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特表2022-551062二次電池用正極材に含まれる不可逆添加剤、それを含む正極材、および正極材を含む二次電池
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  • 特表-二次電池用正極材に含まれる不可逆添加剤、それを含む正極材、および正極材を含む二次電池 図1
  • 特表-二次電池用正極材に含まれる不可逆添加剤、それを含む正極材、および正極材を含む二次電池 図2
  • 特表-二次電池用正極材に含まれる不可逆添加剤、それを含む正極材、および正極材を含む二次電池 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-07
(54)【発明の名称】二次電池用正極材に含まれる不可逆添加剤、それを含む正極材、および正極材を含む二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221130BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20221130BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221130BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221130BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20221130BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221130BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0566
H01M10/052
C01G53/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519778
(86)(22)【出願日】2021-07-23
(85)【翻訳文提出日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 KR2021009531
(87)【国際公開番号】W WO2022025531
(87)【国際公開日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0093872
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0094000
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ソン・チョル・イム
(72)【発明者】
【氏名】ヨンチョル・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ミンチョル・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】キョン・フン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン・クウォン
(72)【発明者】
【氏名】イルホン・キム
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H029AJ03
5H029AJ07
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ08
5H029EJ05
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ13
5H029HJ18
5H050AA08
5H050AA13
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050DA02
5H050DA09
5H050EA12
5H050FA19
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA13
5H050HA18
(57)【要約】
本発明の一実施例による二次電池用正極材に含まれる不可逆添加剤であって、前記不可逆添加剤は、下記化学式1で表される酸化物であり、前記酸化物はその結晶構造が三方晶系(trigonal)である、不可逆添加剤である。
Li2+aNi1-bTi2+c (1)
前記式において、-0.2≦a≦0.2,0<b≦0.2,0≦c≦0.2である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用正極材に含まれる不可逆添加剤であって、
前記不可逆添加剤は、下記化学式1で表される酸化物であり、
前記酸化物はその結晶構造が三方晶系(trigonal)である、不可逆添加剤:
