(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-08
(54)【発明の名称】フレグランス組成物香調の決定方法、フレグランス組成物の決定方法および対応するシステム
(51)【国際特許分類】
G16C 20/30 20190101AFI20221201BHJP
【FI】
G16C20/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508839
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(85)【翻訳文提出日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 EP2020077721
(87)【国際公開番号】W WO2021064208
(87)【国際公開日】2021-04-08
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009287
【氏名又は名称】フイルメニツヒ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】Firmenich SA
【住所又は居所原語表記】7,Rue de la Bergere,1242 Satigny,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ベン スミス
(72)【発明者】
【氏名】パトリック プフィスター
(72)【発明者】
【氏名】リリー ウー
(72)【発明者】
【氏名】ヒョ ヨン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ラプス
(72)【発明者】
【氏名】マリア ボリソフスカ
(57)【要約】
組成物香調の決定方法(100)において、コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子を入力するステップ(105)であって、揮発性分子デジタル識別子は芳香性揮発性分子を表し、入力はフォーミュラを定義する、ステップ(105)と、コンピューティングシステムによって、フォーミュラの少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子について、匂い物質受容体デジタル識別子によって表される、各分子が匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を計算するステップ(110)であって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、関連付けは多対多の関連付けである、ステップ(110)と、コンピューティングシステムによって、フォーミュラについて、計算された少なくとも1つの匂い物質受容体活性レベルの影響と匂い物質受容体活性化閾値を表す値との関数として、組成物を形成する少なくとも1つの香調を表す値を決定するステップ(115)であって、各匂い物質受容体デジタル識別子は1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、関連付けは1対1の関連付けである、ステップ(115)とを含む、方法(100)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物香調の決定方法(100)において、以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子を入力するステップ(105)であって、前記揮発性分子デジタル識別子は芳香性揮発性分子を表し、前記入力はフォーミュラを定義する、ステップ(105)と、
- コンピューティングシステムによって、前記フォーミュラの少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子について、匂い物質受容体デジタル識別子によって表される、各前記分子が匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を計算するステップ(110)であって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、前記関連付けは多対多の関連付けである、ステップ(110)と、
- コンピューティングシステムによって、前記フォーミュラについて、計算された少なくとも1つの匂い物質受容体活性レベルの影響と匂い物質受容体活性化閾値を表す値との関数として、組成物を形成する少なくとも1つの香調を表す値を決定するステップ(115)であって、各匂い物質受容体デジタル識別子は1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、前記関連付けは1対1の関連付けである、ステップ(115)と
を含むことを特徴とする、方法(100)。
【請求項2】
前記計算するステップ(110)の下流に、コンピューティングシステムによって、少なくとも1つの匂い物質受容体について、計算された活性レベルに及ぼす少なくとも1つの影響の関数として、総活性レベルを計算するステップ(120)を含む、請求項1記載の方法(100)。
【請求項3】
以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、前記組成物の香りの香調を表す値を変更するステップ(125)と、
- コンピューティングシステムによって、少なくとも1つの匂い物質受容体の総活性レベルの変更を計算するステップ(130)と、
- コンピューティングシステムによって、計算された総活性レベル変更に等しい総活性レベル影響値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子のセットを決定するステップ(135)と、
- 前記セットをコンピュータインターフェースに供給するステップ(140)と
を含む、請求項1または2記載の方法(100)。
【請求項4】
各香調が香調デジタル識別子に関連付けられ、前記方法は、前記組成物の前記香調デジタル識別子を少なくとも1つの所定の香調デジタル識別子のセットと比較した結果の関数として自動的に香調を選択するステップ(145)を含み、前記組成物の前記選択された香調識別子の香りを表す値を変更するステップ(125)は、前記選択された香調識別子の値を、減少させた値、好ましくはゼロにするように構成される、請求項3記載の方法(100)。
【請求項5】
揮発性分子デジタル識別子によって表される、分子が匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す前記値が、
- 前記匂い物質受容体の活性化、
- 前記匂い物質受容体の不活性化、
- 前記匂い物質受容体の増強および/または
- 前記匂い物質受容体の阻害
を表す、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法(100)。
【請求項6】
前記決定するステップ(135)が、前記変更するステップ(125)の間に変更された香調に関連する匂い物質受容体の活性に及ぼす影響を表す値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子を提供するように構成され、前記影響は前記匂い物質受容体の増強または前記匂い物質受容体の阻害のいずれかに対応する、請求項5および請求項3または4記載の方法(100)。
【請求項7】
以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、前記フォーミュラの揮発性分子デジタル識別子を選択するステップ(150)と、
- コンピューティングシステムによって、前記選択された揮発性分子デジタル識別子の前記匂い物質受容体上の活性レベルに及ぼす影響を表す値に等しい匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子のセットを決定するステップ(155)と、
- 前記セットをコンピュータインターフェースに供給するステップ(140)と
を含む、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法(100)。
【請求項8】
以下のステップ:
- 前記フォーミュラの少なくとも2つの揮発性分子デジタル識別子を選択するステップ(160)であって、少なくとも2つの前記揮発性分子は、「標的受容体」と呼ばれる少なくとも2つの異なった匂い物質受容体の活性化に関連付けられる、ステップ(160)と、
- 前記選択された揮発性分子デジタル識別子の前記匂い物質受容体上の活性レベルに及ぼす影響を表す値に等しい各標的受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する1つの揮発性分子デジタル識別子を決定するステップ(165)と、
- 前記決定された揮発性分子デジタル識別子をコンピュータインターフェースに供給するステップ(140)と
を含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法(100)。
【請求項9】
決定するステップ(135,155,165)のいずれかの下流に、少なくとも1つの前記揮発性分子デジタル識別子に対する量を推定するステップ(170)を含み、前記量は、供給する下流のステップ(140)で使用される、請求項3から8までのいずれか1項記載の方法(100)。
【請求項10】
コンピューティングシステムによって、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の少なくともセットを決定するステップ(135,155)が、以下の規則:
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、揮発性分子デジタル識別子の最小数を提示するように構成される、第1の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、対応する揮発性分子デジタル識別子の最小総量指標を提示するように構成される、第2の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、悪影響を及ぼす揮発性分子デジタル識別子の最小数を提示するように構成される、第3の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子が揮発性分子送達能力指標に関連付けられる第4の規則であって、前記規則は少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットを、セット内の揮発性分子デジタル識別子に対する前記揮発性分子送達能力指標の関数として、適合させるように構成される、第4の規則、
- 少なくとも2つの揮発性分子デジタル識別子のセットが、前記分子のセットによって活性化される匂い物質受容体の重複を最小化するように構成される、第5の規則、
- 少なくとも2つの揮発性分子デジタル識別子のセットが、前記分子のセットによって活性化される前記匂い物質受容体の変調を最小化するように構成される、第6の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、所定の望ましくない嗅覚香調に関連付けられる匂い物質受容体の負の変調または阻害を最大化するように構成される、第7の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、所定の所望の嗅覚香調に関連付けられる匂い物質受容体の正の変調または増強を最大化するように構成される、第8の規則および/または
