(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-09
(54)【発明の名称】持続的トランスジーン発現を伴う細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20221202BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20221202BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20221202BHJP
C12N 5/0784 20100101ALI20221202BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20221202BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20221202BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20221202BHJP
C12N 5/079 20100101ALI20221202BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20221202BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20221202BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20221202BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221202BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20221202BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20221202BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20221202BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20221202BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221202BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221202BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20221202BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221202BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20221202BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20221202BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0735
C12N5/0783
C12N5/0784
C12N5/078
C12N5/0786
C12N5/0793
C12N5/079
C12N5/077
C12N5/071
C12N15/90 Z
C12N15/12
C12N15/53
C12N15/62 Z
C12N15/54
C12N15/09 110
A61P29/00
A61P35/00
A61P37/02
A61P25/00
A61K35/12
A61K35/545
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521363
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(85)【翻訳文提出日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 US2020055158
(87)【国際公開番号】W WO2021072329
(87)【国際公開日】2021-04-15
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521361176
【氏名又は名称】ブルーロック セラピューティクス エルピー
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】ソー,チュー-リー
(72)【発明者】
【氏名】トミシマ,マーク ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ウィルキンソン,ダン チャールズ,ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】マコーリフ,コナー ブライアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZB07
4C087ZB11
4C087ZB26
(57)【要約】
本明細書において、持続された発現レベルで1つ以上のトランスジーンを発現する遺伝子的に作り変えられた哺乳動物(例えばヒト)細胞が提供される。該細胞を作製および使用する方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム中の持続的トランスジーン発現座(STEL)にトランスジーンを含む遺伝子的に改変された哺乳動物細胞であって、トランスジーンが検出可能なレベルで発現され、任意に哺乳動物細胞がヒト細胞である、遺伝子的に改変された哺乳動物細胞。
【請求項2】
トランスジーンの発現レベルが、(i)5以上、10以上もしくは15以上の継代にわたり、または(ii)細胞状態が変化する際に、40%より多く、30%より多く、20%より多くまたは10%より多くは変化せず、細胞状態が任意に、多能性および/または分化の状態である、請求項1記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項3】
STELが、表1に列挙される遺伝子座から選択される、請求項1または2記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項4】
STELが、表1に記載されるように、3.30より多く、3.50より多く、3.75より多く、4.00より多く、4.10より多く、4.20より多く、4.30より多く、4.50より多く、4.60より多く、4.70より多くの平均標準化発現を有する遺伝子座である、請求項3記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項5】
STELが、リボ核蛋白複合体形成、接着斑、細胞-基質接着結合、細胞-基質結合、細胞アンカリング、細胞外エクソソーム、細胞外小胞、細胞内小器官、アンカリング結合、RNA結合、核酸結合(例えばrRNAまたはmRNA結合)およびタンパク質結合の1つ以上と関与するタンパク質をコードする遺伝子にある、請求項3記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項6】
STELが、
リボソームタンパク質をコードする遺伝子、任意に(i)RPL13A、RPLP0、RPL10、RPL13、RPS18、RPL3、RPLP1、RPL15、RPL41、RPL11、RPL32、RPL18A、RPL19、RPL28、RPL29、RPL9、RPL8、RPL6、RPL18、RPL7、RPL7A、RPL21、RPL37A、RPL12、RPL5、RPL34、RPL35A、RPL30、RPL24、RPL39、RPL37、RPL14、RPL27A、RPLP2、RPL23A、RPL26、RPL36、RPL35、RPL23、RPL4およびRPL22から選択されるRPL遺伝子;もしくは(ii)RPS2、RPS19、RPS14、RPS3A、RPS12、RPS3、RPS6、RPS23、RPS27A、RPS8、RPS4X、RPS7、RPS24、RPS27、RPS15A、RPS9、RPS28、RPS13、RPSA、RPS5、RPS16、RPS25、RPS15、RPS20およびRPS11から選択されるRPS遺伝子;
任意にMT-CO1、MT-CO2、MT-ND4、MT-ND1およびMT-ND2から選択される、ミトコンドリアタンパク質をコードする遺伝子;
任意にACTG1およびACTBから選択される、アクチンタンパク質をコードする遺伝子;
任意にEEF1A1、EEF2およびEIF1から選択される、真核生物翻訳因子をコードする遺伝子;
H3F3AおよびH3F3Bなどのヒストンをコードする遺伝子;または
FTL、FTH1、TPT1、TMSB10、GAPDH、PTMA、GNB2L1、NACA、YBX1、NPM1、FAU、UBA52、HSP90AB1、MYL6、SERF2およびSRP14から選択される遺伝子
である、請求項3記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項7】
STELがGAPDH遺伝子である、請求項3記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項8】
STELがリボソームタンパク質遺伝子である、請求項3記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項9】
STELが、任意にRPL13A、RPL7およびRPLP0遺伝子から選択されるリボソームタンパク質L(RPL)遺伝子である、請求項8記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項10】
細胞が多能性幹細胞(PSC)である、請求項1~9いずれか一項記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項11】
PSCがヒト胚性幹細胞(ESC)またはヒト誘導PSC(iPSC)である、請求項10記載の遺伝子的に改変された哺乳動物細胞。
【請求項12】
細胞が分化した細胞である、請求項1~9いずれか一項記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項13】
分化した細胞が、任意にヒトESCおよびヒトiPSCから選択されるヒトPSCに由来する、請求項12記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項14】
分化した細胞が、
任意にT細胞、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞、抑制性T細胞、骨髄細胞、樹状細胞および免疫抑制性マクロファージから選択されるヒト免疫細胞;
任意にドーパミン作動性ニューロン、ミクログリア細胞、希突起膠細胞、星状細胞、皮質性ニューロン、脊髄または動眼ニューロン、腸ニューロン、プラコード由来細胞、シュワン細胞および三叉神経または感覚ニューロンから選択されるヒト神経系の細胞;
任意に心筋細胞、内皮細胞および結節細胞から選択されるヒト心臓血管系の細胞;
任意に肝細胞、胆管細胞および膵臓β細胞から選択されるヒト代謝系の細胞、または
任意に網膜色素上皮細胞、光受容体錐体細胞、光受容体杆体細胞、両極細胞および神経節細胞から選択されるヒト眼性系の細胞
である、請求項12または13記載の遺伝子的に改変された哺乳動物細胞。
【請求項15】
トランスジーンが遺伝子座の3'非翻訳領域に挿入される、前記請求項いずれか一項記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項16】
トランスジーン配列が、自己切断ペプチドに対するコーディング配列を介してインフレームでSTEL遺伝子配列に連結されるか、または内部リボソーム進入部位(IRES)を介してSTEL遺伝子配列に連結される、前記請求項いずれか一項記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項17】
トランスジーンが、治療タンパク質、免疫調節タンパク質、レポータータンパク質または安全性スイッチシグナルをコードする、前記請求項いずれか一項記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項18】
細胞のゲノムが、任意にゲノム中のSTEL座内に外因性自殺遺伝子をさらに含み、該外因性自殺遺伝子が、一旦活性化されると、細胞のアポトーシスを引き起こす、前記請求項いずれか一項記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項19】
該自殺遺伝子が単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(TK)遺伝子である、請求項18記載の遺伝子的に改変された細胞。
【請求項20】
請求項1~19いずれか一項記載の遺伝子的に改変された細胞および薬学的に許容され得る担体を含む、医薬組成物。
【請求項21】
請求項1~19いずれか一項記載の遺伝子的に改変された細胞を患者に導入する工程を含む、治療の必要のあるヒト患者を治療する方法であって、該細胞がヒト細胞である、方法。
【請求項22】
ヒト患者が、
移植片移植を必要とするか、または
炎症、任意に神経炎症、自己免疫疾患もしくは癌を有する、
請求項21記載の方法。
