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特表2022-551484キノンメチドおよびアンモニウム塩重合防止剤組成物および方法
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  • 特表-キノンメチドおよびアンモニウム塩重合防止剤組成物および方法 図1
  • 特表-キノンメチドおよびアンモニウム塩重合防止剤組成物および方法 図2
  • 特表-キノンメチドおよびアンモニウム塩重合防止剤組成物および方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-09
(54)【発明の名称】キノンメチドおよびアンモニウム塩重合防止剤組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 49/683 20060101AFI20221202BHJP
   C08F 2/40 20060101ALI20221202BHJP
   C07C 211/63 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
C07C49/683
C08F2/40
C07C211/63
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521390
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(85)【翻訳文提出日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 US2020054967
(87)【国際公開番号】W WO2021072181
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】62/913,934
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510250467
【氏名又は名称】エコラボ ユーエスエー インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン マセレ
【テーマコード(参考)】
4H006
4J011
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB48
4J011NA17
4J011NA23
4J011NB01
4J011NC04
(57)【要約】
【課題】モノマー(例えば、スチレン)組成物、キノンメチド重合遅延剤、およびアンモニウム塩の重合を阻害するための組成物および方法の提供。
【解決手段】モノマー(例えば、スチレン)組成物、キノンメチド重合遅延剤、およびアンモニウム塩の重合を阻害するための組成物および方法が記載されている。混合物では、アンモニウム塩は、キノンメチド重合遅延剤の有効性を改善し、より優れた重合防止剤活性を提供する。次に、混合物は、装置の汚染を低減または防止し、モノマー流の純度を向上させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノンメチドおよびアンモニウム塩を含む、組成物。
【請求項2】
前記キノンメチドが、式I:
【化1】
であり、式中、RおよびRが、独立して、C4~C18アルキル、C5~C12シクロアルキル、フェニル、およびC7~C15シクロアルキルから選択され、RおよびRが、独立して、-H、C1~C18アルキル、フェニル、置換フェニル、C5~C12シクロアルキル、-CN、-COOH、-C=CHR、-C≡CR、-COOR、-COR、-OCOR、-CONHRから選択され、Rが、H、C1~C18アルキル、C5~C12シクロアルキル、フェニル、およびC7~C15シクロアルキル、ならびに置換フェニルから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記キノンメチドが、7-フェニルキノンメチドである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アンモニウム塩が、式III:
【化2】
のカチオン(式中、R、R、R、およびRは、独立して、(a)-H、(b)炭素含有基、(c)酸素含有基、(d)酸素および炭素含有基から選択される)、または式IV:
【化3】
のカチオン(式中、Rは、一価もしくは多価の炭素含有基であり、yは、1~4の範囲の整数であり、R、R、およびRは、独立して、記載されるような(a)~(d)から選択される)を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記式IIIのカチオンにおいて、R、R、R、およびRのうちの少なくとも3つが、(b)~(d)のうちのいずれか1つ若しくはその組み合わせであるか、または前記式IVのカチオンにおいて、R、R、およびRのうちの少なくとも2つが、(b)~(d)のうちのいずれか1つ若しくはその組み合わせである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
(b)前記炭素含有基が、炭素、酸素、および水素からなり、(c)前記酸素含有基が、酸素および水素からなり、(d)前記酸素および炭素含有基が、炭素、酸素、および水素、または(b)~(d)の任意の組み合わせからなる、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
前記アンモニウム塩の前記カチオンは、(a)炭素原子の総量が0~18、1~12、もしくは2~10の範囲である、(b)酸素原子の総量が0~6、1~4、もしくは1~3の範囲である、(c)水素原子の総量が4~40、6~30、もしくは8~24の範囲である、または(a)~(c)の任意の組み合わせである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記炭素含有基が、C1~C18アルキル、アリール、アルキルアリール、およびアリールアルキルから選択される、請求項4~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記炭素含有基が、
(a)直鎖もしくは分岐C1~C12アルキル基であるか、もしくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、およびtert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、およびドデシルからなる群から選択される、
(b)C1~C12シクロアルキル基であるか、もしくはシクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロオクチルからなる群から選択される、
(c)C1~C14アリール基であるか、もしくはフェニル、エチルフェニル、トリル、ナフチル、およびアントラシルからなる群から選択される、または
(d)直鎖もしくは分岐C1~C12アルキレン基であるか、もしくはアリルおよびイソブテニルからなる基から選択される、請求項4~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記酸素および炭素含有基が、式VIII:
【化4】
であり、式中、R15、R16、R17、R18、およびR19が、独立して、H、C~C18アルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、および-OR20から選択され、OR20が、R15~R19のうちのいずれかと同じ意味を有し、式VIIIが、少なくとも1つの-OR20基を含むか、またはR16およびR17が、互いに結合して環状アルキルもしくはアリール基を形成する二価炭化水素含有基であり、yが、1~3の範囲の整数である、請求項4~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記酸素および炭素含有基が、直鎖または分岐C1~C18ヒドロキシアルキル基であるか、またはヒドロキシメチル、1-もしくは2-ヒドロキシエチル、1-、2-、もしくは3-ヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシイソプロピル、1-、2-、3-、もしくは4-ヒドロキシブチル、および1-、2-、もしくは3-ヒドロキシイソブチルからなる群から選択される、請求項4~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記酸素および炭素含有基が、2-ベンゾオキサゾリル、アジピル、グルタリル、スクシニル、マロニル、アセチル、アクリリル、メタクリリル、カプロイル、ベンゾイル、フタロイル、テレフタロイル、カルベトキシ、カルボニル、およびホルミルからなる群から選択される、請求項4~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記炭素含有基が、1,3,5-sym-トリアジニル、2-ベンズイミダゾリル、2-ピリジル、および2-ピラジニルからなる群から選択されるような、窒素および炭素含有基である、請求項4、5、または7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記炭素および酸素含有基が、2-ピリミジニルおよびアミノカルボニルからなる群から選択されるような、窒素、酸素、および炭素含有基である、請求項4、5、または7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記炭素含有基が、3-メルカプトプロピオニルなどの、酸素、硫黄及び炭素含有基である、請求項4~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記酸素含有基が、ヒドロキシルである、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項17】
、R、R、およびRのうちの1つが、-Hであるか、またはR、R、およびRのうちの1つが、-Hである、請求項4~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記アンモニウム塩が、式VI:
【化5】
のカチオンを含み、式中、R、R、およびRが、ここに記載されるとおりである、請求項4~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記カチオンが、N,N-トリイソプロパノールアンモニウム、N,N,N-トリス(2-ヒドロキシ-2-フェニル)アンモニウム、N,N-ジエチルヒドロキシルアンモニウム、N,N-ジ-イソプロピルアンモニウム、N,N-ジベンジルヒドロキシルアンモニウム、N,N-ビス(2-ヒドロキシ-2-フェニル)ヒドロキシルアンモニウム(N,N-ビス(2-ヒドロキシフェニル)ヒドロキシル-アンモニウム)、N,N-ビス-(3-ブトキシ-2-ヒドロキシプロピル)ヒドロキシルアミン、N,N’-ジ-sec-ブチルフェニレンジアンモニウム、N-sec-ブチル-N’-フェニルフェニレンジアンモニウム、N,N’-ジ-フェニルフェニレンジアンモニウム、N,N-ジ-プロピル-ブチルフェニレンジアンモニウム、N-1,3-ジメチルブチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアンモニウム、およびN-1,4-ジメチルペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアンモニウムからなる群から選択される、請求項4~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記アンモニウム塩が、カルボキシレート基、スルホネート基、ホスホネート基、ニトレート基、またはそれらの組み合わせを含むアニオンを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記アニオンが、カルボキシレート基を含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記アニオンの炭素原子の量は、2~18、3~12、または4~10の範囲である、請求項18または19に記載の組成物。
【請求項23】
前記アニオンの酸素原子の量は、2~4の範囲である、請求項20~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
前記アニオンが、
アセテート(エタノエート);
プロピオネート(プロパノエート);
ブチラート(ブタノエート)、イソブチラート(2-メチルプロパノエート);
バレラート(ペンタノエート)、イソバレラート(3-メチルブタノエート)、2-メチルブタノエート、ピバレート(2,2-ジメチルプロパノエート);
カプロエート(ヘキサノエート)、2-メチルバレラート、3-メチルバレラート、4-メチルバレラート、2,2-2,2-ジメチルブタノエート、2-エチルブタノエート;
ヘプタノエート(エナントエート)、2-メチルカプロエート、3-メチルカプロエート、4-メチルカプロエート、5-メチルカプロエート、2,2-ジメチルバレラート、2-エチルバレラート;
カプリレート(オクタノエート)、2-メチルヘプタノエート、3-メチルヘプタノエート、4-メチルヘプタノエート、5-メチルヘプタノエート、6-メチルヘプタノエート、2,2-ジメチルカプロエート、2-エチルカプロエート(2-エチルヘキサノエート)、および2-プロピルバレラートからなる群から選択される、請求項21に記載の組成物。
【請求項25】
キノンメチドが、前記アンモニウム塩よりも多いモル量で存在する、請求項1~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記キノンメチドおよび前記アンモニウム塩から本質的になる、請求項1~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
有機溶媒をさらに含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
ニトロキシド含有化合物、アミンオキシド含有化合物、ヒドロキシルアミン含有化合物、ニトロソ含有化合物、およびニトロン含有化合物からなる群から選択される重合阻害剤化合物をさらに含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
組成物中のモノマー重合を阻害するための、請求項1~28のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項30】
重合性モノマーの合成、純化、または精製プロセスのための、請求項1~28のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項31】
重合性モノマーの保管または輸送のための、請求項1~28のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項32】
組成物中のモノマーの重合を阻害するための方法であって、前記方法が、
