(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-01
(54)【発明の名称】大動脈弁の石灰化を後退、予防、又は遅延させるためのレチノイン酸受容体(RAR)アゴニストの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/203 20060101AFI20221124BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20221124BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20221124BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20221124BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221124BHJP
【FI】
A61K31/203
A61K31/192
A61L27/36 100
A61L27/36 300
A61L27/54
A61P9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520171
(86)(22)【出願日】2020-10-01
(85)【翻訳文提出日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2020077456
(87)【国際公開番号】W WO2021064072
(87)【国際公開日】2021-04-08
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】595070257
【氏名又は名称】アンスティトゥー パストゥール ド リール
(71)【出願人】
【識別番号】518338518
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・リール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LILLE
(71)【出願人】
【識別番号】507091037
【氏名又は名称】サントレ オスピタリエ レジョナル ユニヴェルシテル ドゥ リール
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】スーザン,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】コルソー,デルフィーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ソッテジョー,ヨアン
(72)【発明者】
【氏名】ローサ,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】スケ,ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン・ベル,エリク
(72)【発明者】
【氏名】スタエルス,バルト
(72)【発明者】
【氏名】デュポン,アナベル
【テーマコード(参考)】
4C081
4C206
【Fターム(参考)】
4C081AB17
4C081CD34
4C081CE02
4C081DA01
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA12
4C206DA17
4C206KA01
4C206KA04
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA31
4C206MA87
4C206NA14
4C206ZA36
(57)【要約】
大動脈弁の石灰化は、カルシウム沈着物が心臓の大動脈弁上に形成する状態である。これらの沈着物は、大動脈弁の開口部に狭窄を引き起こす可能性がある。この狭窄は、大動脈弁狭窄症と呼ばれる状態である、大動脈弁を通過する血流を低減するために十分なほど重症になる可能性がある。本発明者らは、レチノイン酸が、弁間質細胞(VIC)における石灰化及び骨芽細胞様表現型を減少することを示した。より詳細には、RARα活性化が、VICにおける石灰化及び骨芽細胞様表現型を減少する。反対に、ALDH1A1阻害は、VICにおける石灰化及び骨芽細胞様表現型を増大する。したがって、この結果は、レチノイン酸受容体(RAR)アゴニストの使用が、大動脈弁の石灰化を後退、予防、又は遅延させるのに適しているであろうとの考えに駆り立てるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする患者において大動脈弁の石灰化を後退、予防、又は遅延させる方法であって、レチノイン酸受容体(RAR)アゴニストの治療有効量を患者に投与することを含む、方法。
【請求項2】
弁が病的大動脈弁である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
患者が、石灰化大動脈弁疾患を患う、請求項2記載の方法。
【請求項4】
