(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-09
(54)【発明の名称】細胞を胎盤組織から隔離する方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/28 20060101AFI20221202BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20221202BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20221202BHJP
【FI】
C12M1/28
C12M1/00 A
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518812
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(85)【翻訳文提出日】2022-05-20
(86)【国際出願番号】 US2020052585
(87)【国際公開番号】W WO2021062059
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519087295
【氏名又は名称】メハリー メディカル カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】アルセンドル ドナルド
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC02
4B029GB05
4B029HA02
4B029HA04
4B065AA90X
4B065BD50
(57)【要約】
組織から細胞の集団を隔離する方法を、本明細書に開示する。とりわけ、本開示は、胎盤組織から細胞性栄養膜細胞を隔離する方法を提供する。本方法は、ワセリン等の潤滑剤でコーティングされた実験器具を使用して、細胞の集団を分離することを含む。本明細書で説明される方法は、精製された細胞の一貫したin vitro隔離を実現する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を隔離するための実験器具であって、
第1の開口端と第2の開口端とを有する中空構造を備え、前記第1の開口端が潤滑剤で被覆され、かつ前記第1の開口端が前記細胞の上に配置されるように構成される、実験器具。
【請求項2】
請求項1に記載の実験器具であって、前記中空構造がピペットの円筒状バレルである、実験器具。
【請求項3】
請求項1に記載の実験器具であって、前記中空構造がクローニング・シリンダである、実験器具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の実験器具であって、前記潤滑剤がワセリンを含む、実験器具。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の実験器具であって、前記中空構造がプラスチック製またはガラス製である、実験器具。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の実験器具であって、前記中空構造が滅菌されている、実験器具。
【請求項7】
栄養膜細胞を隔離する方法であって、
分離された正常な胎盤から胎盤絨毛組織外植体を摘出すること、
栄養膜細胞の増殖に適した条件下で、培養培地中で前記胎盤絨毛組織外植体を培養すること、および、
隔離栄養膜細胞を形成するために、請求項1~6のいずれかの実験器具を用いて栄養膜細胞を隔離することを含む、方法。
【請求項8】
請求項7の方法であって、前記摘出のステップは、
分離された正常な胎盤を得ること、
前記分離された正常な胎盤から胎盤葉を採取すること、および、
前記胎盤葉から胎盤絨毛組織外植体を摘出することをさらに含む、方法。
【請求項9】
請求項7または8の方法であって、トリプシンを含む酵素溶液を用いて前記隔離栄養膜細胞を処理することをさらに含む、方法。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項の方法であって、前記隔離のステップは、前記実験器具の前記第1の開口端を前記栄養膜細胞の上に配置することをさらに含む、方法。
【請求項11】
胎盤組織から栄養膜細胞を隔離する方法であって、
分離された正常な胎盤を得ること、
前記分離された正常な胎盤から胎盤葉を採取すること、
前記胎盤葉から胎盤絨毛組織外植体を摘出すること、
栄養膜細胞の増殖にふさわしい条件下で、培養培地で前記胎盤絨毛組織外植体を培養すること、
請求項1~6のいずれか一項の前記実験器具の前記第1の開口端を栄養膜細胞のコロニーの上に配置することによって、隔離されたコロニーを形成すること、および、
前記栄養膜細胞の前記隔離されたコロニーを酵素溶液で処理することを含む、方法。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか一項の方法であって、前記摘出のステップは、前記胎盤絨毛組織外植体を切片化することをさらに含む、方法。
【請求項13】
請求項7~12のいずれか一項の方法であって、前記培養培地がウシ胎児血清(FBS)および抗生物質を含む、方法。
【請求項14】
請求項13の方法であって、前記培養培地がFBSとペニシリンおよびストレプトマイシンの溶液とを含む、方法。
【請求項15】
請求項7~14のいずれか一項の方法であって、前記胎盤絨毛組織外植体が約5mL~約30mLの培養培地で培養される、方法。
【請求項16】
請求項7~15のいずれか一項の方法であって、前記胎盤絨毛組織外植体が約10mLの培養培地で培養される、方法。
【請求項17】
請求項7~16のいずれか一項の方法であって、前記培養のステップは、前記培養培地を約1日~約16日間インキュベートすることをさらに含む、方法。
【請求項18】
請求項7~17のいずれか一項の方法であって、前記培養のステップは、前記培培養培地を約16日間インキュベートすることをさらに含む、方法。
【請求項19】
請求項7~18のいずれか一項の方法であって、同一性と純度とを検証するために、前記隔離栄養膜細胞をサイトケラチン7で染色することをさらに含む、方法。
【請求項20】
請求項11~19のいずれか一項の方法であって、前記酵素溶液が0.05パーセントのトリプシン-EDTAを含む、方法。
【請求項21】
