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特表2022-550907PEDF由来短ペプチド(PDSP)を含む組成物及びその使用
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  • 特表-PEDF由来短ペプチド(PDSP)を含む組成物及びその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(54)【発明の名称】PEDF由来短ペプチド(PDSP)を含む組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20221128BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20221128BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221128BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20221128BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221128BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221128BHJP
   C07K 14/52 20060101ALI20221128BHJP
   C07K 14/475 20060101ALI20221128BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A61K38/10
A61K38/16
A61K9/08
A61K47/22
A61K47/18
A61K47/26
C07K14/52 ZNA
C07K14/475
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520832
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(85)【翻訳文提出日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 US2020063182
(87)【国際公開番号】W WO2021077125
(87)【国際公開日】2021-04-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519124338
【氏名又は名称】ブリム バイオテクノロジー インク
【氏名又は名称原語表記】BRIM BIOTECHNOLOGY, INC.
【住所又は居所原語表記】8F, No.1, Alley 30, Lane 358 Ruiguang Rd., Neihu Dist. Taipei, 11492 (TW)
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】リー フランク ウェン-チー
(72)【発明者】
【氏名】リャウ ウェイン ダブリュー シー
(72)【発明者】
【氏名】ファン ピン-イン
(72)【発明者】
【氏名】ワン シャオ-ハン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD38D
4C076DD51Z
4C076DD60S
4C076FF63
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA19
4C084BA23
4C084CA18
4C084CA53
4C084CA59
4C084DB53
4C084MA05
4C084MA17
4C084NA03
4C084ZA33
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA19
4H045CA40
4H045DA01
4H045EA28
4H045FA10
(57)【要約】
水性製剤は、配列番号1、2、3、5、6、8、又は9のうちの1つの配列を有するPEDF由来の短いペプチド(PDSP)と、1mM~100mMの濃度のヒスチジンと、抗酸化剤と、任意選択で非イオン性等張剤とを含む。pH値は約5~9である。抗酸化剤はニコチンアミドであり、これは50mM~1000mMの濃度である。非イオン性等張剤はソルビトールであり、これは0mM~500mMの濃度である。PDSPの濃度は0.01%~1%w/vである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号8、又は配列番号9の配列を有するPEDF由来の短いペプチド(PDSP)と、
