(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-13
(54)【発明の名称】リグニン含有バイオベースの複合材料及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
C08L 97/00 20060101AFI20221206BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20221206BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C08L97/00
C08L77/00
C08J5/00 CEP
C08J5/00 CFG
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535163
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(85)【翻訳文提出日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 CN2021093150
(87)【国際公開番号】W WO2022007496
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】202010638533.8
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522229020
【氏名又は名称】安徽農業大学
【氏名又は名称原語表記】ANHUI AGRICULTURAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】130 Changjiangxilu Hefei, Anhui 230036, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】章 亜瓊
(72)【発明者】
【氏名】陳 佳偉
(72)【発明者】
【氏名】汪 鍾凱
(72)【発明者】
【氏名】呉 茫
(72)【発明者】
【氏名】戚 嘉▲る▼
(72)【発明者】
【氏名】欧陽 涛
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA55
4F071AA73
4F071AC12
4F071AE19
4F071AF14
4F071AF15
4F071AF20
4F071AF21
4F071AG34
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC07
4J002AH001
4J002CL032
4J002CL072
4J002CL082
4J002CL092
4J002GJ01
(57)【要約】
本発明は、リグニン含有バイオベースの複合材料を開示し、高分子材料技術の分野に関する。前記材料は、主に次の重量部の原料、即ち、リグニン50-80部、ポリアミド20-50部から調製される。前記ポリアミドの構造一般式は次のとおりである。
5≦n≦5000、R
1及びR
3は脂肪族主鎖構造であり、R
2はエステル基官能基を持つ側鎖構造であり、R
4はチオエーテルを持つ主鎖構造である。本発明はまた、上記の複合材料の調製方法を提供する。本発明の有益な効果は、次のとおりである。本発明で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料は、リグニン含有量が80%であっても靭性が比較的良好であり、リグニンの利用率及び適用分野が大幅に改善される。また、この材料は、非常に良好な紫外線耐性を有し、工業化の見通しと商業的価値が非常に高い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン含有バイオベースの複合材料であって、主に次の重量部の原料、即ち、リグニン50~80部、ポリアミド20~50部から調製され、前記ポリアミドの構造一般式は次のとおりであり、
5≦n≦5000、R
1及びR
3は脂肪族主鎖構造であり、R
2はエステル基官能基を持つ側鎖構造であり、R
4はチオエーテルを持つ主鎖構造である、ことを特徴とするリグニン含有バイオベースの複合材料。
【請求項2】
前記R
1及びR
3の構造式は、次のいずれかである、ことを特徴とする請求項1に記載のリグニン含有バイオベースの複合材料。
【請求項3】
前記R
2の構造式は、次のいずれかである、ことを特徴とする請求項1に記載のリグニン含有バイオベースの複合材料。
【請求項4】
前記R
4の構造式は、次のいずれかである、ことを特徴とする請求項1に記載のリグニン含有バイオベースの複合材料。
【請求項5】
