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2022-551449耐食性および耐摩耗性の高い鋳鉄ブレーキディスクの生成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-09
(54)【発明の名称】耐食性および耐摩耗性の高い鋳鉄ブレーキディスクの生成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/02 20060101AFI20221202BHJP
   C23C 8/34 20060101ALI20221202BHJP
   F16D 65/12 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
C23C8/02
C23C8/34
F16D65/12 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520974
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(85)【翻訳文提出日】2022-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2020078469
(87)【国際公開番号】W WO2021069695
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】62/912,891
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】ハイネック,ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】アロシオ,フランコ
(72)【発明者】
【氏名】ランジ,インゴ
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA62
3J058AA69
3J058BA28
3J058BA41
3J058CB11
3J058EA05
3J058EA38
3J058EA39
3J058EA40
(57)【要約】
本発明は、機械的におよび好適には機械加工された鋳鉄または灰鋳鉄の表面を特にブレーキディスク上に向上した耐摩耗性および耐腐食性と共に生成する方法に関し、上記表面に対して行われる水ジェット処理が、通常はいわゆる流体噴射プロセスに従って行われ、上記水ジェット処理は、上記機械加工によって上記基本的な構造によって包囲されるグラファイト包含物を含んで開口された空隙を完全にまたは少なくとも部分的に除去するように調節され、これにより、上記グラファイト包含物が含まれる場合に上記グラファイト包含物の高さが上記空隙を包囲する上記基本的な構造の外面よりも下側に来るようになり、その後拡散層が窒化浸炭によって付加され、酸化物層が上記拡散層上に付加されることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的におよび好適には機械加工された鋳鉄または灰鋳鉄の表面を特にブレーキディスク上に向上した耐摩耗性および耐腐食性と共に生成する方法であって、前記表面に対して行われる水ジェット処理が、通常はいわゆる流体噴射プロセスに従って行われ、前記水ジェット処理は、前記機械加工によって基本的な構造によって包囲されるグラファイト包含物を含んで開口された空隙からの除去を完全にまたは少なくとも部分的に行うように調節され、これにより、前記グラファイト包含物が含まれる場合に前記グラファイト包含物の高さが前記空隙を包囲する前記基本的な構造の外面よりも下側に来るようになり、その後拡散層が窒化浸炭によって付加され、酸化物層が前記拡散層上に付加されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
鋳肌のプラズマ洗浄は、窒化浸炭前に行われることを特徴とする、請求項1に記載の好適にはブレーキディスクの製造方法。
【請求項3】
軟窒化によって生成された前記拡散層に対して、プラズマ処理が好適にはプラズマ活性化の形態で行われた後、前記酸化物層が生成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の好適にはブレーキディスクの製造方法。
【請求項4】
