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特表2022-551032核酸のサイズ選択的濃縮のための方法、組成物及びキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-07
(54)【発明の名称】核酸のサイズ選択的濃縮のための方法、組成物及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
C12N15/10 Z
C12N15/10 100Z
C12N15/10 110Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022512441
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(85)【翻訳文提出日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 CN2020111449
(87)【国際公開番号】W WO2021037075
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】62/892,041
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.Igepal
3.Nonidet
(71)【出願人】
【識別番号】520157602
【氏名又は名称】フェーズ サイエンティフィック インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Phase Scientific International Ltd.
【住所又は居所原語表記】32 & 33/F, Gravity, 29 Hung Yip Street, Kwun Tong, Kowloon, Hong Kong (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チウ, イン トゥ
(72)【発明者】
【氏名】マルシャーク, ダニエル, ロバート
(72)【発明者】
【氏名】キットゥール, ハルシャ, マダン
(72)【発明者】
【氏名】コバヤシ, マサエ
(57)【要約】
生物学的液体混合物から、(例えば、1000塩基対未満ずつの増分における)選択された標的サイズの核酸を単離及び濃縮するための方法であって、生物学的液体混合物と、第1相溶液に溶解されている、第1相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第2相溶液から形成された第1水性二相系(ATPS)とを組み合わせることであって、それにより、所望の標的サイズを下回る標的核酸断片は、前記第2相溶液に分配され、及び夾雑物は、第1相溶液に分配される、組み合わせることと、第2相溶液を抽出し、且つ第3相溶液に溶解されている、第2相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第4相溶液から形成された第2ATPSと混合することであって、それにより、標的核酸断片は、第3相溶液に分配され、且つその中で濃縮される、抽出及び混合することと、濃縮標的核酸断片を第3相溶液から回収することとを含む方法が提供される。上記のような選択された標的サイズの核酸を単離及び濃縮するための組成物及びキットも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸及び夾雑物を含む液体混合物から標的サイズの核酸を単離及び濃縮するための方法であって、
前記液体混合物と、第1相溶液に溶解されている、第1相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第2相溶液から形成された第1水性二相系(ATPS)とを組み合わせることであって、それにより、標的サイズを下回る標的核酸断片は、前記第2相溶液に分配され、及び夾雑物は、前記第1相溶液に分配される、組み合わせることと;
前記第2相溶液を抽出し、且つ第3相溶液に溶解されている、第2相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第4相溶液から形成された第2ATPSと混合することであって、それにより、前記標的核酸断片は、前記第3相溶液に分配され、且つその中で濃縮される、抽出及び混合することと;
前記濃縮標的核酸断片を前記第3相溶液から回収することと
を含む方法。
【請求項2】
前記第1ポリマー又は界面活性剤成分は、前記第2ポリマー又は界面活性剤成分よりも高い分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1相溶液中の前記第1ポリマー又は界面活性剤成分のモル濃度は、前記第3相溶液中の前記第2ポリマー又は界面活性剤成分、前記第4相溶液中の前記第2ポリマー又は界面活性剤成分及び前記第2ATPS中の前記第2ポリマー又は界面活性剤成分の少なくとも1つのモル濃度よりも高い、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1相溶液中の前記第1ポリマー又は界面活性剤成分の質量濃度は、前記第3相溶液中の前記第2ポリマー又は界面活性剤成分、前記第4相溶液中の前記第2ポリマー又は界面活性剤成分及び前記第2ATPS中の前記第2ポリマー又は界面活性剤成分の少なくとも1つの質量濃度よりも高い、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2相溶液は、リン酸二カリウム、リン酸一カリウム、コスモトロピック塩、カオトロピック塩、直鎖又は分岐トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム及びテトラブチルアンモニウムなどのカチオン、リン酸、硫酸、硝酸、塩化物及び重炭酸塩などのアニオンを含有する無機塩、NaCl、Na3PO4、K3PO4、Na2SO4、クエン酸カリウム、(NH4)2SO4、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、マグネシウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、フッ化物塩、炭酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、リン酸カリウム、硫酸アンモニウム並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの相形成溶解塩、界面活性剤又はポリマー成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第4相溶液は、リン酸二カリウム、リン酸一カリウム、コスモトロピック塩、カオトロピック塩、直鎖又は分岐トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム及びテトラブチルアンモニウムなどのカチオン、リン酸、硫酸、硝酸、塩化物及び重炭酸塩などのアニオンを含有する無機塩、NaCl、Na3PO4、K3PO4、Na2SO4、クエン酸カリウム、(NH4)2SO4、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、マグネシウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、フッ化物塩、炭酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、リン酸カリウム、硫酸アンモニウム並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの相形成溶解塩、界面活性剤又はポリマー成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1ATPSの前記第2相溶液は、前記標的核酸断片に対して、前記第2ATPSの前記第4相溶液よりも弱い排除体積相互作用を及ぼす、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1ATPSの前記第1相溶液は、前記標的核酸断片に対して、前記第2ATPSの前記第3相溶液よりも強い排除体積相互作用を及ぼす、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1ATPSの前記第2相溶液は、前記標的核酸断片の前記第2相への分配に対して、前記第2ATPSの前記第4相溶液よりも有利な親水性/疎水性相互作用を及ぼす、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1ATPSの前記第1相溶液は、前記標的核酸断片の前記第1相溶液への分配に対して、前記第2ATPSの前記第3相溶液よりも有利ではない親水性/疎水性相互作用を及ぼす、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1ATPSの前記第2相溶液は、前記標的核酸断片の前記第2相への分配に対して、前記第2ATPSの前記第4相溶液よりも有利な静電相互作用を及ぼす、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1ATPSの前記第1相溶液は、前記標的核酸断片の前記第1相溶液への分配に対して、前記第2ATPSの前記第4相溶液よりも有利ではない静電相互作用を及ぼす、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記濃縮標的核酸断片を回収することは、
前記第3相溶液を前記第4相溶液から分離することと;
前記第3相溶液を、水溶液に溶解されている、ポリマー、界面活性剤、塩及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのサイズ分画成分と混合して、濃縮標的核酸で構成される上清及び前記標的サイズを上回る核酸の沈殿ペレットを形成することと;
前記上清を、前記標的サイズを上回る核酸の前記沈殿ペレットから分離し、且つ前記標的核酸断片を前記上清から沈殿させることと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのサイズ分画成分は、前記第1ポリマー又は界面活性剤成分よりも高い分子量を有するポリマー又は界面活性剤成分を含み、及び前記第1ポリマー又は界面活性剤成分は、前記第2ポリマー又は界面活性剤成分よりも高い分子量を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記上清中の前記少なくとも1つのサイズ分画成分のモル濃度は、前記第1相溶液中の前記第1ポリマー又は界面活性剤成分のモル濃度未満であり、及び前記第1相溶液中の前記第1ポリマー又は界面活性剤成分は、前記第3相溶液中の前記第2ポリマー又は界面活性剤成分のモル濃度よりも高いモル濃度を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記上清中の前記少なくとも1つのサイズ分画成分の質量濃度は、前記第1相溶液中の前記第1ポリマー又は界面活性剤成分の質量濃度未満であり、及び前記第1相溶液中の前記第1ポリマー又は界面活性剤成分は、前記第3相溶液中の前記第2ポリマー又は界面活性剤成分の質量濃度よりも高い質量濃度を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのサイズ分画成分は、塩、ポリマー、界面活性剤又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記第1、第2及び第3ポリマー又は界面活性剤成分は、200~10000の分子量を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記液体混合物は、血液、血漿、細胞、エキソソーム、タンパク質、無細胞DNA、RNA及び循環腫瘍DNAの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記核酸標的サイズは、10,000bp未満の100bp範囲内であるように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記核酸標的サイズは、1000bp未満の50bp範囲内であるように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記第1相及び第2相を形成するポリマー又は界面活性剤成分は、塩、ポリマー、界面活性剤又はそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
