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特表2022-551451電池を診断するための装置およびその方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-09
(54)【発明の名称】電池を診断するための装置およびその方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/396 20190101AFI20221202BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20221202BHJP
   G01R 31/3835 20190101ALI20221202BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20221202BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20221202BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221202BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
G01R31/396
G01R31/382
G01R31/3835
G01R31/385
G01R31/388
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521016
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(85)【翻訳文提出日】2022-04-06
(86)【国際出願番号】 KR2021005917
(87)【国際公開番号】W WO2021230642
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】10-2020-0058588
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ジン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・テ・ジョ
(72)【発明者】
【氏名】ボム・ジン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ボ・ミ・イム
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA01
2G216BB01
5G503BA01
5G503BB01
5G503BB02
5G503CA11
5G503EA05
5G503EA08
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
本発明は、電池セルそれぞれの電圧を測定し、電池セルにエラーが発生したか否かを診断する装置を提供する。本発明は、電圧測定回路、データ処理回路、および診断回路を含む。電圧測定回路は、電池セルの電圧を測定する。データ処理回路は、電圧測定回路により測定された電圧に基づいて電池セルの状態を示すターゲット統計値を計算し、分析期間の間の電池セルのターゲット統計値を累積して累積統計値を計算する。診断回路は、累積統計値を累積基準値と比較する累積判定動作により電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、累積判定動作により電池セルにエラーが発生したと判断される場合、累積エラー回数をカウントする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルの電圧を測定する電圧測定回路と、
前記電圧測定回路により測定された前記電圧に基づいて前記電池セルの状態を示すターゲット統計値を計算し、分析期間の間の前記電池セルのターゲット統計値を累積して累積統計値を計算するデータ処理回路と、
前記累積統計値を累積基準値と比較する累積判定動作により前記電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、前記累積判定動作により前記電池セルにエラーが発生したと判断される場合、累積エラー回数をカウントする診断回路と、
を含む、電池診断装置。
【請求項2】
前記データ処理回路は、電池セルのターゲット統計値に基づいて相対基準値を計算し、
前記診断回路は、前記ターゲット統計値を前記相対基準値と比較する相対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、前記相対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したと判断される場合、相対エラー回数をカウントし、
前記電池セルは、前記電池セルが含まれた電池モジュールの電池セルである、請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項3】
前記データ処理回路は、前記ターゲット統計値の「n」シグマ値を前記相対基準値に設定し、
前記「n」は、正数である、請求項2に記載の電池診断装置。
【請求項4】
前記データ処理回路は、前記分析期間の間に計算された相対基準値を累積して前記累積基準値を計算する、請求項2に記載の電池診断装置。
【請求項5】
前記データ処理回路は、前記電池セルの前記ターゲット統計値のうち、前記分析期間の特定の時間帯に対応するターゲット統計値を選別し、前記選別されたターゲット統計値を累積して前記累積統計値を計算する、請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項6】
前記診断回路は、前記ターゲット統計値を絶対基準値と比較する絶対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、前記絶対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したと判断される場合、絶対エラー回数をカウントする、請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項7】
前記電池セルの充電および放電区間において、前記電池セルの電圧が測定される場合、前記データ処理回路は、前記電池セルの前記電圧を前記電池セルの容量および電圧に関する微分信号に変換し、前記微分信号に基づいて前記ターゲット統計値を計算する、請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項8】
前記データ処理回路は、前記電圧に対するサンプリングにより、前記電池セルの電圧を単調増加または単調減少形態の電圧データに変換し、前記変換された電圧データを微分して微分値を算出し、前記微分値の標準偏差を前記ターゲット統計値に設定する、請求項7に記載の電池診断装置。
【請求項9】
前記電池セルの休止区間において、前記電池セルの電圧が測定された場合、前記データ処理回路は、前記電池セルの前記電圧に関する近似値を算出し、前記電圧測定回路により測定された電圧と前記近似値との差の絶対値を前記ターゲット統計値に設定する、請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項10】
前記データ処理回路は、最小二乗法によって前記近似値を算出する、請求項9に記載の電池診断装置。
【請求項11】