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、少なくとも1つのコスト関数を最小化または最大化するように構成され、各揮発性分子はコストを表す少なくとも1つの値に関連付けられる、第9の規則
のうちの少なくとも1つである最適化則を実行する、請求項3から9までのいずれか1項記載の方法(100)。
【請求項11】
コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの入力揮発性分子の量を入力するステップ(175)を含み、前記量は、コンピューティングシステムによって、前記フォーミュラの少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子について、匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を計算するステップ(110)に使用される、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法(100)。
【請求項12】
少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子が揮発性分子送達能力指標に関連付けられ、計算するステップ(110)、決定するステップ(135,155,165)のうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの入力揮発性分子デジタル識別子に関連付けられた前記揮発性分子送達能力指標の関数として実施される、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法(100)。
【請求項13】
前記揮発性分子送達能力指標が、前記関連する揮発性分子が配置されている基材を表すものである、請求項12記載の方法(100)。
【請求項14】
フォーミュラ決定の方法(200)において、以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの香調デジタル識別子について、決定すべきフォーミュラに由来する組成物の香調を表す値を入力するステップ(205)と、
- コンピューティングシステムによって、前記決定すべきフォーミュラについて、前記組成物の少なくとも1つの香調を表す少なくとも1つの値の関数として、匂い物質受容体を表す少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子に対する匂い物質受容体活性レベルの値を決定するステップ(210)であって、各匂い物質受容体デジタル識別子は少なくとも1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、前記関連付けは1対1の関連付けである、ステップ(210)と、
- 前記匂い物質受容体上の活性レベルを表す決定値に等しい前記匂い物質受容体デジタル識別子の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の少なくともセットによって表されるフォーミュラを決定するステップ(215)であって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、前記関連付けは多対多の関連付けである、ステップ(215)と
を含むことを特徴とする、方法(200)。
【請求項15】
組成物香調決定のシステム(300)において、以下の手段:
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子を入力する手段(305)であって、前記揮発性分子デジタル識別子は芳香性揮発性分子を表し、前記入力はフォーミュラを定義する、手段(305)と、
- 前記フォーミュラの少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子について、匂い物質受容体デジタル識別子によって表される、各前記分子の活性レベルが匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を計算する手段(310)であって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、前記関連付けは多対多の関連付けである、手段(310)と、
- 前記組成物について、計算された少なくとも1つの匂い物質受容体活性レベルの影響と匂い物質受容体活性化閾値を表す値との関数として、組成物を形成する少なくとも1つの香調を表す値を決定する手段(315)であって、各匂い物質受容体デジタル識別子は1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、前記関連付けは1対1の関連付けである、手段(315)と
を備えることを特徴とする、システム(300)。
【請求項16】
フォーミュラ決定のシステム(400)において、以下の手段:
- コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの香調デジタル識別子について、決定すべきフォーミュラに由来する組成物の香調を表す値を入力する手段(405)と、
- コンピューティングシステムによって、前記決定すべきフォーミュラについて、前記組成物の少なくとも1つの香調を表す少なくとも1つの値の関数として、匂い物質受容体を表す少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子に対する匂い物質受容体活性レベルの値を決定する手段(410)であって、各匂い物質受容体デジタル識別子は1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、前記関連付けは1対1の関連付けである、手段(410)と、
- 前記匂い物質受容体上の活性レベルを表す決定値に等しい前記匂い物質受容体デジタル識別子の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の少なくともセットによって表されるフォーミュラを決定する手段(415)であって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、前記関連付けは多対多の関連付けである、手段(415)と
を備えることを特徴とする、システム(400)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレグランス組成物香調(fragrance composition tonality)の決定方法、フレグランス組成物の決定方法、フレグランス組成物香調の決定システムおよびフレグランス組成物の決定システムに関する。特に、フレグランス設計と嗅覚測定、香料、ファインフレグランスパフューマーとフレーバー設計の分野に適用される。本発明はまた、他の組成物の知覚可能な特定の香調を増強するかまたは減少させることを目的とする無臭または非香料組成物にも適用される。
【0002】
発明の背景
1991年に匂い物質受容体が初めて同定されて以来、嗅覚、そして人間が揮発性化学物質をどのように知覚するかについての理解を深めるために多くのことが行われてきた。人間の嗅覚系の末梢では、鼻腔を覆う主な嗅上皮に数百万の嗅覚ニューロン(OSN)が存在し、それぞれが約400の無傷の匂い物質(Olfactory)受容体(OR)遺伝子のファミリーから単一のメンバーを発現している。各ORは、いくつかの揮発性化合物によって活性化され得るが、逆に、単一の揮発性化合物がいくつかのORを活性化することもある。この結果、各揮発性化学物質およびその混合物の組み合わせOSN活性化コードが生じる。各受容体はOSNにおいて単一遺伝子性および単一対立遺伝性の様式で確率的に発現され、ゲノムに存在する各OR対立遺伝子に対して1つのOSNタイプが生じる。各ORの遺伝子選択の頻度に依存して、各OSNタイプに特化したOSN集団のサブセットは異なる。このOSNタイプのサブ集団はそれぞれ、任意の所与の時点で接触している揮発性化合物の分子的同一性、または同一性、および濃度に関する情報の個別のチャネルを提供する。各OSNタイプの各OSNに誘導される活性のレベルは、そのORが受容性である揮発性化合物の濃度に従って、また、各OR-化合物対に関連する結合および活性化パラメータに従って異なる。さらに、一部のOR-リガンド対はOSN活性を誘導または増強するが、他のものはOSN活性を減少させるかまたは防止する。これは、化合物がORと結合する場合は競合的に、複数の化合物が同時にORと結合し得る場合は非競合的に起こり得る。これらの約400の入力チャネル(すなわち、末梢嗅覚系)の、結果得られる組み合わせ論理は、後続の下流神経ネットワークによって変換され、我々に嗅覚をもたらす。
【0003】
フレグランス&フレーバー(F&F)業界では、新しい成分、新規の香料およびフレーバー用途、改善された感覚体験、より安定で生分解性で非毒性の化合物が常に探し求められている。
【0004】
匂い物質またはアロマ分子は、いくつかの嗅覚受容体(OR)と相互作用することがあるため、その化学構造のみに基づいて揮発性化合物の香調を推測することは困難な場合が多い。逆に、各ORは、異なる化学構造を持ついくつかの匂い物質やアロマ分子と相互作用し、異なる香調のセットを誘発することがあるため、ORによってコード化された情報の性質を推測することは困難な場合が多かった。
【0005】
OR活性化に基づいて、所与の化合物または組成物の少なくとも1つの嗅覚香調を予測し、F&F業界に関連する新しい香料およびフレーバー成分の発見を促進する必要性が依然としてある。
【0006】
発明の概要
本発明は、これらの欠点の全部または一部を改善することを意図している。
【0007】
この趣旨で、第1の態様によれば、本発明は、組成物香調の決定方法を目的とし、当該方法は、以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子を入力するステップであって、上記揮発性分子デジタル識別子は芳香性揮発性分子を表し、上記入力はフォーミュラ(formula)を定義する、ステップと、
- コンピューティングシステムによって、フォーミュラの少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子について、匂い物質受容体デジタル識別子によって表される、各上記分子が匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を計算するステップであって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは多対多の関連付けである、ステップと、
- コンピューティングシステムによって、フォーミュラについて、計算された少なくとも1つの匂い物質受容体活性レベルの影響と匂い物質受容体活性化閾値を表す値との関数として、組成物を形成する少なくとも1つの香調を表す値を決定するステップであって、各匂い物質受容体デジタル識別子は1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは1対1の関連付けである、ステップと
を含む。
【0008】
かかる規定により、動的に入力される組成物の香調を自動的に予測することが可能になる。かかる予測により、より効率的で生産性の高いフレグランスおよびフレーバーの設計サイクルが可能になる。
【0009】
特定の実施形態では、本発明の方法の主題は、計算するステップの下流に、コンピューティングシステムによって、少なくとも1つの匂い物質受容体について、計算された活性レベルに及ぼす少なくとも1つの影響の関数として、総活性レベルを計算するステップを含む。