【請求項23】
請求項21または22記載の方法における使用のための、請求項1~19いずれか一項記載の遺伝子的に改変された哺乳動物細胞。
【請求項24】
請求項21または22記載の方法における使用のための医薬の製造のための、請求項1~19いずれか一項記載の遺伝子的に改変された哺乳動物細胞の使用。
【請求項25】
培養された哺乳動物細胞を提供する工程、および
該トランスジーンを、培養された細胞のゲノム中のSTEL部位に導入する工程
を含む、請求項1~19いずれか一項記載の遺伝子的に改変された哺乳動物細胞を作製する方法。
【請求項26】
導入する工程が、CRISPR遺伝子編集により実施される、請求項25記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願についての他所参照
本願は、2019年10月9日に出願された米国仮出願第62/913,062号の優先権を主張し、該出願の内容は、その全体において参照により本明細書に援用される。
【0002】
配列表
本願は、ASCII形式で電子的に提出され、その全体において参照により本明細書に援用される配列表を含む。2020年10月9日に作成された該ASCIIコピーは、025450_WO009_SL.txtと名付けられ、29,071バイトのサイズである。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
細胞療法は、種々の疾患および状態の治療に大きな見込みをもたらす。細胞療法において、自己または同種異系の細胞を患者に移植して、欠損したまたは損傷した組織または細胞を置き換えるかまたは修復する。多能性(pluripotent)幹細胞(PSC)、多能性(multipotent)幹細胞(例えば造血幹細胞および間葉幹細胞)または分化した細胞(例えばドーパミン作動性ニューロン、リンパ球、心筋細胞および膵臓島細胞)などの多くの異なる種類の細胞が使用され得る。細胞療法の潜在的な用途としては、癌、自己免疫疾患の治療ならびに例えば関節、心臓ならびに中枢および/または末梢神経系における損傷した組織の再生が挙げられる。
【0004】
細胞療法における治療的細胞は、それらのゲノムに安定に組み込まれるトランスジーンを用いて遺伝子的に改変され得る。トランスジーンは、発現される場合、改変された細胞に、通常は存在しないタンパク質などの新規の特徴を導入し得る。しかしながら、細胞または生物内での安定な長期間のトランスジーン発現は、当該分野では困難なままである。トランスジーンは、標的細胞の前もって存在するかまたは発生的に調節される遺伝子発現パターンに供され得る。かかるパターンは、例えばクロマチンリモデリングおよびトランスジーンサイレンシングをもたらすゲノムのDNAメチル化およびヒストン改変により、トランスジェニック調節因子由来のシグナルを無効にし得る。
【0005】
ハウスキーピング遺伝子などの特定の遍在的に発現される遺伝子の座へのトランスジーンの組み込みには同様の問題がある。いくつかの遺伝子は、全てのヒト組織中で遍在的に発現される。発現のこの均一性のために、これらの遺伝子由来のプロモーターは、持続的トランスジーン発現が望まれる場合に遺伝子作り変えのための主要な候補であると思われ得る(Kao et al., Stem Cell Rep. (2016) 9(3):518-26)。しかしながら、これらの遺伝子のいくつかは、以前に考えられたように全ての公知の細胞表現型中で均一に発現されないものとして見出されている(de Jonge et al., PLoS One (2007) 2(9):e898)。そのため、トランスジーン発現のためのこれらのハウスキーピング遺伝子のプロモーターを使用することは、最終的に、低いかまたは無視できるレベルのトランスジーン発現をもたらし得る。
【0006】
したがって、PSCおよびPSC由来細胞において持続的トランスジーン発現を可能にするトランスジーン組込み部位を同定するための必要性が残る。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本開示は、ゲノム中の持続的トランスジーン発現座(sustained transgene expression locus)(STEL)にトランスジーンを含む遺伝子的に改変された哺乳動物細胞を提供し、ここでトランスジーンは検出可能なレベルで発現される。いくつかの態様において、トランスジーンの発現レベルは、(i)5以上、10以上または15以上の継代にわたり、または(ii)細胞状態が変化する際に40%より多く、30%より多く、20%より多くまたは10%より多くは変化せず、ここで該細胞状態は任意に多能性および/または分化の状態である。
【0008】
STEL部位は、例えば以下の表1に列挙される遺伝子座の1つであり得る。いくつかの態様において、STELは、表に示されるように3.30より多く、3.50より多く、3.75より多く、4.00より多く、4.10より多く、4.20より多く、4.30より多く、4.50より多く、4.60より多く、4.70より多くの平均標準化発現を有する遺伝子座である。
【0009】
いくつかの態様において、STELは、リボ核蛋白複合体形成、接着斑(focal adhesion)、細胞-基質接着結合(cell-substrate adherens junction)、細胞-基質結合(cell-substrate junction)、細胞アンカリング(cell anchoring)、細胞外エクソソーム、細胞外小胞、細胞内小器官、アンカリング結合(anchoring junction)、RNA結合、核酸結合(例えばrRNAまたはmRNA結合)およびタンパク質結合の1つ以上に関与するタンパク質をコードする遺伝子座である。
【0010】
いくつかの態様において、STELは、RPL遺伝子(例えばRPL13A、RPLP0、RPL10、RPL13、RPS18、RPL3、RPLP1、RPL15、RPL41、RPL11、RPL32、RPL18A、RPL19、RPL28、RPL29、RPL9、RPL8、RPL6、RPL18、RPL7、RPL7A、RPL21、RPL37A、RPL12、RPL5、RPL34、RPL35A、RPL30、RPL24、RPL39、RPL37、RPL14、RPL27A、RPLP2、RPL23A、RPL26、RPL36、RPL35、RPL23、RPL4およびRPL22)またはRPS遺伝子(例えばRPS2、RPS19、RPS14、RPS3A、RPS12、RPS3、RPS6、RPS23、RPS27A、RPS8、RPS4X、RPS7、RPS24、RPS27、RPS15A、RPS9、RPS28、RPS13、RPSA、RPS5、RPS16、RPS25、RPS15、RPS20およびRPS11)などのリボソームタンパク質をコードする遺伝子;ミトコンドリアタンパク質をコードする遺伝子(例えばMT-CO1、MT-CO2、MT-ND4、MT-ND1およびMT-ND2)、アクチンタンパク質をコードする遺伝子(例えばACTG1およびACTB);真核生物翻訳因子をコードする遺伝子(例えばEEF1A1、EEF2およびEIF1);ヒストンをコードする遺伝子(例えばH3F3AおよびH3F3B);またはFTL、FTH1、TPT1、TMSB10、GAPDH、PTMA、GNB2L1、NACA、YBX1、NPM1、FAU、UBA52、HSP90AB1、MYL6、SERF2およびSRP14から選択される遺伝子である。特定の態様において、STELは、GAPDH、RPL13A、RPL7またはRPLP0遺伝子座である。
【0011】
いくつかの態様において、トランスジーンは、遺伝子座の3'非翻訳領域に挿入される。いくつかの態様において、トランスジーン配列は、自己切断ペプチドについてのコーディング配列を介してSTEL遺伝子配列にインフレームで連結される。いくつかの態様において、トランスジーン配列は、内部リボソーム進入部位(IRES)を介してSTEL遺伝子配列に連結される。
【0012】
いくつかの態様において、トランスジーンは、治療タンパク質、免疫調節タンパク質、レポータータンパク質または安全性スイッチシグナル(例えば自殺遺伝子)をコードする。
【0013】
いくつかの態様において、遺伝子的に改変された哺乳動物細胞は、ヒト細胞であり、例えばPSC(例えば胚性幹細胞または誘導PSC)または分化した細胞であり得る。いくつかの態様において、分化した細胞は、(i)任意にT細胞、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞、抑制性T細胞、骨髄細胞、樹状細胞および免疫抑制性マクロファージから選択される免疫細胞;(ii)任意にドーパミン作動性ニューロン、ミクログリア細胞、希突起膠細胞、星状細胞、皮質性ニューロン、脊髄もしくは動眼ニューロン、腸ニューロン(enteric neuron)、プラコード由来細胞(Placode-derived cell)、シュワン細胞および三叉神経もしくは感覚ニューロンから選択される神経系の細胞;(iii)任意に心筋細胞、内皮細胞および結節細胞から選択される心臓血管系の細胞;または(iv)任意に肝細胞、胆管細胞および膵臓β細胞から選択される代謝系の細胞である。
【0014】
別の局面において、本開示は、本遺伝子的に改変されたヒト細胞を導入する工程を含む、治療を必要とするヒト患者を治療する方法を提供する。治療を必要とするヒト患者の治療における使用のための遺伝子的に改変されたヒト細胞および治療を必要とするヒトを治療するための医薬の製造のための遺伝子的に改変されたヒト細胞の使用も提供される。
【0015】
さらに別の局面において、本開示は、培養された哺乳動物細胞を提供する工程および目的のトランスジーンを培養された細胞のゲノム中のSTEL部位に導入する工程を含む、本明細書に記載される遺伝子的に改変された哺乳動物細胞を作製する方法を提供する。いくつかの態様において、トランスジーンは、CRISPR遺伝子編集(例えばCRISPR-Cas9遺伝子編集)により細胞のゲノムに導入される。いくつかの態様において、本開示の遺伝子工学で作り変えられた細胞は、多能性幹細胞(PSC)、例えば胚性幹細胞(例えばヒト胚性幹細胞)または誘導PSC(例えばヒト誘導PSC)である。いくつかの態様において、遺伝子工学で作り変えられた細胞は、分化した細胞、例えば免疫細胞(例えばT細胞、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞、骨髄細胞または樹状細胞)、免疫抑制性細胞(例えば抑制性T細胞または免疫抑制性マクロファージ)、神経系の細胞(例えばドーパミン作動性ニューロン、ミクログリア細胞、希突起膠細胞、星状細胞、皮質性ニューロン、脊髄もしくは動眼ニューロン、腸ニューロン、プラコード由来細胞、シュワン細胞または三叉神経もしくは感覚ニューロン)、心臓血管系の細胞(例えば心筋細胞、内皮細胞または結節細胞)、代謝系の細胞(例えば肝細胞、胆管細胞または膵臓β細胞)、または任意に網膜色素上皮細胞、光受容体錐体細胞(photoreceptor cone cell)、光受容体杆体細胞(photoreceptor rod cell)、両極細胞および神経節細胞から選択されるヒト眼系の細胞である。
【0016】
別の局面において、本開示は、本開示の遺伝子的に改変されたヒト細胞を、治療を必要とするヒト患者に導入する工程を含む、該ヒト患者を治療する方法を提供する。導入された遺伝子工学で作り変えられた細胞が自殺遺伝子を含むいくつかの態様において、該方法はさらに、所望の時点で自殺遺伝子の活性化因子を投与する工程を含み得る。
【0017】
いくつかの態様において、ヒト患者は免疫抑制を必要とし、遺伝子的に改変された免疫細胞は、免疫抑制性細胞、抑制性T細胞または免疫抑制性マクロファージである。いくつかの態様において、ヒト患者は、移植片移植を必要とするか、または炎症(例えば神経炎症)、自己免疫疾患もしくは癌を有する。いくつかの態様において、ヒト患者は、例えば損傷したまたは変性した組織(例えば脳組織、心臓組織、筋肉組織、関節または代謝に関与する組織)のための細胞療法を必要とする。
【0018】
さらに別の局面において、本開示は、培養されたヒト細胞を提供する工程ならびに培養されたヒト細胞のゲノムに外因性配列および/または自殺遺伝子を導入する工程を含む、本明細書に記載される遺伝子的に改変された組換えヒト細胞を作製する方法を提供する。いくつかの態様において、導入する工程は、ヌクレアーゼ媒介性遺伝子編集(例えばZFN、TALENまたはCRISPR-Cas9もしくはCRISPR-cpf1)ありまたはなしで相同組み換えにより実施される。トランスジーンを標的化するために非相同末端結合も使用され得る。
【0019】
本明細書に記載されるように、本治療方法の1つにおける治療を必要とするヒト患者の治療における使用のための、遺伝子的に改変されたヒト細胞も本明細書において提供される。本明細書に記載されるように、本治療方法の1つにおける治療を必要とするヒトを治療するための医薬の製造のための、遺伝子的に改変されたヒト細胞の使用も提供される。本明細書に記載される遺伝子的に改変されたヒト細胞を含む、キットなどの製造品も提供される。
【0020】
本発明の他の特徴、目的および利点は、以下に続く詳細な説明において明らかである。しかしながら、詳細な説明は、本発明の態様および局面を示しながら、限定ではなく例示のみにより与えられることが理解されるべきである。本発明の範囲内の種々の変更および改変は、詳細な説明から当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図面の簡単な説明
