IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルケマ フランスの特許一覧

特表2022-551877充填ポリアリールエーテルケトン粉体、その製造方法及びその使用
<>
  • 特表-充填ポリアリールエーテルケトン粉体、その製造方法及びその使用 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-14
(54)【発明の名称】充填ポリアリールエーテルケトン粉体、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20221207BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20221207BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20221207BHJP
   B33Y 40/10 20200101ALI20221207BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221207BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20221207BHJP
   B29B 9/02 20060101ALI20221207BHJP
   B29B 9/16 20060101ALI20221207BHJP
   B29B 13/10 20060101ALI20221207BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221207BHJP
   C08L 71/08 20060101ALI20221207BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20221207BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221207BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C08J3/12 A CEZ
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y40/10
B33Y10/00
B29C64/153
B29B9/02
B29B9/16
B29B13/10
C08K3/013
C08L71/08
C08K3/34
C08K3/36
C08K3/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521383
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(85)【翻訳文提出日】2022-05-31
(86)【国際出願番号】 FR2020051759
(87)【国際公開番号】W WO2021069833
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】1911127
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ブリュル
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ビュッシ
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA52
4F070AB09
4F070AB24
4F070AC29
4F070AE01
4F070DA11
4F070DA46
4F070DA55
4F070DC07
4F201AA32
4F201AB11
4F201AC04
4F201AR12
4F201BA02
4F201BA04
4F201BC01
4F201BC02
4F201BD05
4F201BK02
4F201BK13
4F201BL06
4F201BL43
4F201BL47
4F201BN01
4F201BN30
4F201BN32
4F213AA32
4F213AB11
4F213AC04
4F213AR12
4F213WL02
4F213WL12
4J002CH091
4J002DE266
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002FD016
4J002GB00
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
本発明は、40~120マイクロメートルの範囲のメジアン径D50を有する、体積加重粒径分布を有する粉体であって、少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン及び少なくとも1種の充填剤を含み、- 少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンが、少なくとも部分的に、前記少なくとも1種の充填剤を組み込んだマトリックスを形成し、- 充填剤が、50マイクロメートル未満又は5マイクロメートルに等しいメジアン径による球相当径の分布(ストークスの法に基づく)を有する、粉体に関する。本発明は更に、粉体製造方法に関し、更に、電磁放射線媒介によって引き起こされる焼結による物体のレイヤーバイレイヤー造形のための方法におけるその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
40~120マイクロメートルの範囲のメジアン径D50を有する、標準ISO13320:2009に従ってレーザー回折により測定された体積加重粒径分布を有する粉体であって、少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン(PAEK)及び少なくとも1種の充填剤を含み、
- 前記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンが、少なくとも部分的に、前記少なくとも1種の充填剤を組み込んだマトリックスを形成し、
- 前記充填剤が、5マイクロメートル以下のメジアン径d'50を有する、標準ISO13317-3:2001に従って重力液体沈降によりX線で測定されたストークス球相当径分布を有する、
粉体。
【請求項2】
前記充填剤が、2.5マイクロメートル以下のメジアン径d'50によるストークス球相当径分布を有する、請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
前記充填剤の前記少なくとも1種のPAEKに対する質量比が1:9~1:1であり、優先的には、前記鉱物充填剤の前記少なくとも1種のPAEKに対する質量比が1:4~3:7である、請求項1又は2に記載の粉体。
【請求項4】
前記少なくとも1種のPAEKと前記少なくとも1種の充填剤が、合わせて、粉体の総質量の少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも92.5%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97.5%、又は少なくとも98%、又は少なくとも98.5%、又は少なくとも99%、又は少なくとも99.5%、又は100%となる、請求項1から3のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項5】
