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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(54)【発明の名称】イソシアネートの蒸留方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 263/20 20060101AFI20221128BHJP
   C07C 265/14 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C07C263/20
C07C265/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519604
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(85)【翻訳文提出日】2022-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2020076505
(87)【国際公開番号】W WO2021063760
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】19200482.8
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520204744
【氏名又は名称】コベストロ・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・アンド・コー・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】メルケル,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】エーリッヒ,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】コビウカ,マンフレッド
(72)【発明者】
【氏名】レーナー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ロッデンケンパー,ティム
(72)【発明者】
【氏名】シフハウアー,マルティン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC55
4H006AD11
4H006BC51
4H006BC52
4H006BD60
4H006BE52
(57)【要約】
本発明は、対応するイソシアネートを得るための、真空下で蒸留装置における対応するイソシアネートをホスゲン化によって得られる粗イソシアネートの蒸留精製方法に関し、該方法は、少なくとも1つの液体ピストン圧縮機が、蒸留装置において真空を生成するために使用され;特定の作動液が、前記少なくとも1つの液体ピストン圧縮機に使用され;前記少なくとも1つの液体ピストン圧縮機の吸入側の圧力pが、10~200mbar(a)であり;前記少なくとも1つの液体ピストン圧縮機の作動温度が、-17℃~+15℃であり;および前記少なくとも1つの液体ピストン圧縮機からの出口における作動液が、35000ppm未満のAC値を有することを特徴とする。本発明はまた、粗イソシアネートを蒸留するための装置において真空を生成するための少なくとも1つの液体ピストン圧縮機の対応する使用、および対応するイソシアネートを得るための、蒸留装置における対応するアミンのホスゲン化によって得られるイソシアネートの蒸留精製のために真空を提供するための液体ピストン圧縮機を作動するための対応する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対応するイソシアネートを得るための、真空下での蒸留装置における対応するアミンのホスゲン化により得られる粗イソシアネートの蒸留精製方法であって、
前記蒸留装置において真空を発生させるために少なくとも1つの液体リング圧縮機が使用され、
クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される作動液が、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機のために使用され、
前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の吸入側の圧力pが、10~200mbar(a)であり、
前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度が、-17℃~+15℃であり、および
前記少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液が、35000ppm未満のAC値を有する
ことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液において、ホスゲンの含有量c(COCl)が、0.001~4.5重量%、好ましくは0.005~2重量%、特に好ましくは0.01~1重量%、最も好ましくは0.05~0.5重量%であり、および塩化水素の含有量c(HCl)が、≦1.6重量%、好ましくは≦1重量%、特に好ましくは≦0.5重量%、および非常に特に好ましくは≦0.2重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記作動液の少なくとも一部が、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機から連続的に引き出され、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度より20℃以下、好ましくは15℃以下、特に好ましくは10℃以下、非常に特に好ましくは5℃以下低い温度に冷却され、次いで前記少なくとも1つの液体リング圧縮機に連続的にリサイクルされることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記粗イソシアネートが、気相ホスゲン化または液相ホスゲン化に由来することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの液体リング圧縮機における作動液が、≦1000ppm、好ましくは≦100ppm、特に好ましくは≦20ppmのホスゲン含有量を有する作動液によって、少なくとも部分的に、好ましくは連続的に置き換えられることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記イソシアネートが、モノイソシアネート、特にR,S-1-フェニルエチルイソシアネート、1-メチル-3-フェニルプロピルイソシアネート、ペンチルイソシアネート、6-メチル-2-ヘプタンイソシアネート、シクロペンチルイソシアネートまたは3-(メチルチオ)フェニルイソシアネート、ジイソシアネート、特にヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、1,4-ブタンジイソシアネート、1,8-ジイソシアナトオクタン、1,9-ジイソシアナトノナン、2-メチルペンタメチレンジイソシアネート、2,2-ジメチルペンタメチレンジイソシアネート、ネオペンタンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよび2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、2,4’-および4,4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン(H12MDI)、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルメタン、2,4-および2,6-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(HTDI)、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ジイソシアナト-2-メチルシクロヘキサン、1,3-ジイソシアナト-4-メチル-シクロヘキサン、1,4-ジイソシアナト-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、異性体ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(NBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、特に1,3-キシリレンジイソシアネート(m-XDI)または1,4-キシリレンジイソシアネート(p-XDI)、1,3-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(m-TMXDI)、1,4-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(p-TMXDI)、モノマーのジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネートまたは1,4-フェニレンジイソシアネート、トリイソシアネート、特に4-イソシアナトメチル-1,8-オクタンジイソシアネート、およびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
