(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-02
(54)【発明の名称】難培養性嫌気性微生物の高収率培養のための培地サプリメント及びそれを含む培地組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
C12N1/20 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021552153
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(85)【翻訳文提出日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 KR2020019214
(87)【国際公開番号】W WO2022102866
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0150111
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521022956
【氏名又は名称】エンテロバイオーム インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ENTEROBIOME INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ジョ グ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ド キュン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA21X
4B065AC20
4B065BB12
4B065BB40
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】
【解決手段】本発明は、N-アセチルヘキソサミン、L-アスパラギン酸、L-システイン及びコバラミンを含む嫌気性微生物の高収率培養用培地サプリメント、これを含む難培養性嫌気性微生物の高収率培養用培地組成物及び培養方法に関し、本発明によれば、高収率培養が非常に困難な嫌気性微生物の高濃度培養が可能で、コストに対して効率的で、特に食品及び医薬品用途に使用するのに適した難培養性嫌気性微生物を大量に培養できる画期的な方法を提供しうる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-アセチルヘキソサミン、L-アスパラギン酸、L-システイン及びコバラミンを含む、難培養性嫌気性微生物の高収率培養用培地サプリメント。
【請求項2】
前記培地サプリメントは、N-アセチルヘキソサミン5g/L、L-アスパラギン酸8g/L、L-システイン0.5g/L及びコバラミン0.0001~0.005g/Lを含むことを特徴とする、請求項1に記載の難培養性嫌気性微生物の高収率培養用培地サプリメント。
【請求項3】
前記嫌気性微生物は、絶対-嫌気性微生物であることを特徴とする、請求項1に記載の難培養性嫌気性微生物の高収率培養用培地サプリメント。
【請求項4】
前記嫌気性微生物は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、ブチリシコッカス・プリセコルム(Butyricicoccus pullicaecorum)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia inulinivorans)、ロゼブリア・ホミニス(Roseburia hominis)、またはビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)であることを特徴とする、請求項3に記載の難培養性嫌気性微生物の高収率培養用培地サプリメント。
【請求項5】
植物ペプトン、酵母エキス、リン酸水素二カリウムを含む培地組成物であって、炭素源としてフルクトースとラクトースを含み、サプリメントとしてN-アセチルヘキソサミン、L-アスパラギン酸とL-システインのアミノ酸混合物及びコバラミンを含むことを特徴とする嫌気性微生物の高収率培養用培地組成物。
【請求項6】
前記嫌気性微生物は、絶対-嫌気性微生物であることを特徴とする、請求項5に記載の難培養性嫌気性微生物の高収率培養用培地組成物。
【請求項7】
前記嫌気性微生物は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、ブチリシコッカス・プリセコルム(Butyricicoccus pullicaecorum)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia inulinivorans)、ロゼブリア・ホミニス(Roseburia hominis)、またはビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)であることを特徴とする、請求項5に記載の難培養性嫌気性微生物の高収率培養用培地組成物。
【請求項8】
前記培地組成物は、植物ペプトン20g/L、酵母エキス10g/L、リン酸水素二カリウム2.5g/L、フルクトース2.5g/L、ラクトース2.5g/L、N-アセチルヘキソサミン5g/L、L-アスパラギン酸8g/L、L-システイン0.5g/L、及びコバラミン0.0001~0.005g/Lを含有することを特徴とする、請求項5に記載の難培養性嫌気性微生物の高収率培養用培地組成物。
【請求項9】
前記植物ペプトンは、大豆ペプトン(soy peptone)、小麦ペプトン(wheat peptone)、綿ペプトン(cotton peptone)、エンドウペプトン(pea peptone)、ソラマメペプトン(broadbean peptone)、ルピンペプトン(lupin peptone)、及びジャガイモペプトン(potato peptone)から構成されたグループから選ばれることを特徴とする、請求項5に記載の難培養性嫌気性微生物の高収率培養用培地組成物。
【請求項10】
