(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-07
(54)【発明の名称】バイオポリマー膜をミネラル化する方法及びそれにより取得した膜
(51)【国際特許分類】
A61L 31/04 20060101AFI20221130BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20221130BHJP
A61L 31/08 20060101ALI20221130BHJP
C07K 14/78 20060101ALI20221130BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20221130BHJP
A23L 33/16 20160101ALI20221130BHJP
【FI】
A61L31/04
A61L31/04 120
A61L31/14 500
A61L31/08
C07K14/78
A23L33/18
A23L33/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521599
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(85)【翻訳文提出日】2022-06-06
(86)【国際出願番号】 FR2020051783
(87)【国際公開番号】W WO2021069846
(87)【国際公開日】2021-04-15
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522142420
【氏名又は名称】レジェスキャ
【氏名又は名称原語表記】REGESKA
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ、リトビノフ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C081
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD01
4B018MD69
4B018MD73
4C081AC03
4C081BA12
4C081BA16
4C081CD121
4C081CF032
4C081DA02
4C081DC03
4C081DC13
4C081EA13
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA05
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA01
4H045EA20
4H045FA71
(57)【要約】
本発明は、バイオポリマー膜をミネラル化する方法に関するものであって、当該方法は、a)2枚のセルロースシート(A)及び(B)間のバイオポリマー膜(4)により構成されるアセンブリ(3)を、- それぞれが電極を備える第1の隔室(1)及び第2の隔室(2)であって、当該電極が、該第1の隔室(1)内に配置されるアノードである第1の電極と、該第2の隔室(2)内に配置されるカソードである第2の電極とであるものである、第1の隔室(1)及び第2の隔室(2)と、- 互いに接触させる第1の隔室(1)及び第2の隔室(2)の壁であって、それぞれが、当該第1の隔室と当該第2の隔室とが連通するように設けられる開口を有するものである壁とを備える容器の中に、導入するステップを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオポリマー膜をミネラル化する方法であって、
a)2枚のセルロースシート(A)及びセルロースシート(B)間に備えたバイオポリマー膜(4)により構成されるアセンブリ(3)を、
- それぞれが電極を備える第1の隔室(1)及び第2の隔室(2)であって、前記電極が、前記第1の隔室(1)内に配置されるアノードである第1の電極と、前記第2の隔室(2)内に配置されるカソードである第2の電極とであるものである、前記第1の隔室(1)及び前記第2の隔室(2)と、
- 互いに接触させる前記第1の隔室(1)及び前記第2の隔室(2)の壁であって、それぞれが、当該第1の隔室と当該第2の隔室とが連通するように設けられる開口を有するものである前記壁と
を備える容器の中に、導入するステップであって、
アセンブリ(3)が、接近させた第1の隔室及び第2の隔室間の当該開口に設置されて、セルロースシート(A)が第1の隔室(1)の側にあり、セルロースシート(B)が第2の隔室(2)の側にあるものである、当該導入するステップと、
b)前記第1の隔室(1)を、カルシウムイオン、銀イオン、亜鉛イオン、銅イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンから選択される少なくとも1種のカチオンを含有する水溶液で満たし、前記第2の隔室(2)を、フッ化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、ケイ酸イオン及びリン酸イオンから選択される少なくとも1種のアニオンを含有する水溶液で満たすステップと、
c)前記電極間に電圧を印加するステップと、
d)前記セルロースシート(A)が前記第2の隔室側になり、かつ前記セルロースシート(B)が前記第1の隔室側になるように前記アセンブリ(3)を反転させるか、又は前記第1の隔室と前記第2の隔室とで溶液及び電極を交換するステップと、
c’)前記電極間に電圧を印加することであって、ステップ(c)で印加した前記電圧と等しい電圧を、ステップ(c)で印加した期間と同一の期間印加するものである、前記電極間に電圧を印加するステップと、
e)前記アセンブリ(3)を取り出して洗浄するステップと、
f)当該ミネラル化したバイオポリマー膜を回収して乾燥させるステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記バイオポリマー膜は、コラーゲン、アルギン酸塩、又はキトサンの膜であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第1の隔室(1)中にある水溶液は、少なくともカルシウムイオンを含有し、また前記第2の隔室(2)中にある水溶液は、少なくともリン酸イオンを含有することを特徴とする、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(c)及びステップ(c’)の間において、印加する前記電圧が2~13ボルトであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(c)の電圧の印加が、8~16時間継続することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(c)及びステップ(c’)の間において、少なくとも1種のカチオンを含有する前記水溶液を、継続的に攪拌することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(c)及びステップ(c’)の間において、少なくとも1種のカチオンを含有する前記水溶液を、カチオンの水酸化物を継続的に添加することによって、該カチオンで飽和させることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種のアニオンを含有する前記水溶液のpHが、7~11であるようにすることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(f)の前記ミネラル化したバイオポリマー膜を乾燥させることを、35℃より低い温度で、好ましくは12~24時間、実施することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法により得ることができる、二つの面をミネラル化したバイオポリマー膜。
【請求項11】
板形状、及び蜂窩構造を有する球状ナノ多孔性結晶の形態で組織化した、無機化合物のナノ結晶によりその二つの面をミネラル化した、バイオポリマー膜。
【請求項12】
当該バイオポリマーは、コラーゲンであることを特徴とする、請求項10又は11のいずれか一項に記載の膜。
【請求項13】
前記ナノ結晶が、リン酸カルシウムにより構成されることを特徴とする、請求項10から12のいずれか一項に記載の膜。
【請求項14】
粉末にした、請求項10から13のいずれか一項に記載のミネラル化したバイオポリマー膜により構成される、粉末。
【請求項15】
薬剤的に許容される担体中に懸濁した、請求項14記載の粉末を含む、溶液。
【請求項16】
