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特表2022-551568気分障害の改善のためのバイオマーカーとしてのフェノール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-12
(54)【発明の名称】気分障害の改善のためのバイオマーカーとしてのフェノール
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20221205BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N30/72 A
G01N30/72 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518278
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2020078393
(87)【国際公開番号】W WO2021069653
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】19202839.7
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】マーティン, フランソア-ピエール
(72)【発明者】
【氏名】コミネッティ アレンデ, オルネラ
(72)【発明者】
【氏名】ベルゴンゼリ デゴンダ, ガブリエラ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB04
(57)【要約】
本発明は、概してバイオマーカーの分野に関する。本発明で特定されるバイオマーカーは、フェノールである。例えば、本発明は、対象の気分障害、気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、フェノールの使用に関する。本発明の実施形態は、対象の気分障害、気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量する方法であって、検査を受ける対象から得られた生体試料中のフェノールの濃度を測定することと、対象のフェノール濃度を所定の参照値と比較することと、を含み、所定の参照値と比較した試料中のフェノール濃度の減少が、対象の気分障害の状態の改善及び/又はそれにより生じる情動反応の改善を示す、方法に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノールである、バイオマーカー。
【請求項2】
対象の気分障害、前記気分障害の状態の改善及び/又は前記気分障害により生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、フェノールの使用。
【請求項3】
対象の気分障害、前記気分障害の状態の改善、及び/又は前記気分障害により生じた情動反応の改善を検出及び/又は定量するための方法であって、
検査を受ける対象から得られた生体試料中のフェノールの濃度を測定することと、
前記対象のフェノール濃度を所定の参照値と比較することと、を含み、
前記試料中のフェノール濃度が前記所定の参照値と比較して減少していると、前記対象の前記気分障害の状態の改善及び/又は前記気分障害により生じた情動反応の改善を示す、方法。
【請求項4】
前記所定の参照値が、同じ前記対象から以前に得られたものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記所定の参照値が、対照集団における同様の体液中の平均フェノール濃度に基づくものである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記試料中及び参照中のバイオマーカーの濃度が、質量分析によって測定される、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料中及び参照中のバイオマーカーの濃度が、タンデム質量分析に連結した超高速液体クロマトグラフィー又はガスクロマトグラフィーによって測定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記所定の参照値が、検査を受ける対象から得られた生体試料中のフェノールの濃度のように同様の体液から得られたフェノール濃度に基づくものである、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象の所定の参照値が、気分障害の状態及び/又は前記気分障害により生じた情動反応を治療又は改善するための介入前に前記対象から採取された生体試料から得られたものである、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象の所定の参照値が、気分障害の状態及び/又は前記気分障害により生じる情動反応を治療又は改善するための介入中に、ただし前記生体試料が前記対象から得られるより少なくとも1週間前、例えば、少なくとも4週間前に、前記対象から採取した前記生体試料から得られたものである、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