(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(54)【発明の名称】弱毒生マイコバクテリアの肺送達による治療有効性
(51)【国際特許分類】
A61K 39/04 20060101AFI20221128BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20221128BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20221128BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20221128BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221128BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20221128BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20221128BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20221128BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20221128BHJP
【FI】
A61K39/04
A61K9/12
A61K9/72
A61K9/19
A61P31/04
A61P37/08
A61P11/06
C12N1/20 E ZNA
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518930
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(85)【翻訳文提出日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2020077145
(87)【国際公開番号】W WO2021058831
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515023512
【氏名又は名称】ウニベルシダッド デ サラゴサ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アギロ フアン イグナシオ
(72)【発明者】
【氏名】マルティン モンタニェス カルロス
(72)【発明者】
【氏名】タランコン イニゲス ラケール
(72)【発明者】
【氏名】マタ ロサノ エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ウランガ マイス サンティアゴ
(72)【発明者】
【氏名】バネバ マリノバ デシスラバ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA36X
4B065AC20
4B065CA44
4B065CA45
4C076AA24
4C076AA30
4C076AA93
4C076CC32
4C076FF68
4C085AA03
4C085BA09
4C085DD01
4C085DD84
4C085EE01
4C085GG10
(57)【要約】
本発明は、弱毒生マイコバクテリウム・ツベルクローシス組成物を必要とするヒト被験体における治療法に使用される、i)Rv0757遺伝子の遺伝子欠失による不活性化によるPhoP-表現型であって、phoPのオープンリーディングフレーム(ORF)配列が配列番号4からなる、PhoP-表現型と、ii)PDIM産生を妨げる(PDIM-表現型)第2の遺伝子Rv2930(fadD26)の欠失であって、fadD26のオープンリーディングフレーム(ORF)配列が配列番号2からなる、第2の遺伝子Rv2930(fadD26)の欠失とを有する、M.ツベルクローシスMTBVAC株に属する単離された微生物を含む弱毒生マイコバクテリウム・ツベルクローシス組成物であって、該組成物が、肺送達によって上記被験体に投与される、弱毒生マイコバクテリウム・ツベルクローシス組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弱毒生M.ツベルクローシス組成物を必要とするヒト被験体における治療用の、
i)Rv0757遺伝子の遺伝子欠失による不活性化によるPhoP-表現型であって、phoPのオープンリーディングフレーム(ORF)配列が配列番号4からなる、PhoP-表現型と、
ii)PDIM産生を妨げる(PDIM-表現型)第2の遺伝子Rv2930(fadD26)の欠失であって、fadD26のオープンリーディングフレーム(ORF)配列が配列番号2からなる、第2の遺伝子Rv2930(fadD26)の欠失
とを有する、M.ツベルクローシスMTBVAC株に属する単離された微生物を含む弱毒生M.ツベルクローシス組成物であって、
該組成物が、エアロゾル技術を使用する吸入法によって前記被験体に投与される、弱毒生M.ツベルクローシス組成物。
【請求項2】
前記組成物が、任意に、特定の安定剤、増量剤、又はバッファーを更に含む凍結乾燥組成物である、請求項1に記載の弱毒生M.ツベルクローシス組成物。
【請求項3】
前記組成物が、M.ツベルクローシスに感染するリスクのある人、若しくは結核疾患を発症するリスクのある人に対する一次予防薬として使用される、又は感染した患者を治療するための二次薬として使用される、請求項1又は2に記載の弱毒生M.ツベルクローシス組成物。
【請求項4】
前記組成物が、アレルギー反応を緩和するためにM2マクロファージを標的とする予防薬として使用される、請求項1又は2に記載の弱毒生M.ツベルクローシス組成物。
【請求項5】
前記組成物が、アレルギー性喘息に罹患するリスクのある人、又はアレルギー性喘息を発症するリスクのある人に対する予防薬として使用される、請求項1又は2に記載の弱毒生M.ツベルクローシス組成物。
【請求項6】
前記組成物が、アレルギー反応を軽減するためにM2マクロファージを標的とすることによって患者の治療に使用される、請求項1又は2に記載の弱毒生M.ツベルクローシス組成物。
【請求項7】
前記組成物が、アレルギー性喘息又は好酸球性食道炎(EoE)等の他のタイプの好酸球増加症の治療に使用される、請求項1又は2に記載の弱毒生M.ツベルクローシス組成物。
【請求項8】
前記組成物が、結核によって引き起こされる症状に対して個体を免疫するために使用される、請求項1又は2に記載の弱毒生M.ツベルクローシス組成物。
【請求項9】
前記組成物が、M.ツベルクローシスコンプレックス、好ましくはM.ツベルクローシスによって引き起こされる感染に対して、M.ツベルクローシスに感染するリスクのある新生児、又はTB疾患を発症するリスクのある新生児における予防に使用される、請求項1又は2に記載の弱毒生M.ツベルクローシス組成物。
【請求項10】
前記組成物が、M.ツベルクローシスコンプレックス、好ましくはM.ツベルクローシスによって引き起こされる感染症に対する、M.ツベルクローシスに感染するリスクのある小児、青年及び成人等の新生児ではないヒトにおける予防又は阻止(ブースターワクチン接種を含む)に使用される、請求項1又は2に記載の弱毒生M.ツベルクローシス組成物。
【請求項11】
前記組成物が、新生児、並びに小児、青年及び成人等の新生児ではないヒトの不顕性及び/又は活動性TBに感染した患者の治療における予防に使用される、請求項1又は2に記載の弱毒生M.ツベルクローシス組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチン等の医薬組成物、及びかかる組成物を作製及び使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
WHO(世界保健機関)によると、喘息は流行のレベルに達しており、世界中で2億人を超える喘息患者がいる。特に先進国では蔓延しているが、低所得及び中所得の状況でも発生率は急速に増加している。過去数十年間の喘息の増加について最も受け入れられている説明の1つは、「衛生仮説」と呼ばれ、この劇的な増加の背後にある原因の1つは、特定された環境要因への子供の曝露が少ないことの結果であることを示唆している(非特許文献1)。この点で、初期の発育段階の間の(農場に存在するような)或る特定の微生物及びダニへの曝露は、免疫系を教育し、アレルゲンに対するより高い寛容の獲得につながるようである(非特許文献2)。
【0003】
喘息は、慢性気道炎症及びリモデリングを特徴とする不均一な疾患である。喘息は様々なタイプの炎症反応と関連し得るが、2型炎症は小児の喘息症例の80%超に見られる。Th2プロファイルを持つTヘルパー(Th)リンパ球は、ほとんどの患者に存在し、特徴的な臨床総体症状の幾つかの原因となるIL-4、IL-5、又はIL-13のようなサイトカインを産生する。IL-5は、喘息の主要なプレーヤーの1つである好酸球の生存及び動員において中心的な役割を果たし、喀痰中のその存在は、疾患の診断で最も受け入れられているバイオマーカーの1つである。さらに、IL-4及びIL-13は、気道上皮細胞の増殖及び粘液産生の悪化を誘発することにより気道リモデリングを引き起こす(非特許文献3)。
【0004】
適応応答に加えて、過去数年間、様々な研究により、喘息の誘発には生来の肺集団が極めて重要であることが証明されている。実際、抗原提示細胞(APC)からのMHC-II分子を介したアレルゲン提示は、結果としてアレルゲン特異的T細胞を誘導するために不可欠となる(非特許文献4)。喘息は、M2表現型に向けた病理学的マクロファージ極性化と関連している(非特許文献5)。マクロファージタイプM2(すなわち代替的に活性化されている)は、調節能を採用し、Th1応答を損なってTh2細胞の拡大を促進する免疫調節環境を誘発する(非特許文献6)。そのため、悪化したレベルのM2マクロファージが、動物の喘息モデル及び患者からの試料に見つかっている。M2マクロファージを標的とする治療法は、アレルギー反応を緩和することが示されている(非特許文献7)。
【0005】
現在の結核ワクチンであるBCGは、歴史上最も投与されてきたワクチンである。BCGは古典的にTh1応答促進ワクチンと見なされてきたため、喘息に対する皮内BCGワクチン接種の利点が長年にわたって議論されてきた。この質問に関する結論は依然として議論の余地があり、様々な疫学研究が反対の結果を示している。
【0006】
生菌と不活化菌の両方のBCGワクチン、及び様々なマイコバクテリア成分が、様々な動物モデルにおける喘息に対して有効であることが広く証明されている(非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10)。しかしながら、これらの結果のほとんどは、アレルゲン感作の前又はそれと同時にBCGを送達して得られたものである。結果として、確立された喘息を元に戻すBCGの能力は取り上げられておらず、これは喘息治療としてのこのワクチンの治療可能性を解明するために重要な結果となろう。さらに、これまでの研究では、喘息の発症中に主要な役割を果たしていると思われる肺胞マクロファージ等、喘息に関与する免疫系の他のアーム(arms)に注意を払うことなく、主にTh1/Th2応答バランスに焦点を当ててきた。
【0007】
MTBVACは、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)の弱毒化に基づく生ワクチンであり(非特許文献11)、これは、様々な動物モデルでより免疫原性が高く、結核に対して防御的であることが実証されており(非特許文献12)、ヒト成人及び新生児の集団で安全で免疫原性であることが示されている(非特許文献13)(非特許文献14)。現在、MTBVACは、結核ワクチンとしての有効性試験の用量を規定するため、2つの第IIa相試験で評価されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Strachan DP. Hay fever, hygiene, and household size. BMJ 1989; 299:1259-60.