重合性モノマーまたは重合性モノマーを形成することができる化合物、キノンメチド、およびアンモニウム塩を含む組成物を提供することを含み、
重合性モノマーの重合が、キノンメチド、アンモニウム塩の存在下で阻害される、方法。
【請求項33】
重合性モノマーまたは重合性モノマーを形成することができる化合物を含む組成物に、前記キノンメチドおよび前記アンモニウム塩を同時に添加するステップを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記方法が、前記キノンメチドを前記アンモニウム塩の前に前記組成物に添加するステップ、または前記キノンメチドを前記組成物前記アンモニウム塩に添加するステップを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記重合性モノマーが、ビニルまたはエチレン性不飽和基を含む、請求項32~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記重合性モノマーが、アクリル酸、アクリロニトリル、アルキル化スチレン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルベンゼン、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、イソプレン、メタクリル酸、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、α-メチルスチレン、メタクリロニトリル、スチレン、スチレンスルホン酸、ビニルトルエン、およびビニルピリジンからなる群から選択される、請求項32~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物が、1つ以上の非重合性炭化水素を含む、請求項32~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物の1つ以上の成分の精製または加工中に実施される、請求項32~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記第2の組成物の保管または輸送の前に実施される、請求項32~37のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2019年10月11日に出願された米国仮特許出願第62/913,934号の利益を主張し、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、キノンメチドおよびアミン塩を含む組成物、ならびにモノマーの早期重合を防止するための重合防止剤組成物としてのこの組み合わせの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
例えば、スチレン、イソプレン、ブタジエンのようなエチレン性不飽和モノマーを多く含んだ炭化水素流の高温加工は、非常に困難であり得る。様々な化学工業プロセスにおいて、上記モノマーを精製するための高温の使用は、望ましくない問題のあるポリマーにつながる可能性がある。これらのビニルモノマーは、特に高温でラジカル重合によって望ましくない重合をする。同様に、ビニル種を含有する炭化水素流の輸送および保管は、重合防止剤が上記流れに添加されない限り、早期重合をもたらす可能性がある。このように形成されたポリマーは、溶液から沈殿してプロセス設備を汚す可能性がある。これらの望ましくない重合反応はまた、生産効率の喪失および貴重な生成物の消費をもたらす。汚染物質の除去が必要になる。汚染した設備の物理的な取り外しまたはクリーニングには、多くの場合費用がかかる。望ましくない重合反応は、ビニル芳香族モノマーを含む組成物において特に問題となる。
【0004】
望ましくない重合反応を防ぐために、フリーラジカル重合防止剤が、プロセス流または保管された組成物にしばしば添加される。しかしながら、これらの化合物は一般的に非常に急速に消費される。例えば、機械的または加工上の問題が原因で緊急事態が発生し、阻害剤を追加できない場合、以前に追加された阻害剤は急速に消費される。その後、望ましくない重合反応が急速に再発する。
【0005】
当該技術分野で知られている重合阻害剤の例としては、ヒドロキシプロピルヒドロキシルアミン(HPHA)などのジアルキルヒドロキシルアミン、および安定なニトロキシドフリーラジカルが挙げられる。他の阻害剤には、N,N’-ジアルキルフェニレンジアミン、N,N’-ジアリールフェニレンジアミンおよびN-アリール-N’-アルキルフェニレンジアミンが含まれる。キノンジイミド化合物も別のクラスの阻害剤である。
【0006】
2,6-ジニトロフェノール、2,4-ジニトロクレゾール、および2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノール(DNBP)に代表される硫黄およびジニトロフェノール(DNP)化合物などの重合防止剤が最初に使用された。しかしながら、DNPおよび硫黄重合防止剤は、NOおよびSOの排出物を放出して、それらの使用を問題のあるものにする。さらに、DNPベースの重合防止剤は毒性が高いため、DNPベースの重合防止剤を取り扱う担当者の安全性が大きな懸念事項である。
【0007】
しばしば「遅延剤」と呼ばれる他のタイプの重合防止剤化合物は、重合反応の速度を遅くする。しかしながら、それらは重合阻害剤、特に安定なニトロキシドフリーラジカルほど効果的ではない。しかしながら、重合遅延剤は通常、重合阻害剤ほど速く消費されないため、緊急停止の場合に、より有用である傾向がある。
【0008】
DNP遅延剤のより安全な代替品として機能するように設計された化合物の1つのクラスは、キノンメチド化学に基づいている。キノンメチドは、静的条件下でのポリマー形成の速度を遅くし、プロセス流に頻繁に再供給する必要はない。しかしながら、いくつかのキノンメチド化合物は、良好な安定性を示さないか、またはDNPおよび他のNOベースの重合防止剤と比較して、重合速度を阻害するのにそれほど効果的ではない可能性がある。キノンメチド化合物の例は、米国特許第4,003,800号、同第5,583,247号、および同第7,045,647号にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
重合反応を阻害または遅らせるために使用される化合物の有効性、ならびに安定性および安全性の懸念に関連する技術的課題は、この技術分野に残っている。毒性に対する懸念にもかかわらず、DNPベースの重合防止剤は依然として利用可能な最も効率的な遅延剤である。安全上の懸念から、少なくともDNPタイプの遅延剤と同じくらい効果的であるが、毒性がない重合防止製剤が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、キノンメチドである重合遅延剤、およびアンモニウム塩を含むか、または利用する組成物および方法に関する。アンモニウム塩は、様々な実施形態では、ニトロ基またはニトロキシド基含有重合防止剤に匹敵するレベルまで、キノンメチドの重合防止剤の有効性を改善する。当該組成物および方法を使用して、様々な組成物の精製、分別、分離、圧縮、輸送、および保管などの様々なプロセスおよび状況において、スチレンおよびブタジエンのようなエチレン性不飽和モノマーの重合を阻害することができる。本発明の組成物の使用はまた、プロセス、輸送および保管設備の汚染を軽減する。次に、精製されたモノマー製品のポリマー汚染を大幅に低減することができ、そのようなモノマー製品を生成するために使用される設備のメンテナンスコストも低減される。
【0011】
実施形態では、本発明は、キノンメチドおよびアンモニウム塩を含む組成物を提供する。
【0012】
例示的なキノンメチドは、式Iの化合物であり、
【化1】
式中、RおよびRは、独立して、C4~C18アルキル、C5~C12シクロアルキル、フェニル、およびC7~C15シクロアルキルから選択され、RおよびRは、独立して、-H、C1~C18アルキル、フェニル、置換フェニル、C5~C12シクロアルキル、-CN、-COOH、-C=CHR、-C≡CR、-COOR、-COR、-OCOR、-CONHRから選択され、Rは、H、C1~C18アルキル、C5~C12シクロアルキル、フェニル、およびC7~C15シクロアルキル、ならびに置換フェニルから選択される。
【0013】
いくつかの実施形態では、キノンメチド遅延剤は、式IIの化合物であり、
【化2】
式中、RおよびRは、独立して、水素、C4~C18アルキル、C5~C12シクロアルキル、アリール、C7~C15アリールアルキル、およびC7~C15アルキルアリールから選択され、Rは、水素、C1~C18アルキル、C5~C12シクロアルキル、C5~C12
ヘテロシクロアルキル、アリール、C7~C15アリールアルキル、およびC7~C15アルキルアリールから選択される。
【0014】
いくつかの実施形態では、RおよびRは、独立して、水素、C4~C18アルキルから選択されるか、またはより具体的には、独立して、t-ブチル、t-アミル、t-ヘキシル、t-オクチル、もしくはt-デシルから選択される。いくつかの実施形態では、Rは、アリール、C7~C15アリールアルキル、およびC7~C15アルキルアリールから選択され、より具体的には、アリールである。
【0015】
例示的なアンモニウム塩には、式IIIのカチオンが含まれ、
【化3】
式中、R、R、R、およびRは、独立して、(a)-H、(b)炭素含有基、(c)酸素含有基、(d)酸素および炭素含有基から選択される。例示的なカチオンには、モノプロトン化アンモニウムカチオン、ジプロトン化アンモニウムカチオン、トリプロトン化アンモニウムカチオン、および四級アンモニウムカチオンが含まれる。
【0016】
四級アンモニウムカチオンとは、窒素が、R、R、R、およびRの各々における炭素原子に直接結合しているものを指す。例えば、四級アンモニウムカチオンは、R、R、R、およびRが、独立して、アルキル、アリール、アリールアルキル、およびアルキルアリールから選択されるものであり得る。
【0017】
他の例示的なアンモニウム塩には、式IVのカチオンが含まれ、
【化4】
式中、Rは、一価もしくは多価の炭素含有基であり、yは、1~4の範囲の整数であり、R、R、およびRは、独立して、式Iに関して記載されるような(a)~(d)から選択される。
【0018】
例示的なアンモニウム塩には、カルボキシレート基、例えばアセテート、プロピオネート、ブチラート、イソブチラート、バレラート、イソバレラート、2-メチルブタノエート、ピバレート、カプロエート、2-メチルバレラート、3-メチルバレラート、4-メチルバレラート、2,2-2,2-ジメチルブタノエート、2-エチルブタノエート、ヘプタノエート、2-メチルカプロエート、3-メチルカプロエート、4-メチルカプロエート、5-メチルカプロエート、2,2-ジメチルバレラート、2-エチルバレラート;カプリレート、2-メチルヘプタノエート、3-メチルヘプタノエート、4-メチルヘプタノエート、5-メチルヘプタノエート、6-メチルヘプタノエート、2,2-ジメチルカプロエート、2-エチルカプロエート、および2-プロピルバレラート、ならびにそれらの組み合わせを含むアニオンが含まれる。
【0019】
実施形態では、アンモニウム塩は、室温でイオン液体の特性を有する。
【0020】
実施形態では、キノンメチドは、アンモニウム塩よりも多いモル量で存在する。
【0021】
実施形態では、本開示の組成物は、組成物中のモノマー重合を阻害するために使用される。実施形態では、本開示の組成物は、重合性モノマーの合成、純化、または精製プロセスに使用される。実施形態では、本開示の組成物は、重合性モノマーの保管または輸送に使用される。
【0022】
実施形態では、本発明は、組成物中のモノマーの重合を阻害するための方法を提供する。この方法は、重合性モノマーまたは重合性モノマーを形成することができる化合物、キノンメチド、およびアンモニウム塩を含む組成物を提供することを含む。組成物は、キノンメチドおよびアンモニウム塩を同時にまたは異なる時間に組成物に添加することによって提供することができる。組成物において、重合性モノマーの重合は、キノンメチドおよびアンモニウム塩の存在下で阻害される。
【0023】
例示的なキノンメチド(QMCinn、QMPh)と例示的なアンモニウム塩(TIPA-2-EH、DIHA-2-EH)との組み合わせ、および本明細書に記載される実験的研究に関して、組み合わせは、キノンメチドのみを有する組成物よりも改善された重合防止剤活性、さらにはニトロ基含有重合防止剤DNBPよりも改善された重合防止剤活性を提供した。重合防止剤の試験期間を通して改善が見られた。
【0024】
実施形態では、重合性モノマーは、ビニルもしくはエチレン性不飽和基を含むか、またはアクリル酸、アクリロニトリル、アルキル化スチレン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルベンゼン、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、イソプレン、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、α-メチルスチレン、メタクリロニトリル、スチレン、スチレンスルホン酸、ビニルトルエン、およびビニルピリジンからなる群から選択される。
【0025】
実施形態では、この方法は、組成物の1つ以上の成分の精製または加工中に実施され、かつ/または第2の組成物の保管または輸送の前に実施される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】キノンメチド重合遅延剤(7-シンナミルキノンメチド、QMCinn)の存在下、アンモニウム塩(トリイソプロパノールアンモニウム2-エチルヘキサノエート、TIPA-2-EH)と組み合わせて、ならびに単独で使用されるQMCinnおよびニトロフェノールベースの重合阻害剤(DNBP)と比較した、スチレンモノマー溶液から形成されたポリスチレンポリマーの量のグラフである。
【0027】
図2】キノンメチド重合遅延剤(7-フェニルキノンメチド、QMPh)の存在下、異なるアンモニウム塩(ジエチルヒドロキシルアンモニウム2-エチルヘキサノエート、DEHA-2-EH)と組み合わせて、ならびに単独で使用されるQMPhおよびDNBPと比較した、スチレンモノマー溶液から形成されたポリスチレンポリマーの量のグラフである。
【0028】
図3】キノンメチド重合遅延剤QMPhおよびTIPA 2-EHの存在下、ならびに単独で使用されるQMPhおよびニトロフェノールベースの重合阻害剤(DNBP)と比較した、スチレンモノマー溶液から形成されたポリスチレンポリマーの量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示は、好ましい実施形態への言及を提供するが、当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細において変更を行ってもよいことを認識するであろう。様々な実施形態への言及は、本明細書に添付の特許請求の範囲を限定するものではない。さらに、本明細書に記載されたいかなる例も、限定を意図するものではなく、添付の特許請求の範囲の多くの可能な実施形態のうちのいくつかを単に述べるものである。
