(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(54)【発明の名称】スタフィロコッカス(Staphylococcus)ペプチドおよび使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/085 20060101AFI20221128BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221128BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20221128BHJP
A61K 31/739 20060101ALI20221128BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221128BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221128BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20221128BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221128BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20221128BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221128BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221128BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221128BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221128BHJP
C07K 14/195 20060101ALN20221128BHJP
【FI】
A61K39/085
A61K45/00 ZNA
A61K39/39
A61K31/739
A61P37/04
A61P43/00 121
A61P31/04
A61K31/7088
A61K48/00
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K14/195
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520611
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(85)【翻訳文提出日】2022-05-19
(86)【国際出願番号】 US2020054047
(87)【国際公開番号】W WO2021067785
(87)【国際公開日】2021-04-08
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516257833
【氏名又は名称】ヤンセン ファッシンズ アンド プリベンション ベーフェー
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN VACCINES & PREVENTION B.V.
(71)【出願人】
【識別番号】399019892
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・シカゴ
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF CHICAGO
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】プールマン,ジャン テュニス
(72)【発明者】
【氏名】シュニーウィンド,オラフ
(72)【発明者】
【氏名】ミシャカス,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】サン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ホワン クン
(72)【発明者】
【氏名】シ,ミャオミャオ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シンハイ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス,ジェフリー エー.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA53Y
4B065AB01
4B065BC03
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084MA02
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4C084MA56
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4C084MA65
4C084MA66
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4C084NA14
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4C085GG04
4C085GG06
4C085GG10
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA02
4C086EA16
4C086MA02
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4C086ZB09
4C086ZB35
4C086ZC75
4H045BA10
4H045BA40
4H045CA11
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドであって、LukAポリペプチド、LukBポリペプチド、および/またはLukAB二量体ポリペプチドを含み、LukAポリペプチド、LukBポリペプチド、および/またはLukAB二量体ポリペプチドが、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、またはこれらの組合せを有する、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドを含む免疫原性組成物が本明細書において提供される。
【選択図】
図1A~1E
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドであって、少なくとも1つのSpA A、B、C、D、またはEドメインを含むSpAバリアントポリペプチド;ならびに
(b)突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドであって、
(i)突然変異体LukAポリペプチド、
(ii)突然変異体LukBポリペプチド、および/または
(iii)突然変異体LukAB二量体ポリペプチド
を含み、(i)、(ii)、および/または(iii)が、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、またはこれらの組合せを有し、
その結果、真核細胞の表面にポアを形成する前記突然変異体LukA、LukB、および/またはLukABポリペプチドの能力が妨害され、それにより、対応する野生型LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたはLukAB二量体ポリペプチドと比べて前記突然変異体LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたは前記突然変異体LukAB二量体ポリペプチドの毒性が低減されている、
突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド
を含む、免疫原性組成物。
【請求項2】
前記SpAバリアントポリペプチドが、Fc結合を妨害する少なくとも1つのアミノ酸置換およびV
H3結合を妨害する少なくとも第2のアミノ酸置換を有する、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記SpAバリアントポリペプチドが、SpA Dドメインを含み、かつ配列番号58のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項1または2に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号58のアミノ酸9位または10位において1つまたは複数のアミノ酸置換を有する、請求項3に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
前記SpAバリアントポリペプチドが、SpA E、A、B、またはCドメインをさらに含む、請求項3または4に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
前記SpAバリアントポリペプチドが、SpA E、A、B、およびCドメインを含み、かつ配列番号54のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
各SpA E、A、B、およびCドメインが、配列番号58のアミノ酸9位および10位に対応する位置において1つまたは複数のアミノ酸置換を有する、請求項5または6に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
前記アミノ酸置換が、グルタミン残基についてのリシン残基である、請求項4~7のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
前記SpAバリアントポリペプチドが、少なくとも1つのSpA A、B、C、D、またはEドメインを含み、かつ前記少なくとも1つのドメインが、(i)前記SpA Dドメイン中の9位および10位に対応するグルタミン残基についてのリシン置換および(ii)前記SpA Dドメイン中の33位に対応するグルタミン酸置換を有し、前記ポリペプチドが、陰性対照と比べて、検出可能に血液中のIgGおよびIgEを架橋することも好塩基球を活性化させることもない、請求項1~4のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
前記SpAバリアントポリペプチドが、前記SpA Dドメイン中の9位および10位に対応する各SpA A~Eドメイン中のグルタミン残基についてのリシン置換ならびにSpA Dドメインの36位および37位に対応する各SpA A~Eドメイン中のアスパラギン酸残基についてのアラニン置換を含むSpAバリアントポリペプチド(SpA
KKAA)と比較して、ヒトIgGからのV
H3に対する低減されたK
A結合親和性を有する、請求項9に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
前記SpAバリアントポリペプチドが、SpA
KKAAと比較して2分の1以下に低減された、ヒトIgGからのV
H3に対するK
A結合親和性を有する、請求項10に記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
前記SpAバリアントポリペプチドが、1×10
5M
-1よりも低い、ヒトIgGからのV
H3に対するK
A結合親和性を有する、請求項10または11に記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
前記SpAバリアントポリペプチドが、前記SpA Dドメイン中のアミノ酸36位および37位に対応する前記SpA A、B、C、D、またはEドメインのいずれかにおける置換を有しない、請求項1~12のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
前記SpAバリアントポリペプチド中の置換が(i)および(ii)のみである、請求項9~13のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
前記突然変異体LukAポリペプチドが、配列番号1~28のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項16】
前記突然変異体LukAポリペプチドが、配列番号1~14のいずれか1つのアミノ酸342~351位に対応するアミノ酸残基および配列番号15~28のいずれか1つのアミノ酸315~324位におけるアミノ酸残基の欠失を含む、請求項15に記載の免疫原性組成物。
【請求項17】
前記突然変異体LukBポリペプチドが、配列番号29~53のいずれかに対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項18】
前記突然変異体LukAB二量体ポリペプチドが、配列番号16の315~324位に対応するアミノ酸残基の欠失を有する突然変異体LukAポリペプチド;および配列番号53のアミノ酸配列を含むLukBポリペプチドを含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項19】
アジュバントをさらに含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項20】
前記アジュバントがサポニンを含む、請求項19に記載の免疫原性組成物。
【請求項21】
前記サポニンがQS21である、請求項20に記載の免疫原性組成物。
【請求項22】
前記アジュバントがTLR4アゴニストを含む、請求項19に記載の免疫原性組成物。
【請求項23】
前記TLR4アゴニストが、リピドAまたはそのアナログもしくは誘導体である、請求項22に記載の免疫原性組成物。
【請求項24】
前記TLR4アゴニストが、MPL、3D-MPL、RC529、GLA、SLA、E6020、PET-リピドA、PHAD、3D-PHAD、3D-(6-アシル)-PHAD、ONO4007、またはOM-174を含む、請求項22または23に記載の免疫原性組成物。
【請求項25】
前記TLR4アゴニストがGLAである、請求項24に記載の免疫原性組成物。
【請求項26】
CP5、CP8、Eap、Ebh、Emp、EsaB、EsaC、EsxA、EsxB、EsxAB(融合物)、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfB、Coa、Hla、mHla、MntC、rTSST-1、rTSST-1v、TSST-1、SasF、vWbp、vWhビトロネクチン結合性タンパク質、Aaa、Aap、Ant、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Can、コラーゲン結合性タンパク質、Csa1A、EFB、エラスチン結合性タンパク質、EPB、FbpA、フィブリノーゲン結合性タンパク質、フィブロネクチン結合性タンパク質、FhuD、FhuD2、FnbA、FnbB、GehD、HarA、HBP、免疫優性ABCトランスポーター、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+トランスポーター、MHC IIアナログ、MRPII、NPase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF、SdrG、SdrH、SEA外毒素、SEB外毒素、mSEB、SitC、Ni ABCトランスポーター、SitC/MntC/唾液結合性タンパク質、SsaA、SSP-1、SSP-2、Spa5、SpAKKAA、SpAkR、Sta006、Sta011、PVL、LukEDおよびHlgからなる群から選択される少なくとも1つのスタフィロコッカス(staphylococcal)抗原またはその免疫原性断片をさらに含む、請求項1~25のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか1項に記載のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドおよび突然変異体Luk Aポリペプチド、突然変異体Luk Bポリペプチド、または突然変異体LukAB二量体ポリペプチドをコードする、1つまたは複数の単離された核酸。
【請求項28】
請求項27に記載の単離された核酸を含むベクター。
【請求項29】
請求項28に記載のベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項30】
それを必要とする対象においてスタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症を治療または予防する方法であって、前記それを必要とする対象に有効量の請求項1~26のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、請求項27に記載の1つもしくは複数の単離された核酸、請求項28に記載のベクター、または請求項29に記載の宿主細胞を投与することを含む、前記方法。
【請求項31】
それを必要とする対象においてスタフィロコッカス(Staphylococcus)細菌に対する免疫応答を誘発する方法であって、前記それを必要とする対象に有効量の請求項1~26のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、請求項27に記載の1つもしくは複数の単離された核酸、請求項28に記載のベクター、または請求項29に記載の宿主細胞を投与することを含む、前記方法。
【請求項32】
それを必要とする対象においてスタフィロコッカス(Staphylococcus)細菌を脱定着させまたはその定着もしくは再定着を予防する方法であって、前記それを必要とする対象に有効量の請求項1~26のいずれか1項に記載の免疫原性組成物、請求項27に記載の1つもしくは複数の単離された核酸、請求項28に記載のベクター、または請求項29に記載の宿主細胞を投与することを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月2日に出願された米国仮出願第62/909,458号;および2019年10月2日に出願された米国仮出願第62/909,473号に対する優先権を主張する。各開示は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、概しては、免疫学、微生物学、およびバイオテクノロジーの分野に関する。より特には、免疫応答を生成するためのペプチドの分野および使用に関する。特に、本発明は、スタフィロコッカス(Staphylococcus)ペプチドの使用ならびに免疫応答を誘導するためおよび/またはスタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症を治療もしくは予防するためにそれを使用する方法に関する。
【0003】
電子的に提出された配列表の参照
本出願は、「004852.150WO1 Sequence Listing」というファイル名および2020年9月22日の作成日と共に211kbのサイズを有するASCII形式の配列表としてEFS-Webを介して電子的に提出される配列表を含有する。EFS-Webを介して提出される配列表は本明細書の部分であり、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)は、皮膚および軟組織感染症において見出される最も一般的な病原体であり、外科的創傷における主な病原体でもある。S.アウレウス(S.aureus)はまた、血流感染症の主因である。手術部位感染症(SSI)は外科的切開の帰結であり、手術後15日~3年、より典型的には、手術後30日の間、またはインプラントが置かれた場合には1年以内に発生する傾向がある。米国において、S.アウレウス(S.aureus)は、SSIの14%、および血流感染症の14%を含めて、すべての院内感染症の11%の原因となる(Kallen et al., JAMA 304(6):641-7 (2010); Johnson et al., J. Antimicrob. Chemother. 67(4):802-9 (2012); Laupland et al., Clin. Microbiol. Infect. 19(5):465-71 (2013);およびMonaco et al., Current Topics Microbiol. Immunol. 409:21-56 (2017))。
【0005】
多くの場合に、菌血症は、1または複数の膿瘍を起源とするSSIの帰結である。急性細菌性皮膚および皮膚構造感染症(Acute bacterial skin and skin structure infections;ABSSSI)もまた菌血症に繋がり得る。先進諸国において、S.アウレウス(S.aureus)関連菌血症(SAB)の集団罹患率は年間100,000人当たり10~30の範囲内である(Johnson et al., Antimicrob. Chemother. 67(4):802-9 (2012))。年齢はSAB罹患率の非常に強力な決定因子のようである。人生の最初の1年における高い率に続いて、若年成人期を通じた低い罹患率、および年齢が高くなるにつれて罹患率は徐々に上昇する。例えば、SABの罹患率は70歳より上の対象の間で年間100,000人当たり>100であるが、それはより若い人々において著しくより低い(Laupland et al., Clin. Microbiol. Infect. 19(5):465-71 (2013))。留意すべきことには、高齢者の間の菌血症は高い死亡率と関連付けられる。メチシリン耐性S.アウレウス(S.aureus)(MRSA)への感染症は、高齢者においてメチシリン感受性S.アウレウス(S.aureus)への感染症よりも悪い予後をもたらす。それゆえ、総死亡率およびSABに直接的に帰せられる死亡率の両方は、高齢患者において2倍より高い可能性がある(Kaasch et al., J. Infection 68(3):242-51 (2014))。BSIの原因因子としてのMRSAの重要性は、市中において病院環境と同様に高いが、MSSAは、S.アウレウス(S.aureus)感染症の罹患率における全体的な上昇に大きく寄与する市中発生BSIの原因として重要性を得つつある(Kaasch et al., J. Infection 68(3):242-51 (2014))。それゆえ、MRSAおよびMSSAの両方は、重篤なSSIおよびSAB疾患の重要な寄与因子である。
【0006】
スタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症は典型的には抗生物質で治療され、ペニシリンが選択される薬物であり、バンコマイシンがメチシリン耐性分離株のために使用される。抗生物質に対する広域耐性を呈するスタフィロコッカス(Staphylococcal)株のパーセンテージが増加しており、有効な抗微生物療法に対する脅威となっている。追加的に、バンコマイシン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)株の最近の出現から、有効な療法が利用可能でないMRSA株が出現および拡大し始めている懸念が生じている。
【0007】
スタフィロコッカス(Staphylococcal)感染症の治療における抗生物質の代替となるアプローチは、受動免疫療法におけるスタフィロコッカス(Staphylococcal)抗原に対する抗体の使用である。この受動免疫療法の例は、ポリクローナル抗血清の投与(国際公開第2000/015238号パンフレット;国際公開第2000/012132号パンフレット)の他に、リポタイコ酸に対するモノクローナル抗体での治療(国際公開第1998/057994号パンフレット)を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スタフィロコッカス(Staphylococcus)またはスタフィロコッカス(Staphylococcus)株により産生されるエキソプロテインを標的化した第1世代のワクチンの成功は限られており、そのため、スタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症の治療および/または予防のための追加の組成物を開発する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
S.アウレウス(S.aureus)は、多数の免疫回避機構を開発しており、細菌が宿主内で生存することを可能にする様々な病原性因子を分泌する。抗体媒介性オプソニン化貪食作用に関与する病原性因子の不活性化および中和は、スタフィロコッカス(staphylococcal)感染性疾患を制御する中枢的な免疫機構である。
【0010】
表面タンパク質であるスタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA(SpA)は、少なくとも2つの機能を示す1つの鍵となる病原性因子である。第1に、細菌表面上の細胞壁にアンカリングされたSpAは、IgGのFcγドメインに結合し、抗体のエフェクター機能を不能にする。抗体は「上下反対」(upside down)に非特異的に結合し、それにより、宿主免疫細胞によるオプソニン化貪食作用性殺傷(OPK)からスタフィロコッカス(staphylococci)は保護され、適切なクリアランスが予防される。第2に、SpAは、S.アウレウス(S.aureus)の定着および感染の間の保護免疫の発生を予防する鍵となる免疫逃避決定因子として役立つ。定着および侵襲性疾患の間に、放出されたSpAは、VH3クローン性B細胞受容体を架橋し、スタフィロコッカス(staphylococcal)決定因子を抗原として認識できない、S.アウレウス(S.aureus)に特異的でない抗体の分泌のトリガーとなる。このB細胞スーパー抗原活性(すなわち、放出されたSpAのVH3結合活性)は、定着または侵襲性疾患の間のS.アウレウス(S.aureus)に対する保護免疫の発生を予防する原因となる。その免疫グロブリン結合活性を喪失したワクチン抗原としてのSpAバリアントの使用は、(1)Fcγを介してIgGに結合するその能力を中和し、(2)VH3イディオタイプ重鎖を介してIgGに結合し、抗スタフィロコッカス(staphylococcal)免疫が発生することを可能にするその能力を中和し、かつ(3)表面に結合したSpAを介してオプソニン化貪食作用性クリアランスを誘導するSpA特異的抗体を誘導する。
【0011】
スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンLukABは、異なる作用モードを有する別の病原性因子である。LukABは、食細胞への結合で、ポアに集合し、膜に挿入され、宿主細胞を溶解する、分泌される毒素である。これは、S.アウレウス(S.aureus)が好中球からの攻撃を回避し、宿主によるクリアランスを回避することを可能とする。LukABトキソイドでの免疫化により誘導される抗体はLukAB毒素活性を中和して、S.アウレウス(S.aureus)をクリアランスできる生存食細胞を結果としてもたらす。
【0012】
2つの抗原SpAおよびLukABを含有するワクチンは、したがって、2つのS.アウレウス(S.aureus)病原性因子を中和してS.アウレウス(S.aureus)の2つの独立した鍵となる回避機構を予防する抗体を誘導し、抗体媒介性オプソニン化貪食作用が有効となることを可能とする。
【0013】
本発明の組合せワクチンでのワクチン接種後に、SpAバリアントポリペプチドおよび突然変異体LukABポリペプチドの両方に対して生成されたワクチン抗体(すなわち、ワクチン接種後に誘発された抗体)は、二重の機序に起因して相乗的な保護および効率的なS.アウレウス(S.aureus)殺傷を提供することが本明細書において見出された。一方では、SpA分子の中和は、VH3へのSpA結合を妨害することにより抗体の上下反対の結合(IgG Fc結合)を予防し、B細胞調節異常を予防した。他方では、LukAB毒素の中和は、LukABによる食細胞の溶解を予防し、したがって、ヒト好中球が機能的で、オプソニン化貪食作用によりS.アウレウス(S.aureus)を排除できるままであることを可能とした。抗体は各々の標的に結合し、食細胞は殺傷が可能であったので、抗体応答は生産的であり、すなわち、SpAおよびLukABの両方を中和する明確かつ相加的な相乗効果があった。
【0014】
(a)スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドであって、少なくとも1つのSpA A、B、C、D、またはEドメインを含むSpAバリアントポリペプチド;ならびに(b)突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドであって、(i)突然変異体LukAポリペプチド、(ii)突然変異体LukBポリペプチド、および/または(iii)突然変異体LukAB二量体ポリペプチドを含み、(i)、(ii)、および/または(iii)が、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、またはこれらの組合せを有し、その結果、真核細胞の表面にポアを形成する突然変異体LukA、LukB、および/またはLukABポリペプチドの能力が妨害され、それにより、対応する野生型LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたはLukAB二量体ポリペプチドと比べて突然変異体LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたは突然変異体LukAB二量体ポリペプチドの毒性が低減されている、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドを含む免疫原性組成物が本明細書において提供される。
【0015】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、Fc結合を妨害する少なくとも1つのアミノ酸置換およびVH3結合を妨害する少なくとも第2のアミノ酸置換を有する。
【0016】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpA Dドメインを含み、かつ配列番号58のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有する。SpAバリアントポリペプチドは、例えば、配列番号58のアミノ酸9位または10位において1つまたは複数のアミノ酸置換を有することができる。
【0017】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpA E、A、B、またはCドメインをさらに含む。SpAバリアントポリペプチドは、例えば、SpA E、A、B、およびCドメインを含み、かつ配列番号54のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有することができる。ある特定の実施形態では、各SpA E、A、B、およびCドメインは、配列番号58のアミノ酸9位および10位に対応する位置において1つまたは複数のアミノ酸置換を有する。アミノ酸置換は、グルタミン残基についてのリシン残基である。
【0018】
ある特定の実施形態では、免疫原性組成物は、(a)スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドであって、前記SpAバリアントポリペプチドが、少なくとも1つのSpA A、B、C、D、またはEドメインを含み、かつ前記ドメインが、(i)SpA Dドメイン中の9位および10位に対応する少なくとも1つのSpA A、B、C、D、またはEドメインの各々におけるグルタミン残基についてのリシン置換、ならびに(ii)SpA Dドメイン中の33位に対応する少なくとも1つのSpA A、B、C、D、またはEドメインの各々におけるグルタミン酸置換を有し、ポリペプチドが、陰性対照と比べて、検出可能に血液中のIgGおよびIgEを架橋することも好塩基球を活性化させることもないSpAバリアントポリペプチド;ならびに(b)突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドであって、(1)突然変異体LukAポリペプチド、(2)突然変異体Luk Bポリペプチド、および/または(3)突然変異体LukAB二量体ポリペプチドを含み、(1)、(2)、および/または(3)が、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、またはこれらの組合せを有し;その結果、真核細胞の表面にポアを形成する突然変異体LukA、LukB、および/またはLukABポリペプチドの能力が妨害され、それにより、対応する野生型LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたはLukAB二量体ポリペプチドと比べて突然変異体LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたは突然変異体LukAB二量体ポリペプチドの毒性が低減されている、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドを含む。ある特定の実施形態では、SpAドメインDは配列番号58を含む。
【0019】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpA Dドメイン中の9位および10位に対応する各SpA A~Eドメイン中のグルタミン残基についてのリシン置換、ならびにSpA Dドメインの36位および37位に対応する各SpA A~Eドメイン中のアスパラギン酸残基についてのアラニン置換を含むSpAバリアントポリペプチド(SpAKKAA)と比較して、ヒトIgGからのVH3に対する低減されたKA結合親和性を有する。SpAバリアントポリペプチドは、例えば、SpAKKAAと比較して2分の1以下に低減された、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有することができる。SpAバリアントポリペプチドは、例えば、1×105M-1よりも低い、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有することができる。ある特定の実施形態では、SpAKKAAは配列番号54を含む。
【0020】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpA Dドメイン中のアミノ酸36位および37位に対応するSpA A、B、C、D、またはEドメインのいずれかにおける置換を有しない。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチド中の置換は(i)および(ii)のみである。
【0021】
ある特定の実施形態では、突然変異体LukAポリペプチドは、配列番号1~28のいずれか1つに対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。突然変異体LukAポリペプチドは、例えば、配列番号1~14のいずれか1つのアミノ酸342~351位に対応するアミノ酸残基および配列番号15~28のいずれか1つのアミノ酸315~324位におけるアミノ酸残基の欠失を含むことができる。
【0022】
ある特定の実施形態では、突然変異体LukBポリペプチドは、配列番号29~53のいずれかに対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0023】
ある特定の実施形態では、突然変異体LukAB二量体ポリペプチドは、配列番号16の315~324位に対応するアミノ酸残基の欠失を有する突然変異体LukAポリペプチド;および配列番号53のアミノ酸配列を含む突然変異体LukBポリペプチドを含む。
【0024】
ある特定の実施形態では、免疫原性組成物は、アジュバントをさらに含む。アジュバントは、例えば、サポニン、例えば、QS21を含むことができる。アジュバントは、例えば、TLR4アゴニストを含むことができ、例えば、TLR4アゴニストは、リピドAまたはそのアナログもしくは誘導体である。TLR4アゴニストは、例えば、MPL、3D-MPL、RC529、GLA、SLA、E6020、PET-リピドA、PHAD、3D-PHAD、3D-(6-アシル)-PHAD、ONO4007、またはOM-174を含むことができる。TLR4アゴニストは、例えば、GLAであることができる。
【0025】
ある特定の実施形態では、免疫原性組成物は、CP5、CP8、Eap、Ebh、Emp、EsaB、EsaC、EsxA、EsxB、EsxAB(融合物)、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfB、Coa、Hla、mHla、MntC、rTSST-1、rTSST-1v、TSST-1、SasF、vWbp、vWhビトロネクチン結合性タンパク質、Aaa、Aap、Ant、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Can、コラーゲン結合性タンパク質、Csa1A、EFB、エラスチン結合性タンパク質、EPB、FbpA、フィブリノーゲン結合性タンパク質、フィブロネクチン結合性タンパク質、FhuD、FhuD2、FnbA、FnbB、GehD、HarA、HBP、免疫優性ABCトランスポーター、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+トランスポーター、MHC IIアナログ、MRPII、NPase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF、SdrG、SdrH、SEA外毒素、SEB外毒素、mSEB、SitC、Ni ABCトランスポーター、SitC/MntC/唾液結合性タンパク質、SsaA、SSP-1、SSP-2、Spa5、SpAKKAA、SpAkR、Sta006、Sta011、PVL、LukEDおよびHlgからなる群から選択される少なくとも1つのスタフィロコッカス(staphylococcal)抗原またはその免疫原性断片をさらに含む。
【0026】
本発明のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドおよび突然変異体Luk Aポリペプチド、突然変異体Luk Bポリペプチド、または突然変異体LukAB二量体ポリペプチドをコードする、1つまたは複数の単離された核酸もまた提供される。本発明の単離された核酸を含むベクターもまた提供される。本発明のベクターを含む、単離された宿主細胞もまた提供される。
【0027】
それを必要とする対象において免疫応答を誘導する方法もまた提供される。方法は、それを必要とする対象に有効量の本明細書に記載の免疫原性組成物を投与することを含む。免疫原性組成物は、例えば、アジュバントをさらに含むことができる。
【0028】
それを必要とする対象においてスタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症を治療または予防する方法もまた提供される。方法は、それを必要とする対象に有効量の本明細書に記載の免疫原性組成物を投与することを含む。方法はまた、本開示の組成物を投与することにより、対象においてスタフィロコッカス(Staphylococcus)細菌を脱定着させまたはその定着もしくは再定着を予防する方法および対象においてスタフィロコッカス(staphylococcus)細菌に対する免疫応答を誘発する方法を含む。免疫原性組成物は、例えば、アジュバントをさらに含むことができる。スタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)感染症としてさらに定義することができる。一部の実施形態では、スタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症はメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(MRSA)感染症である。
【0029】
方法、組成物、およびポリペプチドの実施形態を含めて、ある特定の実施形態では、スタフィロコッカス(Staphylococcus)細菌は、例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)のWU1またはJSNZ株を含むことができる。一部の実施形態では、スタフィロコッカス(Staphylococcus)細菌はST88分離株を含む。他の例では、S.アウレウス(S.aureus)分離株は、配列型(ST)5、ST8、ST22、ST30、ST45、ST398、ならびにヒトおよび動物侵襲性障害と関連付けられるそれらの各々のS.アウレウス(S.aureus)クローナルコンプレックス(CC)に属してもよい。
【0030】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載の対象または患者、例えばヒト患者は、小児患者である。小児患者は、18歳未満として定義される患者である。一部の実施形態では、患者は、少なくともまたは最高で1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、85、もしくは90歳(またはこれらから導出可能な任意の範囲)である。一部の実施形態では、小児患者は2歳またはそれ未満である。一部の実施形態では、小児患者は1歳未満である。一部の実施形態では、小児患者は6か月齢未満である。一部の実施形態では、小児患者は2か月齢またはそれ未満である。一部の実施形態では、ヒト患者は65歳またはそれより高齢である。一部の実施形態では、ヒト患者は医療従事者である。一部の実施形態では、患者は、外科的処置を受ける患者である。
【0031】
ある特定の実施形態では、患者は、4回の用量で組成物の単離されたポリペプチドを投与され、かつ用量間の間隔は少なくとも4週である。一部の実施形態では、単離されたポリペプチドは、4回の用量でまたは正確に4回の用量で与えられる。一部の実施形態では、単離されたポリペプチドまたは組成物は、少なくとも、最大で、または正確に1、2、3、4、5、6、7、または8回の用量で与えられる。一部の実施形態では、第1の用量は、6~8週齢時に投与される。一部の実施形態では、4つすべての用量は、2歳時またはその前に投与される。一部の実施形態では、ポリペプチドまたは組成物は、2、4、6、および12~15か月齢時に4用量のシリーズとして投与される。用量1は、6週齢時もの早期に与えられてもよい。投薬間の間隔は約4~8週であってもよい。一部の実施形態では、第4の用量は、約12~15か月齢時、かつ第3の用量の少なくとも2か月後に投与される。
【0032】
さらなる態様は、組成物を製造する方法であって、本開示のSpAバリアントポリペプチドおよび本開示の突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドを医薬組成物中に混合することを含む方法に関する。
【0033】
ある特定の実施形態では、免疫原性組成物は、第2の療法と組み合わせて投与される。第2の療法は、例えば、少なくとも1つの抗生物質であることができる。少なくとも1つの抗生物質は、例えば、ストレプトマイシン、シプロフロキサシン、ドキシサイクリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、アンピシリン、テトラサイクリン、およびこれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0034】
前述の要約、ならびに本出願の好ましい実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図と併せて読めばもっとよく理解される。しかし、出願は、図に示される正確な実施形態に限定されないことは理解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1A-1E】スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)ST88単離菌WU1、マウス病原菌 (
図1A)ヒト臨床単離菌である、S.アウレウス(S.aureus)WU1およびS.アウレウス(S.aureus)Newman由来のvwb遺伝子産物のドメイン構造および配列相同性。そのシグナルペプチド(S)、D1およびD2ドメイン(宿主プロトロンビンの結合および活性化を担当する)、リンカー(白色箱)ならびにC末端フィブリノーゲン結合ドメイン(C)についてvWbpのパーセトアミノ酸(a.a.)同一性が表示されている。(
図1B)Newman株(WT、野生型)ならびにそのΔcoa、Δvwb、Δcoa-vwb、およびΔclfAバリアント、WU1株、JSNZ株、USA300 LAC株およびそのΔvwbバリアントというS.アウレウス(S.aureus)全培養試料の免疫ブロットを、ポリクローナルウサギ抗体を使用してvWbp(αvWbp)、Coa (αCoa)、Hla(αHla)、およびClfA(αClfA)の産生について分析した。(
図1C)vWbp-Cドメインに対するポリクローナル抗体は、JSNZ株およびWU1株からvWbp対立遺伝子バリアントならびにUSA300 LAC株からvWbpを同定する。(
図1D~1E)ヒト(
図1D)またはマウス(
図1E)血漿中のSyto-9染色S.アウレウス(S.aureus)株の凝集は顕微画像の12視野での凝集細菌の平均サイズおよび平均の標準偏差として測定し、統計学的有意性はSidak多重比較試験を用いた二元配置分散分析を使用してWTとのペアワイズ比較で評価した。****、p<0.0001。
【
図2A-2B】S.アウレウス(S.aureus)WU1はC57BL/6マウスの上咽頭に持続的に定着する。C57BL/6マウスのコホート(n=10)は1×10
8CFUの示されたS.アウレウス(S.aureus)WU1またはPBS対照を鼻腔内に接種され、毎週咽喉を綿棒で拭き取って細菌負荷を数え上げた。それぞれのドットはマウス1頭当たりのCFUの数を示している。所与の日のそれぞれの動物群についての中央値および標準偏差は、水平線およびエラーバーにより示されている。
【
図3A-3B】スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA(SpA)のS.アウレウス(S.aureus)WU1発現はC57BL/6マウスの持続的定着に必要である。(
図3A)spa発現用のプラスミド(pspa)なしでのおよびありでのUSA300 LAC株、Newman株、WU1株、WU1のΔspaバリアント由来のS.アウレウス(S.aureus)溶菌液の免疫ブロットをSpA-(αSpA)およびソルターゼA特異的抗体(αSrtA)で探索した。(
図3B)C57BL/6マウスのコホート(n=10)は1×10
8CFUのS.アウレウス(S.aureus)WU1またはそのΔspaバリアントを鼻腔内に接種され、1週間間隔で動物の中咽頭を綿棒で拭き取って細菌負荷を数え上げた。それぞれのドットはマウス1頭当たりのCFUの数を示している。所与の日のそれぞれの動物群についての中央値および標準偏差は、水平線およびエラーバーにより示されている。細菌定着データセットは二元配置分散分析およびSidak多重比較試験を用いて解析し、動物の2群間の統計学的有意差(
