(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(54)【発明の名称】超分岐ポリグリセロールポリグリシジルエーテルおよび多糖用の架橋物質としてのその使用
(51)【国際特許分類】
C08B 37/08 20060101AFI20221128BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20221128BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20221128BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20221128BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20221128BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20221128BHJP
A61K 31/718 20060101ALI20221128BHJP
A61K 31/717 20060101ALI20221128BHJP
C08B 31/08 20060101ALI20221128BHJP
C08B 11/12 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C08B37/08 Z
A61Q19/00
A61K8/73
A61K31/728
A61P19/02
A61P17/02
A61K31/718
A61K31/717
C08B31/08
C08B11/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519720
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(85)【翻訳文提出日】2022-05-18
(86)【国際出願番号】 EP2020077342
(87)【国際公開番号】W WO2021064006
(87)【国際公開日】2021-04-08
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522122798
【氏名又は名称】バイオポリメリ エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デ ベネディクティス,ヴィンセンゾ マリア
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
4C090
【Fターム(参考)】
4C083AD241
4C083AD271
4C083AD331
4C083CC02
4C083EE01
4C083EE12
4C083FF01
4C086AA01
4C086AA04
4C086EA20
4C086EA25
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA03
4C086ZA96
4C090AA02
4C090AA05
4C090AA08
4C090AA09
4C090BA16
4C090BA17
4C090BA29
4C090BA67
4C090BB92
4C090CA36
4C090DA23
4C090DA26
(57)【要約】
本発明は、750~15,000Daの分子量、および183~7,000g/eqのエポキシ当量を有する超分岐ポリグリセロールポリグリシジルエーテルに関する。本発明はまた、多糖を超分岐ポリグリセロールポリグリシジルエーテルと架橋することによって得られる架橋多糖に関する。本発明はまた、それらの調製方法ならびに治療、化粧品、農業および食品分野におけるそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物、
または代替的に、
式(II)の化合物であって、
式中、各R
1は、R
2およびR
3からなる群から独立して選択され;
R
2は、
であり、
R
3は、
であり、
bは、1~70からなる群から選択される整数であり;
cは、1~70からなる群から選択される整数であり;
dは、1~70からなる群から選択される整数であり;
前記化合物は、
液体クロマトグラフィによる方法によって測定される750~15,000Daの分子量(M
w)を有し;
HClを用いた超音波利用高速滴定によって測定される183~7,000g/eqのエポキシ当量を有する、
化合物。
【請求項2】
前記分子量(Mw)が、液体クロマトグラフィによる方法によって測定して800~7000Daであり;
前記エポキシ当量が、HClを用いた超音波利用高速滴定によって測定して195~700g/eqである、
請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記分子量が、液体クロマトグラフィによる方法によって測定して900~4500Daであり;
前記エポキシ当量が、HClを用いた超音波利用高速滴定によって測定して200~600g/eqである、
請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
液体クロマトグラフィによって測定される1.8以下の多分散指数(M
W/M
n)を有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
式(III)の架橋多糖、
または代替的に、
式(IV)の架橋多糖であって、
式中、各R
1は、R
2、R
3、R
4およびR
5からなる群から独立して選択され;
R
2は、
であり、
R
3は、
であり、
R
4は、
であり、
R
5は、
であり、
PSは、多糖であり;
前記架橋多糖は、0.077~0.450%の架橋率を有する、
架橋多糖。
【請求項6】
PSが、多糖であり;前記架橋多糖が、0.077~0.269%の架橋率を有する、
請求項5に記載の架橋多糖。
【請求項7】
R
2の量が、式(III)および(IV)の架橋多糖の総重量に対して2ppm未満である、
請求項5または6に記載の架橋多糖。
【請求項8】
相対酵素分解速度が、100%~37.9%であり;
相対酸化分解速度が、100%~76.8%である、
請求項5から7のいずれか1項に記載の架橋多糖。
【請求項9】
前記多糖が、ヒアルロン酸、デンプンおよびその誘導体、グリコーゲン、セルロースおよびその誘導体、ペクチン、リグニン、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸(アルギネート)、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グルクロナン、グルコマンナン、ガラクトマンナンならびにカラギーナンからなる群から選択される;好ましくはヒアルロン酸である、
請求項5から8のいずれか1項に記載の架橋多糖。
【請求項10】
2つの架橋基間の平均距離(D
N)が、27nm~42nmである、
請求項5から9のいずれか1項に記載の架橋多糖。
【請求項11】
前記多糖の濃度が、1~50mg/mlである、
請求項5から10のいずれか1項に記載の架橋多糖。
【請求項12】
前記多糖を、請求項1から4のいずれか1項に記載の、式(I)の化合物、式(II)の化合物およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物と架橋するステップを含む方法によって得ることができる、
請求項5から11のいずれか1項に記載の架橋多糖。
【請求項13】
前記多糖を式(I)の化合物と架橋するステップを含む方法によって得ることができる請求項12に記載の架橋多糖であって、前記式(I)の化合物が、
a)1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
b)ステップa)で得られた前記溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む方法によって得られる請求項12に記載の架橋多糖;
または代替的に、
前記多糖を式(II)の化合物と架橋するステップを含む方法によって得ることができる請求項12に記載の架橋多糖であって、前記式(II)の化合物が、
c)1,2-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
d)ステップc)で得られた前記溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む方法によって得られる請求項12に記載の架橋多糖;
または代替的に、
前記多糖を式(I)の化合物および式(II)の化合物の混合物と架橋するステップを含む方法によって得ることができる請求項12に記載の架橋多糖であって、
前記式(I)の化合物が、
a)1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
b)ステップa)で得られた前記溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む方法によって得られ;
前記式(II)の化合物が、
c)1,2-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
d)ステップc)で得られた前記溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む方法によって得られる請求項12に記載の架橋多糖。
【請求項14】
ステップa)において、前記アルカリ溶液が、1~50重量パーセントの1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを含み;
ステップc)において、前記アルカリ溶液が、1~50重量パーセントの1,2-グリセロールジグリシジルエーテルを含む、
請求項13に記載の架橋多糖。
【請求項15】
請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物(I)または代替的に式(II)の化合物の調製方法であって;
前記化合物が式(I)の化合物である場合、前記方法は、
a)1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
b)ステップa)で得られた前記溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含み;
または代替的に、
前記化合物が式(II)の化合物である場合、前記方法は、
c)1,2-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
d)ステップc)で得られた前記溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む調製方法。
【請求項16】
請求項5から14のいずれか1項に記載の架橋多糖の1つ以上と、
1つ以上の適切な賦形剤または担体と、
を含む組成物。
【請求項17】
治療有効量の請求項5から14のいずれか1項に記載の1つ以上の薬学的に許容される架橋多糖と、治療に使用するための1つ以上の薬学的に許容される賦形剤または担体と、を含む医薬組成物である、
請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
化粧品有効量の請求項5から14のいずれか1項に記載の1つ以上の化粧品として許容される架橋多糖と、スキンケア剤としての、特に皮膚充填剤としての1つ以上の化粧品として許容される賦形剤または担体と、を含む化粧品組成物である、
請求項16に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月1日に出願された欧州特許出願第19200803.5号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、超分岐ポリグリセロールポリグリシジルエーテルに関する。特に、本発明は、750~15,000Daの分子量、および183~7,000g/eqのエポキシ当量を有する超分岐ポリグリセロールポリグリシジルエーテルに関する。本発明はまた、多糖を超分岐ポリグリセロールポリグリシジルエーテルと架橋することによって得ることができる架橋多糖(架橋された多糖)、その調製方法、ならびに食品、医薬品、化粧品および農業産業におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
多糖としても知られる炭水化物は、地球上で最も豊富で容易に入手可能な安価な生体分子および再生可能資源であり、年間形成率は合成ポリマーの世界生産率を何桁も上回っている。それらは、太陽のエネルギーによって合成され、完全に生分解性の持続可能な材料である。多糖は、すべての生物に存在し、様々な特定の機能を実行するように自然に設計されている。
【0004】
重要な化学原料およびエネルギー生産としての潜在的な使用に加えて、多糖は、多種多様な複雑な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たすことが認識されている。それらは、タンパク質および他の生物学的実体との相互作用を介した認識プロセスや、細胞増殖調節、分化、接着、癌細胞転移、細胞輸送、細菌およびウイルスによる炎症、ならびに免疫応答を含む細胞認識プロセスを媒介することに大きく関与している。
【0005】
最も知られている多糖の1つはセルロースである。セルロースは、高等植物の少なくとも3分の1の成分であり、したがって、最も豊富な天然に存在する再現性のある有機化合物であることは疑いない。その最も単純な形態において、セルロースは、異なる様式で配置されて異なる形態のセルロースを生じ得るβ-1,4-結合グルカン鎖で構成される。その化学構造は、以下の式に対応する。
【0006】
【0007】
自然界では、セルロースは、グルカン鎖が互いに会合して、ミクロフィブリル等の高次構造に組み立てられる結晶領域および非結晶領域を形成する階層的な様式で生成される。セルロースは、一般に、グルカン鎖が互いに平行に整列したセルロースI結晶形態として得られる。天然結晶性ポリマーの2つの形態、セルロース、IαおよびIβは、異なる供給源から得られた異なる量で存在することが示されている。
【0008】
特に、カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)は、繊維状植物材料の天然株から直接得られるセルロースのカルボキシメチルエーテルのナトリウム塩として定義される。NaCMC分子は、β-D-グルコース単位の塩基を有するポリマーであり、その遊離ヒドロキシル基は、カルボキシメチル基によって部分的に置換されている。その化学構造は、RがHまたはCH2CO2Naである以下の式に対応する。
【0009】
【0010】
セルロース誘導体NaCMCは、当初はデンプンおよび天然ガムの代替として使用された。大量のこのセルロース誘導体は、紙、織物加工、洗剤、掘削流体、および保護コーティングに使用される。セルロースガムとして知られる精製グレードは、食品、医薬品、および化粧品産業で広く使用されている。
【0011】
別の一般的に使用される多糖はデンプンであり、豊富で天然に存在する。これは、全ての緑色植物の葉、ならびに大部分の植物の種子、果実、茎、根および塊茎に見られる。ほとんどのデンプンは、アミロースと呼ばれる直鎖α-(1→4)結合グルカン、およびアミロペクチンと呼ばれる4.2~5.9%のα-(1→6)分岐結合を有するα-(1→4)結合グルカンの2種類の多糖で構成されている。アミロースおよびアミロペクチン単位の化学構造は、それぞれ以下の式に対応する。
【0012】
【0013】
【0014】
デンプンは、光合成の最終生成物として生じ、地球上の太陽のエネルギーの化学貯蔵形態として働く。ヒトによるカロリー摂取量の60~70%はデンプンに由来すると推定される。全てのデンプンは、葉の葉緑体および他の植物組織のアミロプラストにおいて水不溶性粒子または顆粒として植物に貯蔵される。顆粒は、半結晶性の特性を有する比較的緻密な分子の粒子である。
【0015】
デンプンのα-(1→4)結合を加水分解する酵素の主要なカテゴリーが、α-アミラーゼである。これらの酵素は遍在的であり、細菌、真菌、植物および動物によって産生される。哺乳動物では、2つの特定の供給源、すなわち口の中に酵素を分泌する唾液腺および小腸の中に酵素を分泌する膵臓が存在する。α-アミラーゼは、高分子デンプン鎖の内部を攻撃して粘度を急速に低下させる内生作用酵素である。これらの特性のために、それらは液化酵素と呼ばれることがある。α-アミラーゼがデンプン鎖に遭遇し、α-(1→4)結合を加水分解すると、それらはまた、最初に切断された2つの鎖の一方に対する多重攻撃と呼ばれるプロセスによって、低分子量マルトデキストリンを産生する。デンプンは、多くの食品および非食品用途で広く使用されている一般的な成分である。しかしながら、天然デンプンの適用は、低い剪断抵抗性および熱安定性、熱分解ならびに高い老化傾向等の物理化学的特性における欠点のために制限されることが多い。
【0016】
デンプンは、食品加工のための添加物として使用され、食品デンプンは、典型的には、増粘剤、増量剤、乳化安定剤として食品に使用され、加工肉における例外的な結合剤である。製薬業界では、デンプンは賦形剤、錠剤崩壊剤、結合剤および血漿増量剤としても使用されている。デンプンは、加工または貯蔵中に頻繁に遭遇する条件下、例えば高熱、高剪断、低pH、凍結/解凍および冷却下でデンプンが適切に機能するように化学修飾され得る。耐性デンプンは、健康な個体の小腸での消化を逃れるデンプンの一種である。これは、加工食品中の不溶性食物繊維として、およびその健康上の利点のための栄養補助食品として使用される。耐性デンプンは、インスリン感受性を改善するのに役立ち、満腹感を増加させ、結腸機能のマーカーを改善する。
【0017】
さらに、別の分岐多糖は、動物、真菌、および細菌におけるエネルギー貯蔵の形態として働くグルコースの多分岐多糖であるグリコーゲンである。多糖構造は、体内のグルコースの主な貯蔵形態を表し、グリコーゲンは、アミロペクチンのような構造を有するデンプンの類似体であるが、より広範に分枝し、コンパクトである。
【0018】
最後に、ヒアルロナンまたはヒアルロン酸ナトリウムとも呼ばれるヒアルロン酸(HA)は、アニオン性の非硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)である。HAは、交互のβ-(1→4)およびβ-(1→3)グリシド結合を介して連結された、D-グルクロン酸およびN-アセチル-D-グルコサミンの繰り返しモノマーからなる直鎖高分子量多糖である。その化学構造は、以下の式に対応する。
【0019】
【0020】
HAは、人体全体に広く分布しており、結合組織、上皮組織および神経組織の成分であり、脳細胞外マトリックス(ECM)を含むECM中の主要な要素を形成し、その欠乏または欠如はてんかん障害の原因となり得る。これは、滑液および眼の硝子体液を含むほぼ全ての生物学的流体中に存在する。これは、特に関節において潤滑剤および衝撃吸収剤として作用し、軟骨が絶えず受ける物理的ストレスによって誘発される細胞損傷を防ぎ、軟骨を健康に保つのに役立つ。最大量のHAは、体内の総含有量の50%超を含有する皮膚に見られる。正常状態では、HAは遊離ポリマーとして存在するが、いくつかの組織では、様々なタンパク質に結合してプロテオグリカンまたは特異的細胞受容体を生成する。
【0021】
HAの主な機能は、体積を作り出し、組織に潤滑剤を提供し、細胞ならびにコラーゲンおよびエラスチン繊維等の他のECM成分がしっかりと維持される、開放され水和した安定な細胞外空間を維持することである。HAはまた細胞活性にも関与し、細胞接着、細胞遊走および細胞増殖の調節を担う。特に、高分子量HAは抗血管新生および抗炎症特性を示すが、低分子量断片(<100kDa)は反対の生物学的活性を有し、それらは炎症性、免疫刺激性および血管新生性である。創傷治癒における、ならびにCD44細胞受容体が過剰発現される腫瘍成長および癌増殖におけるHAおよびHA断片の機能が広く開示されている。ヒト組織のものと非常に類似しているHAの独特の生物学的特性のために、HAは長年にわたって大きな注目および関心を集めてきた。これらの特性により、HAは、創傷治癒、変形性関節症における潤滑剤、組織増強および薬物送達系のための担体等の様々な生物医学的用途に使用することが可能になっている。しかしながら、天然HAは、その不十分な機械的特性およびインビボでの急速な分解のために、用途が非常に限られている。
【0022】
多糖は広く分解され得ることが、最新技術において開示されている。多糖、特にHAの分解は、グリコシド結合開裂によって媒介される解重合プロセスと見なすことができ、これは主に、酵素分解(特異的酵素ヒアルロニダーゼによって選択的かつ非常に迅速に促進される);および酸化分解(非選択的であり、フリーラジカル(ROS)および組織の炎症中に存在し得る酸化促進性酵素活性によって促進されにくい)の2つの機構を伴う。さらに、上記の機構とは別に、組織中の水および電解質による加水分解非選択的分解機構が常に存在する。
【0023】
