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特表2022-550672嗅覚香調を嗅覚受容体活性化に割り当てる方法および割り当てられた香調を有する化合物を同定する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(54)【発明の名称】嗅覚香調を嗅覚受容体活性化に割り当てる方法および割り当てられた香調を有する化合物を同定する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20221128BHJP
   G01N 33/00 20060101ALI20221128BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20221128BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221128BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20221128BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20221128BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221128BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
G01N33/00 C
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N5/10
C07K14/705
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513391
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(85)【翻訳文提出日】2022-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2020077711
(87)【国際公開番号】W WO2021064201
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】62/911,096
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】19212031.9
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009287
【氏名又は名称】フイルメニツヒ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】Firmenich SA
【住所又は居所原語表記】7,Rue de la Bergere,1242 Satigny,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ベン スミス
(72)【発明者】
【氏名】パトリック プフィスター
(72)【発明者】
【氏名】リリー ウー
(72)【発明者】
【氏名】ヒョ ヨン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ラプス
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G045CB01
2G045DB07
2G045FB12
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR77
4B063QR80
4B063QX01
4B063QX04
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、香料産業に関するものである。より具体的には、本発明は、標的匂い物質化合物によって活性化される特定の嗅覚受容体の使用に基づいて、標的匂い物質化合物の対象の知覚を強める組成物および/または成分をスクリーニングし、同定するためのアッセイおよび方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの嗅覚香調を嗅覚受容体に関連付けるための方法であって、
(a)嗅覚受容体を提供するステップと、
(b)前記嗅覚受容体と少なくとも1つの既知の香調を有する化合物とを接触させるステップと、
(c)前記化合物が前記嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの既知の香調を有する化合物でステップ(b)および(c)を繰り返すステップであって、ここで、ステップ(d)の前記化合物は、先行する反復のステップ(b)および(c)の前記化合物とは異なる、ステップと、
(e)前記嗅覚受容体を活性化するステップ(b)~(d)からの前記化合物をサブセットとして分類するステップと、
(f)前記化合物のサブセットに共通する少なくとも1つの香調を同定するステップと、
(g)同定された前記少なくとも1つの香調を前記嗅覚性受容体に割り当てるステップと
を含む、方法。
【請求項2】
特定の香調を有する少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)請求項1の同定された前記少なくとも1つの香調を有する嗅覚受容体を提供するステップと、
(b)前記嗅覚受容体を少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記少なくとも1つの化合物が前記嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記嗅覚受容体を活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物を前記同定された少なくとも1つの香調に関連付けるステップと
を含む、方法。
【請求項3】
それぞれが異なる同定された少なくとも1つの香調を有する複数の嗅覚受容体をステップ(a)で提供し、複数の同定された香調を、ステップ(d)において、ステップ(b)および(c)に従って前記複数の嗅覚受容体を活性化する化合物または化合物の組み合わせに関連付ける、請求項2記載の方法。
【請求項4】
アーシー調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)配列番号11に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを前記少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物にアーシー調を関連付けるステップと
を含み、ここで、前記ポリペプチドは嗅覚受容体である、方法。
【請求項5】
クマリン調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)配列番号13に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを前記少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物にクマリン調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、前記ポリペプチドは嗅覚受容体である、方法。
【請求項6】
ラクトニックココナッツ調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)配列番号15に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを前記少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物にラクトニックココナッツ調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、前記ポリペプチドは嗅覚受容体である、方法。
【請求項7】
フェヌグリーク調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)配列番号17に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを前記少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物にフェヌグリーク調を関連付けるステップと
を含み、ここで、前記ポリペプチドは嗅覚受容体である、方法。
【請求項8】
パウダリームスク調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)配列番号19に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを前記少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物にパウダリームスク調を関連付けるステップと
を含み、ここで、前記ポリペプチドは嗅覚受容体である、方法。
【請求項9】
動物性ムスク調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)配列番号21に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを前記少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物に動物性ムスク調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、前記ポリペプチドは嗅覚受容体である、方法。
【請求項10】
バイオレット調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号23に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを前記少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物にバイオレット調を関連付けるステップと
を含み、ここで、前記ポリペプチドは嗅覚受容体である、方法。
【請求項11】
ブロンドウッド調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)配列番号25に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを前記少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物にブロンドウッド香調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、前記ポリペプチドは嗅覚受容体である、方法。
【請求項12】
ミュゲ調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)配列番号27に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを前記少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物にミュゲ調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、前記ポリペプチドは嗅覚受容体である、方法。
【請求項13】
リナリック調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)配列番号29に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを前記少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記化合物または化合物の組み合わせが前記ポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物にリナリック調を関連付けるステップと
を含み、ここで、前記ポリペプチドは嗅覚受容体である、方法。
【請求項14】
ジャスミン調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法であって、
(a)配列番号31に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)前記ポリペプチドを前記少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)前記化合物または化合物の組み合わせが前記ポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)前記少なくとも1つの化合物が前記ポリペプチドを活性化する場合、前記少なくとも1つの化合物にジャスミン調を関連付けるステップと
を含み、ここで、前記ポリペプチドは嗅覚受容体である、方法。
【請求項15】
請求項2から14までのいずれか1項記載の方法によって同定される少なくとも1つの化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嗅覚受容体および少なくとも1つの香調(tonality)を有する化合物を同定するために使用することができる匂い物質体およびアロマ受容体ならびに香調アッセイの分野に関する。
【0002】
発明の背景
1991年に匂い物質受容体が初めて同定されて以来、嗅覚、そして人間が揮発性化学物質をどのように知覚するかについての理解を深めるために多くのことが行われてきた。人間の嗅覚系の末梢では、鼻腔を覆う主な嗅上皮に数百万の嗅覚ニューロン(OSN)が存在し、それぞれが約400の無傷の匂い物質(Olfactory)受容体(OR)遺伝子のファミリーから単一のメンバーを発現している。各ORは、いくつかの揮発性化合物によって活性化され得るが、逆に、単一の揮発性化合物がいくつかのORを活性化することもある。この結果、各揮発性化学物質およびその混合物の組み合わせOSN活性化コードが生じる。各受容体はOSNにおいて単一遺伝子性および単一対立遺伝性の様式で確率的に発現され、ゲノムに存在する各OR対立遺伝子に対して1つのOSNタイプが生じる。各ORの遺伝子選択の頻度に依存して、各OSNタイプに特化したOSN集団のサブセットは異なる。このOSNタイプのサブ集団はそれぞれ、任意の所与の時点で接触している揮発性化合物の分子的同一性、または同一性、および濃度に関する情報の個別のチャネルを提供する。各OSNタイプの各OSNに誘導される活性のレベルは、そのORが受容性である揮発性化合物の濃度に従って、また、各OR-化合物対に関連する結合および活性化パラメーターに従って異なる。さらに、一部のOR-リガンド対はOSN活性を誘導または増強するが、他のものはOSN活性を減少させるかまたは防止する。これは、化合物がORと結合する場合は競合的に、複数の化合物が同時にORと結合し得る場合は非競合的に起こり得る。これらの約400の入力チャネル(すなわち、末梢嗅覚系)の、結果得られる組み合わせ論理は、後続の下流神経ネットワークによって変換され、我々に嗅覚をもたらす。
【0003】
フレグランス&フレーバー(F&F)業界では、新しい成分、新規の香料およびフレーバー用途、改善された感覚体験、より安定で生分解性で非毒性の化合物が常に探し求められている。
【0004】
匂い物質またはアロマ分子は、いくつかの嗅覚受容体(OR)と相互作用することがあるため、その化学構造のみに基づいて揮発性化合物の香調を推測することは困難な場合が多い。逆に、各ORは、異なる化学構造を持ついくつかの匂い物質やアロマ分子と相互作用し、異なる香調のセットを誘発することがあるため、ORによってコードされた情報の性質を推測することは困難な場合が多かった。