料中の前記フェノール濃度の、前記所定の参照値と比較して少なくとも30%の減少が、前記対象の前記気分障害の状態の改善及び/又は前記気分障害により生じる情動反応の改善を示す、請求項3~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記生体試料が、糞便、尿、血液、血清、及び血漿からなる群から選択される、請求項3~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、対象における気分障害の状態及び/又は前記気分障害により生じる情動反応を治療又は改善する介入の進行をモニタリングするためのものであり、前記介入が、プロバイオティクスの投与を含む、請求項3~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記プロバイオティクスが、ビフィドバクテリウム・ロンガムNCC3001である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が、ヒト、又はコンパニオンアニマル、例えば、ネコ若しくはイヌである、請求項3~14のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、バイオマーカーの分野に関する。本発明で特定されるバイオマーカーは、フェノールである。例えば、本発明は、対象の気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、フェノールの使用に関する。本発明の実施形態は、対象の気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するための方法であって、検査を受ける対象から得られた生体試料中のフェノールの濃度を測定することと、対象のフェノール濃度を所定の参照値と比較することと、を含み、試料中のフェノール濃度が所定の参照値と比較して減少していると、対象の気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を示す、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関(WHO)が2018年に発表したファクトシートによれば、世界中で3億人超が抑うつになっている。抑うつの中でも気分障害は、日常生活中の困難に対する気分及び一時的情動応答における、正常な変化とは異なる一般的な病気である。しかしながら、潜在的な抑うつ、軽度の気分障害もまた生活の質に影響を及ぼすことがある。
【0003】
気分障害は、患者、及び当該患者と定期的な交流がある人々に、深刻な影響を及ぼすことがある。典型的な帰結は、職場又は学校での成績の不振、社会的交流の減少、個人的な悩み、及び友人又は家族との関係性に対する悪影響である。
【0004】
最悪の場合、気分障害は自殺につながることがある。自殺により毎年800,000名に迫る人々が亡くなっており、自殺は15~29歳で2番目に多い死因である。
【0005】
気分障害は、男性よりも女性に広まっているとみられ(Journal of the American Medical Association,2003;Jun 18;289(23):3095-105)、周産期、及び閉経期が特にかかりやすい時期である。また、小児も1,900万人が抑うつと診断されている。特に、気分障害はまた、後に他の疾患につながることもある。例えば、気分障害により冠動脈疾患を発症するリスクが大きくなることは公知である。
【0006】
現在、気分障害は、通常は十分に治療することができる。例えば、気分障害は、運動又は会話療法(talking therapy)によって、理想的にはサイコロジストによる指導を受けることで、治療され得る。心理療法、例えば認知行動療法は、1つの選択肢である。現在では、抗うつ薬が薬剤としてうまく使用されている。多くの場合、上記に参照したアプローチの組み合わせは、併用療法の枠組みで使用されている。最近の学術研究により、プロバイオティクスであるビフィドバクテリウム・ロンガムNCC3001は、過敏性腸症候群の患者において抑うつスコア(depression score)を低下させることが明らかになった(Gastroenterology 2017;153:448-459)。
【0007】
現在では、医師は、患者との対話、及び典型症状のスクリーニングによって、気分障害を診断している。現在では、治療の反応は、確立された自己評価尺度を用いて患者の反応を体系的にモニタリングすることによって測定する必要がある(J Clin Psychiatry.2013 Jul;74(7))。
【0008】
気分障害を検出すること、及び/又は気分障害を治療又は改善する治療の成功を評価すること、を可能にする、生化学ツールを利用可能にすることが望ましい。
【0009】
本発明者らは、この課題に取り組んだ。
【0010】