【0010】
かかる規定により、分子ごとのアプローチとは対照的に、所与の組成物の香調の知覚可能性に及ぼす全体的な影響を予測することが可能になる。
【0011】
特定の実施形態では、本発明の方法の主題は、以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、組成物の香りの香調(fragrance tonality)を表す値を変更するステップと、
- コンピューティングシステムによって、少なくとも1つの匂い物質受容体の総活性レベルの変更を計算するステップと、
- コンピューティングシステムによって、計算された総活性レベル変更に等しい総活性レベル影響値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子のセットを決定するステップと、
- 上記セットをコンピュータインターフェースに供給するステップと
を含む。
【0012】
かかる規定により、少なくとも1つの香調の目標組成に到達するように、新しい分子をフォーミュラにはめ込むことによって、または入力分子をフォーミュラから除去することによって、フォーミュラを自動的に変更することが可能になる。
【0013】
特定の実施形態では、各香調は香調デジタル識別子に関連付けられ、上記方法は、組成物の香調デジタル識別子を少なくとも1つの所定の香調デジタル識別子のセットと比較した結果の関数として自動的に香調を選択するステップを含み、組成物の上記選択された香調識別子の香りを表す値を変更するステップは、上記選択された香調識別子の値を、減少させた値、好ましくはゼロにするように構成される。
【0014】
かかる規定により、不快または不要と見なされた香調を自動的に除去することが可能になる。
【0015】
特定の実施形態では、揮発性分子デジタル識別子によって表される、分子が匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値は、
- 上記匂い物質受容体の活性化、
- 上記匂い物質受容体の不活性化、
- 上記匂い物質受容体の増強および/または
- 上記匂い物質受容体の阻害
を表す。
【0016】
かかる実施形態により、揮発性分子が匂い物質受容体に及ぼし得る影響のタイプを正確に定義することが可能になる。
【0017】
特定の実施形態では、決定するステップは、変更するステップの間に変更された香調に関連する匂い物質受容体の活性に及ぼす影響を表す値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子を提供するように構成され、上記影響は上記匂い物質受容体の増強または上記匂い物質受容体の阻害のいずれかに対応する。
【0018】
かかる香調変更子は、香料用途の文脈に関連している。例えば、悪臭受容体の活性を低減する揮発性分子をフォーミュラに追加すると、周囲の悪臭の知覚が減少することになる(トイレ、猫砂、デオドラント、ランドリーなどに適用される)。同様に、より速い放出動態を有するエンハンサー(例えば、トップノート)を用いて受容体の活性を増強することにより、通常起こるよりも早い段階のフレグランス体験においてベースノート香調を選択的に高めることが可能になり得る。特定の実施形態では、本発明の方法の主題は、以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、フォーミュラの揮発性分子デジタル識別子を選択するステップと、
- コンピューティングシステムによって、選択された揮発性分子デジタル識別子の上記匂い物質受容体上の活性レベルに及ぼす影響を表す値に等しい匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の少なくともセットを決定するステップと、
- 上記セットをコンピュータインターフェースに供給するステップと
を含む。
【0019】
かかる規定により、フォーミュラを再定式化するために使用され得る置換分子を自動的に決定することが可能になる。かかる置換分子は、最初に入力された分子よりも、環境またはコストへの影響がより優れている場合がある。
【0020】
特定の実施形態では、本発明の方法の主題は、以下のステップ:
- フォーミュラの少なくとも2つの揮発性分子デジタル識別子を選択するステップであって、少なくとも2つの上記揮発性分子は、「標的受容体」と呼ばれる少なくとも2つの異なった匂い物質受容体の活性化に関連付けられる、ステップと、
- 選択された揮発性分子デジタル識別子の上記匂い物質受容体上の活性レベルに及ぼす影響を表す値に等しい各標的受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する1つの揮発性分子デジタル識別子を決定するステップと、
- 決定された揮発性分子デジタル識別子をコンピュータインターフェースに供給するステップと
を含む。
【0021】
かかる規定により、いくつかの分子を単一の分子に置き換えることが可能になり、設計中のフォーミュラを最適化することが可能になる。
【0022】
特定の実施形態では、本発明の方法の主題は、決定するステップのいずれかの下流に、少なくとも1つの上記揮発性分子デジタル識別子に対する量を推定するステップを含み、上記量は、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子のセットを供給する下流のステップで使用される。
【0023】
かかる規定により、フォーミュラから追加/除去される分子と、かかる分子の追加/除去される量との両方を予測することが可能になる。
【0024】
特定の実施形態では、コンピューティングシステムによって、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の少なくともセットを決定するステップは、以下の規則:
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、揮発性分子デジタル識別子の最小数を提示するように構成される、第1の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、対応する揮発性分子デジタル識別子の最小総量指標を提示するように構成される、第2の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、悪影響を及ぼす揮発性分子デジタル識別子の最小数を提示するように構成される、第3の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子が揮発性分子送達能力指標に関連付けられる第4の規則であって、上記規則は少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットを、セット内の揮発性分子デジタル識別子に対する上記揮発性分子送達能力指標の関数として、適合させるように構成される、第4の規則、
- 少なくとも2つの揮発性分子デジタル識別子のセットが、上記分子のセットによって活性化される匂い物質受容体の重複を最小化するように構成される、第5の規則、
- 少なくとも2つの揮発性分子デジタル識別子のセットが、上記分子のセットによって活性化される匂い物質受容体の変調を最小化するように構成される、第6の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、所定の望ましくない嗅覚香調に関連付けられる匂い物質受容体の負の変調または阻害を最大化するように構成される、第7の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、所定の所望の嗅覚香調に関連付けられる匂い物質受容体の正の変調または増強を最大化するように構成される、第8の規則および/または
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、少なくとも1つのコスト関数を最小化または最大化するように構成され、各揮発性分子はコストを表す少なくとも1つの値に関連付けられる、第9の規則
のうちの少なくとも1つである最適化則を実行する。
【0025】
かかる実施形態により、所定の最適化の規則に従って、フォーミュラを最適化することが可能になる。
【0026】
特定の実施形態では、本発明の方法の主題は、コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの入力揮発性分子の量を入力するステップを含み、上記量は、コンピューティングシステムによって、フォーミュラの少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子について、匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を計算するステップで使用される。
【0027】
かかる実施形態は、香調予測のパラメータとして量を考慮することを可能にする。
【0028】
特定の実施形態では、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子が揮発性分子送達能力指標と関連付けられ、計算するステップまたは決定するステップのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの入力揮発性分子デジタル識別子に関連付けられた揮発性分子送達能力指標の関数として実施される。
【0029】
かかる実施形態により、入力フォーミュラに由来する組成物における香調をより正確に決定すること、または逆に、入力香調の関数としてフォーミュラ中の揮発性分子を正確に決定することが可能になる。
【0030】
特定の実施形態では、揮発性分子送達能力指標は、関連する揮発性分子が配置されている基材を表すものである。
【0031】
第2の態様では、本発明は、フォーミュラ決定方法を目的とし、当該方法は、以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの香調デジタル識別子について、決定すべきフォーミュラに由来する組成物の香調を表す値を入力するステップと、
- コンピューティングシステムによって、決定すべきフォーミュラについて、上記組成物の少なくとも1つの香調を表す少なくとも1つの値の関数として、匂い物質受容体を表す少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子に対する匂い物質受容体活性レベルの値を決定するステップであって、各匂い物質受容体デジタル識別子は1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは1対1の関連付けである、ステップと、
- 上記匂い物質受容体上の活性レベルを表す決定値に等しい上記匂い物質受容体デジタル識別子の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の少なくともセットによって表されるフォーミュラを決定するステップであって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは多対多の関連付けである、ステップと
を含む。
【0032】
揮発性分子デジタル識別子と匂い物質受容体デジタル識別子との間の関係は、特定の実施形態では、1対多または多対1であってもよい。
【0033】
かかる規定により、到達すべき香調をユーザが決定し、次いで、上記目標香調の結果としてフォーミュラが推論される、フォーミュラの逆設計が可能になる。
【0034】