【非特許文献2】Stein MM, Hrusch CL, Gozdz J, Igartua C, Pivniouk V, Murray SE, et al. Innate Immunity and Asthma Risk in Amish and Hutterite Farm Children. N Engl J Med 2016; 375:411-21.
【非特許文献3】Holgate ST, Wenzel S, Postma DS, Weiss ST, Renz H, Sly PD. Asthma. Nat Rev Dis Primers 2015; 1:15025.
【非特許文献4】Holgate ST. Innate and adaptive immune responses in asthma. Nat Med 2012; 18:673-83.
【非特許文献5】Girodet PO, Nguyen D, Mancini JD, Hundal M, Zhou X, Israel E, et al. Alternative Macrophage Activation Is Increased in Asthma. Am J Respir Cell Mol Biol 2016; 55:467-75
【非特許文献6】Mills CD, Kincaid K, Alt JM, Heilman MJ, Hill AM. M-1/M-2 macrophages and the Th1/Th2 paradigm. J Immunol 2000; 164:6166-73.
【非特許文献7】Moreira AP, Cavassani KA, Hullinger R, Rosada RS, Fong DJ, Murray L, et al. Serum amyloid P attenuates M2 macrophage activation and protects against fungal spore-induced allergic airway disease. J Allergy Clin Immunol 2010; 126:712-21 e7.
【非特許文献8】Erb KJ, Holloway JW, Sobeck A, Moll H, Le Gros G. Infection of mice with Mycobacterium bovis-Bacillus Calmette-Guerin (BCG) suppresses allergen-induced airway eosinophilia. J Exp Med 1998; 187:561-9.
【非特許文献9】Lagranderie M, Abolhassani M, Vanoirbeek J, Lefort J, Nahori MA, Lapa ESJR, et al. M. bovis BCG killed by extended freeze-drying reduces airway hyperresponsiveness in 2 animal models. J Allergy Clin Immunol 2008; 121:471-8.
【非特許文献10】Tsujimura Y, Inada H, Yoneda M, Fujita T, Matsuo K, Yasutomi Y. Effects of mycobacteria major secretion protein, Ag85B, on allergic inflammation in the lung. PLoS One 2014; 9:e106807
【非特許文献11】Arbues A, Aguilo JI, Gonzalo-Asensio J, Marinova D, Uranga S, Puentes E, et al. Construction, characterization and preclinical evaluation of MTBVAC, the first live-attenuated M. tuberculosis-based vaccine to enter clinical trials. Vaccine 2013; 31:4867-73
【非特許文献12】Gonzalo-Asensio J, Marinova D, Martin C, Aguilo N. MTBVAC:Attenuating the Human Pathogen of Tuberculosis (TB) Toward a Promising Vaccine against the TB Epidemic. Front Immunol. 2017 Dec 15;8:1803. doi:10.3389/fimmu.2017.01803
【非特許文献13】Spertini F, Audran R, Chakour R, Karoui O, Steiner-Monard V, Thierry AC, et al. Safety of human immunisation with a live-attenuated M. tuberculosis vaccine: a randomised, double-blind, controlled phase I trial. Lancet Respir Med 2015; 3:953-62
【非特許文献14】Tameris et al, Randomised controlled double blind dose-escalation infant trial of the live-attenuated M. tuberculosis vaccine MTBVAC. Lancet Respir Med 2019. IN PRESS
【発明の概要】
【0009】
本発明では、本発明者らは、急性喘息の様々なモデルにおいて、鼻腔内経路によって、既にアレルゲン感作されたマウスに対して投与された、弱毒生ワクチンMTBVAC及びBCGの治療有効性を評価した。本発明者らは、細菌と肺コンパートメントとの間の直接的な相互作用によって、ワクチンが喘息に関連する免疫環境を調節する可能性があるという仮説を立てた。この意味で、本発明者らの結果は、両方のワクチンが、アレルゲン投与によって誘発されたM2マクロファージをM1表現型へと再教育することができ、またアレルゲン特異的Th2リンパ球をTh1に変えることができることを明らかにした。重要なことに、本発明者らのデータは、確立された疾患の状況で、アレルゲンチャレンジマウスに与えられたBCGとMTBVACの両方の強力な治療有効性を示し、喘息の治療法としての弱毒生結核ワクチンの可能性を実証する。本発明者らはまた、M.ツベルクローシス(M.tuberculosis)によるチャレンジに対する鼻腔内のMTBVACの最適な防御を実証し、これは、肺の投与経路が喘息を治療するだけでなく結核の予防にも有利になる可能性があることを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】鼻腔内BCG及びMTBVACは、アレルゲン感作マウスのアレルギー性気道反応を予防することを示す図である。好酸球を、OVA駆動性急性喘息モデルでフローサイトメトリーによって決定し、マウスを2回目の感作の1週間後に10
6CFUのBCG又は10
7CFUのMTBVACで鼻腔内処理した。(A)好酸球を、フローサイトメトリーによってSSChighSiglecF+CD11b+CD11b-細胞として決定した。代表的な図を図(B)に示し、MTBVAC(C)又はBCG(D)で処理したマウスのBAL及び肺における好酸球のパーセンテージを示す。MTBVAC(E)又はBCG(F)で処理されたマウスのフローサイトメトリーによって決定されたBAL中の白血球、好酸球、好中球、及び肺胞マクロファージ(AM)の総数。(E)未処理(1、2)又はBCG処理(3、4)のOVAチャレンジマウスからのPAS染色固定肺の代表的な画像。粘膜物質及び杯細胞が紫色で染色されている(G)。グラフのデータは、3回の独立した実験からの代表的な平均±SEMである。群及び実験ごとに最低6匹のマウスを使用した。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001;
****p<0.0001、ボンフェローニ事後検定分析を使用した二元配置分散分析による。
【
図2】肺好酸球増加症に対するBCG及びMTBVACの治療効果は用量依存的であることを示す図である。ワクチンの用量反応プロファイルを、
図1に記載されるOVA誘発喘息の急性モデルで評定した。MTBVAC及びBCGによる異なる用量のワクチン接種を、未処理のOVA陽性対照と比較した。異なる用量のワクチン接種を比較すると、用量反応効果が観察され、MTBVACとBCGの両方で、ワクチン接種用量が増加すると好酸球増加症が低下することを実証する。グラフのデータは、1回の独立した実験からの平均±SEMである(1群あたりn=6匹のマウス)。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001;
****p<0.0001、各群をOVAチャレンジマウスと比較するDunn事後検定分析を使用した二元配置分散分析による。BCGとMTBVACの両方が、用量依存的にBAL(
図2A)及び肺(
図2B)において好酸球増加症を軽減することに留意されたい。BALでは、いずれの場合も10
6CFUの用量で完全に減少するが、肺では、試験した最高用量(MTBVACでは10
7CFU、BCGでは10
6CFU)で、陰性対照レベルまでの好酸球の減少に達する。
【
図3】鼻腔内BCGは肺に存在するマクロファージに感染し、古典的な活性化を誘導することを示す図である。(A)マウスの群を10