前記培地組成物は、炭素源としてフルクトースの代わりにマルトースを含むか、またはフルクトースに加えてマルトースをさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の難培養性嫌気性微生物の高収率培養用培地組成物。
【請求項11】
請求項5~請求項10のいずれか一項に記載の培地組成物に嫌気性微生物を接種し、嫌気性条件下で増殖させることを特徴とする、難培養性嫌気性微生物の高収率培養方法。
【請求項12】
前記培養段階は、pH 6.6~7.0、培養温度35~39℃、攪拌速度40~50rpm、窒素飽和度80~90%、二酸化炭素飽和度5~20%及び水素飽和度0~5%で行うことを特徴とする、請求項11に記載の難培養性嫌気性微生物の高収率培養方法。
【請求項13】
培養された嫌気性微生物が平板計数法によって測定される生菌数10
10CFU/mL以上の細胞密度に到達することを特徴とする、請求項11に記載の難培養性嫌気性微生物の高収率培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難培養性嫌気性微生物を高濃度に培養するための新規な培地サプリメント、それを含む培地組成物及びそれを用いた難培養性嫌気性微生物の高収率培養方法に関し、より詳細にはアッカーマンシア・ムシニフィラを含む難培養性嫌気性微生物の大量生産が可能であり、薬品や食品用途に適した培地サプリメント、培地組成物及び培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトマイクロバイオーム(human microbiome)とは、ヒトの体に共生する微生物群集とこのような微生物群集の誘電体を意味する用語で、マイクロバイオームがヒトの健康と密接な相関関係があることが明らかになり、多くの関心を集めている。
【0003】
無菌動物モデル(germ-free animal model)、次世代塩基配列解析(Next-Generation Sequencing、NGS)、マルチオミクス解析(multi-omics analysis)などの生命工学分野の研究技法の飛躍的発展により、腸内微生物の組成と構造を分析するだけでなく、マイクロバイオームの機能と疾病との関連性を研究できるようになり、これによって、より多くの研究結果が発表されている。マイクロバイオーム治療剤またはパーマバイオティクス治療剤(医療用プロバイオティクス)が効果的な治療剤のない感染疾患、免疫疾患、代謝疾患などの代替治療剤になり得るという点で最近注目されている。マイクロバイオーム治療剤またはパーマバイオティクス治療剤は、大量生産により実用化が可能となれば、様々な難治性疾患に有利に適用可能であるものと予想される。
【0004】
ヒトの腸内は嫌気状態なので、マイクロバイオームを構成する微生物は、ほとんど嫌気性微生物であるが、これらのほとんどは、利用可能な炭素源と窒素源が非常に制限的であり、さらに酸素に極度に敏感な絶対嫌気性という生理的特性のために産業化のための高濃度及び大量培養が難しいのが実情である。絶対嫌気性微生物の培養は極めて難しく、高いバイオマスの収率を得ることはさらに難しい。
【0005】
例えば、大腸の粘膜層に生息し、パーマバイオティクスの候補として有望なアッカーマンシア・ムシニフィラは、一般的に培地に炭素源と窒素源として豚の胃から抽出されたムチン(hog gastric mucin)を添加して培養してもよい(Derrien et al.,2004)。また、アッカーマンシア ミューシピラー菌株は、コロンビアブロス(CB)及び脳心臓浸出液(BHI)ブロス上で培養されることもあるが、このような培地には、すべて動物由来成分が含まれ、さらにほとんどのムチン基盤の培地より培養性が劣り、ムチン添加培地により獲得できる最終光学密度の半分程度の最終光学密度に増殖させることができるだけである。
【0006】
動物-由来成分は、ウイルスや細菌起源の汚染物質を含有するか、またはアレルゲン、抗原ペプチドまたは他の望ましくない生成物を含んでもよいため、ヒトにおいて食品や薬剤の用途のために嫌気性微生物を培養するのに適していないものと認識されている。最近までのかなりの努力にもかかわらず、既存の嫌気性微生物の培養のための培地は、組成が難しく、価格が高価で、さらに高収率で嫌気性微生物を培養できないため、特殊な研究目的以外の産業用途として利用できないという限界を持っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術の限界ないし問題を克服するためのもので、本発明の一つの目的は、マイクロバイオーム治療剤またはパーマバイオティクスとして使用される嫌気性微生物を産業的に大量に培養するとき、医薬品、食品、または飼料として使用するのに適した長期間にわたって安定的に高収率で製造できる培地サプリメント及び培地組成物を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、難培養性嫌気性微生物を高い最終光学密度に経済的に培養できる培養方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明の一態様は、N-アセチルヘキソサミン、L-アスパラギン酸、L-システイン及びコバラミンを含む嫌気性微生物の高収率培養用培地サプリメントに関する。
【0010】
本発明の培地サプリメントは、N-アセチルヘキソサミン5g/L、L-アスパラギン酸8g/L、L-システイン0.5g/L及びコバラミン0.0001~0.005g/Lを含んでもよい。
【0011】
前記嫌気性微生物は、ヒトの腸内絶対-嫌気性微生物であって、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、ブチリシコッカス・プリセコルム(Butyricicoccus pullicaecorum)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia inulinivorans)、ロゼブリア・ホミニス(Roseburia hominis)、またはビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)であってもよいが、必ずしもこれらに制限されるものではない。
【0012】
上述した課題を解決するための本発明の他の態様は、