第3の態様では、本発明は、組成物香調の決定システムを目的とし、当該決定システムは、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子を入力する手段であって、上記揮発性分子デジタル識別子は芳香性揮発性分子を表し、上記入力はフォーミュラを定義する、手段と、
- フォーミュラの少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子について、匂い物質受容体デジタル識別子によって表される、各上記分子が匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を計算する手段であって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは多対多の関連付けである、手段と、
- 組成物について、計算された少なくとも1つの匂い物質受容体活性レベルの影響と匂い物質受容体活性化閾値を表す値との関数として、組成物を形成する少なくとも1つの香調を表す値を決定する手段であって、各匂い物質受容体デジタル識別子は少なくとも1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは1対1の関連付けである、手段と
を備える。
【0035】
かかるシステムは、対応する方法と同じ利点を提供する。
【0036】
第4の態様では、本発明は、フォーミュラ決定システムを目的とし、当該システムは、以下の手段:
- コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの香調デジタル識別子について、決定すべきフォーミュラに由来する組成物の香調を表す値を入力する手段と、
- コンピューティングシステムによって、決定すべきフォーミュラについて、上記組成物の少なくとも1つの香調を表す少なくとも1つの値の関数として、匂い物質受容体を表す少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子に対する匂い物質受容体活性レベルの値を決定する手段であって、各匂い物質受容体デジタル識別子は1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは1対1の関連付けである、手段と、
- 上記匂い物質受容体上の活性レベルを表す決定値に等しい上記匂い物質受容体デジタル識別子の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の少なくともセットによって表されるフォーミュラを決定する手段であって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは多対多の関連付けである、手段と
を備える。
【0037】
かかるシステムは、対応する方法と同じ利点を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明の他の利点、目的および特定の特徴は、この発明の主題である少なくとも1つの特定の方法またはシステムの以下の非網羅的な説明から、ここに添付された図面に関連して明らかになるものとする。
【
図1】本発明の方法の主題の第1の特定の一連のステップを概略的に示す図である。
【
図2】本発明の方法の主題の第2の特定の一連のステップを概略的に示す図である。
【
図3】本発明のシステムの主題の第1の特定の実施形態を概略的に示す図である。
【
図4】本発明のシステムの主題の第2の特定の実施形態を概略的に示す図である。
【
図5】ORD1、OR8B3およびOR5AU1を活性化する成分の4つの香料アコード(A、B、CおよびD)の含有量と、それぞれの組成比の一例を示す図である。
【
図6】OR8D1、OR8B3およびOR5AU1を活性化する成分の活性レベルをパーセントで示す図である。
【
図7】アコードAおよびBの検証により誘導された匂い物質受容体活性を、決定されたモデルとインビトロ対照実験との比較によって示す図である。
【
図8】セロリ調に対する香料評価とモデルからの感覚予測との一致を示す図である。
【
図9】アコードA、CおよびDの検証により誘導された匂い物質受容体活性を、モデルとインビトロ対照実験との比較によって示す図である。
【
図10】ヘイ調に対する香料評価とモデルからの感覚予測との一致を示す図である。
【
図11】ココナッツ調に対する香料評価とモデルからの感覚予測との一致を示す図である。
【0039】
発明の詳細な説明
一実施形態の各特徴は、他の任意の実施形態の他の任意の特徴と有利な方法で組み合わせることができるため、この説明は網羅的ではない。
【0040】
この時点で、図は縮尺どおりでないことに留意されたい。
【0041】
米国特許出願第62/911,096号明細書の内容が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「揮発性分子」という用語は、好ましくは香味または香りの能力を提示する、任意の分子を指す。「化合物」または「成分」という用語は、「揮発性分子」と同じ項目を指す。
【0043】
「フォーミュラ」という用語は、少なくとも1つの揮発性分子の液体、固体または気体の集合体を指す。
【0044】
「組成物」という用語は、フォーミュラの嗅覚知覚を意味する。組成物は、少なくとも1つの香調の知覚可能性によって定義される。
【0045】
本明細書で使用される場合、「嗅覚香調」または「香調」とは、ORの活性化によって開始される揮発性分子の感覚刺激特性を意味し、この活性は嗅球を経由して中枢神経系によって処理され、対象に特定の体験をもたらす。上記体験は、多くの場合、嗅覚体験が関連付けられる日常の物体を参照して、対象が言語的に説明することができる性質のものである。香調の特異性をキャプチャするには、通常、追加の変更子が必要とされる。特徴的な「におい」を持つ日常の物体は、調香師などの訓練を受けた専門家によって評価されたときに、通常、複数の分離可能な香調の体験を誘発する。単一の香調の体験は、対象において活性化された特定のORに完全に依存しており、そのため単一のORが単一の香調の知覚を生成し、日常の物体によってもたされる多数の香調は、それらが発する揮発性分子のセットによって活性化されたORのセットによって決定される。このメカニズムは多くの重要な点で異なるが、嗅覚香調の知覚は、一度に複数の音が演奏されても識別可能である、聴覚システムを介した単一の識別可能な音符の知覚に類似していると見なすことができる。同様に、同じ音符でもさまざまな形(嬰ヘ音記号、変ト音記号など)で記述され得るように、同じ嗅覚香調もさまざまな形で記述され得る。
【0046】
嗅覚香調の非限定的な例としては、アーシー、ココナッツ、セロリ、ヘイなどが挙げられる。(米国特許出願第62/911,096号明細書の実施例1を参照)。例えば、OR11A1アゴニストはすべて、異なった香調の全体的なセットを誘発するにもかかわらず、共通のアーシー調を共有している(米国特許出願第62/911,096号明細書の実施例2を参照)。揮発性分子は2つ以上の香調を有していることがある。例えば、ベータイオノンは、OR5A1およびOR7A17の活性化により、それぞれバイオレットおよびブロンドウッディ調を有している(米国特許出願第62/911,096号明細書の実施例3を参照)。
【0047】
本明細書で使用される場合、「香り」とは、少なくとも1つの揮発性分子による匂い物質受容体の活性化、増強および阻害(存在する場合)の合計から生じる嗅覚知覚を意味する。したがって、例示であって、決して本開示の範囲を限定することを意図するものではないが、「香り」とは、ココナッツ調に関連するORを活性化する第1の揮発性分子、セロリ調に関連するORを活性化する第2の揮発性分子、およびヘイ調に関連するORを阻害する第3の揮発性分子の合計から生じる嗅覚知覚に起因するものである。
【0048】
本発明者らは、1つのORの活性化が1対1の関係で1つの香調の知覚可能性をトリガし、その結果、少なくとも1つの香調の集合体である組成物が、関連する活性化レベルを潜在的に有する、対応する活性化ORのセットによってコード化され得ることを見出した。
【0049】
本明細書で使用される場合、「ノート」または「嗅覚ノート」または「香料ノート」とは、香調カテゴリーを同定するものである。例えば、フローラルノートは、ミュゲおよびバイオレット調を含む。
【0050】
「OR」または「嗅覚受容体」または「匂い物質受容体」という用語は、嗅覚細胞に発現されるGタンパク質共役型受容体(GPCR)のファミリーの1つまたは複数のメンバーを意味する。また、OSN(嗅覚ニューロン)は、形態に基づいて、または嗅覚細胞で特異的に発現されるタンパク質の発現によって同定することができる。ORファミリーのメンバーは、嗅覚シグナル伝達のための受容体として作用する能力を有していることがある。
【0051】
「ORのアゴニスト」または「アゴニスト化合物」とは、ORに結合し、ORを活性化し、嗅覚受容体伝達カスケードを誘導する揮発性化合物またはリガンドを意味する。
【0052】
「ORのアンタゴニスト」または「アンタゴニスト化合物」とは、ORに結合し、アゴニストの存在下で嗅覚受容体の測定された活性を減少させる揮発性化合物またはリガンドを意味する
「エンハンサー」とは、ORに結合し、エンハンサーの非存在下でアゴニスト化合物に曝露された受容体の活性と比較した場合に、アゴニスト化合物に曝露された嗅覚受容体伝達カスケードを介して受容体の活性を増強する化合物またはリガンドを意味する。一態様では、アゴニストでない化合物は、アゴニスト化合物が結合する部位とは異なる受容体上の部位に結合する。
【0053】
「効力」とは、所定の活性レベルを生成するのに必要な量または濃度に関して、アゴニスト(匂い物質)の結合によって誘導される受容体の活性の尺度を意味する。これは、異なるアゴニスト濃度に対する受容体の感度を示し、多くの場合、EC50(受容体活性の半値を達成するために必要なアゴニスト濃度)を計算することによって評価される。
【0054】
「有効性」とは、ORが所与のアゴニストに応答する活性レベルの尺度を意味し、構成的な活性(アゴニストの非存在下でのベースライン)とアゴニスト誘導活性との間の活性化スパンを測定することによって得られる。
【0055】
匂い物質受容体の「受容野」または「分子受容範囲」とは、受容体を活性化する揮発性化合物の範囲を意味する。これは、受容体に結合し、細胞内で伝達カスケードをトリガし、嗅覚ニューロンを介して化学刺激を脳に伝達することができる異なった揮発性化合物のセットを表す。
【0056】
「OR」または「匂い物質受容体」または「嗅覚受容体」ポリペプチドは、約1kb長の単一のエキソンによってコード化される7回膜貫通型ドメインGタンパク質共役型受容体スーパーファミリーに属し、特徴的な嗅覚受容体特異的アミノ酸モチーフを示す場合、そのようなものとして見なされる。7つのドメインは、3つの「細胞内ループ」または「IC」ドメインIC I~IC III、および3つの「細胞外ループ」または「EC」ドメインEC I~EC IIIによって接続された「膜貫通」または「TM」ドメインTM I~TM VIIと呼ばれる。モチーフおよびそのバリアントは、TM IIIおよびIC IIと重複するMAYDRYVAICモチーフ(配列番号7)、IC IIIおよびTM VIと重複するFSTCSSHモチーフ(配列番号8)、TM VIIにおけるPMLNPFIYモチーフ(配列番号9)だけでなくEC IIにおける3つの保存C残基、ならびにTM Iにおける高度保存GN残基の存在として定義されるが、これらに限定されない[Zhang, X. & Firestein, S. Nat. Neurosci. 5, 124 - 133 (2002); Malnic, B., et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 101, 2584 - 2589 (2004)]。