核酸及び夾雑物を含む液体混合物から標的サイズの核酸を単離及び濃縮するための組成物であって、
第1相溶液に溶解されている、第1相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第2相溶液から第1水性二相系(ATPS)を形成することであって、それにより、前記液体混合物と混合されるとき、標的サイズを下回る標的核酸断片は、前記第2相溶液に分配され、及び夾雑物は、前記第1相溶液に分配される、形成することのための成分と;
第3相溶液に溶解されている、第2相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第4相溶液から第2ATPSを形成することであって、それにより、前記第2相溶液と混合されるとき、前記標的核酸断片は、前記第3相溶液に分配され、且つその中で濃縮される、形成することのための成分と;
前記第3相溶液から標的核酸断片を濃縮するための材料と
を含む組成物。
【請求項24】
核酸及び夾雑物を含む液体混合物から標的サイズの核酸を単離及び濃縮するためのキットであって、
第1相溶液に溶解されている、第1相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第2相溶液から第1水性二相系(ATPS)を形成することであって、それにより、前記液体混合物と混合されるとき、標的サイズを下回る標的核酸断片は、前記第2相溶液に分配され、及び夾雑物は、前記第1相溶液に分配される、形成することのための成分であって、容器内に保持される成分と;
第3相溶液に溶解されている、第2相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第4相溶液から第2ATPSを形成することであって、それにより、前記第2相溶液と混合されるとき、前記標的核酸断片は、前記第3相溶液に分配され、且つその中で濃縮される、形成することのための成分であって、容器内に保持される成分と;
前記第3相溶液から標的核酸断片を濃縮するための材料であって、容器内に保持される材料と
を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的水相系における核酸断片の単離、濃度及び/又は精製に関する。特に、本発明は、生物学的材料からの核酸断片の単離、濃縮及び/又は精製のためのサンプル調製方法、組成物及びキット成分を提供する。
【背景技術】
【0002】
血液、組織、尿及び法医学サンプル並びに細菌及び哺乳動物細胞培地などの複雑なマトリックスからの核酸(DNA及びRNAなど)の単離及び精製方法は、遺伝子研究、核酸プローブ診断、法医学DNA検査及び核酸の増幅、プロセシング又は分析を必要とする他の領域において重要である。精製された核酸は、検出、配列決定、臨床診断などを含む様々な下流適用において使用可能であるように、高品質であり且つ十分な量に達しなければならない。精製された核酸を入手することは、尿、血液、血漿、血清、唾液及び他の生物学的液体を含む、核酸が同定される複合環境内に存在する大量の汚染性細胞物質(例えば、タンパク質及び炭水化物)の存在のため、複雑な作業である。生物学的サンプルからの核酸の抽出及び精製のための現在の方法は、通常、時間を費やし、面倒であり、コストがかかり、有害な有機溶媒の使用を含み、特定のサイズ、例えば1000bpを上回る核酸のみを捕捉ことに適することが多い。
【0003】
生物学的液体、例えば尿及び血液中に非常に低い濃度で存在する標的分析物の場合、その後の分子技術による検出のために十分な量の標的分析物を得るため、大量の生物学的液体を入手することが求められる。極めて低い濃度を有する分析物の存在を検出することは、大きい課題となっている。分析物は、患者の唾液、血液、尿及び他の体液などのサンプル中に存在する無細胞DNA(cfDNA)、循環腫瘍DNA(ctDNA)又はタンパク質などの疾患のバイオマーカーであり得る。既存の診断又は検出方法の多くは、分析物濃度が低すぎる場合、分析物が存在しないと誤って報告することがある。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などの診断のゴールドスタンダードは、標的分析物がアッセイの検出範囲外の極めて低い量を有する場合、偽陰性結果を生成することがある。
【0004】
バイオマーカーが少量で存在する場合、正確な検出は、核酸をバックグラウンドから濃縮し得る単離方法に依存する。単離方法に応じて、この負荷は、核酸断片サイズの変動及び試験阻害剤による影響により複雑化され得る。核酸の精製のために種々の方法が用いられている。これらは、沈殿、限外濾過(Hirasaki et al.,J.Membr.Sci.,106:123-129(1995))に加えて、アニオン交換カラムを用いる吸着を含む。市販の方法を含む他の試験方法は、より低いDNA抽出収量を有し、200bp長未満の小さいDNA断片を抽出できないことが報告されている(Fong et al,Clinical Chemistry 55(3),587-589,2009)。Ribeiro et al.(Biotechnol.Bioeng.May 20,2002;78(4):376-84)は、ポリマー成分としてPEG、また塩成分としてリン酸水素二カリウム(K2HPO4)を用いる水性二相系(ATPS)について記載している。大腸菌(E.Coli)DH5aからのプラスミドpCF1-CFTRの単離が報告されている。この場合、細胞が最初にアルカリ溶解(NaOH及びSDSを含有する溶解緩衝液)を通して破壊され、次にライセートが3M酢酸ナトリウムで中和された。その後、細胞片、タンパク質及びゲノムDNA(gDNA)がバッチの遠心分離により除去された。上記の水性二相系において、清澄化されたライセートが利用された。しかし、このプロセスは、装置及び時間の観点で非常に高価であるという欠点を有する。上記の論文は、それら全体が参照により本明細書で援用される。市販のベンチトップ固相キット、例えばQiagen(登録商標)及びInvitrogen(登録商標)により提供されたものは、核酸の比較的迅速な抽出及び精製を可能にするが、ベンチトップ実験機器を必要とし、それは、抽出及び精製が主に基本的な装置及び電源を有する実験室に限られることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、小さい標的断片サイズの核酸のより高い濃度及びより高い分子数を、下流適用にとっての正確なより高いシグナル対ノイズ、ポイントオブケア検査など、様々な産業、臨床及び研究用途に適合する安価な様式で達成するための簡素化された方法及び装置が非常に望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
既存の技術の前述の制約を克服するために、複雑な設備の必要性を伴わずに連続的な水性二相系(ATPS)を利用する、安価であり、迅速であり、完全に液体のプロセスにおける分析物のサイズ選択的な濃縮、単離及び分析のための新規の方法、組成物及びキットが開示される。方法及び組成物は、細胞溶解、標的化されない生体分子の除去及び/又は標的化される分析物の濃縮を含む以下の複数の作業を達成することができる。いくつかの実施形態では、分析物は、選択されたサイズ未満の核酸断片、例えば1000未満の塩基対(例えば、10,000bp、1000bp、900bp、800bp、700bp、600bp、500bp、450bp、400bp、350bp、300bp、250bp、200bp、150bp、100bp又は50bp未満)を含む核酸である。いくつかの実施形態では、分析物は、一本鎖核酸であるが、他の実施形態では、分析物は、二本鎖核酸である。標的サイズのカットオフは、成分を形成及び分画するATPS相の適切な選択及び特定の順序並びに遠心分離、混合及びインキュベーション工程を介して選択され得る。いくつかの実施形態では、核酸断片は、分析に最も有利な範囲において、1000bp未満の50bp標的サイズカットオフ精度及びより好ましくは25bpの精度で単離及び濃縮され得る。
【0007】
本発明は、生物学的サンプルに由来する核酸を精製し、続いてそうでない場合に疾患検出、増幅及び遺伝子型判定などの下流適用に支障をきたすであろう、核酸に由来するATPSの成分を除去するための改善された方法を提供する。例示的な生物学的サンプルは、血液、血漿、唾液、尿、細胞、エキソソーム、タンパク質、cfDNA、RNA及び循環腫瘍細胞を含み得る。本発明者らは、開示された安定で反復可能なプロセスが、核酸の損失をほとんど又は全く伴わずに核酸精製を達成すること(すなわち非常に高い回収率)及び固有のATPSの一相を抽出し、それを、第1ATPSの相形成成分と異なる化学特性を有する相形成成分と混合することにより、標的核酸が、第2ATPSにおいて、第1ATPSで分配された相と反対の相に分配される第2ATPSが形成され得ることを予想外にも発見した。
【0008】
