(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-12
(54)【発明の名称】インテグリン抗体の安定な製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20221205BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221205BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20221205BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20221205BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221205BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20221205BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
A61K39/395 M
A61K39/395 N
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/26
A61K9/19
A61K47/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521140
(86)(22)【出願日】2020-10-10
(85)【翻訳文提出日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 IN2020050871
(87)【国際公開番号】W WO2021070203
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】201941041231
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】512276315
【氏名又は名称】ドクター レディズ ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジャヤラマン, ムラリ
(72)【発明者】
【氏名】パカレ, スワプニル ヴァスデオ
(72)【発明者】
【氏名】オジャ, ビムレシュ
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ, シュリジャ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA29
4C076BB13
4C076BB16
4C076CC03
4C076DD09F
4C076DD23
4C076DD51
4C076DD51Z
4C076EE23
4C076FF16
4C076FF36
4C076FF61
4C076FF63
4C076GG06
4C076GG47
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG04
(57)【要約】
本発明は、α4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記製剤は、緩衝液、PEG、塩、アミノ酸および界面活性剤を含み、上記製剤は、糖および/または糖アルコールを欠いている製剤を開示する。開示される抗体製剤は、液体製剤であり得、凍結乾燥粉末として製剤化されるのにも適している。本発明は、緩衝液、ポリエチレングリコール(PEG)および界面活性剤を含む、抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記製剤は糖を欠いている製剤を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝液、PEG-400、アルギニン、塩および界面活性剤を含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで前記製剤は、糖および抗酸化剤を含まず、前記製剤は、約60mg/ml~約200mg/mlの濃度で前記抗体を安定化する、製剤。
【請求項2】
前記緩衝液は、ヒスチジンまたはヒスチジン-リン酸緩衝液である、請求項1に記載の抗体製剤。
【請求項3】
前記製剤は、25℃で4週間または40℃で2週間または40℃で4週間の貯蔵後ですら、前記抗体のモノマー含有量のうちの少なくとも97%を維持する、請求項1に記載の抗体製剤。
【請求項4】
前記PEG、アルギニンおよび塩の組み合わせは、高分子量種および荷電改変体の形成を低減する、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