【
図1】
図1は、分析に含まれる細胞型の情況における4つの異なる推定STEL遺伝子の発現の遍在性を示すUMAPプロットのパネルである。細胞型:ドーパミン作動性ニューロン、ミクログリア、多能性幹細胞および心室心筋細胞。パネルa:分析に含まれる4つの細胞型の同一性およびクラスタリングを示すUMAPプロット。パネルb:GAPDH、RPL7、RPLP0およびRPL13Aの発現プロフィールを示すUMAPプロット。
【
図2】
図2は、増強緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein)(EGFP)トランスジーンのヒトGAPDH、RPL13A、RPLP0またはRPL7遺伝子座への組み込みを図示する図である。標的化された内因性遺伝子のコーディング配列は、自己切断PQRペプチドについてのコーディング配列を介してEGFPコーディング配列に連結された。
【
図3】
図3は、GAPDHまたはRPL13A遺伝子座に対して標的化されたEGFPトランスジーンについてホモ接合またはヘテロ接合のPSCにおけるEGFP発現レベルを示すサイトメトリープロットである。陰性対照として編集されないPSC(トランスジーンを含まないPSC)を使用した。
【
図4】
図4は、RPLP0遺伝子座に対して標的化されたEGFPトランスジーンについてヘテロ接合のPSCにおけるEGFP発現レベルを示すサイトメトリープロットである。陰性対照として編集されないPSC(トランスジーンを含まないPSC)を使用した。
【
図5】
図5は、EGFP発現が、8週までについて週基準でGAPDH標的化EGFP編集ヘテロ接合およびホモ接合PSCにおいて検出されたが、編集されないPSC(トランスジーンを含まないPSC)においては検出されなかったことを示すqPCRヒストグラムである。
【
図6】
図6は、EGFP発現が、8週までについて週基準でRPL13A標的化EGFP編集ヘテロ接合およびホモ接合PSCにおいて検出されたが、編集されないPSC(トランスジーンを含まないPSC)においては検出されなかったことを示すqPCRヒストグラムである。
【
図7】
図7は、GAPDHまたはRPL13A遺伝子座に対して標的化されたEGFPトランスジーンについてホモ接合またはヘテロ接合のPSC由来細胞におけるEGFP発現レベルを示すサイトメトリープロットである。遺伝子編集後、ドーパミン作動性ニューロンへの分化の16日後に細胞をアッセイした。
【
図8】
図8は、GAPDHまたはRPL13A遺伝子座に対して標的化されたEGFPトランスジーンについてヘテロ接合のPSCまたはPSC由来細胞におけるEGFP発現レベルを示す一組のサイトメトリープロットである。遺伝子編集後、心筋細胞への分化の12日後に細胞をアッセイした。陰性対照として編集されないPSC(トランスジーンを含まないPSC)を使用した。
【
図9】
図9は、ヒトGAPDHまたはRPL13A遺伝子座へのHLA-G6トランスジーンの組み込みを図示する図である。標的化された内因性遺伝子のコーディング配列は、自己切断PQRペプチドについてのコーディング配列を介してHLA-G6コーディング配列に連結された。
【
図10】
図10は、HLA-G6が、GAPDH標的化HLA-G6編集PSCおよびJEG-3細胞(陽性対照)の細胞培養上清においてHLA-G5/G6特異的抗体により検出されたことを示すウエスタンブロット写真である。陰性対照として編集されない(「野生型」)PSCを使用した。
【
図11】
図11は、HLA-G6が、GAPDH標的化HLA-G6編集PSCおよびJEG-3細胞(陽性対照)の細胞培養上清において検出されたことを示す蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイヒストグラムである。陰性対照として編集されない(「野生型」)PSCを使用した。
【
図12】
図12は、HLA-G6が、RPL13A標的化HLA-G6編集PSCの細胞培養上清中で検出されたが、編集されない(「野生型」)PSCでは検出されなかったことを示すFRETアッセイヒストグラムである。
【
図13】
図13は、GAPDHまたはRPL13A遺伝子座に対して標的化されたHLA-G6トランスジーンについて編集されたPSCおよびB2Mノックアウト(KO)におけるHLA-G発現を示すサイトメトリープロットのパネルである。HLA-G発現は、編集されたPSCにおいて分析の1週および8週後に検出され得るが、編集されないPSC(トランスジーンを含まないPSC)においては検出され得ない。
【
図14】
図14は、抗τscFvトランスジーンのヒトGAPDH遺伝子座への組み込みを図示する図である。標的化された内因性遺伝子のコーディング配列は、自己切断PQRペプチドについてのコーディング配列を介してscFvコーディング配列に連結された。SP:シグナルペプチドコーディング配列。PL:ペプチドリンカーコーディング配列。HA:赤血球凝集素Aタグコーディング配列。
【
図15】
図15は、抗τscFvが、GAPDH標的化scFv編集PSCのストレートのおよび濃縮された細胞培養上清ならびに細胞溶解物において検出されたことを示すウエスタンブロット写真である。陰性対照として編集されない(「野生型」)PSCを使用した。
【
図16】
図16は、ヒトGAPDH遺伝子座へのRapaCasp9トランスジーンの2つの構成要素の組み込みを図示する図である。標的化された内因性遺伝子のコーディング配列は、自己切断PQRペプチドのコーディング配列を介してそれぞれのRapaCasp9コーディング配列に連結される。L1:FRBペプチドリンカーコーディング配列。L2:FKBP12ペプチドリンカーコーディング配列。truncCasp9:CARDドメインが除去された切断されたカスパーゼ9。
【
図17】
図17は、GAPDH遺伝子座に対して標的化されたRapaCasp9トランスジーンについて二対立遺伝子的に(biallelically)編集されたPSCへの5nMまたは10nMのラパマイシンの添加後の切断されたカスパーゼ3の検出を示すサイトメトリードットプロットのパネルである。1、2、4または24時間のラパマイシン処理後に細胞を分析し、陰性対照として働く未処理の編集されたPSCと比較した。
【
図18】
図18は、ヒトGAPDH遺伝子座に対して標的化されたPD-L1系トランスジーンおよびCD47系トランスジーンについて二対立遺伝子的に編集されたPSCにおけるPD-L1およびCD47共染色の検出を示す2つのサイトメトリードットプロットのパネルである。
【
図19】
図19は、CSF1が、3つの異なるGAPDH標的化CSF1編集ヒトPSC株の細胞培養上清において検出されたが、編集されないPSCにおいては検出されなかったことを示すELISAイムノアッセイヒストグラムである。
【
図20】
図20Aは、AAVS1座でのトランスジーン組込み部位を示す図である。トランスジーンはPD-L1およびHSV-TKをコードする。2つのタンパク質についてのコーディング配列は、P2Aコーディング配列によりインフレームで分離される。トランスジーンはEF1αプロモーターの制御下にある。
図20Bは、未分化の編集されたヒトPSCおよびPSCから分化した心筋細胞における
図20Aに示されるトランスジーンからのPD-L1発現レベルを示す2つのサイトメトリープロットのパネルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、本明細書において「持続的トランスジーン発現座」(STEL)と称されるゲノム中の特定の座が、非STEL座よりもサイレンシングに対して抵抗性であるという発見に基づく。サイレンシングに対する抵抗性は、例えばSTELの遺伝子工学で作り変えた細胞が経時的に培養される(例えば任意に1以上の細胞継代を含む培養の日数にわたり)場合または細胞運命が変化する(例えば多能性幹細胞から系統特異的細胞への分化)場合に観察され得る。トランスジーンをかかる座に挿入する場合、トランスジーンの発現は持続されて、トランスジーン依存的細胞療法がかなり有効になり得る。
【0023】
したがって、本開示は、外因的に導入されたトランスジーンがある期間にわたりまたは細胞が分化する場合に安定で持続的なレベルで発現される、遺伝子的に改変された哺乳動物細胞(例えばヒト)を得る方法を提供する。これらの方法は、細胞療法における使用のために遺伝子工学で作り変えられたPSCに適用される場合に特に有利である。本方法により得られた遺伝子的に改変されたPSCは、培養中に経時的におよび/または細胞が1つ以上の細胞に分化される場合にトランスジーン発現を損なわない。
【0024】
いくつかの態様において、改変された細胞におけるトランスジーンの発現レベルは、1以上の継代前のトランスジーンの発現レベルと比較して、1以上の細胞培養継代にわたり50%より多く、40%より多く、35%より多く、30%より多く、25%より多く、20%より多く、15%より多く、10%より多くまたは5%より多くは変化しない。1以上の継代は、例えば2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上または15以上の継代であり得る。
【0025】
いくつかの態様において、改変された細胞におけるトランスジーンの発現レベルは、細胞状態変化の前のトランスジーンの発現レベルと比較して、細胞において細胞状態が変化する場合に、50%より多く、40%より多く、35%より多く、30%より多く、25%より多く、20%より多く、15%より多く、10%より多くまたは5%より多くは変化しない。細胞状態は、例えば細胞の多能性、生物学的活性、表現型または分化の状態であり得る。
【0026】
遺伝子(例えばトランスジーンまたは内因性遺伝子)の発現レベルは、特定の遺伝子に適切な任意の方法により決定され得る。例えば、遺伝子から発現されるRNA(例えばRT-PCRによる)またはタンパク質(例えばFRET、ELISA、サイトメトリー分析およびウエスタンブロットによる)のレベルが測定され得る。
【0027】
今日まで、トランスジーンは最も一般的に、ゲノム中のセーフハーバー(safe harbor)部位、例えばAAVS1座に対して標的化される。セーフハーバー座からの高レベルのトランスジーン発現は典型的に、外部プロモーター配列を含むことを必要とする。しかしながら異なるプロモーターは、特定の細胞集団においてトランスジーン発現を維持するそれらの能力において異なる。増加する証拠は、AAVS1および他のセーフハーバー部位でのトランスジーン発現は、いくつかの細胞系統(例えばドーパミン作動性ニューロン、ミクログリア、マクロファージまたはT細胞)においては支持されず、プロモーターサイレンシングに供され得ることを示唆する。遺伝子的に改変されたヒト多能性幹細胞は、系統が方向づけられた分化の際にトランスジーン発現を損なうということが観察されている(例えばKlatt et al., Hum Gene Ther. (2020) 31(3-4):199-210;Ordovas et al., Stem Cell Rep. (2015) 5:918-31参照)。本開示は、この問題を回避し、細胞療法の開発を大きく促進するトランスジーン発現の方法を提供する。
【0028】
I. 持続的トランスジーン発現座
本開示の持続的トランスジーン発現座(STEL)としては、限定されず、複数の細胞型において活性である特定のハウスキーピング遺伝子、例えば遺伝子発現(例えば転写因子およびヒストン)、細胞性代謝(例えばGAPDHおよびNADHデヒドロゲナーゼ)もしくは細胞構造(例えばアクチン)に関与するもの、またはリボソームタンパク質(例えば大または小リボソームサブユニット、例えばRPL13A、RPLP0およびRPL7)をコードするものが挙げられる。STELのさらなる例を以下の表1に示す。これらのタンパク質としては、リボ核蛋白複合体、接着斑、細胞-基質接着結合、細胞-基質結合、細胞アンカリング、細胞外エクソソーム、細胞外小胞、細胞内小器官またはアンカリング結合を形成するものが挙げられる。タンパク質のいくつかは、RNA結合、核酸結合(例えばrRNAまたはmRNA結合)またはタンパク質結合に関与する。
【0029】
いくつかの態様において、STEL部位は、多能性状態においてならびに分化(例えば1細胞RNA配列決定(scRNAseq)分析により試験される場合)の際に確固としてかつ一貫して発現される内因性遺伝子の座である。例えば、内因性遺伝子の発現レベルは、5以上、10以上もしくは15以上の継代にわたり、または細胞状態が変化する(例えば多能性および/または分化の状態)場合、50%より多く、40%より多く、35%より多く、30%より多く、25%より多く、20%より多く、15%より多く、10%より多くまたは5%より多くは変化(例えば減少)しない。
【0030】
いくつかの態様において、STELは、リボソームタンパク質遺伝子座、例えばRPLまたはRPS遺伝子座である。RPL遺伝子の例は、RPL10、RPL13、RPS18、RPL3、RPLP1、RPL13A、RPL15、RPL41、RPL11、RPL32、RPL18A、RPL19、RPL28、RPL29、RPL9、RPL8、RPL6、RPL18、RPL7、RPL7A、RPL21、RPL37A、RPL12、RPL5、RPL34、RPL35A、RPL30、RPL24、RPL39、RPL37、RPL14、RPL27A、RPLP2、RPLP0、RPL23A、RPL26、RPL36、RPL35、RPL23、RPL4およびRPL22である。RPS遺伝子の例は、RPS2、RPS19、RPS14、RPS3A、RPS12、RPS3、RPS6、RPS23、RPS27A、RPS8、RPS4X、RPS7、RPS24、RPS27、RPS15A、RPS9、RPS28、RPS13、RPSA、RPS5、RPS16、RPS25、RPS15、RPS20およびRPS11である。