Li2+aNi1-bTi2+c (1)
前記式において、-0.2≦a≦0.2,0<b≦0.2,0≦c≦0.2である。
【請求項2】
前記酸化物は空間群がP3-m1に属する、請求項1に記載の不可逆添加剤。
【請求項3】
前記酸化物の結晶格子はa=3.0964Å、c=5.0760Å、γ=120.00°である、請求項1または2に記載の不可逆添加剤。
【請求項4】
前記酸化物はLiNi0.97Ti0.03である、請求項1に記載の不可逆添加剤。
【請求項5】
前記酸化物の酸素形成エネルギーは4.25eV以上~5.0eV以下である、請求項1に記載の不可逆添加剤。
【請求項6】
請求項1による不可逆添加剤、および正極活物質を含む、正極材。
【請求項7】
前記不可逆添加剤の含有量は、正極材総重量に対して0.1重量%~10重量%である、請求項6に記載の正極材。
【請求項8】
正極材が正極集電体上に塗布されている正極を含む二次電池であって、
前記正極材は下記化学式1で表される酸化物を含む不可逆添加剤、および正極活物質を含み、
前記不可逆添加剤は三方晶系(trigonal)を有し、二次電池の作動範囲が4.0V以上の範囲で単斜晶系(monoclinic)に変換される、二次電池:
Li2+aNi1-bTi2+c (1)
前記式において、-0.2≦a≦0.2,0<b≦0.2,0≦c≦0.2である。
【請求項9】
前記不可逆添加剤が単斜晶系の結晶構造を有する時、C2/mの空間群に属する、請求項8に記載の二次電池。
【請求項10】
前記正極活物質は下記化学式2で表される酸化物を含む、請求項8に記載の二次電池:
Li(NiCoMn)O (2)
前記式において、0<a<1,0<b<1,0<c<1,a+b+c=1である。
【請求項11】
前記二次電池は、
前記正極;
負極活物質を含む負極材が負極集電体上に塗布されている負極;および
前記正極と負極の間に介在する分離膜;
を含む電極組立体が電池ケースに電解液と共に内蔵された構造である、請求項8に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互引用]
本出願は2020年7月28日付韓国特許出願第10-2020-0093872号および2021年7月19日付韓国特許出願第10-2021-0094000号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は二次電池用正極材に含まれる不可逆添加剤、それを含む正極材、および正極材を含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
化石燃料使用の急激な増加によって代替エネルギー、クリーンエネルギーの使用に対する要求が増加しており、その一環として最も活発に研究されている分野が電気化学を用いた発電、蓄電分野である。
【0004】
現在このような電気化学的エネルギーを用いる電気化学素子の代表的な例として二次電池が挙げられ、ますますその使用領域が拡大している傾向である。
【0005】
最近では携帯用コンピュータ、携帯電話、カメラなどの携帯用機器に対する技術開発と需要が増加するにつれエネルギー源としての二次電池の需要が急激に増加している。かかる二次電池のうち高いエネルギー密度を示してサイクル寿命が長くて自己放電率が低いリチウム二次電池に対して多くの研究が行われており、また商用化されて広く使用されている。
【0006】
また、環境問題に対する関心が高まるにつれ、大気汚染の主な原因の一つのガソリン車両、ディーゼル車両など化石燃料を使用する車両を代替できる電気自動車、ハイブリッド電気自動車などに対する研究が多く進められている。このような電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの動力源としては主にニッケル水素金属二次電池が使用されているが、高いエネルギー密度のリチウム二次電池を使用する研究が活発に進められており、一部商用化段階にある。
【0007】
かかるリチウム二次電池の負極活物質としては炭素材料が主に使用されており、リチウム二次電池の正極活物質としてはリチウム遷移金属複合酸化物が使用されている。その中でも作動電圧が高く容量特性に優れたLiCoOなどのリチウムコバルト複合金属酸化物の外に、LiNiO、LiMnO、LiMnまたはLiFePOなどの多様なリチウム遷移金属酸化物が開発されている。
【0008】
一方、初期充放電時Liイオンの消費によって、固体電解質界面(SEI:Solid Electrolyte interphase)層の生成および正負極の不可逆が発生する。そのため、エネルギー密度が減少し、設計できる理論量を十分に使用できない問題がある。
【0009】
かかる問題を解決するために、正極材に不可逆添加剤を添加してリチウムイオンを補充できる。しかし、従来の通常使用される不可逆添加剤であるLiNiOは斜方晶系(Orthorhombic)結晶構造を有し、Immmの空間群に属している。しかし、前記物質は二次電池の初期充電以後、作動電圧の範囲で3段階の構造変化をしながら、不純物やガス発生などを引き起こす問題がある。