6CFUのGFP発現BCGで免疫した。1か月後、感染細胞をモニターし、フローサイトメトリーで特性を評価した。M1分極マーカーiNOS及びCD86の発現を分析した。代表的な図を図に示す。(B)OVAチャレンジ未処理又はBCG処理におけるiNOS、CD86、及びMHC陽性肺胞マクロファージのパーセンテージ。(C)M2活性化マーカーCD206の表面発現。指定の実験群のCD206表面発現を示す代表的なオーバーレイヒストグラム。グラフは、CD206の発現レベルに対応する平均蛍光強度(MFI)の比較を示す。(D)未処理又はBCG処理のOVAチャレンジマウスからの肺におけるqRT-PCRによって測定されたM1及びM2活性化マーカー。グラフのデータは、2回の独立した実験(B、C)又は1回の実験(D)からの代表的な平均±SEMである。群及び実験ごとに最低6匹のマウスを使用した。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001;独立一標本(B、C)又は多重(D)のt-スチューデント検定による。
【
図4】鼻腔内BCGはアレルゲン特異的反応をTh1プロファイルに再形成することを示す図である。(A)感作の1週間後に未処理又はBCGで処理されたOVAチャレンジマウスの肺におけるqRT-PCRによって測定されたTh1及びTh2活性化マーカー。(B)BALにおけるIL-5の決定。(C)肺外植片におけるIL-4及びIFNγの決定。(D~G)OVAによるex vivo刺激後、縦隔リンパ節細胞によって産生されるアレルゲン特異的IL-4、IL-5、IL-13及びIFNγ。各ポイントは、OVAの存在下で得られた値からアレルゲンなしの値を引いた減算値に対応する。(H、I)抗CD3/CD28又はOVAによるex vivo刺激後の細胞内染色及びフローサイトメトリーによって可視化されたIL-5及びIFNγ産生細胞。代表的な図を示す。グラフのデータは、3回の独立した実験(B~E、G)又は1回の実験(A、I)からのプールされた平均±SEMである。群及び実験ごとに最低6匹のマウスを使用した。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001;
****p<0.0001、多重t-スチューデント検定(A)、ボンフェローニ事後検定を使用した一元配置分散分析(B、D~G)、及びボンフェローニ事後検定を使用した二元配置分散分析(C、I)による。
【
図5】MTBVACによる免疫応答の調節を示す図である。Th2対Th1応答を、アレルギー性急性喘息のモデルで分析した。IL-5及びIFNγ-を、気管支肺胞洗浄(BAL)(A)及びリンパ節(B)で、それぞれTh2及びTh1応答の代表的なサイトカインとして分析した。(C)iNOS及びArg1を、それぞれM2及びM1マクロファージ極性化応答の代表的な分子として肺マクロファージで分析した。MTBVACの鼻腔内処理は、Th2及びM2喘息関連反応をTh1及びM1に戻した。グラフのデータは、1回の独立した実験からの平均±SEMである(1群あたりn=6匹のマウス)。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、ボンフェローニ事後検定を使用した一元配置分散分析(A)、及びボンフェローニ事後検定を使用した二元配置分散分析(B)による。
【
図6】鼻腔内BCG及びMTBVACは、確立されたアレルギー性気道反応を元に戻すことを示す図である。(A)OVA誘発慢性モデルに基づく実験のスキーム。マウスに、OVA10μgの週2回の鼻腔内接種で3週目から13週目までチャレンジを行った。ワクチンを、チャレンジフェーズの半分の9週目に送達した。(B)ワクチン免疫の1週間前の8週目におけるBAL中の好酸球の総数。これは、ワクチン投与前に確立された好酸球増加症の存在を実証した。(C)MTBVAC又はBCGの処理の4週間後の13週目におけるBAL中の好酸球の総数。(E)未処理又はMTBVAC処理されたOVAチャレンジマウスからのPAS染色固定肺の代表的な画像。グラフのデータは、少なくとも2回の独立した実験の代表的な実験からの平均±SEMである。群及び実験ごとに最低6匹のマウスを使用した。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、t-スチューデント検定(B、C)、ボンフェローニ事後検定を使用した一元配置分散分析(D)による。
【
図7】MTBVACは、関連するアレルゲンハウスダストダニ(HDM)によって誘発された確立された喘息のモデルにおいて喘息関連の表現型を元に戻すことを示す図である。(A)HDM誘発慢性モデルのスキーム。マウスに、10μgのHDMで3週間連続して週に2回鼻腔内チャレンジを行った。ワクチンを4週目に送達し、1か月後、3日間連続して10μgのHDMで鼻腔内チャレンジを行った。翌日、動物を屠殺した。(B)3週目に屠殺した追加の群のBALにおいて好酸球を決定し、ワクチン投与時の好酸球増加症の存在を確認した。グラフは、未処理又はBCG、MTBVACで処理されたマウスの3週目~7週目のBAL中の好酸球パーセンテージの比較を示す(C)。肺のリモデリング及び粘液分泌を、PAS染色と組織学的評価によって評定した。代表的な画像を図(D、E)に示す。Th2サイトカインIL-5、IL-4、及びIL-13を、BAL、及びHDMによるex vivo刺激後のリンパ節で分析した。(F、G)Th1サイトカインIFNγ-を、BAL、及びHDMによるex vivo刺激後のリンパ節で分析した。グラフのデータは、1回の独立した実験からの平均±SEMである(1群あたりn=6匹のマウス)。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、ボンフェローニ事後検定を使用した一元配置分散分析(A、F、G)、及びボンフェローニ事後検定を使用した二元配置分散分析(D、E)による。
【
図8】臨床用ネブライザーでは、MTBVACはBCGよりも効率的に噴霧されることを示す図である。MTBVAC及びBCGを、臨床装置OMRON U100(A)を使用して噴霧し、ガス洗浄フラスコにおいて既知量の滅菌水中に回収した(B)。(C、D)2つの独立した実験におけるMTBVAC(C)及びBCG(D)のリザーバーと比較した噴霧画分のCFUの損失。(E)GMP製剤で最初に利用可能であったものと比較した、噴霧画分で回収された細菌の%として計算された噴霧有効性指数。
【
図9】MTBVACのサイズはBCGよりも小さい。BCG(A)及びMTBVAC(B)の代表的な電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図10】MTBVACは食道において好酸球増加症を軽減することを示す図である。食道における好酸球を、MTBVACで処理された群のOVA誘発喘息の急性モデルで決定した。鼻腔内MTBVACによる処理は、好酸球増加症を有意に軽減した。グラフは、2つの独立した実験に由来するプールされたデータからの平均±SEMである(1つの群及び実験あたりn=6匹のマウス)。
*p<0.05、ボンフェローニ事後検定を使用した一元配置分散分析による。
【
図11】鼻腔内MTBVACは、標準的な皮下経路によるBCG送達と比較して、結核に対する防御を改善することを示す図である。マウスに、皮下経路(臨床で使用される皮内に相当する)によるBCG、又は鼻腔内によるMTBVACでワクチン接種を行った。2か月後、マウスに低用量のM.ツベルクローシス株H37Rvで鼻腔内チャレンジを行い、4週間後に肺における細菌負荷を測定した。グラフは、4つの独立した実験に由来するプールされたデータからの平均±SEMである(1つの群及び実験あたりn=6匹のマウス)。
****p<0.00001、ボンフェローニ事後検定を使用した一元配置分散分析による。
【
図12】A、この図に関して行われた実験に使用したOMRON U100ネブライザー。B、噴霧画分及びリザーバー画分で決定されたMTBVAC及びBCG ONCOTICE CFU。C、リザーバーに含まれているものと比較した、噴霧画分で回収された細菌のパーセンテージとして計算された噴霧有効性指数。各ドットは、異なるフィルターで得られた結果に対応する。グラフのデータは、MTBVACを使用した6回の独立した噴霧、及びBCG ONCOTICEを使用した3回の独立した噴霧からの平均±SEMを表す。
*p<0.05、t-スチューデント検定による。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
「MTBVAC株」は、M.ツベルクローシスMt103臨床株のRv0757遺伝子を欠失し、更にRv2930(fadD26)遺伝子の欠失を備えるM.ツベルクローシス株の分離された微生物を指すために使用される。したがって、上記株は、M.ツベルクローシスに由来する2つの独立した変異を提示し、独立したphoP欠失は、上記遺伝子の不活性化に由来するワクチンの特性に影響を及ぼさない。したがって、「MTBVAC株」は、Rv2930(fadD26)遺伝子の欠失によりPDIM産生が不活性化されることを特徴とするため、この株はRv2930遺伝子及びRv0757遺伝子の欠失を備えることを特徴とする。
【0012】
したがって、MTBVAC株は、抗生物質マーカーなしで2つの独立した非復帰欠失(non-reverting deletion)変異を含むように構築され、マイコバクテリア生ワクチンを第I相臨床評価に進めるために第1ジュネーブコンセンサス安全要件(the first Geneva consensus safety requirements)を満たすことに留意されたい。MTBVAC株は、プロトタイプSO2に表現型上及び機能上、類似するように遺伝子操作された。SO2は、カナマイシン耐性カセット(kmr)の挿入によってマークされたMt103 phoP変異株(Mt103phoP::kmr)であり、操作されたPhoP欠損表現型に加えて、SO2は、実験室で繰り返された継代培養及び操作の実施の結果として、M.ツベルクローシスにおいて共通していると記載されているPDIM生合成を後天的に自然喪失する(Dessislava Marinova, Jesus Gonzalo-Asensio, Nacho Aguilo & Carlos Martin (2017) MTBVAC from discovery to clinical trials in tuberculosis-endemic countries, Expert Review of Vaccines, 16:6, 565-576, DOI:10.1080/14760584.2017.1324303の