【0057】
「送達能力」とは、フォーミュラ中の揮発性分子の量を、対象の鼻の嗅覚受容体に送達される量に変換する因子を指す。
【0058】
本発明の文脈では、2つの重要な関係が確立されることを理解されたい:
- 揮発性分子をORの活性化に関連付ける第1の関係および
- ORの活性化を特定の香調に関連付ける第2の関係。
【0059】
特に、所与の揮発性分子がいくつかのORと相互作用することがあり、1つのORがいくつかの揮発性分子と相互作用することがある。しかしながら、1つのORの活性は、1つの所与のORの活性によってトリガされる1つの知覚された香調に対応することがある。いくつかの香調を示す単一の化合物の知覚は、上記香調をコード化するいくつかのORの活性化に起因している。この「1対1」の関係は、発見するのが容易ではなく、フォーミュラおよびフレグランスの設計に大きな影響を与える。実際、揮発性分子と香調の関係のみが知られているシステムでは、一方では分子とOR、他方ではORと香調の間の相互作用の中間層に関する知識が不足しているため、揮発性分子の組み合わせの香調を正確に予測または推定することは不可能である。
【0060】
第1の関係は、揮発性分子のサンプルを、単離されたORと接触させ、各上記ORの活性を監視することによって得ることができる。かかる実験の結果は、実際の揮発性分子を表す揮発性分子デジタル識別子と、実験中に監視されたORに及ぼす上記揮発性分子の影響とを相互参照するデータベース内に記憶することができる。
【0061】
かかる方法では、ORの機能が損なわれない限り、本明細書に記載される方法またはアッセイにおいて任意の形態で使用することができる。例えば、生体から単離された嗅覚ニューロンおよびその培養物など、ORを内在的に発現する組織または細胞、ORを担持する嗅覚細胞膜、ORを発現するように遺伝子改変された組み換え細胞およびその培養物、組み換え細胞の膜、ならびにORを担持する人工脂質二重層膜を使用することができる。
【0062】
嗅覚受容体の活性を監視するための指標としては、例えば、蛍光カルシウム指示色素、カルシウム指示タンパク質(例えば、遺伝的にコード化されたカルシウム指標であるGCaMP)、蛍光cAMP指標、細胞動員アッセイ、細胞動的質量再分布アッセイ、ラベルフリー細胞ベースアッセイ、cAMP応答エレメント(CRE)媒介レポータータンパク質、生化学cAMP HTRFアッセイ、β-アレスチンアッセイ、または電気生理学的記録が挙げられる。特定の実施形態では、嗅覚ニューロンの膜上で発現される嗅覚受容体の活性を監視するために使用することができるカルシウム指示色素が選択される(例えば、Fura-2 AM)。分子を順次スクリーニングしてもよく、カルシウム色素蛍光における匂い物質に依存する変化は、蛍光顕微鏡または蛍光活性化セルソーター(FACS)を使用して測定される。
【0063】
かかる方法により、OR活性化プロファイルに基づいて、化学的および感覚刺激的に多様な揮発性化合物間の嗅覚知覚における共通点を同定することができる。特定の理論に限定されることを意図するものではないが、OR活性化プロファイルは、物理化学的な類似性のみと比較して、所与の揮発性化合物の嗅覚香調のより良好な予測因子を表す。特定の理論に限定されることを意図するものではないが、物理化学的な類似性は、嗅覚の類似性を部分的にしか予測できないことがある。
【0064】
一例として、マイクロマニピュレーターに取り付けられたガラス微小電極またはFACSマシンのいずれかを用いて、標的アゴニスト、例えば、特定の嗅覚香調を有する分子によって活性化される嗅覚ニューロンが単離される。マウス嗅覚ニューロンは、以前に記述された手順と同様に、Ca2+イメージングによってスクリーニングされる(Malnic, B., et al. Cell 96, 713 - 723 (1999); Araneda, R. C. et al. J. Physiol. 555, 743 - 756 (2004);および国際公開第2014/210585号)。特に、電動可動式顕微鏡ステージを使用して、スクリーニングできる細胞数が実験ごとに少なくとも1,500個に増やされる。マウスには約1,200の異なる嗅覚受容体があり、各嗅覚ニューロンは1,200の嗅覚受容体遺伝子のうち1つしか発現しないため、このスクリーニング能力は、事実上マウスの匂い物質受容体レパートリー全体をカバーすることになる。言い換えれば、ハイスループット嗅覚ニューロンスクリーニングのためのカルシウムイメージングの組み合わせは、匂い物質の特定のプロファイルに応答するほぼすべての匂い物質受容体の同定につながる。一態様では、標的アゴニストに応答する、例えば特定の嗅覚香調を有する匂い物質受容体を、受容体同定のために単離することができる。例えば、少なくとも1つのニューロンが受容体同定のために単離される。
【0065】
第2の関係は、化学的および感覚刺激的に多様な揮発性化合物のライブラリをORに対してスクリーニングし、スクリーニングされたORのアクチベーターである揮発性化合物に共通する少なくとも1つの嗅覚香調を同定することによって、少なくとも1つの嗅覚香調をORに関連付けることによって得ることができる。
【0066】
少なくとも1つの嗅覚香調を嗅覚受容体に関連付けるかかる方法は、ORを提供し、ORと既知の少なくとも1つの香調を有する揮発性分子とを接触させ、化合物が少なくとも1つの嗅覚受容体を活性化するかどうかを決定し、既知の少なくとも1つの香調を有する異なる化合物で接触および決定ステップを繰り返し、ORを活性化する化合物のサブセットを分類し、化合物のサブセットに共通する少なくとも1つの既知の香調を同定し、同定された少なくとも1つの既知の香調をORに関連付けることによって得ることができる。
【0067】
所与の受容体を活性化する化合物の共通する嗅覚香調は、化合物の全体的な記述を比較し、アクチベーター間で共通する記述子を同定することによって関連付けることができる。かかる嗅覚香調は、例えば調香師によって、いくつかの方法で意味的に記述することができることを理解されたい。同じ嗅覚香調をキャプチャするかかる意味上の類似性の例としては、例えば、マリン、ウォータリーおよびオゾン;アーシー、ヒューマスおよびモス;ヘイ、クマリンおよびトンカ;セロリ、フェヌグリークおよびメープル;ミュゲおよびスズランが挙げられる。
【0068】
かかる実験の結果は、実際のORを表すORデジタル識別子と、これらのORの活性化に関連する香調を表す情報とを相互参照するデータベース内に記憶することができる。
【0069】
図1は、本発明の方法100の主題の特定の一連のステップを示す。この組成物香調決定の方法100は、以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子を入力するステップ105であって、上記揮発性分子デジタル識別子は芳香性揮発性分子を表し、上記入力はフォーミュラを定義する、ステップ105と、
- コンピューティングシステムによって、フォーミュラの少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子について、匂い物質受容体デジタル識別子によって表される、各上記分子が匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を計算するステップ110であって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは多対多の関連付けである、ステップ110と、
- コンピューティングシステムによって、フォーミュラについて、計算された少なくとも1つの匂い物質受容体活性レベルの影響と匂い物質受容体活性化閾値を表す値との関数として、組成物を形成する少なくとも1つの香調を表す値を決定するステップ115であって、各匂い物質受容体デジタル識別子は1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは1対1の関連付けである、ステップ115と
を含む。
【0070】
入力するステップ105は、例えば、キーボード、マウス、またはタッチスクリーンなど、任意のタイプのコンピュータインターフェースを用いて実行することができる。かかるインターフェースはさらに、ユーザの対話および入力を可能にするグラフィカルユーザインターフェース(GUI)を含んでもよく、上記GUIは、パーソナルコンピュータまたはコンピュータサーバなどのコンピューティング手段によって実行されるソフトウェアの一部である。変形例では、コンピュータインターフェースは、本質的に論理的であり、入力は、電子ネットワークまたはケーブルを介して受信されかつコマンド手段から発信されるコマンドに対応する。
【0071】
図1~
図4で使用されるコンピューティングシステムの特定のアーキテクチャは、本発明に関して重要でない。すなわち、かかるコンピューティングシステムは、クライアントサーバアーキテクチャを使用して、またはローカルおよび/もしくはリモートのコンピューティングリソースを使用して、分散、統合することができる。記憶およびアクセスされるデータは、従来のデータベース、コンピュータメモリまたは分散データベースに記憶することができる。
【0072】
この入力するステップ105の間、ユーザは、フォーミュラに追加する1つまたは複数の揮発性分子デジタル識別子を選択することができる。揮発性分子デジタル識別子は、例えば、アイコン、テキストラベルまたは数字であってもよい。かかる揮発性分子デジタル識別子は、好ましくは、コンピュータメモリまたはデータベースへのエントリに対応する。
【0073】
フォーミュラはさらに、液相、固相または気相のいずれかの量で表される揮発性分子の量を含んでもよい。かかる量は、例えば、百万分率(ppm)または上記分子の気相のヘッドスペース濃度の尺度(モル/m3)で表すことができる。
【0074】
揮発性分子の蒸発および/または気体の形態、ならびに揮発性分子の輸送から知覚される、結果得られる香調の集合体は、組成物と呼ばれる。
【0075】
計算するステップ110は、例えば、専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムによって実行される。この計算するステップ110の間、各入力揮発性分子デジタル識別子は、対応する活性化されたORと照合される。ORが活性化または増強された場合、そのORに及ぼす影響は正である。ORが不活性化された場合、または活性化が阻害された場合、そのORに及ぼす影響は負である。1つの揮発性分子デジタル識別子が、いくつかのORを同時に活性化/増強/不活性化/阻害することがある。
【0076】
この計算するステップ110は、揮発性分子デジタル識別子が少なくとも1つの参照されるORに及ぼす影響が記憶されているデータベースまたはコンピュータメモリなどの情報記憶装置にアクセスし、上記情報を検索するステップ(図示せず)を含んでもよい。
【0077】
かかる計算するステップ110は、米国特許出願第62/911,096号明細書の実施例2に示されている。
【0078】
決定するステップ115は、例えば、専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムによって実行される。この決定するステップ115の間に、少なくとも1つの揮発性分子によって活性化される少なくとも1つのORに関連する香調に関しての情報が生成される。かかる情報は、上記香調の存在または上記ORの上記香調に対する有効性であってもよい。
【0079】
これは、香調を表す値が、
- 1つまたは複数の香調の知覚可能性、
- 上記知覚可能性の定量化、
- 上記香調の阻害、
- 上記香調の知覚可能性の増加および/または
