(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-02
(54)【発明の名称】免疫原性組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20221125BHJP
A61K 39/10 20060101ALI20221125BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221125BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221125BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20221125BHJP
C07K 14/235 20060101ALN20221125BHJP
C07K 14/33 20060101ALN20221125BHJP
C07K 14/34 20060101ALN20221125BHJP
C07K 14/02 20060101ALN20221125BHJP
C12N 7/04 20060101ALN20221125BHJP
【FI】
C12N1/21
A61K39/10 ZNA
A61P31/04
A61P37/04
C12N15/31
C07K14/235
C07K14/33
C07K14/34
C07K14/02
C12N7/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520197
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(85)【翻訳文提出日】2022-05-18
(86)【国際出願番号】 EP2020077416
(87)【国際公開番号】W WO2021064050
(87)【国際公開日】2021-04-08
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】305060279
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デヴォス,ナタリー,イザベル
(72)【発明者】
【氏名】シモンズ,スティーヴン,クレメント
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA26
4B065CA45
4C085AA03
4C085AA05
4C085BA17
4C085BA53
4C085BA89
4C085BB21
4C085BB22
4C085CC07
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
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4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA53
4H045CA11
4H045DA83
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、特にワクチンの分野において使用するための細菌株に、特に、ボルデテラ属の細菌によって引き起こされる感染の予防又は処置の分野に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え百日咳菌の細菌であって、
(i)配列番号1に対して170位の突然変異及び/若しくは229位の突然変異を含むLpxAタンパク質をコードする、少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子;並びに/又は
(ii)異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入
を含む、組換え百日咳菌の細菌。
【請求項2】
配列番号1に対して170位の置換及び/又は229位の置換を含むLpxAタンパク質をコードする、少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子を含む、請求項1に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項3】
LpxAタンパク質が、配列番号1に対して170位のセリン残基及び/又は229位のアラニン残基を含む、請求項1又は2に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項4】
LpxAタンパク質が、配列番号1に従って番号付けされるときに、(i)170位のセリン残基及び(ii)229位のアラニン残基を含む、請求項3に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項5】
配列番号1又は2と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するLpxAタンパク質をコードするLpxA遺伝子を含む、請求項4に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項6】
配列番号2のアミノ酸配列を有するLpxAタンパク質をコードするLpxA遺伝子を含む、請求項4に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項7】
異種LpxD遺伝子が、配列番号3又は配列番号4と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDタンパク質をコードする、請求項1~6のいずれか一項に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項8】
異種LpxD遺伝子が、配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDタンパク質をコードする、請求項6に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項9】
異種LpxD遺伝子が、配列番号3又は配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLpxDタンパク質をコードする、請求項7に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項10】
内因性LpxA遺伝子が不活化されている、及び/又は内因性LpxD遺伝子が不活化されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項11】
(i)C3'アシル鎖のうちの少なくとも30%は長さが約C
10から約C
12であり、及び/又は
(ii)C2'アシル鎖のうちの少なくとも30%は長さが約C
10から約C
12であり、及び/又は
(iii)C2アシル鎖のうちの少なくとも30%は長さが約C
10から約C
12である
リピドAを産生する、請求項1~10のいずれか一項に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項12】
特に、TLR4刺激アッセイを、特にヒトTLR4刺激アッセイを使用して測定される場合、親株によって産生されるリピドAのエンドトキシン活性と比較して、低減したエンドトキシン活性を有するリピドAを産生する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項13】
前記細菌の細菌集団の増殖曲線が親株の集団の増殖曲線と同等である、請求項1~12のいずれか一項に記載の組換え百日咳菌の細菌。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか一項に記載の組換え百日咳菌の細菌に由来する分離された外膜小胞(OMV)であって、
膜に組み込まれた改変リピドAを含み、ここで、
リピドAのC3'アシル鎖のうちの実質的にすべてがC
10の長さを有し、並びに/又は
リピドAのC2アシル鎖及びC2'アシル鎖のうちの実質的にすべてがC
12の長さを有する、
分離された外膜小胞(OMV)。
【請求項15】
皮膚壊死毒素を実質的に含まず、及び/又は遺伝的に解毒された内因性の百日咳トキソイドを含有する、請求項13に記載の分離された外膜小胞。
【請求項16】
請求項13から15のいずれか一項に記載の少なくとも1つの分離されたOMV及び薬学的に許容される賦形剤を含む免疫原性組成物。
【請求項17】
(1)百日咳トキソイド(PT)、(2)FHA、(3)ペルタクチン(PRN)、(4)FIM2/FIM3、(5)アデニル酸シクラーゼ、(6)ジフテリアトキソイド(DT)、(7)破傷風トキソイド(TT)、(8)不活化ポリオウイルス(IPV)、(9)B型肝炎表面抗原及び(10)Hib PRP
からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる抗原をさらに含む、請求項16に記載の免疫原性組成物。
【請求項18】
適切な哺乳動物、例えばヒトにおいて免疫応答を誘導するのに使用するための、請求項13から15のいずれか一項に記載のOMV、又は請求項16若しくは請求項17に記載の免疫原性組成物。
【請求項19】
予防において又はワクチンとして使用するための、請求項13から15のいずれか一項に記載のOMV、又は請求項16若しくは17に記載の免疫原性組成物。
【請求項20】
百日咳菌の細菌のリピドAの反応原性を調節する方法であって、
LpxA及びLpxDからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を細菌のゲノムに安定的に組み入れる工程を含み、ここで:
(i)LpxA遺伝子は、配列番号1又は2と少なくとも80%の配列同一性を有するLpxAタンパク質をコードし、ここで、タンパク質は、配列番号1又は2に従って番号付けされるときに170位のセリン(S170)及び/又は229位のアラニン(A229)を含み、並びに/又は
(ii)LpxD遺伝子は、配列番号3又は配列番号4と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDタンパク質をコードする、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチンの分野に、特に、ボルデテラ(Bordetella)属の細菌、特に百日咳菌(Bordetella pertussis)によって引き起こされる感染の予防又は処置に関する。
【背景技術】
【0002】
百日咳菌によって引き起こされる百日咳は、伝染性の高い気道感染である。急性感染は、呼吸不全、肺高血圧症、白血球増加症及び死により特徴付けられる重病を引き起こす恐れがある。百日咳はワクチンで予防可能な疾患であり、無細胞百日咳(aP)ワクチン又は全細胞百日咳(wP)ワクチンのどちらも世界中で使用されている。しかし、本疾患はワクチン接種集団において存続しており、疫学データによれば、近年、百日咳発生率の世界的上昇が報告されている。
【0003】
百日咳菌種の株の進化及び、wPワクチンと比較したaPワクチンからの防御の持続期間の低下を含めて、いくつかの仮説が仮定されてきた。百日咳の再発を制御することをねらいとした研究分野のうちの一つは、新たなワクチンの開発を標的としている。
【0004】
病原体に由来する小胞が、免疫原性組成物の、例えばワクチンの開発に使用されてきた[1]。外膜小胞(OMV)又はその派生物を使用することで、広範囲の抗原をそれらの天然の形態で送達することができる可能性がある。
【0005】
OMVは、細菌リポ多糖(LPS)を含み、これは、可変性の高いO抗原、可変性の少ないコアオリゴ糖及びリピドAと称される保存性の高い脂質部分から構成される。細菌リポオリゴ糖(LOS)は、LPSと同一の一連の機能活性を備える類似のリピドA構造を共有するが、O抗原ユニットを欠く。当技術分野では、「LPS」という用語は、LPSとLOSの細菌糖類の両方を指して使用される場合が多い。
【0006】
しかし、OMV中にLPS/LOSが存在することは、臨床及び規制上の観点から問題を提示する可能性がある。例えば、LPS/LOSが人体で分解される場合、過剰な炎症誘発性サイトカインの生成が誘発されるおそれがある。ヒトTLR4とのその相互作用を通して、サイトカインは特定の生物及び患者の状態に応じて、いくつかの悪影響(反応原性)を、例えば、発熱、悪寒、ショック、及び様々なその他の症状を引き起こす可能性がある。
【0007】
LPS/LOSのエンドトキシン活性は、1個又は2個のリン酸基で置換されたグルコサミン二糖と可変数のアシル鎖とから構成される、LPS/LOSのリピドA部分の組成によって主に決定される[2]。
【0008】
WO2018/167061[3]では、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(LpxAPa)又は髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)(LpxANm)のいずれかに由来するLpxAバリアントを使用して、百日咳菌のC3'アシル鎖の長さを短縮することが記載されている。外因性のLpxA遺伝子をプラスミドから発現させ、一方、ゲノムの内因性LpxA遺伝子はノックアウトされた。LpxAPaのエピソーム様式発現が、一部のアシル鎖の長さを短縮する効果を有しており、著者らはTLR4刺激が低減したことに注目した。しかし、上記株は強い増殖不全を呈した。加えて、LpxANmの発現も致死性であった。緑膿菌に由来するLpxDバリアントを百日咳菌でエピソーム様式で発現させた場合、同様の強い増殖不全が観察された。この結果により、リピドAの操作によって反応原性を改変できることが確認されるが、一方、株の増殖不全は、ワクチン製造においてそのような株を使用することへの主たる障害である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、免疫原性組成物の、例えばワクチンの製造に適した改善の必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願人は、当技術分野で観察された問題を解決すると共に、全細胞抗原及び/又は外膜小胞成分の調製に特に適している、新規の組換え百日咳菌の細菌株を開発した。本発明の成分は、免疫原性組成物において、例えばワクチンにおいて使用することができる。
【0011】
第1の態様では、本発明は、組換え百日咳菌の細菌に関する。詳細には、本発明は、組換え百日咳菌の細菌であって、配列番号1に対して170位に突然変異及び/若しくは229位に突然変異を含むLpxAタンパク質をコードする、少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子、並びに/又は異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入を含む、組換え百日咳菌の細菌に関する。
【0012】
本第1の態様では、本発明は好ましくは、組換え百日咳菌の細菌であって、配列番号1に対して170位に突然変異及び/若しくは229位に突然変異を含むLpxAタンパク質をコードする、少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子を含む、組換え百日咳菌の細菌に関する。
【0013】
百日咳菌由来の野生型LpxAタンパク質(LpxABpe)のアミノ酸配列は、配列番号1として提供される。パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)由来のLpxAタンパク質(LpxABpa)のアミノ酸配列は、配列番号2として提供される。
【0014】
本発明は、LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子を含む、組換え百日咳菌の細菌に関することができ、ここで、LpxA遺伝子はパラ百日咳菌に由来する(LpxABpa)。
【0015】
そのような実施形態では、本発明は、配列番号2を有するLpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子を含む、組換え百日咳菌の細菌に関する。
【0016】
本明細書で使用される「突然変異」という用語は、リファレンスタンパク質又はポリペプチド、特に野生型タンパク質又はポリペプチドのアミノ酸配列と比較した、タンパク質又はポリペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸残基の欠失、付加又は置換を指す。
【0017】
アミノ酸配列について言及する場合の「置換」という用語は、異なるアミノ酸又はアミノ酸部分へのアミノ酸の変化を指す。例えば、LpxAについて言及する場合、置換とは配列番号1に対するアミノ酸の変化を指す。タンパク質配列中の特定の一カ所にてのアミノ酸の置換は、以下の注釈「(野生型タンパク質中のアミノ酸残基)(アミノ酸位置)(突然変異タンパク質中のアミノ酸残基)」を使用して言及される。例えば、G229Aは、リファレンスタンパク質(ここでは配列番号1)のアミノ酸配列の第229位にあるグリシン(G)残基のアラニン(A)残基(突然変異体中)による置換を指す。
【0018】
詳細には、170位にての突然変異は配列番号1に対する置換である。さらにより詳細には、170位にての突然変異はグリシンの置換である。なおさらにより詳細には、170位にての突然変異は、グリシンのセリン(G170S)による置換である。
【0019】
詳細には、229位にての突然変異は配列番号1に対する置換である。さらにより詳細には、229位にての突然変異はグリシンの置換である。なおさらにより詳細には、229位にての突然変異はグリシンのアラニンによる置換(G229A)である。
【0020】
詳細には、LpxAタンパク質は、配列番号1に対して170位に突然変異及び229位に突然変異を含む。さらにより詳細には、170位にての突然変異はグリシンの置換であり、229位にての突然変異はグリシンの置換である。なおさらにより詳細には、170位にての突然変異はグリシンのセリンによる置換(G170S)であり、229位にての突然変異はグリシンのアラニンにより置換(G229A)である。なおさらにより詳細には、LpxAタンパク質は170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含む。詳細には、170位及び/又は229位にての突然変異に加えて、LpxAタンパク質は、配列番号1又は配列番号2のいずれかと、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する。一部の実施形態では、LpxAタンパク質は配列番号2と90%の配列同一性を有する。一部の実施形態では、LpxAタンパク質は配列番号2のアミノ酸配列を有する(すなわち、100%の配列同一性を有する)。
【0021】
コマモナス・テストステローニ(Comamonas testosteroni)由来のLpxDタンパク質(LpxDCtのアミノ酸配列は、配列番号3として提供される。緑膿菌由来のLpxDタンパク質(LpxDPa)のアミノ酸配列は、配列番号4として提供される。
【0022】
詳細には、異種LpxD遺伝子は、配列番号3又は配列番号4のいずれかと、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDタンパク質をコードする。より詳細には、異種LpxD遺伝子は、配列番号3又は配列番号4のいずれかと少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDタンパク質をコードする。さらにより詳細には、異種LpxD遺伝子は、配列番号3又は配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列と100%の配列同一性を有するLpxDタンパク質をコードする。一部の実施形態では、異種LpxD遺伝子は、配列番号3のアミノ酸配列を有するLpxDタンパク質をコードする。一部の実施形態では、異種LpxD遺伝子は、配列番号4のアミノ酸配列を有するLpxDタンパク質をコードする。
【0023】
「異種LpxD遺伝子」という用語は、それが導入される宿主生物の種とは異なる種由来のLpxD遺伝子又はヌクレオチド配列を指し、本発明の文脈において、異種のLpxD遺伝子又はヌクレオチド配列は百日咳菌の野生型株において普通は見い出されない。ある特定の実施形態では、異種LpxD遺伝子のヌクレオチド配列は、百日咳菌における発現向けにコドン最適化することができる。
【0024】
「ゲノム」という用語は、細菌細胞ゲノム、すなわち染色体DNAを指し、一方、「ゲノム挿入」は、細菌細胞ゲノムへの安定した組込みを指して使用され、これにより、一過性又はエピソーム様式の発現、例えばプラスミドでの遺伝子の発現は排除される。
【0025】
発明の第1の態様では、組換え百日咳菌の細菌における内因性LpxA遺伝子の発現又は活性は、野生型百日咳菌の細菌に対して、改変、低減、抑制又は不活化されている。本発明の一部の実施形態では、組換え百日咳菌の細菌における内因性LpxD遺伝子の発現又は活性は、野生型百日咳菌の細菌において見られる発現又は活性に対して、改変、低減、抑制又は不活化されていてもよい。本発明の一部の実施形態では、組換え百日咳菌の細菌における内因性LpxA遺伝子と内因性LpxD遺伝子の両方の発現又は活性は、野生型百日咳菌の細菌に対して、改変、低減、抑制又は不活化されている。
【0026】
一部の実施形態では、内因性LpxA遺伝子の発現又は活性は、内因性LpxA遺伝子をノックアウトすることによって、低減、抑制又は不活化されている。一部の実施形態では、内因性LpxA遺伝子の発現又は活性は、例えばノックインを介して内因性LpxA遺伝子を置き換えることによって、改変、低減、抑制又は不活化されている。一部の実施形態では、内因性LpxA遺伝子の発現又は活性は、内因性LpxA遺伝子を突然変異させることによって、特に170位及び/又は229位にての突然変異によって改変されている。一部の実施形態では、内因性LpxD遺伝子の発現又は活性は、内因性LpxD遺伝子をノックアウトすることによって、低減、抑制又は不活化されている。一部の実施形態では、内因性LpxD遺伝子の発現又は活性は、例えばノックインを介して内因性LpxD遺伝子を置き換えることによって、改変、低減、抑制又は不活化されている。非限定的な例の一例として、ノックアウトは、内因性遺伝子の一部又は全部を除去することによって、例えば欠失させるによって、又はそれぞれの内因性遺伝子の発現を活性化する内因性プロモーターを不活化することによって行うことができる。
【0027】
驚くべきことに、本発明の組換え百日咳菌の細菌株は、当技術分野で観察される増殖異常を呈さない。
【0028】