10~200mbar(a)、好ましくは20~150mbar(a)、特に好ましくは30~120mbar(a)の圧力pが発生されることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の方法によって、得ることが可能な、好ましくは得られるイソシアネート。
【請求項9】
対応するアミンのホスゲン化によって製造された粗イソシアネートの蒸留装置において真空を発生させるための少なくとも1つの液体リング圧縮機の使用であって、
クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される作動液が、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機のために使用され、
前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の吸入側の圧力pが、10~200mbar(a)であり、
前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度が、-17℃~+15℃であり、および
前記少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液が、35000ppm未満のAC値を有する
ことを特徴とする、前記使用。
【請求項10】
前記液体リング圧縮機からの出口での作動液において、ホスゲンの含有量c(COCl)が0.001~4.5重量%であり、塩化水素の含有量c(HCl)が1.6重量%未満であることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
10~200mbar(a)、好ましくは20~150mbar(a)、特に好ましくは30~120mbar(a)の圧力pが発生されることを特徴とする、請求項9または10に記載の使用。
【請求項12】
対応するイソシアネートを得るための、蒸留装置における対応するアミンのホスゲン化によって得られるイソシアネートの蒸留精製のための真空を提供するために液体リング圧縮機を作動させる方法であって、
クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される作動液が、少なくとも1つの液体リング圧縮機のために使用され、
前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の吸入側の圧力pが、10~200mbar(a)であり、
前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度が、-17℃~+15℃であり、および
前記少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液が、35000ppm未満のAC値を有する
ことを特徴とする、前記方法。
【請求項13】
前記液体リング圧縮機からの出口での作動液において、ホスゲンの含有量c(COCl)が0.001~4.5重量%であり、塩化水素の含有量c(HCl)が1.6重量%未満であることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記イソシアネートが、モノイソシアネート、特にR,S-1-フェニルエチルイソシアネート、1-メチル-3-フェニルプロピルイソシアネート、ペンチルイソシアネート、6-メチル-2-ヘプタンイソシアネート、シクロペンチルイソシアネートまたは3-(メチルチオ)フェニルイソシアネート、ジイソシアネート、特にヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、1,4-ブタンジイソシアネート、1,8-ジイソシアナトオクタン、1,9-ジイソシアナトノナン、2-メチルペンタメチレンジイソシアネート、2,2-ジメチルペンタメチレンジイソシアネート、ネオペンタンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよび2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、2,4’-および4,4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン(H12MDI)、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルメタン、2,4-および2,6-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(HTDI)、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ジイソシアナト-2-メチルシクロヘキサン、1,3-ジイソシアナト-4-メチル-シクロヘキサン、1,4-ジイソシアナト-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、異性体ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(NBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、特に1,3-キシリレンジイソシアネート(m-XDI)または1,4-キシリレンジイソシアネート(p-XDI)、1,3-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(m-TMXDI)、1,4-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(p-TMXDI)、モノマーのジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネートまたは1,4-フェニレンジイソシアネート、トリイソシアネート、特に4-イソシアナトメチル-1,8-オクタンジイソシアネート、およびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対応するイソシアネートを得るための、真空下の蒸留装置における対応するアミンのホスゲン化により得られる粗イソシアネートの蒸留精製方法に関しており、該方法は、少なくとも1つの液体リング圧縮機(liquid ring compressor)を用いて前記蒸留装置において前記真空を発生し、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機に特定の作動液を用い、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の吸入側の圧力pは、10~200mbar(a)であり、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度は、-17℃~+15℃であり、および前記少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液は、35000ppm未満のAC値を有すことを特徴とし、粗イソシアネートの蒸留装置において真空を発生する少なくとも1つの液体リング圧縮機の対応する使用と、前記対応するイソシアネートを得るための蒸留装置における前記対応するアミンのホスゲン化により得られるイソシアネートの蒸留精製のための真空を提供するための液体リング圧縮機を作動させる対応する方法とに関する。
【0002】
本発明によれば、用語「イソシアネート」は、対応するアミンのホスゲン化によって得られた少なくとも1つのイソシアネート基を有する有機化合物を意味すると理解されるべきである。
【背景技術】
【0003】
ホスゲン化反応からイソシアネートを単離および精製するための種々の方法が、従来技術に記載されている。最も一般的に使用される方法では、ホスゲン化からの粗溶液がまず過剰のホスゲンから遊離される。次いで、溶媒、通常はクロロベンゼンまたはジクロロベンゼンを、いわゆる溶媒分離において蒸留除去した後、このようにして得られた粗イソシアネートを、次に、通常は2つ以上の段階で蒸留精製する。多くの工業的に重要なイソシアネートは、蒸発され、蒸気流としてまたは凝縮後に液体副流として最終蒸留塔オーバーヘッドから取り出される。
【0004】