図2を参照されたい)。
【0013】
MTBVAC株を段階的アプローチに従って構築した。まず、fadD26のマークのない欠失をSO2に導入し、SO2ΔfadD26を生じた。その結果、SO2ΔfadD26のphoPにおけるマークのない欠失によってMTBVAC株が作製された。MTBVACの構築では、欠失したfadD26遺伝子及びphoP遺伝子を持つ自殺プラスミドが使用され、その欠失した領域は、両側にres部位が隣接するハイグロマイシン耐性マーカー(hygr)(res::hygr::res)で中断されていた。E.コリ(E.coli)に由来するγδ-リゾルバーゼは、res部位の認識に続いて抗生物質耐性カセットの切除を触媒し、その後、欠失の場所に残存res「scar」のコピーを残し(Malaga, et al. 2003)、res部位にはいかなる外因性コーディング配列も含まれていない。最終的なコンストラクトSO2ΔfadD26::ΔphoPをMTBVAC株と名付けた。MTBVAC株では、fadD26にマークのない欠失を導入することで、PDIM生合成の遺伝的に安定した消滅を保証する。遺伝子fadD26で生じた欠失の大きさは1511bpを含み、PDIM生合成においてこの必須遺伝子の完全な不活性化をもたらす。野生型遺伝子は1752bp(583アミノ酸)である。残存するres scarはγδ-リゾルバーゼによるhygrの切除の過程で残された。この欠失の結果、PDIM遺伝子座(fadD26-ppsE)における次の5つの遺伝子の転写レベルが減少し、MTBVACにおけるPDIM生合成が完全に消滅する(Ainhoa Arbues PhD Thesis)。M.ツベルクローシスのPDIM遺伝子座は、染色体の50kbフラグメント上にクラスター化した13個の遺伝子を含む。該領域は、M.ツベルクローシスのゲノム中で最大のオペロンである(Camacho, et al. 2001、Camacho, et al. 1999、Cox, et al. 1999、Trivedi, et al. 2005)。
【0014】
M.ツベルクローシスでは、phoP(744bp)は、phoR(1458bp)の上流にマップし、両方の遺伝子が同じ方向に転写される。phoP遺伝子内に生じた94bpの欠失の残存res部位による置き換えは、複数の停止コドンの存在を必要とし、一方でMTBVACにおけるPhoPのDNA結合ドメイン(92アミノ酸に相当する)の翻訳の欠如をもたらす。
【0015】
MTBVACにおけるphoP遺伝子及びfadD26遺伝子の欠失は、RT-PCRの存在/不在アプローチを使用して検出する/場所を特定することができる。該方法では、蛍光性PCR試薬(プライマー及びプローブ)を用いて、ΔphoP遺伝子及びΔfadD26遺伝子におけるres部位の存在、並びに野生型のphoP遺伝子及びfadD26遺伝子の不在を示す。
【0016】
以下、本発明者らは、Mt103a)及びMTBVAC(ΔfadD26)b)においてfadD26遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)配列、並びにMt103c)及びMTBVAC(ΔphoP)d)においてphoP遺伝子のORF配列を提供する。fadD26(a)及びphoP(c)の欠失した遺伝子領域に対応するヌクレオチド配列を小文字で示し、残存res部位を灰色で強調して示す。蛍光性PCR検出法の場合、各標的に対するプライマーに下線を引き、Taq-manプローブを太字で示す。
【0017】
a)Mt103における野生型fadD26遺伝子
配列番号1
【0018】
b)MTBVACにおけるΔfadD26
配列番号2
【0019】
c)Mt103における野生型phoP遺伝子
配列番号3
【0020】
【0021】
SO2は、関連する動物モデルのBCGと比較して、ロバストな安全性及び弱毒化プロファイル、並びに有望な有効性を実証する、徹底的で完全な前臨床歴を有する。幸いなことに、これらの前臨床研究のほとんどは、二重弱毒化PhoP-PDIM-表現型の機能的プロファイル及び生物学的活性を確認するためにMTBVACを用いて再現された。脂質プロファイル分析は、MTBVAC及びそのプロトタイプSO2が表現型上同等であり、DAT、PAT及びPDIMを欠いていることを実証した。
【0022】
一方、本発明の文脈において、以下、BCGは1921年以降結核に対して使用されている現在のワクチンを指すために使用される。このワクチンは、実験室で継代培養した後に病原性を失い、現在100超の遺伝子を欠失していることがわかっているM.ボビス(M.bovis)株に由来する弱毒生ワクチンである。Behr, M. A. BCG-different strains, different vaccines Lancet Infect Dis 2002, 2(2), 86-92。
【0023】
本発明の文脈において、以下、H37Rvは、配列決定された病原性M.ツベルクローシス株を指すために使用され、Cole et al.はこれらの遺伝子をRvと呼んでいる(Cole et al 1998 Deciphering the biology of M. tuberculosis from the complete genome sequence. Nature 393:537-544を参照されたい)。
【0024】
本発明の文脈において、以下、Mt103は、M.ツベルクローシス臨床分離株を指すために使用される。Camacho et al. 1999 Identification of a virulence gene cluster of M. tuberculosis by signature-tagged transposon mutagenesis. Mol Microbiol 34:257-267。本発明の文脈において、以下、PDIM-株は、M.ツベルクローシスの病原性に関連する重要な脂質であるフチオセロールジミコセロセートを合成することができないM.ツベルクローシスコンプレックスの株を指すために使用される。
【0025】
本発明の文脈において、以下、M.ツベルクローシスのphoP-は、EcoRV-BspEI部位間のRv0757遺伝子欠失によって不活性化されたM.ツベルクローシス株を指すために用いられ、その表現型はPhoP-PDIM+である。
【0026】
本発明の文脈において、以下、Rv2930(fadD26)は、フチオセロールジミコセロセート(PDIM)の合成を担うオペロンの始めにある遺伝子を指すために用いられ(Camacho et al.)、M.ツベルクローシスにおけるこの遺伝子の排除は、安定なPDIM-表現型を付与する。
【0027】
説明
文献で入手可能なデータは、喘息の発症における生来の肺細胞の主要な役割を証明している。具体的には、代替的に活性化されたマクロファージ、すなわちタイプM2は、動物モデルとヒトの両方で、喘息患者の肺で上昇する。この病理学的マクロファージ極性化の背後にある理由は明らかではない。もっともらしい説明は、アレルゲンが肺胞上皮に直接損傷を引き起こす可能性があり、マクロファージが傷害への反応として代わりに活性化され、創傷治癒反応を誘発することである(Murray PJ, Wynn TA. Protective and pathogenic functions of macrophage subsets. Nat Rev Immunol 2011; 11:723-37)。M2は、調節能を持つマクロファージの様々なサブセットを包含する簡略化された用語である。したがって、3つの異なるタイプのM2マクロファージ、M2a、M2b、及びM2cが定義されており、それぞれに独自の特色がある。M2aマクロファージの特定の場合では、それらの存在はTh2適応応答の誘導と関連している(Saradna A, Do DC, Kumar S, Fu QL, Gao P. Macrophage polarization and allergic asthma. Transl Res 2018; 191:1-14)。アレルギー性喘息に関しては、M2aマクロファージは少なくとも2つの異なる方法でアレルゲン特異的T細胞応答を誘発するのに寄与する可能性がある。第一に、M2aマクロファージは、一度活性化されると、高レベルのMHC-II分子を発現するため、Tリンパ球にアレルゲン由来ペプチドを提示することができ、第二に、Th2プロファイルに向けてT細胞応答の極性化を駆動するIL-4等のサイトカインを分泌する(von Bubnoff D, Geiger E, Bieber T. Antigen-presenting cells in allergy. J Allergy Clin Immunol 2001; 108:329-39)。したがって、悪化したM2マクロファージの活性化は喘息の炎症反応において重要であると思われるため、これは肺マクロファージ集団におけるこの不均衡を標的とする新規な免疫調節治療を設計する非常に魅力的な機会となる。
【0028】
本発明において、本発明者らは、喘息の様々な前臨床モデルにおいて鼻腔内経路によって送達される弱毒生結核ワクチンの治療可能性を評価した。本発明者らの結果は非常にロバストである。鼻腔内BCG及びMTBVACは、様々なアレルゲンによって誘発された短期及び長期の両方の急性モデルで、更には確立された喘息の状況でも、試験された全ての状況で喘息関連反応を元に戻す(
図1、
図2、
図6、
図7)。本発明者らのデータは、BCG及びMTBVACがアレルゲン曝露に関連するM2マクロファージを損なうことを明確に示している(
図3、