前記リグニンは、クラフトリグニン、有機リグニン、アルカリリグニン、酵素分解リグニン及びリグノスルホン酸塩の1つ又は複数である、ことを特徴とする請求項1に記載のリグニン含有バイオベースの複合材料。
【請求項6】
前記リグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法は、ポリアミドとリグニンを溶融ブレンディング又は溶液ブレンディング方法によってリグニン含有バイオベースの複合材料に調製するステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載のリグニン含有バイオベースの複合材料。
【請求項7】
ポリアミドとリグニンを溶融ブレンディング又は溶液ブレンディング方法によってリグニン含有バイオベースの複合材料に調製するステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載のリグニン含有バイオベースの複合材料を調製する調製方法。
【請求項8】
前記溶融ブレンディング方法は、
(1)リグニン及びポリアミドをそれぞれ真空オーブン内において、40~80℃の温度で4~8h乾燥させ、使用に備えるステップと、
(2)乾燥したリグニン及びポリアミドを密閉式混合機内に入れ、80~150℃、80~150r/minの条件下で3~15min混練するステップと、
(3)ステップ(2)で混練された混合物を真空打錠機内に入れ、100~180℃の条件下で加圧成形して、リグニン含有バイオベースの複合材料を調製するステップと、を含む、ことを特徴とする請求項7に記載のリグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法。
【請求項9】
前記溶液ブレンディング方法は、
(1)リグニン及びポリアミドをそれぞれ真空オーブン内において、40~80℃の温度で4~8h乾燥させ、使用に備えるステップと、
(2)乾燥したリグニン及びポリアミドを混合し、良溶媒に溶解させ、溶液を形成するステップと、
(3)ステップ(2)で調製された溶液中の溶媒を揮発させて、リグニン含有バイオベースの複合材料を調製するステップと、を含む、ことを特徴とする請求項7に記載のリグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法。
【請求項10】
前記良溶媒は、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミドの1つ又は複数である、ことを特徴とする請求項9に記載のリグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料技術の分野に関し、具体的には、リグニン含有バイオベースの複合材料及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニン(Lignin)は、地球上で二番目に豊富な天然ポリマーであり、植物の細胞壁に広く存在しており、既存の化石燃料に代わる有望な資源と見なされている。リグニンのコストが低く、含有量が豊富で、環境に優しく、紫外線照射耐性が良好であるため、リグニンには、接着剤、日焼け止めクリーム、炭素繊維、充填剤、生物由来合成ポリマー及び複合材料など、多くの潜在的な用途がある。
【0003】
リグニン材料の付加価値のある用途には幅広い見通しがあるが、靭性が低いという性能上の欠点がある。リグニンは、アモルファス熱可塑性材料であり、ガラス転移温度が高く、高温でフリーラジカルの自己適応が発生するため、熱安定性が制限される。また、リグニンベース材料は、一般的に、不十分な力学的特性を示す。従来技術では、工業用リグニンの熱可塑性及び力学的特性を改善するために、リグニンの強靱化改質は、主に2種類の方法がある。1つの方法は、共重合改質であるが、この方法は、ステップが複雑であり、収率が非常に低く、工業用途の実現が非常に困難である。もう1つの方法は、ブレンド改質であり、靭性を向上させる最も経済的で効果的な方法である。
【0004】
従来のリグニンブレンド改質に使用されるポリマーには、ポリオレフィン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体などがあるが、これらのポリマーの分子量は比較的小さく、両者の相溶性が悪く、リグニンブレンドのガラス転移温度の低下を引き起こしやすく、リグニン材料の加工が容易ではなく、材料の靭性が要求に達せず、脆くなりやすいなどの問題を引き起こす。
【0005】