前記水ジェット処理は、超音波アシストされることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の好適にはブレーキディスクの製造方法。
【請求項5】
水ジェットは、処理対象表面に対して非矩形角度に沿って方向付け/ブラストされることを特徴とする、好適にはブレーキディスクの製造方法。
【請求項6】
浸炭窒化プロセスおよび好適には酸化プロセスは、加熱時間、保持時間、前記浸炭窒化フェーズ時の温度、その後の冷却時間および前記冷却時間が経過した後の到達温度、ならびにその後の酸化時間およびこのときに保持または駆動された温度のパラメータのうち1つ以上によって特にまたは実質的に制御されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
基本的な構造によって包囲されたグラファイト包含物を含む、機械加工によって開口された空隙からの除去をブレーキディスクにおいて完全にまたは部分的に行うための相応に調整された流体噴射プロセスの使用であって、これにより、前記グラファイト包含物が含まれる場合に前記グラファイト包含物の高さが前記空隙を包囲する前記基本的な構造の外面よりも下側に来るようになり、これにより、前記ブレーキディスクが軟窒化のためにその後酸化され得る、使用。
【請求項8】
好適には灰鋳鉄によって形成されたブレーキディスクであって、前記ブレーキディスクは、少なくとも摩擦面において空隙が事前の機械加工によって開口されかつ前記空隙において元々はグラファイトが充填され、前記空隙からの前記グラファイトの完全なまたは部分的な除去は、される際、固体ブラスト材料または灰が前記空隙内に堆積せずかつ前記ブレーキディスクが軟窒化されて好適には酸化されるように行われることを特徴とする、ブレーキディスク。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の一般部分(generic part)に記載の、より高い耐摩耗性および耐腐食性を有する、機械的に(好適には機械加工された)鋳鉄または灰鋳鉄表面を特にブレーキディスク上に生成する方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、請求項8の一般部分に記載の明確に調整された水ジェットプロセスの特定の使用と、請求項9の一般部分に記載の特殊ブレーキディスクとに関する。
【背景技術】
【0003】
例えばブレーキディスクなどの鋳鉄コンポーネントの表面状態の変更により、鋳鉄のコア材料としての有利な特性(例えば、「鋳造性」、入手可能性、高い熱伝導、高温における十分な安定性)と、高度なコーティング特性(例えば、コンポーネントの耐食性および耐摩耗性の向上)との組み合わせが可能になり得る。
【0004】
ブレーキディスク市場における実際の技術的要求のうち、既に周知のものを超えたものとして、制動プロセスに起因して不可避である環境への微粒子排出と、ブレーキディスクを形成する基材の摩耗とを低減させつつ、恒久的な耐腐食性を有するコンポーネントを提供するという要求がある。その理由として、電気自動車における微粒子排出の主な発生源は、もはやエンジンではなく、ブレーキになっているという点がある。
【0005】
ブレーキディスクの耐摩耗性向上のための技術現状における解決法の1つとして、いわゆる「iDisc(登録商標)」として公知の製品がある。iDisc(登録商標)は、周知のドイツ自動車サプライヤのブレーキディスクである。このiDisc(登録商標)の摩擦面は、制動面上のトップコートとしての炭化タングステンベースの層によってコーティング(通常はスプレーコーティング)される。しかし、この解決法は極めて高価であり、また、完全に満足のいく耐腐食性を少なくとも長期において提供できていない。
【0006】
その主な理由として、制動プロセス時にブレーキディスクへ付加される熱負荷が高い点がある。すなわち、使用材料(例えば、鋳鉄およびトップコーティング)の熱膨張係数の差に起因して、コーティング中に亀裂が発生する。これらの亀裂が腐食の起点となり、基材の「下側腐食」に進展し、最終的にはコーティングの層間剥離に繋がる。
【0007】
別の解決法として、例えば(コーティング提供の代わりの)表面改質プロセスがあり、窒化、浸炭窒化または浸炭窒化と、基材中への窒素(N)および/または炭素(C)および/または酸素(O)の拡散による基板の酸化とが含まれる。このようなプロセスは、例えばガス軟窒化(GNC)プロセス、フェライト軟窒化(FNC)プロセスまたは単に窒化プロセスと呼ばれる。これらのプロセスにより、同一のまたはさらには向上した特性の基板材料が(耐摩耗性および耐腐食性の向上によって)得られる。これらのプロセスの利点として、層間剥離発生の可能性がある面積コーティング層の堆積に繋がらない点がある。