【0031】
いくつかの態様において、STELは、ミトコンドリアタンパク質をコードする遺伝子座である。かかる遺伝子座の例はMT-CO1、MT-CO2、MT-ND4、MT-ND1およびMT-ND2である。
【0032】
いくつかの態様において、STELは、ACTG1およびACTBなどのアクチンタンパク質をコードする遺伝子座である。
【0033】
いくつかの態様において、STELは、EEF1A1およびEEF2などの真核生物翻訳伸長因子またはEIF1などの真核生物翻訳開始因子をコードする遺伝子座である。
【0034】
いくつかの態様において、STELは、H3F3AおよびH3F3Bなどのヒストンをコードする遺伝子座である。
【0035】
他の態様において、STELは、FTL、FTH1、TPT1、TMSB10、GAPDH、PTMA、GNB2L1、NACA、YBX1、NPM1、FAU、UBA52、HSP90AB1、MYL6、SERF2およびSRP14から選択される遺伝子座である。
【0036】
トランスジーン構築物を宿主細胞に導入するために、化学的方法(例えばリン酸カルシウムトランスフェクションまたはリポフェクション)、非化学的方法(例えばエレクトロポレーションまたはヌクレオフェクション)、粒子系の方法(例えばマグネトフェクション(magetofection))またはウイルス送達(例えばレンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レトロウイルスベクターおよびハイブリッドウイルスベクターなどのウイルスベクターを使用することによる)を使用し得る。トランスジーンは、例えばZFN、TALEN、CRISPR-cas9、CRISPR/cpf1または別のヌクレアーゼにより引き起こされる一本鎖または二本鎖DNA切断を介して部位特異的な様式でSTEL部位に組み込まれ得る。例えば、種々の型の相同組み換え遺伝子編集系を使用し得、ここで編集された対立遺伝子は、宿主ゲノムと二本鎖DNAドナー分子の間の相同組み換えにより作製される。相同組み換えは、宿主ゲノム中の標的化された相同な座での二本鎖DNA切断の導入により容易にされ得、外因性DNAドナー配列と内因性宿主ゲノム配列の交換を生じる。例えばHoshijima et al., Methods Cell Biol. (2016) 135:121-47参照。しかしながら、二本鎖DNA切断は相同組み換えには必要ない。
【0037】
DNA結合ドメイン(例えばジンクフィンガーDNA結合タンパク質またはTALE DNA結合ドメイン)などのゲノム標的化因子、ガイドRNA因子(例えばCRISPRガイドRNA)、およびガイドDNA因子(例えばNgAgoガイドDNA)を使用するものなどの他の周知の遺伝子編集系も使用され得る。プログラム可能な遺伝子標的化およびヌクレアーゼ因子は、特定のゲノム座での二本鎖切断などのDNA切断を導入することにより正確なゲノム編集を可能にする。いくつかの態様において、ゲノム編集系は、メガヌクレアーゼ(meganuclease)に基づく系、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)に基づく系、転写活性化因子様エフェクター系ヌクレアーゼ(TALEN)に基づく系、CRISPRに基づく系またはNgAgoに基づく系である。いくつかの態様において、外因的に導入されたDNAは、細胞性修復機構を利用して、相同組み換えを介してゲノムにトランスジーンを導入するために使用され得る。
【0038】
特定の態様において、ゲノム編集系はCRISPRに基づく系である。CRISPRに基づく系は、1つ以上のガイドRNA因子および1つ以上のRNAガイドヌクレアーゼを含む。
【0039】
さらなる態様において、CRISPRに基づく系はCRISPR-Cas系である。「CRISPR-Cas系」は:(a)少なくとも1つのガイドRNA因子またはガイドRNA因子をコードするヌクレオチド配列(1つまたは複数)を含む核酸、1つ以上の標的ゲノム領域でヌクレオチド配列に実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む標的化因子(targeter)RNAを含むガイドRNA因子、およびガイドRNAとハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を含むアクチベーターRNA;ならびに(b)Casタンパク質を含むCasタンパク質因子またはCasタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む。ガイドRNAおよびアクチベーターRNAは、別々であり得るかまたは一緒になって単一のRNAに融合され得る。
【0040】
いくつかの態様において、CRISPRに基づく系は、クラス1 CRISPRおよび/またはクラス2 CRISPR系を含む。クラス1系は、機能性エンドヌクレアーゼを構築するために標的化因子RNAとして、CRISPR RNA (crRNA)と一緒にいくつかのCasタンパク質を使用する。クラス2 CRISPR系は、標的化因子RNAとして単一のCasタンパク質およびcrRNAを使用する。II型Cas9に基づく系などのクラス2 CRISPR系は、クラス1系に使用されるマルチサブユニット複合体よりもむしろ切断を媒介するための単一のCasタンパク質を含む。CRISPRに基づく系はまた、標的化因子RNAとしてCpf1タンパク質およびcrRNAを使用するクラス2、V型CRISPR系を含む。
【0041】
Casタンパク質は、CRISPR関連(Cas)二本鎖DNAヌクレアーゼである。いくつかの態様において、CRISPR-Cas系はCas9タンパク質を含む。いくつかの態様において、Cas9タンパク質は、SaCas9、SpCas9、SpCas9n、Cas9-HF、Cas9-H840A、FokI-dCas9またはD10Aニッカーゼである。Cas9タンパク質などの用語「Casタンパク質」は、野生型Casタンパク質またはその機能性誘導体(例えばヌクレアーゼ活性を有する野生型Casタンパク質の切断バージョンまたはバリアント)を含む。
【0042】
いくつかの態様において、CRISPRに基づく系はCRISPR-Cpf系である。「CRISPR-Cpf系」は:(a)少なくとも1つのガイドRNA因子またはガイドRNA因子をコードするヌクレオチド配列(1つまたは複数)を含む核酸、標的核酸の座でヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を有する標的化因子RNAを含むガイドRNA;および(b)Cpfタンパク質(例えばcpf1)因子またはCpfタンパク質因子をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む。
【0043】
II. トランスジーン
トランスジーンは、例えば治療的タンパク質または改変された細胞に所望の特徴を付与する遺伝子産物であり得るペイロード(payload)をコードする。いくつかの態様において、トランスジーンは、蛍光タンパク質(例えば緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、シアン蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、DsRED、mCherry、mKate2およびtdTomato)および酵素(例えばルシフェラーゼおよびlacZ)などのレポータータンパク質をコードする。レポーター遺伝子は、治療的細胞が患者に埋め込まれる際に、治療的細胞の追跡を補助し得る。
【0044】
いくつかの態様において、トランスジーンは、患者において欠損するタンパク質などの治療的タンパク質をコードする。かかる治療的タンパク質の例としては、限定されないが、α-L-イズロニダーゼ、アリールスルファターゼA、β-グルコセレブロシダーゼ、酸スフィンゴミエリナーゼならびにαおよびβ-ガラクトシダーゼなどのリソソーム貯蔵障害において欠損されるもの;ならびに第VIII因子および第IX因子などの血友病において欠損されるものが挙げられる。治療的タンパク質の他の例としては、限定されないが、病原体タンパク質(例えばτ、αシヌクレインおよびβアミロイドタンパク質)を標的化するものおよび癌細胞(例えばCD19、CD20および腫瘍抗原を標的化するキメラ抗原受容体(CAR))を標的化するものなどの抗体または抗体断片(例えばscFv)が挙げられる。
【0045】
いくつかの態様において、トランスジーンは、免疫制御または免疫調節タンパク質に関与するタンパク質をコードする。かかるタンパク質の例は、HLA-G、HLA-E、CD47、PD-L1、CTLA-4、M-CSF、IL-4、IL-6、IL-10、IL-11、IL-13、TGF-β1およびそれらの種々のアイソフォームである。例示により、トランスジーンは、HLA-G(例えばHLA-G1、-G2、-G3、-G4、-G5、-G6または-G7)またはHLA-Eのアイソフォームをコードし得;かかる非古典的MHCクラスI分子を発現する同種異系細胞は、免疫原性がより低くあり得、細胞の供給源ではないヒト患者に移植される場合により良好に許容され得、「普遍的な」細胞療法を可能にする。以下の詳細な説明も参照。
【0046】
いくつかの態様において、トランスジーンは、安全性スイッチシグナルをコードする。細胞療法において、安全性スイッチは、患者における遺伝子的に改変された細胞の存在が望ましくない場合、例えば細胞が適切に機能しない場合または治療目標が達成されている場合に、遺伝子的に改変された細胞の増殖を停止するために使用され得る。例えば安全性スイッチは、いわゆる自殺遺伝子であり得、これは患者への医薬化合物の投与の際に、細胞をアポトーシスに進入させるように活性化または不活性化される。自殺遺伝子は、ヒト細胞において無害な物質を毒性の代謝産物に変換する、ヒトにおいて見られない酵素(例えば細菌酵素またはウイルス酵素)をコードし得る。自殺遺伝子の例としては、限定されないが、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、細胞内抗体、テロメラーゼ、毒素、カスパーゼ(例えばiCaspase9)およびHSV-TK、およびDNaseについての遺伝子が挙げられる。例えばZarogoulidis et al., J Genet Syndr Gene Ther. (2013) doi:10.4172/2157-7412.1000139参照。いくつかの態様において、自殺遺伝子は、単純ヘルペスウイルス(HSV)由来のチミジンキナーゼ(TK)遺伝子であり得、自殺TK遺伝子は、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ファムシクロビル等の患者への投与の際に細胞に対して毒性になる。
【0047】
いくつかの態様において、安全性スイッチは、そのCADRドメインが除去された切断されたカスパーゼ9遺伝子が、mTORのFRB(FKBP12-ラパマイシン結合)ドメインまたはFKBP12 (FK506結合タンパク質12)のいずれかの後に連結される、ラパマイシン誘導性ヒトカスパーゼ9系(RapaCasp9)細胞性自殺スイッチであり得る。薬物ラパマイシンの添加は、FRBとFKBP12のヘテロ二量体化を可能にし、その後、切断されたカスパーゼ9のホモ二量体化およびアポトーシスの誘導を引き起こす。
【0048】
いくつかの態様において、トランスジーンは、ポリペプチドではないペイロードをコードする。例えば、トランスジーンは、遺伝子発現パターンに基づいて細胞を選択的に排除し得るmiRNAをコードし得る。トランスジーンはまた、所望の方法で細胞の挙動を制御し得るlncRNAまたは他のRNAスイッチをコードし得る。
【0049】
III. STEL部位でのトランスジーンの発現
トランスジーンは、内因性プロモーターの転写制御下、STEL部位で内因性遺伝子と一緒に、1つのmRNAに転写され得、次いでそれぞれの遺伝子についてのRNA配列は、mRNA中の内部リボソーム進入部位(IRES)の使用により別々に翻訳される。さらに別のアプローチにおいて、トランスジーンは、例えば内因性遺伝子の3'末端で、内因性遺伝子にインフレームで挿入され得るが、自己切断ペプチドについてのコーディング配列により内因性遺伝子配列から分離され得、翻訳中にリボソームスキッピングをもたらす。この配置は、2つの別々のポリペプチド-トランスジーンによりコードされるペイロードおよび内因性遺伝子によりコードされるポリペプチドの産生を生じる。自己切断ペプチドの例は、18~22アミノ酸の典型的な長さを有するウイルス由来のペプチドである2Aペプチドである。2Aペプチドとしては、T2A、P2A、E2A、F2AおよびPQRが挙げられる(Lo et al., Cell Reports (2015) 13:2634-2644)。例示により、P2Aは19アミノ酸のペプチドであり;切断後、P2A由来のいくつかのアミノ酸残基は上流遺伝子上に残り、プロリンは、第2の遺伝子の最初に残る。PQRペプチドの使用についての以下の実施例も参照。他の態様において、STEL遺伝子およびトランスジーンは、単一のmRNAに転写され、融合タンパク質として発現される。
【0050】