***p=0.0003;
****p<0.0001)はアステリスクにより示されている。
【
図4】SpA
KKAAを有するC57BL/6マウスの免疫化はS.アウレウス(S.aureus)WU1の脱定着を促進する。C57BL/6マウスは、CFAまたはCFA中のPBSモックで乳化された50μgの精製組換えSpA
KKAAで免疫化され、11日後IFAまたはIFA中のPBSモックで乳化された50μgの組換えSpA
KKAAで追加免疫された。定着実験の0日目、C57BL/6マウスのコホート(n=10)は1×10
8CFUのS.アウレウス(S.aureus)WU1を鼻腔内に接種された。1週間間隔で動物の中咽頭を綿棒で拭き取って細菌負荷を数え上げた。それぞれのドットはマウス1頭当たりのCFUの数を示している。所与の日のそれぞれの動物群についての中央値および標準偏差は、水平線およびエラーバーにより示されている。細菌定着データセットは二元配置分散分析およびSidak多重比較試験を用いて解析し、動物の2群間の統計学的有意差(
*p<0.05;
**p<0.01)はアステリスクにより示されている。
【
図5】SpA
KKAAを有するBALB/cマウスの免疫化はS.アウレウス(S.aureus)WU1の脱定着を促進する。BALB/cマウスは、CFAまたはCFA中のPBSモックで乳化された50μgの精製組換えSpA
KKAAで免疫化され、11日後IFAまたはIFA中のPBSモックで乳化された50μgの組換えSpA
KKAAで追加免疫された。定着実験の0日目、BALB/cマウスのコホート(n=10)は1×10
8CFUのS.アウレウス(S.aureus)WU1を鼻腔内に接種された。1週間間隔で動物の中咽頭を綿棒で拭き取って細菌負荷を数え上げた。それぞれのドットはマウス1頭当たりのCFUの数を示している。所与の日のそれぞれの動物群についての中央値および標準偏差は、水平線およびエラーバーにより示されている。細菌定着データセットは二元配置分散分析およびSidak多重比較試験を用いて解析し、動物群間の統計学的有意差(
*p<0.05;
**p<0.01;
****p<0.0001)はアステリスクにより示されている。
【
図6】SpA
KKAAを有するBALB/cマウスの免疫化は上咽頭からのS.アウレウス(S.aureus)JSNZ排除を促進する。BALB/cマウスは、CFAまたはCFA中のPBSモックで乳化された50μgの精製組換えSpA
KKAAで免疫化され、11日後IFAまたはIFA中のPBSモックで乳化された50μgの組換えSpA
KKAAで追加免疫された。定着実験の0日目、BALB/cマウスのコホート(n=10)は1×10
8CFUのS.アウレウス(S.aureus)JSNZを鼻腔内に接種された。1週間間隔で動物の中咽頭を綿棒で拭き取って細菌負荷を数え上げた。それぞれのドットはマウス1頭当たりのCFUの数を示している。所与の日のそれぞれの動物群についての中央値および標準偏差は、水平線およびエラーバーにより示されている。細菌定着データセットは二元配置分散分析およびSidak多重比較試験を用いて解析し、動物の2群間の統計学的有意差(
*p<0.05;
**p<0.01)はアステリスクにより示されている。
【
図7A-7C】改良されたSpAワクチン
図7A:SpA
KKAA、SpA
KKAA/A、およびSpA
KKAA/Fバリアントの描写。
図7B:ヒトIgGへのバリアントの結合親和性。
図7C:ヒトIgEへのバリアントの結合親和性。
【
図8A】結合アッセイ
図8A:SpAバリアントのウェスタンブロット。
図8B:示された分子へのバリアントのELISA。
【
図9A-9B】プロテインAはマウスのS.アウレウス(S.aureus)持続的鼻腔定着に必要である。
【
図10】プロテインAアミノ酸配列アライメント 濃灰色:ヒトFcγ断片と相互作用するアミノ酸;薄灰色:ヒトFab断片と相互作用するアミノ酸;アステリスクはヒトFcγとFab断片の両方と相互作用するアミノ酸を指している。赤色:ヒトFcγ断片と相互作用するアミノ酸
【
図11】Zドメイン(SpA Bドメイン中のG29A)はF(ab)2断片に結合できないことを示す表面プラズモン共鳴(SPR)解析。
【
図12A】G29を標的にする新しいSpA
*バリアント。
【
図13】G29を標的にする新しいSpA
*バリアント。
【
図14】G29を標的にする新しいSpA
*バリアント。
【
図15】G29を標的にする新しいSpA
*バリアント。
【
図16】実施例2でさらに記載されるバジルヒスタミン放出アッセイの描写。
【
図17A-17B】スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA(SpA)。(
図17A)SpA前駆体(シグナルペプチダーゼにより切断されるN末端シグナルペプチド、5種の免疫グロブリン結合ドメイン(IgBD。E、D、A、B、Cと名付けられる)、領域Xrと名付けられた細胞壁にまたがるドメイン、ペプチドグリカン結合用のLysMドメイン、およびソルターゼAにより切断されるC末端LPXTGソーティングシグナルを有する)の、細菌表面に提示される細胞壁SpAの、および細胞壁エンベロープから遊離されて宿主組織中に放出される放出SpA分子の一次構造を図示する図。(
図17B)SpAの分泌およびソルターゼA媒介細胞壁アンカーならびにS.アウレウス(S.aureus)によるペプチドグリカン連結SpAの放出。
【
図18A-18B】ヒトIgGのFcγドメインへのSpAの結合は、抗体のエフェクター機能(Fcおよび補体受容体の結合)および貪食細胞によるS.アウレウス(S.aureus)オプソニン作用殺傷をブロックする。スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインAの免疫回避特質。(
図18A)S.アウレウス(S.aureus)の表面の細胞壁アンカーSpAはヒトIgG(IgG1、IgG2およびIgG4)のFcγに結合し、細菌のオプソニン作用殺傷の引き金を引く抗体のエフェクター機能をブロックする。(
図18B)ヒトIgGの一次構造、その抗原結合パラトープ(紫色)エフェクター(C1q、FcγRs、FcRn)およびSpA結合部位を図示する図。
【
図19A-19B】スタフィロコッカスプロテインAの免疫回避特質。(
図19A)S.アウレウス(S.aureus)感染の間のSpAの免疫回避機能。S.アウレウス(S.aureus)の表面の細胞壁アンカーSpAはヒトIgGのFcγに結合し、細菌のオプソニン作用殺傷の引き金を引く抗体のエフェクター機能をブロックする。放出されたSpAは、ヒトIgGおよびIgM(B細胞受容体)のV
H3イディオタイプバリアント重鎖に架橋して、B細胞増殖、クラススイッチ、体細胞突然変異およびSpAにより架橋されることができるがS.アウレウス(S.aureus)抗原を認識しないV
H3イディオタイプ抗体の分泌を活性化し、それによってS.アウレウス(S.aureus)に対する適応免疫応答の発生および保護免疫の確立をブロックする。(
図19B)V
H3イディオタイプB細胞受容体(IgM)へのSpA結合および架橋ならびにCD79ABシグナル伝達の活性化を図示する図である。
【
図20A-20B】組換えSpA、SpA
KKAA、SpA
AA、およびSpA
KKAAの免疫グロブリン結合ドメイン(IgBD)。(
図20A)大腸菌(E.coli)の細胞質からのNi-NTA上での親和性クロマトグラフィーによる精製用のN末端ポリヒスチジンタグを有する組換えSpAのIgBDの一次構造を図示する図である。IgBD-Eドメインのアミノ酸配列は下に表示されている。それぞれのIgBD(H1、H2、およびH3)についての3つのαヘリックスの位置が示されている。SpA
KKおよびSpA
KKAAはQ
9,10Kにアミノ酸置換(Gln
9,10Lys)を有する。SpA
KKおよびSpA
KKAAはD
36,37Aにアミノ酸置換(Asp
36,37Lys)を有する。番号付けはB-IgBDでのアミノ酸の位置を指す。(
図20B)SpAの5つのIgBDのアミノ酸配列アライメント。保存されたアミノ酸はピリオド(.)により示されている。アライメント中のギャプはダッシュ(-)により示されている。非保存的アミノ酸は一文字コードで列挙されている。Grailleら(138)により報告されているように、IgG Fcγ結合に関与しているSpA残基は赤色で強調されている。V
H3重鎖結合を担当するSpA残基は緑色で強調されている。ピンク色の残基(Q
32)はFcγとV
H3結合の両方に寄与している。
【
図21A-21B】SpA関連V
H3架橋活性およびアナフィラキシー。(
図21A)ヒト活性化FcγおよびFcε受容体ならびにそのV
H3イディオタイプIgGおよびIgEリガンドの構造を図示する図。(
図21B)好塩基球またはマスト細胞上でそれぞれFcγRおよびFcεR受容体に結合するV
H3イディオタイプIgGまたはIgEがSpA架橋されると、ヒスタミンの、炎症性メディエーターのならびにアナフィラキシー反応、血管拡張およびショックを促進するサイトカインの放出の引き金が引かれる。(
図21B)に描かれてはいないが、マスト細胞と好塩基球の両方がFcγRおよびFcεR受容体を発現し、FcγRに結合しているV
H3イディオタイプIgGのSpA架橋にまたはFcεR受容体に結合しているV
H3イディオタイプIgEのSpA架橋に応答し、ヒスタミン、炎症促進性メディエーターおよびサイトカインを放出する。
【
図22】マウスにおけるSpAワクチン候補のアナフィラキシー活性。μMTマウス(n=5)は耳での皮内注射によりVH3 IgGで感作された。候補ワクチン抗原またはPBS対照を24時間後に静脈内に注射し、続いてエバンスブルー注射を行った。色素の血管外漏出は、30分後耳組織からの抽出に続いて、620nmでの吸光光度測定により定量化した。データは3つの独立した実験から得られた。ボンフェローニ多重比較検定を用いた一元配置分散分析をデータの統計分析のために実施した。記号:ns、有意ではない;
*,P<0.05;
**,P<0.01;
***,P<0.001;
****,P<0.0001。
【
図23A-23B】マスト細胞の脱顆粒。培養ヒトマスト細胞(LAD2)はVH3 IgEを用いて一晩感作し、洗浄し、未処置のままにする(PBS)または陽性対照としてSpAにもしくは試験物SpA
KKAA、SpA
Q9,10K/S33E、SpA
Q9,10K/S33T、もしくはSpA-KRに1時間曝露した。β-ヘキソサミニターゼおよびヒスチジンレベルは細胞ペレットで、ならびに上澄みで測定した。β-ヘキソサミニターゼの百分率(
図23A)およびヒスタミン(
図23B)放出の量が示されている。ボンフェローニ多重比較検定を用いた一元配置分散分析をデータの統計分析のために実施した。記号:ns、有意ではない;
*,P<0.05;
**,P<0.01;
***,P<0.001;
****,P<0.0001。
【
図24A-24C】SpA
KKAAまたはSpA
Q9,10K/S33EもしくはSpA
Q9,10K/S33Tでの免疫化は進行性の脱定着を促進する。C57BL/6マウスのコホート(n=10)は1×10
8CFUのS.アウレウス(S.aureus)WU1を鼻腔内に接種された。(
図24A、24B、24D)マウスは毎週咽喉を綿棒で拭き取って細菌負荷を数え上げた。(
図24C、24E)糞便試料は接種に続いて毎週収集して細菌負荷を数え上げた。パネル(
図24A)では、動物はアジュバント-PBSまたはアジュバント-SpA
KKAAで免疫された。パネル(
図24B~24C)では、動物はアジュバント-SpA
KKAAまたはアジュバント-SpA
Q9,10K/S33Eで免疫され、同じコホートの動物は咽喉(
図24B)および糞便試料(
図24C)で細菌負荷についてモニターされた。パネル(
図24D~24E)では、動物はアジュバント-PBSまたはアジュバント-SpA
KKAAもしくはアジュバント-SpA
Q9,10K/S33Eもしくはアジュバント-SpA
Q9,10K/S33Tで免疫され、同じコホートの動物は咽喉(
図24D)および糞便試料(
図24E)で細菌負荷についてモニターされた。それぞれの四角形は、咽喉スワブによるミリリットル当たりのまたは糞便1グラム当たりのCFUの数を示している。所与の日のそれぞれの動物群についての中央値および標準偏差は、水平線およびエラーバーにより示されている。データはSidak多重比較試験を用いた二元配置分散分析で試験した(
*p<0.05)。パネル(
図24D~24E)では、それぞれのデータ群(1~8のそれぞれ)は、それぞれモック、SpA
KKAA、SpA
Q9,10K/S33E、またはSpA
Q9,10K/S33Tからのデータを表している。パネル24Bおよび24Cでは、2つの群間で統計的有意差は認められなかった。
【
図25A-25C】血流感染のマウスモデルでのSpAワクチン候補の防御活性。生後3週間のBALB/cマウス(n=15)をSpA
KKAAまたはSpA
Q9,10K/S33EまたはSpA
Q9,10K/S33TまたはPBS対照で免疫した。モックまたは追加免疫は11日目に起きた。20日目、マウスを出血させて、ワクチン候補に対する血清最大半量抗体価を評価し、y軸にSpA
*として示している。3本のバーのそれぞれの群は左から右に向かってSpA
KKAA、SpA
Q9,10K/S33E、およびSpA
Q9,10K/S33Tを表している(
図25A)。21日目、マウスは右目の眼窩周囲静脈洞中に5×10
6CFUのS.アウレウス(S.aureus)USA300(LAC)をチャレンジされた。チャレンジ15日後、動物は安楽死させて腎臓でのスタフィロコッカス負荷を数え上げ(
図24B)、膿瘍病変を数え上げた(
図24C)。ボンフェローニ多重比較検定を用いた一元配置分散分析をデータの統計分析のために実施した。記号:ns、有意ではない;
*,P<0.05;
**,P<0.01;
***,P<0.001;
****,P<0.0001。
【
図26A-26C】SpAワクチン候補とSpA中和モノクローナル抗体3F6の間の相互作用。3F6抗体、HEK293 F細胞由来の組換えrMAb 3F6(
図26A、rMAb 3F6)またはマウスハイブリドーマモノクローナル抗体(
図26B、hMAb 3F6)は、SpA
KKAAまたはSpA
Q9,10K/S33EまたはSpA
Q9,10K/S33TまたはPBS対照で被覆された酵素結合免疫吸着アッセイプレートにわたって段階希釈された。(
図26C)GraphPad Prismソフトウェアを使用して計算された会合定数。
【
図27】ミニブタの免疫化、チャレンジおよびサンプリングスケジュール。オスゲッティンゲンミニブタ(1群当たり3頭のブタ)は3週間の間隔で3回の離れた時期に筋肉内に免疫された。ワクチン接種に続いて、ブタは臨床的に関連するS.アウレウス(S.aureus)株(CC398またはCC8 USA300)をチャレンジされた。血液試料は、それぞれのワクチン接種に先立っておよび感染期間中は一定の間隔で採取された。血液および血清分析を実施して、血清免疫グロブリン量および機能を評価した。感染後8日目、ブタは安楽死させ、手術部位および内臓での細菌負荷を決定した。
図27は、in vivo実験計画の概観を示している。ブタは-63、-42、および-21日目に出血させて免疫し、0日目に出血させて感染させ、+1、+2、および+3日目に出血させ、+8日目に安楽死させて剖検した。
【
図28A-28D】LukABおよびSpA
*での免疫化によりミニブタにおいて特異的なLukABおよびSpA抗体が産生される。ミニブタは3回の離れた時期に100μgのLukABトキソイド、50μgのSpA
*、または100μgのLukABトキソイド+50μgのSpA
*の混合物で免疫された。それぞれの群での抗原は、動物1頭およびワクチン接種1回当たり25μgのMPL、および25μgのQS-21アジュバントを投与された。対照群は25μgのMPL、および25μgのQS-21アジュバントのみをワクチン接種された。血清試料は、野生型LukAB(
図28Aおよび28C)に対しておよびSpA
*(
図28Bおよび28D)に対してIgGについて評価された。それぞれのドットは、-63日目(免疫前血清)、-42日目(最初の免疫化の3週間後)、-21日目(第2の免疫化の3週間後)、0日目(第3の免疫化の3週間後、チャレンジに先立って)および+8日目(剖検時)の個々の動物のEC
50力価を表す。バーはそれぞれの群についての幾何平均EC
50力価を示す。
図28A:研究1で測定された抗LukAB抗体応答(チャレンジ株CC398);
図28B:研究1で測定された抗SpA
*抗体応答(チャレンジ株CC398);
図28C:研究2で測定された抗LukAB抗体応答(チャレンジ株USA300);
図28D:研究2で測定された抗SpA
*抗体応答(チャレンジ株USA300)。
【
図29A-29B】LukABおよびSpA
*での免疫化によりLukAB毒素の活性を中和する抗体が産生された。ミニブタは3回の離れた時期に100μgのLukABトキソイド、50μgのSpA
*、または100μgのLukABトキソイド+50μgのSpA
*の混合物で免疫された。それぞれの群での抗原は、動物1頭およびワクチン接種1回当たり25μgのMPL、および25μgのQS-21アジュバントを投与された。対照群は25μgのMPL、および25μgのQS-21アジュバントのみをワクチン接種された。血清試料は、LukAB毒素の中和について評価された。それぞれのドットは、-63日目(免疫前血清)、-21日目(第2の免疫化の3週間後)、0日目(第3の免疫化の3週間後、チャレンジに先立って)および+8日目(剖検時)の個々の動物のIC
50力価を表す。バーはそれぞれの群についての幾何平均力価を示す。
図29A:研究1でのLukAB毒素中和(チャレンジ株CC398);
図29B:研究2でのLukAB毒素中和(チャレンジ株USA300)。
【
図30A-30D】LukABおよびSpA
*での免疫化によりミニブタの手術部位および脾臓でのコロニー形成単位(cfu)が減少した。ミニブタは3回の離れた時期に100μgのLukABトキソイド、50μgのSpA
*、または100μgのLukABトキソイド+50μgのSpA
*の混合物で免疫された。それぞれの群での抗原は、動物1頭およびワクチン接種1回当たり25μgのMPL、および25μgのQS-21アジュバントを投与された。対照群は25μgのMPL、および25μgのQS-21アジュバントのみをワクチン接種された。第3の免疫化の3週間後、動物は手術部位感染モデルにおいてS.アウレウス(S.aureus)CC398株(研究1)またはCC8 USA300株(研究2)をチャレンジされた。感染後8日目、動物を安楽死させ手術部位および臓器を剖検した。細菌負荷はスパイラルプレーティング続いてcfu計数により決定した。それぞれのドットは、個々の動物の筋肉および脾臓中のcfuのlog
10値を表す。線はそれぞれの群の幾何平均を示す。点線は検出限界を示している。
図30A:全筋肉中のcfu、研究1(チャレンジ株CC398);
図30B:脾臓中のcfu、研究1(チャレンジ株CC398);
図30C:全筋肉中のcfu、研究2(チャレンジ株USA300);
図30D:脾臓中のcfu、研究2(チャレンジ株USA300)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の詳細な説明
様々な刊行物、論文および特許が背景技術においておよび本明細書の全体を通じて参照または記載され、これらの参考文献の各々は参照により全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれる文献、法令、資料、デバイス、または論文などの議論は、本発明のための文脈を提供する目的のためである。そのような議論は、これらの事項のいずれかまたはすべてが、開示またはクレームされる任意の発明に関して先行技術の部分を形成することの承認ではない。
【0037】
他に定義されなければ、本明細書において使用されるすべての科学技術用語は、本発明が関する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。あるいは、本明細書において使用されるある特定の用語は、本明細書に記載される通りの意味を有する。
【0038】
本明細書および添付の請求項において使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が他に明確に規定しなければ、複数への言及を含むことが留意されなければならない。
【0039】
他に記載されなければ、本明細書に記載の任意の数値、例えば濃度または濃度範囲は、すべての事例において「約」という用語により修飾されるものと理解される。そのため、数値は、典型的には、記載される値の±10%を含む。例えば、1mg/mLの濃度は0.9mg/mL~1.1mg/mLを含む。同様に、1%~10%(w/v)の濃度範囲は0.9%(w/v)~11%(w/v)を含む。本明細書において使用される場合、数値範囲の使用は、文脈が他に明確に指し示さなければ、すべての可能な部分的範囲、そのような範囲内の整数および値の分数を含めて、その範囲内のすべての個々の数値を明示的に含む。
【0040】
他に指し示されなければ、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、シリーズのあらゆる要素を指すことが理解される。当業者は、本明細書に記載の発明の特有の実施形態の多くの均等物を認識し、またはルーチンに過ぎない実験を使用して確認することができる。そのような均等物は本発明に包含されることが意図される。
【0041】
本明細書において使用される場合、「含む」(comprises)、「含む」(comprising)、「含む」(includes)、「含む」(including)、「有する」(has)、「有する」(having)、「含有する」(contains)もしくは「含有する」(containing)という用語、またはこれらの任意の他のバリエーションは、記載される整数または整数の群を包含するが任意の他の整数も整数の群も除外しないことを含意すると理解され、非排他的またはオープンエンドであることが意図される。例えば、要素のリストを含む組成物、混合物、方法(process)、方法(method)、物品、または装置は、それらの要素のみに必ずしも限定されず、明示的に列記されない、またはそのような組成物、混合物、方法(process)、方法(method)、物品、もしくは装置に本来備わっている他の要素を含むことができる。さらに、反することが明示的に記載されなければ、「または」は、排他的なまたはではなく、包含的なまたはを指す。例えば、条件AまたはBは、以下のいずれか1つにより満たされる:Aは真である(または存在する)かつBは偽である(または存在しない)、Aは偽である(または存在しない)かつBは真である(または存在する)、およびAおよびBの両方は真である(または存在する)。
【0042】
本明細書において使用される場合、複数の記載される要素の間の接続語「および/または」は、個々のオプションおよび組み合わせたオプションの両方を包含するとして理解される。例えば、2つの要素が「および/または」により接続されている場合、第1のオプションは、第2の要素を伴わない第1の要素の該当性を指す。第2のオプションは、第1の要素を伴わない第2の要素の該当性を指す。第3のオプションは、一緒に第1および第2の要素の該当性を指す。これらのオプションのいずれか1つが意味内に入り、したがって本明細書において使用される「および/または」という用語の要件を満たすことが理解される。オプションのうちの1つより多くの同時的な該当性もまた、意味内に入り、したがって「および/または」という用語の要件を満たすことが理解される。
【0043】
本明細書において使用される場合、「からなる」(consists of)という用語、またはバリエーション、例えば「からなる」(consist of)または「からなる」(consisting of)は、本明細書および請求項の全体を通じて使用される場合、任意の記載される整数または整数の群を包含するが、追加の整数も整数の群も、指定される方法、構造、または組成物に追加され得ないことを指し示す。
【0044】
本明細書において使用される場合、「から本質的になる」(consists essentially of)という用語、またはバリエーション、例えば「から本質的になる」(consist essentially of)または「から本質的になる」(consisting essentially of)は、本明細書および請求項の全体を通じて使用される場合、任意の記載される整数または整数の群を包含し、かつ指定される方法、構造または組成物の基本的または新規の特性を実質的に変更しない任意の記載される整数または整数の群を任意選択で包含することを指し示す。M.P.E.P.§2111.03を参照。
【0045】
本明細書において使用される場合、「対象」は、任意の動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを意味する。「哺乳動物」という用語は、本明細書において使用される場合、任意の哺乳動物を包含する。哺乳動物の例としては、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル、ヒトなど、より好ましくはヒトが挙げられるがこれらに限定されない。
【0046】
好ましい発明の構成要素の寸法または特徴を指す場合に本明細書において使用される、「約」、「おおよそ」、「一般に」、「実質的に」という用語、および同様の用語は、記載される寸法/特徴は、厳密な境界またはパラメーターではなく、当業者に理解されるような、機能的に同じまたは類似したそれらからの軽微なバリエーションを除外しないことを指し示すこともまた理解されるべきである。最低でも、数値的パラメーターを含むそのような言及は、当該技術分野において受容される数学的なおよび産業上の原則(例えば、丸め、測定または他の体系的誤差、製造ばらつきなど)を使用して最下位桁を変更しないバリエーションを含む。
【0047】
2つまたはそれより多くの核酸またはポリペプチド配列(例えば、スタフィロコッカス(Staphylococcus)LukA、LukB、SpAポリペプチドおよびそれらをコードするポリヌクレオチド)の文脈における「同一の」または「同一性」パーセントという用語は、以下の配列比較アルゴリズムの1つを使用してまたは目視検査により測定されるように、比較され、最大一致のためにアライメントされた場合に、同じである、または指定されるパーセンテージの同じであるアミノ酸残基もしくはヌクレオチドを有する、2つまたはそれより多くの配列または部分配列を指す。
【0048】
配列比較のために、典型的には、1つの配列は参照配列として働き、それに対して試験配列は比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験および参照配列がコンピュータに入力され、必要な場合には部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムのパラメーターが指定される。配列比較アルゴリズムは次に、指定されたプログラムパラメーターに基づいて、参照配列と比べた試験配列の配列同一性パーセントを算出する。
【0049】
比較のための配列の最適なアライメントは、例えば、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局所相同性アルゴリズムにより、Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アライメントアルゴリズムにより、Pearson & Lipman, Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の類似性検索方法により、これらのアルゴリズムのコンピューターによる実装(Wisconsin Genetics Software Package中のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA、Genetics Computer Group、575 Science Dr.、Madison、WI)により、または目視検査により実行することができる(一般に、Current Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausubel et al., eds., Current Protocols, a joint venture between Greene Publishing Associates, Inc. and John Wiley & Sons, Inc., (1995 Supplement) (Ausubel)を参照)。
【0050】
配列同一性および配列類似性パーセントを決定するために好適なアルゴリズムの例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれAltschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-410およびAltschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402に記載されている。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを通じて公開されている。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードとアライメントされた場合にマッチするまたは何らかの正値の閾値スコアTを満たす、クエリ配列中の長さWの短いワードを同定することにより、ハイスコア配列ペア(HSP)を最初に同定することを伴う。Tは、隣接ワードスコア閾値と称される(Altschul et al、上掲)。これらの初期隣接ワードヒットは、それらを含有するより長いHSPを見出すための検索を開始するためのシードとして働く。ワードヒットは次に、累積アライメントスコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方の方向に伸長される。
【0051】
累積スコアは、ヌクレオチド配列について、パラメーターM(マッチする残基のペアのリワードスコア;常に>0)およびN(ミスマッチの残基のペナルティスコア;常に<0)を使用して算出される。アミノ酸配列について、累積スコアを算出するためにスコアリングマトリックスが使用される。各方向でのワードヒットの伸長は、累積アライメントスコアがその最大の達成された値から量Xだけ低下した場合;1つもしくは複数の負スコア残基アライメントに起因して、累積スコアが0またはそれ未満になった場合;またはいずれかの配列の末端に達した場合に停止される。BLASTアルゴリズムのパラメーターW、T、およびXはアライメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、11のワード長(W)、10の期待値(E)、M=5、N=-4、および両方の鎖の比較をデフォルトとして使用する。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは、3のワード長(W)、10の期待値(E)、およびBLOSUM62スコアリングマトリックスをデフォルトとして使用する(Henikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)を参照)。
【0052】
配列同一性パーセントの算出に加えて、BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列の間の類似性の統計分析を行う(例えば、Karlin & Altschul, Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 90:5873-5787 (1993)を参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1つの尺度は最小和確率(P(N))であり、これは、2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間のマッチが偶然に起こる確率の指標を提供する。例えば、参照核酸に対する試験核酸の比較において最小和確率が約0.1より低い、より好ましくは約0.01より低い、最も好ましくは約0.001より低い場合に、核酸は参照配列に類似していると考えられる。
【0053】
2つの核酸配列またはポリペプチドが実質的に同一であることのさらなる指標は、以下に記載されるように、第1の核酸によりコードされるポリペプチドが、第2の核酸によりコードされるポリペプチドと免疫学的に交差反応性であることである。そのため、ポリペプチドは、典型的には、例えば、2つのペプチドが保存的置換のみによって異なる場合に、第2のポリペプチドと実質的に同一である。2つの核酸配列が実質的に同一であることの別の指標は、2つの分子がストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすることである。
【0054】
本明細書において使用される場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、「核酸分子」、「ヌクレオチド」または「核酸」と同義に言及され、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを指し、これは非修飾のRNAもしくはDNAまたは修飾されたRNAもしくはDNAであることができる。「ポリヌクレオチド」は、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖RNA、ならびに一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖またはより典型的には二本鎖もしくは一本鎖および二本鎖領域の混合物であり得る、DNAおよびRNAを含むハイブリッド分子が挙げられるがこれらに限定されない。追加的に、「ポリヌクレオチド」は、RNAもしくはDNAまたはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。ポリヌクレオチドという用語はまた、1つまたは複数の修飾塩基を含有するDNAまたはRNAおよび安定性または他の理由のために修飾された骨格を有するDNAまたはRNAを含む。「修飾」塩基としては、例えば、トリチル化塩基および非通常塩基、例えばイノシンが挙げられる。様々な修飾をDNAおよびRNAに行うことができ、そのため、「ポリヌクレオチド」は、天然に典型的に見出されるような、化学的、酵素的または代謝的に修飾されたポリヌクレオチドの形態の他に、ウイルスおよび細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学的な形態を包含する。「ポリヌクレオチド」はまた、相対的に短い核酸鎖を包含し、これは多くの場合にオリゴヌクレオチドと称される。
【0055】
本明細書において使用される場合、「ベクター」という用語は、例えば、遺伝子環境間の輸送のためまたは宿主細胞中での発現のために、例えば制限酵素処理およびライゲーションにより、所望の配列を挿入することができる、任意の数の核酸を指す。核酸ベクターはDNAまたはRNAであることができる。ベクターとしては、プラスミド、ファージ、ファージミド、細菌ゲノム、ウイルスゲノム、自己増幅性RNA、レプリコンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0056】
本明細書において使用される場合、「宿主細胞」という用語は、本発明の核酸分子を含む細胞を指す。「宿主細胞」は、任意の種類の細胞、例えば、初代細胞、培養状態の細胞、または細胞系からの細胞であることができる。1つの実施形態では、「宿主細胞」は、本発明の核酸分子をトランスフェクトまたは形質導入される細胞である。別の実施形態では、「宿主細胞」は、そのようなトランスフェクトまたは形質導入された細胞の子孫または潜在的な子孫である。細胞の子孫は、親細胞と同一であってもよく、または、例えば、後の世代において起こり得る突然変異もしくは環境上の影響もしくは宿主細胞ゲノムへの核酸分子の組込みに起因して、同一でなくてもよい。
【0057】
「発現」という用語は、本明細書において使用される場合、遺伝子産物の生合成を指す。該用語は、RNAへの遺伝子の転写を包含する。該用語はまた、1つまたは複数のポリペプチドへのRNAの翻訳を包含し、すべての天然に存在する転写後および翻訳後修飾をさらに包含する。発現されたポリペプチドは、宿主細胞の細胞質内、細胞外環境、例えば細胞培養の増殖培地中にあることができ、または細胞膜にアンカリングされ得る。
【0058】
本明細書において使用される場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」、または「タンパク質」という用語は、アミノ酸を含む分子を指すことができ、当業者によりタンパク質として認識され得る。アミノ酸残基のための従来の1文字または3文字表記が本明細書において使用される。「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書において交換可能に使用されて、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すことができる。ポリマーは、直鎖状または分枝状であることができ、修飾アミノ酸を含むことができ、非アミノ酸を差し挟まれていてもよい。該用語はまた、天然にまたは介入により修飾されたアミノ酸ポリマーを包含し、該修飾は、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または任意の他のマニピュレーションもしくは修飾、例えば標識化成分とのコンジュゲーションである。例えば、アミノ酸の1つまたは複数のアナログ(例えば、非天然アミノ酸などを含む)の他に、当該技術分野において公知の他の修飾を含有するポリペプチドもまた、定義内に含まれる。
【0059】
本明細書に記載のペプチド配列は通常の慣習に従って記述され、ペプチドのN末端領域は左、C末端領域は右にある。アミノ酸の異性体形態が公知であるが、他に明示的に指し示されなければ、それは表されるアミノ酸のL型である。
【0060】
「単離された」という用語は、起源となるそれらの供給源の細胞材料、細菌材料、ウイルス材料、もしくは培養培地(組換えDNA技術により製造される場合)、または化学的前駆体もしくは他の化学物質(化学的に合成される場合)のいずれも実質的に含まない核酸またはポリペプチドを指すことができる。さらに、単離されたポリペプチドは、単離されたポリペプチドとして対象に投与することができるポリペプチドを指し、換言すれば、ポリペプチドは、それがカラムに接着されているまたはゲル中に包埋されている場合、「単離された」とは単純に考えられないことがある。さらに、「単離された核酸断片」または「単離されたペプチド」は、天然には断片として存在しないかつ/または典型的には機能的な状態にない、核酸またはタンパク質断片である。
【0061】
本明細書において使用される場合、「免疫応答」またはそれと同等の「免疫学的応答」という語句は、レシピエント対象における、本開示のタンパク質、ペプチド、炭水化物、またはポリペプチドに対して向けられた、液性(抗体媒介性)、細胞性(抗原特異的T細胞もしくはそれらの分泌生成物により媒介される)または液性および細胞性の両方の応答の発生を指す。そのような応答は、免疫原の投与により誘導される能動応答、または抗体、抗体含有材料、もしくはプライムされたT細胞の投与により誘導される受動応答であることができる。細胞性免疫応答は、クラスIまたはクラスII MHC分子と会合したポリペプチドエピトープを提示して、抗原特異的CD4(+)Tヘルパー細胞および/またはCD8(+)細胞傷害性T細胞を活性化させることにより誘発される。応答はまた、単球、マクロファージ、NK細胞、好塩基球、樹状細胞、星状膠細胞、小膠細胞、好酸球、または先天免疫の他の構成要素の活性化を伴うことができる。本明細書において使用される場合、「能動免疫」は、抗原の投与により対象に付与される任意の免疫を指す。
【0062】
LukA、LukB、および/またはSpAポリペプチドならびにこれらをコードするポリヌクレオチド
【0063】
本発明の組合せワクチンでのワクチン接種後に、SpAバリアントポリペプチドおよび突然変異体LukABポリペプチドの両方に対して生成されたワクチン抗体(すなわち、ワクチン接種後に誘発された抗体)は、二重の機序に起因して相乗的な保護および効率的なS.アウレウス(S.aureus)殺傷を提供することが本明細書において見出された。一方では、SpA分子の中和は、VH3へのSpA結合を妨害することにより抗体の上下反対の結合(IgG Fc結合)を予防し、B細胞調節異常を予防した。他方では、LukAB毒素の中和は、LukABによる食細胞の溶解を予防し、したがって、ヒト好中球が機能的で、オプソニン化貪食作用によりS.アウレウス(S.aureus)を排除できるままであることを可能とした。抗体は各々の標的に結合し、食細胞は殺傷が可能であったので、抗体応答は生産的であり、すなわち、SpAおよびLukABの両方を中和する明確かつ相加的な相乗効果があった。
【0064】
一般的な態様では、本発明は、S.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドであって、(i)LukAポリペプチド、(ii)LukBポリペプチド、および/または(iii)LukAB二量体ポリペプチドを含み、LukAポリペプチド、LukBポリペプチド、および/またはLukAB二量体ポリペプチドが、LukAポリペプチド、LukBポリペプチド、またはLukAB二量体ポリペプチド中に1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、またはこれらの組合せを有する、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドを含む免疫原性組成物に関する。1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、またはこれらの組合せは、真核細胞の表面にポアを形成するLukA、LukB、および/またはLukABポリペプチドの能力を妨害し、それにより、対応する野生型LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたはLukAB二量体ポリペプチドと比べてLukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたは突然変異体LukAB二量体ポリペプチドの毒性を低減させる。スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドは、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、挿入、またはこれらの組合せを含み、その結果、SpAバリアントポリペプチドは、IgG Fcおよび/またはVH3に結合する能力が妨害されており、野生型SpAポリペプチドまたは他のSpAバリアントポリペプチド、例えばSpAKKAAポリペプチドと比較して、低減された毒性を有するSpAバリアントポリペプチドが結果としてもたらされる。
【0065】
スタフィロコッカス(Staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド:LukAポリペプチド、LukBポリペプチド、および/またはLukAB二量体ポリペプチド
【0066】
一般的な態様では、本発明は、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドまたはそれをコードするポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)を含む免疫原性組成物に関する。突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドは、(i)LukAポリペプチド、(ii)LukBポリペプチド;および/または(iii)LukAB二量体ポリペプチドを含むことができる。LukAポリペプチド、LukBポリペプチド、および/またはLukAB二量体ポリペプチドは、LukAポリペプチド、LukBポリペプチド、および/またはLukAB二量体ポリペプチド中に1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、挿入、またはこれらの組合せを含むことができる。ある特定の実施形態では、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、挿入、またはこれらの組合せは、LukABプロトマー/プロトマー境界面領域、LukAB二量体/二量体境界面領域、LukB膜結合性クレフト領域、LukBポア形成領域、またはこれらの任意の組合せ中にあり、その結果、二量体を形成する、オリゴマー化する、真核細胞の表面上にポアを形成する、またはこれらの任意の組合せを行う、ロイコシジンサブユニットの能力は妨害される。妨害は、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドの毒性における低減を引き起こすことができる。
【0067】
ある特定の実施形態では、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、挿入、またはこれらの組合せは、対応する野生型ロイコシジンサブユニットポリペプチドと比べて突然変異体ロイコシジンサブユニットポリペプチドの免疫原性を著しく低減させない。ある特定の実施形態では、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)サブユニットポリペプチドは、免疫原性であり、野生型スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドの作用を中和できる抗体を含むことができる免疫応答を誘発する。ある特定の実施形態では、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドまたはそれをコードするポリヌクレオチド(DNAもしくはRNA)は、免疫原性であることができ、対応する野生型ロイコシジンサブユニットポリペプチドと比べて野生型スタフィロコッカス(staphylococcal)サブユニットポリペプチドの作用をより有効に中和することができる抗体を誘発する。
【0068】
「スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド」、「スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニット」、「LukAサブユニット」、「LukAポリペプチド」、「LukBサブユニット」、「LukBポリペプチド」、および「LukAB二量体ポリペプチド」などの用語は、本明細書において使用される場合、成熟または全長スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニット(例えば、LukAおよび/またはLukB)、ならびに成熟または全長スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニット(例えば、LukAおよび/またはLukB)の断片、バリアントまたは誘導体、ならびに成熟もしくは全長スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニット(例えば、LukAおよび/もしくはLukB)または成熟もしくは全長スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニット(例えば、LukAおよび/もしくはLukB)の1つもしくは複数の断片を含むキメラおよび融合ポリペプチドを包含する。ある特定の実施形態では、本明細書に開示されるような突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドは、対応する野生型スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドと比べて毒性が低減されており、かつ/または対応する野生型スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドと比べて免疫原性が著しく低減されていない。