前記少なくとも1種のPAEKが、テレフタル酸単位及びイソフタル酸単位から本質的になる、優先的にはこれらからなる、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)の統計コポリマーであり、
テレフタル酸単位(T)の式が、
【化1】
であり、
イソフタル酸単位(I)の式が、
【化2】
である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項6】
テレフタル酸単位の、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対する質量百分率が、55%~65%であり、
優先的には、テレフタル酸単位の、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対する質量百分率が、約60%である、
請求項5に記載の粉体。
【請求項7】
前記少なくとも1種のPAEKが、
- 式: -Ph-O-Ph-O-Ph-C(O)-の単位、及び
- 式: -Ph-O-Ph-Ph-O-Ph-C(O)-の単位、
[式中、Phはフェニレン基を表し、-C(O)-はカルボニル基を表し、フェニレンのそれぞれは、独立して、オルト、メタ又はパラ型のものであってもよく、優先的にはメタ又はパラ型のものであってもよい]
から本質的になる、優先的には、これらからなるコポリマーである、請求項1から4のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項8】
前記充填剤が、鉱物充填剤であり、
前記充填剤が、優先的には、カルシウムカーボネート、シリカ、タルク、ウォラストナイト、マイカ、カオリン、及びこれらの混合物からなる群から選択され、
前記充填剤が、より好ましくは、タルクである、
請求項1から7のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項9】
前記充填剤が、2以上の形状係数Cを有し、前記形状係数Cが、以下の式:
【数1】
[式中、
D'50は、標準ISO13320:2009に従って測定された、充填剤粒子の体積加重メジアン径を表し、
d'50は、標準ISO13317-3:2001に従って、重力液体沈降によりX線で測定された、充填剤粒子のメジアンストークス球相当径を表す]
によって定義される、請求項1から8のいずれか一項に記載の粉体。
【請求項10】
粉体製造方法であって、
- 少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン(PAEK)を供給し、少なくとも1種の充填剤を供給する工程であり、
前記少なくとも1種の充填剤が、5マイクロメートル以下のメジアン径d'50を有する、標準ISO13317-3:2001に従って重力液体沈降によりX線で測定されたストークス球相当径分布を有する、工程と、
- 前記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン(PAEK)を前記少なくとも1種の充填剤と共に押出造粒し、顆粒を形成する工程と、
- 顆粒をミリングして、40~120マイクロメートルの範囲のメジアン径D50を有する、標準ISO13320:2009に従ってレーザー回折により測定された粒径分布を有する粉体を得る工程
で構成される工程を含む、方法。
【請求項11】
- 前記少なくともPAEKの少なくとも部分的な結晶化を可能にするための、ミリング工程前の顆粒を熱処理する工程
を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
電磁放射線媒介焼結による物体のレイヤーバイレイヤー造形のための方法であって、請求項1から10のいずれか一項に記載の粉体を使用する、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法によって得ることができる物体であって、標準ISO527-2:2012に従い、1mm/分の移動速度、23℃にて、1BAタイプの試料上で、少なくとも1つの方向において、7GPa以上の引張弾性率を有することを特徴とする、物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリールエーテルケトン粉体の分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、充填ポリアリールエーテルケトン粉体、その製造方法、さらには三次元物体の製造方法、特に電磁放射線媒介粉体焼結方法における、その使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、周知の高性能技術ポリマーである。ポリアリールエーテルケトンは、温度及び/又は機械的制限、更には化学的制限の観点から制約のある用途に使用され得る。ポリアリールエーテルケトンは、優れた耐火性及び煙霧又は有毒ガスの放出量の低さを必要とする用途にも使用することができる。最後に、ポリアリールエーテルケトンは、良好な生体適合性を有する。これらのポリマーは、航空宇宙セクター、海洋掘削、自動車、鉄道セクター、海運セクター、風力発電セクター、スポーツ、建設、電子機器又は医療インプラントという多様な分野に見出される。これらのポリマーは、成形、圧縮、押出、紡糸、粉体塗装又は焼結プロトタイピング等の、熱可塑性樹脂が使用されるすべての技術において使用され得る。
【0004】
電磁放射線、特に赤外線及びレーザー放射線により媒介される焼結による物体のレイヤーバイレイヤー造形(layer-by-layer construction)のプロセスは、当業者にとって周知である。図1を参照すると、レーザー焼結デバイス1は、焼結される粉体を収容する供給タンク40が中に置かれた焼結チャンバー10、造形下の三次元物体80を支持する水平板30、及びレーザー20を備える。粉体は、供給タンク40から取られ、水平板30上に堆積され、造形下で三次元物体80を構成する粉体の薄層50を形成する。締固めローラー/ドクターブレード(図示せず)が、粉体層50の良好な均一性を確保する。粉体層50は、造形下で、赤外線100によって加熱されて、所定の造形温度Tcに等しい実質的に均一な温度に達する。従来のPAEK系粉体焼結造形プロセスでは、Tcは、一般に、粉体の融点を約20℃下回る。特定の場合において、Tcは更に低い。粉体層50中の種々の点において粉体粒子を焼結するために必要なエネルギーは、物体のジオメトリに対応するジオメトリ内で、平面(xy)内を動くことができるレーザー20からレーザー放射線200によってもたらされる。溶融粉体は、再凝固し、焼結部品55を形成し、層50の残部は未焼結粉体56のままとなる。特定の場合には、レーザー放射線200の複数回の通過が必要になる場合もある。次に、水平板30が、粉体の1つの層の厚さに対応する距離だけ、軸(z)に沿って下げられ、新しい層が堆積される。レーザー20は、物体の新しいスライスに対応するジオメトリ内の粉体粒子を焼結させるために必要なエネルギーを供給し、この処理が続く。この手順は、物体80全体が製造されるまで繰り返される。物体80が完成したら、物体は水平板30から取り外され、未焼結粉体56は、ふるいにかけられた後、適切な場合、再利用粉体として供給タンク40内に戻される。