いくつかの態様において、トランスジーン構築物は、転写終結配列(例えばポリアデニル化(ポリA)部位、例えばSV40ポリA部位)および遺伝子発現またはRNA安定性を高める配列(例えばWPRE因子)などのさらなる制御配列を標的化される座に導入し得る。トランスジーンの持続的な発現をさらに確実にするために、適切な転写制御因子も、トランスジーン構築物を介して標的化されるSTEL部位に導入され得る。かかる因子としては、限定されないが、プロモーターの上流に位置する遍在性クロマチン開放因子(ubiquitous chromatin opening element)(UCOE)および機能的境界を生じるクロマチンインシュレーターが挙げられる。クロマチンインシュレーター(例えばニワトリβグロビン遺伝子培養物(cHS4)およびArsI)は、トランスジーンへの拡散からのヘテロクロマチンのサイレンシングを防ぐエンハンサーブロッキングまたはバリアインシュレーターであり得る。
【0051】
IV. 遺伝子的に改変された細胞
本開示は、ゲノム内の1つ以上のSTEL部位に1つ以上のトランスジーンを含む哺乳動物(例えばヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類またはマウス)細胞を提供する。ヒト細胞などの細胞は、本明細書に記載されるものなどの遺伝子編集方法によりインビトロ、インビボまたはエクソビボで、遺伝子工学で作り変えられ得る。種々のヒト細胞型は、目的のトランスジーンを発現するように遺伝子工学で作り変えられ得る。いくつかの態様において、遺伝子工学で作り変えられる細胞は、その後所望の細胞型に分化するように誘導され得、本明細書においてPSC誘導体、PSC誘導細胞またはPSC由来細胞と称され得る、ヒト胚性幹細胞(hESC)またはヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)などの多能性幹細胞である。さらなる他の態様において、遺伝子工学で作り変えられる細胞は、分化した細胞(例えば部分的にまたは最終的に分化した細胞)である。部分的に分化した細胞は、例えば組織特異的前駆細胞または幹細胞、例えば造血前駆細胞または幹細胞、骨格筋前駆細胞または幹細胞、心臓前駆細胞または幹細胞、神経前駆細胞または幹細胞および間葉幹細胞であり得る。
【0052】
本明細書で使用する場合、用語「多能性(pluripotent)」または「多能性(pluripotency)」は、細胞が自己更新して、3つの胚の層:内胚葉、中胚葉または外胚葉のいずれかの細胞に分化する能力をいう。「多能性幹細胞」または「PSC」としては、例えば胚盤胞の内部細胞塊由来または体細胞核転移由来のESCおよび非多能性細胞由来のiPSCが挙げられる。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「胚性幹」、「ES」細胞および「ESC」は、早期の胚から得られる多能性幹細胞をいう。いくつかの態様において、該用語は、ヒトの胚の破壊に関与する幹細胞を除き;すなわちESCは、以前に確立されたESC株から得られる。
【0054】
用語「誘導多能性幹細胞」または「iPSC」は、細胞に1つ以上の再プログラム化因子を導入することまたは細胞を1つ以上の再プログラム化因子と接触させることにより、非多能性細胞、例えば成体体細胞、部分的に分化した細胞または最終的に分化した細胞、例えば線維芽細胞、造血系の細胞、筋細胞、ニューロン、表皮細胞等から誘導的に調製される多能性幹細胞の種類をいう。iPSCを作製する方法は当該技術分野で公知であり、例えば1つ以上の遺伝子(例えば限定されないがSOX2 (Gene ID: 6657)、KLF4 (Gene ID: 9314)、c-MYC (Gene ID: 4609、NANOG (Gene ID: 79923)および/またはLIN28/LIN28A (Gene ID: 79727)と組み合わせたPOU5F1/OCT4 (Gene ID: 5460))の発現を誘導することを含む。再プログラム化因子は、種々の手段(例えばウイルス、非ウイルス、RNA、DNAまたはタンパク質送達)により送達され得;代替的に内因性遺伝子は、例えば非多能性細胞をPSCに再プログラム化するためのCRISPRツールを使用することにより活性化され得る。
【0055】
PSCの種々の系統の細胞への分化を誘導するための方法は当該技術分野で周知である。例えば、PSCの樹状細胞への分化を誘導するための方法は、Slukvin et al., J Imm. (2006) 176:2924-32;およびSu et al., Clin Cancer Res. (2008) 14(19):6207-17;およびTseng et al., Regen Med. (2009) 4(4):513-26に記載される。PSCを造血前駆細胞、骨髄系の細胞およびTリンパ球に誘導するための方法は、例えばKennedy et al., Cell Rep. (2012) 2:1722-35に記載される。
【0056】
目的のトランスジーンのSTEL部位への組み込みに加えて、本明細書における遺伝子的に改変されたヒト細胞(例えばiPSCまたはESC)は、それらのMHCクラスI遺伝子(例えばB2M遺伝子)の1つ以上をノックアウトすることにより、同種異系細胞療法においてそれらをより低い免疫原性にすることを含む、それらの治療能力を向上するようにさらに遺伝子工学で作り変えられ得る。ヒト細胞は任意に、STEL部位において安全性スイッチシグナル(例えば自殺遺伝子)を含み得る。
【0057】
ESCおよびiPSCなどのPSCを単離および維持する方法は当該技術分野で周知である。例えばThomson et al., Science (1998) 282(5391):1145-7;Hovatta et al., Human Reprod. (2003) 18(7):1404-09;Ludwig et al., Nature Methods (2006) 3:637-46;Kennedy et al., Blood (2007) 109:2679-87; Chen et al., Nature Methods (2011) 8:424-9;およびWang et al., Stem Cell Res. (2013) 11(3):1103-16参照。
【0058】
いくつかの態様において、PSCまたはPSC由来の成熟または中間の細胞型のいずれかは、例えばペイロード送達および安全性制御などの追加の機能についてさらに遺伝子工学で作り変えられ得る(STEL部位の遺伝子工学的作り変えの前、それと同時またはその後)。
【0059】
いくつかの態様において、PSCは、細胞療法のための目的の細胞型に分化され得る。いくつかの態様において、遺伝子工学で作り変えられる細胞は、既に分化した目的の細胞型である。分化した細胞型の非限定的な例を以下に記載する。
【0060】
A. 免疫細胞
遺伝子的に改変されたヒト細胞は、PSC由来免疫細胞、例えばリンパ系細胞およびリンパ系前駆細胞(例えばT細胞およびT細胞前駆細胞(任意の特定のT細胞サブタイプに関係なく、例えば制御T細胞およびTエフェクター細胞を含む)、B細胞およびNK細胞)、骨髄および骨髄前駆細胞(例えば顆粒球、単球/マクロファージおよびミクログリア細胞)、ならびに樹状細胞および樹状前駆細胞(例えば骨髄性樹状細胞および形質細胞様樹状細胞)などの免疫細胞であり得る。いくつかの態様において、遺伝子的に改変された細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞またはCAR T細胞である。遺伝子的に改変された免疫細胞はまた、本明細書に記載されるものなどの免疫制御性トランスジーンを発現し得る。
【0061】
遺伝子工学で作り変えられた免疫細胞、例えば免疫抑制性免疫細胞(例えば制御性T細胞および免疫抑制性マクロファージ)は、限定されないが、関節リウマチ、多発性硬化症、慢性リンパ球性甲状腺炎、インスリン依存性真正糖尿病、重症筋無力症、慢性潰瘍性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、炎症性腸疾患、グッドパスチャー症候群、全身性エリトマトーデス、全身性脈管炎、強皮症、自己免疫溶血性貧血および自己免疫甲状腺疾患などの自己免疫疾患を有する患者に移植され得る。免疫細胞系療法は、線維症などの移植に関連する症状の治療を含む移植における移植片拒絶の治療にも使用され得る。
【0062】
B. 神経細胞
遺伝子的に改変されたヒト細胞は、限定されることなくニューロンおよびニューロン前駆細胞(任意の特定のニューロンサブタイプに関係なく、例えばドーパミン作動性ニューロン、皮質性ニューロン、脊髄または動眼ニューロン、腸ニューロン、介在ニューロンおよび三叉神経または感覚ニューロンを含む) ミクログリアおよびミクログリア前駆細胞、グリア細胞およびグリア前駆細胞(任意の特定のグリアサブタイプに関係なく、例えば希突起膠細胞、星状細胞、星状細胞および希突起膠細胞になり得る特定の目的の希突起膠細胞前駆細胞および両能性グリア前駆体を含む) プラコード由来細胞、シュワン細胞を含む、PSC由来神経細胞などの神経細胞であり得る。
【0063】
遺伝子工学で作り変えられた神経細胞は、限定されることなく神経変性性疾患を有する患者などに移植され得る。神経変性性疾患の例は、とりわけパーキンソン病、アルツハイマー病、認知症、てんかん、レヴィー小体症候群、ハンチントン病、脊髄性筋委縮症、フリートライヒ運動失調、筋萎縮性側索硬化症、バッテン病、多系統萎縮症である。
【0064】
これらの疾患の多くについて、PSCは、二重SMAD阻害により始原神経細胞の運命を採用するように最初に方向づけられ得る(Chambers et al., Nat Biotechnol. (2009) 27(3):275-80)。始原神経細胞は前方の特性を採用するので、さらなるシグナルの非存在は、前方/前脳皮質細胞を提供する。尾方化(caudalizing)シグナルが遮断されて、そうでなければより後方の特性を有する培養物を生じ得るパラクリンシグナルが防がれ得る(例えばXAV939はWNTを遮断し得、SU5402はFGFシグナルを遮断し得る)。背側皮質ニューロンはSHH活性化を遮断することにより作製され得、一方で腹側皮質ニューロンはSHH活性化により作製され得る。セロトニン作動性ニューロンまたは脊髄運動ニューロンなどのより尾方の細胞型は、FGFおよび/またはWNTシグナルの付加を介して培養物を尾方化することにより作製され得る。いくつかの細胞型について、レチノイン酸(別の尾方化因子)が追加されて、培養物を後方化し得る。グリア細胞型の産生は、一般的に、FGF2および/またはEGF含有培地中の拡大培養の前に、始原神経細胞の同じパターン形成に従い得る。PNS細胞型は、同じ一般的な原理に従い得るが、分化プロセスの早期のタイミングのよいWNTシグナルを伴う。
【0065】
遺伝子的に改変された神経細胞は、問題の損傷した組織に配置されるカニューレを介して患者に導入され得る。細胞調製物は、支持媒体中に配置され得、調製物を正確に送達し得るシリンジまたはピペット様デバイスに充填され得る。次いで、通常は送達を正確に標的化するための定位的な方法を使用して、カニューレを患者の神経系に配置し得る。次いで細胞は、適合性の速度で組織に放出され得る。
【0066】
C. 心臓血管細胞
遺伝子的に改変されたヒト細胞は、PSC由来心臓血管細胞、例えば心筋細胞、心臓線維芽細胞、心臓平滑筋細胞、心外膜細胞、心臓内皮細胞、プルキンエ線維およびペースメーカー細胞などの心臓血管系の細胞であり得る。
【0067】
いくつかの態様において、本開示の方法により調製、富化または単離された心筋細胞は、iPSCなどのPSCに由来する。例えばKattman et al., Cell Stem Cell (2011) 8(2):228-40に示され、WO2016131137、WO2018098597および米国特許第9,453,201号に示されるように、PSCを心筋細胞に分化させるための多くの方法がある。本明細書の方法と共に当該技術分野における任意の適切な方法を使用して、STELでトランスジーンを発現するように改変されたPSC由来心筋細胞を入手し得る。
【0068】
いくつかの態様において、PSCは1つ以上の心臓分化培地中でインキュベートされる。例えば、該培地は、変化濃度の骨形態形成タンパク質(BMP;例えばBMP4)およびアクチビン(例えばアクチビンA)を含み得る。分化因子濃度の滴定を実施して、所望の心筋細胞分化を達成するために必要な最適濃度を決定し得る。
【0069】
いくつかの態様において、分化した心筋細胞は、心臓トロポニンT (cTnT)および/またはミオシン軽鎖2v (MLC2v)の1つ以上を発現する。いくつかの態様において、未成熟心筋細胞は、トロポニンT、心臓トロポニンI、αアクチニンおよび/またはβミオシン重鎖の1つ以上を発現する。
【0070】
D. 代謝系の細胞
遺伝子的に改変されたヒト細胞は、ヒト代謝系に関与し得る。例えば、該細胞は、胃腸系の細胞(例えば肝細胞、胆管細胞および膵臓β細胞)、造血系の細胞および中枢神経系の細胞(例えば下垂体ホルモン放出細胞)であり得る。例示により、下垂体ホルモン放出細胞を作製するために、PSCは、BMP4およびSB431542(アクチビンシグナル伝達を遮断する)とともに培養され、その後SHH/FGF8およびFGF10が追加され;次いで細胞は、延長された期間SHH/FGF8およびFGF10のみ、その後FGF8またはBMP(または両方)に供され、細胞は、特定のホルモン放出細胞になるように誘導される。例えばZimmer et al., Stem Cell Reports (2016) 6:858-72参照。
