(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-08
(54)【発明の名称】ドライ真空ポンプ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F04C 25/02 20060101AFI20221201BHJP
F04C 18/18 20060101ALI20221201BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F04C25/02 K
F04C18/18 D
F04C18/18 Z
C23C26/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522255
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(85)【翻訳文提出日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2020076797
(87)【国際公開番号】W WO2021073852
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511148259
【氏名又は名称】ファイファー バキユーム
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】レティシア ポパン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ダルブール
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン バデル
(72)【発明者】
【氏名】イゴール フォレスティア
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル ボージョン
【テーマコード(参考)】
3H129
4K044
【Fターム(参考)】
3H129AA06
3H129AA24
3H129AB06
3H129BB44
3H129BB50
3H129CC03
3H129CC05
3H129CC38
4K044AA04
4K044AB10
4K044BA06
4K044BA19
4K044BB01
4K044BC02
4K044BC06
4K044CA62
(57)【要約】
ドライ真空ポンプは、ステータ(2)とこのステータ(2)の少なくとも1つの圧縮室(3)に収容される2つのロータ(5)とを有し、一対の前記ロータ(5)は、前記真空ポンプの吸入口と吐出口の間にポンプで送られるガスを駆動するように反対方向に同期して回転するように構成されたものにおいて、前記ロータ(5)および前記ステータ(2)の前記圧縮室(3)は、9%~14%のリンを含み、20μmを超える厚さを有するニッケル-リンのコーティング(11)でコーティングされており、前記ニッケル-リンのコーティング(11)は、700H
Vを超える硬度を有するように、250℃を超える処理温度で1時間を超える処理期間だけ加熱するステップを含む硬化熱処理を受けている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ(2)と、前記ステータ(2)の少なくとも1つの圧縮室(3)に収容された2つのロータ(5)を有し、一対の前記ロータ(5)は、真空ポンプ(1)の吸入口(4)と吐出口との間で圧送されるガスを駆動するように、反対方向に同期して回転するように構成されているドライ真空ポンプ(1)において、
前記ロータ(5)および前記ステータ(2)の前記圧縮室(3)は、9%~14%のリンを含み、厚さ(e)が20μmを超えるニッケル-リンのコーティング(11)でコーティングされており、
前記ニッケル-リンのコーティング(11)は、700H
V以上の硬度を有するように、処理温度(T)が250℃を超え、処理期間(D)が1時間を超える硬化熱処理(102)を経ていることを特徴とするドライ真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプ(1)であって、
前記処理期間(D)が8時間を超えることを特徴とするドライ真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の真空ポンプ(1)であって、
前記処理期間(D)が15時間未満であることを特徴とするドライ真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の真空ポンプ(1)であって、
前記硬度が800H