【0005】
OR活性化に基づいて、所与の化合物または組成物の少なくとも1つの嗅覚香調を予測し、F&F業界に関連する新しい香料およびフレーバー成分の発見を促進する必要性が依然としてある。
【0006】
発明の概要
一態様では、少なくとも1つの嗅覚香調を嗅覚受容体に関連付けるための方法が提供され、当該方法は、
(a)嗅覚受容体を提供するステップと、
(b)嗅覚受容体と少なくとも1つの既知の香調を有する化合物とを接触させるステップと、
(c)化合物が嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの既知の香調を有する化合物でステップ(b)および(c)を繰り返すステップであって、ここで、ステップ(d)の化合物は、先行する反復のステップ(b)および(c)の化合物とは異なる、ステップと、
(e)嗅覚受容体を活性化するステップ(b)~(d)からの化合物をサブセットとして分類するステップと、
(f)化合物のサブセットに共通する少なくとも1つの香調を同定するステップと、
(g)同定された少なくとも1つの香調を嗅覚性受容体に割り当てるステップと
を含む。
【0007】
一態様では、特定の香調を有する少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)同定された少なくとも1つの香調を有する嗅覚受容体を提供するステップと、
(b)嗅覚受容体を少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物が嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物が嗅覚受容体を活性化する場合、少なくとも1つの化合物を同定された少なくとも1つの香調に関連付けるステップと
を含む。
【0008】
いくつかの態様では、それぞれが異なる同定された少なくとも1つの香調を有する複数の嗅覚受容体がステップ(a)で提供され、複数の同定された香調が、ステップ(d)において、上記の態様におけるステップ(b)および(c)に従って複数の嗅覚受容体を活性化する化合物または化合物の組み合わせに関連付けられる。
【0009】
一態様では、アーシー調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号11に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にアーシー調を関連付けるステップと
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0010】
一態様では、クマリン調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号13に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にクマリン調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0011】
一態様では、ラクトニックココナッツ調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号15に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にラクトニックココナッツ調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0012】
一態様では、フェヌグリーク調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号17に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にフェヌグリーク調を関連付けるステップと
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0013】
一態様では、パウダリームスク調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号19に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にパウダリームスク調を関連付けるステップと
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0014】
一態様では、動物性ムスク調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号21に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物に動物性ムスク調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0015】
一態様では、バイオレット調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号23に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にバイオレット調を関連付けるステップと
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0016】
一態様では、ブロンドウッド調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号25に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にブロンドウッド香調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0017】
一態様では、ミュゲ調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号27に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にミュゲ調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0018】
一態様では、リナリック(linalic)調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号29に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)化合物または化合物の組み合わせがポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にリナリック調を関連付けるステップと
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0019】
一態様では、ジャスミン調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号31に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)化合物または化合物の組み合わせがポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にジャスミン調を関連付けるステップと
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0020】
いくつかの態様では、本開示は、本明細書に記載される特定の態様に従った方法により同定される少なくとも1つの化合物を提供する。
【0021】
一態様では、香りを有する組成物中の化合物を置き換えるための方法が提供され、当該方法は、
(a)香りを有する組成物中の化合物を選択するステップと、
(b)組成物中の化合物の香調を同定するステップと、
(c)香調に関連付けられる嗅覚受容体を提供するステップと、
(d)嗅覚受容体と試験化合物とを接触させるステップと、
(e)試験化合物が嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定するステップと、
(f)試験化合物が嗅覚受容体を活性化する場合、組成物中の選択された化合物を試験化合物で置き換えるステップと
を含む。
【0022】
一態様では、香りを有する組成物中の複数の化合物中の少なくとも1つの化合物を置き換えるための方法が提供され、当該方法は、
(a)香りを有する組成物中の複数の化合物を選択するステップであって、ここで、複数の化合物中の各化合物が少なくとも1つの香調を有する、ステップと、
(b)複数の化合物の香調を同定するステップと、
(c)複数の嗅覚受容体を提供するステップであって、嗅覚受容体のうちの2つ以上が複数の化合物のうちの少なくとも1つの化合物と同じ香調を割り当てられた、ステップと、
(d)少なくとも1つの試験化合物を、嗅覚受容体のうちの2つ以上と接触させるステップと、
(e)少なくとも1つの試験化合物が、2つ以上の嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定するステップと、
(f)試験化合物が複数の化合物のうちの2つ以上の化合物と同じ嗅覚受容体を活性化する場合、複数の化合物のうちの2つ以上の化合物を試験化合物で置き換えるステップと
を含む。
【0023】
一態様では、所望の香りを有する組成物を生成するための方法が提供され、当該方法は、
(a)所望の香りを選択するステップと、
(b)組み合わせて所望の香りを生成する複数の香調を決定するステップと、
(c)複数の香調を有する少なくとも1つの化合物を組成物に添加するステップと、
を含む。
【0024】
いくつかの態様では、複数の香調を有する少なくとも1つの化合物は、本明細書に記載される特定の態様に従った方法により同定される。
【0025】
一態様では、所望の香りを有する組成物中の少なくとも1つの化合物を除去するための方法が提供され、当該方法は、
(a)所望の香りを有する組成物を選択するステップであって、ここで、香りは少なくとも1つの香調で構成されている、ステップと、
(b)少なくとも1つの香調に関連付けられる少なくとも1つの嗅覚受容体を同定するステップと、
(c)所望の香りを有する組成物中の少なくとも1つの化合物を選択するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物と少なくとも1つの嗅覚受容体とを接触させるステップと、
(e)化合物が少なくとも1つの嗅覚受容体を阻害するかどうかを決定するステップと、
(f)少なくとも1つの化合物が少なくとも1つの嗅覚受容体を阻害する場合、所望の香りを有する組成物から少なくとも1つの化合物を除去するステップと
を含む。
【0026】
一態様では、香りを有する組成物に少なくとも1つの化合物を添加するための方法が提供され、当該方法は、
(a)香りを有する組成物を選択するステップであって、ここで、香りは少なくとも1つの香調で構成されている、ステップと、
(b)少なくとも1つの香調に関連付けられる少なくとも1つの嗅覚受容体を同定するステップと、
(c)少なくとも1つの嗅覚受容体と少なくとも1つの試験化合物とを接触させるステップと、
(d)少なくとも1つの試験化合物が少なくとも1つの嗅覚受容体を阻害するかどうかを決定するステップと、
(e)少なくとも1つの試験化合物が少なくとも1つの嗅覚受容体を阻害する場合、香りを有する組成物に少なくとも1つの試験化合物を添加するステップと、
を含み、ここで、少なくとも1つの嗅覚受容体は、香りにおいて所望されない香調を割り当てられたものである。
【0027】
一態様では、香りを有する組成物に少なくとも1つの化合物を添加するための方法が提供され、当該方法は、
(a)香りを有する組成物を選択するステップであって、ここで、香りは少なくとも1つの香調で構成されている、ステップと、
(b)少なくとも1つの香調のうちの第1の香調に関連付けられる第1の嗅覚受容体を同定するステップであって、ここで、第1の香調はフレグランスにおいて所望される、ステップと、
(c)第1の嗅覚受容体と試験化合物とを接触させるステップと、
(d)試験化合物が第1の嗅覚受容体を活性化させるか否かを決定するステップと、
(e)少なくとも1つの香調のうちの第2の香調に関連付けられる第2の嗅覚受容体を同定するステップであって、ここで、第2の香調はフレグランスにおいて所望されない、ステップと、
(f)第2の嗅覚受容体と試験化合物とを接触させるステップと、
(g)試験化合物が第2の嗅覚受容体を阻害するかどうかを決定するステップと、
(h)試験化合物が第1の嗅覚受容体を活性化し、かつ第2の嗅覚受容体を抑制する場合、香りを有する組成物に試験化合物を添加するステップと
を含む。
【0028】
いくつかの態様では、添加された試験化合物は、フレグランス中の化合物を置き換える。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】OR活性化を介して特定の揮発性化合物が少なくとも1つの嗅覚香調を獲得する方法をまとめた図である。複数の受容体を活性化する化合物は、活性化されたORに関連付けられる対応する香調を示す。
図2】OR活性化と、特に(ココナッツ調に関連付けられる)受容体OR5AU1、(クマリン調に関連付けられる)OR8B3および(フェヌグリーク調に関連付けられる)OR8D1周辺の香調との相関関係を示す図である。
図3】大規模で多様な揮発性化合物のセットを使用する単一濃度のハイスループットスクリーニングプロセスから得られたヒト匂い物質受容体OR11A1活性化ランキングを示す図である。
図4】受容体に対する各化合物の効力および有効性の両方を捉えた4つの活性アゴニスト(ゲオスミン、ブルカノリド、フェンキルアルコールおよびパチュリアルコール)について得られたヒト匂い物質受容体OR11A1の用量反応実験結果を示す図である。
図5図3からのヒット化合物を用いた用量反応実験から得られた効力および有効性に応じた分子受容範囲OR11A1を示す図である。最も活性の高いアゴニストが強調表示される。
図6】4つの最も活性の高いアゴニストおよびOR11A1の部分アゴニストの対応するアゴニストの化学構造を示す図である。
図7】効力および有効性に応じたOR8B3アゴニストの分子受容範囲を示す図であり、クマリン調が共通する最も活性の高いアゴニストが強調表示される。
図8】効力および有効性に応じたOR5AU1アゴニストの分子受容範囲を示す図であり、ラクトニックココナッツ調が共通する最も活性の高いアゴニストを強調表示したものである。
図9】効力および有効性に応じたOR8D1アゴニストの分子受容範囲を示す図であり、フェヌグリーク調が共通する最も活性の高いアゴニストを強調表示したものである。
図10】効力および有効性に応じたOR5AN1アゴニストの分子受容範囲を示す図であり、パウダリームスク調が共通する最も活性の高いアゴニストを強調表示したものである。
図11】効力および有効性に応じたOR1N2アゴニストの分子受容範囲を示す図であり、動物性ムスク調が共通する最も活性の高いアゴニストを強調表示したものである。
図12】効力および有効性に応じたOR5A1アゴニストの分子受容範囲を示す図であり、バイオレット調が共通する最も活性の高いアゴニストを強調表示したものである。
図13】効力および有効性に応じたOR7A17アゴニストの分子受容範囲を示す図であり、ブロンドウッド調が共通する最も活性の高いアゴニストを強調表示したものである。
