(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(54)【発明の名称】サンタレンのサンタロールへの酸化
(51)【国際特許分類】
C07C 27/02 20060101AFI20221128BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20221128BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20221128BHJP
C07C 33/05 20060101ALI20221128BHJP
C07C 22/00 20060101ALI20221128BHJP
C07C 17/06 20060101ALI20221128BHJP
C07C 69/145 20060101ALI20221128BHJP
C07C 67/00 20060101ALI20221128BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C07C27/02
A61K8/34
A61Q13/00 100
C07C33/05 B CSP
C07C33/05 D
C07C22/00
C07C17/06
C07C69/145
C07C67/00
C11B9/00 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520401
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2020076917
(87)【国際公開番号】W WO2021063831
(87)【国際公開日】2021-04-08
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520064986
【氏名又は名称】アイソバイオニクス ベー.フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カラント,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】アルステルス,ポール
(72)【発明者】
【氏名】ドイツェンベルグ,カリン
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス デ カストロ,アンジェラ
(72)【発明者】
【氏名】トロコウスキー,ロベルト
【テーマコード(参考)】
4C083
4H006
4H059
【Fターム(参考)】
4C083AD531
4C083CC01
4C083KK02
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC30
4H006AC41
4H006AC48
4H006AD16
4H006BJ10
4H006BJ30
4H006EA17
4H006FC34
4H006FC36
4H006FE11
4H059BA14
4H059CA38
4H059CA40
4H059CA44
4H059CA48
4H059DA09
4H059EA35
(57)【要約】
本発明は、サンタレンをサンタロールに酸化する方法に関する。出発原料は、特にアルファ-サンタレン、ベータ-サンタレン、エピ-ベータ-サンタレン、trans-アルファ-ベルガモテン及びベータ-ビサボレンを含む混合物である。サンタレンの酸化は、クロロサンタレン化合物中間体を経由して起こる。酢酸イオンによるクロロ置換基の置換により、対応する酢酸サンタリルの混合物が生成し、酢酸サンタリルを加水分解してサンタロールの対応する混合物が生成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物
【化1】
(式中、R=a、b、c、d又はe
【化2】
である)
の合成方法であって、
- 式(II)の出発化合物
【化3】
をクロロ化して、式(III)の中間体
【化4】
にすること、
- 式(III)の中間体を式(I)の化合物に変換すること
を含み、
クロロ化が、式(II)の出発化合物と酸及びNaOCl水溶液とを合わせることを含む、合成方法。
【請求項2】
酸がカルボン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カルボン酸が、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、プロピオン酸、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、トリフルオロ酢酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸及び安息香酸の群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
酸が、NaOClに対して、1.05~3.0当量の酸の範囲、特に1.1~2.0当量の酸の範囲、より特に1.2~1.5当量の酸の範囲の量で存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
NaOClが、式(II)の出発化合物に対して、1.1~1.9モル当量の範囲、特に1.3~1.7モル当量の範囲の量で存在する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