【0069】
ポア形成毒素、例えば、単一成分アルファ溶血素ならびに二成分溶血素およびロイコトキシンは、スタフィロコッカス(staphylococcal)免疫逃避において重要な役割を果たす。これらの毒素は、免疫細胞を殺傷し、組織破壊を引き起こし、それにより、感染の最初のステージの間に宿主を弱めることならびに細菌の播種および転移性増殖を促進することができる。LukAおよびLukBサブユニットを含む二成分毒素LukABは、二量体として分泌され、次に細胞の表面上で八量体化してポアを形成するという点で独特である。対照的に、例えば、2つのPVL成分、LukS-PVおよびLukF-PVは、別々に分泌され、LukS-PVのその受容体への結合およびLukF-PVのLukS-PVへのその後の結合でポア形成性八量体複合体を形成する(Miles et al., Protein Sci. 11(4):894-902 (2002); Pedelacq et al., Int. J. Med. Microbiol. 290(4-5):395-401 (2000))。PVLの標的としては、例えば、多形核好中球(PMN)、単球、およびマクロファージを挙げることができる。
【0070】
以下の他の二成分毒素が特徴付けられている:γ溶血素のためのS成分HlgAおよびHlgCおよびF成分HlgB;LukS-PV、LukF-PV、LukE(S)およびLukD(F);ならびにLukM(S)およびLukF-PV様(F)(国際公開第2011/112570号パンフレット)。それらの近い類似性に起因して、これらのS成分は、F成分と組み合わさり、異なる標的特異性を有する活性毒素を形成することができる(Ferreras et al., Biochim Biophys Acta 1414(1-2):108-26 (1998); Prevost et al., Infect. Immun. 63(10):4121-9 (1995))。γ溶血素は強い溶血性であり、PVLよりも90%低い白血球毒性であるが、PVLは非溶血性である。しかしながら、LukF-PVとペア形成したHlgAまたはHlgCは白血球毒性活性を促進する(Prevost et al., Infect. Immun. 63(10):4121-9 (1995))。PVLおよび他のロイコトキシンは好中球を溶解し、Hlgは溶血性であり(Kaneko et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 68(5):981-1003 (2004))、好中球を溶解することも報告された(Malachowa et al., PLoS One 6(4):e18617 (2011))。PVLサブユニットはファージ由来であるが、Hlgタンパク質はHlg座位に由来し、臨床分離株の99%において見出される(Kaneko et al.、上掲)。Hlgサブユニットは血液中でのS.アウレウス(S.aureus)増殖の間に上方調節され(Malachowa et al.、上掲)、Hlgは、血液中でのS.アウレウス(S.aureus)の生存に関与することが示された(Malachowa et al., Virulence 2(6) (2011))。突然変異体USA 300 Δ-hlgABCは、マウス菌血症モデルにおいて死亡を引き起こす低減された能力を有する(Malachowa et al., PLoS One 6(4):e18617 (2011))。LukED毒素はマウスにおける血流感染症のために不可欠である(Alonzo et al., Mol. Microbiol. 83(2):423-35 (2012))。LukABは、PVLと協同してPMN溶解を増強することが記載されている(Ventura et al., PLoS One 5(7):e11634 (2010);該文献においてLukABはLukGHと称されている)。
【0071】
5つの異なるロイコトキシン:ロイコシジンγ溶血素(HlgABおよびHlgCB)、ロイコシジンE/D(LukED)、パントン-バリンロイコシジン(Panton-Valine leucocidin;PVL)、ならびにロイコシジンA/B(LukAB、LukGHとしても公知)の間の配列類似性は60%~80%であり、他に対して30~40%のみの類似性であるLukABは例外である。すべてのロイコシジンは多形核細胞を標的化して殺傷することができるが、それらはその効力において異なる。LukABは、好中球を含めて、ヒトPMNの殺傷において極めて有効である。LukABは、LukABによるヒトPMNの特異的結合および殺傷の原因となる、インテグリンαM/β2受容体のヒトCD11bサブユニットのIドメインに特異的に結合するヘテロ二量体として分泌されるため、他のロイコトキシンとは異なる(http://www.pnas.org/content/110/26/10794.full.pdf)。ワクチン誘導性抗体によるこれらの毒素の中和、特にLukABの中和は、S.アウレウス(S.aureus)感染の間の好中球の殺傷を強く低減させ、それにより、病原体をクリアランスする宿主免疫系の能力を保存すると考えられる。
【0072】
LukED
【0073】
LukEDはコアS.アウレウス(S.aureus)ゲノムの構成要素ではないが、それは、侵襲性感染症と関連付けられる主な系列内で保存されている。種特異的な方式で活性を示すLukABおよびPVLとは異なり、LukEDは、マウス、ウサギ、およびヒト白血球に対する同等の毒性を含めて、種にわたる広い活性を示す。LukEDは、マクロファージ、T細胞、および樹状細胞を含めて、受容体CCR5を発現する細胞、ならびに、一次好中球、単球、ナチュラルキラー細胞、およびCD8+ T細胞のサブセットを含めて、CXCR1、CXCR2を発現する細胞に対して溶解活性を示す(Spaan et al., 2017 Nat Rev Microbiol 15: 435-47)。これらの活性は、免疫系の先天アームおよび適応アームの両方の逃避に寄与して疾患進行を促す。感染症の動物モデルにおいて、LukEDは、炎症促進性応答を誘発し、かつ浸潤性好中球の殺傷を通じて肝臓および腎臓中での複製に寄与する。LukEDはまた、DARC(ダフィー抗原ケモカイン受容体)依存性の方式で赤血球に結合して、鉄の獲得を通じて溶血、ヘモグロビンの放出およびS.アウレウス(S.aureus)増殖の促進を結果としてもたらす(Spaan et al., 2015 Cell Host Microbe 18: 363-70)。
【0074】
Hla
【0075】
アルファ溶血素(アルファ毒素、Hla)は、直接的な毒性ならびに赤血球および他の細胞の溶解ならびに免疫調節を含めて、複数の活性を通じて病理発生および致死的な感染症に寄与する。Hlaは、ADAM10受容体に結合する可溶性の単量体タンパク質として分泌され、二成分β-PFT、例えばLukABおよびLukEDのものに構造的に非常に類似した七量体バレルポア複合体に集合する。赤血球に加えて、高濃度においてHlaは、マクロファージおよび単球を含めて、ADAM10を発現する多数の他の細胞種を溶解することができる。Hlaにより媒介される細胞溶解は、毒素濃度およびADAM10発現のレベルの両方に依存性である。S.アウレウス(S.aureus)病原性におけるHlaの役割は、敗血症、肺炎、皮膚感染症およびその他を含めて、多数の動物モデルにおいてよく確立されている(Berube and Bubeck Wardenburg, 2013 Toxins 5: 1140-66)。Hlaは、ヒト感染の間に発現され、免疫原性であり、抗Hla抗体のより高い力価は、S.アウレウス(S.aureus)敗血症の低減されたリスクと関連付けられる(Adhikari et al., 2012 J Infect Dis 206: 915-23)。追加的に、Hla発現のレベルの上昇を示すS.アウレウス(S.aureus)分離株は、侵襲性疾患と関連付けられる。S.アウレウス(S.aureus)病原性におけるその役割に起因して、Hlaは、ワクチン抗原として大規模に研究されてきた。活性のポア複合体を形成できない弱毒化突然変異体、HlaH35Lは、いくつかのマウス感染症モデルにおいて保護有効性を実証した(Bubeck Wardenburg and Schneewind, 2008 J Exp Med 205: 287-94)。N末端62残基(Adhikari et al., 2016 Vaccine 34: 6402-7)またはステムドメインの欠失(Fiaschi et al., 2016 Vaccine 23: 442-450)に由来するHla抗原もまた免疫原性であり、保護免疫応答を誘発した。
【0076】
本明細書に記載される「LukAポリペプチド」は、スタフィロコッカス(staphylococcal)生物(例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus))にとってネイティブなポリペプチドであり、ヒト食細胞を特異的に標的化して結合する(しかし、内皮細胞、またはマウス細胞に対してはそうではない)。LukAポリペプチドが食細胞の膜に結合すると、LukAは、スタフィロコッカス(staphylococcal)F-サブユニットロイコシジン(例えば、本明細書に開示されるような、LukF-PVL、LukDおよびHlgB、およびLukB)とオリゴマー化する。オリゴマー化で、ポリペプチドは膜貫通ポアを形成する(総称的にLukA活性と称される)。
【0077】
LukAポリペプチドは、典型的には、351個のアミノ酸残基を含む。アミノ末端の27個のアミノ酸残基はネイティブな分泌/シグナル配列を表し、そのため、LukAの成熟した、分泌される形態はアミノ酸残基28~351により表され、「LukA(28~351)」または「成熟LukA」と称され得る。これに対応して、LukAの未熟な形態は本明細書において「LukA(1~351)」と称され得る。スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)の異なる株から単離された未熟なLukAポリペプチドの例としては、配列番号2~14のLukAポリペプチドが挙げられる。配列番号1は、参照により全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2011/140337号パンフレットに開示されるように、配列番号2~14のアライメントに基づくコンセンサスLukAポリペプチド配列を提供する。分泌/シグナル配列を欠失した、配列番号1~14の未熟なLukAポリペプチドに対応する成熟LukAポリペプチドの例としては、それぞれ配列番号15~28が挙げられる。
【0078】
本明細書に記載される「LukBポリペプチド」は、スタフィロコッカス(staphylococcal)生物(例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus))にとってネイティブなポリペプチドであり、F-サブユニットロイコシジン(例えば、LukF-PVL、LukDおよびHlgB)の活性プロファイルを呈する。LukBポリペプチドは、ヒト食細胞に結合したスタフィロコッカス(staphylococcal)S-サブユニットロイコシジン(例えば、本明細書に開示されるような、LukS-PVL、LukEおよびHlgC、およびLukA)と特異的にオリゴマー化する。オリゴマー化で、それは食細胞において膜貫通ポアを形成する(総称的にLukB活性と称される)。
【0079】
LukBポリペプチドは、典型的には、339個のアミノ酸残基を含む。アミノ末端(N末端)29アミノ酸残基は分泌/シグナル配列を表し、そのため、LukBの成熟した、分泌される形態はアミノ酸残基30~339により表され、「LukB(30~339)」または「成熟LukB」と称され得る。これに対応して、LukBの未熟な形態は本明細書において「LukB(1~339)」と称され得る。スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)の異なる株から単離された未熟なLukBポリペプチドの例としては、配列番号30~41のLukBポリペプチドが挙げられる。配列番号29は、参照により全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2011/140337号パンフレットに開示されるように、配列番号30~41のアライメントに基づくコンセンサスLukBポリペプチド配列を提供する。分泌/シグナル配列を欠失した、配列番号29、30、および32~41の未熟なLukBポリペプチドに対応する成熟LukBポリペプチドの例としては、それぞれ配列番号42~53が挙げられる。
【0080】
本明細書においてLukAポリペプチド、LukBポリペプチド、およびLukAB二量体ポリペプチドが参照される。LukAはLukHとも称され得ること、およびLukBはLukGとも称され得ることを当業者は理解する。例えば、米国特許第8,431,687号明細書(LukAB);Badarau et al., JBC 290(1):142-56 (2015)(LukGH);およびBadarau et al., MABS 9(7):1347-60 (2016)(LukGH)を参照。
【0081】
LukAおよびLukBポリペプチドは、1つまたは複数の追加のアミノ酸挿入、置換、および/または欠失を含むことができ、例えば、配列番号1~28および/または配列番号29~53内の1つまたは複数のアミノ酸残基は、機能的同等物として作用してサイレントな変更を結果としてもたらすことができる、類似した極性の別のアミノ酸で置換することができる。類似した極性のアミノ酸でのアミノ酸の変更は、野生型LukAおよび/またはLukBポリペプチドと同じ基本的な特性を有するLukAおよび/またはLukBポリペプチドを結果としてもたらし得る。
【0082】
ある特定の実施形態では、LukAおよび/またはLukBの不活性化または解毒の目的のために、非保存的な変更がLukAおよび/またはLukBポリペプチドに対して為され得る。ある特定の実施形態では、LukAポリペプチドは、配列番号1~14のアミノ酸残基342~351位において欠失を含むことができる(これらの位置に9アミノ酸を含有するため、アミノ酸残基342~350位において欠失を含むことができる、配列番号4~6を除く)。アミノ酸残基342~351位における欠失は、配列番号15~28のアミノ酸残基315~324位において起こる(これらの位置に9アミノ酸を含有するため、アミノ酸残基315~323位において欠失を含むことができる、配列番号18~20を除く)。解毒されたLukAおよび/またはLukBは、本明細書に開示される免疫原性組成物において使用され得る。
【0083】
ある特定の実施形態では、配列番号1~28のいずれか1つに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むLukAポリペプチドが本明細書において提供される。
【0084】
ある特定の実施形態では、1つまたは複数の突然変異は、LukAポリペプチド中に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個のアミノ酸置換、欠失、挿入、またはこれらの組合せを含む。ある特定の実施形態では、1つまたは複数の置換、欠失、挿入、またはこれらの組合せは、LukABプロトマー/プロトマー境界面領域、二量体/二量体境界面領域、またはこれらの任意の組合せ中の保存された残基におけるものである。二量体を形成する、オリゴマー化する、真核細胞の表面上にポアを形成する、またはこれらの任意の組合せを行う、突然変異体LukAポリペプチドの能力は、例えば、妨害され得る。対応する野生型LukAポリペプチドと比べた突然変異体LukAポリペプチドの毒性は、例えば、低減され得る。対応する野生型LukAポリペプチドおよび/またはLukAB二量体ポリペプチドと比べた突然変異体LukAポリペプチドおよび/またはLukAB二量体ポリペプチドの免疫原性は、例えば、著しく低減され得ない。1つまたは複数の突然変異を含むLukAポリペプチドは、参照により全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2018/232014号パンフレットに記載されている。
【0085】
ある特定の実施形態では、LukAB二量体の不活性化または解毒の目的のために、成熟LukAポリペプチドの323位におけるグルタミン酸残基の置換が為され得る。ある特定の実施形態では、LukAB二量体ポリペプチドの不活性化または解毒の目的のために、成熟LukAポリペプチドの323位におけるグルタミン酸残基のアラニン残基での置換、すなわち、E323A置換が為され得る(DuMont et al., Infect. Immun. (2014))。
【0086】
ある特定の実施形態では、配列番号29~53のいずれか1つに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むLukBポリペプチドが本明細書において提供される。
【0087】
ある特定の実施形態では、1つまたは複数の突然変異は、LukBポリペプチド中に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個のアミノ酸置換、欠失、挿入、またはこれらの組合せを含む。ある特定の実施形態では、1つまたは複数の置換、欠失、挿入、またはこれらの組合せは、LukABプロトマー/プロトマー境界面領域、二量体/二量体境界面領域、LukB膜結合性クレフト領域、LukBポア形成領域、またはこれらの任意の組合せ中の保存された残基におけるものである。二量体を形成する、オリゴマー化する、真核細胞の表面上にポアを形成する、またはこれらの任意の組合せを行う、突然変異体LukBポリペプチドの能力は、例えば、妨害され得る。対応する野生型LukBポリペプチドと比べた突然変異体LukBポリペプチドの毒性は、例えば、低減され得る。対応する野生型LukBポリペプチドおよび/またはLukAB二量体ポリペプチドと比べた突然変異体LukBポリペプチドおよび/またはLukAB二量体ポリペプチドの免疫原性は、例えば、著しく低減され得ない。1つまたは複数の突然変異を含むLukBポリペプチドは、参照により全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2018/232014号パンフレットに記載されている。
【0088】
ある特定の実施形態では、配列番号1~28のいずれか1つに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列および配列番号29~53のいずれか1つに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む突然変異体LukAB二量体ポリペプチドが本明細書において提供される。
【0089】
ある特定の実施形態では、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドは、LukABプロトマー/プロトマー境界面領域中に突然変異を含む。突然変異は、例えば、不完全な、より大きいロイコシジン八量体環の形成;毒素の溶血性/白血球毒性活性の低減もしくは消失;またはこれらの任意の組合せを結果としてもたらすことができる。ある特定の実施形態では、突然変異は、配列番号15のアミノ酸R49に対応するLukAポリペプチド中の置換;配列番号15のアミノ酸L61に対応するLukAポリペプチド中の置換;配列番号42のアミノ酸D49に対応するLukBポリペプチド中の置換;またはこれらの組合せを含むことができる。ある特定の実施形態では、配列番号15のアミノ酸R49に対応するLukAポリペプチド中の置換はグルタミン酸(E)である。LukAポリペプチド中の置換は、配列番号15のLukA R49および配列番号42のLukB D49の間の塩橋を妨害することができる。ある特定の実施形態では、配列番号15のアミノ酸L61に対応するLukAポリペプチド中の置換は、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、またはアルギニン(R)置換である。LukAポリペプチド中の置換は、LukABプロトマー/プロトマー境界面内に見出される疎水性ポケットを妨害することができる。ある特定の実施形態では、配列番号42のアミノ酸D49に対応するLukBポリペプチド中の置換は、アラニン(A)またはリシン(K)置換である。LukBポリペプチド中の置換は、配列番号42のLukB D49および配列番号15のLukA R49の間の塩橋を妨害することができる。
【0090】
ある特定の実施形態では、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドは、LukAB二量体/二量体境界面領域中に突然変異を含む。突然変異は、例えば、LukAB二量体形成を妨害することができ、真核細胞の表面上でのLukABオリゴマー化を妨害することができ、またはこれらの組合せを行うことができる。ある特定の実施形態では、突然変異は、配列番号15のアミノ酸D39に対応するLukAポリペプチド中の置換;配列番号15のアミノ酸D75に対応するLukAポリペプチド中の置換;配列番号15のアミノ酸K138に対応するLukAポリペプチド中の置換;配列番号15のアミノ酸D197に対応するLukAポリペプチド中の置換;配列番号42のアミノ酸K12に対応するLukBポリペプチド中の置換;配列番号42のアミノ酸K19に対応するLukBポリペプチド中の置換;配列番号42のアミノ酸R23に対応するLukBポリペプチド中の置換;配列番号42のアミノ酸K58に対応するLukBポリペプチド中の置換;配列番号42のアミノ酸E112に対応するLukBポリペプチド中の置換;配列番号42のアミノ酸K218に対応するLukBポリペプチド中の置換;またはこれらの任意の組合せを含むことができる。
【0091】
ある特定の実施形態では、配列番号15のアミノ酸D39に対応するLukAポリペプチド中の置換は、アラニン(A)またはアルギニン(R)置換である。D39における配列番号15の置換は、配列番号15のLukA D39および配列番号42のLukB K58の間の塩橋を妨害することができる。
【0092】
ある特定の実施形態では、配列番号15のアミノ酸D75に対応するLukAポリペプチド中の置換はアラニン(A)置換である。D75における配列番号15の置換は、配列番号15のLukA D75および配列番号42のLukB R23の間の塩橋を妨害することができる。
【0093】
ある特定の実施形態では、配列番号15のアミノ酸K138に対応するLukAポリペプチド中の置換はアラニン(A)置換である。K138における配列番号15の置換は、配列番号15のLukA K138および配列番号42のLukB E112の間の塩橋を妨害することができる。
【0094】
ある特定の実施形態では、配列番号15のアミノ酸D197に対応するLukAポリペプチド中の置換はアラニン(A)またはリシン(K)置換である。D197における配列番号15の置換は、配列番号15のLukA D197および配列番号42のLukB K218の間の塩橋を妨害することができる。
【0095】
ある特定の実施形態では、配列番号42のK12に対応するLukBポリペプチド中の置換はアラニン(A)置換である。ある特定の実施形態では、配列番号42のK19に対応するLukBポリペプチド中の置換はアラニン(A)置換である。ある特定の実施形態では、配列番号42のR23に対応するLukBポリペプチド中の置換はアラニン(A)またはグルタミン酸(E)置換である。ある特定の実施形態では、LukBポリペプチドは、配列番号42のK12、K19、およびR23に対応する三重突然変異を含むことができる。配列番号42のK12、K19、および/またはR23における置換は、少なくとも配列番号42のLukB R23および配列番号15のLukA D75の間の塩橋を妨害することができる。
【0096】
ある特定の実施形態では、配列番号42のK58に対応するLukBポリペプチド中の置換はアラニン(A)またはグルタミン酸(E)置換である。K58における配列番号42の置換は、配列番号42のLukB K58および配列番号15のLukA D39の間の塩橋を妨害することができる。
【0097】
ある特定の実施形態では、配列番号42のE112に対応するLukBポリペプチド中の置換はアラニン(A)置換である。E112における配列番号42の置換は、配列番号42のLukB E112および配列番号15のLukA K138の間の塩橋を妨害することができる。
【0098】
ある特定の実施形態では、配列番号42のK218に対応するLukBポリペプチド中の置換はアラニン(A)置換である。K218における配列番号42の置換は、配列番号42のLukB K218および配列番号15のLukA D197の間の塩橋を妨害することができる。
【0099】
ある特定の実施形態では、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドは、LukB膜結合性クレフト領域中に突然変異を含む。突然変異は、例えば、真核細胞の脂質二重層の極性ヘッド基とのLukBサブユニットの相互作用を妨害することができる。ある特定の実施形態では、突然変異は、配列番号42のアミノ酸H180に対応するLukBポリペプチド中の置換;配列番号42のアミノ酸E197に対応するLukBポリペプチド中の置換;配列番号42のR203に対応するLukBポリペプチド中の置換;またはこれらの任意の組合せを含むことができる。ある特定の実施形態では、配列番号42のH180に対応するLukBポリペプチド中の置換はアラニン(A)置換であり;配列番号42のE197に対応するLukBポリペプチド中の置換はアラニン(A)置換であり;かつ配列番号42のR203に対応するLukBポリペプチド中の置換はアラニン(A)置換である。
【0100】
ある特定の実施形態では、突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドは、LukBポア形成領域中に突然変異を含む。突然変異は、例えば、真核細胞の表面上に形成されたLukABポアの細胞質側エッジを妨げ、それによりポア形成を妨げることができる。ある特定の実施形態では、ポア形成領域中の突然変異は、配列番号42のアミノ酸F125~T133の欠失を含み、ある特定の態様では、配列番号42のD124に対応するアミノ酸の後の1、2、3、4、または5個のグリシン(G)残基の挿入をさらに含む。
【0101】
ある特定の実施形態では、LukAB二量体ポリペプチドは、(a)配列番号15に対応するL61Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するD49Kアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(b)配列番号15に対応するL61Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するR23Aアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(c)配列番号15に対応するL61Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するR23Eアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(d)配列番号15に対応するL61Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するE112Aアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(e)配列番号15に対応するL61Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するR203Aアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(f)配列番号15に対応するL61Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するK218Aアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(g)配列番号15に対応するL61Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するK12A/K19A/R23A三重アミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(h)配列番号15に対応するL61Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42のLukB-HlgBポリペプチド;(i)配列番号15に対応するD39Aアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するE112Aアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(j)配列番号15に対応するD39Aアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するK12A/K19A/R23A三重アミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(k)配列番号15に対応するD39Aアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するK12A/K19A/R23A三重アミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(l)配列番号15に対応するD39Aアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するR23Eアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(m)配列番号15に対応するD39Aアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するK218Aアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(n)配列番号15に対応するD39Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するE112Aアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(o)配列番号15に対応するD39Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するR23Eアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(p)配列番号15に対応するD39Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するK218Aアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(q)配列番号15に対応するD39Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するK12A/K19A/R23A三重アミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(r)配列番号15に対応するD39Rアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するK12A/K19A/R23A三重アミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(s)配列番号15に対応するD197Kアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するR23Aアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;(t)配列番号15に対応するD197Kアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するR23Eアミノ酸置換を有するLukBポリペプチド;または(u)配列番号15に対応するK138Aアミノ酸置換を有するLukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するK218Aアミノ酸置換を有するLukBポリペプチドを含む。
【0102】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(すなわち、突然変異体LukAポリペプチド、突然変異体LukBポリペプチド、および/または突然変異体LukAB二量体ポリペプチド)をコードする1つまたは複数の単離された核酸に関する。単離された核酸は、SpAバリアントポリペプチド、ならびに、対応する野生型ロイコシジンサブユニットと比べて突然変異体ロイコシジンサブユニットの毒性を低減させる、本明細書に記載されるような1つまたは複数の突然変異を有することを除いて、野生型スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAサブユニット、野生型スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBサブユニット、または野生型スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体を含む、からなる、またはから本質的になる、単離された突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドをコードすることができる。ある特定の態様では、置換、欠失、またはこれらの組合せは、対応する野生型ロイコシジンサブユニットまたは二量体と比べて、突然変異体LukAサブユニット、突然変異体LukBサブユニット、または突然変異体LukAB二量体の免疫原性を著しく低減させない。タンパク質のコーディング配列は、タンパク質のアミノ酸配列を変化させることなく変更(例えば、置き換え、欠失、挿入など)され得ることが当業者に理解される。よって、本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする核酸配列は、タンパク質のアミノ酸配列を変化させることなく変更できることが当業者により理解されるであろう。
【0103】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明のSpAバリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(すなわち、突然変異体LukAポリペプチド、突然変異体LukBポリペプチド、および/または突然変異体LukAB二量体ポリペプチド)をコードする1つまたは複数の単離された核酸を含むベクターに関する。本開示を考慮して当業者に公知の任意のベクター、例えばプラスミド、コスミド、ファージベクター、ウイルスベクター、自己複製性RNA、またはレプリコンを使用することができる。一部の実施形態では、ベクターは、組換え発現ベクター、例えばプラスミドである。ベクターは、発現ベクターの従来の機能を確立するための任意のエレメント、例えば、プロモーター、リボソーム結合性エレメント、ターミネーター、エンハンサー、選択マーカー、および複製起点を含むことができる。プロモーターは、構成的、誘導性または抑制性プロモーターであることができる。核酸を細胞に送達することができる多数の発現ベクターが当該技術分野において公知であり、細胞中での抗体またはその抗原結合性断片の製造のために本明細書において使用することができる。従来のクローニング技術または人工的な遺伝子合成を使用して、本発明の実施形態による組換え発現ベクターを生成することができる。そのような技術は、本開示を考慮して当業者に周知である。
【0104】
発現ベクターが選択されたら、本明細書に記載されるようなポリヌクレオチドは、プロモーターの下流、例えば、ポリリンカー領域中にクローニングすることができる。ベクターで適切な細菌株が形質転換され、標準的な技術を使用してDNAが調製される。ポリペプチドの配向性およびDNA配列の他に、ベクター中に含まれる他のエレメントは、制限酵素マッピング、DNA配列解析、および/またはPCR分析を使用して確認される。正確なベクターを宿す細菌細胞を細胞バンクとして貯蔵することができる。
【0105】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明のSpAバリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(すなわち、突然変異体LukAポリペプチド、突然変異体LukBポリペプチド、および/または突然変異体LukAB二量体ポリペプチド)をコードする1つまたは複数の単離された核酸を含む宿主細胞に関する。本開示を考慮して当業者に公知の任意の宿主細胞を、本発明の抗体またはその抗原結合性断片の組換え発現のために使用することができる。一部の実施形態では、宿主細胞は、E.コリ(E. coli)TG1もしくはBL21細胞(例えば、scFvもしくはFab抗体の発現用)、CHO-DG44もしくはCHO-K1細胞またはHEK293細胞(例えば、全長IgG抗体の発現用)である。特定の実施形態によれば、従来の方法、例えば化学的トランスフェクション、熱ショック、またはエレクトロポレーションにより、組換え発現ベクターで宿主細胞が形質転換され、組換え発現ベクターは宿主細胞ゲノムに安定的に組み込まれ、その結果、組換え核酸は有効に発現される。
【0106】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明のSpAバリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(すなわち、突然変異体LukAポリペプチド、突然変異体LukBポリペプチド、および/または突然変異体LukAB二量体ポリペプチド)を製造する方法であって、SpAバリアントポリペプチドおよび突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドをコードする1つまたは複数の核酸を含む細胞を、本発明のSpAバリアントポリペプチドおよび突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドを製造するための条件下で培養すること、ならびに細胞または細胞培養物(例えば、上清)からSpAバリアントポリペプチドおよび突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドを回収することを含む方法に関する。発現されたSpAバリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(すなわち、突然変異体LukAポリペプチド、突然変異体LukBポリペプチド、および/または突然変異体LukAB二量体ポリペプチド)は、当該技術分野において公知の従来技術に従っておよび本明細書に記載されるように細胞から採取し、精製することができる。突然変異体LukAB二量体ポリペプチドの製造方法は当該技術分野において公知である。例えば、DuMont et al., Infection and Immunity 82(3):1268-76 (2014); Kailasan et al., Toxins 11(6):339 (2019)を参照。
【0107】
スタフィロコッカス(staphylococcal)プロテインA(SpA)
【0108】
「プロテインA」および「SpA」は、本明細書において使用される場合、交換可能に使用され、感染された宿主の先天および適応免疫応答からの細菌逃避を提供するように機能する、S.アウレウス(S.aureus)の細胞壁アンカー表面タンパク質を指すことができる。プロテインAは、免疫グロブリンにそれらのFc部分において結合することができ、B細胞増殖およびアポトーシスの適切な刺激においてB細胞受容体のVH3ドメインと相互作用することができ、フォンウィルブランド因子A1ドメインに結合して細胞内凝固を活性化させることができ、TNF受容体-1に結合してスタフィロコッカス(staphylococcal)性肺炎の病理発生に寄与することもできる。
【0109】
すべてのS.アウレウス(S.aureus)株は、プロテインAの構造遺伝子(spa)を発現し(Jensen (1958); Said-Salim et al., (2003))、これはよく特徴付けられた病原性因子であり、その細胞壁アンカー表面タンパク質産物(SpA)は、E、D、A、B、およびCと呼称される5つの高度に相同の免疫グロブリン結合性ドメインを包含する(Sjodahl, (1977))。免疫グロブリンドメインは、アミノ酸レベルで約80%の同一性を示し、56~61残基の長さであり、タンデムリピートとして編成されている(Uhlen et al., (1984))。免疫グロブリン結合性ドメインの各々はアンチパラレルα-ヘリックスから構成され、これらは3つのヘリックスバンドルに集合し、免疫グロブリンG(IgG)のFcドメイン(Deisenhofer, (1981); Deisenhofer et al., (1978))、IgMのVH3重鎖(Fab)(Graille et al., (2000))、そのA1ドメインにおいてフォンウィルブランド因子(O’Seaghdha et al., (2006))、および腫瘍壊死因子α(TNF-α)受容体1(TNFR1)(Gomez et al., (2006))に結合する。
【0110】
SpAは、IgGのFc成分への結合を通じてスタフィロコッカス(staphylococci)の好中球ファゴサイトーシスを妨害する(Jensen, (1958); Uhlen et al., (1984))。追加的に、SpAは、フォンウィルブランド因子A1ドメインへの結合を介して血管内凝固を活性化させることができる(Hartleib et al., (2000))。血漿タンパク質、例えばフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンは、スタフィロコッカス(staphylococci)(ClfAおよびClfB)ならびに血小板インテグリンGPIIb/IIIaの間のブリッジとして作用し(O’Brien et al., (2002))、これはvWF A1とのSpAの会合を通じて補足される活性であり、スタフィロコッカス(staphylococci)がGPIb-α血小板受容体を介して血小板を捕捉することを可能とする(Foster, (2005); O’Seaghdha et al., (2006))。SpAはまたTNFR1に結合し、この相互作用は、スタフィロコッカス(staphylococcal)性肺炎の病理発生に寄与する(Gomez et al., (2004))。SpAは、TRAF2、p38/c-Junキナーゼ、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、およびRel転写因子NF-κBのTNFR1媒介性活性化を通じて炎症促進性シグナル伝達を活性化させる。SpAの結合はTNFR1シェディングをさらに誘導し、これは、TNF変換酵素(TACE)を要求するらしい活性である(Gomez et al., (2007))。開示される活性の各々は、5つのIgG結合性ドメインを通じて媒介され、プロテインAおよびヒトIgG1の間の相互作用に対する要求により最初に定義された、同じアミノ酸置換により撹乱され得る(Cedergren et al., (1993))。
【0111】
SpAはまた、VH3保有IgMのFab領域、B細胞受容体を捕捉することによりB細胞スーパー抗原として機能する(Gomez et al., (2007); Goodyear et al., (2003); Goodyear and Silverman (2004); Roben et al., (1995))。静脈内チャレンジ後に、スタフィロコッカス(staphylococcal)SpA突然変異は、臓器組織中でのスタフィロコッカス(staphylococcal)負荷における低減、および膿瘍を形成する能力の劇的な減少を示す。野生型S.アウレウス(S.aureus)の感染の間に、膿瘍が48時間以内に形成され、多形核白血球(PMN)の流入により最初に特徴付けられる、ヘマトキシリン-エオシン染色された薄片化腎臓組織の光顕微鏡観察により検出可能である。感染の5日目に、膿瘍は、サイズを増加させ、スタフィロコッカス(staphylococci)の中心集団を囲い込み、これは好酸球性の非晶性材料およびPMNの大きいカフの層により取り囲まれる。病理組織学は、膿瘍病変の中心におけるスタフィロコッカス(staphylococcal)病巣に近接したPMNの大量の壊死の他に、健常な食細胞のマントルを明らかにした。健常な腎臓組織を感染病変から分離する好酸球性仮性被膜に境界を接する、膿瘍病変の末梢における壊死したPMNの縁もまた観察された。SpAを欠いたスタフィロコッカス(staphylococcal)バリアントは、膿瘍の病理組織学的特徴を確立できず、感染の間にクリアランスされる。
【0112】
本明細書に開示される場合、「プロテインAバリアント」、「SpAバリアント」、「プロテインAバリアントポリペプチド」、および「SpAバリアントポリペプチド」という用語は、FcおよびVH3への結合を妨害する少なくとも1つのアミノ酸置換を有するSpA IgGドメインを含むポリペプチドを指す。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドとしては、バリアントDドメインの他に、非毒性であり、かつスタフィロコッカス(staphylococcus)細菌プロテインAおよび/またはそれを発現する細菌に対する免疫応答を刺激するそのバリアントおよび断片が挙げられる。
【0113】
免疫グロブリンにもはや結合できず、それにより、SpAポリペプチドと関連付けられる毒性を排除するように機能する、SpAバリアントポリペプチドが本明細書に記載される。SpAバリアントポリペプチドは非毒性であり、液性免疫応答を刺激して、スタフィロコッカス(staphylococcal)感染症および疾患から保護する。
【0114】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、バリアントA、B、C、D、および/またはEドメインを含む全長SpAバリアントである。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号60または61のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号54のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一のアミノ酸配列を含む。