抗酸化剤と、
1mM~100mMの濃度のヒスチジンとを含む
水性製剤。
【請求項2】
pH値が約5~9である
請求項1に記載の水性製剤。
【請求項3】
前記抗酸化剤がニコチンアミドである
請求項1に記載の水性製剤。
【請求項4】
ニコチンアミドの濃度が50mM~1000mMである
請求項3に記載の水性製剤。
【請求項5】
非イオン性等張剤をさらに含む
請求項1に記載の水性製剤。
【請求項6】
前記非イオン性等張剤がソルビトールである
請求項5に記載の水性製剤。
【請求項7】
ソルビトールの濃度が0mM~500mMである
請求項6に記載の水性製剤。
【請求項8】
前記ヒスチジンの濃度が5mM~60mMである
請求項1に記載の水性製剤。
【請求項9】
前記ヒスチジンの濃度が10mM~40mMである
請求項1に記載の水性製剤。
【請求項10】
前記PDSPが配列番号3の配列を有する
請求項1~9のいずれか一項に記載の水性製剤。
【請求項11】
前記PDSPの濃度が0.01%~1%w/vである
請求項10に記載の水性製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PEDF由来の短いペプチドの組成物に関し、詳細には、そのようなペプチドの製剤及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト色素上皮由来因子(PEDF)は、約50kDaの分子量を有する418個のアミノ酸からなる分泌タンパク質である。PEDFは、多くの生物学的機能を有する多機能タンパク質である(米国特許出願公開第2010/0047212号明細書を参照されたい)。ヒトPEDFの異なるペプチド領域は、異なる機能を担うことが分かっている。例えば、34mer断片(PEDFの残基44~77)は抗血管新生活性を有することが確認されており、一方、44mer断片(PEDFの残基78~121)は神経栄養特性を有することが確認されている。
【0003】
ヒトPEDF由来短ペプチド(PDSP)は、様々な疾患又は障害を治療又は予防するための有望な治療薬であることが分かっている。例えば、PDSPは、筋肉再生又は動脈形成の促進(米国特許第9,884,012号明細書)、脱毛症及び/又は脱毛症の治療(米国特許第9,938,328号明細書)、変形性関節症の治療(米国特許第9,777,048号)、皮膚老化の予防又は改善(米国特許第9,815,878号明細書)、肝硬変の治療(米国特許第8,507,446号明細書)、又は様々な眼の疾患又は状態の治療(例えば、網膜変性、マイボーム腺疾患、ドライアイ)に有効であることが分かっている。対応するマウスPEDF由来の短いペプチド(moPDSP)も、同じ治療効果を有することが分かっている。しかしながら、これらのペプチドの調製物は、長期安定性を欠くことが見出された。したがって、この有望なバイオ医薬品としての良好な製剤が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明の実施形態は、配列番号1(39mer)、配列番号2(34mer)、配列番号3(29mer)、配列番号5(24mer)、配列番号6(20mer)、配列番号8(mo29mer)、及び配列番号9(mo20mer)を含む、PEDF由来の短いペプチド(PDSP)の製剤に関し、ここで、mo29mer及びmo20merは、それぞれヒト29mer及び20merに対応するマウスPDSPである。
【0005】
本発明の一態様は、配列番号1、2、3、5、6、8、又は9のうちの1つの配列を有するPDSPと、1mM~100mMの濃度のヒスチジンと、抗酸化剤と、任意選択で非イオン性等張剤とを含む水性製剤に関する。抗酸化剤は、アスコルビン酸又はニコチンアミドである。非イオン性等張化剤は、ソルビトール、デキストロース、グリセリン、マンニトール、塩化カリウム、塩化ナトリウム、エチレングリコール又はプロピレングリコールである。
【0006】
本発明のいくつかの実施形態によれば、水性製剤のpH値は、約5~9、好ましくは約6.5~7.5であり得る。非イオン性等張剤はソルビトールであり、これは0mM~500mMの濃度である。抗酸化剤はニコチンアミドであり、これは50mM~1000mMの濃度である。PDSPの濃度は0.01%~1%w/vであり得る。
【0007】
