(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(54)【発明の名称】circRNAを検出する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20221128BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20221128BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20221128BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20221128BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20221128BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12Q1/6883 Z
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520825
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(85)【翻訳文提出日】2022-06-03
(86)【国際出願番号】 US2020054123
(87)【国際公開番号】W WO2021067850
(87)【国際公開日】2021-04-08
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597025806
【氏名又は名称】ワシントン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Washington University
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】クルチャガ,カルロ
(72)【発明者】
【氏名】デュベ,アンバー
(72)【発明者】
【氏名】イバネス,ラウラ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ52
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4B063QS25
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4B063QX01
(57)【要約】
本開示は、対象の生物学的試料中のcircRNAを検出または測定する方法に関する。特に、本開示は、対象におけるアルツハイマー病などの神経疾患、神経変性疾患、または神経病理学的疾患を診断するための方法を対象とし、前記対象の生物学的試料中の、1つまたは複数のcircRNAレベルを決定する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるアルツハイマー病を検出するための方法であって、
a)対象から得られた生物学的試料中の、1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを測定すること;および
b)少なくとも1つのcircRNAのレベルを、所定の参照レベルと比較することであって、少なくとも1つのcircRNAのレベルが、それぞれの参照値を上回るか、またはこれを下回る場合、対象が、ADを発症する危険性がある無症状性個体であると決定されること
を含む方法。
【請求項2】
アルツハイマー病(AD)を発症する危険性がある無症状性対象を検出するための方法であって、
a)対象から得られた生物学的試料中の、1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを測定すること;および
b)少なくとも1つのcircRNAのレベルを、所定の参照レベルと比較することであって、少なくとも1つのcircRNAのレベルが、それぞれの参照値を上回るか、またはこれを下回る場合、対象が、ADを発症する危険性がある無症状性個体であると決定されること
を含む方法。
【請求項3】
対象を、アルツハイマー病(AD)に起因する軽度認知機能障害(MCI)または認知症への転換の危険性が増大している対象として診断する方法であって、
a)対象から得られた生物学的試料中の、1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを測定すること;および
b)少なくとも1つのcircRNAのレベルを、所定の参照レベルと比較することであって、少なくとも1つのcircRNAのレベルが、それぞれの参照値を上回るか、またはこれを下回る場合、対象が、アルツハイマー病(AD)に起因する軽度認知機能障害(MCI)または認知症への転換の危険性が増大している対象であると決定されること
を含む方法。
【請求項4】
対象を、アルツハイマー病(AD)に起因する認知症を有する対象として診断する方法であって、
a)対象から得られた生物学的試料中の、1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを測定すること;および
b)少なくとも1つのcircRNAのレベルを、所定の参照レベルと比較することであって、少なくとも1つのcircRNAのレベルが、それぞれの参照値を上回るか、またはこれを下回る場合、対象が、アルツハイマー病(AD)に起因する認知症を有する対象であると決定されること
を含む方法。
【請求項5】
対象におけるAD疾患の進行をモニタリングする方法であって、
a)対象についての第1の生物学的試料を得、後の時点において、対象についての第2の生物学的試料を得ること;
b)第1の生物学的試料中および第2の生物学的試料中の、1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを測定すること;および
c)第2の生物学的試料からの、少なくとも1つのcircRNAのレベルを、第1の生物学的試料からのcircRNAと比較することであって、第2の試料からの、少なくとも1つのcircRNAのレベルが、第1の試料からの、少なくとも1つのcircRNAのレベルを上回るか、またはこれを下回る場合、対象で、疾患の進行が増大していると決定されること
を含む方法。
【請求項6】
少なくとも1つのcircRNAが、circHOMER1である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
circHOMER1を測定することが、試料を、配列番号1および2のプライマー対と接触させることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1つまたは複数のcircRNAが、circHOMER1、circDOCK1、circKCNN2、circMAN2A1、circICA1、circFNM1、circRTN4、circST18、circATRNL1、およびcircEXOSC1から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1つまたは複数のcircRNAを測定することが、生物学的試料を、配列番号1~2、配列番号3~4、配列番号5~6、配列番号7~8、配列番号9~10、配列番号11~12、配列番号13~14、配列番号16~15、配列番号17~18、および配列番号19~20から選択されるプライマー対と接触させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
1つまたは複数のcircRNAが、circHOMER1、circDOCK1、circKCNN2、circMAN2A1、circST18、circATRNL1、circEXOSC1、circICA1、circFMN1、circRTN4、circCDR1-AS、circMAP7、circTTLL7、circFANCL、circEPB41L5、circCORO1C、circDGKI、circKATNAL2、circWDR78、circADGRB3、circPLEKHM3、circERBIN、circPICALM、circRNASEH2B、circPDE4B、circPHC3、circFAT3、circMLIP、circLPAR1、circSLAIN2、circSPHKAP、circYY1AP1、およびcircDNAJC6から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
対象が、circDOCK1、circMAN2A1、circST18、circEXOSC1、circRTN4、circCDR1-AS、circMAP7、circTTLL7、circFANCL、circCORO1C、circWDR78、circERBIN、circPICALM、circRNASEH2B、circPHC3、circLPAR1、circSLAIN2、circYY1AP1、およびcircDNAJC6が、参照値と比べて増大しており、かつ/またはcircHOMER1、circKCNN2、circATRNL1、circICA1、circFMN1、circEPB41L5、circDGKI、circKATNAL2、circPLEKHM3、circPDE4B、circFAT3、circMLIP、circSPHKAP、およびcircDNAJC6のうちの1つまたは複数が、参照値と比べて減少している場合に、疾患状態または疾患重症度を伴うと分類される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ADを有するか、またはADを有することが疑われる対象を処置する方法であって、対象において、
a)対象から得られた生物学的試料中の、1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを測定すること;
b)少なくとも1つのcircRNAのレベルを、所定の参照レベルと比較すること;および
c)対象へと、医薬組成物を投与して、工程a)において測定された、少なくとも1つのcircRNAの示差的発現を是正するか、または安定化させること
を含む方法。
【請求項13】
少なくとも1つのcircRNAが、circHOMER1である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
1つまたは複数のcircRNAが、circHOMER1、circDOCK1、circKCNN2、circMAN2A1、circICA1、circFNM1、circRTN4、circST18、circATRNL1、およびcircEXOSC1から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
1つまたは複数のcircRNAが、circHOMER1、circDOCK1、circKCNN2、circMAN2A1、circST18、circATRNL1、circEXOSC1、circICA1、circFMN1、circRTN4、circCDR1-AS、circMAP7、circTTLL7、circFANCL、circEPB41L5、circCORO1C、circDGKI、circKATNAL2、circWDR78、circADGRB3、circPLEKHM3、circERBIN、circPICALM、circRNASEH2B、circPDE4B、circPHC3、circFAT3、circMLIP、circLPAR1、circSLAIN2、circSPHKAP、circYY1AP1、およびcircDNAJC6から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
医薬組成物が、コリンエステラーゼ阻害剤、N-メチルD-アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、抗うつ剤、ガンマ-セクレターゼ阻害剤、ベータ-セクレターゼ阻害剤、抗Aβ抗体、抗タウ抗体、セロトニン受容体6アンタゴニスト、p38アルファMAPK阻害剤、組換え顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、受動性免疫療法、能動性ワクチン、タウタンパク質凝集阻害剤、抗炎症性薬剤、ホスホジエステラーゼ9A阻害剤、シグマ-1受容体アゴニスト、キナーゼ阻害剤、ホスファターゼ活性化剤、ホスファターゼ阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断剤、CB1エンドカンナビノイド受容体パーシャルアゴニストおよび/またはCB2エンドカンナビノイド受容体パーシャルアゴニスト、β-2アドレナリン作動性受容体アゴニスト、ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニスト、5-HT2Aインバースアゴニスト、アルファ-2cアドレナリン作動性受容体アンタゴニスト、5-HT 1A受容体アゴニストおよび5-HT 1D受容体アゴニスト、グルタミニル-ペプチドシクロトランスフェラーゼ阻害剤、APP産生選択的阻害剤、モノアミンオキシダーゼB阻害剤、グルタミン酸受容体アンタゴニスト、AMPA受容体アゴニスト、神経増殖因子刺激剤、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤、神経栄養剤、ムスカリンM1受容体アゴニスト、GABA受容体モジュレーター、PPAR-ガンマアゴニスト、微小管タンパク質モジュレーター、カルシウムチャネル遮断剤、降圧剤、スタチン、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
従来の直鎖状mRNA解析を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
生物学的試料が、体液、血液、脳組織、CSF、または血漿である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体において組み込まれる、2019年10月2日に出願された、米国特許仮出願第62/909,316号の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本開示は、一般に、対象の生物学的試料中の、環状RNAの検出のための方法に関する。
【0003】
配列表について言及
本出願は、EFS-Webを介して、ASCIIフォーマットにおいて提出され、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる配列表を含有する。2020年9月29日に作成されたASCIIコピーは、「667595_ST25.txt」と名付けられており、3.86KBのサイズである。
【背景技術】
【0004】
環状RNA(circRNA)とは、転写物の3’末端が、5’末端と、共有結合的にスプライシングされ、これにより、連続ループを形成するバックスプライシングイベントから生じるRNAのクラスである。RNAシーケンシングが、広範になされるようになるにつれて、真核生物にわたり、数千に及ぶcircRNAが同定されている。これらの研究は、circRNAが、神経系において高度に発現され、シナプスにおいてエンリッチされていることを見出した。脳内において、circRNAの発現は、直鎖状転写物の発現から独立に生じる場合があり、遺伝子の、最も高度に発現されるアイソフォームでありうる。脳内のcircRNAはまた、発生時にも調節され、ニューロンの興奮に応答しても調節される。老化マウスおよびハエの脳において、circRNAは、おそらく、エクソヌクレアーゼに対する耐性を付与する遊離ヒドロキシル末端を欠くために、蓄積される。circRNA生物学に関しては、多くが未知にとどまる;例えば、circRNAが、インビボ(in vivo)において翻訳されうることが裏付けられたのは、ごく近年である。したがって、circRNAについて、はるかによく確立された役割は、機能の喪失をもたらす隔離を介する、マイクロRNA(miRNA)の調節である。
【0005】
アルツハイマー病(AD)とは、世界中において、数百万人に影響を与える、進行性、神経変性の障害であり、認知症の、最も一般的な原因である。ADは、神経病理学的に、劇的な認知機能障害を結果としてもたらす、アミロイドベータプラークおよびタウ封入体の蓄積の他、広範なニューロンの萎縮により特徴づけられる。残念ながら、現在のところ、ADに有効な、予防的治療、緩和的治療、または治癒的治療は存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、当技術分野において、神経変性障害の処置時およびケア時の意思決定過程において、医師および患者を誘導するのに、迅速で、実践的かつ信頼できる検査が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の多様な態様の中には、対象の生物学的試料中または体液中のcircRNAを検出または測定する方法の提示がある。したがって、略述すると、本開示は、対象の体液中の、神経疾患、神経変性疾患、または神経病理学的疾患と関連するcircRNAを検出する工程を対象とする。
【0008】
本開示の態様は、環状RNAの示差的発現(circRNA DE)を測定する方法を提示する。一部の実施形態において、方法は、生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;生物学的試料から、circRNAを抽出する工程;トランスクリプトームワイドの解析を使用して、circRNAを検出する工程;および/または測定されたcircRNAの示差的発現(DE)を決定する工程を含む。一部の実施形態において、トランスクリプトームワイドの解析は、特異的な転写物レベルの定量、および疾患状態を予測する、一連のカスタムのアルゴリズムおよび方法を含む解析を含む。
【0009】
一部の実施形態において、方法は、判定法およびフィルタリング法を使用して、バックスプライスジャンクションを同定する工程;ならびに/またはバックスプライスジャンクションを、バックスプライスジャンクションについてアノテーションされた、元の直鎖状遺伝子またはコグネイトの直鎖状mRNAへとコラプシングする工程を含む。
【0010】
一部の実施形態において、方法は、元の直鎖状遺伝子についてのアノテーションを伴わないバックスプライスを除外する工程を含む。一部の実施形態において、方法は、生物学的試料中のcircRNAの発現レベルを決定するステップ;および/または統計学的解析を実施して、未知の神経病態を有する対象と、対照との間の、発現レベルの定量的変化を決定する工程を含む。一部の実施形態において、方法は、生物学的試料から、rRNAを枯渇させる工程を含む。
【0011】
一部の実施形態において、circRNA DEの測定値が、対照と比較して減少していれば、対象は、神経疾患または神経変性疾患を伴うと診断される。一部の実施形態において、circRNA DEの測定値が、対照と比較して減少していれば、対象の疾患重症度は、悪化している。
【0012】
一部の実施形態において、circRNA DEの測定値が、対照と比較して増大していれば、対象は、神経疾患または神経変性疾患を伴うと診断される。一部の実施形態において、circRNA DEの測定値が、対照と比較して増大していれば、対象の疾患重症度は、悪化している。
【0013】
一部の実施形態において、方法は、対象における神経病理学的疾患の重症度を決定する工程を含む。一部の実施形態において、対象は、アルツハイマー病(AD)を有する。一部の実施形態において、生物学的試料は、体液、血液、脳組織、CSF、または血漿である。一部の実施形態において、対象は、臨床的認知症を有さない。一部の実施形態において、対象は、症状性である。一部の実施形態において、対象は、前症状性または無症状性である。
【0014】
一部の実施形態において、方法は、疾患重症度に基づき、対象を層別化する工程を含む。一部の実施形態において、方法は、疾患の進行または疾患重症度をモニタリングする工程を含む。一部の実施形態において、対象は、神経疾患または神経変性疾患を有する。一部の実施形態において、神経変性疾患は、前頭側頭型認知症、パーキンソン病型認知症、およびレビー小体認知症から選択される。
【0015】
一部の実施形態において、神経変性疾患は、AD、臨床的認知症、または神経病理学的疾患から選択される。一部の実施形態において、プライマー対は、とりわけ、circHOMER1、circDOCK1、circKCNN2、circMAN2A1、circICA1、circFMN1、circRTN4、circST18、circATRNL1、およびcircEXOSC1のうちの1つまたは複数のバックスプライスジャンクションを増幅するために使用される。
【0016】
一部の実施形態において、検出されるcircRNAは、circHOMER1である。一部の実施形態において、プライマー対は、配列番号1~20からなる群から選択される。一部の実施形態において、対照は、神経変性疾患または神経病理学的(neurolopathological)疾患を伴わない対象に由来する生物学的試料である。
【0017】
本開示の別の態様は、神経疾患、神経変性疾患、または神経病理学的疾患と関連するcircRNAを同定する方法を提示する。
【0018】
一部の実施形態において、方法は、神経疾患、神経変性疾患、または神経病理学的疾患を有することが知られている対象に由来する生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;試料からcircRNAを抽出する工程;および/またはcircRNAを、疾患状態と相関させる工程を含む。
【0019】
本開示の別の態様は、疾患状態と関連するcircRNAを同定する方法であって、疾患状態を伴う対象に由来する生物学的試料のRNA配列を含む発見(疾患状態)データセットを生成するか、またはこれが用意されている工程;対象に由来する生物学的試料のRNA配列を含む再現データセットを生成するか、またはこれが用意されている工程;疾患状態の形質または表現型を同定する工程;発見データセット内および/もしくは再現データセット内の形質または表現型を処理する工程;発見データセットおよび/もしくは再現データセットを処理およびアライメントする工程;発見データセット内および/もしくは再現データセット内のcircRNAを規定するバックスプライスを判定する工程;アノテーションされたバックスプライスをフィルタリングおよびコラプシングして、発見データセット内および/もしくは再現データセット内の高信頼性circRNAを同定する工程;発見データセット内および/もしくは再現データセット内の直鎖状転写物を判定する工程;転写物完全性数を測定する工程;ならびに/または示差的発現および高信頼性circRNAカウントと、疾患の形質もしくは表現型との相関を解析する工程を含む方法を提示する。
【0020】
一部の実施形態において、方法は、従来の直鎖状mRNA解析を含む。本開示の別の態様は、前出の方法のうちのいずれかを実施することが可能なデバイスを含むシステムを提示する。
【0021】
ある態様において、本開示は、対象を、アルツハイマー病(AD)に起因する軽度認知機能障害(MCI)または認知症への転換の危険性が増大している対象として診断する方法を包含する。方法は、生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;生物学的試料から、circRNAを抽出する工程;トランスクリプトームワイドの解析を使用して、circRNAを検出する工程;および/または測定されたcircRNAの示差的発現(DE)を決定する工程を含む。
【0022】
別の態様において、本開示は、対象を、アルツハイマー病(AD)に起因する認知症を有する対象として診断する方法を包含する。方法は、生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;生物学的試料から、circRNAを抽出する工程;トランスクリプトームワイドの解析を使用して、circRNAを検出する工程;および/または測定されたcircRNAの示差的発現(DE)を決定する工程を含む。
【0023】
別の態様において、本開示は、アルツハイマー病(AD)の症状の発生の後において、対象を病期分類する方法を包含する。方法は、生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;生物学的試料から、circRNAを抽出する工程;トランスクリプトームワイドの解析を使用して、circRNAを検出する工程;および/または測定されたcircRNAの示差的発現(DE)を決定する工程を含む。
【0024】
別の態様において、本開示は、それを必要とする対象を処置するための方法を包含する。方法は、(a)生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;生物学的試料から、circRNAを抽出する工程;トランスクリプトームワイドの解析を使用して、circRNAを検出する工程;および/または測定されたcircRNAの示差的発現(DE)を決定する工程;ならびに(b)測定されたcircRNAのDEおよび/またはcircRNAの発現署名が、対照参照値と比べて、前症状性または症状性のADを指し示す場合に、医薬組成物を、対象へと投与する工程を含む。
【0025】
別の態様において、本開示は、対象を、臨床試験へと登録するための方法を包含する。方法は、生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;生物学的試料から、circRNAを抽出する工程;トランスクリプトームワイドの解析を使用して、circRNAを検出する工程;および/または測定されたcircRNAの示差的発現(DE)を決定する工程;ならびに測定されたcircRNAのDEおよび/またはcircRNAの発現署名が、対照参照値と比べて、前症状性または症状性のADを指し示す場合に、対象を、臨床試験へと登録する工程を含む。
【0026】
他の目的および特色は、部分的に明らかであり、本明細書の以下において、部分的に指摘されるであろう。
【0027】
本出願のファイルは、有色で作成された少なくとも1つの図面を含有する。有色の図面を伴う本特許出願公開のコピーは、その旨を依頼し、必要な費用を支払えば、特許庁により支給される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、大脳皮質circRNAが、AD形質と関連することを示す。各円形マンハッタンプロットは、発見(頭頂葉皮質)データセットおよび再現[下前頭回(BM44)]データセットによるcircRNA-AD関連結果についてのメタ解析からの結果を提示する。円形プロットの、最も外側から、最も内側の順に、AD形質は、CDR、Braakスコア、およびAD症例/対照状態(AD症例)を含む。研究ワイドの有意性閾値は、0.05のFDRに基づき、赤色の破線により描示される。この閾値を超えたcircRNAは、星印により表示される。3つのプロット全てを通って伸びる直線は、複数のAD形質:点線(2つの形質);実線(3つの形質)と有意に関連するcircRNAを同定する。
【
図2】
図2は、大脳皮質circRNA発現の変化が、ADの臨床重症度と符合することを示す。Knight ADRC頭頂葉データセット内の2つのAD関連circRNAである、circHOMER1およびcircCORO1Cについての、ライブラリーサイズ、正規化された示差的発現、共変量補正カウントのボックスプロットが提示される。PreSympAD(CDR≦0.5)である。ボックスプロットの要素:中心線(中央値)、ボックス(第1四分位数~第3四分位数)、ウィスカー(四分位数±1.5×四分位数間範囲)、ドット(ウィスカーから外れることにより規定される異常値点)である。AU:任意単位である。
【
図3】
図3は、AD関連circRNAが、APOE4の対立遺伝子の数または推定ニューロン比率と比較された、臨床的認知症尺度の変動の観察について、より多くを解明することを示す。メタ解析において、2つの公知の寄与因子:APOE4の対立遺伝子の数(ADについての、最も一般的な遺伝危険性因子)および推定ニューロン比率と比較して最も有意な、上位10のCDR関連circRNAにより説明される、CDRの変動百分率である。Knight ADRC: PCtx:頭頂葉発見データセット(n
CDR=96);MSBB BM44:下前頭回再現データセット(n
CDR=195)である。
【
図4】
図4は、AD関連circRNAが、AD関連遺伝子と共発現することを示す。MSBB BM44データセット内における、スピアマン相関ベースのネットワーク共発現モジュールである、c1_46である(CDRとのモジュール関連:P=1.52×10
-7)(n=195)。CDRとのモジュール関連は、モジュール固有値遺伝子および示差的発現の共変量による多変量線形回帰から決定した。モジュール固有値遺伝子の、CDRとの関連の有意性は、両側スチューデントt検定を使用して決定した。
【
図5】
図5は、異なる大脳皮質RNA-seqデータセット内において判定された、高信頼性circRNAの重複について描示するベン図である。Parietal:Knight ADRC/DIAN頭頂葉皮質、データセット(n
Samples=170);BM10:MSBBブロードマン10野データセット(n
Samples=265);BM22:MSBB:ブロードマン22野データセット(n
Samples=264);BM36:MSBB:ブロードマン36野データセット(n
Samples=267);BM44:MSBB:ブロードマン44野データセット(n
Samples=230)である。
【
図6】
図6は、確定ADについての神経病理学的診断(AD_case)、認知症の臨床尺度(CDR)、およびタウ神経原線維変化(tau tangle)病理についての神経病理学的尺度-Braakスコア(Braak)の間の不完全な相関を裏付ける、ピアソン相関プロットを示す。Parietal:Knight ADRC頭頂葉皮質発見データセット(n
CDR=96、n
Braak=86、n
control=13、n
AD=83);BM10:MSBB:ブロードマン10野再現データセット(n
CDR=218、n
Braak=209、n
control=46、n
Definite AD=108);BM22:MSBB:ブロードマン22野再現データセット(n
CDR=202、n
Braak=195、n
control=38、n
Definite AD=97);BM36:MSBB:ブロードマン36野再現データセット(n
CDR=187、n
Braak=177、n
control=41、n
Definite AD=91);BM44:MSBB:ブロードマン44野再現データセット(n
CDR=195、n
Braak=188、n
control=40、n
Definite AD=89)である。
【
図7】
図7は、RNA-seqカウントおよび効果の方向についての、定量的PCRによる検証を示す。同じ個体についての、RNA-seqから導出されたカウントと対比した、Knight ADRC発見データセットの13例のRNA試料についての、GAPDH正規化デルタCt値である(n
control=3、n
PreSympAD=3、n
AD=7)。発現レベルが高度のcircRNA転写物は、発現が低度のcircRNA転写物より早急にサイクル閾値(Ct)に到達し、結果として、低値のデルタCt値を有するので、負の相関が予期される。網掛け領域は、線形モデルからの予測についての、95%の信頼性水準間隔を表す。Corr:両側t検定により決定される有意性を伴う、ピアソン相関推定値である。ボックスプロットの要素:中心線(中央値)、ボックス(第1四分位数~第3四分位数)、ウィスカー(四分位数±1.5×四分位数間範囲)、ドット(ウィスカーから外れることにより規定される異常値点)である。
【
図8】
図8は、circRNAの間の重複が、Knight ADRC頭頂葉発見データセット内の異なるAD形質と、有意に関連することを示す。全てのcircRNAは、0.05の偽発見率閾値未満の有意性において、AD形質と有意に関連した。CDR:AD重症度についての臨床的尺度である、臨床的認知症尺度;Braak:AD重症度についての神経病理学的尺度である、Braakスコアである。標本サイズ:n
CDR=96、n
Braak=86、n
control=13、n
AD=83である。
【
図9】
図9は、circRNAの間の重複が、Knight ADRC頭頂葉発見データセットおよびMSBB BM44再現データセットについてのメタ解析における、異なるAD形質と有意に関連することを示す。全てのcircRNAは、0.05の偽発見率閾値未満の有意性において、AD形質と有意に関連した。CDR:AD重症度についての臨床的尺度である、臨床的認知症尺度;Braak:タウ神経原線維変化の数を測定する、AD重症度についての神経病理学的尺度である、Braakスコアである。発見、頭頂葉標本サイズ:n
CDR=96、n
Braak=86、n
control=13、n
AD=83;再現、BM44標本サイズ:n
CDR=195、n
Braak=188、n
control=40、n
Definite AD=89である。
【
図10】
図10は、circRNAの間の重複が、Knight ADRC頭頂葉発見データセットおよび4つの大脳皮質領域全てのMSBB再現データセットについてのメタ解析における、異なるAD形質と有意に関連することを示す。臨床的認知症尺度(CDR)、Braakスコア、およびAD症例/対照状態。PCtx:Knight ADRC頭頂葉皮質発見データセット(n
CDR=96、n
Braak=86、n
control=13、n
AD=83);BM10:MSBBブロードマン10野再現データセット(n
CDR=218、n
Braak=209、n
control=46、n
Definite AD=108);BM22:MSBB:ブロードマン22野再現データセット(n