弁が生体弁である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
インプラントされた生体弁の変性を予防するための、請求項4記載の方法。
【請求項6】
外科的弁置換術後又は経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)後のいずれかに、生体弁の石灰化を遅延させる又は予防するための、請求項4記載の方法。
【請求項7】
RARアゴニストがRARαアゴニストである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
RARαアゴニストが、TTNPB、タミバロテン、9-cis-レチノイン酸、trans-レチノイン酸、AGN193836、Ro 40-6055、CD666、及び4-[[(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)アミノ]カルボニル]安息香酸(AM80)からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
生体弁の調製のためのRARアゴニストの使用。
【請求項10】
RARアゴニストの量を含む、生体弁。
【請求項11】
RARアゴニストが、弁尖に封入されている、請求項10記載の生体弁。
【請求項12】
大動脈弁狭窄症の処置のための、請求項10記載の生体弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、医学、特に心臓病学の分野である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
大動脈弁の石灰化は、カルシウム沈着物が心臓の大動脈弁上に形成する状態である。これらの沈着物は、大動脈弁の開口部に狭窄を引き起こす可能性がある。この狭窄は、大動脈弁狭窄症と呼ばれる状態である、大動脈弁を通過する血流を低減するために十分なほど重症になる可能性がある。
【0003】
特に、石灰化大動脈弁疾患(CAVD)は、65歳を超える人々の2~6%を冒す、成人に最も一般的な心臓弁膜症である[1]。CAVDは、繰り返す高い機械的ストレスに関係する受動的変性過程として最初に説明されたが、脂質沈着、炎症、線維症及び石灰化によって媒介される粥状硬化症様疾患であることが今や明らかである[2、3]。CAVDの症状は、弁狭窄症の程度に応じて様々である。症状は、重症CAVDを有する患者に典型的に出現するので、軽症~中等症のCAVDを有する患者は、症状を欠く場合がある。症状は、進行性の労作時息切れ、失神、胸痛、及び突然死を含み得る。有効な処置は、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)又は外科的大動脈弁置換術のいずれかによる弁置換に代表される。近年、TAVIによりAVSを処置するための生体弁(BPV)の使用は、機械弁と比べてかなり増加した。BPVの長期間を経た故障の主因は、組織石灰化による弁の構造的劣化である。最近の研究は、狭窄したAVと外植された変性BPVとの間で組織学的所見の類似性を報告している。今までに、線維石灰化AVSを予防、減速若しくは治療すること、又はBPVの変性を予防することが証明された標的医療はない。
【0004】
弁間質細胞(VIC)は、ヒト大動脈弁に最も高頻度に見られる細胞であり、組織のホメオスタシス及び弁の機能に主要な役割を演じる[4]。これらの細胞は、前駆細胞、静止細胞、活性化細胞及び骨芽細胞様細胞から構成される、不均一で動的な細胞集団を表す[5]。最近の研究は、この後者の細胞表現型が、CAVDの特徴である弁石灰化に重要な役割を演じることを示唆している[3、6]。VICの生物学、大動脈弁の主要成分及び弁線維石灰化のエフェクターのより良好な理解は、線維石灰化の進行を予防、減速又は停止するための治療標的を提供し得る。レチノイン経路は、VIC以外(that)の細胞における炎症、線維形成、血管新生及び石灰化過程に及ぼす効果を立証した。例えば、ビタミンAの生物活性代謝物であるレチノイン酸は、骨芽細胞の無機化を阻害し(Lind, 2013)、骨芽細胞中のレチノイン酸受容体の活性化を経由したオステオプロテゲリンの発現を低減する(Jacobson, 2004)。興味深いことに、レチノイン酸は、骨芽細胞分化の負の調節因子であり、VICと同じ分化性質を有する間葉系前駆細胞における石灰化を阻害する(Green, 2017)。今のところ、レチノイド及び関連核内受容体のCAVDに対する役割に関してあまりデータが存在しない。本発明者らの知るところでは、レチノイドの大動脈弁石灰化に対する潜在的役割に関する唯一の公表された実験データは、過剰なビタミンAの食事摂取が心臓弁石灰化を促進する可能性があることを示唆している(Huk DJ, Hammond HL, Kegechika H, Lincoln J. Increased dietary intake of vitamin A promotes aortic valve calcification in vivo. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2013 Feb;33(2):285-93)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の概要:
特許請求の範囲によって定義されるように、本発明は、大動脈弁の石灰化を後退(reversing)、予防、又は遅延させるためのレチノイン酸受容体(RAR)アゴニストの使用に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の詳細な説明:
本発明の第1の目的は、それを必要とする患者において大動脈弁の石灰化を後退、予防、又は遅延させる方法であって、レチノイン酸受容体(RAR)アゴニストの治療有効量を患者に投与することを含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】レチノイン酸は、石灰化及び骨芽細胞様表現型を減少させる A:石灰化促進培地中で7日間、レチノイン酸(1;10;100又は1000nM)で処理されたVICの石灰化割合。石灰化促進培地の状態を1に設定する。
【
図1B】B 石灰化促進培地中で7日間、レチノイン酸(1;10;100又は1000nM)で処理されたVICにおけるRUNX2及び相対mRNA発現。石灰化促進培地の状態を1に設定する。データを平均+SEMとして提示する、*:p<0.05
【
図2A】レチノイドは、石灰化及び骨芽細胞様表現型をRAR活性化依存的に低減する A:石灰化促進培地中で7日間、レチノイン酸、アロチノイド酸(TTNB、RARアゴニスト)又はSR11237(RXRアゴニスト)で処理されたVICの石灰化割合。石灰化促進培地の状態を1に設定する。
【
図2B】B及びC:石灰化促進培地中で7日間、レチノイン酸、アロチノイド酸(TTNB、RARアゴニスト)又はSR11237(RXRアゴニスト)で処理されたVICにおけるRUNX2及びMSX2の相対mRNA発現。石灰化促進培地の状態を1に設定する。データを平均+SEMとして提示する、*:p<0.05
【
図2C】B及びC:石灰化促進培地中で7日間、レチノイン酸、アロチノイド酸(TTNB、RARアゴニスト)又はSR11237(RXRアゴニスト)で処理されたVICにおけるRUNX2及びMSX2の相対mRNA発現。石灰化促進培地の状態を1に設定する。データを平均+SEMとして提示する、*:p<0.05
【
図3A】RARα活性化はVICにおいて石灰化及び骨芽細胞様表現型を低減する A:石灰化促進培地中で7日間、アロチノイド酸(TTNB、RARアゴニスト)、AM80(RARαアゴニスト)、CD2314(RARβアゴニスト)又はCD437(RARγアゴニスト)で処理されたVICの石灰化割合。石灰化促進培地の状態を1に設定する。
【
図3B】B及びC:石灰化促進培地中で7日間、アロチノイド酸(TTNB、RARアゴニスト)、AM80(RARαアゴニスト)、CD2314(RARβアゴニスト)又はCD437(RARγアゴニスト)で処理されたVICにおけるRUNX2及びMSX2の相対mRNA発現。石灰化促進培地の状態を1に設定する。データを平均+SEMとして提示する、*:p<0.05
【
図3C】B及びC:石灰化促進培地中で7日間、アロチノイド酸(TTNB、RARアゴニスト)、AM80(RARαアゴニスト)、CD2314(RARβアゴニスト)又はCD437(RARγアゴニスト)で処理されたVICにおけるRUNX2及びMSX2の相対mRNA発現。石灰化促進培地の状態を1に設定する。データを平均+SEMとして提示する、*:p<0.05
【
図4A】ALDH1A1の阻害はVICにおいて石灰化及び骨芽細胞様表現型を増加させる A:石灰化促進培地中で7日間、25又は50nM 4-ジエチルアミノベンズアルデヒド(DEAB、ALDH阻害剤)で処理されたVICの石灰化割合。石灰化促進培地の状態を1に設定する。
【
図4B】B:石灰化促進培地中で7日間、DEABで処理されたVICにおけるRUNX2の相対mRNA発現。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に使用される「弁」という用語は、律動性収縮の間に血液の逆流を防止する弁を指し得る。主な心臓弁には4つある。特に、大動脈弁は、左心室と大動脈とを分離している。「大動脈弁」という用語は、病的大動脈弁又は生体弁を含む。
【0009】
