IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2022-551061リソソームを標的とする抗体薬物複合体及びその応用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-07
(54)【発明の名称】リソソームを標的とする抗体薬物複合体及びその応用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20221130BHJP
   C07K 2/00 20060101ALI20221130BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20221130BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221130BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20221130BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20221130BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20221130BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K2/00
C07K16/30
A61K39/395 L
A61K39/395 N
A61K47/68
A61P35/00
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519150
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(85)【翻訳文提出日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 CN2020119996
(87)【国際公開番号】W WO2021068890
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】201910953086.2
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503168289
【氏名又は名称】中山大学
【氏名又は名称原語表記】SUN YAT-SEN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】135 Xingang Xi Road, Haizhu District, Guangzhou, Guangdong 510275, China
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125221
【弁理士】
【氏名又は名称】水田 愼一
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】蔡暁青
(72)【発明者】
【氏名】蒋先興
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA25
4C085AA26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
(57)【要約】
本発明は、リソソームを標的とする抗体薬物複合体及びその応用を提供する。前記抗体薬物複合体は、Drn1AbOn2の構造を有し、そのうちDrは、薬物であり、Abは、抗体であり、Oは、リソソーム指向性の低分子又は前記抗体薬物複合体のリソソーム指向性を高めるための機能性ポリペプチドであり、n1およびn2は、同じであるか又は異なり、それぞれ独立して1以上の整数である。
【選択図】図27
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リソソームを標的とする抗体薬物複合体であって、
Drn1AbOn2の構造を有し、
そのうちDrは、薬物であり、Abは、抗体であり、Oは、リソソーム指向性の低分子又は前記抗体薬物複合体のリソソーム指向性を高めるための機能性ポリペプチドであり、n1およびn2は、同じであるか又は異なり、それぞれ独立して1以上の整数であることを特徴とする、リソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項2】
前記抗体は、モノクローナル抗体又はナノボディであり、
前記モノクローナル抗体は、Glembatumumab、Vandortuzumab、Tisotumab、Enfortumab、Cetuximab、Coltuximab、Lorvotuzumab、Gemtuzumab、Trastuzumab及びLadiratuzumabからなる群より選ばれる任意の1種であり、
前記ナノボディは、7D12、EGA1、9G8、C7b、5F7及び2Rs15dからなる群より選ばれる任意の1種である、請求項1に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項3】
前記機能性ポリペプチドは、リソソーム選別ペプチド、細胞膜透過性ペプチド、又はリソソーム選別ペプチドと細胞膜透過性ペプチドを組み合わせてなる組成物であり、
前記機能性ポリペプチドは、前記抗体のC末端に付けられる、請求項1に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項4】
前記リソソーム選別ペプチドは、NPXY、YXXφ、[DE]XXXL[LI]、DXXLL、NPFXD及びNPFXXDからなる群より選ばれる任意の1種であり、
そのうちXは、任意のアミノ酸残基であり、φは、任意のサイズの大きな疎水性側鎖を有するアミノ酸残基であり、Nはアスパラギンであり、Pはプロリンであり、Yはチロシンであり、Eはグルタミン酸であり、Lはロイシンであり、Iはイソロイシンであり、Fはフェニルアラニンであり、Dはアスパラギン酸であり、[DE]は、アスパラギン酸又はグルタミン酸のうち任意の1種であり、[LI]は、ロイシン又はイソロイシンのうち任意の1種である、請求項3に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項5】
前記細胞膜透過性ペプチドは、カチオン性膜透過ペプチド、両親媒性膜透過ペプチド及び疎水性膜透過ペプチドからなる群より選ばれる任意の1種である、請求項3に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項6】
前記カチオン性膜透過ペプチドは、ポリアルギニン、HIV-TAT、DPV1047及びPenetratinからなる群より選ばれる任意の1種であり、
前記両親媒性膜透過ペプチドは、MPG、PVEC、MAP、Pept-1、Transportan及びP28からなる群より選ばれる任意の1種であり、
前記疎水性膜透過ペプチドは、C105Y、PFVYLI及びPep-1からなる群より選ばれる任意の1種である、請求項5に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項7】
前記リソソーム指向性の低分子は、前記抗体のアミノ酸側鎖に付けられる、請求項1に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項8】
前記アミノ酸側鎖は、天然アミノ酸の側鎖又は生体直交性の官能基である、請求項7に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項9】
前記天然アミノ酸の側鎖は、リジン側鎖、システイン側鎖からなる群より選ばれる任意の1種であり、
前記生体直交性の官能基は、アジド基、アルキニル基、ホルミル基、ケトン基およびフルオロスルホン酸エステル基からなる群より選ばれる任意の1種である、請求項8に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項10】
前記リソソーム指向性の低分子は、pH感受性の官能基又は糖基を含む化合物である、請求項1に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項11】
前記pH感受性の官能基は、スルホン酸基、4-モルホリニル基、2-モルホリニルエチルアミノエチル基、及びメトキシポリエチレングリコール基からなる群より選ばれる任意の1種である、請求項10に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項12】
前記糖基は、グルコシル基、マンノシル基、6-リン酸-マンノシル基、及びガラクトシル基からなる群より選ばれる任意の1種である、請求項10に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体。
【請求項13】
請求項1~12の何れか1項に記載のリソソームを標的とする抗体薬物複合体の抗がん剤における応用。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ医薬品の分野に属し、抗体薬物複合体及びその応用に関し、具体的には、リソソームを標的とする抗体薬物複合体及びその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate、ADC、以下では「ADC薬物」とも称する)は、抗体高分子の標的指向性および低分子化学療法剤の細胞毒性を兼ね備え、がん治療において期待されている治療手段である。ADC薬物は、抗体が細胞表面の抗原を特異的に認識して結合し、そして抗原を介して細胞内に取り込まれることでその役割を果たす。ADC薬物の理想的な態様としては、細胞内に取り込まれた後にエンドソーム‐リソソーム経路を介して細胞毒性を示す低分子薬物を放出し、細胞毒性を示す低分子薬物は、例えばチューブリンやDNAなどの細胞内標的に作用して細胞死を引き起こす。
【0003】
ADC薬物の真核細胞内への取り込みは、主にクラスリン依存性のエンドサイトーシス、カベオリン依存性のエンドサイトーシス及びマクロピノサイトーシスといった3種類の異なる機構により行われる。該3種類の機構において、クラスリン依存性のエンドサイトーシスおよびカベオリン依存性のエンドサイトーシスは、何れも抗原依存的であり、クラスリン依存性のエンドサイトーシスがタンパク質のリソソーム輸送に最も有効である。一方、カベオリン依存性のエンドサイトーシスを介して細胞内に取り込まれた抗体は、通常、小胞体又はゴルジ体に運ばれて蓄積し、非選択性のマクロピノサイトーシスによって細胞内に取り込まれたタンパク質は、基質小胞となってリソソームと融合することでリソソームに飲み込まれ、若しくは再び細胞外へ排出されたりして細胞によって処遇が異なり、例えば、ヒト上皮がんA431細胞株においてマクロピノサイトーシスに関わる基質小胞はリソソームとめったに融合せず、多くが細胞外へ放出される。また、全長抗体におけるFcフラグメントは、pHに依存してFcRnと作用するため、抗体の細胞外への循環を促し、抗体の半減期を伸ばすことができる。
【0004】
