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特表2022-551920スペクトル変換のための光学コーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-14
(54)【発明の名称】スペクトル変換のための光学コーティング
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20221207BHJP
   G02F 1/35 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
G02B5/20
G02F1/35 502
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521654
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(85)【翻訳文提出日】2022-06-07
(86)【国際出願番号】 US2020054586
(87)【国際公開番号】W WO2021071953
(87)【国際公開日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】62/913,315
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522143184
【氏名又は名称】サンデンシティ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】サンウォーカー,ニシカント
【テーマコード(参考)】
2H148
2K102
【Fターム(参考)】
2H148AA07
2H148AA09
2H148AA11
2H148AA21
2K102AA06
2K102AA15
2K102AA40
2K102BA18
2K102BB02
2K102BC01
2K102DA17
2K102DB01
2K102DB08
2K102DD08
2K102EB08
(57)【要約】
光学コーティングは、あらかじめ決定された波長範囲を反射すための層のセットを有し、該層のセットは、交互になっている第1および第2の層を2対以上包含し、該第1の層は第1の屈折率mを有し、該第2の層は、第1の屈折率mより大きい第2の屈折率mを有する。第2の層はそれぞれ、第1の材料のナノ粒子の第1の分布を包含する。該層は、入射光の一部を第1の波長範囲にシフトさせ、第1の波長範囲の光を表面増強ラマン散乱(SERS)層に方向付けるスペクトル特性を示す。SERS層は、第2の材料の伝導性ナノ粒子の第2の分布により、第1の波長範囲の光が、ナノ粒子の第2の分布に従って、第1の範囲とは異なる第2の範囲にさらにシフトするように構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む光学コーティング:
あらかじめ決定された波長範囲を反射するように形成された層のセット、該層のセットは、交互になっている第1および第2の層を2対以上包含し、該第1の層は第1の屈折率nを有し、該第2の層は、第1の屈折率nより大きい第2の屈折率nを有し、
該第2の層はそれぞれ、第1の材料のナノ粒子の第1の分布を包含し、
該層のセットは、入射光波長の一部を第1の波長範囲にシフトさせ、第1の波長範囲の光を表面増強ラマン散乱層に伝達する、スペクトル特性を示し;
該表面増強ラマン散乱層は、第2の材料のナノ粒子の第2の分布により、第1の波長範囲の光が、ラマン散乱層中のナノ粒子の第2の分布に従って、第1の範囲とは異なる第2の波長範囲にさらにシフトするように構成されている。
【請求項2】
層のセットのスペクトル特性が、ナノ粒子の第1の分布内に形成される反射キャビティによってもたらされる、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
第1の材料がシリコンである、請求項1に記載のコーティング。
【請求項4】
ナノ粒子の第2の分布が導電性ナノ粒子を包含する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項5】
第2の材料が導電性金属である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項6】
第2の材料が、銀、金および亜鉛からなる群から選ばれる、請求項5に記載のコーティング。
【請求項7】
第2の材料が硝酸亜鉛である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項8】
フィルムとして形成された、請求項1に記載のコーティング。
【請求項9】
第1の波長範囲が600nm未満である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項10】
第2の波長範囲が800nmを超える、請求項1に記載のコーティング。
【請求項11】
光伝搬性材料から形成されたカバー層をさらに含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項12】
以下を含む光学コーティング:
透過性材料から形成されたカバー層;
カバー層に隣接し、入射光範囲の光を受け取り、標的波長範囲の光を反射するように構成された、多層分布ブラッグ反射体部分;および
分布ブラッグ反射体部分に隣接し、分布ブラッグ反射体部分から標的波長範囲の光を受け入れ、受け取った光からスペクトル的にシフトしている出力光を生じさせるように構成された、表面増強ラマン散乱部分。
【請求項13】
出力光が、700nmを超えるIR波長において、IR波長にわたり入射光が有するよりも高いエネルギーを有する、請求項12に記載のコーティング。
