(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(54)【発明の名称】中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20221128BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20221128BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/14
C21D8/02 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520044
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-30
(86)【国際出願番号】 KR2020013062
(87)【国際公開番号】W WO2021066402
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】10-2019-0121723
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ, ハク-チョル
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA04
4K032AA16
4K032AA17
4K032AA19
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA35
4K032BA01
4K032CA02
4K032CB02
4K032CC02
4K032CC03
4K032CD02
4K032CD03
(57)【要約】
【課題】中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材は重量%で、C:0.02~0.06%、Mn:1.8~2.2%、Ni:0.7~1.1%、Mo:0.2~0.5%、Nb:0.005~0.03%、Ti:0.005~0.018%、P:80ppm以下、S:20ppm以下を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、厚さ(t)方向に3/8t~5/8tの領域において、EBSDで測定した15度以上の高境界角を有する結晶粒の平均粒度が15μm以下であることを特徴する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.02~0.06%、Mn:1.8~2.2%、Ni:0.7~1.1%、Mo:0.2~0.5%、Nb:0.005~0.03%、Ti:0.005~0.018%、P:80ppm以下、S:20ppm以下を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、
厚さ(t)方向に3/8t~5/8tの領域においてEBSDで測定した15度以上の高境界角を有する結晶粒の平均粒度が15μm以下であることを特徴とする中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材。
【請求項2】
前記鋼材は、アシキュラーフェライト、グラニュラーベイナイト、上部ベイナイト(upper bainite)を含む微細組織を有することを特徴とする請求項1に記載の中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材。
【請求項3】
前記鋼材は5~90mmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材。
【請求項4】
前記鋼材は降伏強度が500MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材。
【請求項5】
前記鋼材は、5%の変形後に250℃で1時間熱処理を行った後、変形時効衝撃試験時の遷移温度が-60℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材。
【請求項6】
重量%で、C:0.02~0.06%、Mn:1.8~2.2%、Ni:0.7~1.1%、Mo:0.2~0.5%、Nb:0.005~0.03%、Ti:0.005~0.018%、P:80ppm以下、S:20ppm以下を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1000~1080℃の温度に再加熱する段階、
前記再加熱された鋼スラブを850~1050℃の温度で粗圧延してバーを得る段階、
前記バーを60%超の総圧下率で700~800℃の温度で仕上げ圧延して熱延鋼材を得る段階、及び
前記熱延鋼材を3℃/s以上の冷却速度で500℃以下の温度まで冷却する段階を含むことを特徴とする中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記粗圧延時の総圧下率は40%以上であることを特徴とする請求項6に記載の中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
近年、国内外の船舶などの構造物設計において極厚物高強度鋼材の開発が求められており、構造物の設計時に高強度鋼を使用する場合、構造物の形態の軽量化による経済的利得とともに板厚を薄くすることができるため加工及び溶接作業の容易性を同時に確保することができる。また、船舶の輸送効率を向上させるために極地航路を運航しようとする試みが進められており、この場合、既存の-40℃での衝撃靭性を保証する鋼材ではなく-60℃での衝撃靭性を保証する極低温靭性保証高強度、極厚物材の需要が増加するものと予想される。