本明細書における先行技術文献のいかなる参照も、かかる先行技術が周知であること、又は当分野で共通の全般的な認識の一部を形成していることを認めるものとみなされるべきではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このことから、本発明の目的は、最先端技術の改善であり、特に、対象の気分障害の診断又は気分障害の状態の改善及び/若しくはかかる気分障害により生じる情動反応の改善を可能にする生化学的ツールの提供、又は少なくとも有用な代替物の提供であった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明の目的が独立請求項の主題によって達成され得ることを見出した。従属請求項は、本発明の着想を更に展開するものである。
【0013】
したがって、本発明は、フェノールであるバイオマーカーを提供する。
【0014】
本発明は更に、対象の気分障害の状態及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、フェノールの使用を提供する。
【0015】
最後に、本発明は、対象の気分障害、並びに気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するための方法であって、検査を受ける対象から得られた生体試料中のフェノールの濃度を測定することと、対象のフェノール濃度を所定の参照値と比較することと、を含み、試料中のフェノール濃度が所定の参照値と比較して減少していると、対象の気分障害の状態の改善及び/又はそれにより生じる情動反応の改善を示す、方法を提供する。
【0016】
本明細書で使用される場合、「含む/備える(comprises)」、「含んでいる/備えている(comprising)」という単語、及び類似の単語は、排他的又は網羅的な意味で解釈されるべきではない。換言すれば、これらは「含むが、これらに限定されない」ことを意味することを目的としている。
【0017】
本発明者らは、対象の気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとして、フェノールを使用することができることを示した。
【0018】
本発明の目的のために、「気分障害」という用語は、抑うつ、例えばうつ病のような重度の抑うつ、及び軽度乃至中等度の気分障害である潜在性抑うつを含むものと理解されたい。
【0019】
前向き、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、多施設試験において、不安及び抑うつの症状がある、21~65歳の男性及び女性を含む被験者を、ビフィドバクテリウム・ロンガムを用いて治療し、抑うつを治療又は改善した。臨床試験中に採取されたヒト検体、すなわち尿、血液、及び糞便を、メタボノミクス解析に供した。代謝産物のデータを多変量データモデリングアプローチにより解析して、治療と臨床パラメータの改善とに関連するシグネチャを特定した。検体の解析により、プロバイオティクスの補給が、抑うつスコアの改善と相関する代謝産物フェノールの循環の減少をもたらすことが明らかになった。
【0020】
理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、血中フェノールが、腸内微生物叢(microbiota)によるタンパク質及び芳香族アミノ酸の代謝の推移を示す読み出し情報になり得、したがって、プロバイオティクスにより誘導され、気分障害の状態の改善に関連する、代謝による腸-脳相互作用を、直接的又は間接的に説明し得ると考えている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】血中の代謝産物濃度をng/mL単位で示す。データを、平均及び標準誤差として報告する。
図2】尿中の代謝産物濃度をng/mL単位で示す。データを、平均及び標準誤差として報告する。
図3】糞便中の代謝産物濃度をng/mL単位で示す。データを、平均及び標準誤差として報告する。
図4】血漿代謝産物と抑うつスコアの変動との間のスピアマン相関係数のプロットの概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
表1は、質量分析(MS)ベースのメタボノミクス(Hawaii Cancer Research Center)を用いて、ヒト試料中で検出及び定量された代謝産物のリストを示す。
【0023】
その結果として、本発明は、部分的には、フェノールであるバイオマーカーに関する。
【0024】
バイオマーカーは、当業者に公知である。それらは通常、正常な生物学的プロセス、発症プロセス、又は介入に対する応答の指標として客観的に測定及び評価される特徴として理解される。更なる手引きは、Curr Opin HIV AIDS.2010 Nov;5(6):463-466から得ることができる。
【0025】
本発明は、対象の気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するためのバイオマーカーとしての、フェノールの使用に関する。このことから、気分障害を検出するためのバイオマーカーとして、フェノールを使用することができる。更に、気分障害の状態の改善を検出及び/又は定量するために、フェノールを使用することができる。更に、対象の気分障害の状態から生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するために、フェノールを使用することができる。例えば、Gastroenterology 2017;153:448-459の著者は、扁桃体の関与の変化が気分障害スコアの変化と相関することを報告している。扁桃体は、情動応答において主要な役割を果たすため、気分障害の状態の改善は、対象の気分障害の状態から生じた情動的反応の改善に対応すると推論することができる。
