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特表2022-551514KRAS突然変異を識別するT細胞受容体およびそのコード配列
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-09
(54)【発明の名称】KRAS突然変異を識別するT細胞受容体およびそのコード配列
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20221202BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20221202BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20221202BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221202BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221202BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221202BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221202BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20221202BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20221202BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20221202BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20221202BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20221202BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20221202BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20221202BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221202BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221202BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221202BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20221202BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20221202BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/725 ZNA
C12N15/867 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/0783
C12N5/0789
A61K35/76
A61K47/64
A61K35/12
A61K35/17 Z
A61K35/545
A61P35/00
A61P37/02
A61P43/00 111
A61K48/00
A61K38/17
C07K16/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521508
(86)(22)【出願日】2020-10-10
(85)【翻訳文提出日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 CN2020120191
(87)【国際公開番号】W WO2021068938
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】201910960523.3
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521121053
【氏名又は名称】エックスライフエスシー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】胡静
(72)【発明者】
【氏名】孫含麗
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA02
4C084CA53
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB07
4C084ZB26
4C084ZC02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB64
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA05
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB26
4C087ZC02
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、KRAS G12V突然変異(KRAS G12V)抗原に特異的に結合できるT細胞受容体(TCR)を提供し、突然変異抗原の短いペプチドは、VVGAVGVGKであり、HLA A1101と複合体を形成することができ、本発明のTCRは、上記複合体に特異的に結合できる。本発明は、前記TCRをコードする核酸分子、および前記核酸分子を含むベクターを更に提供する。更に、本発明は、本発明のTCRを形質導入する細胞を更に提供する。
【選択図】無し
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VVGAVGVGK-HLA A1101複合体に特異的に結合でき、TCRのα鎖の可変ドメインとTCRのβ鎖の可変ドメインとを含み、前記TCRのα鎖の可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列は、ASLKGNNDMR(SEQ ID NO: 12)であり、および/または前記TCRのβ鎖の可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列は、ASSSSRWEQQF(SEQ ID NO: 15)である、
ことを特徴とするT細胞受容体(TCR)。
【請求項2】
前記TCRのα鎖の可変ドメインの3つの相補性決定領域(CDR)は、
α CDR1- DRVSQS (SEQ ID NO: 10)、
α CDR2- IYSNGD (SEQ ID NO: 11)、
α CDR3- ASLKGNNDMR (SEQ ID NO: 12)であり、および/または
前記TCRのβ鎖の可変ドメインの3つの相補性決定領域は、
β CDR1- SGHVS (SEQ ID NO: 13)、
β CDR2- FQNEAQ (SEQ ID NO: 14)、
β CDR3- ASSSSRWEQQF (SEQ ID NO: 15)である、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項3】
TCRのα鎖の可変ドメインとTCRのβ鎖の可変ドメインとを含み、前記TCRのα鎖の可変ドメインは、SEQ ID NO: 1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、および/または前記TCRのβ鎖の可変ドメインは、SEQ ID NO: 5と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列である、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項4】
前記TCRは、VVVGAVGVGK-HLA A1101複合体にも特異的に結合できる、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項5】
前記TCRは、α鎖の可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO: 1を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項6】
前記TCRは、β鎖の可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO: 5を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項7】
前記TCRはαβヘテロ二量体であり、TCRのα鎖の定常ドメインTRAC*01およびTCRのβ鎖の定常ドメインTRBC1*01またはTRBC2*01を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項8】
前記TCRのα鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 3であり、および/または前記TCRのβ鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 7である、
ことを特徴とする請求項7に記載のTCR。
【請求項9】
前記TCRは可溶である、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項10】
前記TCRは一本鎖である、
ことを特徴とする請求項9に記載のTCR。
【請求項11】
前記TCRは、α鎖の可変ドメインとβ鎖の可変ドメインとをペプチド連結配列を介して連結してなる、
ことを特徴とする請求項10に記載のTCR。
【請求項12】
前記TCRは、α鎖の可変ドメインのアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、または94番目、および/またはα鎖のJ遺伝子の短いペプチドのアミノ酸の最後から3番目、最後から5番目、または最後から7番目に1つまたは複数の突然変異があり、および/または前記TCRは、β鎖の可変ドメインのアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、または94番目、および/またはβ鎖のJ遺伝子の短いペプチドのアミノ酸の最後から2番目、最後から4番目、または最後から6番目に1つまたは複数の突然変異があり、アミノ酸位置の番号は、IMGT(国際免疫遺伝学情報システム)に記載された位置番号に従う、
ことを特徴とする請求項11に記載のTCR。
【請求項13】
前記TCRのα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 32を含み、および/または前記TCRのβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 34を含む、
ことを特徴とする請求項12に記載のTCR。
【請求項14】
前記TCRのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 30である、ことを特徴とする請求項13に記載のTCR。
【請求項15】
前記TCRは、(a)膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のTCRのα鎖、および(b)膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のTCRのβ鎖を含み、
且つ、(a)および(b)は、それぞれ機能性可変ドメインを含むか、または機能性可変ドメインを含み、前記TCR鎖の定常ドメインの少なくとも一部を更に含む、
ことを特徴とする請求項9に記載のTCR。
【請求項16】
システイン残基は、前記TCRのα鎖の定常ドメインとβ鎖の定常ドメインとの間に人工的なジスルフィド結合を形成する、ことを特徴とする請求項15に記載のTCR。
【請求項17】
前記TCRで人工的なジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer57、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer77、
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer17、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAsp59、
TRAC*01エクソン1のSer15およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu15、
TRAC*01エクソン1のArg53およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer54、
TRAC*01エクソン1のPro89およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAla19、
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu20、
から選ばれる1群または複数群の部位を置換する、
ことを特徴とする請求項16に記載のTCR。
【請求項18】
前記TCRのα鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:26であり、および/または前記TCRのβ鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:28である、
ことを特徴とする請求項17に記載のTCR。
【請求項19】
前記TCRのα鎖の可変ドメインとβ鎖の定常ドメインとの間に、人工的な鎖間ジスルフィド結合が含まれる、ことを特徴とする請求項15に記載のTCR。
【請求項20】
前記TCRで人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、または
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、
から選ばれる1群または複数群の部位を置換する、
ことを特徴とする請求項19に記載のTCR。
【請求項21】