前記データ処理回路は、電池セルのターゲット統計値に基づいて相対基準値を計算し、
前記診断回路は、前記ターゲット統計値を前記相対基準値と比較する相対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、前記相対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したと判断される場合、相対エラー回数をカウントし、前記ターゲット統計値を絶対基準値と比較する絶対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、前記絶対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したと判断される場合、絶対エラー回数をカウントし、前記絶対エラー回数、前記相対エラー回数、および前記累積エラー回数が診断条件を満たす場合、前記電池セルに欠陥があると判断し、
前記電池セルは、前記電池セルが含まれた電池モジュールの電池セルである、請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項12】
前記診断条件は、前記絶対エラー回数が第1回数以上であり、前記相対エラー回数が第2回数以上であり、前記累積エラー回数が第3回数以上のものであり、
前記第1回数は、前記電池セルの絶対エラー回数と関わり、
前記第2回数は、前記電池セルの相対エラー回数と関わり、
前記第3回数は、前記電池セルの累積エラー回数と関わる、請求項11に記載の電池診断装置。
【請求項13】
電池診断装置により、電池セルの入力端と出力端との間の電圧を測定する電圧測定ステップと、
前記電池診断装置により、前記電圧測定ステップで測定された前記電圧に基づいて前記電池セルの状態を示すターゲット統計値を計算し、分析期間の間の前記電池セルのターゲット統計値を累積して累積統計値を計算する計算ステップと、
前記電池診断装置により、前記累積統計値を累積基準値と比較する累積判定動作により前記電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、前記累積判定動作により前記電池セルにエラーが発生したと判断される場合、累積エラー回数をカウントする第1診断ステップと、
を含む、電池診断方法。
【請求項14】
前記計算ステップは、前記電池セルが含まれた電池セルのターゲット統計値に基づいて相対基準値を計算するステップをさらに含み、
前記電池診断装置により、前記ターゲット統計値を前記相対基準値と比較する相対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、前記相対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したと判断される場合、相対エラー回数をカウントする第2診断ステップと、
前記電池診断装置により、前記ターゲット統計値を絶対基準値と比較する絶対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、前記絶対判定動作により前記電池セルにエラーが発生したと判断される場合、絶対エラー回数をカウントする第3診断ステップと、
前記絶対エラー回数、前記相対エラー回数、および前記累積エラー回数が診断条件を満たす場合、前記電池セルに欠陥があると判断し、前記電池セルの前記欠陥に対するアラームを提供する最終診断ステップと、
をさらに含む、請求項13に記載の電池診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年05月15日付けの韓国特許出願第10-2020-0058588号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、電池を診断するための装置に関し、より詳しくは、電池セルそれぞれの電圧を測定し、電池セルにエラーが発生したか否かを診断する装置に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、二次電池に対する研究開発が活発に行われている。ここで、二次電池は、充放電が可能な電池であって、従来のNi/Cd電池、Ni/MH電池などと、最近のリチウムイオン電池とを何れも含む。二次電池の中でも、リチウムイオン電池は、従来のNi/Cd電池、Ni/MH電池などに比べて、エネルギー密度が遥かに高いという長所がある、リチウムイオン電池は、小型、軽量に製作することができるため、移動機器の電源として用いられる。特に、リチウムイオン電池は、電気自動車の電源として使用できるため、次世代エネルギー貯蔵媒体として注目を浴びている。
【0004】
また、二次電池は、一般的に複数の電池セルが直列および/または並列に連結された電池モジュールを含む電池パックとして用いられる。電池パックは、電池管理システムにより、状態および動作が管理および制御される。電池パック内の電池セルは、外部から電源の供給を受けて充電される。
【0005】
充電された電池セルは、電池パックと連結された多様な装置および/または回路に電源を供給する。電池セルが故障した場合、多様な装置および/または回路に電源が円滑に供給されないため、致命的な事故が発生し得る。よって、電池セルをモニターし、電池セルにエラーが発生したか否かを診断することが重要である。また、正確な診断のために、どのような診断基準およびどのような診断方法を用いるかに対する問題が台頭する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した技術的課題を解決するためのものであり、本発明の目的は、電池セルの電圧の傾向性に基づいて電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、電池セルの測定値を累積して電池セルに欠陥があるか否かを最終的に判断する電池診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る電池診断装置は、電圧測定回路、データ処理回路、および診断回路を含むことができる。電圧測定回路は、電池セルの電圧を測定することができる。データ処理回路は、電圧測定回路により測定された電圧に基づいて電池セルの状態を示すターゲット統計値を計算し、分析期間の間の電池セルのターゲット統計値を累積して累積統計値を計算することができる。診断回路は、累積統計値を累積基準値と比較する累積判定動作により電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、累積判定動作により電池セルにエラーが発生したと判断される場合、累積エラー回数をカウントすることができる。
【0008】
本発明の実施形態に係る電池診断方法は、電池診断装置により、電池セルの入力端と出力端との間の電圧を測定する電圧測定ステップと、電池診断装置により、電圧測定ステップで測定された電圧に基づいて電池セルの状態を示すターゲット統計値を計算し、分析期間の間の電池セルのターゲット統計値を累積して累積統計値を計算する計算ステップと、電池診断装置により、累積統計値を累積基準値と比較する累積判定動作により電池セルにエラーが発生したか否かを判断し、累積判定動作により電池セルにエラーが発生したと判断される場合、累積エラー回数をカウントする第1診断ステップとを含むことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、絶対判定、相対判定、および累積判定により、電池セルにエラーが発生したか否かを判断することができる。本発明は、絶対判定、相対判定、および累積判定の結果を総合し、電池セルに欠陥があるか否かをさらに正確に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電池制御システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の電池診断装置を含む電池パック10の構成を示すブロック図である。