請求項11~20のいずれか一項の方法であって、前記配置のステップに先立って、前記培養培地を除去することをさらに含む、方法。
【請求項22】
請求項11~21のいずれか一項の方法であって、前記実験器具の前記第2の開口端を通して前記酵素溶液を添加することにより、前記栄養膜細胞の前記隔離されたコロニーが前記酵素溶液によって処理される、方法。
【請求項23】
請請求項7~22のいずれか一項の方法であって、前記栄養膜細胞が細胞性栄養膜細胞である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦政府出資の研究または開発に関する記述)
本発明は、国立衛生研究所(NIH)から授与された助成金番号S21MD000104の下で政府の支援を受けて行われたものである。政府は、発明に対して一定の権利を有する。ここでいう「政府」とは、アメリカ合衆国政府を指さす。
【0002】
本開示は、概して、組織から細胞の集団を隔離する方法に関し、より具体的には、胎盤組織から栄養膜細胞(trophoblasts)を隔離する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
胎盤は、妊娠の全体を通じて母体と胎児との間での栄養分およびガス交換に関与する胎児器官である。異常な胎盤形成は、さまざまな妊娠合併症(例えば、流産、子癇前症、および子宮内成長制限)を引き起こし得るものであり、このことは晩年に重篤な障害(例えば、循環器病および2型糖尿病)を発症するリスクを高める。この理由から、ヒトの胎盤形成(human placental formation)と栄養膜細胞系統(trophoblast cell lineage)とを支配する分子機序を理解することは、重要である。
【0004】
さまざまな種類の胎盤由来細胞を使用して胎盤の生物学を理解する従来の細胞培養技術が数多く存在する。しかし、これらの技術は、胎盤の臓器特異的超微細構造および生理学的機能を欠いている。ヒトの発生における胎盤生物学の理解を深めるためのヒト胎盤のモデリングは、ヒト胎盤初代細胞の生体外(in vitro)での区画化に基づくリアルタイムでのモニタリングが可能である胎盤オンチップ(placenta-on-a-chip)モデルを確立するまでに至った(Mittal R他、J Cell Physiol.2019;234(6):8352~8380;Lee JS他、J Matern F他、Neonatal Med.2016;29(7):1046~54;Yin F他、Toxicol in vitro.2019;54:105~113;Blundell C他、Adv Healthc Mater.2018;7(2))。これらのマイクロデバイスは、マイクロ流体素子と、微細加工技術と、薄い細胞外マトリックス(ECM)膜によって分離された2つのポリジメチルシロキサン(PDMS)マイクロ流体チャネルを含むマイクロシステムとを使用して、作成される(Lee JS他、J Matern Fetal Neonatal Med.2016;29(7):1046~54)。これらの典型的な胎盤マイクロシステムの必須細胞構成要素は、胎盤栄養膜細胞(trophoblasts)である。
【0005】
ヒト絨毛膜癌に由来するBeWo、JEG-3、JAR等の市販の栄養膜細胞株の普及は有用であった。しかしながら、これらの形質転換細胞株は、それらの一部が何十年も培養されているものであり、生体内(in vivo)での一次栄養膜細胞(primary trophoblasts)を模倣しない。(Pattillo RA他、Cancer Res.28:1231~1236、1968;Pattillo RA他、Ann.N.Y.Acad.Sci.172:288~298、1971;Kohler PO他、J.Clin.Endocrinol.32:683~687、1971;Pattillo RA他、In Vitro 6:398~399、1971)。一次細胞性栄養膜細胞(primary trophoblasts)を胎盤組織から分離しなければならない作業は、手間がかかり、高価な試薬を必要とし、結果にばらつきがある場合がある。胎盤絨毛のトリプシン消化に基づく日常的な絨毛栄養膜細胞隔離(villous trophoblast isolation)およびそれに続いて追加される精製のステップは、費用も手間もかかると思われる(Kliman HJ他、Endocrinology 1986;118:1567e82)。パーコール勾配を用いて絨毛栄養膜細胞(villous trophoblasts)を精製することで、約80%の純度が得られることがKilman他によって示された(Endocrinology 1986;118:1567e82;Clabault H他、Methods Mol Biol.2018;1710:219~231)。磁気ビーズが、トリプシン処理された胎盤外植片(placental explants)から絨毛栄養膜細胞をさらに精製するためにも使用されている(Douglas GC他、J Immunol Methods 1989;119:259e68;Petroff MG他、Methods Mol Med.2006;121:203~217)。他の研究グループは、単核化した合胞体からの細胞性栄養膜細胞の分離を実際に示している(Huppertz B他、Lab Invest 1999;79:1687e702;Guilbert LJ他、Placenta 2002;23:175e83;Tannetta DS他、Placenta 2008;29:680e90)。しかしながら、これらの方法では、夾雑物である他の胎盤細胞型に対して相当な純度を成し遂げるには依然として、二次的な選択分離技術が求められる。
【0006】
したがって、当技術分野では、胎盤組織からの細胞性栄養膜細胞等の細胞の着実なin vitro隔離を達成するための、合理化された効率的な方法が依然として求められている。
【発明の概要】
【0007】
上記で説明した課題およびその他の課題は、以下の発明によって解決されるが、本明細書に説明される発明のすべての実施形態が上記の各問題点を解決するわけではないことを理解すべきである。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法が、胎盤組織から細胞性栄養膜細胞等の細胞の着実なin vitro隔離を達成することが予期せず発見された。
【0008】