いくつかの実施形態において提供されるこれは、方法であり、核酸及び夾雑物を含む液体の生物学的混合物から所望の標的サイズの核酸を単離及び濃縮することについて開示される。生物学的混合物は、第1相溶液に溶解されている、第1相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第2相溶液から形成された第1ATPSと組み合わされ得、それにより、標的サイズを下回る標的核酸断片は、前記第2相溶液に分配されることによって単離される一方、夾雑物は、第1相溶液に分配される。次に、第2相溶液は、抽出され、且つ第3相溶液に溶解されている、第2相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第4相溶液から形成された第2ATPSと混合され得、それにより、標的核酸断片は、第3相溶液に分配されることによって濃縮される。次に、濃縮標的核酸断片は、任意の数の方法で第3相溶液から回収され得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、第1相及び第2相を形成するポリマー又は界面活性剤成分は、1つ以上のポリマー、1つ以上の界面活性剤及びそれらの組み合わせを含み得る。利用され得る可能なポリマーとしては、疎水的に修飾されたポリアルキレングリコールなどのポリアルキレングリコール(PEG)、ポリ(オキシアルキレン)ポリマー、疎水的に修飾されたポリ(オキシアルキレン)コポリマーなどのポリ(オキシアルキレン)コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルメチルエーテル、アルコキシ化界面活性剤、アルコキシ化デンプン、アルコキシ化セルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース、シリコン修飾されたポリエーテル並びにポリN-イソプロピルアクリルアミド及びそのコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態では、第1相を形成するポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はデキストランを含む。利用され得る可能な界面活性剤としては、Triton-X、Triton-114、Igepal CA-630及びNonidet P-40、カルボン酸塩、スルホン酸塩、石油スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、硫酸塩、硫酸化天然油及び脂肪などのアニオン性界面活性剤、硫酸化エステル、硫酸化アルカノールアミド、アルキルフェノール、エトキシ化脂肪族アルコールなどのエトキシ化及び硫酸化非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン界面活性剤、カルボン酸エステル、ポリエチレングリコールエステル、無水ソルビトールエステル、脂肪酸のグリコールエステル、カルボン酸アミド、モノアルカノールアミン縮合物、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、四級アンモニウム塩、アミド結合を有するアミン、ポリオキシエチレンアルキル及び脂環アミンなどのカチオン性界面活性剤、n,n,n’,n’テトラキス置換エチレンジアミン、2-アルキル1-ヒドロキシエチル2-イミダゾリン並びにn-ココ3-アミノプロピオン酸/ナトリウム塩、n-タロー3-イミノジプロピオン酸塩、二ナトリウム塩、n-カルボキシメチルnジメチルn-9オクタデセニル水酸化アンモニウム、n-ココアミドエチルnヒドロキシエチルグリシン及びナトリウム塩などの両性界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0010】
いくつかの実施形態では、第1ポリマー又は界面活性剤成分は、第2ポリマー又は界面活性剤成分よりも高い分子量を有する。
【0011】
いくつかの実施形態では、NA単離ATPSの第1相溶液中の第1ポリマー又は界面活性剤成分のモル濃度は、第3相溶液中の第2ポリマー又は界面活性剤成分、第4相溶液中の第2ポリマー又は界面活性剤成分及びNA濃縮ATPS中の第2ポリマー又は界面活性剤成分の少なくとも1つのモル濃度よりも高い。
【0012】
いくつかの実施形態では、NA単離ATPSの第1相溶液中の第1ポリマー又は界面活性剤成分の質量濃度は、第3相溶液中の第2ポリマー又は界面活性剤成分、第4相溶液中の第2ポリマー又は界面活性剤成分及びNA濃縮ATPS中の第2ポリマー又は界面活性剤成分の少なくとも1つの質量濃度よりも高い。一実施形態では、第1相溶液中の第1ポリマー又は界面活性剤成分濃度は、水溶液の総重量の約0.01重量%~約90重量%(w/w)の範囲である。様々な実施形態では、第1相溶液は、約0.01%w/w、約0.05%w/w、約0.1%w/w、約0.15%w/w、約0.2%w/w、約0.25%w/w、約0.3%w/w、約0.35%w/w、約0.4%w/w、約0.45%w/w、約0.5%w/w、約0.55%w/w、約0.6%w/w、約0.65%w/w、約0.7%w/w、約0.75%w/w、約0.8%w/w、約0.85%w/w、約0.9%w/w、約0.95%w/w又は約1%w/wであるポリマー又は界面活性剤溶液から選択される。いくつかの実施形態では、第1相溶液は、約1%w/w、約2%w/w、約3%w/w、約4%w/w、約5%w/w、約6%w/w、約7%w/w、約8%w/w、約9%w/w、約10%w/w、約11%w/w、約12%w/w、約13%w/w、約14%w/w、約15%w/w、約16%w/w、約17%w/w、約18%w/w、約19%w/w、約20%w/w、約21%w/w、約22%w/w、約23%w/w、約24%w/w、約25%w/w、約26%w/w、約27%w/w、約28%w/w、約29%w/w、約30%w/w、約31%w/w、約32%w/w、約33%w/w、約34%w/w、約35%w/w、約36%w/w、約37%w/w、約38%w/w、約39%w/w、約40%w/w、約41%w/w、約42%w/w、約43%w/w、約44%w/w、約45%w/w、約46%w/w、約47%w/w、約48%w/w、約49%w/w及び約50%w/wであるポリマー又は界面活性剤溶液から選択される。
【0013】
いくつかの実施形態では、単離ATPS中の第2相溶液は、少なくとも1つの相を形成する上記の通りの溶解された界面活性剤又はポリマー成分並びに/又はリン酸二カリウム、リン酸一カリウム及びそれらの組み合わせなどの溶解された塩を含む。いくつかの実施形態では、塩としては、コスモトロピック塩、カオトロピック塩、直鎖又は分岐トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム及びテトラブチルアンモニウムなどのカチオン並びにリン酸、硫酸、硝酸、塩化物及び重炭酸塩などのアニオンを含有する無機塩が挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態では、塩は、NaCl、Na3PO4、K3PO4、Na2SO4、クエン酸カリウム、(NH42SO4、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びそれらの組み合わせを含み得る。他の塩、例えば酢酸アンモニウムも使用され得る。別の実施形態では、塩は、マグネシウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、亜鉛塩及びアルミニウム塩から選択され得る。いくつかの実施形態では、塩は、臭化物塩、ヨウ化物塩、フッ化物塩、炭酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩及びリン酸塩から選択され得る。いくつかの実施形態では、塩は、リン酸カリウムを含む。いくつかの実施形態では、塩は、硫酸アンモニウムを含む。一実施形態では、全体的な塩濃度は、約0.01%~約90%の範囲である。当業者は、ATPSを形成するのに必要となる塩の量がポリマー又は界面活性剤の分子量、濃度及び物理的状態によって影響されることを理解するであろう。様々な実施形態では、塩溶液は、約0.001%w/w~90%w/wである。様々な実施形態では、塩溶液は、約0.01%w/w、約0.05%w/w、約0.1%w/w、約0.15%w/w、約0.2%w/w、約0.25%w/w、約0.3%w/w、約0.35%w/w、約0.4%w/w、約0.45%w/w、約0.5%w/w、約0.55%w/w、約0.6%w/w、約0.65%w/w、約0.7%w/w、約0.75%w/w、約0.8%w/w、約0.85%w/w、約0.9%w/w、約0.95%w/w又は約1%w/wである。いくつかの実施形態では、塩溶液は、約1%w/w、約2%w/w、約3%w/w、約4%w/w、約5%w/w、約6%w/w、約7%w/w、約8%w/w、約9%w/w、約10%w/w、約11%w/w、約12%w/w、約13%w/w、約14%w/w、約15%w/w、約16%w/w、約17%w/w、約18%w/w、約19%w/w、約20%w/w、約21%w/w、約22%w/w、約23%w/w、約24%w/w、約25%w/w、約26%w/w、約27%w/w、約28%w/w、約29%w/w、約30%w/w、約31%w/w、約32%w/w、約33%w/w、約34%w/w、約35%w/w、約36%w/w、約37%w/w、約38%w/w、約39%w/w、約40%w/w、約41%w/w、約42%w/w、約43%w/w、約44%w/w、約45%w/w、約46%w/w、約47%w/w、約48%w/w、約49%w/w及び約50%w/wである。一実施形態では、塩の濃度は、約2%w/w~40%w/wである。一実施形態では、塩の濃度は、約3%w/w~30%w/wである。一実施形態では、塩の濃度は、約5%w/w~20%w/wである。
【0014】
いくつかの実施形態では、濃縮ATPS中の第4相溶液は、上記の通りの少なくとも1つの相形成溶解塩、界面活性剤又はポリマー成分及びそれらの組み合わせを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、単離ATPSの第2相溶液は、標的核酸断片に対して、濃縮ATPSの第4相溶液よりも弱い排除体積相互作用を及ぼす。いくつかの実施形態では、単離ATPSの第1相溶液は、標的核酸断片に対して、濃縮ATPSの第3相溶液よりも強い排除体積相互作用を及ぼす。
【0016】
いくつかの実施形態では、単離ATPSの第2相溶液は、標的核酸断片の前記第2相への分配に対して、濃縮ATPSの第4相溶液よりも有利な親水性及び疎水性相互作用を及ぼす。より具体的には、DNAの分子が第3相溶液から第4相溶液に移動するときよりも、標的DNAの分子が第1相溶液から第2相溶液に移動するときに自由エネルギーの有利な変化がある。いくつかの実施形態では、単離ATPSの第1相溶液は、標的核酸断片の前記第1相溶液への分配に対して、濃縮ATPSの第3相溶液よりも有利ではない親水性及び疎水性相互作用を及ぼす。
【0017】
いくつかの実施形態では、単離ATPSの第2相溶液は、標的核酸断片の前記第2相への分配に対して、濃縮ATPSの第4相溶液よりも有利な静電相互作用を及ぼす。より具体的には、DNAの分子が第3相溶液から第4相溶液に移動するときよりも、標的DNAの分子が第1相溶液から第2相溶液に移動するときに自由エネルギーの有利な変化がある。いくつかの実施形態では、単離ATPSの第1相溶液は、標的核酸断片の前記第1相溶液への分配に対して、濃縮ATPSの第4相溶液よりも有利ではない静電相互作用を及ぼす。
【0018】
1つの特定の実施形態では、第2ATPS中の濃縮標的核酸断片の回収は、第3相溶液を第4相溶液から分離することと、第3相溶液を、ポリマー、界面活性剤、塩及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのサイズ分画成分と混合して、濃縮標的核酸で構成される上清及び標的カットオフサイズを上回る核酸の沈殿ペレットを形成することとを含み得る。次に、上清は、標的カットオフサイズを上回る核酸の沈殿ペレットから分離され得、及び選択されたカットオフサイズ未満の標的核酸断片は、上清から沈殿され得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、サイズ分画成分は、単離ATPSの第1ポリマー又は界面活性剤成分よりも高い分子量を有するポリマー又は界面活性剤成分を含み得、第1ポリマー又は界面活性剤成分は、濃縮ATPSの第2ポリマー又は界面活性剤成分よりも高い分子量を有する。
【0020】
いくつかの実施形態では、上清中の少なくとも1つのサイズ分画成分のモル濃度は、第1相溶液中の第1ポリマー又は界面活性剤成分のモル濃度未満であり得、及び第1相溶液中の第1ポリマー又は界面活性剤成分は、第3相溶液中の第2ポリマー又は界面活性剤成分のモル濃度よりも高いモル濃度を有する。
【0021】
