(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-12
(54)【発明の名称】摩擦が低減された材料
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20221205BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20221205BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L23/26
F16C33/20 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518372
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2020078641
(87)【国際公開番号】W WO2021069748
(87)【国際公開日】2021-04-15
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
【住所又は居所原語表記】Het Overloon 1, NL-6411 TE Heerlen,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】トミック, カタリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ルルケンス, ルディ
(72)【発明者】
【氏名】メウウィッセン, マイケル, フベルトゥス, ヘレナ
【テーマコード(参考)】
3J011
4J002
【Fターム(参考)】
3J011AA06
3J011DA01
3J011JA01
3J011MA22
3J011SC01
3J011SC03
4J002BB202
4J002BB212
4J002CL013
4J002CL031
4J002FD010
4J002FD056
4J002FD066
4J002FD076
4J002FD096
4J002FD166
4J002FD200
4J002GM00
4J002GM02
4J002GM05
(57)【要約】
本発明は、AA-BBのポリアミドである第1のポリアミドと、ABタイプのポリアミドである第2のポリアミドと、官能基改質ポリオレフィンと、を含む、摺動要素に使用するための熱可塑性組成物に関する。本発明は、上記の熱可塑性組成物を含む摺動要素にも関する。本発明は、更に、潤滑式摺動システム、例えばチェーン伝動装置に使用するための、上記の熱可塑性組成物を含む摺動要素に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動要素に使用するための熱可塑性組成物であって、
60~95重量%のAA-BBタイプのポリアミドである第1のポリアミド(a)、
0.5~10重量%のABタイプのポリアミドである第2のポリアミド(b)、及び
0.5~35重量%の官能基改質ポリオレフィン(c)
を含み、重量%は前記熱可塑性組成物の総重量に対するものである、熱可塑性組成物。
【請求項2】
摺動要素に使用するための熱可塑性組成物であって、
70~85重量%のAA-BBタイプのポリアミドである第1のポリアミド(a)、
0.5~10重量%のABタイプのポリアミドである第2のポリアミド(b)、及び
0.5~25重量%の官能基改質ポリオレフィン(c)
を含み、重量%は前記熱可塑性組成物の総重量に対するものである、熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記組成物は、1~10重量%、好ましくは2~10重量%の前記第2のポリアミド(b)を含む、請求項1又は2に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記組成物は、2~8重量%、好ましくは2~6重量%の前記第2のポリアミド(b)を含む、請求項1又は2に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記組成物は、4~8重量%、好ましくは4~6重量%の前記第2のポリアミド(b)を含む、請求項1又は2に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
前記組成物は、5重量%未満の前記第2のポリアミド(b)を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
前記組成物は、1~25重量%、好ましくは1~20重量%、より好ましくは1~19重量%の前記官能基改質ポリオレフィン(c)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
前記組成物は、5~25重量%、好ましくは8~20重量%、より好ましくは10~20重量%、更により好ましくは10~19重量%の前記官能基改質ポリオレフィン(c)を含む、請求項2~6のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
前記第1のポリアミド(a)は溶融温度Tm-1を有し、前記第2のポリアミド(b)は溶融温度Tm-2を有し、Tm-2はTm-1よりも少なくとも30℃低く、好ましくはTm-1よりも少なくとも50℃低い、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項10】
前記第1のポリアミド(a)は、PA66、PA46、PA410、PA412、PA5T、PA6T、PA6T、PA6T/6I、PA6T/66、PA6T/6、PA6T/4T、PA6/66、PA66/6T/6I、PA6T/DT-コポリアミド、PA9T、PA9T/2-MOMDT-コポリアミド、PA10T、PA10T/106、PA10T/6T、PA46/6、これらのコポリアミド又は混合物から選択され、前記第2のポリアミド(b)は、PA6、PA7、PA8、PA9、PA10、PA11、PA12、これらのコポリアミド又は混合物から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項11】
前記第1のポリアミド(a)は、PA46、PA66、PA46/6、PA6T/4T、PA6T/4T/DT/DI、これらのコポリアミド又は混合物から選択され、前記第2のポリアミド(b)はPA6を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項12】
前記第1のポリアミド(a)は、PA46、PA46/6、PA6T/4T、PA6T/4T/DT/DI、これらのコポリアミド又は混合物から選択され、前記第2のポリアミド(b)はPA6からなる、請求項1~11のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項13】
前記官能基改質ポリオレフィン(c)は、ジカルボン酸無水物改質ポリオレフィン、エポキシ改質ポリオレフィン、又はこれらの混合物から選択され、前記改質ポリオレフィンは、ASTM標準D1238に従って測定して(230℃、2.16kg負荷で)、0.5~25g/10分の範囲内の溶融流量を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項14】
前記組成物は、0.01~5重量%の補助添加剤を更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項15】
潤滑式摺動システムに使用するための摺動要素であって、請求項1~14のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物を含む、摺動要素。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、摺動要素に使用するための熱可塑性組成物に関する。本発明は、摺動システム、具体的には油潤滑式摺動システムに使用するための摺動要素にも関する。具体的には、本発明は、チェーンと摺接係合するための摺接部を含むチェーン伝動装置に使用するための摺動要素に関し、この摺接部は主に上記の熱可塑性組成物から作製される。本発明は、第2の要素と摺接する第1の摺動要素を含む機関にも関し、少なくとも摺接部は主に上記の熱可塑性組成物で作製される。本発明は、更に、チェーンと、(i)チェーンと摺接係合した摺接部、及び(ii)摺接部を強化し且つ支持する本体を含む摺動要素と、を含むチェーン伝動装置に関し、この摺接部は主に上記の熱可塑性組成物で作製される。
【0002】
[発明の背景]
昨今、自動車産業において、エネルギー消費、具体的には個人用乗用車及びその他の輸送手段のCO2排出に関する関心が高まっている。環境保全の観点から、内燃機関の燃料経済性又は燃料消費の改善が必要とされている。CO2排出の低減を実行するために、政府機関は過剰なCO2排出に対する罰則を設けているか、或いは設ける傾向にある。したがって、及び特により持続可能な環境を理由に、より低燃費の乗用車に対する、並びにこうした乗用車及びその他の輸送車両に使用するためのより低燃費の機関に対するニーズが存在する。
【0003】
自動車が多量のエネルギーを消費する主な原因の1つは、摩擦によるエネルギーの損失である。摩擦の1つの重要な領域は、チェーン駆動システムを含む機関内にあり、ここでは機関の実使用中に、摺動要素を含む構成部品がチェーンと摺接する。
【0004】
近年、特に深刻さを増す環境中で、例えば高い軸受け圧及び高い使用温度下でプラスチック製の摺動材料が用いられる場合、摺動部に対し摺動に伴う騒音を低減し、軽量化し、且つ潤滑性を提供する観点から、軸受部、ローラー、ギアなどといった摺動部品の特性の改善に、既に多くの関心が持たれている。
【0005】
特に、自動車の内燃機関に用いられるチェーンガイド及びチェーンテンショナの摺動要素は、良好な摺動特性、60℃~150℃の範囲の温度などの高温における良好な耐熱性、良好な耐油性、良好な耐摩耗性、良好な耐疲労性、及び良好な耐衝撃性を有することが求められる。
【0006】
耐熱性、耐油性、及び機械的強度における良好な性能のために、少なくとも第2の要素と摺接係合する摺動要素の部分に対して、ポリアミドポリマーが摺動要素に用いられることがよくある。
【0007】
しかしながら、摩耗及び摩擦への耐性が重要な性質である用途では、これらのポリアミドポリマーが必ずしも好適というわけではない。摺動中の上記のポリアミドポリマーの耐摩擦性を改善するために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン(MoS2)、又はグラファイトなどの固形潤滑剤が通常添加されてきた。しかしながら、上記の固形潤滑剤の添加による摩擦の改善は限定的であることが分かっている。更に、上記の固形潤滑剤の添加によって、得られた材料の加工性並びにその機械的及び物理的性質は殆どの場合で低下し、これは、その材料で製造される部品の信頼性の観点から好ましいものではない。加えて、フッ素化添加剤が用いられる場合、これらは環境に優しくないという不都合を有する。
【0008】
したがって、摺動要素に使用するための材料の開発における改善がなされてはいるものの、更なる改善に対するニーズが依然として存在する。
【0009】
したがって、本発明の目的は、数ある目標の中でもとりわけ、望ましい摺動性及び摩耗特性を示しながらも上記の材料の問題のうち1つ以上を低減又は解決する、摺動要素に使用する熱可塑性組成物を提供することである。
【0010】
この目的は、本明細書で後述する熱可塑性組成物を用いて達成された。
【0011】
[発明の概要]
本発明は、60~95重量%のAA-BBタイプのポリアミドである第1のポリアミド(a)、0.5~10重量%のABタイプのポリアミドである第2のポリアミド(b)、及び0.5~35重量%の官能基改質ポリオレフィン(c)を含む、摺動要素に使用するための熱可塑性組成物に関し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0012】
本発明は、更に、上記の熱可塑性組成物を含む摺動要素に関する。
【0013】
本発明は、更に、潤滑式摺動システムに使用するための、チェーンガイド又はチェーンテンショナが含むような摺動要素に関する。
【0014】