【0005】
ポリアリールエーテルケトン粉体から製造される物体、特に電磁放射線媒介焼結によって製造される物体の機械的性質を改善するために、特に弾性率を高めるために、ポリアリールエーテルケトン粉体に炭素繊維を添加する慣行が公知となっている。
【0006】
炭素繊維は、ポリアリールエーテルケトン粒子と乾式混合されてよい。例えば、米国特許出願公開第2018/0201783号は、ポリエーテルケトンケトン粒子を、粒子の平均径より厳密に大きいメジアン長さを有する炭素繊維と乾燥ブレンドすることから得られる組成物を記載している。より詳細には、生成されたブレンドは、標準ISO13319に従ってCoulter Counter粒子計数装置を使用して測定した61.34μmのメジアン径を有するポリエーテルケトンケトン粒子を85質量%含み、77μmに等しいメジアン長さL50及び7.1μmに等しい概算径を有する炭素繊維を15質量%含む。ブレンドは、炭素繊維の少なくとも一部をポリエーテルケトンケトン粒子に部分的に取り込むために、高強度ミキサーに導入される。ポリエーテルケトンケトン粒子と炭素繊維との乾燥ブレンドは、特に容易に調製されるという利点を有する。
【0007】
炭素繊維とポリアリールエーテルケトン粒子との乾燥ブレンドは、いくつかの欠点を有する。
【0008】
第1の欠点は、これらの粉体のレーザー焼結から得られた三次元物体は、異方性の機械的性質を有すること、すなわち、種々の層がプリントされたZ軸に沿って物体が見られるかどうか、又は各層がプリントされたXY平面に沿って物体が見られるかどうかによって性質が異なることである。この理由は、炭素繊維が、圧縮ローラー/ドクターブレードの通過中に好ましい方向に沿って整列する傾向を有することにある。
【0009】
第2の欠点は、粉体中で高い比率の炭素繊維を使用することが不可能であることである。これは、前記粉体の流動性を損ない、レーザー焼結時の使用に必要である良好な流動性を損なうおそれがあることによる。具体的には、炭素繊維をポリエーテルケトンケトン粒子に組み込むことが非常に困難であるとすると、組成物中の高い比率の炭素繊維は、ポリエーテルケトンケトン粒子に十分に組み込まれる低い比率しか同伴しない。このことは、炭素繊維の大部分は、組成物中にそのまま残り、したがって粉体の流動性を損なうことを意味する。加えて、スクリーニング後の、レーザー焼結による別の物体の造形への、粉体のフレッシュニング、すなわち、少なくとも部分的な再利用は、ポリエーテルケトンケトン粉体中の炭素繊維の一定の含有率を保持することが困難であるため、容易に実現することはできない。米国特許出願公開第2018/0201783号は、現時点で、ポリエーテルケトンケトン粒子と市販の炭素繊維との乾燥ブレンドは、組成物の15質量%未満の炭素繊維の比率を有することを念頭に置いて、乾燥ブレンド中の炭素繊維の5質量%~30質量%の範囲の比率を示している。
【0010】
レーザー焼結から得られた三次元物体が、実質的に等方性の機械的性質を有するために、炭素繊維がポリアリールエーテルケトン粒子に組み込まれる粉体が公知となっている。例えば、米国特許出願公開第2005/0207931号は、炭素繊維を組み込んだポリエーテルエーテルケトン粒子、マトリックスを形成するポリエーテルエーテルケトン、及びマトリックスに実質的に組み込まれる炭素繊維を記載している。「平均径D50」(測定方法は詳細に記載されていない)は、20μm~150μmである。炭素繊維の平均長さも、20μm~150μmである。
【0011】
米国特許出願公開第2005/0207931号は、30質量%超の炭素繊維を組み込んだ熱可塑性粒子を調製する3つの方法を記載している(変異型3を参照されたい)。
【0012】
記載された第1の製造方法は、スプレー乾燥である。この方法は、D50による3μm~10μmの熱可塑性樹脂微粉体と炭素繊維をエタノール又は水/エタノール混合物等の液相中で混合することからなる。懸濁液は、表面に噴霧され、懸濁液の液相は粉体を形成するように蒸発又は蒸着される。
【0013】
第2の方法は、炭素繊維がすでに組み込まれた、3mmの初期結晶粒径を有する熱可塑性樹脂顆粒をミリングすることからなる。ミリングは、粒子が所望の大きさに達し空気選別機によって選別されるまで、ピンディスクを装備したミル内の極低温条件下にて行われる。
【0014】
第3の製造方法は溶解噴霧である。この方法は、炭素繊維と溶融熱可塑性樹脂との混合物を噴霧して、数十マイクロメートルのオーダーの大きさを有する粒子を得ることからなる。
【0015】
これら3つの方法は、特に熱可塑性樹脂がポリエーテルエーテルケトンのようなポリアリールエーテルケトンである場合、実行が非常に困難になることがある。これらの方法が熱可塑性樹脂としてポリアリールエーテルケトンを使用して合理的に実行され得る場合、得られるであろうポリアリールエーテルケトンを充填した粉体は、非常に高い原価を有することになる。特に、第1の方法は、複雑であり開始粒子中で使用される数十マイクロメートルの大きさを有するポリアリールエーテルケトン粒子を得るための費用が高いため、実行が非常に困難に見える。第2の方法も、大きな摩耗及びミルのエージングの加速を引き起こす傾向がある、ミリングされる顆粒中の炭素繊維の存在のため、実行が複雑であるように見える。更に、第2の方法では、ポリアリールエーテルケトン粒子に組み込まれる炭素繊維の大きさは、粒径によって制御され、一般に、粒径より大きくなることはない。最後に、第3の方法も、特に極めて高速で正確な冷却システムの必要性に反映される、粉体の正しい製造が噴霧の粒子の非凝集に左右されるため、実行が複雑である。
【0016】
その結果、ポリアリールエーテルケトンを含む粉体組成物、マトリックスの形成、実質的にマトリックスに組み込まれる炭素繊維は、ポリアリールエーテルケトン粒子と炭素繊維の乾燥ブレンドよりはるかに高い原価を有する。加えて、三次元物体において得られる強化材は、一般に、炭素繊維を組み込んだPAEK粒子の組成物のレーザー焼結によって得られたものでは、PAEK粒子と炭素繊維の乾燥ブレンドのレーザー焼結によって得られるものと比較して、一般に、より低い。このことは、特に、第1の場合では、炭素繊維の大きさが、概ね、粒子径によって制御されるという事実によって説明される。この事実は、炭素繊維がはるかに大きい第2の場合には当てはまらない。
【0017】
したがって、機械的性質を改善するために、特に、これらの粉体から製造される物体、特に電磁放射線媒介焼結によって製造される物体の弾性率、さらには破壊応力を高めるために、代替の充填ポリアリールエーテルケトン粉体を開発する必要がある。
【0018】
