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特表2022-550498フッ素化脂肪族炭化水素系安定性アニオン交換膜及びその製造方法
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  • 特表-フッ素化脂肪族炭化水素系安定性アニオン交換膜及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-02
(54)【発明の名称】フッ素化脂肪族炭化水素系安定性アニオン交換膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/22 20060101AFI20221125BHJP
   C08F 226/06 20060101ALI20221125BHJP
   C08L 39/04 20060101ALI20221125BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C08J5/22 106
C08J5/22 CER
C08J5/22 CEW
C08F226/06
C08L39/04
C08L27/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577293
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(85)【翻訳文提出日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 IN2020050552
(87)【国際公開番号】W WO2020261295
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】201911025144
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】508176500
【氏名又は名称】カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
(71)【出願人】
【識別番号】518383149
【氏名又は名称】オーエヌジーシー・エナジー・センター
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】シュクラ ギータンジャリ
(72)【発明者】
【氏名】ブシャン マニ
(72)【発明者】
【氏名】クマール ソヌ
(72)【発明者】
【氏名】ダス アリンダム クマール
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ プレラナ
(72)【発明者】
【氏名】シン アヌジ クマール
(72)【発明者】
【氏名】シャヒ ヴィノド クマール
(72)【発明者】
【氏名】バルガヴァ バラット
(72)【発明者】
【氏名】パルヴァタル ダマラジュ
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA26X
4F071AA35X
4F071AA37X
4F071AF02Y
4F071AF03Y
4F071AF10Y
4F071AG01
4F071AG02
4F071AG09
4F071AG23
4F071AG34
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4F071FA01
4F071FA10
4F071FB02
4F071FB06
4F071FB07
4F071FC01
4F071FD02
4J002BD14X
4J002BG13W
4J002BJ00W
4J002GA00
4J002GB01
4J002GE00
4J002GK00
4J002GL00
4J100AM17Q
4J100AQ19P
4J100BC73P
4J100CA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100JA24
4J100JA43
4J100JA51
4J100JA59
4J100JA64
4J100JA67
(57)【要約】
アニオン交換膜は、電気透析(水の脱塩、有機分子からの無機物分離、特定の無機イオンの分離など)、in situイオン交換及びイオン置換、電気脱イオンによる超純水の生成、アルカリ燃料電池や電解用途向けのポリマー電解質膜といった電気膜法にとって有用である。本発明は耐酸性及び耐塩基性フッ素化炭化水素系アニオン交換膜及びその作製方法に関する。第1の工程で、N-イソプロピルアクリルアミドと1-ビニルイミダゾール間で共重合を行う。第2の工程で、得られたイソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾール-co-ポリマーのインターポリマーをポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-co-HFP)(IA-co-VI/PVDF-co-HFP)と混合し、これを用いて所望の厚さのメンブレン膜をキャストする。キャストで得られた薄膜メンブレンをヨウ化メチル溶液中で四級化する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1の繰返し単位を有する均質なアニオン交換膜。
【化1】
式1
【請求項2】
前記膜のイオン交換容量が、1.00~1.70meq/gである、請求項1に記載のアニオン交換膜。
【請求項3】
