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特表2022-551229腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのバイオマーカー組成物
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  • 特表-腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのバイオマーカー組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-08
(54)【発明の名称】腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのバイオマーカー組成物
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6883 20180101AFI20221201BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221201BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20221201BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20221201BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221201BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20221201BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20221201BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20221201BHJP
【FI】
C12Q1/6883 Z
G01N33/53 M
G01N33/53 D
G01N33/536 D
G01N33/543 575
C12Q1/686 Z
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6813 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516681
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(85)【翻訳文提出日】2022-05-09
(86)【国際出願番号】 KR2020013353
(87)【国際公開番号】W WO2021066527
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】10-2019-0122192
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520493429
【氏名又は名称】コアステム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CORESTEM CO.,LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】520493430
【氏名又は名称】忠北大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】CHUNGBUK NATIONAL UNIVERSITY INDUSTRY-ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】キム, キュン スク
(72)【発明者】
【氏名】ハン, サン ベ
(72)【発明者】
【氏名】イ, テ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヒョン スク
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX01
(57)【要約】
本発明は、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのバイオマーカー組成物に関する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1のmRNA又はタンパク質の発現レベルを測定するための薬剤を含む、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのバイオマーカー組成物。
【請求項2】
mRNA発現レベルを測定するための薬剤が、mRNAに特異的に結合するプライマー対、プローブ又はアンチセンスヌクレオチドである、請求項1に記載の、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのバイオマーカー組成物。
【請求項3】
タンパク質発現レベルを測定するための薬剤が、タンパク質又はタンパク質の断片に特異的に結合する抗体である、請求項1に記載の、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのバイオマーカー組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物を含む、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのキット。
【請求項5】
キットがRT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)キット、DNAチップキット、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)キット、プロテインチップキット、ラピッドキット又はMRM(多重反応モニタリング)キットである、請求項4に記載の、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのキット。
【請求項6】
試料由来のCCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1のmRNA又はタンパク質の発現レベルを測定するステップ;及び