第1の態様では、細胞を隔離するための実験器具(laboratory apparatus)が提供され、該実験器具は、第1の開口端(first one open end)と第2の開口端(second open end)とを有する中空構造(hollow structure)を含み、上記第1の開口端が潤滑剤(lubricant)で被覆され、かつ上記第1の開口端が上記細胞の上に配置されるように構成される。
【0009】
第2の態様では、栄養膜細胞を隔離する方法が提供され、該方法は、分離された正常な胎盤から胎盤絨毛組織(placental villous tissue)を摘出すること、栄養膜細胞の増殖に適した条件下で、培養培地中で前記胎盤絨毛組織を培養すること、および、上記の実験器具を用いて栄養膜細胞を隔離して、隔離栄養膜細胞(isolated trophoblast cell)を形成することを含む。
【0010】
第3の態様では、胎盤組織から栄養膜細胞を隔離する方法が提供され、該方法は、分離された正常な胎盤(detached normal placenta)を得ること、上記分離された正常な胎盤から胎盤葉(placental cotyledons)を採取すること、胎盤葉から胎盤絨毛組織を摘出すること、胎盤絨毛組織を培養培地で培養すること、および、上記実験器具の第1の開口端を栄養膜細胞のコロニーの上に配置することによって、隔離されたコロニーを形成すること、および、栄養膜細胞の絶縁したコロニーを酵素溶液で処理することを含む。
【0011】
上記のことは、簡略化された要約を示すことで、クレームされた主題のいくつかの態様の基本的な理解が得られるようになる。この要約は、広範囲に及ぶ概要を示すものではない。また、主要点または重要な要素を特定したり、クレームされた主題の範囲を明確にしたりすることを意図したものではない。その唯一の目的は、後で提示されるより詳細な説明の前置きとして、いくつかの概念を簡略形式で提示することである。
【0012】
本開示のさらなる特徴および利点は、以下に説明する図面に関連して提供される以下の詳細な説明から確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】細胞栄養膜細胞隔離のために利用される培養された胎盤外植片を示す。
【
図2】細胞栄養膜細胞を胎盤外植片から隔離する方法を示す模式図である。細胞栄養膜細胞の隔離には、絨毛外植片をペトリ皿上で切片化して配置すること、VASELINEワセリンでコーティングされた単純なピペットバレルを使用して絨毛凝集塊からの派生物から選択された細胞コロニーを培養および隔離すること、その後にトリプシン処理および継代培養(subculture)を行い、サイトケラチン7染色で純度を確認することが伴う。
【
図3A】白矢印で示されるように、胎盤周囲組織(peripheral placental tissue)で緑色蛍光タンパク質を発現するHCMV-GFPに感染した生細胞の蛍光顕微鏡観察結果である。
【
図3B】白矢印で示されるように、胎盤周囲組織で緑色蛍光タンパク質を発現するHCMV-GFPに感染した生細胞と赤血球によるコンタミネーションとの蛍光顕微鏡観察結果である。
【
図3C】白矢印で示されるように、凝集組織で緑色蛍光タンパク質を発現しているHCMV-GFPに感染した生細胞と赤血球によるコンタミネーションとの蛍光顕微鏡観察を示す。
【
図3D】白い矢印で示されるように、緑色蛍光タンパク質を発現するHCMV-GFPに感染した絨毛樹構造の生細胞の蛍光顕微鏡観察を示す。すべての画像は、電荷結合素子(CCD)カメラ搭載のニコンTE2000S顕微鏡を使用して200倍の拡大倍率で取得した。
【
図4A】栄養膜細胞培養培地で培養された切除および切開の24時間後の胎盤結節/胎盤葉(placental nodes/cotyledons)を示す。
【
図4B】培養8日後の絨毛細胞の増生(outgrowth)と初期のコロニー形成とを示す。
【
図4C】培養11日後の絨毛細胞の増生とサブコンフルエントなコロニー形成を示す。
【
図4D】クローン選択および増殖のために黄色の点線の輪郭が描かれた領域により、培養14日後の絨毛細胞の増生とコンフルエントな限局性単層(confluent focal monolayers)とを示す。
【
図4E】培養10日後の絨毛組織凝集塊(villous tissue aggregate)を示す。
【
図4F】培養16日後の絨毛組織凝集塊および関連する絨毛細胞の増生を示す。
【
図4G】クローン選択および増殖のために黄色の点線の輪郭が描かれた領域により、培養16日後の絨毛組織凝集塊および関連する絨毛細胞の増生をより高い倍率で示す。
【
図4H】24時間後の免疫蛍光染色でサイトケラチン7が陽性に染色されたクローン選択細胞の継代培養および培養を示す。
【
図4I】48時間後の免疫蛍光染色によりサイトケラチン7が陽性に染色されたクローン選択細胞の継代培養および培養を示す。免疫染色画像では、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で核を青色染色した。すべての画像は、電荷結合素子(CCD)カメラ搭載のニコンTE2000S顕微鏡を使用して200倍の拡大倍率で取得した。
【
図5A】サイトケラチン7に対する抗体による免疫蛍光染色で染色した細胞を示す。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で核を青色染色した。すべての画像は、電荷結合素子(CCD)カメラ搭載のニコンTE2000S顕微鏡を使用して200倍の拡大倍率で取得した。
【
図5B】サイトケラチン7に対する抗体による免疫蛍光染色で染色した細胞を示す。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で核を青色染色した。すべての画像は、電荷結合素子(CCD)カメラ搭載のニコンTE2000S顕微鏡を使用して200倍の拡大倍率で取得した。
【
図5C】サイトケラチン7に対する抗体による免疫蛍光染色で染色した細胞を示す。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で核を青色染色した。すべての画像は、電荷結合素子(CCD)カメラ搭載のニコンTE2000S顕微鏡を使用して200倍の拡大倍率で取得した。
【