ADC薬物が効率よく内在化し、リソソームに飲み込まれることができるかどうかは、その薬効発揮に極めて重要である。ADC薬物は、リソソームで分解されてから細胞毒性を示す低分子の形態で放出され、細胞毒性を示す低分子とチューブリン、DNAなどの細胞内標的とが相互作用することにより、最終的に腫瘍細胞を殺傷する効果を奏する。一方、細胞表面の抗原が細胞膜内外を往復する状態にあり、加えて細胞質基質内に進入したADC薬物の一部が再び細胞膜外へ輸送されることもあるため、細胞質基質に放出される細胞毒性を示す低分子薬物の量が実に非常に少ないことが研究により解明され、特に、そもそも抗原の発現量が低いがん細胞では、細胞内に進入した後に効果的にその役割を果たす細胞毒性を示す低分子薬物の量が更に少なくなる。そのため、従来のADC薬物では、がん細胞に対する殺傷力がさほど顕著でなく、所望の治療効果を得られない。また、最新の研究結果から、ADC薬物のリソソーム内における蓄積の減退又はリソソーム内におけるプロテアーゼの活性低下は、ADC薬物が臨床で薬剤耐性を現わす主因であることが解明されている。現在、臨床で使われるADC薬物は、抗体部分に何らの修飾もなく、腫瘍細胞に取り込まれた後にリソソームに効果的に到達できないため、臨床使用で薬効が悪く、薬剤耐性などの問題を抱えるのが一般である。
【0005】
したがって、上記従来の問題を解決できる新規なADC薬物に対する期待が益々高まりつつある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の問題点に鑑みて、本発明は、リソソーム指向性の抗体薬物複合体及びその応用を提供する。本発明では、抗体薬物複合体をリソソームに導いて細胞毒性を示す低分子を効果的に放出させるに当たって、リソソーム指向性の低分子又は機能性ポリペプチドを用いて抗体薬物複合体の抗体部分を修飾することにより簡易でありながら汎用性の高い方法を提供できることを見出し、つまり、ADC薬物の治療効果を高めるために独特で高効率な策略を提供することにより、抗体薬物複合体のリソソーム内における蓄積を促進し、抗体薬物複合体の細胞への内在化特性を強化し、抗体薬物複合体の内在化速度およびリソソームへの蓄積度を高め、抗体薬物複合体の治療効果を高めるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明は、リソソーム指向性であり且つDrn1AbOn2の構造を有する抗体薬物複合体を提供し、
そのうちDrは、薬物であり、Abは、抗体であり、Oは、リソソーム指向性の低分子又は前記抗体薬物複合体のリソソーム指向性を高めるための機能性ポリペプチドであり、n1およびn2は、同じであるか又は異なり、それぞれ独立して1以上の整数である。
【0008】
好ましくは、前記抗体は、モノクローナル抗体又はナノボディであり、前記モノクローナル抗体としてはGlembatumumab、Vandortuzumab、Tisotumab、Enfortumab、Cetuximab、Coltuximab、Lorvotuzumab、Gemtuzumab、Trastuzumab及びLadiratuzumabからなる群より選ばれる任意の1種であり、前記ナノボディとしては7D12、EGA1、9G8、C7b、5F7及び2Rs15dからなる群より選ばれる任意の1種である。
【0009】
好ましくは、前記機能性ポリペプチドとしては、リソソーム選別ペプチド、細胞膜透過性ペプチド、又はリソソーム選別ペプチドと細胞膜透過性ペプチドを組み合わせてなる組成物である。前記機能性ポリペプチドは、前記抗体のC末端に付けられる。
【0010】
好ましくは、前記リソソーム選別ペプチドとしてはNPXY、YXXφ、[DE]XXXL[LI]、DXXLL、NPFXD及びNPFXXDからなる群より選ばれる任意の1種であり、そのうちXは、任意のアミノ酸残基であり、φは、任意のサイズの大きな疎水性側鎖を有するアミノ酸残基であり、Nはアスパラギンであり、Pはプロリンであり、Yはチロシンであり、Eはグルタミン酸であり、Lはロイシンであり、Iはイソロイシンであり、Fはフェニルアラニンであり、Dはアスパラギン酸であり、[DE]は、アスパラギン酸又はグルタミン酸のうち任意の1種であり、[LI]は、ロイシン又はイソロイシンのうち任意の1種である。
【0011】
好ましくは、前記細胞膜透過性ペプチドとしては、カチオン性膜透過ペプチド、両親媒性膜透過ペプチド及び疎水性膜透過ペプチドからなる群より選ばれる任意の1種である。
【0012】
好ましくは、前記カチオン性膜透過ペプチドは、ポリアルギニン、HIV-TAT、DPV1047及びPenetratinからなる群より選ばれる任意の1種であり、前記両親媒性膜透過ペプチドは、MPG、PVEC、MAP、Pept-1、Transportan及びP28からなる群より選ばれる任意の1種であり、前記疎水性膜透過ペプチドは、C105Y、PFVYLI及びPep-1からなる群より選ばれる任意の1種である。
【0013】
好ましくは、前記リソソーム指向性の低分子は、前記抗体のアミノ酸側鎖に付けられる。
【0014】
好ましくは、前記アミノ酸側鎖は、天然アミノ酸の側鎖又は生体直交性の官能基である。
【0015】
好ましくは、前記天然アミノ酸の側鎖は、リジン側鎖、システイン側鎖からなる群より選ばれる任意の1種であり、前記生体直交性の官能基は、アジド基、アルキニル基、ホルミル基、ケトン基およびフルオロスルホン酸エステル基からなる群より選ばれる任意の1種である。
【0016】
好ましくは、前記リソソーム指向性の低分子は、pH感受性の官能基又は糖基を含む化合物である。
【0017】
好ましくは、前記pH感受性の官能基は、スルホン酸基、4-モルホリニル基、2-モルホリニルエチルアミノエチル基、及びメトキシポリエチレングリコール基からなる群より選ばれる任意の1種である。
【0018】
好ましくは、前記糖基は、グルコシル基、マンノシル基、6-リン酸-マンノシル基、及びガラクトシル基からなる群より選ばれる任意の1種である。
【0019】
本発明は、さらに、上記リソソーム指向性の抗体薬物複合体の抗がん剤における応用を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るリソソーム指向性の抗体薬物複合体は、リソソーム指向性の低分子又は機能性ポリペプチドを用いて抗体薬物複合体における抗体部分を修飾することにより、抗体薬物複合体の内在化特性、内在化速度及びリソソームへの蓄積を顕著に高め、同時に細胞透過性やリソソーム指向性に優れている。従来の未修飾の抗体薬物複合体に比べ、本発明に係るリソソーム指向性の抗体薬物複合体は、より優れたリソソーム指向性を示し、がん細胞の増殖に対してもより優れた阻害能力を示し、がん細胞の致死率および体外における抗腫瘍効果を更に向上させることができるため、ADC薬物の治療効果を高めるに当たって新たな選択肢を創出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例1に係る7D12-TAMRA-LPETG-His6のMALDI-TOFMSスペクトルである。
図2】本発明の実施例1に係る7D12-MMAF-LPETG-His6のMALDI-TOFMSスペクトルである。
図3】本発明の実施例2および実施例3に係る機能性ポリペプチドの配列およびリソソーム指向性の低分子の構造式であり、化合物1は、スルホ酢酸であり、化合物2は、2-モルホリニル酢酸であり、化合物3は、2-モルホリニルエチルアミノプロピオン酸であり、化合物4は、2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ酢酸であり、化合物5は、グルコシル酢酸である。
図4図4aは、本発明の実施例2に係る7D12-ポリペプチド複合体のポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)およびHisタグ抗体を用いたウエスタンブロット(以下、「Hisタグ抗体ウエスタンブロット」とも称する)の結果であり、図4bは、Trastuzumab-ポリペプチド複合体のポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)の結果である。
図5】本発明の実施例3に係る7D12-TAMRA-SAのMALDI-TOFMSの分析結果である。
図6】本発明の実施例3に係る7D12-TAMRA-PEG3のMALDI-TOFMSの分析結果である。
図7】本発明の実施例3に係る7D12-TAMRA-morpholineのMALDI-TOFMSの分析結果である。
図8】本発明の実施例3に係る7D12-TAMRA-EtNH-morpholineのMALDI-TOFMSの分析結果である。
図9】本発明の実施例3に係る7D12-TAMRA-glucoseのMALDI-TOFMSの分析結果である。
図10】本発明の実施例3に係る7D12-MMAF-SAのMALDI-TOFMSの分析結果である。
図11】本発明の実施例3に係る7D12-MMAF-PEG3のMALDI-TOFMSの分析結果である。
図12】本発明の実施例3に係る7D12-MMAF-morpholineのMALDI-TOFMSの分析結果である。
図13】本発明の実施例3に係る7D12-MMAF-EtNH-morpholineのMALDI-TOFMSの分析結果である。
図14】本発明の実施例3に係る7D12-MMAF-glucoseのMALDI-TOFMSの分析結果である。
図15】本発明の実施例4に係る7D12複合体の内在化特性を解析した結果である。
図16】本発明の実施例4に係る7D12複合体がA431細胞内へ移行する際の平均蛍光強度変化を時系列に示すグラフである。
図17図17aは、本発明の実施例5に係る7D12-TAMRA、7D12-TAMRA-LSP、7D12-TAMRA-R、7D12-TAMRA-R-LSP、7D12-TAMRA-TAT及び7D12-TAMRA-TAT-LSPの共焦点顕微鏡写真であり、図17bは、本発明の実施例5に係る7D12-TAMRA、7D12-TAMRA-SA、7D12-TAMRA-PEG3、7D12-TAMRA-morpholine、7D12-TAMRA-EtNH-morpholine及び7D12-TAMRA-glucoseの共焦点顕微鏡写真であり、図17cは、本発明の実施例5に係るTrastuzumab-TAMRA、Trastuzumab-TAMRA-R、Trastuzumab-TAMRA-R-LSP及びTrastuzumab-TAMRA-LSPの共焦点顕微鏡写真である。
図18図18aは、図17aに示す複合体とリソソームのピアソン相関係数を示す図であり、図18bは、図17bに示す複合体とリソソームのピアソン相関係数を示す図であり、図18cは、図17cに示す複合体とリソソームのピアソン相関係数を示す図である。
図19図19aは、TAMRA標識抗体の濃度と蛍光強度実測値の線形関係を示す図であり、図19bは、細胞へ内在化した抗体の量を算出した結果である。
図20】7D12複合体の内在化に対する温度及びエンドサイトーシス阻害剤の影響を示す図である。
図21】7D12-TAMRA-LSP、7D12-TAMRA-TAT及び7D12-TAMRA-R9と、クラスリン又はカベオリン-1の共局在性を同定した結果である。
図22】7D12-TAMRA-LSP、7D12-TAMRA-TAT及び7D12-TAMRA-R9と、クラスリン又はカベオリン-1のピアソン相関係数を示す図である。
図23】MMAF、7D12又は複合体試料の濃度と細胞生存率の関係を示す図である。
図24】3次元培養の腫瘍スフェロイドの共焦点顕微鏡写真である。
図25】濃度の異なる7D12複合体で腫瘍スフェロイドを処理したときの腫瘍スフェロイドの成長に対する阻害効果を示す図である。
図26】腫瘍スフェロイドのサイズ変化を示す図である。
