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特表2022-552000抗コハク酸モノクローナル抗体およびヒト化抗コハク酸抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-14
(54)【発明の名称】抗コハク酸モノクローナル抗体およびヒト化抗コハク酸抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20221207BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221207BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20221207BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61P11/00
A61P13/08
A61P15/00
A61P35/00
A61P1/00
A61K31/713
A61K48/00
A61K45/00
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522953
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(85)【翻訳文提出日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 US2020056052
(87)【国際公開番号】W WO2021076942
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】62/916,376
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512175133
【氏名又は名称】ナショナル ヘルス リサーチ インスティテューツ
【氏名又は名称原語表記】National Health Research Institutes
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クオ チェン‐チン
(72)【発明者】
【氏名】ウー ジン‐イン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC411
4C084ZC412
4C085AA14
4C085DD63
4C085EE01
4C085GG06
4C085KA04
4C085KB91
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA56
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA81
4C086ZB26
4H045AA11
4H045DA76
4H045EA51
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】抗コハク酸モノクローナル抗体およびヒト化抗コハク酸抗体を提供する。
【解決手段】本発明は、癌細胞がコハク酸を細胞外環境に分泌し、これがマクロファージ遊走を増加させ、TAM分極を媒介することを開示する。コハク酸はマウスモデルにおいて癌細胞EMTを誘導し、癌細胞移動を増強し、癌転移を促進する。本発明において、血清コハク酸濃度は、健康な被験体と比較した場合、肺癌患者で上昇することが示される。これは、癌の発生と進行の間に、癌細胞が大量のコハク酸を循環血液中に放出することを意味する。本発明に示すように、血清コハク酸は高い識別力を有し、NSCLCを予測するための潜在的価値を有する循環オンコメタボライトの新しいクラスを表す。さらに、LLC腫瘍モデルにおけるコハク酸レベルの上昇は、皮下腫瘍におけるTAMの増加と癌転移の増強を伴うため、血清コハク酸はNSCLC治療の有用な治療バイオマーカーとなり得る。
【選択図】図26A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:2または6のアミノ酸配列を有する重鎖と、SEQ ID NO:4または8のアミノ酸配列を有する軽鎖と、を含む、抗コハク酸モノクローナル抗体。
【請求項2】
SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖と、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含む軽鎖と、を有する、請求項1に記載の抗コハク酸モノクローナル抗体。
【請求項3】
SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含む重鎖と、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を含む軽鎖と、を有する、請求項1に記載の抗コハク酸モノクローナル抗体。
【請求項4】
血清コハク酸を中和する、請求項1に記載の抗コハク酸モノクローナル抗体。
【請求項5】
癌転移およびマクロファージの腫瘍関連マクロファージへの形質転換を阻害する、請求項1に記載の抗コハク酸モノクローナル抗体。
【請求項6】
SUCNR1シグナル伝達経路を阻害する、請求項1に記載の抗コハク酸モノクローナル抗体。
【請求項7】
ARG1の発現を抑制する、請求項1に記載の抗コハク酸モノクローナル抗体。
【請求項8】
SEQ ID NO:9~13のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインVH1~VH5と、SEQ ID NO:14~21のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインVL1~VL8と、を含む、ヒト化抗コハク酸抗体。
【請求項9】
血清コハク酸を中和する、請求項8に記載のヒト化抗コハク酸抗体。
【請求項10】
癌転移およびマクロファージの腫瘍関連マクロファージへの形質転換を阻害する、請求項8に記載のヒト化抗コハク酸抗体。
【請求項11】
SUCNR1シグナル伝達経路を阻害する、請求項8に記載のヒト化抗コハク酸抗体。
【請求項12】
ARG1の発現を抑制する、請求項8に記載のヒト化抗コハク酸抗体。
【請求項13】
必要とする対象にコハク酸アンタゴニストを投与することを含む、癌を治療する方法。
【請求項14】
コハク酸アンタゴニストが抗コハク酸モノクローナル抗体である、請求項13に記載の癌を治療する方法。
【請求項15】
コハク酸アンタゴニストがSUCNR1阻害剤である、請求項13に記載の癌を治療する方法。
【請求項16】
前記SUCNR1阻害剤がSUCNR1 siRNAである、請求項15に記載の癌を治療する方法。
【請求項17】
癌が非小肺癌、肺癌、前立腺癌、乳癌または結腸癌である、請求項13に記載の癌を治療する方法。
【請求項18】
対象における血清コハク酸レベルを検出することを含む、癌を診断する方法。
【請求項19】
癌が非小肺癌、肺癌、前立腺癌、乳癌または結腸癌である、請求項13に記載の癌を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本特許出願は、2019年10月17日に出願された仮特許出願第62/916,376号の利益を主張するものである。米国特許出願第62/916,376号の内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
本発明は、癌を診断または治療するための新規バイオマーカーとしてコハク酸を使用することに関する。特に、本発明は、抗コハク酸モノクローナル抗体またはSUCNR1阻害剤などのコハク酸アンタゴニストを用いて癌を治療する方法、および血清コハク酸レベルを検出することによって癌を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
免疫系は正常細胞と悪性細胞を識別するように進化してきた。活性化された免疫系は、損傷を受けた細胞および悪性細胞を排除して宿主を保護するための免疫応答を開始する。免疫監視の古典的概念によれば、免疫系は、健康における腫瘍のイニシエーションおよび発生を防止すべきである。実際、癌免疫サーベイランスの存在が、原発癌の発生に対して宿主を保護するだけでなく、腫瘍の免疫原性を形成することを示唆する証拠が増えている(de Visserら 2006、Dunnら 2004)。しかしながら、腫瘍のイニシエーションおよび形成に際して、腫瘍細胞は免疫系のホメオスタシスを損なうために寛容性シグナル伝達経路を活性化することができ、腫瘍免疫寛容を導き、古典的な免疫攻撃から逃れる。さらに、免疫細胞、内皮細胞、線維芽細胞が腫瘍微小環境に動員され、活性化されて腫瘍関連細胞となり、癌の増殖や転移の一因となる。
【0004】
腫瘍微小環境内で、癌細胞は可溶性分子を放出して、増殖、生存、および転移に有益なために発癌シグナル伝達を開始するだけでなく、腫瘍発生を増強するために免疫細胞を含む周囲の細胞に影響を及ぼす。しかし、宿主細胞は腫瘍細胞を異物として認識し、免疫学的監視の対象となる。したがって、腫瘍と免疫系との動的な相互作用は、腫瘍のイニシエーションとプログレッションの調節において極めて重要である。腫瘍微小環境における細胞の主要な集団であるマクロファージは、免疫恒常性および防御において必須の役割を果たしている。さらに、これらは微小環境中のシグナルによって活性化され、極性化されて機能的に異なる表現型、すなわち古典的に活性化された(M1)マクロファージと、選択的に活性化された(M2)マクロファージになる。多くの証拠が、腫瘍微小環境内のマクロファージが腫瘍由来サイトカインによってM2極性腫瘍関連マクロファージ(TAM)に活性化され、腫瘍進行を促進し、抗腫瘍免疫応答を抑制することを示唆している。癌細胞は、それらを取り巻く様々な非癌性細胞の機能的表現型を制御するシグナルを生成し、腫瘍の発生を助ける。腫瘍細胞がその微小環境に細胞を動員し、周囲の細胞の表現型を変化させる機構を理解することは、より効果的な治療戦略を提供するかもしれない。
【0005】
細胞代謝産物プロファイルは、例えば健康または癌性などの生理学的または病理学的状態の重要な指標とみなされている。さらに、内因性代謝産物は、免疫ホメオスタシスおよび腫瘍発生などの細胞生物学的プロセスの調節に関与している。言い換えると、特定の代謝産物は正常な生理学的過程を維持するために必要である。逆に、ストレス下で有害な反応を誘発する代謝産物もある。例えば、腫瘍細胞から放出されるトリプトファン代謝産物キヌレニンは、癌細胞の進行を促進する。しかし、宿主細胞は防御代謝産物を放出して腫瘍の進行を抑制することができる。例えば、線維芽細胞は、新規トリプトファン代謝産物である5-メトキシトリプトファンを産生し、細胞外環境に放出して、パラクリン様式、in vitroおよびin vivoでCOX-2の過剰発現および腫瘍形成を抑制する。特に、癌関連線維芽細胞ではこの代謝産物の産生が抑制されることから、腫瘍細胞は宿主細胞の表現型に影響を及ぼすことにより抗腫瘍反応を打ち消す可能性が示唆される。癌細胞が内在性因子を産生・放出し、抗腫瘍免疫応答を抑制することで腫瘍の進行を促進する可能性が非常に高い。
【0006】
したがって、本発明は、新しい癌バイオマーカーとして血清コハク酸のレベルを検出することによって癌を診断する方法を提供する。また、本発明は、抗コハク酸モノクローナル抗体またはSUCNR1阻害剤などのコハク酸アンタゴニストを用いて癌を治療する方法をさらに提供する。
【0007】