詳細には、本発明の組換え百日咳菌の細菌の集団の増殖プロファイルは、百日咳菌の細菌の野生型親株の集団の増殖プロファイルと同等である。より詳細には、組換え百日咳菌の細菌の集団の増殖曲線は、百日咳菌の細菌の野生型親株の集団の増殖曲線と同等である。例えば、組換え百日咳菌の細菌の集団と野生型グラム陰性菌の集団の標準発酵プロセスにおける経過時間及び増殖速度の値は同等である。より詳細には、組換え百日咳菌の細菌の集団と野生型百日咳菌の細菌の集団の経過時間及び増殖速度の値は、20%未満、例えば15%未満、10%未満又は5%未満だけ変動する。さらにより詳細には、組換え百日咳菌の細菌の集団と野生型百日咳菌の細菌の集団の経過時間及び増殖速度の値は実質的に類似している。
【0029】
本発明の組換え百日咳菌の細菌株は、特に、TLR4刺激アッセイ、特にヒトTLR4刺激アッセイを使用して、例えば、組換えHEK-TLR4レポーター細胞系のNF-κB誘導を通して測定される場合、野生型百日咳菌の細菌によって発現されるリピドAに照らして低減したエンドトキシン活性を呈するリピドAを発現する。当業者であれば、他の適切なアッセイについて知っているであろう。
【0030】
詳細には、本発明による組換え百日咳菌の細菌株は、Tohama I親株に、より詳細には、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドを発現するTohama Iの株であるTohama I PTg株に、由来する。本明細書で使用される場合、「親株」という用語は、組換え株を構築するのに出発微生物として使用される百日咳菌の株を指して、当技術分野でのその一般的な意味をとる。親株とは全体として、本発明の組換え株の特徴と比較される野生型又は比較株である。本発明の組換え百日咳菌の細菌は全体として、本明細書に記載の本発明の遺伝子改変(単数又は複数)を除いて、その親株と同質遺伝子である。
【0031】
本発明の第2の態様では、第1の態様の組換え百日咳菌の細菌に由来する外膜小胞(OMV)、特に外膜小胞の集団が提供される。第1の態様の組換え百日咳菌の細菌に由来する全細胞抗原も提供される。
【0032】
本発明の第3の態様では、第2の態様による少なくとも1つのOMV又はOMVの集団及び薬学的に許容される賦形剤を含む免疫原性組成物が提供される。詳細には、免疫原性組成物はまたアジュバントを含むことができる。一部の実施形態では、本発明の免疫原性組成物は、OMV(単数又は複数)に存在するものに加えて、少なくとも1つの抗原を含むことができる。本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つのさらなる抗原は、(1)百日咳トキソイド(PT)、(2)FHA、(3)ペルタクチン(PRN)、(4)FIM2/FIM3、(5)アデニル酸シクラーゼ、(6)ジフテリアトキソイド(DT)、(7)破傷風トキソイド(TT)、(8)不活化ポリオウイルス(IPV)、(9)B型肝炎表面抗原及び(10)Hib PRPからなる群から選択される。
【0033】
本発明の第4の態様では、適切な哺乳動物において免疫応答を誘導するのに使用するための、第1の態様による組換え百日咳菌の細菌、第2の態様の少なくとも1つのOMV若しくはOMVの集団、又は第3の態様の免疫原性組成物が提供される。
【0034】
詳細には、治療及び/又は予防に使用するための、例えばワクチンとして使用するための、第1の態様による組換え百日咳菌の細菌、第2の態様の少なくとも1つのOMV若しくはOMVの集団、又は第3の態様の免疫原性組成物が提供される。
【0035】
詳細には、第1の態様による組換え百日咳菌の細菌、第2の態様の少なくとも1つのOMV若しくはOMVの集団、又は第3の態様の免疫原性組成物を適切な哺乳動物に投与する工程を含む、適切な哺乳動物において免疫応答を誘導する方法が提供される。
【0036】
詳細には、例えば治療及び/又は予防用の、例えばワクチンとして使用するための、医薬の製造に使用するための、第1の態様による組換え百日咳菌の細菌、第2の態様の少なくとも1つのOMV若しくはOMVの集団、又は第3の態様の免疫原性組成物が提供される。一実施形態では、百日咳菌によって引き起こされる疾患の処置及び/又は予防用の医薬の製造に使用するための、第1の態様による組換え百日咳菌の細菌、第2の態様の少なくとも1つのOMV若しくはOMVの集団、又は第3の態様の免疫原性組成物が提供される。
【0037】
本発明の第5の態様では、百日咳菌の細菌のリピドAの反応原性を調節する方法であって、LpxA及びLpxDからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を細菌のゲノムに安定して組み込む工程を含み、ここで:
(i)LpxA遺伝子は、配列番号1又は2と少なくとも80%の配列同一性を有するLpxAタンパク質をコードし、ここで、上記タンパク質は、配列番号1又は2に従って番号付けされる場合に170位にセリン(S170)及び/又は229位にアラニン(A229)を含み、並びに/又は
(ii)LpxD遺伝子は、配列番号3又は配列番号4と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDタンパク質をコードする、
方法が提供される。
【0038】
好ましくは、本発明の本第5の態様では、百日咳菌の細菌のリピドAの反応原性を調節する方法は、LpxA遺伝子を細菌のゲノムに安定して組み込む工程を含み、ここで、LpxA遺伝子は、配列番号1又は2と少なくとも80%の配列同一性を有するLpxAタンパク質をコードし、ここで、上記タンパク質は、配列番号1又は2に従って番号付けされる場合に170位にセリン(S170)及び/又は229位にアラニン(A229)を含む。
【0039】
一実施形態では、本発明の方法は、パラ百日咳菌(LpxABpa)に由来するLpxA遺伝子を細菌のゲノムに安定して組み込む工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1A】百日咳菌由来のリピドAの構造の図である。
【
図1B】パラ百日咳菌由来のリピドAの構造の図であるが、この場合、点線は、天然に存在するバリアント構造、特に、付加的に存在することができる1つ及び2つの二次C16アシル鎖、及びC10鎖の喪失を伴う少数派のバリアントを示す。
【
図2-1】ボルデテラ属由来のLpxAアミノ酸配列のアライメントの図である。
【
図3-1】百日咳菌Tomaha I PTgの発酵特性の図である。曲線1:酢酸の添加(曲線3)によりpHを7.2に調整して、培養の停止をもたらす細胞ブロスの塩基性化を回避する、曲線2:溶存酸素濃度、曲線4:撹拌速度を操作して酸素制限を回避するように溶存酸素濃度(DO)を25%に維持する(DO/速度調節)、曲線5:温度を35℃に調節。
【
図4-1】パラ百日咳菌由来のLpxAを発現する本発明の組換え百日咳菌種の株(ΔLpxA
Bpe/LpxA
Bpa)の発酵特性の図である。曲線2:撹拌速度を操作して酸素制限を回避するように溶存酸素濃度(DO)を25%に維持する(DO/速度調節)、曲線3:温度を35℃で調節、曲線4:酢酸の添加(曲線1)によりpHを7.2に調整して、培養の停止をもたらす細胞ブロスの塩基性化を回避する、曲線5:溶存酸素濃度。NB:排気フィルターの目詰まりにより、約20分間のフィルター交換プロセスの間、DO及び撹拌速度が0に低下した。これは発酵の結果に影響を及ぼさなかった。
【
図5】ΔLpxA
Bpe/LpxA
Bpa(破線)及び親株、Tohama I PTg(黒)の撹拌速度発酵特性の図である。
【
図6A】LC-MSによるLOS(ゲノムに統合されたLpxA
Bpaを発現する、ΔLpxA
Bpe/LpxA
Bpaの百日咳菌由来のOMV)の構造解析の図である。
【
図6B】LC-MSによって決定されたLOS構造の図である。実線は本LOSの構造を示す。点線によって、本LOS構造と野生型百日咳菌種の株Tohama Iに見られるLOS構造の間の差異を例示する。
【
図7A】LC-MSによるLOS(LpxA
Bpaをエピソーム様式で発現する、百日咳菌由来のOMV)の構造解析の図である。
【
図7B】LC-MSによって決定された少数派のバリアントのLOS構造の図である(点線によって、本LOSと野生型百日咳菌種の株Tohama Iに見られるLOS構造の間の差異を例示する)。
【
図8A】LC-MSによるLOS(ゲノムに組み込まれたLpxA
Bpaを発現するArnT及びLpxA
Bpeのダブルノックアウトバリアントである、百日咳菌ΔArnT/ΔLpxA
Bpe/LpxA
Bpa由来のOMV)の構造解析の図である。
【
図8B】LC-MSによって決定されたLOS構造の図である。実線は本LOSの構造を示す。点線によって、本LOS構造と野生型百日咳菌種の株Tohama Iに見られるLOS構造の間の差異を例示する。
【
図9A】LC-MSによるLOS(ゲノムに組み込まれたLpxA
Bpa及びLpxD
Paを発現するLpxA
Bpe及びDNTのダブルノックアウトバリアントである、百日咳菌ΔLpxA
Bpe/LpxA
Bpa/ΔDNT/LpxD
Pa由来のOMV)の構造解析の図である。
【
図9B】LC-MSによって決定されたLOS構造の図である。実線は本LOSの構造を示す。点線によって、本LOS構造と野生型百日咳菌種の株Tohama Iに見られるLOS構造の間の差異を例示する。
【
図10A】LC-MSによるLOS(ゲノムに組み込まれたLpxA
Bpa及びLpxD
Paを発現するLpxA
Bpe、DNT及びLpxD
Bpeのトリプルノックアウトバリアントである、百日咳菌ΔLpxA
Bpe/LpxA
Bpa/ΔDNT/LpxD
Pa/ΔLpxD
Bpe由来のOMV)の構造解析の図である。
【
図10B】LC-MSによって決定されたLOS構造の図である。実線は本LOSの構造を示す。点線によって、本LOS構造と野生型百日咳菌種の株Tohama Iに見られるLOS構造の間の差異を例示する。
【
図11A】LC-MSによるLOS(LpxD
Paをエピソーム様式で発現する、百日咳菌LpxD
Pa由来のOMVの構造解析の図である。
【
図11B】LC-MSによって決定されたLOS構造の図である。実線は本LOSの構造を示す。点線によって、本LOS構造と野生型百日咳菌種の株Tohama Iに見られるLOS構造の間の差異を例示する。
【
図12A-1】LC-MSによるLOS(PagL
Bbrを発現するArnTノックアウトバリアントである、百日咳菌ΔArnT/PagL
Bbr由来のOMV)の構造解析の図である。
【
図12B】LC-MSによって決定されたLOS構造の図である。実線は本LOSの構造を示す。点線によって、本LOS構造と野生型百日咳菌種の株Tohama Iに見られるLOS構造の間の差異を例示する。
【
図13A】LC-MSによるLOS(野生型百日咳菌Tomaha I PTg由来のOMV)の構造解析の図である。
【
図13B】LC-MSによって決定されたLOS構造の図である。
【
図14】HEK-hTLR4細胞におけるTLR4シグナル伝達のin vitro活性化の図である。HEK-TLR4細胞を、組換え百日咳菌種の株由来のOMV;百日咳菌Tohama I PTg株(野生型対照)由来のOMVを用いて、タンパク質含有量に基づいて、又は、BEXSERO、QUINVAXEM、若しくはINFANRIX HEXAの各ワクチンを用いて、ヒト用量の等価率に基づいて(ワクチン対照)、刺激した。非刺激細胞を陰性対照として含めた(データ示さず)。
【
図15】HEK-hTLR4細胞におけるTLR4シグナル伝達のin vitro活性化の図である。HEK-TLR4細胞を、組換え百日咳菌種の株由来のOMV; 百日咳菌Tohama I PTg株(野生型対照)由来のOMV;百日咳菌Tomaha I PTg由来の精製LPS;又は、髄膜炎菌(Neisseria meningitis)B □MsbB株(□MsbB)由来の解毒精製LPSを用いてLOS含有量に基づいて刺激した。非刺激細胞を陰性対照として含めた。
【
図16-1】HEK-hTLR4細胞におけるTLR4シグナル伝達のin vitro活性化の図である。HEK-TLR4細胞を、組換え百日咳菌種の株由来のOMV; 百日咳菌Tohama I PTg株(野生型対照)由来のOMV;又はBEXSERO、QUINVAXEM及びINFANRIX HEXAの各ワクチンを用いて、タンパク質含有量に基づいて刺激した。非刺激細胞を陰性対照として含めた。
【
図17-1】HEK-hTLR4細胞におけるTLR4シグナル伝達のin vitro活性化の図である。HEK-TLR4細胞を、組換え百日咳菌種の株由来のOMV; 百日咳菌Tohama I PTg株(野生型対照)由来のOMV;百日咳菌由来の精製LPS;又は解毒髄膜炎菌B □MsbB株(□MsbB)由来のOMVを用いて、LOS含有量に基づいて刺激した。刺激をLOS含有量によって正規化した。非刺激細胞を陰性対照として含めた。
【
図18A】LC-MSによるLOS(LpxE
Fnをエピソーム様式で発現する、百日咳菌由来のOMV)の構造解析の図である。
【
図18B】LC-MSによって決定されたLOS構造のバリアントの図であり、この場合、バリアント構造はリン酸エステルが除去されている(黒い矢印にて示された位置)。
【
図19A】LC-MSによるLOS(LpxE
Rcをエピソーム様式で発現する、百日咳菌由来のOMV)の構造解析の図である。
【
図19B】LC-MSによって決定されたLOS構造のバリアントの図であり、この場合、バリアント構造はリン酸エステルが除去されている(黒い矢印にて示された位置)。
【
図20A】LC-MSによるLOS(LpxF
Fnをエピソーム様式で発現する、百日咳菌由来のOMV)の構造解析の図である。
【
図20B】LOS構造に同定可能な影響を及ぼしていないことを示す、LC-MSによって決定されたLOS構造の図である。
【
図21】HEK-hTLR4細胞におけるTLR4シグナル伝達のin vitro活性化の図である。HEK-TLR4細胞を、LpxE
Fnを発現する組換え百日咳菌種の株由来のOMVを用いてLOS含有量に基づいて刺激した。百日咳菌Tohama I PTg株(WT PTg)由来のOMVを陽性対照として使用し、非刺激細胞を陰性対照として含めた。
【
図22】HEK-hTLR4細胞におけるTLR4シグナル伝達のin vitro活性化の図である。HEK-TLR4細胞を、LpxE
Fnを発現する組換え百日咳菌種の株由来のOMVを用いてタンパク質含有量に基づいて刺激した。百日咳菌Tohama I PTg株(WT PTg)由来のOMVを陽性対照として使用し、非刺激細胞を陰性対照として含めた。
【
図23】Balb/cマウスの鼻咽頭定着モデルで実施された研究からの、ELISAによって測定された個々の抗体力価(抗PRN IgG)及び95%信頼区間を伴う幾何平均の図である。
【
図24】Balb/cマウスの鼻咽頭定着モデルで実施された研究からの、群別及び日別で示された、鼻腔あたりのコロニー形成単位(CFU)の数の平均によって定義される細菌量の個々の値及び幾何平均の図である。
【
図25】Balb/cマウスの肺クリアランスモデルで実施された研究からの、28日目にELISAによって測定された個々の抗PRN IgG力価及び幾何平均力価(関連する95%信頼区間を表す誤差バーを伴う)の図である。
【
図26】Balb/cマウスの肺クリアランスモデルで実施された研究からの、日にちに応じた群別の個々のコロニー形成単位(CFU)カウント(小ドット)及び幾何平均(接続された大ドット)の図である。
【
図27A】様々な連続希釈について培養上清で測定された、反応原性メカニズムに関連することが知られている6種のサイトカイン(すなわち:IL1a、IL6、TNFa、IL1b、IL10、MIP1a)の図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、野生型百日咳菌の細菌のLPSに照らして低減したエンドトキシンの毒性を呈するLPSを含む組換え百日咳菌種の株に関する。本出願でのLPSへの言及はLOSも包含する。LPSとLOSの両方のエンドトキシンの毒性は、リピドA部分の組成によって主に決定される。
【0042】
驚くべきことに、本発明者らは、本発明の細菌はまた、野生型の非組換え百日咳菌の細菌の細菌増殖プロファイルと同等であるプロファイルも呈することを発見した。
【0043】
細菌に関連して「野生型」という用語を使用して、自然界に存在するような通常の株を指す。そのような野生型株は、本明細書に記載の本発明の改変を欠く。したがって、「野生型」という用語は、本発明の微生物と同じ株の微生物であるが、本発明の遺伝子改変、例えば、本明細書に記載のLpxA及び/又はLpxDの遺伝子改変を欠く微生物を指して使用される。野生型株は親株と呼ばれることもある。本明細書で使用される場合、「内因性」遺伝子又はタンパク質は、組換え細菌が元来由来した百日咳菌の細菌の野生型で親である株に見いだされる未改変遺伝子(核酸配列)又はタンパク質(アミノ酸配列)を指して使用される。
【0044】
一方、「外因性」という用語は、組換え細菌が由来する野生型百日咳菌の細菌株に天然には見いだされない遺伝子(核酸配列)又はタンパク質(アミノ酸配列)を指して使用される。「外因性」という用語は、「異種」という用語と交換可能に使用することができる。
【0045】
本発明は、組換え百日咳菌種の株であって、配列番号1に対して170位に突然変異及び/若しくは229位に突然変異を含むLpxAタンパク質をコードする、少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子;並びに/又は異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入を含む、組換え百日咳菌種の株に関する。
【0046】
本発明の細菌
本発明の組換え百日咳菌の細菌は、非限定的な例の一例として: Tohama I、例えば百日咳菌Moreno-Lopez (ATCC: BAA-589)、BP165、BPW28、10536、18323、I135、BAA-2706、BAA-2705又はPT/28G [W28](ATCC:53894)を含めて、百日咳菌の種々の親株に由来することができる。好ましくは、本発明の組換え百日咳菌の細菌は、遺伝的に解毒された百日咳トキソイド、特にPT-9K/129Gと呼ばれる遺伝的に解毒された百日咳トキソイドを発現する株に由来する。PT-9K/129Gの遺伝的に解毒された百日咳トキソイドを発現する組換え百日咳菌種の株は、PTのS1サブユニット内に2つのアミノ酸置換、具体的にはR9K及びE129Gを含む(例えばEP0396964を参照されたい)。詳細には、組換え細菌が由来する百日咳菌の株はTohama Iである。より詳細には、組換え百日咳菌の細菌は、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドを発現するTohama Iの株に由来する。さらにより詳細には、組換え百日咳菌の細菌は、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現するTohama Iの株に由来する。なおさらにより詳細には、組換え百日咳菌の細菌は、突然変異R9K及びE129Gを含むように改変されているS1遺伝子を含むと共に、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現する。
【0047】
百日咳毒素は百日咳菌によって分泌されるが、それでも分離された全細胞及び外膜小胞に存在することができる。したがって、遺伝的に解毒されたPTを発現する株の使用は有益である。好ましくは、本発明の組換え百日咳菌の細菌は、皮膚壊死毒素(DNT)遺伝子を発現しない。
【0048】
細菌リポ多糖及びリピドA
細菌リポ多糖(LPS)は、可変性の高いO抗原、可変性の少ないコアオリゴ糖及びリピドAと称される保存性の高い脂質部分から構成される。リピドAは、1個又は2個のリン酸基で置換されたグルコサミン二糖と様々な長さのいくつかのアシル鎖とからなる(
図1)。LPSのエンドトキシン活性は、リピドA部分の組成によって主に決定される。
【0049】
図1(A)に、野生型百日咳菌由来のリピドAの構造を示す。本発明は、部分的には、百日咳菌のLPS中のリピドAのC2、C2'及び/又はC3'アシル鎖の長さの改変に基づく。好ましい実施形態では、百日咳菌のLPS中のリピドAのC3'アシル鎖が改変されている。このような実施形態では、百日咳菌のLPS中のリピドAのC2及びC2'アシル鎖の長さもまた改変することができる。この目的のために、百日咳菌のリピドA生合成経路が操作されている。
【0050】
LpxAアシルトランスフェラーゼ
アシルトランスフェラーゼLpxA(「LpxA」と呼ばれる)は、リピドAの3及び3'位置にての単糖前駆体(UDP-グルコサミン)へのエステル連結一級β-ヒドロキシミリステートの転移を触媒し、両位置で組み込まれるアシル鎖の長さを決定するが、この長さはグラム陰性菌のうちで変動する[4、5、6]。
【0051】
LPSのエンドトキシン活性は、LPSのリピドA部分の組成によって主に決定される。リピドAのアシル鎖の数の変動はTLR4を通したシグナル伝達に影響を及ぼす可能性があるが、これらの鎖の変化がTLR4シグナル伝達に差動的に影響を及ぼすメカニズムは完全には解明されていない[2]。
【0052】
したがって、異種LpxA遺伝子の発現は、それぞれ、10(C10)個又は12(C12)個の炭素原子の長さを有するアシル鎖の転移を触媒する、緑膿菌(LpxAPa)及び髄膜炎菌(LpxANm)由来のLPS LpxAのエンドトキシンの毒性を低減させる可能性がある。しかし、先の研究では、例えばWO2018/167061に記載のものでは、LpxAPa又はLpxANm遺伝子が百日咳菌中でエピソーム様式で発現され、内因性LpxA遺伝子は不活化された。LpxApaのエピソーム様式発現によって、C3'アシル鎖の長さがC14からC10に減少したが、生成する組換え株は強い増殖不全を呈し、このことが組換え株を大規模な発酵や使用には不向きなものとした。一方、百日咳菌中でのLpxANmのエピソーム様式発現は致死性であった。
【0053】
驚くべきことに、本発明者らは、百日咳菌において、パラ百日咳菌由来のLpxA(LpxABpa)のゲノム発現が、LPSのエンドトキシンの毒性を低減すると同時に、当技術分野で観察される適合性/増殖の問題も解決することを発見した。
【0054】
パラ百日咳菌由来のLpxAのアミノ酸配列は配列番号2として提供される。百日咳菌由来のLpxAのアミノ酸配列は配列番号1として提供される。
【0055】
百日咳菌由来のLpxAのアミノ酸配列は、配列番号1及び2の170位及び229位にてのアミノ酸に対応する2個の残基の点で、パラ百日咳菌のアミノ酸配列とは異なる(
図2)。アミノ酸170位及び/又は229位に特定の置換が存在すると、LpxAの特異性が変更して、リピドAのC3'位にC