それぞれの場合において対応するアミンのホスゲン化によって得られた種々のイソシアネートの最終蒸留は、例えばUS3,549,504に記載されている。その中で、蒸留は不活性ガスの存在下で、5~200mmHg、好ましくは20~150mmHgの塔の頂部の圧力で実施され、その結果、塔の底部の温度は分解反応を回避するために可能な限り低く維持され得る。例示的な実施形態は、それぞれの場合において、キシリレンジイソシアネート(XDI)およびトリレントリイソシアネートの蒸留のためのヘッド圧力30mmHg、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)のためのヘッド圧力20mmHg、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のためのヘッド圧力50mmHg、およびトリレンジイソシアネート(TDI)のためのヘッド圧力40mmHgを挙げている。
【0005】
WO2017/076551A1には、TDI、MDI、HDI、ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、XDI、またはジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)などのイソシアネートの蒸留に適した分割壁塔が記載されており、所望のイソシアネートはそれぞれの場合、副流として除去され、一方、低沸点成分は塔の上部で得られる。70mbarのヘッド圧力での粗TDI混合物の蒸留が例示的な実施形態として記載されている。
【0006】
イソシアネートを精製するための方法のさらなる記載は、DE10260092A1に見出すことができる。これには、最初に、粗イソシアネート流を得るために、イソシアネートの製造後に塩化水素、ホスゲンおよび溶媒を分離することが記載されている。これはなお、イソシアネートよりも低い沸点を有する成分、イソシアネートよりも高い沸点を有する成分、および蒸発しない残渣を含有する。粗イソシアネートを、真空下で、1~120mbar(a)で粗蒸留にかけ、続いて少なくとも1つの塔で、1~80mbar(a)で精密蒸留にかける。さらなるイソシアネートは、粗蒸留で得られた残渣から0.1~40mbar(a)の圧力で、蒸気状で回収され、同様に精密蒸留に供給される。塔が18mbar(A)のヘッド圧力を有するTDIの蒸留が、例示的な実施形態として記載されている。
【0007】
DE2242626A1には、ホスゲン含有溶液を濃縮する方法が記載されており、この方法では窒素または酸素を含有し、より高い沸点を有する化合物、例えばイソシアネートから有機溶媒を真空下で分離する。真空は、作動液としてホスゲン含有溶媒を使用する液体リングポンプを用いて生成される。記載された方法では、溶媒が蒸発装置においてイソシアネートから分離され、ここで、イソシアネートは蒸発装置の底部において濃縮物として得られる。したがって、これは、最初に述べたアミンのホスゲン化からの粗生成物の後処理の一部としての溶媒分離である。蒸発装置の運転のための上述の圧力範囲は、5~2000torr、好ましくは50~500torrであり、例示的な実施形態は、160torrの圧力を挙げている。駆動手段およびホスゲンの吸着の結果として形成される熱を除去するために、熱交換器を通して作動液の副流を再循環させることができることに留意されたい。また、ホスゲンが作動液中に蓄積し、ポンプの効率を低下させることがあり、したがって、連続的な交換を必要とすることにも留意されたい。作動媒体中のホスゲンの吸収は、ホスゲンのオフガスを解放するので、この方法の利点として同時に記載される。この蒸留においては依然として結合したホスゲンが分離され、遊離され得るために、この文献には最終蒸留、すなわち最初に述べたイソシアネート濃縮物の蒸留において、記載された方法を使用する可能性も記載されている。
【0008】
しかしながら、実際には、アミンのホスゲン化によって製造されるイソシアネートの最終蒸留での液体リング圧縮機の使用は、驚くべきことに、何度も何度も、圧縮機への機械的損傷に至るまでの騒音の形で現れる多かれ少なかれ顕著なキャビテーションを生じる。作動温度を下げることは問題に対抗することができるが、一方ではかなりの装置の複雑さおよびエネルギーコストにおいてのみ達成可能であり、他方では遅くともそれぞれの作動液の凝固温度によって制限される。キャビテーションの問題は特に、比較的低い安定性を有し、したがってできるだけ穏やかに蒸留しなければならないイソシアネートの場合に起こり、すなわち、その蒸留は、上記の先行技術から知られているように、オリゴマー化および分解反応を大幅に回避するために可能な限り低い圧力を必要とする。
【0009】
液体リング圧縮機でのキャビテーションを避けるために、過去に種々のアプローチが試みられている。例えば、DE10019718A1には、液体リング圧縮機に入る前に、冷却ガス、好ましくは周囲空気を使用して吸引ガスを冷却することが記載されている。この手順は、高吸引圧力で高温蒸気を吸引するのに有利であるが、必要な低吸引圧力に対しては対策が不十分であるため、イソシアネート蒸留に使用するこの場合には不適当である。液体リング圧縮機の必要な作動温度は、常に周囲温度よりも低く、例えばホスゲンのような揮発性物質の存在もキャビテーションの問題を悪化させる。
【0010】
WO2006/029884A1は、イオン性液体が作動液として使用される液体リング圧縮機を作動させるための方法を記載している。この手順も種々の欠点を有する。第1に、以前は不必要であった、通常は高価な物質であるイオン性液体がこの方法に導入され、調達、貯蔵、運搬および廃棄を必要とする。さらに、イオン性液体自体は蒸気圧を有さないが、前記液体中の吸引された液体の揮発性成分の蓄積を除外することはできない。揮発性物質が蓄積しないと仮定しても、この方法は、吸引されたガスからホスゲンを吸収する所望の効果もはや適用されないという欠点を有する。最後に、イオン性液体中に存在する官能基および例えばホスゲンの高い反応性のために、イオン性液体および吸引された液体の成分との間の望ましくない反応は、いずれも除外することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US3,549,504
【特許文献2】WO2017/076551A1
【特許文献3】DE10260092A1
【特許文献4】DE2242626A1
【特許文献5】DE10019718A1
【特許文献6】WO2006/029884A1
【発明の概要】
【0012】
この先行技術から出発して、本発明の目的は、低吸引圧力、特に200mbar(a)未満でさえ、作動液中のキャビテーションが回避される真空発生のための液体リング圧縮機を使用してイソシアネートを蒸留することである。本発明のさらなる目的は、製造プロセスにおいて既に使用されている溶媒を作動液として使用することができ、ホスゲンおよび/または塩化水素からオフガスを精製することができ、液滴の形態で吸引流中に液体が存在し得る場合に問題がない、真空を発生するための方法を提供することである。
【0013】
本発明によれば、これらの目的は、対応するイソシアネートを得るための、真空下での蒸留装置における対応するアミンのホスゲン化によって得られる粗イソシアネートの蒸留精製方法によって達成され、ここで、
- 蒸留装置において真空を発生させるために少なくとも1つの液体リング圧縮機が使用され、
- クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される作動液が、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機のために使用され、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の吸入側の圧力pが、10~200mbar(a)であり、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度が、-17℃~+15℃であり、および
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液が、35000ppm未満のAC値を有する。
【0014】
本発明はさらに、対応するイソシアネートを得るための、真空下での蒸留装置における対応するアミンのホスゲン化によって得られる粗イソシアネートの蒸留精製方法を提供し、ここで、
- 蒸留装置において真空を発生させるために少なくとも1つの液体リング圧縮機が使用され、
- クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される作動液が、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機のために使用され、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の吸入側の圧力pが、10~200mbar(a)であり、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度が、-17℃~+15℃であり、および
