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特表2022-551103骨髄間葉系幹細胞由来細胞集団およびその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-07
(54)【発明の名称】骨髄間葉系幹細胞由来細胞集団およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20221130BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20221130BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20221130BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221130BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20221130BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221130BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221130BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P9/10
A61P19/02
A61P19/08
A61P17/02
A61P3/02
A61P37/06
A61P7/00
C12N5/0775
C12Q1/02
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
G01N33/50 P
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520605
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(85)【翻訳文提出日】2022-05-19
(86)【国際出願番号】 GB2020052439
(87)【国際公開番号】W WO2021064424
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】1914235.5
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500430626
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・リバプール
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ホランダー,アンソニー ピーター
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
2G045FA36
2G045FA37
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB12
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4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR06
4B063QR08
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4B065BA21
4B065CA44
4C087AA01
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4C087BB44
4C087BB64
4C087MA65
4C087NA03
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA51
4C087ZA89
4C087ZA94
4C087ZA96
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZC21
(57)【要約】
CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が低い、MSC由来細胞を濃縮した細胞集団を提供する。このような細胞集団は、MSCの栄養性または免疫抑制性治療作用を利用するが、表現型分化を起こすMSCの能力と関連する活性を回避することが望ましい文脈において、医薬として有用である。本発明の細胞集団は、変形性関節症、心筋梗塞、半月板軟骨傷害(例えば、半月板断裂)、靱帯傷害(例えば、靱帯断裂)、皮膚傷害および軟部組織傷害からなる群から選択される症状の治療において有用である。また、これらは、血液疾患、移植片対宿主病および炎症疾患からなる群から選択される疾患の治療において使用し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬としての使用のための、
・CD90、CD105、CD45であり、
・TIMP-1分泌(TIMP-1分泌が高い)であり、かつ
・MMP13遺伝子発現(MMP13遺伝子発現が低い)である
MSC由来細胞を濃縮した、細胞集団。
【請求項2】
細胞が多能性を実質的に有しない、請求項1に記載の細胞集団。
【請求項3】
医薬が、組織修復における使用を目的とする、請求項1または2に記載の細胞集団。
【請求項4】
医薬が、軟骨、心血管組織および骨からなる群から選択される組織の治療における使用を目的とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項5】
医薬が、軟骨および骨からなる群から選択される組織の治療における使用を目的とする、請求項4に記載の細胞集団。
【請求項6】
医薬が、変形性関節症、心筋梗塞、半月板軟骨傷害(例えば、半月板断裂)、靱帯傷害(例えば、靱帯断裂)、皮膚傷害および軟部組織傷害からなる群から選択される症状の治療における使用を目的とする、請求項3または4に記載の細胞集団。
【請求項7】
医薬が、栄養修復の刺激による組織修復における使用を目的とする、請求項3から6のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項8】
医薬が、血液疾患、移植片対宿主病および炎症疾患からなる群から選択される疾患の治療における使用を目的とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項9】
医薬が、免疫応答の免疫抑制による疾患の治療における使用を目的とする、請求項8に記載の細胞集団。
【請求項10】
細胞集団が、CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌であり、MMP13遺伝子発現である細胞を少なくとも15%含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項11】
・MSCを培養してMSC由来細胞を生成すること、
・MSC由来細胞を下記:
・CD90、CD105、CD45であり、
・TIMP-1分泌(TIMP-1分泌が高い)であり、かつ
・MMP13遺伝子発現(MMP13遺伝子発現が低い)である
集団に濃縮すること、および
・医薬としての使用のための細胞を製剤化すること
を含む、医薬としての使用のための細胞を調製する方法。
【請求項12】
組織修復における使用のための、請求項11に記載の方法により調製した医薬。
【請求項13】
軟骨、心血管組織および骨からなる群から選択される組織の治療における使用のための、請求項11または12に記載の方法により調製した医薬。
【請求項14】
変形性関節症、心筋梗塞、半月板軟骨傷害(例えば、半月板断裂)、靱帯傷害(例えば、靱帯断裂)、皮膚傷害および軟部組織傷害からなる群から選択される症状の治療における使用のため、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法により調製した医薬。
【請求項15】
栄養修復の刺激による組織修復における使用のための、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法により調製した医薬。
【請求項16】
血液疾患、移植片対宿主病および炎症疾患からなる群から選択される疾患の治療における使用のため、請求項11から15のいずれか一項に記載の方法により調製した医薬。
【請求項17】
免疫応答の免疫抑制による疾患の治療における使用のため、請求項16に記載の方法により調製した医薬。
【請求項18】
・細胞によるMMP13遺伝子発現およびTIMP-1タンパク質分泌のレベルを評価すること、ならびに
・細胞が低レベルのMMP13遺伝子発現および高レベルのTIMP-1タンパク質分泌を示す場合、表現型分化能を必要としない治療的適用における使用のための細胞を選択すること
を含む、治療的使用のためのMSC由来細胞を選択する方法。
【請求項19】
細胞がともに高レベルのMMP13遺伝子発現およびTIMP-1タンパク質分泌を示す場合、表現型分化能を必要とする治療的適用における使用のための細胞を選択することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
表現型分化能を必要とする治療的適用が、インビトロでの組織改変、およびインビボでの分化により新たな組織を生成するための移植からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
表現型分化能を必要としない治療的適用が、栄養活性による組織修復の促進、および免疫抑制治療の促進からなる群から選択される、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
細胞が、MSCの継代によりMSCに由来する、請求項18から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
・CD90、CD105、CD45であり、
・TIMP-1タンパク質分泌(TIMP-1分泌が高い)であり、かつ
・MMP13遺伝子発現(MMP13遺伝子発現が低い)である
治療有効量の細胞を、治療を必要とする対象に提供することを含む、治療方法。
【請求項24】
組織修復の促進を目的とする、請求項23に記載の治療方法。
【請求項25】
免疫抑制治療を目的とする、請求項23または請求項24に記載の治療方法。
【請求項26】
提供される細胞が、CD90、CD105、CD45であり、かつTIMP-1分泌が高く、かつMMP13遺伝子発現が高い細胞を、含まないまたは実質的に含まない、請求項23から25のいずれか一項に記載の治療方法。
【請求項27】
・CD90、CD105、CD45であり、
・TIMP-1分泌が高く、かつ
・MMP13遺伝子発現が低い
MSC由来細胞を濃縮した細胞集団、および薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項28】
CD90、CD105、CD45であり、かつTIMP-1分泌が高く、かつMMP13遺伝子発現が高い細胞を実質的に含まない、請求項1から10のいずれか一項に記載の細胞集団、または請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
CD90、CD105、CD45であり、かつTIMP-1分泌が高く、かつMMP13遺伝子発現が高い細胞を含まない、請求項28に記載の細胞集団または医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬として使用し得る細胞集団に関する。また、本発明は、医薬としての使用のための細胞を調製する方法に関する。本発明は、治療的使用のための間葉系幹細胞(MSC)由来細胞を選択するための方法、およびMSC由来細胞を使用する治療方法にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
MSCは、組織修復および再生、ならびに症状、例えば、移植片対宿主病の緩和を含む広範な適用における使用のための治療薬として提唱されている。MSCがこれらの治療作用をインビボ(in vivo)で達成する手段の理解は不完全であるが、組織置換、隣接細胞による修復を刺激する栄養作用および局所的免疫応答の抑制に寄与する、新たな細胞を生成する分化を含むと一般に考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
MSCに基づく治療を取り入れることを制限している1つの因子は、治療的有効数の細胞を生成する能力である。多くの治療では、多数の細胞を必要とし、細胞は長期の細胞培養により最も効率的に生成される。しかし、MSCの治療的使用と関連する特性が、培養中に経時的に顕著に変化し得ることがわかっている。例えば、複数の表現型に分化するMSCの能力(多能性)は、幹細胞の鍵となる特徴であるが、他の治療的に適切な特性は保持され得る一方、持続的細胞培養において漸進的に失われる。したがって、多数の細胞を生成するのに望ましいそのような持続的培養は、インビボでのMSCの治療活性に寄与する特性の保持、または細胞に基づく安定な医薬品に必要であるそのような均質な集団の生成とは両立しないものと思われている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様によれば、
・CD90、CD105、CD45であり、
・TIMP-1分泌が高く、
・MMP13遺伝子発現が低い、
MSC由来細胞を濃縮した、医薬としての使用のための細胞集団を提供する。
【0005】
本発明の第1の態様により定義する医学的使用のための細胞集団により、本明細書のいずれかにさらに詳細に考察するように、栄養修復を刺激することが可能である。医学的使用のためのこのような細胞集団は、「本発明の細胞集団」と呼び、このような集団の構成細胞は、「本発明の細胞」と呼び得る。本発明の細胞集団は、CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が高い細胞を含まない(かまたは実質的に含まない)ことがある。
【0006】
医薬は、組織修復の促進および/または免疫抑制治療の促進において使用し得る。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、
・MSCを培養してMSC由来細胞を生成すること、
・ ・CD90、CD105、CD45であり、
・TIMP-1タンパク質分泌が高く、
・MMP13遺伝子発現が低い
集団にMSC由来細胞を濃縮すること、および
・医薬としての使用のための細胞を製剤化すること
を含む、医薬としての使用のための細胞を調製する方法を提供する。
【0008】
本発明の第2の態様の方法により調製した細胞の製剤化により生成した医薬は、「本発明の医薬」と呼び得る。本発明の医薬は、CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が高い細胞を含まない(かまたは実質的に含まない)ことがある。
【0009】
本発明の第3の態様によれば、
・細胞によるMMP13遺伝子発現およびTIMP-1タンパク質分泌のレベルを評価すること、ならびに
・細胞が低レベルのMMP13遺伝子発現および高レベルのTIMP-1タンパク質分泌を示す場合、表現型分化能を必要としない治療的適用における使用のための細胞を選択すること
を含む、治療的使用のためのMSC由来細胞を選択する方法を提供する。
【0010】
適する実施形態では、本発明の第3の態様による方法は、適宜、細胞がともに高レベルのMMP13遺伝子発現およびTIMP-1タンパク質分泌を示す場合、表現型分化能を必要とする治療的適用における使用のための細胞を選択する工程をさらに含んでもよい。
