(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-12
(54)【発明の名称】肉ベースの調味料を形成する方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/24 20160101AFI20221205BHJP
A23L 27/21 20160101ALI20221205BHJP
C12N 1/16 20060101ALN20221205BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20221205BHJP
C12N 9/50 20060101ALN20221205BHJP
A23L 33/135 20160101ALN20221205BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20221205BHJP
A23L 13/00 20160101ALN20221205BHJP
【FI】
A23L27/24
A23L27/21
C12N1/16 A
C12N1/20 A
C12N9/50
A23L33/135
A23L23/00
A23L13/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520445
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(85)【翻訳文提出日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 SG2020050555
(87)【国際公開番号】W WO2021066749
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】10201909233U
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509034605
【氏名又は名称】ナショナル ユニバーシティ オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】リ,シンジー
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シャオ クァン
【テーマコード(参考)】
4B018
4B036
4B042
4B047
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
4B018LB09
4B018MD70
4B018ME14
4B018MF12
4B018MF13
4B036LF03
4B036LH38
4B036LH47
4B036LH48
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4B042AG03
4B042AH01
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4B042AP27
4B047LB07
4B047LG50
4B047LG56
4B047LG57
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4B047LP18
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4B050CC07
4B050KK18
4B050LL02
4B065AA01X
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4B065BB14
4B065BB23
4B065BC03
4B065BD08
4B065BD35
4B065BD39
4B065BD42
4B065BD45
4B065CA42
(57)【要約】
肉ベースの調味料を形成する方法であって、肉ベースの加水分解物を非親水性微生物で発酵させて、肉ベースの調味料を形成することを含み、塩の添加を含まない、方法が提供される。この方法から形成される、肉ベースの調味料も提供される。好ましい実施形態では、肉ベースは、豚肉及び牛肉などの非海産食品肉製品を指す。非親水性微生物は、非親水性酵母、非親水性乳酸菌又はそれらの組み合わせを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉ベースの調味料を形成する方法であって、肉ベースの加水分解物を非好塩性微生物で発酵させて、前記肉ベースの調味料を形成することを含み、塩の添加を含まない、方法。
【請求項2】
前記非好塩性微生物は、非好塩性酵母、非好塩性乳酸菌又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非好塩性乳酸菌は、プロバイオティック乳酸菌、乳製品乳酸菌又はそれらの組み合わせである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記発酵させることは、肉ベースの加水分解物を1~20日間にわたって発酵させることを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
発酵させることは、15~45℃の温度で発酵させることを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記非好塩性微生物は、非好塩性酵母であり、及び前記発酵させることは、肉ベースの加水分解物を1~20日間にわたって発酵させることを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記非好塩性微生物は、非好塩性乳酸菌であり、及び前記発酵させることは、肉ベースの加水分解物を1~7日間にわたって発酵させることを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記非好塩性微生物は、非好塩性酵母であり、及び前記発酵させることは、肉ベースの加水分解物を15~40℃の温度で発酵させることを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記非好塩性微生物は、非好塩性乳酸菌であり、及び前記発酵させることは、肉ベースの加水分解物を15~45℃の温度で発酵させることを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記発酵させることは、肉ベースの加水分解物を酵母及び乳酸菌で発酵させることを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記発酵させることは、肉ベースの加水分解物を酵母及び乳酸菌で順次発酵させることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母及び非好塩性乳酸菌の同時接種で発酵させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記発酵させることは、発酵性糖を添加することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記発酵させることの前に、肉ベースの混合物を酵素の存在下で加水分解して、肉ベースの加水分解物を形成することをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記酵素は、プロテアーゼである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記加水分解することは、5.5~7.5のpHで加水分解することを含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記加水分解することは、45~60℃の温度で加水分解することを含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記発酵させることに続いて、前記肉ベースの調味料を熱処理することをさらに含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記熱処理することは、前記肉ベースの調味料を90~121℃の温度で熱処理することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記熱処理することは、前記肉ベースの調味料を30~120分間にわたって熱処理することを含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記熱処理することは、4~6のpHで熱処理することを含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の方法から調製される、肉ベースの調味料。
【請求項23】
10~45mg/mLの遊離アミノ酸濃度を含む、肉ベースの調味料。
【請求項24】
前記肉ベースの調味料の総重量に基づいて2重量%以下のナトリウム含有量を含む、請求項23に記載の肉ベースの調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、肉ベースの調味料を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
動物の食肉処理場又は食肉製造業における副産物は、多くの場合、廃食品として廃棄されるか、又は動物飼料及び肥料などの低価値製品として再利用される。これらの肉ベースの副産物のほとんどは、脂質、タンパク質、ペプチド、遊離アミノ酸、ビタミン及びミネラルを含む、かなりの量の栄養素を含有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、食品廃棄物を削減し、それらを有用な製品に変換する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
本発明は、これらの問題に対処すること及び/又は肉ベースの調味料を形成する改善された方法を提供することを目的とする。
【0005】
第1の態様によれば、本発明は、肉ベースの調味料を形成する方法であって、肉ベースの加水分解物を非好塩性微生物で発酵させて、肉ベースの調味料を形成することを含む方法を提供する。特定の態様によれば、この方法は、塩の添加を含まない。
【0006】
非好塩性微生物は、任意の適切な微生物であり得る。例えば、非好塩性微生物は、非好塩性酵母、非好塩性乳酸菌又はそれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されるものではない。
【0007】
特定の態様によれば、非好塩性微生物は、非好塩性酵母であり得る。
【0008】
特定の態様によれば、非好塩性微生物は、非好塩性乳酸菌であり得る。特に、非好塩性乳酸菌は、プロバイオティック乳酸菌、乳製品乳酸菌又はそれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されるものではない。
【0009】
発酵させることは、肉ベースの加水分解物を適切な期間にわたって発酵させることを含み得る。例えば、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を1~20日間にわたって発酵させることを含み得る。
【0010】
発酵させることは、肉ベースの加水分解物を適切な温度で発酵させることを含み得る。例えば、発酵させることは、15~45℃の温度で発酵させることを含み得る。
【0011】
特定の態様によれば、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母で1~20日間にわたって発酵させることを含み得る。発酵させることは、15~40℃の温度で行われ得る。
【0012】
別の特定の態様によれば、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性乳酸菌で1~7日間にわたって発酵させることを含み得る。発酵させることは、15~45℃の温度で行われ得る。
【0013】
別の特定の態様によれば、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母及び非好塩性乳酸菌で発酵させることを含み得る。例えば、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母及び非好塩性乳酸菌で順次発酵させることを含み得るか、又は発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母及び非好塩性乳酸菌の同時接種で発酵させることを含み得る。
【0014】
発酵させることは、発酵性糖を添加することをさらに含み得る。
【0015】
別の特定の態様によれば、方法は、発酵させることの前に、肉ベースの混合物を酵素の存在下で加水分解して、肉ベースの加水分解物を形成することをさらに含み得る。酵素は、任意の適切な加水分解酵素であり得る。例えば、酵素は、プロテアーゼであり得るが、これに限定されるものではない。
【0016】
加水分解することは、適当な条件下で行われ得る。例えば、加水分解することは、適切なpH及び温度で行われ得る。特に、加水分解することは、5.5~7.5のpHで行われ得る。特に、加水分解することは、45~60℃の温度で行われ得る。
【0017】
方法は、発酵させることに続いて、肉ベースの調味料を熱処理することをさらに含み得る。熱処理することは、適切な条件下で行われ得る。例えば、熱処理することは、適切な温度及びpHで適切な期間にわたって行われ得る。特に、熱処理することは、90~121℃の温度におけるものであり得る。特に、熱処理することは、30~120分間にわたるものであり得る。特に、熱処理することは、4~6のpHにおけるものであり得る。
【0018】
第2の態様によれば、本発明は、第1の態様の方法から調製される、肉ベースの調味料を提供する。
【0019】
