(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-01
(54)【発明の名称】ケイ素の利用が制御されたケイ素系リチウムイオンセルのための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20221124BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221124BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20221124BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221124BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20221124BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20221124BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221124BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20221124BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20221124BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/0565
H01M10/0562
H01M10/058
H01M4/1395
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521022
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(85)【翻訳文提出日】2022-06-03
(86)【国際出願番号】 US2020053203
(87)【国際公開番号】W WO2021071695
(87)【国際公開日】2021-04-15
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512188041
【氏名又は名称】エネヴェート・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・パーク
(72)【発明者】
【氏名】イアン・ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】スン・ウォン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】フレッド・ボヌオム
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ14
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029CJ16
5H029HJ01
5H029HJ14
5H029HJ17
5H029HJ18
5H029HJ19
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA03
5H050GA18
5H050HA01
5H050HA14
5H050HA17
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
ケイ素の利用が制御されたケイ素系リチウムイオンセルのためのシステムおよび方法には、カソードと、電解質と、アノードと含み得、アノードは、50%を超えるケイ素を含む活物質を有する。電池は、炭素をリチウム化せずにケイ素をリチウム化することで充電され得る。活物質は、70%を超えるケイ素を含み得る。電池の放電中のアノードの電圧は、ケイ素がリチウム化され得る最小電圧より高く維持され得る。アノードは、3000mAh/gを超える比容量を有し得る。電池は、1000mAh/gを超える比容量を有し得る。アノードは、90%を超える初期クーロン効率を有し、ポリマーバインダーを含まなくてよい。電池は10C以上のレートで充電され得る。電池は、リチウムめっきを形成することなく氷点下の温度で充電され得る。電解質は、液体、固体、またはゲルを含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、電解質と、50%を超えるケイ素を含む活物質を有するアノードとを備えた電池であって、
前記活物質中の炭素の20%未満がリチウム化される間にケイ素がリチウム化されることによって充電される、電池。
【請求項2】
前記活物質が70%を超えるケイ素を含む、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記電池の放電中の前記アノードの電圧が、ケイ素がリチウム化され得る最小電圧を超えて維持される、請求項1に記載の電池。
