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特表2022-551820細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための人工膜貫通タンパク質
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  • 特表-細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための人工膜貫通タンパク質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-14
(54)【発明の名称】細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための人工膜貫通タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20221207BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20221207BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20221207BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20221207BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20221207BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221207BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221207BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
G01N33/543 595
C07K19/00 ZNA
C07K14/705
C07K16/00
C12N15/63 Z
C12Q1/02
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519704
(86)(22)【出願日】2020-10-13
(85)【翻訳文提出日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2020078797
(87)【国際公開番号】W WO2021074161
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】19203205.0
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(71)【出願人】
【識別番号】501075970
【氏名又は名称】エト・チューリッヒ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【弁理士】
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】ベレシュ,ヤーノシュ
(72)【発明者】
【氏名】ライヒムート,アンドレアス・ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】リュヒテフェルト,イネス
(72)【発明者】
【氏名】インカビリア,イラリア
(72)【発明者】
【氏名】ブリッケンストーファー,イブ・ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】フルティガー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ファッティンガー,クリストフ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QQ20
4B063QQ91
4B063QR48
4B063QR77
4B063QS28
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX04
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045EA50
4H045FA74
4H045FA80
(57)【要約】
細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための生体分子検出デバイスにおける使用のための人工膜貫通タンパク質であって、人工膜貫通タンパク質が、細胞外または小胞外結合性構造体、疎水性膜貫通ドメイン、および細胞内または小胞内受容体構造体を有する細胞内または小胞内ドメインを含み、受容体構造体が、検出しようとする生体分子相互作用の細胞内または小胞内成分と相互作用するように構成されており、細胞外または小胞外結合性構造体が、生体分子検出デバイスの複数の所定の線に沿って配置されている膜認識エレメントに結合するように構成されている、人工膜貫通タンパク質が本明細書に開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための生体分子検出デバイスにおける使用のための人工膜貫通タンパク質であって、人工膜貫通タンパク質が、細胞外または小胞外結合性構造体、疎水性膜貫通ドメイン、および細胞内または小胞内受容体構造体を有する細胞内または小胞内ドメインを含み、受容体構造体が、検出しようとする生体分子相互作用の細胞内または小胞内成分と相互作用するように構成されており、細胞外または小胞外結合性構造体が、生体分子検出デバイスの複数の所定の線に沿って配置されている膜認識エレメントに結合するように構成されている、人工膜貫通タンパク質。
【請求項2】
細胞内または小胞内受容体構造体と、検出しようとする生体分子相互作用の細胞内または小胞内成分との相互作用を容易にするように構成されているリンカードメインをさらに含み、リンカードメインが、細胞内または小胞内受容体構造体と、疎水性膜貫通ドメインとの間に配置されている、請求項1に記載の人工膜貫通タンパク質。
【請求項3】
細胞外または小胞外結合性構造体が、生体分子検出デバイスの複数の所定の線に沿って配置されている膜認識エレメントとの共有結合を確立するように構成されている、請求項1または2に記載の人工膜貫通タンパク質。
【請求項4】
細胞外または小胞外結合性構造体が、求核剤、好ましくは、チオールまたはチオレートを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質。
【請求項5】
細胞外または小胞外結合性構造体がSNAPタグまたはCLIPタグである、請求項1~4のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質。
【請求項6】
人工膜貫通タンパク質が、
(a)細胞内もしくは小胞内ドメインがC末端に隣接して配置され、細胞外もしくは小胞外ドメインがN末端に隣接して配置されている、I型のもの;または
(b)細胞内もしくは小胞内ドメインがN末端に隣接して配置され、細胞外もしくは小胞外ドメインがC末端に隣接して配置されている、II型のもの
である、請求項1~5のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質。
【請求項7】
細胞内または小胞内ドメインが、細胞外または小胞外ドメインよりも多い量の正荷電アミノ酸残基を含む、請求項6に記載の人工膜貫通タンパク質。
【請求項8】
細胞内または小胞内受容体構造体が、設計された受容体または抗体、抗体断片、ナノボディもしくはアフィマーなどの他の機能的分子である、請求項1~7のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質。
【請求項9】
タンパク質輸送系との相互作用のため、および人工膜貫通タンパク質の移行を制御するための、人工膜貫通タンパク質のN末端に隣接する切断性シグナルペプチドをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質。
【請求項10】
細胞外または小胞外結合性構造体が、膜認識エレメントと相互作用するように構成されている親和性タグを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質。
【請求項11】
膜貫通タンパク質が無標識、特に、無蛍光標識である、請求項1~10のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質または請求項1~11のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質をコードする核酸配列を含む、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸配列を含む、組換え核酸分子。
【請求項14】
請求項13に記載の組換え核酸分子を含む、ベクター、好ましくは、プラスミドベクター。
【請求項15】
