IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタルの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-14
(54)【発明の名称】蝸牛細胞を標的とする遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20221207BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20221207BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20221207BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20221207BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20221207BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20221207BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61P27/16
A61K35/76
C12N15/864 100Z
C12N15/12
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523048
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(85)【翻訳文提出日】2022-05-16
(86)【国際出願番号】 US2020056385
(87)【国際公開番号】W WO2021077115
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】62/923,398
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】515289842
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー, キャスリン クリスティーン
(72)【発明者】
【氏名】ベイ, カリム
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA34
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA34
(57)【要約】
本開示は、最適化された遺伝子治療ベクターを使用して蝸牛内の特定の細胞型を標的とする方法に関する。具体的には、本開示は、蝸牛細胞を特異的に標的とするための遺伝子治療ベクター、ならびに聴覚障害および聴覚消失関連障害を治療する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の蝸牛細胞に導入遺伝子を送達する方法であって、前記導入遺伝子をコードする遺伝子治療ベクターを投与することを含み、前記遺伝子治療ベクターが、静脈内送達、髄腔内送達、または脳脊髄液にアクセスする任意の送達方法を使用して前記対象に投与される、方法。
【請求項2】
前記蝸牛細胞が内有毛細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象における聴覚消失または聴覚消失関連障害を治療する方法であって、導入遺伝子をコードする遺伝子治療ベクターを前記対象に投与することを含み、前記遺伝子治療ベクターが、静脈内送達、髄腔内送達、または脳脊髄液にアクセスする任意の送達方法を使用して投与される、方法。
【請求項4】
前記聴覚消失関連障害が、ワーデンブルグ症候群(WS)、鰓弓耳腎スペクトラム障害、神経線維腫症2(NF2)、スティックラー症候群、アッシャー症候群I型、アッシャー症候群II型、アッシャー症候群III型、ペンドレッド症候群、ジャーベル・ランゲニールセン症候群、ビオチニダーゼ欠損症、レフサム病、アルポート症候群、聴覚喪失-ジストニア-視神経細胞障害症候群、またはモーア・トラネジャーグ症候群である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記対象が聴覚消失または聴覚消失関連障害を患っている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記聴覚消失関連障害が、ワーデンブルグ症候群(WS)、鰓弓耳腎スペクトラム障害、神経線維腫症2(NF2)、スティックラー症候群、アッシャー症候群I型、アッシャー症候群II型、アッシャー症候群III型、ペンドレッド症候群、ジャーベル・ランゲニールセン症候群、ビオチニダーゼ欠損症、レフサム病、アルポート症候群、聴覚喪失-ジストニア-視神経細胞障害症候群、またはモーア・トラネジャーグ症候群である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記導入遺伝子が、ヒトアトナール転写因子(ATOH1)(配列番号2)、オトフェルリン(配列番号4)、ギャップ結合タンパク質ベータ2(配列番号6)、ペンドリン(SLC26A)(配列番号8)、フォークヘッドボックス1(FOXG1)(配列番号10)、アクチビンAもしくはインヒビン(配列番号12)、フォリスタチン(FST)(配列番号14)、ガレクチン-1(配列番号19)、またはガレクチン-3(配列番号21)をコードする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記導入遺伝子が、ヒトアトナール転写因子(ATOH1)(配列番号2)、オトフェルリン(配列番号4)、ギャップ結合タンパク質ベータ2(配列番号6)、ペンドリン(SLC26A)(配列番号8)、フォークヘッドボックス1(FOXG1)(配列番号10)、アクチビンAもしくはインヒビン(配列番号12)、フォリスタチン(FST)(配列番号14)、ガレクチン-1(配列番号19)、またはガレクチン-3(配列番号21)に対するmiRNAまたはsiRNAである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子治療ベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVRH10、AAVRH74、AAV11、AAV12、AAV13、AAVTTもしくはAnc80、AAV7m8、またはそれらの誘導体である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記遺伝子治療ベクターが髄腔内送達を使用して投与され、前記方法が、前記遺伝子治療ベクターの投与後に前記対象をトレンデレンブルグ体位に置くことをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記遺伝子治療ベクターが、前記ベクターを前記脳脊髄液に直接適用する送達方法を使用して投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
対象の蝸牛細胞に導入遺伝子を送達するための組成物であって、前記組成物が、前記導入遺伝子をコードする遺伝子治療ベクターを含み、組成物が、静脈内送達、髄腔内送達、または脳脊髄液にアクセスする任意の送達方法のために配合される、組成物。
【請求項13】
前記蝸牛細胞が内有毛細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
対象における聴覚消失または聴覚消失関連障害を治療するための組成物であって、前記組成物が、導入遺伝子をコードする遺伝子治療ベクターを含み、前記組成物が、静脈内送達、髄腔内送達、または脳脊髄液にアクセスする任意の送達方法のために配合される、組成物。
【請求項15】
前記聴覚消失関連障害が、ワーデンブルグ症候群(WS)、鰓弓耳腎スペクトラム障害、神経線維腫症2(NF2)、スティックラー症候群、アッシャー症候群I型、アッシャー症候群II型、アッシャー症候群III型、ペンドレッド症候群、ジャーベル・ランゲニールセン症候群、ビオチニダーゼ欠損症、レフサム病、アルポート症候群、聴覚喪失-ジストニア-視神経細胞障害症候群、またはモーア・トラネジャーグ症候群である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記対象が聴覚消失または聴覚消失関連障害を患っている、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項17】
前記聴覚消失関連障害が、ワーデンブルグ症候群(WS)、鰓弓耳腎スペクトラム障害、神経線維腫症2(NF2)、スティックラー症候群、アッシャー症候群I型、アッシャー症候群II型、アッシャー症候群III型、ペンドレッド症候群、ジャーベル・ランゲニールセン症候群、ビオチニダーゼ欠損症、レフサム病、アルポート症候群、聴覚喪失-ジストニア-視神経細胞障害症候群、またはモーア・トラネジャーグ症候群である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記導入遺伝子が、ヒトアトナール転写因子(ATOH1)(配列番号2)、オトフェルリン(配列番号4)、ギャップ結合タンパク質ベータ2(配列番号6)、ペンドリン(SLC26A)(配列番号8)、フォークヘッドボックス1(FOXG1)(配列番号10)、アクチビンAもしくはインヒビン(配列番号12)、フォリスタチン(FST)(配列番号14)、ガレクチン-1(配列番号19)、またはガレクチン-3(配列番号21)をコードする、請求項12~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記導入遺伝子が、ヒトアトナール転写因子(ATOH1)(配列番号2)、オトフェルリン(配列番号4)、ギャップ結合タンパク質ベータ2(配列番号6)、ペンドリン(SLC26A)(配列番号8)、フォークヘッドボックス1(FOXG1)(配列番号10)、アクチビンAもしくはインヒビン(配列番号12)、フォリスタチン(FST)(配列番号14)、ガレクチン-1(配列番号19)またはガレクチン-3(配列番号21)に対するmiRNAまたはsiRNAである、請求項12~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記遺伝子治療ベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVRH10、AAVRH74、AAV11、AAV12、AAV13、AAVTTもしくはAnc80、AAV7m8、またはそれらの誘導体である、請求項12~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が対象への髄腔内送達のために配合され、前記対象が前記組成物の投与後にトレンデレンブルグ体位に置かれる、請求項12~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記ベクターを前記脳脊髄液に直接適用する送達方法を使用する投与のために配合される、請求項12~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