前記TCRは、α鎖の可変ドメイン、β鎖の可変ドメイン、および膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のβ鎖の定常ドメインを含むが、α鎖の定常ドメインを含まず、前記TCRのα鎖の可変ドメインとβ鎖とがヘテロ二量体を形成する、
ことを特徴とする請求項19または20に記載のTCR。
【請求項22】
前記TCRのα鎖および/またはβ鎖のC-末端またはN-末端にコンジュゲートが結合されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項23】
前記T細胞受容体に結合されたコンジュゲートは、検出可能マーカー、治療剤、PK修飾部分、またはこれらの物質の任意の組み合わせであり、好ましくは、前記治療剤は抗-CD3抗体である、
ことを特徴とする請求項22に記載のT細胞受容体。
【請求項24】
少なくとも2つのTCR分子を含み、且つ、そのうちの少なくとも1つのTCR分子は、上記請求項のいずれか1項に記載のTCRである、
ことを特徴とする多価TCR複合体。
【請求項25】
上記請求項のいずれか1項に記載のTCR分子をコードする核酸配列またはその相補配列を含む、
ことを特徴とする核酸分子。
【請求項26】
TCRのα鎖の可変ドメインをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 33を含む、
ことを特徴とする請求項25に記載の核酸分子。
【請求項27】
TCRのβ鎖の可変ドメインをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 6またはSEQ ID NO: 35を含む、
ことを特徴とする請求項25または26に記載の核酸分子。
【請求項28】
TCRのα鎖をコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 4および/またはTCRのβ鎖をコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 8を含む、
ことを特徴とする請求項25に記載の核酸分子。
【請求項29】
請求項25から28のいずれか1項に記載の核酸分子を含み、好ましくは、ウイルスベクターであり、より好ましくは、レンチウイルスベクターである、
ことを特徴とするベクター。
【請求項30】
請求項29に記載のベクターが含まれ、または染色体に外因性の請求項25から28のいずれか1項に記載の核酸分子が組み込まれている、
ことを特徴とする分離された宿主細胞。
【請求項31】
請求項25から28のいずれか1項に記載の核酸分子または請求項29に記載のベクターが形質導入され、好ましくは、T細胞または幹細胞である、
ことを特徴とする細胞。
【請求項32】
医薬的に許容されるベクターおよび請求項1から23のいずれか1項に記載のTCR、請求項24に記載のTCR複合体、または請求項31に記載の細胞を含む、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項33】
請求項1から23のいずれか1項に記載のT細胞受容体、または請求項24に記載のTCR複合体、または請求項31に記載の細胞の使用であって、腫瘍または自己免疫疾患を治療する薬剤の調製に使用される、
ことを特徴とする使用。
【請求項34】
請求項1から23のいずれか1項に記載のT細胞受容体または請求項24に記載のTCR複合体または請求項31に記載の細胞を、腫瘍または自己免疫疾患を治療する薬剤として使用する、
ことを特徴とする使用。
【請求項35】
治療を必要とする対象に適量の請求項1から23のいずれか1項に記載のTCR、請求項24に記載のTCR複合体、請求項31に記載の細胞、または請求項32に記載の医薬組成物を投与することを含み、
好ましくは、前記疾患は腫瘍であり、より好ましくは、前記腫瘍は、肺癌、結腸直腸癌、膵臓癌、または胃癌である、
ことを特徴とする疾患の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、KRAS G12V抗原に由来する短いペプチドを識別できるTCRおよびそのコード配列に関し、本発明は、更に、上記TCRを形質導入することにより得られたKRAS G12V特異的T細胞、およびKRAS G12V関連疾患の予防および治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
KRAS遺伝子(p21遺伝子)は、マウス系肉腫ウイルス癌遺伝子であり、長さが約35kbであり、12番染色体に位置し、ras遺伝子ファミリーのメンバーの1つであり、KRASタンパク質をコードする。KRAS遺伝子は、野生型または突然変異型に分けられる。正常な状態で、野生型のKRASは細胞成長の経路を制御調節することができる。突然変異が発生すると、細胞成長を刺激し続け、腫瘍の発生を引き起こす。KRAS遺伝子のよく見られる突然変異部位は、KRAS遺伝子の2番エクソンの12番および13番のコドンに位置し、ここで、G12Vは、7つのよく見られる突然変異部位の1つである(Chin J Lab Med.November 2012、Vol.35、No.11)。KRAS突然変異体(mKRAS)でコードされたKRASタンパク質は、持続的に活性化されている状態にあり、更に、細胞増殖が暴走し、腫瘍の形成を引き起こす。研究によると、KRAS-G12Vは、様々なヒト悪性腫瘍に関連し、肺癌、結腸直腸癌(Tumour Biol.2016 May、37(5):6823~30)、膵臓癌、胃癌(J Cancer 2019、10(4):821~828)等を含んでもよいが、これらに限定されず、且つ、KRAS-G12V突然変異を持っている腫瘍患者の生存期間は最も短いことが分かった(Br J Cancer.2015 Oct 20、113(8):1206~1215)。VVGAVGVGK(SEQ ID NO: 9)またはVVVGAVGVGK(SEQ ID NO: 38)は、KRAS G12V抗原に由来する短いペプチドであり、KRAS G12V関連疾患の治療の1つのターゲットである。
【0003】
T細胞養子免疫治療は、標的細胞抗原に対して特異性を持つ反応性T細胞を患者の体内に導入することにより、標的細胞に対して作用を発揮させる。T細胞受容体(TCR)は、T細胞表面の膜タンパク質であり、対応する標的細胞表面の抗原の短いペプチドを識別することができる。免疫システムにおいて、抗原の短いペプチド特異的TCRと短いペプチド-主要組織適合性複合体(pMHC複合体)との結合により、T細胞と抗原提示細胞(APC)とが直接物理的に接触し、その後、T細胞とAPCとの両者の他の細胞膜表面分子が相互作用し、一連の後続の細胞シグナル伝達および他の生理反応を引き起こし、異なる抗原の特異的なT細胞がその標的細胞に対して免疫効果を発揮する。従い、当業者は、KRAS G12V抗原の突然変異した短いペプチドに対して特異性を持つTCRを分離し、および該TCRをT細胞に形質導入してKRAS G12V抗原の短いペプチドに対して特異性を持つT細胞を取得し、それらに細胞免疫治療で作用を発揮させることに専念している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、KRAS G12V抗原の短いペプチドを識別するT細胞受容体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様1において、VVGAVGVGK-HLA A1101複合体に特異的に結合できるT細胞受容体(TCR)を提供する。
【0006】
別の好ましい例において、TCRのα鎖の可変ドメインとTCRのβ鎖の可変ドメインとを含み、前記TCRのα鎖の可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列は、ASLKGNNDMR(SEQ ID NO: 12)であり、および/または前記TCRのβ鎖の可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列は、ASSSSRWEQQF(SEQ ID NO: 15)である。
【0007】
別の好ましい例において、前記TCRのα鎖の可変ドメインの3つの相補性決定領域(CDR)は、
α CDR1- DRVSQS (SEQ ID NO: 10)、
α CDR2- IYSNGD (SEQ ID NO: 11)、
α CDR3- ASLKGNNDMR (SEQ ID NO: 12)であり、および/または
前記TCRのβ鎖の可変ドメインの3つの相補性決定領域は、
β CDR1- SGHVS (SEQ ID NO: 13)、
β CDR2- FQNEAQ (SEQ ID NO: 14)、
β CDR3- ASSSSRWEQQF (SEQ ID NO: 15)である。
【0008】
別の好ましい例において、前記TCRは、VVVGAVGVGK-HLA A1101複合体に特異的にも結合できる。
【0009】
別の好ましい例において、TCRのα鎖の可変ドメインとTCRのβ鎖の可変ドメインとを含み、前記TCRのα鎖の可変ドメインは、SEQ ID NO: 1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、および/または前記TCRのβ鎖の可変ドメインは、SEQ ID NO: 5と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列である。
【0010】
別の好ましい例において、前記TCRは、α鎖の可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO: 1を含む。
【0011】
別の好ましい例において、前記TCRは、β鎖の可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO: 5を含む。
【0012】
別の好ましい例において、前記TCRはαβヘテロ二量体であり、TCRのα鎖の定常ドメインTRAC*01およびTCRのβ鎖の定常ドメインTRBC1*01またはTRBC2*01を含む。
【0013】
別の好ましい例において、前記TCRのα鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 3であり、および/または前記TCRのβ鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 7である。
【0014】
別の好ましい例において、前記TCRは可溶である。
【0015】
別の好ましい例において、前記TCRは一本鎖である。
【0016】
別の好ましい例において、前記TCRは、α鎖の可変ドメインとβ鎖の可変ドメインとをペプチド連結配列を介して連結してなる。
【0017】
別の好ましい例において、前記TCRは、α鎖の可変ドメインのアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、または94番目、および/またはα鎖のJ遺伝子の短いペプチドのアミノ酸の最後から3番目、最後から5番目、または最後から7番目に1つまたは複数の突然変異があり、および/または前記TCRは、β鎖の可変ドメインのアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、または94番目、および/またはβ鎖のJ遺伝子の短いペプチドのアミノ酸の最後から2番目、最後から4番目、または最後から6番目に1つまたは複数の突然変異があり、アミノ酸位置の番号は、IMGT(国際免疫遺伝学情報システム)に記載された位置番号に従う。
【0018】
別の好ましい例において、前記TCRのα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 32を含み、および/または前記TCRのβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 34を含む。
【0019】
別の好ましい例において、前記TCRのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 30である。
【0020】
別の好ましい例において、前記TCRは、(a)膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のTCRのα鎖、および(b)膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のTCRのβ鎖を含み、
且つ、(a)および(b)は、それぞれ機能性可変ドメインを含むか、または機能性可変ドメインおよび前記TCR鎖の定常ドメインの少なくとも一部を含む。
【0021】
別の好ましい例において、システイン残基は、前記TCRのα鎖の定常ドメインとβ鎖の定常ドメインとの間に人工的なジスルフィド結合を形成する。
【0022】
別の好ましい例において、前記TCRで人工的なジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer57、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer77、
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer17、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAsp59、
TRAC*01エクソン1のSer15およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu15、
TRAC*01エクソン1のArg53およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer54、
TRAC*01エクソン1のPro89およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAla19、
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu20、
から選ばれる1群または複数群の部位を置換する。
【0023】
別の好ましい例において、前記TCRのα鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 26であり、および/または前記TCRのβ鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 28である。
【0024】
別の好ましい例において、前記TCRのα鎖の可変ドメインとβ鎖の定常ドメインとの間に、人工的な鎖間ジスルフィド結合が含まれる。
【0025】
別の好ましい例において、前記TCRで人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、または