第3の態様によれば、10~45mg/mLの遊離アミノ酸を含む、肉ベースの調味料も提供される。特に、肉ベースの調味料は、肉ベースの調味料の総重量に基づいて2重量%以下のナトリウム含有量を含み得る。
【0020】
図面の簡単な説明
本発明を十分に理解し、容易に実用化するために、ここで、非限定的な例としてのみ、例示的な実施形態を説明し、その説明は、添付の例示的な図面を参照するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に従った方法の概略図を示す。
【
図2】本発明の一実施形態に従った方法の一部の概略図を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に従った方法の一部の概略図を示す。
【
図4】本発明の一実施形態に従った方法の一部の概略図を示す。
【
図5a】酵素加水分解中の加水分解度(DH)を示す。
【
図5b】4種類のプロテアーゼ(n=3)を使用した6時間の加水分解後におけるタンパク質の回収率を示す。
【
図6a】酵母細胞数の経時変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図6b】カンジダ・バーサチルス(Candida versatilis)NCYC1433、トルラスポラ・デルブルツキ(Torulaspora delbrueckii)プレリュード、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MERIT.ferm及びピキア・クルイベリ(Pichia kluyveri)フロートゼンによって発酵された豚肉切り落とし加水分解物のpHの経時的変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図7】カンジダ・バーサチルス(Candida versatilis)NCYC1433、トルラスポラ・デルブルツキ(Torulaspora delbrueckii)プレリュード、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MERIT.ferm及びピキア・クルイベリ(Pichia kluyveri)フロートゼンによって発酵された豚肉切り落とし加水分解物中の総還元糖及び有機酸の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図8a】酵母1433、プレリュード、メリット及びフロートゼンによって発酵された豚肉切り落とし加水分解物中の酸のGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図8b】酵母1433、プレリュード、メリット及びフロートゼンによって発酵された豚肉切り落とし加水分解物中のエタノールのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図8c】酵母1433、プレリュード、メリット及びフロートゼンによって発酵された豚肉切り落とし加水分解物中のエタノールを除くアルコールのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図8d】酵母1433、プレリュード、メリット及びフロートゼンによって発酵された豚肉切り落とし加水分解物中のアルデヒドのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図8e】酵母1433、プレリュード、メリット及びフロートゼンによって発酵された豚肉切り落とし加水分解物中のケトンのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図8f】酵母1433、プレリュード、メリット及びフロートゼンによって発酵された豚肉切り落とし加水分解物中のエステルのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図8g】酵母1433、プレリュード、メリット及びフロートゼンによって発酵された豚肉切り落とし加水分解物中のフランのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図9a】乳酸菌(LAB)細胞数の経時的変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図9b】ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)PCC、Lb.プランタルム(Lb. plantarum)299V、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜株DSM20069、Lb.ラムノサス(Lb. rhamnosus)GG、Lb.アシドフィルス(Lb. acidophilus)NCFM及びLb.カゼイ・シロタ(Lb. casei Shirota)によって発酵された豚肉切り落とし加水分解物のpHの経時的変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図10】乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)PCC、Lb.プランタルム(Lb. plantarum)299V、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜株DSM20069、Lb.ラムノサス(Lb. rhamnosus)GG、Lb.アシドフィルス(Lb. acidophilus)NCFM及びLb.カゼイ・シロタ(Lb. casei Shirota)によって発酵された豚肉切り落とし加水分解物中の総還元糖及び有機酸の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図11a】乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)PCC、Lb.プランタルム(Lb. plantarum)299V、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜株DSM20069、Lb.ラムノサス(Lb. rhamnosus)GG、Lb.アシドフィルス(Lb. acidophilus)NCFM及びLb.カゼイ・シロタ(Lb. casei Shirota)によって発酵された肉ソースサンプル中の酸のGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図11b】乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)PCC、Lb.プランタルム(Lb. plantarum)299V、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜株DSM20069、Lb.ラムノサス(Lb. rhamnosus)GG、Lb.アシドフィルス(Lb. acidophilus)NCFM及びLb.カゼイ・シロタ(Lb. casei Shirota)によって発酵された肉ソースサンプル中のアルコールのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図11c】乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)PCC、Lb.プランタルム(Lb. plantarum)299V、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜株DSM20069、Lb.ラムノサス(Lb. rhamnosus)GG、Lb.アシドフィルス(Lb. acidophilus)NCFM及びLb.カゼイ・シロタ(Lb. casei Shirota)によって発酵された肉ソースサンプル中のアルデヒドのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図11d】乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)PCC、Lb.プランタルム(Lb. plantarum)299V、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜株DSM20069、Lb.ラムノサス(Lb. rhamnosus)GG、Lb.アシドフィルス(Lb. acidophilus)NCFM及びLb.カゼイ・シロタ(Lb. casei Shirota)によって発酵された肉ソースサンプル中のケトンのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図11e】乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)PCC、Lb.プランタルム(Lb. plantarum)299V、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜株DSM20069、Lb.ラムノサス(Lb. rhamnosus)GG、Lb.アシドフィルス(Lb. acidophilus)NCFM及びLb.カゼイ・シロタ(Lb. casei Shirota)によって発酵された肉ソースサンプル中のフランのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
a,b,c:異なる日の同じサンプル内の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
A、B、C:同じ発酵日のサンプル間の値で同じ文字が続くものは、有意差がない(P>0.05)。
【
図12a】L.ファーメンタム(L. fermentum)の単独培養物について、豚肉加水分解物発酵中におけるラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)のpH及び増殖の変化を示す。
【
図12b】P.クルイベリ(P. kluyveri)の単独培養物について、豚肉加水分解物発酵中におけるピキア・クルイベリ(Pichia kluyveri)のpH及び増殖の変化を示す。
【
図12c】同時接種について、豚肉加水分解物発酵中におけるラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)及びピキア・クルイベリ(Pichia kluyveri)のpH及び増殖の変化を示す。
【
図12d】順次接種について、豚肉加水分解物発酵中におけるラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)及びピキア・クルイベリ(Pichia kluyveri)のpH及び増殖の変化を示す。
【
図13a】L.ファーメンタム(L. fermentum)及びP.クルイベリ(P. kluyveri)の異なる接種順序を用いた豚肉加水分解物発酵中におけるグルコースの量の変化を示す。
【
図13b】L.ファーメンタム(L. fermentum)及びP.クルイベリ(P. kluyveri)の異なる接種順序を用いた豚肉加水分解物発酵中におけるコハク酸の量の変化を示す。
【
図13c】L.ファーメンタム(L. fermentum)及びP.クルイベリ(P. kluyveri)の異なる接種順序を用いた豚肉加水分解物発酵中における乳酸の量の変化を示す。
【
図13d】L.ファーメンタム(L. fermentum)及びP.クルイベリ(P. kluyveri)の異なる接種順序を用いた豚肉加水分解物発酵中における酢酸の量の変化を示す。
【
図14a】エタノールのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
【
図14b】酢酸のGC-FIDピーク面積の変化を示す。
【
図14c】ヘキサナールのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
【
図14d】1-ヘキサノールのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
【
図14e】酢酸イソアミルのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
【
図14f】酢酸エチルのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
【
図14g】酢酸ヘキシルのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
【
図14h】酢酸2-フェニルエチルのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
【
図14i】フェニルエチルアルコールのGC-FIDピーク面積の変化を示す。
【
図15a】対照(0℃)及び90、95及び100℃での熱処理中における、pHを5.5に調整した豚肉加水分解物のpH変化を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【
図15b】対照(0℃)及び90、95及び100℃での熱処理中における、pHを4.5に調整した豚肉加水分解物のpH変化を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【
図16a】90、95及び100℃での熱処理中における、pHを5.5に調整した豚肉加水分解物中の糖還元量(mg/mL)を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【
図16b】90、95及び100℃での熱処理中における、pHを4.5に調整した豚肉加水分解物中の糖還元量(mg/mL)を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【
