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特表2022-551195宿主細胞におけるバイオプロダクトの産生
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-07
(54)【発明の名称】宿主細胞におけるバイオプロダクトの産生
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20221130BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221130BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20221130BHJP
   C12P 19/12 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N1/21 ZNA
C12N1/20 A
C12P19/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522301
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(85)【翻訳文提出日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2020078830
(87)【国際公開番号】W WO2021074182
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】19202978.3
(32)【優先日】2019-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519232574
【氏名又は名称】インバイオス エン.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Inbiose N.V.
【住所又は居所原語表記】Technologiepark 82,bus 41,9052 Zwijnaarde,Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ボープレ, ユーリ
(72)【発明者】
【氏名】クスマン, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ラノー, ナウシカー
(72)【発明者】
【氏名】ペテルス, ヘルト
(72)【発明者】
【氏名】ファンデワル, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ベルコーテレン, アナリス
(72)【発明者】
【氏名】アーサールト, ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】デクーネ, トマス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE63
4B064AF02
4B064AF03
4B064AF04
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA20
4B065CA21
(57)【要約】
本発明は、遺伝子改変細胞による発酵によりバイオプロダクトを産生する方法および方法に使用される遺伝子改変細胞を記載する。細胞は、バイオプロダクトを産生するように遺伝子改変され、少なくとも1つの内因性膜タンパク質コード遺伝子の発現を低減させることによって、および/または内因性膜タンパク質の発現を変異させることによってさらに遺伝子改変される。本発明者らは、単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖、または糖脂質などのバイオプロダクトを産生するE.coliにおいて使用される新規ファージ耐性系を発見した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖、または糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたEscherichia coli細胞であって、i)内因性膜タンパク質コード遺伝子の発現が、低減されているか、および/またはii)前記内因性膜タンパク質コード遺伝子が、変異しており、好ましくは前記変異が、前記膜タンパク質コード遺伝子の低減された発現をもたらし、前記膜タンパク質が、表1に記載されるタンパク質のいずれか1つである、細胞。
【請求項2】
前記膜タンパク質が、COG群COG4206、COG2067、COG4771、COG1629、COG4580、COG2885、COG3203、COG4571、COG1538、COG3248、COG0810、COG0457;外膜ポリン、外膜プロテアーゼ7、コバラミン/コビナミド外膜輸送体、外膜チャネル、マルトース外膜チャネル、フェリクローム外膜輸送体、Ton複合体サブユニット、長鎖脂肪酸外膜チャネル、ヌクレオシド特異的チャネル形成タンパク質、鉄エンテロバクチン外膜輸送体、推定TonB依存性外膜受容体、外膜タンパク質、ファージ受容体からなるリストから選択される、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記膜タンパク質が、OmpA(配列番号2)、OmpC(配列番号4)、OmpF(配列番号6)、OmpT(配列番号8)、BtuB(配列番号10)、TolC(配列番号12)、LamB(配列番号14)、FhuA(配列番号16)、TonB(配列番号18)、FadL(配列番号20)、Tsx(配列番号22)、FepA(配列番号24)、YncD(配列番号26)、PhoE(配列番号28)、およびNfrA(配列番号30)、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30のうちのいずれか1つの機能的ホモログ、または配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30のうちのいずれか1つの全長のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する膜タンパク質からなるリストから選択される、請求項1または2のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項4】
前記膜タンパク質コード遺伝子の前記低減された発現および/または前記膜タンパク質コード遺伝子の変異が、バクテリオファージ耐性を付与し、前記バクテリオファージが表2に記載されるバクテリオファージファミリーから選択される、請求項1、2または3のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項5】
前記膜タンパク質コード遺伝子の前記低減された発現および/または前記膜タンパク質コード遺伝子の変異が、影響を受けないおよび/または増強されたi)バイオプロダクトの産生、ii)生産性、iii)バイオマス産生、および/またはiv)細胞成長を付与する、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項6】
前記変異および/または低減された発現が、前記膜タンパク質のバクテリオファージ結合能を低減することおよび/または消失させることを含む、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項7】
前記E.coli細胞が、シアル酸経路もしくはシアリル化経路、またはフコシル化経路またはガラクトシル化経路またはN-アセチルグルコサミン炭水化物経路のうちの少なくとも1つを産生するように少なくとも1つの異種遺伝子によって形質転換され、好ましくは前記細胞が、当技術分野で記載される異種遺伝子、遺伝子カセット、または遺伝子セットの導入によって形質転換される、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項8】
前記内因性膜タンパク質の前記変異および/または低減された発現が、
i)前記膜タンパク質コード遺伝子の転写単位を変異させること;
ii)前記膜タンパク質コード遺伝子の内因性の/相同なプロモーターを変異させること;
iii)前記膜タンパク質コード遺伝子のリボソーム結合部位を変異させること;
iv)前記膜タンパク質コード遺伝子のUTRを変異させること、および/または
v)転写ターミネーターを変異させること
のうちのいずれか1つまたは複数を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項9】
前記膜タンパク質コード遺伝子の前記変異が、前記膜タンパク質をより短く、より長くすることを含み、および/または前記膜タンパク質を完全にノックアウトする、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項10】
前記膜タンパク質コード遺伝子の前記変異が、前記膜タンパク質コード遺伝子のインフレーム変異である、請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項11】
前記インフレーム変異が、コードされる前記膜タンパク質のアミノ酸配列への少なくとも2個のアミノ酸の挿入であり、好ましくは前記変異が2個より多くのアミノ酸の挿入を含む、請求項10に記載の細胞。
【請求項12】
前記変異がtolCコード遺伝子で起こり、前記変異が、アミノ酸配列VGLSFSLPIYQ(配列番号31)の11アミノ酸重複を含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項13】
前記膜タンパク質コード遺伝子のうちの少なくとも2つが変異している、および/または低減された発現を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項14】
前記バイオプロダクトが、オリゴ糖であり、好ましくは前記オリゴ糖が、フコシルラクトース、シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ジフコシルラクト-N-テトラオース、シアリル-ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-フコペンタオース、ルイス型抗原の群から選択され、より好ましくは、2’FL、3FL、DiFL、ラクト-N-トリオース、LNT、LNnT、3’SL、6’SL、LSTa、LSTb、LSTc、LSTd、DFLNT、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-フコペンタオースVI、H1抗原、Lewis、Lewis、シアリルLewis、H2抗原、Lewis、Lewis;シアリル-Lewisを含む群から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項15】
前記バイオプロダクトが、好ましくはN-アセチルラクトサミン、ラクトースを含む群から選択される二糖であるか;または前記バイオプロダクトが、好ましくはGDP-フコース、UDP-グルコース、UDP-ガラクトース、UDP-N-アセチルグルコサミン、CMP-シアル酸を含む群から選択される活性化単糖であるか;または前記バイオプロダクトが、好ましくはグルコサミン、マンノース、キシロース、N-アセチルマンノサミン、N-アセチルノイラミン酸、N-グリコリルノイラミン酸、シアル酸、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトサミン、フコース、ラムノース、グルクロン酸、グルコン酸を含む群から選択される単糖であるか、または前記バイオプロダクトが、好ましくはグルコース-1-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルコース-1,6-ビスリン酸、ガラクトース-1-リン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース-1,6-ビスリン酸、フルクトース-1-リン酸、グルコサミン-1-リン酸、グルコサミン-6-リン酸、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸、マンノース-1-リン酸、マンノース-6-リン酸もしくはフコース-1-リン酸を含む群から選択されるリン酸化単糖である、請求項1~13のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項16】
E.coli細胞においてバクテリオファージ耐性を付与するための方法であって:
- 単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖もしくは糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたE.coliを提供するステップ、
- 前記E.coli細胞の膜タンパク質コード遺伝子の発現を低減させる、および/または前記膜タンパク質コード遺伝子を変異させるステップ
を含み、前記膜タンパク質が表1に記載されるタンパク質のいずれか1つである、方法。
【請求項17】
単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖または糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトのE.coli細胞により産生するための方法であって:
- 単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖もしくは糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたE.coliを提供するステップ、
- 前記E.coli細胞の膜タンパク質コード遺伝子の発現を低減させる、および/または前記膜タンパク質コード遺伝子を変異させるステップ、
- 所望の前記バイオプロダクトの産生を許容する培養条件下、培地中で前記細胞を培養するステップ、
- 好ましくは前記培養物から前記バイオプロダクトを分離するステップ
を含み、前記膜タンパク質が表1に記載されるタンパク質のいずれか1つである、方法。
【請求項18】
単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖または糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトのE.coli細胞による産生を、前記バイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたE.coli細胞と比較して増加させるための方法であって:
- 単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖もしくは糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたE.coliを提供するステップ、
- 前記E.coli細胞の膜タンパク質コード遺伝子の発現を低減させる、および/または前記膜タンパク質コード遺伝子を変異させるステップ、
- 所望の前記バイオプロダクトの産生を許容する培養条件下、培地中で前記細胞を培養するステップ、
- 好ましくは前記培養物から前記バイオプロダクトを分離するステップ
を含み、前記膜タンパク質が表1に記載されるタンパク質のいずれか1つである、方法。
【請求項19】
前記膜タンパク質が、COG群COG4206、COG2067、COG4771、COG1629、COG4580、COG2885、COG3203、COG4571、COG1538、COG3248、COG0810、COG0457;外膜ポリン、外膜プロテアーゼ7、コバラミン/コビナミド外膜輸送体、外膜チャネル、マルトース外膜チャネル、フェリクローム外膜輸送体、Ton複合体サブユニット、長鎖脂肪酸外膜チャネル、ヌクレオシド特異的チャネル形成タンパク質、鉄エンテロバクチン外膜輸送体、推定TonB依存性外膜受容体、外膜タンパク質、ファージ受容体からなるリストから選択される、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記膜タンパク質が、OmpA(配列番号2)、OmpC(配列番号4)、OmpF(配列番号6)、OmpT(配列番号8)、BtuB(配列番号10)、TolC(配列番号12)、LamB(配列番号14)、FhuA(配列番号16)、TonB(配列番号18)、FadL(配列番号20)、Tsx(配列番号22)、FepA(配列番号24)、YncD(配列番号26)、PhoE(配列番号28)、およびNfrA(配列番号30)、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30のうちのいずれか1つの機能的ホモログ、または配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30のうちのいずれか1つの全長のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する膜タンパク質からなるリストから選択される、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記膜タンパク質コード遺伝子の改変された発現および/または変異がバクテリオファージ耐性を付与し、前記バクテリオファージが表2に記載されるバクテリオファージファミリーから選択される、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記膜タンパク質コード遺伝子の前記改変された発現および/または変異が、影響を受けないおよび/または増強されたバイオプロダクトの産生を付与する、請求項16~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記改変された発現および/または変異が、前記膜タンパク質のバクテリオファージ結合能を低減させることおよび/または消失させることを含む、請求項16~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記E.coli細胞が、フコシル化、シアリル化、ガラクトシル化オリゴ糖、N-アセチルグルコサミン含有オリゴ糖、またはシアル酸から選択される少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されている、請求項16~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記内因性膜タンパク質コード遺伝子の前記改変された発現が、より低いおよび/または低減された発現であり、好ましくは、前記より低い発現は、
i)前記膜タンパク質コード遺伝子の転写単位を変異させること;
ii)前記膜タンパク質コード遺伝子の内因性の/相同なプロモーターを変異させること;
iii)前記膜タンパク質コード遺伝子のリボソーム結合部位を変異させること;
iv)前記膜タンパク質コード遺伝子のUTRを変異させること、および/または
v)転写ターミネーターを変異させること
のうちのいずれか1つまたは複数を含む、請求項16~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記膜タンパク質コード遺伝子の前記変異が、前記膜タンパク質をより短く、より長くすることを含み、または前記膜タンパク質を完全にノックアウトする、請求項16~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記変異が、前記膜タンパク質コード遺伝子のインフレーム変異であり、好ましくは、前記インフレーム変異が、コードされる前記膜タンパク質のアミノ酸配列への少なくとも2個のアミノ酸の挿入であり、より好ましくは前記変異が2個より多くのアミノ酸の挿入を含む、請求項16~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記変異が、Escherichia coliのtolC遺伝子またはE.coliにおけるtolC遺伝子の機能的ホモログで起こり、前記変異がTLSファミリーのバクテリオファージに対する耐性を提供し、前記変異が、アミノ酸配列VGLSFSLPIYQ(配列番号31)の11アミノ酸重複を生じる、請求項16~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記膜タンパク質コード遺伝子のうちの少なくとも2つが変異している、および/または低減された発現を有する、請求項16~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記バイオプロダクトが、オリゴ糖であり、好ましくは前記オリゴ糖が、フコシルラクトース、シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ジフコシルラクト-N-テトラオース、シアリル-ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-フコペンタオース、ルイス型抗原の群から選択され、より好ましくは、2’FL、3FL、DiFL、ラクト-N-トリオース、LNT、LNnT、3’SL、6’SL、LSTa、LSTb、LSTc、LSTd、DFLNT、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-フコペンタオースVI、H1抗原、Lewis、Lewis、シアリルLewis、H2抗原、Lewis、Lewis;シアリル-Lewisである、請求項16~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記バイオプロダクトが、好ましくはLacNAc、ラクトースを含む群から選択される二糖であるか;または前記バイオプロダクトが、好ましくはGDP-フコース、UDP-グルコース、UDP-ガラクトース、UDP-N-アセチルグルコサミン、CMP-シアル酸を含む群から選択される活性化単糖であるか;または前記バイオプロダクトが、好ましくはグルコサミン、マンノース、キシロース、N-アセチルマンノサミン、N-アセチルノイラミン酸、N-グリコリルノイラミン酸、シアル酸、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトサミン、フコース、ラムノース、グルクロン酸、グルコン酸を含む群から選択される単糖であるか、または前記バイオプロダクトが、好ましくはグルコース-1-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルコース-1,6-ビスリン酸、ガラクトース-1-リン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース-1,6-ビスリン酸、フルクトース-1-リン酸、グルコサミン-1-リン酸、グルコサミン-6-リン酸、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸、マンノース-1-リン酸、マンノース-6-リン酸もしくはフコース-1-リン酸を含む群から選択されるリン酸化単糖である、請求項16~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖または糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するために遺伝子改変された細胞を使用して、前記バイオプロダクトの発酵産生のための方法であって、以下のステップ:
- 請求項1~15のいずれか一項に記載の細胞を提供するステップ;
- 所望の前記バイオプロダクトの産生を許容する条件下、培地中で前記細胞を培養するステップ;
- 好ましくは培養物から前記バイオプロダクトを分離するステップ
を含む、方法。
【請求項33】
前記バイオプロダクトがLNnTであり、好ましくは前記膜タンパク質が、LamB(配列番号14)、FhuA(配列番号16)、FadL(配列番号20)、およびNfrA(配列番号30)、配列番号14、配列番号16、配列番号20、および配列番号30のうちのいずれか1つの機能的ホモログ、または配列番号14、16、20、30のうちのいずれか1つの全長のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する膜タンパク質のうちのいずれか1つまたは複数であり、好ましくは前記変異が、前記遺伝子のノックアウト表現型をもたらす、請求項16~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記バイオプロダクトが、シアリルラクトース、好ましくは6’SLであり、好ましくは、前記膜タンパク質がFhuA(配列番号16)、その機能的ホモログ、または配列番号16の全長のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する膜タンパク質であり、好ましくは、前記膜タンパク質コード遺伝子の前記変異および/または低減された発現が、前記遺伝子のノックアウト表現型をもたらす、請求項16~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項1~15のいずれか一項に記載の細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、合成生物学および代謝工学の技術分野に属する。より具体的には、本発明は、代謝が操作された宿主細胞の発酵の技術分野に属する。本発明は、遺伝子改変された細胞を用いる発酵によってバイオプロダクトを産生する方法、および該方法において使用される遺伝子改変された細胞について記載する。細胞は、バイオプロダクトを産生するように遺伝子改変され、少なくとも1つの内因性膜タンパク質コード遺伝子の発現を低減させることによって、および/または内因性膜タンパク質の発現を変異させることによってさらに遺伝子改変される。
