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特表2022-550831固体電池の正極での遷移金属硫化物化合物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(54)【発明の名称】固体電池の正極での遷移金属硫化物化合物の使用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221128BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221128BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221128BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221128BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520342
(86)(22)【出願日】2020-10-01
(85)【翻訳文提出日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2020077553
(87)【国際公開番号】W WO2021064117
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】19306253.6
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】517218664
【氏名又は名称】コレージュ・ドゥ・フランス
【氏名又は名称原語表記】COLLEGE DE FRANCE
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】タラスコン ジャン-マリ-
(72)【発明者】
【氏名】マルキーニ フロレンシア
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ09
5H029HJ02
5H029HJ18
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA09
5H050DA13
5H050EA15
5H050HA02
5H050HA18
(57)【要約】
本発明は、一般に、固体電池用の正極中の遷移金属硫化物化合物の使用、遷移金属硫化物化合物、複合材料、電極、電気化学的エネルギー貯蔵セルなどの、前記化合物を組み込んだデバイスもしくは材料、または全固体電池などのデバイスに関する。本発明はさらに、そのような化合物、材料またはデバイスを製造および/または使用する方法、ならびに前記化合物、材料および/またはデバイスを製造するプロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電池の正極の活物質として、酸化物化合物と関連付けられる、または組み合わされる遷移金属硫化物化合物の使用。
【請求項2】
前記遷移金属硫化物の前記遷移金属は、チタン、鉄、マンガン、ニッケル、バナジウムおよびそれらの組み合わせからなる群において選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記酸化物化合物は、実験式Aで表され、式中、Aはアルカリであり、Cは第2族から第13族までの少なくとも1つの元素を含み、Oは酸素であり、xは0<x<3などの数値であり、cは1~3の範囲の数値であり、zはx+cに等しい、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
遷移金属硫化物化合物および酸化物化合物を含み、最終的に電解質材料と混合され、好ましくは粉末または圧縮された粉末の形態である、複合材料。
【請求項5】
電解質材料と接触している少なくとも正極および負極を含む電気化学セルであって、前記正極は、請求項4に記載の複合材料を含むか、それからなるか、または実質的にそれからなる、電気化学セル。
【請求項6】
請求項5に記載の少なくとも1つの電気化学セルおよび外部接続を含む固体電池であって、好ましくは、前記電池は、固体リチウム電池である、固体電池。
【請求項7】
前記電池は、1.5~4.5V対Li/Li+の許容カットオフ電圧範囲で、好ましくは1.9~4.3V対Li/Li+の範囲で、より好ましくは2~4V対Li/Li+の範囲でサイクル可能である、請求項6に記載の固体電池。
【請求項8】
固体電池の正極の活物質としてアルカリ金属を含む三元遷移金属硫化物化合物の使用。
【請求項9】
前記三元遷移金属硫化物の前記遷移金属は、チタン、鉄、マンガン、ニッケル、バナジウムおよびそれらの組み合わせからなる群において選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記使用は、粉末形態の前記三元遷移金属硫化物化合物を、これも粉末形態である固体電解質材料と混合することを含む、請求項8または9に記載の使用。
【請求項11】
固体電池用の正極であって、前記電極は、三元遷移金属硫化物と、最終的には、ある割合の固体電解質材料を含む、正極。
【請求項12】
電解質材料と接触している少なくとも1つの正極および1つの負極を含む電気化学セルであって、前記正極は、請求項11に定義されているとおりである、電気化学セル。
【請求項13】
式III:
Li1.33-2y/3 0.67-y/32(III)、の三元遷移金属硫化物化合物の使用であって、
式中、MNは2つ以上の遷移金属の組み合わせであり、Li、M、およびNは、式IIIに示すように、yに依存する原子含有量をそれぞれ有し、yは、0.3のような厳密に0より大きくかつ0.5以下の数であり、好ましくはNはTiであり、NはFeである、使用。
【請求項14】
電解質と接触している少なくとも正極および負極を含む電気化学セルであって、前記正極は、式III:Li1.33-2y/3 0.67-y/3(III)、の三元遷移金属硫化物化合物を含むか、それからなるか、または実質的にそれからなり、
式中、MNは2つ以上の遷移金属の組み合わせであり、Li、M、およびNは、式IIIに示すように、yに依存する原子含有量をそれぞれ有し、yは、0.3のような厳密に0より大きくかつ0.5以下の数であり、好ましくはNはTiであり、NはFeである、電気化学セル。
【請求項15】
請求項14に記載の少なくとも1つの電気化学セルおよび外部接続を含む固体電池であって、好ましくは、前記電池は、前記セルのうちの2つ以上を含む、固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、固体電池用の正極中の遷移金属硫化物化合物の使用、遷移金属硫化物化合物、複合材料、電極、電気化学的エネルギー貯蔵セルなどの、前記化合物を組み込んだデバイスもしくは材料、または全固体電池などのデバイスに関する。本発明はさらに、そのような化合物、材料またはデバイスを製造および/または使用する方法、ならびに前記化合物、材料および/またはデバイスを製造するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯用電子機器の効率的なエネルギー貯蔵技術を開発することの重要性が増すにつれて、高エネルギー密度のリチウムイオン(Li-ion)電池を開発する動機付けも高まっている。
【0003】
これに関して、電解質が液体またはゲルではなく固体状態にある固体電池(SSB)は、適切に高いエネルギー密度に到達するのに適している。確かに、固体電解質(SE)は、高電圧の正極材料とリチウム金属を含むアルカリ金属の負極の使用を可能にする。特に、固体電解質は、不均一な電流分布のために、2つの電極(正と負)の間のリチウムの繰り返しの往復中に発生するデンドライトの形成を防ぐことができる。さらに、固体電池は、電気化学セルを積み重ねるために液体電解質を使用するリチウムイオン電池のように、セパレータを必要としない。このように、単一のセルの各対とより薄い厚さの集電体との間の間隔が縮小されたバイポーラスタック構成が、固体電池で可能になった。したがって、固体電池は、より高いエネルギー密度を達成するために必要な電池の重量と体積を減らすことができる(非特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、電解質が多孔質電極を透過し、したがって良好なイオンパーコレーション経路を提供する液体電解質を使用する電池とは異なり、固体電池は、活物質と固体電解質との間の不十分なイオンパーコレーション経路に悩まされる(非特許文献2を参照)。