図5D】サイトケラチン7に対する抗体による免疫蛍光染色で染色した細胞を示す。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で核を青色染色した。すべての画像は、電荷結合素子(CCD)カメラ搭載のニコンTE2000S顕微鏡を使用して200倍の拡大倍率で取得した。
【
図6A】フォルスコリンを処理した細胞ではIHC染色により決定されるhCGのレベルが高いことを示す。
【
図6B】フォルスコリンを処理した細胞ではIHC染色により決定されるhCGのレベルが高いことを示す。
【
図6C】フォルスコリンを処理した細胞ではIHC染色により決定されるhCGのレベルが高いことを示す。
【
図6D】フォルスコリンを処理した細胞ではIHC染色により決定されるhCGのレベルが高いことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面は原寸に比例しておらず、本発明の典型的な態様のみを描写することを意図しており、したがって、本開示の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【0015】
A.定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本開示の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。さらに、一般的に使用される辞書で定義されているような用語は、明細書の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、また、明細書中に明示的に定義されていない限り、理想的な意味または過度に形式的な意味で解釈されるべきではないことが理解されよう。周知の機能または構造については、簡潔性または明瞭性を目的とした詳細な説明がなされない場合がある。
【0016】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に別のことを示していない限り、複数形も含むことが意図される。
【0017】
本明細書では、様々な特徴または要素を説明するために「第1」(first)、「第2」(second)等の用語を使用するが、これらの用語によってそれらの特徴または要素が限定されるべきでない。これらの用語は、ある特徴または要素を別の特徴または要素から区別するためにのみ使用される。したがって、本開示の教示から逸脱することなく、後述する第1の特徴または要素を第2の特徴または要素と称してもよく、同様に、後述する第2の特徴または要素を第1の特徴または要素と称してもよい。
【0018】
「から本質的になる」(consisting essentially of)という用語は、列挙された要素に加えて、クレームされたものが、本開示に記載されている意図された目的のためにクレームされているものの実施可能性(operability)に悪影響を及ぼさない他の要素(ステップ、構造、成分、構成要素等)も含み得ることを意味する。この用語は、そのような他の要素が他の目的のために主張されているものの実施可能性を高めるかもしれないとしても、本開示で述べられているように、その意図された目的のために主張されているものの実施可能性に悪影響を与えるような他の要素を除外する。
【0019】
「約」(about)および「おおよそ」(approximately)という用語は、概して、測定の特性または精度を考慮して、測定量の許容可能範囲の誤差または変動を意味するものとする。典型的、例示的な誤差または変動の範囲は、所与の値または値の範囲の20パーセント(%)以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。生体系(biological systems)では、用語「約」は、許容可能な誤差の標準偏差を指し、好ましくは所与の値の2倍以下を指す。
【0020】
以下の説明では、読者が本明細書に記載された内容を理解し、使用できるように、いくつかの外部文献を参照する。本明細書に含まれるものは、先行技術の「自認」(admission)として解釈されるべきではない。出願人は、適切な場合には、本明細書で言及された当該文書が、適用される法令規定の下で先行技術を構成しないことを証明する権利を明示的に留保する。
【0021】
B.隔離方法
本開示は、組織から細胞集団を隔離する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、胎盤組織から細胞性栄養膜細胞を隔離する方法を提供する。すなわち、本明細書に開示される方法は、いくつかの実施形態では、胎盤組織外植片からの絨毛栄養膜細胞のルーチン培養および精製を可能にする。本明細書に記載の方法は、精製された細胞の着実なin vitro隔離を達成する。
【0022】
一実施形態では、本開示の方法は、胎盤組織を利用して、細胞性栄養膜細胞等の栄養膜細胞を隔離する。本明細書で使用される場合、「栄養膜細胞」(trophoblast)という用語は、哺乳動物の胚または胎児の胎盤に由来する上皮細胞を指す。栄養膜細胞は通常、子宮壁に接触する。胎盤組織には3種類の栄養膜細胞、すなわち、絨毛細胞性栄養膜細胞(villous cytotrophoblast)、合胞体栄養膜細胞(syncytiotrophoblast)、および絨毛外栄養膜細胞(extravillous trophoblast)があり、したがって、本明細書で使用される「栄養膜細胞」(trophoblast)という用語は、これらの細胞のいずれかを包含する。絨毛細胞性栄養膜細胞は、分化し、増殖し、さらに子宮壁に侵入して絨毛を形成する特殊な胎盤上皮細胞である。錨着絨毛(anchoring villi)に存在する細胞性栄養膜細胞は融合して合胞体栄養膜細胞層を形成、または絨毛外栄養膜細胞の柱を形成し得る。
【0023】
この態様では、この方法は、分離された正常な胎盤を得ることを含む。本明細書で使用される場合、「分離された正常な胎盤」(detached normal placenta)は、出生後に健常な母体から切り離される胎盤を指す。分離された正常な胎盤を使用することにより、本開示の方法では、妊娠中に侵襲的な腹腔鏡手術を実施する必要性が取り除かれる。分離された正常な胎盤は、無菌状態で迅速に保管する必要がある。