図3図2の電池管理システムの動作を説明するためのフローチャートである。
図4図2の電池管理システムの第1絶対判定動作を説明するためのフローチャートである。
図5図2のデータ処理回路のデータ前処理動作を説明するためのフローチャートである。
図6a】電池電圧データの重複信号を除去するためにサンプリングを行う方法を示す図である。
図6b】電池電圧データに対してサンプリングおよび平滑化スプラインにより前処理を行った結果を示すグラフである。
図6c】電池電圧データの前処理ステップ別の微分の概形を示すグラフである。
図6d】電池の充電サイクル別の微分信号のヒストグラムを示す。
図6e】電池の充電サイクル別の標準偏差を示す図である。
図6f】本発明の一実施形態に係る電池診断装置において、微分信号の標準偏差により電池の異常を診断することを例示的に示す図である。
図7図2の電池管理システムの第2絶対判定動作を説明するためのフローチャートである。
図8a】電池セルの内部短絡による電圧降下が全体区間にわたって発生する際の電圧変化を示す図である。
図8b】電池セルの内部短絡による電圧降下が一時的に発生する際の電圧変化を示す図である。
図8c】電池を充電してから約10分間の実際の休止(rest)電圧、近似式による電圧、およびこれらの差値を示すグラフである。
図8d】本発明の一実施形態に係る電池診断装置を介して、電池セルの内部短絡による電圧降下が全体区間にわたって発生することを検出した結果を示す。
図8e】電池セルの内部短絡による電圧降下が一時的に発生することを検出した結果を示す。
図9図2の電池管理システムの相対判定動作を説明するためのフローチャートである。
図10a】電池セルの第1統計値の分布を示すグラフである。
図10b】電池セルの相対エラー回数を示すグラフである。
図11図2の電池管理システムの累積判定動作を説明するためのフローチャートである。
図12】本発明の一実施形態に係る電池診断装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本発明の技術分野における通常の知識を有する者が本発明を容易に実施することができるように、本発明の実施形態が明確且つ詳細に記載される。
【0012】
図1は、電池制御システムの構成を示すブロック図である。
図1を参照すると、本発明の一実施形態に係る電池パック1と上位システムに含まれている上位コントローラ2とを含む電池制御システムを概略的に示す。
【0013】
図1に示されたように、電池パック1は、1つ以上の電池セルからなり、充放電可能な電池モジュール11と、電池モジュール11の+端子側または-端子側に直列に連結され、電池モジュール11の充放電電流の流れを制御するためのスイッチング部14と、電池パック1の電圧、電流、温度などをモニターし、過充電および過放電などを防止するように制御管理する電池管理システム(Battery Management System)20とを含む。
【0014】
ここで、スイッチング部14は、電池モジュール11の充電または放電に対する電流の流れを制御するためのスイッチング素子であり、例えば、少なくとも1つのMOSFETのような半導体スイッチング素子、またはリレーなどを用いることができる。
【0015】
また、電池管理システム20は、電池パック1の電圧、電流、温度などをモニターすることができ、また、スイッチング部14に隣接して備えられたセンサ12を用いて、電池パックの電流、電圧、温度などを測定することができる。電池管理システム20は、上述した各種パラメータを測定した値の入力を受けるインターフェースとして、複数の端子、およびこれらの端子と連結され、入力を受けた値の処理を行う回路などを含むことができる。
【0016】
また、電池管理システム20は、スイッチング部14、例えば、MOSFETやリレーのON/OFFを制御することもでき、電池モジュール11に連結され、電池モジュール11の状態を監視することができる。
【0017】
上位コントローラ2は、電池管理システム20に電池モジュール11に対する制御信号を伝送することができる。これにより、電池管理システム20は、上位コントローラ2から印加される信号に基づいて動作が制御されることができる。本発明の電池セルがESS(Energy Storage System)または車両などに用いられる電池パックに含まれた構成であってもよい。但し、かかる用途に限定されるものではない。
【0018】
かかる電池パック1の構成および電池管理システム20の構成は公知の構成であるため、より具体的な説明は省略することにする。
【0019】
図2は、本発明の電池診断装置を含む電池パック10の構成を示すブロック図である。図2の電池モジュール100および電池管理システム200は、図1の電池モジュール11および電池管理システム20に対応することができる。
【0020】
電池パック10は、電池モジュール100および電池管理システム200を含むことができる。本発明の「電池診断装置」は、電池管理システム200の一部または全体の構成を含む装置であってもよい。例として、「電池診断装置」は、電圧測定回路210、データ処理回路220、診断回路230、およびメモリ240を含むこともできる。
【0021】
電池モジュール100は、複数の電池セルB1~BNを含むことができる。複数の電池セルB1~BNは、直列および/または並列に連結された構成であってもよい。図2を参照すると、電池パック10が1つの電池モジュール100を含むものとして示されているが、本発明は、これに限定されず、電池パック10は、1つ以上の電池モジュールを含んでもよい。
【0022】
充電区間において、電池モジュール100は、電源装置(図示せず)から電源の供給を受けることができる。充電区間において、電池セルB1~BNそれぞれの両端の電圧が増加することができる。以下の説明において、「電池セルの電圧」は、「電池セルの両端の電圧」を意味する。放電区間において、電池モジュール100は、外部装置および/または回路に電源を供給することができる。充電区間と放電区間との間には、休止(reset)区間があることができる。休止区間において、電池モジュール100は、電源の供給を受けたり、電源を供給したりする動作を中断することができる。よって、理想的な場合、休止区間において、電池モジュール100の電圧は一定に維持される。電池モジュール100が電気自動車に含まれる場合、外部装置および/または回路は、モータ、PCU(Power Control Unit)、インバータなどであってもよい。
【0023】
電池セルの内部短絡(internal short-circuit)または外部短絡(external short-circuit)により、電池セルから異常電圧降下現象が検知され得る。異常電圧降下現象は、充電および放電区間、および/または休止区間において、電池セルの電圧が異常に減少することを意味する。本発明の電池管理システム200は、電池セルB1~BNをモニターし、電池セルB1~BNに異常電圧降下現象が発生したか否かを判断することができる。
【0024】