図27】本発明に係る抗体薬物複合体の作用機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の技術案および効果をより深く理解できるよう、具体的な実施形態及び図面を参照しながら本発明を詳しく説明する。当業者であれば、以下の実施形態が本発明を例示したに過ぎず、本発明の範囲を制限するものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能であると理解できる。以下において、試験や測定の具体的な条件について明記がない場合、かかる試験や測定は通常の条件下又はメーカー推奨の条件下で行われ、かかる試験や測定で使われる試薬又は測定装置も製造メーカーについても明記がない場合、市販ルートで容易に購入できる一般製品と解すべきである。
【0023】
実施例1:抗体薬物複合体の調製
1.1)抗体の選定
本発明で言う抗体は、モノクローナル抗体又はナノボディであり、前記モノクローナル抗体としてはGlembatumumab、Vandortuzumab、Tisotumab、Enfortumab、Cetuximab(セツキシマブモノクローナル抗体)、Coltuximab、Lorvotuzumab、Gemtuzumab(ゲムツズマブモノクローナル抗体)、Trastuzumab(トラスツズマブモノクローナル抗体)及びLadiratuzumabからなる群より選ばれる任意の1種であり、前記ナノボディとしては7D12、EGA1、9G8、C7b、5F7及び2Rs15dからなる群より選ばれる任意の1種である。上記抗体のアミノ酸配列は、以下の通りであった。
【0024】
ナノボディとして、7D12のアミノ酸配列は、QVKLEESGGGSVQTGGSLRLTCAASGRTSRSYGMGWFRQAPGKEREFVSGISWRGDSTGYADSVKGRFTISRDNAKNTVDLQMNSLKPEDTAIYYCAAAAGSAWYGTLYEYDYWGQGTQVTVSSであり、
EGA1のアミノ酸配列は、QVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASGRTFSSYAMGWFRQAPGKQREFVAAIRWSGGYTYYTDSVKGRFTISRDNAKTTVYLQMNSLKPEDTAVYYCAATYLSSDYSRYALPQRPLDYDYWGQGTQVTVSSであり、
9G8のアミノ酸配列は、EVQLVESGGGLVQAGGSLRLSCAASGRTFSSYAMGWFRQAPGKEREFVVAINWSSGSTYYADSVKGRFTISRDNAKNTMYLQMNSLKPEDTAVYYCAAGYQINSGNYNFKDYEYDYWGQGTQVTVSSAであり、
C7bのアミノ酸配列は、QVQLVQSGGGLVQAGGSLRLSCAASGRTFSSYAMAWFRQAPGKEREFVAAISWSGANIYVADSVKGRFTISRDNAKDTVYLQMNSLKPEDTAVYYCAVKLGFAPVEERQYDYWGQGTQVTVSSであり、
5F7のアミノ酸配列は、EVQLVESGGGLVQAGGSLRLSCAASGITFSINTMGWYRQAPGKQRELVALISSIGDTYYADSVKGRFTISRDNAKNTVYLQMNSLKPEDTAVYYCKRFRTAAQGTDYWGQGTQVTVSSであり、
2Rs15dのアミノ酸配列は、QVQLQESGGGSVQAGGSLKLTCAASGYIFNSCGMGWYRQSPGRERELVSRISGDGDTWHKESVKGRFTISQDNVKKTLYLQMNSLKPEDTAVYFCAVCYNLETYWGQGTQVTVSSであった。
【0025】
モノクローナル抗体として、Glembatumumabのアミノ酸配列は、H-GAMMA1のアミノ酸配列がQVQLQESGPGLVKPSQTLSLTCTVSGGSISSFNYYWSWIRHHPGKGLEWIGYIYYSGSTYSNPSLKSRVTISVDTSKNQFSLTLSSVTAADTAVYYCARGYNWNYFDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSNFGTQTYTCNVDHKPSNTKVDKTVERKCCVECPPCPAPPVAGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTFRVVSVLTVVHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPAPIEKTISKTKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPMLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKであり、
L-KAPPAのアミノ酸配列がEIVMTQSPATLSVSPGERATLSCRASQSVDNNLVWYQQKPGQAPRLLIYGASTRATGIPARFSGSGSGTEFTLTISSLQSEDFAVYYCQQYNNWPPWTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECであり、
Vandortuzumabのアミノ酸配列は、H-GAMMA1のアミノ酸配列がEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAVSGYSITSDYAWNWVRQAPGKGLEWVGYISNSGSTSYNPSLKSRFTISRDTSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARERNYDYDDYYYAMDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKであり、
L-KAPPAのアミノ酸配列がDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCKSSQSLLYRSNQKNYLAWYQQKPGKAPKLLIYWASTRESGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQYYNYPRTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECであり、
Tisotumabのアミノ酸配列は、H-GAMMA1のアミノ酸配列がEVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSNYAMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSGDYTYYTDSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARSPWGYYLDSWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKであり、
L-KAPPAのアミノ酸配列がDIQMTQSPPSLSASAGDRVTITCRASQGISSRLAWYQQKPEKAPKSLIYAASSLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQYNSYPYTFGQGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECであり、
Enfortumabのアミノ酸配列は、H-GAMMA1のアミノ酸配列がEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYNMNWVRQAPGKGLEWVSYISSSSSTIYYADSVKGRFTISRDNAKNSLSLQMNSLRDEDTAVYYCARAYYYGMDVWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKであり、
L-KAPPAのアミノ酸配列がDIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISGWLAWYQQKPGKAPKFLIYAASTLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQANSFPPTFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECであり、
Cetuximabのアミノ酸配列は、H-GAMMA1のアミノ酸配列がQVQLKQSGPGLVQPSQSLSITCTVSGFSLTNYGVHWVRQSPGKGLEWLGVIWSGGNTDYNTPFTSRLSINKDNSKSQVFFKMNSLQSNDTAIYYCARALTYYDYEFAYWGQGTLVTVSAASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKであり、
L-KAPPAのアミノ酸配列がDILLTQSPVILSVSPGERVSFSCRASQSIGTNIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESISGIPSRFSGSGSGTDFTLSINSVESEDIADYYCQQNNNWPTTFGAGTKLELKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECであり、
Coltuximabのアミノ酸配列は、H-GAMMA1のアミノ酸配列がQVQLVQPGAEVVKPGASVKLSCKTSGYTFTSNWMHWVKQAPGQGLEWIGEIDPSDSYTNYNQNFQGKAKLTVDKSTSTAYMEVSSLRSDDTAVYYCARGSNPYYYAMDYWGQGTSVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKであり、
L-KAPPAのアミノ酸配列がEIVLTQSPAIMSASPGERVTMTCSASSGVNYMHWYQQKPGTSPRRWIYDTSKLASGVPARFSGSGSGTDYSLTISSMEPEDAATYYCHQRGSYTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECであり、
Lorvotuzumabのアミノ酸配列は、H-GAMMA1のアミノ酸配列がQVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFSSFGMHWVRQAPGKGLEWVAYISSGSFTIYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARMRKGYAMDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKであり、
L-KAPPAのアミノ酸配列がDVVMTQSPLSLPVTLGQPASISCRSSQIIIHSDGNTYLEWFQQRPGQSPRRLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCFQGSHVPHTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECであり、
Gemtuzumabのアミノ酸配列は、H-GAMMA1のアミノ酸配列がEVQLVQSGAEVKKPGSSVKVSCKASGYTITDSNIHWVRQAPGQSLEWIGYIYPYNGGTDYNQKFKNRATLTVDNPTNTAYMELSSLRSEDTAFYYCVNGNPWLAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGKであり、