本発明の他の態様は、以下の説明及び添付の図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】PDSP溶液の様々な製剤の安定性を評価するための試験プロトコルを示す概略図である。実験設計に従って様々なPDSP溶液を調製した。PDSP溶液のpH値を1N HCl又は2N NaOHで調整し、0.2μmシリンジフィルターを通して濾過し、50mlガラス瓶に入れた。濾過したPDSP溶液を室温で1150RPMで撹拌した。400μlのPDSP溶液のアリコートを異なる時点で(7時間又は9時間たつまで30分ごとに)採取し、13000rpmで遠心分離して、沈殿が現れるかどうかを観察した。PDSP溶液の撹拌を継続し、10、12、18及び24時間の時点で沈殿を調べた。懸濁物、沈殿及び濁りの出現時間を記録した。
【0009】
図2図2は、0.85%NaClを含む10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)、及び異なる濃度のニコチンアミドを含む20mMヒスチジン緩衝液(pH7.0)中、連続撹拌条件下で調製されたPDSP製剤の安定性試験の結果を示す。これらの異なる製剤で調製したPDSPをそれぞれ濾過後に50mLビーカーに入れ、次いで溶液を室温で1150RPMで撹拌した。これらの溶液を最初の7時間は30分毎に調べ、撹拌開始から12時間後、継続して観察を続けた。
【0010】
図3図3は、20mMヒスチジン溶液/150mMニコチンアミド溶液中の異なる濃度のソルビトールを用いて調製されたPDSP製剤の安定性試験の結果を示す。安定性試験は、連続撹拌下で行った。8つの異なる製剤で調製したPDSPを濾過後に50mLビーカーに入れ、次いで溶液を室温で1150RPMで撹拌した。これらの溶液を、最初の9時間、並びに撹拌開始から12時間、18時間及び24時間にわたって、30分毎に調査した。沈殿及び濁りの出現の時間を記録した。
【0011】
図4図4は、20mMヒスチジン溶液/150mMニコチンアミド溶液中の異なる濃度のソルビトールを用いて調製されたPDSP製剤において、連続撹拌条件下、懸濁、沈殿及び濁りが現れた時間を示す。曲線1:懸濁物が現れた時間。曲線2:目に見える沈殿が現れた時間。曲線3:濁った溶液が現れた時間。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態は、安定性が向上したPEDF由来の短いペプチド(PDSP)の製剤に関する。様々なヒトPDSPは、筋肉再生若しくは動脈形成、脱毛症及び/若しくは脱毛、変形性関節症、皮膚老化、肝硬変、又は眼の疾患若しくは状態を含む様々な疾患又は障害を治療又は予防するための有望な治療薬であることが見出された。そのようなPDSPの例として、表1に示すものを挙げることができる。
【表1】
【0013】
本発明の実施形態によれば、PDSPは、配列番号1、2、3、5、6、8、又は9であり得る。さらに、これらのペプチドのN末端は、任意選択でアシル化(例えば、アセチル又はプロピオニル保護)で保護されていてもよく、C末端は、任意選択でアミドとして保護されていてもよい。
【0014】
これらのPDSPはクエン酸緩衝液(buffer)中で調製され、様々な前臨床研究において治療目的に有効であることが分かっている。しかしながら、これらの短いペプチドの調製物(例えば、0.85%w/vのNaClを含む10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)中のPDSP(配列番号3))は、(数ヶ月にわたる)長期安定性を欠くことが見出された。
【0015】
化学的ストレス(例えば、酸化、加水分解など)及び物理的ストレス(例えば、温度、光、及び撹拌)を含む多くの要因が、特に長期保存におけるバイオ医薬品の品質及び安定性に影響を及ぼす可能性がある。異なる製剤のPDSPの安定性を調査するために、加速安定性試験を実施した。具体的には、最適な製剤を同定するために、ストレス条件下、特に剪断応力下で様々な製剤を試験した。広範な試験後、特定の製剤が、予想外にも、元のクエン酸緩衝製剤よりも優れた長期安定性を有することが見出された。
【0016】
以下では、本発明の実施形態を説明するための具体例について説明する。しかしながら、当業者は、これらの特定の例が例示のためのものに過ぎず、本発明の範囲から逸脱することなく他の変更及び変形が可能であることを理解するであろう。例えば、以下の例では説明のためにPDSP(配列番号3)を使用しているが、代わりに他のPDSPを使用してもよい。
1.クエン酸緩衝液(0.85%w/vのNaClを含む10mM作業クエン酸緩衝液、pH6.0)
【0017】