本明細書に使用される「生体弁(bioprosthetic valve)」という用語は、ステント付組織心臓弁であって、欠陥のある、機能不全の、又は欠損した大動脈弁を置換する又は補うために使用されるデバイスを指し得る。生体弁プロテーゼの例には、TS 3fs(登録商標)大動脈バイオプロテーゼ、Carpentier-Edwards PERIMOUNT Magna Ease心臓大動脈弁、Carpentier-Edwards PERIMOUNT Magna大動脈心臓弁、Carpentier-Edwards PERIMOUNT Magna心臓僧帽弁、Carpentier-Edwards PERIMOUNT心臓大動脈弁、Carpentier-Edwards PERIMOUNT Plus心臓僧帽弁、Carpentier-Edwards PERIMOUNT Theon心臓大動脈弁、Carpentier-Edwards PERIMOUNT Theon僧帽弁置換システム、Carpentier-Edwards大動脈ブタバイオプレテーゼ、Carpentier-Edwards Duraflex低圧ブタ僧帽弁バイオプロテーゼ、Carpentier-Edwards Duraflex僧帽弁バイオプロテーゼ(ブタ)、Carpentier-Edwards僧帽弁ブタバイオプロテーゼ、Carpentier-Edwards S.A.V.大動脈ブタバイオプロテーゼ、Edwards Prima Plusステントなしバイオプロテーゼ、Edwards Sapien経カテーテル心臓弁、Medtronic、Freestyle(登録商標)大動脈基部バイオプロテーゼ、Hancock(登録商標)IIステント付バイオプロテーゼ、Hancock II Ultra(登録商標)バイオプロテーゼ、Mosaic(登録商標)バイオプロテーゼ、Mosaic Ultra(登録商標)バイオプロテーゼ、St. Jude Medical、Biocor(登録商標)、Biocor(商標)Supra、Biocor(登録商標)Pericardia、Biocor(商標)ステントなし、Epic(商標)、Epic Supra(商標)、Toronto Stentless Porcine Valve (SPV(登録商標))、Toronto SPV II(登録商標)、Trifecta、Sorin Group、Mitroflow Aortic Pericardial Valve(登録商標)、Cryolife、Cryolife aortic Valve(登録商標)Cryolife pulmonic Valve(登録商標)、Cryolife-O'Brien stentless aortic xenograft Valve(登録商標)及びこれらの全ての変形が含まれるが、それに限定されるわけではない。一般的に、生体弁は、1つ以上の弁尖を有する組織弁を含み、弁は、どちらも典型的には弾性のフレーム又はステントにマウントされる。本明細書に使用される「弾性の」という用語は、デバイスが、屈曲すること、折り畳む(collapse)こと、拡張すること、又はそれらの組み合わせが可能であることを意味する。弁尖は、一般的に、非限定的にブタ(pigs、porcine)、ウシ(cows、bovine)、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、及びヒトなどの哺乳動物の組織から作られる。
【0010】
本明細書に使用される「大動脈弁の石灰化」という表現は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、生体弁を含む大動脈弁における細胞外マトリックスヒドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)結晶沈着物の形成、成長又は沈着を指す。
【0011】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、石灰化の一次予防に特に適している。特に、本発明の方法は、石灰化大動脈弁疾患の処置に適している。本明細書に使用される、「石灰化大動脈弁疾患」又は「CAVD」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、大動脈硬化症と名付けられる血流閉塞を有しない軽度の弁肥厚から、弁葉運動に障害がある重度の石灰化、又は大動脈弁狭窄症にわたる疾患の連続体を有する緩徐進行性障害を指す。したがって、疾患進行は、一般的に、弁葉の肥厚の過程及び大動脈表面に集中するカルシウム結節(しばしば実際の骨の形成を含む)及び新生血管の形成によって特徴付けられる。終末期疾患、例えば、石灰沈着性大動脈弁狭窄症は、一般的に、大動脈表面に沿ってバルサルバ洞内に突出し、弁尖の開口を妨げる大動脈弁尖内の大型結節性石灰塊によって病理学的に特徴付けられる。いくつかの実施態様では、本発明の方法は、石灰沈着性大動脈弁狭窄症の処置に特に適している。
【0012】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、石灰化の二次予防に特に適している。特に、本発明の方法は、インプラントされた生体弁の変性を予防するために特に適している。したがって、いくつかの実施態様では、本発明の方法は、外科的弁置換後又は経カテーテル大動脈弁留置(TAVI)後のいずれかで生体弁の石灰化を遅延又は予防するために特に適している。
【0013】