【0115】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは全長SpAポリペプチドの断片を含む。SpAバリアントポリペプチド断片は、1、2、3、4、5、またはより多くのIgG結合性ドメインを含むことができる。IgG結合性ドメインは、例えば、1、2、3、4、5、またはより多くのバリアントA、B、C、D、および/またはEドメインであることができる。
【0116】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、1、2、3、4、5、またはより多くのバリアントAドメインを含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、1、2、3、4、5、またはより多くのバリアントBドメインを含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、1、2、3、4、5、またはより多くのバリアントCドメインを含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、1、2、3、4、5、またはより多くのバリアントDドメインを含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、1、2、3、4、5、またはより多くのバリアントEドメインを含む。
【0117】
バリアントAドメインは、例えば、配列番号55のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントBドメインは、例えば、配列番号56のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントCドメインは、例えば、配列番号57のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントDドメインは、例えば、配列番号58のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントEドメインは、例えば、配列番号59のアミノ酸配列を含むことができる。
【0118】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、バリアントA、B、C、D、およびEドメインを含むことができ、これらは、それぞれ配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、および配列番号59に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0119】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号55のアミノ酸7位、8位、34位、および/または35位において置換を含むバリアントAドメインを含むことができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号56のアミノ酸7位、8位、34位、および/または35位において置換を含むバリアントBドメインを含むことができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号57のアミノ酸7位、8位、34位、および/または35位において置換を含むバリアントCドメインを含むことができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号58のアミノ酸9位、10位、36位、および/または37位において置換を含むバリアントDドメインを含むことができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号59のアミノ酸6位、7位、33位、および/または34位において置換を含むバリアントEドメインを含むことができる。バリアントA、B、C、D、および/またはEドメイン中のアミノ酸置換は国際公開第2011/005341号パンフレットに記載されている。
【0120】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpAドメインDのIgG Fc結合性サブドメイン中、または他のIgGドメイン中の対応するアミノ酸位置において1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。1つまたは複数のアミノ酸置換は、SpAバリアントポリペプチドのIgG Fcへの結合を妨害しまたは減少させることができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpAドメインDのVH3結合性サブドメイン中、または他のIgGドメイン中の対応するアミノ酸位置において1つまたは複数のアミノ酸置換をさらに含む。1つまたは複数のアミノ酸置換は、VH3への結合を妨害しまたは減少させることができる。
【0121】
ある特定の実施形態では、配列番号58のSpA DドメインのIgG Fc結合性サブドメインのアミノ酸残基F5、Q9、Q10、S11、F13、Y14、L17、N28、I31、および/またはK35は、IgG Fcへの結合が低減または排除されるように改変または置換される。
【0122】
ある特定の実施形態では、配列番号58のSpA DドメインのVH3結合性サブドメインのアミノ酸残基Q26、G29、F30、S33、D36、D37、Q40、N43、および/またはE47は、VH3への結合が低減または排除されるように改変または置換される。
【0123】
対応する改変をSpAドメインA、B、C、および/またはEに組み込むことができる。対応する位置は、SpAドメインDをSpAドメインA、B、C、および/またはEとアライメントして、SpAドメインA、B、C、および/またはEとのSpAドメインDからの対応する残基を決定することにより定義される。
【0124】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、(a)SpAドメインDのIgG Fc結合性サブドメイン中、または他のIgGドメイン中の対応するアミノ酸位置における1つまたは複数のアミノ酸置換;ならびに(b)SpAドメインDのVH3結合性サブドメイン中、または他のIgGドメイン中の対応するアミノ酸位置における1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。1つまたは複数のアミノ酸置換は、SpAバリアントポリペプチドが宿主生物において低減または排除された毒性を有するようにSpAバリアントポリペプチドのIgG FcおよびVH3への結合を低減させる。
【0125】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはより多くのバリアントDドメインを含む。バリアントDドメインは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはより多くのアミノ酸残基の置換または改変を含むことができる。アミノ酸残基の置換または改変は、例えば、SpAドメインD(配列番号58)のIgG Fc結合性サブドメインのアミノ酸残基F5、Q9、Q10、S11、F13、Y14、L17、N28、I31、および/もしくはK35ならびに/またはSpAドメインD(配列番号58)のVH3結合性サブドメインのアミノ酸残基Q26、G29、F30、S33、D36、D37、Q40、N43、および/もしくはE47において存在することができる。ある特定の実施形態では、アミノ酸残基の置換または改変は、配列番号58のアミノ酸残基Q9およびQ10におけるものである。ある特定の実施形態では、アミノ酸残基の置換または改変は、配列番号58のアミノ酸残基D36およびD37におけるものである。バリアントA、B、C、D、および/またはEドメイン中のアミノ酸置換は、参照により全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2011/005341号パンフレットに記載されている。
【0126】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号72に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ/または配列番号72の少なくともn個の連続するアミノ酸の断片を含み、nは、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも75、少なくとも100、少なくとも125、少なくとも150、少なくとも175、少なくとも200、少なくとも225、少なくとも250、少なくとも275、少なくとも300、少なくとも325、少なくとも350、少なくとも375、少なくとも400、もしくは少なくとも425個のアミノ酸である。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号72のカルボキシ(C)末端からの1つもしくは複数のアミノ酸(例えば、少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、もしくは35個のアミノ酸)の欠失および/またはアミノ(N)末端からの1つもしくは複数のアミノ酸(例えば、少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、もしくは35個のアミノ酸)の欠失を含むことができる。ある特定の実施形態では、最後の35個のC末端アミノ酸が欠失される。ある特定の実施形態では、最初の36個のN末端アミノ酸が欠失される。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号72のアミノ酸37~325を含む。
【0127】
ある特定の実施形態では、N末端からC末端へと並べられた5つすべてのSpA Ig結合性ドメインを含むSpAバリアントポリペプチドは、Eドメイン、Dドメイン、Aドメイン、Bドメイン、およびCドメインを順番に含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、天然のA、B、C、D、および/またはEドメインのうちの1、2、3、または4個を含む。天然のドメインのうちの1、2、3、または4個が欠失された実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpAがB細胞スーパー抗原として機能する場合に起こり得る過度のB細胞拡大増殖およびアポトーシスを予防することができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドはSpA Aドメインのみを含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドはSpA Bドメインのみを含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドはSpA Cドメインのみを含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドはSpA Dドメインのみを含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドはSpA Eドメインのみを含む。
【0128】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号72と比べた11個のジペプチド配列リピート(例えば、QQジペプチドリピートおよび/またはDDジペプチドリピート)のうちの少なくとも1つの突然変異を含む。例として、SpAバリアントポリペプチドは配列番号73のアミノ酸配列を含み、アミノ酸7位および8位、34位および35位、60位および61位、68位および69位、95位および96位、126位および127位、153位および154位、184位および185位、211位および212位、242位および243位、ならびに269位および270位におけるXXジペプチドリピートは、免疫グロブリンに対するSpAバリアントポリペプチドの親和性を低減させるように突然変異され得る。Gln-Gln(QQ)ジペプチドについての有用なジペプチド置換としては、Lys-Lys(KK)、Arg-Arg(RR)、Arg-Lys(RK)、Lys-Arg(KR)、Ala-Ala(AA)、Ser-Ser(SS)、Ser-Thr(ST)、およびThr-Thr(TT)ジペプチドを挙げることができるがこれらに限定されない。好ましくは、QQジペプチドはKRジペプチドで置換される。Asp-Asp(DD)ジペプチドについての有用なジペプチド置換としては、Ala-Ala(AA)、Lys-Lys(KK)、Arg-Arg(RR)、Lys-Arg(KR)、His-His(HH)、およびVal-Val(VV)ジペプチドを挙げることができるがこれらに限定されない。ジペプチド置換は、例えば、ヒトIgGのFc部分およびVH3含有ヒトB細胞受容体のFab部分に対するSpAバリアントポリペプチドの親和性を減少させることができる。
【0129】
そのため、ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、XXジペプチドの1つまたは複数、好ましくは11個すべてが、配列番号72の対応するジペプチドとは異なるアミノ酸で置換された、配列番号78を含むことができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、60位および61位におけるアミノ酸ダブレットがそれぞれLysおよびArg(KおよびR)である、配列番号79を含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号80または配列番号81を含む。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号75を含み、配列番号75の好ましい例は、配列番号76または配列番号77(配列番号77は、N末端メチオニンを有する配列番号76である)である。
【0130】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドのN末端は、配列番号72の最初の36アミノ酸の欠失を含むことができ、C末端は、配列番号72の最後の35アミノ酸の欠失を含むことができる。配列番号72の36アミノ酸のN末端欠失および配列番号72の35アミノ酸のC末端欠失を含むSpAバリアントポリペプチドは、第5のIg結合性ドメイン(すなわち、配列番号72のLys-327の下流)の欠失をさらに含むことができる。このSpAバリアントは、XXジペプチドが、配列番号72における対応するジペプチド配列とは異なるアミノ酸で置換され得る、配列番号73のアミノ酸配列を含むことができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは配列番号74を含む。
【0131】
上述のある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、天然のA、B、C、D、および/またはEドメインのうちの1、2、3、または4個を含むことができ、例えば、SpA Eドメインのみを含み、D、A、B、またはCのいずれも含まないものであり得る。そのため、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号83の少なくとも1つのアミノ酸における置換を含むバリアントSpA Eドメインを含むことができる。置換は、例えば、配列番号83のアミノ酸60位および61位にあることができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号79、配列番号80、配列番号81、または配列番号82を含むことができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、配列番号79、配列番号80、配列番号81、または配列番号82を含むことができる。SpAバリアントポリペプチドは、参照により全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2015/144653号パンフレットに記載されている。
【0132】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号84のアミノ酸43Q、44Q、96Q、97Q、162Q、163Q、220Q、221Q、278Q、および279Qにおいてアミノ酸置換を含む。配列番号84のアミノ酸43Q、44Q、96Q、97Q、162Q、163Q、220Q、221Q、278Q、および279Qにおけるアミノ酸置換は、例えば、リシン(K)またはアルギニン(R)置換であることができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号84のアミノ酸70D、71D、131D、132D、189D、190D、247D、248D、305D、および306Dにおいてアミノ酸置換を含む。配列番号84のアミノ酸70D、71D、131D、132D、189D、190D、247D、248D、305D、および306Dにおけるアミノ酸置換は、例えば、アラニン(A)またはバリン(V)置換であることができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号85、配列番号86、配列番号87、および配列番号88から選択することができる。SpAバリアントポリペプチドは、参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2016/0304566号明細書に記載されている。
【0133】
ある特定の実施形態では、バリアントAドメインは、例えば、配列番号62または67のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントBドメインは、例えば、配列番号63または68のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントCドメインは、例えば、配列番号64または69のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントDドメインは、例えば、配列番号66または71のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントEドメインは、例えば、配列番号65または70のアミノ酸配列を含むことができる。
【0134】
好ましい実施形態では、バリアントAドメインは、例えば、配列番号62のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントBドメインは、例えば、配列番号63のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントCドメインは、例えば、配列番号64のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントDドメインは、例えば、配列番号66のアミノ酸配列を含むことができる。バリアントEドメインは、例えば、配列番号65のアミノ酸配列を含むことができる。
【0135】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、バリアントA、B、C、D、およびEドメインを含むことができ、これらは、それぞれ配列番号62または67、配列番号63または68、配列番号64または69、配列番号66または71、および配列番号65または70に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0136】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、配列番号58のアミノ酸9位、10位、および/または33位において置換を含むバリアントDドメインを含むことができる。
【0137】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、(i)SpA Dドメイン(配列番号58)の9位および10位に対応するSpA A~Eドメインの各々におけるグルタミンアミノ酸残基についてのリシン置換;ならびに(ii)SpA Dドメイン(配列番号58)の33位に対応するSpA A~Eドメインの各々におけるセリンアミノ酸残基についてのグルタミン酸置換を含む。SpAバリアントポリペプチドは、陰性対照と比べて、検出可能に血液中のIgGおよびIgEを架橋しない、かつ/または好塩基球を活性化させない。検出可能に血液中のIgGおよびIgEを架橋しない、かつ/または好塩基球を活性化させないことにより、SpAバリアントポリペプチドは、ヒト患者に対して著しい安全性もしくは毒性の懸念を課さず、ヒト患者においてアナフィラキシーショックの著しいリスクも課さない。
【0138】
ある特定の実施形態では、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性は、SpA Dドメイン(配列番号58)の9位および10位に対応するSpA A~Eドメインの各々におけるグルタミン残基についてのリシン置換ならびにSpA Dドメイン(配列番号58)の36位および37位に対応するSpA A~Eドメイン中のアスパラギン酸についてのアラニン置換からなるSpAバリアントポリペプチド(SpAKKAA)と比較して、低減されている。ドメインD中の9位および10位に対応するドメインA~Eの各々におけるグルタミン残基についてのリシン置換ならびにドメインDの36位および37位に対応するドメインA~Eにおけるアスパラギン酸についてのアラニン置換からなるSpAバリアントポリペプチドは比較用として使用され、SpAKKAAと命名される。SpAKKAAバリアントポリペプチドは配列番号54のアミノ酸配列を有する。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpAKKAAと比較して2分の1以下に低減された、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpAKKAAと比較して、少なくとも1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3倍もしくはより高い倍数またはこれらの間の任意の値だけ低減された、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpAKKAAと比較して、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300%もしくはより高い%またはこれらの間の任意の値だけ低減された、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、約1×105M-1よりも低い、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、約3、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、もしくは0.1×105M-1またはこれらの間の任意の値よりも低い、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpA Dドメイン(配列番号58)の36位および37位に対応するSpA A~Eドメインのいずれかにおける置換を有しない。ある特定の実施形態では、本発明のSpAバリアントポリペプチドは配列番号66または71を含む。ある特定の実施形態では、本発明のSpAバリアントポリペプチドは配列番号60または61を含む。好ましい実施形態では、本発明のSpAバリアントポリペプチドは配列番号60を含む。
【0139】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、(i)SpA Dドメイン(配列番号58)の9位および10位に対応するSpA A~Eドメインの各々におけるグルタミンアミノ酸残基についてのリシン置換;ならびに(ii)SpA Dドメイン(配列番号58)の33位に対応するSpA A~Eドメインの各々におけるセリンアミノ酸残基についてのスレオニン置換を含む。SpAバリアントポリペプチドは、陰性対照と比べて、検出可能に血液中のIgGおよびIgEを架橋しない、かつ/または好塩基球を活性化させない。検出可能に血液中のIgGおよびIgEを架橋しない、かつ/または好塩基球を活性化させないことにより、SpAバリアントポリペプチドは、ヒト患者に対して著しい安全性もしくは毒性の懸念を課さず、ヒト患者においてアナフィラキシーショックの著しいリスクも課さない。
【0140】
ある特定の実施形態では、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性は、SpA Dドメイン(配列番号58)の9位および10位に対応するSpA A~Eドメインの各々におけるグルタミン残基についてのリシン置換ならびにSpA Dドメイン(配列番号58)の36位および37位に対応するSpA A~Eドメイン中のアスパラギン酸についてのアラニン置換からなるSpAバリアントポリペプチド(SpAKKAA)と比較して、低減されている。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpAKKAAと比較して2分の1以下に低減された、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpAKKAAと比較して、少なくとも1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3倍もしくはより高い倍数またはこれらの間の任意の値だけ低減された、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpAKKAAと比較して、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300%もしくはより高い%またはこれらの間の任意の値だけ低減された、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、約1×105M-1よりも低い、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、約3、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、もしくは0.1×105M-1またはこれらの間の任意の値よりも低い、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpA Dドメイン(配列番号58)の36位および37位に対応するSpA A~Eドメインのいずれかにおける置換を有しない。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは配列番号60を含む。
【0141】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpAドメインDのIgG Fc結合性サブドメイン中、または他のIgGドメイン中の対応するアミノ酸位置において1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。1つまたは複数のアミノ酸置換は、SpAバリアントポリペプチドのIgG Fcへの結合を妨害しまたは減少させることができる。ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、SpAドメインDのVH3結合性サブドメイン中、または他のIgGドメイン中の対応するアミノ酸位置において1つまたは複数のアミノ酸置換をさらに含む。1つまたは複数のアミノ酸置換は、VH3への結合を妨害しまたは減少させることができる。
【0142】
対応する改変をSpAドメインA、B、C、および/またはEに組み込むことができる。対応する位置は、SpAドメインDをSpAドメインA、B、C、および/またはEとアライメントして、SpAドメインA、B、C、および/またはEとのSpAドメインDからの対応する残基を決定することにより定義される。
【0143】
ある特定の実施形態では、SpAバリアントポリペプチドは、(a)SpAドメインDのIgG Fc結合性サブドメイン中、または他のIgGドメイン中の対応するアミノ酸位置における1つまたは複数のアミノ酸置換;ならびに(b)SpAドメインDのVH3結合性サブドメイン中、または他のIgGドメイン中の対応するアミノ酸位置における1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。1つまたは複数のアミノ酸置換は、SpAバリアントポリペプチドが宿主生物において低減または排除された毒性を有するようにSpAバリアントポリペプチドのIgG FcおよびVH3への結合を低減させる。
【0144】
追加のスタフィロコッカス(Staphylococcus)ペプチド
【0145】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載されるようなスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに/または突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/もしくはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)を含む免疫原性組成物は、CP5、CP8、Eap、Ebh、Emp、EsaB、EsaC、EsxA、EsxB、EsxAB(融合物)、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfB、Coa、Hla(例えば、H35突然変異体、またはH35L/H48L)、mHla、MntC、rTSST-1、rTSST-1v、SasF、vWbp、およびvWhからなる群から選択される少なくとも1つまたは複数のスタフィロコッカス(staphylococcal)抗原またはその免疫原性断片をさらに含む。免疫原性組成物に含めることができる追加のスタフィロコッカス(staphylococcal)抗原としては、ビトロネクチン結合性タンパク質(国際公開第2001/60852号パンフレット)、Aaa(GenBank CAC80837)、Aap(GenBank AJ249487)、Ant(GenBank NP_372518)、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Can、コラーゲン結合性タンパク質(米国特許第6,288,214号明細書)、Csa1A、EFB(FIB)、エラスチン結合性タンパク質(EbpS)、EPB、FbpA、フィブリノーゲン結合性タンパク質(米国特許第6,008,341号明細書)、フィブロネクチン結合性タンパク質(米国特許第5,840,846号明細書)、FhuD、FhuD2、FnbA、FnbB、GehD(米国特許出願公開第2002/0169288号明細書)、HarA、HBP、免疫優性ABCトランスポーター、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+トランスポーター、MHC IIアナログ(米国特許第5,648,240号明細書)、MRPII、NPase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF(国際公開第2000/12689号パンフレット)、SdrG(国際公開第2000/12689号パンフレット)、SdrH(国際公開第2000/12689号パンフレット)、SEA外毒素(国際公開第2000/02523号パンフレット)、SEB外毒素(国際公開第2000/02523号パンフレット)、mSEB、SitCおよびNi ABCトランスポーター、SitC/MntC/唾液結合性タンパク質(米国特許第5,801,234号明細書)、SsaA、SSP-1、SSP-2、Spa5(米国特許出願公開第2016/0304566号明細書)、SpAKKAA(国際公開第2011/005341号パンフレット、国際公開第2015/144653号パンフレット、国際公開第2015/144691号パンフレット)、SpAkR(国際公開第2015/144653号パンフレット)、Sta006、ならびに/またはSta011を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0146】
免疫原性組成物に含めることができる追加のスタフィロコッカス(staphylococcal)抗原としては、突然変異体LukS-PVサブユニット、LukF-PVサブユニット、突然変異体ガンマ溶血素A、突然変異体ガンマ溶血素B、突然変異体ガンマ溶血素(Hlg)、パントン-バレンタインロイコシジン(PVL)、LukE、LukD、LukED二量体またはこれらの任意の組合せを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0147】
S.アウレウス(S.aureus)の病原性莢膜を持つ株は、莢膜多糖体5型(CP5)または8型(CP8)を有する(O’Riordan and Lee, Clin. Microbiol. Rev. 17(1):218-34 (2004) PMID: 14726462)。スタフィロコッカス(staphylococcal)CPベースのワクチンは、S.アウレウス(S.aureus)のオプソニン化貪食作用性殺傷(OPK)を促進する抗体を誘発し(Karakawa et al., Infect. Immun. 56(5):1090-5 (1988) PMID: 3356460)、免疫化は、スタフィロコッカス(staphylococcal)菌血症、致死性、乳腺炎、骨髄炎、および心内膜炎から実験動物を保護することが示された(Cheng et al., Human Vaccines & Immunother. 13(7):1609-14 (2017); Kuipers et al., Micro. 162(7):1185-94 (2016))。CP5およびCP8は、高度に類似した三糖のリピートから構成され、これらの三糖は、それらの単糖の間の連結およびO-アセチル化においてのみ異なる。CP5およびCP8に対する免疫応答は、血清型特異的であると考えられる。しかしながら、CP8誘導性の抗体はCP5株に対して交差反応性であり得る一方、CP5誘導性の抗体は血清型特異的であることが示唆されている(Park et al., Infect. Immun. 82(12):5049-55 (2014) PMID: 25245803)。莢膜多糖体は、T非依存性免疫原であり、弱い免疫原性である。莢膜多糖体の免疫原性を向上させるために、キャリアタンパク質に化学的または酵素的に共有結合的に連結(または高親和性非共有連結を介して連結)させて、人工的な糖タンパク質または複合糖質を作ることが必要である(Fattom et al., Infect. Immun. 61(3):1023-32 (1993) PMID: 8432585)。コンジュゲーションの手段により、莢膜多糖体およびキャリアタンパク質、以下に限定されないが例えばCRM197からなる複合糖質が形成される。CRM197は、グリシンについてのグルタミン酸の単一のアミノ酸置換を有する、ジフテリア毒素の非毒性突然変異体である。CRM197は、十分に定義されたタンパク質であり、多糖およびハプテンのためのキャリアとして機能して、それらを免疫原性にする。それは、疾患、例えば髄膜炎および肺炎球菌細菌感染症に対する多数の承認されたコンジュゲートワクチンにおいてキャリアタンパク質として利用されている。CP5およびCP8は、S.アウレウス(S.aureus)バイオマスからネイティブな抗原として製造することができ、または化学的に合成することができる。CRM197以外に他のキャリアタンパク質を使用することができる。CRM197の例は、限定的であるとは考えられない。
【0148】
追加のスタフィロコッカス(staphylococcal)抗原は、S.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに/または突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/もしくはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)と並行して投与することができる。スタフィロコッカス(staphylococcal)抗原は、S.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに/または突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/もしくはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)と共に同じ免疫原性組成物中で投与することができる。
【0149】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載のSpAバリアントポリペプチドおよび/または突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドは異種アミノ酸配列をさらに含む。異種アミノ酸配列は、例えば、Hisタグ、ユビキチンタグ、NusAタグ、キチン結合性ドメイン、Bタグ、HSBタグ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、カルモジュリン結合性タンパク質(CBP)、ガラクトース結合性タンパク質、マルトース結合性タンパク質(MBP)セルロース結合性ドメイン、アビジン/ストレプトアビジン/Strepタグ、trpE、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、lacZ(β-ガラクトシダーゼ)、FLAG(商標)ペプチド、Sタグ、T7タグ、異種アミノ酸配列のその断片、および前記異種アミノ酸配列のうちの2つまたはそれより多くの組合せからなる群から選択されるペプチドをコードすることができる。ある特定の実施形態では、異種アミノ酸配列は、免疫原、T細胞エピトープ、B細胞エピトープ、異種アミノ酸配列のその断片、および前記異種アミノ酸配列のうちの2つまたはそれより多くの組合せをコードする。
【0150】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明のS.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに/または突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/もしくはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)をコードする1つまたは複数の単離された核酸に関する。タンパク質のコーディング配列は、タンパク質のアミノ酸配列を変化させることなく変化(例えば、置き換え、欠失、挿入など)させることができることが当業者により理解される。よって、本発明のポリペプチドをコードする核酸配列は、タンパク質のアミノ酸配列を変化させることなく変更できることが当業者により理解されるであろう。
【0151】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明のS.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/またはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)をコードする1つまたは複数の単離された核酸を含むベクターに関する。「ベクター」という用語は、本明細書において使用される場合、例えば、遺伝子環境間の輸送のためまたは宿主細胞中での発現のために、例えば制限酵素処理およびライゲーションにより、所望の配列を挿入することができる、任意の数の核酸を指す。核酸ベクターはDNAまたはRNAであることができる。ベクターとしては、プラスミド、ファージ、ファージミド、細菌ゲノム、およびウイルスゲノムが挙げられるがこれらに限定されない。クローニングベクターは、宿主細胞中での複製が可能であり、かつ決定可能な様式でベクターを切断でき、かつ宿主細胞中で複製する能力を新たな組換えベクターが保持するように所望のDNA配列をライゲーションできる、1つまたは複数のエンドヌクレアーゼ制限酵素部位によりさらに特徴付けられる、ベクターである。プラスミドの場合、所望の配列の複製は、プラスミドが宿主細菌内でコピー数を増加する際に多くの回数で、または宿主が有糸分裂により複製する前に宿主当たり単一の回数だけ、起こり得る。ファージの場合、複製は、溶菌期(lytic phase)の間に能動的にまたは溶原期(lysogenic phase)の間に受動的に起こり得る。ある特定のベクターは、導入された宿主細胞中で自律複製することができる。他のベクターは、宿主細胞への導入で宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより、宿主ゲノムと共に複製される。
【0152】
本開示を考慮して当業者に公知の任意のベクター、例えばプラスミド、コスミド、ファージベクターまたはウイルスベクターを使用することができる。一部の実施形態では、ベクターは、組換え発現ベクター、例えばプラスミドである。ベクターは、発現ベクターの従来の機能を確立するための任意のエレメント、例えば、プロモーター、リボソーム結合性エレメント、ターミネーター、エンハンサー、選択マーカー、および複製起点を含むことができる。プロモーターは、構成的、誘導性または抑制性プロモーターであることができる。核酸を細胞に送達することができる多数の発現ベクターが当該技術分野において公知であり、細胞中での融合ペプチドの製造のために本明細書において使用することができる。従来のクローニング技術または人工的な遺伝子合成を使用して、本発明の実施形態による組換え発現ベクターを生成することができる。
【0153】
発現ベクターが選択されたら、本明細書に記載されるようなポリヌクレオチドは、プロモーターの下流、例えば、ポリリンカー領域中にクローニングすることができる。ベクターで適切な細菌株が形質転換され、標準的な技術を使用してDNAが調製される。ポリペプチドの配向性およびDNA配列の他に、ベクター中に含まれる他のエレメントは、制限酵素マッピング、DNA配列解析、および/またはPCR分析を使用して確認される。正確なベクターを宿す細菌細胞を細胞バンクとして貯蔵することができる。
【0154】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明のS.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに/もしくは突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/もしくはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)をコードする1つもしくは複数の単離された核酸または本発明のS.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに/もしくは突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/もしくはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)をコードする単離された核酸を含むベクターを含む宿主細胞に関する。本開示を考慮して当業者に公知の任意の宿主細胞を、本発明の突然変異体ポリペプチドの組換え発現のために使用することができる。一部の実施形態では、宿主細胞は、E.コリ(E. coli)TG1もしくはBL21細胞、CHO-DG44もしくはCHO-K1細胞またはHEK293細胞である。特定の実施形態によれば、従来の方法、例えば化学的トランスフェクション、熱ショック、またはエレクトロポレーションにより、組換え発現ベクターで宿主細胞が形質転換され、そこでそれは宿主細胞ゲノムに安定的に組み込まれ、その結果、組換え核酸は有効に発現される。
【0155】
宿主細胞は、本開示のベクターを用いて遺伝子操作(感染、形質導入、形質転換、またはトランスフェクト)される。そのため、本発明の1つの態様は、本明細書に記載されるようなポリヌクレオチドを含有するベクターを含む宿主細胞を対象とする。操作された宿主細胞は、プロモーターを活性化させ、形質転換体を選択し、またはポリヌクレオチドを増幅するために、適宜改変された従来の栄養培地中で培養することができる。培養条件、例えば温度およびpHなどは、発現のために選択される宿主細胞と共に以前より使用されるものであり、当業者に明らかである。「トランスフェクト」という用語は、本明細書において使用される場合、真核細胞が、プラスミドの形態のDNAが挙げられるがこれに限定されない単離されたDNAを許容してそれをゲノム中に組み込むように誘導される、任意の手順を指す。「形質転換」という用語は、本明細書において使用される場合、細菌細胞が、プラスミドの形態のDNAが挙げられるがこれに限定されない単離されたDNAを許容してそれをゲノム中に組み込むように誘導される、任意の手順を指す。
【0156】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明のS.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/またはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)を製造する方法であって、S.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドおよび突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/またはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)をコードする1つまたは複数の核酸を含む細胞を、本発明のS.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドおよび突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンポリペプチドを製造するための条件下で培養すること、ならびに細胞または細胞培養物(例えば、上清)からポリペプチドを回収することを含む方法に関する。発現されたポリペプチドは、当該技術分野において公知の従来技術に従っておよび本明細書に記載されるように、細胞から採取され、かつ精製され得る。
【0157】
免疫原性組成物