約160mg/mlのα4β7抗体、ヒスチジン緩衝液、10% PEG、約120mM アルギニン、50mM 塩化ナトリウムおよびポリソルベート80を含む、α4β7抗体の安定な薬学的製剤。
【請求項6】
前記製剤は、40℃で2週間の貯蔵後ですら、そのモノマー形態の前記抗体のうちの少なくとも98%を維持する、請求項5に記載のα4β7抗体製剤。
【請求項7】
前記製剤は、荷電改変体含有量の形成を低減し、40℃で2週間の貯蔵後ですら、主要ピークとして前記製剤中の抗体のうちの少なくとも50%を維持する、請求項5に記載のα4β7抗体製剤。
【請求項8】
液体または凍結乾燥製剤である、請求項1または5に記載の抗体製剤。
【請求項9】
α4β7抗体製剤中のα4β7抗体の凝集物および荷電改変体を制御する方法であって、前記方法は、PEG、塩、アルギニンおよび界面活性剤を含む緩衝液組成物を前記抗体製剤に添加する工程を包含し、ここで前記製剤は、前記製剤中の前記抗体の凝集物含有量および酸性改変体含有量の増大を制御し、モノマー含有量中の前記抗体のうちの少なくとも98%を、および40℃で2週間または25℃で4週間貯蔵した場合にすら、主要ピーク含有量として前記抗体のうちの少なくとも50%を維持する、方法。
【請求項10】
前記製剤中の前記抗体の凝集物含有量の増大は、初期貯蔵条件における前記抗体の凝集物含有量と比較した場合に、1%未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記製剤中の前記抗体の荷電改変体含有量の増大は、初期貯蔵条件における前記抗体の前記荷電改変体含有量と比較した場合に、5%未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記界面活性剤は、ポリソルベート80である、請求項1または5または9のいずれかに記載の製剤。
【請求項13】
前記α4β7抗体は、ベドリズマブである、請求項1または5または9のいずれかに記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗体分子の安定な製剤であって、ここで上記抗体は、最小限の賦形剤で安定化される製剤に関する。開示される製剤は、凍結乾燥形態および液体形態と適合性であり、静脈内および/または皮下投与経路にも適している。
【背景技術】
【0002】
背景
過去20年間にわたって、組換えDNA技術は、多くのタンパク質、特に、抗体治療剤の商業化をもたらした。これらの治療用抗体の有効性は、安定性、投与経路ならびにそれらの投与形態および濃度に大きく依存する。これは、次に、治療用抗体が適切に製剤化されて、治療用抗体の安定性および活性を保持することを必要とする。
【0003】
各投与経路および投与形態のための製剤は、特有であり得ることから、特定の要件を有し得る。固体投与形態(例えば、凍結乾燥粉末)は、液体(水性)製剤より概して安定である。しかし、凍結乾燥製剤の再構成は、顕著なバイアルオーバーフィル(vial overfill)、取り扱い上の注意を必要とし、液体製剤に対して高い生成コストを要する。液体製剤は、これらにおいて有利であり、通常は、注射用タンパク質治療剤の方が(末端ユーザーにとっての便宜および製造業者にとっては調製しやすさの点で)好ましいが、この形態は、温度、pH変化、撹拌などのようなストレス下で、変性、凝集および酸化に対するタンパク質の感受性を考えれば、常に実行可能であるわけではない可能性がある。これらのストレス要因の全ては、治療用タンパク質/抗体の生物学的活性の喪失を生じ得る。特に、高濃度液体製剤は、分解および/または凝集に感受性である。にもかかわらず、高濃度製剤は、皮下または静脈内投与経路にとって望ましいものであり得る。なぜなら投与頻度および注射容積が低減されるからである。他方で、具体的な処置スケジュールおよび投与は、低濃度製剤を必要とし得、治療用薬物の、より推測可能な送達および完全なバイオアベイラビリティーのために静脈内投与経路の方が好ましい。
【0004】
よって、高濃度または低濃度において治療用タンパク質/抗体が安定であり、異なる投与経路(静脈内または皮下)を助け、凍結乾燥形態もしくは液体形態において適切である製剤を設計することは、重大な開発上の困難を課す。さらに、その特有の特徴または分解の特性を有するあらゆるタンパク質または抗体は、安定な製剤の開発に複雑性を加え、具体的な製剤を要求し得る。
【0005】
治療用タンパク質または抗体の安定な製剤は、アミノ酸、糖、ポリオール、界面活性剤、塩、ポリマー、アミン、抗酸化剤、キレート剤などを含む広く種々の安定化剤/賦形剤の添加を要する。FDAが承認した治療用タンパク質/抗体のうちの多くは、1より多くのカテゴリーの安定化剤を含む。
【0006】
