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特表2022-551378最適レーンキープアシスト装置、最適レーンキープアシスト方法、連結車両、コンピュータプログラム及びコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-09
(54)【発明の名称】最適レーンキープアシスト装置、最適レーンキープアシスト方法、連結車両、コンピュータプログラム及びコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体
(51)【国際特許分類】
   B62D 12/02 20060101AFI20221202BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
B62D12/02
B62D6/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508555
(86)(22)【出願日】2019-08-14
(85)【翻訳文提出日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2019031958
(87)【国際公開番号】W WO2021029041
(87)【国際公開日】2021-02-18
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】山崎 大生
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC12
3D232CC20
3D232DA27
3D232DA33
3D232DA39
3D232DA84
3D232DC18
3D232DD02
3D232DD05
3D232DD08
3D232DD14
3D232DD17
3D232DE02
3D232DE11
3D232EA01
3D232EB04
3D232EC22
3D232EC34
3D232GG05
(57)【要約】
トラクタ及びトレーラが第5輪で連結された連結車両の最適レーンキープアシスト装置は、トラクタの状態変数を検出する第1のセンサと、第5輪の状態変数を検出する第2のセンサと、マイクロコンピュータを内蔵した電子制御ユニットと、を備えている。そして、電子制御ユニットは、最適制御則のフィードバックゲインを考慮して、目標横変位、第1のセンサの出力信号及び第2のセンサの出力信号に応じた制御量を算出し、算出した制御量及び第1のセンサの出力信号に応じたトラクタの目標操舵角を算出し、算出した目標操舵角に基づいてトラクタの操舵を支援する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクタ及びトレーラが第5輪で連結された連結車両の最適レーンキープアシスト装置であって、
前記トラクタの状態変数を検出する第1のセンサと、
前記第5輪の状態変数を検出する第2のセンサと、
マイクロコンピュータを内蔵した電子制御ユニットと、
を備え、
前記電子制御ユニットは、最適制御則のフィードバックゲインを考慮して、目標横変位、前記第1のセンサの出力信号及び前記第2のセンサの出力信号に応じた制御量を算出し、前記算出した制御量及び前記第1のセンサの出力信号に応じた前記トラクタの目標操舵角を算出し、前記算出した目標操舵角に基づいて前記トラクタの操舵を支援するように構成された、
最適レーンキープアシスト装置。
【請求項2】
前記電子制御ユニットは、1次遅れ系のドライバモデルを考慮して、前記算出した目標操舵角に基づいて前記トラクタの操舵を支援するように構成された、
請求項1に記載の最適レーンキープアシスト装置。
【請求項3】
前記電子制御ユニットは、電動パワーステアリング装置の電子制御ユニットに対して前記算出した目標操舵角を出力することで、前記トラクタの操舵を支援するように構成された、
請求項1又は請求項2に記載の最適レーンキープアシスト装置。
【請求項4】
前記トラクタの状態変数は、横変位、ヨー角及びヨーレートである、
請求項1~請求項3のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト装置。
【請求項5】
前記第5輪の状態変数は、連結角速度及び連結角である、
請求項1~請求項4のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト装置。
【請求項6】
前記連結車両は、フルトレーラ車両又はセミトレーラ車両である、
請求項1~請求項5のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト装置。
【請求項7】
トラクタ及びトレーラが第5輪で連結され、前記トラクタの状態変数を検出する第1のセンサと、前記第5輪の状態変数を検出する第2のセンサと、マイクロコンピュータを内蔵した電子制御ユニットと、を備えた連結車両の最適レーンキープアシスト方法であって、
前記電子制御ユニットが、
最適制御則のフィードバックゲインを考慮して、目標横変位、前記第1のセンサの出力信号及び前記第2のセンサの出力信号に応じた制御量を算出するステップと、
前記算出した制御量及び前記第1のセンサの出力信号に応じた前記トラクタの目標操舵角を算出するステップと、
