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特表2022-551483複数の異なる非天然アミノ酸を含有するタンパク質、並びにそのようなタンパク質の製造方法及び使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-09
(54)【発明の名称】複数の異なる非天然アミノ酸を含有するタンパク質、並びにそのようなタンパク質の製造方法及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20221202BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20221202BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221202BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20221202BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20221202BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12P21/02 C ZNA
C12N5/10
C07K16/00
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521387
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(85)【翻訳文提出日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 US2020054859
(87)【国際公開番号】W WO2021072129
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】62/912,171
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503054225
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ ボストン カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】チェン ユーナン
(72)【発明者】
【氏名】イタリア ジェームズ セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】チャッテルジー アビシェク
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG02
4B064AG13
4B064AG15
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA10
4H045BA50
4H045DA01
4H045DA30
4H045DA50
4H045DA76
4H045DA89
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、全体として、第1の非天然アミノ酸(UAA)及び第2の異なるUAAを含むタンパク質を生成する方法、並びに第1のUAA及び第2の異なるUAAを含むタンパク質に関する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の非天然アミノ酸(UAA)及び第2の異なるUAAを含むタンパク質を生成する方法であって、
(i)UAG、UGA、及びUAAから選択される第1のコドンにハイブリダイズし、かつ前記第1のUAAを結合することができるアンチコドンを含む第1のtRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、
(ii)前記第1のtRNAに前記第1のUAAを結合させることができる第1のアミノアシル-tRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、
(iii)UAG、UGA、及びUAAから選択される第2のコドンにハイブリダイズし、かつ前記第2のUAAを結合することができるアンチコドンを含む第2のtRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸であって、前記第1及び第2のtRNAは同じアンチコドンを含有しない核酸、
(iv)前記第2のtRNAに前記第2のUAAを結合させることができる第2のアミノアシル-tRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに
(v)前記第1のコドン及び前記第2のコドンを含む前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸
を有する哺乳動物細胞を、前記第1のtRNAが、前記細胞中で発現され前記第1のUAAを結合しているときに、前記第1のコドンにハイブリダイズし、前記タンパク質への前記第1のUAAの組み込みを導き、前記第2のtRNAが、前記細胞中で発現され前記第2のUAAを結合しているときに、前記第2のコドンにハイブリダイズし、前記タンパク質への前記第2のUAAの組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含み、
前記細胞によって発現される前記第1及び第2のUAAを含む前記タンパク質の量は、同じ細胞又は同様の細胞によって発現される参照タンパク質の量の少なくとも10%であり、前記参照タンパク質は、前記第1及び第2のUAAを含まないこと以外は同一のタンパク質である方法。
【請求項2】
前記第1のtRNAが、原核生物トリプトファニル-tRNAの類似体又は誘導体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原核生物トリプトファニル-tRNAが大腸菌トリプトファニル-tRNAである請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記第1のtRNAが、配列番号49~54又は108~113のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列を含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のアミノアシル-tRNA合成酵素が、原核生物トリプトファニル-tRNA合成酵素の類似体又は誘導体である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記原核生物トリプトファニル-tRNA合成酵素が大腸菌トリプトファニル-tRNA合成酵素である請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記第1のアミノアシル-tRNA合成酵素が、配列番号44~48のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のコドンがUGAである請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のUAAがトリプトファン類似体である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のUAAが5-HTP及び5-AzWから選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2のtRNAが、原核生物ロイシル-tRNAの類似体又は誘導体である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記原核生物ロイシル-tRNAが大腸菌ロイシル-tRNAである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2のtRNAが、配列番号16~43のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2のアミノアシル-tRNA合成酵素が、原核生物ロイシル-tRNA合成酵素の類似体又は誘導体である請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記原核生物ロイシル-tRNA合成酵素が大腸菌ロイシル-tRNA合成酵素である請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記第2のアミノアシル-tRNA合成酵素が、配列番号1~15のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2のコドンがUAGである請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記第2のUAAがロイシン類似体である請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記第2のUAAが、LCA及びCys-5-N3から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第2のtRNAが、原核生物チロシル-tRNAの類似体又は誘導体である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記原核生物チロシル-tRNAが大腸菌チロシル-tRNAである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2のtRNAが、配列番号68~69又は104~105のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列を含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第2のアミノアシル-tRNA合成酵素が、原核生物チロシル-tRNA合成酵素の類似体又は誘導体である請求項20から請求項22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記原核生物チロシル-tRNA合成酵素が大腸菌チロシル-tRNA合成酵素である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第2のアミノアシル-tRNA合成酵素が、配列番号70のアミノ酸配列を含む請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記第2のコドンがUAGである請求項20から請求項25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記第2のUAAがチロシン類似体である請求項20から請求項26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記第2のUAAが、OmeY、AzF、及びOpropYから選択される請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第2のtRNAが、古細菌ピロリシル-tRNAの類似体又は誘導体である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記古細菌ピロリシル-tRNAがメタノサルシナ・バルケリピロリシル-tRNAである請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記第2のtRNAが、配列番号72~100又は106~107のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列を含む請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記第2のアミノアシル-tRNA合成酵素が、古細菌ピロリシル-tRNA合成酵素の類似体又は誘導体である請求項29から請求項31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記古細菌ピロリシル-tRNA合成酵素がメタノサルシナ・バルケリピロリシル-tRNA合成酵素である請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記第2のアミノアシル-tRNA合成酵素が、配列番号101のアミノ酸配列を含む請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記第2のコドンがUAGである請求項29から請求項34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記第2のUAAがピロリシン類似体である請求項29から請求項35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記第2のUAAが、BocK、CpK、及びAzKから選択される請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞によって発現される前記第1及び第2のUAAを含むタンパク質の量が、前記同じ細胞又は同様の細胞によって発現される前記参照タンパク質の量の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%である請求項1から請求項37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記参照タンパク質が、前記第1及び第2のUAAに対応する位置に野生型アミノ酸残基を含む請求項1から請求項38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記タンパク質が、抗体(又はその断片、例えば、その抗原結合断片)、二重特異性抗体、ナノボディ、アフィボディ、ウイルスタンパク質、ケモカイン、サイトカイン、抗原、血液凝固因子、ホルモン、成長因子、酵素、細胞シグナル伝達タンパク質、又は任意の他のポリペプチド若しくはタンパク質である請求項1から請求項39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記タンパク質が抗体(又はその断片、例えば、その抗原結合断片)である請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞がヒト細胞である請求項1から請求項41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記細胞が、ヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞又はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記タンパク質を精製する工程をさらに含む請求項1から請求項43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記第1のUAAを化学的に修飾する工程をさらに含む請求項1から請求項44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記第2のUAAを化学的に修飾する工程をさらに含む請求項1から請求項45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記化学修飾が、検出可能な標識又は分子へのコンジュゲーションを含む請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記分子が薬物(例えば、小分子薬物)である請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記第1のUAAを介して前記タンパク質に結合された前記検出可能な標識又は分子が、前記第2のUAAを介して前記タンパク質に結合された前記検出可能な標識又は分子とは異なる請求項45から請求項48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
トリプトファン類似体及びロイシン類似体を含むタンパク質を生成する方法であって、
(i)UGAコドンにハイブリダイズし、かつ前記トリプトファン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌トリプトファニル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、
(ii)前記大腸菌トリプトファニル-tRNAの前記誘導体に前記トリプトファン類似体を結合させることができる大腸菌トリプトファニル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、
(iii)UAGコドンにハイブリダイズし、かつ前記ロイシン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌ロイシル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、
(iv)前記大腸菌ロイシル-tRNAの前記誘導体に前記ロイシン類似体を結合させることができる大腸菌ロイシル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに
(v)前記UGAコドン及び前記UAGコドンを含む前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸
を有する哺乳動物細胞を、前記大腸菌トリプトファニル-tRNAの前記誘導体が、前記細胞中で発現され前記トリプトファン類似体を結合しているときに、前記UGAコドンにハイブリダイズし、前記タンパク質への前記トリプトファンの組み込みを導き、前記大腸菌ロイシル-tRNAの前記誘導体が、前記細胞中で発現され前記ロイシン類似体を結合しているときに、前記UAGコドンにハイブリダイズし、前記タンパク質への前記ロイシン類似体の組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含む方法。
【請求項51】
トリプトファン類似体及びチロシン類似体を含むタンパク質を生成する方法であって、
(i)UGAコドンにハイブリダイズし、かつ前記トリプトファン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌トリプトファニル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、
(ii)前記大腸菌トリプトファニル-tRNAの前記誘導体に前記トリプトファン類似体を結合させることができる大腸菌トリプトファニル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、
(iii)UAGコドンにハイブリダイズし、かつ前記チロシン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌チロシル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、
(iv)前記大腸菌チロシル-tRNAの前記誘導体に前記チロシン類似体を結合させることができる大腸菌チロシル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに
(v)前記UGAコドン及び前記UAGコドンを含む前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸
を有する哺乳動物細胞を、前記大腸菌トリプトファニル-tRNAの前記誘導体が、前記細胞中で発現され前記トリプトファン類似体を結合しているときに、前記UGAコドンにハイブリダイズし、前記タンパク質への前記トリプトファンの組み込みを導き、前記大腸菌チロシル-tRNAの前記誘導体が、前記細胞中で発現され前記チロシン類似体を結合しているときに、前記UAGコドンにハイブリダイズし、前記タンパク質への前記チロシン類似体の組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含む方法。
【請求項52】
トリプトファン類似体及びピロリシン類似体を含むタンパク質を生成する方法であって、
(i)UGAコドンにハイブリダイズし、かつ前記トリプトファン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌トリプトファニル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、
(ii)前記大腸菌トリプトファニル-tRNAの前記誘導体に前記トリプトファン類似体を結合させることができる大腸菌トリプトファニル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、
(iii)UAGコドンにハイブリダイズし、かつ前記ピロリシン類似体を結合することができるアンチコドンを含むメタノサルシナ・バルケリピロリシル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、
(iv)前記メタノサルシナ・バルケリピロリシル-tRNAの前記誘導体に前記ピロリシン類似体を結合させることができるメタノサルシナ・バルケリピロリシル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに
(v)前記UGAコドン及び前記UAGコドンを含む前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸
を有する哺乳動物細胞を、前記大腸菌トリプトファニル-tRNAの前記誘導体が、前記細胞中で発現され前記トリプトファン類似体を結合しているときに、前記UGAコドンにハイブリダイズし、前記タンパク質への前記トリプトファンの組み込みを導き、前記大腸菌ピロリシル-tRNAの前記誘導体が、前記細胞中で発現され前記ピロリシン類似体を結合しているときに、前記UAGコドンにハイブリダイズし、前記タンパク質への前記ピロリシン類似体の組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含む方法。
【請求項53】
請求項1から請求項52のいずれか1項に記載の方法によって生成される、第1の非天然アミノ酸(UAA)及び第2のUAAを含むタンパク質。
【請求項54】
トリプトファン類似体である第1の非天然アミノ酸(UAA)及びロイシン類似体である第2のUAAを含む、哺乳動物細胞において発現されるタンパク質。
【請求項55】
前記トリプトファン類似体が5-HTP及び5-AzWから選択される請求項54に記載のタンパク質。
【請求項56】
前記ロイシン類似体がLCA及びCys-5-N3から選択される請求項54又は請求項55に記載のタンパク質。
【請求項57】
トリプトファン類似体である第1の非天然アミノ酸(UAA)及びチロシン類似体である第2のUAAを含む、哺乳動物細胞において発現されるタンパク質。
【請求項58】
前記トリプトファン類似体が5-HTP及び5-AzWから選択される請求項57に記載のタンパク質。
【請求項59】
前記チロシン類似体が、OmeY、AzF、及びOpropYから選択される請求項57又は請求項58に記載のタンパク質。
【請求項60】
トリプトファン類似体である第1の非天然アミノ酸(UAA)及びピロリシン類似体である第2のUAAを含む、哺乳動物細胞において発現されるタンパク質。
【請求項61】
前記トリプトファン類似体が5-HTP及び5-AzWから選択される請求項60に記載のタンパク質。
【請求項62】
前記ピロリシン類似体が、BocK、CpK、AzK、及びCpKから選択される請求項60又は請求項61に記載のタンパク質。
【請求項63】
検出可能な標識又は分子が、前記第1のUAAを介して前記タンパク質に共有結合されている請求項53から請求項62のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項64】
検出可能な標識又は分子が、前記第2のUAAを介して前記タンパク質に共有結合されている請求項53から請求項63のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項65】
前記第1のUAAを介して前記タンパク質に結合された前記検出可能な標識又は分子が、前記第2のUAAを介して前記タンパク質に結合された前記検出可能な標識又は分子とは異なる請求項64に記載のタンパク質。
【請求項66】
前記タンパク質が抗体(又はその断片、例えば、その抗原結合断片)、二重特異性抗体、ナノボディ、アフィボディ、ウイルスタンパク質、ケモカイン、サイトカイン、抗原、血液凝固因子、ホルモン、成長因子、酵素、細胞シグナル伝達タンパク質、又は任意の他のポリペプチド若しくはタンパク質である請求項53から請求項65のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項67】
前記タンパク質が抗体(又はその断片、例えば、その抗原結合断片)である請求項66に記載のタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月8日出願の米国特許第仮出願第62/912171号の利益及びその優先権を主張し、この仮出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本開示は、全体として、目的のタンパク質が合成される際に複数の異なるUAAをその目的のタンパク質に組み込むために、直交tRNA/アミノアシル-tRNA合成酵素対が使用される分野に関する。
【背景技術】
【0003】
天然では、タンパク質は、転写及び翻訳として知られるプロセスを介して細胞中で産生される。転写中、目的のタンパク質を集合的にコードする一連のコドンを含む遺伝子が、メッセンジャーRNA(mRNA)に転写される。翻訳中、リボソームは、mRNAに付着し、それに沿って移動し、コドンに対応する位置でmRNAから合成(翻訳)されるポリペプチド鎖に特定のアミノ酸を組み込んで、タンパク質を生成する。翻訳の間、転移RNA(tRNA)に結合した特定の天然に存在するアミノ酸がリボソームに入る。アンチコドン配列を含有するtRNAは、mRNA中のそれらのそれぞれのコドン配列にハイブリダイズし、タンパク質が合成されるにつれて、それらが運搬しているアミノ酸を、新生タンパク質鎖の適切な位置に転移させる。
【0004】
最近数十年間にわたって、部位特異的に修飾されたタンパク質、例えば、哺乳動物タンパク質の均質な調製物を、例えば、治療及び診断を含む様々な用途で使用するための商業規模の量で製造するために、多大な努力がなされてきた。さらには、真核細胞(例えば、哺乳動物細胞)においてこれらの修飾された哺乳動物タンパク質を産生するための努力がなされてきたが、これは、これらのタンパク質が、適切に折り畳まれ完全に活性な形態でより容易に産生される可能性があり、かつ/又は哺乳動物細胞において天然に産生される未変性の(天然)タンパク質と同様の様式で翻訳後修飾されてもよいためである。
【0005】
部位特異的修飾を含むタンパク質を産生するための1つのアプローチは、目的のタンパク質への1つ以上の非天然アミノ酸(UAA)の部位特異的組み込みを含む。インビボでUAAをタンパク質に部位特異的に組み込む能力は、タンパク質機能を増強するか、又は天然には見出されない新しい化学官能基を導入するための強力なツールとなっている。この技術に必要なコア要素としては、以下の、遺伝子操作されたtRNA、tRNAにUAAを結合させる遺伝子操作されたアミノアシル-tRNA合成酵素(aaRS)、及び合成されているタンパク質へのUAAの組み込みを導くユニークなコドン、例えば終止コドンが挙げられる。
【0006】
このアプローチの中心にあるのは、遺伝子操作されたtRNA/aaRS対の使用であり、aaRSは、発現宿主細胞に通常存在するtRNA及びアミノ酸と交差反応することなく、tRNAに目的のUAAを結合させる。これは、遺伝子操作されたtRNA/aaRS対(例えば、操作された細菌tRNA/aaRS対)と発現宿主細胞(例えば、哺乳動物細胞)において天然に見出されるtRNA/aaRS対との間の直交性を最大にするように、発現宿主細胞としての生命の異なるドメインにある生物に由来する操作されたtRNA/aaRS対を使用することによって達成されている。aaRSを介してUAAを結合する操作されたtRNAは、発現されるタンパク質をコードするmRNA中に存在する未成熟終止コドン(UAG、UGA、UAA)等の固有のコドンに結合又はハイブリダイズする。例えば、発現宿主細胞由来の内因性tRNA及び内因性aaRSと、タンパク質がリボソームを介して合成される際にそのタンパク質へのUAAの組み込みを容易にするように宿主細胞に導入された遺伝子操作された直交tRNA及び直交aaRSとを用いたタンパク質の合成を示す図1を参照されたい。現在まで、天然に存在するアミノ酸のいくつかについて、様々な直交tRNA/aaRS対が生成されている(例えば、米国特許出願公開第2017/0349891号明細書、及びZhengら(2018) BIOCHEM. 57:441-445を参照)。このアプローチは、治療薬(例えば、抗体薬物コンジュゲート(結合体)(ADC)、二重特異性抗体(例えば、二重特異性モノクローナル抗体)、ナノボディ、ケモカイン、ワクチン、凝固因子、ホルモン、及び酵素)として使用することができるバイオコンジュゲーションハンドル(bioconjugation handle)及び光活性化可能な架橋剤等の部位特異的修飾を含有するタンパク質の発現を容易にする。