【0026】
本発明の主題は更に、対象の気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量するための方法であって、
検査を受ける対象から得られた生体試料中のフェノールの濃度を測定することと、
対象のフェノール濃度を所定の参照値と比較することと、を含み、
試料中のフェノール濃度が所定の参照値と比較して減少していると、対象の気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を示す、方法に関する。
【0027】
本発明の主題は更に、対象における気分障害を検出するための方法であって、
検査を受ける対象から得られた生体試料中のフェノールの濃度を測定することと、
対象のフェノール濃度を所定の参照値と比較することと、を含み、
試料中のフェノール濃度が所定の参照値と比較して増加していると、対象における気分障害を示す、方法に関する。
【0028】
本発明の方法は、生体試料中のバイオマーカーの濃度又はバイオマーカーの濃度の変化に基づいて気分障害を診断することを可能にするという利点を有する。また、対象における気分障害の治療の成功を制御することも可能になる。したがって、このような生化学的方法は、気分障害を診断する際に医師を支援するのに、及び/又は医師が指示する治療の成功を追跡するのに価値のあるツールになり得る一方で、この方法以外では、医師は主として問診票及び患者による症状の説明に頼る必要がある。また、本発明の方法は、気分障害をはっきり伝えることができず、かつ気分障害になっている対象、例えば、コンパニオンアニマルを助けるのに非常に価値がある。
【0029】
本発明の方法では、検査を受ける対象から得られた生体試料中のフェノールの濃度を参照値と比較する。
【0030】
例えば、対象の気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を検出及び/又は定量することを目的とする場合、参照値も治療される対象から得られたものであると好ましい場合がある。
【0031】
したがって、本発明の方法の場合、所定の参照値は、同じ対象から以前に得られたものであってもよい。このことは、現時点のフェノール濃度を以前のフェノール濃度と比較することによって、ある個人についてフェノール濃度の減少を高信頼度で測定することができるという利点を有する。
【0032】
あるいは、所定の参照値は、対照集団における同様の生体試料中の平均フェノール濃度に基づくものであってもよい。このことは、ある個人について測定されたフェノール濃度を、一般に適用可能な標準と比較することができ、すなわち、ある個人のフェノール濃度を全体平均と比較することができるという利点を有する。これにより、多くの個別患者における多くの測定値の容易な比較が可能になる。これによりまた、個別の参照値を得るための予めの検査の必要がないため、わずか1回の検査での迅速な評価も可能になる。
【0033】
生体試料中のフェノール濃度の分析は、当業者に公知の任意の好適な方法によって実施することができる。本発明者らは、質量分析を用いた。したがって、本発明の一実施形態では、試料中及び参照中のバイオマーカーの濃度は、質量分析によって測定することができる。速度上昇、精度、及びノイズの低減のために、質量分析は、質量分析に先立つクロマトグラフィーステップと連結することができる。例えば、試料中及び参照中のバイオマーカーの濃度は、タンデム質量分析に連結した超高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。更に、例えば、試料中及び参照中のバイオマーカーの濃度は、タンデム質量分析に連結したガスクロマトグラフィーによって測定することができる。例えば、試料中のフェノール濃度の定量的測定は、タンデム質量分析(UPLC-MS/MS)及び/又はガスクロマトグラフ-飛行時間型質量分析計(GC-TOFMS)に連結した超高速液体クロマトグラフィーのいずれを用いて実施してもよい。
【0034】
有利なことに、参照値と生体試料から得られたフェノール濃度との最適な比較能力を確保するために、参照値及び本フェノール濃度の両方を同様の生体試料から得ることができる。したがって、所定の参照値は、検査を受ける対象から得られた生体試料中のフェノールの濃度のように同様の生体試料から得られたフェノール濃度に基づくものであってもよい。
【0035】
本発明の方法を用いて、気分障害治療の成功をモニタリングすることができる。モニタリングを行うために、現時点のフェノール濃度を、治療を受ける対象から治療の開始前に得られたフェノール濃度と比較可能であることが好ましい場合がある。したがって、例えば、対象の所定の参照値は、気分障害の状態及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の開始を治療又は改善するための介入前に対象から採取された生体試料から得ることができる。