また、これらの充填粉体を得るための最適化された方法を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0201783号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0207931号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、それゆえ、先行技術の欠点の少なくとも一部を克服する、充填粉体及びこの粉体の製造方法を提案することにある。
【0021】
本発明の1つの目的は、特に、より良好な機械的性質、特にポリアリールエーテルケトンをベースとする非充填粉体より高い弾性率及びより高い破壊応力を有する物体をもたらす、ポリアリールエーテルケトンをベースとする充填粉体を提案することである。
【0022】
本発明の別の目的は、機械的性質が実質的に等方性である物体をもたらす、ポリアリールエーテルケトンをベースとする充填粉体を提案することである。
【0023】
特定の実施形態によれば、1つの目的は、比較的低い原価を有する充填粉体を提案することである。
【0024】
特定の実施形態によれば、1つの目的は、炭素繊維(繊維又は組み込まれた繊維との乾燥ブレンド)を含むポリアリールエーテルケトンをベースとする粉体の機械的特性と同等であるか、さらにはより良好である機械的特性を有する物体をもたらす粉体を提案することである。
【0025】
特定の実施形態によれば、1つの目的は、電磁放射線媒介粉体焼結プロセスにおいて使用され得、適切な場合、1つ以上の後続造形に容易に再利用され得る粉体を提案することである。
【0026】
本発明の更に別の目的はまた、単純であり比較的低い原価を有する、本発明による粉体の製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、40~120マイクロメートルの範囲のメジアン径D50を有する、標準ISO13320:2009に従ってレーザー回折により測定された体積加重粒径分布(volume-weighted particle size distribution)を有する、粉体に関する。
【0028】
粉体は、少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン(PAEK)及び少なくとも1種の充填剤を含み、
- 前記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンは、前記少なくとも1種の充填剤を組み込んだマトリックスを形成し、
- 前記充填剤は、5マイクロメートル以下のメジアン径d'50を有する、標準ISO13317-3:2001に従って重力液体沈降によりX線で測定されたストークス球相当径(equivalent spherical diameter)分布を有する。
【0029】
「D50」という用語は、累積体積加重粒径分布関数が50%に等しくなる粉体粒径値を意味する。「D50」は、例えばMalvern Mastersizer 2000(登録商標)回折計を使用して、標準ISO13320:2009に従って、レーザー回折により測定される。
【0030】
「D'50」という用語は、累積体積加重粒径分布関数が50%に等しくなる充填剤粒径値を意味する。「D'50」は、例えばMalvern Mastersizer 2000(登録商標)回折計を使用して、標準ISO13320:2009に従って、レーザー回折により測定される。
【0031】
「d'50」という用語は、累積ストークス球相当径分布関数が50%に等しくなる充填剤粒径値を意味する。「d'50」は、例えばSedigraph III Plus(登録商標)機械を使用して、標準ISO13317-3:2001に従って、液体中の重力沈降により測定される。
【0032】
標準ISO9276は、粒径分布を計算するための数学及び統計モデリングに使用される。
【0033】
実質的に球体形状の充填剤粒子については、D'50とd'50は実質的に等しい。非球体形状の充填剤粒子については、特に特性長及び特性厚により記述され得る扁平の形状及び/又は細長い形状の粒子については、形状係数Cが、以下の式:
【0034】
【数1】
【0035】
によって定義される。
【0036】
「Z軸」という用語は、種々の層がレイヤーバイレイヤー電磁放射線媒介粉体焼結プロセスにおいてプリントされる方向を意味する。これに対して、「XY」という用語は、各層がプリントされる平面を意味する。
【0037】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、特許請求の範囲に記載した粉体が、電磁放射線媒介焼結プロセスによる物体のレイヤーバイレイヤー造形を介して、ポリアリールエーテルケトンをベースとする非充填粉体から製造された物体の機械的性質よりも優れた機械的性質を有する三次元物体を製造することを可能にすることを認めた。具体的には、PAEKを含み、粉体のD50よりも実質的に小さいd'50を有する充填剤を組み込んだ、粉体は、特に、レーザー焼結により、より高い剛性及び/又はより高い破断強度を有する三次元物体を得ることを可能にする。
【0038】
本願発明者らはまた、特定の実施形態において、本発明による粉体が、電磁放射線媒介焼結による物体のレイヤーバイレイヤー造形のプロセスを介して、三次元物体を製造することを可能にし、この三次元物体は、ポリアリールエーテルケトン及び炭素繊維(繊維の乾燥ブレンド又は繊維のマトリックスへの組み込み)をベースとする粉体から得られた物体の機械的性質と同規模であるか、さらにはそれを上回る機械的性質(特に破断強度及び破断点伸び)を有することを実証することができた。
【0039】
加えて、本発明による粉体から製造された三次元物体の機械的性質は、等方性又は準等方性である、すなわち、すべての空間方向において等価である。
【0040】
特定の実施形態によれば、充填剤は、2.5マイクロメートル以下のメジアン径d'50による粒径分布を有する。
【0041】
本発明の特定の実施形態によれば、充填剤の前記少なくとも1種のPAEKに対する質量比は、1:9~1:1である。
【0042】
1:9未満の質量比については、粉体からの物体製造の機械的性質のゲイン、特に弾性率値の増加は、概して、未充填粉体から製造された物体に対して実質的なものではない。1:1超の質量比については、粉体から製造された物体は、概して、脆すぎる。
【0043】
優先的には、充填剤の前記少なくとも1種のPAEKに対する質量比は、1:4~3:7である。
【0044】
特定の実施形態において、前記少なくとも1種のPAEKと前記少なくとも1種の充填剤は、合わせて、粉体の総質量の少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも92.5%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97.5%、又は少なくとも98%、又は少なくとも98.5%、又は少なくとも99%又は少なくとも99.5%又は100%となる。
【0045】
特定の実施形態において、PAEKは、テレフタル酸単位及びイソフタル酸単位から本質的になる、優先的には、これらからなる、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)の統計コポリマーであり、