【0007】
これまでに行われた努力にもかかわらず、複数の異なるUAAを単一のポリペプチドに組み込むためにこの技術を利用することにおける成功は限られている。複数の異なるUAAを1つのポリペプチドに組み込むために、各UAAは、別個のナンセンスコドンによってコードされなければならず、各UAAは、異なる直交aaRS/tRNA対によって結合されなければならず、その際、各対は互いに直交(相互直交)でもなければならない。かなりの程度の交差反応性がaaRS/tRNA対の間に見出されており、これは、ナンセンスコドンの全相補体を解読することができないことと共に、哺乳動物細胞における2つの別個のUAAの部位特異的組み込みの全体的な効率を制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0349891号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Zhengら(2018) BIOCHEM. 57:441-445
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、高効率で複数の別個の非天然アミノ酸をタンパク質に組み込むことを可能にする哺乳動物ベースの発現プラットフォームが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、部分的には、哺乳動物細胞において発現されるタンパク質への複数の異なるUAAの効率的な部位特異的組み込みを可能にする、ナンセンスコドン、tRNA、アミノアシル-tRNA合成酵素、及びUAAの組み合わせの発見に基づく。
【0012】
1つの態様では、本発明は、第1の非天然アミノ酸(UAA)及び第2の異なるUAAを含むタンパク質(例えば、第1及び第2のUAAがそれぞれ、タンパク質ポリペプチド鎖中の特定の異なる位置でタンパク質に組み込まれる)を生成する方法を提供する。当該方法は、(i)UAG、UGA、及びUAAから選択される第1のコドンにハイブリダイズし、かつ上記第1のUAAを結合する(チャージされる、charged)ことができるアンチコドンを含む第1のtRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(ii)上記第1のtRNAに上記第1のUAAを結合させる(チャージする、charging)ことができる第1のアミノアシル-tRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iii)UAG、UGA、及びUAAから選択される第2のコドンにハイブリダイズし、かつ上記第2のUAAを結合することができるアンチコドンを含む第2のtRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸であって、上記第1及び第2のtRNAは同じアンチコドンを含有しない核酸、(iv)上記第2のtRNAに上記第2のUAAを結合させることができる第2のアミノアシル-tRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに(v)上記第1のコドン及び上記第2のコドンを含む上記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を有する哺乳動物細胞を、上記第1のtRNAが、上記細胞中で発現され上記第1のUAAを結合しているときに、上記第1のコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記第1のUAAの組み込みを導き(指示し)、上記第2のtRNAが、上記細胞中で発現され上記第2のUAAを結合しているときに、上記第2のコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記第2のUAAの組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含む。
【0013】
特定の実施形態では、上記細胞によって発現される第1及び第2のUAAの両方を含むタンパク質の発現収率は、参照(基準)タンパク質の発現収率の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%である。例えば、特定の実施形態では、細胞によって発現される第1及び第2のUAAを含むタンパク質の量は、同じ細胞又は同様の細胞によって発現される参照タンパク質の量の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%である。特定の実施形態では、参照タンパク質は、第1及び第2のUAAを含まないが、その点を除けば第1及び第2のUAAを含むタンパク質と同一であるタンパク質である。例えば、参照タンパク質は、野生型アミノ酸配列を含んでもよいし、又は第1及び第2のUAAに対応する位置に野生型アミノ酸残基を含んでもよい。
【0014】
特定の実施形態では、第1又は第2のtRNAは、原核生物トリプトファニル-tRNA、例えば、大腸菌トリプトファニル-tRNAの類似体又は誘導体である。例えば、第1又は第2のtRNAは、配列番号49~54又は108~113のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列を含んでもよい。特定の実施形態では、第1又は第2のアミノアシル-tRNA合成酵素は、原核生物トリプトファニルtRNA合成酵素、例えば、大腸菌トリプトファニルtRNA合成酵素の類似体又は誘導体である。例えば、第1のアミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号44~48のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含んでもよい。特定の実施形態では、第1又は第2のコドンはUGAである。特定の実施形態では、第1又は第2のUAAは、トリプトファン類似体、例えば、天然に存在しないトリプトファン類似体である。特定の実施形態では、第1又は第2のUAAは、5-HTP又は5-AzWである。
【0015】
特定の実施形態では、第1又は第2のtRNAは、原核生物ロイシル-tRNA、例えば、大腸菌ロイシル-tRNAの類似体又は誘導体である。例えば、第1又は第2のtRNAは、配列番号16~43のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列を含んでもよい。特定の実施形態では、第1又は第2のアミノアシル-tRNA合成酵素は、原核生物ロイシル-tRNA合成酵素、例えば、大腸菌ロイシル-tRNA合成酵素の類似体又は誘導体である。例えば、第1のアミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号1~15のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含んでもよい。特定の実施形態では、第1又は第2のコドンはUAGである。特定の実施形態では、第1又は第2のUAAは、ロイシン類似体、例えば、天然に存在しないロイシン類似体である。特定の実施形態では、第1又は第2のUAAはLCA又はCys-5-N3である。
【0016】
特定の実施形態では、第1又は第2のtRNAは、原核生物チロシル-tRNA、例えば、大腸菌チロシル-tRNAの類似体又は誘導体である。例えば、第1又は第2のtRNAは、配列番号68~69又は104~105のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列を含んでもよい。特定の実施形態では、第1又は第2のアミノアシル-tRNA合成酵素は、原核生物チロシル-tRNA合成酵素、例えば、大腸菌チロシル-tRNA合成酵素の類似体又は誘導体である。例えば、第1のアミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号70のアミノ酸配列を含んでもよい。特定の実施形態では、第1又は第2のコドンはUAGである。特定の実施形態では、第1又は第2のUAAは、チロシン類似体、例えば、天然に存在しないチロシン類似体である。特定の実施形態では、第1又は第2のUAAは、OmeY、AzF、又はOpropYである。
【0017】
特定の実施形態では、第1又は第2のtRNAは、古細菌ピロリシル-tRNA、例えば、メタノサルシナ・バルケリ(M.barkeri、M.バルケリ)ピロリシル-tRNAの類似体又は誘導体である。例えば、第1又は第2のtRNAは、配列番号72~100又は106~107のいずれか1つから選択されるヌクレオチド配列を含んでもよい。特定の実施形態では、第1又は第2のアミノアシル-tRNA合成酵素は、古細菌ピロリシル-tRNA合成酵素、例えば、M.バルケリピロリシル-tRNA合成酵素の類似体又は誘導体である。例えば、第1のアミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号101のアミノ酸配列を含んでもよい。特定の実施形態では、第1又は第2のコドンはUAGである。特定の実施形態では、第1又は第2のUAAは、ピロリシン類似体、例えば、天然に存在しないピロリシン類似体である。特定の実施形態では、第1又は第2のUAAは、BocK、CpK、又はAzKである。
【0018】
特定の実施形態では、上記タンパク質は、抗体(又はその断片、例えば、その抗原結合断片)、二重特異性抗体、ナノボディ、アフィボディ、ウイルスタンパク質、ケモカイン、サイトカイン、抗原、血液凝固因子、ホルモン、成長因子、酵素、細胞シグナル伝達タンパク質、又は任意の他のポリペプチド若しくはタンパク質である。特定の実施形態では、上記タンパク質は、抗体(又はその断片、例えば、その抗原結合断片)であり、第1のUAA及び/又は第2のUAAは、抗体の定常領域に位置する。
【0019】
特定の実施形態では、上記細胞は、ヒト細胞、例えば、ヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞又はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0020】
特定の実施形態では、当該方法は、細胞を第1及び/又は第2のUAAと接触させる工程をさらに含む。特定の実施形態では、当該方法は、上記タンパク質を精製する工程をさらに含む。特定の実施形態では、当該方法は、第1及び/又は第2のUAAを化学的に修飾する工程をさらに含む。例えば、この化学修飾は、検出可能な標識又は分子、例えば、薬物、例えば、小分子薬物へのコンジュゲーション(結合)を含んでもよい。
【0021】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体(例えば、天然に存在しないトリプトファン類似体)及びロイシン類似体(例えば、天然に存在しないロイシン類似体)を含むタンパク質を生成する方法を提供する。当該方法は、(i)UGAコドンにハイブリダイズし、かつ上記トリプトファン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌トリプトファニル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(ii)上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体に上記トリプトファン類似体を結合させることができる大腸菌トリプトファニル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iii)UAGコドンにハイブリダイズし、かつ上記ロイシン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌ロイシル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iv)上記大腸菌ロイシル-tRNAの上記誘導体に上記ロイシン類似体を結合させることができる大腸菌ロイシル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに(v)上記UGAコドン及び上記UAGコドンを含む上記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を有する哺乳動物細胞を、上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記トリプトファン類似体を結合しているときに、上記UGAコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記トリプトファンの組み込みを導き、上記大腸菌ロイシル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記ロイシン類似体を結合しているときに、上記UAGコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記ロイシン類似体の組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含む。
【0022】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体(例えば、天然に存在しないトリプトファン類似体)及びチロシン類似体(例えば、天然に存在しないチロシン類似体)を含むタンパク質を生成する方法を提供する。当該方法は、(i)UGAコドンにハイブリダイズし、かつ上記トリプトファン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌トリプトファニル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(ii)上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体に上記トリプトファン類似体を結合させることができる大腸菌トリプトファニル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iii)UAGコドンにハイブリダイズし、かつ上記チロシン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌チロシル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iv)上記大腸菌チロシル-tRNAの上記誘導体に上記チロシン類似体を結合させることができる大腸菌チロシル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに(v)上記UGAコドン及び上記UAGコドンを含む上記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を有する哺乳動物細胞を、上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記トリプトファン類似体を結合しているときに、上記UGAコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記トリプトファンの組み込みを導き、上記大腸菌チロシル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記チロシン類似体を結合しているときに、上記UAGコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記チロシン類似体の組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含む。
【0023】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体(例えば、天然に存在しないトリプトファン類似体)及びピロリシン類似体(例えば、天然に存在しないピロリシン類似体)を含むタンパク質を生成する方法を提供する。当該方法は、(i)UGAコドンにハイブリダイズし、かつ上記トリプトファン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌トリプトファニル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(ii)上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体に上記トリプトファン類似体を結合させることができる大腸菌トリプトファニル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iii)UAGコドンにハイブリダイズし、かつ上記ピロリシン類似体を結合することができるアンチコドンを含むメタノサルシナ・バルケリピロリシル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iv)上記メタノサルシナ・バルケリピロリシル-tRNAの上記誘導体に上記ピロリシン類似体を結合させることができるメタノサルシナ・バルケリピロリシル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに(v)上記UGAコドン及び上記UAGコドンを含む上記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を有する哺乳動物細胞を、上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記トリプトファン類似体を結合しているときに、上記UGAコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記トリプトファンの組み込みを導き、上記大腸菌ピロリシル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記ピロリシン類似体を結合しているときに、上記UAGコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記ピロリシン類似体の組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含む。
【0024】
別の態様では、本発明は、上述の方法のいずれかによって生成される第1の非天然アミノ酸(UAA)及び第2のUAAを含むタンパク質を提供する。
【0025】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体(例えば、天然に存在しないトリプトファン類似体)である第1の非天然アミノ酸(UAA)と、ロイシン類似体(例えば、天然に存在しないロイシン類似体)である第2のUAAとを含む、哺乳動物細胞において発現されるタンパク質を提供する。特定の実施形態では、トリプトファン類似体は5-HTP及び5-AzWから選択され、かつ/又はロイシン類似体はLCA及びCys-5-N3から選択される。
【0026】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体(例えば、天然に存在しないトリプトファン類似体)である第1の非天然アミノ酸(UAA)と、チロシン類似体(例えば、天然に存在しないチロシン類似体)である第2のUAAとを含む、哺乳動物細胞において発現されるタンパク質を提供する。特定の実施形態では、トリプトファン類似体は、5-HTP及び5-AzWから選択され、かつ/又はチロシン類似体は、OmeY、AzF、及びOpropY UAAから選択される。
【0027】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体(例えば、天然に存在しないトリプトファン類似体)である第1の非天然アミノ酸(UAA)と、ピロリシン類似体(例えば、天然に存在しないピロリシン類似体)である第2のUAAとを含む、哺乳動物細胞において発現されるタンパク質を提供する。特定の実施形態では、トリプトファン類似体は、5-HTP及び5-AzWから選択され、かつ/又はピロリシン類似体は、BocK、CpK、AzK、及びCpKから選択される。
【0028】
上述のタンパク質のいずれかの特定の実施形態では、検出可能な標識又は分子(例えば、薬物、例えば、小分子薬物)は、上記第1のUAA及び/又は第2のUAAを介してタンパク質に共有結合される。特定の実施形態では、上記タンパク質は、抗体(又はその断片、例えば、その抗原結合断片)、二重特異性抗体、ナノボディ、アフィボディ、ウイルスタンパク質、ケモカイン、サイトカイン、抗原、血液凝固因子、ホルモン、成長因子、酵素、細胞シグナル伝達タンパク質、又は任意の他のポリペプチド若しくはタンパク質である。
【0029】
本発明のこれら及び他の態様及び特徴は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明は、以下の図面を参照してより完全に理解することができる。
【0031】
図1図1は、非天然アミノ酸(UAA)を用いた遺伝コード拡大の概略図を描く。
図2A図2Aは、ロイシルtRNA合成酵素に対する例示的な基質であるUAAのサブセットを描く。
図2B図2Bは、ロイシルtRNA合成酵素に対する例示的な基質であるUAAのサブセットを描く。
図2C図2Cは、ロイシルtRNA合成酵素に対する例示的な基質であるUAAのサブセットを描く。
図3図3は、トリプトファニルtRNA合成酵素に対する例示的な基質であるUAAのサブセットを示す。
図4A図4Aは、UAA C5Az、LCA、及びAzWを描く。
図4B図4Bは、C5Azの合成経路を描く。
図4C図4Cは、AzWの合成経路を描く。
図4D図4Dは、LCAの合成経路を描く。
図4E図4Eは、LCAの合成経路を描く。
図4F図4Fは、LCAの合成経路を描く。
図5図5は、チロシルtRNA合成酵素に対する例示的な基質であるUAAのサブセットを描く。
図6図6は、ピロリシルtRNA合成酵素に対する例示的な基質であるUAAのサブセットを描く。
図7図7は、2つの別個の非天然アミノ酸(UAA)の部位特異的組み込みの概略図である。
図8図8は、蛍光レポーターを用いた例示的なtRNA/アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)対の哺乳動物細胞におけるTGA終止コドン抑制の比較を示す。
図9A図9A~9Bは、試験したtRNA-合成酵素対の交差反応性を示す。図9Aは、蛍光レポーターを用いた、哺乳動物細胞におけるLeuRS、EcTyrRS、PIRS、及びEcTrpRS対のTAG終止コドン抑制の比較を描く。
図9B図9A~9Bは、試験したtRNA-合成酵素対の交差反応性を示す。図9Bは、蛍光レポーターを用いた、哺乳動物細胞におけるLeuRS、EcTyrRS、PyIRS、及びEcTrpRS対のTGA終止コドン抑制の比較を描く。
図10A図10A~10Bは、2つのUAAの部位特異的組み込みを示す。図10Aは、組み込みについてのレポーターとしてEGFP蛍光を使用する例示的なUAA対の部位特異的組み込み効率を示す棒グラフである。
図10B図10A~10Bは、2つのUAAの部位特異的組み込みを示す。図10Bは、部位特異的取り込みの読み出しとしてGFPタンパク質産生を用いて、2つのUAAを有する例示的なタンパク質の産生を示すSDS-PAGEゲルである。
図11A図11A~11Jは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)結果を示す。図11Aは、例示的なUAA HTP及びBocKを含有するEGFPの質量分析結果を示すヒストグラムである。
図11B図11A~11Jは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)結果を示す。図11Bは、例示的なUAA 5HTP及びOMeYを含有するEGFPの質量分析結果を示すヒストグラムである。
図11C図11A~11Jは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)結果を示す。図11Cは、例示的なUAA 5HTP及びCys-5-N3を含有するEGFPの質量分析結果を示すヒストグラムである。
図11D図11A~11Jは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)結果を示す。図11Dは、例示的なUAA 5HTP及びBocKを含有するEGFPの質量分析結果を示すヒストグラムである。
図11E図11A~11Jは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)結果を示す。図11Eは、例示的なUAA 5HTP及びシクロプロペン-Kを含有するEGFPの質量分析結果を示すヒストグラムである。
図11F図11A~11Jは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)結果を示す。図11Fは、例示的なUAA AzW及びシクロプロペン-Kを含有するEGFPの質量分析結果を示すヒストグラムである。
図11G図11A~11Jは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)結果を示す。図11Gは、例示的なUAA 5HTP及びAzKを含有するEGFPの質量分析結果を示すヒストグラムである。
図11H図11A~11Jは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)結果を示す。図11Hは、例示的なUAA 5HTP及びAzKを含有する蛍光ジアゾ標識EGFPの質量分析結果を示すヒストグラムである。
図11I図11A~11Jは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)結果を示す。図11Iは、例示的なUAA 5HTP及びAzKを含有するDBCO-TAMRA標識EGFPの質量分析結果を示すヒストグラムである。
図11J図11A~11Jは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)結果を示す。図11Jは、例示的なUAA 5HTP及びAzKを含有する蛍光ジアゾ及びDBCO-TAMRA標識EGFPの質量分析結果を示すヒストグラムである。
図12A図12Aは、フルオレセインを有する蛍光標識EGFPの生成を示すSDS-PAGEゲルである。
図12B図12Bは、TAMRAを有する蛍光標識EGFPの生成を示すSDS-PAGEゲルである。
図13A図13A~13Bは、2つのUAAを含有するIgGのタンパク質収率を示す。図13Aは、T202(重鎖)及びK113(軽鎖)におけるUAA組み込みを有するIgGについての総タンパク質収量をmg/Lで示す棒グラフである。
図13B図13A~13Bは、2つのUAAを含有するIgGのタンパク質収率を示す。図13Bは、T202及びK113におけるUAA組み込みを有するIgGのSDS-PAGEゲルである。
図14A図14A~14Bは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のESI-MS結果を示す。図14Aは、例示的なUAA HTPを含有するPNGase還元IgG重鎖(HC)の質量分析結果を示すヒストグラムである。
図14B図14A~14Bは、2つのUAAを含有するEGFPタンパク質のESI-MS結果を示す。図14Bは、例示的なUAA LCAを含有するPNGase還元IgG軽鎖(LC)の質量分析結果を示すヒストグラムである。
図15図15は、複数のUAAの部位特異的組み込みのために利用されるIgGタンパク質構造の保存領域を描く。
図16図16は、例えば、質量分析研究のための、クリックケミストリー及びジアゾカップリングで標識された、UAA HTP及びLCAを含む抗体の模式図を描く。
図17A図17A~17Eは、クリックケミストリー及びジアゾカップリングで標識された、UAA HTP及びLCAを含む抗体の高速液体クロマトグラフィー疎水性相互作用クロマトグラフィー(HPLC-HIC)トレースを示す。
図17B図17A~17Eは、クリックケミストリー及びジアゾカップリングで標識された、UAA HTP及びLCAを含む抗体の高速液体クロマトグラフィー疎水性相互作用クロマトグラフィー(HPLC-HIC)トレースを示す。
図17C図17A~17Eは、クリックケミストリー及びジアゾカップリングで標識された、UAA HTP及びLCAを含む抗体の高速液体クロマトグラフィー疎水性相互作用クロマトグラフィー(HPLC-HIC)トレースを示す。
図17D図17A~17Eは、クリックケミストリー及びジアゾカップリングで標識された、UAA HTP及びLCAを含む抗体の高速液体クロマトグラフィー疎水性相互作用クロマトグラフィー(HPLC-HIC)トレースを示す。