図14】効力および有効性に応じたOR10J5アゴニストの分子受容範囲を示す図であり、ミュゲ調が共通する最も活性の高いアゴニストを強調表示したものである。
図15】効力および有効性に応じたOR1C1アゴニストの分子受容範囲を示す図であり、リナリック調が共通する最も活性の高いアゴニストを強調表示したものである。
図16】効力および有効性に応じたOR5B12アゴニストの分子受容範囲を示す図であり、ジャスミン調が共通する最も活性の高いアゴニストを強調表示したものである。
図17】OR8D1、OR8B3およびOR5AU1を活性化する成分の活性レベルをパーセントで示す図である。
図18A】モデルとインビトロ対照実験とを比較することによって、アコードAおよびBの検証により誘導された匂い物質受容体活性を示す図である。
図18B】モデルとインビトロ対照実験とを比較することによって、アコードAおよびBの検証により誘導された匂い物質受容体活性を示す図である。
図18C】モデルとインビトロ対照実験とを比較することによって、アコードAおよびBの検証により誘導された匂い物質受容体活性を示す図である。
図19】セロリ調に対する香料評価とモデルからの官能予測との一致を示す図である。
図20A】モデルとインビトロ対照実験とを比較することによって、アコードA、CおよびDの検証により誘導された匂い物質受容体活性を示す図である。
図20B】モデルとインビトロ対照実験とを比較することによって、アコードA、CおよびDの検証により誘導された匂い物質受容体活性を示す図である。
図20C】モデルとインビトロ対照実験とを比較することによって、アコードA、CおよびDの検証により誘導された匂い物質受容体活性を示す図である。
図21】ヘイ調に対する香料評価とモデルからの官能予測との一致を示す図である。
図22】ココナッツ調に対する香料評価とモデルからの官能予測との一致を示す図である。
【0030】
詳細な説明
定義
本明細書で使用される場合、「OR」または「嗅覚受容体」または「匂い物質受容体」という用語は、嗅覚細胞に発現されるGタンパク質共役型受容体(GPCR)のファミリーの1つ以上のメンバーを指す。また、OSN(嗅覚受容体細胞)は、形態に基づいて、または嗅覚細胞で特異的に発現されるタンパク質の発現によって同定することができる。ORファミリーのメンバーは、嗅覚シグナル伝達のための受容体として作用する能力を有していることがある。
【0031】
「ORのアゴニスト」または「アゴニスト化合物」とは、ORに結合し、ORを活性化し、嗅覚受容体伝達カスケードを誘導する揮発性化合物またはリガンドを指す。
【0032】
「効力」とは、所与の活性レベルを生成するのに必要な量または濃度に関して、アゴニスト(匂い物質)の結合によって誘導される受容体の活性の尺度を指す。これは、異なるアゴニスト濃度に対する受容体の感度を示し、多くの場合、EC50(受容体活性の半値を達成するために必要なアゴニスト濃度)を計算することによって評価される。
【0033】
「有効性」とは、ORが所与のアゴニストに応答する活性レベルの尺度を指し、構成的な活性(アゴニストの非存在下でのベースライン)とアゴニスト誘導活性との間の活性化スパンを測定することによって得られる。
【0034】
匂い物質受容体の「受容野」または「分子受容範囲」とは、受容体を活性化する揮発性化合物の範囲を指す。これは、受容体に結合し、細胞内で伝達カスケードをトリガし、嗅覚ニューロンを介して化学刺激を脳に伝達することができる異なる揮発性化合物のセットを意味する。
【0035】
ORまたは匂い物質受容体または嗅覚受容体のポリペプチドは、約1kb長の単一のエキソンによってコードされる7回膜貫通型ドメインGタンパク質共役型受容体スーパーファミリーに属し、特徴的な嗅覚受容体特異的アミノ酸モチーフを示す場合、そのようなものとして見なされる。7つのドメインは、3つの「細胞内ループ」または「IC」ドメインIC I~IC III、および3つの「細胞外ループ」または「EC」ドメインEC I~EC IIIによって接続された「膜貫通」または「TM」ドメインTM I~TM VIIと呼ばれる。モチーフおよびそのバリアントは、TM IIIおよびIC IIと重複するMAYDRYVAICモチーフ(配列番号7)、IC IIIおよびTM VIと重複するFSTCSSHモチーフ(配列番号8)、TM VIIにおけるPMLNPFIYモチーフ(配列番号9)だけでなくEC IIにおける3つの保存C残基、ならびにTM Iにおける高度保存GN残基の存在として定義されるが、これらに限定されない[Zhang, X. & Firestein, S. Nat. Neurosci. 5, 124 - 133 (2002); Malnic, B., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 101, 2584 - 2589 (2004)]。
【0036】
クラスIおよびクラスIIのORは、系統発生的に異なる匂い物質受容体GPCRのクラスを指す。クラスIのORは、水生種において優勢なORとより関係が深い。クラスIIのORは、陸生種とより関係が深い。哺乳類は両方のタイプを有する。
【0037】
本明細書で使用される場合、「嗅覚香調」または「香調」とは、特定の嗅覚知覚を意味し、化合物によるORの活性化を意味する。嗅覚香調の非限定的な例としては、シトラス、ココナッツ、パチョリなどが挙げられる。化合物は、2つ以上の香調を有する場合がある。例えば、図1に示すように、化合物(1)(β-イオノン)は、OR5A1およびOR7A17の活性化から生じるバイオレットおよびブロンドウッディ調を有する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「香り」とは、(存在する場合)少なくとも1つの化合物による嗅覚受容体の活性化、増強および阻害の合計から生じる嗅覚知覚を指す。したがって、例示であって、決して本開示の範囲を限定することを意図するものではないが、「香り」とは、ココナッツ調に関連付けられるORを活性化する第1の化合物、セロリ調に関連付けられるORを活性化する第2の化合物、およびカンファー調に関連付けられるORを阻害する第3の化合物の合計から生じる嗅覚知覚に起因するものである。
【0039】
本明細書で使用される場合、「ノート」または「嗅覚ノート」または「香料ノート」とは、香調カテゴリーを同定するものである。例えば、図1に示すように、フローラルノートは、ミュゲおよびバイオレット調を含む。
【0040】
OR核酸は、Gタンパク質共役型受容体活性を有する7つの膜貫通領域を有するGPCRファミリーをコードし、例えば、細胞外刺激に応答してGタンパク質に結合し、ホスホリパーゼCおよびアデニル酸シクラーゼIIIなどの酵素の刺激を介してIP、cAMP、cGMP、Ca2+などの細胞内セカンドメッセンジャーの生成を促進し得る。
【0041】
「N末端ドメイン」領域は、ペプチドまたはタンパク質のN末端(アミノ末端)から始まり、第1の膜貫通領域の開始点に近い領域まで延びる。
【0042】
「膜貫通領域」は、7つの「膜貫通ドメイン」を含み、これは、原形質膜内にあるORポリペプチドのドメインを指し、対応する細胞質(細胞内)および細胞外ループも含み得る。7つの膜貫通領域ならびに細胞外および細胞質ループは、疎水性プロファイルなどの標準的な方法を用いて、またはKyte & Doolittle, J. Mol. Biol., 157:105-32 (1982)、もしくはStryerに記載のように同定することができる。膜貫通ドメイン、特に嗅覚受容体などのGタンパク質共役型受容体の7つの膜貫通ドメインの一般的な二次および三次構造は、当該技術分野で既知である。したがって、既知の膜貫通ドメイン配列に基づいて一次構造配列を予測することができる。これらの膜貫通ドメインは、インビトロ-リガンド結合アッセイに有用である。
【0043】
ORファミリーメンバーを介した嗅覚伝達を調節する化合物を試験するためのアッセイの文脈における「機能的効果」という表現は、間接的または直接的に受容体の影響下にある任意のパラメーター、例えば、機能的、物理的および化学的効果の測定を含む。これには、リガンド結合、イオンフラックス、膜電位、電流フロー、転写、Gタンパク質結合、GPCRリン酸化または脱リン酸化、シグナル伝達受容体-リガンド相互作用、セカンドメッセンジャー濃度(例えば、cAMP、cGMP、IPまたは細胞内Ca2+)、インビトロ、インビボおよびエクスビボでの変化が含まれ、神経伝達物質またはホルモン放出の増加または減少などの他の生理的作用も含まれる。
【0044】
アッセイの文脈における「機能的効果の測定」または「活性の確認」とは、間接的または直接的にORファミリーメンバーの影響下にあるパラメーター、例えば機能的、物理的および化学的効果を増加または減少させる化合物のアッセイを意味する。かかる機能的効果は、当業者に公知の任意の手段、例えば、分光学的特性(例えば、蛍光、吸光度、屈折率)、流体力学的(例えば、形状)、クロマトグラフィー、または溶解度特性の変化、パッチクランプ、膜電位感受性色素、全細胞電流、放射性同位体フラックス、誘導性マーカー、卵細胞子OR遺伝子発現;組織培養細胞OR発現;OR遺伝子またはegr-1またはc-fosなどの活性誘導遺伝子の転写活性化;リガンド結合アッセイ;電圧、膜電位およびコンダクタンスの変化;イオンフラックスアッセイ;cAMP、cGMP、およびイノシトール三リン酸(IP)などの細胞内セカンドメッセンジャーの変化;細胞内カルシウムレベルの変化;神経伝達物質放出などによって測定することができる。
【0045】
本明細書で使用される「精製された」、「実質的に精製された」および「単離された」という用語は、本発明の化合物が通常その天然状態で付随する他の異種化合物を含まない状態を指し、そのため、「精製された」、「実質的に精製された」および「単離された」対象は、所与のサンプルの質量の少なくとも0.5重量%、1重量%、5重量%、10重量%もしくは20重量%、または少なくとも50重量%もしくは75重量%を含む。特定の一実施形態では、これらの用語は、所与のサンプルの質量の少なくとも95重量%、96重量%、97重量%、98重量%、99重量%または100%重量%を含む本発明の化合物を指す。本明細書で使用される場合、核酸またはタンパク質を指すときの核酸またはタンパク質の「精製された」、「実質的に精製された」および「単離された」という用語はまた、哺乳類、特にヒトの体内で自然に生じるものとは異なる精製または濃度の状態を指す。哺乳類、特にヒトの体内で自然に生じるものよりも高い精製または濃度の任意の度合いは、(1)他の関連する構造物もしくは化合物からの精製、または(2)哺乳類、特にヒトの体内において通常は付随しない構造物もしくは化合物との関連付けを含めて、「単離」の意味の範囲内である。本明細書に記載される核酸もしくはタンパク質または核酸もしくはタンパク質のクラスは、当業者に公知の様々な方法およびプロセスに従って、単離されてもよいし、そうでなければ、自然界に通常は付随しない構造物または化合物と関連付けられてもよい。
【0046】
「核酸」または「核酸配列」という用語は、一本鎖または二本鎖のいずれかの形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドオリゴヌクレオチドを指す。この用語は、天然ヌクレオチドの既知のアナログを含有する核酸、すなわちオリゴヌクレオチドを包含する。この用語はまた、合成骨格を有する核酸様構造を包含する。他に示されない限り、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に修飾されたバリアント(例えば、縮重コドン置換)および相補的な配列を暗黙的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、例えば、1つ以上の選択されたコドンの第3位が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することによって達成され得る。
【0047】
本明細書に開示された配列に示される遺伝子配列に加えて、バリアントは、所与の集団内に存在し得るDNA配列多型も含み、本明細書に開示されたポリペプチドのアミノ酸配列に変化をもたらし得ることが当業者にとって明らかであろう。かかる遺伝子多型は、異なる集団からの細胞または自然の対立遺伝子変異に起因する集団内に存在し得る。対立遺伝子バリアントはまた、機能的等価物を含み得る。
【0048】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では互換的に使用され、自然に存在するアミノ酸またはポリマーおよび自然に存在しないアミノ酸またはポリマーを含むか否かにかかわらず、アミノ酸残基のポリマーを指す。核酸の一部を参照して使用される場合の「異種」という用語は、核酸が、自然界で互いに同じ関係で見出されない2つ以上の部分配列を含むことを示す。例えば、核酸は、典型的には組換えにより産生され、新しい機能的核酸を作製するために配置された無関係な遺伝子からの2つ以上の配列、例えば、あるソースからのプロモーターと別のソースからのコード領域とを有する。同様に、異種タンパク質は、タンパク質が、自然界で互いに同じ関係で見出されない2つ以上の部分配列を含むことを示す(例えば、融合タンパク質)。
【0049】
「非ヒト生物」または「宿主細胞」とは、本明細書に記載される核酸または発現ベクターを含有し、かつ発現ベクターの複製または発現を支持する非ヒト生物または細胞を意味する。宿主細胞は、大腸菌などの原核細胞、または酵母、昆虫、両生類、もしくはCHO、HeLa、HEK-293などの哺乳類細胞などの真核細胞、例えば、培養細胞、外植片、およびインビトロ細胞であり得る。
【0050】
「タグ」または「タグの組み合わせ」とは、匂い物質受容体タンパク質に付加することができる短いポリペプチド配列を意味する。典型的には、「タグ」または「タグの組み合わせ」をコードするDNAは、受容体をコードするDNAに付加され、最終的に「タグ」または「タグの組み合わせ」が受容体のN末端またはC末端に融合された融合タンパク質となる。Lucy、FLAG(登録商標)および/またはRhoタグは、細胞膜への受容体の輸送を高めることができ、それゆえ、インビトロ細胞ベースのアッセイのための機能的な匂い物質受容体の発現を支援することができる[Shepard, B. et al. PLoS One 8, e68758-e68758 (2013), and Zhuang, H. & Matsunami, H. J. Biol. Chem. 282, 15284-15293 (2007)]。
【0051】
図2図16を参照すると、本発明は、OR活性化プロファイルに基づいて、化学的および感覚刺激的に多様な揮発性化合物間の嗅覚知覚の共通点を同定するための方法を含む。特定の理論に限定されることを意図するものではないが、OR活性化プロファイルは、物理化学的な類似性のみと比較して、所与の揮発性化合物の嗅覚香調のより良好な予測因子を表す。特定の理論に限定されることを意図するものではないが、物理化学的な類似性は、嗅覚の類似性を部分的にしか予測できないことがある。
【0052】
本発明は、化学的および感覚刺激的に多様な揮発性化合物のライブラリーをORに対してスクリーニングし、スクリーニングされたORのアクチベーターである揮発性化合物に共通する少なくとも1つの嗅覚香調を同定することによって、少なくとも1つの嗅覚香調をORに関連付けることができる方法を含む。
【0053】