【請求項4】
前記アノードが3000mAh/gを超える比容量を有する、請求項1に記載の電池。
【請求項5】
前記電池が1000mAh/gを超える比容量を有する、請求項1に記載の電池。
【請求項6】
前記アノードが90%を超える初期クーロン効率を有する、請求項1に記載の電池。
【請求項7】
前記アノード活物質がポリマーバインダを含まない、請求項1に記載の電池。
【請求項8】
前記電池が、1Cレートの保存容量の少なくとも50%を前記電池の当初の容量の80%に保持しながら、10Cレート以上で充電されるように動作可能である、請求項1に記載の電池。
【請求項9】
前記電池がリチウムめっきを形成することなく氷点下の温度で充電可能である、請求項1に記載の電池。
【請求項10】
前記電解質が、液体、固体、またはゲルを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項11】
カソードと、電解質と、50%を超えるケイ素を含む活物質を有するアノードとを含む電池において、前記活物質中の炭素の20%未満をリチウム化する間にケイ素をリチウム化することによって前記電池を充電するステップを含む、電池を形成する方法。
【請求項12】
前記活物質が70%を超えるケイ素を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記電池の放電中の前記アノードの電圧が、ケイ素がリチウム化され得る最小電圧を超えるように構成するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記アノードが3000mAh/gを超える比容量を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記電池が1000mAh/gを超える比容量を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記アノードが90%を超える初期クーロン効率を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記アノード活物質がポリマーバインダを含まない、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
10Cレート以上で前記電池を充電するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
リチウムめっきを形成することなく氷点下の温度で前記電池を充電するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
電池に使用するためのアノードであって、
前記アノードが50%を超えるケイ素を含む活物質を含み、
前記アノードが、電池内において、前記活物質中の炭素の20%未満をリチウム化する間にケイ素をリチウム化することによって充電される、アノード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照/参照による組み込み
本出願は、2019年10月7日に出願された米国特許出願第16/594,508号の優先権を主張するものであり、その内容は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の態様は、エネルギーの生成および貯蔵に関する。より具体的には、本開示の特定の実施形態は、ケイ素の利用が制御されたケイ素系リチウムイオンセルのための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
電池アノードの従来のアプローチは、費用がかかり、面倒であり、かつ/または非効率であり、例えば、それらは、実施するのに複雑および/または時間がかかり、電池の寿命を制限し得る。
【0004】
従来の伝統的なアプローチのさらなる制限および不利な点は、そのようなシステムを、図面を参照して、本出願の以降の部分に記載される本開示のいくつかの態様と比較することによって、当業者に明らかになるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
特許請求の範囲により完全に記載されているように、実質的に少なくとも1つの図面に示され、かつ/または関連して説明される、ケイ素の利用が制御されたケイ素系リチウムイオンセルのためのシステムおよび/または方法。
【0006】
本開示のこれらおよび他の利点、態様および新規の特徴、ならびにその例示された実施形態の詳細は、以下の説明および図面からより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の例示的な実施形態による、リチウムイオン電池の図である。
【