特に、HA分解は、所望の生物学的機能のために正確に定義されたサイズのHA断片を生成するように高度に組織化され、厳密に制御されたプロセスであると想定される。HYAL1およびHYAL2は、最も広く発現されているヒアルロニダーゼである。(細胞膜に固定された)HYAL2は、高分子量HA(>1MDa)を20kDaの断片に切断し、(リソソームに見られる)HYAL1はその後、これらの断片をさらに四糖に切断し、次いでこれがヒアルロニダーゼファミリーのいくつかの酵素(例えば、β-グルクロニダーゼ、β-N-アセチルグルコサミニダーゼ)によって単糖に変換される。これらの分解産物は人体に天然であるため、自然な除去プロセスに従う。上記のように、HAはまた、活性酸素種(ROS)によって生物内で自然に分解され得る。HA分解の機構は、関与するROSによって異なる。大きさにかかわらず、組織環境に対する妨害は、身体の免疫系を活性化し、一過性の炎症反応をもたらし得る。充填剤注入中の針の貫通によって引き起こされる組織への機械的損傷も、そのような反応をもたらし得る。前述の分解機構のために、天然多糖の注射後のインビボ代謝回転は非常に短く、例えばヒアルロン酸の場合、埋め込まれた組織の特異的酵素活性に応じて24時間未満である。しかしながら、そのインビボ持続時間、ひいてはその治療効果は、ROSおよび炎症促進性酵素の存在に起因して、酸化ストレスによる分解後にさらに減少し得る。
【0024】
多糖、特にHAの安定性および生体適合性に関するこれらの欠点を克服するために、HAのインビボ半減期を拡大するために多糖の物理的および機械的特性を調節するためのいくつかの戦略が開示されている。
【0025】
これらの戦略の1つは、強化された安定性およびより長い滞留時間(すなわちより低い劣化速度)を有する架橋HA等の架橋多糖の調製を暗に意味する。架橋多糖、特に架橋HAを生成するためのいくつかの方法が、最新技術において開発されている。得られる架橋HAは、そのネットワーク内に水を保持するが水に溶解しない共有架橋結合によって形成された三次元(3D)ネットワーク構造を有する架橋HAヒドロゲルである。
【0026】
化学的架橋ヒドロゲルは安定な材料であり、架橋の形成およびHA鎖と架橋物質との間の分子間結合のため、天然HAよりも酵素分解に対してはるかに高い耐性を示す。さらに、この3D構造は、それらの抗炎症活性(ポリオール)のために、酸化分解に対する耐性にも寄与し得る。ヒドロキシル基の修飾を有する上述の架橋HAヒドロゲルは、それらを皮膚充填剤の開発に使用することを可能にする。これに関して、メタクリルアミド、ヒドラジド、カルボジイミド(EDC)、ジビニルスルホン(DVS)、エピクロロヒドリンならびにいくつかのジエポキシ化合物およびジグリシジルエーテル、例えば1,2,7,8-ジエポキシオクタン、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル(PEGDE)およびグリセロールジグリシジルエーテル(GDE)を含むいくつかの化学的架橋物質が、架橋多糖を調製するための適切な架橋物質として最新技術において開示されている。
【0027】
より高い架橋度を有する架橋多糖(架橋HAヒドロゲル等)が、インビボでのそれらのより高い寿命および機械的強度のために好ましいことが、最新技術において知られている。より強力な架橋HAヒドロゲルはまた、組織を隆起させ、その後の変形に抵抗するのに十分な力を提供することができる。しかしながら、健康の観点から、HA修飾における高含有量の化学的架橋物質の組み込みは実現可能ではない。過剰量の架橋物質は、移植後にヒドロゲルが接触している細胞および組織に対して毒性であることが多い。さらに、過剰量の毒性架橋物質は、細胞の分化および増殖を妨げる可能性があり、さらに、その製造中にヒドロゲルマトリックスに組み込まれた他の生物活性成分(遊離ポリオール、酸化防止剤、アミノ酸、緩衝剤、麻酔薬、薬物等)との望ましくない反応を生じる可能性がある。
【0028】
ジビニルスルホン(DVS)は、BDDEの導入前に市場でほとんどの皮膚充填剤の架橋に使用されていた架橋物質であり、現在でもいくつかの市販製品で使用されている。架橋剤としてのその能力は、分子の2つの末端に存在する活性化ビニル基の反応性に起因する。反応は、アルカリ環境(求核剤)中で負に帯電し、多糖鎖上に存在するヒドロキシル基の二重ビニル結合への付加によって生じ、その結果エーテル結合が形成される。反応は求核付加であり、分子または基は化学反応後に放出されない。しかしながら、DVS架橋ヒアルロン酸皮膚充填剤は、酵素阻害剤として作用するスルホン基の存在に関連し得る酵素分解のいくつかの問題を示しており、したがって充填剤は、移植後の有害反応の場合にヒアルロニダーゼの注射によって除去することが困難である。その結果、DVSは、BDDE等の他の架橋物質のために徐々に廃れていった。さらに、DVSは合成起源の外来分子であり、BDDEよりも優れたある程度の毒性を有し、非常に揮発性で刺激性があり、これは皮膚充填剤製造業者にとってさえ問題となる。
【0029】
1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)およびHAとのその反応は、最新技術において開示されている。特に、HA溶液がアルカリ条件下でBDDEと混合され、エーテル結合が形成された。この反応はエポキシ開環プロセスを伴い、アルカリ媒体中で行われ、そこでエポキシ環が優先的にヒドロキシル基と反応してエーテル結合を形成する。BDDEは、現在市販されているHA系皮膚充填剤の調製に一般的に使用されている。その架橋能力は、分子の2つの末端に存在するエポキシ基の反応性に起因する。未反応のBDDEは、ショウジョウバエ(Drosophila)モデル生物において変異原性であることが見出されているが、マウスにおいては決定的な発癌効果は観察されていない。それにもかかわらず、またその変異原性の可能性のために、皮膚充填剤中の未反応BDDEの量は、微量(すなわち残留レベル)に維持されなければならない。この微量レベルは、食品医薬品局(FDA)の安全性リスク評価後に安全であると判断されている。一方、加水分解されたBDDEは、BDDE中のエポキシド基の加水分解または架橋BDDEの加水分解開裂から生じるジオール-エーテルである。しかしながら、加水分解されたBDDEの代謝は最新技術において説明されておらず、シトクロムP450と呼ばれる酵素のファミリーによるエーテル結合切断を介して進行すると理解されている。対照的に、天然BDDEおよび代謝されたブタンジオールは両方とも、合成起源(石油)の外来分子であり、ある程度の毒性を有する。
【0030】
したがって、BDDEおよびその代謝された誘導体分子の潜在的な毒性、ならびにBDDEの量の厳密な調節制御のために、BDDEもまた、他の安全性架橋物質によって徐々に置き換えられている。
【0031】
改善された物理的および化学的特性を有する安全性架橋多糖を調製するための安全性架橋物質を提供するために、いくつかの研究は、グリセロールジグリシジルエーテル(GDE)の使用を開示した。GDEは、グリセロールのビス-置換グリシジルエーテルである。特に、GDEの化学構造は、以下の式に示されるように、1,3-GDEおよび1,2-GDEに対応し得る。
【0032】
【0033】
しかしながら、最新技術では、GDEは、その化学構造が不確定であるために「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」または「ポリグリセロールジグリシジルエーテル」(PPE)と誤って呼ばれており、これは、グリセロールのビス-置換グリシジルエーテルとグリセロールのモノ置換グリシジルエーテル、さらにはトリ-置換グリシジルエーテルとの混合物としてしばしば市販されている。
【0034】
グリセロールは、循環遊離形態で、または脂肪組織もしくは細胞膜のリン脂質中のトリグリセリドの形態の結合状態の両方で、すべてのヒト組織に天然に存在する内因性分子であるため、GDEの使用は特に有利である。実際に、グリセロールは身体の代謝および異化プロセスに関与し、したがって安全な分子である。したがって、DVSおよびBDDEにもかかわらず、GDEおよび/またはその主な分解産物(グリセロール)の存在は、潜在的な毒性の問題を暗に意味しない。しかしながら、GDEの使用の主な問題は、得られるGDE架橋多糖の分解速度を低下させるために、高含有量の架橋物質が必要とされることである。
【0035】
しかしながら、高い架橋度を有する架橋多糖は、粘度に加えて弾性の寄与により不適切な低い流動特性を示すため、特に注射用途(審美性、変形性関節症の処置等のための充填剤)で使用される場合、細い針を通して押し出すことが困難である。実際に、最新技術において、HA安定化に使用される化学的架橋物質、特に過剰量の架橋物質で処理されるHA充填剤と相関する様々な合併症および副作用、例えば適用後の患者の望ましくない痛みおよび医師の扱いにくさが報告されている。HA系充填剤によって生じる任意の副作用またはアレルギー反応は、製造中に除去されず、その後ヒドロゲル加水分解後にインビボで放出される架橋物質によって引き起こされると考えられる。
【0036】
したがって、この研究分野は現在かなりの注目を集めており、ヒドロゲル製造(すなわち多糖の架橋)における主要な困難な問題の1つになっている。しかしながら、架橋物質の量が低減され、結果として架橋度が低下すると、機械的特性および/または分解耐性が損なわれている。さらに、化学反応速度論に関連する問題のために、低レベルの架橋物質は合理的な時間で化学反応を定量的に完了しない可能性があり、ポリマーの効果的な架橋なしでのみグラフト化をもたらし、またはさらに悪いことに、ヒドロゲル中に多量の遊離未反応架橋物質が残り、これは除去が困難であり、高い毒性物質をもたらし、患者に対する製品の安全性を低下させる。
【0037】
したがって、当技術分野での知見に基づき、十分な機械的および酵素的/酸化的分解耐性を有する低量の架橋物質および低架橋度の両方を有する安全性架橋多糖を提供する必要性が、依然として存在する。
【発明の概要】
【0038】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、適切な機械的特性、低い酵素的/酸化分解速度、およびインビボ用途で使用するのに十分な生体適合性を有する安全性架橋多糖を提供した。
【0039】
特に、本発明者らは、750~15,000Daの分子量および183~7.500g/eqのエポキシ当量を有する本発明の超分岐ポリグリセロールジグリシジルエーテル(PPE)が、多糖のヒドロキシル基と反応することができ、低い架橋度、適切な機械的特性および分解速度を有すると同時に、皮膚への適用のための安全性を有する本発明の架橋多糖の調製を可能にする架橋剤として有用であることを見出した。
【0040】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、本発明者らは、本発明のPPE架橋多糖の機械的特性および耐分解性が、本発明の超分岐PPEの構造および量の組み合わせ効果、ならびに多糖と本発明の超分岐PPEとの間の共有結合性および非共有結合性相互作用に由来する凝集特性に起因すると考えている。本発明の超分岐PPEと多糖との相互作用は、ヒドロゲルマトリックスを無傷に(そのままの状態に)保持し、低い架橋度であってもインプラントに浸透して三次元HAネットワークを分解する酵素の能力を制限する、緻密な三次元HAネットワークを形成する。
【0041】
本発明の超分岐PPEは、出発物質(すなわち、GDEまたは非超分岐PPE)の自己重合ステップを含む方法によって調製される。自己重合ステップは、本発明で定義される適切な分子量およびエポキシ当量を有することを可能にする温度および時間の反応条件下にGDEまたは非超分岐PPEを供することを意味する。
【0042】
最後に、本発明のPPE架橋多糖は良好な流動特性を示し、したがって、特に注射用途に使用される場合、細い針を通しての取り扱いおよび押し出しが容易である。さらに、本発明のPPE架橋多糖の注射は、その適用中および適用後に患者による疼痛知覚を低くするか、または全く知覚させない。
【0043】
結果として、本発明は、架橋度が低く、化学修飾が低く、したがって分子的および構造的に天然の多糖に非常に類似し、高い生体適合性および安全性プロファイルの利点を有する多糖ベースのヒドロゲルを提供する。驚くべきことに、低架橋であっても、多糖ベースヒドロゲルは、十分な機械的特性、ならびに高度の架橋による酵素的および酸化的分解に対する耐性を示し、インビボで長寿命という利点を有する。
【0044】
したがって、本発明の第1の態様は、式(I)の超分岐PPE化合物、
【0045】
【0046】
または代替的に
式(II)の化合物であって、
【0047】
【0048】
式中、各R1は、R2およびR3からなる群から独立して選択され;
【0049】
R2は、
【0050】
【0051】
R3は、
【0052】
【0053】
bは、1~70からなる群から選択される整数であり;cは、1~70からなる群から選択される整数であり;dは、1~70からなる群から選択される整数であり;液体クロマトグラフィによる方法によって測定される750~15,000Daの分子量(Mw)を有し;HClを用いた超音波利用高速滴定によって測定される183~7,000g/eqのエポキシ当量を有する化合物に関する。
【0054】
本発明の第2の態様は、式(III)の架橋多糖、
【0055】
【0056】
または代替的に式(IV)の架橋多糖であって、
【0057】
【0058】
式中、各R1は、R2、R3、R4およびR5からなる群から独立して選択され;
【0059】
R2は、
【0060】
【0061】
R3は、
【0062】
【0063】
R4は、
【0064】
【0065】
R5は、
【0066】
【0067】
PSは、多糖であり;0.077~0.450%、特に0.077~0.269%の架橋率を有する架橋多糖に関する。
【0068】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様の化合物(I)または代替的に式(II)の化合物の調製方法であって;化合物が式(I)の化合物である場合、方法は、a)1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップ;およびb)ステップa)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップを含み;または代替的に、化合物が式(II)の化合物である場合、方法は、c)1,2-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップ;およびd)ステップc)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップを含む調製方法に関する。
【0069】
本発明の第4の態様は、多糖を、本発明の第1の態様で定義される式(I)の化合物と、または代替的に式(II)の化合物と架橋するステップを含む、本発明の第2の態様の架橋多糖の調製方法に関する。
【0070】
本発明の第5の態様は、本発明の第2の態様の架橋多糖の1つ以上を含む組成物に関する。
【0071】
本発明の第6の態様は、本発明の第1の態様の超分岐PPEの架橋剤としての使用に関する。
【0072】
そして最後に、薬学、化粧品、食品および農業の分野における本発明の第2の態様の架橋多糖の使用に関する。
【0073】
特に、多糖が治療に使用するためのヒアルロン酸である、本発明の第2の態様で定義される架橋多糖は、本発明の一部である。また、多糖が皮膚充填剤としてのヒアルロン酸である、本発明の第2の態様で定義される架橋多糖の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本出願において使用される全ての用語は、特に明記しない限り、当技術分野で知られている通常の意味で理解されるものとする。本出願において使用される他のより具体的な定義の用語は以下に記載の通りであり、他に明示的に定められた定義がより広い定義を提供しない限り、明細書および特許請求の範囲全体に均一に適用されることを意図している。
【0075】
本発明の目的のために、与えられた任意の範囲は、範囲の下側端点および上側端点の両方を含む。温度、時間、重量等の所与の範囲は、特に明記されない限り、近似値とみなされるべきである。
【0076】
用語「重量パーセント(%)」は、総重量に対する各部分または各成分のパーセンテージを指す。
【0077】
上に開示されるように、本発明の第1の態様は、式(I)の化合物;または代替的に式(II)の化合物である。
【0078】
式(I)の化合物は、1,3-GDEまたは1,3-GDEから得られた非超分岐PPEを、本発明の方法で定義される自己重合ステップに供することによって得られる。代替的に、式(II)の化合物は、1,2-GDEまたは1,2-GDEから得られた非超分岐PPEを、本発明の方法で定義される自己重合ステップに供することによって得られる。
【0079】
本発明の目的のために、最新技術において開示されているPPEは分岐PPEであるが、超分岐PPEではない。最新技術の分岐PPEは、グリセロールとエピクロロヒドリンとの反応によって調製され、その分子量はエピクロロヒドリンの量を増加させて調整することができる。しかしながら、これらの方法は、本発明の方法のような自己重合ステップを含まない。結果として、最新技術の分岐PPE(Denacol(登録商標)の商品名で市販されている)は、本発明の超分岐PPEとは構造的に異なる。特に、本発明の範囲外である最新技術において開示されている分岐PPEの構造は、以下の通りである。
【0080】
【0081】
式(I)の化合物または代替的に式(II)の化合物は、液体クロマトグラフィによって測定される750~15,000Daの分子量、およびHClを用いた超音波利用高速滴定によって測定された183~7.500g/eqのエポキシ当量を含む。
【0082】
用語「エポキシ当量」、「平均EEW」、および略語「EEW」という略語は同じ意味を有し、それらは互換的に使用される。EEWは、1グラム当量のエポキシを含有する架橋剤のグラムでの重量である。EEWは、本発明で開示される架橋剤1グラム中に存在するエポキシ基の含有量を指し、g/eqで表される。EEWは、最新技術(He,Z.,et al.,´´Ultrasonication-assisted rapid determination of epoxide values in polymer mixtures containing epoxy resin´´.Analytical Methods,2014,vol.6(12),pp.4257-4261)において開示されているエポキシドの迅速な決定のために、HClを用いた定量的超音波利用滴定を使用して実験的に測定された。
【0083】
分子量および多分散指数の測定は、液体クロマトグラフィ、特に光散乱検出器を備えたGPC装置を用いて行った。
【0084】
一実施形態において、式(I)の化合物または代替的に式(II)の化合物は、液体クロマトグラフィによる800~7000Daの分子量、およびHClを用いた超音波利用高速滴定によって測定された195~700g/eqのエポキシ当量を含む。一実施形態において、式(I)の化合物または代替的に式(II)の化合物は、液体クロマトグラフィによる900~4500Daの分子量、およびHClを用いた超音波利用高速滴定によって測定された200~600g/eqのエポキシ当量を含む。
【0085】
一実施形態において、式(I)の化合物または代替的に式(II)の化合物は、液体クロマトグラフィによって測定された1.8以下の多分散性指数を有する。一実施形態において、式(I)の化合物または代替的に式(II)の化合物は、特に光散乱検出器を備えたGPC機器を使用する液体クロマトグラフィによって測定された1.6以下の多分散指数を有する。
【0086】
用語「多分散性指数」、「不均一性指数」および「分散性」は同じ意味を有し、互換的に使用される。それらは、混合物中の分子または粒子のサイズの不均一性、特に所与のポリマー試料中の分子質量の分布の尺度を指す。これは記号Dで表される。本発明の目的のために、多分散性指数は分子質量を指し、これは以下の式を使用して計算され得る。
【0087】
DM=Mw/Mn
式中、Mwは重量平均モル質量であり、Mnは数平均モル質量である。
【0088】
用語「分子量」、「平均分子量」、「重量平均モル質量」、「質量平均モル質量」、「平均Mw」および略語「MW」は同じ意味を有し、互換的に使用される。質量平均モル質量は、以下の式によって計算される。
【0089】
【0090】
式中、Niは、分子質量Miの分子の数である。質量平均分子質量は、静的光散乱、小角中性子散乱、X線散乱、および沈降速度により決定され得る。
【0091】
用語「数平均モル質量」および略語「Mn」は同じ意味を有し、互換的に使用される。Mnは、ポリマーの分子量を決定する手法である。多糖等のポリマー分子は、同じ種類のものであっても、異なるサイズ(直鎖ポリマーでは鎖長)であるため、平均分子量は平均化の方法に依存する。数平均分子量は、個々の高分子の分子質量の通常の算術平均または平均である。これは、n個のポリマー分子の分子質量を測定し、質量を合計し、nで除すことによって決定される。Mnは、以下の式により算出される。
【0092】
【0093】
式中、Niは、分子質量Miの分子の数である。ポリマーの数平均分子質量は、ゲル浸透クロマトグラフィ、(Mark-Houwink式)による粘度測定、束一的方法、例えば蒸気圧浸透測定、末端基決定またはプロトンNMRによって決定され得る。
【0094】
異なる分子量を有するポリマーのフラグメントは、Mwが既知である標準物質を使用して液体クロマトグラフィ自体によって実行される各フラグメントの重量平均モル質量「Mw」および数平均モル質量「Mn」の評価の前に、液体クロマトグラフィによって事前に分離され、装備された光散乱検出器によって明らかにするかまたは検出することができる。