【背景技術】
【0002】
背景
バイオプロダクトの工業的産生は、バイオプロダクトを産生することが可能な細胞の発酵によって実施することができる。培養物の調製は、労力がかかり、多くの場所および機器を占有し、繁殖ステップの際に腐敗細菌および/またはファージが混入するかなりのリスクがある。バクテリオファージ(ファージ)の感染および複製による細菌培養の失敗は、細菌培養の工業的使用にとって主要な問題である。様々なメカニズムで細菌を攻撃する多くの異なるタイプのファージが存在する。さらに、バクテリオファージの新しい株が出現している。
【0003】
バクテリオファージ感染、したがって細菌培養の失敗を最小限にするために工業において使用される戦略は、(i)混合スターター培養の使用;および(ii)異なるファージ感受性プロファイルを有する株の交互の使用(株のローテーション)を含む。
【0004】
混合スターター培養の複雑な組成により、ファージの攻撃に対してある特定のレベルの耐性が存在することを確実にする。しかし、混合菌株培養の繰り返し継代培養は、個々の株の分布に予測できない変化をもたらし、最終的に望ましくない株が多数を占める。これは次に、ファージの攻撃に対する感受性の増加および発酵失敗のリスクの増加をもたらし得る。
【0005】
異なるファージに対して感受性がある選択された細菌株のローテーションは、ファージの発達を制限するもう1つのアプローチである。しかし、効率的かつ信頼できるローテーションプログラムを提供するために、異なるファージタイププロファイルを有する十分数の株を同定および選択することは難しく、難題である。加えて、株の持続的な使用は、新規感染性ファージに関する注意深いモニタリングを必要とし、新規バクテリオファージに感染した株を耐性株に速やかに置換する必要があり、大量のバルクスターター培養が予め作製されている製造プラントでは、そのような迅速な対応は通常不可能である。
【0006】
所望の生成物を産生する細菌株などの、発酵生産工業において使用するための改善された細菌株を提供することは、当技術分野で常に必要である。ファージ耐性である改善された細菌株が特に望ましい。
【0007】
ファージ捕食によって細菌に課される進化圧は、ファージ感染から細菌を保護するための効率的な耐性系の発達をもたらした。Makarova et al. (J Bacteriol. 2011, Nov, 193(21): 6039-6056)は、細菌および古細菌ゲノムのかなりの部分がファージ防御に割り当てられており、そして防御遺伝子が典型的に防御アイランドと呼ばれるゲノムアイランドに集合していることを開示した。これらの系の一部は、制限修飾系、不稔感染機構、CRISPR/Cas適応防御系、原核生物アルゴノート系、BREX系(WO2015/059690号を参照されたい)およびDISARM系(WO2018/142416号)を含む。他の研究者らは、特定の細菌株に関して、膜タンパク質コード遺伝子の特定の欠失が、ファージの攻撃に対して細胞をより耐性にすることを見出した(例えば、V. Braun (2009) J Bacteriol. 191(11):3431-3436およびLink et al., 1997, J. Bact. 179: 6228- 8237に開示されるfhuA遺伝子)。
しかし、特定のバイオプロダクト、より詳しくは単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖、または糖脂質の発酵生産では、そのようなさらなる操作ステップが、細胞の成長および/または所望のバイオプロダクトの産生に負の効果を有し得るために、バイオプロダクトの産生にとって厳密に必要な遺伝子座以外の遺伝子座を操作することは躊躇される。さらに、完全な遺伝子欠失は、膜タンパク質の役割の重要性に応じて、正常な細胞機能を妨害し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2015/059690号
【特許文献2】国際公開第2018/142416号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Makarova et al. (J Bacteriol. 2011, Nov, 193(21): 6039-6056)
【非特許文献2】V. Braun (2009) J Bacteriol. 191(11):3431-3436
【非特許文献3】Link et al., 1997, J. Bact. 179: 6228- 8237
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
説明
発明の概要
本発明者らは、単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖、または糖脂質などのバイオプロダクトを産生するE.coliにおいて使用される新規ファージ耐性系を発見した。ファージ耐性系は、少なくとも1つの内因性膜タンパク質コード遺伝子の低減された発現および/または内因性膜タンパク質コード遺伝子の変異、より好ましくは内因性外膜タンパク質コード遺伝子の低減された発現および/または変異を含む。新たに発見された系は、ファージに対して有効かつ効率的に保護し、同時に発酵性のE.coli細菌のバイオプロダクト生産性および/または成長に負の影響を及ぼさない。
具体的には、本発明者らは、ファージ耐性系が、たとえ感染の最初のサイクルであっても、溶菌およびテンペレート(溶原性とも呼ばれる)ファージを含む広い系統学のファージタイプに及ぶE.coliファージに対して完全または部分的耐性を付与することを明らかにした。
【0011】
本発明はまた、少なくとも1つの所望のバイオプロダクトの産生を増強する方法も提供する。バイオプロダクトは、本発明のファージ耐性系を含む遺伝子改変宿主細胞によって得られる。
【0012】
定義
本発明およびその様々な実施形態を説明するために本明細書において使用される単語は、それらの一般に定義される意味の語義においてのみではなく、一般に定義される意味の範囲を超える本明細書の特別な定義による構造、材料または作用も含むと理解されるべきである。したがって、要素が本明細書の文脈において2つ以上の意味を含むと理解され得る場合、特許請求の範囲におけるその使用は、明細書によって、および単語それ自体によって支持される全ての可能な意味について包括的であると理解されなければならない。
【0013】
本明細書で開示される本発明の様々な実施形態および実施形態の態様は、本明細書で具体的に説明される順序および文脈でのみではなく、その任意の順序および任意の組合せを含むと理解されるべきである。文脈が要求する場合は常に、単数形で使用される全ての単語は、複数を含むと考えられるべきであり、その逆も同じである。別に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、一般的に、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に、本明細書で使用される命名法、ならびに本明細書で説明される細胞培養、分子遺伝学、有機化学および核酸化学およびハイブリダイゼーションにおける研究室手技は、当該技術分野において周知であり、一般に使用されている手技である。核酸およびペプチド合成に、標準技法が使用される。一般的に、酵素反応および精製ステップは、製造業者の仕様書に従って行われる。
【0014】
図面および明細書において、本発明の実施形態が開示されており、特定の用語が使用されているが、用語は、単に説明の語義において使用され、限定の目的のためではなく、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲で示される。説明される実施形態は例の目的のためにのみ示されており、それは本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことが理解されなければならない。変更、他の実施形態、改善、詳細および使用は、本明細書中の本開示の文言および趣旨と一致して、本開示の範囲内で行うことができ、それは特許請求の範囲によってのみ限定され、均等論を含む特許法に従って解釈されることが当業者に明らかである。以下の特許請求の範囲において、特許請求の範囲のステップを示すために使用される参照符号は、説明の利便性のためにのみ提供され、ステップを行うための任意の特定の順序を意味することを意図しない。
【0015】
本発明によれば、「膜タンパク質」という用語は、生物膜または膜エンベロープに見出され、当業者に一般的に公知であるタンパク質を指す(Lodish H, Berk A, Zipursky SL, et al., 2000、およびSilhavy et al 2010)。これは、細胞膜、外膜または細胞壁のタンパク質成分である。膜タンパク質は、膜内在性、周辺、または脂質アンカータンパク質またはその組合せであり得る。この用語は、細胞膜の一部であるかまたは細胞膜と相互作用し、例えば分子の流れ、細胞を通過する情報を制御することができ、または膜の構造部分を形成することができるタンパク質を指す。膜タンパク質は、好ましくは細胞への移入または排出であるかによらず、輸送に関係する。
【0016】
「膜タンパク質コード遺伝子」という用語は、本明細書で使用される場合、本発明の膜タンパク質をコードする配列を含むポリヌクレオチドを包含する。用語はまた、コード配列および/または非コード配列を同様に含有し得る追加の領域と共に、膜タンパク質をコードする単一の連続領域または不連続領域を含むポリヌクレオチド(例えば、組み込まれたファージまたは挿入配列または編集によって中断された)を包含する。
【0017】
本発明に従って、「ポリヌクレオチド」という用語は、一般的に、非改変RNAもしくはDNAまたは改変RNAもしくはDNAであり得る任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを指す。「ポリヌクレオチド」には、一本鎖および二本鎖DNA;一本鎖および二本鎖領域または一本鎖、二本鎖および三本鎖領域の混合物であるDNA;一本鎖および二本鎖RNA;ならびに一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNA;一本鎖、またはより典型的には二本鎖もしくは三本鎖領域、または一本鎖および二本鎖領域の混合物であり得るDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子が含まれるが、これらに限定されない。加えて、「ポリヌクレオチド」は、本明細書で使用される場合、RNAもしくはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。そのような領域内の鎖は、同じ分子からの鎖、または異なる分子からの鎖であり得る。領域は、分子のうちの1つまたは複数の全てを含み得るが、より典型的には、分子のうちの一部の領域のみを含む。三本鎖ヘリックス領域の分子のうちの1つは多くの場合、オリゴヌクレオチドである。本明細書で使用される場合、また、「ポリヌクレオチド」という用語は、1つまたは複数の改変された塩基を含有する上記に説明されるDNAまたはRNAを含む。したがって、安定性のためまたは他の理由のために改変された骨格を有するDNAまたはRNAは、本発明による「ポリヌクレオチド」である。さらに、イノシンなどの異常な塩基、またはトリチル化塩基などの改変された塩基を含むDNAまたはRNAは、「ポリヌクレオチド」という用語に包含されると理解されるべきである。当業者に公知の多くの有用な目的を満たす広範な改変がDNAおよびRNAになされていることが理解される。「ポリヌクレオチド」という用語は、それが本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドのそのような化学的、酵素的または代謝的に改変された型、ならびにウイルスおよび単純型および複雑型細胞を含む細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学型を包含する。また、「ポリヌクレオチド」という用語は、多くの場合オリゴヌクレオチドと呼ばれる短いポリヌクレオチドを包含する。
【0018】
「ポリペプチド」とは、ペプチド結合または改変されたペプチド結合によって互いに接合された2つまたはそれよりも多いアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を指す。「ポリペプチド」とは、一般にペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーと呼ばれる短鎖、ならびに一般的にタンパク質と呼ばれるより長い鎖の両方を指す。ポリペプチドは、遺伝子をコードする20個のアミノ酸以外のアミノ酸を含有し得る。「ポリペプチド」は、プロセッシングおよび他の翻訳後修飾などの天然プロセスによって、また化学修飾技法によって改変されたポリペプチドを含む。そのような改変は、基本的な教本およびより詳細な研究書、ならびに多数の研究文献で十分に説明されており、それらは当業者に周知である。所与のポリペプチドのいくつかの部位において、同じ型の改変は、同じ程度または様々な程度で存在し得る。さらに、所与のポリペプチドは、多くの型の改変を含有し得る。改変は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖およびアミノ末端またはカルボキシル末端を含む、ポリペプチドのどこで起こってもよい。改変には、例えば、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスホチジルイノシトールの共有結合、架橋結合、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有架橋結合の形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、ガンマ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解プロセッシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、脂質結合、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ-カルボキシル化、ヒドロキシル化およびADP-リボシル化、セレニル化(selenoylation)、アミノ酸のタンパク質へのトランスファーRNA媒介添加、例えば、アルギニル化およびユビキチン化が含まれる。ポリペプチドは、分岐または環式であってもよく、分岐を伴っても、伴わなくてもよい。環式、分岐および分岐環状ポリペプチドは、翻訳後天然プロセスから生じてもよく、全て合成法によって作製されてもよい。
【0019】
「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」という用語は、本明細書で使用される場合、本発明のポリペプチドをコードする配列を含むポリヌクレオチドを包含する。また、この用語は、ポリペプチドをコードする単一の連続領域または非連続領域を含むポリヌクレオチド(例えば、組み込まれたファージもしくは挿入配列または編集によって中断された)ならびにこれもまたコード配列および/または非コード配列を含有し得る追加の領域を包含する。
【0020】
「単離された」とは、その天然状態から「人為的に」変更されたこと、すなわち、それが天然に存在する場合、それがその元の環境から変化もしくは除去されているか、またはその両方であることを意味する。例えば、この用語が本明細書で使用される場合、生存生物に天然に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、「単離されて」いないが、その天然状態の共存する材料から分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは「単離されて」いる。同様に、「合成」配列とは、この用語が本明細書で使用される場合、合成生成され、天然源から直接単離されていない任意の配列を意味する。「合成された」または「合成」とは、この用語が本明細書で使用される場合、任意の合成生成された、天然源から直接単離されていない配列を意味する。
【0021】
「組換え」、または「トランスジェニック」、または「遺伝子改変された」という用語は、細胞または宿主細胞を参照して本明細書で使用される場合、細菌細胞が異種核酸を複製するか、または異種核酸によってコードされるペプチドもしくはタンパク質(すなわち、「前記細胞に対して外来の」配列または「前記細胞における前記位置または環境に対して外来の」配列)を発現することを示す。そのような細胞は、少なくとも1つの異種遺伝子もしくは外因性遺伝子によって形質転換されたと記載されるか、または少なくとも1つの異種もしくは外因性遺伝子の導入によって形質転換されたと記載される。組換えまたはトランスジェニック細胞は、天然(非組み換え)型の細胞内で見出されない遺伝子を含有し得る。組換え細胞はまた、遺伝子が人為的手段によって改変され、細胞に再導入される、天然型の細胞において見出される遺伝子も含有し得る。用語はまた、改変されている細胞に対して内因性の核酸を含有する細胞、またはその発現が細胞から核酸を除去することなく改変されている細胞も包含する。そのような改変としては、遺伝子置換、プロモーターの置換、部位特異的変異、および関連技術によって得られる改変が挙げられる。したがって、「組換えポリペプチド」は、組換え細胞によって産生されているポリペプチドである。「異種配列」または「異種核酸」は、本明細書で使用される場合、特定の細胞に対して外来である起源(例えば、異なる種)に由来するか、または同じ起源に由来する場合は、その元の型もしくはゲノムにおけるその場所から改変されている配列または核酸である。したがって、プロモーターに作動可能に連結された異種核酸は、プロモーターが由来する起源とは異なる起源に由来するか、または同じ起源に由来する場合は、その元の型もしくはゲノムにおけるその場所から改変されている核酸である。異種配列は、例えばトランスフェクション、形質転換、コンジュゲーションまたは形質導入によって宿主微生物細胞のゲノムに安定に導入されてもよく、これらの技術は宿主細胞および導入される配列に応じて適用され得る。様々な技術が当業者に公知であり、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)に開示されている。
【0022】
本開示の文脈内の「内因性」という用語は、細胞の天然部分であり、細胞染色体のその天然の場所に存在している任意のポリヌクレオチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列を指す。
【0023】
「異種の」または「外因性」という用語は、ポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチドまたは酵素について使用される場合、宿主生物種以外の源からの、または宿主生物種以外の源に由来するポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチドまたは酵素を指す。対照的に、「同種の」ポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチドまたは酵素は、宿主生物種に由来するポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチドまたは酵素を示すために本明細書で使用される。遺伝子配列を維持または操作するために使用される遺伝子調節配列または補助的な核酸配列(例えば、プロモーター、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域、ポリA付加配列、イントロン配列、スプライス部位、リボソーム結合部位、配列内リボソーム進入配列、ゲノムホモロジー領域、組換え部位など)について言及する場合、「異種の」は、調節配列または補助的配列が、構築物、ゲノム、染色体またはエピソームにおいて調節または補助的核酸配列が並置されている遺伝子と天然に関連付けられないことを意味する。したがって、プロモーターがその天然状態では(すなわち、非遺伝子操作生物のゲノムでは)作動可能に連結していない遺伝子に作動可能に連結したプロモーターは、プロモーターが、プロモーターが連結されている遺伝子と同じ種(または一部の場合、同じ生物)に由来し得る場合でさえも、「異種のプロモーター」と本明細書で呼ばれる。
【0024】
遺伝子の「改変された発現」という用語は、コードされたタンパク質の産生プロセスのいずれかの段階における前記遺伝子の野生型の発現と比較した発現の変化に関する。前記改変された発現は、野生型と比較してより低いかまたはより高い発現であり、「より高い発現」という用語はまた、内因性遺伝子の場合には前記遺伝子の「過剰発現」、または野生型株に存在しない異種遺伝子の場合には「発現」として定義される。より低い発現または低減された発現は、機能的な最終生成物を産生する能力が劣る(すなわち、野生型の機能性遺伝子と比較して統計的に有意に「能力が劣る」)かまたは完全に不可能である(ノックアウト遺伝子など)ように遺伝子を変化させるために使用される、当業者にとって一般的な周知の技術(siRNA、CrispR、CrispRi、組換え、相同組換え、ssDNA変異誘発、RNAi、miRNA、asRNA、変異遺伝子、ノックアウト遺伝子、トランスポゾン変異誘発、・・・の利用など)により得られる。目的の遺伝子を、上記のようにより低い発現が得られるように変化させることとは別に、低い発現はまた、転写単位、プロモーター、非翻訳領域、リボソーム結合部位、シャインダルガノ配列または転写ターミネーターを変化させることによっても得ることができる。低い発現または低減された発現は、例えばプロモーター配列における1つもしくは複数の塩基対を変異させることによって、またはプロモーター配列を、調節された発現をもたらす野生型もしくは誘導型プロモーターと比較してより低い発現強度を有する構成的プロモーターに、もしくは調節された発現をもたらす抑制性プロモーターに完全に変化させることによって得ることができる。過剰発現または発現は、当業者にとって一般的に周知の技術によって得られ、前記遺伝子は、プロモーター配列、非翻訳領域配列(リボソーム結合配列またはシャイン・ダルガノ配列のいずれかを含有する)、コード配列(例えば、膜タンパク質遺伝子配列)および必要に応じて転写ターミネーターが存在し、機能的に活性なタンパク質の発現をもたらすいずれかの配列に関する「発現カセット」の一部である。前記発現は、構成的であるか、または条件付きであるか、または調節されている。
【0025】
「構成的発現」という用語は、ある特定の成長条件下で、RNAポリメラーゼのサブユニット以外の転写因子(例えば、細菌のシグマ因子)によって調節されていない発現として定義される。そのような転写因子の非限定的な例は、E.coliにおけるCRP、LacI、ArcA、Cra、IclRである。これらの転写因子は、特異的配列に結合し、ある特定の成長条件下で発現を遮断または増強し得る。RNAポリメラーゼは、特定の配列に結合し、例えば原核生物の宿主におけるシグマ因子によって転写を開始する。
【0026】
「調節された発現」という用語は、ある特定の成長条件下で、RNAポリメラーゼのサブユニット以外の転写因子(例えば、細菌のシグマ因子)によって調節される発現として定義される。そのような転写因子の例は上記されている。一般的に、発現の調節は、非限定的に、IPTG、アラビノース、ラムノース、フコース、アロラクトースなどの誘導剤またはリプレッサー、またはpHシフト、もしくは温度シフトまたは炭素欠乏もしくは基質もしくは産生産物または化学的抑制によって得られる。
【0027】