増大した濃度のタンパク質および/または安定化剤との製剤組み合わせは、上記製剤の粘性を増大させ得、次には、注射時間および注射部位の疼痛を増大させ、薬物物質の処理の間の困難をも課す。よって、最小限の数または濃度の賦形剤を含むが、その濃度の広い範囲において薬物を安定化させる、凍結乾燥および液体形態において改善された製剤を開発することが必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
要旨
本発明は、緩衝液、ポリエチレングリコール(PEG)および界面活性剤を含む、抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記製剤は糖を欠いている製剤を開示する。
【0008】
特に、本発明は、緩衝液、PEG、塩、遊離アミノ酸および界面活性剤を含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記製剤は糖を欠いている製剤を開示する。上記粉製剤中の抗体は安定であり、40℃または25℃で4週間貯蔵した後ですら、上記製剤中の抗体のモノマー含有量のうちの少なくとも97%を維持する。
【0009】
本発明はまた、α4β7抗体製剤中のα4β7抗体の荷電改変体および凝集物を、PEG、塩、アミノ酸および界面活性剤構成要素を含む緩衝液中で上記抗体を製剤化することによって制御する方法を開示する。
【0010】
PEG、塩および遊離アミノ酸の組み合わせは、α4β7抗体にコロイド安定性を付与する。
【0011】
PEG、塩、アミノ酸および界面活性剤安定化剤の開示される組み合わせは、約60mg/ml~約200mg/mlの濃度で上記抗体を安定化する。
【0012】
PEG、塩、遊離アミノ酸および界面活性剤の組み合わせは、上記抗体の高分子量凝集物の形成を阻害する。さらに、上記特定の組み合わせは、上記抗体の荷電改変体(酸性/塩基性改変体)含有量の形成を阻害する。
【0013】
特に、高濃度ベドリズマブ(少なくとも150mg/ml)製剤の抗体の酸性改変体含有量の変化は、上記抗体サンプルが40℃で2週間の加速条件に供された場合にすら、5%未満、具体的には2%未満である。
【0014】
開示される液体製剤は、凍結乾燥プロセスと適合性であり、品質属性(凝集物/酸性/塩基性改変体)の変化は、凍結乾燥後ですら認められなかった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
定義
用語「約(about)」とは、述べられた参照値に類似の値の範囲に言及し、その述べられた参照値の20%またはこれより小さい中に入る値の範囲を含む。
【0016】
用語「抗体(antibody)」とは、ジスルフィド結合によって相互に接続された少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質、またはその抗原結合部分をいう。上記「抗体」は、本明細書で使用される場合、完全な抗体または任意の抗原結合フラグメント(すなわち「抗原結合部分(antigen-binding portion))またはその融合タンパク質を包含する。
【0017】
用語「安定な(stable)」製剤とは、その中の抗体が、貯蔵の際に、その物理的安定性および/または化学的安定性および/または生物学的活性を保持している製剤をいう。
【0018】
用語「初期(initial)」とは、それぞれの温度での0時点におけるデータに言及する。実施例の中で「0」Wとして提示されるデータは、上記抗体の初期含有量である。
【0019】
安定性試験は、時間経過の間の種々の環境要因の影響下で、抗体の品質の証拠を提供する。ICHの「Q1A: Stability Testing of New Drug Substances and Products」は、加速安定性試験からのデータが、抗体の輸送の間に起こり得る表示貯蔵条件より高いまたは低い短期間の逸脱の効果を評価するために使用され得ることを述べる。
【0020】
種々の分析方法が、薬学的製剤中の抗体の物理的および化学的分解を測定するために利用可能である。抗体は、それが色および/もしくは透明性の目視検査の際に、またはUV光散乱もしくはサイズ排除クロマトグラフィーによって測定される場合、凝集、沈殿および/または変性の徴候を実質的に示さない場合、薬学的製剤において「その物理的安定性を保持する(retains its physical stability)」。抗体は、目的の抗体の化学的改変(例えば、脱アミノ化、酸化など)の結果として改変体を含み得る生成物改変体の形成を全くまたは最小限にしか示さない場合に、薬学的製剤において「その化学的安定性を保持する(retain its chemical stability)」といわれる。分析方法(例えば、イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性イオンクロマトグラフィー(hydrophobic ion chromatography))は、化学生成物改変体を調査するために使用され得る。