図17E図17A~17Eは、クリックケミストリー及びジアゾカップリングで標識された、UAA HTP及びLCAを含む抗体の高速液体クロマトグラフィー疎水性相互作用クロマトグラフィー(HPLC-HIC)トレースを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、部分的には、哺乳動物細胞において産生されるタンパク質への複数の異なるUAAの効率的な部位特異的組み込みを可能にする、ナンセンスコドン、tRNA、アミノアシル-tRNA合成酵素、及びUAAの組み合わせの発見に基づく。タンパク質への複数のUAAの成功した効率的な組み込みを可能にする成分の選択は、そのようなマルチサイト組み込みのために使用することができる、異なるaaRS、tRNA、UAA、コドン、及び対の組み合わせの200万を超える可能な組み合わせが存在することを考えると、困難である。結果として、2つの別個のバイオコンジュゲーションハンドルの部位特異的組み込みに使用するのに適したこれらの要素の特定の組み合わせを見出すことは困難である。
【0033】
1つの態様では、本発明は、第1の非天然アミノ酸(UAA)及び第2の異なるUAAを含むタンパク質(例えば、第1及び第2のUAAがそれぞれ、タンパク質ポリペプチド鎖中の特定の異なる位置でタンパク質に組み込まれる)を産生する方法を提供する。当該方法は、(i)UAG、UGA、及びUAAから選択される第1のコドンにハイブリダイズし、かつ上記第1のUAAを結合することができるアンチコドンを含む第1のtRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(ii)上記第1のtRNAに上記第1のUAAを結合させることができる第1のアミノアシル-tRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iii)UAG、UGA、及びUAAから選択される第2のコドンにハイブリダイズし、かつ上記第2のUAAを結合することができるアンチコドンを含む第2のtRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸であって、上記第1及び第2のtRNAは同じアンチコドンを含有しない核酸、(iv)上記第2のtRNAに上記第2のUAAを結合させることができる第2のアミノアシル-tRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに(v)上記第1のコドン及び上記第2のコドンを含む上記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を有する哺乳動物細胞を、上記第1のtRNAが、上記細胞中で発現され上記第1のUAAを結合しているときに、上記第1のコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記第1のUAAの組み込みを導き、上記第2のtRNAが、上記細胞中で発現され上記第2のUAAを結合しているときに、上記第2のコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記第2のUAAの組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含む。
【0034】
特定の実施形態では、細胞によって発現される第1及び第2のUAAを含むタンパク質の発現収率は、参照タンパク質の発現収率の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%である。例えば、特定の実施形態では、細胞によって発現される第1及び第2のUAAを含むタンパク質の量は、同じ細胞又は同様の細胞によって発現される参照タンパク質の量の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%である。特定の実施形態では、参照タンパク質は、第1及び第2のUAAを含まないが、その点を除けば第1及び第2のUAAを含むタンパク質と同一であるタンパク質である。例えば、参照タンパク質は、野生型アミノ酸配列を含んでもよいし、又は第1及び第2のUAAに対応する位置に野生型アミノ酸残基を含んでもよい。タンパク質発現は、例えば、ウエスタンブロット又はELISAを含む、当該技術分野で公知の任意の方法によって測定されてもよい。発現は、タンパク質の精製後の規定の体積及び純度の溶液中のタンパク質濃度を測定することによって(例えば、280nmでの紫外線(UV)吸収又はブラッドフォード(Bradford)アッセイによって)測定されてもよい。蛍光タンパク質(例えば、レポータータンパク質)の発現は、本明細書の実施例2~4に記載されるように、蛍光顕微鏡法によって測定されてもよい。特定の実施形態では、開示された方法によると、第1及び第2のUAAを含有するEGFPレポータータンパク質(例えば、2つの終止コドンを含有するヌクレオチド配列によってコードされるEGFPレポータータンパク質、例えば、実施例4に記載されるような、終止コドンTAG及びTGAを含有するEGFP-39TAG-151TGA)の発現収率が、第1及び第2のUAAを含有しない対応するEGFPレポータータンパク質(例えば、野生型EGFPタンパク質)の発現収率の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%となる。
【0035】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体及びロイシン類似体を含むタンパク質を生成する方法を提供する。当該方法は、(i)UGAコドンにハイブリダイズし、かつ上記トリプトファン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌トリプトファニル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(ii)上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体に上記トリプトファン類似体を結合させることができる大腸菌トリプトファニル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iii)UAGコドンにハイブリダイズし、かつ上記ロイシン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌ロイシル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iv)上記大腸菌ロイシル-tRNAの上記誘導体に上記ロイシン類似体を結合させることができる大腸菌ロイシル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに(v)上記UGAコドン及び上記UAGコドンを含む上記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を有する哺乳動物細胞を、上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記トリプトファン類似体を結合しているときに、上記UGAコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記トリプトファンの組み込みを導き、上記大腸菌ロイシル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記ロイシン類似体を結合しているときに、上記UAGコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記ロイシン類似体の組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含む。
【0036】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体及びチロシン類似体を含むタンパク質を生成する方法を提供する。当該方法は、(i)UGAコドンにハイブリダイズし、かつ上記トリプトファン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌トリプトファニル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(ii)上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体に上記トリプトファン類似体を結合させることができる大腸菌トリプトファニル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iii)UAGコドンにハイブリダイズし、かつ上記チロシン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌チロシル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iv)上記大腸菌チロシル-tRNAの上記誘導体に上記チロシン類似体を結合させることができる大腸菌チロシル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに(v)上記UGAコドン及び上記UAGコドンを含む上記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を有する哺乳動物細胞を、上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記トリプトファン類似体を結合しているときに、上記UGAコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記トリプトファンの組み込みを導き、上記大腸菌チロシル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記チロシン類似体を結合しているときに、上記UAGコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記チロシン類似体の組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含む。
【0037】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体及びピロリシン類似体を含むタンパク質を生成する方法を提供する。当該方法は、(i)UGAコドンにハイブリダイズし、かつ上記トリプトファン類似体を結合することができるアンチコドンを含む大腸菌トリプトファニル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(ii)上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体に上記トリプトファン類似体を結合させることができる大腸菌トリプトファニル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iii)UAGコドンにハイブリダイズし、かつ上記ピロリシン類似体を結合することができるアンチコドンを含むメタノサルシナ・バルケリピロリシル-tRNAの誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、(iv)上記メタノサルシナ・バルケリピロリシル-tRNAの上記誘導体に上記ピロリシン類似体を結合させることができるメタノサルシナ・バルケリピロリシル-tRNA合成酵素の誘導体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、並びに(v)上記UGAコドン及び上記UAGコドンを含む上記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を有する哺乳動物細胞を、上記大腸菌トリプトファニル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記トリプトファン類似体を結合しているときに、上記UGAコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記トリプトファンの組み込みを導き、上記大腸菌ピロリシル-tRNAの上記誘導体が、上記細胞中で発現され上記ピロリシン類似体を結合しているときに、上記UAGコドンにハイブリダイズし、上記タンパク質への上記ピロリシン類似体の組み込みを導くことを可能にする条件下で培養する工程を含む。
【0038】
別の態様では、本発明は、上述の方法のいずれかによって製造された第1の非天然アミノ酸(UAA)及び第2のUAAを含むタンパク質を提供する。
【0039】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体である第1の非天然アミノ酸(UAA)とロイシン類似体である第2のUAAとを含む、哺乳動物細胞において発現されるタンパク質を提供する。特定の実施形態では、トリプトファン類似体は5-HTP及び5-AzWから選択され、かつ/又はロイシン類似体はLCA及びCys-5-N3から選択される。
【0040】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体である第1の非天然アミノ酸(UAA)とチロシン類似体である第2のUAAとを含む、哺乳動物細胞において発現されるタンパク質を提供する。特定の実施形態では、トリプトファン類似体は、5-HTP及び5-AzWから選択され、かつ/又はチロシン類似体は、OmeY、AzF、及びOpropY UAAから選択される。
【0041】
別の態様では、本発明は、トリプトファン類似体である第1の非天然アミノ酸(UAA)とピロリシン類似体である第2のUAAとを含む、哺乳動物細胞において発現されるタンパク質を提供する。特定の実施形態では、トリプトファン類似体は、5-HTP及び5-AzWから選択され、かつ/又はピロリシン類似体は、BocK、CpK、AzK、及びCpKから選択される。
【0042】
別の態様では、本発明は、上述のタンパク質のいずれかを含む組成物を提供する。特定の実施形態では、組成物中の第1及び第2のUAAを含むタンパク質の純度は、少なくとも50%である(すなわち、第1及び第2のUAAを含むタンパク質は、当該組成物中の総タンパク質の少なくとも50%である)。特定の実施形態では、組成物中の上記タンパク質の純度は、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。特定の実施形態では、当該組成物中の総タンパク質の50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満又は1%未満は、第1又は第2のUAAを含まないがその点を除けば第1及び第2のUAAを含むタンパク質と同一である任意のタンパク質である。
【0043】
本明細書で使用する場合、「直交」という用語は、目的の発現系(例えば、内因性細胞翻訳系)によって低い効率で使用される分子(例えば、直交tRNA又は直交アミノアシル-tRNA合成酵素)を指す。例えば、目的の翻訳系における直交tRNAは、内因性アミノアシル-tRNA合成酵素による内因性tRNAのアミノアシル化と比較した場合に、低減された効率で、又はさらにゼロの効率で、目的の翻訳系の任意の内因性アミノアシル-tRNA合成酵素によってアミノアシル化される。別の例では、直交アミノアシル-tRNA合成酵素は、内因性アミノアシル-tRNA合成酵素による内因性tRNAのアミノアシル化と比較して、低減された効率で、又はさらにゼロの効率で、目的の翻訳系における任意の内因性tRNAをアミノアシル化する。
【0044】
本発明の種々の特徴及び態様は、以下により詳細に論じられる。
【0045】
I. アミノアシル-tRNA合成酵素
本発明は、タンパク質への組み込みのためにtRNAに非天然アミノ酸を結合させることができる遺伝子操作されたアミノアシル-tRNA合成酵素(又はaaRS)に関する。本明細書で使用する場合、「アミノアシル-tRNA合成酵素」という用語は、タンパク質への組み込みのためにtRNAにアミノ酸(例えば、非天然アミノ酸)を結合させるか、又は結合させることができる任意の酵素又はその機能的断片を指す。本明細書で使用する場合、アミノアシル-tRNA合成酵素の「機能的断片」という用語は、対応する完全長tRNA合成酵素(例えば、天然に存在するtRNA合成酵素)の酵素活性の例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は100%を保持する完全長アミノアシル-tRNA合成酵素の断片を指す。アミノアシル-tRNA合成酵素の酵素活性は、当該技術分野で公知の任意の方法によってアッセイされてもよい。例えば、インビトロアミノアシル化アッセイは、Hobenら(1985) METHODS ENZYMOL. 113:55-59及び米国特許出願公開第2003/0228593号明細書に記載されており、細胞ベースのアミノアシル化アッセイは米国特許出願公開第2003/0082575号明細書及び米国特許出願公開第2005/0009049号明細書に記載されている。特定の実施形態では、機能的断片は、完全長tRNA合成酵素(例えば、天然に存在するアミノアシル-tRNA合成酵素)に存在する少なくとも100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、又は800個の連続するアミノ酸を含む。
【0046】
アミノアシル-tRNA合成酵素という用語は、野生型アミノアシル-tRNA合成酵素配列に対して1つ以上の変異(例えば、アミノ酸の置換、欠失、又は挿入)を有する変異体(すなわち、変異タンパク質(ムテイン))を含む。特定の実施形態では、アミノアシル-tRNA合成酵素変異タンパク質は、単一の変異(例えば、本明細書で企図される変異)を含むか、それからなるか、若しくはそれから本質的になってもよいし、又は2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個若しくは15個を超える数の変異(例えば、本明細書で企図される変異)の組み合わせを含むか、それらからなるか、若しくはそれから本質的になってもよい。アミノアシル-tRNA合成酵素変異タンパク質が、1~15、1~10、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、1~2、2~15、2~10、2~7、2~6、2~5、2~4、2~3、3~15、3~10、3~7、3~6、3~5、又は4~10、4~7、4~6、4~5、5~10、5~7、5~6、6~10、6~7、7~10、7~8又は8~10の変異(例えば、本明細書で企図される変異)を含むか、それらからなるか、又はそれから本質的になってもよいということが企図される。
【0047】
アミノアシル-tRNA合成酵素変異タンパク質は、野生型配列又は本明細書に開示される配列に対して保存的置換を含んでもよい。本明細書で使用する場合、「保存的置換」という用語は、構造的に類似のアミノ酸による置換を指す。例えば、保存的置換は、以下の群内のものを含んでもよい:Ser及びCys;Leu、Ile、及びVal;Glu及びAsp;Lys及びArg;Phe、Tyr、及びTrp;並びにGln、Asn、Glu、Asp、及びHis。保存的置換はまた、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)アルゴリズム、BLOSUM置換行列(例えば、BLOSUM 62行列)、又はPAM substitution:p行列(例えば、PAM 250行列)によって定義されてもよい。
【0048】
特定の実施形態では、アミノアシル-tRNA合成酵素変異タンパク質の基質特異性は、対応する(又は鋳型の)野生型アミノアシル-tRNA合成酵素と比較して、所望の非天然アミノ酸のみが基質tRNAに結合するが、一般的な20個のアミノ酸のいずれも結合しないように変更される。
【0049】
アミノアシル-tRNA合成酵素は、細菌源、例えば、大腸菌(エシェリキア・コリ、Escherichia coli)、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)、又はバチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermphilus)に由来してもよい。アミノアシル-tRNA合成酵素はまた、古細菌源、例えば、メタノサルシナセア属(Methanosarcinacaea)又はデスルフィトバクテリウム属(Desulfitobacterium)、M.バルケリ(Mb)、M.アルバス(M.alvus)(Ma)、M.マゼイ(M.mazei)(Mm)又はD.ハフニエンス(D.hafnisense)(Dh)ファミリーのいずれか、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)、ハロフェラックス・ボルカニ(Haloferax volcanii)、ハロバクテリウム(Halobacterium)種NRC-1、又はアルカエオグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus)に由来してもよい。他の実施形態では、真核生物源、例えば、植物、藻類、原生生物、真菌、酵母、又は動物(例えば、哺乳動物、昆虫、節足動物等)も使用することができる。本明細書で使用する場合、用語「誘導体」又は「…に由来」は、特定された分子若しくは生物から単離されるか、又はそれからの情報を使用して作製される成分を指す。本明細書で使用する場合、「類似体」という用語は、参照(基準)成分(例えば、野生型tRNA、野生型tRNA合成酵素、若しくは天然アミノ酸)に由来するか、又はそれと(構造及び/若しくは機能に関して)類似する成分(例えば、tRNA、tRNA合成酵素、若しくは非天然アミノ酸)を指す。特定の実施形態では、誘導体又は類似体は、参照又は起源成分(例えば、野生型成分)としての所与の活性の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%又はそれ以上を有する。
【0050】
アミノアシル-tRNA合成酵素は、インビトロ若しくはインビボで基質tRNAをアミノアシル化してもよく、ポリペプチド若しくはタンパク質として、又はアミノアシル-tRNA合成酵素をコードするポリヌクレオチドとして翻訳系(例えば、インビトロ翻訳系若しくは細胞)に提供されること可能であるということが企図される。
【0051】
特定の実施形態では、アミノアシル-tRNA合成酵素は、大腸菌ロイシル-tRNA合成酵素に由来し、例えば、アミノアシル-tRNA合成酵素は、大腸菌ロイシル-tRNA(又はその変異体)を、天然に存在するロイシンアミノ酸よりもロイシン類似体で優先的にアミノアシル化する。
【0052】
例えば、アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号1、又は配列番号1と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。特定の実施形態では、アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号1、又はその機能的断片若しくは変異体を含み、以下の変異のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ以上を有する:(i)配列番号1の位置2に対応する位置のグルタミン残基の置換、例えばグルタミン酸による置換(Q2E);(ii)配列番号1の位置20に対応する位置のグルタミン酸残基の置換、例えばリシン(E20K)、メチオニン(E20M)、若しくはバリン(E20V)による置換;(iii)配列番号1の位置40に対応する位置のメチオニン残基の置換、例えばイソロイシン(M40I)若しくはバリン(M40V)による置換;(iv)配列番号1の位置41に対応する位置のロイシン残基の置換、例えばセリン(L41S)、バリン(L41V)、若しくはアラニン(L41A)による置換;(v)配列番号1の位置252に対応する位置のトレオニン残基の置換、例えば、アラニン(T252A)若しくはアルギニン(T252R)による置換;(vi)配列番号1の位置499に対応する位置のチロシン残基の置換、例えばイソロイシン(Y499I)、セリン(Y499S)、アラニン(Y499A)、若しくはヒスチジン(Y499H)による置換;(vii)配列番号1の位置527に対応する位置のチロシン残基の置換、例えばアラニン(Y527A)、ロイシン(Y527L)、イソロイシン(Y527I)、バリン(Y527V)、若しくはグリシン(Y527G)による置換;若しくは(viii)配列番号1の位置537に対応する位置のヒスチジン残基の置換、例えばグリシンによる置換(H537G)、又は上述のものの任意の組み合わせ。
【0053】
特定の実施形態では、上記アミノアシル-tRNA合成酵素は、以下を含む:(i)配列番号1のHis537に対応する位置の少なくとも1つの置換(例えば、疎水性アミノ酸による置換)、(ii)E20V、E20M、L41V、L41A、Y499H、Y499A、Y527I、Y527V、Y527G、及びこれらの任意の組み合わせから選択される少なくとも1つのアミノ酸置換、(iii)E20K及びL41S並びにこれらの任意の組み合わせから選択される少なくとも1つのアミノ酸置換、並びにM40I、T252A、Y499I及びY527A並びにこれらの任意の組み合わせから選択される少なくとも1つのアミノ酸置換、又は(iv)(i)、(ii)及び(iii)のうちの2つ以上の組み合わせ、例えば、(i)及び(ii)、(i)及び(iii)、(ii)及び(iii)並びに(i)、(ii)及び(iii)。
【0054】
特定の実施形態では、上記アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号1の位置20に対応する位置のグルタミン酸残基の置換、例えばGlu又はLys以外のアミノ酸による置換、例えば疎水性アミノ酸(例えばLeu、Val又はMet)による置換を含む。特定の実施形態では、アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号1の位置41に対応する位置のロイシン残基の置換、例えば、Leu又はSer以外のアミノ酸による置換、例えば、Leu以外の疎水性アミノ酸(例えば、Gly、Ala、Val、又はMet)による置換を含む。特定の実施形態では、アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号1の位置499に対応する位置のチロシン残基の置換、例えば、小さい疎水性アミノ酸(例えば、Gly、Ala、若しくはVal)による置換、又は正に荷電したアミノ酸(例えば、Lys、Arg、若しくはHis)による置換を含む。特定の実施形態では、アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号1の位置527に対応する位置のチロシン残基の置換、例えば、Ala又はLeu以外の疎水性アミノ酸(例えば、Gly、Ile、Met、又はVal)による置換を含む。特定の実施形態では、tRNA合成酵素変異タンパク質はL41Vを含む。
【0055】
特定の実施形態では、上記アミノアシル-tRNA合成酵素は、以下から選択される変異の組み合わせを含む:(i)Q2E、E20K、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527A、及びH537G;(ii)Q2E、E20K、M40V、L41S、T252R、Y499S、Y527L、及びH537G;(iii)Q2E、M40I、T252A、Y499I、Y527A、及びH537G;(iv)Q2E、E20M、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527A、及びH537G;(v)Q2E、E20V、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527A、及びH537G;(vi)Q2E、E20K、M40I、L41V、T252A、Y499I、Y527A、及びH537G;(vii)Q2E、E20K、M40I、L41A、T252A、Y499I、Y527A、及びH537G;(viii)Q2E、E20K、M40I、L41S、T252A、Y499A、Y527A、及びH537G;(ix)Q2E、E20K、M40I、L41S、T252A、Y499H、Y527A、及びH537G;(x)Q2E、E20K、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527I、及びH537G;(xi)Q2E、E20K、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527V、及びH537G;(xii)Q2E、E20K、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527G、及びH537G;(xiii)E20K、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527A、及びH537G;(xiv)E20M、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527A、及びH537G;(xv)E20V、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527A、及びH537G;(xvi)E20K、M40I、L41V、T252A、Y499I、Y527A、及びH537G;(vii)E20K、M40I、L41A、T252A、Y499I、Y527A、及びH537G;(xviii)E20K、M40I、L41S、T252A、Y499A、Y527A、及びH537G;(xix)E20K、M40I、L41S、T252A、Y499H、Y527A、及びH537G;(xx)E20K、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527I、及びH537G;(xxi)E20K、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527V、及びH537G;並びに(xxii)E20K、M40I、L41S、T252A、Y499I、Y527G、及びH537G。