10アシル鎖を選択的に組み込むと考えられる。したがって、本発明の組換え百日咳菌種の株は、LpxAアミノ酸配列をコードするLpxA遺伝子を発現することができるが、このLpxAアミノ酸配列では、(配列番号1を参照することによって番号が付けられている場合)170位及び229位にてのアミノ酸の一方又は両方が、アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)及びシステイン(C)からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されている。詳細には、組換え百日咳菌種の株は、LpxAアミノ酸配列をコードするLpxA遺伝子を発現することができるが、このLpxAアミノ酸配列では、G170がセリンによって置換されている(G170S)及び/又はG229がアラニンによって置換されている(G229A)。詳細には、組換え百日咳菌種の株は、LpxAアミノ酸配列をコードするLpxA遺伝子を発現することができるが、このLpxAアミノ酸配列は、(配列番号1を参照することによって番号が付けられる場合)170位にセリン残基及び/又は229位にアラニン残基を含む。
【0056】
アミノ酸の置換又は突然変異は、標準分子生物学的技法、例えばランダム突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、指向性進化、遺伝子置換等によって導入することができる。
【0057】
好ましくは、LpxA遺伝子は、上記の突然変異に加えて、配列番号2と少なくとも80%の配列同一性、例えば、81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも8%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%又は90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする。
【0058】
詳細には、2つの配列の配列同一性は、GenomeQuest, Inc.が供給するGENEPASTアルゴリズムを使用して決定することができる。このアルゴリズムでは、以前は「Kerr」と呼ばれたが、いかなる生物学的重みづけも無しでパーセント配列同一性の算術的決定を行う(Dufresne et al, Nature Biotechnology 20, 1269-1271 (2002)、又はAndree et al, World Patent Information, 2008, vol. 30, issue 4, pages 300-308)。一般に、配列同一性は、比較される配列のうちの最も長い配列の全(すなわち、完全)長に対して及びそれに沿って計算される。
【0059】
LpxDアシルトランスフェラーゼ
LpxDアシルトランスフェラーゼ(LpxD)は、リピドAの2及び2'位置にてのアミド連結β-ヒドロキシミリステートの転移を触媒し、両位置で組み込まれるアシル鎖の長さを決定するが、この長さはこの場合もグラム陰性菌のうちで変動する[6]。
【0060】
外因性LpxDバリアントを発現させると、細菌のLPSのエンドトキシンプロファイルが改善される可能性がある。したがって、本発明の組換え百日咳菌種の株は、少なくとも1つの異種LpxD遺伝子を含むことができる。詳細には、異種LpxD遺伝子は細菌ゲノムに組み込まれている。
【0061】
C.テストステローニ由来のLpxD(LpxDCt)の適切なアミノ酸配列は、配列番号3として提供される。緑膿菌由来のLpxD(LpxDPa)の適切なアミノ酸配列は、配列番号4として提供される。
【0062】
したがって、一部の実施形態では、少なくとも1つの異種LpxD遺伝子は緑膿菌由来のLpxD遺伝子である。一部の実施形態では、少なくとも1つの異種LpxD遺伝子はC.テストステローニ由来のLpxD遺伝子である。一部の実施形態では、異種LpxD遺伝子は皮膚壊死毒素の遺伝子座に取って代わる。一部の実施形態では、異種LpxD遺伝子は内因性LpxD遺伝子に取って代わる。一部の実施形態では、異種LpxD遺伝子は、BP0840プロモーター(外膜ポリンプロモーター)の制御下にある。さらにより詳細には、LpxD遺伝子の野生型コピー(LpxDBp)がノックアウトされている。
【0063】
一部の実施形態では、少なくとも1つの異種LpxD遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、配列番号3と少なくとも90%の同一性を有する。
【0064】
したがって、一部の実施形態では、少なくとも1つのLpxD遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、配列番号3と少なくとも90%、少なくとも95%又は100%の同一性を有する。より詳細には、LpxDアミノ酸配列は配列番号3と、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の同一性を有する。
【0065】
一部の実施形態では、少なくとも1つの異種LpxD遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、配列番号4と少なくとも90%の同一性を有する。
【0066】
したがって、一部の実施形態では、少なくとも1つのLpxD遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、配列番号4と少なくとも90%、少なくとも95%又は100%の同一性を有する。より詳細には、LpxDアミノ酸配列は、配列番号4と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の同一性を有する。
【0067】
詳細には、本発明の組換え百日咳菌の細菌は、異種LpxD遺伝子と、170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含むLpxAアミノ酸配列をコードするLpxA遺伝子との両方を発現する。より詳細には、百日咳菌の細菌は、LpxABpa及びLpxDPaを発現する。
【0068】
一部の実施形態では、少なくとも1つのLpxA遺伝子及び少なくとも1つのLpxD遺伝子は、細菌ゲノムに組み込まれる。他の実施形態では、LpxA遺伝子は細菌ゲノムに組み込まれるが、LpxD遺伝子はエピソーム様式で発現することができる。
【0069】
組換え細菌の内因性LpxA及び/又はLpxD遺伝子は、当業者に良く知られた手段によって不活化することができる。例えば、両遺伝子をノックアウトすることができる。
【0070】
全体として、内因性LpxA遺伝子は、突然変異されているが、不活化することができるか又は例えば配列番号2で置き換えることができる。全体として、内因性LpxD遺伝子は不活化されている。一部の実施形態では、内因性LpxAと内因性LpxD遺伝子の両方が不活化されている。
【0071】
一部の実施形態では、本発明の組換え百日咳菌の細菌は、さらなる遺伝子改変を、例えば他の外因性遺伝子の発現及び/又は他の内因性遺伝子の不活化を含む。非限定的な例の一例として、(1)内因性ArnT遺伝子(配列番号18)は不活化することができる、例えば、欠失又はノックアウトすることができる、(2)内因性皮膚壊死毒素(DNT)遺伝子(配列番号19)は不活化されている、例えば、欠失又はノックアウトされている、(3)細菌は気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)由来のPagL(配列番号16)を発現することができる、(4)細菌は、異種グラム陰性菌由来のLpxEタンパク質(配列番号6又は7)を発現することができる、及び/又は(5)細菌は、異種グラム陰性菌由来のLpxFタンパク質(配列番号8)を発現することができる。
【0072】
LpxE及びLpxFのリン酸ホスファターゼ
LpxEリン酸ホスファターゼ(LpxE)及びLpxFリン酸ホスファターゼ(LpxF)は、リン酸基を含む脂質からリン酸基を除去するように作用することができる加水分解酵素である。1個のリン酸基が除去される場合、リピドAは「モノホスホリルリピドA」である。リピドAに関しては、LpxE及びLpxFの活性によって、それぞれコア二糖のC1及びC4'にてのリン酸基の除去をもたらすことができる。
【0073】
リゾビウム・レグミノサルム(Rhizobium leguminosarum)(LpxERl)及びフランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)(LpxEFn)由来のLpxEホスファターゼが文献[65]及び[66]に開示されている。フランシセラ・ノビシダ由来のLpxFリン酸ホスファターゼ(LpxFFn)が文献[67]に開示されている。その著者らは、大腸菌(E. coli)におけるLpxERl、LpxEFn及びLpxFFnの異種発現をさらに開示している[68]及び[69]。しかし、これらの文献は、百日咳菌におけるLpxE又はLpxFの使用を開示していない。
【0074】
本発明者らは、百日咳菌における外因性LpxE及びLpxFの発現について本明細書で試験したが、異種LpxE及び/又はLpxFを使用するとリピドAの構造が変更されると共にリピドAの特性、例えば百日咳菌LPSのエンドトキシンプロファイルも変化させることができることを実証した。
【0075】
したがって、本発明の組換え百日咳菌種の株は、少なくとも1つの異種LpxE遺伝子及び/又は少なくとも1つの異種LpxF遺伝子を含むことができる。詳細には、少なくとも1つの異種LpxE遺伝子及び/又は少なくとも1つの異種LpxF遺伝子は、細菌ゲノムに組み込まれる。
【0076】
LpxEは、コア二糖のC1位置を特異的に脱リン酸化するリン酸ホスファターゼである。好ましくは、LpxEは、リゾビウム・レグミノサルム(LpxERl)及びフランシセラ・ノビシダ(LpxEFn)からなる群から選択される細菌由来の異種LpxE遺伝子である。リゾビウム・レグミノサルム及びフランシセラ・ノビシダ由来のLpxEの適切なアミノ酸配列は、それぞれ配列番号6及び配列番号7として提供される。
【0077】
一部の実施形態では、異種LpxE遺伝子は、グリコシルトランスフェラーゼをコードするArnT遺伝子の遺伝子座に取って代わる(ΔArnT)。一部の実施形態では、異種LpxE遺伝子は、BP0840プロモーター(外膜ポリンプロモーター)の制御下にある。一部の実施形態では、少なくとも1つの異種LpxE遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、配列番号6又は配列番号7と少なくとも90%の同一性、少なくとも95%又は100%の同一性を有する。
【0078】
特定の一実施形態では、異種LpxE遺伝子は、細菌ゲノムに挿入された、BP0840プロモーター(外膜ポリンプロモーター)の制御下にあるLpxEFnであり、ArnT遺伝子の遺伝子座に取って代わる(ΔArnT)。
【0079】
一実施形態では、本発明の組換え百日咳菌の細菌は、異種LpxE遺伝子と、170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含むLpxAアミノ酸配列をコードするLpxA遺伝子とを発現する。より詳細には、百日咳菌の細菌は、LpxABpaとLpxERl及びLpxEFnからなる群から選択されるLpxE遺伝子とを発現する。一部の実施形態では、LpxA遺伝子及びLpxE遺伝子は、細菌ゲノムに組み込まれる。他の実施形態では、LpxA遺伝子は細菌ゲノムに組み込まれるが、LpxE遺伝子はエピソーム様式で発現する。
【0080】
LpxFは、コア二糖のC4'位置を特異的に脱リン酸化するリン酸ホスファターゼである。好ましくは、LpxFはフランシセラ・ノビシダ(LpxFFn)由来の異種LpxF遺伝子である。フランシセラ・ノビシダ由来のLpxFの適切なアミノ酸配列は、配列番号8として提供される。
【0081】
一部の実施形態では、少なくとも1つの異種LpxF遺伝子は、フランシセラ・ノビシダ由来のLpxF遺伝子である。一部の実施形態では、異種LpxF遺伝子は、グリコシルトランスフェラーゼをコードするArnT遺伝子の遺伝子座に取って代わる。一部の実施形態では、異種LpxF遺伝子は、BP0840プロモーター(外膜ポリンプロモーター)の制御下にある。一部の実施形態では、少なくとも1つの異種LpxF遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、配列番号8と少なくとも90%の同一性、少なくとも95%又は100%の同一性を有する。
【0082】
リピドAアシル鎖
一般に、グラム陰性菌のリピドAは、様々な長さと複雑度の最大8つの脂肪酸でアシル化されたβ-(1→6)-連結二糖、並びに、荷電置換基、例えばリン酸基、ホスホエタノールアミン残基又は正電荷の糖残基から構成されており、様々な細菌種のリピドA内に多数の変形形態がある。二糖の2位及び2'位(それぞれ還元糖残基及び末端糖残基)にてのアシル化は、アミド連結脂質をもたらし、このことはまた、3-アミノ-3-デオキシ-d-グルコサミンがアシル化される場合、3位及び3'位についても当てはまる。3位及び3'位にてのヒドロキシル基並びに脂肪アシル鎖の3-ヒドロキシル基もアシル化され、エステル連結置換基をもたらす。β-(1→6)-連結二糖に結合した4~8個のアシル基によるアシル化の程度は種によって異なり、ある特定の細菌種由来のリピドAには複数の形態が存在することが多い。
【0083】
一般に、野生型百日咳菌のリピドAのC2、C2'及びC3'の各位にてのアシル鎖の長さはC14である。本明細書で使用される場合、下付き文字の整数を伴う「C」は、整数で表示される長さの炭素鎖をベースとする分子を表示する。したがって、C14及びC10は、それぞれ14個の炭素原子鎖及び10個の炭素原子鎖を有する分子を表示することになる。
【0084】
本発明の組換え細菌は、野生型グラム陰性菌によって産生されるリピドAの対応するアシル鎖の長さと比較して、C2及び/又はC2'及び/又はC3'の各位にてのアシル鎖の長さが短縮されているリピドAを産生する。
【0085】
本発明の組換え細菌の好ましい実施形態では、細菌は、野生型グラム陰性菌によって産生されるリピドAの対応するアシル鎖の長さと比較して、C3'位にてのアシル鎖の長さが短縮されているリピドAを産生する。一部の実施形態では、細菌は、野生型グラム陰性菌によって産生されるリピドAの対応するアシル鎖の長さと比較して、C2位及び/又はC2'位にてのアシル鎖の長さもまた短縮されているリピドAを産生する。
【0086】
好ましい実施形態では、C3'位にてのアシル鎖の長さは、C14未満であり、例えば、C6~C12、C8~C12又はC10~C12、特にC10又はC12、例えば、C6、C8、C10又はC12である。特に好ましい実施形態では、C3'位にてのアシル鎖の長さはC10である。
【0087】
詳細には、C2位にてのアシル鎖の長さは、C14未満であり、例えば、C6~C12、C8~C12又はC10~C12、特にC10又はC12、例えば、C6、C8、C10又はC12である。詳細には、C2'位にてのアシル鎖の長さは、C14未満であり、例えば、C6~C12、C8~C12又はC10~C12、特にC10又はC12、例えば、C6、C8、C10又はC12である。詳細には、C3'位にてのアシル鎖の長さは、C14未満であり、例えば、C6~C12、C8~C12又はC10~C12、特にC10又はC12、例えば、C6、C8、C10又はC12である。
【0088】
一部の実施形態では、C2位及びC2'位の両位置にてのアシル鎖の長さは、C14未満であり、例えば、C6~C12、C8~C12又はC10~C12、特にC10又はC12、例えば、C6、C8、C10又はC12である。一部の実施形態では、C2位及びC3'位の両位置にてのアシル鎖の長さは、C14未満であり、例えば、C6~C12、C8~C12又はC10~C12、特にC10又はC12、例えば、C6、C8、C10又はC12である。一部の実施形態では、C2'位及びC3'位の両位置にてのアシル鎖の長さは、C14未満であり、例えば、C6~C12、C8~C12又はC10~C12、特にC10又はC12、例えば、C6、C8、C10又はC12である。一部の実施形態では、C2位、C2'位及びC3'位にてのアシル鎖の長さは、C14未満であり、例えば、C6~C12、C8~C12又はC10~C12、特にC10又はC12、例えば、C6、C8、C10又はC12である。
【0089】
本発明の組換え細菌によって産生されるリピドAは、様々な長さのアシル鎖を有する種類の混合物として存在することができる。
【0090】
したがって、細胞中のリピドAの総集団を考慮すると、C2位にてのアシル鎖のうちの少なくとも10%がC10若しくはC12であり、及び/又はC2'位にてのアシル鎖のうちの少なくとも10%がC10若しくはC12であり、及び/又はC3'位にてのアシル鎖のうちの少なくとも10%がC10若しくはC12である。詳細には、少なくとも10%がC10又はC12とすることができ、少なくとも12%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%がC10又はC12とすることができる。好ましくは、少なくとも10%がC10又はC12であり、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%がC10又はC12である。さらにより詳細には約100%がC10若しくはC12である
【0091】
細菌の増殖
本発明の組換え株は安定であるが、例えば製造における大規模での増殖にも適している。驚くべきことに、本発明の組換え百日咳菌の細菌の増殖プロファイルは、野生型の親株の増殖プロファイルと同等であり、このことから、例示されたLpxA突然変異もLpxD突然変異も両方とも培養増殖にとって有害ではないことが、示される。
【0092】
したがって、本発明の組換え菌株は、例えば、全細胞細菌抗原及び/又はOMVの調製に特に適しており、それらは次いで、免疫原性組成物、例えばワクチンの成分として使用することができる。
【0093】
したがって、本発明の組換えグラム陰性菌の培養の増殖速度は、野生型、親株の培養の増殖速度と同等である。詳細には、標準発酵プロセスでは、例えば10リットルの発酵体積では、経過時間及び増殖速度の値は実質的に類似しており、例えば、20%未満、15%未満、10%未満又は5%未満だけ変動する。
【0094】
外膜小胞(OMV)
第2の態様では、本発明は、第1の態様の組換え百日咳菌の細菌に由来する外膜小胞又は外膜小胞の集団に関する。
【0095】
OMVとは、増殖過程でグラム陰性菌により自然に及び構成的に放出される脂質二重層ナノスケール球状粒子(直径10~500nm)である。OMVは細菌外膜の「出芽」を通して生成され、細菌外膜と一致して、OMVは、リポ多糖(LPS)、グリセロリン脂質、外膜タンパク質、及びペリプラズム成分を含めて、細菌外膜の組成と類似した組成を有する。通常、外膜小胞は、細菌から人工的に調製され、界面活性剤処理を使用して(例えば、デオキシコール酸塩による)、又は非界面活性剤手段によって調製することができる。
【0096】
OMVを形成する技法には、胆汁酸塩界面活性剤(例えば、リトコール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、デオキシコール酸、コール酸、ウルソコール酸等の塩)で又はデオキシコール酸ナトリウムで細菌を処理することが含まれる[7及び8]。他の技法は、例えば、超音波処理、均質化、マイクロ流動化、キャビテーション、浸透圧ショック、破砕、フレンチプレス、ブレンディング等の技法を使用して、実質的に界面活性剤の非存在下で[9及び10]行うことができる。本発明と共に使用されるOMVは、約0.5%以下のデオキシコール酸塩を有する、例えば、約0.4%、約0.3%、約0.2%、約0.1%、<0.05%を有する又はゼロでさえある、OMV抽出緩衝剤を使用して調製することができる。
【0097】
OMVは、細菌の増殖過程で自然に形成される場合もあり、培養培地に放出される。したがって、OMVは、培養培地中で本発明の細菌を培養して、培養培地中のより小さなOMVから全細胞を分離することによって得ることができる。細菌小胞を好都合には、例えば0.22μmフィルターを通す濾過により全細菌から分離することができる。細菌濾液を、遠心分離、例えば高速遠心分離(例えば20,000×g、約2時間)により清澄化することができる。OMV調製の別の有用な方法は、[11]に記載されており、高速遠心分離の代わりに粗OMVの限外濾過を伴う。方法は、限外濾過を行う後に超遠心分離のステップを伴う場合がある。細菌小胞を精製するための簡単な方法が[12]に記載されており、以下を含む:i)第1の濾過ステップ、ここでは、小胞が例えば0.22μmの精密濾過を使用して濾液に通過することをもって、小胞をこれらの様々なサイズに基づいて細菌から分離する、及び(ii)第2の濾過ステップ、ここでは、小胞を例えば0.1μmの精密濾過を使用して残分に保持する。2つのステップは両方ともにタンジェント流ろ過を使用する。
【0098】
本発明のOMVは、LOS(LPSとしても知られている)を含むことになる。OMVにおけるLOSの発熱効果は、同量の精製LOSで見られる発熱効果よりも低くてもよい。したがって、好ましくは、発熱性について見る場合、一般には本発明の細菌に由来するOMVは親株に由来するOMVと比較されることになる。LOSレベルは、エンドトキシンの国際単位(IU)で表され、LALアッセイ(リムルスアメボサイトライセート)によって試験することができる。LOSは、OMVタンパク質1μgあたり2000IU未満で存在してもよい。
【0099】
本発明の一部の実施形態では、OMVは界面活性剤抽出のOMV(dOMV)である。「dOMV」という用語は、グラム陰性菌の外膜を通常には界面活性剤抽出プロセスによって破壊してそこから小胞を形成することによって得られた様々なプロテオリポソーム小胞を包含する。好ましくは、OMVは界面活性剤抽出のOMV(dOMV)である。詳細には、本発明のOMVは、デオキシコール酸塩を使用して調製されたdOMVである。より詳細には、約0.5%以下のデオキシコール酸塩である、例えば、約0.4%、約0.3%、約0.2%、約0.1%又は約0.05%である。
【0100】
本発明のdOMVは、動的光散乱DLS技法によって測定して、約20から約500nmの間のサイズ分布を有することができる。詳細には、本発明のdOMVは、約50から約500nmの間のサイズ分布を有することができる。より詳細には、dOMVは、約75から約250nmの間、例えば約75から約150nmの間のサイズ分布を有することができる。なおより詳細には、本発明のdOMVは、約20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145又は150nmの平均直径を有することができる。
【0101】
一部の実施形態では、本発明の細菌は、上方制御された抗原又は異種抗原(すなわち、特定の細菌株にとって天然ではない抗原)の発現を有するように改変することができる。こういった改変の結果として、そのような改変細菌から調製された小胞は、より高レベルの上方制御された又は異種の抗原を含有する。上方制御された抗原の小胞における発現の上昇(対応する野生型株に対して測定して)は、小胞の単位質量当たりの関連する抗原の質量で測定して、有用には少なくとも10%であり、より有用には少なくとも20%、30%、40%、50%、75%、100%又はそれよりも大きい。
【0102】
全細胞百日咳抗原