図5)。この阻害の背後にある可能性のあるメカニズムは、おそらくそれらの自然な細胞内状態のために、古典的な方法(又はM1表現型)でマクロファージを活性化するワクチンの能力に依存している可能性がある。したがって、BCG及びMTBVACは、免疫化の際に肺胞マクロファージによって効率的に内在化され、iNOS等のマーカーの発現、並びにIL-1β、TNFα及びIL-12のようなサイトカインの分泌をもたらし、これは、代替的には活性化されたマクロファージによって生成される炎症反応アンタゴニストを作り出す。重要なことに、GFPを発現するBCG細菌を用いた本発明者らの分析では、感染したマクロファージがM1表現型を取るだけでなく、感染していない細胞もM1表現型を取ることが示されている。これらは、最初に感染したマクロファージが、隣接するバイスタンダー細胞(bystander neighbours)も活性化する一連のシグナルを生成し、喘息関連環境を相殺する応答の拡大を支持することを示唆する。
【0029】
喘息患者に対するBCG関連の利点は、BCGワクチン接種集団間の喘息有病率を比較する観察研究(Sarinho E, Schor D, Veloso M, Lima M. BCG scar diameter and asthma: a case-control study. J Allergy Clin Immunol 2000; 106:1199-200)と、2つのアームにBCG又はプラセボのワクチン接種を行い、喘息の症状を報告して両グループ間で比較した介入研究(Choi IS, Koh YI. Therapeutic effects of BCG vaccination in adult asthmatic patients: a randomized, controlled trial. Ann Allergy Asthma Immunol 2002; 88:584-91)の両方で、クリニックにおいて広く研究されてきた。データは議論の余地があり、研究では反対の結果が示されている。メタアナリシスを使用して公開された様々な研究を比較した報告は、数年前にBCG皮内ワクチン接種と喘息を発症するリスクの低さとの間に明らかな関連性がないことを示唆した(Arnoldussen DL, Linehan M, Sheikh A. BCG vaccination and allergy: a systematic review and meta-analysis. J Allergy Clin Immunol 2011; 127:246-53, 53 e1-21)。クリニックと本発明者らのデータとの間のこの明らかな不一致を説明するもっともらしい仮説は、BCGの有益な効果は臓器に依存するため、効率的な抗喘息反応を誘発するにはBCGが肺に物理的に存在する必要があるというものである。実際、皮下BCGはマウスの喘息を予防せず(非特許文献9)、これはMTBVACで本発明者らが確認した結果である。これは、BCGが肺に存在するマクロファージと相互作用してそれらの活性化表現型を再形成しなければならないという本発明者らの観察によれば、明らかに予想されるはずである。文献を検索すると、この仮説を裏付ける可能性のある興味深いデータがある。BCGで報告されたものとは異なり、結核に感染した人々の喘息の有病率が低いことを示すデータは、よりロバストであるように見える。この点で、喘息の有病率の低下とTBの通知症例との間に有意な相関関係があることがわかっている(von Mutius E, Pearce N, Beasley R, Cheng S, von Ehrenstein O, Bjorksten B, et al. International patterns of tuberculosis and the prevalence of symptoms of asthma, rhinitis, and eczema. Thorax 2000; 55:449-53.)。不顕性TB感染者(LTBI)において行われた研究では、ツベルクリン皮膚検査(TST)陽性と様々な種類のアレルギーの有病率の低下との間に強い関連性があることが実証された。興味深いことに、喘息の場合、著者らは、TST値が最も高い群で喘息の発生率が大幅に減少することを見出し、これは、TB特異的免疫応答の大きさと非特異的防御の程度との相関関係を示唆する(Obihara CC, Kimpen JL, Gie RP, Lill SW, Hoekstra MO, Marais BJ, et al. M. tuberculosis infection may protect against allergy in a tuberculosis endemic area. Clin Exp Allergy 2006; 36:70-6.)。注目すべきことに、本発明者らは最近、結核に感染したマウスにおいて喘息に対する防御が実証した(Tarancon R, Uranga S, Martin C, Aguilo N. Mycobacterium tuberculosis infection prevents asthma and abrogates eosinophilopoiesis in an experimental model Allergy. 2019 May 22. doi:10.1111/all.13923)。M.ツベルクローシス感染は通常呼吸経路によって獲得されるため(これに対して、BCGは皮内投与される)、本発明者らは、肺に送達された弱毒生ワクチンによる我々の結果は、自然に既に生じている自然の非特異的防御を反映している可能性があると結論付けることができた。
【0030】
アレルゲン特異的CD4+T細胞は、喘息の炎症において中心的な役割を果たしていると考えられている。アレルゲン-MHC-IIテトラマーの使用により、喘息患者のアレルゲン特異的CD4+T細胞の特性評価が可能になり、中心的な記憶マーカーを発現するテトラマー陽性T細胞クローンが見つかった(Kwok WW, Roti M, Delong JH, Tan V, Wambre E, James EA, et al. Direct ex vivo analysis of allergen-specific CD4+ T cells. J Allergy Clin Immunol 2010; 125:1407-9 e1.)。これらの長寿命のT細胞は、最終的には生涯を通じて喘息の永続化に関与する。アレルゲンに曝露されると、特定の記憶CD4+T細胞が肺に遊走し、APCによって提示されるアレルゲン由来ペプチドを効率的に認識し、Th2関連サイトカインを分泌することで迅速に反応し、喘息の炎症反応を引き起こす。したがって、喘息の緩和を追求する治療法は、アレルゲン特異的Th2メモリー細胞を妨げることに焦点を当てる必要がある。例えば、低レベルのアレルゲンエピトープ曝露に基づく免疫療法は、アレルゲン特異的Th2 T細胞に対してアネルギーを誘導することによって機能する(O’Hehir RE, Prickett SR, Rolland JM. T Cell Epitope Peptide Therapy for Allergic Diseases. Curr Allergy Asthma Rep 2016; 16:14.)。流入領域リンパ節のOVA特異的T細胞を分析した本発明者らの結果は、鼻腔内BCG及びMTBVACがOVA特異的Th2細胞に強い影響を与えることを示す(
図4、
図5)。サイトカイン産生細胞の直接可視化を可能にする細胞内染色及びフローサイトメトリーは、OVA特異的IFNγ産生細胞の集団が発生する限り、BCG処理により明らかに減少するOVA群におけるIL-5産生T細胞の集団を示した(
図4H、
図4I)。これは、生きているマイコバクテリアが喘息反応に関与するT細胞の表現型を再形成する可能性があることを示唆する。
【0031】
過去数年の間に、主に、IL-4、IL-5、Il-13又はIgE等の喘息誘発性炎症に寄与する特定の経路の遮断に基づく喘息に対する新規な実験的免疫療法が出現しており、多くの場合、肯定的な結果を示す。しかしながら、これらの研究はまた、単一経路の阻害によって達成された有効性は、一般的には部分的な結果をもたらすことを証明している。例えば、IL-5特異的療法は好酸球増加症を実質的に抑制するが、肺機能等の他の測定の結果はあまり好ましくない(Pavord ID, Korn S, Howarth P, Bleecker ER, Buhl R, Keene ON, et al. Mepolizumab for severe eosinophilic asthma (DREAM): a multicentre, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2012; 380:651-9.)。喘息は非常に複雑な疾患であるため、本発明者らは、本研究で提案されたよりグローバルなアプローチは、病理の様々な側面をより効率的に処理できると推測する。
【0032】
MTBVACは、皮内経路によってヒトの新生児及び成人に安全であることが実証されている新規結核ワクチンである。本明細書に提示される結果は、喘息関連の炎症反応を元に戻すMTBVACの鼻腔内能力を示す。したがって、肺MTBVACは、アレルギー性喘息の魅力的なアプローチであり、BCGに関して幾つかの利点があり、これらの利点を以下に簡単に要約する。
【0033】
第一に、臨床試験からのデータは、BCGと比較して皮内MTBVACの反応原性が低いことを示し(非特許文献13)、これは、本発明で観察されたより効率的なクリアランスに関連している可能性がある。注目すべきことに、MTBVACは、イソニアジド及びピラジナミドに耐性のあるBCGとは異なり、現在の結核抗生物質に完全に感受性があることが実証されている。
【0034】