細胞を用意するステップ、および細胞中に請求項14に記載のベクターを導入するステップ、および人工膜貫通タンパク質を発現させるステップを含む、in vitroで人工膜貫通タンパク質を発現させるための、請求項14に記載のベクターの使用。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質を含む細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分を分析するための生体分子検出デバイス(1)であって、生体分子検出デバイスが、エバネセント照明器の第1の表面上で規定の波長を有するコヒーレント光(L)からエバネセント場を生成するように構成されている光結合ユニットを含むエバネセント照明器を含み、エバネセント照明器の第1の表面が、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)の人工膜貫通タンパク質の結合性構造体に対する膜認識エレメントが配置されている複数の所定の線のコヒーレント配置を含有する、鋳型ナノパターン(5)を含み、膜認識エレメントが、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)によってエバネセント場の光が散乱されるような、エバネセント照明器の鋳型ナノパターン(5)に基づいて細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)内で膜貫通ナノパターンを形成させるために人工膜貫通タンパク質の結合性構造体に結合するように構成されており、所定の線が、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)によって散乱される光がコヒーレント光(L)の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する規定の検出部位(7)で建設的に干渉するように配置されている、生体分子検出デバイス。
【請求項17】
a.請求項1~11のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質、または請求項12に記載の細胞、または請求項13に記載の組換え核酸分子、または請求項14に記載のベクター;および
b.請求項16に記載の生体分子検出デバイス;および必要に応じて、
c.目的のタンパク質が高質量部分、特に、金ナノ粒子を含む、細胞内または小胞内生体分子と相互作用するように構成されている目的のタンパク質
を含む、キットオブパーツ。
【請求項18】
請求項15に記載の生体分子検出デバイスを使用して、細胞、細胞成分または小胞もしくは小胞成分中の細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための無標識方法であって、
- 請求項1~10のいずれか一項に記載の人工膜貫通タンパク質を含む細胞、細胞成分または小胞もしくは小胞成分を用意するステップ;
- 細胞、細胞成分または小胞もしくは小胞成分を、生体分子検出デバイスの膜認識エレメントに適用するステップ;
- コヒーレント光のビームが規定の波長を有し、コヒーレント光の入射ビームの回折部分が、コヒーレント光の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する複数の所定の線に対して規定の検出部位で建設的に干渉して、規定の検出部位で細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の人工膜貫通タンパク質が結合した膜認識エレメントを代表するシグナルを提供する様式で、結合した膜貫通タンパク質を含む膜認識エレメントに入射する、複数の所定の線に対して規定のビーム生成位置でコヒーレント光のビームを生成するステップ;
- 細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の人工膜貫通タンパク質が結合した膜認識エレメントを代表するシグナルを測定するステップ
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための、人工膜貫通タンパク質の分野にある。本発明はさらに、人工膜貫通タンパク質を含む、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分を分析するための生体分子検出デバイスならびに細胞、細胞成分または小胞もしくは小胞成分中の細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検出デバイスは、例えば、多様な用途におけるバイオセンサーとして使用される。1つの特定の用途は、結合親和性またはプロセスの検出またはモニタリングである。例えば、そのようなバイオセンサーを援用して、結合部位への標的試料の結合を検出する様々なアッセイを実施することができる。典型的には、多数のそのようなアッセイは、バイオセンサーの表面上に2次元マイクロアレイに配置されているスポットにおけるバイオセンサー上で実施される。マイクロアレイの使用は、高効率スクリーニングにおける異なる標的試料の結合親和性またはプロセスの同時的検出のための手段を提供する。特定の結合部位に結合する標的試料の親和性、特定の捕捉分子に結合する標的分子の親和性を検出するために、多数の捕捉分子が、個々のスポットにおけるバイオセンサーの外表面上に固定される(例えば、インクジェットスポッティングまたはフォトリソグラフィーによる)。それぞれのスポットは、所定の型の捕捉分子のための個々の測定ゾーンを形成する。特定の型の捕捉分子への標的分子の結合を検出し、それを使用して、特定の捕捉分子に関する標的分子の結合親和性に関する情報を提供する。
【0003】
標的試料の結合親和性を検出するための公知の技術は、蛍光標識を利用する。蛍光標識は、励起時に蛍光を放出することができる。放出された蛍光は、特定のスポットにおける本発明の蛍光標識を同定する特徴的な放出スペクトルを有する。同定された蛍光標識は、標識された標的分子がこのスポットに存在する特定の型の結合部位に結合したことを示す。
【0004】
標識された標的分子を検出するためのセンサーは、論文「Zeptosens’ protein microarrays:A novel high performance microarray platform for low abundance protein analysis」、Proteomics 2002、2、S.383~393、Wiley-VCH Verlag GmbH、69451 Weinheim、Germanyに記載されている。本論文に記載のセンサーは、基質上に配置された平面導波路を含む。平面導波路は、その上に複数の結合部位を結合することができる外表面を有する。さらに、平面導波路は、コヒーレント光のビームが平面導波路に沿って伝搬するような様式で、コヒーレント光のビームを平面導波路中で結合させるための、複数の非結合線を有する。コヒーレント光は、全反射下で平面導波路を通って伝搬し、コヒーレント光のエバネセント場は、平面導波路の外表面に沿って伝搬する。平面導波路の外表面での屈折率の低い方の媒体へのエバネセント場の浸透の深さは、平面導波路を通って伝搬するコヒーレント光の波長のおよそ何分の1といった大きさ程度である。エバネセント場は、平面導波路の表面上に配置された結合部位に結合した標識された標的試料の蛍光標識を励起する。平面導波路の外表面での光学的により薄い媒体へのエバネセント場の浸透の深さが非常に小さいため、平面導波路の外表面上に固定された結合部位に結合した標識された試料のみが励起される。次いで、これらの標識によって放出された蛍光は、CCDカメラを援用して検出される。
【0005】
蛍光標識を使用して結合親和性を検出することは原理的に可能であるが、この技術は、検出されるシグナルが結合パートナー自体よりもむしろ蛍光標識によって産生されるという欠点がある。さらに、標的試料の標識化には、追加の調製ステップが必要である。さらに、標識された標的試料は、比較的高価である。別の欠点は、標的試料の捕捉分子への結合を阻害し得る、標的試料での蛍光標識の立体障害によって引き起こされる結果の歪曲である。さらなる欠点は、標識の退色またはクエンチング効果に起因する結果の歪曲である。さらに、蛍光標識化は、目的の化合物の化学的、生物学的、薬理学的および物理的特性に有意に影響し得る。かくして、蛍光標識化にのみ依拠する測定は、そのような標識の存在によって歪曲され得る。さらに、蛍光分光法は、目的の任意の化合物または細胞成分を標識することが必要である。かくして、標識された特定の化合物との相互作用を観察することはできるが、さらなる相互作用を観察することはできない。
【発明の概要】
【0006】
生体試料を分析するための重要な要件は、目的の化合物または構造部分の結合部位への特異的結合と、非特異的結合との識別である。表面プラズモン共鳴(SPR)またはMach Zehnder干渉分光法などの、この問題に対処するための公知の戦略は、基準測定に強く依拠し、静的条件下での測定にとってのみ好適である。かくして、そのような技術は、典型的には、生きている細胞内での生体分子相互作用の検出などの、複雑な環境の測定にとっては好適ではない。SPRは、センサー表面の近くでの受容体-リガンド結合時の屈折率変化を測定する。しかしながら、この技術は、センサー表面の近くでの屈折率変化の影響を受けやすいという欠点を有する。したがって、非特異的結合は、依然として大きな問題である。特に、屈折計センサーは、目的の標的に実際に結合する分子と、他の化合物の唯一の存在との区別および屈折率に影響する追加の効果をもたらすことができない。
【0007】
Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、疼痛、喘息、炎症、肥満およびがんなどの多くの疾患の発症および進行におけるその関与のため、薬物候補のための特定の優れた標的として発展してきたので、生きている細胞中でのこれらの受容体の詳細な分析は、非常に望ましい。GPCR活性を決定するための全細胞アッセイは、異なる細胞内セカンドメッセンジャー(cAMP、Ca2+)の検出、蛍光タグ付タンパク質の再局在化(受容体へのアレスチン動員もしくは受容体内在化)またはGPCR活性化シグナル伝達カスケードの制御下でのリポーター遺伝子の発現に伝統的に依拠する。しかしながら、上で指摘した通り、蛍光標識化には、タンパク質の過剰発現または蛍光標識の導入などのかなりの生体分子改変が必要であり、これらのことは細胞生理または薬物の薬理を変更し得るため、いつでも可能ではなく、望ましいわけでもない。さらに、GPCRは、典型的には、1より多いエフェクターをモジュレートし、これらのアッセイにおける交差感受性をもたらし得る。
【0008】