特許CN201110150520.7には、リグニン改質方法が開示されている。リグニン:触媒:チオアルコール:ジメチルホルムアミドの質量比が1:0.2~0.6:0.5~2:5~10の割合で、リグニンを有機溶媒に溶解させ、チオアルコールと塩基性触媒が溶解した有機溶媒を加えて、脱メチル化反応を行い、遠心分離、洗浄、乾燥を経て、純粋な脱メチル化リグニンを取得した。本発明は、改質中にラジカル重合が発生せず、リグニンの分子量が低下するとともに極性が増加し、ホルムアルデヒドとの反応活性が向上し、フェノールをより高い割合で置換するリグニンを提供する。本方法によって改質されたリグニンは粉末状を呈し、接着剤、フェノール樹脂フォーム、ポリウレタンフォーム、フェノール樹脂成形材料、炭化機能材料及びポリウレタンフィルムなどの様々な新しい高分子材料に使用される熱可塑性フェノールホルムアルデヒド樹脂及び熱硬化性フェノールホルムアルデヒド樹脂を調製するために使用することができる。
【0006】
ポリアミド(PA)も、熱可塑性樹脂として、リグニンの強靭化改質の研究に使用されているが、強靭化効果が良くない。例えば、リグニン/PAブレンドの力学的特性をテストしたところ、テスト結果は、次のことを示している。リグニン含有量が10wt%である場合、リグニン/PAブレンドの引張破壊伸び率は200%に達し、引張強度は4MPaに達することができるが、リグニン含有量が30wt%に増加するに従って、リグニン/PAブレンドの引張破壊伸び率及び引張強度は、純粋なリグニンと比較して大幅に改善せず、リグニン/PAブレンドは依然として脆性材料であり、且つ該ブレンドのリグニン含有量は10~30wt%しか関与していない。( Liu K, Madbouly S A, Schrader J A, et al. Biorenewable polymer composites from tall oil‐based polyamide and lignin‐cellulose fiber[J]. Journal of Applied Polymer Science, 2015, 132(48): n/a-n/a.)。リグニンの含有量が高い場合、一般的に、ポリオレフィンを使用してリグニンとブレンドする。研究者は、ポリプロピレン(PP)/リグニンブレンドの力学的特性をテストしたところ、リグニンの含有量が50wt%を超える場合、ポリプロピレン(PP)/リグニンブレンドの変形能力は1%未満であり、純粋なリグニンと比較して差が大きくなく、工業的要求を満足できないことを見出した(Bozsodi, Bruno, Romhanyi, Vivien, Pataki P, et al. Modification of interactions in polypropylene/lignosulfonate blends[J]. Materials & Design, 2016, 103:32-39.)。
【0007】
リグニンの含有量が比較的低い場合、ポリアミド(PA)はリグニンの靭性をある程度向上させることができるが、ポリアミド樹脂の使用量は一般的に多く、通常約80~90wt%に達すると、リグニンの靭性を向上させることができる。同時に、ポリアミド樹脂とリグニンの界面相互作用が弱いため、マトリックス間の分散性と相溶性は顕著ではなく、ポリアミドの大量添加はまたリグニン複合材料の強度と剛性などの性能に比較的大きな影響を及ぼす。また、従来のポリアミド樹脂の大量添加は、ブレンド組成物の生分解性にも影響を及ぼし、リグニン複合材料の環境保護性能を大幅に低下させる。
【発明の概要】
【0008】
本発明が解決しようとする第1の技術的問題は、高い含有量でリグニンを含むバイオベースの複合材料を提供することである。
【0009】
本発明は、以下の技術的解決策により、上記の技術的問題を解決する。
リグニン含有バイオベースの複合材料は、主に次の重量部の原料、即ち、リグニン50~80部、ポリアミド20~50部から調製され、前記ポリアミドの構造一般式は次のとおりであり、
5≦n≦5000、R
1及びR
3は脂肪族主鎖構造であり、R
2はエステル基官能基を持つ側鎖構造であり、R
4はチオエーテルを持つ主鎖構造である。
【0010】
有益な効果は、次のとおりである。リグニン含有バイオベースの複合材料は、リグニン含有量が80%であっても靭性が比較的良好であり、リグニンの利用率及び適用分野が大幅に改善される。
【0011】
本発明で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料は、良好な紫外線照射耐性、熱安定性、良好な形状記憶性能などを有する。
【0012】
リグニンとポリアミドとの間に良好な水素結合作用を形成することができ、バイオベースのポリアミドポリマー主鎖におけるアミノ基の水素はリグニンカルボニル基の酸素とが水素結合を形成し、バイオベースのポリアミドポリマーにおけるR2側鎖エステル基の酸素はリグニンのフェノール水酸基の水素と水素結合を形成することができる。
【0013】
好ましくは、前記R
1及びR
3の構造式は、次のいずれかである。
【0014】
好ましくは、前記R
2の構造式は、次のいずれかである。
