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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-06
(54)【発明の名称】治療
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20221129BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20221129BHJP
   A61P 5/26 20060101ALI20221129BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20221129BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20221129BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221129BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20221129BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20221129BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221129BHJP
   C07K 14/72 20060101ALI20221129BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20221129BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221129BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221129BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221129BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221129BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20221129BHJP
【FI】
C12N15/12
A61P21/00 ZNA
A61P5/26
A61K38/17
A61K35/76
A61P43/00 111
A61K31/713
A61K35/12
A61K48/00
C07K14/72
C12N15/864 100Z
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N15/113 140Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520403
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(85)【翻訳文提出日】2022-05-31
(86)【国際出願番号】 GB2020052435
(87)【国際公開番号】W WO2021064421
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】1914296.7
(32)【優先日】2019-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
2.PLURONIC
3.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リナルディ,カルロ
(72)【発明者】
【氏名】リム,ウーイ ファン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA90Y
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA53
4C084DB63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZC101
4C084ZC102
4C084ZC411
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086MA01
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA94
4C086ZC10
4C087AA01
4C087AA02
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA94
4C087ZC10
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、天然に存在するARバリアントでありかつAR転写活性を調節することが可能であるAR2のレベルを調節することによる、AR関連障害の治療に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での使用のための、ARバリアントをコードする発現構築物であって、該ARバリアントは、アンドロゲン受容体スプライシングバリアント2(AR2)との70%以上の同一性を有するポリペプチド配列を含む、上記発現構築物。
【請求項2】
前記ARバリアントが、アンドロゲン受容体スプライシングバリアント2(AR2)との80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の同一性を有するポリペプチド配列を含む、請求項1に記載の使用のための発現構築物。
【請求項3】
前記ARバリアントがAR2である、請求項1または2に記載の使用のための発現構築物。
【請求項4】
前記発現構築物が、アデノ随伴ウイルス(AAV)から誘導されるベクターである、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための発現構築物。
【請求項5】
前記ARバリアントが、筋肉特異的プロモーターまたは運動ニューロン特異的プロモーターから発現される、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための発現構築物。
【請求項6】
療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での使用のための、発現構築物を含むかまたは産生する宿主細胞であって、該発現構築物がARバリアントをコードし、該ARバリアントが、AR2との70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の同一性を有するポリペプチド配列を含む、上記宿主細胞。
【請求項7】
療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での使用のための医薬組成物であって、該医薬組成物は、製薬上許容される担体および:
(a) 療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での使用のための、ARバリアントをコードする発現構築物であって、該ARバリアントは、AR2との70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の同一性を有するポリペプチド配列を含む、発現構築物、または
(b) 該発現構築物を含むかまたは産生する宿主細胞
を含む、上記医薬組成物。
【請求項8】
前記療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法が、AR関連障害の治療方法である、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための発現構築物、宿主細胞または医薬組成物。
【請求項9】
治療上有効量の:
(a) 療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での使用のための、ARバリアントをコードする発現構築物であって、該ARバリアントは、AR2との70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の同一性を有するポリペプチド配列を含む、発現構築物、
(b) 該発現構築物を含むかまたは産生する宿主細胞、および/または
(c) (a)または(b)および製薬上許容される担体を含む医薬組成物
を投与するステップを含む、それを必要とする患者でのAR関連障害を治療する方法。
【請求項10】
前記AR関連障害が、増大したAR活性により部分的に引き起こされ、かつ/または悪化させられ、例えば、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)である、請求項8に記載の使用のための発現構築物、宿主細胞、医薬組成物、または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
AR2の発現および/または活性を調節することが可能である薬剤。
【請求項12】
例えば、配列番号9~32のいずれかの配列を含む、AR2を標的化するsiRNAである、請求項11に記載の薬剤。
【請求項13】
請求項11または12に記載の薬剤を含む医薬組成物。
【請求項14】
AR関連障害を治療するための方法での使用のための、請求項11もしくは12に記載の薬剤または請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
有効量の請求項11もしくは12に記載の薬剤、または請求項13に記載の医薬組成物を患者に投与するステップを含む、それを必要とする患者でのAR関連障害を治療するための方法。
【請求項16】
前記AR関連障害が、減少したAR活性により部分的に引き起こされ、かつ/または悪化させられる、例えば、アンドロゲン不応症候群、または骨および/もしくは代謝状態である、請求項14に記載の薬剤もしくは医薬組成物、または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
配列番号1との70%以上、80%以上、90%以上、95%以上または99%以上の同一性を有するポリペプチド配列を含むARバリアントであって、該ARバリアントはARとのヘテロ二量体を形成することが可能であり、該ARバリアント単独ではトランス活性化が不可能であり、かつ該ARバリアントは配列番号3でない、上記ARバリアント。
【請求項18】
請求項17に記載のARバリアントをコードするポリヌクレオチド。
【請求項19】
請求項17に記載のARバリアントをコードするかまたは請求項18に記載の核酸を含む発現構築物。
【請求項20】
請求項19に記載の発現構築物を含むかまたは産生する宿主細胞。
【請求項21】
請求項17に記載のARバリアント、請求項18に記載の核酸、請求項19に記載の発現構築物または請求項20に記載の宿主細胞を含む医薬組成物。
【請求項22】
AR関連障害を治療するための方法などの、療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での使用のための、請求項17に記載のARバリアント、請求項18に記載の核酸、請求項19に記載の発現構築物、請求項20に記載の宿主細胞または請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
治療上有効量の請求項17に記載のARバリアント、請求項18に記載の核酸、請求項19に記載の発現構築物、請求項20に記載の宿主細胞または請求項21に記載の医薬組成物を投与するステップを含む、AR関連障害を治療するための方法。
【請求項24】
前記AR関連障害がSBMAである、請求項22に記載の使用のためのARバリアント、核酸、発現構築物、宿主細胞もしくは医薬組成物、または請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンドロゲン受容体スプライシングバリアントおよびアンドロゲン受容体関連障害の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
アンドロゲン受容体(AR)は、ステロイドホルモンにより活性化される転写因子のクラスである、I型核受容体スーパーファミリーのメンバーである。X染色体上に位置するARは、広範囲の組織で、特に、男性の生殖器ならびに運動ニューロンおよび筋細胞で発現される。ARシグナル伝達経路は、前立腺および精巣上体などの男性生殖器官、ならびに筋骨格系、心血管系、免疫系、神経系および造血系の適切な発達および機能で重要な役割を果たす。
【0003】
ARの多岐にわたりかつ重要な生理学的機能を考慮して、その異常が様々な疾患で特定されてきた。例えば、アンドロゲンまたは機能的ARの不在下では、男性の性分化が生じない。男性でのAR機能の完全な欠損は、完全型アンドロゲン不応症候群をもたらす。AR活性はまた、前立腺癌にも密接に関連付けられるが、これは米国で最も高頻度な非皮膚癌であり、6人に1人の男性が罹患し、男性での癌関連死の2番目に多い原因である。毒性機能獲得AR突然変異体を生じるARのN末端ドメイン(NTD)の多型ポリグルタミン反復が、Kennedy病としても知られる進行性神経変性状態である球脊髄性筋萎縮症(SBMA)に関連付けられている。乳癌、喉頭癌、肝臓癌、および精巣癌にARの作用を関連付ける研究の数も増加している。
【0004】
AR関連障害に対して、現在利用可能な疾患修飾治療はない。これまでのところ、AR関連障害を治療するための戦略は、主に重度の副作用および薬物抵抗性に起因して、効果がなかった。これらの戦略としては、アンドロゲン欠乏(例えば、化学的去勢)、遺伝子サイレンシング(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはAAV送達型miRNAを介して)、またはAR機能の調節(例えば、疾患特異的翻訳後修飾または補因子との相互作用を標的化することによる)が挙げられる。例えば、SBMA患者でのARのリン酸化およびそれに続く分解を増加させることを目的としたIGF-1模倣剤を用いた臨床試験は、高い免疫原性および筋肉の強度または機能を改善することができなかったことに起因して、成功していない(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Grunseich et al., Lancet Neurol. 2018 Dec;17:1043-1052