【0024】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、胎盤葉から絨毛栄養膜細胞を培養する。本明細書で使用される場合、「胎盤葉」(placental cotyledons)は、絨毛膜絨毛を含む胎盤内の円形構造を指す。この態様では、この方法は、剥離した正常な胎盤から胎盤葉を採取することを含む。胎盤葉の採取は、当技術分野において既知である任意の従来の解剖学的方法によって実施することが可能である。一実施形態では、既知である任意の外科用器具、例えば、メスおよび/または手術用ハサミを使用して、分離された正常な胎盤から胎盤葉を切除することが可能である。一実施形態では、分離された正常な胎盤から胎盤葉を切除した後、さらなる使用のために胎盤葉を氷上に保存してもよい。
【0025】
一実施形態では、胎盤絨毛組織は、胎盤葉から採取される。採取に先だって、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または抗生物質含有PBS(例えば、ペニシリンまたはストレプトマイシン含有PBS)等の溶液で、胎盤葉を洗浄してもよい。胎盤葉を2回以上洗浄可能であり、例えば、胎盤葉は3回洗浄してもよい。洗浄ステップによって、汚染物質(例えば、血液)の除去と組織への水分補給とがなされ得る。胎盤絨毛組織の摘出は、当技術分野において既知である任意の従来の解剖学的方法によって実施することが可能である。一実施形態では、脱落膜層(decidual layer)は、胎盤絨毛組織を露出させるために取り除かれてもよい。次に、メスおよび/または手術用ハサミ等の既知の外科用器具を使用して胎盤葉を細かく切り刻むことにより、胎盤絨毛組織を採取することができる。胎盤絨毛組織外植片(placental villous tissue explants)を切片化し、ペトリ皿等の無菌容器に入れてもよい。本明細書で使用される場合,「外植片」(explant)は、生体の任意の部位から得た検体を指す。
【0026】
胎盤絨毛組織外植片を切片化して容器(ペトリ皿またはプレート等)に入れることで、栄養膜細胞培養培地等の培養培地を各容器に加えることができる。いくつかの実施形態では、培養培地はウシ胎児血清(FBS)と抗生物質とを含有する培地である。例えば、培養培地は、10パーセントのFBSと1パーセントの抗生物質(例えば、ペニシリン・ストレプトマイシン)を含むものであってもよい。一実施形態では、培養培地は、約5mL~約30mLの量で、組織外植片に加えられる。別の実施形態では、培養培地は、約10mL~約20mLの量で、組織外植片に加えられる。さらに別の実施形態では、培養培地は、約10mLの量で、組織外植片に加えられる。
【0027】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、胎盤絨毛組織外植片の培養物をインキュベートして、栄養膜細胞外植片の成長を促進することを含む。培養物のインキュベーションは、約1日~約20日間であってもよい。別の実施形態では、培養物のインキュベーションが約1日~約16日間であってもよい。さらに別の実施形態では、培養物のインキュベーションが約3日~約10日間であってもよい。さらに別の実施形態では、培養物のインキュベーションが約16日間であってもよい。いくつかの実施形態では、培養物は、従来の培養条件下でインキュベートされる。例えば、培養物を約37℃の温度でインキュベーション可能である。さらに、インキュベーション期間を通して、培養培地を新鮮な培地と交換してもよい。いくつかの実施形態では、培地は、5日ごと、好ましくは3日ごと、より好ましくは2日ごとに新鮮な培地と交換され得る。
【0028】
一実施形態では、栄養膜細胞の特徴のあるコロニーのインキュベーション期間中に、栄養膜細胞外植片の増生を観察する。この態様では、栄養膜細胞外植片の増生を、3日ごとに、好ましくは1日おきに、さらにより好ましくは毎日観察する。例えば、栄養膜細胞外植片の増生を、顕微鏡観察によって調べることができる。いくつかの実施形態では、栄養膜細胞増生のコロニーを形態によって同定してもよい。例えば、栄養膜細胞単層と一致する形態学的特徴および成長速度を有するコロニーを同定してもよい。栄養膜細胞増生のコロニーを同定したら、このコロニーを隔離するための印を付けてもよい。
【0029】
いくつかの実施形態では、この方法は、同定された外植片の増生のいずれかから、細胞性栄養膜細胞等の栄養膜細胞を隔離することを含む。栄養膜細胞のコロニーの摘出(extraction)に先立って、容器(例えば、ペトリ皿またはプレート)内に存在する任意の培地を除去してもよい。培養培地が取り除かれると、栄養膜細胞のコロニーが隔離可能となる。いくつかの実施形態では、中空構造を有する実験器具を用いて栄養膜細胞のコロニーを隔離することが可能である。この実験器具は、第1の開口端と第2の開口端とを有する任意の中空構造を含み得る。一実施形態では、標準ピペット(standard pipette)の改良型を用いて栄養膜細胞のコロニーを隔離することが可能である。この態様では、標準ピペットの先端部分とバルブ部分とを取り外して、ピペットのバレル部分を露出させてもよい。先端部分とバルブ部分とを取り外してピペットのバレルを露出させることができる限り、任意の標準ピペットを用いることが可能である。ピペットの寸法は、隔離する栄養膜細胞集団(trophoblast population)の大きさに応じて異なってもよい。いくつかの実施形態では、本方法は、1mL標準ピペットを利用する。別の実施例では、構造が少なくとも2つの開口端を持つ限り、標準クローニング・シリンダ(standard cloning cylinder)を使用してもよい。滅菌できる任意の適切なシリンダを利用してもよい(例えば、ポリマー、ガラス、または金属から構成されるもの)。いくつかの実施形態では、本方法は、磁気ビーズ上の抗原特異的抗体を利用するもので、栄養膜細胞の継代培養後の隔離を間接免疫蛍光染色によってチャンバスライド内で確認する。
【0030】