いくつかの実施形態では、上清中の少なくとも1つのサイズ分画成分の質量濃度は、第1相溶液中の第1ポリマー又は界面活性剤成分の質量濃度未満であり、及び第1相溶液中の第1ポリマー又は界面活性剤成分は、第3相溶液中の第2ポリマー又は界面活性剤成分の質量濃度よりも高い質量濃度を有する。
【0022】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのサイズ分画成分は、上記のものなどの1つ以上の塩、ポリマー及び/若しくは界面活性剤又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0023】
別の主要な実施形態では、核酸及び夾雑物を含む液体の(例えば、生物学的)混合物から、選択された小さい標的サイズの核酸を単離及び濃縮するための組成物が開示される。組成物は、第1相溶液に溶解されている、第1相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第2相溶液からNA単離ATPSを形成することであって、それにより、液体混合物と混合されるとき、標的サイズを下回る標的核酸断片は、前記第2相溶液に分配され、及び夾雑物は、第1相溶液に分配される、形成することのための成分と、第3相溶液に溶解されている、第2相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第4相溶液からNA濃縮ATPSを形成することであって、それにより、第2相溶液と混合されるとき、標的核酸断片は、第3相溶液に分配され、且つその中で濃縮される、形成することのための成分とを含み得る。組成物は、第3相溶液から標的核酸断片を濃縮するための材料も含み得る。
【0024】
さらに別の実施形態では、核酸及び夾雑物を含む液体混合物から標的サイズの核酸を単離及び濃縮するためのキットが開示される。キットは、組成物実施形態において記載される組成物成分を含み得るが、保管、充填及び/又は反応のためのシリンジ又はピペットを利用できる容器並びに任意選択により水溶液を操作するための備品をさらに含み得る。そのような容器及び備品は、カラム、試験管、毛細管チューブ、プラスチック試験管、ファルコンチューブ、培養チューブ、ウェルプレート、ピペット及び/又はキュベットを含み得る。
【0025】
これら及び他の特色及び特徴並びに操作の方法及び関連する成分の機能及び製造の経済性は、添付の図に照らして以下の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲を考慮してより明確になり、これらのすべては、本明細書の一部を形成し、同様の参照番号は、様々な図における対応する部分を指定する。しかしながら、図面は、単に図示及び説明のためのものであり、特許請求の範囲の限定を定義するものではないことが明確に理解されるべきである。本明細書及び特許請求の範囲で使用する場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈において他に明確な断りがない限り、複数の指示対象を含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】液体の(例えば、生物学的)混合物からの小さい断片サイズの核酸を単離及び濃縮するためのワークフローの実施形態を図示する。
図2】本発明の一実施形態によって分配された核酸のゲル電気泳動画像を示す。
図3A】本発明に従う単離及び濃縮ステップの実施形態において回収された核酸の百分率を示す。
図3B】本発明に従う単離及び濃縮ステップの実施形態において回収された核酸の百分率を示す。
図4】本発明のいくつかの実施形態に従う核酸サイズ分画によるペレット及び上清のゲル電気泳動画像を示す。
図5】本発明のいくつかの実施形態に従う選択された断片サイズによる核酸分画によるペレット及び上清のゲル電気泳動画像を示す。
図6A】本発明の実施形態とQiagenキットとの間でのDNA回収率比較を示す。
図6B
図7】本発明の実施形態例に従う上相及び下相のゲル電気泳動画像を示す。
図8】本発明の実施形態例に従う3つのサンプルのDNA回収及びタンパク質回収率を示す。
図9】本発明の実施形態例に従う、除去された液体、最終抽出物及びTに富む相のゲル電気泳動画像を示す。
図10】本発明のいくつかの実施形態に従うペレット及び上清のゲル電気泳動画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
別段の指定がない限り、技術用語及び科学用語を含む、本明細書で使用される用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有し、本発明の趣旨を不明瞭にし得る、よく知られる機能及び構成の詳細な説明は、省略される。
【0028】
「水性」は、本明細書で使用する場合、溶媒和させる物質が主に親水性の性質を有する溶媒/溶質系の特徴的な特性を指す。水性の溶媒/溶質系の例は、水又は水を含有する組成物が主な溶媒であるものを含む。使用が実施形態において記載されるポリマー及び/又は界面活性剤成分は、水などの溶媒と組み合わされるとき、それらが水相を形成するという意味で「水性」である。さらに、当業者によって理解される通り、本明細書に関連して、液体「混合物」という用語は、単に本明細書で定義される成分の組み合わせを指す。
【0029】
本明細書で使用する場合、水性二相系(ATPS)は、分配することによって分析物の単離又は濃縮を達成することができる液体-液体分離系を意味し、2つの相、区画、領域又は成分などは、それらが暴露され且つ任意選択により溶解される少なくとも1つの分析物と別々に相互作用する。ATPSは、特定の濃度を有する塩及びポリマー又は2つの非相溶性ポリマー(例えば、PEG及びデキストラン)などの2つの不混和性の相形成成分が水溶液中で混合されるときに形成される。ATPS法は、それらが夾雑物から分析物(例えば、核酸)を分離する二相分配を利用するため、比較的安価であり且つスケーラブルである。
【0030】
用語「単離される」は、本明細書で使用する場合、その元の環境から除去された核酸を指し、したがってその元の環境から変えられている。単離された核酸は、一般に、元のサンプル中に存在する成分の量より少ない非核酸成分(例えば、タンパク質、脂質)とともに提供される。単離されたサンプル核酸を含む組成物は、実質的に単離され得る(例えば、非核酸成分を、約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%を超えて不含である)。
【0031】
本明細書で使用する場合、「濃縮される」は、目的の分析物と、分析物が懸濁される溶液との質量比がその前濃縮溶液中の前記分析物の質量比よりも高いことを意味する。例えば、それは、わずかに高いか又はより好ましくは少なくとも2倍、10倍若しくは100倍高い場合がある。
【0032】
本明細書で使用する場合、「ポリマー」は、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、ランダムコポリマー及びブロックコポリマーを含むが、これらに限定されない。ブロックコポリマーは、ブロック、グラフト、デンドリマー及びスターポリマーを含むが、これらに限定されない。本明細書で使用する場合、コポリマーは、2つのモノマー種に由来するポリマーを指し;同様に、ターポリマーは、3つのモノマー種に由来するポリマーを指す。ポリマーは、直鎖ポリマー、分岐ポリマー、ランダムポリマー、架橋ポリマー及びデンドリマー系を含むが、これらに限定されない様々な形態も含む。例として、ポリアクリルアミドポリマーは、ポリアクリルアミドを含む任意のポリマー、例えばポリアクリルアミドのホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー又はターポリマーを指す。ポリアクリルアミドは、ポリアクリルアミドの直鎖ポリマー、分岐ポリマー、ランダムポリマー、架橋ポリマー又はデンドリマーであり得る。
【0033】
サンプルの調製
図1に関して、例となる方法の実施形態は、好適な容器14において生物学的サンプル及び溶解緩衝液を混合することによって液体混合物12を調製し、生物学的サンプル中の細胞、エキソソーム、タンパク質及び/又は他の材料から核酸16を放出する適切な温度(例えば、15℃~40℃の範囲)で十分な時間(例えば、好ましくは1分~60分の範囲内)インキュベートする任意選択の第1工程10を含み得る。好ましくは、溶解緩衝液は、4~11、好ましくは7~10及び最も好ましくは8~9の範囲のpHを有し得る。溶解緩衝液における物質の濃度は、溶解される生物学的材料の量及び前記生物学的材料の供給様式に依存する。原理上、当業者に知られるいずれかの分離方法は、生物学的サンプルから核酸を放出するのに好適であり得る。検討され得る溶解方法は、特に、熱の作用による溶解、機械力の作用による溶解、例えばプロテインキナーゼKなどの酵素による溶解又は細胞を界面活性剤若しくはカオトロピック化合物を含有する溶解緩衝液に接触させることによる溶解又は低張性溶液による溶解である。適宜、前述の手段は、例えば、界面活性剤又はカオトロピック化合物を含有する溶解緩衝液中で細胞を機械的に破壊するか、又は例えばカオトロピック化合物とともにプロテインキナーゼKを含有する溶解緩衝液を利用することによっても組み合わされ得る。
【0034】
分析物の単離
単離成分17は、夾雑物20から標的核酸断片26を分離するために、単離工程18において混合物12に加えられ、遠心分離を伴って又は伴わずに水性二相系ATPS 19を形成し得る。単離成分17は、第1相溶液22に溶解されている、第1相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第2相溶液24を含み得、それにより、選択される標的カットオフサイズ未満の標的核酸断片26が第2相溶液24(例えば、塩に富む下相)に分配される一方、タンパク質及び他の夾雑物20は、第1相溶液22(例えば、ポリマーに富む上相)に分配される。
【0035】
ポリマー-塩系、ポリマー-ポリマー系、ポリマー-界面活性剤系及びミセル又は逆ミセル系を含むいくつかの種類のATPS 19が利用され得る。相分離分配は、単離成分17の適切な選択及び特定の順序、pH、分子量、相対濃度並びに遠心分離、混合及びインキュベーション工程などの要因によって影響され得る。
【0036】
単離成分17は、第1相溶液22及び第2相溶液24を形成することを促進するポリマー又は界面活性剤成分を含み得る。好適なポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、デキストラン、疎水的に修飾されたポリアルキレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリ(オキシアルキレン)ポリマー、疎水的に修飾されたポリ(オキシアルキレン)コポリマーなどのポリ(オキシアルキレン)コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルメチルエーテル、アルコキシ化界面活性剤、アルコキシ化デンプン、アルコキシ化セルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース、シリコン修飾されたポリエーテル並びにポリN-イソプロピルアクリルアミド及びそのコポリマーを含み得る。好適な界面活性剤としては、Triton-X、Triton-114、Igepal CA-630及びNonidet P-40、カルボン酸塩、スルホン酸塩、石油スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、硫酸塩、硫酸化天然油及び脂肪などのアニオン性界面活性剤、硫酸化エステル、硫酸化アルカノールアミド、アルキルフェノール、エトキシ化脂肪族アルコールなどのエトキシ化及び硫酸化非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン界面活性剤、カルボン酸エステル、ポリエチレングリコールエステル、無水ソルビトールエステル、脂肪酸のグリコールエステル、カルボン酸アミド、モノアルカノールアミン縮合物、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、四級アンモニウム塩、アミド結合を有するアミン、ポリオキシエチレンアルキル及び脂環アミンなどのカチオン性界面活性剤、n,n,n’,n’テトラキス置換エチレンジアミン、2-アルキル1-ヒドロキシエチル2-イミダゾリン並びにn-ココ3-アミノプロピオン酸/ナトリウム塩、n-タロー3-イミノジプロピオン酸塩、二ナトリウム塩、n-カルボキシメチルnジメチルn-9オクタデセニル水酸化アンモニウム、n-ココアミドエチルnヒドロキシエチルグリシン及びナトリウム塩などの両性界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
