんの主要なタイプは、肺カルチノイド腫瘍、小細胞肺がん(SCLC)および非小細胞肺がん(NSCLC)、例えば、扁平上皮がん、腺がんおよび大細胞がんである。加えて、「肺がん」という用語は、あらゆる進行段階のあらゆるタイプの肺がんを含む。肺がんに最もよく使用される病期分類システムは、腫瘍のサイズ、リンパ節近くへの伝播および遠位部位への伝播(転移)に基づく対がん米国合同委員会(AJCC)TNMシステムである。
【0091】
本明細書において使用される場合、「結腸直腸がん」または「CRC」という用語は、小腸の下の腸管(すなわち、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸および直腸を含む、大腸(結腸))の細胞のがんを特徴とする医学的状態として結腸直腸がんを定義する広く認められている医学定義を含む。加えて、本明細書において使用される場合、「結腸直腸がん」という用語はまた、十二指腸および小腸(空腸および回腸)の細胞のがんを特徴とする医学的状態をさらに含む。加えて、「結腸直腸がん」という用語は、あらゆる進行段階のあらゆるタイプの結腸直腸がんを含む。最初期段階の結腸直腸がんは、ステージ0(きわめて早期で表在性のがん)と呼ばれ、その後、ステージIからIVへ変動する。転移性結腸直腸がんとしても知られているステージIVの結腸直腸がんでは、がんは、結腸または直腸を超えて肝臓または肺などの遠位臓器まで伝播している。CRCに最もよく使用される病期分類システムは、腫瘍のサイズ、リンパ節近くへの伝播および遠位部位への伝播(転移)に基づく対がん米国合同委員会(AJCC)TNMシステムである。
【0092】
本明細書において使用される場合、「婦人科がん」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、女性の生殖器官で発生するがんのことを指す。婦人科がんの種類は、子宮頸がん、子宮がん(womb cancer)または子宮内膜がんとしても知られている子宮がん(uterine cancer)、卵巣がん、膣がん、外陰がん、原発性腹膜がん、妊娠性絨毛性疾患および卵管がんである。子宮頸がんは、子宮頸部の細胞が異常に成長し、身体の他の組織および臓器に侵入すると生じるもので、扁平上皮がん;腺がん;腺扁平上皮がん;小細胞がん:神経内分泌腫瘍;すりガラス細胞がん;絨毛腺管状腺がん;子宮頸部黒色腫および子宮頸部リンパ腫が挙げられる。子宮がんは、子宮で生じる任意のタイプのがんのことを指すもので、子宮内膜腺がん、子宮内膜腺扁平上皮がん、漿液性乳頭状がん、子宮明細胞がん、子宮内膜の粘液がん、子宮内膜の粘液腺がんおよび子宮内膜扁平上皮がんなどの子宮内膜がん;子宮内膜の移行細胞がん;子宮内膜間質肉腫;悪性混合ミュラー管腫瘍;子宮線維腫;ならびに子宮がん肉腫、子宮腺肉腫および子宮平滑筋肉腫などの子宮肉腫が挙げられる。膣がんは、膣で生じる希少がんであり、膣扁平上皮がん;膣黒色腫;および膣肉腫が挙げられる。外陰がんは、女性生殖器の外表面領域で生じるがんの一種であり、外陰扁平上皮がん;外陰部黒色腫;外陰部基底細胞がん;バルトリン腺がん;外陰腺がんおよび外陰肉腫が挙げられる。卵巣がんは、卵巣内または卵巣上で形成されるがんであり、卵巣粘液がん、高悪性度漿液性がん、卵巣類内膜がん、卵巣明細胞がん、卵巣低悪性度腫瘍および原発性腹膜がんなどの卵巣上皮腫瘍;奇形腫、未分化胚細胞腫、卵巣胚細胞がん、絨毛がん腫瘍および内胚葉洞腫瘍などの胚細胞腫瘍;顆粒膜細胞腫瘍、顆粒膜-莢膜腫瘍、卵巣線維腫、ライディッヒ細胞腫瘍、セルトリ細胞腫瘍、セルトリ-ライディッヒ腫瘍およびギナンドロブラストーマなどの性索間質性腫瘍;卵巣がん肉腫、卵巣腺肉腫、卵巣平滑筋肉腫および卵巣線維肉腫などの卵巣肉腫;クルーケンベルグ腫瘍;ならびに卵巣嚢腫が挙げられる。
【0093】
いくつかの態様では、MISまたはMISRII陽性がんは、卵巣がんである。
【0094】
本明細書において使用される場合、「治療有効量」は、患者に治療的有益性を付与するのに必要な活性剤の最少量に向けられたものである。例えば、患者への「活性剤の治療有効量」は、患者を冒している疾患に関連する病理学的症状、疾患進行または身体的状態において改善を誘導する、寛解するまたは引き起こす活性剤の量である。
【0095】
本明細書において使用される場合、「投与すること」または「投与」という用語は、体外にある物質(例えば、本発明の抗体)を、例えば、粘膜、皮内、静脈内、皮下、筋肉内送達および/または本明細書に記載されるもしくは当技術分野において公知である任意の他の物理的送達法によって、対象に注射するまたはそれ以外の物理的に送達するという行為のことを指す。疾患またはその症状が処置される場合、物質の投与は、典型的には、疾患またはその症状の発症後に行われる。疾患またはその症状が予防される場合、物質の投与は、典型的には、疾患またはその症状の発症前に行われる。
【0096】
本発明の抗体は、MISまたはMISRII陽性がんの従来処置と組み合わせて投与することができる。
【0097】
したがって、本発明はまた、i)本発明に係る抗ミュラー管抑制物質抗体およびii)MISまたはMISRII陽性がんの処置において使用するための従来処置についても言及する。
【0098】
言い換えれば、本発明は、それを必要とする対象におけるMISまたはMISRII陽性がんを処置する方法であって、前記対象に、本発明に係る抗MIS抗体の治療有効量およびMISまたはMISRII陽性がんの従来処置を投与することを含む方法について言及する。
【0099】
本明細書において使用される場合、「従来処置」という用語は、MISまたはMISRII陽性がんの処置に使用される天然または合成の任意の化合物のことを指す。
【0100】
特定の態様では、従来処置は、放射線療法、免疫療法または化学療法のことを指す。
【0101】
本発明によれば、MISまたはMISRII陽性がんの従来処置に使用される化合物は、セツキシマブ、パニツムマブ、ベバシズマブおよびラムシルマブなどのEGFR阻害剤;エルロチニブ、ゲフィチニブ、アファチニブ、レゴラフェニブおよびラロトレクチニブなどのキナーゼ阻害剤;免疫チェックポイント阻害剤;化学療法剤ならびに放射線療法剤からなる群の中で選択され得る。
【0102】
本明細書において使用される場合、「化学療法」という用語は、1つまたは複数の化学療法剤を使用するがん処置のことを指す。
【0103】
本明細書において使用される場合、「化学療法剤」という用語は、腫瘍成長を阻害するのに有効な化学化合物のことを指す。化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えばチオテパおよびシクロホスファミド;スルホン酸アルキル類、例えばブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファン;アジリジン類、例えばベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパおよびウレドーパ;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミドおよびトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン類およびメチラメラミン類(methylamelamines);アセトゲニン類(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成類似体トポテカンおよびイリノテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシンおよびビセレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン類(とりわけ、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW-2189およびCBI-TMIを含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンジスタチン;ナイトロジェンマスタード類、例えばクロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン(estrarnustine)、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベンビシン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニマスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソウレア類、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;抗生物質、例えばエンジイン抗生物質(例えば、カリケアミシン、とりわけカリケアミシン111およびカリケアミシン211、例えば、Agnew