隔離に先立って、実験器具の一端、例えば、ピペットの露出バレル部分の一端またはクローニング・シリンダの一端を、隔離中に中空構造の縁をシールするのを助けるために潤滑剤でコーティングしてもよい。適切な潤滑剤としては、ワセリン、鉱油、グリース、ポリアルファオレフィン(PAO)、合成エステル、ポリアルキルグリコール(PAG)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。MEDGE疎水性バリアペン(IMMEDGE hydrophobic barrier pen)等の疎水性マーカーを隔離に使用することができる。一実施形態では、実験器具の一端をワセリンでコーティングしてもよい。他の実施形態では、実験器具の一端を鉱油でコーティングしてもよい。さらに別の実施形態では、実験器具の一端をグリースでコーティングしてもよい。次に、実験器具のコーティングされた端部を、隔離される栄養膜細胞コロニーの真上に配置してもよい。有利なことに、実験器具の端をワセリン等の潤滑剤でコーティングすることは、局所トリプシン処理のためにその構造の縁をシールするのに役立ち、浮遊細胞または遠位コロニーからの細胞によるクロスコンタミネーションを防ぐ。疎水性マーキングペンを使用して、トリプシンによる摘出のために選択したコロニーの周囲にシールを作成することができる。
【0031】
選択された栄養膜細胞集団を隔離した後、選択された集団を酵素で処理してもよい。一実施形態では、選択された栄養膜細胞集団をトリプシンの溶液で処理してもよい。例えば、選択された栄養膜細胞集団を、0.05パーセントのトリプシン-EDTAの溶液で処理してもよい。いくつかの実施形態では、酵素溶液は、それが栄養膜細胞コロニーの上に配置されている間に、実験器具の露出端(例えば、第2の開放端)を介して栄養膜細胞集団に直接添加されてもよい。他の実施形態では、集団が抽出された後、酵素溶液を栄養膜細胞集団に添加してもよい。
【0032】
いくつかの実施形態では、隔離された細胞の集団が形成される。本明細書で使用される場合、「隔離された細胞の集団」(population of isolated cells)という用語は、細胞の集団が由来する組織の他の細胞(例えば、胎盤)から実質的に分離された細胞の集団を意味する。一実施形態では、隔離された細胞性栄養膜細胞の集団が形成される。次に、隔離された細胞性栄養膜細胞を継代培養し、同一性および純度について検証することが可能である。いくつかの実施形態では、隔離された細胞性栄養膜細胞は、モノクローナル抗体NDOG1によって標的化されるサイトケラチン7、hCG、HLA-G、胎盤アルカリホスファターゼ、およびヒアルロン酸などの栄養膜細胞マーカー分子の発現を測定することによって、検証することが可能である。好ましい実施例において、隔離された細胞栄養膜細胞は、上皮中間径フィラメント抗原性生物マーカー(サイトケラチン7(cytokeratin 7))を用いた免疫蛍光染色によって、確認することが可能である。隔離した細胞栄養膜細胞は、間充織標識(例えばビメンチン)の発現を測定することによって、確認することが可能である。
【0033】
いくつかの実施形態では、隔離された細胞性栄養膜細胞の同定または純度は、フォルスコリンでの処理後の隔離された細胞性栄養膜細胞(Cytotrophoblasts)におけるhCG発現を測定することによって検証され得る。
【0034】
胎盤組織からの細胞性栄養膜細胞の隔離について本開示の方法が本明細書に説明されてきたが、当業者は、複数の器官系における様々な異なる組織から細胞集団を選択的に隔離するために、説明された方法が修正され得ることを理解するであろう。例えば、開示された方法は、以下の細胞集団、すなわち、幹細胞(胚性および成体)、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞、メルケル細胞、およびランゲルハンス細胞、メサンギウム細胞、有足細胞、肝細胞、周皮細胞、内皮細胞、心筋細胞、星状細胞、上皮細胞、星状膠細胞、眼球細胞、脂肪細胞、肺細胞、ミクログリア細胞、副腎皮質細胞、平滑筋細胞、マクロファージ、尿路上皮細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、セルトリ細胞、肝星細胞、腎細胞、心臓細胞、その他の内臓細胞、ならびに腫瘍細胞のいずれかを隔離するために変更されてもよい。
【0035】
本明細書に説明されるように、開示された方法は、いくつかの利点、例えば、細胞性栄養膜細胞の選択的隔離を有する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法によって隔離された細胞の集団は、胎盤細胞の生物学および機能、ならびに毒物および感染性病原体への曝露後の生理学的応答を研究するために、in vitro胎盤オンチップモデルにおいて使用され得る。他の実施形態では、開示された方法によって隔離された細胞の集団は、栄養膜細胞増殖、分化、浸潤、ウイルス相互作用、細胞質分裂、免疫学、細胞分化、細胞形質転換、細胞分裂、アポトーシス、および細胞移植のin vitro研究を容易にし得る。さらに他の実施例において、開示された方法によって隔離される細胞の集団によって、マイクロ流体胎盤モデルの開発、分化のための前駆細胞の供給源の開発、治療のための精製細胞集団の培養、オンチップ器官の開発、および精製細胞注入の開発が促進され得る。
【0036】
C.実施例
実施例1:胎盤外植片からの精製絨毛性細胞性栄養膜細胞の隔離
【0037】
以下は、ヒト胎盤絨毛外植片から細胞性栄養膜細胞を隔離するための例示的な方法である。
【0038】
<材料と方法>
[胎盤採取]
【0039】
胎盤は、ヴァンダービルト(Vanderbilt)大学医療センターで満期妊娠後の選択的無痛分娩帝王切開から得られた。本研究は、ヴァンダービルト大学施設内倫理委員会の承認を得た。
【0040】
[外植片培養]
滅菌条件下で無傷の胎盤から結節を採取した。絨毛結節をまず完全栄養細胞培地に浸漬し、氷の上に移した。切開の前に、赤血球によるコンタミネーションを低減させて組織を水和するべく、結節を過剰のPBSで洗浄した。絨毛結節をメスおよび外科剪刀で切片化し、皿に入れた。
【0041】
図1は、細胞栄養膜細胞隔離に利用した培養胎盤外植片を示す。
図1に示される絨毛結節/胎盤葉を、ラミナーフローフード内でメスおよび外科剪刀で胎盤から切除し、30mLの栄養膜細胞培地を含む50mLのコニカルチュ-ブ内の氷の上に移した。切開および培養に先立って、上記節をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)に浸した。
【0042】
[細胞性栄養膜細胞隔離]
胎盤および胎盤外植片の収集およびそれらの移送に関与するすべての手順を無菌条件下で実施した。分娩から胎盤結節隔離までの時間は、1時間未満であった。
【0043】