V~1000H
Vであることを特徴とするドライ真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の真空ポンプ(1)であって、
前記処理温度(T)が350℃未満であることを特徴とするドライ真空ポンプ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の真空ポンプ(1)であって、
前記ニッケル-リンのコーティング(11)が10%~13%の前記リンを含むことを特徴とするドライ真空ポンプ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の真空ポンプ(1)であって、
前記ニッケル-リンのコーティング(11)の前記厚さ(e)が60μm以下、例えば25μm±5μmであることを特徴とするドライ真空ポンプ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の真空ポンプ(1)であって、
前記真空ポンプ(1)は、それぞれ1つの前記圧縮室(3)が形成された少なくとも2つのポンプ段(1a-1e)を有し、連続する前記ポンプ段(1a-1e)の前記圧縮室(3)は、前記ステータ(2)の本体(9)に設けられ前記ニッケル-リンのコーティング(11)が施された少なくとも1つのステージ間チャネル(8)によって直列に接続されていることを特徴とするドライ真空ポンプ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の真空ポンプ(1)であって、
前記ニッケル-リンのコーティング(11)が、ポンピングされるガスと接触する可能性が高い前記真空ポンプ(1)の全ての壁を覆っていることを特徴とするドライ真空ポンプ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の真空ポンプ(1)であって、
前記ステータ(2)の本体(9)および前記ロータ(5)の本体(10)が鋳鉄または鋼でできていることを特徴とするドライ真空ポンプ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の真空ポンプ(1)であって、
前記真空ポンプ(1)は、40Hzを超える速度で回転するように構成されていることを特徴とするドライ真空ポンプ。
【請求項12】
ドライ真空ポンプ(1)の製造方法であって、
9%~14%のリンを含み、厚さ(e)が20μmを超えるニッケル-リンのコーティング(11)を、ステータ(2)の内壁とロータ(5)の壁に堆積させるステップと、
前記ステータ(2)と前記ロータ(5)の前記ニッケル-リンのコーティング(11)を、硬度が700H
Vを超える、例えば800H
V~1000H
Vの間になるように、1時間以上の処理期間(D)で、250℃を超える処理温度(T)に加熱する熱処理するステップ(102)とを含むことを特徴とするドライ真空ポンプの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の真空ポンプ(1)の製造方法であって、
前記処理期間(D)が8時間以上および/または15時間未満であることを特徴とするドライ真空ポンプの製造方法。
【請求項14】
請求項12または13のいずれかに記載の真空ポンプ(1)の製造方法であって、
前記熱処理は、少なくとも1つの温度上昇ステップ(101)を含み、その間、温度設定値は、1℃/分~3℃/分の上昇速度で周囲温度から前記処理温度(T)まで上昇することを特徴とするドライ真空ポンプの製造方法。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項に記載の真空ポンプ(1)の製造方法であって、
前記ステータ(2)の本体(9)および前記ロータ(5)の本体(10)を浸漬する技術を用いて前記ニッケル-リンのコーティング(11)を堆積させることを特徴とするドライ真空ポンプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「ルーツ」型、「クロー」型、または、スパイラル型、またはスクリュー型、または別の同様の原理に基づく真空ポンプなどの、ドライ真空ポンプに関する。本発明はまた、そのような真空ポンプを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライ真空ポンプは、腐食性ガスや、特に特定の製造方法の反応副産物に由来するハロゲン化ガスや研磨粒子などの攻撃的な微粒子を排出するために使用できる。
真空ポンプの構成要素の表面には腐食層が形成される可能性があり、これにより、ロータとステータの間の機能的なクリアランスが減少し、真空ポンプの性能が変化する可能性がある。