【0015】
好ましくは、前記R
4の構造式は、次のいずれかである。
【0016】
好ましくは、前記リグニンは、クラフトリグニン、有機リグニン、アルカリリグニン、酵素分解リグニン及びリグノスルホン酸塩の1つ又は複数である。
【0017】
好ましくは、リグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法は、ポリアミドとリグニンを溶融ブレンディング又は溶液ブレンディング方法によってリグニン含有バイオベースの複合材料に調製するステップを含む。
【0018】
好ましくは、前記溶融ブレンディング方法は、
(1)リグニン及びポリアミドをそれぞれ真空オーブン内において、40~80℃の温度で4~8h乾燥させ、使用に備えるステップと、
(2)乾燥したリグニン及びポリアミドを密閉式混合機内に入れ、80~150℃、80~150r/minの条件下で3~15min混練するステップと、
(3)ステップ(2)で混練された混合物を真空打錠機内に入れ、100~180℃の条件下で加圧成形して、リグニン含有バイオベースの複合材料を調製するステップと、を含む。
【0019】
有益な効果は、次のとおりである。ステップ(2)での温度が80℃未満である場合、リグニンとポリアミドのブレンディングは不完全であり、温度が150℃を超える場合、リグニンは炭化される。回転速度と混練時間を同時に調節することによって、リグニンとポリアミドを均一にブレンドする。ステップ(3)での打錠温度が100℃未満である場合、温度が低すぎるので、加圧成形ができない。温度が180℃を超える場合、温度が高すぎるので、生成物が炭化される。
【0020】
好ましくは、前記溶液ブレンディングは、
(1)リグニン及びポリアミドをそれぞれ真空オーブン内において、40~80℃の温度で4~8h乾燥させ、使用に備えるステップと、
(2)乾燥したリグニン及びポリアミドを混合し、良溶媒に溶解させ、溶液を形成するステップと、
(3)ステップ(2)で調製された溶液中の溶媒を揮発させて、リグニン含有バイオベースの複合材料を調製するステップと、を含む。
【0021】
好ましくは、前記良溶媒は、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミドの1つ又は複数である。
【0022】
本発明が解決しようとする第2の技術的問題は、高い含有量でリグニンを含むバイオベースの複合材料の調製方法を提供することである。
【0023】
リグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法は、ポリアミドとリグニンを溶融ブレンディング又は溶液ブレンディング方法によってリグニン含有バイオベースの複合材料に調製するステップを含む。
【0024】
有益な効果は、次のとおりである。本発明のポリアミドは、未改質リグニンとの溶融ブレンディングが容易であり、調製プロセスでの設備投資が小さく、操作が簡単であり、経済的価値及び市場の可能性が大きい。
【0025】
好ましくは、前記溶融ブレンディング方法は、
(1)リグニン及びポリアミドをそれぞれ真空オーブン内において、40~80℃の温度で4~8h乾燥させ、使用に備えるステップと、
(2)乾燥したリグニン及びポリアミドを密閉式混合機内に入れ、80~150℃、80~150r/minの条件下で3~15min混練するステップと、
(3)ステップ(2)で混練された混合物を真空打錠機内に入れ、100~180℃の条件下で加圧成形して、リグニン含有バイオベースの複合材料を調製するステップと、を含む。
【0026】
好ましくは、前記溶液ブレンディングは、
(1)リグニン及びポリアミドをそれぞれ真空オーブン内において、40~80℃の温度で4~8h乾燥させ、使用に備えるステップと、
(2)乾燥したリグニン及びポリアミドを混合し、良溶媒に溶解させ、溶液を形成するステップと、
(3)ステップ(2)で調製された溶液中の溶媒を揮発させて、リグニン含有バイオベースの複合材料を調製するステップと、を含む。
【0027】
好ましくは、前記良溶媒は、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミドの1つ又は複数である。
本発明の利点は次のとおりである。
【0028】
(1)リグニンは、地球上で二番目に豊富な天然ポリマーとして、安価で、入手しやすく、環境に優しい生物ポリマーであるが、リグニンの大部分は安価な燃料としてのみ使用されているので、資源の深刻な浪費を引き起す。本発明で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料は、リグニンの力学的特性を改善する。
【0029】