【請求項14】
ガラス基材に施用された、請求項12のコーティング。
【請求項15】
フィルムとして形成された、請求項12に記載のコーティング。
【請求項16】
表面増強ラマン散乱部分がZnOナノ粒子の分布を含む、請求項12に記載のコーティング。
【請求項17】
ZnOナノ粒子が、透明な導電性酸化物から形成されたマトリックス内にある、請求項16に記載のコーティング。
【請求項18】
以下を含む、光学コーティングの形成方法:
(a)層のセットを基材上に形成し、
該層のセットは、
(i)第1の屈折率nを有する第1の層を付着させる工程、
(ii)第1の屈折率nより大きい第2の屈折率nを有する第2の層を付着させ、そして第1の材料のナノ粒子の第1の分布を有する第2の層を提供する工程、
を繰り返すことにより、入射光波長の一部を第1の波長範囲にシフトさせるスペクトル特性を示すように構成される、
(b)第2の材料のナノ粒子の第2の分布により、第1の波長範囲の光を受け取るように構成された表面増強ラマン散乱層を形成する、
該表面増強ラマン散乱層は、受け取った第1の波長範囲の光を、ラマン散乱層中のナノ粒子の第2の分布に従って、第1の範囲とは異なる第2の波長範囲にさらにシフトさせる。
【請求項19】
基材がガラスである、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、Nishikant Sonwalkarの名義で「OPTICAL COATING FOR SPECTRAL CONVERSION」という表題で2019年10月10日に出願された米国仮特許出願第62/913315号の利益を主張するものであり、該出願を、全体として本明細書中で援用する。
技術分野
[0002]本発明は、一般に光媒体のスペクトル性能に関し、より詳細には、入射光エネルギーのスペクトルを再マッピングするための光学コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
[0003]各タイプの光伝搬性光学材料は、ある波長帯域にわたって変動しうる光エネルギーに対し特徴的なスペクトル応答を有する。例えば、従来の光学ガラスタイプは、所定の範囲にわたり最適な透過を示すが、特定の波長ではより効率の低い透過を示す可能性がある。さまざまなタイプの光学コーティングは、特定の波長範囲において可変的な応答および効率を有する。フォトニックセンサーおよびエネルギー変換器、例えば、光起電性(PV)太陽エネルギー変換器は、いくつかの波長帯域にわたり、他のものよりはるかに効率的であることができる。
【0003】
[0004]フォトニック変換法は、さまざまなタイプの光学的構成要素および材料のスペクトル応答の補償および調整に提案され、使用されてきた。測定可能で有用な性能改善の達成を期待して、特定の光伝搬性光学材料の固有の応答を変化させるために、アップコンバージョン(UC)、ダウンコンバージョン(DC)、および他のタイプのスペクトル応答改変のための方法が開発されてきた。
【0004】
[0005]とりわけPV太陽エネルギー分野では光透過効率の改善にいくらかの前進は見られるが、かなりの問題が残っている。とりわけPV適用、一般に光伝搬性材料のスペクトル応答の改善において直面する制約には、UCまたはDC機能をもたらす構成要素の製作に用いられる材料に関連する問題がある。例えば、光起電効率を改善する試みは、高価および/または環境的に好ましくない材料を特徴とする。ランタニドおよび希土類材料は、光伝搬性光学材料のスペクトル応答を改善するための候補としてとりわけ注目されてきた。しかしながら、これらの材料は、費用、製作、および潜在的な廃棄物処理問題を正当化する結果を達成するために、慎重に処理しなければならない。量子ドット材料は同じ問題にさらされており、光起電での適用を妨げる可能性があるいくつかの環境上の安全性の懸念を知らしめている。
【0005】
[0006]材料関連の制約に加えて、光学材料分野の技術者に広く受け入れられてきたエネルギー変換に関する実際的原理、例えば、発熱および他の実際的制約に関連する原理も知られている。
【0006】
[0007]したがって、光伝搬性光学材料のスペクトル性能および工学的設計(engineering)の改善に関する方法には、改善の余地があることがわかる。
【発明の概要】
【0007】
[0008]本開示の目的は、ある波長範囲にわたる光伝搬性材料のスペクトル応答の工学的設計に関して、光学材料分野を前進させることである。この目的を念頭に置いて、本開示は、以下を含む光学コーティングを提供する:
[0009]あらかじめ決定された波長範囲を反射するように形成された層のセット、該層のセットは、交互になっている第1および第2の層を2対以上包含し、該第1の層は第1の屈折率nを有し、該第2の層は、第1の屈折率nより大きい第2の屈折率nを有し、
[0010]該第2の層はそれぞれ、第1の材料のナノ粒子の第1の分布を包含し、
[0011]該層のセットは、入射光波長の一部を第1の波長範囲にシフトさせ、第1の波長範囲の光を表面増強ラマン散乱層に伝達する、スペクトル特性を示し;
[0012]該表面増強ラマン散乱層は、第2の材料のナノ粒子の第2の分布により、第1の波長範囲の光が、ラマン散乱層中のナノ粒子の第2の分布に従って、第1の範囲とは異なる第2の波長範囲にさらにシフトするように構成されている。
【0008】
[0013]本開示の装置および方法により提供される利点は、スペクトル効率の改善について提案されてきたものに比べ環境上の難点がはるかに少ない材料を配合および使用することができる点である。
【0009】
[0014]開示される発明の他の望ましい目的、特徴、および利点について、当業者なら起想し、明らかにすることができる。本発明は、添付する特許請求の範囲によって定義される。