第二に、既に上で議論したように、本発明者らの知見を説明するもっともらしい仮説は、BCG及びMTVBACの有益な効果は臓器に依存し、したがって効率的な抗喘息反応を誘発するために両方が肺に物理的に存在する必要があるというものである。したがって、喘息に対する治療有効性は、肺送達によって誘発されなければならない。肺経路を介して、薬物を2つの主要なモード、すなわち、第1に、より狭い気道内腔等の解剖学的制限を有する鼻腔内投与、第2に、経口吸入投与によって投与することができる。経口吸入投与により、経鼻経路による85%と比較してわずか20%の濃度損失で非常に小さな粒子を投与できるため、はるかに優れた結果を期待することができる。経口吸入投与はさらに、気管内注入及び気管内吸入に分類することができる。実験室で使用される最も一般的な方法は気管内注入である。気管内注入では、少量の薬液又は分散液が特殊な注射器によって肺に送達される。これにより、肺への薬物送達の高速で定量可能な方法が提供される。局所的な薬物沈着は、比較的小さな吸収領域で達成される。したがって、注入プロセスは非常に単純で、費用がかからず、薬物の分布が不均一である。前臨床動物実験では、特にこの方法に関連する正確な投与及び有効性に関して、気管内注入が肺吸収と全身バイオアベイラビリティを評定するために頻繁に使用されてきた。しかしながら、気管内注入は適用のための生理学的経路ではなく、これらの研究から得られた結果は、ヒトにおけるエアロゾル適用に転用できない(transferable)可能性がある。これに対して、吸入法はエアロゾル技術を使用しており、これにより、本発明者らは、浸透性が高く、より均一な分布を得ることができる。
【0035】
したがって、本発明において、本発明者らは、薬物肺送達のためにクリニックで使用されるエアロゾルネブライザー装置OMRON U100(
図8A)を使用して、BCG及びMTBVACの噴霧有効性を評価した。これは、喘息の炎症反応を予防するだけでなく、それを元に戻すことができるクリニックでの弱毒生ワクチンの投与による最適な方法となるはずであり、したがって、ヒト患者に投与される潜在的な治療用途を有する可能性がある。
図8は、この臨床ネブライザーでMTBVACがBCGよりも効率的に噴霧されることを示す。この研究で試験したBCG及びMTBVACのGMPロットは、それぞれ1.7×10
7CFU/ml及び1.1×10
7CFU/mlを含んだ。噴霧の5分後、回収された細菌の量は、MTBVACの場合は1.98×10
6CFU(
図8C)、BCGの場合は3.3×10
4CFU(
図8D)であった。2つの独立した実験からの平均噴霧有効性指数は、最初にリザーバーで利用可能であったものと比較した噴霧画分で回収された細菌の%として計算され、MTBVACとBCGでそれぞれ15%と0.15%であった(
図8E)。
【0036】
重要なことに、
図2に示す本発明者らのデータは、アレルゲン誘発性好酸球増加症に対するBCG及びMTBVACの治療効果が用量依存性の強い要素を持っていることを示し、したがって、或る特定の臨界用量のワクチンが肺に到達して好酸球浸潤を減らすことが重要である。
図2の結果を見ると、本発明者は、10
6CFUが両方のワクチンの最適な治療用量であると考えることができた。
【0037】
確立された実験条件下での噴霧研究から得られたデータを考慮すると、この用量はMTBVACでのみ取得できたが、BCG製剤を用いた場合、本発明者らは、この最適用量の細菌のおよそ3%しか噴霧しなかった。そのため、本発明者らは、臨床装置を用いたエアロゾルによる吸入法を使用すると、MTBVACの治療用量を達成することができるが、BCGではかかる治療用量は達成されないと結論付けることができる。
【0038】
これらの違いは、電子顕微鏡画像で観察されたBCGとMTBVACとのサイズの違いにより説明され得る(
図9)。MTBVAC桿菌は1マイクロメートルよりも短いのに対し、BCGは2μmよりも長い。さらに、実験室での本発明者らの観察は、ワクチンが洗浄剤の不在下で培養される場合(工業生産の場合)、BCGはMTBVACよりも凝集塊を形成する傾向が高いことを提示する。臨床ネブライザーの平均エアロゾル粒子サイズは一般におよそ5マイクロメートルであるため、本発明者らは、細菌のサイズ及び凝集という2つの要因が、BCGとMTBVACとの噴霧有効性の違いを説明することができると考える。
【0039】
本発明者らの結果はまた、OVA-急性喘息モデルでは、MTBVACを鼻腔内投与すると予防される状況である、食道への好酸球の浸潤もあることを示した(
図10)。これらのデータは、弱毒生マイコバクテリアが、アレルギー性喘息に加えて、好酸球性食道炎(EoE)等の他のタイプの病原性好酸球増加症の治療にも使用され得ることを示唆する。
【0040】
本発明は、好ましくは、MTBVACがエアロゾル技術を使用する吸入法によって肺経路を介して投与される場合に、肺免疫環境を破壊することによって弱毒生MTBVACマイコバクテリアの肺送達によって誘発される喘息に対する治療有効性を初めて説明する。さらに、本発明は、
図11において、MTBVAC肺送達が、標準的な皮下経路によるBCG送達と比較して、結核に対する防御を改善することを更に説明する。
【0041】
その結果、本発明の第1の態様は、弱毒生M.ツベルクローシス組成物を必要とするヒト被験体における治療法に使用される、i)Rv0757遺伝子の遺伝子欠失による不活性化によるPhoP-表現型であって、phoPのオープンリーディングフレーム(ORF)配列が配列番号4からなる、PhoP-表現型と、ii)PDIM産生を妨げる(PDIM-表現型)第2の遺伝子Rv2930(fadD26)の欠失であって、fadD26のオープンリーディングフレーム(ORF)配列が配列番号2からなる、第2の遺伝子Rv2930(fadD26)の欠失とを有する、M.ツベルクローシスMTBVAC株に属する単離された微生物を含む弱毒生M.ツベルクローシス組成物(本発明の組成物)であって、該組成物が、肺送達によって上記被験体に投与される、弱毒生M.ツベルクローシス組成物に関する。好ましくは、上記組成物は、エアロゾル技術を使用する吸入法による肺送達を介して上記被験体に投与される。
【0042】
好ましくは、本発明の第1の態様の組成物は、凍結乾燥されたMTBVAC株ワクチンの調製において有利であることが見出された或る特定の成分(例えば、特定の安定剤、増量剤、及びバッファー)を更に含む凍結乾燥組成物である。本発明はまた、上記組成物が、好ましくはエアロゾル技術を使用する吸入法による肺送達を介して上記被験体に投与される限り、再構成されたワクチン、並びに本発明の第1の態様に記載される組成物を使用する予防的及び治療的方法に関する。本発明の組成物及び方法は、以下のように更に説明される。
【0043】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態において、又はその好ましい実施形態のいずれかにおいて、上記組成物は、少なくとも105cfu~106cfuの単離された微生物の株を含むことを特徴とする。更に好ましくは、組成物は、106cfu~107cfuの単離された微生物の菌株を含む。
【0044】
本発明の第2の態様において、本発明の第1の態様のワクチン組成物は、M.ツベルクローシスに感染するリスクのある人、又は結核疾患を発症するリスクのある人に対する一次予防薬として、肺経路を介して、好ましくはエアロゾル技術を使用する吸入法によって投与することができ、又は感染した患者を治療するための二次薬として使用することができる。これらの組成物の株は弱毒化されているため、新生児、小児、青年、成人及び高齢者等の「リスクがある個体」への投与に特に適している。かかるワクチンは、獣医学の状況でも使用することができる。
【0045】
本発明の第3の態様において、本発明の第1の態様のワクチン組成物を、アレルギー反応に罹患するリスクのある人に対する予防薬として、好ましくはアレルギー反応性を緩和するためにM2マクロファージを標的とする予防薬として、より好ましくは、喘息、具体的にはアレルギー性喘息に罹患するリスクのある人、又は喘息、具体的にはアレルギー性喘息を発症するリスクのある人に対する予防薬として肺経路を介して、好ましくはエアロゾル技術を使用する吸入法によって投与することができるか、又は好ましくは、アレルギー反応性を軽減するためにM2マクロファージを標的にすることにより、より好ましくは喘息、具体的にはアレルギー性喘息を治療するために、アレルギー反応のある患者を治療するための薬剤として使用することができる。これらの組成物の株は弱毒化されているため、新生児、小児、青年、成人及び高齢者等の「リスクがある個体」への投与に特に適している。かかるワクチンは、獣医学の状況でも使用することができる。
【0046】
本発明の第2の態様の好ましい実施形態は、結核によって引き起こされる症状に対して個体を免疫するための本発明の第1の態様の組成物に関する。上記ワクチンはまた、膀胱癌の治療に、並びにTBの治療若しくは阻止に、又はベクター若しくはアジュバントとして、好ましくは、TBによって引き起こされる症状に対して個人を免疫するのに適切となる可能性があることに留意されたい。
【0047】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態において、第1の態様の組成物は、M.ツベルクローシスコンプレックス、好ましくはM.ツベルクローシスによって引き起こされる感染症に対して、M.ツベルクローシスに感染するリスクのある新生児、又はTB疾患を発症するリスクのある新生児における予防のために投与される。
【0048】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態において、M.ツベルクローシスによる感染症のリスクがある小児、青年及び成人等の新生児ではないヒトにおける、M.ツベルクローシスコンプレックス、好ましくはM.ツベルクローシスによって引き起こされる感染症の予防又は阻止(ブースターワクチン接種を含む)のため、第1の態様の組成物が投与される。