本発明は、更に、チェーンと摺接係合するための摺接部を含むチェーン伝動装置に使用するための摺動要素に関し、この摺接部は主に上記の熱可塑性組成物で作製される。
【0015】
本発明は、更に、第2の要素と摺接する第1の摺動要素を含む機関に関し、ここで、少なくとも摺接部は主に上記の熱可塑性組成物で作製される。
【0016】
本発明は、更に、チェーンと、(i)チェーンと摺接係合した摺接部、及び(ii)摺接部を強化し及び支持する本体を含む摺動要素と、を含むチェーン伝動装置に関し、この摺接部は主に上記の熱可塑性組成物で作製される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ガイド上チェーン試験における摩擦係数(CoF)の測定を示す。
【
図2】ピラミッド上ボール試験における摩擦係数(CoF)の測定を示す。
【0018】
[発明を実施するための形態]
本明細書及び添付の特許請求の範囲の全体を通して、単語「含む(comprise)」、「含む(include)」、及び「有する(having)」、並びに「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」などの変形は、包括的に解釈されるものとする。つまり、これらの単語は、文脈が許す場合、具体的に列挙されていないその他の要素又は整数の可能な包含を伝えることが意図される。
【0019】
冠詞「a(1つの)」及び「an(1つの)」は、冠詞の文法上の対象のうち1つ又は2つ以上(すなわち、1つ又は少なくとも1つ)を指すために本明細書で使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素又は2つ以上の要素を意味し得る。
【0020】
本発明に関連して、驚くべきことに、2つのタイプのポリアミド、及び改質ポリオレフィンを含む熱可塑性組成物が非常に良好な加工性を示し、並びに、有利な耐摩耗性及び(耐衝撃性、曲げ剛性(stiffness)、及び延性などの)機械的性質と組み合わせて、それから作製される成形部品に優れた摺動特性を付与したことが判明した。すなわち、前記摺動要素が前記熱可塑性組成物を含む場合、前記熱可塑性組成物は、改善された性能を摺動要素に付与する。
【0021】
したがって、本発明の目的は、摺動要素に使用するための新規な熱可塑性組成物を提供することである。
【0022】
本発明の更なる目的は、上記の熱可塑性組成物を含む摺動要素を提供することである。
【0023】
本発明の更なる目的は、潤滑式摺動システムに使用するための、チェーンガイド又はチェーンテンショナが含むような、上記の熱可塑性組成物を含む摺動要素を提供することである。
【0024】
本発明の更なる目的は、チェーンと摺接係合するための摺接部を含むチェーン伝動装置に使用するための摺動要素を提供することであり、この摺接部は主に上記の熱可塑性組成物で作製される。
【0025】
本発明の更なる目的は、第2の要素と摺接する第1の摺動要素を含む機関を提供することであり、ここで、少なくとも摺接部は主に上記の熱可塑性組成物で作製される。
【0026】
本発明の更なる目的は、チェーンと、(i)チェーンと摺接係合した摺接部、及び(ii)摺接部を強化し及び支持する本体を含む摺動要素と、を含むチェーン伝動装置を提供することであり、この摺接部は主に上記の熱可塑性組成物で作製される。
【0027】
本発明の摺動要素に使用するための熱可塑性組成物は、60~95重量%のAA-BBタイプのポリアミドである第1のポリアミド(a)、0.5~10重量%のABタイプのポリアミドである第2のポリアミド(b)、及び0.5~35重量%の官能基改質ポリオレフィン(c)を含み、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0028】
本発明に関連して、「摺動要素」とは、別の摺動要素の摺接部と摺接係合及び/又は転接係合する(或いは、摺接係合及び/又は転接係合することが意図された)摺動要素の部分である「摺接部」を含むものであり、また、その理由のために、摺接部は低摩擦特性を有する必要があることを理解されたい。
【0029】
本明細書では、「ポリアミド」とは、アミド官能性によって一体に連結されるモノマービルディングブロックを含むポリマーである(Kunststoff Handbuch;G.W.Becker,D.Braun,eds;1998;vol3/4;Polyamide)。ポリアミドは、典型的には(ISO307に従い測定して)50~250g/mlの粘度数を有する。用語「ポリアミド」は広義に解釈されるものであり、ポリアミド、コポリアミド、又はそれらの混合物を含む。
【0030】
本明細書では、「AA-BBタイプのポリアミド」又は「AA-BBポリアミド」又は「AA-BBタイプポリアミド」は、主にジアミン(AA-タイプモノマー)及びジカルボン酸(BB-タイプモノマー)をベースとする。上記のポリアミドは、追加の二官能性単位(例えば、α,ω-アミノ酸、又はそのラクタム誘導体から誘導される二官能性単位)を含み得る。しかしながら、こうした追加の二官能性単位の含量は、概ね20モル%未満であり、ここでモル%は、上記のポリアミド中の二官能性単位の総モル量に対するものである。好ましくは、こうした追加の二官能性単位の含量は、概ね10モル%未満であり、ここでモル%は、上記のポリアミド中の二官能性単位の総モル量に対するものである。
【0031】
本明細書では、「ABタイプのポリアミド」又は「ABポリアミド」又は「ABタイプポリアミド」は、主にα,ω-アミノ酸及びそのラクタム誘導体(ABモノマー)から誘導されるAB繰り返し単位をベースとする。上記のポリアミドは、その他の構成成分から誘導される追加の二官能性単位を含み得る。しかしながら、こうした追加の二官能性単位の含量は、概ね20モル%未満であり、ここでモル%は、上記のポリアミド中の二官能性単位の総モル量に対するものである。好ましくは、こうした追加の二官能性単位の含量は、概ね10モル%未満であり、ここでモル%は、上記のポリアミド中の二官能性単位の総モル量に対するものである。
【0032】
本明細書では、「ポリオレフィン」とは、モノマーとしてのオレフィン(すなわち、アルケン)から生成されるポリマーである。用語「ポリオレフィン」は、広義に解釈されるものであり、これには、1つ以上のオレフィンからなるポリマー及びコポリマー並びにこれらの混合物が含まれる。オレフィンの例は、エチレン、プロピレン、ブテン、及びペンテンである。
【0033】
本明細書では、「官能基改質ポリオレフィン」(「官能基グラフト化ポリエチレン」又は「改質ポリオレフィン」若しくは「グラフト化ポリオレフィン」とも称される)とは、ポリアミドの末端基及び/又は主鎖アミド基(すなわち反応性化学基)と反応することが可能な官能基で改質(グラフト化)されたポリオレフィンとして理解されるものである。本発明に関連して、用語「未改質ポリオレフィン」(「ポリオレフィンとも称される」)とは、まだこうした官能基で改質(グラフト化)されていないポリオレフィンとして理解されるものである。
【0034】
本明細書では、「x~y」として示される全ての範囲は、xからyまでであり、且つx及びyの値を含むものとして理解される。
【0035】
本明細書では、「xを上回る」、「x超」、「xを下回る」、又は「x未満」として示される全ての範囲は、xの値を含まないものとして理解される。
【0036】
本発明の熱可塑性組成物は、AA-BBタイプのポリアミドである第1のポリアミド(a)、及びABタイプのポリアミドである第2のポリアミド(b)を含む。
【0037】
本発明の一実施形態では、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)は、溶融温度(Tm-1)を有する半結晶性ポリアミドであり、ABタイプの第2のポリアミド(b)は、溶融温度(Tm-2)を有する半結晶性ポリアミドであり、ここでTm-2はTm-1よりも少なくとも20℃低い。より好ましくは、Tm-2はTm-1よりも少なくとも30℃、より好ましくは少なくとも40℃、更により好ましくは少なくとも50℃、なお更により好ましくは少なくとも60℃、最も好ましくは少なくとも70℃低い。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)は、少なくとも230℃、好ましくは少なくとも240℃、より好ましくは少なくとも250℃、より好ましくは少なくとも260℃、またより好ましくは少なくとも270℃、更により好ましくは少なくとも280℃、なお更により好ましくは少なくとも290℃、最も好ましくは少なくとも300℃のTm-1を有する。
【0039】
本明細書では、溶融温度は、ISO-11357-1/3,2011に従いDSC法によって測定した、N2雰囲気中、10℃/分の加熱及び冷却速度で予備乾燥させた試料上の温度であると理解される。本明細書では、Tmは、第2の加熱サイクルにおける最高溶融ピークのピーク値から計算される。
【0040】
本発明の別の実施形態では、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)には、脂肪族ポリアミド及び半芳香族ポリアミド、並びにこれらのコポリアミド及び混合物が含まれる。
【0041】
具体的には、第1のポリアミド(a)の好適な脂肪族ポリアミドは、PA28、PA210、PA212、PA214、PA216、PA218、PA46、PA48、PA410、PA412、PA414、PA56、PA62、PA66、PA68、PA6CHDA、PA82、PA86、PA102、PA106、PA122、PA126、PA142、PA162、PA182、PA10CHDA、これらのコポリアミド及び混合物であり得る。第1のポリアミド(a)の好適な脂肪族コポリアミドは、PA46/66、PA6/66、PA66/11、PA66/12、PA6/610、PA66/610、PA46/6、PA6/66/610、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)並びに2,2,4-及び2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミンから得られるコポリアミド、任意のジカルボン酸及びイソホロンジアミンから得られるコポリアミド、4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン及び/又は3,5-ジメチル-4,4-ジアミノ-シシクロヘキシルメタン、これらのコポリアミド及び混合物であり得る。
【0042】
また、具体的には、第1のポリアミド(a)の好適な半芳香族ポリアミドは、PA4T、PA5T、PA6T、PA9T、PA10T、PA12T、PA MXD6、PA PXD6(式中、PXD6はp-キシリレンジアミンである)、PA4T/6T、PA10T/106、PA10T/5T、PA10T/9T、PA10T/1012、PA10T/NDT/INDT、PA10T/11、PA10T/MACMT、PA10T/MACMT、PA10T/PACMT、PA6T/4T、PA6T/4T/66、PA6T/4T/DT、PA6T/4T/DT/DI、PA6T/4T/6I、PA6T/10T、PA6T/6I、PA6T/NDT/INDT、PA6T/MACMT、PA6T/4T/MACMT、PA6T/PACMT、PA6T/4T/PACMT、PA6T/MXDT、PA6T/1,3-BACT(式中、1,3-BACは、水素化MXDである)、D=2-メチルペンタメチレンジアミンとのPA6T/DT-コポリアミド、PA4T/6、PA4T/66、PA4T/46、PA4T/410、PA6I、PA6I/66、PA6T、PA6T/6、PA6T/66、PA6I/6T、PA66/6T/6I、PA6T/2-MPMDT(式中、2-MPMDは2-メチルペンタメチレンジアミンである)、PA9T、PA9T/2-MOMDT(式中、2-MOMDは2-メチル-1,8-オクタメチレンジアミンである)、テレフタル酸、ND、及び/又はINDから得られたコポリアミド、カプロラクタム、イソフタル酸及び/又はテレフタル酸、並びにPACMから得られたコポリアミド、カプロラクタム、イソフタル酸及び/又はテレフタル酸、並びにイソホロンジアミンから得られたコポリアミド、イソフタル酸及び/若しくはテレフタル酸並びに/又はその他の芳香族若しくは脂肪族ジカルボン酸、任意選択的にアルキル置換ヘキサメチレンジアミン及びアルキル置換PACMから得られたコポリアミド、上記のポリアミドのコポリアミド、並びにこれらの混合物であり得る。