【0056】
特定の実施形態では、上記アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号2~13のいずれか1つのアミノ酸配列、又は配列番号2~13のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0057】
特定の実施形態では、上記tRNA合成酵素変異タンパク質は、XがQ又はEであり、X20がE、K、V又はMであり、X40がM、I又はVであり、X41がL、S、V又はAであり、X252がT、A又はRであり、X499がY、A、I、H又はSであり、X527がY、A、I、L、又はVであり、X537がH又はGである配列番号14のアミノ酸配列を含み、上記tRNA合成酵素変異タンパク質は、配列番号1と比較して少なくとも1つの変異(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、又はそれ以上の変異)を含む。特定の実施形態では、tRNA合成酵素変異タンパク質は、X20がK、V又はMであり、X41がS、V又はAであり、X499がA、I又はHであり、X527がA、I又はVである配列番号15のアミノ酸配列を含み、tRNA合成酵素変異タンパク質は配列番号1と比較して少なくとも1つの変異を含む。
【0058】
特定の実施形態では、上記アミノアシル-tRNA合成酵素は、大腸菌トリプトファニルtRNA合成酵素に由来し、例えば、アミノアシル-tRNA合成酵素は、大腸菌トリプトファニルtRNA(又はその変異体)を、天然に存在するトリプトファンアミノ酸よりもトリプトファン類似体で優先的にアミノアシル化する。
【0059】
例えば、上記アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号44、又は配列番号44と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。特定の実施形態では、アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号44、又はその機能的断片若しくは変異体を含むが、以下の変異のうちの1つ以上を有する:(i)配列番号44の位置8に対応する位置のセリン残基の置換、例えばアラニンによる置換(S8A);(ii)配列番号44の位置144に対応する位置のバリン残基の置換、例えばセリン(V144S)、グリシン(V144G)又はアラニン(V144A)による置換;(iii)配列番号44の位置146に対応する位置のバリン残基の置換、例えばアラニン(V146A)、イソロイシン(V146I)、又はシステイン(V146C)による置換。特定の実施形態では、アミノアシル-tRNA合成酵素は、以下から選択される変異の組み合わせを含む:(i)S8A、V144S、及びV146A、(ii)S8A、V144G、及びV146I、(iii)S8A、V144A、及びV146A、並びに(iv)S8A、V144G、及びV146C。
【0060】
特定の実施形態では、アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号45~48のいずれか1つのアミノ酸配列、又は配列番号45~48のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0061】
特定の実施形態では、上記アミノアシル-tRNA合成酵素は、大腸菌チロシル-tRNA合成酵素に由来し、例えば、アミノアシル-tRNA合成酵素は、大腸菌チロシル-tRNA(又はその変異体)を、天然に存在するトリプトファンアミノ酸よりもチロシン類似体で優先的にアミノアシル化する。例えば、アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号70、又は配列番号70と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくはその機能的断片若しくは変異体を含んでもよい。
【0062】
特定の実施形態では、上記アミノアシル-tRNA合成酵素は、M.バルケリピロリシル-tRNA合成酵素に由来し、例えば、アミノアシル-tRNA合成酵素は、M.バルケリピロリシル-tRNA(又はその変異体)を、天然に存在するピロリシンアミノ酸よりもピロリシン類似体で優先的にアミノアシル化する。例えば、アミノアシル-tRNA合成酵素は、配列番号101、又は配列番号101と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、若しくはその機能的断片若しくは変異体を含んでもよい。
【0063】
配列同一性は、当業者の技能の範囲内である様々な方法で、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェア等の公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して決定されてもよい。プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn及びtblastx(Karlinら、(1990) PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 87:2264-2268;Altschul、(1993) J.MOL.EVOL. 36:290-300;Altschulら、(1997) NUCLEIC ACIDS RES. 25:3389-3402。これらは、参照により本明細書に組み込まれる)によって採用されるアルゴリズムを使用するBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)分析は、配列類似性検索のために調整されている。配列データベースを検索する際の基本的な問題の考察については、Altschulら、(1994) NATURE GENETICS 6:119-129を参照。この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。当業者は、比較される配列の完全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。ヒストグラム、説明、アラインメント、期待値(すなわち、データベース配列に対するマッチを報告するための統計的有意性閾値)、カットオフ、行列及びフィルタの検索パラメータは、デフォルト設定である。blastp、blastx、tblastn、及びtblastxによって使用されるデフォルトスコア行列は、BLOSUM62行列(Henikoffら、(1992) PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 89:10915-10919。この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)である。4つのblastnパラメータは、以下のように調整されてもよい:Q=10(gap creation penalty(ギャップ生成ペナルティ));R=10(gap extension penalty(ギャップ伸張ペナルティ));wink=1(クエリに沿ったwinkth位置ごとにワードヒットを生成する);及びgapw=16(ギャップ付き(分離した)アライメントが生成されるウィンドウ幅を設定する)。等価なblastpパラメータ設定は、Q=9;R=2;wink=1;及びgapw=32であってもよい。また、NCBI(National Center for Biotechnology Information(米国国立生物工学情報センター))BLAST Advanced Optionパラメータ(例えば:-G、ギャップを開くためのコスト[整数]:デフォルト=ヌクレオチドについては5/タンパク質については11;-E、ギャップを伸張するためのコスト[整数]:デフォルト=ヌクレオチドについて2/タンパク質について1;-q、ヌクレオチドミスマッチのペナルティ[整数]:デフォルト=-3;-r、ヌクレオチドマッチに対する報酬[整数]:デフォルト=1;-e、期待値[実数]:デフォルト=10;-W、ワードサイズ[整数]:デフォルト=ヌクレオチドについて11/メガブラスト(megablast)について28/タンパク質について3;-y、ビット単位のblast(ブラスト)伸張のためのドロップオフ(X):デフォルト=blastnについては20/その他については7;-X、ギャップ付きアライメントについてのXドロップオフ値(ビット単位):デフォルト=すべてのプログラムについて15であり、blastnには適用なし;並びに-Z、ギャップ付きアライメントについての最終Xドロップオフ値(ビット単位):blastnについては50、その他については25)を使用して検索が行われてもよい。ペアワイズタンパク質アラインメントのためのClustalWも使用されてもよい(デフォルトパラメータは、例えば、Blosum62行列及びGap Opening Penalty(ギャップ開放ペナルティ)=10及びGap Extension Penalty=0.1を含んでもよい)。GCGパッケージバージョン10.0において入手可能な配列間のBestfit比較は、DNAパラメータGAP=50(gap creation penalty)及びLEN=3(gap extension penalty)を使用する。Bestfitタンパク質比較における同等の設定は、GAP=8及びLEN=2である。
【0064】
タンパク質、例えば、アミノアシル-tRNA合成酵素を生成する方法は、当該技術分野において公知である。例えば、目的のタンパク質をコードするDNA分子は、化学的に、又は組換えDNA法によって合成することができる。目的のタンパク質をコードする得られたDNA分子を、例えば発現制御配列を含む他の適切なヌクレオチド配列にライゲーション(連結)して、所望のタンパク質をコードする従来の遺伝子発現構築物(すなわち発現ベクター)を生成することができる。明確な(規定の)遺伝子構築物の生成は、当該技術分野における日常的な技術の範囲内である。
【0065】
所望のタンパク質(例えば、アミノアシル-tRNA合成酵素)をコードする核酸を発現ベクターに組み込む(ライゲーションする)ことができ、これを従来のトランスフェクション又は形質転換技術によって宿主細胞に導入することができる。例示的な宿主細胞は、大腸菌細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児由来腎臓293(HEK293)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)、及び骨髄腫細胞である。形質転換された宿主細胞は、宿主細胞が所望のタンパク質を発現することを可能にする条件下で増殖させることができる。
【0066】
具体的な発現及び精製の条件は、用いられる発現系に応じて変わる。例えば、遺伝子が大腸菌において発現される場合、遺伝子は、最初に、適切な細菌プロモーター(例えば、Trp又はTac)及び原核生物シグナル配列の下流に操作された遺伝子を配置することによって発現ベクターにクローニングされる。発現されたタンパク質は分泌されてもよい。発現されたタンパク質は、屈折体又は封入体中に蓄積してもよく、これは、フレンチプレス又は超音波処理による細胞の破壊後に収集することができる。次いで、屈折体が可溶化され、タンパク質が、当該技術分野で公知の方法によってリフォールディング及び/又は切断されてもよい。
【0067】
操作された遺伝子が真核生物宿主細胞、例えばCHO細胞において発現される場合、遺伝子は最初に、適切な真核生物プロモーター、分泌シグナル、ポリA配列、及び終止コドンを含有する発現ベクターに挿入される。場合により、ベクター又は遺伝子構築物は、エンハンサー及びイントロンを含有してもよい。この遺伝子構築物は、従来の技術を用いて真核生物宿主細胞に導入することができる。
【0068】
目的のタンパク質(例えば、アミノアシル-tRNA合成酵素)は、そのようなタンパク質の発現を可能にする条件下で、そのタンパク質をコードする発現ベクターでトランスフェクトされた宿主細胞を増殖させる(培養する)ことによって生成することができる。発現後、タンパク質を回収し、当該技術分野で公知の技術、例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ又はヒスチジンタグ等の親和性タグを用いて精製又は単離することができる。
【0069】
アミノアシル-tRNA合成酵素を生成するための、及びこの合成酵素の基質特異性を変化させるためのさらなる方法は、米国特許出願公開第2003/0108885号明細書及び米国特許出願公開第2005/0009049号明細書、Hamano-Takakuら(2000) JOURNAL OF BIOL.CHEM. 275(51):40324-40328、Kigaら(2002) PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 99(15):9715-9723、及びFrancklynら(2002) RNA、8:1363-1372に見出すことができる。
【0070】
本発明は、本明細書に開示されるアミノアシル-tRNA合成酵素をコードする核酸も包含する。例えば、本明細書に開示されるロイシル-tRNA合成酵素変異タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、配列番号55~67に示されている。従って、本発明は、配列番号55~67のいずれか1つのヌクレオチド配列、又は配列番号55~67のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。本発明は、配列番号55~67のいずれか1つによってコードされるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又は配列番号55~67のいずれか1つによってコードされるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸も提供する。
【0071】
本明細書に開示されるトリプトファニル-tRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列は、配列番号103に示される。従って、本発明は、配列番号103のヌクレオチド配列、又は配列番号103と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。本発明は、配列番号103によってコードされるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又は配列番号103によってコードされるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸も提供する。
【0072】
本明細書に開示されるチロシル-tRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列は、配列番号71に示される。従って、本発明は、配列番号71のヌクレオチド配列、又は配列番号71と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。本発明は、配列番号71によってコードされるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又は配列番号71によってコードされるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸も提供する。
【0073】
本明細書に開示されるピロリシル-tRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列は、配列番号102に示される。従って、本発明は、配列番号102のヌクレオチド配列、又は配列番号102と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。本発明は、配列番号102によってコードされるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又は配列番号102によってコードされるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸も提供する。
【0074】
II. tRNA
本発明は、タンパク質への非天然アミノ酸の組み込みを媒介する転移RNA(tRNA)に関する。
【0075】
タンパク質合成時に、tRNA分子は、成長中のタンパク質(ポリペプチド)鎖への組み込みのためにアミノ酸をリボソームに渡す(届ける)。tRNAは、典型的には70~100ヌクレオチド程度の長さである。活性tRNAは、その合成中にtRNAに転写されてもよく、又は転写後プロセシング中に後に付加されてもよい3’CCA配列を含有する。アミノアシル化の間、所与のtRNA分子に結合しているアミノ酸は、3’末端リボースの2’又は3’ヒドロキシル基に共有結合して、アミノアシル-tRNA(aa-tRNA)を形成する。アミノ酸は、2’-ヒドロキシル基から3’-ヒドロキシル基に、及びその逆に自発的に移動することができるが、3’-OH位置からリボソームにおいて成長中のタンパク質鎖に組み込まれることが理解される。折り畳まれたaa-tRNA分子の他端のループは、アンチコドンとして知られる3塩基の配列を含む。このアンチコドン配列がリボソーム結合mRNA中の相補的な3塩基コドン配列とハイブリダイズ又は塩基対合すると、aa-tRNAはリボソームに結合し、そのアミノ酸がリボソームによって合成されているポリペプチド鎖に組み込まれる。特定のコドンと塩基対合するすべてのtRNAは、単一の特定のアミノ酸でアミノアシル化されるので、遺伝コードの翻訳は、tRNAによって行われる。mRNA中の61個の非終止コドンの各々は、その同族aa-tRNAの結合及びリボソームによって合成されている成長中のポリペプチド鎖への単一の特定のアミノ酸の付加を導く。用語「同族」は、共に機能する成分、例えば、tRNA及びアミノアシル-tRNA合成酵素を指す。
【0076】
サプレッサーtRNAは、所与の翻訳系におけるmRNAの読み取りを変化させる修飾tRNAである。例えば、サプレッサーtRNAは、終止コドン、4塩基コドン、又はレアコドン(使用頻度の低いコドン)等のコドンを介して読み込まれてもよい。サプレッサー(suppressor)におけるこの単語の使用は、特定の状況下で、その修飾tRNAがmRNA中のコドンの典型的な表現型効果を「抑制する(suppress)」という事実に基づく。サプレッサーtRNAは、典型的には、コドン特異性を変化させるアンチコドン、又はtRNAのアミノアシル化特性(アイデンティティ)を変化させるある位置のいずれかに変異(修飾)を含有する。「抑制活性」という用語は、tRNA、例えばサプレッサーtRNAが、目的の系における内因性翻訳機構によって読み込まれないコドン(例えば、未成熟終止コドン)を読み込む能力を指す。
【0077】
特定の実施形態では、tRNA(例えば、サプレッサーtRNA)は、修飾アンチコドン領域を含有し、修飾アンチコドンは、対応する天然に存在するアンチコドンとは異なるコドンとハイブリダイズする。
【0078】
特定の実施形態では、tRNAは、UAG(すなわち、「アンバー(amber)」終止コドン)、UGA(すなわち、「オパール(opal)」終止コドン)、及びUAA(すなわち、「オーカー(ochre)」終止コドン)から選択されるコドンにハイブリダイズするアンチコドンを含む。
【0079】
特定の実施形態では、tRNAは、非標準コドン、例えば4ヌクレオチドコドン又は5ヌクレオチドコドン、にハイブリダイズするアンチコドンを含む。4塩基コドンの例としては、AGGA、CUAG、UAGA及びCCCUが挙げられる。5塩基コドンの例としては、AGGAC、CCCCU、CCCUC、CUAGA、CUACU、及びUAGGCが挙げられる。非標準コドン、例えば4ヌクレオチドコドン又は5ヌクレオチドコドン、にハイブリダイズするアンチコドンを含むtRNA、及びそのようなtRNAを用いて非天然アミノ酸をタンパク質に組み込む方法は、例えば、Mooreら(2000) J.MOL.BIOL. 298:195;Hohsakaら(1999) J.AM.CHEM.SOC. 121:12194;Andersonら(2002) CHEMISTRY AND BIOLOGY 9:237-244;Magliery(2001) J.MOL.BIOL.307:755-769;及び国際公開第2005/007870号パンフレットに記載されている。
【0080】
本明細書で使用する場合、用語「tRNA」は、参照(例えば、野生型)tRNA配列と比較して1つ以上の変異(例えば、ヌクレオチドの置換、欠失、又は挿入)を有する変異体を含む。特定の実施形態では、tRNAは、単一の変異(例えば、本明細書で企図される変異)を含むか、それからなるか、若しくはそれから本質的になってもよいし、又は2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個若しくは15個を超える数の変異(例えば、本明細書で企図される変異)の組み合わせを含むか、それらからなるか、若しくはそれから本質的になってもよい。tRNAが、1~15、1~10、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、1~2、2~15、2~10、2~7、2~6、2~5、2~4、2~3、3~15、3~10、3~7、3~6、3~5、又は3~4の変異(例えば、本明細書で企図される変異)を含むか、それらからなるか、又はそれから本質的になってもよいということが企図される。
【0081】
特定の実施形態では、変異体サプレッサーtRNAは、対応する野生型サプレッサーtRNA(この文脈において、野生型サプレッサーtRNAは、抑制活性を付与するためのアンチコドン領域に対する任意の修飾を除いて野生型tRNA分子に対応するサプレッサーtRNAを指す)と比較して、非天然アミノ酸(例えば、本明細書で企図される非天然アミノ酸)を哺乳動物タンパク質に組み込む活性が増加している。変異体サプレッサーtRNAの活性は、野生型サプレッサーtRNAと比較して、例えば、約2.5~約200倍、約2.5~約150倍、約2.5~約100倍、約2.5~約80倍、約2.5~約60倍、約2.5~約40倍、約2.5~約20倍、約2.5~約10倍、約2.5~約5倍、約5~約200倍、約5~約150倍、約5~約100倍、約5~約80倍、約5~約60倍、約5~約40倍、約5~約20倍、約5~約10倍、約10~約200倍、約10~約150倍、約10~約100倍、約10~約80倍、約10~約60倍、約10~約40倍、約10~約20倍、約20~約200倍、約20~約150倍、約20~約100倍、約20~約80倍、約20~約60倍、約20~約40倍、約40~約200倍、約40~約150倍、約40~約100倍、約40~約80倍、約40~約60倍、約60~約200倍、約60~約150倍、約60~約100倍、約60~約80倍、約80~約200倍、約80~約150倍、約80~約100倍、約100~約200倍、約100~約150倍、又は約150~約200倍増加してもよい。
【0082】
上記tRNAは、インビトロ又はインビボで機能してもよく、翻訳系(例えば、インビトロ翻訳系又は細胞)に、成熟tRNA(例えば、アミノアシル化されたtRNA)として、又はtRNAをコードするポリヌクレオチドとして提供されることが可能であることが企図される。
【0083】
tRNAは、細菌源、例えば、大腸菌、サーマス・サーモフィルス、又はバチルス・ステアロサーモフィルスに由来してもよい。tRNAはまた、古細菌源、例えば、メタノサルシナセア属又はデスルフィトバクテリウム属、M.バルケリ(Mb)、M.アルバス(Ma)、M.マゼイ(Mm)又はD.ハフニエンス(Dh)ファミリーのいずれか、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカム、ハロフェラックス・ボルカニ、ハロバクテリウム種NRC-1、又はアルカエオグロブス・フルギダスに由来してもよい。他の実施形態では、真核生物源、例えば、植物、藻類、原生生物、真菌、酵母、又は動物(例えば、哺乳動物、昆虫、節足動物等)も使用することができる。
【0084】
特定の実施形態では、上記tRNAは、大腸菌ロイシル-tRNAに由来し、例えば、大腸菌ロイシル-tRNA合成酵素に由来するアミノアシル-tRNA合成酵素、例えば、本明細書で企図されるアミノアシル-tRNA合成酵素によって、天然に存在するロイシンアミノ酸よりもロイシン類似体を優先的に結合する。
【0085】
例えば、上記tRNAは、配列番号16~43のいずれか1つのヌクレオチド配列、若しくは配列番号16~43のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなってもよい。
【0086】
特定の実施形態では、上記tRNAは、大腸菌トリプトファニルtRNAに由来し、例えば、大腸菌トリプトファニルtRNA合成酵素に由来するアミノアシル-tRNA合成酵素、例えば、本明細書で企図されるアミノアシル-tRNA合成酵素によって、天然に存在するトリプトファンアミノ酸よりもトリプトファン類似体を優先的に結合する。
【0087】
例えば、上記tRNAは、配列番号49~54若しくは108~113のいずれか1つのヌクレオチド配列、若しくは配列番号49~54若しくは108~113のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなってもよい。
【0088】
特定の実施形態では、上記tRNAは、大腸菌チロシル-tRNAに由来し、例えば、大腸菌チロシル-tRNA合成酵素に由来するアミノアシル-tRNA合成酵素、例えば、本明細書で企図されるアミノアシル-tRNA合成酵素によって、天然に存在するチロシンアミノ酸よりもチロシン類似体を優先的に結合する。
【0089】
例えば、上記tRNAは、配列番号68~69若しくは104~105のいずれか1つのヌクレオチド配列、若しくは配列番号68~69若しくは104~105のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなってもよい。
【0090】
特定の実施形態では、上記tRNAは、M.バルケリピロリシル-tRNAに由来し、例えば、M.バルケリピロリシル-tRNA合成酵素に由来するアミノアシル-tRNA合成酵素、例えば、本明細書で企図されるアミノアシル-tRNA合成酵素によって、天然に存在するピロリシンアミノ酸よりもピロリシン類似体を優先的に結合する。
【0091】
例えば、上記tRNAは、配列番号72~100若しくは106~107のいずれか1つのヌクレオチド配列、若しくは配列番号72~100若しくは106~107のいずれか1つと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなってもよい。
【0092】
本明細書全体を通して、tRNAが1つ以上のチミン(T)を含むヌクレオチド配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる各場合において、1つ以上のチミン(T)の代わりにウラシル(U)を、若しくはすべてのチミン(T)の代わりにウラシル(U)含む同じヌクレオチド配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなるtRNAも企図されることが理解される。同様に、tRNAが1つ以上のウラシル(U)を含むヌクレオチド配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる各場合において、1つ以上のウラシル(U)の代わりにチミン(T)を、若しくはすべてのウラシル(U)の代わりにチミン(T)含むヌクレオチド配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなるtRNAも企図される。加えて、塩基に対するさらなる修飾が存在してもよい。