測定された発現レベルを対照群の発現レベルと比較するステップ
を含む、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するための情報を提供する方法。
【請求項7】
mRNA発現レベルの測定が逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、競合逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(競合RT-PCR)、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイム定量的RT-PCR)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(定量的RT-PCR)、リボヌクレアーゼプロテクション法、ノーザンブロット法又はDNAチップ技術
を使用する、請求項6に記載の、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するための情報を提供する方法。
【請求項8】
タンパク質発現レベルの測定がウエスタンブロット法、免疫組織化学染色、免疫沈降アッセイ、補体結合アッセイ又は免疫蛍光法を使用する、請求項6に記載の、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するための情報を提供する方法。
【請求項9】
CCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1の遺伝子発現レベルが対照試料のものと比較して低く測定される場合に、間葉系幹細胞が治療効果又は優れた治療効果を有すると判定する、請求項6に記載の、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するための情報を提供する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により全体が本明細書に組み込まれている、2019年10月2日に出願した韓国特許出願公開第10-2019-0122192号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのバイオマーカー組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
線維症は、肺、心臓、肝臓及び腎臓等の器官における異常な細胞外マトリクス代謝を伴う、結合組織タンパク質の過剰な沈着によって特徴づけられる疾患である。線維症は、任意の器官又は組織における健康な細胞の減少、及び線維性結合組織の質量の増大をもたらし得、次に器官又は組織の正常な構造を損傷し得る。かかる損傷は、影響を受けた器官又は組織の生理的及び生化学的機能を損ない得、器官の完全機能障害を引き起こし得る。器官及び組織線維症の診断方法、予防及び処置方法が、広範囲に研究されてきた。線維症の病態形成は、現在のところ完全には明らかにできないが、一般に、器官又は組織の線維症は、炎症、免疫学的応答、虚血、血液動態変化等の複数の因子によって引き起こされる。結果的に、損傷した軟部組織細胞は、マクロファージを活性化して多数のサイトカイン及び増殖因子を放出させる。
【0004】
慢性腎臓病は、3カ月より長い、腎損傷、又は腎機能の継続的な減退をいう。腎臓組織の線維症(腎線維症)は、慢性腎臓病へと進行する全ての腎疾患に見られる一般的な現象である。線維症は、硬化及び瘢痕組織の形成であり、炎症を引き起こすサイトカイン、免疫細胞、活性酸素種、線維芽細胞増殖因子及びタンパク質分解調節酵素(proteolytic regulation enzyme)によって引き起こされることが公知である。慢性腎臓病において、腎線維症から生じた広範囲な瘢痕組織が、一般に観察され、腎機能及び予後の低下に直接関係する。
【0005】
間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪等に分化することができる多分化能を有する高増殖性の接着細胞であり、抗炎症能及び免疫調節能を有することが公知である。間葉系幹細胞は、T細胞及びB細胞の増殖及び分化の阻害、並びに樹状細胞、ナチュラルキラー(NK:natural killer)細胞及びマクロファージ等の免疫細胞の機能の阻害等の免疫抑制効果を示す。最近、間葉系幹細胞を造血幹細胞とともに移植することによって造血幹細胞の生着の割合を増加させる研究が報告されている。間葉系幹細胞が、対移植片宿主病(GVHD:graft versus host disease)、コラーゲン関節炎(CIA:collagen-induced arthritis)、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE:experimental autoimmune encephalomyelitis)、敗血症、急性膵炎(AP:acute pancreatitis)、大腸炎、多発性硬化症(MS:multiple sclerosis)及び関節リウマチ等の疾患において、炎症を減少させ、自己免疫反応亢進を阻害することが報告されている。最近、動脈内投与された間葉系幹細胞によって腎線維症が予防されるという報告もある。
【0006】
以前、腎線維症疾患動物モデルにおける間葉系幹細胞の治療効果を確認するために、生存率、腎臓の外見、腎臓の重量、タンパク尿及び血液中のクレアチニンが測定された。しかしながら、治療効果を予測するための既存のバイオマーカーは、その測定が困難であるという点、疾患が相当進行した後で測定され得るという点、正確性が低いという点で限界を有する。従って、新しいバイオマーカーに関する研究の必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、既存のバイオマーカー(生存率、腎臓の外見、腎臓の重量、タンパク尿及び血液中のクレアチニン、糸球体のサイズ、糸球体硬化レベル及び尿細管損傷)を使用して、腎線維症疾患動物モデルにおける間葉系幹細胞の治療効果を測定し、新しいバイオマーカー(ケモカイン及びCHI3L1)もまた測定し得ることを確認した。以上に基づき、本発明者らは、本発明を完成させた。
【0008】