CDR=202、n
Braak=195、n
control=38、n
Definite AD=97);BM36:MSBB:ブロードマン36野再現データセット(n
CDR=187、n
Braak=177、n
control=41、n
Definite AD=91);BM44:MSBB:ブロードマン44野再現データセット(n
CDR=195、n
Braak=188、n
control=40、n
Definite AD=89)である。
【
図11】
図11は、circRNAの間の重複が、4つの大脳皮質領域のMSBB再現データセット内において、アミロイドプラークの平均数、AD重症度についての神経病理学的尺度と有意に関連することを示す。全てのcircRNAは、0.05の偽発見率閾値において、プラークの平均数と有意に関連した。BM10:MSBBブロードマン10野再現データセット(n
PlaqueMean=218);BM22:MSBBブロードマン22野再現データセット(n
PlaqueMean=202);BM36:MSBBブロードマン36野再現データセット(n
PlaqueMean=187);BM44:MSBBブロードマン44野再現データセット(n
PlaqueMean=195)である。
【
図12】
図12は、circRNAの間の重複が、Braakスコア補正ADと対比したADAD、および対照(CO)と対比したADADと有意に関連することを示す。AD
*対ADAD解析を、Braakスコアにより測定される、神経病理学的重症度について補正した。全てのcircRNAは、0.05の偽発見率閾値において、有意に関連した。標本サイズ:ADAD対CO(n
ADAD=17、n
control=13);ADAD対AD
*(Braakスコアが入手可能な試料:n
ADAD=17、n
AD=73)である。
【
図13】
図13は、AD関連circRNAが、APOE4の対立遺伝子の数または推定ニューロン比率と比較された、Braakスコアの変動の観察について、より多くを説明することを示す。メタ解析において、公知の寄与因子:APOE4の対立遺伝子の数(ADについての、最も一般的な遺伝危険性因子)および推定ニューロン比率と比較して最も有意な、上位10のBraak関連circRNAにより説明される、Braakスコア(Braak)の変動パーセントである。Knight ADRC PCtx(頭頂葉発見データセット)(n
Braak=86);MSBB BM44(下前頭回再現データセット)(n
Braak=188)である。
【
図14】
図14は、AD関連circRNAが、AD症例状態を予測するロジスティックモデルの感度および特異度を改善することを示す。ベースの集団遺伝学モデル(genetic-demographic model)は、示差的発現の共変量(死後間隔、転写物完全性数、死亡年齢、バッチ、性別、遺伝系統)の他、APOE4の対立遺伝子の数を含む。circモデルは、メタ解析において、CDRと有意に関連する、上位10の最多circRNAについての正規化カウントを含む。Circ+Baseモデルは、既存の2つのモデルを、一体に組み合わせた。PCtx:頭頂葉発見データセット(n
control=13、n
AD=83);BM10:ブロードマン10野再現データセット(n
control=46、n
Definite AD=108);BM22:ブロードマン22野再現データセット(n
control=38、n
Definite AD=97);BM36:ブロードマン36野再現データセット(n
control=41、n
Definite AD=91);BM44:ブロードマン44野再現データセット(n
control=40、n
Definite AD=89)である。
【
図15】
図15は、アーチファクトのジャンクションを除外し、高信頼性circRNAカウントのセットを生成する、バックスプライスジャンクションのフィルタリングを示す。Knight ADRC頭頂葉発見データセット内にスパイクインされた直鎖状ERCC RNA内において検出されるバックスプライスジャンクション(n
Samples=170)は、アーチファクトである。2つのレベルのフィルタリングについて描示される。最小数の試料フィルターは、組入れのためには、どのくらいの数の、異なる試料の特定のバックスプライスが観察されなければならないのかを指し示す。最小環状RNA対直鎖状RNA比(Circ:Linear)によるフィルターは、直鎖状RNAと比較して、環状として分類されるリードの最小百分率を指し示し、組入れのためには、バックスプライスが裏付けられなければならない。点および直線の重複の観察における明確さのために、グラフの点および直線は、ジッターにより描示される。
【
図16】
図16は、示差的に発現されたcircRNAを示す。16A(1A):下前頭回データセット内の、神経病理学的に確認された対照、対、神経病理学的に確認されたADにおけるcircRNAの示差的発現である。合計118のcircRNAは、0.05のFDRにおいて、有意である。注:x軸は、発現のlog2による倍数変化を描示する。16B(1B):下前頭回データセット内の、臨床的認知症尺度(CDR)に基づく、circRNAの示差的発現である。合計154のcircRNAは、0.05のFDRにおいて、有意である。注:x軸は、CDR 1単位当たりの発現のlog2倍の変化(範囲:0~3)を描示する。
【
図17】
図17は、circRNAの示差的発現が、前症状性ADにおいて、早期に生じ、常染色体優性アルツハイマー病(Alzheimers)において、より重度となることを示す。疾患状態により類別された、頭頂葉皮質発見データセット内の、circRNA正規化カウントについてのボックスプロット:PreSympAD(最も重度であっても、ごく軽度の認知症である)、後発性アルツハイマー病(AD)、および常染色体優性AD(ADAD)である。
【
図18】
図18は、10のcircRNAが、脳を、AD症例または対照に由来するものとして分類するために、高度の特異度(赤線、AUC=0.88)および感度をもたらすことを示す。
【
図19】
図19は、環状RNAが、血中およびRNA中において定量され、示差的に発現されることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示は、少なくとも部分的に、環状RNA(circRNA)が、神経変性疾患などの疾患についての、非侵襲的バイオマーカーとして使用されうることの発見に基づく。本明細書において概括され、実施例において例示される通り、本出願者らは、CSF中および全血中などの生物学的試料中に存在するcircRNAが、示差的に発現され、対象における疾患を指し示すのに有用であることの証拠を提示する。神経病理学的に確認されたAD症例および対照に由来する脳組織内の、環状RNAの、ロバストかつ再現可能な示差的発現(DE)が同定された。circRNAは、ADと極めて有意に関連するので、脳組織内の、わずか10のDE circRNAのカウントを使用する予測モデルは、高度の特異度および感度(AUC:0.88)をもたらした。加えて、circRNA DEは、臨床的AD重症度および病理学的AD重症度のいずれとも有意に関連することが観察された。前症状性脳内の、対照脳と比較して名目上有意なcircRNA DE(AD病理の証拠であるが、臨床的認知症の証拠ではない)、およびADADを伴う個体に由来する脳内の、より重度のDEが同定されたことは、これと符合する。AD関連遺伝子の、AD circRNAとの共発現は、ネットワーク解析を介して、病原性の役割を示唆するので、DE circRNAを、直接的に、または間接的に安定化させるか、または転じる治療用組成物は、ADを処置する方法において有用である。併せて、本開示は、circRNA発現の変化を、ADと関連付ける、一連の証拠を提示する。したがって、本開示は、circRNA DEを定量して、アルツハイマー病に起因する軽度認知機能障害または認知症の発生までの時間を予測し、処置の決定を誘導し、臨床試験のための対象を選択し、ある特定の治療介入の臨床的有効性を査定する方法の使用を包含する。本発明の他の態様および反復については、下記において、より完全に記載される。
【0030】
I.定義
本発明が、よりたやすく理解されうるように、まず、ある特定の用語が規定される。そうでないことが規定されない限りにおいて、本明細書において使用される、全ての技術用語および科学的用語は、本発明の実施形態が属する技術分野の当業者により、一般に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実施形態の実施において、不要の実験を伴わずに、本明細書において記載される方法および材料と類似するか、これらに対して改変されているか、またはこれらと同等の、多くの方法および材料が使用されうるが、本明細書において、好ましい材料および方法が記載される。本発明の実施形態についての記載、およびこれらの主張において、下記に明示される定義に従う、以下の用語が使用されるであろう。
【0031】
本明細書において使用される、「約」という用語は、例えば、質量、容量、時間、距離、および量を含むがこれらに限定されない、任意の定量可能な変数に関する、典型的な測定法および測定器具を介して生じうる数量の変動を指す。さらに、現実の世界において使用される、固体および液体の操作手順を踏まえると、組成物を作製するか、または方法を実行するのに使用される、製造法、供給源、または成分の純度などの差違を介する可能性が高い、ある特定の不慮の誤差および変動が生じる。「約」という用語はまた、最大において±5%でありうるが、また、±4%、3%、2%、1%などでもありうる、これらの変動も包含する。「約」という用語により修飾される場合であれ、そうでない場合であれ、主張は、数量と同等の数量を含む。
【0032】
本開示またはその好ましい態様(複数可)の要素を導入する場合における、「ある(a)」、「ある(an)」、「その」、および「前記」という冠詞は、要素のうちの1つまたは複数が存在することを意味することが意図される。「~を含むこと(comprising)」、「~を含むこと(including)」、および「~を有すること」という用語は、包含的であることが意図され、列挙された要素以外の、さらなる要素が存在しうることを意味する。
【0033】
「~を測定すること」もしくは「測定」、または、代替的に、「~を検出すること」もしくは「検出」とは、臨床試料中または対象由来試料中に与えられる物質の存在、非存在、数量、または量(有効量でありうる)を決定することを意味し、このような物質の定性的濃度レベルもしくは定量的濃度レベルの導出、または対象の臨床パラメータの値もしくは類別を、他の形において決定することを含む。
【0034】
本明細書において、「患者」、「対象」、「個体」などの用語は、互換的に使用され、インビトロ(in vitro)であれ、インサイチュー(in situ)であれ、本明細書において記載される方法に適する、任意の動物またはその細胞を指す。ある特定の非限定的実施形態において、患者、対象、または個体は、ヒトである。
【0035】
本明細書において使用される、「プラットフォーム」または「技術」とは、本開示に従い、署名、例えば、遺伝子発現レベルを測定するのに使用されうる装置(例えば、測定器および関連部分、コンピュータ、本明細書において教示される、1つまたは複数のデータベースを含む、コンピュータ読み取り型メディア、試薬など)を指す。プラットフォームの例は、アレイプラットフォーム、サーマルサイクラープラットフォーム(例えば、マルチプレックス型PCRプラットフォームおよび/またはリアルタイムPCRプラットフォーム)、核酸シーケンシングプラットフォーム、ハイブリダイゼーション検出器プラットフォームおよびマルチシグナルコード型(例えば、蛍光)検出器プラットフォームなど、核酸質量分析プラットフォーム、磁気共鳴プラットフォーム、およびこれらの組合せを含むがこれらに限定されない。
【0036】
一部の実施形態において、プラットフォームは、遺伝子発現レベルを、半定量的に測定する、すなわち、個別の発現または絶対発現を測定するのではなく、発現レベルが、推定値として、かつ/または互いと、もしくは指定された、1つもしくは複数のマーカー(例えば、別の「標準」遺伝子または「参照」遺伝子の発現)と比べて測定されるように構成される。
【0037】
一部の実施形態において、半定量的測定は、指定されたmRNAを指し示すシグナルが検出されるまで、PCRサイクルを実施し、検出が、署名内の遺伝子の推定発現レベルまたは相対発現レベルを提示するまで、必要とされる数のPCRサイクルを使用することを介する、「リアルタイムPCR」を含む。
【0038】
リアルタイムPCRプラットフォームは、例えば、試料が、マルチプレックス逆転写に続き、リアルタイムPCRが実施されるウェルの集合を伴うアレイカード上において、リアルタイムPCRを受ける、TaqMan(登録商標)Low Density Array(TLDA)を含む。リアルタイムPCRプラットフォームはまた、細胞が溶解され、DNA/RNAが抽出され、リアルタイムPCRが実施され、結果が検出される、例えば、Biocartis Idylla(商標)sample-to-result technologyも含む。リアルタイムPCRプラットフォームはまた、例えば、CyTOF解析も含む:CyTOF(Fludigm)は、重金属へとコンジュゲートされ、同時に、単一の細胞上にある、最大において40のマーカーを検出することが可能な、近年導入されたマスサイトメーターである。
【0039】
磁気共鳴プラットフォームは、例えば、分子標的が、精製の必要を伴わずに、生物学的試料中において同定されうる、T2 Biosystems(登録商標)T2 Magnetic Resonance[T2 MR(登録商標)]技術を含む。
【0040】
「アレイ」、「マイクロアレイ(microarray)」および「マイクロアレイ(micro array)」という用語は、互換的であり、基質上に提示されるヌクレオチド配列のコレクションの配置を指す。本明細書において提示される方法において、任意の種類のアレイが活用されうる。例えば、アレイは、スライドガラスなどの固体基質(固相アレイ)上のアレイの場合もあり、ニトロセルロース膜などの半固体基質上のアレイの場合もある。アレイはまた、ビーズ上、すなわち、ビーズアレイ上にも提示されうる。これらのビーズは、典型的に、顕微鏡的であり、例えば、ポリスチレンから作製されうる。アレイはまた、例えば、特に、金から作製されうるが、また、銀、パラジウム、または白金から作製されうる、ナノ粒子上にも提示されうる。例えば、金ナノ粒子プローブ技術を使用する、Nanosphere Verigene(登録商標)Systemを参照されたい。磁性ナノ粒子もまた、使用されうる。他の例は、核磁気共鳴マイクロコイルを含む。ヌクレオチド配列は、DNA、RNA、またはこれらの任意の並替え配列[例えば、ロックト核酸(LNA)などのヌクレオチド類似体]でありうる。一部の実施形態において、ヌクレオチド配列は、ゲノムDNAではなく、スプライシングされたRNA分子種または成熟RNA分子種の遺伝子発現を検出するように、エクソン/イントロン境界をまたぐ。ヌクレオチド配列はまた、遺伝子に由来する部分配列、プライマー、全遺伝子配列、非コード配列、コード配列、公開された配列、公知の配列、または新規の配列でもありうる。アレイは、加えて、タンパク質または代謝物に特異的に結合する、抗体、ペプチド、タンパク質、組織、細胞、化学物質、炭水化物など、他の化合物も含みうる。
【0041】
アレイプラットフォームは、例えば、上記において言及された、TaqMan(登録商標)Low Density Array(TLDA)、およびAffymetrix(登録商標)マイクロアレイプラットフォームを含む。
【0042】
ハイブリダイゼーション/マルチシグナルコード検出器プラットフォームは、例えば、標的特異的プローブ(例えば、目的の遺伝子発現転写物に対応する)へと接合された色分け型バーコードのハイブリダイゼーションが検出される、NanoString nCounter(登録商標)技術;およびマイクロスフェアビーズが、色分け型であり、検出のための標的特異的(例えば、遺伝子発現転写物)プローブによりコーティングされる、Luminex(登録商標)xMAP(登録商標)技術;およびマイクロビーズが、光ファイバーバンドルまたは平板状シリカスライドへとアセンブルされ、検出のための標的特異的(例えば、遺伝子発現転写物)プローブによりコーティングされる、Illumina(登録商標)Beadアレイを含む。
【0043】
核酸質量分析プラットフォームは、例えば、質量プロファイルを使用して、増幅されたDNAを検出するのに、DNA質量分析が使用される、Ibis Biosciences Plex-ID(登録商標)Detectorを含む。
【0044】
サーマルサイクラープラットフォームは、例えば、非プロセシング試料から、核酸を抽出および精製し、ネステッドマルチプレックスPCRを実施する、FilmArray(登録商標)マルチプレックスPCRシステム;マイクロ流体チップを使用する、液滴ベースのPCRプラットフォームである、RainDropディジタルPCRシステム;ならびにGenMark eSensorシステムまたはePlexシステムを含む。
【0045】
「遺伝子素材」という用語は、生物の細胞の核内またはミトコンドリア内に、遺伝情報を保存するのに使用される素材を指す。遺伝子素材の例は、二本鎖および一本鎖の、DNA、cDNA、RNA、およびmRNAを含むがこれらに限定されない。
【0046】
「複数の核酸オリゴマー」という用語は、DNAの場合もあり、RNAの場合もある、2つまたはこれを超える核酸オリゴマーを指す。
【0047】
範囲:本開示を通して、本発明の多様な態様は、範囲フォーマットにより提示されうる。範囲フォーマットによる記載は、簡便さおよび簡潔さだけのためのものであり、本発明の範囲に対する、柔軟性を欠いた限定と見なされるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲についての記載は、具体的に開示された、全ての可能な部分範囲の他、この範囲内の個別の数値を有すると考えられるものとする。例えば、1~6など、範囲についての記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6など、具体的に開示された部分範囲の他、この範囲内の個別の数、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6を有すると考えられるものとする。これは、範囲の幅に関わらず当てはまる。
【0048】
「Aβアミロイドーシス」は、脳内のAβ沈着の証拠として、臨床的に規定される。本明細書において、Aβアミロイドーシスを有することが臨床的に決定された対象が、「アミロイド陽性」と称されるのに対し、本明細書において、Aβアミロイドーシスを有さないことが臨床的に決定された対象は、「アミロイド陰性」と称される。Aβアミロイドーシスは、現行の技法により検出可能となる前に存在する可能性が高い。しかしながら、当技術分野において、Aβアミロイドーシスについて受容された指標が存在する。本開示の時点において、Aβアミロイドーシスは、典型的に、アミロイドイメージング(例えば、PiB PET、fluorbetapir、または当技術分野において公知の他のイメージング法)または脳脊髄液(CSF)Aβ42の減少もしくはCSF Aβ42/40比の減少により同定される。MCBP(mean cortical binding potential)スコアが>0.18である、[11C]PIB-PETイメージングは、免疫沈降/質量分析(IP/MS)による、約1ng/mlの脳脊髄液(CSF)Aβ42濃度と同様に、Aβアミロイドーシスの指標である。当技術分野において公知である、これらの値または他の値などの値は、Aβアミロイドーシスを臨床的に確認するのに、単独において使用される場合もあり、組み合わせて使用される場合もある。例えば、各々が、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、Klunk W E et al. Ann Neurol 55(3) 2004;Fagan A M et al. Ann Neurol, 2006, 59(3);Patterson et. al, Annals of Neurology, 2015, 78(3): 439-453;またはJohnson et al., J. Nuc. Med., 2013, 54(7): 1011-1013を参照されたい。Aβアミロイドーシスを有する対象は、症状性の場合もあり、症状性でない場合もあり、症状性対象は、Aβアミロイドーシスと関連する疾患についての臨床的基準を満たす場合もあり、満たさない場合もある。Aβアミロイドーシスと関連する症状の非限定例は、認知機能障害、行動の変容、言語機能の異常、情緒調節異常、発作、認知症、および神経系の構造または機能の障害を含みうる。Aβアミロイドーシスと関連する疾患は、アルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管炎、レビー小体認知症、および封入体筋炎を含むがこれらに限定されない。Aβアミロイドーシスを有する対象は、Aβアミロイドーシスと関連する疾患を発症する危険性が増大している。
【0049】
「Aβアミロイドーシスの臨床徴候」とは、当技術分野において公知のAβ沈着についての尺度を指す。Aβアミロイドーシスの臨床徴候は、アミロイドイメージング(例えば、PiB PET、fluorbetapir、または当技術分野において公知の他のイメージング法)または脳脊髄液(CSF)Aβ42の減少もしくはAβ42/40比の減少により同定されるAβ沈着を含みうるがこれらに限定されない。例えば、各々が、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、Klunk W E et al. Ann Neurol 55(3) 2004およびFagan AM et al. Ann Neurol 59(3) 2006を参照されたい。Aβアミロイドーシスの臨床徴候はまた、各々が、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、米国特許第14/366,831号、同第14/523,148号、および同第14/747,453号に記載されている、Aβ代謝の尺度、特に、単独における、または他のAβ変異体(例えば、Aβ37、Aβ38、Aβ39、Aβ40、および/または全Aβ)の代謝の尺度と比較した、Aβ42代謝の尺度も含みうる。さらなる方法は、各々が、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、Albert et al. Alzheimer’s & Dementia 2007 Vol. 7, pp. 170-179;McKhann et al., Alzheimer’s & Dementia 2007 Vol. 7, pp. 263-269;およびSperling et al. Alzheimer’s & Dementia 2007 Vol. 7, pp. 280-292において記載されている。重要なことは、Aβアミロイドーシスの臨床徴候を伴う対象が、Aβ沈着と関連する症状を有する場合もあり、有さない場合もあることである。しかし、Aβアミロイドーシスの臨床徴候を伴う対象は、Aβアミロイドーシスと関連する疾患を発症する危険性が増大している。
【0050】
「アミロイドイメージングのための候補者」とは、医師により、アミロイドイメージングが臨床的に認可されうる個体として同定された対象を指す。非限定例として述べると、アミロイドイメージングのための候補者は、1つもしくは複数のAβアミロイドーシスの臨床徴候、1つもしくは複数のAβプラーク関連症状、1つもしくは複数のCAA関連症状、またはこれらの組合せを伴う対象でありうる。非限定例として述べると、アミロイドイメージングのための候補者は、Aβアミロイドーシスに対する遺伝的素因を伴う対象でありうる。医師は、その臨床ケアを方向付けるように、このような対象のために、アミロイドイメージングを推奨しうる。別の非限定例として述べると、アミロイドイメージングのための候補者は、Aβアミロイドーシスと関連する疾患についての臨床試験における、潜在的な参加者(対照の対象または被験対象)でありうる。
【0051】
「Aβプラーク関連症状」または「CAA関連症状」とは、それぞれ、アミロイド原線維と呼ばれる、規則的に秩序づけられた原線維性凝集物から構成される、アミロイドプラークの形成またはCAAにより引き起こされるか、またはこれらと関連する、任意の症状を指す。例示的なAβプラーク関連症状は、神経変性、認知機能障害、記憶機能障害、行動の変容、情緒調節異常、発作、神経系の構造または機能の障害、およびアルツハイマー病またはCAAの発症または増悪の危険性の増大を含みうるがこれらに限定されない。神経変性は、ニューロンの構造の変化(毒性タンパク質、タンパク質凝集物などの細胞内蓄積などの分子的変化、および軸索または樹状突起の形状または長さの変化、髄鞘組成の変化、髄鞘の喪失など、マクロレベルの変化を含む)、ニューロンの機能の変化、ニューロンの機能の喪失、ニューロンの死、またはこれらの任意の組合せを含みうる。認知機能障害は、記憶、注意、集中、言語、抽象的思考、創造性、実行機能、計画、および構成に関する困難を含みうるがこれらに限定されない。行動の変容は、身体的攻撃性または言語的攻撃性、衝動性、抑制の低下、無気力、方向付けの低下、性格の変化、アルコール、タバコ、または薬物の乱用、および他の中毒関連行動を含みうるがこれらに限定されない。情緒調節異常は、抑うつ状態、不安、躁状態、過敏性、および情緒失禁を含みうるがこれらに限定されない。発作は、全身性強直-間代発作、複合部分的発作、および非てんかん性、心因性発作を含みうるがこれらに限定されない。神経系の構造または機能の障害は、水頭症、Parkinsonism、睡眠障害、精神病、平衡および協調運動の機能障害を含みうるがこれらに限定されない。これは、単不全まひ、片側不全まひ、四肢不全まひ、運動失調、バリスムス、および振戦などの運動機能障害を含みうる。これはまた、嗅覚、触覚、味覚、視覚、および聴覚を含む、感覚の喪失または機能不全も含みうる。さらに、これは、腸および膀胱の機能不全、性機能不全、血圧調節異常、および温度調節異常などの自律神経系機能障害を含みうる。最後に、これは、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、濾胞刺激ホルモン、ゴナドトロピン放出ホルモン、プロラクチン、ならびに他の多数のホルモンおよび調節因子の欠損および調節異常など、視床下部および下垂体の機能不全に帰せられうる、ホルモン機能障害を含みうる。
【0052】
本明細書において使用される、「対象」という用語とは、哺乳動物、好ましくは、ヒトを指す。哺乳動物は、ヒト、霊長動物、家畜、齧歯動物、およびペットを含むがこれらに限定されない。対象は、医療ケアまたは医療処置を待機しつつある場合もあり、医療ケア下または医療処置下にある場合もあり、医療ケアまたは医療処置を施されている場合もある。
【0053】
本明細書において使用される、「健常対照群」、「正常群」、または「健常」対象に由来する試料という用語は、医師により、定性的検査結果または定量的検査結果に基づき、Aβアミロイドーシス、またはAβアミロイドーシスと関連する臨床的疾患(アルツハイマー病を含むがこれらに限定されない)を患っていないと診断される対象、または対象群を意味する。「正常」対象は、通例、査定される個体とほぼ同じ年齢であり、同じ年齢の対象、および5~10歳の範囲内の対象を含むがこれらに限定されない。
【0054】
本明細書において使用される、「血液試料」という用語とは、血液、好ましくは末梢(または循環)血液に由来する生物学的試料を指す。血液試料は、全血液、血漿、または血清でありうるが、典型的に、血漿が好ましい。
【0055】
「平均値から有意に隔たる」とは、平均値を、少なくとも1標準偏差、好ましくは、少なくとも1.3標準偏差、より好ましくは、少なくとも1.5標準偏差、またはなおより好ましくは、少なくとも2標準偏差上回るか、またはこれを下回る値を指す。
【0056】
II.方法
本開示の一態様は、対象の疾患を診断するための方法であって、前記対象の生物学的試料(例えば、体液)中の1つまたは複数の環状RNA(circRNA)の存在または非存在を決定する工程であって、前記1つまたは複数のcircRNAの存在または非存在が、疾患を指し示す工程を含む方法を包含する。好ましくは、前記疾患は、体液の疾患ではない。ある特定のcircRNAは、罹患対象の試料中に、健常対象に由来する試料と比較して、異なるレベルにおいて存在する場合もあり、対象の疾患重症度に基づき、異なるレベルにおいて存在する場合もある。したがって、本開示は、参照レベルと比較した場合に、circRNAの「存在」もしくは「非存在」決定する工程、および/または前記1つもしくは複数のcircRNAのレベルを決定する工程;決定されたレベルを、前記1つまたは複数のcircRNAの参照レベルと比較する工程を包含する。したがって、本開示は、前記1つまたは複数のcircRNAのレベルを決定する工程;決定されたレベルを、前記1つまたは複数のcircRNAの参照レベルと比較する工程であって、決定されたレベルと、参照レベルとの間において異なるレベルが、疾患を指し示す工程を提示する。よって、本発明はまた、対象の疾患または対象の疾患重症度を診断するための方法であって、前記1つまたは複数のcircRNAのレベルを決定する工程;決定されたレベルを、前記1つまたは複数のcircRNAの参照レベルと比較する工程であって、決定されたレベルと、参照レベルとの間において異なるレベルが、疾患または疾患重症度を指し示す工程を含む方法にも関する。
【0057】
本発明の実施形態において、方法は、対象におけるアルツハイマー病、前頭側頭型認知症、パーキンソン病(Parkinsons)型認知症、およびレビー小体認知症などの神経変性疾患を診断するための方法である。一部の実施形態において、対象は、MCIまたは認知症の診断を有する。一部の実施形態において、対象は、神経変性疾患の臨床徴候を有さない。
【0058】
本明細書において開示される方法は、一般に、生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程を含む。本明細書において使用される、「生物学的試料」という用語は、対象から単離された生物学的素材を意味する。所望のcircRNAを検出するために適する、任意の生物学的素材を含有する任意の生物学的試料が適し、対象から得られた細胞性材料および/または非細胞性材料を含みうる。非限定例は、血液、血漿、血清、尿、および組織を含む。試料は、患者に由来する試料である、「臨床試料」であることが多い。典型的臨床試料は、滑液、痰、血液、尿、血漿、血清、汗、粘液、唾液、リンパ液、気管支吸引物、腹水、脳脊髄液、および胸水などの体液試料、ならびに血球[例えば、白血球(white cells)]、組織生検もしくは微細針生検試料、および膿瘍、またはこれらに由来する細胞などの組織試料を含むがこれらに限定されない。生物学的試料はまた、組織学的目的のために採取された、凍結切片またはホルマリン固定切片などの組織切片も含みうる。一部の実施形態において、生物学的試料は、CSF、血液、または脳組織から選択される。
【0059】
「試料」はまた、増幅反応の生成物など、生化学反応または化学反応に由来する試料でもありうる。液体試料は、本開示における使用の前に、1つまたは複数の前処理にかけられうる。このような前処理は、希釈、濾過、遠心分離、濃度、沈降、沈殿、または透析を含むがこれらに限定されない。前処理はまた、例えば、試料を安定化させるために、化学物質または生化学物質の、溶液への添加も含むことが可能であり、核酸、特に、circRNAを含有した。このような化学物質または生化学物質の添加は、酸、塩基、緩衝液、塩、溶媒、反応性色素、界面活性物質、乳化剤、またはEDTAのようなキレート剤を含む。試料は、例えば、採取され、このような物質と直接的に混合されうる。一実施形態において、試料は、全血液試料である。全血液試料は、好ましくは、希釈、濾過、遠心分離、濃度、沈降、沈殿、または透析により前処理されない。しかし、解析の開始まで、試料を安定化させるために、物質が試料へと添加されることが好ましい。この文脈における「安定化」とは、決定されるcircRNAの分解の防止を意味する。この文脈における、好ましい安定化剤は、EDTA、例えば、K2EDTA、RNアーゼ阻害剤、アルコール、例えば、エタノールおよびイソプロパノール、タンパク質を塩析するのに使用される薬剤(RNAlaterなど)である。一態様において、試料は、rRNA(リボソームRNA)を除外するように処理される。当技術分野において、rRNA試料を枯渇させる技法、例えば、RiboMinus技術が公知である。
【0060】
当業者により理解される通り、生物学的試料を回収する方法は、生物学的試料の性質、および実施される解析の種類に応じて変動する場合があり、変動するであろう。生物学的試料を回収するのに、当技術分野において一般に公知である、様々な方法のうちのいずれかが活用されうる。一般的に言うと、方法は、本開示に従い、circRNAが、正確に検出され、量が測定されうるように、好ましくは、試料の完全性を維持する。
【0061】
一部の実施形態において、単一の試料は、試料中の、1つまたは複数のcircRNAを検出するように、対象から得られる。代替的に、1つまたは複数のcircRNAは、時間経過にわたり、対象から得られる試料中において検出されうる。このように、1つを超える試料は、時間経過にわたり、対象から回収されうる。例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16例、またはこれを超える例数の試料は、時間経過にわたり、対象から回収されうる。一部の実施形態において、2、3、4、5、または6例の試料は、時間経過にわたり、対象から回収される。他の実施形態において、6、7、8、9、または10例の試料は、時間経過にわたり、対象から回収される。さらに他の実施形態において、10、11、12、13、または14例の試料は、時間経過にわたり、対象から回収される。他の実施形態において、14、15、16例、またはこれを超える例数の試料は、時間経過にわたり、対象から回収される。