【0021】
用語「モノマー(monomer)」とは、本明細書で使用される場合、2本の軽鎖および2本の重鎖からなる抗体を説明する。抗体組成物のモノマー含有量は、代表的には、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析される。SECの分離原理に従って、大きな分子または高分子量(HMW)を有する分子が先ず溶離し、続いて、より小さなまたはより低い重さの分子が溶離する。抗体組成物の代表的なSECプロフィールにおいて、ダイマー、マルチマーなどを含み得る凝集物が先ず溶離し、続いて、モノマーが溶離し、短くなった(clipped)抗体改変体または分解物は、最後に溶離され得る。状況によっては、上記凝集物ピークまたは上記分解物ピークは、ベースラインの分離されたピークとして溶離されなくてもよいが、代わりに、ショルダーまたは異常な広いピークとして溶離されることがある。抗体の、特に、治療用抗体の適切な活性を維持するために、凝集物の形成または生成物のフラグメント化を低減し、従って、モノマー含有量を目標値に制御することは、望ましいことである。安定性試験中の種々の時点で測定されるとおりの凝集物および分解物含有量の形成を阻害する能力は、目的の抗体の候補製剤の適切性を示し得る。TOSCHからのTSK-GEL G3000SWXL(7.8mm×30cm)カラムは、SECを行うために、水系のHPLCで使用され得る。
【0022】
用語「主要ピーク(main peak)」とは、本明細書で使用される場合、カチオン交換クロマトグラフィーの間に多量に溶離するピーク(大きなピーク)をいう。カチオン交換クロマトグラフィーの間に、主要ピークに対して酸性である電荷とともに主要ピークより先に溶離するピークは、酸性改変体ピークと称される。カチオン交換クロマトグラフィーの間に、上記主要ピークより相対的に塩基性である電荷とともに上記主要ピークより後に溶離するピークは、塩基性改変体ピークと称される。上記主要ピーク含有量は、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)によって決定され得る。利用可能なIECの2つのモード、すなわち、カチオンおよびアニオン交換クロマトグラフィーが存在する。正に荷電した分子は、アニオン交換樹脂に結合する一方で、負に荷電した分子は、カチオン交換樹脂に結合する。抗体組成物の代表的なカチオン交換クロマトグラフィープロフィールにおいて、酸性改変体が先ず溶離し、続いて、主要ピークが溶離し、その後最後に、塩基性改変体が溶離される。上記酸性改変体は、抗体改変(例えば、アスパラギン残基の脱アミド化)の結果である。塩基性改変体は、C末端リジン残基の不完全な除去の結果である。一般に、抗体において、リジン残基は、重鎖および軽鎖両方のC末端に存在する。重鎖および軽鎖両方においてリジンを含む抗体分子は、K2改変体といわれ、重鎖および軽鎖のいずれか一方においてリジン残基を含む抗体分子は、K1改変体といわれ、リジンを含まない抗体分子は、K0分子といわれる。カルボキシペプチダーゼB(CP-B酵素)酵素は、K2改変体およびK1改変体上に存在するC末端リジン残基に対して作用し、従って、それらをK0分子として変換する。その場合の状況に従って、IEC分析は、カルボキシペプチダーゼB(CP-B)酵素で消化したサンプルに対して行われ得る。代表的な安定性試験において、安定な製剤は、その試験の間に、荷電改変体(酸性改変体および塩基性改変体)の形成の低減をもたらし、従って、主要ピーク含有量の任意の低減を最小限にすることが予測される。
【0023】
薬学的に受容可能な賦形剤とは、製剤中の上記抗体の安定性に寄与し得る、添加物またはキャリアをいう。上記賦形剤は、安定化剤および張度改変剤(tonicity modifier)を含み得る。安定化剤および張度改変剤の例としては、塩、界面活性剤、ならびにこれらの誘導体および組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
用語糖は、本明細書で使用される場合、糖および糖アルコール/ポリオールを含む。糖は、モノサッカリド、ジサッカリド、およびポリサッカリドをいい得る。糖の例としては、スクロース、トレハロース、グルコース、デキストロース、ラフィノースなどが挙げられるが、これらに限定されない。糖アルコールまたはポリオールの例としては、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
