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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-14
(54)【発明の名称】「血管内血栓」溶解剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/57 20060101AFI20221207BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20221207BHJP
   C12N 9/50 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C12N15/57
A61P7/02
A61K38/02
A61K31/7088
A61K48/00
A61K47/64
C12N9/50 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022521957
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(85)【翻訳文提出日】2022-04-12
(86)【国際出願番号】 KR2020014217
(87)【国際公開番号】W WO2021080262
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】10-2019-0131585
(32)【優先日】2019-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515304503
【氏名又は名称】ジニス カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】224,Wanjusandan 6-ro, Bongdong-eup, Wanju-gun, Jeollabuk-do 55315, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ソン チュル
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ハッサン,エムディメヘディ
【テーマコード(参考)】
4B050
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050LL01
4C076AA95
4C076CC14
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA21
4C084BA22
4C084BA23
4C084NA13
4C084ZA54
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086ZA54
(57)【要約】
本発明は、「血管内血栓」溶解剤に係り、より詳細には、「血管内血栓」に対する血栓認識ドメイン(thrombo-recognition domain)と血栓溶解ドメイン(thrombolytic domain)から構成され、「血管内血栓」を溶解させる機能のポリペプチド、遺伝子、及びこれを含有する薬学的組成物に関する。本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドは、配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む血栓溶解ドメイン、及び配列番号3又は配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む血栓認識ドメインから構成されることを特徴とする。本発明による、「血管内血栓」を認識して「血管内血栓」を溶解させるポリペプチドは、深刻な出血副作用なしに哺乳動物の血液内血栓を溶解させて血栓症に対する予防及び治療効能を持つので、血栓症及び関連疾患の予防又は治療剤として広く利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む血栓溶解ドメイン、及び配列番号3又は配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む血栓認識ドメインから構成されることを特徴とする、「血管内血栓」を認識して「血管内血栓」を溶解させるポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、配列番号1に示されるアミノミ酸配列を含む血栓溶解ドメイン、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む血栓認識ドメインから構成される、請求項1に記載の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む血栓溶解ドメイン、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む血栓認識ドメインから構成されることを特徴とする、請求項1に記載の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド。
【請求項4】
前記血栓溶解ドメインが、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列に対して50%以上の類似性(homology)を有するドメインであることを特徴とする、請求項1に記載の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド。
【請求項5】