酸が、NaOClに対して、1.2~1.5当量の酸の範囲の量で存在する一方で、NaOClが、式(II)の出発化合物に対して、1.25~1.75モル当量の範囲の量で存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
クロロ化が、有機溶媒、特にトルエン、ジクロロメタン及びメチルシクロヘキサンの群から選択される溶媒の存在下で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
式(III)の中間体の式(I)の化合物への変換が、
- 式(III)の中間体をカルボン酸イオンR'-COO
-と反応させて、式(IV)の対応するカルボン酸エステルを形成すること
【化5】
(R'は、1~7個の炭素原子のアルキル基を含む)、その後に、
- 式(IV)のエステルを式(I)の対応する化合物に加水分解すること
によって行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
カルボン酸イオンが、酢酸イオン、ギ酸イオン又はプロピオン酸イオンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
- クロロ化が、式(II)の化合物の混合物に対して行われて、式(III)の対応する中間体の混合物を生成し、
- 式(III)の中間体の混合物が、式(I)の対応する化合物の混合物に変換される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
式(II)の化合物の混合物が、式(IIa)、式(IIb)、式(IIc)、式(IId)及び式(IIe)の化合物を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
混合物のクロロ化が、
- 式(IIa)、式(IIb)、式(IIc)及び式(IIe)の出発化合物を式(IIIa)、式(IIIb)、式(IIIc)及び式(IIIe)の中間体に変換すること、及び
- 式(IId)の出発化合物において二クロロ置換基又は三クロロ置換基を導入して、式(IIId)の中間体のジクロロ化アナログ及び/又はトリクロロ化アナログを生成すること
を含む、請求項11に記載の方法であって、
式(IIIa)、式(IIIb)、式(IIIc)及び式(IIIe)の中間体を式(Ia)、式(Ib)、式(Ic)及び式(Ie)の対応するサンタロールセスキテルペノイドに変換する前又は間に、ジクロロ化アナログ及び/又はトリクロロ化アナログが混合物から除去される、
方法。
【請求項13】
NaOClが、式(IId)の出発化合物に対して、2.1~3.5モル当量の範囲、好ましくは2.2~3.2モル当量の範囲の量でクロロ化反応において存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
式(I)の化合物が、55:45、好ましくは60:40、より好ましくは65:35、又はそれより高い比の異性体(Z及びE)で生成される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
式(III)の化合物
【化6】
(式中、R=d又はe
【化7】
である)。
【請求項16】
ベルガモトール、好ましくはtrans-アルファ-ベルガモトール、Zサンタロール及びEサンタロールを含む組成物であって、ベルガモトール、好ましくはtrans-アルファ-ベルガモトールが、10%(w/w)以下であり、ZサンタロールがEサンタロールより過剰に存在する、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンタレンをサンタロールに酸化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビャクダン油は、芳香剤、化粧品、トイレタリー製品、アロマセラピー及び医薬品において重要な成分を構成する非常に貴重な天然フレグランスである。ビャクダン油は、セスキテルペンアルコールアルファ-サンタロール及びベータ-サンタロールから主に付与される、ソフトで甘い木質のバルサミコの香りを有する。本当のビャクダン油の源は、その需要を満たすことができない、過度に収穫された成長の遅い保護木である、ビャクダン(Santalum album)である。
【0003】
ビャクダン油の天然源に対する大きな期待を緩和するため、ビャクダン又はその前駆体を得るためのいくつかの生化学的生成法が、特に、遺伝子改変された微生物を適用することによって開発されてきた。例えば、前駆体サンタレンは、サンタレンシンターゼをコードする遺伝子の発現が改善された遺伝的に操作された微生物により、今や、工業的規模で容易に入手可能になっている(WO2018/160066)。さらに、このサンタレンシンターゼは、ビャクダン油中の対応するサンタロールの組成に影響を及ぼす、広い範囲のサンタレンセスキテルペン(最も留意すべきものは、ベータ-サンタレン、アルファ-サンタレン、エピ-ベータ-サンタレン、trans-アルファ-ベルガモテン及びベータ-ビサボレンを含む)を生成する。したがって、サンタレンのサンタロールへの効率的且つ規模拡大可能な酸化は、工業的規模での本当の天然ビャクダン油に対する魅力ある代用品を生成する道筋を切り開くように思われる。
【0004】
米国特許第4,510,319号において、サンタレンの酸化方法が記載されており(「Willis法」)、ここでは、サンタレンを最初にドライアイス(固体CO2)の存在下で次亜塩素酸カルシウムと反応させて、アリル型ハライドである、中間化合物クロロサンタレンを形成させる。次に、この中間体を酢酸カリウムと反応させて、対応する酢酸サンタリルエステルを形成させる。次に、最後となるこのエステルの加水分解により、所望のサンタロールが得られる。