【0011】
本発明の第3の態様の方法は、所望の特徴を有する細胞集団を選択することにより実践し得ることが理解される。所望の細胞型の濃縮のための技術を含む、適する技術の例は、本開示のいずれかに記載する。
【0012】
本発明の第4の態様によれば、
・CD90、CD105、CD45であり、
・TIMP-1タンパク質分泌が高く、
・MMP13遺伝子発現が低い
治療有効量の細胞を、治療を必要とする対象に提供することを含む、治療方法を提供する。
【0013】
対象は、組織修復を必要とし、および/または免疫抑制治療を必要とする対象であり得る。
【0014】
本発明の第5の態様によれば、
・CD90、CD105、CD45であり、
・TIMP-1分泌が高く、
・MMP13遺伝子発現が低い
MSC由来細胞を濃縮した細胞集団、および薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0015】
本発明の医薬組成物は、CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が高い細胞を含まない(かまたは実質的に含まない)ことがある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】4人の患者由来のMSCの成長および表現型の特徴 (A)各患者由来のMSCを使用する各継代後に達した集団倍加の数を、成長が終わるまで記録した(PN242では、細胞が成長し続けた30継代までデータを収集した)。(B)集団倍加時間を4人すべての患者について17継代まで示す。(C)4継代および16継代のPN251MSC(この患者では、成長停止は17継代であった)、ならびに19継代のPN242(この患者では、成長停止は観察されなかった)についての典型的細胞形態を示す。サイズバー=200μM。(D)MSCマーカーCD90およびCD105ならびに造血幹細胞マーカーCD34およびCD45を発現する細胞のパーセンテージを蛍光活性化細胞分類により決定した。本明細書のいずれかにさらに考察するように、本発明の細胞により、CD90およびCD105陽性ならびにCD45陰性である特徴の組合せを実証する。
図2】複数継代の4人の患者由来のMSCを使用して作製した組織改変軟骨の肉眼的外観 2~16継代のMSCをポリグリコール酸足場上に播種した後、軟骨形成分化を起こすように誘導した。各画像は、検討した各継代における各患者由来の複製した試料を示す。
図3】複数継代の4人の患者由来のMSCを使用して作製した組織改変軟骨の生物化学的特性 図2に示すように、様々な継代にわたる各患者由来のMSCを軟骨の組織改変に使用した。(A~D)組織改変時点の組織改変軟骨コンストラクトの乾燥重量またはグリコサミノグリカン(GAG)含量とMSC集団倍加との関連性を、患者のそれぞれについて示す。すべてのグラフでは、各点は、単一継代の1人の患者由来の細胞を使用して作製した、複数の組織改変複製物の平均値を示す。(E)組織改変時点の組織改変軟骨コンストラクトの乾燥重量とMSCの継代数との関連性を、4人すべての患者について示す。各点は、単一複製試料の結果である。(F)組織改変時点の組織改変軟骨コンストラクトのGAG含量とMSCの継代数との関連性を、4人すべての患者について示す。各点は、単一複製試料の結果である。すべてのグラフでは、線は、点に適合させた1度の線形モデルを表し、一方、スピアマンの順位相関係数およびこの有意性を右上隅に示す。
図4】複数継代の4人の患者由来のMSCによる半月板軟骨の栄養修復および免疫制御 半月板軟骨の栄養修復では、未分化MSCをコラーゲン足場上に播種し、ヒツジ半月板の2つの断片間に挿入し、クリップで留め、30日間培養した。組織形態計測を使用して、半月板組織の2つの断片間の結合度を測定した。(A~C)半月板組織の高、中および低結合の典型的な例。結合は、矢印の中間で測定した。サイズバー=1mm。(D~G)半月板組織の%結合とMSCの集団倍加との関連性を、患者のそれぞれについて示す。すべてのグラフでは、各点は、単一継代の1人の患者由来の細胞を使用した複数の実験的複製の平均値を示す。(H)半月板組織の%結合とMSCの継代数との関連性を、4人すべての患者について示す。各点は、単一複製試料の結果である。すべての相関グラフ(A~H)では、線は、点に適合させた1度の線形モデルを表し、一方、スピアマンの順位相関係数およびこの有意性を右上隅に示す。(I)免疫制御は、FACSにより定量したCell-Traceバイオレットの標識細胞からの消失として測定した、T細胞増殖の%阻害として決定した。各点は、プールした3つ組のウェルの結果である。
図5】トランスクリプトミクスおよびプロテオミクス (A)実施した解析工程の概要。トランスクリプトミクスおよびプロテオミクスデータをデータ規格に従って加工し、統合した。統合したデータをIngenuity経路解析によりさらに解析して、継代にわたって変化する鍵となる遺伝子およびタンパク質を同定し、これらを生物学的機能にマッピングして、考えられる上流制御因子を予測した(図6および7を参照)。(B)すべての遺伝子およびタンパク質の最初の2つの主成分の主成分分析(PCA)スコア図。骨形成能の変化にも関連し得る(図S2を参照)患者の分離が存在し(青色およびオレンジ色の楕円を参照)、一方、継代に関連する変化は、主にPC2において取得する。(C)有意かつ患者群の変動に独立的に変動する338の遺伝子およびタンパク質を明らかとする2元ANOVA検定後の有意な変数のベン図。(D)継代にわたる338の有意な変数のPCA。最初の2つの主成分のスコア図を示す(約70%の分散を取得)。予想したように、継代にわたる著明な分離が存在する。行で表し、ウォードの階層的クラスタリングによりクラスター化した、338の有意なタンパク質および遺伝子の調整データのヒートマップ。列は生物学的試料を表し、各列は患者試料である。これらは継代により順序づけられ、赤色は1継代、緑色は5継代、青緑色は10継代、紫色は15継代である。
図6】トランスクリプトミクスおよびプロテオミクス統合データのIngenuity経路解析 (A)Ingenuity経路解析によって、継代数の増加とともに変動する、FOXM1および他の主要制御遺伝子4つを同定した(図S5を参照)。トランスクリプトミクス解析のFOXM1データは、継代数の増加に伴う遺伝子発現の阻害を示す。各バーは、4人の各患者由来のMSCを使用した結果の平均±SEMである。(B)トランスクリプトミクスおよびプロテオミクス統合データセットのIngenuity経路解析により、同定した下流制御因子の6つのうちの5つのFOXM1標準経路における阻害を予測する。(C)Ingenuity経路解析により、複数の遺伝子およびタンパク質を同定し、これは「細胞運動」、「細胞遊走」または「創傷治癒」の検索条件にマッピングされていた。このような同定遺伝子およびタンパク質のほとんどが、ANOVAにより判定した場合、継代にわたって有意には変動しなかった。最も高度に発現した遺伝子およびタンパク質を、検索条件のそれぞれについて列挙する。(D)トランスクリプトミクス解析によるCXCL12データは、継代数の増加に伴う遺伝子の持続的発現を示す。各バーは、4人の各患者由来のMSCを使用した結果の平均±SEMである。(E)プロテオミクス解析のCXCL12データは、継代数の増加に伴うタンパク質の持続的分泌を示す。各バーは、4人の各患者由来のMSCを使用した結果の平均±SEMである。
図7】インビトロ(in vitro)でのMSC老化過程の遺伝子およびタンパク質マーカー MSCのインビトロでの老化とともに失われるMMP13遺伝子を、初期継代細胞のマーカーとして選択し、一方、インビトロでの老化に独立的なTIMP1タンパク質の分泌を、MSCのマーカーとして選択した。(A)トランスクリプトミクス解析のMMP13データは、継代数の増加に伴う遺伝子発現の低下を示す。各バーは、4人の各患者由来のMSCを使用した結果の平均±SEMである。(B)qPCR解析のMMP13データは、継代数の増加に伴う遺伝子発現の低下を示す。各バーは、4人の各患者由来のMSCを使用した結果の平均±SEMである。(C)プロテオミクス解析のTIMP-1データは、継代数の増加に伴うタンパク質の持続的分泌を示す。各バーは、4人の各患者由来のMSCを使用した結果の平均±SEMである。(D)ELISA解析のTIMP-1データは、継代数の増加に伴うタンパク質の持続的分泌を示す。各バーは、4人の各患者由来のMSCを使用した結果の平均±SEMである。(E)MSC/コラーゲン足場コンストラクトにより分泌されたTIMP-1のELISA解析では、生コンストラクトの継代数の増加に伴うタンパク質の持続的分泌を示すが、これらの生存率を低下させる条件下で凍結融解したコンストラクトの分泌の低下を示す。高TIMP-1分泌および低MMP13遺伝子発現のこのパターンは、本発明の細胞の特徴である。特に、これ(本明細書のいずれかにおいて考察するCD90陽性、CD105陽性、CD45陰性発現プロファイルとの組合せ)は、表現型分化能を必要としない治療的適用における使用に適する細胞を示す。このような適用では、代わりに細胞の栄養活性または免疫抑制治療活性を利用し得る。各細胞源では、1つの凍結コンストラクトと比較した1つの生コンストラクトの結果を示す。
図8】(図3と関連する)。骨形成採点のガイダンス鋳型画像 MSCは、骨形成分化を起こすように誘導し、次いで、アリザリンレッドで染色した。各スライドを-(CTL、対照を参照)、+、++、+++または++++として2人の独立的観察者により採点した。サイズバー=200μM。
図9】(図3と関連する)。複数継代の4人の患者由来のMSCの骨形成分化 様々な継代にわたる各患者由来のMSCは、インビトロでの骨形成分化を起こすように誘導し、図8に示すように採点した。(A~D)MSCの骨形成スコアと累積集団倍加との関連性を、患者のそれぞれについて示す。すべてのグラフでは、各点は、単一継代の1人の患者由来の細胞を使用する複数の複製の平均値を示す。(E)MSCの骨形成スコアと継代数との関連性を、4人すべての患者について示す。各点は、単一複製試料の結果である。すべてのグラフでは、線は、点に適合させた1度の線形モデルを表し、一方、スピアマンの順位相関係数およびこの有意性を右上隅に示す。
図10】(図3と関連する)。脂肪生成採点のガイダンス鋳型画像 MSCは、脂肪生成分化を起こすように誘導し、次いで、オイルレッドOで染色した。各スライドを-(CTL、対照を参照)、+、++、+++または++++として2人の独立的観察者により採点した。サイズバー=200μM。
図11】(図3と関連する)。複数継代の4人の患者由来のMSCの脂肪生成分化 様々な継代にわたる各患者由来のMSCは、インビトロでの脂肪生成分化を起こすように誘導し、図S3に示すように採点した。(A~D)MSCの脂肪生成スコアと累積集団倍加との関連性を、患者のそれぞれについて示す。すべてのグラフでは、各点は、単一継代の1人の患者由来の細胞を使用する複数の複製の平均値を示す。(E)MSCの脂肪生成スコアと継代数との関連性を、4人すべての患者について示す。各点は、単一複製試料の結果である。すべてのグラフでは、線は、点に適合させた1度の線形モデルを表し、一方、スピアマンの順位相関係数およびこの有意性を右上隅に示す。
図12】(図5および6と関連する)。継代の増加とともに変動する遺伝子およびタンパク質のIngenuity経路解析 Ingenuity経路解析により、継代数の増加とともに変動する、FOXM1(図6を参照)および他の主要制御遺伝子4つを同定した。(A)トランスクリプトミクス解析のMYOCデータと継代数の増加との関連性、ならびにトランスクリプトミクスおよびプロテオミクス統合データセットのIngenuity経路解析。各バーは、4人の各患者由来のMSCを使用した結果の平均±SEMである。(B)トランスクリプトミクス解析のNUPR1データと継代数の増加との関連性、ならびにトランスクリプトミクスおよびプロテオミクス統合データセットのIngenuity経路解析。各バーは、4人の各患者由来のMSCを使用した結果の平均±SEMである。(C)トランスクリプトミクス解析のVEGFデータと継代数の増加との関連性、ならびにトランスクリプトミクスおよびプロテオミクス統合データセットのIngenuity経路解析。各バーは、4人の各患者由来のMSCを使用した結果の平均±SEMである。(D)トランスクリプトミクス解析のPTGER2データと継代数の増加との関連性、ならびにトランスクリプトミクスおよびプロテオミクス統合データセットのIngenuity経路解析。各バーは、4人の各患者由来のMSCを使用した結果の平均±SEMである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、インビボで培養したMSCが老化前に、栄養活性または免疫抑制活性ではなく多能性の選択的喪失を示すというこの文書において初めて開示する本発明者らの発見に、少なくとも部分的に基づく。この発見、ならびにMSCおよびMSC由来細胞の治療的使用の多くが、このような細胞の表現型分化によってではなく、このような細胞の栄養または免疫抑制活性の結果として起こるという知見は、このような適用からこれまでに無視されてきた培養細胞の治療的使用を提供する新たな可能性を開く。この大規模培養細胞を治療的に使用し得ることにより、これまでに可能であると考えられていたよりもはるかに多数の治療的に有用な細胞の生成が可能となるという点で顕著な利益をもたらす。
【0018】
その上、本発明者らは、栄養または免疫抑制活性を保持するが、表現型分化が不可能である細胞を、表現型分化能を保持する(栄養または免疫抑制活性を有するかまたは有しない)細胞から区別することが可能となる、特徴的なマーカーの一団を同定した。この特徴的発現プロファイル(CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が低い細胞)は、これまでには同定されていなかった。ここで、この同定により、MSC由来細胞の医学的使用に顕著な利点が実際に提供される。
【0019】
本発明の第1の態様により定義する医学的使用のための細胞集団の一部が、栄養または免疫抑制活性を保持するが、表現型分化能を有しないことによって、損傷部位において新たな細胞集団を生じることなく、このような細胞により、これらの治療活性を達成可能であることが確実となることが認識される。これにより、MSCまたはMSC由来細胞のインサイチュ(in situ)での分化と潜在的に関連し得るという望ましくない転帰への可能性が低下または回避されるため、これは有利である(本発明の他の態様により共有される利点)。
【0020】
その上、培養MSC(またはMSC由来細胞)の治療的特性が経時的に変化することがこれまでに認識されている。少ない継代数の細胞では疼痛が悪化し得るが、長時間(または高継代数の間)成長させた細胞により、損傷した関節における疼痛を軽減することが可能であり得る。所与の群の細胞は、この過程において多種多様な段階の細胞集団を含むことがあり、このため、このような集団を区別し、所望の治療的使用に必要とされる集団(特には、より「老化の」集団)のみを選択することが可能であることが重要である。
【0021】
培養MSCの特性における差がこれまでに認識されているが、本発明の開示以前は、治療的栄養または免疫抑制活性を有するが、複雑であるかまたは望ましくない特性(例えば、表現型分化または関節痛悪化の可能性)を有しない細胞または細胞集団への「切換え」が生じたことを判定する、信頼のおける方法は存在しなかった。CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が低いマーカープロファイルの重要性を同定することにより、本発明者らは、このような有利な細胞および集団の信頼のおける安定な選択を可能とした。
【0022】