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、
から選ばれる1群または複数群の部位を置換する。
【0026】
別の好ましい例において、前記TCRは、α鎖の可変ドメイン、β鎖の可変ドメイン、および膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のβ鎖の定常ドメインを含むが、α鎖の定常ドメインを含まず、前記TCRのα鎖の可変ドメインとβ鎖とがヘテロ二量体を形成する。
【0027】
別の好ましい例において、前記TCRのα鎖および/またはβ鎖のC-末端またはN-末端にコンジュゲートが結合されている。
【0028】
別の好ましい例において、前記T細胞受容体に結合されたコンジュゲートは、検出可能マーカー、治療剤、PK修飾部分、またはこれらの物質の任意の組み合わせである。好ましくは、前記治療剤は抗-CD3抗体である。
【0029】
本発明の態様2において、少なくとも2つのTCR分子を含み、且つ、そのうちの少なくとも1つのTCR分子が本発明の態様1に記載のTCRである多価TCR複合体を提供する。
【0030】
本発明の態様3において、本発明の態様1に記載のTCR分子をコードする核酸配列またはその相補配列を含む核酸分子を提供する。
【0031】
別の好ましい例において、前記核酸分子は、TCRのα鎖の可変ドメインをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 33を含む。
【0032】
別の好ましい例において、前記核酸分子は、TCRのβ鎖の可変ドメインをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 6またはSEQ ID NO: 35を含む。
【0033】
別の好ましい例において、前記核酸分子は、TCRのα鎖をコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 4および/またはTCRのβ鎖をコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 8を含む。
【0034】
本発明の態様4において、本発明の態様3に記載の核酸分子を含み、好ましくは、ウイルスベクターであり、より好ましくは、レンチウイルスベクターであるベクターを提供する。
【0035】
本発明の態様5において、本発明の態様4に記載のベクターが含まれ、またはゲノムに外因性の本発明の態様3に記載の核酸分子が組み込まれている分離された宿主細胞を提供する。
【0036】
本発明の態様6において、本発明の態様3に記載の核酸分子または本発明の態様4に記載のベクターが形質導入され、好ましくは、T細胞または幹細胞である細胞を提供する。
【0037】
本発明の態様7において、医薬的に許容されるベクターおよび本発明の態様1に記載のTCR、本発明の態様2に記載のTCR複合体、本発明の態様3に記載の核酸分子、本発明の態様4に記載のベクター、または本発明の態様6に記載の細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0038】
本発明の態様8において、本発明の態様1に記載のT細胞受容体、または本発明の態様2に記載のTCR複合体、本発明の態様3に記載の核酸分子、本発明の態様4に記載のベクター、または本発明の態様6に記載の細胞の使用であって、腫瘍または自己免疫疾患を治療する薬剤の調製に使用される使用を提供する。好ましくは、前記腫瘍は、膵臓癌、結腸癌、直腸癌、または肺癌である。
【0039】
本発明の態様9において、本発明の態様1に記載のT細胞受容体、または本発明の態様2に記載のTCR複合体、本発明の態様3に記載の核酸分子、本発明の態様4に記載のベクター、または本発明の態様6に記載の細胞を、腫瘍または自己免疫疾患を治療する薬剤として使用する、使用を提供する。好ましくは、前記腫瘍は、膵臓癌、結腸癌、直腸癌、または肺癌である。
【0040】
本発明の態様10において、治療を必要とする対象に適量の本発明の態様1に記載のT細胞受容体、または本発明の態様2に記載のTCR複合体、本発明の態様3に記載の核酸分子、本発明の態様4に記載のベクター、または本発明の態様6に記載の細胞、または本発明の態様7に記載の医薬組成物を投与することを含み、
好ましくは、前記疾患は腫瘍であり、より好ましくは、前記腫瘍は、膵臓癌、結腸癌、直腸癌、または肺癌である疾患の治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0041】
本発明の範囲内で、本発明の上記各技術的特徴と以下(例えば、実施例)に具体的に説明する各技術的特徴との間は、互いに組み合わせて新しいまたは好ましい技術案を構成することができることが理解されるべきである。紙面の都合、ここでは網羅的に列挙しない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1a、図1b、図1c、図1d、図1eおよび図1fは、それぞれTCRのα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、TCRのα鎖の可変ドメインのヌクレオチド配列、TCRのα鎖のアミノ酸配列、TCRのα鎖のヌクレオチド配列、リーダー配列を有するTCRのα鎖のアミノ酸配列、およびリーダー配列を有するTCRのα鎖のヌクレオチド配列である。
図2図2a、図2b、図2c、図2d、図2eおよび図2fは、それぞれTCRのβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、TCRのβ鎖の可変ドメインのヌクレオチド配列、TCRのβ鎖のアミノ酸配列、TCRのβ鎖のヌクレオチド配列、リーダー配列を有するTCRのβ鎖のアミノ酸配列、およびリーダー配列を有するTCRのβ鎖のヌクレオチド配列である。
図3】モノクローナル細胞のCD8+および四量体-PE二重陽性染色結果である。
図4図4aおよび図4bは、それぞれ可溶性TCRのα鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列である。
図5図5aおよび図5bは、それぞれ可溶性TCRのβ鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列である。
図6図6aおよび図6bは、精製後に得られた可溶性TCRのゲル図である。ここで、図6aおよび図6bの右側レーンは、それぞれ還元ゲルおよび非還元ゲルであり、左側レーンは、いずれも分子量マーカー(marker)である。
図7図7aおよび図7bは、それぞれ一本鎖TCRのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列である。
図8図8aおよび図8bは、それぞれ一本鎖TCRのα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列である。
図9図9aおよび図9bは、それぞれ一本鎖TCRのβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列である。
図10図10aおよび図10bは、それぞれ一本鎖TCRの連結配列(linker)のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列である。
図11】精製後に得られた可溶性一本鎖TCRのゲル図である。左側レーンは分子量マーカー(marker)であり、右側レーンは非還元ゲルである。
図12】本発明の可溶性TCRとVVGAVGVGK-HLA A1101複合体との結合のBIAcore動態学マップである。
図13】本発明の可溶性一本鎖TCRとVVGAVGVGK-HLA A1101複合体との結合のBIAcore動態学マップである。
図14】得られたT細胞のクローンのELISPOT活性化機能の検証結果である。
図15】本発明のTCRを形質導入する効果細胞のELISPOT活性化機能の検証結果(標的細胞がT2である)である。
図16】本発明のTCRを形質導入する効果細胞のELISPOT活性化機能の検証結果(標的細胞が腫瘍細胞系である)である。
図17】本発明のTCRを形質導入する効果細胞のLDH殺傷機能の検証結果である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明者は、広範かつ深い研究により、KRAS G12V抗原の短いペプチドVVGAVGVGK(SEQ ID NO: 9)またはVVVGAVGVGK(SEQ ID NO: 38)に特異的に結合できるTCRを見出し、前記抗原の短いペプチドVVGAVGVGKまたはVVVGAVGVGKは、それぞれHLA A1101と複合体を形成して共に細胞表面に提示することができる。本発明は、前記TCRをコードする核酸分子、および前記核酸分子を含むベクターを更に提供する。また、本発明は、本発明のTCRを形質導入する細胞を更に提供する。
【0044】
用語
MHC分子は、免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質であり、クラスIまたはクラスIIのMHC分子であってもよい。従い、抗原の提示に対して特異性を有し、異なる個体は異なるMHCを有し、タンパク質抗原における異なる短いペプチドをそれぞれのAPC細胞表面に提示することができる。ヒトのMHCは、通常、HLA遺伝子またはHLA複合体と呼ばれる。
【0045】
T細胞受容体(TCR)は、主要組織適合性複合体(MHC)に提示された特異的な抗原ペプチドの唯一の受容体である。免疫システムにおいて、抗原の特異的なTCRとpMHC複合体との結合により、T細胞と抗原提示細胞(APC)とが直接物理的に接触し、その後、T細胞とAPCとの両者の他の細胞膜表面分子が相互作用し、一連の後続の細胞シグナル伝達および他の生理反応を引き起こし、異なる抗原の特異的なT細胞がその標的細胞に対して免疫効果を発揮する。
【0046】
TCRは、α鎖/β鎖またはγ鎖/δ鎖がヘテロ二量体の形式で存在する細胞膜表面の糖タンパク質である。95%のT細胞において、TCRヘテロ二量体はα鎖とβ鎖とで構成される一方、5%のT細胞は、γ鎖とδ鎖とで構成されたTCRを有する。天然のαβヘテロ二量体化TCRはα鎖およびβ鎖を有し、α鎖およびβ鎖は、αβヘテロ二量体化TCRのサブユニットを構成する。大まかに言って、αとβの各鎖は、可変領域、連結領域および定常領域を含み、β鎖は、通常、可変領域と連結領域との間に短い多変領域を更に含むが、該多変領域は、通常連結領域の一部としてみなされる。各可変領域は、フレームワーク構造(framework regions)に埋め込まれた3つのCDR(相補性決定領域)、CDR1、CDR2およびCDR3を含む。CDR領域は、TCRとpMHC複合体との結合を決定し、ここで、CDR3は、可変領域と連結領域とで再構成され、超可変領域と呼ばれる。TCRのα鎖とβ鎖とは、一般的にそれぞれ2つの「ドメイン」、即ち可変ドメインと定常ドメインとを有すると見なされ、可変ドメインは、連結された可変領域と連結領域とで構成される。TCRの定常ドメインの配列は、国際免疫遺伝学情報システム(IMGT)の公開データベースで見つかることができ、例えば、TCR分子のα鎖の定常ドメイン配列は、「TRAC*01」であり、TCR分子のβ鎖の定常ドメイン配列は、「TRBC1*01」または「TRBC2*01」である。また、TCRのα鎖およびβ鎖は、膜貫通領域と細胞質領域とを更に含み、細胞質領域は短い。
【0047】
本発明において、「本発明のポリペプチド」、「本発明のTCR」、「本発明のT細胞受容体」という用語は、交換可能に使用される。
【0048】
天然の鎖間ジスルフィド結合および人工的な鎖間ジスルフィド結合
天然のTCRの膜近位領域CαとCβ鎖との間には、1群のジスルフィド結合が存在し、本発明では、「天然の鎖間ジスルフィド結合」と呼ばれる。本発明において、天然の鎖間ジスルフィド結合の位置と位置が異なる人工的に導入された鎖間共有ジスルフィド結合を、「人工的な鎖間ジスルフィド結合」と呼ぶ。
【0049】
ジスルフィド結合の位置を容易に説明するために、本発明におけるTRAC*01およびTRBC1*01またはTRBC2*01アミノ酸配列の位置番号は、N端からC端まで順番に位置番号を付け、例えば、TRBC1*01またはTRBC2*01において、N端からC端までの順番の順序に従う60番目のアミノ酸がP(プロリン)であると、本発明では、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のPro60と記述することができ、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸と記述することもでき、また、例えば、TRBC1*01またはTRBC2*01において、N端からC端までの順番の順序に従う61番目のアミノ酸がQ(グルタミン)であると、本発明では、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGln61と記述することができ、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸と記述することもでき、他は、類推によって推測される。本発明において、可変領域TRAVとTRBVとのアミノ酸配列の位置番号は、IMGTに記載の位置番号に従う。例えば、TRAVにおけるあるアミノ酸について、IMGTに記載の位置番号が46であると、本発明においてTRAV46番目のアミノ酸と記述され、他は、類推によって推測される。本発明において、他のアミノ酸の配列位置番号について特別な説明がある場合、特別な説明に従う。
【0050】
発明の詳細な説明
TCR分子
抗原の加工過程において、抗原は、細胞内で分解された後、MHC分子によって細胞表面に運ばれる。T細胞受容体は、抗原提示細胞表面のペプチド-MHC複合体を識別することができる。従い、本発明の態様1は、VVGAVGVGK-HLA A1101またはVVVGAVGVGK-HLA A1101複合体に結合できるTCR分子を提供する。好ましくは、前記TCR分子は、分離されたものまたは精製されたものである。該TCRのα鎖とβ鎖とは、それぞれ3つの相補性決定領域(CDR)を有する。
【0051】
本発明の1つの好ましい実施形態において、前記TCRのα鎖は、
α CDR1- DRVSQS (SEQ ID NO: 10)、
α CDR2- IYSNGD (SEQ ID NO: 11)、
α CDR3- ASLKGNNDMR (SEQ ID NO: 12)というアミノ酸配列を有するCDRを含み、および/または