対象の蝸牛細胞に導入遺伝子を送達するための薬剤の調製のための遺伝子治療ベクターの使用であって、前記遺伝子治療ベクターが前記導入遺伝子をコードし、そこで、前記薬剤が、静脈内送達、髄腔内送達、または脳脊髄液にアクセスする任意の送達方法を使用して前記対象に投与するために配合される、使用。
【請求項24】
前記蝸牛細胞が内有毛細胞である、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
対象における聴覚消失または聴覚消失関連障害を治療するための薬剤の調製のための遺伝子治療ベクターの使用であって、前記遺伝子治療ベクターが導入遺伝子をコードし、前記薬剤が、静脈内送達、髄腔内送達、または脳脊髄液にアクセスする任意の送達方法のために配合される、使用。
【請求項26】
前記聴覚消失関連障害が、ワーデンブルグ症候群(WS)、鰓弓耳腎スペクトラム障害、神経線維腫症2(NF2)、スティックラー症候群、アッシャー症候群I型、アッシャー症候群II型、アッシャー症候群III型、ペンドレッド症候群、ジャーベル・ランゲニールセン症候群、ビオチニダーゼ欠損症、レフサム病、アルポート症候群、聴覚喪失-ジストニア-視神経細胞障害症候群、またはモーア・トラネジャーグ症候群である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記対象が聴覚消失または聴覚消失関連障害を患っている、請求項23または24に記載の使用。
【請求項28】
前記聴覚消失関連障害が、ワーデンブルグ症候群(WS)、鰓弓耳腎スペクトラム障害、神経線維腫症2(NF2)、スティックラー症候群、アッシャー症候群I型、アッシャー症候群II型、アッシャー症候群III型、ペンドレッド症候群、ジャーベル・ランゲニールセン症候群、ビオチニダーゼ欠損症、レフサム病、アルポート症候群、聴覚喪失-ジストニア-視神経細胞障害症候群、またはモーア・トラネジャーグ症候群である、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記導入遺伝子が、ヒトアトナール転写因子(ATOH1)(配列番号2)、オトフェルリン(配列番号4)、ギャップ結合タンパク質ベータ2(配列番号6)、ペンドリン(SLC26A)(配列番号8)、フォークヘッドボックス1(FOXG1)(配列番号10)、アクチビンAもしくはインヒビン(配列番号12)、フォリスタチン(FST)(配列番号14)、ガレクチン-1(配列番号19)またはガレクチン-3(配列番号21)をコードする、請求項23~28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記導入遺伝子が、ヒトアトナール転写因子(ATOH1)(配列番号2)、オトフェルリン(配列番号4)、ギャップ結合タンパク質ベータ2(配列番号6)、ペンドリン(SLC26A)(配列番号8)、フォークヘッドボックス1(FOXG1)(配列番号10)、アクチビンAもしくはインヒビン(配列番号12)、フォリスタチン(FST)(配列番号14)に対するmiRNAまたはsiRNAである、請求項23~28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
前記遺伝子治療ベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVRH10、AAVRH74、AAV11、AAV12、AAV13、AAVTTもしくはAnc80、AAV7m8、またはそれらの誘導体である、請求項23~30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項32】
前記薬剤が髄腔内送達のために配合され、前記対象が前記薬剤の投与後にトレンデレンブルグ体位に置かれる、請求項23~31のいずれか一項に記載の使用。
【請求項33】
前記薬剤が前記ベクターを前記脳脊髄液に直接適用する送達方法のために配合される、請求項23~31のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子的に提出された資料の参照による組み込み
本出願は、本開示の別個の部分として、参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、以下、54882_Seqlisting.txt、サイズ:81,037バイト、作成:2020年10月19日のように特定される、コンピュータ可読形態の配列表を含む。
【0002】
本開示は、最適化された遺伝子治療ベクターを使用して蝸牛内の特定の細胞型を標的とする方法に関する。具体的には、本開示は、蝸牛細胞を特異的に標的とするための遺伝子治療ベクター、ならびに聴覚障害および聴覚関連障害を治療する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
聴覚消失は世界中で一般的な感覚障害であり、言語習得前の聴覚喪失の多くは遺伝的原因によるものである。遺伝性聴覚消失に関連する300を超える遺伝子座、および100を超える原因遺伝子も特定されている。したがって、遺伝子治療は聴覚消失のための魅力的な治療法である。しかし、成人の哺乳類の蝸牛の感覚細胞は自己複製能力を欠いており、侵襲的な投与方法がこれらの細胞への損傷を増大させる可能性がある。
【0004】
人間の内耳は、体の中で最も密度の高い骨に包まれ、頭蓋底の奥深くに位置する、小さな3次元的に複雑な液体で満たされた構造である。音からの音響エネルギーは、鼓膜および中耳の耳小骨鎖の振動を介して蝸牛の体液に伝達され、基底膜に沿って進行する波を生成する。蝸牛の長さおよび基底膜の硬さにより、可聴周波数の区別が可能になる。これは次に、有毛細胞、コルチ器に位置する特殊な感覚細胞によるメカノトランスダクションの活性化につながり、機械的刺激を電気的脱分極に変える。次に、内有毛細胞(IHC)によって開始された電気信号は、聴覚神経を構成するらせん神経節ニューロン(SGN)によって処理され、最終的に側頭葉の聴覚皮質でデコードされる1。
【0005】
コルチ器には、2つのクラスの感覚有毛細胞が含まれている。音によって運ばれる機械的情報を神経構造に伝達される電気信号に変換する内有毛細胞(IHC)、ならびに複雑な聴覚機能に必要なプロセスである、蝸牛応答を増幅および調整する外有毛細胞(OHC)である。内耳の他の潜在的な標的には、らせん神経節ニューロン、隣接する蓋膜の維持に重要ならせん板縁の柱状細胞、および保護機能を有し、新生児の初期段階まで有毛細胞への分化転換を誘発することができる支持細胞が含まれる。
【0006】
内耳は、液体で満たされた空間にアクセスするのが困難である。血液迷路バリアを含む、内有毛細胞へのアクセスには重大な物理的および拡散バリアがあり、したがって、内耳への治療薬の全身送達は制限されている。血液迷路は、ウイルスベクターおよび他の遺伝子治療試薬などの大きな分子の分布を遅らせる可能性がある。さらに、バリアの破壊は、有毛細胞の基底外側表面を浸すリンパ周囲空間への高カリウムの漏出につながる可能性があり、ニューロンはこれらの細胞を慢性的に脱分極させ、細胞死につながる可能性がある。さらに、内リンパと外リンパとの間の密着結合の破れは、蝸牛内電位の低下につながる可能性があり、それは、有毛細胞における感覚伝達の推進力を低下させ、したがって、蝸牛感度の低下および聴覚閾値の上昇をもたらす。(Ahmed et al.,J Assoc Res Otolaryngol.18(5):649-670,2017を参照されたい)。
【0007】
遺伝子治療のための有毛細胞への直接アクセスは、蝸牛管へのベクター注射によって達成され得るとの仮説が立てられている。ただし、蝸牛管への直接注射は、管内の繊細な高カリウム内リンパ液を変化させ、それによって蝸牛内電位を破壊し、感覚細胞の損傷および不可逆的な聴覚消失を引き起こす可能性がある。蝸牛管、鼓室階、および前庭階を取り巻く外リンパで満たされた空間には、中耳から卵円窓膜または正円窓膜(RWM)を介してアクセスできる。内耳への唯一の非骨開口部であるRWMは、多くの動物モデルで比較的簡単にアクセスでき、この経路を使用したウイルスベクターの投与は十分に許容されている(Askew et al.,Sci Transl Med.7(295):295ra108,2015、Chien et al.,Mol Ther.24(1):17-25,2016、Chien et al.,Laryngoscope.;125(11):2557,201)。
【0008】
アデノウイルス、AAV、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルスI、ワクシニアウイルスなどのウイルス遺伝子治療ベクターは蝸牛で試験されており、これらのベクターは一過性または次善の遺伝子導入のみをもたらした(Fukui&Rapheal,Hear Res.297:99-105,2013)。現在までのところ、アデノウイルスのみが臨床プログラムに進んでいる(Luebke et al.Adv.Otorhinolaryngol:87-98,2009)。異なる投与経路を介したインビボ内耳注射のAAV血清型に関する以前の研究は、特にRWM注射を介した外有毛細胞(OHC)の標的化の難しさを浮き彫りにし(Liu et al.,Mol Ther.12(4):725-33,2005)、遺伝性聴覚喪失のマウスモデルにおける聴覚の部分的な救済のみをもたらした(Akil et al.,Neuron.75(2):283-93,2012、Askew et al.,Science Trans.Med.7:295ra108、2015、Chien et al.Mol Ther.24(1):17-25、2016)。AAVベクターAnc80L65は、正円窓膜への注射を介して投与された場合、OHCを高効率で形質導入することが示された(Landegger et al.,Biotechnology 35(3):280-284,2017)。
【0009】
特に、遺伝子治療ベクターを蝸牛内の内有毛細胞に標的化することには多くの困難がある。例えば、蝸牛には非常に少数の内有毛細胞がある。さらに、有毛細胞は増殖せず、有毛細胞の最終的な数は発生の初期に到達し、その数は後年に増加することはない。
【0010】