「制御配列」という用語は、宿主細胞転写および翻訳系によって認識され、ポリヌクレオチド配列のポリペプチドへの転写および翻訳を可能にする配列を指す。したがって、そのようなDNA配列は、特定の宿主細胞または生物において作動可能に連結されたコード配列の発現のために必要である。そのような制御配列は、プロモーター配列、リボソーム結合配列、シャイン・ダルガノ配列、コザック配列、転写ターミネーター配列であり得るが、これらに限定されない。例えば、原核生物に好適な制御配列は、プロモーター、必要に応じてオペレーター配列およびリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することが公知である。プレ配列もしくは分泌リーダーについてのDNAは、それが、ポリペプチドの分泌に参加するタンパク質前駆体として発現される場合、ポリペプチドについてのDNAに作動可能に連結され得るか;プロモーターもしくはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結されるか;またはリボソーム結合部位は、それが配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結されるか;またはリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように位置付けられる場合、コード配列に作動可能に連結される。前記制御配列は、さらに、非限定的に、IPTG、アラビノース、ラクトース、アロラクトース、ラムノースまたはフコースなどの外部化学物質によって、誘導性プロモーターを介して、または前記ポリヌクレオチドのポリペプチドへの転写もしくは翻訳を誘導もしくは抑制する遺伝子制御機構を介して制御され得る。
【0028】
一般的に、「作動可能に連結される」とは、連結されるDNA配列が連続しており、分泌リーダーの場合、連続し、読み出し相にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、連続していなくてもよい。
【0029】
「野生型」という用語は、自然に生じるような一般的に公知の遺伝子または表現型の状況を指す。
【0030】
「バリアント」とは、この用語が本明細書で使用される場合、参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチドとは異なるが、本質的な特性を保持する、それぞれ、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドである。典型的なポリヌクレオチドのバリアントは、別の参照ポリヌクレオチドとはヌクレオチド配列が異なる。バリアントのヌクレオチド配列の変化は、参照ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を変更する場合も、変更しない場合もある。ヌクレオチド変化は、以下に説明されるように、参照配列によってコードされるポリペプチドにおけるアミノ酸置換、付加、欠失、融合および切断をもたらし得る。典型的なポリペプチドのバリアントは、別の参照ポリペプチドとはアミノ酸配列が異なる。一般的に、相違は限定的であり、そのため、参照ポリペプチドの配列とバリアントの配列とは、全体的に密接に類似し、多くの領域で同一である。バリアントおよび参照ポリペプチドは、任意の組合せの1つまたは複数の置換、付加、欠失によってアミノ酸配列が異なり得る。置換または挿入されたアミノ酸残基は、遺伝子コードによってコードされる残基であっても、そうでなくてもよい。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドのバリアントは、対立遺伝子バリアントなどの天然に存在するものであってもよく、またはそれは天然に存在することが公知でないバリアントであってもよい。ポリヌクレオチドおよびポリペプチドの天然に存在しないバリアントは、変異誘発技法によって、直接合成によって、および当業者に公知の他の組換え法によって作製され得る。
【0031】
一部の実施形態では、本開示は、本発明において使用される膜タンパク質の構造を改変することによって機能的バリアントを作製することを企図する。バリアントは、アミノ酸置換、欠失、付加またはその組合せによって産生され得る。例えば、ロイシンのイソロイシンもしくはバリンでの、アスパラギン酸のグルタミン酸での、トレオニンのセリンでの単独の置換、またはアミノ酸の構造的に関連するアミノ酸での同様の置換(例えば、保存的変異)は、得られる分子の生物活性に対して大きな効果を有しないと予測することが妥当である。保存的置換は、側鎖が関連するアミノ酸のファミリー内で起こる置換である。本開示のポリペプチドのアミノ酸配列の変化が機能的ホモログをもたらすかどうかは、バリアントポリペプチドの、野生型ポリペプチドと同様の様式で細胞において応答をもたらす能力、本発明の場合、バリアントを有しない細胞よりも優れた収量、生産性および/または増殖スピードを提供する能力を評定することによって容易に決定することができる。
【0032】
「機能的ホモログ」という用語は、本明細書で使用される場合、配列類似性を有し、また生化学活性などの少なくとも1つの機能的特徴を共有する分子を説明する。機能的ホモログは、典型的に、同様であるが、必ずしも同じではない程度まで同じ特徴を生ずる。機能的に同種のタンパク質は、1つのホモログによって産生される定量的測定値が、他方の少なくとも10パーセント;より典型的には少なくとも20パーセント、元の分子によって産生される測定値の約30パーセント~約40パーセントの間;例えば、約50パーセント~約60パーセントの間;約70パーセント~約80パーセントの間;もしくは約90パーセント~約95パーセントの間;約98パーセント~約100パーセントの間、または100パーセント超である同じ特徴を与える。したがって、分子が酵素活性を有する場合、機能的ホモログは、元の酵素と比較して上記に列挙されるパーセントの酵素活性を有する。機能的ホモログおよび参照ポリペプチドは、天然に存在するポリペプチドであってもよく、配列類似性は、収束性または多様性の進化的事象のためであり得る。機能的ホモログは、オルソログと呼ばれる場合もあり、「オルソログ」とは、別の種の参照される遺伝子またはタンパク質の機能的同等物である同種の遺伝子またはタンパク質を指す。機能的ホモログは、ヌクレオチドおよびポリペプチド配列整列の分析によって特定することができる。例えば、ヌクレオチドまたはポリペプチド配列のデータベースについて照会を行うことにより、関心のあるポリペプチドのホモログを特定することができる。配列分析は、関心のあるポリペプチドのアミノ酸配列を参照配列として使用する非重複データベースのBLAST、Reciprocal BLASTまたはPSI-BLAST分析を含み得る。アミノ酸配列は、一部の場合、ヌクレオチド配列から推測される。典型的に、40パーセント超の配列同一性を有するデータベース内のそれらのポリペプチドは、関心のあるポリペプチドとしての適合性についてのさらなる評価の候補物である。アミノ酸配列類似性は、保存的アミノ酸置換、例えば、1つの疎水性残基の別の疎水性残基への置換、または1つの極性残基の別の極性残基への置換を可能にする。所望の場合、さらに評価するべき候補物の数を狭めるために、そのような候補物の手動の検査を行ってもよい。手動の検査は、関心のあるポリペプチドに存在するドメイン、例えば、保存された機能的ドメインを有するように見えるそれらの候補物を選択することによって行うことができる。
【0033】
ポリヌクレオチドについての「断片」とは、ポリヌクレオチド分子のクローンまたは任意の部分、特に使用可能な機能的特徴を保持するポリヌクレオチドの部分を指す、または他の場合には断片は非機能的である。有用な断片は、ハイブリダイゼーションもしくは増幅技術において、または複製、転写もしくは翻訳の調節において使用され得るオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドを含む。「ポリヌクレオチド断片」とは、典型的に、本明細書で提供される配列のうちのいずれかの少なくとも約9個の連続ヌクレオチド、例えば、少なくとも約30個のヌクレオチドまたは少なくとも約50個のヌクレオチドの、ポリヌクレオチドの任意のサブ配列を指す。例示的な断片は、加えて、またはあるいは、ポリペプチドの保存されたファミリードメインをコードする領域を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなる断片を含み得る。例示的な断片は、加えて、またはあるいは、ポリペプチドの保存されたドメインを含む断片を含み得る。
【0034】
断片は、加えて、またはあるいは、ポリペプチドおよびタンパク質分子のサブ配列、またはポリペプチドのサブ配列を含み得る。一部の場合、断片またはドメインは、インタクトなポリペプチドが行うのと実質的に同じ様式で、または同様の程度まで、インタクトなポリペプチドの少なくとも1つの生物機能を行うポリペプチドのサブ配列である。例えば、ポリペプチド断片は、認識可能な構造モチーフまたは機能的ドメイン、例えば、DNAプロモーター領域に結合するDNA結合部位またはドメイン、活性化ドメイン、またはタンパク質-タンパク質相互作用のためのドメインを含んでもよく、転写を開始してもよい。断片は、わずか3個のアミノ酸残基からインタクトなポリペプチドの全長まで大きさが変動し、例えば、少なくとも約20個のアミノ酸残基の長さ、例えば、少なくとも約30個のアミノ酸残基の長さであり得る。優先的に、断片は、それが由来するポリペプチドの少なくとも1つの特性または活性を有する機能的断片であり、例えば、断片は、ポリペプチドの機能的ドメインまたは保存されたドメインを含み得る。ドメインは、例えば、PfamまたはConserved Domain Database(CDD)命名法によって特徴付けることができる。本発明によれば、そのような機能的断片は、低減されたおよび/または消失したバクテリオファージ結合能を有するが、それでもなお元の全長のポリペプチドとしてのその別の特性または活性を行う。
【0035】
「バイオプロダクト」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書で定義される少なくとも1つの単糖を含む分子の群を指す。より詳しくは、バイオプロダクトという用語は、単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖および糖脂質を含む、好ましくはそれからなるリストから選択される。
【0036】
「単糖」という用語は、本明細書で使用される場合、単純な糖を1つだけ含有する糖類を指す。単糖の例は、ヘキソース、D-グルコピラノース、D-ガラクトフラノース、D-ガラクトピラノース、L-ガラクトピラノース、D-マンノピラノース、D-アロピラノース、L-アルトロピラノース、D-グロピラノース、L-イドピラノース、D-タロピラノース、D-リボフラノース、D-リボピラノース、D-アラビノフラノース、D-アラビノピラノース、L-アラビノフラノース、L-アラビノピラノース、D-キシロピラノース、D-リキソピラノース、D-エリスロフラノース、D-トレオフラノース、ヘプトース、L-グリセロ-D-マンノ-ヘプトピラノース(LDmanHep)、D-グリセロ-D-マンノ-ヘプトピラノース(DDmanHep)、6-デオキシ-L-アルトロピラノース、6-デオキシ-D-グロピラノース、6-デオキシ-D-タロピラノース、6-デオキシ-D-ガラクトピラノース、6-デオキシ-L-ガラクトピラノース、6-デオキシ-D-マンノピラノース、6-デオキシ-L-マンノピラノース、6-デオキシ-D-グルコピラノース、2-デオキシ-D-アラビノ-ヘキソース、2-デオキシ-D-エリスロ-ペントース、2,6-ジデオキシ-D-アラビノ-ヘキソピラノース、3,6-ジデオキシ-D-アラビノ-ヘキソピラノース、3,6-ジデオキシ-L-アラビノ-ヘキソピラノース、3,6-ジデオキシ-D-キシロ-ヘキソピラノース、3,6-ジデオキシ-D-リボ-ヘキソピラノース、2,6-ジデオキシ-D-リボ-ヘキソピラノース、3,6-ジデオキシ-L-キシロ-ヘキソピラノース、2-アミノ-2-デオキシ-D-グルコピラノース、2-アミノ-2-デオキシ-D-ガラクトピラノース、2-アミノ-2-デオキシ-D-マンノピラノース、2-アミノ-2-デオキシ-D-アロピラノース、2-アミノ-2-デオキシ-L-アルトロピラノース、2-アミノ-2-デオキシ-D-グロピラノース、2-アミノ-2-デオキシ-L-イドピラノース、2-アミノ-2-デオキシ-D-タロピラノース、2-アセタミド-2-デオキシ-D-グルコピラノース、2-アセタミド-2-デオキシ-D-ガラクトピラノース、2-アセタミド-2-デオキシ-D-マンノピラノース、2-アセタミド-2-デオキシ-D-アロピラノース、2-アセタミド-2-デオキシ-L-アルトロピラノース、2-アセタミド-2-デオキシ-D-グロピラノース、2-アセタミド-2-デオキシ-L-イドピラノース、2-アセタミド-2-デオキシ-D-タロピラノース、2-アセタミド-2,6-ジデオキシ-D-ガラクトピラノース、2-アセタミド-2,6-ジデオキシ-L-ガラクトピラノース、2-アセタミド-2,6-ジデオキシ-L-マンノピラノース、2-アセタミド-2,6-ジデオキシ-D-グルコピラノース、2-アセタミド-2,6-ジデオキシ-L-アルトロピラノース、2-アセタミド-2,6-ジデオキシ-D-タロピラノース、D-グルコピラヌロン酸、D-ガラクトピラヌロン酸、D-マンノピラヌロン酸、D-アロピラヌロン酸、L-アルトロピラヌロン酸、D-グロピラヌロン酸、L-グロピラヌロン酸、L-イドピラヌロン酸、D-タロピラヌロン酸、シアル酸、5-アミノ-3,5-ジデオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-ウロソン酸、5-アセタミド-3,5-ジデオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-ウロソン酸、5-グリコリルアミド-3,5-ジデオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-ウロソン酸、エリスリトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、グルシトール、ガラクチトール、マンニトール、D-リボ-ヘクス-2-ウロピラノース、D-アラビノ-ヘクス-2-ウロフラノース(D-フルクトフラノース)、D-アラビノ-ヘクス-2-ウロピラノース、L-キシロ-ヘクス-2-ウロピラノース、D-リキソ-ヘクス-2-ウロピラノース、D-トレオ-ペント-2-ウロピラノース、D-アルトロ-ヘプト-2-ウロピラノース、3-C-(ヒドロキシメチル)-D-エリスロフラノース(D-erythofuranose)、2,4,6-トリデオキシ-2,4-ジアミノ-D-グルコピラノース、6-デオキシ-3-O-メチル-D-グルコース、3-O-メチル-D-ラムノース、2,6-ジデオキシ-3-メチル-D-リボ-ヘキソース、2-アミノ-3-O-[(R)-1-カルボキシエチル]-2-デオキシ-D-グルコピラノース、2-アセタミド-3-O-[(R)-カルボキシエチル]-2-デオキシ-D-グルコピラノース、2-グリコリルアミド-3-O-[(R)-1-カルボキシエチル]-2-デオキシ-D-グルコピラノース、3-デオキシ-D-リキソ-ヘプト-2-ウロピラノソン酸(ulopyranosaric acid)、3-デオキシ-D-マンノ-オクト-2-ウロピラノソン酸、3-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-ウロピラノソン酸、5,7-ジアミノ-3,5,7,9-テトラデオキシ-L-グリセロ-L-マンノ-ノン-2-ウロピラノソン酸、5,7-ジアミノ-3,5,7,9-テトラデオキシ-L-グリセロ-L-アルトロ-ノン-2-ウロピラノソン酸、5,7-ジアミノ-3,5,7,9-テトラデオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-ウロピラノソン酸、5,7-ジアミノ-3,5,7,9-テトラデオキシ-D-グリセロ-D-タロ-ノン-2-ウロピラノソン酸、グルコース、ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、グルコサミン、マンノース、キシロース、N-アセチルマンノサミン、N-アセチルノイラミン酸、N-グリコリルノイラミン酸、シアル酸、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトサミン、フコース、ラムノース、グルクロン酸、グルコン酸、フルクトースおよびポリオールを含む。
【0037】
「リン酸化単糖」という用語は、本明細書で使用される場合、リン酸化されている上記の単糖のうちの1つを指す。リン酸化単糖の例としては、非限定的に、グルコース-1-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルコース-1,6-ビスリン酸(bisophosphate)、ガラクトース-1-リン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース-1,6-ビスリン酸、フルクトース-1-リン酸、グルコサミン-1-リン酸、グルコサミン-6-リン酸、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸、マンノース-1-リン酸、マンノース-6-リン酸またはフコース-1-リン酸が挙げられる。一部の、しかし全てではないこれらのリン酸化単糖は、活性化単糖を産生するための前駆体または中間体である。
【0038】
「活性化単糖」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書で列挙された単糖などの単糖の活性化型を指す。活性化単糖の例としては、非限定的に、GDP-フコース、GDP-マンノース、CMP-N-アセチルノイラミン酸、CMP-N-グリコリルノイラミン酸、UDP-グルクロネート、UDP-N-アセチルガラクトサミン、UDP-グルコース、UDP-ガラクトース、CMP-シアル酸;およびUDP-N-アセチルグルコサミンが挙げられる。活性化単糖は、ヌクレオチド糖としても知られ、グリコシル化反応におけるグリコシルドナーとして作用する。それらの反応は、グリコシルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素群によって触媒される。
【0039】
「二糖」という用語は、本明細書で使用される場合、2つの単純な糖、すなわち単糖を含有する糖ポリマーを指す。そのような二糖は、上記の単糖を含有し、好ましくは本明細書の上記で使用される単糖のリストから選択される。二糖の例は、ラクトース、N-アセチルラクトサミンおよびラクト-N-ビオースを含む。
【0040】
「オリゴ糖」とは、この用語が本明細書で使用される場合、および一般的に技術水準において理解されるように、少数の、典型的に、3~15個の単純な糖、すなわち、単糖を含有する糖ポリマーを指す。好ましくは、本明細書で記載されるオリゴ糖は、本明細書の上記で使用されるリストから選択される単糖を含有する。オリゴ糖の例としては、非限定的に、ルイス型抗原オリゴ糖、哺乳動物ミルクオリゴ糖およびヒト母乳オリゴ糖が挙げられる。
【0041】
本明細書で使用される場合、「哺乳動物ミルクオリゴ糖」は、非限定的に、3-フコシルラクトース、2’-フコシルラクトース、6-フコシルラクトース、2’,3-ジフコシルラクトース、2’,2-ジフコシルラクトース、3,4-ジフコシルラクトース、6’-シアリルラクトース、3’-シアリルラクトース、3,6-ジシアリルラクトース、6,6’-ジシアリルラクトース、3,6-ジシアリルラクト-N-テトラオース、ラクトジフコテトラオース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-フコペンタオースVI、シアリルラクト-N-テトラオースc、シアリルラクト-N-テトラオースb、シアリルラクト-N-テトラオースa、ラクト-N-ジフコヘキサオースI、ラクト-N-ジフコヘキサオースII、ラクト-N-ヘキサオース、ラクト-N-ネオヘキサオース、パラ-ラクト-N-ヘキサオース、モノフコシルモノシアリルラクト-N-テトラオースc、モノフコシルパラ-ラクト-N-ヘキサオース、モノフコシルラクト-N-ヘキサオースIII、異性体のフコシル化ラクト-N-ヘキサオースIII、異性体のフコシル化ラクト-N-ヘキサオースI、シアリルラクト-N-ヘキサオース、シアリルラクト-N-ネオヘキサオースII、ジフコシル-パラ-ラクト-N-ヘキサオース、ジフコシルラクト-N-ヘキサオース、ジフコシルラクト-N-ヘキサオースa、ジフコシルラクト-N-ヘキサオースc、ガラクトシル化キトサン、フコシル化オリゴ糖、中性オリゴ糖および/またはシアリル化オリゴ糖などのオリゴ糖を指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、「ルイス型抗原(Lewis-type antigen)」という用語は、以下のオリゴ糖:Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcまたは略して2’FLNBであるH1抗原;三糖Galβ1-3[Fucα1-4]GlcNAcまたは略して4-FLNBであるLewis;四糖Fucα1-2Galβ1-3[Fucα1-4]GlcNAcまたは略してDiF-LNBであるLewis;5-アセチルノイラミニル-(2-3)-ガラクトシル-(1-3)-(フコピラノシル-(1-4))-N-アセチルグルコサミンであるかまたは略してNeu5Acα2-3Galβ1-3[Fucα1-4]GlcNAcと書かれるシアリルLewis;Fucα1-2Galβ1-4GlcNAcまたは別の言い方では2’フコシル-N-アセチル-ラクトサミン、略して2’FLacNAcであるH2抗原;三糖Galβ1-4[Fucα1-3]GlcNAcまたはそれ以外では3-フコシル-N-アセチル-ラクトサミンとして知られ、略して3-FLacNAcであるLewis;四糖Fucα1-2Galβ1-4[Fucα1-3]GlcNAcであるLewis、および5-アセチルノイラミニル-(2-3)-ガラクトシル-(1-4)-(フコピラノシル-(1-3))-N-アセチルグルコサミンであるかまたは略してNeu5Acα2-3Galβ1-4[Fucα1-3]GlcNAcと書かれるシアリルLewisを含む。
【0043】
本明細書で使用される場合、「シアリル化オリゴ糖」は、荷電シアル酸含有オリゴ糖、すなわちシアル酸残基を有するオリゴ糖として理解すべきである。これは酸性の性質を有する。一部の例は、3-SL(3’-シアリルラクトース)、3’-シアリルラクトサミン、6-SL(6’-シアリルラクトース)、6’-シアリルラクトサミン、6’-シアリルラクトースを含むオリゴ糖、SGG六糖(Neu5Acα-2,3Galβ-1,3GalNacβ-1,3Galα-1,4Galβ-1,4Gal)、シアリル化四糖(Neu5Acα-2,3Galβ-1,4GlcNacβ-14GlcNAc)、五糖LSTD(Neu5Acα-2,3Galβ-1,4GlcNacβ-1,3Galβ-1,4Glc)、シアリル化ラクト-N-トリオース、シアリル化ラクト-N-テトラオース、シアリルラクト-N-ネオテトラオース、モノシアリルラクト-N-ヘキサオース、ジシアリルラクト-N-ヘキサオースI、モノシアリルラクト-N-ネオヘキサオースI、モノシアリルラクト-N-ネオヘキサオースII、ジシアリルラクト-N-ネオヘキサオース、ジシアリルラクト-N-テトラオース、ジシアリルラクト-N-ヘキサオースII、シアリルラクト-N-テトラオースa、ジシアリルラクト-N-ヘキサオースI、シアリルラクト-N-テトラオースb、3’-シアリル-3-フコシルラクトース、ジシアロモノフコシルラクト-N-ネオヘキサオース、モノフコシルモノシアリルラクト-N-オクタオース(シアリルLea)、シアリルラクト-N-フコヘキサオースII、ジシアリルラクト-N-フコペンタオースII、モノフコシルジシアリルラクト-N-テトラオース、および1つまたはいくつかのシアル酸残基を有するオリゴ糖、例えば、非限定的に、GM3(3’シアリルラクトース、Neu5Acα-2,3Galβ-4Glc)から選択されるガングリオシドのオリゴ糖部分、およびGM3モチーフ、GD3 Neu5Acα-2,8Neu5Acα-2,3Galβ-1,4Glc GT3(Neu5Acα-2,8Neu5Acα-2,8Neu5Acα-2,3Galβ-1,4Glc);GM2 GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,3)Galβ-1,4Glc、GM1 Galβ-1,3GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,3)Galβ-1,4Glc、GD1a Neu5Acα-2,3Galβ-1,3GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,3)Galβ-1,4Glc、GT1a Neu5Acα-2,8Neu5Acα-2,3Galβ-1,3GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,3)Galβ-1,4Glc、GD2 GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,8Neu5Acα2,3)Galβ-1,4Glc、GT2 GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,8Neu5Acα-2,8Neu5Acα2,3)Galβ-1,4Glc、GD1b、Galβ-1,3GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,8Neu5Acα2,3)Galβ-1,4Glc、GT1b Neu5Acα-2,3Galβ-1,3GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,8Neu5Acα2,3)Galβ-1,4Glc、GQ1b Neu5Acα-2,8Neu5Acα-2,3Galβ-1,3GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,8Neu5Acα2,3)Galβ-1,4Glc、GT1c Galβ-1,3GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,8Neu5Acα-2,8Neu5Acα2,3)Galβ-1,4Glc、GQ1c Neu5Acα-2,3Galβ-1,3GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,8Neu5Acα-2,8Neu5Acα2,3)Galβ-1,4Glc、GP1c Neu5Acα-2,8Neu5Acα-2,3Galβ-1,3GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,8Neu5Acα-2,8Neu5Acα2,3)Galβ-1,4Glc、GD1a Neu5Acα-2,3Galβ-1,3(Neu5Acα-2,6)GalNAcβ-1,4Galβ-1,4Glc、フコシル-GM1 Fucα-1,2Galβ-1,3GalNAcβ-1,4(Neu5Acα-2,3)Galβ-1,4Glcを含むオリゴ糖であり;その全てが、上記のオリゴ糖部分をセラミドと反応させることによって、またはセラミド上で上記のオリゴ糖を合成することによって対応するガングリオシドの産生へと拡大され得る。