前記膜の伝導度が、3.0~6.0×10-2S cm-1である、請求項1に記載のアニオン交換膜。
【請求項4】
60~65℃の温水で24~36時間処理後に5~10%の膨潤率を示す、請求項1に記載のアニオン交換膜。
【請求項5】
膜質量、イオン交換容量、及び伝導度の損失が、アルカリ性環境又は攻撃的な酸化環境下で4%未満である、請求項1に記載のアニオン交換膜。
【請求項6】
前記アルカリ性環境が、60~65℃で120~150時間における2.0MのNaOHにより実現され、かつ前記攻撃的な酸化環境が、70℃で1~3時間における3ppm+3%のH22により実現される、請求項5に記載のアニオン交換膜。
【請求項7】
請求項1に記載のアニオン交換膜の製造方法であって、
(1)1-ビニルイミダゾールとN-イソプロピルアクリルアミドとを、容器中のジメチルアセトアミドに一定の撹拌及び窒素環境下で25~30℃で添加して溶液を得る工程;
(2)工程(1)で得られた前記溶液に、撹拌下、90~95℃、24時間でラジカル開始剤アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を投入して、イソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾール(IA-co-VI)コポリマー溶液を得る工程;
(3)ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)[PVDF-co-HFP]とジメチルアセトアミド(DMAc)とを1:5(w/v)の比率で14時間混合して溶液を得る工程;
(4)工程(2)と(3)とで得られた2つの溶液を、撹拌下、75~95℃で12時間混合して、膜形成ポリマー溶液を得る工程;
(5)工程(4)で得られた前記溶液で薄膜メンブレンをキャストした後、真空オーブン下で60~80℃で24~30時間乾燥させて、膜を得る工程;
(6)工程(5)で得られた前記膜を、10質量%のヨウ化メチル溶液に24~30時間、30~40℃で浸して四級化し、第四級アンモニウム基を膜マトリクスに導入する工程;
(7)工程(6)で得られた前記膜マトリクスを洗浄した後に、水酸化ナトリウム溶液に浸漬して水酸化物形態に変換し、請求項1に記載のアニオン交換膜を得る工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記工程(1)において、N-イソプロピルアクリルアミドと1-ビニルイミダゾールとの質量比が、2:0.5~2:1.5である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ジメチルアセトアミドを前記イソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマーと1:10(w/v)の比率で混合する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
イソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾール(IA-co-VI)コポリマーとPVDF-co-HFPコポリマーとの前記比率が、1.0~1.5:0.5~0.7(w/w)である、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐酸性及び耐塩基性フッ素化炭化水素系アニオン交換膜に関する。具体的には、本発明は耐酸性及び耐塩基性フッ素化炭化水素系アニオン交換膜の作製方法に関する。より具体的には、本発明は、分離器として膜(メンブレン)を使用する様々な用途、即ち、電気透析、燃料電池、及びその他の電気化学的工程において良好な安定性と性能を示すアニオン交換膜に関する。
【背景技術】
【0002】
アニオン交換膜は、ポリマー骨格に直接付着する-NR3+、-PR3+、-SR2+などの固定された正帯電塩基性官能基を含む。アニオン交換膜は、電気透析によるin situイオン交換及びイオン置換(水の脱塩、有機分子からの無機物分離、特定の無機イオンの分離など)、電気脱イオンによる超純水の生成、アルカリ燃料電池や電解用途向けのポリマー電解質膜など多様な電気膜法に必須の構成要素である。様々な電気化学用途に対するアニオン交換膜の適合性の評価では、(熱、機械的、化学的)安定性は主要パラメータとみなされている。一般に、イオン交換膜の物理化学的及び電気化学的特性にとって、膜マトリクスに存在する親水性ドメインと疎水性ドメインの比率が整っていることが重要となる。更にイオン交換膜は、様々な実用向けに以下の特性を有する必要がある。
・高選択透過性:イオン交換膜が、対イオンに対しては高い透過性があるが、共イオンに対しては不透過性であること。
・低電気抵抗性:電位勾配の駆動力下で対イオンに対するイオン交換膜の透過性ができるだけ高いこと。
・良好な機械的安定性と形状安定性:膜は機械的強度が高く、且つ希釈イオン溶液から濃縮イオン溶液への移行で膨張又は収縮する度合いが小さいこと。
・高化学的安定性:作製した膜がフェントン試薬に安定であること。これは、激しい酸化条件下で安定であることを示唆する。更に、作製したアニオン交換膜は、激しいアルカリ(NaOH/KOH)環境下で良好な安定性を示す。
電気透析法では、アニオン交換膜はアニオンの分離に使用され、物質移動がないため(高密度)、製品の品質向上に加え、工程効率も向上する。電気分解では、アニオン交換膜は電極(アノードとカソード)間に配置されるため、膜は電極室の環境に直面することになり、特にアノード室はフリーラジカルの生成により酸化的性質となる。
【0003】