【発明の概要】
【0005】
しかし、この方法に伴う課題は、規模拡大が困難であることである。例えば、本方法はクロロ化反応の選択性に変動を示す。この変動は、反応の規模の増大に伴って一層顕著になり、生成物中に許容されない割合の様々なセスキテルペノイドが生じる。同様に、反応混合物への固体CO2の添加により、発熱の高い反応が始まり、これにより、この反応の安全な規模拡大が可能ではない。
【0006】
Willis法に伴う別の課題は、酸化工程の複数の段階において、反応混合物中に固体、例えば、第1の工程において使用される次亜塩素酸カルシウム、及びエステル形成の間に生成する塩化カルシウムが存在することである。これらの固体は、混合物の撹拌を妨げ、反応を減速させる。これによって、この反応の規模拡大は深刻な程に複雑になる。さらに、化学量論量の固体塩、例えば塩化カルシウムの廃棄は、環境的視点から望ましいものではない。
【0007】
Nussbaumer及び共同研究者らは、アルファ-イオノンから始める立体選択的合成である合成Iso E Super(登録商標)において見出された香料成分を開示しており、Me2CuLiのアルファ-イオノンへのジアステレオ選択的共役付加に続いてハロホルム反応、エステル化、及びNaOClを用いる処理による単一C=C結合の異性化を行い、得られた塩化アリルをオゾン化して、トリメチル(ビニル)オクタヒドロクマリンに変換し、これを他の修飾に供した。しかし、この方法は、異なる物質に関するものであり、例えば、漂白剤を含有する混合物に酸を添加する際に局所的に形成し得る爆発性Cl2O及び/又は毒性のCl2が蓄積するリスクがあるために、工業的規模での応用にはやはり課題があり、且つ他の標的分子に関するものであり、1つより多い二重結合がクロロ化に利用可能である場合に、特異性の欠如が起こる。
【0008】
したがって、本発明の目的は、サンタレンをサンタロールに酸化する新規方法であって、Cl2Oの様な爆発性中間体又はCl2の様な毒性物質が蓄積するリスクを低減し、所望の生成物に対する良好な選択性を実現しながらも、工業的規模(例えば、プロセスバッチは、100kgを超えるサンタロールを生成する)への安全な規模拡大をさらに可能にする、新規方法を提供することである。このような方法における化学廃棄物を最小化することも目的とする。本発明のさらなる目的は、従来の合成法、特に伝統的な酸化方法を使用する場合よりも天然ビャクダン油の割合に近い割合で、様々なサンタロールセスキテルペノイドを生成する方法を提供することである。
【0009】
1つ以上のこれらの目的が、特定の試薬及び添加物と組み合わせて特定の酸化剤を適用することによって満足され得ることを今や見出した。
【0010】
したがって、本発明は、式(I)の化合物
【0011】
【0012】
【化2】
である)
の合成方法であって、
- 式(II)の出発化合物
【0013】
【0014】
【化4】
にすること、
- 式(III)の中間体を式(I)の化合物に変換すること
を含み、
クロロ化が、式(II)の出発化合物と酸及びNaOCl水溶液とを合わせることを含む、合成方法に関する。
【0015】
好ましくは、クロロ化ステップは、場合により、溶媒、例えば以下に限定されないがトルエンの存在下で、式(II)の出発化合物と酸のすべて又は少なくとも一部との混合物を提供すること、次いで混合物にNaOCl水溶液のすべて又は一部を接触させる後のステップを含む。最初に混合物に接触させるために必要な量のNaOCl水溶液の一部しか使用されない場合、混合物にNaOCl水溶液を接触させるステップは、所望の程度まで式(II)の出発化合物の式(III)の中間体への変換が実現されるまで、必要に応じて繰り返される。一実施形態では、混合物にNaOCl水溶液を接触させるステップは、段階的に、又は遅い速度で連続的に行われる。混合物にNaOCl水溶液を接触させる各ステップの間、又はその後に、混合が好ましくは使用される。混合物にNaOCl水溶液を接触させるステップは、一部の量の酸の同時添加を場合により含んでもよい。
【0016】
一実施形態では、クロロ化は、場合により溶媒、例えば以下に限定されないが、トルエンの存在下の式(II)の出発化合物を提供し、次いで、好ましくは混合しながらNaOCl水溶液及び酸の同時添加による、式(II)の出発化合物と酸及びNaOCl水溶液とを合わせることを含む。
【0017】
一実施形態では、本発明の方法において使用される酸は、2種以上の酸の混合物、好ましくはマイルドな酸の混合物とすることができる。さらなる実施形態では、式(II)の出発化合物の出発混合物は、1種以上の種類の酸を含んでおり、混合物にNaOCl水溶液を接触させる間に、同じ種類又は異なる種類の酸を同時に添加する。
【0018】
一実施形態では、式(II)の出発化合物を含む混合物のpH値は、反応中、安定しているか又は増大し、好ましくは、クロロ化ステップの開始時に比べると、式(III)の中間体の式(I)の化合物への変換の終了時には増大している。
【0019】
本発明の方法の出発原料は、アルファ-サンタレン(IIa)、ベータ-サンタレン(IIb)、エピ-ベータ-サンタレン(IIc)、trans-アルファ-ベルガモテン(IId)及びベータ-ビサボレン(IIe)の群から選択される、式(II)の1種以上のサンタレンセスキテルペンを含む。おそらく、他のサンタレンセスキテルペン(sequiterpene)もまた、出発原料中に存在する。