【0010】
具体的には、前記物質は3.0~3.5Vの範囲では斜方晶系(orthorhombic)の結晶構造を維持するが、Liの脱離により3.5~4.0Vでは三方晶系(trigonal)、3.5~4.25Vでは単斜晶系(monoclinic)に3回の結晶構造変化を経る。特に、斜方晶系の結晶構造を有する不可逆添加剤(LiNiO)は三方晶系に結晶構造が変化する時、予測しにくい副産物と、過量のガス発生が起きる。さらに結晶構造の変化を経るので、構造的安定性が低下する問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、初期充電にLiイオンを十分に発現させながらも、二次電池の作動電圧の範囲で不純物やガス発生を最小化し、構造的安定性も高い不可逆添加剤を提供することを目的とする。
【0012】
本発明はまた、前記不可逆添加剤を含む二次電池用正極材、そしてそれを含んで優れた電気化学的特性を示す二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施例による不可逆添加剤は、二次電池用正極材に含まれる不可逆添加剤であって、前記不可逆添加剤は、下記化学式1で表される酸化物であり、前記酸化物はその結晶構造が三方晶系(trigonal)である、不可逆添加剤である。
【0014】
Li2+aNi1-bTi2+c (1)
前記式において、-0.2≦a≦0.2,0<b≦0.2,0≦c≦0.2である。
【0015】
前記酸化物は空間群がP3-m1に属し得る。
【0016】
前記酸化物の結晶格子はa=3.0964Å、c=5.0760Å、γ=120.00°であり得る。
【0017】
前記酸化物の酸素形成エネルギーは4.25eV以上~5.0eV以下であり得る。
【0018】
本発明の他の一実施例による正極材は前述した不可逆添加剤および正極活物質を含む。
【0019】
前記不可逆添加剤の含有量は、正極材総重量に対して0.1重量%~10重量%であり得る。
【0020】
本発明のまた他の一実施例による二次電池は、正極材が正極集電体上に塗布されている正極を含む二次電池であって、前記正極材は下記化学式1で表される酸化物を含む不可逆添加剤、および正極活物質を含み、前記不可逆添加剤は三方晶系(trigonal)を有し、二次電池の作動範囲が4.0V以上の範囲で単斜晶系(monoclinic)に変換される。
【0021】
Li2+aNi1-bTi2+c (1)
前記式において、-0.2≦a≦0.2,0<b≦0.2,0≦c≦0.2である。
【0022】
前記不可逆添加剤が単斜晶系の結晶構造を有する時、C2/mの空間群に属し得る。
【0023】
前記正極活物質は下記化学式2で表される酸化物を含み得る。
【0024】
Li(NiCoMn)O (2)
前記式において、0<a<1,0<b<1,0<c<1,a+b+c=1である。
【0025】
前記二次電池は、前記正極;負極活物質を含む負極材が負極集電体上に塗布されている負極;および前記正極と負極の間に介在する分離膜を含む電極組立体が電池ケースに電解液と共に内蔵された構造であり得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明による不可逆添加剤は、化学式1で表される酸化物であって、三方晶系の結晶構造を有することにより、二次電池の作動電圧の範囲で、過量のLiイオンの脱離による不純物やガス発生問題を顕著に減少させることができる。
【0027】
また、Tiの置換により構造的安定性をより一層向上させ得るため、それを含む正極材を用いて製造されたリチウム二次電池は効果的に不可逆を補償しながらも、より優れた電気化学的特性および寿命特性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実験例1による比較例1のXRD測定結果を示すグラフである;
図2】実験例1による比較例2のXRD測定結果を示すグラフである;
図3】実験例1による実施例1のXRD測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態で実現でき、ここで説明する実施例に限定されない。
【0030】
以下、本発明の一実施例による二次電池用正極材に含まれる不可逆添加剤、前記不可逆添加剤を含む正極材、およびそれを含む二次電池について説明する。
【0031】
従来には不可逆添加剤として、リチウム原料物質、およびニッケル原料物質を混合した後熱処理することによって、酸化物のLNO(LiNiO)を製造した。このように一般的な原料物質の混合および熱処理を処理した時、前記酸化物は最も安定した形態である斜方晶系(orthorhombic)の結晶構造を有する物質で製造され、そのため、従来には不可逆添加剤として、前記斜方晶系結晶構造を有する酸化物が添加された。