図2】本開示の例示的な実施形態による、リチウムイオンセルの充電中のアノード、カソード、およびセルの電圧を示す。
【
図3】本開示の例示的な実施形態による、リチウムのめっきおよびデンドライトが形成されたリチウムイオンセルを示す。
【
図4】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素添加黒鉛アノードの充電中の電圧レベルを示す。
【
図5】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素添加アノードおよびケイ素膜アノードのリチウム化および脱リチウム化の間の機械的プロセスを示す。
【
図6】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素膜アノードの充電中の電圧レベルを示す。
【
図7】本開示の例示的な実施形態による、半セルのケイ素系アノードの第1サイクル電圧曲線を示す。
【
図8】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードを備えたセルの電極電圧およびセル電圧を示す。
【
図9】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系セルおよび黒鉛セルの充電レートを示す。
【
図10】本開示の例示的な実施形態による、低温でのケイ素系セルの充電時間を示す。
【
図11】本開示の例示的な実施形態による、充電温度によるケイ素系セルの容量維持率を示す。
【
図12】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードのリチウム化および脱リチウム化プロセスの例を示す。
【
図13】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードを備えたリチウムイオン電池の電圧曲線を示す。
【
図14】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードセルを使用したプロセスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本開示の例示的な実施形態によるリチウムイオン電池の図である。
図1を参照すると、集電体107Aおよび107Bを備えたアノード101とカソード105との間に挟持されたセパレータ103を含む電池100が示されている。電池100が放電モードにあるときの例を示す、電池100に結合された負荷109も示されている。本開示において、「電池」という用語は、単一の電気化学セル、モジュールに形成された複数の電気化学セル、および/またはパックに形成された複数のモジュールを示すために使用され得る。
【0009】
携帯型電子デバイスの開発および交通機関の電化は、高性能の電気化学的エネルギー貯蔵の必要性を推進している。小規模(<100Wh)から大規模(>10KWh)のデバイスは、高性能であるため、他の充電式電池よりも主にリチウムイオン(Li-ion)電池を使用している。
【0010】
アノード101およびカソード105は、集電体107Aおよび107Bとともに、電極を含み得、電極は、電解質材料内に、または電解質材料を含むプレートまたは膜を含み得、プレートは、電解質を含むための物理的バリアおよび外部構造への導電性接点を提供し得る。他の実施形態では、アノード/カソードプレートは電解質に浸漬され、一方、外側ケーシングは電解質の格納容器を提供する。アノード101およびカソードは、集電体107Aおよび107Bに電気的に結合され、これらは、電極への電気的接触、および電極を形成する際の活物質の物理的支持を提供するための金属または他の導電性材料を含む。
【0011】
図1に示される構成は、放電モードの電池100を示しているが、充電構成では、負荷107を充電器と交換して、プロセスを逆にすることができる。電池の1つの分類では、セパレータ103は、一般に、電気絶縁ポリマーで作られた膜材料であり、例えば、イオンが通過するのに十分な多孔性でありながら、電子がアノード101からカソード105に、またはその逆に流れるのを防ぐ。典型的には、セパレータ103、カソード105、およびアノード101の材料は、シート、膜、または活物質でコーティングされた箔に個別に形成される。続いて、カソード、セパレータおよびアノードのシートは、カソード105およびアノード101を分離するセパレータ103と共に積層または巻回されて、電池100を形成する。いくつかの実施形態では、セパレータ103はシートであり、通常、その製造において、巻取り方法および積層を利用する。これらの方法では、アノード、カソード、および集電体(例えば、電極)は、膜を含み得る。
【0012】