前記血栓溶解ドメインが、GNSGGPLペプチド又は類似ペプチドを含むことでセリンプロテアーゼ(serine protease)活性を付与するドメインであることを特徴とする、請求項1に記載の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド。
【請求項6】
前記血栓認識ドメインが、配列番号3又は配列番号4のアミノ酸配列に対して50%以上の類似性を有するドメインであることを特徴とする、請求項1に記載の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド。
【請求項7】
前記血栓認識ドメインが、β-strandとα-helixの複数の組み合わせから構成されるトポロジー(topology)構造を持つことを特徴とする、請求項1に記載の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド。
【請求項8】
前記血栓認識ドメインが、血管内血栓を認識し且つ溶解酵素の活性を調節する機能のPDZドメイン又はPDZ様ドメインであることを特徴とする、請求項1に記載の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド。
【請求項9】
請求項1に記載の配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する血栓溶解ドメインをコードする、配列番号5又は配列番号6に示される塩基配列を有することを特徴とする、血栓溶解ドメイン遺伝子。
【請求項10】
前記血栓溶解ドメイン遺伝子が、配列番号5又は配列番号6の塩基配列に対して50%以上の類似性(homology)を有する遺伝子であることを特徴とする、請求項9に記載の血栓溶解ドメイン遺伝子。
【請求項11】
請求項1に記載の配列番号3又は配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する血栓認識ドメインをコードする、配列番号7又は配列番号8に示される塩基配列を有することを特徴とする、血栓認識ドメイン遺伝子。
【請求項12】
前記血栓認識ドメイン遺伝子が、配列番号7又は配列番号8の塩基配列に対して50%以上の類似性を有する遺伝子である、請求項11に記載の血栓認識ドメイン遺伝子。
【請求項13】
請求項1に記載の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド、又はこれをコードする遺伝子を有効成分として含むことを特徴とする、血栓症及び関連疾患治療又は予防用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「血管内血栓」溶解剤に係り、より詳細には、「血管内血栓」に対する血栓認識ドメイン(thrombo-recognition domain)と血栓溶解ドメイン(thrombolytic domain)から構成され、「血管内血栓」を溶解させる機能のポリペプチド、遺伝子、及びこれを含有する薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管組織に創傷がつくと、血液が血管の外に出るので、出血を塞ぐための血餅(blood clot)が血管の創傷周辺の血管組織に形成される。創傷部位に限定されて出血を塞ぐ組織血栓は、正常な創傷治癒過程であり、ヒトを含む動物の生存に不可欠な過程である。これとは異なり、血液が流れる血管内に異常に凝血塊がある場合を「血管内血栓(Intravascular thrombus)」という。血管内血栓は除去されないと、血液の流れを塞いで血栓症(thrombosis)を引き起こす。血液の流れが詰まると、低酸素症(hypoxia)により組織壊死(necrosis)を引き起こす脳卒中、肺梗塞、心筋梗塞などの致命的な血栓症(thrombosis)疾患を引き起こす。したがって、血栓症が発生すると、即刻的な治療が切実である。
【0003】
血栓症は、非常に深刻な疾患であり、発症頻度も高く、様々な治療剤が開発されてきた。血栓溶解剤(Thrombolytics)は、血栓を溶解させる直接的な治療剤であって、組織プラスミノゲン活性化因子(tissue-type plasminogen activator(tPA))(US4766075、US5185259、US5587159、US5869314、US6274335)、ウロキナーゼ(US4259447、US4851345、US5055295、US6759042)、ストレプトキナーゼ(US3855065、US5011686、US7105327)が代表的である。これらの血栓溶解剤、すなわちtPA(アルテプラーゼ(alteplase)、リテプラーゼ(reteplase))、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼはいずれも、体内プラスミノゲンを切断してプラスミンに活性化させ、活性化されたプラスミンは、血栓を分解して血栓症治療効果を持つ。しかし、活性化されたプラスミンは、損傷した血管の出血を塞ぐための血栓も分解させ、創傷部位から深刻な出血を誘発する。これは、プラスミンが、「血管内血栓」に対する特異性を持たない非特異的血栓溶解剤だからである。プラスミンの重篤な出血副作用のために、プラスミンを生成する血栓溶解剤、すなわちtPA、ウロキナーゼ及びストレプトキナーゼはいずれも、非常に制限的に一部の場合にのみ使用されている。
【0004】
血栓溶解剤の致命的な副作用のため、実際の病院では、血栓症患者に血栓溶解剤の代わりにヘパリン(heparin)、ワルファリン(warfarin)、ダビガトラン(davigatran)などの抗凝固剤(anticoagulant)、又はアスピリンなどの抗血小板剤(Antiplatelets)を使用する。抗凝固剤と抗血小板剤は、既に生成された血栓を分解させるのではなく、血管内で追加の血栓が形成されないようにする。つまり、抗凝固剤と抗血小板剤は、血栓分解能がなくて致命的な出血は少ないが、血栓症の治療には大きな効果がない。また、抗凝固剤と抗血小板剤は、血栓形成を妨げるので創傷治癒を妨げて、出血副作用も深刻である。