前記TCRのβ鎖の可変ドメインの3つの相補性決定領域は、
β CDR1- SGHVS (SEQ ID NO: 13)、
β CDR2- FQNEAQ (SEQ ID NO: 14)、
β CDR3- ASSSSRWEQQF (SEQ ID NO: 15)である。
【0052】
上記本発明のCDR領域アミノ酸配列を、任意の適切なフレームワーク構造に埋め込んでキメラTCRを調製することができる。フレームワーク構造が本発明のTCRのCDR領域と交換性がある限り、当業者は、本発明に開示されたCDR領域に基づいて対応する機能を有するTCR分子を設計または合成することができる。従い、本発明のTCR分子は、上記α鎖および/またはβ鎖のCDR領域配列および任意の適切なフレームワーク構造を含むTCR分子を指す。本発明のTCRのα鎖の可変ドメインは、SEQ ID NO: 1と少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、および/または本発明のTCRのβ鎖の可変ドメインは、SEQ ID NO: 5と少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%の配列同一性を有するアミノ酸配列である。
【0053】
本発明の1つの好ましい例において、本発明のTCR分子は、α鎖とβ鎖とで構成されるヘテロ二量体である。具体的には、一方で、前記ヘテロ二量体化TCR分子のα鎖は、可変ドメインと定常ドメインとを含み、前記α鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、上記α鎖のCDR1(SEQ ID NO: 10)、CDR2(SEQ ID NO: 11)、およびCDR3(SEQ ID NO: 12)を含む。好ましくは、前記TCR分子は、α鎖の可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO: 1を含む。より好ましくは、前記TCR分子のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 1である。他方で、前記ヘテロ二量体化TCR分子のβ鎖は、可変ドメインと定常ドメインとを含み、前記β鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、上記β鎖のCDR1(SEQ ID NO: 13)、CDR2(SEQ ID NO: 14)、およびCDR3(SEQ ID NO: 15)を含む。好ましくは、前記TCR分子は、β鎖の可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO: 5を含む。より好ましくは、前記TCR分子のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 5である。
【0054】
本発明の1つの好ましい例において、本発明のTCR分子は、α鎖の一部または全ておよび/またはβ鎖の一部または全てから構成される一本鎖TCR分子である。一本鎖TCR分子についての記述は、文献Chung et al(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91、12654~12658を参照することができる。文献の記載によると、当業者は、本発明のCDRs領域を含む一本鎖TCR分子を容易に構築することができる。具体的には、前記一本鎖TCR分子は、Vα、VβおよびCβを含み、好ましくは、N端からC端までの順序に従って連結される。
【0055】
前記一本鎖TCR分子のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、上記α鎖のCDR1(SEQ ID NO: 10)、CDR2(SEQ ID NO: 11)、およびCDR3(SEQ ID NO: 12)を含む。好ましくは、前記一本鎖TCR分子は、α鎖の可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO: 1を含む。より好ましくは、前記一本鎖TCR分子のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 1である。前記一本鎖TCR分子のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、上記β鎖のCDR1(SEQ ID NO: 13)、CDR2(SEQ ID NO: 14)、およびCDR3(SEQ ID NO: 15)を含む。好ましくは、前記一本鎖TCR分子は、β鎖の可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO: 5を含む。より好ましくは、前記一本鎖TCR分子のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 5である。
【0056】
本発明の1つの好ましい例において、本発明のTCR分子の定常ドメインは、ヒトの定常ドメインである。当業者は、関連書籍またはIMGT(国際免疫遺伝学情報システム)の公開データベースを参照することにより、ヒトの定常ドメインアミノ酸配列を知るか、または得ることができる。例えば、本発明のTCR分子のα鎖の定常ドメイン配列は、「TRAC*01」であってもよく、TCR分子のβ鎖の定常ドメイン配列は、「TRBC1*01」または「TRBC2*01」であってもよい。IMGTのTRAC*01に与えられたアミノ酸配列の53番目はArgであり、ここでは、TRAC*01エクソン1のArg53として表され、他は、類推によって推測される。好ましくは、本発明のTCR分子のα鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 3であり、および/またはβ鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 7である。
【0057】
天然に存在するTCRは、膜貫通領域によって安定化された膜タンパク質である。抗原識別分子としての免疫グロブリン(抗体)と同様に、TCRも、診断および治療に適用するように開発でき、この場合、可溶性TCR分子を取得する必要がある。可溶性TCR分子は、膜貫通領域を含まない。可溶性TCRは、広範な用途を有し、TCRとpMHCとの相互作用の研究に使用できるだけでなく、感染を検出するための診断ツールまたは自己免疫疾患のマーカーとしても使用できる。それに類似し、可溶性TCRは、治療剤(例えば、細胞毒素化合物または免疫刺激性化合物)を、特異的抗原を提示する細胞に送達することに使用でき、また、可溶性TCRは、他の分子(例えば、抗-CD3抗体)に結合してT細胞をリダイレクトし、特定の抗原の細胞を標的に提示することもできる。本発明は、KRAS G12V抗原の短いペプチドに対して特異性を有する可溶性TCRも取得する。
【0058】
可溶性TCRを取得するために、一方で、本発明のTCRは、そのα鎖およびβ鎖の定常ドメインの残基間に人工的なジスルフィド結合を導入するTCRである。システイン残基は、前記TCRのα鎖およびβ鎖の定常ドメイン間に人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成する。システイン残基は、天然のTCRにおける適切な部位の他のアミノ酸残基を置換して人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成することができる。例えば、TRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer57のシステイン残基を置換してジスルフィド結合を形成する。システイン残基を導入してジスルフィド結合を形成する他の部位は、TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer77TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer17、TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAsp59、TRAC*01エクソン1のSer15およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu15、TRAC*01エクソン1の Arg53およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer54、TRAC*01エクソン1のPro89およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAla19、またはTRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu20であってもよい。即ち、システイン残基は、上記α鎖およびβ鎖の定常ドメインにおけるいずれか群の部位を置換する。本発明のTCRの定常ドメインの1つまたは複数のC末端で、最大50個、または最大30個、または最大15個、または最大10個、または最大8個、またはより少ないアミノ酸を切り詰めることにより、システイン残基を含まないようにして天然ジスルフィド結合を欠損するという目的を達成してもよいし、天然のジスルフィド結合を形成するシステイン残基を別のアミノ酸に突然変異することにより、上記目的を達成してもよい。
【0059】
上述したように、本発明のTCRは、そのα鎖およびβ鎖の定常ドメインの残基間に導入された人工的なジスルフィド結合を含んでもよい。なお、定常ドメイン間に上記導入された人工的なジスルフィド結合を含んでも含まなくても、本発明のTCRは、いずれもTRACの定常ドメイン配列およびTRBC1またはTRBC2の定常ドメイン配列を含むことができる。TCRのTRACの定常ドメイン配列およびTRBC1またはTRBC2の定常ドメイン配列は、TCRに存在する天然ジスルフィド結合を介して連結できる。
【0060】
可溶性TCRを取得するために、他方、本発明のTCRは、その疎水性コア領域に突然変異が発生するTCRを更に含み、これらの疎水性コア領域の突然変異は、公開番号WO2014/206304の特許文献に記載されたように、本発明の可溶性TCRの安定性を向上させることができる突然変異であることが好ましい。このようなTCRは、(α鎖および/またはβ鎖の)可変領域のアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、94番目、および/またはα鎖のJ遺伝子(TRAJ)の短いペプチドのアミノ酸位置の最後から3、5、7番目、および/またはβ鎖のJ遺伝子(TRBJ)の短いペプチドのアミノ酸位置の最後から2、4、6番目という可変ドメインの疎水性コア位置に突然変異が発生でき、ここで、アミノ酸配列の位置番号は、国際免疫遺伝学情報システム(IMGT)に記載された位置番号に従う。当業者は、上記国際免疫遺伝学情報システムを知り、該データベースに基づいて異なるTCRのアミノ酸残基のIMGTにおける位置番号を取得することができる。
【0061】
本発明における疎水性コア領域に突然変異が発生するTCRは、柔軟なペプチド鎖を介してTCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメインを連結することにより構成された安定的な可溶性一本鎖TCRであってもよい。なお、本発明における柔軟なペプチド鎖は、TCRα鎖およびβ鎖の可変ドメインの連結に適した任意のペプチド鎖であってもよい。本発明の実施例4で構築された一本鎖可溶性TCRのように、そのα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 32であり、コードされたヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 33であり、β鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 34であり、コードのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 35である。
【0062】
また、安定性の観点から、特許文献201680003540.2は、TCRのα鎖の可変ドメインとβ鎖の定常ドメインとの間に人工的な鎖間ジスルフィド結合を導入することにより、TCRの安定性を著しく向上させることができることを更に開示する。従い、本発明の高親和性TCRのα鎖の可変ドメインとβ鎖の定常ドメインとの間に、人工的な鎖間ジスルフィド結合が更に含まれてもよい。具体的には、前記TCRのα鎖の可変ドメインとβ鎖の定常ドメインとの間に人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、またはTRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸を置換する。好ましくは、このようなTCRは、(i)膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のTCRのα鎖、および(ii)膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のTCRのβ鎖を含んでもよく、ここで、(i)および(ii)はいずれもTCR鎖の可変ドメインおよび少なくとも一部の定常ドメインを含み、α鎖とβ鎖とは、ヘテロ二量体を形成する。より好ましくは、このようなTCRは、α鎖の可変ドメイン、β鎖の可変ドメイン、および膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のβ鎖の定常ドメインを含んでもよいが、α鎖の定常ドメインを含まず、前記TCRのα鎖の可変ドメインとβ鎖とがヘテロ二量体を形成する。
【0063】
本発明のTCRは、多価複合体の形式で提供することもできる。本発明の多価TCR複合体は、2つ、3つ、4つ、またはより多くの本発明のTCRを結合してなったポリマーを含んでもよく、例えば、p53の四量体化ドメインを使用して形成された四量体、または複数の本発明のTCRを別の分子と結合してなった複合体であってもよい。本発明のTCR複合体は、インビトロまたはインビボで特定の抗原の細胞を追跡するまたは標的に提示することに使用でき、このような適用を有する他の多価TCR複合体の中間体を生成することにも使用できる。
【0064】