図17a】対照及びpH5.5で熱処理された各サンプルのプロリン量の変化を示す。
【
図17b】対照及びpH4.5で熱処理された各サンプルのプロリン量の変化を示す。
【
図17c】対照及びpH5.5で熱処理された各サンプルのシステイン量の変化を示す。
【
図17d】対照及びpH4.5で熱処理された各サンプルのシステイン量の変化を示す。
【
図17e】対照及びpH5.5で熱処理された各サンプルのメチオニン量の変化を示す。
【
図17f】対照及びpH4.5で熱処理された各サンプルのメチオニン量の変化を示す。
【
図17g】対照及びpH5.5で熱処理された各サンプルのフェニルアラニン量の変化を示す。
【
図17h】対照及びpH4.5で熱処理された各サンプルのフェニルアラニン量の変化を示す。
【
図17i】対照及びpH5.5で熱処理された各サンプルの総遊離アミノ酸含有量の変化を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【
図17j】対照及びpH4.5で熱処理された各サンプルの総遊離アミノ酸含有量の変化を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【
図18a】対照及びpH5.5で熱処理された各サンプルのヘキサナールのGC-MS/FIDピーク面積の変化を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【
図18b】対照及びpH4.5で熱処理された各サンプルのヘキサナールのGC-MS/FIDピーク面積の変化を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【
図18c】対照及びpH5.5で熱処理された各サンプルのフルフラールのGC-MS/FIDピーク面積の変化を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【
図18d】対照及びpH4.5で熱処理された各サンプルのフルフラールのGC-MS/FIDピーク面積の変化を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【
図18e】対照及びpH5.5で熱処理された各サンプルの2-ペンチルフランのGC-MS/FIDピーク面積の変化を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【
図18f】対照及びpH4.5で熱処理された各サンプルの2-ペンチルフランのGC-MS/FIDピーク面積の変化を示す。全ての値は、各サンプル処理の3つの複製の平均±標準偏差である(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
上記で説明したように、食品の無駄を低減し、肉ベースの副産物をより有用な様式で使用する方法に対する必要性がある。本発明は、このような肉ベースの副産物を利用して、それらを肉ベースの調味料に変換するための方法を提供する。
【0023】
概括的には、本発明は、肉ベースの副産物から、高い栄養素含有量及び許容可能な風味プロファイルを有する肉ベースの調味料を形成する方法を提供する。特に、本発明の方法は、肉ベースの副産物の使用を提供し、方法が食塩の添加を含まないようにそれらを肉ベースの調味料に変換し、適切な風味プロファイルを維持しながら、より短期間内に変換を達成できる。
【0024】
第1の態様によれば、本発明は、肉ベースの調味料を形成する方法であって、肉ベースの加水分解物を非好塩性微生物で発酵させて、肉ベースの調味料を形成することを含む方法を提供する。
【0025】
特定の態様によれば、この方法は、塩の添加を含まない。特に、この方法は、塩化ナトリウム含有塩の添加を含まない。このように、方法から形成される肉ベースの調味料は、添加塩のレベルが低減されているか又はゼロであるため、はるかに健康的であり、したがって肉ベースの調味料の消費者の高血圧及び心血管疾患のリスクが減少する。
【0026】
本発明の目的では、肉ベースは、非海産食品肉ベースの製品を指す。特定の態様によれば、肉ベースの加水分解物は、血液、骨、皮膚、肉切り落とし及び/又は非海産食品肉の脂肪組織などであるが、これらに限定されるものではない、非海産食品肉及び/又は非海産食品副産物に由来する、肉ベースの混合物の加水分解物を含み得る。非海産食品肉は、豚肉、羊肉、牛肉、鶏肉又はそれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されるものではない。特定の態様によれば、肉ベースの加水分解物は、液体形態であり得る。
【0027】
非好塩性微生物は、任意の適切な微生物であり得る。本発明の目的では、非好塩性微生物は、例えば、塩濃度が0.2モル/L以下の培地など、低塩含有培地又は無塩含有培地で増殖できる微生物として定義される。非好塩性微生物は、非好塩性酵母、非好塩性乳酸菌又はそれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されるものではない。
【0028】
特定の態様によれば、非好塩性微生物は、非好塩性酵母であり得る。例えば、非好塩性酵母は、トルラスポラ・デルブルツキ(Torulaspora delbrueckii)(T.デルブルツキ(T. delbrueckii))、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(S.セレビシエ(S. cerevisiae))、ピキア・クルイベリ(Pichia kluyveri)(P.クルイベリ(P. kluyveri))又はそれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されるものではない。特に、非好塩性酵母は、T.デルブルツキ(T. delbrueckii)プレリュード、S.セレビシエ(S. cerevisiae)メリット、P.クルイベリ(P. kluyveri)フロートゼン又はそれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されるものではない。さらに具体的には、非好塩性酵母は、P.クルイベリ(P. kluyveri)であり得る。
【0029】
特定の態様によれば、非好塩性微生物は、非好塩性乳酸菌であり得る。特に、非好塩性乳酸菌は、プロバイオティック乳酸菌、乳製品乳酸菌又はそれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されるものではない。例えば、非好塩性乳酸菌は、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)(Lb.ファーメンタム(Lb. fermentum))、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)(Lb.ラムノサス(Lb. rhamnosus))、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)(Lb.プランタルム(Lb. plantarum)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)(Lb.アシドフィルス(Lb. acidophilus))、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)(Lb.カゼイ(Lb. casei))、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜株又はそれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されるものではない。さらに具体的には、非好塩性乳酸菌は、Lb.ファーメンタム(Lb. fermentum)である。
【0030】
別の特定の態様によれば、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母及び非好塩性乳酸菌で発酵させることを含み得る。例えば、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母及び非好塩性乳酸菌で順次発酵させることを含み得る。特に、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母で発酵させ、それに続いて肉ベースの加水分解物を非好塩性乳酸菌で発酵させることを含み得る。代わりに、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性乳酸菌で発酵させ、それに続いて肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母で発酵させることを含み得る。特に、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性乳酸菌で発酵させ、それに続いて肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母で発酵させることを含み得、非好塩性乳酸菌は、Lb.ファーメンタム(Lb. fermentum)であり得、非好塩性酵母は、P.クルイベリ(P. kluyveri)であり得る。
【0031】
別の特定の態様によれば、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母及び非好塩性乳酸菌の同時接種で発酵させることを含み得る。非好塩性酵母及び非好塩性乳酸菌は、上述したようなものであり得る。特に、非好塩性乳酸菌は、Lb.ファーメンタム(Lb. fermentum)であり得、非好塩性酵母は、P.クルイベリ(P. kluyveri)であり得る。
【0032】
発酵させることは、肉ベースの加水分解物を適量の非好塩性微生物で発酵させることを含み得る。特定の態様によれば、発酵させることは、非好塩性微生物を添加して、発酵中に少なくとも1対数CFU/mLの微生物の増加した生存数を得ることを含み得る。例えば、添加される非好塩性微生物の量は、少なくとも4対数CFU/mLであり得る。特に、添加される非好塩性微生物の量は、約5~8対数CFU/mL、6~7対数CFU/mLであり得る。さらに具体的には、非好塩性酵母の添加量は、5~6対数CFU/mLであり得る。さらに具体的には、添加される非好塩性乳酸菌の量は、6~7対数CFU/mLであり得る。
【0033】
発酵させることは、適切な条件下で肉ベースの加水分解物を発酵させることを含み得る。発酵させることは、肉ベースの加水分解物を適切な期間にわたって発酵させることを含み得る。例えば、発酵させることは、肉ベースの加水分解物を1~20日間にわたって発酵させることを含み得る。特に、発酵させることは、2~18日間、3~15日間、5~12日間、7~10日間、8~9日間にわたって発酵させることを含み得る。
【0034】
特定の態様によれば、非好塩性微生物が非好塩性酵母である場合、発酵させることは、1~20日間にわたるものであり得る。特に、発酵させることは、2~18日間、3~15日間、4~14日間、5~12日間、6~11日間、7~10日間、8~9日間にわたるものであり得る。
【0035】
特定の態様によれば、非好塩性微生物が非好塩性乳酸菌である場合、発酵させることは、1~7日間にわたるものであり得る。特に、発酵させることは、1~6日間、2~5日間、3~4日間にわたるものであり得る。さらに具体的には、発酵させることは、1~5日間にわたるものであり得る。
【0036】
特定の態様によれば、非好塩性微生物が非好塩性酵母及び非好塩性乳酸菌である場合、発酵させることは、1~25日間にわたるものであり得る。特に、発酵させることが、肉ベースの加水分解物を非好塩性酵母及び非好塩性乳酸菌で順次発酵させることを含む場合、発酵させることは、2~25日間にわたるものであり得る。例えば、発酵させることは、3~22日間、5~20日間、6~18日間、7~15日間、8~12日間にわたるものであり得る。さらに具体的には、発酵させることは、6~7日間にわたるものであり得る。
【0037】
肉ベースの加水分解物発酵させることが非好塩性酵母及び非好塩性乳酸菌の同時接種を含む場合、発酵させることは、1~20日間にわたるものであり得る。例えば、発酵させることは、2~18日間、3~15日間、4~14日間、5~12日間、6~11日間、7~10日間、8~9日間にわたるものであり得る。さらに具体的には、発酵させることは、5~6日間にわたるものであり得る。
【0038】
発酵させることは、肉ベースの加水分解物を適切な期間、温度で発酵させることを含み得る。例えば、発酵させることは、15~45℃の温度で発酵させることを含み得る。
【0039】
特定の態様によれば、非好塩性微生物が非好塩性酵母である場合、発酵させることは、15~40℃の温度で行われ得る。例えば、発酵させることは、17~38℃、18~35℃、20~32℃、22~30℃、25~28℃の温度で行われ得る。さらに具体的には、温度は、20~35℃であり得る。
【0040】
別の特定の態様によれば、非好塩性微生物が非好塩性乳酸菌である場合、発酵させることは、15~45℃の温度で行われ得る。例えば、発酵させることは、16~40℃、17~38℃、18~35℃、20~32℃、22~30℃、25~28℃の温度で行われ得る。さらに具体的には、温度は、25~40℃であり得る。
【0041】
発酵させることは、肉ベースの加水分解物に発酵性糖を添加することをさらに含み得る。発酵性糖は、任意の適切な発酵性糖であり得る。例えば、発酵性糖は、グルコース、フルクトース、ラクトース又はそれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されるものではない。任意の適量の発酵性糖が付加され得る。例えば、添加される発酵性糖の量は、発酵性糖と肉ベースの加水分解物との総重量に基づいて0.5~5重量%であり得る。特に、発酵性糖類の添加量は、0.5~5重量%、1~4重量%、2~3重量%であり得る。さらに具体的には、量は、グルコースと肉ベースの加水分解物との総重量に基づいて1~2重量%であり得る。