【0005】
この点で、Kamayaらは、非特許文献3で、導電率が現在のLiイオン液体電解質(10-2S/cm)と同等であるLi10GeP12の固体電解質としての使用を提案している。しかしながら、固体電解質中のゲルマニウムは、金属リチウムとの化学的適合性を損なうことが分かった。また、ゲルマニウムは高コストの原料であり、リチウムイオン電池への大規模な導入を妨げる。
【0006】
一部のリチウムSSBの構成は、正極材料として、LiNiMnCo(NMC)、Li1-xMnO(LMO)およびLi1-xCoO(LCO)などの層状酸化物材料と、負極として使用されるリチウム金属(またはリチウム-インジウム合金などのその合金)とのより良い適合性を示すLiPSなどの硫化物ベースの固体電解質との使用を含む。これは、Koerver,R.らの非特許文献4の場合であり、正極活物質と硫化物固体電解質との間の適合性を向上させる目的で、酸化層LiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMC-811)と硫化物固体電解質β-LiPSを一緒に粉砕して、正極活物質を得た。固体電池は、
- 正極活物質として、70重量%の粉砕混合物NMC-811および30重量%の固体電解質β-LiPS
- 固体電解質としてのβ-LiPS、および
- 負極活物質としてのインジウム箔(初期状態で、最初の充電後、リチウム-インジウム合金が形成される)
を含む。
【0007】
Koerverらは、この構成では、より高い電圧制限(4.0V超対Li/Li)で動作している場合、依然として固体電解質の劣化を防ぐことはできないことを観察した。さらに、この構成では、正極と固体電解質の間の界面は、
- 固体電解質の表面でLiを引き付けるO2-のより大きな能力から生じるイオン的に枯渇したゾーン、および/または
- 電解質に関する層状酸化物の化学反応性
により、依然として貧弱なままである。
【0008】
枯渇したゾーンに関する問題を軽減するために、Liベースの層状酸化物を覆うLiNbO、ZrOなどの酸化物被膜が提案された(非特許文献5および6を参照)。酸化物被膜は、イオン的に枯渇したゾーンの形成を示さないと考えられていた。
【0009】
しかしながら、そのような酸化物被膜は、硫化物電解質と共に使用された場合、そのような有効性を実証していない。確かに、Xiao,Y.らの非特許文献6は、その高い化学反応性のためLiNbOなどの酸化物被膜の、β-LiPSなどの硫化物固体電解質との使用を推奨していない。
【0010】
さらに、Culver,S.P.らの非特許文献5においてまた、NMCやLCOなどの層状酸化物をチオリン酸などの硫化物や金属で被膜しても、高電圧での層状酸化物に対するこれらの硫化物の不安定性に関連する問題を軽減しないことを教えている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Janek,J.ら著、「A solid future for battery development.」、Nat. Energy1、2016、16141
【非特許文献2】Kanno, R. ら著、「Lithium Ionic Conductor Thio-LISICON: The Li2S-GeS2-P2S5 System.」、J. Electrochem. Soc.148, (2001)
【非特許文献3】Kamaya, N.ら著「A lithium superionic conductor.」、Nat. Mater.、2011、第10巻、682-686
【非特許文献4】Koerver, R.ら著、「Redox-active positive electrode interphases in solid-state batteries」、J. Mater. Chem.A 5、2017、22750-22760
【非特許文献5】Culver, S. P.ら著、「On the Functionality of Coatings for Positive electrode Active Materials in Thiophosphate-Based All-Solid-State Batteries.」、Adv. Energy Mater.、(2019).doi:10.1002/aenm.201900626
【非特許文献6】Xiao, Y.、 Miara,L.J.、Wang,Y.&Ceder,G.著、「Computational Screening of Positive electrode Coatings for Solid-State Batteries.」、Joule(2019).doi:10.1016/j.joule.2019.02.006
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の説明)
したがって、本発明の目的は、酸化物正極材料/硫化物固体電解質界面、およびそのような材料を含む電気化学的エネルギー貯蔵デバイスを実現することができる新しい電気活性化合物を提供することである。本発明の別の目的は、最先端の材料およびデバイスのこれらの欠点の1つまたはいくつかを克服する、および/または以下の特性のうちの1つ以上を有する化合物および/または材料(例えば、複合材料)を提供することである:
- 特にSSB技術で使用される酸化物化合物または材料と比較した場合、化学的に安定していること(適切な酸化物-硫化物界面)、
- リチウムのインターカレーションを可能にする(または電気化学的に活性である)界面または化合物を得ること、および
- 電気化学的に安定しており、さらに市販の酸化物の動作電圧範囲(例えば、3V~4.3V対Li/Li)にわたって電気化学的に安定していること。
【0013】
20年前、LiFeSは、固体リチウム電池の潜在的な負極活物質として開示された(Takadaらを参照)。しかし、そのような材料(FeS)の使用は、材料が室温で不安定であるため、決定的ではないことが証明された。
【0014】
好ましくはリチウムベースの遷移金属硫化物化合物(以下、Li活性硫化物またはLi挿入硫化物と呼ぶ)を層状酸化物化合物(以下、Li活性酸化物またはLi挿入酸化物と呼ぶ)と混合すると、上記の好ましい特性の少なくとも1つ、好ましくはそれ以上を提供することが今や見出された。また、特定の遷移金属硫化物化合物は、それ自体で固体電池(SSB)の正極の安定した材料として使用できることも発見された。「活物質」とは、この材料がインターカレーションまたは変換反応のいずれかによって、イオン(例えばLi)の可逆的な交換を可能にすることを意味する。
【0015】
したがって、本発明の第1の態様は、好ましくはカルコゲニド化合物であり、さらに固体電池の正極の活物質としてリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属(以下「アルカリ」)と関連付けられる(すなわち、含む)三元(しばしば「三級」と呼ばれる)遷移金属硫化物化合物の使用または使用プロセスである。本発明のこの態様によれば、本発明の三元遷移金属化合物は、1つの遷移金属のみを有し得る。この特定の場合、遷移金属は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Rf、Db、Sg、Bh、Hs、Cnからなる群から選択される。層状硫化物を形成することができる遷移金属が好ましい。特に、鉄、チタン、マンガン、ニッケル、バナジウムおよびそれらの組み合わせが好ましい金属である。好ましくは、本発明の遷移金属硫化物化合物は、少なくとも2つの遷移金属を含む。
【0016】
三元金属硫化物化合物は、好ましくは、LiTiSなどの層状硫化物化合物である。
【0017】