(2)本発明のポリアミド自体は、より良好な生分解性能を有する。リグニンは、アモルファス熱可塑性材料であり、ガラス転移温度が高く、高温でフリーラジカルの自己適応が発生するため、熱安定性が制限される。しかしながら、本発明は、リグニンと少量のバイオベースのポリアミドポリマーを溶融ブレンドし、リグニン含有量が高いバイオベースの複合材料の熱安定性を大幅に改善する。
【0030】
(3)本発明で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料は、良好な紫外線照射耐性を有する。
【0031】
(4)本発明で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料は、良好な形状記憶性能を示す。
【0032】
(5)本発明で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料は、リグニン含有量の増加に伴い、ガラス転移温度が明らかに上昇し、複合材料の優れた性質を保証するとともに、リグニン含有量が高いバイオベースの複合材料の加工難易度を大幅に低下させる。
【0033】
(6)リグニン構造は大量の水酸基を含み、極性が比較的大きく、親水性を有する。同時に、バイオベースのポリアミドポリマーも親水性を有する。しかしながら、本発明で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料は、バイオベースのポリアミドポリマーの増加に伴い、その親水性が明らかに低下し、複合材料の親水性と疎水性を調節する効果がある。
【0034】
(7)本発明は、リグニンとポリアミドを混合し、リグニン複合材料の靭性、破壊伸び率及び耐衝撃強度などの機械的特性を大幅に改善し、材料の剛性と強度に対する影響が比較的小さい。
【0035】
(8)本発明のポリアミドは、未改質リグニンとの溶融ブレンディングが容易であり、調製プロセスでの設備投資が小さく、操作が簡単であり、経済的価値及び市場の可能性が大きい。
【0036】
(9)本発明で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料は、リグニン含有量が80%であっても靭性が比較的良好であり、リグニンの利用率及び適用分野が大幅に改善される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の応力-ひずみ曲線である。
【
図2】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の紫外線吸収スペクトルである。
【
図3】本発明の実施例1で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の走査型電子顕微鏡の断面写真である。
【
図4】本発明の実施例2で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の走査型電子顕微鏡の断面写真である。
【
図5】本発明の実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の走査型電子顕微鏡の断面写真である。
【
図6】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の熱重量曲線図である。
【
図7】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料のガラス転移温度の模式図である。
【
図8】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の接触角の模式図である。
【
図9】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料のフーリエ変換赤外分光スペクトルである。
【
図10】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の永続的形状の形状記憶模式図である。
【
図11】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の一時的形状の形状記憶模式図である。
【
図12】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の回復プロセス10sの形状記憶模式図である。
【
図13】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の回復プロセス20sの形状記憶模式図である。
【
図14】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の回復プロセス35sの形状記憶模式図である。
【