テレフタル酸単位(T)の式は、
【0046】
【化1】
【0047】
であり、
イソフタル酸単位(I)の式は、
【0048】
【化2】
【0049】
である。
【0050】
特定の実施形態において、テレフタル酸単位の、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対する質量百分率は、55%~65%である。優先的には、テレフタル酸単位の、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対する質量百分率は、約60%である。
【0051】
特定の実施形態において、前記少なくとも1種のPAEKは、
- 式: -Ph-O-Ph-O-Ph-C(O)-の単位、及び
- 式: -Ph-O-Ph-Ph-O-Ph-C(O)-の単位、
[式中、Phはフェニレン基を表し、-C(O)-はカルボニル基を表し、フェニレンのそれぞれは、独立して、オルト、メタ又はパラ型のものであり、優先的にはメタ又はパラ型のものである]
から本質的になる、優先的には、これらからなるコポリマーである。
【0052】
特定の実施形態によれば、充填剤は、鉱物充填剤である。前記充填剤は、優先的には、カルシウムカーボネート、シリカ、タルク、ウォラストナイト、マイカ、カオリン、及びこれらの混合物からなる群から選択されてよい。より好ましくは、前記充填剤は、タルクである。タルクは、低原価を有し、本発明による粉体から得られる物体の特性を有利に強化することができるという利点を有する。
【0053】
特定の実施形態によれば、前記充填剤は、2以上の形状係数Cを有し、前記形状係数Cは以下の式:
【0054】
【数2】
【0055】
[式中、D'50は、標準ISO13320:2009に従って測定された、充填剤粒子の体積加重メジアン径を表し、
式中、d'50は、標準ISO13317-3:2001に従って、重力液体沈降によりX線で測定された、充填剤粒子のメジアンストークス球相当径を表す]
によって定義される。
【0056】
本発明は更に、粉体製造方法であって、
- 少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン(PAEK)を供給し、少なくとも1種の充填剤を供給する工程であり、
前記少なくとも1種の充填剤が、5マイクロメートル以下のメジアン径d'50を有する、標準ISO13317-3:2001に従って重力液体沈降によりX線で測定されたストークス球相当径分布を有する、工程と、
- 前記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン(PAEK)を前記少なくとも1種の充填剤と共に押出造粒し、顆粒を形成する工程と、
- 顆粒をミリングして、40~120マイクロメートルの範囲のメジアン径D50を有する、標準ISO13320:2009に従ってレーザー回折により測定された体積加重粒径分布を有する粉体を得る工程と
で構成される工程を含む、方法に関する。
【0057】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、5マイクロメートル以下のd'50を有する充填剤を組み込んだPAEKをベースとする顆粒のミリングは、炭素繊維を組み込んだPAEKをベースとする顆粒と比較したときミリングを促進することを認めた。5マイクロメートル以下のd'50を有する充填剤の選択は、特に、40~120マイクロメートルの範囲のD50を有する粉体を容易に得ることを可能にする。したがって、ミリング時間は短い。加えて、5マイクロメートル以下のd'50を有する充填剤を組み込んだPAEKをベースとする顆粒は、概して、先行技術の炭素繊維を組み込んだPAEKをベースとする顆粒と比べて、ミリング中の磨耗性がはるかに少ない。したがって、ミルは過度な摩耗にさらされることがない。
【0058】
特定の実施形態において、方法はまた、粉体の前記少なくともPAEKの少なくとも部分的な結晶化を可能にするための、ミリング工程前の顆粒を熱処理する工程を含む。
【0059】
本発明は更に、電磁放射線媒介焼結による物体のレイヤーバイレイヤー造形のための方法であって、本発明による粉体を使用する、方法に関する。換言すれば、本発明は更に、少なくとも1つの電磁放射線で媒介される焼結による物体のレイヤーバイレイヤー造形のための方法における、上記に記載した粉体の使用に関する。
【0060】
最後に、本発明は、電磁放射線媒介焼結による物体のレイヤーバイレイヤー造形のための方法を介して得ることができる任意の物体に関する。この物体は、標準ISO527-2:2012に従い、1mm/分の移動速度、23℃にて、1BAタイプの試料上で、少なくとも1つの方向において、7GPa以上の引張弾性率を有することを特徴とする。物体の機械的性質は準等方性であるため、すべての空間方向において、特にXY面において及びZ軸に沿った方向で、7GPa以上の引張弾性率を有する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】本発明による粉体が使用され得る焼結工程により三次元物体のレイヤーバイレイヤー造形のための方法を実行するためのデバイス示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
ポリアリールエーテルケトン
本発明による粉体のポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、以下の式:
(-Ar-X-)及び(-Ar1-Y-)
[式中、
- Ar及びAr1はそれぞれ、二価芳香族基を表し、Ar及びAr1は、好ましくは、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、4,4'-ビフェニレン、1,4-ナフチレン、1,5-ナフチレン及び2,6-ナフチレンから選択されてよく、
- Xは、電子求引性基を表し、好ましくは、カルボニル基及びスルホニル基から選択されてよく、
- Yは、酸素原子、硫黄原子、又はアルキレン基、例えば-(CH)2-及びイソプロピリデンから選択される基を表す]
を有する単位を含む。
【0063】
これらの単位X及びYにおいて、X基の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より詳細には80%はカルボニル基であり、Y基の少なくともt 50%、好ましくは少なくとも70%、より詳細には少なくとも80%は酸素原子となる。
【0064】
本発明の好ましい実施形態によれば、X基の100%はカルボニル基を表し、Y基の100%は酸素原子を表す。
【0065】
有利には、粉体のPAEKは、
- PEKKとしても知られ、式: -Ph-O-Ph-C(O)-Ph-C(O)-の単位を1個以上含む、ポリエーテルケトンケトン;
- PEEKとしても知られ、式: -Ph-O-Ph-O-Ph-C(O)-の単位を1個以上含む、ポリエーテルエーテルケトン;
- PEKとしても知られ、式: -Ph-O-Ph-C(O)-の単位を1個以上含む、ポリエーテルケトン;