【0005】
したがって、血栓症を治療するためには、「血管内血栓」のみを正確に認識して分解し、正常な創傷治癒を妨げずに出血副作用を最小限に抑える、「血管内血栓」に特異性を有する溶解剤の開発が切実に必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、血管組織で正常に起こる血液凝固過程や創傷治癒を妨げることなく、血栓症を引き起こす「血管内血栓」のみを正確に分解させる「血管内血栓」溶解剤が最も理想的な血栓症治療剤であることを認知した後、「血管内血栓」溶解剤の開発のために鋭意努力した。そこで、本発明の目的は、血栓症を引き起こす「血管内血栓」のみを正確に溶解させることにより、全身出血などの深刻な出血副作用が全くない、革新的概念の「血管内血栓」溶解剤を血栓症治療剤として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む血栓溶解ドメイン、及び配列番号3又は配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む血栓認識ドメインから構成されることを特徴とする、「血管内血栓」を認識して「血管内血栓」が溶解するポリペプチドを提供する。
【0008】
また、本発明は、配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する血栓溶解ドメインをコードする、配列番号5又は配列番号6に示される塩基配列を有することを特徴とする、血栓溶解ドメイン遺伝子を提供する。
【0009】
また、本発明は、配列番号3又は配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する血栓認識ドメインをコードする、配列番号7又は配列番号8に示される塩基配列を有することを特徴とする、血栓認識ドメイン遺伝子を提供する。
【0010】
また、本発明は、「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド、又はこれをコードする遺伝子を有効成分として含むことを特徴とする、血栓症及び関連疾患治療又は予防用薬学的組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明による、「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドは、深刻な出血副作用なしに哺乳動物の血液内血栓を溶解させて血栓症に対する予防及び治療効能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実験例1によってex vivo血栓に血栓溶解酵素SK又はHtrA1を処理した後、血栓溶解能を確認した結果である(a;血栓が溶解している画像(HA1)及び溶解していない血栓塊画像(SK)、b;処理前に対する%で表された血栓塊溶解度、c;血栓の分解物であるFDP(fibrin degradation products)、d;血栓の分解物であるD-ダイマー(D-dimer)の量(Ctrl:対照群、SK:ストレプトキナーゼ、HA1:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA1))。
図2】本発明の実験例1において、ex vivo血栓に血栓溶解酵素SK又はHtrA2を処理した後、血栓溶解能を確認した結果である(a;血栓が溶解している画像(HA2)及び溶解していない血栓塊画像(SK)、b;処理前に対する%で表された血栓塊溶解度、c;血栓の分解物であるFDP(fibrin degradation products)、d;血栓の分解物であるD-ダイマー(D-dimer)の量(Ctrl:対照群、SK:ストレプトキナーゼ、HA2:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA2))。
図3】本発明の実験例2において、「血管内血栓」溶解ポリペプチドHtrA1のプラスミノゲン活性能を確認した結果である(a;プラスミノゲンの活性化により生成されたプラスミンが分解した基質の蛍光強度測定値、b;プラスミノゲンの活性化により生成されたプラスミンバンドを確認したSDS-PAGE画像(Ctrl:対照群、PL:プラスミン、SK:ストレプトキナーゼ、UK:ウロキナーゼ、HA1:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA1))。
図4】本発明の実験例2において、「血管内血栓」溶解ポリペプチドHtrA2のプラスミノゲン活性能を確認した結果である(a;プラスミノゲンの活性化により生成されたプラスミンが分解した基質の蛍光強度測定値、b;プラスミノゲンの活性化により生成されたプラスミンバンドを確認したSDS-PAGE画像(Ctrl:対照群、PL:プラスミン、SK:ストレプトキナーゼ、UK:ウロキナーゼ、HA2:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA2))。