参照し得る論文Reactive&Functional Polymers,46:39-47(2000)では、スチレンとジビニルベンゼンを共重合し、クロロメチル化によりアニオン交換基をポリマーに導入した後、トリアミンを用いたアミノ化を行って市販のアニオン交換膜が作製されている。スチレン-ジビニルベンゼンコポリマーの成形では十分な機械的強度を持たせるのが容易でないため、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンなどが結合剤マトリクスとして使用された。更に、クロロメチルエーテル(発がん性化学物質)などの毒性化学物質が使用されているため、報告された方法論は限定される。参照し得る論文Journal of membrane Science,37:1773-1785(1999);493:373-381(2015)では、過酸化ベンゾイルを開始剤として使用し、クロロメチルスチレン又はビニルピリジンとジビニルベンゼンを共重合して好結果のアニオン交換膜を作製している。参照し得る論文Journal of membrane Science,279:192-199(2006)では、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)(PPO)のブロム化に続くアミノ化による、新規の一連のアニオン交換膜も報告されている。参照し得る論文Polymer,40:7243-7249(1999)では、4-ビニルピリジンをジビニルベンゼンと共重合させてアニオン交換膜を合成する別の試みがなされた。参照し得る米国特許第5936004号明細書は、1,4-ジアザビシクロ(diazobicyclo)-(2,2,2)-オクタンの存在下におけるエピクロロヒドリンとポリアクリロニトリルのブレンド膜を開示している。参照し得る論文J.Phy.Chem.B:114,198-206(2010)では、電気透析において架橋ポリ(ビニルアルコール)-ポリ(アクリロニトリル-co-メタクリル酸2-ジメチルアミノエチル)系アニオン交換膜も優れた性能を示している。参照し得る論文Ind.Eng.Chem.Res.:55,7171-7178(2016)では、フッ化ポリビニリデン(PVDF)を作製する試みがなされ、イオン交換容量(IEC)、吸水率(WR)、熱安定性、機械的性性、及び面積抵抗などの膜特性を改善したポリエピクロロヒドリン(PECH)及び1,4ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン系複合アニオン交換膜の電気透析における適用性が評価された。参照し得る論文Ind.Eng.Chem.Res.:55,9064-9076(2016)では、伝導度を改善したアニオン交換膜も、キトサン、第四級アンモニウム基を含む四級化ポリマー球を用いて作製された。参照し得る論文Desalination:444,35-43(2018)では、PVDF-g-ポリ(スチレン-co-ビニルベンジルクロリド)をベースとしたアニオン交換膜も、電気透析において良好な性能を示すことが報告された。参照し得る論文Desalination:362,59-67(2015)では、ポリアニリン(PANI)/フッ化ポリビニリデン(PVDF)系アニオン交換膜も報告された。
【0004】
しかしながら、これらのアニオン交換膜は強力な酸性/アルカリ性溶液中で不安定であり、望ましくないイオンを前処理工程で除去してから電気透析を行う必要がある。そのため、優れた化学的、機械的、及び熱安定性を備え、有害化学物質を使用していないアニオン交換膜を作製するための簡単な合成法が早急に必要とされている。参照し得る米国特許第9692072号明細書では、アルカリアタックに耐性を示す第四級アンモニウム基を含有するアニオン交換膜がアルカリ燃料電池用途として報告されている。参照し得る米国特許第9620802号明細書では、アニオン交換膜を含み、その膜表面に触媒層が配置された燃料電池膜電極接合体が検討されている。参照し得る米国特許第9263757号明細書では、3種類の第四級ホスホニウム官能基で官能基化させたポリスルホンなど、良好な水酸化物イオン伝導度と機械的安定性を備えたポリマーを形成する膜の一群が報告された。参照し得る米国特許第7649025号明細書は、多孔性支持膜に塗布したアニオン交換樹脂及び芳香族ポリエーテル及び結合剤としてのその誘導体からなる、耐膨潤性が高く機械的特性に優れた不均質な複合アニオン交換膜を開示している。参照し得る米国特許出願公開第0105173号明細書では、25~90質量%のアニオン交換官能基含有ポリマー及び5~25質量%の非官能性ポリマー(ポリマー結合剤)を含む架橋アニオン交換が検討されている。参照し得る米国特許第005679482号明細書では、燃料電池のイオン交換膜が、ポリマー骨格に共有結合したイオン伝導基によって作製され、これはイオン伝導チャネルの大部分をアノードからカソードに、又はその逆に移動させるのに役立ち、イオン交換膜の帯電性に依存する。参照し得る米国特許第9476132号明細書では、CuCl/HCl電解法による水素製造用に、イオン交換膜で分離した2室電気化学セルが開示されている。参照し得る米国特許第9745432号明細書では、電気透析による水の脱塩用にアニオン交換膜が開示されている。このアニオン交換膜は、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(2-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(PDMA)、ポリアクリル酸n-ブチル(PnBA)、及びヨウ化メチルを用いて作製された。