本発明の組換え百日咳菌の細菌は、不活化百日咳菌種の細胞の形態で、全細胞百日咳(wP)抗原として使用することができる。細胞百日咳抗原の調製は、当技術分野で十分に文書化されており、百日咳菌種の細胞の第I相培養物の熱不活化によって得ることができる。wP抗原の分量は、国際単位(IU)で表すことができる。例えば、NIBSCは、「International Standard For Pertussis Vaccine」(NIBSCコード:94/532)を供給しているが、これは、アンプルあたり40IUを含有する。
【0103】
本発明の免疫原性組成物において使用される場合、細胞百日咳抗原は典型的には、投与される場合に免疫応答を誘発することができる量で存在する。理想的には、細胞百日咳抗原は防御免疫応答を誘発することができる。本発明の免疫原性組成物中のwP抗原の量は典型的には少なくとも4IU/用量である。wP抗原は、アルミニウムアジュバント、例えば、リン酸アルミニウムアジュバント上へと吸着させることが又はそれらと混合することができる。
【0104】
TLR4シグナル伝達カスケード
本発明の細菌は、特にTLR4刺激アッセイを使用して測定される場合、野生型株由来のリピドAのエンドトキシン活性に照らして、エンドトキシン活性が減少したリピドAを産生する。
【0105】
TLR4刺激アッセイは当業者によく知られている。TLR4シグナル伝達カスケードを刺激すると、いくつかの炎症誘発性サイトカイン、例えばIL-1、IL-6、IL-8及びTNF-αの発現の一因であり、したがって炎症においてキーとなる役割を果たすNF-κB転写因子及び/又はアクチベータープロテイン1(AP-1)転写因子の活性化が、もたらされる可能性がある。ある特定の系統、例えばHEK-Blue(商標)-hTLR4細胞(Invivogen)での転写活性の決定を使用して、TLR4シグナル伝達カスケードの刺激を評価することができる。より具体的には、HEK-Blue(商標)-hTLR4細胞の胚性アルカリホスファターゼ(SEAP)を分泌する誘導性レポーター遺伝子は、5つのNF-κB及びAP-1の結合部位に融合したIL-12p 40最小プロモーターの制御下にある。TLR4リガンドで刺激すると、NF-κB及びAP-1の活性化によってアルカリホスファターゼの分泌が誘導されるが、この分泌は655nm(OD655)で光学密度を測定することにより上清において定量化することができる。
【0106】
本発明の細菌のエンドトキシン活性、例えば本発明の細菌に由来する全細胞抗原又はOMVのエンドトキシン活性は、TLR4刺激アッセイ、特にヒトTLR4刺激アッセイ、より詳しくは655nmで測定した光学密度(OD)によるヒトTLR4刺激アッセイを使用して決定することができる。詳細には、本発明の全細胞又はOMVのエンドトキシン活性は、野生型親株のエンドトキシン活性と比較される。本発明の細菌に由来するOMVによるTLR4シグナル伝達を活性化する能力は、野生型株に由来するOMVの能力、並びに他の細菌又は市販の免疫原性組成物、例えば、BEXSERO(ナイセリア属由来のOMVを含有する髄膜炎Bワクチン)又はQUINVAXEM(全細胞(wP)百日咳ワクチン)に由来のOMVの能力と比較することができる。
【0107】
より詳細には、本発明のOMVのエンドトキシン活性は、野生型細菌に由来するOMVのエンドトキシン活性と比較して、TLR4シグナル伝達カスケードの活性化の減少又は低下を呈する。具体的には、LpxA及び/又はLpxDの突然変異体を試験する場合にTLR4刺激アッセイを使用して得られたOD655値は、非刺激細胞を使用して得られたOD655値及び/又は無細胞百日咳(aP)ワクチンで刺激された細胞で観察されたOD655値と、類似していることが、例えば約±0.5OD655であることが求められる。
【0108】
一部の実施形態では、TLR4刺激アッセイは、野生型細菌に由来するOMVと比較して、本発明のOMVに関してTLR4シグナル伝達カスケードの活性化の部分的な低下を示す。具体的には、本発明のLpxA細菌及び/若しくはLpxD細菌又はOMVで観察されたOD655値は、非刺激細胞で観察されたOD655値よりも及び/又はaPワクチン刺激された細胞で観察されたOD655値よりも高い(≧0.5 OD655)ことがあるが、野生型細菌に由来するOMVで並びに/又はwPワクチン及び/若しくはOMV含有MenBワクチンで刺激された細胞で観察されたOD655値よりも低いことがある。
【0109】
免疫原性組成物
第3の態様では、本発明は、本発明の組換え百日咳菌の細菌に由来する少なくとも1つの外膜小胞及び薬学的に許容される賦形剤を含む免疫原性組成物に関する。
【0110】
本発明のOMVは、免疫原性組成物の有効成分として有用である。同様に、(例えば、ホルマリン及び/又は熱での処理によって)死滅及び不活化された本発明の組換え百日咳菌種の全細胞を含む全細胞抗原も、免疫原性組成物の有効成分として有用である。
【0111】
「免疫原性組成物」という用語は、組成物中に存在する1つ以上の抗原に対する免疫応答を、例えば抗体又は細胞性免疫応答を誘発するために投与することができる任意の組成物を広く指す。したがって、本発明の組成物は免疫原性である。
【0112】
免疫原性組成物が、対象から疾患を予防、改善、緩和又は排除する場合、そのような組成物はワクチンと呼ぶことができる。本発明によるワクチンは、予防的(すなわち、感染を予防するため)又は治療的(すなわち、感染を処置するため)のいずれかとすることができるが、典型的には予防的であろう。ある特定の実施形態では、免疫原性組成物はワクチンである。予防的ワクチンは、疾患からの完全な防御を保証しない。なぜなら、たとえ患者が抗体を発達させるとしても、免疫系が上記感染を撃退することができる前に、ずれ又は遅延の可能性があるからである。したがって、そして誤解を避けるために記すと、予防的ワクチンという用語はまた、例えば、このような感染の重症度又は期間を減少させることによって、将来的な感染の影響を改善するワクチンを指すことができる。
【0113】
「感染に対する防御」及び/又は「防御免疫を提供する」という用語は、対象の免疫系が、免疫応答を誘発し且つ感染を撃退するように抗原刺激された(例えば、ワクチン接種によって)ことを意味する。詳細には、誘発された免疫応答は、百日咳菌に対する感染を撃退することができる。ワクチン接種された対象はしたがって感染する場合があるが、対照である対象よりも上記感染をより首尾よく撃退することができる。ワクチンとして使用される免疫原性組成物は、免疫学的有効量の抗原、並びに必要に応じて他の任意の成分を含む。「免疫学的有効量」とは、個体へのその量の投与が、単回投与で又はシリーズの一部としてのいずれでも、処置若しくは予防に効果的であることを意味する。普通には、所望の結果とは、病原体に対して対象を防御することができる又はそれに役立つ抗原(例えば病原体)特異的免疫応答の生成である。免疫学的有効量は、処置される個体の健康状態及び身体状態、年齢、処置される個体の分類学上の群(例えば非ヒト霊長類、霊長類等)、個体の免疫系が抗体を合成する能力、所望される防御の程度、ワクチンの製剤化、医療事情に関する処置を行っている医師の評価、並びに他の関連要因に応じて異なる。免疫学的有効量は、ルーチンの試験を通して決定することができる比較的広い範囲に入ることが、予測される。
【0114】
「抗原」という用語は、対照に投与される場合、その物質に対して向けられた免疫応答を誘発する物質を指す。本発明の文脈において、本発明のOMVは抗原である。詳細には、対照に投与される場合、免疫原性組成物は、ボルデテラ属、例えば百日咳菌に対して向けられた免疫応答を誘発することになる。詳細には、ボルデテラ属に対して向けられた免疫応答は防御的であり、すなわち、ボルデテラ属、特に百日咳菌によって引き起こされる感染又は定着を防止すること又は減少させることができる。したがって、組成物は薬学的に許容することができる。一般に、免疫原性組成物は、抗原に加えて成分を含むものであり、例えば、通常、1種以上の医薬担体及び/又は賦形剤を含む。そのような成分に関する徹底的な論議が文献[13]において利用可能である。
【0115】
「薬学的に許容される担体」とは、それ自体が抗体の産生を誘導しない担体である。そのような担体は当業者によく知られており、非限定的な例の一例として、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸コポリマー、スクロース、トレハロース、ラクトース、及び脂質凝集体(例えば油滴又はリポソーム)が挙げられる。免疫原性組成物はまた希釈剤も、例えば水、生理食塩液、グリセロール等も含有することができる。滅菌パイロジェンフリーのリン酸緩衝生理食塩液が通常の希釈剤である。そのような組成物は補助物質も、例えば湿潤化剤又は乳化剤、pH緩衝性物質等も含むことができる。
【0116】
組成物は一般に、水性形態で、対象に、例えば患者に、特に適切な哺乳動物に、例えばヒトに投与される。しかし、投与前では組成物は非水性の形態であってもよい。例を挙げると、水性形態で製造され次いで充填され配布されやはり水性の形態で投与されるワクチンもあれば、製造過程で凍結乾燥され、使用時に水性形態へと復元されるワクチンもある。したがって、本発明の組成物は凍結乾燥製剤のように乾燥させることができる。
【0117】
組成物は保存剤を、例えばチオメルサール又は2-フェノキシエタノールを含むことができる。しかし、ワクチンは、水銀物質を実質的に含まないとする(すなわち、5μg/mL未満)、例えばチオメルサールフリーとすることが好ましい。水銀を全く含有しないワクチンがより好ましい。チオメルサールを含まないワクチンが特に好ましい。
【0118】
浸透圧を調節するために、生理的塩を、例えばナトリウム塩を含むことができる。塩化ナトリウム(NaCl)を使用することができるが、これは1から20mg/mlの間で、例えば約10±2mg/ml NaClで存在することができる。
【0119】
組成物は一般に、200mOsm/kgから400mOsm/kgの間、特に240~360mOsm/kgの間、より詳しくは290~310mOsm/kgの範囲内の重量オスモル濃度を有する。
【0120】
組成物は1つ以上の緩衝剤を含むことができる。通常の緩衝剤には:リン酸緩衝剤、トリス緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、ヒスチジン緩衝剤又はクエン酸緩衝剤が含まれる。緩衝剤は典型的には、5~20mMの範囲で含まれることになる。
【0121】
組成物のpHは一般に、5.0から8.1の間であり、より典型的には6.0から8.0の間、例えば6.5から7.5の間又は7.0から7.8の間となる。
【0122】
組成物は好ましくは無菌である。詳細には、組成物は非発熱性であり、例えば用量あたり<1EU(エンドトキシン単位、標準測定値)、例えば用量あたり<0.1EUを含有する。組成物はグルテンフリーとすることができる。
【0123】
組成物は、単回免疫用の材料を含んでもよく、複数回免疫用の材料(すなわち「マルチ用量」キット)を含んでもよい。保存剤を含むことは、マルチ用量の構成においては好ましい。マルチ用量組成物中に保存剤を含めることへの代替手段として(又はそれに加えて)、組成物を、材料を取り出すための無菌アダプターを有する容器内に収めてもよい。
【0124】
免疫原性組成物、例えばヒトワクチンは典型的には、約0.5mlの投薬体積で投与されるが、半分の用量(すなわち、約0.25ml)を、例えば子供に投与することができる。
【0125】
本発明の免疫原性組成物はまた、1つ以上の免疫調節剤を含むことができる。好ましくは、1つ以上の免疫調節剤には、1つ以上のアジュバントが含まれる。本明細書で使用される場合、「アジュバント」とは、例えば免疫原性組成物又はワクチンの一部として、抗原(1種類又は複数種類)と併せて対象に投与される場合、投与された抗原(1種類又は複数種類)に対する対象の免疫応答(アジュバントが存在しない場合で得られた免疫応答と比較して)向上又は増強する化合物又は物質(又は複数の化合物又は複数の物質の組合せ)を意味する。アジュバントには、下でさらに論議するが、TH1アジュバント及び/又はTH2アジュバントが含まれ得る。
【0126】
本発明の組成物に使用することができるアジュバントには、鉱物含有組成物、例えばアルミニウム塩及びカルシウム塩が含まれる。本発明の組成物は、鉱物塩を、例えば水酸化物(例えばオキシ水酸化物)、リン酸塩(例えばヒドロキシホスフェート、オルトホスフェート)、硫酸塩等[例えばref.14の第8章及び第9章を参照されたい]を、又は様々な鉱物化合物の混合物を含むことができるが、この場合、その化合物は適切な任意の形態(例えばゲル、結晶、アモルファス等)を取っており、そして吸着が好ましい。鉱物含有組成物はまた、金属塩の粒子として製剤化することもできる。
【0127】
「水酸化アルミニウム」として知られるアジュバントは通常にはアルミニウムオキシ水酸化物塩であり、これは普通、少なくとも部分的に結晶である。式AlO(OH)により表すことができるアルミニウムオキシ水酸化物は、赤外線(IR)分光法によって、特に、1070cm-1にての吸収バンド及び3090~3100cm-1にての強いショルダーの存在によって、他のアルミニウム化合物と、例えば水酸化アルミニウムAl(OH)3と区別することができる [ref.14の第9章]。水酸化アルミニウムアジュバントの結晶性の程度は、回折バンドの半値幅(WHH)によって反映されており、この場合、結晶性の低い粒子は、結晶子サイズがより小さいことに起因してより大きな線の広がりを示す。WHHが上昇するにつれて表面積は拡大するが、より高いWHH値を有するアジュバントは、抗原吸着についてより大きい能力を有することがわかっている。繊維状形態(例えば、透過型電子顕微鏡写真で見られるように)は、水酸化アルミニウムアジュバントにとって通常である。水酸化アルミニウムアジュバントのpIは通常には約11であり、すなわちアジュバントはそれ自体が生理的pHに正の表面電荷を有する。水酸化アルミニウムアジュバントについては、pH7.4にて、Al+++1mg当たり1.8~2.6mgの間のタンパク質の吸着能が報告されている。
【0128】
「アルミニウムホスフェート」として知られるアジュバントは、通常には、アルミニウムヒドロキシホスフェートであり、少量の硫酸塩(すなわち、アルミニウムヒドロキシホスフェート硫酸塩)も含有する場合が多い。アルミニウムヒドロキシホスフェートは沈殿によって得ることができるが、沈殿過程の反応条件及び濃度は、その塩においてヒドロキシルがホスフェートで置換される程度に影響を及ぼす。ヒドロキシホスフェートは一般に、0.3から1.2の間のPO4/Alモル比を有する。ヒドロキシホスフェートは、ヒドロキシル基の存在によって厳密なAlPO4から区別することができる。例えば、3164cm-1にてのIRスペクトルバンド(例えば200℃に加熱した場合)により、構造的ヒドロキシルの存在が示される[ref. 14の第9章]。
【0129】
アルミニウムホスフェートアジュバントのPO4/Al3+モル比は、0.3から1.2の間、特に0.8から1.2の間、より詳しくは0.95±0.1とすることができる。アルミニウムホスフェートは、特にヒドロキシホスフェート塩の場合、アモルファスとすることができる。通常のアジュバントは、0.6mg Al3+/mlで含まれる、0.84から0.92の間のPO4/Alモル比を有するアモルファスアルミニウムヒドロキシホスフェートである。アルミニウムホスフェートは一般に、粒子状(例えば、透過型電子顕微鏡写真で見られるような板状形態)となる。粒子の通常の直径は、任意の抗原吸着後で0.5~20μm(例えば約5~10μm)の範囲にある。アルミニウムホスフェートアジュバントについては、pH7.4にて、Al+++1mgあたり0.7~1.5mgの間のタンパク質の吸着能が報告されている。
【0130】
アルミニウムホスフェートのゼロ電荷点(PZC)は、ヒドロキシルがリン酸で置換される程度に反比例しており、この置換の程度は、沈殿による塩の調製に使用される反応条件及び反応物の濃度に応じて異なることができる。PZCはまた、溶液中の遊離リン酸イオンの濃度を変化させることよって(より多くのホスフェート=より酸性のPZC)、又は緩衝剤、例えばヒスチジン緩衝剤を添加することによっても(PZCをより塩基性にする)、変更される。本発明に従って使用されるアルミニウムホスフェートは、4.0から7.0の間、より詳しくは5.0から6.5の間、例えば約5.7のPZCを有することができる。
【0131】
本発明の組成物を調製するのに使用されるアルミニウム塩の懸濁液は、緩衝剤(例えば、リン酸塩又はヒスチジン又はトリスの各緩衝剤)を含有することができるが、これは必ずしも必要ではない。懸濁液は、無菌及びパイロジェンフリーであることが好ましい。懸濁液は、例えば、1.0から20mMの間、5から15mMの間、特に約10mMの濃度で存在する遊離の水性リン酸イオンを含むことができる。懸濁液はまた塩化ナトリウムを含むことができる。
【0132】
一部の実施形態では、アジュバント成分は、水酸化アルミニウムとアルミニウムホスフェートの両方の混合物を含む。この場合、アルミニウムホスフェートが水酸化物よりも多く存在してもよく、例えば、少なくとも2:1の重量比、例えば、≧5:1、≧6:1、≧7:1、≧8:1、≧9:1等の重量比とすることができる。一部の実施形態では、アジュバント成分はアルミニウムホスフェートを含む。一部の実施形態では、アジュバント成分は、アルミニウムヒドロキシホスフェート硫酸塩を含む。
【0133】
患者に投与するための組成物中のAl+++の濃度は、10mg/mlから0.01mg/mlまでの間、例えば、5mg/ml未満、4mg/ml未満、3mg/ml未満、2mg/ml未満、1mg/ml未満、例えば約5mg/ml、約4mg/ml、約3mg/ml、約2mg/ml、約1mg/ml、約0.3mg/ml、約0.05mg/ml又は約0.01mg/mlとすることができる。特定の範囲は、約0.3mg/mlから約1mg/mlまでの間である。一部の実施形態では、最大0.85mg/用量、例えば、約0.5mg/l又は約0.3mg/mlが好ましい。
【0134】
本発明においてアジュバントとして使用するのに適した油エマルション組成物には、スクアレン-水エマルション、例えばMF59が含まれる[ref. 14の第10章;ref. 15も参照されたい](5%スクアレン、0.5%Tween 80、及び0.5%Span 85、マイクロフルイダイザーを使用してサブミクロン粒子に製剤化)。完全フロイントアジュバント(CFA)及び不完全フロイントアジュバント(IFA)も使用することができる。
【0135】
サポニン製剤もまた、本発明においてアジュバントとして使用することができる。サポニンは、広範な植物種の樹皮、葉、茎、根及び花にも見いだされるステロール配糖体及びトリテルペノイド配糖体の異質性の群である。キラヤ・サポナリア・モリーナ(Quillaia saponaria Molina)樹木の樹皮からのサポニンは、アジュバントとして幅広く研究されてきた。サポニンはまた、スミラックス・オルナタ(Smilax ornata)(サルサパリラ)、シュッコンカスミソウ(Gypsophilla paniculata)(ブライドベール)、及びサボンソウ(Saponaria officinalis)(カスミソウ)からも商業的に入手することができる。サポニンアジュバント製剤には、精製製剤、例えばQS21並びに脂質製剤、例えばISCOMが含まれる。QS21はStimulon(商標)として販売されている。
【0136】
AS01は、MPL(3-O-デスアシル-4'-モノホスホリルリピドA)、QS21((キラヤ・サポナリア・モリーナ(Quillaja saponaria Molina)、フラクション21)Antigenics、New York、NY、米国)及びリポソームを含有するアジュバント系である。AS01Bは、MPL、QS21及びリポソーム(50μg MPL及び50μg QS21)を含有するアジュバント系である。AS01Eは、MPL、QS21及びリポソーム(25μg MPL及び25μg QS21)を含有するアジュバント系である。一実施形態では、免疫原性組成物又はワクチンは、AS01を含む。別の実施形態では、免疫原性組成物又はワクチンは、AS01B又はAS01Eを含む。特定の実施形態では、免疫原性組成物又はワクチンは、AS01Eを含む。AS02は、油/水エマルションにMPL及びQS21を含有するアジュバント系である。AS02Vは、油/水エマルションにMPL及びQS21(50μg MPL及び50μg QS21)を含有するアジュバント系である。AS03は、油/水(o/w)エマルションにα-トコフェロール及びスクアレンを含有するアジュバント系である。AS03Aは、o/wエマルションにα-トコフェロール(11.86mgトコフェロール)及びスクアレンを含有するアジュバント系である。AS03Bは、o/wエマルションにα-トコフェロール(5.93mgトコフェロール)及びスクアレンを含有するアジュバント系である。AS03Cは、o/wエマルションにα-トコフェロール(2.97mgトコフェロール)及びスクアレンを含有するアジュバント系である。一実施形態では、免疫原性組成物又はワクチンは、AS03を含む。AS04は、アルミニウム塩(500μg Al3+)上に吸着されたMPL(50μg MPL)を含有するアジュバント系である。一実施形態では、免疫原性組成物又はワクチンはAS04を含む。QS21及び3D-MPLの使用を伴う系がWO94/00153に開示されている。QS21がコレステロールでクエンチされている組成物がWO96/33739に開示されている。水中油型エマルション中にQS21、3D-MPL及びトコフェロールを伴うさらなるアジュバント製剤が、WO95/17210に記載されている。一実施形態では、免疫原性組成物はサポニンをさらに含むが、これはQS21とすることができる。製剤はまた、水中油型エマルション及びトコフェロールを含むことができる(WO 95/17210)。非メチル化CpG含有オリゴヌクレオチド(WO 96/02555)及びその他の免疫調節オリゴヌクレオチド(WO0226757及びWO03507822)もまた、TH1応答の優先的な誘導因子であり、本発明での使用に適している。
【0137】
さらなるアジュバントには、トール様受容体アゴニスト(特に、トール様受容体2アゴニスト、トール様受容体3アゴニスト、トール様受容体4アゴニスト、トール様受容体7アゴニスト、トール様受容体8アゴニスト及びトール様受容体9アゴニスト)が含まれる。本発明の組成物は、1つ以上の低分子免疫増強剤を含むことができる。例えば、組成物は、TLR2アゴニスト(例えば、Pam3CSK4)、TLR4アゴニスト(例えば、アミノアルキルグルコサミニドホスフェート、例えばE6020)、TLR7アゴニスト(例えば、イミキモド)、TLR8アゴニスト(例えば、レシキモド(また、TLR7アゴニスト))及び/又はTLR9アゴニスト(例えばIC31)を含むことができる。このようなアゴニストのいずれもが理想的には<2000Daの分子量を有する。
【0138】