Chem Intl. Ed. Engl. 33: 183-186 (1994)を参照のこと;Aジネマイシンを含むジネマイシン;エスペラミシン;ならびにネオカルジノスタチン発色団および関連色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン類(aclacinomysins)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン類、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(canninomycin)、カルジノフィリン、クロモマイシン類、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルフォリノ-ドキソルビシン、シアノモルフォリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン(idanrbicin)、マルセロマイシン、マイトマイシン類、ミコフェノール酸、ノガラルナイシン(nogalarnycin)、オリボマイシン類、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン、ストレプトニグリン(streptomgrin)、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗剤、例えばメトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えばデノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリン類似体、例えばフルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、トリフルリジン、チピラシル、エノシタビン、フロクスウリジン、5-FU;アンドロゲン類、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補給剤、例えばフロリン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド(aldophospharnide glycoside);アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defo famine);デメコルシン;ジアジクオン;エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;マイタンシノイド類、例えばマイタンシンおよびアンサマイトシン類;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲンナニウム(spirogennanium);テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン類(とりわけ、T-2毒素、ベルラクリン(verracurin)A、ロリジンAおよびアングイジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール(mitobromtol);ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド類、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology, Princeton, N.].)およびドセタキセル(doxetaxel)(TAXOTERE(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer, Antony, France);クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似体、例えばシスプラチンおよびカルボプラチン;ビンブラスチン;白金、例えばオキサリプラチン、シスプラチンおよびカルボプラチン;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT-1 1;トポイソメラーゼ阻害剤RF S2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;カペシタビン;ziv-アフリベルセプト;ならびに上記のいずれかの薬学的に許容し得る塩、酸または誘導体が挙げられる。また、腫瘍に対するホルモン作用を調節または阻害するように作用する抗ホルモン剤、例えば、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害4(5)-イミダゾール類、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、およびトレミフェン(フェアストン)を含む);および抗アンドロゲン類(例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリドおよびゴセレリン);ならびに上記のいずれかの薬学的に許容し得る塩、酸または誘導体もこの定義に含まれる。
【0104】
「薬学的に」または「薬学的に許容し得る」は、哺乳動物、とりわけヒト(適宜)に投与したときに有害反応、アレルギー反応または他の不都合な反応を生み出さない分子実体および組成物のことを指す。薬学的に許容し得る担体または賦形剤は、あらゆる種類の無毒の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、封入材料または製剤助剤のことを指す。
【0105】
本明細書において使用される場合、「放射線療法」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、電離放射線によるMISまたはMISRII陽性がんの処置のことを指す。電離放射線は、処置される領域(標的組織)内の細胞をその遺伝物質を損傷することによって傷害または破壊するエネルギーを蓄積しており、これらの細胞が成長し続けることを不可能にする。一般的に使用されている放射線療法の1つは、光子、例えばX線を伴う。保有するエネルギー量に応じて、光線を、身体の表面またはより深部のがん細胞を破壊するために使用することができる。X線ビームのエネルギーが高いほど、X線が標的組織により深く侵入することができる。直線加速器およびベータトロンは、一層大きなエネルギーのX線を生み出す。放射線(X線など)を結腸直腸がん部位に集中させるのに機械を使用することは、外部線照射療法と呼ばれる。ガンマ線は、放射線療法において使用される別の形態の光子である。ガンマ線は、ある特定の元素(ラジウム、ウランおよびコバルト60など)が分解または崩壊するにつれて放射線を放出するように自然に発生する。いくつかの態様では、放射線療法は、体外放射線療法である。体外放射線療法の例としては、従来の外部線照射療法;三次元コンフォーマル放射線療法(3D-CRT)(腫瘍の形状に密接に適合するように異なる方向から成形ビームを送達する);強度変調放射線療法(IMRT)、例えば、ヘリカルトモセラピー(腫瘍の形状に密接に適合するように放射線ビームを成形し、また腫瘍の形状に従って放射線量を変更する);コンフォーマル陽子線放射線療法;画像誘導放射線療法(IGRT)(走査技術と照射技術を組み合わせて腫瘍のリアルタイム画像を提供し、放射線療法を誘導する);術中放射線療法(IORT)(外科手術中に放射線を腫瘍に直接送達する);定位放射線手術(大量の正確な放射線量を小さな腫瘍領域に単一セッションで送達する);多分割放射線療法、例えば、連続多分割加速放射線療法(CHART)(対象に1日あたり複数回の放射線療法の治療(分画)が与えられる);および少分割放射線療法(1分画当たりより大きな用量の放射線療法がより少ない分画で与えられる)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0106】