ATPS 19のポリマー-塩の実施形態では、第2相溶液24は、溶解された塩を含む単離成分を含み得る。好適な塩としては、コスモトロピック塩、カオトロピック塩、直鎖又は分岐トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム及びテトラブチルアンモニウムなどのカチオン、リン酸、硫酸、硝酸、塩化物及び重炭酸塩などのアニオンを含有する無機塩、NaCl、Na3PO4、K3PO4、Na2SO4、クエン酸カリウム、(NH4)2SO4、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、マグネシウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、フッ化物塩、炭酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、リン酸カリウム、硫酸アンモニウム並びにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
いくつかの実施形態では、第1相溶液24は、200~10000Da(例えば、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900、4000、4100、4200、4300、4400、4500、4600、4700、4800、4900、5000、5100、5200、5300、5400、5500、5600、5700、5800、5900、6000、7000、8000、9000、10000、20000、30000、50000又は100000Da)の平均分子量を有するポリマーを含む単離成分17を含有して形成される。
【0039】
分析物の濃縮
核酸断片26を含有する作業溶液のプロセス体積を減少させることが望ましい。ATPSにおいて、これは、上相の体積を減少させることによって達成され得る。濃縮工程30のいくつかの実施形態では、標的核酸断片26を含有する第2相溶液24は、第2ATPS 34を形成するために、容器14から抽出され、遠心分離を伴って又は伴わずに第2容器32において濃縮成分31と混合され得る。他の実施形態では、核酸が少ない第1相溶液22が抽出され得、容器14は、濃縮工程30を実施する際に使用され得る。濃縮成分31は、第3相溶液36(例えば、上相)に溶解されている、第2相を形成するポリマー又は界面活性剤成分及び第4相溶液38(例えば、下相)を含み得、それにより、標的核酸断片26は、第3相溶液36(例えば、ポリマーに富む上相)に分配され、且つその中で濃縮される一方、塩及び他の夾雑物は、第4相溶液38(例えば、塩に富む下相)に分配される。
【0040】
いくつかの実施形態では、核酸断片26は、容器14から抽出される前濃縮水性下相体積と比較して1/10の水溶液体積に濃縮され得る。いくつかの実施形態では、分析物核酸は、ATPS 34の形成前のその濃度に対して少なくとも10倍(例えば、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950又は1000倍以上)濃縮される。いくつかの実施形態では、力(例えば、重力又は遠心分離)をATPS 34にかけることによるものなど、二相を分離することを促進する工程が利用され得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、第3相溶液36及び第4相溶液38は、異なる体積を有し、核酸断片26は、より小さい体積を有する相に優先的に分配される。いくつかの実施形態では、第4相溶液38は、ATPS 34の第3相溶液36の4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50又は100倍以上の体積を有する。
【0042】
いくつかの実施形態では、第1相溶液22中の第1ポリマー又は界面活性剤成分17のモル濃度は、第3相溶液36中の第2ポリマー又は界面活性剤成分、第4相溶液38中の第2ポリマー又は界面活性剤成分及び第2ATPS 34中の第2ポリマー又は界面活性剤成分31の少なくとも1つのモル濃度よりも高い場合がある。
【0043】
いくつかの実施形態では、第1相溶液22中の第1ポリマー又は界面活性剤成分17の質量濃度は、第3相溶液36、第4相溶液38又は全体的な第2ATPS 34中の第2ポリマー又は界面活性剤成分31の少なくとも1つの質量濃度よりも高い。
【0044】
いくつかの実施形態では、第4相溶液38を含む第2ポリマー又は界面活性剤成分31は、上記のものなどの1つ以上の相形成溶解塩、界面活性剤又はポリマー成分及びそれらの組み合わせを含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、第2相溶液24は、標的核酸断片26に対して、第4相溶液38よりも弱い排除体積相互作用を及ぼし、且つより有利な静電相互作用を及ぼす。
【0046】
いくつかの実施形態では、第1相溶液22は、標的核酸断片26に対して、第3相溶液36よりも強い排除体積相互作用を及ぼし、且つ第4相溶液38よりも有利ではない静電相互作用を及ぼす。
【0047】
いくつかの実施形態では、第2相溶液22は、標的核酸断片26の前記第2相22への分配に対して、第4相溶液38によって及ぼされるものよりも有利な親水性/疎水性相互作用を及ぼす。いくつかの実施形態では、第1相溶液22は、標的核酸断片26の前記第1相溶液22への分配に対して、第3相溶液36によって及ぼされるものよりも有利ではない親水性/疎水性相互作用を及ぼす。混合の直後及び平衡に到達する直前の各相における標的核酸26の化学ポテンシャルの関連性は、μ1 DNA/μ2 DNA>μ3 DNA/μ4 DNAである。
【0048】
分析物の回収
回収工程40において、濃縮標的核酸断片26は、第3相溶液36から回収され得る。図1は、断片26を回収するための1つの任意選択の方法(工程40a~40c)を図示し、第3相溶液36は、望ましくない核酸(すなわち標的断片サイズより大きい)を沈殿させるために、工程40aにおいて遠心分離を伴って又は伴わずにサイズ分画成分42と組み合わされ得る。標的断片26を含む上清44は、工程40bにおいて、容器48の底で形成されるペレット50として溶液から標的核酸断片26を単離及び脱塩するために、遠心分離を伴って又は伴わずに沈殿成分46に移され且つ組み合わされ得る。工程40cにおいて、上清44は、除去され得、標的核酸断片26で構成されるペレット50は、再懸濁され得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、サイズ分画成分42は、1つ以上の塩、ポリマー及び/又は界面活性剤並びにそれらの組み合わせを含み得る。好適なポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、デキストラン、疎水的に修飾されたポリアルキレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリ(オキシアルキレン)ポリマー、疎水的に修飾されたポリ(オキシアルキレン)コポリマーなどのポリ(オキシアルキレン)コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルメチルエーテル、アルコキシ化界面活性剤、アルコキシ化デンプン、アルコキシ化セルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース、シリコン修飾されたポリエーテル並びにポリN-イソプロピルアクリルアミド及びそのコポリマーを含み得るが、これらに限定されない。
【0050】
好適な界面活性剤は、Triton-X、Triton-114、Igepal CA-630及びNonidet P-40、カルボン酸塩、スルホン酸塩、石油スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、硫酸塩、硫酸化天然油及び脂肪などのアニオン性界面活性剤、硫酸化エステル、硫酸化アルカノールアミド、アルキルフェノール、エトキシ化脂肪族アルコールなどのエトキシ化及び硫酸化非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン界面活性剤、カルボン酸エステル、ポリエチレングリコールエステル、無水ソルビトールエステル、脂肪酸のグリコールエステル、カルボン酸アミド、モノアルカノールアミン縮合物、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、四級アンモニウム塩、アミド結合を有するアミン、ポリオキシエチレンアルキル及び脂環アミンなどのカチオン性界面活性剤、n,n,n’,n’テトラキス置換エチレンジアミン、2-アルキル1-ヒドロキシエチル2-イミダゾリン並びにn-ココ3-アミノプロピオン酸/ナトリウム塩、n-タロー3-イミノジプロピオン酸塩、二ナトリウム塩、n-カルボキシメチルnジメチルn-9オクタデセニル水酸化アンモニウム、n-ココアミドエチルnヒドロキシエチルグリシンなどの両性界面活性剤を含み得るが、これらに限定されない。
【0051】
好適な塩は、コスモトロピック塩、カオトロピック塩、直鎖又は分岐トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム及びテトラブチルアンモニウムなどのカチオン並びにリン酸、硫酸、硝酸、塩化物及び重炭酸塩などのアニオンを含有する無機塩、NaCl、Na3PO4、K3PO4、Na2SO4、クエン酸カリウム、(NH42SO4、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、マグネシウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、フッ化物塩、炭酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、リン酸カリウム、硫酸アンモニウム並びにそれらの組み合わせを含み得るが、これらに限定されない。
【0052】
いくつかの実施形態では、上清中のサイズ分画成分42のモル濃度は、第1相溶液22中の第1ポリマー又は界面活性剤成分17のモル濃度未満であり、さらに第3相溶液36中の第2ポリマー又は界面活性剤成分31のモル濃度よりも高いモル濃度を有する。
【0053】