本発明で使用されるTLR7アゴニストは理想的には少なくとも1つの吸着部分を含む。TLRアゴニストにそのような部分を含めることにより、TLRアゴニストが不溶性アルミニウム塩に吸着することが可能となり(例えば、リガンド交換又は他の何らかの適切なメカニズムによって)、それらの免疫学的挙動が改善する。リン含有吸着部分は特に有用であり、したがって、吸着部分は、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネート、ホスホニト、ホスフィナイト等を含むことができる。TLRアゴニストは、少なくとも1つのホスホネート基を含むことができる。特定の実施形態では、本発明の組成物は、ホスホネート基を含むTLR7アゴニストを含むことができる。このホスホネート基によって、アゴニストの不溶性アルミニウム塩への吸着が可能となり得る。一部の実施形態では、TLRアゴニストは、下に示すように、3-(5-アミノ-2-(2-メチル-4-(2-(2-(2-ホスフォノエトキシ)エトキシ)エトキシ)フェネチル)ベンゾ[f]-[1,7]ナフチリジン-8-イル)プロパン酸である。
【0139】
【0140】
好ましいTLRアゴニストは水溶性である。したがって、TLRアゴニストは、25℃及び1気圧でpH7で水と水性緩衝剤中で混合される場合に均質な溶液を形成して、少なくとも50μg/mlの濃度を有する溶液を与えることができる。したがって「水溶性」という用語は、そういった条件下でほんのわずかに可溶性である物質を排除する。
【0141】
本発明の組成物は種々の形態で調製することができる。例えば、組成物は、液体溶液又は懸濁液のいずれかとして、注射剤として調製することができる。注射前の液体媒体における溶液又は懸濁液に適した固体形態も調製することができる(例えば、凍結乾燥組成物又は噴霧凍結乾燥組成物)。組成物は、例えば軟膏、クリーム又は粉末として局所投与用に調製することができる。組成物は、例えば、微粉末又はスプレーを使用した吸入器として肺内投与向けに調製することができる。組成物は、例えば液滴として、鼻の、耳の又は眼の投与向けに調製することができる。組成物は、組合せ組成物が患者への投与直前に復元されるように設計されたキット形態であってもよい。このようなキットは、液体形態の1つ以上の抗原及び1つ以上の凍結乾燥抗原を含むことができる。
【0142】
組成物が使用前にその場で調製されることになると共に(例えば、成分が凍結乾燥形態で提示されている場合)、キットとして提示されている場合、キットは2本のバイアルを備えている場合もあり、又はキットは1つの充填済み注射器及び1本のバイアルを備えている場合もあるが、この場合では、注射器の内容物を使用して注射前にバイアルの内容物を再活性化する。
【0143】
混合ワクチン
本発明の免疫原性組成物は概して、混合ワクチンであり、本発明のOMVに加えて、百日咳菌由来の及び百日咳菌以外の少なくとも1種の病原体由来のさらなる防御抗原を含むことができる。
【0144】
さらなる防御抗原は、ウイルス性及び/又は細菌性とすることができる。百日咳菌に加えて、典型的な細菌病原体には、それらに限定されないが、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、破傷風菌(Clostridium tetani)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型が含まれる。典型的なウイルス性病原体には、それらに限定されないが、ポリオウイルス及びB型肝炎ウイルスが含まれる。誤解を避けるために記すと、さらなる抗原への言及は、OMVの成分を超えて本発明の免疫原性組成物に含まれるさらなる抗原性成分を指すことを意図するものである。例えば、少量の百日咳トキソイドがOMVの成分として見いだされる場合があるが、さらなる抗原としての百日咳トキソイドへの言及は、例えば分離されたタンパク質抗原として、OMV成分に加えて特異的に添加されるある量の百日咳トキソイドを指す。
【0145】
無細胞百日咳抗原
本発明のOMVに加えて、本発明の免疫原性組成物は、特に以下の良く知られ且つよく特徴付けられた百日咳菌抗原から選択される1つ以上の無細胞百日咳(aP)抗原をさらに含むことができる:(1)解毒百日咳毒素(百日咳トキソイド、又は「PT」);(2)繊維状赤血球凝集素(「FHA」);(3)ペルタクチン(「PRN」又は「69キロダルトン外膜タンパク質」としても知られる);(4)2型線毛(「FIM2」);(5)3型線毛(「FIM3」)。解毒されたPTとFHAの両方を使用することが最も好ましい。一部の実施形態では、PT、FHA及びPRNが使用される。これらの抗原は、改変Stainer-Scholte液体培地で増殖させた百日咳菌培養物からの単離によって調製されるのが好ましい。PT及びFHAは、発酵ブロスから単離することができるが(例えば、ヒドロキシアパタイトゲルへの吸着によって)、一方、ペルタクチンは、熱処理及び凝集(例えば塩化バリウムを使用して)によって細胞から抽出することができる。抗原を、連続的なクロマトグラフィー及び/又は沈殿ステップで精製することができる。PT及びFHAを、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーで精製することができる。ペルタクチンを、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーで精製することができる。
【0146】
FHA及びペルタクチンを、本発明に従って使用する前にホルムアルデヒドで処理することができる。PTを、ホルムアルデヒド及び/又はグルタルアルデヒドで処理することにより解毒することができる。この化学的解毒手順の代替として好ましくは、PTは、突然変異誘発によって酵素活性が低下した突然変異型PT、例えば、遺伝的に解毒されたPT、好ましくはPT-9K/129Gとすることができる。
【0147】
一部の実施形態では、本発明の免疫原性組成物は、線毛抗原FIM2及びFIM3をさらに含む。
【0148】
aP抗原は、非吸着状態で使用することができ、又は使用する前に1つ以上のアルミニウム塩アジュバント上へと吸着させることができる。典型的には、aP抗原は水銀系保存剤、例えばチメロサールを実質的に含まない。
【0149】
無細胞百日咳抗原は、投与される場合に免疫応答を誘発することができる量で、本発明の免疫原性組成物中に存在することができる。理想的には、無細胞百日咳抗原は防御免疫応答を誘発することができる。無細胞百日咳抗原の分量は通常にはマイクログラムで表される。ワクチン中のPTの濃度は普通5から50μg/mlの間である。典型的なPT濃度は、5μg/ml、16μg/ml、20μg/ml又は50μg/mlであり、例えば、用量あたり約20μg又は用量あたり約25μgである。ワクチン中のFHAの濃度は普通10から50μg/mlの間である。典型的なFHA濃度は、10μg/ml、16μg/ml又は50μg/mlであり、例えば、用量あたり約20μg又は用量あたり約25μgである。ワクチン中のペルタクチンの濃度は普通5から16μg/mlの間である。典型的なペルタクチン濃度は5μg/ml、6μg/ml又は16μg/ml、例えば、用量あたり約3μg又は用量あたり約8μgである。FIM2及びFIM3は濃度5μg/ml及び16μg/mlで存在することができる。FIM2及びFIM3の典型的な濃度は、5μg/ml、10μg/ml又は20μg/mlであり、例えば、用量あたり約5μg又は用量あたり約10μgである。青少年及び成人向けのブースターワクチンは典型的には、用量0.5mlあたり、PT 2.5~8μg、FHA 4から8μgの間、及びペルタクチン2.5から8μgの間を含有する。典型的には、ブースターワクチンは、用量0.5mlあたり、PT 4μg、FHA 4μg及びペルタクチン8μg、より好ましくはPT 5μg、FHA 2.5μg及びペルタクチン2.5μgを含む。小児用ワクチンは普通には、用量0.5mlあたり、PT 7μg、FHA 10μg及びペルタクチン10μgを含む。
【0150】
水性成分がPT、FHA及びペルタクチンのそれぞれを含む場合、それらの重量比は異なることができるが、例えば、約16:16:5、約5:10:6、約20:20:3、約25:25:8又は約10:5:3(PT:FHA:PRN)とすることができる。
【0151】
ジフテリア
ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)はジフテリアを引き起こす。ジフテリア毒素は、注射後に特異的な抗毒素抗体を誘導する能力を保持しつつ、毒性を除去するように(例えば、ホルマリン若しくはホルムアルデヒドを用いて)処理することができる。ジフテリアワクチンに使用されるジフテリアトキソイドは、当技術分野でよく知られている。好ましいジフテリアトキソイドは、ホルムアルデヒド処理によって調製されるものである。ジフテリアトキソイドは、ジフテリア菌を、ウシ抽出物を補充する場合もある増殖培地(例えば、Fenton培地、又はLinggoud & Fenton培地)中で増殖させ、これに続くホルムアルデヒド処理、限外濾過、沈殿によって得ることができる。詳細には、ジフテリア菌の増殖用の増殖培地は動物由来成分を含まない。次いで、トキソイド化された材料を、無菌濾過及び/又は透析を含むプロセスによって処理することができる。代替的に、遺伝的に解毒化されたジフテリア毒素(例えばCRM197)を使用することができるが、保存中の長期間安定性を維持するためにホルムアルデヒドで処理してもよい。
【0152】
ジフテリアトキソイドは、アジュバント、例えばアルミニウム塩アジュバント上へと吸着させることができる。
【0153】
組成物中のジフテリア毒素及び/又はトキソイドの分量は一般には、「Lf」単位(「凝集単位」又は「限界凝集用量」又は「凝集の限界」)で測定されるが、これは、1国際単位の抗毒素と混合する場合に、最適に凝集する混合物を生じる、毒素/トキソイドの量として定義される[16,17]。例えば、NIBSCによって、「Diphtheria Toxoid, Plain」[18]が供給されており、これはアンプルあたり300LFを含有しており、また、「The 2nd International Reference Reagent For Diphtheria Toxoid For Flocculation Test」(NIBSC Code: 02/176)も供給されており、これはアンプルあたり900Lfを含有する。組成物中のジフテリア毒素又はトキソイドの濃度は、そのような参照試薬に対して較正された参照材料との比較による凝集アッセイを使用して、容易に決定することができる。
【0154】
組成物中のジフテリアトキソイドの免疫効力は、国際単位(IU)で一般に表される。効力を、実験動物(通常にはモルモット)において組成物によってもたらされた防御をIUで較正された参照ワクチンと比較することによって、評価することができる。NIBSCによって、「4th WHO International Standard for Diphtheria Toxoid (Adsorbed)」(NIBSC code: 07/216)が供給されているが、これはアンプル当たり213IUを含有しており、そのようなアッセイを較正するのに適している。
【0155】
3希釈アッセイを使用して、本発明の組成物の効力を決定することができる。免疫後、モルモットは採血され又は皮下経路によって若しくは皮内経路によってのいずれかで曝露される。代替の実施形態では、モルモットの代わりにマウスが使用される。モルモット又はマウスを採血する場合、個々の動物の抗毒素レベルを、試験されるタイプのワクチンで検証されたin vivo又はin vitroの血清学的方法を使用して実施される毒素中和試験によって滴定する。一実施形態では、動物由来の成分を含む発酵培地で産生されたジフテリアトキソイドを検証用に使用する。本発明の組成物の効力は、適当な統計学的方法を使用して算出される。3希釈アッセイの場合、効力の推定値の95%信頼区間の限界は、推定効力の95%信頼区間の下限がヒトの単回用量あたり30IUを上回らなければ、推定効力の50~200%以内である。1希釈試験を実施する場合、試験ワクチンの効力は、ヒトの用量あたり30IUよりかなり上回ることが実証される。
【0156】
IU測定値によれば、組成物は一般に少なくとも30IU/用量を含む。組成物は典型的には、20から80Lf/mlの間の、典型的には約50Lf/mlのジフテリアトキソイドを含む。青少年及び成人用のブースターワクチンは典型的には、0.5mlの用量あたり4Lf/mlから8Lf/mlの間の、例えば、2.5Lf、好ましくは4Lfのジフテリアトキソイドを含有する。小児用ワクチンは典型的には、0.5mlの用量あたり20から50Lf/mlの間の、例えば、10Lf又は25Lfのジフテリアトキソイドを含有する。
【0157】
タンパク質製剤の純度は、特定のタンパク質と総タンパク質量との比によって表すことができる。組成物中のジフテリアトキソイドの純度は一般に、タンパク質(非透析性)窒素の単位質量あたりの、ジフテリアトキソイドのLfの単位で表される。例を挙げると、非常に高純度の毒素/トキソイドは、1700Lf/mg Nを超える純度を有するかもしれず、このことは、組成物中のタンパク質の大部分又はすべてがジフテリア毒素/トキソイドであることを示す[19]。
【0158】
破傷風
破傷風菌(Clostridium tetani)は破傷風を引き起こす。破傷風毒素は、防御トキソイドをもたらすように処理することができる。トキソイドは破傷風ワクチンに使用されており、当技術分野でよく知られている。したがって、本発明の混合ワクチンは破傷風トキソイドを含むことができる。好ましい破傷風トキソイドは、ホルムアルデヒド処理によって調製されるものである。破傷風トキソイドは、破傷風菌を、増殖培地(例えば、ウシカゼインに由来するLatham培地)中で増殖させ、これに続くホルムアルデヒド処理、限外濾過及び沈殿によって得ることができる。破傷風菌の増殖用の増殖培地は動物由来成分を含まなくてもよい。次いで、材料を無菌濾過及び/又は透析を含むプロセスによって処理することができる。
破傷風トキソイドは、アジュバント、例えばアルミニウム塩アジュバント上へと吸着させることができる。
【0159】
破傷風トキソイドの分量は「Lf」単位(下を参照されたい)で表すことができるが、これは、1国際単位の抗毒素と混合する場合に、最適に凝集する混合物を生じる、トキソイドの量として定義される[14]。NIBSCによって、「The 2nd International Reference Reagent for Tetanus Toxoid For Flocculation Test」(NIBSC Code: 04/150)が供給されており、これはアンプルあたり690LFを含有しており、それにより測定値を較正することができる。
【0160】
青少年及び成人用のブースターワクチンは典型的には、0.5mlの用量あたり5Lfの破傷風トキソイドを含有する。小児用ワクチンは典型的には、0.5mlの用量あたり5から10Lfの間の破傷風トキソイドを含有する。
【0161】
破傷風トキソイドの免疫効力は、国際単位(IU)で測定され、実験動物(通常にはモルモット)において組成物によってもたらされた防御を、参照ワクチンと、例えば、アンプルあたり469IUを含有するNIBSCの「Tetanus Toxoid Adsorbed Third International Standard 2000」[20、21]と比較することによって、評価される。本発明の組成物中の破傷風トキソイドの効力は、用量あたり少なくとも35IU、例えば少なくとも70IU/mlとする。より詳細には、本発明の組成物中の破傷風トキソイドの効力は用量あたり少なくとも40IUである。しかし、成人及び青少年向けのブースターワクチンでは、一次免疫を目的とした小児用ワクチンと比較して抗原含有量が減少されることから、20IU/用量という減少した効力を許容することができる。
【0162】
多重希釈アッセイを使用して、本発明の組成物の効力を決定することができる。免疫後、モルモットは採血され又は皮下経路によって若しくは皮内経路によってのいずれかで曝露される。代替として、モルモットの代わりにマウスを使用してもよい。モルモット又はマウスを採血する場合、個々の動物の抗毒素レベルを、試験されるタイプのワクチンで検証されたin vivo又はin vitroの血清学的方法を使用して実施される毒素中和試験によって滴定する。本発明の組成物の効力は、適当な統計学的方法を使用して算出される。多重希釈アッセイを使用する場合、95%信頼区間の下限及び上限は、それぞれ推定効力の50~200%以内であるとする。子供の一次免疫に使用される破傷風ワクチンの推定効力の下限95%信頼限界は、ヒトの単回用量あたり40IUを下回ってはならない。
【0163】
組成物中の破傷風トキソイドの純度は一般に、タンパク質(非透析性)窒素の単位質量あたりの、破傷風トキソイドのLfの単位で表される。破傷風トキソイドは少なくとも1000Lf/mg Nの純度を有する必要がある。
【0164】
Hib
インフルエンザ菌b型(「Hib」)は細菌髄膜炎を引き起こす。Hibワクチンは通常には、その調製が当技術分野で十分に文書化されている莢膜糖類抗原をベースとしている。インフルエンザ菌種の細菌は、動物由来成分無しで培養することができる。Hib糖類は、特に子供においてその免疫原性を増強するために、キャリアタンパク質にコンジュゲートされている。これらコンジュゲートの通常のキャリアタンパク質は、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、ジフテリア毒素のCRM 197派生体、又は血清群B髄膜炎菌由来の外膜タンパク質複合体(OMPC)である。したがって、本発明の混合ワクチンは、キャリアタンパク質にコンジュゲートしたHib莢膜糖類を含むことができる。
【0165】
適切な任意の活性化化学及び/又はリンカー化学を、Hib糖類のコンジュゲーションにおいて使用することができる。糖類は典型的には、コンジュゲーション前に活性化又は官能化される。活性化には、例えば、シアニル化試薬、例えばCDAP(例えば1-シアノ-4-ジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロボレート[30、31])が関与することができる。他の適切な技法では、カルボジイミド、ヒドラジド、活性エステル、ノルボルナン、p-ニトロ安息香酸、N-ヒドロキシスクシンイミド、S-NHS、EDC、TSTUを使用する、文献32の序論も参照されたい。
【0166】
リンカー基を介するリンケージは、既知の任意の手順、例えば文献33及び34に記載の手順を使用して行うことができる。リンケージの一タイプは、多糖の還元的アミノ化を伴い、生成するアミノ基をアジピン酸リンカー基の一方の末端とカップリングし、次いで、アジピン酸リンカー基のもう一方の末端にタンパク質をカップリングする[35、36、37]。他のリンカーとしては、B-プロピオンアミド[38]、ニトロフェニル-エチルアミン[39]、ハロゲン化ハロアシル[40]、グリコシドリンケージ[41、42、43]、6-アミノカプロン酸[44]、ADH [45]、C4~C12部分[46]等が挙げられる。リンカーを使用する代わりに、直接リンケージを使用することができる。タンパク質への直接リンケージは、例えば、文献46及び47に記載のように、多糖の酸化、これに続くタンパク質による還元的アミノ化を含むことができる。
【0167】
破傷風トキソイドを、普通「PRP-T」と呼ばれるコンジュゲートで使用することができる。PRP-Tは、臭化シアンを使用してHib莢膜多糖を活性化して、活性化された糖類をアジピン酸リンカー(例えば(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)、通常は塩酸塩)にカップリングし、次いで、リンカー糖実体を破傷風トキソイドキャリアタンパク質と反応させることによって作製することができる。
【0168】
CRM 197ジフテリアトキソイドは別の好ましいHibキャリアタンパク質である[47、48、49]。好ましいコンジュゲートは、アジピン酸コハク酸ジエステルを介してCRM197に共有結合でリンクしているHib糖類を含む[50、51]。
【0169】
コンジュゲートの糖部分は、Hib細菌から調製された完全長ポリリボシルリビトールホスフェート(PRP)、及び/又は完全長PRPの断片を含むことができる。1:5(すなわち過剰のタンパク質)から5:1(すなわち過剰の糖類)の間の糖類:タンパク質比(w/w)、
例えば、1:2から5:1の間の比及び1:1.25から1:2.5の間の比を有するコンジュゲートを使用することができる。しかし、好ましいワクチンでは、糖類とキャリアタンパク質との重量比は、1:2.5から1:3.5の間である。破傷風トキソイドが抗原としてもキャリアタンパク質としても存在するワクチンでは、コンジュゲート中の糖類とキャリアタンパク質との重量比は1:0.3から1:2の間とすることができる[52]。
【0170】
Hib抗原の分量は通常には糖類のμgで表される。ワクチン中の糖類の濃度は典型的には、3から30μg/mlまでの間、例えば20μg/mlである。Hibコンジュゲートの投与は好ましくは、≧0.15μg/ml、より好ましくは≧1μg/mlの抗PRP抗体濃度をもたらし、これらは標準的な応答閾値である。本発明の一部の実施形態では、Hibポリリボシルリビトールホスフェートは、例えば[53又は54]に記載のように、合成である。
【0171】
B型肝炎ウイルス
B型肝炎ウイルス(HBV)はウイルス性肝炎の原因である。HBVビリオンは、外側のタンパク質コート又はカプシドにより取り囲まれた内部コアから構成され、コアはウイルスDNAゲノムを含有する。カプシドの主成分は、HBV表面抗原として、又はより普通には、「HBsAg」として知られているタンパク質であり、これは通常には分子量およそ24kDaを有する226個のアミノ酸のポリペプチドである。現存するB型肝炎ワクチンはすべてHBsAgを含有するが、この抗原は正常な患者に投与される場合、HBV感染を防御する抗HBsAg抗体の産生を刺激する。したがって、本発明の免疫原性組成物はHBsAgを含むことができる。
【0172】
ワクチン製造の場合、HBsAgをいくつかの方法で作製することができる。例えば、組換えDNA法によってタンパク質を発現することによる。本発明の方法で使用するためのHBsAgは、例えば酵母細胞において組換え発現させる必要がある。適切な酵母には、サッカロミセス属(Saccharomyces)(例えばS.セレビシエ(S.cerevisiae))、ハンゼヌラ属(Hanensula)(例えばH.ポリモルファ(H.polymorpha))、又はピキア属(Pichia)の宿主が含まれる。酵母は動物由来成分無しで培養することができる。酵母発現のHBsAgは一般に非グリコシル化のものであり、これは本発明の免疫原性組成物で使用するのにHBsAgの最も好ましい形態である。酵母発現のHBsAgは、免疫原性が高く、血液製剤汚染のリスク無しで調製することができる。組換え酵母由来のHBsAgを精製するための多くの方法が当技術分野で知られている。
【0173】