【0042】
特定の態様によれば、方法は、非好塩性微生物を添加する前に肉ベースの加水分解物を熱処理することをさらに含み得る。例えば、熱処理することは、肉ベースの加水分解物の穏やかな低温殺菌又は滅菌を含み得る。熱処理することは、肉ベースの調味料の貯蔵寿命を延長し得、肉ベースの加水分解物を形成する方法中の汚染の危険を低減し得る。特に、熱処理することは、非好塩性微生物を添加する前に望ましくない微生物を除去し得る。
【0043】
熱処理することは、適切な条件下で実行され得る。例えば、熱処理することは、約60~90℃の温度で実行され得る。特に、温度は、約80~90℃であり得る。さらに具体的には、温度は、約85℃であり得る。
【0044】
熱処理することは、適切な期間にわたって実行され得る。熱処理が行われる時間は、熱処理が行われる温度に依存し得る。例えば、熱処理することは、10~45分間にわたるものであり得る。特に、熱処理することは、約15~20分間にわたるものであり得る。さらに具体的には、熱処理することは、約15分間にわたるものであり得る。
【0045】
この方法は、非好塩性微生物を添加する前に、特に肉ベースの加水分解物が上記のように熱処理を受ける場合に肉ベースの加水分解物を冷却することをさらに含み得る。特に、冷却は、肉ベースの加水分解物を例えば約25℃などの周囲温度に冷却することを含み得る。
【0046】
別の特定の態様によれば、方法は、発酵させることの前に、肉ベースの混合物を酵素の存在下で加水分解して、肉ベースの加水分解物を形成することをさらに含み得る。
【0047】
酵素は、任意の適切な加水分解酵素であり得る。例えば、酵素は、プロテアーゼであり得るが、これに限定されるものではない。
【0048】
肉ベースの混合物は、適量の肉副産物と蒸留水とを混合することによって形成され得る。例えば、肉ベースの混合物は、肉副産物と蒸留水とを1:2の重量比で混合することによって形成され得る。
【0049】
加水分解することは、任意の適当な条件下で行われ得る。例えば、加水分解することは、適切なpH及び温度で行われ得る。
【0050】
特に、加水分解することは、5.5~7.5のpHで行われ得る。さらに具体的には、pHは、約5.5~6.5であり得る。適量の酸を加えることによってpHが調整され得る。例えば、酸は、食品等級の酸であり得る。特に、酸は、乳酸であり得る。
【0051】
特に、加水分解することは、45~60℃の温度で行われ得る。さらに具体的には、温度は、約45~55℃であり得る。
【0052】
加水分解することは、適切な期間にわたって行われ得る。例えば、加水分解することは、3~8時間にわたって行われ得る。特に、加水分解することは、3~8時間、4~7時間、5~6時間にわたって行われ得る。さらに具体的には、加水分解することは、4~6時間にわたるものであり得る。加水分解することは、酵素を不活性化させることによって終了され得る。不活性化は、任意の適切な手段で行われ得る。
【0053】
方法は、発酵させることに続いて、肉ベースの調味料を熱処理することをさらに含み得る。熱処理することは、適切な条件下で行われ得る。特に、熱処理することは、メイラード反応によるものであり得る。
【0054】
特定の態様によれば、熱処理することは、適切な温度におけるものであり得る。例えば、熱処理することは、90~121℃の温度におけるものであり得る。特に、熱処理することは、約95~120℃、98~115℃、100~112℃、105~110℃、106~108℃の温度におけるものであり得る。さらに具体的には、温度は、90~100℃であり得る。
【0055】
熱処理することは、適切な期間にわたって行われ得る。例えば、熱処理することは、30~120分間にわたるものであり得る。特に、熱処理することは、約35~115分間、40~110分間、45~100分間、50~90分間、55~75分間、60~70分間にわたるものであり得る。さらに具体的には、熱処理することは、45~60分間にわたるものであり得る。
【0056】
熱処理することは、肉ベースの調味料上において適切なpHで実施され得る。例えば、肉ベースの調味料は、4~6のpHであり得る。特に、pHは、5.2~5.5であり得る。
【0057】
熱処理することは、肉ベースの加水分解物中のヘキサナールなどの優勢なオフフレーバー化合物を除去し得る。熱処理の高温は、揮発性化合物の発生を促進し得、これは、熱処理された肉ベースの調味料にロースト感及び甘い風味を与え得る。
【0058】
本発明の方法の概略図を
図1に示す。特に、
図1は、肉ベースの混合物を加水分解して肉ベースの加水分解物を形成することと;肉ベースの加水分解物を発酵させて肉ベースの調味料を形成することと;肉ベースの調味料を熱処理することとを含む、肉ベースの調味料を形成する一般的な方法を示す。
【0059】
本発明の特定の実施形態による加水分解、発酵及び熱処理は、それぞれ
図2、3及び4に概略的に示す。
【0060】
本発明による方法は、低廃棄物法であり得る。換言すれば、この方法は、廃棄物をほとんど生成せず、同時に肉ベースの調味料を調製する際に廃棄物の肉副産物をアップサイクルする。したがって、本発明の方法は、肉副産物の無駄の問題を克服し、食品の無駄を低減し、さらに付加価値のある機能的な食品を形成する。この方法は、簡単でもあり、高価な溶剤を使用しないために方法のスケールアップが容易である。
【0061】
さらに、この方法は、ときに数ヶ月間の発酵を伴うこともある従来技術の方法と比較して発酵時間の短縮をもたらす。特に、非好塩性微生物発酵は、最小限の化学物質、反応時間を必要とし、副産物をほとんど生成しない。
【0062】
第2の態様によれば、本発明は、第1の態様の方法から調製される、肉ベースの調味料を提供する。
【0063】
第3の態様によれば、10~45mg/mLの遊離アミノ酸を含む、肉ベースの調味料も提供される。例えば、肉ベースの調味料は、15~40mg/mL、20~35mg/mL、22~30mg/mL、25~28mg/mLの遊離アミノ酸を含み得る。特に、肉ベースの調味料は、30~40mg/mLの遊離アミノ酸を含み得る。さらに具体的には、肉ベースの調味料は、35mg/mLの遊離アミノ酸を含み得る。
【0064】
本発明の目的では、遊離アミノ酸は、消化の必要がなく、体内への吸収がより可能な単一アミノ酸として定義される。さらに、遊離アミノ酸は、タンパク質発生の準備ができていてもよい。
【0065】
本発明による肉ベースの調味料は、低ナトリウム含有量を有し得る。例えば、肉ベースの調味料のナトリウム含有量は、2重量%以下であり得る。
【0066】
特定の態様によれば、肉ベースの調味料は、低炭水化物含有量を有し得る。例えば、肉ベースの調味料の炭水化物含有量は、1重量%以下であり得る。
【0067】
ナトリウム及び/又は炭水化物の含有量が少なく、遊離アミノ酸の含有量が高いという観点から、肉ベースの調味料は、非常に健康的であり、人体の吸収のための優れた栄養を提供する。
【0068】
ここで、本発明を一般的に説明したが、これは、例示として提供され、限定することを意図しない以下の実施形態を参照することにより、より容易に理解されるであろう。
【実施例】
【0069】
実施例
実施例1 - 豚肉切り落としからの肉加水分解物の製造
酵素加水分解のプロセスを
図2に概略的に示す。解凍したみじん切り豚生肉切り落としをデュラン(登録商標)ラボラトリーボトル(メルク、独国)内で蒸留水に懸濁(1:2、w/v)した。均質化した後、混合物を最初に水浴(SW22、ユラボ(登録商標)、独国)に30分間入れて、所望の温度に到達させた。次に、1M乳酸(メルク、独国)又は1M水酸化ナトリウム(NaOH)(メルク、独国)溶液を使用して、混合物をこの温度で所望のpHに調整した。引き続いて、各ボトルに1種類のプロテアーゼを特定の酵素/基質比に従って添加し、即座に均質化した。次に、均質化した全てのボトルを水浴に戻し、200rpmの振盪速度で6時間インキュベートした。表1は、予備的な実験結果に従った各酵素のインキュベーション要素の選択を示す。
【0070】
【0071】
加水分解プロセス中、約3.0mLの加水分解物を取り出して新しいチューブに入れ、即座に85℃の水浴に15分間入れて(Nilsang et al., 2005)、0、1、2、3、4、5及び6時間の時間間隔で酵素反応を終了させた。各時点で得られた加水分解物を加水分解度(DH)について分析し、最終的な加水分解物生成物をタンパク質回収率(PR)についてさらに判定した。
【0072】
加水分解度及びタンパク質回収率の判定
各サンプルのDHは、以下の式に従い、α-アミノ窒素(AN)と総窒素(TN)との関係を使用して計算した。
【数1】
【0073】
加水分解物中に存在するα-アミノ窒素の量は、修正ホルムアルデヒド滴定法によって判定した(Nilsang et al., 2005)。可溶性画分の体積を記録して、上清中の総タンパク質を、ケルダール法PR(%)を用い、以下の式を使用して計算した。
【数2】
【0074】
最適化のための実験設計
ボックス-ベンケン設計を採用し、豚肉の加水分解によるアミノ酸の放出を最適化した。判定されたパラメーター及びレベルを表2に示す。
【0075】
【0076】
応答曲面法(RSM)法を適用して、3つの変数の最適レベルを同定した。検討した3つの変数は、温度(A)、E/S比(B)及びpH(C)であった。独立変数の組み合わせの応答曲面としてDHを選択した。最適化式を簡略化するため、表2のE/S比(B)は、%(酵素/基質:w/w)として計算した。推定された応答曲面DHは、以下の2次方程式によって記述され得ると仮定される(Dey & Dora, 2014)。
【数3】
【0077】
式中、Yは、従属変数(DH)であり、β0は、定数であり、βi、βii、βijは、モデルによって推定される係数である。Xi及びXjは、独立変数のレベルである。これらは、応答に対するA、B及びC因子の線形効果、二次効果及び外積効果をそれぞれ表す。モデルは、応答に対する各独立変数の効果を評価した。
【0078】
アミノ酸組成
酵素加水分解によって生成されたサンプルの遊離アミノ酸組成は、150×3.9mm寸法のWaters AccO-Tag Nova-Pak C18カラム、C18が結合した直径4μmの粒度を有するシリカベースの充填剤を使用して実施されたHPLCによって定量化した。ウォーターズAccQ-Tagウルトラケミストリーキット(ダブリン、アイルランド)を使用して、6-アミノキノリル-Nヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AQC)を用いたアミノ基のプレカラム誘導体化を実施した。誘導体化されたアミノ酸のHPLC分析を実施した。
【0079】
豚肉切り落としの酵素加水分解のためのプロテアーゼの評価
加水分解中のDHの推移及び4種類のプロテアーゼによる6時間の加水分解後のPRを
図5に提示する。
図5(a)に示すように、6時間の加水分解後、フレーバーザイムを用いて加水分解した豚肉のDHが45.49%と最も高く、他のプロテアーゼのDHよりも有意に(P<0.05)高く、アルカラーゼ、プロタメックス及びニュートラーゼがそれぞれ25.40%、20.12%及び19.27%のDHでそれに続いた。
図5(a)は、全ての酵素のDHが経時的に増加したことも示すが、フレーバーザイムを除いて、加水分解後の段階で増加の速度が遅くなった。各サンプリング点において、フレーバーザイムのDHは、プロセス全体を通して残りの酵素のDHよりも有意に(P<0.05)高かった。
【0080】
さらに、
図5(b)は、フレーバーザイムが6時間の加水分解後に55.87%の最高のPRを達成し、プロタメックス、アルカラーゼ及びニュートラーゼがそれぞれ55.50%、53.00%及び51.75%でそれに続いたことを示す。しかし、4種類のプロテアーゼ間でPRに有意差はなかった(P≧0.05)。RSMを用いてアミノ酸が豊富な豚肉加水分解物を生成するために、フレーバーザイムを選択した。
【0081】
RSM用いた豚肉切り落としの加水分解の最適化
図5に示すように、フレーバーザイムは、豚肉切り落としの加水分解で最高のDHを得るのに最も適したプロテアーゼである。したがって、RSMをこのプロテアーゼに適用し、DHを表3の独立変数を組み合わせる際の応答因子として選択した。
【0082】
【0083】
各実験の実行は、応答の系統的エラーを低減するためにランダムな順序で独立して実施した。以下の二次モデルは、得られた実験データを分析することによって生成された。
Y=47.77+0.8713A+1.68B+0.9475C-0.725AB+0.3675AC-0.7425BC-2.97A2-3.88B2-4.22C2 (4)
【0084】
式は、補正決定係数(Radj
2)が0.9644であることから、実験から得られたデータと良好な適合性を示し、この式が本研究の変動の96.44%を説明できることが示唆された。モデルの分散分析(ANOVA)を表4に示す。
【0085】
【0086】
モデルのP(確率)値は、有意に(P<0.0001)低く、有意でない(P=0.6225)適合性の欠如があった。判定された係数(R2=0.9844)は、ANOVAの結果に基づく低い実験誤差を反映し、望ましいものであった。酵素と基質との比率(B)は、最大DHを得るのに最も重要な影響を有し、温度(A)及びpH(C)もDHに著しく影響した。さらに、二次項(A2、B2及びC2)は、DHに大きい影響を及ぼした。
【0087】
採用された最適条件は、50.64℃の温度(A)、6.58(w/w)の酵素/基質比(B)及び6.10のpH(C)であった。この条件下で予測される最大DHは、48.04%である。さらに、実験から得られた最大DHは、モデルの予測値に非常に近い値である48.79%であった。全体として、この有意に(P<0.001)適合したモデルは、表4に見られるように、酵素加水分解は、添加した酵素の用量に大きく依存し、次に反応pH及び温度に依存することを示唆した。