前記算出した目標操舵角に基づいて前記トラクタの操舵を支援するステップと、
を実行する、最適レーンキープアシスト方法。
【請求項8】
前記トラクタの操舵を支援するステップは、1次遅れ系のドライバモデルを考慮して、前記算出した目標操舵角に基づいて前記トラクタの操舵を支援する、
請求項7に記載の最適レーンキープアシスト方法。
【請求項9】
前記トラクタの操舵を支援するステップは、電動パワーステアリング装置の電子制御ユニットに対して前記算出した目標操舵角を出力することで、前記トラクタの操舵を支援する、
請求項7又は請求項8に記載の最適レーンキープアシスト方法。
【請求項10】
前記トラクタの状態変数は、横変位、ヨー角及びヨーレートである、
請求項7~請求項9のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト方法。
【請求項11】
前記第5輪の状態変数は、連結角速度及び連結角である、
請求項7~請求項10のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト方法。
【請求項12】
前記連結車両は、フルトレーラ車両又はセミトレーラ車両である、
請求項7~請求項11のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト方法。
【請求項13】
請求項1~請求項6のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト装置を備えた連結車両。
【請求項14】
コンピュータで実行されるとき、請求項7~請求項12のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト方法のステップを実行するプログラムコードを備えたコンピュータプログラム。
【請求項15】
コンピュータで実行されるとき、請求項7~請求項12のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト方法のステップを実行するプログラムコードを備えたコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結車両を車線内に維持する最適レーンキープアシスト装置、最適レーンキープアシスト方法に関する。また、本発明は、最適レーンキープアシスト装置を備えた連結車両、最適レーンキープアシスト方法を実行するコンピュータプログラム、これを保持するコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタ及びトレーラが連結された連結車両の走行安定性を向上させるため、特開2011-68248号公報(特許文献1)に記載されるように、トラクタの横加速度、ヨーレート、走行速度及び操舵角に応じて、トラクタの左右の一方に制動力を作用させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-68248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、タイヤにバーストやパンクチャーなどが発生してコーナリングパワーが低下することを想定していなかったので、トラクタ又はトレーラのタイヤに異常が発生した状態では安定性を確保することが困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、トラクタ及びトレーラが連結された連結車両のタイヤに異常が発生しても、連結車両の安定性を確保することができる、最適レーンキープアシスト装置、最適レーンキープアシスト方法を提供することを目的とする。また、本発明は、最適レーンキープアシスト装置が搭載された車両、最適レーンキープアシスト方法を実行するコンピュータプログラム及びこれを保持するコンピュータ可読媒体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、トラクタ及びトレーラが第5輪で連結された連結車両の最適レーンキープアシスト装置が提供される。最適レーンキープアシスト装置は、トラクタの状態変数を検出する第1のセンサと、第5輪の状態変数を検出する第2のセンサと、マイクロコンピュータを内蔵した電子制御ユニットと、を備えている。そして、電子制御ユニットは、最適制御則のフィードバックゲインを考慮して、目標横変位、第1のセンサの出力信号及び第2のセンサの出力信号に応じた制御量を算出し、算出した制御量及び第1のセンサの出力信号に応じたトラクタの目標操舵角を算出し、算出した目標操舵角に基づいてトラクタの操舵を支援するように構成されている。
【0007】