「三級遷移金属硫化物化合物」または「三元遷移金属化合物」とは、基本式Aを有する実験式Iを有する化合物を意味し、式中、Aは少なくともアルカリであり、「x」はこのアルカリの原子含有量(式単位あたり)である。Aは単一の元素であることが好ましい。アルカリは、Li、NaまたはKの群において選択されることがさらに好ましい。リチウムは、特に固体リチウム電池で使用するための好ましいアルカリである。比xは0<x<3である数である。アルカリがリチウムである場合、数「x」は好ましくは0.8~2.5の範囲で選択されるか、またはxは0.8<x<2である。好ましくは、xは1または2に等しい。比xは、0.9~1.5の範囲でさらに選択できる。
【0018】
Bは、少なくとも1つの遷移金属であり、好ましくは2つ以上である。遷移金属(単数または複数)の原子含有量bは、好ましくは0.5~3の範囲であり、好ましくは1~3である。それは有利には1、2または3であり得る。この遷移金属化合物は、有利には、少なくとも1つのアルカリ化合物をさらに含む。金属原子元素含有量は、原子発光分析によって測定することができる。
【0019】
市販の酸化物の動作電圧範囲を達成するために、Bが少なくとも2つの異なる遷移金属であることもまた好ましい。この場合、遷移金属硫化物は非化学量論的化合物であることが好ましい。Bが少なくとも2つの遷移金属である場合、Bは実験式Mを有することができ、式中、MおよびNは異なり、好ましくは豊富な遷移金属であり、yおよびwはそれぞれ元素(単数または複数)MおよびNの原子含有量である。
【0020】
「z」は硫黄の原子含有量であり、x+bに等しくなる。
【0021】
本発明の遷移金属硫化物は、粉末、有利には薄い粉末の形態であることが好ましい。薄い粉末とは、標準的なレーザ回折法で測定した場合、粉末の粒子のサイズ、または平均粒子径D50が5ミクロン未満、有利には2ミクロン未満であることを意味する。
【0022】
好ましい実施形態によれば、固体電解質(すなわち、イオン伝導体)材料を、三元遷移金属硫化物化合物と混合して、活性電極材料を形成することができる。前記固体電解質材料は、セラミックまたはポリマーなどの任意のタイプであり得るが、有利には、硫化リチウム、硫化ケイ素、硫化リン、特にチオホスフェート、硫化ホウ素またはそれらの混合物などの硫化物化合物である。例えば、硫化物または硫化物ベースの電解質は、SiS、GeS、B、LiGeP10、LiGePSI-Cl(またはアルギロダイト)、アモルファス(またはガラス状)LiPS、結晶化β-LiPSおよびそれらの混合などの成分からなる群から選択される化合物を含み得る。β-LiPSが特に好ましい。
【0023】
固体電解質に対する三元遷移金属硫化物の相対重量比率は、0.5~4、好ましくは1~3、より好ましくは1.8~2.7(例えば70:30)の範囲であり得る。
【0024】
電極、特に、本発明の第1の態様に関して記載された遷移金属硫化物化合物を含む正極もまた、本発明の目的である。本発明のさらなる目的は、電気化学セルまたは電池、特に固体電池、好ましくはリチウム電池であり、これは、上記で定義された正極を含む。前記セル、または電池は、さらに、負極および電解質を含む。本発明のさらなる目的は、正極、電気化学セルまたは電池、特に固体電池、好ましくはリチウム電池を製造する方法であり、これは、本発明のこの第1の態様を参照して記載したように遷移金属硫化物を提供し、電極、セルおよび/またはそれを含む電池を製造するステップを含む。
【0025】
本発明の第2の態様は、好ましくはカルコゲニド化合物であり、固体電池の電極の活物質として、好ましくはLi挿入酸化物またはNa挿入酸化物である酸化物化合物と関連付けられる、または組み合わされる遷移金属硫化物化合物の使用、または使用プロセスである。酸化物と硫化物との間のこの関連付けは、複合材料と呼ばれ、前記複合材料もまた、本発明の目的である。本発明のこの第2の態様によれば、遷移金属硫化物は、実験式II Bを有し、式中、Sは硫黄であり、Bは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Rf、Db、Sg、Bh、HsおよびCnからなる群から選択される1つ、2つ以上の遷移金属を含み得る。層状硫化物を形成することができる遷移金属が好ましい。遷移金属硫化物が単一の遷移金属を含む場合、その化合物は化学量論的化合物であることが好ましい。さらに、遷移金属は、チタン、鉄、マンガン、ニッケルおよびバナジウムからなる群から選択される遷移金属であることが好ましい。
【0026】
本発明の第2の態様に従って使用することができる遷移金属硫化物化合物は、有利には、式II:Bの化合物である。式IIでは、Sは硫黄であり、「z」はこの元素の原子含有量を表し、約1~3の範囲の数値である。好ましくは、「z」は、0.9~1.1、1.9~2.1もしくは2.9~3.1、または3.9~4.1の範囲の数である。特に、zは1、2、または3に等しくなり得る。
【0027】
Bは、少なくとも1つ、好ましくは2つ以上の遷移金属である。遷移金属(単数または複数)の原子含有量bは、好ましくは、約1~2の範囲である。有利には、1または2であり得る。金属原子元素含有量は、原子発光分析によって測定することができる。
【0028】
この遷移金属化合物は、有利には、少なくとも1つのアルカリ化合物をさらに含む。そのような三元化合物は、基本式I Aを有することができ、ここで、A、BおよびSは、式Iに関して定義されたとおりである。
【0029】
市販の酸化物の動作電圧範囲を達成するために、Bが少なくとも2つの異なる遷移金属であることもまた好ましい。この場合、遷移金属硫化物は非化学量論的化合物であることが好ましい。Bが少なくとも2つの遷移金属である場合、Bは実験式Mを有することができ、式中、MおよびNは異なり、好ましくは豊富な遷移金属であり、yおよびwはそれぞれ元素(単数または複数)MおよびNの原子含有量である。本発明の遷移金属硫化物は、粉末、有利には薄い粉末の形態であることが好ましい。薄い粉末とは、レーザ回折法で測定した場合、粉末の粒子の平均サイズ(または粒子径の中央値D50)が5μm未満、好ましくは2ミクロン未満であることを意味する。
【0030】
酸化物材料は、活性酸化物化合物、またはそれらの組み合わせであり、酸化物、層状酸化物、またはスピネルタイプの材料など、SSB技術で使用されるタイプのものであり得る。特に固体リチウム電池に関して、そのような酸化物は一般に実験式Aで表され、Oは酸素であり、xは上で定義され、cは1~3の範囲の数であり、zはx+cに等しい。Aは、Li、NaまたはKなどのアルカリ、好ましくはリチウムである。Cは、第2族から第13族までの少なくとも1つの元素を含み、特に、Cは、少なくとも1つの遷移金属酸化物を含み得る。酸化物活物質は、非化学量論的遷移金属酸化物であり得る。例えば、そのような酸化物材料は、LiNi0.6Mn0.2Co0.2またはLi(Ni0.33Mn0.33Co0.33)O2、コバルト酸リチウム(LC酸化物)、リチウムマンガン酸化物(LM酸化物)、LiFePO、LiNiMnO、またはそれらの混合物などの、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LNMC酸化物)であり得る。固体リチウムまたはナトリウム電池に関して、酸化物はさらに式A3+dCl1-dOであり得、式中、dはゼロより大きく、Aは少なくともLiおよびNaであり、DはS、Se、およびNのうちの少なくとも1つである。酸化物材料は通常、粒子の粉末の形態である。標準的なレーザ回折法で測定した場合、粉末の粒子のサイズ、または平均粒子径D50は好ましくは、20ミクロン未満、有利には10ミクロン未満である。
【0031】
本発明の第2の態様による本発明の別の目的は、本発明の第2の態様に関して上述したように、層状もしくは活性な酸化物材料と遷移金属硫化物化合物との混合物もしくは組み合わせを含む複合材料、または前記化合物の組み合わせである。
【0032】
複合材料は、硫化物と酸化物との密接な組み合わせを有利に含む。この密接な組み合わせは、両方の材料の混合、ミリング、および/または粉砕によって得ることができる混合粉末を含み得る。酸化物および硫化物材料の粉末を一緒に粉砕して、平均粒子サイズ(または粒子径の中央値D50)を有する粉末を得て、これは、10μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下であり得る。好ましくは、レーザ回折法によって測定される場合、それは、0.1~10μm、好ましくは1~10μm(例えば、約2μm)の範囲であり得る。混合粉末として使用する場合、使用する硫化物は、好ましくは、式Iで定義されるようなアルカリを含む硫化物である。選択されるアルカリは、SSBの電極間で交換されるイオンとして使用されるイオン種(Li+、Na+、Ca+)に対応するものである。