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液が、35000ppm未満のAC値を有し、ここで、AC値の決定は、AC値<100ppmについてはASTM D 5629に従って行われ、AC値>100ppmについてはASTM D 6099に従って行われ、作動液は、それぞれの場合において、マトリックスとしてイソシアネートに取って代わる。
【0015】
上記目的は、本発明に従って、対応するアミンのホスゲン化によって製造された粗イソシアネートの蒸留装置において真空を発生させるための少なくとも1つの液体リング圧縮機の使用によってさらに達成され、ここで、
- クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される作動液が、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機のために使用され、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の吸入側の圧力pが、10~200mbar(a)であり、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度が、-17℃~+15℃であり、および
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液が、35000ppm未満のAC値を有する。
【0016】
上記目的は、本発明に従って、対応するアミンのホスゲン化によって製造された粗イソシアネートの蒸留装置において真空を発生させるための少なくとも1つの液体リング圧縮機の使用によってさらに達成され、ここで、
- クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される作動液が、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機のために使用され、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の吸入側の圧力pが、10~200mbar(a)であり、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度が、-17℃~+15℃であり、および
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液が、35000ppm未満のAC値を有し、ここで、AC値の決定は、AC値<100ppmについてはASTM D 5629に従って行われ、AC値>100ppmについてはASTM D 6099に従って行われ、作動液は、それぞれの場合において、マトリックスとしてイソシアネートに取って代わる。
【0017】
本発明は、好ましくは本発明による使用を提供し、ここで、液体リング圧縮機からの出口での作動液中においてホスゲンの含有量c(COCl)は、0.001~4.5重量%であり、塩化水素の含有量c(HCl)は、1.6重量%未満である。
【0018】
上記目的は、本発明に従って、対応するイソシアネートを得るための、蒸留装置における対応するアミンのホスゲン化によって得られるイソシアネートの蒸留精製のための真空を提供するために液体リング圧縮機を作動させる方法によってさらに達成され、ここで、
- クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される作動液が、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機のために使用され、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の吸入側の圧力pが、10~200mbar(a)であり、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度が、-17℃~+15℃であり、および
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液が、35000ppm未満のAC値を有する。
【0019】
最後に、これらの目的は、本発明に従って、対応するイソシアネートを得るための、蒸留装置における対応するアミンのホスゲン化によって得られるイソシアネートの蒸留精製のための真空を提供するために液体リング圧縮機を作動させる方法によってさらに達成され、ここで、
- クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される作動液が、前記少なくとも1つの液体リング圧縮機のために使用され、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の吸入側の圧力pが、10~200mbar(a)であり、
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度が、-17℃~+15℃であり、および
- 前記少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における前記作動液が、35000ppm未満のAC値を有し、ここで、AC値の決定は、AC値<100ppmについてはASTM D 5629に従って行われ、AC値>100ppmについてはASTM D 6099に従って行われ、作動液は、それぞれの場合において、マトリックスとしてイソシアネートに取って代わる。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。以下に列挙される言及、詳細および好ましい実施形態は、対応するアミンのホスゲン化によって得られる粗イソシアネートの蒸留精製のための本発明による方法、粗イソシアネートの蒸留装置において真空を発生するための少なくとも1つの液体リング圧縮機の本発明による使用および蒸留装置における対応するアミンのホスゲン化によって得られるイソシアネートの蒸留精製のための真空を提供するための液体リング圧縮機を作動するための本発明による方法に対応して適用される。
【0021】
本発明の文脈において、少なくとも1つの液体リング圧縮機が使用される。本発明によれば、対応する装置、特に対応する蒸留装置において、1つ以上、例えば2~8個の液体リング圧縮機を使用することが可能であり、ここで、2つ以上の液体リング圧縮機が存在する場合、存在する液体リング圧縮機のうちの1つ、いくつか、または全てを本発明に従って作動させてもよい。
【0022】
液体リング圧縮機の構造および作動原理は、一般に当業者には公知である。その機能は、部分的に作動液で満たされた通常の円筒形のハウジング内に偏心配置され、インペラに取り付けられたブレードを有するインペラに基づいている。作動中、インペラは回転し、ハウジング内に存在する作動液は遠心力により液体リング(liquid ring)を形成する。これは、液体リングによって外側で区切られ、偏心のために異なる大きさのブレード間にガス充填チャンバの形成をもたらす。インペラの回転は、個々のチャンバの大きさの連続的な変化をもたらし、その結果、吸引側ではガスが吸引ポートから1つ以上の吸引開口部を通って吸引され、次いで、これが圧縮され、最後に、圧力側では圧力ポートの方向に1つ以上の圧力開口部を通って排出される。そのリングを形成する作動液の一部も、常にガスと共に排出される。これは、液体分離器内でガスから分離することができ、本発明の文脈では「液体リング圧縮機からの出口での作動液」と呼ばれる。前記液体は、任意に、冷却および/またはさらなる十分に冷たい液体の混合後に、作動液として再使用され得る。液体リング圧縮機の設計の中には、例えば、より大きな冷却回路を構成するために、作動液のための追加の引き抜きポートを含むものがある。圧縮機での強力な混合のために、ここで取り出される液体は、圧力ポートでガスと共に出て行く作動液に相当する。
【0023】
液体リング圧縮機の特殊な形態は、インペラが同心円状に配置され、ポンピング効果がそれに対して横方向に配置された様々な深さのチャネル状空間によって達成されるサイドチャネルポンプによって代表される。しかし、これらはまれにしか真空ポンプとして使用されない。
【0024】
本発明による方法で精製され得るイソシアネート/粗イソシアネートとしては、一般に、当業者に知られているあらゆる脂肪族、脂環式、芳香脂肪族または芳香族イソシアネートが含まれる。
【0025】