現在、聴覚消失の生物学的治療はない。現在の最先端の治療は、聴覚神経を刺激する音の増幅および埋め込まれた電極に焦点を当てている。これらの戦略は、限られた患者集団の機能の部分的な回復を提供するが、自然な聴力の回復には近づかない。したがって、蝸牛細胞に侵襲的または損傷を与えない、蝸牛内のコルチ器の関連する細胞型に遺伝子治療ベクターを送達する方法の開発が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Ahmed et al.,J Assoc Res Otolaryngol.18(5):649-670,2017
【非特許文献2】Askew et al.,Sci Transl Med.7(295):295ra108,2015
【非特許文献3】Chien et al.,Mol Ther.24(1):17-25,2016
【非特許文献4】Chien et al.,Laryngoscope.;125(11):2557,201
【非特許文献5】Fukui&Rapheal,Hear Res.297:99-105,2013
【非特許文献6】Luebke et al.Adv.Otorhinolaryngol:87-98,2009
【非特許文献7】Liu et al.,Mol Ther.12(4):725-33,2005
【非特許文献8】Akil et al.,Neuron.75(2):283-93,2012
【非特許文献9】Landegger et al.,Biotechnology 35(3):280-284,2017
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、蝸牛の特定の細胞型を標的とする遺伝子治療ベクターを提供する。これらの遺伝子治療ベクターは、蝸牛内の細胞に導入遺伝子を送達するのに有用である。本開示は、静脈内送達、鼓室内送達もしくは髄腔内送達などの全身送達、またはベクターを脳脊髄液に直接適用するために使用される任意の他の送達方法を使用して、遺伝子治療ベクターを投与することを含む、聴覚消失を治療する方法を提供する。特定の細胞型を標的とする遺伝子治療法は、聴覚消失の治療について利点を有する。
【0013】
「聴覚消失」という用語は「聴覚障害」という用語と交換可能であり、これらの用語は、聴力検査によって通常の聴覚の閾値レベルを下回っていると判断された聴覚を指す。
【0014】
本開示は、対象の蝸牛細胞に導入遺伝子を送達する方法であって、導入遺伝子をコードする遺伝子治療ベクターを対象に投与することを含み、遺伝子治療ベクターが、静脈内(IV)送達、鼓室内送達、髄腔内送達、またはベクターを脳脊髄液に直接適用するために使用される任意の他の送達方法などの全身送達を使用して対象に投与される、方法を提供する。例えば、開示された方法は、内有毛細胞、外有毛細胞、神経節細胞、支持細胞、ダイテルス細胞、柱状細胞および/または上皮細胞などの蝸牛細胞に導入遺伝子を送達することをもたらす。
【0015】
本開示はまた、遺伝性聴覚消失、加齢性聴覚消失、または傷害もしくは疾患に関連する聴覚消失などの聴覚消失を治療する方法であって、導入遺伝子をコードする遺伝子治療ベクターを対象に投与することを含み、遺伝子治療ベクターが、静脈内(IV)送達、鼓室内送達、髄腔内送達、またはベクターを脳脊髄液に直接適用するために使用される任意の他の送達方法などの全身送達を使用して投与される、方法を提供する。提供される方法は、遺伝子変異によって引き起こされた聴覚消失または損傷によって引き起こされた聴覚消失を治療する。
【0016】
例えば、本開示は、ワーデンブルグ症候群(WS)、鰓弓耳腎スペクトラム障害、神経線維腫症2(NF2)、スティックラー症候群、アッシャー症候群I型、アッシャー症候群II型、アッシャー症候群III型、ペンドレッド症候群、ジャーベル・ランゲニールセン症候群、ビオチニダーゼ欠乏症、レフサム病、アルポート症候群、聴覚喪失-ジストニア-視神経細胞障害症候群、またはモーア・トラネジャーグ症候群などの聴覚消失関連障害を患っている対象を治療する方法を提供する。
【0017】
本開示はまた、対象の蝸牛細胞に導入遺伝子を送達するための組成物であって、組成物が、導入遺伝子をコードする遺伝子治療ベクターを含み、組成物が、静脈内(IV)送達、鼓室内送達、髄腔内送達、またはベクターを脳脊髄液に直接適用するために使用される任意の他の送達方法などの全身送達を使用して投与するために配合される、組成物を提供する。例えば、開示された組成物は、内有毛細胞、外有毛細胞、神経節細胞、支持細胞、ダイテルス細胞、柱状細胞および/または上皮細胞などの蝸牛細胞に導入遺伝子を送達する。
【0018】
本開示はまた、遺伝性聴覚消失、加齢性聴覚消失、または傷害もしくは疾患に関連する聴覚消失などの聴覚消失を治療するための組成物であって、組成物が、導入遺伝子をコードする遺伝子治療ベクターを含み、組成物が、静脈内(IV)送達、鼓室内送達、髄腔内送達、またはベクターを脳脊髄液に直接適用するために使用される任意の他の送達方法などの全身送達のために配合される、組成物を提供する。提供される組成物は、遺伝子変異によって引き起こされた聴覚消失または損傷によって引き起こされた聴覚消失を治療するのに有用である。
【0019】
例えば、本開示は、ワーデンブルグ症候群(WS)、鰓弓耳腎スペクトラム障害、神経線維腫症2(NF2)、スティックラー症候群、アッシャー症候群I型、アッシャー症候群II型、アッシャー症候群III型、ペンドレッド症候群、ジャーベル・ランゲニールセン症候群、ビオチニダーゼ欠損症、レフサム病、アルポート症候群、聴覚喪失-ジストニア-視神経細胞障害症候群、またはモーア・トラネジャーグ症候群などの聴覚消失関連疾患を患っている対象を治療するための組成物を提供する。
【0020】
本開示はまた、対象の蝸牛細胞に導入遺伝子を送達するための薬剤の調製のための導入遺伝子をコードする遺伝子治療ベクターの使用であって、遺伝子治療が導入遺伝子をコードし、薬剤が静脈内(IV)送達、鼓室内送達、髄腔内送達、またはベクターを脳脊髄液に直接適用するために使用される任意の他の送達方法などの全身送達のために配合される、使用を提供する。例えば、開示された遺伝子治療ベクターの使用は、内有毛細胞、外有毛細胞、神経節細胞、支持細胞、ダイテルス細胞、柱状細胞および上皮細胞などの蝸牛細胞への導入遺伝子の送達をもたらす。
【0021】
本開示はまた、遺伝性聴覚消失、加齢性聴覚消失、または傷害もしくは疾患に関連する聴覚消失などの聴覚消失を治療するための薬剤の調製のための遺伝子治療ベクターの使用であって、対象に導入遺伝子をコードする遺伝子治療ベクターを投与することを含み、薬剤が、静脈内(IV)送達、鼓室内送達、髄腔内送達、またはベクターを脳脊髄液に直接適用するために使用される任意の他の送達方法などの全身送達のために配合される、使用を提供する。例えば、開示された遺伝子治療ベクターは、遺伝子変異によって引き起こされた聴覚消失または損傷によって引き起こされた聴覚消失を治療するための薬剤の調製のために使用することができる。
【0022】
例えば、本開示は、ワーデンブルグ症候群(WS)、鰓弓耳腎スペクトラム障害、神経線維腫症2(NF2)、スティックラー症候群、アッシャー症候群I型、アッシャー症候群II型、アッシャー症候群III型、ペンドレッド症候群、ジャーベル・ランゲニールセン症候群、ビオチニダーゼ欠損症、レフサム病、アルポート症候群、聴覚喪失-ジストニア-視神経細胞障害症候群、またはモーア・トラネジャーグ症候群などの聴覚消失関連疾患を患っている対象を治療するための薬剤を提供する。
【0023】
目的の任意の導入遺伝子を蝸牛細胞に送達するための、開示された方法、組成物および使用。導入遺伝子は、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であるか、またはsiRNAもしくはmiRNAなどの目的の遺伝子の発現を阻害、抑制、または沈静化する核酸である。例示的な導入遺伝子は、ヒトアトナール転写因子(ATOH1)(Genbankアクセッション番号NM_005172.2;配列番号2)、オトフェルリン(配列番号4)、ギャップ結合タンパク質ベータ2(Genbankアクセッション番号NM_004004.6;配列番号6)、ペンドリン(SLC26A)(Genebankアクセッション番号XM_006716025.3;配列番号8)、フォークヘッドボックス1(FOXG1)(Genebankアクセッション番号NM_005249;配列番号10)、アクチビンAもしくはインヒビン(Genebankアクセッション番号NM_002192;配列番号12)、フォリスタチン(FST)(配列番号14)、ガレクチン-1(Genbankアクセッション番号NM_002305.4;配列番号19)、またはガレクチン-3(Genbankアクセッション番号AB006780.1;配列番号20)をコードするポリヌクレオチドである。さらに、導入遺伝子は、本明細書の表1、表2、表3、表4または表5に記載されている遺伝子の野生型ヌクレオチド配列である。
【0024】
開示された方法、組成物または使用のいずれかにおいて、遺伝子治療ベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVRH10、AAVRH74、AAV11、AAV12、AAV13、AAVTTまたはAnc80、AAV7m8、およびそれらの誘導体である。
【0025】
開示された方法のいずれにおいても、遺伝子治療ベクターは、CBプロモーター(配列番号1)、P546プロモーター(配列番号16)、CMVプロモーター(配列番号17またはMyo7Aプロモーター(配列番号18)を含む。
【0026】
さらに、開示された方法、組成物または使用のいずれかにおいて、遺伝子治療ベクター、組成物または薬剤は、髄腔内送達を使用して投与され、対象は、遺伝子治療ベクター、組成物または薬剤の投与後にトレンデレンブルグ体位に置かれる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本開示で試験されたAAVベクターの概略図を提供する。
図2】ベクターの髄腔内注射後の蝸牛へのGFP導入遺伝子の送達を示している。蝸牛の矢状凍結切片は、DAPIおよびGFPで染色される。ヘマトキシリンおよびエオシン染色は、参照用にのみ提供される。
図3】AAVベクターの髄腔内注射後、4匹の異なるマウス(shx2IT-LF、shx2IT-2F、shx2IT-LE、およびshx2IT-LFLR)の蝸牛におけるDAPIおよびGFPの染色を提供する。
図4】AAVベクターの髄腔内注射後のマウスの蝸牛におけるDAPIおよびGFPの染色を提供し、マウスの蝸牛の異なる領域が示される。
図5】AAVベクターの髄腔内注射後のマウスの蝸牛におけるDAPI、GFPおよびアクチンの染色を提供する。
図6】DAPIおよびGFPの髄腔内注射後のマウスの蝸牛におけるDAPIおよびGFPの染色を提供する。この場合のカットは、蝸牛の様々な領域全体の標的化を視覚化できるように、様々な方向に向けられている。
図7】髄腔内注射後のマウスの蝸牛におけるDAPIおよびGFPの染色を提供する。この場合のカットは、蝸牛の様々な領域全体の標的化を視覚化できるように、様々な方向に向けられている。