【0044】
「フコシル化オリゴ糖」は、本明細書で使用される場合、および一般的に技術水準において理解されるように、フコース残基を有するオリゴ糖である。例は、2’-フコシルラクトース(2’FL)、3-フコシルラクトース(3FL)、4-フコシルラクトース(4FL)、6-フコシルラクトース(6FL)、ジフコシルラクトース(diFL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNFI)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNFII)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNFIII)、ラクト-N-フコペンタオースV(LNFV)、ラクト-N-フコペンタオースVI(LNFVI)、ラクト-N-ネオフコペンタオースI、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LDFHI)、ラクト-N-ジフコヘキサオースII(LDFHII)、モノフコシルラクト-N-ヘキサオースIII(MFLNHIII)、ジフコシルラクト-N-ヘキサオース(DFLNHa)、ジフコシル-ラクト-N-ネオヘキサオースを含む。
【0045】
「中性オリゴ糖」は、本明細書で使用される場合、および一般的に技術水準において理解されるように、カルボン酸基に由来する負電荷を有しないオリゴ糖である。そのような中性オリゴ糖の例は、2’-フコシルラクトース(2’FL)、3-フコシルラクトース(3FL)、2’,3-ジフコシルラクトース(diFL)、ラクト-N-トリオースII、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-ネオフコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-フコペンタオースVI、ラクト-N-ネオフコペンタオースV、ラクト-N-ジフコヘキサオースI、ラクト-N-ジフコヘキサオースII、6’-ガラクトシルラクトース、3’-ガラクトシルラクトース、ラクト-N-ヘキサオース、ラクト-N-ネオヘキサオース、パラ-ラクト-N-ヘキサオース、パラ-ラクト-N-ネオヘキサオース、ジフコシル-ラクト-N-ヘキサオース、およびジフコシル-ラクト-N-ネオヘキサオースである。
【0046】
「フコシル化経路」は、本明細書で使用される場合、フコシルトランスフェラーゼと組み合わせた酵素およびそのそれぞれの遺伝子、マンノース-6-リン酸イソメラーゼ、ホスホマンノムターゼ、マンノース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ、GDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ、GDP-L-フコースシンターゼおよび/またはサルベージ経路L-フコキナーゼ/GDP-フコースピロホスホリラーゼからなり、α1,2;α1,3α1,4またはα1,6フコシル化オリゴ糖またはフコシル化オリゴ糖含有バイオプロダクトをもたらす生化学経路である。
【0047】
「シアリル化経路」は、シアリルトランスフェラーゼと組み合わせた酵素およびそのそれぞれの遺伝子、L-グルタミン-D-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、グルコサミン-6-リン酸デアミナーゼ、ホスホグルコサミンムターゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸デアセチラーゼ、N-アセチルグルコサミンエピメラーゼ、UDP-N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6P2-エピメラーゼ、グルコサミン6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸ホスファターゼ、N-アセチルマンノサミン-6-リン酸ホスファターゼ、N-アセチルマンノサミンキナーゼ、ホスホアセチルグルコサミンムターゼ、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、グルコサミン-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼ、シアル酸シンターゼ、N-アセチルノイラミン酸リアーゼ、N-アシルノイラミン酸-9-リン酸シンターゼ、N-アシルノイラミン酸-9-リン酸ホスファターゼ、および/またはCMP-シアル酸シンターゼからなり、α2,3;α2,6α2,8シアリル化オリゴ糖またはシアリル化オリゴ糖含有バイオプロダクトをもたらす生化学経路である。
【0048】
「ガラクトシル化経路」は、本明細書で使用される場合、ガラクトシルトランスフェラーゼと組み合わせた酵素およびそのそれぞれの遺伝子、ガラクトース-1-エピメラーゼ、ガラクトキナーゼ、グルコキナーゼ、ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ、UDP-グルコース4-エピメラーゼ、グルコース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ、および/またはグルコホスホムターゼからなり、単糖、二糖、オリゴ糖、または多糖含有バイオプロダクトの2、3、4、6ヒドロキシル基上でアルファまたはベータ結合ガラクトースをもたらす生化学経路である。
【0049】
「N-アセチルグルコサミン炭水化物経路」は、本明細書で使用される場合、グリコシルトランスフェラーゼと組み合わせた酵素およびそのそれぞれの遺伝子、L-グルタミン-D-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ、グルコサミン-6-リン酸デアミナーゼ、ホスホグルコサミンムターゼ、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸デアセチラーゼ、グルコサミン6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ、グルコサミン-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼ、および/またはグルコサミン-1-リン酸アセチルトランスフェラーゼからなり、単糖、二糖、オリゴ糖、または多糖含有バイオプロダクトの3、4、6ヒドロキシル基上でアルファまたはベータ結合N-アセチルグルコサミンをもたらす生化学経路である。
【0050】
本明細書で使用される場合、「糖脂質」という用語は、当技術分野で一般的に公知の糖脂質のいずれかを指す。糖脂質(GL)は、単純糖脂質(SGL)および複合糖脂質(CGL)に細分類することができる。単純GLは、時に糖脂質(saccharolipid)とも呼ばれ、グリコシル部分と脂質部分が互いに直接連結する2成分(グリコシルおよび脂質部分)GLである。SGLの例としては、グリコシル化脂肪酸、脂肪アルコール、カロテノイド、ホパノイド、ステロール、またはパラコン酸が挙げられる。細菌によって産生されるSGLは、ラムノリピッド(rhamnolipid)、グルコリピッド(glucolipid)、トレハロリピッド(trehalolipid)、他のグリコシル化(非トレハロース含有)ミコレート、トレハロース含有オリゴ糖脂質、グリコシル化脂肪アルコール、グリコシル化マクロラクトンおよびマクロラクタム、グリコマクロジオリド(glycomacrodiolide)(グリコシル化大環状ジラクトン)、グリコ-カロテノイドおよびグリコ-テルペノイド、およびグリコシル化ホパノイド/ステロールに分類することができる。しかし、複合糖脂質(CGL)は、それらがグリコシル部分および脂質部分に加えて、例えばグリセロール(グリセロ糖脂質)、ペプチド(ペプチド糖脂質)、アシル化スフィンゴシン(スフィンゴ糖脂質)、または他の残基(リポ多糖類、フェノール糖脂質、ヌクレオシド脂質)のような他の残基を含有するために、構造的により不均一である。
【0051】
「ファージ非感受性」または「ファージ耐性の」または「ファージ耐性」または「ファージ耐性プロファイル」は、ファージによる感染および/または殺滅、および/または成長阻害に対してより感受性が低い、および好ましくは非感受性である細菌株を意味すると理解される。
【0052】
本明細書で使用される場合、「抗ファージ活性」、または「少なくとも1つのファージによる感染に対して耐性」という用語は、例えば細菌生存度、ファージ溶原性、ファージゲノム複製およびファージゲノム分解によって決定され得るように、機能的なファージ耐性系を発現しない同じ発達段階(例えば、培養状態)にある同種の細菌細胞と比較して少なくとも1つのファージファミリーによる感染に対して機能的なファージ耐性系を発現する細菌細胞の耐性の増加を指す。ファージは、本明細書において以下に詳しく記載されるように、溶菌ファージまたはテンペレート(溶原性)ファージであり得る。特定の実施形態によれば、細胞は、上記のように100%耐性である。
【0053】
他の特定の実施形態によれば、増加は、完全にファージ耐性の細胞と比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%であるか、または99%より高い。
【0054】
ファージ耐性を試験するためのアッセイは、当技術分野で周知であり、本明細書で以下に記載される。
【0055】
本明細書で使用される場合、「不稔感染(Abi)」は、ファージ子孫の産生前に起こる感染細菌細胞の制御された細胞死を指し、したがって培養物をファージの繁殖から保護する。Abiを分析する方法としては、非限定的に、高い感染多重度を使用する細胞生存アッセイ、1ステップ成長アッセイ、ならびに例えば本明細書で以下に詳しく記載されるDNAシーケンシングおよびサザンブロット分析によるファージDNA複製の決定が挙げられる。
【0056】
本明細書で使用される場合、「吸着」は、形質膜タンパク質および糖タンパク質を介した宿主(例えば、細菌)細胞表面への結合を指す。ファージ吸着を分析する方法としては、非限定的に、本明細書で以下に詳しく記載されるように、ファージ添加直後およびファージ添加後早期の時点(例えば、30分)でファージに感染した細菌培養物中の遊離のファージを計数することが挙げられる。
【0057】
本明細書で使用される場合、「防止する」または「防止すること」という用語は、機能的なファージ耐性系を発現していない同じ発達段階(例えば、培養状態)にある同じ種の細菌と比較して、機能的なファージ耐性系を発現する細胞における活性(例えば、ファージゲノム複製、ファージ溶原性)の減少を指す。特定の実施形態によれば、減少は、機能的なファージ耐性系の非存在下での活性と比較して少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、または少なくとも20倍である。他の特定の実施形態によれば、減少は、機能的なファージ耐性系の非存在下での活性と比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または99%または100%である。
【0058】
本明細書で使用される場合、「ファージゲノム複製」は、dsDNAまたはssDNAであり得るファージゲノムの新規コピーの産生を指す。ファージゲノム複製を分析する方法は当技術分野で周知であり、例えばGoldfarb et al., EMBO J, 34, 169-183に記載されている。
【0059】
本明細書で使用される場合、「溶原性」という用語は、宿主(例えば、細菌)のゲノム内へのファージ遺伝物質の取り込みを指す。ファージ溶原性を分析する方法は当技術分野で周知であり、非限定的にDNAシーケンシングおよびPCR分析を含む。典型的には、テンペレートファージが細菌に感染すると、遺伝物質は環状となった後、細菌ゲノムに組み込まれる。ファージゲノムの環状化は、非限定的に、当技術分野で記載されるPCR分析を含む、当技術分野で周知の方法によって分析することができる。「ファージゲノムの分解」について言及する場合、その意味は、宿主細菌による外来ファージゲノムの切断である。ゲノム分解を分析する方法は、非限定的にDNAシーケンシングおよびPCR分析を含み、当技術分野で周知である。
【0060】
本明細書で使用される場合、「バクテリオファージ結合能を低減するおよび/または消失させる」という語句は、膜タンパク質がバクテリオファージに結合する能力の低減または減少を指し、そのような減少は、機能的なファージ耐性系の非存在下での能力と比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%である。
【0061】
「非天然」という用語は、本明細書でバイオプロダクトを参照して使用される場合、バイオプロダクトが、i)天然に産生されないか、またはii)天然に産生される場合には細胞によって同じ量では産生されず、および細胞が前記バイオプロダクトを産生することができるように、またはバイオプロダクトのより高い産生を有するように遺伝子改変されていることを示す。
【0062】
「精製された」という用語は、生体分子の活性に干渉する成分から実質的または本質的に遊離している材料を指す。細胞、糖、核酸およびポリペプチドについて、「精製された」という用語は、材料のそのネイティブの状態において見られる場合に普通、材料に付随する成分から実質的に遊離しているまたは本質的に遊離している材料を指す。典型的に、本発明の精製した糖、オリゴ糖、糖脂質、タンパク質または核酸は、銀染色ゲル上のバンド強度または純度を決定するための他の方法によって測定して、少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%または85%純粋であり、通常少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%純粋である。純度または均一性は、当該技術分野で周知のいくつかの手段、例えば、タンパク質または核酸試料のポリアクリルアミドゲル電気泳動、および続く染色に際しての可視化によって示すことができる。ある特定の目的のために、高分解能が必要とされ、HPLCまたは精製のための同様の手段が利用される。例えば、オリゴ糖、例えば、3-フコシルラクトースについて、純度は、非限定的に、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、NMR、HPLC、キャピラリー電気泳動または質量分析などの方法を使用して決定することができる。
【0063】
2つまたはそれよりも多い核酸またはポリペプチド配列に関する「同一の」または「同一性」パーセントまたは「同一性」%という用語は、最大一致について比較および整列した場合、配列比較アルゴリズムを使用して、または目視検査によって測定して、同じであるか、または同じであるアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの特定のパーセンテージを有する2つまたはそれよりも多い配列またはサブ配列を指す。配列比較のために、1つの配列が、参照配列として働き、試験配列をそれと比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列および参照配列をコンピュータに入力し、必要な場合、サブ配列協調を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。その後、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメーターに基づいて、参照配列と比較した試験配列についての配列同一性パーセントを計算する。同一性パーセントは、BLASTおよびPSI-BLASTを使用して決定することができる(Altschul et al., 1990, J Mol Biol 215:3, 403- 410;Altschul et al., 1997, Nucleic Acids Res 25: 17, 3389-402)。本発明の目的のために、同一性パーセントは、MatGAT2.01を使用して決定される(Campanella et al., 2003, BMC Bioinformatics 4:29)。タンパク質についての以下のデフォルトパラメーターが使用される:(1)Gap cost Existence:12およびExtension:2;(2)使用されるマトリックスは、BLOSUM50であった。
【0064】
本明細書で使用される場合、「細胞産生性指数(cell productivity
index)(CPI)」という用語は、培養中に生じた組換え細胞の質量で除した組換え細胞によって産生された生成物の質量を指す。
【0065】
本明細書で使用される場合、「正規化した産生」または「正規化した生産性」という用語は、組換え細胞によって産生された生成物の質量を培養において産生された組換え細胞の質量で除算し(CPI)、特定の参照値(別に述べていなければ、同じ実験における参照株の平均CPI値)に対してさらに正規化したものを表す。
【発明を実施するための形態】
【0066】
発明の詳細な説明
第1の範囲の実施形態では、本発明は、単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖、または糖脂質を含む、好ましくはそれからなるリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたトランスジェニックEscherichia coli細胞を提供する。細胞は、低減された発現を有する内因性膜タンパク質コード遺伝子を含み、および/または前記内因性膜タンパク質コード遺伝子は変異している。内因性膜タンパク質は、表1に記載されるタンパク質のうちのいずれか1つである。表1はさらに、それぞれの膜タンパク質の説明と一致する例示的な遺伝子のリストも含む。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【0067】
さらなる実施形態では、本発明は、E.coli細胞においてバクテリオファージ耐性を付与する方法を提供する。最初に、本明細書に記載される少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたE.coli細胞を提供する。前記細胞の少なくとも1つの内因性膜タンパク質コード遺伝子は、変異している、および/または低減された発現を有する。膜タンパク質は、表1に記載されるタンパク質のいずれか1つである。
【0068】
本発明はまた、E.coli細胞によって、本明細書において記載される少なくとも1つのバイオプロダクトを産生する方法も提供する。最初に、本明細書に記載される少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたE.coli細胞を提供する。前記細胞の少なくとも1つの内因性膜タンパク質コード遺伝子は、変異している、および/または低減された発現を有する。膜タンパク質は、表1に記載されるタンパク質のいずれか1つである。細胞を、所望のバイオプロダクトの産生を許容する条件下、培地中で培養する。好ましくは、バイオプロダクトは、培養物から分離される。より好ましくは、バイオプロダクトは、培養物から分離後精製される。
【0069】
さらなる実施形態では、本発明は、前記バイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されているが、本明細書に後に記載される極度に低減された発現および/または変異を欠くE.coli細胞と比較して、少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたE.coli細胞によって、本明細書に記載される少なくとも1つのバイオプロダクトの産生を増加させる方法を提供する。少なくとも1つのバイオプロダクトを発現するように遺伝子改変されたE.coli細胞は、内因性膜タンパク質コード遺伝子の変異および/または低減された発現を提供することによって、さらに変更される。細胞は、所望のバイオプロダクトの産生を許容する条件下、培地中で培養される。好ましくは、バイオプロダクトは培養物から分離される。バイオプロダクトはまた、本明細書に記載されるように精製することができる。膜タンパク質は、表1に記載されるタンパク質のいずれか1つである。
【0070】
本発明によれば、Escherichia coli(本明細書においてE.coliと省略する)は、非限定的に、Escherichia coli B、Escherichia coli BL21、Escherichia coli C、Escherichia coli W、Escherichia coli Nissle、Escherichia coli K12であり得る。より具体的には、後者の用語は、E.coli K12株と指定される培養Escherichia coli株に関し、これらの株は、実験環境に良好に適合し、野生型株とは異なり、腸内でのその生存能を失っている。E.coli K12株の周知の例は、K12野生型、W3110、MG1655、JM109、DH1、M182、MC1000、MC1060、MC1061、MC4100、JM101、NZN111、およびAA200である。したがって、本発明は、好ましくは上記で示した変異したおよび/または形質転換されたEscherichia coli株に関し、前記E.coli株は、K12株である。より好ましくは、本発明は、上記で示した変異したおよび/または形質転換されたEscherichia coli株に関し、前記K12株はE.coli MG1655である。
【0071】
さらなる実施形態では、膜タンパク質は、COG群COG4206、COG2067、COG4771、COG1629、COG4580、COG2885、COG3203、COG4571、COG1538、COG3248、COG0810、COG0457;外膜ポリン、外膜プロテアーゼ7、コバラミン/コビナミド外膜輸送体、外膜チャネル、マルトース外膜チャネル、フェリクローム外膜輸送体、Ton複合体サブユニット、長鎖脂肪酸外膜チャネル、ヌクレオシド特異的チャネル形成タンパク質、鉄エンテロバクチン外膜輸送体、推定TonB依存性外膜受容体、外膜タンパク質、ファージ受容体からなるリストから選択される。
【0072】
好ましくは、膜タンパク質は、OmpA(配列番号2)、OmpC(配列番号4)、OmpF(配列番号6)、OmpT(配列番号8)、BtuB(配列番号10)、TolC(配列番号12)、LamB(配列番号14)、FhuA(配列番号16)、TonB(配列番号18)、FadL(配列番号20)、Tsx(配列番号22)、FepA(配列番号24)、YncD(配列番号26)、PhoE(配列番号28)、およびNfrA(配列番号30)、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30のうちのいずれか1つの機能的ホモログ、または配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30のうちのいずれか1つの全長のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する膜タンパク質を含む、より好ましくはそれからなるリストから選択される。
【0073】