本明細書において使用される場合、「免疫チェックポイント阻害剤」という用語は、1つまたは複数の免疫チェックポイントタンパク質を全体的にまたは部分的に低減、阻害、干渉またはモジュレートする分子のことを指す。
【0107】
本明細書において使用される場合、「免疫チェックポイントタンパク質」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、T細胞によって発現されるシグナルを強める分子(刺激性チェックポイント分子)またはシグナルを弱める分子(阻害性チェックポイント分子)のことを指す。
【0108】
刺激性チェックポイントの例としては、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR、およびICOSが挙げられる。阻害性チェックポイント分子の例としては、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CTLA-4、CD277、IDO、KIR、PD-1、PD-L1、LAG-3、TIM-3およびVISTAが挙げられる。
【0109】
本発明によれば、MIS阻害剤および従来処置を併用処置として使用することができる。
【0110】
本明細書において使用される場合、「併用処置」、「併用療法」または「療法併用」という用語は、複数の医薬を使用する処置のことを指す。併用療法は、二剤治療または二重治療であり得る。本発明に係る併用処置において使用される医薬は、対象に同時、別々または逐次に投与される。
【0111】
本明細書において使用される場合、「同時に投与」という用語は、2つの有効成分の同じ経路による同じ時間または実質的に同じ時間での投与のことを指す。「別々に投与」という用語は、2つの有効成分の異なる経路による同じ時間または実質的に同じ時間での投与のことを指す。「逐次に投与」という用語は、投与経路が同一または異なる2つの有効成分の異なる時間での投与のことを指す。
【0112】
薬学的組成物
本発明の抗MIS抗体は、薬学的組成物中で使用または調製され得る。
【0113】
一態様では、本発明は、MISまたはMISRII陽性がんの処置において使用するための本発明の抗MIS抗体および薬学的に許容し得る担体を含む薬学的組成物に関する。
【0114】
いくつかの態様では、MISまたはMISRII陽性がんは、婦人科がん、肺がんおよび結腸直腸がんからなる群の中で選択される。
【0115】
典型的には、本発明の阻害剤は、薬学的に許容し得る賦形剤、および任意で生分解性ポリマーなどの持続放出マトリックスと組み合わせて、治療用組成物を形成し得る。
【0116】
本明細書において使用される場合、「薬学的に」または「薬学的に許容し得る」という用語は、哺乳動物、とりわけヒト(適宜)に投与したときに有害反応、アレルギー反応または他の不都合な反応を生み出さない分子実体および組成物のことを指す。薬学的に許容し得る担体または賦形剤は、あらゆる種類の無毒の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、封入材料または製剤助剤のことを指す。
【0117】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所または直腸投与用の本発明の薬学的組成物では、有効成分を単独でまたは別の有効成分と組み合わせて、単位投与形態で、従来の薬学的支持体との混合物として、動物およびヒトに投与することができる。適切な単位投与形態は、錠剤、ゲルカプセル剤、散剤、顆粒剤および経口懸濁剤または液剤などの経口経路形態、舌下および口腔内投与形態、エアロゾル、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮、髄腔内および鼻腔内投与形態ならびに直腸投与形態を含む。
【0118】
好ましくは、薬学的組成物は、注射可能な製剤にとって薬学的に許容し得るビヒクルを含有する。これらは、特に、等張の滅菌食塩水溶液(リン酸一ナトリウムもしくは二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウムもしくはマグネシウムなど、またはそのような塩の混合物)、または、乾燥、とりわけ凍結乾燥組成物(場合により、滅菌水または生理食塩水を添加することによって、注射用液剤の構成が可能になる)であり得る。
【0119】
注射用途に適した剤形は、滅菌水溶液または分散液;ゴマ油、ピーナツ油または水性プロピレングリコールを含む製剤;および滅菌注射用溶液または分散液の即時調製用滅菌粉末を含む。いずれの場合も、この剤形は、滅菌されていなければならず、また容易に注射できる程度に流動性でなければならない。それは、製造および貯蔵条件下において安定でなければならず、また細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されていなければならない。
【0120】
本発明の阻害剤を遊離塩基または薬理学的に許容し得る塩として含む溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中に調製することができる。分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中ならびに油中でも調製することができる。通常の貯蔵および使用条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐための防腐剤を含有する。
【0121】
本発明の阻害剤は、中性または塩形態で組成物に製剤化することができる。薬学的に許容し得る塩としては、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成される)が挙げられ、これらは、例えば、塩酸もしくはリン酸などの無機酸と、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と形成される。また、遊離カルボキシル基と形成される塩を、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムまたは水酸化第二鉄などの無機塩基から、またイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することができる。
【0122】
担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物および植物油を含有する、溶媒または分散媒でもあり得る。例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要な粒子径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、適切な流動性を維持することができる。様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって微生物の作用防止をもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射用組成物の吸収延長は、組成物中での吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらすことができる。
【0123】
滅菌注射用溶液は、必要な量の活性化合物を、必要に応じて、上に挙げた種々の他の成分と共に、適切な溶媒に加え、続いて、濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散液は、様々な滅菌した有効成分を、基本の分散媒および上に挙げたものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに加えることによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、有効成分と任意の追加の所望の成分の予め滅菌濾過した溶液から粉末を生成する、真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0124】
溶液は、製剤化されると、投与製剤と適合する様式で、かつ治療上有効であるような量で投与されるであろう。製剤は、上述した注射用溶液タイプなどの種々の投与形態で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなどを利用することもできる。