電池管理システム200は、電圧測定回路210、データ処理回路220、診断回路230、およびメモリ240を含むことができる。電池管理システム200は、絶対判定動作、相対判定動作、および累積判定動作により、電池セルB1~BNに異常電圧降下現象が発生したか否かをさらに正確に判断することができる。以下の説明において、電池セルB1にエラーが発生したか否かを確認するとは、電池セルB1に異常電圧降下現象が発生するか否かを確認することを意味する。また、以下の説明においては、説明の便宜上、電池管理システム200が電池セルB1を点検する方法について集中的に説明する。電池管理システム200は、電池セルB1を点検する方法と同様に、残りの電池セルB2~BNも点検することができる。
【0025】
第1に、電池管理システム200が絶対判定動作を行う方法について説明する。充電および放電区間で行われる絶対判定動作と、休止区間で行われる絶対判定動作が異なることができる。以下の説明において、充電および放電区間で行われる絶対判定動作は、第1絶対判定動作と称する。休止区間で行われる絶対判定動作は、第2絶対判定動作と称する。
【0026】
以下、第1絶対判定動作について説明する。電圧測定回路210は、充電および放電区間において、電池セルB1の電圧を測定することができる。電圧測定回路210は、測定された電圧に対する電圧データをデータ処理回路220に出力することができる。
【0027】
データ処理回路220は、電圧測定回路210により受信された電圧データを処理し、第1統計値を計算することができる。例として、第1統計値は、電池セルB1の容量を電圧に関して微分した値であってもよい。第1統計値を計算するために、電池セルB1の容量が電池管理システム200によって測定されることができる。第1統計値は、図4図6fを参照して詳しく説明する。
【0028】
診断回路230は、第1統計値に対する情報を受信することができる。診断回路230は、第1統計値を第1絶対基準値と比較することができる。第1絶対基準値は、ユーザにより設定された値であってもよい。但し、本発明は、これに限定されず、第1絶対基準値は、電池セルB1の温度、電池セルB1のSOCなど、電池セルB1の状態に基づいて決定される値であってもよい。診断回路230は、第1統計値が第1絶対基準値以上である場合、電池セルB1にエラーが発生したと判断することができる。
【0029】
以下、第2絶対判定動作について説明する。電圧測定回路210は、休止区間において、電池セルB1の電圧を測定することができる。電圧測定回路210は、測定された電圧に対する電圧データをデータ処理回路220に出力することができる。
【0030】
データ処理回路220は、電圧測定回路210により受信された電圧データを処理し、第2統計値を計算することができる。第2統計値は、電圧データを電圧近似式に代入して計算した値であってもよい。第2統計値は、図7図8eを参照して詳しく説明する。
【0031】
診断回路230は、第2統計値に対する情報を受信することができる。診断回路230は、第2統計値を第2絶対基準値と比較することができる。第2絶対基準値は、ユーザにより設定された値であってもよい。但し、本発明は、これに限定されず、第2絶対基準値は、電池セルB1の温度、電池セルB1のSOCなど、電池セルB1の状態に基づいて決定される値であってもよい。診断回路230は、第2統計値が第2絶対基準値以上である場合、電池セルB1にエラーが発生したと判断することができる。
【0032】
第2に、電池管理システム200が相対判定動作を行う方法について説明する。充電および放電区間で行われる相対判定動作と、休止区間で行われる相対判定動作が異なることができる。以下の説明において、充電および放電区間で行われる相対判定動作は、第1相対判定動作と称する。休止区間で行われる相対判定動作は、第2相対判定動作と称する。
【0033】
以下、第1相対判定動作について説明する。電圧測定回路210は、充電および放電区間において、電池セルB1~BNそれぞれの電圧を測定することができる。電圧測定回路210は、測定された電圧に対する電圧データをデータ処理回路220に出力することができる。
【0034】
データ処理回路220は、電圧測定回路210により受信された電圧データを処理し、第1相対基準値を計算することができる。具体的に、データ処理回路220は、絶対判定動作における電池セルB1の第1統計値を計算する方法と同様に、電池セルB1~BNの第1統計値を計算することができる。データ処理回路220は、電池セルB1~BNの第1統計値の「n」シグマ値に基づいて第1相対基準値を決定することができる。ここで、「n」は、正数であってもよい。例として、第1相対基準値は、第1統計値の+3であってもよい。
【0035】
診断回路230は、電池セルB1の第1統計値および第1相対基準値に対する情報を受信することができる。診断回路230は、第1統計値を第1相対基準値と比較することができる。診断回路230は、第1統計値が第1相対基準値以上である場合、電池セルB1にエラーが発生したと判断することができる。
【0036】
以下、第2相対判定動作について説明する。電圧測定回路210は、休止区間において、電池セルB1~BNそれぞれの電圧を測定することができる。電圧測定回路210は、測定された電圧に対する電圧データをデータ処理回路220に出力することができる。
【0037】
データ処理回路220は、電圧測定回路210により受信された電圧データを処理し、第2相対基準値を計算することができる。具体的に、データ処理回路220は、絶対判定動作における電池セルB1の第2統計値を計算する方法と同様に、電池セルB1~BNの第2統計値を計算することができる。データ処理回路220は、電池セルB1~BNの第2統計値の「k」シグマ値に基づいて第2相対基準値を決定することができる。ここで、「k」は、正数であってもよい。例として、第2相対基準値は、第2統計値の+3シグマ値であってもよい。
【0038】
診断回路230は、電池セルB1の第2統計値および第2相対基準値に対する情報を受信することができる。診断回路230は、第2統計値を第2相対基準値と比較することができる。診断回路230は、第2統計値が第2相対基準値以上である場合、電池セルB1にエラーが発生したと判断することができる。
【0039】
第3に、電池管理システム200が累積判定動作を行う方法について説明する。電池管理システム200は、分析期間の間、一定周期ごとに絶対判定動作および相対判定動作を行うことができる。絶対判定動作および相対判定動作で生成されるデータを用いて、電池管理システム200は、累積判定動作を行うことができる。
【0040】
データ処理回路220は、電池セルB1の電圧に関する統計値を累積して累積統計値を計算することができる。例として、データ処理回路220は、分析期間の間に計算された全ての統計値を累積して累積統計値を計算することができる。他の例として、データ処理回路220は、分析期間の間に計算された統計値のうち一部を選別し、選別された統計値を累積して累積統計値を計算することができる。具体的に、データ処理回路220は、分析期間の間、特定の時間帯に取得された統計値を累積して累積統計値を計算することができる。
【0041】
データ処理回路220は、累積統計値を計算したものと類似の方法により、相対基準値を累積して累積基準値を計算することができる。但し、本発明は、これに限定されず、データ処理回路220は、絶対基準値に基づいて、累積基準値を計算してもよい。また、累積基準値は、ユーザにより設定された値でもある。