請求項10から13のいずれか一項に記載のミネラル化したバイオポリマー膜、又は請求項14に記載の粉末、又は請求項15に記載の溶液であって、これらの、骨組織、軟骨組織、膵組織、腎組織、尿道組織、尿道及び膀胱の組織、精巣組織、卵巣組織、腸組織、肝組織、神経組織、心臓組織、鼓室組織、眼組織、泌尿器組織、婦人科組織、肺組織、気管支組織、気管組織、血管組織、結合組織、皮膚組織、粘膜組織、歯科組織、歯肉組織及び/又は造血組織ならびに免疫の疾患の治療における治療的使用に関するものである、請求項10から13のいずれか一項に記載のミネラル化したバイオポリマー膜、又は請求項14に記載の粉末、又は請求項15に記載の溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織エンジニアリングの分野に関するものであり、すなわち生体に植込み可能である合成生体適合性有機組織の製造に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、ヒトの手術及び医療で用いる生体材料を調製する方法に関する。この生体材料は、無機化合物のナノ結晶であって特定の構造を有する当該ナノ結晶で被覆されたバイオポリマー膜からなる。このバイオポリマー膜は、特にヒドロキシアパタイト又はブラッシュ石から選択されるリン酸カルシウム化合物のナノ結晶で、特に被覆され得る。
【背景技術】
【0003】
医療では、生体におけるバイオポリマー構造の植込みは従来の技術であり、これを用いて生体組織の再建、特に骨組織の再建が促進される。
【0004】
これらバイオポリマー構造は、骨代用材として用いられるが、細胞、ホルモン、及び/又は成長因子又は鉱質(ミネラル)である、その生体適合性を高めるための活性化合物と結合させることが多い天然繊維(フィルム、繊維、小型構造及び/又は多孔性構造の形態で)より構成される。
【0005】
これら骨代用材は、骨伝導能(osteoconduction)を可能にする必要があるが、これは骨の再生に対する不活性な支持体として機能する生体材料の能力を指す。生体材料はさらに、多孔性かつ吸収性である必要がある。生体材料が多孔性であることで、当該移植片を、血管新生化させ、そして徐々に吸収させることが可能となる。生体材料の吸収速度は、骨の再生組織形成のニーズ、すなわち、当該材料が骨の形成の支持体として機能し得るように、それほど速すぎないこと、また感染の危険性を制限し、かつ物理的な障害によって骨の成長を損ねることのないように、それほど遅すぎないこと、というニーズに対応している必要がある。
【0006】
細胞性及び組織性のコロニー形成のための不活性な支持体として、以下のいくつかのタイプの生体材料が用いられており、すなわち当該生体材料は、天然又は合成のセラミックや天然由来の様々な材料であり得、その化学組成は、骨の無機相の組成に近い。
【0007】
合成生体材料は、その大部分が骨の欠損を充填するために用いられることが多いが、純粋又は混合物での、リン酸塩ファミリーの2種の鉱質種であるヒドロキシアパタイト及びリン酸三カルシウムである。
【0008】
例えばコラーゲンとヒドロキシアパタイト等、バイオポリマーとナノ結晶ヒドロキシアパタイトとを組み合わせることは公知であり、1990年代以降、骨代用材として用いられてきた(例えば、米国特許第5,231,169号、米国特許第6,201,039号、欧州特許第0747067号を参照)。
【0009】
この生体材料の様々な治療的な適用が提案されてきたが、例えば以下がある:
- 欧州出願公開第3181158号は、ナノ多孔性生体材料に関するものであり、特にコラーゲン及びアルギン酸塩から選択される生分解性ポリマーのゲル上に堆積又は沈着したヒドロキシアパタイトを含む。この生体材料は、歯科手術、再建手術に関して、整形外科で用いられ得る。
- 国際公開第2008/096334号には、軟骨損傷を修復することを意図した移植片であって、コラーゲン及びヒドロキシアパタイトから構成される骨格を含む移植片が記載されている。
- ロシア国特許出願第2410040号には、ヒドロキシアパタイト結晶で覆われた、コラーゲン又はアルギン酸塩の膜から構成される補綴物が記載されており、これは女性の尿失禁の外科的治療用を意図している。
- 国際公開第2013/111077号には、とりわけアルギン酸ナトリウム及びヒドロキシアパタイトを含む、胃腸障害の治療用の組成物が記載されている。
- 国際公開第2013/190534号には、ケイ酸塩、コラーゲン、及びリン酸カルシウムの組成物を含む圧縮成形可能な複合体の粉末が記載されている。当該粉末は、ミネラル化させたコラーゲンから構成される材料を粉砕することで得ることができ、移植片として使用することができる。バイオポリマー膜をミネラル化するいくつかの方法が、これまでに記述されてきた。従来の技術は、例えばセラミック等の鉱質を非常に高温で焼成することからなるが、これにより極めて硬質の結晶がもたらされる。
【0010】
以下の「より穏やか」な技術もまたこれまでに提案されてきた:
- 米国特許第6,395,036号には、複合体材料を調製する方法であって、カルシウムイオン及びリン酸イオンが、コラーゲン膜周辺に循環し、互いに接近するとヒドロキシアパタイト結晶となって沈着するものである、当該方法が記載されている。
- 国際公開第2008/096334号には、凍結乾燥及びゲルによる、ヒドロキシアパタイト結晶で覆われたコラーゲン骨格を調製する方法が記載されている。
- 欧州特許第3021883号には、エピタキシャル成長によってヒドロキシアパタイト結晶で少なくとも一部被覆されたコラーゲン繊維の骨格を含む複合体材料が記載されている。当該材料を取得する方法には、カルシウムイオン及びリン酸イオン(Ca2+/HxPO4(3-x))で飽和した水溶液中に繊維状コラーゲンを浸漬させて、当該コラーゲン繊維上でヒドロキシアパタイトのナノ結晶を形成させることが含まれ、当該方法は、この水溶液からコラーゲンを取り出して洗浄することで停止する。
- ロシア国特許第2174848号には、ミネラル化コラーゲン膜を調製する方法であって、電極を使用して電気泳動によってイオンを循環させることを含むものである、当該方法が記載されている。この電流の作用下で、カルシウムを含有する溶液が酸化することにより、形成したヒドロキシアパタイト結晶を溶解させ得る水素イオンが生成する。提案される解決策としては、カルシウムイオンの溶液については溶液のpHを11に、そしてリン酸イオンを含有する溶液については10.5~11の値に安定化させることであり、これはカルシウムイオンを含有する溶液に水酸化カルシウムを継続的に添加することによりなされる。
- 米国特許第5,532,217号及び米国特許第5,739,286号は、コラーゲン繊維をミネラル化する方法に関するものであり、当該方法ではコラーゲン繊維が、一方に塩化カルシウムを含有し、もう一方にはリン酸カリウムを含有する2つのタンクを備える容器に挿入される。この2つの容器は、コラーゲン繊維が挿入されるセルロース透析膜から構成されるチューブにより分離される。イオンが沈着してコラーゲン上にナノ結晶を形成するように、溶液のpHを調節する。この手順は比較的遅く、7日間継続する。
- 米国特許第6,589,590号には、バイオポリマーをミネラル化する方法であって、バイオポリマー膜の一方側を、カルシウムイオンを含有する溶液と接触させ、またバイオポリマー膜の他方側を、リン酸イオンを含有する溶液と接触させるようにすることを含み、これらイオンが、バイオポリマー膜を介して拡散して、互いに接触するとヒドロキシアパタイトとなって沈着するものである、当該方法が記載されている。
【0011】
本発明は、バイオポリマー膜を「穏やかに」ミネラル化する新規方法であって、当該膜において鉱質のナノ結晶を取得するために様々な方法の独自の組み合わせを実施するものである、当該新規方法に関する。このミネラル化した膜は、興味深い新規の特性を有する。実際に、形成された結晶は、結晶化度が低い状態にあり、かつ特定の構造品質をもつ。ミネラル化膜は、生体への移植後、急速な吸収性(5~60日、特に30日未満、25日未満、またはさらには21日未満)であり、そして生体への移植の時点で、又はこのミネラル化膜から調製された粉末の投与後に、生物学的に好ましい効果(抗酸化性、抗炎症性)を有する。
【0012】
これらミネラル化バイオポリマー膜の新規性質により、骨及び軟骨の損傷の治療に加えて、新規の治療的な適用が想定され得る。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、バイオポリマー膜をミネラル化(鉱化)する方法に関するものであって、当該方法は、
a)2枚のセルロースシート(A)及び(B)間に備えたバイオポリマー膜(4)により構成されるアセンブリ(3)を、
- それぞれが電極を備える第1の隔室(1)及び第2の隔室(2)であって、当該電極が、該第1の隔室(1)内に配置されるアノードである第1の電極と、該第2の隔室(2)内に配置されるカソードである第2の電極とであるものである、第1の隔室(1)及び第2の隔室(2)と、