本発明のTCRは、単独で使用してもよいし、コンジュゲートと共有結合または他の方式で結合してもよく、好ましくは、共有結合の方式で結合する。前記コンジュゲートは、検出可能マーカー(診断を目的とし、ここで、前記TCRは、VVGAVGVGK-HLA A1101、またはVVVGAVGVGK-HLA A1101複合体を提示する細胞の存在を検出することに使用される)、治療剤、PK(プロテインキナーゼ)修飾部分、または以上のこれらの物質の任意の組み合わせ結合もしくはカップリングを含む。
【0065】
診断目的に使用される検出可能マーカーは、蛍光または発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)、またはCT(電子コンピュータX線断層撮影技術)造影剤、または検出可能な生成物を生成することができる酵素を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0066】
本発明のTCRと結合またはカップリングできる治療剤は、1.放射性核種(Koppeら、2005、癌転移レビュー(Cancer metastasis reviews)24、539)、2.生物学的毒性((Chaudharyら、1989、自然(Nature)339、394、Epelら、2002、癌免疫学および免疫治療(Cancer Immunology and Immunotherapy)51、565)、3.IL-2等のようなサイトカイン(Gilliesら1992、米国国立科学アカデミーの学術誌(PNAS)89、1428、Cardら、2004、癌免疫学および免疫治療(Cancer Immunology and Immunotherapy)53、345、Halinら、2003、癌研究(Cancer Research)63、3202)、4.抗体Fcフラグメント(Mosqueraら、2005、免疫学ジャーナル(The Journal Of Immunology)174,4381)、5.抗体scFvフラグメント(Zhuら、1995、癌国際ジャーナル(International Journal of Cancer)62、319)、6.金ナノ粒子/ナノロッド(Lapotkoら、2005、癌通信(Cancer letters)239、36、Huangら、2006、米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)128、2115)、7.ウイルス粒子(Pengら、2004、遺伝子治療(Gene therapy)11、1234)、8.リポソーム(Mamotら、2005、癌研究(Cancer research)65、11631)、9.ナノ磁性粒子、10.プロドラッグ活性化酵素(例えば、DT-ジアホラーゼ(DTD)、またはビフェニル加水分解酵素様タンパク質(BPHL))、11.化学療法剤(例えば、シスプラチン)または任意の形式のナノ粒子等を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0067】
また、本発明のTCRは、1つ以上の種に由来する配列を含むハイブリッドTCRであってもよい。例えば、研究によると、マウス科TCRは、ヒトTCRよりもヒトT細胞でより効果的に発現することが示されている。従い、本発明のTCRは、ヒト可変ドメインおよびマウスの定常ドメインを含んでもよい。この方法の欠陥は、免疫応答を引き起こす可能性があることである。従い、養子T細胞治療に使用される場合、マウス科T細胞を発現する移植を可能にするために、免疫抑制を行うための調節形態が必要となる。
【0068】
本明細書におけるアミノ酸名称は、国際で汎用される単一の英字または3つの英字で表され、アミノ酸名称の単一の英字と3つの英字との対応関係は、Ala(A)、Arg(R)、Asn(N)、Asp(D)、Cys(C)、Gln(Q)、Glu(E)、Gly(G)、His(H)、Ile(I)、Leu(L)、Lys(K)、Met(M)、Phe(F)、Pro(P)、Ser(S)、Thr(T)、Trp(W)、Tyr(Y)、Val(V)のとおりであることが理解されるべきである。
【0069】
核酸分子
本発明の態様2は、本発明の態様1のTCR分子またはその一部をコードする核酸分子を提供し、前記一部は、1つまたは複数のCDR、α鎖および/またはβ鎖の可変ドメイン、およびα鎖および/またはβ鎖であってもよい。
【0070】
本発明の態様1のTCR分子のα鎖のCDR領域をコードするヌクレオチド配列は、
α CDR1-gaccgagtttcccagtcc(SEQ ID NO: 16)、
α CDR2- atatactccaatggtgac(SEQ ID NO: 17)、
α CDR3-gcctccctcaagggtaacaatgacatgcgc(SEQ ID NO: 18)である。
【0071】
本発明の態様1のTCR分子のβ鎖のCDR領域をコードするヌクレオチド配列は、
β CDR1- tcgggtcatgtatcc(SEQ ID NO: 19)、
β CDR2- ttccagaatgaagctcaa(SEQ ID NO: 20)、
β CDR3-gccagcagctccagtaggtgggagcagcagttc(SEQ ID NO: 21)である。
【0072】
従い、本発明のTCRのα鎖をコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、およびSEQ ID NO: 18を含み、および/または本発明のTCRのβ鎖をコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 19、SEQ ID NO: 20、およびSEQ ID NO: 21を含む。
【0073】
本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、一本鎖または二本鎖であってもよく、該核酸分子は、RNAまたはDNAであってもよく、且つイントロンを含んでも含まなくてもよい。好ましくは、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、イントロンを含まないが、本発明のポリペプチドをコードすることができ、例えば、本発明のTCRのα鎖の可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 2を含み、および/または本発明のTCRのβ鎖の可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 6を含む。あるいは、本発明のTCRのα鎖の可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 33を含み、および/または本発明のTCRのβ鎖の可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 35を含む。より好ましくは、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 4および/またはSEQ ID NO: 8を含む。または、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 31である。
【0074】
遺伝暗号の縮重により、異なるヌクレオチド配列は、同じポリペプチドをコードすることができることが理解されるべきである。従い、本発明のTCRをコードする核酸配列は、本発明の図面に示された核酸配列と同じであるか、または縮重された変異体であってもよい。本発明における一例について説明し、「縮重された変異体」は、SEQ ID NO: 1を有するタンパク質配列をコードするが、SEQ ID NO: 2の配列と異なる核酸配列を指す。
【0075】
ヌクレオチド配列は、コドンにより最適化されたものであってもよい。異なる細胞は、具体的なコドンの利用上で異なり、細胞のタイプに応じ、配列内のコドンを変更することにより発現量を増やすことができる。哺乳動物の細胞および他の多くの生物のコドン選択リストは、当業者によく知られている。
【0076】
本発明の核酸分子の全長配列またはそのフラグメントは、通常、PCR増幅法、組換え法、または人工的合成法によって得ることができるが、これらに限定されない。現在、本発明のTCR(またはそのフラグメント、またはその誘導体)をコードするDNA配列は、化学合成によって完全に得ることができる。その後、該DNA配列を本分野で知られている様々な既存のDNA分子(またはベクター)および細胞に導入することができる。DNAは、コード鎖または非コード鎖であってもよい。
【0077】
ベクター
本発明は、更に本発明の核酸分子を含むベクターに関し、発現ベクター、即ち、インビボまたはインビトロで発現できる構築体を含む。よく使用されるベクターは、細菌プラスミド、バクテリオファージおよび動植物ウイルスを含む。
【0078】
ウイルス送達システムは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、バキュロウイルスベクターを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0079】
好ましくは、ベクターは、本発明のヌクレオチドを細胞に移すことができ、例えば、T細胞において、該細胞にKRAS G12V抗原に特異的なTCRを発現させることができる。理想的な場合、該ベクターは、T細胞において継続的に高レベルで発現することができる。
【0080】
細胞
本発明は、更に本発明のベクターまたはコード配列を使用して遺伝子工学により生成した宿主細胞に関する。前記宿主細胞に本発明のベクターが含まれるか、または染色体に本発明の核酸分子が組み込まれた。宿主細胞は、原核細胞、および大腸菌、酵母細胞、CHO細胞等のような真核細胞から選ばれる。
【0081】
また、本発明は、本発明のTCRを発現する分離された細胞、特にT細胞を更に含む。該T細胞は、被験者から分離されたT細胞に由来することができるか、または被験者から分離された混合細胞群であってもよく、例えば、末梢血リンパ球(PBL)群の一部である。例えば、該細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)から分離されてもよいし、CD4+ヘルパーT細胞またはCD8+細胞毒性T細胞であってもよい。該細胞は、CD4+ヘルパーT細胞/CD8+細胞毒性T細胞の混合群に存在してもよい。一般的に、該細胞は、トランスフェクションをより受け入れやすくすることができるように、抗体(例えば、抗-CD3または抗-CD28の抗体)で活性化することができ、例えば、本発明のTCR分子をコードするヌクレオチド配列を含むベクターを用いてトランスフェクションを行う。
【0082】
あるいは、本発明の細胞は、造血幹細胞(HSC)のような幹細胞であるか、または幹細胞に由来する。幹細胞の表面がCD3分子を発現しないため、遺伝子をHSCに導入しても、細胞表面でのTCRの発現を引き起こさない。しかし、幹細胞が、胸腺に移動したリンパ球前駆細胞(lymphoid precursor)に分化される場合、CD3分子の発現は、該導入されたTCR分子の胸腺細胞の表面での発現を開始する。
【0083】
本発明のTCRをコードするDNAまたはRNAを用いてT細胞のトランスフェクションを行うことに適した方法が多くある(例えば、Robbinsら., (2008)J.Immunol.180: 6116~6131)。本発明のTCRを発現するT細胞は、養子免疫治療に使用できる。当業者は、養子治療を行う多くの適切な方法を知ることができる(例えば、Rosenbergら., (2008)Nat Rev Cancer 8(4): 299~308)。
【0084】
KRAS G12V抗原関連疾患
本発明は、更に被験者でKRAS G12V関連疾患を治療および/または予防する方法に関し、KRAS G12V特異的T細胞を該被験者に養子移入するステップを含む。該KRAS G12V特異的T細胞は、VVGAVGVGK-HLA A1101またはVVVGAVGVGK-HLA A1101複合体を識別することができる。
【0085】
本発明のKRAS G12V特異的T細胞は、KRAS G12V抗原の短いペプチドVVGAVGVGK-HLA A1101またはVVVGAVGVGK-HLA A1101複合体を提示する任意のKRAS G12V関連疾患の治療に使用でき、膵臓癌、肺癌、結腸癌、直腸癌等のような腫瘍を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0086】
突然変異が発生していない、即ち、野生型KRASタンパク質の最初からの20個のアミノ酸配列は、MTEYKLVVVG AGGVGKSALT(SEQ ID NO: 39)であり、その12番目のアミノ酸はGである。VVGAGGVGKおよびVVVGAGGVGKは、それぞれKRASタンパク質の8~16番目および7~16番目に対応し、上記対応位置でG12V突然変異が発生すると、短いペプチドVVGAVGVGKおよびVVVGAVGVGKが形成される。
【0087】
治療方法
KRAS G12V抗原関連疾患を罹患した患者またはボランティアのT細胞を分離し、本発明のTCRを上記T細胞に導入した後、これらの遺伝子工学により修飾された細胞を患者の体内に再注入することにより治療を行うことができる。従い、本発明は、KRAS G12V関連疾患を治療する方法を提供し、分離された本発明のTCRを発現するT細胞(好ましくは、該T細胞は患者自身に由来する)を、患者の体内に注入することを含む。一般的には、(1)患者のT細胞を分離することと、(2)本発明の核酸分子または本発明のTCR分子をコードできる核酸分子を用いてT細胞をインビトロで形質導入することと、(3)遺伝子工学により修飾されたT細胞を患者の体内に注入することとを含む。分離、トランスフェクションおよび再注入する細胞の数は、医師によって決定され得る。
【0088】
本発明の主な利点は、以下のとおりである。
【0089】
(1)本発明のTCRは、KRAS G12V抗原の短いペプチド複合体VVGAVGVGK-HLA A1101またはVVVGAVGVGK-HLA A1101に結合することができるとともに、本発明のTCRを形質導入した細胞は、特異的に活性化され得る。
【0090】
(2)本発明のTCRを形質導入する効果細胞は、標的細胞に対して良好な特異的殺傷作用を有する。
【0091】
以下の具体的な実施例は、本発明について更に説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するためのものではないことが理解されるべきである。以下の実施例における具体的な条件が明記されていない実験方法は、通常、通常の条件、例えば、(SambrookおよびRussellら、分子クローン:実験マニュアル(Molecular Cloning-A Laboratory Manual)(第3版)(2001)CSHL出版社)に記載の条件、またはメーカーよって提案された条件に従う。特に明記されない限り、パーセンテージおよび部数は、重量で計算される。以下の実施例で使用される実験材料および試薬は、特に明記されない限り、市販から入手できる。