【0095】
一実施形態において、本発明の超分岐PPEは、式(I)-16の化合物であり:
【0096】
【0097】
平均Mwは3530g/モルであり;平均EEWは589g/eqであり、Mw/Mnは1.53である。
【0098】
一実施形態において、本発明の超分岐PPEは、式(I)-22の化合物であり:
【0099】
【0100】
平均Mwは910g/モルであり;平均EEWは229g/eqであり、Mw/Mnは1.36である。
【0101】
一実施形態において、本発明の超分岐PPEは、式(I)-23の化合物であり:
【0102】
【0103】
平均Mwは2400g/モルであり;平均EEWは404g/eqであり、Mw/Mnは1.54である。
【0104】
一実施形態において、本発明の超分岐PPEは、式(I)-14の化合物であり:
【0105】
【0106】
平均Mwは940g/モルであり;平均EEWは234g/eqであり、Mw/Mnは1.36である。
【0107】
一実施形態において、本発明の超分岐PPEは、式(I)-28の化合物であり:
【0108】
【0109】
平均Mwは990g/モルであり;平均EEWは247g/eqであり、Mw/Mnは1.37である。
【0110】
一実施形態において、本発明の超分岐PPEは、式(I)-26の化合物であり:
【0111】
【0112】
平均Mwは2200g/モルであり;平均EEWは365g/eqであり、Mw/Mnは1.47である。
【0113】
一実施形態において、本発明の超分岐PPEは、式(I)-21の化合物であり:
【0114】
【0115】
平均Mwは4200g/モルであり;平均EEWは585g/eqであり、Mw/Mnは1.55である。
【0116】
本発明の別態様は、式(I)の化合物または代替的に式(II)の化合物の調製方法である。
【0117】
本発明の式(I)の化合物の調製方法は、
a)1,3-グリセロールジグリシジルエーテル(1,3-DGE)を含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
b)ステップa)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む。
【0118】
本発明の式(II)の化合物の調製方法は、
c)1,2-グリセロールジグリシジルエーテル(1,2-DGE)を含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
d)ステップc)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む。
【0119】
1,3-GDEおよび1,2-GDEは、最新技術において以前に開示されており、市販されている(実験の項を参照されたい)。
【0120】
一実施形態において、ステップa)または代替的にステップc)のアルカリ溶液は、生理学的に許容されるアルカリ金属水酸化または水酸化アンモニウム(Na、K)、アルカリ土類金属水酸化物(Mg、Ca、Sr)、生理学的に許容される重金属水酸化物(Fe、Al、Co、Cu、Se、Zn、Cr、Ni)、生理学的に許容される四級アンモニウムカチオン水酸化物、生理学的に許容される重金属またはアンモニウム炭酸水素塩(NH4、Fe、Al、Co、Cu、Se、Zn、Cr、Ni)およびそれらの混合物からなる群から選択される塩基を含む。
【0121】
用語「生理学的に許容される」は、細胞、細胞培養物、組織または生物等の生物系と適合する非毒性物質を指す。好ましくは、生体系は、哺乳動物、特にヒト等の生物である。
【0122】
一実施形態において、ステップa)または代替的にステップc)のアルカリ溶液は、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化アンモニウムおよびそれらの混合物からなる群から選択されるアルカリ金属水酸化物または水酸化アンモニウム、特に水酸化ナトリウムを含む。
【0123】
一実施形態において、ステップa)または代替的にステップc)のアルカリ溶液は、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムおよびそれらの混合物からなる群から選択されるアルカリ土類金属水酸化物を含む。
【0124】
一実施形態において、ステップa)または代替的にステップc)のアルカリ溶液は、水酸化鉄、水酸化アルミニウム、水酸化コバルト、水酸化セレン、水酸化スズ、水酸化クロム、水酸化ニッケルおよびそれらの混合物からなる群から選択される重金属水酸化物を含む。
【0125】
一実施形態において、ステップa)または代替的にステップc)のアルカリ溶液は、式HONR6R7R8R9の第四級アンモニウム水酸化物を含み、式中、R6、R7、R8およびR9の各々は、(C1~C8)アルキルからなる群から独立して選択されるか、または代替的にR5、R6、R7およびR9の2つが(C5~C6)シクロアルキル環を形成する。
【0126】
一実施形態において、ステップa)または代替的にステップc)のアルカリ溶液は、炭酸水素鉄、炭酸水素アルミニウム、炭酸水素コバルト、炭酸水素銅、炭酸水素セレン、炭酸水素亜鉛、炭酸水素クロム、炭酸水素ニッケル、炭酸水素アンモニウムおよびそれらの混合物からなる群から選択される重金属炭酸水素塩または炭酸水素アンモニウム、特に炭酸水素ナトリウムを含む。
【0127】
一実施形態において、ステップa)または代替的にステップc)のアルカリ溶液は、1~50重量パーセントの1,3-GDEまたは代替的に1,2-GDEを含む。一実施形態において、ステップa)または代替的にステップc)のアルカリ溶液は、アルカリ性水酸化物を含み、1~50重量パーセントの1,3-GDEまたは代替的に1,2-GDEを含む。一実施形態では、ステップa)または代替的にステップc)のアルカリ溶液は、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)およびそれらの混合物からなる群から選択されるアルカリ性水酸化物を含み、1~50重量パーセントの1,3-GDEまたは代替的に1,2-GDEを含む。一実施形態において、ステップa)または代替的にステップc)のアルカリ溶液は、水酸化ナトリウム(NaOH)を含み、1~50重量パーセントの1,3-GDEまたは代替的に1,2-GDEを含む。
【0128】
一実施形態において、本発明の方法のステップa)または代替的にステップc)は、室温で行われる。用語「室温」は、約25~35℃の温度を指す。一実施形態において、本発明の方法のステップa)または代替的にステップc)は、溶媒の存在下で行われる。一実施形態において、本発明の方法のステップa)または代替的にステップc)は、水、(C1~C4)アルキル-OH、(C1~C4)アルキル-CO-(C1~C4)アルキル、(C1~C4)アルキル-CO-O-(C1~C4)アルキル、(C1~C4)アルキル-CN、およびそれらの混合物からなる群から選択される溶媒の存在下で行われる。一実施形態では、本発明の方法のステップa)または代替的にステップc)は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチルおよびそれらの混合物からなる群から選択される溶媒の存在下で行われる。特に、溶媒は水である。
【0129】
用語「アルキル」は、明細書または特許請求の範囲で指定された数の炭素原子を含む飽和直鎖または分岐炭化水素鎖を指す。例としては、とりわけ、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチルの基が挙げられる。
【0130】
一実施形態において、ステップb)または代替的にステップd)は、1,3-GDEまたは代替的に1,2-GDEを、10~80℃の温度で、GDEの自己重合が生じる1分~30日の期間供することによって実施される。
【0131】
一実施形態において、ステップb)または代替的にステップd)は、1,3-GDEまたは代替的に1,2-GDEを、50~80℃の範囲の温度で1分~500分の期間供することによって実施される。一実施形態において、ステップb)または代替的にステップd)は、1,3-GDEまたは代替的に1,2-GDEを、50~80℃の範囲の温度で5分~60分の期間供することによって実施される。
【0132】
一実施形態において、ステップb)または代替的にステップd)は、1,3-GDEまたは代替的に1,2-GDEを、10~40℃の範囲の温度で1日~30日の期間供することによって実施される。一実施形態において、ステップb)または代替的にステップd)は、1,3-GDEまたは代替的に1,2-GDEを、10~40℃の温度で2日~7日の期間供することによって実施される。
【0133】
上記で規定された自己重合ステップb)または代替的にステップd)を含む、上記で規定された方法によって得られる式(I)の化合物または代替的に式(II)の化合物も本発明の一部である。
【0134】
本発明の目的において、「得ることができる」、「得られる」という表現および同等の表現は交換可能に使用され、いずれの場合も、「得ることができる」という表現は、「得られる」という表現を包含する。
【0135】
式(I)の化合物または代替的に式(II)の化合物の調製方法について上記で開示される全ての実施形態は、本発明の方法によって得ることができる式(I)の化合物または代替的に式(II)の化合物にも適用される。
【0136】
架橋剤としての本発明の超分岐PPEの使用も本発明の一部である。
【0137】
本発明の第2の態様は、0.077~0.450%の架橋率を有する式(III)の架橋多糖または代替的に0.077~0.450%の架橋率を有する式(IV)の架橋多糖に関する。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、0.077~0.360%の架橋率を有する。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、0.077~0.269%の架橋率を有する。
【0138】
一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるヒアルロン酸であり、架橋率が0.077~0.450%であるものである。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるヒアルロン酸であり、架橋率が0.077~0.360%であるものである。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるヒアルロン酸であり、架橋率が0.077~0.269%であるものである。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるヒアルロン酸であり、架橋率が0.077~0.140%であるものである。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるヒアルロン酸であり、架橋率が0.140~0.450%であるものである。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるヒアルロン酸であり、架橋率が0.140~0.360%であるものである。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるヒアルロン酸であり、架橋率が0.140~0.269%であるものである。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるヒアルロン酸であり、架橋率が0.270~0.450%であるものである。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるヒアルロン酸であり、架橋率が0.270~0.360%であるものである。
【0139】
一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるアミロースデンプンであり、架橋率が0.124~0.204%であるものである。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるアミロースであり、架橋率が0.155~0.182%であるものである。一実施形態において、式(III)の架橋多糖または代替的に式(IV)の架橋多糖は、多糖が以下に定義されるカルボキシメチルセルロースナトリウムであり、架橋率が0.140~0.204%であるものである。
【0140】
一実施形態において、式(III)および(IV)の架橋多糖中、R2の量は、式(III)および(IV)の架橋多糖の総重量に対してR5よりも少ない。一実施形態において、式(III)および(IV)の架橋多糖中、R2の量は、式(III)および(IV)の架橋多糖の総重量に対して2ppm未満である。R2の量は、He,Z.,et al.,´´Ultrasonication-assisted rapid determination of epoxide values in polymer mixtures containing epoxy resin´´.Analytical Methods,2014,vol.6(12),pp.4257-4261に開示されているエポキシドの迅速な決定のために、HClを用いた定量的超音波利用滴定を使用して実験的に測定される。
【0141】
本発明の多糖は、「架橋(された)」多糖である。用語「架橋(された多糖)」は、三次元架橋ネットワークを有する多糖を指し、ネットワークは、1種以上の架橋剤によって壊れた出発多糖によって形成される。用語「架橋する」という用語は、ポリマー科学分野において、ポリマー(多糖)の物理的特性の差を促進するための架橋の使用を指す。用語「架橋」は、ポリマー(多糖)のヒドロキシル基による本発明の超分岐PPE架橋剤のエポキシド環の開環によって形成される結合を指す。本明細書で互換的に使用される「架橋物質」または「架橋剤」という用語は、1つ以上のポリマー鎖を架橋する能力を有する化合物を指す。
【0142】
用語「架橋率」、「架橋の割合(%)」、「架橋度」および略語「C.D.」は同じ意味を有し、互換的に使用される。それらは、百分率で表されるPPE修飾多糖モノマー単位と未修飾多糖モノマー単位との比を指す。一般に、材料の架橋度(C.D.)の測定は、最新技術で周知の異なる方法を使用して評価され得る。いくつかの方法は、酵素消化後のポリマー断片の1H NMRまたは定量的GPC分析等の直接的方法である。他の方法は、レオロジー測定、圧縮または振動試験による間接的方法である。通常、これらの方法はすべて比較によるものであり、同じポリマーのファミリー内の異なる架橋度を区別することができる。本発明において、架橋度の値は、下記式1を用いて、レオロジー測定により得られたG´の値から数学的に算出される。
【0143】
【0144】
式中、
MWrep.unitは、多糖モノマーの繰り返し単位の分子量であり、
ヒアルロン酸の場合、MWrep.unit=401Daであり;
アミロース/グリコーゲンの場合、MWrep.unit=162Daであり;
カルボキシメチルセルロースナトリウムの場合、MWrep.unit=242Daである。
【0145】
Meは、以下の式2の逆公式を用いて数学的に計算される。
【0146】
【0147】
式中、
G´は、回転式レオメータを用いたレオロジー測定によって実験的に得られ、
R・Tは熱エネルギーであり、
cは多糖濃度であり、
Mnは、多糖の数平均分子量である。
【0148】
本発明において、各架橋多糖ヒドロゲルの絶対酵素・酸化分解速度が数学的に計算される。多糖基質に応じて、架橋多糖ヒドロゲルの絶対酵素・酸化分解速度を監視するために、3つの方法が使用される。
【0149】
第1の方法は、分解中の貯蔵弾性率G´等のレオロジーパラメータのモニタリングに基づいており、分解速度rheoは式3から計算される。
【0150】
【0151】
ヒドロゲルネットワークの破壊によって引き起こされる架橋多糖ヒドロゲルの分解中の貯蔵弾性率G´の減少、G´t<G´t0が観察され、正の分解速度を有するには負の符号が必要である。この第1の方法は、ヒアルロン酸、デンプンおよびその誘導体、グリコーゲン、セルロースおよびその誘導体、ペクチン、リグニン、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸(アルギネート)、グルコマンナン、ガラクトマンナンならびにカラギーナンを含有する架橋多糖ヒドロゲルの絶対酵素・酸化分解速度を決定するのに適切である。
【0152】
第2の方法は、分解中の動的粘度η等の粘性パラメータの監視に基づいており、分解速度viscは式4から計算される。
【0153】
【0154】
ポリマー鎖の長さの減少によって引き起こされる架橋多糖ヒドロゲルの分解中の動的粘度ηの減少、ηt<ηt0が観察され、正の分解速度を有するには負の符号が必要である。この第2の方法は、ヒアルロン酸、デンプンおよびその誘導体、グリコーゲン、セルロースおよびその誘導体、ペクチン、リグニン、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸(アルギネート)、グルコマンナン、ガラクトマンナンならびにカラギーナンを含有する架橋多糖ヒドロゲルの絶対酵素・酸化分解速度を決定するのに適切である。
【0155】
第3の方法は、分解中に分光光度計機器を使用したカルバゾールアッセイによるウロン酸濃度の比色監視に基づいており、分解速度colorは以下の式5から計算される。
【0156】
【0157】
ポリマー鎖の長さの減少およびウロン酸のモノマー単位の形成によって引き起こされる架橋多糖ヒドロゲルの分解中のウロン酸の濃度の増加、[ウロン酸]t>[ウロン酸]t0が観察され、この場合、正の分解速度を有するには負の符号が必要である。この第3の方法は、ヒアルロン酸、ペクチン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、キサンタン、グルクロナン、アルギン酸(アルギネート)を含有する架橋多糖ヒドロゲルの絶対酵素・酸化分解速度を決定するのに適切である。
【0158】
本発明において、架橋多糖ヒドロゲルの絶対酵素・酸化分解速度の比較もまた行われる。一定期間において、各架橋多糖ヒドロゲルの相対酵素・酸化分解速度は、参照として使用される最新技術で公知のGDEで架橋された多糖ヒドロゲルの絶対酵素・酸化分解速度の値に対する架橋多糖ヒドロゲルの絶対酵素・酸化分解速度の値の百分率として計算される。したがって、これは式6から計算される。
【0159】
【0160】
式中、
分解速度xlは、BDDE、PEGDEおよびPPEで架橋された多糖ヒドロゲルの絶対分解速度であり、
分解速度GDEは、最新技術で公知のGDEでの架橋多糖ヒドロゲルの絶対分解速度である。
【0161】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、比較GDE架橋多糖(これは参照値および内部参照として使用される)の酵素分解速度の100%~37%の相対酵素分解速度を有する。内部値として使用されるGDE架橋多糖は、多糖を市販のGDEと反応させることによって得られる(実験の項に示される通り)。一実施形態において、本発明の架橋多糖は、85~40%の相対酵素分解速度を有する。一実施形態において、本発明の架橋多糖は、0.1528~0.1877%の架橋率および84~37%の相対酵素分解速度を有する。
【0162】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、比較GDE架橋多糖(これは参照値および内部参照として使用される)の酸化分解速度の100%~76%の相対酸化分解速度を有する。内部値として使用されるGDE架橋多糖は、多糖を市販のGDEと反応させることによって得られる(実験の項に示される通り)。一実施形態において、本発明の架橋多糖は、90~75%の相対酸化分解速度を有する。一実施形態において、本発明の架橋多糖は、0.1528~0.1877%の架橋率および76~87%の酸化分解速度を有する。
【0163】
上述のように、本発明の架橋多糖の絶対酵素・酸化分解速度は、内部標準として使用され、より低い架橋度を有する比較GDE架橋多糖の絶対酵素・酸化分解速度以下である。これは、ヒドロゲルの安定性ならびに患者の安全性および快適性の両方が向上するため有利である。
【0164】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、0.8~3.5mmol/時の絶対酵素分解速度;および3.0~4.3mmol/時の絶対酸化分解速度を有する。一実施形態において、本発明の架橋多糖は、0.8~2.6mmol/時の絶対酵素分解速度;および3.0~3.4mmol/時の絶対酸化分解速度を有する。一実施形態において、本発明の架橋多糖は、0.1528~0.1877%の架橋率、0.8~2.7mmol/時の酵素分解速度、および3.0~3.4mmol/時の酸化分解速度を有する。
【0165】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、二つの架橋基間の平均距離(DN)が21nm~42nmであるものである。一実施形態において、本発明の架橋多糖は、二つの架橋基間の平均距離(DN)が21nm~27nm未満であるものである。一実施形態において、本発明の架橋多糖は、二つの架橋基間の平均距離(DN)が27nm以上~42nmであるものである。