図8】髄腔内注射後のマウスの蝸牛前庭におけるDAPI、GFPおよびアクチンの染色を提供する。
図9】傷害の原因となるノイズに曝露されたマウスの蝸牛におけるDAPI、GFPおよびアクチン(ファロイジン)の染色を提供し、ノイズへの曝露の直後にAAVを注射した。番号が付けられたセクションは、より高い倍率で画像化された領域である。
図10】傷害の原因となるノイズに曝露されたマウスの蝸牛におけるDAPI、GFPおよびアクチン(ファロイジン)の染色を提供し、ノイズへの曝露の直後にAAVを注射した。1とラベル付けされたセクションは、より高い倍率で画像化された蝸牛の領域である。
図11】傷害の原因となるノイズに曝露されたマウスの蝸牛におけるDAPI、GFPおよびアクチン(ファロイジン)の染色を提供し、ノイズへの曝露の直後にAAVを注射した。番号が付けられたセクションは、より高い倍率で画像化された領域である。
図12】傷害の原因となるノイズに曝露されたマウスの蝸牛におけるDAPI、GFPおよびアクチン(ファロイジン)の染色を提供し、ノイズへの曝露の直後にAAVを注射した。番号が付けられたセクションは、より高い倍率で画像化された領域である。
図13】ノイズに曝露されたマウスの蝸牛におけるDAPI、GFPおよびmyo7Aの染色を提供し、ノイズへの曝露24時間後にAAVを髄腔内注射した。
図14】ノイズに曝露されたマウスの蝸牛におけるDAPI、GFPおよびmyo7Aの染色を提供し、ノイズへの曝露24時間後にAAVを髄腔内注射した。番号が付けられたセクションは、より高い倍率で画像化された領域である。
図15】ノイズに曝露された複数のマウスの蝸牛におけるDAPI、GFPおよびmyo7Aの染色を提供し、ノイズに曝された直後(0hpi)または24時間(24hpi)にAAVを髄腔内注射した。
図16】ノイズに曝露されたマウスの蝸牛におけるDAPIおよびGFPの染色を提供し、ノイズに曝露された直後(0hpi)にAAVを注射した。この写真は、24hpiのIT注射マウスの最適な曝露で画像化されている。この写真は、24hpiの最適な曝露での画像化が0hpiを過剰曝露するため、24hpiの髄腔内注射動物のGFP発現が0hpiの髄腔内注射動物よりも低いことを示している。
図17】蝸牛神経のヘマトキシリンおよびエオシン染色を提供する。略語は、コルチ器の構造の位置を示している。SL=らせん板縁、TM=蓋膜、OHC=外有毛細胞、IHC=内有毛細胞、BM=基底膜。
図18】AAVの静脈内注射後のマウスの蝸牛におけるDAPIおよびGFPの染色を提供する。
図19】AAVの静脈内注射後の複数のマウスからの蝸牛におけるDAPI、GFPおよびMyoDの染色を提供する。各パネルは、異なるマウスからの蝸牛の画像である(上の行は10倍、下の行は20倍である)
図20】ノイズによる損傷なしにAAVを静脈内注射した後のマウスの蝸牛におけるDAPIおよびGFPの染色を提供する。
図21】ノイズによる損傷なしにAAVを静脈内注射した後のマウスの蝸牛におけるDAPIおよびGFPの染色を提供する。
図22】ノイズによる損傷なしにAAVを静脈内注射した後のマウスの蝸牛におけるDAPIおよびGFPの染色を提供する。
図23】ノイズによる損傷に曝露されたが、AAVの静脈内注射を受けなかった対照マウスの蝸牛におけるDAPIおよびGFPの染色を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示は、聴覚消失障害を治療するために蝸牛を標的とするためのAAV遺伝子治療の最適化を提供する。本明細書で提供されるデータは、AAV9ベクターの投与に焦点を合わせているが、本開示は、蝸牛細胞を特異的に標的とするプロモーターを含む任意の遺伝子治療ベクターを使用することを企図し、これらの最適化されたベクターは、静脈内(IV)送達または髄腔内送達または脳脊髄液(CSF)にアクセスする任意の他の送達を使用して投与される。例えば、データは、髄腔内注射を介して脳脊髄液に直接注射されたAAV9が、蝸牛の内有毛細胞における導入遺伝子の発現を標的とするのに効果的であることを示した。したがって、髄腔内注射は、遺伝子治療ベクターを蝸牛に送達するために、特に遺伝子治療ベクターを内有毛細胞に送達するために使用することができる。
【0029】
遺伝子治療ベクター
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、2つの145個のヌクレオチドの逆方向末端反復(ITR)を含む約4.7kbの長さであり、ウイルス自体またはその誘導体を指すように使用することができる。この用語は、他に特定されない限り、すべてのサブタイプ、ならびに天然に存在する形態および組換え形態の両方を包含する。AAVの複数の血清型がある。AAVの血清型は、各々特定のクレードと関連しており、そのメンバーは血清学的および機能的類似性を共有している。したがって、AAVはクレードによって称されてもよい。例えば、AAV9配列は「クレードF」配列と呼ばれる(Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004))。本開示は、特定のクレード、例えばクレードF内の任意の配列の使用を企図する。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は知られている。例えば、AAV-1の完全なゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_002077に提供されており、AAV-2の完全なゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_001401およびSrivastava et al.,J.Virol.,45:555-564(1983)に提供されており、AAV-3の完全なゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_1829に提供されており、AAV-4の完全なゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_001829に提供されており、AAV-5ゲノムは、GenBankアクセッション番号AF085716に提供されており、AAV-6の完全なゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_001862に提供されており、AAV-7およびAAV-8ゲノムの少なくとも一部は、それぞれ、GenBankアクセッション番号AX753246およびAX753249に提供されており、AAV-9ゲノムは、Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)に提供されており、AAV-10ゲノムは、Mol.Ther.,13(1):67-76(2006)に提供されており、AAV-11ゲノムは、Virology,330(2):375-383(2004)に提供されており、AAV-12ゲノムの一部は、GenBankアクセッション番号DQ813647に提供されており、AAV-13ゲノムの一部は、GenBankアクセッション番号EU285562に提供されている。AAV rh.74ゲノムの配列は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第9,434,928号に提供されている。AAV-B1ゲノムの配列は、Choudhury et al.,Mol.Ther.,24(7):1247-1257(2016)に提供されている。Anc80は、AAV1、AAV2、AAV8、およびAAV9のAAVベクターである。Anc80の配列は、両方とも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Zinn et al.,Cell Reports 12:1056-1068,2015、Vandenberghe et al、PCT/US2014/060163、およびGenBankアクセッション番号KT235804-KT235812に提供されている。
【0030】
ウイルスDNA複製(rep)、キャプシド形成/パッケージング、および宿主細胞染色体組み込みを指示するCis作用配列は、ITR内に含有される。3つのAAVプロモーター(それらの相対マップ位置に対してp5、p19、およびp40と名付けられる)は、repおよびcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。単一のAAVイントロンの差異的スプライシング(ヌクレオチド2107および2227における)と結合した、2つのrepプロモーター(p5およびp19)は、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、およびrep40)を産生する。repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムの複製に関与する複数の酵素特性を有する。cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、3つのキャプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3をコードする。選択的スプライシングおよび非コンセンサス翻訳開始部位は、3つの関連キャプシドタンパク質の産生に関与する。単一コンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVのライフサイクルおよび遺伝学は、Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)において概説されている。
【0031】
AAVは、例えば、遺伝子治療において、外来DNAを細胞に送達するためのベクターとしてそれを魅力的にする固有の特徴を有する。培養中の細胞のAAV感染は非細胞変性であり、ヒトおよび他の動物の自然感染はサイレントおよび無症候性である。さらに、AAVは、多くの哺乳動物細胞を感染させ、インビボで多くの異なる組織を標的とする可能性を許容にする。さらに、AAVは、緩徐に分裂する細胞および非分裂細胞を形質導入し、転写的に活性な核エピソーム(染色体外要素)として本質的にそれらの細胞の寿命にわたって存続し得る。天然のAAVプロウイルスゲノムは、組換えゲノムの構築を実現可能にするプラスミド中のクローン化DNAとして感染性である。さらに、AAV複製、ゲノムキャプシド形成および組み込みを指示するシグナルがAAVゲノムのITR内に含有されるので、ゲノムの内部約4.3kb(複製および構造キャプシドタンパク質、rep-capをコードする)の一部またはすべては、プロモーター、目的のDNAおよびポリアデニル化シグナルを含有する遺伝子カセットのような外来DNAと置き換えられ得る。いくつかの場合において、repおよびcapタンパク質は、トランスで提供される。AAVの別の重要な特徴は、それが極めて安定した頑健なウイルスであることである。これは、アデノウイルスを不活性化するために使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐え、AAVの低温保存の重要性を低くする。AAVは、凍結乾燥され得る。最後に、AAV感染細胞は、重複感染に耐性を示さない。