共鳴導波路格子バイオセンサーのような、無標識細胞アッセイは、いかなる分子標識も必要としない(Paulsenら Photonics Nanostruct.Fundam.Appl.2017、26、69を参照されたい)。一般的には、そのような屈折計センサーは、感知体積をその浸透深さにより規定する伝搬エバネセント波によってセンサーチップ上で屈折率をモニタリングする。この感知体積内の細胞内容物の再分布は、屈折率の全体的な変化をもたらし、ダイナミックマス再分布(DMR)の高く評価される全体写真を生じさせる。引き換えに、DMRは、本質的に交差感受性であり、これは、異なるGPCR媒介性シグナル伝達経路をセンサーによって時空的にデコンボリューションすることができないことを意味する。
【0009】
SPRなどの、光標識を用いない全細胞分析の代替手段として、共鳴導波路格子(RWG)に基づくダイナミックマス再分布、対称性導波路センサーおよび定量的位相イメージングを使用して、形態学的変化および薬物探索のための表現型的細胞応答を調査した。しかしながら、特筆すべきことに、これらの方法は、細胞質質量、絶対濃度および体積変化に関する情報のみを提供することができるが、細胞内または小胞内プロセスをモニタリングすることはできない。
【0010】
したがって、本発明の全体的な目的は、細胞内または小胞内相互作用の検出に関する技術水準を改善すること、それによって、好ましくは、先行技術の欠点を完全に、または部分的に回避することである。
【0011】
好ましい実施形態では、特定の細胞内または小胞内成分と相互作用するように構成されており、同時に、前記小胞内または細胞内成分との直接的または間接的相互作用をモニタリングすることを可能にするように特異的に操作することができる人工膜貫通タンパク質が提供される。
【0012】
さらに好ましい実施形態では、単一細胞測定を可能にする人工膜貫通タンパク質が提供される。
【0013】
全体的な目的は、一般に、独立請求項の主題によって達成される。さらなる利点および例示的な実施形態は、以下の説明および図面から得られる。
【0014】
本発明の第1の態様によれば、全体的な目的は、細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための生体分子検出デバイスにおける使用のための人工膜貫通タンパク質によって達成される。人工膜貫通タンパク質は、細胞外または小胞外結合性構造体、疎水性膜貫通ドメイン、および細胞内または小胞内受容体構造体を含む細胞内または小胞内ドメインを含む。受容体構造体は、検出しようとする生体分子相互作用の細胞内または小胞内成分と相互作用するように構成されており、細胞外または小胞外結合性構造体は、生体分子検出デバイスの複数の所定の線に沿って配置されている膜認識エレメントに結合するように構成されている。受容体構造体と、検出しようとする生体分子相互作用の細胞内または小胞内成分との相互作用は、生体分子の意味での相互作用を指すことが理解される。かくして、そのような相互作用は、例えば、受容体への化合物の結合であってもよい。細胞内または小胞内受容体構造体を、例えば、目的の所与の細胞内または小胞内成分と相互作用するように遺伝子操作することによって特異的に設計することができる。したがって、人工膜貫通タンパク質は、特定の目的のための利用可能な生物技術的手順によって設計される生体模倣膜受容体である。
【0015】
好ましくは、目的の生体分子相互作用を検出するための本明細書に記載の実施形態のいずれかによる人工膜貫通タンパク質と組み合わせて使用することができる生体分子検出デバイスは、エバネセント照明器の第1の表面上で規定の波長を有するコヒーレント光からエバネセント場を生成するように構成されている光結合ユニットを含むエバネセント照明器を含む。エバネセント照明器の第1の表面は、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の人工膜貫通タンパク質、好ましくは、側方拡散性の人工膜貫通タンパク質の結合性構造体に対する膜認識エレメントが配置されている複数の所定の線のコヒーレント配置を含有する鋳型ナノパターンを含む。側方拡散性の膜貫通タンパク質は、細胞または小胞の膜内で拡散し得る膜貫通タンパク質である。膜認識エレメントは、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によってエバネセント場の光が散乱されるような、人工膜タンパク質を局部的に固定することによってエバネセント照明器の鋳型ナノパターンに基づいて細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分内で膜貫通ナノパターンを形成させるために側方拡散性の人工膜貫通タンパク質の結合性構造体に結合するように構成されている。当業者であれば理解できるように、エバネセント照明器は、光源のコヒーレント光からエバネセント場を生成することができるエレメントである。エバネセント照明器上の所定の線は、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱される光が、コヒーレント光の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する規定の検出部位で建設的に干渉するように配置されている。当業者であれば理解できるように、光路長とは、所与のシステムを通って光が進む経路の幾何学的長さと、それが伝搬する媒体の屈折率との積を指す。人工膜貫通タンパク質の細胞外または小胞外結合性構造体は、生体分子検出デバイスの複数の所定の線に沿って配置されている膜認識エレメントに結合するように構成されており、生体分子検出デバイスの鋳型ナノパターンは、細胞内で側方に拡散する膜貫通タンパク質に選択的に結合し、かくして、細胞自体の中で膜貫通ナノパターンを生成することによって、生きている細胞中に導入される。典型的には、複数の異なる所定の線の膜認識エレメントは、同じ細胞に結合する、すなわち、1より多い膜認識エレメントは、単一の細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分に結合するか、または結合するように構成されている。
【0016】
細胞外または小胞外結合性構造体が生体分子検出デバイスの複数の所定の線に沿って配置されている膜認識エレメントに結合するように構成されており、受容体構造体が例えば、目的の任意の所与の細胞内または小胞内成分と相互作用するように遺伝子操作によって特異的に設計することができるという事実のため、人工膜貫通タンパク質は、目的の生体分子検出に特異的である検出ウィンドウを提供する。生体分子検出デバイスの鋳型ナノパターンは、細胞内で側方に拡散する人工膜貫通タンパク質に選択的に結合することによって、生きている細胞膜中に生体分子検出デバイスの鋳型ナノパターンを導入するか、または再生するのを可能にする。結果として、人工膜貫通タンパク質の相互作用を含む、任意の生体分子相互作用、さらには、細胞間プロセスを選択的に検出することができる。膜認識エレメントと、人工膜貫通タンパク質の結合性構造体との結合時に、エバネセント光が散乱し、規定の検出部位で建設的に干渉する。散乱光の建設的干渉は、全ての結合した膜貫通タンパク質と関連し、膜貫通タンパク質の数に関して測定された強度の二次スケーリングをもたらす。重要なことに、分子認識エレメントに結合しないバックグラウンド分子の無作為な散乱は、等しい確率で建設的および破壊的の両方で干渉する。結果として、交差感受性は有意に低下する。驚くべきことに、生きている細胞およびまた、小胞がナノメートル規模で非常に起伏がある表面を含む場合であっても、細胞散乱、特に、膜散乱に起因して、交差感受性が観察されることはほとんどない。生きている細胞の測定は、結合した膜認識エレメントで散乱した光を無効化するシグナルによって容易に妨げられ得るが、感度の有意な喪失は観察されず、集中した拡散シグナルの小さい歪曲のみが観察された。
【0017】
典型的には、コヒーレント光は、所定の波長を有し、特に、単一の波長で、好ましくは単色性である。通常、可視光線または近赤外線を使用することができる。エバネセント場の一部は、異なる所定の線上に配置されている膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分に由来する生体分子から構成されている散乱中心によってコヒーレントに散乱される。任意の位置での散乱した電場を、それぞれ個々の散乱中心からの寄与を付加した後、得られた位相ベクトルを2乗することによって強度をコンピューター計算することによって決定することができる。所定の検出位置で、異なる散乱中心によって散乱される光の光路長が光の波長の整数倍によって異なるように、所定の線が配置されるため、散乱強度の最大値は、所定の検出位置に位置する。建設的干渉の要件は、検出位置で検出可能シグナルを付加する任意の散乱光によって満たされる。所定の検出位置での強度パターンは、限定されるものではないが、回折限界的なエアリーディスクを優先的に形成する。本質的には、フーリエ光学によってアクセス可能な任意の形状が可能である。任意の形状のために、シグナルは整合フィルターを用いて最良に回復可能である。
【0018】
平面偏光中での、屈折率nを有する媒体中に埋め込まれた屈折率nを有する単離された膜認識エレメント-膜貫通複合体の散乱は、
【数1】
であり、式中、
rは、目的の化合物から検出部位までの距離であり、
λは、真空波長であり、
は、人工膜貫通複合体上に入射する平面偏光場の強度であり、
は、人工膜貫通複合体の体積であり;
さらに、
【数2】
であり、式中、
は、人工膜貫通複合体のモル質量であり、
は、アボガドロ定数であり、
【数3】
は、目的の化合物の屈折率増分である。
総質量密度Γtotおよびまた、簡単な操作により、受容体の数を、
【数4】
式中、
NAは、円状鋳型ナノパターンの開口数であり、
η[A]は、製造された鋳型ナノパターンの分析物効率であり、
Dは、円状鋳型ナノパターンの直径であり、
は、受容体の集合体上に入射する平均強度であり、
【数5】