このマーカープロファイルの同定により、重要な失敗と関連する判断基準、例えば、継代数に基づく選択の必要性が回避される。単なる例として、これらは、この変化が生じる点における個体間の変動(同種異系および自己の両細胞源に適切な)、細胞培養における細胞分裂率の変動、および現代のバイオリアクターに基づく培養条件の場合には適切でない考慮、例えば、継代数に対する確実性の影響を含む。
【0023】
CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が低いMSC由来細胞を濃縮した細胞集団は、予測可能かつ再現可能な細胞に基づく医薬を実際に送達する能力において重要である、均一性を向上させた細胞集団を表す。
【0024】
低または高MMP13遺伝子発現に基づく細胞集団の識別は、栄養または免疫抑制治療活性を有するが、表現型分化能を欠く細胞集団と、表現型分化能(例えば、軟骨形成)を保持する細胞集団との区別をつけることを可能とする場合に、特に重要であることが本明細書に開示する結果から理解される。このような細胞は、本発明の細胞(CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が低い)とは対照的に、CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が高いことがある。
【0025】
上記を考慮して、本発明により、
・栄養修復および免疫制御が、持続的培養において保持され、
・MSC由来細胞が、大規模な細胞増殖後にこのような治療機構を作用させる能力を保持し、
・このような所望の特徴を有する細胞を、それほど有利でない特性(例えば、表現型分化能の保持)を有する細胞から選択可能な手段を提供する
ことが初めて同定されることが認識される。
【0026】
MSCは、組織再生のため(例えば、骨および軟骨;心血管疾患)、ならびに血液疾患、移植片対宿主病および炎症疾患を含む疾患修飾のための広範な臨床適用に使用する。一部のこのような臨床的手法は、分化に基づく一方、他は、栄養または免疫制御機能に依存する。
【0027】
MSCのインビトロでの継代の増加に伴う分化能の喪失を記載するいくつかの研究が存在しており、他の研究では、インビボでの老化によっても、老化細胞のエクスビボ(ex vivo)での単離後に分化能の喪失が生じることを示唆している。このような知見は、MSCのインビトロでの老化によりテロメア長が短縮する並行する知見と相まって、細胞機能を損ない、これらの臨床的有用性を制限する急速な老化過程を示すものとして解釈されている。
【0028】
大規模に継代したMSCに由来する細胞が、多分化能が失われた場合であっても、これらの栄養および免疫抑制活性を保持することを初めて見出し、本発明者らは、このような細胞によって有用な治療作用をもたらすことが、なお可能であることを認識した。その上、彼らは、このような治療的に有効な細胞を、細胞培養を経た後に認識、選択し、医薬に組み込むことが可能となるマーカーの特徴的パターンを同定した。
【0029】
ここで本発明は、以下の項を参照して、さらに記載する。
【0030】
本発明の細胞集団
本発明の目的では、以下の考慮は、本発明の第1の態様による細胞集団、ならびに本発明の第2の態様の方法において選択される細胞集団、または本発明の第4の態様の治療方法における使用に適用可能なものとして解釈し得る。
【0031】
本発明の細胞は、自己細胞であり得るか、または同種異系細胞であり得る。本発明の細胞は、多分化能を有しなくてもよい。当業者は、実施例において考察するものを含む(が限定されない)、多能性または多能性の非存在を判定し得る多くの方法を認識している。
【0032】
細胞マーカーに対する細胞の特徴づけ
本発明の種々の態様において言及する治療的に有用なMSC由来細胞は、多数のマーカーに関して特徴的な発現パターンを示す。これらは、細胞表面マーカー(CD90、CD105およびCD45)および機能性マーカー(TIMP-1およびMMP13)を含む。
【0033】
細胞表面マーカー
CD90
Thy-1としても知られるCD90は、N-グリコシル化グリコホスファチジルイノシトール(GPI)固定細胞表面タンパク質であり、これは、単一のV様免疫グロブリンドメインを有する。以下にさらに考察するように、本開示に記載する、治療的に有用なMSC由来細胞は、特徴的にはCD90である。
【0034】
CD105
エンドグリンとしても知られるCD105は、I型膜糖タンパク質である。これは、細胞表面上に位置し、ここで、TGF-β受容体複合体の一部として機能する。以下にさらに考察するように、本開示に記載する、治療的に有用なMSC由来細胞は、特徴的にはCD105である。
【0035】
CD45
タンパク質チロシンホスファターゼ受容体C型(PTPRC)としても知られるCD45は、多数の細胞シグナル伝達経路に関与するI型膜貫通タンパク質である。以下にさらに考察するように、本開示に記載する、治療的に有用なMSC由来細胞は、特徴的にはCD45である。
【0036】
細胞表面マーカーに対して陽性または陰性である細胞の特徴づけ
細胞集団によるCD90、CD105およびCD45を含む細胞表面マーカーの発現(または発現の非存在)は、当業者に公知の適する任意の手段により検討し得る。単なる例として、細胞表面マーカーは、適切な試薬、例えば、目的の細胞マーカーに特異的な抗体により標識および検出し得る。このような抗体標識の手法は、以下にさらに記載するような細胞選択技術と組み合わせて使用することができる。
【0037】
細胞は、適切な免疫蛍光標識後に、対応する対照抗体、例えば、アイソタイプ適合対照抗体で処理した細胞の90%を超える一定のレベルの蛍光を有する場合、特定の細胞表面マーカー(例えば、CD90またはCD105)に対して陽性である(「+ve」または「」)と考えられ得る。
【0038】
細胞は、適切な免疫蛍光標識後に、対応する対照抗体、例えば、アイソタイプ適合対照抗体で処理した細胞の10%未満の一定のレベルの蛍光を有する場合、特定の細胞表面マーカー(例えば、CD45)に対して陰性である(「-ve」または「」)と考えられ得る。
【0039】
機能性細胞マーカー
TIMP-1
TIMPメタロペプチダーゼ阻害因子1としても知られるTIMP-1は、メタロペプチダーゼファミリーの組織阻害因子のメンバーである。これは、マトリックスメタロプロテイナーゼの阻害因子として機能する糖タンパク質である。以下にさらに考察するように、本開示に記載する、治療的に有用なMSC由来細胞は、特徴的に、TIMP-1タンパク質分泌が高い。
【0040】
MMP13
MMP13(マトリックスメタロペプチダーゼ13、コラゲナーゼ3としても知られる)は、細胞外膜成分の分解に関与するメタロプロテイナーゼ酵素である。これは、ヒトにおけるMMP13遺伝子によりコードされる。以下にさらに考察するように、本開示に記載する、治療的に有用なMSC由来細胞は、特徴的に、MMP13遺伝子発現が低い。
【0041】
栄養および免疫抑制活性を有するが、表現型分化能を有しない細胞集団の選択が可能となる場合のこのマーカーの関連性は、これまでには報告されていなかった。本明細書において報告するように、本発明者らは、このマーカーが、同一の治療的利点をもたらさないが、表現型分化能を保持する他の細胞集団(CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が高い)からの本発明の細胞(CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が低い)の区別における鍵であることを見出した。
【0042】
機能性細胞マーカーに対して高いかまたは低い細胞の特徴づけ
本発明の細胞は、TIMP-1タンパク質分泌が高いものとして特徴づけられる。
【0043】
TIMP-1の発現および分泌は、タンパク質分泌の評価に適する、当業者に公知の任意の技術を使用して検討し得る。単なる例として、TIMP-1タンパク質発現は、酵素結合免疫測定(ELISA)の手法を使用して検討し得る。目的の細胞がTIMP-1分泌に対して陽性か否かを本発明の細胞に必要とされる方法で判定するのに使用し得る、TIMP-1分泌に適するELISAの例は、実施例においてさらに記載する。
【0044】
本発明の細胞は、MMP13遺伝子発現が低いものとして特徴づけられる。
【0045】
MMP13遺伝子発現は、細胞におけるMMP13発現を示す転写物のレベルを検討することにより評価し得る。好適には、MMP13遺伝子発現は、MMP13特異的逆転写PCRにより評価し得る。この技術に基づく特に適する方法は、実施例においてさらに記載する。
【0046】
細胞集団は、一定期間にわたる一定数の細胞により分泌されるこのタンパク質の量に基づいてTIMP-1分泌が高いものとして同定し得る。好適には、TIMP-1タンパク質の高分泌は、細胞(はじめに225万細胞/ウェルの密度で播種)による24時間の100ng/ml(またはこれ以上)のTIMP-1の分泌により示し得る。このような評価において使用し得る適する条件のさらなる詳細は、図7Eにおいて報告する試験と関連して、実施例において提示する。
【0047】
細胞集団は、適するベースラインとの比較に基づいてMMP13遺伝子発現が低いものとして同定し得る。単なる例として、ハウスキーピング遺伝子、例えばTata結合タンパク質により、適するベースラインが提供され得る。ハウスキーピング遺伝子(例えば、Tata結合タンパク質)と比較したMMP13発現レベルが、新たに単離したMSCによる相対的発現の半分または半分未満であることが細胞により実証される場合、これらの細胞集団は、MMP13遺伝子発現が低いものとして特徴づけられ得る。比較目的のための新たに単離した適するMSCは、本発明の細胞源に適切に適合する供給源に由来し得る。発現倍率の比較(MMP13または適するハウスキーピング遺伝子にかかわらず)は、実施例においてさらに記載する方法を使用して実行し得る。
【0048】
細胞の濃縮および濃縮した細胞集団
本発明の第1の態様による細胞集団は、天然に存在する細胞集団と比較して、治療的に有用なMSC由来細胞の存在を濃縮する。また、本発明の第2の態様の方法において調製した細胞は、このような細胞の存在を濃縮し、本発明の第3の態様による細胞の選択により、濃縮した細胞集団が同様に生じ得る。
【0049】
集団において濃縮する治療的に有用なMSC由来細胞は、マーカーの特徴的発現(すなわち、CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1タンパク質分泌が高く、MMP13遺伝子発現が低い)を基準として同定し得る。
【0050】
当業者は、細胞集団の文脈において使用する「濃縮」の用語を理解している。濃縮は、所望の細胞(すなわち、マーカーの特徴的発現を有する細胞)の正の選択、または望ましくない細胞の排除により達成し得る。
【0051】
単なる例として、濃縮の手法では、所望の形質(例えば、本明細書において考察するマーカーの特徴的発現)を有する細胞の増殖を支持する培養条件、および/または所望の形質を欠く細胞の生存率を低下させる条件を利用し得る。このような条件下で成長させた細胞を監視して、所望の集団が濃縮されたことを確実とし得る。単なる例として、本発明による治療的に有用なMSC由来細胞の集団を濃縮するのに使用可能な細胞培養条件は、10%のウシ胎仔血清の使用および5ng/mlの線維芽細胞成長因子(FGF2)の補給を含んでもよい。
【0052】
あるいは、濃縮または選択は、それらのマーカー(例えば、CD90、CD105およびCD45)の発現に基づく細胞の選択が可能となる、蛍光活性化細胞分類(FACS)のような技術の文脈において理解され得る。次いで、望まない細胞を廃棄し得る。
【0053】
したがって、本発明の第2の態様による医薬としての使用のための細胞を調製する方法は、列挙するマーカー(CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が低い)の1つまたは複数を基準として細胞を選択し、これにより、特定する細胞集団にMSC由来細胞を濃縮する工程を含み得る。適する選択工程は、表現型分化能を有さず栄養活性を保持する細胞の同定において特に有用であると本発明者らが見出したマーカーである、低MMP13遺伝子発現に基づく選択を含み得る。
【0054】
好適には、濃縮したMSC由来細胞集団は、CD90およびCD105に対する陽性細胞を少なくとも80%ならびにCD45に対する陽性細胞を10%以下含み得る。
【0055】
本発明の目的では、濃縮した細部集団は、列挙する特徴的マーカープロファイル(すなわち、CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が低い)を有する細胞を少なくとも70%含み得る。好適には、濃縮した細胞集団は、列挙する特徴的マーカープロファイルを有する細胞を少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%含み得る。濃縮した細胞集団は、実質的に100%の列挙する特徴的マーカープロファイル(すなわち、CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が低い)を有する細胞からなり得る。
【0056】
本発明の第1の態様による細胞集団、または本発明の第2の態様の方法において選択された細胞集団は、列挙する特徴的マーカープロファイル(すなわち、CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が低い)を有する細胞のみから実質的になり得る。
【0057】
本発明の第1の態様による細胞集団、または本発明の第2の態様の方法において選択された細胞集団は、CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が高い細胞を含まないか、または実質的に含まないことがある。
【0058】
細胞濃縮または細胞選択は、限定されないが、本明細書において考察する方法を含む、適する任意の方法により実践し得る。
【0059】
細胞選択および解析
本発明の細胞の特徴的マーカープロファイルの情報を得れば、当業者は、このプロファイルを示す細胞を選択し得る方法を容易に同定することが可能となる。同様に、当業者は、細胞集団を検討して、これらが特徴的発現パターンを示すかどうかを判定し得る方法を容易に同定する。非限定的に、これらは、フローサイトメトリー、蛍光活性化細胞分類(FACS)および磁気活性化細胞分類(MACS)からなる群から選択される技術を含む。
【0060】
細胞培養
本発明者らは、本発明の細胞の栄養および免疫抑制活性が、持続的細胞培養を通して保持されることを見出した。これは、非常に多数の治療的に有効な細胞を生成することが可能となる利点を有する。本明細書のいずれかに提示するように、本発明の細胞は、治療的に有効なレベルの栄養または免疫制御活性を最大30継代の間、保持し得る。
【0061】
したがって、本発明の細胞集団は、少なくとも5回の継代培養、少なくとも10回の継代培養、少なくとも15回の継代培養、少なくとも20回の継代培養、少なくとも25回の継代培養、または少なくとも30回の継代培養に供している細胞を含み得る。
【0062】
同様に、本発明の第2の態様による方法は、少なくとも5回の継代培養、少なくとも10回の継代培養、少なくとも15回の継代培養、少なくとも20回の継代培養、少なくとも25回の継代培養、または少なくとも30回の継代培養の間、細胞を培養することを含み得る。
【0063】
本発明の医学的使用および治療方法
本発明の第1の態様の細胞集団、本発明の第2の態様により調製した細胞から生成した医薬、本発明の第3の態様の方法により選択した細胞、および本発明の第4の態様の治療方法は、治療的使用にすべて適する。特には、治療的使用は、組織修復を促進する使用、または免疫抑制治療を促進する使用であり得る。このような実施形態のさらなる詳細は、以下に提示する。