【0125】
水溶液で非経口投与するために、例えば、その溶液を必要であれば適切に緩衝化すべきであり、また液体希釈剤をまず十分な食塩水またはグルコースで等張にすべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に特に適している。このことに関連して、利用できる滅菌水性媒体は、本開示に照らして、当業者には公知であろう。処置される対象の病態に応じて、いくらかの投与量の変動が必然的に生じるであろう。いずれにしろ、投与の責任者が、個々の対象についての適切な用量を決定するであろう。
【0126】
静脈内または筋肉内注射などの非経口投与用に製剤化された本発明のMIS阻害剤に加え、他の薬学的に許容し得る形態として、例えば錠剤または他の経口投与用固形剤;リポソーム製剤;徐放性カプセル;および現在使用されている任意の他の形態が挙げられる。
【0127】
本発明の薬学的組成物は、婦人科がん、肺がんまたは結腸直腸がんからなる群より選択されるがんの処置において使用される任意のさらなる活性剤を含み得る。
【0128】
一態様では、前記の追加の活性剤は、同じ組成物中に含有されるかまたは別々に投与され得る。
【0129】
別の態様では、本発明の薬学的組成物は、MISまたはMISRII陽性がんの処置における同時、別々または逐次使用のための組み合わせ調製物に関する。
【0130】
いくつかの態様では、MISまたはMISRII陽性がんは、婦人科がん、肺がんまたは結腸直腸がんからなる群より選択される。
【0131】
本発明はまた、本発明の抗MIS抗体を含むキットも提供する。本発明の抗MIS抗体を含有するキットは、治療的方法において有用である。
【0132】
本発明は、以下の図面および実施例によってさらに説明されるだろう。しかしながら、これらの実施例および図面は、いずれにしても、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0133】
図1】卵巣悪性腫瘍におけるミュラー管抑制物質(MIS)の逆説的反応およびMIS阻害の提唱される治療戦略のグラフィカルアブストラクト。
図2A】組換えMIS(LRMIS)は、COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞においてMISシグナル伝達を誘導する。A.1.6~25nM LRMISと6時間インキュベーションすると、アポトーシス(カスパーゼ3/7活性)が促進される。B.1.6~2.5nM LRMISの存在下で11日間培養後、直接クローン計数法(COV434-MISRII細胞)によってまたは細胞溶解後に595nmでのODによりクローン数を推定すること(SKOV3-MISRII細胞)によって、クローン原性生存を定量した。
図2B】組換えMIS(LRMIS)は、COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞においてMISシグナル伝達を誘導する。A.1.6~25nM LRMISと6時間インキュベーションすると、アポトーシス(カスパーゼ3/7活性)が促進される。B.1.6~2.5nM LRMISの存在下で11日間培養後、直接クローン計数法(COV434-MISRII細胞)によってまたは細胞溶解後に595nmでのODによりクローン数を推定すること(SKOV3-MISRII細胞)によって、クローン原性生存を定量した。
図3】COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞におけるMIS作用におけるALK2、ALK3およびALK6の関与。siALK2、siALK3またはsiALK6トランスフェクトCOV434-MISRIIまたはSKOV3-MISRII細胞を25nM MISと6時間インキュベーション(siRNAトランスフェクションの48時間後に開始)した後にアポトーシス開始(カスパーゼ3/7活性)を分析した。
図4】抗MIS抗体B10は、COV434-MISRII、SKOV3-MISRII、OVCAR8およびKGN細胞において成長阻害を誘導する。333nM B10とまたはそれなしで11日間インキュベートした後のCOV434-MISRII細胞(直接クローン計数法)ならびにSKOV3-MISRII、OVCAR8およびKGN細胞(Celigo Imaging Systemを使用した細胞集密度の測定)におけるクローン原性生存。
図5A】抗MIS抗体B10は、卵巣悪性腫瘍腹水試料由来の腫瘍細胞において成長阻害を誘導する。A.330nM B10とまたはそれなし(NT)で48時間インキュベートした後の細胞成長阻害(細胞集密度をCeligo Imaging Systemで測定)。B.漸増濃度のB10とまたはそれなしでインキュベートした後のアポトーシス誘導(カスパーゼ3/7活性)。
図5B】抗MIS抗体B10は、卵巣悪性腫瘍腹水試料由来の腫瘍細胞において成長阻害を誘導する。A.330nM B10とまたはそれなし(NT)で48時間インキュベートした後の細胞成長阻害(細胞集密度をCeligo Imaging Systemで測定)。B.漸増濃度のB10とまたはそれなしでインキュベートした後のアポトーシス誘導(カスパーゼ3/7活性)。
図6A】抗AMH抗体B10は、インビボのCOV434-MISRII腫瘍成長を低減する。COV434-MISRII細胞腫瘍を有するヌードマウスを、B10(抗AMH抗体)、12G4(抗AMHRII抗体)(共に10mg/kg/注射)、またはビヒクル(NaCl;対照)で4週間にわたり週2回処置した。A.腫瘍成長曲線(平均+95%信頼区間)、B.カプラン-マイヤー生存曲線(移植後の時間の関数としての、1,500mm3より小さい腫瘍体積を有するマウスの割合)。
図6B】抗AMH抗体B10は、インビボのCOV434-MISRII腫瘍成長を低減する。COV434-MISRII細胞腫瘍を有するヌードマウスを、B10(抗AMH抗体)、12G4(抗AMHRII抗体)(共に10mg/kg/注射)、またはビヒクル(NaCl;対照)で4週間にわたり週2回処置した。A.腫瘍成長曲線(平均+95%信頼区間)、B.カプラン-マイヤー生存曲線(移植後の時間の関数としての、1,500mm3より小さい腫瘍体積を有するマウスの割合)。
【実施例
【0134】
材料&方法
細胞株
ヒトのCOV434(性索間質性腫瘍)(Chan-Penebre et al., 2017; Zhang et al., 2000)およびKGN(顆粒膜細胞腫瘍)(Nishi et al., 2001)細胞株は、それぞれ、PI Schrier医師(Department of Clinical Oncology, Leiden University Medical Center, Nederland)およびT Yanase医師(Kyushu University, Fukuoka, Japan)から贈与された。ヒト上皮性卵巣がん細胞株SKOV3およびNIH-OVCAR8は、それぞれ、ATCC(ATCC(登録商標)HTB-77)および米国がん治療診断部(Division of Cancer Treatment and Diagnosis, NCI, Frederick, MD, USA)から得た。細胞を、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)を含有するレッドフェノール不含DMEM F12培地中で成長させた。COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞に0.33mg/mlジェネティシン(InvivoGen, ant-gn-1)を追加補充した。細胞を5% COの加湿雰囲気中37℃で成長させ、培地を週2回交換した。0.5mg/mlトリプシン/0.2mg/ml EDTAを用いて細胞を採取した。培養培地およびサプリメントはすべて、Life Technologies. Inc.(Gibco BRL)から購入した。HEK293K細胞(IRCMでのGenAcプラットフォームによる抗体産生に使用)を、10%熱不活性化FBSを含有するフェノールレッド含有DMEM F12中で成長させた。
【0135】