L-KAPPAのアミノ酸配列がDIQLTQSPSTLSASVGDRVTITCRASESLDNYGIRFLTWFQQKPGKAPKLLMYAASNQGSGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYCQQTKEVPWSFGQGTKVEVKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECであり、
Trastuzumabのアミノ酸配列は、H-GAMMA1のアミノ酸配列がEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGであり、
L-KAPPAのアミノ酸配列がDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECであり、
Ladiratuzumabのアミノ酸配列は、H-GAMMA1のアミノ酸配列がQVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGLTIEDYYMHWVRQAPGQGLEWMGWIDPENGDTEYGPKFQGRVTMTRDTSINTAYMELSRLRSDDTAVYYCAVHNAHYGTWFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGKであり、
L-KAPPAのアミノ酸配列がDVVMTQSPLSLPVTLGQPASISCRSSQSLLHSSGNTYLEWYQQRPGQSPRPLIYKISTRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCFQGSHVPYTFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECであった。
【0026】
1.2)抗体への変異導入
以下において、理解の便宜上、ナノボディとして7D12、モノクローナル抗体としてTrastuzumabを例示して説明する。ただし、本発明で言う変異が導入された抗体は、下記の抗体や変異サイトに限らず、他の抗体や他のサイトの変異も本発明を適用することができ、さらに、抗体に変異を導入する際にどのような策略に基づいて行われ、かつどのような変異抗体を選定するに関わらず、本発明で得られた変異抗体は、本発明の抗体薬物複合体の特性に影響を与えない点に留意されたい。
【0027】
ナノボディ7D12への変異導入は、以下のように行われた。本実施例では、上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor、EGFR)を標的とするシングルドメインナノボディ7D12をリード抗体とし、7D12抗体は、EGFRに対して親和性が高く、EGFRに結合した後に細胞への内在化が起こり、一方でFcフラグメントが欠損しているため、抗体依存性細胞媒介性の細胞傷害や補体依存性の細胞傷害を引き起こす恐れがなく、タンパク質の修飾によってADC薬物の活性が影響されることを回避することができる。サイト特異的な標識抗体を得るため、7D12抗体における第85位のセリン残基(Ser85、S85)、第40位のアラニン残基(Ala40、A40)、第42位のグリシン残基(Gly42、G42)、第15位のグリシン残基(Gly15、G15)、第75位のアラニン残基(Ala75、A75)及び第66位のグリシン残基(Gly66、G66)のうち任意の1つのアミノ酸残基を、システイン残基(Cys、C)に変更した。上記変異が導入された抗体のアミノ酸配列は、それぞれ以下の通りであった。
【0028】
第85位のセリン残基をシステイン残基に変更した抗体のアミノ酸配列は、QVKLEESGGGSVQTGGSLRLTCAASGRTSRSYGMGWFRQAPGKEREFVSGISWRGDSTGYADSVKGRFTISRDNAKNTVDLQMNCLKPEDTAIYYCAAAAGSAWYGTLYEYDYWGQGTQVTVSSであり、
第40位のアラニン残基をシステイン残基に変更した抗体のアミノ酸配列は、QVKLEESGGGSVQTGGSLRLTCAASGRTSRSYGMGWFRQCPGKEREFVSGISWRGDSTGYADSVKGRFTISRDNAKNTVDLQMNSLKPEDTAIYYCAAAAGSAWYGTLYEYDYWGQGTQVTVSSであり、
第42位のグリシン残基をシステイン残基に変更した抗体のアミノ酸配列は、QVKLEESGGGSVQTGGSLRLTCAASGRTSRSYGMGWFRQAPCKEREFVSGISWRGDSTGYADSVKGRFTISRDNAKNTVDLQMNSLKPEDTAIYYCAAAAGSAWYGTLYEYDYWGQGTQVTVSSであり、
第15位のグリシン残基をシステイン残基に変更した抗体のアミノ酸配列は、QVKLEESGGGSVQTCGSLRLTCAASGRTSRSYGMGWFRQAPGKEREFVSGISWRGDSTGYADSVKGRFTISRDNAKNTVDLQMNSLKPEDTAIYYCAAAAGSAWYGTLYEYDYWGQGTQVTVSSであり、
第75位のアラニン残基をシステイン残基に変更した抗体のアミノ酸配列は、QVKLEESGGGSVQTGGSLRLTCAASGRTSRSYGMGWFRQAPGKEREFVSGISWRGDSTGYADSVKGRFTISRDNCKNTVDLQMNSLKPEDTAIYYCAAAAGSAWYGTLYEYDYWGQGTQVTVSSであり、
第66位のグリシン残基をシステイン残基に変更した抗体のアミノ酸配列は、QVKLEESGGGSVQTGGSLRLTCAASGRTSRSYGMGWFRQAPGKEREFVSGISWRGDSTGYADSVKCRFTISRDNAKNTVDLQMNSLKPEDTAIYYCAAAAGSAWYGTLYEYDYWGQGTQVTVSSであった。
【0029】
本発明の7D12抗体において、好ましい変異サイトは第85位であり、第85位へ変異を導入する理由としては、1)中央領域に位置し、N末端近傍の抗原結合領域から遠く、2)溶剤が接触可能なサイトとして修飾しやすい特性があり、3)Loop領域に位置し、タンパク質の四次構造に与える影響を最小限に抑えることができるためである。
【0030】
モノクローナル抗体Trastuzumabへの変異導入は、以下のように行われた。つまり、本実施例ではモノクローナル抗体Trastuzumabをリード抗体とし、サイト特異的な標識抗体を得るため、Trastuzumab抗体の重鎖における第121位のアラニン残基(Ala121、A121)をシステイン残基(Cys、C)に変更した。上記変異が導入された抗体のアミノ酸配列は、以下の通りであった。
【0031】
変異が導入されたTrastuzumab抗体の重鎖アミノ酸配列は、第121位のアラニン残基をシステイン残基に変更した場合、H-GAMMA1がEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSCSTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGであった。
【0032】
本発明の抗体は、変異を導入することで立体構造からして薬物と結合しやすくなるが、変異サイトや導入されたアミノ酸残基については上述の態様に限らず、一部の実施形態では実際需要に合わせて他のサイトに変異を導入し、若しくは他のアミノ酸残基に変更することも可能である。
【0033】
1.3)変異抗体と薬物の接合
本実施例では、上記変異抗体と抗腫瘍毒性を示す低分子薬物を接合し、ここで抗腫瘍毒性を示す低分子薬物としては、チューブリン阻害剤およびDNA損傷剤を含む。チューブリン阻害剤としては、例えばマイタンシノイド(Maytansinoids、DM1及びDM4)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、タキソール、タキサン系試薬、チューブライシン(tubulysin)などが挙げられ、DNA損傷剤としては、例えばドキソルビシン(doxorubicin)、カリケアミシン(calicheamicin)、デュオカルマイシン(Duocarmycin)、カンプトテシン、ピロロベンゾジアゼピン(pyrrolobenzodiazepines)などが挙げられる。
【0034】
本実施例では、説明の便宜上、ADC薬物の抗体部分として変異が導入された7D12抗体を用い、抗腫瘍毒性を示す低分子薬物としてマレイミドカプロン酸-MMAF(Mc-MMAF)を用いたが、以下で説明する操作や処理は、他の抗体および抗腫瘍毒性を示す低分子薬物にも支障なく適用可能であることを理解されたい。MMAFは、マレイミドとチオール基の直交反応を利用して変異抗体7D12に接合され、具体的には、以下の通りにして抗体分子に抗腫瘍毒性を示す低分子薬物を接合した。
【0035】
まず、変異抗体7D12を、5mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(Thermo Fisher Scientific社製、以下では「TCEP」とも称する)で室温、約30分間処理することで変異抗体7D12のチオール基を還元し、そして1mMのEDTAを含むPBS溶液に置き換えてTCEPを取り除いた。タンパク質溶液に5eqのmc-MMAFを加えて4℃で一晩静置することにより接合反応を行い、最後に溶液を入れ替えて余った抗腫瘍毒性を示す低分子薬物を除去することにより、タンパク質の混合液を得た。得られたタンパク質の混合液については、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(以下、「MALDI-TOFMS」とも称する)を利用して分子量を測定した。図2は、本実施例に係る7D12-MMAF-LPETG-His6のMALDI-TOFMSスペクトルであり、図2に示すように、変異抗体7D12は、ほぼ全てがMMAFと接合して7D12-MMAF抗体薬物複合体を形成した。
【0036】
1.4)標識抗体薬物複合体
抗体薬物複合体の内在化状態を監視するため、蛍光分子を用いて本発明の抗体薬物複合体を標識するのが好ましく、前記蛍光分子としては、ローダミン色素(Rhodamine)、CY3色素(Cyanine3)、テキサスレッド色素(Texas Red)からなる群より選ばれる任意の1種が挙げられる。
【0037】
本発明の標識方法については、説明の便宜上、引続き7D12抗体を例として説明するが、7D12抗体に限らず、本発明の標識方法は他の抗体にも適用可能である。
【0038】
本実施例において、蛍光分子としてマレイミド(maleimide)-PEG3-テトラメチルローダミン(以下、「TAMRA」とも称する)を用い、TAMRAは、マレイミドとチオール基の直交反応を利用して変異抗体7D12に接合された。蛍光分子の標識は、具体的には、以下の通りに行われた。
【0039】
まず、5mMのTCEP(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、室温で約30分間処理することで変異抗体7D12のチオール基を還元し、そして1mMのEDTAを含むPBS溶液に置き換えてTCEPを取り除いた。タンパク質溶液に5eqのmaleimide-PEG3-TAMRAを加えて4℃で一晩静置することで接合反応を行い、最後に溶液を入れ替えて余った低分子を除去し、7D12-TAMRAを得た。得られたタンパク質は、MALDI-TOFMS法を利用して分子量を測定した。図1は、本実施例に係る7D12-TAMRA-LPETG-His6のMALDI-TOFMSスペクトルであり、図1に示すように、変異抗体7D12は、ほぼ全てがTAMRAによって標識された。