【0032】
これに対して、本実施例によれば、不可逆添加剤として使用される前記酸化物を、初めから三方晶系結晶構造を有する物質として添加すると、二次電池の作動電圧範囲内で電圧に応じて、三方晶系と単斜晶系結晶構造を可逆的に維持できる。
【0033】
本発明の一実施例による二次電池用正極材に含まれる不可逆添加剤は、下記化学式1で表される酸化物であり、前記酸化物はその結晶構造が三方晶系(trigonal)である。
【0034】
Li2+aNi1-bTi2+c (1)
前記式において、-0.2≦a≦0.2,0<b≦0.2,0≦c≦0.2である。
【0035】
従来の不可逆添加剤とは異なり、本実施例によれば、前記化学式1で表される酸化物が不可逆添加剤として添加され得る。前記不可逆添加剤は、前記化学式1で表されたように、遷移金属に比べてLiのモル比が約2倍になる過量リチウム化された酸化物であり、三方晶系の結晶構造を有する。
【0036】
本実施例による前記化学式1で表された酸化物は、従来の酸化物がLiイオン脱離によってLiNiOになり、三方晶系結晶構造を有する場合とは異なり、リチウム過量でありながらも三方晶系結晶構造を有する。したがって、本実施例による前記不可逆添加剤がリチウム過量の三方晶系結晶構造のみを有する形態であれば、安定した結晶構造の斜方晶系結晶構造ではないので、以後電圧に応じて結晶構造が変わり、構造的安定性が低下し得る。
【0037】
そのため、本実施例によれば、前記化学式1のように、従来の酸化物とは異なり、前記不可逆添加剤でNiの一部をTiに置換し、構造的安全性を高めて副産物をより減少させ、安全性を高めることができる。
【0038】
この時、前記TiはNiの一部をモル基準0%超~20%以下で置換され得る。より好ましくは、前記TiはNiの一部をモル基準0%超~10%以下で置換され得る。一例として、前記酸化物はLiNi0.97Ti0.03であり得る。
【0039】
前記のような化学式1で表される不可逆添加剤は、詳細には、空間群がP3-m1に属し得、より詳細には、前記酸化物の結晶格子がa=3.0964Å、c=5.0760Å、γ=120.00°であり得る。
【0040】
本実施例による前記化学式1で表された酸化物は、酸素形成エネルギーが4.25eV以上~5.0eV以下であり得る。より具体的には、前記酸化物の酸素形成エネルギーは4.4eV以上~4.9eV以下であり得る。一例として、前記酸化物の酸素形成エネルギーは4.5eV以上~4.8eV以下であり得る。
【0041】
そのため、本実施例による前記化学式1で表された酸化物は、Tiに置換されていない従来の酸化物に比べて相対的に高い酸素形成エネルギーを有し得、結晶構造の構造的安全性が高く、副反応による副産物も減少できる。
【0042】
これとは異なり、前記酸化物の酸素形成エネルギーが4.25eV未満の場合、相対的に低い酸素形成エネルギーを有し得、結晶構造の構造的安全性が比較的低くいため構造変化が発生しやすく、副反応による副産物もまた増加し得る。また、前記酸化物の酸素形成エネルギーが5.0eV超である場合、前記酸化物に対する製造が容易でない問題がある。
【0043】
前記のような物質は、Tiが置換されたLiNi1-bTi(ここで、0<b≦0.2)をLiベンゾフェノン(benzophenone)と混合し、テトラヒドロフラン(THF:Tetrahydrofuran)下で反応させて結晶性が弱い三方晶系のLiNi1-bTi(ここで、0<b≦0.2)を得た後、これを不活性雰囲気下で熱処理することによって結晶性が高い三方晶系のLiNi1-bTi(ここで、0<b≦0.2)を収得する方法で製造される。
【0044】
前記THF下での反応は、具体的には、前記混合物を攪拌、濾過、乾燥THF下で洗浄した後、真空下で乾燥することによって行われる。
【0045】
前記熱処理は、不活性雰囲気下、200~400℃で10時間~24時間の間行われる。より好ましくは、前記熱処理は不活性雰囲気下で、200~300℃で12時間~16時間の間行われ得る。一例として、前記熱処理は不活性雰囲気下で、225℃で14時間の間行われる。
【0046】
前記不活性雰囲気は、ヘリウム、またはアルゴン雰囲気であり得、前記気体を流しながら熱処理が行われる。
【0047】
また、前記熱処理時温度および時間範囲内で製造される場合のみ、THF下で反応して形成された三方晶系のLiNi1-bTi(ここで、0<b≦0.2)を結晶構造に変化を与えず、かつ結晶性のみを向上させることができる。過度に温度が低いか時間が短いと結晶性が十分に向上せず、過度に温度が高いか時間が長いと結晶構造自体に変化を与えるため、好ましくない。
【0048】
前記LiNi1-bTi(ここで、0<b≦0.2)は従来の知られているLiNiOの製造方法にTiを置換する方法で製造されることができる。
【0049】