したがって、一態様では、本発明は、ORを提供し、ORと既知の少なくとも1つの香調を有する揮発性化合物とを接触させ、化合物が少なくとも1つの嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定し、既知の少なくとも1つの香調を有する異なる化合物で接触および決定ステップを繰り返し、ORを活性化する化合物のサブセットを分類し、化合物のサブセットに共通する少なくとも1つの既知の香調を同定し、同定された少なくとも1つの既知の香調をORに関連付けるための方法を提供する。
【0054】
別の態様では、同定された少なくとも1つの既知の香調に関連付けられるORを少なくとも1つの揮発性化合物と接触させるステップと、少なくとも1つの化合物がORを活性化するかどうかを決定するステップと、少なくとも1つの揮発性化合物がORを活性化する場合、ORに関連付けられる同定された少なくとも1つの既知の香調を少なくとも1つの揮発性化合物に関連付けるステップとを含む方法が提供される。
【0055】
本開示のいくつかの態様では、方法は、少なくとも1つの揮発性化合物によって誘導される嗅覚受容体活性を評価し、観察された嗅覚受容体活性に基づいて、結果生じる嗅覚香調を関連付けることによって、特定の嗅覚香調についての嗅覚コードをデコードするために使用される。
【0056】
2つ以上の嗅覚香調を有する揮発性化合物の複数の嗅覚香調は、揮発性化合物による複数の嗅覚受容体の活性化から推測することができる。さらに、本発明によれば、揮発性化合物の混合物の複数の嗅覚香調は、混合物による複数の嗅覚受容体の活性化から推測することができる。いくつかの態様では、混合物は複数の揮発性化合物を含む。
【0057】
一態様では、揮発性化合物は、化合物によって誘導される嗅覚受容体活性を評価し、複数のORに対するその活性に基づいて、結果生じる嗅覚香調を関連付けることによって予測することができる、いくつかの嗅覚香調を示す。
【0058】
別の態様では、ORの活性にリンクした香調は、受容体の受容範囲をプローブすること、すなわち、機能活性化データを生成してそのアクチベーターの包括的リストを作成し、次いでそれらの間で最も共通の香調を同定することによって関連付けることができる。
【0059】
更なる態様では、所与の受容体を活性化する化合物の共通の嗅覚香調は、化合物の全体的な記述を比較し、アクチベーター間で共通する記述子を同定することによって関連付けられる。かかる嗅覚的香調は、例えば調香師によって、いくつかの方法で意味的に記述され得ることを理解されたい。類似の嗅覚香調を捉えるかかる意味上の類似性の例としては、例えば、マリン、ウォータリーおよびオゾンノート;アーシー、ヒューマスおよびモスノート;ヘイ、クマリンおよびトンカ;セロリ、フェヌグリークおよびメープル;ミュゲおよびスズランが挙げられる。
【0060】
一態様では、少なくとも1つの嗅覚香調を嗅覚受容体に関連付けるための方法が提供され、当該方法は、
(a)嗅覚受容体を提供するステップと、
(b)嗅覚受容体と少なくとも1つの既知の香調を有する化合物とを接触させるステップと、
(c)化合物が嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの既知の香調を有する化合物でステップ(b)および(c)を繰り返すステップであって、ここで、ステップ(d)の化合物は、先行する反復のステップ(b)および(c)の化合物とは異なる、ステップと、
(e)嗅覚受容体を活性化するステップ(b)~(d)からの化合物をサブセットとして分類するステップと、
(f)化合物のサブセットに共通する少なくとも1つの香調を同定するステップと、
(g)同定された少なくとも1つの香調を嗅覚性受容体に割り当てるステップと
を含む。
【0061】
一態様では、特定の香調を有する少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)同定された少なくとも1つの香調を有する嗅覚受容体を提供するステップと、
(b)嗅覚受容体を少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物が嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物が嗅覚受容体を活性化する場合、少なくとも1つの化合物を同定された少なくとも1つの香調に関連付けるステップと
を含む。
【0062】
いくつかの態様では、それぞれが異なる同定された少なくとも1つの香調を有する複数の嗅覚受容体がステップ(a)で提供され、複数の同定された香調が、ステップ(d)において、上記の態様におけるステップ(b)および(c)に従って複数の嗅覚受容体を活性化する化合物または化合物の組み合わせに関連付けられる。
【0063】
一態様では、アーシー調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号11に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にアーシー調を関連付けるステップと
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0064】
一態様では、クマリン調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号13に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にクマリン調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0065】
一態様では、ラクトニックココナッツ調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号15に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にラクトニックココナッツ調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0066】
一態様では、フェヌグリーク調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号17に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にフェヌグリーク調を関連付けるステップと
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0067】
一態様では、パウダリームスク調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、
(a)配列番号19に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にパウダリームスク調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0068】
一態様では、動物性ムスク調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号21に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物に動物性ムスク調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0069】
一態様では、バイオレット調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号23に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にバイオレット調を関連付けるステップと
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0070】
一態様では、ブロンドウッド調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号25に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にブロンドウッド香調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0071】
一態様では、ミュゲ調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号27に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にミュゲ調を関連付けるステップと、
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0072】
一態様では、リナリック調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号29に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)化合物または化合物の組み合わせがポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にリナリック調を関連付けるステップと
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0073】
一態様では、ジャスミン調について少なくとも1つの化合物をスクリーニングするための方法が提供され、当該方法は、
(a)配列番号31に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供するステップと、
(b)ポリペプチドを少なくとも1つの化合物と接触させるステップと、
(c)化合物または化合物の組み合わせがポリペプチドを活性化するかどうかを決定するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物がポリペプチドを活性化する場合、少なくとも1つの化合物にジャスミン調を関連付けるステップと
を含み、ここで、ポリペプチドは嗅覚受容体である。
【0074】
いくつかの態様では、本開示は、本明細書に記載される特定の態様に従った方法により同定される少なくとも1つの化合物を提供する。
【0075】
別の態様では、香りを有する組成物中の化合物を選択し、組成物中の化合物の少なくとも1つの既知の香調を同定し、少なくとも1つの既知の香調に関連付けられるORを提供し、ORを試験化合物と接触させ、試験化合物が嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定し、試験化合物がORを活性化する場合、組成物中の同定された少なくとも1つの香調の化合物を試験化合物で置き換えることによって、香りを有する組成物中の揮発性化合物を置き換えるための方法が提供される。
【0076】
別の態様では、置き換えるべき組成物中の2つ以上の化合物の既知の香調を同定し、既知の香調に関連付けられるORを提供し、ORを単一の試験化合物と接触させ、試験化合物がフレグランス中の2つ以上の化合物と同じORを活性化する場合、組成物中の2つ以上の化合物を試験化合物で置き換えることによって、香りを有する組成物中の2つ以上の化合物を単一の試験化合物を置き換えるための方法が提供される。仮説に基づいた例として、香りを有する組成物は、ココナッツ調を有する化合物A、セロリ調を有する化合物B、およびシトラス調を有する化合物Cを含む。試験化合物Xは、ココナッツおよびセロリ調に関連付けられるORを活性化する。試験化合物Xは、香りを有する組成物中の化合物AおよびBを置き換える。
【0077】
別の態様では、所望の香りを選択し、組み合わせて所望の香りを生成する複数の香調を決定し、組成物中に複数の香調を有する1つ以上の化合物を組み合わせることによって、所望の香りを有する組成物を生成するための方法が提供される。
【0078】
本発明の更なる態様では、所望の香りを有する組成物中の少なくとも1つの既知の香調を有する化合物を除去するための方法が提供され、当該方法は、所望の香りを有する組成物を選択し(ここで、少なくとも1つの既知の香調は望ましくなく、または望ましくない香調を香りに付与する)、少なくとも1つの既知の望ましくない香調に関連付けられる少なくとも1つの嗅覚受容体を同定し、所望の香りを有する組成物中の化合物を選択し、化合物と嗅覚受容体とを接触させ、化合物が嗅覚受容体を阻害するかどうかを決定し、化合物が嗅覚受容体を阻害する場合、組成物から化合物を除去することによって行われる。
【0079】
更なる態様では、香りを有する組成物に化合物を添加するための方法が提供され、当該方法は、香りを有する組成物を選択し(ここで、添加された化合物は、少なくとも1つの既知の望ましくない香調に関連付けられる少なくとも1つの嗅覚受容体を阻害し、香りは、少なくとも1つの既知の香調で構成されている)、少なくとも1つの望ましくない香調に関連付けられる少なくとも1つの嗅覚受容体を同定し、少なくとも1つの嗅覚受容体と試験化合物とを接触させ、試験化合物が嗅覚受容体を阻害するかどうかを決定し、試験化合物が嗅覚受容体を阻害する場合、香りを有する組成物に試験化合物を添加することによって行われる。
【0080】
香りを有する組成物に化合物を添加または当該化合物で置き換えるための方法が、本発明により、以下のステップ:香りを有する組成物を選択するステップであって、ここで、香りは少なくとも1つの香調で構成されている、ステップと、少なくとも1つの香調のうちの第1の香調に関連付けられる第1の嗅覚受容体を同定するステップであって、第1の香調は香りにおいて所望される、ステップと、第1の嗅覚受容体と試験化合物とを接触させるステップと、試験化合物が第1の嗅覚受容体を活性化させるか否かを決定するステップと、少なくとも1つの香調のうちの第2の香調に関連付けられる第2の嗅覚受容体を同定するステップであって、ここで、第2の香調はフレグランスにおいて所望されない、ステップと、第2の嗅覚受容体と試験化合物とを接触させるステップと、試験化合物が第2の嗅覚受容体を阻害するかどうかを決定するステップと、試験化合物が第1の嗅覚受容体を活性化し、かつ第2の嗅覚受容体を抑制する場合、香りを有する組成物に試験化合物を添加するステップとに従って提供される。
【0081】
一態様では、香りを有する組成物中の化合物を置き換えるための方法が提供され、当該方法は、
(a)香りを有する組成物中の化合物を選択するステップと、
(b)組成物中の化合物の香調を同定するステップと、
(c)香調に関連付けられる嗅覚受容体を提供するステップと、
(d)嗅覚受容体と試験化合物とを接触させるステップと、
(e)試験化合物が嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定するステップと、
(f)試験化合物が嗅覚受容体を活性化する場合、組成物中の選択された化合物を試験化合物で置き換えるステップと
を含む。
【0082】
一態様では、香りを有する組成物中の複数の化合物中の少なくとも1つの化合物を置き換えるための方法が提供され、当該方法は、
(a)香りを有する組成物中の複数の化合物を選択するステップであって、ここで、複数の化合物中の各化合物が少なくとも1つの香調を有する、ステップと、
(b)複数の化合物の香調を同定するステップと、
(c)複数の嗅覚受容体を提供するステップであって、嗅覚受容体のうちの2つ以上が複数の化合物のうちの少なくとも1つの化合物と同じ香調を割り当てられた、ステップと、
(d)少なくとも1つの試験化合物を、嗅覚受容体のうちの2つ以上と接触させるステップと、
(e)少なくとも1つの試験化合物が、2つ以上の嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定するステップと、
(f)試験化合物が複数の化合物のうちの2つ以上の化合物と同じ嗅覚受容体を活性化する場合、複数の化合物のうちの2つ以上の化合物を試験化合物で置き換えるステップと