【0043】
好ましくは、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)は、PA66、PA46、PA410、PA412、PA5T、PA6T、PA6T、PA6T/6I、PA6T/66、PA6T/6、PA6T/4T、PA6/66、PA66/6T/6I、PA6T/DT-コポリアミド、PA9T、PA9T/2-MOMDT-コポリアミド、PA10T、PA10T/106、PA10T/6T、PA46/6、これらのコポリアミド又は混合物から選択される。
【0044】
より好ましくは、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)は、PA6T/4T、PA6T/4T/66、PA6T/4T/DT、PA6T/4T/DT/DI、PA6T/4T/6I、PA6T/6I、PA66、PA6T/66、PA6T/66/6I、PA6T/DT、PA9T、PA9T/2-MOMDT、PA10T、PA10T/106、PA10T/6T、PA46、これらのコポリアミド又は混合物から選択される。
【0045】
更により好ましくは、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)は、PA6T/4T、PA6T/4T/66、PA6T/4T/DT、PA6T/4T/DT/DI、PA6T/4T/6I、PA6T/6I、PA66、PA6T/66、PA6T/66/6I、PA6T/DT、PA9T、PA9T/2-MOMDT、PA46、これらのコポリアミド又は混合物から選択される。
【0046】
更により好ましくは、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)は、PA6T/4T、PA6T/4T/66、PA6T/4T/DT、PA6T/4T/DT/DI、PA6T/4T/6I、PA6T/6I、PA6T/66、PA6T/66/6I、PA6T/DT、PA9T、PA9T/2-MOMDT、PA46、これらのコポリアミド又は混合物から選択される。
【0047】
本発明の別の実施形態では、ABタイプの第2のポリアミド(b)としては、脂肪族ポリアミド、並びにこれらのコポリアミド及び混合物が挙げられる。
【0048】
具体的には、ABタイプの第2のポリアミド(b)は、PA6、PA7、PA8、PA9、PA10、PA11、PA12、これらのコポリアミド又は混合物から選択される。
【0049】
より具体的には、ABタイプの第2のポリアミド(b)は、PA6、PA9、PA10、PA11、PA12、これらのコポリアミド又は混合物から選択される。
【0050】
更により具体的には、ABタイプの第2のポリアミド(b)は、PA6、PA11、PA12、これらのコポリアミド又は混合物から選択される。
【0051】
好ましくは、ABタイプの第2のポリアミド(b)は、PA6又はそのコポリアミドを含む。より好ましくは、第2のポリアミド(b)は、少なくとも80モル%のPA6、具体的には少なくとも85モル%のPA6、より具体的には少なくとも90モル%、更により具体的には少なくとも95モル%のPA6、最も具体的には少なくとも98モル%のPA6を含む。最も好ましくは、ABタイプの第2のポリアミド(b)はPA6である。
【0052】
本発明の更に別の実施形態では、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)とABタイプの第2のポリアミド(b)との好適なポリアミドの組み合わせは、例えば、第1のポリアミド(a)がPA46、PA410、PA5T、PA6T/4T、PA6T/4T/DT/DI、PA66、PA6T、PA9T、PA10T、これらのコポリアミド又は混合物から選択され、第2のポリアミド(b)がPA6、PA11、PA12、これらのコポリアミド又は混合物から選択される組み合わせである。第1のポリアミドと第2のポリアミドとの好ましいポリアミドの組み合わせは、第1のポリアミド(a)がPA46、PA66、PA46/6、PA6T/4T、PA6T/4T/DT/DI、これらのコポリアミド又は混合物から選択され、第2のポリアミド(b)がPA6、PA11、PA12、これらのコポリアミド又は混合物から選択される組み合わせである。第1のポリアミドと第2のポリアミドとのより好ましいポリアミドの組み合わせは、第1のポリアミド(a)がPA46、PA46/6、PA6T/4T、PA6T/4T/DT/DI、これらのコポリアミド又は混合物から選択され、第2のポリアミド(b)がPA6、PA11、PA12、これらのコポリアミド又は混合物から選択される組み合わせである。第1のポリアミドと第2のポリアミドとの更により好ましいポリアミドの組み合わせは、第1のポリアミド(a)がPA46、PA46/6、PA6T/4T、PA6T/4T/DT/DI、これらのコポリアミド又は混合物から選択され、第2のポリアミド(b)がPA6を含むか又はPA6からなる組み合わせである。
【0053】
上記のポリアミドに関して、学名はEN ISO1874-1:2000で用いられる通りに準拠し;例えば、PA6Tはビルディングブロック1,6-ヘキサンジアミン及びテレフタル酸を含むホモポリマーを指し、PA66/6Tは1,6-ヘキサンジアミン、アジピン酸、及びテレフタル酸、並びにPA66のブレンドをから作製されるコポリマーを指し、PA6TはPA66/PA6Tとして記述される。
【0054】
有利には、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)は、0.03Nの塩酸を含むポリアミドのメタノール溶液を滴定することにより測定して、10~80meq/kgの範囲の、より好ましくは15~75meq/kgの範囲の、更により好ましくは15~70meq/kgの範囲の、最も好ましくは20~60meq/kgの範囲の、アミノ(NH2)末端基の濃度を有する。
【0055】
また、有利には、ABタイプの第2のポリアミド(b)は、0.03Nの塩酸を含むポリアミドのメタノール溶液を滴定することにより測定して、10~100meq/kgの範囲の、より好ましくは15~95meq/kgの範囲の、更により好ましくは15~90meq/kgの範囲の、最も好ましくは20~80meq/kgの範囲の、アミノ(NH2)末端基の濃度を有する。
【0056】
本発明に関連して、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)は、60~95重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。好ましくは、第1のポリアミド(a)は、65~95重量%、より好ましくは70~95重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。より好ましくは、第1のポリアミド(a)は、95重量%未満の量で存在する。具体的には、第1のポリアミド(a)は、60~90重量%、好ましくは65~90重量%、更により好ましくは70~90重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。より具体的には、第1のポリアミド(a)は、60~85重量%、好ましくは65~85重量%、更により好ましくは70~85重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0057】
本発明に関連して、ABタイプの第2のポリアミド(b)は、熱可塑性組成物の全体的な性能が影響を受けないか、又は僅かにしか影響を受けないように限られた量で存在する。ABタイプの第2のポリアミド(b)の限られた量は、0.5~10重量%の範囲内、又はその後定義される任意の部分範囲内の量として定義され、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。第2のポリアミド(b)は、好ましくは1重量%以上の量、より好ましくは2重量%以上の量、更により好ましくは3重量%以上の量、最も好ましくは4重量%以上の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。第2のポリアミド(b)は、好ましくは10重量%以下の量、より好ましくは8重量%以下の量、更により好ましくは6重量%以下の量、最も好ましくは5重量%以下の量、更に最も好ましくは5重量%未満の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。すなわち、第2のポリアミド(b)は、4.99重量%以下の量、好ましくは4.95重量%以下の量、より好ましくは4.9重量%以下の量、最も好ましくは4.5重量%以下の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0058】
具体的には、第2のポリアミド(b)は、0.5重量%~10重量%の量、好ましくは0.5重量%~8重量%の量、より好ましくは0.5重量%~6重量%の量、更により好ましくは0.5重量%~5重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。また、具体的には、第2のポリアミド(b)は、0.5重量%~4.99重量%の量、好ましくは0.5重量%~4.95重量%の量、より好ましくは0.5重量%~4.9重量%の量、最も好ましくは0.5重量%~4.5重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0059】
より具体的には、第2のポリアミド(b)は、1重量%~10重量%の量、好ましくは1重量%~8重量%の量、より好ましくは1重量%~6重量%の量、更により好ましくは1重量%~5重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。また、具体的には、第2のポリアミド(b)は、1重量%~4.99重量%の量、好ましくは1重量%~4.95重量%の量、より好ましくは1重量%~4.9重量%の量、最も好ましくは1重量%~4.5重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0060】
更により具体的には、第2のポリアミド(b)は、2重量%~10重量%の量、好ましくは2重量%~8重量%の量、より好ましくは2重量%~6重量%の量、更により好ましくは2重量%~5重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。また、具体的には、第2のポリアミド(b)は、2重量%~4.99重量%の量、好ましくは2重量%~4.95重量%の量、より好ましくは2重量%~4.9重量%の量、最も好ましくは2重量%~4.5重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0061】
更により具体的には、第2のポリアミド(b)は、4重量%~10重量%の量、好ましくは4重量%~8重量%の量、より好ましくは4重量%~6重量%の量、更により好ましくは4重量%~5重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。また、具体的には、第2のポリアミド(b)は、4重量%~4.99重量%の量、好ましくは4重量%~4.95重量%の量、より好ましくは4重量%~4.9重量%の量、最も好ましくは4重量%~4.5重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0062】
本発明の熱可塑性組成物は、官能基改質ポリオレフィン、すなわち、ポリアミドの末端基及び/又は主鎖アミド基と反応することが可能な官能基で改質(グラフト化)されたポリオレフィンを更に含む。
【0063】
本発明の熱可塑性組成物に好適なポリオレフィンポリマーは、官能基でグラフト化され得る1つ以上のオレフィンポリマーのホモポリマー及びコポリマーである。
【0064】
好適なポリオレフィンポリマーの例は、エチレンポリマー、プロピレンポリマー、及びスチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー、又はこれらの水素化形態である。