【0030】
本発明のさらなる利点および新規な特徴は、以下の説明に部分的に記載され、部分的には以下を検討することにより当業者に明らかになるか、または本発明の実施上の慣習的な実験によって学ばれ得る。
【0031】
本開示は、ポリマーの望ましくない形成を防止するために組成物中で使用するためのキノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を含む組成物を提供する。アンモニウム塩は、キノンメチド重合遅延剤の重合防止剤の有効性を改善することができ、次に、モノマー含有組成物で使用される場合、より良好な重合防止剤活性を提供することができる。本開示はまた、ビニル芳香族モノマー含有組成物などのモノマー含有組成物中のモノマーの重合を阻害するための方法において、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を使用する方法を提供する。
【0032】
本開示の態様は、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を含む、モノマー重合を阻害するための組成物を提供する。任意に、組成物は、有機溶媒などの1つ以上の他の成分を含むことができる。ニトロキシド基を含有する重合阻害剤などの他の重合防止剤を、任意に使用することができるか、または本開示の組成物から除外することができる。
【0033】
これらの成分(およびいずれか1つ以上の任意の成分)を含む組成物は、液体形態、乾燥形態、または懸濁液もしくは分散液などの所望の形態であり得る。キノンメチドおよびアンモニウム塩は、溶解状態、部分溶解状態、懸濁状態、または乾燥混合物などの、組成物中の所望の物理的状態であり得る。また、キノンメチドおよびアンモニウム塩は、任意に微粒子形態など、組成物中の所望の形態であり得る。成分のうちの1つ以上が微粒子形態である場合、粒子は、任意に粒子サイズ(例えば、あるサイズ範囲の粒子)および/または形状に関して説明することができる。組成物の形態およびその中の成分の状態は、各化合物の物理的特性を理解した上で、キノンメチドおよびアンモニウム塩の選択によって選択することができる。組成物の形態およびその中の成分の状態はまた、溶媒もしくは溶媒混合物などの1つ以上の任意成分、または界面活性剤、分散剤などの他の賦形剤化合物を含めることによって影響を受ける可能性がある。組成物の形態およびその中の成分の状態も温度によって影響を受ける可能性があり、組成物の特性は、特定の温度(例えば、5℃以下の保管温度、室温(25℃)、またはモノマーの合成および/もしくは加工に使用される温度(例えば、約100℃以上、約150℃、約175℃など)の状況において任意に説明され得る。
【0034】
好ましい実施形態では、アンモニウム塩は液体形態である(例えば、「イオン液体」の形態など)。液体形態であるアンモニウム塩は、ある特定の温度範囲で測定することができる。アンモニウム塩は、ほぼ室温(約25℃)などのある特定の温度で液体であると説明することができる。アンモニウム塩の物理的特性は、典型的には、純粋または実質的に純粋な形態である場合に決定される。
【0035】
実施形態では、アンモニウム塩は、保管温度および作用温度の両方で液体形態であり得る。「保管温度」は、約5℃~約40℃、または約15℃~約30℃の範囲のものであり得る。典型的な保管温度は、室温である。「作用温度」は、モノマー流を精製または加工するために一般的に使用される1つ以上の温度、例えば50℃を超える、80℃を超える温度、例えば約100℃~約400℃、約100℃~約200℃、または約100℃~約150℃であり得る。
【0036】
実施形態では、アンモニウム塩は、保管温度で固体形態であり得、作用温度で液体であり得る。例えば、アンモニウム塩は、約50℃を下回る、約40℃を下回る、約30℃を下回る、約20℃を下回る、または約10℃を下回る温度で固体形態であり得、約50℃を超える、約80℃を超える、または約100℃を超える温度で液体であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、アンモニウム塩は、約10℃~約100℃、または約10℃~約80℃の範囲に融点を有し得る。
【0037】
Eike,D.M.,et al.(Green Chemistry,5:323-328,2003)は、アンモニウムカチオンに基づいて有機塩の融点を相関および予測するための定量的構造物性相関(QSPR)法について説明している。
【0038】
本明細書で論じられるように、キノンメチドおよびアンモニウム塩を含む組成物は、任意に、組成物中に他の成分を含むことができる(例えば、キノンメチドおよびアンモニウム塩を「含む」組成物に関して説明される)。例えば、そのような組成物は、溶媒、界面活性剤、分散剤などの他の成分を含むことができる。任意の成分が組成物中に存在する場合、それは、組成物中のキノンメチドおよびアンモニウム塩の一方または両方に対する重量量に関して説明され得る。任意の成分は、キノンメチドもしくはアンモニウム塩のいずれか、またはキノンメチドおよびアンモニウム塩の総量よりも多い重量量、または少ない量で存在し得る。
【0039】
キノンメチドおよびアンモニウム塩、ならびにいずれか1つ以上の任意の成分を含む組成物は、相互に関連する、重量による成分の量に関して説明することができる。ある特定の成分が「優勢な」成分である組成物において、その成分は、重量で任意の他の成分よりも大きい。例えば、成分A、B、およびCが48%(重量)、47%(重量)、および5%(重量)で存在する組成物では、成分Aが組成物中の優勢な成分である。成分Aが組成物の50%(重量)を超える量である場合、それは組成物の大部分を構成する。
【0040】
本明細書で使用される場合、「任意」または「任意に」という用語は、その後に記述される物(例えば、化合物)、イベント(例えば、加工ステップ)または状況が発生し得るが、発生する必要はないこと、またその記述が、物、イベント、または状況が発生する場合、およびそれらが発生しない場合を含むことを意味する。
【0041】
本開示の組成物は、それらの列挙された化合物を含むことができ、任意に、組成物中に他の成分を含むことができるが、非常に少量である(例えば、列挙された成分から「本質的になる」組成物に関して記載される)。例えば、そのような組成物は、1つ以上の他の成分を含むことができるが、全組成の約1%(重量)、約0.5%(重量)超、または約1%(重量)を超える量ではない。キノンメチドおよびアンモニウム塩(例えば、溶媒に溶解された)から本質的になる組成物は、任意に、1つ以上の他の成分を含むことができるが、その量は、全組成の約1%(重量)未満である。列挙された成分から「構成される」組成物において、列挙された成分以外に他の測定可能な量の成分は存在しない。
【0042】
本明細書で使用される場合、例えば、本開示の実施形態を説明する際に用いられる、組成物中の成分のタイプもしくは量、特性、測定可能な量、方法、位置、値、または範囲を修飾する「実質的に」および「本質的にからなる」という用語は、意図する組成物、特性、量、方法、位置、値、または範囲を無効にする様式で、全体的に列挙された組成物、特性、量、方法、位置、値、または範囲に影響を及ぼさない変動を指す。意図された特性の例には、その非限定的な例としてのみ、分散性、安定性、速度、溶解性などが含まれ、意図される値には、添加された成分の重量、添加された成分の濃度などが含まれる。変更される方法への影響は、プロセスで使用される材料のタイプまたは量の変動、機械設定の変動、プロセスに対する周囲条件の影響などによって引き起こされる影響を含み、影響の様式または程度は、1つ以上の意図される特性または結果、および同様の近似考慮事項を無効にするものではない。「実質的に」または「本質的にからなる」という用語によって修飾される場合、本明細書に添付される特許請求の範囲は、これらのタイプおよび量の材料と同等のものを含む。
【0043】
本明細書で使用される場合、例えば、本開示の実施形態を説明する際に用いられる、組成物中の成分の量、濃度、体積、プロセス温度、プロセス時間、収率、流速、圧力、および同様の値、ならびにその範囲を修飾する「約」という用語は、例えば、化合物、組成物、濃縮物または使用配合物を作製するために使用される典型的な測定および取り扱い手順により;これらの手順における偶発的な誤りにより;方法を実行するために使用される出発物質もしくは成分の製造、供給源、または純度の違いにより、および同様の近似考慮事項により生じ得る数値量の変動を指す。「約」という用語はまた、特定の初期濃度または混合物を有する配合物の劣化に起因して異なる量、および特定の初期濃度または混合物を有する配合物を混合または加工することに起因して異なる量を包含する。「約」という用語によって修飾されている場合、添付の特許請求の範囲は、これらの量と同等のものを含む。さらに、「約」が値のいずれかの範囲を説明するために使用される場合、文脈によって特に限定されない限り、例えば「約1~5」という記述は、「1~5」および「約1~約5」および「1~約5」および「約1~5」を意味する。
【0044】
本開示の組成物および方法は、キノンメチド化学を有する重合遅延剤を含むか、または使用する。キノンメチドは、シクロヘキサジエン基(またはその誘導体)、カルボニル基、および環外メチレン基によって化学的に特徴付けられる。単環式キノンメチドは、重合遅延剤として周知であるが、多環式(二環式、三環式など)のキノンメチド化合物も知られている。
【0045】
いくつかの実施形態では、キノンメチド遅延剤は、式Iの化合物であり、
【化5】
式中、RおよびRは、独立して、C4~C18アルキル、C5~C12シクロアルキル、フェニル、およびC7~C15シクロアルキルから選択され、RおよびRは、独立して、-H、C1~C18アルキル、フェニル、置換フェニル、C5~C12シクロアルキル、-CN、-COOH、-C=CHR、-C≡CR、-COOR、-COR、-OCOR、-CONHRから選択され、Rは、H、C1~C18アルキル、C5~C12シクロアルキル、フェニル、およびC7~C15シクロアルキル、ならびに置換フェニルから選択される。好ましい実施形態では、RおよびRは、独立して、C4~C18アルキル、好ましくは、C4~C6直鎖または分岐アルキル、例えばtert-ブチルから選択される。
【0046】
例示的なキノンメチド遅延剤には、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ベンジリデン-シクロヘキサ-2,5-ジエノン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4-ニトロベンジリデン)-シクロヘキサ-2,5-ジエノン、2,6-ジ-tert-ブチル-3-(4-ニトロベンジリデン)-シクロヘキサ-2,5-ジエノン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4-シアノベンジリデン)-シクロヘキサ-2,5-ジエノン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4-メトキシベンジリデン)-シクロヘキサ-2,5-ジエノンおよび2,6-ジ-tert-ブチル-4-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジリデン)-シクロヘキサ-2,5-ジエノンが含まれる。例えば、米国特許第5,616,774号および米国出願公開第2006/0163539号を参照されたい。
【0047】
例示的なキノンメチド2,6-ジ-tert-ブチル-4-ベンジリデン-シクロヘキサ-2,5-ジエノンは、以下の構造を有し、
【化6】
本明細書では「7-フェニルキノンメチド」および「QMPh」または「PhQM」と称される。
【0048】
いくつかの実施形態では、キノンメチド遅延剤は、式IIの化合物であり、
【化7】
式中、RおよびRは、独立して、水素、C4~C18アルキル、C5~C12シクロアルキル、アリール、C7~C15アリールアルキル、およびC7~C15アルキルアリールから選択され、Rは、水素、C1~C18アルキル、C5~C12シクロアルキル、C5~C12ヘテロシクロアルキル、アリール、C7~C15アリールアルキル、およびC7~C15アルキルアリールから選択される。
【0049】
いくつかの実施形態では、RおよびRは、独立して、水素、C4~C18アルキルから選択されるか、またはより具体的には独立して、t-ブチル、t-アミル、t-ヘキシル、t-オクチル、もしくはt-デシルから選択される。いくつかの実施形態では、Rは、アリール、C7~C15アリールアルキル、およびC7~C15アルキルアリールから選択され、より具体的には、アリールである。
【0050】
式IIの例示的なキノンメチドには、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(3-フェニルアリリデン)シクロヘキサ-2,5-ジエノン(本明細書では「7-シンナミルキノンメチド」および「7-Cinn-QM」と称される)が含まれ、米国特許第9,957,209号(Masere and Colorado)に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。7-Cinn-QMは、以下の構造を有する。
【化8】
【0051】
本開示のアンモニウム塩は、(アンモニウム塩を含まない組成物と比較して)組み合わせて使用される場合、キノンメチド重合遅延剤の有効性に関して改善を提供することができる。特定の理論または機序に拘束されることなく、アンモニウム塩は、キノンメチド遅延剤の機能を増強する可能性がある。例えば、アンモニウム塩は、キノンメチド遅延剤が重合を遅らせる能力を増強し得るか、またはキノンメチド遅延剤の機能的寿命を増強し得、それにより、それが一定期間にわたってより効果的に重合を遅らせることを可能にする。
【0052】
本開示の組成物および方法は、アンモニウム塩を含むか、または使用する。アンモニウム塩は、アンモニウム含有カチオンおよびアニオンを含む。アンモニウム含有カチオンは、例えば正に帯電した窒素に結合した4つのR基が同一である場合は、対称であり得るか、または例えば正に帯電した窒素に結合した4つのR基の間に1つ以上の違いがある場合は、非対称であり得る。多くの実施形態では、アンモニウム含有カチオンはプロトン化され、アンモニウム塩の窒素に結合した4つのR基のうちの1つ以上は水素である。例示的なアンモニウムカチオンには、モノプロトン化アンモニウムカチオン、ジプロトン化アンモニウムカチオン、およびトリプロトン化アンモニウムカチオンが含まれる。
【0053】
アンモニウム塩のアニオンは、有機アニオンまたは無機アニオンであり得る。いくつかの実施形態では、アニオンは、カルボン酸、スルホン酸、硝酸、ホスホン酸、またはそれらの組み合わせに由来するものなどの酸性化合物に由来する。したがって、例示的なアニオンには、カルボキシレート、スルホネート、ニトレート、ホスフェートなどが含まれる。
【0054】
実施形態では、アンモニウム塩は、式IIIのカチオンを含む。
【化9】
【0055】
式IIIでは、R、R、R、およびRは、独立して、(a)-H、(b)炭素含有基、(c)酸素含有基、(d)酸素および炭素含有基から選択される。
【0056】