なお、以下明細中、「コハク酸」には「コハク酸塩」を含む場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の目的に基づき、本発明は、分泌された腫瘍由来コハク酸受容体(SUCNR1)シグナル伝達を活性化して、マクロファージを腫瘍関連マクロファージ(TAM)に極性化し、腫瘍転移を促進し、癌患者において血清コハク酸のレベルが上昇する原因となることを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、SEQ ID NO:2または6のアミノ酸配列を有する重鎖と、SEQ ID NO:4または8のアミノ酸配列を有する軽鎖と、を含む、抗コハク酸モノクローナル抗体を提供する。
【0010】
いくつかの実施形態では、抗コハク酸モノクローナル抗体は、ヒト化抗コハク酸抗体である。好ましい実施形態において、ヒト化抗コハク酸抗体は、それぞれSEQ ID NO:9~13のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインVH1~VH5と、それぞれSEQ ID NO:14~21のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインVL1~VL8と、を含む。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は、血清コハク酸を中和することができる。
【0012】
他の実施形態では、モノクローナル抗体は、癌転移およびマクロファージの腫瘍関連マクロファージへの形質転換を阻害することができる。
【0013】
別の実施形態において、モノクローナル抗体は、SUCNR1シグナル伝達経路を阻害し得、ARG1の発現を抑制する。
【0014】
いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む重鎖と、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含む軽鎖と、を有する。
【0015】
他の実施形態において、モノクローナル抗体は、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含む重鎖と、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を含む軽鎖と、を有する。
【0016】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗コハク酸抗体は、それぞれSEQ ID NO:9、10、11、12、および13のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインVH1~VH5と、それぞれSEQ ID NO:14、15、16、17、18、19、20、および21のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインVL1~VL8と、を含む。
【0017】
他の実施形態では、ヒト化抗コハク酸抗体は、それぞれSEQ ID NO:22、23、24、25、および26のDNA配列によってコードされるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインVH1~VH5と、それぞれSEQ ID NO:27、28、29、30、31、32、33、および34のDNA配列によってコードされるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインVL1~VL8と、を含む。
【0018】
本発明の他の態様において、本発明は、コハク酸アンタゴニストを必要とする対象に投与することを含む、癌を治療する方法に関する。
【0019】
いくつかの実施形態において、癌は、非小肺癌、肺癌、前立腺癌、乳癌または結腸癌である。
【0020】
いくつかの実施形態において、コハク酸アンタゴニストは、抗コハク酸モノクローナル抗体である。
【0021】
他の実施形態では、コハク酸アンタゴニストは、SUCNR1阻害剤である。いくつかの実施形態では、SUCNR1阻害剤はSUCNR1 siRNAである。
【0022】
本発明の別の態様において、本発明は、対象における血清コハク酸レベルを検出することを含む、癌を診断する方法に関する。
【0023】
いくつかの実施形態において、癌は、非小肺癌、肺癌、前立腺癌、乳癌または結腸癌である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】対照培地、LCC-CM、またはA549-CM中でインキュベートした腹膜マクロファージのARG1タンパク質発現を示す図である。マクロファージにおけるTAMマーカー発現を誘導する癌調整培地中に可溶性因子が存在することを示している。
図1B】対照培地、LCC-CM、またはA549-CM中でインキュベートした腹膜マクロファージのArg1 mRNA発現を示す図である。マクロファージにおけるTAMマーカー発現を誘導する癌調整培地中に可溶性因子が存在することを示している。
図1C】対照培地またはPC3-CMで処理したマクロファージにおけるARG1発現レベルを示す図である。マクロファージにおけるTAMマーカー発現を誘導する癌調整培地中に可溶性因子が存在することを示している。
図1D】対照培地またはMCF-7(MCF7-CM)またはHT-29(HT29-CM)から収集した条件培地中で、24時間インキュベートしたマクロファージのArg1 mRNA発現を示す図である。マクロファージにおけるTAMマーカー発現を誘導する癌調整培地中に可溶性因子が存在することを示している。
図1E】SCMまたはPCMで24時間培養した腹膜マクロファージにおけるArg1、Fizz1およびMgl1 mRNA発現を示す図である。マクロファージにおけるTAMマーカー発現を誘導する癌調整培地中に可溶性因子が存在することを示している。
図1F】対照培地、LLC-CM、LLC-SCM、またはLLC-PCMで3日間培養されたマクロファージにおけるVCAM1+CD11c+CD11blow-マクロファージ集団を示す図である。マクロファージにおけるTAMマーカー発現を誘導する癌調整培地中に可溶性因子が存在することを示している。
図2A】対照培地およびLLC-SCMのLC-MSスペクトルに基づくPCAのスコアプロットを示す図である。肺癌ならし培地の小分子画分からのコハク酸の同定を示している。図中「Control medium」は「対照培地」を意味する。
図2B】OPLS-DAから生成されたSプロットを示す図である。肺癌ならし培地の小分子画分からのコハク酸の同定を示している。図中「Control medium」は「対照培地」を意味する。
図2C】LLC-CM、A549-SCM、対照培地DMEMまたは純粋コハク酸の代表的な質量スペクトル(保持時間1.8分、m/z50-400)を示す図である。肺癌ならし培地の小分子画分からのコハク酸の同定を示している。図中「Abundance」は「存在量」を、「Control medium」は「対照培地」を、「Pure succinate」は「純粋コハク酸」を意味する。
図2D】LLC-CM、A549-SCM、対照培地DMEMまたは純粋コハク酸の代表的な質量スペクトル(保持時間1.8分、m/z50-400)を示す図である。肺癌ならし培地の小分子画分からのコハク酸の同定を示している。図中「Abundance」は「存在量」を、「Control medium」は「対照培地」を意味する。
図2E】LC-MSMS(MS2)による、LLC-SCM MS1スペクトルのm/z117.0の娘プロファイル対、純粋コハク酸の娘プロファイルの分析を示す図である。肺癌ならし培地の小分子画分からのコハク酸の同定を示している。図中「Abundance」は「存在量」を、「Pure succinate」は「純粋コハク酸」を意味する。
図3A】対照培地、LLC-CM、A549-CM、PC3-CM、MCF-7-CM、HT-29-CMまたは腹膜マクロファージ-CM中のコハク酸濃度を示す図である。異なる癌細胞調整培地および原発性皮下腫瘍におけるコハク酸の濃度を示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図3B】LLC細胞を皮下注射したC57BL/6Jマウスから切除した原発性皮下腫瘍におけるコハク酸濃度を示す図である。異なる癌細胞調整培地および原発性皮下腫瘍におけるコハク酸の濃度を示している。図中、「Succinate」は「コハク酸」を、「Syngeneic primary tumor」は「同系原発腫瘍」を意味する。
図4A】異なる濃度のコハク酸で24時間処理したマクロファージにおけるARG1発現を示す図である。コハク酸がマクロファージのTAMへの分極を促進することを示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図4B】コハク酸(1mM)で24時間培養したマクロファージにおけるArg1、Fizz1、Mgl1、およびMgl2のmRNA発現を示す図である。コハク酸がマクロファージのTAMへの分極を促進することを示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図4C】3日間コハク酸(1mM)で促進されたマクロファージにおけるVCAM1+CD11c+CD11blow-TAM集団を示す図である。コハク酸がマクロファージのTAMへの分極を促進することを示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図4D】続いてコハク酸(20および100mg/kg)の腹腔内注射を受けたLLC注射マウスから得られた一次皮下腫瘍におけるTAM集団の割合を示す図である。コハク酸がマクロファージのTAMへの分極を促進することを示している。図中「Saline」は「生理食塩水」を、「Succinate」は「コハク酸」を、「mean」は「平均」を、「SEM」は「標準誤差」を意味する。
図5A】無腫瘍肺組織および肺癌組織におけるSUCNR1 mRNA発現量を示す図である。非小細胞肺癌(NSCLC)における血清コハク酸と腫瘍SUCNR1の臨床的意義を示している。図中「mean」は「平均」を、「SEM」は「標準誤差」を、「Tumor-free」は「無腫瘍」を、「Tumor」は「腫瘍」を意味する。
図5B】LLC接種の前および16日後のマウスにおける血清コハク酸濃度を示す図である。NSCLCにおける血清コハク酸と腫瘍SUCNR1の臨床的意義を示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を、「Tumor-free」は「無腫瘍」を、「Tumor」は「腫瘍」を意味する。
図5C】健常被験者およびNSCLC患者における血清コハク酸濃度を示す図である。NSCLCにおける血清コハク酸と腫瘍SUCNR1の臨床的意義を示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を、「mean」は「平均」を、「SEM」は「標準誤差」を、「Healthy donor」は「健康なドナー」を、「Cancer patient」は「癌患者」を意味する。
図5D】AUROC曲線によるNSCLC患者における血清コハク酸の識別力の分析を示す図である。NSCLCにおける血清コハク酸と腫瘍SUCNR1の臨床的意義を示している。図中「Lung cancer」は「肺癌」を、「ROC curve」は「ROC曲線」を、「Sensitivity」は「感度」を、「Specificity」は「特異性」を、「Lung cancer patients」は「肺癌患者」を、「confidence interval」は「信頼区間」を、「P value」は「P値」を、「Cutoff」は「カットオフ」を、「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図6A】抗コハク酸抗体の特異性を示す図である。抗コハク酸抗体がコハク酸を中和する能力およびその特異性を示している。図中「Dilution」は「希釈度」を、「Protein A Purified Anti-succinate acid Antibody」は「プロテインA精製抗コハク酸抗体」を、「Titer」は「力価」を、「Starting dilution」は「開始希釈」を、「The titer is the highest dilution with S/B (Signal/Blank)」は「力価はシグナル/ブランクによる最高希釈度である。」を意味する。