より具体的には、アドリアマイシンの投与によって、マウスにおいて腎線維症がもたらされ、それによって腎線維症がもたらされ、硬く白くなり、重量が増大し、タンパク尿レベルが増大し、血中クレアチニン濃度が増大し、腎線維症が増大し、EMTマーカー及び炎症性サイトカインの発現が増大し、且つコラーゲン生成の増大によって糸球体が硬化し、尿細管が収縮し、最終的に死がもたらされることが確認された。これらのマウスに間葉系幹細胞が投与された場合に、これらのマウスは、腎線維症が誘導されていない対照群のものと同様の腎臓の状態を示し、腎臓重量の減少、タンパク尿レベル及び血中クレアチニン濃度の減少、腎線維症の減少、EMTマーカー及び炎症性サイトカインの発現の減少、並びにVEGFの増大を示した。病理組織学的に、糸球体におけるコラーゲン生成が減少し、硬化が減少し、尿細管損傷が定量化された場合でも腎線維症が減少し、それによって間葉系幹細胞が腎線維症に対して治療効果を有することが可能になることが確認された。
【0009】
さらに、本発明者らは、腎線維症がアドリアマイシンを投与されたマウスにおいて進行した場合、種々のケモカイン、及びCHI3L1の発現レベルが変化し(増大又は減少)、間葉系幹細胞の投与によって調節し得ることを確認した。典型的には、CCL2、CCL4、CCL7、CCL11、CCL17、CCL19、CXCL9、CHI3L1、CXCL11、CXCL16、CX3CL1、CCL5、CCL8及びCCL20が減少したことが確認された。
【0010】
これを通して、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためには、CCL2、CCL4、CCL7、CCL11、CCL17、CCL19、CXCL9、CHI3L1、CXCL11、CXCL16、CX3CL1、CCL5、CCL8及びCCL20を、生存率、腎臓の外見、腎臓の重量、タンパク尿及び血液中のクレアチニン、糸球体のサイズ、糸球体硬化レベル及び尿細管損傷レベル等の既存のバイオマーカーとともに利用し得ることが確認された。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、CCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1のmRNA又はタンパク質の発現レベルを測定するための薬剤を含む、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのバイオマーカー組成物を提供し得る。
【0012】
mRNA発現レベルを測定するための薬剤は、mRNAに特異的に結合する、プライマー対、プローブ又はアンチセンスヌクレオチドであってもよい。
【0013】
タンパク質発現レベルを測定するための薬剤は、タンパク質又はタンパク質の断片に特異的に結合する抗体であってもよい。
【0014】
本発明はまた、上述の組成物を含む、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのキットを提供する。
【0015】
キットは、RT-PCR(reverse transcription polymerase chain reaction、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)キット、DNAチップキット、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay、酵素結合免疫吸着検定法)キット、プロテインチップキット、ラピッドキット又はMRM(multiple reaction monitoring、多重反応モニタリング)キットであってもよい。
【0016】
本発明はまた、(a)試料由来のCCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1のmRNA又はタンパク質の発現レベルを測定するステップ;及び(b)測定された発現レベルを対照群の発現レベルと比較するステップを含む、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するための情報を提供する方法を提供し得る。
【0017】
試料は、間葉系幹細胞で処置された腎線維症の患者から得てもよい。
【0018】
mRNA発現レベルの測定は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、競合逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(競合RT-PCR:competitive reverse transcription polymerase chain reaction)、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイム定量的RT-PCR:real time reverse transcription polymerase chain reaction)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(定量的RT-PCR:quantitative polymerase chain reaction)、リボヌクレアーゼプロテクション法、ノーザンブロット法又はDNAチップ技術を使用し得る。
【0019】
タンパク質発現レベルの測定は、ウエスタンブロット法、免疫組織化学染色、免疫沈降アッセイ、補体結合アッセイ又は免疫蛍光法を使用し得る。
【0020】
該方法によって、CCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1の遺伝子発現レベルが対照試料のものと比較して低く測定される場合に、間葉系幹細胞が治療効果又は優れた治療効果を有すると判定し得る。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、CCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1を利用して、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、ADRによる腎線維症モデルにおける間葉系幹細胞の有効性を確認することによって得られた結果を示す図である。BALB/cマウスに、10mg/kgで尾静脈にADRを投与し、1週間後及び2週間後に間葉系幹細胞を1×10細胞/マウスで尾静脈に投与した。(a)は4週間生存率を測定することによって得られた結果であり、(b)は4週間体重を測定することによって得られた結果であり、(c)はADR投与の4週間後に剖検を行うことによって腎臓の形状を測定することによって得られた結果であり、(d)は腎臓の重量を測定することによって得られた結果であり、(e)は剖検に際して尿中のタンパク尿を測定することによって得られた結果であり、(f)は血清中のクレアチニンを測定することによって得られた結果である。