【0071】
E. 眼系の細胞
遺伝子的に改変されたヒト細胞は、眼系の細胞であり得る。例えば、該細胞は、網膜前駆細胞、網膜色素上皮(RPE)前駆細胞、RPE細胞、神経網膜前駆細胞、光受容体前駆細胞、光受容体細胞、両極細胞、水平細胞、神経節細胞、アマクリン細胞、ミュラーグリア細胞、錐体細胞または杆体細胞であり得る。iPSCをRPE細胞に分化させる方法は、例えばWO 2017/044483に記載される。RPE細胞を単離するための方法は、例えばWO 2017/044488に記載される。iPSCを神経網膜前駆細胞に分化させるための方法はWO 2019/204817に記載される。網膜前駆細胞およびRPE細胞を同定および単離するための方法は、例えばWO 2011/028524に記載される。
【0072】
V. 医薬組成物および使用
本明細書に記載される遺伝的に作り変えられた細胞は、該細胞および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物中で提供され得る。薬学的に許容され得る担体は、任意に動物由来成分を何ら含まない細胞培養培地であり得る。貯蔵および輸送のために、細胞は、< -70℃(例えばドライアイス上または液体窒素中)で低温保存され得る。使用前に、細胞は融解され得、目的の細胞型を支持する滅菌細胞培地中で希釈され得る。
【0073】
細胞は、全身(例えば静脈内注射または注入により)または局所(例えば局所組織、例えば心臓、脳および損傷を受けた組織の部位への直接注射により)で患者に投与され得る。細胞を患者の組織または臓器に投与するための、限定されないが冠動脈内投与、心筋内投与、経心臓内投与または頭蓋内投与などの種々の方法が当該技術分野において公知である。
【0074】
治療有効数の遺伝子工学で作り変えられた細胞が患者に投与される。本明細書で使用する場合、用語「治療有効」は、疾患、障害および/または状態に苦しむかまたはそれに罹患しやすいヒト被験体に投与される場合、疾患、障害および/または状態の症状(1つまたは複数)の開始または進行を治療、予防および/または遅延するのに十分である細胞の数または医薬組成物の量をいう。治療有効量は典型的に、少なくとも1単位の用量を含む投与養生法により投与されることが当業者に理解される。
【0075】
本明細書においてそうではないと定義されない限り、本開示に関して使用される科学的および技術的用語は、当業者に一般的に理解される意味を有する。例示的な方法および材料を以下に記載するが、本明細書に記載されるものと同様または同等の方法および材料も、本開示の実施または試験において使用され得る。矛盾する場合、定義を含む本明細書が支配的である。一般的に、本明細書に記載される細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、分析化学、合成有機化学、医学および薬化学、ならびにタンパク質および核酸化学およびハイブリダイゼーションに関して使用される命名法ならびにそれらの技術は、当該技術分野において周知でありかつ一般的に使用されるものである。酵素反応および精製技術は、当該技術分野において一般的に達成されるかまたは本明細書に記載されるように、製造業者の仕様に従って実施される。さらに、文脈によりそうではないことが必要とされない限り、単数形の用語は複数を含み、複数形の用語は単数を含む。本明細書および態様を通じて、単語「有する(have)」および「含む(comprise)」または「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、任意の他の整数または整数の群を排除することではなく、記述された整数または整数の群を含むことを意味することが理解される。本明細書において言及される全ての刊行物および他の参照文献は、それらの全体において参照により援用される。いくつかの文書が本明細書において引用されるが、この引用は、これらの文書のいずれかが当該技術分野における一般常識の一部を形成することの承認を構成しない。
【0076】
本発明がよりよく理解され得るために、以下の実施例を記載する。これらの実施例は例示のみのものであり、いかなる様式においても本発明の範囲の限定を企図しない。
【実施例】
【0077】
実施例
以下の実施例において、下記のように遺伝子編集を行った。
【0078】
ガイドRNAおよび検証
以下の実験においてトランスジーンを意図されるSTEL部位に挿入するために、CRISPR-Cas9遺伝子編集を行った。3つのガイドRNA(gRNA)を、停止コドンに隣接するGAPDHの3'UTRを標的化するようにコンピューターにより設計した。5つのgRNAを、停止コドンに隣接するRPL13Aの3'UTRを標的化するようにコンピューターにより設計した。これらのgRNAは、少ない標的外部位を有し、標的配列に対して高い予測される活性を有するように設計された。
【0079】
gRNA切断効率を試験するために、Cas9ヌクレアーゼと複合体化されたgRNAを、ヌクレオフェクションによりヒトPSCに、リボ核蛋白(RNP)として別々に送達した。ヌクレオフェクションの72時間後、ヌクレオフェクションされた細胞のそれぞれのプールからgDNAを抽出した。GAPDHまたはRPL13A座の意図される切断部位の周囲の領域を、以下のプライマー:
GAPDH F:5'-TGGACCTGACCTGCCGTCTA-3'(配列番号:1)および
GAPDH R:5'-CCCCAGACCCTAGAATAAGACAGG-3'(配列番号:2)(アンプリコンサイズ=619bp)ならびに
RPL13A F:5'-AACAGTTGCATTATGATATGCCCAG-3'(配列番号:3)、
RPL13A R:5'-TGCTTTCAAGCAACTTCGGGA-3'(配列番号:4)(アンプリコンサイズ=696bp)
を使用してPCR増幅した。
PCR産物を精製して、以下のプライマー:
GAPDH:5'-AAAACCTGCCAAATATGATGACA-3'(配列番号:5)および
RPL13A:5'-AAGTACCAGGCAGTGACAGC-3'(配列番号:6)
を使用してサンガー配列決定を行った。
【0080】
それぞれのgRNAの全体的な切断効率は、編集されない細胞由来のサンガー配列決定クロマトグラムとそれぞれのgRNA状態由来のサンガー配列決定クロマトグラムを比較することにより、Inference of CRISPR Edits (ICE)分析により決定した。ICE分析により、5'-CUUCCUCUUGUGCUCUUGCU-3'(配列番号:7)のRNA配列を有するGAPDH gRNAおよび5'-GGAAGGGCAGGCAACGCAUG-3'(配列番号:8)のRNA配列を有するRPL13A gRNAが、それぞれの座について試験した全てのgRNAの最も高い相対切断効率を有したことが決定された。
【0081】
ノックイン作製
それぞれの選択されたSTEL部位について化学的に改変したgRNAを、製造業者により提供されたヌクレアーゼ非含有TEバッファに再懸濁し、化膿性連鎖球菌(S. pyogenes)Cas9ヌクレアーゼ2NLS(Synthego)およびGAPDH-またはRPL13A標的化ドナープラスミドとの複合体においてRNPとしてヒトiPSCにヌクレオフェクションした。トランスフェクションのためにLonza 4D NucleofectorTM X-Unitを使用した(P3 Nucleofector溶液およびNucleofectorプログラムCA-137)。次いで、個々のコロニーを、滅菌条件下、ピック-ツー-キープ(pick-to-keep)法により、組換え切断ビトロネクチンでコーティングされた96ウェルプレートに移し、遺伝子スクリーニングおよび凍結のために拡大させた(必須8完全培地+10% DMSO中)。可能な最低の継代数を提供するために、特徴付けおよびスクリーニングの間に継代数を制限するように注意した。
【0082】
標的化構築物の外部の1ペア当たり1プライマーセットおよび標的化構築物の内部の1ペア当たり1プライマーを使用した5'および3'ジャンクション(junction)PCRにより、関連のあるノックインについてクローンをスクリーニングした。5'および3'ジャンクションPCR産物の両方について陽性のクローンを拡大させて低温保存した。それぞれの5'および3'陽性クローン由来のgDNAを、組み込まれた構築物に十分にかかるPCR産物(相同性アームを含む)を作製するための鋳型として使用した。次いで、これらのPCR産物を使用して、そのゲノムの情況における組込まれた構築物の長さをサンガー配列決定した。
【0083】
細胞培養プラットフォーム
必須8培地(Thermo Fisher Scientific; カタログ#A1517001)および組換えヒトビトロネクチン(VTN-N)(N末端切断ビトロネクチンポリペプチド)を使用してiPSCを維持した。単一細胞継代およびクローニング手順の間に、Y-27632 ROCK阻害剤を使用した。iPSCは毎日栄養補給して(fed)、1週間に1回二重栄養補給(double fed)した。細胞培養を37℃、5% CO2で維持した。培養中、ノックアウトクローンと親の野生型細胞の間で、観察される形態学に有意な変化はなかった。
【0084】
クローン性(Clonality)
所望の遺伝的改変のためのエレクトロポレーションの直後、iPSCを低密度でプレート培養し、単一細胞が、接着して、独立して増殖することを確実にした。それぞれの細胞をコロニーに成長させた。一旦コロニーが最適なサイズに達すると、それぞれの個々のコロニーを拾い、別のウェルに置いた。それぞれのクローンを、遺伝子編集事象について配列分析し、またGバンド分染法核型分析(G-banded karyotyping)を行った。
【0085】
クローンHLA-Gタンパク質特徴付け
BD Biosciencesからのpan-HLA-G抗体(クローン4H84)を使用してフローサイトメトリーを行い、HLA-Gの細胞表面発現を確認した。HLA-G6およびHLA-G5の細胞培養培地への分泌は、Thermo Fisher ScientificからのHLA-G5/G6特異的抗体(クローン5A6G7)を使用して、ウエスタンブロットにより評価した。具体的に、4mLの培地を100μlまで濃縮して減らし、次いでHLA-G6および-G5の存在についてウエスタンにより試験した。
【0086】
実施例1:STEL部位の同定
この試験において、本発明者らは、ヒトPSCおよびそれらの分化誘導体から回収された単一細胞RNA配列決定(scRNA-seq)データを評価して、STEL候補についての部位調査を行った。本発明者らは、複数の細胞型のscRNA-seqデータを使用して推定STEL部位が発見され得ると仮定した。このアプローチは、数千の利用可能な個々のトランスクリプトームのうち数百の直接の調査を可能にした。現在の試験において、単一細胞RNA配列データは、PSCおよび3つのPSC由来細胞型、ミクログリア、ドーパミン作動性ニューロンおよび心室心筋細胞から回収した。データは、28,387の特有の遺伝子のトランスクリプトーム深さ(transcriptomic depth)を有する267,058細胞から回収した。STEL部位の第1の主要な特徴は発現の遍在性である。転写産物数データを最初に二値化して(binarizing)、次いで細胞にわたり合計することにより、発現の遍在性で遺伝子を順位づけた。次いでそれぞれの遺伝子についての合計を細胞の総数で割り、全データ中の該遺伝子の普及(prevalence)を反映する割合を得た。
【0087】
合計で98の遺伝子は、99%を超える割合的表示を有し、その後さらなる分析のために選択した。次いで選択された遺伝子を、二値化されなかった発現データの標準偏差により分類した。1より高い標準偏差を有する遺伝子は除去した。次いで残りの94遺伝子を、平均発現により分類し、それらは主にリボソーム遺伝子であったが、GAPDHおよびACTBなどのいくつかの公知のハウスキーピング遺伝子も含んだ(表1)。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0088】
これらの遺伝子のいくつか(GAPDH、RPLP0、RPL7およびRPL13A)を、
図1に示すUMAPプロットにおいて視覚化する。これら4つの遺伝子座は、下記の実験についてのSTELとして選択した。上に列挙されるものからSTEL部位の選択を終了する際に本発明者らが考慮した他の基準は、癌遺伝子からのゲノム距離(できる限り遠い)、概念の証明(proof-of-concept)のための公開された試験および座における偽遺伝子の数(標的外プライマー結合を最小化するために少ない方がよい)を含んだ。STEL部位を発見するために上記のRNA配列法を使用し得るが、潜在的な部位を失格させることも使用し得る。
【0089】
さらに、遺伝子発現の本発明者らのscRNAseq分析は、遺伝子発現分析のための対照として一般的に使用される全ての内因性遺伝子がSTEL部位ではないことを示す。例えば、ペプチジルプロリルイソメラーゼA(PPIA;またはサイクロフィリンA)遺伝子、チューブリンβポリペプチド(TUBB)およびβ-2-ミクログロブリン(microglublin)(B2M)をコードする遺伝子は一般的に、その発現レベルが、哺乳動物細胞のRT-PCRアッセイについて参照を標準化するように使用される信頼性のあるハウスキーピング遺伝子と考えられる。しかしながら本発明者らのデータに基づいて、これらの遺伝子は、それらの発現レベルが細胞型にわたり、上の表1に示されるSTEL遺伝子よりもかなり大きく変動性であるのでSTEL部位ではない。ALAS1、GUSB、HMBS、HPRT、SDHA、TBPおよびTFRCをコードする遺伝子などのRNA分析についての標準化対照として一般的に使用される他のハウスキーピング遺伝子を用いて、同様の観察がなされた。対照的に、RPL13AおよびRPLP0遺伝子などのリボソームタンパク質遺伝子は、細胞型にわたり強壮な発現を有し、それらをトランスジーン組込みに適切なSTEL部位にする。