- 上記香調の減少
を表し得ることを意味している。
【0080】
この決定するステップ115は、少なくとも1つのORについて、生成すべき香調情報が記憶されているデータベースまたはコンピュータメモリなどの情報記憶装置にアクセスし、上記情報を検索するステップ(図示せず)を含んでもよい。
【0081】
決定するステップ115は、少なくとも1つのORの総活性に対する値を計算することを含んでもよく、ここで、少なくとも1つの値は、記憶された香調の定量化を表すものである。かかる値は、例えば、関連する香調、香調の知覚強度、または香調が対象によって知覚される確率を検索するかどうかを示すことができる。
【0082】
かかる情報は、例えば、適切な情報記憶装置における上記情報を読み出すことによって得ることができ、またはコンピューティングシステムによる計算の結果であってもよい。
【0083】
好ましくは、OR活性化レベル閾値が、上記に開示されるような香調を表す値を決定するために使用される。かかる変形例では、活性化閾値は、すべてのORに対して共通であってもよいし、ORごとに決定されてもよく、上記閾値は経験的に観察および記録される。かかる閾値は、例えば、ORの平均最大活性化レベルの20%である。かかる閾値は、例えば、決定するステップ115の間に使用される活性化閾値データベースに記憶される。
【0084】
OR活性は、受容体スクリーニング実験から得られた、このORに対する任意の所与のアゴニストの効力および有効性に依存する。この情報をもとに、対応する香調の知覚を生成するのに十分な活性(有効性データに基づく)を生成するのに必要な材料の最小量(効力データに基づく)を決定することができる。ORを阻害または増強する化合物の量も同様に、受容体スクリーニングデータから得ることができる。この定量化は、化合物混合物(またはフォーミュラ)で提示された各ORの目標結果(所望の香調の存在、望ましくない香調の減少)に合わせて調節することができる。
【0085】
決定するステップ115の出力は、例えば、コンピュータ画面などのコンピュータインターフェース上に結果情報を供給することであり得る。
【0086】
図1に表されるものなどの特定の実施形態では、本発明の方法100の主題は、計算するステップ110の下流に、コンピューティングシステムによって、少なくとも1つの匂い物質受容体について、計算された活性レベルに及ぼす少なくとも1つの影響の関数として、総活性レベルを計算するステップ120を含む。
【0087】
計算するステップ120は、例えば、専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムによって実行される。この計算するステップ120の間、活性化/強化/阻害/非活性化されたORの個々の影響の合計が得られ、次いで、その結果は、決定するステップ115の間、情報を提供するために使用される。
【0088】
図1に表されるものなどの特定の実施形態では、本発明の方法100の主題は、以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、フォーミュラの香りの香調を表す値を変更するステップ125と、
- コンピューティングシステムによって、少なくとも1つの匂い物質受容体の総活性レベルの変更を計算するステップ130と、
- コンピューティングシステムによって、計算された総活性レベル変更に等しい総活性レベル影響値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子のセットを決定するステップ135と、
- 上記セットをコンピュータインターフェースに供給するステップ140と
を含む。
【0089】
変更するステップ125は、例えば、ヒューマンマシンインターフェースを介してユーザ入力を収集することによって、入力するステップ105と同様に実行され、上記入力は、最初に入力されたフォーミュラの香りの香調を表す値の変更を表す。上記変更は、コンピューティングシステムによって電子的に受信されたフォーミュラ変更コマンドの一部であってもよい。
【0090】
香調の変更は、所与の香調の知覚可能性の程度の減少または所与の香調の知覚可能性の程度の増加であってもよい。
【0091】
計算するステップ130は、例えば、専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムによって実行される。この計算するステップ130の間、少なくとも1つの香調に影響を与える変更は、基礎となるORまたは複数のORのための活性レベルの変更に変換される。
【0092】
決定するステップ135は、例えば、専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムによって実行される。この決定するステップ135の間、計算するステップ130の間に計算されたORまたは複数のORに対する活性レベルの変更は、上記ORまたは複数のORを活性化/増強/阻害/不活性化する揮発性分子の入力の変更に変換される。
【0093】
計算された総活性レベル変更に等しい総活性レベル影響値は、厳密な等式からの許容可能な偏差を表すインターバル内に位置する値として理解されることを理解されたい。
【0094】
かかる変更は、
- フォーミュラからの揮発性分子の除去(フォーミュラからの対応するデジタル識別子の除去に変換される)、
- 揮発性分子のフォーミュラへの追加(フォーミュラからの対応するデジタル識別子の追加に変換される)および/または
- フォーミュラ中の揮発性分子の量の変更(フォーミュラ中の対応するデジタル識別子の量を表す指標の変更に変換される)
に対応し得る。
【0095】
揮発性分子とOR活性の影響とは多対多の関係であり、OR活性の影響と香調知覚可能性とは各ORおよび対応する香調について1対1の関係であるという事実を考えると、計算するステップ130と決定するステップ135にはいくつかの組み合わせ的解決策がある。
【0096】
これらのステップの最適な解決策を決定するために、好ましくは最適化解決規則が整えられる。かかる解決規則は、以下のものであってもよい:
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、揮発性分子デジタル識別子の最小数を提示するように構成される、第1の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、対応する揮発性分子デジタル識別子の最小総量指標を提示するように構成される、第2の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、悪影響を及ぼす揮発性分子デジタル識別子の最小数を提示するように構成される、第3の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子が揮発性分子送達能力指標に関連付けられる第4の規則であって、上記規則は少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットを、セット内の揮発性分子デジタル識別子に対する上記揮発性分子送達能力指標の関数として、適合させるように構成される、第4の規則、
- 少なくとも2つの揮発性分子デジタル識別子のセットが、上記分子のセットによって活性化される匂い物質受容体の重複を最小化するように構成される、第5の規則、
- 少なくとも2つの揮発性分子デジタル識別子のセットが、上記分子のセットによって活性化される匂い物質受容体の変調を最小化するように構成される、第6の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、所定の望ましくない嗅覚香調に関連付けられる匂い物質受容体の負の変調または阻害を最大化するように構成される、第7の規則、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、所定の所望の嗅覚香調に関連付けられる匂い物質受容体の正の変調または増強を最大化するように構成される、第8の規則および/または
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、少なくとも1つのコスト関数を最小化または最大化するように構成され、各揮発性分子はコストを表す少なくとも1つの値に関連付けられる、第9の規則。
【0097】
第4の規則は、所望のレベルの活性化をもたらすためのヘッドスペース内の揮発性分子の利用可能性を表し得る。この規則は、ORに到達する量に影響を与える組成物の送達に関連する非線形因子を説明する。これらの因子の例としては、基材への堆積、基材からの蒸発、粘液への収着速度、粘液中の専用分子による輸送、粘液中の分子の生分解が挙げられる。
【0098】
特定の実施形態では、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子が揮発性分子送達能力指標に関連付けられ、計算するステップ110は、少なくとも1つの入力揮発性分子デジタル識別子に関連付けられた揮発性分子送達能力指標の関数として実施される。
【0099】
揮発性分子送達能力指標は、揮発性分子送達能力指標データベース内に記憶され、例えば、経験的に決定される。
【0100】
一例では、送達能力指標を決定するために、少なくとも1つの揮発性分子を含有するフォーミュラが、ファブリック、素肌、キッチンタイル、猫砂などの関連した基材に所定の濃度で投与されるか、空気中に直接エアゾール化され、ある一定の温度、圧力および湿度のチャンバー内などの関連した環境条件下に置かれ、関連した時間だけ放置される。チャンバー内の空気の既知の体積が、吸着剤チューブまたはファイバーなどの適切な装置によって既知の期間だけサンプリングされ、その後、ガスクロマトグラフィー質量分析計などの定量化学分析装置によって分析することができ、少なくとも1つの分子の気相濃度を決定することができる。
【0101】
別の例では、フォーミュラを表す少なくとも1つの揮発性分子の既知の気相濃度を、粘液などの既知の体積の液相基材との、既知の表面積の界面を含む適切なチャンバー内で、適切な圧力、温度および湿度下で一定期間にわたって確立することができる。その後、液体クロマトグラフィー質量分析計のような定量分析化学装置に液相基材のサンプルを適用することによって、少なくとも1つの分子の濃度を決定することができる。
【0102】
第3の例では、より複雑な送達能力指標の計算は、先の2つの例を組み合わせることによって、かつ/または確立された方法によってヘンリー定数などの物理化学定数を測定し、それらを関連する物理モデルと組み合わせることによって可能である。
【0103】
計算するステップ110は、例えば、分子送達能力指標による損失を計算するように構成することができ、上記損失は、決定するステップ115において決定された香調を表す値に影響を及ぼす。
【0104】
香調を表す値が設定される実施形態では、決定するステップ135、155または165は、分子送達能力指標の関数として実行されてもよい。かかる実施形態では、所与の揮発性分子デジタル識別子に対する分子送達能力指標による損失は、例えば、フォーミュラ中の上記揮発性分子の量を増加することによって補償され得る。
【0105】
特定の実施形態では、揮発性分子送達能力指標は、関連する揮発性分子が配置されている基材を表すものである。
【0106】
かかる基材は、例えば、布の種類、食品の種類であるか、または香料の空気中へのエアゾール化など、かかる基材が存在しないことである。
【0107】
外部パラメータに関連する追加の規則を整えてもよい。変形例では、各揮発性分子デジタル識別子は、環境的、経済的またはその他のコストであるコストに関連付けられる。
【0108】