【0033】
本発明の複合材料中の遷移金属硫化物に対する酸化物の相対重量比は、0.1~30、好ましくは0.7~15、より好ましくは0.1~1.2または1~15(例えば約1:1または9:1)の範囲であり得る。
【0034】
複合材料は、上記のような混合粉末、および/またはコアおよび被膜層を有する粒子を含み得、コアは、層状または活性な酸化物材料を含み、被膜層は、遷移金属硫化物化合物を含む。複合材料は、実質的にこれらの被膜された粒子から構成され得るか、またはそれらの一部のみ、またはそれらのごくわずかな部分のみを含む。実質的にそれによって構成されるとは、複合材料の90重量%以上が被膜された粒子でできていることを意味する。しかしながら、本発明の複合材は、10~70重量%、好ましくは20~50重量%、特に30~40重量%の前記被膜された粒子を含むことが好ましい。
【0035】
コアは、球形、卵形、複雑な形状、および/または集合した形状など、任意の特定の形状にすることができる。コアは、20~5μm、好ましくは12~8μm、好ましくは11~9μm(例えば、約10μm)の範囲の平均粒子サイズまたは粒子径の中央値D50を有することが好ましい。
【0036】
被膜層は、部分的な被膜層のみであり得る、および/または不規則な形状および/または厚さを有し得る。層の厚さは、好ましくは100nm未満であり、好ましくは1~10nmの範囲である。これは、透過型電子顕微鏡を使用して測定することができる。被膜層は保護バリアとして機能し、粒子の表面でのイオン枯渇ゾーンの形成を防ぐ。被膜層として使用される硫化物化合物は、必ずしもアルカリを含まなくてもよい。式IIの化合物は、アルカリを含まない場合、酸化物/電解質の界面を改善する。
【0037】
遷移金属硫化物が三元化合物であり、アルカリ、特にリチウムまたはナトリウムを含む場合、電池の正極材料として使用されるほとんどの市販の酸化物の動作電圧範囲にわたって、化合物は電気化学的に活性であり、安定しているため、別の効果が示される。
【0038】
好ましい実施形態によれば、本発明の第2の態様の複合材料は、固体電解質(すなわち、イオン伝導体)材料をさらに含むことができる。前記固体電解質材料は、セラミックまたはポリマーなどの任意のタイプであり得るが、有利には、硫化リチウム、硫化ケイ素、チオホスフェートなどの硫化リン、硫化ホウ素またはそれらの混合物などの硫化物化合物である。例えば、硫化物または硫化物ベースの電解質は、SiS、GeS、B、LiGeP10、LiGePSI-Cl(またはアルギロダイト)、アモルファス(またはガラス状)LiPS、結晶化β-LiPSおよびそれらの混合などの成分からなる群から選択される化合物を含み得る。β-LiPSが特に好ましい。
【0039】
そのような実施形態において、固体電解質に対する酸化物および遷移金属硫化物の相対重量比率は、0.5~4、好ましくは1~3、より好ましくは1.8~2.7(例えば70:30)の範囲であり得る。
【0040】
一実施形態では、正極材料の初期比容量(最初の放電後に得られる)は、150~250(mAh g-1)の範囲である。比容量のこの範囲は、C/50~C/5の範囲の充電レート(以下「Cレート」と呼ぶ)で取得できる。C/50レートは、50時間での本発明の化合物からのリチウムイオンからの全ての除去、またはリチウムイオンへの挿入に対応する。
【0041】
本発明の第2の態様による複合材料は、既知の方法によって製造することができる。好ましくは、それは、層状酸化物材料の粒子を遷移金属硫化物と混合することを含み、これはまた、便利には粉末形態であり得る。混合は、機械的ミリング、例えばボールミリングによって有利に実施される。ボールミリングを選択した場合、粉末とボールの重量比は1:40~1:20の範囲、例えば1:36であり得る。ボールミルの回転速度は、100~200rpmの範囲、例えば140であり得る。ボールミリングの時間は、1分~5時間の範囲、例えば30分であり得る。複合材料が固体電解質を含む場合、複合材料は、電解質材料の粉末を、すでに混合された(例えば、ミリングされた)層状酸化物および遷移金属硫化物複合材の混合物と混合および/または粉砕することによって製造することができる。被膜された粒子を得るために、原子層堆積、パルスレーザ堆積、吹き付け被膜、スパッタリング、ゾルゲル法、および熱分解から選択される技術の1つまたは組み合わせを使用することができる。
【0042】
実施例に示されるように、本発明の第1および第2の態様のいずれかによる三元遷移金属硫化物または複合材料は、SSB技術において有利に使用され得る。したがって、電極材料、好ましくは、上記のような複合材料または三元遷移金属硫化物を含むか、それからなるか、または実質的にそれからなる正極材料が、本発明のさらなる目的である。
【0043】
電極材料は、有利には、正極に成形された圧縮材料であり得る。この圧縮材料、またはペレットは、電気化学セルおよび/または電池の構成要素としてその端部に合うように任意の形状にすることができる。
【0044】
本発明の別の目的は、イオン伝導体(すなわち電解質)と接触している少なくとも2つの電極(正および負の電極)を含む電気化学セルである。各電極には、いくつかの電子導体特性がある。本発明によれば、正極は、本発明による複合材料を含むか、それからなるか、または実質的にそれからなる。当技術分野で知られているように、電極は、イオン伝導体(電解質)によって移送されるリチウムまたはナトリウムなどのアルカリイオンを可逆的に受容または放出するように構成される。
【0045】
負極は、SSB電池の負極用の既知の活物質からなる群から選択される活物質を含むことができる。SSBがリチウム電池の場合、その材料は、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、活性化カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンファイバ、アモルファスカーボン、およびその他の炭素材料などのリチウムイオン電池用の周知の負極活物質であり得る。電池内のリチウム源としても機能することができるため、金属、リチウム含有金属、および合金もまた使用できる。適切な金属は、例えば、Li、In、Cu、Si、Sn、Sb、Geおよび/またはそれらの合金である。リチウム含有金属酸化物、金属窒化物、および金属硫化物もまた、特に、Ti、Mo、Sn、Fe、Sb、Co、およびVと関連して有用である。リン、または金属ドープリン(例えば、NiP)もまた利用できる。一実施形態では、負極の活物質は、インジウム、LiIn、LixSn(例えば、Li4.4Sn)および/または事前にリチウム化されたインジウム-銅合金である。
【0046】
電解質は、有利には、上記のような固体電解質である。本発明の複合材料が電解質材料を含む場合、本発明の電気化学セルの電解質またはイオン伝導体は、有利には同じ材料を含むか、または同じ材料である。
【0047】
本発明の別の目的は、本発明の少なくとも1つの電気化学セルおよび外部接続を含む固体電池である。一実施形態では、本発明の電池は、1.5~4.5V対Li/Li+の許容カットオフ電圧範囲、好ましくは1.9~4.3V対Li/Li+の範囲で、より好ましくは、2~4V対Li/Li+の範囲でサイクル可能である。カットオフ電圧は、電池が完全に放電または充電され、それを超えると、さらなる電荷の放電は電池に害を及ぼす可能性があると見なされる電圧として定義できる。本発明の電池は、低過電圧で良好なサイクル性能を示す。例えば、2.5V対Li/Li+のプラトーで測定した場合、過電圧は200mV未満であり、特に室温(20℃)で150~200mVの範囲である可能性がある。
【0048】
有利には、電池は、複数の電気化学セルを含み、特に、それはセルのスタックを含み得る。
【0049】
外部接続は、電気装置に電力を供給するために有利なサイズおよび形状になっている。
【0050】