産業上の利用可能性
[0015]本開示の広範な観点に従って、太陽エネルギー発生および他の光起電性適用に有用な材料を含む光伝搬性光学材料の改善されたスペクトル応答を達成するための装置および方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】[0016]図1は、ダウンコンバージョンを示す簡略図である。
図2】[0017]図2は、PV適用のためのダウンコンバージョンを提供する光処理の順序を示す流れ図である。
図3A】[0018]図3Aは、本開示の態様に従ってコーティングされた光伝搬性材料の改善されたスペクトル応答を示すグラフである。
図3B】[0019]図3Bは、窓ガラスの透過と比較して、本開示の態様に従ってコーティングされた光伝搬性材料の改善されたスペクトル応答を示すグラフである。
図3C】[0020]図3Cは、入射光および本開示のコーティングを通過する伝搬によりスペクトル的にシフトしている光の分光放射照度を示すグラフである。
図4】[0021]図4は、光エネルギーのダウンコンバージョンのための多層コーティングを示す概略側面図である。
図5】[0022]図5は、ダウンコンバージョンコーティングに用いられるブラッグ反射のための層状配列を示す側面概略図である。
図6】[0023]図6は、コーティング内でナノ粒子をその場で追加的に製作および形成するための順序を示す。
図7】[0024]図7は、本開示の態様に従って形成される透明なダウンコンバージョン(DC)フィルムまたはコーティングに用いられる層状配列を示す、部分的に分解された横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[0025]本明細書中で示し説明する図面は、さまざまな態様に従った光学装置に関する操作および製作の基本原理を例示しており、実際のサイズおよび縮尺を示すことを意図して描かれたものではない。基本的な構造的関係または操作原理を強調するために、いくつかの視覚的誇張が必要である場合がある。
【0012】
[0026]本開示の文脈において、“上部”および“底部”または“上方の”および“下方の”という用語は相対的であり、構成要素または表面の必然的な方向を示すわけではなく、構成要素または材料の塊内の相対する表面または異なる光路をさし、区別するために用いられるに過ぎない。同様に、“水平の”および“垂直の”という用語は、例えば、異なる平面における構成要素または光の相対的直交関係を記載するために図面に関連して用いることができるが、真の水平および垂直方向に関して構成要素に必要な方向を示しているわけではない。
【0013】
[0027]“第1”、“第2”、“第3”などの用語は、用いられる場合、必ずしも任意の順序関係または優先関係を意味するわけではなく、1つの要素または時間間隔を他のものとより明確に区別するために用いられる。例えば、本明細書中に教示されるものに固定的な“第1”または“第2”の要素はない;これらの記載は、1つの要素を本開示の文脈における他の同様の要素と明確に区別するためにのみ用いられる。
【0014】
[0028]本開示の文脈において、“フィルム”という用語は、1以上の薄層として基材に施用されるコーティング、例えば、さまざまな屈折率を有するように処理された材料の連続的に形成された層から形成された薄フィルム光学コーティングを意味するために用いることができる。フィルムはまた、光学材料の1以上の層から形成される光伝搬性基材のシートであることもでき、独立して、または他の光学的構成要素に例えば接着剤を用いて光学的に連結させて、使用することもできる。
【0015】
[0029]本明細書中で使用する場合、“エネルギー付与可能な”という用語は、電力を受け取ることにより、および所望により許可信号を受け取ることにより、指示された機能を実行するデバイスまたは構成要素のセットに関連する。“光伝搬性”材料は、材料が受け取った光の大部分、少なくとも50%超を透過させるか、または伝達する。本開示の装置の使用のほとんどに関し、対象となる光伝搬の範囲は一般に約200nm~2200nmである。
【0016】
[0030]“ナノ粒子”という用語は一般に、個々の原子と巨視的バルク固体の間の中間サイズを有する粒子をさし、平均径は約1nm~100nmである。材料のナノ粒子サイズは典型的にはほぼ励起子のボーア半径、または材料のド・ブロイ波長であり、これは、個々のナノ粒子が、粒子内で、個々の数または別個の数の電子もしくは孔のいずれかの電荷担体、または励起子を捕捉することを可能にすることができる。ナノ粒子による電子(または孔)の空間的閉じ込めは、材料の物理的、光学的、電子的、触媒的、光電子的および磁気的特性を変化させると考えられる。
【0017】
[0031]図1は、スペクトルのダウンコンバージョンの機構を簡略図の形態で示し、高エネルギーの光子が2つのより低エネルギーの光子に変換されている。光伝搬性材料においてこのタイプのスペクトル変換を提供するための従来の解決法は、ランタニド材料に大きく依存する。例えば、PV適用において、ダウンコンバージョンを実施するためのランタニド元素の使用および利点は、十分に理解されている。ランタニドに特徴的であるさまざまな状態における電子の利用可能性により、これらの物質はダウンコンバージョン適用に容易に使用可能になり、光エネルギーを、さまざまなタイプの検出で、電流発生のために、より使用可能にすることができる。一方、他の元素はこの固有の利点に恵まれておらず、ダウンコンバージョン物品を製作するための候補材料と見なされないであろう。
【0018】
[0032]しかしながら、ランタニド材料は、費用、利用可能性、取り扱いにおいていくつかの問題を呈し、いくつかの環境上の懸念を知らしめている。ランタニドはまた、得ることができる改善の程度を抑制するかなりの損失を示す。