【0064】
組織修復
本発明の医薬、医学的使用または治療方法は、組織修復を促進するために使用し得る。組織修復の促進の必要性は、組織傷害を生じる任意の症状の結果として起こり得る。例えば、組織修復の促進の必要性は、変形性関節症、心筋梗塞、半月板軟骨傷害(例えば、半月板断裂)、靱帯傷害(例えば、靱帯断裂)、皮膚傷害および軟部組織傷害からなる群から選択される症状の結果として起こり得る。組織修復は、栄養活性治療を促進することにより促進し得る。組織修復により、罹患または損傷した関節と関連する病態が緩和し得る。これは、適切な手段、例えば、組織学的検査(生検または実験的に処置した関節の)または適する画像診断技術により評価し得る。
【0065】
好適には、組織修復は、組織修復率を向上させること、および/または治療の結果として生じる修復組織の質を向上させることにより組織修復を促進する、損傷した組織の治療を含み得る。組織修復の促進は、適する対照を基準として容易に評価し得る。
【0066】
本発明の細胞、治療方法または医学的使用は、組織修復を、適する対照と比較して少なくとも10%促進することが可能であり得る。単なる例として、本発明の細胞、治療方法または医学的使用は、組織修復を、適する対照と比較して少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%促進することが可能であり得る。実際、本発明の細胞、治療方法または医学的使用は、組織修復を、適する対照と比較して100%以上促進することが可能であり得る。
【0067】
好適には、組織修復は、軟骨、心血管組織、骨、および軟部組織、例えば、皮膚からなる群から選択される損傷した組織の治療を含み得る。
【0068】
好適には、組織修復は、軟骨断裂の治療、例えば、半月板軟骨断裂の治療;変形性関節症、心筋梗塞、半月板軟骨傷害(例えば、半月板断裂)、靱帯傷害(例えば、靱帯断裂)、皮膚傷害および軟部組織傷害の治療からなる群から選択される症状の治療を含み得る。
【0069】
MSC由来細胞の栄養活性が、組織修復に寄与し得ることが理解される。したがって、本発明の細胞集団または医薬を利用する医学的使用または治療方法は、栄養活性の刺激による組織修復における使用のためのものであり得る。このような使用は、MSCまたはMSC由来細胞によって、表現型分化による(すなわち、組織修復に寄与する置換細胞を得る分化による)治療的有用性が達成される、これまでに記載されている適用と対比し得る。
【0070】
栄養活性
本発明の細胞は、これらが由来するMSCから保持される栄養活性を有する。本発明の医学的使用および治療方法、特には、組織修復における使用のための医学的使用および治療方法では、このような細胞の栄養活性を利用し得る。実際、本発明の細胞は、これらの栄養活性(および表現型分化能の非存在)のために選択し得る。
【0071】
栄養活性は、移植後、MSCまたはMSC由来細胞が、組織修復または再生に寄与する活性分子を分泌するよう隣接細胞を誘導することが可能となる能力であると考えられ得る。栄養修復は、MSCまたはMSC由来細胞による、大量の成長因子および他の媒介因子の生成の結果として生じ得る。栄養活性は、他の例の中でも脳卒中、心筋梗塞および半月板軟骨修復の治療において組織修復または再生に寄与することがわかっている。
【0072】
本発明の第2または第3の態様の方法は、細胞を評価して、これらの栄養活性を検討する工程をさらに含み得る。好適には、医薬として使用する細胞は、これらの栄養活性に基づいて選択し得る。本発明の第1の態様による細胞集団は、栄養活性を有するMSC由来細胞を濃縮し得る。
【0073】
栄養活性の存在または非存在は、当業者に公知の適する任意の方法により評価し得る。適する方法により、罹患または損傷した関節の病態を緩和させる細胞の能力を検討し得る。単なる例として、本発明の第1の態様の細胞、または本発明の第2の態様の方法において調製したような細胞の栄養活性は、別々の軟骨部位を結合するこれらの能力を検査することにより評価し得る。好適には、このような結合を促進する能力は、インビトロで実証し得る。あるいは、または加えて、このような能力は、インビボで実証し得る。
【0074】
別々の軟骨部位の結合による栄養活性の評価が可能となるアッセイの詳細は、「Repair of torn avascular meniscal cartilage using undifferentiated autologous mesenchymal stem cells: from in vitro optimization to a first-in-human study」(Whitehouse, et al., Stem Cells Translation Medicine, 2017; 6:1237-1248)に提供されており、この開示は、検査薬で処置した軟骨の結合を検討するためのモデルに関する限り、参照により組み込む。また、適する技術の詳細は、本開示の実施例において提示する。
【0075】
本発明の細胞もしくは医薬、または医学的使用もしくは治療方法の栄養活性から利益を得ることが可能な治療的適用は、組織修復の促進から利益を得る治療的適用に対応する。
【0076】
免疫抑制治療
また、本発明の細胞は、これらが由来するMSCから保持される免疫抑制活性を有する。本発明の医学的使用および治療方法は、細胞の免疫抑制活性を利用することがあり、免疫抑制治療における使用のためのものであり得る。
【0077】
MSCまたはMSC由来細胞の免疫抑制特性を利用することがわかっている多数の治療的適用が存在する。好適には、免疫抑制治療は、血液疾患、移植片対宿主病および同種異系反応性免疫疾患、自己免疫疾患または炎症疾患からなる群から選択される疾患の治療において利用し得る。
【0078】
本発明の細胞、治療方法または医学的使用を使用する免疫抑制治療は、幹細胞移植、例えば、造血幹細胞の移植を受けている患者の治療において利用し得る。このような移植を受ける患者は、血液疾患に罹患していることがある。
【0079】
また、治療的に有効な免疫抑制活性を達成する本発明の細胞、治療方法および医学的使用の能力は、移植片対宿主病の治療に役立つ。このような実施形態では、本発明の細胞または医薬による治療は、レシピエントの免疫応答を低下させ、これにより、同種異系移植に対する応答を軽減することが可能であり得る。
【0080】
また、疾患の発症または進行が、体の免疫応答により媒介される多数の症状が存在する。これらは、同種異系反応性免疫疾患、自己免疫疾患または炎症疾患を含む。このような疾患は、本発明の細胞または医薬による治療から、および本発明の医学的使用または治療方法により利益を得得る。
【0081】
適する実施形態では、本発明による細胞、医薬または治療方法は、免疫応答の免疫抑制による疾患の治療における使用のためのものである。
【0082】
免疫抑制活性
本発明の第2または第3の態様の方法は、細胞を評価して、これらの免疫抑制活性を検討する工程をさらに含み得る。好適には、医薬として使用する細胞は、これらの免疫抑制活性に基づいて選択し得る。本発明の第1の態様による細胞集団は、免疫抑制活性を有するMSC由来細胞を濃縮し得る。
【0083】
免疫抑制活性の存在または非存在は、当業者に公知の適する任意の方法により評価し得る。本発明の細胞または医薬の免疫抑制活性は、適する対照の活性と比較し得る。本発明の細胞または医薬は、適するアッセイにおいて評価する場合、対照と比較して免疫活性の抑制を少なくとも10%達成することが可能であり得る。本発明の細胞または医薬は、例えば、適する対照と比較して免疫活性の抑制を少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%達成することが可能であり得る。実際、本発明の細胞または医薬は、適する対照と比較して免疫活性の抑制を100%達成することが可能であり得る。
【0084】
単なる例として、細胞、例えば、本発明の第1の態様の方法において調製した細胞の免疫抑制活性は、T細胞増殖を阻害するこれらの能力を検査することにより評価し得る。適する実施形態では、免疫抑制活性は、図4Iにおいて提示する結果と一致して、T細胞増殖を少なくとも80%阻害する能力により示す。
【0085】
表現型分化能を必要または不要とする治療的適用
本発明の第3の態様では、適するMSC由来細胞を、治療的適用のために選択することが可能な方法を提供する。この選択は、治療的適用の性質と、また、MSC由来細胞によるある特定のマーカーの発現とを基準として行う。
【0086】
本発明の第3の態様の方法により、表現型分化能を必要とする治療的適用において使用する細胞と、表現型分化能を必要としない治療的適用において使用する細胞との間で区別をつけることが可能となる。
【0087】
表現型分化能を必要とする治療的適用は、MSC由来細胞の治療活性が、分化するこれらの細胞および治療作用をもたらす生成された新たな細胞の能力により達成されるものである。このような適用の例としては、MSCが分化し、これにより関節軟骨または骨を生成するように誘導するインビトロでの組織改変、および置換組織のインサイチュでの生成のための軟骨病変または骨欠損への移植のためのMSCの使用が挙げられる。
【0088】
対照的に、治療作用を達成するために表現型分化能を有するのにMSC由来細胞を必要としない多数の治療的適用が存在する。表現型分化能が、このような治療活性を媒介するMSCまたはMSC由来細胞によりもたらされる栄養因子であるため、組織修復を誘導するのに栄養作用を利用する治療的適用では、表現型分化能を必要としないことが理解される。同様に、MSC由来細胞の免疫抑制作用を利用する治療的適用では、表現型分化能を必要としないことが認識される。必要とされる治療活性を達成するのに栄養作用または免疫抑制作用を利用する治療的適用の例は、本明細書のいずれかに記載する。また、本発明の第1の態様の細胞集団、本発明の第2の態様により調製した細胞、および本発明の第4の態様の治療方法は、表現型分化能または多能性を必要としないこのような適用における使用に非常に適する。
【0089】
細胞の製剤化
本発明の細胞集団は、医薬組成物として製剤化し得る。実際、本開示では、本発明の細胞を含む組成物も提供し、医薬組成物および製剤、例えば、所与の用量またはこの画分による投与のための細胞数を含む単位剤形組成物を含む。医薬組成物および製剤は、一般に、1つまたは複数の薬学的に許容される担体または賦形剤を適宜含む。一部の実施形態では、組成物は、少なくとも1つのさらなる治療薬を含む。
【0090】
「医薬製剤」の用語は、これに含まれる活性成分の生物学的活性を有効とすることが可能となる形態であり、製剤を投与する対象に対して許容されないほど毒性である、さらなる成分を含まない調製物を指す。
【0091】
「薬学的に許容される担体」は、対象に対して非毒性の、活性成分以外の医薬製剤中の成分を指す。薬学的に許容される担体は、緩衝液、賦形剤、安定剤、または保存剤を含むが、これらに限定されない。
【0092】
一部の態様では、担体の選択は、特定の細胞および/または投与方法により、部分的に決定する。したがって、適する多様な製剤が存在する。例えば、医薬組成物は、保存剤を含み得る。適する保存剤は、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウムおよび塩化ベンザルコニウムを含み得る。一部の態様では、2つ以上の保存剤の混合物を使用する。保存剤またはこれらの混合物は、全組成物の約0.0001~約2重量%の量で典型的に存在する。担体は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に記載されている。薬学的に許容される担体は、レシピエントに対して、利用する投与量および濃度で一般に非毒性であり、緩衝液、例えば、リン酸、クエン酸および他の有機酸;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルもしくはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチンもしくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン;単糖、二糖、およびグルコース、マンノースもしくはデキストリンを含む他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Znタンパク質錯体);ならびに/または非イオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)を含むが、これらに限定されない。
【0093】
一部の態様では、緩衝剤を組成物に含む。適する緩衝剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸カリウム、ならびに他の種々の酸および塩が挙げられる。一部の態様では、2つ以上の緩衝剤の混合物を使用する。緩衝剤またはこれらの混合物は、全組成物の約0.001~約4重量%の量で典型的に存在する。投与可能な医薬組成物を調製するための方法は、公知である。例となる方法は、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott Williams & Wilkins; 21st ed. (May 1, 2005)に、さらに詳細に記載されている。
【0094】
製剤は、水溶液を含み得る。また、製剤または組成物は、細胞により治療する特定の徴候、疾患または症状に有用な2つ以上の活性成分、好ましくは、細胞に補足的な活性を有する成分を含むことがあり、この場合、それぞれの活性は、相互に有害には影響しない。このような活性成分は、意図する目的に有効な量で組み合わせて好適に存在する。したがって、一部の実施形態では、医薬組成物は、他の薬学的に活性な薬剤または薬物、例えば、化学療法薬、例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、メトトレキサート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチンおよび/またはビンクリスチンをさらに含む。
【0095】
一部の実施形態では、医薬組成物は、疾患または症状を治療または予防するのに有効な量、例えば、治療的に有効または予防的に有効な量で細胞を含む。一部の実施形態では、治療的または予防的有効性は、治療対象の定期評価により監視する。所望の投与量は、細胞の単回ボーラス投与、細胞の複数回ボーラス投与、または細胞の持続注入投与により送達可能である。
【0096】
細胞および組成物は、標準的投与技術、製剤および/または装置を使用して投与し得る。細胞の投与は、自己または異種であり得る。例えば、免疫応答性細胞または前駆細胞は、1人の対象から得て、同一の対象または異なる適合対象に投与することができる。末梢血由来免疫応答性細胞またはこの後代(例えば、インビボ、エクスビボまたはインビトロ由来)を、カテーテル投与、全身注射、局所注射、静脈内注射または非経口投与を含む局所注射により投与することができる。治療組成物(例えば、遺伝子修飾免疫応答性細胞を含む医薬組成物)を投与する場合、これは、単位注射剤形(溶液、懸濁液、乳濁液)に一般に製剤化する。
【0097】
製剤は、経口、静脈内、腹腔内、皮下、肺、経皮、筋肉内、鼻腔内、頬側、舌下または坐薬投与のためのものを含む。一部の実施形態では、細胞集団は、非経口的に投与する。「非経口」の用語は、本明細書において使用する場合、静脈内、筋肉内、皮下、直腸、膣内および腹腔内投与を含む。一部の実施形態では、細胞は、静脈内、腹腔内または皮下注射による末梢全身デリバリーを使用して対象に投与する。
【0098】