【0092】
実施例1 KRAS G12V抗原の短いペプチドの特異的T細胞のクローン
合成された短いペプチドVVGAVGVGK(SEQ ID NO: 9)(北京サイバーソン遺伝子技術有限公司)を利用して遺伝子型がHLA-A1101である健康なボランティアに由来する末梢血リンパ球(PBL)を刺激した。短いペプチドを、ビオチンマーカーを有するHLA-A1101で再生し、pHLA半数体を調製した。これらの半数体は、PEでマーカーされたストレプトアビジン(BD社)と組み合わせてPEでマーカーされた四量体を形成し、該四量体および抗CD8-APC二重陽性細胞を選別した。選別された細胞を増幅し、上記方法に従って二次選別を行い、その後、限界希釈法を使用して単一クローンを行った。モノクローナル細胞を四量体で染色し、スクリーニングされた二重陽性クローンは、図3に示すとおりであった。反復したスクリーニングにより得られた二重陽性クローンは、更なる機能テストを満たす必要があった。
【0093】
ELISPOT実験により、該T細胞のクローンの機能および特異性を更に検出した。当業者は、ELISPOT実験を利用して細胞機能を検出する方法を良く知っている。本実施例のIFN-γELISPOT実験で使用される効果細胞は、本発明で得られたT細胞のクローンであり、標的細胞は、本発明の短いペプチドを担持したLCLs細胞であり、対照グループは、他の短いペプチドを担持したLCLs細胞および任意の短いペプチドを担持していないLCLs細胞であった。
【0094】
まず、ELISPOTプレートを準備し、ELISPOT実験のステップは以下のとおりであった。試験の各成分を、LCLs細胞2×104個/ウェル、T細胞のクローン2×103個/ウェルでELISPOTプレートに加え、実験グループに20μLの特異的な短いペプチドを加え、対照グループに20μLの非特異的な短いペプチドを加え、ブランクグループに20μLの培地(試験培地)を加え、2つのデュープリケートウェルを設けた。その後、一晩インキュベートした(37℃、5%のCO2)。その後、プレートを洗浄して二次検出および発色を行い、プレートを1時間乾燥させ、また、イムノスポットプレートリーダー(ELISPOT READER system、AID社)を使用して膜に形成されたスポットを数えた。実験結果は、図14に示すように、得られた特定の抗原特異的T細胞のクローンは、本発明の短いペプチドを担持したLCLs細胞に対して著しい特異的反応を有し、他の無関連なペプチドを担持したおよび短いペプチドを担持していないLCLs細胞に対してほぼ反応がなかった。
【0095】
実施例2 KRAS G12V抗原の短いペプチドの特異的T細胞のクローンを取得するためのTCR遺伝子およびベクターの構築
Quick-RNATM MiniPrep(ZYMO research)を使用して実施例1でスクリーニングされた抗原の短いペプチドの特異的な、HLA-A1101の制限的なT細胞のクローンの総RNAを抽出した。cDNAの合成は、clontechのSMART RACE cDNA増幅キットを採用し、使用されたプライマーは、ヒトTCR遺伝子のC端保存領域で設計されるものであった。配列をTベクター(TAKARA)にクローンしてシーケンシングした。なお、該配列は、イントロンを含まない相補配列であった。シーケンシング後、該二重陽性クローンによって発現されたTCRのα鎖およびβ鎖の配列構造は、それぞれ図1および図2に示すとおりであり、図1a、図1b、図1c、図1d、図1eおよび図1fは、それぞれTCRのα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、TCRのα鎖の可変ドメインのヌクレオチド配列、TCRのα鎖のアミノ酸配列、TCRのα鎖のヌクレオチド配列、リーダー配列を有するTCRのα鎖のアミノ酸配列、およびリーダー配列を有するTCRのα鎖のヌクレオチド配列であり、図2a、図2b、図2c、図2d、図2eおよび図2fは、それぞれTCRのβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、TCRのβ鎖の可変ドメインのヌクレオチド配列、TCRのβ鎖のアミノ酸配列、TCRのβ鎖のヌクレオチド配列、リーダー配列を有するTCRのβ鎖のアミノ酸配列、およびリーダー配列を有するTCRのβ鎖のヌクレオチド配列であった。
【0096】
同定によると、α鎖は、
α CDR1- DRVSQS (SEQ ID NO: 10)、
α CDR2- IYSNGD (SEQ ID NO: 11)、
α CDR3- ASLKGNNDMR (SEQ ID NO: 12)というアミノ酸配列を有するCDRを含み、
β鎖は、
β CDR1- SGHVS (SEQ ID NO: 13)
β CDR2- FQNEAQ (SEQ ID NO: 14)
β CDR3- ASSSSRWEQQF (SEQ ID NO: 15)というアミノ酸配列を有するCDRを含んだ。
【0097】
オーバーラップ(overlap)PCRにより、TCRのα鎖およびβ鎖の全長遺伝子をそれぞれレンチウイルス発現ベクターpLenti(addgene)にクローンした。具体的には、overlap PCRを用いてTCRのα鎖およびTCRのβ鎖の全長遺伝子を連結してTCRα-2A-TCRβフラグメントを取得した。レンチウイルス発現ベクターおよびTCRα-2A-TCRβを酵素切断して連結し、pLenti-TRA-2A-TRB-IRES-NGFRプラスミドを取得した。対照として、eGFPを発現するレンチウイルスベクターpLenti-eGFPも同時に構築した。その後、293T/17で偽ウイルスをパッケージした。
【0098】
実施例3 KRAS G12V抗原の短いペプチドの特異的な可溶性TCRの発現、再折りたたみおよび精製
可溶性TCR分子を取得するために、本発明のTCR分子のα鎖およびβ鎖は、それぞれその可変ドメインおよび一部の定常ドメインのみを含んでもよく、且つ、α鎖およびβ鎖の定常ドメインには、それぞれ1つのシステイン残基が導入されて人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成し、システイン残基が導入された位置は、それぞれTRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC2*01エクソン1のSer57であり、そのα鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ図4aおよび図4bに示すとおりであり、そのβ鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ図5aおよび図5bに示すとおりであった。『分子クローン実験マニュアル』(Molecular Cloning a Laboratory Manual)(第3版、SambrookおよびRussell)に記載された標準方法により、上記TCRα鎖およびβ鎖のターゲット遺伝子配列を合成してから、それぞれ発現ベクターpET28a+(Novagene)に挿入し、上流と下流のクローン部位は、それぞれNcoIおよびNotIであった。挿入されたフラグメントは、シーケンシングにより、誤りがないことが確認された。
【0099】
TCRのα鎖およびβ鎖の発現ベクターを、それぞれ化学形質転換法により形質転換して発現細菌BL21(DE3)に入れ、細菌をLB培養液で成長させ、OD600=0.6時に最終濃度0.5mMのIPTGで誘導し、TCRのα鎖およびβ鎖を発現した後に形成した封入体を、BugBuster Mix(Novagene)により抽出し、且つ、BugBuster溶液で複数回繰り返し洗浄し、最後に、封入体を6Mの塩酸グアニジン、10mMのジチオスレイトール(DTT)、10mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、20mMのTris(pH8.1)に溶解した。
【0100】
溶解後のTCRのα鎖およびβ鎖を、1:1の質量比で5Mの尿素、0.4Mのアルギニン、20mMのTris(pH8.1)、3.7mMのcystamine、6.6mMのβ-mercapoethylamine(4℃)にすばやく混合し、最終濃度が60mg/mLであった。混合後、溶液を10倍体積の脱イオン水に入れて透析し(4℃)、12時間後に脱イオン水を緩衝液(20mMのTris、pH8.0)に変えて4℃で12時間透析し続けた。透析が終了した後の溶液を0.45μMの濾過膜で濾過した後、陰イオン交換カラム(HiTrap Q HP、5ml、gE Healthcare)で精製した。溶出されたピークに再生に成功したαおよびβ二量体が含まれるTCRは、SDS-PAGEゲルによって確認された。その後、TCRは、ゲル濾過クロマトグラフィー(HiPrep 16/60、Sephacryl S-100 HR、GE Healthcare)により更に精製された。精製後のTCRの純度は、SDS-PAGEで90%よりも大きいと測定され、濃度はBCA法によって確定された。本発明により得られた可溶性TCRのSDS-PAGEのゲル図は、図6aおよび図6b示すとおりであった。
【0101】
実施例4 KRAS G12V抗原の短いペプチドの特異的な可溶性一本鎖TCRの生成
特許文献WO2014/206304に記載されたように、部位特異的突然変異の方法を利用し、実施例2におけるTCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメインを、1つの柔軟な短いペプチド(linker)を介して連結された安定した可溶性一本鎖TCR分子に構築した。該一本鎖TCR分子のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ図7aおよび図7bに示すとおりであった。そのα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ図8aおよび図8bに示すとおりであった。そのβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ図9aおよび図9bに示すとおりであった。そのlinker配列のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ図10aおよび図10bに示すとおりであった。
【0102】
ターゲット遺伝子をNcoIおよびNotIで二重酵素切断し、NcoIおよびNotIで二重酵素切断されたpET28aベクターに連結した。連結生成物をE.coli DH5αに形質転換し、カナマイシンを含むLBプレートに塗布し、37℃で転倒して一晩培養し、陽性クローンを選択してPCRスクリーニングを行い、陽性組換え単位をシーケンシングし、配列が正しいことを確認した後、組換えプラスミドを抽出してE.coli BL21(DE3)に形質転換し、発現に使用した。
【0103】
実施例5 KRAS G12V抗原の短いペプチドの特異的な可溶性一本鎖TCRの発現、再生および精製
実施例4で調製された組換えプラスミドpET28a-テンプレート鎖を含む全てのBL21(DE 3)コロニーを、カナマイシンを含むLB培地に接種し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養し、最終濃度が0.5mMになるようにIPTGを加え、37℃で4h培養し続けた。5000rpmで15min遠心分離して細胞ペレットを回収し、Bugbuster Master Mix(Merck)で細胞ペレットを分解し、6000rpmで15min遠心分離して封入体を回収し、更にBugbuster(Merck)で洗浄して細胞破片および膜成分を除去し、6000rpmで15min遠心分離し、封入体を収集した。封入体を緩衝液(20mMのTris-HCl pH8.0、8Mの尿素)に溶解し、高速で遠心分離して不溶性物質を除去し、上清を捨ててBCA法で定量した後、分注して-80℃で保存し、使用に備えた。
【0104】
溶解した5mgの一本鎖TCRの封入体のタンパク質に、2.5mLの緩衝液(6MのGua-HCl、50mMのTris-HCl pH8.1、100mMのNaCl、10mMのEDTA)を加え、また、最終濃度が10mMになるようにDTTを加え、37℃で30min処理した。注射器で125mLの再生緩衝液(100mMのTris-HCl pH8.1、0.4MのL-アルギニン、5Mの尿素、2mMのEDTA、6.5mMのβ-mercapthoethylamine、1.87mMのCystamine)に上記処理後の一本鎖TCRを滴下し、4℃で10min撹拌した後、再生溶液をカットオフが4kDaであるセルロース膜透析バッグに入れ、透析バッグを1Lの予冷水に入れ、4℃でゆっくりと一晩撹拌した。17時間後、透析液を1Lの予冷した緩衝液(20mMのTris-HCl pH8.0)に変え、4℃で8h透析し続けた後、透析液を同じ新鮮な緩衝液に変えて一晩透析し続けた。17時間後、サンプルを0.45μmの濾過膜で濾過し、真空脱気した後、陰イオン交換カラム(HiTrap Q HP、gE Healthcare)に通過し、20mMのTris-HCl pH8.0で調製された0-1MのNaCl線形勾配溶出液でタンパク質を精製し、収集された溶出成分をSDS-PAGEで分析し、一本鎖TCRを含む成分を濃縮した後、更にゲル濾過カラム(Superdex 75 10/300、gE Healthcare)で精製し、ターゲット成分もSDS-PAGEで分析した。
【0105】
BIAcore分析用の溶出成分を、更にゲル濾過法でその純度を試験した。条件は以下のとおりであった。クロマトグラフィーカラムがAgilent Bio SEC-3(300 A、φ7.8×300mM)で、移動相が150mMのリン酸塩緩衝液で、流速が0.5mL/minで、カラム温度が25℃で、UV検出波長が214nmである。
【0106】
本発明により得られた可溶性一本鎖TCRのSDS-PAGEゲル図は、図11に示すとおりであった。
【0107】
実施例6 結合の特徴付け
BIAcore分析
本実施例は、可溶性の本発明のTCR分子とVVGAVGVGK-HLA A1101複合体との特異的な結合の親和性を測定した。
【0108】