【0062】
1つを超える試料が、時間経過にわたり、対象から回収される場合、試料は、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12時間、またはこれを超える時間ごとに回収されうる。一部の実施形態において、試料は、0.5、1、2、3、または4時間ごとに回収される。他の実施形態において、試料は、4、5、6、または7時間ごとに回収される。さらに他の実施形態において、試料は、7、8、9、または10時間ごとに回収される。他の実施形態において、試料は、10、11、12時間、またはこれを超える時間ごとに回収される。加えて、試料は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、またはこれを超える日数ごとに回収されうる。一部の実施形態において、試料は、約6日間ごとに回収される。一部の実施形態において、試料は、1、2、3、4、または5日間ごとに回収される。他の実施形態において、試料は、5、6、7、8、または9日間ごとに回収される。さらに他の実施形態において、試料は、9、10、11、12、またはこれを超える日数ごとに回収される。
【0063】
一部の実施形態において、試料は、1つまたは複数の核酸を含む。本明細書において、「核酸」という用語は、その最広義において使用され、全ての可能な供給源に由来し、全ての長さ、および二本鎖、一本鎖、環状、直鎖状、または分枝状など、全ての構成における、リボ核酸(RNA)およびデオキシリボ核酸(DNA)を含む。対象に由来する単量体ヌクレオチド、オリゴマー、プラスミド、ウイルス性核酸および細菌性核酸の他、ゲノムDNAおよび非ゲノムDNAならびにRNA、環状RNA(circRNA)、プロセシング形態および非プロセシング形態にあるメッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA(tRNA)、異種核内RNA(hn-RNA)、リボソームRNA(rRNA)、相補性DNA(cDNA)の他、他の全ての想定可能な核酸など、全てのサブユニットおよびサブタイプもまた含まれる。しかし、最も好ましい実施形態において、試料は、circRNAを含む。本開示との関連におけるcircRNAの「存在」または「非存在」とは、circRNAが、それぞれ、ある特定の閾値を上回るレベルにおいて、またはある特定の閾値を下回るレベルにおいて存在することを意味する。閾値が、「0」である場合、これは、「存在」とは、試料中の、circRNAの実際の存在であり、「非存在」とは、実際の非存在であることを意味するであろう。しかし、本開示との関連における「存在」はまた、それぞれのcircRNAが、閾値、例えば、対照において決定されるレベルを上回るレベルにおいて存在することも意味する場合があり、したがって、この文脈における「非存在」とは、circRNAのレベルが、ある特定の閾値以下であることを意味する。よって、本開示の方法は、1つまたは複数のcircRNAのレベル決定する工程、およびこれを、前記1つまたは複数のcircRNAの参照レベルと比較する工程を含むことが好ましい。一実施形態において、決定工程は、(i)前記1つまたは複数のcircRNAのレベルを決定する工程;および(ii)決定されたレベルを、前記1つまたは複数のcircRNAの参照レベルと比較する工程であって、決定されたレベルと、参照レベルとの間において異なるレベルが、疾患を指し示す工程を含む。言い換えると、本開示は、対象の疾患を診断するための方法であって、(i)前記1つまたは複数のcircRNAのレベルを決定する工程;および(ii)決定されたレベルを、前記1つまたは複数のcircRNAの参照レベルと比較する工程であって、決定されたレベルと、参照レベルとの間において異なるレベルが、疾患を指し示す工程を含む方法に関する。
【0064】
「参照レベル」という用語は、circRNAの「存在」または「非存在」の間の区別を可能とするために、決定されたレベルが比較されるレベルに関する。参照レベルは、実際の診断(diagnose)を下す推定工程のための決定因子であるレベルを含む。好ましい実施形態における参照レベルは、健常対象、すなわち、診断される疾患を有さない対象、例えば、アルツハイマー病などの神経変性疾患を有さない対象、または健常対象の集団における、それぞれのcircRNAのレベルに関する。当業者は、本出願の開示と共に、一般的な統計学的方法を使用して、適した対照レベルを決定する位置にある。
【0065】
circRNAについての「参照レベル」はまた、特定の疾患状態または疾患重症度の非存在を指し示す、circRNAのレベルも意味しうる。一部の実施形態において、対象におけるcircRNAのレベルが、参照circRNAのレベルを上回る場合、これは、疾患状態の存在、または疾患重症度の悪化を指し示す。一部の実施形態において、対象におけるcircRNAのレベルが、参照circRNAのレベルを上回る場合、これは、特定の疾患状態の欠如、または疾患重症度の欠如を指し示す。一部の実施形態において、対象におけるcircRNAのレベルが、参照circRNAのレベルを下回る場合、これは、特定の疾患状態の存在、または疾患重症度の悪化を指し示す。一部の実施形態において、対象におけるcircRNAのレベルが、参照circRNAのレベルを下回る場合、これは、特定の疾患状態の欠如、または疾患重症度の欠如を指し示す。一部の実施形態において、対象におけるcircRNAのレベルが、参照circRNAのレベルの範囲内にある場合、これは、特定の疾患状態または重症度を指し示す。
【0066】
circRNAの発現レベルと共に使用される場合における、本明細書において使用される「~を指し示す」という用語は、circRNAの発現レベルが、代替的な生物学的状態(例えば、無症状性、前症状性、MCI、認知症)または対照における発現レベルと比較して、上方調節されるか、または下方調節されるか、変更されるか、または変化することを意味する。
【0067】
ある特定の実施形態において、1つまたは複数のcircRNAの量を、生物学的試料中において増大していると分類するには、生物学的試料中の、1つまたは複数のcircRNAの、参照値と比較した量は、少なくとも1倍増大している。例えば、試料中の、1つまたは複数のcircRNAの、参照値と比較した量は、少なくとも1倍、少なくとも1.25倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.75倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、少なくとも30倍、少なくとも35倍、少なくとも40倍、少なくとも45倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍、少なくとも300倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍、少なくとも5000倍、または少なくとも10000倍増大している。
【0068】
ある特定の実施形態において、1つまたは複数のcircRNAの量を、生物学的試料中において減少していると分類するには、生物学的試料中の、1つまたは複数のcircRNAの、参照値と比較した量は、1分の1以下に減少している。例えば、試料中の、1つまたは複数のcircRNAの、参照値と比較した量は、1分の1、少なくとも1.25倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.75倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、少なくとも30倍、少なくとも35倍、少なくとも40倍、少なくとも45倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍、少なくとも300倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍、少なくとも5000倍、または少なくとも10000倍以下に減少している。
【0069】
別の実施形態において、宿主解析物の量の増大または減少は、p値を使用して測定される。例えば、p値を使用する場合、circRNAは、p値が、0.1未満、好ましくは0.05未満、より好ましくは0.01未満、なおより好ましくは0.005未満、最も好ましくは0.001未満である場合に、生物学的試料と、参照値との間において示差的に発現されるcircRNAとして同定される。
【0070】
1つまたは複数のcircRNAのレベルは、当業者に周知の、多数の方式において解析されうる。例えば、得られた各アッセイ結果は、「正常」もしくは「対照」値、または特定の疾患もしくは転帰を指し示す値と比較されうる。特定の診断/予後診断は、診断的「閾値」と称される場合もあり、予後診断的「閾値」と称される場合もある、このような値との、各アッセイ結果の比較に依存しうる。ある特定の実施形態において、1つまたは複数の診断的指標または予後診断的指標についてのアッセイは、アッセイにおける、circRNAの存在または非存在だけにより、状態または疾患と相関させられる。例えば、アッセイは、陽性シグナルが、目的の特定の閾値レベルを上回る場合に限り生じ、このレベルを下回る場合に、アッセイは、バックグラウンドを上回るシグナルを提示しないようにデザインされうる。
【0071】
診断検査および/または予後診断検査の感度および特異度は、検査の解析「品質」に依存するだけではなく、また、何が異常結果を構成するのか、すなわち、どのような場合に、レベルが、対照レベルと異なると考えられうるのかについての定義にも依存する。実際、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線は、典型的に、変数の値を、「正常」(すなわち、卵巣がんを有さない、見かけ上健常の個体)集団および「疾患」集団におけるその相対頻度と対比してプロットすることにより計算される。任意の特定のマーカーについて、疾患を伴う対象についてのマーカーレベルの分布と、疾患を伴わない対象についてのマーカーレベルの分布とは、重複する可能性が高いであろう。このような条件下において、検査は、正常を、疾患から、100%の精度により、絶対的に識別するわけではなく、重複部分は、検査が、正常を、疾患から識別しえない部分を指し示す。それを下回る場合、検査結果が異常であると考えられ、それを上回る場合、検査結果が正常であると考えられる閾値が選択される。ROC曲線下の面積は、感知された測定値が、状態の正確な同定を可能とする確率についての尺度である。ROC曲線は、検査結果が、必ずしも、正確な数を与えない場合であってもなお使用されうる。結果をランク付けできる限りにおいて、ROC曲線を創出することができる。例えば、「疾患」試料についての検査結果は、程度(例えば、1=低、2=正常、および3=高)に従いランクづけされうる。このランクづけは、「正常」集団または「対照」集団における結果と相関させられる場合があり、ROC曲線が創出されうる。これらの方法は、当技術分野において周知である。例えば、Hartley et al. 1982. Radiology 143: 29-36を参照されたい。好ましくは、閾値は、約0.5を超え、より好ましくは、約0.7を超え、なおより好ましくは、約0.8を超え、なおより好ましくは、約0.85を超え、最も好ましくは、約0.9を超えるROC曲線下面積をもたらすように選択される。この文脈における「約」という用語は、所与の測定値から±5%を指す。
【0072】
ROC曲線の水平軸は、偽陽性率と共に増大する、(1-特異度)を表す。曲線の垂直軸は、真陽性率と共に増大する感度を表す。したがって、選択される、特定のカットオフについて、(1-特異度)の値が決定され、対応する感度が得られうる。ROC曲線下の面積は、測定されたマーカーレベルが、疾患または状態の正確な同定を可能とする確率についての尺度である。したがって、ROC曲線下の面積は、検査の有効性を決定するのに使用されうる。他の実施形態において、危険性を予測するか、または疾患を診断する検査の能力の尺度として、陽性尤度比、陰性尤度比、オッズ比、またはハザード比が使用される。陽性尤度比の場合、1の値は、「罹患」群および「対照」群のいずれの対象においても、陽性結果が生じる可能性が同等であることを指し示し;1を超える値は、罹患群において、陽性結果が生じる可能性が高いことを指し示し;1未満の値は、対照群において、陽性結果が生じる可能性が高いことを指し示す。陰性尤度比の場合、1の値は、「罹患」群および「対照」群のいずれの対象においても、陰性結果が生じる可能性が同等であることを指し示し;1を超える値は、被験群において、陰性結果が生じる可能性が高いことを指し示し;1未満の値は、対照群において、陰性結果が生じる可能性が高いことを指し示す。
【0073】
オッズ比の場合、1の値は、「罹患」群および「対照」群のいずれの対象においても、陽性結果が生じる可能性が同等であることを指し示し;1を超える値は、罹患群において、陽性結果が生じる可能性が高いことを指し示し;1未満の値は、対照群において、陽性結果が生じる可能性が高いことを指し示す。
【0074】
ハザード比の場合、1の値は、「罹患」群および「対照」群のいずれにおいても、エンドポイント(例えば、死)の相対的危険性が同等であることを指し示し;1を超える値は、罹患群において、危険性が大きいことを指し示し;1未満の値は、対照群において、危険性が大きいことを指し示す。
【0075】
当業者は、診断的指標または予後診断的指標の、診断または将来の臨床的転帰の予後診断的危険性との関連づけが、統計学的解析であることを理解するであろう。例えば、Xより低レベルのマーカーレベルは、患者が、統計学的有意性の水準により決定される通り、レベルがX以上である患者より、有害転帰を被る可能性が高いことを伝えうる。別のマーカーについて、Xより高レベルのマーカーレベルは、患者が、統計学的有意性の水準により決定される通り、レベルがX以下である患者より、有害転帰を被る可能性が高いことを伝えうる。加えて、ベースラインレベルからのマーカー濃度の変化は、患者の予後診断を反映することが可能であり、マーカーレベルの変化の程度は、有害事象の重症度と関連しうる。統計学的有意性は、2つ以上の集団を比較し、信頼区間および/またはp値を決定することにより決定されることが多い。例えば、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York, 1983を参照されたい。本発明の好ましい信頼区間が、90%、95%、97.5%、98%、99%、99.5%、99.9%、および99.99%であるのに対し、好ましいp値は、0.1、0.05、0.025、0.02、0.01、0.005、0.001、および0.0001である。疾患の診断に適する閾値レベルは、circRNAのある特定の組合せについて決定されうる。これは、例えば、患者の参照集団を、それらのcircRNAのレベルに従い、ある特定の分位数、例えば、四分位数、五分位数へと、なおまたは適切な百分位数に従い群分けすることによりなされうる。ある特定の百分位数を上回る分位数または群、およびこれを下回る分位数または群の各々について、ハザード比は、有害転帰、すなわち、「疾患」または「アルツハイマー病」についての危険性を、ある特定の疾患を有する患者と、ある特定の疾患を有さない患者との間において比較して計算されうる。このような状況において、1を上回るハザード比(HR)は、患者について、有害転帰の高度の危険性を指し示す。1を下回るHRは、患者の群における、ある特定の処置の有益な効果を指し示す。1近傍(例えば、±0.1)のHRは、患者の特定の群について、危険性の上昇を指し示さない。ある特定の分位数の患者の間のHRの、互いとの比較、および患者の全集団のHRとの比較により、危険性が上昇する患者、および投薬から利益を得る患者の分位数同定し、これにより、本発明に従う対象を層別化することが可能である。ある場合には、circRNAのレベルが「参照レベル」と異なる(例えば、第5五分位数の)患者に、疾患の存在が影響しないのに対し、他の場合には、レベルが対照レベルと同様である(例えば、第1五分位数の)患者は、影響を受けるであろう。しかし、上記の説明およびその一般的な知見により、当業者は、疾患、例えば、神経変性疾患を有する患者の群を、アルツハイマー病を有する患者の群として同定することが可能である。例示的に述べると、付属の実施例において、アルツハイマー病について、circRNAのレベルの一部の組合せが一覧される。本発明についての別の実施形態において、診断は、マーカーペプチドの患者の個別のレベルを、健常集団のある特定の百分位数[例えば、第97.5百分位数(レベルの上昇が疾患を指し示す場合)または第2.5百分位数(レベルの低下が疾患を指し示す場合)]と関連づけることにより決定される。
【0076】
カプラン-マイヤー推定子は、患者の転帰または危険性(例えば、診断、再発、進行または罹患状態)の評価または予測のために使用されうる。
【0077】
本発明の文脈における「同等」レベルとは、レベルが、±10%を超えず、好ましくは±5%を超えず、より好ましくは±2%を超えずに異なることを意味する。本発明の文脈における、レベルの「低下」または「上昇」とは、レベルが、10%を超え、好ましくは15%を超え、好ましくは20%を超えて異なることを意味する。
【0078】
「環状RNA」(circRNA)については、既に記載されている。当業者は、検出されたRNAが、環状RNAであるのかどうかを決定することが可能である。特に、circRNAは、遊離3’末端または遊離5’末端を含有しない、すなわち、核酸の全体が環状化されている。circRNAは、好ましくは、環状化された一本鎖RNA分子である。さらに、circRNAは、RNAをコードするゲノム配列に関して、不連続配列を結果としてもたらす、5’側から3’側へのスプライシングイベントの結果である。これは、ゲノムの文脈において、第1の配列は、第2の配列の5’側(上流)に存在するが、circRNA上において、その5’末端における前記第1の配列が、前記第2の配列の3’末端へと連結され、これにより、閉環することを意味する。この配置の帰結は、前記第1の配列の5’末端が、前記第2の配列の3’末端へと連結されるジャンクションにおいて、ゲノムの文脈においても、通常転写されるRNA内、例えば、mRNA内においても存在しない、固有の配列が構築されることである。したがって、本開示に従うcircRNAは、頭尾配置にあるバックスプライスジャンクションを含有することが好ましい。当業者は、通例のmRNA転写物が、尾頭配置にあるエクソン間ジャンクションを含有する、すなわち、ゲノムの文脈において上流にある、エクソンの3’末端(尾部)が、ゲノムの文脈において下流にある、エクソンの5’末端(頭部)へと連結されることを認識するであろう。本明細書において、実際のジャンクション、すなわち、1つのエクソンが、他のエクソンへと連結される点はまた、「切断点」とも称される。好ましい実施形態において、circRNAの存在もしくは非存在、またはcircRNAのレベルは、バックスプライスジャンクションの検出により決定される。一部の実施形態において、本明細書において開示される方法は、試料を、以下のバックスプライスジャンクションを検出するようにデザインされた以下のプライマー対:circHOMER1[フォワード:5’-TTTGGAAGACATGAGCTCGA-3’(配列番号1);リバース:5’-AAGGGCTGAACCAACTCAGA-3’(配列番号2)]、circKCNN2[フォワード:5’-GACTGTCCGAGCTTGTGAAA-3’(配列番号3);リバース:5’-GGCCGTCCATGTGAATGTAT-3’(配列番号4)]、circMAN2A1[フォワード:5’-TGAAAGAAGACTCACGGAGGA-3’(配列番号5);リバース:5’-TAGCAAACGCTCCAAATGGT-3’(配列番号6)]、circICA1[フォワード:5’-TTGATGATTTGGGGAGAAGG-3’(配列番号7);リバース:5’-TGGATGAAGGACGTGTCTCA-3’(配列番号8)]、circFMN1[フォワード:5’-GGTGGCTATGCAGAGAAAGC-3’(配列番号9);リバース:5’-CAGGGAAGACCACAGCTGAG-3’(配列番号10)];circDOCK1[フォワード:5’-AGCTGAGGGACAACAACACC-3’(配列番号11);リバース:5’-GGCCGTCCATGTGAATGTAT-3’(配列番号12)]、circRTN4[フォワード:5’-TGAAAGCAGCAGGAATAGGC-3’(配列番号13);リバース:5’-CAGGCGCCTCTTCTTAGTTG-3’(配列番号14)]、circST18[フォワード:5’-CTGGAGTTTTCTTGTGCAGTTG-3’(配列番号15);リバース:5’-AAACCCAAGCTTCATGCAAG-3’(配列番号16)]、circIATRNL1[フォワード:5’-GGGTATAAAGCATTGCCAGG-3’(配列番号17);リバース:5’-GCCTTCAATGAGCCAAGTACA-3’(配列番号18)]、circEXOSC1[フォワード:5’-CTTTGGCCAAGACAATGTCA-3’(配列番号19);リバース:5’-GTGTGAGATGCAGTGCCCTA-3’(配列番号20)]のうちの1つまたは複数と接触させることにより、1つまたは複数のcircRNAを検出する工程を含む。一部の実施形態において、方法は、配列番号1~20のヌクレオチド配列を含む、これらから本質的になる、またはこれらからなるプライマーの使用を含む。
【0079】
環状RNAの検出についてはまた、特に、circRNAの検出およびアノテーションに関して、参照により本明細書に組み込まれる、Memczak S, Jens M, Elefsinioti A, et al. Circular RNAs are a large class of animal RNAs with regulatory potency. Nature. 2013; 495(7441):333-338においても、既に記載されている。多くの哺乳動物のcircRNAの生合成は、フランキングイントロン内の相補性配列[Ashwal-Fluss R, Meyer M, Pamudurti NR, et al. circRNA Biogenesis Competes with Pre-mRNA Splicing. MOLCEL. 2014; 1-12; Rybak-Wolf A, Stottmeister C, Glazar P, et al. Circular RNAs in the Mammalian Brain Are Highly Abundant, Conserved, and Dynamically Expressed. MOLCEL. 2015;1- 17; Zhang X-O, Wang H-B, Zhang Y, et al. Complementary Sequence-Mediated Exon Circularization. Cell. 2014; Liang D, Wilusz JE. Short intronic repeat sequences facilitate circular RNA production. Genes and Development. 2014; Conn SJ, Pillman KA, Toubia J, et al. The RNA Binding Protein Quaking Regulates Formation of circRNAs. Cell. 2015;160(6): 1 125-1 134; and Ivanov A, Memczak S, Wyler E, et al. Analysis of Intron Sequences Reveals Hallmarks of Circular RNA Biogenesis in Animals. CellReports. 2015;10(2): 170- 177を参照されたい]に依存する。よって、一実施形態において、頭尾配置にあるエクソン間ジャンクションのエクソン(すなわち、エクソン間ジャンクションを形成するエクソン)の上流および下流にあり、ゲノム的関連において、これらと直接隣接する、2つのイントロンは、相補性配列、例えば、少なくとも15ヌクレオチド、好ましくは500ヌクレオチド、より好ましくは1000ヌクレオチドの、相補性配列の連なりを含有することが多い。circRNAの検出のために、原則として、試料のRNAは、逆転写およびライブラリー調製の後においてシーケンシングされる。その後、配列は、頭尾配置にあるエクソン間ジャンクション、すなわち、バックスプライスジャンクションの存在について解析される。例えば、シーケンシングされたRNAは、一般的なマッピングプログラムおよびマッピングソフトウェア、例えば、bowtie2[version 2.1.0;Langmead B, Salzberg SL. Fast gapped-read alignment with Bowtie 2. Nature Methods. 2012; 9(4):357-359を参照されたい]を使用して、参照ゲノムへとマッピングされうる。ヒト参照ゲノムは、当業者に公知であり、ヒト参照ゲノムである、hgl9[2009年2月、GRCh37;UCSCゲノムブラウザーからダウンロード可能である;Kent WJ, Sugnet CW, Furey TS, et al. The human genome browser at UCSC. Genome Research. 2002; 12(6):996-1006を参照されたい]を含む。circRNAの、血中の検出は、全RNA試料の前処理を伴わずに可能であるが、特に、RNAシーケンシング法を使用する場合、リボソームRNA(rRNA)、好ましくは、rRNAの大部分を枯渇させて、circRNA検出の感度を増大させることが好ましい。この目的のために、試料中のrRNA含量は、全RNA含量に照らして、20%未満、好ましくは、10%未満、より好ましくは、2%未満へと枯渇されるものとする。rRNAの枯渇は、当技術分野において公知の通りに実施されうる、例えば、市販のキット(例えば、Ribominus、Themo Scientific)または酵素的方法[Xian Adiconis et al. Comprehensive comparative analysis of RNA sequencing methods for degraded or low input samples Nat Methods. 2013 Jul; 10(7): 10.1038/nmeth.2483]により容易とされうる。さらに、好ましい実施形態において、トリミングを伴わない(末端-末端モードの)アライメントにより、ゲノムへと連続的にマッピングされるRNA配列は、無視される。ゲノムへと連続的にマッピングされないリードが、好ましくは、circRNA候補物質の検出に使用される。配列に由来する末端配列(アンカー)、例えば、20nt以上の配列が抽出され、独立に、ゲノムに照らしてリアライメントされうる。このアライメントから、配列は、全circRNA配列がカバレッジされる、すなわち、アライメントされるまで拡張されうる。アンカーの連続的なアライメントが、直鎖状スプライシングイベントを指し示すのに対し、逆配向性のアライメントは、circRNA内において観察される、頭尾スプライシングを指し示す。
【0080】
本発明に従うcircRNAは、異なる技法を使用して検出されうる。本明細書において概括される通り、バックスプライス配置は、circRNAに固有である。よって、これらの検出が好ましい。核酸の検出法は、一般に、当業者に公知であり、プローブハイブリダイゼーションベースの方法、核酸の増幅ベースの方法、および核酸シーケンシング、またはこれらの組合せを含む。よって、好ましい実施形態において、本発明のcircRNAは、プローブハイブリダイゼーションベースの方法、核酸の増幅ベースの方法、および核酸シーケンシングからなる群から選択される方法を使用して検出される。
【0081】
プローブハイブリダイゼーションベースの方法は、相補鎖と特異的にハイブリダイズする核酸の特色を利用する。この目的のために、circRNAの頭尾配置にあるエクソン間ジャンクション、すなわち、エクソン間ジャンクションをまたぐ配列、好ましくは、エクソン間ジャンクションの10nt上流~10nt下流に広がる領域、好ましくは、エクソン間ジャンクションの20nt上流~20nt下流にわたる領域、またはエクソン間ジャンクションをまたぐ、なお大きな領域と特異的にハイブリダイズする核酸プローブが利用されうる。当業者は、circRNAのそれぞれの配列と特異的にハイブリダイズするハイブリダイゼーションプローブの他、例えば、circRNAが、cDNAへと、既に逆転写されており、かつ/または増幅されている場合、その逆相補体配列と特異的にハイブリダイズするハイブリダイゼーションプローブも使用されうることを認識するであろう。
【0082】
ハイブリダイゼーションはまた、2つの核酸配列の間の相同性の尺度としても使用されうる。本発明に従う頭尾配置にあるエクソン間ジャンクションに、特異的にハイブリダイズする核酸配列は、標準的ハイブリダイゼーション法に従うハイブリダイゼーションプローブとして使用されうる。プローブの、被験供給源(例えば、全血液などの体液、または体液試料から増幅された核酸)に由来するDNAまたはRNAとのハイブリダイゼーションは、被験供給源中の、関連するcircRNAの存在についての指標である。
【0083】
ハイブリダイゼーション条件は、当業者に公知であり、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y., 6.3.1-6.3.6, 1991において見出されうる。好ましくは、特異的ハイブリダイゼーションとは、厳密な条件下におけるハイブリダイゼーションを指す。「厳密な条件」は、45℃における、6倍濃度の塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中のハイブリダイゼーションに続く、65℃における、0.2倍濃度のSSC、0.1%SDS中の洗浄と同等の条件;またはブロッティング法のための、市販のハイブリダイゼーション緩衝液(例えば、ULTRAHyb、ThermoScientific)、および65℃におけるアレイベースの検出法のための5倍濃度のSSC、0.5%SDS(750mMのNaCl、75mMのクエン酸ナトリウム、0.5%のドデシル硫酸ナトリウム、pH7.0)中のハイブリダイゼーションと同等の条件として規定される。本発明の手段および方法は、好ましくは、核酸プローブの使用を含む。本発明に従う核酸プローブは、特異的核酸配列と実質的に相補性である、オリゴヌクレオチド、核酸、またはこれらの断片であり、「実質的に相補性」とは、厳密な条件下において、特異的核酸配列とハイブリダイズする能力を指す。
【0084】
当業者は、試料中の核酸レベルを決定し、それらを対照レベルと比較する手段および方法について承知している。このような方法は、本発明に従う標識化核酸プローブを利用しうる。「標識」は、本明細書の下記においてさらに規定される、蛍光活性標識または酵素活性標識を含む。このような方法は、リアルタイムPCR法およびAffimetrix(登録商標)、ナノストリングなどのマイクロアレイ法を含む。
【0085】
circRNAまたはそれらのレベルの決定はまた、シーケンシング法を使用しても検出されうる。当業者は、本発明との関連において、シーケンシング法を使用することが可能である。シーケンシング法は、マクサム-ギルバートシーケンシング、サンガーシーケンシング(ddNTPを使用する鎖終結法)、およびMPSS(massively parallel signature sequencing)などの次世代シーケンシング法、ポロニーシーケンシング、454製のパイロシーケンシング、Illumina製(Solexa)シーケンシング、SOLiDシーケンシング、またはイオントレント半導体シーケンシングもしくは単一分子リアルタイム(SMRT)シーケンシング(single molecule,real-time technology sequencing)を含むがこれらに限定されない。
【0086】
circRNAおよびそれぞれのレベルの検出/決定はまた、単独における核酸増幅法を利用する場合もあり、シーケンシング法および/またはハイブリダイゼーション法と組み合わせた核酸増幅法を利用する場合もある。核酸の増幅は、検出の前に、目的の配列を増幅するのに使用されうる。しかし、核酸の増幅はまた、例えば、リアルタイムPCR法により、核酸を定量するためにも使用されうる。このような方法は、一般に、当業者に公知である。核酸増幅法は、例えば、ローリングサークル増幅[Liu, et al., “Rolling circle DNA synthesis: Small circular oligonucleotides as efficient templates for DNA polymerases,” J. Am. Chem. Soc. 1 18:1587-1594 (1996)における方法など]、等温増幅[Walker, et al., “Strand displacement amplification-an isothermal, in vitro DNA amplification technique,” Nucleic Acids Res. 20(7): 1691-6 (1992)における方法など]、リガーゼ鎖反応[Landegren, et al., “A Ligase-Mediated Gene Detection Technique,” Science 241 : 1077-1080, 1988;またはWiedmann, et al., “Ligase Chain Reaction (LCR)- Overview and Applications,” PCR Methods and Applications (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 1994) pp. S51-S64における方法など]を含む。核酸の増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ鎖反応(LCR)、転写ベースの増幅システム(TAS)、核酸配列ベースの増幅(NASBA)、ローリングサークル増幅(RCA)、転写媒介型増幅(TMA)、自己持続配列複製(3SR)、QP増幅を含むがこれらに限定されない、当技術分野において公知の、多様な核酸増幅法のうちのいずれかにより達せられうる。circRNAの増幅は、このようにして作製されたcDNAの増幅を後続させてもよい、RNAの、相補性DNA(cDNA)への逆転写により開始しうることがたやすく理解されるであろう。