【0019】
[0033]スペクトル変換および状態調整の効率を改善するための出願人のアプローチは、効率を改善するために光の波長をシフトさせるのに、ランタニドまたはリンに基づく発光に依存しない。その代わりに、出願人は、光の処理および変換の新規順序と併せて、光起電性適用にもっとも有用なダウンコンバージョンのほか、アップコンバージョンおよびスペクトルシフティングおよび一般的微調整をもたらすように工学的に設計することができる対応する層状構造を特定した。出願人の技術により量子マッチング(quantum matching)を波長シフティングの問題に適用して、ブラッグ反射の性質ならびに局在表面プラズモン共鳴(LSPR)および表面増強ラマン散乱(SERS)の効率の両方が生かされる多層構造を形成する。
ダウンコンバージョンのための光の処理
[0034]図2の流れ図は、ダウンコンバージョンまたは他のタイプのスペクトルシフティングを提供する光処理の順序を示す。代表的態様に従って、この順序は、より高エネルギーの紫外線および可視光線の一部を、従来のシリコンPV電池のより低エネルギーのバンドギャップ範囲である1064nmにシフトさせるために用いることができる。出願人のコーティングによって達成される順序は以下の通りである:
(i)工程S200:入射光エネルギーを受け取る。例えば、入射太陽光の場合、ほとんどの放射照度は可視領域内、おおよそ約450~700nmにある。
【0020】
(ii)工程S210:分布ブラッグ反射(DBR)を量子閉じ込めと共に用いてスペクトルシフトおよび選択を行う。
(iii)工程S220:表面増強ラマン散乱(SERS)を用いてさらなるスペクトルシフトを行う。
【0021】
(iv)工程230:PV変換器20またはセンサーなどにおいて、スペクトル的にシフトした光を含む光を、取り入れ、処理し、感知し、または別の方法で使用する。
[0035]図3Aのグラフは、コーティングしていない光学ガラスの透過スペクトルを、本開示の態様に従って形成したコーティングを有する同じガラス材料の透過スペクトルと比較している。見てわかるように、透過効率は、より高波長の光で向上している。この向上は、例えばPV適用に有益であることができる。図3Bは、窓ガラスの透過と比較して、本開示の態様に従ってコーティングされた光伝搬性材料の改善されたスペクトル応答を示す。
【0022】
[0036]図3Cのグラフは、空気中の入射光の分光放射照度(破線)および本開示のコーティングを通過する伝搬によりスペクトル的にシフトしている光の分光放射照度(実線)を示す。陰影部分は、電力密度全体におけるエネルギーの分布および変化の対応するシフトを示す。
【0023】
[0037]図4の横断面図は、PV適用における光エネルギーのダウンコンバージョンに関し上記スペクトル挙動を有するコーティング40を提供するために用いることができる層の配列を、一定の縮尺ではない略図の形態で示しており、光は、示した方向で上方から入射している。カバー42は、光伝搬性材料、典型的にはガラスまたはプラスチックから形成される。改変された分布ブラッグ反射体(DBR)部分44は、入射光の一部のコヒーレンス長を効果的に変化させることにより、図2の順序に記した選択を伴う第1のスペクトルシフトを提供する多層構造である。その後、スペクトル的にシフトした光は表面増強ラマン散乱(SERS)層46に方向付けられ、そこで次のスペクトルシフティングが起こる。その後、望ましいバンドギャップ、例えばPVデバイスのバンドギャップなどの方へシフトした得られた光エネルギーを、PV材料または他の基材50に方向付けることができる。
ブラッグ反射体部分44の構造および組成
[0038]本開示の態様では、以下に記載するように、量子マッチングのために改変させた分布ブラッグ反射(DBR)の原理を使用する。ブラッグ反射は、ひとりでにスペクトルシフトを生じさせるわけではなく、どちらかというと狭いスペクトル部分の選択的反射に用いられることに、留意しなければならない。DBRは、入射光が、1次元フォトニック結晶を形成する異なる屈折率の材料の周期的層を通って伝達されるときに生じる。DBRでは、もっとも有用であるとみなされる範囲内の光子を増強することを標的とする波動光学のアプローチが利用される。フォトニックバンドギャップ(PBG)内の光子エネルギーを選択的に増強するためのDBRの構造および使用は、例えば、以下の論説に記載されている:
Ding, Y., Chen, P, Fan, H.Q.,およびHou G., (2017), “Photonic Structure for Light Trapping in Thin Films Silicon Solar Cells: Design and Experiment”, Coatings, 7, 236;
Chen, A., Yuan, Q.,およびZhu, K., (2016), “ZnO/a-Si Distributed Bragg Reflectors for Light Trapping in Thin Film Solar Cells from Visible to Infrared Range”, App. Surface Science , 360, Part B, pp.693-697;および
Peter Bermel, Chiyan Luo, Lirong Zeng, Lionel C. Kimerling,およびJohn D. Joannopoulos, “Improving thin-film crystalline siliconsolar cell efficiencies with photonic crystals” 2007年12月10日 / Vol.15, No.25 / OPTICS EXPRESS, pp.16986-17000.