HBsAgは一般に、リン脂質を含む脂質マトリックスを含めて、実質的に球形の粒子(平均直径約20nm)の形態となる。酵母発現のHBsAg粒子は、天然のHBVビリオンには見いだされないホスファチジルイノシトールを含む場合がある。粒子はまた、免疫系を刺激するために非毒性量のLPSを含むことができる[55]。非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート20)が酵母の破壊過程で使用された場合、粒子はそれを保持する場合がある[56]。
【0174】
HBsAgはHBVサブタイプadw2由来であることが好ましい。
【0175】
HBsAg精製のための好ましい方法には、細胞破砕後:限外濾過、サイズ排除クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、超遠心、脱塩、及び無菌濾過が伴う。細胞破砕後に溶解物を(例えば、ポリエチレングリコールを使用して)沈殿させて、HBsAgを溶液中に限外濾過できる状態で残したままにしておいてもよい。
【0176】
精製後、HBsAgを(例えばシステインと共に)透析に供してもよく、この透析を使用して、HBsAg調製時に使用された可能性のある任意の水銀系保存剤を、例えばチメロサールを除去することができる[57]。
【0177】
HBsAgの分量は通常にはマイクログラムで表される。HBsAgを含有する混合ワクチンは普通、5から60μg/mlの間を含む。本発明の組成物中のHBsAgの濃度は、60μg/ml未満、例えば、≦55μg/ml、≦50μg/ml、≦45μg/ml、≦40μg/ml等であるのが好ましい。約20μg/mlの濃度は典型的な、例えば用量あたり10μgである。本発明の一部の実施形態では、組成物は「低用量」のHBsAgを含む。このことは、組成物中のHBsAg濃度が、≦5μg/ml、例えば、<4、<3、<2.5、<2、<1等であることを意味する。したがって、典型的な0.5mlの単位用量体積では、HBsAgの量は2.5μg未満、例えば<2、<1.5、<1、<0.5等である。
【0178】
ポリオウイルス
ポリオウイルスはポリオを引き起こす。文献1の第24章においてより詳細に開示のように、不活化ポリオウイルスワクチン(IPV)は長年にわたって知られてきた。したがって、本発明の混合ワクチンは、不活化ポリオウイルス抗原を含むことができる。
【0179】
ポリオウイルスは細胞培養で増殖することができ、好ましい培養ではサル腎臓に由来するベロ細胞系を使用する。ベロ細胞は好都合には、培養されたマイクロキャリアとすることができる。増殖後、ビリオンを、例えば限外濾過、透析濾過及びクロマトグラフィーの技法を使用して精製することができる。動物(特にウシ)の材料を細胞の培養において使用する場合、伝達性海綿状脳症(TSE)がない、特に牛海綿状脳症(BSE)がない供給源から入手する必要がある。好ましくは、ポリオウイルスは、動物由来の成分を含まない培地で培養される細胞内で増殖させる。
【0180】
患者への投与に先立ち、ポリオウイルスを不活化しなければならないが、これはホルムアルデヒド(又は好ましくは非アルデヒド剤)による処理によって行うことができる。ポリオは、3タイプのポリオウイルスのうちの1タイプによって引き起こされ得る。3つのタイプは類似しており、同じ症状を引き起こすが、抗原的には非常に異なり、1つのタイプによる感染によって他のタイプによる感染が防御されることはない。したがって、本発明では、3つのポリオウイルス抗原:ポリオウイルス1型(例えばMahoney株)、ポリオウイルス2型(例えばMEF-1株)及びポリオウイルス3型(例えばSaukett株)を使用することが好ましい。ポリオウイルス1型、2型及び3型のその他の株が当技術分野で知られており、これらもまた使用することができる。これらのウイルスは、個別に増殖、精製、及び不活化されるのが好ましく、次いで、合わせて、本発明で使用するためのバルク三価混合物が与えられる。
【0181】
IPVの分量は通常には、「DU」単位(「D抗原単位」[58])で表される。混合ワクチンは普通、用量あたりポリオウイルスタイプ毎に1~100DUの間、例えば、1型ポリオウイルス約40DU、2型ポリオウイルス約8DU及び3型ポリオウイルス約32DUを含むが、これらよりも低用量[59、60]、例えば、1型は10~20DU、2型は2~4DU及び3型は8~20DUを使用することが可能である。本発明の混合ワクチンは、「低用量」のポリオウイルスを含むことができる。1型ポリオウイルスの場合、低用量とは、組成物中のウイルス濃度が≦20DU/ml、例えば<18、<16、<14、<12、<10等であることを意味する。2型ポリオウイルスの場合、低用量とは、組成物中のウイルス濃度が≦4DU/ml、例えば<3、<2、<1、<0.5等であることを意味する。3型ポリオウイルスの場合、低用量とは、組成物中のウイルス濃度が≦16DU/ml、例えば<14、<12、<10、<8、<6等であることを意味する。1型、2型及び3型ポリオウイルスの3つすべてが存在する場合、3つの抗原はそれぞれ5:1:4のDU比で存在することができるが、又は他の適切な任意の比で、例えばSabin株を使用する場合に15:32:45の比で存在することができる[61]。Sabin株由来の低用量の抗原は特に有用であり、この場合、1型は≦10DU、2型は≦20DU、3型は≦30DU(単位用量、通常には0.5mlあたり)である。
【0182】
IPV成分を使用し且つそのポリオウイルスをベロ細胞で増殖した場合、ワクチン組成物は好ましくは、ベロ細胞DNA 10ng/ml未満、好ましくは≦1ng/ml、例えば≦500pg/ml又は≦50pg/ml、例えば、≧50塩基対の長さであるベロ細胞DNA 10ng/ml未満を含有する。
【0183】
混合ワクチンの調製
ワクチンで使用するための上記病原体由来の抗原成分は普通、以下の略称によって呼ばれる:ジフテリアトキソイドについては「D」、破傷風トキソイドについては「T」、百日咳抗原については「P」、ここで「aP」は無細胞である(例えば、本発明の少なくともOMV、PT及びFHA並びに場合によりパータクチン及び/又はFIM2/FIM3を含めて)、B型肝炎表面抗原についてはHBsAg、コンジュゲートインフルエンザ菌b莢膜糖類については「Hib」、並びに三価不活化ポリオウイルスについては「IPV」。
【0184】
本発明の実施形態には、それらに限定されないが、以下の成分を含む混合ワクチンが含まれる:
- D、T、aP
- D、T、aP、IPV
- D、T、aP、HBsAg
- D、T、aP、Hib
- D、T、aP、Hib、IPV
- D、T、aP、HBsAg、Hib
- D、T、aP、HBsAg、IPV
- D、T、aP、HBsAg、IPV、Hib
【0185】
これらの混合ワクチンは、列記の抗原だけから本質的になっていてもよいが、さらなる病原体に由来する抗原をさらに含むことができる。詳細には、これらの混合ワクチンは、有効成分として列記の抗原だけを含有するが、賦形剤、例えばアジュバント、緩衝剤等をさらに含むことができる。一部の実施形態では、aP成分は、本発明のOMV、PT(好ましくは遺伝的に解毒されたPT)及びFHAからなる。一部の実施形態では、aP成分は、本発明のOMV、PT(好ましくは遺伝的に解毒されたPT)、FHA及びPRNからなる。一部の実施形態では、aP成分は、本発明のOMV、PT(好ましくは遺伝的に解毒されたPT)、FHA及びFIM2/FIM3からなる。一部の実施形態では、aP成分は、本発明のOMV、PT(好ましくは遺伝的に解毒されたPT)、FHA、PRN及びFIM2/FIM3からなる。
【0186】
小児用混合ワクチンの場合、D:T比は典型的には1より大であり(すなわち、小児用ワクチンは普通、Lf単位で過剰のDを有する)、一般に2:1から3:1(Lf単位で測定して)の間であり、例えば2.5:1である。これに対して、(普通には、D及びTを含む少なくとも1つの小児用混合ワクチンを接種した)青少年若しくは成人に投与されるブースターワクチンの場合、T:D比は典型的には1より大であり(すなわち、ブースターワクチンは普通、Lf単位で過剰のTを有する)、一般に1.5:1から2.5:1の間であり、例えば2:1である。
【0187】
有用な一ワクチンは、本発明のOMV、並びに単位用量あたり、2Lf D、5Lf T、4μg PT-9K/129G、4μg FHA及び8μgペルタクチンを含む。別の有用なワクチンは、本発明のOMV、並びに単位用量あたり、25Lf D、10Lf T、25μg PT-9K/129G、25μg FHA、及び8μgペルタクチンを含む。
【0188】
抗原成分を組み合わせて多価組成物を調製する場合、抗原は個々に添加してもよく、予備混合されていてもよい。混合ワクチンがD抗原及びT抗原並びにさらなる抗原を含む場合、予備混合のD-T成分を混合ワクチンの調製の際に使用してもよい。この二価成分をさらなる抗原と組み合わせることができる。混合ワクチンを調製するためにD-T混合物を使用する場合、混合物中のジフテリアトキソイドと破傷風トキソイドとの比は、2:1から3:1の間(Lf単位で測定して)、好ましくは2.4:1から2.6:1の間、例えば好ましくは2.5:1とすることができる。
【0189】
処置の方法
本発明の第4の態様では、OMV又は免疫原性組成物を使用して、哺乳動物、特に適切な哺乳動物において免疫応答を誘導することができる。適切な哺乳動物はヒトであるのが好ましい、免疫応答は、防御的であるのが好ましく、抗体が関与するのが好ましい。
【0190】
本発明の免疫原性組成物及び医薬組成物は、目的の免疫原に対する免疫応答を誘発するためのin vivoでの使用のためのものである。本明細書に開示のように、本発明の有効量の免疫原性組成物又は医薬組成物を投与する工程を含む、哺乳動物において免疫応答を上昇させる方法が提供される。免疫応答は、防御的であることが好ましく、抗体及び/又は細胞媒介性免疫が関与するのが好ましい。方法はブースター応答を上昇させることができる。
【0191】
本発明はまた、哺乳動物において免疫応答を上昇させる方法で使用するための本発明の免疫原性組成物又は医薬組成物も提供する。
【0192】
本発明はまた、哺乳動物において免疫応答を上昇させるための医薬の製造における本発明のOMV又はOMVの集団の使用も提供する。
【0193】
本発明の使用及び方法によって哺乳動物において免疫応答を上昇させることで、哺乳動物を種々の疾患及び/又は感染に対して、例えば上で論議の細菌及び/又はウイルス性疾患に対して防御することができる。OMV及び組成物は免疫原性であり、ワクチン組成物であるのがより好ましい。本発明によるワクチンは、予防的(すなわち、感染を予防するため)又は治療的(すなわち、感染を処置するため)のいずれかとすることができるが、典型的には予防的であろう。
【0194】
哺乳動物、特に適切な哺乳動物は、ヒト又は大型の獣医哺乳動物(例えばウマ、ウシ、シカ、ヤギ及びブタ)とすることができる。ワクチンが予防用途向けである場合、ヒトは好ましくは子供(例えば幼児又は乳児)又はティーンエイジャーであるのが好ましい。ワクチンが治療用途向けの場合、ヒトはティーンエイジャー又は成人であることが好ましい。子供向けのワクチンは成人にも投与して、例えば安全性、投薬量、免疫原性等を評価することができる。
【0195】
本発明に従って調製されたワクチンは、子供と成人の両方を処置するのに使用することができる。したがって、ヒトの患者は、1歳未満、5歳未満、1~5歳、5~15歳、15~55歳、又は少なくとも55歳とすることができる。一部の実施形態では、子供は、1歳を下回る、例えば、1日齢未満、約1週齢、約2週齢、約3週齢、約4週齢、約2カ月齢、3カ月齢、約4カ月齢、約5カ月齢、約6カ月齢、約7カ月齢、約8カ月齢、約9カ月齢、約10カ月齢、約11カ月齢、約12カ月齢未満の個体である。
【0196】
ワクチンを受ける特定の患者群としては、年配者(例えば、20~50歳、~60歳、好ましくは~65歳)、若年層(例えば、~5歳又は約12カ月齢未満の乳児)、入院患者、医療従事者、軍人及び兵士、妊婦、慢性疾患患者又は免疫不全の患者である。しかし、ワクチンはこれらの群にだけ適しているわけではなく、集団でより全般的に使用することができる。
【0197】
本発明の組成物は一般に患者に直接投与されることになる。直接送達は、非経口注射(例えば、皮下、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮内、又は組織の間質空間に)によって行うことができる。代替の送達経路には、直腸、経口(例えば錠剤、スプレー)、口腔、舌下、膣、局所、経皮又は皮膚経由、鼻腔内、眼内、耳内、肺内又はその他の粘膜の各投与が含まれる。皮内及び筋肉内投与が好ましい2つの経路である。注射は針(例えば、皮下針)を介したものでもよいが、代わりに無針注射を使用してもよい。典型的な筋肉内用量は0.5mLである。
【0198】
本発明を使用して、全身性免疫及び/又は粘膜免疫を誘発することが、好ましくは、増強された全身性及び/又は粘膜免疫を誘発することができる。
【0199】
本発明の使用及び方法は、百日咳菌、及び場合により、ジフテリア菌、破傷風菌、インフルエンザ菌血清型b、ポリオウイルス及びB型肝炎ウイルスのうちの1つ以上によって引き起こされる疾患の予防及び/又は処置のためであるのが好ましい。好ましい一実施形態では、本発明の使用及び方法は、百日咳菌によって引き起こされる疾患の予防のためのものである。
【0200】
疾患が予防される対象は、本発明の免疫原性組成物を受ける対象と同一ではない場合がある。例を挙げると、免疫原性組成物は、子孫を保護するために(妊娠前又は妊娠中に)女性に投与される場合がある(いわゆる「母体免疫」)。妊娠女性の免疫によって、移行した母体抗体に起因する受動免疫(「受動母体免疫」)を通して、乳児に抗体媒介性免疫がもたらされる。受動免疫は、母体の抗体が胎盤を通して胎児に移行する場合に自然に起こる。受動免疫は、乳児はなんらの能動獲得免疫も無しで出生するので、乳児にとって特に重要である。妊娠女性へ本発明の組成物を投与すると、女性の免疫が増強され、抗体は胎盤を通して新生児に送られ、その結果、乳児に受動母体免疫が付与される。しかし、乳児の受動免疫は、単に一時的なものであり、出生後の数週間又は数カ月後に低下し始める。受動免疫は単に一時的なものであるので、受動免疫が減弱する前に、乳児が本発明の組成物の投与を受けて、当該乳児において能動免疫を誘導することが重要であろう。出生後の乳児へ第2の免疫原性組成物を投与すると、乳児において能動免疫が誘導され、妊娠中に母親から受け継がれた免疫が延長される。
【0201】
投薬は、単回投与スケジュールによってもよく、複数回投与スケジュールによってもよい。複数回投与は、一次免疫スケジュール及び/又はブースター免疫スケジュールで使用することができる。複数回投与スケジュールでは、種々の用量を、同じ経路によって又は、例えば、非経口プライムと粘膜ブースト、粘膜プライムと非経口ブースト等、異なる経路によって与えることができる。複数回投与は典型的には、少なくとも1週間(例えば約2週間、約3週間、約4週間、約6週間、約8週間、約10週間、約12週間、約16週間等)あけて投与されることになる。一実施形態では、複数回投与を、世界保健機関のExpanded Program on Immunisation (「EPI」)においてしばしば使用されるように、出生して概6週後に、10週後に及び14週後に、例えば、6週齢で、10週齢で及び14週齢で投与することができる。代替の実施形態では、2回の一次用量は、約2カ月あけて、例えば、約7、8又は9週間あけて投与され、これに続いて、第2の一次用量の約6カ月~1年後に、例えば、第2の一次用量の約6、8、10又は12カ月後に1回以上のブースター用量が投与される。さらなる実施形態では、3回の一次用量は、約2カ月あけて、例えば、約7、8又は9週間あけて投与され、これに続いて、第3の一次用量の約6カ月~1年後に、例えば、第3の一次用量の約6、8、10又は12カ月後に1回以上のブースター用量が投与される。
【0202】
リピドAの反応原性を調節する方法
第5の態様では、本発明は、百日咳菌の細菌のリピドAの反応原性を調節する方法であって、LpxA及びLpxDからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を細菌のゲノムに安定して組み込む工程を含み、ここで:
(i)LpxA遺伝子は、配列番号1又は2と少なくとも80%の配列同一性を有するLpxAタンパク質をコードし、ここで、上記タンパク質は、配列番号1又は2に従って番号付けされる場合に170位にセリン(S170)及び/又は229位にアラニン(A229)を含み、並びに/又は
(ii)LpxD遺伝子は、配列番号3又は配列番号4と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDタンパク質をコードする、
方法に関する。上記のように、グラム陰性菌、特に百日咳菌の細菌のリピドAの反応原性は、リピドA生合成経路からの外因性酵素、例えばアセチルトランスフェラーゼLpxA及びLpxDの発現によって調節することができる。
【0203】
LpxA遺伝子及びLpxD遺伝子をゲノム組込みにより、抗生物質の選択を必要とせずに外因性DNAの安定した発現が可能になる。加えて、驚くべきことに、発明者らは、そのような株は当技術分野で見られる増殖欠陥を被ることがないことを発見した。
【0204】
定義
本開示及び特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈がそうではないことを明確に示していない限り、複数形を含む、すなわち、明記されていない限り、「a」は「1つ以上」を意味する。
【0205】
「A及び/又はB」などの句で使用されるような「及び/又は」という用語は、「A及びB」、「A又はB」、「A」、並びに「B」を含むことを意図する。同様に、「A、B、及び/又はC」のような句で使用されるような「及び/又は」という用語は、以下の実施形態:A、B及びC;A、B又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);並びにC(単独)のそれぞれを包含することを意図する。
【0206】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」を包含しており、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、さらなるもの、例えば、X+Yを含むことができる。「実質的に(substantially)」という語は、「完全に(completely)」を除外するものではなく、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まない場合もある。一部の実装形態では、「含む(comprising)」という用語は、記載されたポリペプチドのような、示された活性剤を含むこと、並びに、他の活性剤、及び製薬業界で知られている薬学的に許容される担体、賦形剤、皮膚軟化剤、安定剤等を含むことを指す。一部の実装形態では、「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、組成物であって、この組成物の唯一の有効成分が指定された有効成分(複数可)である、例えば抗原であるが、しかし、製剤を安定化する保存すること等を目的とするが、指定された有効成分の治療効果には直接関与しない、他の化合物を含めることができる、組成物を指す。「本質的になる」という移行句を使用して、請求項の範囲は、当該請求項に記載された特定の材料又は工程と、特許請求された発明の基本的かつ新規な特性に実質的な影響を及ぼさないものとを包含すると解釈されることを意味する。In re Herz, 537 F.2d 549, 551-52, 190 USPQ 461, 463 (CCPA 1976)を参照されたい(強調は原文のものである);MPEP § 2111.03も参照されたい。したがって、「から本質的になる」という用語は、本発明の請求項において使用される場合、「含む」と均等であると解釈されることを意図するものではない。「からなる(consisting of)」という用語及びその変化形は、特に明示的に指定されない限り、「に限定される(limited to)」ことを意味する。ある特定の領域では、「本質的になる」の代わりに、「からなる有効成分を含む」という用語を使用することができる。
【0207】
数値xに関連する「約」という用語は、当業者によって決定される特定の値の許容可能な文脈上の誤差範囲内を意味し、これは、値が測定又は決定される方法、すなわち、測定系の限界又は特定の目的に必要とされる精度の程度に、部分的に左右されることになるが、例えば、x±10%、x±5%、x±4%、x±3%、x±2%、x±1%である。
【0208】
「実質的に」という語は「完全に」を排除せず、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まない場合があるが、重要なあらゆる面で、含まない状態(free conditions)として機能するが、数値は一部の不純物又は物質の存在を指摘する状態を包含することができる。必要であれば、「実質的に」という語は、本発明の定義から省くことができる。特定の値が本明細書及び特許請求の範囲で使用されている場合、特に明記しない限り、「実質的に」という用語は、特定の値に対して許容可能な誤差範囲を有することを意味する。
【0209】
方法が、例えば(a)、(b)、(c)等のような投与の工程に言及する場合、これらは連続的であることが意図されており、すなわち、工程(a)が工程(b)に先行し、工程(b)の後に工程(c)が続く。抗体は一般に、その標的に特異的である、すなわち、無関係な対照タンパク質、例えばウシ血清アルブミンに対するよりも標的に対して高い親和性を有することになる。
【0210】
本特許明細書内で引用されているすべての文献、特許、又は特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0211】
本発明の特定の実施形態
実施形態1. 組換え百日咳菌の細菌であって、
(i)配列番号1に対して170位に突然変異及び/若しくは229位に突然変異を含むLpxAタンパク質をコードする、少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子;並びに/又は
(ii)異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入
を含む、組換え百日咳菌の細菌。
【0212】
実施形態2. 配列番号1に対して170位に置換及び/又は229位に置換を含むLpxAタンパク質をコードする、少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子を含む、実施形態1の組換え百日咳菌の細菌。
【0213】
実施形態3. LpxAタンパク質は、配列番号1に対して170位にセリン残基及び/又は229位にアラニン残基を含む、実施形態1又は2の組換え百日咳菌の細菌。
【0214】