【0088】
豚肉切り落とし及び加水分解物のアミノ酸プロファイル
凍結乾燥豚生肉切り落とし(0時間)、凍結乾燥非酵素処理対照A(水浴中6時間、ただし85℃、15分間熱処理なし)、凍結乾燥非酵素処理対照B(水浴中6時間、85℃、15分間熱処理)及び酵素加水分解物(6時間)のアミノ酸組成を表5に示す。
【0089】
サンプルについて、19種類のアミノ酸を測定した。全てのアミノ酸は、6時間の酵素加水分解後、生サンプル及び非酵素処理対照サンプルと比較して約20倍だけ有意に(P<0.05)増加した一方、生サンプル及び対照サンプルの大多数は、互いにほとんど違いを示さなかった(P≧0.05)。これらは、フレーバーザイム加水分解が、タンパク質分解の加速に好ましい効果を有することを示す。得られた結果は、酵素的タンパク質分解が、ペプチド及び遊離アミノ酸を含む低分子量窒素化合物を大量に生成し得ることを立証する。イソロイシン+ロイシン(15.79%)、リジン(9.40%)、バリン(5.95%)、フェニルアラニン(5.78%)及びメチオニン(4.92%)などの必須アミノ酸は、検出された全てのアミノ酸の41.84%を占め、FAO/WHO(1990)が推奨する乳幼児の基準値(40%)さえ超える。
【0090】
表5に見られるように、得られた加水分解物は、グルタミン酸(8.44%)、アスパラギン酸(4.76%)、グリシン(1.97%)、アラニン(5.01%)などの呈味性アミノ酸を高濃度で有し、それらは、総アミノ酸の20.18%を占めていた。加水分解物の総アミノ酸の9.33%を構成するアルギニンは、タンパク質合成及びエネルギー変換を含む多くの生理学的代謝を伴うため、条件付き必須アミノ酸として分類される(Morris, 2005)。ヒスチジン及びグルタミン(7.69%)、トリプトファン(2.00%)並びにメチオニン(4.92%)は、α-トコフェロールとの相乗効果を有する顕著な抗酸化活性を示すことも報告された(Zhang et al., 2017)。しかし、含硫アミノ酸であるシスチンは、総アミノ酸中で最も少ない百分率(0.57%)を占めていた。
【0091】
要約すると、豚肉切り落としの加水分解における4種類の微生物プロテアーゼの有効性が検討され、フレーバーザイムが最も高い加水分解度(DH)を提供することが示された。DHは、酵素/基質比、温度、pH及び反応時間を含む加水分解条件によって著しく影響された。フレーバーザイムのRSMを用いて得られた最適条件は、6時間の加水分解で酵素/基質比、温度及びpHがそれぞれ6.58(w/w)、50.64℃及び6.10であり、最大DHである48.04%がもたらされた。遊離アミノ酸に富む豚加水分解物は、食品香料及び/又は栄養補助食品に加工され得、食品産業における切り落としなどの豚肉副産物の効果的な価値化を可能にする。
【0092】
実施例2 - 酵母を用いた肉加水分解物の発酵
発酵プロセスを
図3に概略的に示す。
【0093】
酵母株及び培養培地
4つの酵母株を使用した。カンジダ・バーサチルス(Candida versatilis)NCYC1433は、イーストカルチャーナショナルコレクション(ノリッジ、英国)から購入し;トルラスポラ・デルブルツキ(Torulaspora delbrueckii)プレリュード、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)MERIT.ferm及びピキア・クルイベリ(Pichia kluyveri)フロートゼンは、クリスチャンハンセン(ヘルスホルム、デンマーク)から入手した。pH5.0であり、1%グルコース、0.5%細菌ペプトン、0.3%酵母エキス、0.3%麦芽エキスを含有する20mLの滅菌酵母麦芽(YM)ブロスに白金耳2つ分の凍結乾燥酵母を移し入れた。接種した酵母を30℃で48時間、静置培養した。滅菌グリセロール(メルク、シンガポール)を各培養物に添加して、30重量%の最終グリセロール濃度を得て、培養物を使用前に-80℃で保存した。
【0094】
【0095】
酵母を用いた肉加水分解物の発酵
解凍した肉加水分解物にグルコース(D-(+)-グルコース一水和物、99.0%以上、メルク、シンガポール)を2%(w/w)の比率で添加し、1Mの乳酸を使用して肉加水分解物の最終pHを4.5±0.05に調整した。次に、混合物を85℃で15分間低温殺菌して室温まで冷却し、接種前にプレーティングすることによって低温殺菌の有効性を検証した。
【0096】
解凍した酵母培養物を10%(v/v)のYMブロスに移し入れ、30℃で48時間静置培養した。同じ方法を用いて別の継代培養を行い、得られた酵母培養物を8000×g、4℃で5分間遠心分離し、5mLの0.85重量%食塩水を使用してペレットを2回洗浄した。
【0097】
引き続いて、各酵母ペレットを低温殺菌した肉加水分解物に再懸濁して、適切な細胞濃度(105~106CFU/mL)に調整した。次に、再懸濁した各酵母培養物3mLを、低温殺菌した肉加水分解物30mLに添加して、105CFU/mLの最終接種細胞数を得て、完全に混合した。接種した食肉加水分解物サンプルは、定期的にサンプリングを行いながら、30℃で15日間静置培養した。未接種の低温殺菌肉加水分解物を同一条件下でインキュベートし、対照として供した。採取したサンプルは、分析前に-20℃で保存した。
【0098】
酵母計数及びpH測定
細胞計数は、0.1%(w/v)滅菌ペプトン水(オクソイド、ベイジングストーク、英国)で連続希釈して、ポテトデキストロース寒天培地(オクソイド、ベイジングストーク、英国)にスプレッドプレーティングして実施した。5日間培養した1433株を除いて、全てのプレートを30℃で48時間培養した。pHは、pHメーター(メトローム、ヘリザウ、スイス)を用いて測定した。
【0099】
総還元糖及び有機酸の分析
対照及び発酵サンプルの総還元糖含有量は、いくつかの修正を加えた3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法(Wood et al., 2012)を用いて判定した。10μLの発酵サンプル及び190μLのDNS試薬を遠心分離管(メルク、シンガポール)内で均等に混合した。その後、チューブを沸騰水浴中で5分間加熱し、アイスボックス内で冷却した。反応したサンプルの100μLを96マイクロタイタープレートにピペットで移し、540nmで読み取った。
【0100】
発酵肉ソースの有機酸抽出物は、Toh and Liu (2017)に記載されている方法を使用して調製した。遠心分離管内において、サンプルに0.1%(v/v)H2SO4のアリコートを1:1(v/v)の比率で添加し、4℃で1時間保存してタンパク質を沈殿させた。チューブを10,000×g、4℃で10分間遠心分離し、0.2μmのミニザルトRC15シリンジフィルター(ザルトリウス、ゲッティンゲン、独国)を通して濾過した後、上清を回収した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による有機酸分析は、スペルコゲルC-610Hカラム(スペルコ、ベルフォンテ、ペンシルベニア州、米国)を使用して実施した。移動相は、0.1%(v/v)H2SO4であり、40℃で0.4mL/分の流量に設定した(Lee et. al., 2013)。有機酸化合物は、SPD-M20A光ダイオードアレイ検出器(島津製作所、京都、日本)内で210nmで検出し、外部標準を用いて定量化した。
【0101】
遊離アミノ酸の分析
発酵肉ソースの遊離アミノ酸は、アクリロニトリル(ACN)(メルク、シンガポール)を使用して抽出し、タンパク質を沈殿させた。600μLのACN、200μLの蒸留水及び200μLのサンプルを遠心分離管内で混合し、4℃で少なくとも1時間保存した。サンプルを10,000×g、4℃で10分間遠心分離し、0.2μmのミニザルトRC15シリンジフィルター(ザルトリウス、ゲッティンゲン、独国)を通して濾過した後、上清を回収した。ウォーターズAccQ-Tagウルトラケミストリーキット(ダブリン、アイルランド)を使用して、6-アミノキノリル-Nヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AQC)を用いたアミノ基のプレカラム誘導体化を実施した。誘導体化されたアミノ酸のHPLC分析を実施した。アミノ酸標準混合物(サーモフィッシャーサイエンティフィック、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)を同定及び定量に使用した。
【0102】
揮発性化合物の分析
発酵肉ソース中の揮発性化合物の抽出と分析は、修正されたプロトコル(Vong and Liu, 2017)を使用して実施した。抽出前にサンプルを解凍し、60℃の水浴内で2分間熱処理した。揮発性化合物は、ガスクロマトグラフィー質量分析計と組み合わせたヘッドスペース固相マイクロ抽出法(HS-SPME)で抽出し、火炎イオン化検出器(GC-MS/FID)で半定量化した。
【0103】
5mLのサンプルをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)中隔付きの20mLガラスバイアルに入れた。85μmのカルボキセン/ポリジメチルシロキサンSPMEファイバー(CAR/PDMS、スペルコ、ベルフォンテ、ペンシルベニア州、米国)を用いて、コンビパルオートサンプラー(CTCアナリティクス、ツヴィンゲン、スイス)を使用して250rpmの撹拌下で60℃30分間、ヘッドスペース揮発性有機物を抽出した。抽出化合物は、DB-FFAPキャピラリーカラム(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm、アジレント、サンタクララ、カリフォルニア州、米国)上でヘリウムをキャリアガスとして用い、流速1.2mL/minで分離した(アジレント5975C三軸MS及びFID)。分離条件(Gao et al., 2016):オーブンの初期温度を40℃で3分間設定し、次に保持せずに毎分5℃の速度で90℃に上昇させ、保持時間7分間で毎分10℃の速度で230℃に上昇させる。
【0104】
化合物の同定は、それらの質量スペクトルと、NIST 8.0及びWiley 275 MSライブラリのデータベースとの比較に基づいていた。化合物の検証は、それらの線形保持指数(LRI)値に基づいていた。各化合物のLRI値は、その保持時間を用いて計算した。GC-FIDのピーク面積を使用して揮発成分を半定量化し、主要な化合物群毎に百分率で表された相対ピーク面積(RPA)を計算した。
【0105】
統計解析
発酵肉ソースの遊離アミノ酸は、アクリロニトリル(ACN)(メルク、シンガポール)使用して抽出し、タンパク質を沈殿させた。600μLのACN、200μLの蒸留水及び200μLのサンプルを遠心分離管内で混合し、4℃で少なくとも1時間保存した。サンプルを10,000×g、4℃で10分間遠心分離し、0.2μmのミニザルトRC15シリンジフィルター(ザルトリウス、ゲッティンゲン、独国)を通して濾過した後、上清を回収した。
【0106】
ウォーターズAccQ-Tagウルトラケミストリーキット(ダブリン、アイルランド)を使用して、6-アミノキノリル-Nヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AQC)を用いたアミノ基のプレカラム誘導体化を実施した。誘導体化されたアミノ酸のHPLC分析を実施した。アミノ酸標準混合物(サーモフィッシャーサイエンティフィック、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)を同定及び定量に使用した。
【0107】
酵母個体数及びpH変化
図6(a)に示すように、増殖パターンは、ワイン酵母株プレリュード、メリット及びフロートゼンについて類似しており、総細胞数は、1日目までにそれぞれ約6.0対数CFU/mLから7.71、7.64及び7.34対数CFU/mLに増加した。その後、細胞数は、15日目までにそれぞれ5.76、6.59及び5.78対数CFU/mLまで徐々に低下した。対照的に、醤油酵母1433の細胞数は、3日目までに5.45対数CFU/mLから7.22対数CFU/mLに有意に(P<0.05)増加し、細胞数が6.10対数CFU/mLに減少する5日目まで比較的安定していた。これらの結果は、豚肉加水分解物が、酵母の増殖をサポートするのに十分な量の酵母同化可能窒素及び微量栄養素を含有含していたことを示した。
【0108】
発酵中の肉ソースのpH変化の時間経過を
図6(b)に示す。全てのサンプルのpH値は、わずかに低下したが、発酵全体を通して4.40~4.50で変動した。これは、
図7に見られるように、少量の酸及びCO
2が生成された結果であった。
【0109】
総還元糖及び有機酸
肉ソース発酵中の総還元糖(主にグルコース)及び有機酸の変化を
図7に示す。
図7(a)に見られるように、全ての酵母発酵サンプルの総還元糖は、24.38mg/mL(0日目)から1.0mg/mL(15日目)に継続的に減少した。実施例では、肉ソースサンプル中の総還元糖は、主にグルコースであり、これは、酵母の主要な炭素及びエネルギー源として機能した。糖の消費量は、酵母の増殖の速度及び規模を反映していた。糖消費の結果は、
図6(a)に示される酵母細胞数データと良好に相関しており、そこでは、ワイン酵母は、積極的に糖を消費して、0日目~1日目に最も増殖した一方、醤油酵母の場合、主な糖消費量は、対数期の1日目~5日目に発生した。
【0110】
全てのサンプルの有機酸の変化を
図7(b)~(g)に示す。クエン酸及び乳酸は、有意な変化を示さなかった(P>0.05)(
図7(b)及び(f))一方、リンゴ酸は、1日目までに生成され、安定したままであった(
図7(c))。4つの酵母株は、発酵中にピルビン酸(
図7(d))及び酢酸(
図7(g))を産生する同様の傾向を示し、醤油酵母による酢酸産生は、著しく高かった。コハク酸は、酵母に応じて増加又は減少した(