図2図2は、腎臓における線維症マーカー遺伝子の発現を確認することによって得られた結果を示す図である。これは、ADR投与の4週間後に腎臓におけるRNAを単離すること、及び線維症マーカーの遺伝子解析のためのqPCRによって線維症マーカー遺伝子の発現レベルを測定することによって得られた結果である。
図3図3は、腎臓における病理組織学的変化を確認することによって得られた結果を示す図である。ADR投与の4週間後に、腎臓において病理組織学的調査を行った。(a)は、PAS及びマッソン三色染色での染色によって糸球体、基底膜及び尿細管、並びにコラーゲン生成の変化を確認することによって得られた結果であり、(b)は、各群あたり40視野を解析することによって糸球体のサイズ、糸球体硬化レベル及び尿細管損傷を定量化することによって得られた結果である。
図4図4は、腎線維症モデルにおけるCHI3L1を測定することによって得られた結果を示す図である。これは、ADR投与の4週間後に腎臓及び血清を単離すること、腎臓からRNAを単離すること、並びにqPCRによってCHI3L1の遺伝子発現を測定することによって得られた結果である。(a)は対照群に基づいて相対的定量値を計算することによって得られた結果であり、(b)ELISAによって血清中のCHI3L1の量を測定することによって得られた結果である。
図5図5は、腎線維症モデルにおける腎臓のケモカイン変化を確認することによって得られた結果を示す図である。これは、ADR投与の4週間後に腎臓を単離すること、組織からRNAを単離すること、ケモカインのqPCRを行うこと、並びに各対照群に基づいて各ケモカインの相対的定量値として計算することによって得られた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0024】
本発明者らは、既存のバイオマーカー(生存率、腎臓の外見、腎臓の重量、タンパク尿及び血液中のクレアチニン、糸球体のサイズ、糸球体硬化レベル及び尿細管損傷)を使用して、腎線維症疾患動物モデルにおける間葉系幹細胞の治療効果を測定し、新しいバイオマーカー(ケモカイン及びCHI3L1)もまた測定し得ることを確認した。以上に基づき、本発明者らは、本発明を完成させた。
【0025】
本発明は、CCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1のmRNA又はタンパク質の発現レベルを測定するための薬剤を含む、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのバイオマーカー組成物を提供し得る。
【0026】
本発明者らは、アドリアマイシンの投与によって、マウスにおいて腎線維症がもたらされ、それによって腎線維症がもたらされ、固く白色になり、重量が増大し、タンパク尿レベルが増大し、血中クレアチニン濃度が増大し、腎線維症が増大し、EMTマーカー及び炎症性サイトカインの発現が増大し、且つコラーゲン生成の増大によって糸球体が硬化し、尿細管が収縮し、最終的に死がもたらされることが確認された。これらのマウスに間葉系幹細胞が投与された場合に、これらのマウスは、腎線維症が誘導されていない対照群のものと同様の腎臓の状態を示し、腎臓重量の減少、タンパク尿レベル及び血中クレアチニン濃度の減少、腎線維症の減少、EMTマーカー及び炎症性サイトカインの発現の減少、並びにVEGFの増大を示した。病理組織学的に、糸球体におけるコラーゲン生成が減少し、硬化が減少し、尿細管損傷が定量化された場合でも腎線維症が減少し、それによって間葉系幹細胞が腎線維症に対して治療効果を有することが可能になることを確認した。
【0027】
さらに、本発明者らは、腎線維症がアドリアマイシンを投与されたマウスにおいて進行した場合、種々のケモカイン、及びCHI3L1の発現レベルが変化し(増大又は減少)、間葉系幹細胞の投与によって調節し得ることを確認した。典型的には、CCL2、CCL4、CCL7、CCL11、CCL17、CCL19、CXCL9、CHI3L1、CXCL11、CXCL16、CX3CL1、CCL5、CCL8及びCCL20が減少したことが確認された。
【0028】
これを通して、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためには、CCL2、CCL4、CCL7、CCL11、CCL17、CCL19、CXCL9、CHI3L1、CXCL11、CXCL16、CX3CL1、CCL5、CCL8及びCCL20を、生存率、腎臓の外見、腎臓の重量、タンパク尿及び血液中のクレアチニン、糸球体のサイズ、糸球体硬化レベル及び尿細管損傷レベル等の既存のバイオマーカーとともに利用し得ることが確認された。
【0029】
本明細書中で使用される場合、用語「予測」は、医学的結果を推定して推量することを意味する。本発明の目的のために、この用語は腎線維症と診断された患者の疾患の経過(疾患進行、改善、腎線維症の再発、腫瘍増殖、薬剤耐性)を推定することを意味する。
【0030】
本明細書中で使用される場合、用語「mRNA又はタンパク質の発現レベルを測定するための薬剤」は、腎線維症の患者における間葉系幹細胞での処置の後に減少するマーカーである、CCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1のmRNA又はタンパク質の発現レベルを測定することによって、マーカーの検出及び/又は定量化に使用し得る分子をいう。具体的には、遺伝子のmRNA発現レベルを測定するための薬剤は、mRNAに特異的に結合するプライマー対、プローブ又はアンチセンスヌクレオチドであってもよい。この点については、遺伝子の核酸情報がgenebank等で公知であるので、当業者は、配列に基づいてこれらの遺伝子の特定の領域を特異的に増幅するプライマー又はプローブを設計し得る。