図5】本発明の実験例3において、本発明の血管内血栓溶解ポリペプチドが血栓特異性を有するかを評価するために、創傷治癒過程で現れるフィブリノリシス成分(fibrinolysis components)に対する活性の有無を確認した結果である(a;フィブリノゲンに各血栓溶解酵素を処理した後、フィブリノゲンがフィブリンに分解されるか否かをSDS-PAGEで確認した画像、b;細胞性フィブロネクチン(cellular fibronectin)に各血栓溶解酵素を処理した後、フィブロネクチン(fibronectin)の分解の有無をイムノブロット(immuno-blot)で確認した画像、c;血漿フィブロネクチン(plasma fibronectin)に各血栓溶解酵素を処理した後、フィブロネクチン(fibronectin)の分解の有無をイムノブロットで確認した画像(Ctrl:対照群、PL:プラスミン、SK:ストレプトキナーゼ、UK:ウロキナーゼ、HA1:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA1))。
図6】本発明の実施例1において、動物モデルを用いて、尾血栓症マウスにおける、本発明の「血管内血栓」溶解ポリペプチドの血栓症に対する治療効能を確認した血栓症尾の画像結果である(Ctrl:対照群、PL:プラスミン、SK:ストレプトキナーゼ、UK:ウロキナーゼ、tPA:tissue plasminogen activator、HA1:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA1、HA2:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA2)。
図7】本発明の実施例1において、動物モデルを用いて、尾血栓症マウスにおける、本発明の「血管内血栓」溶解ポリペプチドの血栓症に対する治療効能を確認した血栓症尾組織のH&E染色画像結果である(Ctrl:対照群、PL:プラスミン、SK:ストレプトキナーゼ、UK:ウロキナーゼ、tPA:tissue plasminogen activator、HA1:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA1、HA2:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA2)。
図8】本発明の実施例3において、創傷動物モデルを用いて、本発明の「血管内血栓」溶解ポリペプチドの創傷治癒に及ぼす影響を確認した出血イメージ結果である(Ctrl:対照群、PL:プラスミン、SK:ストレプトキナーゼ、UK:ウロキナーゼ、tPA:tissue plasminogen activator、HA1:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA1、HA2:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA2)。
図9】本発明の実施例3において、創傷動物モデルを用いて、本発明の「血管内血栓」溶解ポリペプチドHtrA1の創傷治癒に及ぼす影響を確認した出血試験結果である。a;出血時間測定値、b;出血量測定値、c;出血液のヘモグロビン含有量測定値、d;創傷治癒及び血液凝固までにかかった時間測定値(Ctrl:対照群、PL:プラスミン、SK:ストレプトキナーゼ、UK:ウロキナーゼ、HA1:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA1)。
図10】本発明の実施例3において、創傷動物モデルを用いて、本発明の「血管内血栓」溶解ポリペプチドHtrA2の創傷治癒に及ぼす影響を確認した出血試験結果である。a;出血時間測定値、b;出血量測定値、c;出血液のヘモグロビン含有量測定値、d;創傷治癒及び血液凝固までにかかった時間測定値(Ctrl:対照群、PL:プラスミン、SK:ストレプトキナーゼ、tPA:tissue plasminogen activator、HA2:本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドHtrA2)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
血栓を除去するために幾つかの薬物が開発されてきたが、既存の血栓溶解剤はいずれも、出血副作用が深刻であるため、血栓症及び関連疾患の効果的な治療が困難な実情である。さらに、これらの治療法は、血栓症の予防が不可能である。
【0014】
本発明者等は、「血管内血栓」が一種のタンパク質凝集体(protein aggregate)であることと、凝集タンパク質(aggregated protein)を分解するQuality control proteinが生物の生存に必須であることに着目して、ミスフォールド/凝集タンパク質(misfolded/aggregated protein)を認識するドメイン(domain)及びミスフォールド/凝集タンパク質(misfolded/aggregated protein)を分解して除去するドメイン(domain)を持つ内在性プロテイナーゼ(endogenous proteinase)が体内に存在しており、この内在性プロテイナーゼが血管内血栓を分解することができることを確認しようとした。
【0015】
そこで、本発明では、ミスフォールド/凝集タンパク質(misfolded/aggregated protein)を認識するドメイン、ミスフォールド/凝集タンパク質(misfolded/aggregated protein)を分解して除去するドメイン、これらのドメインを含んでなるQuality control proteinを探索し、その結果、血栓認識ドメイン及び血栓溶解ドメインを含んでいるポリペプチドが「血管内血栓」を特異的に認識し分解して除去することにより、「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドは、深刻な出血副作用なしに血栓症を治療することができることを確認することができた。
【0016】