【0020】
【0021】
【0022】
次に、本方法の生成物は、式(I)の対応するサンタロールセスキテルペノイド、すなわち、それぞれアルファ-サンタロール(Ia)、ベータ-サンタロール(Ib)、エピ-ベータ-サンタロール(Ic)、trans-アルファ-ベルガモトール(Id)及びランセオール(Ie)の1種以上を含む。
【0023】
【0024】
【0025】
本記載では、用語「サンタレンセスキテルペン」とは、式(II)の化合物を意味し、用語「サンタロールセスキテルペノイド」とは、式(I)の化合物を意味する。対応するサンタレンセスキテルペン前駆体が本方法における出発原料として使用される場合、天然ビャクダン油中に微量で存在するサンタロールセスキテルペノイドの他の異性体もまた本発明の方法によって生成することが考えられる。例えば、cis-アルファ-ベルガモトール及びtrans-ベータ-ベルガモトールは、それぞれcis-アルファ-ベルガモテン及びtrans-ベータ-ベルガモテンから微量で形成されることがある。
【0026】
サンタレンセスキテルペン(II)のサンタロールセスキテルペノイド(I)への変換は、式(III)のクロロ化サンタレンである中間体を経由して起こる。
【0027】
【0028】
【0029】
さらに、本記載では、用語「クロロサンタレン」とは、式(III)の化合物、すなわちその尾部において(すなわち、末端イソプレン断片において)クロロ置換を受けたサンタレンセスキテルペンを意味する。
【0030】
クロロサンタレン(III)の所期のサンタロールセスキテルペノイド生成物(I)への変換は、SN2'反応機構により起こると考えられているアリル転位である。アリル転位は、カルボン酸イオンR'-COO-と反応して式(IV)の酢酸サンタリル中間体が生成し、次いでその加水分解により所期のサンタロールセスキテルペノイド生成物(I)が生成することによって好ましくは行われる。
【0031】
【0032】
【化12】
であり、R'は、1~7個の炭素原子のアルキル基を含む)
【0033】
尾部における必要な反応性が、様々なサンタレンセスキテルペンに関して類似していることが予期されるので、本発明の方法は、サンタレンセスキテルペン(II)の1種のみ又は任意のそれらの混合物に行うことができる。ビャクダン油(これは、上記の少なくとも5種のサンタロールセスキテルペノイド(Ia~Ie)を含む混合物である)の似た疑似物を生成する目的を鑑みると、出発原料は、例えば少量の構成成分であるcis-アルファ-ベルガモテン及びtrans-ベータ-ベルガモテンがおそらく補われた上記の5種のサンタレンセスキテルペン(IIa~IIe)の混合物を通常含む。
【0034】
特に、サンタレンセスキテルペン出発原料が、WO2018/160066に記載されている微生物学的方法によって得られた場合、存在する最も適切なサンタレンセスキテルペンは、アルファ-サンタレン(IIa、約40重量%)、ベータ-サンタレン(IIb、約20重量%)、エピ-ベータ-サンタレン(IIc、約2重量%)、trans-アルファ-ベルガモテン(IId、約20%重量%)及びベータ-ビサボレン(IIe、約3重量%)である。この混合物を本発明の方法に供すると、対応するサンタロールセスキテルペノイドが類似の割合で生成する。過剰クロロ化生成物は、通常、対応するサンタロールセスキテルペノイドに変換することができないので、考えられる逸脱は、例えば混合物中のある特定のサンタレンセスキテルペン(II)の過剰クロロ化による(以下を参照されたい)。天然ビャクダン油に対するその類似性に関して、本発明の方法を用いて得られた生成物を評価する調香師は、感じた匂いは「非常に良好である」ことを示した。
【0035】
本方法における固体の使用及び生成(Willis手順における場合のような)を回避する最初の試みは、Ca(ClO)2を水中のNaOCl溶液(すなわち、漂白剤)で置き換えることであった。これは反応の収率及び選択性に関して初期には有望な結果をもたらしたが、この反応を複数回行うと、とりわけこの反応の規模拡大を試みると、反応の選択性における望ましくない変動が観察された。これは固体CO2の添加によって引き起こされるpHの変動に起因した。
【0036】
次に、ドライアイスの非存在下、緩衝条件下で反応を行うことを試みた。したがって、様々な緩衝液を4~10のpH範囲で試験したが、これらのすべてが、サンタレンセスキテルペン出発原料のいかなる変換もほとんどもたらさなかった。非常に反応性が高く、反応を大規模で行った場合、とりわけ望ましくない爆発性ガスであるCl2Oが形成するリスクを鑑みて、一層酸性の環境を最初に回避した。反応混合物中のそのような化学種の蓄積は、爆発に関するリスクを鑑みると危険である。
【0037】
反応をより酸性の条件下で行った場合、収率も非常に低かった(所望のサンタロールセスキテルペノイドへの変換率はわずか数パーセントであった)。しかし、驚くべきことに、小過剰の酸を反応に使用すると(NaOClに対して)、クロロサンタレンが、Willis手順に関して報告されているものと少なくとも同じ程度に高い収率及び選択性で得られた。さらに、ドライアイスを用いた場合と同様に、大規模(例えば、10kgのサンタレン)で様々に実施した場合、反応の選択性に変動がないことが観察された。過剰の酸は、通常、NaOClに対して5当量以下の酸となる。通常、過剰とは、NaOClに対して1.05~3.0当量の酸の範囲となる。好ましくは、過剰とは、1.1~2.0当量の酸の範囲であり、より好ましくは1.2~1.6当量の酸の範囲である。過剰はまた、1.2~2.5当量の酸の範囲、1.4~2.2当量の酸の範囲、又は1.6~1.9当量の酸の範囲であってもよい。過剰はまた、1.05~1.8当量の酸の範囲、1.1~1.6当量の酸の範囲、1.15~1.5当量の酸の範囲、又は1.2~1.4当量の酸の範囲にあってもよい。クロロ化では、NaOClは、通常、5~50重量%のNaOClの水溶液として存在する。