を含む。
【0083】
一態様では、所望の香りを有する組成物を生成するための方法が提供され、当該方法は、
(a)所望の香りを選択するステップと、
(b)組み合わせて所望の香りを生成する複数の香調を決定するステップと、
(c)複数の香調を有する少なくとも1つの化合物を組成物に添加するステップと、
を含む。
【0084】
いくつかの態様では、複数の香調を有する少なくとも1つの化合物は、本明細書に記載される特定の態様に従った方法により同定される。
【0085】
一態様では、所望の香りを有する組成物中の少なくとも1つの化合物を除去するための方法が提供され、当該方法は、
(a)所望の香りを有する組成物を選択するステップであって、ここで、香りは少なくとも1つの香調で構成されている、ステップと、
(b)少なくとも1つの香調に関連付けられる少なくとも1つの嗅覚受容体を同定するステップと、
(c)所望の香りを有する組成物中の少なくとも1つの化合物を選択するステップと、
(d)少なくとも1つの化合物と少なくとも1つの嗅覚受容体とを接触させるステップと、
(e)化合物が少なくとも1つの嗅覚受容体を阻害するかどうかを決定するステップと、
(f)少なくとも1つの化合物が少なくとも1つの嗅覚受容体を阻害する場合、所望の香りを有する組成物から少なくとも1つの化合物を除去するステップと
を含む。
【0086】
一態様では、香りを有する組成物に少なくとも1つの化合物を添加するための方法が提供され、当該方法は、
(a)香りを有する組成物を選択するステップであって、ここで、香りは少なくとも1つの香調で構成されている、ステップと、
(b)少なくとも1つの香調に関連付けられる少なくとも1つの嗅覚受容体を同定するステップと、
(c)少なくとも1つの嗅覚受容体と少なくとも1つの試験化合物とを接触させるステップと、
(d)少なくとも1つの試験化合物が少なくとも1つの嗅覚受容体を阻害するかどうかを決定するステップと、
(e)少なくとも1つの試験化合物が少なくとも1つの嗅覚受容体を阻害する場合、香りを有する組成物に少なくとも1つの試験化合物を添加するステップと、
を含み、ここで、少なくとも1つの嗅覚受容体は、香りにおいて所望されない香調を割り当てられたものである。
【0087】
一態様では、香りを有する組成物に少なくとも1つの化合物を添加するための方法が提供され、当該方法は、
(a)香りを有する組成物を選択するステップであって、ここで、香りは少なくとも1つの香調で構成されている、ステップと、
(b)少なくとも1つの香調のうちの第1の香調に関連付けられる第1の嗅覚受容体を同定するステップであって、ここで、第1の香調はフレグランスにおいて所望される、ステップと、
(c)第1の嗅覚受容体と試験化合物とを接触させるステップと、
(d)試験化合物が第1の嗅覚受容体を活性化させるか否かを決定するステップと、
(e)少なくとも1つの香調のうちの第2の香調に関連付けられる第2の嗅覚受容体を同定するステップであって、ここで、第2の香調はフレグランスにおいて所望されない、ステップと、
(f)第2の嗅覚受容体と試験化合物とを接触させるステップと、
(g)試験化合物が第2の嗅覚受容体を阻害するかどうかを決定するステップと、
(h)試験化合物が第1の嗅覚受容体を活性化し、かつ第2の嗅覚受容体を抑制する場合、香りを有する組成物に試験化合物を添加するステップと
を含む。
【0088】
いくつかの態様では、添加された試験化合物は、フレグランス中の化合物を置き換える。
【0089】
本開示はさらに、本明細書に記載される方法によって同定される化合物を包含する。
【0090】
関連する受容体を特徴付ける、予想される知覚結果を達成するために香料またはフレーバー用途で使用することができる所望の嗅覚香調を有する化合物を同定するための方法が、本開示によって提供される。
【0091】
ヒトORレパートリーにおける各ORについて、いくつかの対立遺伝子が存在し得る。各対立遺伝子は、所与のORの受容範囲に影響する場合と影響しない場合がある異なる一塩基多型(SNP)を含む。したがって、OR対立遺伝子変異は、化合物を追加または除去し、活性化化合物のリストにおける化合物の絶対的および相対的な効力および有効性を変化させ、ひいては個々のOR対立遺伝子について異なる香調リンクを生成し得る。同様に、例えばコピー数変異(CNV)またはコード配列切断を含む他の対立遺伝子の違いも、OR香調特異性の変化をもたらし得る。
【0092】
意味的変動は、例えば、化合物および化学混合物の知覚的および化学的記述の複数のソースの収集、キュレーション、および分析、ならびに品質、強度、および関連付けられる感情などの所与の化合物および混合物の特性を決定するための心理物理的評価によって対処することができる。自然言語処理、グラフ畳み込みネットワーク、深層ニューラルネットワーク、および他の機械学習アプローチを含むがこれらに限定されない人工知能アルゴリズムまたは技術の実装、ならびに記述子の類似性および/または共起性または潜在的な相互排他性の統計分析も、意味差異化の交絡効果を軽減するために適用することができる。自動化プロセスを実装して、記述子発生の確率推定値および相関スコアと、受容体活性または結合の測定値(効力および有効性を含むがこれらに限定されない)とを利用して、ORを香調と関連付けることができる。化合物、混合物、および記述子のあらゆる可能な測定基準に適用される様々な距離測定およびクラスタリング法、例えばユークリッド距離、Earth-Mover’s距離、k近傍法、およびt分布型確率的近傍埋め込み法を使用した記述子または化合物または混合物のクラスタリングを使用して、1つ以上のORと1つ以上の香調との間の関連付け、ならびに化学的、物理的、物理化学的、心理物理的、感覚刺激的、心理的、感情的、生物学的および複合的な特性を含むがこれに限定されない、他のあらゆる特性の測定および特徴を視覚化および検証することができる。
【0093】
さらに、共通の嗅覚香調を、対象となる化合物の嗅覚記述のいくつかのソース、例えば、調香師の記述、フレーバーリストの記述、訓練を受けたパネリストおよび訓練を受けていないパネリストの記述、公に利用可能な調香化合物記述データベース、公開されているフレーバー化合物記述データベース、F&F業界の知識および専門知識を含むがこれらに限定されないソースを比較することによって同定することができる。本明細書で使用される場合、「調香師」は、香りについて単独または組み合わせたものに関係なく、香調を区別して記述することができる香料の分野の専門家である。
【0094】
更なる実施形態では、ORの活性にリンクした香調は、a)共通の香調を有するが異なる化学構造を有する化合物のセット、およびb)類似の化学構造(例えば、構造活性相関(SAR)アプローチに基づく)を有するが異なる香調を有する化合物のセットを用いて受容体を特異的に試験することによって同定することができる。その結果、受容体の活性化に関する2つのセット間の比較から、アゴニズムの化学的要件および受容体のアゴニストの共通の香調の両方が明らかになる。
【0095】
本発明による方法はまた、悪臭化合物の特定の香調を特徴付けるために使用することもできる。十分に特徴付けられた悪臭ORは、悪臭ORを調節、例えば、増強、阻害、アロステリック阻害する化合物についてスクリーニングすることができる。
【0096】
本明細書に提示された方法は、ORの特定のクラスに限定されず、クラスIおよびクラスIIのOR、フレーバーによって活性化される受容体、ならびに香料または悪臭化合物を含む。
【0097】
OR活性を監視する方法
ORの機能が損なわれない限り、それは、本明細書に記載される方法またはアッセイにおいて任意の形態で使用することができる。例えば、生体から単離された嗅覚ニューロンおよびその培養物など、ORを内在的に発現する組織または細胞、ORを担持する嗅覚細胞膜、ORを発現するように遺伝子改変された組み換細胞およびその培養物、組み換細胞の膜、ならびにORを担持する人工脂質二重層膜を使用することができる。
【0098】
嗅覚受容体の活性を監視するための指標としては、例えば、蛍光カルシウム指示色素、カルシウム指示タンパク質(例えば、遺伝的にコードされたカルシウム指標であるGCaMP)、蛍光cAMP指標、細胞動員アッセイ、細胞動的質量再分布アッセイ、ラベルフリー細胞ベースアッセイ、cAMP応答エレメント(CRE)媒介レポータータンパク質、生化学cAMP HTRFアッセイ、β-アレスチンアッセイ、または電気生理学的記録が挙げられる。特定の実施形態では、嗅覚ニューロンの膜上で発現される嗅覚受容体の活性を監視するために使用することができるカルシウム指示色素が選択される(例えば、Fura-2 AM)。化合物を順次スクリーニングし、カルシウム色素蛍光における匂い物質に依存する変化を、蛍光顕微鏡または蛍光活性化セルソーター(FACS)を使用して測定することができる。
【0099】
一例として、マイクロマニピュレーターに取り付けられたガラス微小電極またはFACSマシンのいずれかを用いて、標的アゴニスト、例えば、特定の嗅覚香調を有する化合物によって活性化される嗅覚ニューロンが単離される。マウス嗅覚ニューロンは、以前に記述された手順と同様に、Ca2+イメージングによってスクリーニングされる(Malnic, B., et al. Cell 96, 713 - 723 (1999); Araneda, R. C. et al. J. Physiol. 555, 743 - 756 (2004);および国際公開第2014/210585号)。特に、電動可動式顕微鏡ステージを使用して、スクリーニングできる細胞数が実験ごとに少なくとも1,500個に増やされる。マウスには約1,200の異なる嗅覚受容体があり、各嗅覚ニューロンは1,200の嗅覚受容体遺伝子のうち1つしか発現しないため、このスクリーニング能力は、事実上マウスの匂い物質受容体レパートリー全体をカバーすることになる。言い換えれば、ハイスループット嗅覚ニューロンスクリーニングのためのカルシウムイメージングの組み合わせは、匂い物質の特定のプロファイルに応答するほぼすべての匂い物質受容体の同定につながる。一態様では、標的アゴニストに応答する、例えば特定の嗅覚香調を有する匂い物質受容体を、受容体同定のために単離することができる。例えば、少なくとも1つのニューロンが受容体同定のために単離される。
【0100】
標的アゴニストに対するヒトまたは非ヒト哺乳類受容体、例えば1つ以上の特定の嗅覚香調を有するものは、嗅覚受容体の活性を結合、抑制、遮断、阻害、および/または調節する化合物を同定するために使用することができる機能アッセイに適合させることができる。アッセイは、細胞ベースのアッセイまたは結合アッセイであってもよく、化合物を同定するための方法は、ハイスループットスクリーニングアッセイであってもよい。より具体的には、本明細書で提供されるのは、対象となる特定のアゴニストに対するポジティブアロステリックモジュレーター、ネガティブアロステリックモジュレーター、アンタゴニストまたはインバースアゴニストモジュレーター化合物を発見するための化合物ライブラリーを用いた受容体のハイスループットスクリーニングに適合可能な受容体ベースのアッセイである。
【0101】
一実施形態では、(例えば、少なくとも1つの嗅覚香調を有する)標的アゴニスト受容体遺伝子配列は、以下のように標的アゴニスト感受性細胞から同定される。プールされたニューロンを75℃で10分間加熱して、細胞膜を破り、そのmRNAを増幅に利用できるようにする。この増幅ステップは、典型的には1~15個の細胞という限られた量の出発物質でNGS技術を適用する場合に重要である。複数の増幅プロトコルが存在する。例えば、Eberwine法(IVT)による線形増幅は、発現された遺伝子の相対的な転写レベルを確実に維持する。十分な量のcRNAを得るために、2回の連続した一晩(14時間)のインビトロ転写を使用する。次いで、増幅されたcRNAを使用して、イルミナ社のHiSeq cDNAライブラリーを作成する。結果生じる典型的には75~150塩基対の短い配列(一般に「リード」と呼ばれる)をマウスの参照ゲノム(UCSCバージョンmm9またはmm10など)にアライメントして、これらの細胞の完全なトランスクリプトームを構築する。トランスクリプトームデータを定量的に解析すると、転写された匂い物質受容体遺伝子とその発現レベルのリストとが得られる。mRNAの最も豊富なレベル(最も豊富な「リード」)を示すか、または2つ以上の複製実験に存在する匂い物質受容体遺伝子は、推定標的アゴニスト受容体と見なされる。
【0102】
次いで、予測されたマウスOR遺伝子を使用して、マウス(パラロガス遺伝子)およびヒト(オルソログ遺伝子)において最も近縁の受容体(すなわち最も高い配列類似性)を同定するために、マウスおよびヒトゲノムデータベースをマイニングする。このプロセスは、配列類似性検索ツールであるBLAST検索アルゴリズム(NCBIのウェブサイトで公開されている)を用いて実施することができ、最初のトランスクリプトーム解析で予め得られたすべての推定遺伝子配列をクエリ配列として使用する。このデータマイニングから新たに同定された遺伝子は、パラロガス遺伝子とオルソログ遺伝子とが類似の活性を持つ可能性が高いという仮定のもと、特定の嗅覚香調の受容体となる可能性があると見なされる。特定の実施形態では、配列相同性のペアワイズ比較を行って、マウスおよびヒトの近縁の受容体を同定し、国際公開第2014/210585号に記載されているように受容体を同定する。RT-PCRおよびマイクロアレイまたは質量分析アプローチなどの他のアプローチも使用することができる。
【0103】
更なる実施形態では、脱オーファン化プロセスを完了するために、候補OR遺伝子は、嗅覚の単離に使用される化合物、または(例えば1つ以上の特定の嗅覚香調を有する)標的アゴニストに応答すると同定された、前の実施形態に記載されるように同定されたそのヒトオルソログに対する活性の確認のためにインビトロでさらに発現され、短いポリペプチド配列(例えば、FLAG(登録商標)(配列番号2)、Rho(配列番号4;ウシロドプシン受容体の20個の最初のアミノ酸)、および/またはLucy(配列番号6;切断可能なロイシンに富むシグナルペプチド配列)タグ)を有するそのN末端で修飾され、HEK 293T細胞で一過性に発現され、(例えば、特定の嗅覚香調を有する)標的アゴニストで別々に刺激されて特定の標的アゴニストの真正な受容体とのそれらの同一性を確認することができる。更なる実施形態では、国際公開第2016201153号に記載されているように、内因性RTP1遺伝子の活性化を介してであれ、形質転換またはウイルス形質導入を通じてであれ、RTP1遺伝子も細胞株で発現させることができる。この細胞ベースアッセイにおけるヒトGαサブユニットGαolfの共発現は、適切なリガンドに結合すると内部cAMP増加をもたらすGsトランスダクション経路を活性化する。あるいはこの細胞ベースのアッセイにおけるヒトGαサブユニットGα15の共発現は、適切なリガンドに結合すると内部Ca2+増加をもたらすGqトランスダクション経路を活性化する。
【0104】
更なる実施形態では、化合物を、OR、またはそのキメラもしくは断片に接触させ、ここで、OR、またはそのキメラもしくは断片は、OR、またはそのキメラもしくは断片を発現するように組換え改変された細胞で発現される。
【0105】