つまり、本発明では、血管内血栓認識ドメイン及び血栓溶解ドメインを含む、「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドが、(1)血栓溶解能にすぐれ、(2)既存の血栓溶解剤とは異なり、プラスミノゲン(plasminogen)をプラスミン(plasmin)に活性化させないので、プラスミン生成による出血リスクがなく、(3)既存の血栓溶解剤とは異なり、創傷治癒に重要なフィブリノゲン(fibrinogen)、c-フィブロネクチン、p-フィブロネクチンを分解しないので、創傷治癒を妨げず、(4)in vivo動物モデルで血栓症を効果的に治療し、(5)既存の血栓溶解剤とは異なり、in vivo動物モデルにおいて血栓塞栓症の治療後の生存率を100%にし、(6)既存の血栓溶解剤とは異なり、in vivo出血動物実験において血液凝固及び創傷治癒を妨げないため出血副作用がないことを確認することができた。
【0017】
すなわち、本発明の一実施例において、マウス尾血栓症モデルで治療効能を確認した結果、本発明の「血管内血栓」を認識して溶解させるポリペプチドは、既存の血栓溶解剤とは異なり、血栓症に対する完治効果を持つことを確認した。
【0018】
別の本発明の一実施例である、肺血栓塞栓症マウスモデルでは、既存の血栓溶解剤処理群では個体死亡を確認することがあるが、本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド治療群では生存率100%であって、本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドは、致命的な血栓塞栓症を完璧に治療することを確認した。
【0019】
また、マウス尾出血実験で創傷治癒能を確認した結果、本発明の「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド処理群は、創傷部位の出血時間、出血量、ヘモグロビン損失量、血液の凝固時間などが無処理対照群と同様に優れるため、既存の血栓溶解剤とは異なり、出血副作用が全くなく完璧な創傷治癒効果を持つことを確認した。
【0020】
したがって、本発明は、ある観点から、配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む血栓溶解ドメイン、及び配列番号3又は配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む血栓認識ドメインから構成されることを特徴とする、「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドに関する。
【0021】
本発明において、前記ポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む血栓溶解ドメイン、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む血栓認識ドメインから構成されるか、或いは、前記ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む血栓溶解ドメイン、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む血栓認識ドメインから構成され得る。
【0022】
本発明において、前記「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドは、好ましくは、トリプシン様ポリペプチド(trypsin-like polypeptide)であるセリンプロテアーゼ(serine protease)のHigh Temperature Requirement(Htr)ファミリーに属することを特徴とし、さらに好ましくは、HtrA1、HtrA2を含むことを特徴とする。
【0023】
前記血栓溶解ドメインは、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列に対して50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の類似性(homology)を有するドメインであってもよく、前記血栓溶解ドメインは、GNSGGPLペプチド又は類似ペプチドを含むことで、セリンプロテアーゼ(serine protease)活性を付与するドメインであることを特徴とする。
【0024】
また、前記血栓認識ドメインは、配列番号3又は配列番号4のアミノ酸配列に対して50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の類似性を有するドメインであってもよく、前記血栓認識ドメインは、β-strandとα-helixの複数の組み合わせで構成されるトポロジー(topology)構造を持つことを特徴とする。すなわち、前記血栓認識ドメインは、「血管内血栓」を認識し且つ溶解酵素の活性を調節する機能のPDZドメイン又はPDZ様ドメインであり得る。
【0025】
本発明は、他の観点から、前記配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する血栓溶解ドメインをコードする、配列番号5又は配列番号6に示される塩基配列を有することを特徴とする、血栓溶解ドメイン遺伝子に関する。
【0026】
前記血栓溶解ドメイン遺伝子は、配列番号5又は配列番号6の塩基配列に対して50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の類似性(homology)を有することを特徴とする。
【0027】
本発明は、別の観点から、配列番号3又は配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する血栓認識ドメインをコードする、配列番号7又は配列番号8に示される塩基配列を有することを特徴とする、血栓認識ドメイン遺伝子に関する。