例えば、リチウム原料物質と、ニッケル原料物質をチタン原料物質と共に前記組成比を満たすモル比で混合して熱処理することによって製造される。
【0050】
前記熱処理は、空気の雰囲気下、600~800℃で10時間~24時間の間行われる。湿式の場合、乾燥過程をさらに含み得る。より好ましくは、前記熱処理は窒素(N)雰囲気下で行われ得る。より好ましくは、前記熱処理は650~750℃で16時間~20時間の間行われ得る。一例として、前記熱処理は680℃で18時間の間行われ得る。前記熱処理時上述した温度および時間範囲内で製造される場合のみ、リチウム原料物質とニッケル原料物質、さらにはチタン原料物質との反応が十分に起き得、未反応物質を最小化させることができる。
【0051】
前記リチウム原料物質はリチウム含有酸化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、ハライド、水酸化物またはオキシ水酸化物などが使用され得、具体的にはLiCO、LiNO、LiNO、LiOH、LiOH・HO、LiH、LiF、LiCl、LiBr、LiI、CHCOOLi、LiO、LiSO、CHCOOLi、またはLiなどが挙げられる。これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用される。
【0052】
前記ニッケル原料物質はニッケル含有酸化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、ハライド、水酸化物またはオキシ水酸化物などが使用され得、具体的にはNiO、Ni(NO、LiNO、NiSO、Ni(OH)などが挙げられる。これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用できる。
【0053】
前記チタン原料物質はチタン含有酸化物であり得る。一例として、前記チタン原料物質はTiOであり得る。
【0054】
前記のような結晶構造の不可逆添加剤は、リチウム過量で、初期充電で十分なLiを提供し、不可逆問題を解決できながらも、作動電圧の範囲内での結晶構造の変化段階を一つ省略することによって、過量のLiイオンの脱離による不純物やガス発生のような付随的に伴われる問題を最小化できるだけでなく、構造的安定性を向上させて副反応を最小化することができる。
【0055】
一方、本発明の他の一実施例によれば、前記不可逆添加剤、および正極活物質を含む正極材が提供される。この際、前記不可逆添加剤の含有量は正極材総重量に対して0.1重量%~10重量%、詳細には1重量%~5重量%、より詳細には1重量%~3重量%であり得る。
【0056】
前記範囲を逸脱して0.1重量%より小さい場合、不可逆添加剤を追加することによる効率補償効果を得ることができず、10重量%を超える場合には、不純物やガス発生などによる電極体積膨張、寿命短縮などの問題を招く。
【0057】
また、本発明の他の一実施例によれば、正極材が正極集電体上に塗布されている正極を含む二次電池であって、前記正極材は下記化学式1で表される酸化物を含む不可逆添加剤、および正極活物質を含み、前記不可逆添加剤は、三方晶系(trigonal)を有し、二次電池の作動範囲が4.0V以上の範囲で単斜晶系(monoclinic)に可逆的構造に変換される二次電池が提供される。
【0058】
Li2+aNi1-bTi2+c (1)
前記式において、-0.2≦a≦0.2,0<b<0.2,0≦c≦0.2である。
【0059】
前記で説明した通り、リチウムニッケルチタン酸化物の不可逆添加剤は、二次電池の作動電圧の範囲で結晶構造が変化し、これは本発明の一実施例による不可逆添加剤を使用する場合も同様である。
【0060】
したがって、本発明の一実施例により、三方晶系の結晶構造を有する化学式1で表される酸化物を不可逆添加剤として添加しても、前記酸化物は二次電池の作動電圧の範囲で、Liイオンの挿入、脱離に応じて単斜晶系に結晶構造が変化し得る。
【0061】
すなわち、本実施例による不可逆添加剤は、三方晶系結晶構造形態であり、正極材に添加され、二次電池の作動電圧の範囲内で単斜晶系と可逆的に変換されることができる。この時、単斜晶系の結晶構造を有する酸化物は詳細にはC2/mの空間群に属することができる。
【0062】
一方、前記正極材に含まれる正極活物質は、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、Li(NiCoMn)O(0<a<1,0<b<1,0<c<1,a+b+c=1)、LiNi1-dCo、LiCo1-dMn、LiNi1-dMn(0≦d<1)、Li(NiCoMn)O(0<a<2,0<b<2,0<c<2,a+b+c=2)、LiMn2-eNi、LiMn2-eCo(0<e<2)、LiCoPO、またはLiFePOなどが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用できる。
【0063】