界面活性剤とは、撹拌、剪断、高温への曝露などのような種々のストレス条件に対してタンパク質製剤を保護するために使用される薬学的に受容可能な賦形剤をいう。適切な界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Tween 20TMまたはTween 80TM)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(例えば、Poloxamer、Pluronic)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などまたはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
用語「遊離アミノ酸(free amino acid)」とは、本明細書で使用される場合、上記製剤中に含まれ、緩衝液構成要素の一部ではないアミノ酸をいう。アミノ酸は、そのD型および/またはL型で存在し得る。上記アミノ酸は、任意の適切な塩、例えば、塩酸塩(例えば、アルギニン-HCl)として存在し得る。
【0027】
塩の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛および/または酢酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
用語「抗酸化剤(antioxidant)」とは、他の分子の酸化を阻害し、緩衝液構成要素の一部ではない薬剤をいう。本明細書中の抗酸化剤の例としては、クエン酸塩、リポ酸、尿酸、グルタチオン、トコフェロール、カロテン、リコペン、システイン、メチオニン、ホスホネート化合物(例えば、エチドロン酸)、デスフェロキサミン(desferoxamine)およびリンゴ酸塩が挙げられる。
【0029】
本発明のある特定の具体的局面および実施形態は、以下の実施例への言及によってより十分に記載される。しかし、これらの実施例は、本発明の範囲をいかなる様式においても限定すると解釈されるべきではない。
【0030】
実施形態の詳細な説明
承認されている抗体製剤のうちの多くは、安定化剤として糖を含む。具体的には、非還元糖(例えば、スクロース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール)が、承認されている抗体製剤のうちの多くで安定化剤として一般的かつ主に使用されており、これら賦形剤は、凍結乾燥製剤および液体製剤の両方において使用されている。しかし、糖、特にスクロースは、貯蔵の間の加水分解を経て分解されることが公知である。スクロース分子の加水分解は、温度またはpHの変化に起因し得る。さらに、スクロースの加水分解生成物は、製剤中に存在するタンパク質の糖化反応をもたらす。これにもかかわらず、糖/スクロースは、タンパク質/抗体製剤の安定化および凍結乾燥において大きな役割を果たしており、従って、ほぼ全ての製剤は、糖/スクロースを含み、糖/スクロースを排除すると同時に、安定な製剤を開発することは困難になっている。
【0031】
しかし、本発明は、PEGによって安定化されかついかなる糖も糖アルコールも存在しない、抗体製剤、特に、α4β7抗体製剤を開示する。
【0032】
本発明は、緩衝液、PEG、塩および界面活性剤を含む抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記製剤は糖を欠いている製剤を開示する。
【0033】
1つの実施形態において、本発明は、緩衝液、PEG、塩および界面活性剤を含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記製剤は、糖および抗酸化剤を欠いている製剤を開示する。
【0034】
本発明の上記の実施形態において、上記抗体製剤に存在するPEGの濃度は、少なくとも3%である。好ましくは、PEGの濃度は、5%、6%、7%、8%、9%および10%である。
【0035】
本発明の一実施形態において、上記抗体製剤中のPEGの濃度は、約10%である。
【0036】
本発明の上記実施形態のうちのいずれかにおいて、α4β7抗体製剤は、必要に応じて、遊離アミノ酸、好ましくは、疎水性または塩基性アミノ酸を含む。
【0037】
上記の実施形態において、上記疎水性アミノ酸はグリシンであり、塩基性アミノ酸はアルギニンである。
【0038】
本発明の上記で言及した実施形態のうちの全てにおいて、上記製剤中の抗体の濃度は、約50mg/ml~約200mg/mlである。好ましくは、上記製剤中の抗体の濃度は、60mg/ml、または80mg/ml、または100mg/ml、または120mg/ml、または150mg/ml、または160mg/ml、または170mg/ml、または175mg/ml、または180mg/mlである。
【0039】
一実施形態において、本発明は、約150mg/mlのα4β7抗体、緩衝液、PEG、塩、アルギニンおよび界面活性剤を含む高濃度のα4β7抗体製剤であって、ここで上記製剤は糖および抗酸化剤を含まない製剤を開示する。
【0040】