更なる実施形態では、ORの分子3D受容体モデリングを使用して、結合能をインシリコで評価し、ORの活性を活性化、模倣、遮断、阻害、調節、および/または増強し得る化合物を特定する。更なる実施形態では、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、XGBoost、グラフ畳み込みネットワーク、リカレントニューラルネットワーク、変分オートエンコーダー、敵対的生成ネットワークなどの当業者に公知の機械学習アルゴリズムを、OR活性データ、分子3D受容体構造データ、分子3D化合物構造データ、および物理化学データと組み合わせて、インシリコで結合能を評価し、ORの活性を活性化、模倣、遮断、阻害、調節、および/または増強し得る化合物を予測することができる。
【0106】
化合物の活性は、インビボ、エクスビボ、インビトロおよび合成スクリーニングシステムを使用して決定することができる。
【0107】
一実施形態では、接触は、本明細書に記載されるポリペプチドを含有するリポソームまたはウイルス誘導出芽膜を用いて実施することができる。
【0108】
別の実施形態では、ORの活性を結合、抑制、遮断、阻害、および/または調節する、化合物を同定するための方法は、無傷の細胞または本明細書に記載されるポリペプチドを発現する細胞からの膜画分に対して実施してもよい。
【0109】
本明細書に記載されるORは、ORに関連付けられる特定の嗅覚香調の知覚を低下させるであろうインヒビターまたはアンタゴニストなどの調節化合物の同定に使用され得る。
【0110】
更なる実施形態では、特定の嗅覚香調をコードするORに対するアンタゴニストの使用は、化合物、または複数の化合物の混合物の他の残りの香調を明らかにするために使用され得る。異なる嗅覚香調に意識的かつ同時に注意を向ける人間の能力は限られていることが知られている(例えば、Keller, A (2011))。複数の香調を持つ匂いや香りを嗅ぐ体験では、香調の間で注意がシフトし、そのため、一度に1つの香調にしか注意が向けられなくなる。注意の調節に関する特定の理論に限定されることを望むものではないが、アンタゴナイズされたORによってコードされた香調の抑制は、必然的に注意を奪い合う香調のプールからそれを取り除き、代わりに残りの香調が注意空間を占めることを可能にするであろう。場合によっては、残りのORの活性が絶対的ではなく相対的に変化することで、それがコードする香調の明らかな知覚的増強につながる。
【0111】
本発明により適用可能なポリペプチド
本発明は、本明細書に具体的に記載されたORポリペプチドの機能的等価物またはアナログもしくは機能的変異を含む。
【0112】
機能的等価物とは、OR活性に使用される試験において、少なくとも1~10%、または少なくとも20%、または少なくとも50%、または少なくとも75%、または少なくとも90%、または少なくとも95%高いかまたは低いOR活性を示すポリペプチドを指す。
【0113】
本発明によれば、機能的等価物は、本明細書に記載されるアミノ酸配列の少なくとも1つの配列位置において、具体的に記載されたものとは異なるアミノ酸を有するが、それでも前述の生物活性のうちの1つを有する、特定の変異体も対象とする。したがって、機能的等価物は、1つ以上、例えば1~20、1~15または5~10のアミノ酸の付加、置換、特に保存的置換、欠失および/または逆位によって得られる変異体を含み、ここで、言及された変化は、本発明による特性のプロファイルを有する変異体をもたらすという条件で、任意の配列位置で起こり得る。機能的等価性は、特に、活性パターンが変異体と未変化のポリペプチドとの間で定性的に一致する場合、すなわち、例えば、同じアゴニストまたはアンタゴニストとの相互作用が、しかしながら異なる速度で、(すなわち、EC50もしくはIC50値または本技術分野に適した他の任意のパラメーターによって表される)観察される場合にも提供される。適切な(保存的)アミノ酸置換の例を以下の表に示す。
【表1】
【0114】
上記の意味での機能的等価物には、記載されたポリペプチドの前駆体、ならびにポリペプチドの機能的誘導体および塩も含まれる。前駆体は、所望の生物学的活性を有するかまたは有しないポリペプチドの天然または合成前駆体である。
【0115】
「塩」という表現は、カルボキシル基の塩だけでなく、および本発明によるタンパク質分子のアミノ基の酸付加の塩を意味する。カルボキシル基の塩は、公知の方法で生成することができ、無機塩、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、鉄塩および亜鉛塩、ならびに有機塩基、例えば、トリエタノールアミンなどのアミン、アルギニン、リシン、ピペリジンなどとの塩を含む。本発明には、酸付加の塩、例えば、塩酸、硫酸などの無機酸との塩、ならびに酢酸およびシュウ酸などの有機酸との塩が含まれる。
【0116】
本発明によるポリペプチドの機能性誘導体は、公知の技術を用いて、機能性アミノ酸側基またはそのN末端もしくはC末端において生成することができる。かかる誘導体としては、例えば、カルボン酸基の脂肪族エステル、アンモニアとの反応または第1級もしくは第2級アミンとの反応により得られるカルボン酸基のアミド、アシル基との反応により生成される遊離アミノ基のN-アシル誘導体、またはアシル基との反応により生成される遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体が挙げられる。
【0117】
機能的等価物には、他の生物から得られるポリペプチド、および自然に存在するバリアントも含まれる。例えば、相同配列領域の領域は配列比較によって確立することができ、等価なポリペプチドは、本発明の具体的なパラメーターに基づいて決定することができる。
【0118】
機能的等価物はまた、例えば所望の生物学的機能を示す本発明によるポリペプチドの断片、好ましくは個々のドメインまたは配列モチーフを含む。
【0119】
機能的等価物には、本明細書に記載されるポリペプチド配列の1つまたはそれから得られる機能的等価物と、N末端またはC末端会合において(すなわち、融合タンパク質部分の実質的な相互機能障害なしに)少なくとも1つの更なる機能的に異なる異種配列とを有する融合タンパク質が含まれる。これらの異種配列の非限定的な例としては、例えば、シグナルペプチド、ヒスチジンアンカーまたは酵素が挙げられる。
【0120】
本発明に従った機能的等価物には、具体的に開示されたポリペプチドに対するホモログが含まれる。これらは、Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad, Sci. (USA) 85(8), 1988, 2444-2448のアルゴリズムにより算出される、具体的に開示されたアミノ酸配列の1つに対して少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、特に少なくとも80または85%、例えば、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%などの相同性(または同一性)を有する。本発明による相同ポリペプチドの、パーセントで表される相同性または同一性とは、特に、本明細書に具体的に記載されるアミノ酸配列の1つの全長を基準としたアミノ酸残基の、パーセントで表される同一性を意味する。
【0121】
パーセントで表される同一性データはまた、BLASTアライメント、アルゴリズムblastp(タンパク質-タンパク質BLAST)の助けを借りて、または本明細書において以下に指定されるClustal設定を適用することによって決定することができる。
【0122】
タンパク質グリコシル化の可能性がある場合、本発明による機能的等価物には、脱グリコシル化またはグリコシル化形態、およびグリコシル化パターンを変更することによって得ることができる修飾形態で本明細書に記載されるポリペプチドが含まれる。
【0123】
本発明によるポリペプチドのかかる機能的等価物またはホモログは、突然変異誘発、例えば、タンパク質の点突然変異、長鎖化もしくは短鎖化によって、または以下にさらに詳細に説明するように生成することができる。
【0124】
本発明によるポリペプチドの機能的等価物またはホモログは、変異体のコンビナトリアルデータベース、例えば短縮化変異体をスクリーニングすることによって同定することができる。例えば、タンパク質変異体の多彩なデータベースは、核酸レベルでのコンビナトリアル突然変異誘発、例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物の酵素的ライゲーションによって作成することができる。縮重オリゴヌクレオチド配列から潜在的なホモログのデータベースを作成するために使用することができる数多くの方法がある。縮重遺伝子配列の化学合成は、自動DNA合成装置で行うことができ、次いで、合成遺伝子を適切な発現ベクターにライゲーションすることができる。縮退遺伝子を用いることで、所望のタンパク質配列候補のセットをコードする混合物中のすべての配列をライゲーションすることができる。縮重オリゴヌクレオチドの合成方法は、当業者に公知である(例えば、Narang, S.A. (1983); Itakura et al. (1984) (a); Itakura et al., (1984) (b); Ike et al. (1983))。コドン最適化された核酸配列、すなわち宿主細胞のコドン使用頻度に適合されたポリペプチドの生成も、この方法に含まれる。
【0125】
点突然変異または短鎖化により作成されたコンビナトリアルデータベースの遺伝子産物のスクリーニング、およびcDNAライブラリーのスクリーニングにより、選択された特性を有する遺伝子産物を得るための技術がいくつか知られている。これらの技術は、本発明によるホモログのコンビナトリアル変異誘発によって作成された遺伝子バンクの迅速なスクリーニングに適合させることができる。ハイスループット分析に基づく大規模な遺伝子バンクのスクリーニングに最も頻繁に用いられる技術は、複製可能な発現ベクターにおける遺伝子バンクのクローニング、得られたベクターデータベースによる適切な細胞の形質転換、および所望の活性の検出によりその産物が検出された遺伝子をコードするベクターの単離を容易にする条件でのコンビナトリアル遺伝子の発現を含む。データベース中の機能的変異体の頻度を増加させる技術であるRecursive Ensemble Mutagenesis(REM)は、ホモログを同定するために、スクリーニング試験と組み合わせて使用することができる(Arkin and Yourvan (1992); Delgrave et al. (1993))。
【0126】
本発明による核酸配列
本発明は、本発明のポリペプチドをコードする核酸配列を含む。
【0127】
本発明はまた、本明細書に具体的に開示された配列とある程度の「同一性」を有する核酸に関する。2つの核酸間の「同一性」とは、いずれの場合も核酸の全長にわたるヌクレオチドの同一性を意味する。
【0128】
例えば、同一性は、Clustal法を採用したInformax社(米国)のVector NTI Suite 7.1プログラム(Higgins DG, Sharp PM. ((1989)))を用いて、以下の設定により計算することができる:
多重アラインメントパラメーター
ギャップオープニングペナルティ 10
ギャップ伸長ペナルティ 10
ギャップ分離ペナルティ範囲 8
ギャップ分離ペナルティ オフ
アラインメント遅延に対する%同一性 40
残基特異性ギャップ オフ
親水性残基ギャップ オフ
トランジション重み付け(Transition weighing) 0
ペアワイズアラインメントパラメーター:
FASTアルゴリズム オン
Kタプルサイズ 1
ギャップペナルティ 3
ウィンドウサイズ 5
最良の対角線数 5
【0129】
あるいは、同一性は、Chenna, et al. (2003)、ウェブページ:http://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw/index.html#、および以下の設定に従って決定してもよい:
DNAギャップオープンペナルティ 15.0
DNAギャップ伸長ペナルティ 6.66
DNAマトリックス Identity
タンパク質ギャップオープンペナルティ 10.0
タンパク質伸長ペナルティ 0.2
タンパク質マトリックス Gonnet
タンパク質/DNA ENDGAP -1
タンパク質/DNA GAPDIST 4
【0130】
本発明はまた、上記のポリペプチドのうちの1つおよびその機能的等価物をコードする核酸配列(一本鎖および二本鎖DNAならびにRNA配列、例えばcDNAおよびmRNA)に関し、これらは例えば人工ヌクレオチドアナログを使用して得ることができる。
【0131】
本発明は、本発明によるポリペプチド、またはその生物学的活性セグメントをコードする単離された核酸分子、および本発明によるコード核酸を同定または増幅するための例えばハイブリダイゼーションプローブまたはプライマーとして使用することができる核酸断片の両方に関するものである。
【0132】
本発明による核酸分子は、コード遺伝子領域の3’末端および/または5’末端からの非翻訳配列をさらに含み得る。本発明はさらに、具体的に記載されたヌクレオチド配列またはそのセグメントに相補的な核酸分子に関する。
【0133】
本発明によるヌクレオチド配列は、他の細胞型および生物における相同配列の同定および/またはクローニングに使用することができるプローブおよびプライマーの生成を可能にする。プローブまたはプライマーは、一般的に、「ストリンジェントな」条件下で(下記参照)本発明による核酸配列のセンス鎖または対応するアンチセンス鎖の少なくとも約12、好ましくは少なくとも約25、例えば約40、50または75の連続したヌクレオチド上でハイブリダイズするヌクレオチド配列領域を含む。
【0134】
「単離された」核酸分子は、核酸の自然源に存在する他の核酸分子から分離されており、さらに、それが組換え技術によって産生されている場合には、他の細胞物質または培地を実質的に含まないことができ、またはそれが化学的に合成されている場合には、化学前駆体または他の化学物質を含まないことができる。
【0135】
「ハイブリダイズ」とは、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドが、標準的な条件下でほぼ相補的な配列に結合する能力を意味するが、これらの条件下では、非相補的なパートナー間で非特異的結合が起こらない。このために、配列は90~100%相補的であり得る。互いに特異的に結合することができるという相補的な配列の特性は、例えば、ノーザンブロッティングまたはサザンブロッティングにおいて、またはPCRもしくはRT-PCRにおけるプライマー結合において利用される。
【0136】
保存領域の短いオリゴヌクレオチドは、ハイブリダイゼーションに有利に使用される。しかしながら、ハイブリダイゼーションのために、本発明による核酸のより長い断片または完全配列を使用することも可能である。これらの「標準的な条件」は、使用される核酸(オリゴヌクレオチド、より長い断片もしくは完全配列)またはハイブリダイゼーションに使用される核酸の種類(DNAまたはRNA)に応じて異なる。例えば、DNA:DNAハイブリッドの融解温度は、同じ長さのDNA:RNAハイブリッドの融解温度よりも約10℃低い。
【0137】