例示的なシナリオでは、電池100は、固体、液体、またはゲル電解質を含み得る。セパレータ103は、好ましくは、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、およびLiClO4などが溶解したエチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)などを含み得る組成物などの典型的な電池電解質に溶解しない。セパレータ103は、液体またはゲル電解質で湿らせたり、浸漬したりされ得る。さらに、例示的な実施形態では、セパレータ103は、約100から120℃未満では溶融せず、電池用途に十分な機械的特性を示す。動作中のバッテリーは、アノードおよび/またはカソードの膨張および収縮を経験し得る。例示的な実施形態では、セパレータ103は、故障することなく少なくとも約5から10%膨張および収縮することができ、また可撓性を有し得る。
【0013】
セパレータ103は、例えば、液体またはゲル電解質で濡れるとイオンがセパレータを通過できるように、十分に多孔性であり得る。代替的に(または追加的に)、セパレータは、有意な多孔性がなくても、ゲル化または他のプロセスを通じて電解質を吸収し得る。セパレータ103の多孔性はまた、一般に、アノード101およびカソード105がセパレータ103を通して電子を伝達することを可能にするほど多孔性ではない。
【0014】
アノード101およびカソード105は、電池100の電極を含み、充電および放電状態において電荷を伝達するためのデバイスへの電気接続を提供する。アノード101は、例えば、ケイ素、炭素、またはこれらの材料の組み合わせを含み得る。典型的なアノード電極は、銅シートなどの集電体を含み、炭素材料を含む。炭素は、優れた電気化学的特性を有し、導電性も有するため、しばしば使用される。充電式リチウムイオン電池で現在使用されているアノード電極は、通常、1グラムあたり約200ミリアンペア時間の比容量を有する。多くのリチウムイオン電池のアノードに使用されている活物質である黒鉛の理論エネルギー密度は、1グラムあたり372ミリアンペア時間(mAh/g)である。それと比較して、ケイ素は4200mAh/gという高い理論容量を有する。リチウムイオン電池の体積および重量エネルギー密度を高めるために、ケイ素をカソードまたはアノードの活物質として使用することができる。ケイ素アノードは、例えば、50%を超えるケイ素を含むケイ素複合材料から形成され得る。別の実施例では、アノードは70%を超えるケイ素を含み得、バインダ材料を含まない自立型のモノリシック単一粒子膜を含み得る。
【0015】
アノード101およびカソード105は、例えばリチウムなどの電荷の分離に使用されるイオンを貯蔵する。この例では、電解質は、例えば
図1に示されるように、放電モードでアノード101からカソード105に正に帯電したリチウムイオンを運び、充電モードでセパレータ105を介してその逆に作用する。リチウムイオンの移動は、アノード101に自由電子を生成し、これは、正の集電体107Bで電荷を生成する。次に、電流が、集電体から負荷109を通って負の集電体107Aに流れる。セパレータ103は、電池100内部の電子の流れを遮断する。
【0016】
電池100が放電して電流を供給している間、アノード101は、セパレータ103を介してリチウムイオンをカソード105に放出し、結合された負荷109を介して一方の側から他方の側に電子の流れを生成する。電池が充電されているときには、リチウムイオンがカソード105によって放出され、アノード101によって受け取られるという反対のことが起こる。
【0017】
アノード101およびカソード105に選択される材料は、電池100の信頼性およびエネルギー密度にとって重要である。現在のLiイオン電池のエネルギー、電力、コスト、および安全性は、内燃エンジン(ICE)技術と競争し、電気自動車(EV)の普及を可能にするために改善される必要がある。リチウムイオン電池の高エネルギー密度、高出力密度、および安全性の向上は、高電圧安定性および電極との界面適合性を備えた機能的に不燃性の電解質、高容量および高電圧カソード、ならびに高容量アノードの開発によって達成される。さらに、毒性の低い材料は、プロセスコストを削減し、消費者の安全を促進するための電池材料として有益である。
【0018】
現在の最先端のリチウムイオン電池は、通常、リチウムの挿入材料として黒鉛系アノードを採用している。しかしながら、ケイ素系アノードは、黒鉛系リチウムイオン電池と比較して改良を提供する。ケイ素は、より高い重量容量(黒鉛の372mAh/gに対して3579mAh/g)および体積容量(黒鉛の890mAh/Lに対して2194mAh/L)を示す。さらに、ケイ素系アノードは、約0.3~0.4Vvs.Li/Li
+の低いリチウム化/脱リチウム化電圧プラトーを有するため、
図3に示すように、開回路電位を維持して、望ましくないLiめっきやデンドライトの形成を回避できる。
【0019】