【0065】
好適なエチレンポリマーの例は、エチレンの全ての熱可塑性ホモポリマー、並びにエチレンとコモノマーとしての3~10のC原子を含む1つ以上のα-オレフィン、具体的にはプロピレン、イソブテン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、及び1-オクテンとのコポリマーであり、これらは例えばチーグラー・ナッタ、フィリップス、及びメタロセン触媒などの既知の触媒を用いて作製され得る。コモノマーの量は、通例では0~50重量%の範囲、好ましくは5~35重量%の範囲内にある。こうした、エチレンポリマーは、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、及び直鎖超低密度ポリエチレン(VL(L)DPE)として既知である。好適なポリエチレンポリマーは、800~970kg/m3の密度を有する。
【0066】
好適なプロピレンポリマーの例は、プロピレンのホモポリマー、及びプロピレンとエチレンとのコポリマー(エチレン部分が合計で最大30重量%、好ましくは最大25重量%に達する)である。
【0067】
好適な官能基は、上記の好適なポリオレフィンポリマーのうり少なくとも1つにグラフト化され得るものである。上記の官能基の例は、カルボン酸基、カルボン酸金属塩基、酸無水物基、エステル基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基、イソシアネート基、及びこれらの混合物である。好ましくは、上記の官能基は、エポキシ基、酸無水物基、及びこれらの混合物から選択される。より好ましくは、上記の官能基は酸無水物基である。
【0068】
したがって、官能基改質ポリオレフィンは、有利にはジカルボン酸無水物改質ポリオレフィン、エポキシ改質ポリオレフィン、及びこれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、官能基改質ポリオレフィンは無水マレイン酸(MAH)グラフト化ポリオレフィンである。より好ましくは、官能基改質ポリオレフィンは、無水マレイン酸改質ポリエチレン、無水マレイン酸改質ポリプロピレン、無水マレイン酸改質プロピレンコポリマー、及び無水マレイン酸改質エチレンコポリマーから選択される。
【0069】
有利には、官能基改質ポリオレフィンは、ISO標準ISO1183に従って測定して800~970kg/m3の範囲、好ましくは820~970kg/m3の範囲、好ましくは850~970kg/m3の範囲、好ましくは850~950kg/m3の範囲、より好ましくは860~950kg/m3の範囲、より好ましくは860~920kg/m3の範囲、更により好ましくは860~900kg/m3の範囲の密度を有する。
【0070】
有利には、官能基改質ポリオレフィンの溶融流量(MFR;230℃、2.16kg負荷)は、ASTM標準D1238に従って測定して0.5~25g/10分の範囲内、好ましくは0.5~15g/10分の範囲内、より好ましくは0.5~10g/10分の範囲内、より好ましくは0.5~8g/10分の範囲内、更により好ましくは1~8g/10分の範囲内、最も好ましくは1.5~7.5g/10分の範囲内にある。
【0071】
また、有利には、改質ポリオレフィン中の官能基の含量は、0.05~3.0重量%の範囲内、好ましくは0.05~2.5重量%の範囲内、好ましくは0.1~2.5重量%の範囲内、好ましくは0.2~2.5重量%の範囲内、より好ましくは0.3~2.5重量%の範囲内、より好ましくは0.3~2.0重量%の範囲内、更により好ましくは0.4~2.0重量%の範囲内、更により好ましくは0.4~1.5重量%の範囲内、更により好ましくは0.4~1.2重量%の範囲内、最も好ましくは0.5~1.0重量%の範囲内にあり、ここで重量%は官能基改質ポリオレフィンの総重量に対するものである。
【0072】
具体的には、改質ポリオレフィン中の無水マレイン酸(MAH)の含量は、0.05~3.0重量%の範囲内、好ましくは0.05~2.5重量%の範囲内、好ましくは0.1~2.5重量%の範囲内、好ましくは0.2~2.5重量%の範囲内、より好ましくは0.3~2.5重量%の範囲内、より好ましくは0.3~2.0重量%の範囲内、更により好ましくは0.4~2.0重量%の範囲内、更により好ましくは0.4~1.5重量%の範囲内、更により好ましくは0.4~1.2重量%の範囲内、最も好ましくは0.5~1.0重量%の範囲内にあり、ここで重量%は官能基改質ポリオレフィンの総重量に対するものである。MAHの含量は、実施例の「試験方法」の項に記載される通り、赤外分光法によって測定する。
【0073】
上記の改質ポリオレフィンは、例えば米国特許第3,236,917号明細書、及び同第5,194,509号明細書、及び同第4,950,541号明細書に記載される、この目的のためにそれ自体既知である方法に従い調製され得る。加えて、上記の改質ポリオレフィンは、Fusabond(登録商標)、Exxelor(商標)、Tafmer(登録商標)、及びParaloid(商標)などの様々な商標名で市販されてもいる。
【0074】
本発明の熱可塑性組成物において、官能基改質ポリオレフィン(c)は、有利には、0.5~35重量%、好ましくは1~35重量%、より好ましくは5~35重量%、更により好ましくは8~35重量%、最も好ましくは10~35重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。また、有利には、官能基改質ポリオレフィン(c)は、0.5~30重量%、好ましくは1~30重量%、より好ましくは5~30重量%、更により好ましくは8~30重量%、最も好ましくは10~30重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。また、有利には、官能基改質ポリオレフィン(c)は、0.5~25重量%、好ましくは1~25重量%、より好ましくは5~25重量%、更により好ましくは8~25重量%、最も好ましくは10~25重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。また、有利には、官能基改質ポリオレフィン(c)は、0.5~20重量%、好ましくは1~20重量%、より好ましくは5~20重量%、更により好ましくは8~20重量%、最も好ましくは10~20重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。また、有利には、官能基改質ポリオレフィン(c)は、0.5~19重量%、好ましくは1~19重量%、より好ましくは5~19重量%、更により好ましくは8~19重量%、最も好ましくは10~19重量%の量で存在し、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0075】
本発明の更なる実施形態では、本発明の熱可塑性組成物は、少なくとも1つのその他の構成成分(d)を含み得る。例えば、その他の構成成分は、
- ポリアミド(a)、ポリアミド(b)、及び官能基改質ポリオレフィン(c)以外のポリマー、
- 無機核剤、
- 無機充填剤、及び/若しくは繊維強化剤、並びに
- 補助添加剤、
又はこれらの混合物から選択され得る。
【0076】
ポリアミド(a)、ポリアミド(b)、及び官能基改質ポリオレフィン(c)以外のポリマーに関しては、熱可塑性組成物の全体的な性能が影響を受けないか、又は僅かにしか影響を受けないような限られた量で用いられる限り、原則として任意の熱可塑性又は熱硬化性ポリマーが用いられ得る。例えば、上記のポリマーは未改質ポリオレフィンであってもよい。好適には、その量は、例えば0.01~20重量%の範囲に限定され、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。実質的には、少しでも用いられる場合、その量は、0.01~15重量%、又は更には0.01~10重量%の範囲に限定され、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0077】
好適な無機核剤は、マイクロタルク及びカーボンブラックから選択され得る。無機剤は、およそ0.01~5重量%の範囲の量で存在してもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0078】
無機充填剤及び/又は繊維強化剤に関しては、引張り強度及び引張り係数などの機械的性質を改善する任意の無機材料が使用され得る。これらの材料の多くが、プラスチック材料の耐摩耗性に対して悪影響を有し得るため、その量は、少しでも用いられる場合、好ましくは限定されたままであるべきである。繊維強化剤の例は、ガラス繊維及び炭素繊維である。これらのうちでは炭素繊維が、場合によっては低摩擦性を改善することもあるために好ましい。
【0079】
存在する場合、好適には、組成物中の無機充填剤及び/又は繊維強化剤の総量は、例えば0.01~20重量%の範囲内であり、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。好ましくは、その量は0.01~15重量%、又はより具体的には0.01~10重量%の範囲内であり、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0080】
好ましい実施形態では、無機充填剤は、顆粒状又は微粒子状の固形無機潤滑剤である。固形無機潤滑剤は、二硫化モリブデン、天然又は合成グラファイト、窒化ホウ素、及び窒化シラン、並びにこれらの任意の混合物からなる群から選択される材料を含み得る。本明細書で用語「天然又は合成グラファイト」を用いることで、このグラファイトが、本発明の主固形潤滑剤として用いられるグラファイト小板とは異なることが理解される。
【0081】
存在する場合、固形無機潤滑剤粒子は、例えば0.01~10重量%の範囲の量で存在し得るが、より大きな量が用いられてもよい。好ましくは、こうした固形潤滑剤が少しでも用いられる場合、その量は、0.01~7.5重量%、又は更には0.01~5重量%の範囲に限定され、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0082】
本組成物は補助添加剤も含み得る。補助添加剤の例には、離型剤、顔料、並びに熱安定剤、酸化安定剤、紫外線安定剤、及び化学安定剤などの安定剤が含まれる。存在する場合、こうした補助添加剤は、典型的には例えば0.01~10重量%の範囲内の限られた量で用いられる。好ましくは、少しでも用いられる場合、その量は、0.01~7.5重量%、0.01~5重量%、又は更には0.01~2.5重量%の範囲に限定され、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0083】
本発明に関連して、その他の構成成分(d)は、好ましくはポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、又はグラファイトではない。
【0084】
したがって、一実施形態では、摺動要素に使用するための熱可塑性組成物は、
- 60~95重量%のAA-BBタイプのポリアミドである第1のポリアミド(a)、
- 0.5~10重量%、好ましくは1~10重量%、より好ましくは2~10重量%、更により好ましくは2~8重量%、更により好ましくは2~6重量%、更により好ましくは4~6重量%、更により好ましくは4~5重量%、最も好ましくは4~4.95重量%の、ABタイプのポリアミドである第2のポリアミド(b)、及び
- 0.5~35重量%、好ましくは1~35重量%、より好ましくは1~30重量%、更により好ましくは1~25重量%、更により好ましくは1~20重量%、最も好ましくは1~19重量%の、官能基改質ポリオレフィン(c)を含み、
ここで重量%は前記熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0085】
上記の実施形態の組成物は、
- 0~30重量%の少なくとも1つのその他の構成成分(d)を更に含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0086】