図6B】異なる濃度の抗コハク酸抗体と共にインキュベートしたLLC-CMまたはA549-CMにおけるコハク酸レベルを示す図である。抗コハク酸抗体がコハク酸を中和する能力およびその特異性を示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図6C】対照IgGまたは抗コハク酸抗体(Succ Ab)で24時間処理したLLC細胞の遊走アッセイ結果を示す図である。抗コハク酸抗体がコハク酸を中和する能力およびその特異性を示している。図中「Migration」は「遊走」を意味する。
図7A】対照IgGまたは抗コハク酸抗体と共に24時間インキュベートしたLLC-CM処理PMφにおけるARG1発現レベルを示す図である。モノクローナル抗体が担癌マウスにおいてTAMの極性化および癌転移を有意に抑制し、生存率を改善することを示している。
図7B】コハク酸(1mM)で3日間刺激された抗コハク酸抗体または対照IgG前処理PMφのVCAM1+CD11c+CD11blow-TAM集団を示す図である。モノクローナル抗体が担癌マウスにおいてTAMの極性化および癌転移を有意に抑制し、生存率を改善することを示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図7C】対照IgG、抗コハク酸抗体を含むまたは含まないコハク酸(1mM)で24時間処理したマクロファージの遊走アッセイ結果を示す図である。モノクローナル抗体が担癌マウスにおいてTAMの極性化および癌転移を有意に抑制し、生存率を改善することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図7D】6G10F6モノクローナル抗体(1および5mg/kg)またはIgG対照抗体(5mg/kg)で処置したLLC腫瘍保有C57BL/6JマウスのTAM分極レベルを示す図である。モノクローナル抗体が担癌マウスにおいてTAMの極性化および癌転移を有意に抑制し、生存率を改善することを示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図7E】6G10F6モノクローナル抗体(1および5mg/kg)またはIgG対照抗体(5mg/kg)で処置したLLC腫瘍保有C57BL/6Jマウスの小結節数を示す図である。モノクローナル抗体が担癌マウスにおいてTAMの極性化および癌転移を有意に抑制し、生存率を改善することを示している。図中「Nodules number」は「小結節数」を、「Saline」は「生理食塩水」を、「anti-succinate」は「抗コハク酸」を意味する。
図7F】6G10F6モノクローナル抗体(1および5mg/kg)またはIgG対照抗体(5mg/kg)で処置したLLC腫瘍保有C57BL/6Jマウスの生存時間を示す図である。モノクローナル抗体が担癌マウスにおいてTAMの極性化および癌転移を有意に抑制し、生存率を改善することを示している。図中「Saline」は「生理食塩水」を意味する。
図8】抗体6G10F6のDNAおよびアミノ酸配列を示す図である。図中「Antibody sequences of 6G10F6 were listed as below」は「6G10F6の抗体配列は以下の通りである」を、「Heavy chain」は「重鎖」を、「Leader sequence」は「リーダー配列」を、「DNA sequence」は「DNA配列」を、「Amino acid sequence」は「アミノ酸配列」を、「Light chain」は「軽鎖」を意味する。
図9】抗体6G10G5のDNAおよびアミノ酸配列を示す図である。図中「Antibody sequences of 6G10G5 were listed as below」は「6G10G5の抗体配列は以下の通りである」を、「Heavy chain」は「重鎖」を、「Leader sequence」は「リーダー配列」を、「DNA sequence」は「DNA配列」を、「Amino acid sequence」は「アミノ酸配列」を、「Light chain」は「軽鎖」を意味する。
図10】6G10F6モノクローナル抗体をヒト化するクローニング戦略を示す図である。図中「Cloning strategy」は「クローニング戦略」を、「Heavy chain」は「重鎖」を、「EcoRI--Kozak sequence--Artificial signal peptide--Heavy chain variable region―human IgG4 constant region―stop codon--HindIII」は「EcoRI--コザック配列--人工シグナルペプチド--重鎖可変領域―ヒトIgG4定常領域―終止コドン--HindIII」を、「Heavy chain sequence」は「重鎖配列」を、「Gene sequence」は「遺伝子配列」を、「Light chain」は「軽鎖」を、「EcoRI--Kozak sequence--Artificial signal peptide--Light chain variable region―human Ig lambda constant region―stop codon--HindIII」は「EcoRI--コザック配列--人工シグナルペプチド--軽鎖可変領域―ヒトIgラムダ定常領域―終止コドン--HindIII」を、「Light chain sequence」は「軽鎖配列」を意味する。
図11】マウスモノクローナル抗体Fvフラグメントの相同性モデリングを示す図である。図中「Amino acid sequence alignment between mouse mono and 2BJM template is shown below, where '|' is the chain break and * indicates identical amino acid residues in both sequences」は「マウスモノ鋳型と2BJM鋳型との間のアミノ酸配列アライメントを以下に示す。'|'は鎖切断、*は両配列の同一アミノ酸残基を示す」を意味する。
図12A】レーンM1がタンパク質マーカーであるTaKaRa、Cat.No.3452、レーン1が還元条件、レーン2が非還元条件である、6G10F6キメラ抗体のSDS-PAGE分析、および、レーンM2がタンパク質マーカーであるGenScript、Cat.No.M00521、レーンPが正の制御としてヒトIgG1 Kappa(Sigma、Cat.No.I5154)、レーン1が還元条件であり、レーン2が非還元条件である、6G10F6キメラ抗体のウェスタンブロット分析を示す図である。6G10F6キメラ抗体の結合確認を示している。
図12B】キメラ抗体の親和性測定を示す図である。6G10F6キメラ抗体の結合確認を示している。図中「Affinity measurement of chimeric antibody」は「キメラ抗体の親和性測定」を、「Ligand」は「リガンド」を、「Analyte」は「分析物」を、「Chimeric IgG」は「キメラIgG」を、「BSA-succinic acid」は「BSAコハク酸」意味する。
図12C】キメラ抗体の親和性測定を示す図である。6G10F6キメラ抗体の結合確認を示している。
図13】Biacore(登録商標)を用いたヒト化抗体のアフィニティーランキングを示す図である。図中「kinetic data of selected humanized antibodies to Ag using Biacore 8K」は「Biacore(登録商標) 8Kを使用したAgに対する選択されたヒト化抗体の動態データ」を、「Analyte」は「分析物」を意味する。
図14A】非還元条件および還元条件下での選択された抗体の結果を示す図である。選択された復帰突然変異抗体の産生を示している。
図14B】精製IgGの純度および収率を示す図である。選択された復帰突然変異抗体の産生を示している。
図15A】Biacore(登録商標)を使用することによる1:1相互作用モデルの結果を示す図である。キメラおよび3つのヒト化抗体の親和性測定を示している。図中「1:1 binding」は「1対1結合」を意味する。
図15B】親キメラ抗体に対する抗原結合親和性を示す図である。キメラおよび3つのヒト化抗体の親和性測定を示している。図中「Affinity measurement of chimeric and humanized antibodies」は「キメラ抗体とヒト化抗体の親和性測定」を、「Ligand」は「リガンド」を、「Analyte」は「分析物」を、「BSA-succinic acid」は「BSAコハク酸」を意味する。
図16A】抗原に対する4つの精製抗体の熱安定性評価結果を示す図である。すべての抗体は-80℃、4℃、25℃、および40℃で1ヶ月から2ヶ月まで処理される。図中「Chimeric IgG」は「キメラIgG」を、「Antibody concentration」は「抗体濃度」を意味する。
図16B】抗原に対する4つの精製抗体の熱安定性評価結果を示す図である。すべての抗体は-80℃、4℃、25℃、および40℃で1ヶ月から2ヶ月まで処理される。図中「Antibody concentration」は「抗体濃度」を意味する。
図16C】抗原に対する4つの精製抗体の熱安定性評価結果を示す図である。すべての抗体は-80℃、4℃、25℃、および40℃で1ヶ月から2ヶ月まで処理される。図中「Antibody concentration」は「抗体濃度」を意味する。
図16D】抗原に対する4つの精製抗体の熱安定性評価結果を示す図である。すべての抗体は-80℃、4℃、25℃、および40℃で1ヶ月から2ヶ月まで処理される。図中「Antibody concentration」は「抗体濃度」を意味する。
図16E】抗原に対する9つの粗IgGサンプルの熱安定性評価結果を示す図である。すべての抗体は-80℃、4℃、25℃、および40℃で1ヶ月から2ヶ月まで処理される。図中「Sup」は「Supernatant」の略で「上清」を、「Dilution」は「希釈度」を意味する。
図16F】抗原に対する9つの粗IgGサンプルの熱安定性評価結果を示す図である。すべての抗体は-80℃、4℃、25℃、および40℃で1ヶ月から2ヶ月まで処理される。図中「Sup」は「Supernatant」の略で「上清」を、「Dilution」は「希釈度」を意味する。
図16G】抗原に対する9つの粗IgGサンプルの熱安定性評価結果を示す図である。すべての抗体は-80℃、4℃、25℃、および40℃で1ヶ月から2ヶ月まで処理される。図中「Sup」は「Supernatant」の略で「上清」を、「Dilution」は「希釈度」を意味する。
図17A】対照IgGおよび抗SUCNR1抗体で1時間処理したコハク酸誘導マクロファージにおけるVCAM1+CD11c+CD11blow-TAMの倍数変化を示す図である。SUCNR1がコハク酸誘導マクロファージ分極に必要であることを示している。
図17B】スクランブル対照siRNA、マウスSUCNR1 siRNA-278、-559、または-758で48時間トランスフェクトしたマクロファージにおけるSucnr1 mRNA発現を示す図である。SUCNR1がコハク酸誘導マクロファージ分極に必要であることを示している。
図17C】スクランブル対照siRNA、マウスSUCNR1 siRNA-278、-559、または-758で48時間トランスフェクトしたマクロファージにおけるSUCNR1タンパク質レベルを示す図である。SUCNR1がコハク酸誘導マクロファージ分極に必要であることを示している。