いくつかの実施形態では、上清44中の少なくとも1つのサイズ分画成分42の質量濃度は、第1相溶液22中の第1ポリマー又は界面活性剤成分17の質量濃度未満であり、さらに第3相溶液36中の第2ポリマー又は界面活性剤成分31の質量濃度よりも高い質量濃度を有する。
【0054】
好適な沈殿成分46は、イソプロパノール、ポリカチオン性ポリマー塩、圧縮剤及び/又はグリコールなど、当技術分野で知られるものを含み得る。
【実施例
【0055】
本発明は、以下の実施例を参照して、より詳細に説明されることになる。当業者は、提示される実施例があくまで例示を目的とし、以下に続く特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定することが意図されないことを容易に理解するであろう。本願中の以下及び他の箇所に示されるすべての参考文献は、本明細書で参照により包含される。
【0056】
実施例1 - 核酸の単離
実験セットを実施し、上記のような単離するポリマー-塩ATPSの上相と下相との間を分割することにより、夾雑物からの核酸精製に対する、様々な濃度の異なるサイズのポリマーの組み合わせを使用する効果を観察した。生物学的サンプルを溶解させるとき、タンパク質、RNA、ゲノムDNA、細胞及び細胞片が放出される。溶解されたサンプルの遠心分離により、これらの夾雑物の一部が除去され得るが、多くは、維持され得る。単離ステップ実験の一部を意図して、10%(w/v)BSA溶液1mL及びThermoFisher Scientific又はNew England BioLabsから入手した異なるタイプのDNAラダーの調製物を、室温(15~30℃)でpHが7~11で変化する、相形成を単離する成分を有する遠心管内で混合し、様々な持続時間及び速度において遠心分離した。
【0057】
(30wt%水溶液中で)400~1200の分子量を有する、Sigma Aldrichから入手したグリコールポリマーを、水中の40uL~80uLの範囲内において、30wt%水溶液中で調製した67μLの相形成塩と相対的比率で組み合わせ、単離ATPS(isolating ATPS)を形成した。
【0058】
ATPSからの上相及び下相をアガロースゲル上で定性的に分析した(図2)。アガロースゲルは、miniPCR製のblueGel電気泳動システムユニットで実行した。1%(w/v)アガロース(Fisher BioReagents)ゲルを有する0.01%(v/v)GelGreen核酸染色(Biotium)を48Vで40分間実行した。次に、ゲルを分析し、紫外光下で撮影した。アガロースゲル電気泳動から、大規模DNA断片は、塩に富む下相まで高度に分配された状態になることを認めることができる。ゲル画像及び表は、異なるサイズのポリマーの単離成分の百分率を変更することが、ポリマーに富む上相に核酸を分配する一方、より大きい望ましくないDNA断片が塩に富む下相に分配されることに対して有する効果を図示する。
【0059】
ポリマー、400~35000の範囲の分子量を有するポリプロピレングリコール、200~35000の範囲の分子量を有するポリエチレングリコール、8000~240000の範囲の分子量を有するナトリウムポリ(アクリレート)、6000~65000の範囲の分子量を有するデキストラン、塩(相形成及び非相形成)、0.1M~5M塩化ナトリウム溶液、硫酸ナトリウム溶液、硫酸アンモニウム溶液、30~65wt%二塩基性リン酸カリウム、20~50wt%一塩基性リン酸カリウム及び界面活性剤、Triton X-100、Triton X-114及び条件(例えば、pH、温度)といった多くの組み合わせで調製し、ボルテックス混合、それに続く様々な回転時間及び速度での遠心分離により、収量、安定性、分配性、その後の方法ステップ及び下流PCRとの互換性について最適化する場合における、熱力学的に安定な単離ATPSに分離するそれらの能力についてスクリーニングした。好ましい実施形態では、核酸のより高度な回収は、ポリマー及び塩からなるATPSにおいて達成可能であったが、他の相形成単離成分が好適である。ポリマーの分子量は、200~240000の範囲であり、濃度は、0.1~40であり、塩は、0.1~40であった。一般に、7~8のpH及び20~30℃の温度は、より安定なATPS及び比較的より高度な核酸回収率をもたらすことが認められた。さらに、相間の密度における工程は、共溶質の添加を通して調整した。
【0060】
実施例2 - 連続的ATPSを使用した短い核酸断片の選択的単離及び濃縮
ThermoFisher Scientific製、500ngのGeneRuler Low Range DNAラダーを89mg/mLのBSA(Sigma Aldrich)溶液500μLに添加し、RT(24℃)に平衡化した後、次に22.5%(v/v)のグリコールポリマー(200分子量)及び18%(v/v)の相形成塩からなる単離成分溶液を約7~9のpHで有するチューブ内で混合した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで120秒間回転し、第1単離ATPSを形成した。上相:下相が5:1の体積比で、夾雑物をポリマーに富む上相に分配した一方、特定のサイズ範囲の大部分の核酸を、塩に富む下相に分配した。試験配合物中において、下相中に回収された核酸の百分率を測定し、好ましい実施形態で92%を超えることが見出された(実行2、図3A)。
【0061】
核酸断片をより小さい体積に濃縮するため、核酸に富む下相を単離ATPS容器から抽出し、最終濃度が9.5%(v/v)のグリコールポリマー600MW(Sigma Aldrich)及び最終濃度が25.8%(v/v)の相形成塩を含む、中身のpHが約7~9である、相形成濃縮成分の様々な組み合わせと混合した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで120秒間回転し、第2濃縮ATPSを形成した。相形成塩の濃度増加により、より大きい下相がもたらされる一方、核酸がより小さい上相に分配され、それは、自由に調節可能であり、主にグリコールポリマー含量を変化させることにより核酸の濃縮又は分配が最大化される。
【0062】
第1ATPSからの下相を、マイクロピペットにより、上記の第2ATPSを有するマイクロ遠心チューブに移した。夾雑物を塩に富む下相に分配した一方、特定のサイズ範囲の核酸を、ポリマーに富む上相に分配し、濃縮し、それは、塩に富む下相の体積の1/3~1/20の体積を有した。異なる実行において、上相中に回収された核酸の百分率を測定し、好ましい実施形態で90%を超え、より好ましくはほぼ100%であることが見出された(図3B)。
【0063】
実施例3 - 単離及び濃縮された核酸の回収率
極めて多数のスクリーニング実験を実施し、上記などの濃縮ATPSの単離及び濃縮された上相などの溶液から所望の断片サイズの核酸を回収するのに適したパラメータを開発した。いくつかの実施形態では、サイズ分画及び塩析プロセスを利用し、ここでは、精製、濃縮された核酸溶液である、25bp~20kbpのMAサイズのThermo GR1kb+及びGRLを最初にボルテックスにより混合し、次に1~12%の範囲の様々な濃度の分子量15000のグリコールポリマー及び0.1M~1.8Mの濃度範囲の非相形成塩を10krcf、RTで15分間遠心分離した。ポリマー/塩の縮合により、100bpを超えて自由に調節可能である、所望のカットオフサイズを上回る核酸を生じさせ、混合容器の底部でマイクロ遠心チューブの下端のペレットに沈殿させた一方、選択されたサイズより小さい核酸断片を含む上清が形成された。次に、製剤化に応じた最終体積を有する上清をマイクロピペットにより移し、ポリエチレンイミン、スペルミン、クアトロクアッド、NaI、スペルミンHCl、三価スペルミジン及び塩を含む沈殿成分と混合させ、pHを約8~10に中和した。次に、チューブを20krcfで2分間回転し、標的核酸断片をペレットとして単離し、脱塩した。
【0064】
カットオフサイズは、1~12%(v/v)の最終濃度、0.1M~1.8Mの非相形成塩濃度、0℃~30℃のインキュベーション温度、5~20分のインキュベーション時間、10krcfで15分から20krcfで1分の組み合わせでの遠心分離時間及び速度において、2k~20kの異なる分子量を有するグリコールポリマーを含む極めて多数の要素により正確に調節可能であることが見出された。異なる共沈剤を試験し、大規模DNAバンドを除去するとともに、選択されたカットオフを安定化する場合、いくつかが有益であることが見出された。
【0065】
一例の実施形態では、いくつかの核酸回収実験により、サンプル1~9を調製し、分析し、ポリマー/塩のDNA沈殿系における異なるパラメータを変更する効果を評価した。血漿を添加して調製した核酸混合物のサンプル溶液(Thermo GR1kb+及びGRL、25bp~20kbpのMAサイズ)をチューブ内で第1ATPS成分と混合し、約37℃で約15分間インキュベートした。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第1単離ATPSを形成した。次に、第1ATPSからの第1下相の各々を、第2ATPS成分を有する新しいチューブに移した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第2濃縮ATPSを形成した。次に、第2ATPSからの反応体積(uL)を有する第2上相の各々をそれぞれ新しいチューブに移した。グリコールポリマーP10、塩S17及び添加物EDTAを含有する分画成分を第2ATPSからの第2上相に添加し、分画混合物を形成した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを室温で10分間(又はサンプル9について30分間)インキュベートし、約16,000rcfで10分間回転した。各サンプルにおいて、ペレット「P」及び上清「S」を得た。上清「S」を新しいチューブに移し、上記のような沈殿成分及び塩と混合し、pHを約8~10に中和した。次に、チューブを20krcfで2分間回転し、標的核酸断片をペレットとして単離し、脱塩し、さらに分析に適した緩衝液に再懸濁した。得られたペレット「P」を分析のための緩衝液に再懸濁した。表1~3は、この実施形態例における核酸回収実験において利用した第1ATPS成分及び第2ATPS成分及び実験条件の詳細を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