【0093】
組換えtRNAを生成する方法は、米国特許出願公開第2003/0108885号明細書及び米国特許出願公開第2005/0009049号明細書、Forsterら(2003) PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 100(11):6353-6357、及びFengら(2003) PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 100(10):5676-5681に記載されている。
【0094】
tRNAは、酵素的方法又は化学的方法を含む任意の方法によって、所望の非天然アミノ酸(UAA)でアミノアシル化されてもよい(すなわち、所望の非天然アミノ酸を結合してもよい)。
【0095】
tRNAに結合させることができる酵素分子としては、アミノアシル-tRNA合成酵素、例えば、本明細書に開示されるアミノアシル-tRNA合成酵素が挙げられる。tRNAに結合させることができるさらなる酵素分子としては、例えば、Illangakekareら(1995) SCIENCE 267:643-647、Lohseら(1996) NATURE 381:442-444、Murakamiら(2003) CHEMISTRY AND BIOLOGY 10:1077-1084、米国特許出願公開第2003/0228593号明細書に記載されているリボザイムが挙げられる、
【0096】
化学的アミノアシル化法としては、Hecht(1992)ACC.CHEM.RES. 25:545、Hecklerら(1988) BIOCHEM. 1988、27:7254、Hechtら(1978) J.BIOL.CHEM. 253:4517、Cornishら(1995) ANGEW.CHEM.INT.ED.ENGL. 34:621、Robertsonら(1991) J.AM.CHEM.SOC. 113:2722、Norenら(1989) SCIENCE 244:182、Bainら(1989) J.AM.CHEM.SOC. 111:8013、Bainら(1992) NATURE 356:537、Gallivanら(1997) CHEM.BIOL. 4:740、Turcattiら(1996) J.BIOL.CHEM. 271:19991、Nowakら(1995) SCIENCE 268:439、Saksら(1996)J.BIOL.CHEM. 271:23169、及びHohsakaら(1999) J.AM.CHEM.SOC. 121:34に記載されているものが含まれる。
【0097】
III. 非天然アミノ酸(UAA)
本発明は、非天然アミノ酸(UAA)及びタンパク質へのそれらの組み込みに関する。
【0098】
本明細書で使用する場合、非天然アミノ酸は、以下の20個の遺伝的にコードされるα-アミノ酸以外の任意のアミノ酸、修飾アミノ酸、又はアミノ酸類似体を指す:アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン。これら20種の天然アミノ酸の構造については、例えば、L.StryerによるBiochemistry、第3版、1988、Freeman and Company、ニューヨークを参照されたい。非天然アミノ酸という用語は、天然アミノ酸の修飾(例えば、翻訳後修飾)によって生じるが、翻訳複合体によって成長中のポリペプチド鎖に天然に組み込まれないアミノ酸も含む。
【0099】
非天然アミノ酸は、典型的には、側鎖の構造のみにおいて天然アミノ酸と異なるため、非天然アミノ酸は、例えば、天然に存在するタンパク質において形成されるのと同じ様式で、他のアミノ酸とアミド結合を形成してもよい。しかしながら、非天然アミノ酸は、それ自体を天然アミノ酸と区別する側鎖基を有する。例えば、側鎖は、アルキル-、アリール-、アシル-、ケト-、アジド-、ヒドロキシル-、ヒドラジン、シアノ-、ハロ-、ヒドラジド、アルケニル、アルキル、エーテル、チオール、セレノ-、スルホニル-、ボレート、ボロネート、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、複素環式、エノン、イミン、アルデヒド、エステル、チオ酸、ヒドロキシルアミン、アミン等、又はこれらのいずれかの組み合わせを含んでもよい。他の非天然アミノ酸としては、光活性化可能な架橋剤を含むアミノ酸、スピン標識したアミノ酸、蛍光アミノ酸、金属結合アミノ酸、金属含有アミノ酸、放射性アミノ酸、新規官能基を有するアミノ酸、他の分子と共有結合又は非共有結合で相互作用するアミノ酸、光ケージ化(photocaged)アミノ酸及び/又は光異性化可能なアミノ酸、ビオチン又はビオチン類似体を含むアミノ酸、糖置換セリン等のグリコシル化アミノ酸、他の炭水化物修飾アミノ酸、ケト含有アミノ酸、ポリエチレングリコール又はポリエーテルを含むアミノ酸、重原子置換アミノ酸、化学的に切断可能及び/又は光切断可能なアミノ酸、天然アミノ酸と比較して伸長された側鎖(ポリエーテル又は長鎖炭化水素(約5を超える数、又は約10を超える数の炭素が挙げられるがこれらに限定されない)が挙げられるがこれらに限定されない)を有するアミノ酸、炭素結合糖含有アミノ酸、酸化還元活性アミノ酸、アミノチオ酸含有アミノ酸、並びに1つ以上の毒性部分を含むアミノ酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
新規な側鎖を含有する非天然アミノ酸に加えて、非天然アミノ酸はまた、場合により修飾された骨格構造も含む。
【0101】
多くの非天然アミノ酸は、チロシン、グルタミン、フェニルアラニン等の天然アミノ酸に基づく。チロシン類似体には、パラ置換チロシン、オルト置換チロシン、及びメタ置換チロシンが含まれ、この置換チロシンは、ケト基(アセチル基を含むが、これに限定されない)、ベンゾイル基、アミノ基、ヒドラジン、ヒドロキシアミン、チオール基、カルボキシ基、イソプロピル基、メチル基、C~C20の直鎖又は分岐炭化水素、飽和又は不飽和炭化水素基、O-メチル基、ポリエーテル基、ニトロ基等を含む。加えて、多置換アリール環も企図される。グルタミン類似体としては、α-ヒドロキシ誘導体、γ-置換誘導体、環状誘導体、及びアミド置換グルタミン誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。例示的なフェニルアラニン類似体としては、パラ置換フェニルアラニン、オルト置換フェニルアラニン、及びメタ置換フェニルアラニンが挙げられるが、これらに限定されず、置換基は、ヒドロキシ基、メトキシ基、メチル基、アリル基、アルデヒド、アジド、ヨード、ブロモ、ケト基(アセチル基を含むが、これに限定されない)等を含む。非天然アミノ酸の具体例としては、p-アセチル-L-フェニルアラニン、p-プロパルギル-フェニルアラニン、O-メチル-L-チロシン、L-3-(2-ナフチル)アラニン、3-メチル-フェニルアラニン、O-4-アリル-L-チロシン、4-プロピル-L-チロシン、トリ-O-アセチル-GlcNAcβ-セリン、L-Dopa、フッ素化されたフェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、p-アジド-L-フェニルアラニン、p-アシル-L-フェニルアラニン、p-ベンゾイル-L-フェニルアラニン、L-ホスホセリン(リン酸化セリン)、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p-ヨード-フェニルアラニン、p-ブロモフェニルアラニン、p-アミノ-L-フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、及びp-プロパルギルオキシ-フェニルアラニン等が挙げられるが、これらに限定されない
【0102】
種々の非天然アミノ酸の構造の例は、米国特許出願公開第2003/0082575号明細書及び米国特許出願公開第2003/0108885号明細書、国際公開第2002/085923号パンフレット及びKiickら(2002) PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 99:19-24に提供されている。
【0103】
特定の実施形態では、非天然アミノ酸(UAA)は、バイオコンジュゲーションハンドルを含む。特定の実施形態では、本明細書に開示される方法は、それぞれが異なるバイオコンジュゲーションハンドルを有する2つの異なるUAAを単一のタンパク質に部位特異的に組み込むために使用されてもよい。特定の実施形態では、2つのバイオコンジュゲーションハンドルは、相互に直交するコンジュゲーション化学を用いて、それぞれが2つの異なる標識に化学選択的にコンジュゲートすることができるように選択することができる。このようなバイオコンジュゲーションハンドルの対としては、例えば、以下が挙げられる:アジド及びアルキン、アジド及びケトン/アルデヒド、アジド及びシクロプロペン、ケトン/アルデヒド及びシクロプロペン、5-ヒドロキシインドール及びアジド、5-ヒドロキシインドール及びシクロプロペン、並びに5-ヒドロキシインドール及びケトン/アルデヒド。
【0104】
ポリペプチド中の非天然アミノ酸は、標識、色素、ポリマー、水溶性ポリマー、安定化剤(例えば、ポリエチレングリコールの誘導体、光活性化可能な架橋剤、放射性核種、細胞毒性化合物、薬物、親和性標識、光親和性標識、反応性化合物、樹脂、第2のタンパク質若しくはポリペプチド若しくはポリペプチド類似体、抗体若しくは抗体断片、金属キレート剤、補因子、脂肪酸、炭水化物、ポリヌクレオチド、DNA、RNA、アンチセンスポリヌクレオチド、糖類、水溶性デンドリマー、シクロデキストリン、阻害性リボ核酸(例えば、低分子干渉RNA(siRNA))、核内低分子RNA(小核RNA、snRNA)、若しくは非コードRNA)、生体材料、ナノ粒子、スピン標識、フルオロフォア(蛍光色素)、金属含有部分、放射性部分、新規官能基、他の分子と共有結合若しくは非共有結合で相互作用する基、光ケージ化部分、化学線励起可能部分、光異性化可能部分、ビオチン、ビオチンの誘導体、ビオチン類似体、重原子を組み込む部分、化学的に切断可能な基、光切断可能な基、伸長された側鎖、炭素結合糖、酸化還元活性剤、アミノチオ酸、毒性部分、同位体標識部分、生物物理学的プローブ若しくは生化学的プローブ(例えば、PETプローブ、蛍光プローブ若しくはEPRプローブ)、リン光基、化学発光基、電子密度の高い基、磁気基、介在(intercalating)基、発色団、エネルギー移動剤、生物活性剤、検出可能な標識(例えば、生細胞対非生細胞における取り込みの分析のため)、小分子、量子ドット、ナノトランスミッター、免疫調節分子、標的化剤、脂質ベースの構造(例えば、脂質ベースのナノ粒子)、ミクロスフェア、又は上記の任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない別の分子をポリペプチドに結合させるために使用されてもよい。
【0105】
任意の適切な非天然アミノ酸を、目的のタンパク質に組み込むための本明細書に記載の方法と共に使用することができる。
【0106】
非天然アミノ酸は、ロイシン類似体(本明細書では誘導体とも呼ばれる)であってもよい。特定の実施形態では、ロイシン類似体は、天然に存在しないロイシン類似体である。本発明は、図2Aに示されるロイシン類似体、又はこのロイシン類似体を含む組成物を提供する。例えば、図2Aの式Aは、n単位(0~20単位)の長さの炭素含有鎖を含む側鎖を含有するアミノ酸類似体を描く。O、S、CH又はNHはX位に存在し、n単位(0~20単位)の長さの別の炭素含有鎖が続くことができる。官能基Yは、第2の炭素含有鎖の末端炭素に結合している(例えば、図2Aに描かれる官能基1~12。式中、Rは、第2の炭素含有側鎖の末端炭素原子への連結部分を表す)。1つの例では、これらの官能基は、部位特異的UAA組み込みに適している任意の目的のタンパク質への任意の適したリガンドのバイオコンジュゲーションに使用することができる。図2Aの式Bは、第2の炭素含有鎖又は第1の炭素含有鎖にそれぞれ結合したZ-Y又はZ-Yのいずれかとして示される側鎖を含有する類似のアミノ酸類似体を描く。Zは、(CH)n単位を含む炭素鎖を表し、式中、nは0~20の任意の整数である。Y又はYは、独立して、Yのものと同じ又は異なる基であることができる。本発明は、図2Bに示されるロイシン類似体(LCA、LKET、若しくはACA)、又は図2Bに示されるロイシン類似体を含む組成物も提供する。さらなる例示的なロイシン類似体には、官能基、例えば、アルキン、アジド、シクロプロペン、アルケン、ケトン、アルデヒド、ジアジリン、又はテトラジン官能基を含む直鎖状ハロゲン化アルキル及び直鎖状脂肪族鎖、並びに図2Cに示される構造1~6から選択されるものが含まれる。しかしながら、図2A~2Cに示される任意のアミノ酸の第1の炭素に両方とも結合したアミノ基及びカルボキシレート基は、ロイシン類似体がタンパク質又はポリペプチド鎖に組み込まれるとき、ペプチド結合の部分を構成するということが企図される。
【0107】
加えて、C5AzMe及びLCAと呼ばれる、図4Aに示されるロイシン類似体を、本発明の実施において使用することができる。
【0108】
C5AzMe(図4Bに示される化合物5)は、図4Bに概説される合成と同様の様式で調製することができる。化合物5は、例えば、化合物4の脱保護によって得ることができる。化合物4の脱保護は、保護基(例えば、Boc)の除去を含む。脱保護のための条件としては、DCM中のHClを挙げてもよいが、これに限定されない。化合物4は、例えば、適切な求核試薬(例えば、N )に曝露されたときの化合物3の求核置換を介して生成することができる。求核置換のための例示的な条件としては、80℃のDMF中のNaNが挙げられるが、これに限定されない。化合物3は、例えば、化合物2への化合物1の求核付加を介して調製することができる。求核付加のための例示的な条件としては、0℃~RTでのKCOが挙げられるが、これに限定されない。さらには、所望に応じて、化合物5のエステルは、穏やかな水性塩基性条件への曝露によって除去して、UAAのカルボン酸形態を生成することができる。
【0109】
LCA(図4Fに示される化合物21)は、図4Fに概説される合成と同様の方法で調製することができる。化合物21は、例えば、化合物20を適切な酸、例えば、限定されないが、ジオキサン中の4M HClに曝露することによって化合物20から調製することができる。化合物20は、イミン19の加水分解によって生成することができる。イミン19の加水分解は、例えばTHF中の1M HCl(水溶液)を用いて達成することができる。化合物19は、例えば、適切な求核試薬(例えば、N )に曝露されたときの化合物18の求核置換を介して生成することができる。求核置換のための例示的な条件としては、DMF中のNaNが挙げられるが、これに限定されない。化合物18は、化合物16のエノレートの化合物17への求核付加によって調製することができる。化合物16及び17からの化合物の合成を達成するための適切な条件としては、DCM中の硫酸水素テトラブチルアンモニウム(TBAHS)及び10%NaOHが挙げられるが、これに限定されない。LCAの合成のためのさらなる方法は図4D及び4Eに示されている。
【0110】
特定の実施形態では、非天然アミノ酸は、トリプトファン類似体(本明細書では誘導体とも呼ばれる)である。特定の実施形態では、トリプトファン類似体は、天然に存在しないトリプトファン類似体である。例示的なトリプトファン類似体としては、5-アジドトリプトファン、5-プロパルギルオキシトリプトファン、5-アミノトリプトファン、5-メトキシトリプトファン、5-O-アリルトリプトファン又は5-ブロモトリプトファンが挙げられる。さらなる例示的なトリプトファン類似体は図3に描かれている。しかしながら、図3のトリプトファン類似体の第1の炭素に両方とも結合したアミノ及びカルボキシレート基は、トリプトファン類似体がタンパク質又はポリペプチド鎖に組み込まれるとき、ペプチド結合の部分を構成するということが企図される。
【0111】
加えて、AzWと称される、図4Aに示されるトリプトファン類似体を、本発明の実施において使用することができる。
【0112】
AzW(図4Cに示される化合物15)は、図4Cに概説される合成と同様の様式で調製することができる。化合物15は、例えば、塩基性条件下で、その塩酸塩14から調製することができる。例示的な塩基性条件としては、THF中のKOtBuが挙げられるが、これに限定されない。塩酸塩14は、例えば、化合物13の鹸化に続く脱保護によって調製することができる。鹸化及び保護基(例えば、Boc)の脱保護のための条件は、当業者に公知である。例えば、鹸化は、MeOH中1M NaOHを用いて達成することができる。特定の実施形態では、脱保護のための条件としては、HCl(水溶液)が挙げられるが、これに限定されない。化合物13は、例えば、化合物12と適切なアジド源との金属媒介カップリングによって合成することができる。化合物13は、例えば、化合物12から、MeOH中のNaN、Cu(OAc)を使用して作製することができる。化合物12は、例えば、化合物11の金属触媒ホウ素化によって化合物11から調製することができる。金属触媒ホウ素化のための例示的な条件としては、1,4-ジオキサン中のBpin、PdCl・dppf、及びKOAcが挙げられるが、これに限定されない。化合物11は、例えば、適切な保護基(例えば、Boc)を用いた化合物10の保護を介して調製することができる。化合物10の保護は、CHCl中のBocO、EtN、及びDMAPを使用して達成することができる。化合物10は、例えば、オキシムを還元するのに適した条件下で、例えば、AcOH中のZnを使用して、化合物9から合成することができる。化合物9は、例えば、化合物7へのインドール8の求核付加を介して合成することができる。化合物8の化合物7へのナルコレプシー(narcoleptic)付加は、CHCl中のNaCOの存在下で起こることが可能である。化合物7は、例えば、メタノール中で化合物6をヒドロキシルアミン塩酸塩に曝露することによって調製することができる。
【0113】
特定の実施形態では、非天然アミノ酸は、チロシン類似体(本明細書では誘導体とも呼ばれる)である。特定の実施形態では、チロシン類似体は、天然に存在しないチロシン類似体である。例示的なチロシン類似体としては、o-メチルチロシン(OmeY)、p-アジドフェニルアラニン(AzF)、o-プロパルギルチロシン(OpropY又はPrY)、及びp-アセチルフェニルアラニン(AcF)が挙げられる。例示的なトリプトファン類似体は図5に描かれている。
【0114】
特定の実施形態では、非天然アミノ酸は、ピロリシン類似体(本明細書では誘導体とも呼ばれる)である。特定の実施形態では、ピロリシン類似体は、天然に存在しないピロリシン類似体である。例示的なピロリシン類似体としては、アミノカプリル酸(Cap)、H-Lys(Boc)-OH(Boc-リシン、BocK)、アジドリシン(AzK)、H-プロパルギル-リシン(hPrK)、及びシクロプロペンリシン(CpK)が挙げられる。例示的なピロリシン類似体は図6に描かれている。
【0115】
多くの非天然アミノ酸は、例えば、Sigma-Aldrich(シグマ・アルドリッチ)(セントルイス、ミズーリ州、米国)、Novabiochem(ノババイオケム)(ダルムシュタット、ドイツ)、又はPeptech(ペプテック)(バーリントン(Burlington)、マサチューセッツ州、米国)から市販されている。市販されていないものは、当業者に公知の標準的な方法を用いて合成することができる。有機合成技術については、例えば、Fessendon及びFessendonのOrganic Chemistry(1982、第2版、Willard Grant Press、ボストン、マサチューセッツ州);MarchのAdvanced Organic Chemistry(第3版、1985、Wiley and Sons、ニューヨーク);並びにCarey及びSundbergのAdvanced Organic Chemistry(第3版、パートA及びパートB、1990、Plenum Press、ニューヨーク)を参照。非天然アミノ酸の合成を記載するさらなる例示的な刊行物は、国際公開第2002/085923号パンフレット、米国特許出願公開第2004/0198637号明細書、Matsoukasら(1995) J.MED.CHEM. 38:4660-4669、Kingら(1949) J.CHEM.SOC. 3315-3319、Friedmanら(1959) J.AM.CHEM.SOC. 81:3750-3752、Craigら(1988) J.ORG.CHEM. 53:1167-1170、Azoulayら(1991) EUR.J.MED.CHEM. 26:201-5、Koskinenら(1989) J.ORG.CHEM. 54:1859-1866、Christieら(1985) J.ORG.CHEM. 50:1239-1246、Bartonら(1987) TETRAHEDRON 43:4297-4308、及びSubasingheら(1992) J.MED.CHEM. 35:4602-7に見られる。
【0116】
IV. ベクター
tRNA、アミノアシル-tRNA合成酵素、又は任意の他の目的の分子は、その分子をコードする遺伝子を適切な発現ベクターに組み込むことによって、目的の細胞において発現されてもよい。本明細書で使用する場合、「発現ベクター」は、発現されるヌクレオチド配列に作動可能に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のために充分なシスエレメントを含む。発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって、又はインビトロ発現系において供給されることが可能である。
【0117】
tRNA、アミノアシル-tRNA合成酵素、又は任意の他の目的の分子は、その分子をコードする遺伝子を適切な導入ベクターに組み込むことによって、目的の細胞に導入されてもよい。「導入ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドを細胞の内部に送達するために使用することができる組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。ベクターは、発現ベクター及び導入ベクターの両方であってもよいことが理解される。
【0118】
ベクター(例えば、発現ベクター又は導入ベクター)は、コスミド、プラスミド(例えば、裸のもの又はリポソームに含まれるもの)、レトロトランスポゾン(例えば、piggyback(ピギーバック)、sleeping beauty(スリーピングビューティー))、並びに目的の組換えポリヌクレオチドを組み込むウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)等の当該技術分野で公知のすべてのベクターを含む。
【0119】
典型的なベクターは、転写及び翻訳ターミネーター、転写及び翻訳開始配列、並びに特定の標的核酸の発現の調節に有用なプロモーターを含む。ベクターは、任意選択で、少なくとも1つの独立したターミネーター配列(転写終止配列)、真核生物若しくは原核生物、又は両方におけるカセットの複製を可能にする配列(シャトルベクターを含むが、これに限定されない)、並びに原核生物系及び真核生物系の両方の選択マーカーを含有する汎用発現カセットを含む。
【0120】
特定の実施形態では、ベクターは、上記サプレッサーtRNA及び/又はtRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された調節配列又はプロモーターを含む。「作動可能に連結された」という用語は、機能的関係にあるポリヌクレオチドエレメントの連結を指す。核酸配列は、別の核酸配列と機能的関係に置かれるとき、「作動可能に連結される」。例えば、プロモーター又はエンハンサーは、それが遺伝子の転写に影響を及ぼす場合、遺伝子に作動可能に連結されている。作動可能に連結されたヌクレオチド配列は、典型的には連続している。しかしながら、エンハンサーは概して、プロモーターから数キロベースだけ離れているときに機能し、イントロン配列は可変長であってもよいので、いくつかのポリヌクレオチドエレメントは、作動可能に連結されてもよいが、直接隣接しておらず、異なる対立遺伝子又は染色体からのトランスでさえ機能してもよい。
【0121】
使用されてもよい例示的なプロモーターとしては、レトロウイルスLTR、SV40プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、U6プロモーター、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、H1プロモーター、UbiCプロモーター、PGKプロモーター、7SKプロモーター、pol IIプロモーター、pol IIIプロモーター、又は任意の他のプロモーター(例えば、ヒストン、pol III、及びβ-アクチンプロモーターを含むがこれらに限定されない、真核細胞プロモーター等の細胞プロモーター)が挙げられるが、これらに限定されない。使用されてもよい他のウイルスプロモーターとしては、アデノウイルスプロモーター、TKプロモーター、及びB19パルボウイルスプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。好適なプロモーターの選択は、本明細書に含まれる教示から当業者に明らかであろう。特定の実施形態では、ベクターは、CMV若しくはEF1αプロモーターに作動可能に連結されたアミノアシル-tRNA合成酵素をコードするヌクレオチド配列、及び/又はU6若しくはH1プロモーターに作動可能に連結されたサプレッサーtRNAをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0122】
特定の実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。用語「ウイルス」は、タンパク質合成機構又はエネルギー生成機構を有さない偏性細胞内寄生体を指すために本明細書で使用される。例示的なウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、エプスタイン・バーウイルス(EBV)ベクター、ポリオーマウイルスベクター(例えば、サル空胞化ウイルス40(simian vacuolating virus 40、SV40)ベクター)、ポックスウイルスベクター、及びシュードタイプウイルスベクターが挙げられる。
【0123】
ウイルスは、RNAウイルス(RNAから構成されるゲノムを有する)又はDNAウイルス(DNAから構成されるゲノムを有する)であってもよい。特定の実施形態では、ウイルスベクターはDNAウイルスベクターである。例示的なDNAウイルスとしては、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、アデノウイルス、アスファルウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1及び2(HSV-1及びHSV-2))、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV))、パピローマウイルス(例えば、HPV)、ポリオーマウイルス(例えば、サル空胞化ウイルス40(SV40))、並びにポックスウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、牛痘ウイルス、天然痘ウイルス、鶏痘ウイルス、羊痘ウイルス、粘液腫ウイルス)が挙げられる。特定の実施形態では、ウイルスベクターはRNAウイルスベクターである。例示的なRNAウイルスとしては、ブニヤウイルス(例えば、ハンタウイルス)、コロナウイルス、フラビウイルス(例えば、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス)、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス)、インフルエンザウイルス(例えば、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス)、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ノロウイルス(例えば、ノーウォークウイルス)、ポリオウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、レトロウイルス(例えば、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1))及びトロウイルスが挙げられる。
【0124】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
特定の実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。AAVは、ディペンドパルボウイルス(Dependoparvovirus)属及びパルボウイルス科の小さな無エンベロープの正20面体ウイルスである。AAVは、約4.7kbの一本鎖直鎖DNAゲノムを有する。AAVは、いくつかの組織型の分裂細胞及び静止細胞の両方に感染することができ、異なるAAV血清型は異なる組織向性を示す。