【0038】
通常、NaOClは、サンタレンに対して過剰に存在する。例えば、サンタレンに対するNaOClのモル過剰率は、通常、1.0~2.0の範囲にあり、特に1.1~1.9の範囲にあり、より特に1.2~1.8の範囲にあり、さらにより特に1.3~1.7の範囲にある。NaOClのモル過剰率はまた、1.1~1.7の範囲、1.2~1.5の範囲又は1.25~1.45の範囲にあってもよい。
【0039】
特に、酸はNaOClに対して1.2~1.5モル当量の範囲で存在する一方で、NaOClは、サンタレンセスキテルペンに対して1.25~1.75モル当量の範囲で存在する。より特に、酸はNaOCl、に対して1.25~1.45モル当量の範囲で存在する一方で、NaOClは、サンタレンセスキテルペンに対して1.3~1.7モル当量の範囲で存在する。
【0040】
この手順では、酸は、通常、場合により溶媒、例えばトルエンの存在下でサンタレンセスキテルペンと最初に混合される。次に、クロロ化は、NaOClを水中の水溶液として(例えば、10~20重量%の溶液)を非常にゆっくりとサンタレン混合物に添加することによって行われる。漂白剤と同時に酸を投入することも可能であり、これは、通常、全部が添加される相対量に対応する相対速度で行われ、その結果、反応混合物は、反応の間、酸性状態にある。同時投入は、反応の間、反応混合物のpHがそれほど変化を受けない、特に初期pHが、漂白剤の添加前にすべての酸が反応混合物中に存在する場合ほど低くないという利点を有する。
【0041】
この方法の別の利点は、変換率及び選択性が、投入量プロトコルとはほとんど無関係であることであり、これによって、反応器中のNaOCl溶液のゆっくりとした投入が可能となる。これによって、反応混合物におけるこのような酸化性物質の大きなバッチを有することに伴うリスクが最小化される。さらに、サンタレンセスキテルペンの変換が、NaOCl溶液の添加中に続く場合、NaOClの添加時のサンタレンセスキテルペンのクロロ化はほとんど瞬時であるように思われた。したがって、爆発性Cl2Oが蓄積するリスクは低い。これは、クロロサンタレン(III)中間体への変換の安全な規模拡大への道筋を開くものである。
【0042】
酸は、原理的に反応条件に適合可能な任意の酸とすることができる。酸は、無機酸、例えば硫酸、塩酸及びホウ酸の群から選択される酸とすることができる。好ましくは、酸は、0より高いpKaを有する酸であり、より好ましくは3.0以上のpKaを有するマイルドな酸である。好ましい実施形態では、酸はカルボン酸である。一般に、適用される酸は適用される反応条件下で水に溶解する、及び/又は5.0以下のpKa値を有するのが最も有効である。酸が反応中に溶解しない場合、酸は、反応中に液体であることが好ましい。
【0043】
カルボン酸が使用される場合、それは、好ましくは、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、プロピオン酸、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、トリフルオロ酢酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸及び安息香酸の群から選択される。一実施形態では、3以上のpKaを有するマイルドなカルボン酸が、本発明の方法に使用される。
【0044】
より好ましくは、酸は、酢酸若しくはギ酸、又はそれらの混合物であり、より好ましくは酢酸である。酢酸の存在下での反応の実施により、所望の一クロロ化生成物への非常に良好な変換率及び良好な選択性をもたらしたことが観察された。さらに、この反応は、優れた再現性を示した。
【0045】
クロロ化反応は、NaOClを含む水相、並びにサンタレンセスキテルペン出発原料(II)及びクロロサンタレン(III)を含む有機相を有する二相系で好ましくは行われる。有機相の溶媒はトルエンを含む、又はトルエンからなることが好ましい。適用することができる他の溶媒は、炭化水素、例えばヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカン及びドデカンの群から選択される溶媒である。同様に、ハロゲン化炭化水素、例えばジクロロメタンが使用されてもよい。しかし、クロロ化反応は、クロロ化された副生物がより少ないという点で、例えばジクロロメタン中よりもトルエン中の方が不純物がかなり少ないように思われた。さらに、メチルシクロヘキサンが溶媒として使用されると、特に良好な収率が得られたことが見出された。
【0046】
使用されてもよいさらに別の溶媒はジエチルエーテルである。さらに、この反応はニートで、すなわち溶媒なしで行うことも可能である。
【0047】
有機相と組み合わせた酸性条件下での水性NaOClを使用するプロトコルはまた、1)すべての試薬が液体である、2)この工程の間に固体が生成しない、及び3)機械式撹拌は漂白剤の添加時に形成する二相系(水相及び有機相)において非常に有効であるので、規模拡大プロトコルにとって特に好都合である。
【0048】