図17D】マクロファージにおけるArg1、Fizz1、Mgl1、およびMgl2 mRNA発現を示す図である。マクロファージは対照siRNA、マウスSUCNR1 siRNA-278、-559、または-758を16時間スクランブルした。SUCNR1がコハク酸誘導マクロファージ分極に必要であることを示している。
図17E】種々のsiRNAで処理したコハク酸誘導マクロファージにおけるVCAM1+CD11c+CD11blow-TAM集団を示す図である。SUCNR1がコハク酸誘導マクロファージ分極に必要であることを示している。図中「succinate」は「コハク酸」を意味する。
図18A】対照培地(DMEM)またはA549由来のCM(A549-CM)で培養したマクロファージの遊走アッセイ結果を示す図である。腫瘍由来のコハク酸がSUCNR1を活性化し、腹腔マクロファージの遊走を促進することを示している。図中「Migration」は「遊走」を意味する。
図18B】対照IgGまたは抗SUCNR1抗体の存在下または非存在下で、対照培地(DMEM)またはA549-CMで培養したマクロファージの遊走アッセイ結果を示す図である。腫瘍由来のコハク酸がSUCNR1を活性化し、腹腔マクロファージの遊走を促進することを示している。図中「Migration」は「遊走」を意味する。
図18C】異なる濃度のコハク酸で処理したマクロファージの遊走アッセイ結果を示す図である。腫瘍由来のコハク酸がSUCNR1を活性化し、腹腔マクロファージの遊走を促進することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図18D】対照IgGまたは抗SUCNR1抗体の有無にかかわらず、コハク酸(1mM)で処理したマクロファージの遊走アッセイ結果を示す図である。腫瘍由来のコハク酸がSUCNR1を活性化し、腹腔マクロファージの遊走を促進することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図18E】底部チャンバーにおけるPDGFおよび異なる濃度のコハク酸の遊走アッセイ結果を示す図である。腫瘍由来のコハク酸がSUCNR1を活性化し、腹腔マクロファージの遊走を促進することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「Succinate」は「コハク酸」を、「Lower chamber」は「底部チャンバー」を意味する。
図19A】異なる濃度のコハク酸で処理したLLC細胞の遊走および浸潤アッセイ結果を示す図である。コハク酸が腫瘍細胞の遊走と浸潤を促進することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「Succinate」は「コハク酸」を、「Invasion」は「浸潤」を意味する。
図19B】異なる濃度のコハク酸で処理したA549、HT-29、MCF-7、およびPC3細胞の遊走および浸潤アッセイ結果を示す図である。コハク酸が腫瘍細胞の遊走と浸潤を促進することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図19C】異なる濃度のコハク酸で処理したA549、HT-29細胞の遊走および浸潤アッセイ結果を示す図である。コハク酸が腫瘍細胞の遊走と浸潤を促進することを示している。図中「Invasion」は「浸潤」を、「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図19D】ビヒクルまたはコハク酸(0.5、1および2.5mM)で24時間処理したA549細胞におけるE-カドヘリン、N-カドヘリン、およびビメンチン発現レベルを示す図である。コハク酸が腫瘍細胞の遊走と浸潤を促進することを示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図19E】指示された期間ビヒクルまたはコハク酸(1mM)で処理したA549細胞におけるE-カドヘリン、N-カドヘリン、およびビメンチン発現レベルを示す図である。コハク酸が腫瘍細胞の遊走と浸潤を促進することを示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図19F】メトホルミン(2mM)を含むかまたは含まないコハク酸で24時間処理したA549細胞の遊走アッセイ結果を示す図である。コハク酸が腫瘍細胞の遊走と浸潤を促進することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「Untreated」は「未処理」を、「Metformin」は「メトホルミン」を意味する。
図20A】腫瘍を有するC57BL/6Jマウスから切除した肺および転移性結節の数を示す図である。コハク酸が癌転移を促進することを示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を、「Saline」は「生理食塩水」を、「Metastatic nodules」は「転移結節」を、「Nodules number」は「小結節数」を、「Lung metastatic nodules」は「肺転移結節」を意味する。
図20B】腫瘍を有するC57BL/6Jマウスから切除した肝臓および脾臓における転移結節を示す図である。コハク酸が癌転移を促進することを示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を、「Saline」は「生理食塩水」を、「Nodules number」は「小結節数」を、「Liver metastatic nodules」は「肝臓転移結節」を、「Spleen metastatic nodules」は「脾臓転移結節」を意味する。
図20C】腫瘍を有するC57BL/6Jマウスから切除した副腎における転移結節を示す図である。コハク酸が癌転移を促進することを示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を、「Saline」は「生理食塩水」を、「Adrenal gland」は「副腎」を、「Nonmetastatic」は「非転移性」を、「Adrenal metastasis」は「副腎転移」を、「Adrenal metastasis incidence」は「副腎転移発生率」を意味する。
図21A】単培養LLCおよびコハク酸分極マクロファージと共培養したLLCにおける遊走アッセイ結果を示す図である。コハク酸誘導分極マクロファージが癌細胞遊走を増強することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「monoculture」は「単培養」を、「Polarized」は「分極化した」を意味する。
図21B】単培養LLCおよびコハク酸分極マクロファージと共培養したLLCにおけるIL-6レベルを示す図である。コハク酸誘導分極マクロファージが癌細胞遊走を増強することを示している。図中「monoculture」は「単培養」を、「Polarized」は「分極化した」を意味する。
図21C】単培養LLC、および、抗IL-6中和抗体または対照IgG(2.5μg/ml)を添加したコハク酸分極マクロファージと共培養したLLCにおける遊走アッセイ結果を示す図である。コハク酸誘導分極マクロファージが癌細胞遊走を増強することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「monoculture」は「単培養」を、「Polarized」は「分極化した」を意味する。
図21D】単培養LLC、および、抗IL-6中和抗体または対照IgG(2.5μg/ml)を添加したコハク酸分極マクロファージと共培養した単培養LLCにおけるIL-6レベルを示す図である。コハク酸誘導分極マクロファージが癌細胞遊走を増強することを示している。図中「monoculture」は「単培養」を、「Polarized」は「分極化した」を意味する。
図21E】スクランブル対照siRNA(sc)またはSUCNR1 siRNA-758でトランスフェクトされたマクロファージと共培養されたLLC細胞におけるIL-6レベルを示す図である。コハク酸誘導分極マクロファージが癌細胞遊走を増強することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図22A】示された期間コハク酸(1mM)で処理されたA549/shNCおよびA549/shSUCNR1細胞における、ERK1/2およびホスホ-ERK1/2発現レベルを示す図である。細胞内カルシウム動員、ERK1/2活性化およびプロスタグランジンE2産生に対するコハク酸の作用を示している。図中「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図22B】コハク酸(1mM)で2時間処理したLLC/shNC、LLC/shSUCNR1、A549/shNCおよびA549/shSUCNR1細胞における、細胞内カルシウムレベルを示す図である。細胞内カルシウム動員、ERK1/2活性化およびプロスタグランジンE2産生に対するコハク酸の作用を示している。
図22C】コハク酸(1mM)で2時間処理したLLC/shNC、LLC/shSUCNR1における、ならし培地PGE2レベルを示す。細胞内カルシウム動員、ERK1/2活性化およびプロスタグランジンE2産生に対するコハク酸の作用を示している。
図23A】対照IgGまたは抗SUCNR1抗体の有無にかかわらず、コハク酸(1mM)で処理したLLC、A549、PC3、およびHT-29細胞の遊走アッセイ結果を示す図である。コハク酸がSUCNR1シグナル伝達を介して腫瘍細胞の遊走と浸潤を促進することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図23B】対照IgGまたは抗SUCNR1抗体の有無にかかわらず、コハク酸(1mM)で処理したLLCおよびHT-29細胞の浸潤アッセイ結果を示す図である。コハク酸がSUCNR1シグナル伝達を介して腫瘍細胞の遊走と浸潤を促進することを示している。図中「Invasion」は「浸潤」を、「Succinate」は「コハク酸」を意味する。
図24A】shSUCNR1(A549/shSUCNR1)またはshNC(A549/shNC)を発現する、異なるA549安定クローンにおけるSUCNR1発現レベルを示す図である。腫瘍分泌コハク酸がSUCNR1シグナル伝達を介して腫瘍転移を促進することを示している。
図24B】対照shRNA(A549/shNC)またはSUCNR1 shRNA(A549/shSUCNR1)で安定にトランスフェクトされたコハク酸刺激(1mM、24時間)A549細胞の遊走および浸潤アッセイ結果を示す図である。腫瘍分泌コハク酸がSUCNR1シグナル伝達を介して腫瘍転移を促進することを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「Invasion」は「浸潤」を意味する。
図24C】shSUCNR1(LLC/shSUCNR1)を発現するLLC細胞安定クローンにおけるSucnr1 mRNAレベルを示す図である。腫瘍分泌コハク酸がSUCNR1シグナル伝達を介して腫瘍転移を促進することを示している。
図24D】コハク酸(1mM)で24時間刺激したLLCおよびLLC/shSUCNR1細胞の遊走アッセイ結果を示す図である。腫瘍分泌コハク酸がSUCNR1シグナル伝達を介して腫瘍転移を促進することを示している。図中「Migration」は「遊走」を意味する。
図24E】コハク酸(100mg/kg)を8週間にわたって週2回腹腔内注射を受けた、A549/shNCまたはA549/shSUCNR1を注射したマウスにおける肺転移結節の評価を示す図である。腫瘍分泌コハク酸がSUCNR1シグナル伝達を介して腫瘍転移を促進することを示している。図中「Lung metastatic nodules」は「肺転移結節」を、「Nodules number」は「小結節数」を意味する。