その中、詳細には前記正極活物質は下記化学式2で表される酸化物を含み得る。
【0064】
Li(NiCoMn)O (2)
前記式において、0<a<1,0<b<1,0<c<1,a+b+c=1である。
【0065】
前記化学式2の酸化物は二次電池の作動電圧の範囲でLiイオンが脱離、挿入され、結晶構造が六方晶系(hexagonal)から単斜晶系に容易に変化するので、作動範囲で本発明の一実施例による不可逆添加剤のような構造を有することができるため、本実施例による不可逆添加剤の使用により効果的であり得る。
【0066】
より詳細には、前記化学式2で表される酸化物を正極活物質全体重量を基準として80重量%以上含み得る。
【0067】
前記正極材はまた、正極活物質および不可逆添加剤の他に、導電材、バインダ、および充填剤などをさらに含み得る。
【0068】
前記導電材は電極に導電性を付与するために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさず電子伝導性を有するものであれば特に制限なく使用可能である。
【0069】
前記バインダは正極活物質粒子の間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割をする。具体的な例としてはポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体などが挙げられ、これらの1種単独または2種以上の混合物が使用できる。
【0070】
前記正極集電体は電池に化学的変化を誘発せず、かつ導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えばステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用できる。
【0071】
一方、前記二次電池は、前記正極;負極活物質を含む負極材が負極集電体上に塗布されている負極;および前記正極と負極の間に介在する分離膜を含む電極組立体が電池ケースに電解液と共に内蔵された構造であり得る。詳細には、前記二次電池はリチウム二次電池であり得る。
【0072】
前記負極もまた、負極活物質を含む負極材が負極集電体上に塗布される形態で製造され得、前記負極材も負極活物質と共に、前記で説明したような導電材およびバインダをさらに含み得る。
【0073】
前記負極集電体は電池に化学的変化を誘発せず、かつ高い導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用できる。
【0074】
前記分離膜は負極と正極を分離してリチウムイオン移動通路を提供するものであり、通常リチウム二次電池においてセパレータとして使用されるものであれば特に制限なく使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗であり、電解液含湿能力に優れるものが好ましい。
【0075】
上記のように本発明によるリチウム二次電池は携帯電話、ノートブックコンピュータ、デジタルカメラなどの携帯用機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle,HEV)などの電気自動車分野などにデバイス電源として用いられる。
【0076】
以下では、前述した本発明の実施例と、これと比較する比較例を具体的に実験した内容について説明する。
【0077】
<比較例1>
LiO 22.9g、NiO 30gを(モル比1:1)混合した後、N雰囲気下に摂氏685度で18時間の間熱処理した後、結果の反応物を冷却して不可逆添加剤粒子LiNiOを収得した。
【0078】
<比較例2>
LiNiOと1.5M超のLiベンゾフェノン(benzophenone)をテトラヒドロフラン(THF:tetrahydrofuran)下、不活性雰囲気で反応させた。
【0079】
具体的には、前記物質の混合物を一日間攪拌し、混合粉末を濾過した。得られた混合粉末を乾燥THFで洗浄し、真空下で乾燥して三方晶系のLiNiOと、LiNiOが少量混合された予備粉末を得た。
【0080】
以後、予備粉末を225℃で14時間の間、乾燥ヘリウムの流れ下で熱処理して結晶性が向上した三方晶系構造を有するLiNiO粉末を収得した。
【0081】
<実施例1>
LiO 22.9g、NiO 30g、TiO 2.39gを(モル比1:1:0.03)混合した後、N雰囲気下に摂氏685度で18時間の間熱処理した後、結果の反応物を冷却して不可逆添加剤粒子LiNi0.97Ti0.03を収得した。
【0082】
LiNi0.97Ti0.03と1.5M超のLiベンゾフェノン(benzophenone)をテトラヒドロフラン(THF:tetrahydrofuran)下、不活性雰囲気で反応させた。
【0083】
具体的には、前記物質の混合物を一日間攪拌して混合粉末を濾過した。得られた混合粉末を乾燥THFで洗浄し、真空下で乾燥して三方晶系のLiNi0.97Ti0.03とLiNi0.97Ti0.03が少量混合された予備粉末を得た。