一部の実施形態では、組成物を滅菌液体調製物、例えば、等張水溶液、懸濁液、乳濁液、分散液または粘性組成物として用意し、一部の態様では、選択されたpHに緩衝し得る。液体調製物は、ゲル、他の粘性組成物および固体組成物よりも調製が通常、容易である。加えて、液体組成物は、特には、注射による投与が、さらにいくらか簡便である。一方では、粘性組成物を適切な粘度範囲内で製剤化して、特定の組織とのさらに長い接触時間をもたらすことができる。液体または粘性組成物は、担体を含んでもよく、これは、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール、液体ポリエチレングリコール)および適するこれらの混合物を含む、溶媒または分散媒であり得る。
【0099】
滅菌注射用溶液は、細胞を溶媒中、例えば、適する担体、希釈剤または賦形剤、例えば、滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロース等との混合物中に組み込むことにより調製することができる。組成物は、投与経路および所望の調製物に応じて補助物質、例えば、湿潤、分散もしくは乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝剤、ゲル化もしくは粘度増強添加剤、保存剤、香味剤、および/または着色料を含み得る。一部の態様では、標準的テキストを参考にして、適する調製物を調製し得る。
【0100】
抗菌剤、保存剤、抗酸化剤、キレート剤および緩衝液を含む、組成物の安定性および無菌性を増強する種々の添加剤を加えることができる。微生物活動の予防は、種々の抗菌および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールおよびソルビン酸により確実とすることができる。注射用医薬形態の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によりもたらすことができる。
【0101】
インビボでの投与に使用する製剤は、一般に無菌である。無菌性は、例えば、滅菌濾過膜による濾過によって容易に達成し得る。
【0102】
本発明の細胞の製剤は、CD90、CD105、CD45であり、TIMP-1分泌が高く、MMP13遺伝子発現が高い細胞を含まないか、または実質的に含まないことがある。
【0103】
本発明の細胞の用量および治療有効量
本発明の細胞の治療有効量は、治療する障害の性質を基準として、また、治療を必要とする個人における疾患の重症度を基準として選択し得る。レシピエントの年齢および体重のような考慮も、適切な用量の選択に影響し得る。
【0104】
治療有効量の本発明の細胞(例えば、本発明の医薬の形態)は、単回の治療頻度、または複数回の治療頻度で提供し得る。
【0105】
本発明による使用のための治療的有効なMSC由来細胞の適する数は、一傷害部位あたりの投与細胞数に基づいて計算し得る。
【0106】
単なる例として、変形性関節症または他の膝損傷の治療では、膝あたり1~2千万細胞の用量が、治療的に有効であると判明し得る。このガイダンスは、治療する器官に応じて、すなわち、さらに大きいか、またはさらに小さい傷害部位のために、調整し得る。
【0107】
本発明は、ここで、以下の実施例を参照して、さらに記載する。
【実施例
【0108】
骨髄由来間葉系間質細胞(MSC)は、これらの多分化能により、幹細胞として部分的に定義されるが、さらに最近では、これらが、組織修復の促進に重要であり得る栄養および免疫制御特性をも有することがわかっている。MSCの栄養/免疫制御機能と比較して分化多能性の階層的重要性を評価するために、我々は、このような特性が、細胞のインビトロでの老化に伴ってどのように変化するかの詳細な解析を行った。我々は、インビトロでの分化および修復モデルを使用し、Ingenuity経路解析を使用してトランスクリプトミクスおよびプロテオミクスデータを統合して、MSCの多分化能は継代の増加とともに低下するが、栄養修復および免疫制御能力は大規模なインビトロでの細胞の老化後であっても維持されることを示す。このような知見は、栄養修復および免疫制御が、MSCの中心的特性であり、このため、一過性の分化多能性よりも階層的に重要であるという見解を支持する。
【0109】
導入
多能性間葉系幹細胞(MSC)の概念は、骨髄における骨形成前駆細胞の存在を実証する1960年代および1970年代のFriedensteinの独創的な研究の後に(Friedenstein et al., 1970;Friedenstein et al., 1968;Friedenstein et al., 1966)、Caplanにより1990年代初期に確立された(Caplan, 1991)。この初期の研究に立脚して、骨格系列分化多能性の明らかな証拠によって(Kolf et al., 2007)インビトロで分化するMSCの能力を実証する多くの研究が存在しており、骨形成(Gronthos et al., 1994;Pound et al., 2006;Pound et al., 2007;Simonsen et al., 2002)、軟骨形成(Dickinson et al., 2017; Johnstone et al., 1998; Kafienah et al., 2002; Kafienah et al., 2007b; Kafienah et al., 2006; Martin et al., 1997; Solchaga et al., 2005; Yoo et al., 1998)および脂肪生成(Dickinson et al., 2017; Mirmalek-Sani et al., 2006; Munir et al., 2017)ならびに内胚葉および外胚葉経路を含む分化全能性のさらに限定的証拠が含まれる(Caplan, 1991;Kuroda et al., 2011)。このような研究の一部では、骨髄MSCのクローン集団が多分化能を保持することを実証しており(Dickinson et al., 2017;Muraglia et al., 2000)、異種性髄由来集団における少なくとも一部の個々のMSCが、幹細胞特性を示すことを示唆した。
【0110】
さらに最近では、MSCが、これらの多分化能に直接には関連しない機構により組織修復を支持し得るという証拠が増加している(Prockop, 2007)。Caplanは、MSCについて、例えば、脳卒中、心筋梗塞の治療または半月板軟骨修復において、移植後、隣接細胞に活性分子を分泌するよう誘導する「栄養」能を有すると記載している(Caplan and Dennis, 2006)。栄養修復は、MSCによる大量の成長因子および他の媒介因子の生成によって媒介される可能性が最も高い(Caplan and Correa, 2011;Caplan and Dennis, 2006;Kuroda et al., 2011;Prockop, 2009;Tolar et al., 2010)。我々は、MSCの栄養特性に基づく半月板軟骨修復のための治療戦略をこれまでに開発しており(Pabbruwe et al., 2010b)、これは、前臨床および臨床試験における有効性の一部の証拠を示している(Whitehouse et al., 2017)。分化多能性に独立的な組織修復の第2の機構は、T細胞増殖の下方制御を含む、様々な機構による免疫応答を抑制するMSCの能力である(Dickinson et al., 2017;Keating, 2012;Spaggiari et al., 2007;Tolar et al., 2010;Uccelli et al., 2006;Uccelli et al., 2007)。MSCのこの重要な特性は、提供された造血細胞の生着を支持し、移植片対宿主病を予防するために臨床的に使用されている(Lazarus et al., 2005;Tolar et al., 2010)。
【0111】
MSCの作用機構の我々の理解における複雑性の増加により、これらの生理学的役割に関する厳密な証拠の欠如に対する最近の懸念と相まって、これらを幹細胞であると考えるべきかどうかの疑問がいくらか生じた(Bianco et al., 2008;Caplan, 2017;Kuroda et al., 2011;Sipp et al., 2018)。しかし、このような不確実性にもかかわらず、MSCを組織再生(例えば、骨および軟骨;心血管疾患)ならびに血液疾患、移植片対宿主病および炎症疾患を含む疾患修飾のための広範な臨床的検討に使用する場合が残っている(Squillaro et al., 2016)。このような臨床的手法の一部が分化に基づく一方、他の手法は栄養または免疫制御機能に依存しており(Caplan and Correa, 2011)、未だ我々は、このような種々の作用機構がどのように相互に関連しているのかについては、あまり理解していない。
【0112】
MSCのインビトロでの継代の増加に伴う分化能の喪失を記載するいくつかの研究が存在しており(Bonab et al., 2006;Muraglia et al., 2000;Yang, 2018;Yang et al., 2018)、他の研究は、インビボでの老化によっても、エクスビボでの老化細胞の単離後の分化能の喪失が生じることを示唆している(Choudhery et al., 2014;Ganguly et al., 2017;Stenderup et al., 2003)。このような知見は、MSCのインビトロでの老化によりテロメア長が短縮する並行する知見(Baxter et al., 2004)と相まって、細胞機能を損ない、これらの臨床的有用性を制限する急速な老化過程を示すものとして解釈されている。反対に、栄養修復または免疫制御に対する比較可能な老化関連データは報告されていない。したがって、細胞の老化による分化能の低下が、老化に近づくにつれてMSCの機能的能力の全般的低下に反映するかどうか、または分化多能性の選択的喪失が存在するかどうかは、現在、不明である。
【0113】
我々は、ここで、MSCのインビトロでの老化によって、一過性の機能特性および細胞の寿命を通じて保持される中心的特性を同定することにより、これらの生物学の種々の態様間の関連性を理解するための枠組みがもたらされることを提唱する。したがって、この試験の目的は、このような機能が、インビトロで老化するMSCの増加とともに低下する速度を決定することにより、分化能および栄養修復/免疫制御の相対的な階層的重要性を判定することである。
【0114】
結果
患者の特徴およびMSCの成長能
骨髄を、外傷性膝傷害の治療のため関節形成手術を受ける患者から採取した。すべての患者は、インフォームドコンセントに同意し、地域の倫理ガイドライン(Southmead Research Ethics Committee Ref 078/01)に十分に従って試験を実施した。表S1は、患者の特徴を示す。4人はすべて、手術時の平均年齢が49歳(38~70歳の範囲)の男性であった。MSCは、形成接着により各骨髄から単離し、それ以上増殖できなくなるまで標準的培養条件下で成長させた。PN241およびPN242由来のMSCは、PN251およびPN264由来のMSCよりも多数の継代の間、増殖し続け、PN242細胞は、30継代であっても成長停止の徴候を示さなかった(図1Aおよび表S1)。図1Bは、各患者の各継代における最大17継代までのMSC集団倍加時間(PDT)を示す。4人すべての患者由来のMSCのPDTは、初期の継代において類似し、後期の継代において長くなり、1人の患者(PN264)由来のMSCは、高継代数において特に遅い成長を示した。初期継代MSCは、典型的な星状の外観を有し、これは、細胞がさらに老化するにつれて失われた(図1C、PN251)。しかし、PN242細胞は、良好に増殖し続けた場合、非常に高い継代数においても細長い星状の外観を有した(図1C、PN242)。
【0115】
細胞表面マーカー発現は、FACSにより、P1、P5、P10およびP15の継代のそれぞれにおける4人すべての患者由来のMSCを使用して決定した。MSCマーカーCD105およびCD90の発現は、4人すべての患者由来のMSCの後期継代において>90%が維持された。造血幹細胞マーカーCD45は、すべての継代において<10%を維持したが、患者のうちの2人において、造血幹細胞マーカーCD34の発現が、継代数の増加とともにわずかに増加した(図1D)。
【0116】
MSCの3系列分化能が継代の増加とともに低下する
各患者の選択した継代由来のMSCは、軟骨形成能について、3次元軟骨組織改変アッセイにおいて、組織の乾燥重量として測定した改変軟骨の量および乾燥重量の%として表すグリコサミノグリカン含量として測定した軟骨の質により検査した。細胞のインビトロでの老化による軟骨形成能の喪失の明らかな証拠が存在した。各患者由来のMSCの様々な継代にわたる組織改変軟骨の典型的な肉眼的外観を、図2において見ることができ、後期継代MSCを使用して生成した場合は、軟骨コンストラクトの平均サイズの低下を明らかに実証する。この肉眼的知見は、定量分析により支持された。4人の患者のうちの3人について組織改変の時点で記録した、形成軟骨の平均乾燥重量とMSCの累積集団倍加との間の有意な負の相関、ならびに4人すべての患者について組織改変の時点で記録した、平均軟骨グリコサミノグリカン含量とMSCの累積集団倍加との間の有意な負の相関が存在した(図3A~D)。その上、個々の組織改変軟骨コンストラクトすべての乾燥重量およびグリコサミノグリカン含量の両方は、組織改変に使用したMSCの継代数と有意に負に相関した(図3Eおよび3F)。
【0117】
また、MSCは、骨形成能について、アリザリンレッド染色の半定量分析により単層培養で検査した。染色パターンの典型的画像および使用した採点法を図S1に示す。MSCの骨形成能の漸進的喪失の一部の証拠が存在したが、結果は、患者間で一致しなかった。PN241の患者では、累積集団倍加に伴う平均骨形成スコアの明白な変化は存在しなかった(図S2A)。PN242の患者では、累積集団倍加に伴う骨形成能の有意な低下が存在した(図S2B)。変化は、統計学的に有意ではなかったが、PN251の骨形成スコアは、10集団倍加により0に低下し、さらに高い倍加では0のままであった(図S2C)。PN264の患者は、小さい数の集団倍加でも、観察可能な骨形成活性は示さなかった(図S2D)。全体的に見て、反復したアッセイの個々の骨形成スコアは、使用したMSCの継代数と有意には相関しなかった(図S2E)が、各患者で観察された種々のパターンは、可変である場合、細胞のインビトロでの老化とともに骨形成の漸進的低下を示す。
【0118】
MSCの脂肪生成能は、単層培養において、オイルレッドO染色の半定量分析により検査した。染色パターンの典型的画像および使用した採点法は、図S3に示す。PN251の患者では、累積集団倍加に伴う、脂肪生成能のわずかではあるが、有意な低下が存在した(図S4C)が、他の3人の患者では、有意な変化は存在しなかった(図S4A、S4BおよびS4C)。全体的に見て、反復したアッセイの個々の脂肪生成スコアは、使用したMSCの継代数と有意には相関せず(図S4E)、したがって、細胞のインビトロでの老化に伴う脂肪生成の低下の非常に限定的証拠のみが存在した。
【0119】
まとめると、このようなデータは、MSCの分化能の明らかな喪失を示すとともに、初期継代細胞が十分な3系列能(tri-lineage potential)を示す傾向を有し、後期継代細胞が、脂肪生成能のみ、または脂肪生成に加えて骨形成能を保持するが、軟骨形成能は保持しない傾向を有することを示す。このようなデータは、分化多能性が、CD105+ve、CD90+ve、CD34-ve、CD45-veMSCの基本的特性ではなく、むしろ、インビトロでの細胞増殖とともに失われる、新たに単離したMSCの特色であることを示唆する。
【0120】