は、エアリーディスクの中心、すなわち、所定の検出位置での強度であり、
かくして、所定の検出位置のエアリーディスクの中心での測定強度からコンピューター計算することができる。
【0019】
かくして、実験設計に応じて、散乱光の強度変化は、相互作用パートナーの分子質量、人工膜貫通タンパク質が関与する生体分子相互作用中に含まれる受容体の総結合質量または数へのアクセスを提供する。例えば、ある特定のメッセンジャー化合物が人工膜貫通タンパク質に結合する場合、対応する質量増加を算出することができる。例えば、細胞内または小胞内受容体構造体を、公知の分子質量を有する、生体分子相互作用の第1の成分Aと相互作用するように構成することができる。成分Aの結合時に、回折強度の変化が観察される。この強度変化を使用して、成分Aと相互作用する受容体の数をコンピューター計算することができる。第2の成分Bが成分Aに結合する場合、または受容体構造体にも結合する場合、強度のさらなる変化が観察される。次いで、成分Aおよび/またはBが受容体構造体から遊離すると、対応する複合体の質量は再び減少し、シグナルの強度が変化する。BがAと同じ量の結合部位に結合するとの仮定の下では、複合体ならびにBの1つの分子質量を、測定の任意の所与の時間で算出し、それによって、経時的な生体分子相互作用のリアルタイムモニタリングを可能にすることができる。質量の差異のため、人工膜貫通タンパク質に直接的もしくは間接的に結合する、またはそれから解放される化合物に関する情報を得ることができる。
【0020】
一部の実施形態では、人工膜貫通タンパク質は、細胞内または小胞内受容体構造体と、検出しようとする生体分子相互作用の細胞内または小胞内成分との相互作用を容易にするように構成されたリンカードメインをさらに含み、リンカードメインは、細胞内または小胞内受容体構造体と、疎水性膜貫通ドメインとの間に配置されている。好ましくは、リンカードメインは、タンパク質フォールディングを妨げ得る、トリプトファンなどの嵩高い疎水性残基を含まない。かくして、リンカードメインは、アミノ酸であるグリシン、セリン、アラニン、グルタミン、プロリンおよびフェニルアラニンまたはグリシンのみからなってもよい。グリシンなどの小さいアミノ酸は、リンカードメインのより高い可撓性を提供することができる。グルタミンなどの極性残基は、水中でのリンカーの溶解度を増大させる。リンカードメインは、一般的には、4~25残基、好ましくは、4~20残基の長さを有してもよい。
【0021】
さらなる実施形態では、細胞外または小胞外結合性構造体は、生体分子検出デバイスの複数の所定の線に沿って配置されている膜認識エレメントとの共有結合を確立するように構成されている。例えば、細胞外または小胞外結合性構造体は、求電子剤、求核剤、ジエノフィル、ジエン、1,3-双極子またはダイポーラロフィルなどの、共有結合の生成を可能にする化学部分を含んでもよい。
【0022】
ある特定の実施形態では、細胞外または小胞外結合性構造体は、求核剤、好ましくは、チオールまたはチオレートを含む。
【0023】
さらなる実施形態では、細胞外または小胞外結合性構造体は、SNAPタグまたはCLIPタグを含むか、またはそれからなる。SNAPタグは、182残基のポリペプチドであり、O-ベンジルグアニン誘導体を受け入れる(19.4kDa、Crivatら Trends in Biotechnology.30(1):8~16.doi:10.1016/j.tibtech.2011.08.002;Juilleratら Chemistry and Biology.10(4):313~317、doi:10.1016/S1074~5521(03)00068-1;Molliwtzら Biochemistry.51(5):986~994.doi:10.1021/bi2016537)。CLIPタグは、SNAPタグと関連し、O-ベンジルグアニンの代わりに、基質としてO-ベンジルシトシン誘導体を受け入れる(Gautierら Chemistry and Biology.15(2):128~136.doi:10.1016/j.chembiol.2008.01.007)。
【0024】
一部の実施形態では、人工膜タンパク質は、1回通過膜貫通タンパク質である。
【0025】
さらなる実施形態では、人工膜貫通タンパク質は、
(a)細胞内もしくは小胞内ドメインがC末端に隣接して配置され、細胞外もしくは小胞外ドメインがN末端に隣接して配置されている、I型のもの;または
(b)細胞内もしくは小胞内ドメインがN末端に隣接して配置され、細胞外もしくは小胞外ドメインがC末端に隣接して配置されている、II型のもの
である。
【0026】
I型の人工膜貫通タンパク質においては、N末端は、細胞外部に面するように構成されているが、C末端は、細胞質ゾル中に残るように構成されている。対照的に、II型の人工膜貫通タンパク質においては、N末端は、細胞質ゾルに残るように構成されているが、C末端は細胞外部に面するように構成されている。
【0027】
I型のより特定の実施形態では、N末端からC末端に向かうドメインの順序は、好ましくは、SNAPまたはCLIPタグを有する、細胞外または小胞外結合性構造体、次いで、疎水性膜貫通ドメイン、次いで、必要に応じて、リンカードメイン、次いで、細胞内または小胞内受容体構造体を有する細胞内または小胞内ドメインであってもよい。好ましくは、正荷電アミノ酸がリンカードメインの前に配置されている。必要に応じて、細胞外または小胞外結合性構造体は、好ましくは、SNAPまたはCLIPタグの前に、すなわち、N末端の最も近くに配置することができる、切断性シグナルペプチドを含む。
【0028】
II型のより特定の実施形態では、N末端からC末端に向かうドメインの順序は、細胞内または小胞内受容体構造体を有する細胞内または小胞内ドメイン、次いで、必要に応じて、リンカードメイン、次いで、疎水性膜貫通ドメイン、次いで、好ましくは、SNAPまたはCLIPタグを有する、細胞外または小胞外結合性構造体であってもよい。必要に応じて、細胞内または小胞内ドメインは、好ましくは、受容体構造体の前に配置することができる、切断性シグナルペプチドを含んでもよい。
【0029】
一部の実施形態では、人工膜貫通タンパク質は、I型またはII型のものであり、細胞内または小胞内ドメインは、細胞外または小胞外ドメインよりも多い量の正荷電アミノ酸残基を含む。特に、正荷電アミノ酸は、リシン、アルギニンまたはヒスチジン、好ましくは、リシンから選択することができる。特に、これらのアミノ酸は、人工膜貫通タンパク質の残りの部分よりも3~4倍多く、細胞内または小胞内に存在してもよい。より多い量の正荷電アミノ酸は、膜内での人工膜貫通ヘリックスのより効率的な配向を可能にする。
【0030】
さらなる実施形態では、細胞内または小胞内受容体構造体は、cAMP経路中のタンパク質キナーゼのβサブユニットまたは受容体チロシンキナーゼ(RTK)と相互作用するように構成されている。細胞内または小胞内受容体構造体がRTKと相互作用するように構成されている場合、受容体構造体は、Grb2タンパク質を含んでもよい。
【0031】
一部の実施形態では、細胞内または小胞内受容体構造体は、eYFPなどの蛍光タンパク質を含んでもよい。
【0032】
一部の実施形態では、細胞内または小胞内受容体構造体は、設計された受容体、人工結合剤または抗体、抗体断片、ナノボディ、アフィマーなどの他の機能的分子である。
【0033】
さらなる実施形態では、人工膜貫通タンパク質は、タンパク質輸送系との相互作用のため、および人工膜貫通タンパク質の移行を制御するための人工膜貫通タンパク質のN末端に隣接する切断性シグナルペプチドを含む。
【0034】
典型的には、切断性シグナルペプチドは、18~26個のアミノ酸からなり、正荷電N末端n-領域、中心の疎水性h-領域および極性C末端c-領域を形成してもよい。好ましくは、切断部位は、c-領域に含有され、シグナルペプチダーゼによって認識されるように構成されている。
【0035】
一部の実施形態では、細胞外または小胞外結合性構造体は、生体分子検出デバイスの膜認識エレメントと相互作用する、好ましくは、選択的に相互作用するように構成されている親和性タグを含む。例えば、親和性タグは、HA(ヒトインフルエンザヘマグルチニン)、FLAGまたは6His親和性タグであってもよい。膜認識エレメントとして作用する抗体が人工膜貫通タンパク質の細胞外または小胞外結合性構造体を認識することを制限すし得るか、または防止し得る、分子相互作用によって、タンパク質コンフォメーションを変更することができるため、親和性タグの使用は有益である。これは、細胞外または小胞外結合性構造体中の親和性タグによって回避することができる。
【0036】
一部の実施形態では、人工膜貫通タンパク質は、細胞内もしくは小胞内蛍光タンパク質または生体分子タグなどの、他の細胞内エレメントと相互作用するように構成されているタンパク質を含む。例えば、タンパク質の細胞内ソルターゼ媒介性固定化のためである。好ましくは、タンパク質は、他の細胞内エレメントと特異的に相互作用するように構成されている。
【0037】
一部の実施形態では、膜貫通タンパク質は、無標識、特に、無蛍光標識である。好ましくは、膜貫通タンパク質は、照射時に励起され得る、人工標識部分を含有しない。本明細書で使用される無蛍光標識膜貫通タンパク質は、小さい蛍光分子、すなわち、900Da未満の分子量を有する分子を含有しない膜貫通タンパク質である。
【0038】
さらなる態様によれば、本発明は、本明細書に記載の実施形態のいずれかによる人工膜貫通タンパク質または本明細書に記載の実施形態のいずれかによる人工膜貫通タンパク質をコードする核酸配列を含む細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分に関する。生体分子検出デバイスにおける使用のために、核酸配列を、好ましくは、in vitroで、細胞中に導入し、そこで発現させることができる。さらなる態様によれば、本発明は、本明細書に記載の実施形態のいずれかによる人工膜貫通タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸配列を含む組換え核酸分子に関する。