【0008】
この理由のため、これらの窒化、浸炭窒化または浸炭窒化および酸化のプロセスは、摩耗だけでなくブレーキディスクの耐腐食性も向上させるための選択肢となる。
【0009】
現代の電気自動車の駆動サイクルは有意に異なるため、耐腐食性向上に対する要求が増加している。現代の電気自動車においては、ハイブリッド型電気自動車または完全な電気自動車に関わらず、ブレーキディスクは、伝統的な内燃機関の車両と比較して、多湿条件下の都市交通において、乾燥状態でブレーキされることがずっと少ない。なぜならば、電気自動車の場合、制動力の大部分は、再生によって(すなわち、電気モータそのものによって)提供され、ブレーキはほとんど使用されないからである。
【0010】
今まで、この要求は、上記の窒化プロセス、浸炭窒化プロセスまたは浸炭窒化プロセスおよび単独の酸化プロセスでは満足できていない。
【0011】
しかし、腐食抑制塗料または「コーティング」(例えば、UV塗料、Zn塗料またはZn/Al塗料)は、これらの新規の条件(例えば、規格DIN EN ISO9227塩水噴霧試験においては120h)においては良好に機能するものの、数個の制動手順以内に容易に摩耗するため、腐食フリーの制動面を提供できていない。
【0012】
(発明の目的)
本発明の目的は、耐腐食性がさらに向上した鋳鉄表面および特に灰鋳鉄表面(特に、ブレーキディスクの一部)を提供することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明によれば、この目的は、耐摩耗性および耐腐食性が向上した、機械的に(好適には機械加工された)鋳鉄または灰鋳鉄表面を特にブレーキディスクのために生成する以下の方法によって満たされる。
【0014】
本発明者らの発見によれば、上記の鋳造または灰鋳鉄表面の特定の水ジェット処理は、通常は(それ自体が公知である)いわゆる流体噴射プロセスによって行われるが、上記水ジェット処理の特殊な調節が選択された場合、耐腐食性の大幅な向上が可能になる。本発明によれば、上記水ジェットの調節により、上記機械加工によって開口されている上記基本的な鋳造金属構造の空隙中に存在する上記グラファイト包含物を完全にまたは少なくとも部分的に除去する(部分的な場合は=低減させる)。すなわち、上記グラファイトが当該表面に到達または現出することが、もはや無くなる。典型的には、上記のグラファイト包含物は、グラファイトラメラまたはグラファイトボールの形状で存在する。
【0015】
本明細書中以下、拡散層が窒化浸炭によって付加され、この拡散層上に酸化物層が付加される。これら双方は、技術現状において以前から公知である。
【0016】
本発明者らが理解した成功への鍵として、下記がある。
【0017】
上記機械加工によって開口された上記基本的な鋳造金属構造の空隙中のグラファイト包含物の存在は、窒化浸炭と上記下側の影響を受けていない基本的な鋳造材とが出会うことによって発生する拡散ゾーンの領域内にこのグラファイト包含物が直接延びる限り、腐食の原因となる。
【0018】
より詳細な調査が継続中であるものの、推測によれば、この三重接触ゾーン内において好ましくない電気化学コンステレーションが発生し、その結果、(広義における局所的電気素子のように)腐食が高速に進行するものと思われる。
【0019】
本発明者らの発見によれば、腐食開始がずっと低速になる状況としては、上記鋳肌の切削空隙中にグラファイトが含まれなくなったかまたはグラファイトがほとんど含まれなくなったため、各空隙中の上記グラファイトレベル(グラファイト「バルク」の境界)が(上記コンポーネントコア部の方向から見たときに)浸炭窒化によって生成された拡散層よりもさらに下側に来る状況がある。
【0020】
このような「さらに下側に来る」特徴が少なくとも十分に満足されたとみなされ得る場合としては、主にまたは本質的に上記完全数の空隙またはこれらの空隙のうち少なくとも上側の第4の空隙またはより好適には上側の第3の空隙が天然グラファイト負荷を本質的に含まない場合がある。この経験から得られたこととして、この場合、グラファイトの存在が上記拡散層および表面から十分に離隔して保持されたため、腐食プロセス開始の遅延および低速化によって腐食プロセスが決定的に低減されることが判明した。