【0166】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、多糖の濃度が1~50mg/mlであるものである。多糖の濃度は、最新技術において開示されている任意の適切な方法によって測定され得る。本発明において、多糖の濃度は、105℃の換気オーブン中で適切な時間ヒドロゲルを脱水した後に得られた乾燥残留物の重量測定によって測定される。
【0167】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、粘度計により測定される粘度が1~200Pa・sであるものである。一実施形態において、本発明の架橋多糖は、粘度計により測定される粘度が10~100Pa・sであるものである。
【0168】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、多糖がヒアルロン酸、デンプンおよびその誘導体、グリコーゲン、セルロースおよびその誘導体、ペクチン、リグニン、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸(アルギネート)、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グルクロナン、グルコマンナン、ガラクトマンナンならびにカラギーナンからなる群から選択される架橋多糖である。
【0169】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、多糖がヒアルロン酸であるものである。本発明の目的において、用語「ヒアルロン酸」、「ヒアルロナン」および略語「HA」は同じ意味を有し、互換的に使用される。これらは、N-アセチル-D-グルコサミンおよびD-グルクロン酸のいくつかの繰り返し二糖単位で構成される、CAS番号9004-61-9を有するグリコサミノグリカンの天然の非硫酸化アニオン形態を指し、またヒアルロン酸の薬学的にまたは化粧品として許容される塩も指す。
【0170】
本発明の目的において、用語「ヒアルロン酸」はまた、ヒアルロン酸の薬学的にまたは化粧品として許容される塩を包含する。一実施形態において、本発明の架橋多糖は、多糖がヒアルロン酸の薬学的にまたは化粧品として許容される塩であるものである。使用され得るヒアルロン酸塩の種類は、治療目的で使用される場合に薬学的にまたは化粧品として許容される限り制限されない。ヒアルロン酸およびその塩は、いくつかの物理的特性が異なっていてもよいが、それらは本発明の目的において同等であり、ヒアルロン酸の皮膚に優しい特性は、薬学的にまたは化粧品として許容される塩、特にそのナトリウム塩(すなわちヒアルロン酸ナトリウム)およびカリウム塩(ヒアルロン酸カリウム)に拡張可能である。用語「薬学的に許容される塩」は、医学的使用のための組成物を調製するための医薬技術における使用に適切な塩を指し、本明細書で互換的に使用される用語「化粧品として許容される塩」または「皮膚科学的に許容される塩」は、とりわけ、毒性、不適合性、不安定性、不適切なアレルギー反応なしにヒト皮膚接触での使用に適切な塩を指す。特に、用語「薬学的または化粧品として許容される塩」は、一般的に使用される塩、例えばアルカリ金属塩を包含する。ヒアルロン酸の薬学的に許容される塩の調製は、当該技術において公知の方法によって行うことができる。本発明に適切なヒアルロン酸の薬学的または化粧品として許容される塩の非限定的な例としては、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸亜鉛およびヒアルロン酸コバルト等の無機塩、ならびにヒアルロン酸テトラブチルアンモニウム等の有機塩が挙げられる。一実施形態において、ヒアルロン酸の薬学的にまたは化粧品として許容される塩は、ナトリウム塩(CAS番号9067-32-7)またはカリウム塩(CAS番号31799-91-4)の選択されたアルカリ金属の塩である。
【0171】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、多糖が高分子量ヒアルロン酸であるものである。用語「高分子量ヒアルロン酸」は、300kDa以上の分子量を有するヒアルロン酸を指す。一実施形態において、本発明の架橋多糖は、多糖が300kDa~5000kDa、特に500kDa~2000kDaの分子量を有する高分子量ヒアルロン酸であるものである。特定の実施形態において、本発明の架橋多糖は、多糖が1000kDa~2000kDaの分子量を有する高分子量ヒアルロン酸であるものである。
【0172】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、
0.2688%の架橋度、
2.8mmol/時の酵素分解速度、および、
3.3mmol/時の酸化分解速度、
を有する架橋多糖(III)-4であり、
多糖はヒアルロン酸であり、
出発材料として使用される超分岐PPEは、化合物(I)-22である。
【0173】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、
0.1127%の架橋度、
3.6mmol/時の酵素分解速度、および、
4.3mmol/時の酸化分解速度、
を有する架橋多糖(III)-9であり、
多糖はヒアルロン酸であり、
出発材料として使用される超分岐PPEは、化合物(I)-16である。
【0174】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、
0.1358%の架橋度、
3.5mmol/時の酵素分解速度、および、
4.3mmol/時の酸化分解速度、
を有する架橋多糖(III)-8であり、
多糖はヒアルロン酸であり、
出発材料として使用される超分岐PPEは、化合物(I)-22である。
【0175】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、
0.1877%の架橋度、
0.8mmol/時の酵素分解速度、および、
3.0mmol/時の酸化分解速度、
を有する架橋多糖(III)-5であり、
多糖はヒアルロン酸であり、
出発材料として使用される超分岐PPEは、化合物(I)-23である。
【0176】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、
0.1528%の架橋度、
2.7mmol/時の酵素分解速度、および、
3.4mmol/時の酸化分解速度、
を有する架橋多糖(III)-6であり、
多糖はヒアルロン酸であり、
出発材料として使用される超分岐PPEは、化合物(I)-16である。
【0177】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、
0.3911%の架橋度、
2.8mmol/時の酵素分解速度、および、
2.6mmol/時の酸化分解速度、
を有する架橋多糖(III)-14であり、
多糖はヒアルロン酸であり、
出発材料として使用される超分岐PPEは、化合物(I)-22である。
【0178】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、
0.3049%の架橋度、
1.1mmol/時の酵素分解速度、および、
2.3mmol/時の酸化分解速度、
を有する架橋多糖(III)-15であり、
多糖はヒアルロン酸であり、
出発材料として使用される超分岐PPEは、化合物(I)-23である。
【0179】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、
0.2723%の架橋度、
2.9mmol/時の酵素分解速度、および、
2.6mmol/時の酸化分解速度、
を有する架橋多糖(III)-16であり、
多糖はヒアルロン酸であり、
出発材料として使用される超分岐PPEは、化合物(I)-16である。
【0180】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、多糖がデンプンまたはその誘導体であるものである。本発明の目的において、用語「デンプン」は、グリコシド結合によって結合された多数のグルコース単位からなる多糖炭水化物を指す。デンプンは、エネルギー貯蔵物質として全ての緑色植物によって産生され、ヒトにとって主要な食物源である。本発明の目的において、用語「デンプン誘導体」または「修飾デンプン」は同じ意味を有し、互換的に使用される。それらは、その特性を改変するために反応させたデンプンを指す。デンプン誘導体の例は、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル化、アルキルカルボニル化、リン酸化、硫酸化、グラフト誘導体化およびアルキル化デンプンである。一実施形態において、デンプン誘導体は、ヒドロキシプロピルデンプン、デンプングリコール酸ナトリウムおよびカルボキシメチルデンプンからなる群から選択される。
【0181】
一実施形態において、本発明の架橋多糖は、多糖がセルロースまたはその誘導体であるものである。本発明の目的において、用語「セルロース」は、β-1,4-グリコシド結合によって連結されたD-グルコピラノース単位によって形成された骨格を有する多糖を意味する。用語「修飾セルロース」または「セルロース誘導体」は同じ意味を有し、互換的に使用される。それらは、純粋なセルロースには含まれないペンダント部分の導入によって化学的に修飾された、セルロース骨格、すなわちβ-1,4-グリコシド結合によって連結されたD-グルコピラノース単位の構造を有する任意の化合物を指す。セルロース誘導体の非限定的な例としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、L-ヒドロキシプロピルセルロース(低置換)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはカルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。
【0182】
本発明の架橋多糖について開示される全ての上述の実施形態はまた、ヒアルロン酸、デンプンおよびその誘導体、グリコーゲン、セルロースおよびその誘導体、ペクチン、リグニン、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸(アルギネート)、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グルクロナン、グルコマンナン、ガラクトマンナンならびにカラギーナンである具体的に上に列挙された多糖のそれぞれに個別に適用される。
【0183】
本発明の式(III)または代替的に式(IV)の架橋多糖の調製方法も本発明の一態様である。
【0184】
一実施形態において、本発明の架橋多糖(III)の調製方法は、多糖を本発明の第1の態様で定義される式(I)の化合物と架橋するステップを含む。
【0185】
一実施形態において、本発明の式(III)の架橋多糖の調製方法は、多糖を本発明の第1の態様で定義される式(I)の化合物と架橋するステップを含み、式(I)の化合物は、上に定義されるステップa)およびb)を実行するステップを含む方法によって得ることができる。したがって、本発明の式(III)の架橋多糖の調製方法は、多糖を式(I)の化合物と架橋するステップを含み、式(I)の化合物は、a)1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;b)ステップa)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、を含む方法によって得られる。
【0186】
一実施形態において、本発明の架橋多糖(III)の調製方法は、多糖を本発明の第1の態様で定義される式(II)の化合物と架橋するステップを含む。
【0187】
一実施形態において、本発明の式(IV)の架橋多糖の調製方法は、多糖を式(II)の化合物と架橋するステップを含み、式(II)の化合物は、上に定義されるステップc)およびd)を実行するステップを含む方法によって得ることができる。したがって、本発明の架橋多糖の調製方法は、多糖を式(II)の化合物と架橋するステップを含み、式(II)の化合物は、c)1,2-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;d)ステップc)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、を含む方法によって得られる。
【0188】
多糖、式(I)の化合物、式(II)の化合物および架橋多糖について上に開示される全ての実施形態、ならびに本発明の架橋多糖の調製方法のステップa)~d)の反応条件は、この方法によって得ることができる架橋多糖にも適用される。
【0189】
一実施形態において、式(III)の架橋多糖の調製方法は、
e)多糖を本発明の第1の態様で定義される式(I)の化合物と架橋するステップと;任意選択的に、
g)本発明の式(III)の架橋多糖を単離するステップと、
を含む。
【0190】
一実施形態において、式(III)の架橋多糖の調製方法のステップe)は、
e1)5~15重量パーセントの多糖のアルカリ溶液を準備するステップと;
e2)式(I)の化合物を含むアルカリ溶液を準備するステップと;
e3)ステップe1)で得られた溶液とステップe2)で得られた溶液とを混合して、多糖および式(I)の化合物を含むアルカリ溶液を得るステップと;
e4)ステップe3)で得られたアルカリ溶液を20℃~50℃に含まれる温度で1時間~48時間維持するステップと;
を含む。
【0191】
一実施形態において、式(IV)の架橋多糖の調製方法は、
f)多糖を本発明の第1の態様で定義される式(II)の化合物と架橋するステップと;任意選択的に、
g)本発明の式(IV)の架橋多糖を単離するステップと、
を含む。
【0192】
一実施形態において、式(IV)の架橋多糖の調製方法のステップf)は、
f1)5~15重量パーセントの多糖のアルカリ溶液を準備するステップと;
f2)式(II)の化合物を含むアルカリ溶液を準備するステップと;
f3)ステップf1)で得られた溶液とステップf2)で得られた溶液とを混合して、多糖および式(II)の化合物を含むアルカリ溶液を得るステップと;
f4)ステップf3)で得られたアルカリ溶液を20℃~50℃に含まれる温度で1時間~48時間維持するステップと;
を含む。
【0193】
一実施形態において、ステップe3)または代替的にステップf3)のアルカリ溶液は、5~15重量%の濃度の多糖を含む。
【0194】
一実施形態において、ステップe3)または代替的にステップf3)で得られたアルカリ溶液は、0.25~0.75Mのアルカリ塩基;特に0.40~0.60Mのアルカリ塩基を含む。
【0195】
一実施形態において、ステップe3)または代替的にステップf3)で得られたアルカリ溶液は、5~15重量%の多糖;特に8~10重量%の多糖を含む。
【0196】
一実施形態において、ステップe3)または代替的にステップf3)で得られたアルカリ溶液は、0.2~1重量%;特に0.3~0.5重量%の式(I)の化合物または代替的に式(II)の化合物を含む。
【0197】
一実施形態において、ステップe3)または代替的にステップf3)で得られたアルカリ溶液は、乾燥多糖に対するPPEの重量比として表される2~40%w/w;特に2~12.5%w/wの、式(I)の化合物と多糖との間の重量比、または代替的に式(II)の化合物と多糖との間の重量比を含む。用語「重量比」は、安定性を拡大し、その適用後の本発明の架橋多糖のバイオアベイラビリティを増加させるために必要な2つの成分の重量の関係を指す。特に、本発明の多糖と超分岐PPEとの関係は、酵素/酸化分解速度を低下させ、架橋度を低減する必要があった。
【0198】
一実施形態において、ステップe4)または代替的にステップf4)で得られたアルカリ溶液は、1~50mg/mLの多糖を含む。
【0199】
単離ステップg)は、化合物を単離するための最新技術において開示された当業者に周知の方法に従って行うことができる。一実施形態において、単離ステップは、蒸発、凍結乾燥、濾過、デカンテーションおよび遠心分離の操作、または当業者に公知の他の適切な技術のうちの1つ以上によってそれらを除去することを含み得る。一実施形態において、単離ステップg)は、ステップe3)または代替的にf3)で得られたアルカリ溶液のpHを6.5~7.4に調整することを含む。pHの調整は、例えばHCl、H3PO3またはそれらの混合物等の酸の添加によって行うことができる。pHの決定は、最新技術において公知の任意の方法によって行うことができる。本出願の場合、pHは、電極をヒドロゲルに浸漬した状態でpH計を使用してpH値を直接読み取ることによって決定される。
【0200】
本発明の別の態様は、
本発明の架橋多糖の1種以上と、
1つ以上の適切な賦形剤または担体と、
を含む組成物に関する。適切な架橋多糖と適切な賦形剤および/または担体、ならびにそれらの量は、調製される製剤の分野および種類に応じて当業者によって容易に決定され得る。
【0201】
一実施形態において、組成物は、治療有効量の1つ以上の薬学的に許容される架橋多糖と、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤または担体と、を含む医薬組成物である。
【0202】
用語「医薬組成物」は、医学的用途の医薬技術における使用に適した組成物を指す。本明細書で使用される「薬学的に許容される架橋多糖の治療有効量」という用語は、投与された場合、対処される疾患の症状の1つ以上の発症を予防するか、またはある程度緩和するのに十分な本発明の架橋多糖の量を指す。当然ながら、本発明に従って投与される薬学的に許容される架橋多糖の用量は、投与される化合物、投与経路、処置される特定の状態、および同様の考慮事項を含む、症例を取り巻く特定の状況によって決定される。本発明の目的において、用語「薬学的に許容される架橋多糖」は、疾患または状態の診断、予防、処置、治癒または緩和に直接(治療的に)効果をもたらす組成物中の活性成分または中心成分を指す。
【0203】
本発明の医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤または担体を含む。用語「薬学的に許容される賦形剤または担体」は、医学的用途の組成物を調製するための医薬技術における使用に適した賦形剤または担体を指す。一実施形態において、本発明の組成物は、希釈剤、結合剤、流動促進剤、崩壊剤、滑沢剤およびそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上の薬学的に許容される賦形剤および/または担体を含む。さらに、本発明の医薬組成物は、他の成分、例えば香料、着色剤、および最新技術において公知の他の成分を含有してもよい。
【0204】
一実施形態において、医薬組成物は、ヒアルロン酸、デンプンおよびその誘導体、グリコーゲン、セルロースおよびその誘導体、ペクチン、リグニン、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸(アルギネート)、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グルクロナン、グルコマンナン、ガラクトマンナンならびにカラギーナンからなる群から選択される1つ以上の薬学的に許容される架橋多糖を含む。
【0205】
一実施形態において、組成物は、化粧品有効量の1つ以上の化粧品として許容される架橋多糖と、1つ以上の化粧品として許容される賦形剤または担体と、を含む化粧品組成物である。
【0206】
本発明の化粧品組成物は、その外観を改善するために、または皮膚、爪もしくは毛髪を美化、保存、コンディショニング、洗浄、着色もしくは保護するために適切な量(「化粧品有効量」)を身体に適用するように設計される(Academic press Dictionary of Science and Technology,1992,pp.531;A terminological Dictionary of the Pharmaceutical Sciences.2007,pp.190を参照されたい)。したがって、上記化粧品組成物は、非医療用途について形容詞的に使用される。
【0207】
本明細書で互換的に使用される「化粧品として許容される」または「皮膚科学的に許容される」という用語は、とりわけ、過度の毒性、不適合性、不安定性、アレルギー反応なしにヒト皮膚と接触して使用するのに適した賦形剤または担体を指す。
【0208】
一実施形態において、本発明の医薬組成物または化粧品組成物は、溶液、エアロゾルおよび非エアロゾルスプレー、シェービングクリーム、粉末、ムース、ローション、ゲル、スティック、軟膏、ペースト、クリーム、シャンプー、シャワーゲル、ボディーウォッシュまたは洗顔料を含むがこれらに限定されないいくつかの形態で製剤化することができる局所組成物である。
【0209】
一実施形態において、医薬組成物または化粧品組成物は、経口組成物である。例えば、固体組成物は、錠剤、顆粒剤およびカプセル剤である。
【0210】