【0039】
さらなる態様によれば、本発明は、本明細書の任意の実施形態に記載の組換え核酸分子を含む、ベクター、好ましくは、プラスミドベクターに関する。
【0040】
さらなる態様によれば、本発明は、in vitroで人工膜貫通タンパク質を発現させるために本明細書に記載の実施形態のいずれかによるベクターの使用であって、細胞を用意するステップおよび本明細書に記載の実施形態のいずれかによるベクターを細胞中に導入するステップ、および人工膜貫通タンパク質を発現させるステップを含む、使用に関する。
【0041】
一部の実施形態では、使用は、人工膜貫通タンパク質からシグナルペプチドを切断するステップをさらに含む。
【0042】
さらなる態様によれば、本発明は、本明細書に記載の実施形態のいずれかによる人工膜貫通タンパク質を含む細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分を分析するための生体分子検出デバイスであって、生体分子検出デバイスが、エバネセント照明器の第1の表面上で規定の波長を有するコヒーレント光からエバネセント場を生成するように構成されている光結合ユニットを含むエバネセント照明器を含み、エバネセント照明器の第1の表面が、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の人工膜貫通タンパク質の結合性構造体に対する膜認識エレメントが配置されている複数の所定の線のコヒーレント配置を含有する、鋳型ナノパターンを含み、膜認識エレメントが、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によってエバネセント場の光が散乱されるような、エバネセント照明器の鋳型ナノパターンに基づいて細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分内で膜貫通ナノパターンを形成させるために人工膜貫通タンパク質の結合性構造体に結合するように構成されており、所定の線が、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱される光がコヒーレント光の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する規定の検出部位で建設的に干渉するように配置されている、生体分子検出デバイスに関する。
【0043】
鋳型ナノパターンは、細胞内で側方に拡散する膜貫通タンパク質に選択的に結合し、かくして、細胞自体において膜貫通ナノパターンを生成することによって、生体分子検出デバイスの鋳型ナノパターンを生きている細胞に移動させる。典型的には、複数の異なる所定の線の膜認識エレメントは、同じ細胞に結合する、すなわち、1より多い膜認識エレメントは、単一の細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分に結合するか、または結合するように構成されている。結果として、膜貫通タンパク質の相互作用を含む、任意の生体分子相互作用、さらには、細胞間または細胞内プロセスを選択的に検出することができる。膜認識エレメントと、膜貫通タンパク質の結合性構造体との結合時に、エバネセント光が散乱し、規定の検出部位で建設的に干渉する。散乱光の建設的干渉は、全ての結合した膜貫通タンパク質と関連し、膜貫通タンパク質の数に関して測定された強度の二次スケーリングをもたらす。重要なことに、分子認識エレメントに結合しないバックグラウンド分子の無作為な散乱は、等しい確率で建設的および破壊的の両方で干渉する。結果として、交差感受性は、効率的に抑制される。驚くべきことに、生きている細胞およびまた、小胞がナノメートル規模で非常に起伏がある表面を含む場合であっても、細胞散乱、特に、膜散乱に起因して、交差感受性が観察されることはほとんどない。生きている細胞の測定は、結合した膜認識エレメントで散乱した光を無効化するシグナルによって容易に妨げられ得るが、感度の有意な喪失は観察されなかった。細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分は、ナノパターンの所定の線の間の距離よりも有意に大きいため、これは驚くべきことである。かくして、一般には、本明細書に開示される実施形態では、複数の異なる所定の線の膜認識エレメントは、同じ細胞に結合する。典型的には、2つの直接隣接する所定の線の間の距離は、単一の細胞の2~100分の1、好ましくは、30~100分の1の大きさである。
【0044】
一部の実施形態では、エバネセント照明器は、担体の表面上に平面導波路が配置されている担体と、コヒーレント光が、鋳型ナノパターンを含む平面導波路の第1の表面に沿って伝搬するコヒーレント光のエバネセント場を有する平面導波路を通って伝搬するように、規定の波長のコヒーレント光を導波路中で結合させるための光結合ユニットとしての光結合器とを含むか、またはそれである。
【0045】
一部の実施形態では、エバネセント照明器は、光結合ユニット、特に、プリズムまたは他の任意の好適な光エレメントによってエバネセント照明器の第1の表面上に所定の波長および所定の角度でコヒーレント光のビームを提供するように構成されている全反射システムである。
【0046】
一部の実施形態では、複数の所定の線は、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または小胞成分もしくは細胞成分、またはそれらの生体分子によって散乱されたエバネセント場の光が規定の検出部位で干渉するように構成されている湾曲部を有する曲線を含む。
【0047】
好ましくは、鋳型ナノパターンの全体的な形状は、丸形、特に、円形であってもよい。
【0048】
好ましい実施形態では、曲線は、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱される光を、所定の検出部位に集中させるために、光の伝搬方向に隣接する線の間の距離を減少させながら配置されている。あるいは、複数の所定の線は、エバネセント照明器に結合した光の伝搬に対して規定の角度で配置されている直線を含んでもよい。追加の結合器を、回折光を規定の検出部位に集中させるために用いてもよい。
【0049】
さらなる実施形態では、複数の所定の線は、x、y座標でのそれらの位置が式:
【数6】
(式中、
λは、伝搬する光の真空波長であり;
Nは、平面導波路中の導波モードの有効屈折率であり;Nは、平面導波路の厚さ、担体の屈折率、平面導波路の第1の表面上の媒体の屈折率および導波モードの偏光に依存し;全反射システムの場合、Nは、全反射の角度:
【数7】
により表すことができ、
は、担体の屈折率であり、
fは、所定の検出位置の焦点距離であり;
は、波長λで割った、生成物の屈折率nおよび担体の所定の検出位置の焦点距離fに近くなるように選択される整数であり;
jは、対応する線の屈折率を示すランニング整数である)
によって幾何学的に定義されるような様式でエバネセント照明器の外表面上に配置されている。
【0050】
選択される整数Aは、負のx値を、負のj値を有する線の中心に割り当て、正のx値を、正のj値を有する線の中心に割り当てる。または、換言すれば、整数Aは、エバネセント照明器の外表面での線の位置のために使用されるx、y座標枠の起源を定義する;選択されるA値は、x=0、y=0、z=-fに検出位置を置く。
【0051】
一部の実施形態では、少なくとも1つの細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分は、人工膜貫通タンパク質の結合性構造体を介して、膜認識エレメントに結合する。
【0052】
別の態様によれば、本発明は、本明細書に記載の実施形態のいずれかによる人工膜貫通タンパク質、または本明細書に記載の実施形態のいずれかによる細胞、または本明細書に記載の実施形態のいずれかによる組換え核酸分子、または本明細書に記載の実施形態のいずれかによるベクターと、本明細書に記載の実施形態のいずれかによる生体分子検出デバイスとを含む、キットオブパーツに関する。
【0053】
一部の実施形態では、キットオブパーツは、目的のタンパク質が高質量部分、特に、金ナノ粒子を含む、細胞内または小胞内生体分子と相互作用するように構成されている目的のタンパク質をさらに含む。より高い分子質量は得られるシグナルの強度に対する有益な効果を有し、かくして、単一細胞の測定さえ可能にするため、そのような高質量部分の使用は有益である。当業者であれば理解できるように、高質量部分は、典型的には、人工膜貫通タンパク質よりも有意に大きい分子量を有する。例えば、高質量部分は、タンパク質または過剰発現されるタンパク質凝集体であってもよい。好ましくは、高質量部分の質量は、少なくとも150kDであってもよい。
【0054】
別の態様によれば、本発明は、本明細書に記載の実施形態のいずれかによる生体分子検出デバイスを使用して、細胞、細胞成分または小胞もしくは小胞成分中の細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための無標識方法であって、
- 必要に応じて、本明細書に記載の実施形態のいずれかによる人工膜貫通タンパク質を含む、細胞、細胞成分または小胞もしくは小胞成分または小胞成分を用意するステップ;
- 生体分子検出デバイスの膜認識エレメントに細胞、細胞成分または小胞もしくは小胞成分を適用するステップまたは少なくとも1つの細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分が人工膜貫通タンパク質の結合性構造体を介して膜認識エレメントに結合された生体分子検出デバイスを用意するステップ;