本発明の他の実施形態によれば、トラクタ及びトレーラが第5輪で連結され、トラクタの状態変数を検出する第1のセンサと、第5輪の状態変数を検出する第2のセンサと、マイクロコンピュータを内蔵した電子制御ユニットと、を備えた連結車両の最適レーンキープアシスト方法が提供される。そして、電子制御ユニットが、最適制御則のフィードバックゲインを考慮して、目標横変位、第1のセンサの出力信号及び第2のセンサの出力信号に応じた制御量を算出するステップと、算出した制御量及び第1のセンサの出力信号に応じたトラクタの目標操舵角を算出するステップと、算出した目標操舵角に基づいてトラクタの操舵を支援するステップと、を実行する。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、最適レーンキープアシスト装置を備えた連結車両が提供される。また、本発明の他の実施形態によれば、コンピュータで実行されるとき、最適レーンキープアシスト方法のステップを実行するプログラムコードを備えたコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トラクタ及びトレーラが連結された連結車両のタイヤに異常が発生しても、連結車両の安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】トラクタ及びトレーラが連結された連結車両の一例を示す側面図である。
図2】トラクタに搭載された電子制御システムの一例を示す構成図である。
図3】電子制御ユニットの一例を示す内部構造図である。
図4】最適レーンキープアシスト処理の制御ブロック図である。
図5】最適レーンキープアシスト処理を実装するアプリケーションプログラムの処理を示すフローチャートである。
図6】正常時のレーンチェンジにおける時系列的な変化を示すシミュレーション結果の説明図である。
図7】レーンチェンジ中にトレーラのタイヤに異常が発生したときの時系列的な変化を示すシミュレーション結果の説明図である。
図8】レーンチェンジ中にドライバモデルの時定数が低下したときの時系列的な変化を示すシミュレーション結果の説明図である。
図9】最適レーンキープアシスト処理の他の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、本実施形態が適用可能な連結車両100の一例を示している。図1に示す連結車両100は、セミトレーラ車両の形態をとり、具体的には、トラクタ200及びトレーラ300が第5輪400で連結されている。なお、連結車両100としては、セミトレーラ車両に限らず、フルトレーラ車両などであってもよい。
【0012】
トラクタ200は、電動パワーステアリング装置によって操舵可能な前輪220と、ディーゼルエンジンなどによって駆動される後輪240と、を備えている。ここで、後輪240としては、2つのタイヤが平行に配置されたダブルタイヤを使用することができる。また、トレーラ300の車体後方には、ダブルタイヤからなる2軸の後輪320が取り付けられている。第5輪400は、トラクタ200の車体後部の上面に固定されたカプラーと、トレーラ300の車体前方の下面に固定されたキングピンと、を備えている。そして、第5輪400は、トラクタ200のカプラーにトレーラ300のキングピンが着脱可能に接続された状態で、トラクタ200に対して上下方向に延びる回動軸周りにトレーラ300が折れ曲がることを許容する。
【0013】
トラクタ200の所定箇所には、図2に示すように、マイクロコンピュータを内蔵した電子制御ユニット500が搭載されている。電子制御ユニット500は、図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ500Aと、不揮発性メモリ500Bと、揮発性メモリ500Cと、入出力回路500Dと、通信回路500Eと、これらを相互通信可能に接続する内部バス500Fと、を内蔵している。
【0014】
プロセッサ500Aは、アプリケーションプログラムに記述された命令セット(データの転送、演算、加工、制御、管理など)を実行するハードウエアであって、演算装置、命令やデータを格納するレジスタ、周辺回路などから構成されている。不揮発性メモリ500Bは、例えば、電源供給を遮断してもデータを保持可能なフラッシュROM(Read Only Memory)などからなり、最適レーンキープアシスト装置を実装するためのアプリケーションプログラム(コンピュータプログラム)を保持する。揮発性メモリ500Cは、電源供給を遮断するとデータが消失するダイナミックRAM(Random Access Memory)などからなり、プロセッサ500Aの演算過程においてデータを一時的に格納する記憶領域を提供する。
【0015】
入出力回路500Dは、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、D/Dコンバータなどからなり、外部機器に対するアナログ信号及びデジタル信号の入出力機能を提供する。通信回路500Eは、例えば、CAN(Controller Area Network)トランシーバなどからなり、車載ネットワークに接続する機能を提供する。内部バス500Fは、各デバイス間でデータを交換するための経路であって、アドレスを転送するためのアドレスバス、データを転送するためのデータバス、アドレスバスやデータバスで実際に入出力を行うタイミングや制御情報を遣り取りするコントロールバスを含んでいる。
【0016】