図24F】コハク酸(100mg/kg)を8週間にわたって週2回腹腔内注射を受けた、LLCまたはLLC/shSUCNR1細胞注射マウスにおける肺転移結節の評価を示す図である。腫瘍分泌コハク酸がSUCNR1シグナル伝達を介して腫瘍転移を促進することを示している図中「Lung metastatic nodules」は「肺転移結節」を、「Nodules number」は「小結節数」を意味する。
図25A】示された期間コハク酸(1mM)で処理されたA549およびLLC細胞におけるHIF-1α、Akt、ホスホ-Akt、AMPK、ホスホ-AMPK、p38 MAPK、およびホスホ-p38 MAPK発現レベルを示す図である。A549およびLLC細胞におけるHIF-1αおよびキナーゼリン酸化に対するコハク酸の効果を示している。図中「succinate」は「コハク酸」を意味する。
図25B】示された期間コハク酸(1mM)で処理されたLLC細胞におけるHif-1α mRNAレベルを示す図である。A549およびLLC細胞におけるHIF-1αおよびキナーゼリン酸化に対するコハク酸の効果を示している。図中「succinate」は「コハク酸」を意味する。
図25C】異なる濃度のLY294002またはSB202190で12時間処理したLLC細胞におけるHif-1α mRNAレベルを示す図である。A549およびLLC細胞におけるHIF-1αおよびキナーゼリン酸化に対するコハク酸の効果を示している。
図25D】コハク酸(1mM)で12時間処理したLY294002またはSB202190前処理LLC細胞におけるHif-1α mRNAレベルを示す図である。A549およびLLC細胞におけるHIF-1αおよびキナーゼリン酸化に対するコハク酸の効果を示している。図中「succinate」は「コハク酸」を意味する。
図25E】コハク酸(1mM)またはジメチルエステルコハク酸(DMS、20mM)で12時間処理したA549/shNCおよびA549/shSUCNR1細胞におけるHif-1α mRNAレベルを示す図である。A549およびLLC細胞におけるHIF-1αおよびキナーゼリン酸化に対するコハク酸の効果を示している。
図26A】種々の濃度のHIF-1α阻害剤、2-MeOE2およびBay87-2243を含むかまたは含まないコハク酸で24時間処理したLLCおよびA549細胞の遊走アッセイ結果を示す図である。PI3K媒介HIF-1αアップレギュレーションが、コハク酸が誘導する癌遊走およびEMTにとって極めて重要であることを示している。図中「Migration」は「遊走」を、「succinate」は「コハク酸」を意味する。
図26B】α-KG(1mM)を含むまたは含まないコハク酸(1mM)で24時間処理したA549細胞の遊走アッセイ結果を示す図である。PI3K媒介HIF-1αアップレギュレーションが、コハク酸が誘導する癌遊走およびEMTにとって極めて重要であることを示している。図中「Migration」は「遊走」を意味する。
図26C】DMOG(200μM)を含むまたは含まないコハク酸(1mM)で24時間処理したA549細胞の遊走アッセイ結果を示す図である。PI3K媒介HIF-1αアップレギュレーションが、コハク酸が誘導する癌遊走およびEMTにとって極めて重要であることを示している。図中「Migration」は「遊走」を意味する。
図26D】A549/shNCまたはA549/HIF-1α細胞におけるHIF-1α mRNAレベル、および、コハク酸(1mM)を用いてまたは用いずに処理したA549/shNCまたはA549/HIF-1α細胞の遊走アッセイ結果を示す図である。PI3K媒介HIF-1αアップレギュレーションが、コハク酸が誘導する癌遊走およびEMTにとって極めて重要であることを示している。図中「Migration」は「遊走」を意味する。
図26E】ビヒクルまたはコハク酸(1mM)で24時間処理したLY294002前処理A549細胞におけるビメンチン発現レベルを示す図である。PI3K媒介HIF-1αアップレギュレーションが、コハク酸が誘導する癌遊走およびEMTにとって極めて重要であることを示している。図中「Untreated」は「未処理」を意味する。
図26F】ビヒクルまたはコハク酸(1mM)で24時間処理したBay87-2243前処理A549細胞におけるE-カドヘリンおよびビメンチン発現レベルを示す図である。PI3K媒介HIF-1αアップレギュレーションが、コハク酸が誘導する癌遊走およびEMTにとって極めて重要であることを示している。図中「Untreated」は「未処理」を意味する。
図27A】8週間にわたって週2回、コハク酸(100mg/kg)の腹腔内注射を受けた、A549/shNCまたはA549/HIF-1α注射マウスにおける肺転移結節評価を示す図である。in vivoでのコハク酸誘導転移におけるHIF-1αの役割を示している。図中「Lung metastatic nodules」は「肺転移結節」を、「Nodules number」は「小結節数」を意味する。
図27B】A549/shNCまたはA549/shHIF1-αの原発性皮下腫瘍から抽出された総タンパク質中のE-カドヘリンおよびビメンチンのレベルを示す図である。in vivoでのコハク酸誘導転移におけるHIF-1αの役割を示している。図中「succinate」は「コハク酸」を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の他の特徴および利点は、以下の実施例においてさらに例示および記載される。これらは、例示のみを意図し、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0026】
(実施例1。癌細胞由来のコハク酸はマクロファージの極性化を誘導する)
【0027】
(癌調整培地中の可溶性因子はマクロファージ中のTAMマーカーを誘導する)
【0028】
腹膜マクロファージを、対照培地またはLLC(LLC-CM)またはA549(A549-CM)から収集した条件培地(CM)中で24時間インキュベートする。マクロファージ中のARG1タンパク質およびArg1 mRNAは、それぞれイムノブロット分析およびqPCRにより測定される。ヒト前立腺癌PC3細胞から収集したCMを、10% FBSを補充したRPMI1640培地中で24、48および72時間培養し、そして腹膜マクロファージと共にインキュベートする。対照培地またはPC3-CMで24時間処理したマクロファージからの細胞溶解物を、ARG1またはβ-アクチンに対する抗体で免疫ブロットする。実験を3回繰り返し、同様の結果を得た。対照培地と比較して、マクロファージARG1タンパク質およびmRNAレベルは、肺癌細胞株(マウスLLCおよびヒトA549)のCMにおいて増加し(図1Aおよび1B)、一方、ヒト前立腺細胞(PC3)のCMも同程度にマクロファージARG1タンパク質を誘導する(図1C)。一方、腹膜マクロファージを対照培地またはMCF-7(MCF7-CM)またはHT-29(HT29-CM)から採取した条件培地中で24時間インキュベートする。マクロファージ中のArg1 mRNAはqPCRで測定される。また、ヒト乳癌細胞(MCF-7)や結腸癌細胞(HT-29)のCMも、Arg1やFizz1やMgl1のmRNAなど他のTAMマーカーの発現を上昇させる(図1D)。内因性分子の存在がマクロファージのTAMへの変換を媒介することを示唆した。
【0029】
活性分子を同定するために、LLC-CMおよびA549-CMを、小分子(<3kDa)を有するSCMおよびタンパク質-ペプチド画分(>3kDa)を有するPCMに分画する。Arg1、SCMまたはPCMで24時間培養した腹腔マクロファージ中のFizz1、およびMgl1 mRNAをqPCRにより分析する。そして、腹膜マクロファージを対照培地、LLC-CM、LLC-SCMまたはLLC-PCM中で3日間培養する。LLC(LLC-CM)およびA549(A549-CM)のCMをサイズ(<3kDaおよび>3kDa)に従って分画し、マクロファージArg1発現に対するその効果も評価する。小分子分画(<3kDa、SCM)はArg1、Fizz1、Mgl1の発現をアップレギュレートするだけでなく、VCAM1+CD11c+CD11blow-TAMの集団を増加させる。
【0030】
タンパク質-ペプチド画分(>3kDa、PCM)は同じ効果を示さない(図1Eおよび1F)(VCAM1+CD11c+CD11blow-マクロファージ集団をフローサイトメトリーで測定し、対照培地処理の細胞数に対して正規化した。データは3つの独立した実験の平均±SEMを表す。** P<0.005、*** P<0.0005)。
【0031】
次に、LC-MSを用いて、LLC-SCMおよびA549-SCM中の可溶性分子を同定する。主成分分析(PCA)は、LLC-SCMと対照培地との間の成分分布の明確な分離を示し(図2A)、これら2つの群の間の代謝産物組成の差を示す。癌に由来する代謝産物を同定するために、直交部分最小二乗判別分析(OPLS-DA)モデルからSプロットを構築する。S-プロットに基づいて、11のLLC由来代謝産物が、p(corr)[1]およびCoeffCS(0.001より大きい)の両方の有意な倍数変化および大きな値を示すことが同定される(図2Bおよび表1)。組織内代謝産物データベース検索および純粋化合物バリデーションにより、3つのLLC由来代謝産物がコハク酸、乳酸およびクエン酸として同定される。残りの8つの代謝産物の化学的同一性は、現在のところ未知のままであった。さらに、質量スペクトルの分析は、癌細胞-SCMと対照培地との間の顕著な差異を明らかにする。主要なm/z117.0ピークは、LLC-SCM(図2C)およびA549-SCM(図2D)において観察されるが、対照培地(保持時間1.8分、m/z50-400)においては観察されない。m/z117.0の娘イオンプロファイルは、純粋なコハク酸のそれと一致する(図2E)。
【0032】
【表1】
【0033】
癌細胞-CM中のコハク酸の存在を確認するため、コハク酸比色定量キットを実施し、CM中のコハク酸を分析する。結果は、LLC-CM(0.57mM)、A549-CM(0.43mM)、PC3-CM(0.41mM)、MCF-7-CM(0.28mM)、およびHT-29-CM(0.25mM)において検出されるコハク酸の同等の量があることを示す(図3A)。少量のコハク酸が、マクロファージ-CM(0.07mM)および新鮮な対照培地(0.07mM)中で検出される。コハク酸はマクロファージ極性化を駆動する癌-CMの主要代謝産物であることを示唆した。また、C57BL/6JマウスにLLC細胞を21日間皮下注射して腫瘍を誘発する。腫瘍を切除し、皮下腫瘍におけるコハク酸濃度が0.65±0.039mM(n=11、データは平均±SEM、***P<0.0005を表す)であることを示すさらなる解析を用いて実施する(図3B)。それは、癌細胞が細胞外環境にコハク酸を放出し、それがTAMマーカーアップレギュレーションとTAM極性化を説明するかもしれないことを示す。
【0034】
(癌細胞由来コハク酸はマクロファージの極性化を誘導する)
【0035】