完全長ヒトMISRIIをコードするcDNAのトランスフェクションによってCOV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞株を生成した(Kersual et al., 2014)。pCMV6プラスミド中の完全長ヒトMISRIIをコードするcDNAは、J Teixeira(Pediatric Surgical Research Laboratories, Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School)による寛大な贈り物であった。まず、MISRII cDNAを、EcoRIおよびXhoI制限部位(New England BioLabs製の酵素)を使用してpcDNA3.1.myc-Hisベクター(Invitrogen)内に、次いで、EcoRIおよびSalI部位を使用して、pIRES1-EGFPベクター(F Poulat(IGH-UPR1142 CNRS)から贈与)内にサブクローニングした。トランスフェクションの24時間前に、COV434細胞を10cmの細胞培養ディッシュに80%の集密度で播種した。Fugeneトランスフェクションキットを製造業者のプロトコルに従って使用して、MISRII構築物をトランスフェクトした。48時間後、トランスフェクション培地を0.5mg/mlジェネティシンを含有する新鮮培地に交換し、次いで、2週間にわたり2回/週取り替えた。次に、細胞を採取し、FACSAriaサイトメーター(Becton Dickinson)を使用して96ウェルプレート中に選別した。細胞株ごとに、MISRIIを強く発現したクローンを選択し、COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRIIと命名した。
【0136】
患者の腹水由来の原発腫瘍細胞
「Institut Cancer Montpellier, ICM」から、仏国法律に則って、インフォームドコンセントを行ってから、2名の卵巣がん患者由来の腹水試料を得た。これらの2名の患者は、今までいかなる化学療法も受けておらず、ICM-Val d’Aurelle Hospitalで外科的介入を待っていたために選択された。入手したばかりの腹水を50mlのコニカル遠心チューブに分割し、1300rpmで5分間スピンした。細胞ペレットを塩化アンモニウムカリウム緩衝液(ACK溶解緩衝液:NH4Cl 150nM;KHCO3 10nM;Na2EDTA 0.1nM)に再懸濁して、氷上で5分間赤血球細胞(RBC)を溶解した。RBCの溶解が完了するまでこの処理を繰り返した。次いで、細胞ペレットを、20ml DMEM F12-Glutamax(Gibco)および10% FBSを含有する150mmの細胞培養ディッシュに蒔いた。同じ日に、100,000個の細胞を採取して、MISRII発現をFACSによって評価した。次いで、細胞をDMEM F12/10% FBS中に30分間蒔いて、接着線維芽細胞を素早く除いた(O Donnell et al., 2014)。非接着細胞をDMEM F12/10% FBSを含有する新しいディッシュに移した。低継代細胞を実験に使用するかまたは液体窒素内で凍結した。
【0137】
ミュラー管抑制物質(MIS)産生およびアッセイ
D Pepinらによる研究(Pepin et al., 2013, 2015)に記載されている活性組換えMIS(LRMIS)を我々の研究に使用した。これは、(i)産生および分泌を増加させるMISリーダー配列に代わるアルブミンの24AAリーダー配列、および(ii)切断を向上させる423~428位に天然MISRAQR/S配列に代わるRARR/Sフーリン/kex2コンセンサス部位を含有する。MISの用量決定は、RocheのElecsys(登録商標)AMH(抗ミュラー管ホルモン)アッセイを使用して実施した。ウシMISはヒトMISRIIを介してシグナル伝達できるので(Cate et al., 1986)、LRMISが関わる実験はすべて、1% FBSを含有する培養培地中で実施した。これらの実験条件で、内因性MIS濃度は、5~10pM(新鮮培地中)から約10~15pM(細胞培養の5日後)の範囲であった。細胞培養上清中の内因性MIS濃度を決定するために、100万個の細胞を100mmの細胞培養ディッシュの10ml DMEM F12/1% FBS中に蒔いた。24時間ごとに、培地300μlをMISの用量決定のために取り出した。
【0138】
siRNAトランスフェクションおよびアッセイ
siRNA配列をRosettaアルゴリズムでデザインし、これはSigma-AldrichがプレデザインしたsiRNA保証によって裏付けられる。本発明者らは、各ALK受容体およびMIS用の3つのsiRNAのプールを使用した。細胞を24ウェルプレートに最大60~80%の集密度で蒔いた。Opti-MEM培地中に希釈したリポフェクタミンRNAiMaxトランスフェクション試薬(Thermofisher cat# 13778-150)を供給業者に従って使用して、1% FBSを含有する培地でトランスフェクションを実施した。siRNAをOpti-MEM中300ng/ml(ALK2、ALK3およびALK6に対するsiRNA)および1μg/ml(MISに対するsiRNA)に希釈し、siRNA-リポフェクタミン(1:1)混合物を細胞に6時間加えた。細胞を洗浄し、DMEM F12/1% FBS中で培養した。siRNAトランスフェクション細胞を用いた実験を、トランスフェクションの24時間後(COV434-MISRII細胞)および48時間後(SKOV3-MISRII細胞)に実施した。
【0139】
抗MIS B10抗体の開発および産生
ヒトscFvファージディスプレイライブラリーHusc I(Philibert et al., 2007; Robin and Martineau, 2012)から、Ala453-Arg560 MIS cTERドメイン(R&D)を使用した連続パンニング後、ファージディスプレイによって3つの抗MISヒトscFv抗体を選択した。最初にネズミIg2Gaフォーマットで抗体を発現させた。ELISAによる判定で、MAb B10は、完全長MISに対して最良の結合を提示したので(Pepin et al., 2013)、これをさらなる実験のために選択した。
【0140】
MAb B10抗体をHEK293T細胞(ATCC CRL1573)において産生させた。HEK293T細胞を150mm2のディッシュにおいて最大70%の集密度で成長させた。B10をコードするプラスミド30μgとトランスフェクショ剤ポリエチレンイミンPEI(Polyscience)240μgの1:1混合物を室温で10分間維持し、次いで、細胞に6時間加えた。次いで、トランスフェクション培地をFBS不含DMEMに交換した。5日後、上清を収集して40mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH8)で希釈し(1:1)、0.22μmのフィルターに通して濾過し、1mlのプロテインAカラム上で24時間精製した。抗体を酸性pH(グリシン、pH3)で溶離させ、Tris緩衝液(pH9)でただちに安定化させた。カットオフ50kDaを有するCentriconsフィルターを使用してPBS中に抗体を濃縮した。細胞培養液200mlから精製抗体約1mgがもたらされた。
【0141】
ウェスタンブロット分析
細胞をPBSで洗浄し、200mM PMSF溶液、100mM オルトバナジン酸ナトリウム溶液およびプロテアーゼ阻害剤カクテルを含むRIPA溶解緩衝液(Santa Cruz)中でただちに粉砕した。BCAアッセイタンパク質定量キット(Interchim)を使用してタンパク質濃度を判定した。細胞抽出物を95℃で5分間加熱し、10% SDS-PAGE上にて還元条件(5% 2β-メルカプトエタノール)で分離し(タンパク質50μg/ウェル)、PVDFメンブレン(Biorad)に転写した。メンブレンを0.1% Tween 20および5%脱脂粉乳を含有するTris緩衝食塩水中で飽和させ、関連する一次抗体によりRTで1時間プローブ化した。洗浄後、ペルオキシダーゼコンジュゲートIgG二次抗体(1/10,000)をRTで1時間加えた。洗浄後、化学発光基質(Merck)を使用して抗体-抗原相互作用を検出した。等量ローディングを確認するために、抗GAPDHモノクローナル抗体(Cell Signaling)を用いてイムノブロットもプローブ化した。
【0142】
MIS経路分析