[0039]例示として、6周期のみの4分の1波長ZnO/a-Si交互スタックは、99%のピーク反射率を示すことができる。6周期逆ZnO/a-Siは98%の反射能を有することができ;2つのZnO/a-SiのDBRの組み合わせは、より広範なストップバンド、例えば686nm~1354nmに、適合することができる。
【0024】
[0040]ブラッグ反射体構造内で形成される追加的なシフティング機構をより良く理解するためには、ブラッグ反射の基本原理をいくつか復習することが有用である。分布ブラッグ反射体の配列は、代替的に、特定のエネルギーバンドを集合的に定義するスタックされたミクロ構造の周期的配列として形成される1次元フォトニック結晶とみなすことができる。
【0025】
[0041]図5の概略側面図および図6の分解図は、態様に従ったブラッグ反射体部分44に関する多層60、66の配列を示す。先に記載したように、ブラッグ反射体部分44は、フォトニック結晶を提供する4分の1波スタックとして形成される。互いに重なり合っている一連の透明層は、屈折率が交互になっている交互層を有し、屈折率をそれぞれn1、n2として示す。例として図5に4層を示す;所定のスペクトル応答を有するブラッグ反射体を形成するために、追加の層を代替的に用いてもよい。態様に従って、6~12周期が用いられ、各周期は指数が交互になっている一対の層を有する。屈折率の周期的変動は、λ/4の厚さを有する層によってもたらすることができ、ここで、波長λは、特定の適用に適した波長である。本開示の代表的態様に従って、標的ブラッグ波長λは約600nmである。
【0026】
[0042]それぞれ指数n1およびn2を有する異なる材料について値d1とd2の間でわずかに変動する層の厚さは、ブラッグ波長λにおいてブラッグ反射を提供することができ、変動する厚さの値は以下によって与えられる:
【0027】
【化1】
【0028】
シリコン(Si)に関し、層厚d1、d2は、典型的には60nm範囲にある。
[0043]ブラッグ層の配列の周期Λは以下で表すことができる:
【0029】
【化2】
【0030】
または
【0031】
【化3】
【0032】
式中、
【0033】
【化4】
【0034】
したがって、
【0035】
【化5】
【0036】
[0044]ブラッグ反射波長:
【0037】
【化6】
【0038】
を用いて、伝搬定数を得ることができる:
【0039】
【化7】
【0040】
[0045]波長の光の場合:
【0041】
【化8】
【0042】
[0046]回折格子と同一位相の光の場合、指数n1とn2の差は比較的小さい。ブラッグ波長では、透過損失は非常に少ない可能性がある;この波長における反射能は99.99%を超える可能性がある。
【0043】
[0047]光起電デバイスへの光または光起電デバイス内の光を処理するための他のより従来型の提案されている解決法は、入射光を捕捉するか、さもなければ含有するためにブラッグ反射率を用いるが、波長シフトを提供する能力に欠ける。本開示の態様は、分布ブラッグ反射体構造の形成に量子マッチングを使用して波長シフティングの問題に対処する。量子閉じ込めブラッグ回折格子において、反射体配列は、光学利得を2倍増強するために、光エネルギーを波腹で維持する。
【0044】
[0048]態様に従って、量子閉じ込めまたは量子マッチングは、酸化ケイ素(SiO2)基材内に埋め込まれたシリコン(Si)ナノ粒子/ナノ結晶の分布を用いて達成される。分布しているナノ粒子間の空間は、SiO2基材内に垂直キャビティを形成する(“垂直”は、層およびPVデバイス表面の平面に対し概して直角方向に伸長している)。キャビティ内の光信号の共鳴は、全体的分布およびこれらのキャビティの垂直距離に対応する周波数(波長)で光コヒーレンスをもたらす。したがって、量子マッチングにおいて、DBR構造の1以上の各層内のナノ粒子の相対的濃度および分布は、Si/SiO2層の屈折率および得られるスペクトルシフティングの範囲の両方に影響を有する。
【0045】
[0049]本開示の態様によると、2つの異なる層が、DBRコーティング40構造中で交互になっている:
(i)図5に示す層状配列中の層60は、SiO2基材内にSi粒子の分布を有する工学的に設計された材料から形成され;
(ii)交互になっている層66は、インジウム-スズ酸化物(ITO)など他の透明な導電性材料から形成される。同様に用いることができる代替材料としては、さまざまなタイプのドープされた二元化合物、例えば、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウムドープ酸化カドミウム、およびアルミニウム、カリウムまたはインジウムがドープされた酸化亜鉛(AZO、GZOまたはIZO)などが挙げられる。
【0046】
[0050]基材およびナノ粒子構成要素を提供するために用いられる材料は、標的波長に適した幾何学的形状の垂直キャビティを形成するための適合性に関連して選択される。
SERS層46の構造および組成
[0051]ふたたび図4の略図を参照すると、SERS層46は、ブラッグ反射体部分44を通過する光の伝達および波長の初期シフティングに続いて、入ってくる光に追加的な波長シフトをもたらす波長変換機関を形成する。
【0047】
[0052]光子のダウンコンバージョンを散乱およびストークスシフトで考えると、近共鳴ラマン散乱は、紫外線(UV)または可視(VIS)励起源、例えば325nm励起源と仮定すると、赤外線(IR)エネルギー領域にT2(LO)ピークをもたらす。したがって、例えば、325nm源は、対象となる600nm~1050nmの領域内にピークを生じさせることができる。生じるT2(LO)ピークの強度は、6nm~30nmのZnSナノ粒子サイズに伴い上昇する。