【0032】
本明細書で使用される「AAV」という用語は、野生型AAVウイルスまたはウイルス粒子を指す。「AAV」、「AAVウイルス」、および「AAVウイルス粒子」という用語は、本明細書では交換的に使用される。「rAAV」という用語は、組換えAAVウイルス、または組換え感染性のカプセル化ウイルス粒子を指す。「rAAV」、「rAAVウイルス」、および「rAAVウイルス粒子」という用語は、本明細書では交換的に使用される。
【0033】
「rAAVゲノム」という用語は、修飾されている天然のAAVゲノムに由来するポリヌクレオチド配列を指す。いくつかの実施形態において、rAAVゲノムは、天然のcapおよびrep遺伝子を除去するために修飾されている。いくつかの実施形態において、rAAVゲノムは内因性5’および3’逆方向末端反復(ITR)を含む。いくつかの実施形態において、rAAVゲノムは、AAVゲノムが由来するAAV血清型とは異なるAAV血清型からのITRを含む。いくつかの実施形態において、rAAVゲノムは、逆方向末端反復(ITR)によって5’末端および3’末端に隣接した目的の導入遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、rAAVゲノムは、「遺伝子カセット」を含む。
【0034】
「scAAV」という用語は、自己相補的ゲノムを含むrAAVウイルスまたはrAAVウイルス粒子を指す。「ssAAV」という用語は、一本鎖ゲノムを含むrAAVウイルスまたはrAAVウイルス粒子を指す。
【0035】
本明細書に提供されるrAAVゲノムは、いくつかの実施形態において、導入遺伝子ポリヌクレオチド配列に隣接する1つ以上のAAV ITRを含む。導入遺伝子ポリヌクレオチド配列は、遺伝子カセットを形成するために標的細胞内で機能的である転写制御要素(プロモーター、エンハンサーおよび/またはポリアデニル化シグナル配列を含むが、これらに限定されない)に作動可能に連結されている。プロモーターの例は、CMVプロモーター、ニワトリβアクチンプロモーター(CB)、P546プロモーター、およびMyo7Aプロモーターである。シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長い末端反復(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン-バールウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにヒト遺伝子プロモーター(例えば、限定されないが、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、伸長因子-1aプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、およびクレアチンキナーゼプロモーターなど)を含むが、これらに限定されない追加のプロモーターが本明細書で企図される。
【0036】
さらに、本明細書では、CMVプロモーター配列、CBプロモーター配列、P546プロモーター配列、Myo7Aプロモーター配列、および転写促進活性を示すCMV(配列番号17)、CB(配列番号1)、Myo7A(配列番号18)、またはP546(配列番号16)配列のヌクレオチド配列に対して少なくとも65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一のプロモーター配列が提供される。
【0037】
転写制御要素の他の例は、組織特異的制御要素、例えば、ニューロン内での特異的発現を可能にするか、または星状細胞内での特異的発現を可能にするプロモーターである。例としては、ニューロン特異的エノラーゼおよびグリア線維性酸性タンパク質プロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターもまた、企図される。誘導性プロモーターの非限定的な例としては、メタロチオネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、およびテトラサイクリン調節プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。遺伝子カセットはまた、哺乳動物細胞中で発現されたときに導入遺伝子RNA転写物のプロセシングを容易にするためのイントロン配列を含んでもよい。このようなイントロンの一例は、SV40イントロンである。
【0038】
「パッケージング」とは、AAV粒子の組み立ておよびキャプシド形成をもたらす一連の細胞内事象を指す。「産生」という用語は、パッケージング細胞によるrAAV(感染性のカプセル化されたrAAV粒子)を産生するプロセスを指す。
【0039】
AAV「rep」および「cap」遺伝子は、それぞれアデノ随伴ウイルスの複製タンパク質およびキャプシド形成タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を指す。AAV repおよびcapは、本明細書においてAAV「パッケージング遺伝子」と称される。
【0040】
AAVについての「ヘルパーウイルス」は、AAV(例えば、野生型AAV)が哺乳動物細胞によって複製およびパッケージングされることを可能にするウイルスを指す。アデノウイルス、ヘルペスウイルス、およびワクシニアなどのポックスウイルスを含む、AAVに対する様々なこのようなヘルパーウイルスは、当該技術分野において既知である。アデノウイルスは、多数の異なるサブグループを包含し得るが、サブグループCのアデノウイルス5型が最も一般的に使用される。ヒト、非ヒト哺乳動物、およびトリ起源の多数のアデノウイルスは既知であり、ATCCなどの寄託機関から入手可能である。ヘルペス科のウイルスには、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)およびエプスタイン-バールウイルス(EBV)、ならびにサイトメガロウイルス(CMV)および偽狂犬病ウイルス(PRV)が含まれ、これらはATCCなどの寄託機関からも入手可能である。
【0041】
「ヘルパーウイルス機能)」とは、(本明細書に記載の複製およびパッケージングのための他の要件と併せて)AAV複製およびパッケージングを可能にするヘルパーウイルスゲノムにコードされている機能を指す。本明細書中に記載されるように、「ヘルパーウイルス機能」は、ヘルパーウイルスを提供すること、または例えば必要な機能をコードするポリヌクレオチド配列をトランスでプロデューサー細胞に提供することによるものを含む多数の方法で提供され得る。
【0042】
本明細書で提供されるrAAVゲノムは、AAV repおよびcap DNAを欠く。本明細書に企図されるrAAVゲノム(例えば、ITR)内のAAV DNAは、AAV血清型Anc80、Anc80L65、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV7mb、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-RH10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV rh.74、およびAAV-B1ならびにそれらの誘導体を含むが、これらに限定されない、組換えウイルスを導出するのに好適な任意のAAV血清型からであり得る。上記されるように、様々なAAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が、当該技術分野において既知である。キャプシド変異を有するrAAVもまた企図される。例えば、Marsic et al.,Molecular Therapy,22(11):1900-1909(2014)を参照されたい。本明細書における修飾キャプシドもまた企図され、グリコシル化および脱アミド化などの種々の翻訳後修飾を有するキャプシドを含む。アスパラギンまたはグルタミン側鎖を脱アミド化してアスパラギン残基をアスパラギン酸またはイソアスパラギン酸残基に変換すること、およびグルタミンをグルタミン酸またはイソグルタミン酸に変換することは、本明細書に提供されるrAAVキャプシドにおいて企図される。例えば、Giles et al.Molecular Therapy,26(12):2848-2862(2018)を参照されたい。本明細書における修飾キャプシドもまた、治療を必要とする罹患組織および臓器にrAAVを指向させる標的化配列を含むと企図される。
【0043】
本明細書で提供されるDNAプラスミドは、本明細書に記載されるrAAVゲノムを含む。DNAプラスミドは、AAV9キャプシドタンパク質を用いて感染性ウイルス粒子中にrAAVゲノムを組み立てるために、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠損アデノウイルス、またはヘルペスウイルス)による感染を許容することができる細胞に導入され得る。パッケージングされるべきrAAVゲノム、repおよびcap遺伝子、およびヘルパーウイルス機能が細胞に提供されるrAAVを産生する技術は、当該技術分野において標準的である。rAAV粒子の産生は、以下の成分、rAAVゲノム、rAAVゲノムから分離した(すなわち、その中に存在しない)AAV repおよびcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能が、単一細胞(本明細書でパッケージング細胞と表される)内に存在することを必要とする。AAV repおよびcap遺伝子は、組換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来してもよく、rAAVゲノムITRとは異なるAAV血清型に由来してもよい。偽型rAAVの産生は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるWO01/83692に開示される。様々な実施形態において、AAVキャプシドタンパク質は、組換えrAAVの送達を増強するために修飾され得る。キャプシドタンパク質に対する修飾は、一般的に当該技術分野において既知である。例えば、その開示全体が参照により本明細書に組み入れられる、US2005/0053922およびUS2009/0202490を参照されたい。
【0044】