本明細書で使用される場合、リストに記載される膜タンパク質のいずれかと少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する膜タンパク質は、その配列が、それぞれの膜タンパク質の全長のアミノ酸配列と70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%の配列同一性を有すると理解すべきである。
【0074】
そのような膜タンパク質のアミノ酸配列は、添付の配列表の配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、もしくは30から選択される配列、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30のうちのいずれか1つの機能的ホモログ、または配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、もしくは30のうちのいずれか1つの全長のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり得る。
【0075】
本発明の好ましい実施形態によれば、膜タンパク質コード遺伝子の変異および/または低減された発現は、表2に列挙されるバクテリオファージファミリーから選択されるバクテリオファージに対するバクテリオファージ耐性を付与する。
【表2-1】
【表2-2】
【0076】
特定の実施形態によれば、バクテリオファージ耐性は、以下:
(a)不稔バクテリオファージ感染を引き起こさないこと;
(b)E.coli細胞におけるファージゲノム複製を防止すること;
(c)E.coli細胞におけるファージ溶原性を防止すること;
(d)膜タンパク質のバクテリオファージ結合能を低減させる、および/または消失させること;
(e)バイオプロダクトの産生を障害しないこと;
(f)バイオプロダクトの産生を増強すること;
(g)発酵における生産性を増強すること;
(h)細胞の成長または成長速度を障害しないこと;
(i)細胞の成長または成長速度を増強すること;
(j)細胞を使用する発酵におけるバイオマス産生を障害しないこと;
(k)細胞を使用する発酵におけるバイオマス産生を増強すること;および/または
(l)細胞を使用する発酵におけるバイオマス産生を低減させること
の少なくとも1つによって特徴付けられ、各可能性は本発明の別個の実施形態を表す。
【0077】
機能的なファージ耐性は、(a)~(l)のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または全てによって特徴付けられ得る。
【0078】
特定の実施形態によれば、機能的なファージ耐性は、少なくとも(a)+(b)、(a)+(c)、(a)+(d)、(a)+(e)、(a)+(f)、(a)+(g)、(a)+(h)、(a)+(i)、(a)+(j)、(a)+(k)、(a)+(l)、(b)+(c)、(b)+(d)、(b)+(e)、(b)+(f)、(b)+(g)、(b)+(h)、(b)+(i)、(b)+(j)、(b)+(k)、(b)+(l)、(c)+(d)、(c)+(e)、(c)+(f)、(c)+(g)、(c)+(h)、(c)+(i)、(c)+(j)、(c)+(k)、(c)+(l)、(d)+(e)、(d)+(f)、(d)+(g)、(d)+(h)、(d)+(i)、(d)+(j)、(d)+(k)、(d)+(l)、(e)+(f)、(e)+(g)、(e)+(i)、(e)+(j)、(e)+(k)、(e)+(l)、(f)+(g)、(f)+(h)、(f)+(i)、(f)+(j)、(f)+(k)、(f)+(l)、(g)+(h)、(g)+(i)、(g)+(j)、(g)+(k)、(g)+(l)、(i)+(j)、(i)+(k)、(i)+(l)、(j)+(k)、(j)+(l)、および/または(k)+(l)によって特徴付けられる。
【0079】
特定の実施形態によれば、機能的なファージ耐性系は、少なくとも(d)+(e)、(d)+(f)、(d)+(g)、(d)+(h)、(d)+(i)、(d)+(j)、(d)+(k)、および/または(d)+(l)によって特徴付けられる。
【0080】
特定の実施形態によれば、機能的なファージ耐性系は、(d)+(f)+(g)、(d)+(g)+(i)、(d)+(g)+(k)、(d)+(f)+(j)、(d)+(g)+(l)、(d)+(f)+(k)、(d)+(f)+(l)、(d)+(e)+(i)、(d)+(e)+(k)、(d)+(e)+(h)+(j)、(d)+(f)+(h)+(k)によって特徴付けられる。
【0081】
特定の実施形態によれば、機能的なファージ耐性系は、(d)+(e)+(h)+(j)、(d)+(f)+(g)+(i)、(d)+(g)+(e)+(k)+(i)、(d)+(g)+(f)+(i)+(l)、(d)+(g)+(e)+(k)、(d)+(g)+(f)+(l)によって特徴付けられる。
【0082】
本発明の一部の実施形態では、膜タンパク質コード遺伝子の変異および/または低減された発現は、バイオプロダクトの産生に影響を及ぼさず、同じ遺伝的構成を有するが、膜タンパク質コード遺伝子の改変された発現を欠く細胞によって産生されるレベルと類似または同じレベルのバイオプロダクトが産生される。産生されるバイオプロダクトが類似または同じレベルであることは、同じ遺伝的構成を有するが、膜タンパク質コード遺伝子の改変された発現を欠く細胞によって産生されるバイオプロダクトのレベルの少なくとも75%であると理解される。少なくとも75%の産生は、同じ遺伝的構成を有するが、膜タンパク質コード遺伝子の改変された発現を欠く細胞によって産生されるレベルの75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、100%であると理解される。好ましくは、膜タンパク質コード遺伝子の変異および/または低減された発現は、細胞におけるまたは細胞による増強されたバイオプロダクトの形成を付与し、細胞は、同じ遺伝的構成を有するが、膜タンパク質コード遺伝子の変異および/または低減された発現を欠く細胞と比較してより多くのバイオプロダクトを産生する。本発明の一部の他の実施形態では、膜タンパク質コード遺伝子の変異および/または低減された発現は、細胞成長、または細胞成長速度、生産性、および/またはバイオマス産生に影響を及ぼさず、同じ遺伝的構成を有するが、膜タンパク質コード遺伝子の変異および/または低減された発現を欠く細胞によって産生される細胞成長速度、生産性および/またはバイオマスと、類似または同じレベルの細胞成長速度および/またはバイオマスが産生される。好ましくは、膜タンパク質コード遺伝子の変異および/または低減された発現は、増強された細胞成長速度、生産性、および/または細胞におけるまたは細胞によるバイオマス産生を付与し、細胞は、同じ遺伝的構成を有するが、膜タンパク質コード遺伝子の変異および/または低減された発現を欠く細胞と比較してより多くのバイオマスを産生し、より高い生産性を有し、および/または増強された細胞成長速度を有する。
【0083】
本発明の一部の実施形態によれば、膜タンパク質コード遺伝子の変異および/または低減された発現は、膜タンパク質のおよび/または細胞へのバクテリオファージ結合能の低減および/または消失を付与する。
【0084】
本発明の特定の実施形態によれば、膜タンパク質コード遺伝子の低減された発現は、
i)膜タンパク質コード遺伝子の転写単位を変異させること;
ii)膜タンパク質コード遺伝子の内因性/相同なプロモーターを変異させること;
iii)膜タンパク質コード遺伝子のリボソーム結合部位を変異させること;
iv)膜タンパク質コード遺伝子のUTRを変異させること、および/または
v)転写ターミネーターを変異させること
のうちのいずれか1つまたは複数を含む。
【0085】
本発明の一部の実施形態では、膜タンパク質コード遺伝子の変異は、点変異である。そのような点変異は、i)同じ長さの膜タンパク質;ii)膜タンパク質コード遺伝子において早発の終止コドンを作製する変異によるより短い膜タンパク質;iii)本明細書で定義される断片であるより短い膜タンパク質;またはiv)正常な終止コドンを、アミノ酸をコードするコドンに変化させ、翻訳を次の終止コドンまで継続させることによるより長い膜タンパク質のいずれかをもたらし得る。
【0086】
本発明の一部の実施形態では、膜タンパク質コード遺伝子の変異は、膜タンパク質をより短くする。これは、i)膜タンパク質コード遺伝子における早発の終止コドンを作製する変異による点変異、ii)膜タンパク質コード遺伝子における早発の終止コドンを作製する他の変異、iii)本明細書で定義される断片、またはiv)膜タンパク質コード遺伝子のポリヌクレオチド配列の一部の欠失によって得られ得る。そのようなより短いタンパク質は、一部の例では、ノックアウト変異体と同じ表現型をもたらす。
【0087】
本発明の一部の実施形態では、膜タンパク質コード遺伝子の変異は、当業者に公知である方法で得られる膜タンパク質コード遺伝子を完全にノックアウトする。
【0088】
本発明の他の実施形態では、膜タンパク質コード遺伝子の変異は、膜タンパク質をより長くする。これは、膜タンパク質コード遺伝子における少なくとも1つの塩基の挿入またはC末端もしくはN末端付加によって得ることができる。好ましくは、変異は、コードされる膜タンパク質アミノ酸配列への少なくとも2つのアミノ酸の挿入または付加を付与する。より好ましくは、変異は、2、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100個のアミノ酸より多くの挿入を付与する。さらにより好ましくは、変異は、15~45個アミノ酸の間の範囲、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45個のアミノ酸の挿入を付与する。好ましくは、挿入は、タンパク質の三次元空間に細胞外ループを伸長させ、変異は、前記ファージ受容体タンパク質に結合することによって細胞に感染することができる任意のバクテリオファージに対する耐性を付与する。好ましくは、変異は、i)バイオプロダクトの産生、ii)細胞の成長、iii)生産性、および/またはiv)バイオマス産生を減少させない。より好ましくは、変異は、i)バイオプロダクトの産生、ii)細胞の成長、iii)生産性、および/またはiv)バイオマス産生を増加および/または増強する。
【0089】
本発明によれば、膜タンパク質コード遺伝子の変異は、インフレーム変異、アウトオブフレーム変異、または部分的もしくは完全なノックアウト変異のうちのいずれか1つである。
【0090】
好ましい実施形態では、細胞は、本発明に従って提供され、変異は、tolC(配列番号12)コード遺伝子または配列番号12の機能的ホモログをコードする遺伝子、または配列番号12の全長と少なくとも70%の配列同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子で起こり、前記変異は、アミノ酸配列VGLSFSLPIYQ(配列番号31)の11アミノ酸重複を含む。
【0091】
さらに好ましい実施形態では、細胞および/または方法は、変異しているおよび/または低減された発現を有する少なくとも2つの内因性膜タンパク質コード遺伝子を含む。内因性膜タンパク質は、表1に記載されるタンパク質の少なくともいずれか2つである。より好ましくは、少なくとも2、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25個の内因性膜タンパク質コード遺伝子が、変異しているおよび/または低減された発現を有する。
【0092】
当業者は、本発明を読むことによって、表3に記載される例示的な公開されている変異などの膜タンパク質コード遺伝子に対する任意の他の変異を同定することができると理解される。しかし、必ずしも全ての変異が、遺伝子改変細胞によるバイオプロダクトの産生において有用であることが証明されているわけではない。しかし、当業者は、同じ遺伝的構成を有するが、膜タンパク質コード遺伝子の変異および/または低減された発現を欠く細胞による産生と比較して、どの膜タンパク質が、ならびにどの種類の変異(タンパク質のノックアウト、伸長、切断、断片)および/または低減された発現が、障害されないまたはさらに増強されたi)バイオプロダクトの産生、ii)細胞の成長、iii)生産性、および/またはiv)バイオマス産生を提供するかを本発明から学習するであろう。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【0093】
本発明に従って、細胞は、少なくとも1つのバイオプロダクトの産生のために遺伝子改変される。そのようなバイオプロダクトは、単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖または糖脂質であり得る。
【0094】
一部の実施形態では、バイオプロダクトは、本明細書に記載される単糖である。好ましくは、単糖は、グルコサミン、マンノース、キシロース、N-アセチルマンノサミン、N-アセチルノイラミン酸、N-グリコリルノイラミン酸、シアル酸、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトサミン、フコース、ラムノース、グルクロン酸、グルコン酸を含む群から選択される。
【0095】
一部の実施形態では、バイオプロダクトは、本明細書に記載されるリン酸化単糖である。
【0096】
好ましくは、前記リン酸化単糖は、グルコース-1-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルコース-1,6-ビスリン酸、ガラクトース-1-リン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース-1,6-ビスリン酸、フルクトース-1-リン酸、グルコサミン-1-リン酸、グルコサミン-6-リン酸、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸、マンノース-1-リン酸、マンノース-6-リン酸またはフコース-1-リン酸を含む群から選択される。
【0097】
本発明の他の実施形態では、バイオプロダクトは、本明細書に記載される活性化単糖である。好ましくは、活性化単糖は、GDP-フコース、UDP-グルコース、UDP-ガラクトース、UDP-N-アセチルグルコサミン、CMP-シアル酸を含む群から選択される。
【0098】
本発明の他の実施形態では、バイオプロダクトは、本明細書に記載される二糖である。好ましくは、そのような二糖は、ラクトースまたはN-アセチルラクトサミン(LacNAc)である。細胞によるラクトースの発酵生産の例を実施例に提供する。LacNAcの発酵生産は、Ruffing and Chen, Microb Cell Fact. 2006, 5: 25に記載されるように細胞にN-アセチルラクトサミン(GlcNAc)を供給することによって可能である。
【0099】
本発明の一部の実施形態では、バイオプロダクトは、本明細書に定義されるオリゴ糖である。好ましくは、オリゴ糖は、フコシルラクトース、シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ジフコシルラクト-N-テトラオース、シアリル-ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-フコペンタオース、ルイス型抗原の群から選択される。より好ましくは、オリゴ糖は、2’FL、3FL、DiFL、ラクト-N-トリオース、LNT、LNnT、3’SL、6’SL、LSTa、LSTb、LSTc、LSTd、DFLNT、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-フコペンタオースVI、H1抗原、Lewis、Lewis、シアリルLewis、H2抗原、Lewis、Lewis;シアリル-Lewisを含む群から選択される。そのようなオリゴ糖の産生を可能にする細胞の例を、本明細書に記載する。
【0100】
他の実施形態では、バイオプロダクトは、本明細書に記載される糖脂質である。
【0101】
一実施形態では、E.coli細胞は、少なくとも1つの異種遺伝子によって形質転換され、シアル酸経路もしくはシアリル化経路、またはフコシル化経路またはガラクトシル化経路またはN-アセチルグルコサミン炭水化物経路を産生する。この細胞は、異種遺伝子、遺伝子カセット、または当技術分野で記載される遺伝子セットの導入によって形質転換される。
【0102】
本発明のさらなる実施形態は、それぞれ、フコシル化、シアリル化、ガラクトシル化オリゴ糖、N-アセチルグルコサミン含有オリゴ糖、またはシアル酸を本明細書に記載される細胞によって産生する方法を提供する。
【0103】
本発明の一実施形態では、本明細書に記載される方法は、バイオプロダクトLNnTを産生しており、膜タンパク質は、好ましくはLamB(配列番号14)、FhuA(配列番号16)、FadL(配列番号20)、およびNfrA(配列番号30)、配列番号14、16、20、もしくは30のうちのいずれか1つの機能的ホモログ、または配列番号14、16、20、30のうちのいずれか1つの全長アミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する膜タンパク質のうちのいずれかの1つまたは複数であり、好ましくは、前記変異は、前記遺伝子のノックアウト表現型をもたらす。
【0104】
本発明の別の実施形態では、本明細書に記載される方法は、シアリルラクトース、好ましくは6’SLを産生し、好ましくは、膜タンパク質はFhuA(配列番号16)、配列番号16の機能的ホモログ、または配列番号16の全長のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する膜タンパク質である。好ましくは、変異は、遺伝子のノックアウト表現型をもたらす。
【0105】
さらなる実施形態では、本発明は、バイオプロダクトの産生のための、および好ましくは本明細書に記載される方法における、本明細書に記載される細胞の使用を提供する。
【0106】
さらに、本発明は、以下の特定の実施形態に関する:
1. 単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖、または糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたEscherichia coli細胞であって、i)内因性膜タンパク質コード遺伝子の発現が、低減されているか、および/またはii)前記内因性膜タンパク質コード遺伝子が、変異しており、好ましくは前記変異が、前記膜タンパク質コード遺伝子の低減された発現をもたらし、前記膜タンパク質が、表1に記載されるタンパク質のいずれか1つである、細胞。
【0107】
2. 前記膜タンパク質が、COG群COG4206、COG2067、COG4771、COG1629、COG4580、COG2885、COG3203、COG4571、COG1538、COG3248、COG0810、COG0457;外膜ポリン、外膜プロテアーゼ7、コバラミン/コビナミド外膜輸送体、外膜チャネル、マルトース外膜チャネル、フェリクローム外膜輸送体、Ton複合体サブユニット、長鎖脂肪酸外膜チャネル、ヌクレオシド特異的チャネル形成タンパク質、鉄エンテロバクチン外膜輸送体、推定TonB依存性外膜受容体、外膜タンパク質、ファージ受容体からなるリストから選択される、実施形態1に記載の細胞。
【0108】
3. 前記膜タンパク質が、OmpA(配列番号2)、OmpC(配列番号4)、OmpF(配列番号6)、OmpT(配列番号8)、BtuB(配列番号10)、TolC(配列番号12)、LamB(配列番号14)、FhuA(配列番号16)、TonB(配列番号18)、FadL(配列番号20)、Tsx(配列番号22)、FepA(配列番号24)、YncD(配列番号26)、PhoE(配列番号28)、およびNfrA(配列番号30)、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30のうちのいずれか1つの機能的ホモログ、または配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30のうちのいずれか1つの全長のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する膜タンパク質からなるリストから選択される、実施形態1または2のいずれか一項に記載の細胞。
【0109】
4. 前記膜タンパク質コード遺伝子の前記低減された発現および/または前記膜タンパク質コード遺伝子の変異が、バクテリオファージ耐性を付与し、前記バクテリオファージが表2に記載されるバクテリオファージファミリーから選択される、実施形態1、2または3のいずれか一項に記載の細胞。
【0110】
5. 前記膜タンパク質コード遺伝子の前記低減された発現および/または前記膜タンパク質コード遺伝子の変異が、影響を受けないおよび/または増強されたi)バイオプロダクトの産生、ii)生産性、iii)バイオマス産生、および/またはiv)細胞成長を付与する、前記実施形態のいずれか一項に記載の細胞。
【0111】
6. 前記変異および/または低減された発現が、前記膜タンパク質のバクテリオファージ結合能を低減することおよび/または消失させることを含む、前記実施形態のいずれか一項に記載の細胞。
【0112】
7. 前記E.coli細胞が、シアル酸経路もしくはシアリル化経路、またはフコシル化経路またはガラクトシル化経路またはN-アセチルグルコサミン炭水化物経路のうちの少なくとも1つを産生するように少なくとも1つの異種遺伝子によって形質転換され、好ましくは前記細胞が、当技術分野で記載される異種遺伝子、遺伝子カセット、または遺伝子セットの導入によって形質転換される、前記実施形態のいずれか一項に記載の細胞。
【0113】
8. 前記内因性膜タンパク質の前記変異および/または低減された発現が、
i)前記膜タンパク質コード遺伝子の転写単位を変異させること;
ii)前記膜タンパク質コード遺伝子の内因性の/相同なプロモーターを変異させること;
iii)前記膜タンパク質コード遺伝子のリボソーム結合部位を変異させること;
iv)前記膜タンパク質コード遺伝子のUTRを変異させること、および/または
v)転写ターミネーターを変異させること
のうちのいずれか1つまたは複数を含む、前記実施形態のいずれか一項に記載の細胞。
【0114】
9. 前記膜タンパク質コード遺伝子の前記変異が、前記膜タンパク質をより短く、より長くすることを含み、および/または前記膜タンパク質を完全にノックアウトする、前記実施形態のいずれか一項に記載の細胞。
【0115】
10. 前記膜タンパク質コード遺伝子の前記変異が、前記膜タンパク質コード遺伝子のインフレーム変異である、実施形態1~9のいずれか一項に記載の細胞。
【0116】
11. 前記インフレーム変異が、コードされる前記膜タンパク質のアミノ酸配列への少なくとも2個のアミノ酸の挿入であり、好ましくは前記変異が2個より多くのアミノ酸の挿入を含む、実施形態10に記載の細胞。
【0117】
12. 前記変異がtolCコード遺伝子で起こり、前記変異が、アミノ酸配列VGLSFSLPIYQ(配列番号31)の11アミノ酸重複を含む、実施形態9~11のいずれか一項に記載の細胞。
【0118】
13. 前記膜タンパク質コード遺伝子のうちの少なくとも2つが変異している、および/または低減された発現を有する、前記実施形態のいずれか一項に記載の細胞。
【0119】
14. 前記バイオプロダクトが、オリゴ糖であり、好ましくは前記オリゴ糖が、フコシルラクトース、シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ジフコシルラクト-N-テトラオース、シアリル-ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-フコペンタオース、ルイス型抗原の群から選択され、より好ましくは、2’FL、3FL、DiFL、ラクト-N-トリオース、LNT、LNnT、3’SL、6’SL、LSTa、LSTb、LSTc、LSTd、DFLNT、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-フコペンタオースVI、H1抗原、Lewis、Lewis、シアリルLewis、H2抗原、Lewis、Lewis;シアリル-Lewisを含む群から選択される、前記実施形態のいずれか一項に記載の細胞。
【0120】
15. 前記バイオプロダクトが、好ましくはN-アセチルラクトサミン、ラクトースを含む群から選択される二糖であるか;または前記バイオプロダクトが、好ましくはGDP-フコース、UDP-グルコース、UDP-ガラクトース、UDP-N-アセチルグルコサミン、CMP-シアル酸を含む群から選択される活性化単糖であるか;または前記バイオプロダクトが、好ましくはグルコサミン、マンノース、キシロース、N-アセチルマンノサミン、N-アセチルノイラミン酸、N-グリコリルノイラミン酸、シアル酸、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトサミン、フコース、ラムノース、グルクロン酸、グルコン酸を含む群から選択される単糖であるか、または前記バイオプロダクトが、好ましくはグルコース-1-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルコース-1,6-ビスリン酸、ガラクトース-1-リン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース-1,6-ビスリン酸、フルクトース-1-リン酸、グルコサミン-1-リン酸、グルコサミン-6-リン酸、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸、マンノース-1-リン酸、マンノース-6-リン酸もしくはフコース-1-リン酸を含む群から選択されるリン酸化単糖である、実施形態1~13のいずれか一項に記載の細胞。