本発明の第1および第2の態様の両方で使用される特に好ましい遷移金属硫化物化合物は、式III:Li1.33-2y/3 0.67-y/3の遷移金属硫化物化合物であり、式中、MNは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Rf、Db、Sg、Bh、Hs、およびCnからなる群から選択される2つ以上の遷移金属の組み合わせである。式IIIの化合物は、少なくとも2つの遷移金属の組み合わせMNを含み、Li、MおよびNは、式IIIに示されるように、それぞれ、yに依存する原子含有量を有し、yは、0.3などの0より大きくかつ0.5以下の数である。yが0.5未満の場合、リチウム過剰成分である。有利には、MおよびNのうちの1つは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Pd、Ta、Wからなる群から選択される2つ以上の遷移金属の組み合わせである。また、MまたはNはFeおよび/またはTiであることが特に好ましく、そのような化合物は空気および水分に対して安定であるためである。NがTiでMがFeである化合物が特に好ましい。原子含有量に関して、「約」という用語は、±0.05を意味すると理解され得る。
【0051】
したがって、式IIIの硫化物は、本明細書に記載されている用途、そして上記の本発明の複合材料、正極材料、電極、電気化学セル、電池、特に固体リチウム電池の一部であり得る遷移金属化合物として特に好ましい材料である。層状酸化物界面を保護するという特別な利点があり、(それ自体の層状酸化物と比較した場合)追加の比容量を提供し、空気、湿気、および温度の通常の状態で安定している。
【0052】
さらに、電力グリッドを安定化するマイクログリッド、断続的な再生可能エネルギー(例えば、太陽光、風力エネルギー)用の電気化学貯蔵デバイス、電気車両(例えば、バイク、自家用車、実用的な乗り物、バス、トラックなど)用のモバイル貯蔵デバイス、家庭用電力貯蔵デバイス、病院、学校、工場、コンピュータクラスタ、サーバ、企業、およびその他の公共および/または民間の建物またはインフラストラクチャ用の非常用電源またはエネルギー貯蔵デバイスなどの本発明の任意の態様による電池を組み込んだデバイスもまた本発明の目的である。本発明の任意の態様による複合材料または前記材料を組み込んだデバイスは、以下の産業で使用することができる:自動車、コンピュータ、銀行、ビデオゲーム、レジャー、創造的、文化的、化粧品、生命科学、航空、製薬、金属鉄鋼、鉄道、軍事、原子力、海軍、宇宙、食品、農業、建設、ガラス、セメント、繊維、包装、電子機器、石油化学、および化学産業。
【発明を実施するための形態】
【0053】
(図面の簡単な説明)
次に、本発明の特定の実施形態を、以下の図を参照して説明する。
【0054】
図1aは、クロノアンペロメトリ、定電流サイクル、およびEIS測定などの、電気化学セルからの電気化学測定を実行するために使用されるデバイスの分解斜視図を示す。図1bは、線AAに沿って取られたデバイスの断面図である。
【0055】
図2は、NMC622/LTFS粉末混合物、熱処理後の同じ複合材料、ならびにLTFSおよびNMC622粉末の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。
【0056】
図3は、熱処理前(黒線)および後(赤線)のNMC622/LTFS混合ペレット(1:1重量比)のセルの電流対時間プロットを示す。
【0057】
図4は、NMC622/LTFS混合ペレットの印加電位に対する図3から決定された定常電流のプロットを示す。
【0058】
図5は、さまざまな温度状況(室温、45、75、105℃)でサイクルした70:30の重量比のLTFSおよびLiPSの混合物から作られたセルのC/50レートでの定電流サイクル曲線を示す。
【0059】
図6は、テスト電池AのC/50レートでの定電流サイクル曲線(比容量に対する電位)を示す。
【0060】
図7は、テスト電池BのC/50レートでの定電流サイクル曲線(比容量に対する電位)を示す。
【0061】
図8は、図7と同じ条件で得られたテスト電池Bのサイクルにわたる比容量(mAh g-1)変化を示す。
【0062】
図9は、プルーフ電池AおよびBのC/50レートでの定電流サイクル曲線(比容量に対する電位)を示す。
【0063】
図10は、最初の充電後(脱リチウム状態)に得られたプルーフ電池Aおよびプルーフ電池Bの電気化学インピーダンス分光法(EIS)スペクトルを示す。
【0064】
(実施例)
実施例1~5は、さまざまな化合物、材料、電気化学セルの製造、ならびにそれらの作製およびテストに使用されるデバイスの説明に関する。
【0065】
実施例6~10は、特に、Li活性硫化物材料が電気化学的に活性であり、温度変化にもかかわらず化学的に安定であり、電気化学的に活性であり、正極の動作電圧範囲にわたって電気化学的に安定であることを示し(例えば、4.0V対Li/Li)、酸化物が本発明のLTFSと混合されるときに酸化物/SE界面が改善されたことを示す。
【0066】
(実施例1:本発明の硫化リチウム(LTFS)を合成する方法)
化合物Li1.13Ti0.3Fe0.57(以下LTFSと呼ぶ)は、固相反応によって調製された(Liuら)。この目的のために、259.6mgのLiS(Alfa Aesar、99 w/w%)、728.4mgのTiS(Sigma Aldrich、99.9w/w%)、および263.7mgのFeS(Alfa Aesar、99w/w%)を計量し、均一に混合し、30分間手作業で粉砕した。その後、これらの前駆体粉末は、Arが充填されたグローブボックス内の石英管に充填され、(OおよびHOレベル<1ppm)その後、真空下(~10-5mbar)で管を密封した。続いて、密封された管を750℃で36時間アニーリングした後、水中で急冷した。得られた化合物をグローブボックス内に収集し、10分間手作業で粉砕してから、保管し、さらに使用した。管が雰囲気にさらされたとき、密封することによって空気の接触は避けられた。それ以外の場合、プロセス全体はArで満たされたグローブボックス内で行われた。
【0067】
(実施例2:固体電解質β-LiPSの調製)
β-LiPS固体電解質は、テトラヒドロフラン(THF)での溶液合成によりLiSおよびPから得られた:328.07mgのLiS(Alfa Aesar、純度99w/w%)および529mgのP(Acros Organics、純度>98w/w%)を計量し、アルゴンを充填したグローブボックス内で数分間手作業で均一に混合した(OおよびHOレベル<1ppm)。混合物を収集し、室温で25mLのTHF(Sigma Aldrich、純度99.9%)中に懸濁した。
【0068】
混合物を連続的に撹拌しながら3日間放置した。次に、600rpmで3分間の遠心分離によって固体を回収し、純粋なTHFですすいだ。すすいだ後、湿った粉末をガラス管に移し、それをさらにホットプレートの上に置かれたサンドバスに導入した。次に、ガラス管をグローブボックス内のSchlenk line(真空ガスマニホールド)に接続し、サンプルを乾燥させるために、約0.1mbarの最終圧力まで排気した。
【0069】
次に、管を室温で2時間放置し、次に100℃で24時間加熱して、残っているTHFを除去した。最後に、それを140℃で18時間加熱して、β-LiPSの最終生成物を得た。
【0070】
(実施例3:本発明による正極複合材料の調製)
正極複合材料を作製するために実施例で使用される層状酸化物は、純度99.9w/w%の平均粒子サイズが10μmであるLiNi0.6Mn0.2Co0.2(以下、NMC622と呼ぶ)である。これは、Umicore(登録商標)社(ベルギー、ブリュッセル)によって提供された。
【0071】
アルゴンを充填したグローブボックス内で、実施例1に従って得られたLTFSとNMC622とを一緒に混合し(1:1の重量比)、30分間手作業で粉砕し、さらに遊星ボールミルにおいて140rpmで30分間ボールミリングした(粉末対ボール重量比1:36、36gのジルコニア製ボールに対して1gの粉末、つまり、3gの12個のボール)。ボールミリングは、2つの気密ジルコニアボールミル容器に収容された複合材料を使用してグローブボックスの外側で実行された。
【0072】
次に、実施例2のLi活性硫化物β-LiPSを、好適な重量比(70%のNMC622/LTFSおよび30%のβ-LiPS)でNMC622/LTFS混合物に添加するように計量した。次に、これらの成分を乳鉢と乳棒で1時間手作業で粉砕することにより混合した。この複合材料は、テスト電池Bの組み立てに使用された。