【0087】
circRNAの存在またはレベルの決定の前に、circRNA以外のRNA(non circRNA)を低減するまたは減少させることが所望されうる。この目的のために、RNA分解剤が、試料および/またはその全単離核酸、例えば、全RNAへと添加されうるが、この場合、前記RNA分解剤は、circRNAを分解しないか、またはcircRNAを、直鎖状RNAと比較して、低速に限り分解する。1つのこのような薬剤は、RNアーゼRである。RNアーゼRは、特に、細菌内のノンストップmRNA(non stop mRNA)の選択的mRNA分解に関与することが示されている[Cheng; Deutscher, MP et al. (2005). “An important role for RNase R in mRNA decay”. Molecular Cell 17(2):313- 318;およびVenkataraman, K; Guja, KE; Garcia-Diaz, M; arzai, AW (2014). “Non-stop mRNA decay: a special attribute of trans-translation mediated ribosome rescue.”; Frontiers in microbiology 5:93. Suzuki HI, Zuo Y, Wang J, Zhang MQ, Malhotra A, Mayeda A; Characterization of RNase R-digested cellular RNA source that consists of lariat and circular RNAs from pre- mRNA splicing; Nucleic Acids Res. 2006 May 8;34(8):e63を参照されたい]RNアーゼIIと近縁の3-5’エクソリボヌクレアーゼである。RNアーゼRは、他の多くの生物において、相同体を有する。別の大型のタンパク質の一部が、RNアーゼRと、極めて類似するドメインを有する場合、これは、RNアーゼRドメインと呼ばれる。よって、好ましい実施形態において、試料は、全RNA調製物から、直鎖状RNAアイソフォームを枯渇させ、これにより、検出感度を増大させる、circRNAの決定の前に、RNアーゼRにより処理される。本明細書において概括される通り、単一のcircRNAによる診断値または予後診断値は、信頼できる結果を伴う診断または予後診断を可能とするために、十分ではない場合がある。このような場合、試料中の、1つを超えるcircRNAの存在またはレベルを決定することが所望されうるが、これらを、それぞれの対照レベルと比較してもよい。当業者は、これらの1つを超えるcircRNAが、所定のcircRNAのパネルから選び出されうることを認識するであろう。このようなパネルは、通例、信頼できる診断または予後診断を可能とするのに最小数のcircRNAを含む。パネルのcircRNAの数は、所望の信頼性、および/または例えば、単独において決定される場合に、組み入れられるcircRNAによる予後診断値もしくは診断値に応じて変動しうる。よって、好ましい実施形態において、本発明に従う方法は、circRNAのパネルから、1つを超えるcircRNA、例えば、それぞれ、それらの存在もしくは非存在またはレベルを決定する。
【0088】
所望されるものを得るためのパネルは、必要に従い選び出されうる。特に、当業者は、ある特定のパネルの診断的有意性および/または予後診断的有意性について検証するために、本明細書において概括される統計学法を適用しうる。本明細書において、本発明者らは、神経変性疾患について、妥当な程度の確実性を与える、ある特定のcircRNAのパネルの開発を示した。当業者は、circRNAのパネルを開発するために、一般的な統計学法を適用しうる。このような統計学法は、クラスター分析(例えば、階層的クラスター化またはk-means法によるクラスター化)、主成分分析、または因子分析を含む。
【0089】
原則として、統計学的方法は、罹患対象の試料中および健常/正常対象の試料中において、異なる存在および/またはレベルを呈する、circRNAまたはcircRNAのパネルの同定を目的とする。概括される通り、パネルは、好ましくは、1つを超え、すなわち、複数のcircRNAのパネルである。本発明の好ましい実施形態において、前記パネルは、疾患を有する患者の体液試料中、および疾患を有さない患者の体液試料中において、異なるレベルにおいて存在すると同定されている、複数のcircRNAを含む。circRNAのパネルは、好ましくは、主成分分析またはクラスター化により同定されている。「主成分分析」(PCA)(やはり、本明細書において使用され、例示される)は、罹患対象と、健常対象との間において異なる因子についての解析に関する。PCAは、当業者に公知[Pearson K., “On lines and planes of closest fit to systems of points in space”, The London, Edinburgh, and Dublin Philosophical Magazine and Journal of Science 2.1 1 559-572 (1901);およびHotelling H., “Analysis of a complex of statistical variables into principal components” Journal of educational psychology 24.6 417 (1933)を参照されたい]である。主成分分析のために選び出されるcircRNAは、健常対象および/または罹患対象の試料中において、既に決定されたcircRNAでありうる。さらなる解析のためのcircRNAについて検討するために、好ましい実施形態において、試料のうちの1つにおいて、生リードカウントのばらつきを安定化させる変換の後において、少なくとも6.7の発現値を有するcircRNAだけが、閾値として組み込まれうる。PCAは、「R」プログラム化言語[R Core Team (2013). R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria. ISBN 3-900051-07-0]による標準的な「統計学」パッケージのprcomp関数を使用する解析に組み入れられるcircRNAに対して実施されうる。選び出されるcircRNA、疾患、および他の因子に応じて、重みは変動しうる。しかし、当業者は、予測絶対値が最大となるcircRNAを得るために、目的の主成分、すなわち、疾患/健常状態に関して、最大の重みを伴うcircRNAが選び出されることを認識するであろう。PCAは、データセット内の変動量を可視化し、測定するのに使用される。数学的に、PCAとは、何らかのデータの射影による最大の変動が、主成分1(PC1)と呼ばれる第1の座標などの上に存在するように、データを、新規の座標系へと変換する、直交線形変換である。前出において言及された、重みの計算値とは、各環状RNAの、この特異的射影に対する距離を表す。したがって、この絶対値が大きいほど、この射影についての関連性は大きい。
【0090】
「階層的クラスター化」(本明細書においてまた、「クラスター化」とも称される)は、当技術分野において公知の[Murtagh, F and Conteras, P “Methods of hierarchical clustering” arXiv preprint arXiv: 1105.0121 (2011)において総説されている]通りに実施されうる。試料は、log2変換により正規化されたcircRNA発現プロファイル[log2(ni+1)]においてクラスター化されうる。階層的な凝集クラスター化は、完全連結法により実施されてもよく、スピアマンランク相関(1-{corr[log(n;+1)]})を、距離計量としてさらに使用することにより実施されてもよい。「クラスター分析の目標は、同じクラスターへと割り当てられた観察の間の、対をなす相違が、異なるクラスターにおける相違より小さくなるように、観察(この場合のcircRNA発現)を、群(「クラスター」)へと分割することである」[Friedman J, Hastie T, and Tibshiriani R, “The elements of statistical learning”, Vol. 1. Soringer, Berlin: Springer series in statistics (2001)を参照されたい]。ここにおいて、相違についての尺度は、スピアマンランク相関として規定される。階層的クラスター化の視覚化および完全な記載は、系統樹によりもたらされる。
【0091】
本明細書において開示される通り、本開示の方法において有用な、1つまたは複数のcircRNAは、各々についてのRNA配列が公知であり、例えば、Ensembl、UniProt、およびEntrez geneなどの公開データベースにおいて公表されている、circHOMER1、circDOCK1、circKCNN2、circMAN2A1、circST18、circATRNL1、circEXOSC1、circICA1、circFMN1、circRTN4、circCDR1-AS、circMAP7、circTTLL7、circFANCL、circEPB41L5、circCORO1C、circDGKI、circKATNAL2、circWDR78、circADGRB3、circPLEKHM3、circERBIN、circPICALM、circRNASEH2B、circPDE4B、circPHC3、circFAT3、circMLIP、circLPAR1、circSLAIN2、circSPHKAP、circYY1AP1、circDNAJC6、circVCAN、circCDYL、circCUL5、circSOBP、circDGKB、circADARB1、circMVB12B、circNDST3、circNEBL、circRIMS1、circNELL1、circSPPL3、circZNF91、circPAN3、circUBAP2、circLINC00869、circAC011995.1、circFTO、circDOCK4、circRP1-73A14.1、circHNRNPM、circST6GAL2、circQKI、circVAPB、circSLC39A10、circCSMD3、circDOCK5、circPREX1、circZC3H6、circC16orf62、circRP5-1115A15.2、circUNC13C、circHP1BP3、circUBE3A、circSLC8A3、circBAZ2B、circSLC8A1、circMAN1A2、circCOL4A5、circZBED3-AS1、circREPS1、circPDE8A、circRNA5SP88、circAGTPBP1、circTOP1、circL3MBTL4、circRP11-406A9.2、circMEIS3、circBPTF、circDGKH、circPROSC、circEGLN3、circFANCB、circSLC30A7、circURI1、circREPS2、circRP11-1023L17.1、circSLAIN1、circTASP1、circATP8A1、circSV2B、circUSP54、circEDIL3、circLRRC49、circPSEN1、circAMD1、circLY86-AS1、circBMPER、circPTK2、circARHGEF26、circCCDC66、circAP3B1、circATG4C、circCCSER1、circKDM8、circRSRC1、circKCNH8、circRAPGEF5、circRHBDD1、circGRHPR、circZNF430、circHAT1、circSLCO1A2、circCACNA2D1、circCADPS、circFOXN2、circCEP85L、circRBBP8、circZNF148、circNOL4、circKLHDC1、circPHIP、circSPAST、circFRYL、circNRCAM、circMAPK4、circPEX5L-AS1、circSLC4A10、circDYNC1H1、circLPXN、circPCNX2、circVRK2、circFCHO2、circC10orf90、circKHDRBS3、circLZIC、circMBTD1、circSFMBT2、circDEK、circSLC45A4、circRNF19B、circRNF10、circNFKB1、circCDC14B、circELK4、circPLD1、circDNAJC3、circFGF14、circSH3GL3、circTMEM132D、circLRBA、circARPP21、circAAGAB、circSSX2IP、circFBXL17、circAPPL1、circUBXN2A、circGRIN2B、circAUTS2、circMBOAT2、circPGAP1、circCADPS2、circSENP6、circSIRT5、circASXL1、circTRAPPC12、circATE1、circRIMS2、circSORBS1、circMAML2、circIQCK、circMTUS1、circPTPN13、circFBXO7、circTERF2、circMED13、circLRRC7、circKLHL8、circHDAC9、circLIFR、circEML2、circFER、circCUX1、circLMTK2、circATXN7、circEP300、circTBC1D12、circWDR49 circELMOD3、circC1orf27、circNRXN1、circREXO4、circFSIP1、circSTXBP5L、circNARS2、circRNF13、circFAM208A、circHIPK3、circARHGAP32、circC2CD5、circKIAA0368、circCHD9、circRICTOR、circERI3、circARHGAP12、circDENND1A、circMARCH6、circRHOBTB3、circXYLT1、circPRUNE2、circPPP4R1、circAASS、circKCNMA1、circGPSM2、circGRM8、circPXK、circATP6V1H、circUBE2D2、circANAPC2、circMDGA2、circVPS37C、circNFASC、circPTPRR、circHDAC5、circUSP31、circGAB1、circANKIB1、circPTPRN2、circAP000304.12、circPLPPR5、circPRKAR1B、circHNRNPC、circKIF6、circUSP30、circCTNNA3、circMKLN1、circEML6、circSCLT1、circFAM120A、circZNF365、circZNF609、circATM、circARHGAP5、circIQGAP1、circBARD1、circNSD1、circRNF169、circHMBOX1、circFCHSD2、circRPS6KA5、circTARBP1、circOXCT1、circBIRC6、circFGD4、circNPAS3、circCREBRF、circEIF4G3、circGLIS2、circDUTP7、circCNOT2、circVWA3A、circOSBPL1A、circARFGEF2、circCASP8AP2、circRP11-191L9.4、circSUZ12、circTUSC3、circFAM135A、circZNF292、circDDI2、circPSMB1、circEXOC6B、circNOX4、circPDE8A、circSOS2、circRERE、circRGS7、circCLIP4、circRELL1、circSNTG1、circCNTNAP5、circZNF652、circHIPK3、circDMD、circBBX、circZKSCAN1、circRBM39、circARAP2、circZC3H13、circCSMD1、circMETTL6、circSAMD4A、circCAP2、circATXN10、circARHGAP26、circRP11-223P11.3、circLPAR1、circNSD1、circGPBP1L1、circNEURL1、circSSH2、circEMBを含むがこれらに限定されない。
【0092】
本明細書において開示される、1つまたは複数のcircRNAは、対象から得られた生物学的試料中において、参照値と比べて、示差的に発現されるものとして同定される、特徴的プロファイルを包含する。例えば、下記の実施例を参照されたい。多様な実施形態において、1つまたは複数のcircRNAの発現レベルの決定は、アミロイドプラークの存在、非存在を決定するアッセイ、精密X線アッセイ、および診断アッセイなどの診断アッセイにより補充されうる。
【0093】
一部の実施形態において、方法は、少なくとも1つのcircRNA、少なくとも2つのcircRNA、少なくとも3つのcircRNA、少なくとも4つのcircRNA、少なくとも5つのcircRNA、少なくとも6つのcircRNA、少なくとも6つのcircRNA、少なくとも7つのcircRNA、少なくとも8つのcircRNA、少なくとも9つのcircRNA、少なくとも10つのcircRNA、少なくとも11のcircRNA、少なくとも12のcircRNA、少なくとも13のcircRNA、少なくとも14のcircRNA、少なくとも15のcircRNA、少なくとも16のcircRNA、少なくとも17のcircRNA、少なくとも18のcircRNA、少なくとも19のcircRNA、少なくとも20のcircRNA、少なくとも21のcircRNA、少なくとも22のcircRNA、少なくとも23のcircRNA、少なくとも24のcircRNA、少なくとも25のcircRNA、少なくとも26のcircRNA、少なくとも27のcircRNA、少なくとも28のcircRNA、少なくとも29のcircRNA、少なくとも30のcircRNA、少なくとも31のcircRNA、少なくとも32のcircRNA、少なくとも33のcircRNA、少なくとも34のcircRNA、少なくとも35のcircRNA、少なくとも36のcircRNA、少なくとも37のcircRNA、少なくとも38のcircRNA、少なくとも39のcircRNA、少なくとも40のcircRNA、少なくとも41のcircRNA、少なくとも42のcircRNA、または少なくとも43のcircRNA、少なくとも44のcircRNA、少なくとも45のcircRNA、少なくとも46のcircRNA、少なくとも47のcircRNA、少なくとも48のcircRNA、少なくとも49のcircRNA、少なくとも50のcircRNA、少なくとも51のcircRNA、少なくとも52のcircRNA、少なくとも53のcircRNA、少なくとも54のcircRNA、少なくとも55のcircRNA、少なくとも56のcircRNA、少なくとも57のcircRNA、少なくとも58のcircRNA、少なくとも59のcircRNA、少なくとも60のcircRNA、少なくとも61のcircRNA、少なくとも62のcircRNA、少なくとも63のcircRNA、少なくとも64のcircRNA、少なくとも65のcircRNA、少なくとも66のcircRNA、少なくとも67のcircRNA、少なくとも68のcircRNA、少なくとも69のcircRNA、少なくとも70のcircRNA、少なくとも71のcircRNA、少なくとも72のcircRNA、少なくとも73のcircRNA、少なくとも74のcircRNA、少なくとも75のcircRNA、少なくとも76のcircRNA、少なくとも77のcircRNA、少なくとも78のcircRNA、少なくとも79のcircRNA、少なくとも80のcircRNA、少なくとも81のcircRNA、少なくとも82のcircRNA、少なくとも83のcircRNA、少なくとも84のcircRNA、少なくとも85のcircRNA、少なくとも86のcircRNA、少なくとも87のcircRNA、少なくとも88のcircRNA、少なくとも89のcircRNA、少なくとも90のcircRNA、少なくとも91のcircRNA、少なくとも92のcircRNA、少なくとも93のcircRNA、少なくとも94のcircRNA、少なくとも95のcircRNA、少なくとも96のcircRNA、少なくとも97のcircRNA、少なくとも98のcircRNA、少なくとも99のcircRNA、少なくとも100のcircRNA、少なくとも101のcircRNA、少なくとも102のcircRNA、少なくとも103のcircRNA、少なくとも104のcircRNA、少なくとも105のcircRNA、少なくとも106のcircRNA、少なくとも107のcircRNA、少なくとも108のcircRNA、少なくとも109のcircRNA、少なくとも110のcircRNAの少なくとも111のcircRNA、少なくとも112のcircRNA、少なくとも113のcircRNA、少なくとも114のcircRNA、少なくとも115のcircRNA、少なくとも116のcircRNA、少なくとも117のcircRNA、少なくとも118のcircRNA、少なくとも119のcircRNA、少なくとも120のcircRNA、少なくとも121のcircRNA、少なくとも122のcircRNA、少なくとも123のcircRNA、少なくとも124のcircRNA、少なくとも125のcircRNA、少なくとも126のcircRNA、少なくとも127のcircRNA、少なくとも128のcircRNA、少なくとも129のcircRNA、少なくとも130のcircRNA、少なくとも131のcircRNA、少なくとも132のcircRNA、少なくとも133のcircRNA、少なくとも134のcircRNA、少なくとも135のcircRNA、少なくとも136のcircRNA、少なくとも137のcircRNA、少なくとも138のcircRNA、少なくとも139のcircRNA、少なくとも140のcircRNA、少なくとも141のcircRNA、少なくとも142のcircRNA、少なくとも143のcircRNA、少なくとも144のcircRNA、少なくとも145のcircRNA、少なくとも146のcircRNA、少なくとも147のcircRNA、少なくとも148のcircRNA、少なくとも149のcircRNA、少なくとも150のcircRNA、少なくとも151のcircRNA、少なくとも152のcircRNA、少なくとも153のcircRNA、少なくとも154のcircRNA、少なくとも155のcircRNA、少なくとも156のcircRNA、少なくとも157のcircRNA、少なくとも158のcircRNA、少なくとも159のcircRNA、少なくとも160のcircRNA、少なくとも161のcircRNA、少なくとも162のcircRNA、少なくとも163のcircRNA、少なくとも164のcircRNA、少なくとも165のcircRNA、少なくとも166のcircRNA、少なくとも167のcircRNA、少なくとも168のcircRNA、少なくとも169のcircRNA、少なくとも170のcircRNA、少なくとも171のcircRNA、少なくとも172のcircRNA、少なくとも173のcircRNA、少なくとも174のcircRNA、少なくとも175のcircRNA、少なくとも176のcircRNA、少なくとも177のcircRNA、少なくとも178のcircRNA、少なくとも179のcircRNA、少なくとも180のcircRNA、少なくとも181のcircRNA、少なくとも182のcircRNA、少なくとも183のcircRNA、少なくとも184のcircRNA、少なくとも185のcircRNA、少なくとも186のcircRNA、少なくとも187のcircRNA、少なくとも188のcircRNA、少なくとも189のcircRNA、少なくとも190のcircRNA、少なくとも191のcircRNA、少なくとも192のcircRNA、少なくとも193のcircRNA、少なくとも194のcircRNA、少なくとも195のcircRNA、少なくとも196のcircRNA、少なくとも197のcircRNA、少なくとも198のcircRNA、少なくとも199のcircRNA、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300または少なくとも350のcircRNAの発現レベルを決定する工程を含みうる。
【0094】
本発明者らは、神経変性疾患、特に、アルツハイマー病について、上記において概括された方法について例示した。本発明との関連における神経変性疾患は、神経変性と関連する疾患として理解されるものとする。神経変性は、ニューロンの死を含む、ニューロンの構造または機能の進行性喪失を意味する。ALS、パーキンソン病、アルツハイマー病、およびハンチントン病を含む、多くの神経変性疾患は、神経変性過程の結果として生じる。今日、細胞内レベルにおいて、これらの疾患を互いと関連づける、多くの類似性が存在する。異なる神経変性障害の間には、非定型のタンパク質アセンブリー(タンパク質のミスフォールディングおよび/または凝集)の他、細胞死の誘導を含む、多くの相似性が見られる。神経変性は、分子レベル~全身レベルの範囲にわたる、多くの異なるレベルの神経回路において見出されうる。よって、好ましい実施形態において、本発明の疾患は、好ましくは、アルツハイマー病、ALS、パーキンソン病、およびハンチントン病の群から選択される、神経変性疾患である。特に好ましい実施形態において、疾患は、アルツハイマー病である。アルツハイマー病は、脳内における、異常にフォールディングしたアミロイドベータタンパク質およびタウタンパク質のプラークの蓄積を引き起こす、タンパク質ミスフォールディング疾患(プロテオパチー)として同定されている。プラークは、アミロイドベータ(Aβ)呼ばれる、39~43アミノ酸の長さの小型ペプチドから構成される。Aβは、大型のアミロイド前駆体タンパク質(APP)に由来する断片である。APPは、ニューロンの膜を貫通する、膜貫通タンパク質である。APPは、ニューロンの増殖、生存、および損傷後修復に極めて重要である。アルツハイマー病においては、タンパク質分解過程における未知の酵素が、APPを、小型の断片へと分割する。これらの断片のうちの1つは、アミロイドベータの原線維をもたらし、次いで、老人斑としての公知の稠密な形態において、ニューロンの外部に沈着する集塊を形成する。ADはまた、タウタンパク質の異常凝集に起因するタウオパシーとも考えられる。ADにおいて、タウは、化学変化を受け、過剰リン酸化し、次いで、他のスレッドと対合し、神経原線維変化をもたらし、ニューロンの輸送系を解体する。患者は、National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke(NINCDS)およびAlzheimer’s disease and Related Disorders Association(ADRDA;現在は、Alzheimer’s Associationとして公知である)、NINCDS-ADRDA Alzheimer’s Criteria for diagnosis、1984年、2007年全面改訂[McKhann G, Drachman D, Folstein M, et al. Clinical Diagnosis of Alzheimer’s disease: Report of the NINCDS-ADRDA Work Group under the Auspices of Department of Health and Human Services Task Force on Alzheimer’s disease. Neurology. 1984;34(7):939-44;およびDubois B, Feldman HH, Jacova C, et al. Research Criteria for the Diagnosis of Alzheimer’s disease: Revising the NINCDS-ADRDA Criteria. Lancet Neurology. 2007;6(8):734-469を参照されたい]により設定された基準に従い、アルツハイマー病を有すると分類される。これらの基準は、認知機能障害の存在および認知症症候群の疑いが、アルツハイマー病の可能性または推定についての臨床診断のための神経心理学的検査により確認されることを要求する。確定診断のためには、脳組織についての顕微鏡検査を含む、組織病理学的確認が要求される。診断基準と確定組織病理学確認との間において、良好な統計学的信頼性および妥当性が示されている[Blacker D, Albert MS, Bassett SS, et al. Reliability and validity of NINCDS-ADRDA criteria for Alzheimer’s disease. The National Institute of Mental Health Genetics Initiative. Archives of Neurology. 1994;51(12):1198-204を参照されたい]。ADにおいて、8つの認知ドメイン(記憶力、言語技能、知覚能力、注意能力、構成能力、見当識、問題解決能力、および機能的能力)が、最も一般に機能障害を受ける。これらのドメインは、American Psychiatric Associationにより公表されている、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM-IV-TR)において一覧されているNENCDS-ADRDA Alzheimer’s Criteriaと同等である。
【0095】
本開示の別の態様は、対象を、アルツハイマー病に起因する軽度認知機能障害への転換の危険性が高い、前症状性対象または無症状性対象または対象として診断し、適宜、ADに起因するMCIの発生までの年数との関係において、対象を病期分類または分類する方法を包含する。前症状性または無症状性とは、ADの危険性があるか、またはADについてのマーカーを有するが、認知機能障害の徴候を示さない対象を指す。アルツハイマー病(AD)に起因する軽度認知機能障害(MCI)とは、ADの、症状性の前認知症期を指す。この認知機能障害の程度は、年齢に正常ではないので、年齢関連記憶機能障害および年齢関連認知低下などの概念構築は該当しない。ADに起因するMCIは、臨床診断であり、ADに起因するMCIの診断のための臨床基準は、当技術分野において公知である。例えば、Albert et al. Alzheimer’s & Dementia, 2011, 7(3): 270-279を参照されたい。認知検査は、対象について、認知機能障害の程度を、客観的に評価するために最適である。MCIを伴う対象についての認知検査におけるスコアは、典型的に、文化的に適切な規範的データ[すなわち、入手可能な場合、機能障害領域(複数可)についての規範的データ]における、それらの年齢および教育をマッチさせた同等者についての平均値を、1~1.5標準偏差下回る。MCIの指定は、Clinical Dementia Rating(CDR)スケールにおける、0.5の全般評定により裏付けられることが多い。CDRとは、認知症の症状の重症度を定量するのに使用される数値スケールである。他の適切な認知検査は、当技術分野において公知である。当技術分野において、認知機能障害の重症度について評価するのに適する検査は存在するが、対象を、ADに起因するMCIの発生の数年前に、高度の信頼性により同定する検査が必要とされている。
【0096】
一実施形態において、対象を、ADに起因するMCIへの転換の危険性が高い対象として診断する方法は、対象に由来する生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;試料中の1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを検出する工程;1つまたは複数のcircRNAのレベルを、参照値と比較する工程;測定されたcircRNA発現レベルが、参照値から隔たる場合に、対象を、ADに起因するMCIへの転換の危険性が高い対象として診断する工程を含みうる。別の実施形態において、対象を、無症状性AD対象として診断する方法は、対象に由来する生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;試料中の1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを検出する工程;1つまたは複数のcircRNAのレベルを、参照値と比較する工程;測定されたcircRNA発現レベルが、参照値から隔たる場合に、対象を、ADに起因するMCIへの転換の危険性が高い対象として診断する工程を含みうる。「無症状性対象」とは、ADの徴候または症状を示さない対象を指す。しかし、対象は、ADの徴候または症状(例えば、記憶喪失、物の置き忘れ、気分または行動の変化など)を呈しうるが、軽度認知機能障害の臨床診断に十分な認知機能障害または身体機能障害を示さない場合がある。さらなる実施形態において、対象は、優性遺伝性のアルツハイマー病を引き起こすことが公知の遺伝子突然変異のうちの1つを保有しうる。代替的な実施形態において、対象は、優性遺伝性のアルツハイマー病を引き起こすことが公知の遺伝子突然変異を保有しない場合がある。特異的家系を有さないアルツハイマー病は、散発性アルツハイマー病と称される。