ケイ素は優れた電気化学的活性を示すが、ケイ素系アノードの安定したサイクル寿命を達成することは、リチウム化および脱リチウム化の間のケイ素の大きな体積変化のために困難である。ケイ素領域は、その低い電気伝導性に加えて大きな体積変化がアノード内の周囲の材料からケイ素を分離するため、アノードからの電気的接触を失い得る。
【0020】
さらに、大きなケイ素の体積変化は、固体電解質界面(SEI)形成を悪化させ、これは、電気的絶縁、したがって、容量損失にさらにつながる可能性がある。充放電サイクル時のケイ素粒子の膨張と収縮により、ケイ素粒子が粉砕され、比表面積が増加する。サイクル中にケイ素の表面積が変化して増加すると、SEIは繰り返し分解されて再形成される。したがって、サイクル中に、SEIが粉砕ケイ素領域の周囲に継続的に蓄積され、厚い電子およびイオン絶縁層となる。この蓄積されたSEIは、電極のインピーダンスを増加させ、電極の電気化学的反応性を低下させ、サイクル寿命に悪影響を及ぼす。
【0021】
図2は、本開示の例示的な実施形態による、リチウムイオン電池の充電中のアノード、カソード、およびセルの電圧を示す。
図2を参照すると、充電中のリチウムイオンセルの時間に対する電圧が示されている。セルが充電されると、アノードにリチウムを供給するためにカソード電圧が上昇し、リチウム化するにつれてアノード電圧が低下し、結果としてセル電圧が上昇する。
【0022】
従来の黒鉛アノードでは、黒鉛がリチウム化されているレベルまでアノード電圧が低下すると必ず、リチウムのめっきが生じ、セルの容量を低下させ、時間の経過とともに形成されるデンドライトによる安全性の問題を引き起こし、
図3に示すように、セルを短絡させる。
【0023】
図3は、本開示の例示的な実施形態による、リチウムめっきおよびデンドライトが形成されたリチウムイオンセルを示す。
図3を参照すると、アノード310、セパレータ303、およびカソード305を備えた電池300が示されている。この例では、アノードは、時間とともに、低いアノード電圧がリチウムめっきおよびデンドライトの形成を引き起こす黒鉛活物質を含む。セパレータ303を貫通して延びるデンドライトは、リチウムイオンセルの壊滅的な故障を引き起こし、火災を引き起こす可能性がある。この影響は、活物質に黒鉛がほとんどまたはまったく含まれないケイ素系アノードを使用することで、かつケイ素がリチウム化されているレベルまでのみ放電電圧が低下するように、すなわちセル内の黒鉛がリチウム化される低電圧まで到達させないように構成することによって排除することができる。
【0024】
図4は、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素添加黒鉛アノードの充電中の電圧レベルを示す。
図4を参照すると、ケイ素および黒鉛のアノードの3つの異なる電圧段階が示されている。上の段階は、セルが完全に放電され、アノード電圧がケイ素または黒鉛がリチウム化する電圧より高い最高レベルにある場合のアノード電圧を示している。この段階で、アノードは脱リチウム化される。
【0025】
第2の段階は、セルが充電中であり、黒鉛はまだ反応していないがケイ素がリチウム化されている中間電圧を示している。ケイ素添加黒鉛アノードの場合、完全なセル容量を得るために黒鉛をリチウム化する必要があるため、セルはさらに第3段階まで充電される。第3段階では、セルは充電を継続し、ケイ素が完全にリチウム化され、黒鉛がリチウム化されるまでアノード電圧が十分に低くなる。また、黒鉛がリチウム化されるにつれて電圧が低下し続けるため、前述のように、めっきが生じてデンドライトが形成されるレベルまで電圧が低下する。
【0026】
図5Aおよび5Bは、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素添加アノードおよびケイ素膜アノードのリチウム化および脱リチウム化の間の機械的プロセスを示す。
図5Aを参照すると、アノードの活物質の膨張および収縮の様子が示され、活物質は、ケイ素が添加された黒鉛を含む。最初の図はリチウム化前、2番目はリチウム化後、3番目は脱リチウム化後である。
【0027】
このような従来のケイ素含有アノードでは、黒鉛およびケイ素材料は、通常、軟質ポリマーバインダによって一緒に保持されてリチウム化中の材料の膨張が可能となり、この膨張はリチウム化中のケイ素による通常のプロセスである。ケイ素は高度にまたは完全にリチウム化されるので、アノード活物質の黒鉛は、
図4に示されるように、完全なセル容量を可能にするように十分にリチウム化され得る。完全にリチウム化されたケイ素の膨張は、ケイ素添加黒鉛アノードで約300~400%であり、バインダの著しい変形または故障につながる。さらに、活物質が脱リチウム化すると、ケイ素が収縮して引張応力が発生し、電極を一緒に保持しているポリマーが破損し、材料に亀裂が生じ得る。
【0028】