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明の目的は、AR関連障害を治療するさらなる改善された方法を特定することである。
【0007】
本発明者らは、正常組織中に天然に存在するARのスプライシングバリアントであるAR2が、ARの活性を抑制することが可能であることを見出した。本発明者らはまた、ARとヘテロ二量体を形成する能力およびそれ自身に対するトランス活性化が不可能であることを含むAR2の特定の特性が、AR活性の抑制に対して特に有用であることも特定した。本発明者らは、AR関連疾患であるSBMAを表わすマウスモデルで、AR2過剰発現を試験した。SBMAマウスは、100個のグルタミンをコードする拡張されたCAGストレッチを有するヒトAR導入遺伝子(AR100Q)を発現する。AR2を用いてこれらのマウスを処理した場合、これらのマウスは、改善された生存率、ならびに体重増加および運動機能の増大を示した。興味深いことに、本発明者らは、全長AR遺伝子を有し、したがって内因性にAR2を発現する雄性マウスが、AR2を標的化するsiRNAを用いて処理されると、神経筋表現型の悪化を生じることを見出した。したがって、ARとヘテロ二量体を形成することが可能であり、かつそれ自身に対するトランス活性化が不可能であるAR2などのARバリアントは、AR関連障害に対する有用な治療剤である。
【0008】
理論に拘泥することを望まないが、本発明者らは、正常細胞では、AR2はARとのヘテロ複合体を形成することによりデコイとして働き、それにより、おそらくは標的遺伝子のアンドロゲン応答エレメント(ARE)のレベルで、ARの活性を抑制する転写抑制因子として作用し得ると推測する。つまり、AR2は、AR活性を微調整するよう作用し、それにより正常細胞でのAR活性の恒常的状態を回復させる可能性がある。
【0009】
毒性機能獲得AR突然変異体により引き起こされるものなどの、増大したAR活性と関連する障害に関して、AR2は、障害関連AR突然変異体の活性を抑制するよう作用し得る。したがって、これらの障害では、例えば遺伝子送達技術により、増強されたAR2の活性が、有益であり得る。
【0010】
減少したAR活性に関連付けられる障害に関して、例えば遺伝子サイレンシング技術により、内因性に発現されるAR2の発現を阻害することが、有益であり得る。
【0011】
AR2に基づく治療戦略は、AR関連障害を治療するための現在の戦略よりも優れている。なぜなら、現在の戦略は、多くの場合に、ARのタンパク質レベル(例えば、ARを標的化するアンチセンスオリゴヌクレオチド)もしくはホルモンレベル(例えば、化学的去勢)を変化させること、または翻訳後修飾機構もしくは補因子を標的化することを含むが、これらはすべて、ARのゲノム活性および非ゲノム活性を妨害するか、またはARに対して特異的ではなく、したがって、望ましくない副作用を典型的に伴うからである。さらに、特に、罹患した患者のうちの大多数が、AR遺伝子を1コピーしか有しない男性であるので、これらの戦略は、多くの場合に、アンドロゲン機能の欠損に関連する徴候および症状の増悪の可能性により妨げられる。対照的に、本発明は、天然に存在するAR2に基づく治療に関し、したがって、これらのARバリアントはある程度までARの天然の活性を模倣し、例えば、これらは同様の様式で調節され、かつ同様の標的遺伝子を有するであろう。つまり、本発明に従うAR2に基づく治療剤は、ARを調節する複雑なネットワーク、その転写出力およびシグナル伝達経路に対して最小限の妨害しか伴わずに、ARの活性を調節することができる。
【0012】
したがって、本発明の態様は、療法によるヒトまたは動物身体の治療のための方法での使用のための、ARバリアントをコードする発現構築物を提供し、該ARバリアントは、アンドロゲン受容体スプライシングバリアント2(AR2)との70%以上(すなわち、70%またはそれ以上)、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の同一性を有するポリペプチド配列を含む。
【0013】
本発明はまた、療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での使用のための発現構築物を含むかまたは産生する宿主細胞も提供し、このとき、発現構築物はARバリアントをコードし、該ARバリアントは、AR2と70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の同一性を有するポリペプチド配列を含む。
【0014】
本発明はまた、療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での使用のための医薬組成物も提供し、このとき、医薬組成物は、製薬上許容される担体および:(a) 療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での使用のための、ARバリアントをコードする発現構築物であって、該ARバリアントはAR2との70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の同一性を有するポリペプチド配列を含む、発現構築物、あるいは(b) 該発現構築物を含むかまたは産生する宿主細胞を含む。
【0015】
本発明はまた、それを必要とする患者でのAR関連障害を治療する方法も提供し、該方法は、治療上有効量の:(a) 療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での使用のための、ARバリアントをコードする発現構築物であって、該ARバリアントはAR2との70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の同一性を有するポリペプチド配列を含む、発現構築物、(b) 該発現構築物を含むかまたは産生する宿主細胞、ならびに/あるいは(c) (a)または(b)および製薬上許容される担体を含む医薬組成物を投与するステップを含む。
【0016】
別の態様では、本発明は、AR2の発現および/または活性を調節する(例えば、阻害する)ことが可能である薬剤を提供する。本発明はまた、該薬剤を含む医薬組成物も提供する。本発明はまた、AR関連障害を治療するための方法での使用のための該薬剤または該医薬組成物も提供する。本発明はまた、有効量の該薬剤または該医薬組成物を患者に投与するステップを含む、それを必要とする患者でAR関連障害を治療するための方法も提供する。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、配列番号1との70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の同一性を有するポリペプチド配列を含むARバリアントを提供し、該ARバリアントは、ARとヘテロ二量体を形成することが可能であり、該ARバリアント単独ではトランス活性化が不可能であり、かつ該ARバリアントは配列番号3ではない。本発明はまた、該ARバリアントをコードする発現構築物、および該発現構築物を含むかまたは産生する宿主細胞も提供する。本発明はまた、該発現構築物または該宿主細胞を含む医薬組成物も提供する。本発明はまた、AR関連障害を治療するための方法での使用のための、ARバリアント、発現構築物、宿主細胞または医薬組成物も提供する。本発明はまた、治療上有効量のARバリアント、発現構築物、宿主細胞または医薬組成物を患者に投与するステップを含む、それを必要とする患者でのAR関連障害を治療するための方法も提供する。本発明はさらに、AR関連障害を治療する方法での医薬の製造での、ARバリアント、発現構築物、宿主細胞または医薬組成物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】AR2がヒト組織中で高度に発現されることを示す図である。(a) Illumina HiSeq 4000プラットホームを用いたヒト脳組織のRNA-seq。記載されるヒト脳組織由来のARスプライシングバリアント発現レベルが示される。発現値は、対数標準化カウントとして表わされる。データは、平均±s.e.m.である。各点は、1回の反復を表わす(n=7)。*P<0.05;**P<0.01。
図1B】AR2がヒト組織中で高度に発現されることを示す図である。(b) 38種類の異なるヒト組織での相対的なAR2レベルを示すヒートマップである。
図1C】AR2がヒト組織中で高度に発現されることを示す図である。(c) ヒト筋芽細胞でのAR1と比較したAR2の相対的mRNA発現レベル。データは、平均±s.e.m.である。各点は、1回の反復を表わす(n=6)。
図1D】AR2がヒト組織中で高度に発現されることを示す図である。(d) 様々なヒトmRNA ARスプライシングバリアントの模式的表示を示す。白四角および黒四角はUTRおよびエクソンをそれぞれ表わす。
図1E】AR2がヒト組織中で高度に発現されることを示す図である。(e) 増加したRNA PolII占有率を示す、イントロン1上の下流配列と比較した場合のAR遺伝子のエクソン1bに対するChIP-qPCR。データは、平均±s.e.m.である。各点は、1回の反復を表わす(n=3)。
図1F】AR2がヒト組織中で高度に発現されることを示す図である。(f) AR2では、オルタナティブエクソン1bを含めることにより、AR1と比較して異なるN末端アミノ酸配列(NTD)(MILWLHS;配列番号35)が生じる。AR1およびAR2は、同じ残りの配列を共有する(左側)。AR1およびAR2スプライシングバリアントをHEK293T細胞で発現させた。全細胞抽出物を、SDS PAGEにより分離し、続いてC末端AR抗体を用いて免疫ブロットした。分子サイズが示される(右側)。
図2A】AR2が全長AR転写活性を調節することを示す図である。(a) ルシフェラーゼpARE-E1b-Lucレポーター構築物およびβ-ガラクトシダーゼpCMVβレポーター構築物の両方と共に、記載されるベクターを用いてHEK293T細胞をトランスフェクションした。ARトランス活性化を、ルシフェラーゼアッセイにより、DHTの存在下および非存在下で測定した。データは、平均±s.e.m.である。各点は、1回の反復を表わす(n=5)。**P<0.01。
図2B】AR2が全長AR転写活性を調節することを示す図である。(b) μg単位で示される漸増する濃度のAR2構築物を用いて、ルシフェラーゼアッセイを行なった。
図2C】AR2が全長AR転写活性を調節することを示す図である。(c) 記載される融合構築物をHEK293T細胞へと共トランスフェクションし、BRETシグナルを、NanoBRET HaloTag 618リガンドの添加後に測定した。補正済みのNanoBRET比が、ミリBRET単位(mBU)として表わされる。データは、平均±s.e.m.である。各点は、1回の反復を表わす(n=3)。**P<0.01。
図2D】AR2が全長AR転写活性を調節することを示す図である。(d) AR2の固有のN末端配列を標的とする複数のsiRNAを用いた48時間の処理後の、AR1およびAR2転写産物のmRNA相対的発現。データは、同じ化学的骨格を有する非標的化配列(NTS)siRNAに対して標準化されている。AR2発現レベルは、すべての試験されたsiRNAについて有意に減少している(P<0.01)。未トランスフェクション(UT)筋芽細胞についての発現値もまた示される。データは、平均±s.e.m.である。各点は、1回の反復を表わす(n=3)。
図2E】AR2が全長AR転写活性を調節することを示す図である。(e) AR2が過剰発現またはノックダウンされたヒト筋芽細胞で示差的に発現された転写産物のうちのARE含有遺伝子の分解円グラフ。アップレギュレーションされた遺伝子およびダウンレギュレーションされた遺伝子が、それぞれ、赤色/青色、およびピンク色/薄青色で示される。
図2F】AR2が全長AR転写活性を調節することを示す図である。(f)および(g) サンプル間距離の階層的クラスタリングを示すヒートマップ。ARE含有転写産物に関する分散安定化変換されたRNA-seq読み取り値カウントを、階層的クラスタリングのためのサンプル間ユークリッド距離(グレースケール)を算出するために用いた。OE:過剰発現;EV:空ベクター:siRNA:siRNA処理;NTC:非標的化対照。過剰発現群の転写産物を3つの主要な群へとクラスタリングした:強いダウンレギュレーション(1)、軽度のダウンレギュレーション(2)、およびアップレギュレーション(3)。
図2G】AR2が全長AR転写活性を調節することを示す図である。(f)および(g) サンプル間距離の階層的クラスタリングを示すヒートマップ。ARE含有転写産物に関する分散安定化変換されたRNA-seq読み取り値カウントを、階層的クラスタリングのためのサンプル間ユークリッド距離(グレースケール)を算出するために用いた。OE:過剰発現;EV:空ベクター:siRNA:siRNA処理;NTC:非標的化対照。過剰発現群の転写産物を3つの主要な群へとクラスタリングした:強いダウンレギュレーション(1)、軽度のダウンレギュレーション(2)、およびアップレギュレーション(3)。
図2H】AR2が全長AR転写活性を調節することを示す図である。(h) EtOHまたはDHTを用いて24時間処理された、AR2-FLAGを一過性に発現するMCF7細胞由来の架橋されたクロマチンを、抗FLAG抗体またはIgGアイソタイプ対照を用いて免疫沈降した。GREB1、ZNF485、およびEHFは、公知のAR標的遺伝子である。データは、平均±s.e.m.である。各点は、1回の反復を表わす(n=3)。**P<0.01。
図2I】AR2が全長AR転写活性を調節することを示す図である。(i) ワーキングモデルの描写。AR:ARホモ二量体の形成に加えて、ARは、AR2とヘテロ二量体化して、効率が低いトランス活性化複合体を生じる。
図3A】AR2の過剰発現がSBMAマウスの前臨床試験での表現型帰結および病理的変性を改善することを示す図である。(a) 動物実験の設計の模式図。着色方式は、図3全体で保存される(AAV9-AR2:n=8;AAV9-モック:n=6;生理食塩液:n=4)。
図3B】AR2の過剰発現がSBMAマウスの前臨床試験での表現型帰結および病理的変性を改善することを示す図である。(b) AR100Qマウスのカプラン・マイヤー生存率推定(ログランク検定)。
図3C】AR2の過剰発現がSBMAマウスの前臨床試験での表現型帰結および病理的変性を改善することを示す図である。(c) AR2処理マウスでは、疾患発症中央値が遅延する。