クエン酸緩衝液をクエン酸及びクエン酸三ナトリウムから調製して、所望の緩衝能及びpHを達成した。例えば、クエン酸一水和物(MW210.14kDa)(メルク)及びクエン酸三ナトリウム二水和物(MW294.12kDa)(BioShop)を用いて、溶液A及び溶液Bをそれぞれ調製した。次いで、これらの2つの溶液を使用して、所望の濃度及びpH値を有するクエン酸緩衝液を作製する。溶液A及び溶液Bの式は以下の通りである。
【0018】
溶液A(0.1Mクエン酸一水和物)(10ml):210.14kDa×10/1000×0.1=0.21gクエン酸一水和物。クエン酸一水和物0.21gを秤量し、10mlのddHOに溶解して、10mlの溶液Aストックを生成する。
【0019】
溶液B(0.1Mクエン酸三ナトリウム二水和物)(10ml):294.12kDa×10/1000×0.1=0.294gクエン酸三ナトリウム二水和物。クエン酸一水和物0.294gを秤量し、10mlのddHOに溶解して、10mlの溶液Bストックを生成する。
【0020】
pH6.0の10倍クエン酸緩衝液ストックを調製するために、1.15mlの溶液A及び8.85mlの溶液Bを混合して、0.1Mクエン酸緩衝液10mLを得た。次いで、10mlの0.1Mクエン酸緩衝液ストックを90mlのddHOで希釈して、10mMの作業クエン酸緩衝液100ml(1倍溶液)を生成した。
【0021】
0.85%w/vのNaClを含む10mMクエン酸緩衝液を調製するために、0.85gのNaClを100mlの10mM作業クエン酸緩衝液に添加した。使用前に、実験設計に基づいてpHを測定及び調整する必要がある。
2.ヒスチジン緩衝液(0~260mMソルビトール及び/又は150~350mMニコチンアミドを含む20mMヒスチジン緩衝液、pH7.0)
【0022】
試験用に20mLの20mMヒスチジン緩衝液pH7.0を調製するために、0.062gのヒスチジン並びに異なる重量のソルビトール及び/又はニコチンアミドを15mLのddHOに溶解した。異なるソルビトール及びニコチンアミドの濃度を有する様々な調製物の例は、表2に示す以下の組成物を用いて調製する。
【表2】
【0023】
緩衝液のpH値を、2N NaOH又は1N HClを使用してpH7.0に調整した。pH値調整のための2N NaOH又は1N HClの体積を記録し、次いでddHOを添加して総体積を20mlにした。
3.異なる製剤のPDSPの調製
【0024】
これらの実施例で使用されるPDSPは、NH末端がアセチル化され、COOH末端にアミドを有する短い合成ペプチド(29mer)である。PDSPの分子量は3243.6kDaである。PDSPを上記の各溶液に特定の濃度で溶解した。
【0025】
例えば、ヒスチジン/ニコチンアミド緩衝液中又はクエン酸緩衝液中の20mlのPDSP溶液を調製するために、ペプチド生成物6.772mgをヒスチジン/ニコチンアミド緩衝液又はクエン酸緩衝液20mlに添加した。
【0026】
PDSPが溶液に完全に溶解した後、PDSP溶液のpH値を測定し、次いで、実験設計に従ってpH値を7.0又は6.0に調整した。使用前に、PDSP溶液をそれぞれ0.2μmシリンジフィルターで濾過した。
4.異なる製剤のPDSPの安定性評価
【0027】
本発明者らは、クエン酸緩衝液中のPDSPの以前の製剤が(数ヶ月にわたる)長期保存において安定ではないことに気付いた。安定性に対する異なる製剤の効果を試験するために、様々なPDSP製剤を、変化を早めるべく、ストレス条件(例えば、せん断応力)に供した。
【0028】
これらの試験のために、異なる緩衝液及び賦形剤(表3に示す)中で調製した20ミリリットルのPDSPをそれぞれ濾過後に50mLビーカーに入れた。次いで、溶液を室温にて1150RPMで撹拌した。400μlのPDSP溶液のアリコートをそれぞれ1.5mlエッペンドルフチューブに30分ごとに最大7時間又は9時間採取した。採取した試料を13000rpmで5分間遠心分離して、沈殿が生じたかどうかを評価した。継続的に観察した後、PDSP溶液の撹拌を24時間たつまで続けた。溶液の外観及び沈殿の有無を、10時間、12時間、18時間及び24時間の撹拌の後に調べた。懸濁物、沈殿及び濁りの出現時間を記録した。実験手順を図1に示す。
【表3】
結果
1.0.85%w/vのNaClを含む10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)で調製したPEDF由来短ペプチド(PDSP)の剪断力に抵抗する能力
【0029】