【0040】
実施例2:機能性ポリペプチドの修飾
本発明に係る一部の実施例において、機能性ポリペプチドを用いて本発明の抗体薬物複合体を修飾し、前記機能性ポリペプチドとしてリソソーム選別ペプチド(Lysosome-sorting peptide、LSP)、細胞膜透過性ペプチド(cell-penetrating peptide、CPP、例えばTAT又はR)、及びリソソーム選別ペプチドと細胞膜透過性ペプチドとで形成された組成物であるTAT-LSP及びR-LSPが挙げられ、そのうちLSP、TAT、R、TAT-LSPおよびR-LSPのアミノ酸配列は、図3に示された通りであった。
【0041】
前記リソソーム選別ペプチドとしては、NPXY、YXXφ、[DE]XXXL[LI]、DXXLL、NPFXD、NPFXXDからなる群より選ばれる任意の1種が挙げられ、そのうちXは、任意のアミノ酸残基であり、φは、任意のサイズの大きな疎水性側鎖を有するアミノ酸残基であり、Nはアスパラギンであり、Pはプロリンであり、Yはチロシンであり、Eはグルタミン酸であり、Lはロイシンであり、Iはイソロイシンであり、Fはフェニルアラニンであり、Dはアスパラギン酸であり、[DE]は、アスパラギン酸及びグルタミン酸のうち任意の1種であり、[LI]は、ロイシン及びイソロイシンのうち任意の1種である。
【0042】
前記細胞膜透過性ペプチドは、カチオン性膜透過ペプチド、両親媒性膜透過ペプチド、疎水性膜透過ペプチドからなる群より選ばれる任意の1種である。
【0043】
前記カチオン性膜透過ペプチド及びそのアミノ酸配列としては、以下のものが挙げられ、そのうちポリアルギニンは、アミノ酸配列がRnで表され、そのうちnは、1以上の整数であり、HIV-TATは、アミノ酸配列がYGRKKRRQRRRであり、DPV1047は、アミノ酸配列がVKRGLKLRHVRPRVTRMDVであり、Penetratinは、アミノ酸配列がRQIKIWFQNRRMKWKKであった。
【0044】
また、前記両親媒性膜透過ペプチド及びそのアミノ酸配列としては、以下のものが挙げられ、そのうちMPGは、アミノ酸配列がGALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKKKRKVであり、PVECは、アミノ酸配列がLLIILRRRIRKQAHAHSKであり、MAPは、アミノ酸配列がKLALKLALKALKAALKLAであり、Pept-1は、アミノ酸配列がKETWWETWWTEWSQPKKKRKVであり、Transportanは、アミノ酸配列がGWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKILであり、P28は、アミノ酸配列がLSTAADMQGVVTDGMASGLDKDYLKPDDであった。
【0045】
また、前記疎水性膜透過ペプチド及びそのアミノ酸配列としては、以下のものが挙げられ、そのうちC105Yは、アミノ酸配列がCSIPPEVKFNKPFVYLIであり、PFVYLIは、アミノ酸配列がPFVYLIであり、Pep-1は、アミノ酸配列がSDLWEMMMVSLACQYであった。
【0046】
前記機能性ポリペプチドは、トランスペプチダーゼや遺伝子工学の手段を利用して前記抗体のC末端に付けることができ、具体的には、以下の工程により付けられる。
【0047】
機能性ポリペプチドの付加による抗体構造への影響を軽減する観点から、トランスペプチダーゼを用い且つペプチド結合を介して機能性ポリペプチドを変異抗体のC末端に付けることができ、このとき遺伝子工学を利用して抗体のC末端にトランスペプチダーゼの識別配列LPETGを付け、そして機能性ポリペプチド配列のN末端にグリシンオリゴマーGGGを添加することを含む。
【0048】
具体的には、以下の通り、変異抗体にLPETG配列および6×Hisタグを付けた。まず、変異抗体7D12-S85CのC末端にLPETG配列及び6×Hisタグを付け、得られたアミノ酸配列は、QVKLEESGGGSVQTGGSLRLTCAASGRTSRSYGMGWFRQAPGKEREFVSGISWRGDSTGYADSVKGRFTISRDNAKNTVDLQMNCLKPEDTAIYYCAAAAGSAWYGTLYEYDYWGQGTQVTVSSLPETGLEHHHHHHであった。
【0049】
上述の7D12-S85C-LPETG-His6を、大腸菌BL21(DE3)株において発現させた後、Ni-NTAカラムを用いて精製した。具体的には、平衡化バッファ(400mMのNaCl、50mMのTris-HCl、20mMのイミダゾール、pH8.0)を用いてNi-NTAカラムを平衡化処理した後、菌体溶解物の上澄み液を取ってカラムに注入した。そして、再び平衡化バッファを用いて非特異的に結合したタンパク質を洗い流し、最後に200mMのイミダゾールを含む溶出バッファを用いて目的タンパク質を溶出した。溶出液を集めて回収し、溶液を新たに入れ替えてBCA法を利用してタンパク質の濃度を測定したところ、変異型タンパク質および野生型タンパク質が収率において明らかな差がないことが確認できた。
【0050】
機能性ポリペプチドの修飾は、以下の通りに行われた。本実施例において、トランスペプチダーゼとして黄色ブドウ球菌由来のトランスペプチダーゼA(SortaseA)の切断断片SrtAΔN59を用い、SrtAΔN59のアミノ酸配列がQAKPQIPKDKSKVAGYIEIPDADIKEPVYPGPATPEQLNRGVSFAEENESLDDQNISIAGHTFIDRPNYQFTNLKAAKKGSMVYFKVGNETRKYKMTSIRDVKPTDVGVLDEQKGKDKQLTLITCDDYNEKTGVWEKRKIFVATEVKLEHHHHHHであり、通常の通りにしてSrtAΔN59を発現、精製した。一方、ペプチド転移反応に用いる求核性基質としてGGG-LSP、GGG-R、GGG-R-LSP、GGG-TAT、GGG-TAT-LSPは、標準的なペプチド固相合成法を利用して合成した。最後に、ペプチド転移反応は、SrtAΔN59作業バッファ(150mMのNaCl、50mMのTris-HCl、pH7.5)において行われ、反応系には5eqのSrtAΔN59と10eqのポリペプチド基質を含み、さらに、1eqの7D12-TAMRA-LPETG-His6、7D12-MMAF-LPETG-His6、Trastuzumab-TAMRA-LPETG-His6及びTrastuzumab-MMAF-LPETG-His6のうち何れか1種を添加した。ペプチド転移反応は、室温下で一晩静置することにより行われ、反応が終了すると、反応混合液をNi-NTAカラムに注入して精製した。上述の処理によってペプチドが付加された抗体は、6×Hisタグが脱落してNiカラムに結合できず、一方でペプチドが付加されていない抗体は、SrtAΔN59と共にNiカラムに吸着するため、反応産物を低濃度のイミダゾールで溶出して回収することができる。回収されたタンパク質の産物をSDS-PAGEおよびHis抗体ウエスタンブロットによって解析したところ、試料の注入量が同じであった場合、ペプチドが付加された産物がHis抗体ウエスタンブロットにおいてバンドとして現れなかったことが確認できた。変量を統一させ且つ抗体薬物複合体に対する6×Hisタグの影響を軽減する観点から、上述の処理と同様にして7D12-TAMRA-LPETG-His6、7D12-MMAF-LPETG-His6、Trastuzumab-TAMRA-LPETG-His6及びTrastuzumab-MMAF-LPETG-His6にそれぞれGGGを付け、7D12-TAMRA-GGG、7D12-MMAF-GGG、Trastuzumab-TAMRA-GGG及びTrastuzumab-MMAF-GGGを得て対照物とした。図4a~図4bに示すように、図4aは、7D12-ポリペプチド複合体のポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)及びHis抗体ウエスタンブロットの結果であり、そのうちMは、サイズマーカーであり、レーン1は、7D12-TAMRA-LPETG-His6であり、レーン2は、7D12-TAMRA-GGGであり、レーン3は、7D12-TAMRA-LSPであり、レーン4は、7D12-TAMRA-TATであり、レーン5は、7D12-TAMRA-TAT-LSPであり、レーン6は、7D12-TAMRA-Rであり、レーン7は、7D12-TAMRA-R-LSPであり、レーン8は、7D12-MMAF-LPETG-His6であり、レーン9は、7D12-MMAF-GGGであり、レーン10は、7D12-MMAF-LSPであり、レーン11は、7D12-MMAF-TATであり、レーン12は、7D12-MMAF-TAT-LSPであり、レーン13は、7D12-MMAF-Rであり、レーン14は、7D12-MMAF-R-LSPであり、図4bは、Trastuzumab-ポリペプチド複合体のポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)の結果であり、そのうちレーン15は、Trastuzumabであり、レーン16は、Trastuzumab-TAMRA-LSPであり、レーン17は、Trastuzumab-MMAF-LSPであり、レーン18は、Trastuzumab-TAMRA-Rであり、レーン19は、Trastuzumab-MMAF-Rであり、レーン20は、Trastuzumab-TAMRA-R-LSPであり、レーン21は、Trastuzumab-MMAF-R-LSPであった。
【0051】
また、遺伝子組換え技術を利用して機能性ポリペプチドを前記抗体のC末端に付け、具体的には、以下のように行われた。
【0052】
まず、プラスミドを作製した。具体的には、pET28a-7D12-S85C-LPETG-His6プラスミドをテンプレートとし、N末端にTEVプロテアーゼ識別用のGAAAACCTGTACTTCCAGGGA配列を加え、同時に、LPETG-His6の代わりにC末端に融合ペプチドの配列を加えた。C-末端については、フォワードプライマーとして5’-GGAATTCCATATGGAAAACCTGTACTTCCAGGGACAGGTGAAACTGGAGGAAAGCG-3’及びリバースプライマーとして5’-CCGCTCGAGTCAATAGCCCGGGTTGCCGCTGCCTGCTAACGGTCACTTGGGTACC-3’を用いてPCR反応を行うことにより、pET28a-7D12-S85C-Peptideプラスミドを作製した。
【0053】
タンパク質を発現するに当たって、pET28a-7D12-S85C-Peptideプラスミドを導入した大腸菌BL-21のグリセロールストック10μLを、50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地10mLに加え、恒温シェーカーにおいて37℃、220rpmの条件下で一晩培養することにより、大量発現用のシード液を得た。50μg/mLのカナマイシンを含む液体LB培地を新たに調製し、シード液10mLを該液体LB培地1Lに接種し、37℃のシェーカーにおいて約8時間かけて振とう培養した。紫外可視分光光度計を用いて培養液のOD600値を測定し、OD600値が0.5~0.6に達した時点で誘導剤としてIPTGを終濃度1mMとなるように添加し、25℃において引続き約16時間かけて培養を行った。