例えば、特定の核酸に応じて、標準的な条件は、0.1~5×SSC(1×SSC=0.15M NaCl、15mM クエン酸ナトリウム、pH7.2)の濃度の緩衝水溶液中で、またはさらに50%ホルムアミドの存在下で42~58℃の温度、例えば、5×SSC、50%のホルムアミド中42℃を意味する。有利には、DNA:DNAハイブリッドの場合のハイブリダイゼーション条件は0.1×SSCであり、温度は約20℃~45℃、好ましくは約30℃~45℃である。DNA:RNAハイブリッドの場合、ハイブリダイゼーション条件は、有利には0.1×SSCであり、温度は約30℃~55℃、好ましくは約45℃~55℃である。ハイブリダイゼーションのためのこれらの記載された温度は、ホルムアミドの非存在下で約100ヌクレオチドの長さおよび50%のG+C含有量を有する核酸について計算された融解温度の値の例である。DNAハイブリダイゼーションの実験条件は、関連する遺伝学の教科書、例えばSambrook et al., 1989に記載されており、例えば、核酸の長さ、ハイブリッドの種類またはG+C含有量に応じて、当業者に知られている式を用いて計算することができる。当業者であれば、以下の教科書からハイブリダイゼーションに関する更なる情報を得ることができる:Ausubel et al. (eds), (1985), Brown (ed) (1991)。
【0138】
「ハイブリダイゼーション」は、特に、ストリンジェントな条件下で行うことができる。そのようなハイブリダイゼーション条件は、例えば、Sambrook (1989)、またはCurrent Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に記載されている。
【0139】
本明細書で使用される場合、ハイブリダイゼーションまたは特定の条件下でハイブリダイズするという用語は、互いに有意に同一または相同であるヌクレオチド配列が互いに結合したままであるハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を記載することを意図している。条件は、少なくとも約70%、例えば少なくとも約80%、例えば少なくとも約85%、90%、または95%の同一性を有する配列が互いに結合したままであるような条件であってもよい。
【0140】
適切なハイブリダイゼーション条件は、Ausubel et al.(1995, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, sections 2, 4, and 6)に例示されているように、当業者が最小限の実験で選択することも可能である。さらに、ストリンジェンシーの条件は、Sambrook et al.(1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Press, chapters 7, 9, and 11)に記載されている。
【0141】
低ストリンジェンシーの定義された条件は以下のとおりである。DNAを含むフィルターを、35%ホルムアミド、5×SSC、50mM Tris-HCl(pH7.5)、5mM EDTA、0.1%PVP、0.1%Ficoll、1%BSA、および500μg/mlの変性サケ精子DNAを含む溶液中で40℃にて6時間前処理する。ハイブリダイゼーションを、以下の変更を加えた同じ溶液中で行う:0.02%PVP、0.02%Ficoll、0.2%BSA、100μg/mlのサケ精子DNA、10%(w/v)デキストラン硫酸塩、および5~20×10の32P標識プローブを使用する。フィルターをハイブリダイゼーション混合物中で40℃にて18~20時間インキュベートし、次いで55℃で1.5時間洗浄する。2×SSC、25mM Tris-HCl(pH7.4)、5mM EDTA、および0.1%SDSを含む溶液中で。洗浄液を新しい溶液に交換し、60℃でさらに1.5時間インキュベートする。フィルターを吸い取って乾燥させ、オートラジオグラフィーのために露光する。
【0142】
中ストリンジェンシーの定義された条件は以下のとおりである。DNAを含むフィルターを、35%ホルムアミド、5×SSC、50mM Tris-HCl(pH7.5)、5mM EDTA、0.1%PVP、0.1%Ficoll、1%BSA、および500μg/mlの変性サケ精子DNAを含む溶液中で50℃にて7時間前処理する。ハイブリダイゼーションを、以下の変更を加えた同じ溶液中で行う:0.02%PVP、0.02%Ficoll、0.2%BSA、100μg/mlのサケ精子DNA、10%(w/v)デキストラン硫酸塩、および5~20×10の32P標識プローブを使用する。フィルターをハイブリダイゼーション混合物中で50℃にて30時間インキュベートし、次いで55℃で1.5時間洗浄する。2×SSC、25mM Tris-HCl(pH7.4)、5mM EDTA、および0.1%SDSを含む溶液中で。洗浄液を新しい溶液に交換し、60℃でさらに1.5時間インキュベートする。フィルターを吸い取って乾燥させ、オートラジオグラフィーのために露光する。
【0143】
高ストリンジェンシーの定義された条件は以下のとおりである。DNAを含むフィルターのプレハイブリダイゼーションは、6×SSC、50mM Tris-HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.02%PVP、0.02%Ficoll、0.02%BSA、および500μg/mlの変性サケ精子DNAで構成される緩衝液中で65℃にて8時間~一晩中行う。100μg/mlの変性サケ精子DNAおよび5~20×10cpmの32P標識プローブを含むプレハイブリダイゼーション混合物中で、フィルターを65℃にて48時間ハイブリダイズさせる。フィルターの洗浄は、2×SSC、0.01%PVP、0.01%Ficoll、および0.01%BSAを含む溶液中で37℃にて1時間行う。その後、0.1×SSCで50℃にて45分間洗浄する。
【0144】
当該技術分野で周知の低、中、および高ストリンジェンシーの他の条件(例えば、異種間ハイブリダイゼーションに用いられるような条件)を、上記の条件が不適切である場合に使用することができる(例えば、異種間ハイブリダイゼーションに用いられるような条件)。
【0145】
本発明による核酸配列は、本明細書に具体的に開示された配列に由来し、個別または複数のヌクレオチドの付加、置換、挿入または欠失によってそれと異なることができ、さらに所望の特性のプロファイルを有するポリペプチドをコードすることができる。
【0146】
本発明はまた、いわゆるサイレント突然変異を含むか、または具体的に記載された配列と比較して、特別な原体または宿主生物のコドン使用に従って変更されている核酸配列、ならびにその自然発生バリアント、例えばスプライシングバリアントまたは対立遺伝子バリアントも包含する。
【0147】
本発明による核酸配列の誘導体は、例えば、誘導されたアミノ酸のレベルで少なくとも60%の相同性、好ましくは少なくとも80%の相同性、特に好ましくは全配列範囲にわたって少なくとも90%の相同性を有する(アミノ酸レベルでの相同性に関しては、ポリペプチドについて上述した詳細を参照されたい)対立遺伝子変異体を意味する。有利には、相同性は、配列の部分領域にわたってより高いものであり得る。
【0148】
さらに、誘導体はまた、本発明による核酸配列のホモログ、例えば、動物、植物、真菌または細菌のホモログ、短縮配列、コードおよび非コードDNA配列の一本鎖DNAまたはRNAであると理解されるべきである。例えば、ホモログは、DNAレベルで、本明細書に具体的に開示された配列で与えられる全DNA領域にわたって、少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、非常に好ましくは少なくとも80%の相同性を有する。
【0149】
さらに、誘導体は、例えばプロモーターとの融合体であると理解されるべきである。記載されたヌクレオチド配列に付加されるプロモーターは、少なくとも1つのヌクレオチド交換、少なくとも1つの挿入、逆位および/または欠失によって改変することができるが、プロモーターの機能性または有効性は損なわれない。さらに、プロモーターの有効性は、それらの配列を変更することによって高めることもできるし、異なる属の生物であっても、より有効なプロモーターと完全に交換することもできる。
【0150】
さらに、当業者であれば、機能的変異体、すなわち、配列番号2、4、6、または8のいずれかと少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性のポリペプチド、および/または配列番号1、2、5、または7と少なくとも70%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を生成するための方法に精通している。
【0151】
使用される技術に応じて、当業者であれば、遺伝子あるいは非コード核酸領域(当該領域は、例えば発現を調節するために重要である)に、完全にランダムな、あるいはより指向性のある突然変異を導入し、その後、遺伝子ライブラリーを生成することができる。この目的のために必要とされる分子生物学の方法は当業者に公知であり、例えば、Sambrook and Russell, Molecular Cloning. 3rd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001に記載されている。
【0152】
遺伝子を改変するための方法、ひいては遺伝子によってコードされるポリペプチドを改変するための方法は、当業者には長い間公知であり、例えば、以下のようなものがある:
- 遺伝子の個々のヌクレオチドまたは複数のヌクレオチドが指示された方法で置き換えられる部位特異的突然変異誘発(Trower MK (Ed.) 1996; In vitro mutagenesis protocols. Humana Press, New Jersey)、
- 遺伝子の任意の点で任意のアミノ酸のコドンを交換または追加することができる、飽和突然変異誘発(Kegler-Ebo DM, Docktor CM, DiMaio D (1994) Nucleic Acids Res 22:1593; Barettino D, Feigenbutz M, Valcarel R, Stunnenberg HG (1994) Nucleic Acids Res 22:541; Barik S (1995) Mol Biotechnol 3:1)、
- ヌクレオチド配列がerror-prone DNAポリメラーゼによって変異させられる、error-prone ポリメラーゼ連鎖反応(Eckert KA, Kunkel TA (1990) Nucleic Acids Res 18:3739)、
- 好ましい交換がポリメラーゼによって妨げられる、SeSaM法(配列飽和法)Schenk et al., Biospektrum, Vol. 3, 2006, 277-279、
- 例えばヌクレオチド配列の変異率の増加がDNA修復機構の欠陥のために起きる、突然変異誘発株における遺伝子の継代(Greener A, Callahan M, Jerpseth B (1996) An efficient random mutagenesis technique using an E.coli mutator strain. In: Trower MK (Ed.) In vitro mutagenesis protocols. Humana Press, New Jersey)、または
- 近縁の遺伝子のプールが形成され、消化され、その断片がポリメラーゼ連鎖反応のテンプレートとして使用され、鎖の分離および再アニーリングの繰り返しによって全長のモザイク遺伝子が最終的に生成される、DNAシャッフリング(Stemmer WPC (1994) Nature 370:389; Stemmer WPC (1994) Proc Natl Acad Sci USA 91:10747)。
【0153】
いわゆる定方向進化(とりわけ、Reetz MT and Jaeger K-E (1999), Topics Curr Chem 200:31; Zhao H, Moore JC, Volkov AA, Arnold FH (1999), Methods for optimizing industrial polypeptides by directed evolution, In: Demain AL, Davies JE (Ed.) Manual of industrial microbiology and biotechnology. American Society for Microbiologyに記載される)を用いて、当業者であれば、指示された方法で、大規模に機能的変異体を生成することができる。このために、第1のステップでは、それぞれのポリペプチドの遺伝子ライブラリーが、例えば上記に示した方法を用いて、最初に作成される。この遺伝子ライブラリーは、適切な方法で、例えば、細菌またはファージディスプレイシステムによって発現される。
【0154】
所望の特性に概ね対応する特性を有する機能的変異体を発現する宿主生物の関連遺伝子は、別の突然変異サイクルに供され得る。突然変異および選択またはスクリーニングのステップは、存在する機能的変異体が所望の特性を十分な程度で有するまで反復的に繰り返され得る。この反復手順を使用して、限定された数の突然変異、例えば1、2、3、4または5の突然変異を段階的に実施し、対象となる活性に及ぼすそれらの影響について評価し、選択することができる。次いで、選択された変異体は、同様の方法で更なる突然変異ステップに供され得る。このようにして、調査される個々の変異体の数を有意に減少させることができる。
【0155】
本発明による結果はまた、所望の改変された特性を有する更なるポリペプチドを標的化された方法で生成するために必要とされる、関連するポリペプチドの構造および配列に関して重要な情報を提供する。特に、いわゆる「ホットスポット」、すなわち、標的突然変異を導入することによって特性を改変するのに適している可能性のある配列セグメントを規定することが可能である。
【0156】
また、活性にほとんど影響を与えないと予想される突然変異が周辺でなされている可能性があるアミノ酸配列の位置に関しての情報を導き出すこともでき、こうした突然変異は、潜在的な「サイレント突然変異」と称され得る。
【0157】
適切な宿主生物における発現のために、組換え核酸構築物または遺伝子構築物は、宿主における遺伝子の最適な発現を可能にする宿主特異的ベクターに有利に挿入される。ベクターは当業者に周知であり、例えば、「cloning vectors」(Pouwels P. H. et al., Ed., Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985)に見出すことができる。
【0158】
本明細書で同定および/または使用される核酸およびアミノ酸配列を以下に示す:
FLAG(登録商標)
配列番号1-DNA
【化1】
配列番号2-タンパク質
DYKDDDDK
Rhoタグ
配列番号3-DNA
【化2】
配列番号4-タンパク質
【化3】
Lucyタグ
配列番号5-DNA
【化4】
配列番号6-タンパク質
【化5】
モチーフ
配列番号7
MAYDRYVAIC
モチーフ
配列番号8
FSTCSSH
モチーフ
配列番号9
PMLNPFIY
OR11A1
配列番号10-DNA
【化6】
配列番号11-タンパク質
【化7】
OR8B3
配列番号12-DNA
【化8】
配列番号13-タンパク質
【化9】
OR5AU1
配列番号14-DNA
【化10】
配列番号15-タンパク質
【化11】
OR8D1
配列番号16-DNA
【化12】
配列番号17-タンパク質
【化13】
OR5AN1
配列番号18-DNA
【化14】
配列番号19-DNA
【化15】
OR1N2
【化16】
配列番号21-タンパク質
【化17】
OR5A1
配列番号22-DNA
【化18】
配列番号23-タンパク質
【化19】
OR7A17
配列番号24-DNA
【化20】
配列番号25-タンパク質
【化21】
OR10J5
配列番号26-DNA
【化22】
配列番号27-タンパク質
【化23】
OR1C1