パッケージング細胞を生成する方法は、rAAVの産生に必要な成分をすべて安定して発現する細胞株を作製することである。例えば、AAV repおよびcap遺伝子を欠くrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離したAAV repおよびcap遺伝子、ならびにネオマイシン耐性遺伝子などの選択可能なマーカーを含むプラスミド(または複数のプラスミド)は、細胞のゲノムに組み込まれてもよい。rAAVゲノムは、GCテーリング(Samulski et al.,1982,Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含有する合成リンカーの付加(Laughlin et al.,1983,Gene,23:65-73)、または直接平滑末端ライゲーション(Senapathy&Carter,1984,J.Biol.Chem.,259:4661-4666)などの手順により細菌プラスミドに導入されてもよい。その後、パッケージング細胞株は、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスで感染させられ得る。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模産生に好適であることである。好適な方法の他の非限定的な例は、rAAVゲノムならびに/またはrepおよびcap遺伝子をパッケージング細胞に導入するためにプラスミドではなくアデノウイルスまたはバキュロウイルスを用いる。
【0045】
rAAV粒子産生の一般的原理は、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533-539、およびMuzyczka,1992,Curr.Topics in Microbial.and Immunol.,158:97-129)に概説されている。様々なアプローチは、Ratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984)、Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984)、Tratschin et al.,Mo1.Cell.Biol.5:3251(1985)、McLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963(1988)、およびLebkowski et al.,1988 Mol.Cell.Biol.,7:349(1988)に記載されている。Samulski et al.(1989,J.Virol.,63:3822-3828)、米国特許第5,173,414号、WO95/13365および対応する米国特許第5,658,776号、WO95/13392、WO96/17947、PCT/US98/18600、WO97/09441(PCT/US96/14423)、WO97/08298(PCT/US96/13872)、WO97/21825(PCT/US96/20777)、WO97/06243(PCT/FR96/01064)、WO99/11764、Perrin et al.(1995)Vaccine 13:1244-1250、Paul et al.(1993)Human Gene Therapy 4:609-615、Clark et al.(1996)Gene Therapy 3:1124-1132、米国特許第5,786,211号、米国特許第5,871,982号、および米国特許第6,258,595号に記載されている。前述の文書は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれ、rAAV粒子産生に関する文書の部分を特に強調する。
【0046】
感染性rAAV粒子を産生するパッケージング細胞が、本明細書でさらに提供される。一実施形態において、パッケージング細胞は、HeLa細胞、293細胞、およびPerC.6細胞(同種293株)などの安定して形質転換されたがん細胞であり得る。別の実施形態において、パッケージング細胞は、形質転換されたがん細胞ではない細胞、例えば、低継代293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換されたヒト胎児腎細胞)、MRC-5細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎細胞)、およびFRhL-2細胞(アカゲザル胎児肺細胞)であり得る。
【0047】
本開示のrAAVゲノムを含むrAAV(例えば、感染性キャプシド形成したrAAV粒子)も本明細書で提供される。rAAVのゲノムは、AAVのrepおよびcap DNAを欠いており、すなわち、rAAVのゲノムのITR間にAAVのrepまたはcap DNAが存在しない。rAAVゲノムは自己相補的(sc)ゲノムであり得る。scゲノムを有するrAAVは、本明細書中でscAAVと称される。rAAVゲノムは一本鎖(ss)ゲノムであり得る。一本鎖ゲノムを有するrAAVは、本明細書中でssAAVと称される。
【0048】
rAAVは、当該技術分野で標準的な方法によって、例えば、カラムクロマトグラフィーまたは塩化セシウム勾配によって精製され得る。ヘルパーウイルスからrAAVを精製するための方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、Clark et al.,Hum.Gene Ther.,10(6):1031-1039(1999)、Schenpp and Clark,Methods Mol.Med.,69 427-443(2002)、米国特許第6,566,118号、およびWO98/09657に開示される方法を含み得る。
【0049】
rAAVを含む組成物もまた提供される。組成物は、目的のポリペプチドをコードするrAAVを含む。組成物は、目的とする異なったポリペプチドをコードする2つ以上のrAAVを含み得る。いくつかの実施形態においては、rAAVはscAAVまたはssAAVである。
【0050】
本明細書で提供される組成物は、rAAVおよび薬学的に許容される1つ以上の賦形剤を含む。許容される賦形剤は、レシピエントにとって非毒性であり、好ましくは、用いられる投薬量および濃度で不活性であり、リン酸塩、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、クエン酸塩、もしくは他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸などの抗酸化剤;低分子量ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンもしくはリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、およびグルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトールもしくはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;および/またはTweenなどの非イオン性界面活性剤、ポロキサマー188などのコポリマー、プルロニック(登録商標)(例えば、プルロニックF68)もしくはポリエチレングリコール(PEG)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で提供される組成物は、イオビトリドール、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオペントール、イオプロミド、イオベルソール、またはイオキシランなどの非イオン性の低浸透圧性化合物または造影剤を含有する薬学的に許容される水性賦形剤を含むことができ、非イオン性の低浸透圧性化合物を含有する水性賦形剤は、以下の特性:約180mgl/mL、約322mOsm/kg水の蒸気圧浸透圧法による重量オスモル濃度、約273mOsm/Lの容量オスモル濃度、20℃で約2.3cpのおよび37℃で約1.5cpの絶対粘度、ならびに37℃で約1.164の比重、のうちの1つ以上を有することができる。例示的な組成物は、約20~40%の非イオン性低浸透圧性化合物、または約25%~約35%の非イオン性低浸透圧性化合物を含む。例示的な組成物は、20mMのトリス(pH8.0)、1mMのMgCl、200mMのNaCl、0.001%のポロキサマー188、および約25%~約35%の非イオン性低浸透圧性化合物中に配合されたscAAVまたはrAAVウイルス粒子を含む。別の例示的組成物は、1×PBSおよび0.001%プルロニックF68中に配合されたscAAVを含む。
【0051】
投薬量は、ウイルスゲノム(vg)の単位で表されてもよい。本明細書で企図される投薬量には、約1×10vg、約1×10vg、約1×10vg、約5×10vg、約6×10vg、約7×10vg、約8×10vg、約9×10vg、約1×1010vg、約2×1010vg、約3×1010vg、約4×1010vg、約5×1010vg、約1×1011vg、約1.1×1011vg、約1.2×1011vg、約1.3×1011vg、約1.2×1011vg、約1.3×1011vg、約1.4×1011vg、約1.5×1011vg、約1.6×1011vg、約1.7×1011vg、約1.8×1011vg、約1.9×1011vg、約2×1011vg、約3×1011vg、約4×1011vg、約5×1011vg、約1×1012vg、約1×1013vg、約1.1×1013vg、約1.2×1013vg、約1.3×1013vg、約1.5×1013vg、約2×1013vg、約2.5×1013vg、約3×1013vg、約3.5×1013vg、約4×1013vg、約4.5×1013vg、約5×1013vg、約6×1013vg、約1×1014vg、約2×1014vg、約3×1014vg、約4×1014vg、約5×1014vg、約1×1015vg、約1×1016vg、またはそれ以上の合計ウイルスゲノムが含まれる。約1×10vgから約1×1010vg、約5×10vgから約5×1010vg、約1×1010vgから約1×1011vg、約1×1011vgから約1×1015vg、約1×1012vg約1×1015vg、約1×1012vgから約1×1014vg、約1×1013vgから約6×1014vg、および約6×1013vgから約1.0×1014vg、2.0×1014vg、3.0×1014vg、5.0×1014の投薬量も企図されている。ここで例示されている1つの用量は1.65×1011vgである。
【0052】
rAAVによって標的蝸牛膜細胞に形質導入する方法が提供されている。蝸牛細胞には、内有毛細胞、外有毛細胞、神経節細胞、支持細胞、ダイテルス細胞、柱状細胞、および上皮細胞が含まれる。
【0053】