【0036】
本発明が既に開始された後の、気分障害の状態の更なる改善を評価することが可能であるように、治療を受ける対象から得られた参照を利用可能にすることが更に好ましい場合がある。したがって、例えば、対象の所定の参照値は、気分障害の状態及び/又は前記気分障害により生じる情動反応を治療又は改善するための介入中に、ただし生体試料が対象から得られるより少なくとも1週間前、例えば、少なくとも2週間前、又は少なくとも4週間前、又は少なくとも6週間前に、対象から採取した生体試料から得られてもよい。このことは、気分障害の治療の継続的な進行を継続的にモニタリングすることができるという利点を有する。
【0037】
概して、検出されるフェノール濃度のいかなる減少も、対象の気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を示す。しかしながら、本発明のバイオマーカーの1つの利点は、うまくいった治療において測定することができる生体試料中のバイオマーカー濃度の差がかなり顕著であることである。したがって、例えば、本発明の方法では、試料中のフェノール濃度の、所定の参照値と比較して少なくとも10%、少なくとも20%、又は少なくとも30%の減少が、対象の気分障害の状態の改善及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応の改善を示す。
【0038】
本発明者らは、本発明の目的のために使用することができる典型的な身体試料は、糞便、尿、血液、血清、及び血漿からなる群から選択することができることを見出した。
【0039】
有利なことに、参照及び現時点のフェノール濃度の両方は、いずれも同様の生体試料から得られ、例えば、参照及び現時点のフェノール濃度の両方が、いずれも糞便から得られ、参照及び現時点のフェノール濃度の両方が、いずれも尿から得られ、参照及び現時点のフェノール濃度の両方が、いずれも血液から得られ、参照及び現時点のフェノール濃度の両方が、いずれも血清から得られ、又は、参照及び現時点のフェノール濃度の両方が、いずれも血漿から得られる。
【0040】
例えば、尿、血液、血清、又は血漿から、約5~10mLを採取することができる。十分に大きな試料サイズにより、人為的結果(artifacts)が生じることを回避する。これらの試料から、約20~10μLを更なる解析に用いることができる。糞便から、約5~10gを採取することができる。次いで、2~10mgの糞便試料を更なる解析に用いることができる。
【0041】
血液、血清、及び/又は血漿は、検査するバイオマーカーのシグナル対ノイズ比が特に高いという利点を有する。尿又は糞便は、体液試料を非侵襲的に得ることができるという利点を有する。本発明の方法は、選択された生体試料を問わず、対象からかかる体液を得ることが十分に確立された手順であるという利点を有する。次いで、実際の診断方法は、身体外部の生体試料で実施される。
【0042】
本発明の方法は、気分障害の任意の治療の進行をモニタリングするのに好適である。例えば、気分障害の治療は、運動、会話療法、心理療法、認知行動療法、抗うつ薬投与、例えば、プロバイオティクスを用いる栄養介入、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0043】
プロバイオティクスは、気分障害の症状に効果があることが見出されている(Neuropsychobiology.2019 Feb 13:1-9.doi:10.1159/000496406)(Gastroenterology 2017;153:448-459)。これらのプロバイオティクスは、気分障害を含む、広範囲の精神の健康の状態を治療する助けになり得る。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは現時点で、脳腸軸により、胃腸管と脳との間の強いつながりがみられると考えている。したがって、本発明の一実施形態では、方法は、対象における気分障害の状態及び/又はかかる気分障害により生じる情動反応を治療又は改善する介入の進行をモニタリングするためのものであり、介入は、プロバイオティクスの投与を含む。
【0044】
本発明者らは、本明細書に示される治験を、プロバイオティクス、一例としてビフィドバクテリウム・ロンガムNCC3001による介入を用いて実施した。結果として、本発明の目的のためには、プロバイオティクスは、ビフィドバクテリウム・ロンガム、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガムNCC3001であってもよい。
【0045】
また、コンパニオンアニマルも気分障害になることがある。本発明の目的に関し、コンパニオンアニマルは、主に人の仲間として、喜びのため、又は思いやりのある行為として飼われている動物である。コンパニオンアニマルの典型的な例は、ネコ若しくはイヌ、更にウサギ、フェレット、ブタ、齧歯類、例えば、アレチネズミ、ハムスター、チンチラ、ラット、マウス、及びモルモット、又は鳥類である。例えば、イヌは、うつ状態になると、多くの場合引きこもり、遊びへの関心が失われ、及び/又は無気力若しくは悲しんでいるようにみえる。場合により、コンパニオンアニマルは、通常よりも少なく食べ及び/又は飲み、それにより様々な身体的疾患になることがある。結果として、現在では、コンパニオンアニマルも気分障害の治療を受ける。したがって、本発明の一実施形態では、対象は、ヒトであってよく、又はコンパニオンアニマル、例えば、ネコ若しくはイヌであってもよい。