図3D】AR2の過剰発現がSBMAマウスの前臨床試験での表現型帰結および病理的変性を改善することを示す図である。(d) 5週齢から末期までのAR100Qマウスの平均体重。
図3E】AR2の過剰発現がSBMAマウスの前臨床試験での表現型帰結および病理的変性を改善することを示す図である。(e) AR100Qマウスのロータロッド成績のカプラン・マイヤー推定。30秒間以上のライディング時間の低下が失敗に設定される。
図3F】AR2の過剰発現がSBMAマウスの前臨床試験での表現型帰結および病理的変性を改善することを示す図である。(f) AR2またはモック配列を発現するrAVV9を用いて処理された11週齢野生型マウスおよびAR100Qマウス由来の代表的骨格筋切片(腓腹筋)。切片を、筋形態学のためにH&EまたはNADHを用いて染色した。矢印は、萎縮した筋線維を示す。矢頭は、中心化した核を含む筋線維を示す。スケールバーは20μmを表わす(上側)。筋線維断面直径の相対的頻度分布は導入遺伝子の遺伝子型およびAR2処理とモックとにより分類されている(下側)。
図3G】AR2の過剰発現がSBMAマウスの前臨床試験での表現型帰結および病理的変性を改善することを示す図である。(g) AR2またはモック配列を発現するrAAV9を用いて処理されたAR100Qマウスでの、NCAMおよびPSA-NCAMに対する抗体で染色された骨格筋の代表的画像。スケールバーは50μmを表わす(上側)。PSA-NCAM/NCAM共局在領域の定量化。すべての群について、n=6視野、群当たり3匹のマウス(下側)。
図3H】AR2の過剰発現がSBMAマウスの前臨床試験での表現型帰結および病理的変性を改善することを示す図である。(h) モック処理およびAR2処理AR100Qマウスの脊髄および筋肉断面でのユビキチン染色。代表的画像を、3回の独立した実験から示す。スケールバーは、脊髄切片に関して20μm、および筋肉切片に関して10μmを表わす。
図3I】AR2の過剰発現がSBMAマウスの前臨床試験での表現型帰結および病理的変性を改善することを示す図である。(i) 3回の独立した実験からの、モック処理およびAR2処理AR100Qマウス由来の代表的な脊髄および骨格筋断面。切片を、1C2抗体を用いて染色した。スケールバーは100μmを表わす。
図3J】AR2の過剰発現がSBMAマウスの前臨床試験での表現型帰結および病理的変性を改善することを示す図である。(j) モック処理およびAR2処理AR100Qマウス由来の脊髄(MEGF10およびNQO1)および筋肉(CACNG1、CHRNA1、MYBPC2、MYBPH、TNNT3、およびUNC45B)での、Hprtハウスキーピング遺伝子に対して標準化されたmRNA発現レベル。値は、1に設定された野生型動物に対する変化倍率として表現される。
図3K】AR2の過剰発現がSBMAマウスの前臨床試験での表現型帰結および病理的変性を改善することを示す図である。モック処理およびAR2処理AR100Qマウス由来の脊髄(MEGF10およびNQO1)および筋肉(CACNG1、CHRNA1、MYBPC2、MYBPH、TNNT3、およびUNC45B)での、Hprtハウスキーピング遺伝子に対して標準化されたmRNA発現レベル。値は、1に設定された野生型動物に対する変化倍率として表現される。
図4A】動物実験の設計の模式図を示す。着色方式は、図4全体で保存される(siRNA AR-2:n=6;モック:n=5)。
図4B】Hprtハウスキーピング遺伝子に対して標準化された、siRNA処理およびモック処理されたAR121Qマウス由来の大腿四頭筋での内因性AR2のmRNAレベル。データは、平均±s.e.m.である。各点は、1回の反復を表わす(n=3)。片側t検定。
図4C】AR2を標的化するsiRNAまたはモック配列を用いて処理されたAR121Qマウスの研究の最後3週間での、力の単位(N:ニュートン)で表わされる平均±s.e.m握力。
図4D】研究の最終週での、AR2を標的化するsiRNAまたはモック配列を用いて処理されたAR121Qマウスのロータロッド成績。データは、平均±s.e.m.である。各点は、1回の反復を表わす(モック処理群ではn=4、siRNA処理群ではn=6)。
図5A】AAV9-AR2処理がSBMAマウスでの表現型帰結を改善することを示す図である。(a) 生存率-SBMAマウスのカプラン・マイヤー生存率推定(ログランク検定)。
図5B】AAV9-AR2処理がSBMAマウスでの表現型帰結を改善することを示す図である。(b) 疾患発症-左側:疾患発症のカプラン・マイヤー推定。疾患発症は、マウスが連続する2週間にわたる持続的体重減少を示し始めた日の時点として定義される。右側:発症までの平均日数。
図5C】AAV9-AR2処理がSBMAマウスでの表現型帰結を改善することを示す図である。(c) 体重-左側:8週目での平均体重を100%とした、8週齢から末期までの体重のパーセンテージ。右側:13週齢での2種類の処理群由来のSBMAマウスの平均体重。
図5D】AAV9-AR2処理がSBMAマウスでの表現型帰結を改善することを示す図である。(d) 握力-8週目での平均握力を100%とした、8週齢から末期までの平均握力のパーセンテージ。
図5E】AAV9-AR2処理がSBMAマウスでの表現型帰結を改善することを示す図である。(e) 平均ロータロッド活性。AAV9-AR2は図中ではAAV9-AR45と称される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
配列の簡単な説明
配列番号1は、ARバリアントのポリペプチド配列を示す。
配列番号2は、配列番号1のARバリアントをコードするポリヌクレオチド配列を示す。
配列番号3は、ヒトAR2のポリペプチド配列を示す。
配列番号4は、ヒトAR2のcDNA配列を示す。
配列番号5は、ヒトARのNTDのポリペプチド配列を示す。
配列番号6は、ヒトARのポリペプチド配列を示す。
配列番号7は、ARバリアントのポリペプチド配列を示す。
配列番号8は、ARバリアントのポリペプチド配列を示す。
配列番号9~34は、実施例で用いられるsiRNA配列(センスおよびアンチセンス)を示す。
配列番号35は、オルタナティブエクソン1bから生じるAR2のN末端でのポリペプチド配列を示す。
【0020】
発明の詳細な説明
ARバリアント
本発明は、ARバリアント、特にARのスプライシングバリアント2(AR2)に関する。いかなる動物由来のAR2でも本発明で用いることができ、特にヒトAR2を用いることができる(ENST00000396043、ENSP00000379358)。ヒトAR2のポリペプチド配列が配列番号3に提供され、対応するcDNAは配列番号4に提供される。
【0021】
AR2は、正常組織中の9種類の天然に存在するスプライシングバリアントのうちの1種である。AR2は、元々はヒト胎盤組織から単離されたRNAを用いたcDNA末端の迅速増幅(RACE)を介して特定された(17)。AR2 mRNAは、エクソン1の22.1kb下流に位置するオルタナティブエクソン1(エクソン1b)を含めることにより生じることが見出された(図1d)。コードされるタンパク質は、カノニカルなNTDの代わりに固有のN末端配列を含み、かつ45kDaの分子量を有し、それゆえ、AR2は文献中ではAR45としても知られる(図1f)。しかしながら、今日までに、その機能についてはほんのわずかしか分かっていない。本発明者らはここで、健康なヒト脳組織、運動ニューロンおよび骨格筋中で最も高度に発現されるスプライシング変異体として、AR2を特定した。本発明者らはまた、AR2過剰発現で処理されたSBMAマウスの有益な作用、およびAR2ノックダウンで処理されたSBMAマウスの悪化作用も示した。
【0022】
本発明はまた、配列バリアントにも言及する。これらのバリアントとしては、AR2、例えば、ヒトAR2(配列番号3)に対して、70%以上(すなわち、70%またはそれ以上)、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または99%の配列同一性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0023】
本発明で有用なさらなるARバリアントは、配列番号1との70%以上(すなわち、70%またはそれ以上)の同一性を有するポリペプチド配列を含むことができる。例えば、ARバリアントは、配列番号1との80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の同一性を有するポリペプチド配列を含むかまたはそれからなることができる。本発明の一部の実施形態では、ARバリアントはAR2ではなく、例えば、ARバリアントは配列番号3でない。
【0024】
配列番号1に対応するcDNAは、配列番号2に提供される。ARバリアントは、配列番号2との80%以上、90%以上、95%以上または99%以上の同一性を有するポリヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなることができる。
【0025】
配列番号1は、配列番号6のアミノ酸556~920に対応する。配列番号6は、本明細書中でAR1とも称されるヒトアンドロゲン受容体(AR;ENST00000374690)のポリペプチド配列である。ヒトARは、以下の3つの主要ドメインから構成される:(i) エクソン1は、高度に可変性であるアミノ末端ドメイン(NTD)をコードし(アミノ酸1~555;配列番号5として提供される)、このドメインは、強力な転写活性化因子の能力を有し、(ii) エクソン2および3は、中央部の2箇所のzincフィンガーモチーフDNA結合性ドメイン(DBD)およびヒンジ領域をコードし(アミノ酸556~670)、ならびに(iii) エクソン4~8は、転写機構との相互作用を担う、非常に保存されたカルボキシ末端リガンド結合性ドメイン(LBD;アミノ酸671~920)をコードする。
【0026】
本発明に従うARバリアントは、ARとのヘテロ二量体を形成することが可能である。理論に拘泥することを望まないが、本発明に従うARバリアントは、疾患関連AR突然変異体とのヘテロ複合体を形成することによりデコイとして作用し、それにより、おそらくは標的遺伝子のアンドロゲン応答エレメント(ARE)のレベルで、疾患関連AR突然変異体の活性を調節することができる。ARでは、二量体化は、FXXLFモチーフを介するN/C末端相互作用および二量体化ボックス(Dボックス)を介するDBD/DBD相互作用により主に媒介される。したがって、本発明に従うARバリアントは、ARのDBDドメインおよびLBDドメイン、すなわち、配列番号6のアミノ酸556~920に対応する配列番号1を含むことができる。
【0027】
ARが二量体化するか否かを決定するための方法は、当技術分野で公知でありかつ本明細書中の実施例に記載され、例えば、複合体形成のリアルタイム検出を可能にする生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)アッセイ、または共免疫沈降アッセイである。
【0028】
本発明に従うARバリアントは、リガンドの存在下であってさえも、単独でのトランス活性化が不可能である。トランス活性化機能を有する領域は、ARのNTD中の活性化機能1(AF-1)サブドメインであり、これはアミノ酸51~211にわたる。したがって、本発明に従うARバリアントは、NTDを部分的に欠損していてもよく、例えば、AF-1サブドメインを欠損している。例えば、本発明に従うARバリアントは、配列番号7であり得、これは配列番号6のアミノ酸51~211を欠損している。本発明に従うARバリアントは、配列番号8であり得、これは配列番号6のアミノ酸1~211を欠損している。他の実施形態では、ARバリアントは、NTD全体を欠損していてもよく、例えば、ARバリアントは配列番号5を含まない。
【0029】
ARバリアントは、カノニカルなエクソン1を部分的に欠損しているmRNAによりコードされることができる。ARバリアントは、ARのカノニカルなエクソン1全体を欠損しているmRNAによりコードされることができる。
【0030】
ARバリアントが単独で転写を活性化することが可能か否かを決定するための方法は、当技術分野で公知でありかつ本明細書中の実施例に記載され、例えば、ルシフェラーゼアッセイなどのin vitroレポーター発現アッセイである。
【0031】
さらに、NTDはポリグルタミントラクト(5~36残基)(配列番号6のアミノ酸59~89)を含み、このポリグルタミントラクトのサイズがAR機能に影響を及ぼし、より長いトラクトがAR活性の低下に関連付けられる。例えば、このポリグルタミントラクトの拡張(例えば、38~68残基)がSBMAを引き起こす。したがって、本発明に従うARバリアントは、ポリグルタミントラクトに対応する領域を欠損していてもよい。
【0032】
本発明に従うARバリアントは、アミノ酸置換、付加または欠失などの、配列番号1、3、7および8のうちのいずれかと比較した改変を含むことができる。例えば、ARバリアントは、いずれかの組み合わせで、置換、欠失または付加される、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上のアミノ酸残基を含むことができる。
【0033】
例えば、バリアントは、AR2の生物学的活性を実質的に変化させないアミノ酸残基の付加、欠失または置換を有することができる。生物学的活性に影響することなく変化させることができるAR2のこれらの個別の部位または領域は、例えば、AR2ドメインの構造を調べることにより決定することができる。あるいは、アミノ酸置換に耐えるであろう領域は、アラニンスキャン突然変異誘発により決定することができる(2)。この方法では、生物学的活性に対する影響を決定するために、選択されたアミノ酸残基を、中性アミノ酸(例えば、アラニン)により個別に置換する。
【0034】
ARバリアントは、ポリペプチドの構造および/または機能を障害する可能性が最も低い保存的アミノ酸変化を含むことができる。例えば、バリアントは、配列番号1、3、7および8のうちのいずれかの中に1箇所以上の保存的アミノ酸変化を含むことができる。保存的アミノ酸変化は、一般的に、構造および/または機能が類似している別のアミノ酸(例えば、サイズ、電荷および形状が類似している側鎖を有するアミノ酸)での、あるアミノ酸の置換を含む。類似の側鎖を有するアミノ酸残基は、当技術分野で公知である。これらとしては、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β-分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。したがって、AR2内の1個以上のアミノ酸残基を、類似の側鎖を有する他のアミノ酸残基と置き換えることができ、改変されたタンパク質を、本明細書中に記載される機能アッセイを用いて、保持された機能について試験することができる。改変は、部位特異的突然変異誘発(3)およびPCRにより媒介される突然変異誘発などの当技術分野で公知の標準的技術により誘導することができ、但し、活性、例えば、ARとのヘテロ二量体化を形成する能力は保持される。