- コヒーレント光のビームが規定の波長を有し、コヒーレント光の入射ビームの回折部分が、コヒーレント光の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する複数の所定の線に対して規定の検出部位で建設的に干渉して、規定の検出部位で細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の人工膜貫通タンパク質が結合した膜認識エレメントを代表するシグナルを提供する様式で、結合した膜貫通タンパク質を含む膜認識エレメントに入射する、複数の所定の線に対して規定のビーム生成位置でコヒーレント光のビームを生成するステップ;
- 細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の人工膜貫通タンパク質が結合した膜認識エレメントを代表するシグナルを測定するステップ
を含む方法に関する。
【0055】
細胞、細胞成分または小胞もしくは小胞成分中の細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための無標識方法は、光源の光、特に、コヒーレント光と、標識との間の相互作用に依拠しない方法である。そのような標識は、例えば、蛍光標識などの、照射時に励起することができる人工標識部分である。一般的に使用される蛍光標識は、小さい蛍光分子、すなわち、900Daより低い分子量を有する蛍光分子である。
【0056】
一部の実施形態では、方法は、人工膜貫通タンパク質の受容体構造体と、または薬物、薬物候補、低分子もしくは抗体などの、検出しようとする生体分子相互作用の細胞内もしくは小胞内成分と相互作用する物質を提供するステップをさらに含む。
【0057】
ある特定の実施形態では、人工膜貫通タンパク質を含む細胞または細胞成分は、細胞に、本明細書に記載の実施形態のいずれかによるベクターをin vitroでトランスフェクトすること、細胞中で人工膜貫通タンパク質を発現させること、必要に応じて、細胞成分を提供するために細胞の膜の一部を除去することによって提供される。
【0058】
一部の態様では、本発明は、以下の条項によって記載される:
【0059】
条項1:細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための生体分子検出デバイスにおける使用のための人工膜貫通タンパク質であって、人工膜貫通タンパク質が、細胞外または小胞外結合性構造体、疎水性膜貫通ドメイン、および細胞内または小胞内受容体構造体を有する細胞内または小胞内ドメインを含み、受容体構造体が、検出しようとする生体分子相互作用の細胞内または小胞内成分と相互作用するように構成されており、細胞外または小胞外結合性構造体が、生体分子検出デバイスの複数の所定の線に沿って配置されている膜認識エレメントに結合するように構成されている、人工膜貫通タンパク質。
【0060】
条項2:細胞内または小胞内受容体構造体と、検出しようとする生体分子相互作用の細胞内または小胞内成分との相互作用を容易にするように構成されているリンカードメインをさらに含み、リンカードメインが、細胞内または小胞内受容体構造体と、疎水性膜貫通ドメインとの間に配置されている、条項1に記載の人工膜貫通タンパク質。
【0061】
条項3:細胞外または小胞外結合性構造体が、生体分子検出デバイスの複数の所定の線に沿って配置されている膜認識エレメントとの共有結合を確立するように構成されている、条項1または2に記載の人工膜貫通タンパク質。
【0062】
条項4:細胞外または小胞外結合性構造体が、求核剤、好ましくは、チオールまたはチオレートを含む、前記条項のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質。
【0063】
条項5:細胞外または小胞外結合性構造体がSNAPタグまたはCLIPタグである、前記条項のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質。
【0064】
条項6:人工膜貫通タンパク質が、
(a)細胞内もしくは小胞内ドメインがC末端に隣接して配置され、細胞外もしくは小胞外ドメインがN末端に隣接して配置されている、I型のもの;または
(b)細胞内もしくは小胞内ドメインがN末端に隣接して配置され、細胞外もしくは小胞外ドメインがC末端に隣接して配置されている、II型のものである、前記条項のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質。
【0065】
条項7:人工膜貫通タンパク質がII型のものであり、細胞内または小胞内ドメインが、細胞外または小胞外ドメインよりも多い量の正荷電アミノ酸残基を含む、条項7に記載の人工膜貫通タンパク質。
【0066】
条項8:細胞内または小胞内受容体構造体が、設計された受容体または抗体、抗体断片、ナノボディもしくはアフィマーなどの他の機能的分子である、前記条項のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質。
【0067】
条項9:タンパク質輸送系との相互作用のため、および人工膜貫通タンパク質の移行を制御するための、人工膜貫通タンパク質のN末端に隣接する切断性シグナルペプチドをさらに含む、前記条項のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質。
【0068】
条項10:細胞外または小胞外結合性構造体が、膜認識エレメントと相互作用するように構成されている親和性タグを含む、前記条項のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質。
【0069】
条項11:膜貫通タンパク質が無標識、特に、無蛍光標識である、前記条項のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質。
【0070】
条項12:条項1から11のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質または条項1から10のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質をコードする核酸配列を含む、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分。
【0071】
条項13:条項1から10のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸配列を含む、組換え核酸分子。
【0072】
条項14:条項12に記載の組換え核酸分子を含む、ベクター、好ましくは、プラスミドベクター。
【0073】
条項15:細胞を用意するステップ、および細胞中に条項13に記載のベクターを導入するステップ、および人工膜貫通タンパク質を発現させるステップを含む、in vitroで人工膜貫通タンパク質を発現させるための、条項13に記載のベクターの使用。
【0074】
条項16:人工膜貫通タンパク質からシグナルペプチドを切断するステップをさらに含む、条項14に記載の使用。
【0075】
条項17:条項1から10のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質を含む細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分を分析するための生体分子検出デバイスであって、生体分子検出デバイスが、エバネセント照明器の第1の表面上で規定の波長を有するコヒーレント光からエバネセント場を生成するように構成されている光結合ユニットを含むエバネセント照明器を含み、エバネセント照明器の第1の表面が、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の人工膜貫通タンパク質の結合性構造体に対する膜認識エレメントが配置されている複数の所定の線のコヒーレント配置を含有する、鋳型ナノパターンを含み、膜認識エレメントが、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によってエバネセント場の光が散乱されるような、エバネセント照明器の鋳型ナノパターンに基づいて細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分内で膜貫通ナノパターンを形成させるために人工膜貫通タンパク質の結合性構造体に結合するように構成されており、所定の線が、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱される光がコヒーレント光の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する規定の検出部位で建設的に干渉するように配置されている、生体分子検出デバイス。
【0076】
条項18:少なくとも1つの細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分が、人工膜貫通タンパク質の結合性構造体を介して、膜認識エレメントに結合する、条項17に記載の生体分子検出デバイス。
【0077】
条項19:a.条項1から11のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質、または
条項12に記載の細胞、または
条項13に記載の組換え核酸分子、または
条項14に記載のベクター、および
b.条項16または17に記載の生体分子検出デバイス
を含むキットオブパーツ。
【0078】
条項20:目的のタンパク質が高質量部分、特に、金ナノ粒子を含む、細胞内または小胞内生体分子と相互作用するように構成されている目的のタンパク質をさらに含む、条項19に記載のキット。
【0079】
条項21:条項16または17に記載の生体分子検出デバイスを使用して、細胞、細胞成分または小胞もしくは小胞成分中の細胞内または小胞内生体分子相互作用を検出するための無標識方法であって、
- 条項1から11のいずれかに記載の人工膜貫通タンパク質を含む細胞、細胞成分または小胞もしくは小胞成分を用意するステップ;