【0046】
当業者であれば、本明細書に開示される本発明の全ての特徴を自由に組み合わせることができることを理解されたい。特に、本発明のバイオマーカーについて記載された特徴点は、本発明の使用及び本発明の方法と組み合わせることができ、逆もまた同様である。更に、本発明の異なる実施形態について記載された特徴を組み合わせてもよい。
【0047】
本発明を実施例によって説明してきたが、特許請求の範囲で定義された本発明の範囲から逸脱することなく、変更及び改変を加えることができることを理解されたい。
【0048】
更に、既知の均等物が特定の特徴に対して存在する場合、かかる均等物は、本明細書で具体的に言及されているかのように組み込まれる。本発明の更なる利点及び特徴は、図及び非限定例から明らかである。
【実施例
【0049】
実施例1
試験において使用される方法
実験計画
本実施例は、マクマスター大学医療センター(Hamilton,Canada)で実施された、二群並行での、前向き、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、多施設試験である。。
【0050】
各試験群において、治験プロトコルを完了する被験者の人数は20人とし、被験者は、治療群、すなわち、B.ロンガムを含む製品、又はB.ロンガムを含まないプラセボのいずれかに無作為に割り付けられた。
【0051】
ベースライン期間は4週間設けた。次いで、患者は6週間治療を受け、更に4週間追跡調査された。
【0052】
Rome III基準で混合型IBS又は下痢型IBSを有しており、不安及び抑うつの症状がある21~65歳の男性及び女性を、定義された選択基準及び除外基準(試験プロトコル09.25.NRC)に従って治験に登録した。
【0053】
検体採取
血漿検体、糞便検体、及び尿検体を、ベースライン期間の終了時及び治療期間の終了時にメタボロミクスのために採取した。血液試料をEDTA抗凝固チューブ内に得て、500μLのアリコートをクライオチューブに移し、分析前に-80℃で保存した。糞便試料は患者が家庭で採取し、分析前に-80℃で保存した。試料を凍結乾燥し秤量した。次いで、5/6mgのアリコートをクライオチューブに移し、-80℃で保存した。朝の尿検体(5~10mL)を、滅菌済みでありラベルを付したプラスチックチューブに採取した。抗菌剤(アジ化ナトリウム、1mM)を試料に添加した後、1mLのクライオチューブに移し、-40℃で保存した。
【0054】
メタボロミクス分析
化学物質
全ての標準は、Sigma-Aldrich及びNu-ChekPrep(Elysian,MN,USA)から入手した。全ての参照標準のストック溶液は、5mg/mL又は1mg/mLの濃度で、HPLCグレードのメタノール又は超純水により調製し、使用まで-80℃で保存した。メタノール可溶性又は水溶性標準を含む混合標準溶液を、同じ化学分類の標準物質を組み合わせることによって調製した。異なる化学分類(アミノ酸、脂肪酸、カルボン酸、ヒドロキシル酸、フェノール酸、インドールなど)から合計で約150個の代表的な化合物を選択し、混合標準溶液を希釈することによって一連の標準溶液を作製し、較正曲線を作成した。内部RIマーカーの混合物を、C8、C9、C10、C12、C14、C16、C18、C20、C22、C24、C26、C28、及びC30の直鎖長の13種の一級アルカンを用いて調製し、それぞれ5mg/mLの濃度でクロロホルムに溶解した。
【0055】
生体試料の調製
タンパク質の沈殿後、乾燥試料を密封し、-80℃で保存して、以降の自動化アルキルクロロホルメート誘導体化と、その後の、飛行時間型MS(LECO PEGASUS HT)に連結したガスクロマトグラフィー(Agilent6890N)を使用するガスクロマトグラフィー(GC)質量分析(MS)に備えた。処理及び代謝産物同定のために、NetCDFフォーマットでソフトウェアChromaTOF(v4.50,Leco Co.,CA,USA)にGC-MSデータをエクスポートした。著者作成の2つのアルキルクロロホルメート誘導体データベースにおいてMS及びKovats-RIの両方を参照標準と70%超の類似性で比較することによって、化合物の同定を実施した。試料名、化合物名、Kovats-RI、定量化質量(quantification mass)、ピーク面積、及び濃度を含むデータセットを、CSVファイルにてエクスポートした。
【0056】
統計解析
代謝プロファイル間の固有の類似性の存在を検出するために、ソフトウェアパッケージSIMCA-P+(version14.0,Umetrics AB,Umeaa,Sweden)及び社内開発したMATLABルーチンを用いて、ケモメトリックス解析を実施した。代謝プロファイル間の類似性の存在を検出するために、主成分分析(Principal Component Analysis、PCA)、潜在的構造投影法(Projection to Latent Structure、PLS)、及び直交潜在構造投影法(the Orthogonal Projection to Latent Structures、O-PLS)を用いた。モデルの妥当性を評価するために、7分割交差検証を用いた。7分割交差検証サイクルでの予測を行った試料により、O-PLS-DAモデルの分類精度を実証した。MSベースの有力な代謝産物の濃度を、Wilcoxon-Mann-Whitney検定を用いて分析した。