作製された膜は良好な特性を示し、水の脱塩に好適と評価された。参照し得る米国特許第9700850号明細書では、イオン交換性ポリマーと、ポリマー間に連結された無機粒子(グラフェン又は酸化グラフェン)とを含む電気化学用途向けのイオン交換膜が報告された。参照し得る米国特許第9233345号明細書は、燃料電池、水電解装置、又は水ろ過システム用のアニオン交換膜を開示している。アニオン交換膜の構造形態は、疎水性のポリスルホン骨格と共グラフト化ポリ(エチレングリコール)とアニオン伝導性第四級アンモニウム基をベースとしていた。参照し得る米国特許第9350036号明細書では、多用途向けの複合アニオン交換膜を設計するために、紡糸技術とポリマー溶液の混合物(荷電ポリマーのナフィオンと非荷電ポリマーのポリエーテルスルホン)が用いられた。参照し得る米国特許出願公開第20040242708号明細書では、フルオロポリマーをベースとするイオン交換膜が、フッ化炭素樹脂を用いて溶融加工で作製され、良好な機械的安定性と貯蔵弾性率を実現した。参照し得る米国特許第7544278号明細書では、電気透析による水の脱塩のために、織布支持体(好ましくはPVC)上でモノマー、ポリマー、又はコポリマーをin situ重合することによって、不均質のアニオン交換膜を作製した。
【0005】
発明の目的
本発明の主な目的は、耐酸性及び耐塩基性フッ素化炭化水素系アニオン交換膜を提供することである。本発明のもう1つの目的は、耐酸性及び耐塩基性フッ素化炭化水素系アニオン交換膜の作製方法を提供することである。本発明の更に別の目的は、様々な用途、即ち、膜を分離器として使用する電気透析、燃料電池、及びその他の電気化学的工程で良好な安定性と性能を示すアニオン交換膜を提供することである。
【発明の概要】
【0006】
従って本発明は、式1の繰返し単位を有する均質なアニオン交換膜を提供する。
【化1】
式1
【0007】
本発明の一実施形態では、膜のイオン交換容量は1.00~1.70meq/gである。本発明の別の実施形態では、膜の伝導度は3.0~6.0×10-2S cm-1である。本発明の更に別の実施形態では、膜は60~65℃の温水で24~36時間処理後に5~10%の膨潤率を示す。本発明の更に別の実施形態では、膜質量、イオン交換容量、及び伝導度の損失が、アルカリ性環境又は攻撃的な酸化環境下で4%未満である。本発明の更に別の実施形態では、アルカリ性環境は、2.0MのNaOHを用いて60~65℃で120~150時間で実現し、攻撃的な酸化環境は、3ppm+3%のH22を用いて70℃で1~3時間で実現する。
【0008】
更に別の実施形態では、本発明は以下の工程を含むアニオン交換膜の作製方法を提供する。
i.1-ビニルイミダゾールとN-イソプロピルアクリルアミドとを、容器中のジメチルアセトアミドに一定の撹拌及び窒素環境下で25~30℃で添加して溶液を得る工程;
ii.工程(i)で得た溶液に、攪拌下、90~95℃、24時間ラジカル開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を投入して、イソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾール(IA-co-VI)コポリマー溶液を得る工程;
iii.ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)[PVDF-co-HFP]とジメチルアセトアミド(DMAc)とを1:5(w/v)の比率で14時間混合して溶液を得る工程;
iv.工程(ii)と(iii)とで得られた2つの溶液を、撹拌下、75~95℃で12時間混合して、膜形成ポリマー溶液を得る工程;
v.工程(iv)で得られた溶液で薄膜メンブレンをキャストした後、真空オーブン下で60~80℃で24~30時間乾燥させて、膜を得る工程;
vi.工程(v)で得られた膜を、10質量%のヨウ化メチル溶液に、24~30時間30~40℃で浸して四級化し、第四級アンモニウム基を膜マトリクスに導入する工程;
vii.工程(vi)で得られた膜マトリクスを洗浄した後に、水酸化ナトリウム溶液に浸漬して水酸化物形態に変換し、アニオン交換膜を得る工程。
【0009】
本発明の更に別の実施形態では、N-イソプロピルアクリルアミドと1-ビニルイミダゾールの質量比は2:0.5~2:1.5である。本発明の更に別の実施形態では、ジメチルアセトアミドはイソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマーと1:10(w/v)の比率で混合する。本発明の更に別の実施形態では、イソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾール(IA-co-VI)コポリマーとPVDF-co-HFPコポリマーの比率は1.0~1.5:0.5~0.7(w/w)である。本発明の更に別の実施形態では、アニオン交換膜のアニオン交換容量は1.26meq/gである。本発明の更に別の実施形態では、アニオン交換膜は3.66×10-2S cm-1の水酸化物イオン伝導度を示した。本発明の更に別の実施形態では、アニオン交換膜は約8~10%の膨潤率を示した(60℃の温水で24時間処理)。本発明の更に別の実施形態では、アニオン交換膜は、攻撃的な酸化環境下(3ppmのFeSO4+3%のH22、70℃で3時間)で処理した後の質量、イオン交換容量、及び伝導度の損失が約5%という良好な酸化安定性を示した。