BIAcore T200リアルタイム分析システムを用いて実施例3および実施例5で得られたTCR分子とVVGAVGVGK-HLA A1101複合体との結合活性を検出した。抗ストレプトアビジンの抗体(GenScript)をカップリング緩衝液(10mMの酢酸ナトリウム緩衝液、pH4.77)に加えた後、抗体を、事前にEDCおよびNHSで活性化されたCM5チップに流させ、抗体をチップ表面に固定し、最後に、エタノールアミンの塩酸溶液を用いて反応してない活性化表面を密封し、カップリングプロセスを終了し、カップリングレベルが約15000RUであった。
【0109】
低濃度のストレプトアビジンを抗体でコーティングされたチップ表面に流させた後、VVGAVGVGK-HLA A1101複合体を検出通路に流させ、別の通路を参照通路とし、また、0.05mMのビオチンを10μL/minの流速でチップに2min流させ、ストレプトアビジンの残りの結合部位を密封した。
【0110】
上記VVGAVGVGK-HLA A1101複合体の調製プロセスは、以下のとおりであった。
【0111】
a.精製
重鎖または軽鎖の発見を誘導する100mLのE.coli菌液を収集し、8000g、4℃で10min遠心分離した後、10mLのPBSで菌体を1回洗浄し、その後、5mLのBugBuster Master Mix Extraction Reagents(Merck)で菌体を激しく振とうして再懸濁し、室温で回転させて20minインキュベートした後、6000g、4℃で15min遠心分離し、上清を捨てて封入体を収集した。
【0112】
上記封入体を5mLのBugBuster Master Mixに再懸濁し、室温で回転させて5minインキュベートし、10倍希釈したBugBusterを30mL加え、均一に混合させ、6000g、4℃で15min遠心分離し、上清を捨て、10倍希釈したBugBusterを30mL加えて封入体を再懸濁し、均一に混合させ、6000g、4℃で15min遠心分離し、2回繰り返し、20mMのTris-HCl pH8.0を30mL加えて封入体を再懸濁し、均一に混合させ、6000g、4℃で15min遠心分離し、最後に、20mMのTris-HCl 8Mの尿素で封入体を溶解し、SDS-PAGEで封入体の純度を検出し、BCAキットで濃度を測定した。
【0113】
b.再生
合成された短いペプチドVVGAVGVGK(北京サイバーソン遺伝子技術有限公司)をDMSOに20mg/mlの濃度になるように溶解した。軽鎖および重鎖の封入体を8Mの尿素、20mMのTris pH8.0、10mMのDTTで溶解し、再生前に3Mの塩酸グアニジン、10mMの酢酸ナトリウム、10mMのEDTAを加えて更に変性した。VVGAVGVGKペプチドを25mg/L(最終濃度)で再生緩衝液(0.4MのL-アルギニン、100mMのTris pH8.3、2mMのEDTA、0.5mMの酸化型グルタチオン、5mMの還元型グルタチオン、0.2mMのPMSF、4℃まで冷却した)に加えた後、20mg/Lの軽鎖および90mg/Lの重鎖(最終濃度、重鎖を3回分けて加え、8h/回)を順次加え、再生を4℃で少なくとも3日間行い、終了後、SDS-PAGEで再生に成功できるか否かを検出した。
【0114】
c.再生後の精製
10体積の20mMのTris pH8.0を透析として用いて再生緩衝液を交換し、緩衝液を少なくとも2回交換して溶液のイオン強度を十分に低減した。透析後、0.45μmの酢酸セルロース濾過膜でタンパク質溶液を濾過し、その後、HiTrap Q HP(GE GENERAL ELECTRIC COMPANY)陰イオン交換カラム(5mLのベッドボリューム)にロードした。Akta精製器(GE GENERAL ELECTRIC COMPANY)を使用し、20mMのTris pH8.0で調製された0-400mMのNaCl線形勾配溶液でタンパク質を溶出し、pMHCは、約250mMのNaClで溶出され、各ピーク成分を収集し、SDS-PAGEで純度を検出した。
【0115】
d.ビオチン化
Millipore限界濾過チューブで精製されたpMHC分子を濃縮したとともに、緩衝液を20mMのTris pH8.0に置き換え、その後、ビオチン化試薬である0.05MのBicine pH8.3、10mMのATP、10mMのMgOAc、50μMのD-Biotin、100μg/mlのBirA酵素(GST-BirA)を加え、室温で混合物を一晩インキュベートし、SDS-PAGEでビオチン化が完全であるか否かを検出した。
【0116】
e.ビオチン化後の複合体の精製
Millipore限界濾過チューブでビオチン化によりマーカーされたpMHC分子を1mLに濃縮し、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いてビオチン化されたpMHCを精製し、Akta精製器(GE GENERAL ELECTRIC COMPANY)を使用し、濾過されたPBSでHiPrepTM 16/60 S200 HRカラム(GE GENERAL ELECTRIC COMPANY)を予め平衡化し、1mLの濃縮されたビオチン化pMHC分子をロードした後、PBSを用いて1mL/minの流速で溶出した。ビオチン化されたpMHC分子は、約55mL時に単一のピークとして溶出された。タンパク質を含む成分を合わせ、Millipore限界濾過チューブで濃縮し、BCA法(Thermo)でタンパク質濃度を測定し、タンパク質酵素阻害剤cocktail(Roche)を加えてビオチン化されたpMHC分子を分注し、-80℃で保存した。
【0117】
BIAcore Evaluationソフトウェアを用いて動力学パラメータを計算することにより得られた本発明の可溶性TCR分子および本発明で構築された可溶性一本鎖TCR分子と、VVGAVGVGK-HLA A1101複合体との結合の動態学マップは、それぞれ図12および図13に示すとおりであった。マップによると、本発明で得られた可溶性TCR分子および可溶性一本鎖TCR分子の両方は、VVGAVGVGK-HLA A1101複合体に結合することができることを示した。それと同時に、更に上記方法を用いて本発明の可溶性のTCR分子と、他のいくつかの無関係な抗原の短いペプチドおよびHLA複合体との結合活性を検出し、結果によると、本発明のTCR分子が他の無関係な抗原に結合しなかったことを示した。
【0118】
実施例7 本発明のTCRを形質導入するT細胞の活性化実験(標的細胞がT2である)
当業者は、ELISPOT実験で細胞機能を検出する方法をよく知っている。ELISPOT試験で検出されたIFN-γ生成量を、T細胞活性化の読み出し値とし、本発明のTCRを形質導入するT細胞の標的細胞特異性に対する活性化反応を証明した。
【0119】
まず、以下を含む試薬を準備した。
試験培地:10%のFBS(Gibco、#16000-044)、RPMI 1640(Gibco、#C11875500BT)、
洗浄緩衝液(PBST):0.01MのPBS(Gibco、#C10010500BT)/0.05%、
Tween20:PVDF ELISPOT 96ウェルプレート(Merck Millipore、#MSIPS4510)、
ヒトIFN-γ ELISPOT PVDF-酵素キット(BD)には、必要な他の全ての試薬(捕捉および検出抗体、ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼおよびBCIP/NBT溶液)が入っている。
【0120】
本実験で使用される標的細胞は、特異的な短いペプチドを担持しているT2細胞、非特異的な短いペプチドを担持しているT2細胞、短いペプチドを担持していないT2細胞であった。T2細胞は、HLA-A1101をトランスフェクションした。ここで、特異的な短いペプチドは、VVGAVGVGK(KRAS G12V、9ペプチド)およびVVVGAVGVGK(KRAS G12V、10ペプチド)であり、非特異的な短いペプチドは、VVGAGGVGK(突然変異が発生していないKRASの短いペプチド)、VVVGAGGVGK(突然変異が発生していないKRASの短いペプチド)、VVGADGVGK(KRASg12D、12番目は、他の突然変異したKRASの短いペプチドである)、VVVGADGVGK(KRASg12D、12番目は、他の突然変異したKRASの短いペプチドである)、およびSSCSSCPLSK(他の抗原の短いペプチド)であった。
【0121】
本実験で使用される効果細胞(T細胞)は、本発明のKRAS G12V抗原の短いペプチドの特異的なTCRを発現するCD3+T細胞であり、同じボランティアの本発明のTCRをトランスフェクションしていないCD3+T細胞を対照グループとした。抗CD3/CD28コーティングビーズ(T細胞増幅物、life technologies)でT細胞を刺激し、KRAS G12V抗原の短いペプチドの特異的なTCR遺伝子を担持しているレンチウイルスで形質導入し、形質導入してからの9~12日まで、50IU/mlのIL-2および10ng/mlのIL-7を含む10%のFBS含有の1640培地で増幅し、その後、これらの細胞を試験培地に入れ、300gで常温にて10分間遠心分離して洗浄した。その後、細胞を、所望の最終濃度の2倍で試験培地に再懸濁した。同様に、ネガティブコントロール効果細胞を処理した。その後、短いペプチドのELISPOTウェルプレートにおける最終濃度が10-6Mとなるように、対応する短いペプチドを加えた。
【0122】
製造業者により提供された説明書に従い、ウェルプレートを次のように準備した。抗ヒトIFN-γ捕捉抗体をプレートあたり10mlの滅菌PBSを用いて1:200で希釈した後、100μlの希釈された捕捉抗体を各ウェルに均等に加えた。4℃でウェルプレートを一晩インキュベートした。インキュベートした後、ウェルプレートを洗浄して過剰の捕捉抗体を除去した。10%のFBSを含むRPMI 1640培地を100μl/ウェルで加え、室温でウェルプレートを2時間インキュベートしてウェルプレートを密封した。その後、ウェルプレートから培地を洗い流し、紙上でELISPOTウェルプレートをフリックして軽くたたくことにより、任意の残りの洗浄緩衝液を除去した。その後、試験の各成分を、標的細胞2×104個/ウェル、効果細胞1×103個/ウェル(トランスフェクション陽性率で計算)でELISPOTウェルプレートに加え、2つのデュープリケートウェルを設けた。
【0123】
その後、ウェルプレートを一晩インキュベートし(37℃/5%のCO2)、翌日、培地を捨て、再蒸留水でウェルプレートを2回洗浄し、更に洗浄緩衝液で3回洗浄し、ティッシュペーパーで軽くたたいて残りの洗浄緩衝液を除去した。その後、10%のFBSを含むPBSを用いて1:200で検出抗体を希釈し、100μl/ウェルで各ウェルに入れた。室温でウェルプレートを2時間インキュベートし、更に洗浄緩衝液で3回洗浄し、ティッシュペーパー上でウェルプレートを軽くたたいて過剰の洗浄緩衝液を除去した。10%のFBSを含むPBSを用いて1:100でストレプトアビジン-アルカリホスファターゼを希釈し、100μlの希釈されたストレプトアビジン-アルカリホスファターゼを各ウェルに入れ、室温でウェルプレートを1時間インキュベートした。その後、洗浄緩衝液で4回洗浄してPBSで2回洗浄し、ティッシュペーパー上でウェルプレートを軽くたたいて過剰の洗浄緩衝液およびPBSを除去した。洗浄終了後、キットにより提供されたBCIP/NBT溶液を100μl/ウェルで入れ現象した。現象期間中に、アルミホイルでウェルプレートを覆って遮光し、5~15分間静置した。この期間中に、現象ウェルプレートのスポットを定常検出し、反応を終了する最適な時間を確認した。BCIP/NBT溶液を除去して再蒸留水でウェルプレートを洗い流し、現象反応を停止し、スピンドライした後、ウェルプレートの底部を除去し、各ウェルが完全に乾くまでウェルプレートを室温で乾燥し、更に、イムノスポットプレートリーダー(CTL、細胞技術有限公司(Cellular Technology Limited))を用いてウェルプレートの下地膜に形成されたスポットを数えた。
【0124】
ELISPOT実験(例えば、上記のように)により、標的細胞に反応する本発明のTCRを形質導入するT細胞のIFN-γ放出を検査した。graphpad prism6を用いて各ウェル内で観察されたELSPOTスポット数を描画した。
【0125】
実験結果は、図15に示すように、本発明のTCRを形質導入するT細胞(効果細胞)は、KRAS G12V(9ペプチドおよび10ペプチド)を担持している標的細胞に対していずれも良好な活性化反応を有し、突然変異が発生していない野生型のKRAS(9ペプチドおよび10ペプチド)、12番目に他の突然変異が発生したKRASg12D(9ペプチドおよび10ペプチド)、他の抗原の短いペプチドおよび担持していない標的細胞に対して、いずれも活性化反応がなかった。本発明のTCRがKRAS G12V(9ペプチドおよび10ペプチド)に特異的に結合し、細胞活性化反応を起こすことができることを意味する。
【0126】
実施例8 本発明のTCRを形質導入するT細胞の活性化実験(標的細胞が腫瘍細胞系である)
本実施例は、同様に、本発明の高親和性TCRをトランスフェクションする効果細胞が、標的細胞に対して良好な特異的活性化作用を有すること検証した。ELISPOT実験により、本発明の高親和性TCRの細胞内の機能および特異性を検出した。
【0127】
当業者は、ELISPOT実験を用いて細胞機能を検出する方法を良く知っている。使用した効果細胞(T細胞)は、本発明のKRAS G12V抗原の短いペプチドの特異的なTCRをトランスフェクションするCD3+T細胞であり、同じボランティアの本発明のTCRをトランスフェクションしていないCD3+T細胞を対照グループとした。標的細胞系は、A562-A11-TMG1(A11およびKRAS G12V過発現)、A562-A11(A11過発現)、A562-A11-TMG2(A11およびKRASg12D過発現)、SK-MEL-1、SW620-A11(A11過発現)、およびSW620細胞であった。ここで、対照として、標的細胞系A562-A11-TMG1およびSW620-A11を陽性腫瘍細胞系とし、A562-A11、A562-A11-TMG2、SK-MEL-1およびSW620を陰性腫瘍細胞系とした。
【0128】
まず、ELISPOTプレートを準備した。ELISPOTプレートをエタノールで活性化してコーティングし、4℃で一晩置いた。実験の初日、コーティング液を除去し、洗浄して密封し、室温で2時間インキュベートし、ブロッキング液を除去し、試験の各成分を、標的細胞2×104個/ウェル、効果細胞103個/ウェル(トランスフェクションの陽性率で計算した)でELISPOTプレートに加え、2つのデュープリケートウェルを設けた。一晩インキュベートした(37℃、5%のCO2)。実験の翌日、プレートを洗浄して二次検出および発色を行い、プレートを乾燥し、更に、イムノスポットプレートリーダー(ELISPOT READER system、AID20社)で膜に形成されたスポットを数えた。