【0035】
ARバリアントは、未変更配列の場合と比較して、宿主細胞でのそれぞれのタンパク質の発現レベルを増大させるために、コドン最適化することができる。コドン最適化のための方法は当技術分野で公知であり、例えば、GeneScript OptimumGeneTMアルゴリズムを用いることができる。
【0036】
本発明は、AR2、例えば、ヒトAR2をコードするポリヌクレオチド(配列番号4)に言及する。本発明はまた、ARバリアントをコードするポリヌクレオチドにも言及する。ポリヌクレオチドは、遺伝的コードの縮重に起因して配列番号4に示されるポリヌクレオチド配列とは異なることができ、したがって、配列番号4に示されるポリヌクレオチド配列によりコードされるものと同じタンパク質をコードすることができる。
【0037】
例えば、ポリヌクレオチドは、配列番号4に対して70%以上(すなわち、70%またはそれ以上)、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または100%の配列同一性を有することができる。
ポリヌクレオチドは、本明細書中に記載されるいずれかのARバリアントタンパク質をコードすることができる。
【0038】
発現構築物
本発明は、療法での使用のための、本発明に従うARバリアントをコードする発現構築物をさらに提供する。ヒトおよび動物で発現させるために好適ないずれかの発現構築物を、本発明で用いることができる。例えば、発現構築物は、非ウイルス性プラスミドに基づくベクターまたはウイルスベクターであり得る。
【0039】
ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、またはヒト免疫不全(HIV)ウイルスなどのレンチウイルスをはじめとするレトロウイルスから誘導されるものであり得る。発現構築物は、遺伝子療法用の発現構築物の提供のための、当技術分野で公知の標準的手段により調製することができる。したがって、十分に確立された公知のトランスフェクション法および/または形質導入法、パッケージング法および精製法を、好適なベクター調製物、および好適なウイルス粒子を調製するために用いることができる。
【0040】
発現構築物はまた、コードされるタンパク質の発現および、好ましくは、分泌を可能にする調節配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム進入部位(IRES)、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)をコードする配列なども含むことができる。
【0041】
発現構築物は、感染した宿主細胞中での治療的タンパク質の発現を引き起こすかまたは改善するために、AR2に機能的に連結されたプロモーター領域を含むポリヌクレオチドを含むことができる。プロモーターは、偏在的(ubiquitous)、組織特異的、強力、弱力、調節型またはキメラ型であり得る。プロモーターは、典型的には、感染した組織中でのタンパク質の効率的かつ好適な産生を可能にするよう選択される。プロモーターは、細胞、ウイルス、真菌、植物または合成プロモーターをはじめとする、哺乳動物(例えば、ヒトまたはネズミ)起源、または他の起源のものであり得る。プロモーターは、神経細胞、例えば、運動神経細胞、および筋細胞中で、特に、ヒト細胞中で機能的であり得る。
【0042】
本発明で有用な調節型プロモーターの例としては、Tet on/offエレメント含有プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーターおよびメタロチオネインプロモーターが挙げられる。
【0043】
プロモーターは、筋肉特異的プロモーターなどの、組織特異的プロモーターであり得る。本発明で有用な筋肉特異的プロモーターは、哺乳動物筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、哺乳動物デスミン(DES)、またはMCK(例えば、enh358MCK、参考文献4を参照されたい)またはDESに基づく合成プロモーターであり得る。
【0044】
本発明で有用な別の組織特異的プロモーターは、運動ニューロン特異的プロモーターであり得る。運動ニューロンに対して特異的なプロモーターの例としては、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)のプロモーターが挙げられる。運動ニューロンで機能的な他のプロモーターとしては、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)(公知の運動ニューロン由来の因子)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、シナプシンのプロモーター、またはニューロン特異的サイレンサーエレメント(NRSE)をはじめとする偏在的プロモーターが挙げられる。
【0045】
あるいは、プロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、ユビキチンC(UbC)プロモーター、CAGプロモーター、偏在性クロマチンオープニングエレメント(UCOE)プロモーター、CD11bプロモーター、Wiskott-Aldrich症候群(WAS)プロモーターおよびグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーターからなる群より選択される、構成的に活性なプロモーターであり得る。
【0046】
本発明で有用な発現構築物は、enh358MCKプロモーターを含む。enh358MCKプロモーターは、当技術分野で公知であり、マウスMCK遺伝子の358bpの近位プロモーターと、約200bpのエンハンサーをライゲーションすることにより構築される。したがって、本発明に従うARバリアントは、enh358MCKプロモーターから発現される。
【0047】
本発明で有用な発現構築物は、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を含む。したがって、本発明に従うARバリアントは、ChATプロモーターから発現される。
【0048】
遺伝子送達
本明細書中に記載されるARバリアント、ポリヌクレオチドおよび発現構築物は、遺伝子療法によって、AR2関連障害を治療するために投与され、それにより、該発現構築物が、宿主での治療効果を媒介するためにそのコードされるタンパク質を生成することができる。
【0049】
当技術分野で利用可能な遺伝子療法のための方法のうちのいずれか、例えば、参考文献5、6、7、8、9および10に総説されているものを用いることができる。組み換えDNA技術を含む方法が、当技術分野で公知である(11、12)。
【0050】
本発明ではin vivo遺伝子療法アプローチを用いることができる。それゆえ、本発明に従う治療は、患者または細胞へと発現構築物を直接的に送達するステップを含むことができる。したがって、発現構築物をin vivoで直接的に投与することができ、このとき、該発現構築物が発現されて、コードされる産物を生成する。これは、当技術分野で公知の多数の方法のうちのいずれかにより、例えば、欠陥型もしくは弱毒化型レトロウイルスまたは他のウイルスベクターを用いる感染により、または裸のDNAの直接的注入により、あるいは微粒子ボンバードメント(例えば、遺伝子銃;Biolistic、Dupont社)、または脂質もしくは細胞表面受容体もしくはトランスフェクション剤によるコーティング、リポソーム、微粒子、微小カプセル、ナノ粒子、もしくはナノカプセルへのカプセル封入を用いることにより、あるいは核に侵入することが公知であるペプチドに連結してそれらを投与することにより、受容体を特異的に発現する細胞型を標的化するために用いることができる受容体媒介エンドサイトーシス(例えば、参考文献13を参照されたい)を受けるリガンドに連結して投与することにより、達成することができる。加えて、特異的受容体を標的化することにより、細胞特異的取り込みおよび発現のためにin vivoで発現構築物を標的化することができる(例えば、参考文献14を参照されたい)。特定の実施形態では、発現構築物は、発現のために細胞内に導入し、相同組み換えにより宿主細胞DNA内へと組み込むことができる(例えば、参考文献15および16を参照されたい)。
【0051】
本発明ではex vivo遺伝子療法アプローチを用いることができる。したがって、本発明に従う治療は、in vitroで発現構築物を用いて宿主細胞を形質転換し、続いて該宿主細胞を患者へ移植するステップを含むことができる。組織培養中の細胞へと発現構築物を導入する方法は当技術分野で周知であり、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロ注入、核酸配列を含むウイルスまたはバクテリオファージベクターによる感染、細胞融合、染色体媒介遺伝子移入、マイクロセル媒介遺伝子移入、スフェロプラスト(spheropiast)融合が挙げられる。該技術は、典型的には、宿主細胞への発現構築物の安定的移入を提供し、それにより、発現構築物が宿主細胞により発現可能となり、その細胞子孫により受け継がれることができ、かつ発現可能となり得る。発現構築物を導入する方法は、宿主細胞へと選択可能マーカーを導入するステップ、および選択下に宿主細胞を置くステップ、および移入された遺伝子を取り込んでおり、これを発現する宿主細胞を単離するステップをさらに含むことができる。得られた組み換え細胞を、当技術分野で公知の様々な方法により、患者に送達することができる。
【0052】
本発明はまた、本発明に従う発現構築物を含むかまたは産生する宿主細胞も提供する。遺伝子療法の目的のために発現構築物を導入することができる宿主細胞は、いずれかの所望の利用可能な細胞タイプを包含する。例えば、幹細胞または前駆細胞を用いることができる。in vitroで単離および維持することができるいずれかの幹細胞および/または前駆細胞、例えば、参考文献17、18、19、20に記載されるものなどを、用いることができる可能性がある。例えば、宿主細胞が血液細胞である場合、組み換え血液細胞(例えば、造血系幹細胞または前駆細胞)を、静脈内投与することができる。宿主細胞の使用量は、所望の作用および患者状態などの様々な要因に依存し、かつ当業者が慣用的に決定することができる。
【0053】
AR2活性の調節
本発明は、AR2の活性を調節することが可能な薬剤を用いることを含む。該薬剤は、AR2の転写レベルおよび/またはタンパク質レベルをダウンレギュレーションする薬剤、AR2とその補因子(コアクチベータータンパク質またはDNA応答エレメントなど)との間の相互作用を調節する薬剤、およびAR2の翻訳後修飾を調節する薬剤であり得る。
【0054】
薬剤は、ARおよびARの他の内因的に発現されるスプライシングバリアントの活性に影響を及ぼすことなく、AR2活性を特異的に調節することが可能であり得る。薬剤は、ARまたはARの他の内因的に発現されるスプライシングバリアント、すなわち、AR1、AR3、AR4、AR5、AR6、AR7、AR8もしくはAR9のうちのいずれかと比較して、AR2に対して50%以上(すなわち、50%またはそれ以上)、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または100%の選択性を有することができる。
【0055】
薬剤は、AR2の転写の阻害剤、AR2の翻訳の阻害剤、またはAR2のアンタゴニストであり得る。薬剤は、AR2 mRNAの発現を阻害する場合がある。例えば、薬剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNA干渉オリゴヌクレオチド(RNAi)、リボザイム、AR2転写に必要な転写因子を分解する薬剤、またはAR2に結合する抗体であり得る。例えば、薬剤は、薬剤が投与されていない場合と比較して、50%以上(すなわち、50%またはそれ以上)、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または100%、AR2のmRNA発現のレベルを低減させることができる。
【0056】
薬剤は、AR2の機能を阻害する場合がある。例えば、AR2の活性を、薬剤が投与されていない場合と比較して、50%以上(すなわち、50%またはそれ以上)、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または100%、低減させることができる。
【0057】
RNAi技術は、細胞中でAR2をノックダウンするために用いることができる。例えば、薬剤は、RNAi効果を媒介する21~23nt断片の小分子干渉RNA(siRNA)へとin vivoで消化される、dsRNA(二本鎖RNA)またはshRNA(ショートヘアピンRNA)分子の形態であり得る。siRNAは、AR2のポリヌクレオチド配列(例えば、配列番号4)内のヌクレオチド配列によりコードされることができる。siRNAは、約20~50ヌクレオチド長、例えば、約21~23ヌクレオチド長であり得る。siRNAは、AR2(例えば、配列番号4)に対して70%以上(すなわち、70%またはそれ以上)、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の配列同一性を有し得る。例えば、siRNAは、配列番号9~32のうちのいずれかに列記される配列を含むことができる。siRNAは、配列番号31および32に列記される配列を含むことができる。
【0058】
siRNAは、通常のヌクレオチドA、G、T、C、もしくはU、または稀なもしくは修飾型ヌクレオチド(イノシン酸、1-メチルイノシン酸、1-メチルグアニル酸、NN-ジメチルグアニル酸、プソイドウリジル酸(pseudouridylic acid)、リボチミジル酸、5-ヒドロキシメチルシトシン、および5-ヒドロキシメチルウリジンなど)から構成されることができる。
【0059】