【0054】
7D12-S85C-Peptideタンパク質は、以下の通りに精製、回収した。具体的には、培養液を床置き型の高速遠心機に設置し、水平ロータを用いて4℃、5000rpmの条件下で30分間遠心することにより菌体を回収し、上澄み液を捨てた。適量のNi-NTAバッファAを用いて菌体を再懸濁し、このとき培養物1L当たりにNi-NTAバッファAを約15mL用いた。菌体の懸濁液を氷浴に置き、プローブ直径6mm、出力260Wの超音波破砕機を用いて菌体を破砕し、菌体の懸濁液に粘り気がなく且つ半透明で均一な溶液となるようにした。得られた破砕液については、固定角ロータを用いて4℃、18000rpmの条件下で30分間高速遠心することで未破砕の菌体、菌体残渣および不溶性タンパク質を取り除いた。7D12-S85Cタンパク質は、ニッケルカラムを用いて精製し、このときカラム容量約20倍のNi-NTAバッファAを用いてカラムを洗い流し、ニッケルカラムを通過したNi-NTAバッファAを全部回収することにより、カラムに非特異に結合したタンパク質不純物を回収、測定した。そして、イミダゾール濃度20mM、50mM、100mM、200mM、400mM、800mMのNi-NTAバッファBを用いてニッケルカラムに結合した目的タンパク質を溶出し、溶出画分をそれぞれ回収してSDS-PAGE電気泳動で解析を行った。
【0055】
SDS-PAGE電気泳動解析の結果に基づき、目的タンパク質の濃度が比較的高い画分を集めて濃縮チューブに入れ、5mMのβ-MEを含むPBS(pH7.4)を用いてイミダゾールを含む高塩濃度のNi-NTAバッファを置き換え、タンパク質溶液におけるイミダゾール濃度が1mM以下になるようにした。このような処理を4回繰り返し、同時にタンパク質溶液を1.5mLの容量に濃縮し、そしてNanoDropを用いて濃縮液における7D12-S85Cタンパク質の濃度を測定した。
【0056】
3)タンパク質と蛍光分子又は毒性低分子の接合
本実施例では、Maleimide-PEG3-TAMRAを用いて7D12-S85C-Peptideを標識した。具体的には、タンパク質の分子内又は分子間ジスルフィド結合を還元するためチオール基還元剤としてTCEPを用い、7D12-S85Cタンパク質に5mMのTCEPを含むPBS溶液(pH7.4)を加えて室温、30分間インキュベートした。そして、タンパク質を濃縮チューブ(カットオフ値:10kDa)に加えて3800rpm、4℃の条件下で遠心し、1mMのEDTAを含むPBS溶液(pH7.4)を用いて溶液を入れ替えた。溶液を入れ替えた後のタンパク質を1.5mLのEPチューブに入れ、NanoDropを用いてタンパク質の濃度を測定した。次に、標識反応を行い、このとき反応系の総体積を1mLとし、タンパク質の濃度を1mg/mLとした上で、適量のDMSOに溶かしたmaleimide-PEG3-TAMRAをタンパク質の5倍量になるように加えた。蛍光分子とタンパク質を混ぜ合わせた後、4℃のシェーカーで遮光しながら2時間インキュベートした。反応が終了すると、PBS(pH7.4)で溶液を置き換えて蛍光分子を取り除き、NanoDropを用いてタンパク質の濃度を測定した。反応済みの7D12-TAMRAタンパク質は、次の処理に備えて-80℃の超低温フリーザーに保存した。
【0057】
7D12-S85C-Peptideとmc-MMAFの接合は、以下のように行われた。具体的には、7D12-S85Cタンパク質に5mMのTCEPを含むPBS溶液(pH7.4)を加えて室温、30分間インキュベートした後、タンパク質を濃縮チューブ(カットオフ値:10kDa)に入れ、1mMのEDTAを含むPBS(pH7.4)を用いて3800rpm、4℃の条件下で遠心することで溶液を入れ替えた。溶液を入れ替えた後のタンパク質を1.5mLのEPチューブに移し、NanoDropを用いて濃度を測定した。次に、標識反応を行い、このとき反応系の容量を1mLとし、タンパク質の濃度を1mg/mLとした上で、適量のDMSOに溶かしたmc-MMAFをタンパク質の5倍量になるように加えた。蛍光分子とタンパク質を混ぜ合わせた後、4℃のシェーカーで遮光しながら2時間インキュベートした。反応が終了すると、PBS(pH7.4)で溶液を置き換えて薬物分子を取り除き、NanoDropを用いてタンパク質の濃度を測定した。反応済みの7D12-MMAFタンパク質は、次の処理に備えて-80℃の超低温フリーザーに保存した。
【0058】
本実施例では、理解の便宜上、7D12-MMAF、Trastuzumab-MMAFを例として説明したが、本実施例の修飾方法はこれらの分子に限らず、他の抗体と抗腫瘍毒性を示す分子とで形成される抗体薬物複合体にも適用可能である。
【0059】
ここで注意されたいこととして、本発明においてトランスペプチダーゼを用いて機能性ポリペプチドを前記抗体のC末端に付加する際、機能性ポリペプチドによる修飾および薬物分子との接合の順番については特に制限がなく、つまり、変異抗体は、機能性ポリペプチドで修飾してから抗腫瘍毒性を示す低分子薬物との接合を行ってもよく、抗腫瘍毒性を示す低分子薬物と接合してから機能性ポリペプチドで修飾しても構わず、何れの処理順番であっても本発明の抗体薬物複合体に影響を与えることはない。一方、本発明において遺伝子組換え手段を利用して機能性ポリペプチドを前記抗体のC末端に付加する際、まず機能性ポリペプチドで変異抗体修飾し、そして抗腫瘍毒性を示す低分子薬物と接合することが要求される。
【0060】
実施例3:リソソーム指向性の低分子による抗体薬物複合体の修飾
本発明の抗体薬物複合体は、抗体のC末端に機能性ポリペプチドを付けることで修飾すする以外、リソソーム指向性の低分子を用いて修飾することもできる。
【0061】
前記リソソーム指向性の低分子としては、pH感受性の官能基又は糖基を含む化合物が挙げられ、前記pH感受性の官能基は、スルホン酸基、4-モルホリニル基、2-モルホリニルエチルアミノエチル基、メトキシポリエチレングリコール基からなる群より選ばれる任意の1種であり、前記糖基は、グルコシル基、マンノシル基、6-リン酸-マンノシル基、ガラクトシル基からなる群より選ばれる任意の1種である。具体的には、リソソーム指向性の低分子としては、X-Y-Zの構造を有する分子が挙げられ、そのうちXは、下記式の官能基から選ばれ、
Yは、下記式の官能基から選ばれ、
Zは、下記式の官能基から選ばれ、
上記式において、波線は、結合位置を意味し、星記号は、該位置の炭素原子がエピマーのうち何れか1種であるか、又は2種以上のエピマーの混合物であることを意味し、n3及びn4は、1以上の整数であり、n5、n6、n7、n8及びn9は、0以上の整数であり、そのうちn5及びn6は、それぞれ独立して同じであるか、又は異なる整数であり、n7、n8及びn9もそれぞれ独立して同じであるか、又は異なる整数である。
【0062】
前記リソソーム指向性の低分子は、通常、抗体のアミノ酸側鎖に接続される。アミノ酸側鎖としては、天然のアミノ酸側鎖又は生体直交性の官能基が挙げられ、そのうち天然のアミノ酸側鎖は、リジン側鎖、システイン側鎖からなる群より選ばれる任意の1種であり、生体直交性の官能基は、生体直交反応を起こしうるアジド基、アルキニル基、ホルミル基、ケトン基、フルオロスルホン酸エステル基からなる群より選ばれる任意の1種であり、生体直交性の官能基は、遺伝子増幅技術又は酵素反応を利用して導入することができる。
【0063】
以下において、理解の便宜上、図3に示すリソソーム指向性の低分子1~9を例として説明する。リソソーム指向性の低分子による抗体薬物複合体の修飾は、具体的には、以下のように行われた。
【0064】
本実施例において、前記リソソーム指向性の低分子は、それぞれMMAF標識又はTAMRA標識の抗体7D12-MMAF又は7D12-TAMRAに接合される。
【0065】
具体的には、以下の通りにリソソーム指向性の低分子を抗体に接合した。まず、低分子をDMFに溶かし、2eqのEDC/NHSを更に加えて室温で6時間インキュベートすることにより活性化させ、6時間後に真空濃縮機を用いてDMFを取り除いた。溶剤を完全に蒸発させた後、PBS溶液を加えて再び溶かし、7D12-TAMRA、7D12-MMAFを加えて4℃で一晩処理することにより接合反応を行った。反応が終わると、限外ろ過することによって余った低分子を除去し、MALDI-TOFMSを利用して得られたタンパク質を解析した。MALDI-TOFMSの解析結果は、図5図14に示す。
【0066】
図5図14に示すように、サイト特異的な接合でないため、得られたタンパク質は混合物の形態であるが、タンパク質1分子当たりに1分子の低分子が付けられていることが確認できた。このように、結果として合計10種類の複合体が得られ、それぞれ7D12-MMAF-低分子複合体(7D12-MMAF-SA、図10)、7D12-MMAF-morpholine(図12)、7D12-MMAF-EtNH-morpholine(図13)、7D12-MMAF-PEG3(図11)、7D12-MMAF-glucose(図14)、7D12-TAMRA-低分子複合体(7D12-TAMRA-SA、図5)、7D12-TAMRA-morpholine(図7)、7D12-TAMRA-EtNH-morpholine(図8)、7D12-TAMRA-PEG3(図6)及び7D12-TAMRA-glucose(図9)であった。
【0067】
本発明において、リソソーム指向性の低分子による修飾および薬物接合の処理順番については特に制限がなく、本発明の変異抗体は、リソソーム指向性の低分子を用いて修飾してから抗腫瘍毒性を示す低分子薬物を接合してもよく、抗腫瘍毒性を示す低分子薬物を接合してからリソソーム指向性の低分子を用いて修飾を行っても構わず、リソソーム指向性の低分子による修飾および薬物接合のうちどちらを優先して行うかによって本発明の抗体薬物複合体の特性に影響を与えることはない。
【0068】
実施例4
本実施例において、フローサイトメトリーを利用して機能性ポリペプチド又はリソソーム指向性の低分子を用いて修飾した抗体薬物複合体の内在化状況を監視し、具体的には、以下の通りに行われた。
【0069】
ATCC由来のA431、BT474、MCF-7、HEK293T細胞は、中国科学院上海細胞バンクから購入した。10%のウシ胎児血清を添加したDMEM培地(米国Gibco社製)を用いて細胞培養を行い、培地に100U/mLのペニシリンおよび100g/mLのストレプトマイシンを更に添加した。細胞培養は、37℃、二酸化炭素5%の湿潤環境下で行われ、細胞形態が正常であり、成長状態が良好であった。
【0070】
抗体自体の特異性、選択性および薬物動態に加え、ADC薬物は、抗原の細胞内動態に依存してその薬効を発揮するため、修飾済みの抗体薬物複合体の内在化状況については、フローサイトメトリーを利用して監視することにした。具体的には、蛍光分子TAMRAで7D12抗体を修飾し、修飾抗体の異なる時点における内在化状況をフローサイトメトリーを利用して監視した。
【0071】
具体的には、7D12-TAMRA、7D12-TAMRA-LSP、7D12-TAMRA-R、7D12-TAMRA-R-LSP、7D12-TAMRA-TATおよび7D12-TAMRA-glucoseをそれぞれ用いて7D12複合体を修飾した後、無血清培地を用いて修飾済みの7D12-TAMRAを希釈して終濃度が2μMになるようにし、A431細胞と共にインキュベートした。細胞膜に結合した抗体を酸溶液で洗い流した後、フローサイトメトリーを用い、異なる時点で定量分析を行った。