MSCによる栄養修復および免疫制御が継代の増加とともに維持される
我々は、MSCによるインビトロでの半月板軟骨の2つの断片の結合を、インビトロでのこの系の我々のこれまでの研究に基づく栄養修復のモデルとして、インビボでのヒツジモデルおよび半月板断裂を有する患者において使用した(Whitehouse et al., 2017)。それぞれ17継代の4人すべての患者由来のMSCを、これらの能力について、我々の半月板修復能力アッセイにおいて検査した。このような試験における%半月板結合の変動は、典型的組織画像に例示するように、これまでに記載したものと同一範囲内であった(図4A~C)。我々の3能性分化(tri-potential differentiation)の知見とは対照的に(上参照)、4人の患者のいずれについても、累積集団倍加に伴う半月板修復の平均能力における有意な変化は存在しなかった(図4D~G)。その上、個々の半月板コンストラクトについて測定した%結合は、使用したMSCの継代数との相関は示さなかった(図4H)。
【0121】
組織修復応答の刺激だけでなく、MSCは、T細胞増殖の阻害および他の機構により、免疫を抑制することも可能である。したがって、我々は、4人すべての患者について、選択した継代由来のMSCによるT細胞増殖の%阻害を測定した。半月板修復と同様に、継代の増加に伴うMSCの免疫制御能における有意な変化は存在しなかった(図4I)。
【0122】
総合すると、半月板栄養修復およびT細胞増殖の阻害の我々の知見は、MSCの保護および修復作用が、CD105+ve、CD90+ve、CD34-ve、CD45-veMSCの基本的特色であり、インビトロでの大規模な増殖後であっても保持されることを示す。
【0123】
トランスクリプトミクスおよびプロテオミクスデータが多能性の喪失に関連し得る継代にわたる有意差を示す
我々は、各継代の4人すべての患者の未分化MSC由来のmRNAを準備した。成長および分化の特徴に基づいて、我々は、遺伝子アレイ比較のためにP1、P5、P10およびP15の継代からmRNAを選択した。このような継代のそれぞれでは、我々はまた、プロテオミクス比較のために馴化培地を採取した。ゲノムおよびプロテオミクスデータを組み合わせ、関連遺伝子およびタンパク質における変化のパターンについて解析した。トランスクリプトミクスおよびプロテオミクス解析への方法論的手法は、図5Aに例示する。データ構造は、主成分分析(PCA)により鑑定した。最初の2つの主成分のスコア図は、図5Bに示される。継代にわたって取得した変化は、PC2において説明され、一方、PC1では、患者間でかなりの変動を取得し、これは、2つの群に層別化することができる(青色およびオレンジ色の楕円で示す)。また、このような2つの群の患者は、骨形成能における差を示す(上参照)。継代にわたって単独で変化する遺伝子およびタンパク質を同定する目的のために、この患者の可変性に独立的に、我々は、方法の節に記載するように、各変数について2元ANOVAを実施した。図5Cは、このような検査の有意な変数を示す。わずかに338の遺伝子およびタンパク質が、患者対患者の変動または関連する任意の反復に独立的に、継代にわたってユニークに有意である。このような338の遺伝子およびタンパク質を使用してPCAを計算した。この最初の2つの主成分を、選択した338の変数のヒートマップとともに図5Dに示す。予想通り、このような遺伝子およびタンパク質は、継代により、すべての患者試料の非常に明らかな分離を示し、あるサブセットは、継代にわたるこれらの発現/存在量が低下し(ヒートマップの上半分)、一方、他は、これらの発現/存在量が上昇する(ヒートマップの下半分)。
【0124】
このような338の有意なタンパク質および遺伝子のそれぞれについて、我々は、1継代に関する倍率変化を計算し、Ingenuity経路解析(IPA)(QIAGEN Inc社、https://www.qiagenbioinformatics.com/products/ingenuity-pathway-analysis)により、このようなデータを解析した。このソフトウェアにおけるglobal molecular networkによりオーバーレイしたIPAのコア解析によって、多数の標準経路、機能および上流制御因子が同定され、このリストにおいて有意に大きな比率を占めたため、細胞の多分化能の喪失と関連することが見出された。最も大きくかつ最も有意な変化は、細胞周期の主要制御因子であるFOXM1遺伝子経路におけるものであり、FOXM1遺伝子自体の下方制御についてのトランスクリプトミクスデータによる明らかな証拠があり(図6A)、この下流エフェクターの7つのうちの6つも、下方制御されるとIPAにより予測された(図6B)。不活性化されると予測された他の上流制御因子は、プロスタグランジン受容体PTGER2およびVEGFファミリーのメンバーであり、一方、継代にわたって積極的に活性化されるとやはり予測された上流制御因子は、増殖制御因子NUPRおよび細胞骨格制御因子MYOCを含んだ。このような制御因子の下流エフェクターにおける変化の、我々のトランスクリプトミクス解析による定量的データおよび関連するIPA予測は、図S5に示すが、この変化および予測した下流作用のいずれもFOXM1ほど明確ではなかった。
【0125】
細胞遊走および創傷治癒の制御因子はMSCの栄養特性に関連し得る
図4に示すように、MSCの栄養修復能は、継代の増加とともに未変化のままである。この現象をさらに検討する目的のために、我々は、(a)この機能の制御に関与するタンパク質および遺伝子が、継代にわたって存在量/発現の有意な変化は呈しないはずであり、(b)細胞運動、細胞遊走および創傷治癒に関連する機能が、栄養修復に機構的に関与する可能性を有すると仮定した。この仮定を検討するために、我々は、IPAデータベースを使用して、上に列挙する3つの用語に関与するタンパク質および遺伝子を同定した。次いで、我々は、このようなリストを我々のデータにマッピングし、重複する変数を抽出し、継代にわたるこれらの有意性を鑑定した。このような検索条件にマッピングする大多数のタンパク質および遺伝子は、継代にわたって不変であり、我々のMSC培養物の4継代すべてにわたって一定のレベルで発現することが見出され(図6B)、栄養修復に必要であると予想された遺伝子およびタンパク質は、多分化能は失われているが栄養修復能は高いままである場合、老化細胞において発現し続けるという仮定を支持した。我々は、CXCL12(間質細胞由来因子1とも呼ばれる)が、我々の検索条件の3つすべてと関連し(図6C)、遺伝子およびタンパク質の両レベルにおいて一貫して高度に発現したため(図6DおよびE)、特に重要なものであると考えた。
【0126】
マーカー遺伝子およびタンパク質
上に概要を述べたIPA解析によって、継代の増加/分化多能性の喪失と、継代増加に伴うCXCL12ならびに他の細胞遊走および創傷治癒遺伝子およびタンパク質の持続的発現とによる、FOXM1標準経路の下方制御が実証された。しかし、我々は、これが、標準経路または遺伝子/タンパク質ファミリーの一部ではない可能性があるが、インビトロでの細胞老化の特異的マーカーとして使用可能である、遺伝子およびタンパク質の同定にも必要であると考える。このようなマーカーは、一方から別の研究室への細胞研究の比較、または治療目的のために使用するMSC集団の機能性の判定に役立つ。したがって、我々は、遺伝子アレイおよびタンパク質データを解析して、候補マーカーを同定した。
【0127】
トランスクリプトミクス解析により同定した有意な可変性遺伝子では、継代の増加に伴うマトリックスメタロプロテイナーゼ13の遺伝子の有意な低下(MMP13;コラゲナーゼ3;図7Aおよび表S2)および継代の増加に伴うインスリン様成長因子結合タンパク質5の遺伝子の有意な上昇(IGF結合タンパク質5;表S3)が存在した。他のMMP遺伝子(表S2)またはIGFBP遺伝子(表S3)においても、トランスフォーミング成長因子ファミリーのいかなる遺伝子(表S4)においても、有意な変化は存在しなかった。継代に伴うMMP13遺伝子発現の低下率が軟骨形成能の低下を密接に反映することを、トランスクリプトミクスデータが示したため(図7A図3と比較)、我々は、定量的PCRを使用して、このような結果の検証に進み、継代の増加に伴うMMP13遺伝子発現の変化をさらに正確に判定した。結果により、継代の増加に伴うMMP13遺伝子発現の持続的低下が確認され(図7B)、MMP13遺伝子発現の喪失を使用して、インビトロでの増殖によるMSCの老化の程度の判定に役立てることが可能であることが実証される。
【0128】
プロテオミクスデータセットでは、我々は、すべての継代において最も高い存在量で発現するタンパク質を同定した(表S5)。このような最も豊富なタンパク質は、メタロプロテイナーゼ阻害因子1であった(メタロプロテイナーゼ組織阻害因子1;TIMP1;表S5および図7C)。我々は、ELISAキットアッセイを使用して、このような結果の検証に進み、継代の増加に伴うTIMP-1タンパク質分泌の変化をさらに正確に判定し(図7D)、TIMP-1の発現が、インビトロでの増殖によるこれらの老化の程度とは無関係の、MSCの決定的な特徴であることを実証した。その上、MSCをコラーゲン足場上に播種し、24時間培養した場合、細胞は、細胞/足場コンストラクトから培養培地内に高レベルでMSCに分泌させ続けたが、生存率を低下させる条件下でコンストラクトを凍結融解した場合、分泌されたTIMPレベルは、実質的に低下した(図7E)。
【0129】
高レベルのMMP13遺伝子を発現するが、豊富なTIMP-1を分泌するMSCは、表現型分化または栄養/免疫制御修復のいずれかを含む治療過程に潜在的に使用可能であると、我々は結論づけた。しかし、低レベルのMMP-13遺伝子を発現するが、豊富なTIMP-1を分泌するMSCは、栄養/免疫制御修復を含む過程にのみ使用可能であるが、これらは、分化を含むこのような過程に確実に使用することはできない。
【0130】
考察
MSCの他の2つの重要な特性(栄養修復および免疫制御)が、非常に多数の集団倍加の後でも有意に低下せず、低下した分化能が、増殖休止前に多くの継代にわたって観察されたため、インビトロでの大規模な継代に伴うMSCの多分化能の喪失は、MSCの老化に伴う細胞機能の一般的な喪失の結果ではあり得ないことを我々は示した。その上、様々な重要なシグナル伝達経路の遺伝子およびタンパク質のファミリーは、継代数の増加および分化の喪失と相関する明らかな変化を示すが、創傷修復および細胞運動/遊走に関与することがわかっている遺伝子およびタンパク質は、継代数の増加とともに有意には変動しない。フォークヘッドボックスM1(FOXM1)標準経路の下方制御は、継代数に対する明らかな関連性を示し、多能性の維持、次いで、喪失におけるFOXM1の潜在的役割を示した。この知見は、その生物学的機能のこれまでの研究と一致する。それは、がん幹細胞の生存において鍵となる主要制御因子である、癌原遺伝子である(Nakano, 2014;Xie et al., 2010)。また、これは、多能性および全能性幹細胞において高度に発現し、幹細胞の能力の維持(Besharat et al., 2018;Youn et al., 2017)、および初期化による全能性の誘導(Jeong et al., 2017)に重要であることが示されている。CXCL12(SDF-1としても知られる)が、栄養修復と関連する我々の検索条件の3つすべてと関連することが見出され、この遺伝子およびタンパク質レベルが、非常に後期の継代数でも維持されたことにより、MSC媒介栄養修復におけるCXCL12の潜在的役割を示した。この知見は、脊髄修復(Stewart et al., 2017)および心筋修復(Dong et al., 2012)、ならびに神経細胞生存のインビトロでの増強(Chalasani et al., 2003)および内皮細胞と腫瘍細胞との間の栄養媒介(Rao et al., 2012)のMSC媒介誘導における、この重要な役割を実証したこれまでの研究と一致する。このような機構的関連性に加えて、我々は、MSCのインビトロでの老化に関連する2つの機能性マーカー、すなわち、継代の増加とともに下方制御されるMMP13(コラゲナーゼ3)遺伝子、およびすべての継代においてセクレトームの最も豊富なタンパク質であるTIMP-1タンパク質を同定した。相互に独立的に同定された(一方はトランスクリプトミクスデータから、他方はプロテオミクスから)このような2つのマーカーが相互に生物学的に関連することは、TIMP-1がMMP13ならびに他のメタロプロテイナーゼの阻害因子であるため、特に興味深い。
【0131】
これまでの研究では、MSCの多能性が、インビトロおよびインビボの両方での老化とともに低下することを明らかに示している(Bonab et al., 2006;Choudhery et al., 2014;Ganguly et al., 2017;Muraglia et al., 2000;Stenderup et al., 2003;Yang, 2018;Yang et al., 2018)。ここで、高継代数において軟骨形成が低下し、骨形成が低下する傾向があるが、脂肪生成が保持されるという我々の知見は、Yangらの研究(Yang et al., 2018)と一致している。また、Muragliaら(Muraglia et al., 2000)は、継代に伴う分化多能性の喪失を示したが、彼らの実験では、骨形成は保持され、脂肪生成は初期に失われた。しかし、彼らは、MSCクローン細胞株を扱っていたが、ここで報告する研究およびYangらによる研究では、全MSC集団を検討した。
【0132】
Haynesworthらは、MSCのユニークなサイトカイン発現パターンを最初に記載し(Haynesworth et al., 1996)、彼らは、デキサメタゾンを使用して分化を刺激した後のサイトカイン生成の低下を実証した。10年後、CaplanおよびDennisは、「栄養作用」の用語を造り出し、これを彼らは、「主に隣接細胞上で作用を発揮し、その作用により産生細胞の分化が決して生じない生理活性因子として細胞から発する、走化性、有糸分裂および分化調節作用」として定義した(Caplan and Dennis, 2006)。彼らは、この作用の典型的な例として、骨髄微小環境においてMSCによりもたらされる、造血細胞の成長および分化への支持を引用した。また、彼らは、脳卒中、心筋梗塞および半月板軟骨再生の治療を含む、様々な細胞治療の場において栄養的支持をもたらすMSCの証拠をまとめた。他の多数の研究により、MSC誘導栄養修復の重要性が記載されるに至った(Caplan and Correa, 2011;Caplan and Dennis, 2006;Kuroda et al., 2011;Prockop, 2009;Tolar et al., 2010)。我々は、損傷組織の結合を促進する幹細胞/コラーゲン足場移植を使用して生半月板軟骨裂傷を治療する新たな方法の考案において、MSCの栄養作用を活用した。我々独自のインビトロでの研究では、方法が、移植片から周囲組織への細胞遊走および内因在性半月板細胞との相互作用に依存することを実証した(Pabbruwe et al., 2009;Pabbruwe et al., 2010b)。重要なことには、我々は、トランスフォーミング成長因子βによって軟骨形成分化を起こすように刺激されたMSCが、半月板修復の促進において、未分化MSCほど強力ではないことを見出した(Pabbruwe et al., 2010b)。我々は、ヒツジ前臨床モデルおよび最初のヒト試験において半月板傷害を修復する、コラーゲン足場上に播種した未分化MSCの使用を記載するに至った(Whitehouse et al., 2017)。現在の研究では、我々は、我々のインビトロでの半定量的半月板軟骨結合アッセイ(Pabbruwe et al., 2010b)を栄養修復のモデルとして使用し、最大30継代の間培養したMSCが、非常に初期の継代細胞と同一の栄養修復能を保持するという非常に驚くべき知見を得た。このような機能データは、細胞運動および遊走ならびに創傷治癒に関与する遺伝子およびタンパク質の我々の分析により支持され、分化に関連するものとは異なり、継代の増加に伴う、これらの発現の有意な変化は存在しなかったことを示した。