実施形態4. LpxAタンパク質は、配列番号1に従って番号付けされる場合、(i)170位にセリン残基及び(ii)229位にアラニン残基を含む、実施形態3の組換え百日咳菌の細菌。
【0215】
実施形態5. 配列番号1又は2と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するLpxAタンパク質をコードする、LpxA遺伝子を含む、実施形態4の組換え百日咳菌の細菌。
【0216】
実施形態6. LpxAタンパク質をコードする、パラ百日咳菌に由来するLpxA遺伝子を含む(LpxABpa)、先行実施形態のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0217】
実施形態7. 配列番号2を有するLpxAタンパク質をコードするLpxA遺伝子を含む、先行実施形態のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0218】
実施形態8. 異種LpxD遺伝子は、配列番号3又は配列番号4と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDタンパク質をコードする、先行実施形態のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0219】
実施形態9. 異種LpxD遺伝子は、配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDタンパク質をコードする、実施形態8の組換え百日咳菌の細菌。
【0220】
実施形態10. 異種LpxD遺伝子は、配列番号3又は配列番号4からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLpxDタンパク質をコードする、実施形態9の組換え百日咳菌の細菌。
【0221】
実施形態11. 内因性LpxA遺伝子が不活化されている、及び/又は内因性LpxD遺伝子が不活化されている、先行実施形態のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0222】
実施形態12. (i)C3'アシル鎖のうちの少なくとも30%は長さが約C10から約C12であり、及び/又は
(ii)C2'アシル鎖のうちの少なくとも30%は長さが約C10から約C12であり、及び/又は
(iii)C2アシル鎖のうちの少なくとも30%は長さが約C10から約C12である
リピドAを産生する、先行実施形態のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0223】
実施形態13. (i)C3'アシル鎖のうちの少なくとも30%は長さがC10から約C12であるリピドAを産生する、先行実施形態のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0224】
実施形態14. (i)C3'アシル鎖のうちの少なくとも30%は長さがC10であるリピドAを産生する、先行実施形態のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0225】
実施形態15. リピドAのC3'アシル鎖のうちの実質的にすべてがC10の長さを有するリピドAを産生する、先行実施形態のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0226】
実施形態16. 特に、TLR4刺激アッセイを、特にヒトTLR4刺激アッセイを使用して測定される場合、親株によって産生されるリピドAのエンドトキシン活性と比較して、低減したエンドトキシン活性を有するリピドAを産生する、先行実施形態のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0227】
実施形態17. 前記細菌の細菌集団の増殖曲線が親株の集団の増殖曲線と同等である、先行実施形態のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0228】
実施形態18. Tohama I株に由来し、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現する、先行実施形態のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0229】
実施形態19. 実施形態1から18のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌に由来する分離された外膜小胞(OMV)であって、膜に組み込まれた改変リピドAを含み、ここで、
リピドAのC3'アシル鎖のうちの実質的にすべてがC10の長さを有し、並びに/又は
リピドAのC2アシル鎖及びC2'アシル鎖のうちの実質的にすべてがC12の長さを有する、OMV。
【0230】
実施形態20. 実施形態19による分離された外膜小胞であって、膜に組み込まれた改変リピドAを含み、ここで、リピドAのC3'アシル鎖のうちの実質的にすべてがC10の長さを有する、分離された外膜小胞。
【0231】
実施形態21. 皮膚壊死毒素を実質的に含まず、及び/又は遺伝的に解毒された内因性の百日咳トキソイドを含有する、実施形態19又は20による分離された外膜小胞。
【0232】
実施形態22. 実施形態19から21による少なくとも1つの分離されたOMV及び薬学的に許容される賦形剤を含む免疫原性組成物。
【0233】
実施形態23. (1)百日咳トキソイド(PT)、(2)FHA、(3)ペルタクチン(PRN)、(4)FIM2/FIM3、(5)アデニル酸シクラーゼ、(6)ジフテリアトキソイド(DT)、(7)破傷風トキソイド(TT)、(8)不活化ポリオウイルス(IPV)、(9)B型肝炎表面抗原及び(10)Hib PRPからなる群から選択される少なくとも1つのさらなる抗原をさらに含む、実施形態22の免疫原性組成物。
【0234】
実施形態24. 適切な哺乳動物、例えばヒトにおいて免疫応答を誘導するのに使用するための、実施形態19から21のOMV又は実施形態22若しくは23の免疫原性組成物。
【0235】
実施形態25. 予防において又はワクチンとして使用するための、例えば、百日咳菌によって引き起こされる疾患の予防において使用するための、実施形態19から21のOMV又は実施形態22若しくは23の免疫原性組成物。
【0236】
実施形態26. 百日咳菌によって引き起こされる疾患の予防において使用するための、実施形態19から21のOMV又は実施形態22若しくは23の免疫原性組成物。
【0237】
実施形態27. 百日咳菌の細菌のリピドAの反応原性を調節する方法であって、LpxA及びLpxDからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を細菌のゲノムに安定して組み込む工程を含み、ここで:
(i)LpxA遺伝子は、配列番号1又は2と少なくとも80%の配列同一性を有するLpxAタンパク質をコードし、ここで、上記タンパク質は、配列番号1又は2に従って番号付けされる場合に170位にセリン(S170)及び/又は229位にアラニン(A229)を含み、並びに/又は
(ii)LpxD遺伝子は、配列番号3又は配列番号4と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDタンパク質をコードする、
方法。
【0238】
実施形態28. LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子を含む、組換え百日咳菌の細菌であって、LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は、配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする、組換え百日咳菌の細菌。
【0239】
実施形態29. LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのエピソーム様式のLpxA遺伝子を含む、組換え百日咳菌の細菌であって、LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は、配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする、組換え百日咳菌の細菌。
【0240】
実施形態30. 以下を含む組換え百日咳菌の細菌:
(i)LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子であって、
LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする、ゲノムLpxA遺伝子、並びに、
(ii)配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入。
【0241】
実施形態31. 以下を含む組換え百日咳菌の細菌:
LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのエピソーム様式のLpxA遺伝子であって、
LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする、エピソーム様式のLpxA遺伝子、並びに、
(ii)配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入。
【0242】
実施形態32. 配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入を含む、組換え百日咳菌の細菌。
【0243】
実施形態33. LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子を含む、組換え百日咳菌の細菌であって、LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、上記細菌はTohama株に由来し、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現する、組換え百日咳菌の細菌。
【0244】
実施形態34. LpxAタンパク質をコードする、少なくとも1つのエピソーム様式のLpxA遺伝子を含む組換え百日咳菌の細菌であって、LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、上記細菌はTohama I株に由来し、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現する、組換え百日咳菌の細菌。
【0245】
実施形態35. 組換え百日咳菌の細菌であって、以下を含み:
(i)LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子であって、
LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする、ゲノムLpxA遺伝子、並びに、
(ii)配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入、
ここで、上記細菌はTohama I株に由来し、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現する、組換え百日咳菌の細菌。
【0246】
実施形態36. 組換え百日咳菌の細菌であって、以下を含み:
LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのエピソーム様式のLpxA遺伝子であって、
LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする、エピソーム様式のLpxA遺伝子、並びに、
(ii)配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入、
ここで、上記細菌はTohama I株に由来し、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現する、組換え百日咳菌の細菌。
【0247】
実施形態37. 配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入を含み、
Tohama I株に由来し、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現する、組換え百日咳菌の細菌。
【0248】
実施形態38. LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子を含む、組換え百日咳菌の細菌であって、
LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、
上記細菌はTohama I株に由来し、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現し、皮膚壊死毒素(DNT)遺伝子(配列番号19)を発現しない、
組換え百日咳菌の細菌。
【0249】
実施形態39. LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのエピソーム様式のLpxA遺伝子を含む、組換え百日咳菌の細菌であって、
LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、
上記細菌はTohama I株に由来し、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現し、皮膚壊死毒素(DNT)遺伝子(配列番号19)を発現しない、
組換え百日咳菌の細菌。
【0250】
実施形態40. 組換え百日咳菌の細菌であって、以下を含み:
(i)LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのゲノムLpxA遺伝子であって、
LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする、ゲノムLpxA遺伝子、並びに、
(ii)配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入、
ここで、上記細菌はTohama I株に由来し、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現し、皮膚壊死毒素(DNT)遺伝子(配列番号19)を発現しない、組換え百日咳菌の細菌。
【0251】
実施形態41. 組換え百日咳菌の細菌であって、以下を含み:
LpxAタンパク質をコードする少なくとも1つのエピソーム様式のLpxA遺伝子であって、
LpxAタンパク質は(配列番号1に対して)170位にセリン残基及び229位にアラニン残基を含み、LpxA遺伝子は配列番号1又は2と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする、エピソーム様式のLpxA遺伝子、並びに、
(ii)配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入、
ここで、上記細菌はTohama I株に由来し、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現し、皮膚壊死毒素(DNT)遺伝子(配列番号19)を発現しない、組換え百日咳菌の細菌。
【0252】
実施形態42. 配列番号3又は配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする異種LpxD遺伝子の少なくとも1つのゲノム挿入を含み、
Tohama I株に由来し、遺伝的に解毒された百日咳トキソイドPT-9K/129Gを発現し、皮膚壊死毒素(DNT)遺伝子(配列番号19)を発現しない、組換え百日咳菌の細菌。
【0253】
実施形態43. 実施形態28から42のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌に由来する分離された外膜小胞(OMV)であって、膜に組み込まれた改変リピドAを含み、ここで、リピドAのC3'アシル鎖のうちの実質的にすべてがC10の長さを有し、並びに/又はリピドAのC2アシル鎖及びC2'アシル鎖のうちの実質的にすべてがC12の長さを有する、OMV。
【0254】
実施形態44. 実施形態28から42のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌に由来する分離された外膜小胞(OMV)であって、膜に組み込まれた改変リピドAを含み、ここで、リピドAのC3'アシル鎖のうちの実質的にすべてがC10の長さを有する、OMV。
【0255】
実施形態45. 実施形態43又は44による免疫学的有効量の分離されたOMV及び薬学的に許容される担体を含む免疫原性組成物、特に医薬組成物、例えばワクチン。
【0256】
実施形態46. 異種LpxE遺伝子のゲノム挿入を含む、実施形態1から18のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0257】
実施形態47. 異種LpxE遺伝子はリゾビウム・レグミノサルム由来である(LpxERl)、実施形態46の組換え百日咳菌の細菌。
【0258】
実施形態48. 異種LpxE遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は配列番号6である、実施形態47の組換え百日咳菌の細菌。
【0259】
実施形態49. 異種LpxE遺伝子はフランシセラ・ノビシダ由来である(LpxEFn)、実施形態46の組換え百日咳菌の細菌。
【0260】
実施形態50. 異種LpxE遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は配列番号7である、実施形態49の組換え百日咳菌の細菌。
【0261】
実施形態51. 異種LpxE遺伝子はBP0840プロモーターの制御下にある、実施形態46から50のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0262】
実施形態52. 異種LpxE遺伝子は細菌ゲノムに挿入されている、実施形態46から51のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0263】
実施形態53. 異種LpxE遺伝子はArnT遺伝子の遺伝子座に取って代わる(ΔArnT)、実施形態52の組換え百日咳菌の細菌。
【0264】
実施形態54. 異種LpxF遺伝子のゲノム挿入を含む、実施形態1から18のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0265】
実施形態55. 異種LpxF遺伝子はフランシセラ・ノビシダ由来である(LpxFFn)、実施形態54の組換え百日咳菌の細菌。
【0266】
実施形態56. 異種LpxF遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は配列番号8である、実施形態55の組換え百日咳菌の細菌。
【0267】
実施形態57. 異種LpxF遺伝子はBP0840プロモーターの制御下にある、実施形態54から56のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0268】
実施形態58. 異種LpxF遺伝子は細菌ゲノムに挿入されている、実施形態54から57のいずれか一実施形態の組換え百日咳菌の細菌。
【0269】
実施形態59. 異種LpxF遺伝子はArnT遺伝子の遺伝子座に取って代わる(ΔArnT)、実施形態58の組換え百日咳菌の細菌。
【0270】
発明を実施するための形態
細菌株及び遺伝子配列
表1~3に、使用されるキーとなる細菌株、DNA及びアミノ酸配列を列記する:
【0271】
【0272】
【0273】
【0274】
組換え細菌株の作出及び培養
異種Lpx遺伝子を、百日咳菌において、ゲノム組込みによって又はエピソーム様式の(非ゲノム)発現によってのいずれかで発現させた。
【0275】
ゲノム組込み
目的のLpxABpa配列(配列番号9)並びに相同組換えを可能にする上流及び下流の相同性アーム(配列番号14及び15)を含有する合成配列を、隣接するEcoRI及びHindIIIの制限部位を使用してベクターpSORTP1[62]にクローニングした。ベクターpSORTP1は、接合伝達のオリジン、ゲンタマイシン及びアンピシリンの選択マーカー、並びにストレプトマイシンに対する感受性を付与するrpsL遺伝子のコピーを含有する。
【0276】
pSORTP1ベクターを大腸菌SM10 λpirに形質転換し、組換えクローンをナリジクス酸/ストレプトマイシン耐性百日咳菌種の株Tohama Iと共培養して、ベクターの接合伝達を可能にした。本株のストレプトマイシン耐性を、rpsL遺伝子の突然変異によって付与する。プラスミドは百日咳菌において複製することができず、ゲンタマイシン耐性を付与するために相同組換えによって細菌ゲノムに組み込む必要がある。組換え百日咳菌を、ゲンタマイシン(野生型百日咳菌を除去するため)及びナリジクス酸(大腸菌SM10ドナー株を除去するため)で同時選別することによって得た。rpsL遺伝子の機能的コピーを含有するpSORTP1ベクターのゲノム導入により、百日咳菌がストレプトマイシンに対して感作される。ストレプトマイシンで選別すると、導入遺伝子の反対側で第2の相同組換えイベントによってベクターバックボーンの除去が強制されて、マーカーレス突然変異が得られる。このアプローチを使用して、百日咳菌由来のLpxA配列を発現する組換え百日咳菌Tohama I株を得た。さらなるいくつかの株を以下のように構築した:
【0277】
ΔArnT/PagLBbr株では、百日咳菌ゲノム中のArnT遺伝子座を、百日咳菌BP0840(外膜ポリン)のプロモーター領域の制御下にある気管支敗血症菌PagL遺伝子のコピーで置き換えた。組換え配列を、気管支敗血症菌PagL配列を含有するArnTの上流領域及び下流領域と共に構築した。組換え配列を、隣接するEcoRI及びHindIIIの制限部位を使用してベクターpSORTP1にクローニングした。形質転換に続いて、上記のように、生成する株は、ArnT遺伝子のノックアウトとPagL遺伝子の発現を兼ね備える。
【0278】
ΔArnT/ΔLpxABpe/LpxABpa株では、百日咳菌ゲノム中のArnT遺伝子座(配列番号20)をノックアウトする。
【0279】
ΔLpxABpe/LpxABpa/ΔDNT/LpxDPa/ΔLpxDBpe株では、LpxDPaのコピーをゲノムに組み込み(配列番号21)、皮膚壊死毒素(DNT)遺伝子(配列番号19)を置き換えた。続いて、野生型LpxDBpをノックアウトした。
【0280】