一般に、腐食性の攻撃から鋳鉄を保護するために、ニッケルコーティング、またはテフロン(登録商標)タイプのポリマーコーティングが使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、これらの解決策は本当に満足のいくものではない。具体的には、これらのコーティングの固有の延性は、わずかな衝撃または接触で、これらのコーティングが塑性変形し、構成要素間に膨張体のような物質の蓄積が生じることを意味し、これはポンプの焼き付きのリスクを伴う可能性がある。
このタイプのコーティングのもう1つの欠点は、腐食性ガスに対する鋳鉄の耐性は向上するが、必ずしも真空ポンプを摩耗から保護するわけではないことである。
【0004】
別の解決策は、ポンプ圧送されるガスの温度を下げるために真空ポンプの温度を下げて、腐食速度の熱活性化を低減することである。しかし、ガスの温度を下げると、特に前駆体、キャリアガス、またはその他の反応副生成物の凝縮または凝固が促進される。そして、堆積物の形成、特にポリマー、金属、または酸化物タイプの堆積物の形成が増加する可能性があり、これはまた、真空ポンプの焼き付きのリスクを伴う可能性がある。
Niレジストタイプのニッケル強化鋳鉄を使用することも知られている。これらの鋳鉄には、従来の鋳鉄よりも腐食や酸化に対してはるかに耐性があるという利点がある。しかし、この材料は、機械加工が難しく、高コストであるため、真空ポンプ部品を製造するために従来の鋳鉄に簡単に置き換えることはできない。
【0005】
本発明の目的の1つは、特に、腐食性ガスおよび研磨剤粉末に耐性があり、過度に高価ではない真空ポンプを提案することによって、前述の欠点を少なくとも部分的に改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のために、本発明の主題は、ステータと、このステータの少なくとも1つの圧縮室に収容される2つのロータとを有するドライ真空ポンプであって、1対の前記ロータは、真空ポンプの吸入口と吐出口の間で圧送されるガスを駆動するように、反対方向に同期して回転するように構成されているものにおいて、
前記ロータと前記ステータの圧縮室が、9%~14%のリンを含み、20μmを超える厚さを有するニッケル-リンのコーティングで、コーティングされており、
前記ニッケル-リンのコーティングは、700HV以上の硬度を有するように、処理温度が250℃を超え、処理期間が1時間を超えるステップを含む硬化熱処理を受けていることを特徴とする。
【0007】
前記硬化熱処理は、ニッケル-リンのコーティングの硬度を上げるために、このニッケル-リンのコーティングの化合物を沈殿・結晶化するように実行される。
熱処理によるコーティングの硬化は、コーティングの微細構造に微小な亀裂が生じるため、コーティングをより脆くする。このコーティングが、ロータとステータの間、または一対のロータの間で機械的に接触すると、剥がれ落ち、粉塵となって分散する。
このコーティングは、従来技術のコーティングのように膨張体へ変形するのではなく、微粒子の形で剥がれ落ちる。これらの微粒子は、真空ポンプの回転を妨げることなく、ポンピングによって簡単に徐々に排出することができる。したがって、真空ポンプの焼き付きを回避することができる。
【0008】
さらに、ニッケル-リンのコーティングにより、真空ポンプ内の腐食層の形成を回避することができる。したがって、コーティングを硬化させるための熱処理により、腐食性ガスおよび摩耗に対する真空ポンプの耐性を向上させることが可能になる。
また、真空ポンプのステータ本体の調整温度を上げることにより、反応副生成物の凝縮固化を回避し、したがって、真空ポンプが焼き付を起こす原因となる可能性のある凝縮性の物質からなる堆積物の形成を回避することも可能にする。
【0009】
ドライ真空ポンプはまた、単独でまたは組み合わせて考慮される、以下に説明される1つまたは複数の特徴を有していても良い。
処理期間は、例えば、8時間を超える。8時間を超える処理期間により、コーティングの微細構造を均一にすることができる。このような処理期間により、コーティングの内部応力を制限し、コーティングをより丈夫にすることもできる。さらに、処理期間が8時間を超えると、コーティングの堆積段階でコーティングに閉じ込められた水素ガスを脱気することができる。
【0010】
処理期間は、例えば、15時間未満である。15時間を超える処理期間では、目的の硬化品質が得られないリスクがある。
硬度は800HV~1000HVの間とするのが良い。
処理温度は350℃未満でもよい。