【0073】
本発明による別の複合材料は、テスト電池B材料に使用されたのと同じステップに従ったが、層状酸化物材料を使用せずに、得られた。したがって、LTFSは重量比(70:30)により、実施例2のLi活性硫化物β-LiPSに追加された。この複合材料は、テスト電池Aを組み立てるために使用された。
【0074】
本発明による別の複合材料は、テスト電池Bの場合と同じステップに従ったが、NMC622/LTFSの異なる比率で、得られた。この材料では、重量比はテスト電池Bのように1:1ではなく、9:1である。混合物NMC622/LTFSを重量比70:30(70%のNMC622/LTFSおよび30%のβ-LiPS)により実施例2のLi活性硫化物β-LiPSに添加した。この複合材料は、プルーフ電池Bの組み立てに使用された。
【0075】
同じ手順であるが、LTFSを使用せずに、別の複合材料を取得した。したがって、NMC622を重量比70:30(70%のNMC622/LTFSおよび30%のβ-LiPS)により実施例2のLi活性硫化物β-LiPSに添加した。この複合材料を使用して、プルーフ電池Aを作製した。
【0076】
(実施例4:テスト用のペレットの組み立て(実施例6を参照))
実施例3の各正極複合材料60mgを色素セットに入れ、5分間の油圧プレスで4トン cm-2を加えて圧縮して、直径8mm、厚さ0.3mmのペレットを形成した。次に、ペレットを色素セットから取り出した。
【0077】
(実施例5:セルアセンブリ)
自家製のセルは、電池の組み立てとテスト(サイクルおよびEIS)、およびペレット化されたLTFS/NMC混合物の加熱および特性評価(クロノアンペロメトリ)に使用される。電池ケーシングは、圧力監視を可能にし、周囲温度(約20℃)から170℃(スリーブ内の最高温度)までの範囲の温度で動作する。ケーシングは、結果を変える可能性のあるサンプルの直接操作を意味する別のエクスサイチュ熱処理の代わりに、サンプルにインサイチュで前述の熱処理を提供するために使用された。
【0078】
(ケーシング構造)
電池ケーシング(1)は、図1aに示すように、3つの円筒形の個別の要素のアセンブリとして説明できる。これらは次のとおりである:
- 上部ピストン(3)および下部ピストン(5)、および
- 中央本体部分(7)。
【0079】
上部ピストン(3)は上部プランジャ(9)を含み、下部ピストン(5)は下部プランジャ(11)を含み、両方とも円筒形のロッドの形状を有し、これは長手方向および中心軸Aに沿って延びる。上部ピストン(13)の上部かつ中央には、ナット(13)がある。
【0080】
中央本体部分(7)の中央にある穴(15)は、各ピストン(3)および(5)からのプランジャ(9)、(11)を収容することができる。3つの要素(3)、(5)および(7)は、プランジャ(9)、(11)を、長手方向軸Xに沿って、中央本体部分(7)の両側から穴(15)(中央本体部分内に設けられ、直径約8mm)に導入することによって組み立てられる。ケーシング(1)は、プランジャ(9)、(11)のうちの少なくとも1つを穴(15)に(または穴(15)から)挿入(または除去)するだけで開閉することができる。
【0081】
図1bに示されるように、上部ピストン(3)は、積み重ねられた関係で、ナット(13)、力センサ(17)、上部プランジャ(9)を含む。上部プランジャ(9)は、上部電気接点(19)を備える。
【0082】
下部ピストン(5)は、底部から上部に積み重ねられた関係で、基部(21)、本体、および下部プランジャ(11)を含む。下部プランジャ(11)はさらに、底部電気コネクタ(23)を備える。
【0083】
中央本体部分(7)は、穴(15)の周りに、ポリマー材料の内部断熱スリーブ(25)を含む。スリーブの内部ボイドは直径約8mmである。各ピストン(3)、(5)のプランジャ(9)、(11)が本体(7)の両側から穴(15)に入ると、各プランジャ(9)、(11)の端部の間に円筒形空間(27)が作られる。電気化学セルを形成する正極材料、固体電解質(SE)および負極をこの空間(27)内に配置することができる。加熱スリーブ(29)は、内部スリーブ(25)の周りに提供され、空間(27)内に配置されたときに空間(27)および電気化学セルに熱を加えるように適合されている。
【0084】
(電気化学セルの組み立て手順)」
全てのセルの組み立ておよびテストは、アルゴンを充填したグローブボックス(OおよびHOレベル<1ppm)で実施した。
【0085】
セルは、加熱せずに、室温で各要素を順次装填およびプレスすることによって組み立てられた。電気化学セルは以下を含む:
- 固体電解質(SE)、
- 本発明による材料および市販の酸化物を含む正極複合材料、および
- インジウム銅ディスク製の負極。
【0086】
インジウム-銅ディスクは、銅箔(Goodfellow、純度99.99%、厚さ=0.02mm)から直径8mmにカットされた銅ディスクの片面に、10~15mgのインジウム箔(Sigma Aldrich、純度99%、厚さ=0.127mm)を広げることによって作製された。負極はもともとインジウムでできており、初期状態ではリチウムを含んでいない。ただし、最初の充電後、正極の脱リチウムにより、リチウム化された正極からのリチウムイオンは、次の反応In+Li+e=InLiに従って、インジウムとInLi金属間相を形成し、負極でリチウムを供給する。
【0087】
このように、セル測定を行う場合、負極は対極および参照電極と同時に作用し、正極は作用電極と見なされる。
【0088】
組み立ての開始時に、ケーシング(1)の上部ピストン(3)が取り外された。まず、実施例2から調製された30~35mgの固体電解質β-LiPSは、スリーブ(25)の内側に装填され、下部プランジャ(11)上かつ空間(27)内に均一に分配された。上記の範囲での固体電解質の質量の変動は、最終結果に顕著な影響を与えなかった。次に、上部プランジャ(9)をスリーブ(25)の内側に挿入することにより、ケーシング(1)を閉じた。ケーシング(1)は油圧プレス(図示せず)内に垂直に配置され、1トン cm-2の圧力を1分間適用し(圧力センサ(17)によって監視し)、1分間適用した。このようにして、固体電解質のペレットが得られた。
【0089】
次に、ケーシング(1)の上部ピストン(3)を取り外し、5~10mgの正極複合材料の1つを装填し、事前に圧縮された固体電解質ペレットの表面に均一に広げた。この量は、ペレットの表面全体を覆うのに十分であった。ケーシング(1)を閉じ、4トン cm-2の値に達するまで、プランジャ(9)を油圧プレスで正極複合材料にゆっくりとプレスした(プレス速度:10分ごとに0.4トン cm-2)。この最終圧力を2時間維持した。
【0090】
ケーシング(1)をプレスから取り出し、下部ピストン(5)をケーシング(1)から取り外した。ケーシングを裏返し、ディスクのインジウム層が固体電解質層に接触するように、インジウム銅ディスクを空間(27)内に配置した。下部ピストン(5)の位置を変更し、セルを圧縮するために必要な圧力を適用した:0.5トン/cm
【0091】
電池がスリーブ内で組み立てられると、セルが閉じられ、ケーシング(1)がステンレス鋼フレーム(表示されていない)に配置される。ナット(13)内にボルト(図示せず)を設け、ドライバで締め付けた。このようにして、ケーシングがフレームに固定され、サイクルに必要な圧力が提供された。
【0092】
(電気化学セルのテスト)
サイクルを実行するために、好適な圧力が設定されると、グローブボックスの内側と外側を結ぶケーブルを介して、ケーシングをBiologic(Seyssinet-Pariset、フランス)ポテンシオスタット/ガルバノスタットモデルVMP-3に接続した。
【0093】
V対(In-InLi)/LiおよびV対Li/Liスケール間の変換は、In-Li電極電位がリチウム化されると安定したままであり、0.6V対Li/Liのままであると仮定して行われた。
【0094】
以下のセルを組み立ててテストした。すなわち:
(テスト電池A)
- 正極複合材:LTFS/β-LiPS複合材(70:30重量パーセント比)
- 固体電解質:β-LiPS、および