【0021】
ここで用いられたのは、2つの技術的効果である。
【0022】
空隙がより大きい場合(すなわち、空隙のギャップ幅が比較的大きい場合)、空隙中に本来包含されていたグラファイトの十分な除去により、空隙内の窒化浸炭時における拡散層形成にも繋がる。この拡散層は、上記空隙の上記側壁を下方に底部へと延びる。すなわち、上記拡散層が下方に延びている限り、上記空隙の側壁における腐食保護も得られる。
【0023】
本発明者らの発見によれば、上記拡散層を上記空隙中へ十分に深く到達させることができれば、上記腐食を有意に遅延させることが可能になる。本発明者らの認識によれば、重要なのは、拡散発生が上記空隙を包囲する上記ブレーキディスクの外面から開始する(例えば、上記ディスクブレーキの上記実際の摩擦面から開始する)深さの下側の領域まで上記拡散層を到達させることである。これは、上記空隙にグラファイトが充填されていない範囲のみにおいて可能である。
【0024】
より小さな空隙(すなわち、ギャップ幅が比較的狭い空隙)の場合、別の効果が付加される。窒化浸炭時において、既述したように、上記空隙の上記側壁を形成する表面内にも材料が拡散する。その結果、上記拡散ゾーン中の材料が一定範囲まで大量に拡張する。その結果、全ての空隙と同様に、狭いギャップ幅の空隙がますます狭くなる。しかし、本質的に狭い空隙の場合、ほとんど塞がれる作用を有するため、液体浸透を決定的に妨害するかまたは低速化させ、その結果、腐食プロセス開始に繋がる。
【0025】
よって、これら2つの機構の結果、腐食の決定的遅延に繋がる。しかし、これが達成可能となるのは、空隙を(当該空隙中に最初から存在していた上記グラファイトよりも深く十分に)空にした場合のみである。空隙からグラファイトを表面的に除去しても、有用ではない。なぜならば、そのような場合、腐食はこれらの空隙から急速に周囲環境内へと拡散し、破壊的作用を開始するからである。
【0026】
パルス型水ジェットプロセスそれ自体は、既に技術現状となっている。パルス型水ジェットは、EP2741862Bから公知である。上記EP2741862B1を、本明細書中参考のため援用する。
【0027】
現時点において判明していないこととして、上記パルス型水ジェットプロセスは、適切なパラメータ設定が有れば、鋳鉄表面内における機械加工またはサンドブラストによって切除された空隙からの極めて有効かつ選択的なグラファイト除去を可能にするツールであり、上記周囲の基本的な鋳造金属構造に対する有害な影響は本質的に全く無い。さらに、上記開口状態の空隙から非有意な量を超えるグラファイトを除去した場合に顕著な耐腐食性向上に繋がることは、現在まで公知でもないしまた予期もされていない。
【0028】
現段階において、本発明のプロセスは、ブレーキディスクへ適用される限り、以下のように一定範囲において簡単に言い換えられ得る。
【0029】
先ず、鋳造および好適には上記鋳鉄ブレーキディスクの微調整が先ず行われ、特定の場合において、層状鋳鉄(灰鋳鉄とも呼ばれる)が好適に用いられる。これにより、正しい寸法およびジオメトリの上記完成品が得られる。
【0030】
次に、好適にはパルス型水ジェット処理が特に腐食関連表面について行われる。この時点において、グラファイトを含む空隙の切除または開口は、機械加工または旋盤だけでなくサンドブラストによっても行われることを理解することが重要である。そのため、制動面、内周および外周または通気路を上記水ジェット処理すると有用であり得る。これにより、上記表面までに発生するグラファイトラメラが顕著に低減され、さらなる窒化浸炭性能が向上される。
【0031】
そのため、ガスおよび/またはプラズマ窒化浸炭を後酸化と共に行うと、機械的性能および腐食性能の向上に繋がる。
【0032】
本明細書中、以下、マーキングおよび/またはラベリング、バランシング、寸法および品質管理のブレーキディスクの仕上げ処理が行われ得る。
【0033】
上記パルス型水ジェットプロセス開始に使用可能な一般的パラメータセットを教示することは不可能であるものの、処理対象としての鋳造金属鉄表面の性質の教示は可能であり得る。個々の鋳肌について本発明の効果を得るために上記パラメータセットをどのように調整するかについては、何らかの簡単な用途試験および試験結果のその後の分析によって個別に発見する必要がある。これは、必然的にそうである。
【0034】