クロロサンタレン(III)を所期のサンタロールセスキテルペノイド生成物(I)に直接変換することは困難に思われたが、エステル中間体を経由する2段階工程が成功を収めたことが証明された。したがって、この変換は、
- クロロサンタレン(III)をカルボン酸イオンR'-COO-と反応させて、式(IV)の対応するカルボン酸エステルを形成すること
【0049】
【化13】
(R'は、1~7個の炭素原子のアルキル基を含む)、
- 式(IV)のエステルを対応する式(I)の化合物に加水分解すること
によって好ましくは行われる。
【0050】
置換反応を必然的に伴うこの方法では、カルボン酸イオンは、通常、例えば、1~8個の炭素原子のアルキル鎖を有するアルキルカルボン酸イオンであり、このような鎖は分岐部を含んでもよい。分枝鎖の場合、カルボン酸イオン中の炭素原子の総数は、好ましくは3~10の範囲にある。好ましくは、カルボン酸イオンは、C1~C5カルボン酸イオン、例えばギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン及び吉草酸イオンである。より好ましくは、カルボン酸イオンは、酢酸イオン及び/又はギ酸イオンである。
【0051】
ギ酸イオンが本発明の方法におけるカルボン酸イオンとして使用される場合、反応時間がさらに改善され、ZサンタロールとEサンタロールとの異性体比も同様にさらに向上する。
【0052】
別の実施形態では、酸のカリウム塩及び/又はナトリウム塩、好ましくは酢酸カリウム及び/又はギ酸カリウムが使用される。
【0053】
カルボン酸イオンはまた、ギ酸イオン、安息香酸イオン及びピバル酸イオンの群から選択されてもよい。カルボン酸イオンは、通常、例えばナトリウム又はカリウムの金属カルボン酸塩(R'-COONa又はR'-COOK)として、反応前又はその間に添加される。
【0054】
一実施形態では、1種のカルボン酸イオンの代わりに、カルボン酸イオンの混合物が使用される。
【0055】
式(IV)のカルボン酸エステルのサンタロール(I)へ加水分解は、当分野で公知の標準的なエステル加水分解手順に従い行うことができる。例えば、加水分解は、塩基として水酸化カリウムを使用してメタノール中で行われてもよい。
【0056】
したがって、本発明は、式(I)の化合物
【0057】
【0058】
【化15】
である)
の合成方法であって、
- 場合により溶媒、例えば以下に限定されないがトルエンの存在下で、式(II)の出発化合物
【0059】
【化16】
と酸又は酸の混合物との混合物を提供すること、
及び
- 混合物にNaOCl水溶液を接触させて、式(III)の中間体
【0060】
【化17】
を生成すること、
及び
- 式(III)の中間体を1種以上のカルボン酸イオンR'-COO
-と反応させて、式(IV)の対応するカルボン酸エステルを形成すること
【0061】
【化18】
(R'は、1~7個の炭素原子のアルキル基を含む)、
及び
- 式(IV)のエステルを式(I)の対応する化合物に加水分解すること
を含む、合成方法に関する。
【0062】
式(I)の化合物のアリル型アルコール部分中の二重結合が、天然ビャクダン油に関する場合、それは、Z-立体構造にある(E-立体構造を有する化合物は、ここでは観察されない)。この方法は、少量のE-異性体を例えば25~45mol%の範囲(反応条件に依存する)で生成するので、上記のことは、サンタロール化合物が、本発明の方法により得られる場合、異なる。幸運なことに、感覚器官の特性に及ぼすこのような異性体の影響は、最小限になるように思われる。
【0063】
カルボン酸イオン及び有機溶媒の種類は、形成したサンタロールのZ/E比に相当影響を及ぼしたように思われた。置換反応は、カルボン酸イオンとして酢酸イオン又はギ酸イオンを用いてガンマ-バレロラクトンにおいて行われた場合、最も好都合な比が生じた。カルボン酸サンタリル(santalyl carboxylate)(IV)中間体の最終サンタロール(I)への変換後、アルファ-サンタロール(Ia)は、酢酸イオン又はギ酸イオンを使用した場合、65:35の比の2つの立体構造異性体(Z及びE)として形成したように思われた。実際、末端イソプレン断片(すべての異性体における共通のモチーフ)しか置換反応に関与しないので、他のクロロサンタレン(IIIb~IIIe)は、同じZ/Eをもたらすと推定される。
【0064】
本発明の一実施形態は、式(I)の化合物がZ異性体として少なくとも55%で生成する、好ましくはサンタロールの少なくとも57%、59%、61%、63%又は少なくとも65%がZ異性体として生成する本発明による方法に関する。一実施形態では、本発明の方法は、式(I)の化合物、例えば55:45、好ましくは60:40、より好ましくは65:35又はそれより高い比の異性体(Z及びE)でサンタロールを生成する。
【0065】
上記の通り、尾部における必要な反応性が、様々なサンタレンセスキテルペンに関して類似していることが予期されるので、本発明の方法は、サンタレンセスキテルペン(II)の1種のみ又はそれらの任意の混合物に行うことができる。したがって、出発原料が、2種以上の式(II)のサンタレンセスキテルペンを含む場合、本発明の方法は、2種以上の式(I)の対応するサンタロールセスキテルペノイドを生成する。
【0066】
したがって、本発明の方法は、
- クロロ化が、式(II)の化合物の混合物に対して行われて、式(III)の対応する中間体の混合物を生成し、及び
- 式(III)の中間体の混合物が、式(I)の対応する化合物の混合物に変換される、方法とすることができる。