配列番号28-DNA
【化24】
配列番号29-タンパク質
【化25】
OR5B12
配列番号30-DNA
【化26】
配列番号31-タンパク質
【化27】
【0159】
以下の実施例は例示であり、要約書、明細書または特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定することを意味するものではない。
【0160】
実施例
以下の実施例における香調の説明は、1人以上の調香師によって提供されたものである。
【0161】
実施例1:末梢嗅覚系による嗅覚品質コード
以下に提示するデータは、嗅覚系の末梢で嗅覚香調がどのようにコードされているかを概念的に捉えるために、図1および図2にまとめたものである。図1では、香料のノートおよび香調を表すフレグランスホイールと、対応する嗅覚グループ間の関係を示している。フレグランスホイール上で特定の嗅覚香調を示す揮発性化合物を、それらが活性化する受容体によってマッピングした。香調を共有する分子は、化学的な類似性に関係なく、同じ受容体を活性化する。いくつかの嗅覚香調を共有する分子は、結果として同じ対応するORを共活性化する。例えば、分子1、2および3は、それぞれ2つの特徴付けられた受容体を活性化し、対応する2つの嗅覚香調を示す(図1に示す)。
【0162】
これをさらに図2に示す。図2は、3つの受容体-OR5AU1(配列番号15)、OR8D1(配列番号17)およびOR8B3(配列番号13)の受容野を示し、各々がラクトニックココナッツ、フェヌグリークまたはクマリン系という異なる嗅覚香調にそれぞれリンクしており、ここで、フェヌグリークは、意味的に関連する記述子であるフェヌグリーク、メープルおよびセロリによって捉えられ、クマリン系は、クマリン、トンカ、ヘイによって捉えられる。これらの香調のうち1つだけを示す分子は、それに応じて1つの受容体だけを活性化する。これらの記述子の組み合わせを示す分子は、対応する受容体の組み合わせを活性化することがわかる。2つ以上のOR受容野の交点にある化合物は、2つ以上の対応する香調を誘発する(図2)。その結果、全体的な受容体活性化プロファイル(すなわち、どの受容体のセットが活性化されるか)は、所与の化合物の感覚属性と直接相関する。第1表は図2に示された受容体の隣にある化合物のサブセットの香調をリストアップしたものである。OR活性によって表されていない追加の記述は、追加のORの脱オーファン化と特徴付けがそのままであることを示唆している。この実施例で提示されたデータは、網羅的であることを意図していないことに留意されたい。このフレグランスホイールで表現されたもの以外にも、さらに多くの嗅覚香調が存在し、OR匂い物質のペアもさらに多く存在する。しかしながら、ORスクリーニングの予測的側面は、まとめられた結果に照らして明らかになる。
【表2】
【0163】
実施例2:OR11A1活性は、単一の共通した感覚刺激的な香調:アーシーを捉える。
ヒト匂い物質受容体OR11A1(配列番号11)の分子受容範囲は、約800の化合物を含む化学的および感覚刺激的に多様な揮発性化合物ライブラリーで大規模スクリーニングを実行することによって試験した。細胞ベースのアッセイを使用して、HEK293T細胞株でOR11A1を試験した(ここで、内因性RTP1遺伝子を活性化し、匂い物質受容体シャペロンを発現させた(国際公開第2016/201153号))。細胞を、Flag-Rhoタグ付き受容体およびカノニカルGタンパク質Golfと共導入し、個別に試験された各試験化合物の単一濃度に曝露した。受容体活性は、HTRF(ホモジニアス時間分解蛍光ユニット)ベースのキット(CisBio, cAMP dynamic 2 kit, 62AM4PEJ)を用いて細胞質内のcAMP増加を測定することにより検出した。
【0164】
まず、798種類の化合物の300mMストック溶液を純粋なDMSOで作製した。各化合物のストック溶液をさらに希釈して、最終的な試験濃度を300μMとした。DMSOの最終濃度は0.1%であり、細胞に対して目に見える影響はなかった。各化合物は、嗅覚受容体OR11A1を発現する細胞株に提示した。このハイスループットスクリーニング(HTS)プロセスの品質を決定し、各プレートのZ’値を計算することによってウィンドウの変動およびシグナルの信頼性を評価した(プレートごとの平均Z’値は0.72±0.12で、0.5~1という要求品質基準内に十分に収まっている)。この単一濃度活性化スクリーンの結果を図3に示し、ヒット化合物は薄いグレーのドットで強調表示している。
【0165】
その後、上記と同じ細胞ベースのアッセイを用いて、図4に示すように、最良のヒット化合物のサブセットについて用量反応実験を実施し、候補となったヒット化合物が真のアゴニスト(アクチベーター)であることを確認した。最初のスクリーニングステップからの陰性化合物(2,2,6,6-テトラメチル-1-シクロヘキサノン)を反応特異性のための陰性対照として使用したが、有意な用量反応は得られなかった。感度(効力)および活性化強度(有効性)は、それぞれEC50(半値活性化レベルに達するのに必要な濃度)とSpan(ベースライン活性レベルと活性化飽和プラトーと間のアッセイウィンドウスパン)との尺度として、曲線から計算した。これらの値を用いて、図5の効力(X軸)および有効性(Y軸)によるOR11A1の分子受容範囲を表現した。対応する化学構造を図6に示す。また、部分アゴニストであるトナリドも記載した。5つのアゴニストは、ウッディ(パチュリアルコール)、ムスキー(ブルカノリド、トナリド)、およびカンファー(フェンチルアルコール)という異なる香料の香調をカバーしている(第2表)。まとめると、このデータは、OR11A1を活性化することができる化合物の感覚刺激的な香調および化学構造の両方の多様性を示し、国際公開第2016/201152号(ムスク)および欧州特許出願公開第2832347号明細書(パチュリ)に記載された結果と一致する。しかしながら、OR11A1活性は、特にムスク(国際公開第2016/201152号)またはパチュリ(欧州特許出願公開第2832347号明細書)の香調ではなく、そのアーシーファセットに関連していた。実際、これらの化合物の間の単一の共通点は、アーシー調であり、これは、以下の記述子によって意味的に捉えられる:アーシー、ヒューマスおよびアーシーモス。これらの化合物は、すべてがムスクでもパチュリでもないが、すべてアーシーである。その一方、ブルカノリドと構造的に関連したムスクでありながら、OR11A1の弱い(部分)アゴニストでしかないトナリドは、表2に示すように、ブルカノリドと化学的にも全体的に感覚刺激的にも類似している(すなわち、ムスキー、パウダリー)にもかかわらず、強いアーシー調を送達しなかった。
【表3】
【0166】
実施例3:匂い物質受容体は、特定の感覚刺激的な香調をコードする
実施例2に記載したのと同じアプローチに従って、受容体活性とそれらがコードする特定の嗅覚香調との間のリンクを検索するために、複数のLucy-Flag-Rhoタグ付きヒトORの系統的スクリーニングを適用した。ORの分子受容範囲の分析から、アゴニストはその物理化学的特性(例えば、分子量、揮発性、官能基、3次元構造など)およびその全体的な感覚刺激的な香調において異なる場合があるが、いずれの場合でも共通の特定の嗅覚香調が同定され得ることが示される。その結果、以下の受容体が特定の嗅覚香調に割り当てられ、香調の知覚を誘発する上で基本的なものであると見なされる。
【0167】
OR8B3、配列番号13は、クマリン調を生じる化合物によって活性化された(図7、第3表)。
【表4】
【0168】
OR5AU1、配列番号15は、ラクトニックココナッツ調を生じる化合物によって活性化された(図8、第4表)。
【表5】
【0169】
OR8D1、配列番号17は、フェヌグリーク調を生じる化合物によって活性化された(図9、第5表)。
【表6】
【0170】
OR5AN1、配列番号19は、ニトロムスクおよび大環状ケトンなどの構造的に異なる分子によって活性化され、香料でよく使用されるパウダリームスク調を生じる(図10、第6表)。
【表7】
【0171】
OR1N2、配列番号21は、大きな大環状化合物(ケトンおよびラクトン)によって活性化され、香料でよく使用される動物性ムスク調を生じる(図11、第7表)。
【表8】
【0172】
OR5A1、配列番号23は、バイオレット調を生じる化合物によって活性化された(図12、第8表)。
【表9】
【0173】
OR7A17、配列番号25は、ブロンドウッド(クリーミーウッドとも記載される)調を生じる化合物によって活性化された(図13、第9表)。
【表10】
【0174】
OR10J5、配列番号27は、ミュゲ調を生じる化合物によって活性化された(図14、第10表)。
【表11】
【0175】
OR1C1、配列番号29は、リナリック調を生じる化合物によって活性化された(図15、第11表)。
【表12】
【0176】
OR5B12、配列番号31は、ジャスミン調を生じる化合物によって活性化された(図16、第12表)。
【表13】
【0177】
実施例4:複雑な混合物を分析し、生成するための匂い物質受容体活性の使用
複数の揮発性分子を含有する組成物の香りを決定するために、全体として匂い物質受容体活性を使用する。ORのアンサンブルに及ぼす組成物の活性は、ORが複数の化合物によって接触されるときに起こり得るOR調節(例えば、阻害および増強)を考慮に入れて、各OR上で組成物が達成した最終活性を反映する。得られた活性プロファイルを使用して、OR活性と知覚される香調との間に確立されたリンクを用いて、組成物の全体的な香調を記述する。あるいは目標とする匂いに必要な活性プロファイルを推測し、目標とする匂いを異なる条件で再作成するために、再現するための特徴的な活性として使用することができる。同様に、かかる特徴的な活性プロファイルは、品質評価または品質基準試験として使用することができる。
【0178】
また、組成物の活性は、元の組成物の活性を再現する新しい組成物の作製を導くための特徴として使用される。かかる新しい組成物は、活性化されたORの元のアンサンブルを保持しながら、最初の組成物を変更することによって得られる。かかる変更には、無関係な化合物を除去すること、化合物を好ましい化合物で置き換えること、1つの化合物を複数の好ましい化合物で置き換えること、複数の化合物を、置き換えられる複数の化合物と同じ役割を果たす1つの化合物で置き換えること、または複数の化合物を複数の異なる化合物で置き換えることが含まれ得る。目標組成物と類似または同一の活性を有する新しい組成物は、匂い特性が類似している。
【0179】
最後に、意図した香りを得るために必要な化合物を推測し、新たに組成物を作製する。例えば、所望の香調のセットを有する組成物を作製する。あるいは、例えば悪臭などの1つ以上の望ましくない香調を除去するように、組成物を設計することも可能である。組成物はまた、両方の戦略を同時に採用して作製することができる。
【0180】
実施例5:複雑な混合物のOR活性をモデル化し、知覚可能な香調の予測に導くことができる
香料アコード(アコードA)は、匂い物質受容体OR8B3(ヘイ調をもたらす)、OR8D1(セロリ調をもたらす)、OR5AU1(ラクトニックココナッツ調をもたらす)を活性化する成分と、小さな変更が加えられた3つのアコード(アコードB~D)を含んでいた。第12表を参照。
【表14】
【0181】
3つの標的ORのいずれも活性化しない成分は、簡略化のため集約し、「その他の成分」として記載した。受容体スクリーニングデータ(実施例1に記載)を各ORについて使用し、元のフォーミュラ中に存在する成分の代わりに使用することができる代替的なアクチベーターを同定した。このアプローチにより、コストの低減、生分解性の向上、または環境に優しい特性を有する化合物の使用を含む複数の要因の最適化のために、好ましい成分の使用を優先させることができた。各受容体に対するアコードの全体的な活性は、表12に示すように混合物中の成分比を考慮するだけでなく、図17に示すように各受容体に対する個々の活性レベルを考慮することによっても、競合結合モデルで計算することができる。活性レベルは、既知の薬理学的伝達カスケードアクチベーターであり、データ比較のためのアンカーポイントとして機能するフォルスコリンに対する最大細胞応答で正規化した。モデルによって予測されたアコード活性を、同じアコードを用いて生成された細胞ベースのデータと比較した(実施例2に記載の細胞ベースのアッセイ)。モデルとインビトロデータとの間で一致した活性レベルを観察し、モデルを検証した。元のアコードと変更されたアコードとの間で結果生じる活性予測を用いて、OR活性変化(すなわち、より活性が高いか低いか)に基づく感覚予測を行い、対応する香調の変化(すなわち、より強いか弱いか)を推測することができるようになった。感覚予測は、香料の専門家による官能パネルで検証され、各アコードについて、ヘイ、セロリ、ラクトニックココナッツという3つの対象となる香調のブラインド評価が実行された。
【0182】
OR8D1の活性に関して、シクロトンを除去してメイプルフラノンに置き換えた組成物の場合を、アコードAとBを比較することによって示す。目標活性レベルは、元の活性レベルに対してOR8D1が低くなるように設定した。図18は、受容体のインビトロ検証との比較におけるモデルからの予測活性レベルを100%フォルスコリン反応に正規化したものを示す。セロリ調の知覚の対応する減少が予測され、これは図19にまとめたように、専門家パネリストの評価によって確認された。
【0183】
OR8B3およびOR5AU1の活性に関して、ノナラクトンを除去してクマリンに置き換えた組成物の場合を、アコードAとCを比較することによって示す。この場合、目標活性レベルは、元の活性レベルに対してOR8B3が高く、OR5AU1がNULLとなるように設定した。図20は、両受容体のインビトロ検証との比較におけるモデルからの予測活性レベルを100%のフォルスコリン反応に正規化したものを示す。ヘイの知覚の対応する増加およびラクトニックココナッツ調の損失が予測され、これは図21にまとめたように、専門家パネリストの評価によって確認された。
【0184】
OR8B3およびOR5AU1の活性に関して、ノナラクトンを除去し、クマリンに置き換え、ツベロライドを添加した組成物の場合を、アコードA、CおよびDを比較することによって示す。この場合、目標活性レベルは、アコードCに対してOR8B3は変化せず、元の活性レベルに対してOR5AU1は回復させるように設定した。図20は、両受容体のインビトロ検証との比較におけるモデルからの予測活性レベルを100%フォルスコリン反応に正規化したものを示す。ココナッツ調の知覚の対応する回復が予測され、これは図22にまとめたように、専門家パネリストの評価によって確認された。
【0185】
これらの香料アコードの変更例は、(実施例1~3で得られたような)単一の化合物の入力データのみを使用して、化合物の除去および置き換えの前後の複雑な混合物の受容体活性をモデル化するシステムの能力を捉えたものである。受容体活性の計算に基づいて感覚的結果を予測するシステムの能力は、異なる化合物を用いて特定の所望の香調の知覚を維持すること、混合物中の置き換え化合物の濃度または比率を調節して所望の香調を減少または増加させること、および化合物を添加して変更中に失われた所望の香調を回復させることで組成物をリバランスすることにも立証された。
【0186】
本明細書で引用したすべての特許、刊行物、および公開特許出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図19
図20A
図20B
図20C
図21
図22
【配列表】
2022550672000001.app
【国際調査報告】