調整すべき主要パラメータを挙げると、パルス周波数(10kHz~50kHzの範囲内、好適には約20kHz)、水ジェット圧力(550~800bar、好適には600~700barであり、表面までの好適な距離は30~70mm)、速度(500~1200mm/s)およびオフセット(2~10mm)がある。
【0035】
上記ガス軟窒化プロセス前の表面活性化の特定の例において、いくつかの特定のパラメータの関連がより深いことが判明した。例えば、典型的には<または≦3mmの上記ノズル直径と、0~45°の開口の角度とが重要な役割を果たし、(上記処理有効性に影響を与える)全体的な水流に直接影響する。
【0036】
パルス型水ジェットプロセスは、理想的にはパーライトおよび/またはアルファフェライト金属粒子は全く腐食させずかつ空隙中に自然に存在しているグラファイト(「炭素凝塊物」とも呼ばれる)(ラメラおよび/または小球および/または混合バーミキュラの形態をとる)のみを腐食させるという目的を有し、この目的に合わせて相応に調整される。
【0037】
このプロセスのためには、表面をできるだけ平滑にする必要があり、理想的または本質的に粗さ(RaおよびRz)に影響が出ないようにする(グラファイト除去により空にされた空間は除く)。
【0038】
小さな粗さが必要な理由として、(技術現状の解決法としての)上記必要な摩擦係数の提供があり、実際、トライボロジーを正しくするために、粘着および摩耗の組み合わせが用いられ、大きな表面接触が、(上記摩擦の上記粘着コンポーネントへ悪影響を与えるマイクロピーク(高粗さ)無しに)必要になる。
【0039】
さらに、コーティング層の場合には粘着現象が好適であり、製品の長寿化に繋がる。
【0040】
超硬パッド材料によって得られる研磨層を用いた場合、双方のコンポーネント(ディスクおよびパッド)の摩耗のダウングレードに繋がるだけであり、技術現状からの有効な改善にはならない。
【0041】
上記したグラファイトから得られた空間は、ガスおよび/またはプラズマ窒化および/または浸炭窒化(例えば、IONIT G Ox)時に部分的に閉鎖されて、表面がさらに平滑化される。
【0042】
窒化浸炭およびその後の酸化については、EP0753599B1中に詳述されるプロセスが好適に用いられる。同特許を本明細書中参考のため援用する。同文献中に教示されるプロセスは、IONIT OXと呼ばれる。
【0043】
上記特許の目的は、上記表面内へのN原子およびC原子の浸透および後酸化の追加により、(フリー表面からコアへ向かって見た際に)以下を得ることである。
【0044】
-より高い耐腐食性を提供する酸化物層(Fe3O4)、
-ガンマ´およびイプシロンFe-N粒子によって構成された白色層であって、耐腐食性が良好であり、硬度が極めて高い(鋳鉄の典型的範囲が200HV5であるのと比較したときにHV5が300~450)、および
-硬度が上記コア材料よりも少なくとも50HV5ポイント高い拡散層。
【0045】
ガンマ窒化物およびイプシロン窒化物は、ミクロ構造がアルファフェライトよりも幅広であるため、表面積量の増大は小さい。これにより、上記したようなグラファイトから得られた空間の密閉の支援に繋がる。
【0046】
さらなる向上のための任意選択的可能性
【0047】
上記鋳肌にプラズマ洗浄を施した後に窒化浸炭を開始させると、好適である。このようにすることにより、軟窒化によって得られる上記拡散層成長の有効性が最大になり、欠陥フリーとなる。
【0048】
理想的には、軟窒化によって生成された上記拡散層に対し、プラズマ処理を(好適にはプラズマ活性化の形態で)施した後、上記酸化物層を生成する。このようなガス窒化面のスパッタクリーニングにより、粘着性かつ微細構造のFe酸化物層の達成のための結晶化条件が最適化される。冷却時におけるNおよびCの損失の補償も達成される。その結果、ε窒化物が得られる。
【0049】
水ジェット処理を超音波アシストすると、極めて好適である。上記超音波距離における音波のさらなるパルス状エネルギーの重畳により、切除された空隙中に埋没しているグラファイトを緩ませることがずっと容易になる。その結果、空隙中の有意により深い場所からのグラファイト除去が可能になる。
【0050】
その理由として、上記水ジェットの吐出口である口またはノズル上に超音波が重畳された時に形成されるキャビテーション気泡の存在がある。これらのキャビテーション気泡は、水ジェットと合流して、上記ブレーキディスク表面に衝突して破裂する。これは、キャビテーションによる周知の破壊効果によるものである。