siRNAまたはこれをコードするベクターは、上記の通りのin vivoまたはex vivo遺伝子療法アプローチなどの、当技術分野で公知の技術により細胞に送達することができる。siRNAは、限定するものではないが、オリゴヌクレオチド合成、in vitro転写、リボヌクレアーゼ消化、またはin vivoでのsiRNAの生成をはじめとする、当技術分野で公知であるいずれかの方法により調製できる。
【0060】
アンチセンス技術もまた、本発明に従って用いることができる。本発明に従って有用なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、AR2(例えば、配列番号4)に対して相補的であり、かつAR2にハイブリダイズし、AR2の発現を阻害することが可能である、RNAまたはDNAであり得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、AR2に対して、70%以上(すなわち、70%またはそれ以上)、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上または100%の相補性を有し得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、15~30bp長であり得る。当技術分野で公知の他の基準を、アンチセンスオリゴヌクレオチドを選択するために用いて、標的化される配列の長さまたはアニーリング位置を変化させることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、S-オリゴヌクレオチド(ホスホロチオエート誘導体またはS-オリゴ)などの誘導体を含むことができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞によるアンチセンス分子の取り込みを増強する薬剤(例えば、リポソームの形態であり得る親油性カチオン性化合物)と共に同時投与される。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ステロール(例えば、コレステロール、コール酸塩およびデオキシコール酸)などの親油性担体と組み合わせることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞に取り込まれるペプチド(例えば、ペプチドホルモン、抗原もしくは抗体またはペプチド毒素)にコンジュゲート化することができる。
【0061】
リボザイムもまた本発明で有用であり得る。例えば、AR2を標的とするアンチセンスRNAおよびRNAを切断するリボザイムを含むアンチセンスRNA/リボザイム融合体を用いることができる。リボザイム分子は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼリボザイムまたはヘアピンリボザイムに基づくことができる。
【0062】
治療および医学的使用
本発明は、療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での使用のための、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞、AR2調節剤、または医薬組成物にさらに関する。本発明は、療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法での、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞、AR2調節剤、または医薬組成物の使用にさらに関する。本発明は、療法によるヒトまたは動物の身体の治療のための方法のための医薬の製造での、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞、AR2調節剤、または医薬組成物の使用にさらに関する。本発明はまた、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞、AR2調節剤、または医薬組成物を使用する治療方法にも関する。
【0063】
特に、本発明は、AR関連障害を治療する方法に関する。例えば、本発明の方法および使用は、疾患状態を阻害すること(例えば、その発症を停止させること);および/または疾患状態を軽減すること(例えば、所望のエンドポイントに到達するまで、疾患状態を退行させること)を含むことができる。本発明の方法および使用は、AR関連障害の症状の改善(例えば、疼痛または不快感の減少)を含んでもよく、そのような改善は、疾患に直接的に影響を与えてもよく、または与えなくてもよい。本発明の方法および使用は、特に、当該哺乳動物がAR障害に罹患しやすい素因を有するが、該障害を有すると診断されていない場合に、哺乳動物(例えば、ヒト)でAR障害が生じるのを防ぐことを含むことができる。本発明の方法および使用は、健康な被験体に対する正常レベルまで、患者でのAR活性および/またはARシグナル伝達を回復させることを含むことができる。
【0064】
AR障害は、ARの異常な活性に関連付けられる障害である。障害は、例えば、毒性機能獲得AR突然変異体(例えば、SMBAでの)の結果として、増大したAR活性により部分的に引き起こされるかまたは悪化させられる場合がある。例えば、これらの障害でのAR活性は、健康な被験体でのAR活性と比較して、50%以上(すなわち、50%またはそれ以上)、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上または200%以上増大していてもよい。この場合、本明細書中に記載されるARバリアントによりAR活性を抑制することが有益であり得る。
【0065】
障害は、例えば、機能喪失AR突然変異体(例えば、アンドロゲン不応症候群での)の結果として、減少したAR活性により部分的に引き起こされるかまたは悪化させられる場合がある。例えば、これらの障害でのAR活性は、健康な被験体でのAR活性と比較して、50%以上(すなわち、50%またはそれ以上)、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または100%以上減少していてもよい。この場合、その抑制を軽減することにより(例えば、本明細書中に記載されるAR2調節剤を用いてAR2発現を阻害することにより)、AR活性を増大させることが有益であり得る。
【0066】
本発明の方法および使用は、患者由来のサンプル中のARおよび障害関連AR突然変異体の発現および/または活性レベルを測定するステップを含むことができる。ARおよび障害関連AR突然変異体の発現および/または活性レベルを測定する方法は、当技術分野で公知であり、かつ本明細書中に記載される実施例中に例示される(例えば、図2aおよび2bを参照されたい)。例えば、AR発現のレベルは、AR転写を検出および測定することによりアッセイできる。ARトランス活性化活性は、ルシフェラーゼアッセイなどのレポーターアッセイにより測定することができ、該アッセイは、レポーター遺伝子の上流にアンドロゲン応答エレメント(ARE)の挿入を有するレポーターベクターを細胞にトランスフェクションし、続いて発現レベルまたはレポーター遺伝子を測定するステップを含む。サンプル由来のRNAは、当技術分野で公知のハイブリダイゼーションまたはPCR技術により単離および試験することができる。あるいは、AR2発現アッセイは、in situで、すなわち、生検または切除術から得られた患者組織の組織切片(固定および/または凍結)に対して直接的に行なうことができ、したがって核酸精製を必要としない。免疫アッセイもまた用いることができる。
【0067】
本発明の方法および使用は、AR関連障害を有する患者を特定するステップを含むことができる。AR関連障害を有する患者を特定するための方法は、当技術分野で公知である。例えば、AR遺伝子中の反復数(例えば、CAGポリグルタミンおよび/またはGGNポリグリシン反復)または突然変異の臨床的検査を実行することができる。短いCAG反復が(例えば、良性前立腺過形成において)ARトランス活性化の増加を引き起こす一方で、より長いCAGストレッチは(例えば、SBMAにおいて)低下した活性を生じることが示されている。さらに、AR転写活性を変化させる上でのそれらの作用は、例えば、前立腺癌での、癌リスクおよび診断年齢に累積的に寄与すると考えられている。
【0068】
患者は男性または女性であり得る。患者は典型的には男性である。
患者は、AR関連障害に罹患していてもよく、またはAR関連障害のリスクを有していてもよい。患者は、AR関連障害のリスクを有するか、またはAR関連障害を有すると特定されてもよい。患者は無症候であり得る。患者は、AR関連障害に罹患する素因を有し得る。本方法または使用は、患者がAR関連障害を発症するリスクを有するか、またはAR関連障害を有するか否かを特定するステップを含み得る。
【0069】
AR関連障害の例としては、SBMA、アンドロゲン不応症候群、骨および/または代謝状態、前立腺癌、アンドロゲン欠損症、性腺機能低下症、良性前立腺過形成(BPH)が挙げられる。AR関連障害は、当技術分野で公知であり、例えば、Davey and Grossmann(21)およびShukla et al(22)に総説されている。
【0070】
球脊髄性筋萎縮症
本発明は、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)の治療に関する。
【0071】
Kennedy病としても知られる球脊髄性筋萎縮症は、AR遺伝子中のCAG反復拡張により引き起こされるX染色体連鎖疾患であり、運動ニューロン変性および一次筋萎縮を特徴とする。変性する運動ニューロンは、主に、脊髄の前角および延髄領域中に位置する。多型CAG反復は通常、9~36反復からなり;40反復を超える拡張が神経毒性を引き起こす。SBMAは男性のみを侵し、その有病率は1/50:000である。
【0072】
SBMA患者では、神経筋症状が、一般的にはまず四肢、口、および喉の筋けいれんおよび筋力低下として現われ、運動ニューロンの喪失に起因する筋萎縮へと進行する。SBMAに対しては現在知られている治療法はなく、治療は対症的であり、通常は理学療法およびリハビリテーションを必要とする。SBMAを有する患者は多くの場合に、後年には車椅子生活を余儀なくされ、かつ食事などの通常の日課に補助を必要とする。ARサイレンシングは長年、興味をひく治療戦略として探究されてきたが、AR機能喪失に伴う直接的および間接的影響により阻まれている。
【0073】
本発明の方法および使用は、SBMAに関連付けられる1種以上の症状を軽減すること、例えば、筋肉量の喪失、運動機能の喪失、および体力の喪失を、予防すること、遅延させることまたは減少させることを含むことができる。本発明はまた、被験体のアンドロゲン不応性の徴候を覆すことに関してもよい。
【0074】
SBMAに関しては、本明細書中に記載されるARバリアントによりAR活性を抑制することが有益であり得る。したがって、本発明は、SBMAの治療のための方法での使用のための、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞および医薬組成物を提供する。本発明は、SBMAの治療のための方法での、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞および医薬組成物の使用をさらに提供する。本発明は、SBMAの治療のための方法のための医薬の製造での、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞および医薬組成物の使用をさらに提供する。本発明はまた、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞および医薬組成物を用いる、SBMAの治療のための方法も提供する。
【0075】
アンドロゲン不応症候群
本発明は、完全型アンドロゲン不応症(CAIS)または部分型アンドロゲン不応症(PAIS)などの、アンドロゲン不応症候群の治療に関する。
【0076】
機能喪失AR突然変異体を生じるAR遺伝子中のミスセンスおよびナンセンス突然変異は、男性の発生において広範囲の異常を引き起こす。そのような異常は、軽度の男性化不良から、完全な男性から女性への表現型性転換までの範囲であり;これらの突然変異は、完全型アンドロゲン不応症(CAIS)または部分型アンドロゲン不応症(PAIS)のいずれかをもたらす。
【0077】
AISに関しては、その抑制を軽減することによる、例えば、本明細書中に記載されるAR2調節剤またはAR2調節剤を含む医薬組成物を用いてAR2発現を阻害することによる、AR活性の増大が、有益であり得る。したがって、本発明は、AISの治療のための方法での使用のための、本明細書中に記載される通りの、AR2調節剤およびAR2調節剤を含む医薬組成物を提供する。本発明は、AISの治療のための方法での、本明細書中に記載される通りの、AR2調節剤およびAR2調節剤を含む医薬組成物の使用をさらに提供する。本発明は、AISの治療のための方法のための医薬の製造での、本明細書中に記載される通りの、AR2調節剤およびAR2調節剤を含む医薬組成物の使用をさらに提供する。本発明はまた、本明細書中に記載される通りの、AR2調節剤およびAR2調節剤を含む医薬組成物を用いる、AISの治療のための方法も提供する。
【0078】
骨/代謝状態
本発明は、骨または代謝状態の治療に関し、典型的には、これらの状態は、AR活性の減少により部分的に引き起こされるかまたは悪化させられ、例えば、機能喪失AR突然変異体により引き起こされる。
【0079】
本発明で有用な骨または代謝状態としては、骨粗鬆症(加齢に伴う骨粗鬆症など)、骨減少症、グルココルチコイド誘導型骨粗鬆症、歯周病、HIN萎縮症(HIN-wasting)、癌悪液質、骨折、骨再建手術後の骨損傷、筋ジストロフィー、サルコペニア、フレイル(例えば、骨量減少、筋肉量減少、および体力低下)、皮膚老化、男性性腺機能低下症、女性での更年期症状、女性の性機能障害、早発閉経、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化、高コレステロール血症、高脂血症、再生不良性貧血および他の造血障害、関節炎および関節修復が挙げられる。
【0080】