【0084】
その後、予備粉末を225℃で14時間の間、乾燥ヘリウムの流れ下で熱処理して結晶性が向上した三方晶系構造を有するLiNi0.97Ti0.03粉末を収得した。
【0085】
<実験例1-XRD分析>
前記比較例1、2および前記実施例1で製造した不可逆添加剤粒子2gをそれぞれサンプルとして採取し、これに対してXRD分析を行ってその結果を図1図3に示した。
【0086】
XRD分析はBruker XRD D4設備で測定し、Cuソースターゲット(source target)を使用し、0.02ステップ(step)で10度から80度まで実験を行った。
【0087】
図1図3を参照すると、比較例1、2および実施例1により互いに異なる構造の不可逆添加剤が形成されることがわかる。具体的には、比較例1は斜方晶系構造で形成され、比較例2および実施例1は三方晶系構造で形成されることがわかる。
【0088】
<正極およびリチウム二次電池の製造>
前記比較例2および実施例1で製造された不可逆添加剤を用いて下記のような方法で正極およびリチウム二次電池を製造した。
【0089】
詳細には、前記比較例2および実施例1で製造した不可逆添加剤、正極活物質としてLiNi0.4Mn0.3Co0.3、カーボンブラック導電材およびPVdFバインダを、重量比として4.6:87.9:3.5:4の割合でN-メチルピロリドン溶媒内で混合して正極スラリーを製造し、これをアルミニウム集電体に塗布した後、乾燥圧延して正極を製造した。
【0090】
また、負極活物質としてSiOが10重量%で混合された人造黒鉛のメソ炭素微小球体(MCMB:mesocarbon microbead)、カーボンブラック導電材およびPVdFバインダをN-メチルピロリドン溶媒中で重量比として90:5:5の割合で混合して負極形成用組成物を製造し、これを銅集電体に塗布して負極を製造した。
【0091】
上記の通りに製造された正極と負極の間に多孔性ポリエチレンの分離膜を介在して電極組立体を製造し、前記電極組立体をケース内部に位置させた後、ケース内部に電解液を注入してリチウム二次電池を製造した。この時、電解液はエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート(EC/DMC/EMCの混合体積比=3/4/3)からなる有機溶媒に1.15M濃度のリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)を溶解させて製造した。
【0092】
<実験例2-酸素形成エネルギーの比較>
前記比較例1、比較例2および実施例1で製造した不可逆添加剤粒子2gをそれぞれサンプルとして採取し、これらの酸素形成エネルギーを測定してその結果を下記表1に示した。
【0093】
具体的には、酸素形成エネルギーの計算は密度汎関数理論(DFT:density functional theory)計算、PBE汎関数(functional)PAW_PBE擬ポテンシャル(pseudopotential)、カットオフエネルギー(Cut-off energy)=520eV、計算モデル:Li48(Ni)2448原子を有するスーパーセル(supercell with Li48(Ni)2448 atoms)-Ni 1個をTiに置換(割合(ratio)~4.17at%)、酸素空孔(Oxygen vacancy)(VO)生成濃度=1/48(~2.1at.%)Oガス(gas)に対する計算値を基準とした(Oリッチ(rich)環境)。
【0094】
【表1】
【0095】
前記表1を参照すると、比較例1の斜方晶系不可逆添加剤より、比較例2および実施例1の三方晶系不可逆添加剤のエネルギーが高いことが確認される。これは、充放電時斜方晶系不可逆添加剤はLiイオンのインターカレーション(intercalation)において構造変化が三方晶系を経て単斜晶系に進行されることに対し、三方晶系不可逆添加剤は単斜晶系に進行される点で構造変化段階が縮小され、三方晶系が斜方晶系より副反応を起こさないと予想される。
【0096】
また、比較例2の三方晶系よりも、実施例1の三方晶系不可逆添加剤のエネルギーが高いことから充放電時Liイオンのインターカレーション(intercalation)における構造変化において置換が行われていない三方晶系より堅固な構造をなすと推定される。したがって、Tiに置換が行われない三方晶系不可逆添加剤よりは副反応を起こさないと予想される。
【0097】
以上、本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、次の特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を利用した当業者の様々な変形および改良形態も本発明の権利範囲に属する。
図1
図2
図3
【国際調査報告】