【0121】
16. E.coli細胞においてバクテリオファージ耐性を付与するための方法であって:
- 単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖もしくは糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたE.coliを提供するステップ、
- 前記E.coli細胞の膜タンパク質コード遺伝子の発現を低減させる、および/または前記膜タンパク質コード遺伝子を変異させるステップ
を含み、前記膜タンパク質が表1に記載されるタンパク質のいずれか1つである、方法。
【0122】
17. 単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖または糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトのE.coli細胞により産生するための方法であって:
- 単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖もしくは糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたE.coliを提供するステップ、
- 前記E.coli細胞の膜タンパク質コード遺伝子の発現を低減させる、および/または前記膜タンパク質コード遺伝子を変異させるステップ、
- 所望の前記バイオプロダクトの産生を許容する培養条件下、培地中で前記細胞を培養するステップ、
- 好ましくは前記培養物から前記バイオプロダクトを分離するステップ
を含み、前記膜タンパク質が表1に記載されるタンパク質のいずれか1つである、方法。
【0123】
18. 単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖または糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトのE.coli細胞による産生を、前記バイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたE.coli細胞と比較して増加させるための方法であって:
- 単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖もしくは糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されたE.coliを提供するステップ、
- 前記E.coli細胞の膜タンパク質コード遺伝子の発現を低減させる、および/または前記膜タンパク質コード遺伝子を変異させるステップ、
- 所望の前記バイオプロダクトの産生を許容する培養条件下、培地中で前記細胞を培養するステップ、
- 好ましくは前記培養物から前記バイオプロダクトを分離するステップ
を含み、前記膜タンパク質が表1に記載されるタンパク質のいずれか1つである、方法。
【0124】
19. 前記膜タンパク質が、COG群COG4206、COG2067、COG4771、COG1629、COG4580、COG2885、COG3203、COG4571、COG1538、COG3248、COG0810、COG0457;外膜ポリン、外膜プロテアーゼ7、コバラミン/コビナミド外膜輸送体、外膜チャネル、マルトース外膜チャネル、フェリクローム外膜輸送体、Ton複合体サブユニット、長鎖脂肪酸外膜チャネル、ヌクレオシド特異的チャネル形成タンパク質、鉄エンテロバクチン外膜輸送体、推定TonB依存性外膜受容体、外膜タンパク質、ファージ受容体からなるリストから選択される、実施形態16~18のいずれか一項に記載の方法。
【0125】
20. 前記膜タンパク質が、OmpA(配列番号2)、OmpC(配列番号4)、OmpF(配列番号6)、OmpT(配列番号8)、BtuB(配列番号10)、TolC(配列番号12)、LamB(配列番号14)、FhuA(配列番号16)、TonB(配列番号18)、FadL(配列番号20)、Tsx(配列番号22)、FepA(配列番号24)、YncD(配列番号26)、PhoE(配列番号28)、およびNfrA(配列番号30)、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30のうちのいずれか1つの機能的ホモログ、または配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30のうちのいずれか1つの全長のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する膜タンパク質からなるリストから選択される、実施形態16~19のいずれか一項に記載の方法。
【0126】
21. 前記膜タンパク質コード遺伝子の改変された発現および/または変異がバクテリオファージ耐性を付与し、前記バクテリオファージが表2に記載されるバクテリオファージファミリーから選択される、実施形態16~20のいずれか一項に記載の方法。
【0127】
22. 前記膜タンパク質コード遺伝子の前記改変された発現および/または変異が、影響を受けないおよび/または増強されたバイオプロダクトの産生を付与する、実施形態16~21のいずれか一項に記載の方法。
【0128】
23. 前記改変された発現および/または変異が、前記膜タンパク質のバクテリオファージ結合能を低減させることおよび/または消失させることを含む、実施形態16~22のいずれか一項に記載の方法。
【0129】
24. 前記E.coli細胞が、フコシル化、シアリル化、ガラクトシル化オリゴ糖、N-アセチルグルコサミン含有オリゴ糖、またはシアル酸から選択される少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するように遺伝子改変されている、実施形態16~23のいずれか一項に記載の方法。
【0130】
25. 前記内因性膜タンパク質コード遺伝子の前記改変された発現が、より低いおよび/または低減された発現であり、好ましくは、前記より低い発現は、
i)前記膜タンパク質コード遺伝子の転写単位を変異させること;
ii)前記膜タンパク質コード遺伝子の内因性の/相同なプロモーターを変異させること;
iii)前記膜タンパク質コード遺伝子のリボソーム結合部位を変異させること;
iv)前記膜タンパク質コード遺伝子のUTRを変異させること、および/または
v)転写ターミネーターを変異させること
のうちのいずれか1つまたは複数を含む、実施形態16~24のいずれか一項に記載の方法。
【0131】
26. 前記膜タンパク質コード遺伝子の前記変異が、前記膜タンパク質をより短く、より長くすることを含み、または前記膜タンパク質を完全にノックアウトする、実施形態16~25のいずれか一項に記載の方法。
【0132】
27. 前記変異が、前記膜タンパク質コード遺伝子のインフレーム変異であり、好ましくは、前記インフレーム変異が、コードされる前記膜タンパク質のアミノ酸配列への少なくとも2個のアミノ酸の挿入であり、より好ましくは前記変異が2個より多くのアミノ酸の挿入を含む、実施形態16~26のいずれか一項に記載の方法。
【0133】
28. 前記変異が、Escherichia coliのtolC遺伝子またはE.coliにおけるtolC遺伝子の機能的ホモログで起こり、前記変異がTLSファミリーのバクテリオファージに対する耐性を提供し、前記変異が、アミノ酸配列VGLSFSLPIYQ(配列番号31)の11アミノ酸重複を生じる、実施形態16~27のいずれか一項に記載の方法。
【0134】
29. 前記膜タンパク質コード遺伝子のうちの少なくとも2つが変異している、および/または低減された発現を有する、実施形態16~28のいずれか一項に記載の方法。
【0135】
30. 前記バイオプロダクトが、オリゴ糖であり、好ましくは前記オリゴ糖が、フコシルラクトース、シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ジフコシルラクト-N-テトラオース、シアリル-ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-フコペンタオース、ルイス型抗原の群から選択され、より好ましくは、2’FL、3FL、DiFL、ラクト-N-トリオース、LNT、LNnT、3’SL、6’SL、LSTa、LSTb、LSTc、LSTd、DFLNT、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-フコペンタオースVI、H1抗原、Lewis、Lewis、シアリルLewis、H2抗原、Lewis、Lewis;シアリル-Lewisである、実施形態16~29のいずれか一項に記載の方法。
【0136】
31. 前記バイオプロダクトが、好ましくはLacNAc、ラクトースを含む群から選択される二糖であるか;または前記バイオプロダクトが、好ましくはGDP-フコース、UDP-グルコース、UDP-ガラクトース、UDP-N-アセチルグルコサミン、CMP-シアル酸を含む群から選択される活性化単糖であるか;または前記バイオプロダクトが、好ましくはグルコサミン、マンノース、キシロース、N-アセチルマンノサミン、N-アセチルノイラミン酸、N-グリコリルノイラミン酸、シアル酸、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトサミン、フコース、ラムノース、グルクロン酸、グルコン酸を含む群から選択される単糖であるか、または前記バイオプロダクトが、好ましくはグルコース-1-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルコース-1,6-ビスリン酸、ガラクトース-1-リン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース-1,6-ビスリン酸、フルクトース-1-リン酸、グルコサミン-1-リン酸、グルコサミン-6-リン酸、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸、マンノース-1-リン酸、マンノース-6-リン酸もしくはフコース-1-リン酸を含む群から選択されるリン酸化単糖である、実施形態16~29のいずれか一項に記載の方法。
【0137】
32. 単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、二糖、オリゴ糖または糖脂質を含むリストのうちの少なくとも1つのバイオプロダクトを産生するために遺伝子改変された細胞を使用して、前記バイオプロダクトの発酵産生のための方法であって、以下のステップ:
- 実施形態1~15のいずれか一項に記載の細胞を提供するステップ;
- 所望の前記バイオプロダクトの産生を許容する条件下、培地中で前記細胞を培養するステップ;
- 好ましくは培養物から前記バイオプロダクトを分離するステップ
を含む、方法。
【0138】
33. 前記バイオプロダクトがLNnTであり、好ましくは前記膜タンパク質が、LamB(配列番号14)、FhuA(配列番号16)、FadL(配列番号20)、およびNfrA(配列番号30)、配列番号14、配列番号16、配列番号20、および配列番号30のうちのいずれか1つの機能的ホモログ、または配列番号14、16、20、30のうちのいずれか1つの全長のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する膜タンパク質のうちのいずれか1つまたは複数であり、好ましくは前記変異が、前記遺伝子のノックアウト表現型をもたらす、実施形態16~32のいずれか一項に記載の方法。
【0139】
34. 前記バイオプロダクトが、シアリルラクトース、好ましくは6’SLであり、好ましくは、前記膜タンパク質がFhuA(配列番号16)、その機能的ホモログ、または配列番号16の全長のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有する膜タンパク質であり、好ましくは、前記膜タンパク質コード遺伝子の前記変異および/または低減された発現が、前記遺伝子のノックアウト表現型をもたらす、実施形態16~32のいずれか一項に記載の方法。
【0140】
35. 実施形態1~15のいずれか一項に記載の細胞の使用。
【0141】
以下の図面および実施例は、本発明のさらなる例示および明確化としての役割を果たし、限定的であることを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0142】
図1図1は、野生型tolC遺伝子またはtolC_IS1もしくはtolC_2変異を有する2’FLおよびDiFL産生株の72時間培養後の600nmで測定した正規化した吸光度を示す。
【0143】
図2図2は、野生型tolC遺伝子またはtolC_IS1もしくはtolC_2変異を有する2’FLおよびDiFL産生株の72時間培養後の2’FLおよびDiFLの正規化した産生を示す。
【0144】
図3図3は、野生型tolC遺伝子またはtolC_IS1もしくはtolC_2変異を有する2’FLおよびDiFL産生株の正規化した成長速度を示す。
【0145】
図4図4は、野生型tolCまたはtolC_2変異を有する株による72時間培養後の2’FLまたは3FLの正規化した産生を示す。
【0146】
図5図5は、野生型fhuA遺伝子(=参照株、Ref)またはfhuA-fs変異を有する株の72時間培養後のLNnTの正規化した産生を示す。
【0147】
図6図6は、野生型fhuA遺伝子(=参照株、Ref)またはfhuA-fs変異を有する株の72時間培養後の両方の株の正規化した成長速度を示す。
【0148】
図7図7は、野生型fhuA遺伝子(=参照株、Ref)またはfhuA::IS2変異を有する株の72時間培養後の6’SLの正規化した産生を示す。
【0149】
図8図8は、野生型fhuA遺伝子(=参照株、Ref)またはfhuA::IS2変異を有する株の72時間培養後の両方の株の正規化した成長速度を示す。
【0150】
図9図9は、参照および変異体株の72時間培養後のLNnTの正規化した産生を示す。
【0151】
図10図10は、参照株および様々なOMP遺伝子が欠失している変異体株の72時間培養後の2’FLの正規化した産生および正規化した成長速度を示す。
【0152】
図11図11は、参照株および様々なOMP遺伝子が欠失している変異体株の72時間培養後の3FLの正規化した産生および正規化した成長速度を示す。
【0153】
図12図12は、参照株および様々なOMP遺伝子が欠失している変異体株の72時間培養後のDiFLの正規化した産生および正規化した成長速度を示す。
【0154】
図13図13は、参照株および様々なOMP遺伝子が欠失している変異体株の72時間培養後の6’SLの正規化した産生および正規化した成長速度を示す。
【0155】
図14図14は、参照株および様々なOMP遺伝子が欠失している変異体株の72時間培養後の3’SLの正規化した産生および正規化した成長速度を示す。
【0156】
図15図15は、参照株および様々なOMP遺伝子が欠失している変異体株の72時間培養後のLNnTの正規化した産生および正規化した成長速度を示す。
【0157】
図16図16は、参照株および様々なOMP遺伝子が欠失している変異体株の72時間培養後のLN3およびLNTの正規化した産生および正規化した成長速度を示す。
【実施例
【0158】
(実施例1)
材料および方法 Escherichia coli
培地
ルリアブロス(LB)培地は、1%のトリプトンペプトン(Difco、Erembodegem、Belgium)、0.5%の酵母抽出物(Difco)および0.5%の塩化ナトリウム(VWR.Leuven、Belgium)からなった。振盪フラスコ実験のための培地は、2.00g/LのNH4Cl、5.00g/Lの(NH4)2SO4、2.993g/LのKH2PO4、7.315g/LのK2HPO4、8.372g/LのMOPS、0.5g/LのNaCl、0.5g/LのMgSO4.7H2O、14.26g/Lのスクロース、または実施例で特定される場合、別の炭素源、1ml/Lのビタミン溶液、100μL/Lのモリブデート溶液、および1mL/Lのセレン溶液を含有した。1MのKOHを用いて、培地をpH7に設定した。ビタミン溶液は、3.6g/LのFeCl2.4H2O、5g/LのCaCl2.2H2O、1.3g/LのMnCl2.2H2O、0.38g/LのCuCl2.2H2O、0.5g/LのCoCl2.6H2O、0.94g/LのZnCl2、0.0311g/LのH3BO4、0.4g/LのNa2EDTA.2H2Oおよび1.01g/LのチアミンHClからなった。モリブデート溶液は、0.967g/LのNaMoO4.2H2Oを含有した。セレン溶液は、42g/LのSeo2を含有した。
【0159】
発酵のための最少培地は、6.75g/LのNH4Cl、1.25g/Lの(NH4)2SO4、2.93g/LのKH2PO4および7.31g/LのKH2PO4、0.5g/LのNaCl、0.5g/LのMgSO4.7H2O、14.26g/Lのスクロースまたはそれぞれの実施例で特定される別の炭素源、上記に説明されるのと同じ組成の1mL/Lのビタミン溶液、100μL/Lのモリブデート溶液、および1mL/Lのセレン溶液を含有した。
【0160】
複合培地はオートクレーブ(121℃、21分)によって、最少培地は濾過(0.22μm Sartorius)によって滅菌した。必要な場合、培地を、抗生物質(例えば、クロラムフェニコール(20mg/L)、カルベニシリン(100mg/L)、スペクチノマイシン(40mg/L)および/またはカナマイシン(50mg/L))を添加することによって選択的にした。
【0161】
プラスミド
pKD46(Redヘルパープラスミド、アンピシリン耐性)、pKD3(FRT隣接クロラムフェニコール耐性(cat)遺伝子を含有する)、pKD4(FRT隣接カナマイシン耐性(kan)遺伝子を含有する)およびpCP20(FLPリコンビナーゼ活性を発現する)プラスミドは、R.Cunin教授(Vrije Universiteit Brussel、Belgium、2007年)から譲渡された。
【0162】
Invitrogenから購入した宿主E.coli DH5alpha(F、phi80dlacZΔM15、Δ(lacZYA-argF)U169、deoR、recA1、endA1、hsdR17(rk、mk)、phoA、supE44、ラムダ、thi-1、gyrA96、relA1)においてプラスミドを維持した。
【0163】
株および変異
Escherichia coli K12 MG1655[λ、F、rph-1]を、2007年3月にColi Genetic Stock Center(US)、CGSC株番号7740から取得した。Datsenko and Wanner (PNAS 97 (2000), 6640-6645)によって公開された技法を使用して、遺伝子破壊、遺伝子導入および遺伝子置換を行った。この技法は、ラムダRedリコンビナーゼによって行われる相同組換え後の抗生物質選択に基づく。次のフリッパーゼリコンビナーゼの触媒により、最終産生株における抗生物質選択カセットは確実に除去される。
【0164】
RedヘルパープラスミドpKD46を有する形質転換体を、アンピシリン(100mg/L)およびL-アラビノース(10mM)を含む10mlのLB培地中で30℃にて0.6のOD600nmまで増殖させた。細胞を、それらを最初に50mlの氷冷水で、次に1mlの氷冷水で洗浄することによってエレクトロコンピテントにした。その後、細胞を50μlの氷冷水に再懸濁した。50μlの細胞および10~100ngの直鎖状二本鎖DNA生成物で、Gene Pulser(商標)(BioRad)(600Ω、25μFDおよび250ボルト)を使用することによって電気穿孔を行った。
【0165】
電気穿孔後、細胞を、1mlのLB培地に添加し、37℃で1時間インキュベートし、最終的に25mg/Lのクロラムフェニコールまたは50mg/Lのカナマイシンを含有するLB寒天上に拡げて、抗生物質耐性形質転換体を選択した。選択した変異体を、改変された領域の上流および下流のプライマーによるPCRによって検証し、LB寒天中で42℃にてヘルパープラスミドの喪失のために増殖させた。変異体を、アンピシリン感受性について試験した。
【0166】
直鎖状ds-DNAアンプリコンを、pKD3、pKD4およびそれらの誘導体を鋳型として使用するPCRによって得た。使用したプライマーは、鋳型に相補的な配列の一部、および組換えが起こらなければならない染色体DNA上の側に相補的な別の部分を有した。ゲノムノックアウトのために、目的の遺伝子の開始および停止コドンの50nt上流および50nt下流に、ホモロジー領域を設計した。ゲノムノックインのために、転写開始点(+1)を、尊重しなければならなかった。PCR産物を、PCR精製し、DpnIで消化し、アガロースゲルから再精製し、溶離緩衝液(5mM Tris、pH8.0)中に懸濁した。
【0167】
選択した変異体(クロラムフェニコールまたはカナマイシン耐性)は、熱感受性の複製およびFLP合成の熱による誘導を示すアンピシリンおよびクロラムフェニコール耐性であるpCP20プラスミドを用いて形質転換させた。アンピシリン耐性の形質転換体を30℃で選択し、その後、いくつかを42℃のLB中でコロニー精製し、次いで、すべての抗生物質耐性およびFLPヘルパープラスミドの喪失について試験した。遺伝子のノックアウトおよびノックインを対照プライマー(Fw/Rv-gene-out)を用いてチェックした。
【0168】
2’FL、3FL、およびdiFL産生の場合、E.coli K12 MG1655に由来する変異体株は、遺伝子lacZ、lacY、lacA、glgC、agp、pfkA、pfkB、pgi、arcA、iclR、wcaJ、pgi、lon、およびthyAのノックアウトを有し、ならびにE.coli lacY遺伝子、Zymomonas mobilisに由来するフルクトースキナーゼ遺伝子(frk)、およびBifidobacterium adolescentisに由来するスクロースホスホリラーゼ(SP)を含有する構成的発現構築物のゲノムノックインをさらに有する。これらの遺伝子改変はまた、WO2016075243号およびWO2012007481号にも記載されている。加えて、アルファ-1,2-および/またはアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ発現プラスミドを株に添加する。
【0169】
LNTおよびLNnT産生の場合、株は、lacZ遺伝子およびnagB遺伝子のゲノムノックアウト、ならびにNeisseria meningitidis由来のガラクトシドベータ-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(lgtA)、およびLNT産生のためのEscherichia coli O55:H7由来のN-アセチルグルコサミンベータ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(wbgO)またはLNnT産生のためのNeisseria meningitidis由来のN-アセチルグルコサミンベータ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(lgtB)のいずれかを含有する構成的発現構築物のノックインを有する。
【0170】
3’SLおよび6’SL産生の場合、株は、WO18122225号に記載されている。変異体株は、以下の遺伝子ノックアウト:lacZ、nagABCDE、nanATEK、manXYZを有する。さらに、株は、Escherichia coli由来のL-グルタミン-D-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ(glmS)の変異バリアント、Saccharomyces cerevisiae由来のグルコサミン6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ(GNA1)、Bacteroides ovatus由来のN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ(BoAGE)、Campylobacter jejuni由来のN-アセチルノイラミン酸シンターゼ(NeuB)、Campylobacter jejuni由来のCMP-Neu5Acシンテターゼ(NeuA)、および3’SL産生のためのPasteurella multocida由来のベータ-ガラクトシドアルファ-2,3-シアリルトランスフェラーゼまたは6’SL産生のためのPhotobacterium damselae由来のベータ-ガラクトシドアルファ-2,6-シアリルトランスフェラーゼのいずれかを含有する構成的発現構築物のゲノムノックインを有する。