或いは、上記の組成物は、
- 0.01~10重量%の補助添加剤を更に含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0087】
或いは、上記の組成物は、
- 0.01~10重量%の補助添加剤、並びに
- 0.01~20重量%の無機充填剤及び/又は繊維強化剤を更に含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0088】
更なる実施形態では、摺動要素に使用するための熱可塑性組成物は、
- 70~95重量%のAA-BBタイプのポリアミドである第1のポリアミド(a)、
- 0.5~10重量%、好ましくは1~10重量%、より好ましくは2~10重量%、更により好ましくは2~8重量%、更により好ましくは2~6重量%、更により好ましくは4~6重量%、更により好ましくは4~5重量%、最も好ましくは4~4.95重量%の、ABタイプのポリアミドである第2のポリアミド(b)、及び
- 0.5~25重量%、好ましくは1~25重量%、より好ましくは1~20重量%、最も好ましくは1~19重量%の官能基改質ポリオレフィン(c)を含み、
ここで重量%は前記熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0089】
上記の更なる実施形態の組成物は、更に、
- 0~20重量%の少なくとも1つのその他の構成成分(d)を含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0090】
或いは、上記の組成物は、更に
- 0.01~10重量%の補助添加剤を含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0091】
或いは、上記の組成物は、更に
- 0.01~5重量%の補助添加剤、並びに
- 0.01~15重量%の無機充填剤及び/又は繊維強化剤を含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0092】
なお別の更なる実施形態では、摺動要素に使用するための熱可塑性組成物は、
- 70~90重量%のAA-BBタイプのポリアミドである第1のポリアミド(a)、
- 1~10重量%、好ましくは2~10重量%、より好ましくは2~8重量%、更により好ましくは2~6重量%、更により好ましくは4~6重量%、更により好ましくは4~5重量%、最も好ましくは4~4.95重量%の、ABタイプのポリアミドである第2のポリアミド(b)、及び
- 0.5~25重量%、好ましくは1~25重量%、より好ましくは5~25重量%、更により好ましくは5~20重量%、最も好ましくは5~19重量%の、官能基改質ポリオレフィン(c)を含み、
ここで重量%は前記熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0093】
上記の更なる実施形態の組成物は、更に、
- 0~20重量%の少なくとも1つのその他の構成成分(d)を含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0094】
或いは、上記の組成物は、更に
- 0.01~10重量%の補助添加剤を含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0095】
或いは、上記の組成物は、更に
- 0.01~5重量%の補助添加剤、並びに
- 0.01~15重量%の無機充填剤及び/又は繊維強化剤を含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0096】
なお別の更なる実施形態では、摺動要素に使用するための熱可塑性組成物は、
- 70~85重量%のAA-BBタイプのポリアミドである第1のポリアミド(a)、
- 2~10重量%、より好ましくは2~8重量%、更により好ましくは2~6重量%、更により好ましくは4~6重量%、更により好ましくは4~5重量%、最も好ましくは4~4.95重量%の、ABタイプのポリアミドである第2のポリアミド(b)、及び
- 0.5~25重量%、好ましくは5~25重量%、更により好ましくは5~20重量%、更により好ましくは8~20重量%、更により好ましくは10~20重量%、最も好ましくは10~19重量%の、官能基改質ポリオレフィン(c)を含み、
ここで重量%は前記熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0097】
上記の更なる実施形態の組成物は、更に、
- 0~15重量%の少なくとも1つのその他の構成成分(d)を含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0098】
或いは、上記の組成物は、更に
- 0.01~10重量%の補助添加剤を含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0099】
或いは、上記の組成物は、更に
- 0.01~5重量%の補助添加剤、並びに
- 0.01~10重量%の無機充填剤及び/又は繊維強化剤を含んでもよく、ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対するものである。
【0100】
上記の実施形態に関して、ポリアミド(a)、ポリアミド(b)、官能基改質ポリオレフィン(c)、及び少なくとも1つのその他の構成成分(d)の選択に関する更なる実施形態は、本明細書の上記で詳述されたとおりである。具体的には、一実施形態では、第1のポリアミド(a)はPA46、PA66、PA46/6、PA6T/4T、PA6T/4T/DT/DI、これらのコポリアミド又は混合物から選択され、第2のポリアミド(b)はPA6、PA11、PA12、これらのコポリアミド又は混合物から選択される。より好ましくは、第1のポリアミド(a)はPA46、PA66、PA46/6、PA6T/4T、PA6T/4T/DT/DI、これらのコポリアミド又は混合物から選択され、第2のポリアミド(b)はPA6を含む。更により好ましくは、第1のポリアミド(a)はPA46、PA66、PA46/6、PA6T/4T、PA6T/4T/DT/DI、これらのコポリアミド又は混合物から選択され、第2のポリアミド(b)はPA6からなる。更により好ましくは、第1のポリアミド(a)はPA46、PA46/6、PA6T/4T、PA6T/4T/DT/DI、これらのコポリアミド又は混合物から選択され、第2のポリアミド(b)はPA6からなる。
【0101】
驚くべきことに、本発明の熱可塑性組成物が非常に良好な加工性を示し、且つ、有利な耐摩耗性及び(耐衝撃性、曲げ剛性、及び延性などの)機械的性質と組み合わせて優れた摺動特性をそれから作製される成形部品に付与したことが判明した。
【0102】
成形部品の製造は、実施例で説明するように、射出成形などの当業者に既知の標準的方法を用いて実施され得る。
【0103】
加工性、摺動、耐摩耗性、耐衝撃性、曲げ剛性、及び延性の上記の性質は、実施例の「試験方法」の項に記載される方法によって評価した。
【0104】
具体的には、配合又は射出成形中に評価された本発明の熱可塑性組成物の加工性は、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物(すなわち、単にAA-BBタイプの第1のポリアミド(a)及び官能基改質ポリオレフィン(c)のみを含む組成物)の加工性と比較して著しく改善したことが判明した。
【0105】
換言すると、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)及び官能基改質ポリオレフィン(c)を含む組成物中に限られた量のABタイプの第2のポリアミド(b)を添加すると、著しく改善された加工性をもたらすことが判明した。
【0106】
本発明の熱可塑性組成物の加工性を、実施例中で測定される通りにトルク(%)によって評価した際に、ABタイプの第2のポリアミド(b)の量が増加するとトルク(%)が減少することが判明した。すなわち、ABタイプの第2のポリアミド(b)の量が増加すると、本発明の熱可塑性組成物の加工性が増加した。このトルク(%)は、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物のトルク(%)と比較して、約1%、好ましくは約2%、より好ましくは約3%、更により好ましくは約4%、更により好ましくは約5%、更により好ましくは約6%、最も好ましくは約8%低かった。
【0107】
結果として、本発明の熱可塑性組成物の劣化度は、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物の劣化度と比較して著しく低減したことが示された。
【0108】
本発明の熱可塑性組成物の劣化度を、実施例中で測定される通りに粘度数(ml/g)によって評価した際、ABタイプの第2のポリアミド(b)の量が増加すると粘度数(ml/g)が増加することが判明した。すなわち、ABタイプの第2のポリアミド(b)の量が増加すると、本発明の熱可塑性組成物の劣化度が減少した。本発明の熱可塑性組成物の粘度数(ml/g)は、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物の粘度数(ml/g)と比較して、約1%、好ましくは約2%、より好ましくは約3%、更により好ましくは約5%、更により好ましくは約6%、更により好ましくは約8%、最も好ましくは約10%高かった。
【0109】
更なる結果として、本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品は、良好な、又は更には非常に良好な表面外観を有することが判明した。
【0110】
本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品の摺動特性を、実施例で説明する通り、上記の部品の摩擦係数(CoF)を測定することによって評価した。本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品上において、高温(すなわち、60℃~150℃の範囲内)の潤滑(すなわち、油)条件下で評価した摩擦係数は、参照組成物を備える成形部品の摩擦係数と比較して著しく減少しただけでなく、別の摩擦減少添加剤(一般に固形潤滑剤とも称される)を含む対応する材料を含む成形品(moulded)の摩擦係数よりも概して低かったことが判明した。例えば、本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品の性能は、硫化モリブデン、グラファイト、又はPTFEを含有する組成物を含む成形部品の性能よりも高かったことが判明した。
【0111】
「参照組成物」は、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)を含むが、ABタイプの第2のポリアミド(b)と官能基改質ポリオレフィン(c)との組み合わせを含まない組成物として定義される。換言すると、「参照組成物」は、ABタイプの第2のポリアミド(b)及び官能基改質ポリオレフィン(c)を含まない本発明の組成物として定義される。
【0112】
本発明に関連して、例えば、摩擦係数が、実施例の「試験方法」の項に記載されるガイド上チェーン(chain-on-guide)試験で測定される場合では、摩擦の改善は、少なくとも約5%の摩擦係数の低減として定義され、ここで低減%は、参照組成物を含む成形部品の摩擦係数に対するものである。上記の約5%の低減は、チェーンテンショナなどにおける用途に関しては大幅な改善である。
【0113】