かかる追加の規則の第1の例では、対応する規則は、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが最小のコスト値を提示するように構成されることであってもよい。
【0109】
かかる追加の規則の第2の例では、対応する規則は、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、所定の閾値よりも劣るかまたは優れたコスト値を提示するように構成されることであってもよい。
【0110】
かかる追加の規則の第3の例では、対応する規則は、少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の決定されたセットが、少なくとも2つのタイプのコストが考慮される、コスト値の最小和を提示するように構成されることであってもよい。
【0111】
決定するステップ135の結果を供給するステップ140は、上述した供給するステップ140に対応する。
【0112】
図1に示すものなどの特定の実施形態では、各香調は香調デジタル識別子に関連付けられ、上記方法は、フォーミュラの香調デジタル識別子を少なくとも1つの所定の香調デジタル識別子のセットと比較した結果の関数として自動的に香調を選択するステップ145を含み、フォーミュラの上記選択された香調識別子の香りを表す値を変更するステップ125は、上記選択された香調識別子の値を、減少させた値、好ましくはゼロにするよう構成される。
【0113】
自動的に香調を選択するステップ145は、例えば、専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムによって実行される。この自動的に香調を選択するステップ145では、組成物から不快な香調を除去することが目的である。かかる不快な香調は、コンピュータメモリまたはデータベースに記憶された特定の所定の香調識別子に対応し得る。この自動的に香調を選択するステップ145の間、決定するステップ115の間に決定された香調は、所定の不快な香調識別子に対して照合され得、変更するステップ125の間、少なくとも1つの上記照合された香調は変更され得、減少させた値、好ましくはゼロに設定され得る。
【0114】
図1に示すものなどの特定の実施形態では、本発明の方法100の主題は、以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、フォーミュラの揮発性分子デジタル識別子を選択するステップ150と、
- コンピューティングシステムによって、選択された揮発性分子デジタル識別子の上記匂い物質受容体上の活性レベルに及ぼす影響を表す値に等しい匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の少なくともセットを決定するステップ155と、
- 上記セットをコンピュータインターフェースに供給するステップ140と
を含む。
【0115】
選択するステップ150は、例えば、入力するステップ105と同様の方法で実行される。この選択するステップ150は、コンピューティングシステムに送信される選択コマンドの結果として、手動または自動で実行することができる。選択の基準は、任意であってもよく、または各揮発性分子デジタル識別子に関連する情報、例えば各揮発性分子デジタル識別子のコスト値などに基づくアルゴリズム的な解決策に従ってもよい。
【0116】
決定するステップ155は、例えば、専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムによって実行される。この決定するステップ155は、上述した決定するステップ135と同様の方法で実行することができる。かかる決定するステップ155は、上述したような最適化則に従ってもよい。
【0117】
この決定するステップ155により、対応するデジタル識別子または複数のデジタル識別子によって表される少なくとも1つの他の揮発性分子によって、フォーミュラ中の揮発性分子を置き換えることが可能になる。
【0118】
決定するステップ155の結果を供給するステップ140は、上述した供給するステップ140に対応する。
【0119】
図1に示すものなどの特定の実施形態では、本発明の方法100の主題は、以下のステップ:
- フォーミュラの少なくとも2つの揮発性分子デジタル識別子を選択するステップ160であって、少なくとも2つの上記揮発性分子は、「標的受容体」と呼ばれる少なくとも2つの異なった匂い物質受容体の活性化に関連付けられる、ステップ160と、
- 選択された揮発性分子デジタル識別子の上記匂い物質受容体上の活性レベルに及ぼす影響を表す値に等しい各標的受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する1つの揮発性分子デジタル識別子を決定するステップ165と、
- 決定された揮発性分子デジタル識別子をコンピュータインターフェースに供給するステップ140と
を含む。
【0120】
かかる実施形態は、使用される揮発性分子の数に関してフォーミュラを簡略化することを目的とする。
【0121】
選択するステップ160は、例えば、入力するステップ105と同様の方法で実行される。この選択するステップ160は、コンピューティングシステムに送信される選択コマンドの結果として、手動または自動で実行することができる。選択の基準は、任意であってもよく、または各揮発性分子デジタル識別子に関連する情報、例えば各揮発性分子デジタル識別子のコスト値などに基づくアルゴリズム的な解決策に従ってもよい。
【0122】
決定するステップ165は、例えば、専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムによって実行される。この決定するステップ165は、選択するステップ160の間に選択された少なくとも2つの揮発性分子デジタル識別子と同じ役割を果たす揮発性分子デジタル識別子を選択するように設計されている。この文脈での役割は、上記揮発性分子が少なくとも2つのORに及ぼす影響によって定義される。言い換えれば、同定された揮発性分子のOR影響シグネチャは、選択された揮発性分子のOR影響シグネチャに対応するはずである。
【0123】
この決定するステップ165は、他の決定するステップ、135または155について上述したような最適化則に従ってもよい。
【0124】
決定するステップ165の結果を供給するステップ140は、上述した供給するステップ140に対応する。
【0125】
図1に示すものなどの特定の実施形態では、本発明の方法100の主題は、決定するステップ135、155または165の下流に、少なくとも1つの上記揮発性分子デジタル識別子に対する量を推定するステップ170を含み、上記量は、供給する下流のステップ140で使用される。
【0126】
推定するステップ170は、例えば、専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムによって実行される。この推定するステップ170は、例えば、揮発性分子の量をORの活性レベルに関連付ける影響関数を使用する。上記影響関数は、すべての揮発性分子に対して汎用的であってもよいし、各揮発性分子に固有のものであってもよい。
【0127】
揮発性分子は、匂い物質受容体の結合をめぐって競合し、その後、当該受容体を活性化することがある。かかる場合、分子の相対量、それぞれの結合係数および活性化を誘導する傾向が、ORの総活性化を決定する。
【0128】
ORを活性化する単一分子は、受容体と接触した分子の濃度の対数にシグモイド依存性を示しながら活性化する。上記依存性を決定するために、当業者は、所与の分子を異なる濃度レベルで接触させ、ORの活性化レベルを記録する。分子の濃度を増加することによって活性化レベルORの範囲を決定し、シグモイドフィット関数を使用することによって、結果得られるフォーミュラを取得して、任意の濃度値から、結果得られるORの活性化レベルを概算することができる。
【0129】
ORを活性化する複数の分子は、その結合係数の比、分子種の濃度の対数および受容体を活性化する個々の傾向の非線形関数として活性化を行う。別の操作モードでは、2つ以上の揮発性物質が非競合的に受容体に結合し、一方向性または相互に他の結合分子の結合親和力および/または活性化傾向に影響を与えることがある。その場合、受容体の総活性は、濃度の対数、結合係数、活性化傾向、ならびに結合係数および活性化傾向の変調係数の非線形結合となる。これらのすべての場合において、結果得られる総活性は実験的アッセイで直接測定することができ、揮発性分子の量を総活性に関連付ける関数を決定するために使用することができる。
【0130】
かかる関数は、決定された影響から、対応する揮発性分子の量を決定するために回帰によって使用される。
【0131】
かかる実施形態は、上述したような揮発性分子の量に基づく追加の最適化則をトリガすることができる。
【0132】
図1に示すものなどの特定の実施形態では、本発明の方法100の主題は、コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの入力揮発性分子の量を入力するステップ175を含み、上記量は、コンピューティングシステムによって、フォーミュラの少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子について、匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を計算するステップ110に使用される。
【0133】
入力するステップ175は、例えば、入力するステップ105と同様の方法で実行される。入力分子の量を表す値を入力するステップ175では、入力するステップ105の間、数値が入力され、上記値は上記揮発性分子の量を表す。
【0134】
計算するステップ110は、揮発性分子の量をORの活性レベルに関連付ける影響関数を使用してもよい。上記影響関数は、すべての揮発性分子に対して汎用的であってもよいし、各揮発性分子に固有のものであってもよい。入力された量により、上記揮発性分子の影響を計算することが可能になり、これによりまた、フォーミュラの香調の知覚可能性の程度を決定することが可能になる。
【0135】
図2は、本発明の方法100の主題の特定の一連のステップを示す。このフォーミュラ決定方法200は、以下のステップ:
- コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの香調デジタル識別子について、決定すべきフォーミュラに由来する組成物の香調を表す値を入力するステップ205と、
- コンピューティングシステムによって、決定すべきフォーミュラについて、上記組成物の少なくとも1つの香調を表す少なくとも1つの値の関数として、匂い物質受容体を表す少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子に対する匂い物質受容体活性レベルの値を決定するステップ210であって、各匂い物質受容体デジタル識別子は1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは1対1の関連付けである、ステップと、
- 上記匂い物質受容体上の活性レベルを表す決定値に等しい上記匂い物質受容体デジタル識別子の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の少なくともセットによって表されるフォーミュラを決定するステップ215であって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは多対多の関連付けである、ステップと
を含む。
【0136】