【0031】
本明細書中で使用される場合、用語「プライマー対」は、標的遺伝子配列を認識するフォワード及びリバースプライマーからなるプライマー対の全ての組み合わせ、並びに具体的には、解析結果に特異性及び感受性を与えるプライマー対を含む。プライマーの核酸配列は試料中に存在する非標的配列と一致しない配列なので、プライマーが相補的プライマー結合部位を含む標的遺伝子配列のみを増幅する場合に高い特異性を与えることができ、非特異的増幅を引き起こさない。
【0032】
本明細書中で使用される場合、用語「プローブ」は、試料中の検出される標的物質に特異的に結合することができる物質をいい、結合を通して試料中の標的物質の存在を特異的に確認することができる物質をいう。プローブ分子のタイプは、当該分野で一般に使用される物質として限定されないが、好ましくはPNA(peptide nucleic acid、ペプチド核酸)、LNA(locked nucleic acid、ロックド核酸)、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、RNA又はDNAであってもよい。より具体的には、プローブは、生物又は生物に類似するものに由来する生体材料であるか、又はex vivoで製造されたものを含む。例えば、プローブは酵素、タンパク質、抗体、微生物、動物及び植物細胞並びに器官、神経細胞、DNA及びRNAであってもよく、DNAとしてはcDNA、ゲノムDNA及びオリゴヌクレオチドが挙げられ、RNAとしてはゲノムRNA、mRNA及びオリゴヌクレオチドが挙げられ、タンパク質の例としては抗体、抗原、酵素、ペプチド等を挙げることができる。
【0033】
本明細書中で使用される場合、用語「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は、mRNA中の相補配列に結合してmRNAからタンパク質への翻訳を阻害するよう作用する、特異的なmRNA配列に相補的な核酸配列を含む、DNA若しくはRNA又はそれらの誘導体をいう。アンチセンスオリゴヌクレオチド配列は、遺伝子のmRNAに相補的でmRNAに結合することができる、DNA又はRNA配列をいう。これは、遺伝子mRNAの、翻訳、細胞質への移行、成熟又は全ての他の全体的な生物学的機能のための必須の活動を阻害し得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さは6~100塩基対(bp:base pair)であってもよく、好ましくは8~60bpであってもよく、より好ましくは10~40bpであってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、従来の方法によってin vitroで合成してin vivoで投与してもよく、アンチセンスオリゴヌクレオチドはin vivoで合成してもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドをin vitroで合成する1つの例は、RNAポリメラーゼIを使用することである。アンチセンスRNAをin vivoで合成する1つの例は、多重クローニングサイト(MCS:multiple cloning site)の起点が反対方向であるベクターを使用することによってアンチセンスRNAを転写することである。好ましくは、アンチセンスRNAは、翻訳終止コドンを配列中に存在させることによって、ペプチド配列に翻訳されない。
【0034】
タンパク質発現レベルを測定するための薬剤は、タンパク質又はタンパク質の断片に特異的に結合する抗体であってもよく、抗体はポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であってもよい。
【0035】
本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、抗原領域に対する特異的タンパク質分子を指し得る。本発明の目的のために、抗体は、マーカータンパク質に特異的に結合する抗体をいい、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体及び組換え抗体を含む。抗体は、当該分野で周知の技術を使用して、容易に調製し得る。また、本明細書の抗体としては、2本の全長軽鎖及び2本の全長重鎖を有する完全な形態、並びに抗体分子の機能的断片が挙げられる。抗体分子の機能的断片は、少なくとも抗原結合機能を有する断片をいい、Fab、F(ab’)、F(ab’)及びFv等が含まれる。
【0036】
本発明はまた、上述の組成物を含む、腎線維症に対する治療効果を予測するためのキットを提供し得る。組成物の詳細は上述の通りである。キットは、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのマーカーである、CCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、若しくはCHI3L1のタンパク質発現レベル、又は前記遺伝子のmRNA若しくはタンパク質の発現レベルを測定することによって、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測し得る。キットは、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのマーカー遺伝子のmRNA発現レベルを測定するための薬剤、例えば、遺伝子に特異的に結合するプライマー対、プローブ又はアンチセンスヌクレオチドを含み得、タンパク質発現レベルを測定するための薬剤、例えばマーカータンパク質に特異的に結合する抗体又は抗体の抗原結合断片を含み得る。
【0037】
キットは、RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)キット、DNAチップキット、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)キット、プロテインチップキット、ラピッドキット又はMRM(多重反応モニタリング)キットであってもよい。
【0038】
腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのキットは、解析方法に適した1つ又は複数の他の成分組成物、溶液又は装置をさらに含んでもよい。例えば、診断キットは、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応を行うために必要な必須要素を含む診断キットであり得る。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応キットは、マーカー遺伝子に特異的な各プライマー対を含む。プライマーは、各遺伝子の核酸配列に特異的な配列を有するヌクレオチドであり、約7bp~50bpの長さを有し、より好ましくは約10bp~30bpの長さを有する。また、プライマーは、対照遺伝子の核酸配列に特異的なプライマーを含み得る。また、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応キットは、試験管又は他の適切な容器、反応バッファー(異なるpH及びマグネシウム濃度)、デオキシヌクレオチド(dNTP)、Taqポリメラーゼ及び逆転写酵素等の酵素、DNAse、RNAse阻害剤、DEPC水、滅菌水等を含み得る。また、例えば、DNAチップキットは、遺伝子又はその断片に対応するcDNA又はオリゴヌクレオチドを付着させる基質、並びに蛍光標識されるプローブを調製するための試薬、薬剤及び酵素等を含み得る。また、基質は、対照遺伝子又はその断片に対応するcDNA又はオリゴヌクレオチドを含み得る。また、例えば、キットは、ELISAを行うために必要な必須要素を含む診断キットであってもよい。ELISAキットは、タンパク質に特異的な抗体を含む。抗体は、各マーカータンパク質に高い特異性及び親和性を有し、他のタンパク質との交差反応性がほとんどない抗体であってもよく、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体又は組換え抗体であってもよい。また、ELISAキットは、対照タンパク質に特異的な抗体を含み得る。また、ELISAキットは、結合している抗体を検出することができる試薬、例えば標的された二次抗体、発色団、(例えば、抗体と結合した)酵素及びそれらの基質又は抗体に結合することができる他の材料等を含み得る。また、例えば、キットは、解析結果を測定し得る迅速アッセイを行うのに必要な必須要素を含むラピッドキットであってもよい。ラピッドキットは、タンパク質に特異的な抗体を含む。抗体は、各マーカータンパク質に高い特異性及び親和性を有し、他のタンパク質との交差反応性がほとんどない抗体であってもよく、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体又は組換え抗体であってもよい。また、ラピッドキットは、対照タンパク質に特異的な抗体を含み得る。また、ラピッドキットは、結合している抗体を検出することができる試薬、例えば、特異的抗体及び二次抗体が固定化されるニトロセルロース膜、抗体結合ビーズに結合している膜、吸収パッド及び試料パッド等の他の材料を含み得る。また、例えば、キットは、質量分析を行うのに必要な必須要素を含むMS/MSモードのMRM(多重反応モニタリング)キットであってもよい。SIM(selected ion monitoring、選択イオンモニタリング)は、質量分析計の源部分(source part)で一回の衝突によって生じるイオンを使用する方法であり、MRMは、破壊されたイオンの間から特定のイオンをもう一度選択し、別の連続的に連結されたMS源にもう一度通過させ、衝突させてイオンを得て、次いでその中でイオンを使用する、方法である。MRM(多重反応モニタリング)解析方法は、正常な対照群又は同一被験者のタンパク質発現レベルと、間葉系幹細胞で処置された被験体のタンパク質発現レベルを比較してもよく、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するためのマーカーにおいて遺伝子からタンパク質への発現レベルの有意な増大又は減少があるか否かを判定することによって、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測し得る。
【0039】
本発明はまた、(a)試料由来のCCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1のmRNA又はタンパク質の発現レベルを測定するステップ;及び(b)測定された発現レベルを対照群の発現レベルと比較するステップを含む、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を予測するのに有用な情報を提供する方法を提供する。
【0040】
試料は、間葉系幹細胞で処置された腎線維症の患者から得てもよい。
【0041】
情報を提供する方法は、被験体から単離された生体試料中のCCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1のmRNA又はタンパク質の発現レベルを測定するステップを含む。具体的には、mRNA又はタンパク質の発現レベルは、マーカー遺伝子のmRNA発現レベル又は前記遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルを測定することによって決定し得る。被験体の試料からのmRNA又はタンパク質の単離は、当該分野で公知の方法に従って、当業者によって適切に行われ得る。例えば、被験体の腎臓組織を、タンパク質を抽出するためのバッファー又は核酸を抽出するためのバッファーとともにホモジナイズし、次いで遠心分離した後、得られた上清を被験体の試料として使用し得る。被験体としては、脊椎動物、哺乳動物又はヒト(ホモサピエンス:Homo sapiens)を挙げることができる。試料は、組織、細胞、全血、血清及び血漿からなる群から選択される任意の1つ又は複数であってもよい。
【0042】
mRNA発現レベルの測定は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、競合逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(競合RT-PCR)、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイム定量的RT-PCR)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(定量的RT-PCR)、リボヌクレアーゼプロテクション法、ノーザンブロット法又はDNAチップ技術を使用し得る。