本発明の更に別の実施形態では、アニオン交換膜は、β水素が存在しないため良好なアルカリ安定性(2.0MのNaOH中、60℃で5日間)を示し、立体障害により求核置換反応が低下した。本発明の更に別の実施形態では、アニオン交換膜の官能基の電荷密度は、膜形成材料におけるコポリマー溶液の質量比によって制御できる。本発明の更に別の実施形態では、イソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマーとポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-co-HFP)の共重合によって、H結合により相分離を伴わない均質な緻密膜が形成された。本発明の更に別の実施形態では、開始剤(AIBN)の存在下で、フリーラジカル重合によって、ビニルイミダゾール-co-イソプロピルアクリルアミドコポリマーが作製された。本発明の更に別の実施形態では、イソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマーは、第四級アミン基をうまく付着させる活性部位をもたらす。本発明の更に別の実施形態では、任意のアニオン交換官能基(ホスホニウムやスルホニウムなど)にイソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマーをグラフト化して、良好な伝導度を実現し得る。
【0010】
本発明の更に別の実施形態では、イソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマーの化学構造は式2と類似している。
【化2】
式2
本発明の更に別の実施形態では、式3に類似の化学構造を有するポリマー(PVDF-co-HFP)は高度に安定したフッ素化ポリマー骨格を持つことから、アニオン交換膜に安定性をもたらす。
【化3】
式3
【0011】
本発明の更に別の実施形態では、官能基の電荷密度が高いアニオン交換膜は、フッ素化ポリマーをグラフト化した官能(第四級アンモニウム又はホスホニウム)基により電気透析時にセル電圧が低下し、電流効率が向上した。本発明の更に別の実施形態では、官能基の電荷密度が高いアニオン交換膜は、フッ素化ポリマーをグラフト化した官能(第四級アンモニウム又はホスホニウム)基により燃料電池適用時に電流効率が向上し、続いて出力密度が向上した。本発明の更に別の実施形態では、本発明によるアニオン交換膜は、電解によって水素を製造するCu-Clサイクル時に高い効率を示した。本発明の更に別の実施形態では、アニオン交換膜は、電気透析、燃料電池、又はCu-Clサイクル、及びその他の電気膜適用時に、高い効率性に続いて優れた安定性(熱及び酸)を示した。従って、本発明のアニオン交換膜の産業的意義は極めて大きい。本発明の更に別の実施形態では、官能基の電荷密度が高いアニオン交換膜はアルカリ安定性が向上しており、これは燃料電池用途として望ましい条件である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】安定したアニオン交換膜を作製するための反応スキームの図である。
図2】汽水の脱塩にアニオン交換膜を使用する電気透析法を表したものである。
図3】中塩化銅(I)溶液及びCuCl2の変換、並びに水素ガスの変換のためのアニオン交換膜電解セルを表しており、1がアノード、2がカソード、3及び4が多孔質カーボン紙、5がアニオン交換膜、6が塩酸溶液、7が塩酸中塩化銅(I)溶液、8がカソード室出口、9がアノード室出口である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、フッ素化脂肪族炭化水素系耐アルカリ性アニオン交換膜、その作製方法、及びそれに続く様々な電気化学的工程における適用を開示する。本発明は、水から無機塩分を分離する電気透析、エネルギー装置のアルカリ燃料電池、膜電解などの電気化学用途向けのポリマーアニオン交換膜の開発に関する。本発明のアニオン交換膜は、良好な熱及び化学的安定性(酸化及びアルカリ)、優れた水酸化物伝導度、選択透過性、電流効率、電流密度、出力密度、及び吸水率やイオン交換容量などその他の物理化学的特性を示した。こうした特性は、様々な媒体での多様な電気膜用途において、作製したアニオン交換膜が高い性能を発揮するために必要な条件である。報告したアニオン交換膜の製造に用いられる方法は非常に簡単で、市販のアニオン交換膜と比べて安価である。部品となるアニオン交換膜が安価であると、これらのイオン交換膜を使用する方法の経済全体に寄与する。本発明は、報告した膜を様々な電気膜の用途に使用することも含む。
【0014】
本発明ではアニオン交換膜の作製のために選択される合成法は以下の工程を含む。
i.DMAc溶媒中でAIBN開始剤の存在下でフリーラジカル重合によるイソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマーの作製;
ii.PVDF-co-HFPの溶液調製(既知の質量%);
iii.DMAc中で一定の撹拌を行って水素結合を起こすことによるイソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマーとPVDF-co-HFPのインターポリマーの作製;
iv.薄膜メンブレンのキャスト、乾燥、及びヨウ化メチル溶液を用いた四級化。