マウス腹腔マクロファージをコハク酸で処理し、TAMマーカーの発現レベルを検出する。その結果、コハク酸は濃度依存的にマウス腹腔マクロファージのARG1タンパク質の発現を増加させることが明らかになった(図4A)。さらに、腹腔マクロファージにおけるTAM特異的遺伝子の転写産物の解析から、コハク酸はArg1、Fizz1、Mgl1、Mgl2などのTAMマーカー遺伝子の発現を用量依存的に上昇させることが示されている(図4B)。また、CD11c、VCAM1(VCAM1+CD11c+CD11blow)を含むTAM表面マーカーのアップレギュレーションも行う(図4C)。それは、コハク酸がマクロファージ集団をVCAM1+CD11c+CD11blow-TAMに分極することを示唆する。LLCの同系マウス腫瘍モデルを使用して、in vivoでのTAM分極に対するコハク酸の効果を評価する。LLC細胞をC57BL/6Jマウスに皮下注射し、続いてコハク酸(20および100mg/kg)または賦形剤を週2回、3週間腹腔内注射する。21日目に、原発性皮下腫瘍を採取し、TAMのパーセンテージを分析する。各群の異なるマウス(生理食塩水 n=11、20mg/kgコハク酸 n=8、100mg/kgコハク酸 n=10)から得た原発性皮下腫瘍におけるTAM集団の割合をフローサイトメトリーにより分析する(データは3実験の平均±SEM、* P<0.05、** P<0.005、*** P<0.0005)。コハク酸処理マウスの原発性皮下腫瘍は、生理食塩水処理マウスよりも有意に多いVCAM1+CD11c+CD11blow-TAMを含む(図4D)。集合的に、これはコハク酸がTAMの機能分極を促進することを示す。
【0036】
(実施例2。血清コハク酸は癌の診断バイオマーカーとして用いられる)
【0037】
(コハク酸受容体発現はヒト肺癌で上昇する)
【0038】
SUCNR1に関する臨床的意義を提供するために、213のヒト肺癌組織および78の無腫瘍肺組織における受容体mRNAレベルをqPCRにより分析する(表2)。肺癌組織における平均受容体mRNAレベルは、腫瘍のない肺組織よりも有意に高かった(図5A)。肺癌組織におけるレセプターmRNAレベルは広い分布を示し、かなりの数(37.56%)が正常値より高かった(図5A)。腫瘍のSUCNR1レベルが肺癌患者の生存率と相関するかどうか疑った。これらの結果は、腫瘍SUCNR1レベルがコハク酸の腫瘍促進活性に寄与することを示唆した。
【0039】
【表2】
【0040】
(血清コハク酸は肺癌の潜在的バイオマーカーである)
【0041】
C57BL/6JマウスにLLC細胞を注射し、LLC細胞の接種前後のマウス血清中のコハク酸レベルを評価するために分析する。コハク酸は、LLC注射前のマウスで検出され(平均0.19±0.037mM、n=7)、これは、LLC接種後16日で増加する(平均0.36±0.059mM、177.6mm3の腫瘍を有するマウス、n=7)(図5B)。これらの結果は、血清コハク酸レベルが担癌マウスで上昇していることを示している。血清コハク酸の臨床的意義を明らかにするため、健常被験者21例およびNSCLC患者97例の血清中コハク酸濃度を測定する(表3)。肺癌患者の血清コハク酸濃度の平均値(0.53±0.038mM)は健康被験者(図5C)よりも有意に高く、NSCLC患者の血清コハク酸濃度の上昇は癌の発生を反映している可能性があり、癌の進行のマーカーとなる可能性が示唆される。さらに、受信者動作特性(AUROC)曲線下面積を使用して、この患者群における識別力を決定する(図5D)。コハク酸のAUCは0.70(95%CI:0.594~0.813、p=0.0036)である。AUROC曲線に由来する最適診断効率を有するコハク酸のカットオフレベルは、0.34mM(53.61%感度、85.71%特異性)である。AUROC解析は、血清コハク酸がNSCLC患者に対してより高い適中率を有することを明らかにする。まとめると、これらの結果は、血清コハク酸がNSCLC患者の予測バイオマーカーとして役立つ可能性を示している。
【0042】
【表3】
【0043】
(実施例3。モノクローナル抗コハク酸抗体の開発と治療効果)
【0044】
(抗癌治療抗体としてのコハク酸モノクローナル抗体の開発)
【0045】
癌細胞が腫瘍微小環境にコハク酸を分泌してTAM分極と癌転移を促進すること、肺癌患者の血清コハク酸濃度が有意に上昇することを考慮し、抗コハク酸抗体により血清コハク酸を中和して腫瘍形成を抑制する可能性を検討する。これに対処するために、コハク酸抱合担体ペプチドを抗原として生成し、ポリクローナルコハク酸抗体を生成し、LLC遊走に対するその効果を評価する。コハク酸-BSA結合体を用いて、ニュージーランドウサギを免疫する。3回目の免疫時に、抗血清をタンパク質担体に予め吸収させ、プロテインAカラム(GenScript)によって精製する。コハク酸-KLH(リジン-ロイシン-ヒスチジン)結合体を使用して、抗体特異性を間接ELISA(GenScript)で分析する(図6A)。さらに、抗コハク酸抗体が癌-CMにおいてコハク酸を中和することを確認するために、抗コハク酸抗体または対照抗体で処置した癌-CMにおけるコハク酸レベルを測定する。LLC-CMまたはA549-CMを異なる濃度の抗コハク酸抗体とともに37℃で一晩インキュベートし、次いでLLC-CMまたはA549-CM中のコハク酸レベルをコハク酸比色分析キットによって測定する。抗コハク酸抗体は癌-CMのコハク酸濃度を有意に低下させるが、対照抗体は低下させない(図6B)。さらに、トランスウェルプレートの上部チャンバー上に播種したLLC細胞を対照IgGまたは抗コハク酸抗体(Succ Ab)で24時間処理し、化学誘引物質としてPDGF-BBを用いて遊走アッセイを行う。これは、対照抗体ではなく抗コハク酸抗体がLLC細胞遊走を抑制することを示す(図6C)。
【0046】
従って、潜在的な治療用モノクローナルコハク酸抗体がさらに生成される。20のマウスモノクローナル抗体を作製し、ELISA試験のために選択する。それらの中で、より高い結合親和性を有する上位5クローンを、抗癌能力の評価のために選択する。結果は、5つの細胞系により誘導されたこれら5つのモノクローナル抗体がA549の細胞遊走を有意に抑制し、6G10細胞系由来モノクローナル抗体が最良の抗遊走活性を有することを明らかにする。腫瘍由来コハク酸が癌-CM誘導マクロファージARG1発現の原因であることを確かめるために、ARG1発現に対する6G10モノクローナル抗体の効果を評価する。LLC-CM処理PMφを、対照IgGまたは抗コハク酸抗体と共に24時間インキュベートする。細胞溶解物を、ARG1またはβ-アクチンに対する抗体で免疫ブロットする。LLC-CMによるARG1アップレギュレーションは、F5モノクローナル抗体によって抑制されるが、対照IgGによっては抑制されない(図7A)。さらに、PMφを抗コハク酸抗体または対照IgGで1時間前処理し、次いでコハク酸(1mM)で3日間刺激する。VCAM1+CD11c+CD11blow-TAM集団をフローサイトメトリーによって定量し、対照培地処理の細胞数に対して標準化する。そして、腹膜マクロファージを、対照IgGを含むかまたは含まないコハク酸(1mM)、抗コハク酸抗体で24時間処理し、次いで、細胞遊走をトランスウェルアッセイによって行う。このデータは、対照IgGではなくF6モノクローナル抗体が、CD11cおよびVCAM1(VCAM1+CD11c+CD11blow)(図7B)を含むコハク酸アップレギュレートTAM表面マーカーを抑制するだけでなく、コハク酸誘導マクロファージ遊走も抑制することを示している(図7C)。従って、6G10モノクローナル抗体を、LLCの同系マウス腫瘍モデルに対するその治療効果を評価するための最初の候補として選択する。LLC細胞をC57BL/6Jマウスに皮下注射する。50mm3の皮下腫瘍を有するマウス(LLC腫瘍接種8日後)に、6G10F6モノクローナル抗体(1および5mg/kg)またはIgG対照抗体(5mg/kg)を週2回、5週間腹腔内注射する。TAM偏光の評価のためにLLC注射の3週間後に皮下腫瘍を外科的に除去する。腫瘍転移の決定のために原発腫瘍の除去の2週間後に、マウスから肺、肝臓、脾臓、および副腎を切除する。その結果、IgG抗体ではなく6G10F6モノクローナル抗体が、生理食塩水と比較して、皮下腫瘍(図7D)のTAM集団だけでなく、肺腫瘍の多発性(図7E)も有意に抑制することがわかった。特に、6G10F6モノクローナル抗体はLLC担癌マウスの生存期間を有意に延長する(図7F)。これらの結果は、6G10F6モノクローナル抗体が治療用抗癌モノクローナル抗体として存在し得ることを示唆する。
【0047】
(ハイブリドーマ6G10F6および6G10G5のモノクローナル抗体配列決定)
【0048】
6G10細胞株に由来する抗コハク酸抗体配列を決定する。2つのハイブリドーマ6G10F6および6G10G5は、抗体配列決定に選択的である。TRIzolR試薬の技術マニュアルに従って、ハイブリドーマ細胞から全RNAを単離する。次いで、全RNAを、PrimeScript(登録商標) 1st Strand cDNA Synthesis Kitの技術マニュアルに従って、アイソタイプ特異的アンチセンスプライマーまたはユニバーサルプライマーを使用してcDNAに逆転写する。VHおよびVLの抗体フラグメントを、GenScriptのcDNA末端の迅速増幅(RACE)の標準操作手順(SOP)に従って増幅する。増幅された抗体断片は、標準的なクローニングベクターに別々にクローニングされる。コロニーPCRを行って、正しいサイズのインサートを有するクローンをスクリーニングする。正しいサイズのインサートを有する5つ以上のコロニーを、各フラグメントについて配列決定する。異なるクローンの配列を整列させ、これらのクローンのコンセンサス配列を図8および9に示す。6G10F6抗体重鎖のDNA配列はSEQ ID NO:1の配列を有し、アミノ酸配列はSEQ ID NO:2の配列を有し、6G10F6抗体軽鎖のDNA配列はSEQ ID NO:3の配列を有し、アミノ酸配列はSEQ ID NO:4の配列を有する。一方、6G10G5抗体重鎖のDNA配列はSEQ ID NO:5の配列を有し、アミノ酸配列はSEQ ID NO:6の配列を有し、6G10G5抗体軽鎖のDNA配列はSEQ ID NO:7の配列を有し、アミノ酸配列はSEQ ID NO:8の配列を有する。
【0049】
(マウス6G10F6モノクローナル抗体の抗体ヒト化と復帰突然変異デザイン)
【0050】
6G10F6モノクローナル抗体の評価の機能は、それがコハク酸を中和し、TAM分極および癌転移を抑制する能力を有することを明らかにする。したがって、親(キメラ)抗体の結合親和性を犠牲にすることなく、相補性決定領域(CDR)移植および復帰突然変異法を使用することによって、マウス6G10F6モノクローナル抗体をヒト化するために、抗体ヒト化をさらに行う。免疫原性を低下させるために、マウス6G10F6モノクローナル抗体の定常領域を、ヒト化抗体の開発に使用されるキメラマウス-ヒト6G10F6抗体の生成のために、ヒトIgG4(重鎖)およびラムダ鎖(軽鎖)の定常領域で置き換える(図10)。ヒト化を進行させるために、ヒト化抗体は、CDR移植およびその後の移植抗体の置換された推定復帰突然変異部位を使用することによって設計される。簡潔には、キメラ6G10F6抗体のCDRをヒトアクセプター(免疫グロブリンμ重鎖VHおよび免疫グロブリンλ鎖可変領域VL、図10)に移植して、各キメラ抗体についてヒト化軽鎖およびヒト化重鎖を得る。結合活性に重要であると考えられる、CDR中のカノニカル残基、フレームワーク領域、および移植された抗体中のVH-VL界面上の残基は、親抗体対応物との置換のために選択される。
【0051】
キメラマウス-ヒト6G10F6抗体の構造は、逆突然変異の位置を同定するためにコンピュータ支援相同モデリングプログラムによってモデリングされる。簡潔には、マウス6G10F6抗体配列を、Fvフラグメントのための最良のテンプレートを同定するため、および特にドメイン界面を構築するために、PDB_Antibodyデータベースに対してBLAST検索する。構造テンプレート2BJM(SPE7の結晶構造:アントロン複合体)を選択し、同一性=66%である。マウスモノ鋳型と2BJM鋳型との間のアミノ酸配列アライメントを図11に示す。2BJMの相同性モデルに基づいて、内部コア中のすべてのフレームワーク残基が選択される。このような残基を変異させてマウスモノクローナル抗体に戻すために、対応物は、内部疎水性相互作用を保持し、そして戻り変異に起因する潜在的な免疫原性を減少させる。重鎖のヒト化可変ドメインは、それぞれSEQ ID NO:9、10、11、12、および13のアミノ酸配列を含むVH1、VH2、VH3、VH4、およびVH5と命名される。一方、軽鎖のヒト化可変ドメインは、それぞれSEQ ID NO:14、15、16、17、18、19、20、および21のアミノ酸配列を含むVL1、VL2、VL3、VL4、VL5、VL6、VL7、およびVL8と命名される。これに対して、重鎖VH1、VH2、VH3、VH4およびVH5のヒト化可変ドメインは、それぞれSEQ ID NO:22、23、24、25および26のDNA配列を含み、軽鎖VL1、VL2、VL3、VL4、VL5、VL6、VL7およびVL8のヒト化可変ドメインは、それぞれSEQ ID NO:27、28、29、30、31、32、33および34のDNA配列を含む。