図5Bに示されるケイ素膜アノードは、強力な導電性マトリックスによって一緒に保持され、活物質として黒鉛を利用しないので、ケイ素黒鉛アノードと比較して、より多量のケイ素のより少ない割合をリチウム化の間に使用することができ、結果として膨潤が低減する。さらに、電極材料のナノコーティングが副反応を防ぐ。従って、膨張が低減し、導電性マトリックスが強いため、ケイ素系アノードでは、ケイ素黒鉛アノードが抱える問題が発生しない。
【0029】
図6は、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素膜アノードの充電中の電圧レベルを示す。
図6を参照すると、ケイ素系アノードの2つの異なる電圧段階が示されている。アノードの活物質に黒鉛がほとんどまたはまったく含まれていないため、黒鉛のリチウム化がないため、炭素のリチウム化電圧はここには示されていない。上段は、セルが完全に放電され、アノード電圧がケイ素がリチウム化する電圧より高い最高レベルにあるときのアノード電圧を示している。この段階で、アノードは脱リチウム化される。アノードが充電されると、ケイ素がリチウム化するにつれて電圧が低下し、アノードはリチウム化にケイ素のみを使用し、完全充電にすべてのケイ素がリチウム化されるわけではないため、電圧がケイ素リチウム化電圧範囲に入ると、セルは完全に充電される。すなわち、電圧は、ケイ素リチウム化範囲の電圧の下限を下回って低下しない。アノード電圧がケイ素リチウム化電圧より低くなることは決してないため、炭素がリチウム化されることはほとんどなく、リチウムのめっきは本質的に排除され得る。例えば、通常の動作では、炭素の10%未満がリチウム化され得る。別の例では、通常の動作では、炭素の20%未満がリチウム化される。さらに、ケイ素のより少ない部分がリチウム化されるため、前述のような膨潤が減少する。
【0030】
図7は、例示的なケイ素系アノードのアノード半セル第1サイクル電圧プロファイルを示す。このケースでは、初回リチウム化電圧曲線は、初回充電であるため、通常の動作中に見られるものよりも低くなる。
図7を参照すると、ケイ素系アノードの電圧プロファイルが示されており、アノードの初回充電容量が約3000mAh/gであり、アノードの不可逆容量が約250mAh/gであり、結果として初期クーロン効率が92%であることが示されている。この初回充電プロセスでは、アノードはC/16レートで充電され、アノード電圧は0.01Vから1.2Vの範囲であった。
【0031】
例示的な実施形態では、70%を超えるケイ素を含むケイ素膜アノードが、約3000mAh/gの比容量(黒鉛の最大372mAh/gと比較して)、セルにおいて使用する場合に1000~2000mAh/gを実現し、体積エネルギー密度は最大2000Wh/L、重量エネルギー密度は最大350Wh/kgとなる。
【0032】
図8は、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードを備えたセルの電極電圧およびセル電圧を示す。
図8を参照すると、充電および放電サイクルの時間に対するアノード電圧、カソード電圧、およびセル電圧が示されている。プロットの左半分は、セルの充電を示し、セル電圧は45000秒で最大4.2Vに達しており、これはこのセルの例のC/10充電レートである。充電プロセスにより、アノード電圧は約0.1Vまで低下する。このようなセルの通常の動作中、アノードのケイ素の比容量が高いため、アノード電圧はアノードの全範囲を利用しない範囲に維持され、より大きな応力と潜在的な亀裂をもたらすケイ素の完全な脱リチウム化を行わず、リチウムのめっきの問題を効果的に排除する。
【0033】
プロットの右半分は、セル電圧が約3.4Vまで低下する、セルのC/10放電を示す。このシナリオ例では、アノードは0.1から0.5Vの間でサイクルし、カソード電圧は黒鉛セルよりも高く、セル電圧はケイ素と黒鉛の両方を含むセルよりも傾斜が大きくなっている。
【0034】
図9は、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系セルおよび黒鉛セルの充電レートを示す。
図9を参照すると、黒鉛にケイ素が添加されたアノードを備えたセルおよびケイ素系アノードセルについて、時間に対する完全充電の比率のプロットが示されている。プロットに見られるように、黒鉛セルは30分後に50%しか充電されていないが、ケイ素系アノードセルは10Cレートで充電した場合にわずか5分で75%の充電に達している。10Cレートで充電しても、セルは、1Cレートの保存容量(charge retention)の少なくとも50%を当初の容量の80%まで保持する。
【0035】
これらの充電曲線は、黒鉛のリチウム化に加えて、ケイ素添加黒鉛セル中の少量のケイ素の100%がリチウム化される場合と比較して、使用中により多量のケイ素のより少ない割合がリチウム化/脱リチウム化されるケイ素系アノードセルの利点を示している。材料が最大リチウム化に達すると、材料がより多くのリチウムを取り込める速度が低下するため、ケイ素黒鉛セルははるかに遅い速度で充電する必要がある。ケイ素の比容量がはるかに高く、ケイ素系アノードではケイ素の一部のみをリチウム化するため、完全に充電されるまでリチウム化速度を高く維持でき、セルの充電速度が大幅に向上する。