【0051】
しかし、この破壊効果は、特に水ジェットの付加が角度を付けて行われた場合、母材の周囲表面上において顕著ではなくなる。なぜならば、上記水ジェットが上記母材に損傷を与えるくらいに十分に長く機能しないからである。グラファイトの場合、状況が異なる。すなわち、グラファイト蓄積物は、キャビテーション気泡の破裂によって極めて高速に粉砕された後、水ジェットによって吐出され得る。
【0052】
水ジェットを処理対象表面に対して非矩形角度に沿って方向付ける/ブラストすると、極めて好適である。換言すると、水ジェットは、処理対象表面に対して垂直方向に(完全に垂直方向にかつ好適には本質的に垂直方向に)は射出されない。
【0053】
例えば摩擦面の処理が必要な場合、水ジェットの主要方向は上記摩擦面に対して一定角度で配置されて、水ジェットが当該摩擦面に(少なくとも主にまたはさらには実質的にこの角度で)衝突するようにする。理想的角度としては、90°+/-公差の代わりに、およそ45°~少なくとも50°~およそ60°がある。
【0054】
このように、より強力な水ジェットが使用可能となり、この水ジェットがブレーキディスク表面に前方から(すなわち、処理対象表面から立ち上がった垂直線に沿って)衝突した場合、大きな運動衝撃を発生させるため、表面の質および詳細には上記ブレーキ表面の上記金属基材の粗さに悪影響が出る。
【0055】
水ジェットが強力であるほど、(上記したようなブラスト角度と共に付加された場合であっても)空隙からの除去がより有効に行われる。
【0056】
本発明の改変様態についてのさらなる可能性、本発明の機能様態についてのさらなる暗示、および本発明による好ましい技術的効果が、以下の好適な実施形態の記載によって開示される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】本発明の教示内容の適用によって発生する詳細を示す。この目的のため、図1は、灰鋳鉄表面(1)を3つの部分A、BおよびCによって示す。
図2図2A図2Dは、IONIT OXによるコーティングの後にプレートを開けた状態におけるこのディスクのブレーキディスク(図2A)および断面図(図2B)である。図2C)中に、熱処理およびその後のIONIT OXコーティング後にラメラが部分的に中断している様子を示す。図2D)中の断面図に、水ジェット処理およびその後のIONIT OX処理後のラメラの中断およびラメラフリー領域を示す。
図3図3A図3Dは、塩水環境へ48時間暴露した後の結果および基板を示す。図3A)は、前処理無しのIONIT OXを示す。図3B)は、IONIT OX前の熱前処理を示し、図3C)は、IONIT OX前の水ジェット前処理を示し、図3D)は、図3C)と同じ基板(すなわち、塩水噴霧試験を240時間後行った後のIONIT OXの前の水ジェット前処理であって、視覚的に主に腐食フリーのままであるもの)を示す。
図4】表を示す。
図5】本発明によるIONIT OXプロセスの適用前の水ジェット活性化プロセスの典型的構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
(好適な実施形態の説明)
好適な実施形態において、本発明が適用される鉄ベースのコンポーネントは、鋳鉄ブレーキディスクである。
【0059】
このブレーキディスクに対し、先ず、技術現状から公知のような適切なディスク板厚変動(DTV)、平面性および横ブレ(LRO)に到達するための機械的微調整を行う。これらの主要な機械仕上げ方法により、(ブレーキディスク故障の主因の1つである)動作時におけるブレーキディスクのチャターおよびジャダーの低減が可能になる。
【0060】
その後、上記において詳述したようなパルス型水ジェット技術を用いた処理を、特に制動面または鋳造後に機械加工された他の表面の領域において行う。
【0061】
上記したより広いパラメータ範囲から開始して、この特定の場合において用いられるパラメータの決定のために、以下の好適な値を以下のように選択した。
【0062】
約550~650barの圧力、水ジェットノズルとブレーキディスクの目標面との間の少なくとも約30mmの距離、ノミナル直径がおよそ1.6mm~2.2mmの円形開口部を備えたノズル。このノズルは、コア角度がおよそ20°でそこから外方に延びている。
【0063】