入力するステップ205は、
図1に関して説明した入力するステップ105と同様の方法で実行される。このステップは、本発明の使用例に応じて、手動または自動とすることができる。この入力するステップ205の間、
図1のように揮発性分子識別子を入力するのではなく、香調デジタル識別子が入力される。かかる香調デジタル識別子は、フォーミュラ内の香調の存在、または上記香調の知覚可能性の程度に対応し得る。
【0137】
決定するステップ210は、例えば、専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムによって実行される。この決定するステップ210は、
図1の決定するステップ115と逆に実行するように構成され、所与の香調識別子の入力から、OR活性に及ぼす影響を決定することができる。この決定するステップ210は、総活性レベルの変更を計算するステップ130と同様に機能するが、変更のみに限定されず、むしろ影響評価全体である。
【0138】
決定するステップ215は、例えば、専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムによって実行される。この決定するステップ215は、決定するステップ135と同様の方法で機能する。
【0139】
決定するステップ215の出力は、コンピュータインターフェースであってもよい。かかる出力は、
図1に関して開示された供給するステップ140と同様である。
【0140】
特定の実施形態では、供給するステップ140は、決定された量(または標準量)で供給された揮発性分子に対応するフォーミュラをアセンブリするように構成されたフォーミュラアセンブリ手段などの、対応するアクチュエータに対応するデータを供給するように構成される。かかる実施形態では、アセンブリ手段は、揮発性分子のサンプルと、上記サンプルの全部または一部を受け取るように構成された反応器とを備えてもよく、揮発性分子は、方法、100または200に由来するフォーミュラの関数として反応器に供給される。
【0141】
図3は、本発明のシステム300の主題の特定の実施形態を示す。この組成物香調決定システム300は、
- 少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子を入力する手段305であって、上記揮発性分子デジタル識別子は芳香性揮発性分子を表し、上記入力はフォーミュラを定義する、手段305と、
- フォーミュラの少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子について、匂い物質受容体デジタル識別子によって表される、各上記分子の活性レベルが匂い物質受容体の活性レベルに及ぼす影響を表す値を計算する手段310であって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは多対多の関連付けである、手段310と、
- 組成物について、計算された少なくとも1つの匂い物質受容体活性レベルの影響と匂い物質受容体活性化閾値を表す値との関数として、組成物を形成する少なくとも1つの香調を表す値を決定する手段315であって、各匂い物質受容体デジタル識別子は1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは1対1の関連付けである、手段315と
を備える。
【0142】
システム300の手段の特定の実施形態は、上述した
図1および
図2の説明で行われる機能的ステップに関連して説明してきた。
【0143】
入力する手段305は、例えば、ユーザ入力を収集するような方法でコンピューティングシステムと相互作用するように適合させられたキーボード、マウスおよび/またはタッチスクリーンである。変形例では、入力する手段305は、電子的に送信される入力コマンドを受信するように構成されたコンピューティングシステムのネットワークポートなど、本質的に論理的である。かかる入力手段305は、ユーザに示されるGUIまたはAPI(Application programming interface)に関連付けることができる。
【0144】
計算する手段310および決定する手段315は、例えば、対応するアルゴリズムの実行を担当する専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムとすることができる。
【0145】
図4は、本発明のシステム400の主題の特定の実施形態を示す。このフレグランスフォーミュラ決定システム400は、
- コンピュータインターフェース上で、少なくとも1つの香調デジタル識別子について、決定すべきフォーミュラに由来する組成物の香調を表す値を入力する手段405と、
- コンピューティングシステムによって、決定すべきフォーミュラについて、上記組成物の少なくとも1つの香調を表す少なくとも1つの値の関数として、匂い物質受容体を表す少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子に対する匂い物質受容体活性レベルの値を決定する手段410であって、各匂い物質受容体デジタル識別子は1つの香調デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは1対1の関連付けである、手段410と、
- 上記匂い物質受容体上の活性レベルを表す決定値に等しい上記匂い物質受容体デジタル識別子の活性レベルに及ぼす影響を表す値を提示する少なくとも1つの揮発性分子デジタル識別子の少なくともセットによって表されるフォーミュラを決定する手段415であって、各揮発性分子デジタル識別子は少なくとも1つの匂い物質受容体デジタル識別子と関連付けられ、上記関連付けは多対多の関連付けである、手段415と
を備える。
【0146】
入力する手段405は、
図3に関して説明した入力手段305と同様である。
【0147】
決定する手段410および決定する手段415は、例えば、対応するアルゴリズムの実行を担当する専用のソフトウェアを実行するように構成されたコンピューティングシステムとすることができる。
【0148】
少なくとも1つの揮発性分子の選択によって定義されるフォーミュラは、活性化されたOR指標のセットにコード化することができ、上記ORは知覚される香調に対応することを、これまでの説明から理解されたい。かかるコード化システムは、フォーミュラの最適化または性能予測に関して、いくつかの用途を提供する。
図5~11は、OR活性のモデリングと、香調予測に及ぼす影響の一例を提供する。
【0149】
例として、
図5では、匂い物質受容体OR8B3(ヘイ調をもたらす)、OR8D1(セロリ調をもたらす)およびOR5AU1(ラクトニックココナッツ調をもたらす)を活性化する成分を含有する香料アコード(アコードA)が、小さな変更が加えられた3つのアコード(アコードB~D)と一緒に示される。3つの標的ORのいずれも活性化しない成分は、簡略化のために集約され、
図5では「その他の成分」として記載される。各ORの受容体スクリーニングデータ(米国特許出願第62/911,096号明細書の実施例1に記載)を用いて、元のフォーミュラに存在する成分の代わりに代替的なアクチベーターを使用することができる。このアプローチにより、コスト削減、生分解性の向上、または環境に優しい特性を有する化合物の使用をはじめとする複数の要因を最適化するために、好ましい成分の使用を優先させることが可能になる。
【0150】
このコンピューティングシステムを用いて、
図6に示す個々の揮発性分子に関する経験的に決定された情報の非線形結合から
図5に示すアコードの総受容体活性レベルを決定し、
図7および9に示すように経験的混合応答と一致することが検証された。活性レベルは、既知の薬理学的伝達カスケードアクチベーターであるフォルスコリンに対する最大細胞応答に正規化することができ、データ比較のためのアンカーポイントとして役立てられる。モデルによって予測されたアコード活性を、同じアコードで生成された細胞ベースのデータと比較した(米国特許出願62/911,096号明細書の実施例2に記載されている細胞ベースのアッセイ)。モデルとインビトロデータとの間で一致した活性レベルが観察され、モデルが有効であることが確認された。元のアコードと変更されたアコードとの間で結果得られる活性予測を用いて、OR活性の変化(すなわち、より活性が高いか低いか)に基づいた感覚予測を行い、対応する香調の変化(すなわち、より強いか弱いか)を推測した。感覚予測は、各アコードについて、ヘイ、セロリおよびラクトニックココナッツという対象の3つの香調のブラインド評価を行うように依頼された香料専門家の感覚パネルによって検証された。
【0151】
OR8D1活性に関して、シクロテンを除去してメープルフラノンに置き換えた組成物の場合を
図5に示す(アコードAとBを比較)。目標活性レベルは、OR8D1が元の活性レベルよりも低くなるように設定した。
図7は、受容体のインビトロ検証と比較したモデルからの予測活性レベルを100%フォルスコリン応答に正規化して示す。セロリ調の知覚の対応する減少が予測され、これは
図8に要約されるように、専門家パネリストの評価によって確認された。
【0152】
OR8B3およびOR5AU1活性に関して、ノナラクトンを除去してクマリンに置き換えた組成物の場合を
図5に示す(アコードAとCを比較)。この場合、目標活性レベルは、OR8B3が元の活性レベルよりも高くなるように設定し、OR5AU1が元の活性レベルに対してnullであるように設定した。
図9は、両方の受容体のインビトロ検証と比較したモデルからの予測活性レベルを100%フォルスコリン応答に正規化して示す。ヘイ調の知覚の対応する増加とラクトニックココナッツ調の対応する喪失とが予測され、これは
図10に要約されるように、専門家パネリストの評価によって確認された。
【0153】
ノナラクトンをクマリンに置き換え、ツベロリドを添加して所望のOR8B3およびOR5AU1活性をもたらした組成物の場合を
図5に示す(アコードA、CおよびDを比較)。目標活性レベルは、OR8B3ではアコードD対アコードCで同じになるように設定し、OR5AU1ではアコードDによってアコードAのレベルまで回復させた。
図9は、両方の受容体のインビトロ検証と比較したモデルからの予測活性レベルを100%フォルスコリン応答に正規化して示す。回復されたOR5AU1活性によるココナッツ調の知覚の対応する回復は、ヘイ調の知覚の増加の維持と一緒に予測され、これは
図11に要約されるように、専門家パネリストの評価によって確認された。
【0154】
これらの香料アコードの改変例は、単一化合物の入力データ(米国特許出願第62/911,096号明細書の実施例1~3で取得される)のみを使用して、化合物の除去および置換前後の複雑な混合物の受容体活性をモデル化するシステムの能力をキャプチャする。計算または測定された受容体活性に基づいて感覚結果を予測するシステムの能力により、異なる組成物を使用して特定の所望の香調の知覚を維持すること、混合物中の化合物濃度または比率を調節して所望の香調の減少または増加を図ること、および改変中に失われた所望の香調を回復させることによって、化合物を追加して組成物のバランスを取り直すことが可能になる。これらの例から明らかになるように、所望の知覚される香調のセットをコンピューティングシステムに設定し(目標香調を表す)、必要な総OR活性をもたらす化合物のセットとそれらの濃度を決定できるか、または逆に、組成物を必要に応じて改変し、結果得られる知覚される香調に及ぼす影響を、結果得られるOR活性を計算することによって決定でき、またはさらに、所望のまたは測定された受容体活性レベルのセットを入力して、結果得られる知覚される香調と組成物のもっともらしいセットとの両方を計算できる。
【国際調査報告】