【0125】
AAVは、血清型AAV-1~AAV-12、並びに非ヒト霊長類由来の100を超える血清型(例えば、Srivastava(2008) J.CELL BIOCHEM.、105(1):17-24、及びGaoら(2004) J.VIROL.、78(12)、6381-6388を参照)を含む、多数の血清学的に区別可能な型を含む。本発明において使用されるAAVベクターの血清型は、送達の効率、組織向性、及び免疫原性に基づいて当業者が選択することができる。例えば、AAV-1、AAV-2、AAV-4、AAV-5、AAV-8、及びAAV-9は、中枢神経系への送達に使用することができる。AAV-1、AAV-8、及びAAV-9は、心臓への送達に使用することができる。AAV-2は、腎臓への送達に使用することができる。AAV-7、AAV-8、及びAAV-9は、肝臓への送達に使用することができる。AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-9は肺への送達に使用することができ、AAV-8は膵臓への送達に使用することができ、AAV-2、AAV-5、及びAAV-8は光受容細胞への送達に使用することができる。AAV-1、AAV-2、AAV-4、AAV-5、及びAAV-8は、網膜色素上皮への送達に使用することができる。AAV-1、AAV-6、AAV-7、AAV-8、及びAAV-9は、骨格筋への送達に使用することができる。特定の実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、限定されないが、AAV-9(米国特許第7,198,951号明細書の配列番号1~3)、AAV-2(米国特許第7,198,951号明細書の配列番号4)、AAV-1(米国特許第7,198,951号明細書の配列番号5)、AAV-3(米国特許第7,198,951の配列番号6)、及びAAV-8(米国特許第7,198,951号明細書の配列番号7)等の米国特許第7,198,951号明細書に開示される配列を含む。アカゲザルから特定されたAAV血清型、例えば、rh.8、rh.10、rh.39、rh.43、及びrh.74も本発明において企図される。天然のAAV血清型に加えて、修飾されたAAVカプシドが、送達の効率、組織向性及び免疫原性を改善するために開発されている。例示的な天然及び修飾AAVカプシドは、米国特許第7,906,111号明細書、米国特許第9,493,788号明細書、及び米国特許第7,198,951号明細書、並びに国際公開第2017189964A2号パンフレットに開示されている。
【0126】
野生型AAVゲノムは、AAV複製、ゲノムカプシド形成及び組み込みを導くシグナル配列を含有する2つの145ヌクレオチドの末端逆位配列(inverted terminal repeat、ITR)を含有する。ITRに加えて、3つのAAVプロモーターp5、p19、及びp40は、rep及びcap遺伝子をコードする2つのオープンリーディングフレームの発現を駆動する。単一のAAVイントロンの選択的スプライシングと結合した2つのrepプロモーターは、rep遺伝子からの4つのrepタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52及びRep40)の産生をもたらす。Repタンパク質はゲノム複製に関与する。Cap遺伝子はp40プロモーターから発現され、cap遺伝子のスプライスバリアントである3つのカプシドタンパク質(VP1、VP2及びVP3)をコードする。これらのタンパク質は、AAV粒子のカプシドを形成する。
【0127】
複製、カプシド形成、及び組み込みのためのシス作用シグナルはITR内に含まれるので、4.3kbの内部ゲノムの一部又はすべては、外来DNA、例えば、目的の外因性遺伝子のための発現カセットで置換されてもよい。従って、特定の実施形態では、AAVベクターは、5’ITR及び3’ITRに隣接する外因性遺伝子のための発現カセットを含むゲノムを含む。これらのITRは、カプシドと同じ血清型又はその誘導体に由来してもよい。あるいは、ITRは、カプシドとは異なる血清型のものであってもよく、それによってシュードタイプ(偽型)AAVを生成してもよい。特定の実施形態では、ITRはAAV-2に由来する。特定の実施形態では、ITRはAAV-5に由来する。ITRの少なくとも1つは、末端分離部位(terminal resolution site)を変異又は欠失させるように改変されてもよく、それによって自己相補的AAVベクターの産生が可能になる。
【0128】
rep及びcapタンパク質は、AAVベクターを産生するために、例えばプラスミド上にトランスで提供されることが可能である。AAV複製を許容する宿主細胞株は、rep及びcap遺伝子、ITR隣接発現カセット、並びにヘルパーウイルス、例えばアデノウイルス遺伝子E1a、E1b55K、E2a、E4orf6及びVA(Weitzmanら、Adeno-Associated virus biology. Adeno-Associated virus: Methods and Protocols、1-23頁、2011)によって提供されるヘルパー機能を発現しなければならない。AAVベクターを生成及び精製する方法は、詳細に記載されている(例えば、Muellerら、(2012) CURRENT PROTOCOLS IN MICROBIOLOGY、14D.1.1-14D.1.21、Production and Discovery of Novel Recombinant Adeno-Associated Viral Vectorsを参照)。HEK293細胞、COS細胞、HeLa細胞、BHK細胞、Vero細胞、並びに昆虫細胞を含む、多数の細胞型が、AAVベクターを生成するために好適である(例えば、米国特許第6,156,303号明細書、米国特許第5,387,484号明細書、米国特許第5,741,683号明細書、米国特許第5,691,176号明細書、米国特許第5,688,676号明細書、及び米国特許第8,163,543号明細書、米国特許出願公開第20020081721号明細書、並びに国際公開第00/47757号パンフレット、国際公開第00/24916号パンフレット、及び国際公開第96/17947号パンフレットを参照)。AAVベクターは、典型的には、これらの細胞型において、ITR隣接発現カセットを含有する1つのプラスミド、並びにさらなるAAV及びヘルパーウイルス遺伝子を提供する1つ以上のさらなるプラスミドによって産生される。
【0129】
任意の血清型のAAVが本発明において使用されてもよい。同様に、任意のアデノウイルス型が使用されてもよいことが企図され、当業者は、それらの所望の組換えAAVベクター(rAAV)の産生に適したAAV及びアデノウイルス型を特定することができる。AAV粒子は、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオジキサノール勾配、又はCsCl勾配によって精製されてもよい。
【0130】
AAVベクターは、サイズが4.7kbであるか、又は4.7kbより大きいか若しくは小さい(5.2kb程度の大きさの過大なサイズ、又は3.0kb程度の大きさのサイズのゲノムを含む)一本鎖ゲノムを有してもよい。従って、AAVベクターから発現される目的の外因性遺伝子が小さい場合、AAVゲノムはスタッファー配列(挿入配列、stuffer sequence)を含んでもよい。さらに、ベクターゲノムは、実質的に自己相補的であってもよく、それによって細胞における迅速な発現が可能になる。特定の実施形態では、自己相補的AAVベクターのゲノムは、5’から3’に向かって、5’ITR;目的の遺伝子のコード配列に作動可能に連結されたプロモーター及び/又はエンハンサーを含む第1の核酸配列;機能的末端分離部位を有さない改変ITR;第1の核酸配列に相補的又は実質的に相補的な第2の核酸配列;並びに3’ITRを含む。すべてのタイプのゲノムを含むAAVベクターが、本発明の方法における使用に適している。
【0131】
AAVベクターの非限定的な例としては、pAAV-MCS(Agilent Technologies(アジレント・テクノロジー))、pAAVK-EF1α-MCS(System Bio(システム・バイオ) カタログ番号AAV502A-1)、pAAVK-EF1α-MCS1-CMV-MCS2(System Bio カタログ番号AAV503A-1)、pAAV-ZsGreen1(Clontech(クロンテック) カタログ番号6231)、pAAV-MCS2(Addgene(アドジーン) プラスミド番号46954)、AAV-Stuffer(Addgene プラスミド番号106248)、pAAVscCBPIGpluc(Addgene プラスミド番号35645)、AAVS1_Puro_PGK1_3xFLAG_Twin_Strep(Addgene プラスミド番号68375)、pAAV-RAM-d2TTA::TRE-MCS-WPRE-pA(Addgene プラスミド番号63931)、pAAV-UbC(Addgene プラスミド番号62806)、pAAVS1-P-MCS(Addgene プラスミド番号80488)、pAAV-Gateway(Adgene プラスミド番号32671)、pAAV-Puro_siKD(Adgene プラスミド番号86695)、pAAVS1-Nst-MCS(Addgene プラスミド番号80487)、pAAVS1-Nst-CAG-DEST(Addgene プラスミド番号80489)、pAAVS1-P-CAG-DEST(Addgene プラスミド番号80490)、pAAVf-EnhCB-lacZnls(Addgene プラスミド番号35642)及びpAAVS1-shRNA(Addgene プラスミド番号82697)が挙げられる。これらのベクターは、治療的使用に適するように改変することができる。例えば、目的の外因性遺伝子を多重クローニング部位に挿入することができ、選択マーカー(例えば、puro又は蛍光タンパク質をコードする遺伝子)を欠失させるか、又は別の(同じ又は異なる)目的の外因性遺伝子で置き換えることができる。AAVベクターのさらなる例は、米国特許第5,871,982号明細書、米国特許第6,270,996号明細書、米国特許第7,238,526号明細書、米国特許第6,943,019号明細書、米国特許第6,953,690号明細書、米国特許第9,150,882号明細書、及び米国特許第8,298,818号明細書、米国特許出願公開第2009/0087413号明細書、並びに国際公開第2017075335A1号パンフレット、国際公開第2017075338A2号パンフレット、及び国際公開第2017201258A1号パンフレットに開示されている。
【0132】
レンチウイルスベクター
特定の実施形態では、ウイルスベクターはレトロウイルスベクターであることができる。レトロウイルスベクターの例としては、モロニー(Moloney)マウス白血病ウイルスベクター、脾臓壊死ウイルスベクター、並びにラウス(Rous)肉腫ウイルス、ハーベイ(Harvey)肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、及び乳癌ウイルス等のレトロウイルス由来のベクターが挙げられる。レトロウイルスベクターは、真核細胞へのレトロウイルス媒介性遺伝子導入を媒介するための薬剤として有用である。
【0133】
特定の実施形態では、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。例示的なレンチウイルスベクターとしては、ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)、ヒト免疫不全ウイルス-2(HIV-2)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、ジェンブラナ病ウイルス(JDV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、及びヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)に由来するベクターが挙げられる。
【0134】
レトロウイルスベクターは、典型的には、ウイルスの構造遺伝子をコードする配列の大部分が欠失し、目的の遺伝子(複数種可)によって置き換えられるように構築される。構造遺伝子(すなわち、gag、pol、及びenv)は、当該技術分野で公知の遺伝子操作技術を用いてレトロウイルス骨格から除去されることが多い。従って、最小のレトロウイルスベクターは、5’から3’に向かって、5’末端反復配列(LTR)、パッケージングシグナル、任意選択の外因性プロモーター及び/又はエンハンサー、目的の外因性遺伝子、並びに3’LTRを含む。外因性プロモーターが提供されない場合、遺伝子発現は5’LTRによって駆動されるが、5’LTRは弱いプロモーターであり、発現を活性化するためにTatの存在を必要とする。構造遺伝子は、レンチウイルスの製造のために別々のベクターで提供することができ、これは、産生されたビリオンを複製欠損にする。具体的には、レンチウイルスに関して、パッケージング系は、Gag、Pol、Rev、及びTat遺伝子をコードする単一のパッケージングベクター、並びにエンベロープタンパク質Env(通常、その広い感染性のためにVSV-G)をコードする第3の別個のベクターを含んでもよい。パッケージング系の安全性を改善するために、パッケージングベクターを分割して、1つのベクターからRevを、別のベクターからGag及びPolを発現させることができる。Tatは、キメラ5’LTRを含むレトロウイルスベクターを使用することによってパッケージング系から排除されることも可能であり、この場合、5’LTRのU3領域は、異種調節エレメントで置き換えられる。
【0135】
遺伝子は、いくつかの一般的な方法でプロウイルス骨格に組み込むことができる。最も簡単な構築物は、レトロウイルスの構造遺伝子が、LTR内のウイルス調節配列の制御下で転写される単一の遺伝子によって置き換えられるものである。複数の遺伝子を標的細胞に導入することができるレトロウイルスベクターも構築されている。通常、そのようなベクターにおいて、1つの遺伝子はウイルスLTRの調節制御下にあるが、第2の遺伝子はスプライシングされたメッセージから発現されるか、又はそれ自体の内部プロモーターの調節下にある。
【0136】
従って、新しい遺伝子(複数種可)は、それぞれビリオンRNAの転写及びポリアデニル化を促進する働きをする5’LTR及び3’LTRに隣接している。「末端反復配列」又は「LTR」という用語は、レトロウイルスDNAの末端に位置する塩基対のドメインであって、その天然配列の文脈において、直接反復であり、U3、R及びU5の領域を含有するものを指す。LTRは、概して、レトロウイルス遺伝子の発現(例えば、遺伝子転写物の促進、開始及びポリアデニル化)及びウイルス複製に基本的な機能を提供する。LTRは、転写制御エレメント、ポリアデニル化シグナル、並びにウイルスゲノムの複製及び組み込みに必要な配列を含む多数の調節シグナルを含有する。U3領域はエンハンサー及びプロモーターエレメントを含む。U5領域は、プライマー結合部位とR領域との間の配列であり、ポリアデニル化配列を含有する。R(反復)領域は、U3及びU5領域に隣接している。特定の実施形態では、R領域は、トランス活性化応答(TAR)遺伝子エレメントを含み、これは、トランス活性化因子(tat)遺伝子エレメントと相互作用して、ウイルス複製を増強する。このエレメントは、5’LTRのU3領域が異種プロモーターによって置き換えられる実施形態では必要とされない。
【0137】
特定の実施形態では、上記レトロウイルスベクターは、修飾された5’LTR及び/又は3’LTRを含む。3’LTRの修飾は、ウイルスを複製欠損にすることによってレンチウイルス系又はレトロウイルス系の安全性を改善するために行われることが多い。具体的な実施形態では、レトロウイルスベクターは、自己不活性化(SIN)ベクターである。本明細書で使用する場合、SINレトロウイルスベクターは、3’LTR U3領域が、ウイルス複製の第1ラウンドを超えるウイルス転写を妨げるように(例えば、欠失又は置換によって)改変されている複製欠損レトロウイルスベクターを指す。これは、3’LTR U3領域がウイルス複製中に5’LTR U3領域のテンプレートとして使用され、従って、ウイルス転写物はU3エンハンサー-プロモーターなしでは作製できないためである。さらなる実施形態では、3’LTRは、U5領域が、例えば、理想的なポリアデニル化配列で置き換えられるように改変される。3’LTR、5’LTR、又は3’LTR及び5’LTRの両方に対する改変等のLTRに対する改変も本発明に含まれることに留意されたい。
【0138】
特定の実施形態では、5’LTRのU3領域は、ウイルス粒子の産生中にウイルスゲノムの転写を駆動するために異種プロモーターで置き換えられる。使用することができる異種プロモーターの例としては、例えば、ウイルス性サルウイルス40(SV40)(例えば、初期又は後期)、サイトメガロウイルス(CMV)(例えば、前初期)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、及び単純ヘルペスウイルス(HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーターが挙げられる。典型的なプロモーターは、高レベルの転写をTat非依存的に駆動することができる。この置き換えは、ウイルス産生系に完全なU3配列が存在しないため、複製コンピテントウイルスを生成するための組換えの可能性を低減する。
【0139】
5’LTRに隣接して、ゲノムの逆転写必要な配列(tRNAプライマー結合部位)及び粒子へのウイルスRNAの効率的なパッケージングに必要な配列(Psi部位)がある。本明細書で使用する場合、「パッケージングシグナル」又は「パッケージング配列」という用語は、ウイルス粒子形成中のレトロウイルスRNA鎖のカプシド形成に必要とされるレトロウイルスゲノム内に位置する配列を指す(例えば、Cleverら、1995 J.VIROLOGY、69(4):2101-09を参照)。パッケージングシグナルは、ウイルスゲノムのカプシド形成に必要な最小限のパッケージングシグナル(psi(Ψ、プサイ)配列とも呼ばれる)であってもよい。
【0140】
特定の実施形態では、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)は、FLAPをさらに含む。本明細書中で使用される場合、用語「FLAP」、「フラップ」は、核酸であって、その配列がレトロウイルス、例えばHIV-1又はHIV-2、の中心ポリプリントラクト及び中心終止配列(cPPT及びCTS)を含む核酸を指す。適切なFLAPエレメントは、米国特許第6,682,907号明細書及びZennouら(2000) CELL、101:173に記載されている。逆転写の間、cPPTにおけるプラス鎖DNAの中央部開始及びCTSにおける中央部終結は、三本鎖DNA構造:中央部DNAフラップの形成をもたらす。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、DNAフラップは、レンチウイルスゲノム核内移行のシス活性決定因子として作用してもよく、かつ/又はウイルスの力価を増大させてもよい。特定の実施形態では、レトロウイルスベクター骨格は、ベクター中の目的の異種遺伝子の上流又は下流に1つ以上のFLAPエレメントを含む。例えば、特定の実施形態では、導入プラスミドはFLAPエレメントを含む。1つの実施形態では、本発明のベクターは、HIV-1から単離されたFLAPエレメントを含む。
【0141】
特定の実施形態では、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)は、核外輸送エレメントをさらに含む。1つの実施形態では、レトロウイルスベクターは、1つ以上の核外輸送エレメントを含む。用語「核外輸送エレメント」は、細胞の核から細胞質へのRNA転写物の輸送を調節するシス作用性転写後調節エレメントを指す。RNA核外輸送エレメントの例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)RRE(例えば、Cullenら、(1991) J.VIROL. 65:1053;及びCullenら、(1991) CELL 58:423を参照)、並びにB型肝炎ウイルス転写後調節エレメント(HPRE)が挙げられるが、これらに限定されない。一般に、RNA核外輸送エレメントは、遺伝子の3’UTR内に配置され、1コピー又は複数コピーとして挿入することができる。
【0142】
特定の実施形態では、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)は、転写後調節エレメントをさらに含む。様々な転写後調節エレメント、例えばウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE;Zuffereyら、(1999) J.VIROL.、73:2886を参照);B型肝炎ウイルスに存在する転写後調節エレメント(HPRE)(Huangら、MOL.CELL.BIOL.、5:3864);及び同類のもの(Liuら、(1995)、GENES DEV.、9:1766)が、異種核酸の発現を増大させることができる。転写後調節エレメントは、通常、異種核酸配列の3’末端に位置する。この構成は、5’部分が異種核酸コード配列を含み、3’部分が転写後調節エレメント配列を含むmRNA転写物の合成をもたらす。特定の実施形態では、本発明のベクターは、WPRE若しくはHPRE等の転写後調節エレメントを欠くか又は含まないが、それは、いくつかの例では、これらのエレメントが細胞形質転換のリスクを増加させ、かつ/又はmRNA転写物の量を実質的に若しくは顕著には増加させないか、若しくはmRNA安定性を増加させないためである。それゆえ、特定の実施形態では、本発明のベクターは、追加の安全性対策としてのWPRE若しくはHPREを欠くか又は含まない。
【0143】
異種核酸転写物の効率的な終結及びポリアデニル化を導くエレメントは、異種遺伝子発現を増加させる。転写終結シグナルは、通常、ポリアデニル化シグナルの下流に見出される。従って、特定の実施形態では、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)は、ポリアデニル化シグナルをさらに含む。本明細書で使用される「ポリアデニル化シグナル」又は「ポリアデニル化配列」という用語は、RNAポリメラーゼHによる新生RNA転写物の終結及びポリアデニル化の両方を導くDNA配列を意味する。ポリアデニル化シグナルを欠く転写物は不安定であり急速に劣化するため、組換え転写物の効率的なポリアデニル化は望ましい。本発明のベクターにおいて使用することができるポリアデニル化シグナルの具体例としては、理想的なポリアデニル化配列(例えば、AATAAA、ATTAAA、AGTAAA)、ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGHpA)、ウサギβ-グロビンポリアデニル化配列(rβgpA)、又は当該技術分野で公知の別の適切な異種性若しくは内因性ポリアデニル化配列が挙げられる。
【0144】
特定の実施形態では、レトロウイルスベクターは、インスレーターエレメントをさらに含む。インスレーターエレメントは、レトロウイルス発現配列、例えば、治療用遺伝子を、ゲノムDNAに存在するシス作用性エレメントによって媒介されてもよくかつ導入された配列の調節解除された発現をもたらしうる組み込み部位効果(すなわち、位置効果;例えば、Burgess-Beusseら(2002) PROC.NATL.ACAD.SCI.,USA、99:16433;Zhanら、2001、HUM.GENET.、109:471を参照)から保護することに寄与してもよい。特定の実施形態では、レトロウイルスベクターは、一方若しくは両方のLTR中に、又は細胞ゲノムに組み込まれるベクターの領域中の他の場所にインスレーターエレメントを含む。本発明での使用に好適なインスレーターとしては、ニワトリβ-グロビンインスレーター(Chungら、(1993) CELL 74:505;Chungら、(1997) PROC.NATL.ACAD.SCI.,USA 94:575;及びBellら、1999. CELL 98:387参照)が挙げられるが、これに限定されない。インスレーターエレメントの例には、ニワトリHS4等のβ-グロビン遺伝子座由来のインスレーターが含まれるが、これに限定されない。
【0145】
レンチウイルスベクターの非限定的な例としては、pLVX-EF1alpha-AcGFP1-C1(Clontech カタログ番号631984)、pLVX-EF1alpha-IRES-mCherry(Clontech カタログ番号631987)、pLVX-Puro(Clontech カタログ番号632159)、pLVX-IRES-Puro(Clontech カタログ番号632186)、pLenti6/V5-DEST(商標) (Thermo Fisher(サーモフィッシャー))、pLenti6.2/V5-DEST(商標) (Thermo Fisher)、pLKO.1(Addgeneのプラスミド番号10878)、pLKO.3G(Addgeneのプラスミド番号14748)、pSico(Addgeneのプラスミド番号11578)、pLJM1-EGFP(Addgeneのプラスミド番号19319)、FUGW(Addgeneのプラスミド番号14883)、pLVTHM(Addgeneのプラスミド番号12247)、pLVUT-tTR-KRAB(Addgeneのプラスミド番号11651)、pLL3.7(Addgeneのプラスミド番号11795)、pLB(Addgeneのプラスミド番号11619)、pWPXL(Addgeneのプラスミド番号12257)、pWPI(Addgeneのプラスミド番号12254)、EF.CMV.RFP(Addgeneのプラスミド番号17619)、pLenti CMV Puro DEST(Addgeneのプラスミド番号17452)、pLenti-puro(Addgeneのプラスミド番号39481)、pULTRA(Addgeneのプラスミド番号24129)、pLX301(Addgeneのプラスミド番号25895)、pHIV-EGFP(Addgeneのプラスミド番号21373)、pLV-mCherry(Addgeneのプラスミド番号36084)、pLionII(Addgeneのプラスミド番号1730)、pInducer10-mir-RUP-PheS(Addgeneのプラスミド番号44011)が挙げられる。これらのベクターは、治療的使用に適するように改変することができる。例えば、選択マーカー(例えば、puro、EGFP、又はmCherry)を欠失させることができるし、又は目的の第2の外因性遺伝子で置き換えることもできる。レンチウイルスベクターのさらなる例は、米国特許第7,629,153号明細書、米国特許第7,198,950号明細書、米国特許第8,329,462号明細書、米国特許第6,863,884号明細書、米国特許第6,682,907号明細書、米国特許第7,745,179号明細書、米国特許第7,250,299号明細書、米国特許第5,994,136号明細書、米国特許第6,287,814号明細書、米国特許第6,013,516号明細書、米国特許第6,797,512号明細書、米国特許第6,544,771号明細書、米国特許第5,834,256号明細書、米国特許第6,958,226号明細書、米国特許第6,207,455号明細書、米国特許第6,531,123号明細書、及び米国特許第6,352,694号明細書、並びに国際公開第2017/091786号パンフレットに開示されている。
【0146】
アデノウイルスベクター
特定の実施形態では、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクターであることができる。アデノウイルスは、ヌクレオカプシド及び二本鎖直鎖DNAゲノムから構成される中サイズ(90~100nm)の無エンベロープ(裸)の正20面体ウイルスである。用語「アデノウイルス」は、ヒト、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ブタ、マウス、及びサルのアデノウイルス亜属を含むがこれらに限定されない、アデノウイルス属の任意のウイルスを指す。典型的には、アデノウイルスベクターは、例えば、遺伝子導入のための非天然核酸配列のアデノウイルスへの挿入に適応するように、アデノウイルスのアデノウイルスゲノムに1つ以上の変異(例えば欠失、挿入又は置換)を導入することによって生成される。
【0147】