本発明は、特に好ましくは本発明による方法を提供し、ここで、イソシアネートは、モノイソシアネート、特にR,S-1-フェニルエチルイソシアネート、1-メチル-3-フェニルプロピルイソシアネート、ペンチルイソシアネート、6-メチル-2-ヘプタイソシアネート、シクロペンチルイソシアネートまたは3-(メチルチオ)フェニルイソシアネート、ジイソシアネート、特にヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、1,4-ブタンジイソシアネート、1,8-ジイソシアナトオクタン、1,9-ジイソシアナトノナン、2-メチルペンタメチレンジイソシアネート、2,2-ジメチルペンタメチレンジイソシアネート、ネオペンタンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよび2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、2,4’-および4,4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン(H12MDI)、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルメタン、2,4-および2,6-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(HTDI)、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ジイソシアナト-2-メチルシクロヘキサン、1,3-ジイソシアナト-4-メチルシクロヘキサン、1,4-ジイソシアナト-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(NBDI)の異性体、キシリレンジイソシアネート(XDI)、特に1,3-キシリレンジイソシアネート(m-XDI)または1,4-キシリレンジイソシアネート(p-XDI)、1,3-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(m-TMXDI)、1,4-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(p-TMXDI)、モノマーのジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネートまたは1,4-フェニレンジイソシアネート、トリイソシアネート、特に4-イソシアナトメチル-1,8-オクタンジイソシアネートおよびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0026】
本発明による方法は、特に好ましくはHDI、PDI、IPDI、H12MDI、XDI、H6-XDI、H6-TDI、MDI、NDIおよびそれらの混合物からなる群から選択されるイソシアネートを精製するために使用される。この方法は、非常に特に好ましくはHDI、XDI、PDIまたはTDIを精製するために使用される。正確にはPDIおよびXDI、特にPDIは、熱ストレス下で、ホスゲンまたは塩化水素などの揮発性化合物を除去することができる塩素化副生成物の高い割合で含むホスゲン化で得られ、したがって、本発明による方法は、PDIおよびXDIの蒸留に特に有利であり、PDIの蒸留に最も有利である。
【0027】
本発明に従って使用されるイソシアネートの製造方法は、それ自体当業者に知られている。対応するアミンのホスゲン化によって生成する有機イソシアネートは、常に異なる低沸点および高沸点の、部分的に塩素を含有する副生成物を含有する。用語「低沸点」および「高沸点」は、イソシアネートに関連して考慮されるべきである。ホスゲン化が気相または液相で行われるかどうか、およびアミンがホスゲンと直接反応するかどうか、例えば当業者に公知の塩基ホスゲン化で行われるかどうか、または当業者に公知の塩酸塩ホスゲン化のように塩化水素などの酸性化合物、または当業者に公知のカルバメートホスゲン化のように二酸化炭素などの酸性化合物との塩に最初に変換され、次いでホスゲンと反応するかどうかは、本発明による方法にとって重要ではない。工業的方法は全ての変形について周知であり、以下に簡単に概説する。
【0028】
したがって、本発明は、本発明による方法を提供し、ここで、粗イソシアネートは、気相ホスゲン化または液相ホスゲン化、好ましくは液相ホスゲン化に由来する。
【0029】
ホスゲン化が気相で行われる場合、アミンは、好ましくは蒸発され、200℃~600℃の温度範囲の温度に加熱される。任意選択で、蒸発および蒸発で生成されたアミン蒸気の使用は、不活性ガスおよび/または不活性溶媒の蒸気の存在下で実施される。不活性ガスは、好ましくは窒素である。好適な不活性溶媒は、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、特にo-ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエン、特にo-クロロトルエン、またはそれらの混合物である。特に、クロロベンゼンおよびo-ジクロロベンゼンまたはそれらの混合物は、技術的に有利であることが証明されており、反応条件下ではこれらは一方では非常に不活性であり、他方ではそれらの物理的性質のために、特にそれらの沸点のために、イソシアネートから一般に容易に分離されるので、好ましい。
【0030】
ホスゲン化に使用されるホスゲンは、好ましくはアミンを基準として過剰に使用される。進行中のホスゲン化反応に基づく理論の150%~350%に相当する量のホスゲンで一般に十分である。ホスゲン流は、好ましくは反応前に200℃~600℃の範囲の温度に加熱される。
【0031】
ホスゲン化を実施するために、予熱されたアミン含有流および同様に予熱されたホスゲン流は、好ましくは円筒形反応空間内に連続的に通され、その中で互いに混合される。好適な円筒形反応空間は、例えば、一般に鋼、ガラス、合金および/またはエナメル鋼からなる管状反応器である。それらは、一般に、方法条件下でアミンとホスゲンとの完全な反応を可能にするのに十分な長さを有する。さらに、反応空間の寸法は、好ましくは少なくとも2500のレイノルズ数を有する乱流が反応空間に広がるように選択される。これは、一般に、流量が90m/sを超える場合に保証される。このような流量は、反応空間への生成物導管と反応空間からの出口との間の適切な差圧を調節することによって確保することができる。一般に、供給導管での圧力は200~300mbar(g)であり、反応空間からの出口では150~200mbar(g)である。
【0032】
反応空間でのホスゲン化反応が終了すると、反応空間から連続的に出る混合物から、形成されたイソシアネートが除去されることが好ましい。これは、例えば、クロロベンゼンまたはジクロロベンゼンなどの不活性溶媒中での選択的凝縮によって行うことができる。アミン含有流が既に不活性溶媒を含有している場合、ここで同じ不活性溶媒を使用することが好ましい。溶媒の温度は、好ましくは一方ではイソシアネートに対応するカルバミド酸クロリドの分解温度より高く、他方では、イソシアネートが溶媒中で凝縮または溶解し、一方ホスゲン、塩化水素および任意の不活性ガスが気体形態で凝縮段階を通過するように選択される。120℃~200℃の溶媒温度が、特に好適である。
【0033】
次いで、少なくとも1つのイソシアネートを回収するために凝縮段階を通過するガス混合物は、それ自体公知の方法で過剰のホスゲンが除去されることが好ましい。これは、コールドトラップ、不活性溶媒(例えば、クロロベンゼン、MCBまたはジクロロベンゼン、ODB)中での-10℃~8℃の温度での吸収、または活性炭への吸着および加水分解によって実施することができる。ホスゲン回収段階を通過する塩化水素ガスは、ホスゲン合成に必要な塩素を回収するために、それ自体公知の方法で好ましくは再循環することができる。
【0034】
ホスゲン化の別の実施形態は、液相中のアミンのホスゲン化である。次いで、反応は種々の方法で実施することができ、そのそれぞれは、当業者に公知である。アミンを不活性液体媒体中でホスゲンと直接反応させる、いわゆる塩基ホスゲン化するか、またはアミンを最初に不活性液体媒体中で塩化水素ガスまたは二酸化炭素と反応させて対応する塩に変換し、次いでホスゲンと反応させる、いわゆる塩酸塩またはカルバメートホスゲン化する。全てのホスゲン化に好適な液体媒体には、特にクロロベンゼンおよび/またはジクロロベンゼンが含まれる。
【0035】
塩基ホスゲン化では、反応は、不活性液体媒体中において2段階で行われる。このような反応は、例えばW.Siefken、Liebigs Annalen der Chemie、562(1949)p.96に記載されている。第1段階、低温ホスゲン化において、反応混合物の温度は、好ましくは0℃~100℃の範囲に維持される。これは、カルバミン酸塩化物、アミン塩酸塩および少量の遊離イソシアネートを含有する懸濁液を形成する。不活性溶媒中のホスゲンの溶液を最初に充填し、次いで同じ溶媒中のアミンの溶液または懸濁液、および任意にさらなるホスゲンを添加することが好ましい。これは、遊離アミンの濃度を低く保ち、従って尿素の望ましくない形成を抑制する。
【0036】
第2段階、高温ホスゲン化において、温度を上昇させ、好ましくは120℃~200℃の範囲である。イソシアネートを与えるための反応が終了するまで、すなわちHClの発生が停止するまで、さらなるホスゲンを供給しながら、それをこの範囲に維持する。ホスゲンは、有利には過剰に使用される。必要に応じて、反応は、低温ホスゲン化および高温ホスゲン化の両方において不活性ガスを導入して行うことができる。
【0037】