PDSP調製用の元の製剤は、0.85%w/vのNaClを含む10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)である。この製剤は、様々な前臨床研究に適していた。しかし、この製剤は、長期保存(何ヶ月)にわたって濁りを発現した。したがって、その安定性を、剪断力に抵抗するその能力を解明するための強制凝集法を使用して調べた。図2に示すように、溶液は、撹拌前は澄んで透明であった(図2、上部パネル)。この製剤では、撹拌開始後、約1時間で懸濁物が見られた(図2、左パネル及び表4)。撹拌開始から1.5時間後に沈殿が、2.5時間後に濁った溶液がそれぞれ観察された。これらの観察結果は、他の製剤と比較するためのベースラインとして使用する。
【表4】
2.ニコチンアミドを含むヒスチジン緩衝液で調製されたPEDF由来短ペプチド(PDSP)の剪断力に抵抗する能力
【0030】
ヒスチジン系緩衝液中のPDSPの安定性に対する、抗酸化剤であるニコチンアミドの効果を調べるために、150mM、300mM又は350mMのニコチンアミドを含む20mMヒスチジン緩衝液(pH7.0)で調製されたPDSPを比較として選択した。図2及び表4に示すように、それぞれ150mM、300mM及び350mMのニコチンアミドを含む20mMヒスチジン緩衝液で調製されたPDSPについて、撹拌開始後、5時間、4.5時間及び14時間で懸濁物が観察された(表4)。ヒスチジン/ニコチンアミド緩衝液を含む製剤中の懸濁物は、クエン酸緩衝液中の製剤と比較して有意に遅れて発現した。
【0031】
実験では、0.85%NaClを含む10mMクエン酸緩衝液で調製されたPDSP中の懸濁物が粗いことがわかり、解剖顕微鏡下で小さな粒子又は繊維を観察することができた。しかしながら、ヒスチジン/ニコチンアミド緩衝液で調製されたPDSP製剤中の懸濁物は非常に微細であり、解剖顕微鏡下で目に見える粒子はなく、溶液の透明性を低下させただけであった。
【0032】
懸濁物の存在により、併せて沈殿が起こり得るかどうかを評価するために、各PDSP溶液400μlのアリコートを遠心分離用の1.5mlエッペンドルフチューブに採取した(13000rpm、5分間)。図2(中央パネル)及び表4に示すように、それぞれ150mM、300mM及び350mMニコチンアミドを含む20mMヒスチジン緩衝液中で調製したPDSPについて、撹拌開始後、5.5時間、4.5時間及び14.5時間で目に見える沈殿が観察された。
【0033】
懸濁物又は沈殿が観察された後、PDSP溶液が濁るまでその撹拌を続けた。図2(下のパネル)及び表4は、150mM、300mM及び350mMのニコチンアミドを含む20mMヒスチジン緩衝液で調製されたPDSP製剤が、それぞれ撹拌開始後、13.5時間、7~24時間及び16.5時間で濁ったことを示す。
【0034】
クエン酸緩衝液で調製されたPDSP製剤と比較して、ヒスチジン/ニコチンアミド緩衝液で調製されたPDSP製剤は剪断応力により良好に耐えることができる。さらに、これらのヒスチジン/ニコチンアミド製剤の中で、350mMニコチンアミドを含む溶液は、150mM及び300mMニコチンアミドを含む溶液よりも沈殿が現れるのに長い時間を示し、より高い濃度のニコチンアミドがヒスチジン系緩衝液で調製された製剤中のPDSPの安定性を増加させることができることを示唆した。
3.異なる濃度のソルビトールを含むヒスチジン/ニコチンアミド緩衝液で調製されたPEDF由来短ペプチド(PDSP)の剪断力に抵抗する能力
【0035】
ニコチンアミドを眼に投与すると眼刺激を引き起こす可能性があることが報告されている(Keri,G.2005.Reassessment of the one experiment from the requirement of the tolerance for nicotinamide、米国環境保護庁、ワシントンD.C.20460.1-12)。したがって、ソルビトールを使用して、ヒスチジン系緩衝液中のニコチンアミドの全部又は一部を置換した。表4に示すように、20mMヒスチジン/260mMソルビトールのみの製剤中では、わずか3時間撹拌した後に懸濁物が観察された。そして、この懸濁物は、120mM、125mM、130mM、140mM、150mM、160mM、170mM及び180mMソルビトールを含む20mMヒスチジン/150mMニコチンアミド緩衝液で調製されたPDSP中での撹拌開始後、それぞれ3時間、4.5時間、4時間、13時間、13.5時間、6、5時間及び4.5時間で見出された(図3図4及び表4)。
【0036】
これらのヒスチジン/ニコチンアミド製剤の中でも、懸濁物、沈殿及び濁りは、140mM及び150mMのソルビトールを含む20mMのヒスチジン/150mMのニコチンアミドで調製されたPDSP中で13時間連続撹拌した後に観察され、約140mM~150mMの範囲がヒスチジン/ニコチンアミド製剤中のソルビトールの最適濃度であり得ることを示唆している。(図3図4及び表4)。さらに、20mMヒスチジン/150mMニコチンアミド/140又は150mMソルビトール緩衝液で調製したPDSP、及び20mMヒスチジン/350mMニコチンアミドのみの緩衝液で調製したPDSPの安定性は同等であり、ソルビトールを使用してニコチンアミドの一部を置き換えることができることを示唆した。