【0036】
図10は、本開示の例示的な実施形態による、低温でのケイ素系セルの充電時間を示す。
図10を参照すると、-20℃でのケイ素系アノードセルの時間に対する完全充電の割合のプロットが示されている。プロットに見られるように、セルは30分以内に75%の充電に達し、これは室温での充電よりも遅いが、少なくともリチウムめっきを発生させることなく可能である。
【0037】
図10は、ケイ素系アノードセルについては-20℃での充電を示しているが、従来のケイ素黒鉛セルは0℃(32°F)未満で充電できないため、示していない。試みた場合、パックは正常に充電されているように見えるが、氷点下の充電中にアノードに金属リチウムのめっきが発生する可能性があり、これは永続的であり、サイクリングで除去することはできない。リチウムめっきはセルの動作に危険であるため、高度な充電者は、温度が氷点下の場合にセルの充電を試みない。
【0038】
図11は、本開示の例示的な実施形態による、異なる充電温度でのケイ素系セルの容量維持率を示す。
図11を参照すると、ケイ素系アノードセルの容量維持率が示され、第1のバーは初期容量を100%で表し、第2のバーは、23℃で0.3C、0.7C、1C、2C、3C、5C、および7Cの充電シーケンス後の容量を表す。図からわかるように、このシーケンスの後、セルは容量が全く低減していない。第3のバーは、-20℃での同じ充電シーケンスの後のセルを表す。これは、開示されたケイ素系アノードセルが氷点下で充電できるだけでなく、その容量を維持していることを示してており、氷点下の温度で充電しようとするとリチウムめっきが発生するケイ素黒鉛アノードセルとは対照的である。
【0039】
図12は、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードの例示的なリチウム化および脱リチウム化プロセスを示す。
図12を参照すると、カソードおよびケイ素系アノードのリチウム化レベルが示されている。カソードのリチウム化レベルは、充電プロセスでアノードに移動し得る量Δ
Liを示し、アノードのリチウム化レベルがx
Dからx
Cに上昇する。カソードと比較したアノード容量の幅からわかるように、ケイ素リチウム化容量のわずかな比率が使用され、これにより、上記のように充電レートが非常に高くなる。
【0040】
アノードのリチウム化レベルは、0から3.75までのスケールで示され、3.75は、ケイ素が完全にリチウム化されたLi3.75Siを示す。量ΔLiは、カソード内の電荷キャリアの数およびカソード放電カットオフ電圧の関数であり得る。したがって、この例では、アノードのリチウム化はカットオフ電圧によって制御され、最良のサイクル寿命を得るために、xL以上に保つ必要がある。放電されたリチウム化レベルxDは、アノードとカソードの不可逆電荷Qirr,アノードおよびQirr,カソード、ならびにカットオフ電圧の関数であり、充電したリチウム化レベルxCは、材料の電荷の数の関数である。
【0041】
ケイ素アノードの大きなリチウム化容量により、放電中のアノード電圧の構成が、めっきの閾値の電圧をはるかに超えることが可能となる。
図12に示される例は、カソードのみによってリチウム化されたアノードを示しており、アノードの事前リチウム化もまた、放電電圧とは無関係に、リチウム化レベルがx
L未満に低下しないことを確実にするために利用され得る。
【0042】
図13は、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードを備えたリチウムイオン電池の電圧プロファイル曲線を示す。
図13を参照すると、アノードおよびカソードの電圧プロファイル曲線と、フルセル電圧を示す矢印付きの垂直線、ならびにこれらの様々なフルセル電圧のx軸上のアンペア時のセル容量が示されている。
【0043】
この例では、カソードの総充電容量は、アノードの総容量の半分である。放電中、セル電圧は、
図12に関して説明したように、アノードに残留するリチウムの量が、臨界量x
Lよりも高くなるように制御され得る。この特定のセルの場合、2.7Vでのセル容量は5.963mAh、3.1Vでのセル容量は総容量の76.4%に相当する4.555mAh、3.2Vでのセル容量は総容量の61.0%に相当する3.638mAh、3.3Vでのセル容量は総容量の52.6%に相当する3.136mAhである。
【0044】
上記のように、このケイ素系アノード構成は、アノードにリチウムめっきが発生する電圧よりもアノード電圧が十分に高いままであることを可能にし、電池の寿命を大幅に向上させる。さらに、ケイ素に起因してアノードの容量が非常に高く、ケイ素の利用率を低く維持することができるため、可能な充電レートは、ケイ素黒鉛アノードよりもはるかに高く、前述のように低温充電も可能である。