上記の実施形態において、PEGの濃度は、少なくとも3%~約10%であり、PEG 対 α4β7抗体の重量/重量比は、0.2~0.7:1(w/w)である。
【0041】
一実施形態において、本発明は、高濃度α4β7抗体製剤であって、ここで上記製剤は、約160mg/ml ベドリズマブ、緩衝液、少なくとも約3% PEG、アミノ酸、塩および界面活性剤を含み、PEG 対 抗体の重量/重量比は0.2:1(w/w)である製剤を開示する。
【0042】
本発明の上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、α4β7抗体製剤は安定であり、40℃で4週間の貯蔵後ですら上記抗体のモノマー含有量のうちの少なくとも97%を維持し、また、上記抗体の凝集物含有量は、40℃で4週間の貯蔵後ですら2%未満である。
【0043】
本発明の上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記α4β7抗体製剤は安定であり、40℃で4週間の貯蔵後ですら、上記製剤中に1.5%未満の低分子量(LMW)種またはフラグメントを含む。
【0044】
本発明の上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記製剤中に存在するPEG、アミノ酸、塩および界面活性剤の組み合わせは、40℃で2週間の貯蔵後ですら、荷電改変体の形成を阻害/低減する。
【0045】
一実施形態において、本発明は、約150mg/mlのα4β7抗体、20mM ヒスチジン-リン酸緩衝液、26mg/ml アルギニン、2.92mg/ml 塩化ナトリウム、10% PEGおよび0.6mg/ml 界面活性剤を含む安定な高濃度α4β7抗体製剤を開示する。上記抗体製剤中での賦形剤の開示された組み合わせは、40℃で2週間の貯蔵後ですら、上記抗体組成物のモノマー含有量のうちの少なくとも98%を維持する。
【0046】
一実施形態において、本発明は、約160mg/ml α4β7抗体、50mM ヒスチジン緩衝液、26mg/ml アルギニン、2.92mg/ml 塩化ナトリウム、10% PEGおよび0.6mg/ml 界面活性剤を含む安定な高濃度α4β7抗体製剤を開示する。上記抗体製剤中の賦形剤の開示される組み合わせは、40℃で2週間の貯蔵後ですら、上記抗体組成含有量のモノマー含有量のうちの少なくとも98%を維持する。
【0047】
本発明の上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記製剤に存在するPEG、アミノ酸および塩の組み合わせは、上記抗体製剤にコロイド安定性を付与する。
【0048】
上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、製剤の粘性は、20cP未満、具体的には、10cP未満である。
【0049】
一実施形態において、本発明は、荷電改変体の主要ピーク含有量およびα4β7抗体の凝集物含有量の変換を制御する方法であって、ここで上記方法は、PEG、アミノ酸、塩および界面活性剤を含む緩衝液組成物を、上記抗体製剤に添加する工程を包含する方法を開示する。
【0050】
さらに別の実施形態において、本発明は、α4β7抗体製剤中のα4β7抗体の荷電改変体および凝集物含有量を制御する方法であって、上記方法は、PEG、塩、アルギニンおよび界面活性剤を含む緩衝液組成物を、上記抗体製剤に添加する工程を包含し、ここで上記製剤は、抗体の荷電改変体および凝集物の形成を制御し、40℃で2週間または25℃で4週間で貯蔵した場合にすら、モノマー含有量のうちの少なくとも98%および主要ピーク含有量としての上記抗体のうちの少なくとも50%を維持する方法を開示する。
【0051】
別の実施形態において、本発明は、α4β7抗体製剤中のα4β7抗体の荷電改変体および凝集物含有量の変化または増大を低減する方法であって、上記方法は、PEG、塩、アルギニンおよび界面活性剤を含む緩衝液を上記抗体製剤に添加する工程を包含し、ここで上記凝集物含有量の変化または増大は、1%未満であり、40℃で2週間または25℃で4週間において貯蔵した場合に、および初期貯蔵条件における含有量と比較した場合に、荷電改変体含有量は、5%未満である方法を開示する。
【0052】
上述の実施形態において、酸性改変体含有量の変化は、40℃で2週間貯蔵した後ですら、5%未満である。
【0053】
上記の実施形態において、上記α4β7抗体製剤は安定であり、40℃で2週間貯蔵した後ですら、上記抗体のモノマー含有量のうちの少なくとも98%を維持し、そしてまた上記抗体の凝集物含有量は、40℃で2週間貯蔵した後ですら、1.5%未満である。
【0054】
上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、PEG、塩、アルギニンおよび界面活性剤の組み合わせで製剤化されたα4β7抗体は、生物学的に活性である。