これらの骨または代謝状態に関して、AR活性の抑制を軽減することによる、例えば、本明細書中に記載される通りの、AR2調節剤またはAR2調節剤を含む医薬組成物を用いてAR2発現を阻害することによる、AR活性の増大が、有益であり得る。したがって、本発明は、骨または代謝状態の治療のための方法での使用のための、本明細書中に記載される通りの、AR2調節剤およびAR2調節剤を含む医薬組成物を提供する。本発明は、骨または代謝状態の治療のための方法での、本明細書中に記載される通りの、AR2調節剤およびAR2調節剤を含む医薬組成物の使用をさらに提供する。本発明は、骨または代謝状態の治療のための方法のための医薬の製造での、本明細書中に記載される通りの、AR2調節剤およびAR2調節剤を含む医薬組成物の使用をさらに提供する。本発明はまた、本明細書中に記載される通りの、AR2調節剤およびAR2調節剤を含む医薬組成物を用いる、骨または代謝状態の治療のための方法も提供する。
【0081】
前立腺癌
本発明は、前立腺癌の治療に関する。
【0082】
前立腺の発達および前立腺癌は、アンドロゲンシグナル伝達に決定的に依存する。実際、アンドロゲン枯渇療法は、進行型前立腺癌を有する患者に対して最も広く用いられる治療であり続けている。しかしながら、アンドロゲン枯渇は、最初は前立腺腫瘍退縮をもたらすが、腫瘍は最終的には再出現して、結果として生じるホルモン不応(アンドロゲン非依存性)状態は、例外なく致命的である。去勢耐性を獲得した後であっても、前立腺腫瘍はARシグナル伝達に依存する。
【0083】
腫瘍退縮を評価する方法は、当技術分野で公知である。例えば、前立腺特異的抗原(PSA)のレベルは、前立腺癌の進行に伴って上昇する。したがって、本発明は、患者での前立腺癌の退縮を評価するために、患者でのPSAレベルを測定するステップを含むことができる。
【0084】
本発明は、前立腺癌の治療のための方法での使用のための、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞、AR2調節剤および医薬組成物を提供する。本発明は、前立腺癌の治療のための方法での、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞、AR2調節剤および医薬組成物の使用をさらに提供する。本発明は、前立腺癌の治療のための方法のための医薬の製造での、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞、AR2調節剤および医薬組成物の使用をさらに提供する。本発明はまた、本明細書中に記載されるARバリアント、発現構築物、宿主細胞、AR2調節剤および医薬組成物を使用する前立腺癌の治療のための方法も提供する。
【0085】
医薬組成物および投与量
本発明はまた、本明細書中に記載されるARバリアント、ポリヌクレオチド、発現構築物、宿主細胞またはAR2調節剤を含む医薬組成物も提供する。本発明の医薬組成物は、当業者に周知である製薬上許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定化剤または他の物質を含むことができる。そのような材料は、典型的には非毒性であり、かつ有効成分の効力に干渉しない。担体または他の物質の正確な性質は、投与経路に応じて、当業者が決定することができる。
【0086】
医薬組成物は、典型的には液状である。液体医薬組成物は、一般的には、水、石油、動物油または植物油、鉱油または合成油などの液体担体を含む。生理食塩溶液、塩化マグネシウム、デキストロースもしくは他の糖溶液またはグリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール)を含めることができる。一部の場合には、プルロニック酸(pluronic acid)(PF68)0.001%などの界面活性剤を用いることができる。
【0087】
罹患部位での注入のために、有効成分は、パイロジェン不含でありかつ好適なpH、等張性および安定性を有する水性溶液の形態にあるであろう。当技術分野で関連する技能を有する者は、例えば、塩化ナトリウム注射、リンゲル注射、乳酸加リンゲル注射、ハルトマン液などの等張性ビヒクルを用いて、好適な溶液を十分に調製することができる。保存料、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤および/または他の添加剤を、必要な場合に含めることができる。
【0088】
遅延放出のために、ベクターを、当技術分野で公知の方法に従って、生体適合性ポリマーから形成される微小カプセル中またはリポソーム担体システム中など、緩徐放出のために製剤化される医薬組成物中に含めることができる。
【0089】
投与量および投与レジメンは、組成物の投与に関して責任がある医師の通常の技能の範囲内で決定することができる。例えば、治療目的のために、治療上有効量の本発明に従う発現構築物、宿主細胞、AR2調節剤または医薬組成物が、そのような被験体に投与されるであろう。治療上有効量は、障害の1種以上の症状を改善するために有効な量である。
【0090】
投与量は、種々のパラメーターに応じて、特に、治療対象の患者の年齢、体重および状態;投与経路;ならびに必要とされるレジメンに応じて、決定することができる。医師は、必要な投与経路およびいずれかの特定の患者に対する投与量を決定できるであろう。投与は単回投与として提供され得るが、繰り返されることができ、またはベクターが正しい領域および/または組織を標的化していない場合(外科的合併症など)。治療は、好ましくは単回の永続的治療であるが、例えば、将来数年間での、反復注入である。
【0091】
投与は、AR関連障害の症状が被験体に現われたら、例えば、疾患の既存の症状を治療するために、行うことができる。
【0092】
併用療法
本発明に従うARバリアント、ポリヌクレオチド、発現構築物、宿主細胞、AR2調節剤および/または医薬組成物は、組み合わせて、かつ/またはAR関連障害の治療のためのいずれかの他の療法と組み合わせて、用いることができる。
【0093】
その他
本明細書中で用いられる用語は、本発明の特定の実施形態を説明する目的のためだけのためのものであり、限定的であることが意図されないことが理解されるべきである。
【0094】
加えて、本明細書および添付の特許請求の範囲の中で用いる場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことを明確に指示しない限り、複数形の参照を含む。したがって、例えば、「発現構築物(単数形)」に対する言及は、「発現構築物(複数形)」を含み、すなわち、2つ以上の発現構築物を含む。
【0095】
用語「約」(about)または「約」(approximately)は、当業者により決定される通りの特定の値に関する許容可能な誤差範囲内を意味し、これはその値が測定または決定される方法、すなわち、測定系の限界に部分的には依存するであろう。例えば、「約」(about)は、当技術分野での実務によると、1または1超の標準偏差の範囲内を意味することができる。あるいは、「約」(about)は、所与の値の20%まで、好ましくは10%まで、より好ましくは5%まで、より好ましくは1%までさえもの範囲を意味し得る。あるいは、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、該用語は、1桁分の範囲内、好ましくは値の5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味し得る。特定の値が本出願および特許請求の範囲に記載される場合、そうでないことが明記されない限り、該特定の値に対する許容可能な誤差範囲内を意味する用語「約」(about)が想定されるはずである。
【0096】
本明細書中で用いる場合の「ARバリアント」は、本明細書中でAR1とも称されるヒトAR(ENSP00000363822)(配列番号6)とは異なり、かつARの生物学的活性のうちの少なくとも一部を保持する(例えば、二量体化が可能であり、アンドロゲンに結合することが可能であり、アンドロゲン応答エレメント(ARE)に結合することが可能であり、かつ/またはトランス活性化が可能である)、いずれかのポリペプチドを指す集合的な用語である。したがって、用語「ARバリアント」は、AR2および本明細書中に記載される通りのそのバリアントを包含する。
【0097】
さらに、本明細書中で「x以上」(≧x)に言及する場合、これは、xと等しいかまたはそれより大きいことを意味する。
【0098】
配列同一性は、いずれかの好適なアルゴリズムを用いて算出することができる。例えば、PILEUPおよびBLASTアルゴリズムは、例えば、Altschul(23;24)に記載される通り、同一性を算出するかまたは配列を並べるために(例えば同等または対応する配列を特定して)(典型的にはそれらのデフォルト設定で)用いることができる。BLAST解析を行なうためのソフトウェアは、米国国立生物工学情報センターを通して公衆に利用可能である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。このアルゴリズムは、クエリ配列中の長さWの短いワードであって、データベース配列中の同じ長さのワードとアライメントした場合にマッチするかまたはある正の値の閾値スコアTを満たすワードを特定することにより、高スコア配列ペア(HSP)を、最初に特定することを含む。Tは、隣接ワードスコア閾値と称される(Altschul et al、上掲)。これらの最初の隣接ワードヒットが、それらを含むHSPを見出すための検索を開始するためのシードとして機能する。累積アライメントスコアが増大し得る限り、それぞれの配列に沿って両方向にワードヒットが伸長される。それぞれの方向でのワードヒットについての伸長は、累積アライメントスコアがその最大到達値から量X減少するか;累積スコアが、1回以上の負のスコアの残基アライメントの累積に起因して、ゼロまたはそれ以下になるか;またはいずれかの配列の末端に到達したときに、停止される。BLASTアルゴリズムパラメーターW、TおよびXは、アライメントの感度およびスピードを決定する。BLASTプログラムは、デフォルトとして、11のワード長(W)、50のBLOSUM62スコアマトリックス(25)アライメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=4、および両方の鎖の比較を用いる。
【0099】
BLASTアルゴリズムは、2種類の配列間の類似性の統計学的解析を行なう(例えば、参考文献26を参照されたい)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1つの尺度は、最小合計確率(P(N))であり、これは、2種類のポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列間のマッチが偶然に起こるであろう確率の表示を与える。例えば、第1の配列の第2の配列に対する比較での最小合計確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合に、ある配列が別の配列に類似していると見なされる。あるいは、UWGCGパッケージは、同一性を算出するために用いることができるBESTFITプログラムを提供する(例えば、そのデフォルト設定で用いられる)(27)。
【0100】
本明細書中で言及されるすべての刊行物、特許および特許出願は、上記および下記にかかわらず、それらの全体が参照により本明細書中に組み入れられる。
【0101】
本発明を以下の実施例でさらに説明するが、これらの実施例は、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0102】
実施例1
材料および方法
マウス
雄性マウスのみが分析に用いられた。
【0103】
AR100Q26およびBAC AR121Q131トランスジェニック動物を用いた。
【0104】
マウスでAR2を発現させるために、二重プロモーターAAVベクタープラスミドを用いた(SignaGen Laboratories社(Rockville, MD)により提供された)。これらのプラスミドは、ヒト伸長因子-1α(EIF1α)プロモーターとそれに続くAR2 cDNAまたはモック配列およびヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターおよびそれに続くGFPをコードするcDNAからなる発現カセットを含む。1011個のベクターゲノム(vg)のウイルス量を、SBMA AR100Qマウスの尾静脈に注入した。
【0105】
ノックダウン実験のために、PBS(100μL)中に懸濁された20mg/kg siRNAを、BAC AR121Qマウスに皮下注入した。体重、ロータロッド、ならびにぶら下がりワイヤおよび強度計(Bioseb社)を用いた握力を、週1回記録した。
【0106】
細胞株および試薬
HEK293T細胞(ATCC)、MCF7細胞(ATCC)、不死化ヒト筋芽細胞(MRC CNMD Biobank London L954/1284M-I)を用いた。
【0107】
公開されたプロトコール(Grunseich C, 2014)に従って、誘導多能性幹細胞を培養し、運動ニューロン様細胞へと分化させた。
【0108】
ジヒドロテストステロンDHT(Sigma-Aldrich社)をそれぞれの細胞培養培地中に10nMの最終濃度まで添加することにより、AR誘導を行なった。未誘導対照のために、等体積のエタノールを添加した。
【0109】
対照由来およびSBMA患者由来の初代筋芽細胞からの細胞溶解物を分析した。
【0110】
ヒトサンプル
匿名化された脳組織を用いた:CGND_HRA_00063、CGND_HRA_00218、CGND_HRA_00224、CGND_HRA_00035、CGND_HRA_00236、CGND_HRA_00399、CGND_HRA_00400、CGND_HRA_00402、CGND_HRA_00411、CGND_HRA_00412、CGND_HRA_00654、CGND_HRA_00655、CGND_HRA_00657、CGND_HRA_00091。
【0111】
プラスミド構築
AR FL(12Q)、AR FL(55Q)およびAR2の異なる構築物を作製するために、AR FL(12Q)、AR FL(55Q)およびAR2 cDNAを増幅し、N末端FLAGエピトープタグを含むかまたは含まずに、サイトメガロウイルスプロモーターの下に哺乳動物発現ベクターへと別々にクローニングした。
【0112】