【0037】
これらの結果は、上記のデータと共に、ヒスチジン/ニコチンアミドを含有する製剤がクエン酸塩/NaCl製剤よりもPDSPの安定性に優れていることを示唆している。沈殿は、0.85%NaClを含む10mMクエン酸塩で調製したPDSPについては撹拌開始1時間後に現れたが、150mM~350mMニコチンアミドを含む20mMヒスチジンで調製したPDSPについては5時間撹拌後に沈殿が観察された。ヒスチジン/ニコチンアミド製剤の沈殿を生じる持続時間が5倍長いことは、クエン酸塩/NaCl製剤と比較して、ヒスチジン/ニコチンアミド製剤においてPDSPが劇的により安定であることを示している。さらに、ニコチンアミドの濃度が異なる製剤間では、連続撹拌後14.5時間たつまで沈殿は観察されず、より高い濃度のニコチンアミドが賦形剤であるPDSPの安定性を維持するのにより適していることを示した。
【0038】
クエン酸緩衝液で調製されたPDSP製剤と比較して、ヒスチジン/ソルビトールのみの緩衝液で調製されたPDSP製剤は、PDSPの安定性を維持するより良好な能力を示す。しかしながら、ヒスチジン/ニコチンアミドのみの製剤と比較した場合、ヒスチジン/ソルビトールのみの製剤でのPDSPの安定性を維持する能力は、依然として十分に良好ではなく、ニコチンアミドがヒスチジン系緩衝液中のPDSPの安定性の維持のための重要な成分であり得ることを示している。
【0039】
ソルビトールなどの等張化剤を使用してニコチンアミドの一部を置換した場合、沈殿出現の時間は、20mMヒスチジン/350mMニコチンアミドで調製したPDSP(14.5時間)及び20mMヒスチジン/150mMニコチンアミド/140mM又は150mMソルビトールで調製したPDSP(それぞれ13時間及び14時間)で同様であった。これらのデータは、約140~150mMの濃度が、20mMヒスチジン/150mMニコチンアミド緩衝液で調製されたPDSP製剤のソルビトール濃度のより良い選択であることをさらに裏付けている。
【0040】
全体として、本発明者らが試験した製剤から、ヒスチジン/ニコチンアミドが、クエン酸緩衝液よりもPDSP(例えば、PDSP;配列番号3)を含有する製剤のためのはるかに良好なベース緩衝液であることが示された。本発明の実施形態によれば、PDSPは、任意の適切な濃度(例えば0.01%~5%w/v、好ましくは0.01%~1%w/v)であってもよく、ヒスチジン緩衝液は、任意の適切な濃度、例えば、1mM~100mM、好ましくは5mM~60mM、より好ましくは10mM~40mM、最も好ましくは15mM~30mMで使用されてもよい。製剤のpH値は、5から9の範囲であってもよく、好ましくはpH値は約中性、例えば6.5から7.5、最も好ましくは約7.0である。製剤は、適切な濃度、例えば50mM~1000mM、好ましくは100mM~700mM、より好ましくは200mM~500mM、最も好ましくは300mM~400mMの抗酸化剤、好ましくはニコチンアミドを含む。例えば、PDSP溶液の好ましい製剤は、350mMニコチンアミドを含む20mMヒスチジン(pH7.0)を含み得る。製剤はまた、非イオン性等張剤、好ましくはソルビトールを適切な濃度、例えば、0mM~500mM、好ましくは10mM~400mM、より好ましくは50mM~300mM、最も好ましくは100mM~200mMで含み得る。例えば、PDSP溶液の好ましい製剤は、150mMニコチンアミド及び150mMソルビトールを含む20mMヒスチジン(pH7.0)を含み得る。
【0041】
本発明の製剤は、網膜変性、マイボーム腺疾患、ドライアイなどの様々な疾患及び状態を治療するために使用され得る。眼への投与のために、製剤は点眼薬であり得る。
【0042】
本発明の実施形態は、限られた数の例を用いて例示されている。当業者は、これらの実施例が例示のみのためであり、本発明の範囲から逸脱することなく他の変更及び変形が可能であることから、本発明の範囲を限定することを意味しないことを理解するであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって限定されるべきである。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2022550907000001.app
【国際調査報告】