【0048】
[0053]態様において、表面増強ラマン効果は、350nm~450nmの範囲にあるUVおよびVISを、ラマンシフト(ストークスシフト)の結果、600nm~1000nm領域にあるT2(LO)ピークに励起させる。このシフトは、量子閉じ込めと、表面プラズモンによって作り出される自由励起子発光エネルギーとによって生じるバンドギャップエネルギーの変化によってもたらされることができる。ZnS金属ナノ粒子はストロークシフトに必要なプラズモンエネルギーを提供し、したがって、対象領域で放出されるシフトした光子のエネルギー損失をもたらさない。
【0049】
[0054]ラマン散乱は、分子材料の電子からの双極子雲(dipole cloud)の形成の結果である。ラマン散乱信号のスペクトルシフティングおよび表面増強は、SERS層46を形成する基材内での適切な材料、例えば、銀、金および亜鉛などの導電性ナノ粒子の分布に起因する。材料およびそれらの分布を適切に選択することにより、SERS層46を局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を示すように構成して、適した波長範囲の方へのスペクトルシフティングを提供することができる。本明細書中で用いられる“導電性”という用語は、比較的低い体積抵抗率を有することをさし、例えば、限定されるものではないが、典型的な導電性材料は、20℃で10オーム-m未満である体積抵抗率を有する。体積抵抗率は、材料が電流の流れに逆らう能力に関連する。
【0050】
[0055]埋め込まれたナノ結晶の分布がまばらな媒体を通過する光の伝搬は、均質媒体の有効屈折率を計算することにより概算することができ、以下のように計算する:
【0051】
【化9】
【0052】
式中:
m=ナノ粒子が埋め込まれている光伝達性媒体の屈折率;
κ=ω/c 媒体中の波数;
ρ=N/V 粒子数N÷体積V;
S(0)は、前方向の散乱振幅である;
[0056]吸収媒体が複素屈折率を有する場合の吸収係数は、一般に以下である:
【0053】
【化10】
【0054】
小さな同一ナノ粒子を含む薄層の場合、吸収係数は以下により与えることができる:
【0055】
【化11】
【0056】
式中、Cextは単一粒子の消散断面積であり、散乱振幅RS(0)の実部に比例する。
[0057]ベールの法則に従って、距離hにわたり有効媒体を通って伝搬する平行ビームの減衰は、以下を用いて得られる:
【0057】
【化12】
【0058】
式中、Iは強度である。
[0058]波長シフティングは、本明細書中で参考として援用するvan Dijk et al.による“Competition between Extinction and Enhancement in Surface-Enhanced Raman Spectroscopy”という表題の論文、Physical Chemistry Letters, American Chemical Society, 2013. pp.1193-1196に記載されているように、競合過程の間の相互作用によって生じる。SERSは、ナノ粒子のプラズモン周波数において共鳴信号の消散をもたらすと同時に、共鳴波長からある距離において対応するラマン散乱信号の増強をもたらす働きをする。ナノ粒子がプラズモン共鳴で励起されたときにラマン信号が低減するこの直感に反した挙動は、典型的にPV適用に望ましい挙動である、より長波長への入射光のアップコンバージョンをもたらすように適合させることができる。あるいは、SERSは、波長バンドマッチングと同様に、より短波長への入射光のダウンコンバージョンを生じさせるために用いることができる。
【0059】
[0059]ラマン散乱光エネルギーの波長および強度を調整するために制御することができる因子には、ナノ粒子のタイプ、形状、全体的サイズ、および濃度/分布がある。SERS構造を用いたスペクトル応答の設計は、例えば、A. Bouali, S. Haxha, F. Abdelmalek, M. Dridi,およびH. Bouchrihaによる“Tuning of Plasmonic Nanoparticle and Surface Enhanced Wavelength Shifting of a Nanosystem Sensing Using 3-D-FDTD Method”という表題の論文、IEEE Journal of Quantum Electronics Vol.50, No.8(2014年8月), pp.651-657に記載されており、これを本明細書中で参考として援用する。
【0060】
[0060]プラズモン共鳴材料は、材料の粒径、サイズ、および周囲基材の誘電特性に特徴的な周波数スペクトルにわたり入射光を散乱させる。いくつかの材料についての共鳴散乱光は波長を増大させて、例えば入射光への“赤方偏移(red-shift)”をもたらすことができる。
【0061】
[0061]金属粒子におけるプラズモン発生の特徴は、その表面付近の領域における増強された電場の生成である。この電場と隣接材料の間の相互作用は、共鳴粒子および隣接材料の両方の散乱特性を著しく変化させることができる。表面増強ラマン分光法(SERS)では、ラマン散乱が数桁増強されるように工学的に設計された粒子コーティングされたフィルムにおける局在プラズモン共鳴が活用される。この技術を使用すると、対象材料に由来するラマン散乱を観察することができる;プラズモンによって生成される局所電場を用いて、散乱の強度を増強することができる。