【0042】
診断回路230は、累積統計値および累積基準値に対する情報を受信することができる。診断回路230は、累積統計値と累積基準値とを比較することができる。診断回路230は、累積統計値が累積基準値以上である場合、電池セルB1にエラーが発生したと判断することができる。
【0043】
すなわち、累積判定動作は、相対判定動作のためのデータ値(例えば、統計値、相対基準値)を特定の期間の間に累積して加えた値(例えば、累積統計値、累積基準値)を用いて比較動作を行うか、または絶対判定動作のためのデータ値(例えば、統計値、絶対基準値)を特定の期間の間に累積して加えた値(例えば、累積統計値、累積基準値)を用いて比較動作を行う判定動作を意味する。
【0044】
データ処理回路220および診断回路230は、電池セルB1の第1統計値を累積して第1累積判定動作を行うか、または電池セルB1の第2統計値を累積して第2累積判定動作を行うことができる。また、本発明は、これに限定されず、データ処理回路220および診断回路230は、第1累積判定動作および第2累積判定動作を両方とも行ってもよい。
【0045】
診断回路230は、絶対判定動作、相対判定動作、および累積判定動作を繰り返し行うことができる。診断回路230は、絶対判定動作において、電池セルB1にエラーが発生したと判断される絶対エラー回数をカウントすることができる。診断回路230は、相対判定動作において、電池セルB1にエラーが発生したと判断される相対エラー回数をカウントすることができる。診断回路230は、累積判定動作において、電池セルB1にエラーが発生したと判断される累積エラー回数をカウントすることができる。
【0046】
診断回路230は、絶対エラー回数、相対エラー回数、および累積エラー回数に基づいて、電池セルB1に欠陥があるか否かを最終的に判断することができる。例として、診断回路230は、電池セルB1の絶対エラー回数、相対エラー回数、および累積エラー回数がそれぞれ第1回数、第2回数、および第3回数以上である場合、電池セルB1に欠陥があると判断することができる。第1回数、第2回数、および第3回数は、ユーザにより設定された値であってもよい。また、第1回数、第2回数、および第3回数は、それぞれ電池セルB1~BNの絶対エラー回数、相対エラー回数、および累積エラー回数に基づいて決定されてもよい。例として、第1回数は、電池セルB1~BNの絶対エラー回数のうち上位2%に該当する絶対エラー回数であってもよい。
【0047】
メモリ240は、絶対判定動作、相対判定動作、および累積判定動作のために必要なデータを格納することができる。また、メモリ240は、データ処理回路220および診断回路230により生成されたデータを格納することができる。具体的に、メモリ240は、統計値、累積統計値、絶対エラー回数、相対エラー回数、累積エラー回数に関するデータを格納することができる。電池セルB1に欠陥があると判断される場合、メモリ240は、電池セルB1に対する情報、電池セルB1に発生した欠陥に対する情報などを格納することができる。
【0048】
図3は、図2の電池管理システムの動作を説明するためのフローチャートである。
図3を参照して、図2の電池管理システム200が絶対判定動作、相対判定動作、および累積判定動作により、電池セルB1に欠陥があるか否かを判断する方法について説明する。図3を参照した説明において、電池管理システム200が絶対判定動作を行うとは、第1絶対判定動作および/または第2絶対判定動作を行うことを意味する。電池管理システム200が相対判定動作を行うとは、第1相対判定動作および/または第2相対判定動作を行うことを意味する。また、電池管理システム200が累積判定動作を行うとは、第1累積判定動作および/または第2累積判定動作を行うことを意味する。
【0049】
S110動作において、電池管理システム200は、電池セルB1~BNそれぞれの電圧を測定することができる。
S120動作において、電池管理システム200は、測定された電圧に基づいて、絶対判定動作、相対判定動作、および累積判定動作のためのデータを生成することができる。具体的に、電池管理システム200は、測定された電圧に基づいて、電池セルB1の統計値、累積統計値などを計算することができ、相対基準値、累積基準値などを計算することができる。
【0050】
S130動作において、電池管理システム200は、絶対判定動作を行うことができる。電池管理システム200は、電池セルB1の統計値と絶対基準値とを比較することができる。電池管理システム200は、電池セルB1の統計値が絶対基準値以上である場合、絶対エラー回数を1だけ増加させることができる。
【0051】
S140動作において、電池管理システム200は、相対判定動作を行うことができる。電池管理システム200は、電池セルB1の統計値と相対基準値とを比較することができる。電池管理システム200は、電池セルB1の統計値が相対基準値以上である場合、相対エラー回数を1だけ増加させることができる。
【0052】
S150動作において、電池管理システム200は、累積判定動作を行うことができる。電池管理システム200は、電池セルB1の累積統計値と累積基準値とを比較することができる。電池管理システム200は、電池セルB1の累積統計値が累積基準値以上である場合、累積エラー回数を1だけ増加させることができる。
【0053】
S160動作において、電池管理システム200は、絶対エラー回数、相対エラー回数、および累積エラー回数が条件を満たすか否かを判断することができる。前記条件は、図2を参照して説明したように、絶対エラー回数、相対エラー回数、および累積エラー回数がそれぞれ第1回数、第2回数、および第3回数以上であるか否かを判断するものであってもよい。前記条件を満たすとは、前記エラー回数(絶対エラー回数、相対エラー回数、および累積エラー回数)がそれぞれ対応する回数(第1回数、第2回数、および第3回数)以上でなければならないことを意味し得るが、これに限定されない。前記条件を満たすとは、前記エラー回数のうち少なくとも1つ(例えば、累積エラー回数)が対応する回数(第3回数)以上であることで充分であることができる。または、前記条件を満たすとは、前記エラー回数のうち一部の和(例えば、絶対エラー回数と相対エラー回数の和)が対応する回数の和(第1回数と第2回数の和)以上であり、前記エラー回数のうち残り(累積回数)が対応する回数(第3回数)以上であることを意味し得る。この他にも、前記条件は、前記エラー回数を対応する回数と比較することから多様に変形されてもよい。
【0054】
絶対エラー回数、相対エラー回数、および累積エラー回数が前記条件を満たす場合、S170動作が行われる。S170動作において、電池管理システム200は、電池セルB1に欠陥があると最終的に判断することができる。
【0055】
絶対エラー回数、相対エラー回数、および累積エラー回数が前記条件を満たさない場合、S180動作が行われる。S180動作において、電池管理システム200は、電池セルB1に欠陥がないと最終的に判断することができる。
【0056】
図4は、図2の電池管理システムの第1絶対判定動作を説明するためのフローチャートである。図2の電池管理システム200は、充電および放電区間において、第1絶対判定動作を行うことができる。
【0057】
S210動作において、電圧測定回路210は、電池セルB1の電圧を測定することができる。