細胞をDMEM F12/1% FBS培地中で一晩培養し、次いで、LRMIS(0~25nM)と37℃で6時間インキュベートした。抗リン酸化SMAD1/5、抗リン酸化AKT、抗切断カスパーゼ3、抗切断PARP、および抗GAPDH一次抗体(1:1.000;Cell Signaling)、抗ALK2、および抗ALK3抗体(1μg/ml;R&D system)を使用して4℃で一晩、続いて、抗ウサギおよび抗ヤギIgG HRP二次抗体(1:10.000;Sigma)を使用して室温で1時間ウェスタンブロッティングを実施した。
【0143】
クローン原性生存
細胞を24ウェルプレート(50個の細胞/ウェル)のDMEM F12/1% FBS培地中に一晩蒔いた。次いで、LRMIS(0~25nM)または抗MIS Mab B10(333nM)を培養の11日間加えた。明らかに個別化されたクローンとして成長するCOV434-MISRII細胞について、メタノール/酢酸溶液(3:1)を用いてコロニーを4℃で20分間固定し、10%ギムザで染色し、計数した。SKOV3-MISRII、OVCAR8、KGN細胞および患者の腹水由来の細胞について、Hoechst 33342三塩酸塩(Invitrogen H1399、0.25μg/mlで15分間)で細胞を染色した後Celigo Imaging Systemを使用して決定した集密度面積からクローンの数を推定した。
【0144】
アポトーシスアッセイ
カスパーゼ-Glos-3/7アッセイ(Promega)を使用してアポトーシス開始を測定した。細胞を白色96ウェルプレートに蒔いて、LRMIS(0~25nM)と6時間インキュベートした。発光促進(proluminescent)カスパーゼ-3/7 DEVD-アミノルシフェリン基質を添加したら、カスパーゼ-3/7は、ルシフェラーゼによって消費される遊離アミノルシフェリンを生成し、カスパーゼ-3/7活性に比例した発光シグナルを発生した。基質を添加した30分後に、PHERASTARマイクロプレートリーダーで発光シグナルを定量した。
【0145】
アポトーシスのより完全な分析のために、アネキシンV-FITCアポトーシス検出キット(Beckman Coulter IM3614)を使用した。1ウェル当たりおよそ100,000個の細胞を24ウェルプレートに播種し、50μg/ml Mab B10、25nM LRMIS、または150nM スタウロスポリン(陽性対照)とまたはそれなしで24時間インキュベートした。接着細胞および剥離細胞を収集し、900rpmで5分間遠心した。PBSで洗浄した後、暗所で、アネキシン緩衝液100μl中のFITC標識アネキシンV 10μlと7AAD 20μlを含有する混合物130μlを用いて氷上で15分間細胞を染色した。アネキシン緩衝液400μlを添加した後、フローサイトメトリーによって30分以内に蛍光シグナルデータを取得し、Kaluza Flow Analysisソフトウェア(Beckman Coulter)でデータを解析した。
【0146】
免疫蛍光
アッセイごとに、35mm培養ディッシュのDMEM F12/10% FBS中、22mmの正方形のカバーガラス上で30000個の細胞を一晩成長させた。次いで、細胞を1% FBS培地で24時間飢餓状態にした後、25nM LRMISと1時間30分インキュベートした。次いで、細胞を3.7%パラホルムアルデヒド/PBS中で20分間固定し、-20℃のアセトン中で30秒間透過処理した。細胞をPBS/0.1% BSAで2回洗浄し、P3X63(無関係な抗体)(Kohler et al., 1976)、抗MISRII 12G4および抗ALK2、抗ALK3、抗ALK6(R&D)一次抗体と暗所で1時間インキュベートした。さらなる洗浄後、細胞をPBS/0.1% BSA中ヤギ-FITC標識二次抗体と1時間インキュベートした。次いで、これらをPBS/0.1% BSAで3回、PBSで1回洗浄した。カバーガラスをEverBrite(商標)Hardest Mountingを用いてDAPI(Biotium, Inc., Fremont, CA)で封入し、後日、Zeiss Axioplan 2 Imaging顕微鏡で解析した。
【0147】
細胞生存度アッセイ
細胞生存度/増殖試験のために、CellTiter 96 AQueous One Solution細胞増殖アッセイシステム(Promega)を製造業者の説明書に従って使用した。96ウェルプレートの各ウェルに5000個の細胞を蒔き、DMEM F12/1% FBS培地50μl中で一晩培養した。次いで、細胞をLRMIS(0~25nM)または抗MIS B10抗体(0~333nM)と3日間インキュベートした。次いで、1ウェル当たりCellTiter 96 AQueous One Solution試薬10μlを加え、プレートを加湿の5% CO雰囲気で陽性対照ウェルが褐色になるまで(細胞株によって1~2時間)インキュベートした。次いで、PHERASTARマイクロプレートリーダーを使用して490nmで吸光度を測定した。条件ごとに3つの反復ウェルを使用した。
【0148】
Elisaアッセイ
ELISAを使用してB10抗体のEC50を判定した。ポリクローナル抗AMH抗体(Abcam ab 84952)を96ウェル高タンパク質結合能プレート(Nunc MaxiSorp)上に一晩コーティングした。次いで、プレートを3回洗浄し、PBS-Tween 0.01%-BSA 2%溶液で2時間飽和させた。各工程後、プレートをPBS-Tween 0.01%で3回洗浄した。組換えAMH(25nM)を加え、37℃で2時間インキュベートした。次いで、抗体B10(666~0nM)を加え、37℃で1時間30分インキュベートした。二次抗Fcマウスペルオキシダーゼ(HRP)抗体を30分間インキュベートし、基質酵素(Thermofisher, TMB)を加えた。硫酸の添加によって酵素反応を停止させた後、450nmで吸光度を読み取った。
【0149】
卵巣がん細胞異種移植片を使用したインビボ研究
動物実験はすべて、実験的動物研究のための仏国政府の指針およびInsermの法令(agreement D34-172-27)に準拠して実施した。すべてのインビボ実験について、0日目(D0)に、容量150μlのBD Matrigel中の7.10個のヒトCOV434-MISRII細胞39(1:1比)を雌の無胸腺ヌードHsdマウス(6~8週齢)(ENVIGO, France)の右脇腹に皮下(sc)移植した。D12~D13で腫瘍体積が60~150mm3に達したらマウスを無作為化した(n=5~7匹のマウス/群)。処置はすべて、4週間にわたる週2回の腹腔内(ip)注射によって実施した。抗AMH MAb B10(IgG2aフォーマット、HEK296T細胞において産生)および抗AMHRII MAb 12G4(キメラIgG1フォーマット、CHO細胞において産生)を10mg/kgで注射した。未処置群には食塩水溶液(ビヒクル)を与えた。1週間に1回測径器で腫瘍寸法を測定し、式:D×D×D/2を使用して腫瘍体積を算出した。また、腫瘍が1,500mm3の体積に達するのに必要な時間を使用して、適合カプラン-マイヤー生存曲線により結果を表わした。マウスの50%が1,500mm3の腫瘍を有した時間として生存期間中央値を定義した。
【0150】
統計分析
カスパーゼ-3/7活性および細胞生存度/増殖における差に関する統計分析をプリズムソフトウェアおよびANOVA(テューキーの多重比較検定)を用いて実施した。
【0151】
線形混合回帰モデルを使用して腫瘍成長と移植後の日数との間の関係について判定した。モデルの固定部分は、移植後の日数および異なる群に対応する変数を含んだ。交互作用項をモデルに組み込んだ。時間効果を考慮に入れるためにランダム切片およびランダムスロープを含めた。モデルの係数を最尤推定し、0.05レベルで有意と見なした。異種移植日から腫瘍が1500mm3の体積に達した日までカプラン-マイヤー法を使用して生存率を推定した。生存期間中央値は、95%信頼区間で提示した。ログランク検定を使用して生存曲線を比較した。STATA 16.0ソフトウェア(StataCorp, College Station, TX)を使用して統計分析を行った。
【0152】
結果
組換えMISは、COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞においてMISシグナル伝達を誘導する