【0003】
しかし、一般的に高強度鋼の場合、極厚物材の製造時、総圧下率の低下により組織全体に十分な変形がなされないため、組織が粗大となり、特に中心部の場合、粗大なオーステナイト組織が形成されるため、硬化能が高くなり、中心部の衝撃靭性を保証するのに困難がある。
【0004】
また、船舶製造時に鋼材を元の板材形態のまま使用せず、一部を変形することによって船体の形態に加工するようになるが、このような変形を鋼材に付与する場合、変形による衝撃靭性が低下するようになる。加えて、変形後、時間が経つにつれて変形によって生成された転位内に炭素、窒素のような元素が混入し、これに伴う強度上昇により衝撃靭性はさらに劣化するようになる。このような現象を保証するために鋼材の開発後、各船級の認証を受ける際の母材の試験項目に、5%の変形後、250℃で1時間熱処理を行ってから衝撃靭性を測定する変形時効衝撃試験が含まれている。そのため、極低温靭性を保証する極厚物、高強度船舶用鋼材の場合、基本的な衝撃靭性の他に変形時効衝撃特性まで保証しなければならないが、極厚物材の中心部の変形時効衝撃まで保証するためには、中心部の微細組織を画期的に改善しなければならないという問題点がある。
【0005】
したがって、500MPa級以上の高強度鋼材では、既存の1/4t、1/2t部の母材衝撃靭性だけでなく、中心部の微細組織を制御して中心部の変形時効衝撃靭性を向上させることが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材は重量%で、C:0.02~0.06%、Mn:1.8~2.2%、Ni:0.7~1.1%、Mo:0.2~0.5%、Nb:0.005~0.03%、Ti:0.005~0.018%、P:80ppm以下、S:20ppm以下を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、厚さ(t)方向に3/8t~5/8tの領域において、EBSDで測定した15度以上の高境界角を有する結晶粒の平均粒度が15μm以下であることを特徴とする
【0008】
また、本発明の中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材の製造法は重量%で、C:0.02~0.06%、Mn:1.8~2.2%、Ni:0.7~1.1%、Mo:0.2~0.5%、Nb:0.005~0.03%、Ti:0.005~0.018%、P:80ppm以下、S:20ppm以下を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1000~1080℃の温度に再加熱する段階、上記再加熱された鋼スラブを850~1050℃の温度で粗圧延してバーを得る段階、上記バーを60%超の総圧下率で700~800℃の温度で仕上げ圧延して熱延鋼材を得る段階、及び上記熱延鋼材を3℃/s以上の冷却速度で500℃以下の温度まで冷却する段階を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、降伏強度が500MPa以上であり、厚さ中心部における変形時効衝撃試験時の遷移温度が-60℃以下であることを特徴とする中心部における極低温変形時効衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明における鋼材について説明する。まず、本発明の合金組成について説明する。下記に説明する合金組成の単位は、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0011】
C:0.02~0.06%
Cは、本発明において基本的な強度を確保する上で最も重要な元素であるため、適切な範囲内で鋼中に含有される必要がある。しかし、Cの含量が0.06%を超えると、変形時効衝撃試験時に転位に多量のCが固着して強度を上げるようになるため変形時効衝撃靭性が低下し、0.02%未満になると、強度の低下を招くため、Cの含量は0.02~0.06%の範囲を有することが好ましい。Cの下限は0.024%であることがより好ましく、0.028%であることがさらに好ましく、0.3%であることが最も好ましい。Cの上限は0.058%であることがより好ましく、0.054%であることがさらに好ましく、0.05%であることが最も好ましい。
【0012】
Mn:1.8~2.2%
Mnは、固溶強化及び硬化能の向上によって強度を向上させる有用な元素であるため、本発明で得ようとする500MPa以上の降伏強度を満たすためには、Mnを1.8%以上添加する必要がある。しかし、2.2%を超える場合には、過度な硬化能の増加により粗大な上部ベイナイト(Upper bainite)及びマルテンサイトの生成を促進して中心部の変形時効衝撃靭性を大きく低下させるため、Mnの含量は1.8~2.2%の範囲を有することが好ましい。Mnの下限は1.83%であることがより好ましく、1.86%であることがさらに好ましく、1.9%であることが最も好ましい。Mnの上限は2.17%であることがより好ましく、2.14%であることがさらに好ましく、2.1%であることが最も好ましい。
【0013】
Ni:0.7~1.1%