「形質導入」という用語は、レシピエント細胞による機能性ポリペプチドの発現をもたらす、本開示の複製欠損rAAVを介した、インビボまたはインビトロのいずれかでの、標的細胞へのCLN6ポリヌクレオチドの投与/送達を指すように使用される。本開示のrAAVによる細胞の形質導入は、rAAVによってコードされるポリペプチドまたはRNAの持続的発現をもたらす。したがって、本開示は、髄腔内もしくはIV送達、またはそれらの任意の組み合わせによって、導入遺伝子によってコードされるポリペプチドをコードするrAAVを対象に投与/送達する方法を提供する。髄腔内送達は、脳または脊髄のくも膜の下の空間への送達を指す。いくつかの実施形態において、髄腔内投与は槽内投与による。
【0054】
聴覚消失に関連する障害
本開示は、聴覚消失を治療する方法を提供する。伝音聴覚消失は、外耳および/または中耳の耳小骨の異常に起因する。感音聴覚消失は、内耳構造(すなわち、蝸牛神経または聴覚神経)の機能不全に起因する。混合性聴覚消失は、伝音性聴覚消失と感音聴覚消失との組み合わせである。中枢聴覚機能障害は、第8脳神経、聴性脳幹もしくは大脳皮質のレベルでの損傷または機能障害に起因する。
【0055】
遺伝性聴覚消失は、症候群および非症候群の両方の症例を含むメンデルの法則、または遺伝的要因および環境要因の両方を含む複雑な遺伝に細分類される。症候性聴覚消失の遺伝的原因の要約を表1に示す。非症候性聴覚消失の遺伝的原因の要約を表2および表3に示す。X連鎖非症候性聴覚消失の要約を表4に示す(Shearer AE,Hildebrand MS,Smith RJH.Hereditary Hearing Loss and Deafness Overview.1999 Feb 14 [Updated 2017 Jul 27].In:Adam MP,Ardinger HH,Pagon RA,et al.,editors.GeneReviews(R)[インターネット].Seattle(WA):University of Washington,Seattle;1993-2019を参照されたい)。
【表1-1】
【表1-2】
【表2-1】
【表2-2】
【表3-1】
【表3-2】
【表4】
【0056】
ミトコンドリアDNA病原性多様体は、カーンズ・セイヤー症候群などのまれな神経筋症候群、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様エピソードを伴うミトコンドリア脳筋症(MELAS)、不規則な赤色線維を伴う心筋てんかん(MERRF)、ならびに運動失調および色素性網膜炎を伴う神経原性の脱力(NARP)から、糖尿病、パーキンソン病およびアルツハイマー病などの一般的な状態に至るまでの、聴覚消失を伴う様々な疾患に関与している。例えば。糖尿病患者の聴覚消失に関連する典型的な病原性多様体は、MTTL1およびMELASの3243AからGへの移行である。聴覚消失に関連するミトコンドリアDNA変異の要約を表5に示す。(Shearer AE,Hildebrand MS,Smith RJH.Hereditary Hearing Loss and Deafness Overview.1999 Feb 14[Updated 2017 Jul 27].In:Adam MP,Ardinger HH,Pagon RA,et al.,editors.GeneReviews(R)[インターネット].Seattle(WA):University of Washington,Seattle;1993-2019を参照されたい。)
【表5】
【0057】
開示された方法のいずれかにおいて、必要としている対象の聴覚消失を治療するステップは、対象の聴力の改善、または対象の聴力障害の改善もしくは低減をもたらす。本明細書に記載の治療方法が聴覚消失または聴覚障害を改善または低減するかどうかを決定するための試験には、聴覚系の機能的状態を客観的に決定する生理学的試験、個人が聴覚情報をどのように処理するかを主観的に決定する聴力検査が含まれる。生理学的試験には、聴性脳幹反応試験(BAER、BSERとも呼ばれるABR)が含まれ、これは、刺激(例えば、カチッという音)を使用して、第8脳神経および聴性脳幹に由来し、表面電極で記録される電気生理学的反応を引き起こす。ABRの「波V検出閾値」は、神経学的に正常な個人の1500~4000Hz領域の聴覚過敏と最もよく相関し、ABRは、低周波数(<1500Hz)の感度を評価しない。
【0058】
聴覚定常応答(ASSR)試験は、客観的な統計ベースの数学的検出アルゴリズムを使用して、聴覚の閾値を検出および定義する。ASSRは、広帯域または周波数固有の刺激を使用して取得でき、重度から高度の範囲で聴力閾値の微分を提供することができる。ASSR試験は、ABRが提供しない周波数固有の情報を提供するために頻繁に使用される。500、1000、2000、および4000Hzの試験周波数が一般的に使用される。
【0059】
誘発耳音響放射(EOAE)は、蝸牛内で発生する音であり、マイクおよびトランスデューサーを備えたプローブを使用して外耳道で測定される。EOAEは、主に広い周波数範囲にわたる蝸牛の外有毛細胞の活動を反映しており、40~50dB HLよりも優れた聴覚感度を有する耳に存在する。イミタンス試験(ティンパノメトリー、音響反射閾値、音響反射減衰)は、中耳圧、鼓膜の可動性、耳管機能、および中耳骨の可動性を含む末梢聴覚系を評価する。
【0060】
聴力検査には、行動観察聴力検査(BOA)および視覚強化聴力検査(VRA)などの行動試験が含まれる。純音聴力検査(空気および骨伝導)では、周波数(またはピッチ)の関数として、個人が純音を「聞く」最低強度を決定することを伴う。250(中央のCに近い)から8000Hzまでのオクターブ周波数はイヤホンを使用して試験される。強度またはラウドネスはデシベル(dB)で測定され、2つの音圧の比率として定義される。0dB HLは、正常な聴覚の成人の平均閾値であり、120dB HLは、痛みを引き起こすほど大きな音である。音声受信閾値(SRT)および音声弁別が評価される。空気伝導聴力検査の場合、音はイヤホンを通して提示され、閾値は、外耳道、中耳、および内耳の状態によって異なる。骨伝導の場合、聴力検査の音は、乳様突起の骨または額に配置されたバイブレーターを介して提示されるため、外耳および中耳をバイパスし、閾値は内耳の状態によって異なる。追加の試験には、各耳の完全な周波数固有のオージオグラムを作成する条件付き聴力検査、および個人がいつ音を聞くかを示す従来の聴力検査が含まれる。
【0061】
オーディオプロファイルとは、1つのグラフに複数のオージオグラムを記録することを指す。これらのオージオグラムは、異なる時期に1人の個人からのものである可能性があり得るが、多くの場合、通常は常染色体優性の方法で聴覚喪失を分離している同じ家族の異なるメンバーからのものである。同じグラフに年齢とともに多数のオージオグラムをプロットすることにより、これらの家族内で年齢に関連した聴覚消失の進行を理解することができる。
【0062】
導入遺伝子
目的の任意の導入遺伝子を蝸牛細胞に送達することを含む、開示された方法。導入遺伝子は、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であるか、あるいはsiRNAもしくはmiRNAなどの目的の遺伝子の発現を阻害、抑制、または沈静化する核酸である。例示的な導入遺伝子は、ヒトアトナール転写因子(ATOH1)cDNA(配列番号2)、オトフェルリンcDNA(配列番号4)、ギャップ結合タンパク質ベータ2(GJB2)cDNA(配列番号6)、SLC264 cDNA(配列番号8)、フォークヘッドボックスO3(FOXO3)cDNA(配列番号10)、アクチビンA cDNA(配列番号12)、フォリスタチンcDNA(配列番号14)である。
【0063】
例示的な導入遺伝子は、ヒトアトナール転写因子(配列番号3)、オトフェルリン(配列番号5)、ギャップ結合タンパク質ベータ2(配列番号7)、ペンドリン(配列番号9)、フォークヘッドボックス1(配列番号11)、アクチビンAまたはインヒビン(配列番号13)、フォリスタチン(配列番号15)、ガレクチン-1(配列番号20)、およびガレクチン-3(配列番号22)タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。
【0064】
蝸牛で発現されるmiRNA shRNAおよびmiRNAは、開示された最適化された遺伝子治療ベクターに含まれる導入遺伝子として企図されている。
【0065】
本明細書で提供されるrAAVゲノムは、本明細書で表1、表2、表3、表4または表5で提供される遺伝子のいずれかの野生型核酸配列を含み得る。さらに、本明細書で提供されるrAAVゲノムは、以下の、ヒトアトナール転写因子(ATOH1)cDNA(配列番号2)、オトフェルリンcDNA(配列番号4)、ギャップ結合タンパク質ベータ2(GJB2)cDNA(配列番号6)、SLC264 cDNA(配列番号8)、フォークヘッドボックス1(FOXO3)cDNA(配列番号10)、アクチビンA cDNA(配列番号12)、フォリスタチン(配列番号14)、ガレクチン-1(配列番号19)またはガレクチン-3(配列番号21)cDNAのうちの1つのcDNA配列を含み得る。例えば、導入遺伝子によってコードされるポリペプチドには、導入遺伝子配列によってコードされるアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれる。
【0066】
例えば、本明細書で提供されるrAAVゲノムは、ヒトアトナール転写因子(配列番号3)、オトフェルリン(配列番号5)、ギャップ結合タンパク質ベータ2(配列番号7)、ペンドリン(配列番号9)、フォークヘッドボックス1(配列番号11)、アクチビンAまたはインヒビン(配列番号13)、フォリスタチン(配列番号15)、ガレクチン-1(配列番号20、)またはガレクチン-3(配列番号22)をコードするポリヌクレオチドを含む。ポリペプチドには、導入遺伝子配列によってコードされるアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であり、かつ所望の活性を保持する、アミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれる。
【0067】
いくつかの場合では、本明細書に提供されるrAAVゲノムは、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または所望の活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に対して少なくとも65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるポリヌクレオチドを含む。
【0068】