【0097】
本開示の別の態様は、対象のアルツハイマー病の病期を診断する方法を包含する。多様な実施形態において、「ADの病期」は、ADに起因するMCIの発生から経過した時間の長さ(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12カ月間など)として規定されうる。ADの臨床診断のための基準が存在するが、臨床状況においては、所与の対象について、症状発生のタイミングが未知であるか、またはMCIまたはADについて、疑問の余地のある診断がなされることが一般的である。このように、当技術分野において、対象のADの病期を客観的に診断する検査結果が必要とされている。
【0098】
一実施形態において、対象のADの重症度を診断する方法は、対象に由来する生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;試料中の1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを検出する工程;1つまたは複数のcircRNAのレベルを、参照値と比較する工程;測定されたcircRNA発現レベルが、健常対象(複数可)の参照値から隔たるか、または疾患重症度が同様である対象による参照値と同じである、または同様である場合に、対象におけるADの重症度を分類する工程を含みうる。別の態様において、本開示は、対象を、アルツハイマー病(AD)に起因する認知症を有する対象であると診断する方法であって、対象に由来する生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;試料中の1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを検出する工程;1つまたは複数のcircRNAのレベルを、参照値と比較する工程;測定されたcircRNA発現レベルが、健常対象(複数可)の参照値から隔たるか、または認知症を伴う対象(複数可)による参照値と同様である場合に、対象を、アルツハイマー病(AD)に起因する認知症を有する対象として診断する工程を含む方法を包含する。
【0099】
別の態様において、本開示は、対象を、臨床試験へと登録するための方法であって、対象に由来する生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;試料中の1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを検出する工程;1つまたは複数のcircRNAのレベルを、参照値と比較する工程を含む方法を包含する。
【0100】
一態様において、上記の方法の各々は、circHOMER1、circKCNN2、circMAN2A1、circICA1、circFMN1、circDOCK1、circRTN4、circST18、circIATRNL1、およびcircEXOSC1から選択される、1つまたは複数のcircRNAのレベルを検出する工程を含みうる。
【0101】
別の態様において、上記の方法の各々は、circHOMER1、circDOCK1、circKCNN2、circMAN2A1、circST18、circATRNL1、circEXOSC1、circICA1、circFMN1、circRTN4、circCDR1-AS、circMAP7、circTTLL7、circFANCL、circEPB41L5、circCORO1C、circDGKI、circKATNAL2、circWDR78、circADGRB3、circPLEKHM3、circERBIN、circPICALM、circRNASEH2B、circPDE4B、circPHC3、circFAT3、circMLIP、circLPAR1、circSLAIN2、circSPHKAP、circYY1AP1、およびcircDNAJC6から選択される、1つまたは複数のcircRNAのレベルを検出する工程を含みうる。
【0102】
一部の実施形態において、対象は、circDOCK1、circMAN2A1、circST18、circEXOSC1、circRTN4、circCDR1-AS、circMAP7、circTTLL7、circFANCL、circCORO1C、circWDR78、circERBIN、circPICALM、circRNASEH2B、circPHC3、circLPAR1、circSLAIN2、circYY1AP1およびcircDNAJC6が、参照値と比べて増大しており、かつ/またはcircHOMER1、circKCNN2、circATRNL1、circICA1、circFMN1、circEPB41L5、circDGKI、circKATNAL2、circPLEKHM3、circPDE4B、circFAT3、circMLIP、circSPHKAP、およびcircDNAJC6のうちの1つまたは複数が、参照値と比べて減少している場合に、疾患状態または疾患重症度を伴うと分類される。
【0103】
III.処置
本開示の別の態様は、それを必要とする対象を処置するための方法である。本明細書において使用される、「~を処置する」、「~を処置すること」、または「処置」という用語は、トレーニングを受け、有資格の専業者による、それを必要とする対象への、医療ケアの提供を指す。医療ケアは、診断検査、治療的処置、および/または予防的措置もしくは防止的措置でありうる。治療的処置および予防的処置の目的は、所望されない生理学的変化または疾患/障害を防止するか、または緩徐化する(軽快させる)ことである。治療的処置または予防的処置の、有益な臨床結果または所望の臨床結果は、検出可能であれ、検出不能であれ、症状の緩和、疾患の程度の減少、疾患状態の安定化(すなわち、非増悪)、疾患進行の遅延または緩徐化、疾患状態の改善または軽減、および寛解(部分寛解であれ、完全寛解であれ)を含むがこれらに限定されない。「処置」はまた、処置を受けない場合に予期される生存と比較した、生存の延長も意味しうる。処置を必要とする対象は、疾患、状態、もしくは障害を既に伴う対象の他、疾患、状態、もしくは障害を有する傾向がある対象または疾患、状態、もしくは障害が防止されるべき対象を含む。一部の実施形態において、処置を受ける対象は、無症状性である。本明細書において使用される、「無症状性対象」とは、ADの徴候または症状を示さない対象を指す。他の実施形態において、対象は、ADの徴候または症状(例えば、記憶喪失、物の置き忘れ、気分または行動の変化など)を呈しうるが、アルツハイマー病に起因する軽度認知機能障害または認知症の臨床診断に十分な認知機能障害または身体機能障害を示さない場合がある。「アルツハイマー病に起因する軽度認知機能障害」という語句については、上記において規定された。症状性対象または無症状性対象は、Aβアミロイドーシスを有しうるが、Aβアミロイドーシスについての予備知識は、処置に必須ではない。さらなる実施形態において、対象は、ADを有する対象として診断されうる。前述の実施形態のうちのいずれかにおいて、対象は、優性遺伝性のアルツハイマー病を引き起こすことが公知の遺伝子突然変異のうちの1つを保有しうる。代替的な実施形態において、対象は、優性遺伝性のアルツハイマー病を引き起こすことが公知の遺伝子突然変異を保有しない場合がある。
【0104】
一実施形態において、上記において記載された対象を処置するための方法は、対象に由来する生物学的試料を用意するか、またはこれが用意されている工程;試料中の1つまたは複数のcircRNAの発現レベルを検出する工程;1つまたは複数のcircRNAのレベルを、参照値と比較する工程;circRNAレベル(複数可)が、参照値から隔たる場合に、医薬組成物を、対象へと投与する工程を含みうる。一部の実施形態において、医薬組成物は、circRNAの発現レベルを、直接的に、または間接的に(indirect)安定化させるか、または是正し、一部の実施形態において、参照値を上回るか、またはこれを下回る変化の程度は、対象を処置するための基準として使用されうる。
【0105】
多くのイメージング剤および治療剤が、AβアミロイドーシスまたはADを発症する危険性がある対象、Aβアミロイドーシスを有すると診断された対象、タウオパシーを有すると診断された対象、またはADを有すると診断された対象、標的特異的な病態生理的変化のために想定されるか、またはこれらにより使用される。例えば、Aβターゲティング療法は、一般に、Aβの産生を減少させるか、Aβの凝集をアンタゴナイズするか、または脳内Aβのクリアランスを増大させるようにデザインされ;タウターゲティング療法は、一般に、タウのリン酸化パターンを変更するか、タウの凝集をアンタゴナイズするか、またはNFTのクリアランスを増大させるようにデザインされ;様々な治療は、CNS炎症または脳インスリン抵抗性を低減するようにデザインされるなどである。
【0106】
ある特定の態様において、治療有効量の医薬組成物が、対象へと投与されうる。投与は、末梢投与法(すなわち、中枢神経系への投与によらない)または中枢神経系への局所投与法を含む、標準的な効果的技法を使用して実施される。末梢投与は、経口投与、吸入投与、静脈内投与、腹腔内投与、関節内投与、皮下投与、肺内投与、経皮投与、筋内投与、鼻腔内投与、口腔内投与、舌下投与、または坐剤投与を含むがこれらに限定されない。局所投与は、腰椎カテーテル、脳室内カテーテル、もしくは実質内カテーテルを介して、または外科的植込み型制御放出製剤の使用を含むがこれらに限定されない。投与経路は、処置される疾患または状態により指定されうる。
【0107】
選択される投与方式に適切となるように、効果的な投与のための医薬組成物が慎重にデザインされ、必要に応じて、適合性の分散剤、緩衝剤、界面活性剤、保存剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤など、薬学的に許容される賦形剤が使用される。参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton Pa., 16Ed ISBN: 0-912734-04-3, latest editionは、医療従事者に一般に公知の製剤法についての総覧を提示している。
【0108】
上記の実施形態の各々において、医薬組成物は、イメージング剤を含みうる。イメージング剤の非限定例は、機能的なイメージング剤[例えば、フルオロデオキシグルコースなど)および分子的イメージング剤(例えば、PIB(Pittsburgh compound B)、フロルベタベン、フロルベタピル、フルテメタモール、放射性核種標識化抗体など]を含む。
【0109】
代替的に、医薬組成物は、有効医薬成分を含みうる。有効医薬成分の非限定例は、コリンエステラーゼ阻害剤、N-メチルD-アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、抗うつ剤(例えば、選択的セロトニン再取込み阻害剤、非定型抗うつ剤、アミノケトン、選択的セロトニン、およびノルエピネフリン再取込み阻害剤、三環系抗うつ剤など)、ガンマ-セクレターゼ阻害剤、ベータ-セクレターゼ阻害剤、抗Aβ抗体(その抗原結合性断片、変異体、または誘導体を含む)、抗タウ抗体(その抗原結合性断片、変異体、または誘導体を含む)、幹細胞、栄養補助剤(例えば、リチウム水、リポ酸を伴うオメガ-3脂肪酸、長鎖トリグリセリド、ゲニスタイン、レスベラトロール、クルクミン、およびブドウ種子抽出物など)、セロトニン受容体6のアンタゴニスト、p38アルファMAPK阻害剤、組換え顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、受動免疫療法、能動ワクチン(例えば、CAD106、AF20513など)、タウタンパク質凝集阻害剤(例えば、TRx0237、メチルチオニウム塩化物など)、血糖コントロールを改善する治療(例えば、インスリン、エキセナチド、リラグルチド、ピオグリタゾンなど)、抗炎症性薬剤、ホスホジエステラーゼ9A阻害剤、シグマ-1受容体アゴニスト、キナーゼ阻害剤、ホスファターゼ活性化剤、ホスファターゼ阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断剤、CB1エンドカンナビノイド受容体パーシャルアゴニストおよび/またはCB2エンドカンナビノイド受容体パーシャルアゴニスト、β-2アドレナリン作動性受容体アゴニスト、ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニスト、5-HT2Aインバースアゴニスト、アルファ-2cアドレナリン作動性受容体アンタゴニスト、5-HT 1A受容体アゴニストおよび5-HT 1D受容体アゴニスト、グルタミニルペプチドシクロトランスフェラーゼ阻害剤、APP産生の選択的阻害剤、モノアミンオキシダーゼB阻害剤、グルタミン酸受容体アンタゴニスト、AMPA受容体アゴニスト、神経増殖因子刺激剤、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤、神経栄養因子、ムスカリンM1受容体アゴニスト、GABA受容体調節因子、PPAR-ガンマアゴニスト、微小管タンパク質調節因子、カルシウムチャネル遮断剤、降圧剤、スタチン、およびこれらの任意の組合せを含む。
【0110】
一部の実施形態において、最小用量が投与され、用量は、用量制限毒性の非存在下において漸増される。治療有効用量の決定および調整の他、このような調整を、いつ、どのようにして行うのかについての査定は、医薬技術分野の当業者に公知である。
【0111】
投与頻度は、症状を効果的に処置するのに必要な限りにおいて、毎日、または毎週1回、2回、3回、もしくはこれを超える頻度、または毎月でありうる。疾患自体および処置の持続期間に対する、処置の実施のタイミングは、症例を取り巻く状況により決定されるであろう。救急医療担当者により投与される、損傷部位における処置など、処置は即時に始まりうるであろう。処置は、病院自体または診察室自体において始まる場合もあり、後の時点において、退院の後に、または外来診察室における診察の後に始まる場合もある。処置の持続期間は、単回ベースにおいて実施される単回投与から、生涯にわたる治療的処置コースの範囲にわたりうるであろう。
【0112】
典型的な投与量レベルは、標準的な臨床技法を使用して、決定および最適化される場合があり、投与方式に依存するであろう。
【0113】
対象は、齧歯動物、ヒト、家畜、愛玩動物、または動物園動物でありうる。一実施形態において、対象は、齧歯動物、例えば、マウス、ラット、モルモットなどでありうる。別の実施形態において、対象は、家畜でありうる。適切な家畜の非限定例は、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ラマ、およびアルパカを含みうる。さらに別の実施形態において、対象は、愛玩動物でありうる。愛玩動物の非限定例は、イヌ、ネコ、ウサギ、および鳥類などのペットを含みうる。さらに別の実施形態において、対象は、動物園動物でありうる。本明細書において使用される、「動物園動物」とは、動物園において見出されうる動物を指す。このような動物は、非ヒト霊長動物、大型ネコ、オオカミ、およびクマを含みうる。好ましい実施形態において、対象は、ヒトである。
【0114】
加えて、それを必要とする対象は、咽頭炎を患うか、これを患うことが疑われるか、またはこの危険性がある対象でありうる。
【0115】
IV.キット
キットもまた提供される。このようなキットは、本明細書において記載される薬剤または組成物と、ある特定の実施形態において、投与のための指示書とを含みうる。このようなキットは、本明細書において記載される方法の実施を容易としうる。キットとして供給される場合、組成物の異なる構成要素は、個別の容器内にパッケージングされ、使用の直前に混合されうる。構成要素は、システム、アッセイ、プライマー、またはソフトウェアを含むがこれらに限定されない。このような成分のパッケージングは、所望の場合、組成物を含有する、1つまたは複数の単位剤形を含有しうる、パックまたはディスペンサーデバイスにより、個別に提供されうる。パックは、例えば、ブリスターパックなど、金属製またはプラスチック製のフォイルを含みうる。このような成分の個別のパッケージングはまた、ある特定の場合に、成分の活性を失わずに、長期にわたる保管も可能としうる。
【0116】
キットはまた、例えば、別個にパッケージングされた凍結乾燥有効成分へと添加される、滅菌水または生理食塩液など、別個の容器内の試薬も含みうる。例えば、密封型ガラス製アンプルは、凍結乾燥成分、および別個のアンプル内に、その各々が窒素などの中性非反応性ガス下においてパッケージングされ滅菌水、滅菌生理食塩液とを含有しうる。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、または典型的に、試薬を保持するのに利用される、他の任意の材料など、任意の適する材料からなりうる。適切な容器の他の例は、アンプルと類似の物質から作製されたボトル、およびアルミニウムまたは合金などのフォイルにより内張りされた内部からなりうる被覆を含む。他の容器は、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジなどを含む。皮下注射針により穿刺されうる止栓を有するボトルなど、容器は、滅菌アクセスポートを有しうる。他の容器は、除去すると、成分が混ざることを可能とする、たやすく除去可能な膜により分離された、2つのコンパートメントを有しうる。除去可能膜は、ガラス製、プラスチック、ゴムなどでありうる。
【0117】
ある特定の実施形態において、キットは、指示書材料と共に提供されうる。指示書は、紙または他の基板上に印刷される場合もあり、かつ/または電子的読取りメディアまたはビデオとして供給される場合もある。詳細な指示書は、キットと物理的に随伴せず、ユーザーが、キットの製造元または販売元により指定されたインターネットのウェブサイトへと誘導される場合もある。
【0118】
本明細書において記載される対照試料または参照試料は、健常対象に由来する試料の場合もあり、無作為化対象群に由来する試料の場合もある。参照値は、健常対象または健常対象の群から既に得られた、対照試料または参照試料の代わりに使用されうる。対照試料または参照試料はまた、既知量の検出可能な化合物を伴う試料またはスパイク試料でもありうる。
【0119】
本発明の方法およびアルゴリズムは、コントローラー内またはプロセッサー内に格納されうる。さらに、本発明の方法およびアルゴリズムは、コンピュータ実装法として実施される場合もあり、1つまたは複数のこのようなコンピュータ実装法を実施するための方法として実施される場合もあり、また、コンピュータプログラムまたは他のマシン読取り型命令(本明細書における「コンピュータプログラム」)を含有する、有形または非一時的なコンピュータ読取り型記憶メディアの形態において実施される場合もあり、ここにおいて、コンピュータプログラムが、コンピュータまたは他のプロセッサー(本明細書における「コンピュータ」)へとロードされ、かつ/またはコンピュータにより実行される場合、コンピュータは、1つまたは複数の方法を実施するための装置となる。このようなコンピュータプログラムを含有するための記憶メディアは、例えば、フロッピーディスクおよびディスケット、コンパクトディスク(CD)-ROM(書き込み可能な場合であれ、そうでない場合であれ)、ディジタルDVDディスク、RAMメモリおよびROMメモリ、コンピュータハードドライブおよびバックアップドライブ、外付けハードドライブ、「サム」ドライブ、およびコンピュータにより読み取り可能な、他の任意の記憶メディアを含む。1つまたは複数の方法はまた、例えば、記憶メディアに保存されるのであれ、電導体、光ファイバー、または他の光導体などの伝送媒体を介して、または電磁放射線により伝送されるのであれ、コンピュータプログラムの形態において実施される場合もあり、ここにおいて、コンピュータプログラムが、コンピュータへとロードされ、かつ/またはコンピュータにより実行される場合、コンピュータは、1つまたは複数の方法を実施するための装置となる。1つまたは複数の方法は、汎用マイクロプロセッサー、または1つもしくは複数のプロセスを実施するように特定して構成された、ディジタルプロセッサー上において実装されうる。汎用マイクロプロセッサーが利用される場合は、コンピュータプログラムコードが、特定的論理回路配置を創出するように、マイクロプロセッサーの回路を構成する。コンピュータにより読み取り可能な記憶メディアは、コンピュータ自体により、またはコンピュータに、その演算を制御するための命令を与えるための、コンピュータ命令を読み取る、別のマシンにより読み取り可能なメディアを含む。このようなマシンは、例えば、上記において言及された記憶メディアを読み取るためのマシンを含みうる。
【0120】
一般的技法
本開示の実施は、そうでないことが指し示されない限りにおいて、当技術分野の技術の範囲内にある、分子生物学(組換え法を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学についての従来の技法を利用するであろう。このような技法については、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, second edition (Sambrook, et al., 1989) Cold Spring Harbor Press; Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait, ed. 1984); Methods in Molecular Biology, Humana Press; Cell Biology: A Laboratory Notebook (J. E. Cellis, ed., 1989) Academic Press; Animal Cell Culture (R. I. Freshney, ed. 1987); Introuction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P. E. Roberts, 1998) Plenum Press; Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J. B. Griffiths, and D. G. Newell, eds. 1993-8) J. Wiley and Sons; Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.); Handbook of Experimental Immunology (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds.): Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J. M. Miller and M. P. Calos, eds., 1987); Current Protocols in Molecular Biology (F. M. Ausubel, et al. eds. 1987); PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis, et al., eds. 1994); Current Protocols in Immunology (J. E. Coligan et al., eds., 1991); Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999); Immunobiology (C. A. Janeway and P. Travers, 1997); Antibodies (P. Finch, 1997); Antibodies: a practice approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989); Monoclonal antibodies: a practical approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000); Using antibodies: a laboratory manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999); The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds. Harwood Academic Publishers, 1995); DNA Cloning: A practical Approach, Volumes I and II (D.N. Glover ed. 1985); Nucleic Acid Hybridization (B.D. Hames & S.J. Higgins eds.(1985); Transcription and Translation (B.D. Hames & S.J. Higgins, eds. (1984); Animal Cell Culture (R.I. Freshney, ed. (1986); Immobilized Cells and Enzymes (lRL Press, (1986); and B. Perbal, A practical Guide To Molecular Cloning (1984); F.M. Ausubel et al. (eds.)などの文献において完全に記載されている。
【0121】
さらなる詳細化なしに述べると、当業者は、上記の記載に基づき、本発明を完全に利用しうると考えられる。したがって、以下の具体的実施形態は、本開示の残余の部分に対して、例示的なものと見なされるべきであり、いかなる形であれ、限定的なものと見なされるべきではない。本明細書において引用される、全ての刊行物は、本明細書において言及される目的または対象物のために、参照により組み込まれる。
【0122】
本発明の範囲から逸脱しない限り、上記において記載された材料および方法においては、多様な変化がなされうるので、上記の記載および下記において示される実施例に含有される、全ての対象物は、例示的な意味において解釈されるものとし、限定的な意味においては解釈されないものとすることが意図される。
【実施例】
【0123】
以下の実施例は、本開示の多様な実施形態を裏付けるように組み入れられる。当業者により、後続の実施例において開示される技法は、本発明の実施において良好に機能することが本発明者らにより発見された技法を表し、したがって、その実施のための好ましい方式を構成すると考えられうることが理解されるものとする。しかし、当業者は、本開示に照らして、開示される具体的実施形態において、多くの変化がなされる場合があるが、なおかつ、本発明の精神および範囲から逸脱しない限りにおいて、同じ結果または同様の結果を得うることを理解されたい。
[実施例1]
【0124】
アルツハイマー病脳内の、大脳皮質環状RNA発現についてのアトラスは、臨床的関連および病理学的関連を裏付ける
転写調節は、ヒト神経系の複雑性の根底をなし、その誤調節は、疾患に寄与しうる[Lee, T.I., et al., Cell 152, 1237-1251 (2013)]。実際、直鎖状トランスクリプトームに焦点を当てた、いくつかの研究は、AD状態と関連する共発現ネットワーク、およびスプライシングの変化を同定している[Zhang, B. et al., Cell 153, 707-720 (2013); Karch C.M. Et al., PloS One &, e50976 (2012); Raj, T. et al., Nat. Genet. 50, 1584 (2018); Vereijen, J. et al., Trends Genet. TIG 34, 434-447 (2018)]。本実施例は、AD関連環状トランスクリプトームに対する洞察を提示する。頭頂葉皮質のRNAシーケンシング(RNA-seq)データを、Knight Alzheimer Disease Research Center(Knight ADRC)のアルツハイマー病(AD)を伴う個体およびアルツハイマー病を伴わない個体(AD;ncontrol=13;nAD=83)から作成した。このAD RNA-seqデータセット、および独立の[Mount Sinai Brain Bank(MSBB)]AD RNA-seqデータセットを使用して、大脳皮質環状RNA(circRNA)の発現を、ADの文脈において定量した。circRNA発現と、AD診断、臨床的認知症重症度、および神経病理学的重症度との間において、有意な関連を同定した。大半のcircRNA-AD間関連は、コグネイトの直鎖状メッセンジャーRNA発現の変化、または推定脳細胞型比率に依存しないことが裏付けられた。前症状性ADおよび常染色体優性ADにおいて早期に生じる、circRNA発現の変化についての証拠が提示される。AD関連circRNAが、公知のAD遺伝子と共に、共発現されたこともまた、観察された。最後に、AD関連circRNAにおいて、AD遺伝子をターゲティングすることが予測される、miRNAに対する潜在的なマイクロRNA結合性部位を同定した。まとめると、これらの結果は、非直鎖状RNAを解析することの重要性を強調し、ADの発症機序における、circRNAの潜在的な役割について探索する、将来の研究を裏付ける。
【0125】
方法
コードの利用可能性:関連するコマンドフラグを含む、全てのソフトウェアが、本実施例のために、どのように使用されてきたのか、解析のために使用される方法およびコードに、どのように組み入れられるのかについての記載は、参照により本明細書に組み込まれる、Dube, U., Del-Aguila, J.L., Li, Z. et al. An atlas of cortical circular RNA expression in Alzheimer disease brains demonstrates clinical and pathological associations. Nat Neurosci 22, 1903-1912 (2019)において提示されている。
【0126】
RNAシーケンシング
発見(Knight ADRC)データセットおよび常染色体優性AD(DIAN)データセット:151ヌクレオチド(nt)のペアドエンドrRNA枯渇RNAシーケンシング(RNA-seq)データは、凍結脳頭頂葉皮質組織から作成した。凍結脳組織は、Washington University School of Medicineにおける、プロスペクティブKnight Alzheimer’s Disease Research Center(Knight ADRC)Memory and Aging Project研究、またはDominantly Inherited Alzheimer’s Network(DIAN)研究における参加者により提供された。全ての参加者は、脳の提供および神経病理学的解析に同意した。まず、TissueLyser LTを使用して、凍結大脳皮質組織を破壊し、RNeasy Mini Kit(Qiagen、Hilden、Germany)を使用して、この破壊された組織から、RNAを精製した。RIN(RNA Integrity Number)は、Bioanalyzer 2100(Agilent Technologies、Santa Clara、USA)上において、RNA 6000 Pico Assayを使用して計算した。抽出されたRNAはまた、Qubit Fluorometer(Fisher Scientific、Waltham、USA)上において、Quant-iT RNA Assay(Invitrogen、Carlsbad、USA)を使用しても定量した。ライブラリー構築の前に、External RNA Control Consortium(ERCC)[Pine, P.S. et al., BMC Biotechnol. 16, 54 (2016)]RNA Spike-In Mix(Invitrogen、Carlsbad、USA)を導入した。rRNA枯渇cDNAライブラリーは、TruSeq Stranded Total RNA Sample Prep with Ribo-Zero Gold Kit(Illumina、San Diego、USA)を使用して調製し、Washington University in St. Louisの、McDonnell Genome Instituteにおける、Illumina HiSeq 4000上においてシーケンシングした。全ての試料は、シーケンシングの前に、シーケンシングプールへと無作為に割り当て、神経病理学的症例/対照状態に対して盲検として、RNAの抽出およびシーケンシングライブラリーの調製を実施した。個体1例当たりの生シーケンシングリードの平均数は、58,094,683であった;例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Umber, D., et al., Nat. Neurosci. 22(110); 1903-1912 (2019), Supplemental Table 6を参照されたい。