- PEEKKとしても知られ、式: -Ph-O-Ph-O-Ph-C(O)-Ph-C(O)-の単位を1個以上含む、ポリエーテルエーテルケトンケトン;
- PEEEKとしても知られ、式: -Ph-O-Ph-O-Ph-O-Ph-C(O)-の単位を1個以上含む、ポリエーテルエーテルエーテルケトン;
- PEDEKとしても知られ、式: -Ph-O-Ph-Ph-O-Ph-C(O)-の単位を1個以上含む、ポリエーテルジフェニルエーテルケトン;
- これらの混合物;及び
- これらのコポリマー
から選択されてよい。
【0066】
上記のリストの式中、Phはフェニレン基を表し、-C(O)-はカルボニル基を表し、フェニレンのそれぞれは、場合により、独立して、オルト(1-2)、メタ(1-3)又はパラ(1-4)型のものであり、優先的にはメタ又はパラ型のものである。
【0067】
加えて、欠陥、末端基及び/又はモノマーが、上記のリストに記載されたポリマーにわずかな量組み込まれる場合があるが、それらのポリマーの能力に影響(incidence)を及ぼすことはない。
【0068】
特定の実施形態において、前記少なくとも1種のPAEKは、PEKKである。PEKKは、式:
【0069】
【化3】
【0070】
の「I型」(「イソフタル型」)単位及び式:
【0071】
【化4】
【0072】
の「T型」(「テレフタル型」)単位
から本質的になる、優先的には、これらからなるコポリマーであってよい。
【0073】
PEKKのT及びI単位の合計に対するT単位の質量比は、0%~5%;又は5%~10%;又は10%~15%;又は15%~20%;又は15%~20%;又は20%~25%;又は25%~30%;又は30%~35%;又は35%~40%;又は40%~45%;又は45%~50%;又は50%~55%;又は55%~60%;又は60%~65%;又は65%~70%;又は70%~75%;又は75%~80%;又は80%~85%;又は85%~90%;又は90%~95%;又は95%~100%の範囲であり得る。T及びI単位の合計に対するT単位の質量比の選択は、PEKKの所与の温度における融点及び結晶化率の調整を可能にする要因の1つである。T及びI単位の合計に対するT単位の所与の質量比は、それ自体公知である方法によって、重合中に試薬の個別の濃度を調節することで得ることができる。
【0074】
有利な実施形態によれば、PEKKにおけるテレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計は、55%~65%であり、優先的には、テレフタル酸単位の、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対する質量百分率は、約60%である。
【0075】
特定の実施形態において、前記少なくとも1種のPAEKは、PEEK-PEDEKコポリマーである。PEEK-PEDEKコポリマーは、式:
【0076】
【化5】
【0077】
の単位、及び式:
【0078】
【化6】
【0079】
の単位から本質的になる、優先的には、これらからなることができる。
【0080】
PEEK-PEDEKの単位(III)と単位(IV)の合計に対する単位(III)のモル比は、0%~5%;又は5%~10%;又は10%~15%;又は15%~20%;又は20%~25%;又は25%~30%;又は30%~35%;又は35%~40%;又は40%~45%;又は45%~50%;又は50%~55%;又は55%~60%;又は60%~65%;又は65%~70%;又は70%~75%;又は75%~80%;又は80%~85%;又は85%~90%;又は90%~95%;又は95%~100%の範囲であり得る。単位(III)と単位(IV)の合計に対する単位(III)のモル比の選択は、PEEK-PEDEKコポリマーの所与の温度における融点及び結晶化率の調整を可能にする要因の1つである。単位(III)と単位(IV)の合計に対する単位(III)のモル比は、それ自体公知である方法によって、重合中に試薬の個別の濃度を調節することで得ることができる。
【0081】
標準ISO307:2019に従い96質量%の硫酸水溶液中で25℃の溶液として測定された、PAEKの粘度指数は、0.65dl/g~1.15dl/g、優先的には0.70dl/g~1.05dl/g及びより好ましくは0.70dl/g~0.92dl/gである。
【0082】
充填剤
本発明による粉体中の少なくとも1種の充填剤は、5マイクロメートル以下のメジアン径d'50を有する、標準ISO13317-3:2001に従って重力液体沈降によりX線で測定されたストークス球相当径分布を有する。
【0083】
充填剤は、特に、2.5マイクロメートル以下のメジアン径d'50による粒径分布を有してよい。特定の場合、充填剤は、2マイクロメートル以下、又は1.5マイクロメートル以下、或いは1マイクロメートル以下のメジアン径d'50による粒径分布を有してよい。充填剤のメジアン径d'50は、概して、0.1マイクロメートル以上である。
【0084】
特定の実施形態において、メジアン径d'50は、0.1~5.0マイクロメートル、又は0.25~4.0マイクロメートル、或いは0.5~3.0マイクロメートルである。メジアン径d'50は、特に、0.1~0.5マイクロメートル、又は0.5~1.0マイクロメートル、又は1.0~1.5マイクロメートル、又は1.5~2.0マイクロメートル、又は2.0~2.5マイクロメートル、又は2.5~3.0マイクロメートル、又は3.0~3.5マイクロメートル、又は3.5~4.0マイクロメートル、又は4.0~4.5マイクロメートル、或いは4.5~5.0マイクロメートであってよい。
【0085】
有利には、充填剤は、鉱物充填剤である。
【0086】
有利には、充填剤は、補強充填剤、すなわち、前記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン(PAEK)の硬さ、特に引張弾性率及び/又は破断強度を向上させ得る充填剤である。
【0087】
充填剤は、カルシウムカーボネート(カルサイト)を含んでよい。
【0088】
充填剤はまた、シリカを含んでよい。充填剤は、特に、純粋なシリカ(SiO2)、合成シリカ、石英又は珪藻粉(diatomaceous flour)であってよい。
【0089】
充填剤はまた、タルクを含んでよい。
【0090】
充填剤はまた、ウォラストナイトを含んでよい。
【0091】
最後に、充填剤は、クレイ又はアルミノケイ酸塩を含んでよい。充填剤は、特に、カオリン、天然スレート粉、バーミキュライト又はマイカであってよい。
【0092】
充填剤は、有利には、タルクである。タルクは、低原価を有し、本発明による粉体から得られる物体の特性を有利に強化することができるという利点を有する。
【0093】
充填剤は、有利には、非球状である。この充填剤は形状係数Cを特徴とし、Cは有利には2以上である。形状係数Cは、概して、20以下である。
【0094】
粉体製造方法
本発明による粉体の製造方法において、ポリアリールエーテルケトン及び充填剤は、ブレンドされ、次に押し出される。
【0095】
第1の実施形態において、少なくとも1種の充填剤及び少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンは、乾燥ブレンドされ、押出機の主ホッパーに投入される。