図7(e))。
【0111】
一貫したピルビン酸の産生は、酵母の継続的な発酵過程を反映し得る。ピルビン酸に由来するアセチル補酵素A(アセチルCoA)は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)+水素(H)(NADH)を再生し、酸化還元の平衡を保つために、エタノールに還元される代わりに、酢酸に酵素的に酸化され得る。
図7及び
図8に見られるように、4種類の酵母による酢酸及びエタノールの産生量は、逆相関しているように見えた。C.バーサチルス(C. versatilis)及びP.クルイベリ(P. kluyveri)は、より酸化的であり、したがってより多くの酢酸を産生することが知られている。対照的に、S.セレビシエ(S. cerevisiae)及びT.デルブルツキ(T. delbrueckii)は、より発酵性が高く、より多くのエタノールを産生する。クエン酸、リンゴ酸及びコハク酸は、トリカルボン酸回路(TCA回路)の中間体であり、発酵中のそれらの生成は、酵母の生理学的及び酸化還元状態の結果であり得るが、クエン酸に変化はなかった。全体として、有機酸、特に酢酸の生成は、発酵肉ソースの感覚特性に影響を与え得る。
【0112】
遊離アミノ酸プロファイル
アミノ酸は、発酵肉ソースの味の属性の主要な決定因子であるだけでなく、酵母によって生成される香気化合物の前駆体でもある。そのため、異なるサンプルのアミノ酸プロファイルを判定し、比較した。表6は、対照と、4つの酵母株を用いて発酵させたサンプとのアミノ酸濃度の変化を示す。発酵肉ソースの総遊離アミノ酸濃度は、15日間の発酵後に有意(P<0.05)に減少した。メリット株を用いて発酵させた肉ソースの総アミノ酸が最も減少してほぼ3分の2だけ減少し、プレリュード株(50%)及びフロートゼン株(45%)がそれに続き、1433株が最も減少しなかった(30%)。
【0113】
グリシン(Gly)及びアラニン(Ala)などの甘味のあるアミノ酸は、対照の総アミノ酸の約6%を占めていた一方、バリン(Val)及びロイシン(Leu)などの苦味のあるアミノ酸は、17%近くを占めていた。発酵後、これらのアミノ酸の百分率は、全ての酵母でほぼ無変化であった。さらに、酸味及びうま味に寄与するアスパラギン酸(Asp)及びグルタミン酸(Glu)は、対照及び全ての発酵肉ソースの約13%を占めていた。従来の調理肉ソースでは、含硫化合物が「ロースト肉感」の香りに貢献するために特に重要である。これらの肉様の風味化合物を生成する主な経路は、システイン(Cys)及びメチオニン(Met)などの含硫アミノ酸と還元糖との間のメイラード反応である。Cysは、対照サンプル中に低濃度で検出され(5.09mg/L)、全ての酵母で15日間の発酵後にほぼ半分に減少した。Metの量は、Cys(21.63mg/L)よりも4倍高く、ワイン酵母によって50%使用されたが、醤油酵母1433は、Metの約33%のみを使用した。
【0114】
揮発性化合物
15日目に酵母1433、プレリュード、メリット及びフロートゼンで発酵させた対照及び肉ソースから、それぞれ合計17及び34種類、30、37、30種類の揮発性化合物が同定された。揮発性化合物は、
図8に示すように、酸、エタノール、アルコール(エタノールを除く)、アルデヒド、ケトン、エステル及びフランの7つのグループに分類される。
【0115】
対照中で同定された主な化合物は、アルデヒド及びフランのグループに属し、RPAは、それぞれ67.11%と24.21%であった(
図8(d)及び(g))。これらの2つのグループ中の優勢な化合物は、それぞれヘキサナール及び2-ペンチルフランであった。ヘキサナールは、脂質の酸化に伴う青臭さ、薬草様、豆様風味に関連していることが多く、多くの場合に酸敗の始まりと判断される。ヘキサナール並びにペンタナール、ヘプタナール、オクタナール及びノナナールなどの他の脂肪族アルデヒドの優位性は、6時間の酵素加水分解中に起こったであろう肉中の不飽和脂質の酸化に関連している可能性が高かった。しかし、2-ペンチルフランは、哺乳類の代謝によって産生されることが知られているため、豚生肉に自然に存在する可能性が高かった。ヘキサナール及び2-ペンチルフランの優位性は、非発酵豚肉切り落とし加水分解物に、全体的に望ましくない草様及び「ボール紙様」風味を与えた可能性が高かった。
【0116】
【0117】
異なる酵母で発酵させた肉ソース間では、揮発性プロファイルに顕著な違いが観察された。一般に、
図8に見られるように、発酵後、エタノールと、揮発性酸、他のアルコール及びエステルに属する揮発性化合物とは、有意(P<0.05)に増加した一方、アルデヒド及びフランは、有意に(P<0.05)死去した。アミノ酸の異化作用中、α-ケト酸が生成され、次に脱炭酸されてアルデヒドが形成し、アルコールへの還元及び/又はカルボン酸への酸化がそれに続いたが、醤油酵母ではイソ吉草酸のみが生成した。エステルの増加は、アルコールと活性化酸(アシルCo-As)との間の反応に起因する。フランの減少は、主に2-ペンチルフラン化合物の減少と関連していた。
【0118】
主にエタノール、分岐鎖アルコール及び脂肪族アルコールのアセチルエステル並びに脂肪アシルエステルである多数のエステルが生成された。
図8に見られるように、4つの酵母株の中で、フロートゼン株が最も多くのエステルを産生した一方、1433株は、最も少ない量を産生した。フロートゼン株によって産生された優勢なエステルには、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル及び酢酸2-フェニルエチルが含まれていた一方、これらのエステルは、1433株では微量に検出されるか又は生成されなかった。これらのエステルは、アルコールと、酵母のアルコールアセチルCo-A又は脂肪アシルトランスフェラーゼによって触媒されるアセチルCoA又は脂肪アシルCoAとの間の縮合によって酵素的に生成され、一般に果物香を付与する。フロートゼン株が産生する強いバナナ様の花様香は、他の酵母と一線を画している。
【0119】
いくつかのケトンが一部の酵母によって産生され、これらは、酵母によるβ酸化を介した脂肪酸代謝の産物である可能性が高かった。1433株が最も多くのケトンを産生した一方、フロートゼン株ではケトンが産生されなかった。アセトンは、主要なケトンであり、1433株によってのみ産生された。
【0120】
要約すると、1種類の醤油酵母(C.バーサチルス(C. versatilis))と、3種類のワイン酵母(S.セレビシエ(S. cerevisiae)、T.デルブルツキ(T. delbrueckii)及びP.クルイベリ(P. kluyveri))とを使用して、豚肉切り落とし加水分解物を発酵させた。全ての酵母が良好に増殖し、豚肉切り落とし加水分解物からのグルコース及び遊離アミノ酸を利用して、心地よいフルーティーな化合物及びエステル化合物を産生した。脂質の酸化から生成される望ましくない異臭のアルデヒドは、ほとんどがアルコールに還元された。特に、P.クルイベリ(P. kluyveri)フロートゼンが顕著に大量のエステルを産生して、非常に強い「バナナ様」の匂いを呈した一方、C.バーサチルス(C. versatilis)1433は、より多くのケトン化合物を産生した。これらの発見は、酵母が新規調味料の生産のための肉加水分解物の効果的な変換体であることを示す。
【0121】
実施例3 - 乳酸菌(LAB)を用いた肉加水分解物の発酵
発酵プロセスを
図3に概略的に示す。
【0122】
細菌培養及び培地
本研究では、6種類の乳酸菌(LAB)株を使用した:ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)PCC及びLb.ラムノサス(Lb. rhamnosus)GGは、クリスチャンハンセン(ヘルスホルム、デンマーク)から入手した;Lb.プランタルム(Lb. plantarum)299Vは、プロビ(ルンド、スウェーデン)から入手した;ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)クレモリス(cremoris)亜株DSM20069は、DSMZ(ブラウンシュヴァイク、独国)から購入した;Lb.アシドフィルス(Lb. acidophilus)NCFMは、ダニスコ(コペンハーゲン、デンマーク)から得た;Lb.カゼイ・シロタ(Lb. casei Shirota)は、ヤクルトプロバイオティック培養乳飲料(ヤクルト本社、日本)から単離した。
【0123】
20mLの滅菌済みデマン・ロゴサ・シャープ(MRS)ブロス(オクソイド、ベイジングストーク、英国)に白金耳2つ分の凍結乾燥LAB培養物を移し入れ、37℃で24時間静置培養した。培養物は、使用前に-80℃で30%滅菌グリセロール(メルク、シンガポール)中に保存した。
【0124】
LABを用いた肉加水分解物の発酵
グルコース(2%(w/w)のD-(+)-グルコース一水和物)(99.0%以上、メルク、シンガポール)を肉加水分解物に添加し、85℃で15分間の低温殺菌がそれに続いた。低温殺菌の有効性は、プレーティングによって検証した。各LAB培養物を1回活性化し、MRSブロスで10%(v/v)の比率で1回継代培養し、37℃で24時間培養した。細菌ペレットは、遠心分離(8000×gで5分間、4℃)後、5mLの0.85重量%生理食塩水で2回洗浄することによって得た。
【0125】
細菌ペレットは、5mLの低温殺菌肉加水分解物に再懸濁して、107CFU/mLの望ましい細胞濃度に調節した。各細菌懸濁液3mLを30mLの肉加水分解物に接種し、完全に混合した。接種した肉加水分解物は、24時間毎にサンプリングしながら静的条件下で37℃において4日間培養した。対照として、未接種肉加水分解物を同一条件下で処理した。発酵サンプルは、分析前に-20℃で保存した。
【0126】
細菌計数及びpH測定
細胞計数は、0.1%(w/v)滅菌ペプトン水(オクソイド、ベイジングストーク、英国)で連続希釈して、ポテトデキストロース寒天培地(オクソイド、ベイジングストーク、英国)にスプレッドプレーティングして実施した。全てのプレートは、30℃で48時間培養した。pHは、pHメーター(メトローム、ヘリザウ、スイス)を用いて測定した。
【0127】
総還元糖及び有機酸の分析
対照及び発酵サンプルの総還元糖含有量は、いくつかの修正を加えた3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法(Wood et al., 2012)を用いて判定した。10μLの発酵サンプル及び190μLのDNS試薬を遠心分離管(メルク、シンガポール)内で均等に混合した。その後、チューブを沸騰水浴中で5分間加熱し、アイスボックス内で冷却した。反応したサンプルの100μLを96マイクロタイタープレートにピペットで移し、540nmで読み取った。
【0128】
発酵肉ソースの有機酸抽出物は、Toh and Liu (2017)に記載されている方法を使用して調製した。遠心分離管内において、サンプルに0.1%(v/v)H2SO4のアリコートを1:1(v/v)の比率で添加し、4℃で1時間保存してタンパク質を沈殿させた。チューブを10,000×g、4℃で10分間遠心分離し、0.2μmのミニザルトRC15シリンジフィルター(ザルトリウス、ゲッティンゲン、独国)を通して濾過した後、上清を回収した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による有機酸分析は、スペルコゲルC-610Hカラム(スペルコ、ベルフォンテ、ペンシルベニア州、米国)を使用して実施した。移動相は、0.1%(v/v)H2SO4であり、40℃で0.4mL/分の流量に設定した(Lee et. al., 2013)。有機酸化合物は、SPD-M20A光ダイオードアレイ検出器(島津製作所、京都、日本)内で210nmで検出し、外部標準を用いて定量化した。
【0129】
遊離アミノ酸の分析
発酵肉ソースの遊離アミノ酸は、アクリロニトリル(ACN)(メルク、シンガポール)を使用して抽出し、タンパク質を沈殿させた。600μLのACN、200μLの蒸留水及び200μLのサンプルを遠心分離管内で混合し、4℃で少なくとも1時間保存した。サンプルを10,000×g、4℃で10分間遠心分離し、0.2μmのミニザルトRC15シリンジフィルター(ザルトリウス、ゲッティンゲン、独国)を通して濾過した後、上清を回収した。ウォーターズAccQ-Tagウルトラケミストリーキット(ダブリン、アイルランド)を使用して、AQCを用いたアミノ基のプレカラム誘導体化を実施した。誘導体化されたアミノ酸のHPLC分析を実施した。アミノ酸標準混合物(サーモフィッシャーサイエンティフィック、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)を同定及び定量に使用した。
【0130】
揮発性化合物の分析
発酵肉ソース中の揮発性化合物の抽出と分析は、修正されたプロトコル(Vong and Liu, 2017)を使用して実施した。抽出前にサンプルを解凍し、60℃の水浴内で2分間熱処理した。揮発性化合物は、GC-MS/FIDと組み合わせたHS-SPMEによって抽出した。
【0131】
5mLのサンプルをPTFE中隔付きの20mLガラスバイアルに入れた。85μmのカルボキセン/ポリジメチルシロキサンSPMEファイバー(CAR/PDMS、スペルコ、ベルフォンテ、ペンシルベニア州、米国)を用いて、コンビパルオートサンプラー(CTCアナリティクス、ツヴィンゲン、スイス)を使用して250rpmの撹拌下で60℃において30分間、ヘッドスペース揮発性有機物を抽出した。抽出化合物は、DB-FFAPキャピラリーカラム(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm、アジレント、サンタクララ、カリフォルニア州、米国)上でヘリウムをキャリアガスとして用い、流速1.2mL/minで分離した(アジレント5975C三軸MS及びFID)。分離条件(Gao et al., 2016):オーブンの初期温度を40℃で3分間設定し、次に保持せずに毎分5℃の速度で90℃に上昇させ、保持時間7分間で毎分10℃の速度で230℃に上昇させる。