他の例示的なアンモニウム塩は、式IVのカチオンを含み、
【化10】
式中、Rは、一価または多価の炭素含有基であり、yは、1~4の範囲の整数であり、R、R、およびRは、独立して、記載されるような(a)~(d)から選択される。
【0057】
式IIIのある特定の実施形態では、R、R、R、およびRのうちの少なくとも3つは、
(b)~(d)のうちのいずれか1つまたは組み合わせである。式IVのある特定の実施形態では、R、R、およびRのうちの少なくとも2つは、(b)~(d)のうちのいずれか1つまたは組み合わせである。式IIIまたはIVの実施形態では、(b)炭素含有基は、炭素、酸素、および水素からなり得、(c)酸素含有基は、酸素および水素からなり得、(d)酸素および炭素-含有基は、炭素、酸素、および水素、または(b)~(d)の任意の組み合わせからなり得る。ある特定の原子からなる式IIIおよびIVの化合物では、記載されているもの以外の他の原子タイプは群に存在しない。ある特定の原子からなる群を有する実施形態では、アンモニウム塩のカチオンは、(a)0~18、1~12、もしくは2~10の範囲の炭素原子の総量;(b)0~6、1~4、もしくは1~3の範囲の酸素原子の総量;(c)4~40、6~30、もしくは8~24の範囲の水素原子の総量;または(a)~(c)の任意の組み合わせを有し得る。
【0058】
他の実施形態では、式IIIおよびIVのR基は、列挙された原子または化学を含むことができ、任意に、他の原子または化学を含むことができる。酸素原子を含む例示的な基には、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、およびエーテルなどの化学を含めることができる。実施形態では、式IIIのR、R、R、およびR、または式IVのR、R、およびRのうちの1つ以上は、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、およびエーテルから選択される1つの酸素含有基を有する。実施形態では、式IIIのR、R、R、およびRのうちの1つ以上は、2つもしくは3つの酸素含有基を有するか、または式IVのR、R、およびRは、1つもしくは2つの酸素含有基を有し、この酸素含有基は、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、およびエーテル、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0059】
いくつかの実施形態では、アンモニウム塩において、式IIIのR、R、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つ、もしくは4つ、または式IVのR、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つは、独立して、直鎖もしくは分岐C1~C18ヒドロキシアルキルもしくはC6~C18ヒドロキシアリール基、直鎖もしくは分岐C1~C12ヒドロキシアルキルもしくはC6~C12ヒドロキシアリール基、直鎖もしくは分岐C1~C8ヒドロキシアルキル基もしくはC6~C8ヒドロキシアリール基、または直鎖もしくは分岐C1~C6ヒドロキシアルキル基もしくはC6ヒドロキシアリール基である酸素および炭素含有基から選択される。例示的なヒドロキシアルキル基には、ヒドロキシメチル、1-または2-ヒドロキシエチル、1-、2-、または3-ヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシイソプロピル、1-、2-、3-、または4-ヒドロキシブチル、および1-、2-、または3-ヒドロキシイソブチルが含まれる。例示的なヒドロキシアリール基は、2-ヒドロキシフェニルである。
【0060】
いくつかの実施形態では、アンモニウム塩において、式IIIのR、R、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つ、もしくは4つ、または式IVのR、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つは、式VIIIの酸素および炭素含有基を有し、
【化11】
式中、R15、R16、R17、R18、およびR19は、独立して、H、C~C18アルキル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、および-OR20から選択され、OR20は、R15~R19のうちのいずれかと同じ意味を有し、式VIIIは、少なくとも1つの-OR20基を含み、いくつかの実施形態では、1つの-OR20基、またはR16およびR17は、互いに結合して環状アルキルまたはアリール基を形成する二価炭化水素含有基であり、yは、1~3の範囲の整数である。
【0061】
いくつかの実施形態では、アンモニウム塩において、式IIIのR、R、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つ、もしくは4つ、または式IVのR、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つは、式Vの酸素および炭素含有基を有し、
【化12】
式中、R10、R11、R12、R13、およびR14は、独立して、H、C~C18アルキル、アリール、アルキルアリール、およびアリールアルキルから選択される。
【0062】
式VIIIのいくつかの例示的なカチオンには、R16およびR17が互いに結合して環状アルキルまたはアリール基を形成する二価炭化水素含有基、例えばN,N,N-トリス(2-ヒドロキシフェニル)アンモニウム、およびN,N-ビス(2-ヒドロキシフェニル)ヒドロキシルアンモニウムであるものが含まれる。
【0063】
いくつかの実施形態では、アンモニウム塩において、式IIIのR、R、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つ、もしくは4つ、または式IVのR、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つは、独立して、直鎖もしくは分岐C1~C12アルキル基、直鎖もしくは分岐C1~C8アルキル基、または直鎖もしくは分岐C1~C6アルキル基である炭素含有基から選択される。例示的なアルキル基には、以下が含まれる:
メチル、
エチル、
プロピル、イソプロピル、
ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、
ペンチル、シクロペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、
ヘキシル、シクロヘキシル、1-、2-、および3-メチルブチル、1,1-、1,2-、または2,2-ジメチルプロピル、1-エチル-プロピル、1-、2-、3-、または4-メチルペンチル、1,1-、1,2-、1,3-、2,2-、2,3-、または3,3-ジメチルブチル、1-または2-エチルブチル、1-エチル-1-メチルプロピル、ならびに1,1,2-または1,2,2-トリメチルプロピル;
ヘプチル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、4-メチルヘキシル、5-メチルヘキシル、3-エチルペンチル、2,2,3-トリメチルブチル、2,2-ジメチルペンチル、2,3-ジメチルペンチル、2,4-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、3,4-ジメチルペンチル、4,4-ジメチルペンチル、シクロヘプチル、1-メチルシクロヘキシル、および2-メチルシクロヘキシル、
オクチル、2-メチルヘプチル3-メチルヘプチル、4-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、3-エチルヘキシル、4-エチルヘキシル、5-エチルヘキシル、2,2-ジメチルヘキシル、2,3-ジメチルヘキシル、2,4-ジメチルヘキシル、2,5-ジメチルヘキシル、3,3-ジメチルヘキシル、3,4-ジメチルヘキシル、3-エチル-2-メチルペンチル、3-エチル-3-メチルペンチル、2,2,3-トリメチルペンチル、2,2,4-トリメチルペンチル、2,3,3-トリメチルペンチル、2,3,4-トリメチルペンチル、および2,2,3,3-テトラメチルブチル;ならびに
ノニル、デシル、ウンデシル、およびドデシル。
【0064】
いくつかの実施形態では、式IIIのR、R、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つ、または式IVのR、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つは、独立して、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、およびtert-ブチルから選択される。
【0065】
いくつかの実施形態では、アンモニウム塩において、式IIIのR、R、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つ、もしくは4つ、または式IVのR、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つは、ヒドロキシルである。
【0066】
いくつかの実施形態では、式IIIのアンモニウム塩カチオンにおいて、R、R、R、およびRのうちの1つは、ヒドロキシルであり、R、R、R、およびRのうちの2つもしくは3つは、直鎖もしくは分岐C1~C6ヒドロキシアルキルもしくはヒドロキシアリール基であるか、または直鎖もしくは分岐C1~C6アルキル基である。いくつかの実施形態では、式IVのアンモニウム塩カチオンにおいて、R、R、およびRのうちの1つは、ヒドロキシルであり、R、R、およびRのうちの1つもしくは2つは、直鎖もしくは分岐C1~C6ヒドロキシアルキル基であるか、または直鎖もしくは分岐C1~C6アルキル基もしくはアリール基である。例示的なヒドロキシアルキル基には、ヒドロキシメチル、1-もしくは2-ヒドロキシエチル、1-、2-、もしくは3-ヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシイソプロピル、1-、2-、3-、もしくは4-ヒドロキシブチル、および1-、2-、もしくは3-ヒドロキシイソブチルが含まれるか、または、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、もしくはtert-ブチルなどの直鎖もしくは分岐C1~C6アルキル基である。
【0067】
ヒドロキシル基および2つのヒドロキシアルキル基を有するアンモニウム塩のいくつかの例示的なカチオンには、限定されないが、ジ(ヒドロキシエチル)-ヒドロキシルアンモニウムおよびジ(ヒドロキシプロピル)-ヒドロキシルアンモニウムが含まれるか、またはヒドロキシル基および2つのヒドロキシアリール基を有するものには、N,N-ビス(2-ヒドロキシフェニル)ヒドロキシルアンモニウム、N,N-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヒドロキシルアンモニウムが含まれ、これらは以下に示される。ヒドロキシル化アルキルアリール基を有するアンモニウム塩の例示的なカチオンは、以下に示されるジ(2-ヒドロキシ,2-フェニルエチル)-ヒドロキシルアンモニウムである。
【化13】
【0068】
ヒドロキシル基および2つのアルキル基を有するアンモニウム塩のいくつかの例示的なカチオンには、ジエチルヒドロキシルアミンおよびジプロピルヒドロキシルアミンが含まれるが、これらに限定されない。ヒドロキシル基および2つのアリール基を有するアンモニウム塩の例示的なカチオンには、N,N-ジベンジルヒドロキシルアンモニウムが含まれるが、これらに限定されない。構造を以下に示す。
【化14】
【0069】
いくつかの実施形態では、アンモニウム塩において、式IIIのR、R、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つ、もしくは4つ、または式IVのR、R、およびRのうちの1つ、2つ、3つは、ヒドロキシルである。
【0070】
式IIIのいくつかの実施形態では、酸素および炭素含有基は、2-ベンゾオキサゾリル、アジピル、グルタリル、スクシニル、マロニル、アセチル、アクリリル、メタクリリル、カプロイル、ベンゾイル、フタロイル、テレフタロイル、カルベトキシ、カルボニル、およびホルミルからなる群から選択される。式IIIのいくつかの実施形態では、炭素含有基は、1,3,5-sym-トリアジニル、2-ベンズイミダゾリル、2-ピリジル、および2-ピラジニルからなる群から選択されるような、窒素および炭素含有基である。式IIIのいくつかの実施形態では、炭素および酸素含有基は、窒素、酸素、および炭素含有基であり、例えば2-ピリミジニルおよびアミノカルボニルからなる群から選択される。式IIIのいくつかの実施形態では、炭素含有基は、3-メルカプトプロピオニルなどの酸素、硫黄および炭素含有基である。
【0071】
いくつかの実施形態では、アンモニウム塩は、本明細書に記載されるような式IVのカチオンを含み、
【化15】
より具体的には、式VIのカチオンであり、
【化16】
式中、R、R、およびRは、独立して、(a)-H、(b)炭素含有基、(c)酸素含有基、(d)酸素および炭素含有基から選択される。いくつかの実施形態では、R、R、およびRのうちの少なくとも1つは、直鎖または分岐C1~C12アルキル基、アリール基、またはC1~C12アリールアルキル基である。
【0072】
フェニレンジアンモニウム塩のいくつかの例示的なカチオンには、N,N’-ジ-sec-ブチルフェニレンジアンモニウム、N-sec-ブチル-N’-フェニルフェニレンジアンモニウム、N,N’-ジ-フェニルフェニレンジアンモニウム、N-1,3-ジメチルブチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアンモニウム、およびN-1,4-ジメチルペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアンモニウムが含まれ、これらは以下に示される。
【化17】
【0073】
アンモニウム塩のカチオンは、カチオン中の原子の数および種類を参照して任意に説明することができる。実施形態では、アンモニウム塩のカチオンは、(a)1~4の範囲、または好ましくは1もしくは2の量の窒素原子、(b)0~18、1~12、もしくは2~10の範囲の量の炭素原子、(c)0~6、1~4、もしくは1~3の範囲の量の酸素原子、(d)4~40、6~30、もしくは8~24の範囲の量の水素原子、あるいは(a)~(d)の任意の組み合わせを有する。
【0074】
いくつかの好ましい実施形態では、アンモニウム塩のカチオンは、(a)1個または2個の窒素原子、(b)6~12の範囲の量の炭素原子、(c)2~5の範囲の量の酸素原子、および(d)16~28の範囲の量の水素原子を有する。いくつかの好ましい実施形態では、アンモニウム塩のカチオンは、(a)1個または2個の窒素原子、および(b)8~10の範囲の量の炭素原子、(c)3~4の範囲の量の酸素原子、および(d)19~25の範囲の量の水素原子を有する。