LpxEFn/ΔArnT/ΔLpxABpe/LpxABpa株では、百日咳菌ゲノム中のArnT遺伝子座(配列番号20)を、百日咳菌BP0840のプロモーター領域(外膜ポリン配列番号17)の制御下にあるフランシセラ・ノビシダLpxE遺伝子(配列番号22)のコピーで置き換えた。組換え配列を、フランシセラ・ノビシダLpxE配列を含有するArnTの上流領域及び下流領域と共に構築した。組換え配列を、隣接するEcoRI及びHindIIIの制限部位を使用してベクターpSORTP1にクローニングした。形質転換に続いて、上記のように、生成する株は、ArnT遺伝子のノックアウトとLpxE遺伝子の発現を兼ね備える。
【0281】
エピソーム様式の発現
合成配列を、隣接するAcc65I及びHindIII部位を使用してベクターpMMB67EH(ATCC Ref.: 37622)にクローニングした。LpxDCt、LpxDPa、LpxEFn、LpxERl及びLpxFFnをコードする配列を、百日咳菌(PriorityGENE service、GENEWIZ)での発現向けにコドン最適化した。
【0282】
異種LpxD、LpxE又はLpxFの各遺伝子を含有するpMMB67EHベクターを大腸菌SM10 λpirに形質転換し、組換えクローンをナリジクス酸/ストレプトマイシン耐性百日咳菌種の株Tohama Iと共培養して、ベクターの接合伝達を可能にした。次いで、pMMB67EHプラスミドを含有する組換え百日咳菌をアンピシリン及びナリジクス酸で選別した。それぞれのpMMB67EH構築物を有する百日咳菌Tohama Iの安定した形質転換を、異種Lpx配列のPCR検出によって確認した。
【0283】
百日咳菌組換え株を、市販の培地(63を参照されたい)中で標準条件で増殖させた。培地にエピソーム様式の発現向けに1mM IPTGを補充した。
【0284】
組換え百日咳菌のΔLpxABpe/LpxABpaの増殖評価;
細菌の増殖に及ぼす潜在的な任意の影響を評価するために、組換え株ΔLpxABpe/LpxABpaを10L発酵で試験した。
【0285】
要約すると、2枚の完全Bordet-Gengou寒天プレートを使用して、2つの30mlの、24時間前培養物に接種した。次いで、30mLの前培養物を1Lの2つのさらなる24時間前培養物に接種した。次いで、これらの2つの第2の前培養物(概1.5L)を使用して、OD650nmが1で10L発酵槽に接種した。
【0286】
溶存酸素(DO)濃度の低下が概9時間で観察された。この低下は、培養物の指数関数的増殖速度による酸素消費量の上昇に関連している。次いでDOを撹拌速度によって制御した。
【0287】
37.5時間後の発酵プロセスの終了は、主たる炭素源(Na-L-グルタミン酸)の枯渇の証拠である、酸素消費量の減少によって引き起こされる撹拌速度の低下によって特徴付けられた。採取時に光学密度(OD650nm)は10.1であり、細胞生存は6.3 1010(CFU/ml)であった。
【0288】
全体として、ΔLpxA
Bpe/LpxA
Bpaの発酵特性は、Tohama I PTg株の発酵特性と同等であり、この場合、同様の発酵時間及びDOへの経過時間であった(表5、
図3~5)。
【0289】
【0290】
OMVの作製
外膜小胞(OMV)を、LPS構造の質量分析による解析並びにヒトTLR4受容体のin vitro刺激向けに、細菌培養物から作製した。OMVを、24時間培養後の細菌ペレットから界面活性剤抽出によって作製した。
【0291】
要約すると、細菌ペレットを20mM Tris-HCl、2mM EDTA及び50U/mLベンゾナーゼ、pH 8.6に再懸濁し、室温で30分間インキュベートした。OMVの界面活性剤抽出の場合、0.1%DOCを添加し、懸濁液を40℃で30分間インキュベートした。細胞デブリを20,000gで30分間(4℃)遠心分離により除去し、上清を滅菌濾過した(0.22μm)。次いで、滅菌上清を超遠心分離(145,000g、2時間、4℃)し、1×PBS(5mM EDTAあり)に再懸濁し、2回目の超遠心分離(同じ条件)を行い、1×PBS(EDTA無し)に再懸濁し、滅菌濾過(0.22μm)した。
【0292】
質量分析によるLPS構造の特性評価
OMV調製物を液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)により解析して、LPSの構造に及ぼす、LpxA及び/又はLpxD(又はLpxE)のゲノム突然変異の影響並びに異種LpxA及び/又はLpxD、LpxE又はLpxFの各遺伝子のエピソーム様式の発現の影響について決定した。野生型株Tohama I PTg由来のOMV調製物を対照として使用した。
【0293】
要約すると、OMV調製物を95%エタノールで沈殿させ、ペレットを乾燥し、50%メタノールに溶解させ、超音波処理した。超音波処理した材料を遠心分離し、LOS構造のMS解析向けに上清5μLをHPLCカラムに注入した。
【0294】
LpxA組換え株
LpxA
Bpaのゲノム組込み及び発現は、組換え百日咳菌ΔLpxA
Bpe/LpxA
Bpa由来のOMVのLPS構造に多大な影響を及ぼし、この場合、C3'位にてのアシル鎖のうちの100%がC
14からC
10へと長さの短縮を提示した(
図6(B) - 点線はC14からC10への短縮を示す)。それに対し、百日咳菌Tomaha Iにおけるエピソーム様式のLpxA
Bpaの発現は非常に低い、定量化できない影響を有した(株LpxA
Bpa)。C
14からC
10へのバリアントは、エピソーム様式のLpxA
Bpaの発現と同様、少数派としてのみ存在するが、
図7(B)に、野生型とは異なる可能性がある場所を示す(C
14からC
10への長さの短縮)。参考までに、野生型百日咳菌Tomaha I Ptg由来のLOSの構造解析を
図13に示す。
【0295】
LpxA
Bpaのゲノム組込み及び発現は、ΔArnTと組み合わせた場合にLPS構造に対して同様の効果を有し、この場合、C3'位にてのアシル鎖のうちの100%がC
14からC
10へと長さの短縮を提示した(
図8)。
【0296】
重要なことに、LpxA
Bpaのゲノム組込み及び発現は、ΔLpxA
Bpe/LpxA
Bpa/ΔDNT/LpxD
Pa株とΔLpxA
Bpe/LpxA
Bpa/ΔDNT/LpxD
Pa/ΔLpxD
Bpe株のC3'アシル鎖の長さにも同じ効果を有し、この場合、シュードモナス属(Pseudomonas)由来のLpxDも発現した(
図9及び10)。それぞれの内因性LpxDの不活化と組み合わせた外因性LpxD遺伝子の発現は、外因性LpxA遺伝子の活性に対して有害な効果を有していなかった。加えて有意な増殖上の差異は観察されなかった。
【0297】
同様に、LpxEFnも発現した株では、C3'アシル鎖の長さに対するLpxABpaのゲノム組込み及び発現の効果は影響を受けず、この場合100%がC10の長さを呈した。
【0298】
LpxD組換え株
緑膿菌由来のLpxD(LpxD
Pa)のエピソーム様式の発現は、組換え百日咳菌由来のOMVのLPS構造に対して部分的な影響を有するだけで(
図11)、この場合、総LPSのうちのわずか36%が、C2とC2'アシル鎖の両方で(24%)又はC2アシル鎖若しくはC2'アシル鎖のうちの一方のみで(12%)のいずれかで、長さの短縮を提示した。
【0299】
LpxD
Paのゲノム発現はLPSに及ぼす影響を高め、C2とC2'の両方のアシル鎖の長さがLPSのうちの70%で短縮され、C2又はC2'のうちの一方のみの長さがLPSのうちの30%で短縮された(
図9)。LpxD
Bpeの残余の活性を除去すると、両位置で100%の鎖長短縮がもたらされた(ΔLpxA
Bpe/LpxA
Bpa/ΔDNT/LpxD
Pa/ΔLpxD
Bpe、
図10)。
【0300】
□ArnT/PagL組換え株
ArnTの不活化及びPagLのゲノム組込みにより、C3にてのC10エステルの100%の除去がもたらされた(
図12)。参考までに、野生型百日咳菌Tomaha I Ptg由来のOMVの構造解析を
図13に示す。
【0301】
LpxE組換え株
F.ノビシダ由来のLpxE(株B2982、9.8)、LpxEFnの場合、エピソーム様式の発現によって25%のモノホスホリルリピドAがもたらされた。野生型バックグラウンドでのLpxEFnのゲノム発現は、モノホスホリルリピドAの割合を91%に高めた。しかし、LpxA突然変異バックグラウンドでの同じ構築物の発現によって、驚くべきことに、わずか24%のモノホスホリルリピドAが生成された。同様の結果がR.レグミノサルム(株B2983、9.9)由来のLpxEで観察された。
【0302】
野生型バックグラウンドでLpxE
Fn及びLpxE
Rcを発現する組換え株の構造データを
図18及び19に提供する(他の組合せの特性評価データについては具体的に示さず)。
【0303】
LpxF組換え株
F.ノビシダ(株B2981、9.10)由来のLpxFに関しては、限られた一連の実験では、LOS構造に及ぼす同定可能な影響は観察されなかった(
図20)。
【0304】
HEK-hTLR4細胞でのTLR4シグナル伝達活性化のin vitro評価
TLR4シグナル伝達カスケードの刺激によって、NF-κB転写因子及び/又はアクチベータープロテイン1(AP-1)転写因子の活性化をもたらすことができるが、これらはいくつかの炎症誘発性サイトカイン、例えばIL-1、IL-6、IL-8及びTNF-αの発現の一因であり、したがって炎症においてキーとなる役割を果たす。
【0305】
組換え百日咳菌由来の精製OMVを使用する場合にTLR4経路のシグナル伝達活性化が低下したか否かを解析するために、HEK-Blue(商標)-hTLR4細胞(Invivogen)におけるTLR4依存性転写活性を決定した。
【0306】
TLR4リガンドで刺激すると、NF-κB及びAP-1の活性化によりアルカリホスファターゼの分泌が誘導され、これは、QUANTI-Blue(商標)比色アッセイを使用して上清で検出することができる。TLR4受容体応答を、655nmで測定される上清中のNF-κB及びAP-1依存性SEAP生成を測定して決定した。各試料について、異なる3つの希釈を3回繰返しで試験した。TLR4刺激に起因するシグナルの割合を、無関係の抗体(抗M72)を対照として使用して、TLR4受容体を抗TLR4抗体で特異的にブロックすることを通して、視覚化した。種々の組換え百日咳菌種の株から得られるOMVがTLR4シグナル伝達を活性化する能力を、Tohama I PTg株から得られるOMVの能力と比較した(
図14~17)。
【0307】
タンパク質含有量により正規化したアッセイの場合、BEXSERO(MenB OMVを含有するMenBワクチン)、QUINVAXEM(wPワクチン)及びINFANRIX HEXA(aPワクチン)を対照として含めた。LPS含有量により正規化したアッセイの場合、百日咳菌由来の精製LPS、ナイセリア属(Neisseria)由来の解毒(LpxL1突然変異体)精製LPS、及び刺激無しの陰性対照を含めた。
【0308】
HEK-hTLR4データが示したところは、LpxAスタンドアロン突然変異体ΔLpxABpe/LpxABpa由来のOMVによるTLR4シグナル伝達カスケードの活性化の著しい低下である。活性化プロファイルは、INFANRIX HEXAのプロファイルと同等(±0.5OD)であった、すなわち、TLR4シグナル伝達カスケードの活性化は低かった。
【0309】
同様の結果が、LpxABpaのゲノム挿入を有するすべての組換え百日咳菌種の株、すなわちΔArnT/ΔLpxABpe/LpxABpa、ΔLpxABpe/LpxABpa/ΔDNT/LpxDPa、及びΔLpxABpe/LpxABpa/ΔDNT/LpxDPa/ΔLpxDBpeで得られた。
【0310】
LPS構造に対するそれらの部分的な効果によれば、LpxDがエピソーム様式で発現されているそういったLpxD突然変異体は、TLR4シグナル伝達カスケード活性化のより穏やかな低下を誘発した。より詳細には、LpxD突然変異体で観察されたOD655値は、非刺激細胞で観察されたOD655値よりも及び/又はaPワクチンで刺激した細胞で観察されたOD655値よりも高かった(≧0.5OD655)が、野生型グラム陰性細菌に由来するOMVで刺激した細胞で観察されたOD655値よりは低かった。減少は、正規化されたタンパク質及びLPSの両方を使用したアッセイでも観察された。
【0311】
ΔLpxABpe/LpxABpa突然変異によってもたらされるTLR4刺激の低下によって読み出しが既に飽和しており、これ以上の低下を観察することができないことから、ΔArnT/ΔLpxABpe/LpxABpa株におけるΔArnT突然変異の効果を容易に導き出すことはできない。一方、ΔArnT/PagLBbr株由来のOMVによれば、TLR4刺激の上昇が観察される。このような上昇が両方のΔArnT突然変異体株で観察されないことを考慮すると、この上昇は、PagLBbr活性を通してのC3アシル鎖の除去によって引き起こされると仮説設定される。
【0312】
興味深いことに、LpxE突然変異体はリピドAの構造を変更したが、使用したアッセイでは、TLR4刺激の有意な低下は検出されなかった(
図21及び22)。
【0313】
Balb/cマウスの鼻咽頭定着モデルで実施した有効性研究
本研究のゴールは、DTPaワクチン若しくはDTPwワクチンをワクチン接種したマウスと、又は野生型百日咳菌Tohama I株に対して前もって曝露されたマウス(回復期マウス)と比較して、鼻咽頭(NP)定着モデルでDTPaとの同時投与におけるdOMV候補ワクチンの影響について評価することであった。
【0314】
実験計画:
25匹の6週齢の雌性BALB/cマウスを、下の表6及び7に列記される群の1つに割り当てた。表6に、25匹のマウスを含む第1の研究について詳述する。これらのマウスすべてを、野生型百日咳菌Tohama I株106CF/10μlで前もって曝露させた(回復期マウス)。本研究は「LIMS 20190306」と呼ばれる。表7に第2の研究を詳述したが、これは「LIMS 20190307」と呼ばれる。
【0315】
両研究を、百日咳菌Tohama I株105CF/10μlによる同日での曝露を有するように設定した。したがって、(LIMS 20190306の)回復期マウスは(LIMS 20190307の)ワクチン接種マウスよりも年長であった。
【0316】
チャコール-セファレキシン寒天プレート上でのコロニー増殖をカウントすることによって、又はPCRによる定量化によって測定されるコロニー形成単位(CFU)の数の平均の分布は、正規対数型であると想定される。統計学的方法は、方法(古典的又は定量化による)により、2つの要因(ワクチン及び日)とその交互作用を使用したlog10値の分散分析(ANOVA)である。
【0317】
【0318】
【0319】
結果:
液性免疫応答を
図23に示す。
図23に、28日目にELISAによって測定した個々の抗体力価抗PPRN IgG並びにANOVAモデルから導出された幾何平均力価(GMT)及びそれらの95%信頼区間を提示する。研究20190306の群は28日目及び56日目で評価されていることに留意されたい。
【0320】
28日目でELISAにより測定した抗PRN IgGの場合、免疫原性はすべてのワクチン接種群(Infanrix、Easy Five、OMV LPXA及びOMV WT)で観察される。しかし、他のワクチン接種群と比較して、Easy Five接種後に、より低い免疫原性が観察される(GMR> 3)。さらに、2つの時点D28及びD56でワクチン接種を受けた群と比較して、回復期マウスでは大幅なより低い免疫原性が示されている(それぞれ136及び346のGMT)。
【0321】
防御の評価は、各収集時間(曝露して+2時間後及び4、7、13、21日後)の鼻腔あたりのコロニー形成単位(CFU)の数の平均によって定義される細菌量に関係する。記述統計を
図24に提示する。
【0322】
ワクチン無しの群(すなわち、表7のワクチン未接種の群1)と他のすべての群の間で細菌量の有意差が強調されたが、このことにより、ワクチン接種後又は再感染後の鼻腔定着に対するある程度の防御免疫応答が示唆されている。
【0323】
ワクチン未接種の動物と比較して、(表6の)回復期動物では10を超える対数CFUの減少(GMR=258)が観察されたが、このことにより、陽性対照としてのこの群の適合性が確認される。
【0324】
まとめると、このことにより、本モデルによれば鼻腔定着の減少を検出することが可能であることが示唆されている。
【0325】
OMV LpxA -Infanrix(GMR=61)(表7の群5)及びOMV WT- Infanrix(GMR=48)(表7の群4)では、ワクチン未接種の動物と比較して及びInfanrix単独と比較して(それぞれGMR=17.7及び13.8)、1を超える対数CFUの減少が観察されたが、ワクチン未接種(回復期マウス)群(それぞれGMR=4.2及びGMR=5.4)と比較すると、その減少は観察されなかった。
【0326】
DTPaとの同時投与における両方のOMVワクチンでのワクチン接種によれば、ワクチン未接種マウスとInfanrix(DTPa)ワクチン接種のマウスの両方と比較して、百日咳菌Tohama I株による曝露の後の鼻腔定着が同様に減少した。このことが示すところは、DTPaワクチンと比較した鼻咽頭定着の予防に関するOMVの付加価値である。このことがまた示すところは、リピドAの解毒が鼻腔定着の減少に悪影響を及ぼさなかったことである。
【0327】
Balb/cマウスの肺クリアランスモデルで実施した有効性研究
本研究の主なゴールは、百日咳菌PRN(-)株に対する防御有効性マウスモデルでの、DTPaとの同時投与におけるdOMVワクチンの付加価値について評価することであった。
【0328】
防御有効性は、コロニー形成単位の数(CFU - log10)の数の平均によって、各採取時間(曝露後+2時間及び2、5及び8日目)の肺あたりの細菌量を決定することによって評価した。
【0329】
実験計画
26週齢の雌性BALB/cを、表8に詳述する研究群の1つに無作為に割り当てた。29日目に、PRN(-)百日咳菌FR5388株5×106CFU/50μlでマウスを曝露した。
【0330】
【0331】
結果:
液性免疫応答を
図25に示す。
図25に、28日目(曝露の1日前)にELISAによって測定した個々の抗PRN IgG力価並びにANOVAモデルから導出した幾何平均力価(GMT)及びそれらの95%信頼区間を提示する。
図25においてすべてのワクチン接種群で抗PRN IgGによって見られるように、ワクチン取込みが確認された。他の群よりも約3分の1低い推定GMTを有する「Easy-Five」群を除いて、すべての群が同様の抗PRN応答を誘発した。これらの差異は、統計学的に有意であるとして検出された。
【0332】
百日咳に対する防御の評価は、各収集時間(曝露後+2時間及び2、5、8日目)の肺あたりのコロニー形成単位(CFU)の数の平均によって定義される細菌量に関係する。記述統計を
図26に示す。
図26に示すように、ワクチン無し群とその他の群との間に有意差が強調されており、このことにより、百日咳含有ワクチンによるワクチン接種後の防御免疫応答が示唆されている。Infanrix又はEasyFiveで免疫した群において部分的な防御が観察された。Infanrixで免疫した群と同時投与でdOMVも受けた群との間に有意差が観察されたが、これが示すところは、PRNneg株の肺クリアランスにおけるDTPaワクチンに加えてのdOMVの付加価値である。
【0333】
群に応じて様々な動態プロファイルが得られることが期待されたが(例えば、Infanrix及びEasy fiveは他のすべての群とは異なるはずである)、これは統計学的解析における群と日の間の有意な交互作用によって表される。
【0334】
ワクチン未接種の群と比較して(5日目で130000から42000の間であるGMR及び8日目で127439に等しいGMR)及びInfanrix群又はEasy five群と比較して(5日目及び8日目で2000未満のGMR)、OMVによるワクチン接種の後に、より高度のCFU減少が観察される。それらOMVの3群の間に差異は観察されない。これらの結果は、OMV LpxA及びOMV LpxA/LpxDが、百日咳菌PRN陰性株の定着からの肺のクリアリングを軽減する点でOMV WTと同じくらい効果的であることを示すので、ポジティブである。
【0335】
ヒトPBCの刺激
実験計画:
刺激したヒト末梢血単核細胞(PBMC)による反応原性バイオマーカープロファイル(自然サイトカイン)分泌について評価するために実験を実施した。健康な3人の血液ドナーから収集した凍結PBMCを解凍し、1mlあたり5E6細胞の濃度で96ウェルプレートに個々に播種した。次いで、細胞をタンパク当量の製剤と共に37℃で24時間インキュベートした。表9に詳述のように、希釈間で5倍のステップをもって、8種の連続希釈を調製した。インキュベーションの最後に、採取した培養上清でマルチプレックスアッセイを使用してサイトカインを測定した。
【0336】
ヒトの標準液及び対照を試験用に調製した。本試験では、以下のサイトカインについて試験した:IL-6、IL-10、TNF-α(「TFNa」)、IL-1α(「IL-1a」)、IL-Iβ(「IL-1b」)及びMIP-1α(「MIP1a」)。
【0337】
【0338】
結果:
反応原性メカニズムに関連することが知られている6種のサイトカイン(すなわち、IL-6、IL-10、TNF-α(「TFNa」)、IL-1α(「IL-1a」)、IL-Iβ(「IL-1b」)及びMIP-1α(「MIP1a」))を、様々な連続希釈に対して培養上清中で測定した。
図27は、刺激による及びサイトカインによる3人のドナーの平均に相当する(これらの実験条件下で細胞生存を変更した希釈#1を除く)。
【0339】
図27に、OMV LpxAがOMV野生型(WT)と比較してヒトPBMCによる自然サイトカイン分泌の減少を示したことを示しており、このことにより、LpxA突然変異を内部に持つOMVの反応原性の低下が示唆されている。
【0340】
すべての希釈でサイトカインと希釈(しかし希釈#1を除く)を群化するクラスカル-ウォリス曲線下面積(AUC)解析から(
図27及び表9を参照されたい)、Al(OH)3上に吸着したdOMV WTが、Infanrix Hexaよりも統計学的に有意に高い自然サイトカインを誘導した唯一の条件であることが観察された。その他の条件の間で統計学的差異は観察されなかった。LpxA又はLpxA/LpxD上に突然変異を提示する非吸着dOMVは、OMV WTと比較してヒトPBMCによる自然サイトカイン分泌が減少する傾向を示したが、このことにより、LpxA突然変異又はLpxA/D突然変異を内部に含むOMVの反応原性の減少が示唆されている。OMV LpxAによって誘導される自然サイトカイン分泌のレベルはBexseroと同じ範囲内であり、全細胞ワクチンよりも低い傾向にあった。
【0341】
本発明を例としてのみ説明してきたが、添付の特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲及び精神の範囲内に留まりつつ改変形態が可能であることが理解されよう。
【0342】
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