【0132】
化合物の同定は、それらの質量スペクトルと、NIST 8.0及びWiley 275 MSライブラリのデータベースとの比較に基づいていた。化合物の検証は、それらのLRI値に基づいた。各化合物のLRI値は、その保持時間を用いて計算した。GC-FIDのピーク面積を使用して揮発成分を半定量化し、主要な化合物群毎に百分率で表された相対ピーク面積(RPA)を計算した。
【0133】
統計解析
発酵肉ソースの遊離アミノ酸は、アクリロニトリル(ACN)(メルク、シンガポール)使用して抽出し、タンパク質を沈殿させた。600μLのACN、200μLの蒸留水及び200μLのサンプルを遠心分離管内で混合し、4℃で少なくとも1時間保存した。サンプルを10,000×g、4℃で10分間遠心分離し、0.2μmのミニザルトRC15シリンジフィルター(ザルトリウス、ゲッティンゲン、独国)を通して濾過した後、上清を回収した。
【0134】
ウォーターズAccQ-Tagウルトラケミストリーキット(ダブリン、アイルランド)を使用して、AQCを用いたアミノ基のプレカラム誘導体化を実施した。誘導体化されたアミノ酸のHPLC分析を実施した。アミノ酸標準混合物(サーモフィッシャーサイエンティフィック、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)を同定及び定量に使用した。
【0135】
LAB増殖及びpH変化
図9に示すように、全てのLABは、豚肉切り落とし加水分解物中で良好に増殖し、細胞数が1.5~2.0対数CFU/mLだけ増加した。
図9(a)は、GG株及びシロタ株の同様の増殖傾向を示す。これらの2つの株の細胞数は、それぞれ7.06及び7.39対数CFU/mLから8.64及び9.24対数CFU/mLに24時間で増加し、発酵が終了するまで安定したままでであった。他方、PCC、299V、DSM20069及びNCFM株の細胞数は、24時間で約7.50対数CFU/mLから8.8CFU/mLに増加し、4日目までに約7.3対数CFU/mLに徐々に減少した。
【0136】
図9(b)に示すように、全てのLAB発酵加水分解物のpHは、24時間で有意に(P<0.05)低下し、pHがわずか4.3に低下したPCC株を除いて、4日目までに約3.8に達した。
【0137】
総還元糖及び有機酸の変化
図10(a)に示すように、全てのLAB発酵加水分解物の総還元糖含有量は、4日後に有意に(P<0.05)減少したが、糖の利用率は、LABによって変動した。PCC株は、添加されたグルコースを最も急速に消費し、次にシロタ株、GG株及びNCFM株がそれに続いた。特に、PCC株及びシロタ株は、培地で利用可能な全てグルコースをほぼ使い果たし、4日目までにグルコースを20.98mg/mLからそれぞれわずか1.23及び2.46mg/mLに減少させた。他のLAB発酵加水分解物では、有意なレベルの残留グルコースは、10mg/mL未満にとどまった。
【0138】
対照試料並びに発酵サンプルのクエン酸、ピルビン酸、コハク酸、乳酸及び酢酸を含む有機酸組成を
図10(b)~(f)に示す。一般に、全てのLAB株は、有機酸の変化について同様のパターンを示した。コハク酸、乳酸及び酢酸は、有意に(P<0.05)増加したが、クエン酸は、4日目に有意に(P<0.05)減少した。しかし、ピルビン酸は、変化を示さなかった。予測通り、乳酸は、ホモ発酵及びヘテロ発酵LABの両方の主要な最終産物であるため、全ての株は、0日目の約2mg/mLから4日目の平均15mg/mLまで乳酸の顕著な増加を示した。上記で考察されたように、ヘテロ発酵性であるPCC株は、グルコースから最も少ない量の乳酸を産生したが、最も多い量の酢酸を産生した。
【0139】
遊離アミノ酸の変化
未発酵豚肉切り落とし加水分解物中で合計19種類のアミノ酸を測定し、表7に示す。6種類のLABによって発酵された加水分解物の総アミノ酸濃度は、LABに応じて増加又は減少し、互いに有意に(P<0.05)異なっていた。DSM20069株によって発酵された加水分解物の総アミノ酸は、未発酵対照と比較して539.08mg/Lで1.7倍増加し、NCFM、PCC及びシロタ株がそれぞれ504.83、363.63及び335.86mg/Lでそれに続いた。対照的に、299V株の発酵加水分解物の総アミノ酸は、126.05mg/Lで2.5倍を超えて減少し、219.14mg/LのGG株がそれに続いた。
【0140】
最終的な総アミノ酸濃度は、それらのタンパク質分解活性及び自己消化(アミノ酸の放出)に応じて、LABによる消費及び産生の正味のバランスであった。DSM20069株及びNCFM株によるアミノ酸の顕著な産生は、PCC株及びシロタ株と比較して、それらのより強力なタンパク質分解活性を示唆する。DSM20069株は、乳製品のラクトコッカス株であるため、より高いタンパク質分解活性が予測された。他方、NCFM株は、元々、ヒトの胃腸管から分離されたLb.アシドフィルス(Lb. acidophilus)のプロバイオティッ株であり、したがって、その高いタンパク質分解活性は、驚くべきものであった。
【0141】
さらに、LAB自己消化の違いは、アミノ酸形成のレベルの違いを部分的に説明し得る。他方、299V株及びGG株による総アミノ酸の有意な減少は、アミノ酸レベルの低下をもたらす、それらのより弱いタンパク質分解活性及び/又はより強い消費と組み合わさった自己消化を示唆する。腸に優しいLb.プランタルム(Lb. plantarum)及びLb.ラムノサス(Lb. rhamnosus)は、ほぼ全ての種類のアミノ酸を異化して、アンモニア、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸、イソ吉草酸など)、有機酸、フェノール化合物及び気体化合物(二酸化炭素、水素、硫化水素及びメタンなど)を産生し得る。
【0142】
興味深いことに、PCC株によって発酵された加水分解物中のアルギニンの濃度は、アミノ酸の総量が増加したにもかかわらず、10.04mg/Lに有意(P<0.05)に減少した。アルギニンは、非常に苦くて不快な味があることも知られているため、LABによるアルギニンの利用は、LAB及び味覚の両方にとって望ましい。アルギニンデイミナーゼ経路を介したアルギニンの異化作用は、細菌の生存に有益なアデノシン三リン酸(ATP)及びアンモニアを生成する。他方、シロタ株によって発酵された加水分解物中のグルタミン酸は、28.17mg/Lから34.00mg/Lに有意に(P<0.05)増加した一方、遊離アミノ酸の総濃度は、ほぼ無変化であった。L.カゼイ(L. casei)におけるグルタミン酸の産生及び異化経路は、不明確であるが、グルタミン酸の量の増加は、肉ソースの「うま味」風味に寄与し得る。さらに、トリプトファンの濃度は、DSM20069株及びNCFM株によって発酵された肉ソースで変化がないままであったが、総アミノ酸は、有意に(P<0.05)増加した。これは、これらの2つの株によるトリプトファンの利用に起因する可能性がある。しかし、メイラード反応後の「肉感の」匂いの生成に極めて重要な硫黄アミノ酸であるシステイン(Cys)及びメチオニン(Met)の濃度は、全ての未発酵及び発酵サンプルについて、判定された総アミノ酸の約0.9%及び4%のみを占めていた。
【0143】
【0144】
揮発性化合物
4日目に、合計19、16、20、19、20、23及び17種類の揮発性化合物が、対照及びPCC、299V、DSM20069、GG、NCFM及びシロタ株によって発酵された肉ソースでそれぞれ同定された。同定された化合物は、酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、フランの5つのグループに分けられ、各グループの小計ピーク面積(10
6)が
図11に要約される。
【0145】
対照中で検出された主な揮発性風味化合物は、主に脂肪族アルデヒド及びフランであり、それぞれ80.90%及び10.42%のRPAを占めていた(
図11(c)及び(e))。特に、ヘキサナール単独で、対照中で検出された総揮発性化合物の57.22%を占めていた。酸敗臭を放つ脂肪族アルデヒドは、6時間の加水分解中の豚肉脂質の酸化から生じ、フランは、発酵前に適用された熱処理から生じた可能性が高かった。
【0146】
全ての発酵加水分解物において、総アルデヒドは、低いレベルに減少したが、総酸、アルコール及びケトンレベルは、有意に(P<0.05)増加した。総フランレベルは、24時間までに増加し、次にフランを消費したPCC株を除いて経時的に初期値を下回るレベルまで減少した(
図11)。アルコール(PCC株のエタノールを除く)は、アルデヒドの酵素的還元に由来し、カルボン酸(PCC株の酢酸を除く)は、アルデヒドの化学的及び酵素的酸化から形成された可能性が高かった。しかし、アルコールとカルボン酸の形成に関して、ヘテロ発酵LAB株PCCと他のホモ発酵LABとの間に明確な関係はなく、LABの両方のグループが同様のレベルのアルコール及びアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有することが示唆される。総ケトンは、主に、上記で考察されたクエン酸異化作用から生成された2,3-ブタンジオン(ジアセチル)及びアセトインによって寄与された。6種類のLAB間でアルデヒド還元にほとんど違いはなかった。しかし、総カルボン酸、総アルコール、総フラン(PCC株を除く)及び総ケトンの形成には、LAB間で顕著な違いがあり、NCFM株は、最小量の総アルコールを産生し、PCC株は、最小量の総ケトンを形成する。他方、PCC株は、最高量の総アルコール(主にエタノール)を産生し、NCFM株は、最高レベルの総ケトン(主にジアセチル及びアセトイン)を形成した。
【0147】
いずれも化学的及び/又は生物学的に形成され得る3-メチルブタナール及びベンズアルデヒドを除いて、アミノ酸に由来する揮発性物質は、ほとんどなかった。LAB間において、これらの揮発性物質の形成又は分解に明らかな大きい違いがあった。例えば、GG株のみが2,3-ブタンジオンとアセトインの両方を産生し;DSM20069株及び299V株は、アセトインのみを産生したが、全てのLABは、クエン酸を分解した。
【0148】
要約すると、5つのプロバイオティックLAB及び1つのラクトコッカス株LABを使用して、豚肉切り落とし加水分解物を発酵させた。全てのLABは、グルコースを添加した加水分解物で良好に増殖した。主要な代謝最終産物は、乳酸及び酢酸であった。一部のLABは、消費するよりも多くのアミノ酸を産生したが、他のLABは、産生するよりも多くを消費した。未発酵加水分解物に異臭を付与し得る主要な脂質由来のアルデヒドは、LABにより、主に対応するアルコールと酸に変換され、風味を効果的に改善した。しかし、アミノ酸由来の揮発性物質は、非常にわずかにのみ見られた。乳酸及び酢酸の産生並びにアルデヒドの還元は、新規液体豚肉バイオフレーバリング製品の開発につながる可能性がある。
【0149】
実施例4 - 酵母及び乳酸菌(LAB)の共培養を用いた肉加水分解物の発酵
発酵プロセスを
図3に概略的に示す。
【0150】
豚肉加水分解物発酵において、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)及びピキア・クルイベリ(Pichia kluyveri)の同時及び順次接種を実施し、微生物の生存率、物理化学的変化及び揮発性物質の生成を検討した。
【0151】
この実験では、5種類の接種サンプルを準備した:(i)対照としての未接種豚肉加水分解物;(ii)L.ファーメンタム(L. fermentum)の単独培養物を接種した豚肉加水分解物;(iii)P.クルイベリ(P. kluyveri)の単独培養物を接種した豚肉加水分解物;(iv)L.ファーメンタム(L. fermentum)及びP.クルイベリ(P. kluyveri)を同時接種した豚肉加水分解物;(v)L.ファーメンタム(L. fermentum)を最初に接種し、培地のpHが4.5になった後、P.クルイベリ(P. kluyveri)を添加した豚肉加水分解物。
【0152】
L.ファーメンタム(L. fermentum)及びP.クルイベリ(P. kluyveri)ストック培養物をMRSブロス(pH5.0に調整)及びYMブロスに10%(v/v)の比率で移し入れ、それぞれ30℃で48時間及び37℃で24時間、凍結微生物培養物を活性化した。遠心分離(8000×gで5分間、4℃)及び5mLの0.85重量%食塩水での2回の洗浄後、各株の細胞ペレットを5mlの低温殺菌豚肉加水分解物に再懸濁し、発酵前の豚肉加水分解物の初期接種細胞数がL.ファーメンタム(L. fermentum)では約107個、P.クルイベリ(P. kluyveri)では105個であることを確実にした。接種材料は、以下のように添加した:単独培養物接種の場合、0.3mLのL.ファーメンタム(L. fermentum)又はP.クルイベリ(P. kluyveri)培養懸濁液を30mLの豚肉加水分解物に移し入れた;同時接種では、開始時に0.3mLのL.ファーメンタム(L. fermentum)及び0.3mLのP.クルイベリ(P. kluyveri)培養懸濁液を豚肉加水分解物に添加した;順次接種では、0日目に0.3mLのL.ファーメンタム(L. fermentum)培養懸濁を豚肉加水分解物に接種して、37℃で24時間静置培養し、その後、引き続いて1日目に0.3mLのP.クルイベリ(P. kluyveri)培養懸濁液を培地に添加した。
【0153】
接種後、サンプルを穏やかに振盪しながら混合し、30℃で5日間静置培養した(順次接種では6日間の発酵)。未接種の豚肉加水分解物も対照として30℃でインキュベートした。細胞計数及びpH測定のために、全て種類の豚肉加水分解物を24時間毎にサンプリングした。次に、他の分析前に全てのサンプルを-20℃で保存した。