図4は、いくつかの核酸回収実験におけるペレット及び上清のゲル画像結果を示す。「L」は、参照用ゲルに直接的に充填されたDNAラダー(Thermo GR1kb+及びGRL、25bp~20kbpのMAサイズ)を表し、「P」は、ペレット中に回収されたDNAを表し、「S」は、最終ステップで得られた上清中に回収されたDNAを表す。これらは、いくつかの沈殿成分(ポリマー、塩、共沈剤)の変化がサイズカットオフにどのように影響するかを示す。結果によると、分画成分中のポリマー濃度における26.0%から14.3%への減少であれば、好ましくは500bp以下(サンプル1)からカットオフなし、すなわちDNA断片のすべてのサイズが上清中に保持される(サンプル2)までサイズカットオフを変更することになる一方、分画成分中のポリマー濃度における26.0%から40.1%への増加であれば、好ましくは500bp以下(サンプル1)から200bp、すなわち専ら約200bp以下のDNA断片が上清中に保持される(サンプル3)までサイズカットオフを変更することになることが示された。結果によると、分画成分中の塩濃度における0.5%から0.26%への減少であれば、ペレット中のDNA沈殿に対する有害作用を引き起こすことになり、すべてのサイズのDNA断片が上清中に保持される(サンプル4)ことが示された。分画成分中の塩濃度における0.5%から0.9%への増加であっても、ペレット中のDNA沈殿に対する有害作用を引き起こすことになる(サンプル5)が、500bpより大きいDNA断片は、上清中に保持されない。(EDTA濃度が減少した)サンプル6及び(EDTA濃度が増加した)サンプル7における結果によると、EDTAの濃度の変動がサイズカットオフにおける変化に寄与しないことが示される。さらに、結果によると、500ng~100ng添加された全DNAの量の減少(サンプル8)が最終収量を有意に減少させる(すなわちDNAバンド強度がより軽い)が、サイズカットオフに影響しないことが示される。より長いインキュベーション時間(10分から30分への増加)は、最終収量を増加させない(サンプル9)。一般に、ゲル画像に示す通り、使用されるポリマーの濃度を変化させることで、サイズカットオフが500bpから200bp又は500bpからカットオフなしまで変化する一方、使用される塩の濃度を変化させることで、沈殿能力、塩濃度の増加に応じた大規模DNA断片の除去が影響を受けることになる。二重沈殿法を試みることで、一貫した結果を得ることが見出されたが、標的サイズの核酸断片の収量は減少した。さらに、より低い初期核酸濃度が、得られる核酸産物の収量及び純度を有意に減少させるが、サイズカットオフを減少させないことが発見された。こうした観察は、添加される各成分の濃度を調節することにより解決し得る(図5)。
【0070】
一例の実施形態では、サンプル1~5を調製し、分析し、回収システム実験の頑強性を評価した。表1~2は、第1ATPS成分及び第2ATPS成分の詳細を示し、表4は、この実施形態例における核酸回収実験において使用される実験条件を示す。
【0071】
【表4】
【0072】
図5は、回収システム実施形態の、100bp~300bpの50bpの増加以内の核酸断片サイズカットオフのおける設計パラメータの調節を通して相対的に容易に微調整する頑強な能力を示すゲル画像を図示する。総量が100ngのNEBの1kbラダー及びThermo GRLを血漿サンプルに事前添加し、サンプルに対して本発明により実行した。
【0073】
実施形態例では、「cfDNA」は、150~200bp、例えば約170bpの標的DNAサイズ例を表す。サンプル1~2における結果では、大部分のcfDNAがペレットに沈殿する一方、サンプル3~5の場合、cfDNAが上清中に保持されることが示された。ポリマー/非相形成塩の沈殿ステップにおける成分の濃度のみを、1~12%(v/v)のグリコールポリマー15000、0.1M~1.8Mの非相形成塩濃度であるように変化させることにより、上記の望ましいカットオフ範囲が達成され得る。この範囲は、あくまで例示目的として選択し、それは、cfDNAの分析で遭遇する小さいサイズと関連した。
【0074】
実施例4 - Qiagen QIAamp MinElute ccfDNA Miniキットとの比較
この実施形態例では、同じDNAサンプルを使用し、ATPS系を市販キットと比較した。MAサイズが25bp~20kbpである、Thermo GR1kb+及びGRLを血漿に添加し、試験のためにa1kbラダーサンプル混合物を形成した。同量の1kbラダーサンプル混合物を試験のために使用した。Qiagen QIAamp MinElute ccfDNA Miniキット(Qiagenキット)を使用するサンプルの場合、核酸を製造業者の使用説明書に従って調製した。ATPS系を使用するサンプルの場合、調製した核酸混合物溶液をチューブ内で第1ATPS成分と混合し、約37℃で約15分間インキュベートした。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第1単離ATPSを形成した。次に、第1ATPSからの第1下相を、第2ATPS成分を有する新しいチューブに移した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第2濃縮ATPSを形成した。次に、第2ATPSからの反応体積(uL)を有する第2上相の各々をそれぞれ新しいチューブに移した。グリコールポリマーP10、塩S17及び添加物EDTAを含有する分画成分を第2ATPSからの第2上相に添加し、分画混合物を形成した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを室温で10分間(又はサンプル9について30分間)インキュベートし、約16,000rcfで10分間回転した。各サンプルにおいて、ペレット「P」及び上清「S」を得た。上清「S」を新しいチューブに移し、沈殿成分と混合した。次に、チューブを20krcfで2分間遠心分離し、標的核酸断片をペレットとして単離し、脱塩し、さらに分析に適した緩衝液に再懸濁する。得られたペレット「P」を分析のための緩衝液に再懸濁した。表1~2は、第1ATPS成分及び第2ATPS成分の詳細を示し、表5は、この実施形態例における核酸回収実験において利用した実験条件を示す。ATPS系及び比較のための市販キットから回収されたDNAサンプルをqPCR(Roche)により分析した。
【0075】
【表5】
【0076】
図6に示す通り、本発明を用いるとき、核酸のほぼ100%をqPCR(Roche)により分析し、130bpのスパイクインオリゴヌクレオチドを血漿サンプルから連続的ATPS法により抽出した一方、Qiagenキットによりかかる核酸の約50%を抽出した。したがって、本発明は、QIAamp MinElute ccfDNA Miniキットと比較して改善された性能を示した。
【0077】
実施例5 - グリコールポリマー/ナトリウムポリ(アクリレート)及びグリコールポリマー/Triton ATPS系を使用した標的核酸断片の選択的単離及び濃縮
この実施形態例では、いくつかの核酸回収実験により、サンプルを調製し、分析し、ATPS系の例を評価した。血漿を添加して調製した核酸混合物のサンプル溶液(Thermo GR1kb+及びGRL、25bp~20kbpのMAサイズ)をチューブ内で第1ATPS成分(グリコールポリマー/ナトリウムポリ(アクリレート)と混合し、約37℃で約15分間インキュベートした。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第1単離ATPSを形成した。次に、第1ATPSからの下相の各々を、第2ATPS成分(0、10、20及び30%の濃度のグリコールポリマー/塩/Triton)を有する新しいチューブに移した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第2濃縮ATPSを形成した。上(T)相及び下(B)相を新しいチューブに移し、沈殿成分及び塩と混合した。次に、チューブを20krcfで2分間遠心分離し、標的核酸断片をペレットとして単離し、脱塩し、さらに分析に適した緩衝液に再懸濁する。表6~7は、この実施形態例における第1ATPS成分及び第2ATPS成分の詳細を示す。
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
図7は、核酸回収実験における上(T)相及び下(B)相のゲル画像結果を示す。これらは、いくつかの沈殿成分(ポリマー、塩、共沈剤)の変化がサイズカットオフにどのように影響するかを示す。結果によると、大部分のタンパク質及び夾雑物が第1ATPS系(グリコールポリマー/塩/ナトリウムポリ(アクリレート))における第1下相に分配され、核酸の大部分が第1上相中に保持されるであろうことが示された。図7は、第2ATPS系におけるグリコールポリマー/塩/Tritonの濃度が増加すると、核酸サイズカットオフ選択がカットオフなしから約300bpまで変化し、第2上(T)相中に保持され、より大きい望ましくないDNAであれば、第2下(B)相に分配されることを示す。一般に、ゲル画像中で示す通り、使用されるグリコールポリマー/Tritonの濃度変化により、第2上相における所望の核酸サイズカットオフが変化することになる。
【0081】
実施例6 - 異なる塩濃度のATPS系を使用した標的核酸断片の選択的単離及び濃縮
この実施形態例では、いくつかのDNA及びタンパク質回収実験により、サンプルを調製し、分析し、様々な濃度の硫酸ナトリウムを評価した。89.3mg/mlのタンパク質を添加した核酸混合物のサンプル溶液(500ng/uL)を調製し、チューブ内で異なる濃度の硫酸ナトリウムとともに第1ATPS成分と混合し、約37℃で約15分間インキュベートした。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第1単離ATPSを形成した。次に、第1ATPSからの下相の各々を、第2ATPS成分を有する新しいチューブに移した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第2濃縮ATPSを形成した。上(T)相及び下(B)相を新しいチューブに移し、沈殿成分及び塩と混合した。次に、チューブを20krcfで2分間遠心分離し、標的核酸断片をペレットとして単離し、脱塩し、さらに分析に適した緩衝液に再懸濁する。上相及び下相におけるDNA回収%及びタンパク質回収%を決定した。表8は、この実施形態例における実験詳細を示す。
【0082】
【表8】
【0083】
図8は、核酸及びタンパク質回収実験におけるDNA及びタンパク質回収結果を示す。結果によると、硫酸ナトリウム塩濃度が0.1%から0.8%に増加すれば、下相において約60%~85%のより高いDNA回収がもたらされる(サンプル2及び3)ことが示された。
【0084】
実施例7 - 複数のTriton ATPS系を使用した標的核酸断片の選択的単離及び濃縮
この実施形態例では、いくつかのDNA及びタンパク質回収実験により、サンプルを調製し、分析し、様々な濃度の硫酸ナトリウムを評価した。血漿タンパク質200ulを添加した核酸混合物のサンプル溶液(全部で1000ng)を調製し、チューブ内で第1ATPS成分と混合し、第1ATPS系(水/Triton ATPS系)を形成し、約37℃で約15分間インキュベートした。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第1単離ATPSを形成した。次に、第1ATPSからの下相の各々を、沈殿成分を有する新しいチューブに移した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、塩析系において核酸ペレットを形成した。夾雑物を含有する上清を除去した。次に、ペレットに第2ATPS成分を添加した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第2単離ATPS(グリコールポリマー/塩のATPS系)を形成した。より小さいサイズの核酸を含有する第2上相を新しいチューブに移し、第3ATPS成分と混合し、第3ATPS系(グリコールポリマー/Triton系)を形成した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、上部の白色懸濁液中に第3ATPS(グリコールポリマー/Triton ATPS系)を形成した。次に、水を添加し、白色懸濁液を再懸濁し、上部のTritonが少ない相及び下部のTritonに富む相を有する水/Triton系を形成した。サンプル1及び2において使用した最終抽出体積は、それぞれ25ul及び20ulである。上部のTritonが少ない相は、クリーンな標的核酸を含有する最終生成物である。除去した液体、最終抽出物(すなわちTritonが少ない相)及びTritonに富む相をゲル電気泳動により分析した。図9は、除去した液体、最終抽出物及びTに富む相のゲル画像結果を示す。「L」は、参照用ゲルに直接的に充填したDNAラダー(Thermo GR1kb+及びGRL、25bp~20kbpのMAサイズ)を表す。結果によると、標的化核酸が全画分中に存在することが示され、一連の抽出ステップにおいて標的化核酸の一部の減少が示された。さらに、結果によると、最終抽出物が有意な量の標的核酸を含有することが示された。標的の75bpバンドが最終抽出物中で保持され、添加されたタンパク質を除去する。最終抽出物中の標的核酸の質と量の両方がゲル電気泳動分析にとって十分であった。要するに、複数のTriton ATPS系は、下流適用のため、標的核酸を単離、精製及び濃縮する場合に効率的である。