【0171】
全ての構成的プロモーターおよびUTRは、De Mey et al. (BMC Biotechnology, 2007)およびMutalik et al. (Nat. Methods 2013, No. 10, 354-360)によって記載されるライブラリに由来する。遺伝子は全て、Twist Bioscience(twistbioscience.com)またはIDT(eu.idtdna.com)に合成を依頼し、コドン使用を、供給元のツールを使用して適合させた。
【0172】
全ての株を凍結バイアル中、-80℃で保存する(70%グリセロールと共に1:1比で混合した一晩のLB培養物)。
【0173】
培養条件
96ウェルマイクロタイタープレート実験の前培養を、クライオバイアルから150μLのLB中で開始し、800rpmの軌道シェーカー上で37℃にて一晩インキュベートした。この培養物を、400倍希釈することによって、400μLのMMsf培地を有する96ウェル正方形マイクロタイタープレートのための種菌として使用した。これらの最終的な96ウェル培養プレートを、その後、800rpmの軌道シェーカー上で37℃にて72時間またはそれより短い時間もしくはそれより長い時間インキュベートした。培養実験の終わりに、各ウェルから試料を取って、ブロス上清の糖濃度(細胞外糖濃度、細胞を5回スピンダウンした後)または細胞をスピンダウンする前に培養ブロスを90℃で15分間沸騰させることによる糖濃度(=全ブロスの測定、細胞内および細胞外の糖濃度の平均)を測定した。
【0174】
バイオリアクターのための前培養を、ある特定の株の1mLのクライオバイアル全部から開始し、1Lまたは2.5Lの振盪フラスコ中の250mLまたは500mLの最少培地に接種し、200rpmの軌道シェーカー上で37℃にて24時間インキュベートした。その後、5Lのバイオリアクターに接種し(2Lの回分培地中に250mLの種菌);プロセスはMFCS制御ソフトウェア(Sartorius Stedim Biotech、Melsungen、Germany)によって制御した。培養条件を37℃および最大撹拌に設定し;圧力ガス流量は、株およびバイオリアクターに依存した。0.5M H2SO4および20%NH4OHを使用して、pHを6.8に制御した。排ガスを冷却した。発酵中に発泡する場合、シリコーン消泡剤の10%溶液を添加した。
【0175】
光学密度
培養物の細胞密度を、600nmでの光学密度を測定することによって頻繁にモニターした(Implen Nanophotometer NP80、Westburg、BelgiumまたはSpark 10Mマイクロプレートリーダー、Tecan、Switzerlandにより)。
【0176】
液体クロマトグラフィー
2’フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ジフコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、3’シアリルラクトース、および6’シアリルラクトースの標準物質を施設内で合成した。非限定的に、ラクトース、スクロース、グルコース、フルクトースなどの他の標準物質は、Sigmaから購入した。
【0177】
炭水化物をUPLC-RI(Waters、USA)法を介して分析し、それによって、RI(屈折率)は、試料を含有する場合の移動相の屈折率の変化を検出する。全ての糖を、Acquity UPLC BEHアミドカラム(Waters、USA)ならびに75mLアセトニトリル、25mL超純水および0.25mLトリエチルアミンを含有する(2’FL、3FL、DiFL、LNTおよびLNnTの場合)、または70mlアセトニトリル、26mL 150mM酢酸アンモニウムおよび0.05%ピロリジンを有する4mLメタノールを含有する(3’SLおよび6’SLの場合)移動相を使用して均一濃度流中で分離した。カラムサイズは2.1×50mmであり、1.7μmの粒径であった。カラムの温度を50℃(2’FL、3FL、DiFL、LNT、LnnTの場合)または25℃(3’SLおよび6’SLの場合)に設定し、ポンプ流量は0.130mL/分であった。
【0178】
(実施例2)
「T1様」または「TLS」バクテリオファージに対して耐性の株
Helicobacter pylori(配列番号36)由来のアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼHpFutCを含有する、2’-フコシルラクトースおよびジフコシルラクトースを産生するように改変されたE.coli MG1655 K-12株を、いずれもtolC遺伝子における2つの別個の変異によってさらに変異させた。
【0179】
1つの変異は、開始コドンの374bp下流にE.coli IS1エレメントの挿入を含み、したがってtolCの遺伝子機能を完全に消失した(tolC_IS1、配列番号34)。
【0180】
第2の変異は、配列(gttggcctgagcttctcgctgccgatttatcag、配列番号32のbp916~948)の33bp重複を含み、tolC ORFにおいて直列反復配列を引き起こす(tolC_2、配列番号32)。この挿入は、tolCタンパク質配列においてインフレームの11アミノ酸の伸長(V306~Q316、配列番号31)を引き起こし、これは野生型配列においてベータストランド膜貫通領域(M301~S311)と部分的に重複し、タンパク質のペリプラズムドメイン内に伸長している。
【0181】
上記のE.coli変異体はいずれも、ファージ試料と共に一晩インキュベーション(実施例1に記載する発酵培地による振とうフラスコ培養)後に単離された細胞の溶解が検出できなかったが、対照株である元の2’FL E.coli産生株は明白に溶解された(低いバイオマスおよび高いファージ粒子密度))ために、German and Misra (2001)に記載されるように、バクテリオファージTLSに近縁の、Caudovirales目、Siphoviridae科、「T1様ウイルス」属に属するファージに対して耐性であることを示した。
【0182】
理論に拘束されることを望まないが、11アミノ酸重複のために、結果として三次元タンパク質構造モデルにおいて、ベータバレルドメインの第2の領域におけるベータシートが再整列し、2つのベータストランドの間で外側のループを伸長させるという仮説が立てられている。さらに、この伸長した外側のループは、増加した柔軟性を有し、バクテリオファージ結合を妨害するという仮説が立てられている。
【0183】
(実施例3)
Escherichia coliにおける野生型tolCと変異したtolCバリアントとを比較する成長ならびに2’FLおよびDiFL産生の評価
実施例2で記載した新規「TLS」バクテリオファージ耐性株を、実施例1に提供した培養条件に従う成長実験において評価した。これらの株は、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ酵素(HpFutC、配列番号36)を含有し、2-フコシルラクトースおよびジフコシルラクトースを産生することができるが、そのゲノムに存在するtolC遺伝子配列が異なる(tolC_WT:配列番号11;tolC_2、配列番号32;tolC_IS1:配列番号34)。各株を、96ウェルプレートの複数のウェル中で成長させた。全ての図において、各データポイントは、1つのウェルからのデータに対応する。破線の水平線は全てのデータポイントを正規化した設定値を示す。図1に示すように、得られたバイオマスは、完全に不活化されたtolC遺伝子(tolC_IS1)を含有する株の試料では明らかに低いが、野生型tolCおよび33bp重複を有するtolC遺伝子バリアント(tolC_2)を有する株では、得られたバイオマスの量は同等である。
【0184】
図2は、両方の糖の産生が、完全に不活化されたtolC遺伝子(tolC_IS1)を含有する株の試料では明らかに低いが、野生型tolCおよび33bp重複を有するtolC遺伝子バリアント(tolC_2)を有する株では、生産性は同等であることを示している。
【0185】
図3に示すように、平均成長速度は、完全に不活化されたtolC遺伝子(tolC_IS1)を含有する株の試料ではわずかに低いが、野生型tolCおよび33bp重複を有するtolC遺伝子バリアント(tolC_2)を有する株では、これは同等である。
【0186】
全体的に見てこれらの結果は、本発明者らが野生型tolCを有する株と類似の成長速度および2’FL産生能を認めたが、これらのパラメーターは、完全に不活化されたtolCバリアント(tolC_IS1)を有する株では劇的に低減されたために、tolC_2遺伝子バリアントによってコードされるタンパク質が少なくともなおも部分的に活性であることを示唆している。
【0187】
(実施例4)
2’フコシルラクトースの産生のためのバッチ発酵における野生型または変異tolC遺伝子を有するEscherichia coli株の評価
アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(HpFutC、配列番号36)、および野生型tolC遺伝子配列または33bp重複を有するtolCバリアント(実施例1および2に記載されるように「TLS」バクテリオファージに対する耐性を付与する)のいずれかを含有する変異体E.coli株を、バイオリアクター規模のバッチ発酵で評価した。バイオリアクターの試行は、実施例1に記載するように実施した。これらの実施例では、スクロースを炭素源として使用した。ラクトースを、2’FL形成の前駆体として90g/Lでバッチ培地に添加した。
【0188】
バッチの期間、収量、比生産性、およびバッチ終了時の2’FL力価(濃度)は、両方の株について類似であった。したがって、野生型tolCまたはtolCの33bp重複バリアント(tolC_2)のいずれかを有する株は、生物発酵プロセスにおいて等しく良好な成績を示す。
【0189】
(実施例5)
HMO産生E.coli株におけるバクテリオファージ耐性変異
実施例1に記載する遺伝的バックグラウンドを有する、ラクト-N-ネオテトラオース、2’-フコシルラクトース、または6’シアリルラクトースのいずれかを産生するように改変されたE.coli MG1655 K-12株をそれぞれ、全てfhuA遺伝子における別個の変異によってさらに変異させた。
【0190】
第1の変異株は、早発の終止コドンを導入するE555点変異を含有した(fhuA_E555、配列番号42)。第2の変異株は、17bp欠失を含有した(bp1657~1673)(fhuA-fs、配列番号44)。第3の変異株は、トランスポゾンの挿入を含有した(fhuA::IS2、配列番号46)。および第4の変異株は、タンパク質の25アミノ酸領域をごく部分的に欠失した75bpインフレーム欠失を含有した(bp546~620)(fhuA_2、配列番号48)。
【0191】
上記のE.coli変異体は全て、バクテリオファージT5およびT1ファミリーに対して耐性であることを示した(一晩インキュベーション後(実施例1に記載する発酵培地による振とうフラスコ培養)単離細胞は溶解されなかったが、対照株である元のオリゴ糖E.coli産生株は、明らかに溶解された(低いバイオマスおよび高いファージ粒子密度))。
【0192】
これらの変異を有するおよび有しない全ての株を、MTP成長実験および生物発酵プロセスの両方において成長およびHMO産生に関して評価したところ、炭素源としてスクロースおよびグリセロールの両方において、これらの変異を有しない対照株と等しく良好なまたはそれより良好な成績を示した。
【0193】
(実施例6)
Escherichia coliにおける野生型tolCと変異tolCバリアントとを比較する成長および2’FLまたは3FL産生の評価
fhuA遺伝子が、バクテリオファージファミリーT5およびT1による感染に対する耐性を付与するfhuA-2(配列番号48)変異体遺伝子に既に置換されている変異体E.coli K12 MG1655株バックグラウンドの野生型tolC遺伝子を、実施例1に記載する遺伝子置換技術によってTLSバクテリオファージ耐性を付与する33bp重複を有するtolC遺伝子バリアント(tolC_2、配列番号32)に置換した。加えて、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(HpFutC、配列番号36)またはアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ酵素(3FT_A:配列番号38;3FT_B:配列番号40)をコードする遺伝子を有するプラスミドをそれぞれ、2’FLまたは3FLの産生のために、両方の株(野生型と変異tolCとの比較)に導入した。実施例1に提供した培養条件に従って、これらの株について成長実験を実施した。各株を、96ウェルプレートの複数のウェル中で成長させた。図4に示すように、両方の糖の産生は、野生型tolCと33bp重複を有するtolC遺伝子バリアント(tolC_2、配列番号32)を有する株との比較に関して明らかに類似であり、これは、試験した各フコシルトランスフェラーゼに関しても類似であった。TLSバクテリオファージ耐性を付与するこのtolC変異は、株の産生能に明らかに影響を及ぼさない。したがって、T1、T5およびTLSファミリーのバクテリオファージに対する感染に対する耐性を共に付与するfhuAおよびtolCにおける両方の変異のこの組合せは、株の生産能に明らかに影響を及ぼさない。
【0194】
(実施例7)
LNnT産生E.coli株におけるfhuAフレームシフト変異の評価
野生型fhuA遺伝子(「Ref」、配列番号15)またはフレームシフト変異(17bp欠失、bp1657 bp1673、「fhuA-fs」、配列番号44)のいずれかを有する、実施例1に記載される遺伝的バックグラウンドを有するラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)産生株を、実施例1に提供する培養条件に従う成長実験において比較した。各株を96ウェルプレートの複数のウェル中で成長させ、この実験を独立して5回繰り返した。図5および6では、各箱ひげ図は、全体で15個の個々のデータポイント(各3回の生物学的反復を伴う5回の独立した実験)のデータを表す。破線の水平線は、全てのデータポイントを正規化した設定値を示す。
【0195】
図5に示すように、LNnTの産生は、fhuAフレームシフトバリアントと比較して野生型fhuAを有する株に関して類似である。T5およびT1ファミリーのファージに対する耐性を付与するこのfhuA-fs変異は、株の産生能に明らかに影響を及ぼさない。成長速度は、図6に示すように、野生型fhuAまたはfhuAフレームシフトバリアントを有するLNnT株に関して非常に類似である。したがって、T5およびT1ファミリーのファージに対する耐性を付与するこのfhuA-fs変異は、株の成長速度に影響を及ぼさない。
【0196】
(実施例8)
6’SL産生E.coli株におけるfhuA::IS2変異の評価
野生型fhuA遺伝子(「Ref」、配列番号15)またはトランスポゾン挿入(「fhuA::IS2」、配列番号46)のいずれかを有する、実施例1に記載した遺伝的バックグラウンドを有する6’SL産生株を、実施例1に提供する培養条件に従う成長実験において比較した。各株を96ウェルプレートの複数のウェル中で成長させ、この実験を独立して5回繰り返した。図7および8において、各箱ひげ図のデータは、全体で20個の個々のデータポイントのデータを表す(各4回の生物学的反復を伴う5回の独立した実験)。破線の水平線は、全てのデータポイントを正規化した設定値を示す。図7に示され得るように、6’SLの産生は、野生型fhuA遺伝子を有する株と比較してfhuA::IS2変異を有する株ではかなり高い。図8は、最高成長速度が、野生型fhuA遺伝子を有する株と比較してfhuA::IS2変異を有する株ではかなり高いことを示している。
【0197】
(実施例9)
LNnT産生E.coli株における様々な外膜タンパク質のノックアウトの評価
「REF1」と呼ばれる、実施例1に記載される遺伝的バックグラウンドを有するラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)産生株を、外膜タンパク質fadL(配列番号19)、fhuA(配列番号15)、lamB(配列番号13)またはnfrA(配列番号29)をコードする遺伝子の完全な遺伝子ノックアウトを含有するようにさらに操作した。特定の外膜タンパク質ノックアウトに応じて、株は表3に記載されるそれぞれのファージファミリーに対する耐性を獲得する。これらの株を、実施例1に提供した培養条件に従う成長実験において比較した。各株を96ウェルプレートの複数のウェル中で成長させた。
【0198】
図9は、LNnTの産生が、参照株と比較してfadL、fhuA、lamBまたはnfrAがノックアウトされている株ではわずかに高いことを示している。
【0199】
(実施例10)
HMO産生E.coli株における様々な外膜タンパク質のノックアウトの評価
2’FL、3FL、DiFL、LNT、LNnT、3’SLおよび6’SLの産生のための様々な株(実施例1に記載される遺伝的バックグラウンド)をそれぞれ、外膜タンパク質ompF(配列番号5)、fadL(配列番号19)、btuB(配列番号9)、nfrA(配列番号29)、ompA(配列番号1)、lamB(配列番号13)、fepA(配列番号23)、fhuA(配列番号15)、ompC(配列番号3)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、tolC(配列番号11)、tonB(配列番号17)、ompT(配列番号7)、phoE(配列番号27)をコードする遺伝子のいずれか1つのうちの少なくとも1つの完全な遺伝子ノックアウトを含有するように操作する。特定の外膜タンパク質ノックアウトに応じて、株は、表3に記載されるそれぞれのファージファミリーに対する耐性を獲得する。これらの株を、実施例1に提供する培養条件に従う成長実験において、そのそれぞれの参照株と比較する。各株を、96ウェルプレートの複数のウェル中で成長させる。株を、実施例18~22に詳しく記載するように、その適合性(最高成長速度)および様々なHMOのその産生能について評価する。
【0200】
(実施例11)
リン酸化単糖および/または活性化単糖を産生するE.coli株におけるバクテリオファージ耐性
本明細書に記載されるバクテリオファージのある特定のファミリーによる感染に対する耐性を付与する膜タンパク質の変異、例えばompF(配列番号5)、fadL(配列番号19)、btuB(配列番号9)、nfrA(配列番号29)、ompA(配列番号1)、lamB(配列番号13)、fepA(配列番号23)、fhuA(配列番号15)、ompC(配列番号3)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、tolC(配列番号11)、tonB(配列番号17)、ompT(配列番号7)、phoE(配列番号27)のいずれか1つにおける完全または部分的ノックアウト、インフレームまたはアウトオブフレーム変異を、リン酸化単糖および/または活性化単糖を産生するE.coli株に導入する。リン酸化単糖の例としては、非限定的に、グルコース-1-リン酸、グルコース-6-リン酸、グルコース-1,6-ビスリン酸、ガラクトース-1-リン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース-1,6-ビスリン酸、フルクトース-1-リン酸、グルコサミン-1-リン酸、グルコサミン-6-リン酸、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸、マンノース-1-リン酸、マンノース-6-リン酸、またはフコース-1-リン酸が挙げられる。一部の、しかし全てではないこれらのリン酸化単糖は、活性化単糖を産生するための前駆体または中間体である。活性化単糖の例としては、非限定的にGDP-フコース、UDP-グルコース、UDP-ガラクトースおよびUDP-N-アセチルグルコサミンが挙げられる。これらのリン酸化単糖および/または活性化単糖は、例えば、実施例1に記載されるように遺伝子改変の一部を導入することによってE.coliに天然に存在する量より大量に産生され得る。スクロースホスホリラーゼおよびフルクトキナーゼ遺伝子(BaSP 配列番号54、ZmFrk 配列番号53)の活性な発現単位を有するE.coli株は、スクロースを炭素源として成長することができ、WO2012/007481号に記載されるように、(より)大量のグルコース-1Pを産生することができる。遺伝子pgi、pfkAおよびpfkBのノックアウトをさらに含有するそのような株は、スクロースによって成長させる場合、培地中にフルクトース-6-リン酸を蓄積する。あるいは、ホスファターゼ(agp)、グルコース6-リン酸-1-デヒドロゲナーゼ(zwf)、ホスホグルコースイソメラーゼ(pgi)、グルコース-1-リン酸アデニリルトランスフェラーゼ(glgC)、ホスホグルコムターゼ(pgm)をコードする遺伝子をノックアウトすることによって、グルコース-6-リン酸を蓄積する変異体を構築する。
【0201】
あるいは、E.coli由来のL-グルタミン-D-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ(glmS)(配列番号57)の野生型またはバリアントタンパク質のさらなる過剰発現を有する、スクロースホスホリラーゼおよびフルクトキナーゼを含有する株は、より大量のグルコサミン-6P、グルコサミン-1Pおよび/またはUDP-N-アセチルグルコサミンを産生することができる。あるいは、ウンデカプレニル-リン酸グルコースホスホトランスフェラーゼをコードするE.coli遺伝子wcaJをノックアウトすることによって、GDP-フコースのプールが増加する。UDP-グルコースおよび/またはUDP-ガラクトースのプールの増加は、E.coli酵素グルコース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(galU)および/またはUDP-ガラクトース-4-エピメラーゼ(galE)を過剰発現させることによって達成され得る。あるいは、ガラクトキナーゼ(galK)およびガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(例えば、Bifidobacterium bifidumに由来する)をコードする遺伝子を過剰発現させることによって、UDP-ガラクトースの形成が増強され、(a)ホスファターゼ(agp)、UDP-グルコース、ガラクトース-1Pウリジリルトランスフェラーゼ(galT)、UDP-グルコース-4-エピメラーゼ(galE)をコードする遺伝子をさらにノックアウトすることによって、ガラクトース-1-リン酸を蓄積する変異体が構築される。
【0202】
活性化単糖の別の例は、E.coliによって天然に産生されないCMP-シアル酸である。CMP-シアル酸の産生は、例えば3’SLまたは6’SLバックグラウンド株に関して実施例1に記載した遺伝子改変を導入することによって達成することができる(しかし、シアリルトランスフェラーゼ酵素をコードする遺伝子は必ずしも必要はない)。
【0203】
そのような株は、株が、例えば以下の炭素源:スクロース、グルコース、グリセロール、フルクトース、ラクトース、アラビノース、マルトトリオース、ソルビトール、キシロース、ラムノースおよびマンノースのうちの1つまたは複数によって成長する、これらのリン酸化単糖または活性化単糖を産生するための生物発酵プロセスにおいて使用することができる。バクテリオファージの1つまたは複数のファミリーに対する耐性変異をさらに含有するそのような株は、それがバクテリオファージ感染に罹りにくいために、工業規模の発酵において大きい利点を有する。
【0204】
(実施例12)
単糖を産生するE.coli株におけるバクテリオファージ耐性
本明細書に記載されるある特定のバクテリオファージファミリーによる感染に対する耐性を付与する外膜タンパク質における変異、例えばompF(配列番号5)、fadL(配列番号19)、btuB(配列番号9)、nfrA(配列番号29)、ompA(配列番号1)、lamB(配列番号13)、fepA(配列番号23)、fhuA(配列番号15)、ompC(配列番号3)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、tolC(配列番号11)、tonB(配列番号17)、ompT(配列番号7)、phoE(配列番号27)における完全または部分的ノックアウト、インフレームまたはアウトオブフレーム変異を、単糖のためのE.coli産生株に導入することができる。そのような単糖の例は、L-フコースである。E.coliフコース産生株は、例えば実施例1に記載されるように2’FLを産生することができる株から開始して、E.coli遺伝子fucKおよびfucI(L-フコースイソメラーゼおよびL-フクロキナーゼをコードする)をさらにノックアウトしてフコース分解を回避することによって、および1,2-アルファ-L-フコシダーゼ(例えば、Bifidobacterium bifidum由来のafcA(genbank受託番号:AY303700))を発現させて2’FLをフコースおよびラクトースへと分解することによって作製することができる。そのような株は、株をスクロース、グルコースまたはグリセロールによって、およびアルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼのアクセプター基質としての触媒量のラクトースの存在下で成長させる、L-フコースを産生するための生物発酵プロセスにおいて使用することができる。1つまたは複数のバクテリオファージファミリーに対する耐性変異をさらに含有するそのような株は、それがバクテリオファージ感染に罹りにくいために、工業規模の発酵において大きい利点を有する。