本明細書に使用される、「処置」又は「処置する」という用語は、予防的処置又は予防処置と、罹病する危険がある又は罹病した疑いがある患者のみならず、病気の患者、又は疾患若しくは医学的状態を患うと診断された患者の処置を含む、治癒的処置又は疾患修飾処置との両方を指し、臨床的再発の抑制を含む。処置は、障害若しくは再発性障害の1つ以上の症状を予防するため、治癒するため、その発生を遅延させるため、その重症度を低減するため、若しくはそれを回復させるため、又はそのような処置の非存在下で予期されるものを超えて対象の生存期間を延長するために、医学的障害を有する対象、又は最終的に障害を獲得し得る対象に投与され得る。「治療レジメン」によって病気の処置のパターン、例えば、治療の間に用いられる投薬パターンが意味される。治療レジメンには、導入レジメン及び維持レジメンが含まれ得る。「導入レジメン」又は「導入期間」という語句は、疾患の初期処置のために使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。導入レジメンの一般的な目標は、処置レジメンの初期に、患者に高レベルの薬物を提供することである。導入レジメンは、維持レジメンの間に医師が用いるであろう用量よりも大きい用量の薬物を投与すること、維持レジメンの間に医師が薬物を投与するであろう頻度よりも大きい頻度で薬物を投与すること、又はそれらの両方を含み得る「負荷レジメン」を(一部又は全体として)用い得る。「維持レジメン」又は「維持期間」という語句は、病気の処置の間に患者の維持のために、例えば、患者を寛解に長期間(数ヶ月又は数年)保つために、使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、持続的療法(例えば、薬物を規則的な間隔、例えば、毎週、毎月、毎年などで投与すること)又は間欠療法(例えば、断続処置、間欠処置、再発時の処置、又は特定の所定基準[例えば、疾患の発現など]の達成時点の処置)を用い得る。
【0014】
いくつかの態様では、本発明の方法は、狭窄症を予防するために特に適している。本明細書に使用される「狭窄症」という用語は、心臓からの血流を遮断する又は閉塞させ、心臓に流れの逆流及び圧力を引き起こす可能性がある大動脈弁の狭窄を指す。
【0015】
本明細書に使用される、「レチノイン酸受容体」又は「RAR」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、all-transレチノイン酸及び9-cisレチノイン酸の両方によって活性化される転写因子としても作用することができる種類の核内受容体を指す。それぞれRARA、RARB、RARG遺伝子によってコードされる3つのレチノイン酸受容体(RAR)、RARα、RARβ及びRARγがある。各受容体アイソフォームは、アルファが4つ、ベータが4つ、ガンマが2つの10個のスプライス変異体を有する。RAR受容体は、レチノイドX受容体(RXRとして知られる)とのヘテロ二量体の形態で、RAR応答エレメント(RARE)として知られるDNA配列エレメントに結合することによって転写を活性化する。
【0016】
本明細書に使用される「レチノイン酸受容体(RAR)アゴニスト」という用語は、レチノイン酸受容体を経由して作用することが可能であり、RARE依存性遺伝子発現を効率的に誘導するとして当技術分野において認識されている化合物を意味することが意図される。好ましくは、RARアゴニストはRARαアゴニストである。先行技術は、RARアゴニストである多数の化学化合物を含有する。先行技術の文書の中で、例えば、皮膚科学的状態、リウマチ状態、呼吸状態及び眼科学的(opthalmological)状態の処置のためのみならず、化粧学的使用のための芳香族ビアリール複素環式化合物を記載している欧州特許第0816352号明細書、ヒドロキシアルキル基で置換された芳香環を含む分子を記載している文書国際公開第2005/056510号、置換ビフェニル誘導体を記載している文書国際公開第99/10308号及び国際公開第2006/066978号、二環式及び/又は三環式化合物を記載している文書米国特許第6,218,128号明細書及び欧州特許第0879814号明細書、スチルベン化合物を記載している文書欧州特許第0850909号明細書、二芳香族(biaromatic)化合物を記載している文書国際公開第98/56783号、並びにアダマンチル基を含む二芳香族化合物を記載している文書欧州特許第0776885号明細書及び欧州特許第0776881号明細書に言及する場合がある。化合物のRARアゴニスト選択性は、C. Apfel et al., Proc. Nat. Sci. Acad. (USA), 89: 7129-7133 (1992); M. Teng et al., J. Med. Chem., 40: 2445-2451 (1997);及び国際公開第96/30009号に記載されているような、当業者に公知の日常的なリガンド結合アッセイ法によって決定され得る。例えば、公知のRARαアゴニストには、TTNPB、タミバロテン、9-cis-レチノイン酸、trans-レチノイン酸、AGN193836、Ro 40-6055、CD666、及びBMS753が含まれるが、それに限定されるわけではない。いくつかの実施態様では、RARαアゴニストは、4-[[(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)アミノ]カルボニル]安息香酸(AM80)である。
【0017】