植物ペプトン、酵母エキス、リン酸水素二カリウムを含む培地組成物であって、炭素源としてフルクトース及びラクトースを含み、サプリメントとしてN-アセチルヘキソサミン、L-アスパラギン酸及びL-システインのアミノ酸混合物及びコバラミンを含むことを特徴とする嫌気性微生物高収率培養用培地組成物に関する。
【0013】
本発明の嫌気性微生物高収率培養用培地組成物は、フルクトース2.5g/L、ラクトース2.5g/L、植物ペプトン20g/L、酵母エキス10g/L、リン酸水素二カリウム2.5g/L、N-アセチルヘキソサミン5g/L、L-アスパラギン酸8g/L、L-システイン0.5g/L、及びコバラミン0.0001~0.005g/Lを含んでもよい。
【0014】
前記植物ペプトンは、大豆ペプトン(soy peptone)、小麦ペプトン(wheat peptone)、綿ペプトン(cotton peptone)、エンドウペプトン(pea peptone)、ソラマメペプトン(broadbean peptone)、ルピンペプトン(lupin peptone)、及びジャガイモペプトン(potato peptone)から構成されたグループから選ばれてもよいが、必ずしもこれらに制限されるものではない。
【0015】
上述した課題を解決するための本発明のさらに他の態様は、上述した培地組成物に嫌気性微生物を接種して嫌気性条件下で増殖させることを特徴とする嫌気性微生物の高収率培養方法に関する。
【0016】
前記培養段階は、pH6.6~7.0、培養温度35~39℃、攪拌速度40~50rpm、窒素飽和度80~90%、水素飽和度0~5%、二酸化炭素飽和度5~20%の条件で行ってもよい。
【0017】
本発明の嫌気性微生物の高収率培養方法では、培養された嫌気性微生物が平板計数法により測定される生菌数が1010CFU/mL以上の細胞密度に到達することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の様々な実施例によれば、マイクロバイオーム治療剤またはパーマバイオティクスとして用いられる嫌気性微生物を産業的に大量に培養するとき、医薬品、食品または飼料として使用するのに適するように安定的に高収率で製造しうる。
【0019】
本発明の培地サプリメント及び培地組成物によれば、パーマバイオティクス候補として有力であるが、酸素に非常に敏感で、微量の酸素にも死滅して大量生産が不可能であった難培養性菌種であるアッカーマンシア・ムシニフィラを薬品または食品用途に適合するように高濃度で培養しうる。
【0020】
本発明の培地サプリメントまたは培養培地において高収率で培養された嫌気性微生物は、パーマバイオティクス医薬品、乳酸菌製剤、乳加工品及び生菌剤などに広範囲に用いることができるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】アッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の炭素代謝過程を示す模式図である。
【
図2】アスパラギン酸から様々なアミノ酸の生合成過程を示す模式図である。
【
図3】本発明の培地サプリメントを含む培地で培養された嫌気性微生物の菌種別細胞の形態を示す写真である。
【
図4】本発明の実施例において、アッカーマンシア・ムシニフィラ菌株を培養した培養器における培養時間による培地の色の変化を示した写真である。
【
図5】アッカーマンシア・ムシニフィラの顕微鏡観察及び特異的プライマーを用いたPCR解析結果を通じて培養液の純度確認結果を示したものである。
【
図6】フルクトースが添加された本発明の培地で培養時間によるアッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の成長曲線(A)及びpHの変化(B)を示したグラフである。
【
図7】マルトースが添加された本発明の培地で培養時間によるアッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の成長曲線(A)及びpHの変化(B)を示したグラフである。
【
図8】フルクトースが添加された本発明の培地で高純度窒素ガスのみを用いて培養したとき、培養時間によるアッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の成長曲線(A)及びpHの変化(B)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照し、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明において、用語の「培地(media)」または「培養培地(culture media)」とは、微生物の成長または増殖に必要なすべての栄養素及び必須物理的成長パラメータを含有する固体、半固体または液体培地を意味する。
【0024】
本明細書に使用される場合、微生物の「培養」または「成長」という用語は、微生物有機体をその成長に役立つ条件下で所定の培養培地中で繁殖させることにより、これを増大させることを意味する。
【0025】
本発明において培地の「サプリメント」とは、望む嫌気性微生物の成長、増殖または他の特徴を促進するために選ばれた構成成分から構成される添加物を意味する。
【0026】
本明細書に使用される場合、用語の「嫌気性微生物」とは、酸素に敏感で、酸素の存在下で成長しない微生物を意味する。嫌気性微生物は、絶対(strict or obligate)嫌気性微生物及び通性(facultative)嫌気性微生物を含んでもよい。
【0027】
本願で使用される場合、用語の「含む」及びその変形は、これらの用語が説明及び請求範囲に示される場合、制限的な意味を持たない。また、本明細書において、終点(endpoint)による数値範囲の言及は、その範囲内に含まれるすべての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5などを含む)。
【0028】
本発明の一態様は、N-アセチルヘキソサミン、L-アスパラギン酸、L-システイン及びコバラミンを含む嫌気性微生物の高収率培養用培地サプリメントに関する。前記培地サプリメントは、N-アセチルヘキソサミン5g/L、L-アスパラギン酸8g/L、L-システイン0.5g/L及びコバラミン0.0001g~0.005g/Lを含んでもよい。