【0055】
上述の実施形態のうちのいずれかにおいて、α4β7抗体製剤に存在する塩は、塩化ナトリウムである。
【0056】
上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記製剤において言及される緩衝液は、有機性緩衝液、無機性緩衝液および/またはこれらの組み合わせを含む。
【0057】
本発明の上述の実施形態において、上記有機性緩衝液としては、ヒスチジン緩衝液、コハク酸緩衝液または酢酸緩衝液が挙げられる。
【0058】
本発明のさらに別の実施形態において、上記製剤において言及される無機性緩衝液としては、リン酸緩衝液が挙げられる。
【0059】
本発明の上述の実施形態のうちのいずれかにおいて、α4β7抗体製剤のpHは、5.0~7.0である。
【0060】
1つの実施形態において、本発明は、ヒスチジン-リン酸緩衝液、PEG、界面活性剤、塩およびアルギニンを含むα4β7抗体の安定な薬学的製剤であって、ここで上記製剤は糖を含まない製剤を開示する。
【0061】
上記の実施形態において、上記α4β7抗体製剤は安定であり、上記抗体のモノマー含有量のうちの少なくとも97%を維持し、低分子量種を、40℃で4週間での貯蔵後ですら、上記製剤中で1.2%未満に制御する。
【0062】
一実施形態において、緩衝液、PEG、塩化ナトリウム、界面活性剤および糖を含む上記α4β7抗体製剤は、25℃で4週間の貯蔵後ですら、15%未満の塩基性改変体、および約1.5%未満の低分子量種を含む。
【0063】
上述の実施形態のうちのいずれかにおいて、α4β7抗体の製剤は、安定な液体(水性)製剤であり、これは、非経口投与のために使用され得る。非経口投与としては、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内投与または非経口投与の範囲に入ると概して考えられ、当業者に周知であるとおりの任意の他の送達経路が挙げられる。
【0064】
本発明の上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記安定な液体/水性製剤は適切であり、凍結乾燥粉末として凍結乾燥され得る。さらに、α4β7抗体の凍結乾燥製剤は、投与に適した液体製剤を達成するために適切な希釈剤で再構成され得る。
【0065】
上述の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記安定な液体α4β7抗体は、凍結乾燥プロセスと適合性であり、その凍結乾燥プロセスは、上記抗体の品質属性に影響を与えない。
【0066】
上述の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記凍結乾燥α4β7抗体製剤は、注射用の水を使用して再構成され、ここで上記再構成時間は、5分未満である。
【0067】
上述の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記α4β7抗体は、ベドリズマブを含む。
【0068】
本発明の別の局面は、バイアル、充填済みシリンジもしくはオートインジェクターデバイス、または本明細書で記載される本発明の製剤のうちのいずれかを含む任意の他の適切なデバイスを提供する。ある特定の実施形態において、上記バイアルまたは充填済みシリンジまたはオートインジェクターデバイス中に貯蔵される水性製剤は、ベドリズマブ、PEG、緩衝液、アミノ酸、塩および界面活性剤を含む。
【0069】
上述の実施形態のうちのいずれかにおいて、α4β7抗体製剤は、40℃で2週間または4週間貯蔵された場合にすら、いかなる粒子をも含まず、視覚的に透明である。
【0070】
本発明の開示される製剤は、より少ない量の賦形剤を使用して、上記治療用抗体を安定化させる。さらに、上記製剤は、糖を欠いている。
【実施例】
【0071】
本発明の薬学的組成物における貯蔵に適したα4β7抗体、ベドリズマブは、当該分野で公知の標準的方法によって生成される。例えば、ベドリズマブは、哺乳動物宿主細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞)中での免疫グロブリン軽鎖および重鎖遺伝子の組換え発現によって調製される。さらに、その発現されたベドリズマブは採取され、その粗製の採取物は、精製、濾過および必要に応じて希釈または濃縮工程を含む標準的な下流のプロセス工程に供される。例えば、ベドリズマブの粗製の採取物は、標準的なクロマトグラフィー技術(例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよびこれらの組み合わせ)を使用して精製され得る。その精製したベドリズマブ溶液は、さらに1またはこれより多くの濾過工程に供され得、その得られた溶液は、さらに製剤化試験に供される。