トラクタ200の所定箇所には、横変位y[m]を検出する横変位センサ520と、ヨーレートr[rad/s]を検出するヨーレートセンサ540と、が夫々取り付けられている。ここで、横変位センサ520は、例えば、トラクタ200の前方状況を撮像するステレオカメラなどからなり、基準点となるトラクタ200の前方の前方注視距離L[m]におけるレーン(車線)の中央からの変位(ずれ)を検出する。また、トラクタ200の車体後方の上面に固定された第5輪400の所定箇所には、トラクタ200の前後方向軸に対するトレーラ300の連結角θ[rad]を検出する連結角センサ560が取り付けられている。なお、横変位センサ520及びヨーレートセンサ540が、トラクタ200の状態変数を検出する第1のセンサの一例として挙げられ、連結角センサ560が、第5輪400の状態変数を検出する第2のセンサの一例として挙げられる。
【0017】
そして、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aには、入出力回路500D及び内部バス500Fを介して、横変位センサ520、ヨーレートセンサ540及び連結角センサ560の各出力信号が入力されている。電子制御ユニット500のプロセッサ500Aは、不揮発性メモリ500Bに保持されているアプリケーションプログラムを実行することで、横変位センサ520、ヨーレートセンサ540及び連結角センサ560の各出力信号、並びに目標横変位Y[m]に応じて、電動パワーステアリング装置600の電子制御ユニット620に対して目標操舵角δ[rad]を送信してトラクタ200の操舵を支援する。目標横変位Yは、例えば、最適レーンキープアシスト装置の公知の一機能によって与えられる。
【0018】
ここで、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aがアプリケーションプログラムに従って実行する、最適レーンキープアシスト処理の概要について説明する。
電子制御ユニット500のプロセッサ500Aは、ヨーレートセンサ540の出力信号を積分することでトラクタ200のヨー角Ψ[rad]を算出すると共に、連結角センサ560の出力信号の時間的変化から連結角速度ω[rad/s]を算出する。従って、電子制御装置500のプロセッサ500Aが、トラクタ200の状態変数を検出する第1のセンサ、及び第5輪400の状態変数を検出する第2のセンサの一例として挙げられる。なお、トラクタ200のヨー角Ψ及び第5輪400の連結角速度ωは、公知のセンサを利用して直接検出するようにしてもよい。
【0019】
電子制御ユニット500のプロセッサ500Aは、最適制御則のフィードバックゲインFを考慮して、目標横変位Y、トラクタ200の状態変数及び第5輪400の状態変数に応じた制御量u[m]を算出する。また、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aは、算出した制御量u及びトラクタ200の状態変数に応じたトラクタ200の目標操舵角δを算出する。そして、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aは、電動パワーステアリング装置600の電子制御ユニット620に対して目標操舵角δを出力することで、目標横変位Yとなるようにトラクタ200の操舵を支援する。
【0020】
ここで、具体的な最適レーンキープアシスト処理について説明するに先立って、目標操舵角δの算出式及び最適制御則をどのように求めたかの理論展開について説明する。
最初に、セミトレーラ車両の形態をとる連結車両100の解析モデルを考える。
【0021】
連結車両100の解析モデルにおけるトラクタ200のパラメータとして、重心から前輪220までの距離をa[m]、重心から第5輪400までの距離をa[m]、重心から後輪240までの距離をb[m]、ホイールベースをl(a+b)[m]、質量をm[kg]、ヨー慣性モーメントをI[kgm]、前輪220のコーナリングパワーをC[N/rad]、後輪240のコーナリングパワーをC[N/rad]、重心の横速度をv[m/s]、前輪操舵角をδ[rad]、及びヨーレートをr[rad/s]とおく。また、連結車両100の解析モデルにおけるトレーラ300のパラメータとして、重心から第5輪400までの距離をc[m]、質量をm[kg]、ヨー慣性モーメントをI[kgm]、及びコーナリングパワーをC[N/rad]とおく。さらに、連結車両100の解析モデルにおける第5輪400のパラメータとして、連結角速度をω[rad/s]、及び連結角をθ[rad]とおくと共に、連結車両100の解析モデルにおける連結車両100の前後方向速度をu[m/s]とおく。すると、連結車両100の運動を表す状態方程式は、次式で表すことができる。ここで、xは状態変数、M-1は質量逆行列、Aは減衰行列、Bは外力行列である。
【0022】
【数1】
【0023】
ドライバの操舵を表すモデルは、上式に対して先方注視モデルを適用することで、次式のように表すことができる。ここで、Tはドライバモデルの時定数[s]、Gは操舵ゲイン、eは目標横変位Yからのずれを表す誤差[m]である。
【0024】
【数2】
【0025】
上式のモデルは、連続時間系の微分方程式であるため、このままでは電子制御ユニット500のプロセッサ500Aが処理することができない。このため、連続時間系のモデルを離散時間系のモデルに変換する必要がある。離散時間系のシステム行列Ad及び離散時間系の制御行列Bdは、サンプリング時間をT[s]として、次式のような差分方程式を与える。ここで、A=M-1は連続時間系のシステム行列、B=M-1は連続時間系の制御行列、Cは観測行列、Iは単位行列である。