- 細胞、細胞成分または小胞もしくは小胞成分を、生体分子検出デバイスの膜認識エレメントに適用するステップ;
- コヒーレント光のビームが規定の波長を有し、コヒーレント光の入射ビームの回折部分が、コヒーレント光の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する複数の所定の線に対して規定の検出部位で建設的に干渉して、規定の検出部位で細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の人工膜貫通タンパク質が結合した膜認識エレメントを代表するシグナルを提供する様式で、結合した膜貫通タンパク質を含む膜認識エレメントに入射する、複数の所定の線に対して規定のビーム生成位置でコヒーレント光のビームを生成するステップ;
- 細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の人工膜貫通タンパク質が結合した膜認識エレメントを代表するシグナルを測定するステップ
を含む方法。
【0080】
条項22:人工膜貫通タンパク質の受容体構造体と、または検出しようとする生体分子相互作用の細胞内もしくは小胞内成分と相互作用する物質を提供するステップをさらに含む、条項21に記載の方法。
【0081】
条項23:人工膜貫通タンパク質を含む細胞または細胞成分が、細胞に条項14に記載のベクターをin vitroでトランスフェクトするステップ、細胞中で人工膜貫通タンパク質を発現させるステップ、および必要に応じて、細胞成分を提供するために細胞の膜の一部を除去するステップによって提供される、条項21または22に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】本発明の実施形態による生体分子検出デバイスの略図である。
図2】本発明の別の実施形態による生体分子検出デバイスの断面図である。
図3a】cAMP経路の細胞内相互作用を検出するための本発明の実施形態による人工膜貫通タンパク質を示す図である。
図3b】cAMP経路の検出中の野生型細胞ならびにGタンパク質ノックアウト細胞を用いた対照実験から予想されるシグナルを示す図である。
図3c】cAMP経路の検出中の野生型細胞ならびにGタンパク質ノックアウト細胞を用いた対照実験から得られたシグナルを示す図である。
図4a】ERK経路の細胞内相互作用を検出するための本発明の他の実施形態による2つの異なる人工膜貫通タンパク質を示す図である。
図4b】増殖因子によるERK経路の活性化時にERK経路の検出中に得られる人工膜貫通タンパク質と関連するシグナルを示す図である。
図4c】ERK経路下流キナーゼの阻害時にERK経路の検出中に得られる人工膜貫通タンパク質と関連するシグナルを示す図である。
図4d】シグナルがペプチドの注入後、約20分間にわたってベースラインの範囲内に留まり、その後、受容体構造体としてGrb2を含有する人工膜貫通タンパク質を有する細胞からの応答の増加が観察されるが、受容体構造体としてeYFPを含有する人工膜貫通タンパク質を有する細胞に関するシグナルは、ベースラインで一定に留まることを示す図である。
図5図5aおよび図5bは、本発明の別の実施形態による生体分子検出デバイスの略図である。
図6図6aおよび図6bは、本発明の別の実施形態による生体分子検出デバイスの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
図1は、本発明の実施形態による生体分子検出デバイス(1)を示す。生体分子検出デバイス(1)は、平面導波路(3)が配置されている表面を有する担体(2)を含む。検出デバイスは、コヒーレント光が、平面導波路(3)の第1の表面に沿って伝搬するコヒーレント光のエバネセント場を有する平面導波路を通って伝搬するように、平面導波路(3)中に規定の波長のコヒーレント光(L)を結合させるための光結合器(4)をさらに含む。平面導波路の第1の表面は、担体(2)から見て外を向く表面、すなわち、図1に見られる表面である。光結合器(4)の他に、導波路(3)の第1の表面は、膜認識エレメントが配置されている(図1には示されていない)複数の所定の線を含有する、鋳型ナノパターン(5)を含む。一般に、光源(6)は、光結合器(4)に向かうコヒーレント光(L)の入射ビームを提供するために用いられる。光結合器(4)は、コヒーレント光(L)が鋳型ナノパターン(5)に向かって図1に示される矢印の方向に伝搬する際に、コヒーレント光(L)を平面導波路(3)中で結合させる。膜認識エレメントが、本明細書に記載の実施形態のいずれかによる人工膜貫通タンパク質を介して細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分に結合する場合、光は、散乱され、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱される光が規定の検出部位(7)で建設的に干渉するように配置されている規定の線に起因する。示される特定の実施形態では、所定の線は、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱されたエバネセント場の光が規定の検出部位(7)で干渉するように構成されている湾曲部を有する曲線である。鋳型ナノパターン(5)のそれぞれの膜認識エレメントと、検出部位(7)との距離は、光路長と称される。
【0084】
図2は、平面導波路(3)を通る光(L)の伝搬方向に沿った鋳型ナノパターン(5)を通る生体分子検出デバイス(1)の断面図を示す。デバイス(1)は、導波路(3)が表面上に配置されている担体(2)を含有する。平面導波路(3)の第1の表面の頂部に配置されているのは、生きている細胞(8)である。さらに、鋳型ナノパターン(5)は、突起部(51)および溝(52)を含む。突起部(51)は、膜認識エレメントが配置されている領域である。溝(52)は、膜認識エレメントを含有しない領域である。かくして、細胞(8)の膜貫通タンパク質の結合性構造体は、対応する突起部でのみナノパターン(5)に結合することができる。一般に、本明細書に記載の人工膜貫通タンパク質は、細胞膜または小胞膜内で側方に拡散し得る。かくして、人工膜貫通タンパク質は、それらが膜認識エレメントに近接するまで、膜を通って側方に拡散し、その際、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分内でナノパターンを確立するために共有結合が形成され得る。細胞、ナノパターン、導波路および担体の幅は、その実際の幅または幅比の指標を提供するものではないことに留意すべきである。
【0085】
図3aは、本発明の実施形態による人工膜貫通タンパク質を用いてモニタリングされる、サイクリックAMP(cAMP)経路の略図を示す。cAMP経路は、細胞応答において基本的な役割を果たすGタンパク質共役受容体誘発性シグナル伝達カスケードである。休止細胞では、Gタンパク質は、GPCRの細胞内部位に結合する。外部リガンドによるGPCRの活性化の際に、Gタンパク質のαサブユニットはGPCR複合体から離れ、細胞内活性部位を有する膜結合型酵素であるアデニル酸シクラーゼ(AC)を活性化する。次いで、ACは、アデノシン三リン酸(ATP)を、細胞の最も一般的なセカンドメッセンジャーの1つである環状アデノシン一リン酸(cAMP)に変換する。さらに、外部リガンドの攻撃は数秒以内に数千個ものセカンドメッセンジャー分子の合成を伴うため、ACはシグナルの増幅において役割を果たす。cAMP濃度の増大は、cAMP依存的タンパク質キナーゼ(PKA)を刺激する。PKAは、2個のcAMP分子がそれぞれのサブユニットについて、また、2個(αおよびβ)の触媒サブユニットによって結合する、2個の調節サブユニット(I型およびII型)から構成されている四量体である。cAMP分子の結合は、2個の触媒サブユニットのリン酸化をもたらし、結果として、2個の調節性二量体からのその解離をもたらす。これらのリン酸化されたサブユニットは、他のシグナル伝達タンパク質ならびにエフェクタータンパク質であってもよい様々な標的を活性化する。cAMP経路の最終ステップは、目前の本発明による人工膜貫通タンパク質の動作原理に関する概念実証として選択された。GPCR誘発時の触媒βサブユニットの解離を探査するために、その細胞質ゾル部位上にPKA II型-ベータ調節サブユニットを提示する細胞内または小胞内受容体構造体を有する細胞内または小胞内ドメインを有する人工膜貫通タンパク質を構築した(R2)。図3bに見られるように、シグナル強度の低下が予想されるべきであり、これは、触媒βサブユニットが解離する際の複合体の質量減少と関連する(破線)。同時に、Gタンパク質が存在しない場合、AC活性の活性化は得られず、したがって、触媒βサブユニットの解離も得られないため、Gタンパク質ノックアウト細胞中ではシグナルの変化は検出されないはずである。図3cは、HER293細胞(野生型)とGタンパク質ノックアウト細胞との両方に関する実験的に得られたシグナルを示す。ノックアウト細胞のシグナルはシグナルの変化をもたらさないが、野生型は触媒βサブユニットの解離時にシグナル強度の低下を示す。
【0086】