【0052】
(キメラ6G10F6抗体とヒト化抗体の結合親和性の測定)
【0053】
キメラ6G10F6抗体およびヒト化抗体を構築および産生するために、ヒト化IgG重鎖および軽鎖をコードするDNA配列を合成し、pCDNA3.4ベクターに挿入して、全長IgGの発現プラスミドを構築する(図11に示すように)。40のヒト化抗体をHEK293細胞培養物中で発現させ、次いで細胞をスピンダウンする。上清を、ELISAによる発現評価のために行う。Biacore(登録商標) 8Kを用いて表面プラズモン共鳴(SPR)によって結合確認および親和性ランキングを試験する。キメラ6G10F6抗体を精製し(図12A)、コハク酸抗体のAgに対する親和性を、表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサーを用いて決定する。一次抗体は、ヤギ抗ヒトIgG-HRP(GenScript、カタログ番号A00166)およびヤギ抗ヒトラムダ-HRP(SouthernBiotech、カタログ番号2070-05)である。BSA-コハク酸に対するキメラ抗体の親和性および動態を図12Bに要約し、センサーグラムを図12Cに示す。親抗体を加えた発現抗体を、アフィニティーランキングのために行う。各ヒト化抗体を発現するHEK293細胞からの24の上清に対するBSA-コハク酸の親和性を図13に要約する。標的と結合していないクローンは、灰色で強調されている。
【0054】
親和性ランキング結果に基づいて、上位3つのヒト化抗体(VH3+VL3、VH4+VL2、VH4+VL3)を発現させ、GenScriptのSOPに従って精製する。SDS-PAGEから評価すると、ヒト化IgGの純度は約85%である(図14A)。精製IgGの収率を図14Bに列挙する。上位3つの精製された抗体を、異なる濃度下での親和性測定のためにさらに選択する。各抗体の結合データを処理し、Biacore(登録商標) 8K評価ソフトウェアを用いて1:1相互作用モデルに適合させる。すべての実験データをモデルによく適合させることができた(図15A)。図15Bに列挙されるように、3つのヒト化抗体は、親キメラ抗体に対する同等の抗原結合親和性を保持する。
【0055】
(精製ヒト化IgGの熱安定性測定)
【0056】
さらに、4つの精製抗体(キメラ抗体、VH3+VL3、VH4+VL2、VH4+VL3ヒト化抗体を含む)および各ヒト化を発現するHEK293細胞からの9つの上清を、ELISAによる安定性評価のために選択した。ELISAの結果は、3つのヒト化抗体が、2ヶ月間の異なる温度処理後に抗原に強く結合したことを示す(図16)。
【0057】
集合的に、マウスモノクローナル抗体(mAb)は、首尾よくヒト化される。5つの重鎖および8つのヒト化軽鎖を設計し、合成し、pCDNA3.4発現ベクターに挿入する。
【0058】
(実施例4。コハク酸は癌細胞の遊走を誘導し、特定の膜受容体、SUCNR1を介して癌転移を増強する)
【0059】
(SUCNR1シグナル伝達はコハク酸介在TAM分極に関与する)
【0060】
コハク酸はSUCNR1リガンドとして知られている。従って、コハク酸がSUCNR1を通してTAM分極を促進することを調べた。最初に、対照IgGおよび抗SUCNR1抗体で腹膜マクロファージを1時間前処理した後、細胞をコハク酸(1mM)で3日間刺激する。VCAM1+CD11c+CD11blow-TAMは、フローサイトメトリーにより定量化され、制御媒体処理の倍数として表現される。マクロファージを抗SUCNR1抗体で処理するが、対照IgGでは処理しないと、VCAM1+CD11c+CD11blow-TAMのコハク酸介在アップレギュレーションが消失する(図17A)。さらに、腹腔マクロファージにスクランブル対照siRNA、マウスSUCNR1 siRNA-278、-559、または-758を48時間トランスフェクトし、細胞を1mMコハク酸(Succ)の有無にかかわらず16時間または3日間刺激する。マクロファージにおけるSucnr1 mRNA発現およびSUCNR1タンパク質レベルは、それぞれARG1またはβ-アクチンに対する抗体を用いたqPCRおよびウェスタンブロットにより測定される(データは3実験の平均±SEMを表す。* P<0.05、**P <0.005、*** P<0.0005)。結果は、特異的siRNA(si-278、si-559およびsi-758)によるSUCNR1レベルの抑制(図17Bおよび17C)が、対照siRNAではなく、Arg1、Fizz1、Mgl1およびMgl2 mRNAのコハク酸誘導発現を阻害することを示す(図17D)。VCAM1+CD11c+CD11blow-TAMの後続的な仲介による上方調節は、3種類のSUCNR1 siRNAによって廃止されているが、スクランブルされたsiRNAによっては廃止されていない(図17E)。これらの結果は、コハク酸がSUCNR1シグナル伝達経路を介してTAM分極を促進することを示唆する。
【0061】
(コハク酸で活性化されたSUCNR1はマクロファージの遊走を促進する)
【0062】
癌-CMとコハク酸がマクロファージ遊走を誘発するか否かをさらに検討した。腹膜マクロファージをトランスウェルプレートの上部チャンバーに播種し、対照培地(DMEM)またはA549由来のCM(A549-CM)で24時間培養する。一方、腹膜マクロファージをトランスウェルプレートの上部チャンバーに播種し、コントロールIgGまたは抗SUCNR1抗体の存在下または非存在下でコントロール培地(DMEM)またはA549-SCMで24時間培養する。次いで、遊走アッセイを、化学誘引物質としてPDGF-BBを用いて行い、そして遊走した細胞数を、基礎対照の倍数として表す。図18Aおよび18Bに示されるように、A549-CMおよびA549-SCMは、対照培地と比較してマクロファージ遊走を増加させ、これは、抗SUCNR1抗体によって阻害されるが、対照IgGによっては阻害されない。さらに、腹膜マクロファージを異なる濃度のコハク酸で24時間処理する。それは、抗SUCNR1抗体がコハク酸誘導マクロファージ遊走を抑制するが、対照IgGは抑制しないことを示す(図18C)。コハク酸/SUCNR1シグナル伝達がマクロファージ遊走に必須であることを示している。
【0063】
腫瘍由来コハク酸がマクロファージの可溶性走化性因子として作用するかどうかを決定するために、腹膜マクロファージを、対照IgGまたは抗SUCNR1抗体の有無にかかわらずコハク酸(1mM)で24時間処理し、次いで、細胞遊走をトランスウェルアッセイによって分析する。そして、PDGFおよび異なる濃度のコハク酸を、マクロファージ遊走アッセイのためにトランスウェルプレートの底部チャンバーに配置した。対照と比較して、コハク酸はマクロファージ遊走を劇的に増加させる(図18D)。コハク酸によって誘導される遊走の程度は、PDGFによって誘導される遊走の程度に近い。結果は、腫瘍細胞がマクロファージの動員と遊走および結果としてのTAM極性化を促進するためにコハク酸を分泌することを示唆する。
【0064】
(コハク酸は癌細胞移動と上皮間葉転換(EMT)を誘導し、癌転移を増強する)
【0065】
コハク酸はマクロファージの遊走を促進するので、コハク酸が癌細胞の遊走を調節するのではないかと考えられている。LLC細胞を、規則的またはマトリゲル被覆膜上に播種し、そして異なる濃度のコハク酸で24時間処理する。トランスウェル遊走および浸潤アッセイを行う。遊走または浸潤の相対的能力は、光学顕微鏡下で3つの視野から計算される。また、A549、HT-29、MCF-7、およびPC3細胞を含む細胞をトランスウェルプレートの上部チャンバーに播種し、異なる濃度のコハク酸で24時間処理する。次いで、遊走アッセイおよびマトリゲル浸潤アッセイを、化学誘引物質としてPDGF-BBを用いて行い、そして移動した細胞数を基礎対照の倍数として表す。その結果、コハク酸はLLC肺癌細胞(図19A)とA549、結腸(HT-29)、乳房(MCF-7)、前立腺癌細胞(PC3)の細胞遊走と浸潤を用量依存的に促進することが明らかになった(図19Bと19C)。
【0066】
また、コハク酸は癌細胞EMTにも影響する。要約すると、A549細胞をビヒクルまたはコハク酸(0.5、1および2.5mM)で24時間処理する。また、A549細胞を、指示された期間、ビヒクルまたはコハク酸(1mM)で処理する。細胞を溶解し、細胞溶解物を、E-カドヘリン、N-カドヘリン、ビメンチン、またはβ-アクチンに特異的な抗体で免疫ブロットする。一方、A549細胞を、メトホルミン(2mM)の有無にかかわらずコハク酸で24時間処理して、EMT阻害を評価し、細胞遊走を、トランスウェルアッセイを用いて決定する。コハク酸は濃度と時間依存的にE-カドヘリンとN-カドヘリンとビメンチンの増加を抑制する(図19Dと19E)。重要なことに、EMT阻害剤であるメトホルミンは、コハク酸誘導A549遊走を無効にする(図19F)。以上の結果から、癌細胞分泌コハク酸はオートクリン・パラクリン様式で作用し、EMT依存的な機構を介して癌細胞の遊走・浸潤を促進することが示唆された。
【0067】
腫瘍転移における腫瘍由来コハク酸の生理学的関連性は、同系マウスLLC腫瘍モデルにおいて決定される。LLC細胞をC57BL/6Jマウスに皮下注射し、続いてビヒクルまたはコハク酸(20および100mg/kg)を週2回腹腔内注射する。3週間後に皮下原発腫瘍を外科的に除去し、マウスをさらに2週間飼育し、その時点で動物を屠殺する。肺、肝臓、脾臓、副腎を切除し、転移を判定する。コハク酸を投与されたマウスでは(用量依存的に)、生理食塩水を投与されたマウスよりも肺の転移性癌結節が高い(図20A)。肝臓と脾臓の転移癌結節も同様にコハク酸処理動物で高い(図20B)。コハク酸投与動物では副腎転移の発生率が高いが、その差は統計的有意には達しない(p=0.088)(図20C)。
【0068】
(コハク酸誘導極性マクロファージは癌細胞遊走を増強する)
【0069】
マクロファージ表現型変化を介して間接的に癌細胞遊走を増加させるコハク酸として、癌細胞遊走に対するコハク酸誘導極性マクロファージの効果が評価される。マクロファージをコハク酸で3日間処理することによって誘導される極性化マクロファージを、トランスウェル培養皿中でLLC癌細胞と共培養し、癌細胞遊走をトランスウェルアッセイによって分析する。結果は、分極したマクロファージが、LLC細胞単培養と比較した場合、LLC細胞遊走を増強することを示す(図21A)。一方、IL-6濃度は共培養培地で増加するが、単培養培地では増加しない(図21B)。特に、分極マクロファージと共培養されたLLC細胞の増強された遊走能力は、共培養培地中のIL6を排除するための抗IL-6中和抗体(図21C)の添加によって排除される(図21D)。これらの結果は、極性マクロファージ媒介IL-6分泌がLLC遊走において中心的であることを示す。
【0070】
SUCNR1 siRNA758を一時的にトランスフェクトしたマクロファージをコハク酸で3日間処理し、これをLLC細胞と共培養する。対照siRNAをトランスフェクトしたマクロファージと比較して、SUCNR1 siRNA758をトランスフェクトしたマクロファージの細胞遊走は有意に減少する(図21E)。結果は、コハク酸誘導マクロファージ極性化が癌細胞移動の促進に寄与することを示唆する。