- 互いに接触させる第1の隔室(1)及び第2の隔室(2)の壁であって、それぞれが、当該第1の隔室と当該第2の隔室とが連通するように設けられる開口を有するものである壁と
を備える容器の中に、導入するステップであって、
アセンブリ(3)が、接近させた第1の隔室及び第2の隔室間の当該開口に設置されて、セルロースシート(A)が第1の隔室(1)の側にあり、セルロースシート(B)が第2の隔室(2)の側にあるものである、当該導入するステップと、
b)第1の隔室(1)を、カルシウムイオン、銀イオン、亜鉛イオン、銅イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンから選択される少なくとも1種のカチオンを含有する水溶液で満たし、第2の隔室(2)を、フッ化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、ケイ酸イオン及びリン酸イオンから選択される少なくとも1種のアニオンを含有する水溶液で満たすステップと、
c)電極間に電圧を印加するステップと、
d)セルロースシート(A)が第2の隔室の側になり、かつセルロースシート(B)が第1の隔室の側になるようにアセンブリ(3)を反転させるか、又は第1の隔室と第2の隔室とで溶液及び電極を交換するステップと、
c’)電極間に電圧を印加することであって、ステップ(c)で印加した電圧と等しい電圧を、ステップ(c)で印加した期間と同一の期間印加するものである、電極間に電圧を印加するステップと、
e)アセンブリ(3)を取り出して洗浄するステップと、
f)ミネラル化したバイオポリマー膜を回収して乾燥させるステップとを含む。
【0014】
本発明はまた、上記した方法によって得ることができる、その二つの面をミネラル化したバイオポリマー膜に関する。
【0015】
本発明はまた、板形状、及び蜂窩構造を有する球状ナノ多孔性結晶の形態で組織化したリン酸カルシウムのナノ結晶により、その二つの面をミネラル化したバイオポリマー膜に関する。
【0016】
本発明の別の主題は、粉末にした、例えば上記に記載したミネラル化バイオポリマー膜で構成された粉末である。
【0017】
本発明の別の主題は、当該粉末を薬剤的に許容される担体中に懸濁した溶液である。
【0018】
本発明はまた、上記に記載したミネラル化したバイオポリマー膜、又は上記に記載した粉末、又は上記に記載した溶液に関するものであり、これらの、骨組織、軟骨組織、膵組織、腎組織、尿道組織、尿道及び膀胱の組織、精巣組織、卵巣組織、腸組織、肝組織、神経組織、心臓組織、鼓室組織、眼組織、泌尿器組織、婦人科組織、肺組織、気管支組織、気管組織、血管組織、結合組織、皮膚組織、粘膜組織、歯科組織、歯肉組織及び/又は造血組織ならびに免疫の疾患の治療における治療的使用に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、それぞれが電極を備える第1の隔室(1)及び第2の隔室(2)であって、当該電極は、第1の隔室(1)内に配置されるアノード、及び第2の隔室(2)内に配置されるカソードであるものである、第1の隔室(1)及び第2の隔室(2)と、アセンブリ(3)であって、接近させた第1の隔室と第2の隔室との間の開口に設置されるアセンブリ(3)と、を備える容器の断面を表す。このアセンブリは、2枚のセルロースシートで囲んだバイオポリマー膜(4)より構成され、ステップ(c)の間、当該セルロースシートのセルロースシート(A)は第1の隔室(1)の側にあり、セルロースシート(B)は第2の隔室の側にある。
【
図2】
図2は、
図1に示すのと同様の装置を表すが、ステップ(c’)の間、アセンブリ(3)が、セルロースシート(A)が第2の隔室(2)の側にあり、かつセルロースシート(B)が第1の隔室(1)の側にあるように反転されるものである。
【
図3】
図3は、本発明による粉末が投与されている個体(健康な67歳の男性)の尿中で測定された総抗酸化能の変化を表す。総抗酸化能(TAC)は、投与の日数(X軸)の関数として、対照値と比較した百分率で表している。
【
図4】
図4は、ミネラル化したコラーゲン膜の二つの面(両面)における、Zeiss社Supra 55VP走査型電子顕微鏡(SEM)による、膜上に存在する結晶の写真である。試料7、4、6及び5は、以下の倍率で撮影した(左から右へ):×250、×750、×2000、×10,000、×20,000及び×30,000。最も左は、ミネラル化した膜の外観を、拡大せずに示した写真である。試料5が、本発明による方法により取得した膜に相当する。
【
図5】
図5は、Zeiss社Supra 55VP走査型電子顕微鏡(SEM)による、試料5の膜上に存在する結晶の写真であり、倍率は以下のとおりである:×20,000及び×30,000。上が面1(Face1)、下が面2(Face2)である。
【
図6】
図6は、ミネラル化したコラーゲンマトリックスのディフラクトグラムである。人手により粉砕した試料7、4、6及び5で得られた回折スペクトルの比較である。
【
図7】
図7は、正規化したIRスペクトルに対するHPO
4領域の曲線あてはめである。人手により粉砕した試料5(上)及び試料7(下)におけるPO
4基及びアパタイト系HPO
4基及び不安定なHPO
4基に対応するバンドの比較である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、バイオポリマー膜をミネラル化する方法に関するものであり、それにより当該膜上において特定のタイプのナノ結晶を取得することが可能になる。この膜は、生体に移植後の急速な吸収性という利点を有し、また有機体へのその移植時点で又は当該膜から得た粉末の投与後に、生物学的に好ましい効果を有する。
【0021】
バイオポリマー膜
膜は、共通の語では柔軟な壁を指す。各膜は、特定の剛性及び多孔性を有する。
【0022】
ポリマーは、複数の単量体ユニットの集合より構成される高分子である。バイオポリマーは、生命体(植物、藻類、動物、キノコ等)により直接産生される、又は天然産物から直接誘導される、天然ポリマーを指す。バイオポリマーは、アミノ酸、糖類、ヌクレオチド又は他の単量体の有機化合物による化合物である。植物由来のバイオポリマーと動物由来のバイオポリマーは区別される。
【0023】
植物由来のバイオポリマーのうち、セルロース、デンプン及びアルギン酸塩(海草により生成される)を特に指し得る。
【0024】
動物由来のバイオポリマーのうち、甲殻類により生成されるキチンの処理より生じる、コラーゲン及びキトサンを特に指し得る。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によれば、バイオポリマー膜は、コラーゲン、アルギン酸塩又はキトサンの膜である。
【0026】
第1の実施形態によれば、当該膜は、コラーゲンにより構成される。
【0027】
コラーゲンは、アミノ酸により構成される3種の結合したアルファポリペプチド鎖により構成される、タンパク質の高分子である。これら鎖は、ヒドロキシリジン(https://fr.wikipedia.org/wiki/Hydroxylysine)及びヒドロキシプロリン(https://fr.wikipedia.org/wiki/Hydroxyproline)間の水素結合と、共有結合とによって結合する。高分子は通常、繊維の形態で組織化する。ポリペプチド鎖の結合及び構成にはいくつかのタイプがあり得るものであり、すなわち、I型、II型、II型等で示されるいくつかのタイプのコラーゲンが存在する。コラーゲンは、動物細胞の細胞外基質中に存在し、そして伸縮に対する物理的な耐性を組織に与える。コラーゲンはアレルギー性が非常に低いため、多数の治療的な適用で用いられる。
【0028】
第2の実施形態によれば、膜は、アルギン酸塩により構成される。
【0029】
アルギン酸塩は、海草により生成される多糖類である。これは、その特定の単位がアセチル化されているマンヌロン酸塩又はマンヌロン酸と、グルロン酸塩又はグルロン酸とである、2つの単量体により形成されるポリマーである。これら2つの単量体の割合及び分布は、以下のとおり変動するものであり、すなわち、いくつかのタイプのアルギン酸塩が存在し、これらは変動する化学的性質及び物理的性質を有する。医薬では、アルギン酸塩は、脆い薬剤又は生物学的物質をカプセル化するために用いられる。アルギン酸塩はまた、特定のドレッシング剤の糖剤において用いられ得る。またアルギン酸塩は、歯科医師が歯科印象採得に用いる製品でもある。
【0030】
第3の実施形態によれば、膜は、キトサンにより構成される。
【0031】