ニッケル-リンのコーティングは、10%~13%のリンを含んでいても良い。
ニッケル-リンのコーティングは、例えば、25μm±5μmなど、60μm以下の厚さを有する。
【0011】
真空ポンプは、例えば、各々1つの圧縮室が形成された少なくとも2つのポンプステージを有し、連続するポンプステージの各圧縮室は、ステータの本体に設けられ、同じくニッケル-リンのコーティングを有する少なくとも1つのステージ間チャネルによって直列に接続されている。
より具体的には、ニッケル-リンのコーティングは、例えば、圧送されるガスと接触する可能性が高い真空ポンプの全ての壁を覆っている。
ステータの本体とロータの本体は、例えば鋳鉄または鋼から製造されている。
真空ポンプは、40Hzを超える速度で回転するように構成することができる。
【0012】
本発明の別の主題は、以下のステップを含むことを特徴とする、ドライ真空ポンプの製造方法にある。
9%~14%のリンを含み、厚さが20μmを超えるニッケル-リンのコーティングを、ステータの内壁とロータの壁に堆積し、
前記ステータと前記ロータのニッケル-リンのコーティングを、700HVを超える硬度、例えば、800HV~1000HVの間の硬度を有するように、250℃を超える処理温度で1時間を超える処理期間に加熱するステップで熱処理する。
【0013】
前記製造方法は、単独でまたは組み合わせて考慮される、以下に記載される1つまたは複数の特徴を有していても良い。
前記処理期間は、例えば、8時間より長くおよび/または15時間未満である。
硬化熱処理は、温度設定値が周囲温度から処理温度まで1℃/分~3℃/分の上昇速度で上昇する、少なくとも1つの温度上昇ステップを含んでいても良い。これらの温度上昇速度により、工業プロセスとしては比較的短い処理期間と、ニッケル-リンのコーティングとステータの壁の間に位置する界面、またはニッケル-リンのコーティングとロータの壁の間に位置する界面における、過大な力の発生を回避するのに十分遅い速度との間で、許容可能な妥協点を得ることができる。具体的には、両者の熱膨張係数がわずかに異なる。
【0014】
ニッケル-リンのコーティングは、例えば、ステータの本体およびロータの本体を浸漬する技術を使用して、ステータの内壁およびロータの壁に堆積される。
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照して、限定することなく例として与えられた、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ドライ真空ポンプの要素の非常に概略的な図であり、第1のポンプステージのステータは4分の3だけ示されている。
【
図2】
図1の真空ポンプのポンプステージの横断面の、非常に概略的な図である。
【
図3】X軸の時間(時間単位)の関数としてY軸に温度(℃)を使用し、硬化熱処理の温度設定値のプロファイルの例を示すグラフである。
【
図4a】硬化熱処理を受けたニッケル-リンのコーティングの走査型顕微鏡写真である。
【
図4b】
図4aの詳細を示すための拡大写真である。
【
図5a】溝が形成された従来技術のコーティングのサンプルを示す図である。
【
図5b】硬化熱処理を施したニッケル-リンのコーティングのサンプルを示す図であり、このサンプルには、
図5aのコーティングで形成したものと同様の溝が形成されていたものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の図面では、同一の要素に同じ参照番号が付いている。
以下の実施形態は、幾つかの例である。以下の説明は1つまたは複数の実施形態に言及しているが、これは、必ずしも各参照が同じ実施形態に関連すること、または特徴が単一の実施形態にのみ適用されることを意味するわけではない。様々な実施形態の個々の特徴はまた、他の実施形態を提供するために組み合わされまたは交換されても良い。
以下では、理解を容易にするために、ポンプの操作に必要な要素のみが示されている。
【0017】
本発明は、「ルーツ」型の真空ポンプ、二重爪型または「爪」型真空ポンプ、スパイラル型またはスクリュー型の真空ポンプ、または同様の別の原理に基づく、1つまたは複数の段を有する任意の型のドライ真空ポンプ1に適用される。これらのドライ真空ポンプは、特に、集積回路、光起電性太陽電池、フラットパネルディスプレイ、発光ダイオードなどの、特定の製造方法において使用される。
これらの製造方法は、処理されたガスを大気中に放出する前に、その製造方法の処理室からの腐食性反応性ガスの排出を行うステップを含んでおり、真空ポンプの入口は処理室に接続され、その出口はガス処理装置に接続されている。