【0062】
[0062]本開示の態様に従って、SERS層46は、透明な導電性ベース材料またはマトリックス内に埋め込まれた、酸化亜鉛(ZnO)または他の透明な導電性金属から形成された金属ナノ粒子から形成される。本開示の態様に従って、ITOは導電性ベース材料である。必要とされる波長シフティングの量に応じて、いくつかのタイプの金属ナノ粒子を、SERS層46でプラズモン応答を得るために用いることができる。適した金属ナノ粒子としては、金および銀などの貴金属、ならびに、低反応性および高反射に好ましい特性を有する金属、例えば、コバルトおよびクロムなどを挙げることができる。硝酸亜鉛などのさまざまな化合物を代替的に用いることができる。量子エレクトロニクス分野の技術者なら知っているように、もたらされるスペクトルシフトの量は、例えば適切に設計されたコーティングを施用することにより、材料中に工学的に設計することができる。達成されるスペクトルシフトは、部分的に、ナノ粒子のサイズおよび分布、ならびにベース材料またはマトリックスの複素屈折率の因子であることができる。
【0063】
[0063]さまざまなタイプのナノ粒子の使用、ならびに本開示のフィルムまたはコーティングの異なる層内でのそれらの相対的サイズおよび分布の制御により、アップコンバージョン、ダウンコンバージョン、または波長バンドマッチングへの使用を可能にする光波長の調整が可能になることに、留意すべきである。
ダウンコンバージョンフィルムの製作
[0064]例えば、太陽エネルギー変換適用に関し、出願人は、ダウンコンバージョンコーティングまたはフィルム40を上記配列を用いて形成すると、入射太陽光をPVデバイスによる効率的変換により好ましい波長に状態調整する適切な波長シフティングを提供することができることを見いだした。
【0064】
[0065]図4~6に示す層状配列に関し、製作工程は、透明なガラスまたはプラスチック基材であることができるカバー42から開始し、つぎにカバー42上にブラッグ反射体部分44の層を形成した後、SERS層46を形成する。
【0065】
[0066]ベースとしてのカバー42上にコーティング40を形成する工程は、以下の順序を用いることができる:
[0067](i)スパッタリングまたは他の付着技術を用いて50nmのITOまたは他の導電性光伝達性材料を付着させて、第1の層66を形成する。
【0066】
[0068](ii)層66上にSiの薄層をスパッタリングするか、または他の方法で付着させる。
[0069](iii)焼結またはアニーリングを用いて付着Si層からナノ結晶を形成させる。態様によると、摂氏600~800度の範囲の焼結温度では、ITO層とは異なる所定の屈折率を有する層60を形成し、適した波長におけるブラッグ反射のための垂直キャビティを形成するのに望ましいナノ結晶分布を有するのに適したサイズおよび分布のSiナノ結晶が形成する。
【0067】
[0070](iv)形成したナノ結晶上にITOまたは他の導電性光伝達性材料を付着させることにより、埋め込み層を形成する。
[0071](v)工程(i)~(iv)を2回以上繰り返して、ブラッグ反射体部分44を形成する。
【0068】
[0072](vi)ITOなどの導電性透明ベースを適用し、該ベース上にZnOを埋め込むか、または他の方法で分布させることにより、SERS層を形成する。
[0073](vii)SERSを生じさせるのに適した分布を有するナノ粒子状ZnO粒子を形成する。
【0069】
[0074]いくつかのナノ光学コーティングの形成方法が公知である。これらの方法としては、限定されるものではないが、ロールコーティング、スピンコーティング、物理蒸着、化学蒸着およびマグネトロンプラズマスパッタリングが挙げられる。ロールコーティングには、ポリマーバインダーから形成される充填剤および太陽光に暴露されると分解する充填剤を使用するという不利な点がある。
【0070】
[0075]マグネトロンプラズマスパッタリングは、無機で持続時間の長い(long-lasting)金属酸化物、例えば、TiO2、SiO2、MgF2などのナノ光学コーティングに用いられる。この技術によりインライン処理が可能になり、好ましいサイクル時間内に非常に多くのガラスシートをスパッタリングすることができる。マグネトロンプラズマスパッタリング技術は、アディティブファブリケーション(additive fabrication)プロセスとしてナノ光学コーティングを一層ずつ構築する。
【0071】
[0076]図6の略図は、アディティブファブリケーションおよびその場でのコーティング内でのナノ粒子形成の順序を示す。左から右に、スパッタリングを用いて、(試料位置において)基材に材料および関連酸化物を施用する。その後、N/O雰囲気中のような制御条件下でのアニーリングプロセスを用いて、その基材へのコーティングを状態調整する。アニーリング温度は、限定されるものではないが、典型的には摂氏900~1200度の範囲にある。得られたナノ粒子を試験し、望ましい透過特性および反射特性をもたらすために用いることができる。
【0072】