【0026】
【数3】
【0027】
このようにして得られた差分方程式をドライバモデルに当てはめると、次式のような目標操舵角δを算出するための離散時間系の算出式を得ることができる。
【0028】
【数4】
【0029】
上記の差分方程式で表されるシステムについて、フィードバックゲインをFとすると、最適制御則を表す制御量uは次式によって定義される。
【0030】
【数5】
【0031】
フィードバックゲインFは、次式を最小とする外乱の分散マトリックスQ及び観測ノイズの分散マトリックスRを求めることで決定することができる。
【0032】
【数6】
【0033】
但し、フィードバックゲインFは、次のように表される。
【0034】
【数7】
【0035】
ここで、フィードバックゲインFを表す上式において、Pは次式のように表すことができるリカッチ方程式の解である。
【0036】
【数8】
【0037】
図4は、トラクタ200に搭載された電子制御ユニット500のプロセッサ500Aによって実装される、最適レーンキープアシスト処理の制御ブロックを示している。
連結車両100の状態変数x(k)として、トラクタ200の横変位y、ヨー角Ψ及びヨーレートr、並びに第5輪400の連結角速度ω及び連結角θは、上述したように求められた最適制御則のフィードバックゲインFが乗算されて、Fx(k)が求められる。このように求められたFx(k)は、目標横変位Yから減算されて、制御量u=Y-Fx(k)が求められる。また、トラクタ200の横変位yに対してトラクタ200のヨー角Ψに前方注視距離Lを乗算した値(LΨ)が加算され、y+LΨが求められる。
【0038】
そして、制御量u(Y-Fx(k))からy+LΨを減算することで、目標横変位Yからのずれを表す誤差e(Y-Fx(k)-y-LΨ)が求められる。このように求められた誤差eは、1次遅れ系のドライバモデルを考慮して、操舵ゲインGをトライバモデルの時定数Tに1を加えた値で除算した定数(G/(T+1))と乗算されて、トラクタ200の目標操舵角δが求められる。この目標操舵角δは、最適制御則を適用するときに考慮されると共に、電動パワーステアリング装置600の電子制御ユニット620へと送信されてトラクタ200の操舵が支援される。その結果、トラクタ200は、連結車両100の前方に位置するレーンの中心を走行するように操舵され、車線逸脱を抑制することができる。
【0039】
図5は、電子制御ユニット500が起動されたことを契機として、そのプロセッサ500Aが不揮発性メモリ500Bに保持されたアプリケーションプログラムに従って所定時間ごとに繰り返し実行する、レーンキープアシスト処理の一例を示している。なお、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aがレーンキープアシスト処理を実行することで、図4に示す最適レーンキープアシスト処理の制御ブロックが実装される。
【0040】
ステップ1(図5では「S1」と略記する。以下同様。)では、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aが、入出力回路500Dを介して、各センサからトラクタ200及び第5輪400の状態変数x(k)を読み込む。具体的には、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aは、横変位センサ520からトラクタ200の横変位y、ヨーレートセンサ540からトラクタ200のヨーレートr、及び連結角センサ560から第5輪400の連結角θを夫々読み込む。
【0041】
ステップ2では、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aが、ヨーレートセンサ540から読み込んだヨーレートrを順次積分してトラクタ200のヨー角Ψを算出すると共に、連結角センサ560から読み込んだ連結角θの時間的変化から第5輪400の連結角速度ωを算出する。なお、ヨー角Ψ及び連結角速度ωを直接検出できるセンサを備える場合には、ステップ1においてヨー角Ψ及び連結角速度ωを読み込むことで、ステップ2の処理を省略することができる。
【0042】
ステップ3では、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aが、次のような過程を経て、制御量uを算出する。即ち、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aは、状態変数x(k)としての横変位y、ヨー角Ψ、ヨーレートr、連結角速度ω及び連結角θに対して、最適制御則のフィードバックゲインFを乗算してFx(k)を算出する。そして、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aは、目標横変位YからFx(k)を減算することで、制御量u=Y-Fx(k)を算出する。
【0043】