摩擦係数が、実施例の「試験方法」の項に記載されるピラミッド上ボール(ball-on-pyramid)試験で、0.01m/sの摺動速度で測定される特定の場合では、摩擦係数の低減は、少なくとも約10%、少なくとも約15%、好ましくは少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約35%、少なくとも約40%、更により好ましくは少なくとも約45%、最も好ましくは少なくとも約50%であり、ここで低減%は、参照組成物を含む成形部品の摩擦係数に対するものである。0.05m/sの摺動速度では、摩擦係数の低減は、少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約40%、更により好ましくは少なくとも約50%、更により好ましくは少なくとも約55%、最も好ましくは少なくとも約60%であり、ここで低減%は、参照組成物を含む成形部品の摩擦係数に対するものである。0.1m/sの摺動速度では、摩擦係数の低減は、少なくとも約25%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約45%、更により好ましくは少なくとも約50%、更により好ましくは少なくとも約60%、最も好ましくは少なくとも約70%であり、ここで低減%は、参照組成物を含む成形部品の摩擦係数に対するものである。典型的には、0.1m/sの摺動速度で決定される本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品の摩擦係数は、0.005~0.1、好ましくは0.005~0.09、0.005~0.07、より好ましくは0.005~0.06、0.005~0.05更により好ましくは0.005~0.04の範囲内であった。
【0114】
驚くべきことに、本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品の摺動特性は、実施例における上記の組成物の測定されたCoFに示されるように、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物を含む成形部品の摺動特性と同じ範囲内にあったことも判明した。換言すると、ABタイプの第2のポリアミド(b)の添加は、得られる成形部品の摺動性能に悪影響を及ぼさなかった。結果として、本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品は、優れた、つまりABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物を含む成形部品の摺動性と同様の摺動性を維持する。
【0115】
優れた摺動特性の他にも、驚くべきことに、本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品は有利な耐摩耗性を示したことが判明した。
【0116】
驚くべきことに、本発明の熱可塑性組成物を備える成形部品の耐摩耗性は、実施例における上記の組成物の耐摩耗性の評価に示されるように、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物を含む成形部品の耐摩耗性と比較して同様か又は改善されたかのいずれかであったことも判明した。更に、本発明の熱可塑性組成物を含む成形組成物と比較したときに、ABタイプの第2のポリアミド(b)を10重量%超(ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対する)の量で含む対応する熱可塑性組成物を含む成形組成物は、耐摩耗性の低減を示したことが判明した。
【0117】
優れた摺動特性及び有利な耐摩耗性の他にも、驚くべきことに、本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品は、耐衝撃性、曲げ剛性、及び延性の有利な機械的性質を示したことが判明した。
【0118】
本発明の熱可塑性組成物は、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物の機械的性質と比較して、有利な機械的性質を示したことが判明した。
【0119】
実施例で示されるように、本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品は、良好な耐衝撃性を維持するか、又は更には、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物と比較して著しく改善された耐衝撃性を示した。
【0120】
また、本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品の曲げ剛性は、実施例における上記の組成物の引張り係数の測定値に示されるように、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物を含む成形部品の曲げ剛性と比較して、同様か又は著しく改善されたかのいずれかであった。具体的には、PA46を含む本発明の熱可塑性組成物から作製された成形部品の曲げ剛性は、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物を含む成形部品の曲げ剛性と比較して著しく改善された。
【0121】
更に、実施例で示されるように、本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品は、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物と比較して、高温(例えば120℃)で良好な降伏強さを維持した。しかしながら、本発明の熱可塑性組成物を含む成形組成物と比較すると、ABタイプの第2のポリアミド(b)を10重量%超(ここで重量%は熱可塑性組成物の総重量に対する)の量で含む対応する熱可塑性組成物を含む成形組成物は、降伏強さの著しい低減、すなわち、10%以上の降伏強さの損失を示した。
【0122】
また更に、本発明の熱可塑性組成物を含む成形部品の延性は、実施例における上記の組成物の破断点伸びの測定値に示されるように、ABタイプの第2のポリアミド(b)を含まない対応する組成物を含む成形部品の延性と比較して、同様か又は著しく改善されたかのいずれかであった。
【0123】
したがって、AA-BBタイプの第1のポリアミド(a)及び官能基改質ポリオレフィン(c)を含む組成物に限られた量の第2のポリアミド(b)を添加することで、著しく改善された加工性を示し、且つ有利な耐摩耗性及び機械的性質と合わせた優れた摺動特性を、それから作製された成形部品に付与する、組成物がもたらされる。
【0124】
上記の利点は、互いに対して摺動するプラスチック要素などの工業用途において特に当てはまる。
【0125】
したがって、本発明の一態様は、摺動要素に使用するためのものであり、且つ本発明の熱可塑性組成物、又は本明細書で上述されたその任意の好ましい実施形態を含む成形部品に関する。
【0126】
本発明の更なる態様は、本発明の熱可塑性組成物、又は本明細書で上述されたその任意の好ましい実施形態を含む摺動要素に関する。
【0127】
一実施形態では、摺動要素は、潤滑式摺動システムに使用するための摺動要素である。
【0128】
別の実施形態では、摺動要素は、チェーンと摺接係合するための摺接部を含み、この摺接部は主に本発明の熱可塑性組成物から作製される、チェーン伝動装置に使用するための摺動要素である。
【0129】
摺動要素は、典型的には、摺接部を支持し、且つ任意選択的に摺接部を強化し、摺動要素全体に曲げ剛性及び捩り剛性を提供することを目的とした本体を有する。本体は、一般的には、それによって本体が基部に固定され得る部分も有する。上記の固定部分は、例えばブッシングを含んでもよく、これにより、本体をブッシングに挿入された金属ピン(このピンは基部に固定されている)に回転自在に取り付けることができる。
【0130】
摺接部及び本体は、同一の材料から作製されてもよいが、摺接部が主な要件として低摩擦特性を有し、これに対して本体が機械的強度、曲げ剛性、及び捩り剛性を提供しなければならず、これらの性質は一方の性質を他方の性質のために損なうことなく組み合わせることが困難であるため、摺接部及び本体は、異なる材料から作製することが好適である。
【0131】
したがって、更なる実施形態では、摺動要素は、摺接部を支持する本体を含み、ここで本体は熱可塑性組成物とは異なる材料で作製される。例えば、本体はプラスチック材料又は金属(アルミニウムなど)、好ましくはプラスチック材料、より好ましくは繊維強化プラスチック材料から作製される。機械的性質のために、摺動要素を、本体が繊維強化熱可塑性材料からなり、表面層は非強化熱可塑性材料からなるように設計することが有利である。
【0132】
摺接部と本体とが異なる材料から作製される場合、摺接部及び本体は、既知の手段によって一体型の摺動要素へと組み合わせられ得る。
【0133】
例えば、摺接部は本体上に表面層を構成する。摺動要素は、本体上にオーバーモールドされて、本体と機械的にインターロックされ得る。好適には、表面層は5μm~5mmの厚さを有するが、表面層はまた、5mmより厚くてもよく、或いは5μmより薄くてもよい。
【0134】
本体が第2のプラスチック材料から作製される場合、摺接部と強化本体との間の接合部の一部又は全部が、溶融、例えば振動溶接によって接合されてもよい。別の代替的実施形態では、摺接部の熱可塑性組成物と第2のプラスチック材料とが二成分注入プロセス(2K成形又は2成分成形としても知られる)によって一体的に合わせて成形され、その結果、これらが硬化するとこれらは合わせて固定される。最初に、本体を形成する材料が鋳型に注入され、その直後に続いてコーティング又は表面層を形成する熱可塑性組成物が注入される。
【0135】
好ましくは、本体が第2のプラスチック材料から作製される場合、摺接部は本体と一体成形される。
【0136】
チェーンガイド、及びチェーンテンショナに対して使用可能な代替的実施形態では、摺接部は、本体と機械的にインターロックした摺動翼に含まれ得る。本体へのインターロックは、例えば、端部を有する摺動翼を、本体の両端部に形成された溝に挿入することによって達成することができる。摺動翼は、それから摺接部が作製される熱可塑性組成物のみからなってもよく、或いは、熱可塑性組成物とは異なる第2の材料から作製された基部を含み、一方で摺接部が基部上に表面層を構成してもよい。摺接部と基部とが異なる材料から作製される場合、摺接部及び本体に関して上述したものと同じ方法によって、摺接部及び基部が一体型の摺動翼へと組み合わせられてもよい。
【0137】
基部は、異なる材料から作製される場合、好ましくはプラスチック材料、より好ましくは繊維強化プラスチック材料から作製される。基部が第2のプラスチック材料から作製される場合、摺接部は、好ましくは基部と一体成形される。
【0138】
本発明の摺動要素は、有利には(油中の)潤滑剤によって摺動する。摺動要素は、有利には、摺動システム、より具体的にはタイミングチェーン駆動システム、例えば機関、トランスミッション・デファレンシャル、及び駆動シャフトシステムを含むパワートレイン駆動システム内で使用するためのものである。具体的には、機関は潤滑式チェーン駆動システムを備える内燃機関である。
【0139】
こうしたシステムにおいて、摺動要素は、機関の実用中に潤滑式チェーンと摺接する。具体的には、これらの摺動要素はチェーンガイド及びチェーンテンショナアームである。
【0140】
本発明の摺動要素は、ギア又は軸受部の一部分であることもできる。
【0141】
本発明は、潤滑式摺動システム内に本発明の表面層若しくは軸受部を含むか、又は表面層を含む摺動要素を含むチェーンガイド及びチェーンテンショナのそれぞれにも関する。潤滑式摺動システムは、好適には、機関、トランスミッション・デファレンシャル、及び駆動シャフトシステムを含むパワートレイン駆動システムである。
【0142】
本発明は、機関、トランスミッション・デファレンシャル、及び駆動シャフトシステム、駆動チェーン、並びに潤滑式駆動チェーンと接触する摺動要素を含むプラスチック構成部品を備えるパワートレイン駆動システムにも関する。好ましくは、パワートレイン駆動システム内の摺動要素は、本明細書の上記で更に詳細に説明された、本発明の摺動要素又はその任意の好ましい実施形態である。
【0143】
本発明の更なる態様は、第2の要素と摺接係合する部分を含む第1の要素を備える機関に関する。第2の要素と摺接係合する部分は、本明細書では摺接部と称される。本明細書では、第1の要素は摺動要素であり、この摺動要素において、少なくとも摺接部が、本明細書で上述された本発明の熱可塑性組成物又はその任意の好ましい実施形態から作製されるか、或いは少なくとも主に作製される。好適には、第1の要素、すなわち摺動要素は、チェーンガイド、チェーンテンショナ、ギア、又は軸受部の一部分である。