【0090】
異常な組込みのリスクを低減するために、STELは、好ましくは癌遺伝子または腫瘍サプレッサー遺伝子と隣り合わない。例えば、TUBB遺伝子は、DNA修復のメディエーターであり公知の腫瘍サプレッサー遺伝子であるMDC1遺伝子の付近にある。TUBB遺伝子は、このさらなる理由のためにSTEL部位として選択されなかった。STEL部位は、もしあればスプライシングバリアント、および遺伝子編集に従順な隣り合う遺伝子からの適切な距離を有し得る。STEL部位は、標的化される遺伝子に相同な配列のために、トランスジーン標的化効率を低減し得る多くの偽遺伝子を有さないことも好ましくあり得る。
【0091】
実施例2:PSCにおけるSTEL部位でのEGFPの発現
上述の試験に基づいて、本発明者らは、ペイロード候補発現の試験のために4つのSTEL部位(GAPDH、RPL13A、RPLP0およびRPL7)を選択した。ペイロード候補の発現カセットは、内因性STELプロモーターの制御下にあった。結果的に、ペイロード候補の発現は、内因性STEL遺伝子の発現に関連付けられた。細胞中でSTELプロモーターが活性なままであった場合、関連付けられたペイロードトランスジーンの発現は、持続的かつ構成的であることが予想された。本発明者らは、GAPDH、RPL13A、RPLP0またはRPL7遺伝子座で増強緑色蛍光タンパク質(EGFP)を発現する構築物を挿入するために、CRISPR-cas9遺伝子編集を使用した(
図2)。EGFPコーディング配列を以下に示す。
【表2】
【0092】
挿入されたEGFPトランスジーンは、PQR配列をコードするDNA配列により内因性のSTEL遺伝子に、インフレームで連結された(Lo et al.、上述)(
図2)。PQR配列は、翻訳の際にリボソームスキッピングを引き起こし、一旦PQR配列が切断されるとEGFPおよび内因性STEL遺伝子のバイシストロニック発現を生じる、改変された2A自己切断ペプチドである。PQRヌクレオチドおよびアミノ酸配列を以下に示す。
【表3】
【0093】
それぞれのPQR/EGFP挿入構築物も、内因性STEL座に相同な配列を有する800bpの左相同性アームおよび800bpの右相同性アームに隣り合った。相同アームは、最後のアミノ酸コドンの直後のSTEL遺伝子の3'UTRでの標的化構築物の組み込みを可能にした。
【0094】
GAPDH座を標的化するための左および右相同性アームの配列を、それぞれ配列番号:12および13として以下に示す。
【表4】
【0095】
RPL13A座を標的化するための左および右相同性アームの配列を、それぞれ配列番号:14および15として以下に示す。
【表5-1】
【表5-2】
【0096】
RPLP0座を標的化するための左および右相同性アームの配列を、それぞれ配列番号:16および17として以下に示す。
【表6】
【0097】
未分化の編集されないPSC、未分化のGAPDH標的化EGFP編集PSCまたは未分化のRPL13A標的化編集PSCのいずれかに対して、フローサイトメトリー分析を行った(
図3)。GAPDH標的化およびRPL13A標的化EGFP編集PSC株の両方について、本発明者らは、1つのホモ接合標的化株(両方の対立遺伝子中に遺伝子編集を有する)および1つのヘテロ接合標的化株(一方の対立遺伝子中に遺伝子編集を有する)を試験した。データは、編集されないPSC株と比較して4つ全ての編集PSC株からの高いEGFP蛍光シグナルを示す。これらの結果は、GAPDHおよびRPL13A遺伝子座でのEGFP構築物の挿入が、編集されたPSCにおいて高レベルのトランスジーン発現を可能にしたことを示す。
【0098】
未分化の編集されないPSCまたはRPLP0標的化EGFP編集PSCの3つの異なる未分化のクローン性PSC株のいずれかに対して、フローサイトメトリー分析を行った(
図4)。3つの全てのRPLP0標的化EGFP PSC株は、一方の対立遺伝子中に遺伝子編集を有するヘテロ接合であった。データは、編集されないPSC株と比較して、3つ全ての編集されたPSC株からの高いEGFP蛍光シグナルを示す。これらの結果は、RPLP0遺伝子座でのEGFP構築物の挿入が、編集されたPSCにおいて高レベルのトランスジーン発現を可能にしたことを示す。
【0099】
8週間培養された細胞株に対して週基準で、編集されないPSCおよびGAPDH標的化EGFP編集PSCから回収されたRNAに対するqPCR分析を実施した(
図5)。細胞株は、平均で各週2~3回常套的に継代した。15~20サイクルの平均Cq範囲は、非常に高い量の標的RNAおよびトランスジーン発現を示す。Cq値は、試料中の標的RNAの量に対して逆になり;Cq値が低いほど、トランスジーン発現の量は高くなる。ヘテロ接合GAPDH標的化EGFP PSC株(一方の対立遺伝子中に遺伝子編集を有する)およびホモ接合GAPDH標的化EGFP PSC株(両方の対立遺伝子中に遺伝子編集を有する)の両方は、EGFPを発現しなかった編集されないPSC株と比較して、高いトランスジーン発現を示した。ホモ接合GAPDH標的化EGFP PSC株は、ヘテロ接合GAPDH標的化EGFP PSC株よりもわずかに低いCq値を示し、これはホモ接合GAPDH標的化EGFP PSC株からのより高いトランスジーン発現を示した。両方の編集されたPSC株は、8週間までの各週に高レベルのEGFP発現を発現し、これは、高レベルのトランスジーン発現が、8週間までの常套的なPSC培養後に維持されたことを示した。
【0100】
8週間培養された細胞株に対して週基準で、編集されないPSCおよびRPL13A標的化EGFP編集PSCから回収されたRNAに対してqPCR分析を行った(
図6)。細胞株は、平均で各週2~3回常套的に継代した。15~25サイクルの平均Cq範囲は、非常に大量の標的RNAおよびトランスジーン発現を示す。Cq値は、試料中の標的RNAの量に対して逆になり;Cq値が低いほど、トランスジーン発現の量は高くなる。ヘテロ接合RPL13A標的化EGFP PSC株(一方の対立遺伝子中に遺伝子編集を有する)およびホモ接合RPL13A標的化EGFP PSC株(両方の対立遺伝子中に遺伝子編集を有する)の両方は、EGFPを発現しなかった編集されないPSC株と比較して、高いトランスジーン発現を示した。ヘテロ接合RPL13A標的化EGFP PSC株は、ホモ接合RPL13A標的化EGFP PSC株よりもわずかに低いCq値を示し、これはヘテロ接合RPL13A標的化EGFP PSC株からのより高いトランスジーン発現を示した。両方の編集されたPSC株は、8週間までの各週に高レベルのEGFPを発現し、これは、高レベルのトランスジーン発現が、8週間までの常套的なPSC培養後に維持されたことを示した。
【0101】
編集されないPSC、GAPDH標的化EGFP編集PSCおよび16日目にドーパミン作動性ニューロンに分化したRPL13A標的化EGFP編集PSCに対してもフローサイトメトリー分析を行った(
図7)(例えばChambers et al.、上述参照)。両方のGAPDH標的化およびRPL13A標的化EGFP編集PSC株について、本発明者らは、1つのホモ接合標的化株(両方の対立遺伝子中に遺伝子編集を有する)および1つのヘテロ接合標的化株(一方の対立遺伝子中に遺伝子編集を有する)を試験した。
【0102】
データは、ドーパミン作動性ニューロンへの分化の16日後に、編集されないPSC株と比較して、4つの全ての編集されたPSC株からの高いEGFP蛍光シグナルを示す。これらの結果は、GAPDHおよびRPL13A遺伝子座でのEGFP構築物の挿入が、編集されたPSCにおいて高レベルのトランスジーン発現を可能にしたことならびに高レベルのトランスジーン発現が編集されたPSCの系統を方向づけられた分化の後に維持されたことを示す。
【0103】
編集されないPSC、12日目に心筋細胞に分化したかまたは分化しなかったヘテロ接合GAPDH標的化EGFP株(一方の対立遺伝子中に遺伝子編集を有する)、および12日目に心筋細胞に分化したかまたは分化しなかったヘテロ接合RPL13A標的化EGFP株(一方の対立遺伝子中に遺伝子編集を有する)に対してもフローサイトメトリー分析を行った(
図8)(例えばLian et al., Nat. Protoc. (2013) 8(1):162-75参照)。データは、心筋細胞への分化の12日後に、編集されないPSC株と比較して、GAPDH標的化EGFP株およびRPL13A標的化EGFP株の両方からの高いEGFP蛍光を示す。分化した編集された株の蛍光のレベルは、未分化の編集された株と比較してわずかに低かったが、高く保持される。結果は、編集されたPSCの心筋細胞系統に方向づけられた分化の後、高レベルのトランスジーン発現が維持されたことを示す。
【0104】
実施例3:iPSCにおけるGAPDHおよびRPL13A座でのHLA-G6の発現
この試験において、HLA-G6を発現する構築物を、iPSC中のGAPDH座またはRPL13A座のいずれかに編集した。HLA-G6コーディング配列を以下に示す。
【表7-1】
【表7-2】
【0105】
挿入されたHLA-G6トランスジーンは、上記のようにPQR配列により内因性ハウスキーピング遺伝子に、インフレームで連結された(
図9)。それぞれのPQR/HLA-G6挿入構築物は、上記のように、内因性STEL座に相同な配列(GAPDHまたはRPL13Aのいずれか)を有する800bpの左相同性アームおよび800bpの右相同性アームとも隣り合った。
【0106】
細胞培養培地へのHLA-G6の分泌は、Thermo Fisher ScientificからのHLA-G5/G6特異的抗体(クローン5A6G7)を使用して、ウエスタンブロットにより評価した。編集されない野生型PSC、対照JEG-3絨毛癌細胞(ヒト胎盤由来、ここでHLA-Gは正常に発現される)およびGAPDH標的化HLA-G6 PSC株の細胞培養上清に対してウエスタンブロット分析を行った(
図10)。使用された一次抗体は、HLA-G5およびHLA-G6などの可溶性HLA-Gアイソフォームに特異的であった。HLA-G6の予想されるタンパク質サイズは約30kDaである。データは、HLA-G6はGAPDH標的化HLA-G6編集PSC細胞および対照JEG-3細胞の細胞培養上清中、同等のレベルで検出されたが、編集されないPSCの細胞培養上清中では非存在であったことを示す。これらの結果は、GAPDH 遺伝子座でのHLA-G6構築物の挿入が、編集されたPSCが高レベルのHLA-G6を分泌することを可能にしたことを示す。
【0107】
編集されない野生型PSC、対照JEG-3細胞およびGAPDH標的化HLA-G6 PSCの細胞培養上清に対して、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)検出アッセイも行った(
図11)。FRETは、極めて接近する場合に、2つのフルオロフォアであるドナーとアクセプターの間のエネルギーの移動を含む。ドナー分子は、pan-HLA-G抗体(BD Biosciences;クローン4H84)に連結され、アクセプター分子は、HLA-G5およびHLA-G6を含む可溶性HLA-Gアイソフォームを検出する抗体(Thermo Fisher Scientific;クローン5A6G7)に連結された。両方の抗体は、分泌されたHLA-G6タンパク質に結合するので、ドナーとアクセプター分子の間でFRETが起こることを可能にする。FRETシグナルが高いほど、検出されるタンパク質の量は多くなる。データは、対照JEG-3細胞の細胞培養上清中の高いFRETシグナルおよびGAPDH標的化HLA-G6編集PSCからのさらに高いFRETシグナルを示すが、編集されないPSCからのシグナルはない。これらの結果により、GAPDH遺伝子座でのHLA-G6構築物の挿入が、編集されたPSCが高レベルのHLA-G6を分泌することを可能にしたことが確認される。
【0108】
別の試験において、編集されないPSCおよびRPL13A標的化HLA-G6 PSC株の細胞培養上清に対してFRET検出アッセイを行った(
図12)。データは、RPL13A標的化HLA-G6編集PSCの細胞培養上清において高いFRETシグナルを示すが、編集されないPSCからはシグナルをほとんど示さない。これらの結果は、RPL13A遺伝子座でのHLA-G6構築物の挿入も、編集されたPSCが高レベルのHLA-G6を分泌することを可能にしたことを示す。
【0109】
GAPDH標的化HLA-G6株およびRPL13A標的化HLA-G6株の両方においてCRISPR/Cas9遺伝子編集を使用して、B2M遺伝子をノックアウトし、それぞれのHLA-G6編集PSC株について3つの異なるB2Mノックアウト(KO)クローンを作製した。pan-HLA-G抗体(BD Biosciences;クローン4H84)を使用して、6つ全ての編集されたクローンに対してフローサイトメトリー分析を行った(