一実施形態において、医薬組成物または化粧品組成物は、注射可能な組成物である。一実施形態において、医薬組成物または化粧品組成物は、筋肉内、皮下、または静脈内適用からなる群から選択される注射可能な組成物である。一実施形態において、本発明の医薬組成物または化粧品組成物は、体内への注射、注入、または移植に適した非経口組成物の形態である。上記で定義された非経口組成物は、滅菌され、発熱物質を含まないべきであり、それらは、溶液、エマルジョン、もしくは懸濁液等の液体の形態であってもよく、または使用前に適切に希釈された単回用量もしくは複数回用量容器のいずれかに包装された固体形態であってもよい。非経口組成物は、非経口投与のための適切な賦形剤または担体を含むことができ、この賦形剤または担体は、溶媒、懸濁化剤、緩衝剤、調製物を血液と等張にする物質、安定剤、または抗菌性保存剤を含むがこれらに限定されない医薬または化粧品賦形剤であり得る。賦形剤の添加は、最小限に保たれるべきである。賦形剤が使用される場合、それらは、ポリマーおよび/もしくは活性剤の安定性、バイオアベイラビリティ、安全性、または有効性に悪影響を及ぼすべきではなく、あるいは毒性または過度の局所刺激を引き起こすべきではない。剤形の成分のいずれかの間にいかなる不適合性も存在すべきではない。
【0211】
上記で定義された局所組成物は、皮膚バリア機能修復剤、水和剤、皮膚軟化剤、乳化剤、増粘剤、保湿剤、pH調節剤、抗酸化剤、保存剤、ビヒクル、またはそれらの混合物を含むがこれらに限定されない医薬または化粧品賦形剤であり得る局所投与用の適切な賦形剤または担体を含む。使用される賦形剤または担体は、皮膚に対して親和性を有し、忍容性がよく、安定であり、所望の稠度を提供し、適用を容易にするのに十分な量で使用される。さらに、本発明の組成物は、他の成分、例えば香料、着色剤、および局所製剤における使用の最新技術において公知の他の成分を含有してもよい。本発明の局所組成物は、限定されないが、溶液、エアロゾルおよび非エアロゾルスプレー、クリーム、粉末、ムース、ローション、ゲル、スティック、軟膏、ペーストおよびエマルジョンを含むいくつかの形態で製剤化され得る。
【0212】
一実施形態において、化粧品組成物は、ヒアルロン酸、デンプンおよびその誘導体、グリコーゲン、セルロースおよびその誘導体、ペクチン、リグニン、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸(アルギネート)、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グルクロナン、グルコマンナン、ガラクトマンナンならびにカラギーナンからなる群から選択される1つ以上の薬学的に許容される架橋多糖を含む。
【0213】
一実施形態において、組成物は、1つ以上の食用に許容される架橋多糖と、1つ以上の食用に許容される賦形剤または担体と、を含む食用組成物である。
【0214】
用語「食用」は、重大な有害な健康上の結果を伴わずにヒトまたは動物によって消費され得る組成物、架橋多糖、賦形剤および担体を指す。
【0215】
用語「食用として許容される賦形剤または担体」という用語は、官能特性を有意に変化させない限り、風味の観点から実質的に中性である賦形剤または担体を指す。さらに、それらは、重大な有害な健康上の結果を伴うことなくヒトによって消費され得る組成物の調製における使用に適している。
【0216】
一実施形態において、食用組成物は、ヒアルロン酸、デンプンおよびその誘導体、グリコーゲン、セルロースおよびその誘導体、ペクチン、リグニン、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸(アルギネート)、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グルクロナン、グルコマンナンならびにカラギーナンからなる群から選択される1つ以上の食用として許容される架橋多糖を含む。
【0217】
本発明の食用組成物は、固体または液体形態を含むがこれらに限定されないいくつかの形態で製剤化され得る。さらに、本発明の食用組成物は、他の成分、例えば着色剤および耐光剤、ならびに食用組成物に使用するための最新技術において公知の他の成分を含有してもよい。
【0218】
一実施形態において、食用組成物は、ヒト用食品または動物用食品(飼料)である。
【0219】
一実施形態において、組成物は、生物学的有効量の1つ以上の農業的に許容される架橋多糖と、1つ以上の農業的に許容される賦形剤または担体と、を含む農業用組成物である。
【0220】
用語「農業用」は、重大な有害な健康上の結果を伴わずに植物を処置するために植物の基部および/または葉部に適用することができる組成物、架橋多糖、賦形剤および担体を指す。
【0221】
一実施形態において、農業用組成物は、肥料、多量栄養素、微量栄養素、殺有害生物剤、植物成長調節剤、植物ホルモンおよびNod因子からなる群から選択される。
【0222】
本明細書で使用される場合、「生物学的有効量」という用語は、植物、昆虫、または植物有害生物に対して所望の効果をもたらすために必要な本発明の架橋多糖の量を指す。物質の有効量は、処置方法、植物種、有害生物種、繁殖材料の種類および環境条件を含むいくつかの因子に依存する。例えば、殺虫剤の生物学的有効量は、植物を損傷から保護する殺虫剤の量である。これは、保護された植物が有害生物から損傷を受けないことを意味するのではなく、植物が許容可能な収穫量の作物を与えることができるレベルの損傷であることを意味する。
【0223】
農業用組成物は、水和剤、粉剤、水分散性顆粒剤、懸濁濃縮物、乳剤、錠剤、ペレット剤、液剤および油懸濁剤を含む群から選択される形態で製剤化され得る。
【0224】
一実施形態において、農業用組成物は、ヒアルロン酸、デンプンおよびその誘導体、グリコーゲン、セルロースおよびその誘導体、ペクチン、リグニン、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸(アルギネート)、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グルクロナン、グルコマンナン、ガラクトマンナンならびにカラギーナンからなる群から選択される1つ以上の農業的に許容される架橋多糖を含む。
【0225】
本発明の架橋多糖の使用も、本発明の一部である。適切な架橋多糖と適切な賦形剤および/または担体、ならびにそれらの量は、調製される製剤の分野および種類に応じて当業者によって容易に決定され得る。
【0226】
本発明の医薬架橋多糖およびそれらを含有する医薬組成物は、医薬分野で使用され得る。したがって、治療に使用するための本発明の医薬架橋多糖または代替的に本発明の医薬組成物も、本発明の一部である。一実施形態において、治療に使用するための本発明の架橋HAまたはそれを含有する組成物が提供される。
【0227】
この態様は、医薬の調製のための医薬架橋多糖の使用として説明することもできる。本発明はまた、疾患に罹患している哺乳動物を処置する方法に関し、この方法は、治療有効量の上記で定義された本発明の医薬架橋多糖を含む医薬組成物を哺乳動物に投与するステップを含む。一実施形態において、上記で定義された本発明の医薬組成物は、医薬架橋多糖が軟組織増強の処置に使用するための架橋多糖であるものである。この態様はまた、創傷を処置するための医薬の調製のための上記で定義された架橋HAを含む本発明の医薬組成物の使用として説明され得る。本発明はまた、変形性関節症に罹患している哺乳動物を処置する方法に関し、この方法は、上記で定義された架橋HAを含む本発明の医薬組成物を哺乳動物に投与するステップを含む。
【0228】
本発明の医薬架橋多糖類および医薬組成物について上記で定義された全ての実施形態は、治療におけるそれらの使用にも適用される。
【0229】
本発明の化粧品架橋多糖およびそれを含有する化粧品組成物は、化粧品分野で使用され得る。したがって、スキンケア剤としての本発明の化粧品架橋多糖および化粧品組成物の使用も本発明の一部であり、スキンケアは、荒れ、剥離(かさかさ肌)、脱水、こわばり、ひび割れ、および弾性(弾力性)の欠如といった症状の少なくとも1つを改善することを含む。
【0230】
一実施形態において、本発明の化粧品架橋多糖およびこれを含有する化粧品組成物は、保湿剤である。一実施形態において、本発明の化粧品架橋多糖およびこれを含有する化粧品組成物は、スキンケア剤である。一実施形態において、本発明の化粧品架橋多糖およびこれを含有する化粧品組成物は、緩和剤である。緩和剤は、皮膚を和らげる、落ち着かせる、穏やかにする、なだめる、沈静化する、安定化する、安静化する、または鎮静させるのに適している。一実施形態において、本発明の化粧品架橋多糖およびこれを含有する化粧品組成物は、皮膚バリア回復剤である。
【0231】
一実施形態において、本発明の化粧品架橋多糖およびこれを含有する化粧品組成物は、皮膚充填剤であり、特に多糖はHAである。
【0232】
本発明の食用架橋多糖およびそれを含有する食用組成物は、食品分野で使用され得る。一実施形態において、本発明の食用架橋多糖およびそれを含有する食用組成物は、食品添加物である。一実施形態において、本発明の食用架橋多糖およびそれを含有する食用組成物は、例えばガム、増粘剤、増量剤、乳化安定剤および結合剤等のテクスチャ改質剤である。
【0233】
一実施形態において、本発明の食用架橋多糖およびそれを含有する食用組成物の食品添加物としての、特にテクスチャ改質剤としての使用では、多糖はHA、デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体、ペクチン、リグニン、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸(アルギネート)、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グルクロナン、グルコマンナンならびにカラギーナンである。
【0234】
医薬活性成分、診断薬、化粧品化合物、ペプチド、タンパク質、抗体、ワクチンおよび遺伝子の送達系としての担体としての本発明の架橋多糖の使用も、本発明の一部である。
【0235】
本明細書および特許請求の範囲全体を通して、「含む」という単語およびその単語の変化形は、他の技術的特徴、添加剤、成分、またはステップを除外することを意図するものではない。さらに、「含む」という言葉は、「からなる」の場合を包含する。本発明の追加の目的、利点、および特徴は、本明細書を検討することで当業者に明らかになるか、または本発明の実践によって学ぶことができる。以下の実施例および図面は、例示として提供されており、本発明を限定することを意図するものではない。図面に関連し、特許請求の範囲において括弧内に配置された参照符号は、単に特許請求の範囲の明瞭性を高めることを試みるためのものであり、特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。さらに、本発明は、本明細書に記載の実施形態の全ての可能な組み合わせを包含する。
【実施例】
【0236】
略語一覧
HA:ヒアルロン酸
GAG:グリコサミノグリカン
C.D.:架橋度
NaCMC:カルボキシメチルセルロースナトリウム
HES:ヒドロキシエチルデンプン
GlcA:D-グルクロン酸
GlcNAc:N-アセチル-D-グルコサミン
ECM:細胞外マトリックス
ROS:反応酸素種
HYAL:ヒアルロニダーゼ酵素
IA:炎症性関節炎
EDC:カルボジイミド
DVS:ジビニルスルホン
BDDE:1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル
PEGDE:ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル
GDE:1,3-グリセロールジグリシジルエーテル
PPE:ポリグリセロールジグリシジルエーテル
FDA:食品医薬品局
EEW:エポキシ当量
GPC:ゲル浸透クロマトグラフィ
SEC:サイズ排除クロマトグラフィ
SANS:小角中性子散乱
1H NMR:プロトン核磁気共鳴
PBS:リン酸緩衝液
IPN:相互貫入ネットワーク
MMPs:メタロプロテイナーゼ
Mw:重量平均分子量
Mn:数平均分子量
【0237】
材料
Shyalt ultrapure Sodium hyaluronate(ヒアルロン酸)、Altergon Italy製。
高アミロースデンプン、Merck製。
高アミロペクチンデンプン、Merck製。
カルボキシメチルセルロースナトリウム0.7MDa、0.8~0.9D.S.AQUALON(商標)、BLANOSE(商標)およびBONDWELL(商標)。
ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、MW=202Da、Merck製。
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)、MW=526Da、Merck製。
【0238】
1,3-ビス(2-オキシラニルメトキシ)-2-プロパノールであり、以下の名称、商品名、同義語および略語でも知られている:1,3-ビス(オキシラン-2-イルメトキシ)プロパン-2-オール;2-プロパノール、1,3-ビス(オキシラニルメトキシ);グリセロール1,3-ジグリシジルエーテル;Denacol EX-313、MW=204Da、EEW=141g/eq、ナガセケムテックス株式会社製;1,3-グリセロールジグリシジルエーテル、MW=204Da、Merck製;1,3-GDEは、以下の構造を有する:
【0239】
【0240】
2,3-ビス(2-オキシラニルメトキシ)-1-プロパノールであり、以下の名称、商品名、同義語および略語でも知られている:2,3-ビス(オキシラン-2-イルメトキシ)プロパン-1-オール、1-プロパノール、1,2-ビス(オキシラニルメトキシ);グリセロール1,2-ジグリシジルエーテル;1,2-グリセロールジグリシジルエーテル、MW=204Da、Merck製;1,2-GDEは、以下の構造を有する:
【0241】
【0242】
1,3-GDEおよび1,2-GDEの混合物もまた、以下の商標名で市販されている:Denacol EX-314、MW=260Da、EEW=144g/eq、ナガセケムテックス株式会社製;
水酸化ナトリウムペレット(NaOH)、Merck製;
塩酸37%(HCl)、Merck製;
塩化ナトリウム粉末(NaCl)、Merck製;
塩化カリウム粉末(KCl)、Merck製;
リン酸85%(H3PO4)、Merck製;
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)ペレット、Merck製;
蒸留水(H2O)、Merck製。
【0243】
方法
平均Mw、MnおよびMw/Mnの測定方法は、光散乱検出器を備えたクロマトグラフィ機器を用いたGPC/SEC分析により評価した。
EEWの測定方法は、超音波支援滴定によって評価した。
pHの測定方法は、ヒドロゲルに直接浸漬した電極を備えたpH計を直接読み取ることによって計算した。
【0244】
1.超分岐ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
【0245】
1.1.出発物質としての1,3-GDEの使用
以下に述べる調製プロセスは、1,3-GDEの供給源としてナガセから市販されているDenacol(登録商標)EX-313を使用することによって行うこともできる。それにもかかわらず、これらのプロセスは、Merckから市販されている1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを使用することによって、またはDenacol(登録商標)EX-313の代わりに1,3-DGEを含有する混合物である商標Denacol(登録商標)EX-314を用いて行うこともできる。
【0246】
1.1.1.プロセス1
水酸化ナトリウムペレット(NaOH)を水に溶解して、総溶液重量に基づいて4%のNaOH(1M)を含有するアルカリ溶液(溶液A)を形成した。
1,3-GDE(Denacol(登録商標)EX-313)を溶液Aの一部に室温で溶解して、総溶液重量に基づいて1~50重量%の1,3-GDEを含有するアルカリ溶液(溶液C1)を形成した。
次いで、溶液C1を、1,3-GDEの自己重合が生じる、1~500分の間、50~80℃の範囲内の制御された温度で反応させて、本発明のポリグリセロールポリグリシジルエーテルを得た(表1に開示された溶液C3(実施例1~13))。
【0247】
1.1.2.プロセス2
水酸化ナトリウムペレット(NaOH)を水に溶解して、総溶液重量に基づいて4%のNaOH(1M)を含有するアルカリ溶液(溶液A)を形成した。
1,3-GDE(Denacol(登録商標)EX-313)を溶液Aの一部に室温で溶解して、総溶液重量に基づいて1~50重量%の1,3-GDEを含有するアルカリ溶液(溶液C1)を形成した。
次いで、溶液C1を、1,3-GDEの自己重合が生じる、1~30日間の間、10~40℃の範囲内の制御された温度で反応させ、表1に開示される本発明のポリグリセロールポリグリシジルエーテル(溶液C2)を得た(実施例14~31)。
【0248】
1.1.3.本発明のPPEの特性評価
プロセス1および2の後に得られたPPEの、出発GDEのEEWの百分率として表されるエポキシ当量として測定される、得られたPPEの分子量およびエポキシ含有量を、前述のように光散乱検出器を備えたGPC機器およびHClによる定量滴定をそれぞれ使用して、経時的に分析的に監視した。各分析の前に、1M塩酸溶液およびPBSを添加してアルカリ触媒を中和し、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル溶液のpHを7.0に戻すことによってGDEの自己重合反応を停止した。
【0249】
得られた本発明のポリグリセロールポリグリシジルエーテル(PPE)の平均分子量(MW)およびEEWの、温度および時間の組み合わせ毎の値を、表1に報告する。
【0250】
【0251】
2.架橋多糖
【0252】
2.1.架橋ヒアルロン酸
【0253】
2.1.1.本発明のPPE架橋ヒアルロン酸
【0254】
2.1.1.1.調製プロセス
【0255】
実施例1~13のPPE架橋ヒアルロン酸(表2参照)を、以下に定義するプロセスに従って調製した。実施例14~16のPPE架橋ヒアルロン酸(表2参照)を、実施例1~13の場合と同じプロセスに従って調製したが、実施例1~13の場合の約2.5倍の架橋物質濃度(1.00の濃度)を使用した。
【0256】
プロセス1
【0257】
A.上記1.1.2項に開示されているプロセス後の実施例1~13のポリグリセロールポリグリシジルエーテルの調製。
【0258】
B.架橋多糖の調製
【0259】
代替B1
ヒアルロン酸(HA)乾燥粉末を溶液Aの一部に室温(25℃)で穏やかに溶解して(または溶液C3に直接添加して)、総溶液重量に基づいて5~15重量%の水和HAを含有するアルカリ溶液(溶液B)を形成した。
次いで、溶液C3を溶液Bに添加して、最終溶液中の水酸化物濃度が0.25~0.75Mの範囲内であり、HAとPPEとの比が2~12.5%w/w(PPEと乾燥多糖との重量比として表される)のアルカリ溶液を得る。
【0260】
代替B2
次いで、溶液C3を溶液Bに添加して、最終溶液中の水酸化物濃度が0.25~0.75Mの範囲内であり、最終溶液中のHAの濃度が総重量に対して8~10重量%の範囲内であり、最終溶液中のPPEの濃度が総重量に対して0.2~1重量%の範囲内であるアルカリ溶液を得る。PPEと乾燥多糖との重量比として表される比は、PPEと乾燥多糖との重量比として表される2~40%w/wである。
【0261】
C.架橋多糖の反応および単離
【0262】
次いで、HA、PPEおよびNaOHからなる得られたアルカリ溶液を、室温で完全に混合する。次いで、均質溶液を20~50℃の間の範囲内の制御された温度で、1~48時間の期間反応させた。
【0263】
次いで、PPE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)を酸性水溶液(1M塩酸およびPBS)で48~120時間洗浄して、未反応材料および副生成物を除去し、アルカリ触媒を中和し、PPE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)のpHをイオン交換によって6.5~7.4に戻し、表2に示されるように1~50mg/mLのPPE架橋ヒアルロン酸ヒドロゲル中のHAの所望の最終濃度に到達させた。
【0264】
EN ISO17665-1、Sterilization of health care products-Moist heat Part1:requirements for the development,validation and routine control of the sterilization process for medical deviceに報告されている薬局方で認められている手順に従って、PPE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)をシリンジに充填し、オートクレーブ中で蒸気滅菌した(例えば121℃で15分)。
【0265】
PPE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)は、任意選択で30℃の真空下で脱水するか、または凍結乾燥(フリーズドライ)し、その後の使用または分析のために保存することができる。
【0266】
プロセス2
【0267】
A.上記1.1.3項に開示されているプロセス後の実施例14~31のポリグリセロールポリグリシジルエーテルの調製。