[0077]単一接合型c-Si太陽電池の上面および底面における良好な接触のために、透明導電性酸化物(TCO)内など、透明材料のマトリックスにナノ粒子を包含させるために、熱的アニーリングを達成することができる。同様に付加製造(additive manufacturing)プロセスを用いて金属酸化物のスパッタ層を熱的アニールしてその場でナノ結晶を作り出すことにより、改善された制御が可能になる;材料分野の技術者によく知られた方法を用いてアニーリングの温度および圧力を加えることにより、ナノ結晶活性層のサイズおよび密度の精密な制御が可能になる。
【0073】
[0078]記載した付加製造の順序は、インラインでの高処理量の処理に適している。石英ヒーターをスパッタリングチャンバー内に組み込むことができる。
[0079]態様によれば、700~1100nmのバンドパスと、PVおよび他の適用により適した、波長300nm~600nmの高エネルギー光子から800nm~900nmのより低エネルギーの光子へのダウンシフティング率が低いこととを達成するために、金属酸化物中で適切に構造化されて埋め込まれたナノ粒子を組み合わせる一連の工程がある。実験的コーティングの透過率および反射率スペクトルは、独立した試験によってバリデートされている。例えば、屋外試験では、72セルの実物大太陽電池パネルについて効率の向上が示され、野外実験に基づく太陽電池パネルの効率で平均15%~22%の全体的改善がみられる。
【0074】
[0080]図7の横断面の分解図は、本開示の態様に従って形成された透明なダウンコンバージョン(DC)フィルムまたはコーティング40に用いられる層状配列を、正確ではない縮尺で示している。フィルムまたはコーティング40は、ロール形態またはシート形態で製作した後、PVデバイス表面または他の基材の表面または構成要素に、例えばEVA(エチレン-酢酸ビニル)のような光学的接着剤を用いて施用することができる。
【0075】
[0081]本開示の態様に従って、基材は、低鉄分の太陽電池用ガラス、例えば、インド、GujaratのGujarat Borosil Ltd.によって製造された太陽電池用ガラスであることができる。
【0076】
[0082]層は、いくつかの適した方法のいずれか、例えば、物理蒸着または化学蒸着により、光伝搬性基材上に形成することができる。焼結およびアニーリングプロセスは、例えば、高真空下または無酸素環境で実行することができる。
【0077】
[0083]図7のフィルム40は、独立した光学的物品として用いることができ、または波長変換をもたらすために他の光学材料に付着させるか、または他の方法で連結することができる。
【0078】
[0084]本開示の別の態様に従って、図7に示し本明細書中に記載するフィルム40は、ガラスまたは他の光学的材料または構成要素に施用するためのフィルム基材上に形成することができる。あるいは、フィルム40を形成する層は、改善されたスペクトル効率または応答のために、光伝搬性基材またはフォトニック構成要素の表面上に直接形成することができる。
【0079】
[0085]態様ではダウンコンバージョン機能について記載したが、本開示の装置および方法は、材料のタイプ、分布およびサイズを適切に変化させて、アップコンバージョンならびに好ましい波長範囲への光エネルギーのシフティングに代替的に適用することができる。
【0080】
[0086]本開示の態様に従って、光学コーティングは、あらかじめ決定された波長範囲を反射するように形成された層のセットを有し、該層のセットは、交互になっている第1および第2の層を2対以上包含し、該第1の層は第1の屈折率nを有し、該第2の層は、第1の屈折率nより大きい第2の屈折率nを有し、該第2の層はそれぞれ、第1の材料のナノ粒子の第1の分布を包含し、該層は、典型的には波長に対し光量または光エネルギーをプロットしたグラフによって示される、入射光波長の一部を第1の波長範囲にシフトさせ、第1の波長範囲の光を表面増強ラマン散乱層に方向付けるスペクトル特性を示す。表面増強ラマン散乱層は、第2の材料の導電性ナノ粒子の第2の分布により、第1の波長範囲の光が、ラマン散乱層中のナノ粒子の第2の分布に従って、第1の範囲とは異なる第2の波長範囲にさらにシフトするように構成される。層のスペクトル特性は、ナノ粒子の第1の分布内に形成される反射キャビティによって提供されることができる。第1の材料はシリコンであることができ;第2の材料は導電性金属であることができる。コーティングは、フィルムとして形成することができる。
【0081】
[0087]本開示の態様に従った光学コーティングは、標的波長を反射するように構成された分布ブラッグ反射体部分;ならびに、DBR部分に隣接し、DBR部分から標的波長の光を受け入れ、受け取った光からスペクトル的にシフトしている光を生じさせるように構成された、表面増強ラマン散乱部分;を有することができる。
【0082】
[0088]本発明を詳細に記載し、適切または現在好ましい態様に特に関連して記載した可能性があるが、本発明の精神および範囲内で変動および改変をもたらすことができることは、理解されるであろう。したがって、ここで開示する態様は、あらゆる点で例示的であり、制約的ではないとみなされる。本発明の範囲は、添付する特許請求の範囲によって示され、その等価物の意味および範囲内で生じる変化はすべて、その中に包含されることを意図する。
【符号の説明】
【0083】
20 PV変換器
40 コーティング
42 カバー
44 改変された分布ブラッグ反射体(DBR)部分
46 表面増強ラマン散乱(SERS)層
50 PV材料または他の基材
60 多層
66 多層
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】