【0043】
タンパク質発現レベルの測定は、ウエスタンブロット法、免疫組織化学染色、免疫沈降アッセイ、補体結合アッセイ又は免疫蛍光法を使用し得る。
【0044】
前記方法によって、CCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、又はCHI3L1の遺伝子発現レベルが対照試料のものと比較して低く測定される場合に、間葉系幹細胞が治療効果又は優れた治療効果を有すると判定し得る。
【0045】
以下、実施例によって、本発明をより詳細に説明する。以下の実施例は、単に本発明の好ましい特定の例であり、本発明の範囲は以下の実施例の範囲に限定されない。
【実施例
【0046】
<実施例1>動物実験の設計
アドリアマイシン(ADR:adriamycin)は、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素及びスーパーオキシドアニオンを生じて、糸球体上皮細胞において脂質の過酸化を誘導し、足細胞の毒性反応及び炎症反応(T細胞、B細胞及びマクロファージ流入)を生じる。10mg/kgでマウスの尾静脈へのADRの単回投与によって、タンパク尿、糸球体障害及び足細胞傷害が誘導された。これは、糸球体の管(glomerular canal)の収縮を引き起こし、最終的に線維症を引き起こす。この現象は、ヒトにおいてMCD(minimal change disease、微小変化群)、FSGS(focal segmental glomerulosclerosis、巣状分節性糸球体硬化症)、ネフローゼ症候群及び糸球体硬化症を呈し得る。オスのBALB/cマウスをSamtakoから購入した。マウスの飼育環境は、21~24℃の温度、40~60%の湿度及び12時間の明/暗サイクルを維持した。全ての実験動物を使用前に一週間、動物室で環境順応させた。全ての動物実験は、忠北大学校の動物実験倫理委員会によって承認され、承認されたガイドラインに従って行われた。ヒト由来間葉系幹細胞(ヒトMSC:mesenchymal stem cell)を、CORESTEM,Incから購入した。CSMB-A06培地を使用して正常骨髄由来間葉系幹細胞を培養し、第四継代(p4)細胞を実験に使用した。9週齢のオスのBALB/cマウスに、10mg/kgで尾静脈にADRを投与し、次いで1週間及び2週間後に、1×10細胞/マウスで尾静脈にヒト由来間葉系幹細胞を投与した。図1A及び1Bに示されるように、BALB/cマウスにADRを投与し、4週間生存率及び体重を測定した結果、ADRを投与された群のみが57.1%の生存率を示したが、ADR投与の後に間葉系幹細胞を投与された群は、83.3%の生存率を示した。また、間葉系幹細胞を投与された群は、ADRのみを投与された群と比較して、マウス体重の有意な減少を示さなかった。ADR投与の4週間後に剖検を行い、尿、血清及び腎臓を分離及び解析した。対照群と比較して、ADRを投与された群の腎臓は線維症のために硬くなり、色が白くなったが、間葉系幹細胞を投与された群は対照群のものと同様の腎臓の状態を示した(図1C)。マウスの体重と比較した腎臓の重量を測定した場合に、ADRを投与された群は対照群と比較して増大した腎臓の重量を示し、間葉系幹細胞を投与された場合に減少する傾向を示した(図1D)。
【0047】
<実施例2>タンパク尿の測定
実施例1の動物モデルから単離された尿を使用してタンパク尿を測定し、測定はPierce 660nm Protein Assay(Thermo Fisher Scientific)によって提供された試験方法に従って行った。マウス尿をPBSで希釈し、次いで10μlの希釈試料を150μlのタンパク質アッセイ試薬と反応させ、10分後、660nmでOD値を測定した。腎臓が線維性になると、代謝産物及び老廃物を濾過する濾過機能が破壊され、尿中にタンパク質が検出される。従って、尿を使用してタンパク尿を測定した結果、対照群と比較して、ADRを投与された群においてタンパク尿が増大したが、間葉系幹細胞を投与された場合に減少したことが確認された(図1E)。
【0048】
<実施例3>クレアチニンの測定
実施例1の動物モデルから単離された血清を使用してクレアチニンを測定し、測定は血清クレアチニンELISAキット(ALPHA DIAGNOSTIC INTERNATIONAL)によって提供された試験方法に従って行った。マウス血清をDWで希釈し、次いで25μlの希釈試料を25μlのアッセイ希釈液及び100μlのクレアチニン試薬と反応させ、1分後及び30分後にそれぞれ490nmでOD値を測定した。腎臓が線維性になると、代謝産物及び老廃物を濾過する濾過機能が破壊され、血清中でクレアチニンが増大する。従って、血清を使用してクレアチニンを測定した結果、対照群と比較して、ADRを投与された群においてクレアチニン濃度が増大したが、間葉系幹細胞を投与された場合に減少したことが確認された(図1F)。従って、間葉系幹細胞がADR誘導性腎線維症モデルにおいて治療効果を有したことが確認された。
【0049】
<実施例4>定量的リアルタイムPCR(qPCR)
腎臓における種々のサイトカインを測定することによって、腎線維症に対する間葉系幹細胞の治療効果を測定した。TRIZOL試薬(Invitrogen)を使用して、全RNAを腎臓組織から単離した。1μgの全RNAの濃度でcDNAを合成した。50ngの濃度でSYBRグリーンプローブを使用して、合成cDNAでqPCRを行った。TGF-β、フィブロネクチン及びCollα1(コラーゲンα-1)は線維症マーカーであり、α-SMAは、上皮細胞が間葉系幹細胞に転換されて細胞移動及び浸潤が増大する上皮間葉転換(EMT:epithelial-mesenchymal transition)のマーカーである。IFN-α及びTNF-αは炎症反応に関連するサイトカインであり、VEGFは腎臓を構成する足細胞の生存因子として同定され得る。図2で分かるように、腎線維症、EMTマーカー及び炎症性サイトカインの発現は、対照群と比較して、ADRを投与された群で増大し、間葉系幹細胞が投与された場合に減少した。また、ADRが投与された場合に腎臓は線維性であり、足細胞が損傷し、VEGFの減少という結果になったが、間葉系幹細胞が投与された場合にはVEGFの増加という結果になったことが確認された。