【0268】
B.架橋多糖の調製
【0269】
代替B1
ヒアルロン酸(HA)を溶液Aの一部に室温(25℃)で穏やかに溶解して(または溶液C3に直接添加して)、総溶液重量に基づいて5~15重量%の水和HAを含有するアルカリ溶液(溶液B)を形成した。次いで、溶液C3を溶液Bに添加して、最終溶液中の水酸化物濃度が0.25~0.75Mの範囲内であり、HAとPPEとの比が2~12.5%w/w(PPEと乾燥多糖との重量比として表される)のアルカリ溶液を得る。
【0270】
代替B2
次いで、溶液C3を溶液Bに添加して、最終溶液中の水酸化物濃度が0.25~0.75Mの範囲内であり、最終溶液中のHAの濃度が総重量に対して8~10重量%の範囲内であり、最終溶液中のPPEの濃度が総重量に対して0.2~1重量%の範囲内であるアルカリ溶液を得る。PPEと乾燥多糖との重量比として表される比は、2~40%w/w(PPEと乾燥多糖との重量比として表される)である。
【0271】
C.架橋多糖の反応および単離
【0272】
次いで、HA、PPEおよびNaOHからなる得られたアルカリ溶液を、室温で完全に混合する。次いで、均質溶液を20~50℃の間の範囲内の制御された温度で、1~48時間の期間反応させた。
【0273】
次いで、PPE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)を酸性水溶液(1M塩酸およびPBS)で48~120時間洗浄して、未反応材料および副生成物を除去し、アルカリ触媒を中和し、ヒドロゲルのpHをイオン交換によって6.5~7.4に戻し、表2に示されるように1~50mg/mLのPPE架橋ヒアルロン酸ヒドロゲル中のHAの最終濃度に到達させた。
【0274】
EN ISO17665-1、Sterilization of health care products-Moist heat Part 1:requirements for the development,validation and routine control of the sterilization process for medical deviceに報告されている薬局方で認められている手順に従って、PPE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)をシリンジに充填し、オートクレーブ内で蒸気滅菌した(例えば121℃で15分)。PPE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)は、任意選択で30℃の真空下で脱水するか、または凍結乾燥(フリーズドライ)し、その後の使用または分析のために保存することができる。
【0275】
2.1.1.2.本発明のPPE架橋ヒアルロン酸の特性評価(PPE架橋ヒアルロン酸実施例1~16)
【0276】
本発明のPPEから得られた本発明のPPE架橋ヒアルロン酸の機械的特性を表2に開示する。表2の実施例1~13に開示されるPPE架橋ヒアルロン酸は、22.0mg/mLのヒアルロン酸の濃度を有するが、実施例14~16は、実施例1~13の約2.5倍の架橋物質濃度を有する。
【0277】
【0278】
2.1.2.比較架橋ヒアルロン酸
【0279】
2.1.2.1.比較1,3-GDE架橋ヒアルロン酸(比較GDE-HA)
【0280】
以下に述べる比較GDE-HAは、1,3-GDEの供給源としてナガセから市販されているDenacol(登録商標)EX-313を使用することによって調製される。それにもかかわらず、これらのプロセスは、Merckから市販されている1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを使用することによって、またはDenacol(登録商標)EX-313の代わりに1,3-DGEを含有する混合物である商標Denacol(登録商標)EX-314を用いて行うこともできる。
【0281】
比較例1~5の比較GDE架橋ヒアルロン酸(表4を参照されたい)を、以下に定義するプロセスに従って調製した。比較例6の比較GDE架橋ヒアルロン酸(表4を参照されたい)を、実施例1~5と同じプロセスに従って調製したが、1.00の架橋物質濃度を使用し、0.4037%のC.D.を有していた。
【0282】
調製プロセス
水酸化ナトリウムペレット(NaOH)を水に溶解して、総溶液重量に基づいて4%のNaOH(1M)を含有するアルカリ溶液(溶液A)を形成した。HAを溶液Aの一部に室温(25℃)で穏やかに溶解して、総溶液重量に基づいて5~15重量%の水和HAを含有するアルカリ溶液(溶液B)を形成した。
GDEを蒸留水に室温で溶解して、総溶液重量に基づいて1~10重量%のGDEを含有する中性溶液を形成した(溶液C1)。任意選択で、GDEを溶液Aの一部に室温で溶解して、総溶液重量に基づいて0.2~2重量%のGDEを含有するアルカリ溶液(溶液C2)を形成した。次いで、溶液C(C1/C2)を溶液Bに添加して、最終溶液中の水酸化物濃度が0.25~0.75Mの範囲内であり、所望の比率のHAおよびGDEを有するアルカリ溶液を得る。次いで、HA、GDEおよびNaOHからなる得られたアルカリ溶液を、室温で完全に混合する。
次いで、均質溶液を20~50℃の間の範囲内の制御された温度で、1~48時間の期間反応させた。次いで、GDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)を酸性水溶液(1M塩酸およびPBS)で48~120時間洗浄して、未反応材料および副生成物を除去し、アルカリ触媒を中和し、ヒドロゲルのpHをイオン交換によって6.5~7.4に戻し、以下の表4に示されるように1~50mg/mLのヒドロゲル中のHAの濃度に到達させた(GDE比較例1~5)。
【0283】
EN ISO17665-1に報告されている薬局方で認められている手順に従って、ヒドロゲルをシリンジに充填し、オートクレーブ内で蒸気滅菌した(例えば121℃で15分)。比較GDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)は、任意選択で30℃の真空下で脱水するか、または凍結乾燥(フリーズドライ)し、その後の使用または分析のために保存することができる。
【0284】
比較GDE架橋ヒアルロン酸(比較GDE-HA.1-6)の特性評価
【0285】
22.0mg/mLのヒアルロン酸の濃度を有する、市販の1,3-GDEから得られた本発明の範囲外の比較GDE架橋ヒアルロン酸の機械的特性を、表4に開示する。
【0286】
【0287】
2.1.2.2.比較BDDE架橋ヒアルロン酸(比較BDDE-HA)
【0288】
調製プロセス
水酸化ナトリウムペレット(NaOH)を水に溶解して、総溶液重量に基づいて4%のNaOH(1M)を含有するアルカリ溶液(溶液A)を形成した。ヒアルロン酸を溶液Aの一部に室温(25℃)で穏やかに溶解して、総溶液重量に基づいて5~15重量%の水和HAを含有するアルカリ溶液(溶液B)を形成した。
BDDEを蒸留水に室温で溶解して、総溶液重量に基づいて0.2~2重量%のBDDEを含有する中性溶液を形成した(溶液C1)。任意選択で、BDDEを溶液Aの一部に室温で溶解して、総溶液重量に基づいて1~10重量%のBDDEを含有するアルカリ溶液(溶液C2)を形成した。次いで、溶液C(C1中性またはC2アルカリ性)を溶液Bに添加して、最終溶液中の水酸化物濃度が0.25~0.75Mの範囲内であり、所望の比率のHAおよびBDDEを有するアルカリ溶液を得る。次いで、HA、BDDEおよびNaOHからなる得られたアルカリ溶液を、室温で完全に混合する。次いで、均質溶液を20から50℃の間の範囲内の制御された温度で、30分~48時間の期間反応させた。
次いで、BDDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)を酸性水溶液(1M塩酸およびPBS)で48~120時間洗浄して、未反応材料および副生成物を除去し、アルカリ触媒を中和し、ヒドロゲルのpHをイオン交換によって6.5~7.4に戻し、以下の表に示されるように1~50mg/mLの比較BDDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)中のHAの濃度に到達させた(BDDE-HA比較例1~5)。
EN ISO17665-1に報告されている薬局方で認められている手順に従って、比較BDDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)をシリンジに充填し、オートクレーブ内で蒸気滅菌した(例えば121℃で15分)。比較BDDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)は、任意選択で30℃の真空下で脱水し、その後の使用または分析のために保存することができる。
【0289】
比較BDDE架橋ヒアルロン酸の特性評価
【0290】
22.0mg/mLのヒアルロン酸の濃度を有する、市販のBDDEから得られた本発明の範囲外の比較BDDE架橋ヒアルロン酸の機械的特性を、表5に開示する。
【0291】
【0292】
2.1.2.3.比較PEGDE架橋ヒアルロン酸(比較PEGDE-HA)
【0293】
調製プロセス
水酸化ナトリウムペレット(NaOH)を水に溶解して、総溶液重量に基づいて4%のNaOH(1M)を含有するアルカリ溶液(溶液A)を形成した。HAを溶液Aの一部に室温(25℃)で穏やかに溶解して、総溶液重量に基づいて5~15重量%の水和HAを含有するアルカリ溶液(溶液B)を形成した。PEGDEを蒸留水に室温で溶解して、総溶液重量に基づいて0.4~4重量%のPEGDEを含有する中性溶液を形成した(溶液C1)。任意選択で、PEGDEを溶液Aの一部に室温で溶解して、総溶液重量に基づいて1~10重量%のPEGDEを含有するアルカリ溶液(溶液C2)を形成した。次いで、溶液C(C1/C2)を溶液Bに添加して、最終溶液中の水酸化物濃度が0.25~0.75Mの範囲内であり、所望の比率のHAおよびPEGDEを有するアルカリ溶液を得る。次いで、HA、PEGDEおよびNaOHからなる得られたアルカリ溶液を、室温で完全に混合する。次いで、均質溶液を20から50℃の間の範囲内の制御された温度で、1~48時間の期間反応させた。次いで、PEGDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)を酸性水溶液(1M塩酸およびPBS)で48~120時間洗浄して、未反応材料および副生成物を除去し、アルカリ触媒を中和し、比較PEGDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)のpHをイオン交換によって6.5~7.4に戻し、以下の表に示されるように1~50mg/mLの比較PEGDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)中のHAの最終濃度に到達させた(PEGDE-HA比較例1~5)。
【0294】
EN ISO17665-1に報告されている薬局方で認められている手順に従って、比較PEGDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)をシリンジに充填し、オートクレーブ内で蒸気滅菌した(例えば121℃で15分)。ヒドロゲルは、任意選択で30℃の真空下で脱水し、その後の使用または分析のために保存することができる。
【0295】
比較PEGDE架橋ヒアルロン酸の特性評価
【0296】
22.0mg/mLのヒアルロン酸の濃度を有する、市販のPEGDEから得られた本発明の範囲外の比較PEGDE架橋ヒアルロン酸の機械的特性を、表6に開示する。
【0297】
【0298】
2.1.3.アッセイ
【0299】
2.1.3.1.生存能力アッセイ
【0300】
MTTアッセイを使用して、成長させた3T3マウス線維芽細胞の生存能力を評価した。
【0301】
MTTアッセイは、以下を用いて行った:
比較BDDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)(BDDE-HA比較例3)、
比較PEGDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)(PEGDE-HA比較例3)、
本発明のPPE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)(PPE-HA実施例3)、
BDDE、
PEGDE、および、
PPE(本発明のPPE実施例22)。
【0302】
a)試験したヒドロゲルと直接接触させて成長させた細胞に対するMTTアッセイ。
100mgの各試験試料と直接接触させて成長させた細胞に対して、MTTアッセイを行った。このMTTアッセイは、対照(培養培地によって表される)に関して、試験した3つ全てのヒドロゲル間の細胞生存率の差を示し、これは、毒性または低生体適合性組織ではなく、ヒドロゲルの存在に起因する利用可能な低空間によって主に引き起こされる細胞増殖の阻害に起因する。特に、本発明のPPE架橋ヒアルロン酸の存在下での細胞生存能力は、対照ならびにBDDEおよびPEDGEを含む比較架橋ヒアルロン酸と比較して有意に高い。
【0303】
b)ヒドロゲルの抽出物中で成長させた細胞に対するMTTアッセイ。
試験された架橋ヒドロゲルを培養培地に24時間浸漬することによって得られた試験したヒドロゲルの抽出物の存在下で成長させた細胞に対して、MTTアッセイを行った。
試験したヒドロゲルの抽出物の存在下で成長させた細胞で行ったMTTアッセイは、ヒドロゲルと対照との間で細胞生存能力に差がないことを示しているか、これは、これらのヒドロゲルを培養培地に24時間浸漬した場合、試験した3つ全てのヒドロゲルが培地中で毒性物質を放出しなかったことを意味する。これは、架橋製造中に全ての未反応原料および副生成物が効率的に除去される、良好で制御された製造プロセスに起因する。
【0304】
c)架橋物質と直接接触させて成長させた細胞に対するMTTアッセイ
架橋物質溶液を含有する溶液と直接接触させて成長させた細胞に対して、MTTアッセイを行った。溶液は、化学反応、洗浄および滅菌等のヒドロゲルの製造プロセスの同じステップの後で(但し多糖を添加しない)、同じエポキシ当量を含む。
MTTアッセイは、PPEと直接接触させて成長させた細胞の生存能力が対照(NaCl0.9%中の培養培地)に対して有意に異ならないことを示す。顕微鏡画像は、PPEと直接接触している細胞が、細胞生存能力および罹患の徴候の有意な減少を一方で示すBDDEおよびPEGDEと直接接触して成長した細胞と比較した場合、良好な形状および生存能力を有することを確認した。
【0305】
2.1.3.2.酵素分解アッセイ
【0306】
酵素分解速度の評価は、以下を用いて行った:
比較BDDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)BDDE-HA比較例3、
比較PEGDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)PEGDE-HA比較例3、
比較GDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)GDE-HA比較例3、ならびに、
本発明のPPE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)PPE-HA実施例4、PPE-HA実施例5およびPPE-HA実施例6。
【0307】
試験した各架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)0.2mLを、ウシ試験からの0.1mg/mLヒアルロニダーゼ10μLで処理した(IV-S型;1040単位/mg固体)。試験したヒドロゲルをPBS中37℃で16時間インキュベートし、分解ヒアルロン酸からのウロン酸をカルバゾールアッセイで評価した。22mg/mLの試験した架橋ヒアルロン酸ヒドロゲルは、ヒアルロニダーゼに応答して、酵素分解による遊離ウロン酸の74.4%(対照としてBDDE架橋)から26.3%までの分解速度を示した。
【0308】
比較BDDEヒドロゲル(BDDE-HA比較例3)、比較PEGDEヒドロゲル(PEGDE-HA比較例3)および比較GDEヒドロゲル(GDE-HA比較例3)架橋ヒアルロン酸は、同様の架橋度を示し、したがって酵素分解後にそれぞれ74.4、70.8および69.5%の同等の量の遊離ウロン酸を示した。
【0309】
本発明のPPEヒドロゲル(PPE-HA実施例4および実施例5)は、架橋度の減少を示し、したがって酵素分解耐性の減少が予測されるべきであるが、予想外かつ反直感的に、酵素分解後の遊離ウロン酸の量はそれぞれ56.7%および26.3%に減少し、これは酵素分解耐性の統計的有意性の増加を示している。
【0310】
PPE架橋HA PPE-HA実施例6は、酵素分解後に、PPE-HA実施例4からのPPE架橋HAに由来する遊離ウロン酸に匹敵する58.0%の量の遊離ウロン酸を示したが、これは、2つのヒドロゲルが2つの異なる架橋度を有していても、酵素分解耐性が同等である(それぞれ56.7および58.0%)こと、特にPPE-HA実施例6からのC.D.がPPE-HA実施例4のC.D.よりも有意に低いことを示している(それぞれ0.2688%および0.1528%)。
【0311】
したがって、本発明のPPEの保護効果は、比較GDE、BDDEおよびPEGDEよりも酵素分解に対して有意に高い。特に、高分子量(すなわち3000Da~15000Da)のPPEの保護効果は、たとえ低分子量PPEがより良好な機械的特性を与えるとしても、酵素分解に対する低分子量(すなわち750Da~3000Da未満)のPPEの保護効果よりも高い。実験51のヒドロゲルからの22mg/mLのHAは、ヒアルロニダーゼによるインビトロ酵素分解に対して他のものよりも大きな耐性を示した。
【0312】
本発明のBDDE、PEGDE、GDEで架橋された比較ヒアルロン酸およびPPEで架橋されたヒアルロン酸の酵素分解アッセイの結果を、以下の表に要約する。
【0313】
【0314】
したがって、上記の結果に示されるように、本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用することによって調製された本発明の架橋多糖は、上記に開示された比較架橋物質を使用することによって調製された本発明の保護範囲外であるが同等の物理的特性を有する架橋多糖よりも良好な酵素分解耐性を有する(すなわち、相対酵素分解速度の割合が低い)。特に、本発明の保護範囲外である比較架橋多糖(市販のGDE、BDDEおよびPEGDEを架橋物質として使用して得られる)と同等の物理的特性(G´の値によって、ひいてはDNおよびC.D.の値によって数値的に表される)を有する本発明の架橋多糖(本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用して得られる)は、より大きな酵素耐性(すなわちより低い酵素分解速度)を有することが実証されている。
【0315】
さらに、上記の結果はまた、本発明の架橋多糖(本発明の超分岐PPEを架橋物質として用いることにより得られる)は、より少量の架橋物質でより高い酵素分解速度を有することを示し、これは、比較架橋多糖と同じ分解速度であるがG´、DNおよびC.D.の値が低いことが数値的に表される。これは、使用される架橋の量がより少ないために多糖の化学修飾がより少なく、皮膚への注射後に生体適合性および安全性が改善されるため有利である。
【0316】
2.1.3.3.酸化分解アッセイ
【0317】
試料:
酸化分解速度の評価は、以下を用いて行った:
比較BDDE架橋ヒアルロン酸BDDE-HA比較例3、
比較PEGDE架橋ヒアルロン酸PEGDE-HA比較例3、
比較GDE架橋ヒアルロン酸GDE-HA比較例3、ならびに、
本発明のPPE架橋ヒアルロン酸PPE-HA実施例4、PPE-HA実施例5およびPPE-HA実施例6。
【0318】
方法:
酸化分解に対する耐性を、最新技術(Bitter,T.and H.M.Muir,´´A modified uronic acid carbazole reaction.Analytical Biochemistry´´,1962,vol.4(4),pp.330-334を参照されたい)において開示されている方法に従って評価した:
試験した各架橋ヒアルロン酸0.2mLをフェントン試薬(5mLのPBS中の10μLの0.1M Fe+2/H2O2および25μLの0,1Mアスコルビン酸)で処理し、37℃で24時間インキュベートした。分解したヒアルロン酸からのウロン酸をカルバゾールアッセイで評価した。試験した22mg/mLの架橋ヒアルロン酸は、酸化分解による遊離ウロン酸の88.0%(PEGDE架橋)から61.6%の酸化に応答した分解速度を示した。
【0319】
比較BDDE架橋ヒアルロン酸(BDDE-HA比較例3)、比較PEGDE架橋ヒアルロン酸(PEGDE-HA比較例3)および比較GDEヒドロゲル架橋ヒアルロン酸(GDE-HA比較例3)は、同等の架橋度を示し、したがって酸化分解後にそれぞれ81.2、88.0および80.2の同等の量の遊離ウロン酸を示し、PEGDE架橋ヒアルロン酸が酸化分解に対して最も感受性である。
【0320】