ヒトアデノウイルスは、アデノウイルスベクターのためのアデノウイルスゲノムの供給源として使用することができる。例えば、アデノウイルスは、サブグループA(例えば、血清型12、18及び31)、サブグループB(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34、35及び50)、サブグループC(例えば、血清型1、2、5及び6)、サブグループD(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22~30、32、33、36~39、及び42~48)、サブグループE(例えば、血清型4)、サブグループF(例えば、血清型40及び41)、非分類血清群(例えば、血清型49及び51)、又は任意の他のアデノウイルスの血清群若しくは血清型のものであることが可能である。アデノウイルス血清型1~51は、American Type Culture Collection(アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関、ATCC、マナサス(Manassas)、バージニア州)から入手可能である。非C群アデノウイルスベクター、非C群アデノウイルスベクターを作製する方法、及び非C群アデノウイルスベクターを使用する方法は、例えば、米国特許第5,801,030号明細書、米国特許第5,837,511号明細書、及び米国特許第5,849,561号明細書、並びに国際公開第1997/012986号パンフレット及び国際公開第1998/053087号パンフレットに開示されている。
【0148】
非ヒトアデノウイルス(例えば、類人猿、サル、トリ、イヌ、ヒツジ、又はウシのアデノウイルス)を、アデノウイルスベクターを作製するために(すなわち、アデノウイルスベクターのためのアデノウイルスゲノムの供給源として)使用することができる。例えば、アデノウイルスベクターは、サルアデノウイルス(新世界サル及び旧世界サルの両方を含む)に基づくことができる(例えば、International Committee on Taxonomy of Viruses(国際ウイルス分類委員会)のVirus Taxonomy: VHIth Report(2005)を参照)。霊長類に感染するアデノウイルスの系統発生分析は、例えば、Royら(2009) PLOS PATHOG. 5(7):e1000503に開示されている。ゴリラアデノウイルスは、アデノウイルスベクターのためのアデノウイルスゲノムの供給源として使用することができる。ゴリラアデノウイルス及びアデノウイルスベクターは、例えば、国際公開第2013/052799号パンフレット、国際公開第2013/052811号パンフレット、及び国際公開第2013/052832号パンフレットに記載されている。アデノウイルスベクターはまた、亜型(サブタイプ)の組み合わせを含むこともでき、それにより、「キメラ」アデノウイルスベクターであることができる。
【0149】
アデノウイルスベクターは、複製コンピテント、条件的複製コンピテント、又は複製欠損であることができる。複製コンピテントな(複製能力のある)アデノウイルスベクターは、典型的な宿主細胞、すなわち、通常アデノウイルスに感染することができる細胞において複製することができる。条件的複製アデノウイルスベクターは、所定の条件下で複製するように操作されたアデノウイルスベクターである。例えば、複製に必須の遺伝子機能、例えば、アデノウイルス初期領域によってコードされる遺伝子機能は、誘導性、抑制性、又は組織特異性の転写制御配列、例えば、プロモーターに作動可能に連結することができる。条件的複製アデノウイルスベクターは、米国特許第5,998,205号明細書においてさらに記載されている。複製欠損アデノウイルスベクターは、アデノウイルスベクターが典型的な宿主細胞、とりわけアデノウイルスベクターによって感染されるヒトにおける宿主細胞において複製しないように、例えば、1つ以上の複製に必須の遺伝子機能又は領域の欠損の結果として、複製に必要とされるアデノウイルスゲノムの1つ以上の遺伝子機能又は領域の補完を必要とするアデノウイルスベクターである。
【0150】
好ましくは、アデノウイルスベクターは複製欠損であり、そのため、複製欠損アデノウイルスベクターは、増殖のために(例えば、アデノウイルスベクター粒子を形成するために)アデノウイルスゲノムの1つ以上の領域の少なくとも1つの複製に必須の遺伝子機能の補完を必要とする。アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの初期領域(すなわち、E1~E4領域)のみ、アデノウイルスゲノムの後期領域(すなわち、L1~L5領域)のみ、アデノウイルスゲノムの初期領域及び後期領域の両方、又はすべてのアデノウイルス遺伝子(すなわち、高容量アデノベクター(HC-Ad))の1つ以上の複製に必須の遺伝子機能を欠損してもよい。例えば、Morsyら(1998) PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 95:965-976、Chenら(1997) PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 94:1645-1650、及びKochanekら(1999) HUM.GENE THER. 10(15):2451-9を参照。複製欠損アデノウイルスベクターの例は、米国特許第5,837,511号明細書、米国特許第5,851,806号明細書、米国特許第5,994,106号明細書、米国特許第6,127,175号明細書、米国特許第6,482,616、及び米国特許第7,195,896号明細書、並びに国際公開第1994/028152号パンフレット、国際公開第1995/002697号パンフレット、国際公開第1995/016772号パンフレット、国際公開第1995/034671号パンフレット、国際公開第1996/022378号パンフレット、国際公開第1997/012986号パンフレット、国際公開第1997/021826号パンフレット、及び国際公開第2003/022311号パンフレットに開示されている。
【0151】
本発明の複製欠損アデノウイルスベクターは、高力価のウイルスベクターストックを生成するために適切なレベルで、複製欠損アデノウイルスベクター中には存在しないが、ウイルス増殖に必要とされる遺伝子機能を提供する補完細胞株中で産生することができる。そのような補完細胞株は公知であり、その例としては、293細胞(例えば、Grahamら(1977) J.GEN.VIROL. 36:59-72に記載されている)、PER.C6細胞(例えば、国際公開第1997/000326号パンフレット、及び米国特許第5,994,128号明細書及び米国特許第6,033,908号明細書に記載されている)、並びに293-ORF6細胞(例えば、国際公開第1995/034671号パンフレット及びBroughら(1997) J.VIROL. 71:9206-9213に記載されている)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の複製欠損アデノウイルスベクターを産生するための他の適切な補完細胞株としては、発現すると宿主細胞におけるウイルス増殖を阻害する導入遺伝子をコードするアデノウイルスベクターを増殖させるために作製された補完細胞が挙げられる(例えば、米国特許出願公開第2008/0233650号明細書を参照)。さらなる適切な補完細胞は、例えば、米国特許第6,677,156号明細書及び米国特許第6,682,929号明細書、並びに国際公開第2003/020879号パンフレットに記載されている。アデノウイルスベクター含有組成物のための製剤は、例えば、例えば、米国特許第6,225,289号明細書、及び米国特許第6,514,943号明細書、並びに国際公開第2000/034444号パンフレットにさらに記載されている。
【0152】
さらなる例示的なアデノウイルスベクター、及び/又はアデノウイルスベクターを作製若しくは増殖させる方法は、米国特許第5,559,099号明細書、米国特許第5,837,511号明細書、米国特許第5,846,782号明細書、米国特許第5,851,806号明細書、米国特許第5,994,106号明細書、米国特許第5,994,128号明細書、米国特許第5,965,541号明細書、米国特許第5,981,225号明細書、米国特許第6,040,174号明細書、米国特許第6,020,191号明細書、米国特許第6,083,716号明細書、米国特許第6,113,913号明細書、米国特許第6,303,362号明細書、米国特許第7,067,310号明細書、及び米国特許第9,073,980号明細書に記載されている。
【0153】
市販のアデノウイルスベクター系としては、Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック)から入手可能なViraPower(商標)アデノウイルス発現系、Agilent Technologiesから入手可能なAdEasy(商標)アデノウイルスベクター系、及びTakara Bio USA,Inc.(タカラバイオUSA)から入手可能なAdeno-X(商標) Expression System 3が挙げられる。
【0154】
V. 宿主細胞及び細胞株
本明細書に開示されるtRNA、アミノアシル-tRNA合成酵素、非天然アミノ酸、核酸、及び/又はベクターを含む宿主細胞又は細胞株(例えば、原核生物又は真核生物の宿主細胞又は細胞株)も本発明に包含される。遺伝子操作されたtRNA及びアミノアシル-tRNA合成酵素をコードする核酸は、発現宿主細胞内で自律的に複製するベクター(例えば、プラスミド又はウイルス粒子)として、又は発現宿主細胞、例えば、哺乳動物宿主細胞のゲノム中の安定な組み込まれたエレメント若しくは安定な組み込まれたエレメントの系列を介してのいずれかで、発現宿主細胞内で発現されることが可能である。
【0155】
宿主細胞は、例えば、本明細書に開示される核酸又はベクターを使用して、遺伝子操作される(形質転換、形質導入又はトランスフェクトを含むが、これらに限定されない)。例えば、特定の実施形態では、1つ以上のベクターは、所望の宿主細胞又は細胞株において機能的である遺伝子発現制御エレメントに作動可能に連結された、直交tRNA、直交アミノアシル-tRNA合成酵素、及び任意選択で1つ以上のUAAを含めることによって修飾されるタンパク質のコード領域を含む。例えば、tRNA合成酵素及びtRNA並びに任意の選択マーカー(例えば、抗生物質耐性遺伝子、例えば、ピューロマイシン耐性カセット)をコードする遺伝子は、導入ベクター(例えば、トランスフェクションの前に線状化することができるプラスミド)に組み込まれることが可能であり、例えば、tRNA合成酵素をコードする遺伝子は、ポリメラーゼIIプロモーター(例えば、CMV、EF1α、UbiC、又はPGK、例えば、CMV又はEF1α)の制御下にあることができ、tRNAをコードする遺伝子は、ポリメラーゼIIIプロモーター(例えば、U6、7SK、又はH1、例えば、U6)の制御下にあることができる。ベクターは、エレクトロポレーション又はウイルスベクターによる感染を含む標準的な方法によって細胞及び/又は微生物にトランスフェクトされ、クローンは、選択マーカーの発現を介して(例えば、抗生物質耐性によって)選択することができる。
【0156】
例示的な原核生物の宿主細胞又は細胞株としては、細菌、例えば、大腸菌、サーマス・サーモフィルス、バチルス・ステアロサーモフィルス、シュードモナス・フルオレセンス(蛍光菌、Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・エルジノーサ(緑膿菌、Pseudomonas aeruginosa)、及びシュードモナス・プチダ(プチダ菌、Pseudomonas putida)に由来する細胞が挙げられる。例示的な真核生物及び宿主細胞又は細胞株としては、植物(例えば、単子葉植物若しくは双子葉植物等の複雑な植物(複合植物))、藻類、原生生物、真菌、酵母(サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae、出芽酵母)を含む)、又は動物(哺乳動物、昆虫、節足動物等を含む)に由来する細胞が挙げられる。さらなる例示的な宿主細胞又は細胞株としては、HEK293、HEK293T、Expi293、CHO、CHOK1、Sf9、Sf21、HeLa、U20S、A549、HT1080、CAD、P19、NIH 3T3、L929、N2a、MCF-7、Y79、SO-RB50、HepG2、DUKX-X11、J558L、BHK、COS、Vero、NS0、又はESCが挙げられる。宿主細胞又は細胞株は、個々のコロニー、単離された集団(モノクローナル)、又は細胞の異種混合物を含んでもよいことが理解される。
【0157】
企図される細胞又は細胞株は、例えば、随意に細胞のゲノム又は細胞によって維持されるDNAの別の断片において安定に維持される、直交tRNA/アミノアシル-tRNA合成酵素対の1つ又は複数のコピーを含む。例えば、細胞又は細胞株は、(i)細胞によって安定に維持されるトリプトファニルtRNA/アミノアシル-tRNA合成酵素対(野生型又は操作されたもの)、及び/又は(ii)細胞によって安定に維持されるロイシル-tRNA/アミノアシル-tRNA合成酵素対(野生型又は操作されたもの)の1つ以上のコピーを含有してもよい。
【0158】
例えば、特定の実施形態では、上記細胞株は安定な細胞株であり、その細胞株は、(i)アミノアシル-tRNA合成酵素(例えば、tRNAに非天然アミノ酸を結合させることができる原核生物トリプトファニル-tRNA合成酵素変異タンパク質、若しくはtRNAに非天然アミノ酸を結合させることができる原核生物ロイシル-tRNA合成酵素変異タンパク質)をコードする核酸配列、及び/又は(ii)サプレッサーtRNA(例えば、非天然アミノ酸を結合することができる原核生物サプレッサートリプトファニル-tRNA、若しくは非天然アミノ酸を結合することができる原核生物サプレッサーロイシル-tRNA、例えば本明細書に開示されるサプレッサーtRNA)をコードする核酸配列が安定に組み込まれたゲノムを含む。
【0159】
tRNA及び/若しくはアミノアシル-tRNA合成酵素をコードする核酸を目的の細胞のゲノムに導入する方法、又はゲノムの外側にある細胞によって複製されるDNA中の核酸を安定に維持する方法は、当該技術分野において周知である。
【0160】
tRNA及び/又はアミノアシル-tRNA合成酵素をコードする核酸は、発現ベクター、導入ベクター、又はDNAカセット、例えば本明細書に開示される発現ベクター、導入ベクター、又はDNAカセット中で細胞に提供することができる。tRNA及び/若しくはアミノアシル-tRNA合成酵素をコードする発現ベクター、導入ベクター、又はDNAカセットは、任意選択で、誘導性又は構成的に活性なプロモーターの制御下で、tRNA及び/又はアミノアシル-tRNA合成酵素の1つ以上のコピーを含有することができる。この発現ベクター、導入ベクター又はDNAカセットは、例えば、他の標準成分(エンハンサー、ターミネーター等)を含有してもよい。tRNAをコードする核酸及びアミノアシル-tRNA合成酵素をコードする核酸は、同じ若しくは異なるベクター上にあってもよく、同じ若しくは異なる比率で存在してもよく、同時に若しくは連続して、細胞に導入されてもよく、又は細胞ゲノムに安定に組み込まれてもよいことが企図される。
【0161】
tRNA及び/又はアミノアシル-tRNA合成酵素をコードするDNAカセットの1つ以上のコピーは、トランスポゾン系(例えば、PiggyBac)、ウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター若しくは他のレトロウイルスベクター)、CRISPR/Cas9ベースの組換え、エレクトロポレーション及び天然の組換え、BxB1リコンビナーゼ系を使用して、若しくは複製/維持DNA断片(エプスタイン・バーウイルス由来のもの等)を使用して、宿主細胞ゲノムに組み込むか、又は細胞中で安定に維持することができる。
【0162】
tRNA及び/又はアミノアシル-tRNA合成酵素をコードする核酸を安定に維持し、かつ/又はUAAを目的のタンパク質に組み込むのに効率的である細胞株を選択するために、選択マーカーを使用することができる。例示的な選択マーカーとしては、zeocin(ゼオシン)、ピューロマイシン、ネオマイシン、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、グルタミン合成酵素(GS)、mCherry-EGFP融合体、又は他の蛍光タンパク質が挙げられる。特定の実施形態では、選択マーカータンパク質をコードする遺伝子(又は選択マーカーの存在下での検出可能な機能、例えば、生存度に必要とされるタンパク質をコードする遺伝子)は、細胞株が未成熟終止コドンの部位にUAAを組み込むことができる場合にのみタンパク質が発現されるように、未成熟終止コドンを含んでもよい。
【0163】
特定の実施形態では、2つ以上のtRNA/アミノアシル-tRNA合成酵素対を含む宿主細胞又は細胞株を開発するために、ゲノム組み込み及び選択の反復ラウンドを通して2つ以上のtRNA/アミノアシル-tRNA合成酵素対の複数のコピーを組み込んだ宿主細胞又は細胞株を特定するために、複数の同一又は異なるUAA誘導(指示)コドンを使用することができる。増強されたUAA組み込み効率、低いバックグラウンド、及び減少した毒性を含有する宿主細胞又は細胞株は、1つ以上の終止コドンを含有する選択マーカーを介して最初に単離することができる。続いて、宿主細胞又は細胞株を選択スキームに供して、tRNA/アミノアシル-tRNA合成酵素対の所望のコピーを含有し、1つ以上の終止コドンを含有する目的の遺伝子(ゲノム的に組み込まれたか否かのいずれか)を発現する宿主細胞又は細胞株を特定することができる。タンパク質発現は、例えば、目的のタンパク質又はC末端タグに結合する抗体を使用するウエスタンブロットを含む、当該技術分野で公知の任意の方法を使用してアッセイされてもよい。
【0164】
宿主細胞又は細胞株は、例えば、スクリーニング工程、プロモーターの活性化又は形質転換体の選択等の活性に適するように改変された従来の栄養培地中で培養することができる。これらの細胞は、任意選択でトランスジェニック生物に培養することができる。例えば、細胞単離及び培養(例えば、その後の核酸単離)のための他の有用な参考文献としては、Freshney(1994) Culture of Animal Cells,a Manual of Basic Technique、第3版、Wiley-Liss、ニューヨーク;Payneら(1992) Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems、John Wiley &Sons,Inc.、ニューヨーク、ニューヨーク州;Gamborg及びPhillips(編)(1995) Plant Cell,Tissue and Organ Culture;Fundamental Methods Springer Lab Manual、Springer-Verlag(ベルリン、ハイデルベルク(Heidelberg)、ニューヨーク)、並びにAtlas及びParks(編) The Handbook of Microbiological Media(1993) CRC Press、ボカラトン(Boca Raton)、フロリダ州が挙げられる。
【0165】
UAAを組み込む抗体を産生することができる例示的な細胞株の産生は、Royら(2020) MABS 12(1)、e1684749に記載されている。
【0166】
VI. 非天然アミノ酸(UAA)を含むタンパク質及びその製造方法
非天然アミノ酸(UAA)を含むタンパク質及びその製造方法も本発明に包含される。
【0167】
非天然アミノ酸の組み込みは、タンパク質の構造及び/又は機能の変化の調整、サイズ、酸性度、求核性、水素結合、疎水性、プロテアーゼ標的部位の接近可能性の変更、部分への標的化(例えば、タンパク質アレイの場合)、生物学的に活性な分子の添加、ポリマーの付着、放射性核種の付着、血清半減期の調節、組織浸透の調節(例えば、腫瘍)、能動輸送の調節、組織、細胞若しくは器官の特異性又は分布の調節、免疫原性の調節、プロテアーゼ耐性の調節等を含む、様々な目的のために行うことができる。非天然アミノ酸を含むタンパク質は、増強された触媒特性若しくは生物物理学的特性、又はさらには完全に新しい触媒特性若しくは生物物理学的特性を有してもよい。例えば、以下の特性は、非天然アミノ酸をタンパク質に含めることによって任意に改変される:毒性、生体分布、構造特性、分光学的特性、化学的及び/又は光化学的特性、触媒能力、半減期(血清半減期を含むがこれに限定されない)、他の分子と反応する能力(共有結合的若しくは非共有結合的を含むがこれに限定されない)等。少なくとも1つの非天然アミノ酸を含むタンパク質を含む組成物は、新規な治療薬、診断薬、酵素、及び結合タンパク質(例えば、治療用抗体)(これらに限定されない)に有用である。
【0168】
タンパク質は、少なくとも1つ、例えば、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、又は少なくとも10個以上のUAAを有してもよい。このUAAは、同じであってもよいし異なっていてもよい。例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、又は10個以上の異なる部位が、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ又は10個以上の異なるUAAを含むタンパク質中に存在することが可能である。タンパク質は、そのタンパク質中に存在する少なくとも1つ(しかし、すべてより少ない)の特定のアミノ酸がUAAで置換されていてもよい。複数のUAAを有する所与のタンパク質について、UAAは同一であってもよいし異なっていてもよい(例えば、タンパク質は、2つ以上の異なるタイプのUAAを含むことができ、又は2つの同じUAAを含むことができる)。2つを超えるUAAを有する所与のタンパク質について、UAAは、同じであってもよいし、異なっていてもよく、又は同じ種類の複数の非天然アミノ酸と少なくとも1つの異なるUAAとの組み合わせであってもよい。
【0169】
特定の実施形態では、タンパク質は、抗体(又はその断片、例えば、その抗原結合断片)、二重特異性抗体、ナノボディ、アフィボディ、ウイルスタンパク質、ケモカイン、サイトカイン、抗原、血液凝固因子、ホルモン、成長因子、酵素、細胞シグナル伝達タンパク質、又は任意の他のポリペプチド若しくはタンパク質である。
【0170】
本明細書で使用する場合、特段の記載がない限り、「抗体」という用語は、インタクトな抗体(例えば、インタクトなモノクローナル抗体)、又はその断片、例えば、抗体のFc断片(例えば、モノクローナル抗体のFc断片)、又は抗体の抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体の抗原結合断片)を意味し、修飾、操作、若しくは化学的にコンジュゲートされたインタクトな抗体、抗原結合断片、若しくはFc断片を含むと理解される。抗原結合断片の例としては、Fab、Fab’、(Fab’)、Fv、単鎖抗体(例えば、scFv)、ミニボディ、及びダイアボディが挙げられる。改変又は操作された抗体の例としては、キメラ抗体、ヒト化抗体、及び多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)が挙げられる。化学的にコンジュゲートされた抗体の例は、毒素部分にコンジュゲートされた抗体である。
【0171】
典型的には、抗体は、4つのポリペプチド鎖を含有する多量体タンパク質である。そのポリペプチド鎖の2つは免疫グロブリン重鎖(H鎖)と呼ばれ、ポリペプチド鎖の2つは免疫グロブリン軽鎖(L鎖)と呼ばれる。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖は、鎖間ジスルフィド結合によって接続されている。免疫グロブリン重鎖は、鎖間ジスルフィド結合によって接続されている。軽鎖は、1つの可変領域(V)及び1つの定常領域(C)からなる。重鎖は、1つの可変領域(V)及び少なくとも3つの定常領域(CH、CH及びCH)からなる。可変領域は、抗体の結合特異性を決定する。
【0172】
可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)領域は、「相補性決定領域」(「CDR」)と称される超可変性の領域にさらに細分することができ、これは、「フレームワーク領域」(FR)と称されるより保存された領域とともに散在する。ヒト抗体は、フレームワーク領域FR1~FR4によって分離された3つのVH CDR及び3つのVL CDRを有する。FR及びCDRの範囲は定義されている(Kabat,E.A.ら(1991) SEQUENCES OF PROTEINS OF IMMUNOLOGICAL INTEREST、第5版、U.S. Department of Health and Human Services(米国保健福祉省)、NIH刊行物番号91-3242;及びChothia,C.ら(1987) J.MOL.BIOL. 196:901-917)。各VH及びVLは、典型的には、以下の順序でアミノ末端からカルボキシル末端へと配置される3つのCDR及び4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。
【0173】
抗体分子は、(i)例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、及びIgEの重鎖定常領域から選択される重鎖定常領域;特に、例えばIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4の(例えば、ヒト)重鎖定常領域から選択される重鎖定常領域、並びに/又は(ii)例えば、κ(カッパ)若しくはλ(ラムダ)の(例えば、ヒト)軽鎖定常領域から選択される軽鎖定常領域を有してもよい。
【0174】
特定の実施形態では、UAA、例えば、第1及び/又は第2のUAAは、抗体の重鎖又は軽鎖定常領域に位置する。例えば、特定の実施形態では、第1及び/又は第2のUAAを含むタンパク質は、(例えば、配列番号114のアミノ酸配列、若しくは配列番号114と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する)ヒトIgG1アイソタイプの重鎖定常領域を含む抗体又はその断片であり、第1及び/又は第2のUAAは、ヒトIgG1アイソタイプの重鎖定常領域内に(例えば、配列番号114の位置78のトレオニンに対応する位置に)位置する。特定の実施形態では、第1及び/又は第2のUAAを含むタンパク質は、(例えば、配列番号115のアミノ酸配列、若しくは配列番号115と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する)ヒトκ定常領域を含む抗体又はその断片であり、第1及び/又は第2のUAAは、ヒトκ定常領域内に位置する。
【0175】
特定の実施形態では、UAA、例えば、第1及び/又は第2のUAAは、抗体の可変重鎖(VH)及び/又は可変軽鎖(VL)領域のフレームワーク領域、例えば、FR4に位置する。
【0176】
特定の実施形態では、第1及び/又は第2のUAAを含むタンパク質は、配列番号116のアミノ酸配列、若しくは配列番号116と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又はその断片であり、第1及び/又は第2のUAAは、配列番号116内に(例えば、配列番号116の位置11のトレオニンに対応する位置に)位置する。特定の実施形態では、第1及び/又は第2のUAAを含むタンパク質は、配列番号117のアミノ酸配列、若しくは配列番号117と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又はその断片であり、第1及び/又は第2のUAAは、配列番号117内に(例えば、配列番号117の位置11のリシンに対応する位置に)位置する。
【0177】
1つ以上の非天然アミノ酸を含むように修飾することができる治療用、診断用、及び他のタンパク質のさらなる例は、米国特許出願公開第2003/0082575号明細書及び米国特許出願公開第2005/0009049号明細書に記載されている。
【0178】
本明細書に開示されるtRNA、アミノアシル-tRNA合成酵素、及び/又は非天然アミノ酸は、任意の適切な翻訳系を使用して、非天然アミノ酸を目的のタンパク質に組み込むために使用されてもよい。
【0179】
用語「翻訳系」は、成長中のポリペプチド鎖(タンパク質)にアミノ酸を組み込むために必要な成分を含む系を指す。翻訳系の成分としては、例えば、リボソーム、tRNA、合成酵素、mRNA等を挙げることができる。翻訳系は、細胞性又は無細胞性であってよく、原核生物由来又は真核生物由来であってよい。例えば、翻訳系は、非真核細胞、例えば、細菌(例えば、大腸菌)、真核細胞、例えば、酵母細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、藻類細胞、真菌細胞、又は昆虫細胞を含んでもよいし、又はそれらに由来してもよい。
【0180】
翻訳系には、宿主細胞又は細胞株、例えば、本明細書で企図される宿主細胞又は細胞株が含まれる。非天然アミノ酸を有する目的のポリペプチドを宿主細胞において発現させるために、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、例えば、転写を導くプロモーター、転写/翻訳ターミネーター、及びタンパク質をコードする核酸の場合、翻訳開始のためのリボソーム結合部位を含有する発現ベクターにクローニングしてもよい。