本明細書に提供されるrAAVゲノムは、いくつかの実施形態で、所望の活性を有するポリペプチドをコードし、かつストリンジェントな条件下で目的の既知の導入遺伝子の核酸配列のいずれか1つまたはその相補体にハイブリダイズする、ポリヌクレオチド配列を含む導入遺伝子を含む。
【0069】
「ストリンジェントな」という用語は、ストリンジェントとして当該技術分野において一般に理解される条件を指すために使用される。ハイブリダイゼーションストリンジェシーは、主に、温度、イオン強度、およびホルムアミドなどの変性剤の濃度によって決定される。ハイブリダイゼーションおよび洗浄のためのストリンジェントな条件の例は、0.015Mの塩化ナトリウム、65~68℃での0.0015Mのクエン酸ナトリウム、または42℃での0.015Mの塩化ナトリウム、0.0015Mのクエン酸ナトリウム、および50%ホルムアミドを含むが、これらに限定されない。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,(Cold Spring Harbor,N.Y.1989)を参照されたい。
【0070】
投与方法
髄腔内投与が本明細書に例示される。これらの方法は、本明細書に記載の1つ以上のrAAVで標的細胞を形質導入することを含む。いくつかの実施形態において、導入遺伝子を含むrAAVウイルス粒子は、患者の耳、脳および/もしくは脊髄に投与または送達される。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、脊髄に送達される。送達が企図される脳の領域としては、運動皮質、視覚野、小脳、および脳幹が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、脊髄に送達される。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、下位運動ニューロンに送達される。ポリヌクレオチドは、内有毛細胞、外有毛細胞、神経節細胞、支持細胞、ダイテルス細胞、柱状細胞および上皮細胞などの蝸牛細胞に送達され得る。
【0071】
本明細書で提供される方法のいくつかの実施形態において、患者は、rAAVの投与後トレンデレンベルク体位(頭低位)に保持される(例えば、約5、約10、約15または約20分間)。例えば、患者は、頭低位で、約1度~約30度、約15~約30度、約30~約60度、約60~約90度、または約90~約180度)傾けられてもよい。
【0072】
脳室内注射の場合、針が頭蓋骨に挿入され、液体が脳脊髄液を含有する空洞に注射される。例えば、脳室内注射は、当技術分野で知られている方法を使用して、臨床的に訓練された外科医によって実施される。
【0073】
本明細書で提供される方法は、本明細書で提供されるrAAVを含む組成物の有効用量または有効複数用量を、それを必要とする対象(例えば、ヒト患者を含むが、これに限定されない動物)に投与するステップを含む。用量が聴覚消失関連障害の症状の発症前に投与される場合、投与は予防的である。用量が聴覚消失関連障害の症状の発症後に投与される場合、投与は治療的である。有効用量は、聴覚消失関連障害に関連する少なくとも1つの症状を緩和(排除もしくは低減)する用量であり、障害の進行を遅延させるかまたは予防する用量であり、障害の範囲を縮小する用量であり、障害の寛解(部分的もしくは完全な)をもたらす用量であり、ならびに/または、聴力および/または生存を長引かせる用量である。治療前の対象と比較して、または未治療の対象と比較して、本明細書で提供される方法は、安定化、聴覚消失の進行の減少、または張力の改善をもたらす。
【実施例
【0074】
以下の実施例により特定の実施形態を説明するが、当業者には変形および修飾が発生するであろうことが理解される。したがって、請求項に見られるそのような制限のみが、本発明に課せられるべきである。
【0075】
実施例1
scAAV9.GFPの産生
ヒトGFP cDNAクローンは、Origene,Rockville,MDから入手した。GFP cDNAのみ、またはGFP cDNAおよびshSOD-1 cDNAを、ハイブリッドニワトリβ-アクチンプロモーター(CB)の下で自己相補的AAV9ゲノムにさらにサブクローニングした。プラスミド構築物はまた、CBプロモーター(配列番号1)、シミアンウイルス40(SV40)キメライントロンなどのイントロン、およびウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル(BGH ポリA)のうちの1つ以上を含んでいた。AAV2 ITR間に挿入されたGFP cDNAを示すプラスミド構築物の概略図を、AAV9.CB.GFPと称して図1に提供する。AAV9.CB.shSOD1.GFPプラスミドには、SV40イントロンとGFP cDNAとの間にヒトSOD-1 cDNAが挿入されている。構築物はいずれかのAAV9ゲノムにパッケージ化された。
【0076】
実施例2
くも膜下腔内AAV9送達および蝸牛細胞の標的化
マウスは、1.65×1011vgもしくは3.3×1011vgのscAAV9.shSOD1.CB.GFPまたはscAAV9.CB.GFPのいずれかの髄腔内(IT)注射を受けた。scAAV9.shSOD1.CB.GFPまたはscAAV9.CB.GFPを、1×PBSおよび0.001%プルロニックF68(PBS/F68と示す)中に配合した。注射の3週間後にマウスを安楽死させた。処理されたマウスの蝸牛を凍結切片化し、GFPについて染色した。細胞の位置を示すために、切片もDAPIで染色した。
【0077】
図2~5は、scAAV9.shSOD1.CB.GFPを注射したマウスのデータを示している。図2は、IT処理した蝸牛の矢状凍結切片におけるGFPの染色である。ヘマトキシリンおよびエオシン染色は参照として提供されており、注射されたマウス(shx2IT-LFLR)からの蝸牛の写真ではない。このデータは、IT注射後のマウス蝸牛全体での強いGFP染色を示している。図3は、4匹の異なるマウス(shx2IT-LF、shx2IT-2F、shx2IT-LE、shx2IT-LFLR)の染色を示している。この図は、注射されたすべてのマウスにおける広範なGFP発現およびGFP発現の均一なパターンを示している。コルチ器の細胞は高レベルのGFPを発現する。図4は、IT注射後にGFPが発現したマウス蝸牛の様々な領域を示している。図5では、ITを注射したマウス(shx2IT-LE)の蝸牛の矢状凍結切片を、GFPとDAPIに加えてアクチンで染色した。この図は、内有毛細胞(IHC)がコルチのいくつかの器官でGFP導入遺伝子を発現しているため、それらの標的化が成功していることを示している。この図は、IHC細胞をはっきりと見るために倍率を拡大するためのズームインを示している。
【0078】
図6~8は、scAAV9.CB.GFPを注射したマウスのデータを示している。IT注射マウスの蝸牛も、GFP発現パターンの異なるビューのために、ビブラトームで冠状方向に切断された。図6および7は、蝸牛内の内有毛細胞が、注射されたマウス(マウス#2およびマウス#0)でGFPを強く染色することを示している。これらの図は、IT注射がGFP発現の幅広い局在化をもたらすことも示している。図8は、ITを注射したマウスの前庭をDAPI、GFP、およびアクチンで染色したものである。これらの図は、様々な波長が処理される様々なターン全体の蝸牛全体にわたる内有毛細胞の標的化を示している。
【0079】
実施例3
髄腔内送達およびノイズへの曝露後のマウス蝸牛の形質導入
マウスの内耳の有毛細胞へのストレスは、マウスを100dbの音圧レベルのノイズに2時間曝露することによって誘発された。scAAV9.CB.GFPは、騒音への曝露後、曝露直後(0h.p.i.)または曝露後24時間(24h.p.i.)のいずれかで、1回の髄腔内注射(IT)によってマウスに投与された。マウスに1.65×1011vgのscAAV9.CB.GFPを注射した。scAAV9.CB.GFPを、1×PBSおよび0.001%プルロニックF68(PBS/F68と示す)中に配合した。注射の3週間後にマウスを安楽死させた。
【0080】
導入遺伝子の蝸牛発現を調べるために、免疫組織化学分析を行ってGFPタンパク質を視覚化した。臓器組織の断面は、アクチンフィラメントを染色するDapi、GFP、およびファロイジン、またはミオシン-VIIaを染色するかmyo7Aについて染色した。myo7aの染色は、有毛細胞を標識するための特定の方法で行った。図9~12に示すように、内有毛細胞は、ノイズに曝露された直後にscAAV9.CB.GFPをIT注射した後、導入遺伝子GFPを発現した。
【0081】
図13~16は、GFPおよびmyo7Aの染色を示し、ノイズに曝露されてから24時間後にIT注射が行われたときにGFP発現が検出されたことを示しているが、発現レベルは内有毛細胞で全体的に低かった。ノイズに曝露された直後にIT注射が行われたときのGFP発現と比較して、ノイズに曝露された後にIT注射が24時間遅延した場合のGFP発現は低かった。図16および17は、傷害の24時間後にscAAV9.CB.GFPを投与すると、GFPシグナルが弱くなるが、投与を遅らせても内有毛細胞の標的化が行われることを示している。図16は、24hpi IT注射マウスの最適な曝露では画像化された画像である。この写真は、24hpiの最適な曝露での画像化が0hpiを過剰曝露するため、24hpiの髄腔内注射動物のGFP発現が0hpiの髄腔内注射動物よりも低いことを示している。図17に示すヘマトキシリンおよびエオシン染色は、内有毛細胞がこの研究で使用されたノイズ傷害プロトコルによって損傷されないことを実証している。
【0082】
実施例4
静脈内注射後のマウス蝸牛の形質導入
scAAV9.CB.GFPは、片方の尾静脈注射によって正常なマウスにも投与された。マウスに1.65×1012vg/kgのscAAV9.CB.GFPを注射した。scAAV9.CB.GFPを、1×PBSおよび0.001%プルロニックF68(PBS/F68と示す)中に配合した。注射の3週間後にマウスを安楽死させた。図18に示すように、ここで提供される予備データは、scAAV9.CB.GFPがGFPを蝸牛に送達したが、尾静脈注射を使用して投与した場合、内有毛細胞または脊髄神経節ニューロンを形質導入しなかったことを示している。代わりに、形質導入は血管の周りに残っているようである。
【0083】
その後の研究では、PBS/F68に配合された1.65×1012のscAAV9.CB.GFPを、正常なマウスに1回の尾静脈注射で投与し、注射の3週間後にマウスを安楽死させた。図19~22に示されている免疫組織化学データでは、静脈内注射は健康な蝸牛の内有毛細胞の形質導入をもたらさなかった。図23は、ノイズによる傷害に曝露された、注射されていない対照マウスからのデータを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
2022552015000001.app
【国際調査報告】