【0018】
図1は、大気圧で圧送されるガスを吐出するように構成された、粗引真空ポンプ1などの、ドライ真空ポンプ1の例示的な実施形態を示している。
真空ポンプ1は、少なくとも1つのポンプステージ1a-1eを構成する、ステータ2(またはポンプ本体)を有する。
真空ポンプ1は、例えば、この真空ポンプ1の吸入口4と吐出口との間に直列に設けられ、圧送されるガスが循環することができる少なくとも2つのポンプステージ1a-1eを有している(圧送ガスの循環方向は、
図1に矢印Gで示されている)。真空ポンプ1の吸入口4と連絡するポンプステージ1aは、圧力が最も低いステージであり、吐出口と連絡するポンプステージ1eは、圧力が最も高いステージである。
【0019】
この実施例において、真空ポンプ1は、5つのポンプステージ1a-1eを有する。各ポンプステージ1a-1eには、真空ポンプ1の2つのロータ5を収容するステータ2の圧縮室3が形成され、この圧縮室3は、それぞれ、入口6および出口7を備えている(
図2)。
連続するポンプステージ1a-1eの各圧縮室3は、それぞれの容器が、前のポンプステージの出口7を次のポンプステージの入口6に接続する少なくとも1つのステージ間チャネル8によって次々に直列に接続されている。ステージ間チャネル8は、例えば、ステータ2の本体9内に、例えば、圧縮室3に隣接して設けられている。例えば、ポンプステージ毎に2つのステージ間チャネル8があり、これらは、出口7と入口6との間に並列に接続され、圧縮室3のいずれかの側に配置されている。
【0020】
一対のロータ5は、例えば、「ルーツ」型、「クロー」型、またはスクリュー型であるか、または別の同様の容積式真空ポンプの原理に基づく、同一のプロファイルを有するローブを有している。
一対のロータ5は、ポンプステージ1a-1eにおいて反対方向に同期して回転するように構成されている(
図2)。回転中、入口6を通って引き込まれたガスは、ポンプステージのステータ2の一対のロータ5および圧縮室3によって生成された容積に閉じ込められ、次いで、一対のロータ5によって圧縮され、次のステージに向かって駆動される。
【0021】
一対のロータ5は、例えば一端に配置された真空ポンプ1の1個のモーターによって回転駆動される。真空ポンプ1は、特に、50Hz~150Hzの間など、40Hzを超える速度で回転するように構成されている。
真空ポンプ1は、動作中、一対のロータ5がそれらの間またはステータ2との機械的接触なしにステータ2の内部で回転し、これにより圧縮室3内に油がないことを可能にするので、「ドライ」と呼ばれる。
【0022】
ステータ2の本体9およびロータ5の本体10は、例えば、鋳鉄または鋼から製造されている。それらは、例えば、SG鋳鉄とも呼ばれるダクタイル鋳鉄などの球状黒鉛鋳鉄から製造されている。
真空ポンプ1を製造過程において、ニッケル-リンのコーティング11が、ステータ2の本体9の内壁およびロータ5の本体10の壁に堆積される。
【0023】
ニッケル-リンのコーティング11は、例えば、圧送されるガスと接触する可能性が高い真空ポンプ1の全ての壁、特に、圧縮室3の内壁およびステータ2の本体9に設けられたステージ間チャネル8の壁に堆積される。
ニッケル-リンのコーティング11は、例えば、ステータ2の本体9およびロータ5の本体10を浸漬する技術を使用して堆積される。
ニッケル-リンのコーティング11は、10%~13%のリンなど、重量で9%~14%のリンを含んでいる。また、ニッケル-リンのコーティングは、20μmを超える厚さeを有している。
【0024】
次に、ステータ2およびロータ5のニッケル-リンのコーティング11は、700HVを超える硬度(0.1kGfの負荷でのビッカース硬度)、例えば、800HV~1000HVの硬度を持たせるために、処理温度Tが250℃を超え、処理期間Dが1時間を超えるまで加熱する、加熱ステップ102で熱処理される。
この硬化熱処理は、ニッケル-リンのコーティング11の化合物を析出および結晶化させて、その硬度を高めるために行われる。
この硬化熱処理は、ステータ2のニッケル-リンのコーティング11およびロータ5のニッケル-リンのコーティング11に対して、これら2つの間の摩擦係数の改善から利益を得るように実施されなければならない。
【0025】
厚さeは、例えば、25μm±5μmなど、60μm以下である(
図4a)。厚さeが大きくなると、ニッケル-リンのコーティング11のコストおよび堆積時間を増加させる。
加熱ステップ102の処理温度Tは、例えば、350℃未満、例えば、300℃±20℃である。
加熱ステップ102の処理期間Dは、例えば8時間を超え、例えば15時間未満である。