【0045】
図14は、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードセル使用プロセスを示す。
図14を参照すると、プロセスは、ケイ素系アノードが、カソードおよび電解質とともに組み込まれて、電池/セルを形成するステップ1401から開始される。ステップ1403において、セルは充電され得、ケイ素が完全にリチウム化されないようにアノード内のケイ素の一部をリチウム化し、ケイ素リチウム化のための最小電圧より高く維持するようにアノード電圧を構成する。ステップ1405において、セルは放電され得、ステップ1407において、セル電圧が依然として許容可能である場合、すなわち、セル寿命が残っている場合、プロセスはステップ1403を繰り返し、そうでない場合、セルはステップ1409で終了する。
【0046】
本開示の例示的な実施形態では、ケイ素の利用が制御されたケイ素系リチウムイオンセルのための方法およびシステムが説明されている。電池は、カソードと、電解質と、アノードとを含み得、アノードは、50%を超えるケイ素を含む活物質を有する。電池は、炭素をリチウム化せずにケイ素をリチウム化することによって充電され得る(つまり、炭素はリチウム化されない)。活物質は、70%を超えるケイ素を含み得る。電池の放電中のアノードの電圧は、ケイ素をリチウム化できる最小電圧を超えた状態を維持し得る。アノードは、3000mAh/gを超える比容量を有し得る。電池は、1000mAh/gを超える比容量を有し得る。アノードは、90%を超える初期クーロン効率を有し得る。アノード活物質は、ポリマーバインダを含まなくてもよい。電池は、1Cレートの保存容量の少なくとも50%を電池の当初の容量の80%に保持しながら、10Cレート以上で充電するように動作可能であり得る。電池は、リチウムめっきを形成することなく氷点下の温度で充電することができる。電解質は、液体、固体、またはゲルを含み得る。
【0047】
本明細書で使用される場合、「回路」との用語は、物理的な電子部品(すなわち、ハードウェア)、ならびにハードウェアを構成し、ハードウェアによって実行され、かつ/またはそれ以外の場合は、ハードウェアに関連付けられ得る、ソフトウェアおよび/またはファームウェア(「コード」)を意味する。本明細書で使用される場合、例えば、特定のプロセッサおよびメモリは、第1の1行以上のコードを実行する場合に第1の「回路」を含み得、第2の1行以上のコードを実行する場合に第2の「回路」を含み得る。本明細書で使用される場合、「および/または」とは、「および/または」によって結びつけられたリスト内の任意の1つまたは複数の項目を意味する。例として、「xおよび/またはy」は、3つの要素のセット{(x)、(y)、(x、y)}の任意の要素を意味する。言い換えると、「xおよび/またはy」は「xとyの一方または両方」を意味する。別の例として、「x、y、および/またはz」は、7つの要素のセット{(x)、(y)、(z)、(x、y)、(x、z)、(y、z)、(x、y、z)}の任意の要素を意味する。言い換えると、「x、yおよび/またはz」は「x、y、およびzの1つまたは複数」を意味する。本明細書で使用される場合、「例示的」との用語は、非限定的な例、実例、または例示として機能することを意味する。本明細書で使用される場合、「例えば」との用語は、1つまたは複数の非限定的な例、実例、または例示のリストを示す。本明細書で使用される場合、回路またはデバイスは、機能の実行が無効であるか有効でないかにかかわらず(例えば、ユーザが設定可能な設定、工場出荷時の調整などによる)、回路またはデバイスが機能を実行するために必要なハードウェアおよびコード(必要な場合)を含む限り、機能を実行するために「動作可能」である。
【0048】
本発明は、特定の実施形態を参照して説明されてきたが、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、等価物と置き換えることができることが理解されよう。さらに、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために、その範囲から逸脱することなく多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されず、本発明は、添付の特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態を含むことが意図されている。
【符号の説明】
【0049】
100、300 電池
101、301 アノード
103、303 セパレータ
105、305 カソード
107A、107B 集電体
109 負荷
【国際調査報告】