【0029】
本発明の培地サプリメントは、主に嫌気性微生物の培養に使用されるが、このような嫌気性微生物は、ヒトの腸内絶対-嫌気性微生物(gastrointestinal strict-anaerobic microorganism)である。
【0030】
これらの嫌気性微生物の例としては、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、ブチリシコッカス・プリセコルム(Butyricicoccus pullicaecorum)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia inulinivorans)、ロゼブリア・ホミニス(Roseburia hominis)、またはビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)が挙げられるが、必ずしもこれらに制限されるものではない。
【0031】
本発明の嫌気性微生物の高収率培養用培地サプリメントは、N-アセチルヘキソサミン(N-acetylhexosamines)を含む。N-アセチルヘキソサミン(N-acetylhexosamines)としては、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)またはN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を含んでもよいが、好ましくは、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含む。
図1は、アッカーマンシア・ムシニフィラの炭素代謝過程を示す模式図である。
図1を参照すると、アッカーマンシア・ムシニフィラは、ラクトースをガラクトースとグルコースに変換する酵素であるベータ-ガラクトシダーゼ(β-galactosidase)と、マルトースをグルコースに変換する酵素であるアルファ-グルコシダーゼ(α-glucosidase)を有しているため、ラクトース、マルトース、フルクトースのような炭素原は、すべて該当過程(glycolysis)を経て、高エネルギー分子であるATPを形成するのに使用される。外部から供給されるN-アセチルグルコサミン(Glc-NAc)は、細胞壁合成(peptidoglycan biosynthesis)及びエネルギー代謝に使用され、N-アセチルグルコサミンは、代謝されてアンモニアを生成するが、アンモニアは、細胞質を中和し、窒素源として供給する機能も可能である。N-アセチルグルコサミン(Glc-NAc)の他にN-アセチルガラクトサミン(GaL-NAc)がさらに追加されてもよい。
【0032】
前記N-アセチルヘキソサミンは、約2.5~5g/Lの範囲の量で含まれてもよい。
【0033】
アミノ酸は、細胞培養培地の中で培養された細胞の代謝機能を維持させるのに重要である。嫌気性微生物の高濃度培養時に良好な増殖を持続させるためには、外部タンパク質供給源が必須的である。本発明者らは、様々なアミノ酸のうち、アスパラギン酸とシステインの組み合わせが嫌気性微生物に対するタンパク質供給源ないし窒素源として非常に効果的であることを確認した。アミノ酸としては、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-ヒドロキシプロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、及びL-バリンなどがあり、アッカーマンシア・ムシニフィラが分解できるムチンは、セリン、トレオニン、プロリン及びシステインが豊富なアミノ酸配列の繰り返し構造の特徴を有している。しかし、本発明では、このアミノ酸のうち、アスパラギン酸とシステインの追加でアッカーマンシア・ムシニフィラを高収率で増殖させることができる。アスパラギン酸とシステインは、D-形態及びL-形態で存在してもよい。
【0034】
図2は、アスパラギン酸から様々なアミノ酸の生合成過程を示す模式図である。
図2を参照すると、アスパラギン酸は、トレオニン及びメチオニン生合成の中間体であるホモセリン(homoserine)に変換されてもよく、セリン、プロリンを含む様々なアミノ酸がアスパラギン酸から生合成されてもよい。さらに、アスパラギン酸は、核酸(nucleic acid)、脂肪酸(fatty acid)とグルタチオン(glutathione、一部の細菌において非常に重要な抗酸化剤)の合成に必要なペントースリン酸塩(pentose phosphates)とニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の生成を増加させて酸性ストレスに対する抵抗性を改善させることができる。また、アスパラギン酸からリシン(Lysine)とトレオニン(Threoine)の生合成は、いくつかの菌種の増殖に役立ち、アスパラギン酸の摂取により腸内ミクロビオータの多様性が増加することもある。
【0035】
本発明の培地サプリメントの組成物は、アスパラギン酸とシステインをそれぞれ例えば、約4~8g/Lと約0.5~1g/Lの範囲の量で含んでもよい。
【0036】
本発明の培地サプリメントは、コバラミン(cobalamin)、すなわちビタミンB12を含む。コバラミンは、補助因子として細胞によって使用される。培養培地にムチンが含まれない場合、嫌気性微生物が高密度に成長するためには、相当量のコバラミンを必要とする。コバラミンはコバラミンと同等の化合物を含んでもよい。例えば、コバラミンとしては、シアノコバラミン、メチルコバラミン、アデノシルコバラミン(adenosyl cobalamin)、ヒドロキシルコバラミン(hydroxyl cobalamin)及び他の機能的に同等の化合物を含んでもよい。本発明の培養培地サプリメントは、コバラミンを約0.0001~0.005g/Lの範囲の量で含んでもよい。
【0037】