異なるMISRIの関与を評価する前に、本発明者らは、2つのMISRII陽性卵巣がん細胞株:COV434-MISRII(Kersual et al., 2014)およびSKOV3-MISRII細胞においてMIS/MISRIIシグナル伝達を分析した。実際に、本発明者らおよび他の著者は、卵巣悪性腫瘍および卵巣悪性腫瘍腹水に由来する細胞株におけるMISRII発現が、長期培養後、急速かつ進行的に減少し(Estupina et al., 2017; Pepin et al., 2015)、したがって、このことから実験再現性が制限されることを見いだした。この研究に記載する実験のすべてで、本発明者らは、CHO細胞において産生されたヒト組換えAMH(LR-AMH;[10])(Evitria AG, Zurich, Switzerland)を特許WO2014/164891に従って使用した(データ示さず)。LR-AMHは、完全長ホルモンである一方で完全に切断される、したがって、効率性と安定性とを持ち合わせているという利点を有する(Pepin et al., 2013; Wilson et al., 1993)。ウシAMHはヒトAMHRIIを介してシグナル伝達できることが報告されたので(Cate et al., 1986)、本発明者らは、LR-AMHを用いたすべての実験を1% FBSを含有する培養培地中で実施した。これらの実験条件で、培地中のAMH濃度は、5~10pM(新鮮培地中)から約10~15pM(培養の5日後)の範囲であった。
【0153】
両細胞株において、すべての試験LRMIS濃度(1.6~25nM)でSMAD1/5リン酸化が誘導された。カスパーゼ-3/7活性を測定することによって評価されるアポトーシスは、COV434-MISRII細胞では12.5nM LRMISで、SKOV3-MISRII細胞では6.3nM LRMISから有意に誘導された(図2A)。本発明者らは、切断カスパーゼ-3/7および切断PARPのウェスタンブロット分析によってアポトーシス誘導を確認した(データ示さず)。さらに、フローサイトメトリー解析は、COV434-MISRII細胞において25nM LRMISと24時間のインキュベーションが、未処置細胞と比較してアポトーシスを強く誘導し(アネキシンV陽性細胞12.5%対3.6%、およびアネキシンV/7AAD陽性細胞16.3%対5.3%)、またSKOV3-MISRII細胞においてはより低い程度にアポトーシスを誘導したことを示した(アネキシンV陽性細胞4.5%対5.4%、およびアネキシンV/7AAD陽性細胞11.3%対1.7%)(データ示さず)。最後に、すべての試験LRMIS濃度で、クローン原性生存が両細胞株において低減した(図2B)。これらの結果は、COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞がMISシグナル伝達を研究するための妥当なモデルであることを確認した。
【0154】
卵巣がん細胞では、ALK3は、MISシグナル伝達に関与する主要なMISRIである
卵巣がん細胞でのMISシグナル伝達におけるMISRIの関与を分析するために、本発明者らは、COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞にALK2、ALK3およびALK6を標的とするsiRNAをトランスフェクトした。異なるシグナル伝達経路におけるこれらの受容体の役割に起因して、それらのshRNA媒介サイレンシングは、これらの細胞において致死的であった。PCRおよびウェスタンブロット分析は、ALK2に対する3つのsiRNA(siAlk2)の混合物およびALK6に対する3つのsiRNA(siAlk6)の混合物が、その発現を効率的に阻害したことを示した(データ示さず)。反対に、ALK3サイレンシング(siAlk3)は、とりわけCOV434-MISRII細胞においてそれほど効率的ではなかった。LRMISとのインキュベーション(25nM、6時間)は、siAlk2およびsiAlk6 COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞ではSMAD1/5リン酸化を誘導したが、siAlk3 COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞ではリン酸化を誘導しなかった(データ示さず)。siAlk2およびsiAlk6 COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞と、対照siRNAをトランスフェクトしたCOV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞とでカスパーゼ-3/7活性および切断に有意差はなかった(図3)。反対に、対照と比較してsiAlk3 COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞ではアポトーシスが約25%低減した。これらの結果は、PARPおよびカスパーゼ-3/7開裂のウェスタンブロット分析によって確認された(データ示さず)。これらの知見は、不完全なサイレンシングにもかかわらず、主にsiAlk3 COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞においてMISシグナル伝達が低減されることを示しており、ALK3が、卵巣がん細胞におけるMISシグナル伝達のための本命のMISRI受容体であることを実証している。
【0155】
卵巣がん細胞では、MISは、ALK2およびALK3発現をモジュレートする
本発明者らは、次いで、MISRII、ALK2、ALK3およびALK6発現に対するMIS効果を4種のMISRII陽性卵巣がん細胞株:COV434-MISRII(性索間質性腫瘍)、SKOV3-MISRII(上皮がん)、OVCAR8(上皮がん)、およびKGN(顆粒膜細胞腫瘍)において調査した。免疫蛍光(IF)分析は、4種の細胞株すべてにおいてMISRIIおよびALK2が基本条件(10pM MISに対応する1% FBS)で明らかに発現され、その発現は、25nM LRMISとの90分間のインキュベーションによってモジュレートされなかったことを示した(データ示さず)。ALK3発現は、基本条件ではIFによって検出可能ではなかったが、MIS添加によって4種の細胞株すべてで誘導された(データ示さず)。ALK6は、両実験条件で検出可能ではなかった。
【0156】
次いで、ALK2およびALK3の役割を判定するために、本発明者らは、それらの発現およびMISシグナル伝達タンパク質の発現を、基本条件でかつLRMIS(1.6~25nM)と6時間のインキュベーション後にウェスタンブロッティングによって評価した。4種の細胞株すべてで(データ示さず)、ALK2の基礎発現は、LRMISとインキュベーションすると減少し、6.25または12.5nM LRMISの存在下でほぼ検出不可能であった。反対に、ALK3発現は、LRMISに曝露すると増加した。さらに、SMAD1/5リン酸化、カスパーゼ-3/7活性、ならびにカスパーゼ3およびPARP切断は、ALK3発現と並行して増加した(データ示さず)。
【0157】
MISシグナル伝達における非SMAD経路の関与を分析するために(Beck et al., 2016; Zhang, 2017)、本発明者らは、AKTリン酸化をモニタリングし、そのリン酸化が、ALK2発現について観察されるとおり、LRMISとインキュベーションすると減少することを見いだした(データ示さず)。
【0158】
これらの結果は、卵巣悪性腫瘍細胞において、ALK3が、アポトーシスを誘導する(6nM前後のLRMISから始まる)ためのSMAD経路を介したMISシグナル伝達での主要なMISRIであることを確認した。ALK2は、基本条件(10pM前後のMIS)で発現され、次いで、その発現は、LRMISとインキュベーションすると低減する。
【0159】
抗MIS抗体B10は、卵巣がん細胞において、細胞増殖を低減し、成長阻害を誘導する
低濃度のMISの増殖効果が有望な治療戦略として抗体によって遮断され得るかどうかを調べるために、本発明者らは、MISに対する新たなMAbを作製した。B10抗体は、ヒトscFvファージディスプレイライブラリーHusc I(Philibert et al., 2007; Robin and Martineau, 2012)から、切断MISよりも低い活性にもかかわらず生物活性であるAla453-Arg560 MIS cTERドメインを使用したパンニング後に単離した(Nachtigal and Ingraham, 1996; Wilson et al., 1993)。最初に、本発明者らは、ELISAによってMISに対するB10の親和性(EC50=50.4±1.2nM)、ならびにCOV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII細胞における25nM LRMISのアポトーシス効果を阻害するその能力を特徴付けた(データ示さず)。25nM MISによって誘導されるカスパーゼ-3/7活性(未処置細胞と比べた倍率変化)は、約66nMのB10の存在下で約40%低減した。