「治療有効量」によって、大動脈弁狭窄症を、任意の医学的処置に適用可能な合理的なベネフィット/リスク比で処置するために十分な量の本発明のアゴニストが意味される。化合物の合計1日使用量は、担当医師によって健全な医学的判断の範囲内で決定されることが理解されるであろう。任意の特定の対象に特異的な治療有効用量レベルは、対象の年齢、体重、全身の健康状態、性別及び食事;用いられる特定の化合物の投与時間、投与経路、排泄速度;処置の持続期間;用いられる特定のポリペプチドと組み合わせて又は同時に使用される薬物;並びに医学において周知の同様な要因を含む、多様な要因に依存するであろう。例えば、化合物の用量を、所望の治療効果を達成するために必要とされるレベルよりも低いレベルで開始し、所望の効果が達成されるまで投薬量を徐々に増加させることは、当業者に周知である。しかし、生成物の1日投薬量は、成人1人あたり1日0.01~1,000mgの広い範囲にわたり変動し得る。好ましくは、組成物は、処置されることになるい対象と投薬量を症候的に調整するために活性成分を0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mg含有する。医薬は、典型的には、活性成分を約0.01mg~約500mg、好ましくは活性成分を1mg~約100mg含有する。薬物の有効量は、通常、0.0002mg/kg~約20mg/kg体重、特に1日に約0.001mg/kg~7mg/kg体重の投薬レベルで供給される。
【0018】
典型的には、本発明のアゴニストは、医薬組成物を形成するために、薬学的に許容し得る賦形剤、及び任意で生分解性ポリマーなどの徐放性マトリックスと組み合わされる場合がある。「薬学的に」又は「薬学的に許容し得る」は、必要に応じて哺乳動物、特にヒトに投与された場合、有害反応、アレルギー反応、又は他の不都合な反応を生成しない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤は、無毒の固体、半固体又は液体の増量剤、希釈剤、封入材料又は任意の種類の製剤補助剤を指す。経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所又は直腸投与用の本発明の医薬組成物では、活性主薬を、単独で又は別の活性主薬と組み合わせて、単位投与形態で、従来の医薬支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。適切な単位投与形態は、錠剤、ゲルカプセル剤、散剤、顆粒剤及び経口懸濁液又は溶液などの経口経路形態、舌下及び口腔内投与形態、エアロゾル、植込剤、皮下、経皮、外用、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮、髄腔内及び鼻腔内投与形態並びに直腸投与形態を含む。本発明のアゴニストは、中性形態又は塩形態で組成物に製剤化することができる。薬学的に許容し得る塩には、例えば、塩酸若しくはリン酸などの無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸、その他のような有機酸と形成される酸付加塩が含まれる。遊離カルボキシル基と形成される塩はまた、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、又は水酸化第二鉄などの無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン、その他などの有機塩基に由来し得る。担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール、その他)、それらの適切な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒であり得る。
【0019】
本発明はまた、生体弁の調製のための本発明のRARアゴニストの使用に関する。この点に関して、本発明は、より詳細には、RARアゴニストの量を含む生体弁に関する。そのような局所生体材料又は医用送達デバイスを使用して、大動脈弁狭窄症を処置することができる。そのような生体材料又は医用送達デバイスは、生分解性であり得る。本発明のアゴニストは、好ましくは弁尖内に封入される。弁尖は、一般的に、非限定的に、ブタ(pigs、porcine)、ウシ(cows、bovine)、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、及びヒトなどの哺乳動物の組織から作られる。前記封入を用いると、高レベルの局所作用を達成することが可能である。本発明により、弁は、1つ以上の弁尖を有する折り畳み可能な(collapsible)弾性弁の場合があり、折り畳み可能な弾性弁は、弾性ステント上に装着される場合がある。いくつかの実施態様では、折り畳み可能な弾性弁は、生体起源の1つ以上の弁尖を含む場合がある。いくつかの実施態様では、1つ以上の弁尖は、ブタ、ウシ、又はヒトである。本発明に使用される弁プロテーゼの弾性ステント部分は、自己拡張可能又はバルーンカテーテルを介して拡張可能であり得る。弾性ステントは、当業者に公知の任意の生体適合材料を含み得る。生体適合材料の例には、セラミクス;ポリマー;ステンレス鋼;チタン;ニッケル-チタン合金、例えばニチノール;タンタル;コバルト含有合金、例えばElgiloy(登録商標)及びPhynox(登録商標);その他が含まれるが、それに限定されるわけではない。本発明のRARアゴニストを含むコーティング組成物を配する工程は、当技術分野において公知の任意の工程であり得る。本発明による局所送達は、低濃度の循環化合物を有する病的部位に高濃度の本発明のアゴニストを可能にする。本発明のために、治療有効量が投与されるであろう。