S220動作において、データ処理回路220は、電圧測定回路210により測定された電池セルB1の電圧を微分信号に変換することができる。この場合、データ処理回路220は、電池セルB1の容量および電圧に関して微分信号(例えば、dQ/dV)を算出することができる。微分信号を算出するために、電池管理システム200は、電池セルB1の容量を測定することができる。
【0058】
また、データ処理回路220は、電池セルB1の電圧が4V~4.2Vである領域に対して微分信号に変換することができる。これは、電池セルB1の電圧が4V~4.2Vである高電圧領域から電池の内部短絡による不安定電圧の概形を検出することができ、電池セルB1間の偏差や劣化など、他の要因による微分ピーク(peak)変化の影響を排除することができるためである。しかし、本発明の一実施形態に係るデータ処理回路220により変換される微分信号が必ずしも4V~4.2Vの電圧範囲に制限されるものではなく、その他にも、任意の電圧範囲に対して微分信号に変換することができる。
【0059】
データ処理回路220は、微分信号を算出する前に電池セルB1の電圧データを前処理することで、電池セルB1の電圧が一定区間で微分可能となるように変換することができる。データ処理回路220の前処理動作は、図5を参照して詳しく説明する。
【0060】
S230動作において、データ処理回路220は、変換された微分信号に対して第1統計値を算出することができる。この際、データ処理回路220により算出された微分信号の第1統計値は、後述するように、スライディングウィンドウ(Sliding Window)(またはムービングウィンドウ(Moving Window))方式で、電池の異常挙動を判別するためのものである。例えば、微分信号に対する第1統計値は、標準偏差を含むことができる。
S240動作において、診断回路230は、データ処理回路220により変換された微分信号に基づいて電池セルB1を診断することができる。
【0061】
電池電圧の微分信号に対する第1統計値が第1絶対基準値以上である場合、S250動作が行われる。S250動作において、診断回路230は、電池セルB1にエラーが発生したと判断することができる。診断回路230は、電池電圧に関する微分信号の第1統計値に対して、スライディングウィンドウ方式で電池セルB1を診断することができる。このように、診断回路230がスライディングウィンドウ方式で電池セルB1を診断する場合、ウィンドウのサイズは、ユーザにより任意に設定されてもよい。電池電圧の微分信号に対する第1統計値が第1絶対基準値よりも小さい場合、S210動作~S240動作が再び行われる。
【0062】
図5は、図2のデータ処理回路のデータ前処理動作を説明するためのフローチャートである。図2のデータ処理回路220は、第1統計値を算出するためにデータ前処理動作を行うことができる。
【0063】
S310動作において、電圧測定回路210は、電池セルB1の電圧を測定することができる。
データ処理回路220は、微分信号を算出する前に電池セルB1の電圧データを前処理することで、電池セルB1の電圧が一定区間で微分可能となるように変換することができる。一般的に測定された電池の電圧データは、重複信号および不連続区間などにより、微分分析が不可能な場合が発生し得る。よって、データ処理回路220においては、微分信号の変換以前に電池セルB1の電圧データを前処理し、電池セルB1の電圧が一定区間で微分可能となるように変換することができる。
【0064】
S320動作において、データ処理回路220は、電圧データに対するサンプリングにより、電池セルB1の電圧を単調増加または単調減少形態のデータに変換することができる。例えば、データ処理回路220は、同一の電圧大きさ(V)を有する電池セルB1の容量値(Q)を分類し、電圧大きさ別に電池セルB1の容量値の平均値を算出することで、電圧に対するサンプリングを行うことができる。
【0065】
S330動作において、データ処理回路220は、平滑化スプライン(Smoothing Spline)により、隣接したデータ間の連続性を満たすように変換することができる。これにより、電池セルB1の電圧データの傾きの曲線を緩やかな形態に変換することができる。
【0066】
図6aは、電池電圧データの重複信号を除去するためにサンプリングを行う方法を示す図である。
図6aを参照すると、それぞれの時間に対する電池の容量および電圧の測定データが示されている。ここで、電池の容量が43Ah、44Ah、46Ahである区間では、電圧が3.23Vとして同一であり、電池の容量が45Ah、47Ahである区間では、電圧が3.24Vとして同一である。よって、電圧データの重複信号が発生して微分分析が不可能となり得る。
【0067】
この場合には、電池の容量および電圧データに対して特定の大きさの電圧を基準に電池の容量値を分類し、その平均値を計算することで、電池電圧データをサンプリングすることができる。例えば、図6aに示されたように、重複して現れる電池電圧である3.23Vおよび3.24Vを基準とし、各電圧に該当する容量値の平均値を計算することができる。例えば、電圧が3.23Vである場合には、電池容量43Ah、44Ah、46Ahの平均値である44.3Ahを容量値に決定し、電圧が3.24Vである場合には、電池容量45Ah、47Ahの平均値である46Ahを容量値に決定することができる。
【0068】
このように、本発明の一実施形態に係る電池診断装置においては、図6aに示された方法によりサンプリングを行うことで、測定電圧を基準に電圧データを単調増加(または単調減少)形態に変換することができる。
【0069】
図6bは、電池電圧データに対してサンプリングおよび平滑化スプラインにより前処理を行った結果を示すグラフであり、図6cは、電池電圧データの前処理ステップ別の微分の概形を示すグラフである。この際、図6bの横軸は電池の容量(Ah)を示し、縦軸は電池の測定電圧(V)を示す。また、図6cの横軸は電池の電圧(V)を示し、縦軸は電池の容量および電圧に関する微分信号(Ah/V)を示す。
【0070】
図6bに示されたように、電圧のローデータの場合には重複信号およびノイズが発生しているが、図6aによりサンプリング処理した電圧データの場合には単調増加形態で現れることが分かる。
【0071】
一方、電圧のローデータに対してサンプリング処理を行うとしても、隣接したデータ間の傾き差により微分が不可能な区間が現れ得る。これに関し、図6cを参照すると、単に電圧のローデータにサンプリング処理だけを行った場合には、微分信号の値が完全に現れないことが分かる。
【0072】
したがって、サンプリング処理した電圧データに平滑化スプラインを行うことで、電池の電圧データの傾きが連続性を満たすように変換することができる。例えば、平滑化スプラインの計算式は、次のように表すことができる。
【0073】
【数1】
前記平滑化スプライン式により、サンプリングされた電圧データの傾きが急激に変化するのを防止し、連続的な曲線に変換することができる。この際、λ値が大きくなるほど、曲線はさらに緩やかになる。例えば、λ値は、それぞれ0.001(V)および0.01(Q)であってもよい。
【0074】
図6dは、電池の充電サイクル別の微分信号のヒストグラムを示し、図6eは、電池の充電サイクル別の標準偏差を示す図である。この際、図6dの横軸は微分信号値のBinsを示し、縦軸は各微分信号値の数を示す。また、図6dの横軸は電圧(V)を示し、縦軸は微分信号の標準偏差を示す。一方、図6dおよび6eの場合、ムービング(スライディング)ウィンドウの大きさを60にして導き出した結果を示したものである。
【0075】