【0075】
他の好ましい実施形態では、アンモニウム塩のカチオンは、窒素原子ならびに(a)2~6の範囲の量の炭素原子;(b)1個、2個、または0個の酸素原子;および(c)8~16の範囲の量の水素原子を有する。いくつかの好ましい実施形態では、アンモニウム塩のカチオンは、窒素原子ならびに(a)3~5の範囲の量の炭素原子、(b)1個の酸素原子、(c)10~14の範囲の量の水素原子を有する。
【0076】
式IIIの好ましい実施形態では、R、R、R、およびRのうちの1つまたは2つは、
は-Hであり、式IVのR、R、およびRのうちの1つまたは2つは、-Hである。
【0077】
アンモニウム塩は、任意に、異なるカチオンの混合物、例えば本明細書に記載される一般的な式IIIおよび/またはIVによる異なるカチオンの混合物に基づき得る。したがって、キノンメチド重合遅延剤を使用する組成物または方法では、2つ以上の異なるアンモニウム塩を形成する式IIIおよび/またはIVの2つ以上の異なるカチオン種が存在し得る。
【0078】
実施形態では、アンモニウム塩は、カルボキシレート基、スルホネート基、ホスホネート基、ニトレート基、ニトリト基、またはそれらの組み合わせを含むアニオンを含む。アンモニウム塩の他のアニオンには、糖酸のアルドネート、アルダレート、ウロソネート、およびカルボン酸ウロネートが含まれる。いくつかの好ましいアニオンには、グルコネートに見出されるようなカルボキシレート基が含まれる。別の例示的なアニオンは、アスコルベートである。
【0079】
アンモニウム塩のカチオンは、所望の量の炭素原子を含む有機アニオンであり得る。実施形態では、有機アニオンは、2~18、3~12、または4~10の範囲の量の炭素原子を有する。有機アニオンはまた、2、3、または4などの所望の量の酸素原子を有することができる。
【0080】
実施形態では、アンモニウム塩の有機アニオンは、
アセテート(エタノエート);
プロピオネート(プロパノエート);
ブチラート(ブタノエート)、イソブチラート(2-メチルプロパノエート);
バレラート(ペンタノエート)、イソバレラート(3-メチルブタノエート)、2-メチルブタノエート、ピバレート(2,2-ジメチルプロパノエート);
カプロエート(ヘキサノエート)、2-メチルバレラート、3-メチルバレラート、4-メチルバレラート、2,2-2,2-ジメチルブタノエート、2-エチルブタノエート;
ヘプタノエート(エナントエート)、2-メチルカプロエート、3-メチルカプロエート、4-メチルカプロエート、5-メチルカプロエート、2,2-ジメチルバレラート、2-エチルバレラート;
カプリレート(オクタノエート)、2-メチルヘプタノエート、3-メチルヘプタノエート、4-メチルヘプタノエート、5-メチルヘプタノエート、6-メチルヘプタノエート、2,2-ジメチルカプロエート、2-エチルカプロエート(2-エチルヘキサノエート)、および2-プロピルバレラートからなる群から選択される、カルボキシレート含有アニオンであり得る。
【0081】
アンモニウム塩は、任意に、本明細書に記載されるような異なるカルボキシレート含有アニオンの混合物などの、異なるアニオンの混合物に基づき得る。したがって、キノンメチド重合遅延剤を使用する組成物または方法では、2つ以上の異なるアンモニウム塩を形成する2つ以上の異なるアニオン種が存在し得る。
【0082】
アンモニウム塩は、任意に、モル質量限界またはモル質量範囲などのモル質量を参照して説明することができる。アンモニウム塩は、重合防止剤の組成物または方法においてキノンメチドとともに使用するのに好適であるなど、任意の所望の分子量のものであり得る。
【0083】
実施形態では、アンモニウム塩は、約1000g/モル未満、900g/モル未満、800g/モル未満、700g/モル未満、600g/モル未満、500g/モル未満、450g/モル未満、400g/モル未満、375g/モル未満、または350g/モル未満のモル質量を有する。実施形態では、アンモニウム塩は、約120g/モル以上、約130g/モル以上、約140g/モル以上、または約150g/モル以上のモル質量を有する。本開示のモル質量範囲は、本明細書に記載される下限および上限のうちのいずれか2つに基づくことができる(例えば、約120g/モル~約1000g/モルの範囲など)。
【0084】
他の実施形態では、アンモニウム塩は、約1000g/モルを超えるモル質量を有することができる。例えば、高分子量のアンモニウム塩は、高分子アンモニウム塩の形態であり得る。高分子四級アンモニウム塩を含む高分子アンモニウム塩は、当該技術分野で知られている。例えば、米国特許第2,595,225号、同第4,247,476号、および米国出願公開第2006/0062753号を参照されたい。
【0085】
いくつかの実施様式では、アンモニウム塩は、アミン反応物化合物の酸との反応によって形成される。反応は、アミンカチオンを形成するアミン反応物化合物の窒素原子のプロトン化、および脱プロトン化された酸のアニオンをもたらす。アミン反応物化合物の酸との反応は、溶媒中で、またはニート形態で(すなわち、アミン化合物および酸のみを用いて)実行される。
【0086】
いくつかの実施様式では、アミン化合物の酸との反応に使用される溶媒には、極性非プロトン性溶媒が含まれる。例示的な極性非プロトン性溶媒には、酢酸エチル、ジクロロメタン(DCM)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、およびヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPT)が含まれる。
【0087】
例示的なアミン反応物化合物は、式VII:NR1011のものであり、式中、R、R10、およびR11は、独立して、(a)炭素含有基、(b)酸素含有基、(c)酸素および炭素含有基から選択される。実施形態では、(a)炭素含有基は、炭素、酸素、および水素からなり得、(b)酸素含有基は、酸素および水素からなり得、(c)酸素および炭素含有基は、炭素、酸素、および水素、または(a)~(c)の任意の組み合わせからなり得る。酸素原子を含む例示的な基には、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、およびエーテルなどの化学を含めることができる。実施形態では、R、R10、およびR11のうちの1つ以上は、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、およびエーテルから選択される1つの酸素含有基を有する。実施形態では、R、R10、およびR11のうちの1つ以上は、ヒドロキシル、カルボニル、エステル、およびエーテル、またはそれらの組み合わせから選択される2つまたは3つの酸素含有基を有する。
【0088】
いくつかの実施形態では、アミン反応物化合物において、R、R10、およびR11のうちの1つ、2つ、または3つは、独立して、直鎖もしくは分岐C1~C12アルコキシ基、直鎖もしくは分岐C1~C8アルコキシ基、または直鎖もしくは分岐C1~C6アルコキシ基である酸素および炭素含有基から選択される。メトキシ、エトキシ、イソプロプロキシなどの例示的なアルコキシ基は、式IIIのR、R、R、およびR基を参照して説明され、R、R10、およびR11のうちのいずれか1つ以上に使用され得る。
【0089】
いくつかの実施形態では、アミン反応物化合物において、R、R10、およびR11のうちの1つ、2つ、または3つは、独立して、直鎖もしくは分岐C1~C12アルキル基、直鎖もしくは分岐C1~C8アルキル基、または直鎖もしくは分岐C1~C6アルコキシ基である炭素含有基から選択される。メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどの例示的なアルキル基は、式IIIのR、R、R、およびR基に関して論じられ、R、R10、およびR11のうちのいずれか1つ以上に使用され得る。
【0090】
いくつかの実施形態では、アミン反応物化合物において、R、R10、およびR11のうちの1つ、2つ、または3つは、ヒドロキシル(-OH)である。
【0091】
例示的なアミン反応物化合物には、トリアルカノールアミン(トリスアルカノールアミン)、例えばトリエタノールアミン(TEA)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、トリブタノールアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-(2-ヒドロキシプロピル)アミン(DEIPA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-N-(ヒドロキシエチル)アミン(EDIPA)、トリス(2-ヒドロキシブチル)アミン、ヒドロキシエチルジ(ヒドロキシプロピル)アミン、ヒドロキシプロピルジ(ヒドロキシエチル)アミン、トリ(ヒドロキシプロピル)アミン、ヒドロキシエチルジ(ヒドロキシ-n-ブチル)アミン、ヒドロキシブチルジ(ヒドロキシプロピル)アミン、およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0092】
他の例示的なアミン反応物化合物には、ジアルカノールアルキルアミン(モノアルキルジアルカノールアミン)、例えばN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)エチルアミン、メチルジ-エタノールアミン、メチルジイソプロパノールアミン(MDIPA)、N-プロピルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、およびN-メチルジプロパノールアミンが含まれる。
【0093】
他の例示的なアミン反応物化合物には、ジアルキルアルカノールアミン(モノアルカノールジアルキルアミン)、例えばN,N-ジエチルイソプロパノールアミン(ジエチルアミノ-プロパノール)、N,N-ジエチルエタノールアミン(ジエチルアミノエタノール)、N-(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアミン(ジメチルエタノールアミン)、およびジメチルプロパノールアミンが含まれる。
【0094】
他の例示的なアミン反応物化合物には、ジアルキルヒドロキシルアミン、例えばジメチルヒドロキシルアミン、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、ジプロピルヒドロキシルアミン、N,N-ジイソプロピルヒドロキシルアミン、N,N-ジブチルヒドロキシルアミン、N,N-ジイソ-ブチルヒドロキシルアミンジペンチルヒドロキシルアミン、N,N-ジヘキシルヒドロキシルアミン、およびN,N-ジ(4-メチルペンチル)ヒドロキシルアミンが含まれる。
【0095】
他の例示的なアミン反応物化合物には、ジアルカノールヒドロキシル
アミン、例えばジエタノールヒドロキシルアミンが含まれる。
【0096】
式IVのカチオンを含む化合物の調製のために、例示的なアミン反応物化合物(例えば、フェニレンジアンモニウムベースの化合物を作製するために使用することができる)には、オルト-フェニレンジアミンおよびパラ-フェニレンジアミン化合物のアルキルおよび/またはアリール誘導体、例えばN,N’-ジメチル-o-フェニレンジアミン、N,N’-ジメチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジエチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン;N-メチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-エチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-プロピル-p-フェニレンジアミン、N-ブチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソブチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-tert-ブチル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-n-ペンチル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-n-ヘキシル-p-フェニレンジアミン、N-(1-メチルヘキシル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、およびN-(1,4-ジメチルペンチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンが含まれる。
【0097】
アンモニウム塩は、アミン反応物化合物を単官能性カルボン酸などの有機酸と反応させることによって調製することができる。例示的な単官能性カルボン酸には、酢酸、プロピオン酸(プロパノエート);酪酸、イソ酪酸;吉草酸、イソ吉草酸、2-メチルブタン酸、ピバル酸;カプリン酸、2-メチル吉草酸、3-メチル吉草酸、4-メチル吉草酸、2,2-2,2-ジメチルブタン酸、2-エチルブタン酸;ヘプタン酸、2-メチルカプロン酸、3-メチルカプロン酸、4-メチルカプロン酸、5-メチルカプロン酸、2,2-ジメチル吉草酸、2-エチル吉草酸;カプリル酸、2-メチルヘプタン酸、3-メチルヘプタン酸、4-メチルヘプタン酸、5-メチルヘプタン酸、および6-メチルヘプタン酸が含まれる。アミン反応物化合物と反応させることができる他の酸には、本明細書に記載されるような二酸(二官能性酸)が含まれる。
【0098】
アンモニウム塩は、アミン反応物化合物および単官能性酸を等モルまたはほぼ等モル量で反応させることによって形成することができる。あるいは、酸がジカルボン酸などの二官能性酸である場合、アミン反応物は、2:1のモル比で二酸と反応させることができる。例示的な二酸には、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸、スベリン酸、アゼライン酸、およびセバシン酸が含まれる。
【0099】
いくつかの実施様式では、アンモニウム塩は、溶媒または溶媒混合物の存在下でのアミン反応物と酸との反応によって形成される。アミン化合物の酸との反応に使用することができる溶媒には、極性非プロトン性溶媒が含まれる。例示的な極性非プロトン性溶媒には、酢酸エチル、ジクロロメタン(DCM)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、およびヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPT)、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。アミン化合物の酸との反応に使用することができる他の溶媒には、非プロトン性炭化水素ベースの溶媒などの非プロトン性溶媒が含まれる。例示的な非極性非プロトン性溶媒には、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、キシレン、および四塩化炭素が含まれる。
【0100】