ビタミンとしては、ビオチン、コリンクロリド、葉酸、ミオイノシトール、ニアシンアミド、ピリドキシンHCl、D-パントテン酸(hemiCa)、リボフラビン、チアミンHClなどもあるが、コバラミンを培地に添加する場合に嫌気性微生物の相対的な豊富度を増加させ、他のビタミンを追加してもコバラミンを単独で添加した場合と効果上大きな差がない。アッカーマンシア・ムシニフィラの誘電体分析において、ATCC BAA-835菌株とEB-AMDK19菌株を含むほとんどの菌株は、ビタミンB群(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9)の生合成(biosynthesis)に関連した遺伝子は、確認されたが、ビタミンB12の生合成関連遺伝子は有していないことが分かった。また、アッカーマンシア・ムシニフィラにおけるコバラミンは、スクシネートからプロピオネートの合成に重要な助酵素として作用しうる。
【0038】
本発明の他の態様は、本発明の培地サプリメントを含む嫌気性微生物の高収率培養のための培地組成物に関する。
【0039】
本発明の嫌気性微生物の高収率培養のための培地組成物を準備するための基礎培地としては、大量培養による産業的生産を目的とする場合には、液体培地が好ましいが、植物ペプトン、酵母エキス、リン酸水素二カリウムを含む培地であってもよい。
【0040】
本発明の嫌気性微生物高収率培養用培地組成物は、植物ペプトン、酵母エキス、リン酸水素二カリウムを含む培地を基礎にし、炭素源としてフルクトース及びラクトースを含み、サプリメントとしてN-アセチルヘキソサミン、L-アスパラギン酸とL-システインのアミノ酸混合物及びコバラミンを含む。
【0041】
本発明の培地組成物は、嫌気性微生物、具体的には絶対-嫌気性微生物の培養に適する。絶対-嫌気性微生物の非限定的な例としては、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、ブチリシコッカス・プリセコルム(Butyricicoccus pullicaecorum)、ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia inulinivorans)、ロゼブリア・ホミニス(Roseburia hominis)、またはビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)が含まれてもよいが、必ずしもこれらに制限されるものではない。本発明の培地組成物は、特にアッカーマンシア属、具体的にアッカーマンシア・ムシニフィラを産業的規模で高収率で培養するのに適する。
【0042】
本発明の嫌気性微生物高収率培養用培地組成物は、植物ペプトン20g/L、酵母エキス10g/L、リン酸水素二カリウム2.5g/L、フルクトース2.5g/L、ラクトース2.5g/L、N-アセチルヘキソサミン5g/L、L-アスパラギン酸8g/L、L-システイン0.5g/L、及びコバラミン0.0001~0.005g/Lを含んでもよい。
【0043】
本発明の嫌気性微生物高収率培養用培地は、植物ペプトンを含んでもよい。植物ペプトンは、植物タンパク質加水分解物(hydrolysate)である。これは、任意の植物から由来したものであってもよい。前記植物ペプトンは、例えば、大豆ペプトン(soy peptone)、小麦ペプトン(wheat peptone)、綿ペプトン(cotton peptone)、エンドウペプトン(pea peptone)、ソラマメペプトン(broadbean peptone)、ルピンペプトン(lupin peptone)、及びジャガイモペプトン(potato peptone)から構成されたグループから選ばれてもよい。前記植物ペプトンは、例えば、約15~20g/Lの量で含んでもよい。
【0044】
本発明の嫌気性微生物高収率培養用培地は、酵母エキスを含む。酵母エキスを添加する場合、タンパク質供給源の増加が非-動物由来の培地上で嫌気性微生物の増殖をさらに増加させることができる。酵母エキスは、酵母自己溶解物(autolysate)、限外ろ過された酵母エキスまたは合成酵母エキスであってもよい。酵母エキスの濃度は、5g/L~10g/L、例えば、約10g/Lであってもよい。
【0045】
本発明の培地は、フォスフェイト-含有成分、例えば、Na2HPO4、K2HPO4またはKH2PO4をさらに含む。これらの成分は、等張性条件を維持させ、浸透圧の不均衡を防ぐために細胞培養培地に添加される。本発明の培地組成物は、pHを6.5~8.0、好ましくは、6.0~7.0、より好ましくは、約pH6.8±1の範囲に維持させることが好ましい。
【0046】
本発明の嫌気性微生物の高収率培養のための培地組成物は、炭素源及びエネルギー源としてフルクトースとラクトースを含み、選択的にマルトースをさらに含んでもよい。フルクトースまたはマルトースの濃度は、2.5g/L~5.0g/L、例えば、約2.5g/Lであってもよい。
【0047】
炭素源としてグルコースを含んでもよいが、グルコースの添加時に微生物の指数的成長を誘導するが、長く持続されておらず、グルコースがガラクトースとβ(1→4)-グリコシドで結合されているラクトースを分解してグルコースが供給されることができ、代謝経路においてN-アセチルグルコサミンとグルコースは、相互変換が可能なため、グルコースよりはフルクトースとラクトースの組み合わせがより好ましい。
【0048】
本発明において、培養培地は、多数の構成成分を含む、「粉末培地(powdered medium)」、または「濃縮培地(concentrated medium)」であって、一般的に言及された粉末または濃縮物の形態で提供されるか、または液体培地に望む濃度の特定の構成成分を提供するための所定の体積の水と結合されてもよい。このような粉末培地または濃縮培地は、使用前に適切な水、普通の滅菌水に溶解されてもよい。
【0049】
本発明において、培地や培地組成物は、嫌気性微生物を培養するのに適した濃度で構成要素を含む最終培地及び希釈のために適切な粉末または濃縮培地をすべて含む。
【0050】
本発明の培養培地は、嫌気性微生物の培養のために選択的に還元剤を含んでもよい。適切な還元試薬は、培養培地の酸化-還元電位を下げて溶存酸素を除去(oxygen scavanger)することにより、嫌気性微生物の成長を促進させることができる。適切な還元剤としては、例えば、チオグリコール酸ナトリウム、L-システイン、ジチオトレイトール、ルジチオエリトリトール、硫化ナトリウム(Na2S)及びこれらの組み合わせを含むが、必ずしもこれらに制限されるものではない。