図15】本発明の実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の回復プロセス60sの形状記憶模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施例の目的、技術的解決手段及び利点をさらに明確にするために、以下、本発明の実施例を参照しながら、本発明の実施例の技術的解決手段を明確かつ完全に説明する。当然のことながら、ここで説明する実施例は本発明の実施例の全てではなく一部にすぎない。当業者が創造的な作業なしに本発明の実施例に基づいて得られる他の全ての実施例は、本発明の保護範囲に含まれるべきである。
【0039】
以下の実施例で使用される試験材料及び試薬は、特に説明しない限り、商業的に入手可能である。
【0040】
具体的な技術又は条件が実施例に明記されていない場合、本分野の文献に記載の技術又は製品仕様書に従うことができる。
【0041】
<実施例1>
バイオベースのポリアミドポリマーの調製
(1)ウンデシレン酸メチル100g、1,3-ジアミノ-プロパノール1gを取って4mlテトラヒドロフランに入れた。アルゴンガスを30分間導入してから、40℃の油浴に入れ、10mlのナトリウムメトキシドを加えた後、40℃で20時間反応させ、次に再結晶化して、必要とされる機能性ポリアミドモノマー1である白色粉末状の固体を取得した。
【0042】
(2)54gの機能性ポリアミドモノマー1、12gの無水酪酸、40mgのジメチルアミノピリジンを取って丸底フラスコに入れ、3mlのテトラヒドロフランを加えて混合し、50℃で10時間反応させて、澄んだ溶液を取得し、精製により機能性ポリアミドモノマー2を取得した。
【0043】
(3)1350mgの機能性ポリアミドモノマー2、150mgの機能性ポリアミドモノマー1、200mgのオキサジチオール、10mgのアゾビスイソブチロニトリル触媒及び10mlテトラヒドロフランを反応容器に入れた。アルゴンガスを15分間導入してから、混合物を100℃の油浴に入れ、36時間反応させた。反応生成物を精製して、バイオベースのポリアミドポリマーを取得した。
【0044】
本実施例のバイオベースのポリアミドポリマーの調製方法は、特許CN107501554A《超高強度熱可塑性エラストマー及びその調製方法》の実施例1に開示されたバイオベースのポリアミドポリマーの調製方法と同じである。
【0045】
<実施例2>
リグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法
(1)50重量部の未改質のリグニン(リグニンに対して化学基の修飾変形を行っていない)、及び50重量部の実施例1で調製されたポリアミドを、60℃の真空オーブンで8h乾燥させ、使用に備えた。
【0046】
(2)ステップ(1)で乾燥したリグニンをポリアミドと混合し、密閉式混合機に入れ、100℃、100r/minの回転速度で、10minブレンドした。
【0047】
(3)ステップ(2)で混練された混合物を真空打錠機内に入れ、150℃の条件下で加圧成形して、リグニン含有バイオベースの複合材料を調製した。
【0048】
<実施例2>
リグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法
(1)60重量部の未改質のリグニン、及び40重量部の実施例1で調製されたポリアミドを、60℃の真空オーブンで8h乾燥させ、使用に備えた。
【0049】
(2)ステップ(1)で乾燥したリグニンをポリアミドと混合し、密閉式混合機に入れ、100℃、100r/minの回転速度で、10minブレンドした。
【0050】
(3)ステップ(2)で混練された混合物を真空打錠機内に入れ、150℃の条件下で加圧成形して、リグニン含有バイオベースの複合材料を調製した。
【0051】
<実施例3>
リグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法
(1)70重量部の未改質のリグニン、及び30重量部の実施例1で調製されたポリアミドを、60℃の真空オーブンで8h乾燥させ、使用に備えた。
【0052】
(2)ステップ(1)で乾燥したリグニンをポリアミドと混合し、密閉式混合機に入れ、100℃、100r/minの回転速度で、10minブレンドした。
【0053】
(3)ステップ(2)で混練された混合物を真空打錠機内に入れ、150℃の条件下で加圧成形して、リグニン含有バイオベースの複合材料を調製した。
【0054】
<実施例4>
リグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法
(1)80重量部の未改質のリグニン、及び20重量部の実施例1で調製されたポリアミドを、60℃の真空オーブンで8h乾燥させ、使用に備えた。
【0055】
(2)ステップ(1)で乾燥したリグニンをポリアミドと混合し、密閉式混合機に入れ、100℃、100r/minの回転速度で、10minブレンドした。