アミン反応物化合物および酸は、溶媒中に所望の濃度で存在することができ、その濃度は、2つの成分の反応を最適化するために選択される。例示的な実施様式では、アミン反応物化合物および酸は一緒に、約5%(重量)~約50%(重量)、または約15%(重量)~約40%(重量)の範囲の溶媒ベースの反応組成物の重量量で存在する。反応は、マグネチックスターラーを使用することによって促進するなど、撹拌しながら所望の温度で実行することができる。
【0101】
所望の反応期間およびアンモニウム塩の形成の後、反応組成物は、粘度の増加を示し得る。次いで、溶媒は、低圧を使用して(例えば、真空によって)、任意に熱を用いて除去することができる。使用されるアミン反応物化合物および酸の種類に応じて、溶媒を除去した後、アンモニウム塩は、固体の特性または(イオン)液体の特性を有することができる。
【0102】
実施形態では、アンモニウム塩は、室温範囲で、または室温とモノマー含有組成物中のモノマーの重合を阻害するためにキノン方法と組み合わせて使用される温度との間の温度でイオン液体の形態であり得る。実施形態では、本開示のアンモニウム塩は、非常に高い沸点を有すると予測され、したがって、モノマー加工中、高温条件(例えば、300℃を超える、または400℃を超える)で液体状態のままであると予想される。場合によっては、アンモニウム塩がイオン液体であるかどうかの決定は、室温(約25℃)で決定される。
【0103】
本開示はまた、キノンメチドおよびアンモニウム塩を含む組成物を提供する。
【0104】
いくつかの実施形態では、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩(1つ以上の任意の成分を含む)は、溶媒または溶媒の組み合わせを含む組成物中に存在する。溶媒または溶媒の組み合わせは、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩のうちの1つ以上が、溶媒または溶媒の組み合わせに可溶性であるように選択することができる。アンモニウム塩が周囲条件で液体である場合、混和性溶媒を選択することができる。実施形態では、アンモニウム塩が液体である場合、それは溶媒としても機能し得、キノンメチド重合遅延剤を少なくとも部分的に溶媒和するために使用することができる。
【0105】
有用な溶媒には、キノンメチド重合遅延剤とアンモニウム塩(および任意に阻害剤)との組み合わせが可溶性であるか、または安定して懸濁することができる任意の溶媒が含まれる。いくつかの実施形態では、溶媒または溶媒の組み合わせは、グリコールベースの溶媒などの水溶性または水混和性溶媒、ならびに芳香族溶媒、パラフィン系溶媒、または両方の混合物などの疎水性または炭化水素溶媒から選択することができる。
【0106】
例示的なグリコール溶媒は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、およびトリエチレングリコールなどのC-Cグリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、液体ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルなどのそのようなグリコールのエーテル、および低分子量ポリプロピレングリコール、ならびにそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。主にエチレングリコールモノブチルエーテルからなるButyl CARBITOL(商標)を主に含有するButyl CarbitolおよびButyl CELLOSOLVE(商標)などの市販の溶媒を使用することができ、DOWから入手可能である。
【0107】
他の例示的な疎水性または炭化水素溶媒には、重芳香族ナフサ、トルエン、エチルベンゼン、異性体ヘキサン、ベンゼン、キシレン、例えばオルトキシレン、パラキシレン、またはメタキシレン、およびそれらの2つ以上の混合物が含まれる。
【0108】
いくつかの実施形態では、溶媒は、グリコールおよび芳香族ナフサならびにそれらの組み合わせから選択される。
【0109】
溶媒または溶媒の組み合わせ中のキノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の量(重合阻害剤などの1つ以上の任意の成分を含む)は、例えば組成物中のこれらの成分の固形分(重量)パーセントによって、または組成物中のモル量によって、1つ以上の方法で説明することができる。
【0110】
本開示の組成物は、任意の所望の方法を使用して作製することができる。例えば、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩(1つ以上の任意の成分を含む)の調製物、ならびに市販の調製物などの任意に溶媒を含む調製物は、ユーザーによって入手され、次いで組み合わせて保存するか、または代替的に、例えば使用手順のある時点で一緒に添加することができる。
【0111】
キノンメチド遅延剤と組み合わせて使用される場合、アンモニウム塩は、遅延剤の重合防止剤の有効性を改善することができる。例えば、キノンメチド遅延剤と組み合わせたアンモニウム塩の使用は、遅延剤のみ、またはアンモニウム塩のみの使用よりも、モノマーの重合を大幅に阻害することができる。
【0112】
組成物中のキノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の量は、様々な方法で、例えば組成物中の各成分の重量パーセント(%重量)によって、または化合物のモル量によって説明することができる。これらの化合物はまた、組成物中の重量比に関して、または互いに対する相対量に関して説明することができる。
【0113】
いくつかの実施形態では、組成物において、キノンメチド重合遅延剤の量(重量%またはモル量として測定される)は、アンモニウム塩の量よりも多い量で存在する。例えば、キノンメチド重合遅延剤の量は、組成物中のアンモニウム塩の量(重量%もしくはモル量)よりも約1.5倍超、約2倍超、約2.5倍超、約3倍超、約3.5倍超、約4倍超、約4.5倍超、または約5倍超であり得る。別の例として、キノンメチド重合遅延剤の量は、組成物中のアンモニウム塩の量(重量%もしくはモル量)よりも約1.5倍~約1000倍、1.5倍~約250倍、1.5倍~約100倍、または約1.5倍~約50倍、または約1.5倍~約25倍、または約1.5倍~約15倍、またはそれ以上の範囲である。
【0114】
組成物中のキノンメチドおよびアンモニウム塩の量は、任意に、互いのモル比に関して説明することができる。実施形態では、キノンメチドおよびアンモニウム塩は、それぞれ、1:1超~約1000:1、1:1超~約250:1、1:1超~約100:1、1:1超~約50:1、1:1超~約25:1、1:1超~約20:1、または1:1超~約15:1の範囲のモル比で存在する。
【0115】
所定量のキノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を含む組成物は、組成物がモノマー組成物またはモノマーを形成することができる組成物に添加されるときに、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の両方がモノマー組成物中で作用濃度であるように調製され得る。キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の様々な作用範囲が本明細書に記載されている。
【0116】
任意に、安定なニトロキシド基を形成することができるものなどの重合阻害剤を、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩とともに少量使用することができるか、または組成物から完全に除外することができる。
【0117】
重合性モノマーの存在下で、「重合阻害剤」は、誘導時間中にそれらのモノマーからのポリマーの形成を阻害する。誘導時間が経過した後、ポリマーの形成は、それが重合阻害剤の不在下で形成するであろう速度と実質的に同じ速度で起こる。
【0118】
本明細書に開示されるキノンメチド化合物などの「重合遅延剤」は、誘導時間を示さないが、代わりに、重合性モノマー組成物に一度添加されると、それが関心の組成物の不在下で形成したであろう速度と比較して、ポリマーの形成が起こる速度が低減する。
【0119】
重合遅延剤とは対照的に、重合阻害剤は一般に急速に消費される。重合遅延剤は、重合反応の速度を遅くするが、一般に重合阻害剤ほど効果的ではない。しかしながら、重合遅延剤は通常、重合阻害剤ほど速く消費されない。
【0120】
重合阻害剤および重合遅延剤は、一般に、1つ以上のラジカル重合性化合物からのポリマーの形成を阻害または低減することができる化合物である「重合防止剤」とみなされ得る。
【0121】
少量で使用することができるか、または組成物から完全に除外することができ、NからOへの結合を有する例示的な重合阻害剤には、ニトロキシド、アミンオキシド、ヒドロキシルアミン、ニトロ、ニトロソ、およびニトロン含有化合物が含まれる。例えば、重合性モノマー、キノンメチド、およびアンモニウム塩を含む組成物において、ニトロキシル基含有重合防止剤は、任意に、50ppm未満、25ppm未満、10ppm未満、5ppm未満、2.5ppm未満、2ppm未満、1.5ppm未満、1ppm未満、0.75ppm未満、もしくは0.5ppm未満の量で存在することができるか、または組成物から完全に除外することができる。
【0122】
例えば、重合性モノマーならびに窒素および酸素含有芳香族重合防止剤を含む組成物において、ニトロキシル基含有重合防止剤は、任意に、50ppm未満、25ppm未満、10ppm未満、5ppm未満、2.5ppm未満、2ppm未満、1.5ppm未満、1ppm未満、0.75ppm未満、または0.5ppm未満の量で存在することができる。
【0123】
少量で使用することができるか、または組成物から完全に除外することができる例示的なニトロキシド含有重合阻害剤には、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル(HTMPO)、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル(OTEMPO)、1-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(TEMPOH)、1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(HTMPOH)、および1-ヒドロキシ-4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(OTEMPOH)、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、およびN-イソプロピルヒドロキシルアミン、ジ-tert-ブチルニトロキシル、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-n-プロポキシピペリジン、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-n-ブトキシピペリジン、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-t-ブトキシピペリジン、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-s-ブトキシピペリジン、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-(2-メトキシエトキシ)ピペリジン、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-(2-メトキシエトキシアセトキシ)ピペリジン、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルステアレート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルアセテート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルブチラート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル2-エチルヘキサノエート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルオクタノエート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルラウレート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルベンゾエート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル4-tert-ブチルベンゾエート、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-アリルオキシ-ピペリジン、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-アセトアミドピペリジン、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-(N-ブチルホルムアミド)ピペリジン、N-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)-カプロラクタム、N-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)-ドデシルスクシンイミド、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)ピペリジン、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-4-(2-ヒドロキシル-4-オキサペントキシ)ピペリジン、およびそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。(例えば、米国特許第9,266,797号を参照。)これらの化合物のいずれも、重合性モノマー組成物中に非常に少量(本明細書に記載の50ppm、25ppm、10ppmなど未満)で存在することができるか、または組成物から完全に除外することができる。
【0124】