【0067】
一実施形態では、サンタレンのサンタロールへの変換率は、65%超、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、及びさらにより好ましくは少なくとも90%である。
【0068】
特に、式(II)の化合物の混合物は、式(IIa)、式(IIb)、式(IIc)、式(IId)及び式(IIe)の化合物を含む。
【0069】
1当量より多いNaOClを使用した場合、サンタレン出発原料(II)の過剰クロロ化が起こることが驚くべきことに見出され、この場合、trans-アルファ-ベルガモテン(IId)の過剰クロロ化に対する優先性が、他のサンタレン(IIa)、(IIb)、(IIc)及び(IIe)に比べて高い。過剰クロロ化とは、1つより多いクロロ置換基、特に2又は3つのクロロ置換基がサンタレンセスキテルペン出発原料(II)に導入されることを意味する。予想外なことに、過剰クロロ化は、trans-アルファ-ベルガモテン(IId)に対して選択的であった。このことは、クロロ化が、式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)及び(IIe)の化合物の混合物に行われる場合、式(IIId)のクロロサンタレンの量は、他のクロロサンタレン(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)及び(IIIe)に比べて、不均衡に低いことを意味する。これはまた、最終サンタロールセスキテルペノイド生成物(I)は、過剰クロロ化が適用されなかった場合よりも相当低い割合のtrans-アルファ-ベルガモトールしか含有しないので、最終サンタロールセスキテルペノイド生成物(I)に対する関連性をやはり有する。これは、サンタロール混合物において特に望ましいものではない、時として、望ましくないことさえある異性体であるので、過剰クロロ化の方法は、trans-アルファ-ベルガモトールの割合が低下したビャクダン油を生成する道筋を開くものである。
【0070】
この目的のため、過剰クロロ化されたtrans-アルファ-ベルガモテン(IId)は、サンタロールイソプレノイドへの工程のある段階において、除去又は分解される必要がある。式(IV)の酢酸サンタリルの加水分解後に得られる粗混合物の蒸留により、いずれの誘導体(例えば、ジオール又はトリオール)でもそれらの分解生成物でもない、いかなる測定可能な量の過剰クロロ化生成物を含まない式(I)の最終サンタロールセスキテルペノイドが生成することが見出された。
【0071】
したがって、一実施形態では、本発明の方法は、本明細書に記載されている方法であって、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%及びより好ましくは少なくとも80%のtrans-アルファ-ベルガモテンが誘導体に変換され、これらの望ましくないベルガモテン誘導体は蒸留によって容易に除去可能である、方法である。
【0072】
過剰クロロ化に必要なNaOClの過剰量は、trans-アルファ-ベルガモテン(IId)を過剰クロロ化するのに十分であるべきであるが、これは、望ましいクロロサンタレン(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)及び(IIIe)の望ましくない過剰クロロ化並びに/又は分解をもたらすので、一層の過剰量は好ましくない。したがって、生成物混合物中のtrans-アルファ-ベルガモテン(IId)の含有率を低下させることを目的とする場合、NaOClのモル過剰率は、通常、trans-アルファ-ベルガモテン(IId)の量に対して2.1~3.5の範囲、好ましくは2.2~3.2の範囲にある。
【0073】
しかし、必ずしもNaOClのすべてが酸化剤として消費されることはできないので、この比はまた、適用される反応条件に依存し得る。例えば、NaOClのかなりの部分がCl2に変換され得る。反応混合物から逃げるこのガスのいかなる量も、クロロ化反応において使用されることになるNaOClの量が一層多くなることによって相殺されるはずである。当業者は、慣例的な実験によって、及び独創的な努力を行うことなく、所与のある特定の反応条件に適切な過剰量のNaOClに到達する方法を知っている。
【0074】
したがって、本発明の方法において、混合物のクロロ化は、
- 式(IIa)、(IIb)、(IIc)及び(IIe)の化合物を式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)及び(IIIe)の中間体に変換させること、及び
- 式(IId)の化合物において2又は3つのクロロ置換基を導入して、式(IIId)の化合物のジクロロ化アナログ及び/又はトリクロロ化アナログを生成すること
を含むことができ、
ジクロロ化アナログ及び/トリクロロ化アナログは、これらの中間体の式(IVa)、(IVb)、(IVc)及び(IVe)の対応する化合物への変換前若しくはその間に、並びに/又は式(IVa)、(IVb)、(IVc)及び(IVe)の化合物の式(Ia)、(Ib)、(Ic)及び(Ie)の対応する化合物への変換の間に、式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)及び(IIIe)である中間体から除去される。
【0075】