図2は、細胞性栄養膜細胞を胎盤外植片から隔離する方法を示す模式図である。細胞性栄養膜細胞を隔離するために、胎盤結節または胎盤葉をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、滅菌済みの外科剪刀で切除した。脱落膜層を除去して、絨毛組織を露出させた。胎盤結節/胎盤葉を替刃メスNo.21で細かく切り刻み、個々の5mm組織外植片を100×20mm皿に空間的な広がりをもって配置させ、プレート1枚あたり10mLの栄養膜細胞培地で培養した(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシン;ScienCell、カリフォルニア州カールズバッド所在)。(Aronoff DM他、Am J Reprod Immunol.2017年9月;78(3):10.1111/aji.12728)。外植片培養物を37℃で1~16日間インキュベートし、2日ごとに新鮮な培地に交換した。栄養膜細胞培地には、25μg/mLのファンギゾン(Gibco、Life Technologies、ニューヨーク州グランドアイランド所在)を追加した。
【0044】
顕微鏡観察によって栄養膜細胞外植片増生を毎日調べた。栄養膜細胞コロニーを、倒立顕微鏡を使用して識別した。形態学的に識別されたコロニーを、摘出前にフェルトチップマーカーで囲んだ。コロニーの摘出は、プラスチック製の滅菌済み1mLピペットチップの先端をメスで取り除いた後、そのバレルを用いて行った。皿から培地を取り除き、ピペットチップの開いたバレルを滅菌したVASELINEワセリンに浸し、VASELINEワセリンを含んだピペットバレルの先端をプレート上の栄養膜細胞コロニーに直接あてた。VASELINEワセリンによって細胞コロニーの周囲にシールを作った。
図4Bに示すように、コロニー形成の初期段階で、選択されたコロニーを最初に特定した。組織の均質化は内皮細胞によるコンタミネーションの可能性のリスクを高める場合があることから、隔離の方法には組織の均質化が含まれなくてもよい。ピペットバレルの開口端にトリプシン(0.05%トリプシン/EDTA(Gibco、Life Technologies、ニューヨーク州グランドアイランド所在))を添加し、37℃で10分間静置した。トリプシン処理した細胞性栄養膜細胞を、栄養膜細胞培地を含む4ウェルチャンバースライドに加えた。上皮中間膜抗原バイオマーカーであるサイトケラチン7(Millipore、マサチューセッツ州ベッドフォード所在)による染色によって、コンフルエントな細胞が栄養膜細胞であることを確認した。上述のように、トリプシンピペットワセリン方法(trypsin-pipette-petroleum jelly method)による隔離で、いくつかのコロニーを選択した。
【0045】
[細胞およびウイルス]
緑色蛍光タンパク質を発現しているHCMV-GFP組換えウイルスを得た。感染多重度(multiplicity of infection)(moi)01で、HCMV-GFPをヒト包皮線維芽細胞内で培養した。蛍光フォーカスアッセイを使用した限界希釈により、ウイルス力価を決定した。(Alcendor DJ他、J Neuroinflammation 2012年5月18日;9:95)。SBCMV臨床株による感染は、すべて継代レベル3で実施した(Alcendor DJ他、J Neuroinflammation 2012年5月18日;9:95;Wilkerson I他、J Neuroinflammation.2015年1月9日;12:2)。
【0046】
[胎盤組織培養のHCMV-GFP感染]
絨毛栄養膜細胞はHCMV溶解複製に対して高い許容性を有する。HCMVの複製をサポートできる生細胞があるか否かを判断するために、絨毛結節の組織培養物を組換えHCMV-GFPに感染させた。おおよそ20グラムの細かく刻んだ絨毛組織を、37℃に予熱した50mLのコニカルチューブ内の30mLの栄養膜細胞培地に加えた。moi0.1のHCMV-GFP組換えウイルスを使用して栄養膜細胞組織培養物に感染させ、37℃で1時間インキュベートした(Aronoff DM他、Am J Reprod Immunol.2017年9月;78(3):10.1111/aji.12728)。感染後1時間後、培地を除去し、新しい培地を加えた。次に、組織培養物を37℃で96時間インキュベートした。感染した絨毛組織をチャンバスライドに入れ、蛍光顕微鏡でGFP発現を調べた。
【0047】
[免疫蛍光法]
継代培養した栄養膜細胞を含むチャンバスライド培養物を、PBS(pH7.4)で2回洗浄し、風乾し、無水メタノール中-20℃で10分間固定した。細胞を15分間風乾し、トリス緩衝生理食塩水(pH7.4)で5分間水和し、さらに、PBS(pH7.4)で1:50に希釈したサイトケラチン7に対するマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology、テキサス州ダラス所在)と別々に1時間インキュベートした。細胞をトリス生理食塩水で3回洗浄した後、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)(Jackson ImmunoResearch、ペンシルベニア州ウェストグローブ所在)とPBSで1:100に希釈した二次ロバ抗マウス免疫グロブリンG(IgG)抗体の組み合わせとともに、37°Cで30分間インキュベートした(Alcendor DJ他、J Neuroinflammation 2012年5月18日;9:95;Wilkerson I他、J Neuroinflammation.2015年1月9日;12:2)。細胞を、トリス生理食塩水でさらに3回洗浄し、1.5μg/mLの4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を含有するベクターシールド(Vectashield)封入剤(Vector Laboratories、カリフォルニア州バーリンゲーム所在)で封入した。電荷結合素子(CCD)カメラ搭載のニコン(Nikon)TE2000S蛍光顕微鏡(ニコン、日本東京所在)で、蛍光を撮影した。
【0048】
[免疫組織化学]
フォルスコリンを含むまたは含まない栄養膜細胞培地で、1×104細胞/ウェルの密度で72時間、一次栄養膜細胞をチャンバスライド内で培養した。細胞をPBSpH7.4で3回洗浄し、室温で風乾し、100%メタノールで-20℃、30分間固定した。次に、細胞を風乾し、PBSで水和し、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)に対するマウスモノクローナル抗体を使用して、前述のように免疫組織化学(IHC)を実施した。DAB(3、3-ジアミノベンジジン)を発色用のペルオキシダーゼ基質として使用した。陽性栄養膜細胞は、褐色に見える。