キトサンは、β-(1-4)結合したD-グルコサミン(脱アセチル化単位)とN-アセチル-D-グルコサミン(アセチル化単位)とのランダムな分布により構成される多糖類である。アルカリもしくは酵素的な媒体中でのキチンの化学的な脱アセチル化、節足動物の外骨格の構成成分、頭足類の内骨格又はキノコの隔壁により生成される。キトサンは、化粧品及び食品に広く用いられている。医薬では、キトサンはバイオマテリアルとして、特に組織再生、止血及び骨形成のために、用いることができる。
【0032】
バイオポリマー膜の形状は、例えば、四角形、長方形又はひし形等の平行六面体とするものとする。
【0033】
バイオポリマー膜のサイズは、想定される適用に応じて当業者により選択されることとなるが、例えば約10cm2又は20cm2又は100cm2(10×10cmの平方)のサイズのものとすることができる。さらにはるかに広い寸法、例えば1m2、10m2又はさらに100m2のサイズのものとすることもできる。
【0034】
アセンブリ
本発明によるバイオポリマー膜をミネラル化する方法に関して、当該膜は、(A)及び(B)で示した2枚の同一のセルロースシートより構成されるアセンブリの内側に設けられ、別個の水溶液を含有する2つの隔室と対向する当該シートの位置を区別する。
【0035】
このアセンブリは、2つの隔室(1)及び(2)間にこれらを気密に分離するように配置され、すなわちこれら隔室(1)及び(2)のそれぞれの中にある2種の溶液が唯一接触する面が、当該アセンブリである。
【0036】
用いるセルロースシート(A)及び(B)は同一である。当該セルロースシートのサイズは、隔室(1)及び隔室(2)間の漏出の気密性を確実にするために、バイオポリマー膜のサイズよりわずかに大きい。その厚みは、0.02mm~0.03mmが好ましい。当該セルロースシートは、特にセロファンのシートとすることができる。
【0037】
膜のミネラル化:イオン溶液を使用
本発明に係る方法のステップ(b)の間、第1の隔室及び第2の隔室は、以下の水溶液で満たされる:
- 第1の隔室(1)内の、カルシウムイオン、銀イオン、亜鉛イオン、銅イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンから選択される少なくとも1種のカチオンを含有する水溶液、ならびに
- 第2の隔室(2)内の、フッ化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、ケイ酸イオン及びリン酸イオンから選択される少なくとも1種のアニオンを含有する水溶液。
【0038】
例えば、本発明の実施には、以下の溶液を用いることができる:
【表1】
【0039】
本発明の好ましい実施形態によれば、第1の隔室(1)中にある水溶液は、少なくともカルシウムイオンを含有し、また第2の隔室(2)中にある水溶液は、少なくともリン酸イオンを含有する。
【0040】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、水の分解により生じるイオンの存在に加えて、第1の隔室(1)中にある水溶液は、カチオンとしてカルシウムイオンのみを含有し、また第2の隔室(2)中にある水溶液は、アニオンとしてリン酸イオンのみを含有する。
【0041】
好ましくは、これらは以下の溶液であることとなる:
- 水酸化カルシウムCa(OH)2を添加した塩化カルシウムCa(Cl)2、及び
- 25重量%に濃縮したアンモニア水(NH3)の溶液を添加した、置換されたリン酸アンモニウムの1、2又は3種の溶液を含む、リン酸アンモニウム。
【0042】
これら溶液は、上記で特定されたイオンとは別に、バイオポリマー膜の化学的なミネラル化反応を最適化することを可能にする他のイオンを含むことができることを理解されたい。
【0043】
例えば、酸又は塩基を添加することによって、各溶液のpHを調節する必要があり得る。
【0044】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1種のアニオンを含有する水溶液のpHは、7~11であるようにする。これは特に、水溶液に、濃縮アンモニア水(NH3)を添加することにより得られる。
【0045】
別の好ましい実施形態によれば、一定の濃度のカルシウムイオンを維持するために、塩化カルシウム溶液に水酸化カルシウムが添加されるが、これにより、塩化カルシウム溶液の過大な酸性化を回避することができるようになる。
【0046】
用いる水溶液に応じて、当業者は、例えば亜鉛又は銀又はマグネシウム又はアルミニウムのイオンを含有する溶液に関して、必要に応じて特定のpHの維持及び/又は反応の最適化のために当該溶液に他の化合物を添加することを採用することとなる。
【0047】
有利には、反応をできる限り最も効果のあるものにするために、用いる溶液はそれぞれ、もう一方の水溶液によるあらゆる汚染から保護されることとなる。
【0048】
本発明の方法の実施によれば、各溶液は、あらゆる汚染を回避するようにして、アセンブリ(3)の設置後に隔室(1)及び(2)のそれぞれに注入される。
【0049】
装置:容器及び電極
図1及び2に、本発明に係る方法の実施に好適である装置を概略的に表している。「電気泳動タンク」という名称で示しており、これには容器と電極が含まれる。
【0050】
この装置は、それぞれが電極を備える第1の隔室(1)及び第2の隔室(2)を備え、当該電極は、この方法のステップ(c)の実施では、第1の隔室(1)の中に配置されるアノードと、第2の隔室(2)の中に配置されるカソードである。
【0051】
アノードは、電解プロセス中に電場に晒される、陰イオン(アニオン)用の誘引電極となるものとして規定される。例えば、炭素又はグラファイトの繊維により構成され得る。接続素子は、有利には、金又は白金により作製され得る。
【0052】
カソードは、電解プロセス中に電場に晒される、陽イオン(カチオン)用の誘引電極となるものとして規定される。例えば、鋼鉄により作製され得る。
【0053】
当該装置は、例えばガラス、プラスチック又はプレキシガラス等の、任意のタイプの固体不活性材料により構成され得る。
【0054】
有利には、各隔室は独立の排出系を有するが、これは2つの隔室間での溶液及び電極の交換を行うステップ(d)の実行を容易にする。
【0055】
また当該装置は、互いに接触させる第1の隔室(1)及び第2の隔室(2)の壁のそれぞれに開口も備えるが、当該開口が第1の隔室と第2の隔室との連通を可能にさせる。
【0056】
これら開口は、「窓」とも示すが、バイオポリマー膜(4)のサイズに適したサイズを有することとなる。これらは、例えば10cm×10cm又は15cm×15cmの表面積を有することができる。
【0057】
本発明の好ましい実施形態によれば、この装置は、少なくとも1種のカチオンを含有する隔室(1)の溶液を持続的に均質にするために、特に当該溶液中に浸漬される、撹拌子を備える。
【0058】
ステップ(c)及びステップ(c’):電極間への電圧の印加
これら2つのステップにおいては、発電機により2つの電極間に電圧(直流)を印加する。
【0059】
好ましくは、その強度は、2~13ボルト又は3~13ボルト、より良好には5~12ボルト又は7~10ボルトの実電圧が得られるように調節する。
【0060】
この実電圧は、2つのステップ(c)及びステップ(c’)の間、同一である。また電圧は当該2つのステップの間、等しい継続時間にわたって印加するが、これにより、バイオポリマー膜の各面におけるミネラル化を同一の水準で得ることができるようになる。
【0061】
このステップの間、電圧は変動するものであり、すなわちプログラムされた電流の強度に関して、電圧が、伝導率が正確であるときに自然に低下しそうになることに留意されたい。さらに、このプロセスの終わりに強度が低下するが、これは形成したナノ結晶により、電流の通過が減速するからである。
【0062】
この電圧は、ステップ(c)及びステップ(c’)の間、8~16時間の継続期間、好ましくは約12時間にわたって印加する。
【0063】
この電圧の効果により、イオンが、アセンブリ周辺の溶液中で移動するようになり、そしてセルロースシート(A)及び(B)を通過した後で、カチオンを含有する溶液の側ではないバイオポリマー膜上に、ナノ結晶を形成しながら堆積する。
【0064】
好ましくは、ステップ(c)及びステップ(c’)の間、少なくとも1種のカチオンを含有する水溶液は継続的に攪拌され、塩基性のpHを維持して、H+イオンの発生により生じる結晶の分解を回避する。
【0065】
好ましくは、ステップ(c)及びステップ(c’)の間、少なくとも1種のカチオンを含有する水溶液は、カチオンの水酸化物を継続的に添加することによって該カチオンで飽和されて、これによりカルシウムイオンを含有する溶液のpHを11に近い値に維持することができるようになり、加えて、これによりカチオンの再構成が常にできるようになる。この実施形態の利点は、特許であるロシア国特許第2174848号に記載されている。