NanoBRET融合構築物を作製するために、PCRアンプリコンを、pFN21A HaloTag CMV Flexiベクター、pFC14K HaloTag CMV Flexiベクター、pFN31K Nluc CMV-neo FlexiベクターおよびpFC32K Nluc CMV-neo Flexiベクター(Promega社)へと、別々にクローニングした。ARのFxxLFモチーフ(F23,27A/L26A)もしくは(G21E)、Dボックス(A596T/S597T)、またはDNA結合性ドメイン(A574D)に突然変異を有する突然変異体構築物を、部位特異的突然変異誘発により作製した。
【0113】
ルシフェラーゼレポーターアッセイ
AR依存的転写活性に対するAR2の作用を決定するために、0.5μgのpARE-E1b-luc(luc2遺伝子の上流にアンドロゲン応答エレメント(ARE)の挿入を含むルシフェラーゼレポーターベクター)、0.5μgのpRL-TK(ウミシイタケルシフェラーゼ対照)(Promega社)、および0.5μg AR FLおよび/またはAR2ベクタープラスミドを用いて、HEK293T細胞を一過性トランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後に、細胞を洗浄し、DHTまたは陰性対照としての等体積のエタノールを用いて処理した。24時間後に細胞を回収し、ホタルおよびウミシイタケルシフェラーゼ基質(Dual-Luciferase Reporter Assay、Promega社)を添加し、製造業者のプロトコールに従って、マイクロプレート分光光度計を用いて、ルシフェラーゼ活性を測定した。ウミシイタケルシフェラーゼ活性を、内部標準化対照として用いた。
【0114】
NanoBRETアッセイ
AR FLタンパク質とAR2タンパク質との相互作用を調べるために、NanoBRETアッセイを行なった(Promega NanoBRETTM Protein: Protein Interaction System)。簡潔には、Lipofectamine 2000試薬を用いて、Nanolucルシフェラーゼ(Nluc)融合体プラスミドおよびHaloTag融合体プラスミドでHEK293T細胞を共トランスフェクションした。Nluc-MDM2およびp53-HaloTagのペアが陽性対照として含められ、Nluc-MDM2およびHaloTag-SMAD4のペアが陰性対照として含められた。トランスフェクションの24時間後、細胞を、10nM DHTを用いるかまたは用いずに処理した。HaloTag NanoBRET 618リガンドまたはDMSO(リガンドなし対照)を加えた。24時間目に、NanoBRET Nano-Glo基質を加え、460nmおよび618nmでのNanoBRET読み取り値を得た。ミリBRET単位での平均補正NanoBRET比を、以下の式を用いて算出した:平均補正NanoBRET比(ミリBRET)=[(618nmEM / 460nmEM)実験値-(618nmEM / 460nmEM)リガンドなし対照]×1000。
【0115】
クロマチン免疫沈降(ChIP)
FLAG-AR2プラスミドを用いて一過性トランスフェクションしたMCF7細胞に対して、AR2 ChIPを行なった。未トランスフェクションMCF7細胞を、陰性対照として含めた。トランスフェクションの24時間後に、10nM DHTを用いて細胞を処理した。48時間目に、細胞を、1%ホルムアルデヒドを用いて架橋し、回収して、溶解させた。実験は、300μgのクロマチンおよび14μgの抗FLAG抗体(Sigma Aldrich社、F1804)または抗ウサギIgG抗体(Cell Signaling Technology社、2729)を用いて、記載された通りに行なった(28)。
【0116】
PolII抗体(Santa Cruz Biotechnology社、sc-9001)を用いて、DHT処理ヒト筋芽細胞に対して、記載された通りにRNA PolII ChIPを行なった(29)。精製DNAサンプルを、半定量的リアルタイムPCRのために用いた。
【0117】
RNAおよびcDNA調製ならびにリアルタイム定量的PCR(RT-qPCR)
10mgの筋組織または脊髄組織をホモジナイズした。総RNAを単離した。1μgのRNAを、高容量cDNA逆転写キット(Applied Biosystems社)を用いるcDNA合成のために用いた。RT-qPCR反応を、fast SYBRグリーンマスターミックスまたはTaqMan遺伝子発現マスターミックス(Applied Biosystems社)を用いて、20~50ngのDNA鋳型を使用して準備した。
【0118】
ヒト筋芽細胞でのAR2過剰発現およびノックダウン
AR2過剰発現実験のために、1μgのFLAG-AR2または空ベクターを用いてヒト筋芽細胞を一過性トランスフェクションし、トランスフェクションの24時間後に、DHTを用いるかまたは用いずに処理した。
【0119】
AR2ノックダウン実験のために、1μM AR2標的化siRNA(SBMA-1)または非標的化siRNA対照(NTT)を用いて、48時間、ヒト筋芽細胞を処理した。トランスフェクションの24時間後に、細胞に10nM DHTを添加した。siRNAは、参考文献30に記載される通りに、標準的な保護基およびコレステロールコンジュゲートを有する修飾型(2'-F,2'-OMe)ホスホロアミダイトを用いて合成した。
【0120】
RNA配列決定ライブラリーの作製
ヒト組織に関して、RNA-seqライブラリーを、Illumina TruSeq Stranded Total RNAキットを用いて500ngの総RNAから調製した。配列決定は、Illumina HiSeq 4000プラットホームを用いて、サンプル当たり40M読み出しペアの標的深さに対してペアードエンド(paired-end)(2×150bp)で行なった。
【0121】
iPSC由来運動ニューロンに関して、RNA-Seq Stranded RiboZero Goldを用いて、500ngの総RNAからRNA-seqライブラリーを調製した。配列決定は、Illumina HiSeq 4000プラットホームを用いて、サンプル当たり100M読み出しペアの標的深さに対してペアードエンド(2×75bp)で行なった。
【0122】
AR2が過剰発現またはノックダウンされたヒト筋芽細胞に関して、1.5μgの総RNAおよびNEBNext(登録商標)UltraTM II Directional RNA Library Prep Kit for Illuminaを用いて、mRNAライブラリーを作製した。
ライブラリーを多重化し、Illumina HiSeq 4000プラットホームでQC化およびペアードエンド配列決定した。
【0123】
RNA-Seq分析パイプライン
脳およびiPSCデータセットに関して、サンプル毎のペアードエンド配列ファイル(.fastq)を、FastQCツール(https://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc/)を用いて品質検査し、続いてアダプタークリップし(TruSeq3-PE-2.fa:2:30:10)、5'ヌクレオチドバイアス(HEADCROP:12)および低品質コール(TRAILING:20 SLIDINGWINDOW:4:20 MINLEN:15)を除去するためにTrimmomaticツール(http://www.usadellab.org/cms/?page=trimmomatic)を用いてトリミングした。サンプル毎の読み出し値のうちの生き残った完全ペアを、ヒトゲノムの現在のインスタンスに対して参照マッピングした(GRCh38.82)。100万kb当たりの転写産物(Transcripts Per Kilobase Million;TPM)単位での既知の注釈付き遺伝子毎の発現(Homo_sapiens.GRCh38.82.chr.gtf)を2だけ持ち上げ(pedestalled)、続いてLog2変換した。少なくとも1種のサンプルに対して変換後に1超の発現値を有しなかった遺伝子は、未検出として破棄し、破棄されなかった遺伝子についてのサンプル間の発現を、quantile正規化した。正規化後のデータの品質を確保するために、Tukey箱ひげ図、共分散ベースのPCA散布図および相関ベースのヒートマップを用いて予備的検査を行なった。ノイズによって偏りのある発現値を除去するために、局所重み付け散布図平準化(LOWESS)を、サンプルクラスごとにすべての遺伝子に対する正規化発現にわたって適用した(変動係数~平均発現)。続いて、LOWESSフィッティングをプロットに重ね、平均発現(すなわち、「シグナル」)と変動係数(すなわち、「ノイズ」)との関係が直線性から著しく逸脱した、共通の低品質な発現値を特定するために検査した。続いて、発現値を、より小さい場合にはこの値と等しくするために嵩上げし、少なくとも1つのサンプルに関してこの値よりも大きいことが観察されなかった遺伝子についての発現は、ノイズによって偏りがあるとして破棄した。破棄されなかった遺伝子に関して、サンプルクラス間の発現の差分を、Benjamini-Hochberg(BH)偽発見率(False Discovery Rate;FDR)多重比較補正(Multiple Comparison Correction;MCC)条件下で、サンプルクラスを因子として用いて、一元配置分散分析(ANOVA)検定を用いて検定した。次に、この検定によりIII型補正済みP<0.05を有する遺伝子をサブセットにして、クラス間の考えられるペアワイズ比較それぞれについて平均差分およびp値を生成するために、TukeyHSD事後検定を用いた。特定の比較について事後P<0.05および同じ比較について平均の線形差分≧1.5Xを有する遺伝子を、それぞれ比較されたクラス間で有意に異なる発現を有すると見なした。検定後、サンプル間の関係を、少なくとも2つのクラス間で発現の有意差を有すると見なされた遺伝子の固有の集合を用いた共分散ベースのPCA散布図およびピアソン相関ベースのクラスター化ヒートマップにより調査した。
【0124】
ヒト筋芽細胞データセットに関して、配列読み出し値を、Trim Galore!(v 0.4.1、https://github.com/FelixKrueger/TrimGalore)を用いてアダプターおよび品質トリミングした。生の読み出し値およびトリミングされた読み出し値の両方に対する品質管理は、FastQC(v 0.11.7、https://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc/)およびMultiQC(v 0.9)を用いて行なった(31)。続いて、トリミングされた読み出し値を、Salmon(v 0.12)を用いてヒト参照トランスクリプトーム(Gencode v29、https://www.gencodegenes.org/human/release_29.html)に対してアライメントした(32)。得られた定量化ファイルを組み合わせて、tximportパッケージ(v 1.12.3)を用いてRへと読み出し(33)、示差的発現解析を、DESeq2(v 1.24)38を用いて行なった。経路解析を、fgseaパッケージ(v 1.10.0)を用いて、示差的に発現された遺伝子について行なった(34)。
【0125】
AR2過剰発現によりヒト筋芽細胞中で示差的に調節された711種類の遺伝子を、SBMAに関連する遺伝子のリストへと狭めるために、これらの遺伝子を、2種類の公衆に利用可能なマウスSBMA筋肉トランスクリプトームデータセットと重ね合わせた(29、30)。これらの2つのリストからの1.5倍を超える変化倍率を有する遺伝子のみを、解析に含めた。得られた57種類の遺伝子を、AAV9-AR2処理に対するAR100Qトランスジェニックマウスでの転写変化を評価するために用いた。
【0126】
シクロヘキシミド追跡アッセイ
1μgのFLAG-AR2プラスミドを用いて、MCF7細胞をトランスフェクションした。トランスフェクションの8時間後に、10nM DHTまたは等体積のエタノールを用いて細胞を処理した。12時間後、100μgのシクロヘキシミド(DMSO中)(Sigma-Aldrich社)を細胞に添加し(t=0)、タンパク質発現分析のために、0時間および24時間で細胞を回収した。シクロヘキシミド処理した未トランスフェクションのMCF7細胞を、比較のために含めた。
【0127】
免疫ブロッティング、ELISA
ウエスタンブロット分析のために、タンパク質をNuPAGE 10%Bis-Trisゲル(Invitrogen社)上で分離し、Invitrogen Novex XCell SureLockミニセルおよびXCell IIブロットモジュールを用いてPVDFメンブレンにトランスファーした。メンブレンを、1:1000希釈の一次抗体である抗AR抗体(Santa Cruz社、H-280またはAbcam社、ab52615)、抗チューブリン(Abcam社、ab6160)または抗ビンキュリン(Sigma-Aldrich社、hVIN-1)と共に一晩、および1:10000希釈の二次抗体である抗マウスHRPコンジュゲート化抗体(Invitrogen社、62-6520)または抗ウサギHRPコンジュゲート化抗体(Invitrogen社、31460)と共に1時間、インキュベートした。
【0128】
共IP実験のために、細胞を溶解させ、遠心分離した。上清を、抗FLAG-M2コンジュゲート化磁性ビーズ(Sigma-Aldrich社、M8823)、または対照としての未タグ付けビーズ(Chromotek社、bab-20)と共に、4℃で一晩インキュベートした。洗浄バッファー[Tris-HCl 0.1M、NaCl 0.3M、Triton X-100 1%(v/v)、pH7.5]を用いてビーズを3回洗浄し、続いて1×サンプルバッファーを用いて溶出し、SDS-PAGEゲル上で分離し、標準的プロトコールに従ってウエスタンブロッティングにより分析した。
【0129】
11週齢でのAR2処理AR100Qマウスおよびモック処理AR100Qマウスでの血清テストステロンレベルを、テストステロンパラメーターアッセイキット(R&D systems社、KGE010)を製造業者のプロトコールに従って用いて測定した。
【0130】
免疫蛍光法および免疫組織化学
免疫蛍光実験のために、脊髄および大腿四頭筋の断面を、0.1%Triton-X 100中で透過化し、4%BSAおよび2%NGSを含むPBS中でブロッキングした。切片を、1:100希釈の抗NCAM(Proteintech社、14255-1-AP)抗体、抗PSA-NCAM(EMD Millipore社、5324)抗体または抗ユビキチン(Abcam社、ab7780)抗体と共に4℃で一晩インキュベートし、続いて、適切なAlexa Fluorコンジュゲート化二次抗体(ThermoFisher Scientific社、1:1000)と共に1時間インキュベートした(20~25℃)。封入体の数を測定するために、組織切片を、Mouse on Mouse Basicキット(Vector Laboratories社、BMK-2202)を用いて、1C2抗体(EMD Millipore社、5TF1-1C2、1:5000)で染色した。