上記パラメータの調節は、個々の基材特性に合わせて(すなわち、鋳鉄組成、硬度、粒子分布および全体的ブレーキディスクジオメトリに相対して)試験によって行う必要がある。これらの試験は、(本発明の教示内容に従って)切除による空隙からグラファイトが十分に除去されていることが「顕微鏡的」写真から判明し次第、完了した。一方、その他の測定から判明したこととして、周囲表面の構造(粗さ)の悪化または無関連の悪化を超える悪化は未だ見られなかった。
【0064】
この時点において言及しておきたいこととして、予測される全体的粗さは、(特にブレーキディスクの場合は)Ra<5μmであり、好適にはRa<3μmおよびRz<12μmであり、好適にはRz<10μmであるべきである。
【0065】
図1は、本発明の教示内容の適用によって発生する詳細を示す。この目的のため、図1は、灰鋳鉄表面(1)を3つの部分A、BおよびCによって示す。
【0066】
一番左側(A)において、基板(1)の処理前の状態において、好適にはブレーキディスク摩擦面として理解され得る、表面の事前機械加工に起因して切断(開口)されたグラファイトラメラ(11)が存在していることが分かる。グラファイトラメラ(10)は、基板中のより深部に存在し、機械加工プロセスを受けても不変のままになっている。
【0067】
中間部(B)に示すのは、若干ではあるが未だ不十分な熱脱炭または(本発明の目的のために)柔らかめの危険なレベルではない水ジェットによる不十分なクリーニング(すなわち、開口している空隙(23)を包囲する母材表面を(表面に対して適切に方向付けられた場合でも)損傷させるほど強くなくかつ空隙からの内部のグラファイト(21)のより深い除去(24)を可能にするほどには強くない水ジェット)である。軟窒化プロセス前にこれのみが行われた場合、防食は不十分になる。なぜならば、第1の緊急制動熱負荷下においては、開口している空隙を充填しているグラファイトが(遅くとも)焼尽するからである。その後、軟窒化されていない空隙の「裸の」側壁が開口したままであるため、ブレーキディスクの摩擦面の極めて近隣の領域内において腐食し始める。
【0068】
右側部分(C)においては、本発明のプロセスの適用によってラメラは完全に(32)または部分的に除去されている(31)。空隙の側壁(33)は、グラファイト除去後に空隙の深さ(34)の1/4を超えてまたは1/3を超えてフリー状態になる。これに起因して、(この右側に示すような)より大きな/より広範な空隙のこれらの配置されたフリー側壁に対し、空隙に沿って下方に延びる保護拡散層が設けられ得る。追加的にまたは代替的に、狭いアクセスのみが可能なより小さな空隙が、拡散による材料膨張に起因してさらに閉鎖されて(33)、水分の侵入が困難になる。
【0069】
図4中に示す表から、比較のために一般的に用いられる値に精通している専門家にとって、これらの値は常に関連し合うため、本発明は腐食挙動および他の重要パラメータにおいて極めて有用であることが分かる。
【0070】
一番左側の列(A)中に、調査目的のために本出願者らが実行してきた解決法のデータを示すが、このデータは本発明に従っていない。この解決法において、灰鋳鉄ブレーキディスクは、パルス状水ジェットによって既にクリーニングされている。しかし、過去においては、周囲表面への悪影響を回避すべきであるという定説を鑑みて、有意な量のグラファイトを空隙から除去するほどの十分に鋭利な水ジェットが得られるほどには、水ジェットのパラメータの調節を行っていない。これらのディスクは、視認できる程度の腐食が表面上に現出するまでの約10時間の同様の塩水噴霧試験に耐えた。
【0071】
右側の列(B)中に、本発明による解決法のデータを示す。
【0072】
この解決法の範囲内において、灰鋳鉄ブレーキディスクに対し、本発明に従って調節されたパルス状水ジェットを用いた特殊処理を行った。水ジェットについては、ブレーキディスク表面に(適切なケアを施さなかった場合に)望ましくない悪影響が発生する危険性が出てくるくらいに、水ジェットを鋭利にした。水ジェットにより、切断による空隙の大部分からの除去を深さの1/4を超える位置まで行った。よって、導入部において上記した効果は、空隙中において発生し得る。その結果、標準塩水噴霧試験におけるブレーキディスクの耐久性が顕著に向上した。視認できる程度の腐食が発生したのは、300時間経過を超えたときのみであった。
【0073】
図4に記載の表の右側(鋳鉄、塗料無し)に移動して、次に見受けられることとして、数十年間の技術現状におけるような通常の灰鋳鉄ディスクの記載がある。