図13)。常套的なPSC培養の1週間後および常套的なPSC培養の8週間後に分析を繰り返した。データは、編集されないPSC株と比較して編集されたPSC株において高いHLA-G発現を示し、HLA-G発現は、B2M遺伝子ノックアウトの後であっても常套的なPSC培養の8週まで、全ての編集されたクローン性細胞株にわたり維持されることを示す。GAPDH標的化PSC株からのHLA-G発現は、RPL13A標的化PSC株よりも高く、これはGAPDH遺伝子座からのより高いトランスジーン発現を示した。
【0110】
実施例4:PSCにおけるGAPDH座での抗τscFvの発現
この試験において、ヒトτに対する一本鎖可変断片(scFv)抗体を発現する構築物(Ising et al., J. Exp. Med. (2017) 214(5):1227-1238)を、GAPDH座に挿入した。抗τscFv挿入構築物は、分泌性シグナルペプチド(SP)、S(GGGGS)
3(配列番号:19)ペプチドリンカー(PL)により連結された抗τ抗体HJ8.5の軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)(WO 2016/126993およびWO 2014/008404)、ならびにヒトインフルエンザ赤血球凝集素(HA)ペプチドタグをコードする配列で構成された(
図14)。抗τscFvについてのコーディング配列を以下に示し、ここで分泌シグナルペプチドについてのコーディング配列を太字で示し(boldfaced)、下線を引き、VLについてのコーディング配列を斜体で示し(italicized)、ペプチドリンカーについてのコーディング配列を太字で示し、VHについてのコーディング配列に下線を引き、HAタグについてのコーディング配列を太字および斜体で示す。
【表8-1】
【表8-2】
【0111】
トランスジーンコーディング配列の後にTGA停止コドンを組込み、翻訳を終結させた。scFvの発現は、上記のようにPQR配列により、GAPDHの発現と結び付けられた。それぞれのPQR/抗τscFv挿入構築物も、上記のように800bpの左相同性アームおよび800bpの右相同性アームと隣り合った。
【0112】
編集されないPSC、GAPDH標的化抗τscFv PSC株の細胞培養上清(いずれもストレートの上清であるかまたは抗HAアガロース免疫沈降により濃縮される)およびGAPDH標的化抗τscFv PSC株の細胞溶解物に対してウエスタンブロット分析を行った(
図15)。使用した一次抗体は、HAペプチドタグ由来の9アミノ酸配列YPYDVPDYA(配列番号:21)を認識する抗HAモノクローナル抗体であった。抗τscFvの予想されるタンパク質サイズは約30kDaである。
【0113】
データは、抗τscFvは、ストレートのおよび濃縮されたGAPDH標的化抗τscFv編集PSC株の細胞培養上清およびGAPDH標的化抗τscFv編集PSC株の細胞溶解物で検出されたが、編集されないPSC株の細胞培養上清では非存在であったことを示す。これらの結果は、GAPDH遺伝子座での抗τscFv構築物の挿入により編集されたPSCが高レベルのscFvを分泌することが可能になったことを示す。
【0114】
実施例5:PSCにおけるGAPDH座でのRapaCasp9細胞性自殺スイッチの発現
この試験において、一緒になってラパマイシン誘導性ヒトカスパーゼ9系(RapaCasp9)細胞性自殺スイッチを含む2つの異なる構築物(Stavrou et al., Mol. Ther. (2018) 26(5):1266-76)を、GAPDH座のそれぞれの対立遺伝子に挿入した。1つのRapaCasp9構築物は、SGGGS(配列番号:22)ペプチドリンカー(L1)により、そのCARDドメインが除去された切断されたカスパーゼ9遺伝子(truncCasp9)に連結されたmTORのFRB(FKBP12ラパマイシン結合)ドメインをコードする配列で構成された。他のRapaCasp9構築物は、SGGGS(配列番号:22)ペプチドリンカー(L2)により、そのCARDドメインが除去された切断されたカスパーゼ9遺伝子(truncCasp9)に連結されたFKBP12(FK506結合タンパク質12)遺伝子をコードする配列で構成された(
図16)。薬物ラパマイシンの付加により、FRBとFKBP12のヘテロ二量体化が可能になり、その後切断されたカスパーゼ9のホモ二量体化およびアポトーシスの誘導が引き起こされる。
【0115】
RapaCasp9のFRB-L1-truncCasp9構成要素についてのコーディング配列を以下に示し、ここでFRBについてのコーディング配列は太字で示し、ペプチドリンカー(L1)についてのコーディング配列に下線を引き、切断されたカスパーゼ9についてのコーディング配列を斜体で示す。
【表9】
【0116】
RapaCasp9のFKBP12-L2-truncCasp9構成要素についてのコーディング配列を以下に示し、ここでFKBP12についてのコーディング配列を太字で示し、ペプチドリンカー(L2)についてのコーディング配列に下線を引き、切断されたカスパーゼ9についてのコーディング配列を斜体で示す。
【表10-1】
【表10-2】
【0117】
それぞれのトランスジーンコーディング配列の後にTGA停止コドンを組込み、翻訳を終結させた。RapaCasp9のFRB-L1-truncCasp9およびFKBP12-L2-truncCasp9構成要素の両方の発現は、上記のようにPQR配列によりGAPDHの発現に結び付けられた。それぞれのPQR/RapaCasp9構築物も、上記のように800bpの左相同性アームおよび800bpの右相同性アームと隣り合った。
【0118】
GAPDH標的化RapaCasp9 PSC株を、5nMまたは10nMのいずれかのラパマイシンで1、2、4または24時間処理し、それぞれの時点の後にフローサイトメトリー分析のために細胞を回収した(
図17)。使用した一次抗体は、Alexa Fluor(登録商標)488二次抗体にコンジュゲートされた抗ヒト/マウス切断カスパーゼ3であった。一次抗体は、Asp175で切断されたヒトおよびマウスカスパーゼ3を検出する。カスパーゼ3は、アポトーシスカスケードにおいて開始因子カスパーゼ、カスパーゼ9の下流で機能する執行因子(executioner)カスパーゼである。ヒトプロカスパーゼ3は通常不活性のホモダイマーである。細胞ストレスまたは活性化のいずれかによるアポトーシスの誘導の際に、これは、切断されたカスパーゼ3サブユニットへのタンパク質分解を受ける。データは、GAPDH標的化RapaCasp9 PSC株の5nMまたは10nMのいずれかのラパマイシンでの処理後に、切断されたカスパーゼ3染色が処理の4時間後に容易に検出可能であること、およびほとんど全ての細胞(>99%)が処理の24時間後に切断されたカスパーゼ3について染色されることを示す。ラパマイシンで処理されない編集されたPSCについて、切断されたカスパーゼ3の無視できる検出があった。これらの結果は、GAPDH遺伝子座でのFRB-L1-truncCasp9およびFKBP12-L2-truncCasp9 RapaCasp9構築物の二対立遺伝子挿入により、編集されたPSCがラパマイシンでの誘導の際にアポトーシスを受けた(under)ことを示す。
【0119】
実施例6:PSCにおけるGAPDH座でのPD-L1およびCD47免疫調節分子の発現
この試験において、それぞれ免疫調節分子およびHSV-TK.007(単純ヘルペスチミジンキナーゼ)細胞性自殺スイッチの両方を含む2つの異なる構築物を、GAPDH座のそれぞれの対立遺伝子に挿入した。PD-L1系構築物は、内部リボソーム進入部位(IRES)配列を介して、P2A配列を介してpuroR(ピューロマイシン耐性遺伝子)についてのコーディング配列に連結されたHSV-TK.007についてのコーディング配列に連結されたPD-L1(プログラムされた死リガンド1)のコーディング配列で構成された。CD47系構築物は、IRES配列を介して、HSV-TK.007についてのコーディング配列に連結されたCD47のコーディング配列で構成された。ガンシクロビルの添加の際に、これらの構築物を含む細胞は、ガンシクロビルを毒性ヌクレオチドアナログに変換して、活発に増殖する細胞においてDNA複製の失敗および細胞死を引き起こす。
【0120】
PD-L1系構築物についてのコーディング配列を以下に示し、ここでPD-L1についてのコーディング配列を太字で示し、IRESについてのコーディング配列に下線を引き、HSV-TK.007についてのコーディング配列を斜体で示し、P2A(GSGリンカーを含む)についてのコーディング配列を太字で示して下線を引き、puroRについてのコーディング配列を標準のスクリプトで示す。
【表11-1】
【表11-2】
【0121】
CD47系構築物についてのコーディング配列を以下に示し、ここでCD47についてのコーディング配列を太字で示し、IRESについてのコーディング配列に下線を引き、HSV-TK.007についてのコーディング配列を斜体で示す。
【表12-1】
【表12-2】
【0122】
それぞれのトランスジーンコーディング配列の後に停止コドンを組込み、翻訳を終結させた。PD-L1系構築物の発現は、上記のようにPQR配列によりGAPDHの発現に結び付けられ、上記のように800bpの左相同性アームおよび800bpの右相同性アームと隣り合った。CD47系構築物の発現は、P2A配列によりGAPDHの発現に結び付けられ、ここでGSGリンカーは以下の配列において太字で示し、上記のように800bpの左相同性アームおよび800bpの右相同性アームと隣り合った。
【表13】
【0123】
編集されないPSC、またはPD-L1系構築物で編集された1つの対立遺伝子およびCD47系構築物で編集された他の対立遺伝子を含んだGAPDH標的化PSCに対してフローサイトメトリー分析を行った(
図18)。データは、GAPDH標的化PSCにおける二重のPD-L1およびCD47共染色の検出を示すが、編集されないPSCでは染色を示さず、これは、GAPDH座でのPD-L1系構築物およびCD47系構築物の二対立遺伝子挿入は、編集されたPSCがPD-L1およびCD47を発現することを可能にしたことを示す。
【0124】
実施例7:PSCにおけるGAPDH座でのCSF1の発現
この試験において、CSF1(コロニー刺激因子1)についてのコーディング配列を含む構築物を、GAPDH座の一方または両方の対立遺伝子のいずれかに挿入した。CSF1は、マクロファージの生存、分化および機能を制御するサイトカインである。CSF1についてのコーディング配列を以下に示す。
【表14-1】
【表14-2】
【0125】
トランスジーンコーディング配列の後にTAG停止コドンを組込み、翻訳を終結させた。CSF1の発現は、上記のようにPQR配列によりGAPDHの発現に結び付けられた。それぞれのPQR/CSF1挿入構築物も、上記のように800bpの左相同性アームおよび800bpの右相同性アームと隣り合った。
【0126】
編集されないPSCおよび3つの異なるGAPDH標的化CSF1 PSC株の細胞培養上清に対してELISAイムノアッセイを行った(
図19)。データは、分泌されたCSF1は、3つ全てのGAPDH標的化CSF1編集PSC株の細胞培養上清において検出されたが、編集されないPSC株の細胞培養上清では非存在であったことを示す。これらの結果は、GAPDH座でのCSF1構築物の挿入は、編集されたPSCが容易に検出可能なレベルのCSF1を分泌することを可能にしたことを示す。
【0127】
実施例8:分化したPSCにおけるAAVS1座でのPD-L1のトランスジーンサイレンシング
この試験において、本発明者らは、AAVS1セーフハーバー座でPD-L1を発現する構築物を挿入するためのCRISPR-Cas9遺伝子編集を使用した(
図20A)。挿入構築物は、トランスジーン構築物の発現を駆動するための外部EF1aプロモーターを含んだ。さらに、小分子処理により増殖細胞を排除するように誘導され得る自殺遺伝子であるHSV-TKを、P2A配列によりPD-L1に連結し、これはP2Aの切断の際にPD-L1およびHSV-TKの両方のバイシストロニック発現を可能にする。挿入構築物はまた、内因性AAVS1座に相同な配列を有する左および右相同性アームと隣り合い、その意図される標的部位での構築物の組み込みを可能にした。未分化野生型PSCまたは未分化AAVS1標的化PD-L1/HSV-TK編集PSCのいずれかに対してフローサイトメトリー分析を行った(
図20B)。細胞を、抗PD-L1一次抗体で染色した。
【0128】
データは、PD-L1/HSV-TK編集を有するPSCの大部分(99.9%)は、フローサイトメトリーによりPD-L1を発現するが、一方で野生型PSCはPD-L1を発現しないことを示す。両方のPSC株はその後心筋細胞に分化し、フローサイトメトリー、その後抗PD-L1一次抗体での染色により分析した。データは、フローサイトメトリーにより、PD-L1/HSV-TK編集を有するPSCの49%のみがPD-L1を発現することを示す。これらの結果は、AAVS1座でのPD-L1/HSV-TK構築物の挿入は、PSCの心筋細胞への系統方向づけられた分化の際に、PD-L1発現のトランスジーンサイレンシングをもたらすことを示す。B2M座で同様のトランスジーンサイレンシングが観察された。
【0129】
結論として、上記のデータは、GAPDH、RPL13AおよびRPLP0遺伝子座は、その中に組み込まれた種々のトランスジーンの持続的で高レベルの発現を可能にすることを示す。本発明者らのデータはまた、一般的に使用されるAAVS1およびB2M座で組込まれたトランスジーン(例えばPD-L1をコードするもの)は、一旦細胞がPSCから心筋細胞に分化すると、編集された細胞においてその発現を消失したことを示す。
【配列表】
【国際調査報告】