【0127】
再現データセット(MSBB):Synapseポータルから公開されているRNA-seqデータ(syn3157743;2018年5月アクセス)は、Advanced Medicine Partnership for AD:Mount Sinai Brain Bank(MSBB)データセットからダウンロードした。略述すると、このデータセットは、301例の個体に由来する、4つの異なる大脳皮質領域:前頭極[ブロードマン10野(BM10)]組織、上側頭回(BM22)組織、海馬傍回(BM36)組織、および下前頭回(BM44)組織に由来するRNAをシーケンシングすることにより作成した。rRNAは、Ribo-Zero rRNA Removal Kit(Human/Mouse/Rat)(Illumina、San Diego、USA)を使用して枯渇させた。シーケンシングライブラリーは、TruSeq RNA Sample Preparation kit v2を使用して調製した。これらのライブラリーから、Illumina HiSeq 2500(Illumina、San Diego、USA)[Wang, M. et al., Sci Data 5, 180185 (2018)]を介して、rRNA枯渇、101nt、シングルエンド、および非ディレクショナルのRNA-seqデータを作成した。個体1例当たりの生シーケンシングリードの平均数は、35,062,514であった。
【0128】
アルツハイマー病の形質:本実施例において、環状RNA(circRNA)の示差的発現、およびこの発現の、アルツハイマー病(AD)症例/対照状態、常染色体優性アルツハイマー病(ADAD)症例/対照状態、および2つの定量的AD形質:満期/死亡時における臨床的認知症尺度(CDR)およびBraakスコアとの相関を、ヒト大脳皮質組織内において探索した。
【0129】
症例/対照状態は、CERAD基準[Pamudurti, N.R. et al., Mol. Cell 66, 9-21.e7 (2017)]および/またはハチャトゥリアン基準(Panda, A.c. et al., Nucleic Acids Res. Doi:10.1093/nar/gkx297に従い、研究参加者の脳についての死後における神経病理学的解析により決定した。ADAD状態は、確立された病原性突然変異を同定する[Cheng, J. et al., Bioinforma. Oxf. Engl. 32, 1094-1096 (2016)]、APP遺伝子、PSEN1遺伝子、およびPSEN2遺伝子の生前シーケンシングを介して決定した。CDRとは、0(認知症が見られない)~3(重度認知症)の範囲を伴う、認知機能障害についての臨床的尺度である[Rossetti, H.C. et al., Alzheimer Dis. Assoc. Disord. 24, 138-142 (2010)]。Braakスコアとは、脳を通した、タウ神経原線維変化の数および分布により決定される、AD重症度についての神経病理学的尺度である[Li, Y. et al., Cell Res. 25, 981-984 (2015)]。Braakスコアは、0(非存在:最悪の場合においても、偶発性のタウ神経原線維変化)~6(重度:大脳新皮質領域内における、広範なタウ神経原線維変化)の範囲にわたる。重要なことは、利用可能な神経病理学的診断は、「神経突起斑」または「老人斑」の存在を要求する基準に基づくため、タウ神経原線維変化を伴うが、プラークを伴わない個体は、対照として考えられるままでありうることである。前症状性ADまたは前臨床的ADを伴う個体に由来する、AD脳のサブセットを同定した。これらの個体は、臨床的に重要な認知症を有さなかった(臨床的認知症尺度≦0.5:最悪の場合においても、極めて軽度の認知症)が、それらの脳は、AD性神経病理学的変化の証拠を有した。最後に、MSBBデータセットは、さらなる、AD性の、定量的な、神経病理学的形質、平均値アミロイドプラーク数を含んだ。
【0130】
表現型の処理
発見データセット:Knight ADRCである。PLINK v.1.9ソフトウェアを介する主成分分析[Chang, C.C. et al., GigaScience 4, 7 (2015)]、および既に作成されているGenome-wide Association Study(GWAS)データを使用して、遺伝系統共変量を生成した。略述すると、Knight ADRC研究参加者に由来する、遺伝子マイクロアレイデータを、平均値対立遺伝子頻度>が5%であり、遺伝子型率が>95%である変異体だけを含むようにフィルタリングされ、連鎖不均衡にない変異体だけを含むようにプルーニングされた、HapMap参照パネル[Gibbs, R.A. et al., Nature 426, 789-796 (2003)]と融合し、--pcaコマンドを使用した。最初の2つの主成分を使用して、下流における解析のための遺伝系統を表した。示差的発現解析、相関解析、およびメタ解析は、全ての示差的発現解析共変量(PMI、TIN32中央値、RNA品質の尺度、AOD、バッチ、性別、および遺伝系統共変量)が入手可能な個体により提供された頭頂葉皮質由来試料だけを使用して行った。
【0131】
神経病理学的に、対照と分類されたが、軽度の認知症または認知症の増悪を有する(CDR≦1)個体、すなわち、認知症罹患対照に由来する試料は、それらの認知症が、非AD性病因を有することが予期されるために除外した。
【0132】
4例の試料は、最初の2つのトランスクリプトーム主成分により測定される、それらの環状トランスクリプトームプロファイルが、他の頭頂葉領域試料の分布と比較して、異常値であったため除外した。
【0133】
再現データセット:MSBB:さらなるデータは、Synapseポータル(アクセス:2018年5月)の、臨床的表現型およびRNA-seqの共変量(syn12178045)、全ゲノムシーケンシング(WGS)データ(syn10901600)、ならびに品質管理リマッピングデータ(syn12178047)を含む、MSBB再現データセットからダウンロードした。これらのデータは、以下の通りに加工した:
・「90+」として掲載されたAODを、「90」として割り当て直して、変数を定量変数とした;
・発見データセットスケールに合致するように、PMIを、分単位から、時間単位に補正した;
・SNP rs429358に基づき、WGSデータを使用して、APOE4の対立遺伝子の数を推定した。臨床共変量ファイルにおいて提示される非欠失APOE4の対立遺伝子の数と、これについての推定数との間に、高度の一致が見られることを確認した後において、対立遺伝子についての推定数を、下流における全ての解析に使用して、これらのデータを伴う個体の数を増大させた;
・発見データセットと同様に、PLINK v.1.9ソフトウェアを介する主成分分析を介して、MSBB WGSデータから、遺伝系統共変量を生成した;
・元のシーケンシング試行に由来する情報を使用して、欠失するバッチ情報およびRIN情報を、リシーケンシングされたファイルへと割り当て、一般バーコードに基づき、2つのファイルをマッチさせた;
・元のシーケンシング試料と、リシーケンシング試料との間において、マッピングリードの数が大きいRNA-seqデータを選択した;
・品質管理リマッピングデータ(syn12178047)ファイルに提示された情報に基づき、個体および割り当て直された試料のスワップIDを除外した。
・それらの認知症は、AD以外の病因を有すると予期されうるため、神経病理学的に、対照として分類されたが、軽度以上の認知症(CDR≦1)有する個体、すなわち、認知症罹患対照に由来する試料は除外した;
・最初の2つのトランスクリプトーム主成分により測定される、それらの環状トランスクリプトームプロファイルが、この同じ大脳皮質領域に由来する、他の試料の分布と比較して異常値であったため、5例の試料を除外した;
・示差的発現解析、相関解析、およびメタ解析は、全ての示差的発現解析共変量(PMI、TIN中央値、AOD、バッチ、性別、および遺伝系統共変量)についての情報が入手可能な個体に由来するデータだけを使用して行った。
【0134】
RNA-seqデータの加工およびアライメント:検出力を増大させるために、下流における解析のための組入れ基準を満たす試料に由来するRNA-seqだけではなく、各データセット中の、全ての入手可能な試料に由来するRNA-seqデータを加工し、アライメントした。全てのRNA-seqデータの加工およびアライメントを、神経病理学的症例/対照状態に対して盲検として実施した。
【0135】
STAR v.2.5.3a[Dobin A. et al., Bioinforma. Oxf. Engl. 29, 15-21 (2013)]を、circRNA判定ソフトウェアである、DCCのドキュメンテーションにより示唆されるキメラアライメントモードおよびパラメータ[Cheng, J. et al., Bioinforma. Oxf. Engl. 32, 1094-1096 (2016)]において使用して、発見RNA-seqデータセットからの生シーケンシングリードを、ヒト参照ゲノムである、GRCh38の一次アセンブリーに照らしてアライメントした。まず、GENCODE v.26[Harrow, J. et al., Genome Res. 22, 1760-1774 (2012)]総合遺伝子アノテーションを使用して、150の突出を伴うスプライスジャンクションについてのデータベース(--sjdbOverhang150)により、アライメントインデックスを調製した。次いで、以下のパラメータ:
・outSJfilterOverhangMin 15 15 15 15
・alignSJoverhangMin 15
・alignSJDBoverhangMin 15
・seedSearchStartLmax 30
・outFilterMultimapNmax 20
・outFilterScoreMin 1
・outFilterMatchNmin 1
・outFilterMismatchNmax 2
・chimSegmentMin 15
・chimScoreMin 15
・chimScoreSeparation 10
・chimJunctionOverhangMin 15
を使用して、試料1例当たり合計3つずつのアライメントのために、ペアの各片割れを、個別に、かつ、一体にアライメントした。
再現MSBB RNA-seqデータセットは、アライメントされているが、マッピングされていないファイルとして提供されているので、アライメントの前に、さらなる加工を要求した。各試料についての、アライメントされているが、マッピングされていないファイルを、Synapseウェブポータル(syn3157743)からダウンロードした後において、Picardツールの関数である、RevertSam、FastqToSam、およびMergeSamFilesを使用して、生の、アライメントされていないファイルを作成した。STAR v.2.5.3aを使用して、上記と同様であるが、101-ntのリードに適するアライメントインデックス(--sjdbOverhang 100)により、データのシングルエンド性のために、試料1例当たり1回に限り、作成されたこれらのファイルをアライメントした。全てのアライメントのために、ジェネリックのIlluminaアダプター配列に基づき、任意のアダプター配列を、リードからソフトクリップした。
【0136】
circRNAを規定するバックスプライスの判定:DCC software v.0.4.4[Cheng, J. et al., Bioinforma. Oxf. Engl. 32, 1094-1096 (2016)]を使用して、STARによるアライメント時に同定された、キメラジャンクションに由来する、circRNAを規定するバックスプライスを検出、アノテーション、定量、フィルタリング、および判定した。さらなるフィルタリングは、DCCソフトウェアによるドキュメンテーションにおいて推奨されている(reccomended)通りに実施した:それらが、ゲノムの反復領域(UCSC Genome Browser:RepeatMasker表およびSimple Repeats表において規定されている)に位置するか、複数の遺伝子アノテーションにわたるか、またはミトコンドリア内染色体へとマッピングされる場合は、バックスプライスジャンクションを除外した。ペアドエンドデータを解析する場合、DCCソフトウェアは、感度を改善するように、両方の片割れにおいて同定されたキメラジャンクションを、個別に、かつ、併せて考慮に入れる。
【0137】
発見データセットのために、以下のパラメータ:
-D -R GRCh38_Repeats_simpleRepeats_RepeatMasker.gtf -an gencode.v26.primary_assembly.annotation.gtf -Pi -F -M -Nr 1 1 -fg -G -A GRCh38.primary_assembly.genome.fa
を使用して、DCCを、ペアドエンドのディレクショナルモードにおいて実行した。
【0138】
再現データセットのために、以下のパラメータ:
-D -N -R GRCh38_Repeats_simpleRepeats_RepeatMasker.gtf -an gencode.v26.primary_assembly.annotation.gtf -F -M -Nr 1 1 -fg -G -A GRCh38.primary_assembly.genome.fa
により、DCCを、シングルエンドの非ディレクショナルモードにおいて実行した。
【0139】
バックスプライスはまた、さらなるソフトウェアパッケージである、circRNA_finder[参照により本明細書に組み込まれる、Barrett, S. P. et al., Development 143, 1838-1847 (2016)]を使用しても判定した。DCCソフトウェアにより判定されたカウントと、circRNA_finderソフトウェアにより判定されたカウントとの間において、0.99の平均ピアソン相関が見られた。DCCと同様に、circRNA_finderは、STARを介して同定された、キメラジャンクションに由来するバックスプライスを判定するが、RNA-seqデータの種類について補正するパラメータを有さない。この限界のために、DCCにより判定されたバックスプライスを、下流における解析のために保持した。バックスプライスの判定は、神経病理学的症例/対照状態に対して盲検として実施した。
【0140】
高信頼性circRNAを同定するための、アノテーションされたバックスプライスのフィルタリングおよびコラプシング:circRNAは、RNA-seqデータ内において、バックスプライスを、キメラジャンクションと重複するリードから判定することにより検出される。このようなジャンクションは、ライブラリー調製時に、鋳型スイッチング過程を介して、アーチファクトを形成しうる[Tang, C. et al., bioRxiv 259556 (2018) doi:10.1101/259556]。これらのアーチファクトのジャンクションは、ランダムに形成されるので、これらが観察される多数の試料により判定されたバックスプライスのフィルタリング、ならびに各バックスプライスジャンクションにおける、キメラアライメントリードと対比した、最小の直鎖状アライメントリード比(circ:直鎖比)は、バックスプライスの高信頼性セットの選択を可能とする。試料数およびcirc:直鎖比についてのフィルタリング閾値を、経験的に決定するために、スパイクインされた直鎖状ERCC[Pine, P. S. et al., BMC Biotechnol. 16, 54 (2016)]RNA内において同定されるアーチファクトのバックスプライスを、発見データセットから判定した。これらのスパイクインRNAは、直鎖状であるので、ERCC配列内において同定されるバックスプライスは、ライブラリー調製時に、アーチファクトをもたらすことが予期される。前述と同様に、発見データセットと同じパラメータにより、STAR v.2.5.3aを使用して、生のシーケンシングリードをアライメントするが、ヒト参照ゲノムファイルではなく、ERCC92のfastaファイルおよびgtfファイル(Invitrogen)を使用した。DCCはまた、アーチファクトのジャンクションを同定するように、ヒトゲノムアノテーションについてのフィルタリングを伴わない、ディレクショナルのペアドエンドモードにおいても使用された。予期される通り、ERCCスパイクインRNA内において、アーチファクトのバックスプライスを検出することが可能であった(
図15)。これらのデータに基づき、最小のcirc:直鎖比が0.1である、少なくとも3例の試料中において観察される、高度に保存的な閾値を、下流における解析への、バックスプライスの組入れのために選択した。
【0141】
発見頭頂葉皮質データセット内において、この判定法およびフィルタリング法を使用して同定されたバックスプライスジャンクションの大半(7,450中5,090)は、健常頭頂葉皮質組織についての独立の解析において、異なる判定アルゴリズムを使用して、既に同定されていた[Glazar, P. et al., RNA (2014) doi:10.1261/rna.043687.113]。高信頼性バックスプライスジャンクションを同定した後において、これらの各々を、下流の示差的発現解析および相関解析のために、アノテーションされた、その元の直鎖状遺伝子/コグネイトの直鎖状mRNAへとコラプシングした。元の直鎖状遺伝子についてのアノテーションを伴わないバックスプライスは除外した。MSBB再現データセットにおけるcircRNAの判定(非ディレクショナルのRNA-seqデータに由来する)のために、元の鎖および直鎖状遺伝子についてのアノテーションを、ディレクショナルの頭頂葉データセットについてのアノテーションに合致するように更新したが、バックスプライスの判定が、同じ染色体、開始位置、および終結位置を有する場合に限った。
【0142】
全体において、発見データセット内において、合計3,547の、十分な裏付けのあるcircRNAを判定し、大規模再現データセット内において、4,330を判定した。十分な裏付けのある、3,146のcircRNAが、発見データセットおよび再現データセットのいずれにも共通した。各データセット内において判定された、circRNAの間の重複は、ベン図ツールを使用して視覚化した(
図5)。全てのcircRNAの同定は、神経病理学的症例/対照状態に対して盲検として実施した。
【0143】
直鎖状転写物の判定:Salmonソフトウェアv.0.8.2[Patro, R. et al., Nat. Methods 14, 417-419 (2017)]を、quasi-mappingベースのアライメントモードにおいて使用して、直鎖状転写物を判定した。略述すると、ヒト参照ゲノムである、GRCh38の一次アセンブリー、およびGENCODE v.26[Harrow, J. et al., Genome Res. 22, 1760-1774 (2012)]総合遺伝子アノテーションを使用して、quasi-mappingインデックスを生成した。次いで、デフォルトのSalmonパイプラインパラメータを使用して、発見データセットおよび再現データセットのいずれについても、生の、アライメントされていないRNA-seqファイルから、直鎖状転写物の発現を定量した。全ての直鎖状転写物の判定は、神経病理学的症例/対照状態に対して盲検として実施した。
【0144】
転写物完全性数の測定:TINは、RNA-seqデータに由来する、RNA品質についての尺度であり、mRNAの分解を直接測定する[Wang, L. et al., BMC Bioinformatics 17, 58 (2016)]。各試料についてのTINスコア中央値は、複数の、独立の、RNA-seqデータセット内において、RIN(mRNAの完全性について一般に使用される尺度であり、rRNAの量に基づく)とのロバストな一致を有することが裏付けられている。RSeQC software v.2.6.4[Wang, L. et al., Bioinformatics 28, 2184-2185 (2012)]を使用して、各試料内において、TINを計算して、示差的発現解析および相関解析のための、一貫した品質管理共変量をもたらした。略述すると、発見データセット内および再現データセット内の各試料についてのTIN中央値は、STARによりアライメントされたRNA-seqカバレッジに基づき、GENCODE v.26に従う、代表的な(「基本的」転写物としてアノテーションされる)タンパク質コード転写物アノテーションについて計算した。
【0145】
示差的発現解析および相関解析:DESeq2 v.1.18.1の、家族についての、負の二項ロジスティック回帰、および統計学的両側ワルド検定の性能[参照により本明細書に組み込まれる、Love, M. I. et al., Genome Biol. 15, 550 (2014)]を使用して、高信頼性の大脳皮質circRNAカウントのセットと、AD形質との間の、示差的発現解析および相関解析を実施した。本研究の解析法は、circRNAの示差的発現についての既存の解析[You, X. et al., Nat Neurosci. 18, 603-610 (2015); Rybak-wolf, A. et al., Mol. Cell 58, 870-885 (2015)]に従う。一般に、示差的発現解析は、RNA発現のバックグラウンド分布が、試料間において同等であることを仮定し、観察される差違は、補正可能な技術的差違(シーケンシング深度/ライブラリーサイズまたはRNA品質など)もしくは補正可能な生物学的差違(性別またはAODなど)に帰せられうるか、または、最終的に、目的の生物学的形質(疾患状態または重症度など)に起因する。DESeq2解析法は、これらの因子の全てを考慮に入れる。ロジスティック回帰およびワルド検定を実施する前に、各試料についてのcircRNAカウントを、同じ大脳皮質領域に由来する全ての試料からの、circRNAカウントを使用して推定される、シーケンシング深度/ライブラリーサイズから導出されるサイズ因子に基づき正規化した。この正規化の後、探索下にある特定のAD形質について、完全な情報(示差的発現の共変量データを含む)が入手可能な試料だけを含むように、試料をサブセット化した。例えば、Braakスコアは、発見データセット内の参加者96例中、86例だけについて入手可能であったので、発見circRNA-Braakスコア間相関解析のための標本サイズは、86であった。これらのサブセットによる、全ての示差的発現および相関解析は、一般に、遺伝子データに由来する、最初の2つの主成分により表される、以下の共変量:PMI、TIN中央値、AOD、バッチ、性別、および遺伝系統について補正した。重要なことは、発見解析を、欧州の遺伝系統を有する個体だけ制限すること、すなわち、6例の黒人個体(5例のAD症例および1例の対照)の除外が、一貫した結果(元の発見頭頂葉解析と対比した、欧州系統に限定した発見頭頂葉解析における、CDR関連circRNAについての効果量ピアソン相関:0.94)をもたらしたことである。ADAD試料を含む解析においては、AODについての補正を行わなかった。ADADが、早期に発症し[Bateman, R. J. et al., Alzheimers Res. Ther. 3, 1 (2011)]、ADAD脳が、対照参加者およびAD参加者のいずれと比較しても、AODが若齢である個体により提供されることは、AODを、状態と共線性にする。加えて、ADAD試料について、遺伝系統共変量を計算するGWASデータは、入手できないので、ADAD試料を含む全ての解析において、自己報告の人種データにより、遺伝系統共変量を代置した。組み入れられる全ての示差的発現共変量について、完全な情報が入手可能な試料だけを含むように、解析を限定した。統計学的有意性についての、0.05のFDR閾値を設定し、非補正P値を記録する。DESeq2ソフトウェアは、統計学的解析の前に、発現が低度のcircRNAに、自動的にフィルターをかける。
【0146】
発見データセットおよびADADデータセットにおいて、この手法を使用して、ADと対照との間において有意に示差的に発現する大脳皮質circRNA、およびADADと対照との間において有意に示差的に発現する大脳皮質circRNAについて探索した。本実施例はまた、ADADとADとの間において有意に示差的に発現する大脳皮質circRNAについても探索し、Braakスコアにより測定される神経病理学的重症度について補正した。CDRおよびBraakスコアと有意に相関する大脳皮質circRNAを、これらのAD形質についてのデータが入手可能な発見データセット試料においてもまた探索した。これらの知見を再現するために、同様の解析を、MSBBデータセット内において実施した。BM44を、一次再現データセットとして選択したが、全ての大脳皮質領域内において個別に、解析を実施した。本実施例は、確定ADと対照状態との間における、有意な示差的大脳皮質circRNAの発現、CDRと大脳皮質circRNA発現との有意な相関、およびBraakスコアと大脳皮質circRNA発現との有意な相関について探索した。最後に、解析を実施して、MSBBデータセット内において、circRNAと、プラークの平均数との間の有意な相関について探索した。品質管理計量と、探索下にある特定のAD形質との間の共線性に起因する、無効な統計学的モデルを例外として、TIN中央値またはRIN品質管理計量の代置は、同様の示差的発現および相関結果もたらした。例えば、RINにより、TINを代置した後において得られる、31の発見解析CDR関連circRNAについての効果量ピアソン相関は、0.99である(P=5.43×10-26)。
【0147】
定量的PCRを介する、RNA-seqカウントの検証および効果の方向付け:circHOMER1[フォワード:5’-TTTGGAAGACATGAGCTCGA-3’(配列番号1);リバース:5’-AAGGGCTGAACCAACTCAGA-3’(配列番号2)]、circKCNN2[フォワード:5’-GACTGTCCGAGCTTGTGAAA-3’(配列番号3);リバース:5’-GGCCGTCCATGTGAATGTAT-3’(配列番号4)]、circMAN2A1[フォワード:5’-TGAAAGAAGACTCACGGAGGA-3’(配列番号5);リバース:5’-TAGCAAACGCTCCAAATGGT-3’(配列番号6)]、circICA1[フォワード:5’-TTGATGATTTGGGGAGAAGG-3’(配列番号7);リバース:5’-TGGATGAAGGACGTGTCTCA-3’(配列番号8)]、circFMN1[フォワード:5’-GGTGGCTATGCAGAGAAAGC-3’(配列番号9);リバース:5’-CAGGGAAGACCACAGCTGAG-3’(配列番号10)];circDOCK1[フォワード:5’-AGCTGAGGGACAACAACACC-3’(配列番号11);リバース:5’-GGCCGTCCATGTGAATGTAT-3’(配列番号12)]、circRTN4[フォワード:5’-TGAAAGCAGCAGGAATAGGC-3’(配列番号13);リバース:5’-CAGGCGCCTCTTCTTAGTTG-3’(配列番号14)]、circST18[フォワード:5’-CTGGAGTTTTCTTGTGCAGTTG-3’(配列番号15);リバース:5’-AAACCCAAGCTTCATGCAAG-3’(配列番号16)]、circIATRNL1[フォワード:5’-GGGTATAAAGCATTGCCAGG-3’(配列番号17);リバース:5’-GCCTTCAATGAGCCAAGTACA-3’(配列番号18)]、circEXOSC1[フォワード:5’-CTTTGGCCAAGACAATGTCA-3’(配列番号19);リバース:5’-GTGTGAGATGCAGTGCCCTA-3’(配列番号20)];DCCソフトウェアにより提供されるgetcircfasta.pyスクリプトを介して抽出されるcircRNAのfasta配列に基づくcircRNA転写物のバックスプライスジャンクションを検出するように、多様なプライマーをデザインした。多様なプライマーは、外側を向き(典型的なプライマーが、内側を向くのに対して)、結果として、これらのプライマーは、転写物の環状化を介して形成されるバックスプライスジャンクションの文脈だけにおいて、または、より稀には、タンデムエクソン重複を含有する転写物の文脈だけにおいて、PCR産物を産生する。これらのプライマーは、コンピュータ上のPCRを介して、多様であることが確認されており、これらの多様なプライマーの増幅効率は、定量的PCR(qPCR)に適することが経験的に確認された。13例の頭頂葉皮質由来RNA試料を、発見研究における個体(ncontrol=3、nPreSympAD=3、nAD=7)から選択して、GAPDH正規化発現値を生成し、次いで、同じ個体に由来するRNA-seq導出カウントと相関させた。製造元によりを推奨されるプロトコール従い、SuperScript VILO cDNA合成キット(Invitrogen)を使用して、相補性DNAを、RNA試料から作出した。このcDNAと共に、PowerUp SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems)を、QuantStudio 12K Flex Real-Time PCR System上において使用して、qPCR実験を実施した。相対発現は、標準的ΔΔCt法に従い計算した。略述すると、Ctについての三連の読取りを、各プライマー対について平均し、平均直鎖状GAPDH Ctを、平均circRNA Ctから差し引いて、ΔCtを計算した。さらに、各プライマーについての平均対照(n=3)ΔCtを、ΔCt値から差し引くことにより、各circRNAについてのΔΔCtを計算した。最後に、以下の式:相対発現=2-ΔΔCtを使用して、相対発現を生成した。
【0148】
メタ解析および重複の計算:meta-RNA-seq R package v.1.0.2を使用して、大脳皮質circRNAの示差的発現、ならびに相関の発見結果および再現結果についてのメタ解析を実施した。データセット間の標本サイズの差違のために、インバース/シュタウファー法を使用して、再現結果および発見結果の両方に共通するcircRNAのP値を組み合わせるように選出しを行った。前述と同様に、0.05の統計学的有意性閾値およびFDR閾値を設定し、未補正のP値を提示した。CMplot R package v.3.3.1を使用して、メタ解析の結果を視覚化した。
【0149】
VennDiagram R package v.1.6.20を使用して、メタ解析結果の間の重複を視覚化し、片側P値を報告する、SuperExactTest R package v.1.0.0を使用して、重複の有意性を計算した。
【0150】
回帰ベースの解析を介する、環状RNA-AD間関連の、コグネイト直鎖状RNA-AD間関連、または推定脳細胞型比率のAD関連変化と対比した独立性:環状RNA-AD間関連の、それらのコグネイト直鎖状mRNA-AD間関連と対比した独立性を裏付けるために、CDR関連circRNA、およびそれらのコグネイトの直鎖状mRNAについてのライブラリーサイズ正規化カウントを、CDRを予測する、同じ回帰モデルに組み入れた。回帰モデルはまた、示差的発現の共変量:PMI、TIN中央値、AOD、バッチ、性別、および遺伝系統も含んだ。circRNAの発現レベルが、それらのコグネイトの直鎖状mRNA発現レベルより低度であるという事実、およびcircRNAをカバリングする、大半のRNA-seqリードは、バックスプライスを含まない(これにより、コグネイト直鎖状mRNAのカウントを高騰させる)という事実を踏まえると、circRNAは、組合わせ回帰モデルにおいて、有意な(P<0.05)関連を保持する場合、CDRとの独立の関連を裏付けると考えられた。これらの回帰分析を、発見データセットおよび再現データセットのいずれにおけるCDR関連circRNAについても実施し、固定効果メタ解析を使用して、結果を組み合わせた。加えて、circRNAにより説明されるCDRの変動の比率を、それらのコグネイトの直鎖状mRNAと対比して計算し、変動の平均比率を、提示される2つのデータセットにおいて説明した。148の、メタ解析におけるCDR関連circRNAのうちの中2つは、コグネイトの直鎖状RNAを有さず、これらの解析から除外した。
【0151】
同様の回帰ベースの手法を使用して、circRNA-AD間関連の、推定脳細胞型比率のAD関連変化からの独立性を裏付けた。CDR関連circRNAの、ライブラリーサイズ正規化カウント、ならびにニューロン、希突起膠細胞、および小膠細胞の、コンピュータによりデコンボリューションされた推定比率を、CDRを予測する、同じ回帰モデルに組み入れた。多重共線性を回避するために、また、星状細胞推定比率と、ニューロン推定比率とは、強く逆相関もするため、デコンボリューション推定星状細胞比率は組み入れなかった。これらの組合せモデルにおいて、有意な(P<0.05)関連を保持したAD関連circRNAを、独立であると考えた。発見データセットおよび再現データセットのいずれにおいても、148のCDR関連circRNAの全てについて、これらの回帰分析を実施し、固定効果メタ解析を使用して、結果を組み合わせた。
【0152】
前症状性ADについてのブートストラップ相関係数解析:発見データセットおよび再現データセットに、PreSympAD[すなわち、ADの神経病理学的証拠であるが、最悪の場合においても、極めて軽度の認知症(CDR≦0.5)である]を伴う少数の個体を組み入れた。PreSympAD脳内の発現の変化が、SympADにおいて観察される変化[すなわち、対照と比較した、ADおよび認知症の神経病理学的証拠(CDR≧1)]と同様であるのかどうかについて探索した。