【0020】
本発明は、以下の図面及び実施例によりさらに例示される。しかし、これらの実施例及び図面は、いかなる方法でも本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0021】
実施例:
方法
石灰化促進条件におけるレチノイン酸シグナル伝達のモジュレーション
アスコルビン酸(283μM、Sigma Aldrich)、リン酸ナトリウム(3mM、Sigma Aldrich)及びデキサメタゾン(100nM、Stem Cell technologies)を補充した10% FBS含有DMEMから構成される培地中でVICを7日間処理した。レチノイン酸(RA:1;10;100;1000nM)、TTNPB(RAR汎アゴニスト、1μM)、AM80(RARα特異的アゴニスト、1μM)、CD2314(RARβ特異的アゴニスト、1μM)、CD437(RARγ特異的アゴニスト、1μM)又は4-ジエチルアミノベンズアルデヒド(DEAB、ALDH阻害剤、25、50nM)でVICを処理した。
【0022】
石灰化の測定
7日処理後、VICをPBS中で2回すすぎ、次いで、4% パラホルムアルデヒド中で15分間固定した。脱イオン水で洗浄後、カルシウム沈着物をアリザリンレッド溶液(1%、pH 6.38)で10分間染色した。次いで、細胞を脱イオン水で洗浄し、無水エタノールで染色を固定した。Gregoryらの方法により定量を行った。簡潔には、細胞を10% 酢酸と共に静かに浸透しながら30分間インキュベートした。次いで、細胞をマイクロチューブに移し、30秒間ボルテックス撹拌した。各チューブに鉱物油を添加し、試料を85℃で10分間加熱し、氷中で5分間冷却した。遠心分離(15分、16,000g)の後、上清を収集し、水酸化アンモニウム200μlを添加する。次いで、マイクロプレート中で試料を405nmで読み取る。
【0023】
定量PCR
Chomczynski及びSacchiのプロトコールに従い、TRIzol試薬(Life Technologies)中で均質化後にVICからRNAを抽出した、遺伝子発現分析のために、High Capacity cDNA Reverse Transcription kit(Life Technologies)を用い、抽出した総RNA 2マイクログラムを、製造業者の手順に従って合計体積20μlで逆転写させた。試料を25℃で10分間に続き、37℃で2時間インキュベートした。得られたcDNAを-20℃で保存した。ABI PRISM 7000 Detection System(Life Technologies)を使用して定量PCRを行った。Taqポリメラーゼ、MgCl2、及びdNTP(Life Technologies)を含有するマスターミックス 10μl、対象となる遺伝子に特異的なセンスプライマー、アンチセンスプライマー及びTaqMan(登録商標)プローブを含有する溶液 1μl並びに水 5μlからなるミックス 16μlに4マイクロリットルの逆転写生成物を添加した。内在性参照遺伝子として使用したAbelson(ABL)のmRNA発現によって転写物の発現を規準化した。サイクル閾値(Ct)比較法を用いて転写物の相対定量を行い、式:2-ΔΔCtを用いて計算した。各試料について、PCR生成物の検出を別々に二つ組で行った。ABL(Hs01104728_m1)、RUNX2(Hs00231692_m1)及びMSX2(Hs00741177_m1)市販アッセイをLife Technologiesから購入した。
【0024】
統計解析
全てのデータを平均±SEMとして報告する。連続変数についてのStudentのt検定を使用した。全ての解析について、≦0.05のp値を統計的に有意と見なした。Windows用SPSSバージョン20.0(SPSS, Inc., Chicago, Illinois)を用いて全ての統計解析を行った。
【0025】
結果
結果を
図1~4に示す。
図1A及び1Bは、レチノイン酸が石灰化及び骨芽細胞様表現型を減少させることを示す。
図2A~2Cは、レチノイドがRAR活性化依存的に石灰化及び骨芽細胞様表現型を低減することを示す。そのうえ、
図3A~3Cは、RARαの活性化が、VICにおける石灰化及び骨芽細胞様表現型を低減することを示す。最後に、
図4A及び4Bは、ALDH1A1の阻害が、VICにおける石灰化及び骨芽細胞様表現型を増加させることを示す。
【0026】
参考文献:
本出願にわたり、本発明が属する技術の現状を様々な参考文献が記載している。これらの参考文献の開示は、これにより、参照により本開示に組み入れられる。
【0027】
【国際調査報告】