【0096】
より有利な第2の実施形態によれば、少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンは、主ホッパーに投入されるのに対して、少なくとも1種の充填剤は、側面供給によって投入され、溶融ポリアリールエーテルケトンに添加される。この方式は、充填剤が押出機内を通過中に過度に損傷を受けることを防ぐという利点を有する。
【0097】
高融点ポリマーの押出に適した押出機が使用されてよい。当業者は、更に、使用されるポリマーの関数として押出条件を適合させることができる。押出機の一例は、スクリュー径26mm及びL/D比40の「Labtech」二軸スクリュー押出機である。
【0098】
押し出された混合物は、顆粒を形成するように細分される。
【0099】
次に、顆粒は、ポリアリールエーテルケトンの結晶化度を増加させるように、任意に熱処理される。この理由は、顆粒の高い結晶化度が、以下のミリング工程を促進することを可能にするということである。有利には、粉体中のPAEKの一部は、標準ISO11357-2:2013に従い20℃/分の加熱速度を使用して第1の加熱時に測定された、20~50J/g(PAEK)、優先的には25~40J/g(PAEK)の範囲である、融解熱を有する。
【0100】
熱処理は、有利には、粉体の融点よりもはるかに低い温度にて実行される。粉体が、55%~65%という、テレフタル酸単位の、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対する質量百分率を有するPEKKをベースとする粉体である変異形態によれば、熱処理は、180℃~220℃の温度にて実行され得る。
【0101】
次に、顆粒は、40~120マイクロメートルの範囲のメジアン径D50を有する粒径分布を有する粉体が得られるように、粉体にミリングされる。本発明による顆粒は、(充填剤と同じ体積含有率の場合)炭素繊維を組み込んだPAEK顆粒よりも脆く、ミリング工程はそれによって促進される。加えて、5マイクロメートル以下のd'50を有する、充填剤、有利にはタルクを組み込んだPAEK顆粒は、概して、炭素繊維を組み込んだPAEK顆粒と比べてミリング中の磨耗性がはるかに少ない。
【0102】
ミリングは、液体窒素、液体炭酸、又はカーディス(cardice)、又は液体ヘリウムを用いて冷却することにより、-20℃未満の温度、優先的には-40℃未満の温度にて実行されてよい。使用されるミルは、有利には、ピンミル、特に逆回転ピンミル、又は別の手段としてインパクトミル、例えばハンマーミル、又は別の手段としてボルテックスミルである。ミルは、ミリングされた粒子が送られ、所望の大きさを有する粒子が通過する、ふるいを備えていてよい。ふるいによって保留された粒子は、運搬されてミル内に戻され、より長いミリングを受け得る。
【0103】
粉体
少なくとも1種の充填剤の少なくとも1種のPAEKに対する質量比は、1:9~1:1であってよい。1:9未満の質量比については、粉体からの物体製造の機械的性質のゲイン、特に弾性率値の増加は、概して、未充填PAEK粉体から製造された物体に対して実質的なものではない。1:1超の質量比については、粉体から製造された物体は、概して、脆すぎる。少なくとも1種の充填剤の少なくとも1種のPAEKに対する質量比は、有利には、1:4~3:7であってよい。
【0104】
少なくとも1種の充填剤の少なくとも1種のPAEKに対する質量比はまた、3:7~2:3、或いは2:3~1:1であってもよい。
【0105】
PAEKと充填剤は、合わせて、粉体の総質量の少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも92.5%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97.5%、又は少なくとも98%、又は少なくとも98.5%、又は少なくとも99%又は少なくとも99.5%又は100%となる。
【0106】
PAEK及び充填剤に加えて、粉体は、PAEK族に属さない別のポリマー、特に他の熱可塑性ポリマーを含んでよい。
【0107】
粉体はまた、添加剤であってもよい。添加剤としては、流動化剤、安定剤(光、特にUV、及び熱安定剤)、蛍光増白剤、染料、顔料及び(UV吸収剤を含む)エネルギー吸収添加剤が挙げられる。添加剤は、概して、粉体の総質量に対して5質量%未満となり、好ましくは、粉体の総質量に対して1質量%未満となる。
【0108】
粉体の使用
本発明による粉体は、下記の非包括的な用途を含む、多数の用途に使用され得る。
【0109】
本発明による粉体は、物体の電磁放射線媒介レイヤーバイレイヤー焼結造形のための方法において使用され得る。赤外線レーザー及びレーザー放射線焼結プロセスは、図1に示されており、先行技術を扱った節においてすでに説明されている。
【0110】
本発明による粉体はまた、金属表面を塗装するためのプロセスにも使用され得る。最終的に金属部品上の塗装を得るために、種々のプロセスが使用され得る。例として、金属部品が加熱され、次に流動粉体層中に浸漬される、流動層中への浸漬が挙げられる。静電粉体塗装(帯電粉体が接地金属部品上へ散布されるもの)を実行することも可能である。この場合、塗装を生成するために熱的後処理が実行される。代替方法は、予熱された部品上への粉体塗装を実行することである。これにより、粉体塗装後の熱処理をなくすことが可能になる。最後に、火炎粉体塗装(flame powder coating)を実行することが可能である。この場合、粉体は、任意に予熱された金属部品上に溶融噴霧される。
【0111】
本発明による粉体はまた、粉体圧縮プロセスにも使用され得る。これらのプロセスは、概して、厚い部品を製造するために使用される。これらのプロセスでは、粉体は、まず鋳型に装填され、圧縮され、次に溶融されて部品が製造される。最後に、部品内の内部応力を除去するために、好適な冷却(通常、比較的遅い冷却)が実行される。
【0112】
実験データ
下記の実施例の粉体は、各種組成物のコンパウンディング(押出造粒)、熱処理及びその次のミリングによって製造された。
【0113】
コンパウンディングは、スクリュー径26mm及びL/D比40であり、350℃の平坦な温度特性及び400rpmのスクリュー速度を有する、「Labtech」二軸スクリュー押出機で実行された。約2mmに等しい長さの顆粒が得られた。
【0114】
充填粉体(炭素繊維又はタルク)を製造する場合、充填剤は、側面供給により、コンパウンディング中に投入される。得られた顆粒は、「充填(された)」と称される。
【0115】
顆粒は、その後、180℃にて9時間、熱処理された。
【0116】
最後に、熱処理された顆粒は、液体窒素により冷却されたMikropull 2DH(登録商標)極低温ハンマーミル内でミリングされた。このミルは更に500μmの丸い孔を有する五徳(grate)を備えている。
【実施例
【0117】
例1(比較例)