【0153】
上記において記載した、同じ方法を使用して、大脳皮質circRNAの示差的発現解析を、まず、SympADと、対照との間において実施し、次いで、PreSympADと、対照との間において実施した。次いで、低度の発現のために、DESeq2による自動的なフィルタリングがかからなかった、全てのcircRNAについて、PreSympAD解析において観察されるlog2(倍数変化)(log2FC:効果量)と、SympAD解析において観察されるlog2FCとの相関を計算した。対照脳と対比したSympAD脳における示差的発現circRNAが、PreSympADにおける発現の変化と、同様の発現の変化を裏付ける場合、これらのcircRNAについてのlog2FC値の間の相関は、非有意なバックグラウンドcircRNAによる相関より強いことが予期されるであろう。10,000通りのブートストラップシミュレーションを実施して、2つのlog2FCについての相関係数(一方は、SympAD関連circRNAについての相関係数であり、他方は、非有意なバックグラウンドcircRNAについての相関係数である)についてのバイアス補正95%信頼区間およびバイアス促進95%信頼区間同定することにより、これについて調べた。片側コルモゴロフ-スミルノフ検定を使用して、有意に関連する分布について生成したP値は、バックグラウンド分布より高度であった。この解析を、発見データセット、および再現データセット内の全ての大脳皮質領域において実施して、PreSympADの皮質領域における、circRNA発現の変化の差違について評価した。boot R package v.1.3-20を使用して、ブートストラップ相関係数および信頼区間を生成した。
【0154】
ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線および曲線下面積(AUC)解析:AD関連circRNAの予測能力について査定するために、AD症例状態を予測するロジスティック回帰モデルを、発見データセットおよび再現MSBBデータセットの両方において計算した。各データセットを、確定AD症例および対照だけを含むようにサブセット化し、3つのモデルについて計算した。第1のモデル(base)は、共変量として、以下:PMI、TIN中央値、AOD、バッチ、性別、遺伝系統、およびAPOE4の対立遺伝子の数を含んだ。第2のモデル(circ)は、メタ解析による、上位10の最も有意なCDR関連circRNAを含んだ。第3のモデル(base+circ)は、最初の2つのモデルの変数を組み合わせた。R package pROC v.1.12.1を使用して、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線および曲線下面積を計算した。
【0155】
相対重要性解析:APOE4の対立遺伝子の数(ADについての、最も一般的な遺伝危険性因子)および推定ニューロン比率は、CDRおよびBraakスコアなど、観察される定量的AD形質の変動に寄与することが公知である。relaimpo R package v.2.2.3を使用して、circRNA発現の、これらの公知の寄与因子と比較した相対的重要性について評価した。これを行うために、まず、上位10の最も有意なAD形質関連circRNAの、ライブラリーサイズ正規化カウントを、示差的発現解析において使用される、同じ共変量:PMI、TIN中央値、AOD、バッチ、性別、および遺伝系統について補正した。次いで、これらの正規化補正カウントを、まず、個別に組み入れ、次いで、CDR、Braakスコア、またはプラークの平均数を予測する、同じ線形回帰モデル(再現MSBBデータセットに限り利用可能である)において、APOE4の対立遺伝子の数および推定ニューロン比率と併せて、多変量モデルに組み入れた。relaimpoパッケージのlmg法を使用して、モデル変数の各々の、予測される定量的AD形質の変動への相対寄与について評価した。したがって、上位10の、メタ解析において最も有意なcircRNAの各々の寄与を、個別に、かつ、同じモデルに併せて組み入れて、APOE4の対立遺伝子の数および推定ニューロン比率と比較した。発見データセット、および4つの大脳皮質領域全ての再現データセットの両方において、これらの解析を行い、各領域特異的メタ解析から、上位10の、メタ解析において最も有意なcircRNAを選択した。
【0156】
ネットワーク共発現解析:それらが共に共発現される直鎖状転写物に基づき、circRNAの生物学的関連性および病理学的関連性を推定する、circRNA/タンパク質コード直鎖状転写物共発現ネットワークを、AD試料および対照試料から生成した。まず、同じ試料からの、ライブラリーサイズにより正規化した、circRNAカウントおよび直鎖状転写物カウントを、示差的発現解析の共変量(PMI、TIN中央値、AOD、バッチ、性別、および遺伝系統)について補正した。ネットワーク生成の目的のために、circRNAは、全てを組み入れたが、最も可変的なタンパク質コード直鎖状転写物は、上位の10,000だけを組み入れて、演算負荷を軽減した。MEGENA(multiscale embedded-gene co-expression network analysis;v.1.3.6)を使用するスピアマン相関に基づき、これらの組合せカウントから、遺伝子共発現ネットワークを計算した。略述すると、この方法は、PMFG(planar maximally filtered graph)法を利用して、コンパクトな遺伝子発現ネットワーク同定し、旧来のWGCNA(weighted correlation network analysis)法との高モジュール保存性を有し、これより多くのモジュール同定することが独立に裏付けられている。重要なことは、この方法が、可能な場合、より大規模な親モジュール内に存在する、サブモジュールにより、階層ネットワークを同定することである。このように、同じ直鎖状転写物またはcircRNAは、複数のモジュールへと割り当てられうる。モジュールを同定した後、WGCNA R package v.1.63を使用して、各モジュールの固有値遺伝子を計算した。モジュールと、CDRとの有意な関連を同定するために、示差的発現の共変量について補正して、モジュール固有値遺伝子と、CDRとの間において、両側P値生成回帰分析を実施した。モジュール固有値遺伝子の、CDRとの関連の有意性は、両側スチューデントt検定を使用して決定した。直鎖状転写物モジュールメンバーを抽出し、タンパク質コード遺伝子を、バックグラウンド遺伝子リストとする、FUMAソフトウェアによる超幾何片側試験を介して、これらを加工することにより、有意な遺伝子エンリッチメントと、経路との関連を、各モジュールについて同定した。最後に、igraph R package v.1.2.1を使用して、ネットワークを視覚化した。
【0157】
マイクロRNA結合性部位の予測:DCCソフトウェアにより提供されるgetcircfasta.pyスクリプトを使用して、circRNA配列についてのfastaファイルを生成した。本研究は、2018年3月公開のTargetScan70データベースにより提供されたtargetscan_70.plスクリプトを使用して、これらのcircRNA配列内のmiRNA結合性部位を予測した。同じcircRNAの複数のアイソフォームが、同じmiRNAに対して、異なる数の結合性部位を有することが予測される場合、遺伝子レベルにおいて存在することが予測される、最大数の結合性部位を選択した。2018年3月公開のTargetScanHumanデータベースを使用して、予測されるmiRNA調節の標的を同定した。
【0158】
統計学的解析:両側ワルド検定による、家族についての、負の二項ロジスティック回帰を実施して、有意性を決定するのに、DESeq2 v.1.18.1を使用することについて、circRNAの示差的発現を調べた。ピアソン相関を、両側スチューデントt検定を使用して決定された有意性と共に使用することについて、circRNAの関連効果量相関を調べた。線形回帰分析を、両側スチューデントt検定を使用して決定された有意性と共に使用して、circRNA-AD間関連の、コグネイト直鎖状mRNAのAD関連変化、または推定脳細胞型比率の変化からの独立性について調べた。SuperExactTest R package v.1.0.0を使用して、示差的発現circRNAの異なるセットの間における重複の有意性について、片側P値を計算した。SympAD関連circRNAの間のブートストラップ効果量相関分布が、バックグラウンド分布を超えるのかどうかは、片側コルモゴロフ-スミルノフ検定を使用して計算した。circRNAおよび他の寄与因子により説明される定量的AD形質の変動の比率は、線形回帰に続き、relaimpo R package v.2.2.3を使用する相対重要性解析を使用して計算した。MEGENA v.1.3.6を使用するスピアマン相関に基づき、circRNA/直鎖状mRNA共発現ネットワークモジュールを生成した。モジュール固有値遺伝子を計算し、線形回帰を、両側スチューデントt検定を使用して決定された有意性と共に使用して、それらのCDRとの関連を決定した。AD関連経路についての、共発現モジュールのエンリッチメントは、FUMAソフトウェアを使用して実施される片側超幾何検定を使用して決定した。パラメトリック検定のために、データ分布が正規分布であると仮定したが、これについての正式な検定は行わなかった。全ての統計学的解析は、R統計学ソフトウェアを使用して行った。
【0159】
データの入手可能性:Knight ADRCデータセット:NG00083である。ADAD試料に由来するシーケンシング情報は保護されており、アクセスのためには、DIANによるさらなる認証を要求する。Mount Sinai Brain Bank再現データセット:syn3159438である。
【0160】
結果
(i)研究デザイン
研究デザインは、神経病理学的に確認されたAD症例組織[Mirra S. S. et al., Neurology 41, 479-486 (1991); Khachaturian, Z. S., Arch. Neurol. 42, 1097-1105 (1985)]および対照脳組織に由来する、2つの独立のRNA-seqデータセット内のcircRNAカウントの判定および定量を含んだ。発見データセット内において、150ヌクレオチド(nt)、ペアドエンドの、リボソーム(r)RNA枯渇RNA-seqデータを、96例の個体(13例の対照例および83例のAD症例)により提供された凍結頭頂葉皮質組織から生成した。これらの個体は、Washington University School of MedicineのKnight ADRCにおいて評価され、それらの人口学情報、臨床重症度情報、および神経病理学情報を記録された。再現のために、独立の、公表されている、Accelerating Medicines Partnership-Alzheimer’s Disease MSBBデータセット(syn3157743)[Wang M. et al., Sci Data 5, 180185 (2018)]を利用した。略述すると、MSBBデータセットは、下前頭回組織[ブロードマン(BM)44野]の195例の試料(40例の対照、ならびに89例の確定AD症例、31例の推定AD症例、および35例の可能AD症例)に由来する100nt、シングルエンドの、rRNA枯渇RNA-seqデータの他、3つのさらなる大脳皮質領域[前頭極(BM10)、上側頭回(BM22)および海馬傍回(BM36)]に由来するデータを含む。MSBBデータセット内の全ての個体についての、人口学情報、臨床重症度情報、および神経病理学情報は、大脳皮質領域ごとに分けられた。
【0161】
STARソフトウェア[参照により本明細書に組み込まれる、Dobin, A. et al., Bioinforma. Oxf. Engl. 29, 15-21 (2013)]を、キメラリード検出モードにおいて使用して、両方のRNA-seqデータセットに由来するリードを、GENコードによりアノテーションされたヒト参照ゲノム(GRCh38)に照らしてアライメントした。バックスプライスジャンクションを同定するように、DCCソフトウェアを使用して、キメラリードを、さらにプロセシングし、フィルタリングした。最後に、バックスプライスジャンクションカウントを、それらの元の直鎖状遺伝子上にコラプシングして、下流における解析のための、高信頼性のcircRNAカウントのセットを生成した(方法を参照されたい)。このパイプラインを使用して、発見データセット(Knight ADRC)内の、3,547のcircRNA、および再現データセット(MSBB)の4つの領域内の、平均3,924のcircRNAを判定した。最大の重複は、この領域内において判定されたcircRNAと、頭頂葉データセット内において判定されたcircRNAとの間において観察されたため、再現解析は、主に、BM44由来データに焦点を当てた(
図5)。他のMSBB大脳皮質領域内の解析も、同様の結果をもたらした。
【0162】
DESeq2ソフトウェア[Love, M. I. et al., Genome Biol. 15, 550 (2014)]を使用して、神経病理学的AD症例/対照状態の他、定量的AD形質:満期/死亡時におけるBraakスコアおよび臨床的認知症尺度(CDR)との相関についての、circRNAの示差的発現解析を実施した。Braakスコアとは、脳全体における、タウ神経原線維変化の数および分布により決定される、AD重症度についての神経病理学的尺度である。Braakスコアは、0(非存在:最悪の場合においても、偶発性のタウ神経原線維変化)~6(重度:大脳新皮質領域内における、広範なタウ神経原線維変化)の範囲にわたる。CDRは、0(認知症が見られない)~3(重度認知症)の範囲を伴う、認知機能障害についての臨床的尺度である。これらの定量的尺度は、ADの根底をなす病理学的機構の異なる側面を捕捉し、この結果として、互いと、またはAD症例状態と、完全には相関しない(
図6)。したがって、各形質を、個別に解析し、順序尺度を、連続変数としてモデル化した。全ての解析は、遺伝子データに由来する、最初の2つの主成分により表される、死後間隔(PMI)、転写物完全性数中央値(TIN)により測定されるRNA品質、死亡時における年齢(AOD)、バッチ、性別、および遺伝系統について補正した(方法を参照されたい)。circRNA解析を、前症状性ADおよび常染色体優性ADへと拡張して、circRNA発現の変化が、実質的な症状発生の前に生じたのかどうか、およびこれらの変化が、散発性ADに限定されたのかどうかについて探索した。最後に、AD関連circRNAのAD関連性、および潜在的な疾患影響機構について、相対的重要性解析、ネットワーク共発現解析、およびmiRNA結合性部位予測解析を介して探索した。
【0163】
(ii)ADについての示差的発現circRNAを同定する発見解析
環状トランスクリプトームワイドの発見解析(nCDR=96、nBraak=86、ncontrol=13、nAD=83)において、31のcircRNAは、0.05の偽発見率(FDR)を超え、CDRと有意に相関した。最も有意に相関したcircRNAは、circHOMER1であった[CDR単位当たりのlog2(倍数変化):-0.28;P=8.22×10-12]。circCDR1-AS[CDR単位当たりのlog2(倍数変化):0.17;P=3.18×10-2]は、CDRと、名目的に相関するだけであったが、既存の報告[Lukiw, W. J. et al., Front Genet. 4, (2013)]と対照的に、その発現は、認知症重症度の悪化と共に上方調節されることが観察された。
【0164】
他の2つの相補性AD形質:Braakスコア(FDRを超える、9つのcircRNA)および神経病理学的AD対対照状態(FDRを超える、9つのcircRNA)と有意に関連するcircRNAもまた同定した。これらの解析は、全ての被験AD形質にわたり一貫して関連した、AD形質特異的関連およびcircRNAの両方をもたらした。3つのcircRNAは、3つの形質全てについてのFDR補正を超えた。例えば、CDRとの関連に加えて、circHOMER1はまた、Braakスコア(P=1.19×10
-7)およびAD対対照状態(P=2.76×10
-6)とも有意に関連した。一般に、1つのAD形質と関連するcircRNAはまた、残る2つの形質とも、少なくとも名目的に関連した(P<0.05)。発見データセットの13例のRNA試料(n
control=3、n
PreSympAD=3、n
AD=7)について、直交的な定量的PCR法を使用して、RNA-seq知見を、5つのcircRNAについて検証した。5つのcircRNA転写物についてのRNA-seq導出カウントと、GAPDH正規化ΔCt値との間の強い相関を裏付けた(絶対相関中央値:0.64;
図7)。重要なことは、一貫した効果方向もまた観察され、これにより、RNA-seqの結果が検証される(
図7)ことである。併せて、頭頂葉皮質発見データセット解析において、少なくとも1つのAD形質と有意に関連する、37のcircRNAを同定した(
図8)。
【0165】
(iii)独立のADデータセットを使用する、circRNAの示差的発現の再現およびメタ解析
再現解析を、MSBB BM44データセット内において実施した(nCDR=195、nBraak=188、ncontrol=40、nDefinite AD=89)。発見解析において同定された31のCDR関連circRNAのうちの27は、再現解析においても同様に、最小限において、名目的なP値、同じ効果の方向、および同等の効果量により、CDRと相関した(効果量ピアソン相関:0.97、P=1.69×10-17)。例えば、認知症重症度の悪化を伴う、circHOMER1発現の減少[CDR単位当たりのlog2(倍数変化):-0.13;P=2.27×10-9]が再現された。発見結果および再現結果についてのメタ解析は、FDR補正の後におけるCDRと有意に相関する、合計148のcircRNAを明らかにし、とりわけ、circHOMER1(P=2.21×10-18)およびcircCDR1-AS(P=2.83×10-8)を含む33は、5×10-6の厳密な遺伝子ベースのボンフェローニ多重検定補正を超えた(表1)。
【0166】
【0167】
同様に、発見データセット内のBraakスコアと相関した、9つのcircRNAのうち5つが、MSBBデータセット内でも再現された(効果量ピアソン相関=0.99;P=9.29×10-6)。合計33のcircRNAは、メタ解析におけるFDR補正の後における、Braakスコアと有意に関連した。最後に、9つのcircRNAのうち5つは、MSBBデータセット内において再現されるAD症例/対照状態と関連し(効果量ピアソン相関=0.99;P=6.12×10-5)、75のcircRNAは、メタ解析におけるFDR補正の後における、AD症例/対照状態と関連した。
【0168】
全体において、メタ解析における、少なくとも1つのAD形質と有意に関連する、164のcircRNAを同定した(
図1)。circHOMER1およびcircCORO1Cを含む、これらのcircRNAのうちの28は、3つの被験形質全てと有意に関連した(
図9)。9つの形質間circRNA関連は、5×10
-6の遺伝子ベースの厳密な閾値を超えるP値を有した(表1)。併せて、これらの結果は、circRNA発現の変化と、AD形質との間の、一貫し、再現可能であり、高度に有意な関連を裏付ける。
【0169】
(iv)AD関連circRNA発現の変化は、それらのコグネイトの直鎖状mRNA内のAD関連変化および推定脳細胞型比率からの独立性を裏付ける
cirRNAおよびそれらのコグネイトの直鎖状mRNAは、独立の発現[You, X. et al., Nat. Neurosci. 18, 603-610 (2015)]を示しうるが、ゲノムの由来および生合成機構の共有を踏まえると、ある程度のレベルの相関が予期される。circRNA転写物をカバリングする、大半のRNA-seqリードは、circRNAを規定するバックスプライスジャンクションを含有せず、したがって、circRNA転写物ではなく、直鎖状mRNAに由来するリードとして、不正確にカウントされるため、この相関はまた、技術的バイアスも受ける[Rybak-Wolf, A. et al., Mol. Cell 58, 870-885 (2015)]。例えば、circCDR1-ASの直鎖状形態は、歴史的に検出不能であったほどの低レベルにおいて発現される[Piwecka, M. Et al., Science 357, eaam8526; Barrett, S. P. et al., PLoS Genet. 13 e1007114 (2017)]。しかし、本実施例の直鎖状mRNAの定量において、豊富な「直鎖状」CDR1-ASカウントが観察されたことは、公知の技術的バイアスと符合する。比較的希少なcircRNAを、それらのコグネイトの直鎖状mRNAと同じ回帰モデルに併せて組み入れる場合に、このアーチファクトは、circRNA-AD間関連を、帰無とするようなバイアスをかけることが予期される。しかしながら、回帰ベースの手法を使用して、circRNA発現のCDR関連変化の大半は、それらのコグネイトの直鎖状mRNAのCDR関連変化から独立であることが裏付けられた。
【0170】
発見および再現、直鎖状およびcircRNAを組み合わせた、回帰結果についてのメタ解析において、146のcircRNAのうちの109が、CDRとの有意な関連(P<0.05)[例えば、circHOMER1(P=3.11×10-6)またはcircDOCK1(P=1.65×10-5)]を保持することが観察されたことは、独立の関連を裏付ける。加えて、62のCDR関連circRNAの関連P値は、それらのコグネイトの直鎖状mRNAの関連P値より小さく、78のCDR関連circRNAは、それらのコグネイトの直鎖状mRNAと比較して、同等以上のCDRの変動を説明した。別個の解析において、同様の回帰ベースの手法を利用して、同様に、CDR関連circRNAの大半(148のうちの106)[例えば、circHOMER1(P=8.15×10-13)またはcircDOCK1(P=1.03×10-5)]が、ニューロンおよび他の脳細胞型の推定比率のAD関連変化[Li, Z. et al., Genome Med. 10, 43 (2018)]から独立であることを裏付けた。まとめると、これらの結果は、AD-circRNA関連の大部分が、直鎖状mRNAにおけるAD関連変化、または推定脳細胞型比率のAD関連変化に依存しないことを裏付ける。
【0171】
(v)AD関連circRNA発現の変化は、大脳皮質領域にわたり一貫する
MSBBデータセットはまた、3つのさらなる大脳皮質領域:BM10、BM22、およびBM36に由来するRNA-seqデータも含む。AD関連circRNA発現の変化が、皮質にわたり一貫するのかどうかを決定するために、環状トランスクリプトームワイドの解析を、これらのさらなるデータセット内において実施した。前述と同様に、circRNAの、CDRおよびBraakスコアとの相関の他、circRNAの、AD症例/対照状態との関連について探索した。さらなる大脳皮質領域:BM10、BM22、およびBM36の各々について、1つずつの頭頂葉発見結果を伴う、3セットのメタ解析を実施した。次いで、これらの結果を、BM44についてのメタ解析結果と比較して、これらの大脳皮質領域にわたり一貫した、AD関連circRNA発現の変化を同定した。
【0172】
本実施例は、4つのメタ解析全てにおいて、CDRと有意に関連し、同等の効果量および同じ効果方向を伴う、23のcircRNAを同定した(重複のP=1.60×10
-94;
図10)。同様に、4つのメタ解析全てにおいて、Braakスコアと有意に関連し、一貫した効果方向を伴う、14のcircRNA(重複のP=1.38×10
-70;
図10)、およびAD症例状態と有意に関連し、一貫した効果方向を伴う、5つのcircRNA(重複のP=3.90×10
-26;
図10)を同定した。3つのcircRNAである、circHOMER1、circKCNN2、およびcircMAN2A1は、4つのメタ解析全てにおいて、3つのAD形質全てと有意に関連した。11のcircRNA:circDGKB、circDNAJC6、circDOCK1、circERBIN、circFMN1、circHOMER1、circKCNN2、circMAN2A1、circMAP7、circSLAIN1、およびcircST18は、4つのメタ解析全てにおいて、2つの定量的AD形質と関連した。
【0173】
MSBBデータセットは、神経病理学的重症度についてのさらなる尺度である、アミロイドプラークの平均数を含む。circRNAの、プラークの平均数との相関についての結果は、全てのMSBB大脳皮質領域内の、他のAD形質と符合した(補足結果)。まとめると、これらの結果は、一部のcircRNAにおける発現変化が、ADの文脈において、大脳皮質領域にわたり一貫した現象であることを示唆する。
【0174】
(vi)前症状性ADにおける、circRNAの示差的発現を裏付ける証拠
本実施例は、少数(nDiscovery=6およびnReplication=18)の、前症状性ADを伴う個体の早期における、ADと関連する、circRNA発現の変化[すなわち、ADの神経病理学的証拠であるが、最悪の場合においても、極めて軽度の認知症(CDR≦0.5)である]について探索した。
【0175】
第1のcircRNAの発現を、各データセット内個別に、前症状性AD(PreSympAD)と、対照(対照nDiscovery=13、対照nReplication=40)との間において比較したが、有意なcircRNAの示差的発現は、検出されなかった。しかしながら、AD神経病態(SympAD)を伴う症状性(CDR≧1)個体と、対照との間における、circRNAの示差的発現を、BM44データセット(nSympAD=137)において同定するが、小規模の頭頂葉データセット(nSympAD=77)においては同定しない相補性解析において観察される効果の方向および大きさと符合する効果の方向および大きさ[log2(倍数変化)]を伴う、いくつかの名目的関連が同定された。
【0176】
これらの結果は、PreSympADにおいて、circRNA発現の変化が生じることを示唆したが、トランスクリプトームワイドベースにおいてこれを検出するには、個体数が少なすぎた。この仮説が正しいとすれば、名目的なPreSympAD関連circRNAと、有意なSympAD関連circRNAとの効果量相関は、バックグラウンドの、非SympAD関連circRNAと比較された場合の効果量相関より強いであろう。したがって、効果量間のピアソン相関について、ブートストラップ信頼区間を生成した。
【0177】
SympAD関連circRNAについてのブートストラップ効果量相関係数分布は、頭頂葉発見データセット[713のバックグラウンドcircRNA:効果量相関=0.21(0.14,0.29)と対比した、14のSympAD関連circRNA:効果量相関=0.67(0.43,0.90)、P<2.2×10
-16;
図2]およびBM44再現データセット[1,544のバックグラウンドcircRNA:効果量相関=0.36(0.31,0.41)と対比した、100のSympAD関連circRNA:効果量相関=0.78(0.68,0.85)、P<2.2×10
-16]のいずれにおいても、バックグラウンド分布より有意に高度であることが観察された。
【0178】
これらの解析を、MSBBデータセットのうちの、他の3つの大脳皮質領域へと拡張したところ、前症状性である、circRNA発現の変化について、同様の証拠が見られることもまた観察された(P<2.2×10-16)。SympAD関連circRNA効果量相関の分布幅は、大脳皮質領域ごとに、皮質内において観察される、AD病理の時空的進行を想起させる順に:BM44~BM36<BM22<頭頂葉皮質<BM10の通りに変動した。まとめると、これらの結果は、実質的なAD症状の前における、複数の大脳皮質領域内の、早期における、circRNA発現の変化を裏付ける。
【0179】
(vii)circRNA発現の変化は、常染色体優性ADを伴う個体における度合いが大きい
常染色体優性AD(ADAD)は、APP、PSEN1、またはPSEN2における病原性突然変異により引き起こされるADの早期発生形態である。Dominantly Inherited Alzheimer Network(DIAN)研究に登録された、ADADを伴う個体により提供された、21例の脳による、頭頂葉皮質由来RNA-seqデータを使用して、circRNA発現の変化が、ADADの文脈においてもまた生じるのかどうかについて探索した。ADAD参加者の人口統計学データ、臨床データ、および神経病理学データを記録した。ADAD RNA-seqデータを、発見RNA-seqデータと同時に生成し、circRNAを、いずれのデータセットにおいても、同時に判定し、フィルタリングした。
【0180】
ADADデータセット(n=21)と、発見データセット対照(n=13)との間の、circRNAの示差的発現についての、環状トランスクリプトームワイドの解析において、FDR閾値下において有意に関連する、236のADAD関連circRNAを同定した。これらは、発見解析において同定された、ほぼ全ての(8/9)AD症例/対照状態関連circRNAを含み、一貫した効果方向を伴った(
図12)。しかし、効果の大きさは、ADAD対対照解析の方が大きかった(例えば、circHOMER1:対照と対比したADのlog2(倍数変化):-0.64;対照と対比したADADのlog2(倍数変化):-0.95)。
【0181】
効果量の増大が、ADAD脳における病理学的重症度の悪化に起因するのかどうかについて探索するために、Braakスコアにより補正された、circRNAの示差的発現解析を、ADADと、発見データセットのADとの間において実施した(Braakスコアが入手可能な試料:nADAD=17、nAD=73)。この解析は、77の有意な示差的発現circRNAを同定し、これらのうちの59を、ADAD対対照解析において同定した(
図12)。前述と同様に、これらの59の示差的発現circRNAは、一貫した効果方向を有し、大半(59のうちの56)は、対照対AD対ADADを比較した場合に、効果の大きさを増大させた。併せて、これらの結果は、circRNA発現の変化が、ADADの文脈においてもまた生じ、神経病理学的重症度について補正してもなお、大きさの増大の度合いが著しいことを裏付ける。
【0182】
(viii)AD関連circRNAは、AD定量的尺度の変動について、APOE4の対立遺伝子の数または推定ニューロン比率より多くを説明する
相対重要性解析を実施して、circRNA発現の、定量的AD形質の変動への寄与:2つの公知の寄与因子[APOE4の対立遺伝子の数(APOE4)(ADについての、最も一般的な遺伝危険性因子)および推定ニューロン比率(EstNeuron)]と比較した、CDRおよびBraakスコアについて評価した。
【0183】
上位10の、メタ解析において有意なCDR関連circRNAを、変動説明解析の比率について選択した。発見データセット(n
CDR=96)内において、これらのcircRNA(APOE4およびEstNeuronと同じ多変量モデルに組み入れられた)は、観察されたCDRの変動のうちの、合計31.1%を説明した(
図3)。同じcircRNAについての、BM44再現データセット(n
CDR=195)の結果も符合し、circRNAは、CDRの変動のうちの、合計23.8%について説明した(
図3)。発見データセットおよび再現データセットのいずれにおいても、一部のcircRNAは個別に、また上位10のcircRNAを合わせても、APOE4およびEstNeuronと比較して、CDRの変動のうちのより多くについて説明することが観察された(
図3)。同じパターンは、circRNAの、Braakスコアの変動の観察への相対寄与について評価する場合に観察され(
図13)、また、circRNAの、CDRの変動、Braakスコア、およびプラークの平均数への寄与について、他のMSBB組織を解析する場合(補足結果)にも観察された。最後に、circRNAは、APOE4およびEstNeuronより、ADADを伴う個体における、Braakスコアの変動のうちの多くについて説明することもまた観察された(補足結果)。
【0184】
変動解析の比率に加えて、メタ解析において最も有意な、同じ10のCDR関連circRNAのAD予測能力を、APOE4の対立遺伝子の数および示差的発現の共変量を含む、ベースラインモデルのAD予測能力ともまた比較した。circRNAは、単独において、ベースラインの遺伝学/人口学モデルと比較して、同等以上の予測値をもたらし、ベースラインの遺伝学/人口学データと組み合せた場合、予測能力をなお改善することが見出されたことは、相対重要性解析と符合した(
図14)。併せて、これらの結果は、circRNAの発現は、定量的AD形質と強く関連し、これらのAD重症度の測定値の変動に顕著に寄与することを裏付ける。
【0185】
(ix)示差的発現circRNAは、AD関連遺伝子およびAD関連経路と共発現する
circRNAの、直鎖状転写物との共発現についての解析は、circRNAの生物学的関連性および病理学的関連性を推定する機会をもたらす。MEGENAソフトウェアを使用するスピアマン相関に基づき、頭頂葉発見データセットの他、MSBBデータセットのうちの、大脳皮質領域の各々:BM10、BM22、BM36、およびBM44においてにおいて、共発現ネットワークを計算した。さらなる計算は、これらのネットワークの固有値遺伝子と、CDRとの相関から行なわれた。
【0186】