【0085】
実施例8 - 異なる分子量を有するポリマーを使用した単離及び濃縮された核酸の回収率
この実施形態例では、サンプルを調製し、分析し、核酸回収に対する第2ATPS系におけるポリマーの異なる分子量を変更する効果を評価した。血漿を添加して調製した核酸混合物の約50ngのサンプル溶液をチューブ内で同じ第1ATPS成分と混合し、約37℃で約15分間インキュベートした。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第1単離ATPSを形成した。次に、第1ATPSからの第1下相の各々を、低分子量又は中分子量ポリマーのいずれかを含有する、第2ATPS成分を有する新しいチューブに移した。全サンプル中の第2ATPS成分におけるポリマー及び塩をそれぞれ7%及び35%の同じ濃度で維持した。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第2濃縮ATPSを形成した。次に、第2ATPSからの反応体積(uL)を有する第2上相の各々をそれぞれ新しいチューブに移した。上清を新しいチューブに移し、沈殿成分及び塩と混合し、pHを約8~10に中和した。次に、チューブを20krcfで2分間回転し、標的核酸断片をペレットとして単離し、脱塩し、さらに分析に適した緩衝液15ulに再懸濁する。最終生成物の核酸収量をQubit Fluorometric Quantification(Invitrogen)により決定し、回収率を収量から計算した。表9は、この実施形態例における実験詳細及びDNA収量及び回収率の結果を示す。この実施形態例では、「低」から「中」にかけての分子量差は、100~1000Da以内である。
【0086】
【表9】
【0087】
表9は、「低」から「中」にかけてのポリマー分子量が増加すると、回収率悪化をもたらすことを示し、特定の分子量を有するポリマーが核酸回収率における顕著な性能をもたらす場合があることが示される。
【0088】
実施例9 - 第2ATPSにおける異なる上相体積による単離及び濃縮された核酸の回収率
この実施形態例では、サンプルを調製し、分析し、核酸の回収率に対する第2ATPS系における上相の体積を変更する効果を評価した。1つの核酸混合物を調製し、同じ第1ATPS成分を有するチューブにアリコートし、約37℃で約15分間インキュベートした。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第1単離ATPSを形成した。次に、第1ATPSからの第1下相の各々を一緒にプールし、表10に従い、第2ATPS成分中にポリマー(PM2)及び塩(SM2)を異なる体積で有する、第2ATPS成分を有する新しいチューブにアリコートした。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第2濃縮ATPSを形成した。次に、第2ATPSからの第2上相の各々の体積を測定した。第2上相の各々をそれぞれ新しいチューブに移した。上清を新しいチューブに移し、沈殿成分及び塩と混合し、pHを約8~10に中和した。次に、チューブを20krcfで2分間回転し、標的核酸断片をペレットとして単離し、脱塩し、さらに分析に適した緩衝液に再懸濁する。各サンプルについて、クリーンなペレットを形成する能力、A260/A280の比による核酸純度、最終生成物濃度及び全収量を評価し、決定した。表10は、この実施形態例における実験詳細及び結果を示す。
【0089】
【表10】
【0090】
より大きい上相体積を有すると、移動又は抽出中に核酸の減少を最小化する傾向があることから有利となる一方、表10は、上相体積が大きくなると、実際に許容できるDNAペレットのみを生成する(サンプル2及び3)又はさらにDNAペレットを生成しない(サンプル4、6、8~10)ことを示した。より低い濃度の塩を有するサンプル(サンプル2)は、不十分で不安定なペレットを生成した。より大きい塩体積(サンプル5~10)は、より安定なペレット及び合理的な収量をもたらした。上相の体積における増加を達成するため、ポリマー濃度は、それに伴って増加させる必要がある。ポリマー濃度が8.7%を超えるように増加したとき、200μLを超える上相体積が得られたであろうことが見出される。表10中のデータは、上相体積が220μLより大きいと、核酸抽出プロセスの失敗をもたらすことを示した。たとえ核酸沈殿が奏功しても、それらは、クリーンでないペレット(未知のペレット又はジャンクペレットのいずれか)を生成し、その結果は、DNAの純度(A260/A280)にも反映される。要するに、第2ATPS中のポリマー濃度及び塩濃度がそれぞれ8.7%及び1%未満であり、且つ上相の最終体積が200uL未満であれば、ATPS系の得られる核酸産物の収量及び純度が有意に改善されることが発見されている。
【0091】
実施例10 - 第1及び第2ATPS系における異なる分子量のポリマーによる単離及び濃縮された核酸の回収率
この実施形態例では、サンプルを調製し、分析し、核酸の回収率に対する第1及び第2ATPS系において異なる分子量のポリマーを使用する効果を評価した。核酸混合物のサンプル溶液を調製し、(表11に従い)異なるポリマー分子量の第1ATPS成分を有するチューブにアリコートし、約37℃で約15分間インキュベートした。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第1単離ATPSを形成した。次に、第1ATPSからの第1下相の各々を、(表11に従い)異なるポリマー分子量の第2ATPS成分を有する新しいチューブに移した。徹底的にボルテックスしてから、チューブの各々を7000rcfで約1分間遠心分離し、第2濃縮ATPSを形成した。第2上相の各々をそれぞれ新しいチューブに移した。上清を新しいチューブに移し、沈殿成分及び塩と混合し、pHを約8~10に中和した。次に、チューブを20krcfで2分間回転し、標的核酸断片をペレットとして単離し、脱塩し、さらに分析に適した同じ体積の緩衝液に再懸濁する。各サンプルについて、A260/A280の比による核酸純度及びDNA濃度を分光光度計(Nanodrop)により測定し、決定した。表11は、この実施形態例における実験詳細及び結果を示す。この実施形態例では、「低」から「高」にかけての分子量差は、200~2000Da以内である。
【0092】
【表11】
【0093】
表11は、第2ATPSにおいて高分子量ポリマーをより低い分子量のポリマーの代わりに使用した場合、DNA濃度が約24ng/ulから約17ng/ulへの有意な減少を有することを示した(サンプル1及び2)。第1ATPSにおいて低分子量ポリマーを使用した場合、第1ATPSにおいてさらに相が形成されることがなく、したがって核酸が得られないことも示された。結果によると、第1及び第2ATPS系におけるポリマーの分子量の選択は、標的サイズカットオフの選択に加えて核酸回収率に有意に影響することが示された。第2ポリマー成分よりも高い分子量を有する第1ポリマー成分であれば、ATPS系の得られる核酸産物の収量及び純度を有意に改善することになる。
【0094】
実施例11 - 分画成分中のポリマーの異なる分子量及び濃度による単離及び濃縮された核酸の回収率
この実施形態例では、サンプルを調製し、分析し、核酸の回収率に対する分画成分中のポリマーの異なる分子量及び異なる濃度を使用する効果を評価した。約200ng/mLのDNAラダーの核酸混合物(Thermo GR1kb+及びGRL、25bp~20kbpのMAサイズ)のサンプル混合物溶液を調製し、同じ第1ATPS成分を有するチューブにアリコートし、約37℃で約15分間インキュベートした。徹底的にボルテックスしてから、チューブを7000rcfで約1分間遠心分離し、第1単離ATPSを形成した。第1ATPSからの第1下相の各々を、(表11に従い)第2ATPS成分を異なるポリマー分子量で有する新しいチューブに移した。徹底的にボルテックスしてから、チューブの各々を7000rcfで約1分間遠心分離し、第2濃縮ATPSを形成した。第2上相の各々をそれぞれ新しいチューブに移した。次に、第2ATPSからの第2上相の各々をそれぞれ新しいチューブに移した。異なる分子量又は異なる濃度のポリマーを含有する分画成分(表12を参照されたい)を第2ATPSからの第2上相に添加し、それぞれ分画混合物を形成した。徹底的にボルテックスしてから、チューブの各々を室温で10分間(又はサンプル9について30分間)インキュベートし、約16,000rcfで10分間回転した。各サンプルにおいて、ペレット「P」及び上清「S」が得られた。上清「S」を新しいチューブに移し、沈殿成分及び塩と混合し、pHを約8~10に中和した。次に、チューブを20krcfで2分間回転し、標的核酸断片をペレットとして単離し、脱塩し、さらに分析に適した緩衝液(1×ローディングダイ)10uLに再懸濁する。得られたペレット「P」を分析について同様に再懸濁した。表11は、この実施形態例における実験詳細及び結果を示す。この実施形態例では、「低」から「高」にかけての分子量差は、200~2000Da以内である。
【0095】
図10は、実施形態例における核酸回収実験におけるペレット「P」及び上清「S」のゲル画像結果を示す。「低」から「中」にかけての分子量差は、100~1000Da以内である一方、「低」から「高」にかけての分子量差は、100~1000Da以内である。「P」は、ペレット中に回収されたDNAを表し、「S」は、最終ステップにおいて得られた上清中に回収されたDNAを表す。破線は、約1500bpの分子サイズを示す。結果によると、高分子量ポリマーを分画成分中で使用する場合、約1500bpを下回るカットオフサイズが達成されることが示された(サンプル1及び2)。ポリマーの分子量が高分子量から中分子量又はさらに低分子量に変化する場合、約1500bpを下回るカットオフサイズは達成されないことになり、すべての断片サイズを有する核酸の大部分が上清中で保持される傾向がある(サンプル3~6)。さらに、結果によると、二倍又は四倍濃度のポリマーを用いると、すべての断片サイズを有する核酸の大部分がペレット中で保持されることから、合理的な収量で満足なカットオフサイズが達成されないことが示された(サンプル7~10)。要するに、特定の濃度で高分子量のポリマーであれば、満足なサイズカットオフ及び核酸回収率の結果が達成されることになる。
【0096】
したがって、本発明の例示的実施形態は、十分に説明されている。その説明は、特定の実施形態で言及されるが、本発明がこれらの具体的な詳細のバリエーションにより実施され得ることは、当業者に明らかであろう。したがって、本発明は、本明細書中に示される実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】