【0028】
前記血栓認識ドメイン遺伝子は、配列番号7又は配列番号8の塩基配列に対して50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の類似性(homology)を有することを特徴とする。
【0029】
本発明は、さらに別の観点から、「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチド、又はこれをコードする遺伝子を有効成分として含むことを特徴とする、血栓症及び関連疾患治療又は予防用薬学的組成物に関する。
【0030】
本発明の薬学的組成物は、製剤時に通常用いられる薬学的に許容される担体を含むことができるが、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイルなどを例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0031】
本発明の薬学的組成物は、これらの成分以外に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含んでもよい。適切な薬学的に許容される担体及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.、1995)に詳細に記載されている。
【0032】
本発明の薬学的組成物は、経口又は非経口、好ましくは非経口で投与することができ、非経口投与の場合には、筋肉注入、静脈内注入、皮下注入、腹腔注入、局所投与、経皮投与などで投与することができる。
【0033】
本発明の薬学的組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性などの要因によって様々に処方できる。一方、本発明の薬学的組成物の好ましい投与量は、1日あたり0.0001~1000μgである。
【0034】
本発明の薬学的組成物は、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施し得る方法に従って、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することにより、単位用量形態で製造されるか、或いは多用量容器に内入させて製造されることができる。このとき、剤形は、油又は水性媒質中の溶液、懸濁液又は乳化液の形態であるか、又はエキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態であることができ、分散剤又は安定化剤をさらに含むことができる。
【0035】
本発明による血栓症及び関連疾患治療又は予防用薬学的組成物は、哺乳動物への投与時に「血管内血栓」を溶解させ、出血副作用を最小限に抑えるという効果がある。
【0036】
本発明において、前記血栓症及び関連疾患は、血栓症(Thrombosis)、塞栓症(Embolism)、血栓塞栓症(Thromboembolism)、動脈血栓塞栓症(Arterial Thromboembolism)、静脈血栓塞栓症(Venous Thromboembolism、VTE)、脳血管疾患(cerebrovascular disease)、虚血性疾患(Ischemic disease)などの「血管内血栓」による疾患からなる群から選択されるいずれかであることが好ましいが、これらに限定されない。具体的な例としては、深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis、DVT)、肺塞栓症(Pulmonary Embolism、PE)、虚血性脳卒中(ischemic stroke)、中風、脳出血、脳梗塞、心筋梗塞、心臓麻痺、狭心症(unstable angina)からなる群から選択されるいずれかであることが好ましいが、これらに限定されない。
【実施例
【0037】
以下、具体的な実施例によって本発明をより詳細に説明する。ところが、これらの実施例は、本発明をさらに具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
実験例1:ex vivo血栓溶解能の評価
「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドであるHtrA1とHtrA2は、組換えタンパク質で準備した。このために、血管内血栓ドメインと血栓溶解ドメインの両方を含むHtrA1アミノ酸配列(配列番号9)の157~480に該当するcDNAをフォワードプライマー(5’-AATTCATATGCAAGGGCAGGAAGATCCCA-3’)(配列番号11)とリバースプライマー(5’-TATCTCGAGCTATGGGTCAATTTCTTCGGG-3’)(配列番号12)を用いてPCRによって増幅させた。PCR条件は、initial denaturation 95℃で5分後、増幅(95℃で30秒、63℃で1分、72℃で2分)過程を34回繰り返し行った後、72℃で10分行った。これを発現ベクターであるpET28a+発現ベクター(expression vector)(Novagen社製、USA)のNdeI/XhoI部位にサブクローニングした。得られたHtrA1組換えプラスミドをE.coli BL21(DE3)pLysS(Stratagene社製、USA)にエレクトロポレーション(electroporation)させた後、培養しながらIPTGを添加してHtrA1を発現させた。組換えE.coli培養液を超音波処理して細胞溶解液(cell lysate)を作製し、これをエコノパッククロマトグラフィーカラム(econo-pac chromatography column)(Bio-Rad社製)に通して分離した後、PD-10カラム(Amersham社製、US)で精製することにより、組換えタンパク質HtrA1を得た。