【0133】
MSCの免疫制御作用は、広範に記載されており、様々な機構を含むが、T細胞増殖の阻害が、これらの抑制活性の重要な成分であることが明らかである(Dickinson et al., 2017;Keating, 2012;Spaggiari et al., 2007;Tolar et al., 2010;Uccelli et al., 2006;Uccelli et al., 2007)。抗CD3および抗CD28抗体の組合せを使用して、ヒトT細胞を強力に刺激して増殖させることができる(Verhagen and Wraith, 2014)。これらの増殖率は、細胞内分子を蛍光色素により共有結合的に標識し、これが次いで、各細胞分裂により50%に希釈され、FACSにより追跡することによって監視することができる(Quah et al., 2007)。MSCを標識した培養物に加えると、刺激されたT細胞は、リンパ球の増殖を抑制するため、色素の蓄積が延長する(Dickinson et al., 2017)。現在の研究では、我々は、初期および後期継代においてMSCの免疫制御作用を測定するこの方法を使用し、継代の増加に伴う能力の喪失は見出されなかった。ヒトMSCでは、T細胞抑制機構は、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ媒介トリプトファン分解を含むものとして記載されている(Meisel et al., 2004)。まとめると、このような結果は、栄養修復と同様に、免疫制御が、継代の増加に伴って失われないMSCの基本的特性であることを実証する。
【0134】
これまでの研究では、継代の増加に伴うMSCの多分化能の喪失を強調しており、この欠如は、細胞の最終老化状態への進行に関連すると想定されていた(Bonab et al., 2006;Muraglia et al., 2000;Yang, 2018;Yang et al., 2018)。しかし、本明細書に記載する結果により、インビトロでの大規模な継代後でも、栄養修復または免疫制御能の明白な喪失が存在しないことが実証され、このような点で、MSCが、増殖を止めるわずか数日前でも、十分に機能性のままであることを示す。したがって、我々は、MSCの測定可能な機能への階層が存在し、栄養修復および免疫制御は、中心的特性であるが、多能性は、インビトロでの一過的特性であると結論づける。
【0135】
「間葉系幹細胞」の用語は、Caplanにより造り出され(Caplan, 1991)、彼は、MSCを「傷害のドラッグストア」として記載し(Caplan and Correa, 2011)、さらに最近では、「薬用シグナル伝達細胞」へのこれらの名称の変更を提唱するに至った(Caplan, 2017)。他の研究では、厳密で確証的な生物学的証拠の欠如のため、MSCの幹細胞としての定義に疑問を呈し(Bianco et al., 2008;Javazon et al., 2004;Keating, 2012;Kuroda et al., 2011;Prockop, 2009)、このような研究のすべてにおいて、命名の結論に達する前に、さらなる実験データを要求した。他では、MSCが幹細胞ではないという結論において、さらに率直であり、MSCの「奇跡の治療法」としての過剰宣伝マーケティングを回避するように、命名の即時変更を要求した(Caulfield et al., 2016;Sipp et al., 2017;Sipp et al., 2018)。Prockopは、幹細胞の本質は、単一時点におけるその状態により判定すべきではないことを強調した(Prockop, 2009)。彼の洞察に満ちた総説では、本明細書において報告するデータに有用な文脈が提供されている。この研究では、我々は、多くの継代にわたる経時的なMSCのインビトロでの分化および栄養的挙動を検討し、このようにして、多能性の特性は比較的一過性であるが、このような細胞の栄養作用は、成長停止時間までの開始から終了まで、明らかに持続性であるという結論に達した。
【0136】
結論として、我々の発見により、多能性に対する栄養修復の階層的重要性を強調し、MSCを間葉系幹細胞ではなく修復細胞として定義することを支持する、さらなる一部の証拠を提供する。
【0137】
STAR法
試薬の窓口およびリソースの共有
試薬のさらなる要望は、筆頭窓口のAnthony Hollander(A.Hollander@Liverpool.ac.uk)が管理および対応し得る。
【0138】
実験モデルおよび対象の詳細
インビトロでの試験のためのヒト髄由来MSCの単離および増殖
本明細書において報告するすべての実験の基礎として使用したモデルは、ヒト骨髄由来MSCの長期培養物であった。骨髄栓を、人工股関節全置換を受ける患者の大腿骨頭から採取した。すべての患者は、インフォームドコンセントに同意し、地域の倫理ガイドライン(North Bristol NHS Trust Research Ethics Committee)に従って試験を実行した。患者詳細は、表S1において参照することができる。10%(v/v)のウシ胎仔血清(FBS、Thermo Scientific Hyclone社、Loughborough、UK)、1%(v/v)のGlutamax(Sigma社)および1%(v/v)のペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma社)を補給した低グルコースダルベッコ改変イーグル培地(Sigma社)からなる幹細胞増殖培地中に細胞を懸濁した。血清バッチは、MSCの成長および分化を促進するように選択した(Kafienah et al., 2007a)。また、培地は、10ng/mlのFGF-2(Peprotech社)を補給した。この成長因子は、インビトロでのMSC増殖率を増強し(Bianchi et al., 2003;Solchaga et al., 2005)、増殖中にMSCを未分化細胞として保持し(Kafienah et al., 2006;Martin et al., 1999)、引き続いてFGF-2増殖MSCを分化条件に曝す場合に軟骨形成分化を増強することが、これまでに示されている(Bianchi et al., 2003;Solchaga et al., 2005)。細胞懸濁液は、培地による反復洗浄により試料中の任意の骨から分離した。細胞を500gで5分間、遠心分離し、上清/脂肪を除去した。生じた細胞沈殿物を培地中に再懸濁し、次いで、1cmあたり1.5~2.0×10有核細胞の播種密度で播種した。このようなフラスコを37℃、CO5%および空気95%の加湿雰囲気下でインキュベートした。これを4日放置後、最初の培地交換を行い、次いで、接着細胞が90%のコンフルエンスに達し、継代の準備が整うまで一日おきに培地を交換した。
【0139】
方法の詳細
細胞継代ならびに集団倍加および倍加時間の計算
各継代の終了時に、0.25%のトリプシンEDTA(Invitrogen社)を使用してMSCを回収、貯蔵、計数し、次いで、再播種およびさらなる成長、半月板軟骨の%結合の測定における即時使用、分化プロトコールにおける引き続く使用のための液体窒素による保存、ならびにゲノムおよびプロテオミクス解析のため、異なる遠心管に分けた。各患者のための細胞は、成長停止まで凍結せずに持続的に継代し、継代間に細胞数の検出可能な増加がないものとして定義した(表S1を参照)。各継代において、回収したMSCの総数を決定した。生骨髄の播種後、最初の細胞回収を継代0として解釈した。1継代の開始時に再播種した細胞の数を、1継代の終了時の最初の集団倍加値の計算のベースラインとして使用した。MSCの下流解析は、1継代以降に行った。
【0140】
集団倍加(PD)数は、次の式を使用して計算した。
PD=[log(回収したMSCの数)-log(播種したMSCの数)]/log(2)]
各継代のPDを計算し、これまでの継代のPDに加算して、各継代における累積PDのデータを作成した。
【0141】
集団倍加時間(PDT)は、各継代について、次の式を使用して計算した。
PDT=t×log(2)/log(回収した細胞/播種した細胞)
(t=細胞播種から細胞回収までの時間)
【0142】
細胞表面表現型マーカーの検出
MSC(1、5、10および15継代のそれぞれにおける各患者由来の100,000細胞)を1:500希釈の生/死細胞色素Zombie(Biolegend社)中に懸濁し、20分間、暗所でインキュベートした。次いで、1%(wt/vol)のBSA(Sigma-Aldrich社)、5%(vol/vol)のFCS(Sigma-Aldrich社)および10%(vol/vol)のヒト血清(Sigma-Aldrich社)中に細胞を室温で1時間インキュベートすることにより、非特異的抗原をブロッキングした。細胞は、3容量のPBSによる遠心分離によって洗浄し、細胞沈殿物を、ブロッキング溶液中20~100μg/mlの抗体を含む一次抗体溶液100μl中に懸濁した。すべての一次抗体は、蛍光標識マウス抗ヒトIgGであった。抗CD105フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、抗CD90フィコエリトリン(PE)、抗CD45-PEは、R&D Systems社から入手し、抗CD34-FITCは、BD Bioscience社から、IgG1-FITCおよびIgG1-PEアイソタイプ対照は、R&D Systems社から入手した。4℃で40分間のインキュベーション後、細胞を洗浄し、PBS1ml中に懸濁して、非生存細胞の除外後に、Cantoフローサイトメーター(BD FACSCantoII)上で解析した。データは、FlowJo(Treestar社)を使用して解析した。陽性発現は、対応するアイソタイプ適合対照抗体の95%を越える蛍光レベルとして定義した。
【0143】
軟骨形成
軟骨組織の改変
各継代由来のMSCの軟骨形成能を、これまでに記載されているように(Kafienah et al., 2007a)、3次元軟骨組織改変を実施することにより評価した。簡潔には、300,000細胞を、100μg/mlのフィブロネクチン(Sigma社)で事前にコーティングした直径5mm×厚さ2mmのポリグリコール酸(PGA)足場ディスク(BiomedicalStructures社、Warwick、RI、USA)上に滴下により載せた。次いで、コンストラクトを、10ng/mlのトランスフォーミング成長因子β3(TGF-β3;R&D Systems社)を補給した4500mg/Lのグルコース(Sigma-Aldrich社)、100nMのデキサメタゾン、80μMのアスコルビン酸2-リン酸、1mMのピルビン酸ナトリウム、1%(v/v)のペニシリン/ストレプトマイシン(すべてSigma-Aldrich社から入手)、1%のインスリン-トランスフェリン-セレン-G(ITS)および2mMのGlutamax-I(ともにInvitrogen社から入手)を含むDMEMからなる軟骨形成分化培地中で培養した。7日後、培地には、培養終了まで10μg/mlのウシ膵臓インスリン(Sigma-Aldrich社)をさらに補給した。コンストラクトを37℃で合計35日間、回転プラットフォーム上でインキュベートし、培地を3日毎に交換した。
【0144】
生物化学的分析
軟骨コンストラクトを凍結乾燥し、35日の組織改変期間の終了時に秤量した。細胞外マトリックスを、2mg/mlのウシ膵臓トリプシン(Sigma-Aldrich社)による一晩の分解によって十分に可溶化し、次いで、これを15分間煮沸して酵素の作用を阻害した(Dickinson et al., 2005)。コンストラクト中の細胞外マトリックスの乾燥重量を得るために、残存する未分解足場物質を凍結乾燥、秤量し、元々の乾燥重量から減算した。分解物中のプロテオグリカンの量を硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)として、ジメチルメチレンブルー(Sigma-Aldrich社)比色アッセイを使用して測定した(Handley and Buttle, 1995)。
【0145】
骨形成および脂肪生成
全MSC集団またはMSCクローンを単層により、骨形成分化前に50~70%コンフルエンス、または脂肪生成分化前に100%コンフルエンスまで成長させた。次いで、両方の場合では、対象細胞を、10%のFBS、1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシンおよび2mMのGlutamax-Iを含むα-MEM(Invitrogen社)基礎培地中で培養した。分化を起こすために刺激した細胞を、骨形成サプリメントまたは脂肪生成サプリメント(ともにR&D Systems社から入手)のいずれかを含む基礎培地中で21日間、培養した。骨形成分化の後、70%のエタノール中に細胞を固定し、40mMのアリザリンレッドS(Sigma-Aldrich社)によりpH4.1で5分間、染色した。脂肪生成分化の後、4%のパラホルムアルデヒド中に細胞を固定し、0.3%のオイルレッドO(Sigma-Aldrich社)により30分間、染色した。分化の程度は、盲検条件下で採点し、骨形成分化後の石灰化沈着物の部位および数の増加(図S1を参照)、ならびに脂肪生成分化後の脂質液滴の数の増加(図S3を参照)に応じて-(染色なし)、+、++または+++として分類した。
【0146】
半月板修復
ヒツジ半月板軟骨の調製
ヒツジの脚をEdge&SonButchers社、Wirral、Merseysideから購入し、半月板軟骨を無菌条件下で除去した。半月板軟骨の円柱(直径5.0mmおよび厚さ3.0mm)を、無血管(白色帯)のヒツジ半月板から皮膚生検パンチを使用して回収した。これらをすすぎ、10%(v/v)のペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich社)および1%(v/v)250μg/mlのアムホテリシンB(Sigma-Aldrich社)を含むリン酸緩衝食塩水(PBS;InvitrogenLtd社、Paisley、UK)で20分間インキュベートした。線維軟骨ディスクの生存率を、10mMのHepes緩衝液(Sigma社)、1%(v/v)のペニシリン/ストレプトマイシン、非必須アミノ酸(NEAA;Sigma社)、1%(v/v)のGlutamaxおよび10%のアムホテリシンBを有する低グルコースDMEMからなる基礎培地中37℃の5%CO環境における培養により維持した。培養から3日以内に、外植片を結合実験において使用した。
【0147】
細胞播種
コラーゲン足場(Ultrafoamコラーゲンスポンジ;Bard、UK、www.barduk.com)を直径6mmのディスクに切り分け、MSCを1×10細胞/cmの密度で播種した。懸濁液を、24ウェルプレートの超低接着ウェル(Corning(登録商標)、Acton、USA)に配置した足場上に滴下により載せた。4時間後、10ng/mlのFGF-2を含む増殖培地1.5mlを加え、毎日交換した。播種した足場を、50rpmのオービタル振盪機において37℃で48時間インキュベートした。
【0148】
コンストラクトの構築および培養