【0072】
フローサイトメトリーによる分析、並びに細胞平均蛍光値を分析した結果、上記7D12複合体の内在化終点は、修飾が異なるにも拘らず互いに似ている特性を示し、4時間を目処に終点に達することが確認できた。したがって、後の実験ではインキュベート時間を4時間とし、インキュベートした後にリソソームとの共局在具合を観察することにした。ただし、未修飾の複合体又は他の修飾複合体に比べ、R修飾の複合体は、細胞への内在化がより顕著であり、かつ内在化の態勢がより強くて迅速であることも確認できた。一方、他の機能性ペプチドについては、同じ時間においてピークの移動が顕著でなく、抗体薬物複合体の細胞内への移動が少なく、細胞平均蛍光値が低い数値を維持したまま安定化する傾向が見られた。なお、R及びR-LSPの両者では顕著な差がなく、Rが細胞透過性を示す分子としてうまく機能し、かつ機能性ペプチドの付加による影響を殆ど受けないことが確認できた。これらの結果は、図15および図16に示された通りであり、図15は、7D12複合体の内在化状況を示し、フローサイトメトリー解析図に基づいて7D12複合体の異なる時点における内在化状況を確認することができ、図16は、7D12複合体がA431細胞内へ移動する際の平均蛍光強度の変化を時系列に示し、3回実験の平均値±SEMを取って数値表示を行った。
【0073】
実施例5
本実施例では、機能性ポリペプチド又はリソソーム指向性の低分子で修飾した抗体薬物複合体のリソソーム指向効率を検証した。
【0074】
ADC薬物が内在化するときの輸送及びプロセシング機構は、通常、以下の通りである。つまり、ADC薬物が表面腫瘍抗原に結合することにより内在化を起こして細胞内へ進入し、細胞内においてプロセシングを経てリソソームと融合する。リソソームにおいては、特異的なプロテアーゼ(例えば、カテプシンB)の消化又はADC薬物の分解によって接合リンカーが切断され、薬物が放出される。放出された薬物は、リソソーム膜を通過して細胞質に到達し、やがてその標的であるチューブリンやDNAに結合し、最終的には細胞死を引き起こす。したがって、ADC薬物が内在化した後にリソソームに飲み込まれ、かつリソソームにおいて蓄積されるかどうかは、その薬効発揮に極めて重要である。
【0075】
上述のように、フローサイトメトリーを利用して内在化動態を観察した結果に基づき、4時間を終点とし、修飾済みの抗体とリソソームの共局在具合を確認した。抗体と細胞を4時間インキュベートした後、共焦点レーザー顕微鏡を用いて修飾した7D12複合体及びTrastuzumab複合体のリソソーム指向状況をそれぞれ観察し、このときLysoTracker Green蛍光プローブを用いて細胞のリソソームを標識し、蛍光分子TAMRAを用いて7D12複合体及びTrastuzumab複合体を標識した。このとき、比較可能な画像セットにおいて画像サイズおよび撮像条件が何れも同じであり、かつ全部画像に対して同じ閾値を設定して定量分析を行った。
【0076】
図17a~図17bは、7D12複合体の分析結果であり、7D12複合体の内在化およびリソソームを経由して輸送する状況を示す。そのうち図17aは、7D12-TAMRA、7D12-TAMRA-LSP、7D12-TAMRA-R、7D12-TAMRA-R-LSP、7D12-TAMRA-TAT、7D12-TAMRA-TAT-LSPの共焦点顕微鏡写真であり、左側の列は、リソソームであり、中間の列は、7D12結合シグナルであり、右側の列は、左側の列と中間の列を重ね合わせたマージ写真である。また、図17bは、7D12-TAMRA、7D12-TAMRA-SA、7D12-TAMRA-PEG3、7D12-TAMRA-morpholine、7D12-TAMRA-EtNH-morpholine、7D12-TAMRA-glucoseの共焦点顕微鏡写真であり、左側の列は、リソソームであり、中間の列は、7D12結合シグナルであり、右側の列は、左側の列と中間の列を重ね合わせたマージ写真である。図18aは、図17aに示す複合体とリソソームのピアソン相関係数を示す図であり、図18bは、図17bに示す複合体とリソソームのピアソン相関係数を示す図であり、平均値±SEMを以って数値表示を行い、エラーバーは、SEM(n=20)を表し、nsは、有意差がなかった場合を表し、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001であった。
【0077】
Trastuzumab複合体の測定において、さらに、Hoechst33342を用いて細胞核染色を行った。図17cは、Trastuzumab複合体の分析結果であり、Trastuzumab複合体の内在化およびリソソームを経由して輸送する状況を示す。そのうち図17cは、Trastuzumab-TAMRA、Trastuzumab-TAMRA-R、Trastuzumab-TAMRA-R-LSP及びTrastuzumab-TAMRA-LSPの共焦点顕微鏡写真であり、第1列は、細胞核をHoechst33342で染めた結果を示し、第2列は、リソソームであり、第3列は、Trastuzumab結合シグナルであり、第4列は、第1列、第2列および第3列を重ね合わせたマージ写真である。図18cは、図17cに示す複合体とリソソームのピアソン相関係数を示す図であり、平均値±SEMを以って数値表示を行い、エラーバーは、SEM(n=20)を表し、nsは、有意差がなかった場合を表し、***P<0.001、****P<0.0001であった。
【0078】
7D12複合体は、EGFRに対する抗原特異性を示した。HEK293T細胞系は、EGFR低発現の陰性対照であり、7D12複合体は、HEK293T細胞膜において特異的な結合を示さなかった。次に、異なる修飾法による共局在への影響を検討したところ、7D12複合体を生細胞のリソソームに特異的に導くためには、細胞膜透過性ペプチドRと共にLSPを用いて修飾したほうが特に有効であると確認できた。また、LSP添加又は非添加の場合、細胞膜透過性ペプチドで修飾された複合体とリソソームとの重なり度合いに顕著な差があり、細胞膜透過性ペプチドがナノボディの細胞進入に有益であり、一方でLSPが複合体のリソソーム識別に有益であることが確認できた。なお、EtNH-モルホリン、グルコースなど、既存のリソソーム指向性の低分子を用いて修飾した複合体もリソソームとの共局在に優れていることが確認でき、これらの低分子をナノボディに適用してそのリソソーム指向性を高める探索は、前例がなく本発明者によって初めて成し遂げた。
【0079】
実施例6
本実施例では、抗体薬物複合体を機能性ポリペプチド又はリソソーム指向性の低分子で修飾した場合、抗体薬物複合体の内在化にどのような影響を与えるかについて検討を行った。
【0080】
実施例4においてリソソームとの共局在を確認した後、内在化によって細胞に取り込まれた7D12複合体の濃度を具体的な数値に基づいて定量評価することにより、異なる修飾による抗体の内在化状況を確認し、並びに抗体薬物複合体が内在化し、リソソームに蓄積する状況を確認した。
【0081】
細胞に取り込まれた抗体薬物複合体を定量的に評価するため、図19aに示すようなTAMRA標識抗体の濃度と蛍光強度実測値の線形関係を表わすグラフを作成した。検量線(n=3、SDはエラーバーで表される)が厳密な線形関係(R2=0.9936)を呈することが測定結果から確認できたため、蛍光強度実測定値を7D12-TAMRAの濃度に変換する際には検量線を利用した。そして、修飾された7D12の内在化状況を定量的に評価するため、7D12複合体とA431細胞を12ウェルプレートにおいて加え、終濃度が2μMになるようにしてから4時間インキュベートした。酸溶液で細胞を洗い流すことにより細胞表面に結合した抗体を除去し、細胞を消化して上澄みを回収し、蛍光測定法を利用して蛍光強度を計測した。検量線の線形関係に基づき、細胞に取り込まれた抗体量を算出し、結果を図19bに示す。図19bにおいて、平均値±SEM(n=3)で数値表示を行い、**P<0.01であった。
【0082】
測定結果に示された通り、未修飾の7D12に比べ、R-LSPで修飾した7D12は、内在化した抗体の濃度がより高く、R修飾によって抗体の細胞への内在化が亢進されることが実証された。一方、グルコース修飾は、7D12の内在化に対して明らかな影響を示さなかった。
【0083】
実施例7
本実施例では、機能性ポリペプチド又はリソソーム指向性の低分子で修飾した抗体薬物複合体の内在化機構を検討した。
【0084】
細胞のエンドサイトーシスは、複雑な機構を利用し且つ異なる経路に頼って行われ、タンパク質-タンパク質の相互作用、タンパク質-脂質の相互作用が絡む大型のネットワークである。クラスリン依存性のエンドサイトーシスは、最初に解明され且つ最も特徴的なエンドサイトーシス機構であり、形質膜を起点にしてクラスリン被覆ピットを形成し、それからクラスリン被覆を持つ基質小胞を形成する。クラスリン非依存性の経路は非典型的であり、その機構も完全に解明されておらず、カベオリン依存性のエンドサイトーシスもクラスリン非依存性の経路に絡んでいる。従来の研究により、クラスリン介在性の内在化はリソソームと融合する傾向があり、細胞に飲み込まれたエンドソームが最終的にリソソーム環境において消化され、細胞に再び放出されることが解明されている。一方、カベオリン介在性の内在化は、最初に形成された基質小胞がゴルジ体又は小胞体に飲み込まれて融合する傾向があり、残部が膜の循環を経て細胞外へ放出される。
【0085】
本実施例において、まず7D12複合体の細胞取り込みがエネルギー依存性であるか否かを検討するため、4℃下及び37℃下における7D12複合体の細胞取り込み状況を調べた。機能性ポリペプチド及びリソソーム指向性の低分子で修飾された7D12-TAMRA複合体は、4℃下において細胞取り込みが何れも著しく阻害され、ナノボディの内在化がATP依存性であることが実証された。そして、取り込み機構を究明するためエンドサイトーシス阻害剤としてクロルプロマジン(CPZ)、エチルイソプロピルアミド(EIPA)及びナイスタチン(Nystatin)を用い、ここでクロルプロマジン(CPZ)は、陽イオン両性試薬であり、クラスリン損失を誘導することでクラスリン依存性のエンドサイトーシスを阻害し、エチルイソプロピルアミド(EIPA)は、Na/H交換阻害剤であり、プラズマメンブレンにおいてコレステロールのキレート化を引き起こしてマクロピノサイトーシスを阻害し、ナイスタチン(Nystatin)は、カベオラ依存性のエンドサイトーシスを阻害することができる。細胞とそれぞれの7D12複合体をインキュベートし、このとき阻害剤ごとに使用濃度、インキュベート時間を適宜調整した。未処理組の内在化状況と比べるときの変化を観察することにより、7D12複合体が主にどのような機構を利用して内在化するかを判定した。
【0086】
上記3種類の低分子阻害剤は、何れも7D12複合体の内在化を著しく抑制し、かつ7D12-TAMRA、7D12-TAMRA-LSP及び7D12-TAMRA-morpholineの内在化に対する影響には顕著な差を示さなかった。ただし、7D12-TAMRA-R-LSPの摂取は、主にクロルプロマジンによって阻害され、7D12-TAMRA-TAT-LSPの摂取は、主にナイスタチンによって阻害されることも確認でき、これらの結果を図20に示す。図20は、7D12複合体の内在化に対する温度及びエンドサイトーシス阻害剤の影響を示し、図20に示された通り、7D12-TAMRA-R-LSP及び7D12-TAMRA-TAT-LSPは、それぞれクラスリン依存性のエンドサイトーシス及びカベオリン依存性のエンドサイトーシスを介して細胞に取り込まれ、これらはリソソーム共局在の観察結果と一致した。