少量で使用することができるか、または組成物から完全に除外することができる他の例示的なニトロキシド含有重合阻害剤には、ビス-ニトロキシドおよびトリス-ニトロキシド重合阻害剤、例えばビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)スクシナート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アジペート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-4-イル)n-ブチルマロネート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)フタレート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)イソフタレート、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)テレフタレート、ビス(1-オキシル)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ヘキサヒドロテレフタレート、N,N’-ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アジパミド、2,4,6-トリス-[N-ブチル-N-(1-オキシル-2,266-テトラメチルピペリジン-4-イル)]-s-トリアジン、2,4,6-トリス-[N-(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)]-s-トリアジン、4,4’-エチレンビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペラジン-3-オン)、およびそれらの混合物が含まれる。(例えば、米国特許第9,266,797号を参照。)これらの化合物のいずれも、重合性モノマー組成物中に非常に少量(本明細書に記載の50ppm、25ppm、10ppmなど未満)で存在することができるか、または組成物から完全に除外することができる。
【0125】
任意に、本開示のキノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を含む組成物は、RNHなどの一級アミンである安定剤化合物をさらに含むことができ、Rは、4~24、6~24、もしくは8~24個の炭素の直鎖、分岐、もしくは環状アルキル基、またはRNHRなどの二級アミンである安定剤であり、RおよびRは、独立して、1~23個の炭素原子の直鎖、分岐、または環状アルキル基から選択されるが、但し、RおよびRにおける炭素原子の総数が、米国出願公開第2020/0017610号(Masere et al.,)に開示されているように、4~24、6~24、または8~24個の炭素の範囲であることを条件とする。
【0126】
モノマー含有組成物中のモノマーの重合を阻害する方法は、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の成分(1つ以上の任意の成分を含む)を、重合性モノマーを含む組成物に添加することによって実行することができる。キノンメチドは、アンモニウム塩と同時に、アンモニウム塩の添加前、もしくはアンモニウム塩の添加後、またはそれらの任意の組み合わせで、モノマー組成物に添加することができる。キノンメチドおよびアンモニウム塩を添加する方法を実行して、処理プロセス中の任意の1つ以上の時点で、モノマー組成物中に所望の濃度のこれらの化合物を提供することができる。
【0127】
キノンメチド重合遅延剤は、重合性モノマーの重合を阻害し、アンモニウム塩の存在は、キノンメチド重合遅延剤の有効性を改善する。
【0128】
重合遅延に供される重合性モノマーは、ビニルまたはエチレン性不飽和基を含むことができる。例えば、キノンメチドおよびアンモニウム塩の成分を、以下の重合性モノマーのうちの1つ以上を含む組成物に添加することができる:アクロレイン、アクリル酸、アクリロニトリル、アルキル化スチレン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルベンゼン、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、イソプレン、メタクリル酸、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、α-メチルスチレン、メタクリロニトリル、スチレン、スチレンスルホン酸、酢酸ビニル、ビニルトルエン、およびビニルピリジン。
【0129】
重合性モノマーは、化合物の粗混合物、化合物の半精製混合物、または化合物の完全精製混合物中に存在することができる。例えば、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の成分は、重合性モノマーを含むプロセス流に添加されてもよい。方法において、成分は、組成物中の化合物が互いに分離される蒸留などの加工ステップの前、最中、もしくは後(またはそれらの組み合わせ)に添加することができる。成分は、加工システムの任意の1つ以上の段階でモノマーの重合を抑制することができ、したがって、設備の汚染を低減または防止することができる。
【0130】
あるいは、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の成分を、重合性モノマーに形成することができる化合物(例えば、モノマー前駆体)を含むプロセス流に添加することができる。例えば、望ましくない副生成物として重合性モノマーを形成することができる化合物を含む組成物において、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の存在は、それが副生成物として形成される場合、モノマーの重合を阻害することができ、したがって、設備の汚染を低減または防止することができる。
【0131】
いくつかの実施様式では、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩をモノマー含有組成物に導入して、組成物中の所望の量の各試薬を提供する。キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩は、成分が混合されている組成物から送達されるなど、同時に導入することができるか、または個別にもしくは部分的に組み合わせて、連続して、または重複して送達することができる。結果として生じるモノマー含有組成物への成分の導入は、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を所望の濃度で提供することができる。
【0132】
例えば、0.05~50000ppmの範囲の重合性モノマー濃度で、キノンメチド重合遅延剤を導入して、125~250ppmの範囲の量の遅延剤を提供することができ、アンモニウム塩を導入して、5~25ppmの範囲の量のアンモニウム塩を提供することができる。また、別の実施例として、キノンメチド重合遅延剤を導入して、150~225ppmの範囲の量の遅延剤を提供することができ、アンモニウム塩を導入して、12~20ppmの範囲の量のアンモニウム塩を提供することができる。
【0133】
いくつかの実施様式では、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩は、任意に、ニトロキシド含有重合阻害剤(例えば、HTEMPOなど)などの重合阻害剤とともに、好ましくは少量で使用されるか、またはニトロキシド含有重合阻害剤は、プロセスから完全に排除され得る。例えば、いくつかの実施様式では、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を添加する前に、重合阻害剤をプロセス流などの重合性モノマー組成物に添加する。重合阻害剤を一定期間にわたって添加することができ、次いでキノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩をその期間の後に(すなわち、連続して)添加することができるか、または重合阻害剤、キノンメチド重合遅延剤、およびアンモニウム塩の、重合性モノマー組成物への添加は、重複する可能性がある。他の実施様式では、重合阻害剤、キノンメチド重合遅延剤、およびアンモニウム塩を、重合性モノマー組成物に同時に添加することができる。キノンメチドおよびアンモニウム塩の使用は、モノマー組成中の重合阻害剤の量を著しく低減することができる。
【0134】
「汚染」という用語は、流れにおいて不溶性になる、かつ/または流れから沈殿し、設備を操作する条件下でその設備に堆積するポリマー、プレポリマー、オリゴマー、および/または他の材料の形成を指す。次に、アンモニウム塩によって増強されるキノンメチド重合遅延剤は、それらがそのような形成を防止または低減するため、「汚染防止」と称され得る。
【0135】
任意に、本開示の組成物が重合を阻害する能力は、アンモニウム塩を含まない組成物と比較して説明することができる。アンモニウム塩の効果は、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を含む組成物の存在下で、モノマー(例えば、スチレン)組成物(遅延剤を含むが、アンモニウム塩を含まないもの(比較))中のポリマー(例えば、ポリスチレン)の形成を経時的に測定することによって理解することができる。例えば、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を含む本開示の組成物は、同じ条件下でキノンメチド重合遅延剤を含むが、アンモニウム塩を含まない組成物と比較して、モノマーの重合の阻害を約1.2倍超、約1.4倍超、約1.4倍超、約1.5倍超、約2倍超、約3倍超、約4倍超、約5倍超、約6倍超、約7倍超、約8倍超、約9倍超、および場合によっては約10倍超改善する。
【0136】
例示的なキノンメチド(QMCinn、QMPh)と例示的なアンモニウム塩(TIPA-2-EH、DIHA-2-EH)との組み合わせ、および本明細書に記載される実験的研究に関して、組み合わせは、キノンメチドのみを有する組成物よりも改善された重合防止剤活性、さらにはニトロ基含有重合防止剤DNBPよりも改善された重合防止剤活性を提供した。重合防止剤の試験期間を通して改善が見られた。
【0137】
組み合わせは、試験したほとんどの時点にわたってQMCinn単独よりも改善された重合防止剤活性を提供し、改善は経時的により顕著になり、QMCinnとTIPA-2-EHとの組み合わせは、QMCinnをより低い濃度で使用した場合でも、最後の時点(120分)でQMCinnよりも6倍超の改善を示す。QMCinnとTIPA-2-EHとの組み合わせはまた、測定されたほとんどの時点で、ニトロ基含有重合防止剤DNBPよりも優れた性能を示した。
【0138】
キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の成分(およびいずれかの他の任意の成分)は、重合性モノマーを含有する組成物、およびプロセスと関連付けられ、モノマー重合による汚染に供される可能性のある反応器、反応器床、パイプ、バルブ、蒸留塔、トレイ、凝縮器、熱交換器、圧縮機、ファン、インペラー、ポンプ、再循環器、インタークーラー、センサーなどの「プロセス設備」と併せて使用することができる。この用語には、複数のコンポーネントが「システム」の一部であるこれらのコンポーネントのセットも含まれる。
【0139】
1つの好ましい使用方法では、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩および溶媒(例えば、グリコール)を含む本開示の組成物は、スチレンなどのビニルモノマーを分離および精製するために使用される蒸留塔を含むプロセスで使用される。例えば、当該技術分野で知られているプロセスにおいて、エチルベンゼンは、スチレンの形成をもたらす接触脱水素反応に供することができる。スチレンを含有する反応生成物には、トルエンやベンゼンなどの芳香族化合物、未反応のエチルベンゼン、ポリマーなどの他の材料も含まれる。この化合物の混合物は、一般に、1つ以上の蒸留塔を使用して分別蒸留される。通常、熱は蒸留塔内の成分を分離するのを助けるために使用される。蒸留後、分別された成分は、より純度の高い純粋な生成物の流れに分離することができる。任意に、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩は、ビニルモノマーを分離および精製するために使用される蒸留塔において、ニトロキシド含有重合阻害剤(例えば、HTEMPOなど)などの重合阻害剤とともに使用される。
【0140】
キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩含有組成物は、反応床から蒸留塔につながる流れに導入することができるか、または蒸留塔に直接添加することができる。組成物は、モノマー組成物を加熱する前に、または蒸留塔でモノマー組成物を加熱しながら添加することができる。実施形態では、アンモニウム塩は、蒸留塔に供される所望の化合物または留出物(例えば、スチレンなどのモノマー)の沸点よりも高い沸点を有し、蒸留プロセス中に、温度差のおかげで、所望の化合物がアンモニウム塩から分離される。実施形態では、目的の化合物とアンモニウム塩との間の沸点差は、約10℃以上、約15℃以上、約20℃以上、約25℃以上、約30℃以上、約35℃以上、約40℃以上、約45℃以上、または約50℃以上である。
【0141】
代替的に、または蒸留プロセス中にキノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩含有組成物を添加することに加えて、組成物は、任意に、またはさらに、精製スチレン流などの蒸留流出液流に添加することができる。任意に、ニトロキシド含有重合阻害剤(例えば、HTEMPOなど)を、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の前に、またはそれらとともに、蒸留流出液流に添加することができる。
【0142】
キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウムは、任意に1つ以上の他の成分とともに、輸送および保管中に流れを安定化するために不飽和モノマーを含むことができるいずれかの「炭化水素プロセス流」と使用することができる。いくつかの実施様式では、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の成分は、地下貯留層から得られる任意の炭化水素生成物、それから誘導される任意の生成物、またはそれらの任意の混合物を指す「石油生成物」と併せて使用することができる。重合性モノマーは、石油生成物に含まれているか、石油生成物から化学的に誘導することができる。石油生成物の非限定的な例には、原油、還元原油、粗留出物、重油、または瀝青、水素化処理油、精製油、熱分解、水素化処理、または相分離などの石油生成物加工の副生成物、またはこれらの2つ以上の混合物が含まれるが、これらに限定されない。液体石油生成物は、20℃で実質的に液体である石油生成物である。
【0143】
キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の成分は、その内面と流体接触して石油プロセス設備内に配置された任意の石油生成物を指す「石油プロセス流」に添加することができるか、または存在することができる。
【0144】
石油プロセス流は、1つ以上の重合性モノマーを含むことができるか、または副生成物として形成することができる。プロセス流は、セトラー(セパレーター)または保管容器内に、選択された最大2年などの接触期間の間、石油生成物が配置されるなど、実質的に静的であり得る。プロセス流は、第1の場所から第2の場所への生成物の輸送中にパイプ内に配置される液体石油生成物など、実質的に動的であり得る。いくつかの実施形態では、プロセス流は、石油加工に関連する1つ以上の追加のコンポーネントを含み、そのようなコンポーネントは特に限定されない。