播種した足場を挟んだ2つのヒツジ半月板軟骨ディスクのサンドイッチコンストラクトを、これまでに記載されているように(Whitehouse et al., 2017)皮膚クリップを使用して構築し、インビトロによる超低接着6ウェルプレート内で、10ng/mLのFGF-2を有する増殖培地により7日間、培養した後、10%(v/v)のFBS、1%(v/v)のGlutamax、1%(v/v)のペニシリン/ストレプトマイシン、インスリンおよびアスコルビン酸-6-リン酸(50μg/ml;Sigma社)を含む高グルコースDMEMからなる結合培地により33日間、培養した。培地は、毎週2回補充した。コンストラクトは、培養期間を通じて回転プラットフォーム上に37℃でインキュベートした。培養終了時には、10%(v/v)中性緩衝ホルマリン中の固定化による組織学的解析のために、コンストラクトを準備した。
【0149】
組織形態計測的解析
我々が開発し、これまでの研究において特徴づけた方法を使用して(Pabbruwe et al., 2009;Pabbruwe et al., 2010a;Whitehouse et al., 2017)、組織形態計測を実行した。固定化コンストラクトを脱水させ、パラフィンで包埋した。試料を4μmの切片に切り分け、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色して形態学的詳細の試験を行った。すべての組織切片をLeica Aperioスライドスキャナを使用してスキャンし、盲検条件下でImageScopeソフトウェア(Leica社)を使用して、組織形態計測的解析を実施した。一方が各コンストラクトの端、もう一方が中央の2つの垂直切片を使用した。各切片について、移植片/半月板界面の全長、ならびに界面における任意の結合部位の長さを測定した。次いで、修復指標を、次のように決定した。
%結合=結合した界面の長さ/界面全長×100
【0150】
免疫抑制
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を健常なボランティアのドナー血液試料から単離した。すべての患者は、インフォームドコンセントに同意し、地域の倫理ガイドライン(University of Liverpool Research Ethics sub-committee for Physical Interventions)に従って試験を実行した。PBMCを、1.077g/mLのFicoll-Paque(GE HealthcareLifeSciences社、LittleChalfont、UK)上での血液の遠心分離により単離し、L-グルタミンを含み、10%のヒトAB血清および1%(v/v)のペニシリン/ストレプトマイシンを補給したRPMI-1640中で培養した。PBMCは、CellTrace(商標)バイオレット(ThermoFisherScientific社)で染色して、T細胞増殖を監視した。次いで、標識したPBMCを、3.75μg/mlの抗ヒトCD3(HIT3a)および2μg/mlの抗ヒトCD28(CD28.2)(ともにFisherScientificAffymetrix eBioscience社、Cheshire、UKから入手)で刺激し、1、5、10および15継代の4人の個別のドナー由来のMSCと72時間、同時培養した。各集団のT細胞増殖プロファイルを、7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD;BD Biosciences社)で染色した非生存細胞の除外後に、フローサイトメトリーにより解析した。
【0151】
定量的PCR
リアルタイム定量的PCR(RT-qPCR)をMMP13mRNAおよびハウスキーピング遺伝子Tata結合タンパク質(TBP)について、CellsDirect(商標)One-Step qRT-PCR Kit(ThermoFisher社)を使用して実施し、これを使用して、同一の反応チューブ内で逆転写およびPCR増幅を実施した。MMP13(Hs00942584_m1)およびTBP(Hs00427621_m1)に特異的なプライマーをThermoFisher TaqMan(登録商標)から購入した。cDNAを50℃で15分間合成することにより反応を開始した後、95℃で2分合成して、RNA-cDNAハイブリッドを変性させ、逆転写酵素を不活性化した。熱サイクルプログラムは、50℃で15分間、95℃で2分間、ならびに95℃で10秒間および60℃で30秒間の二段階サイクル40回からなった。TBPに対するMMP13発現を、各MSC試料について4つの各時点において決定し、結果を時間に対して正規化し(2継代)、これを1.0の倍率発現として解釈した。
【0152】
TIMP-1のELISA
ヒトTIMP-1用Quantikine(登録商標)ELISA Kit(R&D Systems社)を使用してMSCのセクレトーム中のTIMP-1タンパク質を測定した。MSCを225万細胞/ウェル(複製3つ)で6ウェルプレート内に播種し、DMEM2ml中で24時間培養した。次いで、培地をフェノール不含培養培地1mlと交換して、さらに24時間培養した後、セクレトームを採取し、適切な希釈でELISAキットを使用して定量した。
【0153】
ゲノムおよびプロテオミクスデータの取得
トランスクリプトミクス
トランスクリプトミクスは、ゲノム研究センターにより、4人すべての患者のmRNAから抽出したmRNAについて、P1、P5、P10およびP15において実施した。各継代の終了時にMSCを回収し、1×10細胞を単離し、RNAprotect細胞試薬(Qiagen社)中に再懸濁した。すべてのドナーおよび時点の試料一式の採取が完了するまで、細胞を-80℃で保存した。次いで、製造者の指示に従ってRNeasyPlusMiniKit(Qiagen社)を使用して、選択した時点のRNAを抽出した。抽出物におけるRNAの濃度を、NanoDrop2000分光光度計(Thermo社)を使用して決定した。抽出したRNAは、-80℃で保存した後、解析した。
【0154】
リボソームRNAの枯渇は、Ribo-Zero(商標)H/M/R Kit(Illumina社)を使用して実施し、次いで、NEB NextUltraDirectionalRNA LibraryPrepKit(Illumina社)を使用してRNASeqライブラリーを調製した。RNASeqライブラリーのペアエンドシーケンシングを、IlluminaHiSeq4000プラットフォームによりV4ケミストリーを使用して実施した。
【0155】
プロテオミクス
プロテオミクスは、4人すべての患者のMSCから調製したセクレトームについて、P1、P5、P10およびP15において実施した。各継代の終了時にMSCを回収し、1×10細胞を単離し、4500mg/Lのグルコース、1%(v/v)のGlutamax(Sigma社)、1%(v/v)のP/S(Sigma社)および2mMのGlutamax-Iを補給した無血清のフェノールレッド不含DMEM(Sigma社)4mL中に37℃で24時間、再懸濁した。インキュベーションの終了時に回収した馴化培地を各フラスコから回収し、-80℃で保存した後、解析した。
【0156】
セクレトーム試料のプロテオミクス解析は、リバプール大学の「プロテオーム研究センター」の施設において行った。各試料の一定分量1mLをStratacleanビーズ(Stratagene(登録商標)、Hycor Biomedical Ltd.社、Edinburgh、UK)10μLに継続的に加えることにより、タンパク質溶液を濃縮した。各一定分量を加えた後、試料を1分間ボルテックスし、2,000×gで2分間、遠心分離して、タンパク質枯渇上清を除去した。最終一定分量を加えた後、ビーズを2回、25mMのambic1mLで洗浄した後、分解した。ビーズ上での分解では、ビーズは、25mMのambic80μL中に再懸濁し、25mMのambic中1%(w/v)のRapigest(Waters Limited社、Hertfordshire、UK)5μLを加えた。試料を80℃で10分間、加熱し、次いで、ジチオスレイトール(DTT、25mMのambic中9.2mg/mL)5μLを加えることにより還元し、60℃で10分間、加熱した。冷却後、ヨードアセトアミド(25mMのambic中33mg/mL)5μLを加え、RTで30分間、暗所において試料をインキュベートした。ブタトリプシン(シーケンシンググレード、Promega社)(1μg)を加え、試料を37℃で一晩、回転ミキサー上でインキュベートした。トリフルオロ酢酸(TFA)1μLを加えることにより分解物を酸性化し、37℃で45分間インキュベートした。次いで、試料を17,200×gで30分間、遠心分離し、上清を0.5mLの低吸着チューブに移した。これらをさらに30分間、遠心分離し、10μLをトータルリカバリーバイアルに移してLC-MS解析を行った。
【0157】
データ依存的LC-MSMS解析を、Dionex Ultimate 3000 RSLCナノ液体クロマトグラフ(Hemel Hempstead社、UK)と連結したQExactive HF四重極Orbitrap質量分析計上で行った。試料分解物(1~2μL)を捕捉カラム(AcclaimPepMap100C18、75μm×2cm、充填物質3μm、100Å)に、水中0.1%(v/v)のTFA、2%(v/v)のアセトニトリルのローディング緩衝液を使用して、12μL分-1の流量で7分間載せた。次いで、捕捉カラムを分析カラム(EASY-Spray PepMap RSLC C18、75μm×50cm、充填物質2μm、100Å)と一列に並べ、96.2%A(0.1%[v/v]のギ酸):3.8%B(水中0.1%[v/v]のギ酸:アセトニトリル[80:20][v/v])対50%A:50%Bにより300nL分-1の流量で90分超の線形勾配を使用してペプチドを溶出した後、1%A:99%Bにより5分間洗浄し、カラムを出発条件に対して再平衡化した。カラムを40℃に維持し、ポジティブイオンモードで作動する結合型ナノエレクトロスプレーイオン源に溶出物を直接導入した。質量分析計は、DDAモードで作動させ、m/z350~2000のサーベイスキャンを、m/z200で60,000(FWHM)の質量分解能において得た。最大注入時間は100msであり、自動ゲインコントロールは3e6に設定した。2+~5+の荷電状態を有する最も強い前駆イオン16種を選択して、2m/z単位の単離ウインドウによるMS/MSを行った。最大注入時間は45msであり、自動ゲインコントロールは1e5に設定した。ペプチドの断片化は、高エネルギー衝突解離により、30%の正規化した衝突エネルギーを使用して行った。同一ペプチドの断片化の反復を防ぐためにm/z値の動的除外を除外時間20秒で使用した。質量分析の原データファイルを、Progenesis QI for Proteomics v.2.0ソフトウェア(Waters Ltd社、Newcastle upon Tyne、UK)にインポートして、アラインメントおよびピーク検出を行った。欠損値が存在しないように、実験におけるすべての実行のすべてのピークを含む集合ファイルを作成した。データはフィルタリングし、電荷+1および≧+8を除去した。msms断片化データは、UniProtの人的審査DBに対して、Mascot v.2.4.1ソフトウェア(Matrix Science社、London、UK)を使用して検索した。前駆イオン質量許容度は10ppmに、生成イオン許容度は0.01Daに設定した。メチオニンの酸化をdynamic modificationとして、カルバミドメチルシステインをfixed modificationとして選択した。1つのミス切断は許容した。Mascotによる検索では、2.17%のFDR(相同性を上回るpsm)で2,594種のタンパク質の結果が出た。1%のFDRに設定し、2,366種のタンパク質を.xmlファイルとしてエクスポートし(FDR type:別個のpsm)、Progenesisにインポートし、ペプチドをタンパク質に割り当てた。タンパク質定量は、各継代におけるドナー1人あたりの各タンパク質についての個々の存在量の平均、および4継代間で差次的に発現するタンパク質の比較に基づいた。
【0158】
定量および統計学的分析
バイオインフォマティクス
データ加工、統合および分析は、リバプール大学の計算生物学施設により行った。RNAseqデータを上記のように得た。原Fastqファイルは、Illuminaアダプター配列の存在について、Cutadaptバージョン1.2.1、オプション-O3を使用してトリミングした。Sickleバージョン1.200を使用して、最小ウインドウ品質スコア20により、リードをさらにトリミングした。トリミング後、10塩基対よりも短いリードは除去した。配列品質測定基準は、FastQCバージョン0.11.4を使用して評価した。サンプルは、除去しなかった。配列データは、Bowtie2バージョン1.1.2を使用して推奨されるパラメータにより(Langdon, 2015)、NCBIのヒトゲノム型GRCh38に対してアラインメントした。htseq-countバージョン0.9.0を使用して、Bowtie2によるアラインメントから遺伝子レベル計数データを作成した。RlibraryDESeq2を使用して、rlog変換数データを作成した。これらをフィルタリングして、1未満の平均数を有する遺伝子を除去した。統計学的分析をRバージョン3.4.4により実施し、Rパッケージggplot2を使用してグラフィック表示を行った。
【0159】
正規化したプロテオミクスおよびトランスクリプトミクスデータを統合し、予備の探索的解析によって、患者間の関連する不均一性が明らかとなった。患者不均一性に関連する変化と継代に関連する変化とを識別するために、継代にわたって差次的に表された変数を2元ANOVAにより計算して、患者可変性を交絡因子として説明した。これは、Benjamin-Hochberg法を使用する多重検定の補正に従った。継代にわたってユニークに有意な変数(338のうち38はタンパク質であり、300は遺伝子であった)を選択して、Ingenuity経路データベース(IPA、Qiagen社、Analysis 2015)によるさらなる解析を行った。
【0160】
338の有意な変数の2進対数倍率変化は、1継代に関して計算してIPA(Qiagen社)に使用し、この場合、マニュアルに従って解析を実施して、観察された変化に関与する考えられる上流制御因子、影響する可能性経路、有意に濃縮された多数の機能および条件を予測した(データベース利用は2018年12月9日)。また、IPAを使用して、選択した鍵となる過程に関与する知識条件、すなわち、(A)間葉系幹細胞の細胞遊走、(B)間葉系幹細胞の細胞運動および(C)創傷治癒をダウンロードした。このようなすべての変数を我々の実験データにマッピングした。次いで我々は、このような条件の範囲内の、継代にわたって変化する変数の数を評価し、生物学的発見の文脈を説明した。
【0161】
主成分分析は、特異値分解による平均の中心化および調整したデータによって、統計学的ソフトウェアRにおけるprcomp関数を使用して実施した。
【0162】
統計学
分化変数(TE、GAGならびに骨形成および脂肪生成スコア)は、Rのstatsパッケージにおけるcor.test関数に組み込んだノンパラメトリックなスピアマンの相関を計算することにより、継代にわたって比較した。骨形成および脂肪生成能は、画像解析に基づく半定量的データにより測定した。これらは、0~1の整数に変換して計算を行った。
【0163】
【表1】

【0164】
【表2】
【0165】
【表3】

【0166】
【表4】
【0167】
【表5】
図1
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図4
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図6
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図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】