【0154】
酵母又はL.ファーメンタム(L. fermentum)の計数は、サンプルを0.1%(w/v)ペプトン水(ベイジングストーク、英国)で10倍に希釈し、それに続く選択的寒天培地上でプレーティングすることによって実施した。酵母細胞数は、希釈したサンプルを、100ppmクロラムフェニコール(メルク、独国)を添加した二連のポテトデキストロース寒天(PDA、オクソイド、ベイジングストーク、英国)上にスプレッドプレーティングし、プレートを30℃で48時間培養することによって判定した一方、LAB細胞数は、500ppmのナタマイシン(ナタマックス(登録商標)、ダニスコA/S、コペンハーゲン、デンマーク)を含有するMRS寒天(オクソイド、ベイジングストーク、英国)を用いてポアプレーティングし、37℃で24時間培養することによって数え上げた。全てのサンプルのpH変化は、pHメーター(メトローム、ヘリザウ、スイス)を用いて直接測定した。
【0155】
豚肉加水分解物の単培養及び共培養におけるL.ファーメンタム(L. fermentum)及びP.クルイベリ(P. kluyveri)の増殖
L.ファーメンタム(L. fermentum)とP.クルイベリ(P. kluyveri)との間の拮抗関係は、接種順序に関係なく、豚肉加水分解物発酵中に観察された。P.クルイベリ(P. kluyveri)の細胞数は、同時接種及び順次接種でそれぞれ1日目の約6.80対数CFU/mLから5日目の5.98及び6.04対数CFU/mLに有意に(P<0.05)減少した(
図12(c)及び(d))一方、P.クルイベリ(P. kluyveri)の単独培養では、接種後5日目の細胞数は、6.45対数CFU/mLにとどまった(
図12(b))。他方、L.ファーメンタム(L. fermentum)の生存率は、順次接種培養で向上し、1日目で8.82対数CFU/mLのピークカウントに達し、6日目で8.16対数CFU/mLの細胞数を維持した(
図12(d))。しかし、L.ファーメンタム(L. fermentum)の同様の増殖パターンは、同時接種培養物及び単独培養物で観察され、それらの細胞数は、それぞれ約8.80対数CFU/mLから最終数7.55及び7.72対数CFU/mLに減少した(
図12(a)及び(c))。
【0156】
豚肉加水分解物発酵中のグルコース及び有機酸の変化
全ての発酵サンプル中のグルコース含有量は、接種の5日後、検出不能なレベルまで減少した(
図13(a))。L.ファーメンタム(L. fermentum)及びP.クルイベリ(P. kluyveri)は、増殖並びにエタノール及び/又は乳酸、酢酸の産生のためにグルコースを利用するため、これらの糖の枯渇が予想された。
【0157】
単独培養物接種の場合、L.ファーメンタム(L. fermentum)が1日目に1日当たり11.19mg/mLの最高のグルコース消費率を示した一方、P.クルイベリ(P. kluyveri)では、2日目に1日当たり18.12mg/mLであった。混合接種モデルでは、同時接種の2日目に1.0mg/mL未満の残留グルコースが検出されたが、順次接種では、4日目(P.クルイベリ(P. kluyveri)の接種から3日後)であった。
【0158】
豚肉加水分解物発酵中の遊離アミノ酸の変化
異なる接種方法のアミノ酸プロファイルを判定し、表8で比較した。全てのサンプルの遊離アミノ酸のほとんどは、一般的に一定であり、5日間の発酵後にわずかな変動があった。同時接種と順次接種との間でアミノ酸利用に有意差(P≧0.05)は観察されなかった。一般に、単一のP.クルイベリ(P. kluyveri)は、最も多くのアミノ酸を消費し、豚肉加水分解物中に多種の揮発性化合物を生成した。L.ファーメンタム(L. fermentum)は、タンパク質分解活性を示し、それによって総アミノ酸量が増加したが、これらの効果は、統計的に有意でなかった(P≧0.05)。
【0159】
【0160】
揮発性化合物の形成に対するL.ファーメンタム(L. fermentum)及びP.クルイベリ(P. kluyveri)の同時接種及び順次接種の影響
図14(a)~(i)に見られるように、L.ファーメンタム(L. fermentum)、P.クルイベリ(P. kluyveri)の同時接種及び順次接種によって発酵された豚肉加水分解物のエタノール、酢酸、ヘキサナール、1-ヘキサノール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、酢酸ヘキシル、2-フェニルエチル酢酸、フェニルエチルアルコールの揮発性化合物プロファイルは、未発酵対照サンプルと全く異なっていた。
【0161】
P.クルイベリ(P. kluyveri)の同時発酵及び連続発酵サンプルではエステルが最も豊富な化合物であり、L.ファーメンタム(L. fermentum)発酵サンプルではアルコールが主要な化合物であった。
【0162】
未発酵豚肉加水分解物では、ヘキサナールが優勢な揮発性化合物であり、2-ペンチルフランと1-ペンタノールがそれに続いた。これらの優勢な化合物は、対照サンプルに全体的に望ましくない草様、薬草様及び豆様フレーバーを与えた。
【0163】
L.ファーメンタム(L. fermentum)によって発酵されたサンプル中では、大量のアルコール及び酸揮発性化合物が同定された。
図14(a)及び(b)に示すように、L.ファーメンタム(L. fermentum)発酵では、解糖からピルビン酸が形成され、引き続いてピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体によってアセチルCoAに変換されて、酢酸及びエタノールが生成するため、発酵中にエタノール及び酢酸の濃度が徐々に増加していることが分かった。さらに、1-ヘキサノール(
図14(d))及びヘキサン酸が見いだされ、これらは、主に豚肉加水分解物中のヘキサナールの酵素的還元及び酸化に由来する。全体として、L.ファーメンタム(L. fermentum)発酵豚肉加水分解物中のこれらの同定された揮発性化合物は、新鮮な酸味のある臭いを与える。
【0164】
要約すると、P.クルイベリ(P. kluyveri)は、接種後1日間のみ増殖し、L.ファーメンタム(L. fermentum)の存在下では元のレベルまで低下する一方、後者は、いずれの接種方法でもそれぞれの単独培養と比較して刺激されたことから、これらの2つの培養物間に拮抗関係が観察された。これらの2つの接種方法間でグルコース、有機酸及びアミノ酸の最終的な含有量に有意差(P<0.05)はなかった。しかし、順次接種でより多くのエステルが検出されたため、接種順序は、揮発性化合物の形成に影響を及ぼした。
【0165】
実施例5 - 熱処理された豚肉切り落とし加水分解物の色及び風味化合物に対するpH、キシロース添加及び温度の影響
肉ソースの熱処理プロセスを
図4に概略的に示す。
【0166】
熱処理された豚肉切り落とし加水分解物の色及び芳香化合物プロファイルの発生に対するpH、キシロース及び温度の影響を検討した。pHを5.5又は4.5に調整した酵素加水分解豚肉加水分解物に、90、95又は100℃で60分間熱処理する前に異なる量(0、0.5、1.5、2.5、3.5g/100mL)のキシロースを添加した。
【0167】
色
対照及び加熱されたサンプルの色変化を表9及び10に示す。全ての加熱されたサンプルは、温度及びpHに関係なく、ΔEの増加を示した。L*値(明度)及びa*値(緑色度が負、赤色度が正)は、糖度が高くなるにつれて上昇した。b*値(青色度が負、黄色度が正)は、糖度が低いと増加したが、糖度が高いと温度に応じて安定化又は減少した。pH5.5では、3つの無糖サンプルA90-0、A95-0及びA100-0のΔE値は、それぞれ2.26、1.34及び2.98と最低であった。これらの3つの無糖サンプルは、黄色がかった透明な色を維持し、非加熱対照と比較して目に見える色の変化を示さなかった。サンプルA100-35は、23.50の最高のΔE値を示し、透明な暗褐色であったが、サンプルA90-35及びA95-35と比較して顕著な色の違いはなく、各サンプルで異なるΔEが観察された。同様の傾向は、グループBのサンプル(pH4.5)でも見られ、25.05の最高のΔEは、透明な暗褐色のサンプルB100-35で見られた。
【0168】
【0169】
【0170】
pH
図15に示すように、サンプルのpHは、熱処理中に低下した。各グループの最低pHは、サンプルA100-35及びB100-35でそれぞれ4.86及び4.35であることが分かった。メイラード反応中のpHの低下は、アミノ基の枯渇及び有機酸の形成を反映する。多くの研究では、pHの低下は、褐変過程の指標でもある。
【0171】
還元糖/キシロース含有量
熱処理前に、元の豚肉加水分解物の総糖含有量は、微量であったため、メイラード反応を増強するために還元糖(キシロース)を添加した。
図16に示すように、キシロースの還元は、温度、pH及び糖の量に関係なく、一般的に熱処理中に発生した。pH5.5では、サンプルA90-15で2.18mg/mLと最小の糖減少が見られた一方、サンプルA100-35で5.75mg/mLと最大の糖減少が見られた(
図16(a))。pH4.5では、数値は、サンプルB90-35で2.48mg/mL、サンプルB100-35で5.85mg/mLであった(
図16(b))。これらの結果は、異なる条件下で処理されたサンプル間で糖消費量にほとんど違いがないことを示した。
【0172】
遊離アミノ酸
加水分解物の遊離アミノ酸は、熱処理サンプルにおける風味及び色素化合物の形成に重要な役割を果たした。本発明の目的は、十分に調理された肉の肉感及び甘い香りを反映した、香ばしい風味を有する新規の肉ソースを開発することである。
図17に見られるように、システイン(Cys)などの含硫アミノ酸並びに調理済みポテト、野菜様、ロースト感及び蜂蜜様の甘い香りの形成に関連するプロリン(Pro)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)などの他の重要な前駆体が存在する。
【0173】
図17(i)及び(j)に示すように、アミノ酸の総量は、pH4.5及びpH5.5の両方のサンプルで熱処理後に有意な変化を示さず、約300mg/10mLに維持された。
【0174】
揮発性化合物
豚肉加水分解物のメイラード反応における香味化合物形成を理解するために、対照及び熱処理サンプルに見られる揮発性化合物を要約する。揮発性化合物は、酸、アルコール、アルデヒド、ケトン及びフランの5つの主要なグループに分けられた。同定された3つの優勢な化合物は、ヘキサナール、フルフラール及び2-ペンチルフランであった(
図18)。
【0175】
ヘキサナールは、pH5.5及びpH4.5の対照で29%及び28%のRPAを占め、熱処理後に大幅に減少した(
図18(a)及び(b))。検出されたヘキセナールの最低ピーク面積は、サンプルA100-35で9.44×10
6、サンプルB100-35で7.94×10
6であり、各サンプルのRPAは、1.9%及び1.2%であった。ヘキサナールは脂肪族アルデヒドであり、それは、未処理の豚加水分解物の酸敗臭及び青草臭を放つ。
【0176】
ヘキサナールとは対照的に、フルフラールの量は、熱処理後に有意に増加した(
図18(c)及び(d))。フルフラールのピーク面積は、pH5.5及びpH4.5対照でわずか4.13×10
6及び9.14×10
6であり、それぞれ2.4%及び3.5%のRPAを占めていた。熱処理サンプルでは、A100-35(111.67×10
6)及びB100-35(361.74×10
6)で最も高いピーク面積が見られ、38.8%及び55.7%のRPAを占め、対照と比較してそれぞれ約27倍及び40倍に増加した。フルフラールは、ペントースの存在下においてメイラード反応で生成される中間体(硫黄なし)であり、強いベイクドポテト、スパイシー及び焦げた香りを与える。フルフラールの形成は、アマドリ化合物のエノール化又は糖の脱水のいずれかによるものであり、これらの反応は、いずれも酸性及び高温条件で増強され得る。肉の調理中、フルフラールは、システイン分解から形成される硫化水素と反応することが多く、製品に強くて遠い「ロースト肉」の香りを与える、2-フランメタンチオールを生成する(Xu et al.,2011)。しかし、本研究では、2-フランメタンチオールは、検出されず、これは、豚肉加水分解物中で利用可能なCysの濃度が低いことに起因し得る。
【0177】
2-ペンチルフランのレベルは、対照と比較して熱処理サンプルで有意に増加し、サンプルA100-5で最も高いピーク面積が272.50×10
6であり、57.1%のRPAを占めた(
図18(e)及び(f))。興味深いことに、熱処理中の2-ペンチルフランの形成は、糖含有量及び温度と相関関係がなかった。2-ペンチルフランは、通常、リノール酸の酸化から形成され、食品に果物様、花様、バター、草様、豆様の香りを与える。熱処理中に生成された2-ペンチルフランは、望ましい「肉様の」臭いを直接与えなかったが、一部のソース製品の炙り肉又はロースト肉の全体的な臭いの原因として認識されている。
【0178】
要約すると、熱処理は、豚肉加水分解物中の優勢なオフフレーバー化合物であるヘキサナールを除去し、より高い温度及びキシロース含有量は、ロースト感及び甘い風味を有するフルフラール及び2-ペンチルフランの生成を促進した。熱処理中、pH4.5でより多くのフルフラールが検出された。しかし、望ましい風味のある「肉様の」硫黄含有及び窒素含有の芳香化合物は、検出されず、これは、豚肉加水分解物中のシステイン/シスチンのレベルが不十分であることに起因し得る。
【0179】
前述の説明は、例示的な実施形態を説明している一方、本発明から逸脱することなく多くの変形形態がなされ得ることは、関係する技術における当業者によって理解されるであろう。
【0180】
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【国際調査報告】