【0066】
ステップ(d):バイオポリマー膜を反転させること
膜のもう一方の面をミネラル化することを可能にさせるステップ(d)は、以下の2つの異なる変形例に従って実施され得る:
1)バイオポリマー膜及びセルロースシートにより構成されるアセンブリ(3)を、2つの隔室間の開口から取り出して、これ以降はシート(A)が第2の隔室の水溶液と接触し、そしてシート(B)が第1の隔室の水溶液と接触するように反転させるものであるが、当然に、各溶液がもう一方の溶液からのイオンによる汚染を回避するためにあらゆる予防策が講じられること、
2)又は、第1の隔室と第2の隔室とで溶液及び電極の交換を実施すること、のいずれか。すなわち上記したようにステップ(c’)の実施に関して、カソードは第1の隔室(1)の、少なくとも1種のアニオンを含有する溶液の中にあり、またアノードは第2の隔室(2)の、少なくとも1種のカチオンを含有する溶液の中にある。
【0067】
本発明に係る方法の第1の実施形態によれば、ステップ(d)は、以下のとおりである:セルロースシート(A)が第2の隔室の側にあり、かつセルロースシート(B)が第1の隔室の側にあるようにアセンブリ(3)を反転させること。
【0068】
本発明に係る方法の第2の実施形態によれば、ステップ(d)は、以下のとおりである:第1の隔室と第2の隔室とで溶液及び電極を交換すること。
【0069】
方法の最後のステップ(e)及びステップ(f)
ステップ(c’)の最後に、電圧を停止し、アセンブリ(3)を取り出して、次いで水で洗浄する。セルロースシート(A)及び(B)を取り出して廃棄する。
【0070】
二つの面をミネラル化したバイオポリマー膜を、当業者に公知の任意の技術により乾燥する。
【0071】
有利には、ミネラル化したバイオポリマー膜を乾燥するステップ(f)は、35℃より低い温度で実行する。
【0072】
好ましくは乾燥するステップは、12~24時間継続させる。
【0073】
ミネラル化バイオポリマー膜
本発明の主題のひとつは、本願に記載するような方法によって得ることができる、その二つの面をミネラル化したバイオポリマー膜である。
【0074】
本発明の別の主題は、本願に記載する方法によって所得する、その二つの面をミネラル化したバイオポリマー膜である。
【0075】
このバイオポリマー膜は、板形状、及び蜂窩構造を有する球状ナノ多孔性結晶の形態で組織化したナノ結晶を、その二つの面に含むことを特徴とする。
【0076】
これらナノ結晶は、特に以下の無機化合物により構成され得る:
- 特に以下から選択される、リン酸カルシウム化合物:
○ ヒドロキシアパタイト、及び/もしくは
○ フッ化物イオン、銀イオンもしくは亜鉛イオンをドープした欠損型ヒドロキシアパタイト、及び/もしくは
○ 多置換のアパタイトもしくは欠損型のヒドロキシ-、フルオロ-もしくはカルボキシ-アパタイト、及び/もしくは
○ ブラシュ石(リン酸水素カルシウム二水和物:CaHPO4.2H2O)、及び/もしくは
○ 不安定なリン酸水素基を含むリン酸カルシウム化合物、
- 硫酸マグネシウム、又は
- 硫酸アルミニウム、又は
- これら無機化合物のいずれかの組み合わせ。
【0077】
バイオポリマー膜上でのイオンの沈着により、ナノメートルオーダー(43~45nmのオーダーの)のサイズの結晶であると定められるナノ結晶の形成が生じる。これらナノ結晶は、次にマイクロメートルサイズの凝集体を形成する。
【0078】
特定の実施形態によれば、この膜は、リン酸カルシウムのナノ結晶によりその二つの面が覆われ、これはリン酸カルシウム化合物のナノ結晶とも示される。
【0079】
本発明の一態様によれば、ミネラル化したバイオポリマー膜は、その二つの面が、一般式Me10(XO4)6Y2のアパタイトのナノ結晶で覆われるが、式中Meは二価のカチオンを表し、XO4は三価のアニオン基を表し、またYは一価のアニオンを表す。
【0080】
このアパタイト構造は、多数の置換を受容する。すなわち、二価のカチオン(Me2+)は、二価のカチオン(Mg2+、Ag2+、Zn2+、Sr2+、Ba2+、Pb2+)によってのみならず、一価(例えばNa+、K+)又は三価(La3+、Ga3+、Eu3+)のカチオンによっても置換され得る。同様に三価のアニオンXO4
3-は、二価(CO3
2-、SO42-、HPO4
2-)、三価(AsO4
3-、VO4
3-)又は四価(SiO4
4-)の基によって置換され得る。最後に、Y-基もまた、一価(F-、Cl-)又は二価(CO3
2-、O2-、S2-)のイオンによって置換され得る。
【0081】
本発明の方法によれば、当該方法の実施の間に用いられる溶液に応じて、カチオン及びアニオンの可能性のある組み合わせの全てが想定され得る。
【0082】
以下の表2は、「Synthese,Caracterisation et Evaluation Biologique d’Apatites Phosphocalciques Carbo-Silicatees」(炭酸塩-ケイ酸塩置換のリン酸カルシウムアパタイトの合成、キャラクタリゼーション及び生物学的評価)という表題のAntoine BOYERによる論文から抽出したものであるが、本発明に係る方法により取得することが可能であり生物学的な関心を有する様々なタイプのアパタイトを提示する。
【0083】
【0084】
生物学的な観点から、マグネシウムは、石灰化の瞬間に骨の再構築する役割を担う点で関心の対象である。銀は、抗菌性を有する。ストロンチウムは、骨の石灰化組織において確認されてきたものであり、そのミネラル化で重要な作用があるようである。亜鉛は、in vitroでの破骨細胞活性に対する阻害剤効果がある。
【0085】
アニオン置換に関しては、フッ化物イオンF-の存在により骨の成長が決定付けられる。F-が存在しないと、骨の高密度化が制限されて、逆に高すぎる濃度では、骨硬化症を生じる。Cl-イオンは、骨の表面に酸性環境を生じさせる能力があり、これが吸収プロセスにおいて破骨細胞を活性化させて骨の無機物のうちのアルカリ塩を可溶にさせる。
【0086】
すなわち、アパタイト構造中に当該イオンが取り込まれることで、ミネラル化したバイオポリマー膜の生物活性を変化させて潜在的に改善させることができる。
【0087】
本発明の特定の態様によれば、ミネラル化したバイオポリマー膜は、結晶構造の格子が2つの分子をもつという点を強調するためにしばしばCa10(PO4)6(OH)2と書かれる一般式Ca5(PO4)3(OH)のヒドロキシアパタイトのナノ結晶で、その二つの面が覆われている。
【0088】
この所謂「化学量論的な」ヒドロキシアパタイトは、39%のCa、18.5%のP及び3.38%のOHを含有し、当該百分率は、当該鉱質の重量/総重量で表している。ヒドロキシアパタイトは、歯のエナメル質、象牙質、及び骨の主要な鉱質成分である。ヒドロキシアパタイトのCASナンバーは、12167-74-7である。
【0089】
本発明の別の特定の態様によれば、ミネラル化したバイオポリマー膜は、ブラシュ石(リン酸水素カルシウム二水和物、一般式CaHPO4.2H2O)のナノ結晶及びカルシウム欠損型炭酸ヒドロキシアパタイトのナノ結晶で、その二つの面が覆われている。
【0090】
本発明によるミネラル化した膜は、多数の利点を有し、特に生体内への導入後のヒドロキシアパタイトの非常に急速な吸収能力を有する。
【0091】
本発明によるミネラル化した膜は、有利には、生体内に移植後5~60日である時間で完全に吸収され得る。本発明による膜は、特に生体、ヒト又は動物に移植後、10日未満、15日未満、20日未満、25日未満、30日未満、40日未満、50日未満、又は60日未満で吸収され得る。
【0092】
これら吸収時間は、実施例6に提示するように、いくつかの動物モデル(ウサギ、ラット、イヌ)において測定した。大部分の場合、この膜又は粉末は、25日未満で吸収されるが、例えば神経の再生等、ある特定の治療的な適用に関しては、完全な吸収が観察されるのに最大60日の待機を必要とするということに留意されたい。
【0093】
本発明による膜は、腫瘍形成能がなく、毒性がなく、免疫原性がなく、完全に生体適合性であるが、これは受容する生体内で生体的に統合する能力が高いことに由来して、膜の拒絶又は被包化を回避する。
【0094】
本発明はまた、板形状、及び蜂窩構造を有する球状ナノ多孔性結晶の形態で組織化した無機化合物のナノ結晶により、その二つの面をミネラル化したバイオポリマー膜に関する。
【0095】
これら無機化合物は、前述のもののうちの一つであり得、特に以下から選択され得る:
- 特に以下から選択される、リン酸カルシウム化合物:
○ ヒドロキシアパタイト、及び/もしくは
○ フッ化物イオン、銀イオンもしくは亜鉛イオンをドープした欠損型ヒドロキシアパタイト、及び/もしくは