【0049】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態において、TB疾患を発症するリスクがあり、潜伏性結核感染症を患う小児、青年及び成人等の新生児ではないヒトにおける、M.ツベルクローシスコンプレックス、好ましくはM.ツベルクローシスによって引き起こされる活動型疾患と関連する臨床総体症状の発症の予防又は阻止のため、第1の態様の組成物が投与される。
【0050】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態において、新生児、並びに小児、青年及び成人等の新生児ではないヒトにおいて潜伏性及び/又は活動性のTBに感染した患者を治療するための二次薬としての使用のため、第1の態様の組成物が投与される。
【0051】
本発明の第2の態様の別の好ましい実施形態において、M.ツベルクローシスによる感染のリスクがある小児、青年及び成人等の新生児ではないヒトにおける、M.ツベルクローシスコンプレックス、好ましくはM.ツベルクローシスによって引き起こされる感染症に対する予防的治療又は阻止治療におけるブースターワクチン接種又はブースター投薬のため、第1の態様の組成物が投与される。この意味で、初期免疫後のブースター注射又はブースター投薬は免疫抗原への再曝露であることに留意されたい。再曝露は、その抗原に対する記憶が時間の経過により減少した後、その抗原に対する免疫を防御レベルに増大し戻すことを意図している。
【0052】
本明細書及び特許請求の範囲を通して、「含む」という単語及びその変化形は、その他の技術的な特性、添加剤、成分又は工程の除外を意味するものではない。当業者にとって、本発明のその他の目的、利点及び特性は、一部には本明細書から、また一部には発明が実施される際に生じる。以下の実施例及び図面は、本発明の非限定的な実例により提供される。
【実施例】
【0053】
方法
細菌
BCGデンマークSSI株(Pfizer)、BCG Pasteur株(1173P2株、フランス国パリのパスツール研究所)、MTBVAC株(サラゴサ大学)を、ADC 10%(Difco)及び0.05%(体積/体積)Tween-80(Sigma)を添加したMiddlebrook 7H9ブロス(Difco)、又はADC 10%を添加した固体Middlebrook 7H11(Difco)上において37℃で増殖させた。BCG Pasteur及びMTBVACを、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする複製pJKD6プラスミド(ブラジル国のブタンタン研究所のLuciana Leiteから懇意により贈与された)で形質転換した。ワクチン接種用の細菌懸濁液は、段階希釈物をプレーティングすることによって先に定量されたグリセロール原液からPBS中に調製した。細菌の定量化のため、細菌懸濁液を段階希釈し、ADCを添加した寒天培地7H10にプレーティングした。
【0054】
動物実験
全てのマウスを管理された条件下で飼育し、疾患の兆候がないか観察した。実験作業は、実験動物の保護に関する欧州及び国内の指令に同意し、サラゴサ大学の倫理委員会の承認を得て実施した(プロトコルPI22/15)。
【0055】
OVA特異的喘息の誘発のため、8週齢~10週齢の雌性C57BL/6(Janvier Biolabs)を、2mgの水酸化アルミニウム(ミズーリ州セントルイスのSigma)を含む50μgの鶏卵アルブミン(凍結乾燥粉末、98%以上(Sigma))の腹腔内注射によって1週間おきに2回感作した。1週間後、マウスを、40μlのPBS中の106CFUの指定のワクチンで鼻腔内免疫した。急性モデルでは、ワクチン投与の4週間後、動物に滅菌PBS中の100μg OVAで3日間連続して鼻腔内チャレンジを行い、翌日、人道的に屠殺した。慢性モデルでは、免疫化の3週間後、マウスに10μgのOVAで週に2回、8週間鼻腔内チャレンジを行った。この場合、ワクチンを、チャレンジフェーズの半分である手順の9週目に投与した。HDM誘発性慢性喘息の場合、マウスに10μgのHDMで3週間連続して週2回鼻腔内チャレンジを行った。ワクチンを4週目に送達し、1か月後、3日間連続して10μgのHDMで鼻腔内チャレンジを行った。翌日、動物を屠殺した。
【0056】
気管支肺胞洗浄(BAL)収集のため、気管にカニューレを挿入し、0.8mlの氷冷PBSでBALを実施した。4500×gで5分間遠心分離することにより、上清を細胞から分離した。
【0057】
肺を無菌的に摘除した。細胞懸濁液を得るため、肺を、コラゲナーゼD 100mg/ml(Roche)及びDNaseI 400IU(AppliChem)を含むHEPESバッファー(HEPES 10mM;NaCl 0.15M;KCl 5mM;MgCl2 1mM;CaCl2 1.8mM pH7.4)に添加し、37℃で30分間インキュベートし、GentleMACS(Miltenyi Biotech)解離剤を使用して、製造元の指示に従って肺特異的プログラムでホモジナイズした。その後、赤血球溶解バッファー(Sigma)を使用して残留赤血球を溶解した。組織学的分析の場合、染色手順の前に、肺をホルムアルデヒド40%で24時間固定した。
【0058】
縦隔リンパ節を無菌的に摘除し、濾過して組織の残骸を除去する前に、細胞収集のため機械的に破壊した。
【0059】
食道を無菌的に摘除し、横方向に切断した。次いで、それらを、コラゲナーゼD 100mg/ml(Roche)及びDNaseI 400IU(AppliChem)を含む2mlのHEPESバッファー(HEPES 10mM;NaCl 0.15M;KCl 5mM;MgCl2 1mM;CaCl2 1.8mM pH7.4)に加え、37℃で30分間インキュベートし、ホモジナイズした。その後、ホモジナイズしたものを濾過して組織の残骸を除去した。
【0060】
フローサイトメトリー分析
106個の肺細胞又はBAL細胞を、Fc受容体ブロッキング試薬(Miltenyi Biotech)と共に4℃で15分間インキュベートした。次いで、好酸球、好中球、及びマクロファージの存在を、以下の抗体を用いた細胞外染色によって決定した:Miltenyi Biotech製のCD45-FITC、siglecF-APC、Ly-6G-Vioblue;及びBD Biosciences製のCD11c-PE、CD11b-PerCP/Cy5.5。好酸球はSSChighCD45+CD11b+SiglecF+CD11c-細胞;好中球はCD45+Ly6G+CD11b+CD11c-細胞;及び肺胞マクロファージはCD45+SiglecF+CD11c+CD11bdim細胞と定義された。
【0061】
細胞内染色(ICS)の場合、製造業者の指示に従い、MHCII-Vioblue(Miltenyi)、並びにCD206-APC及びCD86-PE(BD Biosciences)に加えて、上記の抗体で膜タンパク質を標識した後、細胞を固定し、FoxP3染色セット(Miltenyi Biotech)で透過処理した。細胞内抗体として、本発明者らは、iNOS-APC及びiNOS-PE(Miltenyi)、並びにArg1-APC(eBiosciences)を使用した。Galliosフローサイトメーター(Beckman Coulter)を使用して細胞を取得し、Weaselソフトウェアで分析した。
【0062】
サイトカイン分析
IL-5、IL-4、IL-13、及びIFN-γの定量を、製造業者の指示(Mabtech Biotech)に従って特定の市販のELISAキットを使用して実施した。肺におけるサイトカインの決定を、臓器外植片から行った。これらを、肺を細かく切って、0.5mlの培養培地中37℃で一晩インキュベートすることで調製した。
【0063】
OVA又はHDM特異的反応を分析するため、縦隔リンパ節を無菌的に摘除し、細胞収集のため機械的に破壊した。2×106細胞を、OVA 1mg/ml又はHDM 10μg/mlと共に又はそれら無しで96時間インキュベートした。次いで、サイトカイン濃度を決定するために上清を収集した。各サイトカインのOVA特異的応答は、OVA刺激後に得られたサイトカイン濃度から刺激されていない対照を差し引いた差として計算した。ICSの場合、細胞を1mg/ml OVA又は1μg/mlの抗CD3/CD28(BD Biosciences)と24時間インキュベートし、最後の6時間に10μg/ml Brefeldin A(Sigma)を添加した。表面染色では、10%FCSを含む培養培地で、細胞を抗CD4-FITC(BD Biosciences)及び抗CD3-PerCPVio700(Miltenyi Biotec)で標識した。次いで、細胞を固定し、製造業者の指示に従ってCytofix/Cytoperm Fixation/Permeabilization Kit(BD Biosciences)で透過処理し、抗IFNγ-APC(BD Biosciences)及び抗IL5-PE(Miltenyi Biotech)で染色した。
【0064】
qRT-PCR
RNA抽出のため、肺を採取直後にTRIzol試薬(Invitrogen)に浸漬し、ドライアイスですぐに凍結した。解凍後、RNA 0.2プロトコルを使用して、GentleMACSで肺をホモジナイズした。TRIZOL 1mlあたり200μlのクロロホルムを添加し、激しくボルテックスした後、チューブを4℃で1時間18000×gで遠心分離した。真核生物のRNAを含む水性上相を回収し、700μlのイソプロパノールに加え、4℃で10分間18000×gで遠心分離した。得られたペレットを70%EtOHで洗浄し、-20℃で保存した。DNase処理により残留DNAを除去し、フェノール-酸-クロロホルムに基づく抽出でRNAを精製し、イソプロパノール及び酢酸ナトリウムを用いて-20℃でONに沈殿させた。RT-qPCRによる遺伝子発現分析のためcDNAライブラリーを構築した。本研究で使用したプライマー対は以下の通りであった:
【表1】
【0065】
噴霧研究