塩酸塩またはカルバメートホスゲン化において、アミンは、好ましくは最初に、不活性液体媒体中で塩化水素ガスまたは二酸化炭素と反応させて、対応する塩を生成する。この塩形成中の反応温度は、好ましくは0℃~80℃の範囲である。ホスゲン化工程は、上記の塩基ホスゲン化からの高温ホスゲン化と実質的に類似する第2の工程として続く。したがって、ここでも、温度は、好ましくは120℃~200℃の範囲に保たれ、ホスゲンおよび任意に不活性ガスが反応混合物中に導入される。その導入は、イソシアネートを形成する反応が終了するまで行われる。ここでも、反応を促進するために、ホスゲンを過剰に使用することが好ましい。
【0038】
塩基ホスゲン化および塩酸塩またはカルバメートホスゲン化の両方において反応を停止した後、残りのホスゲンおよび塩化水素ガスを、不活性ガス、好ましくは窒素を用いて吹き出すことが好ましい。必要であれば、濾過を行って、例えば未変換塩酸塩のような固体を除去することができる。
【0039】
このようなホスゲン化において最初に生成される反応生成物は、所望のイソシアネートだけでなく、塩化水素、ホスゲン、溶媒の残渣、ならびに不純物および非蒸発性残渣も含有する。本発明に従って精製されるべき粗イソシアネートは、好ましくはホスゲンおよび塩化水素が、1つ以上の工程で、好ましくは蒸留によって既に分離されているような反応生成物である。
【0040】
本発明により精製されるべき粗イソシアネートが、溶媒の大部分が既に分離されている粗イソシアネートである場合、特に好ましい。したがって、粗イソシアネートは、好ましくは微量のホスゲンおよび塩化水素ならびに少量の溶媒のみを含有する。それはさらに、他の低沸点二次成分および高沸点二次成分および非蒸発性残渣を含有する。第2次成分および/または非蒸発性残渣の少なくともいくつかは、好ましくは塩素含有化合物である。
【0041】
イソシアネート中の加水分解性塩素(HC値)の含有量は、ISO 15028:2014に従って決定することができ、好ましくは、本発明に従って使用される粗イソシアネートに対して200~20000ppmである。
【0042】
本発明によれば、粗イソシアネートは、オリゴマー形成および/またはイソシアネートの分解による収率損失を最小限にするために、真空下で蒸留される。蒸留は、原則として、当業者に知られている任意の好適な蒸留装置で実施することができる。これは、一般に、粗イソシアネートの少なくとも一部を蒸発させるための少なくとも1つの蒸発装置と、このようにして生成された蒸気流を少なくとも部分的に凝縮させるための凝縮器とを含む。蒸留装置は、好ましくは分割壁を有するかまたは有さない少なくとも1つの蒸留塔をさらに含む。例えば、分離性能を改善するために、例えば、ランダムパッキング、バブルキャップトレイ、シーブトレイ、デュアルフロートレイ、構造化パッキングなど、当業者に公知の内部品を使用することが好ましい。本発明によれば、例えば、構造化パッキング、ランダムパッキングまたはデュアルフロートレイのような、低い圧力降下を引き起こす内部品を使用することが特に好ましい。
【0043】
本発明に従って使用される蒸留装置は、好ましくは流体的に、蒸留装置に負圧を発生させるための装置に接続される。本発明によれば、この装置は、液体リング圧縮機を含む。液体リング圧縮機は、他の圧縮機、例えばホスゲン化からのイソシアネートを蒸留するための乾式圧縮機と比較して大きな利点を有する。したがって、例えば、それらは、液体中に混入された液滴に対して鈍感であり、例えば、蒸気流と共に導入された有機化合物の分解による堆積物に苦しまない傾向がある。それらは同時にガススクラバーとしても機能することができ、その結果、例えば蒸気流中に存在するホスゲンが少なくとも部分的に除去されて、より興味のないオフガス流が得られる。しかし、液体リング圧縮機で達成可能な負圧(吸入圧力)は、作動原理によって制限される。
【0044】
従って、本発明によれば、特に低い圧力、例えば0.1~30mbar(a)が蒸留装置に確立される場合、蒸留装置と存在する少なくとも1つの液体リング圧縮機との間に、同じ作動原理または異なる作動原理を有する1つ以上の予圧縮機(pre-compressors)を使用することが可能である。これらは、例えば、ガスエジェクター、スクリュー圧縮機、ガスリングポンプまたは回転ブロワを含むことができる。このような実施形態では、予圧縮機と液体リング圧縮機との間で凝縮を行い、液体リング圧縮機のために搬送流を最小化することが有利である。
【0045】
本発明のさらなる実施形態において、複数の蒸留装置が、類似して、好ましくは流体的に少なくとも1つの液体リング圧縮機に接続される。これらの蒸留装置は、例えばホスゲンおよび塩化水素が既に除去されている反応アウトプットから溶媒を分離する蒸留装置、反応溶媒の後処理のための蒸留装置、残渣濃縮のための蒸留装置、ホスゲン、塩化水素および溶媒が既に除去されている粗イソシアネート濃縮物から更なる低沸点物を除去するための蒸留装置および粗イソシアネートの最終蒸留のための装置からなる群から選択することができる。
【0046】
好ましい実施形態では、複数の蒸留装置のオフガスが回収導管で組み合わされ、そこから一緒になって、少なくとも1つの液体リング圧縮機の吸引ポート内に通される。種々の蒸留装置からのオフガス流は、蒸気の凝縮後に、それぞれガス洗浄にかけることができる。オフガス流は個々に、または任意の所望の組み合わせで共通して洗浄されてもよい。個々のガス流は、オフガスが回収導管で組み合わされる前に洗浄されることが好ましい。
【0047】
適したガススクラバーには、原則としてガス流を液体流と接触させることができる全ての装置、すなわち、例えば、浸漬スクラバー、スプレースクラバー、ランダム充填塔、流動床スクラバーまたは回転スクラバーが含まれる。好ましくは、例えばランダム充填塔またはスプレースクラバーを通って流れるガスのための低い圧力降下を有するものである。凝縮されていないオフガスは、好ましくは底部から頂部へガススクラバーを通過し、一方、溶媒は向流で、すなわち、頂部から底部へスクラバーを通過する。
【0048】
ガス流の洗浄に使用される好ましい溶媒は、イソシアネートの製造に使用することもできる上述の溶媒、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、特にo-ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエン、特にo-またはm-クロロトルエン、またはそれらの混合物、好ましくはクロロベンゼンおよび/またはo-ジクロロベンゼンである。イソシアネートの製造にも使用されたガス流の洗浄に同じ溶媒を使用することが非常に特に好ましい。溶媒の温度は、好ましくは-20℃~+10℃の間であり、特に好ましくは少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度以下である。この好ましい様式において、揮発性有機化合物およびホスゲンは、オフガス流から少なくとも部分的に洗浄されて、予備精製されたオフガス流を得る。対照的に、塩化水素はこれらの条件下ではオフガス流から非常に限定された程度でのみ除去可能であり、したがって、オフガス中に大部分が残る。実際、それは、しばしば主成分である。
【0049】
本発明によれば、適した無機洗浄媒体、例えば濃硫酸中の硫酸銀の溶液で洗浄することによって、塩化水素の含有量を低減することも可能である。
【0050】
本発明によれば、少なくとも1つの液体リング圧縮機は、一般に10~200mbar(a)、好ましくは20~150mbar(a)、特に好ましくは30~120mbar(a)の圧力p(吸引圧力)で作動される。
【0051】
記載された圧力範囲は、粗イソシアネートの精製における多くの蒸留作業に十分であり、分解反応を大幅に回避しながら蒸留を可能にする。本発明によれば、より低い圧力が必要とされる場合、これは、異なる作動原理または同じ作動原理を有する予備圧縮機を使用することによって、上述のように達成することができる。
【0052】
本発明による方法において、少なくとも1つの液体リング圧縮機において液体リングを生成するための適した作動液としては、一般にイソシアネートの製造においても使用することができる溶媒、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、特にo-ジクロロベンゼン、キシレン、1-クロロ-2,4-ジメチルベンゼン、クロロトルエン、特にo-またはm-クロロトルエン、またはそれらの混合物、好ましくはクロロベンゼンおよび/またはo-ジクロロベンゼンが挙げられる。これらの作動液は、作動条件下ではほとんど不活性であり、作動液として使用するのに有利な融点および沸点を有する。作動液は、特に好ましくはイソシアネートの製造にも使用されるのと同じ溶媒である。これは、製造に使用される溶媒と一緒に実施することができるので、作動媒体の追加の後処理を省略することを可能にする。
【0053】