【0158】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明のS.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドおよび突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/またはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)ならびに薬学的に許容される担体を含む免疫原性組成物に関する。「免疫原性組成物」という用語は、対象において免疫応答を誘発するために使用することができる抗原、例えば、微生物またはその構成要素を含む任意の医薬組成物に関する。本発明の単離されたS.アウレウス(S.aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドおよび単離された突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/またはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)ならびにそれらを含む組成物もまた、本明細書において言及される治療応用のための医薬の製造において有用である。
【0159】
本明細書において使用される場合、「担体」という用語は、任意の賦形剤、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤、油、脂質、脂質含有小胞、マイクロスフェア、リポソーム被包、または薬学的製剤における使用のための当該技術分野において周知の他の材料を指す。担体、賦形剤または希釈剤の特徴は、特定の応用のための投与の経路に依存することが理解されるであろう。本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、本発明による組成物の有効性にも本発明による組成物の生物学的活性にも干渉しない、非毒性の材料を指す。特定の実施形態によれば、本開示を考慮して、ポリペプチド医薬組成物における使用のために好適な任意の薬学的に許容される担体を本発明において使用することができる。
【0160】
薬学的に許容される担体を用いる薬学的に活性の成分の製剤化は、当該技術分野において公知であり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (e.g. 21st edition (2005)、および任意のその後の版)にある。追加の成分の非限定的な例としては、緩衝剤、希釈剤、溶媒、張度調節剤、防腐剤、安定化剤、およびキレート剤が挙げられる。1つまたは複数の薬学的に許容される担体を本発明の医薬組成物の製剤化において使用することができる。
【0161】
本発明の1つの実施形態では、医薬組成物は液体製剤である。液体製剤の好ましい例は、水性製剤、すなわち、水を含む製剤である。液体製剤は、溶液、懸濁液、エマルション、マイクロエマルション、およびゲルなどを含むことができる。水性製剤は、典型的には、少なくとも50%w/wの水、または少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは少なくとも95%w/wの水を含む。
【0162】
1つの実施形態では、医薬組成物は、例えば、注射デバイス(例えば、シリンジまたは注入ポンプ)を介して注射することができる、注射剤として製剤化することができる。注射は、例えば、皮下に、筋肉内に、腹腔内に、硝子体内に、または静脈内に送達することができる。
【0163】
別の実施形態では、医薬組成物は、固体製剤、例えば、そのまま、または使用の前に医師もしくは患者が溶媒、および/もしくは希釈剤を加えて、使用することができるフリーズドライまたはスプレー乾燥組成物である。固体投薬形態としては、錠剤、例えば圧縮錠剤、および/またはコーティング錠剤、ならびにカプセル(例えば、硬質または軟質ゼラチンカプセル)を挙げることができる。医薬組成物はまた、例えば、サシェ剤、糖衣錠、粉末、顆粒、ロゼンジ、または復元用の粉末の形態であることができる。
【0164】
投薬形態は、即時放出性であってもよく、その場合、それらは水溶性もしくは分散性の担体を含むことができ、またはそれらは遅延放出性、持続放出性、もしくは修飾放出性であることができ、その場合、それらは、胃腸管中または皮膚下で投薬形態の溶解の速度を調節する水不溶性ポリマーを含むことができる。
【0165】
他の実施形態では、医薬組成物は、鼻腔内に、頬内に、舌下に、または皮内に送達することができる。
【0166】
水性製剤中のpHはpH3~pH10であることができる。本発明の1つの実施形態では、製剤のpHは約7.0~約9.5である。本発明の別の実施形態では、製剤のpHは約3.0~約7.0である。
【0167】
アジュバント
【0168】
本明細書において使用される場合、「アジュバント」という用語は、本発明の組成物と組み合わせてまたはその部分として投与された場合に、LukAポリペプチド、LukBポリペプチド、LukAB二量体ポリペプチド、および/またはSpAバリアントポリペプチドに対する免疫応答を増大、増強および/またはブーストするが、アジュバント化合物が単独で投与された場合に、LukAポリペプチド、LukBポリペプチド、LukAB二量体ポリペプチド、および/またはSpAバリアントポリペプチドに対する免疫応答を生成しない、化合物を指す。アジュバントは、例えば、リンパ球動員、Bおよび/またはT細胞の刺激、ならびに抗原提示細胞の刺激を含めて、いくつかの機序により免疫応答を増強することができる。
【0169】
本発明の組合せワクチン(例えば、LukAポリペプチド、LukBポリペプチド、LukAB二量体ポリペプチド、SpAバリアントポリペプチド、および/またはそれをコードするポリヌクレオチド、DNAもしくはRNA、もしくはウイルスベクターを含む免疫原性組成物)は、アジュバントを含む、またはアジュバントと組み合わせて投与される。本発明の免疫原性組成物と組み合わせて投与するためのアジュバントは、免疫原性組成物の前に、随伴的にまたは後に投与することができる。
【0170】
アジュバントの特有の例としては、アルミニウム塩(ミョウバン)(例えば水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、および酸化アルミニウム;ミョウバンを含むナノ粒子またはナノアルム製剤を含む)、リン酸カルシウム(例えばMasson JD et al, 2017, Expert Rev Vaccines 16: 289-299)、モノホスホリルリピドA(MPL)または3-デ-Oアシル化モノホスホリルリピドA(3D-MPL)(例えば、英国特許第2220211号明細書、欧州特許第EP0971739号明細書、欧州特許第1194166号明細書、米国特許第6491919号明細書を参照)、AS01、AS02、AS03およびAS04(すべてGlaxoSmithKline;例えば、AS04について欧州特許第1126876号明細書、米国特許第7357936、AS02について欧州特許第0671948号明細書、欧州特許第0761231号明細書、米国特許第5750110号明細書を参照)、イミダゾピリジン化合物(国際公開第2007/109812号パンフレットを参照)、イミダゾキノキサリン化合物(国際公開第2007/109813号パンフレットを参照)、デルタ-イヌリン(例えばPetrovsky N and PD Cooper, 2015, Vaccine 33: 5920-5926)、STING活性化合成環状ジヌクレオチド(例えば米国特許出願公開第20150056224号明細書)、レシチンおよびカルボマーホモポリマー(例えば米国特許第6676958号明細書)、およびサポニンの組合せ、例えばQuil AおよびQS21(例えばZhu D and W Tuo, 2016, Nat Prod Chem Res 3: e113 (doi:10.4172/2329-6836.1000e113)を参照)、任意選択でQS7と組み合わせたもの(Kensil et al., in Vaccine Design: The Subunit and Adjuvant Approach (eds. Powell & Newman, Plenum Press, NY, 1995)を参照;米国特許第5,057,540号明細書)が挙げられるがこれらに限定されない。一部の実施形態では、アジュバントはフロイントアジュバント(完全または不完全)である。ある特定の実施形態では、アジュバントは、Quil-A、例えばBrenntag(現在はCroda)またはInvivogenから商業的に得られ得るものを含む。QuilAは、キラヤ・サポナリア・モリナ(Quillaja saponaria Molina)の木からのサポニンの水で抽出可能な画分を含有する。これらのサポニンは、共通のトリテルペノイド骨格構造を有する、トリテルペノイドサポニンの群に属する。サポニンは、T依存性の他にT非依存性の抗原に対する強いアジュバント応答の他に、強い細胞傷害性CD8+リンパ球応答を誘導し、かつ粘膜抗原に対する応答を増強することが公知である。それらはまた、コレステロールおよびリン脂質と組み合わせて、免疫賦活性複合体(ISCOM)を形成することができ、QuilAアジュバントは、異なる起源からの広範な抗原に対する抗体媒介性および細胞媒介性の両方の免疫応答を活性化させることができる。ある特定の実施形態では、アジュバントは、AS01、例えばAS01Bである。AS01は、MPL(3-O-デスアシル-4’-モノホスホリルリピドA)、QS21(キラヤ・サポナリア・モリナ(Quillaja saponaria Molina)、画分21)、およびリポソームを含有するアジュバントシステムである。ある特定の実施形態では、AS01は、商業的に入手可能(GSK)であり、または参照により本明細書に組み込まれる国際公開第96/33739号パンフレットに記載されるように製造することができる。ある特定のアジュバントはエマルションを含み、エマルションは、2つの非混和性の流体、例えば油および水の混合物であり、該流体のうちの1つは、小さい液滴として他方の内側に懸濁され、表面活性剤により安定化される。水中油エマルションは、油の小さい小滴を取り囲む、連続相を形成する水を有し、油中水エマルションは、連続相を形成する油を有する。ある特定の水中油エマルションはスクアレン(代謝可能な油)を含む。ある特定のアジュバントはブロックコポリマーを含み、ブロックコポリマーは、2つのモノマーがクラスター化して一緒になって、繰返し単位のブロックを形成する場合に形成されるコポリマーである。ブロックコポリマー、スクアレンおよび微粒子安定化剤を含む油中水エマルションの例はTiterMax(登録商標)であり、これはSigma-Aldrichから商業的に得ることができる。任意選択で、エマルションは、さらなる免疫刺激性成分、例えばTLR4アゴニストと組み合わせることができ、またはそれを含むことができる。ある特定のアジュバントは水中油エマルション(例えばスクアレンまたはピーナッツ油)であり、これはMF59(例えば欧州特許第0399843号明細書、米国特許第6299884号明細書、米国特許第6451325号明細書を参照)およびAS03においても使用され、任意選択で免疫刺激剤、例えばモノホスホリルリピドAおよび/またはQS21、例えばAS02におけるようなものと組み合わせられる(Stoute et al., 1997, N. Engl. J. Med. 336, 86-91を参照)。アジュバントのさらなる例は、免疫刺激剤、例えばMPLおよびQS21、例えばAS01EおよびAS01Bにおけるようなものを含有するリポソームである(例えば米国特許出願公開第2011/0206758号明細書)。アジュバントの他の例は、CpG(Bioworld Today, Nov. 15, 1998)ならびにイミダゾキノリン(例えばイミキモドおよびR848)である。例えば、Reed G, et al., 2013, Nature Med, 19: 1597-1608を参照。本発明によるある特定の好ましい実施形態では、アジュバントはTh1アジュバントである。
【0171】
ある特定の好ましい実施形態では、アジュバントは、サポニン、好ましくはキラヤ・サポナリア(Quillaja saponaria)から得られるサポニンの水で抽出可能な画分を含む。ある特定の実施形態では、アジュバントはQS-21を含む。
【0172】
ある特定の好ましい実施形態では、アジュバントはtoll様受容体4(TLR4)アゴニストを含有する。TLR4アゴニストは当該技術分野において周知であり、例えばIreton GC and SG Reed, 2013, Expert Rev Vaccines 12: 793-807を参照。ある特定の好ましい実施形態では、アジュバントは、リピドA、またはそのアナログもしくは誘導体を含むTLR4アゴニストである。
【0173】
アジュバント、好ましくはTLR4アゴニストを含むアジュバントは、様々なやり方で、例えば、アジュバント中の免疫調節分子のためおよび/または免疫原のための様々な送達システムを表す、エマルション、例えば油中水(w/o)エマルションまたは水中油(o/w)エマルション(例はMF59、AS03である)、安定(ナノ)エマルション(SE)、脂質懸濁液、リポソーム、(ポリマー)ナノ粒子、ビロソーム、ミョウバン吸着、および水性製剤(AF)などにおいて、製剤化されてもよい(例えばReed et al, 2013、上掲; Alving CR et al, 2012, Curr Opin Immunol 24: 310-315を参照)。
【0174】
免疫賦活性TLR4アゴニストは、任意選択で、他の免疫調節成分、例えばサポニン(例えばQuilA、QS7、QS21、Matrix M、Iscoms、Iscomatrixなど)、アルミニウム塩、および他のTLR用の活性化剤(例えばイミダゾキノリン、フラジェリン、dsRNAアナログ、TLR9アゴニスト、例えばCpGなど)などと組み合わされてもよい(例えばReed et al, 2013、上掲を参照)。
【0175】
本明細書において使用される場合、「リピドA」という用語は、グルコサミンを含み、かつケトシド結合を通じてLPS分子の内部コア中のケト-デオキシオクツロソネートに連結され、グラム陰性細菌の外膜の外葉中にLPS分子をアンカリングする、LPS分子の疎水性脂質部分を指す。LPSの合成およびリピドA構造の概要について、例えば、Raetz, 1993, J. Bacteriology 175:5745-5753, Raetz CR and C Whitfield, 2002, Annu Rev Biochem 71: 635-700;米国特許第5,593,969号明細書および米国特許第5,191,072号明細書を参照。リピドAは、本明細書において使用される場合、天然に存在するリピドA、その混合物、アナログ、誘導体および前駆体を含む。該用語は、単糖、例えば、リピドXと称されるリピドAの前駆体;二糖リピドA;ヘプタ-アシルリピドA;ヘキサ-アシルリピドA;ペンタ-アシルリピドA;テトラ-アシルリピドA、例えば、リピドIVAと称されるリピドAのテトラ-アシル前駆体;脱リン酸化リピドA;モノホスホリルリピドA;ジホスホリルリピドA、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)およびロドバクター・スファエロイデス(Rhodobacter sphaeroides)からのリピドAを含む。いくつかの免疫活性化リピドA構造は6つのアシル鎖を含有する。グルコサミン糖に直接的に取り付けられた4つの一次アシル鎖は、通常10~16炭素の長さの3-ヒドロキシアシル鎖である。2つの追加のアシル鎖は、多くの場合に、一次アシル鎖の3-ヒドロキシ基に取り付けられる。例として、E.コリ(E. coli)リピドAは、典型的には、糖に取り付けられた4つのC14 3-ヒドロキシアシル鎖ならびに一次アシル鎖の3-ヒドロキシ基のそれぞれ2’位および3’位に取り付けられた1つのC12および1つのC14を有する。
【0176】
本明細書において使用される場合、「リピドAアナログまたは誘導体」という用語は、リピドAの構造および免疫学的活性に似ているが、必ずしも天然に存在しない分子を指す。リピドAアナログまたは誘導体は、例えば、短縮もしくは縮合されるように、および/またはそれらのグルコサミン残基が別のアミン糖残基、例えばガラクトサミン残基で置換されるように、還元末端におけるグルコサミン-1-ホスフェートの代わりに2-デオキシ-2-アミノグルコネートを含有するように、4’位においてリン酸部分の代わりにガラクツロン酸部分を有するように、修飾することができる。リピドAアナログまたは誘導体は、細菌から単離されたリピドAから、例えば、化学的誘導体化により、調製することができ、または、例えば、好ましいリピドAの構造を最初に決定し、そのアナログもしくは誘導体を合成することにより、化学的に合成することができる。リピドAアナログまたは誘導体はまた、TLR4アゴニストアジュバントとして有用である(例えばGregg KA et al, 2017, MBio 8, eDD492-17, doi: 10.1128/mBio.00492-17を参照)。
【0177】
例えば、リピドAアナログまたは誘導体は、例えば、アルカリ処理による、野生型リピドA分子の脱アシル化により得ることができる。リピドAアナログまたは誘導体は、例えば、細菌から単離されたリピドAから調製することができる。そのような分子はまた、化学的に合成され得る。リピドAアナログまたは誘導体の別の例は、リピドA生合成および/またはリピドA修飾に関与する酵素中に突然変異、または該酵素の欠失もしくは挿入を宿す細菌細胞から単離されたリピドA分子である。
【0178】
MPLおよび3D-MPLは、リピドA毒性を減弱するように修飾されたリピドAアナログまたは誘導体である。リピドA、MPLおよび3D-MPLは、長い脂肪酸鎖が取り付けられる糖骨格を有し、骨格は、グリコシド連結中の2つの6炭素糖、および4位におけるホスホリル部分を含有する。典型的には、5~8個の長鎖脂肪酸(通常12~14個の炭素原子)が糖骨格に取り付けられる。天然供給源の誘導体化に起因して、MPLまたは3D-MPLは、種々の脂肪酸長と共に、多数の脂肪酸置換パターンの複合物または混合物、例えばヘプタ-アシル、ヘキサ-アシル、ペンタ-アシルなどとして存在することができる。これは、本明細書に記載の他のリピドAアナログまたは誘導体の一部についても当てはまるが、合成リピドAバリアントもまた定義されて、均質であることができる。MPLおよびその製造は、例えば、米国特許第4,436,727号明細書に記載されている。3D-MPLは、例えば、米国特許第4,912,094号明細書に記載されており、3位の還元末端グルコサミンにエステル連結された3-ヒドロキシミリスチン酸アシル残基の選択的な除去によりMPLとは異なる(例えば、米国特許第4,912,094号明細書の1欄におけるMPLの構造と6欄における3D-MPLの構造を比較されたい)。当該技術分野において、多くの場合に、時にMPLと称されるが3D-MPLが使用される(例えば、Ireton GC and SG Reed, 2013、上掲の表1における第1の構造は、MPL(登録商標)としてこの構造を参照するが、実際には3D-MPLの構造を描写する)。
【0179】
本発明によるリピドA(アナログ、誘導体)の例としては、MPL、3D-MPL、RC529(例えば欧州特許第1385541号明細書)、PET-リピドA、GLA(グリコピラノシル脂質アジュバント、合成二糖糖脂質;例えば米国特許出願公開第20100310602号明細書、米国特許第8722064号明細書)、SLA(例えば、ヒトワクチン用にTLR4リガンドを最適化するための構造-機能アプローチを記載する、Carter D et al, 2016, Clin. Transl. Immunology. 5: e108 (doi:10.1038/cti.2016.63))、PHAD(リン酸化ヘキサアシル二糖;その構造はGLAと同じである)、3D-PHAD、3D-(6-アシル)-PHAD(3D(6A)-PHAD)(PHAD、3D-PHAD、および3D(6A)PHADは合成リピドAバリアントである;例えば、これらの分子の構造も提供する、avantilipids.com/divisions/adjuvantsを参照)、E6020(CAS番号287180-63-6)、ONO4007、ならびにOM-174などが挙げられる。3D-MPL、RC529、PET-リピドA、GLA/PHAD、E6020、ONO4007、およびOM-174の例示的な化学構造について、例えば、Ireton GC and SG Reed, 2013、上掲の表1を参照。SLAの構造について、例えば、Reed SG et al, 2016, Curr. Opin. Immunol. 41:85-90のFig 1を参照。ある特定の好ましい実施形態では、TLR4アゴニストアジュバントは、3D-MPL、GLA、またはSLAから選択されるリピドAアナログまたは誘導体を含む。ある特定の実施形態では、リピドAアナログまたは誘導体は、リポソーム中に製剤化される。
【0180】
リピドAアナログまたは誘導体を含む例示的なアジュバントとしては、GLA-LSQ(合成MPL[GLA]、QS21、リポソームとして製剤化される脂質)、SLA-LSQ(合成MPL[SLA]、QS21、脂質、リポソームとして製剤化)、GLA-SE(合成MPL[GLA]、スクアレン油/水エマルション)、SLA-SE(合成MPL[SLA]、スクアレン油/水エマルション)、SLA-Nanoalum(合成MPL[SLA]、アルミニウム塩)、GLA-Nanoalum(合成MPL[GLA]、アルミニウム塩)、SLA-AF(合成MPL[SLA]、水性懸濁液)、GLA-AF(合成MPL[GLA]、水性懸濁液,)、SLA-ミョウバン(合成MPL[SLA]、アルミニウム塩)、GLA-ミョウバン(合成MPL[GLA]、アルミニウム塩)、ならびにAS01(MPL、QS21、リポソーム)、AS02(MPL、QS21、油/水エマルション)、AS25(MPL、油/水エマルション)、AS04(MPL、アルミニウム塩)、およびAS15(MPL、QS21、CpG、リポソーム)を含めて、いくつかのGSK ASxxシリーズのアジュバントが挙げられる。例えば、国際公開第2008/153541号パンフレット;国際公開第2010/141861号パンフレット;国際公開第2013/119856号パンフレット;国際公開第2019/051149号パンフレット;国際公開第2013/119856号パンフレット;国際公開第2006/116423号パンフレット;米国特許第4,987,237号明細書;米国特許第4,436,727号明細書;米国特許第4,877,611号明細書;米国特許第4,866,034号明細書;米国特許第4,912,094号明細書;米国特許第4,987,237号明細書;米国特許第5,191,072号明細書;米国特許第5,593,969号明細書;米国特許第6,759,241号明細書;米国特許第9,017,698号明細書;米国特許第9,149,521号明細書;米国特許第9,149,522号明細書;米国特許第9,415,097号明細書;米国特許第9,415,101号明細書;米国特許第9,504,743号明細書;Reed G, et al., 2013、上掲、Johnson et al., 1999, J Med Chem, 42:4640-4649、およびUlrich and Myers, 1995, Vaccine Design: The Subunit and Adjuvant Approach; Powell and Newman, Eds.; Plenum: New York, 495-524を参照。
【0181】
非糖脂質分子もまたTLR4アゴニストアジュバントとして使用されてもよく、これは例えば合成分子、例えばNeoseptin-3、または天然分子、例えばLeIFである。例えばReed SG et al, 2016、上掲を参照。
【0182】
別の一般的な態様では、本発明は、本発明のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/またはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)を含む免疫原性組成物を製造する方法であって、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/またはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)を薬学的に許容される担体と合わせて医薬組成物を得ることを含む方法に関する。
【0183】
免疫原性組成物の評価
【0184】
スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/またはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)を含む免疫原性組成物が本明細書において提供される。
【0185】
本明細書に開示される免疫原性組成物の免疫原性を評価するために様々なin vitro試験が使用される。例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)細胞、問題とする抗原に対する特異的な抗体を含有する熱不活性化された血清、および外因性補体供給源の混合物を一緒にインキュベートすることによりin vitroオプソニンアッセイが実行される。オプソニン化貪食作用は、新たに単離された多形核細胞(PMN)または分化したエフェクター細胞、例えばHL60および抗体/補体/スタフィロコッカス(staphylococcal)混合物のインキュベーションの間に進行する。抗体および補体でコートされた細菌細胞はオプソニン化貪食作用で殺傷される。オプソニン化貪食作用から回収された生存している細菌のコロニー形成単位(CFU)が、アッセイ混合物をプレーティングすることにより決定される。アッセイ対照に対する比較により決定される、50%の細菌殺傷を与える最高希釈の逆数として力価が報告される。
【0186】
細胞全体ELISAアッセイもまた、抗原のin vitro免疫原性および表面露出を評価するために使用され、該アッセイでは、関心対象の細菌株(S.アウレウス(S.aureus))をプレート、例えば96ウェルプレートにコーティングし、免疫化動物からの試験血清を細菌細胞と反応させる。試験抗原に対して特異的な任意の抗体が、抗原の表面露出エピトープと反応性である場合、それは当業者に公知の標準的な方法により検出することができる。
【0187】
所望のin vitro活性を実証した任意の抗原は次にin vivo動物チャレンジモデルにおいて試験される。ある特定の実施形態では、免疫原性組成物は、当業者に公知の免疫化の方法および経路(例えば、鼻腔内、非経口、経口、直腸、膣、経皮、腹腔内、静脈内、皮下など)により動物(例えば、マウス)の免疫化において使用される。スタフィロコッカス(staphylococcal)抗原を含む免疫原性組成物での免疫化後に、動物は、スタフィロコッカス(Staphylococcus)種でチャレンジされ、スタフィロコッカス(staphylococcal)感染症に対する抵抗性をアッセイされる。
【0188】
スタフィロコッカス(staphylococcal)感染症の動物モデル
【0189】
いくつかのスタフィロコッカス(staphylococcal)チャレンジモデルが表1に列記される。
【0190】
【0191】
マウス敗血症モデル(受動的または能動的)
【0192】
受動免疫化モデル:腹腔内(i.p.)に免疫IgGまたはモノクローナル抗体を用いてマウスを受動的に免疫化する。その後、マウスを24時間後に致死用量のS.アウレウス(S.aureus)でチャレンジする。細菌チャレンジを静脈内(i.v.)またはi.p.に投与して、任意の生存が細菌との抗体の特異的なin vivo相互作用に帰せられ得ることを確実にする。非免疫化対照マウスの約20%の致死性敗血症を達成するために要求される用量となるように細菌チャレンジ用量を決定する。生存研究の統計的評価をカプラン-マイヤー分析により実行することができる。
【0193】
能動免疫化モデル:このモデルにおいて、0、3、および6週時(または他の類似した適切な間隔のワクチン接種スケジュール)に腹腔内(i.p.)または皮下(s.c.)に標的抗原を用いてマウス(例えば、Swiss Websterマウス)を能動的に免疫化した後に、8週目に静脈内経路によりS.アウレウス(S.aureus)でチャレンジする。10~14日の期間にかけて対照群における約20%の生存を達成するように細菌チャレンジ用量を軟正する。生存研究の統計的評価をカプラン-マイヤー分析により実行することができる。
【0194】
感染性心内膜炎モデル(受動的または能動的)
【0195】
S.アウレウス(S.aureus)により引き起こされる感染性心内膜炎(IE)の受動免疫化モデルは、ClfAは保護免疫を誘導できることを示すために以前に使用されている(Vernachio et al., Antimicro. Agents & Chemo 50:511-8 (2006))。このモデルにおいて、ウサギまたはラットを使用して、中心静脈カテーテル、菌血症、および遠位臓器への血行性播種を含む臨床的な感染症がシミュレートされる。無菌大動脈弁疣腫を有するカテーテル処理したウサギまたはラットに、標的抗原に特異的なモノクローナルポリクローナル抗体の単回または複数回静脈注射を投与する。その後に、i.v.でS.アウレウス(S.aureus)またはS.エピデルミディス(S. epidermidis)株を用いて動物をチャレンジする。チャレンジ後に、心臓、心臓疣腫、および追加の組織(例えば、腎臓)、および血液を採取し、培養する。心臓組織、腎臓、および血液におけるスタフィロコッカス(staphylococcal)感染の頻度を次に測定する。
【0196】
感染性心内膜炎モデルはまた、ウサギおよびラットの両方における能動免疫化研究のために適合されている。筋肉内または皮下に標的抗原を用いてウサギまたはラットを免疫化し、2週後に静脈内経路を介してS.アウレウス(S.aureus)でチャレンジする。
【0197】
腎盂腎炎モデル
【0198】
腎盂腎炎モデルにおいて、0、3、および6週目(または他の適切な間隔の免疫化スケジュール)に標的抗原でマウスを免疫化する。その後に、i.p.またはi.v.でS.アウレウス(S.aureus)PFESA0266を用いて動物をチャレンジする。48時間後に、腎臓を採取し、細菌CFUをカウントする。
【0199】
腎膿瘍モデル
【0200】
マウスを免疫化(能動的、用量間に2週で3回;受動的、感染の24時間前、i.p.)し、次にS.アウレウス(S.aureus)を全身的に感染させる(i.v.またはr.o.(後眼窩))。感染の4~7日後にマウスを安楽死させ、半定性的スコアリングシステムを使用して腎臓をスコア付けして、腎損傷(変色)のおおよそのパーセンテージに加えて病変の数を評価する。腎臓を次に細菌負荷について評価する。
【0201】
外科的創傷感染症モデル
【0202】
マウスを免疫化(能動的、用量間に2週で3回;受動的、感染の24時間前、i.p.)する。ワクチンの最後の用量の2週後に動物を麻酔し、大腿を剃毛し、消毒する。皮膚および筋肉層(大腿骨の深さまで)に切開を作る。5ulのS.アウレウス(S.aureus)をピペットで創傷に移し、次に筋肉を4-0シルク縫合糸で閉じ、皮膚をオートクリップで閉じる。3日後に、マウスを安楽死させ、手術部位の筋肉を除去し、細菌負荷について計数する。
【0203】
ミニブタ深部外科的創傷感染症モデル
【0204】
ブタは、ヒト臨床細菌性疾患におけるワクチンについての優れたトランスレーショナルモデルであると考えられる(Gerdts et al., ILAR Journal 56 (1): 53-62 (2015))。ブタは、嚢胞性線維症(Meyerholz, Theriogenology 86 (1):427-432 (2016))、性感染疾患(Kaser et al., Infection, Genetics and Evolution (2017))、百日咳(Elahi et al., Trends in Microbiology 15 (10) (2007))、骨髄炎(Jensen et al., In Vivo 29: 555-560 (2015), Elvang et al., In Vivo 24: 257-264 (2010))、および皮膚感染症(Klein et al., Biofouling 34 (2): 226-236 (2018))を研究するために使用されている。ブタ免疫系は、マウスの<10%と比較して>80%ヒトに類似している(Dawson et al., BMC Genomics 14:332 (2013))。高いパーセンテージの循環性好中球、類似したtoll様受容体および樹状細胞は、ブタおよびヒトの両方が共通で有する免疫系属性の一部である(Meurens et al., Trends in Microbiology 20 (1): 50-57 (2012))。追加的に、ブタは、ヒト臓器系、すなわち、皮膚および皮膚構造と類似性を共有する(Summerfield et al., Mol Immunol 66: 1-21 (2015))。これらの類似性によりブタは、スタフィロコッカス(staphylococcal)疾患の研究およびヒトへのトランスレーションのための優れたモデルとなる。
【0205】
使用方法
【0206】
別の一般的な態様では、本発明は、それを必要とする対象において免疫応答を誘導する方法に関する。方法は、それを必要とする対象に本発明の免疫原性組成物を投与することを含む。
【0207】
別の一般的な態様では、本発明は、それを必要とする対象においてスタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症を治療または予防する方法に関する。方法は、それを必要とする対象に本発明の免疫原性組成物を投与することを含む。
【0208】
本発明の実施形態によれば、免疫原性組成物は、治療有効量のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/またはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)を含む。本明細書において使用される場合、「治療有効量」という用語は、対象において所望の生物学的または医学的応答を誘発する、活性成分(ingredient)または成分(component)の量を指す。治療有効量は、記載される目的に関して、経験的におよびルーチンの方式で決定することができる。
【0209】
本明細書において使用される場合、「治療または予防免疫を必要とする対象」は、指定される時間的期間にかけてスタフィロコッカス(Staphylococcus)関連症状を治療すること、すなわち、予防し、治癒し、減速させ、またはその重症度を低減させることが望まれる対象を指す。本明細書において使用される場合、「免疫応答を必要とする対象」は、任意のLukABおよび/またはSpA発現スタフィロコッカス(Staphylococcus)株に対する免疫応答が所望される対象を指す。
【0210】
スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/またはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)に関して本明細書において使用される場合、治療有効量は、それを必要とする対象において免疫応答をモジュレートする、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドならびに突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド(例えば、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukAポリペプチド、スタフィロコッカス(staphylococcal)LukBポリペプチド、および/またはスタフィロコッカス(staphylococcal)LukAB二量体ポリペプチド)の量を意味する。
【0211】
ある特定の実施形態では、免疫原性組成物は、アジュバントをさらに含む。
【0212】
特定の実施形態によれば、治療有効量は、以下の効果のうちの1、2、3、4、またはより多くを達成するために十分な、療法の量を指す:(i)治療されるべき疾患、障害もしくは状態もしくはそれと関連付けられる症状の重症度を低減もしくは軽快させること;(ii)治療されるべき疾患、障害もしくは状態、もしくはそれと関連付けられる症状の持続期間を低減させること;(iii)治療されるべき疾患、障害もしくは状態、もしくはそれと関連付けられる症状の進行を予防すること;(iv)治療されるべき疾患、障害もしくは状態、もしくはそれと関連付けられる症状の退縮を引き起こすこと;(v)治療されるべき疾患、障害もしくは状態、もしくはそれと関連付けられる症状の発生もしくは開始を予防すること;(vi)治療されるべき疾患、障害もしくは状態、もしくはそれと関連付けられる症状の再発を予防すること;(vii)治療されるべき疾患、障害もしくは状態、もしくはそれと関連付けられる症状を有する対象の入院を低減させること;(viii)治療されるべき疾患、障害もしくは状態、もしくはそれと関連付けられる症状を有する対象の入院の長さを低減させること;(ix)治療されるべき疾患、障害もしくは状態、もしくはそれと関連付けられる症状を有する対象の生存を増加させること;(xi)対象において治療されるべき疾患、障害もしくは状態、もしくはそれと関連付けられる症状を阻害しもしくは低減させること;ならびに/または(xii)別の療法の予防もしくは治療効果を増強しもしくは向上させること。
【0213】
治療有効量または投薬量は、様々な要因、例えば治療されるべき疾患、障害または状態、投与の手段、標的部位、対象の生理学的状態(例えば、年齢、体重、健康状態を含む)、対象がヒトであるのか、それとも動物であるのか、投与される他の医薬品、および処置が予防的であるのか、それとも治療的であるのかに従って変動することができる。治療投薬量は、安全性および有効性を最適化するために最適に滴定される。
【0214】
特定の実施形態によれば、本明細書に記載の組成物は、対象への投与の意図される経路のために好適となるように製剤化される。例えば、本明細書に記載の組成物は、静脈内、皮下、または筋肉内投与のために好適となるように製剤化することができる。
【0215】
本明細書において使用される場合、「治療する」、「治療すること」、および「治療」という用語はすべて、スタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症に関する少なくとも1つの測定可能な身体パラメーターの軽快または好転を指すことが意図され、これは対象において必ずしも認識可能でないが、対象において認識可能なものであることができる。「治療する」、「治療すること」、および「治療」という用語はまた、疾患、障害、または状態の退縮を引き起こすこと、その進行を予防すること、またはその進行を少なくとも減速させることを指すことができる。特定の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、および「治療」は、疾患、障害、または状態と関連付けられる1つまたは複数の症状、例えば発熱、悪寒、水疱、せつ、発疹、皮膚潮紅、および膿瘍の軽減、発生もしくは開始の予防、またはその持続期間における低減を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、および「治療」は、疾患、障害、または状態の再発の予防を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、および「治療」は、疾患、障害、または状態を有する対象の生存における増加を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、および「治療」は、対象における疾患、障害、または状態の排除を指す。
【0216】
特定の実施形態によれば、それを必要とする対象におけるスタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症の治療および/または予防において使用される組成物が提供される。スタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症の治療および/または予防のために、組成物は、少なくとも1つの抗生物質が挙げられるがこれに限定されない別の治療と組み合わせて使用することができる。少なくとも1つの抗生物質は、例えば、ストレプトマイシン、シプロフロキサシン、ドキシサイクリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、アンピシリン、テトラサイクリン、およびこれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0217】
本明細書において使用される場合、対象への2つまたはそれより多くの療法の投与の文脈における「組合せで」(組み合わせて)という用語は、1つより多くの療法の使用を指す。「組合せで」(組み合わせて)という用語の使用は、療法が対象に投与される順序を制限しない。例えば、第1の療法(例えば、本明細書に記載の組成物)は、対象への第2の療法の投与の前(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週、2週、3週、4週、5週、6週、8週、もしくは12週前)、それと随伴的、またはその後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週、2週、3週、4週、5週、6週、8週、もしくは12週後)に投与することができる。
【0218】
実施形態
本発明は、以下の非限定的な実施形態もまた提供する。
【0219】
実施形態1:
(a)スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドであって、少なくとも1つのSpA A、B、C、D、またはEドメインを含むSpAバリアントポリペプチド;ならびに
(b)突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドであって、
(i)突然変異体LukAポリペプチド、
(ii)突然変異体LukBポリペプチド、および/または
(iii)突然変異体LukAB二量体ポリペプチド
を含み、(i)、(ii)、および/または(iii)が、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、またはこれらの組合せを有し、
その結果、真核細胞の表面にポアを形成する前記突然変異体LukA、LukB、および/またはLukABポリペプチドの能力が妨害され、それにより、対応する野生型LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたはLukAB二量体ポリペプチドと比べて前記突然変異体LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたは前記突然変異体LukAB二量体ポリペプチドの毒性が低減されている、
突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド
を含む免疫原性組成物。
【0220】
実施形態2:前記SpAバリアントポリペプチドが、Fc結合を妨害する少なくとも1つのアミノ酸置換およびVH3結合を妨害する少なくとも第2のアミノ酸置換を有する、実施形態1の免疫原性組成物。
【0221】
実施形態3:前記SpAバリアントポリペプチドが、SpA Dドメインを含み、かつ配列番号58のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、実施形態1または2の免疫原性組成物。
【0222】
実施形態4:前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号58のアミノ酸9位または10位において1つまたは複数のアミノ酸置換を有する、実施形態3の免疫原性組成物。
【0223】
実施形態5:前記SpAバリアントポリペプチドが、SpA E、A、B、またはCドメインをさらに含む、実施形態3または4の免疫原性組成物。
【0224】
実施形態6:前記SpAバリアントポリペプチドが、SpA E、A、B、およびCドメインを含み、かつ配列番号54のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、実施形態5の免疫原性組成物。
【0225】
実施形態7:各SpA E、A、B、およびCドメインが、配列番号58のアミノ酸9位および10位に対応する位置において1つまたは複数のアミノ酸置換を有する、実施形態5または6の免疫原性組成物。
【0226】
実施形態8:前記アミノ酸置換が、グルタミン残基についてのリシン残基である、実施形態4~7のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0227】
実施形態9:各SpA D、E、A、B、およびCドメインが、配列番号58のアミノ酸36位および37位に対応する位置において1つまたは複数のアミノ酸置換を有する、実施形態5~8のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0228】
実施形態10:前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号72、配列番号77、配列番号82、または配列番号88から選択されるアミノ酸配列を含む、実施形態1の免疫原性組成物。
【0229】
実施形態11:前記SpAバリアントポリペプチドが、少なくとも1つのSpA A、B、C、D、またはEドメインを含み、かつ前記少なくとも1つのドメインが、(i)前記SpA Dドメイン(配列番号58)中の9位および10位に対応するグルタミン残基についてのリシン置換ならびに(ii)前記SpA Dドメイン(配列番号58)中の33位に対応するグルタミン酸置換を有する、実施形態1~4のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0230】
実施形態12:前記SpAバリアントポリペプチドが、陰性対照と比べて、検出可能に血液中のIgGおよびIgEを架橋することも好塩基球を活性化させることもない、実施形態11の免疫原性組成物。
【0231】
実施形態13:前記SpAバリアントポリペプチドが、前記SpA Dドメイン(配列番号58)中の9位および10位に対応する各SpA A、B、C、D、およびEドメイン中のグルタミン残基についてのリシン置換ならびに前記SpA Dドメイン(配列番号58)の36位および37位に対応する各SpA A、B、C、D、およびEドメイン中のアスパラギン酸残基についてのアラニン置換を含むSpAバリアントポリペプチド(SpAKKAA)と比較して、ヒトIgGからのVH3に対する低減されたKA結合親和性を有する、実施形態11または12の免疫原性組成物。
【0232】
実施形態14:前記SpAバリアントポリペプチドが、SpAKKAAと比較して2分の1以下に低減された、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する、実施形態1~13のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0233】
実施形態15:前記SpAバリアントポリペプチドが、1×105M-1よりも低い、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する、実施形態1~14のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0234】
実施形態16:前記SpAバリアントポリペプチドが、前記SpA Dドメイン中のアミノ酸36位および37位に対応する前記SpA A、B、C、D、またはEドメインのいずれかにおける置換を有しない、実施形態1~15のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0235】