GMP条件下で生成されたMTBVAC及びBCGを、1バイアルあたり1mlに再懸濁し、臨床ネブライザーU100(OMRON)のリザーバーに入れた。ネブライザーをプラスチックチューブで5mlの滅菌水を入れたガス洗浄フラスコに接続し、真空ポンプと連結して噴霧された画分を回収した。細菌を5分間噴霧し、噴霧画分とリザーバー画分の両方を、ADCを添加した固形寒天7H10培地にプレーティングした。噴霧有効性指数を以下のように計算した:
【数1】
【0066】
統計
実験手順を開始する前に、市販のマウスを1ケージあたり6匹の動物群に無作為に分配した。結果を分析のために盲検化しなかった。動物実験においてサンプルサイズを計算するために統計的方法を使用しなかった。統計分析にはGraphPrismソフトウェアを使用した。各実験に使用された統計的検定は、図の凡例に示される。使用した全ての統計的検定は両側検定であった。Grubbの検定を全てのデータセットに適用して外れ値を決定し、最終的な統計分析から破棄した。差は、p値<0.05の場合に有意であると見なした。
【0067】
実施例1
OVA駆動性喘息の急性モデル(
図1A)及びフローサイトメトリーによる肺好酸球増加症の決定(
図1B)では、感作マウスに鼻腔内投与されたMTBVACワクチン(
図1C)及びBCGワクチン(
図1D)は、アレルゲン誘発性の好酸球増加症のパーセンテージを、BALと肺の両方で陰性対照に匹敵するレベルまで劇的に減少させる。この減少は好酸球の総数を分析した場合にも観察され、他の細胞集団に大きな影響を与えることがない(
図1E、
図1F)。ワクチン治療の効果は、PAS技術で染色することによって観察されるように、粘液分泌及び肺上皮リモデリングを分析したときにも観察される。BCG処理マウスは、杯細胞及び粘液物質の存在がはるかに低く、また同じく上皮増殖率も低いことを示す(
図1G)。
【0068】
実施例2
BCGとMTBVACの両方が、用量依存的にBAL(
図2A)及び肺(
図2B)の好酸球増加症を軽減する。BALでは、いずれの場合も10
6CFUの用量で完全に減少するが、肺では、試験した最高用量(MTBVACでは10
7CFU、BCGでは10
6CFU)で、陰性対照レベルまでの好酸球の減少に達する。
【0069】
実施例3
BCGは主に肺胞マクロファージに感染する。BCGの内部移行により、iNOS又はCD86のようなM1分極マーカーの発現がもたらされた(
図3A)。さらに、BCG感染は、肺マクロファージ集団全体でM1マーカー(iNOS又はCD86)をアップレギュレーションし、M2マーカー(CD206)をダウンレギュレーションする(
図3B、
図3C)。BCGによって誘発されたマクロファージのM1再分極は、M1マーカーであるiNOS及びIL1b(BCG群でより高い)及びM2マーカーであるYm1、Arg1及びretnla(BCG群でより低い)の肺遺伝子発現を研究することで確認される(
図3D)。
【0070】
実施例4
BCGの鼻腔内投与は、アレルゲン誘発性のTh2応答をTh1表現型へとリバランスする(rebalances)。BCGワクチン接種は、Ifng、Il12aのようなTh1関連遺伝子、又は転写因子Tbetを誘導する。逆に、IL-5、IL-4、IL-13、又はCCL-1のような典型的なTh2サイトカイン及びケモカインをコードする遺伝子は、BCGによって下方調節される(
図4A)。これらの結果と一致して、IL-5及びIL-4サイトカインはOVA群のBAL及び肺でそれぞれ上昇するが、IFNγはBCGでワクチン接種すると増加する(
図4B、
図4C)。
【0071】
これらの変化は、縦隔リンパ節から採取したリンパ球のex vivo OVA刺激後にアレルゲン特異的T細胞を研究した場合に再現される。データは、BCGワクチン接種マウスと比較して、OVA群でIL-4、IL-5及びIL-13が高く、IFNγ OVA特異的産生が低いことを示す(
図4D~
図4G)。細胞内染色及びフローサイトメトリーを使用して、本発明者らは、サイトカイン産生CD4+CD44+T細胞を直接視覚化し、これはメモリー表現型(memory phenotype)に対応する。CD3/CD28又はOVAによる刺激後の両方で、T細胞応答分極は両群間で反対であることがわかる。注目すべきことに、OVA特異的なIL-5産生細胞は、BCGで処理されたマウスで減少する(
図4H、
図4I)。
【0072】
実施例5
MTBVAC治療は、OVAチャレンジマウス由来のBAL(
図5A)、並びにex vivoにおいてOVAで刺激されたリンパ節細胞(
図5B)において、Th2サイトカインIL-5の減少及びTh1マーカーIFNγ-の増加をもたらす。MTBVAC投与は、肺マクロファージにおけるM2マーカーArg1の発現を無効にするが、M1マーカーiNOSの発現を誘導する(
図5C)。
【0073】
実施例6
MTBVAC及びBCGは、OVA駆動性喘息の慢性モデルにおいて確立された好酸球増加症を無効にする(
図6A)。好酸球が既に気道に浸潤している状況でOVAチャレンジマウスにワクチンを投与すると(
図6B)、好酸球増加症が陰性対照に匹敵するレベルまで減少した(
図6C、
図6D)。ワクチン治療の効果は、PAS技術で染色することによって観察されるように、粘液分泌及び肺上皮リモデリングを分析したときにも観察される。BCG処理マウスは、杯細胞及び粘液物質の存在がはるかに低く、また同じく上皮増殖率も低いことを示す(
図6E)。
【0074】
実施例7
MTBVAC及びBCGは、生理学的アレルゲンであるハウスダストダニ(HDM)によって誘発される喘息の慢性モデルで確立された好酸球増加症を無効にする(
図7A)。好酸球が既に気道に浸潤している状況でHDMチャレンジマウスにワクチンを投与すると、好酸球増加症が陰性対照に匹敵するレベルまで劇的に減少した(
図7B)。ワクチン治療の効果は、PAS技術で染色することによって観察されるように、粘液分泌及び肺上皮リモデリングを分析したときにも観察される。BCG処理マウスは、杯細胞及び粘液物質の存在がはるかに低く、また同じく上皮増殖率も低いことを示す(
図7C)。
【0075】
MTBVAC及びBCGの鼻腔内投与は、HDM誘発性のTh2応答をTh1表現型へとリバランスする。Th2サイトカインIL-5、IL-4及びIL-13は、アレルゲンで刺激されたBAL細胞とリンパ節細胞の両方でワクチン治療群において減少する(
図7D、
図7E)。逆に、MTBVAC及びBCGはTh1サイトカインIFNγ-のレベルを増加させた(
図7F、
図7G)。
【0076】
実施例8
臨床エアロゾル装置OMRON U100(
図8A、
図8B)でのワクチン噴霧は、BCGと比較してMTBVACの実質的に高い噴霧有効性を実証する。ネブライザーリザーバーに最初に入れたMTBVAC細菌のおよそ15%がエアロゾル化されるが、BCGの場合はこの割合が0.15%に低下する(
図8C~
図8E)。これは、ワクチン投与の肺経路としてエアロゾルを使用することにより、BCGよりもMTBVACを用いて肺において治療用量に到達することがより実現可能であることを示す。BCG及びMTBVACの電子顕微鏡画像は、MTBVACのサイズがより小さいことを実証し(
図9A、
図9B)、これは、観察された噴霧有効性の違いを説明する可能性がある。
【0077】
実施例9
鼻腔内MTBVACは、OVAチャレンジによって誘発された食道における好酸球増加症を軽減した(
図10)。この結果は、弱毒生ワクチンが、アレルギー性喘息に加えて、好酸球性食道炎(EoE)のような他のタイプの好酸球増加症の治療として使用され得ることを示唆する。
【0078】
実施例10
MTBVACの肺送達は、標準的な皮下経路で投与されるBCGと比較して、結核によるチャレンジに対するワクチンの防御有効性を改善する(
図11)。
【0079】
実施例11
MTBVAC及びONCOTICEのGMPバイアルを1ml/バイアルに再懸濁し、濃度を10
7CFU/mlで正規化し、各ワクチン調製物2mlを臨床ネブライザーU100(OMRON)のリザーバーに入れた。ヒトにおけるワクチンの鼻腔内送達については、規制上の安全性に関する強い懸念がある。しかしながら、エアロゾル投与はクリニックにおいて肺コンパートメントに到達するために容認された方法であり、ヒトの使用に対して許可されている複数の市販のネブライザーが利用可能である。実用的な観点から、生きたマイコバクテリアの肺投与を臨床開発に持ち込むための重要なステップは、エアロゾル経路を介して治療用ワクチン用量を送達する実用可能性である。これを評価するため、本発明者らは、臨床用ネブライザーOMRON U100により、ヒトの使用に対して適合させたMTBVAC及びBCG(ONCOTICE)のGMP製剤の噴霧有効性を測定した(
図12A)。本発明者らは、対応する溶離液に再懸濁したMTBVAC又はBCGをリザーバーにロードし、ネブライザーを水平位置に置き、プラスチックチューブを介して、5mlの滅菌水を入れた真空ポンプ連結ガス洗浄フラスコに接続し、そこで噴霧された画分を回収した。リザーバー内の細菌密度は、両方のワクチンでおよそ1.5×10
7CFU/mlであった。噴霧の1分後、噴霧画分で回収された細菌の平均量は、MTBVACでは1.85×10
6CFU、BCGでは5×10
5CFUであった(
図12B)。リザーバーでの初期細菌負荷に関する噴霧の平均有効性は、MTBVACでは11.7%、ONCOTICEでは3.1%であった(
図12C)。
【0080】
本発明者らは、噴霧有効性で観察された違いを説明することができるBCG及びMTBVACの或る特定の特性を同定した。電子顕微鏡画像は、BCG(2μm超)と比較してMTBVAC(1μm未満)の細菌の長さが短いことを明らかにした。臨床ネブライザーによって放出される平均粒子サイズがおよそ5μmであることを考慮すると、凝集及び細菌サイズが様々な生ワクチンの噴霧の有効性に決定的に影響を与える可能性があると推測するのが現実的である。MTBVACのかかる物理的な特性の違いにより、臨床用ネブライザーを使用して投与する方がより有利となる。
【配列表】
【国際調査報告】