【0144】
更に、本発明の更なる態様は、チェーンと、チェーンと摺接係合する摺接部を含む摺動要素と、を含むチェーン伝動装置に関し、ここでは摺接部が、本明細書で上述された本発明の熱可塑性組成物又はその任意の好ましい実施形態から作製されるか、或いは少なくとも主に作製される。チェーン伝動装置内の摺動要素は、好適にはチェーンガイド又はチェーンテンショナである。チェーン伝動装置は、好適にはチェーン駆動式タイミングシステムである。好ましい実施形態では、チェーン伝動装置は、有利には(油)潤滑式摺動システムであるが、非潤滑式摺動システムであってもよい。
【0145】
本明細書における先行技術として与えられた特許文献又はその他の内容に対する参照は、特許請求の範囲のいずれの優先日の時点で、当該文献又は内容が公知であったこと、或いはそれに含まれる情報が一般共通の知識の一部であった認めるものと解釈されるものではない。
【0146】
本発明を、以下の実施例及び比較実験によって更に例示する。
【0147】
[実施例]
[材料]
PA46 ポリアミド46(DSM、オランダ)、VN=205ml/g、Tm=290℃、NH2末端基含量=24meq/kg
PA66 ポリアミド66(DSM、オランダ)、VN=168ml/g、Tm=260°C、NH2末端基含量=30meq/kg
PPA ポリアミド6T/4T/6I(54/24/22mol/mol/mol)(DSM、オランダ)、VN=125ml/g、Tm=322℃、NH2末端基含量=40meq/kg
PA6 ポリアミド6(DSM、オランダ)、VN=115ml/g、Tm=220℃、NH2末端基含量=54meq/kg
MAH-EP Exxelor(商標)VA1801(ExxonMobil Chemical):無水マレイン酸(MAH)改質エチレンプロピレンコポリマー(EP)、MAH含量=0.62重量%、MFR(230℃、2.16kg負荷)=2g/10分、密度=880kg/m3
Stanyl(登録商標)HGR2 ポリアミド46+PTFE(DSM、オランダ)
レオナ(Leona)(商標)1542 ポリアミド66+PTFE(旭化成株式会社、日本)
【0148】
[熱可塑性組成物の調製(配合)]
熱可塑性組成物を、Berstorff ZE25/48UTX同時回転二軸スクリュー押出機内で、PA46及び様々な充填剤から調製した。押出機の温度設定は、押出機の出口における溶融温度が典型的には330℃であるようなものであった。PA46を含む組成物を、表1及び表3に記載する。
【0149】
熱可塑性組成物を、Berstorff ZE25/48UTX同時回転二軸スクリュー押出機内で、PA66及び様々な充填剤から調製した。押出機の温度設定は、押出機の出口における溶融温度が典型的には310℃であるようなものであった。PA66を含む組成物を、表1及び表4に列挙する。
【0150】
熱可塑性組成物を、Berstorff ZE25/48UTX同時回転二軸スクリュー押出機内で、PPA及び様々な充填剤から調製した。押出機の温度設定は、押出機の出口における溶融温度が典型的には350℃であるようなものであった。PPAを含む組成物を表1に記載する。
【0151】
[射出成形部品の調製]
表1で報告され、射出成形試験試料の作製に用いられたPA46、PA66、PPAベースの熱可塑性組成物を、以下の条件を適用することによって予備乾燥させた:組成物を、0.02MPaの真空下で、PA46及びPPAベース組成物の場合は105℃、PA66ベース組成物の場合は80℃に加熱し、これらの温度及び圧力を24時間維持して、その間窒素流を流した。予備乾燥した組成物を、空洞を備えた鋳型を用いて、射出成形機Arburg A150(40mm機)上で射出成形し、下記の特性評価試験に用いる試験試料(例えばストリップ、バー、プレート)を提供した。シリンダー壁の温度は、溶融温度が、PA46及びPA66ベース組成物の場合はポリアミドの溶融温度よりも20℃高くなるように、またPPAベース組成物の場合はポリアミドの溶融温度よりも10℃高くなるように選択した。鋳型の温度を、PA46及びPPAベース組成物の場合は120℃に設定し、PA66ベース組成物の場合は80℃に設定した。このように得た部品を、下記の特性評価試験に使用する前に室温の乾燥条件下で冷却及び貯蔵した。
【0152】
[試験方法]
[溶融温度(Tm)]
ポリアミドの溶融温度(℃)を、ISO-11357-1/3、2011に従いDSC法に従い、N2雰囲気下、10℃/分の加熱/冷却速度で、予備乾燥した試料上で測定した。本明細書では、Tmは、第2の加熱サイクルにおける最高溶融ピークのピーク値から計算した。
【0153】
[アミノ(NH2)末端基含量]
ポリアミド中のアミノ末端基含量(meq/kg)を、0.03Nの塩酸を含むポリアミドのメタノール溶液を滴定することにより電位差滴定で決定した。
【0154】
[溶融流量(MFR)]
MAH改質ポリオレフィンの溶融流量を、ASTM標準D1238に従う方法によって、230℃及び2.16kg負荷で決定した。
【0155】
[無水マレイン酸(MAH)含量]
MAH改質ポリオレフィンの膜を溶融加圧(melt-pressing)によって調製し、Perkin Elmer Spectrum One FT-IR分光計を用いて上記の膜に対するFT-IRスペクトルを記録した。ピーク高さの測定を、吸光度スペクトルに対して行った。膜厚さの差異の補正は、722cm-1ピークであるMAH改質ポリオレフィンの振動信号を用いてスペクトルを正規化することによって行った。722cm-1(H1)におけるピーク高さの決定の場合、ベースラインを2000cm-1と640cm-1との間に引く。1862cm-1(H2)におけるピーク高さの決定の場合、ベースラインを1910cm-1と1640cm-1との間に引く。試料上のMAHの重量パーセントは、以下の式を用いて計算する:MAH(重量%)=4.2176*(H2/H1)
【0156】
[密度]
改質ポリオレフィンの密度(kg/m3)は、ISO標準ISO1183に従う方法によって測定した。
【0157】
加工性
配合中の熱可塑性組成物の加工性は、300rpm及び押出量20kg/時で動作するZE25/48UTX Berstorff押出機内でこれを調製する間のトルク(%)を測定することによって評価した。
射出成形中の熱可塑性組成物の加工性は、得られた成形部品の表面外観の視覚的評価に基づいて決定した。
【0158】
[粘度数(VN)]
配合後のポリアミド又は熱可塑性組成物の粘度数(ml/g)は、25℃で、ISO307に従う方法によって決定した(PPA及びPA66の場合は96重量%の硫酸中0.5重量%、PA6及びPA46の場合は90重量%のギ酸中0.5重量%)。
【0159】
[引張り係数]
成形試験試料の引張り係数(MPa)は、50mm/分及び23℃で、ISO527に従う引張り試験において測定した。
【0160】
[降伏強さ]
成形試験試料の引張り係数(MPa)は、50mm/分及び120℃で、ISO527に従う引張り試験において測定した。
【0161】
[破断点伸び]
成形試験試料の破断点伸び(%)は、23℃又は120℃及び50mm/分で、ISO527に従う引張り試験において測定した。
【0162】
[耐衝撃性(すなわち、衝撃強さ)]
成形試験試料の衝撃強さ(kJ/m2)は、ISO179/1eUに従い23℃でのシャルピーノッチ付き(Charpy notched)衝撃強さ試験、及びISO180に従い-20℃でのアイゾッドノッチ付き(Izod notched)衝撃強さ試験において決定した。
【0163】
[ガイド上チェーン(chain-on-guide)試験における摩擦係数(CoF)の測定]
チェーン(Schaeffler I6G2、84環、表面粗さRA約0.1μm~0.2μm)を、2つの同一のスプロケット(B1)と(B2)との間に設置し(Schaeffler、z=24)、
図1に示すように、スプロケットに670N±10Nの力でプレストレスを与えた。寸法が30mm(幅)×125mm(長さ)×2mm(厚さ)の成形ストリップ試験試料を、曲率半径110mmの支持体(C)上に取り付けた。成形ストリップ試験試料(D)及び支持体(C)を、100N相当の支持力(F
S)でチェーンに押し付けた。システムをコンパートメント内に設置し、市販のエンジンオイル(Castrol Edge 5W30 FST)を流量2rpm及び2バールでチェーンの位置E1及びE2に吹き付けることによって試験温度(120℃)に加熱した。このシステムを1時間平衡化させた。次に、支持力(F
S)を175N±5Nに増加させ、スプロケットB1を駆動することによって、定速で1時間チェーンをプラスチック製ガイド上で走らせた(スプロケット速度:1000rpm、チェーン摺動速度:2.55m/s)。この慣らし運転段階の後に、スプロケットの速度を500rpmから5000rpmに段階的に増加させることによって実際の摩擦測定を開始した。各スプロケット速度で、システムを最初に5秒間平衡化させ、その後、抵抗力(F
D)及び支持力(F
S)を5秒間記録した。これらの5秒間にわたる平均をCoFの計算に用いた。2つの速度レベル間の段階増加には3秒間を要した。CoFは、比F
D/F
Sから決定し、式中F
Dは抵抗力でありF
Sは支持力である。
【0164】
[ピラミッド上ボール(ball-on-pyramid)試験における摩擦係数(CoF)の測定]
セットアップは、Anton-Paar Tribo-cell T-BTPとして市販されており、これをAnton-Paar MCR 501レオメーターに取り付ける。寸法が6mm(幅)×15mm(長さ)×2mm(厚さ)の3つの同一な成形試験試料A1、A2、及びA3を、
図2に示すように45度の配向角下に置いた。試験試料をISO527 1A引張り試験バーのグリップ部から取った。試験前の試料の表面粗さは、RA=0.2μmよりも良好であった。クロム鋼製ボール(B)(ISO3290 G20、直径12.7mm、表面粗さRA約0.03μm)を中央に置き、3つのプラスチック製試料で支持した。プレート上ボール(ball-on-plate)組立体を、ボールとプラスチックとの間の接点が油中に沈むように油浴(C)(Castrol Edge 5W30)内に置いた。その後、組立体の全体を試験温度(120℃)に加熱し、30分間平衡化した。ボールに垂直荷重を加え(1N)、システムを10分
-1で10分間稼働させた(接点で4.7 10
-3m/sの摺動速度)。次に速度掃引を開始し、ここでは10
-4m/sから1m/sまでの異なる速度レベルで段階的に摩擦を測定した。各速度で、ボールをプラスチック表面上で少なくとも30mm摺動させ、この距離にわたる平均値としてCoFを報告した。
【0165】
[耐摩耗性]
成形試験試料の耐摩耗性は、ピラミッド上ボール試験に従う摩擦係数の測定後に、最深/最良可視摩耗マークを有する試験試料上のマークの深さを評価することによって決定した。
【0166】
[実施例及び比較実施例]
[実施例I~IX及び比較実施例A~G]
[実施例I、II、III(EX I、EX II、EX III)]
EX I、EX II、及びEX IIIを、表1の組成に従って調製し、ここでは全ての組成が、PA6(4.5重量%)及びMAH-EP(5重量%、10重量%、及び19重量%)と組み合わせてPA46を含んでいた。
【0167】
[比較実施例A、B、C(CEX A、CEX B、CEX C)]
CEX A及びCEX Bを、表1の組成に従って調製した。CEX C(Stanyl(登録商標)HGR2)は、PA46及びPTFEを含む市販の組成物である。
【0168】
[実施例IV、V、VI(EX IV、EX V、EX VI)]
EX IV、EX V、及びEX VIを、表1の組成に従って調製し、ここでは全ての組成が、PA6(4.5重量%)及びMAH-EP(5重量%、10重量%、及び19重量%)と組み合わせてPA66を備えていた。
【0169】
[比較実施例D、E(CEX D、CEX E)]
CEX Dを、表1の組成に従って調製した。CEX E(Leona(商標)1542)は、PA66及びPTFEを含む市販の組成物である。
【0170】
[実施例VII、VIII、IX(EX VII、EX VIII、EX IX)]