- 負極:Li-In合金(銅ディスク上のインジウム)。
【0095】
(テスト電池B)
- 正極複合材:NMC622-LTFS(1:1の重量比)を、70:30の重量比のβ-LiPS(70%のNMC622/LTFS混合物、30%のβ-LiPS)と、手作業で粉砕して混合した
- 固体電解質:β-LiPS、および
- 負極:Li-In合金(銅ディスク上のインジウム)。
【0096】
(プルーフ電池A)
- 正極複合材:NMC622を、70:30の重量比のβ-LiPS(70%のNMC622、30%のβ-LiPS)と、手作業で粉砕して混合した
- 固体電解質:β-LiPS、および
- 負極:Li-In合金(銅ディスク上のインジウム)。
【0097】
(プルーフ電池B)
- 正極複合材:NMC622-LTFS(9:1の重量比)を、70:30の重量比のβ-LiPS(70%のNMC622/LTFS混合物、30%のβ-LiPS)と、手作業で粉砕して混合した
- 固体電解質:β-LiPS、および
- 負極:Li-In合金(銅ディスク上のインジウム)。
【0098】
(実施例6:予備テスト1-Li活性酸化物とLi活性硫化物との間の界面の化学的安定性)
材料の適合性および化学的安定性は、重量比1:1のNMC622とLTFSの混合物から作製されたペレットのX線回折分析およびクロノアンペロメトリの測定によってテストされ(実施例5を参照)、β-LiPSなしで、不活性雰囲気(アルゴンガス)下で100℃の熱処理を5日間行う前後に行われた。この温度は、界面分解反応を加速するために選択された。
【0099】
熱処理が完了したら、セルを室温まで冷却するために放置し、次に、加熱されたペレットに対してクロノアンペロメトリ測定を行った。初期LTFSおよびNMCの粉末をXRD参照として使用した。
【0100】
NMC622およびLTFSの加熱および非加熱ペレットを粉砕し、得られた粉末のX線回折パターンを測定した。
【0101】
したがって、安定した界面を定義するために使用される基準は、熱処理の前後のペレットのX線回折パターンおよび電気抵抗の比較に基づく。
【0102】
(X線回折(XRD)分析による合成粉末化合物の構造特性)
X線回折(XRD)測定は、特性評価された材料の結晶構造に関する情報を提供する。XRDパターンは、Bruker d8高度回折計を使用して収集された。X線パターンデータを収集するために、次のパラメータが設定された:
- 検出器スリット=9.5mm、
- ビームスリット=0.6mm、
- 範囲:2θ=10°~50°、
- X線波長=1.5406Å(オングストローム)(CuKα)、
- 速度:211s/ステップ、
- 増分:0.015°。
【0103】
図2に示すように、加熱の前後で、ピークの数、位置、幅、強度の点で、材料の構造(「生NMC622-LTFS 1:1」および「加熱NMC622-LTFS 1:1」)に大きな変化は見られなかった。
【0104】
したがって、この結果は、特性評価された材料の結晶構造が熱処理後も安定していることを示す。
【0105】
(クロノアンペロメトリ(CA)測定)
クロノアンペロメトリでは、電流は電位ステップの適用後の時間の関数として測定される。1:1の重量比のNMC622とLTFSの混合物から作製されたペレットは、0.01Vのジャンプで10秒ごとに増加した電位に従い、これが10回である。それぞれの電位の各ジャンプで、定常電流が決定された。
【0106】
結果を図3に示す。3番目の電位のステップからの電流のわずかなシフトは、グローブボックス内の温度の変化が原因である可能性がある(各曲線は異なる日に測定されたため(2つの測定を分離している5日間))。しかしながら、この温度変化の原因とするには変動は十分に小さい。したがって、抵抗は実質的に影響を受けない。
【0107】
図4は、印加電位に対する定常電流のプロットグラフを示す。電気抵抗は、図4のグラフの傾きの逆数として決定された。加熱前(2.48Ω)および100℃での加熱後(2.57Ω)で、ペレットの電気抵抗に有意な変化は観察されなかった。比導電率σは、次の関係σ=L/(A*R)を使用して決定され、式中、LとAはそれぞれペレットの厚さと面積であり、Rは勾配から決定されるペレットの電気抵抗である。ペレットの寸法は、測定中同じままである(直径=8mm、厚さ=0.3mm)。比導電率σは、したがって、熱処理の前後で0.001S・cm-1しか変化しないため、0.02S・cm-1で安定したままである。電気伝導率が変化しないということは、分解生成物の抵抗膜が形成されないことを意味し、したがって界面反応がないことを意味する。したがって、熱処理にもかかわらず電気伝導率が安定していることは、酸化物NMC622とNTFSの間の安定した界面を示す。
【0108】
XRDおよびCA測定の結果を考慮すると、酸化物NMC622とLTFSの間の界面は加熱しても安定していると考えることができる。
【0109】
(実施例7:本発明による材料の予備テスト-Li活性硫化物の電気化学的活性をテストするための定電流サイクル)
LTFSの電気化学的活性をテストするために、テスト電池Aで使用される正極複合材料は、重量比70:30のLTFSとβ-LiPSの混合物を含む正極と、固体電解質としてβ-LiPSと、負極としてLi-In合金を使用して、実施例5に従って組み立てられた。
【0110】
開回路で5時間休止した後、セルをC/50の速度で1.9V~3.0V対Li/Liの間でサイクルさせ、次の温度でそれぞれ4サイクルである:室温、45℃、75℃、および105℃。
【0111】
図5に示すように、不可逆性(固体電解質-電極界面での副生成物の形成に起因する可能性がある)は最初のサイクルでのみ観察され、この現象はテストされた全ての温度の全ての最初のサイクルで観察された。過電圧は、2.4V付近の電位で観測されたプラトーで測定された。この値は次のとおりである:
- 室温:196mV、
- 45℃:135mV、
- 75℃:100mV、
- 105℃:61mV。
【0112】
過電圧は、温度が上昇するにつれて減少する。上記の温度状況に関係なく、200mVを超えることはない。さらに、観察された容量保持は、16サイクルにわたって90%を超えたままである。したがって、可逆的サイクルが実証され、温度の上昇によって助けられることが示され、これは、より小さい分極(つまり過電圧)によって証明される。
【0113】
(実施例8:電気化学的特性評価1-市販のLi活性酸化物の動作電圧範囲にわたるLi活性硫化物LTFSの電気化学的安定性をテストするための定電流サイクル)
この例では、次のテストを行うために、2つのステップで動作電圧範囲にわたって定電流サイクルを実行した:
- 固体電解質β-LiPSと組み合わせたLTFSのみの電気化学的安定性(テスト電池A)、および
- 固体電解質β-LiPSおよび市販の酸化物と混合したLTFSの電気化学的安定性(テスト電池B)。
【0114】
この目的のために、実施例5に記載されている電池の組み立てと同じ手順に従って、2つの固体電池を組み立てた。
【0115】
電気化学的分析は、Biologic(Seyssinet-Pariset、フランス)ポテンシオスタット/ガルバノスタットモデルVMP-3を使用して、アルゴンを充填したグローブボックス内(OおよびHOレベル<1ppm)で実施した。
【0116】
(テスト電池A)
この電池は、酸化物材料の動作電圧での選択された硫化物材料自体の電気化学的安定性および適合性を示すためにテストされた。実施例5ですでに説明した、このようなセルの各成分の詳細は次のとおりである:
- 正極複合材:LTFS-β-LiPS複合材(70:30重量パーセント比)、
- 固体電解質:β-LiPS
- 負極:Li-In合金(銅ディスク上のインジウム)。
【0117】
開回路で5時間休止した後、この電池を室温で、1.9V~4.3V対Li/Liの電圧窓内でC/50のサイクルレートでサイクルした。
【0118】
図6に示すように、上記の最初のサイクルからの不可逆性を除いて、比容量(mAh g-1)の点で有意な変化は観察されず、曲線の形状は安定している。特に上限電位(4.3V近辺対Li/Li)での容量(~200mAh g-1)では、3サイクルにわたって安定したままである。
【0119】
この結果は、LTFSが市販の酸化物NMC622の電圧窓に耐えることができることを示す。
【0120】
(テスト電池B)