本発明のPPE架橋ヒアルロン酸(PPE-HA実施例4およびPPE-HA実施例5)は架橋度の減少を示し、したがって酸化分解耐性の減少が予測されるべきであるが、予想外かつ反直感的に、酸化分解後の遊離ウロン酸の量はそれぞれ65.9および61.6に減少し、これは酸化分解耐性の統計的有意性の増加を示している。PPE-HA実施例6からの本発明のPPE架橋HAは、PPE-HA実施例4およびPPE-HA実施例5からのPPE架橋HAに由来する遊離ウロン酸より少し高い69.6%の酸化分解後の遊離ウロン酸の量を示すが、実験3、8および13よりも統計的に有意に低く、これは、本発明のPPE架橋ヒアルロン酸の酸化分解耐性が、本発明の範囲外にある比較BDDE、PEGDEおよびGDE架橋多糖類よりも高いことを示す。
【0321】
結果:
本発明のBDDE、PEGDE、GDEで架橋された比較ヒアルロン酸およびPPEで架橋されたヒアルロン酸の酸化分解アッセイの結果を、以下の表に要約する。
【0322】
【0323】
したがって、上記の結果に示されるように、また酵素分解速度について上述されているように、本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用することによって調製された本発明の架橋多糖は、上記に開示された比較架橋物質を使用することによって調製された本発明の保護範囲外であるが同等の物理的特性を有する架橋多糖よりも良好な酸化分解耐性を有する(すなわち、相対酸化分解速度の割合が低い)。
【0324】
さらに、上記の結果はまた、本発明の架橋多糖(本発明の超分岐PPEを架橋物質として用いることにより得られる)は、より少量の架橋物質でより高い酸化分解速度を有することを示している。これは、使用される架橋の量がより少ないために多糖の化学修飾がより少なく、皮膚への注射後に生体適合性および安全性が改善されるため有利である。
【0325】
2.2.架橋アミロースデンプン
【0326】
2.2.1.本発明のPPE架橋アミロースデンプン(PPE-AS)
【0327】
以下に述べるPPE-ASは、1,3-GDEの供給源としてナガセから市販されているDenacol(登録商標)EX-313を使用することによって調製される。それにもかかわらず、これらのプロセスは、Merckから市販されている1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを使用することによって、またはDenacol(登録商標)EX-313の代わりに1,3-DGEを含有する混合物である商標Denacol(登録商標)EX-314を用いて行うこともできる。
【0328】
調製プロセス
水酸化ナトリウムペレット(NaOH)を水に溶解して、総溶液重量に基づいて4%のNaOH(1M)を含有するアルカリ溶液(溶液A)を形成した。1,3-GDEを溶液Aの一部に室温で溶解して、総溶液重量に基づいて1~50重量%のGDEを含有するアルカリ溶液(溶液C1)を形成した。次いで、溶液C1を、1~30日間、10~40℃の範囲内の制御された温度で、または代替的に、1~48時間、20~50℃の範囲内の制御された温度で反応させ、その間に1,3-GDEの自己重合が生じ、表1に開示される分子量および/または特定のエポキシ含有量を有するポリグリセロールポリグリシジルエーテルを得た(溶液C3)。
【0329】
高含有量アミロースデンプンを溶液Aの一部に室温(25℃)で穏やかに分散させ、総溶液重量に基づいて5~15重量%の水和高含有量アミロースデンプンを含有するアルカリ溶液(溶液B)を形成した。次いで、溶液C3を溶液Bに添加して、最終溶液中の水酸化物濃度が0.25~0.75Mの範囲内であり、高含有量アミロースデンプンとPPEとの比率を有するアルカリ溶液を得る。次いで、高含有量アミロースデンプン、PPEおよびNaOHからなる得られたアルカリ溶液を、室温で完全に混合する。次いで、均質溶液を20~50℃の間の範囲内の制御された温度で、1~48時間の期間反応させた。
【0330】
次いで、PPE架橋高含有量アミロースデンプン(ヒドロゲル)を酸性水溶液(1M塩酸およびPBS)で48~120時間洗浄して、未反応材料および副生成物を除去し、アルカリ触媒を中和し、ヒドロゲルのpHをイオン交換によって6.5~7.4に戻し、以下の表に示されるように1~50mg/mLのPPE架橋アミロースデンプン(ヒドロゲル)中の高含有量アミロースデンプンの濃度に到達させた(PPE-AS実施例1~3)。
【0331】
EN ISO17665-1に報告されている薬局方で認められている手順に従って、PPE架橋アミロースデンプンヒドロゲルをシリンジに充填し、オートクレーブ内で蒸気滅菌した(例えば121℃で15分)。PPE架橋アミロースデンプンヒドロゲルは、任意選択でフリーズドライによって脱水され、その後の使用または分析のために保存され得る。
【0332】
2.2.2.比較GDE架橋アミロースデンプン(比較GDE-AS)
【0333】
比較GDE架橋アミロースデンプンを、比較1,3-GDE架橋ヒアルロン酸について上記の2.1.2.1項に開示されたプロセスに従って調製したが、ヒアルロン酸の代わりにアミロースデンプンを使用した。
【0334】
2.2.3.架橋アミロースデンプンの特性評価
【0335】
上記で得られた本発明のPPE架橋アミロースデンプン(PPE-AS)および比較GDE架橋アミロースデンプン(比較GDE-AS)の機械的特性を以下の表に開示する。
【0336】
【0337】
2.2.4 アッセイ
【0338】
2.2.4.1 酵素分解アッセイ
【0339】
試料:
酵素分解速度の評価は以下を用いて行った:
比較GDE架橋アミロースデンプン(ヒドロゲル)GDE-AS比較例1、ならびに、
本発明のPPE架橋アミロースデンプン(ヒドロゲル)PPE-AS実施例1、PPE-AS実施例2およびPPE-AS実施例3。
【0340】
方法:
0.2mLの試験した各架橋アミロースデンプン(ヒドロゲル)を、10μLのバチルス・リケニフォルミス(Bacillus Licheniformis)由来の0.1mg/mL α-アミラーゼ(凍結乾燥粉末、500~1,500単位/mgタンパク質)で処理した。試験したヒドロゲルをPBS中37℃で16時間インキュベートし、分解アミロースデンプンヒドロゲルからのヘキソースモノマーをカルバゾールアッセイで評価した。22mg/mLの試験した架橋アミロースデンプンヒドロゲルは、α-アミラーゼに応答して80.3%~41.7%の相対酵素分解速度を示した。
【0341】
結果:
比較GDE架橋アミロースデンプン(GDE-AS比較例1)および本発明のPPE架橋アミロースデンプン(PPE-AS実施例1)は同等の架橋度を示し、本発明のPPEヒドロゲル(PPE-AS実施例2およびPPE-AS実施例3)は架橋度の減少を示し、したがって酵素分解耐性の減少が予測されるべきであるが、予想外かつ反直感的に、酵素分解後の遊離ヘキソースモノマーの量はそれぞれ41.7%および80.0%に減少し、これは酵素分解耐性の統計的有意性の増加を示している。
【0342】
PPE架橋HA PPE-AS実施例3は、酵素分解後に、PPE-AS実施例1からのPPE架橋デンプンに由来する遊離ヘキソースモノマーの量に匹敵する量の遊離ヘキソースモノマーを示したが、これは、2つのヒドロゲルが2つの異なる架橋度を有していても、酵素分解耐性が同等である(それぞれ80.0%および80.3)こと、特にPPE-AS実施例3からのC.D.がPPE-AS実施例1のC.D.よりも有意に低いことを示している(それぞれ0.1548%および0.1981%)。
【0343】
したがって、本発明のPPEの保護効果は、比較GDEよりも酵素分解に対して有意に高い。特に、高分子量(すなわち3000Da~15000Da)のPPEの保護効果は、たとえ低分子量PPEがより良好な機械的特性を与えるとしても、酵素分解に対する低分子量(すなわち750Da~3000Da未満)のPPEの保護効果よりも高い。PPE-AS実施例2からの22mg/mLのASは、ヒアルロニダーゼによるインビトロ酵素分解に対して他のものよりも大きな耐性を示した。
【0344】
GDEで架橋された比較アミロースデンプンおよび本発明のPPEで架橋されたアミロースデンプンの酵素分解アッセイの結果を、以下の表に要約する。
【0345】
【0346】
したがって、上記の結果に示されるように、本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用することによって調製された本発明の架橋多糖は、上記に開示された比較架橋物質を使用することによって調製された本発明の保護範囲外であるが同等の物理的特性を有する架橋多糖よりも良好な酵素分解耐性を有する(すなわち、相対酵素分解速度の割合が低い)。特に、本発明の架橋多糖(本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用して得られた)は、より高い酵素耐性(すなわちより低い酵素分解速度)を有することが示されている。さらに、上記の結果はまた、本発明の架橋多糖(本発明の超分岐PPEを架橋物質として用いることにより得られる)は、より少量の架橋物質でより高い酵素分解速度を有することを示している。
【0347】
2.2.4.2酸化分解アッセイ
【0348】
試料:
酸化分解速度の評価は以下を用いて行った:
比較GDE架橋アミロースデンプンGDE-AS比較例1、ならびに、
本発明のPPE架橋アミロースデンプンPPE-AS実施例1、PPE-AS実施例2およびPPE-AS実施例3。
【0349】
方法:
酸化分解に対する耐性を、最新技術(Bitter,T.and H.M.Muir,´´A modified uronic acid carbazole reaction.Analytical Biochemistry´´,1962,vol.4(4),pp.330-334を参照されたい)において開示されている方法に従って評価した:
試験した各架橋アミロースデンプン0.2mLをフェントン試薬(5mLのPBS中の10μLの0.1M Fe+2/H2O2および25μLの0,1Mアスコルビン酸)で処理し、37℃で24時間インキュベートした。分解アミロースデンプンヒドロゲルからの遊離ヘキソースモノマーをカルバゾールアッセイで評価した。22mg/mLの試験した架橋アミロースデンプンは、酸化に応答して83.8%~77.4%の分解速度を示した。
【0350】
結果:
比較GDE架橋アミロースデンプン(GDE-AS比較例1)および本発明のPPE架橋アミロースデンプン(PPE-AS実施例1)は同等の架橋度を示し、本発明のPPE架橋アミロースデンプン(PPE-AS実施例2およびPPE-AS実施例3)は架橋度の減少を示し、したがって酸化分解耐性の減少が予測されるべきであるが、予想外かつ反直感的に、酸化分解後の遊離ヘキソースモノマーの量は、PPE-AS実施例1、PPE-AS実施例2およびPPE-AS実施例3に対してそれぞれ83.8、77.4および81.0に減少し、これは酸化分解耐性の統計的有意性の増加を示している。
【0351】
したがって、上記の結果に示されるように、また酸化分解速度について上述されているように、本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用することによって調製された本発明の架橋多糖は、上記に開示された比較架橋物質を使用することによって調製された本発明の保護範囲外であるが同等の物理的特性を有する架橋多糖よりも良好な酸化分解耐性を有する(すなわち、相対酸化分解速度の割合が低い)。
【0352】
GDEで架橋された比較アミロースデンプンおよび本発明のPPEで架橋されたアミロースデンプンの酸化分解アッセイの結果を、以下の表に要約する。
【0353】
【0354】
したがって、上記の結果に示されるように、また酵素分解速度について上述されているように、本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用することによって調製された本発明の架橋多糖は、上記に開示された比較架橋物質を使用することによって調製された本発明の保護範囲外であるが同等の物理的特性を有する架橋多糖よりも良好な酸化分解耐性を有する(すなわち、相対酸化分解速度の割合が低い)。さらに、上記の結果はまた、本発明の架橋多糖(本発明の超分岐PPEを架橋物質として用いることにより得られる)は、より少量の架橋物質でより高い酸化分解速度を有することを示している。
【0355】
2.3.架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン
【0356】
2.3.1.本発明のPPE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(PPE-ASG)
【0357】
以下に述べるPPE-ASGは、1,3-GDEの供給源としてナガセから市販されているDenacol(登録商標)EX-313を使用することによって調製される。それにもかかわらず、これらのプロセスは、Merckから市販されている1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを使用することによって、またはDenacol(登録商標)EX-313の代わりに1,3-DGEを含有する混合物である商標Denacol(登録商標)EX-314を用いて行うこともできる。
【0358】
調製プロセス
水酸化ナトリウムペレット(NaOH)を水に溶解して、総溶液重量に基づいて4%のNaOH(1M)を含有するアルカリ溶液(溶液A)を形成した。1,3-GDEを溶液Aの一部に室温で溶解して、総溶液重量に基づいて1~50重量%のGDEを含有するアルカリ溶液(溶液C1)を形成した。次いで、溶液C1を、10~40℃の範囲内の温度で1~30日間、または代替的に、20~50℃の範囲内の制御された温度で1~48時間反応させ、その間に1,3-GDEの自己重合が生じ、表1に開示される分子量および/または特定のエポキシ含有量を有する本発明のポリグリセロールポリグリシジルエーテルを得た(溶液C3)。
【0359】
高含有量アミロペクチンデンプン/グリコーゲンを溶液Aの一部に室温(25℃)で穏やかに分散させ、総溶液重量に基づいて5~15重量%の水和高含有量アミロペクチンデンプン/グリコーゲンを含有するアルカリ溶液(溶液B)を形成した。次いで、溶液C3を溶液Bに添加して、最終溶液中の水酸化物濃度が0.25~0.75Mの範囲内であり、高含有量アミロペクチンデンプン/グリコーゲンとPPEとの比率を有するアルカリ溶液を得る。次いで、高含有量アミロペクチンデンプン/グリコーゲン、PPEおよびNaOHからなる得られたアルカリ溶液を、室温で完全に混合する。次いで、均質溶液を20~50℃の間の範囲内の制御された温度で、1~48時間の期間反応させた。
【0360】
次いで、本発明のPPE架橋高含有量アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(ヒドロゲル)(PPE-ASG実施例1~3)を酸性水溶液(1M塩酸およびPBS)で48~120時間洗浄して、未反応材料および副生成物を除去し、アルカリ触媒を中和し、ヒドロゲルのpHをイオン交換によって6.5~7.4に戻し、以下の表に示されるように1~50mg/mLの本発明のPPEで架橋された高含有量アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(ヒドロゲル)の濃度に到達させた(PPE-ASG実施例1~3)。
【0361】
EN ISO17665-1に報告されている薬局方に従って、PPEで架橋されたアミロペクチンデンプン/グリコーゲン(ヒドロゲル)をシリンジに充填し、オートクレーブ内で蒸気滅菌した(例えば121℃で15分)。本発明のPPEで架橋されたアミロペクチンデンプン/グリコーゲン(ヒドロゲル)は、任意選択で、50℃の換気オーブン内で脱水し、その後の使用または分析のために保存することができた。
【0362】
2.3.2.比較GDE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(比較GDE-ASG)
【0363】
比較GDE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(比較GDE-ASG)を、比較GDE架橋ヒアルロン酸について上記の2.1.2.1項に開示されたプロセスに従って調製したが、ヒアルロン酸の代わりにアミロペクチンデンプン/グリコーゲンを使用した。
【0364】
2.3.3.架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲンの特性評価
【0365】
22.0mg/mLの濃度を有する、上記で得られた本発明のPPE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(PPE-ASG)および比較GDE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(比較GDE-ASG)の機械的特性を、以下の表に開示する。
【0366】
【0367】
2.3.4 アッセイ
【0368】
2.3.4.1 酵素分解アッセイ
【0369】
試料:
酵素分解速度の評価は以下を用いて行った:
比較GDE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(ヒドロゲル)GDE-ASG比較例1、ならびに、
本発明のPPE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(ヒドロゲル)PPE-ASG実施例1、PPE-ASG実施例2およびPPE-ASG実施例3。
【0370】
方法:
上記2.2.4.1項の酵素分解アッセイに開示された方法に従って、酵素分解に対する耐性を評価した。
【0371】
結果:
本発明のPPEヒドロゲル(PPE ASG実施例2およびPPE ASG実施例3)は、架橋度の減少を示し、したがって酵素分解耐性の減少が予測されるべきであるが、予想外かつ反直感的に、酵素分解後の遊離ヘキソースモノマーの量はそれぞれ76.0%および89.4%に減少し、これは酵素分解耐性の統計的有意性の増加を示している。
【0372】
比較GDE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(GDE-ASG比較例1)および本発明のPPE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(PPE-ASG実施例1)は同等の架橋度を示し、本発明のPPE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(PPE-ASG実施例2およびPPE-ASG実施例3)は架橋度の低下を示し、したがって酸化分解耐性の減少が予測されるべきであるが、予想外かつ反直感的に、PPE架橋HA PPE-ASG実施例3は、PPE-ASG実施例1からのPPE架橋デンプンに由来する遊離ヘキソースモノマーの量と同等の酵素分解後の遊離ヘキソースモノマーの量を示し、これは、2つのヒドロゲルが2つの異なる架橋度を有していても、酵素分解耐性が同等である(それぞれ89.4%および85.7)こと、特にPPE-ASG実施例3からのC.D.がPPE-ASG実施例1のC.D.よりも有意に低いことを示している(それぞれ0.1241%および0.1708%)。
【0373】
したがって、本発明のPPEの保護効果は、比較GDEよりも酵素分解に対して有意に高い。特に、高分子量(すなわち3000Da~15000Da)のPPEの保護効果は、たとえ低分子量PPEがより良好な機械的特性を与えるとしても、酵素分解に対する低分子量(すなわち750Da~3000Da未満)のPPEの保護効果よりも高い。PPE-AS実施例2からの22mg/mLのASは、ヒアルロニダーゼによるインビトロ酵素分解に対して他のものよりも大きな耐性を示した。
【0374】
GDEで架橋された比較アミロペクチンデンプン/グリコーゲンおよび本発明のPPEで架橋されたアミロペクチンデンプン/グリコーゲンの酵素分解アッセイの結果を、以下の表に要約する。
【0375】
【0376】
したがって、上記の結果に示されるように、本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用することによって調製された本発明の架橋多糖は、上記に開示された比較架橋物質を使用することによって調製された本発明の保護範囲外であるが同等の物理的特性を有する架橋多糖よりも良好な酵素分解耐性を有する(すなわち、相対酵素分解速度の割合が低い)。特に、本発明の架橋多糖(本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用して得られた)は、より高い酵素耐性(すなわち、より低い酵素分解速度)を有することが示されている。さらに、上記の結果はまた、本発明の架橋多糖(本発明の超分岐PPEを架橋物質として用いることにより得られる)は、より少量の架橋物質でより高い酵素分解速度を有することを示している。
【0377】
2.3.4.2 酸化分解アッセイ
【0378】
試料:
酸化分解速度の評価は以下を用いて行った:
比較GDE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲンGDE-ASG比較例1、ならびに、
本発明のPPE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲンPPE-ASG実施例1、PPE-ASG実施例2およびPPE-ASG実施例3。
【0379】
方法:
上記2.2.4.2項の酸化分解アッセイに開示された方法に従って、酸化分解に対する耐性を評価した。
【0380】
結果:
比較GDE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(GDE-ASG比較例1)および本発明のPPE架橋アミロペクチンデンプン/グリコーゲン(PPE-ASG実施例1)は同等の架橋度を示し、本発明のPPE架橋アミロースデンプン(PPE-ASG実施例2およびPPE-ASG実施例3)は架橋度の減少を示し、したがって酸化分解耐性の減少が予測されるべきであるが、予想外かつ反直感的に、酸化分解後の遊離ヘキソースモノマーの量は、PPE-ASG実施例1、PPE-ASG実施例2およびPPE-ASG実施例3に対してそれぞれ81.2、74.5および87.0に減少し、これは酸化分解耐性の統計的有意性の増加を示している。
【0381】
したがって、上記の結果に示されるように、また酸化分解速度について上述されているように、本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用することによって調製された本発明の架橋多糖は、上記に開示された比較架橋物質を使用することによって調製された本発明の保護範囲外であるが同等の物理的特性を有する架橋多糖よりも良好な酸化分解耐性を有する(すなわち、相対酸化分解速度の割合が低い)。
【0382】
GDEで架橋された比較アミロペクチンデンプン/グリコーゲンおよび本発明のPPEで架橋されたアミロペクチンデンプン/グリコーゲンの酸化分解アッセイの結果を、以下の表に要約する。
【0383】
【0384】
したがって、上記の結果に示されるように、また酵素分解速度について上述されているように、本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用することによって調製された本発明の架橋多糖は、上記に開示された比較架橋物質を使用することによって調製された本発明の保護範囲外であるが同等の物理的特性を有する架橋多糖よりも良好な酸化分解耐性を有する(すなわち、相対酸化分解速度の割合が低い)。さらに、上記の結果はまた、本発明の架橋多糖(本発明の超分岐PPEを架橋物質として用いることにより得られる)は、より少量の架橋物質でより高い酸化分解速度を有することを示している。
【0385】
2.4.架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム
【0386】
2.4.1.本発明のPPE架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(PPE-CMC)
【0387】
以下に述べるPPE-CMCは、1,3-GDEの供給源としてナガセから市販されているDenacol(登録商標)EX-313を使用することによって調製される。それにもかかわらず、これらのプロセスは、Merckから市販されている1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを使用することによって、またはDenacol(登録商標)EX-313の代わりに1,3-DGEを含有する混合物である商標Denacol(登録商標)EX-314を用いて行うこともできる。
【0388】
調製プロセス
水酸化ナトリウムペレット(NaOH)を水に溶解して、総溶液重量に基づいて4%のNaOH(1M)を含有するアルカリ溶液(溶液A)を形成した。1,3-GDEを溶液Aの一部に室温で溶解して、総溶液重量に基づいて1~50重量%のGDEを含有するアルカリ溶液(溶液C1)を形成した。次いで、溶液C1を、10~40℃の範囲内の温度で1~30日間、または代替的に、20~50℃の範囲内の制御された温度で1~48時間反応させ、その間に1,3-GDEの自己重合が生じ、表1に開示されるような分子量および/または特定のエポキシ含有量を有する本発明のポリグリセロールポリグリシジルエーテルを得た(溶液C3)。
【0389】
カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)を溶液Aの一部に室温(25℃)で穏やかに分散させ、総溶液重量に基づいて5~15重量%の水和NaCMCを含有するアルカリ溶液(溶液B)を形成した。次いで、溶液C3を溶液Bに添加して、最終溶液中の水酸化物濃度が0.25~0.75Mの範囲内であり、所望の比率のNaCMCおよびPPEを有するアルカリ溶液を得る。次いで、NaCMC、PPEおよびNaOHからなる得られたアルカリ溶液を、室温で完全に混合する。次いで、均質溶液を20~50℃の間の範囲内の制御された温度で、1~48時間の期間反応させた。次いで、本発明のPPE架橋NaCMC(ヒドロゲル)(PPE-CMC)を酸性水溶液(1M塩酸およびPBS)で48~120時間洗浄して、未反応材料および副生成物を除去し、アルカリ触媒を中和し、ヒドロゲルのpHをイオン交換によって6.5~7.4に戻し、以下の表に示されるように1~50mg/mLの本発明のPPE架橋NaCMC(ヒドロゲル)中のNaCMCの濃度に到達させた(PPE-CMC)。
EN ISO17665-1に報告されている薬局方に従って、本発明のPPE架橋NaCMC(ヒドロゲル)をシリンジに充填し、オートクレーブ内で蒸気滅菌した(例えば121℃で15分)。ヒドロゲルは、任意選択でフリーズドライにより脱水し、その後の使用または分析のために保存することができる。
【0390】
2.4.2.比較GDE架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(比較GDE-CMC)
【0391】
比較GDE架橋NaCMCを、比較GDE架橋ヒアルロン酸について上記の2.1.2.1項に開示されたプロセスに従って調製したが、ヒアルロン酸の代わりにNaCMCを使用した。
【0392】
2.4.3.架橋NaCMCの特性評価
【0393】
22.0mg/mLの濃度を有する、上記で得られた本発明のPPE架橋NaCMC(PPE-CMC実施例1~3)および比較GDE架橋NaCMC(GDE比較例1)の機械的特性を、以下の表に開示する。
【0394】
【0395】
2.4.4 アッセイ
【0396】
2.4.4.1 酵素分解アッセイ
【0397】
試料:
酵素分解速度の評価は以下を用いて行った:
比較GDE架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(ヒドロゲル)GDE-CMC比較例1、ならびに本発明のPPE架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(ヒドロゲル)PPE-CMC実施例1、PPE-CMC実施例2およびPPE-CMC実施例3。
【0398】
方法:
0.2mLの試験した各架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(ヒドロゲル)を、10μLのアスペルギルス・ニガー(Aspergillus Niger)由来の0.1mg/mLペクチナーゼで処理した。試験したヒドロゲルをPBS中37℃で16時間インキュベートし、分解カルボキシメチルセルロースナトリウムヒドロゲルからのヘキソースモノマーをカルバゾールアッセイで評価した。
【0399】
結果:
比較GDE架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(GDE-CMC比較例1)および本発明のPPE架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(PPE-CMC実施例1)は同等の架橋度を示す。本発明のPPEヒドロゲル(PPE-CMC実施例2およびPPE-CMC実施例3)は、架橋度の減少を示し、したがって酵素分解耐性の減少が予測されるべきであるが、予想外かつ反直感的に、酵素分解後の遊離ヘキソースモノマーの量は、PPE-CMC実施例2およびPPE-CMC実施例3に対してそれぞれ64.6%および85.4%に減少し、これは酵素分解耐性の統計的有意性の増加を示している。
【0400】
したがって、本発明のPPEの保護効果は、比較GDEよりも酵素分解に対して有意に高い。特に、高分子量(すなわち3000Da~15000Da)のPPEの保護効果は、たとえ低分子量PPEがより良好な機械的特性を与えるとしても、酵素分解に対する低分子量(すなわち750Da~3000Da未満)のPPEの保護効果よりも高い。PPE-AS実施例2からの22mg/mLのASは、ヒアルロニダーゼによるインビトロ酵素分解に対して他のものよりも大きな耐性を示した。
GDEで架橋された比較カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび本発明のPPEで架橋されたカルボキシメチルセルロースナトリウムの酵素分解アッセイの結果を、以下の表に要約する。
【0401】
【0402】
したがって、本発明のPPEの保護効果は、比較GDEよりも酵素分解に対して有意に高い。特に、高分子量(すなわち3000Da~15000Da)のPPEの保護効果は、たとえ低分子量PPEがより良好な機械的特性を与えるとしても、酵素分解に対する低分子量(すなわち750Da~3000Da未満)のPPEの保護効果よりも高い。
【0403】
2.4.4.2 酸化分解アッセイ
【0404】
試料:
酸化分解速度の評価は以下を用いて行った:
比較GDE架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムGDE-CMC比較例1、ならびに、
本発明のPPE架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムPPE-CMC実施例1、PPE-CMC実施例2およびPPE-CMC実施例3。
【0405】
方法:
上記2.2.4.2項の酸化分解アッセイに開示された方法に従って、酸化分解に対する耐性を評価した。
【0406】
結果:
比較GDE架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(GDE-CMC比較例1)および本発明のPPE架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(PPE-CMC実施例1)は同等の架橋度を示し、本発明のPPE架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(PPE-CMC実施例2およびPPE-CMC実施例3)は架橋度の減少を示し、したがって酸化分解耐性の減少が予測されるべきであるが、予想外かつ反直感的に、酸化分解後の遊離ヘキソースモノマーの量は、PPE-CMC実施例1、PPE-CMC実施例2およびPPE-CMC実施例3に対してそれぞれ92.6、83.7および82.5に減少し、これは酸化分解耐性の統計的有意性の増加を示している。
【0407】
したがって、上記の結果に示されるように、また酸化分解速度について上述されているように、本発明の超分岐PPEを架橋物質として使用することによって調製された本発明の架橋多糖は、上記に開示された比較架橋物質を使用することによって調製された本発明の保護範囲外であるが同等の物理的特性を有する架橋多糖よりも良好な酸化分解耐性を有する(すなわち、相対酸化分解速度の割合が低い)。
GDEで架橋された比較カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび本発明のPPEで架橋されたカルボキシメチルセルロースナトリウムの酸化分解アッセイの結果を、以下の表に要約する。
【0408】
【0409】
3.本発明のPPE架橋多糖のプレフィルドシリンジからの針を介した注射力の決定
【0410】
この試験により、針による注射力を決定することができる。特に、ピーク注射力は、静摩擦を克服するために化合物または組成物によって必要とされる力を指す。架橋多糖に関して、この値は、その均一性、シリンジの品質、およびそのバレル潤滑性にも依存する。通常、この値はシステム全体の品質を表す(化合物、注射器および針)。したがって、注射力のより低い値は、注入速度を増加させることなく、より低い疼痛知覚をもたらす。
【0411】
試験試料:
比較BDDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)BDDE-HA比較例5、
比較PEGDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)PEGDE-HA比較例5、
比較GDE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)GDE-HA比較例5、ならびに、
本発明のPPE架橋ヒアルロン酸(ヒドロゲル)PPE-HA実施例10、PPE-HA実施例11およびPPE-HA実施例12。
【0412】
注射された試料に対して試験を行うことによって、針を介した注射の効果を評価した。ゲージ長27Gおよび30G、ならびに一般に正しい針の選択は、ヒドロゲルの物理化学的および機械的特性によって強く影響される。1mLシリンジを使用して10mm/分(0.2mL/分)の速度で50mmの距離にわたり27Gおよび30G針を通してヒドロゲルを注入するのに必要な力(N)として、テクスチャアナライザ(Stable Micro Systems,TA.XT Plus)で注射力を測定した。
【0413】
標準的な方法を使用してBDDE、PEGDEおよびGDEで架橋された比較ヒアルロン酸(ヒドロゲル)、ならびに本発明のPPEで架橋されたヒアルロン酸(ヒドロゲル)(すべての架橋物質は多糖に添加された場合に同じ等価エポキシ含有量を有する)の27G針を通るピーク注射力および平均注射力の比較を、以下の表に開示する。
【0414】
【0415】
上述の結果に示されるように、本発明の架橋多糖は、本発明の範囲外である比較架橋多糖よりもピーク注射力の値が低い。注射速度を損なう(増加させる)ことなく、本発明の架橋多糖は注射がより容易であり、疼痛知覚および皮膚外傷を減少させるため、有利である。さらに、本発明の架橋多糖の施術者にとっての利便性が高くなるため有利である。
【0416】
引用リスト
He,Z.,et al.,´´Ultrasonication-assisted rapid determination of epoxide values in polymer mixtures containing epoxy resin´´.Analytical Methods,2014,vol.6(12),pp.4257-4261。
【0417】
完全性の理由から、本発明の様々な態様は、以下の番号が付けられた項目に記載されている。
【0418】
項目1.
式(I)の化合物、
または代替的に、
式(II)の化合物であって、
式中、各R
1は、R
2およびR
3からなる群から独立して選択され;
R
2は、
であり、
R
3は、
であり、
bは、1~70からなる群から選択される整数であり;
cは、1~70からなる群から選択される整数であり;
dは、1~70からなる群から選択される整数であり;
前記化合物は、
液体クロマトグラフィによる方法によって測定される750~15,000Daの分子量(M
w)を有し;
HClを用いた超音波利用高速滴定によって測定される183~7,000g/eqのエポキシ当量を有する、
化合物。
【0419】
項目2.
分子量(Mw)が、液体クロマトグラフィによる方法によって測定して800~7000Daであり;
エポキシ当量が、HClを用いた超音波利用高速滴定によって測定して195~700g/eqである、
項目1に記載の化合物。
【0420】
項目3.
分子量(Mw)が、液体クロマトグラフィによる方法によって測定して900~4500Daであり;
前記エポキシ当量が、HClを用いた超音波利用高速滴定によって測定して200~600g/eqである、
項目1または2に記載の化合物。
【0421】
項目4.
液体クロマトグラフィによって測定される1.8以下の多分散指数(MW/Mn)を有する、
項目1から3のいずれか1項に記載の化合物。
【0422】
項目5.
式(III)の架橋多糖、
または代替的に、
式(IV)の架橋多糖であって、
式中、各R
1は、R
2、R
3、R
4およびR
5からなる群から独立して選択され;
R
2は、
であり、
R
3は、
であり、
R
4は、
であり、
R
5は、
であり、
PSは、多糖であり;
架橋多糖は、0.077~0.269%の架橋率を有する、
架橋多糖。
【0423】
項目6.
相対酵素分解速度が、100%~37.9%であり;
相対酸化分解速度が、100%~76.8%である、
項目5に記載の架橋多糖。
【0424】
項目7.
多糖が、ヒアルロン酸、デンプンおよびその誘導体、グリコーゲン、セルロースおよびその誘導体、ペクチン、リグニン、イヌリン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸(アルギネート)、グルコマンナン、ガラクトマンナンならびにカラギーナンからなる群から選択される;好ましくはヒアルロン酸である、
項目5または6に記載の架橋多糖。
【0425】
項目8.
2つの架橋基間の平均距離(DN)が、27nm~42nmである、
項目5から7のいずれか1項に記載の架橋多糖。
【0426】
項目9.
多糖の濃度が、1~50mg/mlである、
項目5から8のいずれか1項に記載の架橋多糖。
【0427】
項目10.
多糖を、項目1から4のいずれか1項に記載の、式(I)の化合物、式(II)の化合物およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物と架橋するステップを含む方法によって得ることができる、
項目5から9のいずれか1項に記載の架橋多糖。
【0428】
項目11.
多糖を式(I)の化合物と架橋するステップを含む方法によって得ることができる項目10に記載の架橋多糖であって、式(I)の化合物が、
a)1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
b)ステップa)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む方法によって得られる項目10に記載の架橋多糖;
または代替的に、
多糖を式(II)の化合物と架橋するステップを含む方法によって得ることができる項目10に記載の架橋多糖であって、式(II)の化合物が、
c)1,2-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
d)ステップc)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む方法によって得られる項目10に記載の架橋多糖;
または代替的に、
多糖を式(I)の化合物および式(II)の化合物の混合物と架橋するステップを含む方法によって得ることができる項目10に記載の架橋多糖であって、
式(I)の化合物が、
a)1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
b)ステップa)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む方法によって得られ;
式(II)の化合物が、
c)1,2-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
d)ステップc)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む方法によって得られる、項目10に記載の架橋多糖。
【0429】
項目12.
ステップa)において、アルカリ溶液が、1~50重量パーセントの1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを含み;
ステップc)において、アルカリ溶液が、1~50重量パーセントの1,2-グリセロールジグリシジルエーテルを含む、
項目11に記載の架橋多糖。
【0430】
項目13.
項目1から4のいずれか1項に記載の化合物(I)または代替的に式(II)の化合物の調製方法であって;
化合物が式(I)の化合物である場合、方法は、
a)1,3-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
b)ステップa)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含み;
または代替的に、
化合物が式(II)の化合物である場合、方法は、
c)1,2-グリセロールジグリシジルエーテルを含有するアルカリ溶液を準備するステップと;
d)ステップc)で得られた溶液を10~80℃の温度で1分~30日間維持するステップと、
を含む調製方法。
【0431】
項目14.
項目5から12のいずれか1項に記載の架橋多糖の1つ以上と、
1つ以上の適切な賦形剤または担体と、
を含む組成物。
【0432】
項目15.
治療有効量の項目5から12のいずれか1項に記載の1つ以上の薬学的に許容される架橋多糖と、治療に使用するための1つ以上の薬学的に許容される賦形剤または担体と、を含む医薬組成物である、
項目14に記載の組成物。
【0433】
項目16.
化粧品有効量の項目5から12のいずれかに記載の1つ以上の化粧品として許容される架橋多糖と、スキンケア剤としての、特に皮膚充填剤としての1つ以上の化粧品として許容される賦形剤または担体と、を含む化粧品組成物である、
項目14に記載の組成物の使用。
【国際調査報告】