【0087】
実施例8
本実施例では、機能性ポリペプチド及びリソソーム指向性の低分子で修飾した抗体薬物複合体の細胞内輸送状況を検討した。
【0088】
カベオリン依存性のエンドサイトーシスは、抗原指向性のADC薬物が感受性を示さない原因のうち1つの可能な原因である。TAT修飾の内在化が主にカベオリン介在性のエンドサイトーシスに依存し、LSP修飾の内在化がクラスリンAP2介在性のエンドサイトーシスに依存することが既に解明されているため、本実施例では、機能性ポリペプチドで修飾された7D12とカベオリン-1又はクラスリンの共局在を検討することにした。
【0089】
まず、A431細胞と7D12複合体をインキュベートした後、一次抗体としてウサギ由来のクラスリン抗体及びカベオリン-1抗体を加え、二次抗体としてFITC標識の抗ウサギ抗体を加えてインキュベートし、そして免疫蛍光分析を行った。
【0090】
図21は、7D12複合体として7D12-TAMRA-LSP、7D12-TAMRA-TAT及び7D12-TAMRA-Rと、クラスリン又はカベオリン-1の共局在状況を示し、このときHoechst33342で細胞核を染め、図には代表的な細胞の画像を示した。図21に示すように、7D12-TAMRA-LSPは、細胞内においてカベオリンと共局在しないが、クラスリンと部分的に共局在し、7D12-TAMRA-TATはクラスリンと共局在せず、カベオリンと共局在することが確認でき、一方で7D12-TAMRA-Rは、クラスリン及びカベオリンと何れも共局在することが確認できた。図22は、7D12複合体として7D12-TAMRA-LSP、7D12-TAMRA-TAT及び7D12-TAMRA-Rとクラスリン又はカベオリン-1のピアソン相関係数を示し、平均値±SEMで数値表示を行い、エラーバーはSEM(n=20)であり、*P<0.05、****P<0.0001であった。図21図22に示すように、クラスリン依存性のエンドサイトーシス及びカベオリン依存性のエンドサイトーシが何れも7D12-TAMRA-Rの内在化に関与していることが確認できた。
【0091】
実施例9
本実施例では、機能性ポリペプチド及びリソソーム指向性の低分子で修飾した抗体薬物複合体の体外薬効を検討した。
【0092】
リソソームを標的とするADC薬物の細胞毒性については、腫瘍細胞の2次元培養モデルを用いて観察した。具体的には、ヒト上皮がんA431細胞株を用いてがん細胞増殖に対する7D12-MMAF複合体の阻害活性を評価し、このとき腫瘍細胞の2次元培養モデルを利用し、濃度の異なるADC薬物を調製してA431細胞を播種した96ウェルプレートに加え、96時間かけて処理した後にcck-8キットを用いて細胞の生存率を測定した。
【0093】
腫瘍細胞の2次元培養モデルを用い、体外において7D12複合体の細胞毒性を評価するに当たって、MMAF、7D12又は濃度の異なる7D12-MMAF複合体で96時間かけてA431細胞を処理した後、MMAF、7D12又は複合体の濃度を横軸とし、細胞生存率を縦軸として図を作成した。図23に示すように、リソソーム指向性の7D12-MMAF複合体ががん細胞に対して高い殺傷力を示し、この結果はリソソーム共局在の結果と一致し、強いリソソーム指向性を示す7D12複合体ががん細胞に対してより高い細胞毒性を示すことが実証された。ここで、7D12-MMAF-R-LSP複合体の殺傷力が最も高く、EC50値が53.74nMであった。低分子で修飾した7D12複合体において、7D12-MMAF-EtNH-morpholineの殺傷力が最も低く、EC50値が117.9nMであった。野生型7D12を用いてA431細胞の同種対照とした場合、顕著な細胞毒性を示さず、ADC活性を確認することができなかった。陰性対照であるHEK293T細胞系において、7D12-MMAF-R-LSPが細胞毒性を示し、その原因として細胞膜透過性ペプチド(CPP)の細胞浸透能力が高く、細胞膜透過性ペプチド(CPP)によって細胞に取り込まれた薬物の量が多く、非特異的な殺傷を引き起こしたことが考えられる。さらに、レーザー共焦点顕微鏡を用い、長時間かけてインキュベートした後にCPPが7D12複合体をEGFR陰性細胞に取り込ませることができるかどうかを観察した。この試験から、6時間又はそれ以上の長時間かけてインキュベートした後でもRで修飾した7D12複合体が陰性細胞に取り込まれることが観察され、CPP修飾による非特異的な細胞毒性が正にそれに起因し、同時に、CPP接合体を用いてナノボディの内在化を図るとき、ナノボディの抗原特異性に対するCPP接合体の影響も考慮する必要があることが示唆された。
【0094】
MMAF、7D12又は本発明に係る複合体のEC50値(nM)は、下記表1に示され、表において平均値±SEM(n=3)で数値表示を行った。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示すように、MMAF及び7D12-MMAFに比べ、修飾済の7D12-MMAF複合体がより効果的に細胞死を誘導することができ、修飾済の7D12-MMAF複合体の細胞毒性が、その内在化およびリソソーム指向性と関連性を示すことが確認できた。一方、機能性ポリペプチドで修飾した7D12複合体において、7D12-MMAF-R-LSPががん細胞の増殖に対して最も高い阻害活性を示し、それに続き阻害活性が高いものがそれぞれ7D12-MMAF-R及び7D12-MMAF-LSPであることが確認できた。また、LSP、R又はR-LSP修飾の複合体に比べ、TAT又はTAT-LSP修飾の複合体はがん細胞に対する殺傷活性が低く、リソソーム指向性の低分子で修飾した7D12複合体において、7D12-MMAF-R-グルコースががん細胞の増殖に対して最も高い阻害活性を示し、それに続き阻害活性が高いものが7D12-MMAF-EtNH-morpholineであった。細胞殺傷の効果については、SA、PEG及びモルホリンで修飾した7D12複合体に顕著な差がなかった。
【0097】
次に、3次元腫瘍スフェロイドモデルを利用してリソソームを標的とするADC薬物の抗腫瘍活性を観察し、具体的には、以下のように行われた。
【0098】
単層培養モデルを利用して体外毒性を評価するに加え、3次元腫瘍スフェロイドモデルを利用してADC薬物の浸透性や薬効を評価することもでき、このとき7D12-TAMRA複合体と6時間インキュベートした後の腫瘍スフェロイドの浸透能力および共局在パターンを観察し、腫瘍スフェロイドの直径が約100μMであった。図24は、3次元腫瘍スフェロイドモデルを用いてリソソーム指向性の7D12複合体の抗腫瘍活性を評価するときの結果を示し、図において上から下へ順に7D12-TAMRA、7D12-TAMRA-R-LSP及び7D12-TAMRA-glucoseで処理したA4313次元腫瘍スフェロイドの共焦点写真である。図24に示すように、余計な修飾が施されていない7D12-TAMRAは、A431腫瘍スフェロイドの核心に浸透せず、表面に発散して着色され且つ殆どリソソームと共局在しないことが確認できた。一方、7D12-TAMRA-R-LSPは、A431スフェロイドに対して高い浸透性を示し、7D12-TAMRA-glucoseは、7D12-TAMRA-R-LSPに比べて若干弱い浸透性を示し、これらの複合体は、リソソーム指向性からして何れも優れた特性を示した。
【0099】
次に、3次元組織モデルを用いて成長抑制試験を行った。具体的には、EGFR発現レベルが異なる3種類の細胞系A431、MCF-7、HEK293Tを用い、3次元スフェロイドの直径が約200μmに達し且つスフェロイドが対称性の球状体になるところまで待ってから修飾が施されたADC薬物を加えた。培地にADC薬物を加えて濃度が0.25nM~2.5μMになるようにし、3次元スフェロイドを10日間かけてインキュベートし、1日ごとにスフェロイドの直径変化を1回記録した。
【0100】
スフェロイド平均直径の変化は、図25図26に示され、そのうち図25は、濃度の異なる7D12複合体で処理した後の腫瘍スフェロイドの成長に対する阻害効果を示し、数値表示に平均値±SEM(n=3)を用い、図26は、A431腫瘍スフェロイドのサイズが所定濃度の7D12複合体の存在下で時間推移につれて変化する態様を示す典型的な写真である。図25図26に示すように、7D12-MMAFの場合に比べ、7D12-MMAF-R-LSPがA431細胞の3次元スフェロイドに対して最も強い成長阻害を示し、7D12-MMAF-glucoseも腫瘍スフェロイドに対して強い成長阻害を示すことが確認でき、これらの結果は、2次元腫瘍培養モデルで観察した結果と一致した。EGFR高発現のA431細胞と異なり、MCF-7及びHEK293Tは、ADC薬物の特異性を説明するために用いられる。同じ濃度のADC薬物でこれらの3次元スフェロイドを処理した場合、中度レベルでEGFRを発現するMCF-7の3次元スフェロイドは、成長状況が微弱ながらADC薬物によって阻害され、一方でHEK293Tの3次元スフェロイドは、成長状況がADC薬物の影響を受けることはなかった。これらの結果は、ADC薬物の特異的な抗原を標的とする特性を再び実証し、かつ体内環境に近似した腫瘍3次元スフェロイドの成長に対して優れた阻害活性を示し、ADC薬物に対してリソソーム指向性の修飾を施すことでより優れた生体活性が得られることが実証された。
【0101】
以上では、抗体のC末端に機能性ポリペプチドを付け、若しくは抗体にリソソーム指向性の低分子を付けてリソソームを標的とする抗体薬物複合体(ADCs)を作製することに関して説明を行い、機能性ポリペプチドで修飾しても、リソソーム指向性の低分子で修飾しても何れもADC薬物のリソソーム内における蓄積状況を高めることができた。また、R-LSP機能性ポリペプチドで修飾されたADC薬物は、細胞への内在化が亢進され、内在化速度がより高くなっており、リソソームへの蓄積度もより高いことが実験で検証された。作用機構を検討した結果、R-LSP機能性ポリペプチドで修飾したADC薬物では、クラスリン依存性のエンドサイトーシスが亢進され、一方でリソソーム指向性の低分子で修飾されたADC薬物では、細胞内における輸送機構に変化があることが実証され、同時にリソソーム指向性の低分子で修飾した場合、体外におけるADC薬物の抗腫瘍活性が向上し、その原理としては図27に示された通りであった。つまり、本発明は、ADC薬物をリソソームに導いて細胞毒性を示す低分子を放出するに当たって簡易でありながら汎用性の高い方法を提供し、ADC薬物の治療効果を高めるために独特で且つ効率の高い方法を実現した。
【0102】
上記の実施形態は本発明を例示したに過ぎず、本発明はこれらの実施形態に制限されない。なお、本発明の趣旨から逸脱しない前提で当業者が本発明に対して種々の変更や変化を施してもよく、これらの変更や変化も本発明の範囲内である点に留意されたい。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17a
図17b
図17c
図18a
図18b
図18c
図19a
図19b
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
【配列表】
2022551061000001.app
【国際調査報告】