【0072】
実施例1 糖および遊離抗酸化剤なしのベドリズマブ製剤
精製した高濃度ベドリズマブ抗体およそ100mg/mlは、少なくとも8mg/ml アルギニンおよび/またはヒスチジン-リン酸緩衝液バックグラウンド中75mg/ml トレハロースを含み、下流のクロマトグラフィー工程から得られた。その後、製剤中の賦形剤の要件に応じて、PEG-400、NaCl、トレハロースおよびポリソルベートを、上記製剤中に添加して、最終製剤を作製した。コントロールを維持するために、26.3mg/ml アルギニン、100mg/ml スクロースを含むヒスチジン緩衝液バックグラウンド中のおよそ100mg/mlの精製ベドリズマブを、下流のクロマトグラフィー工程から得た。ポリソルベート-80をその最終製剤に添加した。全ての製剤を希釈して、最終製剤を作製した。
【0073】
全5種のベドリズマブ製剤の詳細を、表1中に言及する。全てのベドリズマブ製剤を、40℃で4週間および25℃で4週間の加速安定性試験に供した。その後、そのサンプルを、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して、低分子量(LMW)種およびモノマー含有量に関して分析し[結果を表2および4に示す]、主要ピーク含有量、酸性改変体、塩基性改変体に関しても、イオン交換クロマトグラフィーを使用してチェックした[表3および5]。そしてまた、これらのサンプルを、可溶性および動的光散乱技術(DLS)を使用して流体力学的直径(Rh)に関してチェックした[表6]。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
上記の製剤全てを、pHの変化に関してもチェックした。25℃および40℃で4週間の貯蔵後ですら、上記製剤のpHの変化はないことが観察された。
【0081】
さらに、これらの製剤を凍結乾燥に供し、その後、全製剤を再構成し、再構成時間、SECを使用して凝集物含有量、およびIEXを使用して酸性種、塩基性種に関してチェックした。
【0082】
全5種の製剤の再構成時間は、5分未満であることが観察された。再構成後の全5種の製剤の凝集物含有量および酸性/塩基性種に変化は存在しないことが観察された。これらの結果は、凍結乾燥プロセスが、上記製剤の品質属性に何ら影響を与えないことを明確に示す。
【0083】
実施例2:高濃度ベドリズマブ製剤
精製高濃度ベドリズマブ抗体およそ100mg/mlは、ヒスチジン-リン酸/ヒスチジン緩衝液バックグランド中に少なくとも8mg/ml アルギニンおよび/または75mg/ml トレハロースを含み、下流のクロマトグラフィー工程から得られた。その後、最終製剤中の賦形剤の要件に応じて、緩衝液を、以下の賦形剤、PEG-400、アルギニンおよびNaClの必要量を有する組成物、ヒスチジン/ヒスチジン-リン酸緩衝液と交換した。緩衝液交換後、上記製剤を、150~180mg/mlまで濃縮した。後に、ポリソルベート80を、全ての製剤に添加した。上記の工程において、上記サンプルのうちの1つを、PEG-400、アルギニンおよび塩を含み、いかなる緩衝液をも含まない組成物と、緩衝液を含まないこの組み合わせの安定化効果を知るために交換し、170mg/mlまで濃縮した。
【0084】
コントロールを維持するために、26.3mg/ml アルギニン、100mg/ml スクロースを含むヒスチジン緩衝液バックグラウンド中のおよそ100mg/mlの精製ベドリズマブを、下流のクロマトグラフィー工程から得、ヒスチジン緩衝液、アルギニン、およびクエン酸塩を含む組成物と緩衝液交換した。その後、上記抗体を、170mg/mlまで濃縮した。ポリソルベート-80を最終製剤に添加した。承認された高濃度ベドリズマブ製剤は、上記の組成を含む。よって、コントロールとして維持した。
【0085】
全4種のベドリズマブ製剤の詳細を、表7で言及する。全てのベドリズマブ製剤を、40℃で2週間および25℃で4週間の加速安定性試験に供した。その後、そのサンプルを、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して、低分子量(LMW)種およびモノマー含有量に関して分析し[結果を表8に示す]、主要ピーク含有量、酸性改変体、塩基性改変体に関しても、イオン交換クロマトグラフィーを使用してチェックした[表9]。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
上記の製剤は全て、pHの変化に関してもチェックした。40℃で2週間の貯蔵後ですら、上記製剤のpHに変化は存在しないことが観察された。さらに、上記サンプル全てを、目に見える粒子に関してチェックした。上記サンプル全てがいかなる目に見える粒子も含まない透明で無色であることが観察された。
【表10】
【国際調査報告】