【0129】
実験結果は、図16に示すように、陽性標的細胞系に対し、本発明のTCRをトランスフェクションした効果細胞は、良好な特異的活性化作用を果たし、陰性標的細胞系に反応しなかった。また、標的細胞に対し、他のTCRを形質導入する効果細胞は、ほぼ活性化作用を果たしなかった。
【0130】
実施例9.本発明のTCRをトランスフェクションする効果細胞のLDH殺傷機能実験
本実施例は、非放射性細胞毒性実験により、LDHの放出を測定し、本発明のTCRを形質導入する細胞の殺傷機能を検証した。該試験は、51Cr放出細胞毒性試験の比色代替試験であり、細胞分解後に放出されたアルデヒドデヒドロゲナーゼ(LDH)を定量的に測定した。30分間カップリングした酵素反応で培地に放出されたLDHを検出し、酵素反応で、LDHは、テトラゾール塩(INT)を赤色のホルマザン(formazan)に形質転換することができた。生成された赤色の生成物の量は分解した細胞数に比例した。標準の96ウェルのプレートリーダーで490nm可視光の吸光値データを収集した。
【0131】
当業者は、LDHの放出実験を用いて細胞機能を検出する方法をよく知っている。使用した効果細胞(T細胞)は、本発明のKRASTCRをトランスフェクションするCD3+T細胞であり、同じボランティアの本発明をトランスフェクションしていないTCRのCD3+T細胞を対照グループとした。標的細胞系は、KRAS G12V(9ペプチド)VVGAVGVGKを担持しているT2-A11(A11過発現)、T2-A11(A11過発現)、SK-MEL-28、SW620-A11(A11過発現)、SW620、およびSW480-A11(A11過発現)細胞であった。ここで、対照として、VVGAVGVGKを担持している短いペプチドのT2-A11、SW620-A11およびSW480-A11は陽性腫瘍細胞系であり、T2-A11、SK-MEL-28およびSW620は陰性腫瘍細胞系であった。
【0132】
まず、LDHプレートを準備した。実験の初日、試験の各成分を、標的細胞系の細胞3×104個/ウェル、効果細胞3×104個/ウェルでプレートに加え、3つのデュープリケートウェルを設けた。それと同時に、効果細胞自発ウェル、標的細胞自発ウェル、標的細胞最大ウェル、体積校正対照ウェル、および培地背景対照ウェルを設けた。一晩インキュベートした(37℃、5%のCO2)。実験の翌日、発色を検出し、反応を終了した後、プレートリーダ(Bioteck)で490nmにて吸光値を記録した。
【0133】
実験結果は図17に示すように、陽性標的細胞系に対し、本発明のTCRを形質導入する効果細胞は、それに対して強い殺傷作用を有したが、陰性標的細胞に対して殺傷作用がなかった。また、他のTCRを形質導入する効果細胞は、標的細胞に対してほぼ殺傷作用がなかった。
【0134】
本発明で言及されたすべての文献は、各文書が個別に参照として引用されるように、いずれも本願で参照として引用される。更に、本発明の上記教示内容を読んだ後、当業者は本発明に対して様々な変更または修正を加えることができ、これらの同等の形態も、同様に本願の添付の特許請求の範囲によって限定された範囲に含まれることが理解されるべきである
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6a
図6b
図7a
図7b
図8a
図8b
図9a
図9b
図10a
図10b
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2022551514000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-04-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VVGAVGVGK-HLA A1101複合体に特異的に結合でき、TCRのα鎖の可変ドメインとTCRのβ鎖の可変ドメインとを含み、前記TCRのα鎖の可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列は、ASLKGNNDMR(SEQ ID NO: 12)であり、および前記TCRのβ鎖の可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列は、ASSSSRWEQQF(SEQ ID NO: 15)であり、
好ましくは、前記TCRのα鎖の可変ドメインの3つの相補性決定領域(CDR)は、
α CDR1- DRVSQS (SEQ ID NO: 10)、
α CDR2- IYSNGD (SEQ ID NO: 11)、
α CDR3- ASLKGNNDMR (SEQ ID NO: 12)であり、および/または
前記TCRのβ鎖の可変ドメインの3つの相補性決定領域は、
β CDR1- SGHVS (SEQ ID NO: 13)、
β CDR2- FQNEAQ (SEQ ID NO: 14)、
β CDR3- ASSSSRWEQQF (SEQ ID NO: 15)である、
ことを特徴とするT細胞受容体TCR
【請求項2】
TCRのα鎖の可変ドメインとTCRのβ鎖の可変ドメインとを含み、前記TCRのα鎖の可変ドメインは、SEQ ID NO: 1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、および/または前記TCRのβ鎖の可変ドメインは、SEQ ID NO: 5と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列である、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項3】
前記TCRは、VVVGAVGVGK-HLA A1101複合体にも特異的に結合でき、
好ましくは、前記TCRは、α鎖の可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO: 1を含み、および/または
前記TCRは、β鎖の可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO: 5を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項4】
前記TCRはαβヘテロ二量体であり、TCRのα鎖の定常ドメインTRAC*01およびTCRのβ鎖の定常ドメインTRBC1*01またはTRBC2*01を含み、
好ましくは、前記TCRのα鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 3であり、および/または前記TCRのβ鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 7である、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項5】
前記TCRは可溶であり、
好ましくは、前記TCRは一本鎖であり、
好ましくは、前記TCRは、α鎖の可変ドメインとβ鎖の可変ドメインとをペプチド連結配列を介して連結してなり、
好ましくは、前記TCRは、α鎖の可変ドメインのアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、または94番目、および/またはα鎖のJ遺伝子の短いペプチドのアミノ酸の最後から3番目、最後から5番目、または最後から7番目に1つまたは複数の突然変異があり、および/または前記TCRは、β鎖の可変ドメインのアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、または94番目、および/またはβ鎖のJ遺伝子の短いペプチドのアミノ酸の最後から2番目、最後から4番目、または最後から6番目に1つまたは複数の突然変異があり、アミノ酸位置の番号は、IMGT(国際免疫遺伝学情報システム)に記載された位置番号に従い、
好ましくは、前記TCRのα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 32を含み、および/または前記TCRのβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 34を含み、
より好ましくは、前記TCRのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 30である、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項6】
前記TCRは、(a)膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のTCRのα鎖、および(b)膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のTCRのβ鎖を含み、
且つ、(a)および(b)は、それぞれ機能性可変ドメインを含むか、または機能性可変ドメインを含み、前記TCR鎖の定常ドメインの少なくとも一部を更に含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項7】
システイン残基は、前記TCRのα鎖の定常ドメインとβ鎖の定常ドメインとの間に人工的なジスルフィド結合を形成し、
好ましくは、前記TCRで人工的なジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer57、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer77、
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer17、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAsp59、
TRAC*01エクソン1のSer15およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu15、
TRAC*01エクソン1のArg53およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer54、
TRAC*01エクソン1のPro89およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAla19、
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu20、
から選ばれる1群または複数群の部位を置換し、
より好ましくは、前記TCRのα鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:26であり、および/または前記TCRのβ鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:28である、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項8】
前記TCRのα鎖の可変ドメインとβ鎖の定常ドメインとの間に、人工的な鎖間ジスルフィド結合が含まれ、
好ましくは、前記TCRで人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、または
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、
から選ばれる1群または複数群の部位を置換し、
より好ましくは、前記TCRは、α鎖の可変ドメイン、β鎖の可変ドメイン、および膜貫通ドメイン以外の全てまたは一部のβ鎖の定常ドメインを含むが、α鎖の定常ドメインを含まず、前記TCRのα鎖の可変ドメインとβ鎖とがヘテロ二量体を形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項9】
前記TCRのα鎖および/またはβ鎖のC-末端またはN-末端にコンジュゲートが結合され、
好ましくは、前記T細胞受容体に結合されたコンジュゲートは、検出可能マーカー、治療剤、PK修飾部分、またはこれらの物質の任意の組み合わせであり、好ましくは、前記治療剤は抗-CD3抗体である、
ことを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項10】
少なくとも2つのTCR分子を含み、且つ、そのうちの少なくとも1つのTCR分子は、上記請求項のいずれか1項に記載のTCRである、
ことを特徴とする多価TCR複合体。
【請求項11】
上記請求項のいずれか1項に記載のTCR分子をコードする核酸配列またはその相補配列を含み、
好ましくは、TCRのα鎖の可変ドメインをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 2またはSEQ ID NO: 33を含み、
好ましくは、TCRのβ鎖の可変ドメインをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 6またはSEQ ID NO: 35を含み、
より好ましくは、TCRのα鎖をコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 4および/またはTCRのβ鎖をコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO: 8を含む、
ことを特徴とする核酸分子。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸分子を含み、好ましくは、ウイルスベクターであり、より好ましくは、レンチウイルスベクターである、
ことを特徴とするベクター。
【請求項13】
請求項12に記載のベクターが含まれ、または染色体に外因性の請求項11に記載の核酸分子が組み込まれている、
ことを特徴とする分離された宿主細胞。
【請求項14】
請求項11に記載の核酸分子または請求項12に記載のベクターが形質導入され、好ましくは、T細胞または幹細胞である、
ことを特徴とする細胞。
【請求項15】
医薬的に許容されるベクターおよび請求項1から9のいずれか1項に記載のTCR、請求項10に記載のTCR複合体、または請求項14に記載の細胞を含む、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項16】
請求項1から9のいずれか1項に記載のT細胞受容体または請求項10に記載のTCR複合体または請求項14に記載の細胞を用いて、腫瘍または自己免疫疾患を治療するための薬剤であって
好ましくは、前記腫瘍は、肺癌、結腸直腸癌、膵臓癌、または胃癌である、
ことを特徴とする薬剤
【国際調査報告】