図6dを参照すると、充電サイクルがそれぞれ113、135、140である場合に対する微分信号のヒストグラムを示している。図6dに示されたように、充電サイクルが113である場合には正常な充電状態の概形が現れるが、充電サイクルが135および140である場合には不安定な概形が現れることを確認することができる。
【0076】
一方、図6eを参照すると、微分信号の標準偏差が電圧に対して均一な場合には、正常な電圧挙動が現れることを意味し、微分信号の標準偏差が特定の電圧区間で急激に上昇する場合には、電圧の不安定挙動が発生することを意味する。
【0077】
このように、電池電圧に対する微分信号の分析ウィンドウ内での標準偏差の変化により、電圧が不安定であるか否かを検出することができる。よって、本発明の一実施形態に係る電池診断装置によると、電池電圧の正常挙動または異常挙動の判別条件を定量化することができる。
【0078】
図6fは、本発明の一実施形態に係る電池診断装置において、微分信号の標準偏差により電池の異常を診断することを例示的に示す図である。この際、図6fはムービング(スライディング)ウィンドウの大きさを10にして導き出した結果を示し、横軸は電圧(V)を示し、縦軸は微分信号の標準偏差を示す。
【0079】
図6fに示されたように、本発明の一実施形態に係る電池診断装置は、微分信号の標準偏差が予め設定された基準値以上であるか否かに基づいて、電池の内部短絡による異常電圧降下を診断することができる。例えば、図6fを参照する際、電池電圧が4.16~4.18Vである領域で異常電圧降下が発生したと判断することができる。
【0080】
一方、図6fのように微分信号の標準偏差を用いる場合には、スライディングウィンドウの大きさが小さいほど、不安定挙動の弁別力が増加するため、電圧降下現象をさらに容易で且つ正確に検出することができる。
【0081】
また、以上では電池電圧の微分信号に対する標準偏差を用いて異常有無を判断するものとして説明したが、本発明は、これに制限されず、標準偏差の他にも、微分信号に対する平均値、中央値、歪度、尖度などの多様な統計値が用いられてもよい。
【0082】
図7は、図2の電池管理システムの第2絶対判定動作を説明するためのフローチャートである。
S410動作において、電圧測定回路210は、電池セルB1の電圧を測定することができる。この際、電圧測定回路210は、電池セルB1の電圧を一定時間間隔で測定することができる。
【0083】
S420動作において、データ処理回路220は、電池セルB1の電圧に関する近似(fitting)式を算出することができる。この際、データ処理回路220により算出される近似式は、電池セルB1の電圧の概形を示すモデル電圧であってもよい。例えば、前記近似式は、指数(exponential)に関する式であってもよい。また、データ処理回路220は、最小二乗法(least square estimation)により近似式を算出することができる。しかし、これは、例示的なものにすぎず、本発明は、これに制限されず、データ処理回路220は、多様な方式で近似式を算出してもよい。データ処理回路220は、電池セルB1の充電が完了した後、電池の内部短絡による電圧降下現象が現れる休止区間での電圧に関する近似式を算出することができる。データ処理回路220により算出された電池セルB1の電圧に関する近似式に基づいて第2統計値を計算することができる。第2統計値は、測定された電池セルB1の電圧と、データ処理回路220により算出された近似式による電圧との差値であってもよい。
【0084】
S430動作において、診断回路230は、データ処理回路220により算出された電池セルB1の電圧に関する近似式に基づいて、電池セルB1にエラーが発生したか否かを診断することができる。
【0085】
第2統計値が第2絶対基準値以上である場合、S440動作が行われる。この際、第2絶対基準値は、電圧測定回路210の事前に決定された測定誤差値に基づいて設定されることができる。S440動作において、診断回路230は、電池セルB1にエラーが発生したと判断することができる。第2統計値が第2絶対基準値未満である場合、S410~S430動作が再び行われる。
【0086】
図8aは、電池セルの内部短絡による電圧降下が全体区間にわたって発生する際の電圧変化を示す図であり、図8bは、電池セルの内部短絡による電圧降下が一時的に発生する際の電圧変化を示す図である。ここで、図8aおよび8bの横軸は時間(秒)を示し、縦軸は電池の電圧(V)を示す。
【0087】
図8aを参照すると、充電サイクルが113、135、140、149、および150回目である場合に対して、電池を充電してから休止区間での電池セルの内部短絡による電圧降下が、全体区間にわたって漸進的に現れることを確認することができる。
【0088】
また、図8bを参照すると、充電サイクルが73、74、82、および105回目である場合に対して、電池を充電してから休止区間での電池セルの内部短絡による電圧降下が、約1500秒区間と2300秒区間などで一時的に発生することを確認することができる。
【0089】
図8cは、電池を充電してから約10分間の実際の休止(rest)電圧、近似式による電圧、およびこれらの差値を示すグラフである。この際、図8cの横軸は時間(秒)を示し、縦軸(左)は電池の電圧(V)を示し、縦軸(右)は電池の実際の測定電圧と近似式による電圧との差の絶対値(mV)を示す。
【0090】
図8cの電池電圧の近似式は、最小二乗法により導き出したものである。この際、電池電圧の近似式は、次のように表すことができる。
【0091】
【数2】
【0092】
本発明の一実施形態に係る電池診断装置においては、前記式のa、b、cの定数をそれぞれ計算することで、電池電圧の近似式を完成することができる。しかし、前記式は、例示として示したものにすぎず、本発明は、これに制限されず、電池の電圧を近似できる多様な式が用いられてもよい。
【0093】
図8cを参照すると、実際に測定された電池の休止電圧(raw)と近似式による電圧(Exp.fitting)との差の絶対値がグラフの中央に
【0094】
【数3】
【0095】
で示されている。上記で説明したように、電池の実際の測定電圧と近似式による電圧との差の絶対値は、第2統計値を意味する。本発明の電池診断装置は、第2統計値を第2絶対基準値と比較することで、電池の休止区間での内部短絡による電圧降下を検出することができる。
【0096】
図8dは、本発明の一実施形態に係る電池診断装置を介して、電池セルの内部短絡による電圧降下が全体区間にわたって発生することを検出した結果を示し、図8eは、電池セルの内部短絡による電圧降下が一時的に発生することを検出した結果を示したのである。
この際、図8dおよび8eの横軸は電池の充電サイクル数を示し、縦軸は電池の実際の測定電圧と近似式による電圧との差値の最大値(V)を示す。
【0097】
図8dを参照すると、電池診断装置は、電池セルの内部短絡による電圧降下が全体区間にわたって発生する場合に対して、第2統計値を第2絶対基準値と比較し、第2統計値が第2絶対基準値以上である場合、電池の内部短絡による電圧降下が発生したと判断することができる。
【0098】
同様に、図8eを参照すると、電池診断装置は、電池セルの内部短絡による電圧降下が一時的に発生する場合に対しても、第2統計値を第2絶対基準値と比較し、第2統計値が第2絶対基準値以上である場合、電池の内部短絡による電圧降下が発生したと判断することができる。この際、図8dおよび8eの基準値は、電圧センサ自体の測定範囲に基づいて決定されることができる。
【0099】