【0160】
本発明者らは、次いで、低いLRMIS濃度(0.1~0.6nM)の存在下で細胞生存度に対するB10の効果を評価した。細胞株に応じて、B10は、3~333nMの範囲の濃度で、25%(OVCAR8)~50%(KGN)の細胞生存度の減少を誘導した(データ示さず)。さらに、333nM B10は、クローン原性生存を、COV434-MISRII、SKOV3-MISRII、OVCAR8およびKGN細胞において、それぞれ57.5%、57.1%、64.7%および37.5%低減した(図4)。4種の細胞株において、B10は、AKTリン酸化を低減し、PARPおよびカスパーゼ3切断を増加させたが(データ示さず)、これは、高いLRMIS濃度でのみ初期に観察される現象であった(図2AおよびB)。
【0161】
最後に、本発明者らは、2名の卵巣がん患者の腹水試料から単離した初代がん細胞におけるB10の効果を評価した。これらの患者は、外科的介入を待っており、化学療法を今まで受けたことがなかった。4種の細胞株と同様に、B10は、細胞生存度を30%および20%(それぞれ患者1および2)低減し(データ示さず)、細胞成長(集密度面積によって推定される)を25%および65%(それぞれ患者1および2)阻害した(図5A)一方で、B10は、カスパーゼ-3/7活性を最大3倍増加させた(図5B)。限られた数の試料であったにもかかわらず、これらの結果は、特異的抗体でMIS増殖効果を遮断する有望な探索医療への展望に光を当てるものである。
【0162】
抗AMH抗体B10は、COV434-MISRII腫瘍成長をインビボで低減する
B10のインビトロ抗増殖効果をインビボ抗腫瘍活性へと転換できるかどうかを評価するために、本発明者らは、確立されたCOV434-MISRII細胞由来腫瘍を保有するマウス(5~7匹のマウス/群)にB10(抗AMH抗体)、12G4(抗AMHRII抗体)(共に10mg/kg/注射)またはビヒクル(NaCl)を4週間にわたり週2回ip注射することによって処置した。B10および12G4は共に、ビヒクルと比較して腫瘍成長を阻害した(p<0.001)(図6A)。マウスの50%が1,500mm3の腫瘍を有した時間として定義される生存期間中央値は、ビヒクル、B10および12G4で処置したマウスについて、それぞれ60日、69日および76日であった(12G4およびB10、対照に対してp=0.0050およびp=0.0173;12G4とB10との間でp=0.4331)(図6B)。
【0163】
考察
ここで、2種の卵巣がん細胞株(COV434-MISRIIおよびSKOV3-MISRII)を使用して、本発明者らは、ALK3が、MISシグナル伝達およびアポトーシス誘導に対する本命のMISRIであることを見いだした。4種の卵巣がん細胞株(COV434-MISRII、SKOV3-MISRII、OVCAR8およびKGN)において、本発明者らは、ALK2およびALK3が、LRMISとのインキュベーションによってモジュレートされること、そして、ALK3が、高用量のLRMISを使用した際に優先的に発現されてアポトーシスを誘導することを示した(図2Aおよび2B)。2名の卵巣悪性腫瘍患者の腹水試料から単離した腫瘍細胞において確認されるこれらの結果は、新たな治療戦略を開発するために現在使用されている。
【0164】
上皮卵巣悪性腫瘍がミュラー管に由来する組織と組織学的に似ているというRE Scullyによる観察(Scully, 1970)に基づき、MISは、1979年以来、婦人科腫瘍のための有望な治療として提案されてきた(Donahoe et al., 1979)。Kim JHらによって概説されている多くの研究は、卵巣がん(Anttonen et al., 2011; Fuller et al., 1982; Masiakos et al., 1999; Pieretti-Vanmarcke et al., 2006; Stephen et al., 2002)、子宮頸がんおよび子宮内膜がん(Barbie et al., 2003; Renaud et al., 2005)、ならびに乳がん(Gupta et al., 2005)および前立腺がん(Hoshiya et al., 2003)などの非ミュラー管腫瘍において、がん治療のバイオ医薬品としてのMISの潜在用途を検証した(Kim et al., 2014)。具体的には、これらの研究は、高用量のMISが、細胞株および患者試料においてがん細胞の成長をインビトロおよびインビボで阻害することができることを示した。興味深いことに、近年の結果は、MISが、化学療法抵抗性がん細胞およびがん幹細胞においても有効であり得ることを示唆した(Meirelles et al., 2012; Wei et al., 2010)。この戦略の臨床適用に関する主要課題は、大量の臨床グレードのMISの入手可能性である。本発明者らの知る限り、最先端の戦略は、Pepinらによって開発されたもの(すなわち、生物活性MISの高収率をもたらすアルブミンリーダー配列および切断部位修飾を有するLRMIS)である(Pepin et al., 2013)。
【0165】
これらの研究の共通点は、これらの研究のすべてが、がん細胞を処置するために高用量、典型的には25~200nMのMISを使用していることである。この濃度は、生理学的に(産まれてから思春期までの男児)観察される最も高いMIS血清濃度(1nM(50ng/ml前後)よりも低い)と比較しなければならない。このことは、この戦略がミュラー管退縮中のアポトーシスのMIS誘導に基づくことから、全くもって論理的である。本発明者らは、本研究において類似の結果を得たが、低濃度(細胞株に応じて0.8nM~6.1nM)でMISが細胞生存/増殖を促進したという観察にも注目した。
【0166】
さらに、Beck TNらは、肺がんにおいて、MIS/MISRIIシグナル伝達が、上皮間葉転換(EMT)を調節し、細胞生存/増殖を促進することを示した(Beck et al., 2016)。彼らは、EMT調節におけるMIS/MISRIIシグナル伝達の役割が、化学療法抵抗性にとって重要であることを示唆した。本研究において、本発明者らは、新たな抗MIS MAb B10が、4種の卵巣がん細胞株のすべておよび卵巣がん腹水試料から単離した腫瘍細胞において、細胞生存度、クローン原性生存およびATKリン酸化を低減できることを示した(図4)。これらのインビトロデータはすべて、生理学的濃度のAMHの阻害が、超生理学的濃度の外因性AMHの効果を模倣できることを示している。この概念のインビボ証明への最初の一歩として、本発明者らは、マウスにおいて、B10抗AMH抗体が、COV434-AMHRII細胞由来腫瘍の成長を低減し、その生存期間中央値を対照群(処置なし)と比較して有意に増加させたことを示した(図6)。
【0167】
これらの結果に基づき、本発明者らは、高MIS用量を投与してアポトーシスを誘導するよりむしろ、B10などの抗MIS MAbが、MIS増殖効果を抑制する革新的な治療アプローチとなり得ることを提唱する。この戦略は、最初に、MIS/MISRIIシグナル伝達経路が詳しく説明されている婦人科腫瘍において、次いで、(i)MIS遺伝子がアップレギュレーションされている結腸直腸がん(Pellatt et al., 2018)、および(ii)高いMIS RNA発現が予後不良因子である(n=12年以上追跡調査された597名の患者)結腸直腸がん(Uhlen et al., 2017)において評価することができた。
【0168】
参考文献:
本出願全体を通して、様々な参考文献が、本発明が関連する技術分野の最新技術を記載している。これらの参考文献の開示は、本開示への参照により本明細書に組み入れられる。
【表2】





図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
【配列表】
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【国際調査報告】