【0056】
(3)ステップ(2)で混練された混合物を真空打錠機内に入れ、150℃の条件下で加圧成形して、リグニン含有バイオベースの複合材料を調製した。
【0057】
<実施例5>
リグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法
(1)50重量部のクラフトリグニン、及び50重量部の実施例1で調製されたポリアミドを、60℃の真空オーブンで8h乾燥させ、使用に備えた。本実施例のクラフトリグニンは、金得莱生物科技有限公司から購入した。クラフトリグニン自体は脆くて壊れやすい。
【0058】
(2)ステップ(1)で乾燥したリグニンをポリアミドと混合し、20mLのテトラヒドロフランに溶解させて、溶液を形成した。
【0059】
(3)ステップ(2)の溶液をモールドに流し込み、溶媒を揮発させた後、リグニン含有バイオベースの複合材料を取得した。
【0060】
<実施例6>
リグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法
(1)60重量部の未改質のアルカリリグニン、及び40重量部の実施例1で調製されたポリアミドを、60℃の真空オーブンで8h乾燥させ、使用に備えた。本実施例のアルカリリグニンは、金得莱生物科技有限公司から購入した。
【0061】
(2)ステップ(1)で乾燥したリグニンをポリアミドと混合し、20mLの N,N-ジメチルホルムアミドに溶解させて、溶液を形成した。
【0062】
(3)ステップ(2)の溶液をモールドに流し込み、溶媒を揮発させた後、リグニン含有バイオベースの複合材料を取得した。
【0063】
<実施例7>
リグニン含有バイオベースの複合材料の調製方法
(1)80重量部の未改質の酵素分解リグニン、及び20重量部の実施例1で調製されたポリアミドを、60℃の真空オーブンで8h乾燥させ、使用に備えた。本実施例の酵素分解リグニンは、金得莱生物科技有限公司から購入した。酵素分解リグニン自体は脆くて壊れやすい。
【0064】
(2)ステップ(1)で乾燥したリグニンをポリアミドと混合し、20mLの N,N-ジメチルホルムアミドに溶解させて、溶液を形成した。
【0065】
(3)ステップ(2)の溶液をモールドに流し込み、溶媒を揮発させた後、リグニン含有バイオベースの複合材料を取得した。
【0066】
<実施例8>
実施例1~実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の性能を測定した。以下の測定方法はすべて従来技術である。
(1)ヤング率、引張強度、破壊伸び率及び靭性の測定、
(2)応力-ひずみ曲線の測定、
(3)紫外線吸収スペクトルの測定、
(4)熱重量分析、
(5)ガラス転移温度測定、
(6)接触角測定、
(7)フーリエ変換赤外分光スペクトル測定、
(8)形状記憶性能測定。
【0067】
測定結果:
表1は、実施例1~実施例3のリグニン含有バイオベースの複合材料の性能測定結果である。
【0068】
図1は、リグニン含有バイオベースの複合材料の応力-ひずみ曲線である。表1及び
図1からわかるように、未改質リグニンに40%のポリアミドを添加した後、リグニン含有バイオベースの複合材料は、破壊伸び率が86.9%まで向上するが、降伏強度が依然として15.2MPaであり、引張靭性が10.9 MJ/m3に達することができる。これは、純粋なリグニンが達成し難しい力学的特性である。未改質リグニンに50%のポリアミドを添加した後、高いリグニン含有量を有するバイオベースの複合材料の破壊伸び率は128.5%に向上することができ、降伏強度は依然として15.4Mpaであり、引張靭性は18.2 MJ/m3に達することができる。これにより、リグニンの利用率が大幅に向上する。要約すると、高いリグニン含有量を有するバイオベースの複合材料は、少量のポリアミドが添加された状況で、リグニンの破壊伸び率、靭性が非常に大きく向上し、且つリグニンの比較的高い剛性と強度が維持でき、大きな工業化の見通しと商業的価値がある。
【0069】
図2は、リグニン含有バイオベースの複合材料の紫外線吸収スペクトルである。
図2から、リグニン含有量の増加に伴い、その吸光度が増加することがわかる。これは、リグニン含有バイオベースの複合材料の紫外線吸収能力が徐々に向上し、得られたリグニン含有バイオベースの複合材料が良好な紫外線照射耐性を有することを示している。これは、リグニンが炭素-炭素二重結合、カルボニル基、ベンゼン環、オキシム構造など、多くの共役基を有し、高い紫外線吸収性能を有し、通常は天然の紫外線遮蔽剤として使用され、同時にリグニン中のフェノール構造が紫外線条件下でポリマーに対して一定の保護作用を有するためである。
【0070】