更に、四級化の程度、すなわち膜マトリクスに存在する第四級アンモニウム基の総数の割合は、1-ビニルイミダゾールのモル比及びヨウ化メチルの量を調節することによって制御できる。このような官能基化/四級化の程度の調節は吸水率又は膨潤率低下の調節に役立ち、引いては、あらゆる電気化学用途にとって必要又は非常に好ましい状態であるバランスの伝導度が得られる。また報告した方策は、コポリマーとポリマー鎖の間に強力な水素結合の相互作用があるため、均質な膜形成に役立つ。更に本発明は、他のアニオン交換膜の作製方法と比べて有害な材料を使用しないよう試みており、アニオン交換膜を作製する環境に優しい方法である。また本発明のアニオン交換膜の製造は極めて安価であり、多種多様な分野で数多くの用途にとって理想的な候補となる。
【0015】
本発明では、塩基、酸化、又はアルカリ安定性の高いアニオン交換膜を、DMAc中でイソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマー及びPVDF-co-HFP溶液を用いて作製した。作製した薄膜メンブレンは図1に従ってヨウ化メチルを用いて四級化し、アニオン交換膜を作製した。
i.既知容量の1-ビニルイミダゾールとN-イソプロピルアクリルアミドを、容器中の既知量のジメチルアセトアミドに一定の撹拌及び窒素環境下で30℃で添加した;
ii.工程(i)で得た溶液に、ラジカル開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を90℃で投入し、24時間激しく撹拌した;
iii.ジメチルアセトアミド(既知の質量%)中でポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)[PVDF-co-HFP]の溶液を調製した;
iv.工程(ii)と(iii)で得た2つの溶液を、連続的に撹拌しながら90~95℃で24時間混合し、膜形成溶液を得た;
v.薄膜メンブレンをキャストし、真空オーブン下で60~80℃で24時間乾燥させた;
vi.10質量%のヨウ化メチル溶液に24時間浸して膜を四級化し、第四級アンモニウム基を膜マトリクスに導入した;
vii.膜を洗浄し、0.1Mの水酸化ナトリウム溶液に浸漬して水酸化物形態に変換した。
アニオン交換膜の作製において、イソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマーとPVDF-co-HFPの質量比は5:3であり、均質な膜を得るためのポリマー溶液の質量百分率は20%(DMAc中のw/v)であった。得られたポリマー溶液を所望の厚さの薄膜に変換し、真空下で60~80℃で24時間乾燥させて膜を得た。得られた膜をヨウ化メチル(メタノール中10質量%)に24時間浸し、ビニルイミダゾール部分を四級化した。アニオン交換膜を作製するためのこのような反応スキームを図1に示している。
【0016】
本発明における安定したアニオン交換膜の作製方法は、以前に報告された安価な方法と比べて幾つかの利点を有し、有害化学物質を使用しない新規で簡単な方法を示す。更に、報告した方策では、官能基(第四級アンモニウム基)密度は、PVDF-co-HFPマトリクス中のイソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマー含有量を制御することによって制御できる。本発明では、織物(織布)支持体を持たないポリマー薄膜のアニオン交換膜が報告されている。膜形成ポリマー溶液は薄膜成能力を有し、得られた膜は高い機械的安定性と破裂強度を示した。更に、報告したアニオン交換膜は不織布支持体を用いて作製できる。また、放射線グラフト化技術とは異なり、本発明の複合アニオン交換膜は、フリーラジカル開始剤の存在下でインターポリマーPVDF-co-HFPとイソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマーを用いて作製した。従って、膜の製造技術に高エネルギー放射線源が必要ない。水の脱塩、電気分離、膜電解、アルカリ燃料電池、及び蓄電池など数多くの電気膜法が、アニオン交換膜を用いて開発されてきた。これらの用途では、強力なアルカリ又は酸化環境であっても、費用効率が良く、選択透過性が高く、伝導度が高く、且つ安定性のあるアニオン交換膜が早急に必要とされている。更に、作製されたアニオン交換膜は、膜電解、燃料電池、及び様々な媒体での電池用途に幅広く使用し得る。所望の合成、電気脱イオン、無機電解質を除去する電気透析、海水や汽水の脱塩、工業廃水からの金属イオンの分離除去、果汁の脱酸、砂糖の品質を向上させるための高温(70~80℃)でのサトウキビ汁のろ過(dash)、アミノ酸、ビタミン、ワクチン、及びその他の生化学的精製などの精製、発酵ブロスの下流処理といった様々な電気化学的方法は、安定したアニオン交換膜によって実現できる。
【0017】
膜相中の含水率が最適であれば、第四級アンモニウム官能基の水和が制御されて、親水性イオン伝導チャネルの形成に必要な水分子がもたらされ、これが水酸化物伝導度の向上に役立つ。また、膜相の含水率が高いと膜の寸法が不安定になる。従って、安定したアニオン交換膜を得るには、最適な含水率(20~30質量%)が必須である。本発明では、膜形成材料中の疎水性セグメントと親水性セグメントのバランスが取れるよう適切に配慮されており、これにより膜マトリクス中の所望の含水率が実現する。イオン交換容量(IEC)は、固定された第四級アンモニウム基の親水性特性又は濃度(密度)を表す尺度であり、meq/g又は乾式膜で測定できる。膜マトリクス中の交換基の密度も、膜性能を制御する重要な要素である。ただし、膜の耐久性は環境条件とポリマー骨格の性質に依存する。これらの要素は全て、膜合成時に判断材料として考慮された。当業者であれば、上記の予備知識と説明に基づいて、特に所望のアニオン交換膜を有する膜作製手順とパラメータを容易に決定できるはずである。膜の選択透過性は、対イオンと共イオンに対する膜の透過性における特性差の尺度である。膜の電位測定によって、膜を通過する対イオンの輸送数を概算して膜の選択透過性を推定した。アニオン交換膜の膜伝導度は、ポテンショスタット/ガルバノスタットインピーダンスアナライザを用いて、0.10MのNaCl溶液で平衡化した状態で決定した。膜抵抗は、フィッティングとシミュレーションによってナイキスト線図から決定し、膜厚と膜面積を考慮して膜の伝導度を推定した。