使用する第1の組成物は、PAEKに適用される標準ISO307:2019に従った、96質量%の硫酸水溶液中で、25℃にて0.75dl/gの粘度指数を有し、60%のT及びI単位の合計に対するT単位の質量比を有する、ポリエーテルケトンケトンである。このポリエーテルケトンケトンは、Arkema社によって商品名Kepstan(登録商標)で販売されている。
【0118】
例1による組成物により得られた顆粒をミリングして、Malvern Mastersizer 2000(登録商標)回折計を使用して測定した、500ミクロンのD50を得ることができた。
【0119】
例2(比較例)
使用した第2の組成物は、例1によるポリエーテルケトンケトン及び炭素繊維からなり、炭素繊維は組成物の23質量%をなした。
【0120】
使用した炭素繊維は、「HT M100」型のTenax(登録商標)-A繊維、すなわち、60マイクロメートル~100マイクロメートルの繊維長を有する繊維であった。
【0121】
例2による組成物により得られた顆粒をミリングして、Malvern Mastersizer 2000(登録商標)回折計を使用して測定した、160ミクロンのD50を得ることができた。
【0122】
例3(本発明による実施例)
使用した第3の組成物は、例1によるポリエーテルケトンケトン及びImerys社によって販売されるJetfine(登録商標)0.7Cタルクからなり、タルクは(例2の体積比率に相当する充填剤の体積比率を確保するように)組成物の30質量%をなした。
【0123】
Jetfine(登録商標)0.7Cタルクは、Sedigraph III Plus(登録商標)機械で測定した0.7ミクロンのd'50を有し、Malvern Mastersizer 2000(登録商標)回折計で測定した2.5ミクロンのD'50、すなわち、2.6に等しい形状係数Cを有する。
【0124】
例3による組成物により得た顆粒をミリングして、Malvern Mastersizer 2000(登録商標)回折計を使用して測定した、120ミクロンのD50を得ることができた。
【0125】
例4(本発明による実施例)
使用した第3の組成物は、例1によるポリエーテルケトンケトン及びImerys社によって販売されるSteaplus(登録商標)HAR T77タルクからなり、タルクは(例2の体積比率に相当する充填剤の体積比率を確保するように)組成物の30質量%をなした。
【0126】
Steaplus(登録商標)HAR T77タルクは、Sedigraph III Plus(登録商標)機械で測定した2.2ミクロンのd'50を有し、Malvern Mastersizer 2000(登録商標)回折計で測定した10.5ミクロンのD'50、すなわち、3.8に等しい形状係数Cを有する。
【0127】
例4による組成物により得られた顆粒をミリングして、Malvern Mastersizer 2000(登録商標)回折計を使用して測定した、110ミクロンのD50を得ることができた。
【0128】
例1及び2(比較例)による粉体のミリングの結果と比較した、例3及び4(本発明による実施例)による粉体のミリングの結果から、5マイクロメートル以下のd'50を有するタルク充填剤を組み込んだPEKK顆粒のミリングは、充填剤と同じ体積含有率を有する炭素繊維を組み込んだ非充填PEKK顆粒又はPEKK顆粒と比較して、促進されることがわかる。
【0129】
例6(比較例)
標準ISO527-2:2012に従う、1BAタイプの試料を、EOS社によって販売されるEOS P800(登録商標)プリンタにおいて、Arkema社によって販売される6002PL(登録商標)粉体のレーザー焼結によって製造した。粉体は、Malvern Mastersizer 2000(登録商標)回折計を使用して測定した、50μmに等しいD50を有し、PAEKに適用される標準ISO307:2019に従う96質量%の硫酸水溶液中で、25℃にて0.96dl/gの粘度指数を有する。1BAタイプの試料を、290℃の造形温度にて、28mJ/mm2のレーザー焼結エネルギーにより、X、Y及びZ軸に沿って造形した。
【0130】
レーザー焼結機械における試料の造形軸に関係なく、MTS Systems Corporation社により販売される、機械式伸張計を備えたMTS810(登録商標)機械を使用して、標準ISO527-2:2012に従う1mm/分の移動速度で、4GPaの引張弾性率を、23℃にて測定した。
【0131】
例7(本発明による実施例)
標準ISO527-2:2012に従う1BAタイプの試料を、320℃の供給温度、340℃のスクリュー出口温度、80℃の金型温度、及び1分以下のサイクル時間により、例3による粉体の注入によって製造した。
【0132】
MTS Systems Corporation社により販売される、機械式伸張計を備えたMTS810(登録商標)機械を使用して、標準ISO527-2:2012に従う1mm/分の移動速度で、9GPaの引張弾性率を、23℃にて測定した。
【0133】
射出成形によって製造した試料について得た弾性率値は、レーザー焼結によって製造された試料について決定され得る値に等しいか、或いはそれ未満であると考えられる。したがって、試料がレーザー焼結によって製造された場合、その試料は、必然的に、少なくとも9GPaの引張弾性率を有することになるだろう。
【0134】
例8(本発明による実施例)
標準ISO527-2:2012に従う、1BAタイプの試料を、例7のものと同じプロトコルに従って、例4による粉体の射出成形によって製造した。
【0135】
例7のものと同じプロトコルに従って、9GPaの引張弾性率も測定した。
【0136】
同様に、試料がレーザー焼結によって製造された場合、その試料は、必然的に、少なくとも9GPaの引張弾性率を有することになるだろう。
【0137】
例6(比較例)による機械的試験の結果と比較した、例7及び8(本発明による実施例)による機械的試験の結果から、5マイクロメートル以下のd'50を有するタルク充填剤を組み込んだPEKK粉体から得た物体の機械的性質は、非充填PEKK粉体から得たものより高いことがわかる。
【0138】
例7及び8による機械的試験の結果は、5マイクロメートル以下のd'50を有するタルク充填剤を組み込んだPEKK粉体から得た物体の機械的性質は、充填剤と同じ体積含有率の場合に比較を行えば、炭素繊維と共に充填された粉体の場合に得た物体の機械的性質と同規模であるか、さらにはそれを超えるものになることを更に示している。具体的には、Advanced Laser Materials社によって販売される材料HT-23(登録商標)の仕様書は、Xに沿った6.5GPa、Yに沿った6.4GPa、及びZに沿った5.8GPaという引張弾性率を示している。これらの値は、ASTM D638に従って測定された。HT-23(登録商標)は、23%の炭素繊維を組み込み、EOS社により販売されるEOS P500(登録商標)及びEOS P810(登録商標)機械等のプリンタにおけるレーザー焼結用途が意図された、ポリエーテルケトンケトン粉体である。
【符号の説明】
【0139】
1 レーザー焼結デバイス
10 焼結チャンバー
20 レーザー
30 水平板
40 供給タンク
50 粉体層
55 焼結部品
56 未焼結粉体
80 三次元物体
100 赤外線
200 レーザー放射線
図1
【国際調査報告】