ステップ4では、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aが、次のような過程を経て、目標横変位Yからのずれを示す誤差eを算出する。即ち、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aは、ヨー角Ψに対して前方注視距離Lを乗算してLΨを算出し、この値(LΨ)と横変位yとを加算してy+LΨを算出する。そして、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aは、制御量u(Y-Fx(k))からy+LΨを減算することで、誤差e=u-(y+LΨ)=Y-Fx(k)-y-LΨを算出する。
【0044】
ステップ5では、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aが、誤差eに対して1次遅れ系のドライバモデルの定数(G/(T+1))を乗算することで、ドライバの特性を考慮した目標操舵角δを算出する。
【0045】
ステップ6では、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aが、通信回路500Eを介して、電動パワーステアリング装置600の電子制御ユニット620に目標操舵角δを送信する。このようにすれば、目標操舵角δを受信した電動パワーステアリング装置600の電子制御ユニット620は、図示しない操舵角センサによって検出された実操舵角が目標操舵角δに近づくように、電動パワーステアリング装置600のアクチュエータをフィードバック制御する。
【0046】
従って、最適制御則のフィードバックゲインFを考慮して、トラクタ200及び第5輪400の状態変数に基づいてトラクタ200の前輪220が操舵されることから、例えば、連結車両100のいずれかのタイヤがパンクチャーなどの異常を起こしても、トラクタ200がその前方のレーンから逸脱することが抑制される。以下、このような効果について検証した、シミュレーション結果について説明する。
【0047】
図6は、タイヤに異常が発生していない正常時の状態において、連結車両100がシングルレーンチェンジしたときの横滑り角、ヨーレート及び横変位の経時的な変化を示している。従来技術では、実線で示すように、横滑り角が0.25[rad]より大きく変動し、ヨーレートが最大0.05[rad/s」変動し、横変位が多少ふらついている。一方、本実施形態で提案する技術では、一点鎖線で示すように、横滑り角及びヨーレートの最大値が小さくなって早期に収束し、横変位が滑らかに行われている。従って、タイヤに異常が発生していない状態において、連結車両100の安定性が向上されたことを理解できるであろう。
【0048】
図7は、連結車両100がシングルレーンチェンジを開始して2秒後に、トレーラ300のタイヤに異常が発生してコーナリングパワーが30%低下したときの横滑り、ヨーレート及び横変位の経時的な変化を示している。従来技術では、実線で示すように、横滑り及びヨーレートが正常時に比べて大きくなると共にその変動が短時間で収束せず、横変位が正常時よりもふらつきが大きくなっている。一方、本実施形態で提案する技術では、トレーラ300のタイヤに異常が発生しても、一点鎖線で示すように、横滑り角及びヨーレートの最大値が小さくなって収束し、横変位が正常時と同様に滑らかに行われている。従って、レーンチェンジ中にタイヤに異常が発生してコーナリングパワーが低下しても、連結車両100の安定性が向上されたことを理解できるであろう。
【0049】
図8は、連結車両100がシングルレーンチェンジを開始して2秒後に、ドライバモデルの時定数T(速応性)が80%低下したときの横滑り、ヨーレート及び横変位の経時的な変化を示している。従来技術では、実線で示すように、ドライバモデルの時定数Tが低下すると、時間経過に伴って横滑り角、ヨーレート及び横位置が振動しながら徐々に大きくなって発散する。一方、本実施形態で提案する技術では、一点鎖線で示すように、ドライバモデルの時定数Tが低下しても、時間経過に伴って横滑り角、ヨーレート及び横変位があまり振動せずに狭い範囲に収束する。従って、レーンチェンジ中にドライバモデルの時定数Tが低下しても、安定してレーンチェンジを続行することができ、連結車両100の安定性が向上されたことを理解できるであろう。
【0050】
このように連結車両100の安定性が向上する理由は、システム固有値を解析した結果、従来技術では特性根が虚軸付近となるが、本実施形態で提案する技術では特性根が虚軸とならないためであることがわかった。
【0051】
以上の実施形態に関し、電子制御ユニット500のプロセッサ500Aは、ドライバモデルの定数(G/(T+1))に代えて、図9に示すように、誤差eに対してディープラーニングDLで求めた定数を乗算して目標操舵角δを算出することができる。また、電子制御装置500のプロセッサ500Aは、制御量u(Y-Fx(k))に応じた操作量を電動パワーステアリング装置600の電子制御ユニット620に送信し、トラクタ200の操舵を支援するようにしてもよい。
【0052】
アプリケーションプログラムは、例えば、SDカード、USBメモリなど、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して市場に流通させることができる。また、アプリケーションプログラムは、インターネットなどに接続されたノードなどにおいてストレージに格納され、このノードから配信することもできる。この場合、ノードのストレージが、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体の一例として挙げられる。