【0051】
本発明の一実施例によれば、本発明の培地の嫌気性は、窒素(N2)、水素(H2)、及び二酸化炭素(CO2)が100:0:0~90:5:5の体積比で混合された混合ガスによる培地内の酸素の置換によって組成されてもよい。本発明の一実施例によれば、培地内の気圧は、0.1~0.3気圧であってもよく、好ましくは、0.2気圧(0.02MPa)であってもよい。
【0052】
本発明のさらに他の態様は、以上で説明した本発明の培地組成物に嫌気性微生物を接種して嫌気性条件下で増殖させることを特徴とする嫌気性微生物の高収率培養方法に関する。
【0053】
微生物の培養条件は、通常の技術者によってよく知られているように、微生物の成長速度に影響を及ぼすことができる。本発明において、培養段階は、pH6.6~7.0、培養温度35~39℃、攪拌速度40~50rpm、窒素飽和度80~90%、水素飽和度0~5%、二酸化炭素飽和度5~20%で行ってもよい。
【0054】
本発明において嫌気性微生物の培養は、マイクロプレートリーダーを用いて600nmの波長で測定された光学密度(OD600)によって結晶時、0.6以上の細胞密度を持つまで行われ、このときの平板計数法により測定される生菌数1010CFU/mL以上の細胞密度に到達するように高濃度で培養しうる。
【0055】
嫌気性微生物の高濃度培養のための培養温度は、35~39℃、特に36~38℃が好ましい。培養時、微生物群集懸濁液が接種された組成物を攪拌しうる。例えば、培養器の毎分回転速度(rpm)は、40rpm~50rpmであってもよいが、これに限定されるものではない。培養期間は、嫌気性微生物の生育状態に応じて適宜調整してもよいが、一般的に20~100時間、特に24~48時間程度が適当である。
【0056】
本発明の一実施例によれば、本発明の培地の嫌気性は、窒素(N2)、水素(H2)、及び二酸化炭素(CO2)が90:5:5~80:0:20の体積比で混合された混合ガスによる培地内の酸素の置換によって組成されてもよい。混合ガスによる培地内の酸素の置換は、培地体積1mLを基準に30秒以上行われることが好ましく、最も好ましくは、2分であってもよい。
【0057】
アッカーマンシア・ムシニフィラは、代謝経路でATP合成に水素イオンが使用され、嫌気性条件で水素(H2)がNi-dependent hydrogenaseによる嫌気性呼吸に重要である。したがって、本発明の培地でアッカーマンシア・ムシニフィラEB-AMDK19菌株の高濃度培養のためには、水素が含まれた混合ガスや水に溶けて炭酸と水素イオンを発生できる二酸化炭素が含まれたガスを注入することが必要である。
【0058】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。特に明示されない限り、本実施例に言及されたすべての部及び百分率は、重量基準であり、すべての温度は、摂氏温度で表現される。
【0059】
また、以下の実施例において、嫌気性微生物の濃度(バイオマスの生成量)は、培養期間中に分光光度計を用いて600nmで培養液の光学密度を測定して求めた。ΔODは、初期と48時間(または72時間)培養後の吸光度の差により算出した。
【0060】
実施例
実施例1:培養培地でムチン代替成分組成の最適化
大豆カゼイン消化液体培地(Tryptic Soy Broth、TSB)をベースにムチンに代わる基質及び成分の最適な組み合わせを探索し、このために表1のようにそれぞれの準備された培地に0.1%v/vの割合でアッカーマンシア・ムシニフィラEB-AMDK19(KCTC 13761BP)菌株を接種した後、37℃、嫌気条件(90%N2、5%CO2、5%H2)で24~48時間培養し、光学密度(OD600)の変化を測定し、その結果を下記表1に示した。
【0061】
【0062】
アッカーマンシア・ムシニフィラ菌株は、TSB培地ではほとんど増殖されなかったが、ムチンに代わる成分としてN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)とトレオニンを追加すると、培養が可能であることが分かった。しかし、トレオニンをアスパラギン酸(Aspartate)に代わる場合に、同じ濃度(4g/L)で培養性が改善されることが分かり、最大8g/Lの濃度のアスパラギン酸を添加するまで倍養性が増加した。
【0063】
前記表1から分かるように、TSBに基づいてN-アセチルグルコサミン、ラクトース、アスパラギン酸とビタミンが添加された培地で吸光度の変化量は、0.4水準であり、このときの生菌数は、109CFU/mLと測定され、これと比較してPM培地で吸光度の変化量は、0.1水準であり、このときの生菌数は、108CFU/mLと測定され、10倍以上の差があることが分かった。
【0064】
これはオキサロアセテート/アスパラギン酸アミノ酸系がリシン、アスパラギン、メチオニン、トレオニン及びイソロイシンから構成され、代謝過程においてアスパラギン酸はリシン、アスパラギン、メチオニン及びトレオニンに変換できるためであると考えられる。
【0065】
実施例2:互いに異なる炭素源を有する培地の倍養性の比較
動物由来成分または動物由来酵素が使用されて製造された成分を排除するため、植物ペプトンと酵母エキスに基づいて、本発明の培地サプリメントの嫌気性微生物培養性を試験した。
【0066】
植物ペプトンとして大豆ペプトンと酵母エキスは、それぞれ5、10、15、20g/Lの濃度を互いに組み合わせてテストした結果、20g/Lの濃度の大豆ペプトンと10g/Lの濃度の酵母エキスの組み合わせにおいて培養性が最も優れており、pH調節のためにリン酸水素二カリウムを2.5g/Lの濃度で添加して基礎培地を製造した。
【0067】
嫌気性微生物であるアッカーマンシア・ムシニフィラの培養性に影響を及ぼす炭素源を調査するために窒素源基礎培地に表2に示すように、様々な炭素源を添加し、0.1%v/vの割合でアッカーマンシア・ムシニフィラEB-AMDK19(KCTC 13761BP)菌株を接種した後、37℃、嫌気条件(90%N2、5%CO2、5%H2)で24~48時間培養した後、光学密度(OD600)の変化を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0068】