【0145】
「石油プロセス設備」または「石油プロセス装置」は、金属を含む内面を有する人工物を指し、さらに、1つ以上の石油生成物が、いずれかの期間およびいずれかの温度で、コンテキストによって決定される。石油プロセス設備は、地下貯留層から石油生成物を取り出すため、1つ以上の石油生成物を第1の場所から第2の場所に輸送するため、または1つ以上の石油生成物を分離、精製、処理、分離、蒸留、反応、計量、加熱、冷却、もしくは収容するためのアイテムを含む。
【0146】
実施形態では、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を含む組成物は、熱的に安定であり、約20℃~約400℃、例えば、約100℃~約400℃、または約100℃~約350℃、または約100℃~約300℃、または約100℃~約250℃、または約100℃~約200℃、または約100℃~約150℃の温度で、加工流または他の重合性モノマー含有組成物において遅延剤活性を有する。
【0147】
実施形態では、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を含む組成物は、バッチ式、連続式、または半連続式で、液体石油プロセス流などの重合性モノマーを含む組成物に導入することができる。いくつかの実施形態では、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩(およびいずれかの他の任意の成分)は、手動で導入され、他の実施形態では、それらの導入は自動化されている。実施形態では、選択された単位時間にわたって導入されるキノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩の量は、関連するプロセス流の可変組成によって変化する。供給におけるそのような変動性は、試験結果に基づいて組成物の量を上下に調整した後、または、自動的に石油プロセス設備の内部の1つ以上の状態を監視し、プロセス流により多くの組成を適用する必要があることを通知した後、プロセス設備の内面を定期的に試験することによって手動で実施することができる。
【0148】
いくつかの実施形態では、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩は、原油、還元原油、重油、瀝青、コーカーチャージ、水素化処理装置流入液、水素化処理装置流出液、フラッシュ原油、ライトサイクル油、またはディーゼルもしくはナフサ精製流である石油生成物に添加される。実施形態では、化合物は、原油、還元原油、原油留出物、重油、瀝青、コーカーチャージ、フラッシュ原油、ライトサイクル油、またはディーゼルもしくはナフサ精製流のうちの1つ以上の収集、加工、輸送、または保管に従来関連し、プロセス設備アイテムを流動的に接続して、そこに配置されたプロセス流の加工を容易にするために使用されるパイプおよび関連インフラストラクチャを含む、石油プロセス設備に添加される。
【0149】
キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩およびいずれかの他の任意成分で処理される重合性モノマー含有組成物を含有する設備は、設備の内面の汚染を低減または排除することができる。実施形態では、汚染は、同じ期間にわたる未処理の組成物中の固形物の保持と比較した、処理された組成物内の固形物の保持の相対的な増加として測定される。実施形態では、汚染は、プロセス設備と対応する未処理のプロセス流との同じ接触期間と比較した、関連するプロセス設備アイテム内の処理されたプロセス流の選択された接触期間から生じる沈殿物の重量または体積の相対的な減少として測定される。別の言い方をすれば、汚染の低減は、同じ期間に未処理のプロセス流から堆積または沈殿した固体の重量または体積と比較した場合、選択された期間にわたって処理されたプロセス流と接触したプロセス設備から堆積または沈殿した固体の測定された重量または体積の相対的な減少である。
【0150】
キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩はまた、一次分別プロセス、ライトエンド分別、非芳香族ハロゲン化ビニル分別および安定化、プロセスガス圧縮、希釈蒸気システム、苛性塔、急冷水塔、急冷水分離器(熱分解ガソリン)、ブタジエン抽出、プロパン脱水素化、ディーゼルおよびガソリン燃料安定化、オレフィンメタセシス、スチレン精製、ヒドロキシ炭化水素精製、輸送および保管中のビニルモノマーの安定化におけるプロセス設備の望ましくない重合および汚染を阻害することができるか、またはエチレン性不飽和種を含む樹脂および組成物の重合を遅らせる。
【0151】
キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩は、プロセスの任意の所与の時点で、1つ以上の場所に添加することができる。例えば、そのような組成物は、段間冷却器もしくは圧縮機に直接、または中間冷却器もしくは圧縮機の上流に添加することができる。キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩は、必要に応じてプロセス設備に連続的または断続的に添加して、汚染を防止または低減することができる。
【0152】
キノンメチド遅延剤およびアンモニウム塩は、任意の好適な方法によって所望のシステムに導入することができる。例えば、ニートまたは希釈溶液で添加されてもよい。いくつかの実施形態では、キノンメチド重合遅延剤およびアンモニウム塩を含有する組成物は、システム内の所望の開口部に、またはプロセス設備もしくはプロセス凝縮物に、噴霧、滴下、注入、または注射される溶液、エマルジョン、または分散液として適用することができる。いくつかの実施形態では、組成物に洗浄油または調温水とともに添加されてもよい。
【0153】
組成物をプロセス設備に導入した後、処理されたプロセス設備は、組成物を添加しないプロセス設備よりも設備への堆積が少ないことが観察され得る。汚染の低減または防止は、いずれかの既知の方法または試験によって評価され得る。いくつかの実施形態では、汚染の低減または防止は、防汚剤組成物がある場合とない場合のサンプルがゲル化するのにかかる時間を測定することによってアクセスすることができる。さらなる詳細については、実験のセクションを参照されたい。
【実施例
【0154】
実施例1:QMCinnの重合防止剤活性(比較)
【0155】
スチレンモノマー溶液からのポリスチレンの形成を阻害する重合防止剤化合物の能力を試験するために、スチレンを使用する直前に4-tert-ブチルカテコール(TBC)を除去して0.679mmolalの7-シンナミルキノンメチド(QMCinn、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(3-フェニルアリリデン)シクロヘキサ-2,5-ジエノン、米国特許第9,957,209号)およびスチレンの溶液を調製することによって、安定剤を含まないスチレンを新たに調製した。10mLのアリコートで、溶液を24本の圧力管に移した。溶液中の溶存酸素を除去した後、フッ素エラストマー(FETFE)Oリングを備えたPTFEスクリューキャップを使用して、試験管にキャップを付けた。すべての管を、120℃に予熱された加熱ブロックに配置した。4本の反応管を、20分の時間間隔で加熱ブロックから引き出した。重合を急冷するために、4本の管を直ちに氷浴に入れ、続いて反応混合物をトルエンで直ちに希釈した。独自の方法を使用して、反応混合物中のポリスチレン生成物の濃度を決定した。この方法を使用して、キノンメチドQMCinn(実施例1)およびQMPh(実施例2)、ニトロ基含有重合防止剤DNBP(実施例3)、QMCinnとアンモニウム塩TIPA-2-EHとの組み合わせ(実施例9)、QMPhとアンモニウム塩DIHA-2-EHとの組み合わせ(実施例10)、ならびにQMPhとアンモニウム塩TIPA 2-EHとの組み合わせ(実施例11)の重合防止剤活性を試験した。アンモニウム塩を含まないQMCinnの重合防止剤活性を表1に示す。
【0156】
実施例2:QMPhの重合防止剤活性(比較)
【0157】
7-フェニルキノンメチド(QMPh、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ベンジリデン-シクロヘキサ-2,5-ジエノン、米国出願公開第2006/0163539号)の重合防止剤活性を、実施例1に記載された方法に従って、スチレンとともに0.679mmolalの濃度で試験した。アンモニウム塩を含まないQMCinnの重合防止剤活性を表2および3に示す。
【0158】
実施例3:DNBPの重合防止剤活性(比較)
【0159】
ニトロ基含有重合防止剤2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノール(DNBP)の重合防止剤活性を、実施例1に記載される方法に従って、新たに調製したスチレン中0.679mmolalの濃度で試験した。DNBPの重合防止剤活性を表1~3に示す。
【0160】
実施例4:トリイソプロピルアンモニウムアセテートイオン液体(TIPA-Ac)の合成
【0161】
アンモニウム塩トリイソプロピルアンモニウムアセテート(TIPA-Ac)を、次のプロセスを使用して調製した。30.543g(151.7mmol)のトリイソプロパノールアミン(TIPA、95% w/w)の液体溶液および8.73mL(151.7mmol)の濃酢酸(99.6% w/w)を100gのトルエンに添加した。TIPAが溶液に溶解し、それが不透明になるまで、反応混合物を周囲温度で撹拌した。混合を停止した後、沈降すると、二液が形成された。トルエンを真空を使用して除去して、粘稠な液体、琥珀色を残した。
【0162】
実施例5:トリイソプロピルアンモニウムエチルヘキサノエートイオン液体(TIPA-EH)の合成
【0163】
アンモニウム塩トリイソプロピルアンモニウムエチルヘキサノエート(TIPA-EH)を、次のプロセスを使用して調製した。19.411g(96.41mmol)のトリイソプロパノールアミン(TIPA、95% w/w)の液体溶液および15.4mL(14.04g、96.41mmol)の2-エチルヘキサン酸を、周囲温度で300gのトルエンに添加した。
【0164】
実施例6:トリエチルアンモニウムアセテート(TEA-Ac)イオン液体
【0165】
アンモニウム塩トリエチルアンモニウムアセテート(TEA-Ac)を、以下のプロセスを使用して調製した。7.836g(77.44mmol)のトリエチルアミン(TEA)の液体溶液および77.44mmolの酢酸を、周囲温度で300gのトルエンに添加した。
【0166】
実施例7:N,N-ジエチルヒドロキシルアンモニウム2-エチルヘキサノエートイオン液体(DEHA-2-EH)の合成
【0167】
アンモニウム塩N,N-ジエチルヒドロキシルアンモニウム2-エチルヘキサノエート(DEHA-2-EH)を、次のプロセスを使用して調製した。29.090g(319.8mmol)のジエチルヒドロキシルアミン(DEHA)の液体溶液および46.586g(319.8mmol)の2-エチルヘキサン酸を、300gのトルエンに添加した。反応物をトルエン中で10分間混合し、次いで、トルエンを除去して黄色で透明な液体を得た。
【0168】
実施例8:ジ(ヒドロキシプロピル)ヒドロキシルアンモニウム2-エチルヘキサノエートイオン液体(DHPHA-2-EH)の合成
【0169】
アンモニウム塩ジ(ヒドロキシプロピル)ヒドロキシルアンモニウム2-エチルヘキサノエートイオン液体(DHPHA-2-EH)を、次のプロセスを使用して調製した。3.418g(25.149mmol)のジ(ヒドロキシプロピル)-ヒドロキシルアミン(DEHA)の液体溶液および3.627g(25.149mmol)の2-エチルヘキサン酸を、周囲温度で300gのトルエンに添加した。
【0170】
実施例9:QMCinnおよびトリイソプロパノールアンモニウム2-エチルヘキサノエートイオン液体の組成
【0171】
0.611mmolal(0.679mmolalから90%低減した濃度)で使用されたQMCinn(実施例1を参照)と0.0679mmolalのTIPA-2-EH(実施例5、11%のmmolal濃度のQMCinnで使用された)との組み合わせの重合防止剤活性を、実施例1に記載されている方法を使用して、安定剤を含まないスチレンの存在下で測定した。組み合わせの重合防止剤活性、ならびに単独で使用されたQMCinnおよびDNBPのデータを表1に示す。
【0172】
QMCinnとTIPA-2-EHとの組み合わせは、試験されたほとんどの時点にわたってQMCinn単独よりも改善された重合防止剤活性を示し、QMCinnとTIPA-2-EHとの組み合わせは、QMCinnをより低い濃度で使用した場合でも、最後の時点(120分)でQMCinnよりも6倍超の改善を示した。QMCinnとTIPA-2-EHとの組み合わせはまた、測定されたほとんどの時点で、ニトロ基含有重合防止剤DNBPよりも優れた性能を示した。
【0173】
【表1】
【0174】
実施例10:QMPhおよびN,N-ジエチルヒドロキシルアンモニウム2-エチルヘキサノエートイオン液体の組成
【0175】
0.611mmolalのQMPhと0.0679のN,N-ジエチルヒドロキシルアンモニウム2-エチルヘキサノエートイオン液体(DIHA-2-EH)との組み合わせの重合防止剤活性を、実施例1に記載される方法を使用して、安定剤を含まないスチレンの存在下で決定した。組み合わせの重合防止剤活性、ならびに単独で使用されたQMPhおよびDNBPのデータを表2に示す。
【0176】
QMPhとDIHA-2-EHとの組み合わせは、試験したすべての時点でQMPh単独よりも改善された重合防止剤活性を示し、QMPhを組み合わせにおいてより低い濃度で使用した場合でも、初期の時点(20分)でQMPhよりも10倍超の改善を示した。QMPhとDIHA-2-EHとの組み合わせもまた、ニトロ基含有重合防止剤DNBPに匹敵する重合防止剤活性を示した。
【0177】
【表2】
【0178】
実施例11:QMPhおよびトリイソプロパノールアンモニウム2-エチルヘキサノエートイオン液体の組成
【0179】
0.611ミリモルのQMPhと0.0679のN,N-トリイソプロパノールアンモニウム2-エチルヘキサノエート(TIPA 2-EH)イオン液体との組み合わせの重合防止剤活性を、実施例1に記載される方法を使用して、安定剤を含まないスチレンの存在下で決定した。組み合わせの重合防止剤活性、ならびに単独で使用されたQMPhおよびDNBPのデータを表3に示す。
【0180】
QMPhとTIPA 2-EHとの組み合わせは、QMPhを組み合わせにおいてより低い濃度で使用した場合でも、QMPh単独よりも約1.3倍~約4倍高い重合防止剤活性の範囲で、試験したすべての時点でQMPh単独よりも改善された約重合防止剤活性を示した。QMPhとTIPA 2-EHとの組み合わせもまた、初期の時点でニトロ基含有重合防止剤DNBPに匹敵する重合防止剤活性を示した。
【0181】
【表3】
図1
図2
図3
【国際調査報告】