頭頂葉データセット内において、CDRと有意に相関し、少なくとも1つのAD関連circRNAを含有する、49の階層的共発現モジュールを同定した。同様に、MSBB BM44データセット内において、CDRと有意に相関し、少なくとも1つのAD関連circRNAを含有する、20の階層的共発現モジュールを同定した。circHOMER1は、頭頂葉データセット内の、モジュールc1_16(CDRとのモジュール相関:P=5.94×10
-4)において発現した。このモジュールは、AD経路[KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)Alzheimer’s Disease、156の遺伝子のうちの66、補正P=1.07×10
-15]および酸化的リン酸化関連遺伝子(KEGG Oxidative Phosphorylation、115の遺伝子のうちの58、補正P=2.76×10
-18)について有意にエンリッチされる直鎖状転写物を含んだ。同様に、AD関連circRNAである、circCORO1Cは、BM44データセットモジュールc1_46において、AD遺伝子である、APPおよびSNCAと共発現した(CDRとのモジュール相関:P=1.52×10
-7;
図4)。
【0187】
MSBBデータセットのうちの、他の大脳皮質領域内のMEGENA結果は、AD関連遺伝子およびAD関連経路と共発現するAD関連circRNAと符合した。例えば、BM22モジュールc1_14において、いくつかのAD関連circRNAと共に共発現するAPPを観察した(CDRとのモジュール相関:P=2.39×10-6)。併せて、これらの結果は、circRNAについて、ADにおける重要な役割を示唆する。
【0188】
(x)AD関連circRNAは、AD関連経路およびAD関連遺伝子を、潜在的に調節する、miRNAに対する結合性部位を含有する
circRNA発現の機能的帰結は、活発な研究領域である。近年の研究は、circRNAが、転写を調節することが可能であり[Li, X. et al., Mol. Cell 71, 428-442 (2018)]、翻訳さえもされうる[Legnini, I. et al., Mol. Cell 66, 22-37.e9 (2017)]ことを裏付けているが、それらの最もよく特徴づけられた機能は、隔離を介するmiRNAの調節にある[参照により本明細書に組み込まれる、Legnini, I. et al., Mol. Cell 66, 22-37.e9 (2017);Hansen, T. B. et al., Nature 495, 384-388 (2013)]。例えば、circCDR1-ASは、miR-7に対する、70を超える結合性部位を含有し、circCDR1-ASの発現の低減は、miR-7の標的mRNAの下方調節を結果としてもたらす。しかし、circRNA上の、単一のmiRNA結合性部位であってもなお、miRNAの機能を調節するのに十分であると考えられる[Bai, Y. et al., J. Neurosci. Off. J. Soc. Neurosci. 38, 32-50 (2018)]。
【0189】
AD関連circRNAにより潜在的に調節されるmiRNAを同定するために、TargetScan70ソフトウェアを使用して、circRNA配列内の、miRNA結合性部位を予測した。70を超えるmiR-7の予測結合性部位についての、既に報告されている知見が、circCDR1-AS配列内において再現され、他のAD関連circRNA内の、いくつかの興味深いmiRNAに対する結合性部位もまた予測された。circATRNL1は、それらの発現の増大が神経膠腫細胞内のアポトーシスを誘発する、miR-136に対する18の予測結合性部位を含有した。circHOMER1は、AD関連遺伝子である、PSEN1およびPSEN2をターゲティングすることが予測されるmiRNAである、miR-651に対する5つの予測結合性部位を含有した[参照により本明細書に組み込まれる、Agarwal, V. et al., eLife 4, e05005 (2015)]。最後に、AD関連遺伝子である、APPおよびSNCAと共発現することが同定された(
図4)circCORO1Cは、APPおよびSNCAをターゲティングすることが予測されるmiRNAである、miR-105に対する2つの予測結合性部位を含有する。これらのバイオインフォマティクスの結果は、一部のAD関連circRNAが、miRNAの調節を介して、機能的効果を及ぼしうることを示唆する。
【0190】
(xi)補足結果
AD関連circRNA発現の変化は、推定細胞型比率の、AD関連変化からの独立性を裏付ける。AD病理は、コンピュータによるデコンボリューション法を使用して、RNA-seqデータ内において推定されうる、脳細胞型比率の劇的な変化を結果としてもたらす。AD関連circRNA発現の変化が、脳細胞型比率の、AD関連変化から独立であることを裏付けるために、示差的発現の共変量、ライブラリーサイズにより正規化されたcircRNAカウント、およびコンピュータによりデコンボリューションされた脳細胞型比率の推定値を含むモデルにより、回帰分析を実施した。頭頂葉発見データセット内および再現BM44データセット内において、メタ解析において有意な148のCDR関連circRNA全てについて、これらの回帰分析を実施した。これらの結果の固定効果についてのメタ解析は、Dube, U., Del-Aguila, J.L., Li, Z. et al. An atlas of cortical circular RNA expression in Alzheimer disease brains demonstrates clinical and pathological associations. Nat Neurosci 22, 1903-1912 (2019) Supplementary Table 17において提示されている。本発明者らは、脳細胞型比率推定値と同じモデル内に組み入れられた場合に、有意な関連(p値<0.05、補足表17)を保持する、106のCDR関連circRNA、例えば、circHOMER1(メタp値:8.15×10-13)およびcircDOCK1(メタp値:1.03×10-5)を同定する。これらの結果は、AD関連circRNAの大部分と、CDRとの関連が、推定細胞型比率のCDR関連変化から独立であることを裏付ける。
【0191】
circRNA発現の変化は、ADの神経病理学的定量的形質:アミロイドプラークの平均数と相関する:MSBBデータセットは、ADのさらなる神経病理学的定量的形質:アミロイドプラークベータの平均数を含む。プラークの平均数と有意に相関する、95のcircRNA、例えば、データセットのBM44サブセット(nPlaqueMean=195)内のcircHOMER1(プラークの平均数1単位当たりlog2倍の変化:-0.02;p値:4.70×10
-7)を同定した(Dube, 2019)。同様に、MSBBデータセット内の、他の大脳皮質領域内においても、プラークの平均数と相関するcircRNAを同定した(Dube, 2019)。まとめると、12のcircRNAは、4つの大脳皮質領域全てにおいて、アミロイドプラークの平均数と、有意に相関した(
図11)。
【0192】
有意に関連したcircRNAは、アミロイドプラークの平均数の変動について、APOE4の対立遺伝子の数または推定ニューロン比率より多くを説明する。プラークの平均数と有意に関連すると同定されたcircRNAが、公知の寄与因子:APOE4の対立遺伝子の数および推定ニューロン比率(EstNeuron)と比較して、プラークの平均数の変動の多くを説明するのかどうかについて探索した。
【0193】
上位10の最も有意なPlaqueMean関連circRNAが、累積的に、APOE4およびEstNeuronと比較して、MSBBデータセット内の、4つの大脳皮質領域全て(Dube, 2019)にわたり、観察されるアミロイドプラークの平均数の変動の多くを説明したことは、他の2つの定量的AD形質(CDRおよびBraakスコア)による本発明者らの結果と符合した。
【0194】
有意に関連したcircRNAは、ADADを伴う個体における、Braakスコアの変動について、APOE4の対立遺伝子の数または推定ニューロン比率より多くを説明する。また、AD症例状態と対比して、Braakスコア補正ADADと有意に関連すると同定されたcircRNAが、ADADを伴う個体(nADAD with Braak=17)において、公知の寄与因子:APOE4の対立遺伝子の数および推定ニューロン比率(EstNeuron)と比較して、Braakスコアの変動の多くを説明するのかどうかも探索した。上位10の、最も有意な、Braakスコア補正ADAD関連circRNAが、APOE4およびEstNeuronと比較して、累積的に、Braakスコアの変動についての観察の多く(Dube, 2019)を説明したことは、発見データセット内および再現データセット内のBraakスコアについての、本発明者らの結果と符合した。
【0195】
AD関連circRNAは、AD症例状態を予測するロジスティックモデルの感度および特異度を改善する。circRNA発現と、AD形質とのロバストな関連を踏まえ、circRNAの組入れが、AD症例状態を予測するロジスティックモデルの感度および特異度を改善するのかどうかについて探索した(
図14)。本発明者らのベースである、人口学-遺伝学モデルは、示差的発現の共変量(PMI、TIN、AOD、バッチ、性別、遺伝系統)の他、APOE4の対立遺伝子の数を組み入れ、発見データセット(n
control=13、n
AD=83、AUCベース:0.90)および再現データセット(n
control=40、n
Definite AD=89、AUCベース:0.84)のいずれにおいても、良好な予測値[ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線下面積(AUC)により測定される]をもたらした。興味深いことに、メタ解析において、CDRと有意に関連する、上位10の最多circRNAについての正規化カウントだけを組み入れたモデルは、発見データセット(AUCcirc:0.97)および再現データセット(AUCcirc:0.88)のいずれにおいても、より良好な予測値をもたらした。最後に、モデルの組合せは、発見データセット(AUCベース+circ:1.00)および再現データセット(AUCベース+circ:0.98)のいずれにおいても、最良の予測能力をもたらした。他のMSBB大脳皮質領域についても、circRNA発現情報の付加により、同様の結果が観察され、予測能力を、ベースの人口学-遺伝学モデルを上回って増大させた(
図14)。これらの結果は、大脳皮質circRNA発現が、AD症例状態を高度に予測することを指し示す。
【0196】
本明細書において示されないデータおよびデータ表は、参照によりその全体において組み込まれる、Dube, U., Del-Aguila, J.L., Li, Z. et al. An atlas of cortical circular RNA expression in Alzheimer disease brains demonstrates clinical and pathological associations. Nat Neurosci 22, 1903-1912 (2019)(Dube, 2019)において見出されうる。
【0197】
考察
転写調節は、ヒト神経系の複雑性の根底をなし、その誤調節は、疾患に寄与しうる[Lee, T.I., et al., Cell 152, 1237-1251 (2013)]。実際、直鎖状トランスクリプトームに焦点を当てた、いくつかの研究は、AD症例状態と関連する共発現ネットワーク、およびスプライシングの変化を同定している。本実施例において、AD関連環状トランスクリプトームに対する洞察が提示される。
【0198】
2つの、大規模な、独立の、脳由来RNA-seqデータセットを使用して、特異的circRNAの変化が、ADにおいて、再現可能な現象であることが確立された。circRNAの発現レベルが、AD重症度についての神経病理学的尺度および臨床的尺度のいずれとも、有意に相関することが裏付けられたことは、疾患における重要な役割を示唆する(表1)。この役割は、前症状性ADの早期における、circRNA発現の変化についての証拠により、さらに裏付けられた。ADの根底をなす病理学的過程は、実質的な症状発生の何十年も前に始まる、十分に特徴づけられた時空的進行に従う。したがって、皮質にわたり、AD病理について公知の時空的進行と符合する順序において生じる変化として観察される、前症状性期における、circRNA発現の変化は、相関するだけではなく、疾患に直接寄与しうる。circRNA発現の変化の大きさが、神経病理学的重症度について補正した後においてもなお、遺伝的に駆動されるADADを伴う個体において、散発性ADを伴う個体と比較して大きかったという、本実施例の知見はまた、AD関連circRNAが、疾患と相関しているだけであるという議論に対する反証でもある。重要な役割は、AD関連circRNAが、AD原因経路の一部であることが公知の遺伝子と共発現することを裏付ける、ネットワーク解析によってもさらに裏付けられる。
【0199】
本実施例は、メタ解析において、164のAD関連circRNAを同定し、ネットワーク共発現解析およびmiRNA結合性部位予測解析を実施して、生物学的文脈を付与し、関連結果の解釈を容易とした。例えば、3つのAD形質全てと有意に関連するcircHOMER1が、ADおよび酸化的リン酸化に関与する直鎖状遺伝子と共に共発現されたことは、おそらく、脳の代謝低下における、このcircRNAの役割が、ADと関連することを示唆する。脳代謝低下はまた、PSEN1突然変異駆動性ADADにおいても裏付けられており、circHOMER1は、PSEN1およびPSEN2をターゲティングすることが予測されるmiRNAである、miR-651に対する、複数の予測結合性部位を含有する。同様に、circCORO1Cは、AD関連遺伝子である、APPおよびSNCAと共に共発現しているとして同定され、その配列は、複数のmiR-105結合性部位を含有することが予測された。miR-105は、APPおよびSNCAのいずれもターゲティングすることが予測されることは、観察される共発現が、このmiRNAにより媒介されうることを示唆する。重要なことは、このAD関連circRNAおよび他のAD関連circRNAが、miRNA調節を介して、機能的な効果を及ぼすとすれば、微細なcircRNA発現の変化が、下流の遺伝子発現に対して、大きな影響を及ぼしうることである。
【0200】
本実施例における、高信頼性circRNA発現の同定は、バックスプライスジャンクションを判定し、厳密にフィルタリングするために十分なリードを生成するのに要求される、高深度のシーケンシングおよび多数の試料により、技術的に限界づけられる。加えて、circRNAは、現在のところ一般的でない、rRNA枯渇RNA-seqデータセット内だけにおいて、効率的に判定されうる。本実施例の結果は、さらなる、AD脳および対照脳による、rRNA枯渇RNA-seqデータセットの生成を支援する。
【0201】
感度解析は、circRNA-AD間関連の大半が、ADと関連する、コグネイトの直鎖状mRNAまたは推定細胞型比率変化に依存しないこと[固有の技術的相関(直鎖状)または生物学的相関(細胞型比率)にもかかわらず]を裏付ける。しかしながら、直鎖状-環状間の技術的相関は、AD関連circRNAおよびそれらのコグネイトの直鎖状mRNAの両方を含む、共発現モジュールの解釈を限界づける。加えて、一部のAD関連circRNAは、それらのAD-直鎖状mRNA間関連から独立ではない可能性があるが、circRNAの生物学的機能は異なるので、これらのAD関連circRNAは、やはり、病理学的に関連しうる。最後に、本実施例は、circRNAが、ADとの関連を駆動していると考えられる、一部のAD関連circRNA-コグネイト直鎖状mRNA対を同定した。この知見は、他のrRNA枯渇RNA-seqデータセット内のその可能性について探索するように、circRNA解析が、従来の直鎖状mRNAについての示差的発現解析と並行して行われうることを示唆する。
【0202】
本実施例において、circRNA発現は、人口学データまたはAPOE4危険性因子データの非存在下においてであってもなお、AD症例状態についての強い予測能力をもたらすことが観察された。脳脊髄液および血漿などの体液中における、circRNAの相対的安定性[Maass, P.G. et al., J. Mol. Med. 1-11 (2017) doi:10.1007/s00109-017-1582-9]およびエクソソーム内のそれらのエンリッチメントと合わせて、この観察は、circRNAが、前症状性ADおよび症状性AD、ならびに他の神経変性疾患についての末梢バイオマーカーとして使用されることを示唆する。
[実施例2]
【0203】
アルツハイマー病についての非侵襲性(血液ベースの)バイオマーカーとしての環状RNA
以下の実施例は、神経病理学的に確認されたAD症例および対照に由来する脳組織内の、環状RNAの、ロバストかつ再現可能な示差的発現(DE)の同定について記載する。circRNAは、ADと極めて有意に関連するので、脳組織内の、わずか10のDE circRNAのカウントを使用する予測モデルは、高度の特異度および感度(AUC:0.88)をもたらした。加えて、circRNA DEがまた、臨床的AD重症度および病理学的AD重症度のいずれとも有意に関連することが観察された。対照脳、およびADADを伴う個体に由来する脳内の、より重度のDEと比較して、前症状性脳内の名目上有意なcircRNA DEが、AD病理の証拠を示したが、臨床的認知症の証拠は示さなかったこともまた観察されたことは、これと符合する。AD関連遺伝子の、AD circRNAとの共発現が、ネットワーク解析を介して観察された。併せて、本開示は、circRNA発現の変化を、ADと関連付ける、一連の証拠を提示する。
【0204】
アルツハイマー病(AD)の根底をなす病理学的過程は、認知症状発生の何十年も前に始まる。したがって、疾患修飾療法または神経保護療法が、ADの発生を遅延させうるか、なおまたはこれを防止しうる期間は、長期にわたる。Alzheimer’s Associationは、このような治療の社会的利益および経済的利益は、数十億ドルに上ると推定している。現在のところ、ADのための疾患修飾療法または神経保護療法を同定するための研究努力は、臨床試験への登録のために、危険性集団を同定するための現行の方法により限界づけられている。Dominantly Inherited Alzheimer’s Network(DIAN)により先駆的に開発された、1つの有望な手法は、AD[常染色体優性AD(ADAD)]について公知のメンデル遺伝子内の病原性突然変異を伴う、希少な家族集団に焦点を当てている。このような突然変異を伴う個体は、遺伝的に危険性があり、散発性ADを伴う個体より早期にADを発症する。このような個体はまた、散発性ADと比較して、より重度の神経病態も裏付ける。したがって、希少なADAD集団内において同定される、任意の治療候補者は、散発性ADを伴う、AD集団のうちの99%には、一般化可能ではない可能性がある。加えて、この集団内において、研究されうる治療の数は、メンデル型AD突然変異を伴う家族の数が、比較的少数であることにより限界づけられる。ADのための疾患修飾療法または神経保護療法に対して増大する社会的必要に取り組むために、前症状性の散発性ADを伴う個体同定し、症状性の散発性ADを正確に診断し、病期分類する、経済的に実現可能なスクリーニング法が開発されなければならない。
【0205】
前症状性ADについてスクリーニングするための、現行の方法は、CSFベースのバイオマーカー研究またはPETベースのアミロイドイメージング研究に依拠する。これらの方法は、前症状性ADの同定に成功しているが、専門的な医療ケア提供者および侵襲的手順[CSFを回収するための腰椎穿刺またはPETイメージングのための放射性トレーサーの注射]を要求し、高価である。まとめると、これらの方法の危険性および費用が、前症状性ADを同定する、集団ベースのスクリーニングのための、それらの使用を妨げてきた可能性が高い。スクリーニングのための、より実現可能な方法は、血液ベースの検査であろう。このような検査は、一次医療状況において一般に回収される血液と共に、医療ケアの日常的部分である。血液は、細胞の健常および病理についての、比較的非侵襲的な読取りをもたらすことを可能とする、細胞由来の代謝物、核酸、エクソソーム、および他の成分を含有する。特に、血中核酸は、資源が制限された状況下にあってもなお、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)ベースの手法を使用する、ヒト免疫不全ウイルスのような感染性疾患の、高感度かつ高特異度の検出のために利用されている。次世代シーケンシングベースの手法もまた、血中核酸を測定するのに使用されうるが、その現行の費用は、集団スクリーニングにおける使用のために、法外である可能性が高い。しかしながら、シーケンシングベースの手法を使用して、目的の形質について高感度かつ高特異度の核酸パネルが同定されたら、比較的廉価なPCRベースの方法により、たやすくアッセイされうる。
【0206】
直鎖状無細胞核酸は、血中エクソヌクレアーゼによる定常的な分解にさらされている。これに対し、環状RNA(circRNA)は、遊離ヒドロキシル末端を有さず、比較的安定である。circRNAは、直鎖状RNAの3’末端が、5’末端と、共有結合的にスプライシングされ、これにより、連続ループを形成するバックスプライシングから形成される。RNAシーケンシングデータ内におけるバックスプライスジャンクションの検出、またはPCRによるこの検出は、全ての臓器系における、circRNAのプロファイリングを可能とした。これらの研究は、circRNAが、神経系において最もエンリッチされ、シナプス内において特に高度に発現されることを見出した。神経系におけるcircRNAの発現は、宿主遺伝子の発現から独立に生じ、発生時に、かつ、ニューロンの興奮に応答して調節されることが観察された。したがって、circRNA発現の測定は、ニューロンおよびシナプスの健常への洞察をもたらす潜在的可能性を有する。circRNA生物学に関しては、なお多くのことが未知のままである;例えば、circRNAが、インビボにおいて翻訳されうることは、近年裏付けられたに過ぎない。しかしながら、血中において検出されるcircRNAは、がん、脳卒中、および多発性硬化症において、バイオマーカーとしての有用性を有することが見出されているが、ADについてのバイオマーカーとしては、いまだ探索されていない。
【0207】
神経病理学的に確認されたAD症例および対照に由来する脳組織内の、環状RNAの、ロバストかつ再現可能な示差的発現(DE)が同定された。circRNAは、ADと極めて有意に関連するので、脳組織内の、わずか10のDE circRNAのカウントを使用する予測モデルは、高度の特異度および感度(AUC:0.88)をもたらした。加えて、本発明者らは、circRNA DEがまた、臨床的AD重症度および病理学的AD重症度のいずれとも有意に関連することを観察した。本発明者らがまた、前症状性脳内の、対照脳と比較して名目上有意なcircRNA DE(AD病理の証拠であるが、臨床的認知症の証拠ではない)、およびADADを伴う個体に由来する脳内の、より重度のDEも観察したことは、これと符合する。本発明者らはまた、ネットワーク解析を介して、AD関連遺伝子の、AD circRNAとの共発現も観察した。併せて、本発明者らは、circRNA発現の変化を、ADと関連付ける、一連の証拠を有する。
【0208】
本発明者らが同定した、AD DE circRNAの一部は、ヒト血漿試料中において検出されることが報告されている。したがって、circRNAレベルの、AD病理媒介型変化が、前症状性個体であってもなお、血漿中において検出可能であることが示唆される。本実施例は、疾患重症度に基づく、ADの正確な診断および患者の層別化のための、たやすくアッセイ可能であり、比較的廉価な、血液ベースのバイオマーカーとしての血漿circRNAについて探索する。この結果は、症状性ADおよび前症状性ADのための、経済的に実現可能なスクリーニング検査の開発をもたらす。
【0209】
血液ベースのcircRNAバイオマーカーは、診断および層別化を越えて、広く適用可能である。ADについての、質量分析ベースの血漿検査の近年の報告に対し、血液ベースのcircRNAバイオマーカーは、潜在的なAD標的、例えば、アミロイドベータまたはタウの測定に依拠しないため、コンパニオン診断法となる潜在的可能性を有する。加えて、本発明者らの脳ベースの予備解析において、本発明者らが裏付けた通り、circRNA発現は、臨床的重症度および病理学的重症度の両方を追跡し、これにより、血液ベースのcircRNAバイオマーカーが、疾患の進行をモニタリングするのに使用される潜在的可能性をもたらす。最後に、血液ベースのcircRNAバイオマーカーはまた、シナプスおよび神経系の病理を伴う他の疾患、例えば、前頭側頭型認知症、パーキンソン病型認知症、およびレビー小体認知症へも潜在的に適用される可能性がある。
【0210】
頭頂葉皮質circRNAデータ(ncontrol=13、nAD=83)を使用して、本発明者らは、circRNA DEについての、トランスクリプトームワイドの解析を行った。この解析を介して、本発明者らは、9つの、有意なDE circRNA(例えば、circHOMER1;p値:2.8×10-6)を同定した。これらのシグナルのうちの過半は、本発明者らが、118のDE circRNA(例えば、circHOMER1;p値:1.2×10-5;circCORO1c;p値:1.2×10-4)を同定した、下前頭回組織についての、大型であり、独立である、公開のRNA-seqデータセットについての、本発明者らの解析(ncontrol=40、nAD=89)において再現された。興味深いことに、いずれのデータセットにおいても、circRNA発現は、Braakスコアにより測定される、ADの神経病理学的重症度とより有意に関連した(例えば、頭頂葉:circHOMER1;p値:1.7×10-7)。
【0211】
DE circRNAの変化は、AD病理を伴う非認知症罹患個体(前症状性症例)において観察される。本発明者らは、下前頭回RNA-seqデータセット内の、18例の前症状性AD症例を利用して、AD過程の早期における、circRNA発現の変化について評価した。この小さな標本サイズは、トランスクリプトームワイドのDE circRNAを検出する検出力を制限するが、本発明者らは、既に言及された118のDE circRNAのうちの24が、名目上、前症状性ADと、対照との間のDEであること(例えば、circST18;p値:1.3×10-4)を観察した。
【0212】
circRNAは、AD症例/対照状態を予測する。10のDE circRNA(circHOMER1、circDOCK1、circKCNN2、circMAN2A1、circST18、circATRNL1、circEXOSC1、circFMN1、circICA1、circRTN4)を、ロジスティック回帰モデルにおいて使用して、下前頭回データ中の、40例の神経病理学的に確認された対照と、89例の神経病理学的に確認された確定AD症例との間において、AD症例状態を予測し、ROCを計算した。ROC値およびAUC値を、下記に提示する。
【0213】
本実施例において、circRNAは、ヒト血漿試料において、検出可能であることが見出される。本出願者らが、上記において記載されたcircRNAに由来する、血中のcircRNAレベルを見出し、これらのcircRNAが、AD症例と対照の間で、予期される方向に示差的に発現され、その方向は脳の研究で観察されたのと同じ方向であることを見出す。血液研究において使用されたプライマーは、上記において記載されたプライマーと同じであり、具体的には、DE circRNAのバックスプライスジャンクションを、特異的に増幅する多様なプライマー対としての、配列番号1~20である。
【0214】
均等物
本明細書において、本発明のいくつかの実施形態が、記載および例示されたが、当業者は、機能を実施し、かつ/または本明細書において記載される結果および/もしくは利点のうちの1つもしくは複数を得るための、他の様々な手段および/または構造を、たやすく想定し、このような変動および/または改変の各々は、本明細書において記載される、本発明の実施形態の範囲内にあるものと見なされる。より一般に、当業者は、本明細書において記載される、全てのパラメータ、寸法、材料、および構成が、例示的であることを意図されるものであり、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は、具体的な適用、または本発明の教示が使用される適用に依存することをたやすく理解するであろう。当業者は、規定を超えない実験を使用して、本明細書において記載される、本発明の具体的実施形態の、多くの均等物を認識または確認することが可能であろう。したがって、前出の実施形態は、例だけを目的として提示されるものであり、付属の特許請求の範囲およびこれらの均等物の範囲内において、本発明の実施形態は、具体的に記載され、特許請求されるのと別の形においても実施されうることを理解されたい。本開示における、本発明の実施形態は、本明細書において記載される、各個別の特色、システム、品目、材料、キット、および/または方法を対象とする。加えて、2つまたはこれを超え、このような特色、システム、品目、材料、キット、および/または方法の、任意の組合せも、このような特色、システム、品目、材料、キット、および/または方法が、相互に矛盾しない限りにおいて、本開示における、本発明の範囲内に含まれる。
【0215】
本明細書において開示される、全ての参考文献、特許、および特許出願は、それについてそれらの各々が引用される対象物に関して、参照により組み込まれ、場合によって、文献の全体を包含しうる。
【0216】
本明細書および特許請求の範囲において使用される、「および/または」という語句は、このように接続された要素の「一方または両方」、すなわち、ある場合には、連言的に存在し、他の場合には、選言的に存在する要素を意味するように理解されるものとする。「および/または」を伴って列挙される複数の要素は、同じ形において、すなわち、このように接続される要素のうちの「1つまたは複数」であると理解されるものとする。「および/または」節により、具体的に同定される要素以外に、具体的に同定される要素と関連する場合であれ、関連しない場合であれ、他の要素が存在してもよい。したがって、非限定例として述べると、「~を含むこと」などのオープンエンドの表現と共に使用される場合の、「Aおよび/またはB」に対する言及は、一実施形態において、Aだけを指す場合もあり(B以外の要素を含んでもよい);別の実施形態において、Bだけを指す場合もあり(A以外の要素を含んでもよい);さらに別の実施形態において、AおよびBの両方を指す場合もある(他の要素を含んでもよい)などである。
【0217】
本明細書および特許請求の範囲において使用される、「または」とは、上記において規定された「および/または」と同じ意味を有するように理解されるものとする。例えば、リスト内の項目を分ける場合、「または」または「および/または」は、包含的である、すなわち、要素の数またはリストのうちの、少なくとも1つの包含であるが、また、1つを超える数またはリストも含み、列挙されていない、さらなる項目を含んでもよいと解釈されるものとする。「~のうちの1つだけ」もしくは「~のうちの正確に1つ」、または、特許請求の範囲において使用される場合の、「~からなること」など、逆のことが明確に指し示された用語だけが、要素の数またはリストのうちの、正確に1つの要素の包含を指す。一般に、本明細書において使用される「または」という用語は、「いずれか」、「~のうちの1つ」、「~のうちの1つだけ」、または「~のうちの正確に1つ」など、排他性の用語により先立たれている場合に限り、排他的代替物(すなわち、「一方または他方であるが、両方ではない」)を指し示すと解釈されるものとする。特許請求の範囲において使用される場合の、「~から本質的になること」は、特許法の分野において使用される場合の、その通常の意味を有するものとする。
【0218】
1つまたは複数の要素を有するリストに言及して、本明細書および特許請求の範囲において使用される、「少なくとも1つの」という語句は、要素のリスト内の要素のうちの、いずれか1つまたは複数から選択されるが、要素のリスト内において、具体的に列挙される、各要素およびあらゆる要素のうちの少なくとも1つを、必ずしも含まず、要素のリスト内の要素の任意の組合せを除外しない、少なくとも1つの要素を意味するように理解されるものとする。この定義はまた、要素が、具体的に同定される要素に関連する場合であれ、関連しない場合であれ、「少なくとも1つの」という語句が指す要素のリスト内において、具体的に同定される要素以外に、適宜存在しうることを可能とする。したがって、非限定例として述べると、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または、これと同義に、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」、または、これと同義に「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)とは、一実施形態において、1つを超えるAを含むが、Bは存在しない、少なくとも1つのAを指してもよく(かつ、B以外の要素を含んでもよい);別の実施形態において、1つを超えるBを含むが、Aは存在しない、少なくとも1つのBを指してもよく(かつ、A以外の要素を含んでもよい);さらに別の実施形態において、1つを超えるAを含む、少なくとも1つのA、および1つを超えるBを含む、少なくとも1つのBを指してもよい(かつ、他の要素を含んでもよい)などである。
【配列表】
【国際調査報告】