Niは、低温において転位のクロススリップ(cross slip)を容易にして衝撃靭性を向上させ、硬化能を向上させて強度を向上させる上で重要な元素であって、500MPa以上の降伏強度を有する高強度鋼における中心部の変形時効衝撃靭性を向上させるためには0.7%以上添加されることが好ましい。ただし、1.1%を超えると、硬化能を過度に上昇させて低温変態相が多量生成されて靭性を低下させるという問題があり、製造コストを上昇させるという問題がある。したがって、Niの含量は0.7~1.1%の範囲を有することが好ましい。Mnの含量は1.8~2.2%の範囲を有することが好ましい。Niの下限は0.73%であることがより好ましく、0.76%であることがさらに好ましく、0.8%であることが最も好ましい。Niの上限は1.07%であることがより好ましく、1.03%であることがさらに好ましく、1%であることが最も好ましい。
【0014】
Mo:0.2~0.5%
Moは、硬化能を向上させ、強度を向上させる上で重要な元素であり、強度の向上に比べて靭性の低下が少ない合金元素であって、500MPa以上の降伏強度を有する高強度鋼を確保するためには0.2%以上添加されることが好ましい。ただし、0.5%を超える場合には、硬化能が過度に上昇して低温変態相が多量生成され、靭性を低下させるという問題がある。したがって、Moの含量は0.2~0.5%の範囲を有することが好ましい。Moの下限は0.23%であることがより好ましく、0.26%であることがさらに好ましく、0.3%であることが最も好ましい。Moの上限は0.48%であることがより好ましく、0.44%であることがさらに好ましく、0.4%であることが最も好ましい。
【0015】
Nb:0.005~0.03%
Nbは、NbCまたはNbCNの形態で析出して母材の強度を向上させる。また、高温に再加熱時に固溶したNbは、圧延時にNbCの形態で極めて微細に析出されてオーステナイトの再結晶を抑制し、組織を微細化させる効果がある。効果のためには、Nbを0.005%以上添加することが好ましい。ただし、Nbが0.03%を超える場合には、鋼材の角に脆性クラックを引き起こす可能性があり、過度な析出物の生成及び多量の島状マルテンサイトの生成による靭性低下の問題が発生する可能性がある。したがって、Nbの含量は0.005~0.03%の範囲を有することが好ましい。Nbの下限は、0.008%であることがより好ましく、0.011%であることがさらに好ましく、0.015%であることが最も好ましい。Nbの上限は0.028%であることがより好ましく、0.026%であることがさらに好ましく、0.025%であることが最も好ましい。
【0016】
Ti:0.005~0.018%
Tiは、再加熱時にTiNとして析出し、母材及び溶接熱影響部の結晶粒の成長を抑制して低温靭性を大きく向上させ、効果的なTiNの析出のためには0.005%以上が添加されなければならない。しかし、0.018%を超える場合には、粗大なTiN晶出により低温靭性が減少するという問題点がある。したがって、Tiの含量は0.005~0.018%の範囲を有することが好ましい。Tiの下限は0.006%であることがより好ましく、0.008%であることがさらに好ましく、0.01%であることが最も好ましい。Tiの上限は0.017%であることがより好ましく、0.016%であることがさらに好ましく、0.015%であることが最も好ましい。
【0017】
P:80ppm以下
Pは、結晶粒界に脆性を誘発したり、粗大な介在物を形成させて脆性を誘発する元素であって、脆性割れ伝播抵抗性を向上させるために、その含量を80ppm以下に制限することが好ましい。
【0018】
S:20ppm以下
Sは、結晶粒界に脆性を誘発したり、粗大な介在物を形成させて脆性を誘発する元素であって、脆性割れ伝播抵抗性を向上させるために、その含量を20ppm以下に制限することが好ましい。
【0019】
本発明における鋼材の残りの成分は鉄(Fe)である。ただし、通常の鉄鋼製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の鉄鋼製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容を特に言及しない。
【0020】
本発明の鋼材は、厚さ(t)方向に3/8t~5/8tの領域において、EBSDで測定した15度以上の高境界角を有する結晶粒の平均粒度が15μm以下であることが好ましい。厚さ(t)方向に3/8t~5/8tの領域においてEBSDで測定した15度以上の高境界角を有する結晶粒の平均粒度が15μmを超える場合には、粒度の粗大化による有効結晶粒度が大きくなるにつれて、衝撃遷移温度が上昇して変形時効衝撃靭性が低下するという問題が発生する可能性がある。
【0021】
一方、本発明の鋼材の微細組織は、アシキュラーフェライト、グラニュラーベイナイト、上部ベイナイト(upper bainite)を含む混合組織であってもよい。本発明の鋼材は5~90mmの厚さを有することができる。
【0022】
上述のように提供される本発明の鋼材は、降伏強度が500MPa以上であることができる。また、5%の変形後に250℃で1時間熱処理を行った後、変形時効衝撃試験時の遷移温度が-60℃以下であることができる。
【0023】
以下、本発明の鋼材の製造方法について説明する。まず、鋼スラブを1000~1080℃の温度に再加熱する。本発明の鋼材の再加熱において加熱温度は1000℃以上とすることが好ましいが、これは鋳造中に形成されたTi及び/又はNbの炭窒化物を固溶させるためである。また、Ti及び/又はNbの炭窒化物を十分に固溶させるためには、1030℃以上に加熱することがより好ましい。ただし、過度に高い温度で再加熱する場合には、中心部のオーステナイトが粗大化する恐れがあるため、上記再加熱温度は1080℃以下であることが好ましく、1070℃以下であることがより好ましい。
【0024】