少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度は、現在、圧力ポートで吐出される液体の温度を意味するものとして理解されるべきである。本発明による方法における少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度は、一般に-17℃~+15℃である。より高い温度は作動液の蒸気圧を増加させ、従って、少なくとも1つの液体リング圧縮器を作動させるときに、可能な吸入圧力を減少させる。より低い作動温度は、作動液を冷却するためのエネルギーコストおよび装置の複雑さならびにその粘度を増大させる。後者の要因は、作動液を搬送するための既に高いエネルギ消費の更なる増加をもたらす。液体リング圧縮機の作動温度は、好ましくは-15℃~+12℃、特に好ましくは-12℃~+10℃である。
【0054】
ホスゲン化からの反応生成物が事前に塩化水素およびホスゲンをすでに除去していたとしても、本発明による方法における粗イソシアネートの蒸留精製で得られる、蒸留装置からのオフガスは、典型的には依然として少量のホスゲンを含有する。これは一方では前の蒸留工程におけるホスゲンの不完全な分離に起因し得るが、例えば、塩素含有低沸点二次成分からのホスゲンの除去によっても形成され得る。このホスゲンは、有利には蒸留装置において真空を発生させるための少なくとも1つの液体リング圧縮機の本発明による使用を通して、少なくとも部分的に洗浄されてもよい。これは、排ガス中のホスゲンの量を減少させ、したがって、取り扱いをより安全にし、処分をより容易にする。
【0055】
したがって、ホスゲンは、好ましくは、少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液が好ましくは0.001重量%~4.5重量%、好ましくは0.005重量%~2重量%、特に好ましくは0.01重量%~1重量%、最も好ましくは0.05重量%~0.5重量%のホスゲン含有量を有するように、作動液中に少なくとも部分的に溶解される。ホスゲンの含有量が少ないと、その後の後処理が必要となる新鮮な低ホスゲンまたはホスゲンを含まない作動液の不釣合いに高い使用が必要となる。より高い含有量への濃縮は、プラントに存在する有害物質ホスゲンの総量の望ましくない増加をもたらし、少なくとも1つの液体リング圧縮機で生じるキャビテーションの危険性を増加させる。
【0056】
しかしながら、本発明によれば、作動液中のホスゲン含有量を低く維持しても、AC値(AC value)、AC含有量(AC content)または単に酸性度(acidity)とも呼ばれる酸性塩素化合物の含有量が増加すると、キャビテーションの問題がしばしば生じることが見出された。AC値の決定は、AC値<100ppmについてはASTM D 5629に従って、AC値>100ppmについてはASTM D 6099に従って行われ、ここで、作動液はマトリックスとしてイソシアネートに取って代わる。
【0057】
少なくとも1つの液体リング圧縮機の確実な作動のためには、本発明によれば、少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口で作動液が35000ppm未満、好ましくは25000ppm未満、特に好ましくは15000ppm未満のAC値を有することが必要である。
【0058】
塩化水素の存在は、特にキャビテーションの発生の危険性を増大させる。したがって、本発明の好ましい実施形態では、圧力ポートで少なくとも1つの液体リング圧縮機から出る作動液が≦1.6重量%、好ましくは≦1重量%、特に好ましくは≦0.5重量%、非常に特に好ましくは≦0.2重量%であるHCl含有量を有するように、本方法が作動される。HClの含有量は、好ましくは少なくとも1ppm、特に好ましくは少なくとも10ppm、極めて特に好ましくは少なくとも20ppmおよび最も好ましくは少なくとも50ppmである。
【0059】
これにより、本発明による方法において、キャビテーションを著しく減少させることができ、または完全に回避することさえできる。当業者であれば、キャビテーションの発生にも役割を果たす要因には、作動温度、吸引圧力、および不活性ガスを含む任意のガスバラストが含まれ得ることを知っている。より高い作動温度、より低い吸引圧力、およびより低いまたは不足するガスバラストは負の結果を有し、したがって、このような場合、HCl含有量をより厳密に制限することが望ましい。さらに、上記のように、作動液中のホスゲン含有量も役割を果たす。キャビテーションの傾向は、作動液中のホスゲン含有量が増加することにつれて増加し、したがって、さらに低い塩化水素含有量を確立することが有利である。
【0060】
好ましい実施形態において、本発明は、本発明による方法を提供し、ここで、少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口での作動液中のホスゲンの含有量c(COCl)は、0.001重量%~4.5重量%、好ましくは0.005重量%~2重量%、特に好ましくは0.01重量%~1重量%、最も好ましくは0.05重量%~0.5重量%であり、塩化水素の含有量c(HCl)は≦1.6重量%、好ましくは≦1重量%、特に好ましくは≦0.5重量%、非常に特に好ましくは≦0.2重量%である。
【0061】
したがって、特に好ましい実施形態において、圧縮機を出る際の作動液中の塩化水素の含有量が、一般式(I)による最大含有量cmax(HCl)未満であり、ここで、式の結果が0.01%未満である場合、0.01重量%の最大含有量cmax(HCl)が適用される:
【数1】
ここで、cmax(HCl)、psuct、Tおよびc(COCl)は、次のように定義される:
Max(HCl) 作動液中の塩化水素の最大含有量(重量%)
suct 液体リング圧縮機の吸入圧力(mbar(a))
T 液体リング圧縮機の作動温度(℃)
c(COCl) 作動液中のホスゲン含有量(重量%)
【0062】
作動液中のホスゲンおよびHClの含有量は、本発明によれば異なる方法で、場合によっては互いに独立して影響を受け得る。既に上述したように、例えば、液体リング圧縮機に接続された蒸留装置からの、好ましくは流体的に、すなわち、この蒸留装置における真空の発生に寄与する少なくとも1つのオフガス流を、ガススクラバーにおいてガス洗浄に供することが可能である。これは、ホスゲンおよび/または塩化水素の液体リング圧縮機への導入が、使用される洗浄液および温度、飽和度、液体量などの作動条件によって影響されることを可能にする。あるいは、作動液自体を、例えば不活性ガスでストリッピングすることによって処理してもよい。これは、少なくとも1つの液体リング圧縮機自体において、または別個の装置において外部で実施されてもよい。
【0063】
本発明による方法のさらなる好ましい実施形態において、作動液中の塩化水素および/またはホスゲンの含有量が、使用済みの作動液を少なくとも部分的に新鮮な/後処理された作動液で置き換えることによって影響される。この実施形態の特別な場合は、作動液が液体リング圧縮機を出た後に加熱されて、予め溶解された揮発性化合物を放出し、分離し、次いで、再び冷却されて、作動液として液体リング圧縮機に再導入される方法を表す。
【0064】
また、作動液の一部は、圧力ポートで圧縮ガスとともに噴出される。本発明による方法の好ましい実施形態において、圧力ポートから出る液体、好ましくはガスおよび作動液を含む液体は、少なくとも1つの液体リング圧縮機から出た後に液体分離器で分離される。分離された作動液の少なくとも一部が、好ましくは冷却器で冷却された後に、再循環導管を介して再循環される、すなわち作動液のための入口ポートに再循環されることが好ましい。好ましくは本発明に従って実施される冷却は、例えば圧縮、凝縮および吸収から生じる熱を有利に除去し、所望の範囲の作動温度を確立することを可能にする。
【0065】
作動液の副流が連続的にまたは不連続的にシステムから除去され、新鮮なまたは後処理された作動液(以下、交換作動液と呼ぶ)と交換されることが好ましい。これにより、少なくとも1つの液体リング圧縮機からの出口における作動液中のホスゲン含有量を、本発明による範囲に有利に調節することができる。交換作動液は、様々な時点でシステム内に導入することができる。前記液体は例えば、再循環導管に導入されてもよく、少なくとも1つの液体リング圧縮機自体の別個の作動液ポートを介して供給されてもよく、または液体分離器に導入されてもよい。好ましくは、作動液中への導入前に、置換作動液を、少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度より20℃以下、好ましくは15℃以下、特に好ましくは10℃以下、非常に特に好ましくは5℃以下高い温度にする。交換作動液の温度は、液体リング圧縮機の作動温度以下であることが特に好ましく、交換作動液の凝固温度以上である。交換作動液は、好ましくは≦1000ppm、好ましくは≦100ppm、特に好ましくは≦20ppmのホスゲンの含有量を有する。さらに、交換作動液は、好ましくは≦250ppm、好ましくは≦100ppm、特に好ましくは≦50ppmの塩化水素を含有する。<1ppm、好ましくは<5ppm、特に好ましくは<10ppmの塩化水素含有量は、本質的にもはや方法の改善に寄与せず、したがって必要ではない。