実施形態17:前記SpAバリアントポリペプチド中の置換が(i)および(ii)のみである、実施形態11~16のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0236】
実施形態18:
(a)スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドであって、
前記SpAバリアントポリペプチドが、少なくとも1つのSpA A、B、C、D、またはEドメインを含み、かつ前記ドメインが、(i)前記SpA Dドメイン(配列番号58)中の9位および10位に対応する前記少なくとも1つのSpA A、B、C、D、またはEドメイン中のグルタミン残基についてのリシン置換および(ii)前記SpA Dドメイン(配列番号58)中の33位に対応する前記少なくとも1つのSpA A、B、C、D、またはEドメイン中のスレオニン置換を有し、前記ポリペプチドが、陰性対照と比べて、検出可能に血液中のIgGおよびIgEを架橋することも好塩基球を活性化させることもない、
SpAバリアントポリペプチド;ならびに
(b)突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドであって、
(1)突然変異体LukAポリペプチド、
(2)突然変異体Luk Bポリペプチド、および/または
(3)突然変異体LukAB二量体ポリペプチド
を含み、(1)、(2)、および/または(3)が、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、またはこれらの組合せを有し、
その結果、真核細胞の表面にポアを形成する前記突然変異体LukA、LukB、および/またはLukABポリペプチドの能力が妨害され、それにより、対応する野生型LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたはLukAB二量体ポリペプチドと比べて前記突然変異体LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたは前記突然変異体LukAB二量体ポリペプチドの毒性が低減されている、
突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド
を含む免疫原性組成物。
【0237】
実施形態19:前記SpAバリアントポリペプチドが、前記SpA Dドメイン(配列番号58)中の9位および10位に対応する各SpA A~Eドメイン中のグルタミン残基についてのリシン置換ならびに前記SpA Dドメイン(配列番号58)の36位および37位に対応する各SpA~Eドメイン中のアスパラギン酸残基についてのアラニン置換を含むSpAバリアントポリペプチド(SpAKKAA)と比較して、ヒトIgGからのVH3に対する低減されたKA結合親和性を有する、実施形態18の免疫原性組成物。
【0238】
実施形態20:前記SpAバリアントポリペプチドが、SpAKKAAと比較して2分の1以下に低減された、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する、実施形態18または19の免疫原性組成物。
【0239】
実施形態21:前記SpAバリアントポリペプチドが、1×105M-1よりも低い、ヒトIgGからのVH3に対するKA結合親和性を有する、実施形態18~20のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0240】
実施形態22:前記SpAバリアントポリペプチドが、前記SpA Dドメイン中のアミノ酸36位および37位に対応する前記SpA A、B、C、D、またはEドメインのいずれかにおける置換を有しない、実施形態18~21のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0241】
実施形態23:前記SpAバリアントポリペプチド中の置換が(i)および(ii)のみである、実施形態18~22のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0242】
実施形態24:前記SpAバリアントポリペプチドが配列番号66または配列番号71を含む、実施形態1~5または18~22のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0243】
実施形態25:前記SpAバリアントポリペプチドが配列番号66を含む、実施形態1~5または18~22のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0244】
実施形態26:前記SpAバリアントポリペプチドが配列番号60を含む、実施形態1~5または18~22のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0245】
実施形態27:配列番号61を含む、実施形態18~23のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0246】
実施形態28:
(a)スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドであって、
前記SpAバリアントポリペプチドが、少なくとも1つのSpA A、B、C、D、およびEドメインを含み、かつ前記ドメインが、(i)ドメインA、B、C、D、およびEの各々における前記SpA Dドメイン(配列番号58)の9位および10位に対応するグルタミン残基についてのリシン置換、および(ii)ドメインA、B、C、D、およびEの各々における前記SpA Dドメイン(配列番号58)の29位および/または33位に対応する少なくとも1つの他のアミノ酸置換を有し、前記SpAバリアントが、1.0×10-4Mよりも高い、ヒトIgGからのVH3に対するKD結合親和性、および/または1.0×10-6Mよりも高い、ヒトIgEからのVH3に対するKD結合親和性を有する、
SpAバリアントポリペプチド;ならびに
(b)突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチドであって、
(1)突然変異体LukAポリペプチド、
(2)突然変異体Luk Bポリペプチド、および/または
(3)突然変異体LukAB二量体ポリペプチド
を含み、(1)、(2)、および/または(3)が、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、またはこれらの組合せを有し、
その結果、真核細胞の表面にポアを形成する前記突然変異体LukA、LukB、および/またはLukABポリペプチドの能力が妨害され、それにより、対応する野生型LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたはLukAB二量体ポリペプチドと比べて前記突然変異体LukAおよび/もしくはLukBポリペプチドまたは前記突然変異体LukAB二量体ポリペプチドの毒性が低減されている、
突然変異体スタフィロコッカス(staphylococcal)ロイコシジンサブユニットポリペプチド
を含む免疫原性組成物。
【0247】
実施形態29:前記SpAバリアントポリペプチドが、ドメインA、B、C、D、およびEの各々における前記SpA Dドメイン(配列番号58)の29位に対応するアミノ酸置換を含む、実施形態28の免疫原性組成物。
【0248】
実施形態30:前記SpAバリアントポリペプチドが、ドメインA、B、C、D、およびEの各々における前記SpA Dドメイン(配列番号58)の33位に対応するアミノ酸置換を含む、実施形態28の免疫原性組成物。
【0249】
実施形態31:前記SpAバリアントポリペプチドが、ドメインA、B、C、D、およびEの各々における前記SpA Dドメイン(配列番号58)の29位および33位に対応するアミノ酸置換を含む、実施形態29の免疫原性組成物。
【0250】
実施形態32:前記SpAバリアントポリペプチドが、ドメインA、B、C、D、およびEの各々における前記SpA Dドメイン(配列番号58)の36位および37位の1つまたは両方に対応するアミノ酸置換を含む、実施形態28~31のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0251】
実施形態33:前記SpAバリアントポリペプチドが、ドメインA、B、C、D、およびEの各々における前記SpA Dドメイン(配列番号58)の36位および37位の両方に対応するアミノ酸置換を含む、実施形態32の免疫原性組成物。
【0252】
実施形態34:前記SpA Dドメイン(配列番号58)の36位および37位に対応する前記アミノ酸置換が、アスパラギン酸残基についてのアラニン残基である、実施形態32または33の免疫原性組成物。
【0253】
実施形態35:前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号58のアミノ酸配列に対して少なくとも70%同一のバリアントA、B、C、D、およびEドメインを含む、実施形態28~34のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0254】
実施形態36:前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号58のアミノ酸配列に対して少なくとも80%同一のバリアントA、B、C、D、およびEドメインを含む、実施形態35の免疫原性組成物。
【0255】
実施形態37:前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号58のアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のバリアントA、B、C、D、およびEドメインを含む、実施形態36の免疫原性組成物。
【0256】
実施形態38:前記SpAバリアントポリペプチドが、9位、10位、29位、33位、36位、および/または37位に対応するものを除いて、配列番号58においていかなるアミノ酸置換も含まないバリアントA、B、C、D、およびEドメインを含む、実施形態37の免疫原性組成物。
【0257】
実施形態39:前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号58の9位、10位、および29位に対応するアミノ酸置換置のみからなるバリアントA、B、C、D、およびEドメインを含む、実施形態38の免疫原性組成物。
【0258】
実施形態40:前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号58の9位、10位、および33位に対応するアミノ酸置換のみからなるバリアントA、B、C、D、およびEドメインを含む、実施形態38の免疫原性組成物。
【0259】
実施形態41:前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号58の9位、10位、29位、および33位に対応するアミノ酸置換のみからなるバリアントA、B、C、D、およびEドメインを含む、実施形態38の免疫原性組成物。
【0260】
実施形態42:前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号58の9位、10位、29位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなるバリアントA、B、C、D、およびEドメインを含む、実施形態38の免疫原性組成物。
【0261】
実施形態43:前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号58の9位、10位、33位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなるバリアントA、B、C、D、およびEドメインを含む、実施形態38の免疫原性組成物。
【0262】
実施形態44:前記SpAバリアントポリペプチドが、配列番号58の9位、10位、29位、33位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなるバリアントA、B、C、D、およびEドメインを含む、実施形態38の免疫原性組成物。
【0263】
実施形態45:配列番号58の29位に対応するアミノ酸の前記置換が、アラニン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、グルタミン酸、アルギニン、リシン、セリン、スレオニン、またはグルタミンである、実施形態29~44のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0264】
実施形態46:配列番号58の29位に対応するアミノ酸の前記置換が、アラニン、フェニルアラニン、またはアルギニンである、実施形態45の免疫原性組成物。
【0265】
実施形態47:配列番号58の33位に対応するアミノ酸の前記置換が、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン酸、リシン、またはグルタミンである、実施形態30~44のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0266】
実施形態48:配列番号58の33位に対応するアミノ酸の前記置換が、フェニルアラニン、グルタミン酸、またはグルタミンである、実施形態29~44のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0267】
実施形態49:前記SpAバリアントポリペプチドが、1.0×10-2Mよりも高い、VH3に対するKD結合親和性を有する、実施形態28~48のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0268】
実施形態50:前記SpAバリアントポリペプチドが配列番号60または配列番号61のアミノ酸配列を含む、実施形態49の免疫原性組成物。
【0269】
実施形態51:前記SpAバリアントポリペプチドが配列番号72~88のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、実施形態1、18、または28の免疫原性組成物。
【0270】
実施形態52:前記突然変異体LukAポリペプチドが、配列番号1~28のいずれか1つに対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態1~51のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0271】
実施形態53:前記突然変異体LukAポリペプチドが、配列番号1~14のいずれか1つのアミノ酸342~351位に対応するアミノ酸残基および配列番号15~28のいずれか1つのアミノ酸315~324位におけるアミノ酸残基の欠失を含む、実施形態52の免疫原性組成物。
【0272】
実施形態54:前記突然変異体LukBポリペプチドが、配列番号29~53のいずれかに対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態1~53のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0273】
実施形態55:前記突然変異体LukAB二量体ポリペプチドが、配列番号1~28のいずれか1つに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む突然変異体LukAポリペプチド;および配列番号29~53のいずれかに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む突然変異体LukBポリペプチドを含む、実施形態1~54のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0274】
実施形態56:前記突然変異体LukAB二量体ポリペプチドが、配列番号16の315~324位に対応するアミノ酸残基の欠失を有するLukAポリペプチドに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む突然変異体LukAポリペプチド;および配列番号53のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む突然変異体LukBポリペプチドを含む、実施形態1~55のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0275】
実施形態57:前記突然変異体LukAB二量体ポリペプチドが、配列番号16の315~324位に対応するアミノ酸残基の欠失を有する突然変異体LukAポリペプチド;および配列番号53のアミノ酸配列を含む突然変異体LukBポリペプチドを含む、実施形態1~56のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0276】
実施形態58:前記突然変異体LukAB二量体ポリペプチドが、配列番号15に対応するD39Aアミノ酸置換を有する突然変異体LukAポリペプチドおよび配列番号42に対応するR23Eアミノ酸置換を有するLukBポリペプチドを含む、実施形態1~57のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0277】
実施形態59:アジュバントをさらに含む、実施形態1~58のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0278】
実施形態60:前記アジュバントがサポニンを含む、実施形態59の免疫原性組成物。
【0279】
実施形態61:前記サポニンがQS21である、実施形態60の免疫原性組成物。
【0280】
実施形態62:前記アジュバントがTLR4アゴニストを含む、実施形態61の免疫原性組成物。
【0281】
実施形態63:前記TLR4アゴニストが、リピドAまたはそのアナログもしくは誘導体である、実施形態62の免疫原性組成物。
【0282】
実施形態64:前記TLR4アゴニストが、MPL、3D-MPL、RC529、GLA、SLA、E6020、PET-リピドA、PHAD、3D-PHAD、3D-(6-アシル)-PHAD、ONO4007、またはOM-174を含む、実施形態63の免疫原性組成物。
【0283】
実施形態65:前記TLR4アゴニストがGLAを含む、実施形態62の免疫原性組成物。
【0284】
実施形態66:前記アジュバントが、MPL、QS21、およびリポソームを含む、実施形態59の免疫原性組成物。
【0285】
実施形態67:前記アジュバントが、水中油エマルション、例えばMF59またはAS03中に製剤化されている、実施形態59または62の免疫原性組成物。
【0286】
実施形態68:前記アジュバントが、スクアレンを含む水中油エマルション中に製剤化されている、実施形態59、62、または65の免疫原性組成物。
【0287】
実施形態69:前記アジュバントがQS21およびリポソームをさらに含む、実施形態65の免疫原性組成物。
【0288】
実施形態70:前記アジュバントがGLA-SEを含む、実施形態59の免疫原性組成物。
【0289】
実施形態71:前記アジュバントがGLA-SLQを含む、実施形態59の免疫原性組成物。
【0290】
実施形態72:CP5、CP8、Eap、Ebh、Emp、EsaB、EsaC、EsxA、EsxB、EsxAB(融合物)、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfB、Coa、Hla、mHla、MntC、rTSST-1、rTSST-1v、TSST-1、SasF、vWbp、vWhビトロネクチン結合性タンパク質、Aaa、Aap、Ant、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Can、コラーゲン結合性タンパク質、Csa1A、EFB、エラスチン結合性タンパク質、EPB、FbpA、フィブリノーゲン結合性タンパク質、フィブロネクチン結合性タンパク質、FhuD、FhuD2、FnbA、FnbB、GehD、HarA、HBP、免疫優性ABCトランスポーター、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+トランスポーター、MHC IIアナログ、MRPII、NPase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF、SdrG、SdrH、SEA外毒素、SEB外毒素、mSEB、SitC、Ni ABCトランスポーター、SitC/MntC/唾液結合性タンパク質、SsaA、SSP-1、SSP-2、Spa5、SpAKKAA、SpAkR、Sta006、Sta011、PVL、LukEDおよびHlgからなる群から選択される少なくとも1つのスタフィロコッカス(staphylococcal)抗原またはその免疫原性断片をさらに含む、実施形態1~71のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0291】
実施形態73:Hla、スタフィロコッカス(staphylococcal)抗原をさらに含む、実施形態1~72のいずれか1つの免疫原性組成物。
【0292】
実施形態74:実施形態1~73のいずれか1つのスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインA(SpA)バリアントポリペプチドおよび突然変異体Luk Aポリペプチド、突然変異体Luk Bポリペプチド、または突然変異体LukAB二量体ポリペプチドをコードする、1つまたは複数の単離された核酸。
【0293】
実施形態75:実施形態74の単離された核酸を含むベクター。
【0294】
実施形態76:実施形態75のベクターを含む、単離された宿主細胞。
【0295】
実施形態77:それを必要とする対象においてスタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症を治療または予防する方法であって、前記それを必要とする対象に有効量の実施形態1~73のいずれか1つの免疫原性組成物、実施形態74の1つもしくは複数の単離された核酸、実施形態75のベクター、または実施形態76の宿主細胞を投与することを含む方法。
【0296】
実施形態78:それを必要とする対象においてスタフィロコッカス(Staphylococcus)細菌に対する免疫応答を誘発する方法であって、前記それを必要とする対象に有効量の実施形態1~73のいずれか1つの免疫原性組成物、実施形態74の1つもしくは複数の単離された核酸、実施形態75のベクター、または実施形態76の宿主細胞を投与することを含む方法。
【0297】
実施形態79:それを必要とする対象においてスタフィロコッカス(Staphylococcus)細菌を脱定着させまたはその定着もしくは再定着を予防する方法であって、前記それを必要とする対象に有効量の実施形態1~73のいずれか1つの免疫原性組成物、実施形態74の1つもしくは複数の単離された核酸、実施形態75のベクター、または実施形態76の宿主細胞を投与することを含む方法。
【実施例】
【0298】
[実施例1]
スタフィロコッカスプロテインAはスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)を有するマウスの持続的定着に寄与する
スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)は人口の約3分の1の上咽頭に持続的に定着し、それによって市中感染および院内感染を促進する。抗生物質は、感染のリスクが増大する個人の脱定着用に現在使用されている。しかし、抗生物質の有効性は再定着および薬物耐性株の選択により制限される。鼻腔定着するとスタフィロコッカス表面抗原に対してIgG応答の引き金を引くが、これらの抗体はそれに続く定着または疾患を予防できない。本実施例は、マウスの上咽頭に持続的に定着する多座配列タイプST88単離菌であるS.アウレウス(S.aureus)WU1を記載する。スタフィロコッカスプロテインA(SpA)は上咽頭においてS.アウレウス(S.aureus)WU1の持続性に必要であることがここで報告されている。野生型S.アウレウス(S.aureus)が定着した動物と比べると、Δspaバリアントが定着したマウスはスタフィロコッカス定着決定因子に対して増加したIgG応答を開始する。B細胞受容体に架橋し抗体応答を転換させることができない非毒素産生性SpAバリアントを有するマウスの免疫化は、定着するS.アウレウス(S.aureus)に対してIgG応答を促進し病原体持続性を減らすプロテインA中和抗体を誘発する。
【0299】
結果
スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)WU1。
オスC57BL/6マウスの包皮腺感染症の突発が動物育種コロニーで観察された。オスおよびメスC75BL/6Jマウスの包皮腺腺炎(PGA)からおよび上咽頭から試料を収集し、マンニット食塩寒天培地(MSA)およびベアードパーカー寒天培地(BPA)上での増殖により分析した。多座配列タイピングおよびspaジェノタイピングにより、動物にはS.アウレウス(S.aureus)ST88spaジェノタイプt186が定着していることが明らかにされ、この細菌はオスマウスにおいてPGAの原因でもあった。spaジェノタイプt186を有するS.アウレウス(S.aureus)CC88は合衆国で実験マウス由来の安定的に定着する単離菌として以前報告されていた(37)。他のspaジェノタイプは、t325、t448、t690、t755、t786、t2085、t2815、t5562、t11285およびt12341を含む(37)。ニュージーランドJSNZ単離菌ははっきりと異なるspaジェノタイプt729を有する(37)。にもかかわらず、S.アウレウス(S.aureus)JSNZとWU1の両方が8型莢膜多糖体遺伝子を共有し、mecA遺伝子ならびに可動遺伝要素(MGE)コードT細胞スーパー抗原を欠く(37)。さらに、ヒト特異的免疫回避クラスター1(IEC1)遺伝子sak(スタフィロキナーゼ)、chp(CHIPS、S.アウレウス(S.aureus)の走化性阻害タンパク質)およびscn(SCIN-A、スタフィロコッカス補体抑制因子A)を発現するhlb変換ファージはWU1のゲノムには存在せず、無傷のα溶血素コード遺伝子(hlb)をもたらす(38)。注目すべきことに、WU1コードIEC2は、scnホモログscb/scc(SCIN-B/-C)をhla(αヘモリシン)およびssl12-14(スタフィロコッカススーパー抗原様12-14)と共に有する(39)。マウスに安定的に定着する他のCC88単離菌(37)と違って、WU1のゲノムはblaZ遺伝子を有する。ソルターゼアンカー表面タンパク質をコードする遺伝子について分析すると、S.アウレウス(S.aureus)WU1がClfB、IsdA、SdrC、SdrD、およびSasGを含む鼻腔定着に以前関連していた決定因子の遺伝子を有することが観察された(表2)。
【0300】
【0301】
S.アウレウス(S.aureus)膿瘍形成は、フィブリンを有する細菌凝集の決定因子と関連していた(40、41)。凝集は、宿主プロトロンビンを活性化してフィブリノーゲンをフィブリンに変換する2種のS.アウレウス(S.aureus)分泌産物:コアグラーゼ(Coa)およびフォンウィルブランド因子結合タンパク質(vWbp)を必要とする(40)。クランピング因子A(ClfA)はフィブリノーゲンに結合して、スタフィロコッカスをコアグラーゼ産生フィブリン原線維で被覆し、それによって宿主貪食細胞によるS.アウレウス(S.aureus)取込みおよび殺傷を妨害する(41、42)。clfA遺伝子はS.アウレウス(S.aureus)WU1およびJSNZでは同一であるが、マウスを用いた研究所チャレンジ実験用にルーチンで使用されるCC8ヒト臨床単離菌である、S.アウレウス(S.aureus)Newman由来のclfAとは対立遺伝子特異的違いを示している(表2)(43)。しかし、clfAでの観察される違いはクレード特異的である。なぜならば、その違いはヒト宿主からまたはマウス宿主から単離されたCC88株で見い出せるからである(データは示さず)。S.アウレウス(S.aureus)WU1、JSNZおよびNewmanのcoa遺伝子産物は実質的に同一である(表2)。これとは対照的に、S.アウレウス(S.aureus)WU1およびJSNZのvwb遺伝子の産物は、プロトロンビン結合D1およびD2ドメインに最大の配列多様性を有するS.アウレウス(S.aureus)Newmanとは有意に異なり(
図1A)、Newman vWbpに対して産生されたポリクローナル抗体によって認識されなかった(
図1B)。2種のCC88株から分泌されたvWbpを、USA300株由来のvWbpの保存されたC末端ドメインに対して産生された血清は認識することができた(
図1C)。大量のCoaを分泌しヒトおよびマウス血漿を急速に凝集させるS.アウレウス(S.aureus)Newmanとは対照的に、S.アウレウス(S.aureus)WU1およびJSNZが分泌するCoaは少なく、Newman株と比べてヒト血漿よりもマウス血漿のほうを容易に凝集させる(
図1B、1D、1E)。S.アウレウス(S.aureus)Newmanのコアグラーゼ活性はcoaおよびvwb発現に依存している。なぜならば、対応するΔcoa、ΔvwbおよびΔcoaΔvwb突然変異体はマウスおよびヒト血漿では凝集欠損を示したからである(
図1D、1E)。まとめると、これらのデータにより、S.アウレウス(S.aureus)WU1およびJSNZでのvwb遺伝子のST88対立遺伝子がマウス血漿中で効率的なプロトロンビン媒介凝固およびフィブリン凝集を促進することがあり、これがPGAなどの侵襲性疾患の病因を支持する可能性があることが示唆される。
【0302】
S.アウレウス(S.aureus)WU1はマウスの上咽頭に持続的に定着する
S.アウレウス(S.aureus)WU1をマウスに定着するその能力について分析するため、メスC57BL/6動物のコホート(n=10)を、咽喉スワブおよび糞便材料をBPA上に広げることにより分析した。BPA上での細菌増殖を欠く無処置マウスは麻酔をかけ、リン酸緩衝食塩水(PBS)中1×10
8のCFU S.アウレウス(S.aureus)WU1の10μlの懸濁液を右鼻腔中にピペットで移して接種した。動物は、1週間間隔で、すなわち、接種に続く7、14、21、28、35および42日に中咽頭を綿棒で拭き取ることにより定着について分析した。スワブをBPA上に広げ、コロニー形成のためにインキュベートし、数え上げた(
図2A)。前もっての抗生物質処理または抗生物質選択なしでさえ、S.アウレウス(S.aureus)WU1は実験動物に定着し、負荷は42日間にわたりスワブ当たり1.2~2.9 log
10CFUの範囲であった(
図2A)。S.アウレウス(S.aureus)WU1での持続的定着を確認するため、42日後に得られたコロニーはMLSTおよびspaジェノタイピングにより分析した。データによれば、マウスはまだST88 spa t186が定着していることが示されており、S.アウレウス(S.aureus)WU1がC57BL/6マウスの上咽頭に持続的に定着することを示していた。対照として、S.アウレウス(S.aureus)WU1定着動物と同じ動物施設室および同じケージ棚で維持された別々のケージ中のC57BL/6J動物のコホートのモックPBS接種では上咽頭のスタフィロコッカス定着はもたらされなかった(
図2A)。マウス由来の42日糞便試料はPBSにホモジナイズし、CFU数え上げのためにマンニット食塩寒天培地(MSA)上に蒔いた(
図2B)。S.アウレウス(S.aureus)WU1定着マウスの糞便試料は5.1~7.3 log
10 CFU/糞便gを有し、消化(GI)管もS.アウレウス(S.aureus)WU1株が定着していることを示していた。対照として、モック(PBS)接種マウスはその糞便試料中にS.アウレウス(S.aureus)を有していなかった(
図2B)。
【0303】
S.アウレウス(S.aureus)WU1定着はマウスでの血清IgG応答の引き金を引く。以前の研究ではS.アウレウス(S.aureus)抗原マトリックスを生み出し、このマトリックスは25種の保存され分泌されたタンパク質を含む。25種の組換え親和性タグ付きタンパク質のそれぞれが精製され膜フィルター上に固定された(44)。定着中の宿主免疫応答を測定するため、無処置またはS.アウレウス(S.aureus)WU1定着動物は接種15日後に出血させ、血清IgG応答をS.アウレウス(S.aureus)抗原マトリックスと一緒のインキュベーションにより分析した。IgG結合は、IRDye 680コンジュゲートヤギ抗マウスIgG(LI-COR)を用いて検出し、赤外イメージングにより定量化した。この実験は、S.アウレウス(S.aureus)WU1定着により、ソルターゼアンカー表面タンパク質ClfA、ClfB、IsdA、およびIsdBに対してならびにS.アウレウス(S.aureus)の細胞サイズおよびペプチドグリカン合成決定因子である巨大細胞外マトリックス結合タンパク質(Ebh)に対する血清IgGが増加することを実証した(45)(表3)。
【0304】
【0305】
S.アウレウス(S.aureus)WU1は持続的定着にはスタフィロコッカスプロテインAを必要とする。
S.アウレウス(S.aureus)Newman SpAに類似して、S.アウレウス(S.aureus)WU1のspa遺伝子産物は5つのIgBDを含み、278残基ドメイン内に単一のアミノ酸置換を有する。免疫ブロッティング実験により、S.アウレウス(S.aureus)Newman株およびWU1株が類似する量のSpAを産生することが明らかになった(
図3A)。対立遺伝子組み換えを使用して、発明者らは、S.アウレウス(S.aureus)WU1のΔspa突然変異体を生み出した。免疫ブロッティングにより測定した場合、SpA産生はΔspa突然変異体では消失し、この欠損は野生型spaのプラスミドによる発現(pSpA)により回復された(
図3A)。ソルターゼA(SrtA)に対する抗体を用いた免疫ブロッティングは負荷対照として使用された(
図3A)。マウスの右鼻腔中に接種させ、7日目に中咽頭スワブにより定着について分析すると、Δspa突然変異体は最初は野生型WU1株に類似する方法でC57BL/6J動物に定着した(
図3B)。しかし、後の時点では、特に35日目および42日目、Δspa突然変異体が定着した動物は野生型WU1株よりも少なかった(
図3B)。細菌増殖の間、S.アウレウス(S.aureus)はペプチドグリカン断片に連結したSpAを周囲の環境に放出する(46)。静脈内S.アウレウス(S.aureus)チャレンジのマウスモデルでは、放出されたSpAがB細胞増殖ならびにVH3イディオタイプIgMおよびIgG分子の増強された分泌を活性化する(33)。しかし、増えたVH3イディオタイプIgGはスタフィロコッカス抗原を認識しない(33)。このB細胞スーパー抗原活性の分子基礎は、VH3イディオタイプB細胞受容体のSpA媒介架橋に基づいており、これによりCD4 Tヘルパー細胞およびRIPK2キナーゼ依存様式でB細胞増殖の引き金を引く(33、47)。Δspa突然変異体スタフィロコッカスが感染した動物はVH3イディオタイプ免疫グロブリン増殖を欠き、病原体特異的IgGの量の増加を示し、それによって引き続いてのS.アウレウス(S.aureus)感染に対して保護的である免疫応答の引き金を引く(48)。次に、WU1のΔspa突然変異体での定着は変化した血清IgG応答と関連しているのかどうかと考えられた。15日間定着していた動物由来の血清は、S.アウレウス(S.aureus)抗原マトリックスの成分に結合するIgGについて分析された(表3)。この実験により、引き続いて脱定着した動物ではClfB、IsdAおよびSasGに対する抗体の増加が明らかになったが、Δspa突然変異体が定着したままの動物では増加は明らかにならなかった(表3)。まとめると、これらのデータは、Δspa突然変異体スタフィロコッカスを用いたC57BL/6マウスの上咽頭定着が、キーとなる定着決定因子に対するIgG応答の増加と関連していることを示唆しており、この増加は上咽頭からのΔspa突然変異体S.アウレウス(S.aureus)の除去を促進すると思われる。
【0306】
プロテインA中和抗体はS.アウレウス(S.aureus)の持続的定着に影響を及ぼす。
野生型プロテインAでマウスを免疫化しても、その5種のIgBDに結合しIgG分子のFcγドメインまたはVH3イディオタイプ免疫グロブリンの可変重鎖に結合するその5種のIgBDの能力を中和するIgG血清抗体を誘発しない(44)。SpA
KKAAは、Fcγ結合を消失させVH3イディオタイプ免疫グロブリンとの会合も減少させるSpAの5種のIgBD全体を通じて20のアミノ酸置換を有するバリアントである(44)。にもかかわらず、SpA
KKAAは、プロテインAの全αヘリックス含量および抗原構造を保持する。その結果、アジュバントSpA
KKAAでのマウスの免疫化は高力価プロテインA中和IgGを誘発する(44)。これらの抗体は、S.アウレウス(S.aureus)感染の間プロテインAの抗オプソニンおよびB細胞スーパー抗原活性をブロックし、スタフィロコッカス抗原に対してIgG応答を広く増強し保護免疫の発生を促進する(44)。プロテインA中和抗体がS.アウレウス(S.aureus)定着に影響を及ぼすのかどうかを試験するため、C57BL/6マウスをアジュバントSpA
KKAAでまたはアジュバント単独で免疫した。モック免疫動物と比べて、SpA
KKAA処置動物は高力価プロテインA中和抗体を誘発した(表4)。S.アウレウス(S.aureus)WU1を接種されると、モックとSpA
KKAA免疫動物の両方が最初は類似する方法で定着された。なぜならば、中咽喉スワブにより、接種に続く7日目および14日目では平均定着負荷に有意差はないことが明らかにされたからであった(
図4)。しかし、21日目に開始して、SpA
KKAA免疫マウスのほうがモック免疫動物よりも頻繁に脱定着された(
図4)。血清IgG応答について調べ、無処置マウスと比べると、モック処置動物でのS.アウレウス(S.aureus)WU1定着はClfB、IsdA、IsdB、SasDおよびSasFに対する抗体応答をもたらした(表4)。S.アウレウス(S.aureus)WU1定着を維持した動物では、SpA
KKAA免疫化はClfA、Coa、vWBP、およびHlaに対する抗体応答をもたらした(表4)。SpA
KKAAワクチン接種C57BL/6Jマウスと比べると、引き続いて脱定着した動物はClfA、ClfB、フィブロネクチン結合プロテインA(FnBPA)およびB(FnBPB)、IsdB、Coa、ならびにSasGに対する血清IgGの上昇を示した(表4)。全体でこれらのデータは、SpA
KKAAワクチン接種が、S.アウレウス(S.aureus)が定着していたマウスで血清IgG応答の増強を誘発することを示している。さらに、SpA
KKAAワクチンは、既知の定着因子(ClfB、IsdAおよびSasG)を含む、多くの異なるスタフィロコッカス抗原に対する抗体を誘導した。全体では、定着するスタフィロコッカスに対するこれらのSpA
KKAAワクチン誘導IgG応答は、上咽頭の脱定着を促進すると思われる。
【0307】
【0308】
BALB/cマウスのS.アウレウス(S.aureus)WU1定着 S.アウレウス(S.aureus)WU1定着がC57BL/6マウスに限定されたかどうかを試験するため、発明者らは無処置BALB/cマウスのコホート(n=20)の右鼻腔中に1×10
8CFU S.アウレウス(S.aureus)WU1を接種し、スワブ培養物で上咽頭定着を測定した。C57BL/6マウスに類似して、S.アウレウス(S.aureus)WU1はBALB/cマウスに持続的に定着した(
図5)。SpA
KKAAを用いたBALB/cマウスの免疫化は、S.アウレウス(S.aureus)WU1での最初の定着に影響を与えなかった。しかし、モック免疫動物と比べた場合、SpA
KKAAを用いたワクチン接種はBALB/cマウスの脱定着を促進した(
図5)。
【0309】
SpA
KKAAワクチンはS.アウレウス(S.aureus)JSNZでのマウス定着に影響を及ぼす。
次に、プロテインA中和抗体がS.アウレウス(S.aureus)JSNZでのマウス定着にも影響を及ぼすのかどうかと考えられた。Newman株およびWU1株と違って、S.アウレウス(S.aureus)JSNZのspa遺伝子産物は4種のIgBDのみを含む(37)。以前の研究では、ヒト上咽頭のS.アウレウス(S.aureus)定着と一般的に関連している5種のIgBDと比べた場合、4種のIgBDを有するSpAバリアントがB細胞スーパー抗原活性の減少と関連していることが実証されていた(33)。麻酔をかけられたマウスの右鼻腔中に接種された場合、S.アウレウス(S.aureus)JSNZは42日間にわたってBALB/cマウスの上咽頭に効果的に定着した(
図6)。SpA
KKAAワクチン接種はS.アウレウス(S.aureus)JSNZでの最初の定着に影響を及ぼさなかった。しかし、モック免疫マウスと比べた場合、血清中和プロテインA抗体を有するBALB/cマウスは21日目に開始してS.アウレウス(S.aureus)JSNZをより頻繁に脱定着した(
図6)。全体では、これらのデータにより、S.アウレウス(S.aureus)JSNZもマウスの持続的定着にプロテインA媒介B細胞スーパー抗原活性を必要とすることが示唆される。
【0310】
材料および方法
培地および細菌増殖条件。
S.アウレウス(S.aureus)株は、トリプトンソイブロス(TSB)でまたはトリプトンソイ寒天培地(TSA)上、37℃で増殖された。マウス上咽頭定着を調べる実験では、咽喉スワブ試料は指示通りにベアードパーカー寒天上、37℃で増殖させた。S.アウレウス(S.aureus)消化管定着を調べる実験では、糞便試料は示された通りにマンニット食塩培地上、37℃で増殖させた。大腸菌(Escherichia coli)株DH5αおよびBL21(DE3)はルリアブロス(LB)培地または寒天において37℃で増殖させた。アンピシリン(大腸菌では100μg/ml)およびクロラムフェニコール(S.アウレウス(S.aureus)では10μg/ml)をプラスミド選択用に使用した。
【0311】
S.アウレウス(S.aureus)ジェノタイピング。
S.アウレウス(S.aureus)単離菌WU1は、発明者ら所有の動物施設のマウスの上咽頭および包皮腺膿瘍病変から得た。マウスS.アウレウス(S.aureus)JSNZ株はDr.Siouxsie Wilesにより提供された(36)。スタフィロコッカスゲノムDNAは、Wizard Genomic DNA精製キット(Promega)を用いて単離した。spaジェノタイピングおよび多座位配列タイピング(MLST)は以前記載されたとおりに実施した(85)。手短に言えば、spaタイピングでは、S.アウレウス(S.aureus)WU1株のゲノムDNAは、プライマー1095F(5’AGACGATCCTTCGGTGAGC3’)(配列番号89)および1517R(5’GCTTTTGCAATGTCATTTACTG3’)(配列番号90)を用いてPCR増幅した(86)。PCR産物は、Nucleospin GelおよびPCRクリーンアップキットを用いて精製し、プライマー1095Fおよび1517Rを用いて配列決定し、Ridomソフトウェアを用いて分析した。MLSTタイピングでは、S.アウレウス(S.aureus)WU1株のゲノムDNAは、プライマーarc-up(5’TTGATTCACCAGCGCGTATTGTC3’)(配列番号91)、arc-dn(5’AGGTATCTGCTTCAATCAGCG3’)(配列番号92)、aro-up(5’ATCGGAAATCCTATTTCACATTC3’)(配列番号93)、arc-dn(5’GGTGTTGTATTAATAACGATATC3’)(配列番号94)、glp-up(5’CTAGGAACTGCAATCTTAATCC3’)(配列番号95)、glp-dn(5’TGGTAAAATCGCATGTCCAATTC3’)(配列番号96)、gmk-up(5’ATCGTTTTATCGGGACCATC3’)(配列番号97)、gmk-dn(5’TCATTAACTACAACGTAATCGTA3’)(配列番号98)、pta-up(5’GTTAAAATCGTATTACCTGAAGG3’)(配列番号99)、pta-dn(5’GACCCTTTTGTTGAAAAGCTTAA3’)(配列番号100)、tpi-up(5’TCGTTCATTCTGAACGTCGTGA3’)(配列番号101)、tpi-dn(5’TTTGCACCTTCTAACAATTGTAC3’)(配列番号102)、yqi-up(5’CAGCATACAGGACACCTATTGGC3’)(配列番号103)およびyqi-dn(5‘CGTTGAGGAATCGATACTGGAAC3’)(配列番号104)を用いてPCR増幅した(例えば、saureus.mlst.net/misc/info.asp参照)。PCR産物は、Nucleospin GelおよびPCRクリーンアップキットを用いて精製し、PCR増幅し、配列決定し、オンラインソフトウェア(例えば、saures.mlst.net/参照)を用いて分析した。S.アウレウス(S.aureus)JSNZ株についての全ゲノム配列ファイルはDr.Silva Holtfreterにより提供された。Truseq DNA-seqライブラリー調製イルミナMiSeqシーケンシング(Truseq DNA-seq library preparation Illumina MiSeq sequencing)は、アルゴンヌ国立研究所で環境試料調製およびシーケンシング施設(Environmental Sample Preparation and Sequencing Facility)によりS.アウレウス(S.aureus)WU1のゲノムDNAを用いて実施された。配列はGeneiousソフトウェアを使用して分析された。
【0312】
S.アウレウス(S.aureus)突然変異体。
プラスミドpKOR1を用いた対立遺伝子組み換えを使用してS.アウレウス(S.aureus)WU1のspa遺伝子を欠失させた(87)。Δspa突然変異体を構築するため、spa遺伝子の上流および下流の2種の1-kb DNA断片を、プライマーext1 ext1F(5’GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTCATTTAAGAAGATTGTTTCAGATTTATG3’)(配列番号105)、ext1R(5’ATTTGTAAAGTCATCATAATATAACGAATTATGTATTGCAATACTAAAATC3’)(配列番号106)、ext2F(5’CGTCGCGAACTATAATAAAAACAAACAATACACAACGATAGATATC3’)(配列番号107)、およびext2R(5’GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCAACGAACGCCTAAAGAAATTGTCTTTGC3’)(配列番号108)を用いてS.アウレウス(S.aureus)WU1の染色体から増幅させた。2つの隣接する領域を引き続くPCRで1つに融合させ、最終PCR産物をBP Clonase IIキット(Invitrogen)を使用してpKOR1中にクローニングした。得られたプラスミドは連続的に大腸菌(E.coli)DH5α、S.アウレウス(S.aureus)RN4220株、および最後にS.アウレウス(S.aureus)WU1株中に移し、温度を40℃に変え、プラスミドの複製をブロックし染色体中へのその挿入を促進した(87)。30℃での増殖を使用して対立遺伝子置換を促進した。spa遺伝子中の突然変異は、PCR増幅産物のDNAシーケンシングにより確認した。