HtrA2の場合、HtrA2アミノ酸配列(配列番号10)の134~458に該当するcDNAを、フォワードプライマー(5’-GTCCTCGCCCATATGGCCGTCCCTAGCC-3’)(配列番号13)とリバースプライマー(5’-GGCTCTCGAGTCATTCTGTGACCTCAGGG-3’)(配列番号14)を用いてPCRによって増幅させた。PCR条件は、initial denaturation 95℃で5分後、増幅(95℃で30秒、65℃で45秒、72℃で1分)過程を34回繰り返し行った後、72℃で10分行った。これを得た後、HtrA1などの方法でpET28a+発現ベクター(Novagen社製、USA)にサブクローニングし、しかる後に、発現させることにより、組換えタンパク質HtrA2を得た。
【0039】
準備された組換えタンパク質HtrA1及びHtrA2をex vivo血栓に処理しながら血栓溶解活性を確認した。血小板に富む血液を用いて血栓を形成し、37℃で24時間対照群又は各血栓溶解酵素(2mg/ml)を50mM Tris-HClと一緒に処理した。各酵素処理後の血栓の重量を測定して処理前に対する%で表した。また、血栓を構成するフィブリンポリマー(fibrin polymer)の分解により生成されるFDP(fibrin degradation products)及びD-ダイマーの量を定量した。
【0040】
図1において、既存の血栓溶解酵素と比較すると、HtrA1の血栓溶解能(図1のa、b)とフィブリン分解能(図1のc、d)に最も優れていた。図2において、HtrA2の場合も、既存の血栓溶解酵素よりも優れた血栓溶解能(図2のa、b)とフィブリン分解能(図2のc、d)を示した。
【0041】
実験例2:プラスミ生成能(血栓溶解機序)の評価
現在の血栓溶解剤医薬品の血栓溶解機序は、プラスミノゲン(plasminogen)をプラスミン(plasmin)に活性化させ、プラスミン依存性血栓溶解(plasmin-dependent fibrinolysis)が起こる作用機序である。既存の血栓溶解酵素と比較して作用機序を確認するために、まず、プラスミノゲン(1.23μM)とプラスミン特異的蛍光基質Boc-Glu-Lys-Lys-MCA(100μM)に各血栓溶解酵素(0.1mg/ml)を添加した後、培養した。プラスミンに対するプラスミノゲンの活性化は、プラスミンによって溶解した基質の蛍光強度を測定することにより確認した。実際のプラスミノゲンの活性化により生成されるプラスミンバンドは、各酵素(0.15mg/ml)をプラスミノゲン(5.14μM)で処理した後、SDS-PAGEによって確認した。
【0042】
既存の血栓溶解酵素と比較すると、HtrA1は、プラスミノゲンの活性化効能が全くなく(図3のa)、当然プラスミン生成もなかった(図3のb)。同様に、HtrA2もプラスミノゲンの活性化効能が全くなく(図4a)、その結果、プラスミン生成もなかった(図4b)。
【0043】
実験例3:血栓特異性の評価
HtrA1の血栓特異性を評価するために、創傷治癒過程で現れるフィブリノリシス成分(fibrinolysis components)に対する活性の有無を確認した。このために、フィブリノゲン(fibrinogen)をトロンビン(trombin)と反応させて得られたフィブリンクロット(fibrin clot)を50mM Tris-HCl対照群又は血栓溶解酵素(2mg/ml)と37℃で24時間培養した。フィブリンクロットの溶解は、分光光度計を用いて415nmの波長で測定した。フィブリノゲンに対するHtrA1の活性を確認するために、フィブリノゲン(5μM)を50mM Tris-HCl対照群又は各血栓溶解酵素(0.15mg/ml)と37℃で3時間培養した後、フィブリノゲンの分解の有無をSDS-PAGEによって確認した。フィブロネクチンに対するHtrA1の活性を確認するために、フィブロネクチン(fibronectin)(1.52μM)を各血栓溶解酵素(0.15mg/ml)と共に37℃で3時間培養した後、4~12%SDSゲル上で分離してanti-cFN又はanti-pFN抗体で免疫染色した。
【0044】
表1に示すように、HtrA1及びHtrA2の場合、無処理対照群と比較して統計的に有意なレベルの吸光度差を示しただけでなく、既存の血栓溶解酵素であるストレプトキナーゼに対しても統計的に有意なレベルの吸光度差を示した。フィブリンクロット(fibrin clot)に対する溶解能は、HtrA1が最も優れており、次にHtrA2が優れている。
【0045】
【表1】
a p<0.05 対照群との有意差
b p<0.01 ストレプトキナーゼ群との有意差
【0046】
それにも拘らず、既存の血栓溶解酵素とは異なり、HtrA1は、創傷部位の止血作用に重要なフィブリノゲン(fibrinogen)を分解せず(図5のa)、創傷治癒に重要な細胞性フィブロネクチン(cellular fibronectin)(図5のb)及び血漿フィブロネクチン(plasma fibronectin)(図5のc)も、分解せずに保存することを示した。
【0047】
最後に、創傷治癒過程に対するHtrA1の活性を確認するために、BALB/cマウスの尾部皮膚を外側から切開した創傷(~30mm)を作った。切除された創傷片を対照群50mM Tris-HCl又は各血栓溶解酵素(2mg/ml)と共に37℃で72時間インキュベートした。創傷治癒の有無は、創傷片を入れた液の観察及び550nm吸光度を測定することにより判断した。このように実際の動物を用いた創傷組織実験において、既存の血栓溶解酵素処理時には創傷組織が治癒されないため、出血による吸光度の数値を確認することができるが、HtrA1又はHtrA2処理時には、対照群と類似するレベルで吸光度が低いため、正常な創傷治癒が起こることを確認することができた(表2)。