【0131】
定量化のために、CaseViewerソフトウェアを用いて少なくとも4枚の連続する切片から画像を取得し、Fiji software40を用いて、処理に対して盲目の研究者により分析した。
【0132】
AR2 siRNAスクリーニング
AR2転写産物に特異的なすべての考えられる領域を標的とする11種類のsiRNAおよび1種類の非標的化対照siRNA(NTT)のパネルを設計し、記載された通りに合成した(35)。これらのsiRNAが、表1に提供される。これらのsiRNAのそれぞれのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、それぞれ配列番号9~30の配列に対応する。1μMのsiRNA-AR2またはsiRNA-NTTを、MCF7細胞に添加した。細胞から総RNAを抽出した。cDNAを調製し、AR1に対して特異的なFAM標識TaqManアレイHs04272731_s1、AR2に対して特異的なHs04275959_m1および標準化のためのGAPDHに対するHs99999905_m1を用いて、上記の節に記載された通りにRT-qPCRを行なった。
【0133】
【表1】
【0134】
統計解析
SBMAマウスの生存率、疾患発症までの時間、および落下までの潜時(latency to fall)を、カプラン・マイヤー推定により決定し、ログランク検定を用いて比較した。処理を被験体間因子として用い、時間を被験体内因子として用いて、動物の体重に対する処理の効果を比較するために、一元配置分散分析を行なった。すべての他のデータは、両側t検定解析により、または記載されている場合には片側t検定解析により解析した。
【0135】
ヒト脳でのARバリアントの発現
ヒト脳でのARバリアント発現の生理学的レベルを測定した。ヒト内側および外側運動皮質、頚髄および腰髄、ならびにiPS由来運動ニューロンからのRNAを用いた高配列決定深度(読み出し値当たり1億超)でのRNA-seqを利用して、本発明者らは、ARスプライシングバリアント2(ENST00000396043;AR2)が、最も高度に発現されるARバリアントであり、カノニカルなスプライシングバリアント1(ENST00000374690;AR1)と比較してもそうであったことを見出した(図1a)。SBMA患者由来の運動ニューロンでは、対照と比較して差異は観察されなかった。興味深いことに、AR2は、前立腺および筋肉などのアンドロゲン応答性の組織中で特に豊富であることが見出され、このことは、AR調節での役割を示唆する(図1b)。
【0136】
本発明者らは、対照およびSBMA被験体の両方に由来するヒト筋芽細胞において、その発現レベルがAR1と比較して高いことを確認した(図1c)。AR2は天然に存在するバリアントであり、元々は、ヒト胎盤組織からのcDNA末端の迅速増幅(RACE)を介して特定された(17)。AR2 mRNAは、エクソン1の22.1kb下流に位置するオルタナティブエクソン1(エクソン1b)を含めることにより生じることが見出された(図1d)。DNaseI過敏性およびChIP-seqトラック、ならびにクロマチン免疫沈降アッセイによるエクソン1b上のPolII占有率の定量化により示される通り、このクロマチン遺伝子座は、機能的にアクセス可能であり、かつ活発に転写される(図1e)。エクソン1bおよび隣接領域の複数の配列分析が、アカゲザルとの100%近い相同性およびマウスおよびラットでの低い保存性を示唆する(マウスおよびラットでは、開始コドンの下流の終止コドンが、これらの生物種にはAR2スプライシングバリアントが存在しないことを暗示する(18))。本発明者らは、野生型動物でAR2の発現がないことを確認した。カノニカルなNTDに代わって固有のN末端配列を含むコードされるタンパク質は、45kDaの分子量を有し、それゆえ、AR2はAR45としても知られる(17)(図1f)。
【0137】
AR生物学に対するAR2の役割
続いて、本発明者らは、AR生物学に対するAR2の役割を評価した。AR2は、DHTに応答した全長AR転写活性の用量依存的抑制を引き起こし、この作用は、導入遺伝子中にDBD不活性化置換A574Dを導入することにより無効化された(図2a図2b)。これらの知見全体が、ARトランス活性化に対するAR2作用が選択的であり、かつDNAに対する結合性を必要とすることを示唆する(図2a)。注記すべきことに、AR2単独では、転写を活性化できなかった(図2a)。転写の活性化はAR二量体化を必要とし、二量体化は、FxxLFモチーフを介するN/C末端相互作用、および二量体化ボックス(Dボックス)を介するDBD/DBD相互作用により主に媒介される(19)。
【0138】
DBDおよびLBDは保存されているので、本発明者らは、ARがAR2とヘテロ二量体を形成することもできるという仮説を立てた。本発明者らは、複合体形成のリアルタイム検出を可能にする生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)アッセイを用いることにより、この仮説を試験した(20)。N末端およびC末端融合構築物のすべての組み合わせをARヌル細胞にトランスフェクションし、最も高いBRETシグナルを示す組み合わせのうちの1種類を、さらなる分析のために選択した。BRET飽和曲線は、特異的タンパク質間相互作用を示した。FxxLFモチーフ(F23, 27A/L26A;F-mut)またはこのモチーフのN末端(G21E)中の突然変異は、AR/AR2二量体化を示したが、Dボックスモチーフにおける突然変異(A596T/S597T;D-mut)はAR/AR2二量体化を示さなかった(図2c)。興味深いことに、本発明者らはまた、AR2がホモ二量体を形成することも見出した。AR/AR2相互作用は、共免疫沈降アッセイによりさらに実証された。
【0139】
ARタンパク質レベルは、シクロヘキシミド追跡実験においてAR2の存在によって影響を受けず、このことは、AR2が、ARタンパク質定常状態を変化させないことを示唆した。
【0140】
AR2機能
AR2機能をより良く説明するために、本発明者らは次に、AR2が過剰発現(OE)またはノックダウン(KD)されたヒト筋芽細胞での遺伝子発現を分析した。まず、本発明者らは、エクソン1b配列にわたる小分子干渉RNA(siRNA)の11種類の組み合わせを設計した。それらの薬物動態特性を改善するために、これらのsiRNAは化学修飾および脂質コンジュゲート化した(21)。これらのsiRNAは、内因性AR2の選択的サイレンシングをもたらした(45~90%の範囲)(図2d)。AR2過剰発現および最も性能の高いsiRNAを用いたノックダウンを、qRT-PCRにより確認した。発現データに対する主成分分析(PCA)は、処理に応じたサンプルのクラスタリングを示した。示差的発現分析(DEseq;P<0.05、変化倍率>1.5)を用いて、本発明者らは、AR2過剰発現(63%)およびノックダウン(59%)の両方に際して、若干高い数のアップレギュレーションされた転写産物を観察した。AR2により調節された遺伝子に関連する生物学的プロセスを特定するための遺伝子セット富化分析は、AR2 OEサンプルでのAR応答に伴う遺伝子のダウンレギュレーションを示したが、反対の傾向がAR2 KDに対して観察された。示差的に発現された遺伝子のリストの中で、OEデータセットおよびKDデータセットでそれぞれ31%および32%が、プロモーター領域中にARE配列を含むことが見出された(図2e)。また、AR2 OE筋芽細胞中の数種類のAR標的遺伝子(例えば、MYBPH(クラスター1)、C3(クラスター2)、MYL4、CASQ2、IGF2(クラスター3))が、ゲノムARノックアウトマウス(22)の筋肉と比較して、同じ調節異常パターンを示した(図2f)。注記すべきことに、内因性AR2のノックダウンは、シャペロン支援選択的自食作用複合体のメンバーであるHSPA8のダウンレギュレーション、およびプロテオソームサブユニットの主要調節因子であるNFE2L1のアップレギュレーションをもたらし、このことは、興味深いことに、AR2がアンドロゲン誘導型細胞ストレスシグナル(23、24)を阻止することに寄与し得ることを示唆した(図2g)。
【0141】
ARおよびAR2が同じゲノム遺伝子座を共通して占拠するか否かを調べるために、本発明者らは、公知のAR標的遺伝子(GREB1、ZNF485、およびEHF)(25)に対してChIP実験を行なった。本発明者らは、正のシグナル富化を検出し(図2h)、このことは、ARE遺伝子座でのスプライシングバリアント同士の機能的相互作用を示す。本発明者らは、AR2の過剰発現が、それらの標的のトランス活性化の低下をもたらすことを確認した。まとめると、これらの結果は、AR2がARとのヘテロ二量体を形成し、かつAR応答性遺伝子の転写を抑制することを実証する(図2i)。
【0142】
AR2過剰発現はSBMAマウスでの疾患表現型を改善する
AR活性の転写抑制因子としてのその役割を考慮して、本発明者らは、AR2の過剰発現が、SBMAマウスでの疾患表現型を改善できるという仮説を立てた。雄性トランスジェニックマウスに、5週齢で、AR2 cDNA、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAV9、または生理食塩液を末梢注入した(図3a)。このモデルは、ポリQ AR導入遺伝子(AR100Q)を発現し、かつ疾患関連表現型を示す(26)。これらのマウスは、約7週齢から、非トランスジェニック同腹子と比較して、生存率、体重、およびロータロッド活性の迅速なアンドロゲン依存性低下を示す(26)。上記処理は、注入から6週間後の高いAR2発現により示される通り、この疾患の病理の主要部位である筋肉(27、28)で特に、広範囲の形質導入を生じた。
【0143】
AR2過剰発現は、生存期間を有意に延長し(図3b)、疾患発症を遅延させ(図3c)、体重減少(図3d)およびロータロッド活性(図3e)を改善した。さらに、本発明者らは、骨格筋の病理的外観の劇的改善(図3f)と、脱神経/再神経支配活性のマーカーであるNCAM/PSA-NCAM染色の共局在の低下(図3g)とを観察し、これは神経筋表現型の改善と合致した。AR2処理マウスは、正常なレベルの血清テストステロンを有した。
【0144】
予測された通り、ARタンパク質レベル、ならびに脊髄および骨格筋の両方でのユビキチン陽性(図3h)およびポリQ陽性(図3i)封入体の数に変化は観察されず、このことは、治療有効性をポリQ媒介タンパク質毒性(proteotoxicity)とは独立に達成できるモデルを支持する。
【0145】
スプライシングバリアント過剰発現の分子活性を確認するために、本発明者らは、SBMAマウスでの公知の脱調節された転写産物の中から、脊髄中の2種類の遺伝子(MEGF10、NQO1)および筋肉中の5種類の遺伝子(CACNG1、CHRNA1、MYBPC2、MYBPH、TNNT3、UNC45B)(これらはヒト筋芽細胞でのOEデータセットでアップレギュレーションされた)を選択し、in vivoでのAR2処理後の統計学的に有意な発現の増大を確認した(図3j)。
【0146】
siRNA AR2処理が運動機能を悪化させる
本発明者らは、AR遺伝子全体を保持し(27)、したがってこのスプライシングバリアントを内因的に発現する雄性トランスジェニックマウスのコホートを、脂質コンジュゲート化されたAR2標的化siRNAを用いて処理した。
【0147】
表2は、本研究のためのセンスおよびアンチセンスAR2標的化配列およびモック配列を示す。AR2標的化siRNAのセンス鎖(S)の配列はまた、配列番号31に提供される。AR2標的化siRNAのアンチセンス鎖(AS)の配列はまた、配列番号32に提供される。モックsiRNAのセンス鎖(S)の配列はまた、配列番号32に提供される。モックsiRNAのアンチセンス鎖(AS)の配列はまた、配列番号34に提供される。ホスホコリンドコサン酸(PC-DCA)コンジュゲートを、siRNAセンス鎖の3'末端に共有結合させた。
【0148】
【表2】
【0149】
20mg/kgでの反復皮下注入は、最後の注入から6週間後でもまだ、筋肉中のAR2レベルの持続的低下をもたらし(図4a)、神経筋表現型の悪化を決定し(図4b~4d)、AR2過剰発現がSBMAで有益であることをさらに確認した。
【0150】
まとめると、本発明者らは、全長ARとヘテロ二量体化し、かつその特異的ゲノム標的に結合することにより、ARスプライシングバリアント2が、転写因子デコイとして作用し、AR活性を調節することを実証する。さらに、本発明者らは、SBMAおよび高い転写能力を伴う他のAR関連障害の治療のための新規な枠組みとして、このバリアントの治療的調節を確立する。
【0151】
実施例2
ARスプライシングバリアント2(AR2;AR45としても知られる)の治療的能力をさらに評価するために、実施例1でのSBMAマウス(n=8)のAAV9-AR2処理を含む実験を拡張して、完全スケールでの前臨床試験のものと同等のコホート数である、治療群当たり15匹へとマウスの数を増加させた。
【0152】
SBMAマウスに、AR2 cDNAまたは緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするAAV9または生理食塩液を、実施例1に記載される通りに注入した。これらのマウスの生存率、体重、握力(grip strength)およびロータロッド活性を、実施例1に記載される通りに観察した。
【0153】
結果は、SBMAマウスのAAV9-AR2(図中ではAAV9-AR45と称される)処理が、生存期間を有意に延長し(図5a)、疾患発症を遅延させ(図5b)、体重減少(図5c)、握力(図5d)およびロータロッド活性(図5e)を改善したことを示す。
【0154】
これらの結果は、実施例1での観察と合致しており、AR2処理がSBMAおよび他のAR関連障害の疾患表現型を改善できることを実証する。
【0155】
参考文献
【0156】
配列情報
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図3J
図3K
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
【配列表】
2022550954000001.app
【国際調査報告】