【0057】
実施例2
代謝産物の濃度測定
ターゲットを設定した定量的(quantiative)GC-MS分析により、3つのマトリックス中の約100の代謝産物の定量的尺度を提供する。ヒトの血液検体では合計56の代謝産物、ヒトの尿検体では74の代謝産物、及びヒトの糞便検体では85の代謝産物を定量した(表1)。この方法により、良好な品質管理結果を得て、代謝産物に関して生成されるデータの品質を確保した。このプロジェクトのために開発した方法を用いて、既報の腸内細菌叢代謝産物の大部分を測定において網羅した。菌叢(microbiome)の産物に富むこのようなデータセットにより、代謝による腸内微生物叢及び宿主代謝産物の変動を通じてヒト病態生理を包括的に検査することができる。
【0058】
実施例3
プロバイオティクスにより気分障害の改善が誘導されることに関連する代謝産物
MSメタボノミクスデータ解析のために、19人の被験者からの尿、糞便、及び血漿試料をプラセボ群に割り付け、18人の患者からの分をプロバイオティクス治療群に割り付け、多変量データ解析に供した。ベースライン時及び介入後に、1つの予測成分(predictive components)及び2つの直交成分を用いてOPLS判別分析(OPLS-DA)を行い、プラセボ群とプロバイオティクス群との間の代謝の違いをモデリングした。
【0059】
統計的にロバストな多変量モデルは、プロバイオティクスを補給した患者と対照被験者とを判別する、介入後の血漿代謝プロファイルに基づいて得ることができるモデルパラメータ:(R2X 0.35、R2Y 0.86、Q2Y 0.11)。群の分離に寄与する代謝産物を、OPLS-DA係数のプロットの解析を通じて特定した。一変量データ解析の見地から最も有意な代謝産物パターンを示す方法としてWilcoxon-Mann-Whitney検定を用いて、統計的な有意差を検定した。特に、ビフィドバクテリウム・ロンガムNCC3001の補給により、エチルメチルアセテート(すなわち2メチルブチレート)及びフェノールの濃度の変化が生じ得るものと考えられる(図1及び図2)。
【0060】
抑うつの改善の間に測定されるものなどの、気分障害の改善に関連する尿中、血漿中、及び糞便中の代謝産物の組成と、臨床エンドポイントとの間の関係を探るために、更にPLS回帰分析を行った。ターゲットを設定した定量的MSの代謝産物濃度を活かして、多変量モデルにより、代謝産物の変化倍率と抑うつスコアの変化との間の関係を経時的に調査した。多変量モデルで特定された最も有力な代謝産物に基づいて、スピアマン相関を更に検定した。
【0061】
最も有意な関連性の中で、抑うつの改善は、血漿エチルメチルアセテート(2-メチルブチレート)の増加、及び血漿フェノールの減少と関連していた。これらは、プロバイオティクス補給によって影響を受けることが以前に示されている。更に、抑うつの改善は、ドーパミン、ホモゲンチジン酸、及びグリシンの減少、すなわち、神経伝達物質代謝に関与する3つの主要な代謝産物の減少に関連していた。尿では、抑うつの改善は、ガンマアミノ酪酸(GABA)、トリプトファン、N-アセチルトリプトファンの尿中濃度の増加に関連した。これらも神経伝達物質代謝に関与する重要な代謝産物である。
【0062】
プロバイオティクスの補給は、2-メチルブチレートの循環の増加を誘導した一方で、フェノールの減少を誘導した。この誘導は、腸内微生物の機能的生態系の調節が介在した可能性がより高い効果である。2-メチルブチレート(プロバイオティクスにより増加)は、抑うつの改善と正に相関するようにみえ、フェノール(プロバイオティクスにより減少)は、抑うつの改善と負に相関するようにみえた。両方の代謝産物が、腸内微生物叢によるタンパク質及び芳香族アミノ酸代謝の推移を示す読み出し情報になり、したがって、抑うつ状態の改善に関連しプロバイオティクスにより誘導される腸-脳代謝的相互作用を直接的又は間接的に説明し得る。
【0063】
フェノールを検査したところ、ドーパミンベータ-ヒドロキシラーゼを阻害する同様の特性を示した(Kim,S.C.;Klinman,J.P.Mechanism of inhibition of dopamine beta-monooxygenase by quinol and phenol derivatives,as determined by solvent and substrate deuterium isotope effects.Biochemistry 1991,30,8138-8144)。この代謝産物は、抑うつ代謝における、プロバイオティクスが関係する改善の作用機序に関与し得る。フェノールパターンは、血液、尿、及び便において同様である。
【0064】
【表1-1】
【0065】
【表1-2】


図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】