【0026】
処理期間Dが8時間を超えると、コーティング11の微細構造を均一にすることができる。この処理期間Dはまた、コーティング11の内部応力を制限することを可能にし、したがってそれをより強靭にすることを可能にする。さらに、8時間を超える処理期間Dは、コーティング11を堆積する段階の間にコーティング11に閉じ込められた水素ガスを脱気することを可能にする。
対照的に、15時間を超える処理期間Dは、所望の硬化品質が得られないリスクがある。
【0027】
9%~14%のリンの割合は、1重量%~3重量%のリンを含む「低リン」や、6%~8%のリンを含む「中リン」とは対照的に、「高リン」と呼ばれる。
この高い割合のリンにより、前記硬化熱処理で所望の硬度挙動を得ることができる。「高リン」のニッケル-リンのコーティング11の硬度は増加し、実質的に高レベルで安定する。一方、「低リン」タイプのコーティングでは、硬度はより急速に増加するが、その後処理時間とともに減少する傾向がある。
【0028】
硬化熱処理は、例えば工業炉で行われる。
この硬化熱処理は、例えば、温度設定値が1℃/分~3℃/分の上昇速度で、周囲温度から熱処理温度まで上昇する少なくとも1つの温度上昇ステップ101を含んでいても良い。
【0029】
これらの温度上昇速度により、工業プロセスでは比較的短い処理時間と、ニッケル-リンのコーティング11とステータ2の内壁の間に位置する界面、またはニッケル-リンのコーティング11とロータ5の本体10との間に位置する界面における、過大な力の発生を回避するための十分に遅い速度との間で、許容できる妥協点を得ることができる。具体的には、両者の熱膨張係数がわずかに異なる。
【0030】
図3に、硬化熱処理中の温度設定値のプロファイルの例を示す。
工業炉で効果的に得られる加熱ステップ102の処理温度は比較的安定したものが得られるが、この温度は、温度の上昇ステップおよび下降ステップの間、ならびに移行段階の間、特にレベル安定化段階の間は、特に炉の比較的高い慣性のために、比較的変動する。
【0031】
この温度設定値のプロファイルは、2時間の第1の温度上昇ステップ101を含み、その間に、温度設定値は、周囲温度から処理温度まで上昇する。
次に、硬化熱処理は、実際の加熱ステップ102を含み、その間、処理温度は、250℃以上、この例の場合は300℃で、1時間以上、例えば8時間以上、この例の場合は12時間、維持される。
最後に、硬化熱処理は、2時間の温度低下ステップ103を含み、その間に、温度設定値は、300℃から200℃へ低下する。
次に、ステータ2およびロータ5を周囲温度まで冷却するために、加熱が停止される。
【0032】
熱処理によるコーティング11の硬化は、コーティング11の微細構造に微小亀裂が生じるため、コーティング11をより脆くする(
図4a、
図4b)。
ロータ5とステータ2との間または一対のロータ5の間で機械的接触が生じた場合、コーティング11は剥がれ落ち、粉塵となって分散する。
これを
図5bに示す。この図は、硬化熱処理が施され、溝が形成されていたニッケル-リンのコーティングのサンプルを示している。溝のエッジが、剥がれ落ちて分散している。
図5aに示した、硬化熱処理なしのコーティングでは、コーティングが膨張体へ変形をしていないことを示している。
【0033】
したがって、ロータ5とステータ2との間、または一対のロータ5間の接触の結果として、使用中に生成される可能性のある微粒子は、真空ポンプ1の回転を妨げることなく、ポンピングによって容易に漸進的に排出される。したがって、焼き付きを回避することができる。
さらに、ニッケル-リンのコーティング11は、真空ポンプ1における腐食層の形成を回避することを可能にする。したがって、コーティング11を硬化させるための熱処理は、腐食性ガスおよび摩耗に対する真空ポンプ1の耐性を改善することを可能にする。
【0034】
また、真空ポンプ1のステータ2の本体9の調整温度を上げて、反応副生成物の凝縮固化を回避し、したがって、真空ポンプ1が焼き付く可能性のある凝縮性の物質からなる堆積物の形成を回避することを可能にする。
したがって、硬化したニッケル-リンのコーティング11は、真空ポンプ1の焼き付きのリスクを低減することを可能にする。
【符号の説明】
【0035】
1 真空ポンプ
1a-1e ポンプステージ
2 ステータ
3 圧縮室
4 吸入口
5 ロータ
6 ステージ間チャネルの入口
7 ステージ間チャネルの出口
8 ステージ間チャネル
9 ステータの本体
10 ロータの本体
D 処理期間
e コーティングの厚さ
G 圧送ガスの循環方向
T 処理温度
【国際調査報告】