図4aは、2つの異なる人工膜貫通タンパク質によってモニタリングされた、ERKシグナル伝達経路の略図を示す。ERK経路は、最も一般的な型の酵素結合表面受容体の1つである、外部リガンド結合性チロシンキナーゼ受容体(RTK)によって開始される。一般に、不活性なRTK受容体は、2つの1回通過単量体から構成され、リガンドが細胞外ドメインに結合したら活性化および二量体化される。二量体化は、特定のチロシン残基上でのトランス自己リン酸化(一方の単量体が他方をリン酸化する、およびその逆)を含む。リン酸化されたチロシンは、RTKのキナーゼ活性を増加させ、特定の細胞内タンパク質のための結合部位として作用する。これらのタンパク質はリン酸化されたチロシンおよびその周りのRTKのコンフォメーションを認識することができるため、結合事象が起こる。RTKと会合するタンパク質は、次いで、SH2ドメインを介して、アダプタータンパク質Grb2と会合することが多い。Grb2は、他のタンパク質との相互作用のための2つの他のSH3ドメインも有する。SH3ドメインの1つは、GTPによってRasに結合したGDPの交換を促進するタンパク質であるSosと相互作用することが多い。SosがRasを活性化する時、不活性である場合に固定されたGDPを有する単量体GTPaseは、GDPをGTPと置き換え、次いで、Rasは正のフィードバック回路においてSosをさらに活性化する。RasはRafを活性化し、次いで、カスケードメカニズムを用いて、Mekを介して、ERKモジュールとして一般的に知られる、細胞外シグナル調節性キナーゼを活性化する。ERKタンパク質は、それぞれ、そのリン酸化形態および非リン酸化形態に対応する、活性化状態または不活性化状態のいずれかで見出される。リン酸化されたERKは、細胞核に移行し、遺伝子調節タンパク質に対して作用する。ERKモジュールは、負のフィードバックを介してRafを不活化するERK自体によって止められることが多い。ERK経路に沿って増殖因子の初期カスケード効果をモニタリングするために、第1の人工膜貫通タンパク質は、受容体構造体としてのGrb2タンパク質と共に提供される。さらに、下流の効果を、リン酸化されたERK成分のための受容体構造体としての人工結合剤を含む第2の人工膜貫通タンパク質によってモニタリングした。図4bは、増殖因子刺激によるERKカスケードの活性化時に、第1の人工膜貫通タンパク質(破線)および第2の人工膜貫通タンパク質(実線)について予想されるシグナルを示す。図4cは、第2の人工膜貫通タンパク質から得られるシグナルのみの低下をもたらすべきである、下流のキナーゼの阻害時に第1の人工膜貫通タンパク質(Grb2、破線)および第2の人工膜貫通タンパク質(人工結合剤、実線)について予想されるシグナルを示す。
【0087】
最初に、第1の人工膜貫通タンパク質の受容体構造体としてのGrb2タンパク質のSH3結合ドメインが機能的であるかどうかを試験した。この事象では、受容体構造体としてのGrb2を有する人工膜貫通タンパク質を含む細胞およびeYFP(増強黄色蛍光タンパク質)を有する人工膜貫通タンパク質を含む細胞を、Grb2を特異的に標的化するタンパク質で処理した。図4dから見られるように、シグナルは、ペプチドの注入後、約20分間にわたってベースラインの範囲内に留まる。その後、受容体構造体としてGrb2を含有する人工膜貫通タンパク質を有する細胞からの応答の増加が観察されるが、受容体構造体としてeYFPを含有する人工膜貫通タンパク質を有する細胞に関するシグナルは、ベースラインで一定に留まる。注入と、応答の変化とのラグは、おそらく、ペプチドが細胞膜を横断して拡散し、Grb2 SH3ドメインに結合するのに必要とされる時間に起因する。かくして、方法は、生きている細胞の内部での細胞内生体分子相互作用のリアルタイムモニタリングを可能にする。さらに、これらの結果は、Grb2を標的化するペプチドが生きている細胞の内部でGrb2受容体構造体に特異的に結合するが、それはeYFPなどの非特異的受容体構造体には結合しないことを示す。
【0088】
図5aおよび5bは、本発明の実施形態による生体分子検出デバイス(1’)を示す。デバイス(1’)は、エバネセント照明器(2’)の第1の表面上で光源(6’)の規定の波長を有するコヒーレント光からエバネセント場(9’)を生成するように構成されている光結合ユニット(4’)を有するエバネセント照明器(2’)を含む。エバネセント照明器(2’)の第1の表面は、細胞(8’)の膜貫通タンパク質(81)の結合性構造体に対する膜認識エレメントに沿った複数の所定の線のコヒーレント配置を含有する鋳型ナノパターン(5’)を含む。見られるように、膜認識エレメントと、側方拡散性の膜貫通タンパク質(81)との化学結合を確立することによって、エバネセント照明器(2’)のナノパターン(5’)は、膜貫通ナノパターンとして細胞に輸送される。図5a中の実施形態では、光源(6’)および検出ユニット(7’)は、物理的に隔てられた構成要素であるが、図5bに示される実施形態では、それらはエバネセント照明器(2’)の一体となっている部分である。
【0089】
図6aおよび6bは、本発明による生体分子検出デバイス(1’’)の代替的な実施形態を示す。生体分子検出デバイス(1)は、これらの特定の実施形態では、光結合ユニット(4’’)によってエバネセント照明器の第1の表面上に、光源(6’’)からの所定の波長および所定の角度でコヒーレント光のビームを提供するように構成されている全反射システムであるエバネセント照明器を含む。これらの実施形態では、光結合ユニットは、プリズムである。図6aに示される実施形態では、エバネセント照明器は、屈折率整合油、DMSO、グリセロール、水混合物、ヒドロゲルなどの屈折率整合媒体(11’’)と、鋳型ナノパターン(5’’)を含有する担体スライド(12’’)とを含む。あるいは、図6bに示されるように、エバネセント照明器は、屈折率整合媒体(11’’)および担体スライド(12’’)を含まなくてもよい。この場合、ナノパターン(5’’)は、光結合ユニット(4’’)、すなわち、プリズムの第1の表面上に直接提供される。
【0090】
材料および方法
異なる人工膜貫通タンパク質をコードするDNAプラスミドを、Thermo Fisher ScientificによるInvitrogen GeneArt Gene Synthesisサービスから購入した。全ての合成遺伝子を、合成オリゴヌクレオチドおよび/またはPCR産物から集合させ、pcDNA3.1(+)ベクター骨格中に挿入した。プラスミドDNAを、形質転換された細菌から精製し、UV分光法によって濃度を決定し、構築物を製造業者による配列決定によって検証した。挿入部位内の配列同一性は、100%であった。プラスミドを、約1mg/mlの濃度でTE緩衝剤中に送達し、それらを-80℃でワーキングアリコート中で保存した。
【0091】
試験した3つのシグナルペプチドは、表3.1に特定されるが、さらなるアミノ酸配列は表1に見出すことができる。
【表1】
【0092】
表2は、試験した一部の人工膜貫通タンパク質をコードするプラスミドベクターの構造的特徴を示す。
【表2】
【0093】
細胞培養およびトランスフェクション
HEK293野生型およびGタンパク質ノックアウト細胞を、5%COと共に細胞インキュベーター中、37℃で完全培地(10%ウシ胎仔血清を含有するDMEM培地)中で培養した。人工膜貫通タンパク質発現細胞の生成のために、細胞を、製造業者のプロトコールに従ってLipofectamine 3000トランスフェクション試薬を使用してトランスフェクトした。
【0094】
安定な細胞株を確立するために、一過的にトランスフェクトされた細胞を、1mg/mlのG418を添加した完全培地中で約20日間増殖させた。その後、ネオマイシン耐性細胞を、SNAP-Surface 649染料を使用して染色し、フローサイトメトリーによって選択した。
【0095】
蛍光イメージングのために、細胞を、50%の集密度で24ウェルガラス底プレート上に播種し、以前に記載されたように24h後にトランスフェクトした。トランスフェクション培地を、12h後に完全培地と交換した。Olympus FluoView FV3000共焦点レーザー走査顕微鏡を使用して、トランスフェクションの12、24、36および48時間後に細胞をイメージングした。イメージングの前に、細胞を、SNAP-Surface 649染料と共に30minインキュベートした後、温PBSで3回洗浄した。イメージング中に、細胞を5%COと共に37℃で保持した。eYFPおよびSNAP-Surface 649チャネルを、緑色チャネルについては514nm励起/527nm放出波長および赤色チャネルについては651nm励起/667nm放出波長を使用して、20倍対物レンズを用いて同時に獲得した。
【0096】
生体分子検出デバイス
Zeptosensからの薄膜光導波路を、標準的な手順(Gatterdamら、Nature Nanotechnology、12(11):1089~1095、2017年9月)で処理して、それらをグラフトPAA-g-PEGポリマーでコーティングした。ポリマーのアミン基を、光感受性PhSNPPOC基によって保護して、さらなるプロセッシングを可能にする。その後、以前に記載された反応性液浸リソグラフィープロセスを使用して、光導波路上でモログラムをパターン化した。簡単に述べると、ポリマーコーティングされた導波路チップを、位相マスクの整列を可能にする特注ホルダー上に取り付けた。位相マスクをホルダー上に置いた後、チップを2000mJ/cmの用量で405nmの波長で照明して、ナノパターンの突起部から感光性基を切断除去した。活性化されたアミン部位を、それぞれ、SNAPタグまたはCLIPタグに結合させるために、BG-GLA-NHSまたはBC-GLA-NHS基質のいずれかと共にインキュベートした。その後、UV光の下での完全な場の照明を行って、溝および周囲から残存する感光性基を除去した。得られるアミン基を、GRGDSPGSCペプチドで官能化した。
【0097】
測定
細胞を、平面導波路上に100%の集密度まで播種し、平面導波路を細胞インキュベーターの内部で保持しながら、2~3時間、完全培地中で付着させた。その後、培地を、pH7.4に調整したHEPES緩衝化完全培地またはHEPES緩衝化HBSSと交換した。測定を、5%COと共に35℃で保持した、F3000 ZeptoReader上で実行した。0.1s~1sを含む露出時間を用いる635nmのレーザーを使用して、15秒毎に画像を獲得した。10分間のベースライン(30枚の画像)が確立された後、薬理学的操作をチップ上で行った。
【0098】
アミノ酸配列
【表3-1】
【表3-2】
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図4d
図5
図6
【配列表】
2022551820000001.app
【国際調査報告】