【0181】
翻訳系は、所望の核酸配列がmRNAに転写され、mRNAが翻訳されることが可能な、透過処理細胞又は細胞培養物等の全細胞調製物も含む。無細胞翻訳系は市販されており、多くの異なるタイプ及び系が周知である。無細胞系の例としては、原核生物溶解物、例えば大腸菌溶解物、並びに真核生物溶解物、例えばコムギ胚芽抽出物、昆虫細胞溶解物、ウサギ網状赤血球溶解物、ウサギ卵母細胞溶解物及びヒト細胞溶解物が挙げられるが、これらに限定されない。再構成された翻訳系を使用してもよい。再構成された翻訳系は、精製された翻訳因子の混合物、並びに開始因子-1(IF-1)、IF-2、IF-3(α若しくはβ)、伸長因子T(EF-Tu)、若しくは翻訳終了因子(終結因子)等の精製された翻訳因子を補充した溶解物の組み合わせ又は溶解物を含んでもよい。無細胞系は、DNAが系に導入され、mRNAに転写され、そしてそのmRNAが翻訳される共役転写/翻訳系であってもよい。
【0182】
本発明は、非天然アミノ酸を含有するタンパク質を発現させる方法、及びタンパク質中の特定の位置に1つ以上の非天然アミノ酸を有するタンパク質を生成する方法を提供する。当該方法は、細胞内で発現されるタンパク質への非天然アミノ酸の組み込みを可能にする条件下で翻訳系をインキュベートする(例えば、宿主細胞若しくは細胞株、例えば、本明細書に開示される宿主細胞若しくは細胞株を培養又は増殖させる)工程を含む。この翻訳系は、タンパク質への1つ以上の非天然アミノ酸の組み込みに適した条件下で、1つ以上の非天然アミノ酸(例えば、ロイシル類似体又はトリプトファニル類似体)と接触してもよい(例えば、細胞培養培地をその1つ以上の非天然アミノ酸と接触させてもよい)。
【0183】
特定の実施形態では、上記タンパク質は、未成熟終止コドンを含む核酸配列から発現される。翻訳系(例えば、宿主細胞又は細胞株)は、例えば、サプレッサーロイシルtRNA(例えば、本明細書に開示されるサプレッサーロイシルtRNA)に、上記未成熟終止コドンに対応する位置でタンパク質に組み込まれる非天然アミノ酸(例えば、ロイシル類似体)を結合させることができるロイシル-tRNA合成酵素変異タンパク質(例えば、本明細書に開示されるロイシル-tRNA合成酵素変異タンパク質)を含有してもよい。特定の実施形態では、ロイシルサプレッサーtRNAは、未成熟終止コドンにハイブリダイズしてその未成熟終止コドンに対応する位置でタンパク質に非天然アミノ酸を組み込むことを可能にするアンチコドン配列を含む。
【0184】
特定の実施形態では、上記タンパク質は、未成熟終止コドンを含む核酸配列から発現される。翻訳系(例えば、宿主細胞又は細胞株)は、例えば、サプレッサートリプトファニルtRNA(例えば、本明細書に開示されるサプレッサートリプトファニルtRNA)に、上記未成熟終止コドンに対応する位置でタンパク質に組み込まれる非天然アミノ酸(例えば、トリプトファン類似体)を結合させることができるトリプトファニル-tRNA合成酵素変異タンパク質(例えば、本明細書に開示されるトリプトファニル-tRNA合成酵素変異タンパク質)を含有してもよい。特定の実施形態では、トリプトファニルサプレッサーtRNAは、その未成熟終止コドンにハイブリダイズして未成熟終止コドンに対応する位置でタンパク質に非天然アミノ酸を組み込むことを可能にするアンチコドン配列を含む。
【0185】
特定の実施形態では、タンパク質(例えば、UAA、例えば第1及び/又は第2のUAAを含有するタンパク質)は、真核細胞(例えば、哺乳動物細胞)において発現又は産生される。特徴は、原核細胞(例えば、細菌)において産生されるタンパク質を真核細胞(例えば、哺乳動物細胞)において産生されるタンパク質から区別してもよい。例えば、哺乳動物細胞において産生されるタンパク質は、翻訳後修飾、例えば、小胞体又はゴルジ装置等の細胞小器官に位置する酵素に依存する修飾を受けてもよい。例えば、小胞体におけるジスルフィド結合形成は、タンパク質の立体構造及び/又は安定化に影響を及ぼす可能性がある。このような翻訳後修飾のさらなる例としては、硫酸化、アミド化、パルミチン化(palmitation)、及びグリコシル化(例えば、N結合型グリコシル化及びO結合型グリコシル化)が挙げられるが、これらに限定されない。従って、特定の実施形態では、タンパク質(例えば、UAA、例えば第1及び/又は第2のUAAを含有するタンパク質)は、硫酸化、アミド化、パルミチン化、並びにグリコシル化(例えば、N結合型グリコシル化及びO結合型グリコシル化)から選択される1つ以上の翻訳後修飾を含む。
【0186】
本明細書全体にわたって、組成物が特定の成分を有する、含む(including)、若しくは含む(comprising)ものとして記載されるか、又はプロセス及び方法が、特定の工程を有する、含む(including)、若しくは含む(comprising)ものとして記載されるが、加えて、列挙された成分から本質的になる、若しくはそれからなる本発明の組成物が存在すること、並びに列挙された処理工程から本質的になる、若しくはそれからなる本発明に係るプロセス及び方法が存在することが企図される。
【0187】
本出願では、要素又は構成要素が、列挙された要素又は構成要素のリストに含まれる、及び/又は列挙された要素又は構成要素のリストから選択されると記載されるが、その要素又は構成要素は、列挙された要素若しくは構成要素のいずれか1つであってもよいし、又はその要素若しくは構成要素が列挙された要素若しくは構成要素の2つ以上からなる群から選択されることが可能であることを理解されたい。
【0188】
さらに、本明細書に記載される組成物若しくは方法の要素及び/又は特徴は、本明細書で明示的又は暗示的であろうと、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく種々の方法で組み合わせることができるということを理解されたい。例えば、特定の化合物について言及されるが、その化合物は、文脈から矛盾すると理解されない限り、本発明の組成物の様々な実施形態及び/又は本発明の方法において使用することができる。言い換えれば、本出願内では、明確かつ簡潔な応用を記述及び描写することを可能にするように、実施形態が説明及び描写されたが、実施形態は、本教示及び本発明から逸脱することなく、様々に組み合わされ又は分離されてもよいことが意図されており、これは理解されるであろう。例えば、本明細書に記載及び描写されるすべての特徴は、本明細書に記載及び描写される本発明のすべての態様に適用可能であることができることが理解されるであろう。
【0189】
「…のうちの少なくとも1つ」という表現は、文脈及び使用から矛盾すると理解されない限り、表現の後の列挙された対象の各々、及び列挙された対象のうちの2つ以上の様々な組み合わせを個々に含むことを理解されたい。3つ以上の列挙された対象に関する表現「及び(並びに)/又は(若しくは)」は、文脈から矛盾すると理解されない限り、同じ意味を有すると理解されるべきである。
【0190】
用語「include(含む)」、「includes(含む)」、「including(含む)」、「have(有する)」、「has(有する)」、「having(有する)」、「contain(含有する)」、「contains(含有する)」、又は「containing(含有する)」の使用は、その文法的等価物を含めて、オープンエンド型でも非限定的でもないと具体的に述べられない限り、又は文脈から理解されない限り、全体として、例えば、追加の列挙されていない要素又は工程を除外しない、オープンエンド型で非限定的であると理解されるべきである。
【0191】
定量値の前に「約」という用語が使用される場合、本発明には、特に具体的に断らない限り、具体的な定量値そのものも含まれる。本明細書で使用する場合、「約」という用語は、特段の記載又は推測がない限り、記載値から±10%の変動を指す。
【0192】
工程の順序又は特定の動作を実行するための順序は、本発明が作動可能なままである限り重要ではないことを理解されたい。さらに、2つ以上の工程又は動作が同時に行われてもよい。
【0193】
本明細書におけるいずれかの及びすべての例、又は例示的な語句、例えば、「such as(等、など)」又は「including(含めて)」の使用は、単に本発明をより良く説明することを意図しており、請求項に記載されない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいかなる語句も、請求項に記載されていない要素を本発明の実施に不可欠なものとして示すものとして解釈されるべきではない。
【0194】
配列表
【表1(1)】
【表1(2)】
【表1(3)】
【表1(4)】
【表1(5)】
【表1(6)】
【表1(7)】
【表1(8)】
【表1(9)】
【表1(10)】
【表1(11)】
【表1(12)】
【表1(13)】
【表1(14)】
【表1(15)】
【表1(16)】
【表1(17)】
【表1(18)】
【表1(19)】
【表1(20)】
【表1(21)】
【表1(22)】
【表1(23)】
【表1(24)】
【表1(25)】
【表1(26)】
【表1(27)】
【表1(28)】
【表1(29)】
【表1(30)】
【実施例
【0195】
以下の実施例は単に例示的であり、本発明の範囲又は内容を限定することを何ら意図するものではない。
【0196】
実施例1 - タンパク質中の複数の非天然アミノ酸(UAA)の組み込みのためのマルチサイト組み込みスキーム
本実施例は、単一のタンパク質への複数のUAAの組み込みのために利用されるアプローチを説明する。
【0197】
図7は、哺乳動物細胞において発現されるタンパク質への2つの異なるUAAの部位特異的組み込みのための一般的スキームを描く。UGAコドンは、適切なtRNA/アミノアシル-tRNA合成酵素(aaRS)対1と共に使用されて第1のUAA(UAA1)を組み込み、一方、UAGコドンは、第2のtRNA/aaRS対2と共に使用されて第2のUAA(UAA2)を組み込む。コドンの位置に関係なく、適切なtRNA/aaRS対と組み合わせた2つの異なるコドンは、それぞれの部位に組み込まれた2つの異なるUAAを含む、リボソームで発現されたタンパク質を生成する。
【0198】
タンパク質への複数のUAAの成功した効率的な組み込みを可能にする成分の選択は、そのようなマルチサイト組み込みのために使用することができる、異なるaaRS、tRNA、UAA、コドン、及び対の組み合わせの200万を超える可能な組み合わせが存在することを考えると、困難である。結果として、2つの別個のバイオコンジュゲーションハンドルの部位特異的組み込みに使用するのに適したこれらの要素の特定の組み合わせを見出すことは困難である。
【0199】
実施例2 - 哺乳動物細胞におけるTGA-終止コドン媒介抑制の比較
本実施例は、単一のタンパク質への複数のUAAの組み込みに対するTGA-終止コドンの有効性を分析するための研究を記載する。
【0200】
すべての小規模EGFP組み込み分析のために、以下のプロトコルを使用した。HEK293T細胞を、トランスフェクションの前日に、12ウェルプレートについて1ウェル当たり600,000細胞の密度で播種した。総量で1.2μg DNA + 4μl PEI + 20μl DMEMを、各ウェルのトランスフェクションに使用した。モジュール式3プラスミドトランスフェクションでは、0.4μgの各プラスミドを使用した。2プラスミドトランスフェクションでは、0.6μgの各プラスミドを使用した。蛍光顕微鏡法で蛍光画像(蛍光像)を取得し、その後のEGFP発現解析はトランスフェクション後48時間で行った。EGFP発現データを得るために、細胞を回収し、以前に記載したように溶解した(PCT/US2020/045506号を参照)。溶解液中のEGFP蛍光は、SpectraMAX M5(Molecular Devices(モレキュラーデバイス))を用いて(ex=480nm及びem=530nm)96ウェルプレートで収集した。3つの独立した実験の平均を報告し、エラーバーは標準偏差を表す。
【0201】
2つのUAAを組み込むより大規模なタンパク質発現研究のために、トランスフェクションの2日前に、HEK293T細胞を100mm細胞培養皿に播種した(1皿当たり500万個の細胞)。12μg DNA + 50μl PEI + 200μl DMEMの反応混合物を用いて、80%~90%のコンフルエント(培養密度)になった細胞にトランスフェクションを行った。UAAは、トランスフェクション時に1mMの最終濃度で補充した。トランスフェクション後48時間で細胞を回収し、CelLytic Mで溶解し、C末端ポリヒスチジンタグ付きタンパク質をコバルト含有TALON金属アフィニティー樹脂カラム(Clontech)を用いて製造者のプロトコルに従って精製した。精製したタンパク質を、例えば、SDS-PAGEゲル及びエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)(Agilent TOF HPLC-MS)に供して、さらなる特徴評価を行った。
【0202】
図8は、CMVプロモーター下のアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)及びh1/U6プロモーター下のtRNAを有するpAcBacプラスミドを用いたtRNA/aaRS対間の異なるコドン組み込み効率の比較を記載する。この研究で使用したtRNA/aaRSは、大腸菌チロシン、ピロリシン、大腸菌ロイシル、大腸菌トリプトファンにそれぞれ1mM OmeY、BocK、C5Az(図2、式1、X=S、n=3)、及びHTPを加えたものであった。無細胞抽出物中の特徴的な蛍光によって測定した全長EGFPレポーター発現を、ナンセンス抑制効率を表すために各場合において決定した。各aaRS(Tyr、Pyl、Leu、又はTrp)を、その同族tRNAのTAG又はTGAサプレッサーのいずれか及び適切なEGFP変異体(TAG又はTGA)のいずれかと共トランスフェクトし、各対が2つの異なるナンセンスコドンをどれだけ抑制したかを評価した。
【0203】
図8に対応する研究において、以下のtRNA/aaRS対を使用した:チロシン - 配列番号70、69(CUA)、及び68、ピロリシン - 配列番号101、73(CUA)、及び72、ロイシル - 配列番号4、16及び17、並びにトリプトファン - 配列番号45、50、及び51。
【0204】
これらの研究において、トリプトファンは、最も高いTGA発現レベルを示した。
【0205】
実施例3 - 合成酵素の交差反応性の分析
この実施例は、tRNA/aaRS対の選択された組み合わせの交差反応性の検討を提供する。
【0206】
EGFP TAG又はTGAレポーターを、PCT/US2020/045506号に記載されているのと同じプロトコルに従って使用した。1mMのUAAであるOmeY、BocK、C5Az、又はHTPを、各tRNAと、それぞれのLeuRS、TyrRS、PylRS、及びTrpRS合成酵素と組み合わせて使用した(図9)。図9に対応する研究では、以下のtRNA/aaRS対を使用した:チロシン - 配列番号70、69(CUA)、及び68、ピロリシン - 配列番号101、73(CUA)、及び72、ロイシル - 配列番号4、16、及び17、並びにトリプトファン - 配列番号45、50、及び51。
【0207】
図9Aは、TAGサプレッサーtRNAを用いた交差反応性を強調し、一方、図9Bは、TGAサプレッサーtRNAを用いた交差反応性を強調する。例えば、LeuRSはその同族tRNAに対してのみ選択性を示し(図9A)、LeuRSをマルチサイトUAA組み込みにおける使用の有力候補とした。対照的に、EcTyrRSはその同族チロシンtRNAにOmeYを結合させることができるが、Leu-tRNACUAに対して追加的に交差反応性であった(図9A)。この交差反応性の傾向は、より低い割合ではあるが、チロシルaaRSとロイシルtRNAとの間のTGA抑制でも観察された(図9B)。チロシル及びロイシル-tRNA/aaRS対の間の交差反応性は、ロイシルサプレッサーtRNAに結合させることができるEcTyrRSに起因し、それゆえこの組み合わせは、この設定における二重抑制に不適合である。
【0208】
実施例4 - EGFP**レポーターアッセイを介して実証された2つのUAAの部位特異的組み込み
この実施例は、EGFPレポーター系を用いて、哺乳動物細胞において2つのUAAをタンパク質に組み込むことが可能であることを実証する。
【0209】
二重のUAAの組み込みのために特別にプラスミドを構築した。典型的には、各対のためのプラスミド構成要素は、U6/H1プロモーターの下で、CMV促進aaRSと、4~16コピーの範囲のtRNAのマルチコピーカセットとを含む。プラスミドの1つにおいて構成的プロモーター下でレポーターを導入することにより、トランスフェクションにおいて必要とされるプラスミドの数を減少させることが企図される。
【0210】
図10に対応する研究において、以下のtRNA/aaRS対を使用した:チロシン - 配列番号70、69(CUA)、及び68、ピロリシン - 配列番号101、73(CUA)、及び72、ロイシル - 配列番号4、16及び17、並びにトリプトファン - 配列番号45、50、及び51。
【0211】
いくつかの例では、EcTyrTGA+PylTAGについては、プラスミドpAcBac3-EcTyrTGA-EGFP**(EGFP**はEGFP-39TAG-151TGAを表す)及びpAcBac1-UbiCMbPylRS-8xtRNACUA Pylを構築した。EcTyrTAG+PylTGAについては、プラスミドpAcBac3-EcTyrTAGEGFP**及びpAcBac1-CMV-MbPylRS-8xtRNAUCA Pylを構築した。pAcBac3-EcTyrTAG-EGFP**は以前記載したように(例えば、Zhengら(2017) CHEM SCI. 8(10):7211-7217)構築したが、ただし、(元のpAcBac3における20コピーの代わりに)16のtRNAコピーのみを組み込んだ。類似のpAcBac3-EcTyrTGA-EGFP**プラスミドを、8つのtRNAコピーを組み込んだことを除いて、同様に作製した。pAcBac1-CMV-MbPylRS-8xtRNAUCA Pylプラスミドを生成するために、まず、U6プロモーターによってそれぞれ駆動されるタンデムtRNAUCA Pylのコピーを8個含むpIDT-Kan-8xtRNAUCA Pylプラスミドを調製した。このプラスミドから8xtRNAカセットをNheI/AvrII消化で切り出し、既報のpAcBac1-MbPylRSプラスミドのSpeI部位に挿入した。類似のクローニング戦略を用いて、対応するTAG抑制プラスミドpAcBac1-UbiC-MbPylRS8xtRNACUA Pylを作製した。pAcBac3-EcLeuTAG-EGFP**プラスミドの構築のために、既報のプラスミドpAcBac2R-8xEcLtR-AnapRS3中のAnapRSをNheI及びEcoRI制限酵素部位により置き換えるために、EcLeuRSをコードするDNA配列をPCRで増幅した。EcLeuRS遺伝子も後述の作業で他のaaRS変異体で置き換えた。その後、EGFP**をPCR増幅し、SfiI部位に挿入して最終的なプラスミドを作製した。同様に設計したプラスミドを、大腸菌のTrpRS/tRNA対について、DNA領域の相違を最小限に抑えて作製した。
【0212】
EGFP**レポーターにおけるマルチサイトUAA組み込みの発現レベルは、pAcBac-tRNA/aaRS及びpAcBac-tRNA/aaRS/EGFP**の種々の組み合わせを使用して図10において決定した。1mMの各UAAを使用した。例えば、チロシンTGAサプレッサーとピロリシンTAGサプレッサープラスミドの第1のプラスミドの組み合わせは、UAAの組み合わせOMeY+BocK又はUAAの組み合わせAzF+CpKを含むEGFP**の比較的低い収量(収率)となった。AzF+CpK(797)、及びCy5-N3+CpK(204)等、低いがバイオコンジュゲーションに適したアミノ酸の組み合わせの蛍光レベルを、5HTP+CpK(1226)、Cy5-N3+5HTP(1077)、及び5HTP+AzF(1670)等の高収量組み合わせと比較することが重要であり、この高収量組み合わせでは、他のすべての既存のバイオコンジュゲーションの選択肢と比較して収量が2~10倍改善している。試験したUAAの組み合わせについて、タンパク質をSDS-PAGEにより分析したところ、均質な生成物を示す単一のバンドが観察された(図10B)。
【0213】
標準的な全タンパク質ESI-MS分析を、上記の10個のEGFP**変異体について実施した。図11A~Gにおいて、2つの異なるUAAを含有する非標識タンパク質を、分子量及び純度について分析した。図11Aは、UAA HTP及びBocKを含有するEGFPの結果を示し、図11Bは、UAA 5HTP及びOMeYを含有するEGFPの結果を示し、図11Cは、UAA 5HTP及びCys-5-N3を含有するEGFPの結果を示し、図11Dは、UAA 5HTP及びBocKを含有するEGFPの結果を示し、図11Eは、UAA 5HTP及びシクロプロペン-Kを含有するEGFPの結果を示し、図11Fは、UAA AzW及びシクロプロペン-Kを含有するEGFPの結果を示し、図11Gは、UAA 5HTP及びAzKを含有するEGFPの結果を示す。すべてのタンパク質試料は均質であり、各UAAの部位特異的な組み込みを実証した。予想される質量が、各実施例において観察された。
【0214】
EGFP**レポーターは、2つの終止コドン(TAG及びTGA)を有するEGFPタンパク質を含有する。続いて、フルオロフォアをワンポット反応においてこの変異体にコンジュゲートした。アジドを含むEGFP**タンパク質をクリック標識するために、1μgの精製EGFP**を20μM DBCO-Cy5(Sigma(シグマ))とインキュベートした。アルキンUAAを含有するEGFP**については、1μgのタンパク質を50μM Alexa Fluor 488ピコリルアジド(Fisher Scientific(フィッシャー・サイエンティフィック))と室温で2時間インキュベートした。対照実験として、野生型EGFPを用いた同一の反応を設定した。CpKを含有するEGFPを標識するために、5μMのタンパク質を200μMのテトラジン・フルオレセインと、PBS中、室温で30分間インキュベートした。5HTPを含有するタンパク質について、1μgの精製EGFP**(約6~10μM)を5倍過剰のジアゾニウムで標識した。図11Hは、5HTP及びAzKを含むEGFP**を、標的5HTPのみが標識されるジアゾニウムフルオロフォアで上述の条件を用いて単一標識したものの液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)結果を示し、非標識の図11Gからの単一の予想質量シフトを描いている。図11Iは、5HTP及びAzKを含有するEGFP**を、標的アジドのみが標識されるDBCO-TAMRAで上述の条件を用いて単一標識したもののLCMS結果を示し、非標識の図11Gからの単一の予想質量シフトを描いている。図11Jは、5HTP及びAzKを含有するEGFP**を、5HTPがジアゾニウムで選択的に標識され、AzKがDBCO-TAMRAで選択的に標識されるジアゾニウムフルオロフォア及びDBCO-TAMRAで上述した条件を用いて二重標識したもののLCMS結果を示し、非標識の図11Gからの単一の予想質量シフトを描いている。
【0215】
標識後、得られたタンパク質もSDS-PAGE分析に供し、BioRad(バイオ・ラッド) Chemidocイメージング装置でフルオレセイン又はTAMRAの設定のいずれかによって画像化した。これらの設定の下では、標識されたタンパク質を含むバンドのみが見え、この分析の結果は、図12に示されている。
【0216】
実施例5 - 抗体への複数の異なるUAAの組み込み及びその後の特性解析
この実施例は、抗体への2つのUAAの組み込み、及びその後の抗体タンパク質の特性解析を説明する。
【0217】
2つの異なるUAAをタンパク質に組み込む能力を、抗体に拡張した。この研究で利用した抗体は、トラスツズマブ(ハーセプチン)等の抗体に相同な領域を含む完全長のヒトIgG1サブクラスモノクローナル抗体(mAb)であった。4xU6促進Trp-tRNAUCA(配列番号51)を有するCMV促進TrpRS.h14(配列番号45)を含有するトリプトファンプラスミドを構築した。ロイシルサプレッサープラスミドは、4xU6促進LeutRNACUA(配列番号16)を有するCMV促進LeuRS.v1(配列番号2)を含有する構築物であった。軽鎖(LC)及び重鎖(HC)抗体断片は、CMVプロモーターの下で構成的に発現させた。本明細書では、改良された系が、LC及びHC抗体断片をサプレッサープラスミド上に導入し、既報の他のどのマルチサイト抑制タンパク質よりもすでに有意に高い一過性のトランスフェクション収率を増加させることが企図されている。これらのプラスミドを、図15に描かれているように、HCミュータントを含む1つのプラスミド及び終止コドンを有するLCミュータントを含む1つのプラスミドとともに、製造者のプロトコルに従ってExpi293にトランスフェクトした。
【0218】
1mM UAAを用いて製造者のプロトコルに記載のように及び上記のようにして、標準的なプロテインGカラムを介してタンパク質を精製して、HC-T202-TGA/LC-K113-TAG(UAA HTP及びLCAを組み込んでいる)並びにHC-T202-TAG/LC-K113-TGA(UAA LCA及びHTPを組み込んでいる)抗体について66mg/L及び72mg/Lの総タンパク質を得た。タンパク質収量を図13Aに示す。タンパク質濃度は、ブラッドフォードアッセイ又はIgG設定のNanodropを用いた紫外可視(UV/Vis)吸光度を用いて測定した。SDS-PAGE分析(図13B)は、野生型(WT)(1)、HTP/LCA(2)及びLCA/HTP(3)についてのきれいなバンドを描き、大きい切断は観察されない。これらの抗体は、直交する/適合性のあるコンジュゲーションケミストリーを持つ2つの部位特異的な異なるUAAを含有する。図14は、標的PNGase/還元LCMSデータを描く。K113-LCAを含有するLCの標的質量が、単独で観察される(図14A)。HC質量については、2つのピークが観察される(図14A)。49,853の脱グリコシル化標的質量が観測されたが、部分的な脱グリコシル化によりグリコシル化生成物(51,296)が生じた。理論に縛られることを望まないが、この結果は、UAAの導入部位がグリコシル化部位に立体的に近接している場合に起こるのかもしれない。それにもかかわらず、重要なことは、PNGase/還元がない場合、純粋な完全なタンパク質質量が観察されることである。
【0219】
HC-T202-TGA/LC-K113-TAG(HTP/LCA)抗体を、上記のような方法論を用いて、図16に模式的に描かれたジアゾ-PEG4-ビオチン及びDBCO-AF647で標識化した。図16は、mAbの二量体の性質のために、各標識試薬が抗体を2回標識する(結果として、合計4つのコンジュゲートを生成する)ので、簡略化された描写である。図17のHPLC-HICトレースは、疎水性分子AF647及びビオチンの添加に伴う適切なシフトを示した。図17Aは、非標識のLC及びHCピークを示す。図17Bは、DBCO-AF647の添加に伴うLCピークのシフトを示す。2つの追加のピークが見られるが、これらは、mAbが含まれないDBCO-AF647のみの対照によって明らかにされるように(図17E)、DBCO-AF647添加物に対応し、それゆえ、試料純度の減少を示すものではない。図17Cは、ジアゾ-ビオチンの添加によるHCピークシフトを示す。図17Dは、一緒に標識した場合、より疎水性のピークへの完全なシフトを示す。全体として、約100%の標識化がHPLC-HICによって観察され、全体的なタンパク質純度が非常に高いことが示された。
【0220】
全体として、これらの研究は、複数の異なるUAAを抗体に組み込む能力、及びこれらの抗体を(上記のEGFP**レポーター実験で行ったように)治療ペイロード又はフルオロフォアで標識する能力を実証している。
【0221】
参照による組み込み
本明細書で言及される各特許及び科学文献の開示全体は、すべての目的のために参照により組み込まれる。
【0222】
均等物
本発明は、その趣旨又は本質的な特性から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化されてもよい。それゆえ、上述の実施形態は、すべての点において、本明細書に記載された発明を限定するのではなく、例示的であるとみなされる。従って、本発明の範囲は、上述の説明によってではなく、添付の請求項によって示され、請求項の意味及び均等の範囲内に入るすべての変更は、本発明に包含されることが意図されている。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図11H
図11I
図11J
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
【配列表】
2022551483000001.app
【国際調査報告】