【0313】
凝集アッセイ。
凝集アッセイは以前記載された通りに実施した(88)。手短に言えば、S.アウレウス(S.aureus)株の一晩培養物を新鮮なTSBに1対100で希釈し、37℃で6時間増殖させた。1mlの培養物由来の細菌(OD6004.0に正規化した)をSYTO9(1対500)(Invitrogen)と一緒に15分間インキュベートし、1mlのPBSで2回洗浄し、1mlのPBSに懸濁した。細菌は、グラス顕微鏡スライド上でクエン酸処理ヒト血漿またはマウス血漿と1対1で混合し、30分間インキュベートした。試料を検分し、画像は20×対物レンズ(Olympus)を使用するIX81生細胞全反射照明蛍光顕微鏡上で捕えた。それぞれの試料について少なくとも10画像が得られた。それぞれの画像中の凝集複合体の面積を測定しImageJソフトウェアを使用して定量化した。
【0314】
免疫ブロッティング。
S.アウレウス(S.aureus)株の一晩培養物を新鮮なTSB(プラスミドの存在下でクロラムフェニコールと一緒に)に1対100で希釈し、37℃でOD6000.5~1.0まで増殖させた。1mlの培養物由来の細胞を遠心分離し、PBSに懸濁し、20μg/mlのリゾスタフィン(AMBI)と一緒に37℃で1時間インキュベートした。全細胞可溶化物中のタンパク質は10%のトリクロロ酢酸および10μgのデオキシコール酸で沈殿させ、氷冷アセトンで洗浄し、風乾し、100μlの0.5M Tris HCl(pH6.8)および100μlのSDS-PAGE試料緩衝液[100mMのTris HCl(pH6.8)、4%のSDS、0.2%のブロモフェノールブルー、200mMのジチオスレイトール]に懸濁し、10分間煮沸した。タンパク質は12%のSDS-PAGE上で分離し、PVDF膜に電気泳動転写した。PVDF膜は、Tris緩衝液生理食塩水中5%牛乳とTween20(TBST)[20mMのTris HCl(pH7.6)、137mMのNaCl、0.1%のTween-20]でブロックした。マウス抗ClfA 2A12.12モノクローナル抗体(1対2,000希釈)および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗マウスIgG(Cell Signaling、1対10,000希釈)を使用してClfAを検出した。ウサギ抗Coaポリクローナル抗体(1対1,000希釈)およびHRPコンジュゲート抗ウサギIgG(1対10,000希釈)を使用してCoaを検出した。それぞれS.アウレウス(S.aureus)Newman由来の完全長vWbpまたはvWbpのC末端ドメインを認識する2種の異なるウサギ抗vWbpポリクローナル抗体(1対1,000希釈)およびHRPコンジュゲート抗ウサギIgG(1対10,000希釈)を使用してvWbpを検出した。TBST中HRPコンジュゲートヒトIgM(1対10,000希釈)を使用してSpAを検出した。ウサギ抗SrtAポリクローナル抗体(1対10,000希釈)およびHRPコンジュゲート抗ウサギIgG(1対10,000希釈)を使用してSrtAを検出した。抗体染色膜はTBSTで洗浄し、SuperSignal West Pico化学発光基質(Thermo Scientific)と一緒にインキュベートし、Amersham Hyperfilm ECL高性能化学発光フィルム(GE Healthcare)上に現像した。
【0315】
組換えタンパク質の精製。
HisタグSpAKKAAの発現用のpET15b+プラスミド、ならびに24のスタフィロコッカス抗原(ClfA、ClfB、FnBPA、FnBPB、IsdA、IsdB、SasA、SasB、SasD、SasF、SasG、SasI、SasK、SdrC、SdrD、SdrE、EsxA、EsxB、SCIN、Eap、Efb、Hla、Coa、vWbp、およびEbh)を有する大腸菌(E.coli)BL21(DE3)を一晩増殖させ、新鮮な培地に1対100で希釈し、37℃で約0.5のOD600まで増殖させた。培養物は1mMのイソプロピル-β-d-チオガラクトピラノシドで誘導し、さらに3時間増殖させた。細胞はペレット状にして、カラム緩衝液(50mMのTris-HCl[pH7.5]、150mMのNaCl)に再懸濁し、フレンチプレスセルを用いて14,000lb/in2で破壊した。可溶化物から、超遠心分離により40,000×gで膜および不溶性成分を取り除いた。透明可溶化液はNi-NTA親和性クロマトグラフィーにかけられ、タンパク質は連続して高くなる濃度のイミダゾール(100から500mM)を含有するカラム緩衝液に溶出させた。溶出液はPBSを用いて透析し、タンパク質純度は、クーマシー染色SDS-PAGEにより確かめた。タンパク質濃度はビシンコニン酸アッセイ(Thermo Scientific)により決定した。
【0316】
マウス上咽頭定着。
S.アウレウス(S.aureus)WU1株およびそのΔspa突然変異体の一晩培養物を新鮮なTSB中に1対100で希釈し、37℃で2時間増殖させた。細胞は遠心分離し、PBSに洗浄して懸濁した。生後7週間のメスBALB/c、C57BL/6JまたはB6.129S2-Ighmtm1Cgn/Jマウス(The Jackson Laboratory)に、体重1kg当たり100mg/mlのケタミンおよび20mg/mlのキシラジンで腹腔内注射により麻酔をかけた。1×108CFUのS.アウレウス(S.aureus)(10μl体積中)をそれぞれのマウスの右鼻孔内にピペットで移した。接種に続く7、14、21、28、35、および42日目にマウスの中咽頭を綿棒で拭き取り、スワブ試料をベアードパーカー寒天培地に広げ、細菌数え上げのためにインキュベートした。接種に続く15日目、マウスを眼窩周囲静脈穿刺により出血させて、スタフィロコッカス抗原マトリックスを使用する抗体応答分析用の血清を得た。接種に続く42日目、糞便試料を収集し、PBSにホモジナイズした。ホモジネートをマンニット食塩寒天培地に蒔き、細菌数え上げのためにインキュベートした。すべてのマウス実験は、シカゴ大学の施設内バイオセーフティー委員会(IBC)および施設内動物管理および使用委員会(IACUC)の実験プロトコル審査および承認に続いて施設内ガイドラインに従って実施した。動物実験はデータの再現性を保証するため少なくとも1回は繰り返された。
【0317】
能動免疫化。
生後4週間のマウスを、完全フロイントアジュバント(CFA;Difco)に乳化した50μgのSpAKKAAで皮下注射により免疫し、最初の免疫化の11日後に不完全フロイントアジュバント(IFA)に乳化した50μgの同じ抗原で追加免疫した。21日目、免疫マウスは眼窩周囲静脈穿刺により出血させて、ELISA用の血清を得た。24日目、マウスに1×108CFUのS.アウレウス(S.aureus)WU1株またはJSNZ株を鼻腔内に接種し、上咽頭定着についてモニターした。
【0318】
スタフィロコッカス抗原マトリックス。
ニトロセルロース膜に2μgの親和性精製スタフィロコッカス抗原をブロットした。膜は5%の脱顆粒牛乳でブロックし、希釈マウス血清(1対10,000希釈)およびIRDye 680コンジュゲートヤギ抗マウスIgG(LI-COR)と一緒にインキュベートした。シグナル強度はOdyssey赤外線撮像システム(LI-COR)を使用して定量化した。
【0319】
統計分析。
Sidak多重比較検定(GraphPad Software)を用いた二元配置分散分析を実施して、上咽頭定着、ELISA、および抗原マトリックスデータの統計的有意性を分析した。
【0320】
[実施例2]
スタフィロコッカスプロテインAバリアント
以下のアッセイを使用すれば、本明細書に記載されるSpAバリアントを本開示の方法および組成物におけるその有効性について評価することができる。
【0321】
アッセイ
マウス膿瘍、マウス致死感染、およびマウス肺炎モデルにおけるワクチン防御。
S.アウレウス(S.aureus)感染性疾患の研究のために3種の動物モデルを確立した。これらのモデルをここで使用すれば、プロテインA特異的抗体の産生を介して提供される保護免疫のレベルを調べることができる。
【0322】
マウス膿瘍 BALB/cマウス(生後24日メス、群当たり8~10マウス、Charles River Laboratories、Wilmington、MA)は、精製されたタンパク質の後脚への筋肉内注射により免疫することができる(Chang et al., 2003; Schneewind et al., 1992)。精製されたSpAおよび/またはSpAバリアントは、0日目(完全フロイントアジュバントと1対1で乳化した)および11日目(不完全フロイントアジュバントと1対1で乳化した)に投与することができる。血液試料は0、11、および20日目に眼窩後出血により引き出すことができる。血清は、バリアントの特定の結合活性に対するIgG力価についてELISAにより調べることができる。免疫動物は、21日目に100μlのS.アウレウス(S.aureus)NewmanまたはS.アウレウス(S.aureus)USA300懸濁液(1×107cfu)の眼窩後注射によりチャレンジすることができる。このために、S.アウレウス(S.aureus)Newmanの一晩培養物は新鮮なトリプシンソイブロス中に1対100で希釈し、37℃で3時間増殖させることができる。スタフィロコッカスは遠心分離し、2回洗浄し、PBSに希釈して0.4のA600を生じることができる(1ml当たり1×108cfu)。希釈度は、寒天板およびコロニー形成により実験的に確かめられる。マウスは、体重1kg当たり80~120mgのケタミンおよび3~6mgのキシラジンの腹腔内注射により麻酔をかけ、眼窩後注射により感染させることができる。チャレンジに続く5日目または15日目に、マウスは圧縮CO2吸入により安楽死させることができる。腎臓を摘出し1%のTritonX-100にホモジナイズすることができる。アリコートを希釈し、cfuの3通りの決定のために寒天培地上に蒔くことができる。組織学では、腎臓組織は10%ホルマリン中室温で24時間インキュベートすることができる。組織はパラフィンに包埋し、薄切片に切り分け、ヘマトキシリンエオジン染色し、顕微鏡により調べることができる。
【0323】
マウス致死感染 BALB/cマウス(生後24日メス、群当たり8~10マウス、Charles River Laboratories、Wilmington、MA)は、精製されたSpAまたはSpAバリアントの後脚への筋肉内注射により免疫することができる。ワクチンは、0日目(完全フロイントアジュバントと1対1で乳化した)および11日目(不完全フロイントアジュバントと1対1で乳化した)に投与することができる。血液試料は0、11、および20日目に眼窩後出血により引き出すことができる。血清は、バリアントの特定の結合活性に対するIgG力価についてELISAにより調べられる。免疫動物は、21日目に100μlのS.アウレウス(S.aureus)NewmanまたはS.アウレウス(S.aureus)USA300懸濁液(15×107cfu)の眼窩後注射によりチャレンジすることができる。このために、S.アウレウス(S.aureus)Newmanの一晩培養物は新鮮なトリプシンソイブロス中に1対100で希釈し、37℃で3時間増殖させることができる。スタフィロコッカスは遠心分離し、2回洗浄し、PBSに希釈して0.4のA600を生じて(1ml当たり1×108cfu)濃縮することができる。希釈度は、寒天板およびコロニー形成により実験的に確かめられる。マウスは、体重1kg当たり80~120mgのケタミンおよび3~6mgのキシラジンの腹腔内注射により麻酔をかけることができる。免疫動物は、21日目に2×1010cfuのS.アウレウス(S.aureus)Newmanまたは3~10×109cfuの臨床S.アウレウス(S.aureus)単離菌の腹腔内注射によりチャレンジすることができる。動物は14日間モニターすることができ、致死性疾患は記録することができる。
【0324】
マウス肺炎モデル S.アウレウス(S.aureus)Newman株またはUSA300(LAC)株は、トリプシンソイブロス/寒天において37℃でOD6600.5まで増殖させることができる。50mlの培養物アリコートは、遠心分離し、PBSで洗浄し、死亡率研究用に750μlのPBS(30μl体積当たり3~4×108CFU)、または細菌負荷および組織病理学実験用に1,250μlのPBS(30μl体積当たり2×108CFU)に懸濁することができる。肺感染では、生後7週間のC57BL/6Jマウス(The Jackson Laboratory)に30μlのS.アウレウス(S.aureus)懸濁液の左鼻孔内への接種前に麻酔をかけることができる。動物は、回復のため仰臥位でケージ内に置き14日間観察することができる。能動免疫では、生後4週間のマウスは、0日目に筋肉内経路でCFA中20μgのSpAバリアント、続いて10日目に不完全フロイントアジュバント(IFA)中20μgのバリアントを用いた追加免疫を受けることができる。動物は21日目にS.アウレウス(S.aureus)でチャレンジすることができる。免疫化前および20日目に血清を収集して特定の抗体産生を評価することができる。受動免疫研究では、生後7週間のマウスは、チャレンジ24時間前に腹腔内注射により、100μlのNRS(正常ウサギ血清)またはSpAバリアント特異的ウサギ抗血清を受けることができる。肺炎の病理学的相関を評価するため、感染動物は両肺の摘出前に強制的CO2吸引により死亡させることができる。右肺は、肺細菌負荷の数え上げのためにホモジナイズすることができる。左肺は、1%のホルマリン中に置き、パラフィン包埋し、薄切片に切り分け、ヘマトキシリンエオジンで染色し、顕微鏡により分析することができる。
【0325】
ウサギ抗体 精製SpAバリアントは、ウサギ抗血清の産生のために免疫源として使用することができる。タンパク質は、0日目の注射用にCFAで乳化させ、続いて21日目および42日目のIFAで乳化したタンパク質を用いた追加免疫注射することができる。ウサギ抗体力価はELISAにより決定できる。精製された抗体は、SpAバリアントセファロース上でのウサギ血清の親和性クロマトグラフィーにより入手可能である。溶出した抗体の濃度は、A280での吸光度により測定することができ、特定の抗体力価はELISAにより決定可能である。
【0326】
SpAバリアントを用いた能動免疫化 ワクチン有効性を判定するため、動物は精製されたSpAバリアントを用いて能動免疫することができる。対照として、動物にアジュバント単独で免疫することができる。プロテインA製剤に対する抗体力価は、抗原としてSpAバリアントを使用して決定できる。上記の感染性疾患モデルを使用して、細菌負荷(マウス膿瘍および肺炎)、スタフィロコッカス疾患の組織病理学的証拠(マウス膿瘍および肺炎)および致死性疾患からの保護(マウス致死性チャレンジおよび肺炎)のいかなる減少も測定可能である。
【0327】
SpAバリアントに対して産生された親和性精製ウサギポリクローナル抗体を用いた受動免疫化。プロテインA特異的ウサギ抗体の保護免疫を判定するため、マウスを精製SpAバリアント由来ウサギ抗体で受動免疫する。これらの抗体製剤の両方は、固定SpAバリアントを使用して親和性クロマトグラフィーにより精製する。対照として、動物は、rV10抗体(スタフィロコッカス感染症の予後になんの影響も及ぼさない疫病保護抗原)で受動免疫する。すべてのプロテインA製剤に対する抗体力価は、抗原としてSpAバリアントを使用して決定される。上記の感染性疾患モデルを使用して、細菌負荷(マウス膿瘍および肺炎)、スタフィロコッカス疾患の組織病理学的証拠(マウス膿瘍および肺炎)および致死性疾患からの保護(マウス致死性チャレンジおよび肺炎)の減少を測定可能である。
【0328】
細菌株および増殖。スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)Newman株およびUSA300株は、37℃でトリプトファンソイブロス(TSB)において増殖させることができる。大腸菌(Escherichia coli)DH5α株およびBL21(DE3)株は37℃で100μgml-1アンピシリンを含むルリアベルターニ(LB)ブロスにおいて増殖させることができる。
【0329】
ウサギ抗体。SpAバリアントは標準組換え技法または合成プロトコルに従って作製することができ、精製された抗原はHiTrap NHS活性化HPカラム(GE Healthcare)に共有結合させることができる。抗原マトリックスは、4℃で10~20mlのウサギ血清の親和性クロマトグラフィー用に使用することができる。荷電マトリックスは50カラム体積のPBSで洗浄し、抗体は溶出緩衝液(1Mのグリシン、pH2.5、0.5MのNaCl)で溶出させ、直ちに1MのTris-HCl、pH8.5で中和することができる。精製された抗体は4℃で一晩PBSに対して透析することができる。
【0330】
F(ab)2断片。親和性精製抗体は37℃で30分間、3mgのペプシンと混合することができる。反応は1MのTris-HCl、pH8.5でクエンチすることができ、F(ab)2断片は、特定の抗原コンジュゲートHiTrap NHS活性化HPカラムを用いて親和性精製することができる。精製された抗体は4℃で一晩PBSに対して透析し、SDS-PAGEゲル上に負荷し、クーマシーブルー染色で可視化することができる。
【0331】
能動および受動免疫化。BALB/cマウス(生後3週間、メス、Charles River Laboratories)は、筋肉内注射により完全フロイントアジュバント(Difco)に乳化した50μgのタンパク質で免疫することができる。追加免疫では、タンパク質を不完全フロイントアジュバントに乳化し、最初の免疫化の11日後に注射することができる。免疫化に続く20日目に、5頭のマウスは出血させて、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による特定の抗体力価用の血清を得ることができる。
【0332】
PBS中親和性精製抗体を、S.アウレウス(S.aureus)を用いたチャレンジの24時間前に、実験動物の体重1kg当たり5mgの濃度でBALB/cマウス(生後6週間、メス、Charles River Laboratories)の腹膜腔中に注射することができる。動物血液は眼窩周囲静脈穿刺により収集できる。血液細胞は、ヘパリン処置したマイクロヘマトクリット毛管(Fisher)を用いて取り出すことができ、Zゲル血清分離マイクロチューブ(Sarstedt)を使用すれば、抗原特異的抗体を収集しELISAにより抗原特異的抗体力価を測定することができる。
【0333】
マウス腎膿瘍。S.アウレウス(S.aureus)NewmanまたはUSA300(LAC)の一晩培養物は新鮮なTSB中に1対100で希釈し、37℃で2時間増殖させることができる。スタフィロコッカスは沈降させ、洗浄してPBSに0.4のOD600(約1×108CFU ml-1)で懸濁させることができる。接種物は、試料アリコートをTSA上に広げ形成されたコロニーを数え上げることにより定量化できる。BALB/cマウス(生後6週間、メス、Charles River Laboratories)は体重1kg当たり100mg ml-1のケタミンおよび20mg ml-1のキシラジンの腹腔内注射により麻酔をかけることができる。マウスに、1×107CFUのS.アウレウス(S.aureus)Newmanまたは5×106CFUのS.アウレウス(S.aureus)USA300を眼窩後注射により感染させることができる。チャレンジに続く4日目、マウスはCO2吸入により死亡させることができる。両腎臓を摘出することができ、一臓器中のスタフィロコッカス負荷は、PBS、1%のTritonX-100で腎組織をホモジナイズすることにより分析できる。ホモジネートの段階希釈液をTSA上に広げ、コロニー形成のためにインキュベートした。残りの臓器は組織病理学により調べることができる。手短に言えば、腎臓は、室温で24時間10%ホルマリンに固定できる。組織はパラフィンに包埋し、薄切片に切り分け、ヘマトキシリンエオジンで染色し、光学顕微鏡により視診して膿瘍病変を数え上げることができる。すべてのマウス実験は、シカゴ大学の施設内バイオセーフティー委員会(IBC)および施設内動物管理および使用委員会(IACUC)の実験プロトコル審査および承認に続いて施設内ガイドラインに従って実施できる。
【0334】
プロテインA結合。ヒトIgG結合では、Ni-NTA親和性カラムは、カラム緩衝液中200μgの精製タンパク質(SpAバリアント)を前充填することができる。洗浄後、200μgのヒトIgG(Sigma)をカラム上に充填することができる。タンパク質試料は洗浄液および溶出液から収集し、SDS-PAGEゲル電気泳動にかけ、続いてクーマシーブルー染色することができる。精製されたタンパク質(SpAバリアント)は、4℃で一晩、0.1Mの炭酸緩衝液(pH9.5)中1μg ml-1濃度で、MaxiSorp ELISAプレート(NUNC)上に被覆させることができる。次に、プレートは5%全乳でブロックし、続いて段階希釈のペルオキシダーゼコンジュゲートヒトIgG、FcまたはF(ab)2断片と一緒に1時間インキュベートすることができる。プレートは洗浄し、OptEIA ELISA試薬(BD)を使用して現像することができる。反応は1Mのリン酸でクエンチすることができ、A450読取り値を使用して最大半量力価およびパーセント結合を計算した。
【0335】
フォンウィルブランド因子(vWF)結合アッセイ。精製したタンパク質(SpAバリアント)は上記の通りに被覆しブロックすることができる。プレートは、ヒトvWFと一緒に1μg ml-1濃度で2時間インキュベートし、次に洗浄してヒトIgGでもう1時間ブロックすることができる。洗浄後、プレートは、ヒトvWFに対する、段階希釈のペルオキシダーゼコンジュゲート抗体と一緒に1時間インキュベートすることができる。プレートは洗浄し、OptEIA ELISA試薬(BD)を使用して現像することができる。反応は1Mのリン酸でクエンチすることができ、A450読取り値を使用して最大半量力価およびパーセント結合を計算することができる。阻害アッセイでは、プレートを、リガンド結合アッセイに先立って、SpAバリアントに特異的である親和性精製F(ab)2断片と一緒に10μg ml-1濃度で1時間インキュベートすることができる。
【0336】
脾細胞アポトーシス。親和性精製タンパク質(150μgのSpAバリアント)はBALB/cマウス(生後6週間、メス、Charles River Laboratories)の腹膜腔中に注射することができる。注射4時間後、動物はCO2吸入により死亡させた。その脾臓を摘出しホモジナイズすることができる。細胞片は細胞漉し器を使用して除去し、懸濁細胞はACK溶解緩衝液(0.15MのNH4Cl、10mMのKHCO3、0.1mMのEDTA)に移して赤血球を溶解することができる。白血球は遠心分離により沈降させ、PBSに懸濁し、氷上暗所で1時間、1対250希釈R-PEコンジュゲート抗CD19モノクローナル抗体(Invitrogen)で染色することができる。細胞は1%FBSで洗浄し、4℃で一晩4%ホルマリンに固定することができる。次の日、細胞はPBSに希釈し、フローサイトメトリーにより分析することができる。残りの臓器は組織病理学について調べることができる。手短に言えば、脾臓は室温で24時間10%ホルマリンに固定することができる。組織はパラフィンに包埋し、薄切片に切り分け、アポトーシス検出キット(Millipore)で染色し、光学顕微鏡で視診することができる。
【0337】
抗体定量化。血清は、健康なヒトボランティアまたはS.アウレウス(S.aureus)NewmanもしくはUSA300で30日間感染されているもしくは上記の通りSpAバリアントで免疫されているBALB/cマウスから収集することができる。ヒト/マウスIgG(Jackson Immunology Laboratory)、SpAバリアント、およびCRM197はニトロセルロース膜上にブロットすることができる。膜は5%全乳でブロックし、続いてヒトまたはマウス血清と一緒にインキュベートすることができる。IRDye 700DXコンジュゲート親和性精製抗ヒト/マウスIgG(Rockland)を使用すれば、Odyssey(商標)赤外線撮像装置(Li-cor)を使用してシグナル強度を定量化できる。ヒトボランティア由来の血液を用いた実験は、シカゴ大学の施設内審査委員会(IRB)の規制監督下で審査され、承認され実施されたプロトコルを含んでいた。
【0338】
統計分析。両側スチューデントt検定を実施すれば、腎膿瘍、ELISA、およびB細胞スーパー抗原データの統計的有意性を分析できる。
【0339】
これらのアッセイを使用して、本明細書に記載されるバリアント(例えば、
図12~15に示されるバリアント)を試験することができる。SPR分析などのさらなるアッセイを実施すれば、SpA、SpA/KKAAならびにSpA/KKAA/F(SpA
*31)対照と比べて、ヒトVH3-IgGおよびヒトVH3-IgEとの新しいSpAバリアントの結合親和性を決定することができる。製造可能性(大腸菌(E.coli)細胞ペースト1グラム当たりの精製SpA
*バリアントの収量)も試験することができる。CDスペクトル測定を実施すれば、SpAおよびSpA/KKAAと比べてα-ヘリックス含量を調べることができる。可変的な温度(1~7日間で4、25および37℃)での精製および貯蔵の間のタンパク質安定性も決定することができる。
【0340】
薬物安全性および有効性を試験するため、バジルヒスタミン放出アッセイを実施してもよい(
図16)。この試験は当技術分野では公知である(例えば、Kowal, K. et al., 2005. Allergy and Asthma Proc. Vol. 26, No. 6参照)。手短に言えば、ヒト血清および/または好塩基球を37℃で60分間インキュベートすることができる。ヒスタミン放出は、刺激を受けた細胞(SpAバリアントの添加により)および無刺激細胞から測定可能であり、その結果は、ヒスタミン放出として全ヒスタミン含量の百分率で表すことができる。一部の態様では、ヒスタミン放出>16.5%は児童でも成人患者でも陽性の検査結果である。
【0341】
[実施例3]
安全性が改善されたSPAワクチンバリアント
結果
SpAワクチン候補のGly29でのアミノ酸置換
発明者らは、ヒトIgGと、SpAKK、すなわち、SpAとFcγの間の相互作用を破壊するアミノ酸置換Gln9,10Lysも有する5種のIgBD(EDABC)との間の親和性の最大の減少を引き起こすSpA-IgBDのGly29位でのアミノ酸置換を実験的に特定しようと努めた(48)。この目標に向けて、発明者らは、N末端ポリヒスチジンタグ付きSpAQ9,10K/G29Xをコードし、Xが遺伝コードにより提供される19の天然のアミノ酸(グリシンを除く)のうちのいずれか1つである、19の異なるプラスミドを構築した。SpAQ9,10K/G29Xタンパク質は、Ni-NTA樹脂上の親和性クロマトグラフィーにより精製し、溶出させ、透析し、BCAアッセイにより濃度を決定し、等濃度(250nM)でBio-Rad ProteOn HTGchipに結合させた。それぞれのチップは、段階希釈のヒトIgGまたはPBS対照と一緒に表面プラズモン共鳴実験にかけた。ヒトIgGとチップ上に充填されたSpAワクチン候補の会合は記録され、データはそれぞれのタンパク質について会合定数を導き出すように変換された(表5)。対照として、発明者らは、ヒトIgGに対する野生型SpA(KA 1.081×108M-1)およびSpAKKAA(KA 5.022×105M-1)の会合定数を定量化した。SpAQ9,10K/G29Xタンパク質では、Gly29での4種のアミノ酸置換は会合定数の有意な増加を引き起こし、Gly29Ser(KA 9.398×105M-1)、Gly29Lys(KA 9.738×105M-1)、Gly29Ile(KA 10.070×105M-1)、およびGly29Ala(KA 11.310×105M-1)、これらのバリアントがヒトIgGのVH3-バリアント重鎖にSpAKKAAよりも堅固に結合したことを示唆している(表5)。SpAQ9,10K/G29Aについての知見は発明者らには驚きであった。市販の抗体精製(MabSelectSure(商標))用のZZZZ構築物中のGly29Ala置換はVH3-IgGへの結合を減少させ(150)、SpA-IgBD内のGln9,10Lysという状況でのGly29AlaはVH3-IgGに対する親和性の適度の増加を促進する可能性がある。SpAKKAAと比べた場合、Gly29での10のアミノ酸置換、Gly29Thr、Gly29Leu、Gly29Glu、Gly29Pro、Gly29Phe、Gly29Met、Gly29Val、Gly29Trp、Gly29Asp、Gly29Arg、Gly29Asn、およびGly29Tyrでの会合定数に有意差を引き起こさなかった(表5)。Gly29での別の3つのアミノ酸置換は、SpAKKAAと比べた場合、ヒトIgGに対する会合定数、Gly29His(Ka 1.435×105M-1)、Gly29Cys(Ka 1.743×105M-1)、およびGly29Gln(Ka 2.057×105M-1)を減らした(表4)。このように、Gly29でのアミノ酸置換は、ヒトIgGへのSpA-IgBDの結合に普遍的な効果を発揮しない。Gly29での一部のアミノ酸置換は、ヒトIgGとSpAQ9,10K/G29Xの間の親和性を増加し、他のアミノ酸置換は中性である(有意な効果を発揮しない)または親和性を減少させる。
【0342】
SpAワクチン候補のSer33でのアミノ酸置換
ヒトIgGとSpAKKの間の親和性の最大の減少を引き起こすSpA-IgBDのSer33位でのアミノ酸置換を特定するため、発明者らは、N末端ポリヒスチジンタグ付きSpAQ9,10K/S33Xをコードし、Xが遺伝コードにより提供される19の天然のアミノ酸(セリンを除く)のうちのいずれか1つである、19の異なるプラスミドを構築した。SpAQ9,10K/S33Xタンパク質は、Ni-NTA樹脂上の親和性クロマトグラフィーにより精製し、溶出させ、透析し、BCAアッセイにより濃度を決定し、等濃度(250nM)でBio-Rad ProteOn HTGchipに結合させた。それぞれのチップは、段階希釈のヒトIgGまたはPBS対照と一緒に表面プラズモン共鳴実験にかけた。ヒトIgGとチップ上に充填されたSpAワクチン候補の会合は記録され、データはそれぞれのタンパク質について会合定数を導き出すように変換された(表5)。Ser33での2つのアミノ酸置換はヒトIgGに対する親和性の増加を引き起こし、Ser33Gly(KA 11.180×105M-1)およびSer33Ala(KA 10.540×105M-1)、これらのバリアントがヒトIgGに対してSpAKKAAよりも大きな親和性を見せる(おそらく、VH3-バリアント重鎖に対する親和性の増加のせいで)ことを示している(表6)。Ser33Tyr、Ser33Leu、Ser33Trp、Ser33Val、Ser33His、Ser33Asn、Ser33Met、Ser33Arg、Ser33Asp、Ser33Phe、Ser33Gln、Ser33Pro、Ser33CysおよびSer33Lysでの、Ser33での14のアミノ酸置換は会合定数に有意差を引き起こさなかった(表5)。Ser33での3つのアミノ酸置換は、ヒトIgGおよびSpAQ9,10K/S33Xに対する親和性を減少させた、Ser33Thr(KA 0.386×105M-1)、Ser33Glu(KA 0.496×105M-1)、およびSer33Ile(KA 1.840×105M-1)(表6)。このように、Ser33での一部のアミノ酸置換は、ヒトIgGとSpAQ9,10K/S33Xの間の親和性を増加し、他のアミノ酸置換は中性である(有意な効果を発揮しない)またはヒトIgGとの会合を減少させる。IgG間の親和性を減少させるアミノ酸置換のうち、Ser33GluおよびSer33Thrが会合定数の最大の減少を見せる(表5)。
【0343】
SpAワクチン候補においてGly29、Ser33およびAsp36、37でアミノ酸置換を組み合わせる
Ser33での単一アミノ酸置換と比べた場合、IgBDのGly29位、Ser33位およびAsp36、37位でのアミノ酸置換の組合せはヒトIgGに対するさらなる親和性減少を引き起こすのだろうか、または複数の置換は2つのタンパク質間の親和性も増加することができる逆説的効果を発揮するのだろうか。この疑問に取り組むため、発明者らは、Ser33にアミノ酸置換を有する3種のタンパク質、SpAQ9,10K/S33E(減少した親和性)、SpAQ9,10K/S33F(影響を受けない親和性)、およびSpAQ9,10K/S33Q(影響を受けない親和性)とGly29および/またはAsp36、37に追加のアミノ酸置換を有するタンパク質の会合定数を比較した(表6)。SpAQ9,10K/S33E(KA 0.496×105M-1)では、加えられた置換Gly29Ala(KA 1.265×105M-1)、Gly29Phe(KA 1.575×105M-1)、Asp36、37Ala(KA 0.568×105M-1)、Gly29Ala/Asp36、37Ala(KA 1.892×105M-1)、またはGly29Arg(KA 4.840×105M-1)で追加の効果は観察されなかった。しかし、Asp36、37AlaとGly29Phe(KA 14.850×105M-1)またはGly29Arg(KA 10.240×105M-1)の組合せは、ヒトIgGに対するSpAQ9,10K/S33Eの親和性を増やした(表7)。会合定数がSpAKKAAの会合定数とは有意差がないSpAQ9,10K/S33F(KA 3.902×105M-1)について分析すると、発明者らは類似の効果を観察した。Asp36、37AlaがヒトIgGに対する親ワクチンの親和性をここで再び増やしたGly29Phe(SpAQ9,10K/S33Q/D36,37A/Gly29F KA 12.470×105M-1)のいずれかと組み合わされた場合を除いて、置換のどれもヒトIgGに対するSpAQ9,10K/S33Fの親和性を変更しなかった(表7)。このように、SpA-IgBDのGly29、Ser33およびAsp36、37でのアミノ酸置換を組み合わせてもヒトIgGに対する親和性を予想通りに減少しない。それぞれの場合で、組換えSpAワクチン候補の親和性は実験的に判定する必要がある。
【0344】
SpA-KRは、IgBDのEドメインに2つの追加のアミノ酸置換を有するSpAKKAAのバリアントであり、このドメインは、アミノ酸配列ADAQQNを有する6つの残基N末端伸長を有している(国際公開第2015/144653号)。発明者ら、Fabio Bagnoli、Luigi FiaschiおよびMaria Scarselli(Glaxo-SmithKline INC.)は、SpAKKAAのEドメインのヘキサペプチド伸長での2つのグルタミン(QQ)残基が、これらの残基が免疫グロブリンにどこで結合するか、すなわち、FcγまたはVH3重鎖を特定しないし、そのような結合についての実験照明を提供せずにヒトIgGに対する追加の結合部位を占める可能性があると推測した。ヒトIgGへのその親和性について分析すると、SpA-KRの会合定数(KA 5.464×105M-1)はSpAKKAAの会合定数と有意差はなく、SpA-KRがVH3-IgGに対して架橋活性も見せる可能性があることを示唆している(表7)。SpARRVVは、欧州特許出願公開第3101027号(OLYMVAX INC.)に記載されているSpAワクチンバリアントである。SpAKKAAに類似して、SpARRVVはSpAの5つのIgBDのそれぞれのGln9,10およびAsp36,37にアミノ酸置換を有するが、置換ではGln9,10をアルギニン(ArgまたはR)で、Asp36,37をバリン(ValまたはV)で置き換える。ヒトIgGへのその親和性について分析すると、SpARRVVの会合定数(KA 5.609×105M-1)はSpAKKAAの会合定数に類似しており、SpARRVVがVH3-IgGに対して架橋活性も見せる可能性があることを示唆している(表7)。
【0345】
ヒトIgGのVH3イディオタイプおよびFab断片に対するSpAワクチンバリアントの架橋活性
SpAワクチンの臨床開発のための重要な安全性問題は、好塩基球およびマスト細胞の表面上でVH3イディオタイプIgEおよびIgGとの架橋活性を欠くことであり、そうでなければこれはヒスタミン放出およびアナフィラキシーの引き金を引く(140、142、145)。SpAワクチン候補のVH3架橋活性を定量化するため、発明者らは、パパインで切断された精製ヒトIgG(54%のVH3イディオタイプバリアント重鎖)およびSpAKK上での親和性クロマトグラフィーを使用して精製されたVH3クローンFab断片を使用した(75)(表8)。SpAおよびそのバリアントを用いて親和性測定のために表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して調べると、野生型プロテインA(SpA)のIgBDは強力な架橋活性を見せた(KA 1.44×107M-1、表8)。VH3-Fabに対する親和性は、SpAKKAA(KA 8.27×104M-1)、およびSpA-KR(KA 6.42×104M-1、)では減少したが、両バリアントはSpAQ9,10K/S33E(KA 41.24M-1)およびSpAQ9,10K/S33T(KA 43.55M-1)と比べた場合、有意な架橋活性を保持した(表8)。SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、PBS対照(すなわち、リガンドが添加されない場合に得られる値)に類似する結合特性を見せた。このように、アミノ酸置換Ser33GluおよびSer33Thrは、それぞれワクチン候補SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33TでVH3-IgEおよびVH3-IgG架橋活性をなくしてしまう。
【0346】
SpAワクチンバリアントのFcγ結合活性
Deisenhoferは、ヒトFcγに結合しているSpA Bドメイン(IgBD-B)の結晶構造を解析し、2つの分子間の境界面を特定した(154)。4つの水素結合がSpA(Bドメイン番号付け、
図20B)とFcγの間の相互作用、Gln
9(IgG Ser
254)、Gln
10(IgG Gln
311)、Asn
11(IgG Asn
434)およびTyr
14(IgG Leu
432)を促進する(54)。これらのBドメイン残基は5つのIgBDすべてにおいて保存されており(
図20)、Fcγ結合の普遍的な機構を暗示している(43)。以前の研究では、IgBD-DでのまたはSpAの5つのIgBDすべてでのGln
9,10Lys置換が、ヒト、マウスおよびモルモットIgG FcγへのSpA
kk(SpA
Q9,10K)結合を減らすことが明らかにされた(76、43)。新たに操作により作製されたSpAワクチンバリアントSpA
Q9,10K/S33EおよびSpA
Q9,10K/S33Tはその5つのIgBDにGln
9,10Lysアミノ酸置換を保持するので、発明者らは、これらのバリアントがヒトFcγへの結合で有意な欠損も見せるはずであると推測した。この推測を確かめるため、発明者らは、パパインで切断された精製ヒトIgGおよびこうして得られた精製されたFcγ断片を使用した(表9)。SpAおよびそのバリアントを用いた親和性測定に生体層干渉計(BLI)を使用して調べた場合、野生型プロテインAのIgBDはFcγに対して高親和性を見せた(K
A 5.17×10
7M
-1)。Fcγ結合活性は、それぞれSpA
KKAA(K
A 32.68M
-1)、SpA-KR(K
A 39.12M
-1)、SpA
Q9,10K/S33E(K
A 32.68M
-1)およびSpA
Q9,10K/S33T(K
A 39.91M
-1)に対しては消失した。このように、Ser
33GluおよびSer
33Thr置換は、SpA
Q9,10K/S33EおよびSpA
Q9,10K/S33Tのヘリックス1でのFcγ結合に対するGln
9,10Lysの効果を乱さない(表9)。
【0347】
SpAワクチン候補のアナフィラキシー活性についてのマウスモデル
臨床および実験研究によれば、血管透過性亢進はアナフィラキシーの顕著な特徴であることが明らかになっている(155、156)。活性化されたマスト細胞または好塩基球は、ヒスタミンおよび血小板活性化因子を含む血管作動性媒体を放出し、この媒体が血管拡張および内皮バリア崩壊を引き起こすことにより血管透過性亢進のアナフィラキシー応答を誘導する(156)。これらのイベントはアナフィラキシー血管透過性亢進のマウスモデルにおいて、2μgのヒトV
H3イディオタイプIgGの皮内注射を経て24時間前に刺激を与えた実験部位(耳組織)で静脈内投与色素、エバンスブルーの血管外漏出として測定可能である(157)。耳組織へのエバンスブルーの血管漏出は引き続いて5頭の動物のコホートにおいて定量化され(ng色素/mg組織)、平均と標準偏差(SD)が計算され、データは統計的有意差について解析される。野生型C57BL/6マウスの血漿は、V
H3イディオタイプバリアント重鎖を有する免疫グロブリンを5~10%だけ含有する(48)。この理由で、マウスは、モルモット(20~30%のV
H3イディオタイプバリアント重鎖)とは違って、SpA誘導アナフィラキシーショックに抵抗性である(140)。したがって、発明者らは、その研究用にμMTマウスを選んだ。この動物は機能的なIgM B細胞受容体を欠き、プレB細胞段階でB細胞発生を止め、血漿IgGを産生することができない(158)。μMTマウスは、耳組織中への2μgのヒトV
H3イディオタイプIgGの皮内注射のためのレシピエントとして使用した。24時間後、200μgのSpA、SpAワクチンバリアントまたは緩衝液対照(PBS)をマウスの静脈内に注射した。SpA処置の5分後、2%のエバンスブルー液をマウスの静脈内に注射して、耳組織での血管透過性を評価した。30分後、動物は安楽死させ、耳組織を切除し、乾燥させて、色素の分光測光定量用にホルムアミドで抽出した。PBS対照[34.73(±)8.474ngエバンスブルー/mg耳組織]と比べて、SpA処置はアナフィラキシー血管透過性亢進を引き起こし、124.9ng/mg(±26.54ng/mg)エバンスブルーを放出した(PBS対SpA、P<0.0001)(
図22)。ヒトV
H3-IgGの皮内注射により前処置された動物コホートでは、SpA
KKAAの静脈内投与も血管透過性亢進を引き起こした[70.31ng/mg(±23.04ng/mg);PBS対SpA
KKAA、P<0.01]が、野生型SpAよりもレベルは低かった(SpA対SpA
KKAA、P<0.0001)(
図22)。これとは対照的に、200μgのSpA
Q9,10K/S33E[38.57ng/mg(±15.07ng/mg);SpA
Q9,10K/S33E対PBS、有意ではなかった]またはSpA
Q9,10K/S33T[41.43ng/mg(±13.15ng/mg);SpA
Q9,10K/S33T対PBS、有意ではなかった]の静脈内投与は、μMTマウスでV
H3イディオタイプヒトIgGで処置された部位では血管透過性亢進を誘発しなかった(
図22)。比較として、SpA-KRワクチン候補は、SpA
KKAAのアナフィラキシー血管透過性亢進に類似するアナフィラキシー血管透過性亢進を誘発した(
図22)。このように、マスト細胞および好塩基球上の活性化FcεRIまたは他のエフェクター細胞上のFcγRに結合しているV
H3イディオタイプIgGに架橋することにより血管透過性亢進の引き金を引くSpAおよびSpA
KKAAとは違って、SpA
Q9,10K/S33EおよびSpA
Q9,10K/S33Tは、V
H3イディオタイプIgGに架橋してμMTマウスのV
H3イディオタイプヒトIgGで前処置された部位でアナフィラキシー反応を促進することはできない。
【0348】
VH3-IgEのSpAワクチン候補架橋
好塩基球およびマスト細胞はアナフィラキシー応答の2つの主要なエフェクター細胞であり、そのFcεRI表面受容体上にIgEが抗原媒介架橋すると炎症促進性メディエーターを分泌する。SpAを大量にまたは可溶性精製SpAを発現するS.アウレウス(S.aureus)Cowan I株は好塩基球を活性化してヒスタミン放出を誘導することができる。この刺激効果は、プロテインAのFab結合活性に依存している(145)。好塩基球の表面に結合している循環IgEまたはIgGとのSpAワクチン候補の潜在的架橋効果を研究するため、PBSに精製されたワクチンバリアントを30分間EDTAで抗凝固剤処置した新たに引き出したヒト血液に添加した。野生型SpAは陽性対照として使用した。PBSは陰性対照として使用した。細胞は、抗CD123、抗CD203c、抗HLA-DR(樹状細胞および単球の除去)および抗CD63で染色した。好塩基球は、SSClowCD203c+/CD123+/HLA-DR-細胞についてゲート開閉することにより同定した。CD123好塩基球活性化は、CD63の割合として表され、陰性および陽性対照について補正された。PBS対照(4.39%活性化好塩基球)と比べると、SpAまたはSpAKKAA処置は、CD63+活性化好塩基球集団の有意な増加、それぞれ32.05%(PBS対SpA、P<0.0001)および10.66%(PBS対SpAKKAA、P<0.01)を引き起こした(表10)。SpAKKAAとは対照的に、SpAQ9,10K/S33E[5.38%;SpAQ9,10K/S33T対SpAKKAA、P<0.05]またはSpAQ9,10K/S33T[4.57%;SpAQ9,10K/S33T対SpAKKAA、P<0.01]は、好塩基球を活性化できず、PBS対照に類似するふるまいをした(表10)。このアッセイでは、SpA-KR[8.15%]およびSpARRVV[10.16%]ワクチン候補は、SpAKKAAに類似する好塩基球活性化を示した。このように、SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、血液中の循環IgEに架橋できず、高親和性受容体FcεRIに結合することにより好塩基球を感作できない。SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tと違って、SpAKKAA、SpA-KRおよびSpARRVVワクチン候補は、望ましくない全身的アナフィラキシー反応を開始するIgE架橋に対する有意な活性を保持する。
【0349】
マスト細胞機能応答は、抗原トリガードβ-ヘキソサミニダーゼおよびヒスタミン放出により測定された。ヒトマスト細胞系LAD2はこのアッセイのために使用された。マスト細胞(2×10
5細胞/ml)は、SpAワクチンバリアント(10μg)を用いた30分間の刺激に先立って100ng/mlのV
H3 IgEと一緒の一晩インキュベーションに続いて感作され、β-ヘキソサミニダーゼ放出(
図23A)またはヒスタミン放出(
図23B)が測定された。野生型SpAと一緒のインキュベーションはβ-ヘキソサミニダーゼ放出の約35%を誘導した。SpA
KKAAおよびSpA-KRワクチンは、それぞれβ-ヘキソサミニダーゼ放出の10.32%および9.87%を引き起こし、有意差はなかった(SpA-KR対SpA
KKAA、有意ではなかった)。これらの減少は、SpA野生型と比べた場合は有意であった(SpA対SpA
KKAA、P<0.0001;SpA対SpA-KR、P<0.0001)。それにもかかわらず、SpA
KKAAおよびSpA-KRワクチンは、陰性対照レベルよりも上のβ-ヘキソサミニダーゼ放出活性を保持する(SpA