【0074】
図4に記載の表のさらに右側(鋳鉄、塗料有り)を参照すると、通常の灰鋳鉄ディスクの記載があるが、この灰鋳鉄ディスクは、現代のスプレー保護ラッカー塗りを亜鉛ベースで施している。理解されるように、このような保護コーティングが腐食の観点から達成できることは多い。しかし、決定的な不利点として、日々の制動作動時において実際の摩擦面上の保護コーティングが極めて高速に摩滅するという点がある。
【0075】
図4中の表中の最後の列(FNC)中の灰色鋳鉄ディスクの記載において、本発明による窒化浸炭後の酸化は省略した。
【0076】
図2A図2Dは、IONIT OXによるコーティングの後にプレートを開けた状態におけるこのディスクのブレーキディスク(図2A)および断面図(図2B)である。図2C)中に、熱処理およびその後のIONIT OXコーティング後にラメラが部分的に中断している様子を示す。図2D)中の断面図に、水ジェット処理およびその後のIONIT OX処理後のラメラの中断およびラメラフリー領域を示す。
【0077】
IONIT OXは拡散層であり、上記特許の教示のように、軟窒化に続いてプラズマ処理および酸化物コーティングを行うことによって生成される。
【0078】
図3A図3Dは、塩水環境へ48時間暴露した後の結果および基板を示す。図3A)は、前処理無しのIONIT OXを示す。図3B)は、IONIT OX前の熱前処理を示し、図3C)は、IONIT OX前の水ジェット前処理を示し、図3D)は、図3C)と同じ基板(すなわち、塩水噴霧試験を240時間後行った後のIONIT OXの前の水ジェット前処理であって、視覚的に主に腐食フリーのままであるもの)を示す。
【0079】
図5は、本発明によるIONIT OXプロセスの適用前の水ジェット活性化プロセスの典型的構成を示す。これは、処理対象としての基板を含み、ブレーキディスク(1)、水ジェットガン(2)およびノズル(3)によって示される。ここで、水ジェットガン(2)は、ブレーキディスク表面に対して特定のノズル-基板間の距離(d)において配置され、特定の角度においてチルトされて、水ジェットガン軸およびブレーキディスクの面によって角度(a)が形成されるようにする。図中、水ジェットを(4)によって示す。水ジェットによる表面活性化時において、ブレーキディスクの特定の回転速度(v)における回転を、水ジェットガンと同時にブレーキディスク表面に対して平行な面内の2本の軸において行う。これにより、ブレーキディスク表面全体の処理が可能になる。
【0080】
ラメラ侵食のためのパルス型水ジェットプロセスの後、ブレーキディスクに対し、熱処理プロセスをおよそ500℃~590℃(好適には570℃~580℃)の温度で施し、その後軟窒化プロセスを(通常は約1030mbarの気圧に近い圧力において)制御雰囲気内において行い、アンモニア、窒素および二酸化炭素などのガスへ暴露する。鋳鉄基材およびブレーキディスクコンポーネントの重量に応じて、各ガス流れを適合させる。軟窒化プロセスは、コンポーネントの露出面上に全体的により硬質の材料であるFe-NCを形成するため、鉄ベースの材料に好適である。
【0081】
その後、コンポーネントをより低い温度である約500℃まで冷却させて、任意選択的にプラズマ活性化プロセスが作動圧力(2mbar未満、好適には1~2mbar)において施され得るかまたはさらなる任意選択的酸化プロセスが直接施され得る。この任意選択的プラズマ活性化プロセスについては、US5679411A中により詳細な記載がある一方、後者のさらなる酸化プロセスを含むプロセス全体は、ガス軟窒化および酸化またはGNC OXとしてより知られている。
【0082】
この任意選択的プラズマ活性化スパッタリングによるさらなる表面洗浄が可能になり、このプロセス時に生成されたスパッタイイオンによっても、表面上に格子欠陥が生成されるため、酸化プロセス後の最終的なより高密度の酸化物層への貢献となる。その結果得られた窒化浸炭層または拡散ゾーンは、厚さが少なくとも15μmであり、酸化物層は少なくとも2μmである。マグネタイト(Fe3O4)のさらなる任意選択的の肉薄酸化物層は、コンポーネント表面全体上に生成された連続的な閉鎖層であるため、コンポーネントの耐食性向上に繋がる。


図1
図2A)】
図2B)】
図2C)】
図2D)】
図3A)】
図3B)】
図3C)】
図3D)】
図4
図5
【国際調査報告】