【0071】
(コハク酸はSUCNR1シグナル伝達を介して癌転移を促進する)
【0072】
SUCNR1へのコハク酸結合は、いくつかのシグナル伝達標的、特にマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)を活性化し、細胞内カルシウムおよびプロスタグランジンE2(PGE2)を増加させる。糖質が癌細胞SUCNR1を活性化することを確認するために、コハク酸によって刺激されたA549細胞のカノニックターゲットを分析する。A549/shNCおよびA549/shSUCNR1細胞を、示された期間コハク酸(1mM)で処理し、次いで細胞溶解物を、ERK1/2、ホスホ-ERK1/2に特異的な抗体で免疫ブロットする。コハク酸処理後、2分でリン酸化ERK1/2が急速に上昇し、これはSUCNR1 shRNAを安定にトランスフェクトしたA549では消失するが、対照RNAを安定にトランスフェクトしたA549では消失しない(図22A)。LLC/shNC、LLC/shSUCNR1、A549/shNC、およびA549/shSUCNR1細胞をさらにコハク酸(1mM)で2時間処理し、次いで細胞内カルシウムレベルおよび調整培地PGE2レベルを、それぞれカルシウム比色アッセイキットおよびPGE2 ELISAキットによって測定する。細胞内Ca2+は、A549またはLLC細胞をコハク酸で2時間処理した後に増加する(図22B)。しかし、SUCNR1 shRNAで安定にトランスフェクトされたいずれの細胞型においても、Ca2+濃度は上昇しない(図22B)。培地中に放出されるPGE2は、対照shRNAで安定にトランスフェクトされたLLC細胞において増加するが、SUCNR1 shRNAで安定にトランスフェクトされたLLC細胞においては増加しない(図22C)。これらの結果は、コハク酸がSUCNR1シグナル伝達標的を活性化するという解釈と一致する。
【0073】
SUCNR1を介して癌細胞遊走を誘導するコハク酸の能力をさらに評価する。LLC、A549、PC3、およびHT-29細胞を、対照IgGまたは抗SUCNR1抗体の有無にかかわらずコハク酸(1mM)で24時間処理し、遊走をトランスウェルアッセイによって決定する。LLC、A549、PC3およびHT-29細胞のコハク酸誘導遊走は、抗SUCNR1抗体によってブロックされるが、対照IgG抗体によってはブロックされない(図23A)。さらに、対照IgGまたは抗SUCNR1抗体を含むまたは含まないコハク酸(1mM)で処理したLLCおよびHT-29細胞の24時間の侵入を、マトリゲル浸潤アッセイを用いて決定する。結果は、コハク酸誘導性のLLCおよびHT-29の侵入が、IgG抗体によってではなく、SUCNR1抗体によって同様に阻害されることを示す(図23B)。
【0074】
次に、減少したSUCNR1発現を示したSUCNR1 shRNAで安定にトランスフェクトされたA549におけるコハク酸誘導細胞遊走および浸潤を分析する(安定な#3および#8、図24A)。対照shRNA(A549/shNC)またはSUCNR1 shRNA(A549/shSUCNR1)で安定にトランスフェクトされたA549細胞を、コハク酸(1mM)で24時間刺激する。細胞遊走および浸潤を、トランスウェルアッセイおよびマトリゲル浸潤アッセイによって測定する。結果は、コハク酸誘導A549遊走および浸潤がSUCNR1ノックダウンによって抑制されることを示す(図24B)。さらに、減少したSucnr1を発現するshSUCNR1(LLC/shSUCNR1)で安定にトランスフェクトされたLLCは、対照と比較して、コハク酸誘導細胞遊走を減少させた(図24Cおよび24D)。
【0075】
コハク酸増強転移におけるSUCNR1の役割をin vivoで調べるために、A549/shNCまたはA549/shSUCNR1細胞をヌードマウスの皮下に移植する。その後、マウスにコハク酸(100mg/kg)を週2回、8週間腹腔内注射する。56日目にマウスを安楽死させ、転移性結節検査のために肺組織を切除する。A549/shSUCNR1を接種したマウスでは、A549/shNCを接種した動物よりも肺転移結節が有意に低い(図24E)。同様に、LLC/shSUCNR1を接種したマウスでは、肺の転移結節が有意に減少する(図24F)。以上より、コハク酸はSUCNR1を介して癌転移を促進することが示唆された。
【0076】
(コハク酸はPI3K/AKTおよびHIF-1αシグナル伝達を介して癌転移を誘導する)
【0077】
MAPK-、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)-AKT-mTOR-、およびAMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)媒介低酸素誘導因子-1α(HIF-1α)アップレギュレーションはマクロファージ活性化および癌進行において重要な役割を果たす。したがって、これらのシグナル伝達分子がコハク酸の作用を媒介するかどうかを調べる。A549およびLLC細胞を、示された期間コハク酸(1mM)で処理し、次いで、細胞溶解物を、HIF-1α、Akt、ホスホ-Akt、AMPK、ホスホ-AMPK、p38 MAPK、ホスホ-p38 MAPK、またはβ-アクチンに特異的な抗体で免疫ブロットする。そして、コハク酸(1mM)で示された期間処理されたLLC細胞中のHif-1α mRNAをqPCRによって決定する。LLCおよびA549細胞において、コハク酸はp38 MAPK、AKT、AMPKのリン酸化を時間依存的に誘導し、HIF-1αタンパク質(図25A)およびmRNA発現を増加させる(図25B)。選択的キナーゼ阻害剤を用いて、LLC細胞を異なる濃度のLY294002またはSB202190で12時間処理し、Hif-1α mRNAを測定する。LLC細胞をLY294002またはSB202190で1時間前処理した後、LLC細胞をコハク酸(1mM)で12時間刺激し、Hif-1α mRNAを測定する。p38 MAPKではなくPI3K/AKTの阻害剤は、Hif-1αの構成的およびコハク酸誘導性発現を抑制することが見出される(図25Cおよび25D)。HIF-1α発現の駆動におけるSUCNR1の役割を理解するために、A549/shSUCNR1におけるHIF-1αの発現レベルを決定する。コハク酸(1mM)またはコハク酸ジメチルエステル(DMS、20mM)で12時間処理したA549/shNCおよびA549/shSUCNR1細胞におけるHIF-1α発現をqPCRによって測定する。HIF-1αのアップレギュレーションは、コハク酸処理A549/shNC細胞において観察される(図25E)。膜透過性コハク酸ジメチルエステル(DMS)で処理したA549/shNC細胞は、HIF-1αの上昇をもたらす。しかし、A549/shSUCNR1細胞では、コハク酸によって誘導されるがDMSによっては誘導されないHIF-1αの発現が消失する(図25F)ことから、コハク酸はSUCNR1依存的にHIF-1αの発現を誘導し、一方、DMSによって誘導されるHIF-1αの発現はSUCNR1非依存的であることが示唆される。
【0078】
HIF-1α経路はEMTの誘導を介して癌転移を媒介することが報告されているので、コハク酸がHIF-1α依存性シグナル伝達を介して肺癌細胞遊走とEMTを促進するかどうかを評価する。LLCおよびA549の肺癌細胞を異なった濃度のHIF-1α特殊阻害剤で処理し、トランスウェルアッセイで細胞遊走を評価する。HIF-1αの薬理学的阻害薬である2-MeOE2およびBay87-2243は、コハク酸を介したLLCおよびA549の遊走を用量依存的に阻害する(図26A)。プロリルヒドロキシラーゼ(PHD)は、HIF-1α中の2つの保存されたプロリン残基のヒドロキシル化によってHIF-1αタンパク質の安定性を制御し、それによってその分解を促進する。コハク酸誘導癌細胞遊走におけるHIF-1αの重要な役割を支持するさらなる証拠を提供するため、細胞遊走分析のために、細胞をPHD活性化剤α-ケトグルタル酸(α-KG)または阻害剤ジメチルオキサリルグリシン(DMOG)で処理する。α-KGは減少するが、DMOGはコハク酸介在細胞遊走を増加させる(図26Bおよび26C)。さらに、A549/shNCまたはA549/HIF-1α細胞中のHIF-1α mRNAをqPCRによって測定し、コハク酸(1mM)を用いて、または、用いずに処理したA549/shNCまたはA549/HIF-1α細胞の細胞遊走をトランスウェルアッセイによって決定する。結果は、コハク酸誘導A549s遊走がHIF-1αノックダウン(A549/shHIF-1α)によって抑制されるが、対照(A549/shNC)では抑制されないことを示す(図26D)。さらに、A549細胞をLY294002またはBay87-2243で1時間前処理し、ビヒクルまたはコハク酸(1mM)で24時間処理する。細胞溶解物を、E-カドヘリン、ビメンチン、または□-アクチンに特異的な抗体で免疫ブロットする。それは、Bay87-2243によるLY294002またはHIF-1αシグナル伝達によるPI3Kの遮断が、コハク酸媒介ビメンチン増大およびE-カドヘリン減少を抑制することを示す(図26Eおよび26F)。
【0079】
異種移植片A549/shHIF-1α腫瘍モデルを用いて、in vivoでのコハク酸誘導転移におけるHIF-1αの役割を確認する。A549/shNCまたはA549/HIF-1α細胞をヌードマウスの皮下に移植する。その後、マウスにコハク酸(100mg/kg)を週2回、8週間腹腔内注射する。A549/shHIF-1αを接種したマウスでは、A549/shNCを接種した動物よりも肺転移結節が有意に低い(図27A)。さらに、A549/shNCまたはA549/shHIF1-αの原発性皮下腫瘍から抽出した総タンパク質中のE‐カドヘリンおよびビメンチンのレベルは、E-カドヘリン、ビメンチン、または□-アクチンに特異的な抗体でイムノブロットすることによって測定される。結果は、原発性皮下A549/shHIF-1α腫瘍におけるコハク酸誘導E-カドヘリン減少およびビメンチン上昇が、A549/shNC腫瘍と比較して逆転することを示す(図27B)。まとめると、これらの結果は、コハク酸活性化SUCNR1がPI3K/AKTシグナル伝達を介してHIF-1α媒介EMTを誘導することにより癌転移を促進することを示唆する。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図16D
図16E
図16F
図16G
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
図18A
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図18C
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図19A
図19B
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図20A
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図20C
図21A
図21B
図21C
図21D
図21E
図22A
図22B
図22C
図23A
図23B
図24A
図24B
図24C
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図24F
図25A
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図26A
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図27A
図27B
【国際調査報告】