【0048】
【表2】
a p<0.05 対照群との有意差
b p<0.01 ストレプトキナーゼ群との有意差
【0049】
実施例1:血栓症の治療効果
本発明の成果物による血栓症治療効能を評価するために、尾血栓症モデルを用いた動物実験を行った。κ-カラギーナン(κ-carrageenan)誘導尾血栓症モデルは、15週齢の雌BALB/cマウスで確立された。尾血栓症を有するマウスの各群(n=8)に生理食塩水(対照群)又は各血栓溶解酵素を腹腔内に注射し、24時間後に血栓症部位の長さ及び割合を測定し、その結果を表3及び表4に示した。
【0050】
【表3】
a p<0.001 HtrA1 (40mg/kg) 群との有意差
b p< 0.01 HtrA1 (40mg/kg) 群との有意差
【0051】
表3に示すように、マウス尾血栓症モデルにおける既存の血栓溶解酵素と比較すると、HtrA1処理群の場合は、尾部における血栓症部位の長さ及び頻度が著しく減少することを確認することができ、このような血栓溶解効果が用量に比例して増加することを確認した。すなわち、HtrA1の場合は、既存の血栓溶解酵素と比較しても、統計的に有意なレベルの血栓症治療効果を持つことを確認した。
【0052】
【表4】
a p<0.001 HtrA2 (40mg/kg) 群との有意差
b p< 0.01 HtrA2 (40mg/kg) 群との有意差
【0053】
また、表4に示すように、マウス尾血栓症モデルにおける既存の血栓溶解酵素と比較すると、HtrA2処理群の場合も、尾部における血栓症部位の長さ及び頻度が著しく減少することを確認することができ、このような血栓溶解効果が用量に比例して増加することを確認した。HtrA2の場合も、未処理群だけでなく、既存の血栓溶解酵素と比較しても、統計的に有意なレベルの血栓症治療効果を持つことを確認した。
【0054】
図7では、血栓症尾組織をH&E染色して観察し、上記の血栓症尾の結果と同様に直接血栓塊及び血栓溶解程度を確認したところ、HtrA1とHtrA2治療群の場合は血栓塊を全く見つけることができなかった。既存の血栓溶解酵素と比較しても優れた血栓症治療を示した。
【0055】
実施例2:肺血栓塞栓症の治療効果
次に、血栓塞栓症の予防及び治療効能を評価するために、肺血栓塞栓症モデルを用いた動物実験を行った。アデノシン5’-ジホスフェート(ADP、Adenosine 5’-diphosphate)によって誘導された肺血栓塞栓症モデルは、15週齢の雌C57BL/6マウスで確立された。肺血栓塞栓症マウスの各群(n=8)を12時間以上絶食させた後、生理食塩水(対照群)又は血栓溶解酵素を40mg/kgの用量で静脈内注射した。30分後、マウスにADP(150mg/kg)を注射して肺血栓塞栓症を誘導した後、死亡したか否かを確認し、その結果を表5及び表6に示した。
【0056】
【表5】
【0057】
表5から、肺血栓塞栓症マウスモデルにおいてプラスミン、ストレプトキナーゼ及びウロキナーゼ処理群の場合、生存率がそれぞれ50%、33%、66%であったが、HtrA1処理群の生存率は100%であった。このことから、本発明のHtrA1が致命的な肺血栓塞栓症に対する完璧な治療及び予防効果を持つことが分かった。
【0058】
【表6】
【0059】
表6から、肺血栓塞栓症マウスモデルにおいてプラスミン、ストレプトキナーゼ及びtPA処理群の場合、生存率がそれぞれ60%、20%、40%であったが、HtrA2処理群の生存率は100%であった。このことから、本発明のHtrA2も肺血栓塞栓症に対する完璧な治療及び予防効果を持つことが分かった。
【0060】
実施例3:体内出血リスク除去効果
血栓溶解タンパク質HtrA1の投与時に、創傷治癒過程で体内出血の危険性を確認するために、15週齢のC57BL/6雌マウスを用いて尾出血検査を行った。生理食塩水(対照群)又は各血栓溶解酵素を40mg/kgの用量でマウス群(n=5)に静脈注射した。30分間後、麻酔したマウスから尾を切断し、出血が止まるまで血液を集めながら出血時間及び出血量を記録した。集められた血液に対しては、ヘモグロビン含有量を測定した。また、マウスの切断された尾静脈での血液凝固に必要な時間を記録した。
【0061】
図8に示すように、マウス尾出血実験において他の血栓溶解酵素と比較すると、HtrA1とHtrA2の出血が著しく少ないことを確認した。HtrA1処理群の場合、実際に出血時間(図9のa)、出血量(図9のb)、ヘモグロビン損失量(図9のc)、止血までにかかった時間(図9のd)を測定した結果、既存の血栓溶解酵素とは比較できないほど出血副作用が減少して、対照群と類似したレベルであることを確認した。
【0062】
HtrA2処理群の場合も、出血時間(図10のa)、出血量(図10のb)、ヘモグロビン損失量(図10のc)、止血までにかかった時間(図10のd)を測定した結果、既存の血栓溶解酵素とは比較できないほど出血副作用が減少して、対照群と類似したレベルであることを確認した。HtrA1とHtrA2は、創傷治癒過程の一部である止血過程を妨げないため、出血リスクを完璧に減少させるので、出血副作用を画期的に減少させた血栓症治療剤として使用できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明による、「血管内血栓」を認識して血栓を溶解させるポリペプチドは、深刻な出血副作用なしに、哺乳動物の血液内血栓を溶解させて血栓症に対する予防及び治療効能を持つので、血栓症及び関連疾患の予防又は治療剤として広く利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2022551936000001.app
【国際調査報告】