EX VII、EX VIII、及びEX IXを、表1の組成に従って調製し、ここでは全ての組成が、PA6(4.5重量%)及びMAH-EP(5重量%、10重量%、及び19重量%)と組み合わせてPPAを含んでいた。
【0171】
[比較実施例F、G(CEX F、CEX G)]
CEX F及びCEX Gを、表1の組成に従って調製した。
【0172】
結果
摩擦試験の結果を表1に示す。
【0173】
物理的及び機械的試験の結果を表2に示す。
【0174】
【0175】
表1の結果は、参照PA46、PA66、及びPPA組成物(それぞれCEX A、CEX D、及びCEX Fである)が、成形部品に高い摩擦レベルを付与したことを示す。したがって、これらの参照組成物は、摺動要素における使用には適さない。
【0176】
上記の参照組成物に、MAH-EPを5重量%から最大19重量%に増加する量で添加し、任意選択的に4.5重量%のPA6を追加的に添加することによって、成形部品の摩擦レベルは著しく低減した。
【0177】
例えば、ピラミッド上ボール試験においては、EX I、EX II、及びEX IIIの摩擦係数は、同じ摺動速度で評価したCEX Aの摩擦係数と比較して約25%~約70%低かった。同様に、ピラミッド上ボール試験において、EX IV、EX V、及びEX VIの摩擦係数は、同じ摺動速度で評価したCEX Dの摩擦係数と比較して約10%~約65%低かった。更に、ピラミッド上ボール試験において、EX VII、EX XIII、及びEX IXの摩擦係数は、同じ摺動速度で評価したCEX Fの摩擦係数と比較して約20%~約75%低かった。
【0178】
摩擦レベルに対するMAH-EP添加の効果は、現実応用試験(real-life application test)(すなわち、ガイド上チェーン試験)においても実証され、ここでは約5%~約25%の摩擦係数の低減が観察され、ここで低減%は、同じスプロケット速度で評価した参照組成物を含む成形組成物の摩擦係数に対するものである。
【0179】
更に、本発明者らは、提示された実施例は、殆どの場合でPTFE(CEX C及びCEX E)を含有する市販の組成物を含む成形部品よりも著しく改善された摩擦レベルを示したことを観察した。
【0180】
また、比較実施例CEX B及びCEX G(MAH-EPを含むがPA6は含まない)の摩擦レベルは、同じ試験で同じ速度レベルで比較した場合、これらの直接の対応物であるEX III及びEX VII(MAH-EP及びPA6を備える)の摩擦レベルと同様であったことも観察された。しかしながら、CEX B及びCEX Gと比較した場合、EX III及びEX VIIは、下記の表2に示す通りの有利な物理的及び機械的性質を示した。
【0181】
【0182】
表2の結果は、限られた量のPA6(すなわち4.5重量%)及び様々な量のMAH-EPを含む本発明の熱可塑性組成物(EX III、EX V、EX VII)が、非常に良好な加工性を有したことを示す。これは、MAH-EPのみを含む熱可塑性組成物(CEX B、CEX G)を著しく超え、また、PTFEを含有する市販の組成物(CEX C及びCEX E)をより著しく超える改善であった。
【0183】
結果として、本発明の熱可塑性組成物の劣化度は、比較実施例におけるものよりも低かった(表2の粘度数に示される通り)。具体的には、EX IIIの粘度数はCEX Bのそれよりも約13%高く、これは著しい改善である。
【0184】
表2の結果は、本発明の熱可塑性組成物は、比較実施例の組成物の機械的性質と比較して有利な機械的性質を示したことを更に示す。
【0185】
例えば、CEX Bと比較すると、本発明者らは、驚くべきことに、EX IIIが、耐衝撃性(例えば、-20℃でのアイゾッドノッチ付き衝撃強さ試験において約90%の増加)、曲げ剛性(例えば、23℃での引張り係数が約4%増加)、及び延性(例えば、120℃での破断点伸びが約50%増加)を著しく改善したことを発見した。
【0186】
更に、本発明者らは、本発明の熱可塑性組成物が、摺動要素におけるその適用に関して良好な耐摩耗性を有していたことを発見した。
【0187】
要約すると、データは、MAH-EPを含む熱可塑性組成物に、限られた量(例えば4.5重量%)のPA6を添加すると、非常に良好な加工性を有し、且つ、有利な耐摩耗性及び(耐衝撃性、曲げ剛性、及び延性などの)機械的性質と組み合わせて優れた摺動特性を付与する、改善された熱可塑性組成物がもたらされることを示した。上記の利点は、摺動要素などの工業用途において特に当てはまり、且つ有益である。
【0188】
[実施例X~XV及び比較実施例H~I]
[実施例X~XV(EX X~EX XV)]
EX X~EX XVを、表3の組成に従って調製し、ここでは全ての組成がPA6(1重量%、2重量%、4.5重量%、6重量%、8重量%、及び10重量%)及びMAH-EP(10重量%)と組み合わせてPA46を含んでいた。
EX XIIは、EX IIに対応する。
【0189】
[比較実施例H(CEX H)]
CEX Hを、表3の組成に従って調製し、ここで上記の組成は、PA6(15重量%)及びMAH-EP(10重量%)と組み合わせてPA46を含んでいた。
【0190】
[比較実施例I(CEX I)]
CEX Iを、表3の組成に従って調製した。
【0191】
[結果]
摩擦、物理的、及び機械的試験の結果を表3に示す。
【0192】
【0193】
表3の結果は、PA46及び10重量%のMAH-PEを含む組成物に、PA6を1重量%から最大10重量%に増加する量で添加することによって、それから作製される成形部品に優れた摺動特性を付与する組成物がもたらされたことを示す。換言すると、PA6を1重量%から最大10重量%に増加する量で添加することは、得られた成形部品の摺動性能に悪影響を及ぼさなかった。
【0194】
しかしながら、CEX H及びCEX Iと比較した場合、EX X及びEX XVは、上記の表3に示す通りの有利な物理的及び機械的性質を示した。
【0195】
表3の結果は、1重量%~10重量%の限られた量のPA6、及び10重量%のMAH-EPを含む本発明の熱可塑性組成物(EX X~EX XV)は、非常に良好な加工性を有したことを示す。これは、10重量%のMAH-EPのみを含む熱可塑性組成物(CEX I)を著しく超える改善であった。
【0196】
結果として、EX X~EX XVの劣化度は、CEX Iのそれよりも低かった(表3の粘度数に示される通り)。具体的には、EX X、EX XI、EX XII、EX XIII、EX XIV、EX XVの粘度数は、CEX Iのそれよりも約2%、4%、6%、8%、11%、13%高かった。
【0197】
表3の結果は、本発明の熱可塑性組成物は、比較実施例の組成物の機械的性質と比較して有利な機械的性質を示したことを更に示す。
【0198】
例えば、CEX Iと比較すると、本発明者らは、驚くべきことに、EX X~EX XVは、維持又は改善された耐衝撃性、維持又は改善された延性、改善された曲げ剛性(例えば、23℃での引張り係数が約1~2%増加)を有したことを発見した。
【0199】
更に、CEX Iと比較すると、本発明者らは、EX X~EX XVが120℃で良好な降伏強さを維持したことを示した。しかしながら、10重量%超の量のPA6は、成形部品に降伏強さの著しい損失(すなわち10%超の損失)を付与した(例えば、15重量%のPA6で約14%の損失)。
【0200】
また、CEX H及びCEX Iと比較して、本発明者らは、驚くべきことに、EX X~EX XVが優れた耐摩耗性を有していたことを発見した。つまり、EX X~EX XVは、PA6を備えないCEX Iの耐摩耗性と比較して改善された耐摩耗性を有し、且つ、EX X~EX XVは、15重量%のPA6を含むCEX Hの耐摩耗性と比較して改善された耐摩耗性を有した。10重量%超の量のPA6は、耐摩耗性の著しい損失を付与した。
【0201】
要するに、データは、10重量%超の量のPA6は、得られた成形部品の全体的な性能に悪影響を及ぼしたことを示した。
【0202】
要約すると、データは、10重量%のMAH-EPを含む熱可塑性組成物に、限られた量(例えば1重量%~10重量%)のPA6を添加すると、非常に良好な加工性を有し、且つ、有利な耐摩耗性及び(耐衝撃性、曲げ剛性、及び延性などの)機械的性質と組み合わせて優れた摺動特性をそれから作製される成形部品に付与する、改善された熱可塑性組成物がもたらされることを示した。上記の利点は、摺動要素などの工業用途において特に当てはまり、且つ有益である。
【0203】
[実施例XVI~XVIII及び比較実施例J及びK]
[実施例XVI~XVIII(EX XVI~EX XVIII)]
EX XVI~EX XVIIIを、表4の組成に従って調製し、ここで全ての組成は、PA6(2重量%、4.5重量%、及び10重量%)及びMAH-EP(10重量%)と組み合わせてPA66を含んでいた。
EX XVIIはEX Vに対応する。
【0204】
[比較実施例J(CEX J)]
CEX Jを、表4の組成に従って調製し、ここで上記の組成は、PA6(15重量%)及びMAH-EP(10重量%)と組み合わせてPA66を含んでいた。
【0205】
[比較実施例K(CEX K)]
CEX Kを、表4の組成に従って調製した。
【0206】
[結果]
摩擦、物理的、及び機械的試験の結果を表4に示す。
【0207】
【0208】
表4の結果は、PA66及び10重量%のMAH-PEを含む組成物に、PA6を2重量%から最大10重量%に増加する量で添加することによって、それから作製される成形部品に優れた摺動特性を付与する組成物がもたらされたことを示す。換言すると、PA6を2重量%から最大10重量%に増加する量で添加することは、得られた成形部品の摺動性能に悪影響を及ぼさなかった。
【0209】
しかしながら、CEX J及びCEX Kと比較した場合、EX XVI及びEX XVIIIは、上記の表4に示す通りの有利な物理的及び機械的性質を示した。
【0210】
表4の結果は、2重量%~10重量%の限られた量のPA6、及び10重量%のMAH-EPを含む本発明の熱可塑性組成物(EX XVI~EX XVIII)は、非常に良好な加工性を有したことを示す。これは、10重量%のMAH-EPのみを備える熱可塑性組成物(CEX K)を著しく超える改善であった。
【0211】
結果として、EX XVI~EX XVIIIの劣化度は、CEX Kのそれよりも低かった(表3の粘度数に示される通り)。具体的には、EX XVI、EX XVII、EX XVIIIの粘度数は、CEX Kのそれよりも約2%、5%、10%高かった。
【0212】
表4の結果は、本発明の熱可塑性組成物は、比較実施例の組成物の機械的性質と比較して有利な機械的性質を示したことを更に示す。
【0213】
例えば、CEX Kと比較すると、本発明者らは、驚くべきことに、EX XVI~EX XVIIIは、維持された耐衝撃性、維持された曲げ剛性、維持又は改善された延性を有していたことを発見した。
【0214】
更に、CEX Kと比較すると、本発明者らは、EX XVI~EX XVIIIが120℃で良好な降伏強さを維持したことを示した。しかしながら、10重量%超の量のPA6は、成形部品に降伏強さの著しい損失(すなわち10%超の損失)を付与した(例えば、15重量%のPA6で約11%の損失)。
【0215】
また、CEX J及びCEX Kと比較して、本発明者らは、驚くべきことに、EX XVI~EX XVIIIが良好な耐摩耗性を維持していたことを発見した。つまり、EX XVI~EX XVIIIは、PA6を含まないCEX Kの耐摩耗性と比較して改善された耐摩耗性を有した。しかしながら、約10重量%の量のPA6(例えばCEX J)は、著しい耐摩耗性の損失を付与した。
【0216】
要するに、データは、10重量%超の量のPA6は、得られた成形部品の全体的な性能に悪影響を及ぼしたことを示した。
【0217】
要約すると、データは、10重量%のMAH-EPを含む熱可塑性組成物に、限られた量(例えば2重量%~10重量%)のPA6を添加すると、非常に良好な加工性を有し、且つ、それから作製される成形部品に有利な耐摩耗性及び(耐衝撃性、曲げ剛性、及び延性などの)機械的性質と組み合わせて優れた摺動特性を付与する、改善された熱可塑性組成物がもたらされることを示した。上記の利点は、摺動要素などの工業用途において特に当てはまり、且つ有益である。
【国際調査報告】