○ 多置換のアパタイトもしくは欠損型のヒドロキシ-、フルオロ-もしくはカルボキシ-アパタイト、及び/もしくは
○ ブラシュ石(リン酸水素カルシウム二水和物:CaHPO4.2H2O)、及び/もしくは
○ 不安定なリン酸水素基を含むリン酸カルシウム化合物、
- 硫酸マグネシウム、又は
- 硫酸アルミニウム、又は
- これら無機化合物のいずれかの組み合わせ。
【0096】
本発明は、特に、板形状、及び蜂窩構造を有する球状ナノ多孔性結晶の形態で組織化したリン酸カルシウムナノ結晶により、その二つの面をミネラル化したバイオポリマー膜に関する。
【0097】
本願の実施例7は、この膜の構造的な特性を示しているが、これは現在までに観察されることがなかったものである。特に、板形状、及び蜂窩構造を有する球状ナノ多孔性結晶の形態であるナノ結晶の組織化は、粗い凝集体と均質でない構造を有する対照試料では観察されない。
【0098】
本発明による膜上で堆積するこのナノ結晶の構造は、特に、以下の理由で有利である:
- 当該板形状は、膜が導入されることとなる生体の組織を傷つける傾向がある「針状」構造を含有しない、
- 蜂窩構造を有する球状結晶は、生体内への移植後、当該膜の周辺を循環する生体タンパク質を固定することを可能にさせるものであり、当該タンパク質が、治癒及び移植した材料の吸収に積極的に関与する。
【0099】
特定の実施形態によれば、膜を構成するバイオポリマーはコラーゲンである。
【0100】
本発明はまた、本発明の方法によって得ることができる又は本発明の方法によって得られる、板形状、及び蜂窩構造を有する球状ナノ多孔性結晶の形態で組織化した、特にリン酸カルシウムである無機化合物のナノ結晶により、その二つの面がミネラル化したバイオポリマー膜に関する。
【0101】
本発明の他の主題は、これらミネラル化したバイオポリマー膜のひとつについての以下の特定の医薬製剤である。
- 当業者が選択した手段により粉末にした、これらバイオポリマー膜のうちのひとつから構成される粉末、又はそうでなければ、
- 当該粉末を薬剤的に許容される担体中に懸濁した溶液。
【0102】
薬剤的に許容される担体は、担体又は賦形剤を指し、これはすなわち、生体に対して特有の作用を有しない化合物である。これら担体又は賦形剤は、薬剤的に許容されるものであるが、これは有意な悪影響を生じることなく、それらを生体に投与することが可能であるということを意味する。
【0103】
すなわち本発明によれば、得られる粉末は、例えば従前に規定したようなバイオポリマー、及び特にヒドロキシアパタイトのものであるナノ結晶を含む。特にナノ結晶は、板形状、及び蜂窩構造を有する球状ナノ多孔性結晶の形態で、組織化されることとなる。
【0104】
治療的使用
当該ミネラル化膜は、骨、軟骨、又は他の構造的な器官の異常を修復するために、生体に、特にヒトに導入され得る。
【0105】
ミネラル化膜の粉末、又はそれを含有する溶液は、当業者に公知の任意の形態の投与によって個体に投与され得るが、特に経口、舌下、吸入、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、眼、又は直腸の経路による。
【0106】
すなわち、本発明は、上記に記載したバイオポリマー膜、又は粉末、又は溶液に関するものであり、これらの、骨組織、軟骨組織、膵組織、腎組織、尿道組織、尿道及び膀胱の組織、精巣組織、卵巣組織、腸組織、肝組織、神経組織、心臓組織、鼓室組織、眼組織、泌尿器組織、婦人科組織、肺組織、気管支組織、気管組織、血管組織、結合組織、皮膚組織、粘膜組織、歯科組織、歯肉組織及び/又は造血組織ならびに免疫の疾患の治療における治療的使用に関するものである。
【0107】
特に、本発明は、例えば上記に記載したようなバイオポリマー膜、又は粉末、又は溶液に関するものであり、これらの、膵臓疾患の治療における治療的使用に関するものである。
【0108】
特に、本発明は、例えば上記に記載したようなバイオポリマー膜、又は粉末、又は溶液に関するものであり、これらの、腎臓疾患の治療における治療的使用に関するものである。
【0109】
特に、本発明は、例えば上記に記載したようなバイオポリマー膜、又は粉末、又は溶液に関するものであり、これらの、泌尿器疾患の治療における治療的使用に関するものである。
【0110】
特に、本発明は、例えば上記に記載したようなバイオポリマー膜、又は粉末、又は溶液に関するものであり、これらの、歯牙疾患の治療における治療的使用に関するものである。
【0111】
特に、本発明は、例えば上記に記載したようなバイオポリマー膜、又は粉末、又は溶液に関するものであり、これらの、婦人科疾患の治療における治療的使用に関するものである。
【0112】
特に、本発明は、例えば上記に記載したようなバイオポリマー膜、又は粉末、又は溶液に関するものであり、これらの、造血及び免疫の疾患の治療における治療的使用に関するものである。
【0113】
特に、本発明は、例えば上記に記載したようなバイオポリマー膜、又は粉末、又は溶液に関するものであり、これらの、炎症の治療における治療的使用に関するものである。
【0114】
特に、本発明は、例えば上記に記載したようなバイオポリマー膜、又は粉末、又は溶液に関するものであり、これらの、高い酸化能に関連する疾患の治療における治療的使用に関するものである。
【0115】
本発明はまた、ヒトにおける骨組織、軟骨組織、膵組織、腎組織、尿道組織、尿道及び膀胱の組織、精巣組織、卵巣組織、腸組織、肝組織、神経組織、心臓組織、鼓室組織、眼組織、泌尿器組織、婦人科組織、肺組織、気管支組織、気管組織、血管組織、結合組織、皮膚組織、粘膜組織、歯科組織、歯肉組織及び/又は造血組織ならびに免疫の疾患の治療のための治療方法であって、本願に記載するようなミネラル化したバイオポリマー膜、粉末又は溶液を有効量で当該ヒトに投与することを含む、当該治療方法に関する。
【0116】
本発明はまた、上記したような粉末又は溶液を含む、栄養補助食品に関する。
【0117】
本発明による粉末又は溶液は、炎症、怪我又は病気の場合に単に作用することに加えて、その活性が、その有効量によって経時的に制限される。この粉末又は溶液は、無秩序又は無制御である細胞複製の現象を導かない。これは、損傷を受けていない細胞分裂に対する作用はなく、すなわち成長因子ではない。
【0118】
ミネラル化したバイオポリマー膜は、身体への外科的介入の間のクラス3の「DMI」材料として、外科手術で、
- 単独かつ乾燥状態で、又は
-- 抗生物質(C3G、バンコマイシン、ゲンタマイシン等)と、もしくは再生促進ホルモン(オキシトシン、セロトニン等)と共に、用いることができる。
-
【0119】
器官と接触させての移植又は表面堆積のために「板」の形態で用いることもできる。特定の形状の板を用いる必要はなく、器官の再生は自己で組織化する。
【0120】
組織の再生は、炎症伝達物質及び宿主細胞(マクロファージM1及びM2、分化細胞及び幹細胞)により、外科手術後の生理的状態において、当該材料の吸収の時点でその場で開始されることとなる。
- ミネラル化したバイオポリマー膜は、注射可能な粉末(生理的な血清又はキシロカイン中で再構成される)の形態である場合、以下において使用することができる:
-- 骨髄(局所的又は全身的な使用)、
-- 関節、
-- 軟組織(例えば、中隔の欠損を再生するために鼻中隔において)又はメソセラピー、
-- 点眼剤、又は硝子体内注射、
-- 点耳剤、又は点鼻剤、
-- 毛細血管又は皮膚への溶液、
-- 神経末端同士をつなぐ吸収性のコラーゲン又はキトサンのチューブ、又は
-- 静脈(組織再生現象の後で血管新生を刺激する)。
【0121】
粉末はまた、以下に噴霧することによって投与され得る:
- 気管支及び肺、又は
- 鼻(大脳経路のため)、又は
- 皮膚(粉末単独で又は特定のクリームでの製剤で)。
【実施例】
【0122】
実施例1:コラーゲン膜をミネラル化する方法
この実施例においては、100cm2(10×10)のサイズのコラーゲン膜を、以降に記載するプロトコルに従って、ヒドロキシアパタイトナノ結晶によりその両面をミネラル化する。
【0123】
用いる容器はガラス製である。その窓(2つの隔室間の連通開口)は10×10cmである。
【0124】
1-溶液の調製
塩化カルシウム及びリン酸アンモニウムの2つの溶液を、専用のピペットを用いてビーカー中で粉末を完全に溶解させて調製し、2×2.5リットルの、
- リン酸アンモニウム(置換されたリン酸アンモニウム(NH4H2PO4、(NH4)2HPO4、(NH4)3PO4))の1、2、又は3種の溶液を含む)、及び
- 後にCa(OH)2を添加する塩化カルシウム、
を得る。
【0125】
2-「サンドイッチ」(アセンブリ(3))の調製
セルロースシートを、コラーゲン膜の各面に配置する。
【0126】
3-タンクを満たすこと:
これは、液体が混合しないように各側を同一の速度で満たすことで、最大に満たした隔室の圧力でアセンブリが変形することを回避する必要がある。
【0127】
PO4
3-イオンを含む隔室に、濃縮NH3水溶液を数滴添加する。
【0128】
Ca++イオンを含有する隔室に、水酸化ナトリウム溶液を添加する。
【0129】
4-電極及び攪拌子の設置
陰極(カソード)は鋼鉄製であり、これをリン酸アンモニウム浴に浸漬する。
【0130】
陽極(アノード)は固体グラファイト(炭素)又はグラファイト(炭素組織)製であり、これを攪拌子を含むCa++浴に浸漬する。
【0131】
5-方法を開始
実電圧が2ボルト~13ボルトとなるように、電極に直流を印加する。
【0132】
この方法は、合計で24時間、室温で実施し、その間に、電極及び溶液を12時間後に反転させる。
【0133】
6-手順の終了
攪拌子及び電気泳動を穏やかに停止する。溶液を汚染しないように、電極を取り出す。
【0134】
ヒドロキシアパタイトのナノ結晶を取り込んだコラーゲン膜を取り出し、30~35℃を超えない温度で(ほぼ室温で)、約12~24時間乾燥させる。
【0135】
実施例2:本発明による生成物の投与で観察された効果
-本発明によるこれら生成物の投与による好ましい効果が、以下の組織で観察された:
-- 骨組織(骨基質の喪失及び偽関節の治療、骨髄炎の治療)
-- 軟骨組織(硝子及び関節の)(軟骨の再生)
-- 腎組織(腎臓の極部分切除の止血及び切開面の補強)
-- 肝組織(肝嚢胞の充填、肝切除後の、止血、肝臓再生のガイド)
-- 神経組織(末梢神経における離開の再生)
-- 心臓組織(心臓発作後の血行再建及び心筋再生)
-- 鼓室組織、眼組織(鼓膜の再生、先天性緑内障の治療)
-- 泌尿器組織(例えば、尿道下裂の治癒のガイド)
-- 婦人科組織(女性不妊症の血管内治療、子宮頚部の再生)
-- 肺組織(肺嚢胞又は肺実質喪失の充填、気管支縫合の補強)
-- 結合組織及び支持組織(腹圧性尿失禁)
-- 皮膚組織及び粘膜組織(傷、潰瘍、歯肉形成(gingivopathy)等)、ならびに
-- 歯科(う蝕の治療、歯の移植及び製造、インプラント前の骨形成)。
【0136】
実施例3:骨の髄内注射における特定の使用:遠隔の作用
「粉末」形態は、注射溶液(例えば2~4mlの生体血清及び/又は1%のキシロカイン中に希釈した乾燥粉末の1ml)の形態で再構成することができる。次に、例えば腸骨稜の位置で、シリンジ及び骨の套管針を用いて骨髄に当該粉末を注射し得る。
【0137】
造血組織及び免疫組織の位置で生じる効果は、炎症反応の低下を導くこととなる。
【0138】
例えば、術後の腸骨稜への注射の後に、肝切除の切開面での炎症の改善及び低下が観察できる。
【0139】
懸濁液での粉末の投与が、発症後の腸骨稜への注射の後、心筋の損傷領域の位置で好ましい作用を有する。
【0140】
実施例4:栄養補助食品としての経口及び頬側粘膜での使用
板及び粉末を、経口投与することができる。頬の及び歯肉の粘膜を介して吸収される。
【0141】
1日2回、30日間投与する。観察された効果は以下のとおりである:
- 局所的には、歯肉組織の栄養機能の改善により、歯が移動する場合の歯靭帯の緊張が回復したこと、ならびに
- 全身的には、5日目の摂取時点で関節痛及び関節症の低減により、気分及び全身症状が改善したこと。
【0142】
2型糖尿病の個体において、本発明による粉末の1日2回の投与後に、血糖コントロールについて好ましい効果が観察された。
【0143】
実施例5:尿中で測定された、経口投与後の生成物の抗酸化作用
本発明による粉末の、個体における朝晩の経口摂取により、
図3に示すように、尿サンプル中で測定した総抗酸化能が着実に増加した。
【0144】
TAC(総抗酸化能)は、体液の抗酸化力を測定する生物学的マーカーである。当業者には、TACを測定するために用いる様々な試験方法が知られており、また様々な技術により得られた結果間に、良好な相関が見られた。尿サンプルは、身体の抗酸化状態の試験で相当に注目される非侵襲的な手法で採取する。
【0145】
当該治験プロトコルを以下に要約する:
67歳及び75歳の2人の男性ならびに25歳の1人の女性である、良好な総体的健康状態にある3人の参加者を、試験に登録した。
図3に、67歳男性で得た結果を示しているが、同様の結果が、試験を行った他の2人の個体で得られた。
【0146】
早朝尿の対照サンプルを、7時間目に空腹で取得し、その後、通常プロトコルに従って、8時間目及び19時間目に取得した。
【0147】
当該サンプルの総抗酸化能の測定を、電気分解中に消費又は生成される電気量を測定する従来の電量分析法により実行した。
【0148】
この結果は、対照サンプルと比較して百分率で表し、抗酸化特性が確認されているフラボノイドであるルチンを、用いる「標準」とした。尿サンプルを、総抗酸化能についてアッセイしたが、その値は、1dm3(リットル)当たり285~1647mgのルチン(Ru)と同等である。
【0149】
図3は、本発明による粉末を1日2回摂取した患者から採取した尿の総抗酸化能の、最初の数日(最大で6日目まで、測定される能力は「酸化」であって抗酸化ではない)から、尿サンプルの抗酸化能の百分率が高いものである10~12日目までの間に、明らかな増加を示している。
【0150】
実施例6:様々な動物モデル(ラット、ウサギ、イヌ)における、本発明に係る方法により取得した膜の吸収
膜の吸収は、動物(ラット、ウサギ又はイヌ)における特定の組織への移植後、その後の様々な時点での移植領域の生検後に、組織学的解析により決定される。
【0151】
観察された吸収は急速であり、移植した材料の累進的な消失が微小血管で(血管新生)、結合組織で、次いで細胞形成の機能性組織で徐々に発生する。
【0152】
イヌ及びウサギの皮下組織で実行した、板又は粉末の形態でのミネラル化膜の吸収時間についての特定の実験により、以下のことがわかった:
- 移植後(pi)の2日目(D2)~3日目(D3):好酸性顆粒球が多い割合で存在した状態での、ミネラル化膜の部分的な吸収。コラーゲン繊維の膨潤。
- piの5日目(D5)~7日目(D7):多核巨細胞、リンパ細胞及びマクロファージが存在した状態での、ミネラル化膜の相当量の吸収。
- piの14日目(D14):残存したミネラル化膜によるいくつかの島の範囲内の、高い割合での単核細胞。吸収された複合体と代わって、血球が充填した典型的な扁平内皮細胞により形成される血管をもつ、若い成熟肉芽組織が存在。肉芽組織の線維組織への移行も注目される。
- piの25日目(D25):消失した膜と代わって、完全に成長した成熟結合組織の別個の島が見られ、マクロファージ、多核巨細胞、及びリンパ球により囲繞される。膜は、拒絶反応を生じていない。膜の移植領域における形態的な変化は、コラーゲン-アパタイト複合体が線維結合組織と置き換わったことによる強い細胞増殖反応に該当する。
【0153】
以下の表3~8は、宿主細胞及び移植の後の時間(pi:移植後(post implantation))に応じて観察された組織学的な発達を示す。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
表8 ラットの末梢神経の切断の治療(ラット、n=5)
【0160】
1cmの神経物質の喪失が、坐骨神経で観察された。ミネラル化膜の粉砕による粉末から構成される溶液を、崩壊した神経の両末端をつなぐケラチンチューブ内に入れた。
【0161】
【0162】
実施例7:本発明に係る方法により取得した膜上に存在するリン酸カルシウム結晶の分子キャラクタリゼーション
いくつかの異なるミネラル化法によって取得したリン酸カルシウムナノ結晶を以下のとおり比較した:
- 試料7:セロファンなし-電気泳動なしで、24時間ミネラル化したコラーゲン膜
- 試料4:セロファンあり-電気泳動なしで、24時間ミネラル化したコラーゲン膜
- 試料6:セロファンなし-電気泳動ありで、24時間ミネラル化したコラーゲン膜
- 試料5:セロファンあり-電気泳動ありで、24時間ミネラル化したコラーゲン膜、すなわち本発明の方法による。
【0163】
これら試料を、以下のキャラクタリゼーション技術により解析した:
・Zeiss社Supra 55VP走査型電子顕微鏡(SEM) 導電性の表面堆積なし、かつコラーゲン繊維の面上に形成された凝集体及びリン酸カルシウム結晶の形態をマスクせずに低電圧で、観察を行った。
・CuKα照射(40kV及び40mA)による、Lynx-Eye位置検出素子(開放角度2.946°)を備えた、Bruker社D8 Advance 9/9 XRD X線回折計(XRD)。このディフラクトグラムを、TOPAS-64 V6ソフトウェアを用いて解析した。