本発明は、クロロ化後に反応混合物から分離することができる、クロロ化trans-アルファ-ベルガモテンである式(IIId)の化合物にさらに関する。上で詳述した通り、この化合物は、trans-アルファ-ベルガモトール(Id)の生成における中間体である。
【0076】
本発明は、式(III)の化合物
【0077】
【0078】
【0079】
本発明は、ベルガモトール、Eサンタロール及びZサンタロールを含む、本発明の方法によって得ることができる組成物であって、ベルガモトール、好ましくはtrans-アルファ-ベルガモトールの量は、該組成物の15%(w/w)以下、好ましくは12%(w/w)以下、及びより好ましくは10%(w/w)以下であり、Zサンタロールは、Eサンタロールよりも過剰に存在する、組成物をさらに含む。好ましくは、Zサンタロールは、少なくとも15%(w/w)、20%(w/w)、25%(w/w)、35%(w/w)、50%(w/w)、75%(w/w)、95%(w/w)、120%(w/w)、150%(w/w)、175%(w/w)、180%(w/w)又は185%(w/w)だけ、優先率を向上するために、E-サンタロールよりも過剰に存在する。別の実施形態では、ZサンタロールとEサンタロールとの比は、少なくとも55:45、好ましくは60:40以上、より好ましくは65:35以上である。好ましくは、本組成物は、合成組成物である。
【0080】
[実施例]
1. サンタレンセスキテルペン(II)のクロロ化
磁気撹拌器、温度計及び滴下漏斗を装備した250mLの3つ口丸底フラスコにおいて、サンタレンミックス(10.0g、WO2018/160066において記載されている手順により得た)、トルエン(75mL)及びAcOH(6.0mL)を加えた。NaOCl(14%Cl2溶液)(33.75及び34.50mL)を滴下漏斗に入れ、2時間の期間をかけて、反応混合物に非常にゆっくりと加えた。反応物のアリコートを抽出し、GCによって分析した。その後、出発物のサンタレン混合物(II)が生成物に完全に変換されるまで、NaOCl(14%Cl2溶液)(1mLずつ)を30分の間隔で加えた。反応の完了後、反応混合物にNaHCO3溶液を加え、有機相を抽出した。有機相をNaCl溶液で2回洗浄して乾燥し、溶媒を真空で蒸発させて、黄色油状物(11.98g)を得た。残留物をGCによって分析した。約80%のtrans-アルファ-ベルガモテンが誘導体に変換され、これらの望ましくないベルガモテン誘導体は、蒸留によって容易に除去可能である。
【0081】
2. クロロサンタレン(III)のクロロ基の置換
磁気撹拌器を装備した100mLの丸底フラスコに、KOAc(7.46g)を投入し、KI(800mg)及び実施例1で得られたクロロサンタレンミックス(5.0g)を加えた。DMA(30mL)又はトルエン/TBAB(30mL/250mg)を溶媒として加えた。この反応物を油浴に入れ、110℃において2時間反応(DMA)で、又は一晩反応(トルエン/TBAB)で撹拌した。反応の進行はGCによってモニタリングした。反応の完了後、反応混合物を室温まで冷却し、NaHCO3水溶液及びn-ペンタンを加えた。反応混合物を滴下漏斗に移し、有機相を抽出し、ブラインで(又は、DMAの場合、LiCl溶液で数回)洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで脱水し、ろ過し、溶媒を真空で排出させて、明黄色油状物を得た。残留物をGC及びNMRによって分析した。
【0082】
3. 酢酸サンタリルエステル(IV)の加水分解
磁気撹拌器を装備した100mLの丸底フラスコに、実施例2で得られた酢酸サンタリル混合物(5.0g)、KOH(5.0g)、H2O(6.8mL)及びMeOH(34mL)を投入した。反応混合物を60℃に10分間加熱し、さらに30分間、室温で撹拌した。反応の完了後、反応混合物に水(約60mL)及びn-ペンタン/AcOEt(4/1、60/15mL)を加えた。有機相を抽出し、ブラインで洗浄した。次に、有機相を硫酸ナトリウムで脱水し、ろ過した。溶媒を真空で除去し、明黄色油状物(4.0g)が得られ、これをGCによって分析した。この油状物の蒸留後に、式(I)のサンタロールセスキテルペノイドを混合物として単離した。
【0083】
サンタレンのサンタロールへの変換率は90%を超え、サンタロールは、2つの立体構造異性体(Z及びE)として65:35の比で形成された。trans-アルファ-ベルガモテンは、過剰クロロ化を適用しなかった場合のレベルに比べて、最初のtrans-アルファ-ベルガモテンのレベルよりもかなり低いレベルでtrans-アルファ-ベルガモトールが存在することがやはり分かった。
【0084】
実験2において、ギ酸カリウムを酢酸カリウムに置き換えた場合、さらに優れた結果が得られた。
【0085】
引用文献:
Nussbaumer, C.、Frater, G.及びKraft, P. (1999年)、(±)-1-[(1R*,2R*,8aS*)-1,2,3,5,6,7,8,8a-Octahydro-1,2,8,8-tetramethylnaphthalen-2-yl]ethan-1-one:Isolation and Stereoselective Synthesis of a Powerful Minor Constituent of the Perfumery Synthetic Iso E Super(登録商標). HCA、82:1016-1024. doi:10.1002/(SICI)1522-2675(19990707)82:7<1016::AID-HLCA1016>3.0.CO;2-Y
【国際調査報告】