KKAA対PBS、P<0.0001;SpA-KR対PBS、P<0.0001)(
図23A)。比較では、SpA
Q9,10K/S33E[6.46%;SpA
Q9,10K/S33E対SpA
KKAA、P<0.01]およびSpA
Q9,10K/S33T[4.43%;SpA
Q9,10K/S33T対SpA
KKAA、P<0.0001]が引き起こしたβ-ヘキソサミニダーゼ放出は、SpA
KKAAと比べた場合、有意に少なかった。SpA
Q9,10K/S33EおよびSpA
Q9,10K/S33Tは、PBS対照に類似するβ-ヘキソサミニダーゼ放出を見せた(
図23A)。
【0350】
ヒスタミン放出を評価した場合、類似する結果を得た(
図23B)。SpAは最も高いレベルのヒスタミン放出を刺激し、SpA
KKAAおよびSpA-KRワクチンは、PBS対照レベルよりも上のヒスタミン放出活性を保持し、SpA
Q9,10K/S33EおよびSpA
Q9,10K/S33Tの両方は陰性対照PBSに似た振る舞いをした[SpA対PBS、またはSpA
KKAA、またはSpA-KR、またはSpA
Q9,10K/S33E、またはSpA
Q9,10K/S33T、P<0.0001;SpA
KKAA対SpA-KRまたはSpA
Q9,10K/S33E、有意ではなかった;SpA
KKAA対SpA
Q9,10K/S33TまたはPBS、P<0.05;SpA
Q9,10K/S33T対SpA-KR、P<0.01]。
【0351】
結論として、SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、VH3イディオタイプIgEで感作したマスト細胞を活性化する能力を失っており、ヒト臨床試験に適した安全性プロファイルを有するワクチン候補を表す。
【0352】
S.アウレウス(S.aureus)定着モデルにおけるSpAワクチン候補の免疫原性および有効性
アジュバント単独(モック)で免疫されたC57BL/6マウスのコホートと比べると、SpA
KKAAまたはSpA
Q9,10K/S33EまたはSpA
Q9,10K/S33Tを用いた免疫化はSpA中和抗体を産生した(
図25A)。予想通り、SpA
KKAA免疫化は、鼻腔内定着の21日後に開始して、C57BL/6マウスの上咽頭および消化管からのS.アウレウス(S.aureus)WU1の脱定着を誘導した(
図24A、24B、24C)。さらに、脱定着マウスでは、SpA
KKAA免疫化は、S.アウレウス(S.aureus)脱定着と関連がある病原菌特異的IgG(抗ClfB、抗IsdA、抗IsdB、および抗SasGを含む)抗体の増加と関連があった[(102)およびデータは示さず]。SpA
Q9,10K/S33Eを用いたC57BL/6マウスの免疫化に続いて類似する結果が観察された。モック対照と比べると、SpA
Q9,10K/S33Eワクチン接種は、SpA
KKAAワクチン接種と類似してC57BL/6マウスの上咽頭および消化管からのS.アウレウス(S.aureus)WU1の脱定着を促進した(
図24B、24C)。脱定着したマウスでは、SpA
Q9,10K/S33Eワクチン接種は、病原菌特異的IgG(抗ClfB、抗IsdA、抗IsdB、抗SasGを含む、データは示さず)の増加と関連があった。SpA
KKAA免疫動物と比べると、SpA
Q9,10K/S33Eワクチン接種は、類似するレベルのS.アウレウス(S.aureus)脱定着を誘発し、2種のワクチンがマウス定着モデルでは類似する保護効率を見せることを示唆している。SpA
Q9,10K/S33Tワクチン接種は、SpA
KKAAおよびSpA
Q9,10K/S33Eワクチン接種に類似するレベルのS.アウレウス(S.aureus)脱定着を誘発した(データは示さず)。動物のコホートが、SpA
KKAAまたはSpA
Q9,10K/S33EまたはSpA
Q9,10K/S33Tと同じ日に免疫された場合、おおよそ50%の動物が上咽頭および消化管で脱定着し、アジュバント単独(モック)を受けた動物はすべて定着したままであった(
図24D、24E)。このデータは、3種の候補ワクチンすべてがS.アウレウス(S.aureus)の定着モデルでは類似した機能をすることをさらに実証している。
【0353】
S.アウレウス(S.aureus)血流感染のマウスモデルでのSpAワクチン候補の有効性
以前の研究により、SpA
KKAAを用いたBALB/cマウスの免疫化が、静脈内MRSA USA300 LAC血流チャレンジおよび腎組織における膿瘍病変のその後の形成から動物を保護するSpA特異的抗体を誘発することが実証された(43)。モック(アジュバント単独)免疫マウスと比べて、SpA
KKAA、SpA
Q9,10K/S33EまたはSpA
Q9,10K/S33Tでの免疫化は、SpA
KKAAに対する、SpA
Q9,10K/S33Eに対するまたはSpA
Q9,10K/S33Tに対する有意に高い力価抗体を誘発した(
図25A)。BALB/cマウスにおいてSpA
KKAA免疫化により誘導されるSpA特異的抗体力価は、SpA
Q9,10K/S33EまたはSpA
Q9,10K/S33Tについて分析されるよりもSpA
KKAAについてELISAにより分析される場合のほうが有意に高かった(SpA
KKAA対SpA
Q9,10K/S33E、P<0.0001;SpA
KKAA対SpA
Q9,10K/S33T、P<0.0001)。類似する方法で、BALB/cマウスにおいてSpA
Q9,10K/S33E免疫化により誘導されるSpA特異的抗体力価は、SpA
KKAAまたはSpA
Q9,10K/S33Tについて分析されるよりもSpA
Q9,10K/S33EについてELISAにより分析される場合のほうが有意に高く(SpA
KKAA対SpA
Q9,10K/S33E、P<0.001;SpA
Q9,10K/S33E対SpA
Q9,10K/S33T、P<0.05)、BALB/cマウスにおいてSpA
Q9,10K/S33T免疫化により誘導されるSpA特異的抗体力価は、SpA
KKAAまたはSpA
Q9,10K/S33Eについて分析されるよりもSpA
Q9,10K/S33TについてELISAにより分析される場合のほうが有意に高かった(SpA
KKAA対SpA
Q9,10K/S33T、P<0.05;SpA
Q9,10K/S33E対SpA
Q9,10K/S33T、P<0.05)(
図25A)。これらの結果は、BALB/cマウスでのSpA
Q9,10K/S33EおよびSpA
Q9,10K/S33Tワクチン接種により産生される抗体のエピトープのすべてではないが一部は、SpA
KKAAワクチン接種により産生される抗体のエピトープとは異なっており、逆の場合も同じであることを示唆している。以前報告されたように(43)、モック免疫マウスと比べて、SpA
KKAAワクチン接種は、BALB/cマウスでのMRSA USA300 LACの細菌負荷および膿瘍病変の数を減らした(
図25B、P<0.0001)。SpA
Q9,10K/S33EおよびSpA
Q9,10K/S33Tワクチン接種は、SpA
KKAAワクチン接種と比べて、MRSA USA300 LAC血流感染に対する類似する保護を生じた。モック免疫動物と比べて、SpA
Q9,10K/S33EおよびSpA
Q9,10K/S33T免疫化は、BALB/cマウスでの細菌負荷および膿瘍病変の数を減らした(
図25C、P<0.0001)。このように、SpA
Q9,10K/S33EおよびSpA
Q9,10K/S33Tワクチン接種は、SpA
KKAAワクチン候補について以前報告されたように、マウスにおけるMRSA USA300 LAC血流感染および関連する膿瘍形成に対する類似する保護を誘発する(43)。
【0354】
SpA中和モノクローナル抗体3F6へのSpAワクチン候補の結合
マウスハイブリドーマモノクローナル抗体(hMAb)3F6(IgG2a)は、SpA
KKAA免疫BALB/cマウス由来の脾細胞を使用して産生した(84)。hMAb 3F6の遺伝子はシーケンシングし、HEK293 F細胞からの組換えrMAb 3F6の精製用の発現ベクター中にクローニングした(146)。hMAb3F6とrMAb 3F6の両方が、5種のSpA IgBD(E、D、A、B、およびC)のそれぞれの三重らせん折り畳みに結合し、ヒトIgGまたはIgMに結合するその能力を中和する(84、146)。hMAb3F6またはrMAb 3F6の5mg/kgの用量での静脈内投与は、S.アウレウス(S.aureus)血流感染関連腎膿瘍形成および細菌複製(細菌負荷)からBALB/cマウスを保護する(84、146)。さらに、C57BL/6マウスにrMAb 3F6(5mg/kg)を静脈内投与すると、前定着動物の上咽頭および消化管からのS.アウレウス(S.aureus)WU1脱定着を誘導する(146)。ここで発明者らは、モノクローナル抗体が導き出されてきた同族抗原であるSpA
KKAAに類似する親和性で、rMAb 3F6がSpA
Q9,10K/S33EまたはSpA
Q9,10K/S33Tに結合するのかどうかを問うた(84)。rMAb 3F6のリガンドおよび段階希釈物の固定濃度でELISAにより測定した場合、発明者らは、SpAワクチン候補への結合についてのSpA
KKAA(K
a 1.51×10
10M
-1)、SpA
Q9,10K/S33E(K
a 1.42×10
10M
-1)およびSpA
Q9,10K/S33T(K
a 1.34×10
10M
-1)の親和定数を引き出した(
図26)。これらのデータは、アミノ酸置換Ser
33GluおよびSer
33ThrがSpA中和rMAb 3F6の結合に影響を与えないことを示唆している。さらに、アミノ酸置換Ser
33GluおよびSer
33Thrは、rMAb 3F6の結合により定義される保護的SpAエピトープを破壊しない。
【0355】
考察
発明者らは、S.アウレウス(S.aureus)ワクチン候補であるSpAKKAAおよびSpA-KRが、ヒトIgGのF(ab)2断片をリガンドとして使用した場合、VH3イディオタイプ免疫グロブリンへの有意な結合を保持することをここで明らかにしている。VH3-IgGで被覆されたヒトマスト細胞(LAD2細胞)を用いて分析した場合、β-ヘキソサミニダーゼおよびヒスタミンの放出により測定すると、SpAKKAAおよびSpA-KRはVH3-Ig架橋の引き金を引く(145)。アナフィラキシー血管透過性亢進のマウスモデルでは、そのようなヒスタミン放出の生物学的効果は、μMTマウスにおけるVH3-IgG投与の解剖学的部位でエバンスブルー色素血管外漏出として測定可能であった。まとめると、これらの知見は、ヒトにおけるアナフィラキシー反応の潜在的活性化因子としてのSpAワクチン候補の安全性についての懸念をもたらす。
【0356】
SpAワクチンへの懸念に取り組むため、発明者らは、改善された安全性プロファイルを有する2種の新たな抗原、SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tを操作により作製した。SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、VH3イディオタイプ免疫グロブリンに対する親和性を欠き、VH3-IgE被覆ヒトマスト細胞からのヒスタミン放出に対して減少した活性を示すまたは活性を全く示さず、μMTマウスにおけるVH3-IgG注射への応答でエバンスブルー色素血管外漏出を促進しない。SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33TでBALB/cマウスを免疫化すると、SpAKKAAに類似するレベルのSpA特異的IgG応答を誘発した。マウスモデルでワクチン有効性について分析すると、SpAQ9,10K/S33EまたはSpAQ9,10K/S33Tでのワクチン接種は、S.アウレウス(S.aureus)定着または侵襲性血流感染に対してSpAKKAAワクチンに類似するレベルの保護を与えた(43)。さらに、アミノ酸置換Ser33GluおよびSer33Thrは、S.アウレウス(S.aureus)定着-および侵襲性疾患保護モノクローナル抗体3F6により定義される保護的IgBDエピトープを乱さない(84、146)。これらの知見に基づいて、発明者らは、S.アウレウス(S.aureus)ワクチン候補であるSpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tが、S.アウレウス(S.aureus)定着および侵襲性疾患に対する臨床安全性および有効性試験用の臨床グレードワクチンとしての開発に適している可能性があると仮定している。
【0357】
材料および方法
細菌株および増殖条件。S.アウレウス(S.aureus)株USA300(LAC)およびWU1は37℃でトリプシンソイブロス(TSB)またはトリプシンソイ寒天(TSA)において増殖させた。大腸菌(Escherichia coli)株DH5αおよびBL2l(DE3)は、組換えタンパク質の産生のために100μg/mlのアンピシリンおよび1mMのイソプロピルβ-d-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を有する溶原性ブロス(LB)培地において37℃で増殖させた。
【0358】
SpAバリアントの構築。SpAバリアントのコード配列はIntegrated DNA Technologies、Incにより合成された。配列およびプラスミドpET15b+は、それぞれNdeIおよびBamHIにより消化した。次に、2つの消化された産物はライゲートされて大腸菌(Escherichia coli)DH5α中に形質転換され、N末端ヘキサヒスチジン(His6)タグ付き組換えタンパク質を発現するクローンを生み出した。候補クローンはDNAシーケンシングにより確かめられた。適切なプラスミドは、SpAバリアント候補の産生のために大腸菌(E.coli)BL21(DE3)中に形質転換された。
【0359】
タンパク質の精製。アンピシリンおよびIPTGを補充されたLBで600nmでの吸光度(A600)2.0まで増殖させた大腸菌(E.coli)の培養物(2リットル)を遠心分離した(10,000×gで10分間)。沈殿した細胞は緩衝液A(50mMのTris-HCl[pH7.5]、150mMのNaCl)に懸濁し、得られた懸濁液は14,000lb/in2のフレンチプレス(Thermo Spectronic、Rochester、NY)で溶解した。壊れていない細胞は遠心分離(5,000×gで15分間)により取り除き、粗溶菌液は超遠心分離(4℃、100,000×gで1時間)にかけた。可溶性組換えタンパク質は、緩衝液Aで前平衡化された1mlの充填容積を有するNi-NTAアガロース(QIAGEN)上で重力流動によりクロマトグラフィーにかけた。カラムは、20総容積の緩衝液A、10mMのイミダゾールを含有する20総容積の緩衝液Aで洗浄し、500mMのイミダゾールを含有する6mlの緩衝液Aで溶出させた。溶出画分のアリコートは等容積の試料緩衝液と混合し、15%のドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)ゲル上で分離させた。組換えタンパク質はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して透析し、その濃度はビシンコニン酸アッセイ(Pierce)を用いて決定した。動物での免疫化研究ではおよび細胞系と一緒のインキュベーションでは、組換えタンパク質調製物は、エンドトキシン除去スピンカラム(Pierce)にかけて汚染LPSを除去した。試料純度は、トキシンセンサーTM発色性LALエンドトキシンアッセイキット(Genscript)を用いて試験した。
【0360】
抗体の精製。VH3 IgGを精製するため、全ヒト血液を使用して調製したヒト血漿(20ml)をプロテインG樹脂上の親和性クロマトグラフィー(Genscript)にかけて、ヒトIgM、IgDおよびIgAを取り除く。プロテインG樹脂から溶出した免疫グロブリンは、第2の親和性クロマトグラフィー、VH3 IgGについて濃縮するSpAkk結合樹脂にかけた[SpAkkはIgGのFcγドメインに結合できない(48)]。プロテインG樹脂およびSpAkk結合樹脂は、20カラム容積のPBSおよび0.1MのグリシンpH3.0で溶出させた結合タンパク質で洗浄し、1MのTris-HCl、pH8.5で中和し、PBSに対して一晩透析した。VH3 IgE精製では、ヒト細胞系HEK293FをpVITRO1-トラスツズマブ-IgE-κの一過性発現のために使用した。細胞は、10%のFCS、2mMのグルタミン、ペニシリン(5,000U/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)を有するDMEM/HIGH GLUCOSE培地で増殖させた。PEIを使用してpVITRO1-トラスツズマブ-IgE-κをトランスフェクトした細胞は、5%CO2雰囲気において37℃でインキュベートした。IgEの安定な発現のため、細胞はFreestyle293培地で7日間培養し、12000×gで20分間収穫した。上澄みは、2mlのプロテインL樹脂(Genscript)上で精製した。樹脂は20カラム容積のPBSおよび0.1MのグリシンpH3.0で溶出させた結合VH3 IgEで洗浄し、1MのTris-HCl、pH8.5で中和し、PBSに対して一晩透析した。
【0361】
表面プラズモン共鳴(SPR)。表5、6、7および9に示されるSPR実験は、ProteOn HTGチップを用いてProteOn(商標)XPR36上で実施した。泳動用緩衝液は0.05%のTween-20を有するPBSである。センサーチップ表面は、それぞれ2mMの硫酸ニッケルで活性化し、300mMのEDTAで再生した。500nMの試験物(SpA野生型およびバリアント)は流量25μl/分で固定した。野生型SpAとの相互作用を測定するため、リガンド(精製免疫グロブリン)を500、400、300、200および100nMの濃度で使用した。SpAバリアントとの相互作用を測定するため、リガンドは4、3、2、1および0.5μMの濃度で使用した。会合および解離速度は、30μl/分の連続流量で測定し、二状態反応モデルを使用して分析した。会合定数は3つの独立した実験から決定した。
【0362】
バイオレイヤー干渉法(BLI)。表9に示されるBLI実験は、BLItzバイオレイヤー干渉法を使用して実施した。試験候補(25~50nM)は、Ni-NTAセンサー上に120秒間固定した。センサーはPBSで80秒間平衡化し、20、15、10、および0μMの濃度でリガンドを含有する溶液中に120秒間浸漬し(会合段階)、続いてPBS中に120秒間浸漬した(解離段階)。データは、BLIデータ収集ソフトウェア9.0(ForteBIO)を使用して取得し、データ解析ソフトウェア9.0.0.14(ForteBIO)を使用して解析した。報告された会合値は曲線フィットモデルから計算した。
【0363】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)。マイクロタイタープレート(NUNC MaxiSorp)に、精製した抗原を用いて、0.1M炭酸緩衝液(pH9.5)中1μg/mlで(試験血清中の抗体力価を測定するため)または0.5μg/mlで(3F6抗体との相互作用を測定するため)4℃で一晩被覆した。ウェルは、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートマウスまたはヒトIgG(1μg/ml、Jackson ImmunoResearch)とのインキュベーションに先立って試験血清または3F6抗体でブロックし、インキュベートした。すべてのプレートは、マウスHRPコンジュゲート二次抗体特異的(Fisher Scientific)と一緒にインキュベートし、OptEIA試薬(BD Biosciences)を使用して現像した。最大半量力価はGraphPad Prismソフトウェアを用いて計算した。会合定数は、GraphPad Prismソフトウェアでの非線形回帰(曲線フィット)モデルから計算した。すべての実験は3通り実施して、平均および平均値の標準偏差を計算し、再現性のために繰り返した。
【0364】
μMTマウスでのアナフィラキシー応答。μMT突然変異を有するマウスはJackson Laboratoryから購入し、シカゴ大学で飼育した。群当たり5頭の生後6週間メスマウスのコホートは、VH3 IgG(20μlのPBS中2μg)の耳への皮内注射により感作し、24時間後、ケタミン-キシラジン(100mg~20mg/kg)での麻酔下で右目の眼窩周囲静脈洞中にPBS、SpAまたはそのバリアント(100μlのPBS中200μg)を静脈内注射した。試験物での5分間刺激に続いて、動物は左目の眼窩周囲静脈洞中に2%エバンスブルーを100μl静脈内注射した。動物は死亡させ、耳を解体して、乾燥させ65℃で24時間ホルムアミド中に抽出した。耳組織でのエバンスブルーの血管外漏出(血管透過性)は、620nmでの吸光度を測定することにより定量化した。
【0365】
ヒト好塩基球活性化実験。血液(10ml)は健康なドナーから入手し、直ちに1mlのEDTA 0.1M、pH7.5と混合した。SpA野生型またはワクチン候補バリアント(1μg)またはPBSを1mlのEDTA血液アリコートに添加し、試料は37℃で1時間回転させながらインキュベートした。試料アリコートは、RBC溶解緩衝液(Biolegend)で処置し、遠心分離し(350×g)、上澄みは破棄した。ペレット状の細胞は冷PBSで洗浄し、室温暗所での10分間の抗CD123-FITC、抗HLA-DA-PerCP、抗CD63-PE、および抗CD203c-APC(Biolegend)での染色のために5%のFBSを有するPBSに再懸濁した。染色された試料はすべてBD LSRII3-8(BD Biosciences)を使用して分析した。全好塩基球数は、SSClow/CD203c+/CD123+/HLA-DR細胞からゲート開閉することから得て、活性化された好塩基球はCD63+CD203c+プールから選択された。実験は3通り実施し、異なる健康なドナーを使用して少なくとも3回繰り返した。
【0366】
マスト細胞脱顆粒。ヒトマスト細胞(LAD2)[NIAIDのDr.Kirshenbaumにより快く提供された]は、37℃、5%CO2雰囲気で一晩2×105細胞を100ngのVH3 IgEと一緒にインキュベートすることにより感作された。細胞は収穫され、0.04%のウシ血清アルブミン(BSA)を含有するHEPES緩衝液で2回洗浄して、遊離のIgEを取り除いた。細胞は同じ緩衝液に2×105細胞/mlの濃度で懸濁し、βヘキソサミニダーゼおよびヒスタミン放出についてアッセイする前30分間SpAまたは試験物で刺激した。細胞は沈降させ、使用済みの培地は新しいチューブに移し、ペレット状の細胞は0.1%のTritonX-100で溶解した。使用済みの培地中のβヘキソサミニダーゼ活性、およびTritonX-100溶解細胞は、発色性基質pNAG(Sigmaから入手したp-ニトロフェニル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、pH4.5で最終濃度3.5mg/ml)を添加し90分間おくことにより測定した。反応は、0.4MのグリシンpH10.7の添加によりクエンチし、λ=405nmでの吸光度を記録した。結果は、総量(使用済み培地+TritonX-100溶解細胞)に対する使用済みの培地中に放出されたβヘキソサミニダーゼの百分率として表された。実験は3通り実施し、少なくとも3回繰り返した。ヒスタミンはEnzyme Immunoassay(SpiBio Bertin Pharma)を使用して測定した。手短に言えば、マイクロタイタープレートのウェルをマウス抗ヒスタミン抗体で被覆し、実験抽出物と混合したトレーサー(ヒスタミンに連結されたアセチルコリンエステラーゼ)と一緒に24時間インキュベートした。プレートは洗浄し、エルマン試薬(アセチルコリンエステラーゼ基質)をウェルに添加した。生成物形成は、412nmでの吸光度を記録することにより検出した。412nmでの吸光度はウェルに結合しているトレーサーの量に比例しており、実験抽出物中に存在するヒスタミンの量に反比例する。すべての試料は2通り実施した。
【0367】
マウスの能動免疫化。動物BALB/cまたはC57BL/6J(生後3週間、メスマウス、群当たり15動物)は、PBS、または5対2対3の抗原対CFA対IFAに乳化された50μgの精製無エンドトキシンタンパク質SpAKKAAもしくはSpAQ9,10K/S33EもしくはSpAQ9,10K/S33Tで免疫し、最初の免疫化の11日後に1対1の抗原対IFAに乳化された50μgのタンパク質で追加免疫した。20日目に、マウスは出血させ血清を収穫して、ELISAによりワクチン候補に対する抗体力価を評価した。21日目に、マウスは上咽頭定着のために接種するまたは細菌の静脈内注射により感染させた。
【0368】
マウス上咽頭定着。S.アウレウス(S.aureus)WU1株の一晩培養物を新鮮なTSBに1対100で希釈し、上記の通り37℃で2時間増殖させた(102)。細胞は遠心分離し、洗浄し、PBSに懸濁した。群当たり10頭の免疫メスC57BL/6Jマウス(Jackson Laboratory)は、ケタミン-キシラジン(100mg~20mg/kg)での腹腔内注射により麻酔をかけ、1×108CFUのS.アウレウス(S.aureus)(10μl容積中)をピペットでそれぞれのマウスの右鼻腔中に移した。接種に続いて毎週の間隔で、マウスの中咽頭を綿棒で採取し、糞便試料は収集してPBS中でホモジナイズした。スワブ試料および糞便試料のホモジネートは、細菌数え上げのためにマンニット食塩寒天培地(MSA)上に広げた。実験終了時、マウスは眼窩周囲静脈穿刺により出血させて、記載の通りスタフィロコッカス抗原マトリックスを使用して抗体応答分析用の血清を得た(43)。手短に言えば、ニトロセルロース膜に2μgの親和性精製スタフィロコッカス抗原をブロットした。膜は5%の脱顆粒牛乳でブロックし、希釈マウス血清(1対10,000希釈)およびIRDye 680コンジュゲートヤギ抗マウスIgG(Li-COr)と一緒にインキュベートした。シグナル強度はOdyssey赤外線撮像システム(Li-COr)を使用して定量化した。動物実験はすべて2通り実施した。Sidak多重比較検定(GraphPad Software)を用いた二元配置分散分析(ANOVA)を実施して上咽頭および糞便定着、ELISAおよび抗原マトリックスデータの統計的有意性を分析した。
【0369】
マウス腎膿瘍モデル。S.アウレウス(S.aureus)USA300(LAC)の一晩培養物を新鮮なTSBに1対100で希釈し、37℃で2時間増殖させた。スタフィロコッカス細胞は沈降させ、洗浄し、PBSに懸濁した。接種材料は、試料アリコートをTSA上に広げ、インキュベーションすると形成されたコロニーを数え上げることにより定量化した。PBS中で調製された無エンドトキシンタンパク質SpAKKAAもしくはSpAQ9,10K/S33EもしくはSpAQ9,10K/S33Tで免疫したまたはモック免疫した(PBS対照)15頭のBALB/cマウスの群は麻酔をかけられ、5×106CFUのS.アウレウス(S.aureus)USA300(LAC)を右目の眼窩周囲静脈洞中に接種された。チャレンジに続く15日目、マウスはCO2吸入により死亡させた。両腎臓を摘出し、1つの臓器中のスタフィロコッカス負荷は、腎組織をPBS、0.1%のTritonX-100でホモジナイズすることにより分析した。ホモジネートの段階希釈物をTSA上に広げ、コロニー形成のためにインキュベートした。残りの臓器は組織病理学により調べた。手短に言えば、腎臓は室温で24時間10%のホルマリン中で固定した。組織はパラフィンに包埋し、薄切片に切り分け、ヘマトキシリンエオジンで染色し、光顕微鏡で視診して膿瘍病変を数え上げた。動物実験はすべて2通り実施され、統計分析は、Graphpad Prismのt検定(およびノンパラメトリック検定)を用いて計算された。
【0370】
倫理声明。ヒトボランティア由来の血液を用いた実験は、シカゴ大学の施設内審査委員会(IRB)により審査され、承認され、および監督されたプロトコルを用いて実施した。マウス実験はすべて、シカゴ大学の施設内バイオセーフティー委員会(IBC)および施設内動物管理および使用委員会(IACUC)による実験プロトコル審査および承認に続いて施設内ガンドラインに従って実施した。
【0371】
統計分析。
図22、23、25、および表5~10では、ポストテスト(ボンフェローニまたはダネット多重比較検定)を用いた一元配置分散分析を使用して、複数の群の平均間の統計的有意性を導き出した。
図24では、Sidak多重比較検定(GraphPad Software)を用いた二元配置分散分析(ANOVA)を実施してマウス定着およびスタフィロコッカス抗原マトリックスデータの統計的有意性を分析した。すべてのデータは、Prism(GraphPad Software、Inc.)により解析し、0.05未満のP値は有意であると見なした。
【0372】
【0373】
【0374】
【0375】
【0376】
【0377】
【0378】
[実施例4]
手術創ミニブタ感染モデルを利用するSpAバリアントポリペプチドおよびLukAB二量体ポリペプチドを含む免疫原性組成物に起因する免疫応答。
実験の目標は、SpAバリアント抗原と突然変異体LukAB二量体の組合せがゲッチンゲンミニブタでのS.アウレウス(S.aureus)手術創感染モデルで保護を与えるかどうかを評価することである。試験したSpaバリアント抗原(Spa*)は配列番号60のアミノ酸配列を有していた。試験した突然変異体LukAB二量体は、配列番号16の315~324位に対応するアミノ酸残基の欠失がある突然変異体LukAポリペプチド、および配列番号53のアミノ酸配列を含むLukBポリペプチドを含む。
【0379】
ミニブタモデルを使用して、ワクチン候補の免疫原性(抗原特異的IgGの産生に関して)および有効性を評価する。ミニブタは、その免疫系ならびに臓器および皮膚構造が大部分ヒトの免疫系ならびに臓器および皮膚構造に類似しているので、感染性疾患研究に広く使用されてきた(1~5)。モデルでは、S.アウレウス(S.aureus)細菌での創傷の感染後、局所的感染が手術部位の筋肉および皮膚の層全体に発症し、他の内臓への播種も見られ、疾患の進行はヒトでの疾患の進行に高度に類似している。
【0380】
LukABは、ヒトPMNに対して見られるミニブタ多形核好中球(PMN)に類似する毒性を示すが、これは、毒素の標的の種特異性に起因するマウスまたはウサギPMNに対する高度に減少した毒性とは対照的である。さらに、ブタがスタフィロコッカス種を頻繁に有するせいで、ミニブタはスタフィロコッカス抗原(LukABおよび他のS.アウレウス(S.aureus)タンパク質を含む)に対して高レベルの前から存在する抗体を持つことが多く、成人に類似しており大半の実験室齧歯類とは対照的である。したがって、このモデルは、特にLukABおよびSpaバリアントを含有するワクチンに対して、以前利用可能であった齧歯類モデルよりも信頼できるヒトでの潜在的ワクチン保護の指標である可能性がある。
【0381】
In vivo実験
オスゲッチンゲンミニブタ(群当たり3頭のブタ)を、
図27に示されるスケジュールおよび以下の群に従って3週間の間隔で3回の離れた時期に筋肉内免疫した。
・LukAB(100μg)+アジュバント
・SpAバリアント(50μg)+アジュバント
・LukAB(100μg)+SpAバリアント(50μg)+アジュバント
・アジュバント単独
【0382】
ワクチンは、動物1頭当たりヒト用量の半分(動物1頭当たり25μgのMPL、および25μgのQS-21)を与えるためにAS01bアジュバントと一緒に処方した。
【0383】
ワクチン接種に続いて、ブタは臨床的に関連するS.アウレウス(S.aureus)株でチャレンジされた。感染後+8日目、ブタは安楽死させ、手術部位(皮膚および筋肉)および内臓での細菌負荷を決定した。
【0384】
図27に示すように、血液試料は、研究の開始に先立ってならびにワクチン接種および感染時期の間、等間隔を置いて採取した。血液および血清分析を実施して、血清免疫グロブリン量および機能ならびに感染および炎症のバイオマーカーの濃度を評価した。体温も、ワクチン反応原性および感染の読み出し情報としてルーチンにモニターした。
【0385】
研究の一次エンドポイントは、LukAB+SpAバリアントをワクチン接種した動物における手術部位/臓器での細菌負荷(CFU)の減少であった。単にLukAB、SpA、またはアジュバントだけを用いたワクチン接種は対照として使用される。
【0386】
結果
ミニブタでの2つの別々のin vivo実験を実施した。免疫スケジュールおよび免疫化群は、それぞれ
図27に示されるおよびセクション「In vivo実験」に記載されるように、両研究で同一であった。一研究では、クローナルコンプレックス(CC)389に属するS.アウレウス(S.aureus)株を感染株として使用した。第2の研究では、CC8(USA300)に属するS.アウレウス(S.aureus)株を感染株として使用した。株の特徴は表11に記載されている。
【0387】
【0388】
LukABおよびSpA
*に対して誘導される抗体応答
上記のミニブタの群は、LukAB(100μg)+アジュバント、またはSpA
*(50μg)+アジュバント、またはLukAB(100μg)およびSpA
*(50μg)+アジュバントの組合せを3回の時期に3週間離して免疫した。動物の対照群はアジュバントのみで免疫した。動物は3番目の免疫化の3週間後にS.アウレウス(S.aureus)を用いてチャレンジした。血液試料は、それぞれの免疫化前に、チャレンジ前に、およびチャレンジ後8日目まで等間隔を置いて採取し(
図27)、ELISAによりLukABおよびSpA
*に対する抗体応答について分析した。チャレンジ後の試料採取の間隔が短かったせいで、チャレンジ後8日目の結果のみが
図28に示されている。アジュバントのみで免疫した動物では、低レベルの抗LukAB IgG抗体が測定可能であり、LukABに対して前から存在する抗体の存在を示していた(
図28AおよびC)。SpA
*+アジュバントでの免疫化は、抗LukAB抗体のアジュバント対照群に類似する幾何平均力価をもたらした(
図28)。LukAB+アジュバントまたはLukAB+SpA
*+アジュバントでのミニブタの免疫化は、3種(0日目)の免疫化後の両研究でのアジュバント対照群と比べて高い幾何平均抗LukAB IgG力価をもたらした(
図28、研究1,0日目の幾何平均(GeoMean)力価:LukAB+アジュバント:222;LukAB+SpA
*+アジュバント:308;アジュバント群:32、P>0.05;研究2、0日目のGeoMean力価:LukAB+アジュバント:1271;LukAB+SpA
*+アジュバント:1671;アジュバント群:159、P=0.0181およびP=0.0103、それぞれ対アジュバント群)。これらの結果は、LukAB含有ワクチンでの免疫化がミニブタにおいてLukAB特異的IgG抗体の産生を誘導したことを示している。抗LukAB抗体のレベルは、LukAB+アジュバントまたはLukAB+SpA
*+アジュバントでワクチン接種した動物の場合と類似していた。これは、SpA
*の追加がLukABに対する応答に干渉しなかったことを示している。
【0389】
アジュバントのみまたはLukAB+アジュバントで免疫したミニブタは、いかなる時点でもSpA*に対する測定可能な抗体はなかった。SpA*+アジュバントまたはSpA*+LukAB+アジュバントは、3種の免疫化後抗SpA* IgGの有意な増加を誘導した(研究1:SpA*+アジュバント群でのGeoMean IgG:217およびSpA*+LukAB+アジュバント群でのGeoMean IgG:268;研究2:SpA*+アジュバント群でのGeoMean IgG:100およびSpA*+LukAB+アジュバント群でのGeoMean IgG:71)。これらの結果は、SpA*+アジュバントおよびLukAB+SpA*+アジュバントワクチンによるSpA*特異的抗体の誘導を示している。抗SpA*抗体のレベルは、SpA*+アジュバントまたはLukAB+SpA*+アジュバントで免疫した動物の場合と類似していた。これは、LukABの追加によるSpA*への応答に干渉がなかったことを示している。
【0390】
LukAB毒素の細胞障害活性の中和
LukABは好中球上の受容体に結合する毒素であり、そこでLukABは膜にポアを形成し、その結果細胞は溶解する。試験ワクチンにより誘導される抗体の機能性を評価するため、THP-1細胞のLukAB毒素誘導溶解を阻害するワクチン接種されたミニブタ由来の血清の能力を測定した。アッセイでの野生型LukAB毒素はクローナルコンプレックスCC8由来であり、これはワクチンで使用されるLukABクローナルコンプレックス(LukAB CC8デルタ10C)に相同である。アジュバントのみでワクチン接種したミニブタでは、バックグラウンドIC
50力価が検出可能であった(研究1:0日目GeoMeanIC
50=95;研究2:0日目GeoMeanIC
50=363)。LukAB+アジュバントまたはLukAB+SpA
*+アジュバントでワクチン接種した動物では、3種の免疫化後有意に高いGeoMeanIC
50力価が測定された(3種の免疫化後チャレンジ前のGeoMeanIC
50力価:研究1:LukAB+アジュバント:1475;LukAB+SpA
*+アジュバント:1643 P>0.012およびP=0.01対アジュバント群;研究2:LukAB+アジュバント:1931;LukAB+SpA
*+アジュバント:1717;それぞれP=0.0022および0.0032対アジュバント群)。
図29Aおよび29Bに示されるこれらの結果は、ワクチン中のLukABが、LukAB毒素の細胞障害活性をブロックする機能的な抗体を誘導することを示している。
【0391】
ミニブタ手術創感染モデルでの有効性
ワクチンの有効性を試験するため、3種の免疫化およびS.アウレウス(S.aureus)を用いたチャレンジ後、筋肉および脾臓中のコロニー形成単位(cfu)の数を決定した。2種の異なるチャレンジ株を2つの研究で使用し、1つはクローナルコンプレックスCC398に属し、第2はクローナルコンプレックスCC8由来のUSA300株であった。アジュバントのみの免疫化では、CC398株を用いたチャレンジ後全筋肉中に高レベルのcfuがもたらされた(GeoMean log
10 cfu/筋肉g=6.05)。LukAB+アジュバント(GeoMean log
10 cfu/筋肉g=3.25、P=0.0036)、SpA
*+アジュバント(GeoMean log
10 cfu/筋肉g=3.22、P=0.003)またはLukAB+SpA
*+アジュバントの組合せ(GeoMean log
10 cfu/筋肉g=2.66、P=0.0012)での免疫化は、アジュバント群と比べて筋肉中でcfuは有意に減少した(
図30A)。脾臓でも、アジュバントのみで免疫された対照群では高レベルのcfuが観察された(GeoMean log
10 cfu/脾臓g=2.26)。LukAB+アジュバントおよびSpA
*+アジュバントでの免疫化は、脾臓においてcfuの減少をもたらした(それぞれGeoMean log
10 cfu/脾臓g=0.29および0.78、P>0.05)。動物をLukAB+SpA
*+アジュバントの組合せで免疫した場合、脾臓において定量化の下限までのcfuの有意な減少が検出された(GeoMean log
10 cfu/脾臓g=0.2、P=0.0424)(
図30B)。結果は、試験ワクチンがミニブタ手術部位感染モデルにおいて有効であることを示している。ワクチンは脾臓のような臓器への細菌の蔓延も減らし、そこではLukABとSpA
*の組合せは単一抗原と比べて優れた保護を示した。
【0392】
ミニブタをアジュバントのみで免疫した場合、USA300株でのチャレンジ後全筋肉中で非常に多数のcfuが検出された(GeoMean log
10 cfu/筋肉g=5.48)。アジュバント群と比べて筋肉中のcfuの減少は、LukAB+アジュバント(GeoMean log
10 cfu/筋肉g=3.37、P>0.05)およびSpA
*+アジュバント(GeoMean log
10 cfu/筋肉g=2.84)での免疫化後に観察された。動物をLukAB+SpA
*+アジュバントの組合せで免疫化した場合、アジュバント群と比べて筋肉中のcfuの有意な減少が検出され(GeoMean log
10 cfu/筋肉g=1.86、P=0.0198)、LukABとSpA
*の組合せが単一抗原と比べてUSA300株に対して優れた保護を示すことが示唆される(
図30C)。脾臓では、一般的に、群間で有意差のない低レベルのCC8 USA300株が検出された(
図30D)。まとめると、手術創感染モデルデータは、LukABおよびSpA
*を含むワクチン組合せが、2種の臨床的に関連する株、ST398およびCC8 USA300でのチャレンジに対してミニブタの筋肉において有意な保護を提供したことを示している。
【0393】
材料および方法
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により測定されるLukABおよびSpAに対する抗体応答 LukABに対するIgG抗体レベルを測定するため、96ウェルマキシソーププレート(Thermo Fisher Scientific)をPBS中1.0μg/mlのLukAB CC8で被覆し、2~8℃で1時間インキュベートした。PBS+0.05%のTween-20での洗浄後、2.5%の脱脂乳でプレートをブロックし、洗浄し、1対100で開始して希釈緩衝液(1×PBS中2.5%(w/v)脱脂粉乳)で調製した血清の段階3倍希釈液をウェルに添加した。プレートは室温で1時間インキュベートし、洗浄し、1対20,000に希釈した抗ブタIgG-HRP二次抗体(Sigma Aldrich)を添加した。室温での1時間のインキュベーション後、プレートはTMB基質(Leinco Technologies)で現像した。反応は1Mの硫酸を添加することにより停止させた。吸光度は450nmで読み取り、EC50値はPrism GraphPad V8.4.2の4-PL(4パラメータロジスティック回帰分析)カーブフィッティングを使用して計算した。
【0394】
SpAに対する抗体を測定するため、96ウェルマキシソーププレートをPBS中0.25μg/ml SpA*で被覆し、2~8℃で一晩インキュベートした。二次抗体は、ブロッキング緩衝液中1対40,000希釈の抗ブタIgG-HRPであった。その他のステップは、抗LukAB抗体応答の測定について上に記載される通りであった。ダネット多重比較検定を用いた一元配置分散分析を実施して、ワクチン群対アジュバント群の幾何平均間の統計的有意性を試験した。
【0395】
LukAB毒素中和アッセイ。Cyto-Tox-Oneキット(Promega)を使用して、損傷した膜を有する細胞からの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を測定した。THP-1細胞は遠心分離し、RPMIで2×106細胞/mLの密度まで再懸濁した。50μLの細胞を、血清の段階3倍希釈液を含有する96ウェル培養プレートに添加した。LukAB毒素CC8を最終濃度40ng/mLまで試験ウェルに添加した。溶解液(Promega)を溶解コントロールウェルに添加した。プレートは5%CO2の存在下、37℃で2時間インキュベートした。プレートは遠心分離し、25μLの上澄みを新たなプレートに移し、25μLのCytoTox-ONE試薬(Promega)を添加した。プレートは室温で15分間インキュベートし、停止液(Promega)をウェルに添加した。プレートは、560の励起波長および5nmの帯域幅ならびに590の発光波長および10nmの帯域幅を有するモノクロのBiotek Synergy Neo 2読取機で読み取った。ゲインは120~130で設定されている。ダネット多重比較検定を用いた一元配置分散分析を実施して、ワクチン群対アジュバント群の幾何平均間の統計的有意性を試験した。
【0396】
ミニブタ手術創感染方法 生後5~8カ月オスゲッティンゲンミニブタ(Marshall Biosciences、North Rose、NY)は群飼いし、12時間明/暗サイクルに維持して水は自由に飲ませた。手術の朝、絶食させたミニブタを鎮静させ、挿管し、手術の期間はイソフルラン麻酔下に置いた。手術は左大腿で実施し、それにより筋層を露出させ、5mmのブレードレストロカール(Endopath(登録商標)Xcel、Ethicon Endo-Surgery、Guaynabo、Puerto Rico)を大腿部の深部まで進めた。20μlの接種材料(おおよそ6 log10CFU/S.アウレウス(S.aureus)ml)を、トロカールを通して6インチMILAクモ膜下穿刺針(Mila International、Inc.、Florence、KY)により創傷内(大腿部の上部)に注射し、その後トロカールは除去した。筋肉は単一の絹縫合糸で閉じ、皮膚は吸収性PDS縫合糸で閉じた。鎮静状態にある間の8日後、ミニブタはバルビツレートで安楽死させた。死亡が確認された後、臓器は微生物学のために別々に処理された。試料は、ビーズ粉砕機Elite(Omni International、Kennesaw、GA、USA)を使用して、生理食塩水中でホモジナイズし、希釈して、Autoplate5000スパイラルプレート(Spiral Biotech、Norwood、MA、USA)を使用してTSA上に蒔いた。プレートは37℃で18~24時間インキュベートし、次に、QCountコロニーカウンター(Spiral Biotech、Norwood、MA、USA)上で読み取った。
【0397】
ダネット多重比較検定を用いた一元配置分散分析を実施して、複数の群の幾何平均間の統計的有意性を試験した。すべての動物研究は、Janssen Spring House施設内動物管理および使用委員会により審査されて承認され、AAALAC認定施設に収容された。
【0398】
結論 抗原LukABおよびSpA*をアジュバントと一緒に含有するワクチン組成物は、ミニブタ手術創感染モデルにおいてLukABおよびSpA*に対するIgGの産生を誘導することが本明細書で明らかにされた。抗LukAB IgG抗体の増加は、LukAB毒素の細胞障害活性の中和の増加と関連しており、これは誘導されたIgG抗体が機能的であることを示すものである。ワクチン組成物の有効性を試験するため、ミニブタ手術創感染モデルにおいて細菌負荷を減らすワクチンの能力は、2種の遺伝的に異なり臨床的に関連するS.アウレウス(S.aureus)株を使用して判定した。LukAB+SpA*+アジュバントワクチン組成物でのミニブタの免疫化により、両試験株でのチャレンジ後筋肉中のコロニー形成単位の数が有意に減少した。ワクチン組成物は、脾臓でも試験株のチャレンジでcfuの有意な減少ももたらした。したがって、LukABおよびSpAトキソイド突然変異体ならびにアジュバントを含有するS.アウレウス(S.aureus)ワクチン候補は、ミニブタ手術部位感染モデルにおいて深在性S.アウレウス(S.aureus)感染および播種からの効果的な保護をもたらした。
【0399】
上に記載する実施形態には、その広い発明概念から逸脱することなく変更を加えることができることは当業者であれば認識する。したがって、本発明は開示された特定の実施形態に限定されないことが理解されるが、本発明は本記載により定義される本発明の精神および範囲内の改変を包含することが意図されている。
【0400】
参考文献
以下の参考文献は、それが例となる手続き上の詳細または本明細書で示される詳細を補う他の詳細を提供する程度まで、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
【0401】
【0402】
【0403】
【配列表】
【国際調査報告】