【0069】
【0070】
前記表3の結果から分かるように、炭素源としてラクトースを基本とし、これにN-アセチルグルコサミンを添加するか、またはN-アセチルグルコサミンとグルコースをともに添加した場合に比べて、フルクトースを添加する場合にアッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の倍養性がはるかに優れていることが分かった。吸光度の変化量(△OD)は、平均0.5~0.6水準であり、生菌数は、約1010CFU/mLと測定され、本発明の場合に生菌数を基準に10~100倍増加されて培養性が著しく向上したことを確認した。また、グルコース2分子がβ(1→4)-グリコシドで結合されているマルトース(Maltose)を添加したときにも、培養性はグルコースを添加したときよりも改善された。
【0071】
実施例3:倍養性の改善に重要なビタミンB群の選別
本実施例では、アッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の培養培地にビタミンB群の添加による倍養性の改善の有無を確認した。嫌気性微生物の増殖に影響を及ぼす特定のビタミンを選別するためにビタミンB群に属するすべてのビタミンをそれぞれ個別に、またはB群複合体(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B10、B12)に対してテストを行った。
【0072】
表4のようにそれぞれの準備された培地に0.1%v/vの割合でアッカーマンシア・ムシニフィラ菌株を接種した後、37℃、嫌気条件(90%N2、5%CO2、5%H2)において24~48時間培養し、光学密度(OD600)の変化を測定し、その結果を下記表4に示した。
【0073】
【0074】
表4から確認できるように、培地にシアノコバラミン(ビタミンB12)が含まれる場合(B12、B2+B6+B9+B12、B1+B2+B3+B5+B6+B7+B9+B12またはB1+B2+B3+B5+B6+B7+B9+B10+B12)にのみ培養性が増加することが分かり、ビタミンB12を単独で添加したものは、ビタミンB群複合体で添加したときに比べて有意な差はなかった。
【0075】
また、コバラミンの最適濃度を見つけるため、コバラミンの濃度を変更するとともに培養した後、光学密度(OD600)の変化を測定し、その結果を下記表5に示した。
【0076】
【0077】
前記表5結果から分かるように、培地に添加されるビタミンB12の最適濃度を確認した結果、0.1mg/L未満の濃度では、培養性が次第に減少することが分かり、0.1mg/Lから5mg/L濃度では、培養性において有意な差がないため、0.1mg/Lでの濃度が最も適すると考えられる。
【0078】
実施例4:培地成分の最適化
嫌気性微生物の高濃度培養に必要な必須構成成分及び最適の組み合わせを探索するため、アッカーマンシア・ムシニフィラ菌株を様々な成分の組み合わせを有する培地に同一条件で培養した後、その結果を下記表6に示した。
【0079】
【0080】
本発明の培地において各成分別培養に及ぼす影響を確認した結果、前記組み合わせにおいて単糖類の窒素含有誘導体であるN-アセチルグルコサミンは、アッカーマンシア・ムシニフィラ培養に最も必須的な成分であると確認されており、N-アセチルグルコサミンと代謝経路の一部を互いに共有している炭素源であるフルクトースとラクトースは、高濃度培養のために必要な成分であることが分かった。主なアミノ酸供給源である大豆ペプトンと、アスパラギン酸、及びシアノコバラミンの組み合わせは、培養性の改善に重要な成分であることが確認された。
【0081】
マルトースは、グルコースやフルクトースを代替可能であり、培養初期の増殖速度は、フルクトースやグルコースに比べて早い方であり、培養性においても大きな差を示さなかった。しかし、現在マルトースは、フルクトースやグルコースに比べて多少高価であるため、産業用培地としてはフルクトースが最も適すると考えられる。結論的に、表6から分かるように、本発明の培地のすべての構成成分は、アッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の高濃度培養のために必要であり、すべての成分が組み合わせたときに培養性が最も優れていることが確認された。
【0082】
実施例5:本発明の培地において様々なアッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の培養性確認
前記表2に記載された培地を用いて、培養菌株の種類を下記表7に記載されたように、異にしたことを除いては、実施例1と同様に行って0.1%v/vの割合でアッカーマンシア・ムシニフィラ菌株を接種した後、37℃、嫌気条件(90%N2、5%CO2、5%H2)で24~48時間培養し、光学密度(OD600)の変化を測定し、その結果を下記表7に示した。
【0083】
【0084】
前記表7の結果から確認されるように、本発明の培地を用いて、アッカーマンシア・ムシニフィラ標準菌株(ATCC BAA-835T)及び互いに異なるアッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の培養性を確認した結果、すべてのアッカーマンシア・ムシニフィラ菌株において類似した培養水準を示し、したがって、すべてのアッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の高濃度培養培地に活用可能であることが確認できる。
【0085】
実施例6:様々な難培養性絶対嫌気性微生物の倍養性比較