図9は、図2の電池管理システムの相対判定動作を説明するためのフローチャートである。図9を参照して説明する相対判定動作と対応する方法として、第1相対判定動作および第2相対判定動作が行われることができる。
【0100】
S510動作において、電圧測定回路210は、電池セルB1~BNそれぞれの電圧を測定することができる。この際、電圧測定回路210は、電池セルB1~BNの電圧を一定時間間隔ごとに測定することができる。
【0101】
S520動作において、データ処理回路220は、測定された電池セルB1の電圧に基づいて、電池セルB1の統計値を計算することができる。統計値は、電池セルB1の電圧状態を示す指標値であり、多様な方法により計算されることができる。例として、第1相対判定動作において、データ処理回路220は、電池セルB1の電圧の微分信号に対する標準偏差を計算することができる。電池セルB1の電圧が一定時間間隔で複数回測定された場合、データ処理回路220は、時間区間別に電池セルB1の電圧の微分信号に対する標準偏差を計算することができる。この場合、第1統計値は、計算された標準偏差のうち最大値であってもよい。
【0102】
S530動作において、データ処理回路220は、測定された電池セルB1~BNの電圧に基づいて、電池セルB1~BNの統計値を計算することができる。電池セルB1~BNの統計値も、S520動作を参照して説明したものと実質的に同様に計算されることができる。
【0103】
S540動作において、データ処理回路220は、電池セルB1~BNの統計値に基づいて相対基準値を計算することができる。相対基準値は、電池セルB1~BNの統計値の「n」シグマ値であってもよい。ここで、「n」は、正数であってもよい。
【0104】
S550動作において、診断回路230は、電池セルB1の統計値を相対基準値と比較することができる。
電池セルB1の統計値が相対基準値以上である場合、S560動作が行われる。S560動作において、診断回路230は、電池セルB1にエラーが発生したと判断することができる。電池セルB1の統計値が相対基準値未満である場合、S570動作が行われる。S570動作において、診断回路230は、電池セルB1にエラーが発生していないと判断することができる。
【0105】
図10aは、電池セルの第1統計値の分布を示すグラフである。
図10aの横軸は第1統計値を示し、縦軸は電池セルの個数を示す。図10aを参照して説明する任意の電池セルの第1統計値は、電池セルの電圧を微分した値の標準偏差のうち最大値(max(std(dQ/dV)))を意味する。
【0106】
相対基準値が電池セルB1~BNの統計値の3シグマ値に決定される場合、図10aのグラフにおいて、3シグマ値の右側に含まれる電池セルは、エラーが発生したと判断することができる。
【0107】
図10bは、電池セルの相対エラー回数を示すグラフである。
図10bの横軸は電池セルの相対エラー回数を示し、縦軸は電池セルの個数を示す。診断回路230は、相対判定動作を一定時間間隔ごとに行うことができる。診断回路230は、相対判定動作を行いつつ、電池セルの相対エラー回数を累積させることができる。電池セルの相対エラー回数が大きいほど、当該電池セルは、欠陥があると判断される可能性が高くなる。
【0108】
図11は、図2の電池管理システムの累積判定動作を説明するためのフローチャートである。図11を参照して説明する累積判定動作と対応する方法として、第1累積判定動作および第2累積判定動作が行われることができる。
【0109】
S610動作において、電圧測定回路210は、電池セルB1の電圧を一定時間間隔ごとに測定することができる。
S620動作において、データ処理回路220は、一定時間間隔ごとに測定された電池セルB1の電圧に基づいて、電池セルB1の統計値を計算することができる。
【0110】
S630動作において、データ処理回路220は、電池セルB1の統計値を累積して累積統計値を計算することができる。データ処理回路220は、分析期間の間に計算された統計値のうち一部を選別し、選別された統計値を累積して累積統計値を計算することもできる。
【0111】
S640動作において、診断回路230は、累積統計値と累積基準値とを比較することができる。累積基準値は、相対基準値を累積して計算された値であるか、ユーザにより設定された値であるか、または電池セルの状態に基づいて設定された値であってもよい。
【0112】
累積統計値が累積基準値以上である場合、S650動作が行われる。S650動作において、診断回路230は、電池セルB1にエラーが発生したと判断することができる。累積統計値が累積基準値未満である場合、S660動作が行われる。S660動作において、診断回路230は、電池セルB1にエラーが発生していないと判断することができる。
【0113】
上記で説明したように、本発明の電池診断装置は、絶対判定動作、相対判定動作、および累積判定動作の結果を総合的に考慮し、電池セルに欠陥があるか否かを最終的に判断することができる。よって、本発明によると、電池セルの欠陥に対する判断正確度が高くなることができる。また、本発明は、充電および放電区間で発生する電池セルのエラー診断動作、および休止区間で発生する電池セルのエラー診断動作を行うことができ、上記で説明した診断動作を状況に合わせて選択的に行うこともできる。
【0114】
図12は、本発明の一実施形態に係る電池診断装置のハードウェア構成を示す図である。
図12を参照すると、電池診断装置800は、各種処理および各構成を制御するマイクロコントローラ(MCU)810と、オペレーティングシステムプログラムおよび各種プログラム(例えば、電池診断プログラム、電圧近似式の算出プログラムなど)などが記録されるメモリ820と、電池セルモジュールおよび/または半導体スイッチング素子との間で入力インターフェースおよび出力インターフェースを提供する入出力インターフェース830と、有無線通信網を介して外部と通信可能な通信インターフェース840とを備えることができる。このように、本発明に係るコンピュータプログラムは、メモリ820に記録され、マイクロコントローラ810により処理されることで、例えば、図2に示した各機能ブロックを行うモジュールとして実現されてもよい。
【0115】
上述した内容は、本発明を実施するための具体的な実施形態である。本発明は、上述した実施形態だけでなく、単に設計変更されるかまたは容易に変更可能な実施形態も含むことができるであろう。また、本発明は、実施形態を用いて容易に変形して実施可能な技術も含むことができるであろう。よって、本発明の範囲は、上述した実施形態に限定して定めてはならず、後述の特許請求の範囲だけでなく、本発明の特許請求の範囲と均等なものによって定めなければならない。
【符号の説明】
【0116】
1 電池パック
B1~BN 電池セル
2 上位コントローラ
10 電池パック
11 電池モジュール
12 センサ
14 スイッチング部
20 電池管理システム(Battery Management System)
100 電池モジュール
200 電池管理システム
210 電圧測定回路
220 データ処理回路
230 診断回路
240 メモリ
800 電池診断装置
810 マイクロコントローラ(MCU)
820 メモリ
830 入出力インターフェース
840 通信インターフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図6d
図6e
図6f
図7
図8a
図8b
図8c
図8d
図8e
図9
図10a
図10b
図11
図12
【国際調査報告】