図3は、実施例1で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の走査型電子顕微鏡の断面写真である。
図4は、実施例2で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の走査型電子顕微鏡の断面写真である。
図5は、実施例3で調製されたリグニン含有バイオベースの複合材料の走査型電子顕微鏡の断面写真である。ポリアミドはリグニンマトリックスに比較的均一に分散し、未改質リグニンの使用量が増加すると、リグニンの小さな凝集体は粒子(50wt%)から連続体構造(70wt%)に拡大することがわかる。これは、リグニン/PAブレンドの引張と曲げ性能に非常に大きなメリットがあり、エネルギー吸収として機能し、複合材料の機械的特性を向上させることができる。同時に、リグニン/PAブレンドの破面には巨大な空洞が見られ、ブレンドの靭性と衝撃強度の向上を説明することができる。
【0071】
図6は、リグニン含有バイオベースの複合材料の熱重量曲線図である。高いリグニン含有量のバイオベースの複合材料は、200℃で分解し始め、350℃で分解速度が最も速く、500℃で安定する傾向があり、一方、バイオベースのポリアミドポリマーはこの時点でほぼ完全に分解し、リグニン含有量の増加に伴い、この複合材料の熱安定性は徐々に向上することがわかる。
【0072】
図7は、リグニン含有バイオベースの複合材料のガラス転移温度の模式図である。ガラス転移温度は、高分子材料の性能を決定する重要なパラメーターの1つである。リグニンは、剛直な芳香環から構成されるため、リグニンは、コポリマーの「ハードセグメント」と見なすことができ、それと溶融ブレンドされるバイオベースのポリアミドポリマー鎖は「ソフトセグメント」と見なすことができる。リグニンコアは、バイオベースのポリアミドポリマー鎖の流動性を制限するので、比較的高いTg値をもたらす。これにより、高いリグニン含有量のバイオベースの複合材料の加工難易度が大幅に低下し、工業化生産を実現することが可能になる。
【0073】
図8は、リグニン含有バイオベースの複合材料の接触角の模式図である。固体材料の表面での液体の接触角は、材料の表面に対する液体の湿潤性を測定するための重要なパラメーターである。材料の親水性と疎水性は、材料の適用範囲を広げることができる。リグニン構造には、大量の水酸基が含まれ、極性が大きく、親水性がある。バイオベースのポリアミドポリマーも親水性を有する。しかしながら、ここで調製された高いリグニン含有量のバイオベースの複合材料は、バイオベースのポリアミドポリマーの増加に伴い、その親水性が明らかに低下する。これは、バイオベースのポリアミドポリマーの添加量を制御することで、複合材料の親水性と疎水性を小さな範囲で調節できることを示している。
【0074】
図9は、リグニン含有バイオベースの複合材料のフーリエ変換赤外分光スペクトル図である。3400cm
-1の波長で、リグニンに強いピークが出現する。これは、リグニン上の大量の脂肪族水酸基とフェノール性水酸基の伸縮振動によるものである。対照的に、リグニン/ポリアミドブレンドでは、3400cm
-1の波長での吸収ピークが消失し、3300cm
-1の波長で新しい吸収ピークが出現する。これは、アミド基のN-H伸縮によるものである。同時に、1640cm
-1の波長でカルボニル吸収ピークがシフトする。要約すると、リグニンの水酸基とアミド基のカルボニル基は分子間水素結合を形成し、水素結合は、ポリアミドとリグニンの間に良好な界面作用の形成をもたらし、水素結合の形成は、リグニンにおける強靭化剤の分散に有利であることがわかる。
【0075】
図10~
図15は、それぞれ、リグニン含有バイオベースの複合材料の形状記憶の模式図である。調製された高いリグニン含有量のバイオベースの複合材料は、良好な形状記憶性能を示すことがわかる。材料の形状回復過程の代表的な写真を見ると、材料の形状回復速度が速く、回復が完全であることがわかる。この螺旋状のサンプルを150℃で調製し、永続的形状を得るために室温まで冷却した。次に、80℃の温度でストレート帯状形状を作製し、室温まで冷却して一時的な形状を固定した。その後、ストレートバーを80℃に加熱した。形状回復期間中に写真を撮った。
図10~
図15から、ストレートバーは1min以内に螺旋状に回復したことがわかる。
【0076】
上記の実施例は、単に本発明の技術的手段を説明するためのものであり、それを制限するものではない。上記の実施例を参照して本発明について詳述したが、当業者であれば、上記の各実施例に記載の技術的手段を修正するか、又はその一部の技術的特徴を均等物で置き換えることができる。これらの修正や置き換えは、対応する技術的解決手段の本質を本発明の各実施例の技術的手段の精神及び範囲から逸脱させない。
【国際調査報告】