再加熱された鋼スラブを850~1050℃の温度で粗圧延してバーを得る。再加熱されたスラブは、その形状を調整するために粗圧延を行う。粗圧延を通じて鋳造中に形成されたデンドライト等の鋳造組織の破壊とともに粗大なオーステナイトの再結晶を通じて粒度を小さくする効果が得られる。一方、十分な再結晶を起こして組織を微細化するために、粗圧延時の総圧下率は40%以上であることが好ましい。
【0025】
上記バーを60%超の総圧下率で700~800℃の温度で仕上げ圧延して熱延鋼材が得られる。本発明では、上記バーのオーステナイト組織をパンケーキ化させ、転位を導入するために仕上げ圧延を行う。仕上げ圧延は、最大限中心部に加えられた変形が維持されるように700~800℃の温度で行うことが好ましい。仕上げ圧延温度が700℃未満の場合には、変形中にフェライトが析出して強度と靭性が共に減少するという欠点があり、800℃を超える場合には、粒度が大きくなって衝撃靭性が劣化し、十分な強度が確保されないという欠点がある。仕上げ圧延温度の下限は720℃であることがより好ましく、740℃であることがさらに好ましい。仕上げ圧延温度の上限は780℃であることがより好ましく、760℃であることがさらに好ましい。本発明では、仕上げ圧延時に中心部の粒度を最大限微細化するために、60%超の総圧下率を適用することが好ましい。仕上げ圧延時の総圧下率は61%以上であることがより好ましく、62%であることがさらに好ましい。
【0026】
上記熱延鋼材を3℃/s以上の冷却速度で500℃以下の温度まで冷却する。冷却速度が3℃/sより低くなったり、冷却停止温度が500℃を超える場合には、本発明の微細結晶粒が適切に形成されなくなり、降伏強度が500MPa以下となる可能性がある。
【0027】
以下では、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、例示を通じて本発明を説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。これは、本発明の権利範囲が、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0028】
(実施例)
下記表1に記載の合金組成を有する厚さ400mmの鋼スラブを用意してから1040~1070℃の温度に再加熱した後、930~1020℃の温度範囲で粗圧延を行ってバーが得られた。上記バーを下記表2の条件で仕上げ圧延して熱延鋼材を得た後、3.8~5.4℃/secの冷却速度で491~342℃の温度まで冷却した。このようにして製造された熱延鋼材について、厚さ(t)方向に3/8t~5/8tの領域においてEBSDで測定した15度以上の高境界角を有する結晶粒の平均粒度、降伏強度、及び中心部(3/8t~5/8t)の変形時効衝撃の遷移温度を測定し、下記表3に記載した。
【0029】
このとき、中心部における変形時効衝撃試験は鋼材の中心部で試験片を採取した後、5%の変形後に250℃で1時間熱処理を行った後、衝撃試験を進めて遷移温度を測定する方式で行われた。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
本発明で提案する合金組成と製造条件を満たす発明例1~5の場合、3/8t~5/8t部の結晶粒の平均粒度が15μm以下であることがわかり、これにより降伏強度が500MPa以上であり、変形時効衝撃の遷移温度が-60℃以下であることがわかる。
【0034】
比較例1、2の場合、本発明で提示する合金組成は満たすものの、仕上げ圧延時の総圧下率が低いことによって、中心部に十分な変形が加わらず、粒度の微細化に大きな影響を及ぼすアシキュラーフェライト(acicular ferrite)が十分に生成されず、粗大なベイナイトが多量生成された。これにより、粒度が粗大化することによって3/8t~5/8t部の結晶粒の平均粒度が15μmを超え、中心部の変形時効衝撃の遷移温度が-60℃を超えることが分かる。
【0035】
比較例3の場合、本発明で提示するCの上限より高い値を有することにより、高い硬化能によって粗大なベイナイト相が多量生成され、非常に高い降伏強度を示し、また3/8t~5/8t部の結晶粒の平均粒度が15μm以下であるにもかかわらず、多量のCが変形時効衝撃試験時に転位に固着することによって変形時効衝撃の遷移温度が-60℃を超えることが分かる。
【0036】
比較例4の場合、本発明で提示するMnの上限より高い値を有することにより、高い硬化能によって粗大なベイナイト相が多量生成され、非常に高い降伏強度を示すが、3/8t~5/8t部の結晶粒の平均粒度が15μmを超え、変形時効衝撃の遷移温度が-60℃を超えることがわかる。
【0037】
比較例5の場合、本発明で提示するC、Mnの下限より低い値を有することにより、中心部にポリゴナルフェライト(polygonal ferrite)のような軟質相が多量生成され、これにより降伏強度が500Mpaより低いレベルであることがわかる。
【0038】
比較例6の場合、本発明で提示するNiの上限より低い値を有することにより、3/8t~5/8t部の結晶粒の平均粒度が15μm以下であるにもかかわらず、低いNi含有量による靭性低下による変形時効衝撃の遷移温度が-60℃を超えることがわかる。
【0039】
比較例7の場合、本発明で提示するMoの上限より高い値を有することにより、高い硬化能によって粗大なベイナイト相が多量生成され、非常に高い降伏強度を示すが、3/8t~5/8t部の平均粒度が15μmを超え、変形時効衝撃の遷移温度が-60℃を超えることがわかる。
【0040】
比較例8の場合、本発明で提示するTi、Nbの上限より高い値を有することにより、過度な硬化能及び析出物の生成によって強度が上昇し、析出強化による靭性低下の影響により変形時効衝撃の遷移温度が-60℃を超えることがわかる。
【国際調査報告】