【0205】
(実施例13)
二糖を産生するE.coli株におけるバクテリオファージ耐性
本明細書に記載されるある特定のバクテリオファージファミリーによる感染に対する耐性を付与する外膜タンパク質における変異、例えばompF(配列番号5)、fadL(配列番号19)、btuB(配列番号9)、nfrA(配列番号29)、ompA(配列番号1)、lamB(配列番号13)、fepA(配列番号23)、fhuA(配列番号15)、ompC(配列番号3)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、tolC(配列番号11)、tonB(配列番号17)、ompT(配列番号7)、phoE(配列番号27)における完全または部分的ノックアウト、インフレームまたはアウトオブフレーム変異を、二糖を産生することを目的としてE.coli株に導入することができる。そのような二糖の例は、例えばラクトース(ガラクトース-ベータ,1,4-グルコース)である。E.coliラクトース産生株は、例えばWO2015150328号に記載されるように、例えばベータ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有し、ガラクトースを遊離のグルコース単糖上に輸送してラクトースを細胞内で生成することができるタンパク質をコードする少なくとも1つの組換え核酸配列を野生型E.coliに導入することによって作製することができる。そのようなスクロースは、スクロースパーミアーゼを介して宿主細胞に取り込まれるかまたは内在化される。細菌宿主細胞内で、スクロースは、インベルターゼによってフルクトースおよびグルコースへと分解される。フルクトースは、フルクトキナーゼ(例えば、Zymomonas mobilis由来のfrk(配列番号53))によってリン酸化されてフルクトース-6-リン酸となり、次にこれを、内因性E.coli酵素ホスホヘキソースイソメラーゼ(pgi)、ホスホグルコムターゼ(pgm)、グルコース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(galU)およびUDP-ガラクトース-4-エピメラーゼ(galE)によってUDP-ガラクトースへとさらに変換することができる。次に、ベータ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(例えば、Neisseria meningitidis由来のlgtB、配列番号52)は、以下の反応:UDP-ガラクトース+グルコース=>UDP+ラクトースを触媒する。
【0206】
好ましくは、株は、そうでなければラクトースを分解するE.coli lacZ酵素、ベータ-ガラクトシダーゼを発現しないようにさらに改変される。
【0207】
そのような株は、スクロースを唯一の炭素源として成長する、ラクトースを産生するための生物発酵プロセスにおいて使用することができる。1つまたは複数のバクテリオファージファミリーに対する耐性変異をさらに含有するそのような株は、それがバクテリオファージ感染に罹りにくいために、工業規模の発酵において大きい利点を有する。
【0208】
(実施例14)
オリゴ糖を産生し、スクロース以外の炭素源によって成長するE.coli株におけるバクテリオファージ耐性
本明細書に記載されるある特定のバクテリオファージファミリーによる感染に対する耐性を付与する外膜タンパク質における変異、例えばompF(配列番号5)、fadL(配列番号19)、btuB(配列番号9)、nfrA(配列番号29)、ompA(配列番号1)、lamB(配列番号13)、fepA(配列番号23)、fhuA(配列番号15)、ompC(配列番号3)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、tolC(配列番号11)、tonB(配列番号17)、ompT(配列番号7)、phoE(配列番号27)における完全または部分的ノックアウト、インフレームまたはアウトオブフレーム変異を、天然の糖、単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、またはオリゴ糖、例えば非限定的に2’FL、3FL、DiFL、LNT、LNnT、3’SLまたは6’SLを含むヒト母乳オリゴ糖の非天然量または増加量を産生することを目的としてE.coli株に導入することができる。そのようなE.coli HMO産生株は、例えば、実施例1に記載される1つまたは複数の遺伝子改変を導入することによって作製することができる。そのような株は全て、任意のE.coli株に由来し、好ましくは、ラクトース分解を回避するためにlacZ遺伝子のゲノムノックアウトを有する。
【0209】
例えば、2’FL、3FLおよびdiFL産生のために、そのような変異体株は、プラスミドにおいてアルファ-1,2-および/またはアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ発現構築物を含有するように、またはそれらがゲノムに挿入されるようにさらに改変される。
【0210】
別の例では、LNTおよびLNnT産生の場合、lacZノックアウト株を、ガラクトシドベータ-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(例えば、Neisseria meningitidis由来のlgtA、配列番号50)発現構築物およびLNT産生のためのN-アセチルグルコサミンベータ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(例えば、Escherichia coli O55:H7由来のwbgO、配列番号51)、またはLNnT産生のためのN-アセチルグルコサミンベータ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(例えば、Neisseria meningitidis由来のlgtB、配列番号52)のいずれかを含有するようにさらに改変することができる。
【0211】
別の例として、3’SLおよび6’SL産生の場合、lacZノックアウト株は、グルコサミン6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ(例えば、Saccharomyces cerevisiae由来のGNA1、配列番号58)、N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼ(例えば、Bacteroides ovatus由来のBoAGE、配列番号59)、N-アセチルノイラミン酸シンターゼ(例えば、Campylobacter jejuni由来のNeuB、配列番号60)、CMP-Neu5Acシンテターゼ(例えば、Campylobacter jejuni由来のNeuA、配列番号61)、および3’SL産生のためのベータ-ガラクトシドアルファ-2,3-シアリルトランスフェラーゼ(例えば、配列番号55)または6’SL産生のためのベータ-ガラクトシドアルファ-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(例えば、配列番号56)のいずれかを含有するようにさらに改変することができる。
【0212】
上記で例示したこれらの株は、その生産性を改善するために追加の改変をさらに含有することができる。次に、そのような株を、生物発酵プロセスにおいて使用して、所望のオリゴ糖を産生することができ、その後、オリゴ糖を好ましくはブロスから精製する。そのような生物発酵プロセスは、アクセプター基質として培地中にラクトースを必要とし、E.coliが代謝することができる任意の炭素源によって実施することができる。そのような炭素源の例としては、非限定的に、グルコース、アラビノース、マルトトリオース、グリセロール、ソルビトール、キシロース、ラムノース、およびマンノース、またはこれらの炭素源の2つもしくはそれより多くのいずれかの組合せが挙げられる。上記のように1つまたは複数のバクテリオファージファミリーに対する耐性変異をさらに含有するこれらの株は、それらがバクテリオファージ感染に罹りにくいために、工業規模の発酵において大きい利点を有する。
【0213】
(実施例15)
E.coli株におけるバクテリオファージ感染に対する耐性を付与する変異の組合せ
本明細書に記載されるある特定のバクテリオファージファミリーによる感染に対する耐性を付与する外膜タンパク質における変異、例えばompF(配列番号5)、fadL(配列番号19)、btuB(配列番号9)、nfrA(配列番号29)、ompA(配列番号1)、lamB(配列番号13)、fepA(配列番号23)、fhuA(配列番号15)、ompC(配列番号3)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、tolC(配列番号11)、tonB(配列番号17)、ompT(配列番号7)、phoE(配列番号27)における完全または部分的ノックアウト、インフレームまたはアウトオブフレーム変異を、天然の糖、単糖、リン酸化単糖、活性化単糖、またはオリゴ糖、例えば非限定的に2’FL、3FL、DiFL、LNT、LNnT、3’SLまたは6’SLを含むヒト母乳オリゴ糖の非天然量または増加量を産生することを目的として、E.coli株に導入することができる。任意のバクテリオファージ耐性変異を有する株は、それらがバクテリオファージ感染に罹りにくいために工業規模の発酵において利点を有する。加えて、同じまたは異なる外膜タンパク質においてバクテリオファージ耐性を付与するそのような変異の2つまたはそれより多くの組合せが可能である。好ましくは、各変異は、これらの個々の変異の組合せが、バクテリオファージの複数のファミリーに対する耐性を生じるように選択される。加えて好ましくは、各変異は個々に、および変異の任意の組合せは、同じ遺伝的構成を有するが、膜タンパク質コード遺伝子における変異を欠く株と比較して株の生産を増加するかまたは障害しない。HMO産生株において組み合わせることができる2つのそのような変異の例は、例えばTLSファミリーのバクテリオファージに対して耐性を付与するtolC遺伝子(配列番号32)における33bp重複、ならびにT1、T5およびφ80ファミリーのバクテリオファージに対する耐性を付与するfhuAにおける記載の変異のいずれか(完全なノックアウト、配列番号42、44、46または48)である。これらの個々の変異およびその任意の組合せは、株の生産性を増加させるか、または減少させない。単一の産生株と組み合わせると、株は、TLS、T1、T5およびφ80ファミリーの任意のバクテリオファージによる感染に対して耐性である。そのような株は、例えばlamB(配列番号13)および/またはfadL(配列番号19)および/またはnfrA(配列番号29)における追加の変異(例えば、完全または部分的ノックアウト)を含有するようにさらに改変することができる。これらの株は、TLS、T1、T5およびφ80ファミリーのバクテリオファージによる感染に対するその耐性に加えて、ファミリーK10および/またはファミリーIおよび/またはファミリーT2および/またはファミリーN4のバクテリオファージに対する耐性も獲得した。これらの株を、生物発酵プロセスにおいて使用して、列挙された糖のいずれかを産生させることができ、E.coliが代謝することができる任意の炭素源によって実施することができる。そのような炭素源の例としては、非限定的にグルコース、アラビノース、マルトトリオース、グリセロール、ソルビトール、キシロース、ラムノースおよびマンノース、またはこれらの炭素源の2つもしくはそれより多くの任意の組合せが挙げられる。
【0214】
(実施例16)
膜タンパク質ファミリーの同定
膜タンパク質を、eggnogデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6324079/; http://eggnog.embl.de/#/app/home)におけるCOG(Cluster of Orthologous Groups)数に基づいて分類した。eggNOGデータベースは、オルソロジー関連、遺伝子進化歴、および機能的注釈の公共データベースである。COG群の同定は、eggNOG-mapperのスタンドアロンバージョン(https://github.com/eggnogdb/eggnog-mapper)を使用して行うことができる。COG群のそれぞれに関して、HMMモデルをeggNOGウェブサイトからダウンロードし、HMMERパッケージ(http://hmmer.org/)を使用してタンパク質データベースに対するHMM検索のために使用することができる。
【0215】
COG群の同定は、eggNOG-mapperのスタンドアロンバージョン、eggNOG-mapperv1のeggNOGv4.5(http://eggnogdb.embl.de/#/app/home)を使用して行った。
【0216】
本明細書で使用される膜タンパク質のCOG群を表4に列挙する。
【表4】
【0217】
(実施例17)
糖脂質を産生するE.coli株におけるバクテリオファージ耐性
本明細書に記載されるある特定のバクテリオファージファミリーによる感染に対する耐性を付与する外膜タンパク質における変異、例えばompF(配列番号5)、fadL(配列番号19)、btuB(配列番号9)、nfrA(配列番号29)、ompA(配列番号1)、lamB(配列番号13)、fepA(配列番号23)、fhuA(配列番号15)、ompC(配列番号3)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、tolC(配列番号11)、tonB(配列番号17)、ompT(配列番号7)、phoE(配列番号27)における完全または部分的ノックアウト、インフレームまたはアウトオブフレーム変異を、糖脂質のためのE.coli産生株に導入することができる。
【0218】
そのような糖脂質の例は、例えば、1つまたは2つのラムノース残基を含有するラムノリピッド(モノまたはジラムノリピッド)である。モノラムノリピッドの産生は、dTDP-L-ラムノースおよびベータ-ヒドロキシデカン酸前駆体を使用して、Pseudomonas aeruginosaのrhlABオペロンによってコードされる酵素複合体ラムノシルトランスフェラーゼ1(Rt1)によって触媒され得る。このrhlABオペロンのE.coli株における過剰発現、およびdTDP-L-ラムノース利用能を増加させるためのPseudomonas aeruginosa rmlBDACオペロン遺伝子の過剰発現により、C10-C10脂肪酸二量体部分を主に含有するモノラムノリピッド産生が可能となる。これは、富栄養LB培地または炭素源としてグルコースを有する最小培地などの様々な培地中で達成することができる。
【0219】
1つまたは複数のバクテリオファージファミリーに対する耐性変異をさらに含有するそのような株は、それがバクテリオファージ感染に罹りにくいために、工業規模の発酵において大きい利点を有する。
【0220】
(実施例18)
2’FLまたは3FL産生E.coli株における様々な外膜タンパク質のノックアウトの評価
バクテリオファージファミリーT5およびT1による感染に対する耐性を付与するfhuA_2(配列番号48)変異体遺伝子、およびTLSバクテリオファージ耐性を付与する33bp重複を有するtolC遺伝子バリアント(tolC_2、配列番号32)を含有する、実施例1に記載される遺伝的バックグラウンドを有する2’FLまたは3FLの産生のために意図される株を、外膜タンパク質(OMP)ompF(配列番号5)、fadL(配列番号19)、btuB(配列番号9)、nfrA(配列番号29)、lamB(配列番号13)、fepA(配列番号23)、fhuA(配列番号15)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、ompT(配列番号7)またはphoE(配列番号27)をコードする遺伝子の完全な遺伝子ノックアウトを含有するようにさらに操作した。特定の外膜タンパク質ノックアウトに応じて、このように得た変異体株は、表3に記載されるそれぞれのファージファミリーに対する耐性を獲得する。次に、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(HpFutC、配列番号36)またはアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ(3FT_A、配列番号38)をコードする遺伝子を有するプラスミドをそれぞれ、2’FLまたは3FLの産生のために全ての変異体株に添加した。
【0221】
成長実験を、実施例1に提供する培養条件に従ってこれらの株について実施した。各株を96ウェルプレートの複数のウェル中で成長させた。図10および11に示すように、それぞれ2’FLまたは3FLの産生は、さらなる外膜タンパク質ノックアウトを欠く参照株と比較して75%より高いままであったかまたはほぼ同一であった。同様に、試験した全ての外膜タンパク質遺伝子欠失は、変異体株の成長に影響を及ぼさなかったか、またはごくわずかな影響を及ぼしたに過ぎず、参照2’-または3-フコシルラクトース産生株の成長速度の75%より高く100%までの成長速度レベルに達した。これらのさらなるOMPノックアウト(参照株)は、fhuAおよびtolCにおける両方の変異と共に、明らかに株の産生能に影響を及ぼさない。
【0222】
(実施例19)
DiFL産生E.coli株における様々な外膜タンパク質のノックアウトの評価
次のステップでは、fhuA_2(配列番号48)変異体遺伝子および33bp重複を有するtolC遺伝子バリアント(tolC_2、配列番号32)を含有する、実施例1に記載される遺伝的バックグラウンドを有するDiFL産生のために意図される株について別の実験を設定した。この株を、外膜タンパク質(OMP)ompF(配列番号5)、fadL(配列番号19)、btuB(配列番号9)、nfrA(配列番号29)、fepA(配列番号23)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、ompT(配列番号7)またはphoE(配列番号27)をコードする遺伝子の完全な遺伝子ノックアウトを含有するようにさらに操作した。特定の外膜タンパク質ノックアウトに応じて、変異体株は、表3に記載されるそれぞれのファージファミリーに対する耐性を獲得する。次に、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(HpFutC、配列番号36)をコードする遺伝子を有するプラスミド、およびアルファ-1,3-フコシルトランスフェラーゼ(3FT_A、配列番号38)コード遺伝子を有するプラスミドを、DiFL産生のための全ての変異体株に導入した。
【0223】
成長実験を、実施例1に提供する培養条件に従ってこれらの株について実施した。各株を96ウェルプレートの複数のウェル中で成長させた。図12に示すように、DiFLの産生は、さらなる外膜タンパク質ノックアウトを欠く参照株と比較して75%より高いままであったかまたはほぼ同一であった。同様に、試験した全ての外膜タンパク質遺伝子欠失は、変異体株の成長に影響を及ぼさなかったか、またはごくわずかな影響を及ぼしたに過ぎず、参照株の成長速度の75%より高く100%までの成長速度レベルに達した。これらのさらなるOMPノックアウトは、fhuAおよびtolCにおける両方の変異と共に、明らかに株の産生能に影響を及ぼさない。
【0224】
(実施例20)
6’SLまたは3’SL産生E.coli株における様々な外膜タンパク質のノックアウトの評価
実施例1に記載される遺伝的バックグラウンドを有する6’SLまたは3’SL産生のために意図される株を、外膜タンパク質(OMP)ompF(配列番号5)、fadL(配列番号19)、btuB(配列番号9)、nfrA(配列番号29)、lamB(配列番号13)、fepA(配列番号23)、fhuA(配列番号15)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、ompT(配列番号7)、phoE(配列番号27)またはtonB(配列番号17)をコードする遺伝子の完全な遺伝子ノックアウトを含有するようにさらに操作した。特定の外膜タンパク質ノックアウトに応じて、株はこのように、表3に記載されるそれぞれのファージファミリーに対する耐性を獲得する。次に、アルファ-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(PdbST、配列番号56)またはアルファ-2,3-シアリルトランスフェラーゼ(PmultST3、配列番号55)をコードする遺伝子を有するプラスミドをそれぞれ、6’SLまたは3’SLの産生のための全ての変異体株に添加した。
【0225】
成長実験を、実施例1に提供する培養条件に従ってこれらの株について実施した。各株を96ウェルプレートの複数のウェル中で成長させた。図13および14に示すように、それぞれ6’SLまたは3’SLの産生は、さらなる外膜タンパク質ノックアウトを欠く参照株と比較して75%より高いままであったかまたはほぼ同一であった。同様に、試験した全ての外膜タンパク質遺伝子欠失は、変異体株の成長に影響を及ぼさなかったか、またはごくわずかな影響を及ぼしたに過ぎず、参照6’-または3’-シアリルラクトース産生株の成長速度の75%より高く100%までの成長速度レベルに達した。これらのOMPノックアウトは、明らかに株の産生能に影響を及ぼさない。
【0226】
(実施例21)
LNnT産生E.coli株における様々な外膜タンパク質のノックアウトの評価
実施例9に記載される実験に加えて、実施例1に記載される遺伝的バックグラウンドを有する、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)およびその中間体化合物ラクト-N-トリオース(LN3)を産生する変異体株を、外膜タンパク質(OMP)ompF(配列番号5)、btuB(配列番号9)、fepA(配列番号23)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、ompT(配列番号7)またはphoE(配列番号27)をコードする遺伝子の完全な遺伝子ノックアウトを含有するようにさらに操作した。特定の外膜タンパク質ノックアウトに応じて、株は、表3に記載されるそれぞれのファージファミリーに対する耐性を獲得する。
【0227】
成長実験を、実施例1に提供する培養条件に従ってこれらの株について実施した。各株を96ウェルプレートの複数のウェル中で成長させた。図15は、LNnTの産生が、参照株と比較して試験した全ての変異株に関して75%より高いままであったことを示す。そのため、これらの新規OMPノックアウトは株の産生能に影響を及ぼさない。LN3からLNnTへの高い変換率により、この実験ではLN3レベルを測定することができなかった。
【0228】
(実施例22)
LNT産生E.coli株における様々な外膜タンパク質のノックアウトの評価
次の実験では、実施例1に記載される遺伝的バックグラウンドを有するラクト-N-テトラオース(LNT)およびその中間化合物ラクト-N-トリオース(LN3)を産生する変異体株を、外膜タンパク質(OMP)ompF(配列番号5)、nfrA(配列番号29)、lamB(配列番号13)、fepA(配列番号23)、fhuA(配列番号15)、yncD(配列番号25)、tsx(配列番号21)、ompT(配列番号7)、またはphoE(配列番号27)をコードする遺伝子の完全な遺伝子ノックアウトを含有するようにさらに操作した。特定の外膜タンパク質ノックアウトに応じて、株は、表3に記載されるそれぞれのファージファミリーに対する耐性を獲得する。
【0229】
成長実験を、実施例1に提供する培養条件に従ってこれらの株について実施した。各株を96ウェルプレートの複数のウェル中で成長させた。図16は、中間体LN3化合物ならびに最終のLNT生成物の産生が、参照株と比較して試験した全ての変異株に関して75%より高いままであったことを示す。ompTにノックアウトを有する変異体株は、さらに、類似の遺伝子構成を有するがompTノックアウトを欠く参照株と比較して高いLN3産生を示し、LNT産生に及ぼす効果は限定的であった。そのため、これらの新規OMPノックアウトは株の産生能に影響を及ぼさない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
2022551195000001.app
【国際調査報告】