【0050】
<実施例5> 組織試料の調製及び病理組織学
ADR投与の4週間後に、腎臓の病理組織学的変化を確認した。腎臓が線維性になると、糸球体が異常な形状に変化し、尿細管が収縮し、コラーゲンが形成され、炎症細胞が増大する。また、基底膜及び毛細血管の構成要素が厚くなる。これらの腎臓の組織学的変化は、PAS及びマッソン三色染色で染色することによって同定し得る。PASは、基底膜の構成要素である多糖類を過ヨウ素酸で酸化させ、糸球体基底膜を赤色で提示することによって、糸球体損傷及びボーマン嚢の変化を識別するために使用される代表的な試験方法である。マッソン三色染色は、腎線維症によるコラーゲン生成の組織学的変化を確認するために使用される試験方法である。標準的な組織試料調製方法に従って、腎臓をホルムアルデヒド溶液で固定し、パラフィンブロックを調製した。組織を4μmの厚さに薄切し、過ヨウ素酸シッフ(PAS:Periodic acid-Schiff)及びマッソン三色染色で染色した。PAS染色組織を使用して、AxioVisionプログラムによって糸球体のサイズを測定した。糸球体硬化症に基づいて糸球体硬化指標を測定し、これらの変化の程度のスコアをつけた(0、なし;1、<25%硬化が観察された;2、25~49%硬化が観察された;3、50~75%硬化が観察された;4、<75%硬化が観察された)(American Journal of the Medical Sciences、2013;346(6):486~493)。尿細管損傷のスコアをつけた(0、なし;1、尿細管が非常にわずかに部分的に拡張していた;2、多数の尿細管が拡張し、間質内の拡張があった;3、尿細管が非常に過剰に拡張し、間質内に嚢胞が形成された;4、尿細管が収縮していた)(Kidney Int.1987;31:718~724、J Hypertension 1991;9:719~728)。対照群と比較して、ADRを投与された群において、PAS染色の間に、糸球体が拡張し、糸球体損傷が誘導され、基底膜の赤色の増大及び尿細管の収縮という結果になることが確認された。また、マッソン三色染色によって、染色されたコラーゲンの青色が増大したことが確認された。しかしながら、間葉系幹細胞が投与された場合に、糸球体の変化及びコラーゲン生成は減少した(図3A)。組織学的変化に基づいて糸球体のサイズ、糸球体硬化症レベル及び尿細管損傷が定量化された場合でも、ADRを投与された群と比較して、間葉系幹細胞を投与された群において、腎線維症が減少したことが確認された(図3B)。
【0051】
<実施例6>CHI3L1のELISA測定
ヒトにおいてYKL-40として公知のCHI3L1(Chitinase-3-like protein 1、キチナーゼ3様タンパク質1、Ym-1)は、アミノ酸が3つのN末端に存在する形態で存在する、40KDaの糖タンパク質である。CHI3L1はマクロファージ、線維芽細胞、偽滑膜細胞、血管平滑筋細胞及び肝臓腺細胞(hepatic gland cell)等で発現され、キチナーゼの元々の役割である、キチンの加水分解機能を有さない。CHI3L1の正確な生物学的機構は知られていないが、炎症反応、細胞外組織リモデリング、線維腫、固形癌及びぜんそく等の炎症マーカーとして公知である。特に、CHI3L1は、癌におけるTh2炎症反応に関与し、抗アポトーシス活性を増大させ、血管新生を増大させて癌細胞増殖を誘導することが報告されている。それ故に、炎症及び細胞増殖の誘導に関連するCHI3L1もまた腎線維症に作用するか否かを確認することによって、本発明者らは、CHI3L1を、発症、及び間葉系幹細胞による治療効果を予測するためのバイオマーカーとして適用し得るか否かを調査した。単離された血清を使用してCHI3L1を測定し、測定はマウスチキナーゼ3様1ELISAキット(R&D SYSTEMS)によって提供された試験方法に従って行った。使用前に、アッセイ希釈液で血清を500倍に希釈した。対照群と比較して、ADRを投与された群において、腎臓におけるCHI3L1の遺伝子発現(図4A)及び血清中のCHI3L1の生成(図4B)が増大したこと、並びに間葉系幹細胞が投与された場合に、CHI3L1の遺伝子発現及び血清中のCHI3L1の生成が統計的に有意に減少したことが確認された。従って、CHI3L1を、腎線維症の発症及び間葉系幹細胞による治療効果を予測するためのバイオマーカーとして利用することができることが確認された。
【0052】
<実施例7>ケモカインの測定
ケモカインは、細胞遊走に関与するサイトカインであり、炎症反応における、リンパ球の移動、並びにリンパ組織の形成、維持及び発生に関与する低分子タンパク質である。腎臓が炎症を起こした場合に、腎臓の細胞がケモカインを分泌し、炎症性免疫細胞が腎臓にさらに浸潤し、組織損傷及び機能の喪失という結果になる。従って、ケモカインを測定すると、腎臓における炎症反応の程度を確認することができる。
【0053】
TRIZOL試薬(Invitrogen)を使用して、炎症性ケモカインCCL2、CCL4、CCL7、CCL11、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL16、CX3CL1、CXCL12、CCL5、CCL8、CCL20及びCHI3L1の遺伝子発現を測定した。1μgの全RNAの濃度でcDNAを合成した。50ngの濃度でSYBRグリーンプローブを使用して、合成cDNAでqPCRを行った。
【0054】
図5で分かるように、腎線維症モデルにおけるADRの投与によって、ケモカインCCL2、CCL4、CCL7、CCL11、CCL17、CCL19、CXCL9、CHI3L1、CXCL11、CXCL16、CX3CL1、CCL5、CCL8及びCCL20が増大した。従って、CCL2,CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11及びCHI3L1は、間葉系幹細胞が投与された場合に減少する傾向があり、よってCCL2、CCL4、CCL7、CCL17、CCL19、CXCL9、CXCL10、CXCL11及びCHI3L1を、腎線維症の確認及び間葉系幹細胞の有効性の予測に有用な、診断マーカーとして使用し得る。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
【国際調査報告】