【0053】
なお、当業者であれば、様々な上記実施形態の技術的思想について、その一部を省略したり、その一部を適宜組み合わせたり、その一部を周知技術に置換したりすることで、新たな実施形態を生み出せることを容易に理解できるであろう。
【符号の説明】
【0054】
100 連結車両
200 トラクタ
300 トレーラ
400 第5輪
500 電子制御ユニット
520 横変位センサ(第1のセンサ)
540 ヨーレートセンサ(第1のセンサ)
560 連結角センサ(第2のセンサ)
600 電動パワーステアリング装置
620 電子制御ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2022-02-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクタ及びトレーラが第5輪で連結された連結車両の最適レーンキープアシスト装置であって、
前記トラクタの状態変数を検出する第1のセンサと、
前記第5輪の状態変数を検出する第2のセンサと、
マイクロコンピュータを内蔵した電子制御ユニットと、
を備え、
前記電子制御ユニットは、最適制御則のフィードバックゲインを考慮して、目標横変位、前記第1のセンサの出力信号及び前記第2のセンサの出力信号に応じた制御量を算出し、前記算出した制御量及び前記第1のセンサの出力信号に応じた前記トラクタの目標操舵角を算出し、前記算出した目標操舵角に基づいて前記トラクタの操舵を支援するように構成され、
前記トラクタの状態変数は、横変位、ヨー角及びヨーレートである、
最適レーンキープアシスト装置。
【請求項2】
前記電子制御ユニットは、1次遅れ系のドライバモデルを考慮して、前記算出した目標操舵角に基づいて前記トラクタの操舵を支援するように構成された、
請求項1に記載の最適レーンキープアシスト装置。
【請求項3】
前記電子制御ユニットは、電動パワーステアリング装置の電子制御ユニットに対して前記算出した目標操舵角を出力することで、前記トラクタの操舵を支援するように構成された、
請求項1又は請求項2に記載の最適レーンキープアシスト装置。
【請求項4】
前記第5輪の状態変数は、連結角速度及び連結角である、
請求項1~請求項3のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト装置。
【請求項5】
前記連結車両は、フルトレーラ車両又はセミトレーラ車両である、
請求項1~請求項4のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト装置。
【請求項6】
トラクタ及びトレーラが第5輪で連結され、前記トラクタの状態変数を検出する第1のセンサと、前記第5輪の状態変数を検出する第2のセンサと、マイクロコンピュータを内蔵した電子制御ユニットと、を備えた連結車両の最適レーンキープアシスト方法であって、
前記電子制御ユニットが、
最適制御則のフィードバックゲインを考慮して、目標横変位、前記第1のセンサの出力信号及び前記第2のセンサの出力信号に応じた制御量を算出するステップと、
前記算出した制御量及び前記第1のセンサの出力信号に応じた前記トラクタの目標操舵角を算出するステップと、
前記算出した目標操舵角に基づいて前記トラクタの操舵を支援するステップと、
を実行し、
前記トラクタの状態変数は、横変位、ヨー角及びヨーレートである、
最適レーンキープアシスト方法。
【請求項7】
前記トラクタの操舵を支援するステップは、1次遅れ系のドライバモデルを考慮して、前記算出した目標操舵角に基づいて前記トラクタの操舵を支援する、
請求項6に記載の最適レーンキープアシスト方法。
【請求項8】
前記トラクタの操舵を支援するステップは、電動パワーステアリング装置の電子制御ユニットに対して前記算出した目標操舵角を出力することで、前記トラクタの操舵を支援する、
請求項6又は請求項7に記載の最適レーンキープアシスト方法。
【請求項9】
前記第5輪の状態変数は、連結角速度及び連結角である、
請求項6~請求項8のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト方法。
【請求項10】
前記連結車両は、フルトレーラ車両又はセミトレーラ車両である、
請求項6~請求項9のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト方法。
【請求項11】
請求項1~請求項5のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト装置を備えた連結車両。
【請求項12】
コンピュータで実行されるとき、請求項6~請求項10のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト方法のステップを実行するプログラムコードを備えたコンピュータプログラム。
【請求項13】
コンピュータで実行されるとき、請求項6~請求項10のいずれか1つに記載の最適レーンキープアシスト方法のステップを実行するプログラムコードを備えたコンピュータプログラムを保持するコンピュータ可読媒体。
【国際調査報告】