【0049】
[フォルスコリン(Forskolin)処理]
初代栄養膜細胞を、チャンバスライドで栄養膜細胞培地中1×104細胞/ウェルの密度で培養し、25μMのフォルスコリン(forskolin)(Sigma-Aldrich Inc.)で72時間処理した。モック処理細胞には培地のみを与えた。
【0050】
<結果>
[外植片培養]
無菌状態で無傷の胎盤から結節を採取する。絨毛結節をまず完全栄養細胞培地に浸漬し、氷の上に移した。切開の前に、赤血球汚染を減らして組織を水和するべく、結節を過剰のPBSで洗浄した(
図1)。絨毛結節をメスおよび外科剪刀で切片化し、皿に入れた。新鮮な予熱した栄養膜細胞培地を加え、2日ごとに新鮮な培地を交換しながら、外植片培養物を37℃で1~16日間、インキュベートした。
【0051】
[胎盤組織培養によるHCMV-GFP複製のサポート]
図3A~3Dは、HCMV-GFPに感染した胎盤外植片組織培養物を示す。上記のように、胎盤外植片組織培養物をHCMV-GFPに感染させ、感染の96時間後にGFP蛍光を調べた。感染後96時間で、末梢組織および隔離細胞(
図3A、3B、3C)ならびに内部絨毛樹構造(
図3D)内に、GFP陽性細胞が蛍光顕微鏡で観察された。また、調べたすべての検体で、赤血球による顕著な量のコンタミネーションが観察された。
【0052】
[細胞性栄養膜細胞の結節増生]
図4A~4Iは、16日間にわたるトリプシン処理後および継代培養後の臨月胎盤絨毛摘出物からの栄養膜細胞の分離を示す。1日目に、外植片は凝集しているように見え、一部は固着していた(
図4A)。培養8日目に、特徴的な栄養膜細胞形態を有する細胞の小さなコロニーが観察された(
図4B)。11日目に、サブコンフルエントにとどまっていたこれらのコロニーの有意な増殖が観察された(
図4C)。14日後、栄養膜細胞形態を伴うコンフルエントな成長のパッチが観察された(
図4D)。これらの細胞は、円形または楕円形、あるいは以前「クレイジー・ペイブメント(crazy pavement)」と表現された多極性の伸長した細胞単層であった。(Pennington KA他、J.Vis.Exp.(59)、e3202、doi:10.3791/3202 (2012);Kolokol'tsova TD他、Bull Exp Biol Med.2015年2月;158 (4):532~6;Aboagye-Mathiesen G他、Clin Diagn Lab Immunol.1996年1月;3(1):14~22;Li L他、Reprod Biol Endocrinol.2015年7月9日;13:71)。また、培養後10日目には、栄養膜細胞の凝集塊状のものが観察された(
図4E)。16日目には、これらの絨毛栄養膜細胞凝集塊から有意な細胞伸長が観察された(
図4F)。これらの細胞は、絨毛栄養膜細胞と一致する特徴を有していた。
【0053】
[精製された細胞性栄養膜細胞集団の選択的捕獲および継代培養]
コンフルエントなミニコロニーに発展し、経時的にサブコンフルエントになった衛星細胞の結結節増生(
図4D)と、結節凝集塊から得られた細胞増生(
図4Fおよび4G)とが、選択的捕捉および継代培養にとって好ましいものであった。これらのコロニーはより均質に見え、栄養膜細胞単層と一致する形態学的特徴および成長速度を有していた。
【0054】
[栄養膜細胞分離の検証]
栄養膜細胞隔離A48時間後、継代培養されたサブコンフルエントな細胞集団を観察したところ、生存可能で、付着性があり、かつ栄養膜細胞抗原性バイオマーカーサイトケラチン7に対して陽性に染色された(
図4Hおよび4I)。
【0055】
図5A~5Dは、サイトケラチン-7を発現する精製栄養膜細胞の免疫蛍光染色を示す。
図5A~5Dに示すように、細胞がコンフルエントになった後、精製された細胞栄養芽層の普遍的なサイトケラチン7染色が蛍光顕微鏡で観察された。初代栄養膜細胞を、チャンバスライドで栄養膜細胞培地中1×10
4細胞/ウェルの密度で培養し、フォルスコリン有りおよび無しで72時間処理した。
【0056】
図6A~6Dは、フォルスコリンで処理された細胞がIHC染色によって決定されるようにhCGのレベルが高いことを示す。
【0057】
D.結論
本発明の開示された実施形態の任意の所定の要素は、単一の構造、単一のステップ、単一の物質、またはその他のもので具現化されてもよいことが理解されるべきである。同様に、開示された実施形態の所与の要素は、複数の構造、ステップ、物質、またはその他のもので具現化されてもよい。
【0058】
前述の説明は、本開示のプロセス(processes)、機械(machines)、製造物(manufactures)、物質組成物(composition of matters)、および他の教示を例示し、説明するものである。さらに、本開示は、開示されたプロセス、機械、製造物、物質の組成物、および他の教示の特定の実施形態のみを示し、かつ説明するものではあるが、上記のように、本開示の教示は、他の様々な組み合わせ、修正、および環境で使用することができ、かつ当業者の技能および/または知識に相応して、本明細書で表現される教示の範囲内で変更または修正することができることを、理解されたい。本明細書で上述した実施形態は、さらに、本開示のプロセス、機械、製造物、物質組成物、および他の教示を実施するための既知の特定の最良の態様を説明し、当業者が、このような、または他の、実施形態において、および特定の用途または使用によって必要とされる種々の修正を伴って本開示の教示を利用できることを意図するものである。したがって、本開示のプロセス、機械、製造物、組成物、および他の教示は、本明細書に開示される正確な実施形態および実施例を限定することを意図していない。本明細書におけるセクションの見出しはどれも、37C.F.R.§1.77の示唆に合致するためにのみ、またはそうでなければ、整理された一連の順番を提供するためにのみ、提供されるものである。これらの見出しは、本明細書に記載される発明を限定するものでなければ、または、特徴付けるものではない。これらの見出しは、本明細書に記載される発明を限定するものでなければ、または、特徴付けるものではない。
【国際調査報告】