【0018】
これらの幅広い用途向けに、優れたアニオン交換膜の開発に求められる最も望ましい特性は:高選択透過性(単一体に近い)-アニオン交換膜はアニオンに対する透過性が高く、カチオンに対しては選択的に不透過性であること;高い膜伝導度-アニオン交換膜は、電気透析又は電気膜法において低電位降下をもたらす高い膜伝導度を備えていること;良好な機械的安定性-膜の機械的強度が高く、希薄なイオン溶液から濃縮イオン溶液への移行時に、膨潤又は収縮の程度が低いこと;高化学的安定性-膜は酸化剤存在下でも強力な酸性又はアルカリ性環境において安定していること。従来の膜の多くは、(熱、化学的、機械的)安定性が低いか、又は電気化学的特性が犠牲となっていた。例えば、メンブレン膜は架橋により熱及び機械的特性が向上するが、それに伴って官能基(酸性又は塩基性)濃度が低下し、従って電気化学的特性が低下する。機械的強度は、織布(PVC、PE、ガラス、又はテフロン)で膜を支持することによって、更に向上させることができる。ただし、織布は膜マトリクスの非伝導相に影響を与え、膜の物理化学的及び電気化学的特性を低下させる。
【実施例
【0019】
以下の実施例は説明を目的として記載しており、従って本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
実施例1~3
フッ素化脂肪族炭化水素系安定性アニオン交換膜の一般的な作製手順
N-イソプロピルアクリルアミド(12.5gm)と1-ビニルイミダゾール(6.7gm)(質量比2.0:1.0)をジメチルアセトアミド(100mL)に撹拌状態及び窒素環境下で30℃で添加し、次いで2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)(2mL)を添加し、反応混合物を90~95℃で24時間撹拌してイソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾール(IA-co-VI)コポリマーを作製した。別の三角フラスコでPVDF-co-HFP(12.5gm)をジメチルアセトアミド(60mL)に一定の撹拌下で14時間かけて、又は完全に溶解するまで溶解させた。イソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾールコポリマーの透明な溶液をPVDF-co-HFP溶液と混合し、反応混合物を90~95℃で12時間撹拌した。様々なアニオン交換膜を作製するために、N-イソプロピルアクリルアミドと1-ビニルイミダゾールの質量比を2.0:0.5~1.5の間で変化させ、2.0:0.5、2.0:1.0、及び2.0:1.5の3種類のアニオン交換膜を作製した。得られた粘性溶液を透明なガラス板の上に注ぎ、ドクターブレードを用いて、一定厚(150μm)の薄いポリマーを形成した。薄膜メンブレンを真空オーブンで60~80℃で乾燥させた。得られた膜を脱イオン水で洗浄し、ヨウ化メチル溶液(メタノール中10質量%)に30℃で24時間浸した。得られた膜はNaOH(0.10M)を用いて、次いで脱イオン水中で後処理した。3種類のアニオン交換膜の特性を表1に示す。
【表1】

* 全ての膜が優れた機械的安定性を示した。
【0020】
実施例4~6
アニオン交換膜の酸化安定性に関する一般的な手順
強酸化性の水分解環境下では酸素活性ラジカルによる膜劣化が深刻な問題となる。従って、アニオン交換膜の酸化安定性を模擬酸化条件下(3ppmのFeSO4+3%のH22、70℃で3時間)で評価した。様々なフッ素化脂肪族炭化水素系安定性アニオン交換膜の酸化安定性を、処理後の膜質量、イオン交換容量、及び伝導度データにおける損失率を記録したものを表2に示す。
【表2】
【0021】
実施例7~9
アニオン交換膜のアルカリ安定性に関する一般的な手順
様々なアニオン交換膜のアルカリ安定性を、2.0MのNaOH溶液中で60℃で5日間試験した。アニオン交換膜のアルカリ安定性について、アルカリ処理後の膜質量、イオン交換容量、及び伝導度における損失率並びに関連データに関して概算したものを表3に示す。
【表3】
【0022】
実施例10
電気透析によるアニオン交換膜を用いた汽水の脱塩
汽水は塩素が注入されていてもいなくてもよく、電気透析による脱塩後に飲料水(総溶解固形物:<500ppm)として提供される。汽水は地表又は地下から獲得し、塩素注入などの処理を経て、電気透析脱塩装置で余分な塩分を除去し得る。アニオン交換膜(IA-co-VIコポリマーの質量比2.0:1.5)とカチオン交換膜(CEM)(AMX(Tokuyama Soda Co.Ltd.、日本から入手))10セル対を含み、ポリ(スチレン)/ジビニルベンゼン、イオン交換容量1.5meq/g、吸水率26%、有効膜面積100cm2で面積抵抗3.2Ωcm2という構造特性を有する電気透析(ED)装置を汽水の脱塩に使用した。ED装置には、電極洗浄(EW)2区画、濃縮流(CS)、及び脱塩流(DS)の計4区画が設けられた(図2)。