この電池は、前記酸化物の動作電圧でのLi活性層状酸化物の存在下での選択されたLi活性硫化物LTFSの電気化学的安定性を示すためにテストされた。選択したLi活性酸化物はLiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMC622)であった。
【0121】
実施例5ですでに説明した、このようなセルの各成分の詳細は次のとおりである:
- 正極複合材:NMC622-LTFS(1:1の重量比)を、70:30の重量比のβ-LiPS(70%のNMC622/LTFS混合物、30%のβ-LiPS)と手作業で粉砕して混合した、
- 固体電解質:β-LiPS
- 負極:Li-In合金(銅ディスク上のインジウム)。
【0122】
開回路で5時間休止した後、この電池を室温で、1.9V~4.3V対Li/Liの電圧窓内でC/50のサイクルレートでサイクルした。
【0123】
図7を参照すると、容量に対する電位のプロットは2つのゾーンを示す。1.9~2.5V対Li/Liの間では、LTFSは電気化学的に活性であるが、NMC622は3~4.3V対Li/Liの範囲で活性である。両方の十分に区別された電位範囲で、テスト電池Bの電極の一部である材料(LTFSおよびNMC)の良好な可逆性が観察される。
【0124】
図8は、10サイクルにわたる脱リチウム状態でのテスト電池Bの比容量変化の変化を示す。ただし、最初のサイクルと2番目のサイクルとの間の不可逆性については、容量は125mAhg-1で安定したままである。10サイクルにわたる脱リチウム状態でのテスト電池Bの比容量の変化が表される。
【0125】
これらの結果は、市販のLi活性酸化物と混合した場合、Li活性硫化物LTFSが、酸化物の動作電圧範囲にわたって電気化学的に安定していることを示す。
【0126】
(実施例9:電気化学的特性評価2-LTFSを使用しない酸化物に対するLi活性硫化物LTFSと混合した市販のLi活性酸化物の優位性)
2つの固体電池が構築され、1つは正極材料にLTFSを含まず(プルーフ電池A)、もう1つは正極としてLi活性酸化物とLi活性硫化物(LTFS)材料の両方の混合物を含む(プルーフ電池B)。どちらの場合も、電気化学的テストは酸化物NMC622の動作電圧、つまり2.6~4.3V対Li/Liで行われた。
【0127】
実施例5ですでに説明した、このようなセルの各成分の詳細は次のとおりである:
(LTFSなしのプルーフ電池A)
- 正極複合材:NMC622を、70:30の重量比の-LiPS(70%のNMC622、30%のβ-LiPS)と、手作業で粉砕して混合した
- 固体電解質:β-LiPS
- 負極:Li-In合金(銅ディスク上のインジウム)。
【0128】
(プルーフ電池B)
- 正極複合材:NMC622-LTFS(9:1の重量比)を、70:30の重量比のβ-LiPS(70%のNMC622/LTFS混合物、30%のβ-LiPS)と、手作業で粉砕して混合した
- 固体電解質:β-LiPS
- 負極:Li-In合金(銅ディスク上のインジウム)。
【0129】
開回路で5時間休止した後、プルーフAおよびプルーフBの両方の電池を、室温で、それぞれ5サイクル、C/50のサイクル速度で、2.1~4.3V対Li/Liの電圧窓内でテストした。図9は、NMC622/LTFS 9:1混合物(プルーフ電池B)が、可逆容量(プルーフ電池Bの場合111mAh g-1に対してプルーフ電池Aの場合71mAh g-1)および過電圧(130mAh/gでの分極:プルーフ電池Bの場合180mV、プルーフ電池Aの場合300mV)の点で改善されたサイクル性能を示したことを示す。したがって、LTFSの有益な効果が実証されている。
【0130】
(実施例10:電気化学的特性評価3-電気化学的インピーダンス分光法(EIS))
プルーフ電池Aとプルーフ電池Bを使用して、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を実行した。EIS測定は、固定値、つまり固定電位または固定電流付近で正弦電気信号を使用して電気化学システムを励起することで構成される。システムのこのような正弦信号の応答を検出することにより、インピーダンスの変化を観察することができる(Z=V/I、複素数単位)。インピーダンスが高いほど、界面の抵抗が大きくなる。この技術の別の利点は、周波数範囲によって電気化学セル内で発生する現象を区別する可能性にある。さらに、EISは、低振幅信号に対して非破壊的であると見なすことができる。
【0131】
この例では、励起信号の振幅は10mVの電位モードになるように選択された。測定中の電気化学システムの変化を回避するために、EISスペクトルを100KHz~100MHzの周波数範囲で取得し、C/50レート、16ポイント/decadeでの最初の充電の終了時(脱リチウム状態)に、カソード-固体電解質界面をプローブした。測定は、15分間の緩和後、プルーフ電池A(NMC)では約3.9V、プルーフ電池B(NMC/LTFS)では約4.1VのOCVで行った。図10は、ナイキスト計画におけるインピーダンスZの変化を示している(-Im(Z)対Re(Z))。半円は、周波数範囲に応じた電気化学セルの異なる領域からの寄与を表す。
【0132】
例えば、
- 中周波数範囲(100mHz~100kHzの範囲の周波数):固体電解質と正極との界面で発生する現象
- より低い周波数範囲(100mHz未満):固体電解質と負極との界面で発生する現象(表示されていない)
- より高い周波数範囲(100kHzより高い):電解質の近くで発生する現象(表示されていない)(Zhangらを参照)。
【0133】
図10に示す曲線は、中周波数範囲に対応する曲線であり、したがって、固体電解質と正極複合材料との間の界面に対応する曲線である。この結果は、プルーフ電池Aの曲線と比較してプルーフ電池Bの曲線の半径および形状が小さいことを明確に示しており、プルーフ電池Bのカソード/SE界面の抵抗が少ないことを示す。これらの結果は実施例9で実行される定電流測定結果と一致している。
【0134】
(引用文献)
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12. Takada, K, et al. Lithium iron sulphide as an electrode material in a solid state lithium battery. Solid State Ionics, Volume 117, Issues 3-4, 2 February 1999, Abstract.
【図面の簡単な説明】
【0135】
図1】a)は、クロノアンペロメトリ、定電流サイクル、およびEIS測定などの、電気化学セルからの電気化学測定を実行するために使用されるデバイスの分解斜視図を示す。b)は、線AAに沿って取られたデバイスの断面図である。
図2】NMC622/LTFS粉末混合物、熱処理後の同じ複合材料、ならびにLTFSおよびNMC622粉末の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。
図3】熱処理前(黒線)および後(赤線)のNMC622/LTFS混合ペレット(1:1重量比)のセルの電流対時間プロットを示す。
図4】NMC622/LTFS混合ペレットの印加電位に対する図3から決定された定常電流のプロットを示す。
図5】さまざまな温度状況(室温、45、75、105℃)でサイクルした70:30の重量比のLTFSおよびLiPSの混合物から作られたセルのC/50レートでの定電流サイクル曲線を示す。
図6】テスト電池AのC/50レートでの定電流サイクル曲線(比容量に対する電位)を示す。
図7】テスト電池BのC/50レートでの定電流サイクル曲線(比容量に対する電位)を示す。
図8図7と同じ条件で得られたテスト電池Bのサイクルにわたる比容量(mAh g-1)変化を示す。
図9】プルーフ電池AおよびBのC/50レートでの定電流サイクル曲線(比容量に対する電位)を示す。
図10】最初の充電後(脱リチウム状態)に得られたプルーフ電池Aおよびプルーフ電池Bの電気化学インピーダンス分光法(EIS)スペクトルを示す。
図1a)】
図1b)】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】