【0066】
したがって、本発明は、好ましくは本発明による方法を提供し、ここで、作動液の少なくとも一部が、少なくとも1つの液体リング圧縮機から連続的に引き出され、少なくとも1つの液体リング圧縮機の作動温度より20℃以下、好ましくは15℃以下、特に好ましくは10℃以下、非常に特に好ましくは5℃以下低い温度に冷却され、次いで、少なくとも1つの液体リング圧縮機に連続的にリサイクルされる。
【0067】
好ましい実施形態において、交換作動液は、溶媒を含有し、好ましくはホスゲン化において既に使用されており、好ましくは蒸留によって後処理された溶媒からなる。この場合、前記溶媒は好ましくは≦1000ppm、好ましくは≦100ppmおよび特に好ましくは≦20ppmであるが、同時に好ましくは≧1ppm、特に好ましくは≧5ppmおよび特に好ましくは≧10ppmのホスゲン含有量を有する。ホスゲン含有量のさらなる減少は、溶媒の精製のために、不釣合いに高いコストおよび複雑さを必要とする。
【0068】
したがって、本発明は、好ましくは本発明による方法を提供し、ここで、少なくとも1つの液体リング圧縮機における作動液が≦1000ppm、好ましくは≦100ppm、特に好ましくは≦20ppmのホスゲン含有量を有する作動液によって少なくとも部分的に、好ましくは連続的に置き換えられる。
【0069】
本発明はまた、好ましくは本発明による方法によって得ることが可能なイソシアネート、得られるイソシアネートを提供する。
【実施例
【0070】
作動液のAC値(酸性度)の決定方法:
AC値(酸性度)の決定は、AC値<100ppmについてはASTM D 5629に従って、AC値>100ppmについてはASTM D 6099に従って行われ、ここで、それぞれの作動液は、マトリックスとしてその方法において言及されるイソシアネートに取って代わる。
【0071】
作動液中のホスゲン含有量の決定方法:
作動液のホスゲン含有量は、赤外分光法によって測定することができる。この目的のために、対応する純粋な作動媒体および作動液の試料の吸光スペクトルが測定される。次に、純粋な作動媒体のスペクトルを差し引いた後、作動液のスペクトルの約1806cm-1におけるホスゲンのカルボニルバンドの強さを測定する。ホスゲン含有量の決定は、それぞれが既知のホスゲン含有量を有する試料を用いて、それらの起源を考慮しながら較正することによって行われる。適当な経路長のCaFキュベットで計測を行い、吸光度が、希釈後の必要に応じて、4cm-1の分解能と少なくとも4回のスキャンで0.01~1.50の範囲内にあるようにする。
【0072】
作動液中のHCl含有量の決定:
本ケースにおいて、作動液のHCl含有量(塩化水素含有量)は、ホスゲン含有量と作動液のAC値(酸性度)との差である。
【0073】
実施例1:
ヘキサメチレンジアミンの気相ホスゲン化から得られたヘキサメチレンジイソシアネートであって、多段蒸留プロセスにおいて塩化水素、ホスゲン、クロロベンゼンおよび低沸点二次成分が既に大部分除去されているものを、粗イソシアネートとして真空下で連続最終蒸留に供した。粗イソシアネートは、ISO 15028:2014に従って、約8000ppmのHC含有量を有していた。蒸留は、内部凝縮器を備えた塔において、50mbar(a)のヘッド圧で行った。塔頂部から出る蒸気を、ガススクラバーにおいて、クロロベンゼンで洗浄した。洗浄された蒸気流を冷却器で-11℃まで冷却し、液体リング圧縮機で吸引して負圧を発生させた。吸引ポートのすぐ上流に設置された圧力センサは、30mbarの吸引圧力を示した。液体リング圧縮機は、再循環液作動において-2℃の作動温度でクロロベンゼンを作動液として作動された。すなわち、出て行く作動液は冷却器を介して作動液用の入口に戻ってリサイクルされた。作動液の一部が連続的に排出され、ホスゲン含有量10ppmおよび塩化水素含有量2ppmを有する再蒸留クロロベンゼンで置き換えられた。交換される作動液の量は、圧力側で出る作動液において2150ppmのAC値が確立されるように、規則的な間隔で適合された。ホスゲン含有量は0.25重量%と決定され、それに応じて計算された塩化水素含有量は0.03重量%であった。
【0074】
液体リング圧縮機は、キャビテーションの問題なしに長時間作動できた。
【0075】
実施例2:
蒸留は、実施例1と同様に行ったが、今回、オフガス流は、回収導管における反応生成物からの溶媒分離のための塔からのオフガス流と組み合わされた。溶媒分離からのオフガス流は、主成分として塩化水素を有し、さらにクロロベンゼンおよび微量のホスゲンを含んでいた。次いで、回収導管からの合わされたオフガス流を、実施例1からの洗浄された蒸気流と同じさらなる処理に供した。
【0076】
液体リング圧縮機の作動液の交換率は、圧力側で出る作動液において、9000ppmのAC値が確立されるように選定した。ホスゲン含有量は0.007重量%と決定され、それに応じて計算された塩化水素含有量は0.9重量%であった。
【0077】
液体リング圧縮機は長時間作動できたが、わずかなキャビテーションノイズが周期的に聞こえた。
【0078】
実施例3:
実施例2の作動状態から出発して、試験作動において、作動液の交換率を低下させ、圧力側に出る作動液のAC値を18100ppmに増加させた。ホスゲン含有量は0.014重量%と決定され、それに応じて計算された塩化水素含有量は1.8重量%であった。
【0079】
このようにして液体リング圧縮機を作動させると、より激しいキャビテーションノイズ、振動および吸入口で測定される圧力の上昇もたらされた。
【0080】
この問題は、運転温度を-12℃に下げ、吸引ポート内の圧力を80mbar(a)に上げることによって克服することができた。
【0081】
実施例4:
トリレンジアミンの気相ホスゲン化から得られ、多段蒸留プロセスで塩化水素、ホスゲンおよびo-ジクロロベンゼンが既に大部分除去されているトリレンジイソシアネートを粗イソシアネートとして真空下で連続最終蒸留に供した。粗イソシアネートは、ISO 15028:2014に従って、約12000ppmのHC含有量を有していた。蒸留は内部凝縮器を有する分割壁塔において、ヘッド圧力135mbar(a)で実施し、ここで、低沸点二次成分およびo-ジクロロベンゼンを含有する流れを塔の頂部から取り出し、精製されたトリレンジイソシアネートを副流として得た。塔頂部から出る蒸気を、ガススクラバーにおいてo-ジクロロベンゼンで洗浄した。洗浄された蒸気流を冷却器で2℃まで冷却し、液体リング圧縮機で吸引して負圧を発生させた。吸引ポートのすぐ上流に設置された圧力センサは、120mbarの吸引圧力を示した。液体リング圧縮機は、再循環液作動において作動温度7℃で、作動液としてo-ジクロロベンゼンで作動された。すなわち、出て行く作動液は、冷却器を介して作動液用の入口に戻ってリサイクルされた。作動液の一部が連続的に排出され、ホスゲン含有量10ppmおよび塩化水素含有量2ppmを有する再蒸留o-ジクロロベンゼンで置き換えられた。交換される作動液の量は、圧力側で出る作動液において950ppmのAC値が確立されるように、規則的な間隔で適合された。ホスゲン含有量は0.02重量%と決定され、それに応じて計算された塩化水素含有量は0.08重量%であった。
【0082】
液体リング圧縮機は、キャビテーションの問題なしに長時間作動できた。
【0083】
比較例5:
ペンタメチレンジアミンのホスゲン化から得られ、塩化水素、ホスゲン、クロロベンゼンおよび低沸点二次成分が多段蒸留プロセスで既に大部分除去されているペンタメチレンジイソシアネートを、粗イソシアネートとして真空下で連続最終蒸留に供した。粗イソシアネートは、ISO 15028:2014に従って、約13000ppmのHC含有量を有していた。蒸留は、内部凝縮器を備えた塔において、ヘッド圧45mbar(a)で行った。塔頂部で出る蒸気は、前述のガススクラバーを使用せずに、冷却器で-12℃まで冷却し、液体リング圧縮機で吸引して負圧を発生させた。吸引ポートのすぐ上流に設置された圧力センサは、30mbarの吸引圧力を示した。液体リング圧縮機は、再循環液作動において-9℃の作動温度でクロロベンゼンを作動液として作動された。すなわち、出て行く作動液は冷却器を介して作動液用の入口に戻ってリサイクルされた。作動液の一部は連続的に排出され、ホスゲン含有量10ppmおよび塩化水素含有量2ppmの再蒸留クロロベンゼンで置き換えられた。
【0084】
激しいキャビテーションノイズ、振動および吸入圧力の増加があった。圧力側で出る作動液の分析は、38600ppmのAC値を示した。ホスゲン含有量は2.8重量%と決定され、それに応じて計算された塩化水素含有量は1.8重量%であった。作動温度を-14℃まで下げても、その問題を修正することはできなかった。
【0085】
その後、作動液の交換率を3倍にし、その結果、AC値は約12900ppmに低下し、動作は正常に戻り、それ故に、作動温度をさらに問題なく-9℃に戻すことも可能になった。
【国際調査報告】