貴金属酸化物(チタン-ルテニウム-白金)で被覆した6.0mm厚のTiO2板(Titanium Tantalum Products(TITAN、インド、チェンナイ)から入手)を電極として使用し、ED装置に取りつけた。各区画の流れ構成は平行Cum列(parallel-cum-series)パターンでモニタリングした。相互に連結させた両方のEW区画にNa2SO4溶液(0.10M)を循環させた。最初に汽水(総溶解固形物(TDS):2000~5000ppm)をDS(流量:2.0LPH)とCS(流量:0.6LPH)に、いずれも蠕動ポンプを用いて注入した。ED試験は、一定電圧(15.0V)の影響下で直流電源を用いて実施し、得られた電流を記録した。試験の経過に伴ってDSのTDSは500ppm未満(世界保健機関による飲料水の基準)に低下したのに対し、CSのTDSは有意に増加した。脱塩水の回収は約65%であった。
【0023】
実施例11
電気透析によるアニオン交換膜を用いたアルカリ燃料電池
作成したアニオン交換膜(イソプロピルアクリルアミド-co-ビニルイミダゾール(IA-co-VI)コポリマーの質量比2.0:1.5)のアルカリ燃料電池用途に対する適合性を評価した。膜電極接合体(MEA)は、アニオン交換膜、アノード/カソード触媒層、及び拡散層を含む3層構造を用いる手法に従って製造した。更に、10質量%のIA-co-VI/PVDF-co-HFPコポリマー溶液を刷毛塗り法で塗布した湿潤カーボンを用いた。ガス拡散層(GDL)(幾何学的面積25cm2)は、カーボンブラック(Vulcan XC72R)とIA-co-VI/PVDF-co-HFPコポリマー分散液からなる0.50mg/cm2のスラリーをカーボン紙に塗布して製造した。アノードとカソード共にPt負荷は0.4mg/cm2であった。従って、作成した電極は膜をコールドプレスした後、60℃で12時間硬化させ、次いで130℃、1.2MPaで3分間ホットプレスした。電極/膜/電極のサンドイッチを100℃、1.0MPaで3分間ホットプレスしてMEAを得た。MEAは単セル(FC25-01DM燃料電池)に組み込み、2MのNaOH中1.0MのMeOHを燃料としてアノードで、空気をカソードで用いて、それぞれ5mL・min-1及び100mL・min-1で供給し、MTS-150マニュアル式燃料電池テストステーション(ElectroChem Inc.、米国)を用いて電流-電圧分極曲線を記録した。作製したアニオン交換膜を用いて、60℃で単セル性能試験を実施した。作製したアニオン交換膜(IA-co-VIコポリマーの質量比2.0:1.5)は、0.79Vのセル電圧で150mA/cm2の電流密度と120mW/cm2の出力密度を示した。これは、作製したアニオン交換膜が燃料電池用途の候補となり得ることを示唆している。
【0024】
実施例12
アニオン交換膜を用いた膜電解のCu-Clサイクル
水の熱化学分解を伴う銅-塩素(Cu-Cl)サイクルは、原子力や太陽光などの熱エネルギー源を利用した大規模な水素製造法として有望視されている。750℃超で作動する高温サイクルと比べて、比較的低温(550℃未満)で作動し、低品位の廃熱を吸熱工程に有効利用できるなど、他の熱化学サイクルに比べて大きな利点がある。アニオン交換膜(IA-co-VIコポリマーの質量比2.0:1.5)の性能を、図3に概略的に示した電気化学セルで評価した。上述のように白金をアノード(D=5.5cm、表面積=33.17cm2)に、高密度の純銅ロッドをカソード(D=0.7cm、H=6.5cm、表面積=14.29cm2)に用いた容量800mLの電気化学セルを設計、製作した。アニオン交換膜は2つのフランジ間の垂直位置に固定した。アクリル製のアノード液室とカソード液室をアニオン交換膜を用いて分離した。L/S Easy-Load3SSポンプヘッドが2個装備されたMasterflex蠕動ポンプL/S 600rpm Digital Driveを用いてアノード液とカソード液を循環させた。以下の最適化した条件下でアニオン交換膜(IA-co-VIコポリマーの質量比2.0:1.5)の性能を評価した:(1)アノードとカソードの表面積比が等しい、(2)電極間の距離:3.5cm、(3)HCl濃度:2.36M、(4)CuCl濃度:0.30 M、(5)印加電圧:0.70V、(6)カソード液における電解質流量:125mL/分、アノード液:250mL/分、(7)反応時間:5時間、(8)反応温度:30℃。試験は3回繰り返した。水素製造のためのCu-Clサイクル(膜電解)におけるアニオン交換膜(IA-co-VIコポリマーの質量比2.0:1.5)の性能に関するデータを表4に示す。
【表4】
【0025】
本発明の利点
本発明の利点は以下の通りである。
1.強力な酸化、酸性、及びアルカリ性環境下で高い膜安定性を担う、フッ素化ポリマー骨格を有する均質なアニオン交換膜。
2.膜構造中に第四級アンモニウム基が多いため、IEC及び膜伝導度が良好。
3.水の脱塩、電気分離、膜電解、アルカリ燃料電池、及び蓄電池など様々な電気膜法にとって安定性と有効性の高いアニオン交換膜。
4.選択透過性と伝導度が高く、費用効率の良いアニオン交換膜。
5.アニオン交換膜は幅広く使用し得、電気脱イオン、無機電解質を除去する電気透析、海水や汽水の脱塩、工業廃水からの金属イオンの分離除去、果汁の脱酸、砂糖の品質を向上させるための高温(70~80℃)でのサトウキビ汁のろ過、アミノ酸、ビタミン、ワクチン、及びその他の生化学的精製などの精製、発酵ブロスの下流処理などが、安定したアニオン交換膜によって実現できる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】