培養菌株の種類を下記表8に記載されたように、異にしたことを除いては、実施例1と同様に行って0.1%v/vの割合でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)またはビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)菌株を接種した後、37℃、嫌気条件(90%N2、5%CO2、5%H2)で24~48時間培養し、光学密度(OD600)の変化を測定し、その結果を下記表8に示した。対照のために培養性が優れていることが知られている対照培地でも培養し、本発明の培地における培養性と比較した。対照培地としてF.Prausnitziiは、脳心臓浸出培地(Brain Heart Infusion、BHI)に5g/L酵母エキス、1g/Lセロビオース及び1g/Lマルトースを補充した培地で同じ条件で培養した。A.caccaeは、TSB培地に5g/L酵母エキスを補充した培地で培養し、B.longumは、BLブロス培地で培養した。
【0086】
【0087】
前記表8の結果から確認されるように、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)のような難培養性絶対嫌気性微生物及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の培養の可能性を行った結果、培養性が優れていることが知られている対照培地と比較し、本発明の培地が培養性がさらに優れていることを確認した。
【0088】
実施例7:大量培養のための工程条件最適化-培養条件別倍養性比較分析
図4に示すような嫌気性発酵システムを用いて、3L-スケールにおいて表2の培地で炭素源の種類を変更した培地を使用して下記表9の条件で培養を行っており、アッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の成長曲線(growth curve)及びpHの変化を確認した。また、顕微鏡観察による菌数の変化と形態学的変化を確認して
図5に示し、平板計数法(plate count method)を用いて生菌数を測定し、表10に示した。
【0089】
【0090】
【0091】
本発明の培地を用いて嫌気性発酵システムにおいて、アッカーマンシア・ムシニフィラEB-AMDK19菌株を培養した結果、指数増殖期は、接種後5~25時間であることが分かり、pHの変化も9~18.5時間に急激に発生したことが確認された。24時間培養を基準に光学密度(OD
600)は、0.798水準であることが分かり、このときの生菌数は、5.5x10
10CFU/mLと測定された(
図6及び表10参照)。
【0092】
本発明の培地においてフルクトースをマルトースに置き換えたとき、指数増殖期は、接種後3.5~21時間であることが分かり、pHの変化も7~14時間に急激に発生していることが確認された。フルクトースを用いて培養した結果と比較すると、マルトースが含まれた本発明の培地では、誘導期が1.5時間短くなる特徴を示し、24時間培養を基準に吸光度は0.632水準となり、多少低くなったが、このときの生菌数は、5.1x10
10CFU/mLと大きな差はなかった(
図7及び表9参照)。
フルクトースが含まれた本発明の培地で混合ガス(90%N
2、5%CO
2、5%H
2)の代わりに、より経済的で工業化に適した水素を含まないガス{高純度窒素ガス(100%N
2)または80%N
2と20%CO
2から構成された混合ガス}を用いて培養した結果、高純度窒素ガスの場合、既存の培養結果と比較して培養性が著しく劣ることが分かるが、80%N
2と20%CO
2から構成されたガスでは、培養性において大きな差はなかった(
図8及び表10参照)。
【0093】
また、前記表10から分かるように、本発明の培地においてすべての構成成分は、アッカーマンシア・ムシニフィラ菌株の高濃度培養のために必要であり、さらに水素や二酸化炭素を含む混合ガスの注入が必要であることが確認された。
【手続補正書】
【提出日】2021-09-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ペプトン、酵母エキス、リン酸水素二カリウムを含む培地組成物であって、炭素源としてフルクトースとラクトースを含み、サプリメントとしてN-アセチルヘキソサミン、L-アスパラギン酸とL-システインのアミノ酸混合物及びコバラミンを含
み、
前記嫌気性微生物は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、またはビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)であることを特徴とする嫌気性微生物
の培養用培地組成物。
【請求項2】
前記培地組成物は、植物ペプトン20g/L、酵母エキス10g/L、リン酸水素二カリウム2.5g/L、フルクトース2.5g/L、ラクトース2.5g/L、N-アセチルヘキソサミン5g/L、L-アスパラギン酸8g/L、L-システイン0.5g/L、及びコバラミン0.0001~0.005g/Lを含有することを特徴とする、請求項
1に記載の難培養性嫌気性微生物
の培養用培地組成物。
【請求項3】
前記植物ペプトンは、大豆ペプトン(soy peptone)、小麦ペプトン(wheat peptone)、綿ペプトン(cotton peptone)、エンドウペプトン(pea peptone)、ソラマメペプトン(broadbean peptone)、ルピンペプトン(lupin peptone)、及びジャガイモペプトン(potato peptone)から構成されたグループから選ばれることを特徴とする、請求項
1に記載の難培養性嫌気性微生物
の培養用培地組成物。
【請求項4】
前記培地組成物は、炭素源としてフルクトースの代わりにマルトースを含むか、またはフルクトースに加えてマルトースをさらに含むことを特徴とする、請求項
1に記載の難培養性嫌気性微生物
の培養用培地組成物。
【請求項5】
請求項
1~請求項
4のいずれか一項に記載の培地組成物に嫌気性微生物を接種し、嫌気性条件下で増殖させることを特徴とする、難培養性嫌気性微生物
の培養方法。
【請求項6】
前記培養段階は、pH 6.6~7.0、培養温度35~39℃、攪拌速度40~50rpm、窒素飽和度80~90%、二酸化炭素飽和度5~20%及び水素飽和度0~5%で行うことを特徴とする、請求項
5に記載の難培養性嫌気性微生物
の培養方法。
【請求項7】
培養された嫌気性微生物が平板計数法によって測定される生菌数10
10CFU/mL以上の細胞密度に到達することを特徴とする、請求項
5に記載の難培養性嫌気性微生物
の培養方法。
【国際調査報告】