・減衰全反射システム(Quest ATRダイアモンド;Specac社、米国)を備えた、VERTEX 70赤外(IR)分光計(Bruker Optics社、仏国)。スペクトルを互いに比較できるように、対照を加えて「曲線あてはめ」手順を実施したが、これはBaptiste Charbonnierの論文(EMSE、09/12/2016)において開発された手順に従った。
【0164】
A-電子顕微鏡観察による解析
図4及び5に、いくつかの倍率での、ミネラル化コラーゲン膜の両面において走査型電子顕微鏡(SEM)により得られた画像を示す。
【0165】
当該画像は、以下のことを示す:
- 多孔性セロファン膜なし及び電気泳動なしで取得した試料7は、非常に厚く、高度にミネラル化され、かなり密度が高く、さらに面1(Face1)に関しては遮断されて/塞がっている(倍率≧×10,000)。電子顕微鏡観察的には、ミネラル化したマトリックス7は、石膏の片に似ている。表面の凝集体の形態については、低倍率で、膜のいずれの面においても粗い。CaP結晶の形態が比較的不均質であることが、より高い倍率(≧×10,000)で、膜の両面間で現れている。
- 多孔性セロファン膜あり及び電気泳動なしで取得した試料4は、試料7と異なり、非常に薄く、ミネラル化が非常に乏しい。面1(Face1)では、コラーゲンマトリックスがはっきりと見えている(写真中の黄色)。この面の鉱質層は、非常に薄いが非常に密度が高く、孔は完全に閉鎖して/塞がっているようである。直径≦1μmの鉱質の小球が、この面(1)(Face(1))上でランダムに視認できる一方で、もう一方の面(2)(Face(2))では見られない。面1(Face1)と面2(Face2)との間における相違は明らかである。
- 多孔性セロファン膜なし及び電気泳動ありで取得した試料6は、試料7と同様に比較的厚く、しかしながら厚さの変動が明らかであった(最大100%、試料6の写真)。コラーゲン膜のそれぞれの面(すなわち、Face1及び2)で形成した鉱質は、試料7よりも比較的多孔性であり、一方の面(面1(Face1))は粗く、凝集体(約10μmの直径)がランダムに分布しており、また不均一なナノ構造であり、もう一方の面(面2(Face2))は直径が≦1μmの鉱質の小球により構成された面である。これら小球の濃度は、試料4の面1(Face1)に関するよりも明らかに高い。
- 多孔性セロファン膜あり及び電気泳動ありで取得した試料5は、膜スケールで、凝集体スケールで、又はナノメートルスケールのいずれかによらず、有意に他の3試料とは異なる。
【0166】
電子顕微鏡観察的には、当該膜は両面において同一の態様を有する(写真、試料5)。いずれの面も、光沢のある小さい結晶をもち、鉱質の厚さ及び色は比較的均一である。
【0167】
SEM画像で視認できるこれら結晶は、ブラシュ石相(CaHPO4,2H2O)の非常に特徴的であるリン酸カルシウムの板形状/シートであり、すなわち「リーフレット形状」である。これら板形状は比較的大きく、最大で100μm以上の長さであり、比較的薄く、<1μmの厚みである(かなり正確な結晶面に沿って成長)。表面は、凹凸のある形状であり、比較的多孔性である。
【0168】
この形状は、板形状の形態での結晶及び球状のナノ多孔性結晶の凝集の結果である。後者は、直径が10μm程度であり、ハチの巣の穴に似たサブミクロンの微小孔を有する。これら穴の壁、すなわち結晶は、ナノメートルオーダーという極めて非常に薄いものである。
【0169】
図5は、倍率(Mag)×20,000及び×30,000での、当該膜の両面において走査型電子顕微鏡により取得した画像を示している。
【0170】
当該ナノ結晶のこの形態は非常に特有であり、かつ非常に興味深いものである。実際に、この穴の大きさ及び形状は、関心の生体タンパク質(例えばBMP2等の成長又は治癒因子)を捕捉することができる。ハチの巣(蜂窩)の穴の形状をもつこの薄壁は、有意に、流体との交換面を増大させ、すなわち当該流体とのこれらナノ結晶の相互作用能力が増大する。
【0171】
結論として、多孔性膜(セロファンタイプ)及び電場を伴った本発明によるコラーゲン膜をミネラル化する方法が、固有で且つ配向されている結晶の形態のみならず、当該膜の各面におけるこれら結晶の均一な分布を、有効に形成する。
【0172】
B-人手により粉砕したミネラル化膜のディフラクトグラム
図6は、試料7、4、6及び5の粉砕した膜で取得した回折スペクトルの比較を示す。
【0173】
全ての試料が、比較的ブロードで、回折ピークの強度がそれほど高くないスペクトルを有する。
【0174】
電気泳動なしで取得した試料7及び4は、単一かつ固有の検出可能な結晶相を有し、その結晶学的構造は、ヒドロキシアパタイトのものに近い(PDFファイル09-0432と印した)。
【0175】
電気泳動ありで取得した試料6及び5は2種の結晶相を有し、その結晶学的構造は、一方はヒドロキシアパタイトのものに近く(HA、PDF09-0432)、またもう一方は明らかにブラシュ石のものに近い(PDF09-0077)。これら回折ピークはまた、ブラシュ石と比較して、アパタイト構造のものよりも狭く、これはブラシュ石の局所的な秩序が、アパタイト結晶のものよりも高いことを示唆する。
【0176】
これら結果から、先述の結果とあわせて、試料5(本発明による方法)のSEMで観察された板形状体が、極めて正確な結晶面に沿って成長した比較的良好に結晶化したブラシュ結晶であること、及び超顕微鏡的な多孔性の球が、ヒドロキシアパタイト(HA)の結晶学的構造に近い結晶学的構造の結晶である、ということが確認される。
【0177】
C-正規化された、人手により粉砕したミネラル化膜で取得した赤外線(IR)スペクトル
この結果より、多孔性セロファン膜あり及び電気泳動なしで生成した試料4は、他の試料よりもミネラル化が乏しいことが確認される。
【0178】
セロファン膜なしで取得した試料7及び6は、リン酸基(1200~900cm-1、620~480cm-1)、ヒドロキシル基(3500cm-1、620cm-1)、及び炭酸基(1700~1200cm-1、910~830cm-1)の特徴を示すバンドをもつ同等のIRスペクトルを有する。すなわちこれら試料は、本質的に、以下の一般式の欠損型炭酸ヒドロキシアパタイトから構成される:
Ca10-x(PO4)6-x.(HPO42-又はCO32-)x.(OH又は1/2CO3)2-x、ここで0≦x≦2。
【0179】
これら試料はまた、不安定なHPO4基に関して、542cm
-1にバンドを呈する(例えば、
図7の下方のグラフ)。このバンドは、アパタイト構造の外側又はブラシュ石内に捕捉されたHPO4イオンのいずれかに帰属される。
【0180】
同様に、多孔性セロファン膜あり及び電気泳動下で生成した試料5は、アパタイト基に関するバンドを有し、また不安定なHPO4基に関するバンドを有する(例えば、
図7の上方のグラフ)。しかしながら、アパタイトに関するバンドは、試料7のスペクトルで観察したバンドよりも強度が小さく、一方で不安定なHPO4基に関する542cm
-1のバンドは、より高い強度である。これら半定量的な結果により、先述のSEM及びDRXによる知見が確認される。
【0181】
また、試料7は、試料5よりもミネラル化されているようである(
図7、560cm
-1におけるリン酸塩のバンド/510cm
-1におけるコラーゲンのバンド)。この結果より、電気泳動なしで取得した試料の表面の、SEM、及び密度、及び塞がって/遮断されている外観による視覚的な知見もまた確認される。
【0182】
結論として、多孔性セロファン膜及び電場により多孔性有機膜の制御されたミネラル化を実施する本発明に係る方法により、効果的に、有機膜内の比較的均質な鉱質密度のみならずCaP結晶の固有の形態及び鉱質の組成を得ることができるようになる。カルシウム欠損型炭酸ヒドロキシアパタイトの結晶の形態学的特徴は、ハチの巣の穴のように高度に配向されて形づけられているが、これは特に、生物学的な適用(例えば、サブミクロンの孔の中にタンパク質を捕捉すること、非常に高い交換面/結晶重量の比)で関心がある。
【0183】
参考文献
欧州特許3181158号
国際公開第2008/096334号
ロシア国特許出願第2410040号
国際公開第2013/111077号
国際公開第2013/190534号
米国特許第6,395,036号
国際公開第2008/096334号
欧州特許第3021883号
ロシア国特許出願第2174848号
米国特許第5,532,217号
米国特許第5,739,286号
米国特許第6,589,590号
【0184】
2014年4月17日にサンテチエンヌにおいて議論された「SYNTHESE, CARACTERISATION ET EVALUATION BIOLOGIQUE D’APATITES PHOSPHOCALCIQUES CARBO-SILICATEES」という表題のAntoine BOYERによる論文。
【国際調査報告】